(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(54)【発明の名称】微小血管抵抗予備能を決定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/028 20060101AFI20230714BHJP
A61B 5/0215 20060101ALI20230714BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
A61B5/028
A61B5/0215 C
A61B5/02 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023522751
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(85)【翻訳文提出日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 SE2021050504
(87)【国際公開番号】W WO2021262062
(87)【国際公開日】2021-12-30
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522495740
【氏名又は名称】コロヴェンティス リサーチ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ピジェルス,ニコ エイチ.ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】デ ブライネ,ベルナード
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA01
4C017AA11
4C017AB05
4C017AC03
4C017AC11
4C017BC11
(57)【要約】
本発明は、ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における微小血管抵抗予備能MRRを決定するための方法に関し、この方法は、患者の安静状態中に、冠動脈を通る血流Q
restを測定するステップ(1)を含み、患者の安静状態または最大充血中に、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
aを測定するステップ(2)をさらに含み、患者の最大充血中に、冠動脈を通る血流Q
maxを測定するステップ(3)と、冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で血圧P
dを測定するステップ(4)と、をさらに含み、微小血管抵抗予備能MRRが、(5)微小血管抵抗予備能を
【数1】
として計算する追加のステップによって決定されるステップと、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における微小血管抵抗予備能MRRを決定する方法であって、前記方法は、前記患者の安静状態中に、前記冠動脈を通る血流Q
restを測定するステップ(1)を含み、前記患者の安静状態または最大充血中に、
冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
aを測定するステップ(2)をさらに含み、前記患者の最大充血中に、
前記冠動脈を通る血流Q
maxを測定するステップ(3)と、
前記冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で血圧P
d,,hyperを測定するステップ(4)と、
をさらに含み、
前記微小血管抵抗予備能が、微小血管抵抗予備能を
【数1】
として計算するさらなるステップ(5)によって決定される、
方法。
【請求項2】
前記冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で前記血圧P
aを測定する前記ステップが、大動脈血圧を測定するステップ(2)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で前記血圧を測定する前記ステップ(2)が、前記患者の安静状態中に実行される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記患者の、安静状態の微小血管抵抗R
micro,restをR
micro,rest=P
a,rest/Q
restとして計算するステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における微小血管抵抗予備能MRRを決定するための方法であって、
前記患者の前記冠動脈の冠血流予備量CFRの値を決定するステップ(11)と、
前記患者の前記冠動脈の冠血流予備量比FFRの値を決定するステップ(12)と、
前記冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置における、前記患者の安静状態中の血圧値P
a,restを決定するステップ(13)と、
前記冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置における、前記患者の最大充血中の血圧値P
a,hyperを決定するステップ(14)と、
を含み、
前記微小血管抵抗予備能(MRR)が、前記微小血管抵抗予備能を
【数2】
として計算するさらなるステップ(15)によって決定される、方法。
【請求項6】
CFRの値を決定する前記ステップ(11)が、
前記患者の安静状態中に、前記冠動脈を通る血流Q
restを測定するステップと、
前記患者の最大充血中に、前記冠動脈を通る血流Q
maxを測定するステップと、
を含み、
式中、CFRは、CFR=Q
max/Q
restを計算することによって決定される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
CFRの値を決定する前記ステップ(11)が、コンピュータ断層撮影法、磁気共鳴画像法、陽電子放出断層撮影法、または心エコー検査などの非侵襲的技術を使用して少なくとも1つの測定を行うステップを含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置での前記患者の安静状態中の血圧値P
a,restを決定する前記ステップ(13)が、CFRの値を取得する前記ステップと実質的に同時に血圧を測定するステップを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
FFR値を決定する前記ステップ(12)が、前記患者の最大充血中に、
前記冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
a,hyperを測定するステップと、
前記冠動脈の遠位または存在する場合には狭窄の遠位の位置で血圧P
d,hyperを測定するステップと、
を含み、
FFRが、FFR=P
d,hyper/P
a,hyperとして算出される、
請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
FFR値を決定する前記ステップ(12)が、圧力カテーテルもしくはガイディングカテーテルまたはセンサ先端ガイドワイヤなどの侵襲的技術を使用して少なくとも一回の測定を行うステップを含む、請求項5から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
FFR値を決定する前記ステップ(12)が、コンピュータ断層撮影法などの非侵襲的技術を使用して少なくとも一回の測定を行うステップを含む、請求項5から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
CFRの値を決定するためおよびFFRの値を決定するために行われる測定が、異なる時間に行われる、請求項5から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
CFRの値を決定するステップ(11)、FFRの値を決定するステップ(12)、P
a,restの値を決定するステップ(13)、およびP
a,hyperの値を決定するステップ(14)のうちの少なくとも1つが、事前に計算されたまたは測定された値を得るステップを含む、請求項5から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における安静状態での微小血管抵抗R
micro,restを決定する方法であって、前記方法は、前記患者の安静状態中に、
前記冠動脈を通る血流Q
restを測定するステップ(21)と、
前記冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で、血圧P
a,restを測定するステップ(22)と、
を含み、
安静状態での前記微小血管抵抗は、R
micro,rest=P
a,rest/Q
restとして計算される(23)、
方法。
【請求項15】
Q
restを測定する前記ステップ(21)が、コンピュータ断層撮影法、磁気共鳴画像法または陽電子放出断層撮影法などの非侵襲的技術を使用して行われ、P
a,restを測定する前記ステップ(22)が、血圧計を使用するなどの非侵襲的技術を使用して行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法を実行するための手段を備える処理ユニット。
【請求項17】
プログラムがコンピュータによって実行されると、前記コンピュータに請求項1から15のいずれか一項に記載の方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項18】
ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における微小血管抵抗予備能MRRを決定するためのシステムであって、
処理ユニット(31)と、
前記患者の安静状態の間に前記冠動脈を通る血流Q
restを測定するように構成された第1の流量測定システム(32)と、
前記患者の安静状態または最大充血中に、前記冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
aを測定するように構成された第1の圧力測定機器(33)と、
前記患者の最大充血中に前記冠動脈を通る血流Q
maxを測定するように構成された第2の流量測定システム(34)と、
前記患者の最大充血中に、前記冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で、血圧P
d,hyperを測定するように構成された第2の圧力測定機器(35)と、
を備え、
前記処理ユニット(31)は、前記第1および第2の流量測定システムから血流測定値Q
rest、Q
maxを取得し、前記第1および第2の圧力測定機器から血圧測定値P
a、P
d,hyperを取得するように構成され、前記処理ユニットは、前記微小血管抵抗予備能を
【数3】
として計算するようにさらに構成される、
システム。
【請求項19】
前記第1の流量測定システム(33)および前記第2の流量測定システム(34)が同じ流量測定システムである、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記微小血管抵抗予備能の前記計算値を前記処理ユニットから受信し、前記計算値を表示するように構成された表示ユニット(36)
をさらに備える、請求項18または請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記第1の圧力測定機器(33)が、圧力カテーテルまたはガイディングカテーテルを備える、請求項18から20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
前記第1の圧力測定機器(33)および/または前記第2の圧力測定機器(34)が、センサ先端ガイドワイヤを備える、請求項18から20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
前記第1の流量測定システム(34)および/または前記第2の流量測定システム(35)が、侵襲的または非侵襲的な流量または流れ代替物測定を利用するシステムである、請求項18から22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
処理ユニット(41)およびインターフェース(42)を備える、ヒト患者の正常なまたは狭窄した冠動脈によって灌流された心筋における微小血管抵抗予備能(MRR)を決定するためのシステムであって、前記処理ユニットは、前記患者の冠動脈の冠血流予備量(CFR)および冠血流予備量比(FFR)を示し、冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置での前記患者の安静状態の中の血圧P
a,rest、および冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置での前記患者の最大充血中の血圧P
a,hyperをさらに示すデータを含む前記インターフェースを介して受信された少なくとも1つの信号に応答して、前記微小血管抵抗予備能を
【数4】
として決定するように構成される、システム。
【請求項25】
ヒト患者の正常または狭窄の前記冠動脈によって灌流された心筋における安静状態での微小血管抵抗R
micro,restを決定するためのシステムであって、前記システムは処理ユニット(51)およびインターフェース(52)を備え、前記処理ユニットは、患者の安静状態中の冠動脈を通る血流Q
restおよび冠動脈の近位または前記患者の安静状態中に存在する場合には任意の狭窄の近位の位置での血圧P
a,restを示すデータを含む前記インターフェースを介して受信された少なくとも1つの信号に応答して、安静状態での微小血管抵抗をR
micro,rest=P
a,rest/Q
restとして決定するように構成されている、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ヒト患者の心臓の冠循環の評価に関し、より具体的には、心臓における冠微小循環の微小血管抵抗予備能および微小血管抵抗を決定するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冠循環、すなわち心臓の血液供給は、約0.5から5ミリメートルの間隔の直径を有し、冠動脈血管造影図で見ることができるいわゆる心外膜冠動脈と、0.5ミリメートル未満の直径を有し、冠動脈血管造影図では見ることができない細動脈および毛細血管からなるいわゆる冠微小循環または微小血管系とからなる。
【0003】
狭心症または心臓発作を引き起こし得る心外膜冠動脈の疾患、例えば狭窄または閉塞は、複数の技術によって良好に診断および治療することができる。しかしながら、冠動脈疾患と診断されたすべての患者において、患者の25~50%は、心外膜狭窄だけでなく微小血管疾患によっても引き起こされる症状に苦しんでいる。そのような複雑な疾患を評価するための信頼性の高いシステムおよび技術は、残念ながらまだ利用可能ではない。代わりに、本方法は粗く、不正確であり、操作者依存的であり、定量的ではなく、または疾患に対する心外膜動脈および微小血管系の寄与を区別しない。疾患に対する心外膜寄与と微小血管寄与とを区別する可能性がなければ、心疾患を有する患者の最適な診断および治療は明らかに妨げられる。
【0004】
Xaplanteris et al.による論文(Circ Cardiovasc Interv.2018;11:e 006194.DOI:10.1161/CIRCINTERVENTIONS.117.006194)では、最大充血時の絶対微小血管抵抗を血圧および最大血流の測定値からどのように導き出すことができるかが示されている。絶対微小血管抵抗の知識は、上記の問題のいくつかを解決するが、これまでのところ、絶対微小血管抵抗は、微小血管系の最大血管拡張中にしか評価することができず、その使用は、灌流される心筋組織の量に応じた大きな変動および正常な、すなわち健康な個体内の大きな変動に起因する均一な正常値の欠如によってさらに制限される。
【0005】
したがって、本発明の目的は、問題の微小血管冠動脈疾患の診断および治療を促進および改善するであろう、微小血管冠動脈疾患の評価のための改善された方法およびシステムを提供することである。本発明の別の目的は、心外膜冠動脈疾患も存在する微小血管冠動脈疾患を評価するための改善された方法およびシステムを提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Xaplanteris et al.,Circ Cardiovasc Interv.2018;11:e 006194.DOI:10.1161/CIRCINTERVENTIONS.117.006194
【発明の概要】
【0007】
上記の目的は、独立請求項による本発明によって達成される。好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0008】
本発明による方法およびシステムは、心外膜疾患の存在によって混同されないような静止条件下での微小血管抵抗の計算を含み、心外膜疾患の存在によって混同されない微小血管機能または微小血管疾患の重症度を明確に測定する微小血管抵抗予備能(MRR:microvascular resistance reserve)と呼ばれる新しい指標を提供する。MRRを得るために、安静条件と充血条件の両方で測定を行う。
【0009】
本明細書では、「近位」および「遠位」という用語、ならびに「近位に」、「遠位に」、「近位位置」、「近位圧力」、「遠位位置」および「遠位圧力」などの類似または関連する用語が使用される。これらは、心臓病学の分野および心臓血管科学文献においても周知であり、一般に受け入れられている定義である。冠動脈狭窄の場合、限局性であろうとびまん性であろうと、例えば冠動脈造影またはFFR測定によって明らかにされるかまたは検出されるかにかかわらず、「近位」という用語はその狭窄の近位の位置を指し、「遠位」という用語はその狭窄の遠位の位置を指す。正常またはほぼ正常な冠動脈の場合、「近位」という用語は、その動脈の最初の部分、すなわちその小孔に近い位置を指し、「遠位」という用語は、冠動脈の遠位部分の位置を指す。
図1では、本発明の説明を説明するために狭窄動脈が概略的に示されているが、狭窄もない、すなわち正常な冠動脈の場合、本発明の説明および範囲は、上で定義した「近位」および「遠位」圧力で有効なままである。したがって、「任意の狭窄部の近位の位置」という表現が使用される場合はいつでも、心外膜狭窄部が存在しない場合、すなわち正常な冠動脈の場合、「冠動脈の近位」と読むべきである。「任意の狭窄部の遠位の位置」という表現が使用される場合はいつでも、心外膜狭窄部が存在しない場合、すなわち正常な冠動脈の場合には「冠動脈の遠位」と読むべきであり、「任意の」は「1つの(a)」または「その(the)」または同様の決定であってもよい。
【0010】
冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で測定された圧力は、Paによって示される。Paが安静条件下で測定される場合、Pa,restと呼ばれ、充血条件下で測定される場合、Pa,hyperと呼ばれる。
【0011】
冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で測定された圧力は、Pdによって示される。Pdが安静条件下で測定される場合、Pd,restと呼ばれ、充血条件下で測定される場合、Pd,hyperと呼ばれる。
【0012】
微小血管抵抗予備能MRRは、以下のように定義される。
【数1】
任意の心筋領域について測定された実際の静止微小血管抵抗は、心外膜疾患の存在によって影響されることを理解されたい。後者は、限局性であろうとびまん性であろうと、自己調節による代償性微小血管拡張をもたらす。したがって、測定された微小血管抵抗は、真のR
micro,restではなく、自己調節性補償に起因してより低い値である。したがって、本明細書で使用されるR
micro,restは、実際に存在する静止微小血管抵抗を表すのではなく、心外膜導管が完全に正常である(仮想的な)場合の静止微小血管抵抗の値を表すことを強調することは注目に値する。Q
restは、安静時の冠動脈を通る血流であり、Q
maxは、充血時の冠動脈を通る血液である。
【0013】
以下に記載される本発明の6つの態様はすべて、心外膜疾患によって交絡されない安静時の微小血管抵抗Rmicro,restに基づくという共通の発明概念に基づく。Rmicro,restは、存在する場合、心外膜疾患に依存しないので、安静時の真の微小血管抵抗とも呼ばれ得る。
【0014】
第1の態様では、本発明は、ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流される心筋における微小血管抵抗予備能MRRを決定するための方法に関し、この方法は、患者の安静状態中に、
冠動脈を通る血流Q
restを測定するステップを含み、患者の安静状態または最大充血中に、
冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
aを測定するステップをさらに含み、患者の最大充血中に、
冠動脈を通る血流Q
maxを測定するステップと、
冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で、血圧P
d,hyperを測定するステップと、
をさらに含み、
微小血管抵抗予備能MRRは、微小血管抵抗予備能を
【数2】
として計算する追加のステップによって決定される。
【0015】
本発明の一実施形態では、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位で測定された血圧(Pa)は、大動脈血圧を測定するステップを含む。
【0016】
第2の態様では、本発明は、ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流される心筋における微小血管抵抗予備能MRRを決定するためのシステムに関し、このシステムは、
処理ユニットと、
患者の安静状態の間に冠動脈を通る血流Q
restを測定するように構成された第1の流量測定システムと、
患者の安静状態中または最大充血中に、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
aを測定するように構成された第1の圧力測定機器と、
患者の最大充血中に冠動脈を通る血流Q
maxを測定するように構成された第2の流量測定システムと、
患者の最大充血中に、冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で、血圧P
d,hyperを測定するように構成された第2の圧力測定機器と、
を備え、
処理ユニットは、第1および第2の流量測定システムから血流測定値Q
rest、Q
maxを取得し、第1および第2の圧力測定機器から血圧測定値P
a、P
dを取得するように構成され、処理ユニットは、微小血管抵抗予備能を、
【数3】
として計算するように構成されている。
【0017】
上述のように、本発明の第1および第2の態様は、患者の安静状態中または最大充血中のいずれかで、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧Paを測定することを含む。MRRの計算は、Paの数値がPa,rest、すなわち安静状態中に測定されたPaに等しい場合にのみ正しいことに留意されたい。換言すれば、MRRを決定する場合、最大充血中に測定されたPaの測定値は、大動脈圧が一般に患者の状態(安静/充血)とは無関係であるように、患者に充血状態を誘発するための技術を使用する場合にのみ使用することができる。Paを測定するための2つの異なる実施形態(安静時または充血時)を以下に記載する。
【0018】
本発明の第1または第2の態様の実施形態では、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置の血圧は、患者の安静状態中に測定されて、P
a,restを得る。そのような実施形態では、微小血管抵抗予備能は、
【数4】
として計算される。
【0019】
Pa,restは、任意の既知の侵襲的または非侵襲的技術によって決定され得る。Pa,restを測定するための一般的な侵襲的技術は、冠動脈(ガイド)カテーテルによるものである。最も単純な非侵襲的技術は、血圧計を使用して大動脈血圧を測定すること(「カフ測定」)を含む。
【0020】
本発明の第1または第2の態様の代替の実施形態では、血流は、大動脈圧が一般に患者の状態(安静/充血)とは無関係であるような技術を使用して測定され、冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置での血圧は、代わりに、患者の最大高血圧中に測定されて、P
a,hyperを得ることができる。そのような実施形態では、微小血管抵抗予備能は、
【数5】
(式中、P
a,rest=P
a.hyper)として計算される。
【0021】
一実施形態では、患者の安静状態での微小血管抵抗Rmicro,restは、Rmicro,rest=Pa,rest/Qrestとして計算される。
【0022】
本発明の第1または第2の態様の実施形態では、Qrest、Qmaxを得るために行われる血流測定と、Pd,hyperを得るための圧力測定とは、異なる時間に行われる。例えば、血流は、第1の検査中に得ることができ、Pd,hyperは、異なる時間に行われる侵襲的心臓カテーテル法または非侵襲的FFR決定(CTによる)によるなどの別個の第2の検査中に得ることができる。そのような場合、Pd,hyper/Pa,hyperが一定であり、測定される瞬間に依存しないという知識は、(別々に評価された)Pd,hyper(圧力ワイヤによる侵襲的またはCTによる非侵襲的にかかわらず)と別の瞬間に測定されたそれぞれの血流測定値との組み合わせを可能にし、これはMMRを提供する。Paは、血圧計による血流測定と同じ検査中に測定することができる(「カフ測定」)。
【0023】
上で定義した微小血管抵抗予備能(MRR)は、心外膜疾患の有無に影響されずに微小血管疾患に特異的であるという独特の特性を有する。
【0024】
本発明の一実施形態では、第1の流量測定システムおよび第2の流量測定システムは、同じ流量測定システムである。
【0025】
一実施形態では、システムは、処理ユニットから微小血管抵抗予備能の計算値を受信し、前記計算値を表示するように構成された表示ユニットをさらに備える。
【0026】
システムの一実施形態では、第1の圧力測定機器は、圧力カテーテルまたはガイディングカテーテルである。別の実施形態では、第1の圧力測定機器および/または第2の圧力測定機器は、センサ先端ガイドワイヤである。
【0027】
さらに、本発明によれば、第1の流量測定システムおよび/または第2の流量測定システムおよび/または流量測定装置は、任意の侵襲的または非侵襲的流量測定技術によって血流(または流れ代替物)を測定するように構成されたシステムであってもよい。侵襲的技術は、例えば、連続熱希釈またはボーラス熱希釈、時限静脈収集、電磁流量測定、コンダクタンス測定、ドップラー超音波、または較正ドップラープローブ、熱対流、熱伝導、または心外膜超音波流速測定を利用することができる。血流(または流れ代替物)を測定するための非侵襲的技術は、(限定されないが)コンピュータ断層撮影法、磁気共鳴画像法、陽電子放出断層撮影法、または心エコー検査法であり得る。
【0028】
本発明の第1の態様による方法の一実施形態では、Q
rest、P
a、Q
max、およびP
d,hyperを測定するステップは省略され、以下のステップに置き換えられる。
患者の安静状態中に、冠動脈を通る血流Q
restを決定するステップと、
患者の安静状態中に、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
a,restを決定するステップと、
患者の最大充血中に冠動脈を通る血流Q
maxを決定するステップと、
患者の最大充血中に、冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で血圧P
d,hyperを決定するステップであって、
MRRは、
【数6】
として計算される。
【0029】
本発明の第2の態様によるシステムの一実施形態では、第1および第2の流量測定システムならびに第1および第2の圧力測定機器はシステムの一部ではなく、システムは代わりに、処理ユニットと一体的に形成され得るインターフェースを備える。処理ユニットは、Q
rest、P
a,rest、Q
max、およびP
d,hyperを示すデータを含む前記インターフェースを介して受信された少なくとも1つの信号に応答して、微小血管抵抗予備能を
【数7】
と決定するように構成される。
【0030】
本発明はまた、測定値および計算値を表示し、任意選択的に、微小血管抵抗予備能の測定および計算中に医師を案内するために本発明の方法を実行するのに役立つデータ処理装置、コンピュータプログラム製品およびコンピュータ可読記憶媒体に関する。
【0031】
本発明の第3の態様によれば、ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における微小血管抵抗予備能MRRを決定する方法が提供される。この方法は、患者の冠動脈の冠血流予備量(CFR)の値を決定することと、患者の冠動脈の冠血流予備量比(FFR)の値を決定することと、患者の安静状態中の血圧値P
a,restを、冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置で決定することと、患者の最大充血中の血圧値P
a,hyperを、冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置で決定することとを含み、MRRは、
【数8】
を計算することによって決定される。
【0032】
CFR、FFR、Pa,restおよびPa,hyperを決定するステップは、測定を行うことを必ずしも含まず、反対に、CFR、FFR、Pa,restおよび/またはPa,hyperの1つまたは複数の以前に計算または測定された値を得ることのみを含んでもよいことが理解される。
【0033】
実施形態では、CFRの値を決定するステップは、患者の安静状態中に、冠動脈を通る血流Qrestを測定するステップと、患者の最大充血中に、冠動脈を通る血流Qmaxを測定するステップとを含み、CFRは、CFR=Qmax/Qrestを計算することによって決定される。CFRの値を決定するステップは、血流QmaxおよびQrestを推定するために、コンピュータ断層撮影法、磁気共鳴画像法、陽電子放出断層撮影法、または心エコー検査法などの非侵襲的技術を使用して少なくとも1つの測定を行うことを含み得る。あるいは、CFRの値を決定するステップは、連続熱希釈などの侵襲的方法によって血流QmaxおよびQrestである。
【0034】
実施形態では、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置での患者の安静状態中の血圧値Pa,restを決定するステップは、CFRの値を決定するステップと実質的に同時に血圧を測定するステップを含む。例えば、Pa,restは、血圧計(「カフ測定」)によってCFRを決定するために行われる非侵襲的流量測定と同じ検査中に測定され得る。
【0035】
実施形態では、FFRの値を決定するステップは、患者の最大充血中に、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧Pa,hyperを測定することと、冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で血圧Pd,hyperを測定することとを含む。FFRは、FFR=Pd,hyper/Pa,hyperとして算出される。FFRの値を決定するステップは、圧力またはガイディングカテーテルまたはセンサ先端ガイドワイヤなどの侵襲的技術を使用して少なくとも1つの測定を行うことを含むことができ、すなわち、Pa,hyperおよびPd,hyperは侵襲的に測定される。あるいは、FFRの値を決定するステップは、コンピュータ断層撮影法などの非侵襲的技術を使用して少なくとも1つの測定を行うことを含んでもよい。
【0036】
実施形態では、CFRの値を得るためおよびFFRの値を得るために行われる測定は、異なる時間に行われる。例えば、CFRは第1の検査中に取得することができ、FFRは、異なる時間にまたは非侵襲的FFR決定(例えばCTによる)によって行われる侵襲的心臓カテーテル法などの別個の第2の検査中に取得することができる。そのような場合、FFRが一定であり、それが測定される瞬間に依存しないという知識は、(別々に評価される)FFR(圧力ワイヤによる侵襲的であるかCTによる非侵襲的であるかにかかわらず)と、別の瞬間に非侵襲的に測定されたそれぞれの流量測定値)との組み合わせを可能にし、これはMMRを提供する。
【0037】
本発明の第4の態様によれば、ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における安静状態、Rmicro,rest時の微小血管抵抗を決定する方法が提供される。この方法は、患者の安静状態中に、冠動脈を通る血流Qrestを測定することと、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧Pa,restを測定することとを含み、安静状態での微小血管抵抗は、Rmicro,rest=Pa,rest/Qrestとして計算される。Qrestの測定は、コンピュータ断層撮影法などの非侵襲的技術を用いて行われてもよく、Pa,restの測定は、血圧計などの非侵襲的技術を用いて行われてもよい。
【0038】
本発明の第5の態様によれば、ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における微小血管抵抗予備能MRRを決定するためのシステムが提供される。システムは、処理ユニットと、処理ユニットと一体的に形成され得るインターフェースとを備える。処理ユニットは、患者の冠動脈の冠血流予備量、CFR、および冠血流予備量比、FFRを示し、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置での患者の安静状態中の血圧P
a,rest、および冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置での患者の最大充血中の血圧P
a,hyperをさらに示すデータを含む前記インターフェースを介して受信した少なくとも1つの信号に応答して、微小血管抵抗予備能を
【数9】
として決定するように構成される。
【0039】
換言すれば、処理ユニットは、i)患者の冠動脈の冠血流予備量(CFR)、ii)患者の冠動脈の冠血流予備量比(FFR)、iii)冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置での患者の安静状態中の血圧Pa,rest、およびiv)冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置での患者の最大充血中の血圧Pa,hyper、の値を受け取るように構成される。これらの値は、必ずしもシステムの一部である測定装置によって測定される必要はなく、反対に、インターフェースに直接または間接的に接続された1つまたは複数の測定装置によって測定されてもよいことが理解される。あるいは、値は、インターフェースに接続された記憶装置に記憶され得るCFR、FFR、Pa,restおよび/またはPa,hyperの事前に計算または測定された値であってもよい。
【0040】
本発明の第5の態様の実施形態では、システムは、患者の安静状態中に冠動脈を通る血流Qrestを測定し、患者の最大充血中に冠動脈を通る血流Qmaxを測定するように構成された流量測定装置を備える。流量測定装置は、インターフェースに直接的または間接的に接続され、CFRを示すデータを含む前記インターフェースを介して処理ユニットによって受信された少なくとも1つの信号は、前記流量測定装置からのQrestおよびQmaxの値を含み、処理ユニットは、CFR=Qmax/Qrestを計算するように構成される。流量測定装置は、本発明の第2の態様を参照して上述したのと同じ方法で第1および第2の流量測定システムを備えることができる。
【0041】
本発明の第5の態様の実施形態では、システムは、患者の最大充血中に、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧Pa,hyperを測定し、患者の最大充血中に、冠動脈の遠位または存在する場合には任意の狭窄の遠位の位置で血圧Pd,hyperを測定するように構成された圧力測定装置を含む。圧力測定装置は、インターフェースに直接的または間接的に接続され、FFRを示すデータを含む前記インターフェースを介して処理ユニットによって受信された少なくとも1つの信号は、前記流量測定装置からのPa,hyperおよびPd,hyperの値を含み、処理ユニットは、FFR=Pd,hyper/Pa,hyperを計算するように構成される。圧力測定装置は、本発明の第2の態様を参照して上述したのと同じ方法で、第1および第2の圧力測定機器、またはその実施形態を備えることができる。
【0042】
本発明の第6の態様によれば、ヒト患者の正常または狭窄冠動脈によって灌流された心筋における安静状態の微小血管抵抗Rmicro,restを決定するためのシステムが提供される。システムは、処理ユニットとインターフェースとを備え、前記処理ユニットは、患者の安静状態中に冠動脈を通る血流Qrestおよび患者の安静状態中に存在する場合には冠動脈内の近位または任意の狭窄の近位の位置での血圧Pa,restを示すデータを含む前記インターフェースを介して受信された少なくとも1つの信号に応答して、安静状態での微小血管抵抗をRmicro,rest=Pa,rest/Qrestとして決定するように構成される。
【0043】
言い換えれば、処理ユニットは、i)冠動脈内の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置での患者の安静状態中の血圧Pa,rest、およびii)患者の安静状態中の冠動脈を通る血流Qrestの値を受信するように構成される。これらの値は、必ずしもシステムの一部である測定装置によって測定される必要はなく、反対に、インターフェースに直接または間接的に接続された1つまたは複数の測定装置によって測定されてもよいことが理解される。あるいは、値は、インターフェースに接続された記憶装置に記憶され得る以前に測定された値Pa,rest、およびQrestであってもよい。
【0044】
本発明の第6の態様の実施形態では、システムは、患者の安静状態中に冠動脈を通る血流Qrestを測定するように構成された流量測定装置を備える。流量測定装置は、インターフェースに直接的または間接的に接続され、少なくとも1つの信号は、Qrestを示すデータを含む前記インターフェースを介して処理ユニットによって受信される。流量測定装置は、本発明の第2の態様を参照して上述したのと同じ方法で、第1または第2の流量測定システムを備えることができる。さらに、システムは、患者の安静中に、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で、血圧Pa,restを測定するように構成された圧力測定装置を備えることができる。圧力測定装置は、インターフェースに直接的または間接的に接続され、少なくとも1つの信号は、前記流量測定装置からのPa,restを示すデータを含む前記インターフェースを介して処理ユニットによって受信される。圧力測定装置は、本発明の第2の態様を参照して上述したのと同じ方法で第1または第2の圧力測定機器を備えることができる。本発明の第6の態様の特に有利な実施形態では、システムは、Qrestを推定するためのコンピュータ断層撮影法またはPETまたはMRIシステムと、Pa,restを測定するための血圧計とを備える。
【0045】
上述の実施形態の特徴は、これらの特徴の組み合わせを有する実施形態を形成するために、任意の実際的に実現可能な方法で組み合わせることができる。さらに、本発明の第1、第2、第3、第4、第5および第6の態様を参照して上述した実施形態のすべての特徴および利点は、本発明の他の態様のいずれかの対応する実施形態に適用することができる。
【0046】
本発明の上述の、および他の態様は、添付の図面を使用してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図2】本発明の第1の態様による方法の一実施形態のフローチャートを示す。
【
図3】本発明の第3の態様による方法の一実施形態のフローチャートを示す。
【
図4】本発明の第3の態様による方法の一実施形態のフローチャートを示す。
【
図5】本発明の第2の態様によるシステムを概略的に示す図である。
【
図6】本発明の第5の態様によるシステムを概略的に示す図である。
【
図7】本発明の第6の態様によるシステムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1中、文字Aは大動脈、文字Bは心外膜動脈、文字Cは微小循環を示す。さらに、P
aは狭窄部の近位の圧力であり、P
dは狭窄部の遠位の圧力であり、R
epiは狭窄部の抵抗である。正常な非狭窄血管では、R
epi=0、P
a=P
dである。次いで、患者の安静状態中、微小血管抵抗は次のように書くことができる。
【数10】
(添え字「N」は完全に正常な冠動脈を示す)
または単純に
【数11】
【0049】
心外膜疾患の存在下では、R
epi>0であり、心外膜疾患は限局性であり得るが、びまん性でもあり得る。この狭窄の場合の微小血管抵抗は、患者の安静状態の間、以下のように書くことができる。
【数12】
(接尾辞「sten」は狭窄の存在を示す)。
【0050】
安静血流(Q
rest)を一定に保つために、R
epiの存在がR
micro,rest,Nの同等の代償性減少を誘導するので、R
micro,rest,sten<R
micro,rest,Nであることに留意されたい(冠循環の自己調節応答)。したがって、R
micro,rest,stenは、以下のように書くこともできる。
【数13】
しかしながら、Q
rest,sten=Q
rest,Nであるため、これは以下のように書き直すことができる。
【数14】
【0051】
狭窄部の近位で測定された圧力である圧力Pa,restは、好ましくは大動脈圧として測定することができ、冠動脈の入口で測定することができ、次いで、いわゆるガイドカテーテルまたは圧力カテーテルを用いて測定することができ、Qrestは、熱希釈技術を用いて測定することができる測定された静止血流である。または、血流は、後述するように、任意の他の適切な侵襲的または非侵襲的技術を用いて測定または推定することができる。静止時の微小血管抵抗を計算するための式(1)は普遍的に有効であり、心外膜疾患の有無に依存しないことにさらに留意されたい。
【0052】
上記の式は、安静状態について導出された。患者の充血状態の間、すなわち微小血管抵抗が最小であり、血流が最大であるとき、本発明者らは、正常な非狭窄血管P
a,hyper=P
d,hyperを有し、
【数15】
または単純に
【数16】
【0053】
限局性またはびまん性であり得る心外膜疾患の存在下では、追加の抵抗R
epiが存在し、充血中、微小血管抵抗が最小であり、血流が最大である場合、
【数17】
R
micro,min,sten=R
micro,min,Nであるため、式(2b)は以下のように書くことができる。
【数18】
ここで、P
d,hyperは、患者の充血状態中に狭窄の遠位で測定される遠位冠動脈圧であり、血流Q
maxは、熱希釈によって、または充血中の血流を測定するための任意の他の適切な侵襲的もしくは非侵襲的方法によって同時に測定される。
【0054】
微小血管抵抗予備能(MRR)は、冠動脈医学の分野における新規な量である;その明らかな有用性にもかかわらず、これまで絶対値で測定および計算されたことはない。微小血管抵抗予備能(MRR)は以下のように定義される。
【数19】
(心外膜疾患に交絡していないときのR
micro,rest)式(1)にR
micro,restを代入し、式(2)にR
micro,minを代入すると、以下のように書かれる:
【数20】
ここで、安静時に測定されたP
a,rest、および充血時に測定されたP
d,hyper
【0055】
上記で定義されたMRRは、微小血管抵抗予備能(MRR)の普遍的に有効な値であり、心外膜疾患の有無とは無関係であることに留意されたい。この後者の特性は、この新規な指標の固有の特徴である。
【0056】
図2は、本発明の第1の態様による方法の一実施形態のフローチャートを示す。本方法は、冠動脈を通る血流Q
restを測定するステップ1を含み、患者の安静状態または最大充血中の冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
aを測定するステップ2をさらに含む。本方法は、患者の最大充血中に、冠動脈を通る血流Q
maxを測定するステップ3をさらに含む。冠動脈の遠位または存在する場合にはいずれかの狭窄の遠位の位置で、血圧P
d,hyperを測定するステップ4とを含む。微小血管抵抗予備能は、
【数21】
として微小血管抵抗予備能を計算する追加のステップ5によって決定される。
【0057】
本方法によって必要とされる圧力測定値はすべて当業者に周知であり、特に冠血流予備量比(FFR)の測定中に実施され、これは冠動脈の医学的検査における標準的な技術である。FFR測定中に、狭窄の存在および位置(存在する場合)が決定される。典型的には、狭窄の遠位(または狭窄が存在しない場合には冠動脈の遠位)の測定は、センサ先端ガイドワイヤを用いて行われる。そのようなセンサは、例えば、Abbott社によって販売されているPressureWire(商標)X Guidewireなど、容易に入手可能である。近位の圧力は、いわゆる圧力カテーテルまたはガイディングカテーテルを用いて測定することができる。しかしながら、センサ先端ガイドワイヤを用いて近位圧力を測定することも可能である。ここで、安静時および充血時の両方で血流が熱希釈流測定によって測定され、生理食塩水が異なる注入速度で連続的に注入される場合、大動脈圧は一般に患者の状態とは無関係である(すなわち、患者が充血状態にあるか安静状態にあるか)ことが経験から知られていることに留意されたい。したがって、本発明によれば、近位圧力は、したがって患者の安静状態中または患者の充血状態中に測定することができる。したがって、上記で導出された式(3)は、以下のように一般化することができる。
【数22】
【0058】
Paが安静状態と充血状態との間で変化する場合(限定されないが、アデノシン注射または注入などの充血を誘発する他の手段の場合のように)、狭窄部の近位で測定した圧力を安静時のPa(Pa,restとも呼ばれる)とし、Pdを充血中のPdとする(Pd,hyperとも呼ばれる)ことが重要である。式(3)を参照されたい。当業者は、患者において充血状態を誘発するための方法にさらに非常に精通している。
【0059】
流量測定値およびそのような流量測定値を実行するための対応する流量測定システムは、例えば、連続熱希釈技術に従って血流を測定するためのシステムを用いて行うことができる。これは当業者に周知の技術であり、例えばPijlsの米国特許第7,775,988号明細書に記載されている。このような流量測定のためのカテーテル、例えばHexaCath社によって販売されているRayFlow(商標)多目的注入カテーテルも容易に入手可能である。
【0060】
しかしながら、当業者は、侵襲的または非侵襲的血流測定のための多くの他の技術を知っている。そのような侵襲的技術は、ボーラス熱希釈、時限静脈収集、電磁流量測定、コンダクタンス測定、ドップラー超音波、または較正ドップラープローブ、熱対流、熱伝導、および心外膜超音波流速測定を包含する。これらの技術のほとんどは、例えば、「Maximal Myocardial Perfusion as a Measure of the Functional Significance of Coronary Artery Disease」、N.H.J.Pijls(1991)、Cip-Gegevens Koninklijke Bibliotheek,den Haag,(ISBN 90-9003818-3)に記載されている。非侵襲的な流量測定の例は、コンピュータ断層撮影法、磁気共鳴画像法、陽電子放出断層撮影法、または心エコー検査法を使用する技術である。
【0061】
典型的には、患者の安静状態中の血流測定のためのシステムは、患者の充血状態中の血流測定のためのシステムと同じである。しかしながら、本発明の範囲内で、安静状態中の血流測定に使用される第1の血流測定システムは、充血状態中の血流測定に使用される第2の血流測定システムとは異なる。
【0062】
QmaxおよびQrestならびにPaおよびPdを異なる時間に測定することができることも本発明の範囲内である。
【0063】
図3は、本発明の第3の態様による方法の一実施形態のフローチャートを示し、この方法は、MRRを決定する代替方法であるが、少なくとも理論的には、本発明の第1の態様による方法と同一のMRR値をもたらす。これは、式(3)を以下のように再構成することによって理解される。
P
a,rest/P
d,hyper=(P
a,rest/P
a,hyper).(P
a,hyper/P
d,hyper)
MRR=Q
max/Q
rest x(P
a,rest/P
a,hyper).(P
a,hyper/P
d,hyper)が得られる。
【0064】
この式から、MRRが、安静時測定値と充血時測定値との間の駆動圧Paの変化を補償するための(Pa,rest/Pa,hyper)という項を含み、任意の種類の心外膜疾患の存在を補償するための(Pa,hyper/Pd,hyper=1/FFR)という項を含むことが明らかになる。
これは、次のように書き直すことができる。
MRR=(CFR/FFR).(Pa,rest/Pa,hyper) (4)
または、Paが安静状態と充血との間で一定のままである場合、単にMRR=(CFR/FFR)である。式(4)は、MRR、CFRおよびFFRの間の相互関係を与え、冠動脈生理学において普遍的に有効である。さらに、式(4)は、CFRおよびFFRを得るために使用される技術に依存しない。
【0065】
図3の方法は、患者の冠動脈の冠血流予備量(CFR)の値を決定するステップ11と、患者の冠動脈の冠血流予備量比(FFR)の値を決定するステップ12と、冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置での患者の安静状態中の血圧値P
a,restを決定するステップ13と、冠動脈の近位または存在する場合は任意の狭窄の近位の位置での患者の最大充血中の血圧値P
a,hyperを決定するステップ14と、を含む。微小血管抵抗予備能MRRは、式(4)に従って微小血管抵抗予備能を計算する追加のステップ15によって決定される。
【0066】
図4は、本発明の第3の態様による方法の一実施形態のフローチャートを示す。この方法は、式(2)で定義される微小血管抵抗を決定することに関する。この方法は、患者の安静状態中に、冠動脈を通る血流Q
restを測定するステップ21と、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置で血圧P
a,restを測定するステップ(22)とを含む。安静状態での微小血管抵抗は、R
micro,rest=P
a,rest/Q
restとして計算される(23)。
【0067】
図5は、本発明の第2の態様によるシステムを概略的に示す。このシステムは、処理ユニット31と、連続熱希釈原理を使用する測定システム32/33/34/35とを備える。測定システムは、制御ユニット30aと、ガイドカテザー30bと、注入カテーテル30cと、センサガイドワイヤ上に配置されたセンサ30dとを備える。上述したように、そのようなシステムは当技術分野で知られており、ここではさらに詳細には説明しない。センサ30dは、温度および圧力を測定するように構成される。図示の位置において、測定システムは、Q
rest、Q
max、P
d,hyperを測定することができ、センサを近位位置に再配置することによって、Paも測定することができる。したがって、測定システムは、本発明の第2の態様の意味において、第1および第2の流量測定システムならびに第1および第2の圧力測定機器を構成する。しかしながら、他の実施形態では、P
aは、別個の測定装置(ガイドカテーテルなど)によって測定されてもよく、または異なる種類の測定システムを一緒に使用してもよい。制御ユニット30aは、そのインターフェース31’を介して処理ユニット31に電気的に接続され、処理ユニットは、測定システムから血流測定値Q
rest、Q
maxおよび血圧測定値P
a、P
dを取得することができる。処理ユニット31は、
【数23】
として微小血管抵抗予備能を計算するように構成される。この実施形態では、システムは、処理ユニット31に電気的に接続され、測定値および/または計算値MRR、Q
rest、Q
maxおよび/またはP
a、P
dを好ましくはリアルタイムで表示することができる表示ユニット36を備える。
【0068】
図6は、本発明の第5の態様によるシステムを概略的に示す。システムは、処理ユニット41およびインターフェース42を備える。処理ユニットは、患者の冠動脈、患者の冠動脈の冠血流予備量CFR、および冠血流予備量比FFRを示し、冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置での患者の安静状態中の血圧、P
a,rest、および冠動脈の近位または存在する場合には任意の狭窄の近位の位置での患者の最大充血中の血圧、P
a,hyperをさらに示すデータを含む前記インターフェースを介して受信された少なくとも1つの信号に応答して、微小血管抵抗予備能を
【数24】
として決定するように構成される。システムは、処理ユニット41に電気的に接続され、MRR、CFRおよび/またはFFRの値を好ましくはリアルタイムで表示することができる表示ユニット56を備える。CTシステム47および圧力測定装置48(血圧計)は、CFR、FFRおよびMRRを決定するためのデータを提供するためにインターフェースに接続されている。システムは、他の実施形態では、インターフェース42に接続される、
図5に示すような測定システムを備えてもよい。さらに他の実施形態では、CFR、FFR、P
a,rest P
a,hyperの記憶値を備えるデータ記憶装置がインターフェースに接続されてもよい。
【0069】
図7は、本発明の第6の態様によるシステムを概略的に示す。システムは、処理ユニット51と、それに接続されたインターフェース52とを備え、前記処理ユニットは、患者の安静状態中の冠動脈を通る血流Q
restおよび患者の安静状態中に存在する場合には冠動脈の近位または任意の狭窄の近位の位置での血圧P
a,restを示すデータを含む前記インターフェースを介して受信された少なくとも1つの信号に応答して、安静状態での微小血管抵抗をR
micro,rest=P
a,rest/Q
restとして決定するように構成される。CTシステム57および圧力測定装置58(血圧計)がインターフェースに接続されて、Q
restおよびP
a,restを示すデータを提供する。本実施形態では、表示部は設けられていない。代わりに、計算された微小血管抵抗を通信するために処理ユニットに接続された任意選択の無線通信モジュールが示されている。R
micro,restを計算するように構成された処理ユニットは、他の実施形態では、CTシステムの一部であってもよい。他の実施形態では、システム57は、PETまたはMRIシステムであってもよい。
【0070】
上述したように、本発明によるシステムは、例えば第1および第2の流量測定システムならびに第1および第2の圧力測定機器からそれぞれ信号または他の量を取得することができ、これらの信号または他の量を値または数に変換する処理ユニットを備え、値または数は、少なくとも一時的に記憶され、本発明による静止および最小微小血管抵抗ならびに微小血管抵抗予備能(MRR)を計算するために使用することができる。実施形態によれば、システムは、測定値および/または計算値を好ましくはリアルタイムで表示することができる表示ユニットを備える。
【0071】
前述のように、上述の本発明の実施形態は、処理が少なくとも1つのプロセッサで実行される処理ユニットを含み、本発明はまた、本発明を実施するように適合されたコンピュータプログラム、特にキャリア上またはキャリア内のコンピュータプログラムにも及ぶ。プログラムは、ソースコード、オブジェクトコード、コード中間ソースおよび部分的にコンパイルされた形式などのオブジェクトコードの形式であってもよく、ソフトウェアまたはファームウェアを含んでもよく、または本発明によるプロセスの実施における使用に適した任意の他の形式であってもよい。プログラムは、オペレーティングシステムの一部であってもよいし、別個のアプリケーションであってもよい。キャリアは、プログラムを搬送することができる任意のエンティティまたはデバイスであってもよい。例えば、キャリアは、フラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)、例えばDVD(Digital Video/Versatile Disk)、CD(Compact Disc)もしくは半導体ROM、EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)などの記憶媒体、または磁気記録媒体、例えばフロッピーディスクもしくはハードディスクを含むことができる。さらに、キャリアは、電気または光ケーブルを介して、または無線または他の手段によって搬送され得る電気または光信号などの伝送可能なキャリアであってもよい。プログラムが、ケーブルまたは他の装置または手段によって直接搬送され得る信号で具現化される場合、キャリアは、そのようなケーブルまたは装置または手段によって構成され得る。あるいは、キャリアは、プログラムが埋め込まれた集積回路であってもよく、集積回路は、関連するプロセスを実行するために、または関連するプロセスの実行に使用するために適合されている。1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1つのデータプロセッサ、例えば処理ユニットに通信可能に接続または結合されたメモリにロード可能なコンピュータプログラムが提供されてもよく、このコンピュータプログラムは、プログラムが少なくとも1つのデータプロセッサ上で実行されるときに、本明細書の実施形態のいずれかによる方法を実行するためのソフトウェアまたはハードウェアを備える。1つまたは複数のさらなる実施形態では、プログラムが記録されたプロセッサ可読媒体が提供されてもよく、プログラムは、プログラムが少なくとも1つのデータプロセッサにロードされたときに、少なくとも1つのデータプロセッサ、例えば処理ユニットに、本明細書の実施形態のいずれかによる方法を実行させるものである。
【0072】
添付の図面にも示されている特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本明細書に記載され、特許請求の範囲を参照して定義される本発明の範囲内で多くの変形および修正を行うことができることは当業者には明らかであろう。
【国際調査報告】