(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-25
(54)【発明の名称】燃料電池分離板用ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
H01M 8/021 20160101AFI20230718BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20230718BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20230718BHJP
C25F 3/06 20060101ALI20230718BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230718BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230718BHJP
C22C 38/18 20060101ALN20230718BHJP
C22C 38/40 20060101ALN20230718BHJP
C22C 38/28 20060101ALN20230718BHJP
【FI】
H01M8/021
H01M8/0228
C22C38/58
C25F3/06
H01M8/10 101
C22C38/00 302Z
C22C38/18
C22C38/40
C22C38/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022573580
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 KR2020014195
(87)【国際公開番号】W WO2021241812
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0065190
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,クァンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンホ
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ボ-ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン-フン
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126GG01
5H126GG08
5H126HH01
5H126HH03
5H126HH10
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ06
5H126JJ08
5H126JJ10
(57)【要約】
【課題】ガス拡散層と分離板の実質的な接触面積が最大となり得る表面形状を具現した接触抵抗が低い燃料電池分離板用ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】本明細書では、本発明は燃料電池分離板用ステンレス鋼に関するもので、より詳しくは、接触抵抗が低い燃料電池分離板用ステンレス鋼を開示する。開示される燃料電池分離板用ステンレス鋼の一実施例によると、ISO 25178規格によって定義される表面の頂点曲率算術平均(Ssc)が6.0μm
-1以上であり、二乗平均平方根傾斜(Sdq)が23以上であり、接触抵抗が10mΩ・cm
2以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISO 25178規格によって定義される表面の頂点曲率算術平均(Ssc)が6.0μm
-1以上であり、二乗平均平方根傾斜(Sdq)が23以上であり、接触抵抗が10mΩ・cm
2以下であることを特徴とする燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項2】
前記ステンレス鋼は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Cr:15~35%、C+N:0.03%以下を含み、残部がFe及びその他不可避な不純物からなるフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項3】
前記フェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:0.4%以下、Mn:0.2%以下、Cu:2%以下及びTi、Nb、Vを合計で1.0%以下のうち少なくとも1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項4】
前記ステンレス鋼は、重量%で、C:0.09%以下、Cr:15~30%、Ni:7~15%を含み、残部がFe及びその他不可避な不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項5】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:2.5%以下、Mn:3%以下、Mo:3%以下、N:0.3%以下及びTi、Nb、Vを合計で1.0%以下のうち少なくとも1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項6】
不動態被膜の厚さが3nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項7】
ステンレス冷延鋼板を硫酸溶液に浸漬して0.16~0.48A/cm
2の電流密度で1次電解処理した後、0.03~0.08A/cm
2の電流密度で2次電解処理し、混酸溶液に浸漬処理することを含んで請求項1に記載のステンレス鋼を製造することを特徴とする燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記1次、2次電解処理を行う以前に、
450~550℃で30秒以上熱処理することを含むことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池分離板用ステンレス鋼に係り、より詳しくは、ガス拡散層と分離板の実質的な接触面積が最大となり得る表面形状を具現した接触抵抗が低い燃料電池分離板用ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質とアノード(anode)及びカソード(cathode)電極からなる膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の両側にガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)と分離板が積層された単位電池構造からなっており、このような多数個の単位電池が直列で連結されて構成されたものを燃料電池スタック(stack)と言う。分離板は、ガス拡散層と接触しており、分離板とガス拡散層の界面から引き起こされる接触抵抗は、燃料電池の性能を低下させる。
【0003】
分離板の接触抵抗は大きく二つにより影響を受ける。一番目は、金属の分離板の表面上に形成される酸化物層の不動態被膜である。不動態被膜は、分離板が高い耐食性を有するようにするが、非伝導性の酸化物層として接触抵抗を増加させるので、可能であれば薄い厚さを有することが好ましい。二番目は、分離板とガス拡散層の接触面積である。分離板とガス拡散層は、それぞれ異なる表面粗さを有し、互いに異なる表面粗さを有する二つの素材の間の実質的な接触面積が接触抵抗に大きい影響を与える。分離板とガス拡散層の間の接触面積が大きいと、接触抵抗が低く、接触面積が小さいと、接触抵抗は高い傾向を示す。
【0004】
表面形状を制御して接触抵抗を減少させようという試みで、特許文献1では、表面に凹凸を形成したステンレス鋼の分離板を用いた。具体的に、表面粗さパラメータである中心線平均粗さ(center line average surface roughness、Ra)、言い換えれば、算術平均粗さ(arithmetic average surface roughness)が0.03~2μmであるものが好ましいと記載している。
【0005】
しかし、2次元表面パラメータである中心線平均粗さの範囲だけでは分離板とガス拡散層の間の実質的な接触面積を精緻に予測しにくい。それによって、特許文献1の平均粗さと類似した平均粗さ範囲を有するステンレス鋼であっても接触抵抗が相異なる場合があるので、接触抵抗の変化を予測しにくいという問題点がある。したがってガス拡散層と分離板の実質的な接触面積が最大となり得る表面形状を具現するためにこれを制御できる新しい表面パラメータが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が目的とするところは、ガス拡散層と分離板の実質的な接触面積が最大となり得る表面形状を具現した接触抵抗が低い燃料電池分離板用ステンレス鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、ISO 25178規格によって定義される表面の頂点曲率算術平均(Ssc)が6.0μm-1以上であり、二乗平均平方根傾斜(Sdq)が23以上であり、接触抵抗が10mΩ・cm2以下であってもよい。
【0009】
また、前記ステンレス鋼は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Cr:15~35%、C+N:0.03%以下を含み、残部がFe及びその他不可避な不純物からなるフェライト系ステンレス鋼であってもよい。また、前記フェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:0.4%以下、Mn:0.2%以下、Cu:2%以下及びTi、Nb、Vを合計で1.0%以下のうち少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【0010】
また、前記ステンレス鋼は、重量%で、C:0.09%以下、Cr:15~30%、Ni:7~15%を含み、残部がFe及びその他不可避な不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。また、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:2.5%以下、Mn:3%以下、Mo:3%以下、N:0.3%以下及びTi、Nb、Vを合計で1.0%以下のうち少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【0011】
また、本発明の各燃料電池分離板用ステンレス鋼において、不動態被膜の厚さが3nm以下であってもよい。
【0012】
また、上述した目的を達成するための他の手段として、本発明の燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、ステンレス冷延鋼板を硫酸溶液に浸漬して0.16~0.48A/cm2の電流密度で1次電解処理した後、0.03~0.08A/cm2の電流密度で2次電解処理し、混酸溶液に浸漬処理することを含み、ISO 25178規格によって定義される表面の頂点曲率算術平均(Ssc)が6.0μm-1以上であり、二乗平均平方根傾斜(Sdq)が23以上であり、接触抵抗が10mΩ・cm2以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の各燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法において、前記1次、2次電解処理する以前に、450~550℃で30秒以上熱処理を含むことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、2次元表面パラメータである平均表面粗さを代替した3次元表面パラメータであるSsc、Sdq値を制御して分離板とガス拡散層の実質的な接触面積を高めることができ、その結果、分離板の接触抵抗を效果的に減少させ得る。
【0015】
本発明によると、高価のコーティング工程などを行わなくても低い接触抵抗を有する燃料電池分離板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】表2の結果に基づいてSsc値と接触抵抗の相関関係を示したグラフである。
【
図2】表2の結果に基づいてSdq値と接触抵抗の相関関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の燃料電池分離板用ステンレス鋼は、ISO 25178規格によって定義される表面の頂点曲率算術平均(Ssc)が6.0μm-1以上であり、二乗平均平方根傾斜(Sdq)が23以上であり、接触抵抗が10mΩ・cm2以下である。
【0018】
以下は、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形され得、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態によって限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有した者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0019】
本出願で用いる用語は、ただ特定の例示を説明するために用いられるものである。例えば、単数の表現は、文脈上明白に単数である必要がない限り、複数の表現を含む。付け加えて、本出願で用いられる「含む」又は「具備する」などの用語は、明細書上に記載した特徴、段階、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものが存在することを明確に指称するために用いられ、他の特徴や段階、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除しようとして使用するものではないことに留意すべきである。
【0020】
一方、別に定義しない限り、本明細書で使用する全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者が一般的に理解できるものと同一の意味を有すると見なければならない。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定用語が過度に理想的や形式的な意味として解釈されてはいけない。例えば、本明細書で単数の表現は、文脈上明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0021】
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるときその数値で又はその数値に近接した意味で用いられ、本発明の理解を助けるために正確であるか絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために用いられる。
【0022】
燃料電池分離板用ステンレス鋼の接触抵抗を低めるために従来活用された2次元表面パラメータは、分離板とガス拡散層の間の実質的な接触面積を精緻に予測しにくい。そこで、本発明者らは、新しいパラメータを活用してガス拡散層と分離板の実質的な接触面積が最大となり得る分離板表面形状を具現しようとした。
【0023】
ISO 25178規格によって定義される3次元表面パラメータである頂点曲率算術平均(Ssc)、二乗平均平方根傾斜(Sdq)は、分離板の表面に存在する凹凸の高さと頻度を組み合わせた3次元パラメータであり、前記パラメータは、表面の3次元形状に影響を受け、分離板とガス拡散層の実質的な接触面積に影響を与えて分離板の接触抵抗を効果的に減少させる。
【0024】
頂点曲率算術平均(Arithmetic mean summit curvature、Ssc)は、表面に存在する頂点(peak、凹凸)曲律逆数の平均値であって、単位はμm-1である。Ssc値が大きいほどガス拡散層と接触している分離板表面の凹凸が尖がり、Ssc値が小さいほどガス拡散層と接触している分離板の表面の凹凸が丸い。
【0025】
二乗平均平方根傾斜(Root mean square surface slope、Sdq)は、表面凹凸の傾斜と関連された表面パラメータであって、表面に存在する全ての凹凸の傾斜の平均平方根値である。Sdq値は、表面凹凸の間隔と関連されたパラメータであり、Sdq値が大きいほど分離板の表面に存在する凹凸の間隔が狭く、Sdq値が小さいほど分離板の表面に存在する凹凸間隔が広い。Sdq値が0である場合は、凹凸がない完全な平面を意味し、Sdq値が1である場合は、表面に存在する全ての凹凸の傾斜が45°であることを意味する。
【0026】
本発明の一例による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、表面の頂点曲率算術平均(Ssc)が6.0μm-1以上であり、二乗平均平方根傾斜(Sdq)が23以上であってもよい。
【0027】
本発明によると、前記範囲内にSsc、Sdq値を制御することによって、分離板の表面に尖って各凹凸の間隔が狭い凹凸が存在するようにする。凹凸間の間隔が狭いとは、単位面積当たり凹凸の個数が多いという意味であって、表面上凹凸が密集して存在することを意味する。上述したSsc、Sdq値範囲内に制御した分離板は、ガス拡散層との実質的な接触面積が増加して接触抵抗を大きく減少させ得る。
【0028】
本発明の一例による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、不動態被膜の厚さが3nm以下であってもよい。不動態被膜が厚いほど電子移動に不利となって接触抵抗が高くなる可能性が大きくなる。このような側面から、好ましくは、不動態被膜の厚さは、2nm以下であってもよい。
【0029】
ただし、不動態被膜の厚さ数値だけでは微小な接触抵抗の優位と劣位を判断できず、接触面積に大きい影響を与える表面形状が接触抵抗の主な要因である。従来には、2次元表面パラメータである中心線平均粗さの範囲などを活用したが、このような2次元表面パラメータだけでは分離板とガス拡散層の間の実質的な接触面積を精緻に予測しにくい。したがって、本発明では、3次元表面パラメータであるSsc、Sdq値の範囲を制御してガス拡散層との実質的な接触抵抗を増加させて接触抵抗を大きく減少させる。
【0030】
本発明の一例による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、接触抵抗値が10mΩ・cm2以下であってもよい。
【0031】
本発明による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、上述した範囲内にSsc、Sdq値を有すれば十分であり、その成分組成が特に制限されない。ただし、好ましい成分組成を示すと、次の通りである。しかし、次の成分組成は、本発明に対する理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の技術思想を制限するものではないことを留意する必要がある。
【0032】
本発明の一例による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Cr:15~35%、C+N:0.03%以下、残部Fe及びその他不可避な不純物を含むフェライト系ステンレス鋼であってもよい。また、一例によるフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:0.4%以下、Mn:0.2%以下、Cu:2%以下及びTi、Nb、Vを合計で1.0%以下のうち少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【0033】
各合金元素の成分範囲を限定した理由を以下で詳述する。
【0034】
Cは、0.02重量%以下であってもよい。
【0035】
Cは、オーステナイト形成元素であり、添加時高温強度を向上させる。しかし、過多添加するとき、Crと反応してクロム炭化物を形成する。その結果、鋼材の耐食性を低下させ、フェライト系鋼で延伸率と溶接性を低下させる恐れがある。これを考慮して、本発明でC含量は、0.02重量%以下であることが好ましい。
【0036】
Nは、0.02重量%以下であってもよい。
【0037】
Nは、オーステナイト相の安定化元素であり、Niを代替する元素として鋼材の強度と耐食性を向上させる。しかし、過多添加するとき、鋼材の延伸率など加工性が低下する恐れがある。これを考慮して、本発明でN含量は、0.02重量%以下であることが好ましい。
【0038】
Crは、15~35重量%であってもよい。
【0039】
Crは、ステンレス鋼の酸化物形成を促進する元素であって、耐食性のためには、15重量%以上のCrの添加が必要である。しかし、過多に添加されると、熱間圧延時に緻密な酸化スケールの生成により熱延スティキング(sticking)欠陥が増加する問題がある。これを考慮して、本発明でCr含量は、35重量%を上限にし得る。
【0040】
C+Nは、0.03重量%以下であってもよい。
【0041】
C、N各含量に対して上述したように限定したこと以外にも、加工性を考慮して、C+N含量範囲をさらに限定し得る。本発明でC+N含量は、0.03重量%以下であってもよい。
【0042】
必ずその含量範囲を限定する必要はないが、本発明の一例によるフェライト系ステンレス鋼は、Si、Mn、Cu、Ti、Nb、Vをさらに含むことができ、重量%で、Si:0.4%以下、Mn:0.2%以下、Cu:2%以下及びTi、Nb、Vを合計で1.0%以下のうち少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【0043】
各合金元素の成分範囲を限定した理由を以下で叙述する。
【0044】
Siは、0.4重量%以下であってもよい。
【0045】
Siは、高温耐酸化性を向上させ、ステンレス鋼の不動態被膜を強化して耐食性を向上させる。しかし、過多添加するとき、延伸率を低下させるので、これを考慮して、本発明でSi含量は、0.4重量%以下であってもよい。
【0046】
Mnは、0.2重量%以下であってもよい。
【0047】
Mnは、Nと同様にオーステナイト相の安定化元素であり、Niを代替する元素としてオーステナイト相を準安定化する元素である。Mnは、添加時に鋼材の強度が増加するが、過多添加するとき、加工性が低下するので、これを考慮して、本発明でMn含量は、0.2重量%以下であってもよい。
【0048】
Cuは、2重量%以下であってもよい。
【0049】
Cuは、オーステナイト相の安定化元素であって、添加時鋼材の耐食性が向上する。しかし、Cuは、過多添加するとき、鋼材の熱間加工性が低下し得るので、これを考慮して、本発明でCu含量は、2重量%以下であってもよい。
【0050】
Ti、Nb、Vは、合計で1.0重量%以下であってもよい。
【0051】
Ti、Nb、Vは、鋼中のC及びNを炭窒化物に形成するのに有効な元素である。しかし、過多添加するとき、靭性を低下させるので、これを考慮して、本発明でTi、Nb、Vは、合計で1.0重量%以下であってもよい。このとき、Ti、Nb、Vは、1種以上含有すれば十分であり、その場合、含有される合金元素含量の和が1.0重量%以下であれば良い。
【0052】
本発明の他の一例による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、重量%で、C:0.09%以下、Cr:15~30%、Ni:7~15%、残部Fe及びその他不可避な不純物を含むオーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。また、一例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:2.5%以下、Mn:3%以下、Mo:3%以下、N:0.3%以下及びTi、Nb、Vを合計で1.0%以下のうち少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【0053】
各合金元素の成分範囲を限定した理由を以下で詳述する。
【0054】
Cは、0.09重量%以下であってもよい。
【0055】
Cは、オーステナイト形成元素であり、添加時高温強度を向上させる。しかし、過多添加するとき、Crと反応してクロム炭化物を形成する。その結果、鋼材の耐食性を低下させ、延伸率と溶接性を低下させる恐れがある。これを考慮して、本発明でC含量は、0.09重量%以下であることが好ましい。
【0056】
Crは、15~30重量%であってもよい。
【0057】
Crは、ステンレス鋼の酸化物形成を促進して耐食性を向上させる元素であって、燃料電池環境での耐食性の確保のためには、15重量%以上で添加することが好ましい。しかし、過多添加するとき、オーステナイト相の安全性のために高価のNi、耐食性を低下させるMn、加工性を低下させるNを追加的に添加しなければならない。これを考慮して、本発明でCr含量は、15~30重量%であってもよい。
【0058】
Niは、7~15重量%であってもよい。
【0059】
Niは、オーステナイト相の安定化元素であるが、価格が高価であるで、経済性を考慮して、本発明でNi含量は、7~15重量%であってもよい。
【0060】
必ずしもその含量範囲を限定する必要はないが、本発明の一例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、Si、Mn、Mo、N、Ti、Nb、Vをさらに含むことができ、重量%で、Si:2.5%以下、Mn:3%以下、Mo:3%以下、N:0.3%以下及びTi、Nb、Vを合計で1.0%以下のうち少なくとも1種以上をさらに含むことができる。
【0061】
各合金元素の成分範囲を限定した理由を以下で詳述する。
【0062】
Siは、2.5重量%以下であってもよい。
【0063】
Siは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。しかし、過多添加するとき、鋼材の延伸率が低下し、SiO2酸化性介在物が鋼材の耐食性を低下させる恐れがある。これを考慮して、本発明でSi含量は、2.5重量%以下であってもよい。
【0064】
Mnは、3重量%以下であってもよい。
【0065】
Mnは、Niと同様にオーステナイト相の安定化元素であり、Niを代替する元素としてオーステナイト相を準安定化する元素である。Mnは、添加時鋼材の強度が増加するが、過多添加するとき、耐食性が低下するので、これを考慮して、本発明でMn含量は、3重量%以下であってもよい。
【0066】
Moは、3重量%以下であってもよい。
【0067】
Moは、ステンレス鋼の耐食性の向上に有効な元素である。しかし、過多添加するとき、シグマ相が生成されて鋼材の耐食性が低下し、脆性が発生する恐れがあり、高価の元素であるので、これを考慮して、本発明でMo含量は、3重量%以下であってもよい。
【0068】
Nは、0.3重量%以下であってもよい。
【0069】
Nは、オーステナイト相の安定化元素であり、Niを代替する元素として鋼材の強度と耐孔食性を向上させる。しかし、過多添加するとき、鋼材の延伸率など加工性が低下する恐れがある。これを考慮して、本発明でN含量は、0.3重量%以下であることが好ましい。
【0070】
Ti、Nb、Vは、合計で1.0重量%以下であってもよい。
【0071】
Ti、Nb、Vは、鋼中のC及びNを炭窒化物に形成するのに有効な元素である。しかし、過多添加するとき、靭性を低下させるので、これを考慮して、本発明でTi、Nb、Vは、合計で1.0重量%以下であってもよい。このとき、Ti、Nb、Vは、1種以上含有すれば十分であり、その場合、含有される合金元素含量の和が1.0重量%以下であれば良い。
【0072】
本発明による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、上述した範囲内にSsc、Sdq値を有すれば十分であり、その製造方法に対して特に制限されない。ただし、分離板の表面形状制御工程に対して例示すると、次のようである。しかし、次の製造工程は、本発明に対する理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の技術思想を制限するものではないことを留意する必要がある。
【0073】
本発明の一例によると、通常のステンレス鋼の製造工程によって製造された冷延鋼板を表面処理して本発明による燃料電池分離板用ステンレス鋼を製造することができる。一例による燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法によると、ステンレス冷延鋼板を硫酸溶液に浸漬して1次、2次電解処理し、混酸溶液に浸漬処理することを含むことができる。
【0074】
一例による1次電解処理は、0.16~0.48A/cm2の電流密度で電解処理することができ、一例による2次電解処理は、0.03~0.08A/cm2の電流密度で電解処理することができる。一例によると、混酸溶液は、窒酸、フッ酸混合溶液を用いることができ、浸漬時間は、30秒以上であってもよい。
【0075】
本発明の一例による燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法によると、1次、2次電解処理する以前に450~550℃で30秒以上熱処理することができる。
【0076】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載した事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
【0077】
<実施例>
【0078】
下記表1の合金組成を有するフェライト系ステンレス鋼Aと、オーステナイト系ステンレス鋼Bを通常のステンレスの製造工程によってZ-mill冷間圧延機を用いて冷延薄板に製造した後、光輝焼鈍熱処理した。
【0079】
【0080】
その後、下記表2の表面形状制御工程を通じて各発明例、比較例を製造した。
【0081】
表2の表面形状制御工程に対する理解を助けるための例示を挙げると、表2の比較例5によるステンレス冷延鋼板は、18%硫酸溶液に浸漬して0.07A/cm2の電流密度で1次電解処理された後、0.03A/cm2の電流密度で2次電解処理された。その後、単独酸である18%硫酸に5秒間浸漬された後、混酸(15%窒酸、1%フッ酸)に30秒間浸漬した。
【0082】
各発明例、比較例は、表面形状制御工程を経た後、表面分析を通じてステンレス鋼の表面の平均表面粗さ(Ra)と表面に存在する凹凸の高さと頻度を組み合わせた3次元パラメータであるSsc、Sdq値を表2に示した。各発明例、比較例の接触抵抗も測定して表2に一緒に示した。
【0083】
【0084】
表2の結果を参照すると、発明例1~7は、本発明によるSsc、Sdq値を満足して10mΩ・cm2以下の低い接触抵抗を有することが分かる。
【0085】
一方、表2を参照すると、発明例の平均表面粗さ(Ra)は、約0.08~0.2μmであり、比較例の平均表面粗さ(Ra)は、約0.07~0.2μmであることが分かる。
各発明例と比較には、このように類似した平均表面粗さ(Ra)値を有しているが、比較例は、本発明が限定するSsc、Sdq値範囲を全て満たさず、接触抵抗は、10mΩ・cm2を超過した。
【0086】
このような結果から、平均表面粗さ(Ra)は、ガス拡散層と分離板の実質的な接触面積を予測するには不適切なパラメータであるということが分かる。また、効果的に接触抵抗を低減するために、ステンレス鋼の表面に存在する凹凸の高さと頻度を組み合わせた3次元パラメータであるSsc、Sdq値を本発明によって制御することが好ましいことが分かる。
【0087】
添付した
図1、2は、表2の結果に基づいてそれぞれのSsc、Sdq値と接触抵抗の相関関係を示したグラフである。
図1、2に示すとおり、本発明のように、Ssc値は、6μm
-1以上に制御し、Sdq値は、23以上に制御すると、10mΩ・cm
2以下の低い接触抵抗を満足することができた。
【0088】
表2によると、表面形状制御工程を経ない比較例3に比べて、比較例1、2の場合、低いSsc、Sdq値を示した。これは熱処理により生成されたスケールが表面に存在する微細で尖った凹凸を覆って熱処理前に比べて分離板の表面形状が丸い表面に変化したからである。
【0089】
比較例5~13を参照すると、表面形状制御工程によってSscとSdq値が変化し、これによって、接触抵抗値が一緒に変化することが分かる。比較例5~13の結果を参照すると、Ssc、Sdq値が大きくなるほど接触抵抗値が低くなる傾向を示すことが分かり、それから低い接触抵抗値を有するためには、尖った凹凸が緻密に表面に存在する分離板の表面形状がガス拡散層と分離板の間の実質的な接触面積を広げるのに有利であることが分かる。
【0090】
図3は、比較例3の3次元表面形状の分析図であり、
図4は、発明例7の3次元表面形状の分析図である。
図3、4を参照すると、表面形状制御工程を行った結果、発明例7のSsc値が6.27μm
-1であり、Sdq値が23.7であって、微細で尖った凹凸が狭い間隔で緻密に存在することが分かる。
【0091】
表2の表面形状制御工程を参照すると、発明例1~7は全て混酸溶液に浸漬処理する工程が含まれ、10mΩ・cm2以下の低い接触抵抗を確保するためには、混酸溶液に浸漬する工程を行うことが好ましいことが分かる。硫酸電解工程は、1、2次の二回で行われ、0.16~0.48A/cm2の電流密度で1次電解処理した後、0.03~0.08A/cm2の電流密度で2次電解処理することが好ましいことが分かる。
【0092】
しかし、表2の表面形状制御工程だけでなく、酸溶液を活用した多様な電解、浸漬などの工程を通じてSsc 6.0μm-1以上、Sdq 23以上に分離板の表面を制御することができれば、10mΩ・cm2以下の低い接触抵抗を確保し得ることに留意する必要がある。電解工程に用いられた硫酸、混酸溶液内の窒酸は、ステンレス鋼の表面溶解を起こすことができる塩酸及び酸性溶液と酸化剤が含まれた溶液に代替できることに留意する必要がある。
【0093】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明による分離板用ステンレス鋼は、ガス拡散層と分離板の実質的な接触面積が最大となり得る表面形形状を具現することができるので、燃料電池分離板に適用が可能である。
【国際調査報告】