(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-25
(54)【発明の名称】CEBP-βアンタゴニストの投与及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230718BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230718BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230718BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230718BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230718BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230718BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230718BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P35/00
A61K38/16
A61P35/04
A61K47/12
A61K47/26
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579019
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 US2021038264
(87)【国際公開番号】W WO2021262604
(87)【国際公開日】2021-12-30
(32)【優先日】2020-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520243444
【氏名又は名称】サピエンス・セラピューティクス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】カッペル,バリー・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】メルトゥカ,ジーン
(72)【発明者】
【氏名】ロトロ,ジミー・アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル,ロバート・イー
(72)【発明者】
【氏名】ベクソン,アリス・スザンナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076BB13
4C076CC27
4C076DD43Z
4C076DD67
4C076FF04
4C076FF61
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA17
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4C084BA23
4C084CA59
4C084DA27
4C084MA02
4C084MA05
4C084MA16
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4C084NA05
4C084NA12
4C084NA14
4C084ZA712
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC442
4C084ZC452
4C084ZC751
4H045AA10
4H045BA17
4H045CA40
4H045EA28
4H045FA20
(57)【要約】
CCAAT/エンハンサータンパク質β(C/EBPβ)のペプチドアンタゴニストの投与方法、及びC/EBPβのペプチドアンタゴニストを投与することによる固形腫瘍の治療方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者における固形腫瘍の治療方法であって、前記方法が、有効量のCCAATエンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)のペプチドアンタゴニストを含む医薬組成物を前記患者に非経口投与することを含む、前記治療方法。
【請求項2】
前記固形腫瘍が、黒色腫、がん腫、または肉腫である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者が、局所進行/転移乳癌(LA/MBC)、黒色腫、神経膠芽腫(GBM)、または去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)と診断されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者が、化学療法、ホルモン療法、免疫療法、標的療法、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される前治療を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ペプチドアンタゴニストが、D-アミノ酸配列VAEAREELERLEARLGQARGEL(配列番号4)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ペプチドアンタゴニストが、アミノ酸配列LEGRAQGLRAELRELEERAEAV(配列番号3)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドアンタゴニストが、細胞透過性ペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ペプチドアンタゴニストが、ST101である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチドアンタゴニストを、約0.5~16mg/kgの用量で前記患者に投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬組成物を、静脈内に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記医薬組成物を、注入によって投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記医薬組成物を、全注入時間約30~約360分の静脈内注入によって投与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記全注入時間が約60~約180分である、請求項12に記載の方法または組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物を、週1回投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記医薬組成物を、2週に1回投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記医薬組成物を、少なくとも4週間投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
抗ヒスタミン剤、ロイコトリエン阻害剤、非ステロイド性抗炎症剤、アセトアミノフェン、コルチコステロイド、制吐剤、静脈内生理食塩水、及び電解質からなる群から選択される1つ以上の二次薬剤を、前記医薬組成物の投与と同時に、投与前に、または投与後に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
抗ヒスタミン剤及び/またはロイコトリエン阻害剤を、前記医薬組成物の投与前の約48時間以内に前記対象に投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記医薬組成物が、緩衝剤及び増量剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記医薬組成物が、乳酸及びトレハロースを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記医薬組成物が、約3.0~8.0のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
ヒト患者におけるHR
pos LA/MBCの治療方法であって、前記方法が、有効量のST101を含む医薬組成物を静脈内注入により前記患者に投与することを含む、前記治療方法。
【請求項23】
ヒト患者における黒色腫の治療方法であって、前記方法が、有効量のST101を含む医薬組成物を静脈内注入により前記患者に投与することを含み、前記患者が、ST101の投与前に少なくとも1つの治療を受けている、前記治療方法。
【請求項24】
前記患者が、免疫チェックポイント阻害剤による治療後または治療中に進行している黒色腫を有し、前記患者が、進行性/転移性黒色腫を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記患者がBRAF変異を含む黒色腫を有し、前記患者が少なくとも1つの標的療法を受けている、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
ヒト患者における原発性GBMの治療方法であって、前記方法が、有効量のST101を含む医薬組成物を静脈内注入により前記患者に投与することを含む、前記治療方法。
【請求項27】
前記GBMが、最大の外科的切除、放射線療法、及び放射線療法と併用するテモゾロミドまたはテモゾロミドによる補助化学療法による前治療後に再発または進行している、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ヒト患者におけるCRPCの治療方法であって、前記方法が、有効量のST101を含む医薬組成物を静脈内注入により前記患者に投与することを含む、前記治療方法。
【請求項29】
前記患者が、タキサン、アビラテロン、ダラルタミド、及び/またはエンザルタミド/アパルタミドによる前治療の後に進行しているCRPCを有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ST101を約0.5~16mg/kgの用量で前記患者に投与する、請求項22~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記医薬組成物を、少なくとも3週間にわたって週1回投与する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記医薬組成物を、少なくとも4週間にわたって2週に1回投与する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記医薬組成物が、トレハロース及び乳酸を含む、請求項22~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記医薬組成物を、全注入時間約60~約360分の静脈内注入によって投与する、請求項22~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
ST101のクリアランスが、1時間あたり0.75~3.5リットルである、請求項22~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
ST101の半減期(t
1/2)が10~70時間である、請求項22~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
ヒト患者における固形腫瘍の治療に使用するための有効量のC/EBPβのペプチドアンタゴニストを含む非経口投与用の医薬組成物。
【請求項38】
ヒト患者における黒色腫、HR
pos LA/MBC、原発性GBM、またはCRPCの治療において使用するための有効量のST101を含む静脈内注入用の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月21日に出願された米国仮出願第63/041,986号、第63/041,988号、第63/041,989号、第63/041,990号、及び第63/041,991号ならびに2021年4月8日に提出された米国仮出願第63/172,560号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
CCAATエンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)は、分化、炎症、細胞生存、及び代謝などの細胞プロセスに関与する転写因子である。C/EBPβは、上方制御または過剰活性化されて、腫瘍の生存と増殖を促進し、乳癌、神経膠芽腫、前立腺癌、及び多発性骨髄腫を含む多くの異なるがんの分化を阻害する(Homma 2006,Kim 2008,Pal 2009,Zahnow 2009,Aguilar-Morante 2011)。さらに、C/EBPβは、疾患の予後及び生存率と逆相関することが示されている。細胞の増殖と分化の調節におけるその役割(Lekstrom-Himes 1998;Lamb 2003)、及び多くの種類のがんにおける発現または活性化の増加(Oya 2003;Homma 2006;Zahnow 2009)により、C/EBPβは、治療介入の潜在的な標的と考えられている。しかしながら、部分的には転写因子を標的とすることが困難なため、効果的ではないC/EBPβ阻害剤が、本発明の前に臨床開発に入っていた。
【0003】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に援用される。ASCIIコピーは、2021年6月18日に作成され、名称はSapience_013_WO1_SL.txt、サイズは2,047バイトである。
【発明の概要】
【0004】
本発明の主な態様のいくつかを以下に要約する。本開示の発明の詳細な説明、実施例、図面、及び特許請求の範囲の節に、追加の態様が記載されている。本開示の各節の説明は、他の節と併せて読まれることを意図している。さらに、本開示の各節に記載された様々な実施形態を、様々な異なる方法で組み合わせることができ、そのような組み合わせのすべてが本発明の範囲内にあることが意図される。
【0005】
本開示は、患者における固形腫瘍の治療方法を提供し、この方法は、有効量のCCAATエンハンサー結合タンパク質β(C/EBPβ)のペプチドアンタゴニストを含む医薬組成物を患者に非経口投与することを含む。また、患者の固形腫瘍の治療に使用するための有効量のC/EBPβのペプチドアンタゴニストを含む非経口投与用の医薬組成物も提供する。好ましくは、約0.5~16mg/kgの用量でペプチドアンタゴニストを患者に投与する。
【0006】
一実施形態では、固形腫瘍は、黒色腫、がん腫、または肉腫である。特定の実施形態では、患者は、局所進行/転移乳癌(LA/MBC)、黒色腫、神経膠芽腫(GBM)、または去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)と診断されている。
【0007】
いくつかの例では、患者は、化学療法、ホルモン療法、免疫療法、標的療法、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される前治療を受けている。一実施形態では、前治療は、患者の診断のための標準治療(standard-of-care treatment)である。
【0008】
一実施形態では、C/EBPβのペプチドアンタゴニストは、D-アミノ酸配列VAEAREELERLEARLGQARGEL(配列番号4)を含む。一実施形態では、ペプチドアンタゴニストは、アミノ酸配列LEGRAQGLRAELRELEERAEAV(配列番号3)を含む。ペプチドアンタゴニストは、細胞透過性ペプチドであり得る。特定の実施形態では、ペプチドアンタゴニストはST101である。
【0009】
本発明の特定の方法には、患者の黒色腫、HRpos LA/MBC、原発性GBM、またはCRPCの治療方法が含まれ、この方法は、有効量のST101を含む医薬組成物を静脈内注入によって患者に投与することを含む。また、患者の黒色腫、HRpos LA/MBC、原発性GBM、またはCRPCの治療において使用するための有効量のST101を含む静脈内注入用の医薬組成物も提供する。
【0010】
好ましい実施形態では、患者はヒト患者である。
【0011】
特定の実施形態では、患者は、ST101の投与前に少なくとも1系統の治療を受けている。
【0012】
一実施形態では、患者は、免疫チェックポイント阻害剤による治療後または治療中に進行した進行性/転移性黒色腫を有する。一実施形態では、患者はBRAF変異を含む黒色腫を有し、患者は少なくとも1系統の標的療法を受けている。
【0013】
一実施形態では、GBMは、最大の外科的切除、放射線療法、及び放射線療法と併用するテモゾロミドまたはテモゾロミドによる補助化学療法による前治療後に再発または進行している。
【0014】
一実施形態では、患者は、タキサン、アビラテロン、ダラルタミド、及び/またはエンザルタミド/アパルタミドによる前治療の後に進行したCRPCを有する。
【0015】
特定の実施形態では、医薬組成物を、例えば、注入を介して患者に静脈内投与する。いくつかの実施形態では、全注入期間は、約30分間~約360分間、または約60分間~約360分間、または約60分間~約180分間である。
【0016】
一態様では、医薬組成物を、週1回投与する。別の態様では、医薬組成物を、2週間に1回投与する。医薬組成物は、少なくとも約3週間または少なくとも約4週間投与することができる。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態は、1つ以上の二次薬剤の投与を含む。例えば、二次薬剤は、抗ヒスタミン剤、ロイコトリエン阻害剤、非ステロイド性抗炎症剤、アセトアミノフェン、コルチコステロイド、制吐剤、静脈内生理食塩水、電解質、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。1つ以上の二次薬剤は、医薬組成物の投与と同時に、投与前、または投与後に対象に投与することができる。特定の実施形態では、抗ヒスタミン剤及び/またはロイコトリエン阻害剤を、医薬組成物の投与前の約48時間以内に対象に投与する。
【0018】
特定の実施形態では、医薬組成物は、緩衝剤及び増量剤を含む。特定の実施形態では、医薬組成物は、乳酸及びトレハロースを含む。医薬組成物のpHは、例えば、約3.0~8.0であり得る。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、ST101のクリアランスは、1時間あたり0.75~3.5リットルである。いくつかの実施形態では、ST101の半減期(t1/2)は、10~70時間である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ST101の作用機序を示す。C/EBPβは、腫瘍細胞の増殖と生存を促進し、多くの細胞型の分化を阻害する。ST101は、C/EBPβとATF5などの補因子との相互作用を妨害し、細胞から発がん性シグナルを取り除き、選択的な腫瘍細胞死をもたらす。
【
図2】C/EBPβ(下部)に結合したST101(上部)のモデル化構造を示す。この構造は、Molecular Operating Environment(MOE)のモデル(PDB ID 1ci6)として、C/EBPβに結合したATF4の結晶構造を使用して生成された。
【
図3】円偏光二色性(CD)分光法を示し、ST101がC/EBPβ(パネルA)とは相互作用するが、ATF5(パネルB)とは相互作用しないことを示す。ST101(上の灰色の線、パネルA及びB)、C/EBPβ(薄い灰色の線、パネルA)及びATF5(薄い灰色の線、パネルB)の個々のスペクトルを示す。黒の線は、実際のST101+C/EBPβ(パネルA)またはST101+ATF5(パネルB)の観察結果と、2つのそれぞれの個々のスペクトルの平均を表す破線との比較を示す。
【
図4】U251ヒト神経膠芽腫細胞において、ST101がC/EBPβと会合することを示す細胞サーマルシフトアッセイを示す。C/EBPβ/β-チューブリンのウエスタンブロット(パネルA)及びデンシトメトリー定量化(パネルB)を示す。
【
図5】波長範囲にわたるモル残基楕円率(MRE)で表されるように、C/EBPβがATF5よりもST101と優先的に相互作用することを示す。パネルAの220nmでの最も低い線は、ST101+C/EBPβのスペクトルを示し;パネルBの最も高い線は、ST101+ATF5のスペクトルを示す。薄い灰色の線は、ATF5(パネルAの220nmでの上部の線)またはC/EBPβ(パネルBの220nmでの底部の線)の個々のスペクトルを示す。黒の線は、ATF5と共にインキュベートしたST101+C/EBPβの実際のスペクトルを、ST101+C/EBPβとATF5スペクトルの平均(パネルA)またはST101+ATF5とC/EBPβスペクトルの平均(パネルB)を表す破線と比較して示す。
【
図6】ST101がC/EBPβとATF5との相互作用を妨害することを示す。C/EBPβへのATF5の結合をパネルAに示す。C/EBPβへのATF5の結合のST101による阻害をパネルBに示す。
【
図7】ST101がマウスの血液脳関門を通過することを示す。代表的な画像は、微小血管及びグリア細胞のDAB(3,3-ジアミノベンジジン)染色によって識別されるST101を示しており(矢印、パネルB)、ビヒクル処置対照(パネルA)では染色は存在していない。
【
図8】実施例6に記載される研究の状況を示す。PR=部分奏効(少なくとも30%の減少);SD=不変(30%未満の減少及び20%の増加)。
【
図9】実施例6に記載される、サイクル1及び2についてのコホート1~4の患者における1日目の注入後のST101血漿濃度を示す。ST101を、0.5mg/kg(コホート1)、1mg/kg(コホート2)、2mg/kg(コホート3)、または4mg/kg(コホート4)の用量で投与した。
【
図10】実施例6に記載される、コホート1~4の1日目の注入後の個々の患者のST101のC
max(パネルA)及びAUC
0-t(パネルB)を示す。ST101を、0.5mg/kg(コホート1)、1mg/kg(コホート2)、2mg/kg(コホート3)、または4mg/kg(コホート4)の用量で投与した。
【
図11】実施例6に記載されるように、コホート1~4の患者における注入の4時間後のST101血漿濃度を示す。ST101を、0.5mg/kg(コホート1)、1mg/kg(コホート2)、2mg/kg(コホート3)、または4mg/kg(コホート4)の用量で投与した。
【
図12】ST101の用量漸増に伴う腫瘍生検におけるST101取り込みの増加を示す(パネルA~C)。治療のサイクル2中に患者から採取した生検試料を処理し、ウサギポリクローナル抗ST101抗体を使用してST101のイムノアッセイを行った。ST101染色を示す細胞の割合は、委員会認定の病理学者が測定した(パネルD)。スコアは、試料中のST101陽性染色細胞数に基づいて割り当てた:0=陰性;1=1~10%;2=11~25%;3=26~50%;4=51~75%;5=76~100%。
【
図13】ST101による処置後の患者生検における腫瘍細胞増殖の減少を示す。処置前(スクリーニング)及び処置のサイクル2後に患者から採取した生検試料を処理し、Ki67についてイムノアッセイを行った。パネルAの画像は、処置前(上の画像)と処置のサイクル2(下の画像)後のコホート3の患者由来の生検試料の染色を示す。Ki67の発現が高いほど、腫瘍細胞の増殖が大きいことを示している。各コホート1~3の患者由来のKi67染色を示す細胞の割合を、委員会認定の病理学者が測定した(パネルB)。スコアは、Ki67シグナルの強度に基づいて、0~3のスケールで割り当てた:0=陰性;1=軽度;2=中等度;3=高度。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施は、特に明記されない限り、薬学、製剤科学、タンパク質化学、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、微生物学、組換えDNA、免疫学、臨床薬理学、及び臨床診療の従来の技術を使用することができ、これらは当技術分野の範囲内である。
【0022】
本発明が、より容易に理解できるように、特定の用語を最初に定義する。さらなる定義は、本開示の全体を通して記載されている。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明に関連する当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0023】
本明細書で提供される見出しは、本明細書全体を参照することによって得られる本発明の様々な態様または実施形態を限定するものではない。したがって、以下に定義される用語は、本明細書全体を参照することによってより完全に定義される。
【0024】
本開示に引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に援用される。さらに、本明細書で引用または言及する製品の製造元の指示書またはカタログは、参照により援用される。参照により本明細書に援用される文書、またはその中の任意の教示を、本発明の実施において使用することができる。参照により本明細書に援用される文書は、先行技術であると認めるものではない。
【0025】
I.定義
本開示における表現または用語は、説明を目的としており、制限するものではなく、ゆえに本明細書の用語または表現は、その教示及び指針に鑑み、当業者によって解釈されるべきである。
【0026】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈により別様に明確に示されない限り、複数形の指示対象を含む。用語「a」(または「an」)、ならびに用語「1つ以上の」及び「少なくとも1つ」は、同じ意味で使用され得る。
【0027】
さらに、「及び/または」は、2つの指定された機能または構成要素の、他方の存在下または非存在下での、それぞれの特定の開示とみなされる。したがって、「A及び/またはB」などの語句で使用される用語「及び/または」は、A及びB、AまたはB、A(単独)、及びB(単独)を含むことを意図している。同様に、「A、B、及び/またはC」などの語句で使用される用語「及び/または」は、A、B、及びC;A、B、またはC;AまたはB;AまたはC;BまたはC;A及びB;A及びC;B及びC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)を含むことを意図している。
【0028】
実施形態が文言「含む」で記述される場合は常に、用語「からなる」及び/または「から本質的になる」で記述され、それ以外の点では類似する実施形態が包含される。
【0029】
単位、接頭辞、及び記号は、Systeme International d’Unites(SI)で承認された形式で示される。数値範囲は、範囲を定義する数値を包含し、本明細書で提供される任意の個々の値は、本明細書で提供される他の個々の値を含む範囲の端点として機能し得る。例えば、1、2、3、8、9、及び10などの値のセットは、1~10、1~8、3~9などの数の範囲の開示でもある。同様に、開示される範囲は、整数及び分数を含む、範囲に包含される個々の値(すなわち、中間値)の開示である。例えば、5~10の記載範囲は、個別に5、6、7、8、9、及び10の開示でもあり、5.2、7.5、8.7などの開示でもある。
【0030】
特に明記されない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」または「約」は、一連の要素のすべてを指すものと理解される。数値の前にある用語「約」には、記載される値の±10%が含まれる。例えば、約1mg/mLの濃度は、0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、約1%~10%(w/v)は、0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。
【0031】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマー及びそれらの塩を指す。ポリマーは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、修飾アミノ酸を含んでもよく、非アミノ酸によって中断されていてもよい。他に示されている場合を除き、例えば、本明細書に記載の一般的でないまたは非天然のアミノ酸の略語について、当技術分野で使用されている3文字及び1文字の略語が、本明細書においてアミノ酸残基を表すために使用される。「D」または小文字で始まる場合を除き、アミノ酸はL-アミノ酸である。アミノ酸の略語の群または文字列は、ペプチドを表すために使用される。特に明記しない限り、ペプチドは左側がN末端で示され、配列はN末端からC末端に向かって記述される。
【0032】
「レトロインベルソ」ペプチドは、参照L-アミノ酸配列と比較して逆のアミノ酸配列を有し、すべてDアミノ酸で構成され(アミノ酸サブユニットのα中心のキラリティーを反転させる)、元のL-アミノ酸ペプチドと同様の側鎖トポロジーを維持しやすくする。
【0033】
「単離された」分子とは、精製されている分子を含む、天然には見出されない形態の分子である。
【0034】
「結合親和性」とは、一般に、分子の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、受容体とそのリガンド、抗体とその抗原、二量体を形成する2つの単量体など)との間の非共有相互作用の合計の強度を指す。特に明記されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」とは、結合対のメンバー間の1:1の相互作用を反映する、固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は一般に、解離定数(KD)によって表すことができる。親和性は、本明細書に記載される方法を含む、当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。低親和性結合パートナーは、一般に、ゆっくり結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性結合パートナーは、一般に、より早く結合し、より長く結合したままである傾向がある。
【0035】
その結合パートナーに対する分子の親和性または結合活性は、当技術分野で公知の任意の好適な方法、例えば、フローサイトメトリー、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、またはラジオイムノアッセイ(RIA)、または動力学(例えば、KINEXA(登録商標)もしくはBIACORE(商標)もしくはOCTET(登録商標)分析)を使用して実験的に測定することができる。直接結合アッセイ及び競合結合アッセイ形式を容易に使用することができる(例えば、Berzofsky et al.,“Antibody-Antigen Interactions,”in Fundamental Immunology,Paul,WE,ed.,Raven Press:New York,NY(1984);Kuby,Immunology,WH Freeman and Company:New York,N.Y.(1992)を参照のこと)。測定される特定の結合対相互作用の親和性は、異なる条件(例えば、塩濃度、pH、温度)で測定した場合、様々に異なり得る。したがって、親和性及び他の結合パラメータ(例えば、KDまたはKd、Kon、Koff)の測定は、当技術分野で公知のように、結合パートナーの標準化された溶液及び標準化された緩衝液を使用して行う。
【0036】
「活性薬剤」は、生物学的活性を与えることを意図した成分である。活性薬剤は、1つ以上の他の成分と併用することができる。ペプチドである活性薬剤は、「活性ペプチド」と呼ばれ得る。
【0037】
活性薬剤の「有効量」は、具体的に述べられた目的を実行するのに十分な量である。
【0038】
用語「医薬組成物」とは、活性成分の生物学的活性を有効にさせる形態であり、組成物を投与する対象に許容しがたい程度に毒性である追加の成分を含有しない調製物を指す。そのような組成物は無菌であり得、生理食塩水などの薬学的に許容される担体を含み得る。好適な医薬組成物は、緩衝剤(例えば、酢酸塩、リン酸塩、またはクエン酸塩緩衝液)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、安定化剤(例えば、ポリオールまたはアミノ酸)、防腐剤(例えば、安息香酸ナトリウム)、及び/または他の従来の可溶化剤または分散剤を含み得る。
【0039】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」は、診断、予後、または治療が望まれる任意の対象、特に哺乳動物対象である。哺乳動物対象には、ヒト、飼育動物、家畜、競技動物、及び実験動物が含まれ、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ラット及びマウスを含むげっ歯類、ウサギなどが挙げられる。
【0040】
「治療する」または「治療」または「治療すること」または「緩和する」または「緩和すること」などの用語は、症状を治癒、減速、軽減し、及び/または診断された疾病状態または障害の進行を止める治療手段を指す。特定の実施形態では、患者が疾患または障害に関連する少なくとも1つの症状または測定可能な身体パラメータの全体的、部分的、または一時的な緩和または除去を示す場合、対象は、疾患または障害を成功裏に「治療」される。
【0041】
「対照患者」は、本発明の治療を受けていない対象である。「対照集団」または「対照患者の集団」は、本発明の治療を受けていない対象の群である。対照集団中の対照患者または対象は、対照患者または対照集団と比較される対象と同じ疾患または障害を有する。例えば、本発明の医薬組成物または方法を投与したがん患者の臨床転帰を、本発明の医薬組成物または方法を投与しなかった同じタイプのがんを有する対象の平均(中央値)転帰と比較する。いくつかの実施形態では、対照患者または対照集団中の患者は、本発明の治療以外の治療、例えば標準治療を受けている。
【0042】
「アンタゴニスト」とは、受容体またはリガンドなどの別の分子の生物学的活性または効果を防止、遮断、阻害、中和、または低減する物質である。
【0043】
用語「阻害する」、「遮断する」、及び「抑制する」は同じ意味で使用され、発生または活動の完全な遮断を含む、発生または活動の統計的に有意な減少を指す。例えば、「阻害」は、活動または発生の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の減少を指し得る。「阻害剤」とは、プロセス、経路、または分子の発生または活性を統計的に有意に減少させる分子、因子、または物質である。
【0044】
「新生物細胞」または「新生物」は、通常、何らかの形態の変異/形質転換を受けており、同じタイプの正常な細胞または組織と比較して、異常な増殖を引き起こす。新生物には、形態学的不規則性、及び病理学的増殖が含まれる。新生物細胞は、良性または悪性であり得る。悪性新生物、すなわちがんは、細胞の分化及び配向の喪失を示し、浸潤及び転移の特性を有するという点で良性とは区別される。
【0045】
「腫瘍」または「固形腫瘍」は、がん細胞などの腫瘍細胞の塊である。用語「進行」、「転移」、及び「進行/転移」は、同じ意味で使用され、悪性細胞が元の腫瘍から患者の体内の別の場所、例えば、別の臓器に移行したがんを説明する。
【0046】
「薬物動態」または「PK」とは、投与した物質が対象の身体によってどのように処理されるかの研究を指す。PKの決定には、物質がどのように血液循環に入り(吸収)、体液及び体組織全体に分散または拡散(分布)し、体によって認識され、変換(代謝)され、体から除去(排泄)されるかが含まれる。物質は、薬物、例えばST101であってもよい。薬物動態は、様々な測定基準を使用して評価してもよく、その多くは、物質の投与後の様々な時点での体内(例えば、血漿中)の物質の量に基づいて計算される。
【0047】
投与後の時間は、物質の単回投与を開始する時間であるT0から測定される。医薬組成物の投与が全注入期間中に1回以上一時停止及び再開される場合、T0は全注入期間の開始時である。
【0048】
「全注入時間」または「全注入期間」とは、医薬組成物の単回投与の開始から投与終了までの時間であり、注入期間と中断期間の両方が含まれる。
【0049】
「Cmax」は、投与後の物質のピーク血漿濃度を指す薬物動態測定基準である。
【0050】
「Tmax」は、物質の投与開始(T0)からCmaxに達するまでの時間を指す薬物動態測定基準である。
【0051】
「Tlast」は、物質の最後の定量化可能な濃度の時間を指す薬物動態測定基準である。
【0052】
「AUC」または「曲線下面積」は、血漿中の物質の濃度の変動を時間の関数として表す薬物動態測定基準である。AUCは、例えば、時間ゼロから指定された時間tまで(AUCtまたはAUC0-t)、時間ゼロから無限大まで(AUC∞またはAUC0-∞)など、様々な期間について計算され得る。
【0053】
「排出半減期」または「半減期」または「t1/2」とは、物質の濃度がその元の値の半分に達するのに必要な時間を指す薬物動態測定基準である。
【0054】
「クリアランス」は、単位時間あたりの物質が除去された血漿の容積を指す薬物動態測定基準である。
【0055】
「Vz」は、終末期の分布容積を指す薬物動態測定基準である。
【0056】
II.ペプチド及び組成物
C/EBPβ
転写因子(TF)は、すべての既知のがん遺伝子のおよそ20%を占め、多くのヒトのがんに関与している(Lambert 2018)。それにもかかわらず、TFは、低分子ではその活性に影響を与えることができず、あるいは大きな分子では細胞内に到達することができないために、歴史的に「手に負えない」標的と見なされてきた(Yan 2013;Bushweller 2019)。TFは通常、αヘリックス塩基性ロイシンジッパー(bZIP)ドメインを介して二量体化し、DNA結合ドメインをまとめて、DNA内の重要なコンセンサス配列との効率的な相互作用を可能にする(Asada 2011;Potapov 2015)。これらのTFタンパク質間相互作用(PPI)の破壊は、この捉えどころのないクラスの標的に薬物を投与するための強力なアプローチとなり得る。最近、ペプチドは、高い親和性と特異性でTF相互作用を標的にして破壊することができる治療クラスとして浮上しており、実証実験の拮抗作用が、以前は「手に負えなかった」複数の標的に対して示されている(Takada 2012;Walensky 2014;Bruzzoni-Giovanelli 2018;Lathbridge 2018;Demma 2019;Lathbridge 2019)。
【0057】
C/EBPβは、それが補因子との塩基性ロイシンジッパー相互作用に依存していることから、ペプチドアンタゴニストを開発するための主要な標的となっている。DNAと結合し、遺伝子発現をトランス活性化するために、C/EBPβは、それらのbZIPドメイン間の相互作用を介して結合パートナーと二量体化する。ホモ二量体化に加えて、C/EBPβは、bZIPを含む転写因子、例えば、Jun/Fos、C/EBPγ(Huggins 2013)、δ相互作用タンパク質A(Bezy 2005)、及びCREB/ATFファミリーとヘテロ二量体を形成する(Zhao 2014)。
【0058】
活性化転写因子5(ATF5)は、HEK293及びHCT116がん細胞においてC/EBPβと結合して活性化することが決定されているCREB/ATF因子であり、生存促進表現型のトランス活性化をもたらす(Zhang 2015)。ATF5は、神経膠腫を含む多くのがんで高度に発現しており、Bcl-2ファミリータンパク質とサバイビンの過剰発現を促進することで発がん性表現型に寄与するが、分化した細胞型ではほとんど認められない(Sheng 2010)。神経膠腫及び他の腫瘍細胞において、DNA結合ドメインを欠失したATF5の短縮型bZIPドメインを過剰発現させると、がん細胞に細胞傷害性がもたらされ(Angelastro 2006);短縮型bZIPドメインを含むペプチドを投与すると、同様の結果が得られた(Cates 2016;Karpel-Massler 2016)。
【0059】
C/EBPβアンタゴニストペプチド
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、固形腫瘍を有する患者を有効量のC/EBPβのペプチドアンタゴニストで治療することを含む。一実施形態では、C/EBPβのペプチドアンタゴニストは、野生型ATF5 bZIPドメインのレトロインベルソバリアントであるD-アミノ酸配列VAEAREELERLEARLGQARGEL(配列番号1)を含む。C/EBPβのペプチドアンタゴニストは、例えば、実施例1に記載されているように設計することができる。
【0060】
C/EBPβのペプチドアンタゴニストは、細胞透過性ペプチドであり得る。一実施形態では、ペプチドは、細胞透過性ドメインを含む。多数の細胞透過性ペプチド配列が文献に記載され、特徴付けられている(WO2019/136125を参照のこと)。一実施形態では、ペプチドは環状ペプチドである。例えば、炭化水素ステープル(Bernal 2007;Bird 2016)または当技術分野で公知の他の環化方法を使用した環化ペプチドは、受動拡散、エンドサイトーシス/エンドソーム脱出、または他の機構により細胞に進入することができる(Dougherty 2019)。ペプチドは、細胞受容体、例えばインテグリンを標的とするRGD様配列を利用するメカニズムを介して細胞に送達することもできる。あるいは、ペプチドをカプセル化して、エキソソームまたはリポソームなどの小胞、またはミセルで細胞に送達することができる。
【0061】
天然ATF5 bZIPドメインに基づくペプチドがC/EBPβの活性をアンタゴナイズする能力を、本明細書、例えば実施例2に記載の方法によって測定することができる。C/EBPβのペプチドアンタゴニストの細胞傷害性を、既知のアッセイによりin vitroで、及び/または既知の腫瘍モデルを使用してin vivoで測定することができ;例えば、WO2019/136125は、そのようなアッセイとモデルについて記載している。
【0062】
ST101は、in vitro及びin vivoでの強力な抗腫瘍活性とタンパク質分解に対する耐性を示す、すべてD-アミノ酸ペプチドである。特に、HL60(前骨髄球性白血病)、AML14(急性骨髄性白血病)、SET2(巨核芽球性白血病)、A375(黒色腫)、MCF7(乳癌)、U87(膠芽腫)、U251(神経膠芽腫)、DU145(前立腺癌)、A549(肺癌)、末梢血単核球(PBMC)、及び骨髄単核球(BMMC)において、ST101の細胞毒性を以前に示した(WO2019/136125を参照のこと)。さらに、A375、HL60、MCF7、及びU251細胞を使用した異種移植マウスモデルにST101を皮下投与すると、腫瘍体積が有意に減少した(WO2019/136125を参照のこと)。
【0063】
ST101は、細胞透過を可能にするために、ATF5 bZIPドメイン及びアンテナペディアペネトラチンドメインに基づく修飾ドメインからなる。ST101のD-アミノ酸配列は、VAEAREELERLEARLGQARGELKKWKMRRNQFWLKLQR(配列番号2)であり、細胞透過領域は斜体で示されている。本明細書で示すように、ST101は、C/EBPβと抗アポトーシス転写因子との会合を崩壊させることにより、腫瘍細胞の細胞傷害活性を促進する(
図1;実施例2)。
【0064】
組成物及び投与
特定の態様では、本発明は、組成物、例えば、ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストを含む医薬組成物を提供する。一実施形態では、ST101は、酢酸塩などの塩形態であり得る。好ましくは、組成物は、1つ以上の担体、希釈剤、賦形剤、または他の添加剤を含む。例えば、組成物は、1つ以上の増量剤(例えば、デキストラン40、グリシン、ラクトース、マンニトール、トレハロース)、1つ以上の緩衝剤(例えば、酢酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、乳酸塩、リン酸塩、Tris)、1つ以上のpH調整剤(例えば、塩酸、酢酸、硝酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム)、及び/または1つ以上の希釈剤(例えば、水、生理食塩水)を含み得る。組成物のpHは、好ましくは約3.0~8.0である。一実施形態では、pHは、約3.5~6.5、または約5.0~7.5である。
【0065】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、トレハロースなどの増量剤を含み、増量剤の量は、ST101の量に対して特定の比率、例えば、増量剤:ST101が重量で約6:1~約2:1の比率である。
【0066】
本発明の態様は、C/EBPbのペプチドアンタゴニストを対象に投与する方法に関する。C/EBPβのペプチドアンタゴニストは、非経口投与される。非経口投与経路には、静脈内(IV)、筋肉内、腹腔内、くも膜下腔内、及び皮下が含まれる。好ましい実施形態では、ST101を含む医薬組成物を、IV注入によって投与する。医薬組成物は、例えば、生理食塩水(0.9%)、半生理食塩水(0.45%)、5%デキストロース水溶液(D5W)を含むIV液で提供され得る。
【0067】
C/EBPβのペプチドアンタゴニストは、患者の体重に基づいて投与する。ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストは、約0.5mg/kg~約16mg/kgの用量で患者に投与することができる。特定の実施形態では、ST101を、約0.5mg/kg、約0.75mg/kg、約1mg/kg、約1.5mg/kg、約2mg/kg、約2.5mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kg、約5mg/kg、約6mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約10mg/kg、約12mg/kg、約14mg/kg、または約16mg/kgの用量で投与する。これらの量は、例えば、約0.5mg/kg~約8mg/kg、約2mg/kg~4mg/kgなど、投与する用量の範囲の端点としても機能する。
【0068】
本発明の実施形態では、医薬組成物を静脈内注入によって対象に投与し、その場合、全注入時間は約360分以下である。いくつかの実施形態では、全注入時間は、約30分~約240分である。例えば、全注入時間は、30分間、60分間、90分間、120分間、150分間、もしくは180分間、または45分間、100分間などの中間的な時間であり得る。特定の実施形態では、全注入時間は、約60分間~約90分間、または約60分間~約120分間、または約90分間~約120分間、または約60分間~約180分間である。
【0069】
いくつかの実施形態では、医薬組成物の注入を中断してもよく、すなわち、一時的に停止し、その後再開してもよい。中断時間は変動し得、例えば、約15分以下、または約30分以下、または約1時間以下、または約2時間以下、または約3時間以下、または約4時間以下であり得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、医薬組成物を、ヒスタミン放出を遮断し、注入関連反応(IRR)を予防または改善し、発熱または炎症を軽減し、及び/またはかゆみ及び/または蕁麻疹を緩和することを意図した1つ以上の二次薬剤と共に投与してもよい。1つ以上の二次薬剤を、医薬組成物の投与と同時に、投与前、及び/または投与後に投与してもよい。1つ以上の二次薬剤を、医薬組成物とは別個の組成物で投与してもよく、または医薬組成物と組み合わせてもよい。さらに、1つ以上の二次薬剤を、医薬組成物と同じ経路によって投与してもよく、または異なる経路(例えば、経口)によって投与してもよい。
【0071】
医薬組成物と共に投与するための1つ以上の二次薬剤の例として、H1アンタゴニスト、H2アンタゴニストを含む抗ヒスタミン剤、及びマスト細胞脱顆粒阻害剤(例えば、アクリバスチン、アステミゾール、アザタジン、アゼラスチン、ベポタスチン、ブロモフェニラミン、バルフォロリン、セチリジン、クロルゾキサゾン、クロルフェニラミン、クロモリン、シプロヘプタジン、デスロラタジン、デクスブロムフェニルアミン、ジフェンヒドラミン、ドキサントロゾール、エピナスチン、エトドロキシジン、ファモチジン、フェキソフェナジン、フォルスコリン、ヒドロキシジン、イソプロテレノール、ケトチフェン、レボセチリジン、ロラタジン、ロドキサミド、メキタジン、メトジラジン、ミゾラスチン、ネドクロミル、オロパタジン、オキサトミド、ペミロラスト、ピメクロリムス、ピルブテロール、ピゾチフェン、プロキシクロミル、ラニチジン、テルフェナジン、テルブタリン);ロイコトリエン阻害剤(例えば、モンテルカスト、ザフィルルカスト、ジロートン);非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(例えば、イブプロフェン、ナプロキセン、アスピリン);アセトアミノフェン/パラセタモール;コルチコステロイド(例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン);制吐剤(例えば、プロクロルペラジン、オンダンセトロン);ならびに生理食塩水及び/または電解質が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい一実施形態では、二次薬剤は、クロルフェニラミンまたはジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン剤である。特定の実施形態では、二次薬剤は:アセトアミノフェン/パラセタモール、H1アンタゴニスト、及びH2アンタゴニスト、モンテルカスト、制吐剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0072】
特定の実施形態では、二次薬剤を、注入期間中などの医薬組成物の投与中に投与する。特定の実施形態では、抗ヒスタミン剤などの二次薬剤を、医薬組成物の投与前、例えば、約7日以内、または約6日以内、または約5日以内、または約4日以内、または約72時間以内、または約48時間以内、または約24時間以内、または約8~12時間以内、または約6~8時間以内、または約4~6時間以内、または約2~4時間以内、または約1~2時間以内、または約1時間以内、または直前に対象に投与する。いくつかの実施形態では、二次薬剤は、医薬組成物の投与後24時間以内に投与する。例えば、二次薬剤を、医薬組成物の投与終了の直後、約0.5~1時間後、約1~2時間後、約2~4時間後、約4~6時間後、約6~8時間後、約8~12時間後、または約24時間後に投与することができる。
【0073】
二次薬剤は、医薬組成物の投与前、投与中、及び/または投与後に複数回投与することができる。二次薬剤の組み合わせを、同時にまたは異なる時間に投与することができる。例えば、医薬組成物の投与前に抗ヒスタミン剤を投与することができ、医薬組成物の投与後にコルチコステロイドを投与することができる。
【0074】
一実施形態では、C/EBPβのペプチドアンタゴニストの投与を、週1回を少なくとも3週間(すなわち、3回の投与)、6週間(すなわち、6回の投与)、9週間、12週間、3か月間、6か月間、9か月間、または12か月間にわたって実施することができる。別の実施形態では、投与を、2週に1回を少なくとも4週間(すなわち、2回の投与)、8週間(すなわち、4回の投与)、12週間、3か月間、6か月間、9か月間、または12か月間にわたって実施することができる。いくつかの実施形態では、患者に、C/EBPβのペプチドアンタゴニストを週1回、少なくとも3週間、6週間、9週間、12週間、3か月間、6か月間、9か月間、または12か月間投与し、続いて2週に1回、少なくとも4週間、8週間、12週間、3か月間、6か月間、9か月間、または12か月間にわたって投与することができる。
【0075】
C/EBPβのアンタゴニストの薬物動態(PK)を、標準的な方法によって、実施例に記載されているように評価することができる。いくつかの実施形態では、C/EBPβのアンタゴニストはST101である。ST101のクリアランスは、約0.75L/時間~約3.5L/時間または約1L/時間~約3L/時間または約1L/時間~約2.5L/時間であり得る。ST101の半減期(t1/2)は、約10時間~約70時間または約20時間~約60時間または約25時間~約45時間であり得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、PKは用量比例的である。例えば、0.5mg/kgのST101を投与した患者では、Cmaxは、約1,000ng/mL~約2,000ng/mLまたは約1,300ng/mL~約1,800ng/mLまたは約1,370ng/mL~約1,770ng/mLであり得る。1.0mg/kgのST101を投与した患者では、Cmaxは、約2,500ng/mL~約5,500ng/mLまたは約2,670ng/mL~約5,300ng/mLまたは約2,840ng/mL~約5,110ng/mLであり得る。2.0mg/kgのST101を投与した患者では、Cmaxは、約8,000ng/mL~約13,000ng/mLまたは約8,500ng/mL~約12,500ng/mLまたは約9,000ng/mL~約11,900ng/mLであり得る。4.0mg/kgのST101を投与した患者では、Cmaxは、約7,000ng/mL~約35,000ng/mLまたは約7,650ng/mL~約32,900ng/mLまたは約9,150ng/mL~約30,000ng/mL、あるいは約15,000ng/mL~約28,000ng/mLであり得る。
【0077】
III.治療方法
本発明の方法による治療を必要とする対象は、固形腫瘍を有すると診断された患者である。例えば、対象は、局所的に進行した固形腫瘍または転移性の手術不能な腫瘍を有し得る。いくつかの実施形態では、対象は、黒色腫、がん腫、または肉腫を有する。一実施形態では、黒色腫は、皮膚黒色腫または粘膜黒色腫である。一実施形態では、がん腫は、膀胱腺癌、結腸直腸腺癌、膵臓腺癌、胃腺癌/印環細胞癌、または小腸腺癌などの腺癌である。一実施形態では、肉腫は、腹部肉腫または筋線維芽細胞肉腫である。本発明の特定の実施形態では、ST101の投与は、腫瘍増殖を阻害するか、腫瘍体積を減少させるか、またはそれらの組み合わせを可能にする。
【0078】
一実施形態では、患者は、局所進行/転移乳癌(LA/MBC)を有する。一実施形態では、LA/MBCは、ホルモン受容体陽性(HRpos)である。一実施形態では、患者は、1つまたは2つのホルモン系の前治療を受けた後に進行したLA/MBCを有する。一実施形態では、患者は、標的療法、例えば、サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害剤、またはmammalian target of rapamycin(mTOR)阻害剤、または化学療法、またはそれらの組み合わせによる前治療を受けている。
【0079】
一実施形態では、患者は、黒色腫と診断されている。一実施形態では、患者は、黒色腫に対する1つまたは2つの前治療を受けた後に進行した黒色腫、特に、進行性/転移性黒色腫を有する。
【0080】
一実施形態では、患者は、免疫チェックポイント阻害剤(CPI)またはCPIの組み合わせによる治療後に/または治療時に進行した黒色腫を有する。免疫CPIには、例えば、イピリムマブ及びトレメリムマブなどのCTLA-4阻害剤;セミプリマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ピディリズマブ、及びスパルタリズマブなどのPD-1阻害剤;アテゾリズマブ、アベルマブ、及びデュルバルマブなどのPD-L1阻害剤;レラトリマブなどのLAG-3阻害剤;チラゴルマブなどのTIGIT阻害剤;ならびにTLR9アゴニストなどのToll様受容体9(TLR9)を標的とする薬剤が含まれる。
【0081】
一実施形態では、患者はBRAF変異疾患を有し、BRAF阻害剤及び/またはMEK阻害剤、例えば、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、トラメチニブ、コビメチニブ、ビニメチニブ、またはそれらの組み合わせなどの少なくとも1つの標的療法を受けている。
【0082】
一実施形態では、患者は、神経膠芽腫(GBM)と診断されている。一実施形態では、GBMが、前治療を受けた後に再発または進行している。前治療には、例えば、手術、放射線、化学療法、標的療法、電場療法、及びそれらの組み合わせが含まれる。化学療法化合物として、例えば、テモゾロミド、カルムスチン、及びロムスチンが挙げられる。標的療法には、例えば、ベバシズマブが含まれる。
【0083】
一実施形態では、GBMは、1回の標準治療レジメン後に再発または進行した(修正RANO基準による)原発性(新規)GBMである。「標準治療レジメン」は、最大の外科的切除、放射線療法、及び放射線療法と併用するテモゾロミドまたはテモゾロミドによる補助化学療法と定義される。一実施形態では、患者は、第一選択治療の補助として腫瘍電場療法を受けている。
【0084】
一実施形態では、患者は前立腺癌と診断されている。一実施形態では、前立腺癌は去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)である。「去勢抵抗性前立腺癌」(CRPC)は、アンドロゲン枯渇療法にもかかわらず、例えば、前立腺癌臨床試験ワーキンググループ3(PCWG3)基準(Scher 2016)による疾患の進行によって定義される。いくつかの実施形態では、患者は、任意選択でプレドニゾンまたはプレドニゾロンなどのコルチコステロイドと併用した、ドセタキセル及びカバジタキセルを含むタキサンなどの化学療法;シプロイセル-Tを含む免疫療法;アビラテロン、エンザルタミド、ダラルタミド、及びアパルタミドを含むホルモン系の療法;及びそれらの併用からなる群から選択される治療の後に進行したCRPCを有する。一実施形態では、患者は、タキサン、アビラテロン、ダラルタミド、及び/またはエンザルタミド/アパルタミドによる前治療の後に進行したCRPCを有する。
【0085】
治療の有効性は、1つ以上の既知の尺度によって評価することができる。例えば、本発明の方法を受けた患者は、本発明の方法を受けていない患者、すなわち対照患者における同じ転帰(複数可)と比較して、生存期間の延長、無増悪生存期間の向上、奏効期間の向上、寛解期間の延長、再発リスクの低減、及び/またはC/EBPβのペプチドアンタゴニストによる治療に対する腫瘍縮小効果の向上を経験し得る。本発明の方法によって治療された患者の転帰を、例えば、対照患者集団の転帰の中央値と比較することができる。対照患者集団には、例えば、プラセボ、手術、放射線、化学療法、免疫療法、ホルモン系療法、標的療法、及びそれらの併用からなる群から選択されるレジメンを投与することができる。比較は、例えば、Wilcoxonの符号順位検定またはKaplan-Meier法を使用して統計的に分析することができる。
【0086】
一実施形態では、C/EBPβのペプチドアンタゴニスト、例えばST101を、任意選択で標準治療と併用して受けている患者の転帰を、プラセボを投与した対照患者の転帰の中央値と比較する。一実施形態では、C/EBPβのペプチドアンタゴニスト、例えばST101を受けている患者の転帰を、標準治療を受けている対照患者の転帰の中央値と比較する。
【0087】
一実施形態では、ST101を、任意選択で化学療法と併用して受けているLA/MBC患者の転帰を、化学療法を受けているLA/MBC患者の転帰の中央値と比較する。一実施形態では、ST101を、任意選択でホルモン系療法と併用して受けているLA/MBC患者の転帰を、ホルモン系療法を受けているLA/MBC患者の転帰の中央値と比較する。一実施形態では、ST101を投与されているLA/MBC患者の転帰を、標的療法を受けているLA/MBC患者の転帰の中央値と比較する。
【0088】
一実施形態では、ST101を、任意選択で化学療法と併用して受けている黒色腫患者の転帰を、化学療法を受けている黒色腫患者の転帰の中央値と比較する。一実施形態では、ST101を、任意選択で免疫療法と併用して受けている黒色腫患者の転帰を、免疫療法を受けている黒色腫患者の転帰の中央値と比較する。一実施形態では、ST101を、任意選択で標的療法と併用して受けている黒色腫患者の転帰を、標的療法を受けている黒色腫患者の転帰の中央値と比較する。
【0089】
一実施形態では、ST101を、任意選択で手術、放射線、化学療法、及び標的療法の1つ以上と併用して受けているGBM患者の転帰を、手術、放射線、化学療法、標的療法、またはそれらの併用を受けたGBM患者の転帰中央値と比較する。一実施形態では、ST101を、任意選択で標準治療レジメンと併用して受けているGBM患者の転帰を、標準治療レジメンを受けているGBM患者の転帰の中央値と比較する。
【0090】
一実施形態では、ST101を、任意選択で化学療法と併用して受けている前立腺癌患者の転帰を、化学療法を受けている前立腺癌患者の転帰の中央値と比較する。一実施形態では、ST101を、任意選択で免疫療法と併用して受けている前立腺癌患者の転帰を、免疫療法を受けている前立腺癌患者の転帰の中央値と比較する。一実施形態では、ST101を、任意選択でホルモン系療法と併用して受けている前立腺癌患者の転帰を、ホルモン系療法を受けている前立腺癌患者の転帰の中央値と比較する。一実施形態では、ST101を、任意選択でタキサン、アビラテロン、ダラルタミド、及び/またはエンザルタミド/アパルタミドと併用して投与されている前立腺癌患者の転帰を、タキサン、アビラテロン、ダラルタミド、及び/またはエンザルタミド/アパルタミドを投与されている前立腺癌患者の転帰の中央値と比較する。
【0091】
治療に対する応答は、例えば、ST101による治療前のベースラインと比較して、治療レジメン後の効力の1つ以上の尺度を比較する。ベースライン評価は、好ましくは、C/EBPβのペプチドアンタゴニストによる最初の治療前の24、48、または72時間以内、または1、2、3、または4週間以内に実施する。好ましい一実施形態では、ベースライン評価を、最初のST101治療前の24時間以内に実施する。
【0092】
対象が前立腺癌患者である実施形態では、ベースライン及び治療に対する応答は、血液ベースのバイオマーカーの評価、例えば、テストステロン、前立腺特異抗原(PSA)、及び血清サイトカインイメージング、例えば、造影CTを含むコンピュータ断層撮影(CT)、または断面MRIを含む磁気共鳴画像法(MRI);生検/組織学的解析;ならびに患者報告因子、例えば疼痛、鎮痛剤の使用、身体機能、生活の質などを含む因子によって測定することができる。これらのパラメータは、例えば、PCWG3ガイドライン(Scher 2016)に従って測定することができる。
【0093】
PCWG3パラダイムは、治療応答の2つの一般的なカテゴリーを定義する:(1)治療がベースラインで存在していた疾患の症状を制御、緩和、または排除する程度;及び(2)治療が将来の疾患の発症を予防または遅延できる程度(Scher 2016;Scher 2011)。したがって、一態様では、本発明は、ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストを患者に投与することを含む、CRPC患者を含む患者における前立腺癌の少なくとも1つの徴候を制御、緩和、または排除する方法を提供する。別の態様では、本発明は、ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストを患者に投与することを含む、CRPC患者を含む患者における前立腺癌の少なくとも1つの徴候を予防または遅延させる方法を提供する。一実施形態では、前立腺癌の徴候は、少なくとも4、6、8、10、もしくは12週間、少なくとも4、6、8、10、12、16、18、もしくは24か月間、または少なくとも3年、4年、もしくは5年間にわたって予防または遅延される。予防期間または遅延期間は、対照集団における予防期間または遅延期間の中央値と比較して測定する。前立腺癌の徴候には、例えば、腫瘍量、新規転移性病変、PSA値の上昇、骨折の発生率を含む骨の病状、痛み、アヘン剤を含む鎮痛剤の使用、及び生活の質の低下が含まれる(Scher 2016;Scher 2011)。
【0094】
「腫瘍量」とは、患者の体内のがん組織の総質量または総サイズである。腫瘍縮小効果は、奏効率、病勢制御率、及び反応の持続時間を含む尺度によって評価することができる。これらのパラメータは、腫瘍の種類に応じて異なり、例えば、固形がん治療効果判定基準(RECIST 1.1)(Eisenhauer 2009)、神経腫瘍学における修正応答評価(mRANO)(Ellingson 2017)、またはPCWG3ガイドライン(Scher 2016)によって決定することができる。
【0095】
奏効率は、腫瘍サイズの縮小を評価する。例えば、腫瘍の直径は、臨床検査及び/または画像化によって決定することができる。患者が複数の腫瘍を有する場合、腫瘍サイズは任意選択で、すべての腫瘍の平均直径として、またはすべての腫瘍の直径の合計によって表すことができる。表在性腫瘍は、例えばノギスを使用して、または写真と定規測定によって、臨床的に測定することができる。画像化方法には、通常、造影剤を使用したコンピュータ断層撮影(CT);X線;磁気共鳴画像法(MRI);及び(18)F-フルオロデオキシグルコースPETなどの陽電子放出断層撮影法(PET)が含まれる。好ましい一実施形態では、LA/MBC患者または黒色腫患者において、CTを利用して腫瘍縮小効果を評価する。別の好ましい実施形態では、ガドリニウム増強MRIなどのMRIを利用して、例えばGBM患者における腫瘍縮小効果を評価する。したがって、一態様では、本発明は、ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストを患者に投与することを含む、腫瘍量、すなわち、腫瘍の質量及び/または腫瘍のサイズを減少させる方法を提供する。腫瘍量の減少は、ベースラインと比較して測定する。
【0096】
特定の実施形態、特に評価がRECIST1.1による実施形態では、病勢制御率は、腫瘍縮小効果のレベルを、完全奏効(CR)(腫瘍(複数可)の消失である);部分奏効(PR)(腫瘍(複数可)のサイズにおける少なくとも30%の減少である);不変(腫瘍(複数可)のサイズに変化がない);または疾患の進行(腫瘍サイズにおける少なくとも20%の増加及び/または新規病変である)として定義する。
【0097】
いくつかの実施形態では、病勢制御率は、腫瘍縮小効果のレベルを、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、疾患進行(PD)、または不変(SD)として定義する。表Iに、ベースラインと比較した腫瘍測定値の変化に基づいて、少なくとも4週間持続した、これらの疾患状態に対する修正されたRANOガイドラインを記載する。追加のパラメータと詳細は、Ellingson 2017に記載されている。
【表1】
【0098】
奏効期間は、応答の達成から疾患の進行までの時間の長さ、すなわち、腫瘍が増殖も転移もしない、または死亡しない期間である。ST101治療を受けている患者における奏効期間は、例えば、少なくとも4、6、8、10、または12週間、少なくとも4、6、8、10、12、16、18、または24か月間、または少なくとも3年、4年、または5年間である。したがって、一態様では、本発明は、ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストを患者に投与することを含む、患者の奏効期間の延長方法を提供する。奏効期間の増加は、対照集団における奏効期間の中央値と比較して測定する。
【0099】
生存期間は、全生存期間、すなわち患者が生存している期間として、または無増悪生存期間、すなわち疾患の進行または悪化なしに患者が治療される期間として評価することができる。生存期間は、診断日または治療開始日から測定することができる。全生存期間、全生存期間の中央値、無増悪生存期間、及び無増悪生存期間の中央値は、例えば、治療に対する応答に基づいてカプラン・マイヤー分析によって計算することができる。したがって、一態様では、本発明は、ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストを患者に投与することを含む、患者の全生存期間の延長方法を提供する。全生存期間の増加は、対照集団の全生存期間の中央値と比較して測定する。別の態様では、本発明は、ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストを患者に投与することを含む、患者の無増悪生存期間の延長方法を提供する。無増悪生存期間の増加は、対照集団における無増悪生存期間の中央値と比較して測定されます。
【0100】
ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストの投与後に、患者が以下の転帰の少なくとも1つを経験または示す場合、その患者は、本発明の方法に従って首尾よく治療される:
-腫瘍が検出不可能(または、ベースラインで複数の腫瘍が存在する場合は、少なくとも1つの腫瘍);
-腫瘍サイズが、ベースラインと比較して少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の減少;
-腫瘍サイズが、ベースラインと比較して有意な増加がない(例えば、20%未満);
-任意選択で、対照患者集団の奏効期間の中央値と比較して、奏効期間の有意な延長;
-任意選択で、対照患者集団の無増悪生存期間の中央値と比較して、無増悪生存期間の有意な増加;
-任意選択で、対照患者集団の全生存期間の中央値と比較して、全生存期間の有意な増加。
【0101】
IV.調製方法
C/EBPβのペプチドアンタゴニストは、例えば、固相ペプチド合成もしくは液相ペプチド合成、または両者を併用して化学的に合成することができる。任意選択で、その後に化学的または酵素的に結合させるペプチドの断片として合成を行ってもよい。
【0102】
あるいは、C/EBPβのペプチドアンタゴニストを、組換え法を使用して発現させることができる。例えば、ST101をコードする核酸分子を、オリゴヌクレオチド合成機を用いた化学合成によって構築することができる。核酸分子は、ST101のアミノ酸配列、及び組換えST101を産生する宿主細胞で好まれるコドンの選択に基づいて設計することができる。標準的な方法を適用して、ST101などのC/EBPβのペプチドアンタゴニストをコードする核酸分子を合成することができる。
【0103】
一旦調製されると、ペプチドをコードする核酸を発現ベクターに挿入し、所望の宿主におけるペプチドの発現に適切な発現制御配列に作動可能に連結することができる。ペプチドの高発現レベルを得るために、核酸を、選択された発現宿主において機能する転写及び翻訳発現制御配列に作動可能に連結または結合することができる。
【0104】
当業者であれば、多種多様な発現宿主/ベクターの組合せを利用することができる。真核宿主に有用な発現ベクターとして、例えば、SV40、ウシパピローマウイルス、アデノウイルス、及びサイトメガロウイルス由来の発現制御配列を含むベクターが挙げられる。細菌宿主に有用な発現ベクターとして、pCR1、pBR322、pMB9及びそれらの誘導体を含むE.coli由来プラスミドなどの既知の細菌プラスミド、M13などのより広い宿主範囲のプラスミド、及び繊維状の一本鎖DNAファージが挙げられる。
【0105】
好適な宿主細胞として、適切なプロモーターの制御下にある原核生物、酵母、昆虫、または高等真核生物の細胞が含まれる。原核生物には、E.coliまたは桿菌などのグラム陰性菌またはグラム陽性菌が含まれる。高等真核細胞または哺乳動物由来細胞株を確立することができる(その例として、Pichia pastoris、293細胞、COS-7細胞、L細胞、C127細胞、3T3細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、及びBHK細胞が挙げられる)。無細胞翻訳系も利用可能である。
【0106】
例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)、マルチカラム向流溶媒勾配精製(MCSGP)、及びイオン交換クロマトグラフィーを含む方法を使用してペプチドを精製することができる。
【実施例】
【0107】
本開示の実施形態は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに定義され得る。材料及び方法の両方に対する多くの修正形態が、本開示の範囲から逸脱することなく実施され得ることが当業者には明らかである。
【0108】
実施例1.C/EBPβのペプチドアンタゴニストの設計
天然のATF5 bZIPドメインの22アミノ酸部分LEGECQGLEARNRELKERAESV(配列番号3)、及び16アミノ酸のペネトラチンドメインを含む前駆体ペプチドの初期設計は、HL-60前骨髄球性白血病細胞の用量依存的な細胞傷害性をもたらし、EC50値は17.4±0.5μMであった。ペプチドとC/EBPβ間の静電相互作用を強化するように設計された修飾により、効力が高まるという仮説を立てた。ペプチドアンタゴニストの非ロイシンアミノ酸とC/EBPβ bZIPドメインの分子パッキングを調べる、合理的に設計された46のペプチドのパネルを合成し、細胞傷害活性についてスクリーニングした。最大の細胞傷害性を示す「勝者」のペプチドは、5.5±0.5μMのEC50値、または親ペプチドに対して3.2倍の効力の増加をもたらし、導入した合理的な変化がin vitroペプチド抗腫瘍活性を向上させることが示された。「勝者」のペプチドは、アミノ酸配列LEGRAQGLRAELRELEERAEAV(配列番号4)及びペネトラチンドメインを有するbZIPドメイン配列を含む。
【0109】
L-アミノ酸ペプチドは通常、生物学的マトリックスでの安定性を欠き、その薬物動態が制限され、したがって治療の可能性が制限されるため、最適化されたATF5 bZIPドメインの全D-アミノ酸ペプチドバージョンVAEAREELERLEARLGQARGEL(配列番号1)(さらにペネトラチンドメインを含む)を生成した。このペプチドST101は、ペプシンとトリプシンの存在下で37℃にて17時間インキュベートすると、タンパク質分解耐性を示したが、L-鏡像異性体ペプチドは5分以内に100%分解された。未処理対照で観察されたST101の最小限の損失は、これらの条件下で発生する一般的なペプチド化学分解に起因していた。
【0110】
ST101の細胞傷害性試験では、HL-60前骨髄球性白血病細胞で4.9±0.2μMのEC50が明らかになり、同じアミノ酸配列のL-鏡像異性体ペプチドに匹敵する活性が示され、D-アミノ酸バリアントでは安定性が有意に向上した一方で、抗腫瘍活性が失われなかったことが示された。
【0111】
ST101とC/EBPβ bZIPドメイン間の相互作用を、C/EBPβ及びCREB/ATFファミリー補因子ATF4
40の結晶構造に基づいてモデル化した。ST101は、溶液中でらせん状であると仮定した。C/EBPβに結合したST101のモデルは、Molecular Operating Environment(MOE)ソフトウェアを使用して、ST101結合配列をαヘリックス構造に制約し、最も高い配列類似性を共有するATF4の部分でオーバーレイし、側鎖相互作用を優先するように最小化することによって生成した。このモデルは、ST101が主に疎水性接触を介していくつかの電荷間(ST101 E12~C/EBPβ R279及びST101 E21~C/EBPβ K267)、及びカチオン-pi相互作用(ST101 R5~C/EBPβ F282)で相互作用する可能性が高いことを示している(
図2)。
【0112】
実施例2.ST101はC/EBPβと相互作用するが、ATF5とは相互作用しない
円二色性(CD)分光法を使用して、ST101がC/EBPβとin silicoで相互作用することが示された。CD分光法では、ペプチド/タンパク質が相互作用する場合、結合させた試料の観測スペクトルは、各構成要素の個々のスペクトルの平均とは異なる。CDは、経路長1mmのCDセル中の200μlの試料を使用して、Applied Photophysics Chirascan CD装置(Leatherhead,UK)を使用して実施した。試料は、ヘテロ二量体溶液の等モル濃度で150μMの全ペプチド濃度(すなわち、ペプチドあたり75μM)を含有しており、分析前にpH7.0で10mMリン酸カリウム及び100mMフッ化カリウムに懸濁した。試料のCDスペクトルは、260nm~200nmで1nm刻みでスキャンし、各波長で平均0.5秒であった。3回のスキャンを20℃で平均化した。
【0113】
C/EBPβのbZIPドメイン由来のペプチドと組み合わせたST101は、個々のスペクトルの平均とは有意に異なるスペクトルを生成したが、これは、2つの構成要素間の構造的相互作用を示している(
図3、パネルA)。対照的に、ATF5のbZIPドメイン由来のペプチドと組み合わせたST101の観察されたスペクトルは、2つのペプチドの個々のスペクトルの平均から変化しておらず(
図3、パネルB)、これらのペプチドがこれらの条件下では相互作用しないことを示している。これらのデータは、ST101がC/EBPβと特異的に相互作用することを示している。
【0114】
ST101とC/EBPβとの相互作用は、細胞熱シフトアッセイ(CETSA)を使用して、U251ヒト神経膠芽腫細胞の生物学的設定でさらに実証された。細胞を、ビヒクルまたは10μMのST101に1時間曝露した。細胞から溶解物を調製し、続いて52~60℃の熱勾配に供してタンパク質を変性させた。次いで、溶解物をスピンダウンして変性タンパク質凝集体を除去し、SDS-PAGEで分離した。加熱後の細胞溶解物に残留しているC/EBPβ及びβ-チューブリンを検出するためにウエスタンブロット分析を実施した。
【0115】
未処理のU251細胞由来の熱変性細胞溶解物のウエスタンブロット分析では、ウエスタンブロット上のC/EBPβタンパク質バンドの喪失によって示されるように、変性C/EBPβは58℃で溶液から脱落した(
図4、パネルA)。10μMのST101で処理した細胞は、C/EBPβの検出の増加(ST101とC/EBPβとの相互作用を示す)で示されるように、58℃でのC/EBPβの安定性の増加を示した(
図4、パネルA及びB)。対照実験では、ST101は、CETSAアッセイにおいてATF5の安定性を増加させないことが示され、C/EBPβとの相互作用の特異性が示され、これはCDデータと一致している。
【0116】
二量体交換を評価するためにCD分光法を使用した追加の実験では、C/EBPβは、ATF5よりもST101に対して高い親和性を示す。これらの実験では、ST101をC/EBPβのbZIPドメインを含むペプチドとあらかじめ混合した場合、ATF5のbZIPドメインを含むペプチドの添加は、シグナルの増加がないことによって示されるように、ST101を置換することができなかった(
図5、パネルA)。対照的に、ST101をATF5 bZIPペプチドと事前に混合した場合、C/EBPβ bZIPペプチドはシグナルの増加をもたらし、C/EBPβ bZIPペプチドと相互作用するST101のピークと同一のピークを生成した(
図5、パネルB)。これらのデータは、ST101を添加した場合のC/EBPβ+ATF5スペクトルのシフトによって示されるように、ATF5に勝る、C/EBPβとST101との優先的な相互作用を示している。
【0117】
C/EBPβとATF5との相互作用のST101阻害を定量化するために、競合酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)形式を使用した。C/EBPβ(3.6ng/ウェル)を、4℃で一晩インキュベーションすることにより、384ウェルプレート(Nunc MaxiSorp,ThermoSci)に固定化した。トリス緩衝生理食塩水(TBS)+0.1%Tween(TBST)で3回洗浄して非結合タンパク質を除去し、次いでTBS中の5%ウシ血清アルブミンでウェルを4℃にて1時間ブロッキングした。ブロッキング緩衝液を除去した後、ST101をTBSで希釈し、4℃で1時間、適切なウェルに添加し、ウェルをTBSTで3回洗浄した。
【0118】
次に、1ngの組換えATF5を各ウェルに添加した後、4℃で18時間インキュベートし、TBSTで3回洗浄して未結合タンパク質を除去した。プレートに結合したATF5を、1:1000希釈ウサギ抗ATF5抗体(ab60126,Abcam)、続いて1:1000ヤギ抗ウサギIgG-HRP抗体(ab6721,Abcam)の存在下、4℃にて1時間インキュベーションし、各抗体インキュベーション後にTBSTで3回洗浄し、50μLのTMB基質を用いることにより検出した。2.5Mの硫酸25μLを添加して反応を停止させ、SpectraMax M3プレートリーダー(Molecular Devices)を用いて450nmで吸光度を検出した。ST101のIC50を、GraphPad Prism8.3.0ソフトウェアを使用して、4つのパラメータと可変勾配を使用した非線形回帰によって計算した。
【0119】
初期の実験では、3.6ngのC/EBPβをプレートに結合させ、ATF5結合により、1.0nMのK
dが得られた(
図6、パネルA)。その後の実験では、漸増濃度のST101を一定濃度の1nM ATF5に加えたところ、ATF5の検出が用量依存的に減少した(
図6、パネルB)。非線形4パラメータ解析により、ATF5とC/EBPβの結合のST101による阻害のIC
50は、24.6±0.9nMであると決定された。これらのデータは、CD二量体交換実験を支持するものである。
【0120】
実施例3.ST101はナイーブC57BL/6マウスの血液脳関門を通過する
ST101の全身投与が、インタクトな血液脳関門を有する動物の脳に進入することができるかどうかを判断するために、単回全身投与後のナイーブC57BL/6脳切片において、ST101の免疫組織化学(IHC)分析を実施した。ST101(25mg/kg)またはビヒクルを外側尾静脈への静脈内注射によって投与した(n=3/群)。注射の2時間後、マウスを安楽死させた。脳を採取し、4%パラホルムアルデヒド中に保存した。DAB標識抗ウサギ二次試薬で検出するウサギポリクローナル抗ST101抗体を使用した、2μM切片でのIHC染色のために、組織を処理した。
【0121】
ST101を投与したマウス由来の脳切片は、ST101の細胞染色及び微小血管染色のエビデンスを示した(
図7、パネルB)が、ビヒクルを投与したマウス由来の脳切片ではST101染色のエビデンスはなかった(
図7、パネルA)。これらのデータは、ST101が、全身ペプチド投与後のナイーブC57BL/6で血液脳関門を通過することを示している。
【0122】
実施例4.ST101は安全である
安全性薬理学
中枢神経系、心血管系、及び呼吸器系に対するST101の潜在的な薬理学的効果を、カニクイザルにおける28日間の毒性、毒物動態学(TK)及び安全性薬理試験(GLP)の下で調査した。以下でより詳細に説明するように、これらの系のいずれに対してもST101の影響は観察されなかった。
【0123】
心電図(ECG)検査を、投与前及び最終投与の近くで実施した。取り扱いに関連するストレスを最小限に抑えるために、100mg/mLのケタミン塩酸塩をおよそ10mg/kgの用量で筋肉内注射してサルを鎮静させた。委員会認定の獣医心臓専門医により、心電図を定性的及び定量的に評価した(例えば、QT&HR;QTc)。心電図は、誘導I、II、III、aVR、aVL、及びaVFを使用して記録した。心電図の評価では、ST101関連の変化は認められなかった。
【0124】
補助的なECG及び呼吸評価のために、ECG波形及び換気中の胸部及び腹部拡張に由来する波形を使用して、IVボーラスを介して対照(0mg/kg)または30mg/kgのST101のいずれかを投与した動物に誘発された定性的な心電図及び換気の変化を比較した。全体として、合計16匹(オス8匹、メス8匹;n=4/群/性別)のサルに由来するECGトレースを評価した。定性的評価では、心電図におけるリズム及び/または形態異常、ならびに胸部及び腹部の呼吸誘導について、各動物に由来するトレースを目視で検査した。定性分析では、他の要因の中でも、トレースの解釈品質、筋肉振戦または60Hzアーティファクトの有無、経時的な電圧の一般的な変化、ST-Tの構成、及びリズムを評価した。対照動物と高用量動物の間で、及び対照群と高用量群について投与後とベースラインの間でデータを比較した。
【0125】
すべてのサルは、(多くの場合)、心電図と肺造影を主観的に分析することができる短時間の記録期間を有していた。ST101に起因する心電図または肺電図のいずれにも主観的な変化は認められなかった。
【0126】
研究への割り当て前及び治療期間の終わりに向かって、鎮静されたサルに対して委員会認定の獣医眼科医によって間接的な眼底検査を実施した。群平均の眼科の評価では、ST101関連の変化は明らかにならなかった。
【0127】
順化期間中(治療前のベースライン)及び治療及び回復期間の終わり近くに、スタッフの獣医師または訓練を受けた被指名者がサルから呼吸を記録した。呼吸数を30秒間記録し、2を掛けて呼吸数/分を求めた。群の平均呼吸の評価では、ST101関連の変化は明らかにならなかった。
【0128】
研究への割り当て前、及び治療及び回復期間の終わり近くに、血圧(収縮期、拡張期及び平均動脈圧)をサルで採取した。呼吸検査と同時に血圧を測定した。取り扱いに関連するストレスを最小限に抑えるために、サルを鎮静させた。群の平均血圧の評価では、ST101関連の変化は明らかにならなかった。
【0129】
偽アレルギー反応の評価
疑似アレルギー反応の臨床徴候には、体温の低下、活動の低下、及び立毛が含まれ得る。10mg/kgのST101を2~3分間にわたってカニクイザルに静脈内(IV)ボーラス投与した後、疑似アレルギー反応の臨床的徴候は観察されなかったが、一方、30mg/kgの投与では、中等度の活動低下をもたらし、動物は24時間以内に回復した。注入速度を2~3分から1~2時間に延長すると、30mg/kgのST101用量で良好な忍容性が得られた。
【0130】
1時間にわたる50mg/kgの、または30分にわたる30mg/kgのIV注入では、活動低下と潮紅が生じ、動物は数時間以内に回復した。その後の研究では、11日間にわたって、7.5、15及び30mg/kgの用量レベルでの1時間注入による4回の投与で、サルに疑似アレルギーの徴候がないことが示された(n=2/性別/群)。
【0131】
サルでの28日間のGLP毒性試験(実施例5を参照のこと)では、6匹のメスのうちの1匹が、30mg/kg群のST101への最初の曝露後に疑似アレルギー反応の徴候を示し、オスは徴候を示さなかった。この動物は回復しているように見え、数時間後には食べたり動き回ったりし始めたため、介入は行わなかった。ST101曝露のおよそ48時間後、動物の状態が悪化し、不活発で心拍が遅くなり、その後まもなく死亡した。この研究では、偽アレルギー反応の他の徴候はなかった(n=4コア+2回復サル/性別/群、合計36匹のST101処置動物)。これらの研究で忍容されるST101曝露レベルは、臨床で試験されるレベルよりも有意に高くなっている。したがって、疑似アレルギーは、ヒト対象では発生しないと予想される。
【0132】
実施例5.ST101は忍容性が高い
試験1
7.5mg/kg、15mg/kg、及び30mg/kgの用量で1時間のIV注入を繰り返した後のST101の忍容性を、12日間試験においてカニクイザルで評価した。表1に示す試験デザインは、4つの群(ST101の各用量の群、及びビヒクル対照)のそれぞれが、4匹のサル(性別ごとに2匹のサル)からなり、これらに、11日間にわたって4回、ST101またはビヒクル対照を投与したことを示している。
【表2】
【0133】
1日目及び11日目に、投与前後の複数の時点で血液検体を採取した。脳、膀胱、心臓、腸、腎臓、肝臓、及び肺を含む様々な臓器から組織を採取し、評価し、評価のために処理した。
【0134】
結果は、臨床観察、体重、臨床化学、または血液学に有意な変化がないことを示した。7.5mg/kg用量を投与した両方のオス、15mg/kg用量を投与した1匹のオス、30mg/kg用量を投与した1匹のオス、及び治療したすべてのメスについて、1つ以上の注射部位で透明な液体が観察された。ST101投与に関連する他の肉眼的所見は観察されなかった。
【0135】
ST101を、7.5mg/kg用量で投与した1匹のオス、15mg/kg用量で投与した1匹のオス、及び30mg/kg用量を投与した両方のオス、ならびに治療したすべてのメスについて、最後の注射部位において軽度~重度の血栓症が認められた。他の顕微鏡的なST101関連の所見は観察されなかった。
【0136】
カニクイザルにおける7.5mg/kg、15mg/kg、及び30mg/kg用量の投与は、注射部位での血栓症、急性炎症、赤血球の蓄積、線維症、及び浮腫を引き起こした。これらの所見は、ST101の投与によって引き起こされた局所刺激と一致していた。他のST101関連の肉眼的または顕微鏡的所見はなかった。
【0137】
この試験の結果に基づいて、30mg/kgの用量が、ST101の重篤な毒性が発現しない最大用量(HNSTD)及び無毒性量(NOAEL)であると考えられた。
【0138】
試験2
この試験では、オスとメスのカニクイザルに被験物質ST101を、7.5、15、及び30mg/kgの用量で(それぞれ群2、3、及び4に対応する)、またはビヒクル対照(群1)を1時間の静脈内(IV)注入として、週2回、合計8回投与した。最後の投与は、メスは24日目、オスは25日目に実施した。表2に示す試験デザインは、4つの群(ST101の各用量の群、及びビヒクル対照)のそれぞれが、回復群のコア試験の8匹のサル(性別ごとに4匹)と4匹のサル(各性別の2匹)からなっていたことを示している。ST101への最終曝露後、回復群を2週間の無治療期間に供した。
【表3】
【0139】
定量範囲が20.0~2000ng/mLの検証済みLC-MS/MS分析法を使用してST101の血漿濃度を分析するために、1日目と24/25日目に血液試料を採取した。群2(7.5mg/kg)、3(15mg/kg)、及び4(30mg/kg)について、ST101の毒物動態学(TK)パラメータを1日目と24/25日目に測定した。肉眼観察及び臓器秤量を伴う剖検をすべての動物で実施し、30mg/kg用量及び対照コア試験動物のすべてで病理組織診断を実施した。
【0140】
治療関連の所見には、注射部位の腫脹/浮腫、かさぶた、うろこ状の皮膚、及びびらん/潰瘍化が含まれていた。これらの観察の重症度と発生率は、用量レベルに比例して増加した。群の平均体重と体重増加の評価では、ST101に関連した変化は明らかにならなかった。
【0141】
ST101に関連する臨床化学的変化は30mg/kg用量の群でのみ発生し、7.5mg/kg用量または15mg/kg用量の群では観察されなかった。同様に、血小板の増加やフィブリノゲンの増加などの血液学的変化は、30mg/kg用量の群に限定されていた。血小板及びフィブリノゲンレベルの増加、ならびにクレアチニンホスホキナーゼの増加は、注射部位の血管刺激と相関している。
【0142】
胸部バンドを備えたDSI Jacketed(非侵襲的)外部遠隔測定系を利用して収集した従来の心電図及び呼吸データの評価では、治療に関連する変化は認められなかった。
【0143】
ST101に関連した臓器重量パラメータの変化には、30mg/kg用量でのオスの最終剖検時の肝臓及び腎臓(絶対重量及び脳重量と体重に対する相対重量)の重量の増加、及び30mg/kg用量でのメスの最終剖検時の肝臓及び腎臓(絶対重量及び体重に対する相対重量)の重量の増加が含まれていた。副腎と腎臓の絶対重量は、15mg/kg用量のメスで増加していた。肝臓と腎臓(絶対重量及び脳重量と体重に対する相対重量)重量の増加と胸腺(絶対重量及び脳重量と体重に対する相対重量)重量の減少は、回復剖検時の30mg/kg用量の動物においても依然として明らかであった。
【0144】
顕微鏡検査では、30mg/kgのST101を投与した2匹のオスと3匹のメスにおいて、最小限~中等度の腎臓の尿細管壊死が認められ、30mg/kgのST101を投与した1匹のメスにおいて腎尿細管の軽度のタンパク性円柱形成が認められた。15mg/kgを投与した2匹のオスと1匹のメスにおいて、最小限~重度の腎臓の尿細管壊死が認められた。回復した動物では、7.5mg/kg用量の1匹のオス、15mg/kg用量の2匹のオス、30mg/kg用量の1匹のオス及び15mg/kg用量の1匹のメスの腎臓に、最小限~軽度の尿細管壊死が認められた。尿細管の変化は、この試験に割り当てられた期間中に部分的に可逆的であった。腎病変の頻度と重症度は、用量との明確な関係を示さず、コア動物と回復動物において低い重症度で散発的に発生した。
【0145】
末期の剖検では、肉眼的病変には、30mg/kgを投与したオス4匹のうちの2匹及びメス4匹のうちの2匹について、1つ以上の注射部位に認められた透明な液体が含まれていた。7.5mg/kgを投与したオス4匹のうちの1匹及びメス4匹のうちの1匹、15mg/kgを投与したオス4匹のうちの3匹及びメス4匹のうちの1匹、ならびに30mg/kgを投与したオス4匹のうち3匹及びすべてのメスに、1つ以上の注射部位における痂皮/病変/赤色色素沈着が認められた。最後の注射部位での軽度~重度の血栓症も、各用量群の一部の動物で認められ、30mg/kg用量の群でより高い頻度で発生した。回復剖検では、15mg/kgを投与したメス2匹のうちの1匹、及び30mg/kgを投与した両方のオスにおいて、1つ以上の注射部位での痂皮/病変/赤色色素沈着が認められた。
【0146】
これらの結果に照らして、HNSTDは15mg/kg用量であると考えられ、NOAELは7.5mg/kgであると考えられた。
【0147】
実施例6:固形腫瘍患者へのST101の投与
非盲検第1~2相用量設定試験を実施して、進行した切除不能及び転移性固形腫瘍の患者に静脈内投与したST101の安全性、忍容性、PK、薬力学(PD)、及び実証実験の有効性を判定する。この試験は:(1)用量漸増段階、及び(2)拡大段階の2段階からなる。
【0148】
用量漸増段階
試験デザイン
用量漸増段階では、生存期間に影響を与え得るすべての利用可能な治療法に対して難治性または不耐性である、局所進行性または転移性の黒色腫、がん腫、または任意の腫瘍タイプの肉腫と診断された患者へのST101の静脈内投与が含まれる。用量コホートは、すべてのコホートで週1回(QW)、0.5、1、2、4、6、8、及び16mg/kgを投与し;最高用量レベルは隔週(Q2W)で投与してもよい。投与は、少なくとも90分間の合計注入時間のIV注入によって行う。ST101は、0.9%生理食塩水で希釈された、トレハロース及び乳酸を含む医薬組成物で提供される。
【0149】
注入関連反応(IRR)が、ST101の投与中に、及び/または投与後に発生する可能性がある。そのような反応には、発熱、悪寒/硬直、頻脈、頻呼吸、低血圧、気管支痙攣、及び他の認められた症状が含まれ得る。関連する症状が2日以上続く場合を除き、IRRはDLTとは見なされない。IRRは、投与経路と投与期間の実現可能性を評価するためにDRCによって使用される。
【0150】
標準的な医療管理を通じて患者の快適さを維持するために、支持療法を実施してもよい。そのような措置には、注入の停止または遅延、ジフェンヒドラミン、アセトアミノフェン、及びNSAID、クリスタロイド液、酸素、気管支拡張薬、及び臨床的に必要な他の薬物療法が含まれ、例えば、以下のとおりである:
a. IVまたは経口(PO)投与によるアセトアミノフェン/パラセタモール650~1000mg;
b. IVまたはPO投与によるジフェンヒドラミン25~50mg;
c. IVまたはPO投与によるクロルフェナミン5~10mg;
d. IVまたはPO投与によるラニチジン50mg;
e. PO投与によるイブプロフェン200~400mg;
f. PO投与によるナプロキセン500mg;
g. IV(加温)投与による生理食塩水0.9%、1LまたはPRN;
h. IVまたはPO投与によるプロクロルペラジン5~10mg;
i. IVまたはPO投与によるオンダンセトロン4~16mg;
j. IV投与によるデキサメタゾン5~10mg;
k. IV投与によるヒドロコルチゾン100mg 1回;
l. IV投与によるヒドロコルチゾン50mg q6h。
【0151】
最初の注入で関連するIRRを経験している患者は、その後のすべての注入において最小量のジフェンヒドラミンとアセトアミノフェンによる予防を受けるが、これは、注入中にIRRが発生することを想定して、ST101投与の前に投与する必要がある。
【0152】
結果
用量漸増段階が進行中である。コホート1~4のすべての患者(それぞれ、用量レベル0.5、1、2、及び4mg/kg;コホート1~3のそれぞれについてn=3;コホート4ではn=6)は、21日間のDLT期間を完了したが、コホート4の1人の患者は、疾患の進行のためにすべての投与を受けなかった。コホート5(6mg/kg)では、1人の患者がDLT期間を完了し、2人の患者がDLT期間中である。コホート5の患者には、投与の2日前と投与日に10mgのモンテルカストをPO投与し、投与日に20mgファモチジンをPOまたはIV投与し、投与日に10mgクロルフェナミンをPO投与するか、または50mgジフェンヒドラミンをIV投与する。アレルギーなどの他の病態の患者には、モンテルカストなどの二次薬剤を毎日投与することができる。
【0153】
コホート1の1人の患者とコホート3の2人の患者は、少なくとも18週間を通じて、腫瘍の放射線学的評価(サイズの30%減~20%増)による判定で、不変を示した。特に、コホート1の患者は、46週間を通じて不変を示している。患者の疾患の状態を
図8に示す。
【0154】
利用可能なすべての治療法に難治性の転移性皮膚黒色腫の62歳の女性が、4mg/kgのST101による9週間の治療後に部分奏効に達した。患者は以前に4回の局所再発を経験しており、それらは切除され、メルファランの分離式肢灌流で治療された。肺への転移は、イピリムマブとニボルマブの併用療法、次いでニボルマブの単独療法で治療されたが、下垂体炎のために中止された。その後の前頭葉脳転移は、進行性疾患PDまで、完全切除、放射線療法、及びニボルマブで治療された。その後の粟粒肺転移は、大きな腹部腫瘤の切除後、PDまでおよそ16か月間テモゾロミドで治療された。患者は、本試験を開始する直前に梨状筋転移と診断された。造影CTで測定したST101療法に対する患者の応答の評価を表3に示す。
【表4】
【0155】
患者の病変の1つを除いてすべてが縮小し、最大の病変は実質的な縮小を示した。さらに、非標的の複数の肺病変はサイズが縮小し、新規病変は検出されなかった。
【0156】
患者が経験したほとんどのAEは、最初の6時間に発生したIRRであり、これらはアンチヒスタミン剤/抗炎症剤によって制御された。IRRを管理するために、以下の手段を患者に使用した:抗ヒスタミン剤(12人の患者の58%)、NSAID(17%、コホート1、3、または4の患者ではなし)、アセトアミノフェン/パラセタモール(50%)、コルチコステロイド(42%、コホート1または2の患者にはなし)、ファモチジン(8%、コホート1、2または4の患者にはなし)、中断注入(42%、コホート1または2の患者ではなし)、及び減速注入(42%、コホート1または2の患者ではなし)。
【0157】
投与前及び最初のサイクル中の全注入期間後の様々な時点で、さらにそれ以降ではより少ない頻度で、血液試料を採取した。QW投薬コホートに属し、したがって21日間の治療サイクルに従っていた患者については、表4に示す以下の時点で血液試料を採取した。
【表5】
【0158】
Q2W投薬コホートに属し、したがって28日間の治療サイクルに従っている患者については、表5に示す以下の時点で血液試料を採取する。
【表6】
【0159】
血漿中のST101薬物動態(PK)を、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS)により評価した。コホート1~4のPKの結果は、C
max及びAUC
tが用量に比例することを示し(
図9;
図10、パネルA及びB)、各コホートは、注入の4時間後にST101の最小限の蓄積を示した(
図11)。さらに、平均排泄半減期はコホート間で異なっていたが、各コホートのT
maxは注入の終了時または終了間近であった。PKの結果を表6にまとめる。
【表7】
【0160】
ST101の腫瘍への取り込みを、免疫組織化学分析によって測定した。スクリーニング中、すなわちST101による治療前、及び治療のサイクル2中に患者から採取した生検試料を処理し、ウサギポリクローナル抗ST101抗体を使用してST101についてイムノアッセイを行った。委員会認定の病理学者によって切片を分析し、ST101の取り込みを示す細胞の出現率に基づいてスコア化した。データは、ST101用量の増加と共に、腫瘍へのST101の取り込みが増加することを示している(
図12)。ST101に曝露する前のスクリーニング中に患者から採取したすべての生検は、ST101免疫染色について陰性であった。
【0161】
ST101が腫瘍細胞増殖に及ぼす影響を、免疫組織化学分析によって決定した。スクリーニング中及び治療のサイクル2中に患者から採取した生検試料を処理し、Ki67の存在についてイムノアッセイを行った。委員会認定の病理学者によって切片を分析し、Ki67シグナルの強度に基づいてスコア化した。データは、Ki67染色の減少によって証明されるように、ST101曝露後にKi67シグナルが減少したことを示している(
図13)。
【0162】
薬力学評価には、機構的に関連する遺伝子異常と経時変化の循環無細胞デオキシ核酸(DNA)分析、ならびに定量的逆転写酵素(qRT)-ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ナノストリング、及び免疫組織化学(IHC)を使用したベースライン及びオントリートメントでの腫瘍分析が含まれる。
【0163】
拡大段階
最高の漸増コホートに到達するか、または所与の用量レベルで顕著な効力が観察され、推奨される第2相用量(RP2D)が選択されると、試験は拡大段階に進む。RP2Dの選択は、安全性、PK、PD、及び効力のデータに基づく。RP2Dは、最大耐用量(MTD)、「活性用量」(前臨床、安全性、PK、PD、及び効力データに基づいて選択された、抗腫瘍活性があると考えられるST101の用量)、またはMTDと活性用量の間の別の用量であり得る。拡大段階は、以下に記載する4つの特定の腫瘍タイプのコホートからなる。
【0164】
拡大段階のコホートの少なくとも10人の患者は、登録前の28日以内のスクリーニング時に強制的なコア生検または切除生検を受けている。可能である場合、かつスクリーニング生検を受けた患者で腫瘍が残存している場合、同じ病変の治療後生検を実施する。他の病変について、追加の任意選択での生検を実施することができる。
【0165】
乳癌患者へのST101の投与
1~2種類のホルモン系の前治療後に進行した、ホルモン受容体陽性(HRpos)、局所進行/転移乳癌(LA/MBC)と診断された患者に、0.5、1、2、4、6、8、12、もしくは16mg/kgの用量のST101を週1回、または16mg/kgのST101を隔週で投与した。サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害剤、mammalian target of rapamycin(mTOR)阻害剤、または化学療法による前治療は、単剤療法または併用療法として許可される。
【0166】
RECIST1.1(Eisenhauer 2009)は、腫瘍縮小効果、病勢制御率(DCR)、奏効期間(DOR)、及び/または無増悪生存期間(PFS)を評価するために使用される。計算されたCTまたはMRIのいずれかが腫瘍縮小効果を評価するために利用されるが、CTが好ましい画像技術である。CRまたはPRの放射線学的評価には、応答の最初の評価が観察されてから少なくとも4週間後に確認用の画像が必要である。SDの放射線学的評価には、応答の最初の評価が観察されてから少なくとも6週間後に確認用の画像が必要である。PFSは、最初の治療投与時から最初に記録された疾患の進行まで、または死亡までと判定される。DORは、最初に応答が観察された時点から最初に記録された疾患の進行まで、または死亡までと判定される。
【0167】
黒色腫患者へのST101の投与
免疫チェックポイント阻害剤(CPI)による治療後または治療中に進行しており、1~2種類の前治療を受けている進行性/転移性黒色腫と診断された患者に、0.5、1、2、4、6、8、12、もしくは16mg/kgの用量のST101を週1回、または16mg/kgのST101を隔週で投与する。BRAF変異疾患を有する患者はまた、適切な標的療法のうちの1つを受けている必要がある。
【0168】
RECIST1.1(Eisenhauer 2009)は、腫瘍縮小効果、病勢制御率(DCR)、奏効期間(DOR)、及び/または無増悪生存期間(PFS)を評価するために使用される。計算されたCTまたはMRIのいずれかが腫瘍縮小効果を評価するために利用されるが、CTが好ましい画像技術である。CRまたはPRの放射線学的評価には、応答の最初の評価が観察されてから少なくとも4週間後に確認用の画像が必要である。SDの放射線学的評価には、応答の最初の評価が観察されてから少なくとも6週間後に確認用の画像が必要である。PFSは、最初の治療投与時から最初に記録された疾患の進行まで、または死亡までと判定される。DORは、最初に応答が観察された時点から最初に記録された疾患の進行まで、または死亡までと判定される。
【0169】
神経膠芽腫患者へのST101の投与
1回の標準治療レジメン後に再発または進行した(修正RANO基準による)原発性(新規)GBMと診断された患者に、0.5、1、2、4、6、8、12、もしくは16mg/kgの用量のST101を週1回、または16mg/kgのST101を隔週で投与する。「標準治療」は、最大の外科的切除、放射線療法、及び放射線療法と併用するテモゾロミドまたはテモゾロミドによる補助化学療法と定義される。第一選択治療の補助として腫瘍電場療法を受けている患者は適格である。
【0170】
修正RANO(Ellingson 2017)は、腫瘍縮小効果、病勢制御率(DCR)、奏効期間(DOR)、及び/または無増悪生存期間(PFS)を評価するために使用される。ガドリニウム造影MRIは、腫瘍縮小効果を評価するために利用される。CRまたはPRの放射線学的評価には、応答の最初の評価が観察されてから少なくとも4週間後に確認用の画像が必要である。SDの放射線学的評価には、応答の最初の評価が観察されてから少なくとも6週間後に確認用の画像が必要である。PFSは、最初の治療投与時から最初に記録された疾患の進行まで、または死亡までと判定される。DORは、最初に応答が観察された時点から最初に記録された疾患の進行まで、または死亡までと判定される。
【0171】
前立腺癌患者へのST101の投与
タキサン、アビラテロン及びエンザルタミド/アパルタミドによる前治療後に進行している、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)と診断された患者(禁忌または患者がこれらの薬剤に不耐性でない限り)に、0.5、1、2、4、6、8、12、もしくは16mg/kgの用量のST101を週1回、または16mg/kgのST101を隔週で投与する。
【0172】
PCWG3ガイドライン(Scher 2016)を使用して、応答を採点する。CTまたはMRIのいずれかを利用して腫瘍縮小効果を評価する。画像評価は、疾患進行(PD)になるまで実行する。CRまたはPRの放射線学的評価には、応答の最初の評価が観察されてから少なくとも4週間後に確認用の画像が必要である。不変(SD)の放射線学的評価には、応答の最初の評価が観察されてから少なくとも6週間後に確認用の画像が必要である。DCR、DOR、及びPFSの評価は、PCWG3の測定値に基づく。最初の試験治療投与から最初に記録された疾患の進行または死亡までの時間は、PFSを決定する。最初に応答が観察された時点から最初に記録された疾患の進行まで、または死亡までの時間は、DORを決定する。
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本発明は、以下の特許請求の範囲によってさらに説明される。
【配列表】
【国際調査報告】