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特表2023-531749関節の健康状態評価のためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-25
(54)【発明の名称】関節の健康状態評価のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0537 20210101AFI20230718BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
A61B5/0537 210
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580346
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 US2021039069
(87)【国際公開番号】W WO2021263091
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】63/044,508
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】504466834
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】イナン,オメル
(72)【発明者】
【氏名】マブルーク,サマー
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC20
4C127AA06
4C127GG09
4C127GG11
(57)【要約】
本開示の例示としての一実施形態は、関節の健康状態を評価するシステムを提供する。当該システムは、動作中の関節の少なくとも1つの非音響特性を測定するように構成された関節センサと、複数の周波数の電流に曝された関節構造の生体インピーダンスを測定するように構成された生体インピーダンスセンサと、プロセッサと、メモリとを具備する。当該メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、関節センサおよび生体インピーダンスセンサからの測定値を解釈することによって、関節の健康状態の評価を行わせる指示を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節の健康状態を評価するシステムであって、
関節の少なくとも1つの非音響特性を測定するように構成された関節センサと、
複数の周波数の電流に曝された前記関節の生体インピーダンスを測定するように構成された生体インピーダンスセンサと、
プロセッサと、
メモリとを具備し、
前記メモリは、前記プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、前記関節センサおよび前記生体インピーダンスセンサからの測定値を解釈することによって、関節の健康状態の評価を行わせる指示を含む、システム。
【請求項2】
関節の健康状態の前記評価は、健康な関節と負傷した関節とを区別することができる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
関節の健康状態の前記評価は、前記関節の動作中にリアルタイムで行われる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
関節の健康状態の前記評価は、前記関節の動作中の関節の浮腫の変化の検出を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
関節の健康状態の前記評価は、前記関節の動作中の組織完全性の変化の検出を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記生体インピーダンスセンサは、前記複数の周波数におけるリアクタンスを検出するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記生体インピーダンスセンサは、前記複数の周波数における抵抗を検出するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記メモリは、前記プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、前記関節の動作中の前記複数の周波数における生体インピーダンスの変化を比較することによって、前記生体インピーダンスの変化の比率を特定させる指示をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記メモリは、前記プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、前記生体インピーダンスの変化の比率に少なくとも部分的に基づいて関節の健康状態の評価を行わせる指示をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記関節センサは、歩行サイクルを測定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記メモリは、前記プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、踵着地の測定に少なくとも部分的に基づいて歩行サイクルの各一歩を示す時間ウィンドウを提供させる指示をさらに含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記生体インピーダンスセンサは、前記複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの範囲を検出するように構成される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記メモリは、前記プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、前記複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの前記範囲の比率をとることに少なくとも部分的によって、関節の浮腫の変化を検出させる指示をさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記関節センサは、歩行セッションを測定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記生体インピーダンスセンサは、前記複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの範囲を検出するように構成される、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記メモリは、前記プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、前記複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの前記範囲の比率をとることに少なくとも部分的によって、前記関節における組織完全性の変化を検出させる指示をさらに含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記関節センサは、関節の動作に関連する特性を検出するように構成された運動学的センサである、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記関節センサは、1つ以上の慣性計測装置を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記関節センサは、前記関節において少なくとも角速度を測定するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記生体インピーダンスセンサは、動作中の角速度がゼロに等しくなったときの関節の生体インピーダンスに関連する特性を検出するように構成される、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記複数の周波数は、第1の周波数および第2の周波数を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記生体インピーダンスセンサは、第1の電流が細胞外液中を流れるように、前記第1の電流を前記第1の周波数で供給する、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記生体インピーダンスセンサは、第2の電流が細胞内液および細胞外液中を流れるように、前記第2の電流を前記第2の周波数で供給する、請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記第1の周波数は、1kHz~50kHzである、請求項21に記載のシステム。
【請求項25】
前記第2の周波数は、50kHz~1000kHzである、請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
前記関節センサは、前記関節の近傍に配置される第1の装着型センサを含み、
前記生体インピーダンスセンサは、前記関節の近傍に配置される第2の装着型センサを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項27】
関節の健康状態を示す表示を当該システムのユーザに提供することができる出力をさらに具備する、請求項1に記載のシステム。
【請求項28】
無線通信機をさらに具備する、請求項1に記載のシステム。
【請求項29】
前記関節は、足首関節である、請求項1に記載のシステム。
【請求項30】
前記メモリは、前記プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、前記関節が動作中でないときに全周波数掃引分析を行わせる指示をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項31】
関節の健康状態を評価するシステムであって、
関節の少なくとも1つの非音響特性を測定するように構成された関節センサと、
複数の周波数の電流に曝された前記関節の生体インピーダンスを測定するように構成された生体インピーダンスセンサと、
プロセッサと、
メモリとを具備し、
前記メモリは、前記プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、
前記関節の動作中の前記複数の周波数における生体インピーダンスの変化を比較することによって、前記生体インピーダンスの変化の比率を特定させ、
前記生体インピーダンスの変化の比率に少なくとも部分的に基づいて関節の健康状態の評価を行わせる指示を含む、システム。
【請求項32】
関節の健康状態を評価する方法であって、
関節センサを用いて、関節の少なくとも1つの非音響特性を測定する工程と、
生体インピーダンスセンサを用いて、複数の周波数の電流に曝された前記関節の生体インピーダンスを測定する工程と、
メモリおよびプロセッサを用いて、前記関節センサおよび前記生体インピーダンスセンサからの測定値を解釈することによって関節の健康状態の評価を行う工程とを具備する方法。
【請求項33】
関節の健康状態の前記評価は、健康な関節と負傷した関節とを区別することができる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
関節の健康状態の前記評価は、前記関節の動作中にリアルタイムで行われる、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
関節の健康状態の前記評価は、前記関節の動作中の関節の浮腫の変化の検出を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
関節の健康状態の前記評価は、前記関節の動作中の組織完全性の変化の検出を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記生体インピーダンスセンサは、前記複数の周波数におけるリアクタンスを検出するように構成される、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記生体インピーダンスセンサは、前記複数の周波数における抵抗を検出するように構成される、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記関節の動作中の前記複数の周波数における生体インピーダンスの変化を比較することによって、前記生体インピーダンスの変化の比率を特定する工程をさらに具備する、請求項32に記載の方法。
【請求項40】
前記生体インピーダンスの変化の比率に少なくとも部分的に基づいて関節の健康状態の評価を行う工程をさらに具備する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記関節センサは、歩行サイクルを測定する、請求項32に記載の方法。
【請求項42】
踵着地の測定に少なくとも部分的に基づいて歩行サイクルの各一歩を示す時間ウィンドウを提供する工程をさらに具備する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記生体インピーダンスセンサは、前記複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの範囲を検出するように構成される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの前記範囲の比率をとることに少なくとも部分的によって、関節の浮腫の変化を検出する工程をさらに具備する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記関節センサは、歩行セッションを測定する、請求項32に記載の方法。
【請求項46】
前記生体インピーダンスセンサは、前記複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの範囲を検出するように構成される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの前記範囲の比率をとることに少なくとも部分的によって、前記関節における組織完全性の変化を検出する工程をさらに具備する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記関節センサは、関節の動作に関連する特性を検出するように構成された運動学的センサである、請求項32に記載の方法。
【請求項49】
前記関節センサは、1つ以上の慣性計測装置を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項50】
前記関節センサは、前記関節において少なくとも角速度を測定するように構成される、請求項32に記載の方法。
【請求項51】
前記生体インピーダンスセンサは、動作中の角速度がゼロに等しくなったときの前記関節の生体インピーダンスに関連する特性を検出するように構成される、請求項32に記載の方法。
【請求項52】
前記複数の周波数は、第1の周波数および第2の周波数を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項53】
前記生体インピーダンスセンサは、第1の電流が細胞外液中を流れるように、前記第1の電流を前記第1の周波数で供給する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記生体インピーダンスセンサは、第2の電流が細胞内液および細胞外液中を流れるように、前記第2の電流を前記第2の周波数で供給する、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記第1の周波数は、1kHz~50kHzである、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記第2の周波数は、50kHz~1000kHzである、請求項52に記載の方法。
【請求項57】
前記関節センサは、前記関節の近傍に配置される第1の装着型センサを含み、
前記生体インピーダンスセンサは、前記関節の近傍に配置される第2の装着型センサを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項58】
関節の健康状態を示す表示をユーザに提供することができる出力をさらに具備する、請求項32に記載の方法。
【請求項59】
無線通信機をさらに具備する、請求項32に記載の方法。
【請求項60】
前記関節は、足首関節である、請求項32に記載の方法。
【請求項61】
前記関節が動作中でないときに全周波数掃引分析を行う工程をさらに具備する、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2020年6月26日付で出願した米国仮特許出願第63/044,508号に基づく優先権を主張するものであり、参照によりその全内容を本明細書に援用する。
【0002】
(政府ライセンス権)
本開示は、アメリカ国防高等研究計画局・海軍情報戦センター(Naval Information Warfare Center)が授与する授与番号第N66001-19-2-4002号およびアメリカ国立衛生研究所が授与する授与番号第NIH R01EB023808号による政府支援を受けて行われたものである。政府は、本開示について一定の権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本開示は、概して健康システムおよび方法に関し、より具体的には、ユーザの関節の健康状態を評価して、その結果をユーザおよび/または介護者に通知する装着型システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0004】
関節の捻挫のような筋骨格系の負傷は非常によく発生する。例えば、米国では1日に合計23,000人が足首を捻挫しており、そのうちの91%は足関節内反捻挫で、スポーツ関連の筋骨格系負傷の中で最も多くなっている。最初の捻挫の後で患者は足首を再負傷する可能性が非常に高く、一部の患者の負傷は長期間に長引くことさえある。足首の捻挫は、まず浮腫の有無およびレベルならびに関節可動域の制限に基づいて評価される。どちらの測定も定性的で主観的なものであり、医療従事者の専門知識に依存するものである。画像検査は、構造的な異常や靭帯の断裂を明らかにすることで負傷の診断に用いられることが多いが、これらの検査は高価で時間がかかり、患者を放射線にさらす可能性があり、所見の解釈には専門家が必要である。身体的な検査だけでは、診断の感度は96%、特異度は84%である。
【0005】
筋骨格系の負傷は、回復に時間がかかるという特性がある。診断後、適切な医療介入により、患者は回復およびリハビリの期間に入る。このリハビリ期間中に、何度も診察や画像検査を受けることは現実的ではない。装着型技術を用いて、この期間中に患者に定期的なフィードバックを提供することが理想的である。しかしながら、足首の健康状態を定量化するために現在利用できる唯一の技術は、関節の可動域に着目したもので、最も一般的には慣性計測を用いて評価される。このような可動域測定では、治癒中の関節で起こる生理的な変化を十分に捉えることはできない。臨床医の意見だけに頼ることなく、リハビリを最適化するための精度が高く実用的なフィードバックを患者に提供するためのさらなる技術を開発することが必要である。
【0006】
そこで、浮腫や構造的完全性などの関節の健康状態の変化を検出し、再負傷を避けるために最も必要なタイミングで、フィードバックをリハビリや活動中のユーザおよび/または介護者に提供することができる関節の健康状態を評価する方法およびシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、健康システムおよび方法に関する。本開示の技術は、関節の健康状態を評価するシステムを備えて構成される。関節の健康状態を評価するシステムは、関節センサと、生体インピーダンスセンサと、プロセッサと、メモリとを具備し得る。関節センサは、関節の少なくとも1つの非音響特性を測定するように構成し得る。生体インピーダンスセンサは、複数の周波数の電流に曝された関節の生体インピーダンスを測定するように構成し得る。メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、関節センサおよび生体インピーダンスセンサからの測定値を解釈することによって、関節の健康状態の評価を行わせる指示を含み得る。
【0008】
関節の健康状態の評価は、健康な関節と負傷した関節とを区別し得る。
【0009】
関節の健康状態の評価は、関節の動作中にリアルタイムで行われ得る。
【0010】
関節の健康状態の評価は、関節の動作中の関節の浮腫の変化の検出を含み得る。
【0011】
関節の健康状態の評価は、関節の動作中の組織完全性の変化の検出を含み得る。
【0012】
生体インピーダンスセンサは、複数の周波数におけるリアクタンスを検出するように構成し得る。
【0013】
生体インピーダンスセンサは、複数の周波数における抵抗を検出するように構成し得る。
【0014】
メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、関節の動作中の複数の周波数における生体インピーダンスの変化を比較することによって、生体インピーダンスの変化の比率を特定させる指示を含み得る。
【0015】
メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、生体インピーダンスの変化の比率に少なくとも部分的に基づいて関節の健康状態の評価を行わせる指示を含み得る。
【0016】
関節センサは、歩行サイクルを測定し得る。
【0017】
メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、踵着地の測定に少なくとも部分的に基づいて歩行サイクルの各一歩を示す時間ウィンドウを提供させる指示を含み得る。
【0018】
生体インピーダンスセンサは、複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの範囲を検出するように構成し得る。
【0019】
メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの範囲の比率をとることに少なくとも部分的によって、関節の浮腫の変化を検出させる指示を含み得る。
【0020】
関節センサは、歩行セッションを測定し得る。
【0021】
生体インピーダンスセンサは、複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの範囲を検出するように構成し得る。
【0022】
メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの範囲の比率をとることに少なくとも部分的によって、関節における組織完全性の変化を検出させる指示を含み得る。
【0023】
関節センサは、関節の動作に関連する特性を検出するように構成された運動学的センサであり得る。
【0024】
関節センサは、1つ以上の慣性計測装置を含み得る。
【0025】
関節センサは、関節において少なくとも角速度を測定するように構成し得る。
【0026】
生体インピーダンスセンサは、動作中の角速度がゼロに等しくなったときの関節の生体インピーダンスに関連する特性を検出するように構成し得る。
【0027】
複数の周波数は、第1の周波数および第2の周波数を含み得る。
【0028】
生体インピーダンスセンサは、第1の電流が細胞外液中を流れるように、第1の電流を第1の周波数で供給し得る。
【0029】
生体インピーダンスセンサは、第2の電流が細胞内液および細胞外液中を流れるように、第2の電流を第2の周波数で供給し得る。
【0030】
第1の周波数は、1kHz~50kHzであり得る。
【0031】
第2の周波数は、50kHz~1000kHzであり得る。
【0032】
関節センサは、関節の近傍に配置される第1の装着型センサを含み得る。生体インピーダンスセンサは、関節の近傍に配置される第2の装着型センサを含み得る。
【0033】
関節の健康状態を評価するシステムは、関節の健康状態を示す表示を当該システムのユーザに提供することができる出力を具備し得る。
【0034】
関節の健康状態を評価するシステムは、無線通信機を具備し得る。
【0035】
関節は、足首であり得る。
【0036】
メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、関節が動作中でないときに全周波数掃引分析を行わせる指示を含み得る。
【0037】
本開示の技術は、関節の健康状態を評価するシステムを備えて構成される。関節の健康状態を評価するシステムは、関節センサと、生体インピーダンスセンサと、プロセッサと、メモリとを具備し得る。関節センサは、関節の少なくとも1つの非音響特性を測定するように構成し得る。生体インピーダンスセンサは、複数の周波数の電流に曝された関節の生体インピーダンスを測定するように構成し得る。メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、関節の動作中の複数の周波数における生体インピーダンスの変化を比較することによって、生体インピーダンスの変化の比率を特定させる指示を含み得る。メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、生体インピーダンスの変化の比率に少なくとも部分的に基づいて関節の健康状態の評価を行わせる指示を含み得る。
【0038】
本開示の技術は、関節の健康状態を評価する方法を備えて構成される。方法は、関節センサを用いて、関節の少なくとも1つの非音響特性を測定する工程を具備し得る。方法は、生体インピーダンスセンサを用いて、複数の周波数の電流に曝された関節の生体インピーダンスを測定する工程を具備し得る。方法は、メモリおよびプロセッサを用いて、関節センサおよび生体インピーダンスセンサからの測定値を解釈することによって関節の健康状態の評価を行う工程を具備し得る。
【0039】
関節の健康状態の評価は、健康な関節と負傷した関節とを区別し得る。
【0040】
関節の健康状態の評価は、関節の動作中にリアルタイムで行われ得る。
【0041】
関節の健康状態の評価は、関節の動作中の関節の浮腫の変化の検出を含み得る。
【0042】
関節の健康状態の評価は、関節の動作中の組織完全性の変化の検出を含み得る。
【0043】
生体インピーダンスセンサは、複数の周波数におけるリアクタンスを検出するように構成し得る。
【0044】
生体インピーダンスセンサは、複数の周波数における抵抗を検出するように構成し得る。
【0045】
方法は、関節の動作中の複数の周波数における生体インピーダンスの変化を比較することによって、生体インピーダンスの変化の比率を特定する工程を具備し得る。
【0046】
方法は、生体インピーダンスの変化の比率に少なくとも部分的に基づいて関節の健康状態の評価を行う工程を具備し得る。
【0047】
関節センサは、歩行サイクルを測定し得る。
【0048】
方法は、踵着地の測定に少なくとも部分的に基づいて歩行サイクルの各一歩を示す時間ウィンドウを提供する工程を具備し得る。
【0049】
生体インピーダンスセンサは、複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの範囲を検出するように構成し得る。
【0050】
方法は、複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの範囲の比率をとることに少なくとも部分的によって、関節の浮腫の変化を検出する工程を具備し得る。
【0051】
関節センサは、歩行セッションを測定し得る。
【0052】
生体インピーダンスセンサは、複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの範囲を検出するように構成し得る。
【0053】
方法は、複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの範囲の比率をとることに少なくとも部分的によって、関節における組織完全性の変化を検出する工程を具備し得る。
【0054】
関節センサは、関節の動作に関連する特性を検出するように構成された運動学的センサであり得る。
【0055】
関節センサは、1つ以上の慣性計測装置を含み得る。
【0056】
関節センサは、関節において少なくとも角速度を測定するように構成し得る。
【0057】
生体インピーダンスセンサは、動作中の角速度がゼロに等しくなったときの関節の生体インピーダンスに関連する特性を検出するように構成し得る。
【0058】
複数の周波数は、第1の周波数および第2の周波数を含み得る。
【0059】
生体インピーダンスセンサは、第1の電流が細胞外液中を流れるように、第1の電流を第1の周波数で供給し得る。
【0060】
生体インピーダンスセンサは、第2の電流が細胞内液および細胞外液中を流れるように、第2の電流を第2の周波数で供給し得る。
【0061】
第1の周波数は、1kHz~50kHzであり得る。
【0062】
第2の周波数は、50kHz~1000kHzであり得る。
【0063】
関節センサは、関節の近傍に配置される第1の装着型センサを含み得る。生体インピーダンスセンサは、関節の近傍に配置される第2の装着型センサを含み得る。
【0064】
方法は、関節の健康状態を示す表示を当該システムのユーザに提供することができる出力を用い得る。
【0065】
方法は、無線通信機を用い得る。
【0066】
関節は、足首であり得る。
【0067】
方法は、関節が動作中でないときに全周波数掃引分析を行う工程を具備し得る。
【0068】
本開示のこれらおよび他の態様は、以下の「詳細な説明」および添付の図面に記載されている。実施形態の他の態様および特徴は、図面を参照して以下の例示としての具体的な実施形態の説明を検討することにより、当業者には明らかになるであろう。本開示の特徴は、特定の実施形態および図面に関連して記載されるが、本開示のすべての実施形態は、本明細書に記載の1つ以上の特徴を含むことができる。さらに、1つ以上の実施形態が特定の有利な特徴を有するものとして記載されるが、そのような1つ以上の特徴は、本明細書に記載の様々な実施形態とともに用いることもできる。同様に、例示としての実施形態は、デバイス、システム、または方法の実施形態として以下に記載されるが、そのような例示的な実施形態は、本開示の様々なデバイス、システム、および方法において実装され得ることが理解されよう。
【0069】
本開示の具体的な実施形態に関する以下の詳細な説明は、添付の図面を参照することでよりよく理解されるであろう。本開示を説明する目的で、具体的な実施形態が図面に示されている。しかしながら、本開示は、図面に示された実施形態の正確な配置および手段に限定されないことが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1図1Aは、本開示に係る関節の健康状態を評価するシステムの一例の写真である。図1Bは、本開示に係る関節の健康状態を評価するシステムの一例の図である。
図2図2は、本開示に係る足首の浮腫を追跡する方法の図およびグラフである。
図3図3Aは、本開示に係る人屍体足首への生理食塩水注入の写真である。図3Bは、本開示に係る関節の健康状態を評価するシステムの一例を示す。図3Cは、本開示に係る関節の健康状態を評価するシステムの一例のブロック図である。図3Dは、本開示に係る電圧制御電流源システムの一例のブロック図である。
図4図4は、本開示に係る較正方法の図である。
図5図5Aは、本開示に係る実験に用いられた足首の姿勢の写真である。図5Bは、本開示に係る実験で測定された浮腫の変化を示す。図5Cは、本開示に係る実験で測定された浮腫の変化を示す。
図6図6Aは、本開示に係る被験者内の変動性の散布図である。図6Bは、本開示に係る被験者間の変動性の箱ひげ図である。
図7図7は、本開示に係る実験で測定された抵抗のグラフである。
図8図8Aは、本開示に係る足首関節の説明図である。図8Bは、本開示に係る血管の説明図である。図8Cは、本開示に係る筋繊維の説明図である。図8Dは、本開示に係る血管の説明図である。図8Eは、本開示に係る筋繊維の説明図である。図8Fは、本開示に係る実験で測定されたリアクタンスを示す。
図9図9Aは、本開示に係る関節の健康状態を評価するシステムの一例の写真である。図9Bは、本開示に係る実験で測定された、角速度、加速度、およびリアクタンスを示す。図9Cは、本開示に係る実験で測定された、角速度、加速度、およびリアクタンスを示す。図9Dは、本開示に係る浮腫および構造的完全性を検出するための分析方法を示す。
図10図10Aは、本開示に係る関節の健康状態を評価するシステムの一例の写真である。図10Bは、本開示に係る記録プロトコルタイムラインを示す。図10Cは、本開示に係る実験的位置決めプロトコルを示す。
図11図11Aは、本開示に係る実験で測定されたリアクタンスを示す。図11Bは、本開示に係る実験で測定されたリアクタンスを示す。図11Cは、本開示に係る相関方法を示す。
図12図12Aは、本開示に係る実験で測定された一歩ごとのリアクタンスの変化のグラフである。図12Bは、本開示に係る実験で測定された一歩ごとのリアクタンスの変化の散布図である。図12Cは、本開示に係る実験で測定された一歩ごとのリアクタンスの変化のグラフである。図12Dは、本開示に係る実験で測定された歩行セッションごとのリアクタンスの変化のグラフである。図12Eは、本開示に係る実験で測定された歩行セッションごとのリアクタンスの変化の散布図である。
図13図13は、本開示に係る生体インピーダンス分光法および推定インピーダンスのグラフである。
図14図14は、本開示に係る関節の健康状態を評価する方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0071】
本開示では、関節の健康状態を評価するシステムを説明する。例えば、このシステムは、関節の健康状態のリアルタイム評価を行うための運動学的センサおよび生体インピーダンスセンサを備えた装着型システムとすることができる関節の健康状態を評価するシステムである。同様に、このシステムは、関節の浮腫や構造的完全性などの関節の健康状態を評価することができる。
【0072】
本開示の技術は、本開示を通じて、関節の健康状態を評価するシステムに関連して説明されているが、当業者であれば、本開示の技術はこれに限定されず、他の場面および用途に適用可能であることが分かるであろう。例えば、本開示の技術は、肉離れや骨折を含むがこれらに限定されない、いかなる筋骨格系の健康にも適用できることが意図される。
【0073】
本開示の技術のいくつかの実施態様を、添付の図面を参照してより完全に説明する。しかしながら、この本開示の技術は、多くの異なる形態で具現化され得、本明細書に記載された実施態様に限定されると解釈されるべきではない。本開示の技術の様々な要素を構成するものとして以下に説明される構成要素は、例示であり、制限的なものではないことが意図される。実際、他の例も意図されていることを理解されたい。本明細書に記載された構成要素と同一または類似の機能を有するであろう多くの適切な構成要素が、開示された電子装置および方法の範囲内に包含されることが意図される。本明細書に記載されていない他の同様の構成要素は、例えば、本開示の技術の開発後に開発された構成要素を含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
本明細書を通じて、「有している」、「有する」、「含んでいる」、または「含む」などの用語の使用は、特段の制約を受けるものではなく、「具備している」または「具備する」などの用語と同一の意味を有し、他の構造、材料、または行為の存在を排除するものではないことを意図している。同様に、「することができる」または「してもよい」などの用語の使用は、特段の制約を受けるものではなく、構造、材料、または行為が必要でないことを反映するように意図されているが、そのような用語を用いないことは、構造、材料、または行為が不可欠であることを反映するように意図するものではない。構造、材料、または行為が現在必須であると考えられる場合にはそのように明記する。
【0075】
1つ以上の方法工程への言及は、明示的に特定されたそれらの工程の間に追加の方法工程または介在する方法工程の存在を排除するものではないことが理解されよう。同様に、デバイスまたはシステムにおける1つ以上の構成要素への言及は、明示的に特定されたそれらの構成要素の間に追加の構成要素または介在する構成要素の存在を排除するものではないこともまた理解されたい。さらに、開示された方法およびプロセスは、本明細書に記載のすべての工程を含み得るが、必ずしも含まなくてもよいことが意図される。すなわち、本開示の技術に係る方法およびプロセスは、開示されたうちのいくつかを含む一方で、他のものを省略することができる。
【0076】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、以下の用語は、特に断らない限り、少なくとも本明細書において明示的に関連付けられた意味を有する。用語「または」は、包括的な「または」を意味することが意図される。さらに、用語「a」、「an」、および「the」は、他に指定されない限り、または文脈から単数形を指向することが明らかでない限り、1つ以上を意味することが意図される。「具備する」、「含有する」、または「含む」によって、少なくとも明示された要素または方法工程が物または方法中に存在することを意味するが、他の同様の要素または方法工程が明示されたものと同一の機能を有している場合、それらの他の要素または方法工程の存在を排除するものではない。
【0077】
本明細書で用いる場合、特に指定しない限り、序数的形容詞「第1の」、「第2の」、「第3の」等の使用は、単に同様の物事の異なる例が参照されていることを示し、説明した物事が時間的、空間的、順位的、または他の方法のいずれかで所定の順序になければならないことを意味することを意図していない。
【0078】
本開示の技術は、様々なシステムおよび方法に関して本明細書に記載され得るが、同一または実質的に同様の特徴を有する本開示の技術の実施形態または実装は、方法またはシステムのいずれとしても実施され得ることが意図される。例えば、方法に関して本明細書に記載されたすべての態様、要素、特徴などは、システムにも同様に帰属させることができる。別の例として、システムに関して本明細書に記載されたすべての態様、要素、特徴などは、方法にも同様に帰属させることができる。
【0079】
次に、本開示の技術の例を詳細に参照する。その例は、添付の図面に図示され、本明細書に開示されている。便宜上、同一の参照番号は、図面全体を通して同一または同様の構成要素を指すものとして用いられる。
【0080】
ここで、同様の参照番号が同様の構成要素を指す図面を参照して、本開示の実施例を本明細書において記載する。より詳細に記載されるように、本開示は、関節の健康状態を評価するシステムおよび方法を含んでもよい。本開示に記載されるシステムの背景を説明するために、まず、関節の健康状態を評価するシステムの構成要素を図1に示して説明する。
【0081】
本開示の原理および特徴の理解を容易にするために、開示される技術の様々な実施例を本明細書で説明する。本開示の技術の様々な要素を構成するものとして本明細書に記載された構成要素、工程、および材料は、例示であって制限的なものではないことを意図している。本明細書に記載された構成要素、工程、および材料と同一または類似の機能を有するであろう多くの適切な構成要素、工程、および材料が、本開示の範囲内に包含されることが意図されている。本明細書に記載されていない他の同様の構成要素、工程、および材料は、本明細書に開示される実施形態の開発後に開発される同様の構成要素または工程を含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
本明細書で用いる場合、特に断りのない限り、「関節の健康状態」という用語は、関節および関節周囲の筋骨格系全体の健康状態を意味する。例えば、骨、筋肉、軟部組織の健康状態である。
【0083】
図1Aおよび図1Bに示すように、本開示の技術は、関節の健康状態を評価するシステム100を含む。システム100は、装着型デバイス110を含んでもよい。装着型デバイス110は、関節120に近接するように人に装着されるデバイスとすることができる。例えば、図1Bに示されるように、装着型デバイス110は、内部に構成要素が入れ込まれたスリーブまたはソックスであってもよい。
【0084】
装着型デバイス110は、1つ以上のセンサを含んでもよい。例えば、装着型デバイス110は、関節センサ112を含んでもよい。代替的または追加的に、装着型デバイス110は、生体インピーダンスセンサ114を含んでもよい。代替的または追加的に、装着型デバイス110は、電子機器116を含んでもよい。
【0085】
代替的または追加的に、装着型デバイス110は、プロセッサとメモリとを含んでもよい。例えば、装着型デバイスは、CPU、マイクロプロセッサなどを含んでもよい。メモリは、プロセッサによって実行されると、当該プロセッサに、本明細書に開示される機能のうちの1つ以上を実行させる論理指示を含んでもよい。代替的または追加的に、装着型デバイス110は、送受信器を含んでもよい。例えば、送受信器は、1つ以上のセンサ(例えば、関節センサ112、生体インピーダンスセンサ114)からデータを受信し、データをリモートデバイスに送信することができる。装着型デバイスは、電源を含んでもよい。例えば、電源は、装着型デバイスの構成要素(例えば、関節センサ112、生体インピーダンスセンサ114、プロセッサ、送受信器)に電力を供給するための電池であってもよい。
【0086】
電子機器116は、システム100の電子構成要素を含んでもよい。例えば、電子機器116は、プロセッサ、送受信器、電源、およびセンサ回路を含んでもよい。代替的または追加的に、電子機器116は、1つ以上のセンサを含んでもよい。例えば、電子機器116は、関節センサ112(例えば、1つ以上の慣性計測装置)を含んでもよい。
【0087】
関節センサ112は、関節の少なくとも1つの非音響特性を測定するように構成されてもよい。例えば、関節センサ112は、関節の動作(例えば、角速度)に関連する特性を検出するように構成された運動学的センサであってもよい。関節センサ112は、1つ以上の慣性計測装置を含んでもよい。
【0088】
生体インピーダンスセンサ114は、関節120における生体インピーダンスを測定するように構成されてもよい。例えば、生体インピーダンスセンサは、電流源および受信器を含んでもよい。生体インピーダンスセンサは、身体を流れる電流の逆値を測定することができる。例えば、関節120を横切るインピーダンスを測定する。生体インピーダンスセンサ114は、電気抵抗を測定することができる。代替的または追加的に、生体インピーダンスセンサ114は、リアクタンスを測定することができる。生体インピーダンスセンサ114は、複数の周波数における生体インピーダンスを測定することができる。例えば、生体インピーダンスセンサ114は、低周波数および高周波数における生体インピーダンスを測定することができる。低周波数は、第1の周波数の電流が細胞外液中を流れることができるような周波数であってもよい。高周波数は、第2の周波数の電流が細胞内液および細胞外液中を流れることができるような周波数であってもよい。例えば、低周波数は1kHz~50kHzの周波数であってもよく、高周波数は50kHz~1000kHzの周波数であってもよい。
【0089】
本開示の技術は、図14に示される方法1400などの、関節の健康状態を評価する方法を含んでいる。方法1400および/または本明細書に記載されるいかなる他の方法も、コントローラまたはコンピュータによって実行することができる。
【0090】
方法1400は、関節センサ(例えば、動作学的センサ、慣性計測装置)からデータを受信する工程1402を含んでもよい。関節センサからのデータは、動作中の関節の少なくとも1つの非音響特性に関連し得る。例えば、関節センサは、関節における角速度を測定することができる。
【0091】
方法1400は、生体インピーダンスセンサからデータを受信する工程1404を含んでもよい。生体インピーダンスデータは、複数の周波数におけるものであってもよい。例えば、生体インピーダンスセンサは、低周波数および高周波数における生体インピーダンスを測定することができる。生体インピーダンスセンサは、関節にわたるリアクタンスの変化を測定することができる。生体インピーダンスセンサは、関節にわたる抵抗の変化を測定することができる。
【0092】
方法1400は、関節センサのデータに基づいて、関節の動作を判断する工程1406を含んでもよい。例えば、ユーザの歩行サイクルは、関節センサから受け取ったデータに基づいて判断することができる。歩行サイクルは、関節センサからのデータから踵着地の測定に少なくとも部分的に基づいて判断することができる。代替的または追加的に、歩行セッションは、関節センサからのデータに基づいて判断することができる。
【0093】
方法1400は、生体インピーダンスセンサデータに基づいて、複数の周波数における生体インピーダンスの変化を比較する工程1408を含んでもよい。例えば、関節センサデータに基づいて判断される、ユーザの歩行サイクルの足運びに基づく一歩ごとの生体インピーダンスの変化を比較する。代替的または追加的に、関節センサデータに基づいて判断される、ユーザの歩行セッションに基づく歩行セッションごとの生体インピーダンスの変化を比較する。
【0094】
方法1400は、生体インピーダンスの変化に基づいて関節の健康状態を評価する工程1410を含んでもよい。例えば、関節の浮腫は、生体インピーダンスの変化(例えば、複数の周波数における生体インピーダンスの一歩ごとの範囲の比率)に基づいて判断することができる。代替的または追加的に、関節における組織完全性は、生体インピーダンスの変化(例えば、複数の周波数における生体インピーダンスの歩行セッションごとの範囲の比率)に基づいて判断することができる。
【0095】
方法1400は、関節の健康状態の評価結果をユーザに出力する工程1412を含んでもよい。例えば、関節の健康状態の評価結果は、接続されたデバイス(例えば、スマートフォン、タブレット、コンピュータ)に送信することができる。代替的または追加的に、関節の健康状態の評価結果は、関節の健康状態評価デバイス(例えば、装着型デバイス)上に表示され得る。
【0096】
以下の実施例は、本開示の態様をさらに説明するものである。しかしながら、それらは本明細書に規定される本開示の教示または開示をいかようにも制限するものではない。
【0097】
実施例
本開示は、生体インピーダンス分光法(BIS)に基づき足首の浮腫を長期にわたって追跡するための堅牢な方法論を提示する。方法として、小型化されたBIS測定システムを設計し、従来の手法よりも大幅に低い消費電力で正確かつ高分解能の測定を可能にする新規の較正方法を採用した。この最新の装着型BIS測定システムを用いて、足首の浮腫を堅牢に評価する差分測定技術を開発した。この技術は、電極配置の日々の変動性、位置や姿勢変動性、被験者間の変動性など、長期にわたるBISに基づく浮腫の評価における主要な課題の多くに対処するものである。結果として、まず、ベンチトップ試験でハードウェアを評価し、0.2Ωの分解能で生体インピーダンスの測定誤差を実数成分0.4Ω、虚数成分0.54Ωと判断した。その後、(1)生体外、新鮮な状態で凍結した人屍体肢モデル、および(2)概念実証のための11人のヒト被験者コホート(健康な対照被験者8人および片方の足首に急性損傷を最近起こした被験者5人)でハードウェアおよび差分測定技術を検証した。結論として、新規の較正方法を用いたハードウェア設計および差分測定技術により、足首の急性損傷後の一連のリハビリを通じて足首の浮腫を長期的に定量化することが可能となった。意義として、活動に戻る準備および/または個人の変化するニーズに合わせたリハビリ活動の調整について、よりよい情報に基づく決定を行うことができるようになる。
【0098】
そこで、本開示では、足首の浮腫を低電力で正確かつ堅牢に測定するために本発明者らのグループが設計し最適化した装着型BIS測定システムを提示する。本開示は、以下を含む。すなわち、(1)装着型フォームファクタで低電力かつ正確なBIS測定を可能にする最小二乗に基づく多点線形較正モデルを活用した、生理学主導の原理に基づく新規の較正方法、および(2)関節腔内の液体の位置における姿勢変動を利用して浮腫定量化における被験者間および被験者内の変動性を低減し、標準化のために負傷側関節と反対側とを比較する必要性のない差分測定技術である。この差分測定技術の概念を図2にまとめた。図2は、足首の浮腫を追跡するための、BIAを用いた3つの異なる種類の方法を示す。すなわち、(a)足首インピーダンスの長期にわたる追跡のみによる方法、(b)負傷した足首のインピーダンスとの比較に反対側の足首を用いる方法、および(c)足首の姿勢の変化による異なる周波数におけるインピーダンスの変化の比較による方法である。具体的に、本発明者らの技術は、片方の足首のインピーダンスを測定(上図)したり、負傷側足首と反対側足首との差分を計算(中図)したりするのではなく、被験者に足首を複数の姿勢に動かしてもらい、その動作がインピーダンスの低周波成分や高周波成分にどのような影響を与えるかを調べる(下図)ものである。この研究により、反復性ストレスによる急性浮腫など、最近負傷した足首関節の浮腫を追跡することが容易になると思われる。急性浮腫は、中強度や高強度の運動など、診療所では実施しにくい特定の活動によって引き起こされるため、医療従事者にとっても追跡が困難な場合が多い。本デバイスは、スポーツジム、レクリエーション施設、職場(長時間の立ち仕事を要する職業や、その他の活動的な職業の人)など、特に医療現場以外での急性浮腫の追跡に役立ち、この浮腫追跡によって、リハビリに関するよりよい決定が可能になると思われる。
【0099】
装着型BISのシステム設計と特性
A.システム概要
図3は、足首関節上の電極の配置を示し、図3Bは、装着型BIS測定システムの写真を示す。電子設計は個別の部品を組み込むものであり、市販のインピーダンス分析集積回路(IC)AD5933(Analog Devices社(マサチューセッツ州ケンブリッジ))を含んでもよい。システムは、5.2cm×3.8cm×1.8cmの箱に収められた、オンボードの電池充電器付きLiPo電池(500mAh)で駆動できる。
【0100】
システムはデジタルブロックとアナログブロックに分かれており、各ブロックは個別の電圧レギュレータを介して電力を供給される。デジタルブロックは、通信用の複数のシリアルインタフェースを備えた超低消費電力のマイクロコントローラ(SAMD21、Atmel社(カリフォルニア州サンノゼ))およびデータロギング用のセキュアデジタル(SD)カードで構成されている。アナログブロックは、高帯域幅、低電力、低ノイズの電圧制御電流源(VCCS)、および四電極測定を容易にするための計装アンプを含むアナログフロントエンド(AFE)に結合されたAD5933で構成されている。このアナログフロントエンドは、以下の2つの理由で採用されている。すなわち、(1)AD5933ICは二電極インピーダンス分析用に設計されているが、BIS測定では、皮膚と電極との界面インピーダンス成分を除去するために完全な四電極測定が必要であるため、および(2)ICによって電圧を供給してそれに応じた電流測定を行おうとする一方、IEC60601-1-11の安全ガイドラインでは、身体に流す電流を制限しなければならないためである。
【0101】
VCCSのトポロジーは、ループ内に負荷を有する単一のオペアンプである。本発明者らのシステムの注入電流は直流(DC)成分を含まず280μArmsに制限されている。設計されたVCCSのダイナミックレンジは4kΩであり、本研究で用いたAg/AgClゲルベース電極の5kHzで測定した皮膚と電極との界面インピーダンス約330Ωとともに、一般的な足首のインピーダンスである180Ωを上回っている。
【0102】
VCCSからの出力電流Ioutは、生体を励起して、細胞外液路および細胞内液路を電流が流れることを可能にする。この電流は、図3Dに示すように、電極301から注入され、電極304から収集される。この電流の周波数は、AD5933にI2Cコマンドを発行することにより離散的に掃引される。各離散周波数において、電極302と電極303との間の電位差は、計装アンプ(AD8226)によって測定される。アンプの出力は、AD5933のDSPコアによって、対象の組織体積のインピーダンスを特定するために用いることができる実数および虚数の16ビット値を計算するために用いられる。5kHzから100kHzの周波数掃引は、256Hzごとの371回の増加で、3.5秒で完了する。
【0103】
アナログレギュレータのシャットダウンピンは、マイクロコントローラによりGPIOピンによって制御され、システムのアナログブロックが完全にシャットダウンされるため、デジタル成分とアナログ成分とを分離することで、信号整合性の向上および消費電力の低減を実現している。3つのLEDは、システムエラー、電池残量低下、および充電状態をユーザに通知するために用いられる。SDカードシールドは、使いやすさを考慮し、プッシュイン/プッシュアウトシールドとなっている。システムの充電は5V2AのDCマイクロUSB充電器で行われる。
【0104】
B.較正
1)AD5933較正の既存方法の概要および課題
最小限の消費電力およびサイズでBISシステムの安全性および正確さを最大化するために、較正戦略を設計して実装した。従来のインピーダンス分析操作では、AD5933は16ビットの実数出力および虚数出力を測定されるインピーダンスの実数値および虚数値にマッピングする簡易な較正プロセスを必要とする。較正プロセスは、既知のアドミタンスで抵抗負荷を測定し、16ビットの生データ値を実際の負荷インピーダンスにマッピングするために必要な利得係数および位相シフトを計算するという単一の工程を必要とする。このICは、四電極測定を可能にするために、電力効率に最適化されていない複雑なアナログフロントエンドが用いられている生体インピーダンス分析の文献でしばしば用いられている。AFEが複雑になっている主な理由は、従来の単点較正方法の使用を容易にするためである。
【0105】
残念ながら、これらの既存文献にあるAFE設計は、家庭での足首の浮腫の定量化という用途に望まれる装着型BISシステムでの使用には適していない。具体的には、これらの既存の設計では、計装アンプからの電圧測定出力をAD5933の入力が期待する電流値に変換するために、オプトアイソレータなどの電流から電圧への変換ブロックを用いることが必要である。このようなブロックは動作のために大きな電力を必要とし、一般に小型化設計には適さない大型のICを必要とする。そこで、本発明者らは、AFEの設計を簡素化することによりこのような電流から電圧への変換工程の必要性を軽減することとし、より複雑な較正方法によって埋め合わせを行った。
【0106】
2)線形回帰に基づく多点較正
較正方法の概要:本発明者らの較正方法は、複数のインピーダンス負荷を多変量線形回帰アルゴリズムと組み合わせて用いることで、ICが生成する16ビットの生出力値を正確な実数および虚数のインピーダンス値にマッピングすることが可能である。さらに、単純な抵抗負荷ではなく、生体組織の標準的な2R1Cモデルを用いることで、測定周波数の全範囲にわたってこのマッピング操作を正確に行えるようにした。具体的には、本発明者らの方法は次のように説明することができる。周波数fで測定されたN個の負荷に対するAD5933からの16ビットの実数値refおよび虚数値imを組み合わせたN×3の行列をQとする。
【0107】
式中、ZRe,fおよびZIm,fは、それぞれ(2)および(4)のように係数CRe,fおよびCIm,fを用いてreおよびimからマッピングされた周波数fで測定されたインピーダンスの実数成分および虚数成分である。付記Iでは、このモデルを本発明者らのシステムに適用した場合の詳細についてさらに説明する。
式中、
式中、
【0108】
他者が多負荷較正を用いていることもあるが、そのような手法は、最大2負荷(線形モデルの場合)または3負荷(二次モデルの場合)ならびにその後の傾きやy切片(線形の場合)および二次項の直接推定に限定されている。したがって、これらの手法は、較正に用いられる個々の測定の誤差の影響を受けやすい。本発明者らは、線形モデルに対して複数の負荷(8)を用い、最小二乗法に基づく線形回帰を用いて、これらの負荷からの情報を組み合わせた。そうすることで、よく知られている線形回帰のノイズ/エラー低減特性を活用することが可能となった。
【0109】
較正のための負荷の最適化:本発明者らは、2R1Cすなわち2つの抵抗および1つのコンデンサ[R,R,C]という3つの値にわたるインピーダンス測定の空間を、関節の浮腫の測定に生理学的に意味のある範囲に限定した。具体的には、既存文献の値と市販のゴールドスタンダードな生体インピーダンスハードウェア(SF87、Impedimed社(オーストラリア))を用いた測定値とを組み合わせて、必要な較正値空間を形成した。また、この較正によるインピーダンス測定の正確さを最適化するために必要な負荷の数を検討した結果、N=8で、特定の2R1Cインピーダンス値が関節の浮腫の3次元の生理学的に意味のあるインピーダンス空間の頂点と一致する場合に最も誤差が小さくなることを見出した。較正インピーダンスの最適な組み合わせを検討するため、(1)2R1C空間における較正インピーダンスの組み合わせのスパンおよび(2)組み合わせに用いる較正インピーダンスの数Nを変化させた。[R]、[R,R]、および[R,R,C]のスパンを有する3種類の組み合わせでテストした。これらの組み合わせのそれぞれについて、このスパンにおける較正インピーダンスの数も変化させた。その結果、インピーダンスの数を増やしても、測定値のランダム誤差が減少するだけであることが分かった。また、未知のインピーダンスの測定誤差は、測定されたインピーダンスと較正用インピーダンスのスパンとの間の3次元空間における距離に大きく依存することが分かった。そこで、図4のように、生理的に意味のあるインピーダンスを含むダイナミックレンジまでの直線空間にまたがっており、この空間内にあるインピーダンス値に対して正確な測定が確実であるため、表III(付記II)のインピーダンスを用いてシステムを較正した。図4は、較正方法の図である。較正によって、関心領域からの人体組織インピーダンスに関する選択が可能になる。実際のインピーダンス値とともにデバイスから取得されたデータは、多変量線形回帰を用いて処理される。係数は、足首からの生体インピーダンスを測定するために用いられる。
【0110】
C.BISシステム特性調査
本発明者らは、(1)較正方法を検証し、(2)電子仕様およびユーザビリティとの両面からハードウェアを評価することによって、BISシステムの特性調査を行った。
【0111】
1)較正方法の検証
較正方法を検証するために、34410Aデジタルマルチメータ(Digital Multimeter)(Agilent社)で個別に測定した個別抵抗およびコンデンサを用いて、対象となる四肢(例えば、膝、足首、肘)の生体インピーダンスをシミュレーションする表IV(付記II)から2R1C負荷を組み立てた。DMM(Agilent社)から取得した値をPythonで用いて、分光測定を行った周波数範囲における2R1Cインピーダンスのシミュレーションを行った。このシミュレーションから、異なる周波数点における2R1Cインピーダンスの実数値および虚数値を導き出した。これらの実数値および虚数値は、提示されたデバイスからの測定における誤差を評価するために用いられる。
【0112】
センサの3つの主要なパラメータである正確さ、分解能、およびドリフトに注目して、較正方法を評価した。生体インピーダンスセンサの正確さを調べるために、表IVの2R1Cの特性調査用負荷に対してBISシステムを用いてBIS測定を行った。AD5933から得られた16ビットの実数値および虚数値を用いて、較正された出力と本発明者らのシミュレーション結果とを比較した。測定された全周波数にわたって、特性調査用インピーダンスの実数成分および虚数成分における平均誤差は、それぞれ0.4Ωおよび0.54Ωと計算された。
【0113】
次に、表IVの特性調査用2R1C負荷に公差1%の0.1Ω抵抗を5つ直列に接続し、一度に1つずつ抵抗を外して分解能をテストした。その結果、どの特性調査用2R1C負荷でも、どの周波数においても、0.2Ωの抵抗値変化がシステムのノイズフロアを超えて検出可能であることが分かった。最後に、ドリフトに関して、本発明者らのデバイスを用いて2R1C負荷を3日間連続測定し、インピーダンススペクトルの変化をモニタリングした。5℃の温度変化により5kHzで抵抗値が0.0125Ω、100kHzで抵抗値が0.1Ωというわずかな変動性を除いて、実験を通して生体インピーダンスの測定にドリフトは見られなかった。表IIは、本発明者らの電流設計と文献にある他のAD5933ベースの設計との比較を示している。
【0114】
システム設計の代替案
システムの較正および特性調査に用いた抵抗成分および容量成分は、DMMを用いて測定した。代替的または追加的に、SFB7(Impedimed社(オーストラリア))のような高精度インピーダンス分析器による実際の周波数掃引を用いる手法も考えられる。
【0115】
2)ハードウェアの電子仕様およびユーザビリティの評価
表Iは、ハードウェアの主要な電子仕様および物理的な寸法や重量の概要を示したものである。消費電力は、自宅でハードウェアを装着した被験者からの数日間の測定を可能にするのに十分な程低い。ダイナミックレンジは、裏面が粘着ゲルである電極を用いた数日間の記録を可能にするのに十分な程高いが、現在のところドライ電極による測定を容易にすることはできない。VCCSのダイナミックレンジ(4kΩ)は、電極の乾燥による皮膚と電極と間のインピーダンスのドリフトに耐えるのに十分である。ノイズフロアは、関節の生理学的に意味のある浮腫の変化を検出するのに必要なレベルを下回っている。
【0116】
差分測定技術:人屍体モデルおよび急性損傷がある被験者における評価
本開示に記載の装着型BIS測定システムを用いて、浮腫の定量化の正確さおよび堅牢性を評価するために、ヒト被験者だけでなく、人屍体モデルでも研究を行った。従来のEBIに基づく関節の浮腫の定量化手法は、負傷した関節と反対側の関節とを比較することに依存しており、同一被験者に対する複数の試験や複数の被験者に対して行われた複数の試験間での電極配置のわずかな違いの影響を受けやすかった。本発明者らは、標準的な手法のこれら2つの限界に対処するために、BISシステムの多周波数インピーダンスモニタリング機能を活用した新規の差分測定技術を考案した。(1)従来のEBIに基づく浮腫定量化方法およびその課題の簡単な説明、(2)本発明者らが提案する差分測定技術の説明、ならびに(3)この新しい方法を人屍体モデルおよび足首に急性損傷があるヒト被験者で評価した結果および考察を以下に示す。
【0117】
A.従来のEBIに基づく浮腫の定量化
従来のEBIに基づく手法では、関節のインピーダンスZを1つの周波数fで測定し、反対側のZ'と比較して、その周波数で定量化した関節の浮腫のインデックスを算出する(
)。この方法の主な限界は、負傷した関節と反対側の関節との両方に電極を同じように配置し、両足を同一の姿勢にして測定しなければならないことである。さらに、体の両側を負傷している被験者は、この方法を採用することができない。最後に、この方法では、両関節を同時に測定する必要があり、片側のみの測定に比べてハードウェアが煩雑になる。
【0118】
B.新規の差分測定技術
足首の浮腫に伴う細胞外液は非局在化されているため、被験者が足首の姿勢を変えると、関節腔内で自由に動き回ることができる。例えば、足首を回転させると、重力および足首の内部および周囲の構造から作用する力によって、浮腫は関節腔内を動き回る。BIS測定のために関節の近位および遠位に電極を配置し、足首に電流を流すと、この電流の異なる周波数成分が組織内を異なる深さで伝わる。皮膚効果理論では、低周波電流は細胞膜を透過できず、細胞外の経路(すなわち間質液や血液)を流れる必要があるため、組織の深部に流れるとしている。一方、高周波電流は細胞を透過することができるため、電極間のより表層的で短い経路を流れる。
【0119】
BIS測定中に足首を複数の姿勢に動かして足首内の異なる深さに浮腫液の一部を意図的に移動させることによって、足首内の電流の浸透深さの周波数依存性を利用した差分測定を行っている。組織内を深く浸透する低周波電流は、通過に際して細胞外液に依存している。電流の通過経路に近い組織深部の細胞外液量が変化すると、低周波数における生体インピーダンス測定に大きな影響を与えることになる。細胞膜を貫通する高周波電流の場合、通過に際して細胞内液への依存度が高くなる。したがって、その経路に近い細胞外液の量が変化しても、高周波数における生体インピーダンス測定にはあまり影響がない。健康な関節では、人が足首を動かしても、足首の移動に伴って移動する細胞外液の量が負傷した関節に比べて比較的少ないため、高周波数および低周波数で測定した生体インピーダンスが同じように変化するのである。本方法では、足首の姿勢変化に伴う低周波数における生体インピーダンスの変化範囲と、その変化に伴う高周波数における生体インピーダンスの変化範囲とを比較する。具体的には、5kHzにおける生体インピーダンスの変化に対する100kHzにおける生体インピーダンスの変化の比率を算出し、その変化を全被験者に関連付けることができるスコアhαとして正規化する。
式中、
【0120】
本発明者らの方法は、(1)局所的な生体インピーダンス測定に対して行われ、(2)重要なことに、hαは、異なる周波数で、姿勢の変化によるインピーダンスの変化範囲の比率を計算することにより動的な方法で計算される。このスコアは比率から計算されるが、それ自体が絶対的な尺度であり、特定の被験者を集団の標準と比較することができる可能性がある。健康な被験者の場合、1.0に近いスコアが予測され、負傷のある被験者の場合はそれより低いスコア(例えば0.5)が予測される。この新しい方法は、静的生体インピーダンス測定ではなく差分生体インピーダンス測定に依存するため、電極の位置決めのために直面する課題を克服している。また、関節の動作を利用して評価するため、患者の日常的な活動や作業を妨げることなく、関節の浮腫量を追跡することも可能である。
【0121】
C.ヒト被験者におけるシステムおよび差分測定技術の評価
1)被験者およびデータ収集
提示された方法を検証するために、最近足首を負傷していない18歳から30歳までの男性被験者5名および女性被験者3名の計8名、ならびに最近(2日以内)に急性足関節内反捻挫を起こした18歳から30歳までの男性被験者4名および女性被験者1名の計5名を対象に研究を実施した。この研究は、ジョージア工科大学治験審査委員会(IRB)の承認を得ている。各被験者について、図5Aに示すように、本明細書で示すBISシステムで、4軸における足首の全可動域を構成する5種類の足首の姿勢(安静位、背屈、底屈、外がえし、および内がえし)について、2分ごとにデータを10分間収集した。図5Aは、実験に用いた5種類の姿勢を示す。被験者は、血液が溜まることによるインピーダンスの変化を避けるため、脚を胴体に対して90度に水平に伸ばした状態でまっすぐ座るように指示された。
【0122】
このプロトコルは、最近足首を負傷していない8人の対照被験者に対して、21日間にわたり、各足首について5回ずつ行われた。負傷している被験者については、負傷直後(すなわち2日以内)に1回のみ記録が行われた。
【0123】
2)ヒト被験者への試験結果および考察
本明細書で言及した2つの浮腫評価法、具体的には負傷側と反対側とを比較する方法と、今回提示している新規の差分測定法とに関して、被験者間および被験者内の変動性を比較することに焦点をあてた。また、分散を比較することで、健康な対照関節と負傷関節とを区別する新しい方法の能力を確認した。収集したデータは、Pythonを用いてオフラインで処理した。5kHzおよび100kHzで測定した抵抗に5点FIRフィルタを適用した。hαおよびEは、全被験者について計算される。Eは、被験者が安静位にあるときに、左足首と右足首または右足首と左足首との間の5kHzで測定された抵抗の差をとることによって計算される。
【0124】
αをよりよく理解するために図5Bおよび図5Cは、それぞれ、健康な対照被験者および負傷のある被験者の安静位に対して正規化された5kHzおよび100kHzで測定された抵抗の変化(すなわち、安静位からのインピーダンスの変化)を示している。また、図5Bおよび図5Cは異なる電流帯域を移動する浮腫を示すスケッチであり、図5Bは健康な対照被験者について示し、図5Cは負傷のある被験者について示す。対照被験者については、5つの異なる足首の姿勢にわたって5kHzおよび100kHzで測定された抵抗の変化が同様の範囲にあることが確認された。また足首関節に細胞外浮腫がないため、対照被験者の足首のhαスコアは1.0に非常に近かった。負傷のある被験者の場合、5kHzおよび100kHzで測定した抵抗値には同様の傾向が見られるが、抵抗値の変化の大きさは5kHzで測定した抵抗値の方が大きくなっている。また、負傷した足首のhαは、足首関節に細胞外浮腫が存在し、高周波数よりも低周波数で測定した抵抗値の変化幅が大きくなるため、0.6となった。最大インピーダンスおよび最小インピーダンスは、図5Bに示した健康な被験者のデータではそれぞれ(III)および(II)の位置であるのに対し、図5Cに示した負傷のある被験者のデータではそれぞれ(III)および(V)の位置であった。これは、健康な被験者と負傷のある被験者のデータで共通する傾向であるが、分析のためにこれらの特定の位置を選択する決定的なものではない。足首関節の筋肉や腱の圧縮や弛緩が測定された生体インピーダンスに影響を及ぼすが、健康な足首関節では、低周波数と高周波数とでこの変化は非常に似通っていることが、異なる姿勢でのインピーダンスの変化から示唆される。そこで、本発明者らの方法では、姿勢から独立した4軸で足首の姿勢を変化させたときの5kHzおよび100kHzにおける足首インピーダンスの変化幅(ΔR)を比較した。足首の構造内で自由に移動可能な浮腫が存在すると、高周波数よりも低周波数におけるインピーダンスの変化幅が増幅されると本発明者らは仮説を立てている。
【0125】
被験者内の変動性の評価:浮腫を長期にわたって追跡するための様々な方法の能力を定量化するために、本発明者らは被験者内の変動性を調査することに焦点をあてた。被験者内の変動性は、被験者が行う日々の作業によって引き起こされる信号の長期的な変動を判断し、それによって浮腫を長期的に追跡するために重要である。具体的には、全対照被験者からのデータを集計し、研究期間中のhαおよびEの変動を示す図6Aにプロットした。図6Aは、研究の期間にわたって、全対照被験者について、本開示で議論される2つの方法の被験者内の変動性を示す散布図である。Eおよびhαについては、Pythonを用いて分散および標準偏差を計算した。無作為に選択した被験者の場合、Eおよびhαの分散はそれぞれ68および0.008であり、標準偏差はそれぞれ8および0.1であった。また、Eは両足首が安静位にある状態で計算されているため、被験者が足首の姿勢を変えることによる抵抗の変化量の平均を計算することで、足首の姿勢が変わることによるEへの影響を検証することにした。その結果、10.5Ωという値が得られ、これはEの標準偏差よりも高い値であるため、両足首の姿勢が同一でなければEで足首関節の浮腫を追跡することができないことが示された。これらの数値を考慮すると、Eと比較してhαの被験者内の変動性が非常に小さいことが分かる。また、両足首で1.0に近いhαスコアが観測され、最近負傷していない足首のhαに関する本発明者らの仮説が裏付けられた。
【0126】
被験者間の変動性の評価:足首関節の浮腫を検出する方法の能力を評価するために、対照被験者と負傷被験者との被験者間の変動性を調査した。被験者間の変動性からは、対照被験者と負傷被験者とを区別する際の方法の正確さが分かる。研究期間中の全被験者のデータからEとhαとを組み合わせ、図6Bにプロットした。図6Bは、研究の期間にわたって、本開示で議論された2つの方法についての被験者間の変動性および分離を示す箱ひげ図である。図6Aおよび図6Bにおいて、右側のEは、左側のEの逆である。対照被験者の場合、Eおよびhαの分散はそれぞれ237および0.01であり、標準偏差はそれぞれ15および0.1である。負傷のある被験者の場合、Eおよびhαの分散はそれぞれ234および0.006であり、標準偏差はそれぞれ16および0.08であった。対照被験者のhαの平均が0.955であるのに対して負傷のある被験者の平均は0.5であり、これらの平均の差はhαの分散の50倍大きかった。また、図6Bは、対照群と負傷群との間のhαおよびEに関する分離を示す。Eについては対照群と負傷群との間に若干の重なりがあるのに対して、hαについては重なりがなかった。
【0127】
D.人屍体モデルにおけるシステムおよび差分測定技術の評価
1)人屍体モデルおよび実験の準備設定
足首関節における浮腫量の変化を追跡するための新しい方法の能力をさらに調査するために、本発明者らは、4つの人屍体肢を用いた研究を行った。肢部を完全に解凍し、全可動域を通じて5分間連続動作させて事前調整した後、足首を、訓練を受けた研究者により図5Aと同一の5つの姿勢に手動で位置決めした。図5Aのプロトコルを4回繰り返し、毎回、10mLの生理食塩水を外側踝領域に注入した。提示されたデバイスを用いて、生理食塩水の注入量0mL、10mL、20mL、および30mLで、人屍体モデルの足首からデータを収集した。生理食塩水の注入量を前述のように選択したのは、以下の理由による。(1)文献上、健康な足首関節の静止液量は0.13mLから3.5mLであり、足首捻挫による浮腫量は77mLから82mL程度と判明しているからである。したがって、足首関節に生理食塩水を10mLの増分で注入することは、本明細書で提案した方法の分解能に関して確かである。(2)実験の結果、生理食塩水の注入量が30mL程度で腫脹を目視で検出できたので、本デバイスおよび方法の臨床的意義が高まった。
【0128】
2)人屍体を用いた研究の結果および考察
死細胞の数が多く再生が不可能なため、人屍体モデルを用いた場合、ベースラインhαに偏りが生じた。図7は、足首関節における細胞外浮腫量の増加をシミュレーションするために生理食塩水注入量を増加させた4つの人屍体モデルのhαの平均の減少を示した図である。図7は、人屍体モデルについて、5kHzにおける抵抗に対する100kHzにおける抵抗の比率を注入に対してプロットしたものである。SPSSを用いた反復測定ANOVAによる統計分析を行い、足首関節における浮腫量の変化を検出する能力につながる4つの異なるグループ間を区別する方法の能力を確認した。データは球面性検定に合格し、反復測定ANOVAのp値は0.004であった。また、最小有意差(LSD)事後検定を行ったところ、対間の比較結果は、複数回の比較のために調整された統計的有意性が0mLと20mLとの生理食塩水注入の間で0.004であり、20mLの分解能を示す可能性があることが分かった。このことは、足首関節の細胞外浮腫を検出するだけでなく、負傷の評価に不可欠な浮腫の追跡を行うという提案方法の能力を裏付けるものである。
【0129】
結論
本開示は、機械学習アルゴリズムに基づく最先端の較正方法を用いて、正確さを損なうことなくハードウェアの複雑さを低減することを可能にした小型フォームファクタの生体インピーダンス分光法(BIS)システムを提示する。また、足首関節の細胞外浮腫を長期にわたって検出および追跡するための堅牢な差分法も提示する。本発明者らは、最近負傷した記録のない健康な対照被験者、最近(2日以内に)足首を負傷した被験者、および人屍体モデルに対して研究を行った。本方法の被験者間および被験者内の変動性と従来のEBIに基づく浮腫検出法とを比較することで、本方法を評価した。この新しい方法は、足首関節の細胞外浮腫を、非常に小さい変動性で正確に検出および追跡できることが分かった。
【0130】
付記I
この節では、式(2)および式(4)で表される較正アルゴリズムの背後にある正当性を示し、データシートで提案されている較正手順と比較する。ある周波数fで身体に注入される電流ibody(t)を、以下の通りとする。
body(t)は、フェーザ形式
で以下のように表される。
電圧信号vin(t)は、電圧電極間の負荷にかかる電圧降下を増幅したものである(負荷はZ=R+jX)。この信号
は、オームの法則によりフェーザ形式で以下のように表される。
AD5933の出力測定値は、このフェーザの実部reおよび虚部imとなる。較正の目的は、これらをRおよびXに関連付けることである。(9)を展開することで、新しい較正アルゴリズムを導き出すことができる。具体的には、(8)を(9)に代入すると、以下のようになる。
三角法加法定理を用いると、以下が得られる。
であり、
であることを利用すると、以下が得られる。
であるので、(8)からは、次のことが分かる。
(9)と(10)を整理すると、以下のようになる。
したがって、RおよびXは両方ともreおよびimの線形結合として表すことができる。デバイスの非理想性により、(12)および(13)に一定の切片項が追加され、線形関係が得られる。
(13)、(14)、(15)、および(16)より、αはβと同一であり、βは-αと同一であるが、実際に(15)と(16)のモデルを学習させたところ、その値は非常に似ているが等しくはないことが分かった。これは、モデルを学習させるRの範囲とXの範囲とが異なることが大きな原因である。本発明者らは、等しい値を確保する別のモデルを用いて以下のように実験を行った。
このモデルを用いると、測定誤差が0.3Ω増加した。従って、上記のモデルを用い、これらのパラメータが必ずしも等しいとは想定しないこととした。
【0131】
付記II
以下の表は、較正および特性調査に用いた2R1Cのインピーダンス値である。
【0132】
本開示はまた、装着型デバイスを用いて歩行中の足首の健康状態を評価する堅牢な方法論を提示する。方法として、生体インピーダンスをリアルタイムで追跡するために、歩行中の足首における変化を利用した新規のデータ取得システムを開発した。この新規の分析では、5kHzにおけるリアクタンスの範囲と100kHzにおけるリアクタンスの範囲とを比較することで、既知のベースラインへの依存をなくした。測定値の解釈を助けるために、浮腫液量の変動、筋繊維の断裂、および血流変化が関節生体インピーダンスに及ぼす影響に関する文献調査に基づいて、定量的シミュレーションモデルを開発した。結果として、シミュレーションの結果、健康な足首と負傷した足首とでは、5kHzから100kHzまでのリアクタンスの範囲の比率に有意な差があることが予測された。これらの結果は、15人の被験者(健康な足首の被験者11人、負傷した足首の被験者7人)の測定において検証された。負傷のある被験者は、測定の2~4週間前に足関節内反捻挫を起こしていた。分析技術は、健康群と負傷群とを区別し(p<<0.01)、浮腫に対する感度で以前検証された静的プロトコルと相関(R=0.8)を示した。結論として、提示した本技術は、足首の浮腫および足首の構造的完全性の変動を検出できるため、足首の負傷のリハビリ中に臨床医と患者に貴重なフィードバックを提供できる可能性があることが示された。意義として、本技術は、患者の活動に戻る準備および/または個人の変化するニーズに合わせたリハビリ活動の調整について、よりよい情報に基づく決定を行うことができるようになる。
【0133】
システムおよび実験設計
A.信号の分析
Fricke-Morse回路モデルにはR、R、およびCという3つの成分があり、これら3つの成分で組織の生体インピーダンスが表される。これらの値を推定するには、複数の周波数におけるインピーダンス測定および非線形最小二乗法に基づくアルゴリズムが必要である。このため、測定に要する時間や計算能力が必要となり、ユーザにリアルタイムでフィードバックを提供するように設計された装着型システムへのBIAの実装には不向きである。そこで、Fricke-Morseモデルの推定に必要な要件を回避するために、足首の根本的な生体現象を評価する単純で堅牢な方法を考案した。この方法では、被験者が関節に負荷をかける作業を行っている間に記録された2つの異なる周波数におけるリアクタンスの変化を比較する。
【0134】
1)組織のリアクタンス
本開示には、Fricke-Morse回路モデルを用いて、浮腫、コラーゲン繊維の断裂、および血流が組織のリアクタンスに及ぼす影響をシミュレーションすることが含まれる。このモデルは、ベースラインとして文献および本発明者らの以前の研究からの足首関節のインピーダンス空間におけるFricke-Morse回路要素の抵抗値および容量値を用いるものである。
【0135】
2)X100kHzに対するX5kHzの比率
本モデルを用いて、BIAの測定には2つの周波数の電流が用いられる。前述のように、低周波数の5kHzの電流は細胞膜を通過できないため、主に細胞外空間を流れ、高周波数の100kHzの電流は細胞内および細胞外の両方の経路を使い、より短い経路をとる。これらの電流を足首に流すと、骨は導電率が低く脂肪組織や静的な細胞外液が少ないため、電流は主に筋繊維や血管を通って流れる。本開示では、電流の流れをモデル化するための重要なパラメータを提示した。本研究を利用して、血流、浮腫、およびコラーゲン繊維の断裂が足首関節のリアクタンスに及ぼす影響をシミュレーションすることができる。持続的な活動中の正常な生理的状態では、筋肉の代謝要求の増加を満たすために、その部位への血流が増加する(図8D)。図8Dは、持続的な筋肉活動による赤血球数およびグルコースの増加を示している。足首を捻挫すると、コラーゲン繊維が裂け、浮腫が増加することがある(それぞれ図8Cおよび図8Eに示す)。図8Cは、筋繊維の断裂を示し、細胞内液が周囲の細胞外空間に移動している様子を示している。図8Eは、筋肉の炎症による浮腫の増加を示している。
【0136】
負傷していない状態で、持続的な活動中に血流が増大すると、赤血球の増加により、電流が流れる細胞内の経路が増加し、その結果、Rが減少する。この変化は、細胞外抵抗を増加させ、組織の静電容量を減少させる。さらに、血液粘度の変化がFricke-Morseに及ぼす影響は、Rで1.5%程度、Rで5%程度、Cで10%程度であり得る。
【0137】
負傷している状態では、腱細胞が裂け、それに伴ってコラーゲン線維が破れ、細胞内の内容物が細胞外空間に流出する。これにより、Rが(細胞外液が多くなったため)減少し、Rが(損傷がない細胞を通過する経路が少なくなるため)増加する。損傷がない筋細胞膜はシステムの静電容量を維持できるため、筋繊維の断裂もまたCの降下につながる。負傷していると細胞外浮腫も増加し、さらに導電性の細胞外液の体積が増加するため、Rがさらに減少する。従来の研究では、負傷後24時間でRが30%減少し、Rが35%増加し、Cが40%減少したと報告されている。
【0138】
3)シミュレーションモデル
5kHzおよび100kHzにおける浮腫、コラーゲン繊維の断裂、および血流が足首の局所リアクタンスに及ぼす影響を検討するため、数値解析シミュレーションモデルを考案した。このモデルは、以下の式を利用し、特定の周波数(ω)におけるFricke-Morseモデルのインピーダンスを計算する。
【0139】
シミュレーションモデルは、ベースラインからのFricke-Morse成分の変化による5kHzにおけるリアクタンスの変化と100kHzにおけるリアクタンスの変化との比率を出力する。ベースラインのインピーダンスは、前回の研究で収集した生体インピーダンス分光データを用いた。具体的には、14人の健康な足首の生体インピーダンス分光測定値から、非線形最小二乗法を用いてFricke-Morse回路成分の値を推定した。推定されたFricke-Morseのパラメータを付記IIIに示す。各ベースライン足首関節生体インピーダンスについて、前述のように現象のそれぞれについて文献で報告されて図8Fに示されている割合変化を用いて、血流、浮腫、コラーゲン繊維の断裂、および浮腫を伴うコラーゲン繊維の断裂が足首関節に及ぼす影響をシミュレーションした。図8Fは、足首関節の血流、浮腫、コラーゲン繊維の断裂、および浮腫を伴うコラーゲン繊維の断裂が14人の健康な被験者のベースライン足首インピーダンスに及ぼす影響をシミュレーションすることによって得られた高周波リアクタンスの変化に対する低周波リアクタンスの変化の比率を対数スケールで示す。
【0140】
図8Fは、足首のBIAのシミュレーション結果を示す。5kHzにおけるリアクタンスの変化と100kHzにおけるリアクタンスの変化との比率を比較したところ、図8Fに示すように、健康な足首と負傷した足首との間で有意差があることが分かった。この結果は、活動時および負傷時における上記の病態生理学的変化の影響に基づく本発明者らの予想と一致する。このシミュレーションの結果は、BIA現象とその臨床的使用に関するさらなる研究とハードウェアの開発を促すものである。
【0141】
4)シミュレーションモデルの限界
図8Fは、浮腫、コラーゲン繊維の断裂、および浮腫とコラーゲン繊維の断裂との組み合わせによるFricke-Morseパラメータの変化の大きさを変化させた場合の効果も示している。浮腫が増加した場合、Rが減少するため、5kHzにおけるリアクタンスと100kHzにおけるリアクタンスとが同速度で変化することとなり、100kHzにおけるリアクタンスの変化に対する5kHzにおけるリアクタンスの変化の比率は、浮腫の検出には有効であるが、定量化には適さないことが分かった。
【0142】
5)浮腫と筋断裂との区別
負傷の急性期を過ぎると、組織は浮腫の減少とコラーゲン繊維の強度の増加を含む再構築の段階に入る。浮腫のレベルおよび再構築繊維の強度は、リハビリの進行具合および再負傷の確率を示す。図8Fでは、100kHzにおけるリアクタンスの変化に対する5kHzにおけるリアクタンスの変化の比率で健康な足首と負傷した足首とを区別することに成功しているが、浮腫とコラーゲン線維の強度とを区別することは別の課題である。本発明者らは、足首の姿勢の変化が低周波数(5kHz)および高周波数(100kHz)の抵抗測定に与える影響について以前研究した。本発明者らは、このような姿勢の変化が、関節周囲の細胞外液を動かし、細胞外抵抗(R)を変化させ、その結果、高周波抵抗に比べて低周波抵抗(細胞外液依存性)に大きな影響を与えることを示した。この例では、低周波数および高周波数の抵抗ではなくリアクタンスの変化を分析に用いているが、関節構造の回転による圧力で細胞外液が組織内で移動するという概念は、ここでも適用される。代替的または追加的に、低周波数および高周波数における抵抗の変化を分析に用いることも可能である。
【0143】
本研究では、装着型検出ハードウェアを用いて、被験者の歩行中の足首関節の生体インピーダンスを測定する。通常、被験者の歩行サイクル中に足首の生体インピーダンスが瞬間的に変化するのは、腱や靭帯、電流経路の血流が変化するためと考えられる。しかし、浮腫状の細胞外液が存在する場合、関節構造からの圧力により、その周囲の液が移動し、電流経路の細胞外抵抗(R)を変化させる。関節の浮腫が存在する場合、図8Fに示すように、低周波リアクタンス測定では、さらに低い周波数における測定に比べて一歩ごとの瞬時変化量が増加すると本発明者らは仮説を立てている。とはいえ、これらの姿勢変化は、歩行セッションの持続時間を通じて複合的なものではないはずである。むしろ、歩行セッションの開始時からの生体インピーダンスのベースライン変化は、主に、最近負傷した腱、靭帯、または組織のわずかな損傷が低レベルの浮腫と組み合わさったことによるものであると本発明者らは仮説を立てている。これらの仮説を検証するために、5kHzにおけるリアクタンスの範囲と100kHzにおけるリアクタンスの範囲とを比較する2つの測定基準、すなわち(1)一歩ごと
および(2)歩行セッション(>200歩)ごと(β)を開発した。
【0144】
B.ソフトウェアモデル開発
およびβを計算するためには、図9に示すように、各被験者の一歩に基づいて2つの周波数で測定されたリアクタンスを分ける必要がある。図9は、足首に対する浮腫の存在および構造的完全性の崩壊を判断するためのデータ解析ワークフローを示す。図9Aは、足首関節の遠位および近位に配置された必要な電流電極および電圧電極と、足に配置されたIMUとを具備する、被験者の足に配置されたデータ取得システムを示す。図9Bは、代表例としての負傷のある被験者のX軸角速度、Z軸加速度、ならびに5kHzおよび100kHzで測定されたリアクタンスのサンプルデータを示す。図9Cは、データウィンドウがどのように作成されて、リアクタンスデータを一歩ごとのベクトルに分割するための分割工程で用いられるかを示すサンプルデータの拡大図を示す。図9Dは、足首関節の浮腫およびコラーゲン繊維の断裂を検出するために、一歩ごとのリアクタンスベクトルがモデルで用いられている様子を示している。このウィンドウ処理には、本発明者らのカスタムハードウェアに採用されている慣性計測装置(IMU)が用いられている。IMUは足の角速度を取得し、被験者が動いているかどうかを判断するために用いる。この処理は、角速度の3秒間のウィンドウを取得し、その値を自分自身に畳み込むことで、そのウィンドウの角速度のエネルギー(ω[t])を以下の式のように計算することで行われる。
【0145】
当該エネルギーは、実験で得られた閾値である10,000と比較される。エネルギーがその閾値より高い場合、IMUからのZ軸(横方向)加速度信号のピークを用いて、図9Cに示すように、各一歩の開始を示す踵着地を識別する。各ピークは、信号の不規則性による誤差を除去するために、前のピークから少なくとも350ミリ秒であり、一定の閾値(1g)を超えていることが必要である。生体インピーダンスはIMUよりも低い周波数でサンプリングされるため、各一歩の生体インピーダンスのウィンドウの開始と終了は、踵着地の時刻と生体インピーダンスの測定時刻との間の絶対最小時間差を見つけることによって識別される。これらのデータは、次に、図9Dに示されるモデルにおいて用いられる。
【0146】
測定したリアクタンスを図9Dのように一歩アレイごとに分割した後、各一歩のリアクタンスの範囲および平均を計算する。
は、100kHzにおけるリアクタンスの一歩ごとの範囲に対する5kHzにおけるリアクタンスの一歩ごとの範囲の比率をとることで算出される。ある一歩(s)におけるβを算出するために、歩行セッション開始から当該一歩sまでの一歩ごとのリアクタンスの平均の範囲を算出する。そして、この100kHzにおける範囲に対する5kHzにおける範囲の比率をとって、図9Dに示すように、βを算出する。
【0147】
C.ハードウェアおよびファームウェア
被験者の日常動作中に足首関節の浮腫や構造的な損傷を検出するために、従来用いていたハードウェアおよびファームウェアを変更した。ハードウェアについては、前述の通り、周辺ケーブルにIMUを追加することで、歩行サイクル中の肢部の姿勢や動作を測定できるようにした。IMUは、正確さ、低消費電力、インターフェイス設定の容易さから、LSM6DS3(ST社(スイス国ジュネーブ))を選択した。ファームウェアは、センサ(生体インピーダンスおよびIMU)のステートマシンが1ミリ秒ごとに更新され、センサからのサンプリングレートが一定になるようにデータがダブルバッファに保存される割り込みベースのアーキテクチャを実装した。バッファリングされたデータはSDカードに保存され、Pythonを用いてオフラインで処理される。関連するシステム特性を表Vに示す。
【0148】
D.方法評価のためのデータ収集プロトコル
を用いて足首の浮腫を検出することができるという仮説を検証するために、本発明者らは、歩行中の15人の被験者からデータを記録し、本開示に記載し図10Cに示すようなBIA足首位置決めプロトコルを1時間に1回行うように依頼した。データ収集プロトコルは、ジョージア工科大学治験審査委員会により承認され、全被験者は、研究に参加する前に、書面でのインフォームドコンセントを提出した。この位置決めプロトコルは、以前、浮腫と相関することが示された。本研究では、歩行中に測定された
が浮腫と相関しているかどうかを調べた。また、β(連続歩行セッション後のインピーダンスの差)により、健康群と負傷群とを区別することができるかを検討した。
【0149】
図10は、全体的な試験プロトコルを示す図である。図10は、記録準備設定および8時間記録プロトコルのタイムラインを示す。図10Aは、装着型データ取得システムが被験者の脚に配置されていることを示す。図10Bは、図10Cに示すような5分間の位置決めプロトコルが1時間ごとに実行され、全体的な記録プロトコルが8時間かかったことを示す。改良型システムは、図10Aに示すように、被験者の足首に配置される。生体インピーダンス測定には、レッドダットゲル電極(3M社(ミネソタ州セントポール))が用いられる。電極スナップおよびIMUは、キネシオテープ(Kinesio社(ニューメキシコ州アルバカーキ))を用いてさらに固定し、動作からの力を減衰させる。記録準備設定が完了すると、被験者は、図10Cに示す5分間の位置決めプロトコルを実行した。その後、被験者は、図10Bに示すように、1時間ごとに5分間の位置決めプロトコルを実行しながら、通常の日常活動を行う。
【0150】
参加者は、本研究チームの工学研究スタッフまたはジョージア工科大学の運動トレーナーから口コミで募集された。センサの装着は、事前の動作がデータに及ぼす残留影響を軽減するため、早朝に研究室または運動センターで行われた。その後、被験者は8時間、日常生活を送るように指示された。8時間のデータ収集後、被験者は実験室または運動センターに戻り、デバイスを取り外した。
【0151】
この研究は、18歳から30歳までの15人の被験者を対象に行われた。これらの被験者のうち、7名はデータ収集の2~4週間前に足首を負傷していた。また、負傷した7名のうち3名については、反対側の健康な足首のデータも別日に収集した。残りの8名の健康な被験者は、負傷可能性が高い利き足の足首からデータを収集した。合計で、健康な足首11個および負傷した足首7つが記録された。負傷した足首のうち4つは医療従事者の診断によるもので、残りは自己申告によるものである。負傷は1級~2級の足関節内反捻挫であった。データはPythonを用いてオフラインで分析した。
【0152】
E.統計分析
健康群と負傷群とを区別するために提示された方法の能力をテストするために、まず、ウィルク-シャピロ検定を用いてデータの正規性をテストした。データ群の1つ(健康な被験者の
)が正規性のテストに通らなかったため、p値が0.05未満を有意とみなすウィルコクソンの順位和検定を用いた。各スコア(
およびβ)について、健康群と負傷群との間のコーエンの(d)効果量も計算し、1.4を超える効果量は大きな効果であるとみなした。図9のモデルから抽出された変数の一例を図11に示す。図11は、完全な歩行セッションと5分間プロトコルとを比較する方法を示す。図11Aは、連続歩行セッションの間に5kHzおよび100kHzで測定されたリアクタンスの変化範囲がβを計算するために用いられる様子を示す。図11Bは、一歩ごとに5kHzおよび100kHzで測定されたリアクタンスの変化範囲が
を計算するために用いられる様子を示す。図11Cは、最後の10歩の平均
を、ピアソンの相関を用いて5kHzおよび100kHzで測定したリアクタンスの変化範囲の比率に相関させた様子を示す。また、ピアソン相関検定を用いて、
を静的プロトコルに相関させた。
【0153】
結果および考察
A.一歩ごと(
)のリアクタンスの範囲の比率
が浮腫の検出に対する感度が高いという仮説を検証するために、本発明者らは、図11Aから得られる100kHzにおけるリアクタンスの範囲に対する5kHzにおけるリアクタンスの範囲の比率を、図11Bから得られる5分間の静的位置決めプロトコル中に取得された対応する値に対して、図11Cに示すように相関させた。前回の歩行セッションから残留する浮腫または筋断裂が結果を歪めないことを確実にするために、最初の実質的な連続歩行セッションからのデータを用いた。この文脈では、「実質的な」セッションは、被験者が連続した足運びの間の休止が1分間以内という条件で200歩を超えて歩行するセッションを指すとする。15名の全被験者の
の平均は、最初の歩行セッションの最後の10歩から計算され、図11Cに示すように、15人の被験者すべてについて、そのセッションの直後に行われた5分間の位置決めプロトコルとの相関についてテストされた。この比較により、図12Cに示すように、ピアソンの相関係数0.8が得られた。これは、位置決めプロトコルが浮腫レベルと相関することが以前に示されているので、
が浮腫に対する感度が高いという仮説を裏付けるものである。負傷群および健康群についての
ならびに静的プロトコルからのX100kHzの範囲に対するX5kHzの範囲の比率の結果を図12A図12Cに示し、統計的有意性(p=0.0021)およびコーエンの効果量1.6についてテストする。図12Aは、全被験者のhαと歩数との関係を示す図であり、図12Bは、統計的に有意なp値を示す健康群および負傷群の最後の10歩のhαの平均を示す散布図である。図12Cは、連続歩数セッションにおける最後の10歩の平均hαを、その後にピアソン相関係数0.8で5分間プロトコルの出力と相関させた様子を示す図である。これは、この方法が健康な足首と負傷した足首とを区別する能力があることを示している。また、図12B
スコアならびに図8Fの浮腫および血流の変化に関するシミュレーションモデルの結果に関して、負傷群と健康群との間には類似性がある。
【0154】
B.歩行セッションごと(β)のリアクタンスの範囲の比率
実質的な歩行期間中、靭帯、腱、および結合組織に微小な断裂が生じると予想される。組織完全性のこのような劣化がBIAを用いて測定されるリアクタンスに及ぼす影響をよりよく理解するために、図11Aに示すように、連続歩行期間中のリアクタンスの記録範囲を計算した。図11Aは、連続歩行セッション中に5kHzおよび100kHzで測定されたリアクタンスの変化範囲がβを計算するために用いられる様子を示す。連続歩行セッションの最後の一歩からβを得る場合、図12Dおよび図12Eに示すように、負傷群と健康群との間でこの範囲に有意差が見られ(p<<0.001)、コーエンのd効果量が1.96であった。図12Dは、全被験者のβと歩数との関係を示す図であり、図12Eは、統計的に有意なp値を示す連続歩行セッションの最後の一歩におけるβの散布図である。被験者間のセッション間の変動性(特に、歩行セッションごとの歩数)を制御するために、βはまた、全被験者の最初の実質的な歩行セッションの200歩目でも計算され、負傷群と健康群との間の有意差が見られた(p<0.01)。また、図12Eのβスコアならびに図8Fのコラーゲン繊維の断裂および血流に関するシミュレーションモデルの結果に関して、負傷群と健康群との間には類似性がある。
【0155】
C.ゼロ交差データ分析
一般的な歩行サイクルでは、足首の回転方向が以下のように4回変化する(つまり角速度が0になる)。(1)踵着地直前の中立姿勢(すなわち、足首からつま先までの部位と脛とが90°付近)にある状態、(2)踵着地直後の足部が地面にしっかりと接地した後のやや底屈した状態、(3)踵上げ直前の背屈した状態、および(4)遊脚期につながるつま先立ち直前の底屈した状態である。これらと同一の関節配置を静的位置決めプロトコルでも行うことで、動的(歩行)タスクと静的(位置決め)タスクとを比較するポイントが得られる。ゼロ交差の時間からの時間差の絶対値が最小となる生体インピーダンスの測定値を選択することによってゼロ交差に最も近いデータのみを用いて、提示したソフトウェアモデルをテストした。ゼロ交差のデータを用いて計算された
については、スピアマンの相関係数は、5分間のプロトコルで得られた100kHzにおけるリアクタンスの範囲に対する5kHzにおけるリアクタンスの範囲の比率に関して0.63であった。算出されたp値は、健康群と負傷群との分離がp<<0.01である。生体インピーダンス全測定値およびゼロ交差に最も近い測定値を用いた相関スコアの差は、生体インピーダンスのサンプリングレートが比較的低いため、またはこれらの姿勢での関節の負荷による足首の姿勢の変化からインピーダンスに対する反応が遅れるためと思われる。場合によっては、ゼロ交差に最も近い生体インピーダンス測定が50ミリ秒も離れていることもあった。ゼロ交差に最も近いデータを用いたβスコアでは、p値は<<0.01である。
【0156】
角速度のゼロ交差のデータのみを用いることで、必要な生体インピーダンスのサンプル数を大幅に削減でき、その結果、消費電力も削減できる。これは、生体インピーダンスをゼロ交差時にのみ割り込みで測定することができるためである。これにより、装着型フォームファクタの組み込みプロセッサに、ソフトウェアモデルを完全に実装することが可能になる。
【0157】
D.装着型関節健康状態モニタリングの実現可能性に関する知見の示唆
本明細書で紹介する研究は、足首の生体インピーダンスを捕捉し分析するための堅牢な方法を提供するものである。この分野の従来研究では、正確な測定を確実にするために、一般的に、制御された一連の動作を規定していた。本発明者らの研究では、この技術を装着型フォームファクタに適応させて、歩行が信号に及ぼす影響を緩和するのではなく活用する解決法を設計した。さらに、この新規の信号解釈方法は、アルゴリズムおよび計算の複雑さを最小限に抑えることができるため、小型化された装着型システムへの組み込みに適している。このアルゴリズムの結果は本開示で示され、この技術が日常生活における動作中の足首の浮腫および組織完全性の変化をリアルタイムで検出できることを実証している。このユーザビリティの改善およびアルゴリズムの強化により、装着者の関節の健康状態のリアルタイムでの更新が可能になる。これらの通知が適切に利用されれば、臨床的なリハビリの取り組みを個人に合わせる上で大いに役立つ可能性がある。
【0158】
結論
本開示では、被験者が歩行中に足首関節の浮腫および構造的完全性を検出するという文脈でBIAを行うシステムを初めて提示する。本システムは、IMUと生体インピーダンス信号とを融合し、医師が回復の進捗状況や被験者の活動復帰能力を把握するために重要な浮腫や筋断裂を評価し検出するものである。歩行中のBIAを解釈するための分析技術は、まず、文献や被験者研究のパラメータおよび結果を用いたシミュレーションモデルで検証された。シミュレーションの結果は有望であったため、負傷している被験者および負傷していない被験者を合わせて15人の歩行中に記録を行った。そして、リアクタンスの各一歩間の範囲およびリアクタンスの歩行セッション内の範囲を説明する2つの測定基準を開発した。どちらの測定基準も、負傷した足首と健康な足首を統計的に分離した(p<<0.01)。各一歩間の分析は浮腫と相関することが示された。セッション内のリアクタンスの範囲は、微小な断裂が組織に及ぼす影響も含んでいると考えられた。
【0159】
付記III
この節では、本発明者らのシミュレーションモデルでベースラインとして用いられるFricke-Morse成分の値を計算するために用いられるアルゴリズムを紹介する。生体インピーダンス分光データは、5kHzから100kHzの周波数範囲において、371Hzの分解能で収集され、1回の掃引で合計256回の生体インピーダンス測定が行われた。Pythonを用いて、同一の周波数で任意の値R、R、およびCに対するFricke-Morseインピーダンスの実成分を計算する関数を生体インピーダンス分光データから作成した。この関数と前回の研究で足首関節から収集したデータとを組み合わせてSciPyの曲線近似関数に入力し、各足首のFricke-Morse回路成分を推定する。図13は、健康な足首関節の生体インピーダンス分光法、および本アルゴリズムを用いた推定Fricke-Morseインピーダンスの一例を示す図である。図13は、局所的な生体インピーダンス分光データおよびそれに関連するFricke-Morse推定パラメータの例を示す図である(R~100Ω,R~520Ω,C=10nF)。表VIは、14個の健康な足首のFricke-Morse成分値を示している。
【0160】
本明細書に開示された実施形態および特許請求の範囲は、その適用が、本明細書に記載され図面に例示された構成要素の構造および配置の詳細に限定されないことを理解されよう。むしろ、本明細書および図面は、想定される実施形態の例を提供するものである。本明細書に開示された実施形態および特許請求の範囲は、さらに他の実施形態が可能であり、様々な方法で実施および実行されることが可能である。また、本明細書で採用される言い回しや用語は、説明のためのものであり、特許請求の範囲を限定するものと見なすべきではないことが理解されよう。
【0161】
したがって、当業者は、本願および特許請求の範囲の基礎となる構想が、本願で提示した実施形態および特許請求の範囲のいくつかの目的を遂行するための他の構造、方法、およびシステムの設計のための基礎として容易に利用され得ることを理解することができるであろう。したがって、特許請求の範囲は、そのような等価な構造を含むとみなされることが重要である。
【0162】
さらに、要約書の目的は、米国特許商標庁と一般市民全般、特に特許用語や法律用語に精通していない当業者が、出願の技術開示の性質および本質を一見しただけで迅速に判断できるようにすることである。要約書は、本出願の特許請求の範囲を定義することを意図したものではなく、また、特許請求の範囲をいかなる形でも限定することを意図したものでもない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】