(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-25
(54)【発明の名称】組織工学におけるフラクタル
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20230718BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20230718BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230718BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20230718BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20230718BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/09
C12N5/10
C12N5/0775
C12N5/074
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524265
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 NL2021050409
(87)【国際公開番号】W WO2022005280
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517318414
【氏名又は名称】ウニフェルシタイト・トゥヴェンテ
(71)【出願人】
【識別番号】522504271
【氏名又は名称】エンテ・オスペダリエロ・スペシャリザート・イン・ガストロエンテロロジア・”サヴェリオ・デ・ベリス”-イエッレチチエッセ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アルトゥロ・スサレイ・アルセ
(72)【発明者】
【氏名】シルケ・インゲ・クロル
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・ウィレム・ベレンソット
(72)【発明者】
【氏名】ニースル・ルロフ・タス
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA90X
4B065BC42
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本開示は、3次元構造体、好ましくはフラクタル構造体を含む無機細胞培養プラットフォーム上で3次元細胞クラスターを作製するための方法に関する。かかる3次元構造体は、好ましくは3次元で細胞及び組織を培養するのに有用である。かかる3次元構造体は、好ましくは非胚性幹細胞の分化を誘導するのに有用である。特に、かかる3次元(3D)構造体は、初代組織細胞を培養するのに有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養物を維持する表面を有する少なくとも1つの3次元構造体を有する細胞培養鋳型を作製する方法であって、以下の工程:
工程1:単結晶性基材を用意する工程と、
工程2:単結晶性基材から少なくとも1つの幾何学的形体を除去して、3次元構造体の開始となる幾何学的空洞を単結晶性基材に生成する工程と、
工程3:基材における幾何学的形体の表面上に基礎3次元構造体材料を成長及び/又は堆積させて、3次元構造体を形成する工程と、
工程4:少なくとも1つの3次元構造体を支持基盤の表面に結合させる工程と、
工程5:少なくとも1つの3次元構造体の周囲の単結晶性基材の塊を取り除く工程と
を含み、
単結晶性基材の塊を取り除いた後、少なくとも1つの3次元構造体の表面を、成長可能条件下で細胞と用意して、細胞培養鋳型を作製する、方法。
【請求項2】
基礎3次元構造体材料が窒化ケイ素又は酸化ケイ素であり、細胞が少なくとも1つの3次元構造体に、基礎3次元材料を含む表面において設置され、好ましくは、基礎3次元構造体材料が二酸化ケイ素であり、より好ましくは非晶質二酸化ケイ素である、請求項1に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項3】
少なくとも1つの3次元構造体が、好ましくはマイクロ及びナノ加工によって作製されたフラクタル構造体である、請求項1又は2に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項4】
単結晶性基材が単結晶性ケイ素基材である、請求項1から3のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項5】
工程2において、1つ又は複数の頂点が形成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項6】
幾何学的空洞が八面体型空洞又は八面体型空洞の一部である、請求項1から5のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項7】
支持基盤がホウケイ酸ガラスである、請求項1から6のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項8】
以下の工程:
工程6:単結晶性基材を処理して、次の工程に適合する保護層を形成する工程と、
工程7:保護層に1つ又は複数の孔、好ましくは1つ又は複数の頂点の各々に以降の工程に適合する孔を作出する工程と、
工程8:1つ又は複数の孔を通じて、単結晶性基材における少なくとも1つの幾何学的形体、好ましくは八面体又は八面体の一部を除去し、その後保護層を剥ぎ取る工程と
を更に含み、
工程6~8を、請求項1に記載の方法の工程2と工程3の間に実施し、場合により、工程6~8を1回又は複数回繰り返して、より高い階層の複雑さを有する少なくとも1つの3次元構造体を作出し、
好ましくは、方法の工程6~8を2~10回、好ましくは2~5回繰り返して、より高い複雑さを有する3次元構造体を作製する、請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項9】
保護層が、基礎3次元構造体材料、好ましくは酸化ケイ素又は窒化ケイ素、より好ましくは二酸化ケイ素である、請求項8に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項10】
工程9:少なくとも1つの3次元構造体に無機層を設ける工程を更に含み、これにより、無機層が基礎3次元材料と接触し、これにより、前記工程9が、工程5の後且つ少なくとも1つの3次元構造体を成長可能条件下で細胞と用意して細胞培養鋳型を作製する前に実施され、これにより、前記細胞が無機層を含む少なくとも1つの3次元構造体の表面に設置される、請求項1から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項11】
工程2の単結晶性基材に形成された空洞が、除去前の定方向の工程によって基材に設けられた開口を通じて基材の外部から接触可能であり、
好ましくは、基材の開口が空洞の平均幅と比較して相対的に大きい幅を有し、
より好ましくは、開口が基材に形成された空洞の最も広い部分を形成している、
請求項1から10のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項12】
除去する工程が異方的エッチングによって実施される、請求項1から11のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項13】
用意された単結晶性基材がケイ素であり、これにより、熱酸化によって酸化ケイ素、好ましくは非晶質二酸化ケイ素の層が生じ、これにより、工程3において、二酸化ケイ素の層が堆積され、これにより、工程5において、形成された3次元構造体の周囲のケイ素の塊が取り除かれる、請求項1から12のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項14】
工程7が調製の最終段階で省かれて、閉鎖された頂点を有する3次元構造体が作製される、請求項1から13のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項15】
3次元構造体が、突起の規則的なパターンを画定する表面を含み、
突起が八面体型構造体から構築され、
八面体型構造体が、3次元構造体の外側に向かって狭小になっていく、
請求項1から14のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項16】
3次元構造体が、以下のトポグラフィー:
- 錐(G0)、
- 頂点に八面体(G1)を有する錐、
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体(G2)を有する錐、
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体を有し、第2の階層の各頂点に第3の階層の八面体型構造体(G3)を有する錐、又は
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体を有し、第2の階層の各頂点に第3の階層の八面体型構造体を有し、第3の階層の各頂点に第4の階層の八面体型構造体(G4)を有する錐、
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体を有し、第2の階層の各頂点に第3の階層の八面体型構造体を有し、第3の階層の各頂点に第4の階層の八面体型構造体(G4)を有し、第n-1の階層の各頂点に第nの階層の八面体型構造体(Gn)[nは5~10である]を有する錐
のいずれかを有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項17】
3次元構造体が細胞を成長させる前に滅菌され、好ましくは、3次元構造体が、UV、化学的手段及び高温処理のいずれか1つによって滅菌される、請求項1から16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項18】
少なくとも1つの3次元構造体が複数の3次元構造体を含み、複数の3次元構造体が、格子構成、好ましくは正方形又は六角形の格子構成で支持基盤の表面上に設置される、請求項1から17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項19】
単結晶性基材の塊が部分的にエッチング除去されて、残留する基材が複数の3次元構造体のうちの少なくとも1つを少なくとも部分的に覆う状態となる、請求項18に記載の細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項20】
単結晶性基材の塊が部分的にエッチング除去されて、1つ又は複数の3次元構造体が露出した複数のコンパートメントが作出される、請求項19に記載の細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項21】
細胞が組織又はオルガノイドの形態である、請求項1から20のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項22】
細胞培養鋳型が少なくとも1つの絶縁体を更に含み、好ましくは、絶縁体が非晶質二酸化ケイ素の3次元構造体である、請求項1から21のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項23】
細胞培養鋳型が少なくとも1つの金属部分を更に含み、好ましくは、金属部分が3次元構造体内に埋没又はパターニングされている、請求項1から22のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項24】
3次元構造体が培養物の外部刺激のために使用される、請求項22又は23に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項25】
電極が細胞刺激のために使用され、好ましくは、3次元構造体の少なくとも一部が電極として機能する、請求項22から24のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項26】
頂点が開放されており、溶液がこれらの頂点を通して細胞培養物中に供給される、請求項1から25のいずれか一項に記載の少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【請求項27】
細胞培養物、特に初代細胞を含む細胞培養物を成長させ維持するための細胞培養鋳型であって、支持基盤、例えばホウケイ酸ガラスの層に担持された少なくとも1つの3次元フラクタル構造体によって画定されている、細胞成長表面、例えば非晶質二酸化ケイ素の表面上に播種された細胞を含む、細胞培養鋳型。
【請求項28】
表面が、支持層上に均等に分布された、多数の、好ましくは少なくともほとんど同一の3次元フラクタル構造体によって画定されている、請求項27に記載の細胞培養鋳型。
【請求項29】
支持層上の多数の3次元フラクタル構造体のうちの一部の3次元フラクタル構造体が単結晶性基材で覆われ、多数の3次元フラクタル構造体のうちの他の3次元フラクタル構造体が露出して、即ち、単結晶性を有さずに、細胞成長表面を形成する、請求項28に記載の細胞培養鋳型。
【請求項30】
単結晶性基材が、1つ又は複数の露出したフラクタルを有する1つ又は複数の細胞成長コンパートメントを画定するように配置される、請求項29に記載の細胞培養鋳型。
【請求項31】
細胞層の、単結晶性基材の頂部にあり単結晶性基材に支持された細胞成長表面と反対の側に蓋が設けられる、請求項29又は30に記載の細胞培養鋳型。
【請求項32】
請求項1から31のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる細胞培養鋳型を用意する工程と、細胞を培養する工程とを含む、細胞を培養するための方法。
【請求項33】
細胞が初代細胞、好ましくは初代腫瘍細胞である、請求項31に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項34】
細胞が初代細胞、好ましくは初代組織細胞である、請求項32又は33に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項35】
細胞ががん関連線維芽細胞(CAF)である、請求項32から34のいずれか一項に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項36】
細胞が運動性細胞、好ましくは活性化線維芽細胞であり、細胞又は組織の1工程の単離及び精製を更に含む、請求項32から34のいずれか一項に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項37】
細胞が、3次元構造体の材料、形状、及び/又はパターンによって活性化されたがん関連線維芽細胞(CAF)である、請求項35に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項38】
細胞が、幹細胞、好ましくは間葉系幹細胞、成体幹細胞、脂肪成体幹細胞及び/又は人工多能性幹細胞である、請求項32から34のいずれか一項に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項39】
細胞が多細胞オルガノイド又は組織を形成する、請求項32から38のいずれか一項に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項40】
細胞が、3次元構造体の錐型形状及び距離によって開始される幹細胞分化を行う、請求項32から39のいずれか一項に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項41】
細胞を非最適成長条件で成長させ保存する、請求項32から40のいずれか一項に記載の細胞又は組織を培養するための方法。
【請求項42】
非晶質二酸化ケイ素と、構造体に付着した細胞とから構成される、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型。
【請求項43】
非晶質二酸化ケイ素の3次元構造体がSiO
2からなる、請求項42に記載の細胞培養鋳型。
【請求項44】
マイクロ及びナノ加工によって作製された、好ましくはフラクタル構造体である細胞培養のための3次元構造体を作製するための方法であって、以下の工程:
工程1:単結晶性基材、好ましくは単結晶性ケイ素基材を用意する工程と、
工程2:単結晶性基材から少なくとも1つの幾何学的形体を除去して、好ましくは1つ又は複数の頂点を形成する、3次元構造体の開始となる幾何学的空洞、好ましくは八面体型空洞又は八面体型空洞の一部を単結晶性基材中に形成する工程と、
工程3:基材における幾何学的形体の表面上に基礎3次元構造体材料、好ましくは酸化ケイ素、好ましくは非晶質二酸化ケイ素を成長及び/又は堆積させて、3次元構造体を形成する工程と、
工程4:少なくとも1つの3次元構造体を支持基盤、好ましくはホウケイ酸ガラスの表面に結合させる工程と、
工程5:少なくとも1つの3次元構造体の周囲の単結晶性基材の塊を取り除く工程と
を含み、
単結晶性基材の塊を取り除いた後、少なくとも1つの3次元構造体の表面を成長可能条件下で細胞と用意して、細胞培養鋳型を作製し、
場合により、以下の工程:
工程6:単結晶性基材を処理して、次の工程に適合する保護層を形成する工程と、
工程7:保護層に1つ又は複数の孔、好ましくは1つ又は複数の頂点の各々に以降の工程に適合する孔を作出する工程と、
工程8:1つ又は複数の孔を通じて、単結晶性基材における少なくとも1つの幾何学的形体、好ましくは八面体又は八面体の一部を除去し、その後保護層を剥ぎ取る工程と
を更に含み、
工程6~8を工程2と工程3の間に実施し、場合により、工程6~8を1回又は複数回繰り返して、より高い階層の複雑さを有する少なくとも1つの3次元構造体を作出する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、3次元構造体、好ましくはフラクタル構造体を含む無機細胞培養プラットフォーム上で3次元細胞クラスターを作製するための方法に関する。かかる3次元構造体は、好ましくは3次元で細胞及び組織を培養するのに有用である。かかる3次元構造体は、好ましくは非胚性幹細胞の分化を誘導するのに有用である。特に、かかる3次元(3D)構造体は、初代組織細胞を培養するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
生物学、創薬、疾患、及び生理学の研究は、多くの場合、細胞又は細胞系を研究することによる細胞培養で実施される。インビトロの細胞培養は、我々が健康及び疾患における生物学を理解するための画期的な道具の1つである。インビトロ細胞培養は、細胞を研究し実験を実施するための利用可能な制御された環境を与える。
【0003】
過去数十年で、様々な細胞培養技法及び細胞培養鋳型が開発されてきた。生物学及び医学における実験の大部分は、2D細胞培養で実施される。しかし、3D細胞培養物(スフェロイド)及びオルガノイドの成長は、身体中における細胞の相互作用及び挙動のより良い模倣であると考えられる。これにより、インビトロ3D実験が部分的にインビボ実験に取って代わり得ると考えられる。3D細胞培養のもう1つの重要な分野は組織工学であり、これは「細胞を細胞成長、組織化、及び分化を促進する足場又はデバイスを使用して、機能的3D組織を創出すること」を目的とする。
【0004】
多細胞オルガノイド複合体としての、優先的には異なる細胞型の共培養としての3Dにおける細胞の成長は、通常は固有の表面改質又は培養条件を必要とするため、今もなお初期の段階にある。二次元2D細胞培養を3次元化するためには、液体細胞培養物(浮遊スフェロイド)の付着の防止又はゲルマトリックス中への細胞の導入が必要とされる。浮遊スフェロイドは、培養皿表面の疎水性の増加又は全般的な付着の防止によって(例えば、ハンギングドロップ培養、細胞懸濁液の連続撹拌、又は細胞低接着性ポリマーの堆積によって)達成される。一部の鋳型では、細胞付着を防止するパターンを導入することを目的とした「被覆」として、ナノ構造形成が使用される。ヒドロゲル(例えば、Matrigel、アルギン酸塩、コラーゲン)中で、細胞を密な材料中に播種して3Dスフェロイドを形成する。
【0005】
US 2002/182241は、血管を模倣し、細胞接着及び成長のための鋳型としての役割を果たす、3次元鋳型又は足場の調製を記載している。US 2002/182241の実施例1では、シリコン又はPyrexウエハからの足場の調製が記載されており、これにより、二酸化ケイ素の層がシリコンウエハ上に堆積された後、シリコンウエハの異方的エッチングによってチャネルが形成される。エッチング後、二酸化ケイ素は取り除かれ、エッチングされたシリコン又はPyrex上に細胞を播種し、直接成長させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの複雑な被覆及び培養技法は、他の欠点(成長時間の延長、限定された入手可能性、又はスフェロイドの数が少ないこと)に加えて、とりわけ医療用途に対する予測性という点で、その有用さにもかかわらず3D細胞培養の標準化使用を何らかの形で限定する。したがって、細胞が3次元で成長することを可能とし、インビボでの細胞の天然条件をより良好に模倣するための事前の表面処理を行わずに使用することができる細胞培養鋳型に対し、ニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の好ましい実施形態を提供する。
【0009】
本開示は、細胞培養物を維持する表面を有する少なくとも1つの3次元構造体を有する細胞培養鋳型を作製する方法であって、少なくとも1つの3次元構造体が、好ましくはマイクロ及びナノ加工によって作製された、好ましくはフラクタル構造体であり、以下の工程:
工程1:単結晶性基材、好ましくは単結晶性ケイ素基材を用意する工程と、
工程2:単結晶性基材から少なくとも1つの幾何学的形体を除去して、好ましくは1つ又は複数の頂点を形成する、3次元構造体の開始となる幾何学的空洞、好ましくは八面体型空洞又は八面体型空洞の一部を単結晶性基材に生成する工程と、
工程3:基材における幾何学的形体の表面上に基礎3次元構造体材料、好ましくは酸化ケイ素、好ましくは非晶質二酸化ケイ素を成長及び/又は堆積させて、3次元構造体を形成する工程と、
工程4:少なくとも1つの3次元構造体を支持基盤、好ましくはホウケイ酸ガラスの表面に結合させ、特にこれにより、基礎3次元構造体材料を成長又は堆積させた表面において、支持基盤が少なくとも1つの3次元構造体に結合される工程と、
工程5:少なくとも1つの3次元構造体の周囲の単結晶性基材の塊を取り除く工程と
を含み、
単結晶性基材の塊を取り除いた後、少なくとも1つの3次元構造体の表面に細胞を成長可能条件下で設置して細胞培養鋳型を作製し、特にこれにより、前記細胞が少なくとも1つの3次元構造体に、基礎3次元材料を含む表面において設置される、方法を提供する。
【0010】
好ましくは、前記方法は、以下の工程:
工程6:単結晶性基材を処理して、次の工程に適合する保護層を形成する工程と、
工程7:保護層に1つ又は複数の孔、好ましくは1つ又は複数の頂点の各々に以降の工程に適合する孔を作出する工程と、
工程8:1つ又は複数の孔を通じて、単結晶性基材における少なくとも1つの幾何学的形体、好ましくは八面体又は八面体の一部を除去し、その後保護層を剥ぎ取る工程と
を更に含み、
工程6~8を、請求項1に記載の方法の工程2と工程3の間に実施し、場合により、工程6~8を1回又は複数回繰り返して、より高い階層の複雑さを有する少なくとも1つの3次元構造体を作出し、
好ましくは、方法の工程6~8を2~10回、好ましくは2~5回繰り返して、より高い複雑さを有する3次元構造体を作製する。
【0011】
保護層は、好ましくは、本明細書で記載される基礎3次元構造体材料、好ましくは酸化ケイ素又は窒化ケイ素、より好ましくは二酸化ケイ素である。
【0012】
好ましくは、工程2の単結晶性基材に形成された空洞が、除去前の定方向の工程によって基材に設けられた開口を通じて基材の外部から接触可能であり、好ましくは、基材の開口が空洞の平均幅と比較して相対的に大きい幅を有し、より好ましくは、開口が基材に形成された空洞の最も広い部分を形成している、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0013】
好ましくは、除去する工程が異方的エッチングによって実施される、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0014】
好ましくは、用意された単結晶性基材がケイ素であり、これにより、熱酸化によって酸化ケイ素、好ましくは非晶質二酸化ケイ素の層が生じ、これにより、工程3において、二酸化ケイ素の層が堆積され、これにより、工程5において、形成された3次元構造体の周囲のケイ素の塊が取り除かれる、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0015】
好ましくは、工程7が調製の最終段階で省かれて、閉鎖された頂点を有する3次元構造体が作製される、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0016】
好ましくは、3次元構造体が、突起の規則的なパターンを画定する表面を含み、突起が八面体型構造体から構築され、八面体型構造体が、3次元構造体の外側に向かって狭小になっていく、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0017】
好ましくは、3次元構造体が、以下のトポグラフィー:
- 錐(G0)、
- 頂点に八面体(G1)を有する錐、
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体(G2)を有する錐、
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体を有し、第2の階層の各頂点に第3の階層の八面体型構造体(G3)を有する錐、又は
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体を有し、第2の階層の各頂点に第3の階層の八面体型構造体を有し、第3の階層の各頂点に第4の階層の八面体型構造体(G4)を有する錐、
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体を有し、第2の階層の各頂点に第3の階層の八面体型構造体を有し、第3の階層の各頂点に第4の階層の八面体型構造体(G4)を有し、第n-1の階層の各頂点に第nの階層の八面体型構造体(Gn)[nは5~10である]を有する錐
のいずれかを有する、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0018】
好ましくは、3次元構造体が細胞を成長させる前に滅菌され、好ましくは、3次元構造体が、UV、化学的手段及び高温処理のいずれか1つによって滅菌される、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0019】
好ましくは、少なくとも1つの3次元構造体が複数の3次元構造体を含み、複数の3次元構造体が、格子構成、好ましくは正方形又は六角形の格子構成で支持基盤の表面上に設置される、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0020】
好ましくは、単結晶性基材の塊が部分的にエッチング除去されて、残留する基材が複数の3次元構造体のうちの少なくとも1つを少なくとも部分的に覆う状態となる、本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0021】
好ましくは、単結晶性基材の塊が部分的にエッチング除去されて、1つ又は複数の3次元構造体が露出した複数のコンパートメントが作出される、本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0022】
好ましくは、細胞が組織又はオルガノイドの形態である、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0023】
好ましくは、細胞培養鋳型が少なくとも1つの絶縁体を更に含み、好ましくは、絶縁体が非晶質二酸化ケイ素の3次元構造体である、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0024】
好ましくは、細胞培養鋳型が少なくとも1つの金属部分を更に含み、好ましくは、金属部分が3次元構造体内に埋没又はパターニングされている、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0025】
好ましくは、3次元構造体が培養物の外部刺激のために使用される、
本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0026】
好ましくは、電極が細胞刺激のために使用され、好ましくは、3次元構造体の少なくとも一部が電極として機能する、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0027】
好ましくは、頂点が開放されており、溶液がこれらの頂点を通して細胞培養物中に供給される、本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を作製するための方法。
【0028】
本開示は、細胞培養物、特に初代細胞を含む細胞培養物を成長させ維持するための細胞培養鋳型であって、支持基盤、例えばホウケイ酸ガラスの層に担持された少なくとも1つの3次元フラクタル構造体によって画定されている、細胞成長表面、例えば非晶質二酸化ケイ素の表面上に播種された細胞を含む、細胞培養鋳型を提供する。
【0029】
好ましくは、表面が、支持層上に均等に分布された、多数の、好ましくは少なくともほとんど同一の3次元フラクタル構造体によって画定されている、本明細書で記載される細胞培養鋳型。
【0030】
好ましくは、支持層上の多数の3次元フラクタル構造体のうちの一部が単結晶性基材で覆われ、多数の3次元フラクタル構造体のうちの他の3次元フラクタル構造体が露出して、即ち、単結晶性を有さずに、細胞成長表面を形成する、本明細書で記載される細胞培養鋳型。
【0031】
好ましくは、単結晶性基材が、1つ又は複数の露出したフラクタルを有する1つ又は複数の細胞成長コンパートメントを画定するように配置される、本明細書で記載される細胞培養鋳型。
【0032】
好ましくは、細胞層の、単結晶性基材の頂部にあり単結晶性基材に支持された細胞成長表面と反対の側に蓋が設けられる、本明細書で記載される細胞培養鋳型。
【0033】
本開示は、本発明に係る方法によって得ることができる細胞培養鋳型を用意する工程と、細胞を培養する工程とを含む、細胞を培養するための方法を提供する。
【0034】
好ましくは、細胞が初代細胞、好ましくは初代腫瘍細胞である、本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法。
【0035】
好ましくは、細胞が初代細胞、好ましくは初代組織細胞である、本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法。
【0036】
好ましくは、細胞ががん関連線維芽細胞(CAF)である、本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法。
【0037】
好ましくは、細胞が、3次元構造体の材料、形状、及び/又はパターンによって活性化されたがん関連線維芽細胞(CAF)である、本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法。
【0038】
好ましくは、細胞が、幹細胞、好ましくは間葉系幹細胞、成体幹細胞、脂肪成体幹細胞及び/又は人工多能性幹細胞である、本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法。
【0039】
好ましくは、細胞が多細胞オルガノイド又は組織を形成する、本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法。
【0040】
好ましくは、細胞が、3次元構造体の錐型形状及び距離によって開始される幹細胞分化を行う、本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法。
【0041】
好ましくは、細胞を非最適成長条件で成長させ保存する、本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法。
【0042】
本開示は、非晶質二酸化ケイ素と、構造体に付着した細胞とから構成される、本明細書で記載される方法によって得ることができる少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型を、更に提供する。好ましくは、非晶質二酸化ケイ素の3次元構造体はSiO2からなる。
【0043】
本開示は、マイクロ及びナノ加工によって作製された、好ましくはフラクタル構造体である細胞培養のための3次元構造体を作製するための方法であって、
工程1:単結晶性基材、好ましくは単結晶性ケイ素基材を用意する工程と、
工程2:単結晶性基材から少なくとも1つの幾何学的形体を除去して、好ましくは1つ又は複数の頂点を形成する、3次元構造体の開始となる幾何学的空洞、好ましくは八面体型空洞又は八面体型空洞の一部を単結晶性基材に形成する工程と、
工程3:基材における幾何学的形体の表面上に基礎3次元構造体材料、好ましくは酸化ケイ素、好ましくは非晶質二酸化ケイ素を成長及び/又は堆積させて、3次元構造体を形成する工程と、
工程4:少なくとも1つの3次元構造体を支持基盤、好ましくはホウケイ酸ガラスの表面に結合させる工程と、
工程5:少なくとも1つの3次元構造体の周囲の単結晶性基材の塊を取り除く工程と
を含み、
単結晶性基材の塊を取り除いた後、少なくとも1つの3次元構造体の表面に成長可能条件下で細胞を設置して、細胞培養鋳型を作製し、
場合により、以下の工程:
工程6:単結晶性基材を処理して、次の工程に適合する保護層を形成する工程と、
工程7:保護層に1つ又は複数の孔、好ましくは1つ又は複数の頂点の各々に以降の工程に適合する孔を作出する工程と、
工程8:1つ又は複数の孔を通じて、単結晶性基材における少なくとも1つの幾何学的形体、好ましくは八面体又は八面体の一部を除去し、その後保護層を剥ぎ取る工程と
を更に含み、
工程6~8を工程2と工程3の間に実施し、場合により、工程6~8を1回又は複数回繰り返して、より高い階層の複雑さを有する少なくとも1つの3次元構造体を作出する方法を、更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】開始構造:異方的エッチングにより単結晶性基材をエッチングして、少なくとも1つの幾何学的形体、又は1つの幾何学的形体の一部を除去することで、幾何学的空洞を生成する。表示された幾何学的空洞は、八面体型空洞又は八面体型空洞の一部である。この空洞は3次元構造体の開始となり、これにより、好ましくは1つ又は複数の頂点を形成する。中間の図では、単結晶性基材中の八面体型空洞は基材の外部と広く接触可能である。右側の図では、単結晶性基材中の八面体型空洞は、開口として八面体型形状の最も広い箇所を有し、基材の外部と接触可能である。G1:単結晶性基材中の既存の空洞の各頂点に八面体型空洞を作出する、異方的エッチングの第2段階の概略表示。
【
図2】非晶質二酸化ケイ素フラクタルの走査型電子顕微鏡像。A)20μmピッチの正方形配列、B)12μmピッチの六角形配列、C)G0、D)G1、E)G2、F)G3、G)G4の構造。A)及びB)におけるサイズバーは20μmを表し、C)~G)における画像では、サイズバーは2μmである。
【
図3】六角形配列無機フラクタル表面上への播種後13日におけるCAF。A)対照、B)G0、C)G1、D)G2、E)G3、F)G4。青色蛍光シグナルは核のDAPI染色によるものであり、赤色蛍光は、細胞骨格のアクチンフィラメントを標識するTRITC-ファロイジンと関係する。下にあるフラクタルを透過光によって可視化した。矢印は引き伸ばされた核を表す。サイズバーは100μmを表す。
【
図4】正方形配列無機フラクタル表面上への播種後8日におけるCAF。核をDAPI(青色)によって染色し、アクチンフィラメントをTRITC-ファロイジン(赤色)によって染色する。蛍光顕微鏡像中のサイズバーは100μmを表し、EM画像中では20μmを表す。
【
図5】G3正方形構成上で8日間成長させたCAFの拡大図。核をDAPI(青色)によって染色し、アクチンフィラメントをTRITC標識ファロイジン(赤色)によって染色する。葉状仮足は、アクチン蓄積に起因してより明るい赤色をしている。核は引き伸ばされるが、フラクタル間に位置する。
【
図6】(A)1日目におけるCAF及び(B)G0Sqr上での培養の6日目におけるCAF細胞上の腫瘍スフェロイドの光学顕微鏡観察。
【
図7】正方形構成上で成長させたhADSCの、24時間(中段の図)及び48時間(下段の図)後における光学顕微鏡観察。上段の図は対応するフラクタル構造体を示す。
【
図8】G2Hex上で培養の1日後における、ヒト脂肪由来幹細胞(hADSC)。緑色のシグナルは、ニューロスフェアのバイオマーカーであるネスチンを示し、赤色のシグナルは、成熟ニューロンの核マーカーであるNeuNの存在を表す。青色のシグナルは核の染色による。
【
図9】(上段の図)播種から48時間後における、各種フラクタル構造化表面上でのCOLO205の光学顕微鏡観察像。細胞は2D細胞シートを形成するのみである。(下段の図)細胞は、細胞低接着性PEG6000(Carlo Erba)被覆上でもシート状に成長する。
【
図10】HFエッチング後における、錐型の凹みの頂点での熱成長非晶質二酸化ケイ素の選択的開口。応力に誘発された酸化の遅延が、2つより多くの平面が交差する入隅部においてより明瞭となる点に注目されたい。
【
図11A】上段及び中段:2、3及び4つの交差する(111)-Si平面の、3D及び上面視概略表現。下段:HF中でエッチングしたときの、2、3及び4つの(111)-Si平面の交線の上面視SEM画像:頂点の時間依存的な開口が視認される。
【
図11B】頂点及びリボンにおける、1% HF中のエッチング時間の関数としての残留酸化物厚さ(開始時酸化物厚さ160nm(左)又は88nm(右)):時間窓Δt内では頂点のみが開放されている。加工処理を進めることで、開始時酸化物厚さを25nmとすることができる。
【
図12】3次元構造体をガラス表面に結合させる。その後、単結晶性基材をエッチングする前に、単結晶性基材を薄化してもよい。単結晶性基材を部分的にエッチング除去することができ、これにより、3次元構造体の一部が、例えば、細胞培養の目的に利用可能となる。
【
図13】3名の患者(P1、P2、P3)のHCC原発腫瘍から単離されたCAF富化細胞集団の上皮、幹細胞性、及び間葉系マーカーの分析。陽性細胞の百分率及び/又は抗体染色細胞集団の平均蛍光強度(MFI、算術(A-Mean)及び幾何(G-Mean)平均として表される)を報告する。蛍光値は、対照/アイソタイプ関連シグナルに対して規格化されている。
【
図14A】ビメンチン(赤色)及び活性化線維芽細胞のマーカーであるα-SMA(緑色)に対する抗体で染色した、原発性肝臓癌からのCAFの単離物の2D細胞培養における第1継代。核をDAPI(青色)で染色した。
【
図14B】3名の患者の肝臓癌から単離された富化CAFによって形成され、6日間培養された、G0Hex上の細胞クラスター及びスフェロイド。100μm。
【
図15A】G0Hex鋳型上で成長させたスフェロイド。α-SMA(赤色)陽性2D CAF層上の2つのスフェロイドの、共焦点顕微鏡像のZ-stack。核をDAPI(青色)で染色した。
【
図15B】G0Hex鋳型上で成長させたスフェロイド。スフェロイドの共焦点像。腫瘍細胞はAFP(緑色)について陽性であり、α-SMA(赤色)について陽性のCAFに取り囲まれている(矢印)。2D細胞層はCAFからなり、腫瘍を細胞層と接続する。DAPIは核を染色する(青色)。
【
図16】フラクタル鋳型上の細胞をα-SMA(赤色)、AFP(緑色)、及び核(DAPI、青色)について染色した。(A)G0Hex上の腫瘍周囲組織。腫瘍細胞が存在しないことにより、AFPシグナルがない。(B)G0Sqr上の腫瘍組織、及び(C)G1Hex上の腫瘍組織。CAFの排他的な成長により、AFPシグナルがない。スケールバーは100μmを示す。
【
図17】(A)G0Hex上でHLF細胞株から成長させたスフェロイドの、4日目における落射蛍光像。挿入図はDAPIシグナルのみを示し、矢印は、例としてサイズ分布について考慮されるスフェロイドのサイズを指し示す。(B)ImageJを用いた画像解析によって決定した、フラクタル上のスフェロイドサイズ分布の図。(C)Matrigel中に包埋されたHLF細胞スフェロイドの、13日目における光学顕微鏡観察。(D)ImageJを用いた画像解析によって決定した、Matrigel中のスフェロイドのサイズ分布の図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本開示は、3次元構造体、好ましくはフラクタル構造体を含む無機細胞培養鋳型上で3次元細胞クラスターを作製するための方法を提供する。本明細書で記載される細胞培養鋳型は、初代細胞の細胞培養及び/又は組織工学に寄与することができる。細胞培養鋳型を、様々な細胞培養の目的、例えば3D細胞培養、幹細胞分化の誘導、及び多細胞オルガノイドの培養のために使用することができる。
【0046】
本開示は、細胞培養物を維持する表面を有する少なくとも1つの3次元構造体を有する細胞培養鋳型を作製する方法であって、少なくとも1つの3次元構造体が、好ましくはマイクロ及びナノ加工によって作製された、好ましくはフラクタル構造体であり、以下の工程:
工程1:単結晶性基材、好ましくは単結晶性ケイ素基材を用意する工程と、
工程2:単結晶性基材から少なくとも1つの幾何学的形体を除去して、好ましくは1つ又は複数の頂点を形成する、3次元構造体の開始となる幾何学的空洞、好ましくは八面体型空洞又は八面体型空洞の一部を単結晶性基材に生成する工程と、
工程3:基材における幾何学的形体の表面上に基礎3次元構造体材料、好ましくは酸化ケイ素、好ましくは非晶質二酸化ケイ素を成長及び/又は堆積させて、3次元構造体を形成する工程と、
工程4:少なくとも1つの3次元構造体を支持基盤、好ましくはホウケイ酸ガラスの表面に結合させる工程と、
工程5:少なくとも1つの3次元構造体の周囲の単結晶性基材の塊を取り除く工程と
を含み、
単結晶性基材の塊を取り除いた後、少なくとも1つの3次元構造体の表面に細胞を成長可能条件下で設置して細胞培養鋳型を作製する方法を提供する。
【0047】
好ましくは、前記方法は、以下の工程:
工程6:単結晶性基材を処理して、次の工程に適合する保護層を形成する工程と、
工程7:保護層に1つ又は複数の孔、好ましくは1つ又は複数の頂点の各々に以降の工程に適合する孔を作出する工程と、
工程8:1つ又は複数の孔を通じて、単結晶性基材における少なくとも1つの幾何学的形体、好ましくは八面体又は八面体の一部を除去し、その後保護層を剥ぎ取る工程と
を更に含み、
工程6~8を、請求項1に記載の方法の工程2と工程3の間に実施し、場合により、工程6~8を1回又は複数回繰り返して、より高い階層の複雑さを有する少なくとも1つの3次元構造体を作出し、
好ましくは、方法の工程6~8を2~10回、好ましくは2~5回繰り返して、より高い複雑さを有する3次元構造体を作製する。
【0048】
細胞培養鋳型は、細胞を培養し成長させるために使用することができる産物である。特に、「細胞培養鋳型」という用語は、細胞をその上で培養し成長させることができる、本発明の方法で調製される3次元構造体、特に足場を指す。細胞培養鋳型は、細胞を細胞培養培地中で成長させるために使用することができる、少なくとも1つの鋳型を含む。鋳型は、細胞が付着することができる表面を含む。
【0049】
本開示の細胞培養鋳型は、少なくとも1つの3次元構造体を含む。かかる3次元構造体を鋳型の表面上に設置することができる。構造体は表面から上方へ立ち上がり、表面積を増加させることができる。好ましくは、構造体は、表面から上方に0.1から50μmの間の最大高さを有する。好ましい実施形態において、構造体は底面に対して直角の方向を向き、1nm~100μm、好ましくは50nm~50μmの範囲の寸法を有する。好ましい実施形態において、3次元構造体の体積及び面積は、第1の幾何学的空洞のサイズによって定義され、好ましくは、フットプリントとも呼ばれる第1の幾何学的形状の面寸法は、1から2500μm2の間である。
【0050】
細胞培養鋳型における細胞は、3次元構造体に付着してもよい。好ましくは、3次元構造体は、ナノ部分構造を有する3Dナノ構造体である。
【0051】
好ましい実施形態において、細胞培養鋳型における3次元構造体はフラクタル構造体である。フラクタル構造体は異なるスケールで相似パターンを呈し、これは自己相似と呼ばれる。「フラクタル」という用語は、本明細書で使用される場合、相似な部分に繰り返し分割することができるか、又は元のパターン(即ち、形状又は幾何図形的配列)と同一若しくは相似である、より意味のある部分に繰り返し増加させることができるパターン(即ち、形状又は幾何図形的配列)を意味し、これを含む。
【0052】
細胞培養鋳型の1つ又は複数の3次元構造体は、マイクロ及びナノ加工によって作製される。マイクロ技術において、「マイクロ」という用語は、関係する寸法が、好ましくは100μm未満であるがこれに限定されない、マイクロメートル範囲であることを意味する。ナノ技術において、「ナノ」という用語は、関係する寸法が100nm未満であることを意味する。本出願において、「ナノ」という用語は、関係する寸法が数百ミクロン(μm)まで、好ましくは100ミクロン(μm)から10ミクロン(μm)の間である構造体も包含する。下限は約1nm、好ましくは約5又は100nmである。
【0053】
作製された3次元構造体は、10nmから100μmの間のサイズを有する。好ましい実施形態において、3次元構造体は、1から50μmの間、より好ましくは1から25μmの間のサイズを有する。
【0054】
細胞培養鋳型の3次元構造体は、単結晶性基材を使用して作製される。単結晶又は単結晶性固体は、試料全体の結晶格子が試料の端部に向かって連続していて切れ目がなく、結晶粒界のない材料である。単結晶性基材は全体に亘って単結晶で構成される一方、多結晶性は、ランダムな配向の非常に小さい結晶の凝集体で構成される。単結晶性の例は、単結晶性ケイ素、サファイア、石英、Ge(ゲルマニウム)、又はGaN(窒化ガリウム)である。
【0055】
好ましい実施形態において、単結晶性基材は単結晶性ケイ素である。単結晶性ケイ素は単結晶ケイ素とも呼ばれ、モノc-Si又はモノ-Siと略記される。これは、固体全体の結晶格子がその端部に向かって連続していて切れ目がなく、いかなる結晶粒界も含まないケイ素からなる。
【0056】
低圧型SiO2多形である石英、トリディマイト、及びクリストバライト、並びにその高圧型多形であるコーサイトにおいて、ケイ素は酸素によって四面体配位されている。高圧型SiO2多形であるスティショバイトにおいて、ケイ素は6個の酸素によって配位されている。
【0057】
3次元構造体を作製するために、少なくとも1つ又は複数の幾何学的形体を単結晶性基材から除去する。幾何学的形体は、錐、八面体、四面体、立方体、直方体、又は円錐等の様々な形状を有し得る。好ましくは、幾何学的形状は1つ又は複数の頂点を有する。好ましい実施形態において、幾何学的形体は八面体の形状を有する。
【0058】
一部の実施形態において、幾何学的形体を基材から部分的に除去することができる。例えば、形状の4分の3、2分の1又は4分の1を単結晶性基材から除去することができる。幾何学的形状を除去した後、単結晶性基材中に幾何学的空洞が存在する。この空洞を開始空洞とも呼ぶ。
図1は、単結晶性基材中において部分的に又は全体が除去された八面体構造を模式的に示す。
【0059】
好ましい実施形態において、幾何学的空洞は、3次元構造体の開始となる単結晶性基材中の八面体型空洞であり、これにより、
図1に表示されるように、好ましくは1つ又は複数の頂点を形成する(開始構造)。
【0060】
幾何学的形体を、材料を取り除くための様々な方法によって単結晶性基材から除去することができる。例えば、幾何学的形体を、エッチング又は穴開けによって実施される除去工程によって除去することができる。好ましくは、単結晶性基材からの材料の除去は、エッチングを使用して実施される。例えば、異方的エッチングによって基材に幾何学的空洞をエッチングで生成する。異方的エッチングは、幾何学的形状を得るために特定の方向で材料を取り除くことを目的とする、除去的マイクロ加工技法である。好ましくは、エッチング技法を異方的エッチングとして使用することができる。湿式技法は、構造体の結晶特性を利用して結晶方位に支配された方向にエッチングする。一部の実施形態において、水酸化カリウム(KOH)が単結晶性基材の異方的エッチングのために使用される。
【0061】
幾何学的形体を単結晶性基材から除去した後、得られた単結晶性基材中の幾何学的空洞を処理して保護層を形成する。一部の実施形態において、本明細書で記載される基礎3次元構造体材料は、好ましくは酸化ケイ素又は窒化ケイ素、より好ましくは二酸化ケイ素である。
【0062】
一部の実施形態において、空洞を画定する表面は、熱成長酸化物の層及び窒化ケイ素の層によって形成される。窒化ケイ素の層を、低圧化学気相成長(LPCVD)と、その後のコーナーリソグラフィー及びケイ素の局所的酸化とによって適用することができる。次に、残留する窒化物及びその下の薄い酸化物の選択的剥取りを行った後、ケイ素の異方的エッチング工程を行う。
【0063】
他の実施形態において、保護層を形成するための処理は熱酸化である。この非晶質二酸化ケイ素層を、入隅部を除いて追従するように成長させる。
【0064】
一部の実施形態において、保護層を形成するための処理は熱酸化である。形成された幾何学的空洞は、摂氏950から1500度の間の温度での熱酸化に曝される。この温度では、除去された構造体の表面が酸化することになる。得られた酸化ケイ素が保護層を形成する。層の厚さは、熱酸化工程の温度及び継続時間に依存する。好ましい実施形態において、酸化物層は少なくとも25nmの厚さであり、好ましい厚さは160nmである。一部の実施形態において、酸化物層は25から160nmの間の厚さであり、より好ましい実施形態において、酸化物層は88から160nmの間の厚さである。
【0065】
好ましい実施形態において、単結晶性基材は単結晶性ケイ素である。単結晶性ケイ素の熱酸化により、酸化ケイ素の保護層が生じることになる。好ましい実施形態において、ケイ素の熱酸化は摂氏1100度で実施される。ケイ素の酸化により、好ましくはケイ素結晶全体が非晶質である、二酸化ケイ素の追従的な層を生じる。この過程では、出隅部周囲の追従的な層が得られる。複数、例えば、3つ又は4つの平面の交差部において、酸化物が尖鋭となる。この側面は、時限式等方的エッチングによって頂点のみから酸化ケイ素を取り除きつつ、酸化物層がリボン及び平面に残留するという、有力な手法につながる。一部の実施形態において、ケイ素のプラズマ酸化、ケイ素の陽極酸化、又は窒化(ケイ素の窒化物への熱変換による)等の過程を適用して、保護層を作出することができる。
【0066】
次の工程では、保護層の各々全ての頂点に孔が作出される。この孔は、空洞の更なる層を除去して、多階層の3次元構造体を作出することを可能にする。様々な技法、例えば、コーナーリソグラフィー又は時限式等方的エッチングを使用して孔を作ることができる。
【0067】
一部の実施形態において、孔は時限式等方的エッチングによって作出される。この技法では、頂点からのみ保護層を取り除くことによって孔が作出される。これは、フッ化水素、例えば、1%フッ化水素を使用した時限式湿式エッチングによって行うことができる。或いは、孔の加工のために、他の方法、例えば、低温酸化及び選択的エッチングを適用してもよい。
【0068】
1つ又は複数の孔を使用して、単結晶性基材中の幾何学的形状を有する少なくとも1つの幾何学的形体又は1つの幾何学的形体の一部を除去するもう一段階を施す。好ましい実施形態において、幾何学的形状は八面体である。除去は、1つ又は複数の頂点において形成された1つ又は複数の孔を通じて実施される。
図1(G1)は、既存の空洞の各頂点に八面体型空洞を作出する、除去の第2段階を模式的に示す。
【0069】
例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)中での異方的エッチングにより、各頂点において下にあるケイ素を選択的にエッチングすることにより、次の段階の幾何学的空洞を作出することができる。このエッチング工程により、全ての頂点において同時に空洞が形成されることになる。
【0070】
単結晶性基材の異方的エッチング、熱酸化、及び孔を作出するための保護層の等方的エッチングという流れの繰返しにより、多階層の3次元構造体が生じる。一部の実施形態において、作製方法の工程のこの流れを繰り返して、より高い階層の複雑さを有する3次元構造体を作出する。構造体の後続の各々の層は、より小さい幾何学的空洞を含むことになる。
【0071】
除去された幾何学的空洞に対する保護層の成長及び/又は堆積後、幾何学的形状の外層の各頂点に孔を作る。孔を使用して、単結晶性基中の幾何学的形状を有する少なくとも1つの幾何学的形体又は1つの幾何学的形体の一部を除去するもう一段階を施す。好ましい実施形態において、幾何学的形状は八面体である。除去は、1つ又は複数の頂点において形成された1つ又は複数の孔を通じて実施される。幾何学的空洞の新しい層が形成された後、保護材料を幾何学的空洞から剥ぎ取る。
【0072】
一例として、
図2a)及び
図2b)は、正方形又は六角形の格子で構成された開始構造の2つの異なるレイアウトの上面視走査型電子顕微鏡像(SEM)を示す。
図2c)は、
図1の右端の画像に描画した単一の開始構造形体の斜視図を示す。八面体の幾何学的形状についての例示的な構造体を示す。
図2Cは、1段階の除去で作出することができる単純な3次元構造体を示す。
図2Dは、2段階の除去で作出することができる3次元構造体を示す。
図2Eは、3段階の除去で作出することができる3次元構造体を示す。
図2Fは、4段階の除去で作出することができる3次元構造体を示す。そして
図2Gは、5段階の除去で作出することができる3次元構造体を示す。
【0073】
所望の階層の複雑さに到達すると、幾何学的空洞全体に新しい層が成長及び/又は堆積される。この層を様々な材料から作製することができる。例えば、層を酸化又は窒化によって成長させることができる。或いは、層を窒化物又は酸化物堆積によって作出することができる。細胞がこの層を含む表面において少なくとも1つの3次元構造体に設置されるため、材料は細胞成長と適合性がなければならない。単結晶性構造体の塊を取り除いた後、この作出された層が3次元構造体を形成することになる。したがって、この層は各部が独立した構造を作出するのに十分な厚さを有していなければならない。理論に束縛されることを望むものではないが、材料、材料の厚さ及び構造体の形態が、共に構造体の強度に寄与する。構造体は、構造体上で潜在的に成長する可能性のある細胞を担持するのに十分に頑強でなければならない。好ましい実施形態において、形成された層は、少なくとも25nmの厚さ、より好ましくは少なくとも50nmの厚さである。
【0074】
一部の実施形態において、ケイ素は熱酸化を受けて層を形成する。形成された幾何学的空洞が、摂氏950から1500度の間の温度での熱酸化に曝される。この温度では、除去された構造体の表面が酸化することになり、酸化ケイ素の層が生じる。層の厚さは、熱酸化工程の温度及び継続時間に依存する。好ましい実施形態において、酸化物層は少なくとも25nmの厚さであり、好ましい厚さは160nmである。一部の実施形態において、酸化物層は25から160nmの間の厚さであり、より好ましい実施形態において、酸化物層は88から160nmの間の厚さである。
【0075】
3次元構造体を作製した後、最後に成長又は堆積した層の外側が構造体の機能層を形成し、外表面となる。細胞はこの外表面を使用して、その上にて付着及び/又は成長する。例えば、熱酸化によって層を成長させる場合、層は空洞の表面から成長し、外側へと成長することになる。よって、3次元構造体の表面となる外層が最後に形成される。
【0076】
次に、作製された1つ又は複数の3次元構造体を、表面、即ち支持基盤に結合させ、特に、1つ又は複数の3次元構造体を、基礎3次元構造体材料を成長又は堆積させた表面において支持基盤に結合させる。好ましくは、表面は細胞培養の目的に適する。適切な表面は、セラミック、ガラス、又はプラスチック表面、例えば、
セラミック:窒化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、
ガラス:ホウケイ酸ガラス、及びソーダ石灰ガラス、
ポリマー:ポリスチレン、permanox、ポリジメチルシロキサン
であり得る。好ましい実施形態において、1つ又は複数の3次元構造体をホウケイ酸ガラスの表面に結合させる。
【0077】
作製された1つ又は複数の3次元構造体を、様々な技法によって表面に結合させることができる。一部の実施形態において、構造体を静電結合によって結合させる。好ましい実施形態において、構造体を陽極接合によって結合させる。例えば、400℃におけるMempaxガラスウエハとの陽極接合である。
【0078】
その後、形成された3次元構造体の周囲の単結晶性基材の塊を取り除く。単結晶性の塊を、湿式エッチング工程によって取り除くことができる。例えば、単結晶性基材の塊、好ましくはケイ素を取り除くことは、水酸化テトラメチルアンモニウムに長時間曝露することによって行われる。この段階になると、例えば、3次元構造体の外側は細胞が付着するために接触可能である。単結晶性基材の塊を取り除いた後、3次元構造体の表面に細胞を成長可能条件下で播種及び/又は設置して、細胞培養鋳型を作製する。特に、細胞を、基礎3次元材料、特に酸化ケイ素又は窒化ケイ素、より具体的には二酸化ケイ素又は窒化ケイ素を含む表面において、少なくとも1つの3次元構造体に設置する。
【0079】
細胞及び組織のインビトロ培養には、培地及び栄養分の供給が必要である。培養環境は、pH、酸素供給、及び温度の点で安定でなければならない。細胞培養培地は、多くの場合、細胞及び/又は組織の成長を補助するための平衡塩類溶液、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、及び脂質を含む。各々全ての構成成分の濃度を最適化することで精確な培地配合物が得られることが多い。細胞型ごとに異なる培地組成及び/又は細胞培養条件が必要である。
【0080】
本明細書で記載される3次元細胞培養鋳型を使用して、様々な細胞型を単独又は共培養で培養することができ、様々な種類の細胞培養培地と共に使用することができる。一部の実施形態において、培養細胞は真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞である。好ましい実施形態において、培養細胞はヒト初代又は不死化細胞である。細胞を接着培養物又は懸濁液中で成長させることができる。一部の実施形態において、細胞を細胞培養鋳型の3次元構造体に付着させる。
【0081】
一部の細胞型は、細胞培養鋳型の材料に適切に付着するために、表面改質を必要とする。細胞を播種する前に表面を被覆してもよい。一般的に用いられる被覆は、コラーゲン、フィブロネクチン、及びラミニンである。一部の実施形態において、本発明の細胞培養鋳型を、表面の前処理又は被覆を行うことなく多くの細胞型に対して使用することができる。3次元構造体は、被覆がなくても適切な細胞付着を可能にする。しかし、被覆が望まれる場合、3次元構造体を有する細胞培養鋳型を被覆してもよい。
【0082】
本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法の一部の実施形態において、単結晶性基材中の最初にエッチングで生成された空洞は、エッチング前の定方向の工程によって画定された基材の外側と接触可能である。好ましい実施形態において、ケイ素中の八面体型空洞は、エッチング前の定方向の工程によって画定された基材の外側と広く接触可能である。より好ましい実施形態において、ケイ素中の八面体型空洞は、八面体型形状の最も広い箇所を開口として有し、エッチング前の定方向の工程によって画定された基材の外側と接触可能である。エッチングで生成された空洞が基材の外側と広く接触可能である場合、多階層の3次元構造体の作製がより最適となる。
図1は、単結晶性基材における八面体のエッチングの側面図を模式的に表示する。上段の図は、エッチングで生成された八面体が基材の外側とどのように接触可能になり得るかを表示する。
【0083】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型の少なくとも1つの3次元構造体は、ケイ素を単結晶性基材として使用して作製される。ケイ素の熱酸化により酸化ケイ素の層が生じる。次いで記載される方法の工程3において、二酸化ケイ素の層を成長及び/又は堆積させる。最終工程で、形成された3次元構造体の周囲のケイ素の塊が取り除かれる。ケイ素の熱酸化によって保護層が作出される場合、これにより酸化ケイ素が生じることになる。或いは、ケイ素の熱窒化によって保護層が作出される場合、これにより窒化ケイ素が生じる。
【0084】
ケイ素は化学元素である。単結晶性ケイ素を、本明細書で記載される3次元構造体の作製のために使用することができる。単結晶性ケイ素は単結晶ケイ素とも呼ばれ、モノc-Si又はモノ-Siと略記される。これは、固体全体の結晶格子がその端部に向かって連続していて切れ目がなく、いかなる結晶粒界も含まないケイ素からなる。
【0085】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法を使用して、閉鎖又は開放された頂点を有する3次元構造体を作製する。全ての頂点に孔を作出して調製の最終段階を終えると、開放された頂点を有する3次元構造体を作製することができる。一部の実施形態において、開放された頂点を使用して、溶液を細胞培養物に供給することができる。頂点をも被覆する保護層を形成して調製の最終段階を終えると、閉鎖された頂点を有する3次元構造体を作製することができる。
【0086】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法により、より高い複雑さを有する3次元構造体を作製する。より高い複雑さを有する3次元構造体を作製するために、本方法の工程6~8を2~10回以上、好ましくは2~5回繰り返す。これらの工程の各繰返しにより、一連の
図2C~
図2Gで例示されるように、八面体型構造体の更なる層が生じる。後続の各々の層は、より小さい幾何学的空洞を含むことになる。好ましくは、後続の各々の層は、既存の層の各頂点においてより小さい八面体を含むことになる。
【0087】
一部の実施形態において、作製方法の工程の一部の組を繰り返して、より高い階層の複雑さを有する3次元構造体を作出する(例えば、
図2C~
図2G)。
【0088】
エッチングで生成された幾何学的空洞に対する保護層の堆積後、幾何学的形状の外層の各頂点に孔を作る。孔を使用して、単結晶性基中の幾何学的形状を有する少なくとも1つの幾何学的形体又は1つの幾何学的形体の一部を異方的エッチングで生成するもう一段階を施す。好ましい実施形態において、幾何学的形状は八面体である。異方的エッチングは、1つ又は複数の頂点において形成された1つ又は複数の孔を通じて実施される。その後、幾何学的空洞の新しい層は保護層で保護される。
【0089】
八面体の幾何学的形状についての例示的な構造体を
図2に示す。
図2Cは、1段階の異方的エッチングで作出することができる単純な3次元構造体を示す。
図2Dは、2段階の異方的エッチングで作出することができる3次元構造体を示す。
図2Eは、3段階の異方的エッチングで作出することができる3次元構造体を示す。
図2Fは、4段階の異方的エッチングで作出することができる3次元構造体を示す。そして
図2Gは、5段階の異方的エッチングで作出することができる3次元構造体を示す。
【0090】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法により、突起の規則的なパターンを有する表面を有する3次元構造体が作製される。これらの突起は八面体型構造体から構築され、八面体型構造体は3次元構造体の外側に向かって狭小になっていく。構造体間における外側の狭小部をピッチと定義する。他の要素の中でも、ピッチは、フラクタル生成によって得られる複雑さの3次元的階層によって決定される。
【0091】
フラクタル間の距離は変動し得る。2つの隣接する3次元構造体のいずれかの中心間の距離もまた、ピッチと呼ぶことができる。好ましくは、3次元構造体間のピッチは5~100μm、好ましくは10~50μm、より好ましくは10~25μm、最も好ましくは12~20μmである。3次元構造体間のピッチは、3次元構造体の設置、配列、及びサイズに依存する。例えば、好ましい実施形態において、六角形配列で設置された3次元構造体間のピッチは12μmであり、正方形配列で設置された3次元構造体間のピッチは20μmである。
【0092】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法は、以下のトポグラフィー:
- 錐(G0、
図2C)、
- 頂点に八面体(G1、
図2D)を有する錐、
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体(G2、
図2E)を有する錐、
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体を有し、第2の階層の各頂点に第3の階層の八面体型構造体(G3、
図2F)を有する錐、又は
- 頂点に八面体を有し、八面体の各頂点に第2の階層の八面体型構造体を有し、第2の階層の各頂点に第3の階層の八面体型構造体を有し、第3の階層の各頂点に第4の階層の八面体型構造体(G4、
図2G)を有する錐
のいずれかを有する少なくとも1つの3次元構造体を含む。
【0093】
異なる階層の複雑さは細胞培養鋳型の表面パターンに影響を与える。これらのパターンは、3次元構造体がより高い階層の複雑さを有する場合により精密になる。複雑さの階層が増加すると、3次元構造体間の空間は減少する可能性がある。
【0094】
一部の実施形態において、少なくとも1つの3次元構造体又は3次元構造体を含む細胞培養鋳型全体を、細胞を成長させる前に滅菌する。例えば、化学的手段、高温処理、照射、例えば、オートクレーブ及びUV光によって、構造体を滅菌することができる。好ましい実施形態において、3次元構造体又は細胞培養鋳型全体を、UV、化学的手段及び/又は高温処理を使用することによって滅菌する。
【0095】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法では、少なくとも1つの3次元構造体は複数の3次元構造体を含み、複数の3次元構造体は格子構成で設置される。好ましい実施形態において、構造体は、正方形又は六角形の格子構成で設置され、より好ましくは六角形配列である。
【0096】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型を作製するための方法は、単結晶性基材の塊を部分的に取り除く工程を含む。この実施形態に関して、単結晶性基材の塊は、複数の形成された3次元構造体の周囲で部分的にエッチング除去される。好ましい実施形態において、単結晶性基材の塊は、1つ又は複数の3次元構造体を含む複数のコンパートメントを作出するように、部分的にエッチング除去される。単結晶性基材の塊の輪をエッチングされないまま残すことによって、これらのコンパートメントをウェルの形態とすることができる。ケイ素の輪によってウェル同士が隔てられ、ウェルが流体を収容することができるようになる。これらのウェルは細胞を培養するのに適する。更に、残された単結晶性基材の塊の構造体は、フラクタル構造体を保護することができる。部分的エッチング工程を
図11に図示する。
【0097】
フラクタル間の距離は変動し得る。2つの隣接する3次元構造体のいずれかの中心間の距離もまた、ピッチと呼ぶことができる。好ましくは、3次元構造体間のピッチは5~100μm、好ましくは10~50μm、より好ましくは10~25μm、最も好ましくは12~20μmである。3次元構造体間のピッチは、3次元構造体の設置、配列、及びサイズに依存する。好ましい実施形態において、六角形配列で設置された3次元構造体間のピッチは12μmであり、正方形配列で設置された3次元構造体間のピッチは20μmである。
【0098】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型は、少なくとも1つの絶縁体を更に含む。絶縁体は、電子を自由に流さない材料からできている。結果として、電場の影響下において絶縁体中をほとんど電流が流れないことになる。非晶質二酸化ケイ素は絶縁体に適した材料である。したがって、本明細書で記載される3次元フラクタル構造体は、細胞培養鋳型において絶縁体として機能することができる。好ましい実施形態において、絶縁体は非晶質二酸化ケイ素の3次元構造体である。
【0099】
一部の実施形態において、本発明の方法は、工程9:少なくとも1つの3次元構造体に無機層を設ける工程を更に含み、これにより、無機層が基礎3次元材料と接触する、即ち、無機層が基礎3次元材料を含む少なくとも1つの3次元構造体の表面に設置される。前記工程9は、工程5の後且つ少なくとも1つの3次元構造体に細胞を成長可能条件下で設置して細胞培養鋳型を作製する前に実施される。前記無機層は、好ましくは、追従型堆積又は定方向堆積によって設けられる。より好ましくは、無機層は、原子層体積(ALD;追従型堆積の場合)、物理気相成長(PVD)又はスパッタリング(いずれも定方向堆積の場合)を使用して基礎3次元材料上に堆積される。これら3つの技法は当技術分野において周知である。
【0100】
前記層は、前記3次元構造体の少なくとも一部、特に、細胞が設置されることになる構造体の一部に、細胞が前記層上で培養されるように設けられる。よって、本発明の方法の好ましい実施形態において、前記方法は、工程9:少なくとも1つの3次元構造体に無機層を設ける工程を更に含み、これにより、前記工程9が、工程5の後且つ少なくとも1つの3次元構造体に細胞を成長可能条件下で設置して細胞培養鋳型を作製する前に実施され、これにより、前記無機層が設けられる、構造体の少なくとも一部に前記細胞が設置される。即ち、前記細胞は、無機層を含む少なくとも1つの3次元構造体の表面に設置され、特に、細胞は無機層に設置される。好ましくは、細胞はその後前記層上で培養される。
【0101】
無機層が設けられた3次元構造体の前記一部は、好ましくは3次元構造体の表面積の少なくとも25%であり、好ましくは、その後、前記無機層が設けられた、構造体の少なくとも一部に細胞が設置される。より好ましくは、3次元構造体の表面積の少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%である。
【0102】
一実施形態において、3次元構造体の本質的に表面全体に無機層が設けられ、好ましくは、その後、前記無機層が設けられた、構造体の少なくとも一部に細胞が設置される。
【0103】
前記無機層は細胞培養に適合している。
【0104】
一部の実施形態において、無機層は、好ましくは、白金、金、銀又はこれらの組合せを含む。
【0105】
好ましい実施形態において、前記無機層は、例えば、高解像度分子決定、例えば、神経細胞の電気シミュレーション及び記録のための、表面増強ラマン分光法による測定を可能にする。
【0106】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型は、少なくとも1つの金属部分を更に含む。金属部分は細胞培養鋳型に、細胞培養物に影響を与え得る他の特性を与えることができる。
【0107】
好ましい実施形態において、金属部分は、本明細書で記載される細胞培養鋳型の3次元構造体の一部である。金属部分を3次元構造体に埋没又はパターニングすることができる。金属部分は、本明細書で記載される3次元構造体に他の特性を与えることができる。3次元部分における金属部分は電流を促進することができる。電流は、培養中の細胞に影響を与える可能性がある。例えば、電流は、細胞培養物中の細胞形態及び/又は細胞伸展に影響を与える可能性がある。金属部分はまた、3次元構造体の可撓性を増加させる可能性がある。
【0108】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型における金属部分を、培養中の細胞又は組織の外部刺激のために使用する。この外部刺激を3次元構造体によって実施することができる。例えば、細胞培養中の細胞及び/又は組織の外部刺激を使用して、波の合成リズムを誘起することができる。
【0109】
3次元構造体を含む細胞培養鋳型及び外部刺激を実施することが可能であることは、筋肉細胞、とりわけ心筋細胞の培養にとって大きな利点となり得る。したがって、本明細書で記載される細胞培養鋳型により、筋肉細胞技術及び/又は心筋細胞培養技術を改善することができる。更に、ニューロン及びニューロンのシナプスを、電場又は変動磁場によって刺激することができる。したがって、本明細書で記載される細胞培養鋳型を使用して、ニューロン及び/又は神経組織を培養し、細胞培養中にこれらの細胞をシミュレートすることができる。
【0110】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型は、細胞刺激のために電極を使用する。好ましい実施形態において、3次元構造体は、細胞刺激のための電極として機能することができる。培養中の細胞を細胞培養鋳型の3次元構造体に付着させることができる。したがって、これらの構造体を介した刺激は直接細胞に到達することになる。直接接触はシグナルの良好な伝達に寄与する。
【0111】
本開示は、細胞培養物、特に、初代細胞を含む細胞培養物を成長させ維持するための細胞培養鋳型を更に提供する。細胞培養鋳型は、細胞成長表面、例えば、非晶質二酸化ケイ素の表面上に播種された細胞を含む。表面は、支持基盤、例えば、ホウケイ酸ガラスの層に担持された少なくとも1つの3次元フラクタル構造体によって画定されている。
【0112】
細胞培養鋳型の表面は、支持層上に均等に分布された、多数の、好ましくは少なくともほとんど同一の3次元フラクタル構造体によって画定されていてもよい。一部の実施形態において、支持層上の多数の3次元フラクタル構造体のうちの一部が単結晶性基材で覆われ、多数の3次元フラクタル構造体のうちの他の3次元フラクタル構造体が露出して、即ち、単結晶性を有さずに、細胞成長表面を形成する。単結晶性基材は、1つ又は複数の露出したフラクタルを有する1つ又は複数の細胞成長コンパートメントを画定するように配置される。一部の実施形態において、細胞培養鋳型には、細胞層の、単結晶性基材の頂部にあり単結晶性基材に支持された細胞成長表面と反対の側に蓋が設けられる。
【0113】
本開示は、本明細書で開示される方法によって作製された細胞培養鋳型を使用する工程と、細胞、組織及び/又はオルガノイド構造体を播種する工程と、播種された細胞、組織、又はオルガノイドを培養する工程とを含む、細胞又は組織を培養するための方法を更に提供する。
【0114】
細胞を接着培養物又は懸濁液中で成長させることができる。一部の実施形態において、細胞を細胞培養鋳型の3次元構造体に付着させる。3次元構造体は、細胞と細胞培養鋳型の間の接着を増強させることができる。理論に束縛されることを望むものではないが、細胞の接着が、成長及び分化のために必要とされるシグナルをもたらす可能性がある。ほとんどの初代細胞は、インビトロで適切に成長するための表面を必要とする。
【0115】
本明細書中の実施例で実証されるように、本発明の方法によって作製された細胞培養鋳型は、単一工程での初代線維芽細胞又は他の運動性細胞の精製を可能にする。精製は、運動性細胞、例えば、線維芽細胞の鋳型の空いた空間中への選択的な移行によって起こる。これは特にG1以上の世代の鋳型に当てはまり、その際、運動性腫瘍細胞が排除される。
【0116】
細胞型ごとに異なる細胞培養条件が必要となる。一部の細胞型は、細胞培養鋳型の材料に適切に付着するために、表面改質を必要とする。細胞を播種する前に表面を被覆してもよい。一般的に用いられる被覆は、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニンである。本発明の細胞培養鋳型を、表面の前処理又は被覆を行うことなく多くの細胞型に対して使用することができる。3次元構造体は、被覆がなくても適切な細胞付着を可能にする。しかし、被覆が望まれる場合、3次元構造体を有する細胞培養鋳型を被覆してもよい。
【0117】
本明細書で記載される3次元細胞培養鋳型を、様々な種類の細胞培養培地と共に使用することができる。
【0118】
一部の実施形態において、細胞培養鋳型中に細胞を播種しこれを培養する前に、細胞を解離させる。細胞を、ピペッティングによる機械的解離又はコラゲナーゼを添加することによる酵素的解離等の公知の技法によって解離することができる。解離された細胞を、細胞培養鋳型中に単一細胞として播種することができる。
【0119】
一部の実施形態において、更なる処理を行うことなく、細胞を多細胞組織片として細胞培養鋳型中に播種する。
【0120】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞を培養する方法のために、細胞を細胞培養鋳型中に播種する前に、更なる工程を使用して特定の細胞型を単離してもよい。
【0121】
一部の実施形態において、細胞培養鋳型中に播種された細胞は、本明細書で記載される細胞培養鋳型中に播種される前に、別の細胞培養鋳型中でも培養されている。例えば、細胞を懸濁液又は2D細胞培養鋳型中で培養してもよい。
【0122】
好ましい実施形態において、培養細胞又は組織は初代細胞であり、好ましくは、細胞は初代組織細胞である。一部の実施形態において、初代細胞は初代腫瘍細胞である。一部の実施形態において、細胞はがん関連線維芽細胞である。
【0123】
初代細胞は、組織から直接単離された細胞である。例えば、これらの初代細胞は、上皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、メラニン細胞、内皮細胞、筋肉細胞、造血、及び間葉系幹細胞であり得る。培養物は不均一であり得る。細胞培養物を、異なる細胞型を共培養するために使用することもできる。一部の実施形態において、3次元細胞培養鋳型中で培養された初代細胞は、上皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、メラニン細胞、内皮細胞、筋肉細胞、造血及び/又は間葉系幹細胞である。一部の実施形態において、培養物は不均一であり、様々な細胞型を含む。
【0124】
更に、初代細胞は、健康又は病気の組織、例えば、腫瘍に由来していてもよい。腫瘍に由来する初代細胞は初代腫瘍細胞と呼ばれる。これらの細胞は腫瘍細胞であってもよいが、腫瘍の微小環境中に存在して腫瘍細胞を補助する細胞であってもよい。例えば、がん関連線維芽細胞である。一部の実施形態において、培養細胞はがん関連線維芽細胞である。
【0125】
初代細胞は、その環境に非常に敏感であることが知られている。公知の培養鋳型において、これらの細胞は、栄養分及び/又は他の因子、例えば、成長因子の追加的な供給を必要とする。これらの追加の因子は、各々の細胞型についてカスタマイズされなければならない。例えば、内皮細胞は、外皮細胞又はニューロンと非常に異なる要件を有する。
【0126】
初代細胞は扱いがより難しいものの、初代細胞を使用する実験はインビボ環境により関連性があり、よりこれを反映すると考えられる。初代細胞は、その元となる組織の形態的及び機能的性質を保持している。したがって、これらの細胞はヒトのインビボ状況を正確に表す可能性がある。例えば、初代腫瘍は大半の腫瘍マーカー及び公知のマイクロRNAを保存する。
【0127】
本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型は、これらの初代細胞の成長及び生存を補助することができる。理論に束縛されることを望むものではないが、3次元培養鋳型の材料、形状及び/又はパターンが、初代組織細胞を補助する可能性がある。細胞は、3次元構造体の空間的制限に対して自らの形態をとる。実験の部で示されるように、これにより、初代細胞、例えば、がん関連線維芽細胞を潜在的に活性化させることができる。
【0128】
初代細胞は、自己再生及び分化の潜在能力が限定されていることが知られている。これらの細胞をより長い期間培養すると、これらは形態的及び機能的変化を示す。本明細書で記載される3次元培養鋳型は初代細胞を補助することができる。したがって、これらの細胞はその組織特異的性質をより長い期間維持することになり、このことにより、これらの細胞に関するより詳細な研究を実施することができる。
【0129】
がん関連線維芽細胞は、腫瘍微小環境中に存在する非腫瘍細胞である。腫瘍微小環境は多細胞腫瘍補助系であり、間葉系、内皮系及び造血系由来の細胞を含む。これらの細胞は腫瘍細胞と密接に相互作用し、腫瘍形成に寄与する。腫瘍微小環境は抗がん薬の開発の標的でもある。したがって、腫瘍微小環境から得た細胞、例えば、腫瘍関連線維芽細胞を培養することは、腫瘍標的薬物の研究にとって価値がある。
【0130】
本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法の好ましい実施形態において、細胞は、幹細胞、好ましくは間葉系幹細胞、成体幹細胞、脂肪成体幹細胞及び/又は人工多能性幹細胞である。一部の実施形態において、細胞は前駆細胞である。好ましい実施形態において、幹細胞は胚又は胚組織に由来しない。好ましくは、幹細胞は胚性幹細胞ではない。
【0131】
幹細胞は自己再生することができ、組織特異的細胞に分化することができる。したがって、これらの細胞は多くの用途を有し、幹細胞及び前駆細胞の培養には大きな関心が持たれている。本明細書で記載される少なくとも1つの3次元構造体を含む細胞培養鋳型は、幹細胞に対する培養条件を最適化することができる。理論に束縛されることを望むものではないが、3次元培養鋳型の材料、形状及び/又はパターンが幹細胞を補助し、これらが特定の細胞型に分化するのを可能にする可能性がある。
【0132】
一部の実施形態において、本明細書で記載される細胞培養鋳型を使用して、機能的3D構造体を成長させる又は作出することができる。一部の実施形態において、本明細書で記載される培養のための方法における細胞は、複雑な細胞集合体、好ましくは多細胞オルガノイドを形成する。
【0133】
オルガノイドは、インビトロにおいて3次元で作製された、臓器の小型化及び単純化版である。これらのオルガノイドは多細胞であり、現実的な微視的解剖学的形態を示す。これらは、組織、幹細胞、又は人工多能性幹細胞から得た1つ又は少数の細胞に由来する。これらのオルガノイド中の細胞を組織化させ、頂端部及び基底部側を有するように極性化させることができる。記載される細胞培養鋳型の3次元構造体はオルガノイド構造体の形成に寄与し、これらの構造体が成長するのを補助することができる。
【0134】
好ましい実施形態において、培養鋳型の3次元構造体の形状、材料及び/又はパターンは、細胞の組織特異的細胞への分化を補助し、したがって、オルガノイドの形成を刺激する。例えば、個別化された化学療法のためのインビトロ試験としての、バイスタンダー細胞を有する患者由来の微小腫瘍である。ニューロスフェアは、脊髄損傷及び他の神経損傷、又は神経学的障害に対する移植片を作出するための、ニューロンの前駆体である。
【0135】
一部の実施形態において、培養幹細胞は、3次元構造体を含む組織培養鋳型中で培養されると、分化を行う。好ましい実施形態において、細胞は幹細胞分化を行う。分化は、3次元構造体の形状、材料及び/又はパターンによって開始され得る。好ましい実施形態において、分化は、構造体の錐型形状及びパターンによって開始される。パターンに関しては、3次元構造体同士の距離が重要である。
【0136】
細胞及び組織のインビトロ培養には、培地及び栄養分の供給が必要である。培養環境は、pH、酸素供給、及び温度の点で安定でなければならない。細胞培養培地は、多くの場合、細胞及び/又は組織の成長を補助するための平衡塩類溶液、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸及び脂質を含む。各々全ての構成成分の濃度を最適化することで精確な培地配合物が得られることが多い。細胞型ごとに異なる培地組成が必要となる。
【0137】
更に、細胞の培養には血清の添加が必要とされることが多い。血清は、タンパク質、ペプチド、成長因子、及び成長抑制物質の複雑な混合物である。最も一般的に使用される血清はウシ胎児血清であり、これは広範な細胞型に対して使用される。加えて、培地に成長因子及びサイトカインを補充してもよい。
【0138】
培養中、細胞は培地によって供給される栄養分を使用し、それらの老廃物を培地中に排泄する。したがって、培養細胞又は組織に定期的に新鮮な培地を供給することが重要である。培地を新しくする頻度は、細胞型及び細胞の成長速度に依存する。
【0139】
初代培養物の確立中、多くの場合、宿主組織からもたらされる混入を阻止するために、成長培地に抗生物質を含めることが必要である。
【0140】
単離後、初代細胞は、老化の過程を経、ある特定の回数の細胞分裂後に分裂を止めるか、又は細胞間接触を感知することが多い。初代細胞の生存能を維持することは困難である。細胞の長期間の生存能のためには、適当な培養条件が必須である。血清を培養培地に添加することによって成長因子を供給することが多い。
【0141】
本明細書で記載される細胞又は組織を培養するための方法の一部の実施形態において、培養細胞は、非最適成長条件で成長させ及び/又は保存する。細胞培養鋳型中の少なくとも1つの3次元構造体は培養細胞を補助する。3次元構造体は付着するための適切な場所を提供する。これらの状況が、他の培養条件に適合し、なお細胞培養物を維持することを可能にする。非最適成長条件は、ある特定の因子、例えば、成長因子を培養培地から取り除くことを含んでいてもよい。非最適成長条件はまた、37℃ではなく室温、5%ではなく低いCO2(空気)百分率、細胞の長期間成長、及び/又はより低頻度の培地交換で、細胞培養物を維持することを含んでいてもよい。細胞は非最適成長条件でも生存するので、本明細書で記載される細胞培養プラットフォームは、生細胞及び細胞培養物の輸送に適している。インキュベーターの外に輸送する際、細胞は輸送中、健康なままである。
【0142】
一部の実施形態において、本明細書で記載される通りに作製される、3次元構造体を含む細胞培養鋳型は、非晶質二酸化ケイ素と、構造体に付着した細胞とから構成される。非晶質二酸化ケイ素は、二酸化ケイ素の非結晶性形態である。これを薄膜として堆積させることができるが、それ自体が構造体にもなり得る。非晶質ケイ素は、微結晶としても知られる小さい粒子からなっていない。非晶質構造では、原子位置は短距離秩序にのみ限定される。好ましい実施形態において、非晶質シリカの3次元構造体はSiO2からなる。
【0143】
本明細書で記載される細胞培養鋳型の少なくとも1つの3次元構造体は、顕微鏡観察の目的に適する。したがって、細胞を3次元構造体に付着させながら分析することができる。
【0144】
定義:
本明細書で使用される場合、「含む」及びその活用形は、その非限定的な意味において、この単語に続く項目が包含されるが、具体的に言及されていない項目は排除されないことを意味する。加えて、「からなる」という動詞は、本明細書で定義される化合物又は付随的な化合物が、具体的に特定されたもの以外の、本発明の独特な性質を変えることのない追加の成分を含んでいてもよいことを意味する、「から本質的になる」と置き換えてもよい。
【0145】
「a」及び「an」という冠詞は、本明細書において、冠詞が修飾する1つ又は1つより多くの(即ち、少なくとも1つの)対象を指す。例を挙げると、「an element」は1つの要素又は1つより多くの要素を意味する。
【0146】
「およそ」又は「約」という用語は、数値との関連で使用される場合(およそ10、約10)、好ましくは、その値が、10という与えられた値であるか又は10より1%大きいか若しくは小さくてもよいことを意味する。
【0147】
本明細書において、明瞭さ及び簡潔な記載のために、特徴を本発明の同一又は別の態様又は実施形態の一部として記載する場合がある。当業者は、本発明の範囲が、同一又は別の実施形態の一部として本明細書で記載される特徴のうちの全て又は一部の組合せを有する実施形態を包含してもよいことを理解するはずである。
【0148】
本明細書において引用される全ての特許及び参考文献は、それらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0149】
以下の実施例において本発明を更に説明する。これらの実施例は本発明の範囲を限定するのではなく、単に本発明を明確にする役割をするのみである。
【実施例】
【0150】
(実施例1)
細胞培養は、健康及び疾患における生物学のより良い理解へと向かう、新しい薬物の毒性及び有効性についての試験プラットフォームとしての「役馬」である。生物学及び医学における結果の大部分は2D細胞培養に基づくが、3D細胞スフェロイド又は多細胞オルガノイド複合体がより現実的なモデルであることは周知である。どのように細胞スフェロイドを作製するかについて主に2つの方法があり、i)細胞スフェロイドを液体中に浮遊させるか、又はii)細胞をヒドロゲル中に包埋する。浮遊スフェロイドを作出するためには、培養皿表面に対する細胞付着を防止する必要がある。これは、表面疎水性の増加1又はポリマー堆積2~4、例えば、ハンギングドロップ培養5による全般的な付着の防止、又は表面のナノ若しくはマイクロ構造形成6(例えば、インプラント上におけるチタン表面のテクスチャライゼーション7又はポリマーナノ材料の堆積3,8による)によって達成することができる。しかし、表面の構造化は幹細胞において分化を誘導する可能性もある6。幹細胞の浮遊スフェロイドを誘導するもう1つの形態はペレット化であるため、Konigとそのグループにより、エッペンドルフカップ中における細胞の培養が導入された9。細胞をヒドロゲル(例えば、Matrigel又は他のゲル)中又は3Dスフェロイドを形成するための3D足場上に播種することにより、付着又はより良好に包埋されたスフェロイドを形成することができる10。細胞低接着性表面の医学における主要な用途は、インプラント上又は歯科学3,7,8若しくはより現実的な条件における薬効及び毒性を研究するための実験室における、細菌付着の防止である。どちらの技法も利点と不利な点を有する。浮遊スフェロイドは薬物への曝露に関して誰でも利用可能であり、放出された因子又は細胞外小胞を容易に採取することができる。しかし、その液体は周囲組織の特性を模倣することができない。ゲル包埋スフェロイドは組織に類似した刺激を受けるが、放出された因子を採取すること及びこれを規定の濃度の薬物に曝露することは、周囲のゲルも薬物分子と相互作用することで濃度勾配を生み出すため、難しい。
【0151】
周期的に組織化された、漸増する複雑さ(G0~G4)を有する無機フラクタルを用いた新しい成長プラットフォームを紹介する。このプラットフォームでは、これらのフラクタル表面上において、肝臓癌を有する患者から単離されたがん関連線維芽細胞(CAF)及び脂肪幹細胞の細胞成長を研究する。我々による結果は、ある表面構造が、付着しているが自立しているCAF及び幹細胞の3Dスフェロイドにおいて細胞を成長させることを可能にすること示す。別の構造は、糸状仮足が構造体を取り囲む、2Dに延長された細胞成長を誘発する。
【0152】
材料及び方法
フラクタル調製
フラクタル調製は、Berenschotら
8によって記載されたプロトコールに従う。構造体の六角形及び正方形配列で表面を構造化したが、これらはフラクタル間の距離も異なっており、それぞれ12及び20μmピッチであった。フラクタルの走査型電子顕微鏡(SEM)画像及びフラクタルに覆われた表面を
図2に示す。
【0153】
フラクタルのサイズ増加のため、ピッチにおける自由距離は減少する。Table 1(表1)に、フラクタルのサイズ及び自由距離を示す。
【0154】
【0155】
細胞培養
患者試料の使用に関する全ての方法は、関連するガイドライン及び規制に準拠して実施された。実験は倫理委員会によって認可された。患者はインフォームドコンセントに署名した。
【0156】
肝臓癌組織及びがん関連線維芽細胞(CAF)の単離
外科的切除の直後、HCC腫瘍及び腫瘍周囲検体を0.5~1cmの小片に切断し、MACS組織保存溶液(130-100-008、Miltenyi)中に置いた。これらの組織断片をより小さい小片(1~2mm)に切断し、Hanks平衡塩類溶液(HBSS)中で3回洗浄し、次いで、IV型コラゲナーゼ(17104-019、Life Technologies)及び3mM CaCl2の存在下、HBSS中において37℃で穏やかに回転させながら4時間インキュベートした。この工程の最後に、大型開口50mlピペットを用いて消化された組織を上下にピペッティングすることにより、解離を機械的に促進した。浮遊細胞を採取し、HBSSで3回洗浄し、氷上でこの溶液中に保持した(第1の消化段階)。デカンテーションした部分消化組織検体を第2の段階の消化(上述の通り)に供した。得られた解離細胞(第2の消化段階)をHBSSで2回洗浄し、次いで、第1の消化段階の細胞と合わせ、80rcfで5分間遠心分離して上皮及び線維芽細胞を分離した。上清に含まれている線維芽細胞を100xgで10分間遠心分離し、抗線維芽細胞MicroBeads及びMSカラム(Miltenyi Biotech)を使用し、製造業者による取扱説明書に従って、ペレット中の線維芽細胞をポジティブ選択によって精製した。次いで、CAFをIMDM+20% FBS中で培養した。CAF調製物の純度を調べるため、免疫蛍光又はフローサイトメトリー分析を実施して、ビタミン及び平滑筋アクチンアルファ(αSMA)等の間葉系マーカーの発現を評価した。最小限の混入非線維芽細胞(ほとんどががん性肝細胞、胆管細胞及びマクロファージ)の存在を、EpCAM、CD45、及びCD11bに対する抗体を使用して評価した。
【0157】
CAFをトリプシン処理し、4×105細胞/mlの濃度で完全DMEM培地中に再懸濁させた。50μlの細胞懸濁液(2×104個の細胞を含有)を、6ウェルプレート中に設置された(1つのウェル中に3つ)フラクタル表面被覆鋳型(1×1cm;対照(平坦ケイ素、G0~4、正方形及び六角形配列)上に3連で播種した。まず、フラクタル被覆表面上に規定数の細胞を有するように細胞を排他的に付着させるため、37℃及び5% CO2で、追加の培地を用いることなく細胞を4時間インキュベートした。次いで、鋳型を3mlの完全培地で被覆し、インキュベーター中に置いて、培地を3日毎に交換した。
【0158】
8日目及び13日目に、各試料に対する1つの鋳型をpH = 7.4のリン酸緩衝食塩水(PBS)中4%パラホルムアルデヒドで10分間固定した。固定された細胞を、更なる使用のために+4℃で保存した。
【0159】
ヒト脂肪幹細胞(hADSC)
hADSCに対する細胞培養は、Legzdinaら12によって記載されたプロトコールに従った。簡潔に述べると、細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)(Euroclone、Italy)、20ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(Lonza Sales、Switzerland)、2mM L-グルタミン100μ/ml:100μg/mlペニシリン-ストレプトマイシンを含有するDMEM/F12培地(Euroclone、Italy)中で成長させ、37oC、5% CO2において加湿雰囲気中で培養した。培地を3日毎に取り換えた。
【0160】
COLO 205細胞
転移部位である腹水に由来するヒト結腸腺癌COLO 205細胞株(ATCC(登録商標) CCL-222(商標)、LGC Standards S.r.l.、Italy)を、10%の最終濃度のウシ胎児血清(FBS South America, Euroclone、Italy)、2mMグルタミン(Euroclone、Italy)、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Euroclone、Italy)を添加したRPMI-1640培地(Euroclone、Italy)中で培養した。細胞を、37℃において5% CO2を含有する加湿雰囲気中で培養した。
【0161】
HLF細胞
HLF(JCRB Cell Bank、JCRB0405、Osaka、Japan)は、非分化肝臓癌細胞株である。10%FBS、1mMピルベート、25mM HEPES、100U/mペニシリン-ストレプトマイシンを補充したDMEM培地(Gibco)中で細胞を培養し、37℃において5% CO2を含有する雰囲気中で維持した。
【0162】
フラクタル基材上での培養。
3つのフラクタル被覆鋳型(1cm×1cm)を、実験が3連である場合は6ウェルプレート中に、1つの鋳型のみを使用する場合は24ウェルプレート中に置き、ラミナーフローフード中でUV光の照射により1時間滅菌した。2D培養細胞をトリプシン処理し、4×105細胞/mLの濃度で完全DMEM培地中に再懸濁させた。50μLの細胞懸濁液(2×104個の細胞を含有)を滅菌基材上に播種した。各実験を3連で実施した。まず、フラクタル被覆表面上に規定数の細胞を有するように単一細胞を排他的に付着させるため、37℃及び5% CO2で、追加の培地を用いることなく単一細胞を4時間インキュベートした。次いで、基材を3mLの完全培地で被覆し、インキュベーター中に置いて、培地を3日毎に交換した。初代CAF調製物からの単離物を8及び13日間成長させ、次いで、pH = 7.4のリン酸緩衝食塩水(PBS)中4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、次いで、免疫組織化学的検査のために処理した。HLF細胞をフラクタル表面上で4日間培養した後、固定し染色した。
【0163】
それぞれのCAF細胞を対照として処理済24ウェルプレート(Corning Cellbind Surface)上で成長させたが、ただし、HLFについては、細胞成長をMatrigel中で成長させた細胞と比較した。
【0164】
Matrigel中での培養
30μlのMatrigel(Corning Inc.、USA)を96ウェルプレートのウェルの底に層状に敷き、細胞培養インキュベーター(37℃、5% CO2)中で20分間ゼリー化させた。1000個の肝細胞癌HLF細胞を更に30μlのMatrigelと混合し、第1のMatrigelゲル層上に層状に敷き、インキュベーター中で更に20分間置いた。最後に、90μlの完全DMEM培地をMatrigel包埋細胞に添加し、細胞を13日間成長させて、スフェロイド状多細胞構造体を形成した。培地を2日毎に取り換えた。
【0165】
増殖及びフラクタル表面への接着
Burkerチャンバー中での細胞計数によって増殖を評価した。hADSCを1.4×104細胞/ウェルの密度で、COLO 205細胞を1×104細胞/ウェルの密度で播種した。いずれの細胞株も、37℃、5% CO2において、完全培地中、24ウェルプレート中の6つの異なるフラクタル鋳型上で成長させた、対照条件は、24ウェルプレートのウェル上に直接播種された細胞とした。次いで、24時間後、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)中でくまなく洗浄し、トリプシン/EDTAで剥離し、計数した。値を細胞の絶対数又は基準の数に対するパーセント変動、±s.d.で表現した。2、24、48、及び96時間後、細胞を観察及び写真撮影して、増殖及び接着能力のいかなる差異についても詳細に記録した。各実験点を3回繰り返した。
【0166】
フローサイトメトリー。
以下の抗ヒト抗体を使用して、HCCがん細胞及びCAFを検出するマーカーの分析を実施した:アルファ胎児タンパク質に対するAlexa Fluor 488結合IgG2a(AFP、BD Biosciences、USA)、CD13に対するFITC結合IgG1(Merck、Germany)、CD44に対するFITC結合IgG2b(BD Biosciences、USA)、CD90に対するFITC結合IgG1(BD Biosciences、USA)、CD133に対するFITC結合IgG1(Miltenyi Biotec、Germany)、CD151に対する未結合IgG1(abcam、UK)、EpCAMに対するFITC結合IgG2b(BioLegend、USA)、OV-6に対する未結合IgG1(R&D Systems、USA)、FITC結合IgG1、IgG2a及び IgG2bアイソタイプ対照抗体(Miltenyi Biotec、Germany)、Alexa Fluor 488結合IgGアイソタイプ対照抗体(abcam、UK)、Alexa Fluor 488結合抗マウス抗体。
【0167】
簡潔に述べると、StemPro Accutase Cell Dissociation Reagent(Thermo Fisher Scientific、USA)を使用して細胞を剥離し、CD13、CD44、CD90、CD133、CD151、EpCAM及びOV-6の表面染色のためのフルオロフォア結合抗体と共に、暗所にて4℃で1時間インキュベートした。AFP染色の場合は、抗体インキュベーションの前に、Foxp3/Transcription Factor Fixation/Permeabilization Concentrate and Diluent(eBioscience、Thermo Fisher Scientific、USA)を使用して細胞を固定及び透過処理した。二次Alexa Fluor 488結合抗体を用いた第2のインキュベーション工程(暗所にて4℃で1時間)を実施して、CD151及びOV-6を検出した。フルオロフォア結合アイソタイプ抗体を、AFP、CD13、CD44、CD90、CD133、EpCAMの検出と関連する対照として使用した。Alexa Fluor 488結合抗マウス抗体を、CD151及びOV-6の検出と関連する対照として使用した。Naviosフローサイトメーターを使用して細胞を分析し、Kaluzaソフトウェア(Beckman Coulter)を使用してデータを処理した。
【0168】
蛍光顕微鏡観察
蛍光画像化のために、固定された細胞をPBS中0.1% Triton X-100(2%ウシ胎児血清アルブミンを添加)で15分間透過処理し、次いで、ファロイジン-テトラメチルローダミンBイソチオシアネート(TRITC、Sigma-Aldrich)の存在下で1~2時間インキュベートして、アクチン細胞骨格を可視化した。
【0169】
CAFを腫瘍細胞と区別するため、細胞をAlexa Fluor488と共有結合したAFP抗体(腫瘍)で染色し、また、α平滑筋アクチン(α-SMA、CAF)について染色した。4%パラホルムアルデヒド固定細胞に対して、免疫蛍光画像化によるα-SMA及びα-胎児タンパク質発現の検出を実施した。固定された細胞をPBS中0.1% Triton X-100で10分間透過処理した。細胞をPBSで3回洗浄し、次いで、PBS(PBS+0.1% Tween 20)中1% BSAで30分間インキュベートして抗体の非特異的結合をブロックし、その後、PBS中1% BSA中の希釈された抗体と共に4℃で終夜インキュベートした(α-SMA: Cell Signalling Technology、1:100; AFP: BD Pharmingen、1:100)。細胞をPBS中で3回洗浄し、α-SMAについては、細胞を、PBS中1% BSA中に希釈された(1:50)二次抗体Alexa Fluor(登録商標) 488コンジュゲート(Invitrogen)と共に、暗所にて室温で1時間インキュベートした。
【0170】
PBSで3回洗浄後、接着細胞を有する鋳型の表面を4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)補充抗褪色マウント用培地(VECTASHIELD、Vectorlabs)で覆った。更に、585nmで放射する量子ドットに共有結合された抗限局性接着キナーゼ1(FAK)抗体(SiteClick(商標) Qdot(商標)585 Antibody Labeling Kit; ThermoFisher;注文番号S10451)で細胞を染色した。販売業者による改変されたプロトコールに従ってFAK抗体を標識した。
【0171】
光学顕微鏡観察
4X/0,25 PHP対物レンズを備えたOLYMPUS CKX41顕微鏡によってCOLO 205及びhADSC細胞を可視化した。
【0172】
結果及び考察
フラクタル調製は、Berenschotら
11によって記載されたプロトコールに従う。無機フラクタル構造体をガラス表面上に周期的に堆積させ、ラミナーフローキャビネット中でUV光下への1時間に及ぶ単純な曝露によって滅菌し、初代CAF細胞を、更なる処理を全く行うことなく各種鋳型上に播種した。肝臓癌患者からの単離初代がん関連線維芽細胞(CAF)を、2×10
4細胞の細胞密度で異なる世代及び格子構成のフラクタル基材上に播種した。鋳型サイズは全ての世代(G0~G4)について1cm×1cmであり、ケイ素上に成長させ結合/エッチバックされた平坦エッチングSiO
2(平坦SiO
2)であった。鋳型を、更なる機能付与(例えば、細胞外マトリックス分子の添加)を行わずに24ウェルプレート中に置いた。使用の直前にこれらを1時間のUV曝露によって滅菌した。プラスチック及び平坦SiO
2を対照として使用した。鋳型上に規定数の細胞を与えるため、ウェルを培地で満たす前に細胞を4時間付着させた。これらの成長及び形態を、顕微鏡検査によって毎日モニタリングした。8日目及び13日目に細胞を固定し、核を可視化するためにDAPIによって蛍光染色し、細胞骨格のアクチンフィラメントについてはTRITC-ファロイジンで蛍光染色した。13日目における六角形配列鋳型上のCAFの代表的な画像を
図3に示す。播種から8日後における正方形構成のCAFを、
図4に見出すことができる。
【0173】
以下で我々は、周期的に繰り返すフラクタルによって覆われた表面上で成長させた各種細胞について観察された、いくつかの興味深い特徴を記載する(
図3及び
図4)。
【0174】
全体として、単一細胞で覆われた表面積は、正方形構成の場合の方が六角形構成の場合より大きいことが観察され得る。8日目及び15日目における細胞の形態にほとんど差異が見られない。正方形構成上のCAFは丸く見える一方、六角形構成上の細胞は引き伸ばされ、核も引き伸ばされており(
図3C及び
図3F中の矢印)、よく接続された葉状仮足を発達させている。核は通常はフラクタル間に位置するが、高濃度のアクチン(
図5中の赤色シグナル)によって示されるように、葉状仮足がフラクタルと活発に相互作用していることは明らかである。
【0175】
フラクタル微小構造が各細胞型(CAF、幹細胞、COLO205)の細胞形態、増殖、生存能、分化、及び活性化に与える影響に関する詳細な細胞研究が進行中であり、更なる公開の範囲である。
【0176】
スフェロイド状細胞成長
フラクタル被覆表面の細胞成長プラットフォームとしての最も興味深い結果は、患者の肝臓癌組織から単離されたCAFによるスフェロイド状細胞クラスターの存在であった(
図3及び
図4)。平坦ケイ素表面上で成長させたCAFは、時折、また、両構成のG0においては常に、フラクタルに直接付着した線維芽細胞様細胞の2D層を示し、一部の領域では、この2D細胞層に付着した直径100μm超の3Dスフェロイド状細胞クラスターを示す(
図3B、
図7及び
図5)。通常、G0の両構成及び平坦非晶質SiO
2表面からなる対照において、1×1cmの鋳型当たり16~20個のスフェロイドが観察された。我々は、単一細胞の播種後1日目で既にスフェロイドの前駆体が形成しており(
図6A)、その後これが8日以内で密で大型のスフェロイドに成長した(
図6B)ことを観察した。より大型の細胞クラスターは内部に拡散した青色の蛍光を示すのみだが、これは明確な核が存在しないことを表す。我々は、これはインタクトな細胞の層に囲まれた壊死性コアであると考える。
【0177】
興味深いことに、正方形構成について
図7からわかるように、同じ結果がhADSCについて観察された。
【0178】
まず第一に、細胞培養皿のプラスチック表面と比較して、より多くの数の細胞がフラクタル被覆鋳型上で検出された。しかし、世代が大きくなると(G3,4)細胞をトリプシン処理によって剥離することが難しくなるため、細胞の計数は簡単ではない。24時間後、G0及びG1正方形構成上では細胞のクラスターが形成しつつあるが、G2では細胞層を観察することができる。
図7の下段の図からわかるように、48時間後にクラスターは密なスフェロイドを形成する。六角形構成では、G2鋳型上においてでさえhADSCスフェロイドを我々は観察したが、CAFスフェロイドと異なり、インタクトな細胞(蛍光画像:DAPI(青色)で染色された核; FITC標識抗CD90抗体(緑色)で染色された、幹細胞及びニューロンのバイオマーカーであるCD90)をスフェロイドの内部に見出すことができる。詳細な調査により、フラクタル表面がネスチン陽性ニューロスフェアへの分化を誘導することが確かめられた(
図8)。
【0179】
対照的に、結腸腺癌細胞株COLO205についてはスフェロイド成長が見られなかった。COLO205は、最長で96時間、全ての被験表面において2Dで成長していた(
図9上段の図;G0~G3、両方の構成)。このことは、COLO205は細胞低接着性PEG6000被覆後の他のスフェロイド作製系(
図9下段の図)においても一般にスフェロイドを形成しないという我々の知見とよく一致する
4。
【0180】
Hex格子構成上のCAFは星状細胞のように見え、核も引き伸ばされており、よく発達した葉状仮足がフラクタル構造体に接続している。細胞核は主にフラクタル間に位置している一方、高濃度のアクチン(
図5中の赤色シグナル)によって示されるように、葉状仮足はフラクタルと相互作用する。フラクタルによって誘導される初代細胞の細胞形態、増殖、生存能、プロテオミクス及びゲノミクスに対するトリガーについての詳細な研究が進行中であり、将来の公開の範囲である。
【0181】
Table 2(表2)中の表に要約されるように、我々はフラクタル表面ごとに異なる応答を観察した。
【0182】
【0183】
CAF単離物の場合におけるスフェロイド形成細胞の起源を理解するため、我々は、FACSにより、2D細胞培養からのCAF単離物を各種細胞型のバイオマーカーについて分析した(
図13)。
【0184】
CAF細胞の単離物は、がん幹細胞(腫瘍幹細胞;CD13[14,15]、44、90[15]、133[16]、OV6[15])、上皮細胞(EpCAM[15])、又は一般的な腫瘍細胞(AFP[13])のマーカーに陽性の、異なる量の細胞を含有する。これは
図14Aにおいても見ることができ、2Dで培養した場合、およそ20%の細胞のみがα-SMA(CAF)について陽性である。3名の患者から単離され、FACSによって特徴付けされた細胞(
図13)をG0Hexで6日間培養すると、興味深いことに、患者2及び3の細胞がスフェロイドを形成している(
図14B)。
【0185】
共焦点顕微鏡観察によるスフェロイドのZ-stackから、α-SMA陽性CAF細胞の2D層及び微小腫瘍のスフェロイド状形態が確認された(
図15A)。興味深いことに、2D層はスフェロイドの中心の高さ(頂部及び底部から50μm)に位置しているようである。フラクタルの高さがたった15μmであるので、これは驚くべきことである。スフェロイドが非晶質シリカ層を消化するかどうかを理解するため、有機材料(細胞)をピラニア溶液によってエッチングし、下層を光学顕微鏡観察及び電子顕微鏡観察によって可視化した。無機表面の変化を観察することはできない(データは示さず)。フラクタルは光と相互作用し屈折率の変化を誘発するので、フラクタル中に包埋された微小腫瘍の小部分は歪んで拡大されて見える。
【0186】
次いで、微小腫瘍をAFP(緑色)及びα-SMA(赤色)抗体で共染色した。
図15B中の画像は、線維芽細胞のカプセルがAFPについて陽性の微小細胞を包囲していることを示していた。2D層中にAFPシグナルは見られず、この層がCAFのみからなると確認できる。
【0187】
G0鋳型は複雑な2D-腫瘍スフェロイドクラスターの成長を促す一方、G1以上の世代の場合、腫瘍細胞は鋳型から排除されるように見える(
図3C~
図3F)。これらの鋳型を使用して1工程の過程でCAFを単離することができるかを探るために、腫瘍周囲及び腫瘍組織の小片をフラクタル鋳型上に置いた。2~3日後、最初の星形CAF様細胞がフラクタル鋳型中へと移動し始めた。20日後、組織を取り除き、フラクタル表面に侵入した細胞の層をAFP及びα-SMAについて染色した(
図16)。
【0188】
G0上の腫瘍周囲組織(腫瘍細胞がない)(
図16A)もG1上の腫瘍組織(
図16C)も、AFPについての緑色蛍光をまったく示さない。いずれの場合も、α-SMA(赤色)について陽性の2D細胞層のみが見られる。対照的に、腫瘍片がG0と接触している場合、腫瘍がG0Sqrフラクタル鋳型と接触しており、後に機械的に取り除かれた場所で、赤色のα-SMA抗体と共に局在した緑色のAFP抗体に対応する強い黄色シグナルが検出された。更に、より遠位の細胞においてAFPシグナルが徐々に減少するのが観察された。AFPシグナルのスポット状の外観は、これがアクチン中で濃縮され微小環境中に侵入していることが知られているインベードソームに起因することを示し得る。
【0189】
最後に、線維芽細胞の非存在下では、G0フラクタル鋳型は、例えば、がん細胞株に対してスフェロイドの迅速な形成を誘発し、これは肝臓癌細胞株HLFについて
図17Aに例として見ることができる通りである。スフェロイド形成をMatrigel中のHLF細胞の成長と比較した(
図17B)。
【0190】
同等のサイズのスフェロイドが鋳型上で4日で成長する一方、Matrigel中では13日を必要とする点は注目に値する。4日後におけるフラクタル基材上のスフェロイドの平均サイズは74±20μm(N=12)であったが、Matrigel中で成長させたスフェロイドのサイズは、13日目で108±57μm(N=52)であった。Matrigel中でのスフェロイド成長は包埋された単一細胞で始まり、その成長は指数関数的であるので(12)、4日目における直接比較は不可能である。したがって、非常に少ない細胞による小型のクラスターのみが4日目に形成していたと推測される。フラクタル上のHLF細胞も単一細胞として播種したが、
図6中でCAFについて見られるように、これらは付着の過程で早くもクラスター形成を開始する。
【0191】
結論
新規の細胞成長プラットフォームを紹介する。このプラットフォームは、幹細胞及び初代細胞(CAF及び腫瘍細胞)等の成長させることが難しい細胞にとりわけ適する。周期的なフラクタル構造体で被覆されたこれらの鋳型は無機材料からなるため、滅菌が容易である。細胞外マトリックス分子の堆積等の更なる処理又は機能付与を行うことなく、これは患者試料から得られたがん関連線維芽細胞の複雑な2Dスフェロイド成長を増強した。一部の構造体については、単離されたCAFの選択的な成長と、CAF単離において回避することのできない混入腫瘍細胞の成長の抑制が観察された。しかし、例えば、患者に対する治療を最適化するための、微小腫瘍に対する異なる治療的選択肢の試験にCAFと腫瘍細胞の共培養が必要である場合、他のフラクタル構造体が3D微小腫瘍の成長又は生存を補助することが見出された。これらの微小腫瘍は8日間の培養後に見出されたが、これは2Dの単離された腫瘍細胞より現実的な患者の腫瘍のモデルを与えるものである。G1~4フラクタル表面について、我々は、腫瘍からの1工程のCAF単離を可能にする、CAFの選択的成長を観察した。腫瘍細胞株において、我々は、標準的な3Dマトリックス成長系と比較して増強されたスフェロイド状細胞成長を観察した。
【0192】
(参考文献)
【0193】
(実施例2(Berenschotら2016))
3次元フラクタル構造体の例示的な調製
酸化物のみのコーナーリソグラフィーで3Dフラクタルを作製することができるためには、成長させた非晶質二酸化ケイ素層が、ケイ素の(100)及び(111)結晶面において厚さが等しくなければならないとともに、出隅部において追従的でなければならない。これらの要件が満たされなければ、SiO2の層は適切に時限的な等方的エッチングによって適切にパターニングできず(即ち、厚さの変動に起因してSiO2が残留するべき位置から取り除かれる)、或いは、ケイ素の選択的異方的エッチングの間、適切なマスクとして機能しない。したがって、この単純化された過程では1100℃における(乾式)熱酸化を使用する。この温度におけるケイ素の酸化は、比較的低い温度(≦950℃)における熱酸化と比較して、(100)及び(111)-ケイ素結晶面における層厚及び出隅部周囲における層追従性の点で、成長した酸化物に根本的な違いをもたらす。
【0194】
低い熱酸化温度(≦950℃)では、角の構造における圧縮応力に起因して、出隅部及び入隅部の酸化物厚さが平坦(100)-Si平面より小さくなる[5],[6]。1000℃の温度では、出隅部において形成された酸化物層が平面(100)-Siの層厚に対して薄化されないが、この温度では、ケイ素の主結晶方位における酸化物成長速度に差がある[7]。1100℃においてケイ素を乾式熱酸化すると、前述の出隅部における非追従性並びに(100)及び(111)Si平面上での酸化物層厚の差に関する側面が回避される[7]。入隅部では、発生する重度の圧縮応力[8]が緩和せず、それと連携した酸化速度の低下により、局所的により薄い層が生じる。
【0195】
入隅部における熱酸化物層の尖鋭化の程度は、交差する(111)平面の量に依存する。即ち、交差する平面の数が多い程、成長した酸化物層は薄くなる。よって、リボン、即ち、2つの交差する(111)平面において、3つ又は4つの(111)平面の交差(即ち頂点)と比較して、より低度の酸化物の尖鋭化が発生する(
図10)。これらの側面は、1% HF中での時限式等方的エッチングによって頂点のみからSiO
2を取り除きつつ、酸化物がリボン及び平面に残留するという、有力な手法につながる。これを
図10に図示する。
【0196】
こうなると、3Dフラクタルを自己形成させる手順は非常に単純になる。即ち、熱硬化及び時限式HFエッチングの後、各頂点で下にあるSiを選択的にエッチング(TMAH中の異方的エッチング)し、結果として、全ての頂点において同時に次の階層の八面体型構造体を形成することができる。異方的Siエッチング/1100℃での熱酸化/等方的SiO2エッチングというこの単純な流れの繰返しにより、多階層の3Dフラクタル構造体が生じる。
【0197】
実験結果及び考察
頂点の選択的開口を説明するため、我々はKOH(25質量%、70℃)を使用して、わずかに矩形のフットプリント(
図11、左)及び正方形のフットプリント(
図11、右)によって(100)-Siにおいて逆錐をエッチングで生成した。その後、これらの構造体を酸化(乾式、1100℃で95分間)することで、(111)及び(100)方向の面上で、それぞれ160nm及び155nmのSiO
2厚さを得た。
図11は、SEMでより視認しやすい適切な開口を作るための1% HF中での19分+30秒のエッチング(エッチング速度4.4±0.1nm/秒)及び5分間のTMAHエッチング(25質量%、70℃)後における、SEM画像(上面図)を示す。(111)面における残留酸化物厚さは74nmである。
【0198】
それぞれ88nm及び160nmの開始時酸化物厚さ((111)面上)に対する、頂点のみの開口並びにリボン及び頂点の開口における利用可能な時間窓(Δt)の最初の兆候を
図11Bに示す。グラフ中の各測定点について、試料を1% HF溶液から取り、TMAH中でエッチングし、次いで、SEMによって調べた。この流れを繰り返したので、検出された頂点又はリボンの開口をグラフに示す。測定点の数が限定されていることに起因して、示された時間窓にかなりの許容誤差があることに留意されたい。
【0199】
5μmの正方形フットプリントにより、KOHで(100)-Siにエッチングで生成された逆錐において3Dフラクタル構造を実現するための出発点である。既知の厚さを有する熱酸化物層を成長させた後(約160nm、1100℃で1時間35分)、頂点のみが酸化物を有さない時間窓が存在する。酸化物コーナーリソグラフィーのみに基づく3Dフラクタル構造体の設計のために、1% HF中20分30秒というエッチング時間を適用する。このHF工程の後、頂点を介してTMAH(25質量%、70℃)中でケイ素をエッチングすることで、(111)Si平面の低速エッチングによって結合した新しい八面体を生じさせることができる。フラクタル構造体の各作製階層について、酸化及び等方的エッチング時間は一定であるが、TMAHエッチング工程の時間の長さは各々の新しい階層について半分にする(階層ゼロにおいて145分のエッチング時間で開始)。TMAHエッチング、1100℃酸化及びSiO2エッチングというこの流れを3回繰り返した後、最終熱酸化を実行し、400℃においてMempaxガラスウエハと陽極接合し、Siの塊を取り除くことで、自立した3世代酸化ケイ素フラクタルシートを作製することができる。最終工程に応じて頂点を閉鎖されたまま又は開放されたままにすることができる点に注目されたい。
【0200】
【国際調査報告】