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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(54)【発明の名称】肺癌検出用バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230719BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230719BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230719BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20230719BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/50 P
G01N33/53 D
G01N33/53 M
C12Q1/6886 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566145
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(85)【翻訳文提出日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2021061085
(87)【国際公開番号】W WO2021219696
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】20171726.1
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518384906
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティテュート オブ ヘルス(エルアイエイチ)
【氏名又は名称原語表記】LUXEMBOURG INSTITUTE OF HEALTH(LIH)
【住所又は居所原語表記】1A-B, rue Thomas Edison, L-1445 Strassen, LUXEMBOURG
(71)【出願人】
【識別番号】522256406
【氏名又は名称】フレッド ハッチンソン キャンサー センター
(71)【出願人】
【識別番号】512242273
【氏名又は名称】ザ トランスレーショナル ゲノミクス リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】エル コーリー,ヴィクトリア
(72)【発明者】
【氏名】シュリッツ,アンナ,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン,ジン
(72)【発明者】
【氏名】ベルヘム,ギー
(72)【発明者】
【氏名】パウロヴィッチ,アマンダ
(72)【発明者】
【氏名】ホワイトエーカー,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ペトリティス,コンスタンティノス
(72)【発明者】
【氏名】ピロット,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】テゲラー,トニー
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB03
2G045CB07
2G045CB12
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB02
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ53
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS34
4B063QX01
(57)【要約】
本願は、被験体の生物学的試料において、Rho GDP解離インヒビターβ(ARHGDIB)、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーを検出することを含む、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法、及び前記少なくとも1つのバイオマーカーを測定するためのキットを開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の生物学的試料において、Rho GDP解離インヒビターβ(ARHGDIB)、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)からなる群より選択される少なくとも2つのバイオマーカーを検出することを含み、ARHGDIBと、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーとを検出することを含む、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法。
【請求項2】
ARHGDIBと、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも2つのバイオマーカーとを検出することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも3つ、少なくとも4つ又は少なくとも5つのバイオマーカーを検出することを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ARHGDIB及びTUBA4A;ARHGDIB及びGSTO1;ARHGDIB及びFLNA;ARHGDIB及びPRDX6;又はARHGDIB及びCDH13を検出することを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
(a) ARHGDIB、TUBA4A及びGSTO1;
(b) ARHGDIB、TUBA4A及びFLNA;
(c) ARHGDIB、TUBA4A及びPRDX6;又は
(d) ARHGDIB、TUBA4A及びCDH13
を検出することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(a) ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1及びFLNA;
(b) ARHGDIB、TUBA4A、FLNA及びPRDX6;
(c) ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1及びPRDX6.
(d) ARHGDIB、TUBA4A、FLNA及びCDH13;
(e) ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1及びCDH13;又は
(f) ARHGDIB、TUBA4A、PRDX6及びCDH13
を検出することを含む請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(a) ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA及びPRDX6;
(b) ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA及びCDH13;
(c) ARHGDIB、TUBA4A、FLNA、PRDX6及びCDH13;又は
(d) ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、PRDX6及びCDH13.
を検出することを含む請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13を検出することを含む請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記生物学的試料が、体液試料であり;好ましくは、血漿、血清、全血、尿、組織分解物、脳脊髄液(CSF)、唾液及び汗からなる群より選択される体液試料であり、より好ましくは血漿試料である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも2つのバイオマーカーが、質量分析法、生化学アッセイ法、免疫アッセイ法、クロマトグラフィー法又はそれらの組合せを用いて検出される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
(a)被験体の生物学的試料中の、少なくとも、ARHGDIBと、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定するステップ;
(b)ステップ(a)において測定した前記少なくとも3つのバイオマーカーの量又は発現レベルに基づいてスコアを算出するステップ;
(c)ステップ(b)において算出したスコアを閾値スコアと比較するステップ;及び
(d)ステップ(b)において算出したスコアが前記閾値スコア以上である場合、被験体を肺癌と診断するステップ
を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(a)被験体の生物学的試料中の、ARHGDIBと、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーとの量又は発現レベルの測定に特に適合する手段;及び
(b)前記少なくとも2つのバイオマーカーの各々について肺癌の既知の診断を表す閾値、又は該閾値を確立する手段
を含んでなるキット、具体的には肺癌診断用キット。
【請求項13】
前記手段が前記タンパク質又は該タンパク質をコードするRNAに特異的に結合する結合物質である、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
被験体の試料中における前記バイオマーカーの検出に基づいて肺癌を診断するための請求項12又は13に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体の生物学的試料における肺癌を診断するための方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、発生率の点で最も一般的な悪性腫瘍であり、世界中で最も致命的な癌である。喫煙、特にタバコの喫煙は、肺癌の圧倒的に主要な原因である。高い肺癌死亡率は、診断時の増悪の進行レベルに主に基づいている。5年生存率は、ステージIAの腫瘍の83%からステージIVの腫瘍の6%へ著しく低下する。現在、肺癌患者の半数以上が転移ステージであると診断されている。
【0003】
肺癌は重く、進行した状態では肺癌は不治性であるために、肺癌の早期診断を可能にする方法に対する必要性が高い。早期診断は、患者の生存率及び治療成績の改善のための必要条件である。
【0004】
現在、新たに診断された肺腫瘍の15%のみが初期に診断されている。こういうわけで、低線量コンピュータ断層撮影法(LDCT)を使用する肺癌検診は、胸部X線撮影と比較して、肺癌特異的死亡率を20%低減することができる。しかしながら、高い割合の偽陽性結果(LDCT群及びX線撮影群においてそれぞれ96.4%及び94.5%)、及び累積放射線被曝に伴う悪性腫瘍リスクが、LDCTの重大な限界である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、肺癌を、特に疾患の初期段階の間に検出して、予後を改善し、過剰診断を減少させるための高感度の、好ましくは低侵襲性の方法が差し迫って必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、バイオマーカー及びバイオマーカーパネル、特にバイオマーカーパネルを開発することによって、肺癌検出及び診断の課題に対処してきた。実際に、本発明者らは、あるバイオマーカーがステージとは無関係に肺癌を検出することができ、初期肺癌において特に強力な診断性能を有し、したがって診断に有用であり得ることを立証した。さらに、本発明者らは、特定の方法を首尾よく使用して、好適なバイオマーカーパネルを同定及び検証することができることを立証した。
【0007】
それゆえ、本発明の特定の態様は、肺癌の診断における使用に好適なバイオマーカー及びバイオマーカーパネルに関する。特定の実施形態では、バイオマーカーは、Rho GDP解離インヒビターβ(ARHGDIB)、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)から選択される。これらのマーカーの各々は、独自に的中率を有する。しかしながら、一般に、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つのバイオマーカーのパネルが使用される。それゆえ、特に好ましい組合せが想定される。特定の実施形態では、方法は、ARHGDIBと、少なくとも1つの他の肺癌バイオマーカー、好ましくは、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)からなる群より選択されるマーカーとを検出することを含む。特定の実施形態では、方法は、ARHGDIBと、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)からなる群より選択される少なくとも2つの他のマーカーとを検出することを含む。さらなる実施形態では、本発明は、Rho GDP解離インヒビターβ(ARHGDIB)、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)からなる群より選択される少なくとも2つのバイオマーカーを含むバイオマーカーパネルを提供し、これは、肺癌である個体を健常個体と識別することができる。特定の実施形態では、バイオマーカーパネルは、少なくともARHGDIBと所定群から選択される1つ又は2つの他のマーカーとを含む。本発明の肺癌バイオマーカーは、受診者動作特性曲線下の大面積(AUC)、高陽性的中率(PPV)、高陰性的中率(NPV)、高感受性及び/又は高特異性、好ましくは高感受性及び高NPV又は高特異性、より好ましくは高感受性、高NPV及び高特異性を併せ持つという点で優れた性能を有する。これは、0.90以上のAUC、0.90以上のPPV、0.90以上のNPV、0.90以上の特異性及び/又は0.90以上の感受性によって、好ましくは0.90以上の感受性及び0.90以上のNPV又は特異性によって、より好ましくは0.90以上の感受性、0.90以上のNPV及び0.90以上の特異性によって裏付けられる。さらに、本発明の肺癌バイオマーカーは、非侵襲的な様式で、病期とは無関係に肺癌を検出することができる。結果として、本明細書中で教示されるバイオマーカーパネルは、高リスク個体及び平均リスク個体(例えば、喫煙者又は以前喫煙者)についてのルーチン検査として使用することができる。本明細書で教示されたバイオマーカー及びバイオマーカーパネルはまた、肺癌検診において現在使用されている手法、例えば、LDCTを効率的に補完してもよく、これにより、しばしば追加の侵襲性検査及び不必要なコストにつながり、患者を身体的及び精神的な苦難にさらす偽陽性症例の数が低減する。本発明の肺癌バイオマーカーを医師が容易に使用できるようにするために、本発明者らはさらにまた、閾値/バイオマーカー、次いでスコア/試料を、被験体を肺癌である又は肺癌でないとして分類することに帰する閾値ベースのアプローチを採用した。
【0008】
第1の態様は、被験体の生物学的試料において、Rho GDP解離インヒビターβ(ARHGDIB)、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーを検出することを含む、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法を提供する。
特定の実施形態では、方法は、被験体の生物学的試料においてARHGDIBを検出することを含む。
【0009】
特定の実施形態において、方法は、CDH13を検出することを含む。特定の実施形態において、方法は、GSTO1を検出することを含む。特定の実施形態では、方法は、CDH13と、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA及びPRDX6からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくは少なくともTUBA4A及び/又はFLNA及び/又はPRDX6、最も好ましくは少なくともTUBA4Aとを検出することを含む。特定の実施形態では、方法は、GSTO1と、ARHGDIB、TUBA4A、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくは少なくともTUBA4A及び/又はFLNA、最も好ましくは少なくともTUBA4Aとを検出することを含む。特定の実施形態では、方法は、CDH13及びGSTO1と、任意にARHGDIB、TUBA4A、FLNA及びPRDX6からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくは少なくともTUBA4A及び/又はFLNA、最も好ましくは少なくともTUBA4Aとを検出することを含む。特定の実施形態では、方法は、ARHGDIBと、任意にTUBA4A、GSTO1、FLNA及びPRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーとを検出することを含む。
【0010】
特定の実施形態では、方法は、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、及びCDH13からなる群より選択される少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのバイオマーカーを検出することを含む。特定の実施形態では、方法は、ARHGDIBと、TUBA4A、GSTO1、FLNA及びPRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも2つの他のバイオマーカーとを検出することを含む。特定の実施形態では、方法は、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも3つのバイオマーカーを検出することを含む。
特定の実施形態では、方法は、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13を検出することを含む。
【0011】
特定の実施形態では、生物学的試料は、体液試料であり;好ましくは、血漿、血清、全血、尿、組織分解物、脳脊髄液(CSF)、唾液及び汗からなる群より選択される体液試料であり;より好ましくは血漿試料である。
特定の実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーは、質量分析法、生化学的若しくは分子生物学的アッセイ法、イムノアッセイ法、クロマトグラフィー法、又はそれらの組合せを使用して検出される。
【0012】
特定の実施形態では、方法は、
(a)被験体の生物学的試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも3つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定するステップ;
(b)ステップ(a)において測定した前記少なくとも3つのバイオマーカーの量又は発現レベルに基づいてスコアを算出するステップ;
(c)ステップ(b)において算出したスコアを閾値スコアと比較するステップ;及び
(d)ステップ(b)において算出したスコアが前記閾値スコア以上である場合、被験体を肺癌と診断するステップ
を含む。
【0013】
さらなる態様は、
(a)被験体の生物学的試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定する手段;及び
(b)前記少なくとも1つのバイオマーカーについて肺癌の既知の診断を表す閾値、又は該閾値を確立する手段
を含んでなるキット、具体的には肺癌診断用キットを提供する。
【0014】
特定の実施形態では、当該手段は、前記マーカーの量及び/又は発現レベルを測定するために特に適合する。特定の実施形態では、キットは、ARHGDIBと、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカー、又は上に列挙されたマーカーの組合せのいずれかとの量又は発現レベルの測定に特に適合する手段を含む。
【0015】
さらなる態様は、被験体の試料中における前記少なくとも1つのバイオマーカーの検出に基づいて肺癌を診断するためのキットの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】肺癌診断パネルとして同定された6つのタンパク質バイオマーカーの血漿レベル。プロテオタイピックペプチドを標的とするLC-PRMアッセイを用いて肺癌患者(n=128)及び健常ボランティア(n=93)から得られた(A)FLNA、(B)TUBA4A、(C)GSTO1、(D)PRDX6、(E)ARHGDIB及び(F)CDH13の濃度の散布図。データ点及びそれらの中位値を示す。****ノンパラメトリックKruskal-Wallis検定を用いて調整したP<0.0001。
図2】診断パネルに含まれる6つのタンパク質の並列反応モニタリング(PRM)の読出し。肺癌患者及び健常ドナーの試料において記録された代表的なPRMトレースを、各タンパク質について示す。内因性標的ペプチド(上部)及び内部標準ペプチド(下部)の検出されたプロダクトイオンが表示されている。
図3】検証データセットで試験した6タンパク質パネルの組合せ(部分組合せを含む)及び単一バイオマーカーについての陰性的中率(NPV)、陽性的中率(PPV)、感受性(「sens」)、特異性(「spec」)及び受診者動作特性曲線下面積(AUC)のフォレストプロット。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「当該(the)」は、文脈から明らかにそうでないと判断されない限り、単数及び複数の両方の指示対象を含む。
【0018】
「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「で構成される(comprised of)」との用語は、本明細書で使用される場合、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されていない部材、要素又は方法ステップを排除しない。これらの用語はまた、「からなる(consisting of)」及び「から本質的になる(consisting essentially of)」を包含し、これらは、特許用語において十分に確立した意味を有する。
【0019】
端点による数値範囲の列挙は、それぞれの範囲内に含まれている全ての数及び分数、並びに列挙された端点を含む。
【0020】
本明細書で使用される「約」又は「およそ」との用語は、測定可能な値、例えば、パラメータ、量、持続時間等に言及する場合、指定された値の変動及び指定された値からの変動、例えば、指定された値の及び指定された値からの+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、さらにより好ましくは+/-0.1%以下の変動を、このような変動が開示された発明において実施するのに適切である限り、包含することを意味する。修飾語「約」が言及する値は、それ自体も具体的に、そして好ましくは開示されることが理解されるべきである。
【0021】
「1つ又は複数の」又は「少なくとも1つ」との用語、例えば、1つ若しくは複数の部材又は部材の群の少なくとも1つの部材は、それ自体明らかであるが、さらなる例示として、当該用語は、とりわけ、前記部材のうちのいずれか1つ、又は前記部材のうちのいずれか2つ若しくは3つ以上、例えば、前記部材のうちのいずれか3つ、4つ、5つ、6つ若しくは7つ等、及び全ての前記部材までの言及を含む。別の例では、「1つ又は複数の」又は「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7又はそれ以上を指してもよい。
【0022】
本明細書における発明の背景の考察は、発明の脈絡を説明するために含まれている。これは、言及された資料のいずれかが、特許請求の範囲のいずれかの優先日の時点で任意の国において公開されたか、公知であったか、又は通常の一般的知識の一部であったことを認めるものと解釈されるべきではない。
【0023】
本開示を通して、様々な刊行物、特許及び公開された特許明細書は、引用を特定することによって参照される。本明細書に引用される全ての文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。特に、本明細書中で具体的に言及されたこのような文献の教示又は節は、参照により組み込まれる。
【0024】
別段の規定のない限り、本発明の開示において使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるような意味を有する。さらなる指針として、用語の定義は、本発明の教示をより正しく評価するために含まれている。特定の用語が本発明の特定の態様又は本発明の特定の実施形態に関連して定義される場合、このような含意は、別段の規定のない限り、本明細書全体を通して、すなわち、本発明の他の態様又は実施形態の文脈においても適用されることを意味する。
【0025】
以下の文章では、本発明の異なる態様又は実施形態をより詳細に定義する。そのように定義された各態様又は実施形態は、そうでないことが明らかに示されない限り、任意の他の態様又は実施形態と組み合わせてもよい。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であると示された任意の他の1つ又は複数の特徴と組み合わせてもよい。
【0026】
本明細書全体を通して、「一実施形態」、「実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。このように、本明細書全体を通して様々な場所における「一実施形態では」又は「実施形態では」との語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すわけではないが、指していてもよい。さらに、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ又は複数の実施形態において、本開示から当業者に明白であるように、任意の好適な様式で組み合わせてもよい。さらに、本明細書に記載された、いくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれる他の特徴ではなくいくつかの特徴を含むが、異なる実施形態の特徴の組合せは、当業者によって理解されるように、本発明の範囲内であり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、添付の特許請求の範囲では、特許請求された実施形態のいずれも、任意の組合せで使用することができる。
【0027】
本発明者らは、肺癌、特に初期肺癌の診断のために特に興味深いバイオマーカーのセットを同定した。バイオマーカーRho GDP解離インヒビターβ(ARHGDIB)、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)の発現は、肺癌の発生と特に相関することが分かっており、したがって、個々の診断及びパネルの一部としての診断の両方に好適である。これらのマーカーのうちの1つを検出することで、多くの場合、重要な指標を既に提供するが、2つ又は3つ以上のマーカーの組合せにより、診断の正確性及び感受性は増加する。実際に、本発明者らは、被験体の生物学的試料において、Rho GDP解離インヒビターβ(ARHGDIB)、α-チューブリン4A(TUBA4A)、グルタチオンS-トランスフェラーゼω1(GSTO1)、フィラミンA(FLNA)、ペルオキシレドキシン6(PRDX6)及びカドヘリン13(CDH13)からなる群より選択される少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ又は3つ、より好ましくは5つ又は6つ全てのバイオマーカーの検出が、肺癌患者を肺癌を有さない個体と正確に識別することを可能にすることを見出した。ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーは、被験体の生物学的試料における肺癌を診断する際に優れた性能を有する。これは、AUC、PPV、NPV、感受性及び特異性を含む優れた性能尺度によって裏付けられる。より具体的には、本方法の感受性は、肺癌診断のための血液検査CancerSEEKの記載感受性よりも良好である(Cohen JD, Li L, Wang Y, Thoburn C, Afsari B, Danilova Lら,Detection and localization of surgically resectable cancers with a multi-analyte blood test. Science. 2018;359: 926-30)。
【0028】
画像化技術、例えば、低線量CT(LDCT)を使用した肺癌検診と比較して、本明細書中で教示される方法(これは、非常に感受性が高く、そして非常に特異的な方法である)は、擬陽性結果の割合(すなわち、過剰診断率)を低減し、そして試験した被験体の放射線への曝露を回避する。偽陽性症例の低減はまた、さらなる侵襲性検査及び不必要なコスト、並びに患者を身体的及び精神的な苦難にさらすのを回避する。さらに、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される1つ又は複数のバイオマーカーの使用により、バイオマーカーを体液試料、例えば、血漿試料の中で検出することができるので、非侵襲的な様式で肺癌を検出することが可能となる。さらに、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される1つ又は複数のバイオマーカーについての試験はまた、ステージI肺腫瘍を含む病期とは無関係に肺癌を検出することを可能にする。定期的な検診中の癌の早期診断は、患者に迅速な処置の解決策を提供する。加えて、本バイオマーカーを医師が容易に使用できるようにするために、本発明者らはさらにまた、閾値/バイオマーカー、及び任意にスコア/試料に起因する閾値ベースのアプローチを採用して、被験体を肺癌か否かに分類した。
【0029】
それゆえ、第1の態様において、当該発明は、被験体における肺癌に対するバイオマーカーとしての、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーの使用、好ましくはインビトロ又はエクスビボでの使用を提供する。
【0030】
「バイオマーカー」との用語は、当技術分野で広く知られており、被験体におけるその定性的及び/又は定量的評価が、被験体の表現型及び/又は遺伝子型の1つ又は複数の態様に関して、例えば、所与の疾患又は病的状態に関する被験体の状態に関して予測的又は情報価値のある(例えば、予測的、診断的及び/又は予後的)である生体分子及び/又はその検出可能な部分を広く表してもよい。本明細書での「バイオマーカーパネル」に言及は、本明細書中で教示される方法又は使用において2つ以上のバイオマーカーが検出される場合においてなされる。
【0031】
ある実施形態では、本明細書中で教示されるバイオマーカー、例えば、特に、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーは、ペプチドベース、ポリペプチドベース及び/又はタンパク質ベースであってもよい。
【0032】
任意のペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を含む任意のマーカーへの言及は、当技術分野においてそれぞれの名称で一般に知られているマーカー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質に対応する。これらの用語は、見つかっているあらゆる生物、特に動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくはヒト及び非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物、さらにより好ましくはヒトのこのようなマーカー、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を包含する。当該用語は、特に、天然配列を有するこのようなマーカー、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質、すなわち、その一次配列が、自然に見出されるか又は自然に由来するマーカー、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質の配列と同じであるものを包含する。当業者は、天然配列が、異なる種の間では、このような種の間の遺伝的発散に起因して異なることがあることを理解している。さらに、天然配列は、所与の種内の正常な遺伝的多様性(変動)に起因して、同じ種の異なる個体間で又は個体内で異なることがある。また、天然配列は、転写後又は翻訳後修飾に起因して、同じ種の異なる個体間で、又はさらには個体内で異なることがある。マーカー、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の任意のこのような変異体又はアイソフォームが本明細書において意図される。それゆえ、自然に見出されるか又は自然に由来するマーカー、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質の全ての配列は、「天然」であると考えられる。当該用語は、生きている生物、器官、組織又は細胞の一部を形成する場合、生物学的試料の一部を形成する場合、及びこのような供給源から少なくとも部分的に単離された場合の、マーカー、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を包含する。該用語はまた、組換え手段又は合成手段によって生成される場合、マーカー、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を包含する。
【0033】
ある実施形態では、本明細書中で教示されるバイオマーカーは、ヒトバイオマーカー、例えば、ヒトARHGDIB(Rho GDP-解離インヒビター2(RhoGDI2)としても知られる)、ヒトTUBA4A、ヒトGSTO1、ヒトFLNA、ヒトPRDX6又はヒトCDH13であってもよい。
【0034】
一例として、ヒトARHGDIBのタンパク質配列は、NCBI Genbank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)アクセッション番号NP_001308351.1及びUniProtKB/Swiss-prot番号P52566.3で注釈付けられており;ヒトTUBA4Aのタンパク質配列は、NCBI Genbankアクセッション番号NP_005991.1及びUniProtKB/Swiss-prot番号P68366.1で注釈付けられており;ヒトGSTO1のタンパク質配列は、NCBI Genbankアクセッション番号NP_004823.1及びUniProtKB/Swiss-prot番号P78417.2で注釈付けられており;ヒトFLNAのタンパク質配列は、NCBI Genbankアクセッション番号NP_001447.2及びUniProtKB/Swiss-prot番号P21333.4で注釈付けられており;ヒトPRDX6のタンパク質配列は、NCBI Genbankアクセッション番号NP_004896.1及びUniProtKB/Swiss-prot番号P30041.3で注釈付けられており;そして、ヒトCDH13のタンパク質配列は、NCBI Genbankアクセッション番号NP_001248.1及びUniProtKB/Swiss-prot番号P55290.1で注釈付けられている。
【0035】
文脈からそうではないと明白でない限り、任意のマーカー、ペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質、又はそれらの断片への本明細書における言及は、一般に、前記マーカー、ペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質、又はそれらの断片の修飾形態、例えば、リン酸化、グリコシル化、脂質化、メチル化、システイン化、スルホン化、グルタチオン化、アセチル化、メチオニンのメチオニンスルホキシド又はメチオニンスルホンへの酸化等を含む発現後修飾を有するようなものも包含してよい。
【0036】
任意のマーカー、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質への本明細書における言及はまた、それらの断片を包含する。それゆえに、任意の1つのマーカー、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を測定する(又はその量を測定する)ことへの本明細書における言及は、当該マーカー、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を測定すること、例えば、その任意の成熟型の及び/又はプロセシングした可溶型/分泌型形態(例えば、血漿循環形態)を測定すること、及び/又はその1つ又は複数の断片を測定することを包含してもよい。
【0037】
例えば、任意のマーカー、ペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質、及び/又はそれらの1つ若しくは複数の断片は、測定された量が、一括して測定された種(species)の総量に対応するように、一括して測定してもよい。さらなる例では、任意のマーカー、ペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質、及び/又はそれらの1つ若しくは複数の断片を各々個別に測定してもよい。
【0038】
「断片」との用語は、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に関して、一般に、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質のN末端及び/又はC末端の切断型形態を示す。好ましくは、断片は、前記ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質のアミノ酸配列長の少なくとも約30%、例えば、少なくとも約50%又は少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、例えば、少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%又はさらには約99%を含んでもよい。例えば、完全長のペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質の長さを超えない限り、断片は、対応する完全長のペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質の≧5個の連続するアミノ酸、又は≧10個の連続するアミノ酸、又は≧20個の連続するアミノ酸、又は≧30個の連続するアミノ酸、例えば≧40個の連続するアミノ酸、例えば≧50個の連続するアミノ酸、例えば≧60個、≧70個、≧80個、≧90個、≧100個、≧200個、≧300個又は≧400個の連続するアミノ酸の配列を含んでもよい。
【0039】
例えば、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーは、完全長タンパク質のペプチド断片を測定することによって測定してもよい。例えば、ARHGDIBはYVQHTYR(配列番号1)を測定することによって測定してもよく、TUBA4AはEIIDPVLDR(配列番号2)を測定することによって測定してもよく、GSTO1はGSAPPGPVPEGSIR(配列番号3)を測定することによって測定してもよく、FLNAはSPFSVAVSPSLDLSK(配列番号4)を測定することによって測定してもよく、PRDX6はLSILYPATTGR(配列番号5)を測定することによって測定してもよく、CDH13はSIVVSPILIPENQR(配列番号6)を測定することによって測定してもよい。ペプチドYVQHTYR(配列番号1)は典型的には483.74m/zの質量/電荷を有し、ペプチドEIIDPVLDR(配列番号2)は典型的には535.30m/zの質量/電荷を有し、ペプチドGSAPPGPVPEGSIR(配列番号3)は典型的には660.85m/zの質量/電荷を有し、ペプチドSPFSVAVSPSLDLSK(配列番号4)は典型的には767.41m/zの質量/電荷を有し、ペプチドLSILYPATTGR(配列番号5)は典型的には596.34m/zの質量/電荷を有し、ペプチドSIVVSPILIPENQR(配列番号6)は典型的には782.96m/zの質量/電荷を有する。
【0040】
任意のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドに対する本明細書における言及はまた、その変異体を包含してもよい。タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの「変異体」との用語は、その配列(すなわち、アミノ酸配列)が、前記列挙されたタンパク質又はポリペプチドの配列と実質的に同一である(すなわち、大部分が同一であるが、完全には同一でない)、例えば、少なくとも約80%同一又は少なくとも約85%同一、例えば、好ましくは少なくとも約90%同一、例えば、少なくとも91%同一、92%同一、より好ましくは少なくとも約93%同一、例えば、少なくとも94%同一、さらにより好ましくは少なくとも約95%同一、例えば、少なくとも96%同一、さらにより好ましくは少なくとも約97%同一、例えば、少なくとも98%同一、最も好ましくは少なくとも99%同一である、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドを指す。好ましくは、変異体は、列挙されたタンパク質、ポリペプチド又はペプチドの配列全体が配列アラインメントにおいて照会される場合、当該列挙されたタンパク質、ポリペプチド又はペプチドに対して、このような程度の同一性(すなわち、全体的な配列同一性)を呈してもよい。
【0041】
配列同一性は、それ自体が知られているように、配列アラインメント及び配列同一性の決定を実施するための好適なアルゴリズムを使用して決定してもよい。例示的であるが非限定的なアルゴリズムとしては、Altschulら,1990 (J Mol Biol 215: 403-10)によって最初に記載されたBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)に基づくもの、例えば、Tatusova and Madden 1999 (FEMS Microbiol Lett 174: 247-250)によって記載された「Blast2配列」アルゴリズムが挙げられ、例えば、公表されたデフォルト設定又は他の好適な設定(例えば、BLASTNアルゴリズムについて:ギャップを開始する(open)ためのコスト=5、ギャップを伸長するためのコスト=2、ミスマッチについてのペナルティ=-2、マッチについてのリワード=1、gap x_dropoff=50、期待値=10.0、ワードサイズ=28;又はBLASTPアルゴリズムについて:マトリックス=Blosum62、ギャップを開始するためのコスト=11、ギャップを伸長するためのコスト=1、期待値=10.0、ワードサイズ=3)を使用する。
【0042】
タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの変異体は、前記タンパク質、ポリペプチド又はペプチドのホモログ(例えば、オルソログ又はパラログ)であってもよい。本明細書で使用される場合、「相同性」との用語は、一般に、同じ分類群又は異なる分類群に由来する2つの高分子間、特に、2つのタンパク質又はポリペプチド間の構造的類似性を示し、ここで、前記類似性は、共通祖先に起因している。
【0043】
本明細書が、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの断片及び/又は変異体に言及するか、又はそれらを包含する場合、これは、好ましくは、「機能的」である、すなわち、それぞれのタンパク質、ポリペプチド又はペプチドの生物活性又は意図された機能性を少なくとも部分的に保持する変異体及び/又は断片を示す。好ましくは、機能的断片及び/又は変異体は、対応するタンパク質、ポリペプチド又はペプチドと比較して、意図された生物活性又は機能性の少なくとも約20%、例えば、少なくとも30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、例えば、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも約70%、例えば、少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも約85%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、及び最も好ましくは少なくとも約95%又はさらに約100%又はそれ以上を保持してもよい。
【0044】
さらなる態様は、被験体の生物学的試料において、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーを検出することを含む、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法を提供する。
【0045】
関連した態様では、本明細書に提供されるのは、
(a)被験体の生物学的試料において、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーを検出すること;
(b)前記少なくとも1つのバイオマーカーの検出に基づいて、被験体における肺癌を診断すること;及び
(c)肺癌と診断された前記被験体に肺癌のための治療を施すこと、例えば、前記被験体に有効量の肺癌の治療剤を投与すること
を含む、被験体における肺癌を診断及び治療する方法である。
【0046】
ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群の個々のバイオマーカー、特にARHGDIBは、肺癌患者を健常被験体と識別するための優れた予測能を有する。
【0047】
より具体的には、ARHGDIBの性能測定基準は優れていた:試験コホートにおいて≧0.90のNPV、≧0.90の感受性及び≧0.90のAUC、並びに検証コホートにおいて≧0.90のNPV及び≧0.90の感受性。それゆえ、特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、ARHGDIBと、任意に、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーとを検出することを含む。しかしながら、ARHGDIBは、他の既知の肺癌バイオマーカーを有するパネルにおいて使用することができる。
【0048】
特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも2つ(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ)、少なくとも3つ(例えば、3つ、4つ、5つ又は6つ)、少なくとも4つ(例えば、4つ、5つ又は6つ)、少なくとも5つ(例えば、5つ又は6つ)、又は6つ全てのバイオマーカーを検出することを含む。
【0049】
本発明者らは、CDH13及び/又はARHGDIBを含むバイオマーカーの組合せが、肺癌患者を健常被験体と識別するための特に良好な性能尺度を示すことを示した。それゆえ、特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、CDH13及びARHGDIBからなる群より選択される第1のバイオマーカーと、任意に、第1のバイオマーカーがCDH13である場合には、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA及びPRDX6からなる群より選択される少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ全て)の追加のバイオマーカーとを、第1のバイオマーカーがARHGDIBである場合には、CDH13、TUBA4A、GSTO1、FLNA及びPRDX6からなる群より選択される少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ全て)の追加のバイオマーカーとを検出することを含む。
【0050】
CDH13及び/又はARHGDIBを含むバイオマーカーの組合せのうち、35組のバイオマーカーの組合せが優れた性能測定基準を示す:≧0.90の感受性及び≧0.90の特異性又は≧0.90のNPV。
【0051】
したがって、さらなる特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、以下のバイオマーカーを含むバイオマーカーパネルを検出することを含む:(i)FLNA、TUBA4A、GSTO1、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13;(ii)FLNA、TUBA4A、GSTO1、PRDX6及びARHGDIB;(iii)FLNA、TUBA4A、GSTO1、ARHGDIB及びCDH13;(iv)FLNA、TUBA4A、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13;(v)FLNA、GSTO1、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13;(vi)TUBA4A、GSTO1、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13;(vii)FLNA、TUBA4A、GSTO1及びARHGDIB;(viii)FLNA、TUBA4A、GSTO1及びCDH13;(ix)FLNA、TUBA4A、PRDX6及びARHGDIB;(x)FLNA、TUBA4A、ARHGDIB及びCDH13;(xi)FLNA、GSTO1、PRDX6及びARHGDIB;(xii)FLNA、GSTO1、ARHGDIB及びCDH13;(xiii)FLNA、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13;(xiv)TUBA4A、GSTO1、PRDX6及びARHGDIB;(xv)TUBA4A、GSTO1、ARHGDIB及びCDH13;(xvi)TUBA4A、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13;(xvii)GSTO1、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13;(xviii)FLNA、TUBA4A及びARHGDIB;(xix)FLNA、GSTO1及びARHGDIB;(xx)FLNA、PRDX6及びARHGDIB;(xxi)FLNA、ARHGDIB及びCDH13;(xxii)TUBA4A、GSTO1及びARHGDIB;(xxiii)TUBA4A、GSTO1及びCDH13;(xxiv)TUBA4A、PRDX6及びARHGDIB;(xxv)TUBA4A、PRDX6及びCDH13;(xxvi)TUBA4A、ARHGDIB及びCDH13;(xxvii)GSTO1、PRDX6及びARHGDIB;(xxviii)GSTO1、ARHGDIB及びCDH13;(xxix)PRDX6、ARHGDIB及びCDH13;(xxx)FLNA及びARHGDIB;(xxxi)TUBA4A及びARHGDIB;(xxxii)GSTO1及びARHGDIB;(xxxiii)GSTO1及びCDH13;(xxxiv)PRDX6及びARHGDIB;又は(xxxv)ARHGDIB及びCDH13。
【0052】
CDH13及び/又はARHGDIBを含む35組のバイオマーカーの組合せのうち、6組のバイオマーカーの組合せがさらに良好な性能測定基準を示す:≧0.90の感受性、≧0.90の特異性及び≧0.90のNPV。
【0053】
それゆえ、さらなる特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、バイオマーカーFLNA、TUBA4A、GSTO1及びCDH13;FLNA、ARHGDIB及びCDH13;TUBA4A、GSTO1及びCDH13;TUBA4A、PRDX6及びCDH13;TUBA4A、ARHGDIB及びCDH13;又はGSTO1及びCDH13を含むバイオマーカーパネルを検出することを含む。
【0054】
特定の実施形態では、被験体において肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、CDH13と、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA及びPRDX6からなる群より選択される少なくとも1つ、例えば1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ全てのバイオマーカーとを検出することを含む。
【0055】
さらなる特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、以下のバイオマーカーを含むバイオマーカーパネルを検出することを含む:(i)CDH13、FLNA、TUBA4A、GSTO1、PRDX6及びARHGDIB;CDH13、FLNA、TUBA4A、GSTO1及びARHGDIB;(ii)CDH13、FLNA、TUBA4A、PRDX6及びARHGDIB;(iii)CDH13、FLNA、GSTO1、PRDX6及びARHGDIB;(iv)CDH13、TUBA4A、GSTO1、PRDX6及びARHGDIB;(v)CDH13、FLNA、TUBA4A及びGSTO1;(vi)CDH13、FLNA、TUBA4A及びARHGDIB;(vii)CDH13、FLNA、GSTO1及びARHGDIB;(viii)CDH13、FLNA、PRDX6及びARHGDIB;(ix)CDH13、TUBA4A、GSTO1及びARHGDIB;(x)CDH13、TUBA4A、PRDX6及びARHGDIB;(xi)CDH13、GSTO1、PRDX6及びARHGDIB;(xii)CDH13、FLNA及びARHGDIB;(xiii)CDH13、TUBA4A及びGSTO1;(xiv)CDH13、TUBA4A及びPRDX6;(xv)CDH13、TUBA4A及びARHGDIB;(xvi)CDH13、GSTO1及びARHGDIB;(xvii)CDH13、PRDX6及びARHGDIB;(xviii)CDH13及びGSTO1;(xvix)CDH13及びARHGDIB、好ましくはFLNA、TUBA4A、GSTO1及びCDH13;FLNA、ARHGDIB及びCDH13;TUBA4A、GSTO1及びCDH13;TUBA4A、PRDX6及びCDH13;TUBA4A、ARHGDIB及びCDH13;又はGSTO1及びCDH13。
【0056】
特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、ARHGDIBを、任意に、TUBA4A、GSTO1、FLNA及びPRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーと組み合わせて検出することを含む。同様に、本願はまた、GSTO1を、任意に、TUBA4A、ARHGDIB、FLNA、及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、好ましくは2つのバイオマーカーと組み合わせて検出することを含む、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法も提供する。本願はまた、CDH13を、任意に、TUBA4A、ARHGDIB、FLNA、PRDX6及びGSTO1からなる群より選択される少なくとも1つ、好ましくは2つのバイオマーカーと組み合わせて検出することを含む、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法も提供する。さらに特に好ましい実施形態は、CDH13とGSTO1とを、任意に、TUBA4A、ARHGDIB、FLNA及びPRDX6からなる群より選択される1つ又は複数のバイオマーカーと組み合わせて検出することを含む方法である。
【0057】
さらなる特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、以下のバイオマーカーを含むバイオマーカーパネルを検出することを含む:(i)ARHGDIB、FLNA、TUBA4A、GSTO1、PRDX6及びCDH13;(ii)ARHGDIB、FLNA、TUBA4A、GSTO1及びPRDX6;(iii)ARHGDIB、FLNA、TUBA4A、GSTO1及びCDH13;(iv)ARHGDIB、FLNA、TUBA4A、PRDX6及びCDH13;(v)ARHGDIB、FLNA、GSTO1、PRDX6及びCDH13;(vi)ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、PRDX6及びCDH13;(vii)ARHGDIB、FLNA、TUBA4A及びGSTO1;(viii)ARHGDIB、FLNA、TUBA4A及びPRDX6;(ix)ARHGDIB、FLNA、TUBA4A及びCDH13;(x)ARHGDIB、FLNA、GSTO1及びPRDX6;(xi)ARHGDIB、FLNA、GSTO1及びCDH13;(xii)ARHGDIB、FLNA、PRDX6及びCDH13;(xiii)ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1及びPRDX6;(xiv)ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1及びCDH13;(xv)ARHGDIB、TUBA4A、PRDX6及びCDH13;(xvi)ARHGDIB、GSTO1、PRDX6及びCDH13;(xvii)ARHGDIB、FLNA及びTUBA4A;(xviii)ARHGDIB、FLNA及びGSTO1;(xix)ARHGDIB、FLNA及びPRDX6;(xx)ARHGDIB、FLNA及びCDH13;(xxi)ARHGDIB、TUBA4A及びGSTO1;(xxii)ARHGDIB、TUBA4A及びPRDX6;(xxiii)ARHGDIB、TUBA4A及びCDH13;(xxiv)ARHGDIB、GSTO1及びPRDX6;(xxv)ARHGDIB、GSTO1及びCDH13;(xxvi)ARHGDIB、PRDX6及びCDH13;(xxvii)ARHGDIB及びFLNA;(xxviii)ARHGDIB及びTUBA4A;(xxvix)ARHGDIB及びGSTO1;(xxx)ARHGDIB及びPRDX6;又は(xxxi)ARHGDIB及びCDH13、好ましくはARHGDIB、FLNA及びCDH13;又はARHGDIB、TUBA4A及びCDH13。代替的に想定されるパネルは、上記の方法についてさらに記載されたものである。
【0058】
本発明者らは、強力な個々のバイオマーカーに加えて、ロジスティック回帰モデルにおいて、特に市販のXpresys(登録商標)Lung(XL)検定(Biodesix,Boulder,CO)及び単変数モデルと比較した場合に優れた識別力を呈する6タンパク質パネルを同定した:試験コホートにおいて最低AIC(30.876)、最高AUC(0.999)、最高PPV(0.992)、最高NPV(0.989)、最高特異性(0.989)及び最高感受性(0.992)。加えて、6-タンパク質パネルは、病期(ステージI腫瘍を含む)とは無関係に非侵襲的に肺癌を検出することを可能にする。それゆえ、6タンパク質パネルは、検診ツールとして特に高い可能性を有する。
【0059】
それゆえに、特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断するためのインビトロ法は、被験体の生物学的試料において、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、及びCDH13を検出することを含む。
【0060】
分子又は分析物、例えば、マーカー、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質は、好ましくは他の分子及び分析物を実質的に排除して、前記分子又は分析物の存在若しくは非存在及び/又は量が試料において検出又は決定される場合に、試料において「検出」される。
【0061】
当業者によって評価及び決定され得る因子、とりわけ、バイオマーカーのタイプ(例えば、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質)、試料のタイプ(例えば、全血、血漿、血清、肺組織生検、組織切片)、試料におけるバイオマーカーの予想存在量、バイオマーカーを検出するために使用される検出方法のタイプ、ロバスト性、感受性及び/又は特異性等に応じて、バイオマーカーは、試料において直接測定されてもよく、又は試料は、バイオマーカーの適正測定を達成することを目的とした1つ又は複数のプロセシングステップに供されてもよい。
【0062】
例として、試料は、バイオマーカーを当該試料から単離すること、又はバイオマーカーが濃縮された試料の画分を調製することを目的とした、1つ又は複数の単離又は分離ステップに供されてもよい。例えば、バイオマーカーがペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質である場合、任意の既知のタンパク質精製技術を試料に適用して、そこからペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質を単離してもよい。ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質を精製するための方法の非限定的な例としては、クロマトグラフィー、分取用電気泳動、遠心分離、沈殿、アフィニティー精製等が挙げられ得る。
【0063】
本明細書で使用される場合、マーカー、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に関して「精製された」との用語は、絶対純度を必要としない。代わりに、それは、このようなマーカー、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質が、他の分析物を基準としたそれらの存在量(質量又は重量又は濃度に関して好都合に表現される)が生物学的試料中よりも多いディスクリート(discrete)環境にあることを示す。ディスクリート環境は、単一の媒体、例えば単一の溶液、ゲル、沈殿物、凍結乾燥物等を示す。精製タンパク質、ポリペプチド又はペプチドは、例えば、実験室合成又は組換え合成、クロマトグラフィー、分取用電気泳動、遠心分離、沈殿、アフィニティー精製等を含む既知の方法によって得てもよい。
【0064】
精製マーカー、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質は、好ましくは、ディスクリート環境のタンパク質含有量の10重量%、より好ましくは50重量%、例えば60重量%、さらにより好ましくは70重量%、例えば80重量%、さらにより好ましくは90重量%、例えば95重量%、96重量%、97重量%、98重量%、99重量%又はさらには100重量%を構成してもよい。タンパク質含有量は、例えば、Lowry法(Lowryら,1951. J Biol Chem 193: 265)によって、任意に、Hartree 1972 (Anal Biochem 48: 422-427)において記載されるように決定してもよい。ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質の純度は、クーマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いて、還元又は非還元条件下でSDS-PAGEによって決定してもよい。
【0065】
任意の既存の、利用可能な、又は従来の分離、検出、及び定量化方法を本明細書で使用して、試料中のマーカー、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質の有無(例えば、読出し有り対無し;又は検出可能な量対検出不能な量)及び/又は量(例えば、読出しが絶対量又は相対量、例えば、絶対濃度又は相対濃度である)を測定してもよい。
【0066】
例えば、このような方法は、質量分析法、生化学アッセイ法、イムノアッセイ法、若しくはクロマトグラフィー法、又はそれらの組合せを含んでもよい。
【0067】
「イムノアッセイ」との用語は、一般に、試料中の1つ又は複数の目的の分子又は分析物を検出するためのものとして既知の方法を指し、目的の分子又は分析物に対するイムノアッセイの特異性は、特異的結合剤(一般には抗体であるがこれに限定されない)と、目的の分子又は分析物との間の特異的結合によって付与される。イムノアッセイ技術としては、限定されるものではないが、免疫組織化学、直接ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、間接ELISA、サンドイッチELISA、競合ELISA、マルチプレックスELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISPOT技術、及び当該分野で既知の他の類似技術が挙げられる。
【0068】
一般に、ペプチドの質量に関する正確な情報、好ましくは選択されたペプチドの断片化及び/又は(部分)アミノ酸配列に関する正確な情報も得ることができる任意の質量分析(MS)技術(例えば、タンデム質量分析、MS/MS;又はポストソース減衰(post source decay)、TOF MS)が本明細書において有用である。好適なペプチドMS及びMS/MS技術及びシステムは、それ自体周知であり(例えば、Methods in Molecular Biology, vol. 146: “Mass Spectrometry of Proteins and Peptides”, by Chapman, ed., Humana Press 2000, ISBN 089603609x; Biemann 1990. Methods Enzymol 193: 455-79;又はMethods in Enzymology, vol. 402: “Biological Mass Spectrometry”, by Burlingame, ed., Academic Press 2005, ISBN 9780121828073を参照)、本明細書で使用してもよい。MSペプチド分析法は、有利には、上流ペプチド又はタンパク質の分離又は分画法、例えばクロマトグラフィーと組み合わせてもよい。MSから得られたデータは、当該分野で既知のプロテオミクス及び/又はメタボロミクスのデータ分析のためのソフトウェア、例えば、Skylineソフトウェア(v19.1.0.193)を用いて処理してもよい。
【0069】
クロマトグラフィーもまた、バイオマーカーを測定するために用いてもよい。本明細書中で使用される場合、「クロマトグラフィー」との用語は、化学物質を分離するための方法を包含し、当該分野でこのように言及され広く利用可能である。クロマトグラフィーは、本明細書で使用される場合、好ましくはカラムクロマトグラフィー(すなわち、固定相がカラム中に堆積又は充填されている)、好ましくは液体クロマトグラフィー、さらにより好ましくはHPLCであってよい。クロマトグラフィーの詳細は当技術分野で周知であるが、さらなる指針については、例えば、Meyer M., 1998, ISBN: 047198373X、及び“Practical HPLC Methodology and Applications”, Bidlingmeyer, B. A., John Wiley & Sons Inc., 1993を参照のこと。
【0070】
本開示におけるバイオマーカーの測定には、さらなるペプチド又はポリペプチドの分離、同定又は定量化方法を、任意に、上記の分析方法のいずれかと併せて用いてもよい。このような方法としては、限定されるものではないが、化学抽出分配、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)、キャピラリー等速電気泳動(CITP)、キャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)等を含む等電点電気泳動(IEF)、一次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)、キャピラリーゲル電気泳動(CGE)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、ミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)、フリーフロー電気泳動(FFE)等が挙げられるが。
【0071】
本発明者らは、バイオマーカーARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13の各々が、抗体非依存的方法、より詳細には例えばBourmaud A, Gallien S, Domon B. Parallel reaction monitoring using quadrupole-Orbitrap mass spectrometer: Principle and applications. Proteomics. 2016;16: 2146-59に記載の並列反応モニタリング(PRM)-ベースの質量分析を用いて検出できることを見出した。
【0072】
特定の実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーは、質量分析、好ましくは液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を用いて検出される。例えば、LC-MSは、Q Exactive Plus質量分析計と連結されたカラムスイッチングモードで操作されるDionex U3000 RSLC液体クロマトグラフィーシステムからなるLC-MSセットアップを施用して実施してもよい。
【0073】
当業者は、質量分析の前に、生物学的試料を枯渇させ、プロセシング、例えば(限外)濾過、変性、アルキル化、消化及び/又は脱グリコシル化してもよいことを理解するであろう。
【0074】
特定の実施形態では、被験体の生物学的試料において、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーを検出することは、被験体の生物学的試料中の前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定することを含む。
【0075】
「量(quantity)」、「量(amount)」及び「レベル」との用語は同義であり、一般に当技術分野で十分に理解されている。これらの用語は、本明細書で使用される場合、特に、試料中の分子若しくは分析物の絶対定量、又は試料中の分子若しくは分析物の相対定量、すなわち、別の値に対するもの、例えば、本明細書中で教示される基準値に対するもの、又はバイオマーカーのベースライン発現を示す値の範囲に対するものを指してもよい。これらの値又は範囲は、単一の患者又は患者群から得ることができる。
【0076】
試料中の分子又は分析物の絶対量は、有利には、重量又はモル量として、又はより一般的には濃度、例えば、重量/体積又はモル/体積として表してもよい。
【0077】
試料中の分子又は分析物の相対量は、有利には、前記別の値に対する、例えば本明細書で教示されるような基準値に対する増加若しくは減少として、又は倍数増加若しくは倍数減少として表してもよい。第1のパラメータと第2のパラメータ(例えば、第1の量と第2の量)との間の相対比較を実行することは、前記第1のパラメータ及び第2のパラメータの絶対値を最初に決定することを必要とすることがあるが、そうである必要はない。例えば、測定方法は、前記第1及び第2のパラメータの定量可能な読出し(例えば、シグナル強度)を生成することができ、前記読出しは、前記パラメータの値の関数であり、前記読出しを直接比較して、読出しをそれぞれのパラメータの絶対値に最初に変換する実際の必要なしに、第1のパラメータ対第2のパラメータの相対値を生成することができる。
【0078】
ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの「量」及び「発現レベル」との用語は、試料中の任意のこのような生成物の絶対定量及び/又は相対定量、濃度レベル又は量を指すために、本明細書において互換的に使用される。好ましくは、バイオマーカーはタンパク質であり、「発現レベル」との用語は「タンパク質発現レベル」を指す。
【0079】
本発明者らは、バイオマーカーTUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、ARHGDIB及び/又はCDH13が、肺癌に罹患している患者の生物学的試料、好ましくは血漿試料において、健常被験体と比較して有意に差次的に発現されることを見出した。
【0080】
特定の実施形態では、本明細書中で教示される方法は、被験体の生物学的試料中における、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの基準又は閾値の量又は発現レベルと比較するステップを含んでもよい。前記少なくとも1つのバイオマーカーの前記参照又は閾値量又は発現レベルは、肺癌の既知の診断を表してもよい。
【0081】
特定の実施形態では、方法は、
(a)被験体の生物学的試料中の、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、例えば、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定するステップ;
(b)ステップ(a)において測定した前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを、肺癌の既知の診断を表す基準値又は閾値と比較するステップ;
(c)ステップ(a)において測定した前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルの、前記基準値又は閾値からの逸脱又は逸脱なしを見出すステップ;及び
(d)逸脱又は逸脱なしを見出す前記ステップを肺癌の特定の診断に帰するステップ
を含む。
【0082】
特定の実施形態では、被験体における肺癌を診断及び処置するための方法は、
(a)被験体の生物学的試料中の、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、例えば、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定すること;
(b)(a)において測定した前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを、肺癌の既知の診断を表す基準値又は閾値と比較すること;
(c)(a)において測定した前記少なくとも1つのバイオマーカーの前記量又は発現レベルが前記基準値又は閾値から逸脱する場合、被験体における肺癌を診断するか、又は被験体が肺癌の処置を必要とすると診断すること;及び
(d)肺癌と診断された前記被験体に肺癌のための治療又は処置を施すこと、例えば、前記被験体に有効量の肺癌の治療剤を投与すること
を含む。
【0083】
本発明者らは、健常被験体と比較して、肺癌患者(肺癌ステージとは無関係に)の生物学的試料、好ましくは血漿試料中のTUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びARHGDIBのレベルは増加し、CDH13のレベルは減少することを見出した。
【0084】
それゆえ、特定の実施形態では、基準値又は閾値が肺癌に罹っていない被験体又は被験体群を表す場合、
-被験体の試料中におけるARHGDIBの量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して上昇(例えば、少なくとも約10%(約1.1倍以上)、又は少なくとも約20%(約1.2倍以上)、又は少なくとも約30%(約1.3倍以上)、又は少なくとも約40%(約1.4倍以上)、又は少なくとも約50%(約1.5倍以上)、又は少なくとも約60%(約1.6倍以上)、又は少なくとも約70%(約1.7倍以上)、又は少なくとも約90%(約1.9倍以上)、又は少なくとも約100%(約2倍以上)、又は少なくとも約400%(約5倍以上)、又は少なくとも約900%(約10倍以上)上昇)すること;
-被験体の試料中におけるTUBA4Aの量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して上昇(例えば、少なくとも約10%(約1.1倍以上)、又は少なくとも約20%(約1.2倍以上)、又は少なくとも約30%(約1.3倍以上)、又は少なくとも約40%(約1.4倍以上)、又は少なくとも約50%(約1.5倍以上)、又は少なくとも約60%(約1.6倍以上)、又は少なくとも約70%(約1.7倍以上)、又は少なくとも約90%(約1.9倍以上)、又は少なくとも約100%(約2倍以上)、又は少なくとも約200%(約3倍以上)、又は少なくとも約300%(約4倍以上)、又は少なくとも約400%(約5倍以上)上昇)すること;
-被験体の試料中におけるGSTO1の量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して上昇(例えば、少なくとも約10%(約1.1倍以上)、又は少なくとも約20%(約1.2倍以上)、又は少なくとも約30%(約1.3倍以上)、又は少なくとも約40%(約1.4倍以上)、又は少なくとも約50%(約1.5倍以上)、又は少なくとも約60%(約1.6倍以上)、又は少なくとも約70%(約1.7倍以上)、又は少なくとも約90%(約1.9倍以上)、又は少なくとも約100%(約2倍以上)、又は少なくとも約200%(約3倍以上)、又は少なくとも約300%(約4倍以上)、又は少なくとも約400%(約5倍以上)、又は少なくとも約900%(約10倍以上)上昇)すること;
-被験体の試料中におけるPRDX6の量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して上昇(例えば、少なくとも約10%(約1.1倍以上)、又は少なくとも約20%(約1.2倍以上)、又は少なくとも約30%(約1.3倍以上)、又は少なくとも約40%(約1.4倍以上)、又は少なくとも約50%(約1.5倍以上)、又は少なくとも約60%(約1.6倍以上)、又は少なくとも約70%(約1.7倍以上)、又は少なくとも約90%(約1.9倍以上)、又は少なくとも約100%(約2倍以上)、又は少なくとも約200%(約3倍以上)、又は少なくとも約300%(約4倍以上)、又は少なくとも約400%(約5倍以上)、又は少なくとも約900%(約10倍以上)上昇)すること;
-被験体の試料中におけるFLNAの量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して上昇(例えば、少なくとも約10%(約1.1倍以上)、又は少なくとも約20%(約1.2倍以上)、又は少なくとも約30%(約1.3倍以上)、又は少なくとも約40%(約1.4倍以上)、又は少なくとも約50%(約1.5倍以上)、又は少なくとも約60%(約1.6倍以上)、又は少なくとも約70%(約1.7倍以上)、又は少なくとも約90%(約1.9倍以上)、又は少なくとも約100%(約2倍以上)、又は少なくとも約200%(約3倍以上)、又は少なくとも約300%(約4倍以上)、又は少なくとも約400%(約5倍以上)、又は少なくとも約900%(約10倍以上)、又は少なくとも約1400%(約15倍以上)、又は少なくとも約1900%(約20倍以上)上昇)すること;及び/又は
-被験体の試料中におけるCDH13の量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して減少(例えば、少なくとも約10%(約0.9倍以上)、又は少なくとも約20%(約0.8倍以上)、又は少なくとも約30%(約0.7倍以上)、又は少なくとも約40%(約0.6倍以上)、又は少なくとも約50%(約0.5倍以上)、又は少なくとも約60%(約0.4倍以上)、又は少なくとも約70%(約0.3倍以上)、又は少なくとも約80%(約0.2倍以下)、又は少なくとも約90%(約0.1倍以下)減少)すること
により被験体における肺癌の診断が可能となる。
【0085】
特定の実施形態では、方法が、被験体の生物学的試料中の、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13の量又は発現レベルを測定することを含み、且つ基準値又は閾値が肺癌に罹っていない被験体又は被験体群を表す場合、
-ARHGDIBの量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して、被験体の試料において上昇しており、
-TUBA4Aの量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して、被験体の試料において上昇しており、
-GSTO1の量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して、被験体の試料において上昇しており、
-PRDX6の量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して、被験体の試料において上昇しており、
-FLNAの量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して、被験体の試料において上昇しており、且つ
-CDH13の量又は発現レベルが、基準値又は閾値と比較して、被験体の試料において減少している場合、
被験体は肺癌と診断される。
【0086】
基準値又は閾値との比較
【0087】
別個の基準値又は閾値は、肺癌の診断対肺癌の非存在(例えば、健常であるか又は肺癌から回復している)を表してもよい。別の例では、別個の基準値又は閾値は、様々な重症度の肺癌の診断を表してもよい。
【0088】
さらに別の例では、別個の基準値又は閾値は、被験体の肺癌の治療的処置の必要性vs被験体の肺癌の治療的処置の不必要性を表してもよい。
【0089】
このような比較は、一般に、比較される値又はプロファイル間の少なくとも1つの差異の有無、及び任意に、このような差異の大きさの有無を決定するための任意の手段を含んでもよい。比較は、目視検査、測定値の算術的又は統計的比較を含んでもよい。このような統計的比較は、アルゴリズムを適用することを含むが、これに限定されない。値又はバイオマーカープロファイルが少なくとも1つの標準を含む場合、前記値又はバイオマーカープロファイルの差異を決定するための比較は、バイオマーカーの測定値が内部標準の測定値と相関するように、これらの標準の測定値も含むことがある。
【0090】
ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルについての基準値又は閾値は、他のバイオマーカーについて以前採用されていた既知の手順に従って確立してもよい。
【0091】
例えば、本明細書中で教示される肺癌の特定の診断のための、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量の基準値は、前記疾患又は病的状態の前記特定の診断によって特徴付けられた1個体又は個体の集団(例えば、群)の生物学的試料中の前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを決定することによって確立してもよい。このような集団は、限定されるものではないが、≧2の、≧10の、≧100の、又はさらには数百以上の個体を含んでもよい。
【0092】
それゆえに、例示的な例として、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルの、肺癌ありvsこのような疾患又は病的状態なしとの診断用の基準値は、(例えば、他の十分に決定的な手段、例えば臨床徴候及び症状、イメージング等に基づいて)それぞれ肺癌であるか又は肺癌でないと診断された1個体又は個体の集団の試料中の前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを決定することによって確立してもよい。
【0093】
同一患者について、異なる時点における、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定することは、このような場合、患者の状況の連続的なモニタリングを可能にし、本明細書中で教示される所与の疾患又は病的状態に関する患者の病的状態の悪化又は改善の予測をもたらし得る。本明細書において以下に記載されたキットといったツールを開発してこのタイプのモニタリングを確実にすることができる。肺癌の発症に関連する前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルについての1つ又は複数の基準値、閾値又は範囲は、例えば、前記被験体において、事前に、又はある特定の期間にわたるモニタリングプロセス中に決定することができる。あるいは、これらの基準値又は範囲は、高度に類似した疾患表現型を有する数人の患者の(例えば、肺癌を発症していない被験体の)データセットを通じて確立することができる。前記基準値、閾値、又は範囲からの前記少なくとも1つのバイオマーカーのレベルが突然逸脱すると、(しばしば重篤な)症状が実際に感じられるか又は観察され得る前に、患者の病的状態の悪化を(例えば、自宅で又はクリニックで)予測することができる。モニタリングは、被験体の医学的処置、好ましくはそのようにモニタリングされた疾患又は病的状態を軽減することを目的とした医学的処置の過程で適用してもよい。このようなモニタリングは、例えば、患者が退院してもよいか、処置の変更を必要とするか、又はさらなる入院を必要とするかを決定することに含まれていてもよい。
【0094】
それゆえ、本明細書においてまた提供されるのは、被験体の生物学的試料において、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーを検出することを含む、被験体における肺癌をモニタリングするためのインビトロ法である。
【0095】
一実施形態では、本明細書において意図される基準値又は閾値は、本明細書において意図されるバイオマーカーの絶対量を伝えてもよい。別の実施形態では、試験した被験体の試料中のバイオマーカーの量は、基準値と直接比較して(例えば、増加若しくは減少、又は倍数増加若しくは倍数減少に関して)決定してもよい。有利には、これは、バイオマーカーのそれぞれの絶対量を最初に決定する必要なしに、被験体の試料中のバイオマーカーの量又は発現レベルと基準値との比較(言い換えれば、基準値に対する被験体の試料中のバイオマーカーの相対量を測定すること)を可能にしてもよい。
【0096】
説明したように、本方法、使用又は製品は、被験体の試料において測定された、本明細書中で教示されるARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルと、所与の基準値又は閾値との間の逸脱又は逸脱なしを見出すことを含んでもよい。
【0097】
第2の値からの第1の値の「逸脱」又は第1の値と第2の値との間の「相違」は、一般に、任意の方向(例えば、増加:第1の値>第2の値;又は減少:第1の値<第2の値)及び任意の程度の変化を包含してもよい。
【0098】
例えば、逸脱又は相違は、比較されている第2の値に対して、限定されないが、少なくとも約10%(約0.9倍以下)、又は少なくとも約20%(約0.8倍以下)、又は少なくとも約30%(約0.7倍以下)、又は少なくとも約40%(約0.6倍以下)、又は少なくとも約50%(約0.5倍以下)、又は少なくとも約60%(約0.4倍以下)、又は少なくとも約70%(約0.3倍以下)、又は少なくとも約80%(約0.2倍以下)、又は少なくとも約90%(約0.1倍以下)の第1の値の減少を包含してもよい。
【0099】
例えば、逸脱又は相違は、比較されている第2の値に対して、限定されるものではないが、少なくとも約10%(約1.1倍以上)、又は少なくとも約20%(約1.2倍以上)、又は少なくとも約30%(約1.3倍以上)、又は少なくとも約40%(約1.4倍以上)、又は少なくとも約50%(約1.5倍以上)、又は少なくとも約60%(約1.6倍以上)、又は少なくとも約70%(約1.7倍以上)、又は少なくとも約80%(約1.8倍以上)、又は少なくとも約90%(約1.9倍以上)、又は少なくとも約100%(約2倍以上)、又は少なくとも約150%(約2.5倍以上)、又は少なくとも約200%(約3倍以上)、又は少なくとも約500%(約6倍以上)、又は少なくとも約700%(約8倍以上)等の第1の値の増加を包含してもよい。
【0100】
好ましくは、逸脱又は相違は、統計的に有意な観測変化を指してもよい。例えば、逸脱又は相違は、所与の集団における基準値の誤差範囲(例えば、標準偏差若しくは標準誤差によって、又はその所定の倍数、例えば、±1×SD若しくは±2×SD若しくは±3×SD、又は±1×SE若しくは±2×SE若しくは±3×SEによって表される)の外側にある観測変化を指してもよい。逸脱又は相違はまた、所与の集団における値によって定義される基準範囲の外側(例えば、前記集団における値の≧40%、≧50%、≧60%、≧70%、≧75%又は≧80%又は≧85%又は≧90%又は≧95%又はさらに≧100%を含む範囲の外側)にある値を指してもよい。
【0101】
さらなる実施形態では、観測変化が所与の閾値又はカットオフ値を超える場合に逸脱又は相違が決定されてもよい。このような閾値又はカットオフ値は、予測方法の選択された正確性、感受性及び/又は特異性、例えば、少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%の正確性、感受性及び/又は特異性を提供するために、当技術分野において一般に既知であるように選択してもよい。
【0102】
例えば、受診者動作特性(ROC)曲線分析を使用して、許容可能な全体的正確性、感受性及び/若しくは特異性、又はそれ自体が周知である関連した性能尺度、例えば、陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)、陽性尤度比(LR+)、陰性尤度比(LR-)、Youden指数等に基づいて、本診断検査の臨床使用のための所与のバイオマーカーの量の最適な閾値又はカットオフ値を選択することができる。
【0103】
例えば、最適な閾値又はカットオフ値は、Robin X., PanelomiX: a threshold-based algorithm to create panels of biomarkers, 2013, Translational Proteomics, 1(1):57-64に記載されているように、受診者動作特性(ROC)曲線の極値、すなわち、対角線までの極大距離の点として個々のバイオマーカー毎に選択してもよい。
【0104】
当業者は、正確な閾値又はカットオフ値を与えることは関連しないことを理解するであろう。関連した閾値又はカットオフ値は、感受性及び特異性と任意の閾値又はカットオフ値についての感受性/特異性とを相関させることによって得ることができる。
【0105】
陽性的中率/陰性的中率/感受性/特異性のどのレベルが望ましいか、及び陽性的中率又は陰性的中率のどの程度の損失が許容できるかを決定することは、診断技術者次第である。選択された閾値又はカットオフレベルは、診断技術者によって本方法と組み合わせて使用される他の診断パラメータに依存し得る。
【0106】
本方法、使用又は製品は、被験体の生物学的試料において測定された、本明細書中で教示されるARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルと所与の基準値又は閾値との間の逸脱又は逸脱なしを見出すことを肺癌の有無に帰することをさらに含んでもよい。
【0107】
本明細書で提供される方法において、被験体の生物学的試料中における、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルと基準値又は閾値との間の逸脱の観察は、前記被験体における肺癌の診断が前記基準値又は閾値によって表されたそれとは異なるという結論を導くことができる。同様に、被験体の試料中における、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルと基準値又は閾値との間に逸脱が見出されない場合、このような逸脱なしは、前記被験体における前記肺癌の診断が前記基準値又は閾値によって表されたものと実質的に同じであるという結論を導くことができる。
【0108】
特定の実施形態では、本発明による方法で使用される基準値又は閾値は、肺癌に罹っていない被験体又は被験体の群、例えば健常被験体又は健常被験体の群の生物学的試料から決定される。健常被験体又は健常被験体の群は、肺癌を発症するリスクが高いか、又は平均的であってもよく、例えば、健常被験体又は健常被験体の群は、喫煙者又は喫煙者の群であってもよい。被験体(好ましくは、肺癌である被験体であるが、これに限定されない)の生物学的試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルは、肺癌に罹っていない被験体又は被験体群、例えば、健常被験体又は健常被験体群の生物学的試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの量又は発現レベルを表す基準値又は閾値と比較して(すなわち、これを基準として)上昇(例えば、バイオマーカーがARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA又はPRDX6である場合)又は減少(例えば、バイオマーカーがCDH13である場合)していてもよい。そのように上昇又は減少した量又は発現レベルは、被験体における肺癌の診断を可能にしてもよい。
【0109】
本明細書中で教示される診断方法を医師が容易に使用できるようにするために、本発明者らは、カットオフ値/バイオマーカーを帰属させる閾値ベースのアプローチを採用し、カットオフ値/バイオマーカーは、Robin X., PanelomiX: a threshold-based algorithm to create panels of biomarkers, 2013, Translational Proteomics, 1(1):57-64に記載されているように、受診者動作特性(ROC)曲線の極値、すなわち、対角線までの極大距離の点である。
【0110】
本明細書中で教示される方法の特定の実施形態では、方法の特定の高い全体的診断正確性が所望され(高い感受性(例えば、95%以上)及び/又は特異性(例えば、95%以上)を含む)、方法が生物学的試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13を検出することを含む場合、TUBA4Aの前記基準値又は閾値は1.69であり、GSTO1の前記基準値又は閾値は5.36であり、FLNAの前記基準値又は閾値は0.48であり、PRDX6の前記基準値又は閾値は6.0であり、ARHGDIBの前記基準値又は閾値は0.51であり、CDH13の前記基準値又は閾値は69.83である。
【0111】
本明細書中で教示される方法のさらなる特定の実施形態では、方法の特定の高い感受性(例えば、95%以上)及び/又は特異性(例えば、95%以上)が所望され、方法が生物学的試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13を検出することを含む場合、TUBA4Aの前記基準値又は閾値は0.19であり、GSTO1の前記基準値又は閾値は5.36であり、FLNAの前記基準値又は閾値は0.48であり、PRDX6の前記基準値又は閾値は4.04であり、ARHGDIBの前記基準値又は閾値は0.51であり、CDH13の前記基準値又は閾値は148.16である。
【0112】
本明細書中で教示される診断方法を医師にとってさらにより実用的にするために、本発明者らはまた、肺癌のリスクがある被験体の1試料当たり単一のスコアを採用して、試料を肺癌又は健常と分類し、ここにおいて、単一のスコアは、健常個体と比較して前記被験体の試料中で差次的に発現する、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択されるバイオマーカーの数を表す。
【0113】
それゆえ、特定の実施形態では、本明細書中で教示される方法は、
(a)被験体の生物学的試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定するステップ;
(b)ステップ(a)において測定した前記少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーの量又は発現レベルに基づいてスコアを算出するステップ;
(c)ステップ(b)において算出したスコアを基準スコア又は閾値スコアと比較するステップ;及び
(d)ステップ(b)において算出したスコアが基準スコア又は閾値スコア以上である場合、被験体を肺癌と診断するステップ
を含む。
【0114】
特定の実施形態では、本明細書中で教示される方法は、
(a)被験体の生物学的試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全てのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定するステップ;
(b)ステップ(a)において測定した前記バイオマーカーの量又は発現レベルを基準値又は閾値と比較するステップ;
(c)ステップ(a)において測定した前記バイオマーカーの量又は発現レベルの、前記基準値又は閾値からの逸脱又は逸脱なしを見出すステップ;
(d)ステップ(c)において前記基準値又は閾値から逸脱することが見出された、ステップ(a)において測定したバイオマーカーの数を表すスコアを算出するステップ;
(e)ステップ(b)において算出したスコアを基準スコア又は閾値スコアと比較するステップ;及び
(d)ステップ(b)において算出したスコアが前記第2の基準スコア又は閾値スコア以上である場合、被験体を肺癌と診断するステップ
を含む。
【0115】
特定の実施形態では、ステップ(c)において前記基準値又は閾値から逸脱することが見出された、ステップ(a)において測定したバイオマーカーの数を表すスコアは、以下のように示すことができる。
【0116】
【数1】
【0117】
(式中、Sは患者pについてのスコアであり、nはステップ(a)において測定したバイオマーカーの数であり、Xipは被験体pにおけるi番目のバイオマーカーの量又は発現レベルであり、Tはi番目のバイオマーカーについての基準値又は閾値であり、I(x)は、例えば、Robin X., PanelomiX: a threshold-based algorithm to create panels of biomarkers, 2013, Translational Proteomics, 1(1):57-64に記載されているように、x=真の場合に1の値をとり、そうでない場合に0の値をとる特性関数である。)
【0118】
特定の実施形態では、方法の特定の高い全体的診断正確性(高い感受性(例えば、95%以上)及び/又は特異性(例えば、95%以上)を含む)が所望される場合、本明細書中で教示される方法は、
(a)被験体の試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13の量又は発現レベルを測定するステップ;
(b)ステップ(a)において測定した前記バイオマーカーの量又は発現レベルを基準値又は閾値と比較するステップ;
ここにおいて、TUBA4Aの前記基準値又は閾値は1.69であり、GSTO1の前記基準値又は閾値は5.36であり、FLNAの前記基準値又は閾値は0.48であり、PRDX6の前記基準値又は閾値は6.0であり、ARHGDIBの前記基準値又は閾値は0.51であり、CDH13の前記基準値又は閾値は69.83であり;
(c)ステップ(a)において測定した前記バイオマーカーの量又は発現レベルの、前記基準値又は閾値からの逸脱又は逸脱なしを見出すステップ;
(d)ステップ(a)において測定した少なくとも3つのバイオマーカーの量又は発現レベルが前記基準値又は閾値から逸脱する場合、被験体を肺癌と診断するステップ
を含む。
【0119】
特定の実施形態では、方法の特定の高感受性(例えば、95%以上)及び/又は特異性(例えば、95%以上)が所望される場合、本明細書中で教示される方法は、
(a)被験体の試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13の量又は発現レベルを測定するステップ;
(b)ステップ(a)において測定した前記バイオマーカーの量又は発現レベルを基準値又は閾値と比較するステップ、
ここにおいて、TUBA4Aの前記基準値若しくは閾値は0.19であり、GSTO1の前記基準値若しくは閾値は5.36であり、FLNAの前記基準値若しくは閾値は0.48であり、PRDX6の前記基準値若しくは閾値は4.04であり、ARHGDIBの前記基準値若しくは閾値は0.51であり、及び/又はCDH13の前記基準値若しくは閾値は148.16であり;
(c)ステップ(a)において測定した前記バイオマーカーの量又は発現レベルの、前記基準値又は閾値からの逸脱又は逸脱なしを見出すステップ;
(d)ステップ(a)において測定した少なくとも5つのバイオマーカーの量又は発現レベルが前記基準値又は閾値から逸脱する場合、被験体を肺癌と診断するステップ
を含む。
【0120】
「試料」又は「生物学的試料」との用語は、本明細書で使用される場合、対象から得られ、単離された任意の生体標本を含む。試料としては、限定されるものではないが、臓器組織(すなわち、肺組織)、全血、血漿、血清、全血細胞、赤血球、白血球(例えば、末梢血単核球)、唾液、尿、便(すなわち、糞便)、涙、汗、皮脂、乳頭吸引液、腺管洗浄液、腫瘍滲出液、滑液、脳脊髄液、リンパ液、細針吸引液、羊水、任意の他の体液、細胞溶解物、細胞分泌産物、炎症液、精液及び膣分泌物が挙げられ得る。好ましくは、試料は、低侵襲性の方法、例えば、血液採取によって容易に入手可能であってもよく、これは被験体の試料の除去/単離/提供を可能にする。「組織」との用語は、本明細書で使用される場合、器官の細胞を含むが、上記で列挙した血液及び他の体液も含む、人体の全タイプの細胞を包含する。
【0121】
特定の実施形態では、試料は、体液試料であり;好ましくは、血漿、血清、全血、尿、組織分解物、脳脊髄液(CSF)、唾液及び汗からなる群より選択される体液試料である。
【0122】
簡便な血液分析によって固形癌を同定することは、通常の検診の間の癌の検出が患者に迅速な処置の解決策を提供することができるので、癌研究における長年の目標であった。非常に正確な測定方法と組み合わせた場合、血液試料は、低侵襲性で容易に採取される、理想的な癌診断の材料を代表し得る。
【0123】
癌についての血液ベースの早期診断は依然として難題であるが、血中を循環するいくつかのタンパク質は、処置応答及び/又は腫瘍再発をモニタリングするのに有用である。これまで、前立腺特異的抗原のみが、癌の早期診断のために血中でルーチン的に測定されている。最近、Cohen及び共同研究者らは、一般的な固形腫瘍を診断するために無細胞DNA中の8つのタンパクマーカー及び1933個の遺伝子変異の存在を評価する血液検査であるCancerSeekの結果を公表した。結果は有望であったが、癌マネジメントを進歩させるこのアッセイの有用性は、まだ広範な採用を達成していない。肺癌におけるCancerSeekの感受性中位値は約59%であり、調査した8つの癌タイプの中で2番目に低かった。
【0124】
本発明者らは、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択されるバイオマーカーの各々は、血漿中において、例えば、質量分析によって検出することができること、並びに血漿試料中における、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも6つのバイオマーカーの検出が、肺癌患者を肺癌に罹患していない被験体と識別することを可能にすることを見出した。それゆえ、本発明の方法は、本明細書中で教示される方法が、容易に収集することができる体液試料、特に血漿試料に基づいて実施することができるので、低侵襲性又は非侵襲的な様式で肺癌の診断を可能にする。
【0125】
特定の実施形態では、試料は血漿試料である。
【0126】
「診断すること」又は「診断」との用語は、一般に、症状及び徴候に基づいて、及び/又は様々な診断手順の結果から(例えば、診断疾患又は病的状態に特徴的な1つ又は複数のバイオマーカーの有無及び/又は量を知ることから)、被験体における疾患又は病的状態を認識する、決定する、又は結論付けるプロセス又は行為を指す。本明細書で使用される場合、被験体における、本明細書中で教示される疾患又は病的状態の「診断」とは、特に、被験体がこのような疾患又は病的状態であること、したがって、このような疾患又は病的状態であると診断することを意味し得る。被験体における、本明細書中で教示される疾患又は病的状態がないとの「診断」は、特に、被験体がこのようなものを有さないこと、したがって、このようなものを有さないと診断することを意味し得る。被験体を、このようなものを連想させる1つ又は複数の従来の症状又は徴候を呈するにもかかわらず、このようなものを有さないと診断してもよい。
【0127】
「肺癌」との用語は、本明細書で使用される場合、肺に発生する悪性腫瘍を指し、小細胞肺癌と、腺癌、扁平上皮癌及び大細胞癌を含む非小細胞肺癌との両方を含む。
【0128】
本発明者らは、肺癌、特に初期肺癌において強力な診断性能を有し、病期(ステージI腫瘍を含む)とは無関係に肺癌を診断することを可能にするバイオマーカーを同定した。その結果として、本バイオマーカーは、疾患の初期であっても、肺癌について患者を検診するための非常に興味深いツールである。
【0129】
特定の実施形態では、肺癌は、ステージI(例えば、ステージIA又はIB)、ステージII(例えば、ステージIIA又はIIB)、ステージIII(例えば、ステージIIIA、IIIB又はIIIC)又はステージIV(例えば、ステージIVA又はIVB)の肺癌、好ましくはステージI又はステージIIの肺癌、より好ましくはステージIの肺癌である。
【0130】
「被験体」又は「患者」との用語は、本明細書で使用される場合、典型的に及び好ましくはヒトを示すが、非ヒト動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、げっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタ等への言及も包含してもよい。特に意図されるのは、肺癌であることが既知であるか又は疑われる被験体である。好適な被験体には、肺癌の検診のために内科医の診察を受ける被験体、及び/又は肺癌の兆しがある症状及び徴候のある被験体が含まれていてもよい。
【0131】
特定の実施形態では、被験体は、肺癌のリスクがある被験体、例えば、肺癌のリスクが平均又は高い被験体である。肺癌に対する危険因子の非限定的な例としては、遺伝的感受性、食事、職業性曝露(例えば、アスベスト、金属、シリカ、多環式芳香族炭化水素、ディーゼル排気)、大気汚染及びタバコ喫煙が挙げられる。
【0132】
より特定の実施形態では、被験体は、タバコ喫煙者又は以前タバコ喫煙者である。
【0133】
本明細書中で教示される診断方法は、肺癌検診における画像化技術を効率的に補完するために使用することができる。
【0134】
特定の実施形態では、被験体は、例えば画像化技術によって肺癌と診断された被験体である。
【0135】
本明細書で使用される場合、「処置を必要とする被験体」といった語句は、所与の病的状態、特に肺癌の処置から利益を得るであろう被験体を含む。このような被験体は、限定されるものではないが、前記病的状態と診断された被験体が含んでもよい。
【0136】
「処置する」又は「処置」との用語は、既に発症した疾患又は病的状態の治療的処置、例えば、既に発症した増殖性疾患の治療と、予防的(prophylactic)手段又は予防性(preventive)手段との両方を包含し、ここで、その目的は、望ましくない苦痛の発生の可能性を予防又は低減すること、例えば、肺癌の増悪を予防することである。有益な又は所望される臨床結果としては、限定されるものではないが、1つ若しくは複数の症状又は1つ若しくは複数の生物学的マーカーの軽減、疾患の程度の減少、疾患の安定した(すなわち、悪化していない)状態、疾患憎悪の遅延又は減速、疾患状態の寛解又は緩和等が挙げられ得る。「処置」はまた、処置を受けない場合に予想されるのと比較して、生存期間を延長することを意味し得る。肺癌の治療的処置の非限定的な例は、放射線治療、化学療法、標的薬物療法、免疫療法及び手術である。
【0137】
特定の実施形態では、処置は、放射線治療、化学療法、標的療法、免疫療法及び手術からなる群より選択される。
【0138】
特定の実施形態では、処置は、アブラキサン、アファチニブジマレアート、アフィニトール、アフィニトール・ディスパーズ(Afinitor Disperz)、アレセンサ、アレクチニブ、アリムタ、アルンブリグ、アテゾリズマブ、アバスチン、ベバシズマブ、ブリグチニブ(Brigatinib)、カルボプラチン、セリチニブ、クリゾチニブ、サイラムザ、ダブラフェニブメシレート、ダコミチニブ、ドセタキセル、ドキソルビシン塩酸塩、デュルバルマブ、エヌトレクチニブ、エルロチニブ塩酸塩、エベロリムス、エトポホス(Etopophus)、エトポシド、エトポシドリン酸塩、ゲフィニチブ、ジオトリフ(Gilotrif)、ゲムシタビン、ジェムザール、ハイカムチン、イミフィンジ、イレッサ、キイトルーダ、ローブレナ、ロルラチニブ、メクロレタミン塩酸塩、メキニスト、メトトレキサート、ムスタルゲン、ムバシ、ナベルビン、ネシツムマブ、ニボルマブ、オプジーボ、オシメルチニブメシル酸塩、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン安定化ナノ粒子製剤、パラプラット(Paraplat)、パラプラチン、ペンブロリズマブ、ペメトレキセドジナトリウム、ポートラーザ、ラムシルマブ、ロズリートレク、タフィンラー、タグリッソ、タルセバ、タキソール、タキソテール、テセントリク、トポテカン塩酸塩、トラメチニブ、トレキソール(Trexall)、ビジンプロ、ビノレルビン酒石酸塩、ザーコリ、ジカディア、カルボプラチン-タキソール及びゲムシタビン-シスプラチンからなる群より選択される、有効量の治療剤の投与を含む。
【0139】
「有効量」との用語は、本明細書で使用される場合、予防的有効量を指してもよく、これは、研究者、獣医、医師又は他の臨床医によって求められているように障害の発症を被験体において阻害又は遅延させる、活性化合物又は医薬品、より詳細には予防薬の量である、又は、治療的有効量を指してもよく、これは、研究者、獣医、医師又は他の臨床医によって求められている、被験体における生物学的又は医学的応答を誘発する、活性化合物又は医薬品、より詳細には治療剤の量である治療的有効量を指してもよく、これには、とりわけ、処置中の疾患又は病的状態の症状の軽減が含まれていてもよい。本明細書中で教示される薬剤についての治療的及び予防的に有効な用量を決定するための方法は、当該分野で既知である。
【0140】
「投与」又は「投与すること」との用語は、本明細書で使用される場合、肺癌のある特定の処置を、このような処置を必要とする被験体に施すことを指す。このような処置は、本明細書中の他の箇所に記載されるような治療剤であり得る。投与経路は、本質的に任意の投与経路、例えば、限定されるものではないが、経口投与(例えば、経口摂取又は吸入)、鼻腔内投与(例えば、鼻腔内吸入又は鼻腔内粘膜適用)、非経口投与(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内又は胸骨内注射又は注入)、経皮又は経粘膜(例えば、経口、舌下、鼻腔内)投与、局所投与、直腸、膣又は気管内点滴注入等であってもよい。このようにして、本発明の方法によって達成可能な治療効果は、本発明の所与の適用の特定の必要性に依存して、例えば、全身的、局所的、組織特異的等であり得る。
【0141】
肺癌の診断のための本方法は、被験体から取り出された試料に1つ又は複数のインビトロプロセシング及び/又は分析ステップを適用するという点で、インビトロ法として十分に適格であり得る。「インビトロ」との用語は、一般に、身体、例えば、動物又はヒトの身体の外側又は外部を意味する。被験体の生物学的試料において、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーを検出又は測定することは、通常、本方法の検査段階が、被験体の試料中の前記少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定することを含むことを意味し得る。本方法は一般に、データを被験体から及び/又は被験体について収集する検査段階を含み得ることが理解される。
【0142】
さらなる態様は、
(a)被験体の試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定する手段;並びに
(b)前記少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ若しくは6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーの各々について肺癌の既知の診断を表す基準値若しくは閾値を確立する手段
を含んでなるキット、具体的には肺癌診断用又は肺癌モニタリング用キットを提供する。
【0143】
特定の実施形態では、バイオマーカーを測定する手段は、前記バイオマーカーに特に適合する。例えば、バイオマーカーを測定するための様々な技術は、前記それぞれのバイオマーカーに対する結合剤を採用してもよい。それゆえに、被験体の試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定する手段は、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及び/又はCDH13に特異的に結合することができる結合剤、例えば抗体又は抗体断片、アプタマー、光アプタマー、タンパク質、ペプチド、ペプチドミメティック、又は小分子、及び/又は例えば分光光度法による測定値の可視化及び/又は定性的読出しを可能にする担体を含んでもよい。いくつかの実施形態では、本明細書中で教示される結合剤は、検出可能な標識を含んでもよい。いくつかの実施形態では、結合剤は、別の薬剤(例えば、プローブ結合パートナー)を用いた検出を可能にするタグを備えていてもよい。バイオマーカー-結合剤コンジュゲートは、検出を容易にする検出剤と会合又は結合していてもよい。
【0144】
加えて又は代替的に、結合剤は、RNAレベルで前記バイオマーカーの発現を検出し得る。RNA検出のために最も一般的に使用される方法としては、ノーザンブロット、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、RNAインサイチュハイブリダイゼーション、cDNAマイクロアレイ、及びハイスループットシーケンシング技術が挙げられる。
【0145】
特定の実施形態では、被験体の試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定する手段は、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーに特異的に結合する1つ又は複数の抗体を含む。ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6、又はCDH13に対する多数の抗体が、様々な供給業者から市販されている。この情報は、それぞれの供給業者から得ることができ、また、便利にカタログ化されており、公的に利用可能なデータベース、例えば、Weizmann Institute(www.GeneCards.org)によって管理されているGeneCards(登録商標)データベース、「抗体製品」のフィールドにおいて照会することができる。
【0146】
特定の実施形態では、被験体の試料中の、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーの量又は発現レベルを測定する手段は、前記バイオマーカーの各々をコードするRNAに特異的に結合する1つ又は複数のプローブ又はプライマーを含む。
【0147】
特定の実施形態では、基準値又は閾値は、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択される前記少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーの量又は発現レベルの基準値又は閾値であり、ここにおいて、前記基準値又は閾値は、肺癌に罹っていない被験体の試料、例えば健常被験体又は健常被験体群の試料中の、前記少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーの量又は発現レベルに対応するか、又は前記基準値又は閾値は、肺癌に罹っている被験体又は被験体群の試料中の、前記少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は6つ全て、好ましくは少なくとも2つのバイオマーカーの量又は発現レベルに対応する。
【0148】
特定の実施形態では、キットは、それぞれの基準値又は閾値から逸脱することが見出された、ARHGDIB、TUBA4A、GSTO1、FLNA、PRDX6及びCDH13からなる群より選択されるバイオマーカーの数を表す基準スコア又は閾値スコアをさらに含む。
【0149】
被験体における肺癌を診断するためのキットは、すぐに使用できる基質溶液、洗浄溶液、希釈緩衝液及び指示書をさらに含んでもよい。診断キットはまた、陽性及び/又は陰性対照試料を含んでもよい。
【0150】
好ましくは、診断キットに含まれる説明書は、当業者にとって曖昧でなく、簡潔且つ理解しやすいものである。説明書は、典型的には、キットの内容、組織試料の採取方法、方法論、実験の読出し及びその解釈、並びに注意及び警告に関する情報を提供する。
【0151】
「パーツのキット」及び「キット」との用語は、本明細書を通して使用される場合、指定された方法(例えば、被験体における肺癌の診断のための方法、又は被験体が本明細書中で教示される肺癌の治療的処置を必要とするか否かを決定するための方法)を実施するのに必要な構成要素を収容し、それらの輸送及び保存を可能にするように包装された製品を指す。キットに含まれる構成要素を包装するのに好適な材料としては、結晶、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート)、ボトル、フラスコ、バイアル、アンプル、紙、封筒、又は他のタイプの容器、担体、若しくは支持体が挙げられる。キットが複数の構成要素を含む場合、少なくとも構成要素のサブセット(例えば、複数の構成要素のうちの2つ以上)又は構成要素の全ては、物理的に分離していてもよく、例えば、個別の容器、担体、又は支持体の中又はその上に含まれていてもよい。キットに含まれている構成要素は、指定された方法を実施するために十分であっても十分でなくてもよく、その結果、外部試薬又は物質は、それぞれ、当該方法を実施するために必要でなくてもよく、又は必要であってもよい。典型的には、キットは、標準的な実験装置、例えば、リキッドハンドリグ装置、環境(例えば、温度)制御装置、分析機器等と共に採用される。本明細書中で教示される列挙された結合剤、例えば、アレイ又はマイクロアレイ上に任意に提供される、抗体、ハイブリダイゼーションプローブ、増幅プライマー及び/又はシーケンシングプライマー)に加えて、本キットはまた、指定された方法において有用な、溶媒、緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、ギ酸緩衝液、安息香酸緩衝液、TRIS(Tris(ヒドロキシメチル)-アミノメタン)緩衝液若しくはマレイン酸緩衝液、又はそれらの混合物であるが、これらに限定されない)、酵素(例えば、熱安定性DNAポリメラーゼであるが、これに限定されない)、検出可能な標識、検出試薬、及びコントロール調合物(ポジティブ及び/又はネガティブ)のいくつか又は全てを含んでもよい。典型的には、キットはまた、例えば、印刷された折込み上又はコンピュータ可読媒体上に、その使用のための指示書を含んでもよい。これらの用語は、「製造物品」との用語と互換的に使用してもよく、本文脈で使用する場合、任意の人工の有形構造製品を広く包含する。
【0152】
特定の実施形態では、キットは、本明細書中で教示される方法を実施するための1つ又は複数のプログラムが記録されたコンピュータ可読記憶媒体をさらに含む。
【0153】
さらなる態様は、肺癌診断用の、又は被験体の試料中における前記バイオマーカーの検出に基づいて肺癌をモニタリングするための、本明細書において教示されるようなキットの使用を提供する。
【0154】
さらに、本発明者らは、特定の方法を首尾よく使用して、好適なバイオマーカーパネルを同定及び検証することができることを見出した。
【0155】
より具体的には、本発明のさらなる態様は、
(a)前記疾患又は病的状態であると診断された第1の患者群及び第1の健常者群の生物学的試料中の所定のタンパク質セットの量又は発現レベルを測定すること;
(b)前記疾患又は病的状態であると診断された患者群と健常者群との間で量又は発現レベルが有意に異なるタンパク質を同定すること;
(c)(b)で同定したタンパク質に対して階層的クラスタリングを実施し、相関するタンパク質の群当たり1つのタンパク質を選択すること;
(d)(c)において選択したタンパク質について、ブートストラップサンプリングと組み合わせて絶対収縮選択演算子(LASSO)を適用して、疾患又は病的状態の転帰予測のための最良のタンパク質バイオマーカーパネルを得ること;
(e)任意に、(d)で得られたタンパク質バイオマーカーパネルの各バイオマーカーの最適閾値を同定すること;及び
(f)前記疾患又は病的状態であると診断された第2の患者群及び第2の健常者群に対して、(d)で得られたタンパク質バイオマーカーパネルの各バイオマーカーを検証すること
を含む、ある特定の疾患又は障害、好ましくは肺癌についてのバイオマーカーパネルを同定及び検証するための方法を提供する。
【0156】
特定の実施形態では、所定のセットのタンパク質は、疾患又は障害に関連することが知られており、任意に、生物学的試料内で測定可能であることが知られているタンパク質を含む。例えば、生物学的試料がヒト血液である場合、所定のセットのタンパク質は、ヒト血液中で検出可能なタンパク質のみを含む。生物学的試料がヒト血液である場合、所定のセットのタンパク質は、周知の血液タンパク質、例えば、周知の血漿タンパク質をさらに含んでもよい。
【0157】
特定の実施形態では、疾患又は障害に関連することが知られているタンパク質は、罹患及び非罹患ヒト組織のゲノム分析を使用して同定されたタンパク質(例えば、腫瘍vs.腫瘍正常生体標本間で少なくとも2倍の差(p<0.05)で差次的に発現した遺伝子)、マウス異種移植研究に基づいて同定したタンパク質(例えば、ヒト肺癌細胞タンパク質を異種移植したマウスの血漿中で同定されたヒトタンパク質候補)、及び/又は公開文献に基づいて同定されたタンパク質を含む。
【0158】
特定の実施形態では、前記疾患又は病的状態と診断された患者群及び健常者群は、それらが、バイオマーカーパネルが検診のために使用される所期の集団を良好に代表するように選択される。
【0159】
特定の実施形態では、前記疾患又は病的状態と診断された患者群と健常者群との間で量又は発現レベルが有意に異なるタンパク質を同定するステップは、ノンパラメトリックKruskal-Wallis検定及びBonferroni調整したP値を用いて実施する。例えば、タンパク質は、P<0.00014(=0.05/351;Bonferroni補正)である場合、前記疾患又は病的状態と診断された患者群と健常者群との間で有意に異なると考えられる。特定の実施形態では、階層的クラスタリングは、スピアマン(Spearman)の相関係数を用いて(b)で同定したタンパク質に対して実施される。例えば、タンパク質の階層的クラスタリングを、非類似性関数(=1-相関の絶対値)を使用して実施して、全ての相関群を識別することができる。
【0160】
特定の実施形態では、LC-PRM-MS法を用いて生物学的試料中の所定のセットのタンパク質の量又は発現レベルを測定する場合、例えば、生物学的試料中の高い強度、より低い欠測値、及び/又はPRMシグナルの干渉が無いことに基づいて、相関タンパク質群を表すように、当該相関タンパク質群当たり1つのタンパク質を選択する。
【0161】
特定の実施形態では、(b)で同定されたタンパク質に対して階層的クラスタリングを実施するステップは、ブートストラップサンプリングと組み合わせてLASSOを適用する前に、高度に相関するタンパク質を除外することを可能にする。これにより、LASSOが、高度に相関したタンパク質群の1つのタンパク質をランダムに選択することが防止される。
【0162】
特定の実施形態では、疾患又は病的状態の転帰予測のための最良のタンパク質バイオマーカーパネルは、タンパク質のある特定の組合せを保持する頻度に基づいて選択される。
【0163】
特定の実施形態では、(d)で得られたタンパク質バイオマーカーパネルの各バイオマーカーの最適な閾値は、例えば、Robin X., PanelomiX: a threshold-based algorithm to create panels of biomarkers, 2013, Translational Proteomics, 1(1):57-64に記載されているように、PanelomiXプラットフォームを用いて決定される。
【0164】
一般的結論
【0165】
本発明をその特定の実施形態と併せて説明してきたが、前述の説明に照らして、多くの代替例、改変例、及び変形例が当業者には明白であることは明らかである。それゆえ、添付の特許請求の範囲の趣旨及び広い範囲において、以下の通りこのような代替例、改変例、及び変形例を全て包含することが意図される。
【0166】
上記の態様及び実施形態は、以下の非限定的な実施例によってさらにサポートされる。
【実施例
【0167】
実施例1:本明細書中で教示されるバイオマーカーパネルの使用は、患者からの血漿試料中の肺癌を診断することを可能にする
1.材料及び方法
1.1 研究コホート
トレーニングコホートは、ルクセンブルグの病院内で追跡された128人の肺癌患者及び93人の健常ドナーからなっていた。検証コホートは、48人の患者並びに49人の年齢、性別及び喫煙状況が一致した非癌被験体(トレーニングコホートには含まれない)を含んでいた。全ての参加者は、ヘルシンキ宣言に則ったインフォームド・コンセントに従って血液試料を提供した。当該研究は、国家研究倫理委員会「Comite National d’Ethique de Recherche」及びデータ保護のための国家委員会「Commission Nationale pour la Protection des Donnees」によって承認された。血液試料を、Integrated Biobank of Luxembourgの標準的な操作手順に従って採取及びプロセシングして、血漿試料を調製した。疾患の診断、ステージ分類及びグレード分類は、肺腫瘍のIASLC/ATS/ERS組織学的分類(2011)及び肺癌のTNM分類(2009)に従って、経験豊富な病理学者によって行われた。被験体の臨床病理学的特徴を表1及び2に要約する。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
1.2 血漿枯渇及びプロセシング
トレーニングコホート
ヒト14 Multiple Affinity Removal Column(4.6×100mm)(Agilent Technologies, Diegem, Belgium)を搭載したAgilent 1260 Infinity Bio-inert LCシステムを製造業者の手順に従って使用して、40μLの血漿から高存在量のタンパク質を除去した。溶出後、緩衝液Aを100mM NHHCO/10%ACN(pH8)に交換し、スピン濃縮器5K(Agilent)を使用して容量を100μLに低減させた。タンパク質を1%デオキシコール酸ナトリウム(SDC)で変性させ、10mMジチオスレイトールで37℃にて30分間還元し、25mMヨードアセトアミドで室温にて30分間アルキル化し、続いて10mM n-アセチル-L-システインでクエンチした。全ての試薬を50mMトリス緩衝液中で調製した。プロセシングした試料を希釈してSDC濃度を0.5%に低減させ、13μgの配列決定グレードのトリプシン(Promega, Leiden, The Netherlands)と共に37℃で16時間、次いで10UのPNGase Fと共に37℃で1時間、続いて追加の2μgのトリプシンと共に37℃で3時間インキュベートした。SDCを1%ギ酸による沈殿及び遠心分離によって除去した。消化した試料をSep-Pak C18カートリッジ(Waters, Milford, MA, USA)で洗浄し、真空乾燥した。試料を200μLの0.1%ギ酸/4%アセトニトリルで再構成した。
【0171】
検証コホート
患者及び健常ドナーからの40μlの血漿試料のアリコートを、Mars14カラム(Agilent)枯渇カラムと連結されたLC1260クロマトグラフィーシステムを使用して枯渇させた。Agilentスピンフィルター(5kDa MWCO)上への限外濾過によって、枯渇させた血漿試料を50mM炭酸水素アンモニウム緩衝液で緩衝液交換した。次いで、10%の試料のアリコートを、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)1%(w/v)及び10mM DTTを用いて37℃にて1時間変性させた。次いで、試料を、25mMの最終濃度のヨードアセトアミドを用いて、室温にて暗所で30分間アルキル化した。アセチルシステインを最終濃度10mMで添加することによって反応を停止させた。試料を炭酸水素アンモニウム緩衝液で1%(w/v)SDCに希釈し、次いで配列決定グレードのトリプシン(Promega)によって一晩消化した。その後、PNGase Fと共に37℃にて1時間インキュベートし、続いて37℃にて3時間の第2のトリプシン消化を行うことによって、試料を脱グリコシル化した。ギ酸を最終1%まで添加することによってSDCを沈殿させ、遠心分離によって除去した。次いで、上清を固相抽出(Sep Pak C18、Waters)によって精製した。溶出した試料を真空遠心分離で乾燥させ、最後に50μLの1%アセトニトリル及び0.05%トリフルオロ酢酸水溶液に懸濁した。
【0172】
重C末端リジン又はアルギニン(C末端アルギニン、1315、Δm=10Da、C末端リジン1315、Δm=8Da)で標識された定量化した合成ペプチド(aqua quant pro、Thermo scientific)の混合物を、単回使用のためにアリコート化し(aliquoted)、-80℃で保存した。当該混合物を、LC-MS分析の前に、消化した血漿試料中にスパイクした。
【0173】
1.3 LC-PRM分析
トレーニングコホート
安定アイソトープ標識(SIL)(C末端アルギニンについては13 15及びC末端リジンについては13 15)された合成ペプチドを内部標準として使用した(AQUA QuantProグレード、Thermo Fisher Scientific、Bremen、Germany)。各ペプチドについて、LC-MS属性(保持時間、前駆体m/z及び最も強い断片イオン)を決定して、LC-PRM法を構築した。予定されているLC-PRMアッセイを351個のペプチドについて使用して試料を分析した。Q-Exactive Plus質量分析計(Thermo Fisher Scientific)に連結したUltimate 3000 RSLCnanoシステムを、Kim YJら,Quantification of SAA1 and SAA2 in lung cancer plasma using the isotype-specific PRM assays. Proteomics 2015;15:3116-3125に以前より記載されていたように使用した。光及びSILペプチドの強度比から正確な相対定量を得た。
【0174】
検証コホート
LC-MSセットアップは、Q Exactive Plus質量分析計と連結されたカラムスイッチングモードで操作されるDionex U3000 RSLC液体クロマトグラフィーシステムで構成されている。液体クロマトグラフィーのA及びB移動相は、それぞれ、0.1%ギ酸を含む水及び0.1%ギ酸を含むアセトニトリルからなっていた。ローディング相は、水中の1%アセトニトリル及び0.05%トリフルオロ酢酸からなっていた。試料を、5μl/分の流速でローディング相によってトラップカラム(75μm×20mm、C18pepmap100、3μm)上にロードした。次いで、66分で2%A~35%Bの範囲の直線勾配によって、試料をトラップから分析カラム(75μm×150mm、pepmap100についてC18、2μm)に溶出した。MS取得は、並列反応モニタリングモード(PRM)で操作されるQ Exactive Plus(Thermo Scientific)で実施した。取得ループは、200m/zで70,000の分解能にて実施されるタイムスケジュールされた標的PRM取得で構成されていた。標的ペプチドイオンの単離ウィンドウ(isolation window)を1m/zに設定し、正規化衝突エネルギーを25に設定し、最大充填時間を240msに設定した。内因性ペプチド及びアイソトープ標識ペプチドの各対についてのタイムスケジュールされたウィンドウの持続時間を5分に設定し、それらの保持時間に集中させた。
【0175】
1.4 モデル開発及び統計分析(トレーニングコホート)
LC-PRMシグナルを、内部標準ペプチドに基づいてfmol/μLのタンパク質濃度に変換した。未検出タンパク質の値を、最小タンパク質濃度/√2で置き換えた。ノンパラメトリックKruskal-Wallis検定及びBonferroni調整したP値を使用して、肺癌試料及び健常試料中のタンパク質濃度を比較した。P値<0.00014(=0.05/351;Bonferroni補正済み)を有するタンパク質を、分析のためにさらに考慮した。タンパク質間の相関は、Spearmanの相関係数を用いて調べた。タンパク質の階層的クラスタリングを、非類似性関数(=1-相関の絶対値)を使用して実施して、全ての相関群を識別した。強度が高く、肺癌試料において欠測値がより低く、且つPRMシグナルにおいて干渉がないことを基準として、高度に相関するタンパク質群当たり1つのタンパク質を選択して当該群を表した。
【0176】
ブートストラップサンプリング及び最小絶対値縮小選択演算子(LASSO)ペナルティを使用して、転帰予測のためのタンパク質の最良の組合せを見出した。Rの「glmnet」パッケージを使用して、4,500,000セットのブートストラップされたデータセットに対して10分割交差検証によるLASSOを実施した。タンパク質及びタンパク質の組合せの予測能を評価するために、ロジスティック回帰モデルの陰性的中率(NPV)、陽性的中率(PPV)、感受性、特異性、受診者動作特性曲線下面積(AUC)及び赤池情報量規準(AIC)を、元のデータセットに対して計算した。ブートストラップ検定を用いて、異なるモデルのAUCを比較した。感受性及び特異性を比較するために、McNemarχ検定を推奨されるように用いた。モデル検証のために、感受性、特異性、NPV、PPV、AUC及びそれらの95%信頼区間(CI)を、検証データセットに対して計算した。
【0177】
多項ロジスティック回帰を用いて、6-タンパク質パネルを使用して各癌ステージの確率(4つの癌ステージ、1つの未知のステージ及び1つの健常状態を含む6つのレベル)を予測した。最も確率の高いレベルを、最終的な予測癌ステージ(又は健常状態)として選択した。コーエン(Cohen)のカッパ検定を用いて、臨床的に注釈付けられたステージ分類と予測ステージ分類との間の一致の程度を評価した。
【0178】
Kruskal-Wallis検定を使用して連続変数を比較した。二値変数又はカテゴリー変数を、Pearsonのχ二乗検定を用いて比較した。
【0179】
1.5 検証コホートのMSデータ処理
データをSkylineソフトウェア(v19.1.0.193)で処理した。内因性ペプチド及びアイソトープ標識ペプチドの各対の4つの最も強く且つ最も干渉されないプロダクトイオンのMSシグナルを、イオンクロマトグラム(XIC)として抽出した。内因性ペプチド断片イオンXICとアイソトープ標識ペプチド断片イオンXICとの各対間の相対内積を、Skyline埋込み型計算器を使用して計算し、0.99未満のスコアを有するペプチド対を、定量分析のために棄却した。定量値は、対応するアイソトープ標識ペプチドのXIC面積の合計で除した内因性断片イオンXIC面積の合計として抽出した。
MSシグナルは、以下の式により濃度に変換した:
【0180】
【数2】
【0181】
1.6 閾選択のためのPanelomiXの使用(トレーニングコホート)
Robin X. PanelomiX for the Combination of Biomarkers. Methods Mol Biol 2019;1959:261-273に記載されるようなPanelomiXプラットフォームを用いて、組合せの最適な分類性能を有するように候補バイオマーカーの閾を選択した。最初に、閾値をタンパク質の各々について定義し、次いで、スコアを各被験体に割り当てた。患者のスコアは、疾患状態を満たすバイオマーカー(「陽性」バイオマーカーという)の数である。被験体のスコアが、PanelomiXによって同定されたパネル閾値スコアと少なくとも等しい場合、被験体を肺癌患者として分類した。トレーニングセットから得られた閾を、癌予測のための検証セットに適用し、性能測定基準を計算した。
【0182】
1.7 新知見のまとめ
ヒト肺組織のゲノム分析
Agilent SurePrint Human CGH Microarray 244Kを使用して、38個の肺癌生体標本から19個の腫瘍試料のDNAコピー数/変化を決定した。各腫瘍試料に特異的なコピー数多型(CNV)を、DNA Analyticsを使用して、ヒトリファレンス(Promega、Madison、WI)を基準とした対数倍数変化として決定した。遺伝子発現分析については、Agilent SurePrint G3 Human Exon 2X400K Microarrayを使用した。19個のマッチした健常対生体標本及び腫瘍対生体標本のうち、16個のマッチした試料は、分析に適した高品質なRNA(RIN>7.5)を有していた。両側t検定を使用して、GeneSpringソフトウェアを使用して、少なくとも2倍の差(p<0.05)で腫瘍生体標本vs腫瘍正常生体標本間で差次的に発現した遺伝子を同定した。腫瘍正常肺生体標本と比較した場合、腫瘍試料において78個の遺伝子が一般的に過剰発現したが、腫瘍正常と比較した場合、腫瘍試料において81個の遺伝子が過少発現した。候補遺伝子バイオマーカーを、以前に記載されたように優先順位付けした(Salhia B, Kiefer J, Ross JTら,Integrated genomic and epigenomic analysis of breast cancer brain metastasis. PLoS One 2014;9:e85448)。
【0183】
マウス異種移植研究
同所性肺癌モデルを、以前の研究において記載されたように、易感染性のマウスの肺におけるヒト肺癌細胞株(H2009及びH1975)から開発した。移植の2週間後、腫瘍を発症した21匹のマウスからマウス血漿を採取して、LC-MS/MSベースのプロテオミクスによって循環ヒトタンパク質を同定した。これらの血漿試料に対してショットガンベースのプロテオミクス解析を実施して、肺腫瘍からマウス血液循環中に分泌されたヒトタンパク質を同定した。バイオインフォマティクス分析により、マウス血漿中の436個のヒト特異的タンパク質(以前肺癌の発症及び増悪に関与したタンパク質を含む)を識別した。
【0184】
発見データ及び候補優先順位付けの統合
さらなる発見のために、本発明者らは、公開された文献を徹底的に検索して、肺癌の高品質オミクスデータセットを同定し、ストリンジェントな品質基準を満たす40セットのデータセットを精選した。これらのデータセットを本発明者ら自身の発見データと組み合わせて、包括的なヒト組織候補データベースを開発した。これらの4セットのデータセット(プロテオミクス、aCGH、遺伝子発現、及び文献精選)からの4000個の上位候補を、ヒト肺癌細胞を異種移植したマウスの血漿中で同定されたヒトタンパク質候補と組み合わせて、次の優先順位付けステップで検討するための合計4254個の固有のバイオマーカー候補を得た。
【0185】
血漿中の検出能に基づいて候補を優先順位付けするために、2観点(two-pronged)分析を実施した。最初に、13人の後期肺癌患者に由来するヒト血漿のプールの徹底的なショットガン分析を実施し、1245個の固有のヒトタンパク質の検出をもたらし、520個が優先順位付けされた組織ベースの候補リストと重複した。次に、ショットガンプロテオミクスでは場合によっては明らかにならない候補を検出するのを助けるために、本発明者らは、Accurate Inclusion Mass Screening(AIMS)を適用した。実験上で観察されたペプチド及び公的に利用可能なデータベースを使用して、本発明者らは、本発明者らのタンパク質バイオマーカー候補の3573個を代表する29270個のペプチドのリストを構築した。これらのペプチドを20個の個別の包含リストにサブセット化し、2次元分離LC-MS/MSによる枯渇血漿中の分析のためにFHCRCとTGenとの間で等しく分割した。枯渇ヒト血漿のショットガン又はAIMS分析によって観察されたバイオマーカー候補を使用して、検証研究のためのバイオマーカー候補に優先順位を付け、559個のタンパク質を得た。
【0186】
2.結果
2.1 患者及び健常ドナーの構成
コホートは、57.92%の男性、42.08%の女性、14.93%の非喫煙者、57.92%の以前喫煙者、及び27.15%の現在喫煙者から構成されていた。平均年齢は63.56(±10.03)であり、年齢中位値は63であった(表3)。健常個体と癌個体との間で、年齢、性別及び喫煙状況に有意差は見出されなかった。
【0187】
2.2 血漿中の潜在的な腫瘍予測因子の広範な選択
本発明者らの研究室で実施された以前のマルチオミクス発見の取り組みは、559個のタンパク質が肺癌に関連し、ヒト血液中で場合によっては検出可能であることを示唆した(「材料及び方法」の1.8 「新知見のまとめ」を参照) (Zhang H, Kennedy J, Lee LWら,Integrated Strategy for Lung Cancer Biomarker Candidate Discovery by Quantitative Proteomics Profiling on Tumor and Adjacent Normal Lung Tissue (abstract)。59th ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics Denver, Colorado: 2011:Abstract nr MP 679及びZhang H, Whiteaker J, Lin Cら,Prioritization of Plasma-Based Predictive Markers for Chemotherapy in Lung Cancer Using Fractionation and Targeted Mass Spectrometry (abstract)。61st ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics. Minneapolis, Minnesota: 2013:Abstract nr MP 541)。ヒト血漿中の各タンパクの検出性は、前もって検証され、より大きなコホートにおいてさらに検証されるべき323個のタンパク質のセットをもたらした。この研究では、323タンパク質の血漿レベルを、肺癌患者及び健常ドナーの血漿中においてLC-PRMによって定量化した。追加の28個の周知の血漿タンパク質もスクリーニングした。PRMデータの差次的分析は、229種のタンパク質の血漿レベルが肺癌群と健常群との間で有意に異なることを示した(データ示さず)。
【0188】
【表3】
【0189】
2.3 バイオマーカー選択の改良
肺癌被験体及び健常被験体の血漿中の229の差次的に豊富なタンパク質のうち、90のタンパク質が1つ又は複数のタンパク質と≧0.9又は≦-0.9の相関を示したのに対し、139のタンパク質はより弱い相関を呈した。タンパク質間の非類似性又は「距離」の閾値を0.1(絶対値として)に設定した場合、高度に相関したタンパク質を有する19の群が同定された。それゆえ、19の代替タンパク質を選択し(詳細については材料及び方法を参照)、71のタンパク質をさらなる分析から除外した。
【0190】
LASSO変数選択を158のタンパク質を用いて実施した。最も多く(23倍)保持された組合せは、FLNA、TUBA4A、GSTO1、PRDX6、ARHGDIB及びCDH13であった(以下、6-タンパク質組合せ/パネル/分類子という)(表4)。6つのタンパク質の濃度は、肺癌患者及び健常ドナーの血漿において有意に異なっていた(図1)。内部標準と比較した、1人の肺癌患者及び1人の健常ドナーの試料において測定されたタンパク質のPRM読出しを図2に示す。これらのタンパク質は、FLNAについては症例の74.51%、TUBA4Aについては76.91%、GSTO1については44.42%、PRDX6については54.74%、ARHGDIBについては45.11%、及びCDH13については81.43%が、組合せとは無関係に、最も予測性の高いものとして個別に選択された(表4)。全ての組合せの75%を超えて予測的であるとして選択されたタンパク質は、TUBA4A、TFPI及びCDH13であった(以下、3-タンパク質組合せという)。
【0191】
【表4】
【0192】
2.4 モデルの性能分析
本発明者らは、5つの診断用タンパク質からなる市販のXpresys(登録商標)Lung(XL)検定(Biodesix,Boulder,CO)に対するモデルの性能を比較した。XL検定は、不確定肺結節の中で良性の肺結節と悪性の肺結節とを識別するために当初設計された。本バイオマーカーパネルを、Xpresys(登録商標)Lung XL検定に含まれる5つの診断用タンパク質-パネルと比較した。しかしながら、比較結果の解釈にはいくらか注意を払うべきである。Xpresys(登録商標)Lung XLは、胸部コンピュータ断層撮影(CT)スキャン後に良性である可能性が高い結節を同定するのに役立つように開発された。それゆえ、8~30mmの肺結節を示し、非小細胞肺癌(すなわち、ステージIA)の診断を示すか、又は癌の形跡がない被験体コホートにおいてそれを検証した。本研究では、Xpresys(登録商標)Lung XLを、健常集団に加えて、混合型の肺癌タイプ及びステージである患者のコホートにおいて研究した。本研究の主要目的及び標的集団は、Xpresys(登録商標)Lung XL調査のものとは異なるので、6-バイオマーカーパネルとXpresys(登録商標)Lung XLとの間の比較は、本分類因子の良好な性能の単なる指標であり、バイオマーカーパネルの有用性の比較として解釈されるべきではない。それにもかかわらず、限定されているが、異なる主要目的及び標的集団に基づいて、血漿試料の同じプールにおけるXL検定との直接比較により、本パネルのための有用なベンチマークを提供することができる。性能指標の値は、3-タンパク質組合せ、XLパネル及び単変数モデルと比較して、6-タンパク質組合せで最良であった(表5):最低AIC(30.876)、最高AUC(0.999)(3-タンパク質組合せと共有)、最高PPV(0.992)、最高NPV(0.989)、最高特異性(0.989)(ARHGDIBと共有)及び最高感受性(0.992)。分類因子としてTUBA4A、TFPI及びCDH13を使用した場合、AIC(31.402)の値はわずかに高く、PPV(0.984)、NPV(0.968)、特異性(0.978)及び感受性(0.977)の値はわずかに低かった。FLNA、TUBA4A、GSTO1、PRDX6及びARHGDIBを唯一の分類因子として考慮すると、性能指標はまた、優れた予測力を示した。CDH13及びTFPIの性能のみがより劣っていたが、依然として予測力は良好だった(それぞれAUC=0.845及び0.851)。
【0193】
6-タンパク質モデルと比較して、XLパネルのタンパク質を使用して導出されたロジスティック回帰モデルは、AIC(45.592)がより高く、これは、データへ適合性がより劣っていることを示唆する。加えて、PPV、NPV、特異性及び感受性は、6-タンパク質及び3-タンパク質モデルのものよりも低かった(表5)。次に、6-タンパク質パネルの、癌ステージを予測する能力を試験した。表6に示すように、6-タンパク質パネルは、健常個体と肺癌個体とを識別したが、癌ステージを予測することはできなかった。0.59(95%CI、0.52~0.66)の非加重Cohen's Kappa及び0.73(95%CI、0.73~0.73)の加重Cohen's Kappaが見出され、これは、予測ステージと臨床的に注釈付けられたステージとの間の一致の程度が弱いことを示唆している。重要なことには、6-タンパク質パネルは、23人のステージI患者のうち22人を肺癌個体として分類し、これは早期症例におけるその強力な診断性能を実証する。
【0194】
【表5】
【0195】
【表6】
【0196】
2.5 試料分類のためのバイオマーカー閾値の決定
PanelomiXプラットフォームを用いて、同定された6つのバイオマーカーについて最良の閾値を選択した。以下の3つのパネル最適化オプションを用いた:95%以上の特異性で感受性を最適化すること、95%以上の感受性で特異性を最適化すること、及び全体的正確性を最適化すること。正確性又は特異性を最適化することを選択する場合、1つの閾値/バイオマーカーのみをPanelomiXによって選択し、1つの組合せ/最適化を得た。感受性を最適化する場合、19644組の組合せが見出され、第1の組合せは、特異性を最適化する場合に選択した閾値の組合せと同じであった。したがって、以下の2組の閾値の組合せを考慮した:パネル正確性を最適化した場合に得られたもの(T組合せ)並びに感受性及び特異性の最適化に共通の組合せ(T組合せ)(表7)。T閾値を用いて任意の3つのタンパク質が陽性であった場合、被験体を肺癌であると分類した。Tについて、6つのタンパク質のうちの任意の5つは、個体を肺癌であるとして分類するために陽性であるべきである。
【0197】
当初のデータセットに閾値を適用すると、パネルの性能測定基準は優れていた:T組合せについては0.992の感受性及び0.989の特異性、並びにT組合せについては0.977の感受性及び1.0の特異性。
【0198】
【表7】
【0199】
2.6 検証データセットについてのパネル性能。
次いで、モデルを、48人の肺癌患者及び49人の健常ドナーの血漿を用いた検証データセットについて試験した。トレーニングセットから得られたロジスティック回帰及びPanelomiX閾値のモデルの推定値を、癌予測のための検証セットに適用した。XL及び6-タンパク質パネルのNPV、PPV、感受性及び特異性を、新しいデータセットについて算出した(表8)。ロジスティック回帰モデルから得られた結果を比較すると、6-タンパク質の組合せの全ての性能測定基準の値は、XLパネルの値と少なくとも同程度に高かった。興味深いことに、最も高い特異性(0.918)が、T閾値によって予測されるように、6-タンパク質パネルについて得られた。6-タンパク質パネルの全ての可能な部分組合せもまた、検証データセットについて試験した。それらの多くは、NPV、PPV、感受性、特異性及びAUCのフォレストプロットによって示されるように、優れた性能を呈した(図3)。バイオマーカーの部分的組合せを、≧0.90の感受性及び≧0.90のNPV又は≧0.90の特異性を有する部分的組合せについてフィルタリングした。表9に示す36組がフィルタリング後に得られ、最良の性能を有していた。これらの36組のうち、6組の組合せ、すなわち、FLNA-TUBA4A-GSTO1-CDH13(すなわち、表9の組合せ8)、FLNA-ARHGDIB-CDH13(すなわち、表9の組合せ21)、TUBA4A-GSTO1-CDH13(すなわち、表9の組合せ23)、TUBA4A-PRDX6-CDH13(すなわち、表9の組合せ25)、TUBA4A-ARHGDIB-CDH13(すなわち、表9の組合せ26)、及びGSTO1-CDH13(すなわち、表9の組合せ33)は、≧0.90の感受性、≧0.90のNPV及び≧0.90の特異性を有する。
【0200】
【表8】
【0201】
【表9-1】
【0202】
【表9-2】
【0203】
3.考察
この研究の目的は、肺癌における非侵襲的な診断ツールとして使用するタンパク質バイオマーカーのパネルを同定することであった。この目的のために、ヒト血漿中で発見され、予備的に検証された351個の見込みバイオマーカーをスクリーニングした。ここで、PRM測定とそれに続くロジスティック回帰分析に基づいて、本発明者らは、肺癌における見込み診断ツールとして血液ベースの6-タンパク質パネルを同定した。このパネルを医師が容易に使用できるようにするために、本発明者らはまた、カットオフ値/バイオマーカー、次いでスコア/試料に起因する閾値ベースのアプローチを採用して、それを肺癌又は健常として分類した。
【0204】
バイオマーカーパネルは、試験コホートにおいて優れた性能を示し、AUC(0.999)、PPV(0.992)、NPV(0.989)、特異性(0.989)及び感受性(0.992)値によって裏付けられた。この結果を、これらの6つのタンパク質の他の部分組合せが優れた識別力を呈することも示した検証データセットにおいて確認した。重要なことに、病期(ステージI腫瘍を含む)とは無関係に非侵襲的に肺癌を検出する6-タンパク質パネルの能力は、検診ツールとしてのその高い可能性を示唆している。
【0205】
本明細書に記載された6-タンパクバイオマーカーパネルの性能を、市販のMSベースの肺癌診断検査であるXpresys(登録商標)Lung(XL)検査と比較した。限定されているが、異なる主要目的及び標的集団に基づいて、血漿試料の同じプールにおけるXL検定との直接比較により、本明細書に記載された6-タンパク質バイオマーカーパネルのための有用なベンチマークを提供することができる。トレーニングセットにおいて、全ての性能測定基準の値は、本明細書に記載された6-タンパク質バイオマーカーパネルでより良好である傾向があり、本パネルが本コホートにおいて優れた診断正確性を呈することを示した。
【0206】
バイオマーカーパネルを、異なるタイプの癌(例えば、結腸癌)である患者、並びに基礎疾患として非悪性肺疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患)があるドナー及び基礎疾患として非悪性肺疾患がないドナーを含む独立したコホートにおいてさらに検証する。その分析により、肺癌に対するバイオマーカーパネルの特異性が確認される。
【0207】
結論として、本発明者らは、血液中の肺癌を検出するためのタンパク質ベースの診断パネルを同定した。高リスク及び平均リスクの個体(例えば、喫煙者及び以前喫煙者)に対するルーチン検査として使用する場合、これは、肺癌検診においてLDCTを効率的に補完し得る。これは、しばしばさらなる侵襲性検査及び不必要なコストにつながり、患者を身体的及び精神的な苦難にさらす偽陽性症例の数を低減するだろう。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
【配列表】
2023531860000001.app
【国際調査報告】