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特表2023-531869神経保護を誘導するための化合物及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(54)【発明の名称】神経保護を誘導するための化合物及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/38 20060101AFI20230719BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/13 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230719BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C07C211/38 CSP
A61P25/00 ZNA
A61K31/13
A61P25/28
A61P43/00 121
A61K31/445
A61K31/27
A61K31/55
A61K31/196
A61K31/19
A61K31/4709
A61K31/69
A61K31/675
A61K39/395 N
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022571216
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 FR2021050929
(87)【国際公開番号】W WO2021234324
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2005138
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521432627
【氏名又は名称】レスト・セラピューティクス
(71)【出願人】
【識別番号】521240402
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】302013564
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ド ラ サント エ ド ラ ルシュルシェ メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
【住所又は居所原語表記】101 rue de Tolbiac,F-75654 Paris Cedex 13,France
(71)【出願人】
【識別番号】517015661
【氏名又は名称】エコール プラティーク デ オート エテュード
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】ルビンステン ジル
(72)【発明者】
【氏名】モーリス タングイ
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
4C206
4H006
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE03
4C086AA01
4C086BC21
4C086BC28
4C086CB22
4C086DA35
4C086DA43
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206DA14
4C206FA29
4C206FA33
4C206HA24
4C206KA01
4C206KA04
4C206KA09
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZC75
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB21
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I):
【化1】
の化合物、又はその薬学的に許容される塩に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経保護を必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I):
【化1】
の化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
薬学的に許容される塩が、式(II):
【化2】
(式中、X-は、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオン、酒石酸イオン、二安息香酸イオン、アスコルビン酸イオン、フマル酸イオン、クエン酸イオン、リン酸イオン、サリチル酸イオン、シュウ酸イオン、臭化水酸化物イオン、及びトシル酸イオンからなる群から選択される対アニオンを表す)
に対応することを特徴とする、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
神経保護が、神経炎症の予防又は低減を含む、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
神経保護が、神経細胞における酸化ストレスの予防又は低減を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
神経保護が、対象における神経細胞アポトーシスの予防又は低減を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
神経保護が、対象における海馬細胞損失の阻害を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
神経保護が、対象の認知能力に対する障害の予防又は低減を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
神経保護が、対象の短期記憶に対する障害の予防又は低減を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
神経保護が、対象の中期記憶に対する障害の予防又は低減を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
神経保護が、対象の空間記憶に対する障害の予防又は低減を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
神経保護が、対象の認識及び/又は学習能力に対する障害の予防又は低減を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
神経保護が、対象におけるβ-アミロイド凝集体、その断片、又はそのオリゴマーの毒性に対する保護を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
対象が、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、又は脳卒中から選択される中枢神経系の病状、好ましくはアルツハイマー病、に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物若しくはその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物、及び:
- ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、若しくはそれらの薬学的に許容される塩から好ましくは選択される、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、
- メクロフェナム酸、エノキソロン、メフロキン及び2-アミノエトキシジフェニルボレート(APB)、若しくはそれらの薬学的に許容される塩から好ましくは選択される、少なくとも1種のコネキシン阻害剤、
- β-アミロイド凝集体、その断片、若しくはそのオリゴマーの毒性に対抗することができるアデュカヌマブ若しくはその抗原結合断片、又は
- 2-(2-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3,5-ジクロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(2,3-ジクロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-フルオロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-ニトロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-ベンジルオキシカルバモイルフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-2-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-3-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-4-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリミジン-2-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリミジン-5-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-アミノフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-アミノフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-N-メチル-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-2-チオノ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート);(+)-ペンタゾシン;1,13-ジメチル-10-プロパ-2-エニル-10-アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ-2(7),3,5-トリエン-4-オール;1-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エチル]-4-(3-フェニルプロピル)ピペラジン;1-(2,2-ジフェニルテトラヒドロ-3-フラニル)-N,N-ジメチルメタンアミン;2-{[(E)-{5-メトキシ-1-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ペンチリデン]アミノ]オキシ}エタンアミン;N-(1-ベンジルピペリジン-4-イル)-4-ヨードベンズアミド;(5E)-N-(シクロプロピルメチル)-N-メチル-3,6-ジフェニル-5-ヘキセン-3-アミン;1-{3-[4-(3-クロロフェニル)-1-ピペラジニル]プロピル}-5-メトキシ-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノン;(1S,2R)-N-[2-(3,4-ジクロロフェニル)エチル]-N-メチル-2-(1-ピロリジニル)シクロヘキサンアミン);6-[(4-ベンジルピペラジン-1-イル)メチル]-2,3-ジメトキシフェノール);4-(3-(メチルスルホニル)フェニル)-1-プロピルピペリジン若しくはその薬学的に許容される塩、好ましくは2-(3-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン若しくは2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート若しくはそれらの薬学的に許容される塩から好ましくは選択される、WO2017191034出願に記載されているもの若しくはその薬学的に許容される塩などの、シグマ-1受容体の少なくとも1種の正のモジュレーター、
を含む、組み合わせ物。
【請求項15】
対象が、アルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある、請求項14に記載の使用のための組み合わせ物。
【請求項16】
神経保護が、対象における認知障害の対症処置を含み、化合物が、1日当たり20mgを超える、好ましくは1日当たり30mg以上の用量で経口投与される、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項17】
- ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、若しくはそれらの薬学的に許容される塩から好ましくは選択される、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、
- メクロフェナム酸、エノキソロン、メフロキン及び2-アミノエトキシジフェニルボレート(APB)、若しくはそれらの薬学的に許容される塩から好ましくは選択される、少なくとも1種のコネキシン阻害剤、
- β-アミロイド凝集体、その断片、若しくはそのオリゴマーの毒性に対抗することができるアデュカヌマブ若しくはその抗原結合断片、又は
- 2-(2-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3,5-ジクロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(2,3-ジクロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-フルオロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-ニトロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-ベンジルオキシカルバモイルフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-2-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-3-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-4-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリミジン-2-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリミジン-5-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-アミノフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-アミノフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-N-メチル-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-2-チオノ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート);(+)-ペンタゾシン;1,13-ジメチル-10-プロパ-2-エニル-10-アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ-2(7),3,5-トリエン-4-オール;1-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エチル]-4-(3-フェニルプロピル)ピペラジン;1-(2,2-ジフェニルテトラヒドロ-3-フラニル)-N,N-ジメチルメタンアミン;2-{[(E)-{5-メトキシ-1-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ペンチリデン]アミノ]オキシ}エタンアミン;N-(1-ベンジルピペリジン-4-イル)-4-ヨードベンズアミド;(5E)-N-(シクロプロピルメチル)-N-メチル-3,6-ジフェニル-5-ヘキセン-3-アミン;1-{3-[4-(3-クロロフェニル)-1-ピペラジニル]プロピル}-5-メトキシ-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノン;(1S,2R)-N-[2-(3,4-ジクロロフェニル)エチル]-N-メチル-2-(1-ピロリジニル)シクロヘキサンアミン);6-[(4-ベンジルピペラジン-1-イル)メチル]-2,3-ジメトキシフェノール);4-(3-(メチルスルホニル)フェニル)-1-プロピルピペリジン若しくはそれらの薬学的に許容される塩、好ましくは2-(3-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン若しくは2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート又はそれらの薬学的に許容される塩から好ましくは選択される、WO2017191034出願に記載されているもの若しくはその薬学的に許容される塩などの、シグマ-1受容体の少なくとも1種の正のモジュレーター、
と組み合わせた、請求項16に記載の使用のための化合物。
【請求項18】
神経細胞死及び/又は神経変性に関連している病状を予防又は処置するのに使用するための、式(I):
【化3】
の化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項19】
神経細胞死及び/又は神経変性に関連する病状に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる対象における認知障害を予防又は低減するのに使用するための、式(I):
【化4】
の化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患の分野に関する。
本発明は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための式(I)の化合物に関する。
本発明はさらに、式(I)の化合物及び少なくとも1種の他の化合物、例として、これらに限定されないが、コネキシンモジュレーター、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、シグマ-1受容体の正のモジュレーター、又はアミロイド斑形成若しくはタウタンパク質の過剰リン酸化と闘うための抗体を含む組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
世界保健機関(WHO)は、2050年までに60歳超の人口が20億人に達すると推定している。この世界人口の前例のない高齢化は、加齢に伴う慢性疾患による健康系への強い圧力を示唆している。認知症はそのような疾患の1種である。例えば、WHOは、認知症を有する総人口が2050年までに1億5000万人を超えると推定している。
認知症は、認知機能、特に記憶及び推論の低下を特徴とし、患者の行動及び日常業務を遂行する能力に影響を与える。認知症は、脳のさまざまな領域及び/又は中枢神経系の他の領域に影響を及ぼし、特に神経変性及び神経細胞死を伴う広範な病状を包含する症候群である。加齢に直接関係して、ミトコンドリアの機能不全及び酸化ストレスが、神経変性疾患の病因に重要な役割を果たす。これらの疾患は、Aβアミロイドーシス、タウオパチー、シヌクレイノパチー、及びスーパーオキシドジスムターゼ-1(SOD1)、ポリグルタミン、又はTDP-43タンパク質の凝集に見られるように、ある特定のタンパク質の異常な蓄積並びに/又は変異及び/若しくは異常に折り畳まれたタンパク質の蓄積にも、多くの場合関連している。すべての神経変性疾患がそれらの初期段階で認知能力の低下を伴うわけではない。症状は、特に主として運動症状であり得る。さらに、神経変性疾患すべてが、特に、遺伝子変異や外傷事故に関連している場合は、加齢と関連しているわけではない。
【0003】
アルツハイマー病は、神経変性病状の最も一般的な形態であり、認知症の症例の60~70%を占めている。特に神経変性病状の他の一般的な形態としては、血管性認知症、レビー小体型認知症(パーキンソン認知症)、前頭側頭型認知症(脳の前頭葉の変性)、ハンチントン病、後皮質萎縮症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、及び脳卒中が挙げられる。
興奮毒性は、前述の神経変性病状などの急性及び慢性の神経障害の存在下で、並びに脊髄損傷、頭部損傷、アルコール依存症、及びアルコール離脱(コルサコフ症候群)を伴い、ニューロン組織において一般的に観察される。興奮毒性は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA受容体)によって選択的に活性化されるグルタミン酸受容体の過剰活性化に対応し、カルシウムの細胞への大量の流入に関連して、特に、しかし非限定的な方法で、アポトーシスによる神経細胞死をもたらし、ミトコンドリアの機能不全をもたらす。
【0004】
したがって、NMDA受容体ブロック剤は、種々の急性神経毒性モデルにおいて神経保護的であることが知られている。WO2009/062391は、メマンチンを含むそのようなアンタゴニストを記載している。しかし、神経保護効果を達成するために必要な用量は、有害な副作用があり、記憶能力に対する予想される影響に反する影響によって、これらの分子がヒトにおいて使用できないものとなっている。今日まで、NMDAチャネルの非競合的阻害剤であるメマンチン(3,5-ジメチル-1-アダマンタンアミン)は、アルツハイマー病に関連する認知傷害を処置するために、軽度から中程度の重度の形態のアルツハイマー病の対症処置のために特定の国の保健機関によって承認された、このクラスで唯一の化合物である。しかし、ヒトでは、症状の処置におけるその効果は単に限定的であるように見える。2016年10月、承認された投与量での有効性はせいぜい中等度であり、主に認知機能不全に関して短期間でのみ確立されることを示す臨床データのメタ分析により、フランス国民保健当局(HAS)は、これらの効果の臨床的関連性は明確に確立されていないと裁定した。これにより、2018年にこの分子は、次の理由:(i)その対症効果の臨床的関連性の欠如、(ii)行動障害、生活の質、施設に入所する時期、死亡率、疾患の進行、及び介護者の病気の負担に対するその有効性の実証の欠如、(iii)その安全性プロファイル、並びに(iv)高齢対象における薬物相互作用の高いリスク、のために、リストから除外された。メマンチンのこれらの中等度の効果は、種々のメタ分析で報告されている(例えば、Knight et al., 2018)。
【0005】
この低い有効性は、インビトロで観察された分子のIC50値に対応する中枢神経系での有効濃度を得るために投与された用量が不十分であることによって説明することができる(Valis et al. 2019)。しかし、メマンチンの副作用、特にその健忘症及び神経精神医学的有害作用だけでなく、消化器障害及び心血管障害などの有害な副作用により、投与量を増やすことはできない。さらに、一部の著者は、動物モデルにおいて、神経毒性に対する効果は、重度の神経行動障害、特に重度の感覚運動障害並びに重大な記憶障害を誘導するメマンチンの用量でのみ観察されたことを示した(Creeley et al., 2006)。
【0006】
しかし、中等度のNMDA受容体阻害剤は、依然として神経変性処置の主要な候補である。したがって、脳脊髄液(CSF)中で患者の神経毒性の阻害を誘導する有効用量を得ることができる用量で使用することができ、許容できない有害作用がなく、認知症状を悪化させることがないような阻害剤が強く必要とされている。より具体的には、NMDA受容体は、他のグルタミン酸受容体と同様に、神経可塑性にも役割を果たす;したがって、これらの受容体を遮断する薬剤は、シナプス伝達を妨げないが、長期増強の誘導を妨げるもの、すなわち、アンタゴニストの用量が増加すると、シナプス可塑性が低下し、記憶障害が増加することが知られている。
異なるNMDA受容体アンタゴニストはまた、異なる作用様式を有することも知られているため、同様の構造を有する分子であっても、あるアンタゴニストから別のアンタゴニストへの影響、及びあるタイプの病状から別のタイプの病状への影響を予測することは困難である。
【0007】
WO2014/191424出願は、NMDA受容体の分布及び薬物処置に対する又は神経変性疾患の発症におけるその応答を研究するために、これらの受容体の標識化のための18F標識された2-フルオロエチルノルメマンチン(3-(2-フルオロエチル)アダマンタン-1-アミン、FENM)と、陽電子放出断層撮影法によるそれらのイメージングについて説明している。この出願は、メマンチンの親和性と同程度の大きさのNMDA受容体に対するFENMの親和性を記載している。
WO2019/115833出願は、不安障害及びうつ病障害の処置におけるFENMについて記載している。
WO2013/064579出願は、認知障害を処置するのに使用するための、コネキシンブロック剤(メクロフェナム酸など)とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジルなど)との組み合わせを記載している。しかし、当初はアルツハイマー病の対症処置に認可されていたアセチルコリンエステラーゼ阻害剤も、フランスではその有効性が低いためリストから除外されたことに注意すべきである。
したがって、患者は、今日では、神経変性又は急性神経障害という状況下にあって神経保護を誘導できる説得力のある治療的解決法の欠如に直面している。
【発明の概要】
【0008】
技術的課題
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服することである。特に、本発明は、神経保護に使用するための化合物を提案することを目的としており;かかる化合物は、神経細胞死のメカニズムを妨げ、特に興奮毒性に関連する病状に罹患している対象の認知能力を維持するが、それに限定されない神経保護効果を有する。さらに、本発明は、NMDA受容体阻害剤で観察されるような認知への有害な影響を呈しておらず、それによって、アルツハイマー病の対症処置のためにヒトに投与できる用量の範囲が安全に拡大される、化合物を提案することを目的としている。最後に、本発明は、神経変性によって誘導される認知障害の対症処置に有効な化合物を提案することを目的とする。
【0009】
驚くべきことに、本出願人は、アミロイド-β25-35(Aβ25-35)ペプチドオリゴマーの脳内投与を含むマウスモデルにおいて、FENMが、メマンチンにはない顕著な神経保護効果を有し、細胞死メカニズムを妨げ、結果として認知能力を維持することを見出した。さらに、出願人は、FENMが、メマンチンが記憶に対して有する有害な影響を有さないことを実証した。これにより、メマンチンに対して承認されている用量よりも高い用量での投与を想定することが可能になり、したがって有効性の向上が期待される。最後に、神経変性によって誘導される認知障害の対症処置においても、FENMがメマンチンよりも有効であることが見出された。
したがって、本発明の1つの目的は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I):
【0010】
【化1】
の化合物、又はその薬学的に許容される塩を提案することである。
任意の特徴によれば、薬学的に許容される塩は、式(II):
【0011】
【化2】
に対応する。
(式中、X-は、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、カンファースルホン酸(camphosulphonate)イオン、酒石酸イオン、二安息香酸イオン、アスコルビン酸イオン、フマル酸イオン、クエン酸イオン、リン酸イオン、サリチル酸イオン、シュウ酸イオン、臭化水酸化物(bromohydrate)イオン、及びトシル酸イオン、からなる群から選択される対アニオンを表す)
【0012】
本発明者らは、FENMが神経変性の種々の成分に対して有意な保護を誘導すること、したがって以下のこと:
- 本発明の一態様によれば、本発明の化合物によって得られる神経保護には、神経炎症の予防又は低減が含まれる;
- 本発明の別の態様によれば、本発明の化合物によって得られる神経保護には、神経細胞における酸化ストレスの予防又は低減が含まれる;
- 本発明の一態様によれば、本発明の化合物によって得られる神経保護には、対象における神経細胞アポトーシスの予防又は低減が含まれる。
この神経保護は、脳の構造、特に認知プロセスに関与するものに正の効果をもたらす可能性がある。本発明の一態様によれば、本発明の化合物によって得られる神経保護には、対象における海馬細胞損失の阻害が含まれる。海馬の構造及び体積の変化は、医用イメージングによって検出され、処置の有効性を監視するために使用することができる。
【0013】
式(I)の化合物によって得られる神経保護によって、対象の認知能力の保存がさらにもたらされる。したがって、本発明の一態様によれば、本発明の化合物によって得られる神経保護には、対象の認知能力に対する障害の予防又は低減、特に、
- 対象の短期記憶に対する障害、
- 対象の中期記憶に対する障害、
- 対象の空間記憶に対する障害、又は
- 対象の認識及び/若しくは学習能力に対する障害、
の予防又は低減が含まれる。
式(I)の化合物は、オリゴマー化Aβ25-35などの毒性タンパク質凝集体の毒性に対する神経保護を誘導するのに特に有効である。したがって、本発明の一態様によれば、神経保護には、対象におけるβ-アミロイド凝集体、その断片、又はそのオリゴマーの毒性に対する保護が含まれる。
【0014】
式(I)の化合物によって得られる神経保護により、多くの神経変性病状の根底にあるメカニズムと戦うことが可能になる。したがって、一態様によれば、本発明はさらに、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、又は脳卒中から選択される中枢神経系の病状、好ましくはアルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる対象に使用するための式(I)の化合物に関する。
【0015】
その推定作用様式のために、式(I)の化合物は、神経変性プロセスに関与する他の態様又は経路を標的とする化合物と組み合わせて使用するのに特に適している。したがって、本発明の1つの目的は、式(I)の化合物、及び:
- 好ましくはドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンから選択される、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、若しくはその薬学的に許容される塩、
- 好ましくはメクロフェナム酸、エノキソロン、メフロキン及び2-アミノエトキシジフェニルボレート(APB)から選択される、少なくとも1種のコネキシン阻害剤、若しくはその薬学的に許容される塩、
- β-アミロイド凝集体、その断片、若しくはそのオリゴマーの毒性と戦うことができるアデュカヌマブ若しくはその抗原結合断片、又は
- 好ましくは2-(2-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3,5-ジクロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(2,3-ジクロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-フルオロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-ニトロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-ベンジルオキシカルバモイルフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-2-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-3-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-4-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリミジン-2-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリミジン-5-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-アミノフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-アミノフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-N-メチル-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-2-チオノ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート);(+)-ペンタゾシン;1,13-ジメチル-10-プロパ-2-エニル-10-アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ-2(7),3,5-トリエン-4-オール;1-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エチル]-4-(3-フェニルプロピル)ピペラジン;1-(2,2-ジフェニルテトラヒドロ-3-フラニル)-N,N-ジメチルメタンアミン;2-{[(E)-{5-メトキシ-1-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ペンチリデン]アミノ]オキシ}エタンアミン;N-(1-ベンジルピペリジン-4-イル)-4-ヨードベンズアミド;(5E)-N-(シクロプロピルメチル)-N-メチル-3,6-ジフェニル-5-ヘキセン-3-アミン;1-{3-[4-(3-クロロフェニル)-1-ピペラジニル]プロピル}-5-メトキシ-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノン;(1S,2R)-N-[2-(3,4-ジクロロフェニル)エチル]-N-メチル-2-(1-ピロリジニル)シクロヘキサンアミン);6-[(4-ベンジルピペラジン-1-イル)メチル]-2,3-ジメトキシフェノール);4-(3-(メチルスルホニル)フェニル)-1-プロピルピペリジン又はその薬学的に許容される塩、好ましくは2-(3-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン若しくは2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート又はその薬学的に許容される塩から選択される、WO2017191034出願に記載されているものなどのシグマ-1受容体の少なくとも1種の正のモジュレーター、若しくはその薬学的に許容される塩、
との組み合わせを提案することである。
【0016】
特定の態様によれば、本発明は、それを必要とする対象、特に前述の中枢神経系の病状に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある対象において、特に、アルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある対象において、神経保護を誘導するために使用するための組み合わせに関する。
【0017】
式(I)の化合物の活性プロファイルは、処置された対象の認知能力に有害な影響を与えることなく、広い用量範囲にわたって神経保護を示す。したがって、現在メマンチンに許可されている用量よりも高い用量が可能であり、より有効な処置がもたらされる。したがって、別の態様によれば、本発明は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するための式(I)の化合物であって、1日当たり20mgを超える、好ましくは1日当たり30mg以上の用量で経口投与され、上記の組み合わせ内で経口投与してもよい、化合物に関する。
【0018】
本発明の他の利点及び特徴は、添付の図を参照して、大まかな案内として与えられ、決して限定的な案内として与えられていない以下の説明を読めば明らかになり、添付の図は、以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】オリゴマー化Aβ25-35ペプチドの投与、試験化合物、及び動物の認知能力を評価するための行動試験の実施の実験計画を示す図である。(A、B)オリゴマー化Aβ25-35ペプチドによって誘導される健忘症に対する対症効果の評価。(C)試験化合物の神経保護効果の評価。YMT、Y迷路試験;PAT、受動的回避試験;ORT、物体認識試験;WMT、モリス水迷路試験;†、犠死;黒色矢印:オリゴマー化Aβ25-35ペプチドの脳室内注射;灰色矢印:試験化合物/ビヒクルの投与。
図2】オリゴマー化Aβ25-35ペプチドを用いた中毒又は非中毒のマウスからの海馬ホモジネート中のインターロイキン-6(IL-6)(A)、脂質過酸化(B)、又はBax/Bcl-2比(C)のレベルに対するメマンチン(MEM)及びFENM(0.3mg/Kg i.p.)の効果を示す図である。ANOVA:A、F(3,22)=2.53、p>0.05;B、F(3,21)=4.33、p<0.05;C、F(3,22)=0.763、p>0.05。*p<0.05、***p<0.001対(V+V);#p<0.05対(V+Aβ25-35);ダネット検定。群あたりのマウスの数は、各列に示されている。V:ビヒクル溶液。未処理の非中毒の対照群(V+V)と比較した、オリゴマー化Aβ25-35によって誘導された増加パーセンテージを列の上に示す。
図3】オリゴマー化Aβ25-35ペプチドの投与後のアストログリア応答に対するメマンチン(MEM)及びFENM(0.3mg/Kg i.p.)の効果を示す図である。海馬の放射状層(A、Rad)、分子層(B、Mol)、歯状回の多形層(C、PoDT)及び外側頭頂連合野(D、LPTA)におけるGFAPの免疫組織化学的定量化 ANOVA:A、F(3,22)=5.06、p<0.01;B、F(3,23)=4.50、p<0.05;C、F(3,23)=3.24、p<0.05;D、F(3,22)=3.71、p<0.05。*p<0.05対(V+V);#p<0.05、##p<0.01対(Aβ25-35+V);ダネット検定。V:ビヒクル溶液。群あたりのマウスの数は、各列に示されている。未処理の非中毒の対照群(V+V)と比較した、オリゴマー化Aβ25-35によって誘導された増加パーセンテージを列の上に示す。
図4】オリゴマー化Aβ25-35ペプチドの投与後のミクログリア応答に対するメマンチン(MEM)及びFENM(0.3mg/Kg i.p.)の効果を示す図である。海馬の放射状層(A、Rad)、分子層(B、Mol)、歯状回の多形層(C、PoDT)及び外側頭頂連合野(D、LPTA)におけるIba-1マーカーの免疫組織化学的定量化 ANOVA:A、F(3,23)=3.22、p<0.05;B、F(3,23)=2.86、p>0.05;C、F(3,23)=3.38、p<0.05;D、F(3,23)=6.43、p<0.01。*p<0.05、**p<0.01対(V+V);#p<0.05、##p<0.01対(Aβ25-35+V);ダネット検定。V:ビヒクル溶液。群あたりのマウスの数は、各列に示されている。未処理の非中毒の対照群(V+V)と比較した、オリゴマー化Aβ25-35によって誘導された増加パーセンテージを列の上に示す。
図5】Aβ25-35オリゴマー中毒によって誘導される空間参照記憶(モリス水迷路)及び学習に影響する障害に対するメマンチン(MEM)及びFENM(0.3mg/Kg i.p.)の神経保護効果を示す図である。訓練象限(T)として知られる北東象限、又は他の象限(o)で費やされた時間を、ビデオ監視によって分析した。°°°p<0.001対15秒;1標本t検定;***p<0.001対o象限。Veh:ビヒクル溶液;Sc.Aβ:対照ペプチド。
図6】Y迷路試験におけるオリゴマー化Aβ25-35ペプチドによって誘導された記憶障害に対するメマンチン(A)及びFENM(B)(0.1~10mg/Kg i.p.)の対症効果を示す図である。ANOVA:A、F(6,83)=2.62、p<0.05;B、F(6,89)=4.94、p<0.001)。**p<0.01、***p<0.001対(Sc.Aβ+V);#p<0.05、##p<0.01対(V+Aβ25-35);ダネット検定、V:ビヒクル溶液;Sc.Aβ:対照ペプチド。群あたりのマウスの数は、各列に示されている。
図7】受動的回避試験におけるAβ25-35オリゴマー中毒によって誘導された記憶障害に対するメマンチン及びFENM(0.1~10mg/Kg i.p.)の対症効果を示す図である。結果はノンパラメトリックデータであり、中央値及び四分位範囲で表示される。クラスカル-ウォリスANOVA:A、H=23.4、p<0.001;B、(d)において、H=19.5、p<0.01。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001対(Sc.Aβ+V);#p<0.05、##p<0.01対(V+Aβ25-35);ダネット検定。V:ビヒクル溶液;Sc.Aβ:対照ペプチド。群あたりのマウスの数は、各列に示されている。
図8】Hamlet試験(登録商標)における複合記憶能力の障害に対するメマンチン及びFENM(0.3mg/Kg i.p.)の対症効果を示す図である。見当識障害指数は、誤り(A)又は潜時(B)から計算される。p<0.05対ゼロレベル、1標本t検定。V:ビヒクル溶液;Sc.Aβ:対照ペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための2-フルオロエチルノルメマンチン(FENM)に関する。本発明はさらに、神経保護を誘導するのに使用するためのFENMの組み合わせに関する。
より具体的には、実験の部で示すように、FENMは神経細胞を保護し、細胞のアポトーシス、酸化ストレスを低下させ、脳の神経炎症を減少させることにより、細胞死の誘導を予防することが見出されている。これにより、それによって生じる認知障害の予防がもたらされる。このことはまた、神経毒性によって誘導される認知障害の有効な対症的是正にもつながる。
【0021】
定義
本発明との関係において、特定の薬物又は化合物への言及は、具体的に命名された薬物又は化合物だけでなく、薬物又は化合物の活性分子のあらゆる薬学的に許容される塩、水和物、誘導体、異性体、ラセミ体、エナンチオマー的に純粋な組成物、コンジュゲート若しくは対応するプロドラッグも含む。好ましくは、化合物への言及は、具体的に命名された化合物、並びに化合物のあらゆる薬学的に許容される塩、水和物、異性体、ラセミ体、異性体、又はエナンチオマー的に純粋な組成物を含む。より好ましくは、化合物の指定は、それ自体が具体的に指定された化合物、並びにそのあらゆる薬学的に許容される塩を指定することを意図している。
【0022】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書では、本発明の化合物の薬学的に許容され、比較的非毒性の無機又は有機酸付加塩を意味すると理解される。薬学的な塩の形成は、酸性、塩基性、又は両性イオンの薬物分子を対イオンと結合させて、薬物の生理食塩水バージョンを作出することから構成される。中和反応には多種多様な化学種を使用することができる。したがって、本発明の薬学的に許容される塩には、塩基として作用する主化合物を無機酸又は有機酸と反応させて塩、例えば、酢酸、硝酸、酒石酸、塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、カンファースルホン酸、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸又はクエン酸の塩を形成することによって得られるものが含まれる。本発明の薬学的に許容される塩には、主化合物が酸として機能し、好適な塩基と反応して、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩又はコリン塩を形成するものがさらに含まれる。所与の活性成分のほとんどの塩は生物学的に同等であるが、一部の塩は、とりわけ、溶解性又は生物学的利用能特性が向上している。塩の選択は、ここでは、Stahl及びWermuthがハンドブック(Stahl and Wermuth)で教示しているように、薬物開発プロセスにおける一般的な標準操作である。
【0023】
「神経保護」という用語は、本明細書では、認知機能の低下につながる、神経細胞の機能の喪失、及びこれらの系の細胞、特にニューロンの変性又は喪失を停止又は少なくとも遅らせることにより、中枢又は末梢神経系に影響を与える疾患の進行を予防又は遅らせることを意味すると理解される。したがって、神経保護を必要とする対象は、神経細胞死及び/又は神経変性に関連する病状、特に興奮毒性に関連するが、これらに限定されない病状に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる対象として定義される。これらの病状は、例えば、タウオパチー、シヌクレイノパチー又はアミロイドパチーなどの神経変性病状、例としてアルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ピック病、又は前頭側頭型認知症、又は後皮質萎縮である。他の神経変性病状としては、例えば、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、血管性認知症、コルサコフ症候群、又は急性神経病状、例としてアルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、若しくは脳卒中が挙げられる。
【0024】
「対象」という用語は、本明細書では、動物界のあらゆるメンバー、好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくはヒトを意味すると理解される。別の好ましい実施形態では、記憶生成を制御するNMDA系を有する昆虫であるミツバチも挙げられる。
【0025】
「組み合わせ」、「組み合わせ処置」又は「組み合わせ療法」という用語は、ベースが、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩(すなわち、FENM)と、生物学的効果を達成する目的で対象に同時投与される少なくとも1種の他の化合物から作製される組み合わせを意味すると理解される。この組み合わせにおけるFENM及び少なくとも1種の他の化合物は、一緒に又は別々に、同時に又は連続して投与することができる。一緒に投与する場合、それらは、FENM及び少なくとも1種の他の化合物又は薬物を含む単一の組成物で投与することができる。換言すれば、FENM及び少なくとも1種の他の化合物又は薬物は、こうして一緒に製剤化される。或いは、それらは、同じか又は異なる投与経路によって、対象に別々に投与することができる。したがって、例えば、FENMを経口投与することができ、FENMを同時投与する少なくとも1種の他の化合物を、対象に、例えば静脈内又は皮下注射することができる。別の実施形態では、例えば、FENMを経口投与することができ、FENMと同時投与される少なくとも1種の他の化合物も、対象に経口投与することができる。好ましくは、組み合わせの活性成分の投与順序は、対象が組み合わせの最大の効果から恩恵を受けるように、活性成分又は活性代謝産物が同時にそれらの生物学的効果を発揮するようなものである。したがって、特に好ましい様式では、FENM及び少なくとも1つの他の化合物又は薬物は、血漿又は脳脊髄液、好ましくは脳脊髄液で同時にそれらの最大濃度に達するように投与される。
【0026】
「A-ベータペプチド」、「Aβ」、「ベータアミロイドペプチド」、「アミロイドペプチド」、又は「ベータアミロイド」は、ニューロンの膜に位置するAPPタンパク質(「アミロイドタンパク質前駆体」)のガンマ及びベータセクレターゼによる切断から生じる。ヒトでは、それらはサイズが異なっていている場合があり(主に38~42個のアミノ酸)、さまざまなサイズ及び溶解度のオリゴマー集合体として存在する。オリゴマーの各タイプは潜在的に有毒であり、シナプスの構造、機能、及び可塑性の変化を引き起こし、最終的に神経細胞死をもたらす(Pike et al., 1991)。このシナプスの変化は、記憶及び学習プロセスに関与する領域の機能不全の原因である。これらの断片は、加齢又はある特定の疾患に伴って蓄積する、いわゆるアミロイド斑にも見られる。ヒトにおいてインビボでは、Aβ1-42は自己凝集する傾向が強く;家族性アルツハイマー病は、Aβ1-42/Aβ1-40ペプチドの相対レベルの増加を伴い、病状の診断を示すのは、Aβ1-42及び/又はAβ1-40ペプチドの蓄積ではなく、この相対レベルである。Aβ25-35は、インビトロで神経細胞に対し有毒である断片である。マウス及びラットでは、Aβ25-35ペプチドオリゴマーの脳室内(icv)注射は、特にアルツハイマー病におけるAβオリゴマー誘発性神経変性の研究及びこの疾患の薬剤候補の試験に使用されるモデルの1つである(Maurice et al., 1996)。「Aベータペプチド」、「Aβ」、「ベータアミロイドペプチド」、「アミロイドペプチド」、又は「ベータアミロイド」の神経毒性は、本明細書では、あらゆるオリゴマー及び/又はAPPタンパク質の切断から生じる1つ又は複数のペプチドによって形成される凝集体によって誘導される神経毒性を意味すると理解される。
【0027】
本出願人は、FENMが、動物モデルにおけるAβ25-35オリゴマーの脳内注射によって誘導される毒性に対する神経保護を誘導するのに有効であることを見出した。Aβ25-35オリゴマーは、動物モデルの脳に注射すると、神経細胞の炎症プロセス、酸化ストレス、及びアポトーシスを誘導することが知られている。驚くべきことに、Aβ25-35オリゴマー注射の日に動物にFENMを投与すると、アポトーシス及びミトコンドリアストレスマーカー、神経炎症のレベルが低下し、海馬細胞の細胞死が減少する。この減少は、Aβ25-35を注射されていない動物の認識能力と統計的に異ならないレベルまで、動物の認識能力の回復を伴う。そのようなレベルの神経保護は、構造的に類似しているにもかかわらず、神経変性病状に対する参照NMDA受容体アンタゴニストであるメマンチンでは観察されない。さらに、メマンチンとは異なり、出願人は、FENMにはいかなる記憶喪失作用もないことも観察した。最後に、FENMによって、メマンチンよりも効率的な方法で、Aβ25-35注射によって誘導される認知障害の対症処置が可能になる。
したがって、本発明の第1の目的は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、
式(I):
【0028】
【化3】
の化合物、又はその薬学的に許容される塩を提案することである。
【0029】
1つの特定の実施形態では、それを必要とする対象は、中枢神経系の病状に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる。別の特定の実施形態では、中枢神経系のこの病状は、神経細胞死及び/又は神経変性に関連している。別の特定の実施形態では、中枢神経系のこの病状は、興奮毒性に関連している。別のより具体的な実施形態では、対象は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、又はアミロイドパチー、例としてアルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、後皮質萎縮症、又はハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、血管性認知症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、若しくは脳卒中などの病状から選択される中枢神経系の病状に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる。
【0030】
したがって、別の特定の実施形態では、対象は、中枢神経系の病状と診断されている場合がある。特に、この病状は、神経細胞死及び/又は神経変性に関連している。より具体的には、対象は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、又はアミロイドパチー、例としてアルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、後皮質萎縮症、又はハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、血管性認知症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、若しくは脳卒中などの病状に罹患していると診断されている場合がある。この診断は、当業者に周知の行動的、認知的、生物学的及び/又は医用イメージング分析に基づく。そのような場合、式(I)の化合物によって得られる神経保護により、疾患の進行を遅らせるか又は停止することが可能になる、すなわち、疾患という状況下において、すでに開始している神経細胞死及び/又は神経変性をこのように遅らせるか又は停止すると診断される。結果として、このように対象で得られた神経保護は、神経変性から生じる認知障害及びそれに関連する症状の進行の停止又は鈍化をもたらす。
【0031】
別の特定の実施形態では、対象はまた、神経細胞死及び/又は神経変性に関連する病状に罹患している疑いがある可能性もある。換言すれば、この対象に対して下された診断は不確実である、すなわち、例えば、対象は、病状の正式な診断が可能になるレベルの症状(強度に関して)を示さず、又は臨床像のさまざまな症状若しくは徴候のすべては示さない。しかし、この対象では、記載されている症状又は徴候は病状に関連している。これは、例えば、疾患の初期段階にあり、潜在的に軽度の前兆の徴候をわずかしか示していない患者である可能性がある。より具体的には、対象は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、又はアミロイドパチー、例としてアルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、後皮質萎縮症に適合する関連徴候若しくは症状、又はハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、血管性認知症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、若しくは脳卒中などの病状に適合する関連徴候又は症状を有する。
【0032】
関連する徴候又は症状は、当業者に周知であり、これらの病状の診断に一般的に使用される行動的、認知的、生物学的及び/又は医用イメージング分析によって検出することができる。
【0033】
ヒト対象の認知評価に定型的に的に使用される試験は、例えば、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination)(MMSE又はFolstein試験)、修正ミニメンタルステート検査(Modified Mini-Mental State Examination)(又は3MS尺度)、簡易認知テストスコア(Abbreviated Mental Test Score)(AMTS)、精神遅滞者用認知症質問票(the Dementia questionnaire for persons with Mental Retardation)(又はDMR質問票)、認知能力測定(cognitive ability screening instrument)(CASI)、トレイルメイキングテスト、時計描画テスト、アルツハイマー病評価尺度-認知行動(Alzheimer’s disease assessment scale - Cognition)(ADAS-Cog)、一般開業医による認知評価(Practitioner Assessment of Cognition)(GPCOG)、モントリオール認知評価(the Montreal Cognitive Assessment)(MoCA)、Rowlandユニバーサル認知症尺度(Rowland Universal Dementia Assessment Scale)(RUDAS)、又はアルツハイマー病共同研究-日常生活動作(Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living)(ADCS-ADL)、である。
【0034】
より具体的には、MMSEを使用して、特定の病状に関連付けることなく、重大な神経認知障害(認知症)を有する者を識別することができる。MMSEは、人の認知状態を監視し、神経認知障害を有する者の認知機能の低下を測定するためにも使用される。この試験では、見当識、記銘力、注意及び計算、再生、言語、並びに模写の技能を評価する。CERAD(アルツハイマー病レジストリ確立協会)(Consortium to Establish a Registry for Alzheimer’s Disease)は、MMSEスコアに関連付けられた認知症の重症度尺度を確立した。19~24の間のスコアは軽度の認知症、10~18の間のスコアは中等度の認知症、及び10未満のスコアは重度の認知症に関連し、最大スコアは30である。
【0035】
ADAS-Cogは、アルツハイマー病評価尺度の認知下位尺度であるため、認知症の認知的態様のみに対処している。したがって、これは、あらゆるタイプの認知症の進行状況を評価(すなわち、スコアリング)及び監視するために使用することができる。ADAS-Cogは、見当識、記憶、遂行機能、視空間能力、言語又は実践を0~70のスコア範囲で評価し、スコアが高いほど障害がより深刻であることを示す。ADAS-Cogは、MMSEよりも感度が高いと考えられている。これは、抗認知症処置との関係において販売承認を取得する目的で候補化合物を臨床的に評価するために、並びに認知障害がどのように進行しているかを測定するために最も一般的に使用されている試験の1つである。
【0036】
医用イメージングは、脳の特定の領域の構造的又は機能的損傷を特定するために使用することができるため、これらの神経変性病状の一部を診断するのにも役立つ。例えば、イオフルパンによる脳スキャンは、パーキンソン病又はレビー小体型認知症におけるドーパミン作動性ニューロンの損傷を特徴付けるために使用することができる。18F標識FENMは、陽電子放出断層撮影法(PET)によるNMDA受容体のマーカーと考えられており、ヒトにおけるパイロット研究の対象となっている(Beaurain et al., 2019)。MRI又はPETスキャンは、例えば、前頭側頭型認知症(前頭葉及び側頭葉の萎縮を特定することによる)又はアルツハイマー病(皮質萎縮及び/又は海馬萎縮)の診断に使用することができる。したがって、1つの特定の実施形態では、神経保護を必要とする対象は、ドーパミン作動性ニューロン損傷、前頭及び/若しくは側頭萎縮、又は皮質萎縮及び/若しくは一方若しくは両方の海馬の萎縮を有する。
【0037】
CSF中のある特定のタンパク質の存在の分析は、例えば、アルツハイマー病の診断に使用することができ、その典型的なプロファイルは、Aβ42ペプチドの濃度の減少並びにタウタンパク質及びそれらのリン酸化形態P-タウの増加が組み合わさっている。場合によっては、Aβ1-40の投与及びAβ1-42/Aβ1-40比の測定により、診断を改善することができる。イメージング及びCSFマーカーにより、疾患を早期に、場合によっては認知症状の発症前に診断することが可能になる。したがって、1つの特定の実施形態では、神経保護を必要とする対象は、Aβ1-42及び/又はAβ1-40ペプチド及び/又はタウタンパク質及び/又はそのリン酸化形態及び/又はAβ1-42/Aβ1-40比のレベルに関して異常なプロファイルを有する。
さらに、事象関連電位(ERP)記録の分析は、その結果が使用される刺激とは無関係であるため、認知プロセスの評価に非常に役立つ。ERPは不協和な刺激に応答して観察され、知覚、注意、意思決定、記憶プロセス、及び言語などの活性化認知現象を表す。ERPは、例えば、脳波検査(EEG)又は脳磁気図検査(MEG)によって記録される。ERPは、行動の変化が顕著ではない場合でも、脳が刺激を処理する方法に関する情報を提供する。ERPの特徴は、刺激の関連性、実行される業務、神経系への損傷、又は薬物の使用など、種々の要因によって異なる可能性がある。
【0038】
ERPは、認知症の診断、疾患の進行の監視、及び処置の認知促進効果の評価に有用な認知バイオマーカーとして先行技術で知られている。例えば、アルツハイマー病、血管性認知症、又はパーキンソンの症状に関連する認知症、例としてレビー小体型認知症の患者では、ERPが変化している。特に、ERP測定は、初期段階、特にアルツハイマー病の初期又は軽度の段階で、認知機能の障害を検出することができる。臨床現場で最も頻繁に検査されるERPはP300(又はP3)波であり、これは、不協和な刺激の後に約300ミリ秒の潜時で発生する大きな中心頭頂陽性電位である。P300波は、2つの下位成分であるP3aとP3bに分けることができる。一般に、P3aは焦点化注意の程度に関連していると考えられているが、P3bは作業記憶の更新プロセスを指標付けしていると考えられている。P300波動の振幅は、特に、動機付け(業務の難易度に関連する)及び、刺激の発生確率に関連する警戒心を表す。潜時とは、決定を下すまでにかかる時間を指す。P300(又はその下位成分)の潜時の増加及びその振幅(又はその下位成分の振幅)の減少は、認知症、特にアルツハイマー病の患者において観察される。潜時の変化を研究することは、認知症、特にアルツハイマー病の進行を監視すること、及びアルツハイマー病の処置に対する応答を評価することに有用である。
【0039】
したがって、1つの特定の実施形態では、神経保護を必要とする対象は、認知能力が低下している。好ましくは、この障害は、MMSE又はADAS-Cogによって測定される。特に好ましい様式では、対象は、30未満、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3以下、又は2以下のMMSEスコアを有する。同様に好ましくは、この障害は、対象のERPのP300波を分析することによって対象において測定され、対象は、P300波又はその成分の振幅及び/又は潜時の減少を呈する。
【0040】
別の特定の実施形態では、神経保護を必要とする対象は、軽度の認知症を有する。別の特定の実施形態では、神経保護を必要とする対象は、中等度の認知症を有する。別の特定の実施形態では、神経保護を必要とする対象は、重度の認知症を有する。特に好ましい様式では、神経保護を必要とする対象は、軽度の認知症を有する。したがって、1つの特定の実施形態では、本発明は、軽度の認知症に罹患している対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩に関する。
特に好ましい様式では、神経保護を必要とする対象は、上記で定義した神経細胞死及び/又は神経変性に関連する中枢神経系の病状に罹患していると診断されているが、認知症状を示さないか、又はこの対象には症状が検出されていない。したがって、実験の部で説明されている神経保護特性により、これらの症状の発症を予防、遅延、又は遅らせることができ、その結果、患者の生活の質を維持し、神経変性病状に関連する他の病状の発症、特に、うつ病などの精神病の発症を予防することができる。
【0041】
最後に、神経保護を必要とする対象は、中枢神経系の病状、特に、上記の神経細胞死及び/又は神経変性に関連する病状に罹患するリスクがある対象であると考えることもできる。換言すれば、対象は、病状に関連する症状又は徴候を有していないが、彼/彼女は、彼/彼女のライフスタイル、遺伝的素因又は家族歴、併存疾患の存在及び/又は彼/彼女の年齢に関連するリスク因子を有するため、一般集団と比較して、この病状を発症するリスクが増加している。より具体的には、対象は、(一般集団と比較して)、タウオパチー、シヌクレイノパチー、又はアミロイドパチー、例としてアルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、後皮質萎縮症を発症する彼の/彼女のリスク、又はハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、血管性認知症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、若しくは脳卒中などの病状を発症する彼の/彼女のリスクを増加させる、ライフスタイル、遺伝的素因又は家族歴を有し、併存疾患を患っており、及び/又はその年齢である。
【0042】
例えば、非限定的であるが、60歳超の人々の5~8%が認知症に罹患しているので、年齢は、アルツハイマー病を含む認知症の主要なリスク因子である。CNS疾患の遺伝的素因の一例として、神経細胞死及び/又は神経変性に関連する病状は、アポリポタンパク質E(ApoE)のε4対立遺伝子の存在であり、これは、いくつかの認知症、特にアルツハイマー病のリスク増加に関連している(Liu et al. 2013);さらに、例えば、SNCA(α-シヌクレイン)、PRKN(parkin(パーキン))、LRRK2(ロイシンリッチリピートキナーゼ2)、PINK1(PTEN誘導推定キナーゼ1)、DJ-1、及びATP13A2遺伝子における変異、並びにPARK1-PARK11遺伝子の11遺伝子座における変異は、そのような遺伝的素因又は変異の保因者によるパーキンソン病のリスク増加と関連している;SOD1遺伝子変異と筋萎縮性側索硬化症との関連又はハンチンチンをコードする遺伝子の変異も、CNS疾患の遺伝的素因の例である。これらの病状を発症するリスクの増加に関連する併存疾患には、例えば、ダウン症候群、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、高血圧、糖尿病、頭部外傷、又は脳卒中が含まれる。過度のアルコール消費は、認知症のリスク増加と関連している。マンガン、銅、鉛などのある特定の金属、又はパラコート、ロテノン、若しくはマネブなどのある特定の化合物への曝露は、パーキンソン病を発症するリスクの増加と関連している。
【0043】
したがって、一実施形態では、神経保護を必要とする対象は、中枢神経系の病状、より具体的には神経細胞死及び/又は神経変性に関連する病状のリスク因子を有する対象である。より具体的には、対象は、病状の他の症状を有していない。好ましくは、対象は、病状の認知症状を有していない。好ましい実施形態では、対象は、病状に対する遺伝的素因を有する。別の好ましい実施形態では、対象は、中枢神経系の病状、より具体的には神経細胞死及び/又は神経変性に関連する病状を発症するリスクの増加に関連する病状を有する。リスクがあり、神経保護を必要としていると定義されたこれらの対象における式(I)の化合物の投与によって、これらの病状及び/又はその症状、特に中枢神経系の病状、より具体的には神経細胞死及び/又は神経変性に関連する病状の発症を予防するか又は遅延させることが可能になる。
【0044】
別の特定の実施形態では、本発明は、PTSDに罹患している対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩に関する。本発明の別の特定の実施形態は、例えば、アルツハイマー病又はその症状の発症を予防するために、PTSDに罹患している対象において神経保護を誘導するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩に関する。
提示された実験データは、式(I)の化合物が、Aβオリゴマー毒性によって誘導され、神経変性及びCNS細胞死、より具体的にはアルツハイマー病などであるがそれに限定されない多くの病状における神経細胞死の原因である神経細胞の神経炎症、酸化ストレス及びアポトーシスを予防するのに特に有効であることを示している。
【0045】
したがって、本発明の1つの目的はまた、Aβオリゴマーの毒性を予防又は低減するために、より具体的にはAβオリゴマーの神経毒性を予防又は低減するために使用するための式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。本発明の1つの特定の実施形態はさらに、アルツハイマー病、又はレビー小体型認知症などのAβ凝集体若しくはオリゴマーが関与する病状に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある対象において、Aβオリゴマーの毒性を予防又は低減するために、より具体的にはAβオリゴマーの神経毒性を予防又は低減するために使用するための式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。
上記のように、神経細胞の神経炎症、酸化ストレス、及びアポトーシスは、多くの神経変性病状で観察される。
【0046】
本発明の別の目的はまた、それを必要とする対象における神経炎症の予防又は低減に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。本発明の1つの目的はまた、それを必要とする対象における酸化ストレスの予防又は低減に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。本発明の1つの目的はまた、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、それを必要とする対象におけるCNSにおけるアポトーシスの予防又は低減に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。本発明の1つの目的はまた、対象における海馬細胞喪失の予防又は低減に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。この喪失は、上記のように、例えば、海馬の萎縮、体積の減少、形状の変化、又は大脳皮質の萎縮若しくは減少の観察によって、例えば磁気共鳴画像法(MRI)によって検出することができる。1つの特定の実施形態では、本発明に従って使用するための化合物及び組み合わせは、医用イメージングによるCNSの構造及び/又は機能監視を含む。
【0047】
これらの目的のそれぞれの1つの特定の実施形態では、対象は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、又は脳卒中から選択される中枢神経系の病状、好ましくはアルツハイマー病、に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる。
【0048】
神経変性及びCNS細胞死、より具体的には神経細胞死の根底にある細胞及び生化学的メカニズムの妨害に関して、式(I)の化合物は、動物の神経変性及び認知症モデルにおける認知障害の予防及び対症処置において特に有効であることが見出された。実験データは、式(I)の化合物が、病理学的条件下で、種々の神経メカニズム及び脳領域が関与する多くの異なるタイプの記憶及び認知プロセスを維持及び保護するのに有効であることを示している。
【0049】
したがって、本発明の1つの目的はまた、それを必要とする対象における認知障害の予防又は低減に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。「認知能力」は、本明細書において、記憶、知覚、協調及び推論などの知的機能を意味すると理解されなければならない。特に、ADAS-Cogは、対象における認知のさまざまな側面を試験することが可能となる複合試験である。本発明の別の特定の目的は、それを必要とする対象における短期、中期及び/又は長期記憶障害の予防又は低減に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。本発明の別の特定の目的は、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における空間記憶障害の予防又は低減に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。本発明の別の特定の目的は、それを必要とする対象における認識及び/又は学習能力における障害の予防又は低減に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。これらの目的のそれぞれの1つの特定の実施形態では、対象は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、又は脳卒中から選択される中枢神経系の病状、好ましくはアルツハイマー病、に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる。
【0050】
MMSE及び/又はADAS-Cogは、症状の進行を容易に監視するために使用することができ、したがって、本発明に従って使用するための式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は組み合わせによって得られる神経保護を監視することができる。MMSEスコアの減少又はADAS-cog(又はその項目の1つ)の増加は、試験された個体の認知能力の低下を示す。非限定的な様式で、疾患の軽度及び中等度段階における認知能力の平均低下は、MMSEで年に2~4ポイントの損失及びADAS-Cogで年に6~8ポイントの増加を表すと推定されている(Alzheimer's Disease Institute;<http://www.imaalzheimer.com>. ADAS-Cog)。2回の連続した試験でADS-cogが増加した場合は、疾患及び/又は症状が悪化していることを示す。2回の連続した試験でMMSEが低下した場合は、疾患及び/又は症状が悪化していることを示す。試験は、1、2、3、4週間ごと、毎月、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12か月ごと、又は年に3~4回、又はさらに年に1回実施できる。例えば、1カ月離れて実施された2つの試験について、Adas-Cogにおいて20%以下、15%、好ましくは10%以下、又はさらに好ましくは5%以下の増加により、神経保護が示される。例えば、1カ月離れて実施された2つの試験について、MMSEにおいて20%以下、15%、好ましくは10%以下、又はさらに好ましくは5%以下の低下により、神経保護が示される。或いは、通常の病状経過と比較して認知症状の悪化が鈍化することにより、神経保護が示される。さらに、複合スコアで測定された記憶力又は認知能力の1つ又は複数のカテゴリのスコアの低下が鈍化しているが、必ずしも全体的な試験スコアが低下していない場合は、神経保護が示される。1つの特定の実施形態では、本発明に従って使用するための化合物及び組み合わせは、好ましくはMMSE又はADAS-Cog試験の適用によって、処置中の対象の認知状態を監視することを含む。
【0051】
上記のように、ERPを分析することにより、神経変性の症状の進行を監視することが可能になり、したがって、ERP分析は、本発明に従って使用するための式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は組み合わせによって得られる神経保護を監視するために使用することができる。P300波の発生における潜時の増加及び/又はその振幅の減少は、試験された個体の認知能力の低下を示す。したがって、P300波の潜時の減少及び/又はその振幅の増加により、神経保護が示される。1つの特定の実施形態では、本発明に従って使用するための化合物及び組み合わせは、好ましくはEEG又はMEGによりERPを分析することによって、処置中の対象の認知状態を監視することを含む。
【0052】
本発明の別の目的は、それを必要とする対象における、タウオパチー、シヌクレイノパチー、又はアミロイドパチー、例としてアルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、後皮質萎縮症、又はハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、血管性認知症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、又は脳卒中、好ましくはアルツハイマー病などの病状から選択される中枢神経系の病状の予防又は処置に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。本発明の1つの特定の目的は、それを必要とする対象におけるアルツハイマー病の予防又は処置に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。その人は、軽度(早期発症とも呼ばれる)、中等度、又は進行したアルツハイマー病に罹患している可能性がある。好ましい実施形態では、対象は、軽度のアルツハイマー病に罹患している。
【0053】
本発明の別の目的は、それを必要とする対象における認知症の予防又は処置に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。1つの特定の実施形態では、対象は軽度の認知症(例えば、認知機能低下)に罹患している。
【0054】
本発明の別の目的は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、又はアミロイドパチー、例としてアルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、後皮質萎縮症、又はハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、血管性認知症、コルサコフ症候群、アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、若しくは脳卒中などの病状から選択される中枢神経系の病状、好ましくはアルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる対象における興奮毒性の予防又は処置に使用するための式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。本発明の1つの特定の目的は、それを必要とする対象における興奮毒性の予防又は処置に使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提案することである。
1つの特定の実施形態では、式(i)の化合物の薬学的に許容される塩は、式(II)
【0055】
【化4】
の塩から選択される。
(式中、X-は、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、カンファースルホン酸(camphosulphonate)イオン、酒石酸イオン、ジ安息香酸イオン、アスコルビン酸イオン、フマル酸イオン、クエン酸イオン、リン酸イオン、サリチル酸イオン、シュウ酸イオン、臭化水酸化物(bromohydrate)イオン、及びトシル酸イオン、からなる群から選択される対アニオンを表す)好ましくは、対アニオンは、塩化物イオンである。
【0056】
いかなる科学的理論にも拘束されることを望むものではないが、FENMのこの作用は、そのNMDA受容体アンタゴニスト効果、したがってその興奮毒性調節効果に関連していると考えることができる。構造的にメマンチンに類似しているが、この化合物は、メマンチンでは起こらない有意な神経保護を誘導するので、予想外の特性によりメマンチンとは異なる。さらに、FENMは、メマンチンが高用量で投与された場合に記憶に有害な影響を及ぼすことはなく、このことは、特に、罹患した対象に認知症及び/又は認知障害をもたらす神経変性病状の場合に特に有益である。したがって、この化合物の高用量を対象に投与して、メマンチンについては、そのための最大承認用量(Ebixa(登録商標)については1日あたり20mg)では、脳脊髄液(CSF)でのNMDA受容体に対するIC50値に到達することができず、不可能であった、中枢神経系での有効用量を達成することができる。最後に、FENMは、まったく異なる、予想外の、メマンチンよりもはるかに好ましい用量効果曲線を有するように見える。FENMは、メマンチンと比較してかなり広い用量範囲にわたり、動物において活性である。これらの予想外の特性により、メマンチンと比較してはるかに広い有用な用量範囲を考慮できるため、ガレヌス製剤が容易になり、メマンチンよりも効果的な処置が得られる。
【0057】
1つの特定の実施形態では、それを必要とする対象に使用するための式(I)の化合物、又はその薬学的に許容される塩、又は式(II)の化合物は、投与された用量で、患者の認知への悪影響、特に記憶喪失作用がない。
【0058】
好ましくは、式(I)の化合物、又はその薬学的に許容される塩、又は式(II)の化合物は、例えば限定されるものではないが、経口又は非経口(皮下又は静脈内)で、医薬製剤として対象に投与される。経口投与が特に好ましい。
一実施形態では、式(I)の化合物、又は薬学的に許容されるその塩、又は式(II)の化合物を、1日あたり1~1,000mgの間、好ましくは1日あたり5~500mgの間、より好ましくは1日あたり10~100mgの間、特に好ましくは1日あたり20~70mgの間、さらにより好ましくは1日あたり30~60mgの間の経口用量で、対象に投与する。
別の実施形態では、式(I)の化合物、又は薬学的に許容されるその塩、又は式(II)の化合物を、1日あたり20mg超、好ましくは1日あたり30mg以上、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg以上、又はさらには1日あたり100mg以上の経口用量で、対象に投与する。
【0059】
タウオパチー、シヌクレイノパチー、又はアミロイドパチー、例としてアルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、後皮質萎縮症、又はハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、血管性認知症、又はコルサコフ症候群などの病状から選択される中枢神経系の病状などの慢性疾患の場合の神経保護の獲得に関して、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物による対象の処置は、少なくとも処置に効果がある限りにおいて、対象の全生涯にわたって続くことが容易に理解される。アルコール離脱、虚血、新生児虚血、頭部外傷、又は脳卒中などの急性病状の場合、処置は時間が限られていると考えることができる。1、2、3、4、5、6、7日、又は1、2、3、4週間、又は2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12カ月、又は1、2、3、4、5、6年、又はさらにはそれより長く、つまり神経保護、特に神経毒性に対する必要性がある限り、処置を続けることができる。これらの急性病状については、式(I)又は(II)の化合物を含む処置は、神経変性を最善に予防するために、例えばそれらの発生の日、翌日、又はさらにはその翌日に、可能な限り早期に実施されるべきである。
用量は、単一、すなわち対象に単回用量で投与することができる。用量は、1日にわたって数回摂取することで投与することもでき、1日の投与数により、望ましい日用量を得ることができる。したがって、1つの特定の実施形態では、問題の用量は、1日1回~4回、例えば1回、例えば2回、例えば3回、又はさらには4回の摂取で投与することができる。
【0060】
1つの特定の実施形態では、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物は、体積測定、秤量、又は錠剤の分割などの処理操作を必要とせず、1回の摂取に対応する用量を提供するように包装されており、これにより、特別な処理や計算が回避されるので、このことは認知障害のある対象に特に有利である。
一実施形態では、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物は、錠剤又は丸薬の形態である。1つの特定の実施形態では、錠剤又は丸薬は、1、2、3、又はさらに4個の小片に分割することができ、そうして1、2、又は3個の錠剤を使用して1回の摂取に必要な用量を対象に提供することができる。これは、例えば、処置が、目標日用量に到達するために用量漸増の期間を必要とする場合に特に重要であり、ここで、小片は増分に対応し、錠剤又は丸薬全体は処置の目標用量に対応することができる。
【0061】
1つの特定の実施形態では、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物の投与を含む処置は、対象が処置に慣れることが可能になる用量漸増の期間を含む。この期間は、処置の開始時又は中断後に処置を再開したときに発生する。この期間中、患者が許容する最大用量又は医師が処方した最大用量に達するまで、日用量を規則的に増加させる。例えば、用量漸増増分は、2、3、4、5、6、7日又はそれ以上であり得、好ましくは漸増増分は7日であり、用量は、1回の増分につき5mgずつ、又は10mg以上ずつ、好ましくは5mgずつ増加させることができる。したがって、1つの特定の実施形態では、対象が許容する最大用量又は開業医が処方した用量に達するまで、用量を週ごとに5mgずつ増加させる。別の実施形態では、対象が許容する最大用量又は開業医が処方した用量に達するまで、用量を週ごとに10mgずつ増加させる。
別の実施形態では、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物は、液体形態で製剤化される。その後、アンプルなどの容器、又は、取り出して任意に投与するのに十分な用量を得るのに必要な容量が可能になるデバイスに関連付けられたボトルなどの容器に、単位用量として包装することができる。
【0062】
FENMは、それを必要とする対象において神経保護を誘導するために単独で使用される場合に有効であるが、神経保護又は神経変性病状の対症処置において同等に有益であることが知られている少なくとも1種の他の化合物と組み合わせることは有意義である可能性がある。より具体的には、これらは多くの異なる生化学的経路及び細胞メカニズムを含む複雑な疾患であり、ある特定の例では、より大きな治療効果を得るため、並びに/又は投与量及び/若しくは副作用の低減を可能にするために、組み合わせを介した多面的効果によって標的とすることが適切である。
【0063】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、アルツハイマー病、パーキンソン病に伴う認知症、又はその他の神経変性認知症の対症処置として20年を超えて承認されている分子である。無傷のコリン作動性ニューロンから放出されるアセチルコリンの分解を遅らせる/阻害することにより、これらの阻害剤はコリン作動性神経伝達を促進すると考えられており、したがって、アルツハイマー病、又はパーキンソン病に関連する認知症の間、これらのコリン作動性経路に依存する認知障害に好ましい影響を与える。使用されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、リバスチグミン、及びガランタミンである。タクリンは、特にその肝毒性のため、あまり理想的ではない。
したがって、本発明の1つの目的は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物と、好ましくはドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、又はそれらの薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを含む組み合わせを提案することである。1つの特定の実施形態では、対象は、アルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある。
【0064】
コネキシンモジュレーター、より具体的にはメフロキンは、アルツハイマー病の対症処置の臨床試験で試験されている。この試験の焦点は、ドネペジルとメフロキンの併用処置である。メフロキンは、星状細胞のギャップ結合に関与するコネキシン、特にコネキシン43に対して調節効果があることが見出されている。星状細胞は、CNSにおいてニューロンを支持する役割を果たすが、三者間シナプスを介した情報伝達及びニューロン活動にも役割を果たす。ドネペジルとメフロキンとの間の相乗効果が報告されており、ドネペジルをより低用量で投与してより迅速な効果を得ることができる。
【0065】
したがって、本発明の1つの目的は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物と、少なくとも1種のコネキシンモジュレーター阻害剤とを含む組み合わせを提案することである。WO2013/064579又はWO2010/029131出願に列挙されているコネキシンモジュレーターは、参照のために本明細書に組み込まれている。したがって、本発明の1つの特定の目的は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物と、WO2013/064579又はWO2010/029131出願に列挙されているものなどの少なくとも1種のコネキシンモジュレーターとを含む組み合わせを提案することである。好ましい実施形態では、少なくとも1種のコネキシンモジュレーターは、メクロフェナム酸、エノキソロン、メフロキン及び2-アミノエトキシジフェニルボレート(APB)、又はその薬学的に許容される塩から選択される。さらにより好ましくは、コネキシンモジュレーターはメクロフェナム酸である。1つの特定の実施形態では、対象は、アルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある。
【0066】
本発明の1つの特定の目的はまた、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物、WO2013/064579又はWO2010/029131出願に列挙されているものなどの少なくとも1種のコネキシンモジュレーター、及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含む組み合わせを提案することである。好ましい実施形態では、少なくとも1種のコネキシンモジュレーターは、メクロフェナム酸、エノキソロン、メフロキン及び2-アミノエトキシジフェニルボレート(APB)、又はその薬学的に許容される塩から選択される。さらにより好ましくは、コネキシンモジュレーターはメクロフェナム酸である。好ましい実施形態では、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、リバスチグミン及びガランタミンから選択される。より好ましい実施形態では、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジルである。特に好ましい実施形態では、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための組み合わせは、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物、メクロフェナム酸又はその薬学的に許容される塩、及びドネペジル又はその薬学的に許容される塩を含む。1つの特定の実施形態では、対象は、アルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある。
【0067】
アミロイド斑形成の低減又はタウタンパク質の過剰リン酸化の予防又は低減を目的としたいくつかのモノクローナル抗体ベースの治療法の臨床試験での失敗にもかかわらず、この戦略はアルツハイマー病の処置法を探求するための積極的な手段であり続けている。アデュカヌマブは、非病原性Aβモノマーと比較して、Aβの可溶性及び不溶性オリゴマー線維凝集体に対して優れた選択性を示す組換えヒト抗体である(Arndt et al., 2018)。アデュカヌマブは、現在、アルツハイマー病の処置のための臨床試験で試験されている。
【0068】
したがって、本発明の1つの目的は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物と、アミロイド斑形成の妨害又はタウタンパク質の過剰リン酸化の予防又は低減のための抗体ベースの治療法の組み合わせを提案することである。本発明の1つの特定目的は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物と、β-アミロイド凝集体、断片、若しくはそのオリゴマーの毒性と戦うことができるアデュカヌマブ又はその抗原結合断片とを含む組み合わせを提案することである。1つの特定の実施形態では、対象は、アルツハイマー病又はレビー小体型認知症に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある。
【0069】
σ1受容体アゴニストは、現在、いくつかの神経変性適応症のために開発されている。σ1受容体アゴニストによって得られる神経保護効果は、アルツハイマー病のある特定のモデルで観察されているが、パーキンソン病、ハンチントン病、及び筋萎縮性側索硬化症などの他の病状でも観察されている。これらのアゴニストの一部は、神経保護効果があることが示されている(Meunier et al., 2006; Maurice et al., 2019)。σ1受容体アゴニスト及び神経保護化合物のファミリーは、WO2017/191034出願に提示されている。この出願中の化合物は、参照のために本明細書に組み込まれている。さらに、PRE-084(2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート)、(+)-ペンタゾシン)、(+)-SKF10,047(1,13-ジメチル-10-プロパ-2-エニル)-10-アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ-2(7),3,5-トリエン-4-オール)、SA4503(1-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エチル]-4-(3-フェニルプロピル)ピペラジン)、1-(2,2-ジフェニルテトラヒドロ-3-フラニル)-N,N-ジメチルメタンアミン、フルボキサミン(2-{[(E)-{5-メトキシ-1-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ペンチリデン}アミノ]オキシ}エタンアミン)、4-IBP(N-(1-ベンジルピペリジン-4-イル)-4-ヨードベンズアミド)、イグメシン((5E)-N-(シクロプロピルメチル)-N-メチル-3,6-ジフェニル-5-ヘキセン-3-アミン)、OPC-14523(1-{3-[4-(3-クロロフェニル)-1-ピペラジニル]プロピル}-5-メトキシ-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノン)、BD-737((1S,2R)-N-[2-(3,4-ジクロロフェニル)エチル]-N-メチル-2-(1-ピロリジニル)シクロヘキサンアミン)、BHDP(6-[(4-ベンジルピペラジン-1)-イル)メチル]-2,3-ジメトキシフェノール、プリドピジン(4-(3-(メチルスルホニル)フェニル)-1-プロピルピペリジン)が、他のσ1受容体アゴニストとして知られている。
【0070】
したがって、本発明の1つの目的は、それを必要とする対象において神経保護を誘導するのに使用するための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物と、少なくとも1つのσ1受容体アゴニスト、例として、WO2017191034出願に列挙されているもの、又はPRE-084(2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート)、(+)-ペンタゾシン、(+)-SKF10,047(1,13-ジメチル-10-プロパ-2-エニル)-10-アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ-2(7),3,5-トリエン-4-オール)、SA4503(1-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エチル]-4-(3-フェニルプロピル)ピペラジン)、1-(2,2-ジフェニルテトラヒドロ-3-フラニル)-N,N-ジメチルメタンアミン、フルボキサミン(2-{[(E)-{5-メトキシ-1-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ペンチリデン}アミノ]オキシ}エタンアミン)、4-IBP(N-(1-ベンジルピペリジン-4-イル)-4-ヨードベンズアミド)、イグメシン((5E)-N-(シクロプロピルメチル)-N-メチル-3,6-ジフェニル-5-ヘキセン-3-アミン)、OPC-14523(1-{3-[4-(3-クロロフェニル)-1-ピペラジニル]プロピル}-5-メトキシ-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノン)、BD-737((1S,2R)-N-[2-(3,4-ジクロロフェニル)エチル]-N-メチル-2-(1-ピロリジニル)シクロヘキサンアミン)、BHDP(6-[(4-ベンジルピペラジン-1)-イル)メチル]-2,3-ジメトキシフェノール、プリドピジン(4-(3-(メチルスルホニル)フェニル)-1-プロピルピペリジン)、又はそれらの薬学的に許容される塩、から選択されるものとを含む組み合わせを提案することである。1つの特定の実施形態では、少なくとも1種のσ1受容体アゴニストは、2-(2-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3,5-ジクロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(2,3-ジクロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-フルオロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-ニトロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-ベンジルオキシカルバモイルフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-2-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-3-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリジン-4-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリミジン-2-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(ピリミジン-5-イル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-アミノフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(4-アミノフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-N-メチル-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-2-チオノ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン;2-(3-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン、PRE-084(2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート)、(+)-ペンタゾシン、(+)-SKF10,047(1,13-ジメチル-10-プロパ-2-エニル)-10-アザトリシクロ[7.3.1.02,7]トリデカ-2(7),3,5-トリエン-4-オール)、SA4503(1-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エチル]-4-(3-フェニルプロピル)ピペラジン)、1-(2,2-ジフェニルテトラヒドロ-3-フラニル)-N,N-ジメチルメタンアミン、フルボキサミン(2-{[(E)-{5-メトキシ-1-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ペンチリデン}アミノ]オキシ}エタンアミン)、4-IBP(N-(1-ベンジルピペリジン-4-イル)-4-ヨードベンズアミド)、イグメシン((5E)-N-(シクロプロピルメチル)-N-メチル-3,6-ジフェニル-5-ヘキセン-3-アミン)、OPC-14523(1-{3-[4-(3-クロロフェニル)-1-ピペラジニル]プロピル}-5-メトキシ-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノン)、BD-737((1S,2R)-N-[2-(3,4-ジクロロフェニル)エチル]-N-メチル-2-(1-ピロリジニル)シクロヘキサンアミン)、BHDP(6-[(4-ベンジルピペラジン-1)-イル)メチル]-2,3-ジメトキシフェノール、プリドピジン(4-(3-(メチルスルホニル)フェニル)-1-プロピルピペリジン)、又はそれらの薬学的に許容される塩、から選択され、好ましくは2-(3-クロロフェニル)-2-オキソ-3,3,5,5-テトラメチル-[1,4,2]-オキサザホスフィナン、又はその薬学的に許容される塩である。PRE-084(2-モルホリン-4-イルエチル1-フェニルシクロヘキサン-1-カルボキシレート)又はその薬学的に許容される塩も好ましい。1つの特定の実施形態では、少なくとも1つのσ1受容体アゴニストは、エナンチオマー的に純粋な形態である。好ましい実施形態では、少なくとも1つのσ1受容体アゴニストは、ラセミ混合物の形態である。1つの特定の実施形態では、対象は、アルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがある。
【0071】
本発明による組み合わせのそれぞれについて、化合物のそれぞれは、上記で定義したように、同時、個別又は時差投与に適応し、これらの化合物の特異性に依存するが、好ましくはそのような方法でも、これらの化合物又はその活性代謝産物が、それらの生物学的効果を同時に発揮し、対象が組み合わせの最大の効果から利益を受けるようにする。
【0072】
本発明の1つの目的はまた、少なくとも1種の式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は式(II)の化合物を、単独で又は別の活性成分と組み合わせて含む医薬組成物を提案することであって、組成物は、言及された種々の実施形態による神経保護を得るのに特に好適である。
【実施例
【0073】
略語
Aβ25-35:APPペプチドの配列Nt-GSNKGAIIGLM-Ct(配列番号1)の11個のアミノ酸の断片。
Sc AC25-35:又はSc Aβ、配列Nt-MAKGINGISGL-Ct(配列番号2)のランダムな順序でAβ25-35の11個のアミノ酸を含む対照ペプチド。
YMT:Y迷路自発交替試験。
PAT:受動的回避試験又はステップスルー型受動的回避試験。
ORT:物体認識試験。
WMT:モリス水迷路試験。
icv:脳室内。
i.p.:腹腔内。
CNS:中枢神経系。
Iba-1:イオン化カルシウム結合アダプター分子1。
GFAP:グリア線維性酸性タンパク質。
RaD:放射状層(Rad)。
Mol:分子層(Mol)。
PoDG:PoDG:歯状回の多形層。
LPtA:外側頭頂連合野(LPtA)。
【0074】
1.材料及び方法
動物実験は、欧州連合指令第2010/63号の規定に従って実施し、これは、フランス共和国の国家倫理委員会(the National Ethics Committee)(CCNE)によって正式に承認された。
1.1.動物
インビボ実験は、7~9週齢の雄型スイスCD-1(RjOrl:スイス)マウス又はC57Bl/6jマウス(Janvier、Le Genest-Saint-Isle、France)で実行した。動物を、プラスチック製のケージに8~10個体の群で飼育し、制御された環境(23±1°C、湿度40~60%、昼/夜サイクル12時間)で自由に飲食させた。C57Bl/6j遺伝子型マウスで実施されたhamlet試験(下記参照)を除いて、すべての実験は、スイスマウスで実施した。
1.2.試験化合物及びペプチド
メマンチン及びFENM(試験化合物)の原液。
塩酸メマンチンを使用した(Sigma-Aldrich、Saint-Quentin-Fallavier、France)。FENM塩酸塩(FENMHCl)は、M2i Life Sciences(Saint-Cloud、France)によって合成された。化合物の原液を、100μLあたり10mg/Kgの用量に相当する2ng/mLの濃度で、NaCl緩衝液(0.9%、ビヒクル)に可溶化することによって得た。原液を、4℃で最長で2週間保存した。
【0075】
アミロイドペプチド[25-35]の原液;オリゴマーの形成。
Aβ25-35と呼ばれるアミロイドペプチド[25-35](供給元:Polypeptide、Illkirch、France又はEurogentec、Angers、France)を滅菌蒸留水に3mg/mLの濃度で可溶化し、得られた原液を分注し、使用するまで-20°Cで保存した。
賦形剤溶液(蒸留水)の注射は、ランダムな順序でAβ25-35と同じアミノ酸を含み、オリゴマー化していないScAβ(対照ペプチド)の注射と同じように効果がなかった。
Aβ25-35のオリゴマーは、37℃で4日間インキュベートした場合、Maurice et al. (1996)によって記載されたように形成された。ビヒクル溶液又は対照ペプチドには、投与前に同じ処理を施した。
【0076】
動物への投与
試験化合物(メマンチン、FENM HCl)を、0.1~10mg/Kgの用量範囲で動物に腹腔内投与した。
3μLのAβ25-35オリゴマー溶液(ビヒクル、滅菌蒸留水、又はScAβ)を、とりわけMaurice et al. (1996) 、Meunier et al. (2006)又はVillard et al. (2009)によって記載されているように、脳室内(icv)注射によってマウスに投与した。
【0077】
1.3.実験計画:対症処置及び神経保護
Aβ25-35オリゴマーのicv注射モデルは、先行技術において周知のモデルである。Aβ25-35オリゴマーは、マウスの神経細胞に対して細胞毒性があり、空間記憶及び作業記憶障害を誘導することが知られている。この欠損は、特に海馬におけるミトコンドリアストレス、酸化ストレス、及び細胞アポトーシスの発生、並びに中枢神経系の炎症を伴う。Aβ25-35ペプチドは、Aβ1-40又はAβ1-42ペプチドにも含まれており、これらの短い断片に対する自己抗体がヒトで検出されている(Gruden et al., 2007)。さらに、このモデルは、最も広く使用されているアルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルを用いた研究と比較して、顕著な予測的妥当性を有する(Maurice et al., 2013;Rodriguez-Cruz et al., 2017)。したがって、疾患の発症は急速であるが、このモデルは、化合物の神経保護活性に関する適切なスクリーニングモデル、特にアルツハイマー病に関する適切な第1選択モデルと考えられる。主にこのモデルで研究された少なくとも1種の分子(Villard et al., 2009, 2011)が、臨床試験で有効であることが証明されており(Hampel et al., 2020)、現在第3相にある。
図1は、Aβ25-35オリゴマー及び試験化合物のicv投与日による異なる試験の順序の図式的説明である。
【0078】
試験化合物を、Aβ25-35オリゴマー誘発性神経変性の認知症状を低減する能力、すなわち抗健忘症対症を提供する能力について試験した(図1A及び1B)。手短に言えば、試験化合物の対症効果を試験するために、試験化合物を、Aβ25-35オリゴマーのicv注射の8日後、YMT及びPAT記憶試験の実施の30分前、又はMWT若しくはORTの場合、訓練セッション後であり試験の30分前に投与した(図1A)。Hamlet試験(登録商標)(図1B)には、2週間の訓練セッション(1日4時間)及び、それに続く給水制限条件下及び通常条件下での試験(最長10分)が含まれ、Aβ25-35ペプチドを、この最初の試験の後に注射する。1週間後、化合物を投与し、注射の30分後に、給水制限条件下及び通常条件下で2回目の試験を行う。この試験では、アルツハイマー病の主要な警告サインである時空間見当識障害を測定する(Crouzier et al., 2018)。
【0079】
化合物の神経保護効果、すなわちAβ25-35オリゴマーの神経毒性及び神経変性から細胞を保護するその能力も試験する(図1C)。したがって、試験化合物を、Aβ25-35オリゴマーの注射と同じ日に投与し、オリゴマーの注射後7日目まで毎日投与し続け、その時点でマウスは、YMT、PAT、MWT又はORTを受ける。脳の解剖学的構造を分析し、D13で犠死させたマウスの免疫組織化学によって神経細胞を計数する。酸化ストレス及びアポトーシスのマーカーの定量化のための生化学的分析を、WMTを受けたマウスの群でD16にて実行した(図1C)。
したがって、ある場合では、Aβ25-35オリゴマーは、処置が実施される前にその神経毒性を発揮し、神経変性を誘導することが可能になり、一方、他の場合では、化合物がこの一連の事象を予防し、したがって神経変性及び細胞死を予防する能力を評価した。
【0080】
1.4.認知/行動試験
T迷路自発交替試験(YMT)
自発交替試験を、齧歯動物の空間作業記憶(超短期記憶)を評価するために使用した。迷路は、灰色の不透明なポリ塩化ビニル(PVC)で作製されていた。各アームは長さ40cm、高さ13cm、下部の幅3cm、上部の幅10cmであった。アームは、異なるアーム間で等しい角度で互いに収束していた。手短に言えば、各マウスは片方のアームの端に置かれ、8分間のセッション中に自由に動くことができた。各マウスがその端に配置されたアームを含む、各アームへのマウスのエントリーが記録される。交替は、動物が3つの異なるアームに連続してエントリーすることとして定義される。したがって、最大交替回数は、各アームへのエントリーの合計数から2を引いたものであり、交替のパーセンテージは次の式に従って計算された:
%Alt=実際の交替回数/最大交替回数×100
【0081】
測定されたパラメーターには、交替のパーセンテージ(記憶指数)及び迷路のアームへのエントリーの総数(探索指数、Maurice et al., 1994, 1996; Meunier et al., 2006, 2013; Villard et al., 2009, 2011)が含まれていた。極端な行動を示す動物のデータ(交替のパーセンテージ<25%若しくは>90%、又はエントリー数が10未満)は、計算から除外した。離脱率は定型的に5%であった。通常条件下では、マウスは自発的に各アームを交互に探索する。記憶力障害及び/又は見当識能力障害を有するマウスでは、交替のパーセンテージが低くなる。
【0082】
受動的回避試験(PAT)
この試験では、非空間的(文脈的)長期記憶を測定する。この試験に使用された装置は、2つの区画(高さ15x20x15cm)を備えた箱で、1つは白いPVC壁を備えて照明が当てられ、もう1つは黒いPVC壁及びグリッド床を備えて暗くされていた。ギロチン扉により、区画を分離した。60Wのランプを箱の40cm上に配置し、白い区画に照明を当てた。発電機(Lafayette Instruments、Lafayette、USA)を使用して、電気ショック(0.3mA、3秒間)をグリッド床に送達することができた。試験は、訓練セッション及び試験セッションで構成されていた。訓練中、ギロチン扉は閉鎖されていた。各マウスを、白い区間内に置いた。5秒後、扉が上がった。マウスが暗くされた区画に入り、グリッド床に4本の足すべてが接触すると、ドアが閉鎖し、電気ショックが3秒間送達された。マウスが暗くされた区画に再び入るまでの時間(STL-Tg)及び発声回数を記録した。試験セッションは、訓練セッションの24時間後に実施した。各マウスを、照明を当てた白い区画に戻した。ドアを上げた5秒後、ステップスルー潜時(STL-R)、すなわち、マウスが暗くされた区画に入るのにかかった時間を測定した。最大継続時間は300秒であった。STL-Tg>30秒又はSTL-Tg及びSTL-R<10秒のマウスは、この試験では考慮しなかった。離脱率は定型的に5%であった(Meunier et al., 2006, 2013; Villard et al., 2009, 2011)。記憶能力障害及び/又は見当識能力障害を有するマウスでは、正常な能力を有するマウスよりもSTL-Rが低くなる。
【0083】
物体認識試験
この試験は、認識記憶能力を評価するために使用する。(Rodriguez Cruz et al., 2017; Maurice et al., 2019)。マウスをそれぞれ、正方形のアリーナ(50x50cm2)に配置した。セッション1では、マウスを10分間環境に順応させた。セッション2では、セッション1の24時間後に、2つの同一の物体をアリーナの対角線の1つに沿って1/4(位置1)と3/4(位置2)に配置した。探索行動、活動及び動物の鼻の位置を10分間記録した(Nosetrack(登録商標)ソフトウェア、Viewpoint、Lissieu、France)。物体との接触回数及びその持続時間を測定した。セッション3では、セッション2の1時間後に、位置2の物体を、形状、色、質感が異なる新規物体に置き換えた。次に、各マウスの探索行動も10分間記録した。物体との接触がない、又は接触が10回未満の動物は、研究から外した。
探索指数は、以下の式を使用して計算した:
【0084】
【数1】
この試験は、マウスの先天的な探索行動に基づいている。これを使用して、脳の多くの領域を含む認識記憶を測定する。記憶力障害を有するマウスは、探索行動において物体2を好む可能性が低くなる。
【0085】
空間学習(モリス水迷路)試験
この試験は、長期空間参照記憶を評価するために使用する。この試験は、先行技術において周知であり、特にRodriguez Cruz et al. (2017)及びMaurice et al. (2019)に記載されている。これは、取得段階及び試験段階の2種の段階で構成されている。プールは円形(直径140cm)であり、取得段階中に10cmのプラットフォームを水面下に沈めた。物が道を見つけやすくするために、プールの周りにマーカーを配置した。動物の水泳行動を記録し(Videotrack(登録商標)ソフトウェア、Viewpoint)、軌道、潜時、及び移動距離を測定した。取得段階には、5日間の1日3回の水泳セッションが含まれていた。動物の開始位置を、北、南、東、西の基点からランダムに選択した。各動物は、水が、増白粉末の懸濁液によって不透明にされている、北東象限の中央にある水没したプラットフォームを90秒間で見つけることができた。動物をプラットフォーム上に20秒間放置した。90秒後にプラットフォームを見つけていなかった動物を、プラットフォームに置き、20秒間そこに放置もした。潜時の中央値(プラットフォームを見つけるのにかかった時間)を、訓練日ごとに計算して、群の平均潜時±標準偏差として表した。前回の訓練セッションから72時間後に保持プローブ試験を実施した。この試験ではプラットフォームを取り外した。各マウスを水中に60秒間放置し、その水泳行動を記録した。もともとプラットフォームが含まれていた北東象限で費やされた時間(T)を測定し、他の象限で費やされた平均時間(o)と比較した。
空間参照記憶力障害を有するマウスは、訓練段階中にプラットフォームを含む象限で費やす時間が(他の象限で費やされた時間の割合として)短くなるか、又は時間はチャンスレベル(15秒)よりも有意に長くもない。
【0086】
地形記憶、Hamlet試験
この試験は、複雑な環境でマウスの地形記憶を測定するように設計されている。それは、動物が複雑で豊かな環境に慣れ、優れた記憶及び社会的機能の取得を通じて、この豊かな状況で学習することに基づいている(Crouzier et al., 2018)。
【0087】
直径1.2mのHamlet試験(登録商標)デバイスは、中央の広場(アゴラ)と、そこから放射状に伸び、生理学的機能を満たすことができる、又は環境を豊かにすることができる機能化区画又は家屋につながる通りで構成されている。集落の壁及び通りは、赤外線透過PVCで作製され、試験室は均一に照明が当てられ(200ルクス)、赤外線ダイオードが集落の床下に置かれ、赤外線カメラによって動物の行動を記録した。アゴラは、訓練及び試験セッションの集合場所及び出発点として機能した。家屋は基本的な生理学的機能をコードし、ペレット(食べるための家屋)、水(飲むための家屋)、Novomaze(登録商標)(Viewpoint)迷路(隠れるための家屋)、回転輪(運動するための家屋)、又は未知のマウスを分離する分離グリッド(交流するための家屋)のいずれかを含んでいた。
この試験はCrouzier et al. (2018 a and b)によって説明された。手短に言えば、2週間の訓練期間中、同じケージの動物を1日4時間、集落内に置いた。地形記憶を、最後の訓練セッションの72時間後、マウスが給水制限された(前夜、すなわち試験の15時間前にボトルが取り外された)後の試験段階(PT0)中に試験した。飲むための家に到達する際の動物の成績レベルを、給水制限しないで翌日再試験した同じ動物の成績レベルと比較した。動物を、10分間のセッションの間、個別に集落に置いた。探索行動は、飲むための家を見つけるのにかかった時間及び誤りの数(飲むための家に通じていない通りへの進入の数)とともに記録した。オリゴマー化Aβ25-35ペプチド又は対照を、試験段階の2時間後に注射し、試験化合物を注射した(図1B)。試験段階を、7日後に繰り返した。各変数(飲むための家を見つけるまでの時間、誤りの数)について見当識障害指数(DI)を計算した。
【0088】
【数2】
【0089】
1.5.生化学的分析
膜における脂質過酸化
図1Cに示すように、Aβ25-35注射の15日後に、行動試験を行った後、断頭によりマウスを犠死させた。マウスの脳を取り除き、海馬を分離し、重さを量り、-80℃で凍結して、生化学的分析に対して待機した。
試料中に存在するヒドロペルオキシドの量は、Fe3+-キシレノールオレンジ複合体を定量化することによって測定した:酸性媒体では、ヒドロペルオキシドはFe2+をFe3+に酸化させる。後者はキシレノールオレンジと着色された複合体を形成し、その形成は、580nmでの吸光度を測定することによって定量化した。
解凍後、海馬を冷メタノール(1/10w/v)でホモジナイズし、1000gで5分間遠心分離し、上清を回収した。ホモジネートを、FeSO4(0.25mM)、H2SO4(25mM)、及びキシレノールオレンジ(0.1mM)を含有する溶液に加え、周囲温度で30分間インキュベートした。580nm(A5801)での吸光度を測定し、10μlのクメンヒドロペルオキシド(CHP、1mM)を加え、全体を周囲温度で30分間インキュベートした。580nmの吸光度を再度測定した(A5802)。脂質過酸化のレベルを、式:
【0090】
【数3】
を使用してCHP当量(CHP当量(CHP eq))で決定した。
CH当量(CHP eq)は、組織の質量ごとに表され、対照群値のパーセンテージとして表される。
【0091】
ELISA試料、炎症及びアポトーシスマーカーの定量化
サイトカイン炎症マーカーであるインターロイキン6(IL-6)、並びにアポトーシスマーカーであるBcl2及びBaxタンパク質のレベルを、以下の表1に列挙されたELISA試験によって、マウス海馬で測定した。Bcl2は、多くの場合抗アポトーシスマーカーと呼ばれ、Baxはアポトーシス促進性マーカーと呼ばれる。条件ごとに6~8匹の動物の両方の海馬を使用した。細胞溶解緩衝液(1mL、3 IS007、Cloud-Clone)で解凍した後、組織をホモジナイズし、氷上で超音波処理した(2×10秒)。遠心分離(10,000g、5分間、4°C)後、測定対象のマーカーを含有する上清を分注し、供給元の指示に従ってELISA試験を実行するまで-80°Cで保存した。結果は、総タンパク質1mg当たりのng単位のマーカーで、対照(Aβ25-35で中毒させておらず、試験化合物で処置していないマウス)のパーセンテージとして表す。
【0092】
【表1】
【0093】
1.6.免疫組織化学的分析
組織切片の調製
図1Cに示すように、13日目に、各実験条件について、これらの研究を実行するために5~6匹のマウスを安楽死させた。マウスは以前にケタミン(80mg/Kg)及びキシラジン(10mg/Kg)の溶液200μLのi.p.注射による麻酔を受けており、続いて50mLの生理食塩水、続いて50mLのAntigenfix(登録商標)固定液(Diapath)の心臓内灌流によって組織を固定した。試料を4℃の固定液中にさらに48時間保持した後、スライスする前にマウス脳をPBS中の30%スクロース溶液中に保存した。
切片は、脳の各領域、特に皮質、基底核大細胞部、及び海馬から採取した(つまり、マウス脳の定位座標によるとブレグマ+1.8とブレグマ-2.8の間、Paxinos et al., 2004)。厚さ25μmの連続冠状切片を凍結ミクロトーム(Microm HM 450、Thermo Fisher)で切断し、凍結保護溶液中で-20°Cにて保存した。
【0094】
領域CA1における生存ニューロンの定量化
アルツハイマー病患者では、ニューロンの減少がCA1領域で報告されている(またCA3領域ではより少ない程度で)。このような減少は、Aβ25-35オリゴマーのicv注射のマウスモデルでも観察される。マウス海馬のCA1領域の生存ニューロンを定量化するために、対応する切片をクレシルバイオレット(0.12%、Sigma-Aldrich)で染色し、エタノールで脱水し、キシレンで処理し、封入剤(Mountex medium、BDH Laboratory Supplies)で封入し、周囲温度で24°Cで乾燥させた。画像を記録して分析した(Nanozoomer virtual microscopy system、Hamamatsu、Massy、France)。CA1領域の厚さ及び錐体ニューロンの数を20倍の倍率で測定した(ImageJ v1.46ソフトウェア(NIH)の細胞計数マクロ)。データは、マウスあたり4~6個の海馬切片のmm2あたりの生存細胞数として表される(Rodriguez Cruz et al., 2017; Maurice et al., 2019)。
【0095】
炎症マーカーGFAP及びIba-1の免疫組織化学的定量化
ミクログリア細胞は、多くの場合、CNSのマクロファージとして提示される。それらは病理学的状況に対応して増殖し、活性になる。ミクログリア細胞はサイトカイン又は活性酸素種を分泌することができるため、興奮毒性現象の一部を担っている。ミクログリア細胞は、病理学的神経炎症のマーカーでもある。Iba-1標識は、CNSのミクログリア細胞に特異的である。GFAPタンパク質は星状細胞の中間径フィラメントの構成成分であり、星状細胞のマーカーとして使用される。星状細胞は、ニューロンの機能的及び構造的支持において役割を果たす。しかし、星状細胞は神経炎症にも関与しており、神経毒性活性を有する多数のサイトカインを産生する可能性がある。
免疫組織化学的標識は、従来の様式に従って行う。手短に言えば、それぞれ250倍及び400倍に希釈したウサギポリクローナル抗Iba-1抗体(参照019-19741、Wako)及びマウスモノクローナル抗GFAP抗体(参照G3893、Sigma-Aldrich)を使用して、ミクログリア細胞及び星状細胞を標識化した。標識化は、4℃で一晩行った。Cy3結合抗ウサギ二次抗体及びAlexa Fluor 488結合抗マウス二次抗体(1000倍希釈)とのハイブリダイゼーションを周囲温度で1時間行った。次いで切片を10μg/mLのDAPI溶液中で5分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、切片を封入液(ProLong、ThermoFischer)に封入し、放射状層(Rad)、分子層(Mol)、歯状回の多形層(PoDG)、及び皮質の場合、外側頭頂連合野(LPtA)などの海馬のさまざまな下位領域について共焦点蛍光顕微鏡(Leica SPE)で各切片の画像を撮影した。これらの領域は、Aβ25-35オリゴマー誘発性アストログリオーシス及びミクログリオーシスの部位であることが知られている(Maurice et al., 2019)。
【0096】
1.7.統計分析
分析は、Prismv5.0(raphPad Software、San Diego、CA、USA)を使用して実行した。一元配置分散分析(ANOVA、F値)を使用してデータを分析した後、ダネット検定を行った。受動的回避試験の潜時は、ノンパラメトリッククラスカル-ウォリス検定(ANOVA(H値)、続いてダネット検定によって分析した。モリス水迷路試験では、T象限又はO象限で費やされた時間を、プローブ試験対15秒のデータについて1標本t検定を使用して分析した。物体認識試験のセッション3のデータにも同じことが当てはまり、物体の探索に費やされた時間と、物体との接触回数対50%に応じて好ましくは分析される。統計的有意水準は、p<0.05、p<0.01、及びp<0.001であった。
【0097】
2.結果
2.1.炎症、アポトーシス、及び酸化ストレスの神経保護並びに予防
海馬における炎症、アポトーシス、及び酸化ストレスの生化学的マーカー。
メマンチン及びFENMの神経保護効果は、海馬で、炎症(IL-6、図2A)、アポトーシス(BaxとBcl-2、及びBax/Bl-2比、図2C)及び酸化ストレス(脂質過酸化、図2B)を測定することにより生化学的レベルで評価した。
【0098】
Aβ25-35オリゴマーで中毒させた未処置マウスの海馬では、未処置非中毒マウスと比較して、中毒の5日後にIL-6(炎症誘発性サイトカイン)レベルの有意な83%増加が観察され、Aβ25-35オリゴマー中毒による神経炎症の誘導が確認された。メマンチン(0.3mg/Kg)によるマウスの処置によって、中毒だが未処置のマウスと比較して、IL-6レベルの有意な低下は起こらなかった。逆に、FENMで処置したマウスの海馬で観察されたIL-6レベルは、未処置中毒マウスよりも有意に低く、未処置非中毒マウスで観察されたレベルと同じオーダーのレベルに達した(図2A)。したがって、FENMによってAβ25-35オリゴマー誘発性炎症の予防がなされた。
【0099】
予想通り(Maurice et al., 2013)、中毒群では抗アポトーシスタンパク質Bcl2レベルの有意な増加は観察されなかった(データは示していない)。Aβ25-35オリゴマー中毒の結果として、Baxタンパク質レベルが有意に増加した(データは示していない)。この増加は、メマンチン(0.3mg/Kg)及びFENM(0.3mg/Kg)によって(中毒未処置群と比較して)有意に低下した(データは示していない)。それにもかかわらず、FENM(0.3mg/Kg)でマウスを処置した場合のみ、Bax/Bcl-2比が有意に低下し、FENMで処置されていないマウスでは、Bax/Bcl-2比はAβ25-35中毒の結果として有意に増加しており(図2C)、Bax/Bcl-2比は、細胞のアポトーシス能力のマーカーとして先行技術で知られている。したがって、増加したBax/Bcl-2比によって判定されるように、FENMのみがAβ25-35オリゴマー誘発性アポトーシスを予防することができる。
また、FENM(0.3mg/Kg i.p.)による処置は、海馬のCA1領域の生存ニューロン数を維持し、オリゴマー中毒マウスにおけるこの領域の厚さの増加を相殺したのに対し、未処置中毒マウスは、CA1領域の生存細胞数の13%減少を示したことも観察され、これは、CA1領域の厚さの12%の増加に関連している(図示せず)。したがって、FENMは、海馬のAβ25-35オリゴマー誘発性細胞及び構造の変化を予防した。
【0100】
アポトーシスに関連して、ミトコンドリアの機能不全も酸化ストレスの原因となる。脂質過酸化は、酸化ストレスの長期マーカーである。予想どおり、Aβ25-35オリゴマーによる中毒は、中毒マウスの海馬細胞における脂質過酸化レベルの有意な増加(+47%、図2B)を誘導した。メマンチン(0.3mg/Kg)は、脂質過酸化のレベルを有意に低下させず、したがって、Aβ25-35オリゴマー中毒によって誘導される酸化ストレスの予防には効果がなかった。FENM(0.3mg/Kg)で処置したマウスの海馬では、対照群(非中毒、未処置)と同等であり、中毒未処置マウスよりも有意に低いレベルが観察された。したがって、メマンチンと比較して、FENMのみが、脂質過酸化によって測定される中毒マウスで観察される酸化ストレスを予防することができる。
したがって、FENMのみが、Aβ25-35オリゴマー誘発性アポトーシス及び炎症に対して有効な神経保護(強度及び統計的有意性の観点から)を提供することができる。
【0101】
免疫組織化学による神経炎症の観察。
Aβ25-35オリゴマー中毒により、皮質におけるGFAP(図3、アストログリオーシス)及びIba-1(図4、ミクログリオーシス)標識の、(非中毒マウスと比較して)大幅かつ有意な増加が誘導される(LPtA、それぞれ+110%及び+55%)。調査した3種の領域(Rad、Mol、及びPoDG)の中毒マウスの海馬でも、GFAP及びIba-1の増加が観察され、これは、Rad(+68%)及びMol(+52%)でのGFAP標識(+68%)並びにRadでのIba-1標識(+68%)について有意である(図3及び4)。メマンチンにはPoDG領域に正の効果があるが、試験したすべての脳領域で星状細胞及びミクログリアの応答を有意に減少させるのはFENMのみである(図3及び4)。メマンチンは、Molのアストログリオーシス(図3B)にも皮質のミクログリオーシス(図4D)にも影響を与えない。したがって、FENMは、Aβ25-35オリゴマー中毒によって引き起こされる炎症反応の予防において、メマンチンよりも著しく有効である。
したがって、FENMは、分子レベル(生化学的マーカー)及び神経保護実験計画における細胞レベル及び形態学的レベルで、神経変性において観察される炎症性、酸化ストレス、及びアポトーシスメカニズムの発生を予防する上で、メマンチンと比較して特に有効である。
さらに、FENMのみで、研究したすべてのマーカーにおいて有意な改善が得られた。
【0102】
2.2.神経保護及び認知能力の保存。
次に、脳内の生化学的レベル及び細胞レベルで検出されたFENMの特異的神経保護能力が、メマンチンで処置された動物と比較して、FENMで処置された動物の認知能力に影響を与えるかどうかを確認した。
FENM及びメマンチンの神経保護効果を、作業記憶、中期記憶、認識記憶、長期空間記憶(学習)及び見当識技能を測定する認知及び行動試験で評価し、比較した。これらの試験は、図1Cに示す実験計画に従って実行した。特に明記しない限り、メマンチン及びFENM(試験化合物)を、0.03;0.1;0.3;1.0及び3mg/Kgの用量で投与した。したがって、試験した用量は、試験した用量範囲で対数的に分布しており、これにより、2種の分子の活性プロファイルを比較することができる。
【0103】
モリス水迷路試験におけるFENMの優れた効果。
この試験は、長期空間記憶及び学習能力の評価である。
Aβ25-35オリゴマーは、学習及び長期記憶機能の喪失を誘導する(図5)。未処置非中毒マウス(対照群)では、マウスが訓練象限で15秒を大幅に超える時間を費やしたことが見出され;他の象限内で費やされた時間と比較して、訓練象限内で費やされた時間の間に有意差も観察された。未処置中毒マウスは、訓練象限で費やしたのとほぼ同じ時間を、他の象限で費やし、訓練象限で費やした時間はもはや15秒と有意差がなかった。0.3mg/Kgのメマンチンの投与によって、学習及び記憶機能の障害は予防されなかった。対照的に、中毒であるが0.3mg/Kg FENMで処置されたマウスは、学習象限で他の象限よりも有意に多くの時間を費やしたため、学習能力及び記憶能力を維持し、この時間は15秒よりも有意に長かった(図5)。
したがって、FENMのみが、この試験で測定された動物の認知能力を有意に保護した。
【0104】
受動的回避試験におけるFENMの優れた効果
材料及び方法のセクションで言及したように、この試験は、中期記憶を評価するために従来から使用されている恐怖動機試験である。
非中毒マウスと比較して、Aβ25-35オリゴマー中毒マウスでは、暗い区画に再び入るまでの潜時の有意な減少が観察された(データは示していない)。メマンチンの保護効果は、試験した2種の用量(0.1及び1mg/Kg i.p.)でのみ観察された。対照的に、0.1mg/Kg i.p.から最大3mg/Kgまで試験したすべての用量に対し、記憶に関して、FENMによって神経保護が得られることが見出された。
したがって、FENMは、メマンチンが効果を示さなかった高用量であっても、メマンチンよりも神経保護の提供においてより有効であった。したがって、FENMは、Aβ25-35オリゴマーのicv注射によって誘導される神経変性のモデルにおける認知障害の予防においてより有効であった。
【0105】
2.3.FENMは、同じ用量でメマンチンの健忘効果を欠いている。
上記のように、メマンチンは、動物モデルとヒトの両方において、高用量で投与すると認知に有害な影響を与えることが示されている。この実験では、メマンチン及びFENMを10mg/Kgの用量でi.p.投与し、マウスの成績は、非中毒マウスを用いた受動的回避試験及びY迷路を使用して試験した。結果を、以下の表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2のデータは、動物の作業記憶及び中期記憶に対するメマンチンの負の効果を示す。メマンチンを投与した動物では、Y迷路の交替回数及び受動的回避試験の潜時の有意な減少が観察された。これらの試験中の動物の成績に対するメマンチンの有害な影響は、例えば図6で観察されたAβ25-35オリゴマーの影響と同程度であることに注意すべきである。逆に、FENMを投与した動物では、重大な記憶障害は報告されていない(表2)。
この健忘効果の欠如は、FENMの優れた神経保護効果(及び以下の対症効果を参照)に加えて、メマンチンに対して現在受け入れられている用量よりも高用量での処置を考慮することができるため、特に興味深く、したがって、CNSでより有効な濃度を得ることができ、より高い有効性とともに、ヒトにおいてより有効な処置を得ることができる。
【0108】
2.4.FENMによる認知障害の対症処置。
Aβ25-35オリゴマー誘発性神経毒性に起因する認知障害の対症処置を評価するために、図1(A)及び(B)の実験計画に従って分子を投与した。メマンチンは、動物モデルで記憶障害の症状を改善することが知られているが、ヒトでは期待外れである;その効果が、FENMの効果と比較されている。Aβ25-35オリゴマー中毒後のFENMの抗健忘効果は、実施されたすべての行動試験で確認された(Y迷路、受動的回避、物体認識(図示せず)、モリス水迷路(図示せず))。特に明記しない限り、メマンチン及びFENM(試験化合物)を、0.1;0.3;1.0;3及び10mg/Kgの用量で投与した。したがって、試験した用量は、試験した用量範囲で対数的に分布しており、これにより、2種の分子の活性プロファイルを比較することができる。
一般に、FENMはメマンチンよりも広い用量範囲にわたって有効であり、特にその範囲のより高い用量で有効であることが見出された。例えば、FENMによる処置は、0.1mg/Kgから試験されたすべての用量で有効であったため、Y迷路試験で優れており(図6)、一方、メマンチンは0.3mg/Kgでのみ、未処置中毒マウスとは有意に異なっている交替(Alt)%の回復に有効であった。
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受動的回避試験(図7)では、メマンチンによる認知障害の有意な改善は、0.3mg/Kgのメマンチン用量のみで観察された。さらに、メマンチンは、10mg/Kgを注射すると、中毒マウスの認知症状を悪化させる。対照的に、FENMは、0.1;0.3及び1mg/Kgで有効であり、メマンチンによる処置の場合に観察されるような健忘症状を悪化させる影響はない(図7)。
メマンチン及びFENMによる対症処置のAβ25-35オリゴマー誘発性記憶障害に対する効果はまた、hamlet試験で比較した。この試験では、地形記憶、空間認識、見当識、及び学習など、動物における複雑な記憶プロセスを評価する。試験化合物を、この試験のために0.3mg/Kgの用量でマウスに投与した。FENM処置群では、誤り及び潜時について計算された見当識障害指数は、未処置非中毒マウスのレベルまで低下したが、メマンチン処置群の動物ではそのように低下しなかった(図8)。
したがって、FENMは、神経変性によって誘導される記憶障害の対症処置においてもより有効であり、メマンチンが効果がないか記憶に有害である場合でも、より高用量で使用することができる。さらに、FENMは、メマンチンでは不可能な複雑な記憶プロセス(hamlet試験)を維持するのに役立つ。
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3.結論
したがって、実験データは、メマンチンとは異なり、FENMが、CNS細胞死及び神経変性の根底にある事象に対して、生化学的レベル及び細胞レベルの両方で検出される神経保護の誘導に有効であることを示している。この神経保護は、動物の認知障害の予防につながる。FENM処置によって得られる神経保護は、メマンチンでは観察されない。さらに、FENMは、高用量で投与された場合、メマンチンの健忘効果を欠いており、対症処置のためにこれらの用量で有効なままである。したがって、これらのデータは、FENMが神経変性病状の予防(神経保護)及び対症処置に特に利益があることを示している。得られたデータは、動物モデルにおいて有効であることが判明した用量範囲及びメマンチンで得られた生物学的効果に関して、FENMの完全に非典型的かつ予測不可能な挙動を示している。
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参考文献

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023531869000001.app
【国際調査報告】