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特表2023-532032血液脳関門浸透アプタマー及びその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(54)【発明の名称】血液脳関門浸透アプタマー及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20230719BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20230719BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20230719BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
A61K31/711
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/18
A61P31/00
A61P35/00
A61K47/54
C07K16/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580190
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(85)【翻訳文提出日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 KR2021008212
(87)【国際公開番号】W WO2022005179
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0079495
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0082374
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.Witepsol
(71)【出願人】
【識別番号】522179655
【氏名又は名称】アプタマー サイエンシズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APTAMER SCIENCES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンドン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ダ ソム
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソヨン
(72)【発明者】
【氏名】リム,ソ リョン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ユイス
(72)【発明者】
【氏名】カン,ナイエ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ドンギル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC01
4C076CC27
4C076CC31
4C076EE23
4C076EE59
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZB26
4C086ZB32
4H045AA10
4H045AA30
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)に浸透して受容体を介した内在化(receptor-mediated transcytosis)が可能なアプタマー及びその利用に関する。
本発明のアプタマーは、トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)タンパク質のみ選択的にターゲティングし、受容体を介した細胞内在化によりBBBを迅速に通過し、単純な化学的結合によりタンパク質、抗体、核酸、低分子化合物などの様々な治療剤を効率的に輸送及び送達することができ、種間のトランスフェリン受容体に交差反応を示し、化学的修飾が容易であるので、神経系疾患、特に脳及び中枢神経系疾患における薬物担体として適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1の塩基配列を含む、トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)タンパク質特異的アプタマー。
[一般式1]
AGTGTCGGTGATTTGCCTCGTCGCT(配列番号52)
【請求項2】
前記アプタマーは、その5’末端及び3’末端から選択される少なくとも1つに1~30個のポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項3】
前記アプタマーは、30~150個のポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項4】
前記アプタマーは、配列番号1~4のポリヌクレオチド配列からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、又はそれと相同性が90%以上であるポリヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項5】
前記アプタマーは、そのポリヌクレオチド配列を形成する少なくとも1つのヌクレオチドに下記のものから選択される少なくとも1つの改変を含む、請求項1に記載のアプタマー。
i)少なくとも1つのヌクレオチド中のT塩基の5位の炭素がベンジル基、ナフチル基、2-ナフチル基、ピロールベンジル基及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも1つに置換される。
ii)少なくとも1つのヌクレオチド中の2位の炭素位置において、-OH基がデオキシ(deoxy)、メトキシ(methoxy)、アミノ(amino)及びフッ素(F)からなる群から選択される少なくとも1つに置換される。
iii)少なくとも1つのヌクレオチドがメチルホスホネート、ホスホロチオエート、LNA(Locked Nucleic Acid)、PNA(Peptide Nucleic Acid)及びHNA(Hexitol Nucleic acid)からなる群から選択される少なくとも1つに置換される。
【請求項6】
前記アプタマーは、配列番号5~49のポリヌクレオチド配列からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、又はそれと相同性が90%以上であるポリヌクレオチド配列を含む、請求項5に記載のアプタマー。
【請求項7】
前記アプタマーは、そのポリヌクレオチド配列、その5’末端及び3’末端から選択される少なくとも1つに、PEG(ポリエチレングリコール)、HEG(ヘキサエチレングリコール)、idT(inverted deoxythymidin, 反転デオキシチミジン)、ビオチン、蛍光物質、アミンリンカー、チオールリンカー、コレステロール及び脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つが接合したものである、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のアプタマーを有効成分として含む、神経系疾患の予防又は治療用薬学組成物。
【請求項9】
前記アプタマーは、タンパク質、抗体、核酸及び低分子化合物からなる群から選択される少なくとも1つがさらに結合したものである、請求項8に記載の薬学組成物。
【請求項10】
前記神経系疾患は、中枢神経系疾患である、請求項8に記載の薬学組成物。
【請求項11】
前記中枢神経系疾患は、脳癌、脳感染、認知症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、多発性硬化症、てんかん、中風、脳卒中、虚血性脳疾患、記憶力減退、外傷性中枢神経系疾患、脊髄損傷疾患、行動障害、発達障害、精神遅滞、ハンター病、ALS、ダウン症候群及び統合失調症からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載の薬学組成物。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載のアプタマーを含む薬物担体。
【請求項13】
前記薬物担体は、タンパク質、抗体、核酸及び低分子化合物からなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項12に記載の薬物担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受容体介在性トランスサイトーシス(receptor-mediated transcytosis)によりヒトとマウスの血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)の両方に浸透するアプタマー及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アプタマー(Aptamer)は、それ自体が安定した3次元構造を有し、標的分子に高い親和性及び特異性で結合するという特徴を有する一本鎖核酸(DNA、RNA又は修飾核酸)であり、1990年にSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)というアプタマー開発技術が初めて導入されて以来、低分子有機物、ペプチド、膜タンパク質に至る様々な標的分子に結合する多くのアプタマーが続けて開発されてきた。アプタマーは、固有の高い親和性(通常pMレベル)及び特異性で標的分子に結合するという特性を有するので、しばしば単一抗体と比較され、特に「chemical antibody」と言われるほどに代替抗体としての可能性が非常に高い。
【0003】
各種標的分子に結合するアプタマーが報告されると共に、様々な疾患を媒介する標的分子に結合するアプタマーを治療剤として用いようとする努力が続けられており、特に疾患を誘発する分子に拮抗的に作用するアプタマーを開発すれば、標的治療(targeted therapy)に用いることができるであろうと期待されている。その結果、2004年末に、Pfizer社とEyetech社が共同開発したアプタマー治療剤であるMacugenが初めてFDAから新薬承認され、販売開始された。Macugenは、加齢黄斑変性(age-related macular degeneration, AMD)を誘発するVEGF165タンパク質に特異的に結合し、その結果VEGF165タンパク質がVEGFレセプターに結合することを妨げるので、AMDに対して優れた治療効効果がある。Archemix社は、過剰な血栓形成を誘発するvWFに選択的に結合することにより血栓形成を抑制するARC1779(血栓性微小血管症治療)などをはじめとする様々な新薬候補を開発している。ウイルスが媒介する疾患に対するアプタマー治療剤の研究も活発に行われており、T4 DNAポリメラーゼに結合するアプタマーが最初に報告されて以来、特にHIV-1とHCVが生成するタンパク質に対するアプタマーが多く開発されている。
【0004】
一方、現在、脳癌、脳感染、CNS疾患などの神経系疾患の数が増加するにつれて、先端薬物送達技術の需要が拡大してきている。しかし、血液中への薬物投入によっては脳に薬物が送達されないが、それは血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)が存在するからである。血液脳関門は、脳と血液を隔離する血管バリアであり、選択的透過性が高く、脳をはじめとする中枢神経系の調節機能を細菌などの血液で輸送される病源体や血液中の潜在的な危険物質から隔離する役割を果たす。脳毛細血管の内皮細胞は、星状膠細胞の足突起から分泌される物質により密着結合を形成して細胞間の溶質の移動を妨げ、高分子や親水性物質の通過を妨げる。よって、水溶性分子が血液脳関門を通過するために、特別なチャネルや輸送体タンパク質を必要とするのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献2】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献3】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献4】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献5】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献6】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献7】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献8】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献9】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献10】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献11】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献12】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【非特許文献13】J.A. Kim et al, Biomicrofluidics, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、受容体介在性トランスサイトーシス(receptor-mediated transcytosis)によりヒトとマウスの血液脳関門の両方に浸透するアプタマーを開発し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)タンパク質特異的アプタマーを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記アプタマーを有効成分として含む、神経系疾患の予防又は治療用薬学組成物を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、前記アプタマーを含む薬物担体を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアプタマーは、トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)タンパク質のみ選択的にターゲティングし、受容体を介した細胞内在化により血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)を迅速に通過し、単純な化学的結合によりタンパク質、抗体、核酸、低分子化合物などの様々な治療剤を効率的に輸送及び送達することができ、種間のトランスフェリン受容体に交差反応を示し、化学的修飾が容易であるので、神経系疾患、特に脳及び中枢神経系疾患における薬物担体として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1a】TfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力を確認した図である。
図1b】TfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力を確認した図である。
図2】TfRアプタマーの細胞結合力を確認した図である。
図3a】TfRアプタマーのヒト細胞株結合力を確認した図である。
図3b】TfRアプタマーのマウス細胞株結合力を確認した図である。
図4a】TfRアプタマーのマウス細胞株内在化を確認した図である。
図4b】TfRアプタマーのマウス細胞株内在化を確認した図である。
図5】GFPに結合したTfRアプタマーのヒト及びマウス細胞株内在化を確認した図である。
図6】セツキシマブ又はリツキシマブに結合したTfRアプタマーのヒト、サル、マウス細胞株内在化を確認した図である。
図7】in vitro脳微小血管構造を示す模式図である。
図8】TfRアプタマーのin vitro脳微小血管構造浸透効果を確認した図である。
図9】TfRアプタマーにより脳に送達された抗体の分布を確認した図である。
図10】セツキシマブ結合アプタマーにより脳に送達された抗体の分布を確認した図である。
図11】リツキシマブ結合アプタマーにより脳に送達された抗体の分布を確認した図である。
図12】抗体に結合したTfRアプタマーの循環網状赤血球に対する影響を確認した図である。
図13a】化学的に最適化されたTfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力を確認した図である。
図13b】化学的に最適化されたTfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力を確認した図である。
図14a】化学的に最適化されたTfRアプタマーのヒト細胞株内在化を確認した図である。
図14b】化学的に最適化されたTfRアプタマーのマウス細胞株内在化を確認した図である。
図14c】化学的に最適化されたTfRアプタマーのサル細胞株内在化を確認した図である。
図15】化学的に最適化されたTfRアプタマーの血清安定性を確認した図である。
図16】抗体に結合して化学的に最適化されたTfRアプタマーのヒト細胞株内在化を確認した図である。
図17】各pH条件におけるTfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力を確認した図である。
図18】本発明のTfRアプタマー(TfR-01-01-41,配列番号1)の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本明細書で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本明細書で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0013】
前記課題を解決するために、本発明の一態様は、トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)タンパク質特異的アプタマーを提供する。
【0014】
本発明のアプタマーは、次の一般式1の塩基配列を含むものであってもよい。
[一般式1]
AGTGTCGGTGATTTGCCTCGTCGCT(配列番号52)
【0015】
本発明における「トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)」とは、細胞内の鉄濃度に応じて細胞内に鉄を輸送するタンパク質を意味する。前記トランスフェリン受容体は、受容体を介した内在化(receptor-mediated endocytosis)によりトランスフェリン-鉄複合体を内在化して鉄を細胞内に輸送することが知られており、前記受容体を介した内在化により血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)を通過することができる。
【0016】
本発明における「アプタマー」とは、「Chemical Antibody」であり、特定化合物からタンパク質に至る各種標的リガンドに高い特異性及び親和性で結合するという特性を有する短い(20~80塩基)一本鎖核酸分子を意味する。アプタマーは、SELEX(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment)により、生体外(in vitro)で開発することができる。
【0017】
アプタマーは、標的タンパク質に対してナノモル(nM)~フェムトモル(fM)レベルの高い結合力と選択性を有するという点で抗体に類似した特性を有するオリゴ核酸分子であると考えられる。一方、抗体と比較すると、アプタマーは次のような様々な利点を有する。(1)化学合成法で作製されるアプタマーは、抗体などのタンパク質ベースの物質より、目的とする化学的修飾が容易であり、(2)SELEX過程により選択性及び親和性を最大化することができ、(3)化学的合成で作製されるので、純度が高く、(4)機器分析により作製された物質を同定することができ、(5)熱に安定しているので、室温で長期間保存することができる。
【0018】
本発明における「SELEX(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment)」とは、標的物質に結合するアプタマーを選択する方法である。一般に、公知の方法においては、ランダムな塩基配列を有するオリゴヌクレオチドライブラリー(DNA又はRNA)と共に標的タンパク質を一定温度で反応させ、その後標的に結合していないDNA/RNAライブラリーを除去する。標的に結合したヌクレオチドを分離して遺伝子増幅法により増幅し、前記過程を複数回繰り返すことにより、標的に対して高い結合力を有するアプタマーを選択する。
【0019】
本発明のアプタマーは、前述したような一般的なSELEX法により製造したものであってもよい。
【0020】
アプタマー選択過程には、一般に1014~1015個程度の異なる配列、すなわち多様性を有するライブラリーから一本鎖核酸プール(pool)を確保する過程が必要である。そのための方法として様々な方法が用いられているが、一般に非対称PCRを用いて一方の鎖のみ増幅する方法、二本鎖核酸の一方の鎖の端部にビオチン(biotin)を付け、その後ストレプトアビジン(streptavidin)で被覆したビーズ(bead)を用いて一方の鎖のみ選択的に分離する方法が最も多く用いられている。
【0021】
その後、確保したライブラリーを標的分子に結合させ、結合力の高いアプタマーを選択する選択過程を行う。標的分子がタンパク質の場合は、通常はストレプトアビジンビーズを用いてタンパク質に標識されたビオチンをプルダウン(Pull down)する。標的タンパク質と修飾核酸ライブラリーの結合を誘導し、その後バッファーで洗浄して標的タンパク質に結合していない修飾核酸ライブラリーを除去する。
【0022】
プレート(Plate)の場合も、同様に核酸ライブラリーと標的タンパク質の結合を誘導し、その後バッファーで洗浄して標的タンパク質に結合していない核酸を除去する。前記方法により、リガンドに対して親和性を有するアプタマーが得られる。通常、5~15回の選択-増幅過程を繰り返せば、高い親和性を有するアプタマーが得られる。選択過程の終了後に、増幅した核酸をクローニングし、次いで個々のクローンにおいて配列分析によりその配列を確認し、アプタマーを合成して標的分子との親和性及び結合力を測定する。
【0023】
本発明における「標的分子」とは、本発明のアプタマーにより検出することのできる物質を意味する。具体的には、前記標的分子は、分離された試料中に存在するものであり、捕獲アプタマーが結合するタンパク質、ペプチド、炭水化物、多糖類、糖タンパク質、ホルモン、受容体、抗原、抗体、ウイルス、補因子(cofactor)、薬物、染料、成長因子及び規制物質(controlled substance)からなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。本発明の目的上、前記標的分子は、トランスフェリン受容体タンパク質であってもよい。
【0024】
本発明のアプタマーは、その5’末端及び3’末端から選択される少なくとも1つに1~30個のポリヌクレオチドをさらに含むものであってもよい。
【0025】
前記アプタマーは、その5’末端及び3’末端から選択される少なくとも1つに前述したポリヌクレオチドをさらに含み、30~150個のポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
【0026】
本発明のアプタマーは、配列番号1~4のポリヌクレオチド配列からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、又はそれと80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するポリヌクレオチド配列を含むものであってもよい。また、そのような相同性もしくは同一性を有して前記アプタマーに相当する効能を示す塩基配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドも本発明のアプタマーに含まれることは言うまでもない。
【0027】
本発明における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が関連する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0028】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0029】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献1のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献2)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献3)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献4)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献5、6及び7)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0030】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献8に開示されているように、非特許文献3などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献9に開示されているように、非特許文献10の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0031】
また、任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献11、12)で決定されてもよい。
【0032】
前記アプタマーは、そのポリヌクレオチド配列を形成する少なくとも1つのヌクレオチドに下記のものから選択される少なくとも1つの改変(modification)を含んでもよい。
【0033】
i)少なくとも1つのヌクレオチド中のT塩基の5位の炭素がベンジル基、ナフチル基、2-ナフチル基、ピロールベンジル基及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも1つに置換される。
【0034】
ii)少なくとも1つのヌクレオチド中の2位の炭素位置において、-OH基がデオキシ(deoxy)、メトキシ(methoxy)、アミノ(amino)及びフッ素(F)からなる群から選択される少なくとも1つに置換される。
【0035】
iii)少なくとも1つのヌクレオチドがメチルホスホネート、ホスホロチオエート、LNA(Locked Nucleic Acid)、PNA(Peptide Nucleic Acid)及びHNA(Hexitol Nucleic acid)からなる群から選択される少なくとも1つに置換される。
【0036】
例えば、前述したベンジル基への置換は、Bn-dU(5'-(N-benzylcarboxyamide)-2'-deoxyuridine)への置換であるが、これに限定されるものではなく、前記Bn-dUは化学式1で表されるものである。
【0037】
【化1】
【0038】
例えば、前述したナフチル基への置換は、NapdU(5-(N-1-naphthylmethylcarboxyamide)-2'-deoxyuridine)への置換であるが、これに限定されるものではない。
【0039】
例えば、前述した2-ナフチル基への置換は、2NapdU(5-(N-(2-naphthylmethyl)carboxyamide)-2'-deoxyuridine)への置換であるが、これに限定されるものではない。
【0040】
前記NapdUは化学式2で表されるものであり、前記2NapdUは化学式3で表されるものである。
【0041】
【化2】
【0042】
【化3】
【0043】
本発明において、前述した改変を含むアプタマーは、例えば配列番号5~49のポリヌクレオチド配列からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド配列、又はそれと相同性が90%以上であるポリヌクレオチド配列を含むものであるが、これらに限定されるものではなく、以下では、「化学的に最適化されたアプタマー」、「TfRコンビ(combi)アプタマー」などともいう。
【0044】
本発明のアプタマーは、配列中のT塩基の5位の炭素が特定の官能基に置換され、かつ/又はA、U、G及びCから選択されるいずれかの塩基の2位の炭素がメトキシ基に置換されて改変されることにより、改変されていない場合と比較して、トランスフェリン受容体タンパク質に対する結合力が著しく高くなる。
【0045】
また、本発明のアプタマーは、種間の交差反応を示す。
【0046】
本発明の一実施例において、本発明のTfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力を調べたところ、ヒト及びマウストランスフェリン受容体タンパク質の両方に対して結合力が優れることが確認された(図1)。
【0047】
本発明の他の実施例において、化学的に最適化されていないTfRアプタマー(配列番号1)に比べて、化学的に最適化されたTfRアプタマー(配列番号46~49)は、トランスフェリン受容体タンパク質結合力が向上することが確認された(図13)。
【0048】
また、本発明のさらに他の実施例において、TfRアプタマーは、ヒト及びマウス細胞株の両方に結合し(図3及び4)、ヒト及びマウス細胞株で受容体を介した内在化を示すことが確認された(図4)。
【0049】
本発明のアプタマーは、細胞内在化(receptor-mediated endocytosis)に優れるものであってもよい。
【0050】
本発明の一実施例において、TfRアプタマーの細胞内在化を調べたところ、ヒト及びマウス細胞の両方で内在化を示すことが確認された(図2~4)。
【0051】
本発明の他の実施例において、タンパク質又は抗体に結合したTfRアプタマーの細胞内在化を調べたところ、GFPに結合したTfRアプタマーは、ヒト及びマウス細胞株の両方で内在化を示し(図5)、セツキシマブ(Cetuximab)又はリツキシマブ(Rituximab)に結合したTfRアプタマーは、ヒト、サル及びマウス細胞株の全てで内在化を示すことが確認された(図6)。
【0052】
また、本発明のさらに他の実施例において、化学的に最適化されていないTfRアプタマーと化学的に最適化されたTfRアプタマーは、ヒト、マウス及びサル細胞株での内在化に差がないことが確認された(図14)。
【0053】
本発明のアプタマーは、血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)に浸透するものであってもよい。
【0054】
また、本発明のアプタマーは、BBBに浸透して抗体、タンパク質、薬物などの治療剤を送達するものであってもよい。
【0055】
本発明の一実施例において、in vitro脳微小血管構造を作製し、TfRアプタマーが前記構造を通過するか否かを調べたところ、TfRアプタマーは、in vitro脳微小血管構造を通過することが確認された(図8)。
【0056】
本発明の他の実施例において、TfRアプタマー及び抗体に結合したTfRアプタマーにより脳に送達された抗体の分布を調べるために、in vivoで脳分布定量実験を行ったところ、脳領域で注入量(injected dose, ID)に対して0.42%のTfRアプタマー(図9)、0.61~0.67%(注入2時間後)及び0.83~1.01%(注入24時間後)のセツキシマブ結合アプタマー(図10)が確認され、抗体に結合したTfRアプタマーのほとんどが脳実質に存在し、TfRアプタマーが抗体と結合するとBBB浸透が大きく改善されることが確認された。また、リツキシマブに結合したTfRアプタマーにおいても、アプタマーが抗体を脳全体、特に脳実質に送達することが確認され(図11)、抗体に結合したTfRアプタマーによる循環網状赤血球の減少はないことが確認された(図12)。
【0057】
さらに、本発明のさらに他の実施例において、リツキシマブに結合したTfR combi 1アプタマーは、ヒト細胞の細胞膜を介して抗体を効率的に輸送することが確認された(図16)。
【0058】
よって、本発明のTfRアプタマーは、in vitroだけでなく、in vivoにおいても、BBBに浸透して脳実質に抗体、タンパク質、薬物などの治療剤を送達できることが分かる。
【0059】
本発明のアプタマーは、血清安定性が向上するものであってもよい。
【0060】
本発明の一実施例において、化学的に最適化されていないTfRアプタマーに比べて、化学的に最適化されたTfRアプタマーは、血清中の半減期が延長されて血清安定性が向上することが確認された(図15)。
【0061】
前記アプタマーは、そのポリヌクレオチド配列、その5’末端及び3’末端から選択される少なくとも1つに、PEG(ポリエチレングリコール)、HEG(ヘキサエチレングリコール)、idT(inverted deoxythymidin, 反転デオキシチミジン)、ビオチン、蛍光物質、アミンリンカー、チオールリンカー、コレステロール及び脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つが接合したものであるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明の他の態様は、本発明のアプタマーを有効成分として含む、神経系疾患の予防又は治療用薬学組成物を提供する。
【0063】
本発明における「神経系疾患(nervous system diseases)」とは、神経系、すなわち脳、脊髄、神経などに問題が生じて発生する疾患を意味し、一部の精神病もこれに含まれる。本発明の目的上、前記神経系疾患は、中枢神経系疾患であってもよい。
【0064】
本発明における「中枢神経系疾患(central nervous system diseases, CNS diseases)」とは、脳及び脊髄に生じる疾患を意味する。
【0065】
前記中枢神経系疾患は、例えば脳癌、脳感染、認知症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、多発性硬化症、てんかん、中風、脳卒中、虚血性脳疾患、記憶力減退、外傷性中枢神経系疾患、脊髄損傷疾患、行動障害、発達障害、精神遅滞、ハンター病、 筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、ダウン症候群、統合失調症などであるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
本発明のアプタマーは、タンパク質、抗体、核酸及び低分子化合物からなる群から選択される少なくとも1つがさらに結合したものであってもよい。
【0067】
前記タンパク質、抗体、核酸及び低分子化合物は、例えば抗癌剤、抗ウイルス剤、抗生剤などであるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本発明における「抗癌剤」には、肺癌(例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性中皮腫)、中皮腫、膵臓癌(例えば、膵管癌、膵内分泌腫瘍)、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、胃癌(例えば、乳頭腺癌、粘液性腺癌、腺扁平上皮癌)、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌(例えば、結腸癌、直腸癌、肛門癌、家族性大腸癌、遺伝性非ポリポーシス大腸癌、消化管間質腫瘍)、乳癌(例えば、浸潤性乳管癌,非浸潤性乳管癌,炎症性乳癌)、卵巣癌(例えば、上皮性卵巣癌、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍)、精巣腫瘍、前立腺癌(例えば、ホルモン依存性前立腺癌、ホルモン非依存性前立腺癌)、甲状腺癌(例えば、甲状腺髄様癌)、腎臓癌(例えば、腎細胞癌、腎盂尿管移行上皮癌)、子宮癌(例えば、子宮頸癌、子宮体癌、子宮肉腫)、脳癌又は脳腫瘍(例えば、髄芽腫、神経膠腫、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫、下垂体腺腫)、網膜芽細胞腫、皮膚癌(例えば、基底細胞癌、悪性黒色腫)、肉腫(例えば、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、軟部肉腫)、悪性骨腫瘍、膀胱癌、血液癌(例えば、多発性骨髄腫、白血病、悪性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、慢性骨髄増殖性疾患)、原発不明癌など、末梢神経障害を副作用として引き起こす癌の予防剤及び治療剤が含まれる。前記抗癌剤の例としては、セツキシマブ(Cetuximab)(アービタックス)、リツキシマブ(Rituximab)(リツキサン)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)(テセントリク)、レナリドミド(lenalidomide)(レブラミド)、トレオスルファン(Treosulfan)(トレオスルファン注)、メシル酸イマチニブ(Imatinib mesylate)(グリベック)、デキサメタゾン(Dexamethasone)(デキサメタゾン注)、ゲムシタビン(Gemcitabine)(ゲムシタビン注)、カルボプラチン(Carboplatin)(パラプラチン)、シスプラチン(Cisplatin)(プラチノール,プラチノール-AQ)、クリゾチニブ(Crizotinib)(ザーコリ)、シクロホスファミド(Cyclophosphamide)(シトキサン,ネオサール)、ドセタキセル(Docetaxel)(タキソテール)、ドキソルビシン(Doxorubicin)(アドリアマイシン)、エルロチニブ(Erlotinib)(タルセバ)、エトポシド(Etoposide)(ベプシド)、フルオロウラシル(5-fluorouracil, 5-FU)、イリノテカン(irinotecan)(カンプトサール)、リポソーマルドキソルビシン(ドキシル)、メトトレキサート(Methotrexate)(フォレックス,メキセート,アメトプテリン)、パクリタキセル(Paclitaxel)(タキソール,アブラキサン)、ソラフェニブ(Sorafenib)(ネクサバール)、スニチニブ(Sunitinib)(スーテント)、トポテカン(Topotecan)(ハイカムチン)、トラベクテジン(Trabectedin)(ヨンデリス)、ビンクリスチン(Vincristine)(オンコビン,ビンカサールPFS)、ビンブラスチン(Vinbrastine)(ベルバン)などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、公知の抗癌剤であればいかなるものを用いてもよい。具体的には、前記抗癌剤は、レナリドミド、トレオスルファン、メシル酸イマチニブ及びデキサメタゾンからなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
本発明の薬学組成物は、神経系疾患の「予防」(prevention)及び/又は「治療」(treatment)の用途を有する。予防的用途において、本発明の薬学組成物は、本発明に記載された疾患、障害又は状態を有するか、発症するリスクのある個体に投与するもの、すなわち神経系疾患を発症するリスクのある個体に投与するものである。治療的用途において、本発明の薬学組成物は、本発明に記載された障害を既に発症している患者などの個体に、本発明に記載された疾病、障害又は状態の症状を治療するか、少なくとも部分的に停止させるために、十分な量で投与するものである。このような使用に効果的な量は、疾患、障害又は状態の深刻度及び経過、以前の治療、個体の健康状態や薬物に対する感受性、並びに医師又は獣医師の判断により決定される。
【0070】
本発明の薬学組成物は、薬学組成物の製造に通常用いられる適切な担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含んでもよい。ここで、前記組成物に含まれる有効成分の含有量は、特にこれらに限定されるものではないが、組成物の総重量に対して0.0001重量%~10重量%、具体的には0.001重量%~1重量%であってもよい。
【0071】
前記薬学組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、凍結乾燥製剤及び坐剤からなる群から選択されるいずれかの剤形を有し、経口又は非経口の様々な剤形である。製剤化する場合は、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調製される。経口用固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが挙げられ、これらの固形製剤は、少なくとも1つの化合物に少なくとも1つの賦形剤、例えばデンプン、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)又はラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調製される。また、通常の賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤も用いられる。経口用液体製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが挙げられ、通常用いられる通常の希釈剤である水、流動パラフィン以外にも種々の賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが用いられる。非経口用製剤としては、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が挙げられる。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物性油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0072】
本発明の組成物は、個体に薬学的に有効な量で投与してもよい。
【0073】
本発明における「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用できる合理的な利益/リスク比で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、個体の種類及び重症度、年齢、性別、疾病の種類、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路及び排出率、治療期間、同時に用いられる薬物が含まれる要素、並びにその他医学分野で公知の要素により決定される。本発明の組成物は、単独で又は他の治療剤と併用して投与してもよく、従来の治療剤と順次又は同時に投与してもよい。また、単一又は多重投与してもよい。前記要素を全て考慮して副作用なく最小限の量で最大限の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者により容易に決定される。本発明の組成物の好ましい投与量は、患者の状態及び体重、疾患の程度、薬物の形態、投与経路及び期間によって異なる。投与は、1日1回投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。前記組成物は、神経系疾患の予防又は治療を目的とする個体であれば、特に限定されるものではなく、いかなる個体にも適用することができる。投与方法は、当該技術分野の通常の方法であればいかなるものでもよい。例えば、経口、直腸、又は静脈、筋肉、皮下、子宮内、硬膜又は脳血管内注射により投与してもよい。
【0074】
本発明の薬学組成物は、神経系疾患が発症して進行した個体や、発症する可能性の高い個体に投与すると、神経系疾患の発生を防止したり、発生の程度を緩和することができる。
【0075】
本発明の薬学組成物において、有効成分であるアプタマー、又はタンパク質、抗体、核酸及び低分子化合物からなる群から選択される少なくとも1つが結合したアプタマーは、薬学組成物中に0.0001~10重量%、具体的には0.001~1重量%含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
本発明のさらに他の態様は、本発明のアプタマーを含む薬物担体を提供する。
【0077】
ここで用いられる用語については、前述した通りである。
【0078】
前記薬物担体は、タンパク質、抗体、核酸及び低分子化合物からなる群から選択される少なくとも1つをさらに含むものであるが、これに限定されるものではない。
【0079】
前記タンパク質、抗体、核酸及び低分子化合物としては、例えば抗癌剤、抗ウイルス剤、抗生剤などが挙げられ、それらについては前述した通りである。
【0080】
本発明のさらに他の態様は、薬学組成物又は薬物担体を個体に投与するステップを含む、神経系疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0081】
ここで用いられる用語については、前述した通りである。
【0082】
本発明における「個体」とは、神経系疾患が発症したか、発症するリスクのあるあらゆる動物を意味し、本発明の薬学組成物又は薬物担体を神経系疾患の疑いのある個体に投与することにより、個体を効率的に治療することができる。
【0083】
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で神経系疾患の疑いのある個体に本発明の薬学組成物又は薬物担体を導入することを意味し、投与経路は標的組織に送達できるものであれば経口又は非経口の様々な経路で投与することができる。
【0084】
本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与してもよい。前記薬学的に有効な量については、前述した通りである。
【0085】
本発明の薬学組成物又は薬物担体は、神経系疾患の予防又は治療を目的とする個体であれば、特に限定されるものではなく、いかなる個体にも適用することができる。例えば、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギなどの非ヒト動物、鳥類、魚類などいかなる個体にも適用することができる。前記薬学組成物又は薬物担体は、非経口、皮下、腹腔内、肺内及び鼻腔内投与してもよく、局部的治療のために、必要に応じて病変内投与をはじめとする好ましい方法により投与してもよい。本発明の前記薬学組成物又は薬物担体の好ましい投与量は、個体の状態及び体重、疾患の程度、薬物の形態、投与経路及び期間によって異なるが、当業者により適宜選択される。例えば、経口、直腸、又は静脈、筋肉、皮下、子宮内、硬膜もしくは脳血管内注射により投与するが、これらに限定されるものではない。
【0086】
本発明の薬学組成物又は薬物担体の好適な総1日使用量は正しい医学的判断の範囲内で担当医により決定され、一般に0.001~1000mg/kg、具体的には0.05~200mg/kg、より具体的には0.1~100mg/kgの量を1日1回又は数回に分けて投与する。
【実施例
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0088】
実施例1
トランスフェリン受容体(Transferrin receptor, TfR)アプタマーの作製及びそのトランスフェリン受容体タンパク質結合力及び細胞結合力(cell binding)の確認
1-1.TfRアプタマーの作製
TfRアプタマーは、アプタマーを開発する一般的プロセスであるSELEX(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment)によりヒトトランスフェリン受容体タンパク質に結合するアプタマーを開発し、選択された配列に対する化学的な合成により配列番号1~4のように作製した(表1)。作製したアプタマーの長さはそれぞれ41mer、34mer、32mer、26merであり、各アプタマーの大きさは<15kDaである。
【0089】
【表1】
【0090】
前記Bは、Bn-dU(5'-(N-benzylcarboxyamide)-2'-deoxyuridine)に置換された塩基を意味する。
【0091】
実施例2
TfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力及び細胞結合力(cell binding)の確認
2-1.TfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力
作製したTfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力を確認するために、各アプタマーを1×SB18バッファー(40mM HEPES(Hydroxyethyl piperazine Ethane Sulfonic acid),105mM NaCl,5mM MgCl2,5mM KCl,0.05%[v/v]tween-20)に入れ、95℃、70℃、48℃、37℃でそれぞれ5分間反応させた。1×SB18バッファーを用いて、ヒト又はマウストランスフェリン受容体タンパク質を100nMから4.64倍ずつ7ポイントで順次希釈し、その後アプタマー(配列番号1~4)を30ulずつ添加し、37℃で30分間反応させた。Dynabead TALON 5.5ulをアプタマーとタンパク質の結合体に添加し、常温で5分間反応させた。予め1×SB18バッファー30ulで濡らしておいたDuraporeフィルタープレートにアプタマーとタンパク質の結合体を入れて真空をかけ、その後1×SB18バッファー100ulを入れて再び真空をかけ、洗浄した。その後、2mM NaOH溶液を入れて常温で5分間反応させ、次いで溶離(elution)して8mM HCl溶液で中和し、アプタマーとタンパク質の結合体をqPCRにより増幅した。qPCRは、0.2uM forward primer(配列番号50)及びreverse primer(配列番号51)、0.2uM dNTP(dATP,dGTP,dCTP,dTTP)、5mM MgCl2、0.025U/ul KOD XL DNAポリメラーゼとDNAタンパク質の結合体を全体積が20ulになるように混合し、次いで96℃で15秒間、55℃で10秒間、70℃で30分間の条件で1回、そして96℃で15秒間、55℃で10秒間、70℃で1分間の条件で40回繰り返して増幅するものとした。Ct値を標準として正規化し、その後SigmaPlotでKdを計算した。
【0092】
その結果、図1のように、配列の長さが短いアプタマーがヒト及びマウストランスフェリン受容体タンパク質に対する結合力に優れることが確認された。
【0093】
2-2.TfRアプタマーの細胞結合力
作製したアプタマーの細胞結合力を確認するために、カバーガラスを火で消毒し、その後6ウェルの底面に置き、ヒトHepG2細胞又はマウスbEND.3細胞を1×106/wellでシーディング(seeding)して培養した。細胞が底面に70%程度充填されたら培地を除去し、細胞を1×PBSで洗浄した。細胞をKRPHバッファー2mlで処理した。95℃で5分間加熱し、次いで室温で15分間冷却したアプタマー(配列番号1~4)25nMで細胞を処理し、37℃、5%CO2の条件で培養した。4時間後に、1×PBSを入れて常温で5分経過後に1×PBSを除去する過程を3回繰り返した。4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)2mlで4℃にて15分間処理して固定した。4%パラホルムアルデヒドを除去し、その後1×PBSを入れて常温で5分間放置し、次いで1×PBSを除去する過程を3回繰り返し、マウンティング溶液(mounting solution)で染色してシール(sealing)した。これを光を遮断した箱に入れて冷蔵保管し、翌日共焦点(confocal)装置(LSM800)で測定した。
【0094】
その結果、図2のように、配列の長さが短いアプタマーがヒト及びマウス細胞内在化を示すことが確認された。
【0095】
実施例3
TfRアプタマーのin vitro細胞結合力及び内在化(receptor-mediated endocytosis)の確認
3-1.TfRアプタマーの細胞結合力及び内在化
TfRアプタマーの細胞結合力を確認するために、ヒトHepG2細胞又はマウス3T3-L1細胞2×106/mlを100mm2ディッシュに入れ、37℃、5%CO2の条件で24時間培養した。培養した細胞を1×PBS(Phosphate-buffered saline)で洗浄した。1×PBSを除去し、その後成長培地を入れ、細胞をスクレーパー(Scraper)で掻き取ってFACsチューブに入れ、次いで2000rpm、4℃で3分間遠心分離して上清を除去した。TfRアプタマー(TfR-01-01-41,配列番号1)の5’末端にCy5を標識したアプタマー(Cy5-TfRアプタマー)を95℃で5分間加熱し、次いで室温で15分間冷却し、その後KRPHバッファー(20mM HEPES,5mM KH2PO4,1mM MgSO4,1mM CaCl2,136mM NaCl,4.7mM KCl,pH7.4)を用いて所望の濃度に希釈し、4℃の光遮断条件で細胞を処理した。30分後に、1×PBSを2mlずつ入れてピペッティング(pipetting)し、次いで遠心分離して上清を除去する過程を3回繰り返した。上清を除去し、その後1×PBSを入れて新たなstrainer cap FACsチューブに移し、次いでフローサイトメトリー(Flow cytometry)装置(BD FACS Calibur)で測定した。
【0096】
次に、実施例2-2と同様に、ヒトHepG2細胞、マウスbEND.3細胞を用いて、細胞内在化を確認した。
【0097】
その結果、TfRアプタマーは、ヒト及びマウス細胞株の両方に結合し(図3及び図4)、ヒト及びマウス細胞株で受容体を介した内在化を示すことが確認された(図4)。
【0098】
3-2.タンパク質又は抗体に結合したTfRアプタマーの内在化
ヒトHepG2細胞、マウスbEND.3細胞又はサルCos7細胞を実施例3-1と同様に培養し、1×PBSで洗浄した。細胞を培養している間に、GFP(green fluorescence protein)に結合したTfRアプタマー、表皮成長因子受容体に対する単クローン抗体である抑制剤セツキシマブ(Cetuximab)に結合したTfRアプタマー、及びB細胞表面抗原CD20に対する単クローン抗体であるリツキシマブ(Rituximab)に結合したTfRアプタマーを1×SB18バッファー(40mM HEPES,105mM NaCl,5mM KCl,5mM MgCl2,0.05%[v/v]Tween-20,0.1mg mL-1 bovine serum albumin,pH8.0)で所望のストック濃度に希釈し、その後常温で1時間放置した。前述したタンパク質又は抗体に結合したTfRアプタマー(TfR-01-01-41,配列番号1)をKRPHバッファーに50nMになるように混合し、その後2mlずつ細胞を処理し、37℃、5%CO2の条件で4時間培養した。4時間後に、KRPHバッファーを除去し、その後1×PBS 2mlを入れて常温で5分間放置し、次いで1×PBSを除去する過程を3回繰り返した。その後、4%パラホルムアルデヒド2mlで4℃にて15分間処理して固定した。4%パラホルムアルデヒドを除去し、その後1×PBS 2mlを入れて常温で5分放置し、次いで1×PBSを除去する過程を3回繰り返した。透過化バッファー(Permeabilization buffer)(1×PB中に0.2%Triton X-100)を入れて常温で15分間放置し、透過化バッファーを除去し、その後1×PBS 2mlを入れて常温で5分間放置し、次いで1×PBSを除去する過程を3回繰り返した。
【0099】
その後、ブロッキング(Blocking)溶液(3%BSA(bovine serum albumin)+1×PBS)を入れて37℃、5%CO2の条件で20分間インキュベートし、次いで1×PBS 2mlを入れて常温で5分間放置し、1×PBSを除去した。ヒト2次抗体-FITC(Fluorescein isothiocyanate)(52230-0425)5μg/mlを含むブロッキング溶液を6ウェルプレートに2mlずつ入れ、37℃、5%CO2の条件で1時間30分間インキュベートした。2次抗体を除去し、その後1×PBSを2mlずつ入れて常温で5分間放置し、次いで1×PBSを除去する過程を3回繰り返して洗浄した。これをマウンティング溶液で染色し、その後シールし、光を遮断した箱に入れて冷蔵保管し、翌日共焦点(confocal)装置(LSM800)で測定した。
【0100】
その結果、図5のように、GFPに結合したTfRアプタマーがヒト及びマウス細胞株の両方で内在化を示し、図6のように、セツキシマブ又はリツキシマブに結合したTfRアプタマーがヒト、サル及びマウス細胞株の全てで内在化を示すことが確認された。
【0101】
実施例4
TfRアプタマーのin vitro血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)浸透効果の確認
TfRアプタマーのBBB浸透効果を脳微小血管構造(Brain microvasculature model, 非特許文献13)(図7)によりin vitroで確認した。
【0102】
具体的には、脳微小血管構造を作製するために、3Dプリントしたフレームの正方形開口部の内部表面と正方形カバーガラスを1%[v/v]ポリエチレンイミン(polyethyleneimine, PEI)で30分間、0.1%[v/v]グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)で30分間順次処理した。その後、グルタルアルデヒドでコーティングした表面を蒸留水で2回十分に洗浄した。微細針を3Dプリントフレームの円筒形マイクロホールに挿入して3Dプリントフレームを組み立て、その後予め混合しておいたコラーゲン溶液をマイクロニードルとグルタルアルデヒドコーティングしたカバーガラスを配置した箇所である四角形開口部が充填されるまで徐々に注入した。次に、上部を徐々に覆ってゲルを押し込んだ。ゲルの漏れを防止するために、3つの層を滅菌したステンレススチールネジで固定した。組み立てた装置内のコラーゲンは、ゲル化のために、CO2インキュベータに37℃で30分間放置した。ゲル化した後に微細針を除去し、ゲル化したコラーゲン内で中空管状の微小血管を生成した。bEnd.3細胞の接着を促進するために、コラーゲンマイクロチャネルの内部表面を20ug/mlのフィブロネクチン(fibronectin)で30分間コーティングした。bEnd.3細胞をフィブロネクチンでコーティングしたコラーゲンマイクロチャネルにローディングし、装置をインキュベータに10分間放置した。初期細胞接着領域を増加させるために、装置を迅速に反転してさらに10分間培養し、細胞を培養している間に、3Dプリントしたフレームの2つのアダプターに別途に作製した一対の拡張された貯蔵所を連結した。約1.5mlの培地を各貯蔵所に充填し、最大21日の培養期間を通して毎日交換した。
【0103】
脳微小血管構造内の微小血管による内皮透過性を測定するために、Cy5-TfRアプタマー(TfR-01-01-41,配列番号1)を用いた。コラーゲンマイクロチャネルにCy5-TfRアプタマー溶液を充填した直後に、一時的な界面拡散のために、Flowを中止した。初期の5分間は、Zeiss LSM700レーザスキャン共焦点顕微鏡を用いて、分子輸送の蛍光イメージを捕捉した。その後、イメージを色マッピングし、マイクロチャネル全体の平均蛍光強度値をカスタマイズ型MATLAB(MathWorks)コードで分析した。
【0104】
その結果、図8のように、TfRアプタマーは、in vitro脳微小血管構造を通過することが確認された。
【0105】
実施例5
TfRアプタマー及び抗体に結合したTfRアプタマーの脳への抗体送達の確認
TfRアプタマー及び抗体に結合したTfRアプタマーにより脳に送達された抗体の分布を確認するために、in vivoで脳分布定量実験を行った。
【0106】
具体的には、Balb/cマウスにTfRアプタマー(TfR-01-01-41,配列番号1)、セツキシマブ又はリツキシマブに結合したTfRアプタマー(TfR-01-01-41,配列番号1)をそれぞれ尾静脈に注入し、2時間又は24時間後に屠殺し、血漿及び脳を得た。生理食塩水(physiological Buffer)を脳組織に対して3:1v/wの割合で入れ、氷上で均質化(homogenize)した。均質化した組織の一部を分取(aliquot)して残し、それ以外の組織に同量の26%[v/v]デキストラン(dextran)溶液を添加し(最終デキストラン濃度13%)、再度氷上で均質化した。2つのマイクロチューブ(1.5mL)に均質化した組織を分注し、同量の26%[v/v]デキストラン溶液を添加した。これを5,400g、4℃の条件で15分間遠心分離し、上清(脳実質)とペレット(脳毛細血管)を分離した。均質化した組織、脳毛細血管、脳実質を1×PBSで洗浄し、14,000rpm、4℃の条件で10分間の遠心分離を3回繰り返した。各サンプルのペレット重量を測定し、次いで1×RIPAバッファーを各重量に対して2.5:1v/wの割合で入れて溶解した。4℃で約1時間インキュベートし、その後14,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、上清のみ採取して新たなチューブに移した。その後、組織溶解物のタンパク質濃度を測定した。
【0107】
その結果、脳領域で注入量(injected dose, ID)に対して0.42%のTfRアプタマー(図9)、0.61~0.67%(注入2時間後)及び0.83~1.01%(注入24時間後)のセツキシマブ結合アプタマー(図10)が確認され、抗体に結合したTfRアプタマーのほとんどが実質に存在し、TfRアプタマーが抗体と結合するとBBB浸透が大きく改善されることが確認された。また、リツキシマブに結合したTfRアプタマーにおいても、アプタマーが抗体を脳全体、特に脳実質に送達することが確認された(図11)。
【0108】
実施例6
抗体に結合したTfRアプタマーのin vivo BBB浸透の効果及び循環網状赤血球(circulating reticulocytes)に対する影響の確認
抗体に結合したTfRアプタマーのin vivo BBB浸透の効果及び循環網状赤血球に対する影響を確認した。
【0109】
具体的には、Balb/cマウスにセツキシマブ、リツキシマブ、又はセツキシマブもしくはリツキシマブに結合したTfRアプタマー(TfR-01-01-41,配列番号1)を8mpk(mg/kg)、40mpkで尾静脈に注入した。全血を採血し、その後EDTAチューブに入れて氷上に放置した。BD-Retic-CountTM(Ca.349204)試薬1mlと全血5μlを混合し、その後光を遮断した状態で常温にて30分間インキュベートした。Strainer cap FACsチューブに移し、その後血液中の循環網状赤血球数をフローサイトメトリー装置で分析した。
【0110】
その結果、図12のように、マウスにおいて、抗体に結合したTfRアプタマーによる循環網状赤血球の減少はないことが確認された。
【0111】
実施例7
TfRアプタマーの化学的最適化
実施例1で作製したアプタマー(配列番号1)を化学的に最適化するために、各アプタマー配列中の塩基をメトキシ(methoxy)に改変した。それを表2~5に示す。表2~5において、前記Bは、Bn-dU(5'-(N-benzylcarboxyamide)-2'-deoxyuridine)に置換された塩基を意味し、前記NMe(ここで、Nは、A、U、G及びCから選択されるいずれか)は、ヌクレオチド中の2位の炭素位置において、-OH基がメトキシ(methoxy)に置換された塩基を意味する。
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
その後、改変したTfRアプタマーのマウストランスフェリン受容体タンパク質に対する結合力を実施例2-1と同様にそれぞれ測定した。その結果を表6~9に示す。
【0117】
【表6】
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
【表9】
【0121】
表6~9のマウストランスフェリン受容体タンパク質に対する結合力の結果から、Kdが減少に影響を与える部位を表10及び表11に示し、当該部分を除いた残りの部分において化学的に最適化されたTfRコンビアプタマー配列4種を表12に示す。表12の各配列は、5’末端にCy5標識されており、3’末端にidT結合されている。
【0122】
【表10】
【0123】
【表11】
【0124】
【表12】
【0125】
実施例8
化学的に最適化されたTfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力及び内在化の確認
8-1.化学的に最適化されたTfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力
実施例7で作製した、化学的に最適化されたTfRコンビアプタマー配列4種(表12)のトランスフェリン受容体タンパク質結合力を実施例2-1と同様に確認した。
【0126】
その結果、図13のように、対照群である化学的に最適化されていないTfRアプタマー(TfR-01-01-41)に比べて、化学的に最適化されたTfRアプタマーは、トランスフェリン受容体タンパク質結合力が向上することが確認された。
【0127】
8-2.化学的に最適化されたTfRアプタマーの内在化
ヒトHepG2細胞、マウスbEND.3細胞又はサルCos7細胞を対象に、実施例7で作製した、化学的に最適化されたTfRコンビアプタマー配列4種(表12)の内在化を実施例2-2と同様に確認した。
【0128】
その結果、図14のように、化学的に最適化されていないTfRアプタマー(TfR-01-01-41)と化学的に最適化されたTfRアプタマーは、ヒト、マウス及びサル細胞株での内在化に差がないことが確認された。
【0129】
実施例9
化学的に最適化されたTfRアプタマーの血清安定性の確認
実施例7で作製した、化学的に最適化されたTfRコンビアプタマーの血清安定性を確認した。
【0130】
具体的には、100%血清45ulを10uMの濃度のTfR 41mer_combi 1(配列番号46)アプタマー10ulで処理し、37℃で0、4、24、48、72時間培養した。培養終了後に、10uMの濃度の化学的に最適化されていない対照群としてTfRアプタマー(TfR-01-01-41)5ulで処理し、次いで165ulの蒸留水で希釈した。サンプルに同じ体積のフェノール(phenol):クロロホルム(chloroform):イソアミルアルコール(isoamyl alcohol)25:24:1[v/v]を追加し、ボルテックスミキサーで20秒間混合した。混合物を室温にて16,000×gで10分間遠心分離し、上清を新たなチューブに移した。上清にサンプルバッファー5個を追加し、95℃で5分間加熱した。Urea PAGEにサンプルを追加し、220Vで25分間電気泳動し、その後SYBRゴールドでゲルを染色し、Gel DocTM EZシステム赤外線イメージングシステムでゲルイメージを分析した。
【0131】
その結果、図15のように、対照群である化学的に最適化されていないTfRアプタマーに比べて、化学的に最適化されたTfRアプタマーは、血清中の半減期が延長されて血清安定性が向上することが確認された。
【0132】
実施例10
抗体に結合した、化学的に最適化されたTfRアプタマーの内在化の確認
実施例7で作製した、化学的に最適化されたTfRコンビアプタマー(TfR 41mer_combi 1,配列番号46)にリツキシマブを結合させ、その後内在化を実施例2-2と同様に確認した。
【0133】
その結果、図16のように、化学的に最適化されたTfRアプタマーは、抗体(リツキシマブ)と結合すると、ヒト細胞の細胞膜を介して抗体を効率的に輸送することが確認された。
【0134】
実施例11
各pH条件におけるTfRアプタマーのトランスフェリン受容体タンパク質結合力
実施例7で作製したTfRコンビアプタマー(TfR 41mer_combi 1,配列番号46)のトランスフェリン受容体タンパク質結合力がpH条件により変化するか否かを確認するために、pH7.5、6.5、5.5の1×SB18バッファーを用いて、実施例2-1と同様に各pHにおけるTfRコンビアプタマー(TfR 41mer_combi 1,配列番号46)のトランスフェリン受容体タンパク質結合力を確認した。
【0135】
その結果、図17のように、TfRコンビアプタマーは、エンドソーム(endosome)pH、すなわちpH6.5~5.5の条件でトランスフェリン受容体タンパク質に対する結合力を失うことが確認された。
【0136】
前記実施例の結果から、本発明のTfRアプタマーは、トランスフェリン受容体タンパク質のみ選択的にターゲティングし、受容体を介した細胞内在化によりBBBを迅速に通過し、単純な化学的結合によりタンパク質、抗体、核酸、低分子化合物などの様々な治療剤を効率的に輸送及び送達することができ、種間のトランスフェリン受容体に交差反応を示し、化学的修飾が容易であるので、神経系疾患、特に脳及び中枢神経系疾患における薬物担体として適用することができる。
【0137】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13a
図13b
図14a
図14b
図14c
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2023532032000001.app
【国際調査報告】