(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(54)【発明の名称】エスプレッソコーヒーマシンのための水の電解組成を濾過及び調整するシステム並びに関連するエスプレッソコーヒーマシン
(51)【国際特許分類】
A47J 31/00 20060101AFI20230719BHJP
A47J 31/60 20060101ALI20230719BHJP
A47J 31/30 20060101ALI20230719BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20230719BHJP
A23F 5/42 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
A47J31/00 302
A47J31/60
A47J31/30 100
A23F5/24
A23F5/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580492
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 IB2021055944
(87)【国際公開番号】W WO2022003636
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】102020000016078
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512102391
【氏名又は名称】ラ マルゾッコ エス アール エル
【氏名又は名称原語表記】LA MARZOCCO S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221899
【氏名又は名称】高倉 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ ヴィットリオ ウーム
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル ジョルダーノ
(72)【発明者】
【氏名】フィリッポ フランチーニ
【テーマコード(参考)】
4B027
4B104
【Fターム(参考)】
4B027FB21
4B027FB24
4B027FC02
4B027FK01
4B027FQ08
4B027FQ19
4B027FQ20
4B104AA16
4B104BA14
4B104CA30
4B104EA30
(57)【要約】
エスプレッソコーヒーを調製及び吐出するマシンが本明細書で開示され、マシンは、エスプレッソコーヒーの調製に使用される水の電解組成を調節するシステムを備え、システムは、水脱塩装置と、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する装置と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスプレッソコーヒーを調製及び吐出するコーヒーマシン(10)であって、前記マシンは、
給水部(IN)と、
コーヒー粉末パック付きフィルタバスケットを有するポートフィルタ(13)と協働するように構成された吐出グループ(13)と、
エスプレッソコーヒーの調製に使用される水の電解組成を調節するシステム(50)と、を備え、加圧水を前記コーヒー粉末パックに供給してエスプレッソコーヒーを吐出するように構成され、
前記システムは、水脱塩装置(30)と、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する装置(37)と、を備える、コーヒーマシン(10)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する前記装置(37)は、脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液を提供する装置、又は前記脱塩水に前記少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を固体形態で提供する装置、又はこれらの組合せである、請求項1に記載のコーヒーマシン(10)。
【請求項3】
前記システム(50)は、水濾過装置(30)をさらに備える、請求項1又は2に記載のコーヒーマシン(10)。
【請求項4】
前記システム(50)は、分画器(35)をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のコーヒーマシン(10)。
【請求項5】
エスプレッソコーヒーを調製及び吐出するマシン(10)におけるエスプレッソコーヒーの調製中に、挽きコーヒーに存在する少なくとも1つの有機分子を制御抽出する方法であって、
a)水を脱塩するステップ(30)と、
b)脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加するステップ(37)と、
c)このようにして得られた前記水を使用してエスプレッソコーヒーを調製するステップと、を含む、方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩は、ステップb)において、脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液の形態、又は固体形態、又はこれらの組合せで添加される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
水を濾過するステップ(30)をさらに含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(b)における添加は、均質に混合して行われる、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(b)における添加は、コーヒーマシンが必要とする水流量に比例して行われる、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)の脱塩は、全体的又は部分的である、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)において添加される少なくとも1つの塩は、無機塩である、請求項5~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記無機塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウム塩を含む群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記無機塩は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、硫酸カルシウム及び硫酸マグネシウムを含む群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
エスプレッソマシン(10)のための水の電解組成を調節するシステム(50)であって、水を脱塩する装置(30)と、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する装置(37)と、を備える、システム(50)。
【請求項15】
前記少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する前記装置(37)は、脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液を提供する装置、又は前記脱塩水に前記少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を固体形態で提供する装置、又はこれらの組合せである、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
水濾過装置(30)をさらに備える、請求項14又は15に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、飲料調製用マシンの分野に関する。より詳細には、エスプレッソコーヒーマシンのための水の電解組成を濾過及び調整するシステムに関する。また、本発明は、このようなシステムを備えるエスプレッソコーヒーマシン及びコーヒーを制御抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水は、エスプレッソコーヒーにおいて量的に最も重要な成分であり、コーヒーそのものの次に飲料の味に最も影響を与える成分である。
【0003】
飲料を得るための異なる工程の種類を別にすれば、一次産物(コーヒー)以外に基本的なものとして残っているのは「抽出液」である。エスプレッソからフィルタコーヒー、モカからボイルまで、1杯のコーヒーの95~98%が水でできているのは偶然ではない。この不可欠な要素は、抽出された揮発性芳香族化合物とその風味に関して、飲料の最終結果を変更することができる様々な物質を含むことができる。実際、水は不活性で無色無味無臭の溶媒であるだけでなく、あらゆる点で最終的な品質の基礎となる「成分」であると考えることができる。
【0004】
出願人は現在、コーヒーマシンに送られる水の化学組成が、同じ国の様々な場所を考慮しても、さらには異なる国を考慮しても、非常に大きなばらつきがあることに注目している。
【0005】
公共水道から供給される水は、実際には可変量の塩を含んでおり、硬度、すなわちカルシウムイオンとマグネシウムイオンの含有量、pHなどのパラメータの可変値によって特徴付けられる。
【0006】
これらの違いは、コーヒーマシンの正しい動作と持続期間、及び得られる飲料の品質双方に多大な影響を及ぼし、世界の異なる地域に設置されたマシンの性能を制御し、標準化することが実質的に不可能になる。
【0007】
例えばエスプレッソコーヒーマシンの正しい動作と耐久性に関しては、カルシウムイオンとマグネシウムイオンを多く含む水を使用すると、適切に処理しなければ、例えば炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムのような不溶性塩が沈殿するために、短時間であっても非常に不愉快な堆積物が形成されることがある。
【0008】
この課題を解決するために、硬度の原因となるイオンをナトリウムイオンで置換するイオン交換樹脂で軟化させた水を使用し、石灰石(炭酸カルシウムと炭酸マグネシウム)の堆積を防止することが知られている。また、完全脱塩水を使用し、その後、制御されない方法で再塩化させることも知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
出願人は、いずれの戦略もコーヒー抽出に使用される水の化学組成、したがって化学的物理的特性を劇的に変化させることに注目している。その上、出願人は、得られる飲料の官能特性に望ましくない効果が生じる可能性があることにも注目している。さらに、脱塩水は、特に加熱された場合、コーヒーマシンの構成要素に対してアグレッシブになる可能性がある。
【0010】
「特定のイオン効果」又は「ホフマイスター効果」という用語は、塩を含有する水溶液に溶解した有機分子によって起こる一連の物理化学現象を示すために用いられている。これらの現象の中で最も研究されているのは、溶液の電解組成の変動に伴う水溶液中の有機分子の溶解度の変動である。
【0011】
したがって、出願人は、エスプレッソコーヒーマシンに使用される水の化学組成、特に電解組成が、挽きコーヒーに含まれる有機分子の溶解度を変化させ、したがってコーヒーの調製中にそれらの抽出に有利に働くか否かに注目した。
【0012】
実際、エスプレッソコーヒーの調製は、極性溶媒(水)による多孔質有機マトリックス(コーヒー粉砕)からの一連の物質抽出工程と考えることができ、したがって、二相間の分布と、このように二相に対する各物質の相対的親和性によって条件付けられる。
【0013】
しかし、有機分子の水溶性と塩の存在との関係は、タンパク質及び核酸のような巨大分子に関しては古くから研究されているが、有機小分子に関しては研究されていないようである。特に、出願人の知る限りでは、高温高圧条件下での有機小分子の水溶性に対するイオンの効果に関する先行技術の体系的な研究はなく、食品産業で関心のある有機マトリックスからの抽出工程でこの効果を使用する方法についても当該技術分野において報告されていない。
【0014】
エスプレッソコーヒーの特性を制御及び/又は標準化するために、出願人は、エスプレッソコーヒーの調製中に有用な、挽きコーヒーに存在する有機分子を制御抽出するシステム及び方法を開発することを目的とした。これにより、例えば所望の官能特性を有する飲料を得ることができる。
【0015】
有利には、このシステム及び方法はまた、エスプレッソコーヒーの調製に使用される水の、エスプレッソコーヒーマシンの構成要素に対する腐食又は摩耗を少なくすることができる。
【0016】
有利には、特定のイオン効果に基づく方法により、使用される水の電解組成を調節して、得られるコーヒー抽出物の化学組成、したがって官能特性を制御することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様によれば、本発明は、エスプレッソコーヒーを調製及び吐出するマシンにおけるエスプレッソコーヒーの調製中に、挽きコーヒーに存在する少なくとも1つの有機分子を制御抽出する方法に関し、当該方法は以下のステップを含む。
a)水を脱塩するステップ。
b)当該脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加するステップ。
c)このようにして得られた水を使用してエスプレッソコーヒーを調製するステップ。
【0018】
有利には、本発明による方法は、水を濾過するステップをさらに含む。
【0019】
一実施態様によれば、当該少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩は、ステップb)において、脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液の形態で添加される。
【0020】
一実施形態によれば、当該少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩は、ステップb)において、脱塩水に固体形態で添加される。
【0021】
一実施形態によれば、当該少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩は、ステップb)において、脱塩水に固体形態及び脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液の形態の両方で添加される。
【0022】
好ましくは、本発明による工程のステップb)における添加は、均質に混合して行われる。
【0023】
有利には、ステップb)における添加は、マシンが必要とする水流に比例して行われる。
【0024】
特に、本発明によるステップa)の脱塩は、全体的又は部分的とすることができる。好ましくは、脱塩は全体的である。
【0025】
好ましくは、本発明によるステップb)において添加される少なくとも1つの塩は、無機塩である。
【0026】
好ましくは、当該無機塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩を含む群から選択される。さらにより好ましくは、当該無機塩は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、硫酸カルシウム及び硫酸マグネシウムを含む群から選択される。
【0027】
有利には、本発明によるステップb)において添加される塩の量は、選択された1つ以上の塩を適切な濃度で含有する水溶液を使用して、マシンが必要とする水流に基づいて調節することができる。一般的には、塩類水溶液の濃度は、1mM~200mM、好ましくは2mM~100mMであろう。
【0028】
また、本発明の目的は、コーヒーマシンの水の入口に直列に挿入され、コーヒー抽出ステップにおいて使用される水の電解組成を適切に調節することができるシステムを提供することである。
【0029】
したがって、第2の態様において、本発明は、エスプレッソコーヒーマシンのための水の電解組成を動的調整するシステムであって、水を脱塩及び任意に濾過する装置と、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する装置と、を備えるシステムに関する。
【0030】
一実施形態によれば、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する当該装置は、脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液を提供することができる装置である。
【0031】
一実施形態によれば、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する当該装置は、脱塩水に当該少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を固体形態で提供することができる装置である。
【0032】
さらなる実施形態によれば、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する当該装置は、脱塩水に当該少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を固体形態及び脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液の形態の両方で提供することができる装置である。
【0033】
有利には、添加は、マシンが必要とする水流に比例して行われる。
【0034】
最後に、第3の態様によれば、本発明は、エスプレッソコーヒーを調製及び吐出するマシンに関し、マシンは、
給水部と、
コーヒー粉末パック付きフィルタバスケットを有するポートフィルタ(フィルタホルダ)と協働するように構成された吐出グループと、
エスプレッソコーヒーの調製に使用される水の電解組成を調節するシステムと、
を備え、当該コーヒー粉末パックに加圧水を供給してエスプレッソコーヒーを吐出するように構成され、
システムは、水脱塩装置と、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する装置と、を備える。
【0035】
好ましくは、本発明によるシステムは、水濾過装置をさらに備える。
【0036】
一実施形態によれば、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する当該装置は、脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液を提供することができる装置である。
【0037】
一実施形態によれば、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する当該装置は、脱塩水に当該少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を固体形態で提供することができる装置である。
【0038】
さらなる実施形態によれば、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する当該装置は、脱塩水に当該少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を固体形態及び脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液の形態の両方で提供することができる装置である。
【0039】
有利には、添加は、マシンが必要とする水流に比例して行われる。
【0040】
また、補正器の上流側で水を受け取り、添加装置に水を供給する分画器を設けてもよく、その結果、添加装置を通過した水の一部と再塩化されていない水の一部とがマシンに供給される。
【0041】
分画器は、比例弁を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明によるシステムを備えるエスプレッソコーヒーマシンの例示図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態によるシステムの簡略図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態によるシステムの簡略図である。
【
図4】90℃(パネルa)及び27℃(パネルb)で抽出されたトリゴネリン(白い縦棒)及びカフェイン(黒い縦棒)の量(mg/g、縦軸)を表すグラフである。
【
図5】カフェイン(パネルa)及びトリゴネリン(パネルb)についての、温度(横軸)の関数としてのオクタノール/水分配係数(Kow、縦軸)の変動を示すグラフである。
【
図6】完全脱塩超純水(MilliQ)、又は2~4mM(パネルa)若しくは50mM(パネルb)の水溶液を使用して抽出されたカフェインの量(mg/g、縦軸)を表すグラフである。
【
図7】完全脱塩超純水(MilliQ)、又は2~4mM(パネルa)若しくは50mM(パネルb)の水溶液を使用して抽出された、ペクチンとして測定された炭水化物の量(mg/g、縦軸)を表すグラフである。
【
図8】ナトリウムイオン(パネルa)、カリウムイオン(パネルb)、マグネシウムイオン(パネルc)及びカルシウムイオン(パネルd)を含有する水溶液を使用して抽出された、特定の風味を与える物質の値(%、縦軸)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、添付の図面を参照して読まれる、非限定的な例として与えられる以下の詳細な説明から完全に明らかになるであろう。
【0044】
本発明によれば、エスプレッソコーヒーマシンに使用される水を処理する方法が提供される。エスプレッソコーヒーの調製に使用される水の化学組成、特に電解組成を制御することを目的としたこの方法は、水を全体的又は部分的に脱塩及び任意に濾過するステップを提供し、次いで水に1つ以上の有機塩及び/又は無機塩を添加するステップを提供する。
【0045】
本発明によれば、エスプレッソコーヒーを調製及び吐出するマシンにおけるエスプレッソコーヒーの調製中に、挽きコーヒーに存在する少なくとも1つの有機分子を制御抽出する方法が提供され、当該方法は以下のステップを含む。
a)水を少なくとも部分的に脱塩及び任意に濾過するステップ。
b)マシンが必要とする水流に比例して、当該脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を均質に混合して添加するステップ。
c)このようにして得られた水を使用してエスプレッソコーヒーを調製するステップ。
【0046】
好ましくは、本発明によれば、脱塩及び任意に濾過するステップa)は、当技術分野で既知の技術、例えば逆浸透、蒸留等によって、又はMillipore(登録商標)装置を用いた蒸留によって行うことができる。このようにして、本発明による方法のステップa)から得られる水は、様々な純度の水、例えばI型、II型又はIII型の蒸留水とすることができる。好ましくは、得られる水は、I型の完全脱塩超純水(MilliQ(登録商標))である。
【0047】
続いて、エスプレッソコーヒーに付与すべき官能特性に応じて、水に1つ以上の有機塩及び/又は無機塩を所望の濃度で添加する。実施形態によれば、塩は、脱塩水から調製されかつ1つ以上の有機塩及び/又は無機塩を適切な濃度で含有する、1つ以上の塩類水溶液の形態で添加される。追加的に又は代替的に、塩は固体形態で添加される。
【0048】
出願人は、特定の有機塩及び無機塩が、挽きコーヒーに含まれる異なる有機分子の抽出を有利に、又は逆に不利にする可能性があることを見出した。
【0049】
下記表1は、オリゴミネラルウォーターに一般的に存在する8種類の塩が、コーヒーの最も重要な有機成分を抽出する能力を示している。
【0050】
塩は、抽出される各物質に関して、抽出能力が最低の抽出剤から最良の抽出剤まで、すなわち挽きコーヒーから抽出される物質の量が低い方から順に記載されている。赤色の欄は、完全脱塩超純水(MilliQ(登録商標))を使用して抽出された物質の量を示している。
【0051】
【0052】
表1に記載されたデータから、被験物質の各々について、より良い又はより悪い抽出剤として作用する電解液を特定することができる(表2)。また、多くの場合、使用される特定の塩ではなく、個々のイオン(例えば、塩化物イオン、カルシウムイオン等)が主要な変動要因であることにも注目する必要がある。
【0053】
【0054】
エスプレッソコーヒーの調製に使用される水に溶解する塩の種類と量を正確に選択することにより、得られる飲料の化学組成、ひいてはその官能特性を制御することが可能である。実際、上記の物質の各々は特定の味を特徴としており(表3)、得られるコーヒー中のその濃度が特定の味を与えるのに寄与する。
【0055】
したがって、本発明による制御抽出により、粉末コーヒーの同じ混合物から、特定の官能特性(例えば、酸味、甘味、苦味等)を有するエスプレッソコーヒーを得ることができる。これに関する詳細は、実施例で提示する。
【0056】
【0057】
したがって、本発明の方法によれば、コーヒーマシンに供給される水が特定の官能特性を有するエスプレッソコーヒーを得ることができるように、水の電解組成を調整するシステムが提供される。また、これにより、コーヒーマシンが設置されている場所、すなわち公共の水道網から利用可能な水の水質に関係なく、得られるコーヒーの品質、及びマシンの効率と耐久性に関して、コーヒーマシンの性能を標準化することができる。
【0058】
本発明によれば、エスプレッソコーヒーマシンのための水の電解組成を調整するシステムであって、水を脱塩及び任意に濾過する装置と、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する装置と、を備えることを特徴とするシステムも提供される。
【0059】
最後に、第3の態様によれば、本発明は、エスプレッソコーヒーを調製及び吐出するマシンに関し、マシンは、
給水部と、
コーヒー粉末パック付きフィルタバスケットを有するポートフィルタ(フィルタホルダ)と協働するように構成された吐出グループと、
エスプレッソコーヒーの調製に使用される水の電解組成を調整するシステムと、を備え、当該コーヒー粉末パックに加圧水を供給してエスプレッソコーヒーを吐出するように構成され、
システムは、水を脱塩及び任意に濾過する装置と、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する装置と、を備える。
【0060】
図1は、単に例として、全体を符号10で示すエスプレッソコーヒーマシンを示す。マシン10は、マシンの主要構成要素を収容する実質的に閉じたマシン本体11を備えており、その一部については後述する。マシン10の頂部には、好ましくは、カップを置くことができる表面12を備える。表面12上のカップを加熱する電気抵抗(図示せず)又は他の加熱システムを設けることもできる。
【0061】
マシン10は、エスプレッソコーヒーを吐出する少なくとも1つの吐出ユニット13を備える。好ましくは、マシン10は、複数の吐出グループ13、例えば
図1に例示したマシンのように3つのグループを備える。また、2つ、4つ又はそれ以上のグループもあり得る。吐出ユニット13の下には好ましくはドリップトレイ14があり、好ましくはグリル15によって頂部が部分的に閉じられている。一般的には、コーヒーカップは、エスプレッソコーヒーの吐出中グリル15上に置かれている。
【0062】
コーヒー粉末パック用のフィルタバスケットを支持するポートフィルタは、各吐出グループ13に取り外し可能に接続することができる。
【0063】
マシン10は、例えばマシンのオン/オフを切り替える、及び/又は吐出動作を開始/終了する、1つ以上のディスプレイ16及び押しボタンを備えていてもよい。
【0064】
好ましくは、
図1に示すマシン10は、各吐出グループ13について、エスプレッソコーヒーの吐出を開始/終了する、及び/又はエスプレッソコーヒーの吐出中に吐出圧力を変更するレバー18(又は図示しない押しボタン)も備える。
【0065】
また、本発明によれば、マシン10はシステム50を備える。システム50は、マシンに入る水を少なくとも部分的に脱塩及び任意に濾過し、次いでエスプレッソコーヒーの調製に使用される水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加するように構成されている。
【0066】
本発明の一実施形態(
図2)によれば、システム50は、水を脱塩及び任意に濾過する装置30と、脱塩水に少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する装置37と、を備える。特に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの有機塩及び/又は無機塩を添加する当該装置37は、脱塩水から調製されかつ所望の塩を適切な濃度で含有する、1つ以上の塩類水溶液を提供することができる装置である。別の好ましい実施態様によれば、当該装置37は、脱塩水に所望の塩を固体形態で添加することができる装置である。さらなる実施形態によれば、当該装置37は、脱塩水に所望の塩を固体形態及び脱塩水から調製された1つ以上の塩類水溶液の形態の両方で提供することができる装置である。
【0067】
図3を参照すると、水を脱塩及び任意に濾過する装置の下流側に、好ましくは分画器35が設けられている。これにより、添加装置37を通過した部分の水と再塩化されていない部分の水とがマシンに供給される。分画器は、例えば比例弁35とすることができる。
【0068】
好ましくは、システム50は、1つ以上の流量測定装置を備える。例えば、添加装置37の上流側に第一の流量計31を、また分画器の上流側に第2の流量計34を設けてもよい。
【0069】
[実験セクション]
本出願人は、マシンの実際の使用条件下で一連の試験を行った。挽きコーヒー14gを使用して、92℃、8バールの圧力で抽出されたエスプレッソコーヒーの各50mlの試料を得た。各エスプレッソを濾過し、Milli-Q水で1:100の比率で希釈し、分析して、挽きコーヒーに一般的に存在する有機分子の濃度を決定した。このような関心のある有機分子は、炭水化物(ペクチンとして表される)、カフェイン、トリゴネリン、コーヒー酸、フェルラ酸、リンゴ酸、クエン酸、ニコチン酸、メラノイジンである。
【0070】
使用した抽出溶液の各々について5つの独立した分析を行い、各分析物の濃度を決定した。
【0071】
出願人は、抽出に使用される水の電解組成とエスプレッソコーヒー中の関心のある分析物の濃度との間に直接的な関係があることを見出した。
【0072】
また、出願人は、この関係を利用して、化学組成が制御された、したがって官能特性が制御されたコーヒー抽出物を得ることができることを見出した。
【0073】
[実施例1]
最初の実験的測定は、エスプレッソコーヒーの調製に使用される水に存在する塩の種類と、得られたコーヒー中の、エスプレッソコーヒーに一般的に存在するいくつかの有機分子の濃度との相関関係の評価に関するものであった。
【0074】
非限定的な例として、イオン組成の異なる水を使用して、異なる温度で調製されたエスプレッソコーヒーに含まれるカフェイン及びトリゴネリンを抽出する実験に関する結果を以下に記載する。
【0075】
図4aは、電解組成が可変な水、すなわち完全脱塩超純水(MilliQ)、又は塩化カルシウム(CaCl
2)若しくは塩化ナトリウム(NaCl)を0.5Mの濃度で含有する水を使用して90℃で抽出を行い、使用した挽きコーヒー1g当たりのトリゴネリン(白い縦棒)及びカフェイン(黒い縦棒)の抽出量(mg単位)に関するデータを示している。
【0076】
図4bは、27℃で行った同じ実験の結果を示している。
【0077】
2つの図の分析から、水の抽出能力は、電解組成の変動と温度の変動の両方によって変動し、この効果は分析された2つの分子で異なることが明らかである。
【0078】
これは、2つのマトリックス(挽きコーヒーと水)に対するこのような分子の相対的親和性の変動によるものであり、この変動は分析された各分子に固有のものである。
【0079】
実際、有機相と極性相に対する物質の相対的親和性を示すパラメータ、すなわちオクタノール水分配係数(Kow)の温度依存性を、カフェイン(パネルa)とトリゴネリン(パネルb、
図5)の両方について実験的に決定することができた。その結果、Kowは温度とともに変化し、2つの物質に対して異なる傾向を示した。
【0080】
[実施例2]
このように、その後、使用される水に含まれる塩の種類とその濃度の関数として、挽きコーヒーに一般的に含まれる分子に関して、水の抽出能力の変動が研究された。
【0081】
非限定的な例として、90~93℃の温度で行った、カフェインとペクチンとして表される炭水化物の抽出実験に関する結果を以下に記載する。
【0082】
使用した分析方法を下記表4に記載する。
【0083】
【0084】
図6a~bは、完全脱塩超純水(MilliQ)、又は塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、硫酸カルシウム若しくは硫酸マグネシウムの2~4mm(
図6a)若しくは50mm(
図6b)の水溶液を使用して抽出された、使用した挽きコーヒー1g当たりのカフェイン量(mg単位)を示している。
【0085】
図7a~bは、炭水化物に関する同様の実験の結果を示している。
【0086】
したがって、上記の結果は、エスプレッソコーヒーの調製に使用される水の電解組成と、得られるコーヒーの化学組成との間に正の相関があることを示しており、これは既知のとおり、飲料の官能特性に直接関与する。
【0087】
したがって、実験を行った結果、エスプレッソコーヒーの調製に使用される水の電解組成を制御することにより、得られる飲料の官能特性を制御することが可能であるという結論に至った。
【0088】
[実施例3]
同じ挽きコーヒー粉末から4種類の異なるエスプレッソを調製したが、本発明の方法に従って処理し、2~4mMの濃度のナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムイオンを含有する水を使用した。
【0089】
これらの各イオンの抽出能力に基づいて、各塩水で得られるエスプレッソコーヒーの官能特性を予測することが可能である。
図8のグラフA~Cは、所与の風味を付与する物質の値を、目盛りの最大値が最大抽出量に相当するパーセンテージスコアで表したものである。
【0090】
グラフを観察すると、したがって、2mMのナトリウムイオンを含有する水から得られるエスプレッソコーヒー(グラフA)は、主に苦味と焙煎/カラメル化した香りを特徴とし、2mMのカリウムを含有する水から得られるもの(グラフB)は、主に甘味と酸度を特徴とし、2.5mMのマグネシウムイオンを含有する水から得られるエスプレッソ(グラフC)は、強い香りと、甘味と苦味のバランスの良さを特徴とし、4mMのカルシウムイオンを含有する水から得られるもの(グラフD)は、甘味と著しい酸度を特徴とする。
【0091】
0.002Mから0.004Mの濃度の塩水で調製したエスプレッソを9名のテイスターに試飲してもらい、その判定を下記表5に記載する。実験データとテイスターの判定の一致度は非常に高く、苦味と酸合を一緒に考えればほぼ完全に一致する。実際のところ、この2つの風味を味覚的に区別するのは困難である。
【0092】
【国際調査報告】