(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(54)【発明の名称】シス結合Siglecアゴニスト並びに関連組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/705 20060101AFI20230719BHJP
C07K 17/02 20060101ALI20230719BHJP
C12N 5/0787 20100101ALI20230719BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20230719BHJP
A61K 31/7012 20060101ALI20230719BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20230719BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230719BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230719BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230719BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230719BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230719BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230719BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230719BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230719BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230719BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230719BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C07K14/705
C07K17/02
C12N5/0787
C12N5/078
A61K31/7012
A61K47/64
A61P1/04
A61P1/16
A61P11/00
A61P11/06
A61P13/12
A61P27/02
A61P29/00
A61P37/02
A61P37/08
A61P37/06
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580803
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 US2021039623
(87)【国際公開番号】W WO2022006113
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ベルトッツィ、 キャロライン
(72)【発明者】
【氏名】デラヴェリス、 コルレオーネ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AC12
4B065AC20
4B065BB19
4B065BC12
4C076AA12
4C076BB13
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4C086ZB11
4C086ZB13
4H045AA10
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4H045AA30
4H045BA10
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4H045BA60
4H045DA50
4H045EA22
4H045FA20
4H045FA70
(57)【要約】
シス結合Siglecアゴニストが提供される。ある特定の実施形態では、シス結合Siglecアゴニストは、Siglecリガンドを有する足場と、膜繋留ドメインとを含む。本開示のシス結合Siglecアゴニストのうちのいずれかを含む組成物、例えば、医薬組成物も提供される。例えば、Siglec活性のアゴナイズを必要とする個体における、Siglec活性をアゴナイズする方法も提供される。シス結合Siglecアゴニストを含むキット及びシス結合Siglecアゴニストを作製する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siglecリガンドを有する足場と、
膜繋留ドメインと、
を含む、シス結合Siglecアゴニスト。
【請求項2】
前記Siglecリガンドを有する足場がポリマー足場を含む、請求項1に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項3】
前記Siglecリガンドを有する足場が糖ポリペプチド足場を含む、請求項2に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項4】
前記足場が2~50個のSiglecリガンドを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項5】
前記足場が2~10個のSiglecリガンドを含む、請求項4に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項6】
前記Siglecリガンドが免疫抑制性Siglecリガンドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項7】
前記Siglecリガンドが1つ以上のCD33関連Siglecに対するリガンドを含む、請求項6に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項8】
前記SiglecリガンドがSiglec-9リガンドを含む、請求項7に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項9】
前記SiglecリガンドがSiglec-9リガンドのみを含む、請求項8に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項10】
前記SiglecリガンドがSiglec-7リガンドを含む、請求項7に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項11】
前記SiglecリガンドがSiglec-7リガンドのみを含む、請求項10に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項12】
前記膜繋留ドメインが脂質膜繋留ドメインを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のSiglecアゴニスト。
【請求項13】
液状媒体中に存在する請求項1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストを含む、組成物。
【請求項14】
凍結乾燥形態で存在する請求項1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストを含む、組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストと、
薬学的に許容される担体と、
を含む、医薬組成物。
【請求項16】
前記組成物が非経口投与用に製剤化されている、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組成物が静脈内投与用に製剤化されている、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
Siglec活性をアゴナイズする方法であって、Siglecを発現する細胞を、請求項1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストと、前記膜繋留ドメインが細胞膜に挿入されかつ前記Siglecリガンドが前記細胞によって発現される1つ以上のSiglecにシスで結合する条件下で接触させることを含む、方法。
【請求項19】
前記方法がインビトロで行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法がインビボで行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記方法はSiglec-9活性をアゴナイズする方法であり、前記SiglecアゴニストがSiglec-9リガンドを含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
Siglec活性のアゴナイズを必要とする個体においてSiglec活性をアゴナイズする方法であって、前記個体に、請求項1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストの有効量を投与することを含む、方法。
【請求項23】
前記個体は免疫細胞反応性の抑制を必要とする個体であり、前記Siglecリガンドが免疫抑制性Siglecリガンドを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記個体が炎症性疾患を有する個体であり、前記Siglecアゴニストが前記炎症性疾患を治療するのに有効な量で前記個体に投与される、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記個体が、加齢性黄斑変性症、好中球急性呼吸窮迫症候群、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、好酸球性胃腸炎、アレルギー、喘息、自己免疫疾患、セリアック病、糸球体腎炎、肝炎、炎症性腸疾患、前灌流傷害、移植片拒絶反応、及びそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される炎症性疾患を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記個体はウイルス感染を有する個体である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項27】
前記ウイルス感染がコロナウイルス感染である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記コロナウイルス感染がSARS-CoV-2感染である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記Siglecアゴニストが前記個体における好中球活性化を阻害する、請求項22~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記Siglecアゴニストが前記個体におけるNETosisを阻害する、請求項22~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記Siglecリガンドが1つ以上のCD33関連Siglecに対するリガンドを含む、請求項22~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記SiglecリガンドがSiglec-9リガンドを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記SiglecリガンドがSiglec-9リガンドのみを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記SiglecリガンドがSiglec-7リガンドを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記SiglecリガンドがSiglec-7リガンドのみを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
請求項15~17のいずれか一項に記載の医薬組成物と、
前記医薬組成物の有効量を、それを必要とする個体に投与するための説明書と、
を含む、キット。
【請求項37】
前記Siglecリガンドが免疫抑制性Siglecリガンドを含む、請求項36に記載のキット。
【請求項38】
前記説明書が、前記医薬組成物の有効量を、免疫細胞反応性の抑制を必要とする個体に投与するためのものである、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
シス結合Siglecアゴニストを作製する方法であって、
末端に膜繋留ドメインを含むポリマー足場を合成することと、
Siglecリガンドを前記ポリマー足場のサブユニットに結合させることと、
を含む、方法。
【請求項40】
前記結合させることは、前記ポリマー足場のサブユニットをシアリル化することを含む、請求項39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月30日に出願された米国仮特許出願第63/046,140号の利益を主張し、この出願は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府支援の声明
本発明は、国立衛生研究所により授与された契約CA227942に基づく政府支援によって行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
序文
シアル酸結合IgG様レクチン(Siglec)は、免疫細胞の全てのクラスに発現する免疫チェックポイント受容体のファミリーである。それらは標的細胞上の様々なシアログリカンに結合し、標的が健常であるか損傷しているか、「自己」か「非自己」かを報告するシグナルを免疫細胞に伝達する。14個のヒトSiglecのうち、9個が細胞質抑制性シグナル伝達ドメインを含んでいる。したがって、シアログリカンによるこれらの抑制性Siglecの結合により、免疫細胞の活性が抑制され、抗炎症効果がもたらされる。この点で、抑制性Siglecは、T細胞チェックポイント受容体であるCTLA-4及びPD-1と機能的に類似している。がん免疫療法の臨床的に確立されたこれらの標的と同様に、Siglecをアンタゴナイズしてがんに対する免疫細胞反応性を増強することに最近関心が高まっている。逆に、抗炎症療法の文脈で、Siglecのアゴニスト抗体への結合により免疫細胞反応性を抑制し得る。このアプローチを活用して、CD22(Siglec-2)のアゴニズムによって狼瘡患者のB細胞抑制を達成し、Siglec-8のアゴニズムによって好酸球性胃腸炎の治療のために好酸球が枯渇させられた。
【発明の概要】
【0004】
シス結合Siglecアゴニストが提供される。ある特定の実施形態では、シス結合Siglecアゴニストは、Siglecリガンドを有する足場(scaffold)と、膜繋留(tethering)ドメインとを含む。本開示のシス結合Siglecアゴニストのうちのいずれかを含む組成物、例えば、医薬組成物も提供される。例えば、Siglec活性のアゴナイズを必要とする個体における、Siglec活性をアゴナイズする方法も提供される。シス結合Siglecアゴニストを含むキット及びシス結合Siglecアゴニストを作製する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】糖ポリペプチドがエフェクター細胞上でSiglecをシスで(in cis)クラスター化させアゴナイズする。(A)食細胞が標的細胞の「eat-me」シグナルに関与する活性化受容体を発現し、食作用及び炎症を刺激する。(B)シスリガンドによるSiglec-9のクラスター化が食細胞活性化を停止させる抑制性シグナル伝達を刺激する。
【
図2】pS9L-脂質の代表的な合成。(a)THF、3、22℃で6時間、グローブボックス。(b)ヒドラジン一水和物、MeOH/THF/H
2O、22℃で24時間、二段階にわたって85%。(c)4、ピルビン酸ナトリウム、Pd26ST、NmCSS、NanA、200mM Tris(pH8.5)中20mM MgCl
2、48時間、50%。(d)ベンズヒドリルアジド、CuSO
4、BTTAA、tBuOH/H
2O、22℃で12時間、75~100%。
【
図3】操作された糖ポリペプチドが高親和性でSiglec-9に結合する。(A)糖ポリペプチドは同じラクトシルセリン足場に基づいている。pLacはラクトース部分のみを有する。pSiaは末端Neu5Acを有する。pS9LはSiglec-9リガンドを有する。pS7LはSiglec-7リガンドを有する。ポリペプチドのN末端をフルオロフォア又はビオチン部分のいずれかで官能化させた。(B)N末端ビオチンを有する可溶性糖ポリペプチドを、ストレプトアビジンをコーティングした先端(チップ)に結合させた。先端を組換えSiglec-Fc融合タンパク質溶液、続いて、緩衝液のみに浸漬させることによって、会合/解離曲線を測定した。データは、2つの独立した実験の代表である。(C)THP-1単球を脂質繋留糖ポリポリペプチドでコーティングし、Siglec-9-Fc、続いて、抗ヒトAlexaFluor647コンジュゲート二次抗体で染色した。データは、3つの独立した実験の代表である。
【
図4】pS9L-脂質はSiglec-9とシス会合するが、Siglec-7とはシス会合しない。(A)pS9L-脂質又はpS7L-脂質のSiglec-9又はSiglec-7とのシス会合を評価するためのFRET実験。脂質コンジュゲート糖ポリペプチド(pS9L-脂質又はpS7L-脂質)のN末端をAlexaFluor555で官能化し、Siglec-9又はSiglec-7のいずれかを安定して過剰発現するJURKATにロードした。AlexaFluor647を有する抗Siglec抗体をSiglecに結合させ、FRETシグナルを蛍光顕微鏡法によって定量した。(B、D)pS9L-脂質又はpS7L-脂質をSiglec-9発現細胞にロードした場合の相対的FRET効率を計算した。一元配置t検定による統計分析、p<0.001、GlassのΔ=6.70。(C、E)pS9L-脂質をSiglec-9又はSiglec-7発現細胞にロードした場合の相対的FRET効率を計算した。一元配置t検定による統計分析、p<0.001、GlassのΔ=2.42。全てのデータは、少なくとも2つの独立した実験の代表である。(C)及び(E)のデータポイントは、単一の実験からの個々の細胞を表す。エラーバーを標準偏差として表す。
【
図5】NF-κB転写レポーターアッセイにおいて、pS9L-脂質がSiglec-9をアゴナイズしてTLR4シグナル伝達を阻害する。(A)HEKBlue細胞はNF-κB依存性分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)とTLR4シグナル伝達複合体を共発現する。LPSでの刺激時に、NF-κB活性の代理として比色アッセイを使用して上清中のSEAPを定量することができる。これらのアッセイでは、HEKBlue細胞にpCMV-Siglec発現ベクターもトランスフェクトした。(B)Siglec-9発現HEKBlue細胞を、抗体(抗Siglec-9、アイソタイプ、又はビヒクル)をコーティングしたプレート上で増殖させ、LPS(10ng/mL)に応答した相対的NF-κB転写を測定した。(C)Siglec-9発現HEKBlue細胞をLPS刺激(10ng/mL)前にpS9L-sol(1μM)、pS9L-脂質(1μM)、又はビヒクルで前処理した。(D)HEKBlue細胞にSiglec-9、Siglec-7、又は偽発現ベクターをトランスフェクトし、pS9L-脂質(1μM)又はビヒクルでコーティングした後、LPS(10ng/mL)で刺激した。(E)HEKBlue細胞に野生型、R120A、又はY433/456F Siglec-9発現ベクターをトランスフェクトし、pS9L-脂質(1μM)又はビヒクルでコーティングした後、LPS(10ng/mL)で刺激した。統計を一元配置分散分析(B、C)又は二元配置分散分析(D、E)によって決定した。**=p<0.01、***=p<0.001、****=p<0.0001。エラーバーを標準偏差として表す。全てのデータは、少なくとも3つの独立した実験の代表である。
【
図6】マクロファージの活性化はシス結合pS9L-脂質によって阻害されるが、可溶性トランス結合pS9L-solでは阻害されない。(A)過炎症性マクロファージを糖ポリペプチド(500nM)で前処理し、その後、LPS刺激(100pg/mL)に供した。活性化を、上清からのサイトカイン定量(B)、定量的ホスホプロテオミクス(C~E)、又はウエスタンブロット(F)によってアッセイした。(B)マクロファージを糖ポリペプチド(500nM)で前処理し、その後、LPS(100pg/mL)で18時間刺激した。上清のアリコートを多重炎症性サイトカインアッセイによって分析した。データを、ビヒクルで前処理した細胞と比較した3つの独立した実験からの技術的複製物の平均の倍数変化(fold-change)として表す。統計を多重t検定によって決定した。*=p<0.05。エラーバーを標準偏差として表す。(C~E)マクロファージを糖ポリペプチド(500nM)で前処理し、その後、LPS(100pg/mL)で5分間刺激し、溶解させた。溶解物を3つの独立したマクロファージ分化物から収集した。溶解物を正規化し、リンタンパク質について濃縮し、標識し、定量的ホスホプロテオミクスによって分析した。(C)LPSで刺激した又は刺激していない糖ポリペプチド前処理マクロファージからの倍数変化のヒートマップ。(D)pS9L-脂質で前処理しLPSで刺激したマクロファージの、ビヒクルからの倍数変化に対する有意性のボルケーノプロット。同定された有意に変化したリンペプチドを赤色で示している。選択した固有のヒットを濃い青色で強調表示している。(E)Dと同様であるが、pS9L-solの場合である。(F)マクロファージを糖ポリペプチド(500nM)で処理し、LPS(100pg/mL)で1時間刺激した後、溶解させ、ウエスタンブロットによって総IkB及びpIkB(S32/36)レベルについて分析した。レーン1は、糖ポリペプチドでもLPSでも処理していない対照マクロファージを示す。FCは倍数変化である。
【
図7】pS9L-脂質はSiglec-9依存的様式でマクロファージ食作用を阻害する。(A)マクロファージ食作用を、酸性(すなわち、後期エンドソーム/リソソーム)コンパートメントで蛍光がオンになるビーズを使用した蛍光顕微鏡法により決定することができる。(B)0時間(上)及び15時間(下)時点でのマージした位相及び赤色蛍光の代表的な画像。(C)THP-1マクロファージをポリマー(200nM)で前処理し、1μmのpHrodo red標識ビーズ懸濁液を所定のエフェクター:標的(E:T)比で添加した。食作用の初期速度を、最初の1時間にわたる赤色蛍光面積の増加を測定することによって決定した。データは、3つの独立した実験の代表である。(D~F)CMAS KO(D)、Siglec-9 KO(E)、又は野生型(F)THP-1マクロファージを糖ポリペプチド(200nM)で前処理し、1μmのpHrodo red標識ビーズを使用して1:20のE:T比で10時間にわたって毎時間食作用についてアッセイした。(G、H)CRISPRセーフ標的ガイド(G)又はSiglec-E KO(H)のいずれかを有するBV2マウスミクログリアをノイラミニダーゼ(2μM)で前処理し、その後、Siglec-E交差反応性pS7L-脂質(500nM)をロードした後、D~Fと同様に食作用についてアッセイした。(D~H)の場合、二元配置分散分析による統計分析:#=p<0.15、*=p<0.05、**=p<0.01。エラーバーは標準誤差である。データは、3つの独立した実験の代表である。
【
図8】単球由来の初代マクロファージによるpS9L-脂質に対する応答を、Siglec-9発現によって階層化する。(A~D)単球をPBMCから単離し、GM-CSF(50ng/mL)で6日間処理してM1マクロファージに分化させた。(A~C)3体の異なるドナーから単離したPBMCから分化したM1マクロファージを糖ポリペプチド(500nM)で処理した後、およそ1:20のE:T比でpHrodo標識ビーズの食作用をアッセイした。二元配置分散分析による統計分析、*=p<0.05。エラーバーを標準誤差として表す。(D)M1マクロファージを顕微鏡法によって蛍光標識抗Siglec-9抗体で染色し、蛍光を顕微鏡法によって定量した。ドナーA~CはパネルA~Cに対応する。正規化発現を、1画像当たりの集密度に対する1画像当たりの積分蛍光強度の比率を計算することによって決定した。エラーバーを標準偏差として表す。二元配置分散分析による統計分析、****=p<0.001。データは3体の異なるドナーからのものである。
【
図9】高親和性Siglec-9リガンドを有する合成糖ポリペプチドがSiglec-9に係合し、クラスター化及びシグナル伝達を誘導する。(a)膜繋留型シス結合糖ポリペプチド1(pS9L)がSiglec-9シグナル伝達を誘導する一方で、可溶性対照ポリペプチド2(pS9L-sol)、又は非結合性だが膜に繋留された対照ポリペプチド3(pLac)は、誘導をしない。(b)ポリペプチドpS9L、pS9L-sol、及びpLacの構造。ポリペプチドは全てO-ラクトシルポリセリン-コ-アラニン足場に基づいており、いくつかの事例では、末端Siglec-9結合シアル酸類似体及び/又はC末端膜繋留脂質を有する。
【
図10】シス結合Siglec-9アゴニスト(pS9L)がSiglec-9及びSHP-1を介してR848誘導性NETosisを阻害する。(a~c)初代好中球を、膜不透過性DNAインターカレーターであるCytotox Green又はRed(250nM)を含み0.5%hiFBSを補充したIMDM中のR848(10μM)と糖ポリペプチド(500nM)で共処理した。画像を、蛍光顕微鏡法によって12時間にわたって15分毎に取得した。300μm
2を超える全ての緑色蛍光物体の面積を定量し、1ウェル当たり3つの画像の合計面積を平均した。相対的NETosisを、R848処理のみからの最大NET面積に対して正規化することによって決定した(t=8時間)。(a)t=8時間の代表的な位相コントラスト及び蛍光画像。スケールバーは40μmを示す。(b)(c)の曲線下面積としての経時的なNETosisの定量。エラーバーは標準偏差を表す。(c)時間の関数としてのNET形成及び分解。エラーバンドは標準誤差を表す。(d)様々な糖ポリペプチドでのR848刺激好中球の処理。エラーバーは標準偏差を表す。(e)pS9Lは、Siglec-9に対する高親和性及び特異的リガンドを有し、かつ膜繋留脂質尾部で官能化された、ムチン様糖ポリペプチドである。(f)HL-60細胞に、SIGLEC9(Siglec-9をコードする)、PTPN6(SHP-1をコードする)、又はスクランブル対照に対するsiRNAをトランスフェクトし、その後、2日間増殖させた。その後、細胞をR848(10μM)とビヒクル又はpS9L(500nM)で共処理した。相対的NETosisを、200μm
2を超える全ての物体を定量したことを除いて(b)と同様に決定し、dHL-60におけるR848最大が誘導後2.5時間時点で観察された。エラーバーは標準偏差を表す。統計を二元配置分散分析(b)又は一元配置分散分析(c、d、f)によって決定した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図11】Siglec-9アゴニストpS9Lは、COVID-19血漿によって誘導された好中球のNETosisを阻害する。(a、b)健常ドナー又はCOVID-19患者由来の末梢血中の好中球におけるSIGLEC9発現(a)及びPADI4発現(b)に関する、公的に入手可能な単一細胞トランスクリプトミクスデータ
8の分析。エラーバーは標準偏差を表す。統計を、混合効果モデルを使用して決定した。**=p<0.01、***=p<0.001(c、d)初代好中球を、健常ドナー又はCOVID-19患者由来の未希釈クエン酸抗凝固血漿中で4時間培養した。細胞を固定し、細胞外ミエロペルオキシダーゼについて染色し、蛍光顕微鏡法によってDAPIイメージング培体中で画像化した。細胞を技術的三連(technical triplicate)で処理し、複数の視野にわたって画像化した。(c)全ての視野にわたるNET陽性細胞の割合(%)。各ドットは、個々の血漿試料を表す。(d)pS9Lで処理した又は処理していないCOVID-19患者由来の血漿試料の代表的な画像。エラーバーは標準偏差を表す。反復好中球ドナーを使用した試料を説明するために混合効果モデルを使用して統計を決定した。****=p<0.0001。
【
図12】例えば、COVID-19において、局所及び末梢炎症性刺激がNETosis及びその後の過炎症性カスケードを誘導する。SARS-CoV-2感染部位での局所炎症性刺激(例えば、ビリオン)及びCOVID-19に関連する末梢炎症性刺激(例えば、炎症誘発性サイトカインIL-8及びG-CSF)の両方がインビトロでNETosisを誘導することが示された。これらの因子は、インビボでもNETosisの原因物質であると疑われており、中等度及び重度のCOVID-19の症状につながる有害な過炎症性カスケードを開始する。本開示に基づいて、好中球関連チェックポイント受容体Siglec-9のアゴニストが一般にNETosisを阻害し、特にCOVID-19において阻害すると予測される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
シス結合Siglecアゴニストが提供される。ある特定の実施形態では、シス結合Siglecアゴニストは、Siglecリガンドを有する足場と、膜繋留ドメインとを含む。本開示のシス結合Siglecアゴニストのうちのいずれかを含む組成物、例えば、医薬組成物も提供される。例えば、Siglec活性のアゴナイズを必要とする個体における、Siglec活性をアゴナイズする方法も提供される。シス結合Siglecアゴニストを含むキット及びシス結合Siglecアゴニストを作製する方法も提供される。
【0007】
本開示のSiglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法が、更に詳細に説明される前に、Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法が、記載される特定の実施形態に限定されず、したがって、言うまでもなく変化し得ることを理解されたい。Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって限定されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のためのものにすぎず、限定的であるようには意図されていないことも理解されたい。
【0008】
値の範囲が提供される場合、文脈が別途明確に指示しない限り、下限値の単位の10分の1まで、その範囲の上限値と下限値との間の各々の介在値、及びその提示される範囲内の任意の他の提示される値又は介在値が、Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法内に包含されることを理解されたい。これらのより小さい範囲の上限値及び下限値は独立してより小さい範囲内に含まれることができ、提示される範囲内の特に除外される限界条件に従って、Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法内にも包含される。提示される範囲に限界値の一方又は両方が含まれている場合、それらの含まれる限界値のいずれか又は両方を除く範囲も、Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法に含まれる。
【0009】
ある範囲は、数値の前に「約」という用語が付いた状態で本明細書に提示される。「約」という用語は、それが付いた正確な数字、及びその用語が付いた数字に近い又は近似する数字に文言的サポートを提供するために本明細書で使用される。ある数が、具体的に記載された数に近い又は近似するか否かを決定する際に、近い又は近似するが明記されていない数とは、それが提示されている文脈において具体的に記載された数の実質的等価物を提供する数であり得る。
【0010】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様又は同等のいずれのSiglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法も、Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法の実践又は試験で使用されることができるが、代表的な例示的Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法がこれから説明される。
【0011】
本明細書に引用される全ての刊行物及び特許は、個々の刊行物又は特許が各々参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれ、その刊行物が引用されるところのものに関する材料及び/又は方法を開示及び説明するために参照により本明細書に組み込まれる。いずれの刊行物の引用も、出願日前のその開示についてのものであり、提供される刊行日は個別に確認を必要とし得る実際の刊行日とは異なる場合があるため、本Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法が、かかる刊行物に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。
【0012】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。特許請求の範囲はいずれかの任意選択的な要素を排除するように起草され得ることに更に留意されたい。したがってこの記述は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連して「単に」、「のみ」などの排他的な用語の使用、又は「負の」限定の使用のための文言的根拠としての役割を果たすことが意図されている。
【0013】
明確化のために別個の実施形態との関連で記載されているSiglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法のある特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせても提供され得ることが認識される。逆に、簡潔化のために単一の実施形態の文脈で記載されているSiglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法の様々な特徴は、別個に又は任意の好適な部分的組み合わせでも提供され得る。実施形態の全ての組み合わせが本開示によって具体的にに包含され、かかる組み合わせは、実施可能なプロセス及び/又は組成物を包含するかぎりにおいて、ありとあらゆる組み合わせが個別かつ明示的に開示されているかのように本明細書に開示される。加えて、かかる変形物を記載する実施形態に列記される全ての部分的組み合わせも、本Siglecアゴニスト、組成物、キット、及び方法によって具体的にに包含され、ありとあらゆるかかる部分的組み合わせが個別かつ明示的に開示されているかのように本明細書に開示される。
【0014】
本開示を読んだ当業者には明らかになるように、本明細書に記載及び例証される個々の実施形態は各々、本方法の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のうちのいずれかの特徴と容易に分離又は組み合わせられ得る個別の構成要素及び特徴を有する。列挙される方法は、列挙される事象の順序で行うことも、論理的に可能な任意の他の順序で行うこともできる。
【0015】
シス結合Siglecアゴニスト
上で要約されるように、本開示は、シス結合Siglecアゴニスト(本明細書では「Siglecアゴニスト」とも称される)を提供する。いくつかの実施形態によれば、Siglecアゴニストは、Siglecリガンドを有する足場と、膜繋留ドメインとを含む。本明細書に示されるように、Siglecアゴニストは細胞膜に自発的に挿入され、免疫細胞表面で特定のSiglecにシスで(in cis)結合する。Siglecアゴニストには、様々なインビトロ用途及びインビボ用途での使用が見出される。予想外に、同程度の濃度での可溶化剤としてではなく細胞膜に繋留されたときに、本SiglecリガンドはSiglecに結合し、レポーター系、マクロファージ細胞株、及び初代マクロファージにおける炎症活性を阻害する。したがって、本開示のSiglecアゴニストは、とりわけ、シス相互作用を操作してグリコカリックスにすることによる免疫抑制の新規モダリティの構成要素となる。本開示のSiglecアゴニストの実施形態に関する詳細がこれから記載される。
【0016】
シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglec)は、グリカンリガンドによって機能調節される免疫調節受容体のファミリーである。Siglecファミリーは、ヒトにおいて15のファミリーメンバーで構成されており、造血系統における限られた細胞セットで発現し、例外として希突起膠細胞及びシュワン細胞上のSiglec-4(MAG)及び胎盤栄養膜上のSiglec-6を含む。Siglecは、それらの最も外側のN末端Vセットドメインを介して、糖タンパク質及び糖脂質上のシアル酸含有グリカンリガンドを、特有であるが重複する特異性で認識する。それらのリガンドの認識により、それらの細胞質尾部の免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ(ITIM)を介して細胞シグナル伝達に影響が及ぼされ得る。Siglecの大部分では、これらのITIMはホスファターゼをリクルートする能力を有し、それ故に、これらのメンバーは抑制型Siglecと称される。例外としては、かかるモチーフを欠くSiglec-1及びMAG、並びに、膜貫通領域内の正荷電アミノ酸を介して免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を有するアダプタータンパク質に付随する活性化型Siglec(Siglec-14~Siglec-16)が挙げられる。
【0017】
Siglecは、哺乳類種間のそれらの遺伝子相同性に基づいて2つの群に分けることができる。第1の群は全ての哺乳類に存在し、Siglec-1(シアロアドヘシン)、Siglec-2(CD22)、Siglec-4、及びSiglec-15で構成されている。第2の群は、Siglec-3(CD33)、Siglec-5、Siglec-6、Siglec-7、Siglec-8、Siglec-9、Siglec-10、Siglec-11、Siglec-14、及びSiglec-16を含むCD33関連Siglecで構成されている。単球、単球由来のマクロファージ、及び単球由来の樹状細胞は、ほぼ同じSiglecプロファイル、すなわち、Siglec-3、Siglec-7、Siglec-9の高発現、Siglec-10の低発現、及びIFN-αでの刺激時のSiglec-1の発現を有する。対照的に、マクロファージは、それらの分化状態に応じて、主にSiglec-1、Siglec-3、Siglec-8、Siglec-9、Siglec-11、Siglec-15、及びSiglec-16の発現を有する。通常の樹状細胞は、単球由来の樹状細胞と同様に、Siglec-3、Siglec-7、及びSiglec-9を発現するが、加えて、低レベルのSiglec-2及びSiglec-15も発現する。形質細胞様樹状細胞は、Siglec-1及びSiglec-5を発現する。単球由来の樹状細胞でのSiglec-7及びSiglec-9発現のダウンレギュレーションがLPSで48時間刺激した後に観察されるが、単球由来のマクロファージでは、LPSでの刺激時にSiglec発現は変化しない。Siglecは、B細胞、好塩基球、好中球、及びNK細胞などの他の免疫細胞にも存在する。Siglecに関する更なる詳細は、Angata et al.(2015)Trends Pharmacol Sci.36(10):645-660、Lubbers et al.(2018)Front.Immunol.9:2807、Bochner et al.(2016)J Allergy Clin Immunol.135(3):598-608、及びDuan et al.(2020)Annu.Rev.Immunol.38(1):365-395で見つけることができ、これらの開示は全ての目的のために参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0018】
上で要約されるように、ある特定の実施形態では、Siglecアゴニストは、Siglecリガンドを有する足場(scaffold)を含む。「足場」とは、Siglecリガンドが1つ以上の対応するSiglecにシス結合することができるようにSiglecリガンドを提示することに適した構造を意味する。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドを有する足場は、ポリマー足場を含む。本明細書で使用される場合、「ポリマー」とは、共有結合によって互いに連結された直鎖状の一連のモノマーである。ある特定の実施形態では、ポリマーは、ポリペプチドである。「ポリペプチド」、「ペプチド」、又は「タンパク質」という用語は、隣接する残基のアルファ-アミノ基とカルボキシ基との間のペプチド結合によって互いに連結された直鎖状の一連のアミノ酸残基を規定するために本明細書で互換的に使用される。アミノ酸には、20個の「標準の」遺伝子コード可能なアミノ酸、側鎖の生物学的修飾を伴う天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又はそれらの組み合わせが含まれ得る。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドを有する足場は、糖ポリペプチド足場を含む。好適な糖ポリペプチド足場の非限定的な例には、下記の実験のセクションに記載のものが挙げられる。
【0019】
本開示のSiglecアゴニストは、任意の好適な数のSiglecリガンドを含み得る。ある特定の実施形態では、本開示のSiglecアゴニストは、2~200個のSiglecリガンド、例えば、2~150、2~100、2~75、2~50、2~25、又は2~10個のSiglecリガンド、例えば、4~8個(例えば6個)のSiglecリガンドを含む。本開示のSiglecアゴニストは、単一のタイプのSiglecリガンドを含み得る。他の実施形態では、Siglecアゴニストは、2つ以上の異なるタイプのSiglecリガンド、例えば、同じSiglec又は2つ以上の異なるSiglecに結合するための複数の異なるタイプのSiglecリガンドを含む。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、特定のSiglecに対するリガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、特定のSiglecに対するリガンドのみを含む。この文脈における「のみ」とは、Siglecリガンドが特定のSiglecに対するリガンドのみを含むことを意味し、これらのリガンドには、特定のSiglecに対する選択的又は特異的なリガンドが含まれるが、これらに限定されない。「選択的」とは、リガンドが、例えば試料中及び/又はインビボで、1つ以上の他のSiglec(例えば他の全てのSiglec)への結合と比較して、特定のSiglecに優先的に結合することを意味する。ある特定の実施形態では、Siglecリガンドは、例えば、約104M-1又はそれを超える親和性あるいはKa(すなわち、特定の結合相互作用の1/Mの単位での会合速度定数)でSiglecに結合又は会合する場合に、特定のSiglecに対して「特異的」である。あるいは、親和性は、特定の結合相互作用のMの単位で平衡解離定数(KD)(例えば、10-5M~10-13M、又はそれ未満)として定義され得る。ある特定の態様では、特異的結合とは、Siglecリガンドが、約10-5M以下、約10-6M以下、約10-7M以下、約10-8M以下、又は約10-9M、10-10M、10-11M、若しくは10-12M以下のKDで特定のSiglecに結合することを意味する。Siglecに対するSiglecリガンドの結合親和性は、従来の技法を使用して、例えば、バイオレイヤー干渉法(BLI)(例えば、ForteBio製のOctet RED96デバイスを使用する)によって、競合的ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)によって、平衡透析によって、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、製造業者によって概説された一般手順を使用するBIAcore 2000又はBIAcore T200機器)を使用して、ラジオイムノアッセイによって、又は同様のものによって容易に決定することができる。
【0021】
本開示のSiglecアゴニストは、免疫抑制性Siglecリガンドを含み得る。本明細書で使用される場合、「免疫抑制性Siglecリガンド」とは、細胞質抑制性シグナル伝達ドメインを含むSiglecに対するリガンドであって、Siglecに対するリガンドによるそのSiglecの係合が該Siglecを発現する免疫細胞の活性を抑制する(例えば、抗炎症効果をもたらす)ものである。ある特定の実施形態では、本開示のSiglecアゴニストは、CD33関連Siglecに対するリガンドを含む、免疫抑制性Siglecリガンドを含み得る。CD33関連Siglecの例としては、Siglec-3(CD33)、Siglec-5、Siglec-6、Siglec-7、Siglec-8、Siglec-9、Siglec-10、Siglec-11、Siglec-14、及びSiglec-16が挙げられる。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-3リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-3リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-5リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-5リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-6リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-6リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-7リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-7リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-8リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-8リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-9リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-9リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-10リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-10リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-11リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-11リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-14リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-14リガンドのみを含む。いくつかの実施形態によれば、Siglecリガンドは、Siglec-16リガンドを含む。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-16リガンドのみを含む。ある特定の実施形態では、本開示のSiglecアゴニストは、Siglec-2(CD22)に対するリガンドを含む、免疫抑制性Siglecリガンドを含み得る。ある特定のかかる実施形態では、Siglecリガンドは、Siglec-2リガンドのみを含む。
【0022】
本開示のSiglecアゴニストにおいて使用され得る、目的とする1つ以上のSiglecへの結合のためのSiglecリガンド(例えば、シアロシド及び/又はそれらの類似体)が知られており、それらには、例えば、Courtney et al.(2009)Proc.Natl.Acad.Sci.106(8):2500-2505、Spence et al.(2015)Sci.Transl.Med.7(303):1-13、Perdicchio et al.(2016)Proc.Natl.Acad.Sci.113(12):3329-3334、Shahraz et al.(2015)Sci.Rep.5:1-17、Nycholat et al.(2019)J.Am.Chem.Soc.141(36):14032-14037、及びRillahan et al.(2012)Angew.Chemie-Int.Ed.51(44):11014-11018に記載のものが含まれ、これらの開示は全ての目的のために参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0023】
上で要約されるように、本開示のSiglecアゴニストは、膜繋留ドメインを含む。「膜繋留ドメイン」とは、該SiglecアゴニストによってシスでアゴナイズされるところのSiglecをその表面に発現する細胞(例えば、免疫細胞)の細胞膜と安定して会合することができるドメイン(例えば化学的部分(moiety))を意味する。ある特定の実施形態では、「安定して会合する」とは、会合の平均半減期が4℃のPBS中で1日以上である2つの実体間の物理的会合を意味する。いくつかの実施形態では、2つの実体間の物理的会合は、4℃のPBS中で1日以上、1週間以上、1ヶ月以上(6ヶ月以上、例えば、1年以上を含む)の平均半減期を有する。いくつかの実施形態によれば、安定した会合は、2つの実体間の共有結合、2つの実体間の非共有結合(例えば、イオン結合若しくは金属結合)、又は他の形態の化学的誘引力、例えば、水素結合、ファンデルワールス力などから生じる。
【0024】
好適な膜繋留ドメインには、細胞の原形質膜に挿入するように適合された化学的部分が含まれるが、これらに限定されない。原形質膜の基礎構造は、2つの水性コンパートメント間に安定した障壁を形成するリン脂質二重層である。動物細胞の原形質膜には、4つの主要なリン脂質(ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、及びスフィンゴミエリン)が含まれており、これらが合わさって、大半の膜中で脂質の半分以上を占めている。これらのリン脂質は、膜二重層の2つの半部分の間で非対称に分布している。原形質膜の外葉が主にホスファチジルコリン及びスフィンゴミエリンで構成されている一方で、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンは内葉の主なリン脂質である。第5のリン脂質であるホスファチジルイノシトールも原形質膜の内側半分に局在している。ホスファチジルイノシトールは量的に微量の膜成分であるが、細胞シグナル伝達において重要な役割を果たしている。ホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールの両方の頭部基は負に帯電しており、それ故に、内葉でのそれらの優位性により、原形質膜の細胞質面に正味の負電荷が生じる。ある特定の実施形態では、膜繋留ドメインは、ホモ二量体コイルドコイルタンパク質ドメイン又はマルチサブユニット繋留複合体(MTC)であり、Zhi et al.(2014)F1000Prime Rep.6:74に記載のものを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態によれば、膜繋留ドメインは、脂質膜繋留ドメインを含む。脂質膜繋留ドメインの非限定的な例には、下記の実験のセクションで用いられるものが挙げられる。
【0025】
好適な膜繋留ドメインには、細胞膜に安定して結合するように適合された化学的部分(それらの構成要素(例えば、膜貫通タンパク質などの膜付随タンパク質)を含む)も含まれる。ある特定の実施形態では、かかる化学的部分は、小分子を含む。「小分子」とは、1000原子質量単位(amu)以下の分子量を有する化合物を意味する。いくつかの実施形態によれば、小分子は、750amu以下、500amu以下、400amu以下、300amu以下、又は200amu以下である。ある特定の実施形態では、小分子は、ポリマー中に存在するような反復分子単位では作製されていない。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、細胞膜に安定して結合するように適合された化学的部分(それらの任意の構成要素を含む)は、抗体である。「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、任意のアイソタイプの抗体又は免疫グロブリン(例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)、IgE、IgD、IgA、IgMなど)、全抗体(例えば、四量体で構成される抗体であって、その四量体がさらに重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドの2つの二量体から構成されるもの);単鎖抗体;単鎖Fv(scFv)、Fab、(Fab’)2、(scFv’)2、及びダイアボディを含むがこれらに限定されない、標的細胞の細胞表面分子への特異的結合を保持する抗体の断片(例えば、全抗体又は単鎖抗体の断片);キメラ抗体;モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体(例えば、ヒト化全抗体、ヒト化半抗体、又はヒト化抗体断片)、及び抗体の抗原結合部分と非抗体タンパク質とを含む融合タンパク質を含む。
【0027】
ある特定の実施形態では、細胞膜に安定して結合するように適合された化学的部分は、細胞表面に発現する細胞表面分子(例えば、細胞表面受容体)に対するリガンドである。リガンドは、細胞の表面上で細胞表面分子と複合体を形成する循環因子、分泌因子、サイトカイン、成長因子、ホルモン、ペプチド、ポリペプチド、小分子、核酸などであり得る。いくつかの実施形態では、その化学的部分がリガンドである場合、リガンドは、細胞表面分子との複合体形成は起こるがかかる複合体形成の通常の生物学的結果は起こらないような態様で修飾されている。ある特定の実施形態では、リガンドは、標的細胞上に存在する細胞表面受容体のリガンドである。目的とする細胞表面受容体には、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、非受容体チロシンキナーゼ(非RTK)、成長因子受容体、サイトカイン受容体などが含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
いくつかの実施形態では、細胞膜に安定して結合するように適合された化学的部分(それらの構成要素を含む)は、アプタマーである。「アプタマー」とは、細胞表面分子に対して特異的結合親和性を有する核酸(例えば、オリゴヌクレオチド)を意味する。アプタマーは、選択及び合成の容易さ、高い結合親和性及び特異性、低い免疫原性、並びに万能な合成アクセス性などの、Siglecアゴニストの標的指向化送達のために望ましい特性を呈する。本開示のSiglecアゴニストでの使用が見出されるアプタマーには、Zhu et al.(2015)ChemMedChem 10(1):39-45、Sun et al.(2014)Mol.Ther.Nucleic Acids 3:e182、及びZhang et al.(2011)Curr.Med.Chem.18(27):4185-4194に記載のものが含まれる。
【0029】
ある特定の実施形態によれば、細胞膜に安定して結合するように適合された化学的部分(それらの任意の構成要素を含む)は、ナノ粒子である。本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」とは、1nm~1000nm、20nm~750nm、50nm~500nm(100nm~300nm、例えば、120~200nmを含む)の範囲内の少なくとも1つの寸法を有する粒子である。ナノ粒子は、球状、回転楕円体、棒形状、円盤形状、錐体形状、立方体形状、円筒形状、ナノ螺旋形状、ナノスプリング形状、ナノリング形状、矢印形状、涙滴形状、テトラポッド形状、プリズム形状、又は任意の他の好適な幾何学的形状若しくは非幾何学的形状を含むが、これらに限定されない任意の好適な形状を有し得る。ある特定の態様では、ナノ粒子は、その表面に、本明細書に記載の他の化学的部分、例えば、抗体、リガンド、アプタマー、小分子などのうちの1つ以上を含む。本開示のSiglecアゴニストでの使用が見出されるナノ粒子には、Wang et al.(2010)Pharmacol.Res.62(2):90-99、Rao et al.(2015)ACS Nano 9(6):5725-5740、及びByrne et al.(2008)Adv.Drug Deliv.Rev.60(15):1615-1626に記載のものが含まれる。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、本開示のSiglecアゴニストは、下記の実験のセクションに記載のシス結合Siglecアゴニストのうちのいずれかのものから独立して選択される、ポリマー足場、Siglecリガンド、膜繋留ドメイン、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0031】
本開示のSiglecアゴニストは、例えば、インビボ造影剤、放射性同位体、検出可能な生成物を生成する酵素、蛍光タンパク質などで検出可能に標識され得る。Siglecアゴニストは、特異的結合対のメンバー、例えば、ビオチン(ビオチン-アビジン特異的結合対のメンバー)などの他の化学的部分に更にコンジュゲートされ得る。
【0032】
シス結合Siglecアゴニスト(例えば、本開示のシス結合Siglecアゴニストのうちのいずれか)を作製する方法も提供される。ある特定の実施形態では、かかる方法は、末端に膜繋留ドメインを含むポリマー足場を合成することと、Siglecリガンドをポリマー足場のサブユニットに結合させることとを含む。いくつかの実施形態によれば、結合させることは、ポリマー足場のサブユニットをシアリル化することを含む。ポリマー足場を合成し、かつSiglecリガンドをかかるポリマー足場のサブユニットに結合させるのに好適な様々なアプローチが利用可能である。かかるアプローチの非限定的な例には、下記の実験のセクションで用いられるものが含まれる。
【0033】
組成物
本開示は、本開示のシス結合Siglecアゴニストのうちの1つ又はそれらの任意の組み合わせを含む組成物も提供する。
【0034】
ある特定の態様では、本開示の組成物は、液状媒体中に存在する本開示のシス結合Siglecアゴニストを含む。液状媒体は、水、緩衝溶液などの水性液状媒体であり得る。1つ以上の添加物、例えば、塩(例えば、NaCl、MgCl2、KCl、MgSO4)、緩衝剤(トリス緩衝液、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、2-(N-モルホリノ)スルホン酸ナトリウム塩(MES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)など)、可溶化剤、洗剤(例えば、Tween-20などの非イオン性洗剤)、ヌクレアーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、グリセロール、キレート剤などがかかる組成物中に存在し得る。
【0035】
本開示の態様は、医薬組成物を更に含む。いくつかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、本開示のシス結合Siglecアゴニストと、薬学的に許容される担体とを含む。
【0036】
本開示のSiglecアゴニストは、治療的投与用の様々な製剤に組み込むことができる。より具体的には、Siglecアゴニストは、適切な薬学的に許容される賦形剤又は希釈剤と組み合わせることによって医薬組成物に製剤化することができ、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、軟膏剤、溶液、注射液、吸入剤、及びエアロゾルなどの固体、半固体、液体、又は気体形態で調製物に製剤化されてもよい。
【0037】
個体への投与用の(例えば、ヒト投与に好適な)Siglecアゴニストの製剤は概して無菌であり、更に、検出可能な発熱物質、又は選択された投与経路による患者への投与に禁忌である他の混入物を含んでいない状態であり得る。
【0038】
医薬剤形では、Siglecアゴニストは、それらの薬学的に許容される塩の形態で投与され得、単独で、又は他の薬学的に活性な化合物に適切に付随して、あるいは組み合わされても使用され得る。以下の方法及び担体/賦形剤は単なる例であり、決して限定するものではない。
【0039】
経口調製物の場合、Siglecアゴニストは、単独で、又は錠剤、粉末剤、顆粒剤、若しくはカプセル剤を作製するのに適切な添加物、例えば、ラクトース、マンニトール、トウモロコシデンプン、若しくはジャガイモデンプンなどの従来の添加物、結晶セルロース、セルロール誘導体、アカシア、トウモロコシデンプン、若しくはゼラチンなどの結合剤、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、若しくはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの粉砕剤、滑石若しくはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、並びに所望の場合、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、及び香味剤と組み合わせて使用することができる。
【0040】
Siglecアゴニストは、非経口(例えば、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、脳内、脳室内、髄腔内、皮下など)投与用に製剤化することができる。ある特定の態様では、Siglecアゴニストは、水性若しくは非水性溶媒、例えば、植物油若しくは他の同様の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸エステル若しくはプロピレングリコールエステル中に、Siglecアゴニストを溶解する、懸濁する、又は乳化することによって、かつ所望の場合、可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤、及び防腐剤などの従来の添加物を用いて、注射用に製剤化される。
【0041】
Siglecアゴニストを含む医薬組成物は、所望の純度を有するSiglecアゴニストを任意選択的な生理学的に許容される担体、賦形剤、安定剤、界面活性剤、緩衝剤、及び/又は等張化剤と混合することによって調製することができる。許容される担体、賦形剤、及び/又は安定剤は、用いられる投薬量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、これらには、緩衝剤(リン酸、クエン酸、及び他の有機酸など)、抗酸化剤(アスコルビン酸、グルタチオン、システイン、メチオニン、及びクエン酸を含む)、防腐剤(エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、メチル若しくはプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、又はそれらの組み合わせなど)、アミノ酸(アルギニン、グリシン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、プロリン、及びそれらの組み合わせなど)、単糖、二糖、及び他の炭水化物、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質(ゼラチン又は血清アルブミンなど)、キレート剤(EDTAなど)、糖(トレハロース、スクロース、ラクトース、グルコース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フラクトース、ソルボース、ラフィノース、グルコサミン、N-メチルグルコサミン、ガラクトサミン、及びノイラミン酸など)、及び/又は非イオン性界面活性剤(Tween、Brij Pluronics、Triton-X、又はポリエチレングリコール(PEG)など)が含まれる。
【0042】
本医薬組成物は、液体形態、凍結乾燥形態、又は凍結乾燥形態から再構成される液体形態であってもよく、凍結乾燥調製物は投与前に滅菌溶液で再構成されるものである。凍結乾燥組成物を再構成するための標準手順は、ある体積の純水(典型的には、凍結乾燥中に除去された体積と同等である)を戻し添加することであるが、抗菌剤を含む溶液が非経口投与用の医薬組成物の産生のために使用されてもよい。
【0043】
Siglecアゴニストの水性製剤は、例えば、約4.0~約7.0の範囲、又は約5.0~約6.0の範囲、又はあるいは約5.5のpHで、pH緩衝溶液中で調製することができる。この範囲内のpHに好適な緩衝剤の例には、リン酸緩衝剤、ヒスチジ緩衝剤、クエン酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、及び他の有機酸緩衝剤が挙げられる。緩衝剤の濃度は、例えば、緩衝剤及び製剤の所望の張度に応じて、約1mM~約100mM、又は約5mM~約50mMとすることができる。
【0044】
製剤の張度を調節するために、等張化剤を製剤に含めてもよい。例示的な等張化剤には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、並びにアミノ酸の群からの任意の成分、糖、及びそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、水性製剤は等張性であるが、高張溶液又は低張溶液も好適となり得る。「等張性」という用語は、生理食塩水又は血清などの比較される他の溶液と同じ張度を有する溶液を意味する。等張化剤は、約5mM~約350mMの量、例えば、100mM~350mMの量で使用され得る。
【0045】
界面活性剤を製剤に添加して、凝集を減少させる、及び/又は製剤中の微粒子の形成を最小限に抑える、及び/又は吸着を減少させることもできる。界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij)、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(Triton-X)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(Poloxamer、Pluronic)、及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。好適なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの例は、ポリソルベート20(Tween 20(商標)の商標名で販売されている)及びポリソルベート80(Tween 80(商標)の商標名で販売されている)である。好適なポリエチレン-ポリプロピレンコポリマーの例は、Pluronic(登録商標)F68又はPoloxamer 188(商標)の名称で販売されているものである。好適なポリオキシエチレンアルキルエーテルの例は、Brij(商標)の商標名で販売されているものである。界面活性剤の濃度の例は、約0.001%~約1%(w/v)の範囲であり得る。
【0046】
凍結乾燥保護剤を添加して、凍結乾燥プロセス中の不安定条件からSiglecアゴニストを保護することもできる。例えば、既知の凍結乾燥保護剤には、糖(グルコース及びスクロースを含む)、ポリオール(マンニトール、ソルビトール及びグリセロールを含む)、及びアミノ酸(アラニン、グリシン、及びグルタミン酸を含む)が挙げられる。凍結乾燥保護剤は、約10mM~500nMの量で含まれ得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、本医薬組成物は、Siglecアゴニストと、上で特定された成分(例えば、界面活性剤、緩衝剤、安定剤、等張化剤)のうちの1つ以上とを含み、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、メチル又はプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、及びそれらの組み合わせなどの1つ以上の防腐剤を本質的に含まない。他の実施形態では、防腐剤は、例えば、約0.001~約2%(w/v)の濃度で、製剤中に含まれる。
【0048】
方法
本開示は、本開示のシス結合Siglecアゴニストを使用する方法も提供する。ある特定の実施形態では、Siglec活性をアゴナイズする方法であって、Siglecを発現する細胞を、本開示のSiglecアゴニストのうちのいずれかと、膜繋留ドメインが細胞膜に挿入されかつSiglecリガンドが該細胞によって発現される1つ以上のSiglecにシスで結合する条件下で接触させることを含む、方法が提供される。一例として、本方法は、SiglecアゴニストがSiglec-9リガンドを含む、Siglec-9活性をアゴナイズする方法であり得る。いくつかの実施形態によれば、本開示の方法は、インビトロで行われる。
【0049】
ある特定の実施形態では、本方法は、インビボで行われる。例えば、Siglec活性のアゴナイズを必要とする個体におけるSiglec活性をアゴナイズする方法であって、個体に、有効量の本開示のSiglecアゴニストのうちのいずれかを投与することを含む、方法が提供される。「有効量」又は「治療有効量」とは、所望の結果をもたらすのに十分な投薬量、例えば、対照と比較して免疫細胞(例えば、マクロファージ)活性に起因する症状の軽減などの有益な又は所望の治療結果(予防結果を含む)をもたらすのに十分な量を意味する。有効量は、1回以上の投与で投与することができる。
【0050】
いくつかの実施形態によれば、個体は、免疫細胞反応性の抑制を必要とする個体であり、Siglecリガンドは、免疫抑制性Siglecリガンド、例えば、本明細書の他の箇所に記載の免疫抑制性Siglecリガンドのうちのいずれかのうちの1つ以上、例えば、1つ以上のCD33関連Siglec(例えば、Siglec-9)に対するリガンド、Siglec-2に対するリガンド、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0051】
ある特定の実施形態では、個体は、炎症性疾患を有する個体であり、Siglecアゴニストは、炎症性疾患を治療するのに有効な量で個体に投与される。「治療する」又は「治療」とは、個体の炎症性疾患に関連する1つ以上の症状の少なくとも改善を意味し、ここで、改善は、治療される炎症性疾患に関連するパラメータ(例えば症状)の規模の少なくとも減少を指すために広義で使用される。したがって、治療は、個体が炎症性疾患又は少なくともそれを特徴付ける症状に苦しまないように、炎症性疾患又はそれに関連する少なくとも1つ以上の症状が完全に抑制される、例えば、発症が防がれる、又は食い止められる、例えば、終結する状況も含む。
【0052】
本方法に従って治療され得る炎症性疾患の非限定的な例には、加齢性黄斑変性症、好中球急性呼吸窮迫症候群、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、好酸球性胃腸炎、アレルギー、喘息、自己免疫疾患、セリアック病、糸球体腎炎、肝炎、炎症性腸疾患、前灌流傷害(preperfusion injury)、移植片拒絶反応、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0053】
本医薬組成物は、様々な個体のうちのいずれかに投与され得る。ある特定の態様では、個体は、「哺乳動物」又は「哺乳類」であり、ここで、これらの用語は、肉食動物(例えば、イヌ及びネコ)、齧歯類(例えば、マウス、モルモット、及びラット)、及び霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー、及びサル)を含む哺乳綱内の生物を説明するために広範に使用される。いくつかの実施形態では、個体は、ヒトである。ある特定の態様では、個体は、免疫細胞反応性を特徴とする状態(例えば炎症性疾患)の動物モデル(例えば、マウスモデル、霊長類モデルなど)である。
【0054】
いくつかの実施形態では、シス結合Siglecアゴニストの有効量(例えば、それを含む医薬組成物中に存在する)は、単独で(例えば、単剤療法において)又は1つ以上の追加の治療剤と組み合わせて(例えば、併用療法において)、1回以上の用量で投与されたときに、個体における免疫細胞反応性を特徴とする状態(例えば、炎症性疾患)の症状を、Siglecアゴニストでの治療の不在下での個体の症状と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又はそれ以上軽減するのに有効な量である。
【0055】
投薬は、治療される免疫細胞反応性を特徴とする状態(例えば、炎症性疾患)の重症度及び応答性に依存する。最適な投薬スケジュールは、個体の体内におけるSiglecアゴニスト蓄積の測定値から計算することができる。投与担当医師は、最適な投薬量、投与方法、及び反復速度を決定することができる。最適な投薬量は、個々のSiglecアゴニストの相対効力に応じて変化し得、一般に、インビトロ及びインビボ動物モデルなどにおいて有効であると見出されたEC50に基づいて推定することができる。一般に、投薬量は、体重1kg当たり0.01μg~100gであり、1日1回以上、週1回以上、月1回以上、又は年1回以上投与され得る。治療担当医師は、測定された滞留時間及び体液又は組織中のSiglecアゴニストの濃度に基づいて投薬反復速度を推定することができる。治療が成功した後、疾患状態の再発を防ぐために個体に維持療法を受けさせることが望ましい場合があり、この場合、Siglecアゴニストは、体重1kg当たり0.01μg~100gの範囲の維持用量で、1日1回以上~数ヶ月に1回、6ヶ月に1回、年1回、又は任意の他の好適な頻度で投与される。
【0056】
本開示の治療方法は、個体に1種類のSiglecアゴニストを投与することを含み得、又は別個の投与若しくは異なるSiglecアゴニストのカクテルの投与により2つ以上の種類のSiglecアゴニストを投与することを含み得る。
【0057】
本開示のSiglecアゴニストは、インビボ及びエクスビボ法を含む薬物送達に好適な任意の利用可能な方法及び経路、並びに全身及び局所投与経路を使用して個体に投与され得る。従来の薬学的に許容される投与経路には、鼻腔内、筋肉内、気管内、皮下、皮内、局所適用、眼内、静脈内、動脈内、経口、並びに他の腸内及び非経口投与経路が含まれる。投与経路は、所望に応じて組み合わされてもよく、又は特定のSiglecアゴニスト及び/若しくは所望の効果に応じて調整されてもよい。Siglecアゴニストは、単回投与又は複数回投与で投与され得る。いくつかの実施形態では、Siglecアゴニストは、非経口投与、例えば、静脈内投与、動脈内投与、又は同様の様式で投与される。いくつかの実施形態では、Siglecアゴニストは、例えば、全身送達(例えば、静脈内注入)のために注射により投与されるか、又は局所部位、例えば、局所炎症部位に投与される。
【0058】
キット
上で要約されるように、本開示は、キットも提供する。本キットは、例えば、本開示の方法の実施での使用が見出される。いくつかの実施形態によれば、本キットは、本開示の医薬組成物のうちのいずれかと、それを必要とする個体に有効量の医薬組成物を投与するための説明書とを含む。いくつかの実施形態によれば、本開示のキットは、免疫抑制性Siglecリガンドを含むシス結合Siglecアゴニストを含む医薬組成物を含む。かかるキットは、免疫細胞反応性の抑制を必要とする個体に有効量の医薬組成物を投与するための説明書を含み得る。かかるキットは、炎症性疾患を有する個体に有効量の医薬組成物を投与するための説明書を含み得、炎症性疾患の非限定的な例には、加齢性黄斑変性症、好中球急性呼吸窮迫症候群、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、好酸球性胃腸炎、アレルギー、喘息、自己免疫疾患、セリアック病、糸球体腎炎、肝炎、炎症性腸疾患、前灌流傷害、移植片拒絶反応、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0059】
本キットは、単位投薬量、例えば、アンプル、又は複数回投薬形式で存在するある量の本組成物を含み得る。したがって、ある特定の実施形態では、本キットは、本開示のSiglecアゴニストを含む組成物の1つ以上(例えば、2つ以上)の単位投薬量(例えば、アンプル)を含み得る。「単位投薬量」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト及び動物対象に好適な単位投薬量として物理的に別個の単位を指し、これらの単位は各々、所望の効果をもたらすのに十分な量で計算された所定量の本組成物を含む。単位投薬量の量は、対象において用いられる特定のSiglecアゴニスト、達成されるべき効果、及びSiglecアゴニストに関連する薬力学などの様々な要因に依存する。なお他の実施形態では、本キットは、単一の複数回投薬量の本組成物を含み得る。
【0060】
本キットの構成要素は別個の容器内に存在してもよく、又は複数の構成要素が単一の容器内に存在してもよい。好適な容器には、単一チューブ(例えば、バイアル)、アンプル、1つ以上のウェルのプレート(例えば、96ウェルプレート、384ウェルプレートなど)などが挙げられる。
【0061】
本キットに含まれる説明書(例えば、使用説明書(IFU))は、好適な記録媒体に記録され得る。例えば、本説明書は、紙又はプラスチックなどの基材上に印刷されてもよい。したがって、本説明書は、添付文書として本キット、本キットの容器又はその構成要素(すなわち、包装又は部分包装に関連するもの)のラベルなどに存在し得る。他の実施形態では、本説明書は、好適なコンピューター可読記憶媒体、例えば、携帯用フラッシュドライブ、DVD、CD-ROM、ディスケットなどに存在する電子記憶データファイルとして存在する。なお他の実施形態では、実際の説明書は本キットに存在しないが、遠隔ソースから、例えば、インターネットを経由して本説明書を入手するための手段が提供される。この実施形態の一例は、本説明書を閲覧することができるウェブアドレス及び/又は本説明書をダウンロードすることができるウェブアドレスを含むキットである。本説明書と同様に、本説明書を入手するための手段は、好適な基材上に記録される。
【0062】
添付の特許請求の範囲にかかわらず、本開示は、以下の実施形態によっても定義される。
1. Siglecリガンドを有する足場と、
膜繋留ドメインと、
を含む、シス結合Siglecアゴニスト。
2. 前記Siglecリガンドを有する足場がポリマー足場を含む、実施形態1に記載のSiglecアゴニスト。
3. 前記Siglecリガンドを有する足場が糖ポリペプチド足場を含む、実施形態2に記載のSiglecアゴニスト。
4. 前記足場が2~50個のSiglecリガンドを含む、実施形態1~3のいずれか一項に記載のSiglecアゴニスト。
5. 前記足場が2~10個のSiglecリガンドを含む、実施形態4に記載のSiglecアゴニスト。
6. 前記Siglecリガンドが免疫抑制性Siglecリガンドを含む、実施形態1~5のいずれか一項に記載のSiglecアゴニスト。
7. 前記Siglecリガンドが1つ以上のCD33関連Siglecに対するリガンドを含む、実施形態6に記載のSiglecアゴニスト。
8. 前記SiglecリガンドがSiglec-9リガンドを含む、実施形態7に記載のSiglecアゴニスト。
9. 前記SiglecリガンドがSiglec-9リガンドのみを含む、実施形態8に記載のSiglecアゴニスト。
10. 前記SiglecリガンドがSiglec-7リガンドを含む、実施形態7に記載のSiglecアゴニスト。
11. 前記SiglecリガンドがSiglec-7リガンドのみを含む、実施形態10に記載のSiglecアゴニスト。
12. 前記膜繋留ドメインが脂質膜繋留ドメインを含む、実施形態1~5のいずれか一項に記載のSiglecアゴニスト。
13. 液状媒体中に存在する実施形態1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストを含む、組成物。
14. 凍結乾燥形態で存在する実施形態1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストを含む、組成物。
15. 実施形態1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストと、
薬学的に許容される担体と、
を含む、医薬組成物。
16. 前記組成物が非経口投与用に製剤化されている、実施形態15に記載の医薬組成物。
17. 前記組成物が静脈内投与用に製剤化されている、実施形態16に記載の医薬組成物。
18. Siglec活性をアゴナイズする方法であって、Siglecを発現する細胞を、実施形態1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストと、前記膜繋留ドメインが細胞膜に挿入されかつ前記Siglecリガンドが前記細胞によって発現される1つ以上のSiglecにシスで結合する条件下で接触させることを含む、方法。
19. 前記方法がインビトロで行われる、実施形態18に記載の方法。
20. 前記方法がインビボで行われる、実施形態18に記載の方法。
21. 前記方法はSiglec-9活性をアゴナイズする方法であり、前記SiglecアゴニストがSiglec-9リガンドを含む、実施形態18~20のいずれか一項に記載の方法。
22. Siglec活性のアゴナイズを必要とする個体においてSiglec活性をアゴナイズする方法であって、前記個体に、実施形態1~12のいずれか一項に記載のSiglecアゴニストの有効量を投与することを含む、方法。
23. 前記個体は免疫細胞反応性の抑制を必要とする個体であり、前記Siglecリガンドが免疫抑制性Siglecリガンドを含む、実施形態22に記載の方法。
24. 前記個体が炎症性疾患を有する個体であり、前記Siglecアゴニストが前記炎症性疾患を治療するのに有効な量で前記個体に投与される、実施形態22又は23に記載の方法。
25. 前記個体が、加齢性黄斑変性症、好中球急性呼吸窮迫症候群、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、好酸球性胃腸炎、アレルギー、喘息、自己免疫疾患、セリアック病、糸球体腎炎、肝炎、炎症性腸疾患、前灌流傷害、移植片拒絶反応、及びそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される炎症性疾患を有する、実施形態24に記載の方法。
26. 前記個体はウイルス感染を有する個体である、実施形態22又は23に記載の方法。
27. 前記ウイルス感染がコロナウイルス感染である、実施形態26に記載の方法。
28. 前記コロナウイルス感染がSARS-CoV-2感染である、実施形態27に記載の方法。
29. 前記Siglecアゴニストが前記個体における好中球活性化を阻害する、実施形態22~28のいずれか一項に記載の方法。
30. 前記Siglecアゴニストが前記個体におけるNETosisを阻害する、実施形態22~29のいずれか一項に記載の方法。
31. 前記Siglecリガンドが1つ以上のCD33関連Siglecに対するリガンドを含む、実施形態22~30のいずれか一項に記載の方法。
32. 前記SiglecリガンドがSiglec-9リガンドを含む、実施形態31に記載の方法。
33. 前記SiglecリガンドがSiglec-9リガンドのみを含む、実施形態32に記載の方法。
34. 前記SiglecリガンドがSiglec-7リガンドを含む、実施形態31に記載の方法。
35. 前記SiglecリガンドがSiglec-7リガンドのみを含む、実施形態34に記載の方法。
36. 実施形態15~17のいずれか一項に記載の医薬組成物と、
前記医薬組成物の有効量を、それを必要とする個体に投与するための説明書と、
を含む、キット。
37. 前記Siglecリガンドが免疫抑制性Siglecリガンドを含む、実施形態36に記載のキット。
38. 前記説明書が、前記医薬組成物の有効量を、免疫細胞反応性の抑制を必要とする個体に投与するためのものである、実施形態37に記載のキット。
39. シス結合Siglecアゴニストを作製する方法であって、
末端に膜繋留ドメインを含むポリマー足場を合成することと、
Siglecリガンドを前記ポリマー足場のサブユニットに結合させることと、
を含む、方法。
40. 前記結合させることは、前記ポリマー足場のサブユニットをシアリル化することを含む、実施形態39に記載の方法。
以下の実施例は、限定するものではなく、例証として提供される。
【実施例】
【0063】
実験
実施例1 ― N-カルボキシ無水物重合による糖ポリペプチド合成
Siglecに対するバイオミメティックシスリガンドの設計は、天然Siglecリガンドである、高度にグリコシル化されたポリペプチドであるムチンからインスピレーションを得たものであった。糖ポリペプチド骨格を構築するために、N-カルボキシ無水物(NCA)重合プラットフォームを用いた。脂質繋留開始剤を使用してNCA単量体を重合して、細胞膜に自発的に挿入される脂質繋留ポリペプチドを得た。糖ポリペプチドの足場を精巧に作り上げる(elaborate)ために、我々は、以前に使用された、Chenと共同研究者らによる酵素法(Angew.Chemie-Int.Ed.2006,45(24),3938-3944)(Membrane-Tethered Mucin-like Polypeptides Sterically Inhibit Binding and Slow Fusion Kinetics of Influenza A Virus.ChemRxiv 2019)を、高い親和性と選択性で個別のSiglecに結合することがPaulsonと共同研究者らによって以前に報告されたシアル酸類似体(Angew.Chemie-Int.Ed.2012,51(44),11014-11018)と組み合わせた。かかる脂質連結型シアロ糖ポリペプチドが細胞膜に挿入されてシス結合を介して隣接するSiglec受容体をクラスター化させるかどうかをここで評価した。
【0064】
糖ポリペプチド足場を、アラニンNCA 1とO-β-ペルアセチルラクトースセリンNCA 2との等モル混合物の重合によって合成した(
図2)。重合は、Ni(0)複合体を用いて開始して可溶性糖ポリペプチドを得たか、またはNi(0)を脂質コンジュゲートN-アリルカルボキシロイシンアミドと事前に複合体化 して活性化Ni(II)開始剤複合体3を形成することによって開始したかのいずれかであった。脂質コンジュゲート開始剤により、ポリペプチド上にC末端コンジュゲート脂質がもたらされる。重合後、炭水化物をヒドラジンで脱保護して、それぞれ、O-ラクトシル糖ポリペプチドpLac-sol又はpLac-脂質を得た。
【0065】
ワンポットマルチ酵素系を使用して、共通のpLac前駆体を、N-アセチルノイラミン酸で(pSiaの場合)、9-N-プロパルギルカルボキシN-アセチルノイラミン酸で(pS7Lの場合)、又はピルビン酸ナトリウム及びノイラミン酸アルドラーゼとともにN-プロパルギルカルボキシマンノサミン 4で(pS9Lの場合、
図2)α-2,6-シアリル化した。酵素で精巧に作り上げた後、アダマンチルアジド(pS7Lの場合)又はベンズヒドリルアジド(pS9Lの場合)のいずれかを使用したHuisgen環化付加によって高親和性Siglecリガンドを合成した。これにより、C末端脂質又は可溶性基のいずれかと、遊離N末端と、末端高親和性Siglecリガンドを有するグリカンとを有する糖ポリペプチドを得た。最後に、市販のビオチン又はAlexaFluor NHSエステルでポリペプチドをN末端標識した(方法)。
【0066】
実施例2 ― pS9L-脂質は細胞膜に挿入され、Siglec-9にシス結合する
一連のN末端標識シアリル化糖ポリペプチドを、共通の前駆体pLac-脂質又はpLac-solから構築した(
図3、パネルA)。組換え可溶性Siglec-Fc融合タンパク質への該構築物の結合を、インビトロ及び細胞表面上で試験した。インビトロ結合の場合、N末端ビオチン化脂質フリー糖ポリペプチドを、ストレプトアビジンをコーティングしたチップに固定化し、Siglec-Fc融合タンパク質溶液に浸漬した。各糖ポリペプチドはその同族Siglec受容体に特異的に結合した(
図3、パネルB)。例えば、pS9Lは高親和性でSiglec-9-Fcに結合したが、試験したいずれの他の糖ポリペプチドも結合しなかった(
図3、パネルB)。脂質連結型バージョンを細胞膜に挿入し、細胞を組換えSiglec-9-Fcで染色した場合にも、同様の特異性が観察された(
図3、パネルC)。様々な糖ポリペプチドの挿入間で実質的な差はなかった。シアル酸結合喪失の変異体である、Siglec-9の変異R120Aは、インビトロ実験及びフロー実験の両方で観察された効果を無効にし、SNAでの染色では、いずれの構造でも結合の増加が見られなかった。
【0067】
脂質繋留糖ポリペプチドがSiglecとシス会合するかを決定するために、AlexaFluor 555ドナーフルオロフォアでN末端標識された脂質連結型糖ポリペプチドのフルオロフォアと、AlexaFluor 647アクセプターにコンジュゲートされた抗Siglec抗体のフルオロフォアとの間のフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)を測定した(
図4、パネルA)。ドナーフルオロフォアを535nmレーザーで励起させ、蛍光を555nm及び647nmの両方の発光波長で検出した。FRETシグナルを、アクセプター蛍光強度とドナー蛍光強度の合計に対するアクセプター蛍光強度の比である、相対的効率(E
rel)として知られるFRET効率の簡易化バージョンを使用して定量した。
【0068】
糖ポリペプチドの特異性を、Siglec-9発現細胞でpS9L-脂質及びpS7L-脂質を使用して分析し(
図4、パネルB及びD)、Siglec特異性を、Siglec-9又はSiglec-7発現細胞でpS9L-脂質を使用して分析した(
図4、パネルC及びE)。印象深いことに、相対的FRET効率の劇的な増加が、pS9L-脂質をSiglec-9と組み合わせた場合にのみ観察されたが、ミスマッチの場合は観察されなかった。更に、Siglec-9/pS9L-脂質の場合には、強烈な点(puncta)が観察された。抗体結合親和性又は抗体/フルオロフォア比における違いを勘案するために、単色対照と比較した、FRETの場合のアクセプターフルオロフォア発光の強度も決定した。Siglec-9/pS9L-脂質のFRETとアクセプターのみ対照との間ではアクセプター発光強度の実質的な増加が観察されたが、Siglec-7/pS9L-脂質では観察されなかった。
【0069】
実施例3 ― シス結合糖ポリペプチドは、Siglec-9発現細胞においてTLR4誘導性NF-κB活性を阻害する
膜繋留糖ポリペプチドが炎症性シグナル伝達に及ぼす影響を調べるために、HEKBlue hTLR4レポーターアッセイに基づいてSiglec活性のレポーター系を開発した。CD33関連SiglecがトランスジェニックHEK細胞においてhTLR4を調節することが以前に示されている。このレポーター株では、LPS誘導によるTLR4シグナル伝達が、上清に分泌されるアルカリホスファターゼ(SEAP)のNF-κB転写を開始する。NF-κB活性は、比色アッセイにおけるSEAP活性と相関している。これらの細胞にSiglec発現ベクターをトランスフェクトすることによってこのアッセイを改変した(
図5、パネルA)。このアッセイを、Siglec-9発現HEKBlue細胞を、抗Siglec-9をコーティングしたプレートにプレーティングして、Siglec-9シグナル伝達に関与させることによって検証した。ビヒクルで処理したプレート又はアイソタイプをコーティングしたプレートと比較して活性の実質的な減少が観察された(
図5、パネルB)。
【0070】
HEKBlue細胞にSiglec-9をトランスフェクトし、糖ポリペプチド(1μM)でコーティングした後、LPSで刺激した。相対的NF-κB活性の減少が、シス結合pS9L-脂質によって観察されたが、可溶性トランス結合pS9L-sol(
図5、パネルC)又は他の脂質繋留糖ポリペプチドでは観察されなかった。
【0071】
pS9L-脂質のSiglec特異性を試験するために、HEKBlue細胞にSiglec-9、Siglec-7、又は偽(mock)ベクターをトランスフェクトし、pS9L-脂質(1μM)でコーティングした後、LPSで刺激した。細胞がSiglec-9を発現する場合にのみ、ビヒクルで処理した細胞と比較してpS9L-脂質はNF-κB活性を阻害することが観察された(
図5、パネルD)。ITIM/ISIMドメインのチロシンリン酸化を防ぐR120Aの変異又はY433/456Fの二重変異体を有するSiglec-9構築物のトランスフェクションにより、pS9L-脂質に応答したNF-κB活性はレスキューされた(
図5、パネルE)。
【0072】
実施例4 ― トランス結合ではなくシス結合pS9LがマクロファージにおいてMAPKシグナル伝達を阻害する
炎症性疾患においてSiglec-9を発現する病理学的に関連する細胞型は、主にマクロファージ系統のものである。THP-1細胞は不死化単球株であり、可塑性であり、マクロファージ生物学の研究に使用されてきた。THP-1単球を、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテートを使用してSiglec-9
+マクロファージに分化し、これらのマクロファージを使用して、pS9L-脂質の効果及び作用機序を調査した。低シアリルTHP-1マクロファージを、過炎症性食細胞の低シアリル化を再現する活性を有効にするために以前に使用された低シアリル化に匹敵する、過炎症性マクロファージのモデルとして使用した。このモデルが、天然シスリガンドの交絡的効果をデコンボリューションし、pS9L-脂質シグナル伝達経路の単離を可能にするかを評価した。細胞を糖ポリペプチドでコーティングし、LPSで刺激して又は刺激せずにそれらを分析することにより、可溶性トランス結合pS9L-solの効果及び膜繋留シス結合pS9L-脂質の効果をビヒクル処理細胞と比較した。初期シグナル伝達カスケードを、定量的ホスホプロテオミクスを使用して分析し、より後の時点ではこの技法をサイトカイン定量化で補足した(
図6、パネルA)。
【0073】
細胞のサイトカイン産生を、6つの炎症性ヒトサイトカインの多重サイトメトリービーズアッセイを使用して分析した。マクロファージを糖ポリペプチド(200nM)で前処理し、その後、ビヒクル又はLPSのいずれかで18時間刺激した。上清の試料を採取し、サイトカイン含有量についてアッセイした。シス結合pS9L-脂質で処理した場合、IL-1β、IL-8、及びTNFαの顕著な減少が観察されたが、トランス結合可溶性類似体pS9L-solでは観察されなかった(
図6、パネルB)。IL-10及びIL-12p70は、このアッセイの検出限界未満(20pg/mL未満)であった。
【0074】
同様のプロトコルを使用して、ホスホプロテオームの変化を、糖ポリペプチドのローディング又はLPSでの5分間の刺激のいずれかを行った後の溶解物から分析した(
図6、パネルC~E)。刺激していないマクロファージでは、最小限の変化しか観察されなかった。LPSで刺激した細胞がシス結合pS9L-脂質で前処理された場合、リン酸化の劇的な変化が観察されたが、pS9L-sol又はpLac-脂質では観察されなかった。注目すべきことに、MAPKシグナル伝達の活性の低下と相関するリン酸化が観察された。SH2ドメイン含有タンパク質(例えば、SHIP2及びPTN7)の差次的リン酸化も観察された。ウエスタンブロットによるIκBの総タンパク質のリン酸化の分析によって下流MAPKシグナル伝達を検証した(
図6、パネルF)。pS9L-脂質は、pS9L-solと比較して、より多い総IκB、及び、IκB分解をシグナル伝達する部位(S32/36)でのより低いIκBリン酸化の両方を有することが見出された。Siglec-9上のホスホチロシンの差次的リン酸化は、アッセイしたいずれの時点でも観察されなかった。
【0075】
実施例5 ― Siglec-9及びSiglec-Eのシスリガンドは、マクロファージ及びミクログリアによる食作用を阻害する
Siglec受容体の係合が食作用を阻害することが示されている。この実施例では、pS9L-脂質がSiglec-9を介して食作用を阻害することができるかを評価した。これを、顕微鏡を用いて低pHで蛍光がオンになる(pHrodo red)ビーズの食作用を監視することによって調査した(
図7、パネルA及びB)。
【0076】
食作用の初期速度を、複数のエフェクター:標的(E:T)比で分析した(
図7、パネルC)。pS9L-脂質を、その可溶性類似体(pS9L-sol)、不活性ラクトースのみを有する糖バリアント(pLac-脂質)、及び未処理の細胞と比較して、pS9Lグリカン結合の潜在的な相互作用又は脂質挿入によって引き起こされる非特異的効果を分析した。糖ポリペプチドを野生型THP-1マクロファージにロードした後(200nM)、様々な量の標的pHrodo標識ビーズを添加した。その後、標的を添加した直後及びその1時間後に顕微鏡を用いて食作用を監視して、食作用の初期速度を決定した。1試料当たり3つのウェルで1ウェル当たり5つの画像上で観察された、バックグラウンド閾値を超える蛍光の面積として食作用を定量した。pS9L-脂質の場合、我々は、所与のE:T比の全てでの食作用速度及び見かけの最大食作用速度の劇的な低下を観察した一方で、両方の対照糖ポリペプチドはビヒクル処理細胞に匹敵する結果をもたらした。
【0077】
観察された効果がSiglec-9アゴニズムによって媒介されたかどうかを決定するために、以下の2つのCRISPRノックアウトを生成した:1つはSiglec-9のノックアウト、もう1つは、シアル酸生合成に必要な遺伝子であるCMASのノックアウトである。CMASのノックアウト(KO)によりシアル酸欠乏マクロファージがもたらされ、それが上記効果を有効にするかどうかを決定するためにその評価を行った。pS9L-脂質はCMASノックアウトマクロファージを強力に阻害し(
図7、パネルD)、Siglec-9のノックアウトはpS9L-脂質の効果を無効にすることが見出された(
図7、パネルE)。
【0078】
次に、pS9L-脂質と同じ足場に基づく少数の糖バリアントを試験した(
図7、パネルF)。pS9L-脂質のみが食作用を有意に阻害することができたことが観察された。Siglec-7結合pS7L脂質による阻害の傾向が観察されたが、これは統計学的に有意ではなかった。THP-1マクロファージは低いレベルでSiglec-7を発現する。同じグリカン及び同様の分子量を有する可溶性トランス結合糖ポリペプチドのパネルもアッセイしたが、食作用に対する効果は観察されなかった。pS9L-脂質による阻害は糖ポリペプチドの前処理に用量依存的であり、ザイモサン真菌粒子を含む代替の標的でも観察することができることが決定された。
【0079】
シスリガンドでのSiglecのクラスター化による阻害の一般性を評価するために、pS7L-脂質による上記軽度の阻害について追加調査した。S7LシアロシドはSiglec-7に対していくらかの親和性を有する一方で、これは、Paulsonと共同研究者らの発見によると、Siglec-7/9のマウスオルソログであるSiglec-Eに対する最も強力なリガンドであった。したがって、Siglec-E発現細胞に対する阻害効果の可能性を評価した。実際に、pS7L-脂質で前処理したマウスミクログリアで阻害傾向が観察され(
図7、パネルG)、これはSiglec-EのCRISPRノックアウトにより無効になった(
図7、パネルH)。対照ポリマーと比較して、より強力で統計学的に有意な効果が観察された。
【0080】
これらの発見の臨床的関連性を実証するために、ヒト初代マクロファージを用いて同様のアッセイを行った。健常ドナー由来のPBMCから単球を単離し、休止(M0)、M1、又はM2マクロファージに分化させた。糖ペプチドで前処理した場合、6人のドナーのうち5人由来の、M2マクロファージではなくM0及びM1マクロファージの食作用活性が、pS9L-脂質での処理によって阻害されたが、対照ポリマーpS9L-sol又はpLac-脂質での処理では阻害されなかったことが観察された(
図8、パネルA~C)。一人の非応答性ドナーのフォローアップにより、このドナー由来のマクロファージは劇的に低いレベルのSiglec-9発現を有することが決定された(
図8、パネルD)。
【0081】
実施例1~5のための方法
統計分析
全ての統計分析はGraphPad Prism 6を使用して行った。
【0082】
糖ポリペプチド合成
糖ポリペプチドを、以前に記述されたように合成した(Delaveris et al.(2019)Membrane-Tethered Mucin-like Polypeptides Sterically Inhibit Binding and Slow Fusion Kinetics of Influenza A Virus.ChemRxiv)。簡潔には、アラニン及びO-ラクトシルセリンのN-カルボキシ無水物を、事前に複合体化された開始剤を使用して重合して、脂質連結型又は可溶性の保護糖ポリペプチドを得た。ヒドラジンを使用してグリカンを脱アセチル化し、透析によって精製した。その後、ワンポットマルチ酵素系を使用してポリラクトシル足場を精巧に作り上げて、糖ポリペプチド足場上に様々なシアロシドを得た。その後、アルキンハンドルを有する非天然シアロシドをアジドと反応させて、前述の高親和性Siglecリガンドのポリマー提示を提供した。
【0083】
ヒト細胞培養
細胞株を、10%熱不活化FBSを補充したDMEM(HEKBlue hTLR4、BV2)又はRPMI(JURKAT、THP-1)のいずれかで培養した。THP-1細胞には50μMのベータメルカプトエタノールを更に補充した。THP-1単球を、PMAで24時間活性化し、その後、一般的な培地で24時間回復させることによってマクロファージに分化した。PBMCは、Ficoll-Paque勾配遠心分離を使用して全血からのバフィーコート又はLRSチャンバから単離した。組織培養プラスチックへの付着によって単球を単離し、外因性サイトカインを用いずに(M0)、GM-CSFを用いて(未成熟M1)、GM-CSFを用いて5日間、その後、10%熱不活性化FBS中LPS及びIFN-γを用いて2日間(活性化M1)、又はM-CSFを用いて5日間、その後、10%熱不活性化FBS中IL-4及びIL-13を用いて2日間(M2)のいずれかで、20%熱不活性化FBSを含むRPMI-1640培地中で7日間単球をマクロファージに分化させた。
【0084】
インビトロタンパク質結合
ストレプトアビジンをコーティングしたチップ上にローディングされた、BSA(0.1%)を伴うPBS中のビオチン化リガンド(200nM)を使用して、OctetRed96において60秒間タンパク質結合を記録した(約0.4nmの応答)。その際、チップをSiglec-Fcの段階希釈に浸漬して30秒間会合させ、その後、緩衝液中で30秒間解離させた。チップはグリシン緩衝液(pH1.5)での洗浄間で再生させた。
【0085】
フローサイトメトリー
細胞を回収し、15分毎に穏やかに撹拌しながら無血清培地中107細胞/mLの密度で1時間、フルオロフォアコンジュゲート糖ポリペプチドをロードした。その後、細胞を洗浄し、フルオロフォアコンジュゲート一次抗体、又はフルオロフォアコンジュゲート抗IgG二次抗体を伴う非コンジュゲート一次抗体のいずれかで、4℃で染色し、染色後に3回洗浄した。全てのフロー分析は固定されていない細胞で行った。
【0086】
蛍光顕微鏡法
FRETデータを共焦点顕微鏡で収集した。Siglec-7又はSiglec-9を発現するJURKATを無血清RPMI中に107細胞/mLで懸濁し、15分毎に穏やかに撹拌しながらAlexaFluor555標識糖ポリペプチド(2μM)で1時間標識した。細胞を洗浄し、その後、完全培地中、AlexaFluor647標識抗Siglec-7又は抗Siglec-9抗体で、室温で30分間標識した。細胞をPBSで洗浄し、その後、フィブロネクチンで事前にコーティングされた生細胞イメージング用8ウェルホウケイ酸ガラス#1.5カバースリップ上にプレーティングした。その後、細胞を画像化した。Siglec-9免疫細胞化学の場合、細胞を10%ホルマリンで固定し、洗浄し、氷上で、AlexaFluor488コンジュゲート抗Siglec-9で1時間染色した。その後、細胞を洗浄し、Incucyteで488nmの蛍光によって画像化し、1条件当たり3つのウェルで1ウェル毎に5つの画像を収集した。
【0087】
クローニング
PmNanAの発現プラスミドは、IDT製のgBlockをPCR直鎖化pET22bベクターにライゲーションすることによるInFusionクローニングによって構築した。CRISPRプラスミドは、最適化ガイドを使用して構築し、Geckoプロトコルを使用してLentiCRISPR v2プラスミドにクローニングし、MiraPrepによって精製した。pCMV Siglec-9変異体は、Q5変異誘発キットを使用して生成した。
【0088】
タンパク質の発現及び精製
PmNanA、Pd26ST、及びNmCSSをBL21(DE3)E.coliで発現させ、単離した。
【0089】
HEKBlue hTLR4レポーターアッセイ
HEKBlue hTLR4アッセイは、概して、製造業者の指示に従って行った。細胞を、リポフェクタミンLTXを使用してアッセイの24時間前にトランスフェクトした。抗体でコーティングしたプレートのアッセイの場合、96ウェルプレートをPBS中抗体溶液(10ng/mL)と37℃で2時間インキュベートすることによってプレートを調製し、その後、PBSで3回洗浄した後、トランスフェクトした細胞をプレーティングした。糖ポリペプチドアッセイの場合、細胞をトランスフェクションプレートから回収し、遠心分離(300rcf、5分間)によってペレット化し、無血清DMEM中の糖ポリペプチドの溶液(1μM)に再懸濁した。細胞を1時間にわたって15分毎に混合し、その時点で細胞を完全培地(1mL)で洗浄し、計数し、プレーティングした。
【0090】
サイトカインビーズアッセイ
CMAS KO THP-1マクロファージを培養し、糖ポリペプチド(200nM)で3時間標識した。この時点で、培地とビヒクル又はLPS(100pg/mL)のいずれかとを添加し、細胞を18時間培養した。その後、培地のアリコートを採取し、-80℃で急速冷凍させた。その後、BDヒト炎症性サイトカインビーズによる定量化を、製造業者の指示に従って、1つのバッチにおいて3つの生物学的複製物から解凍した試料に対して行った。
【0091】
ホスホプロテオミクス
CMAS KO THP-1マクロファージを培養し、無血清培地中糖ポリペプチド(500nM)で3時間標識した。この時点で、培地とビヒクル又はLPS(100pg/mL)のいずれかとを添加して、細胞を5分間刺激した。その後、細胞を、ベンゾナーゼを含む冷RIPA緩衝液中で溶解させ、遠心分離(18000rcf、15分間、4℃)によってペレット化し、上清タンパク質濃度をRapid Gold BCAによって定量した。
【0092】
S-trapプロトコル(Protifi)を使用してタンパク質をトリプシンペプチドに消化し、その後、10-plex TMT(Tandem Mass Tags、Thermo Fisher Scientific)で標識した。リン酸化ペプチドをTi(IV)-IMACビーズ(ReSyn Biosciences)で濃縮した。リン酸化ペプチド及びタンパク質存在量試料を、Orbitrap Fusion(Thermo Fisher Scientific)に接続したDionex Ultimate 3000 RPLCナノシステムを使用したLC-MS/MSによって分析した。トラップカラム(Acclaim PepMap 100 C18、5um粒子、長さ20mm、Thermo Fisher Scientific)にペプチドをロードし、0.2%ギ酸を有する水(移動相A)及び0.2%ギ酸を有するアセトニトリル(移動相B)を使用して、25cmのEasySpray逆相LCカラム(内径75μm、2μm、100Å、PepMap C18粒子を装填、Thermo Fisher Scientific)上で分離した。全てのメソッドの合計取得時間は1分析当たり180分間であった。Andromedaアルゴリズムを使用して生ファイルを検索し、MaxQuantで処理した。その後、結果をPerseusで処理して、ホスホプロテオームにおける統計学的に有意な変化を計算した。データは、PRIDEパートナーリポジトリを介してデータセット識別子PXD018774でProteomeXchange Consortiumに寄託した。
【0093】
ウエスタンブロット
CMAS KO THP-1マクロファージを培養し、無血清培地中糖ポリペプチド(500nM)で3時間標識した。この時点で、培地とビヒクル又はLPS(100pg/mL)のいずれかとを添加して細胞を60分間刺激した。その後、細胞を、ベンゾナーゼを含む冷RIPA緩衝液中で溶解させ、遠心分離(18000rcf、15分間、4℃)によってペレット化し、上清タンパク質濃度をBCAによって定量した。その後、溶解物を、XT-MES中で4~12%ビスアクリルアミドゲルを使用して200Vで1時間SDS-PAGEに泳動させた。標準TurboBlot条件を使用するTransBlot Turboを使用してゲルをニトロセルロースに移した。ブロットをTBS中5%BSAでブロックし、一次抗体で、4℃で一晩染色し、その後、IR色素標識二次抗体と室温で1時間インキュベートした。ブロットをLiCORによって画像化した。
【0094】
食作用アッセイ
食細胞を、無血清培地中、糖ポリペプチドで3時間処理した。細胞を洗浄し、100μLの無血清培地でコーティングした。その後、100μLの無血清培地中の懸濁物として標的を添加した。プレートを短時間遠心分離して(300rcf、1分間)標的を沈降させ、その後、Incucyteでの蛍光顕微鏡法によって食作用を監視した。1条件当たり3つのウェルで1ウェル当たり5つの画像を収集した。BV2食作用の場合、BV2細胞を組換えエンドトキシンフリーV. choleraシアリダーゼで、2μMにて1時間前処理した後に、糖ポリペプチドで処理した。
【0095】
実施例6 ― シス結合Siglecアゴニストは好中球の活性化を阻害する
TLR-7/8アゴニストR848は、インビトロで初代好中球のNETosisを誘導する
好中球は、多数の自然免疫機能に関与する骨髄系統の免疫細胞である。好中球は、NETosisと呼ばれる死滅過程を介してCOVID-19における過炎症性応答を誘導することが示唆されており、この過程では、好中球がクロマチンを迅速に脱凝縮し、ゲノムDNA、細胞内タンパク質(例えばヒストン)、及び組織損傷酵素(例えば、好中球エラスターゼ、ミエロペルオキシダーゼ)のアマルガムである好中球細胞外トラップ(NET)を吐き出す。細胞外DNA及びNET関連酵素による組織損傷は、他の免疫細胞への炎症誘発性シグナルとして作用し、COVID-19で過炎症性カスケードを開始させて、ARDSおよび潜在的には死亡につながることが提唱されている。この仮説と一致して、NETは感染部位(すなわち、肺組織)及び末梢(すなわち、血清及び血漿)の両方で広く観察されている。
【0096】
COVID-19では、広範なNETosisの証拠を感染した肺で観察することができ、SARS-CoV-2ビリオンはインビトロで健常な好中球に感染してNETosisを誘導することが示されている。これらの報告は、TLR-7及び/又はTLR-8を、感染部位での好中球のNETosisの誘導に関連付けている。注目すべきことに、TLR-7及びTLR-8は、SARS-CoV-2ゲノムで多数の基質が同定されている一本鎖RNA受容体である。SARS-CoV-2がTLR-7/8媒介性免疫を誘導するという仮説と一致して、TLR7におけるヒトの遺伝的バリエーションは重度のCOVID-19に関連している。したがって、TLR-7/8のアゴニストは、生ウイルスを使用することなくインビトロでウイルス感染によって誘導される局所炎症をモデル化する便利な手段を提供し得る。
【0097】
新たに単離された好中球が蛍光発生性かつ膜不透過性のDNAインターカレート色素(Cytotox Green)の存在下の低血清培地中で培養される生細胞イメージング技法を使用して、TLRアゴニストをアッセイした。NETosisによるゲノムDNAの外部化により、色素がインターカレートし、蛍光が増加する。以前に実証されたようにNETはアポトーシス細胞の核よりもはるかに大きいため、顕微鏡で観察された場合、NETotic細胞はアポトーシス細胞よりもはるかに大きい蛍光面積を生成する。したがって、大きい(すなわち、100μm2超の)蛍光物体のみを計数することによってアポトーシス細胞は除外することができる。
【0098】
本研究では、TLR-7/8アゴニストであるR848がインビトロで健常な好中球のNETosisを誘導するのに十分であることが見出された(
図10a~c)。PADI4基質H3のシトルリン化状態もウエスタンブロットによってアッセイし、R848が、R2、R8、及びR17におけるシトルリン化を迅速に誘導することが観察された。シトルリン化はNETosisの重要な側面である一方で、例えばPMA誘導性NETosisは控えめなシトルリン化しか生じないことから(データ示さず)、シトルリン化の程度は必ずしもNETosisの度合いを示すとは限らない。加えて、培地、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA)、又はR848で処理した好中球の溶解物を用いた定量的ホスホプロテオミクスも行った。R848又はPMAのいずれかで刺激した好中球を使用して、以前に公開されたデータセットと同様の結果が観察された。更に、好中球の脱顆粒及びカルシウムの流動に関与するものを含め、いくつかのホスホサイトが両方のデータセットで差次的に調節されていることが見出され、これは、記述されたNETotic細胞死のメカニズムと一致している。これらの結果は、TLR-7/8アゴニストであるR848が初代好中球においてNETosisを誘導することを示している。したがって、この化合物を使用して、COVID-19を含むウイルス感染に関連する局所炎症をモデル化することができる。
【0099】
Siglec-9アゴニストは、SHP-1を介してTLR-7/8誘導性NETosisを阻害する
先の研究では、Siglec-9の係合がアポトーシス死及び非アポトーシス死経路並びに好中球の免疫抑制につながることを示した。したがって、Siglec-9媒介性の免疫抑制及び細胞死が優先して抗ウイルスTLRシグナル伝達のNETotic効果を無効にすること(override)ができると仮定した。この概念を検証するために、Siglec-9アゴニストであるpS9L、並びに2つの対照糖ポリペプチドpLac及びpS9L-solを使用した(
図9)。上記の生細胞アッセイにおける初代好中球において糖ポリペプチド(500nM)とR848(10μM)の共処理によって抗NETotic活性をアッセイした(
図10)。pS9Lは、R848処理によって誘導されるNETosisを阻害するのに十分であることが観察された(
図10a~c)。更に、いずれの対照ポリマーもR848誘導性NETosisを阻害しなかった(
図10d)。pS9Lは、高濃度の架橋抗Siglec-9抗体(クローン191240)と同等にNETosisを阻害することも確認された。ミトコンドリア由来の反応性酸素種(ROS)の生成がSiglec-9誘導性アポトーシスシグナル伝達の重要なシグナル伝達ステップとして以前に説明されている。炎症性シグナル伝達におけるNADPH由来のROSを回避するためにあらゆるTLRリガンドの不在下で、pS9Lでの処理は、架橋抗Siglec-9抗体で処理した場合と同様に、酸化的破壊を誘導したことがここで見出された。更に、この酸化的破壊はSHP-1/2阻害剤NSC-87877の添加によって阻害され、Siglec-9係合と合致してSHP-1及び/又はSHP-2が好中球におけるpS9L誘導性酸化的破壊を媒介することが示唆された。
【0100】
ビヒクル、pS9L、又はpLacで共処理したR848刺激初代好中球の溶解物を使用して、定量的ホスホプロテオミクスを行った。注目すべきことに、NETosisの媒介に関与するシグナル伝達分子のクラスであるホスホイノシチドのリン酸化における重要な構成要素であるヒチン(HYCCI/FAM126A)のリン酸化の増加が観察された。加えて、MAPKシグナル伝達経路の負の調節因子であるRASAL3(RASL3)のリン酸化の増加が観察された。これらのデータは、pS9Lが、NETosisに必要なカルシウム流動及びNADPH活性、並びにマクロファージでのpS9Lについて先に記述されたMAPK抑制効果を阻害することを示唆する。
【0101】
pS9Lの抗NETotic効果がSiglec-9シグナル伝達によって特異的に媒介されるかを決定するために、これらの結果を前骨髄球性白血病細胞株HL-60で再現した。これらの細胞は、オールトランスレチノイン酸(ATRA、100nM)及びジメチルスルホキシド(DMSO、1.25%(v/v))を使用して好中球様細胞(dHL-60)に分化させることができる。注目すべきことに、dHL-60細胞はインビトロでNETosisを研究するために以前に使用されている。先の報告と一致して、R848はdHL-60細胞でNETosisを誘導した。pS9LはNETosisを阻害し、Siglec-9(SIGLEC9によってコードされる)又はSHP-1(PTPN6によってコードされる)のsiRNAノックダウンがpS9Lの該効果を無効にすることが更に観察された(
図10e)。したがって、Siglec-9アゴニストであるpS9Lは、Siglec-9及びSHP-1を介してTLR7/8誘導性NETosisを阻害する。
【0102】
Siglec-9は重度のCOVID-19においてアップレギュレートされ、COVID-19血漿によって誘導されるNETosisを抑制することができる
COVID-19患者由来の血清及び血漿が、健常ドナーから単離した好中球のNETosisをインビトロで誘導することが示されている。原因となる成分は不明であるが、潜在的な因子には、ウイルスTLRリガンド、TLRに結合する損傷関連分子パターン、活性化血小板、及び炎症(誘発)性サイトカインが含まれる。最近の報告では、COVID-19血漿中の好中球活性化サイトカイン、主にIL-8及びG-CSFのレベルの増加が報告されている。IL-8とG-CSFとの組み合わせがインビトロでNETosisを誘導するのに十分であったことも本研究で観察された。加えて、COVID-19患者における末梢骨髄細胞及び好中球のトランスクリプトーム解析により、SIGLEC9発現(
図11a)及びPADI4発現(
図11b)の増加が明らかになった。これは、疲弊した腫瘍浸潤T細胞上のSiglec-9で観察されたものと同様に、過剰NETotic好中球上でSiglec-9発現が誘導される疲弊様表現型であるという仮説が得られた。これらの観察結果は、Siglec-9が、一般的に、そして特にCOVID-19において、過炎症性NETosisの治療的遮断のための魅力的な標的であることを更に支持している。
【0103】
pS9LがCOVID-19血漿によって誘導されるNETosisを阻害することができるという仮説を検証するために、健常ドナーの全血から単離した好中球を、健常ドナー又はCOVID-19患者由来のクエン酸抗凝固処理した異種(heterologous)血漿で処理した。未希釈の血漿中の好中球を、pS9L(500nM)、非結合類似体pLac(500nM)、又はビヒクルで共処理した。バイオセーフティー規制を満たすために、細胞をCOVID-19血漿の存在下で4時間インキュベートし、固定した後に、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)とDNA(DAPI)との細胞外複合体をアッセイした(
図11c、11d)。細胞外で観察された場合にNETosisを示すこれらの染色の組み合わせは、COVID-19との関連でNET
+細胞を特定するために以前に使用されている。本研究では、ウェブ様NET構造の形成によって示されるように、COVID-19血漿が健常ドナー由来の好中球のNETosisを誘導することが観察された(
図11d)。R848を用いた先の実験と同様に、COVID-19血漿で刺激したNETosisはpS9L処理によって阻害された(
図11c、11d)。更に、pLacはCOVID-19血漿によって誘導されるNETosisを阻害せず、pS9LもpLacもインビトロ培養好中球の基礎(basal)NETosisに影響を及ぼさなかった(
図11c)。NETの別のマーカーである細胞外H1/DNA複合体について、IMDM中10%血漿又は未希釈血漿で処理した好中球を染色することによって同様の実験を行い、匹敵する結果が観察された。
【0104】
まとめると、これらのデータは、Siglec-9アゴニズムがCOVID-19患者血漿によって誘導されるNETosisを阻害し、それ故に、COVID-19を有する患者の末梢炎症を抑制することができることを示す。加えて、Siglec-9アゴニストは、COVID-19並びに免疫血栓症及び敗血症などの他の状況で観察されるものを含め、概してNET関連病理を解決し得る。
【0105】
したがって、前述の内容は、単に本開示の原理を例証するものである。当業者であれば、本明細書に明示的に記載も図示もされていないが、本発明の原理を具現化し、かつその趣旨及び範囲内に含まれる様々な構成を工夫することができるであろうことを理解されたい。更に、本明細書に列挙される全ての例及び条件的文言は、主に本発明の原理及び当該技術分野の推進のために発明者らにより寄与された概念を理解する際に読者の助けとなるよう意図されており、かかる具体的に列挙される例及び条件に限定するものではないと解釈されるべきである。更に、本発明の原理、態様、及び実施形態、並びにそれらの具体的な例を列挙する本明細書における全ての記述は、それらの構造的等価物及び機能的等価物の両方を包含するよう意図されている。加えて、かかる等価物が、現在既知の等価物及び将来開発される等価物、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を果たす開発されるあらゆる要素の両方を含むよう意図されている。したがって、本発明の範囲は、本明細書に図示され記載されている例示的な実施形態に限定されるようには意図されていない。
【国際調査報告】