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特表2023-532200睡眠障害を治療するための口腔器具及び方法
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  • 特表-睡眠障害を治療するための口腔器具及び方法 図1
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  • 特表-睡眠障害を治療するための口腔器具及び方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-27
(54)【発明の名称】睡眠障害を治療するための口腔器具及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/56 20060101AFI20230720BHJP
   A61M 16/06 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A61F5/56
A61M16/06 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577527
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(85)【翻訳文提出日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 US2021037806
(87)【国際公開番号】W WO2021257811
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】63/040,700
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518399047
【氏名又は名称】ユナイテッド ステイツ ガバメント アズ リプレゼンテッド バイ ザ デパートメント オブ ベテランズ アフェアーズ
【氏名又は名称原語表記】UNITED STATES GOVERNMENT AS REPRESENTED BY THE DEPARTMENT OF VETERANS AFFAIRS
(71)【出願人】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】593030244
【氏名又は名称】ザ、ジェネラル、ホスピタル、コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】THE GENERAL HOSPITAL CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【弁理士】
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】ラサリンガム ラビ
(72)【発明者】
【氏名】ウォード ターシャ
(72)【発明者】
【氏名】ロシュ エレン ティー
(72)【発明者】
【氏名】ベネガス ホセ
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA10
4C098BB15
4C098BC46
4C098CD05
4C098DD23
(57)【要約】
対象における睡眠障害を治療するための口腔器具及び方法が開示される。器具は、他の要素の中でも、対象の舌の背面の一部分と係合し、硬口蓋に向かって上方方向に舌を安定させる口蓋オーバーレイ要素を含む。方法は、概して、対象の硬口蓋に向かって上方方向に対象の舌の背面を安定させることを伴う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における睡眠障害を治療するための口腔器具であって、前記口腔器具が、
a)外側側壁、内側側壁、及び少なくとも1つの咬合面を有するU字形要素であって、前記外側側壁、前記内側側壁、及び前記少なくとも1つの咬合面が、一緒になって、前記対象の少なくとも1つの上歯を受容するように構成された少なくとも1つのチャネルを画定する、U字形要素と、
b)前記U字形要素に近接し、前記対象の硬口蓋の少なくとも一部分に適合するように構成された口蓋オーバーレイ要素であって、前記口蓋オーバーレイ要素が、内面及び外面を有し、前記内面と前記外面との間で前記口蓋オーバーレイ要素を通って延在する複数の穿孔を画定する、口蓋オーバーレイ要素と、
c)前記口蓋オーバーレイ要素の前記複数の穿孔と流体連通するポートであって、前記ポートが、前記口蓋オーバーレイ要素の前記複数の穿孔に負圧を伝達するように構成されている、ポートと、を備え、
前記口蓋オーバーレイ要素の前記外面が、前記口蓋オーバーレイ要素の前記複数の穿孔を通る負圧の適用に応答して、前記対象の舌の背面の少なくとも一部分と係合するように構成されている、口腔器具。
【請求項2】
前記U字形要素及び前記口蓋オーバーレイ要素が、モノリシック体である、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項3】
前記U字形要素及び前記口蓋オーバーレイ要素が、前記対象の少なくとも1つの上歯及び前記対象の硬口蓋の少なくとも一部分から取った型の形状で形成されている、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項4】
前記U字形要素又は前記口蓋オーバーレイ要素のうちの少なくとも1つが、熱可塑性物質、シリコーン、アクリル、粘着性ポリマー、耐湿性接着剤、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項5】
前記穿孔の数が、2つより多い、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項6】
前記穿孔の数が、2~24個の範囲である、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項7】
前記穿孔の数が、4~8つの範囲である、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項8】
前記穿孔の数が、4~6つの範囲である、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項9】
前記穿孔の数が、6つである、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項10】
前記ポートが、前記口腔器具の後方領域の近くに位置決めされる、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項11】
前記ポートが、前記口腔器具の前方領域の近くに位置決めされる、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項12】
前記ポートが、前記口腔器具が前記対象の口腔腔内に挿入されたときに、前記対象の臼歯の近くに位置決めされる、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項13】
前記ポートが、前記口腔器具が前記対象の口腔腔内に挿入されたときに、前記対象の切歯の近くに位置決めされる、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項14】
前記ポートと流体連通する負圧源を更に備える、請求項1に記載の口腔器具。
【請求項15】
前記負圧源と前記ポートとの間に流体連通を提供するチューブを更に備える、請求項14に記載の口腔器具。
【請求項16】
前記負圧源が、真空ポンプである、請求項14に記載の口腔器具。
【請求項17】
前記負圧源が、マイクロポンプである、請求項14に記載の口腔器具。
【請求項18】
前記負圧源が、少なくとも約-5cmH2Oの圧力を生成するように構成されている、請求項14に記載の口腔器具。
【請求項19】
前記負圧源が、約-5cmH2O~約-20cmH2Oの圧力を生成するように構成されている、請求項14に記載の口腔器具。
【請求項20】
前記負圧源が、約-5cmH2O~約-10cmH2Oの圧力を生成するように構成されている、請求項14に記載の口腔器具。
【請求項21】
対象における睡眠障害を治療するための方法であって、前記対象の硬口蓋の少なくとも一部分に向かって上方方向に舌を安定させることを含む、方法。
【請求項22】
口腔器具の表面への前記舌の非永久的な取り付けを形成することを含み、前記口腔器具の前記表面が、耐湿性接着剤を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記対象の舌の背面の少なくとも一部分に対して概ね垂直な方向で、前記対象の口腔腔に負圧を適用し、それによって上方方向に前記舌を安定させることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
負圧が、前記対象の舌の前記背面の中央領域に対して概ね垂直な方向で前記対象の口腔腔に適用される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
負圧が、前記対象の舌の前記背面の前方領域に対して概ね垂直な方向で前記対象の口腔腔に適用される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記対象の舌が、前記対象の口腔腔内に留まる、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記適用された負圧が、前記対象の口腔腔の奥に向かって前記対象の舌の実質的な後方移動をもたらさない、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記適用された負圧が、鼻呼吸を促進する、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
負圧が、前記対象の舌の前記背面上の複数の位置に適用される、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記対象の口腔腔に適用される前記負圧が、少なくとも約-5cmH2Oである、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記対象の口腔腔に適用される前記負圧が、約-5cmH2O~約-20cmH2Oである、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記対象の口腔腔に適用される前記負圧が、約-5cmH2O~約-10cmH2Oである、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
前記負圧が、負圧の適用に応答して前記対象の舌の前記背面の少なくとも一部分と係合するように構成された口腔器具を通して、前記対象の口腔腔に適用される、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
前記口腔器具が、前記対象の少なくとも1つの上歯に適合する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記口腔器具が、前記対象の硬口蓋の少なくとも一部分に適合する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記負圧が、請求項1~20のいずれか一項に記載の口腔器具を通って、前記対象の口腔腔に適用される、請求項22に記載の方法。
【請求項37】
前記睡眠障害が、口の生理機能に関連付けられた状態を伴う、請求項21に記載の方法。
【請求項38】
前記睡眠障害が、閉塞性睡眠時無呼吸である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、概して、対象の硬口蓋に向かって上方方向に舌を安定させることによって、対象における睡眠障害を治療するための口腔器具及び方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月18日に出願された米国仮出願第63/040,700号の出願日の優先権及び利益を主張するものであり、本仮出願の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
様々な睡眠障害には、口の生理機能が伴う。一例として、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)があり、これは、喉の奥の反復的閉鎖を引き起こす一般的な、過少診断の障害である。OSAは呼吸を妨げ、睡眠不足及び身体へのストレスをもたらす。この障害は、昼間の眠気、認知機能の低下、不整脈、高血圧、脳卒中、及び早期死亡と関連付けられている。睡眠中に喉の筋肉の筋緊張が低下すると、喉の奥の閉鎖が生じる。これは通常、舌が後方に摺動し、鼻及び口を通る気流を妨げるときに生じる。
【0004】
OSAの一般的な治療法は、持続的気道陽圧(CPAP)デバイスの使用である。CPAPデバイスは、口及び/又は鼻を覆う密着マスクを通して空気を強制的に通過させることで、睡眠中に患者の気道を開いたままにする。多くの患者にとって、CPAPデバイスは不快で扱いにくく、通常の睡眠環境に大きな変化を提示する。その結果、OSA患者の50%がCPAP治療を拒否し、患者の30%が耐えることができない。CPAP治療に耐えられない、又はそれを一貫して使用することが困難なOSAの患者にとって、呼吸閉塞のない睡眠は困難である。
【0005】
OSA治療には、様々な口腔内補綴物も使用される。2つの一般的な補綴物は、下顎前方固定デバイス(MAD)及び舌保持デバイス(TRD)である。MADは顎全体を機械的に前方に動かすように設計されており、TRDは舌を口から引き出す。しかしながら、CPAPデバイスと同様に、MAD及びTRDは、症状を悪化させる。これらのデバイスはまた、持続的な顎及び舌の痛み、更には歯又は顔の変形を引き起こす可能性がある。
【0006】
現在、OSA患者の大部分が一貫して耐えうる有効な治療法はない。したがって、OSA患者が閉塞なしで呼吸することを許容し、不快感及び睡眠障害を最小限に抑える代替療法が必要である。この必要性及び他の必要性は、以下に記載される口腔器具及び方法によって満たされる。
【発明の概要】
【0007】
本明細書において、一態様では、対象における睡眠障害を治療するための口腔器具が開示される。口腔器具は、U字形要素と、口蓋オーバーレイ要素と、使用時に、器具が、対象の硬口蓋に向かって上方方向に舌を係合させることによって、対象の舌を安定させることができるように、器具に負圧を適用するように構成されたポートと、を備え得る。
【0008】
U字形要素は、外側側壁、内側側壁、及び少なくとも1つの咬合面を有することができ、外側側壁、内側側壁、及び少なくとも1つの咬合面は、一緒になって、対象の少なくとも1つの上歯を受容するように構成された少なくとも1つのチャネルを画定する。
【0009】
口蓋オーバーレイ要素は、U字形要素に近接し、対象の硬口蓋の少なくとも一部分に適合するように構成され得る。口蓋オーバーレイ要素は、内面及び外面を有することができ、内面と外面との間で口蓋オーバーレイ要素を通って延在する複数の穿孔(例えば、開口部)を画定することができる。複数の穿孔は、対象の長手方向軸に沿って下方方向に配向され得る。
【0010】
ポートは、口蓋オーバーレイ要素の複数の穿孔と流体連通し、口蓋オーバーレイ要素の複数の穿孔に負圧を提供するように構成され得る。
【0011】
口蓋オーバーレイ要素の外面は、口蓋オーバーレイ要素の複数の穿孔を通る負圧の適用に応答して、対象の舌の背面の少なくとも一部分と係合するように構成され得る。
【0012】
本明細書ではまた、別の態様において、対象における睡眠障害を治療するための方法も開示される。方法は、例えば、負圧の適用を通して、又は耐湿性接着剤などの接着機構を通して、対象の硬口蓋の少なくとも一部分に向かって上方方向に対象の舌を安定させることを含み得る。口腔器具は、様々な態様において方法を行うために使用され得るが、方法は、任意の特定のデバイス又は器具に限定されない。
【0013】
開示された器具及び方法の追加の利点は、部分的には、続く説明に記載され、部分的には、説明から理解されるか、又は開示された口腔器具及び方法の実践により学習することができる。開示された器具及び方法の利点は、添付の特許請求の範囲に特に指摘される要素及び組み合わせにより実現され、達せられるであろう。前述の概要及び以下の発明を実施するための形態の両方は、単に例示的及び説明的であり、特許請求される発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0014】
本明細書に組み込まれ、この一部を構成する添付の図は、開示された口腔器具及び方法のいくつかの実施形態を図示し、説明と一緒に、開示された器具及び方法の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】複数の穿孔と流体連通するポートが、口腔器具の前方領域の近くに位置決めされる、口腔器具の実施形態を示す図である。
図2】複数の穿孔と流体連通するポートが、口腔器具の後方領域の近くに位置決めされる、口腔器具の実施形態を示す図である。
図3】睡眠中の口腔器具の実施形態を使用する対象を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
開示された口腔器具及び方法は、特定の実施形態の以下の詳細な説明及びそこに含まれる例、並びに図及びそれらの前後の説明を参照することによって、より容易に理解され得る。
【0017】
A.定義
本明細書で使用される用語が単に特定の実施形態を記載する目的のためであり、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される本発明の範囲を制限することが意図されないことを理解されたい。
【0018】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上別様で明らかにそうでない場合を除き、複数の参照を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「ポート(a port)」への参照は、複数のそのようなポートを含み、「ポート(the port)」への参照は、当業者に既知の1つ又は複数のポート及びその等価物への参照である。
【0019】
「任意選択の」又は「任意選択で」は、その後に記載される事象、状況、若しくは材料が発生又は存在してもしなくてもよく、その記載が事象、状況、又は材料が発生、若しくは存在する事例と、発生又は存在しない事例を含むことを意味する。
【0020】
範囲は、「約」1つの特定の値のから、及び/又は「約」別の特定の値のまでとして表現され得る。そのような範囲が表現されている場合、文脈上別様で具体的に示されていない限り、一方の特定の値及び/又は他方の特定の値までの範囲も具体的に企図され、開示されていると見なされる。同様に、値が近似値として表現される場合、先行詞「約」の使用により、特定の値が別の具体的に企図された実施形態を形成し、文脈上別様で具体的に示されていない限り、開示されているとみなされることが理解されるであろう。更に、範囲の各々の終点は、文脈上別様で具体的に示されていない限り、他の終点との関係においても、他の終点とは無関係であっても有意であることが更に理解されるであろう。最後に、明示的に開示された範囲に包含される個々の値及び値の下位範囲の全ても、文脈上別様で具体的に示されていない限り、具体的に企図され、開示されているとみなされるべきことを理解されたい。上記は、特定の場合において、これらの実施形態の一部又は全てが明示的に開示されているかどうかにかかわらず適用される。
【0021】
任意選択で、いくつかの態様において、値が先行詞「約」、「実質的に」又は「一般的に」の使用によって近似される場合、特定の記載された値又は特徴の最大15%、最大10%、最大5%又は最大1%(上又は下)以内の値を、これらの態様の範囲内に含めることができることが企図される。
【0022】
本明細書で使用される場合、「硬口蓋」という用語は、口の開口部に最も近い、対象の口腔腔の上顎内に位置する、顔の骨格の骨で構成される細い骨板を指す。硬口蓋は、軟口蓋がいかなる骨も含んでおらず、むしろ対象の口腔腔内の奥にある肉質の領域であり、口蓋垂(喉に掛かっている口腔腔の奥における肉質の延長部分)で終わるという点で、「軟口蓋」と区別される。
【0023】
本明細書で使用される場合、「臼歯」という用語は、上顎第1臼歯、上顎第2臼歯、及び上顎第3臼歯(親知らずとしても知られる)を含む、上顎(上顎)臼歯を指す。臼歯は、4つ又は5つの歯尖を有している。
【0024】
本明細書で使用される場合、「切歯」という用語は、2つの上顎中切歯(口の中心に最も近い)及び2つの上顎側切歯(上顎中切歯の横)を含む、上顎(上顎)切歯を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「熱可塑性物質」という用語は、ある特定の高温で柔軟又は成形可能で、冷却すると固化するポリマー材料を指す。
【0026】
本明細書で使用する「シリコーン」という用語は、ケイ素原子及び酸素原子が交互に並び、炭素、水素、及び場合によってはその他の元素が結合した鎖である、シロキサンの繰り返し単位からなる任意の化合物を含むポリマー材料を指す。
【0027】
本明細書で使用される「アクリル」という用語は、アクリル酸から作製されるガラス質熱可塑性ポリマー材料を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「粘着性ポリマー」という用語は、室温において、又は室温付近でわずかに粘着性又は接着性である任意のポリマー材料を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、「口の生理機能に関連付けられた状態」は、口及び喉の腔に存在する様々な組織及び骨のずれ又は位置ずれを伴う睡眠障害の原因となる任意の状態を意味する。非限定的な例としては、閉塞性睡眠時無呼吸、口呼吸、いびき、歯ぎしり、口内乾燥、口臭、唾液分泌過多、遅発性ジスキネジアなどが挙げられる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「準拠する」は、(a)記載された表面又は構造の形状に合わせて変形する、若しくは(b)記載された表面又は構造と相補的な形状を有する、のいずれかを意味すると理解されたい。
【0031】
別様で定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、開示された器具及び方法が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。なお、本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の口腔器具及び方法を、本器具及び方法の実施又は試験に使用することができるが、特に有用な器具及び方法は、記載されるとおりである。
【0032】
本明細書の説明及び特許請求の範囲全体を通して、「備える(comprise)」という言い回し、並びに「備える(comprising)」及び「備える(comprise)」などの本言い回しの変形例は、「含むが、これらに限定されない」を意味し、例えば、他の要素、構成要素、整数、又はステップを除外することを意図しない。特に、1つ以上のステップ又は動作を含むと記載された方法では、各ステップは、列挙されているものを含むことが具体的に企図されており(そのステップが「からなる(consisting of)」などの限定用語を含む場合を除く)、各ステップが、例えば、ステップに列挙されていない他の要素、構成要素、整数、又はステップを除外することを意図していないことを意味する。
【0033】
B.口腔器具
本明細書に開示されるのは、対象(例えば、ヒト)における睡眠障害を治療するための口腔器具であり、口腔器具は、他の要素の中でも、口蓋オーバーレイ要素を含み得、口蓋オーバーレイ要素を通して吸引(負圧)を適用することができ、そのため、口蓋要素は、対象の舌の背面と係合して、硬口蓋に向かって上方方向に舌を安定させる。一態様によれば、口腔器具は、個々の対象にカスタムフィットするように設計され、口蓋要素を通じて適用される穏やかな吸引を使用して、睡眠中の喉の障害及び気道閉塞を防止することができる。
【0034】
図1及び図2を参照すると、口腔器具100は、U字形要素110、口蓋オーバーレイ要素120、及び吸引(負圧)が適用され得るポート130を有することができる。U字形要素110は、外側側壁112、内側側壁114、及び少なくとも1つの咬合面116を備えることができる。外側側壁112、内側側壁114、及び少なくとも1つの咬合面116は、一緒になって、対象の少なくとも1つの上(上顎)歯を受容するように構成されたチャネル118を画定する。一態様によれば、チャネル118は、対象の上歯の大部分又は全てを受容するように構成されている。そのような構成は、例えば、対象の口腔腔の走査から得られた光学像に基づいて、対象の上歯の型から、又は当該技術分野において既知の他の方法を通じて作製することができる。
【0035】
更なる態様では、口腔器具は、器具が対象の口の腔内に適合するような任意の好適な形状を有することができる。一態様では、例えば、口腔器具は、対象の硬口蓋の少なくとも一部分との適合性を提供するように成形することができる。任意の好適な形状及び形態の器具は、対象の舌の背面と対象の硬口蓋との間に非永久的な取り付けを形成し、硬口蓋に向かって上方方向に舌を安定させることができる。
【0036】
再び図1及び図2を参照すると、口蓋オーバーレイ要素120は、U字形要素110に近接し得る。例えば、いくつかの任意選択の態様では、口蓋オーバーレイ要素は、U字形要素の内側側壁114の周り及び対向する部分間に延在し得る。したがって、いくつかの任意選択の態様では、口蓋オーバーレイ要素120及びU字形要素110は、内側壁114全体、又は実質的には内側壁114全体に沿って延在する連続的な界面において交わることができる。一態様によれば、口蓋オーバーレイ要素120及びU字形要素110は、モノリシック体、又は単一の構造であり得る。他の態様では、口蓋オーバーレイ要素120及びU字形要素110は、連続しているが、モノリシックではない可能性がある。すなわち、口蓋オーバーレイ要素120及びU字形要素110は、別々に作製され、複合材料又はアセンブリに組み合わされるか、又は形成され得る。
【0037】
口蓋オーバーレイ要素120は、対象の硬口蓋に面する内面122と、対象の舌に面する対向する外面124と、を備え得る。内面122は、吸引(負圧)が適用され得る1つ以上の中空チャンバ125を画定することができる。任意選択で、本明細書に更に開示されるような口腔器具100の使用中に、口蓋オーバーレイ要素120の内面122によって画定された1つ以上の中空チャンバ125は、対象の硬口蓋によって更に部分的に画定され得る。具体的には、一態様によれば、負圧は、内122面と外124面との間の口蓋オーバーレイ要素120を通って延在する複数の穿孔(例えば、開口部)126を通して、対象の舌の背面に適用することができる。複数の穿孔126は、対象の長手方向軸に沿って下方方向に配向され得る。したがって、一態様では、複数の穿孔126は、負圧が口蓋オーバーレイ要素120を通して適用されるときに、穿孔が対象の舌の背面と係合するように配向され得る。
【0038】
一態様によれば、複数の穿孔126は、使用中に舌の任意の一部が刺激を受けたり傷ついたりするのを最小限に抑えるように、舌表面上の異なる場所において舌の背面上で穏やかな吸引(負圧)を許容するように設計することができる。したがって、いくつかの態様では、複数の穿孔120の穿孔の数は、対象の硬口蓋の表面積、舌の重量、及び舌と係合して硬口蓋に向かって上方方向に引っ張るのに必要な負圧の量などの変数に依存することができる。図1及び図2に示される例示的な実施形態では、複数の穿孔126は、6つの穿孔を含む。他の態様によれば、複数の穿孔126は、2つより多い穿孔を有することができる。更なる態様では、複数の穿孔126は、2~12個の穿孔を含むことができる。更なる態様では、複数の穿孔126は、4~8つの穿孔、又は4~6つの穿孔を有することができる。いくつかの任意選択の態様では、穿孔は、円形、正方形、長方形、楕円形、又は任意の他の好適な形状であり得る。いくつかの任意選択の態様では、穿孔の各々は、それを通る1平方ミリメートル~20平方ミリメートル(例えば、任意選択で、約2平方ミリメートル、又は約5平方ミリメートル)の面積を画定することができる。いくつかの任意選択の態様では、穿孔126は、それを通る少なくとも8平方ミリメートル、少なくとも20平方ミリメートル、少なくとも40平方ミリメートル、又は100平方ミリメートル未満の穿孔の面積(すなわち、穿孔126の全ての面積の合計)を集合的に画定することができる。
【0039】
任意選択で、図1図2に示すように、複数の穿孔126を、口蓋オーバーレイ要素の対向する側面縁に位置決めされた2つの間隔の開いた穿孔クラスタとして配置できることが企図される。例示的な態様では、各クラスタ中の穿孔の数は、等しくすることができる。他の態様では、各クラスタ内の穿孔の数は、異なることができる。更なる態様では、各クラスタ内の穿孔が、口蓋オーバーレイ要素のそれぞれの側面縁に沿って移動する、実質的に等間隔(中心点から中心点まで測定)であり得ることが企図される。あるいは、各クラスタ内の穿孔が、不等間隔であり得ることが企図される。更なる例示的な態様では、複数の穿孔が、口蓋オーバーレイ要素の幅及び/又は長さにわたって延在する穿孔の行及び/又は列を含み得ることが企図される。これらの態様では、等間隔又は不等間隔(中心点から中心点まで)が、各行及び/又は列内で使用され得ることが企図される。任意選択で、行を使用する場合、1つの行の穿孔を、連続する行の穿孔に対してオフセットすることが可能であることが企図される。
【0040】
ポート130は、複数の穿孔126と流体連通することができる。一態様によれば、ポート130は、口蓋オーバーレイ要素120の複数の穿孔126に吸引(負圧)を提供するように構成され得る。例示的な態様では、ポート130は、ポートの入口/出口と口蓋オーバーレイ要素120との間に延在する導管(例えば、1つ以上の中空チャンバ125)を備えるか、又は導管と流体連通していることが可能である。
【0041】
図1に示すような一態様では、ポート130は、口腔器具100の前方(前部)領域132の近くに位置決めされ得る。したがって、例えば、ポート130は、口腔器具100が対象の口腔腔内に挿入されるときに、対象の切歯の近くに位置決めされ得る(例えば、ポート130は、前述の切歯を受容するように構成されているU字形要素110の部分の近くの場所にある)。図1に示される例示的な実施形態では、ポート130は、上顎中切歯(口の中心に最も近い切歯)の近くに位置決めされる(例えば、ポート130は、前述の切歯を受容するように構成されているU字形要素110の部分の近くの場所にある)。他の態様では、ポート130は、上顎側切歯(上顎中切歯に隣接する切歯)の近くに位置決めされ得る(例えば、ポート130は、前述の切歯を受容するように構成されているU字形要素110の部分の近くの場所にある)。
【0042】
図2に示されるような別の態様では、ポート130は、口腔器具100の後方(後部)領域134において、又はその近くに位置決めされ得る。したがって、例えば、ポート130は、口腔器具100が対象の口腔腔内に挿入されるときに、対象の臼歯の近くに位置決めされ得る(例えば、ポート130は、臼歯を受容するように構成されているU字形要素110の部分の近くの場所にある)。いくつかの態様では、口腔器具100が対象の口腔腔内に挿入されるときに、ポート130は、上顎第1臼歯、上顎第2臼歯、又は上顎第3臼歯(親知らずとしても知られる)の近くに位置決めされ得る(例えば、ポート130は、前述の歯を受容するように構成されているU字形要素110の部分の近くの場所にある)。更なる態様では、ポート130は、対象の最後の上臼歯、多くの場合1つ以上の親知らずを有しない対象における上顎第2臼歯の近くに位置決めされ得る(例えば、ポート130は、前述の歯を受容するように構成されているU字形要素110の部分の近くの場所にある)。そのような例示的な実施形態は、口腔器具100が口腔腔内に挿入され、チューブを通して負圧源に接続されるときに、対象が自分の口を閉じることを許容する。
【0043】
本明細書に記載されるように、いくつかの態様において、歯に「近い」は、前述の歯の約3cm以内、約2cm以内、約1cm以内、又は約0.5cm以内を意味すると理解され得る。任意選択で、いくつかの態様では、前方領域132及び後方領域134は、口腔器具の長さを半分に分割する想像線によって分離され得、(対象の前部に向かう)前半分は、前方領域であり、(対象の後部又は後に向かう)後半分は、後方領域である。他の任意選択の態様では、前方領域132及び後方領域134は、器具の最前部又は最後部の表面/縁に最も近い口腔器具のそれぞれの3分の1を指し得る。
【0044】
図3を参照すると、例えば、口腔器具100は、ポート130と流体連通する負圧源150を備え得る。一態様によると、口腔器具100は、図1及び図2に示される負圧源150とポート130との間に流体連通を提供するチューブ160(例えば、任意の好適な導管)を備え得る。いくつかの任意選択の態様では、少なくとも1つの結合要素は、チューブ160をポート130に結合することができる。例えば、いくつかの任意選択の態様では、ポート130は、チューブ160の第2の結合要素に結合するように構成されている第1の結合要素を画定することができる。第1及び第2の結合要素は、任意選択で、例えば、相補的な雄ねじ及び雌ねじ、又は他のチューブ/ホース結合部を備え得る。更なる態様では、ポート130は、チューブ160を受容するように構成されているチューブフィッティング(例えば、迅速交換又は有刺結合)を備え得る。更なる態様では、チューブ160とポート130との間の任意の好適な結合要素(例えば、有刺フィッティング)が企図される。更なる態様では、チューブ160は、ポート130と一体的に形成され得る。一態様では、負圧源150は、真空ポンプであり得る。更なる態様では、負圧源150は、マイクロポンプ、例えば、長さが数インチほどの小さい、又はいくつかの態様では更に小さいポンプであり得る。あるいは、負圧源は、例えば、口蓋オーバーレイ要素の複数の穿孔に負圧を適用することができる真空を創出するために、シリンジのプランジャを引くか、又は押す(任意選択で、周期的に繰り返す)ことによって、対象が手動で操作することができるシリンジであり得る。
【0045】
更なる態様では、負圧源150は、少なくとも-5cmH2Oの吸引圧を生成するように構成され得る。負圧源150は、例えば、約-5cmH2O~約-20cmH2O、又は他の態様では、約-5cmH2O~約-10cmH2Oの吸引圧を生成するように構成され得る。負圧源150が提供するように設計され得る吸引圧の量は、用途に応じて変化し得る。したがって、いくつかの態様では、負圧源150は、対象の舌の背面に穏やか又は快適なレベルの吸引を適用するように構成され得る。
【0046】
チューブ160は、当技術分野で既知の材料から形成された任意の適切なサイズのチューブであり得る。一態様によると、チューブ160は、ミリメートル範囲、例えば、1~5mmの直径(例えば、外径)を有することができ、これは、マイクロポンプで使用するのに適したサイズであり得る。チューブ160の長さはまた、負圧源150のタイプ、及び対象が負圧源を位置させることを好む場所、例えば、対象の身体又は衣服に取り付ける、又はクリップで留める、若しくはベッドサイドテーブル上などに置くことによっても変化し得る。任意選択で、チューブ160は、負圧源によって口腔腔から取り出される任意の唾液を捕捉するために、唾液ポット又はレセプタクルに接続され得る。
【0047】
使用されている場合、口腔器具は、対象の舌が、対象の硬口蓋の少なくとも一部分に向かって上方方向に安定されることを許容し得る。負圧源は、チューブを通して口腔器具の口腔オーバーレイ要素に吸引を伝達することができる。吸引が口蓋オーバーレイ要素の複数の穿孔を通して伝達されるとき、吸引を舌の背面に適用することができる。いくつかの態様では、例えば、口腔器具は、舌が口腔腔内の前後の動きに関して中立的な位置に留まることを許容し、使用中に口から舌が出るのを回避する。様々な態様では、口腔器具は、睡眠中の気道開存及び鼻呼吸を改善することができる。硬口蓋に向かって上方方向に舌を安定させることは、閉塞性睡眠時無呼吸、口呼吸、いびき、歯ぎしり、口内乾燥、口臭、唾液分泌過多、遅発性ジスキネジアなどを含むがこれらに限定されない、口の生理機能を伴う様々な睡眠障害に関連付けられた症状を治療又は緩和することもできる。
【0048】
一態様によれば、口腔器具、U字形要素、及び/又は口腔オーバーレイ要素は、対象の口腔腔内に挿入するのに好適な任意の材料を含むか、又はそれから形成することができる。口腔器具のために選択された材料は、対象の口腔腔の快適さを最大化するために選択することができる。同様に、材料は、対象の舌の背面への口腔器具の少なくとも一部分の非永久的な取り付けを(例えば、接着機構を通して)提供するように選択され得る。好適な材料の非限定的な例としては、様々な熱可塑性物質、シリコーン、アクリル、生体適合性材料(例えば、Formlabs、RS-F2-DLCL-01)、粘着性ポリマー(これは口蓋オーバーレイ要素の舌との係合を促進するのに役立ち得る)、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。粘着性ポリマーは、口蓋オーバーレイ要素への舌の付着を促進し、対象が寝ている間に舌筋を操作して所定の位置に保持するための機構を提供することができる生体模倣湿潤/乾燥付着材料などの、ナノサイズ又はマクロサイズのアーキテクチャ特徴を含み得る。
【0049】
一態様では、例えば、口腔器具の少なくとも一部分、例えば、口蓋オーバーレイ要素は、その表面の少なくとも一部分上に耐湿性接着剤から形成され得るか、又はそれを含むことができる。一例は、Baik,S.,Kim,D.,Park,Y.et al.「A wet-tolerant adhesive patch inspired by protuberances in suction cups of octopi」Nature 546,396-400(2017)に記載の接着剤であり得、これは、耐湿性接着剤に関する教示について、その全体が本明細書に参照として組み込まれる。
【0050】
同様に、他の好適な耐湿性接着剤は、Dirks,J.-H.&Federle,W.「Fluid-based adhesion in insects-principles and challenges」Soft Matter 7,11047-11053(2011)、Xue,L.,Kovalev,A.,Eichler-Volf,A.,Steinhart,M.&Gorb,S.N.「Humidityenhanced wet adhesion on insect-inspired fibrillar adhesive pads」Nat.Commun.6, 6621(2015)、Chen,Y.,Shih,M.-C.,Wu,M.-H.,Yang,E.-C.&Chi,K.-J.「Underwater attachment using hairs:the functioning of spatula and sucker setae from male diving beetles」J.R.Soc.Interface 11,20140273(2014)、Kovalev,A.E.,Varenberg,M.&Gorb,S.N.「Wet versus dry adhesion of biomimetic mushroom-shaped microstructures」Soft Matter 8,7560-7566(2012)に記載されているものを含む、吸引又は毛管現象を促進する階層的なキノコ状又は多孔質構造を有するものを含み得、これは、耐湿性接着剤に関する教示について、その全体が本明細書に参照として組み込まれる。
【0051】
他の好適な耐湿性接着剤としては、Rose,S.et al.「Nanoparticle solutions as adhesives for gels and biological tissues」Nature 505,382-385 (2014)に記載されているように、ナノ粒子を含む超分子構造を有するものが挙げられ、これは、耐湿性接着剤に関する教示について、その全体が本明細書に参照して組み込まれる。別の態様では、耐湿性接着剤は、Zhao,Q.et al.「Underwater contact adhesion and microarchitecture in polyelectrolyte complexes actuated by solvent exchange」Nat.Mater.15,407-412(2016)、 Lee,S.-B.,Gonzalez-Cabezas,C.,Kim,K.-M.,Kim,K.-N.& Kuroda,K.「Catecholfunctionalized synthetic polymer as a dental adhesive to contaminated dentin surface for a composite restoration」Biomacromolecules 16,2265-2275(2015)、White,J.D.& Wilker,J.J.「Underwater bonding with charged polymer mimics of marine mussel adhesive proteins」Macromolecules 44,5085-5088(2011)に記載されているように、種々のタンパク質高分子電解質を使用する化学ベースの誘引剤を含み得、これは、耐湿性接着剤に関する教示について、その全体が本明細書に参照して組み込まれる。
【0052】
したがって、1つの態様によれば、口腔器具は、外部から適用される負圧に頼らずに、対象の舌の背面に付着し得ることが企図される。例えば、口蓋オーバーレイ要素の表面の少なくとも一部分上に耐湿性接着剤を使用することにより、開示された器具の口蓋オーバーレイ要素は、対象の舌の背面に付着することができ、そのため、舌は、非永久的な取り付けを通じて、上方方向に安定される。
【0053】
口腔器具は、様々な技法を使用して作製することができる。一態様によれば、対象の歯及び硬口蓋のアルギン酸塩印象を取ることができ、印象から石材模型を作ることができる。例えば、上下の歯のアルギン酸塩印象を取ることにより、口腔器具のための咬合プロファイルをモデル化し、対象の咬合プロファイルと一致するように生成できることが企図される。次に、歯科用印象を石材模型材料(例えば、Perfect Cast、B017N286R6)内に埋め込むことができる。歯科用フォーミングマシン(例えば、Buffalo;84500)は、石材模型における穴又は亀裂を制限するために使用することができる。石材印象は、三次元スキャナ(例えば、iPhone(登録商標)アプリScandy-pro-3Dスキャナ)を使用してスキャンして、ステレオリソグラフィ(STL)ファイルとしてエクスポートされる初期コンピュータ画像を創出することができる。次いで、STLファイルは、コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェア(例えば、Mimics Innovation Suite MIS 22)などの、歯科技術分野で既知のソフトウェアにインポートすることができる。その後、初期のコンピュータ設計は、例えば、穿孔、欠損した又は欠けた歯の歯科用オーバーレイ、及び口腔器具の上部の口蓋に対する高さを含む口蓋オーバーレイ要素の様々なカスタム設計要素を組み込むように変更することができる。次いで、カスタム口腔器具は三次元プリントすることができ(例えば、Objet Connex 500 printer;Stratasys)、器具の最終的な変更を行うことができる。アルギン酸塩印象の代わりに、口腔腔内スキャナ(例えば、3Shape trios)を使用して、対象の口腔のカスタムスキャンを取得することができる同様の方法を使用することができる。画像は、初期のコンピュータ設計として投影され、口蓋オーバーレイ要素の設計要素を組み込むように変更することができる。
【0054】
U字形要素として本明細書に記載されているが、要素110は、対象の歯の少なくとも一部分に対して相補的であり、本明細書に開示されるように機能するのに好適な位置に口蓋オーバーレイ要素を安定させる任意の形状を有することができることが企図される。例えば、対象の前歯の少なくとも一部分が要素110内に受容されない一方で、対象の残りの歯が側部内に受容されるように、要素110が側(側面)部を有することができる一方で、前部を省略できることが企図される。
【0055】
C.睡眠障害を治療するための方法
対象における睡眠障害を治療する方法も本明細書に開示される。一態様によれば、本方法は、対象の硬口蓋の少なくとも一部分に向かって上方方向に舌を安定させることを含み得る。例えば、舌は、対象の舌の背面の少なくとも一部分に対して概ね垂直な方向で、対象の口腔腔に負圧を適用することによって安定させることができる。別の態様によれば、口腔器具、例えばその表面の少なくとも一部分上に耐湿性接着剤を含む口腔器具への舌の背面の非永久的な取り付けを通じて、上方方向に舌を安定させることができる。開示された方法は、開示された器具を用いて行われ得るが、方法は、任意の特定の器具に限定されないことが理解されよう。
【0056】
方法が舌に負圧を適用することを含む場合、負圧が適用される対象の舌の背面上の場所は変化し得る。一態様において、例えば、負圧は、舌の中央領域に対して概ね垂直な方向で、対象の口腔腔に適用され得る。別の態様では、負圧は、舌の前方領域に対して概ね垂直な方向、すなわち、対象の舌の先端及び口の開口部に近い方向で、対象の口腔腔に適用することができる。
【0057】
一態様によれば、方法は、舌が、口腔腔の前方領域に向かって前方に、又は口腔腔の後方領域に向かって後方に実質的に移動することなく、硬口蓋に向かって舌を上方に引っ張り、安定させるために有用であり得る。したがって、例えば、対象の舌は、上方方向に安定されている間、例えば、負圧が適用されている間、又は舌が耐湿性接着剤などの機構を通して口腔器具に非永久的に取り付けられている間、口腔腔内に留まることができる。硬口蓋に向かって舌を上向きに安定させることによって、鼻呼吸を促進することができ、これは、例えば、閉塞性睡眠時無呼吸、口呼吸、いびき、歯ぎしり、口内乾燥、口臭、唾液分泌過多、遅発性ジスキネジアなどを含む、口の生理機能を伴う様々な睡眠障害の治療に有用であり得る。
【0058】
別の態様によれば、負圧は、対象の舌の背面上の複数の位置に適用され得る。舌の複数の位置に負圧を適用することによって、負圧が適用されている間に舌を刺激したり、又は傷つけたりしないように、異なる場所で舌に穏やかな吸引を適用することができる。
【0059】
対象の舌に適用される負圧の量は変化し得る。一態様において、例えば、適用される負圧は、少なくとも約-5cmH2O、例えば、約-5cmH2O~約-20cmH2O、又は約-5cmH2O~約-10cmH2Oである。
【0060】
本方法は、任意の特定のデバイス又は器具に限定されないが、一態様において、例えば、負圧の適用に応答して、又は耐湿性接着剤などの接着機構を通して、対象の舌の背面の少なくとも一部分と係合するように構成された口腔器具を通して、上方方向に対象の舌を安定させることができる。口腔器具は、一態様では、上述の口腔器具の実施形態であり得る。したがって、例えば、口腔器具は、対象の少なくとも1つの上歯、又は上歯の大部分又は全てに適合することができる。同様に、口腔器具は、対象の硬口蓋の少なくとも一部分に適合することができる。
【0061】
D.例示的な態様
説明された器具、方法、及びそれらの変形に考慮して、本明細書では以下に、本発明のある特定のより詳細に説明される態様を説明するしかしながら、これらの特に列挙された態様は、本明細書に記載された異なる、又はより一般的な教示を包含する任意の異なる請求項に対して何らかの制限的効果を有すると解釈すべきではなく、又は「特定の」態様が、そこで文字通り使用される文言の固有の意味以外の何らかの方法で制限されるとも解釈すべきではない。
【0062】
態様1:対象における睡眠障害を治療するための口腔器具であって、口腔器具が、(a)外側側壁、内側側壁、及び少なくとも1つの咬合面を有するU字形要素であって、外側側壁、内側側壁、及び少なくとも1つの咬合面が、一緒になって、対象の少なくとも1つの上歯を受容するように構成された少なくとも1つのチャネルを画定する、U字形要素と、(b)U字形要素に近接し、対象の硬口蓋の少なくとも一部分に適合するように構成された口蓋オーバーレイ要素であって、口蓋オーバーレイ要素が、内面及び外面を有し、内面と外面との間で口蓋オーバーレイ要素を通って延在する複数の穿孔を画定する、口蓋オーバーレイ要素と、(c)口蓋オーバーレイ要素の複数の穿孔と流体連通するポートであって、ポートが、口蓋オーバーレイ要素の複数の穿孔に負圧を伝達するように構成されている、ポートと、を備え、口蓋オーバーレイ要素の外面が、口蓋オーバーレイ要素の複数の穿孔を通る負圧の適用に応答して、対象の舌の背面の少なくとも一部分と係合するように構成されている、口腔器具。
【0063】
態様2:U字形要素及び口蓋オーバーレイ要素が、モノリシック体である、態様1に記載の口腔器具。
【0064】
態様3:U字形要素及び口蓋オーバーレイ要素が、対象の少なくとも1つの上歯及び対象の硬口蓋の少なくとも一部分から取った型の形状で形成されている、態様1又は2に記載の口腔器具。
【0065】
態様4:U字形要素及び/又は口蓋オーバーレイ要素が、熱可塑性物質、シリコーン、アクリル、粘着性ポリマー、又はそれらの組み合わせを含む、先行態様のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0066】
態様5:穿孔の数が、2つより多い、先行態様のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0067】
態様6:穿孔の数が、2~24個の範囲である、態様1~4のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0068】
態様7:穿孔の数が、4~8つの範囲である、態様1~4のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0069】
態様8:穿孔の数が、4~6つの範囲である、態様1~4のいずれか1つに記載の口腔機器。
【0070】
態様9:穿孔の数が、6つである、態様1~4のいずれか1つに記載の口腔機器。
【0071】
態様10:ポートが、口腔器具の後方領域の近くに位置決めされる、先行態様のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0072】
態様11:ポートが、口腔器具の前方領域の近くに位置決めされる、態様1~9のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0073】
態様12:ポートが、口腔器具が対象の口腔腔内に挿入されたときに、対象の臼歯の近くに位置決めされる、態様1~9のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0074】
態様13:ポートが、口腔器具が対象の口腔腔内に挿入されたときに、対象の切歯の近くに位置決めされる、態様1~9のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0075】
態様14:ポートと流体連通する負圧源を更に備える、先行態様のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0076】
態様15:負圧源とポートとの間に流体連通を提供するチューブを更に備える、先行態様のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0077】
態様16:負圧源が、真空ポンプである、態様14又は15に記載の口腔器具。
【0078】
態様17:負圧源が、マイクロポンプである、態様14又は15に記載の口腔器具。
【0079】
態様18:負圧源が、少なくとも約-5cmH2Oの圧力を生成するように構成されている、態様14~17のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0080】
態様19:負圧源が、約-5cmH2O~約-20cmH2Oの圧力を生成するように構成されている、態様14~17のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0081】
態様20:負圧源が、約-5cmH2O~約-10cmH2Oの圧力を生成するように構成されている、態様14~17のいずれか1つに記載の口腔器具。
【0082】
態様21:対象における睡眠障害(例えば、閉塞性睡眠時無呼吸、口呼吸、いびき、歯ぎしり、口内乾燥、口臭、唾液分泌過多、遅発性ジスキネジアなどの口の生理機能に関連付けられた睡眠障害)を治療するための方法であって、対象の硬口蓋の少なくとも一部分に向かって上方方向に舌を安定させることを含む、方法。
【0083】
態様22:口腔器具の表面への舌の非永久的な取り付けを形成することを含み、口腔器具の表面が、耐湿性接着剤を含む、態様21に記載の方法。
【0084】
態様23:対象の舌の背面の少なくとも一部分に対して概ね垂直な方向に、対象の口腔腔に負圧を適用し、それによって上方方向に舌を安定させることを含む、態様21に記載の方法。
【0085】
態様24:負圧が、対象の舌の背面の中央領域に対して概ね垂直な方向で対象の口腔腔に適用される、態様23に記載の方法。
【0086】
態様25:負圧が、対象の舌の背面の前方領域に対して概ね垂直な方向で対象の口腔腔に適用される、態様23に記載の方法。
【0087】
態様26:対象の舌が、対象の口腔腔内に留まる、態様21~25のいずれか1つに記載の方法。
【0088】
態様27:適用された負圧が、対象の口腔腔の奥に向かって対象の舌の実質的な後方移動をもたらさない、態様23~26のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
態様28:適用された負圧が、鼻呼吸を促進する、態様23~27のいずれか1つに記載の方法。
【0090】
態様29:負圧が、対象の舌の背面上の複数の位置に適用される、態様23~28のいずれか1つに記載の方法。
【0091】
態様30:対象の口腔腔に適用される負圧が、少なくとも約-5cmH2Oである、態様23~29のいずれか1つに記載の方法。
【0092】
態様31:対象の口腔腔に適用される負圧が、約-5cmH2O~約-20cmH2Oである、態様23~30のいずれか1つに記載の方法。
【0093】
態様32:対象の口腔腔に適用される負圧が、約-5cmH2O~約-10cmH2Oである、態様23~31のいずれか1つに記載の方法。
【0094】
態様33:負圧が、負圧の適用に応答して、対象の舌の背面の少なくとも一部分と係合するように構成された口腔器具を通して、対象の口腔腔に適用される、態様23~32のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
態様34:口腔器具が、対象の少なくとも1つの上歯に適合する、態様33に記載の方法。
【0096】
態様35:口腔器具が、対象の硬口蓋の少なくとも一部分に適合する、態様33又は34に記載の方法。
【0097】
態様36:負圧が、態様1~20のいずれか1つに記載の口腔器具を通じて対象の口腔腔に適用される、態様23~35のいずれか1つに記載の方法。
【0098】
当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載の器具及び方法の特定の実施形態と同等のものを多く認識するか、又は確認することができるであろう。かかる均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
図1
図2
図3
【国際調査報告】