(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-27
(54)【発明の名称】免疫グロブリン分解酵素IdeEの突然変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/57 20060101AFI20230720BHJP
C12N 9/50 20060101ALI20230720BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230720BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230720BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230720BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230720BHJP
C07K 14/315 20060101ALI20230720BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230720BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230720BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230720BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230720BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230720BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230720BHJP
A61K 35/768 20150101ALI20230720BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20230720BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C12N15/57
C12N9/50 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/86 Z
C07K14/315
C07K16/00
A61P43/00 111
A61P37/06
A61P43/00 121
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 P
A61K39/395 U
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/768
A61K38/48
A61K39/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577764
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-02-07
(86)【国際出願番号】 CN2021100844
(87)【国際公開番号】W WO2021254479
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】202010557830.X
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521441168
【氏名又は名称】上海宝済薬業有限公司
【住所又は居所原語表記】No.28,Luoxin Road,Baoshan District,Shanghai 201908,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 彦君
(72)【発明者】
【氏名】王 征
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA72X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA33
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
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4C084CA04
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4C085AA13
4C085AA14
4C085BA01
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4C085CC22
4C085CC23
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA09
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA05
4C087ZB08
4C087ZC19
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
免疫グロブリン分解酵素IdeEの突然変異体を提供する。前記免疫グロブリン分解酵素IdeEは、配列表におけるSEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列と、少なくとも前記アミノ酸配列の位置8、10、24、59、97及び280のうちの1つ又は複数の位置を置換した後に得られた前記突然変異体と、を含み、前記突然変異体の機能は、少なくとも前記免疫グロブリン分解酵素IdeEの機能を含む。提供する免疫グロブリン分解酵素突然変異体の活性及び熱安定性は、野生型IdeEよりも高い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリン分解酵素IdeEの突然変異体であって、
前記免疫グロブリン分解酵素IdeEは、配列表におけるSEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列を含むか又は前記アミノ酸配列で構成され、
前記突然変異は、
(1)前記アミノ酸配列の位置8、10、24、59、97及び280のうちの1つ又は複数の位置を置換した後に前記突然変異体を得ること、及び/又は
(2)前記免疫グロブリン分解酵素IdeEを短縮し、そのN末端の最初の1つ、最初の2つ、最初の3つ、最初の4つ、最初の5つ、最初の6つ、最初の7つ、最初の8つ、最初の9つ、最初の10つ、最初の11つ、最初の12つ、最初の13つ、最初の14つ、最初の15つ、最初の16つ、最初の17つ、最初の18つ又は最初の19つのアミノ酸配列を削除すること、及び/又は
(3)前記免疫グロブリン分解酵素IdeEを短縮し、そのC末端の最後の1つ、最後の2つ、最後の3つ、最後の4つ、最後の5つ、最後の6つ、最後の7つ、最後の8つ、最後の9つ又は最後の10つのアミノ酸配列を削除すること、
からなる群より選ばれ、
前記突然変異体は、前記免疫グロブリン分解酵素IdeEよりも高い活性を有するか、及び/又は前記免疫グロブリン分解酵素IdeEよりも高い熱安定性を有することを特徴とする免疫グロブリン分解酵素IdeEの突然変異体。
【請求項2】
前記突然変異は、
(1)SEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列の位置8、10、24、59、97又は280を置換すること、及び/又は
(2)前記免疫グロブリン分解酵素IdeEのN末端の最初の15つ、最初の16つ、最初の17つ、最初の18つ又は最初の19つのアミノ酸を削除し、好ましくは最初の18つのアミノ酸を削除すること、及び/又は
(3)前記免疫グロブリン分解酵素IdeEのC末端の最後の5つ又は最後の10つのアミノ酸を削除し、好ましくは最後の5つのアミノ酸を削除すること、
からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の突然変異体。
【請求項3】
前記置換は、
(1)前記位置8のスレオニンが、システイン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、バリン、アルギニン及びリジンのうちのいずれか1種により置換されるか、
(2)前記位置10のアラニンが、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種により置換されるか、
(3)前記位置24のスレオニンが、アラニン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種により置換されるか、
(4)前記位置59のアラニンが、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種により置換されるか、
(5)前記位置97のグルタミン酸が、アラニン、システイン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、
アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種により置換されるか、及び
(6)前記位置280のアルギニンが、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、セリン、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、トリプトファン、スレオニン、バリン及びチロシンのうちのいずれか1種により置換されるか、
からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の突然変異体。
【請求項4】
前記突然変異体配列表におけるSEQ ID NO:3~35のいずれかで示されることを特徴とする請求項3に記載の突然変異体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の突然変異体を含むタンパク質。
【請求項6】
前記タンパク質は、前記突然変異体のN末端にシグナルペプチドを含み、好ましくは、前記タンパク質は、前記突然変異体のN末端に分泌シグナル配列が連結されていて前記分泌配列のN末端にメチオニンが連結されているか、及び/又は前記突然変異体のC末端にヒスチジンタグが連結されており、より好ましくは、前記タンパク質は、N末端からC末端までメチオニン、分泌シグナル配列及び前記突然変異体で構成されることを特徴とする請求項5に記載のタンパク質。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の突然変異体、あるいは請求項5又は6に記載のタンパク質をコードするヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターを含むか又は請求項1~4のいずれか1項に記載の突然変異体、あるいは請求項5又は6に記載のタンパク質を発現し、好ましくは大腸菌細胞又は酵母細胞である、宿主細胞。
【請求項10】
免疫グロブリン分解酵素もしくはその突然変異体、あるいは前記免疫グロブリン分解酵素もしくはその突然変異体を含むタンパク質と、
任意の薬学的に許容されるベクター又は賦形剤と、
を含む組成物。
【請求項11】
前記免疫グロブリン分解酵素は、IdeE、IdeS及びIdeZから選ばれる請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記免疫グロブリン分解酵素の突然変異体は、請求項1~4のいずれか1項に記載の突然変異体であるか、あるいは、前記免疫グロブリン分解酵素もしくはその突然変異体を含む前記タンパク質は、請求項5又は6に記載のタンパク質である、請求項10又は11に記載の組成物。
【請求項13】
抗体又はFc含有タンパク質をさらに含む請求項10~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗体の標的は、細胞表面タンパク質、サイトカイン、ホルモン、酵素、細胞内メッセンジャー、細胞間メッセンジャー及び免疫チェックポイントからなる群より選ばれる、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
ウィルスベクター薬物をさらに含み、好ましくは、前記ウィルスベクター薬物は、腫瘍
溶解性ウィルス、遺伝子治療ウィルス及びウィルスベクターワクチンからなる群より選ばれる請求項10~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
血液IgGレベルを低下できる薬物をさらに含み、好ましくは、前記の血液IgGレベルを低下できる薬物は、FcRn抗体、FcRn高親和性のFc断片変異体からなる群より選ばれる、請求項10~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
(1)請求項1~4のいずれか1項に記載の突然変異体、あるいは請求項5又は6に記載のタンパク質と、
(2)(a)薬学的に許容されるベクター又は賦形剤と、(b)抗体又はFc含有タンパク質とからなる群より選ばれる1種又は2種以上、及び/又は
(3)腫瘍溶解性ウィルス、遺伝子治療ウィルス及びウィルスベクターワクチンから選ばれるウィルスベクター薬物、及び/又は
(4)FcRn抗体、FcRn高親和性のFc断片変異体から選ばれる血液IgGレベルを低下できる薬物と、
を含む、キット。
【請求項18】
パックAとパックBとを含むキットであって、
前記パックAは、請求項1~4のいずれか1項に記載の突然変異体、あるいは請求項5又は6に記載のタンパク質を含有し、
前記パックBは、
(1)薬学的に許容されるベクター又は賦形剤、(2)抗体又はFc含有タンパク質、及び/又は(3)ウィルスベクター薬物、及び/又は(4)血液IgGレベルを低下できる薬物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有し、
前記ウィルスベクター薬物は、腫瘍溶解性ウィルス、遺伝子治療ウィルス及びウィルスベクターワクチンから選ばれ、前記血液IgGレベルを低下できる薬物は、FcRn抗体、FcRn高親和性のFc断片変異体から選ばれることを特徴とするキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関し、具体的に免疫グロブリン分解酵素の突然変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
化膿性レンサ球菌は、人間や畜類によく見られる病原菌の1種であり、自然界及び人間又は動物の口腔咽頭、呼吸器及び腸管中に広く存在している。レンサ球菌感染は、関連疾患を引き起こし、比較的に軽い病症としては、例えば化膿性皮膚炎、咽頭炎が挙げられ、比較的に重篤な疾患としては、敗血症、壊死性筋膜炎及び毒素性ショック症候群が挙げられる。化膿性レンサ球菌に由来する免疫グロブリンG分解酵素(Immunoglobulin G-degrading enzyme of Streptococcus pyogenes,IdeS)は、よく見られるA型レンサ球菌(Group A Streptococcus pyogenes,GAS)システインプロテアーゼであり、IgGを加水分解するエンドペプチダーゼ活性を有する(Agniswamy J,Lei B,Musser J Mら,J Biol Chem,2004,279:52789-52796.Lei B,DeLeo F R,Reid S Dら,Infect Immun,2002,70:6880-6890.Von Pawel-Rammingen U,Johansson B P,Bjorck L..EMBO J,2002,21:1607-1615.)。病原菌の毒性因子として、抗体の下部ヒンジ領域CH1及びCH2構造領域を識別してIgGを特異的に分解し、同一のF(ab)2及びFc断片を取得でき、GASが抗体媒介性食作用及び細胞毒性を避けるのを補助することにより、宿主免疫系のGASに対する殺傷を弱くすることができる(Von Pawel-Rammingen U.J Innate Immunity,2012,4:132-140.Su,Y.-F.ら,Molecular Immunology,2011,49:134-142.)。
【0003】
免疫グロブリンG(Immunoglobulin G,IgG)は、血清の主な抗体成分であり、血清免疫グロブリンの約75%を占め、生体免疫において主に保護作用を果たし、感染性疾患を有効に予防することができる。保護性作用を有することに加えて、IgGは、疾患にも関連する。幾つかの自己免疫性疾患において、IgG抗体が人体自身の分子と反応し、臓器移植において、IgGは、急性移植拒絶反応を引き起こし得る。IdeSは、IgGを特異的に分解することにより、IgGの有すべき機能を失わせて免疫抑制を実現する。
【0004】
現在、臨床に適用されるIdeSは、活性が良くなく、人体内に既存する抗体が多いという問題が存在する。IdeSは、ヒト病原体の毒性因子であり、臨床研究により、普通の人は、正常生理条件下で抗IdeS抗体が検出される比率が100%に近いため、IdeSの使用方式による投与効率が低いとともに、安全性問題が存在する。
【0005】
IdeSとの配列相同性が70%程度のIdeEプロテアーゼは、ストレプトコッカスエクイズーStreptococcus equi ssp.equiに由来し、ウマの病原菌の1種である(Jonas Lannerg▲a▼rd,Bengt Guss.FEMS Microbiol Lett,2006,262:230-235)。IdeEとIdeSの2種類の酵素は、完全に同じ位置でIgGを切断し、切断が高度な再現性及び特異性を有するとともに、非常に類似する基質範囲を有する。IdeEは、ウマ病原菌に由来するので、人体内に既存する抗体がIdeSよりも遥かに低い可能性があると推定され、よりIgG抗体媒介性疾患を治療及び予防するための免疫抑制剤の開発に適す
る。しかし、野生型IdeEがIdeSと同様に、低活性の問題が存在する。従って、分子設計及び突然変異体選別によりIdeEの活性を向上させ、臨床使用の投与量を低下させることにより、高投与量細菌由来のタンパク質によるリスクを低下させる。これこそ本発明の実現しようとする目的である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様は、免疫グロブリン分解酵素IdeEの突然変異体であって、
前記免疫グロブリン分解酵素IdeEは、配列表におけるSEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列を含むか又は前記アミノ酸配列で構成され、
前記突然変異は、
(1)前記アミノ酸配列の位置8、10、24、59、97及び280のうちの1つ又は複数の位置を置換した後に前記突然変異体を得ること、及び/又は
(2)前記免疫グロブリン分解酵素IdeEを短縮し、そのN末端の最初の1つ、最初の2つ、最初の3つ、最初の4つ、最初の5つ、最初の6つ、最初の7つ、最初の8つ、最初の9つ、最初の10つ、最初の11つ、最初の12つ、最初の13つ、最初の14つ、最初の15つ、最初の16つ、最初の17つ、最初の18つ又は最初の19つのアミノ酸配列を削除すること、及び/又は
(3)前記免疫グロブリン分解酵素IdeEを短縮し、そのC末端の最後の1つ、最後の2つ、最後の3つ、最後の4つ、最後の5つ、最後の6つ、最後の7つ、最後の8つ、最後の9つ又は最後の10つのアミノ酸配列を削除すること、からなる群より選ばれ、
前記突然変異体は、前記免疫グロブリン分解酵素IdeEよりも高い活性及び/又は熱安定性を有することを特徴とする免疫グロブリン分解酵素IdeEの突然変異体に関する。
【0007】
本発明の第2の態様は、本発明の突然変異体を含むタンパク質に関する。前記タンパク質は、前記突然変異体のN末端に分泌シグナル配列及び/又はメチオニンが連結されているか、及び/又は前記タンパク質は、前記突然変異体のC末端にヒスチジンタグが連結されている。
【0008】
本発明の第3~第5の態様は、本発明の突然変異体又はタンパク質をコードするヌクレオチド、前記ヌクレオチドを含む発現ベクター、ならびに前記発現ベクターを含むか又は本発明の突然変異体又はタンパク質を発現する宿主細胞に関する。
【0009】
本発明の第6の態様は、本発明の突然変異体又はタンパク質と、薬学的に許容されるベクター又は賦形剤、抗体又はFc含有タンパク質、ウィルスベクター薬物からなる群より選ばれる任意の物質と、を含む組成物又はキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、7つの単一部位突然変異体及び野生型IdeEによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:1000)である。
【
図2】
図2は、7つの単一部位突然変異体及び野生型IdeEによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:2000)である。
【
図3】
図3は、5つのN末端短縮突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:1000)である。
【
図4】
図4は、50℃の条件下で1h保温した後、5つのN末端短縮突然変異体及び野生型IdeEによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:1000)である。
【
図5】
図5は、2つのC末端短縮突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:1000)である。
【
図6】
図6は、5つの組合せ突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:2000)である。
【
図7】
図7は、50℃の条件下で1h保温した後、5つの組合せ突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:2000)である。
【
図8】
図8は、異なる濃度のE97D_del18突然変異体とIdeSによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図9】
図9は、異なる濃度のE97D_del18突然変異体とIdeZによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図10】
図10は、E97D_del18突然変異体によりマウス血清及び血漿中でヒトIVIgを切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図11】
図11は、E97D_del18突然変異体による、マウス及びヒト血清中で産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図12A】
図12A~
図12Dは、異なる濃度のE97D_del18によりビーグル犬、ラット、マウス、ウサギ、サル及びブタ血清中でIgGを切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図12B】
図12A~
図12Dは、異なる濃度のE97D_del18によりビーグル犬、ラット、マウス、ウサギ、サル及びブタ血清中でIgGを切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図12C】
図12A~
図12Dは、異なる濃度のE97D_del18によりビーグル犬、ラット、マウス、ウサギ、サル及びブタ血清中でIgGを切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図12D】
図12A~
図12Dは、異なる濃度のE97D_del18によりビーグル犬、ラット、マウス、ウサギ、サル及びブタ血清中でIgGを切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図13】
図13は、E97D_del18によりマウス体内で異なる時間内でヒトIVIgを切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図である。
【
図14A】
図14A及び
図14Bは、異なる突然変異体組み合わせを有する突然変異体と、IdeEにより、ヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:2000)である。
【
図14B】
図14A及び
図14Bは、異なる突然変異体組み合わせを有する突然変異体と、IdeEにより、ヒトIgG1を切断することで産生した切断産物のSDS-PAGEゲルの電気泳動図(酵素:基質=1:2000)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
I.免疫グロブリン分解酵素活性を有する機能性ポリペプチド
本発明の第1の態様は、機能性ポリペプチドを提供し、前記機能性ポリペプチドは、免疫グロブリン分解酵素の活性を有してSEQ ID NO:2で示されるアミノ酸配列に基づく突然変異体を含み、前記突然変異体は、
(1)SEQ ID NO:2の位置8、10、24、59、97及び280のうちの1つ又は複数の位置でアミノ酸を置換した後に得られた突然変異体、及び/又は
(2)N末端の最初の1つ、最初の2つ、最初の3つ、最初の4つ、最初の5つ、最初
の6つ、最初の7つ、最初の8つ、最初の9つ、最初の10つ、最初の11つ、最初の12つ、最初の13つ、最初の14つ、最初の15つ、最初の16つ、最初の17つ、最初の18つ又は最初の19つのアミノ酸配列を削除したSEQ ID NO:2のN末端短縮突然変異体、及び/又は
(3)C末端の最後の1つ、最後の2つ、最後の3つ、最後の4つ、最後の5つ、最後の6つ、最後の7つ、最後の8つ、最後の9つ又は最後の10つのアミノ酸配列を削除したSEQ ID NO:2のC末端短縮突然変異体、
からなる群より選ばれる。
【0012】
本発明に記載の突然変異体は、前記免疫グロブリン分解酵素IdeEの機能を有し、好ましくは、向上したIgG切断活性及び熱安定性を有する。
【0013】
本発明における用語「免疫グロブリン分解酵素IdeEよりも高い活性を有する」とは、前記突然変異体の免疫グロブリン分解能力が野生型免疫グロブリン分解酵素IdeEよりも優れることを指す。
【0014】
本発明における用語「IdeEよりも高い熱安定性を有する」とは、前記突然変異体は、ある温度下で一定時間維持した後に、免疫グロブリン分解能力が同じ条件下での野生型免疫グロブリン分解酵素IdeEよりも優れることを指す。
【0015】
本発明に記載の突然変異体は、好ましくは遺伝子工学組み換え方式により得られる。
【0016】
好ましくは、前記突然変異体は、SEQ ID NO:2で示される配列と少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有する。
【0017】
より好ましくは、前記位置8、10、24、59、97又は280のアミノ酸を置換し、例えば、得られた突然変異体のアミノ酸配列が、SEQ ID NO:3~17、SEQ ID NO:35のいずれかで示される通りであるか、
あるいは、前記免疫グロブリン分解酵素IdeEのN末端の最初の15つ、最初の16つ、最初の17つ、最初の18つ又は最初の19つのアミノ酸を削除し、得られた突然変異体のアミノ酸配列がSEQ ID NO:18~22のいずれかで示される通りであるか、
あるいは、前記免疫グロブリン分解酵素IdeEのC末端の最後の1つ、最後の5つ、最後の8つ又は最後の10つのアミノ酸を削除し、例えば、得られた突然変異体のアミノ酸配列がSEQ ID NO:23~24のいずれかで示される通りであるか、
あるいは、前記位置8、10、24、59、97又は280に対して置換を行うとともに、前記免疫グロブリン分解酵素IdeEのN末端の最初の15つ、最初の16つ、最初の17つ、最初の18つ又は最初の19つのアミノ酸を削除し、好ましくは、最初の18つのアミノ酸を削除し、例えば、得られた突然変異体のアミノ酸配列がSEQ ID NO:25~29のいずれかで示される通りであるか、
あるいは、前記位置8、10、24、59、97又は280に対して置換を行うとともに、前記免疫グロブリン分解酵素IdeEのN末端の最初の15つ、最初の16つ、最初の17つ、最初の18つ又は最初の19つのアミノ酸を削除するとともに、前記免疫グロブリン分解酵素IdeEのC末端の最後の1つ、最後の5つ、最後の8つ又は最後の10つのアミノ酸を削除し、好ましくは、最初の18つのアミノ酸を削除し、好ましくは最後の5つのアミノ酸を削除し、例えば、得られた突然変異体のアミノ酸配列がSEQ ID
NO:30~34のいずれかで示される通りである。
【0018】
本発明の1つの好ましい実施態様において、前記アミノ酸の置換は、
(1)SEQ ID NO:2の位置8でのスレオニンが、システイン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、バリン、アルギニン及びリジンのうちのいずれか1種により置換されるか、
(2)SEQ ID NO:2の位置10でのアラニンが、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種により置換されるか、
(3)SEQ ID NO:2の位置24でのスレオニンが、アラニン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種により置換されるか、
(4)SEQ ID NO:2の位置59でのアラニンが、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種で置換されるか、
(5)SEQ ID NO:2の位置97でのグルタミン酸が、アラニン、システイン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種で置換されるか、
(6)SEQ ID NO:2の位置280でのアルギニンが、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、セリン、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、スレオニン、バリン、トリプトファン及びチロシンのうちのいずれか1種で置換されるか、
からなる群より選ばれる。
【0019】
本発明の1つのより好ましい実施態様において、前記アミノ酸の置換は、
(1)SEQ ID NO:2の位置8でのスレオニンが、アスパラギン酸、グルタミン酸、トリプトファン又はチロシンにより置換されるか、
(2)SEQ ID NO:2の位置10でのアラニンが、リジン又はアルギニンにより置換されるか、
(3)SEQ ID NO:2の位置24でのスレオニンが、アラニン、グリシン又はセリンにより置換されるか、
(4)SEQ ID NO:2の位置59でのアラニンが、イソロイシン、ロイシン又はバリンにより置換されるか、
(5)SEQ ID NO:2の位置97でのグルタミン酸が、アスパラギンにより置換されるか、及び/又は
(6)SEQ ID NO:2の位置280でのアルギニンが、ヒスチジン又はリジンにより置換されるか、
からなる群より選ばれる。
【0020】
もう1つの好ましい実施態様において、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:5及びSEQ ID NO:16の5つの、アミノ酸置換して得られた配列を基にして、そのN末端の最初の18つのアミノ酸をさらに削除し、得られた突然変異体のアミノ酸配列
は、配列表におけるSEQ ID NO:25~29で示される通りである。
【0021】
もう1つの好ましい実施態様において、SEQ ID NO:26~29の5つの、アミノ酸置換して得られた配列を基にして、そのC末端の5つ又は10つのアミノ酸を削除し、得られた突然変異体のアミノ酸配列は、配列表におけるSEQ ID NO:30~34で示される通りである。
【0022】
もう1つの好ましい実施態様において、SEQ ID NO:14~16の3つの突然変異体を基にして、さらに組合せ突然変異を行い、得られた突然変異体のアミノ酸配列は、配列表におけるSEQ ID NO:35で示される通りである。もう1つの好ましい実施態様において、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:13、SEQ ID
NO:14、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:5及びSEQ ID NO:16の5つの、アミノ酸置換して得られた配列を基にして、そのN末端の最初の18つのアミノ酸をさらに削除し、得られた突然変異体のアミノ酸配列は、配列表におけるSEQ ID NO:25~29で示される通りである。
【0023】
好ましくは、さらに、本発明に記載の突然変異体に対して更なる突然変異を行うことができ、更なる突然変異を行った後に得られた変異体の配列は、SEQ ID NO:2の配列と少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有するとともに、免疫グロブリン分解酵素IdeEの機能を有する。
【0024】
本発明で使用されるIdeEの完全な配列は、GenBankアクセッション番号ABF57910.1として公衆により取得可能であり、その配列は、本明細書においてSEQ ID NO:1として提供される。当該配列は、N末端メチオニン、33つのアミノ酸の分泌シグナル配列、IdeEコード配列をこの順で含む。N末端メチオニン及びシグナル配列は、通常、成熟なIdeEタンパク質を形成するように除去され、その配列は、本明細書においてSEQ ID NO:2として提供される。別途説明がない限り、本明細書に記載の免疫グロブリン分解酵素配列におけるアミノ酸の位置に対して番号についての全ての言及は、N末端から始まるSEQ ID NO:2における相応する位置の番号に基づく。
【0025】
本発明は、上述した突然変異体を含むタンパク質をさらに提供する。
【0026】
1つの好ましい実施例において、前記タンパク質は、上記突然変異体のN末端にシグナルペプチドを含み、好ましくは、前記タンパク質は、前記突然変異体のN末端に分泌シグナル配列が連結されて前記分泌配列のN末端にメチオニンが連結されているか、及び/又は前記突然変異体のC末端にヒスチジンタグが連結されており、より好ましくは、前記タンパク質は、N末端からC末端までメチオニン、分泌シグナル配列及び前記突然変異体を含むか、又はこれらにより構成される。
【0027】
本発明の第2の態様は、上述したタンパク質又は突然変異体をコードするヌクレオチドを提供する。
【0028】
本発明は、前記ヌクレオチドを含む発現ベクターをさらに提供する。
【0029】
本発明は、上述した発現ベクターを含む宿主細胞、あるいは上述したタンパク質又は突然変異体を発現する宿主細胞をさらに提供する。
【0030】
前記宿主細胞は、本分野において一般的にタンパク質又はポリペプチドを発現するための細胞であってもよく、前記細胞は、大腸菌細胞、酵母細胞などから選ばれる。
【0031】
II.薬物組成物
本発明の第3の態様は、免疫グロブリン分解酵素もしくはその突然変異体、又は免疫グロブリン分解酵素もしくはその突然変異体を含むタンパク質と、任意の薬学的に許容されるベクター又は賦形剤と、を含む組成物を提供する。1つの具体的な実施態様において、前記免疫グロブリン分解酵素は、IdeE、IdeS及びIdeZから選ばれる。1つの具体的な実施態様において、前記免疫グロブリン分解酵素の突然変異体は、上述した突然変異体であり、前記タンパク質は、上述した突然変異体を含むタンパク質である。1つの具体的な実施態様において、本発明の組成物は、抗体又はFc含有タンパク質をさらに含む。1つの具体的な実施態様において、前記抗体の標的は、細胞表面タンパク質、サイトカイン、ホルモン、酵素、細胞内メッセンジャー、細胞間メッセンジャー及び免疫チェックポイントからなる群より選ばれる。1つの具体的な実施態様において、本発明の組成物は、ウィルスベクター薬物をさらに含有し、好ましくは、前記ウィルスベクター薬物は、腫瘍溶解性ウィルス、遺伝子治療ウィルス及びウィルスベクターワクチンからなる群より選ばれる。1つの具体的な実施態様において、本発明の組成物は、血液IgGレベルを低下できる薬物をさらに含み、好ましくは、前記血液IgGレベルを低下できる薬物は、FcRn抗体、FcRn高親和性のFc断片変異体からなる群より選ばれる。
【0032】
2.1 抗体の標的
好ましくは、上述した組成物において、前記抗体の標的は、細胞表面タンパク質であってもよく、AFP、αvインテグリン(integrin)、α4β7インテグリン、BCMA、CD2、CD3、CD19、CD20、CD22、CD25、CD30、CD32、CD33、CD36、CD40、CD46、CD52、CD56、CD64、CD70、CD74、CD79、CD80、CD86、CD105、CD121、CD123、CD133、CD138、CD174、CD205、CD227、CD326、CD340、CEA、c-Met、Cripto、CA1X、Claudin18.2、ED-B、EGFR、EpCAM、EphA2、EphB2、FAP、FOLR1、GD2、Globo H、GPC3、GPNMB、HER-1、HER-2、HER-3、MAGE-A3、Mesothelin、MUC16、GPNMB、PSMA、TMEFF2、TAG-72、5T4、ROR-1、Sca-1、SP、VEGF又はWT1が挙げられるが、これらに限られない。
【0033】
前記抗体の標的は、サイトカインであってもよく、インターロイキンIL-1~IL-13、腫瘍壊死因子α及びβ、インターフェロンα、β及びγ、腫瘍成長因子β(TGF-β)、コロニー刺激因子(CSF)又は顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)が挙げられるが、これらに限られない(HumanCytokines:Handbook for Basic & Clinical Research(Aggrawalら,Blackwell Scientific,Boston,MA 1991を参照)。
【0034】
前記抗体の標的は、ホルモン、酵素、細胞内メッセンジャー及び細胞間メッセンジャーであってもよく、例えばアデニル酸シクラーゼ、グアニル酸シクラーゼ又はホスホリパーゼCである。
【0035】
前記抗体の標的は、免疫チェックポイントであってもよく、前記免疫チェックポイントとしては、CTLA-4、PD-1、PD-L1、TIM-3、LAG3、Siglec15、4-1BB、GITR、OX40、CD40L、CD28、TIGIT、VIST
Aが挙げられる。
【0036】
2.2 標的薬物
好ましくは、上述した組成物は、標的薬物又は化学療法薬又は免疫チェックポイント遮断剤をさらに含み、前記標的薬物は、エピジェネティック薬物、PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路を標的とする阻害剤及びチロシンキナーゼ阻害剤から選ばれ、前記化学療法薬は、免疫抑制剤、プロテアソーム阻害剤、細胞毒性薬及び細胞周期非特異的薬物から選ばれ、前記免疫チェックポイント遮断剤は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG3抗体、抗Siglec15抗体、抗4-1BB抗体、抗GITR抗体、抗OX40抗体、抗CD40L抗体、抗CD28抗体、抗TIGIT抗体、抗VISTA抗体から選ばれ、前記エピジェネティック薬物は、例えばヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、前記PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路を標的とする阻害剤は、例えばTricibineであり、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、例えばスニチニブであり、前記免疫抑制剤は、例えばシクロホスファミドであり、前記プロテアソーム阻害剤は、例えばボルテゾミブであり、前記免疫抑制剤は、例えばサリドマイド、ポマリドミドであり、前記細胞毒性薬は、例えばゲムシタビン、テモゾロミドであり、前記細胞周期非特異的薬物は、例えばミトキサントロンである。
【0037】
2.3 血液IgGレベルを低下できる薬物
好ましくは、上述した組成物において、前記血液IgGレベルを低下できるポリペプチド薬物は、血液IgGとFcRnタンパク質との結合を遮断することができる。好ましくは、前記ポリペプチドとヒトFcRnタンパク質との親和性が、血液IgGとヒトFcRnタンパク質との親和性よりも高い。前記IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4から選ばれる。好ましくは、前記ポリペプチドは、抗体Fc断片変異体を含み、前記変異体は、FcとFcRnとの親和性を向上できる突然変異を含み、前記突然変異は、好ましくは、YTE、YTEKF、LS、NHSであり、前記抗体Fc断片は、例えばEfgartigimodである。前記変異体は、単量体、二量体、多量体であってもよい。本発明に利用可能な前記YTE、YTEKF、LS、NHS等突然変異であって、前記突然変異の位置はそれぞれDall’Acquaらが述べた通り(WF,D.A.ら(2002).Journal of immunology(Baltimore,Md.:1950)169(9):5171-5180.)、Leeらが述べた通りである(Lee,C.H.ら(2019).Nat Commun 10(1):5031.)。前記突然変異の対象は、ヒトIgGから選ばれ、前記IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4から選ばれる。
【0038】
本発明に利用可能な他のFc断片変異体において、前記変異体は、Dall’Acquaらが述べた突然変異(WF,D.A.ら(2002).Journal of immunology(Baltimore,Md.:1950)169(9):5171-5180.)、Shanらが述べた突然変異(Shan,L.ら(2016).PLoS One 11(8):e0160345.)、Leeらが述べた突然変異(Lee,C.H.ら(2019).Nat Commun 10(1):5031.)、Macknessらが述べた突然変異(Mackness,B.C.ら(2019).MAbs 11(7):1276-1288.)、Christopheらが述べた突然変異(Dumet Christophe,Pottier J▲e▼r▲e▼my,Gouilleux-Gruart Val▲e▼rieら,MAbs,2019,11:1341-1350.)を含むが、これらに限られない。
【0039】
好ましくは、前記ポリペプチドは、抗体Fc断片変異体を含み、前記変異体は、FcとFcγRとの親和性を向上できる突然変異を含み、前記変異体は、好ましくはS239D/I322E、S239D/I322E/A330L、K326W/E333S、R21
4K突然変異であり、前記変異体は、好ましくはフコースで修飾されていない。前記変異体は、単量体、二量体、多量体であってもよい。本発明に利用可能な他のFc断片変異体であって、前記変異体は、Wangらが述べた突然変異体(Wang Xinhua.,Mathieu Mary.,Brezski Randall J.(2018).Protein Cell,9(1),63-73.doi:10.1007/s13238-017-0473-8)を含むが、これらに限られない。
【0040】
好ましくは、上述したFcとFcRnとの親和性を向上できる変異体は、FcとFcγRとの親和性を向上できる突然変異を同時に含んでいる。前記変異体は、単量体、二量体、多量体であってもよい。
【0041】
好ましくは、前記の薬物組成物において、前記ポリペプチドは、抗FcRn抗体から選ばれ、前記抗体は、例えばNipocalimab、Rozanolixizumab、RVT-1401、HBM9161、ALXN1830、SYNT001、Nirsevimabである。
【0042】
好ましくは、前記の薬物組成物において、前記ポリペプチドは、FcRnに特異的に結合できる小ペプチド断片から選ばれ、前記小ペプチド断片の長さが10~70個アミノ酸であり、前記小ペプチド断片は、例えばABY-039である。
【0043】
好ましくは、前記ポリペプチドは、FcRnに特異的に結合できるFc多量体から選ばれ、前記Fc多量体は、例えばGL-2045、M230、PRIM、HexaGard(商標)、CSL777、Hexavalent molecules by UCBである。
【0044】
好ましくは、前記ポリペプチドは、Sockoloskyらが述べたポリペプチド断片(Sockolosky Jonathan T,Szoka Francis C.Adv.Drug Deliv.Rev.,2015,91:109-24)を含むが、これらに限られない。
【0045】
2.4 ウィルスベクター薬物
好ましくは、上述した組成物において、前記ウィルスベクター薬物において、前記ウィルスベクター薬物に用いられるウィルスは、ssDNAウィルス、dsDNAウィルス、ssRNAウィルス又はdsRNAウィルスから選ばれるか、及び/又は前記ウィルスベクター薬物に用いられるウィルスは、野生型ウィルス株又は自然弱毒株、遺伝子工学選択的弱毒株、遺伝子搭載型ウィルス株、遺伝子転写標的型ウィルス株から選ばれる。
【0046】
好ましくは、前記野生型ウィルス株又は自然弱毒株は、ニューカッスル病ウィルス、レオウィルス、ムンプスウィルス、ウエストナイルウィルス、アデノウイルス、ワクシニアウィルス等から選ばれる。
【0047】
好ましくは、前記遺伝子工学選択的弱毒株は、鍵遺伝子が人工により削除されてウィルス複製の腫瘍選択性を実現するものであり、例えば、チミジンキナーゼ(Thymidinekinase, TK)によりノックアウトされた遺伝子で操作された単純ヘルペスウィルスI(HSV-1)であり、前記遺伝子工学選択的弱毒株は、例えばONYX-015、G207である。ONYX-015は、E1b領域において827bpが削除されているとともに、E1B55Kタンパク質に対する遺伝子において点変異が行われ、その発現遺伝子を中途で終止させ、E1B55Kタンパク質を発現できなくなる。G207は、γ34.5遺伝子が削除されており、当該遺伝子はHSV-1の神経毒性決定要素である。
【0048】
好ましくは、前記遺伝子搭載型ウィルス株には外来遺伝子が搭載され、前記外来遺伝子は、例えば顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)であり、前記遺伝子搭載型ウィルス株は、例えばJX-594又はT-VECである。
【0049】
好ましくは、前記遺伝子転写標的型ウィルス株は、すなわち、ウィルス必須遺伝子の前に組織又は腫瘍特異的プロモーターを挿入することで腫瘍溶解性ウィルスの腫瘍細胞内での複製を制御し、前記遺伝子転写標的型ウィルス株は、例えばG92Aである。
【0050】
好ましくは、上述した薬物組成物において、前記ssDNAウィルスは、パルボウイルス(parvovirus)から選ばれ、好ましくは、前記パルボウイルスはH-1PVウィルスである。
【0051】
好ましくは、前記dsDNAウィルスは、単純ヘルペスウィルス(herpes simplex virus)、アデノウイルス(adeno virus)、poxvirusから選ばれ、より好ましくは、前記単純ヘルペスウィルスは、I型単純ヘルペスウィルスHSV-1であり、例えばR3616、T-VEC、HF10、G207、NV1020、OrienX010であり、前記poxvirusは、Pexa-Vec(vaccinia viruse)、JX-594(vaccinia viruse)、GL-ONC1、Myxomaから選ばれ、前記アデノウイルスは、Enadenotucirev、DNX-2401、C-REV、NG-348、ProsAtak、CG0070、ADV-TK、EDS01、KH901、H101、H103、VCN-01、Telomelysin(OBP-301)から選ばれる。
【0052】
好ましくは、前記ssRNAウィルスは、Picornavirus、alphavirus、Retroviruses、Paramyxoviruses、Rhabdovirusesから選ばれ、好ましくは、前記Picornavirusは、CAVATAK、PVS-RIPO、CVA21(enterovirus)、RIGVIRから選ばれ、前記alphavirusは、M1、Sindbis AR339、Semliki
Forest virusから選ばれ、前記Retrovirusesは、Toca511から選ばれ、前記Paramyxovirusesは、MV-NIS、PV701(Newcastle disease virus)から選ばれ、前記Rhabdovirusesは、VSV-IFNβ、MG1-MAGEA3、VSV-GPから選ばれる。
【0053】
好ましくは、前記dsRNAウィルスは、Reovirusesから選ばれ、好ましくは、前記Reovirusesは、Pelareorep、レオウィルス(Reolysin)、ワクシニアウィルス(vaccinia virus)、ムンプスウィルス、ヒト免疫不全症ウィルス(human immunodeficiency virus,HIV)から選ばれ、好ましくは、前記RNAウィルスは、レオウィルス(reovirus)、コクサッキーウィルス(coxsackievirus)、ポリオウィルス(polio virus)、セネカバレーウィルス(seneca valley virus)、麻疹ウィルス(measles virus)、ニューカッスル病ウィルス(newcastle disease virus)、水疱性口内炎ウィルス(vesicular stomatitis virus)、インフルエンザウィルスから選ばれる。
【0054】
好ましくは、上述した薬物組成物において、前記腫瘍溶解性ウィルスは、外来遺伝子を発現し、前記外来遺伝子は、好ましくは二重特異性T細胞エンゲージャー(Bispecific T cell engagers,BiTE)、scFv断片、サイトカイン、ケモカインである。前記BiTEは、CD3等の、T細胞を活性化する分子に結合する
ことができ、同時に、癌細胞表面の抗原標的に結合することができる。前記scFvは、免疫チェックポイントを標的とする。前記免疫チェックポイントは、CTLA-4、PD-1、TIM-3、LAG3、Siglec15、4-1BB、GITR、OX40、CD40L、CD28、TIGIT、VISTAを含む。前記サイトカイン、ケモカインは、例えばGM-CSF、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-12(IL-12)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)、可溶型CD80、CCL3である。
【0055】
2.5 遺伝子治療薬物
好ましくは、上述した組成物において、前記遺伝子治療ウィルスは、外来遺伝子を発現し、前記外来遺伝子は遺伝子欠陥疾患に必要なタンパク質をコードし、前記タンパク質は、酸性α-グルコシダーゼ、銅輸送ATPase2、α-ガラクトシダーゼ、アルギノコハク酸シンターゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、β-ヘキソサミニダーゼA、Clプロテアーゼ阻害剤又はClエステラーゼ阻害剤、グルコース-6-ホスファターゼ、インスリン、グルカゴン、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、成長ホルモン放出因子、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、血管内皮成長因子、アンジオポイエチン、アンジオスタチン、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン、結合組織成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、酸性線維芽細胞成長因子、上皮成長因子、形質転換成長因子a、血小板由来成長因子、インスリン成長因子IとII、TGF、骨形態形成タンパク質、神経成長因子、脳由来神経栄養因子、ニューロトロフィンNT-3とNT4/5、毛様体神経栄養因子、グリア細胞由来神経栄養因子、ニューロトロフィン、レクチン、netrin-1とnetrin-2、肝細胞成長因子、ephrins、チロシンヒドロキシラーゼ、トロンボポエチン、インターロイキン(IL-1からIL-36等)、単球走化性タンパク質、白血病阻害因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、Fasリガンド、腫瘍壊死因子aとb、インターフェロンa/b/g、幹細胞因子、flk-2/flt3リガンド、IgM、IgA、IgD及びIgE、キメラ免疫グロブリン、ヒト化抗体、単鎖抗体、T細胞受容体、キメラT細胞受容体、単鎖T細胞受容体、クラスI及びクラスII MHC分子、嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質、凝固(凝固)因子(因子XIII、因子IX、因子VIII、因子X、因子VII、因子VIIa、タンパク質C等)、網膜色素上皮特異的65kDaタンパク質、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロブリン、α-グロブリン、スペクトリン、α-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、金属トランスポーター(ATP7A又はATP7)、スルファミダーゼ、リソソーム蓄積症(ARSA)に関与する酵素、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、b-25グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼ、分岐鎖ケト酸ホルモンから選ばれる。
【0056】
好ましくは、上述した組成物において、前記遺伝子治療ウィルスは外来遺伝子を持ち、前記外来遺伝子コードは、siRNA、アンチセンス分子、miRNA、RNAi、リボザイム及びshRNAの阻害性核酸から選ばれる。前記阻害性核酸は、ポリヌクレオチドリピート疾患に関連する遺伝子に結合し、当該遺伝子の転写物又は当該遺伝子の転写物のポリヌクレオチドがリピートする。前記疾患遺伝子コード関連タンパク質であって、前記タンパク質は、ハンチントンタンパク質(HTT)、球脊髄性筋萎縮症におけるX染色体上のアンドロゲン受容体、ヒトAtaxin-1/-2/-3/-7、Cav2.1P/Q電位依存性カルシウムチャネル(CACNA1A)、TATA結合タンパク質、Ataxin8逆鎖(ATXN80S)、脊髄小脳失調症におけるセリン/スレオニンプロテインホスファターゼ2A 55kDa調節サブユニットBベータアイソフォーム(1、2、3、6、7、8、1217型)、FMR1(脆弱X症候群における脆弱性1)、脆弱X関連振戦/運動失調症候群におけるFMR1(脆弱X精神遅滞1)、脆弱XE精神遅滞におけるFMR1(脆弱X精神遅滞2)又はAF4/FMR2ファミリーメンバー2、筋強直
性ジストロフィーにおけるミオトニン-プロテインキナーゼ(MT-PK)、Frataxinから選ばれる。前記疾患遺伝子は、スーパーオキシドディスムターゼ1(SOD1)遺伝子の突然変異体、パーキンソン病及び/又はアルツハイマー病の病理発生に関与する遺伝子、アポリポタンパク質B(APOB)、PCSK9、HIV感染症関連遺伝子(HIVTat、TAR、HIVTAR、CCR5)、インフルエンザウィルス感染症におけるA型インフルエンザウィルスゲノム/遺伝子配列、SARS感染症における重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウィルスゲノム/遺伝子配列、呼吸器合胞体ウイルス感染症における呼吸器合胞体ウィルスゲノム/遺伝子配列、エボラ感染症におけるエボラフィロウイルスゲノム/遺伝子配列、B型及びC型肝炎感染症におけるB型及びC型肝炎ウイルスゲノム/遺伝子配列、HSV感染症における単純ヘルペスウィルス(HSV)ゲノム/遺伝子配列、コクサッキーウィルスB3感染症におけるコクサッキーウィルスB3ゲノム/遺伝子配列、原発性ジストニアにおけるtorsinA(TOR1A)のような遺伝子の病原性アレルのサイレンシング(アレル特異的サイレンシング)、移植における汎クラスI及びHLA対立遺伝子、常染色体優性遺伝網膜色素変性症における突然変異体、及びロドプシン遺伝子から選ばれる。
【0057】
III.製品
本発明は、上述した突然変異体又はタンパク質と治療剤とを含有し、前記治療剤は、ウィルスベクター薬物、抗体、血液IgGレベルを低下できるポリペプチド薬物から選ばれる製品をさらに提供する。
【0058】
本発明は、キット又は薬学的パックをさらに提供し、前記キットは、1)前記の突然変異体を含む治療有効量の薬物と、2)ウィルスベクター薬物、抗体、血液IgGレベルを低下できるポリペプチド薬物から選ばれる治療有効量の治療剤であって、前記ウィルスベクター薬物は、好ましくは腫瘍溶解性ウィルス、遺伝子治療ウィルスである治療剤と、を含む。前記キットは、3)標的薬物又は化学療法薬又は免疫チェックポイント遮断剤をさらに含んでもよい。前記標的薬物は、エピジェネティック薬物、PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路を標的とする阻害剤、及びチロシンキナーゼ阻害剤から選ばれ、前記化学療法薬は、免疫抑制剤、プロテアソーム阻害剤、細胞毒性薬及び細胞周期非特異的薬物から選ばれ、前記免疫チェックポイント遮断剤は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG3抗体、抗Siglec15抗体、抗4-1BB抗体、抗GITR抗体、抗OX40抗体、抗CD40L抗体、抗CD28抗体、抗TIGIT抗体、抗VISTA抗体から選ばれ、前記エピジェネティック薬物は、例えばヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、前記PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路を標的とする阻害剤は、例えばTricibineであり、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、例えばスニチニブであり、前記免疫抑制剤は、例えばシクロホスファミドであり、前記プロテアソーム阻害剤は、例えばボルテゾミブであり、前記免疫抑制剤は、例えばサリドマイド、ポマリドミドであり、前記細胞毒性薬は、例えばゲムシタビン、テモゾロミドであり、前記細胞周期非特異的薬物は、例えばミトキサントロンである。
【0059】
前記キット又は薬学的パックは、パックA及びパックBを含み、前記パックAは、治療有効量の上述した突然変異体又はタンパク質を含み、前記パックBは、治療有効量の治療剤を含み、前記治療剤は、ウィルスベクター薬物、抗体、血液IgGレベルを低下できるポリペプチド薬物から選ばれ、前記ウィルスベクター薬物は、好ましくは腫瘍溶解性ウィルス、遺伝子治療ウィルスである。前記薬学的パックは、パックCをさらに含んでもよい。前記パックCは、標的薬物又は化学療法薬又は免疫チェックポイント遮断剤を含む。前記標的薬物は、エピジェネティック薬物、PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路を標的とする阻害剤、及びチロシンキナーゼ阻害剤から選ばれ、前記化学療法薬は、免疫抑制剤、プロテアソーム阻害剤、細胞毒性薬及び細胞周期非特異的薬物から選ばれ、前記免疫チェックポイント遮断剤は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗TIM-3抗
体、抗LAG3抗体、抗Siglec15抗体、抗4-1BB抗体、抗GITR抗体、抗OX40抗体、抗CD40L抗体、抗CD28抗体、抗TIGIT抗体、抗VISTA抗体から選ばれ、前記エピジェネティック薬物は、例えばヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、前記PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路を標的とする阻害剤は、例えばTricibineであり、前記チロシンキナーゼ阻害剤は、例えばスニチニブであり、前記免疫抑制剤は、例えばシクロホスファミドであり、前記プロテアソーム阻害剤は、例えばボルテゾミブであり、前記免疫抑制剤は、例えばサリドマイド、ポマリドミドであり、前記細胞毒性薬は、例えばゲムシタビン、テモゾロミドであり、前記細胞周期非特異的薬物は、例えばミトキサントロンである。
【0060】
当該キットは、治療有効量の上述した突然変異体又はタンパク質と治療有効量の治療剤の投与(例えば、投与量情報、投与時間間隔情報)に関する説明書を含んでもよい。前記治療剤は、ウィルスベクター薬物、抗体、血液IgGレベルを低下できるポリペプチド薬物から選ばれ、前記ウィルスベクター薬物は、好ましくは腫瘍溶解性ウィルスである。
【0061】
十分確立した発現系によってウィルスベクター薬物を製造することができる。幾つかの方法の例は、哺乳類細胞発現系を利用してウィルス粒子を生成し、例えば、HEK293細胞を使用してアデノウイルス種のウィルスベクター薬物を生産することができる(Freedman Joshua D, Duffy Margaret R, Lei-Rossmann Janet他, An Oncolytic Virus Expressing a T-cell Engager Simultaneously Targets Cancer and Immunosuppressive Stromal Cells.[J] .Cancer Res., 2018, 78:6852-6865.)。
【0062】
薬物ベクターは、液体であってもよく、かつ、薬物組成物は、溶液の形であってもよい。液体ベクターは、溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エリキシル剤及び圧縮組成物の調製に用いられる。活性成分は、薬学的に許容される液体ベクター、例えば水、有機溶媒、両者の混合物又は薬学的に許容される油もしくは脂肪に溶解又は懸濁することができる。
【0063】
非経口投与用の薬物組成物は、滅菌状態、実質的に等張で、発熱物質を含まず、FDA又は同様の団体のGMPに従って調製する。水、油、生理食塩水、グリセロール又はエタノールなどの滅菌液であってよい薬物ベクターを含む生理的に許容される希釈剤中の注射用量の溶液又は懸濁液物質として、ウィルスベクター薬物を投与することができる。さらに、例えば湿潤剤又は乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質などの補助物質が組成物中に存在してよい。薬物組成物の他の成分は、石油、動物、植物、又は合成起源の成分、例えばピーナッツ油、大豆油、及び鉱油である。一般に、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールなどのグリコールは、特に注射溶液に好ましい液体ベクターである。活性成分の徐放を可能にするような形式で製剤化され得るデポー注射又はインプラント調製物の形で、ウィルスベクター薬物を投与することができる。典型的には、組成物は液体溶液又は懸濁液のいずれかとして、注射用として調製され、注射前に溶液中、又は懸濁液中、液体賦形剤中に適した固体型に調製することもできる。
【0064】
別途定義がない限り、本明細書において用いる全ての技術及び科学用語も本発明が所属する分野の通常の技術者に一般に理解されいる意味と同じ意味を有する。本発明の実施又は測定において本明細書において前述したものと同様又は等価のあらゆる方法、装置及び材料を用いることができるが、以下、好ましい方法、装置及び材料を説明する。
【0065】
用語「ヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド」は、一本鎖又は二本鎖形態の、デオキ
シリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド又はリボヌクレオチド及びそれらのポリマーを表す。別段の制限がなければ、本用語は、基準核酸と同様の結合特性を有し、天然ヌクレオチドに類似する様式で代謝される天然ヌクレオチドの公知の類縁体を含有する核酸を包含する。別段の制限がなければ、本用語は、PNA(ペプチド核酸)、アンチセンス技術で使用されるDNAの類縁体(ホスホロチオエート、ホスホロアミデートなど)を含む、オリゴヌクレオチド類縁体も表す。別段の記載がなければ、ある核酸配列は、保存的に修飾されたそのバリアント(縮重コドン置換を含むが、これに限定されない。)及び相補的配列並びに明示的に記されている配列も黙示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、選択された一又は複数(又は全て)のコドンの三番目の位置が混合された塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19: 5081(1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608(1985); and Cassol et al.(1992); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98(1994))。
【0066】
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを意味するように本明細書において互いに読み替えられている。すなわち、ポリペプチドに関する記載は、同様にペプチドの記載及びタンパク質の記載に当てはまり、逆もまた同じである。前記用語は、自然発生アミノ酸ポリマー、及び1以上のアミノ酸残基が天然にコードされないアミノ酸であるアミノ酸ポリマーにあてはまる。本明細書において使用されるように、前記用語は、アミノ酸残基がペプチド共有結合により連結されている完全長タンパク質(すなわち抗原)を含むあらゆる長さのアミノ酸鎖を包含する。
【0067】
用語「宿主細胞」とは、挿入のために使用される方法、例えば、直接取り込み、形質導入、f-接合(f-mating)又は組換え宿主細胞を作製するための本分野で公知の他の方法にかかわらず、本発明のヌクレオチドを含む細胞を指す。外来ポリヌクレオチドは、組み込まれていないベクター、例えば、プラスミドとして維持されることができ、あるいは、宿主ゲノム中に組み込まれることができる。
【0068】
用語「形質転換」とは、異種DNA配列を宿主細胞又は生体に導入する方法を指す。
【0069】
用語「発現」とは、内因性遺伝子又はトランスジェニックの細胞における転写及び/又は翻訳を指す。
【0070】
本発明の積極的な効果は以下の通りである。本発明は、活性及び/又は熱安定性が野生型IdeEより高く、活性がIdeS及びIdeZよりも高い(ヒトIgGを切断する場合にIdeS及びIdeZよりも有効であり、活性がIdeSの2倍近く、IdeZの4倍超えである)免疫グロブリン分解酵素突然変異体を提供する。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明は、上述した実施例の範囲内に限定されない。下記の実施例において、具体的な条件を明記しなかった試験方法について、通常の方法及び条件、又は商品説明書に従って選択する。
【0072】
実施例1.突然変異体ライブラリーの設計及び発現
野生型IdeEタンパク質配列の突然変異体ライブラリーを設計及び構築し、選別によりその中から40つの突然変異体菌株を得た。
【0073】
コドン最適化した後に野生型IdeEタンパク質配列(SEQ ID NO:2)をコ
ードするポリヌクレオチド配列を合成し、N末端シグナルペプチド配列及びC末端6×ヒスチジンタグを添加し、配列を合成した後、pET32a発現ベクターに挿入し、正しく配列決定した後に、野生型IdeE発現用の組み換えプラスミドを得た。野生型IdeE発現用のプラスミドを基にして、突然変異体ライブラリーに必要なディジェネレートプライマーを設計し、オリジナル野生型の配列を増幅し、増幅後に配列をベクターに挿入して突然変異体ライブラリー用の組み換えプラスミドを得た。野生型及び突然変異体ライブラリー用の組み換えプラスミドを大腸菌BL21 Star(DE3)へ電気的に形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを含有するLBアガロースプレートに接種した。コロニーが生育するとなるまで37℃で一晩培養した。単一コロニーを拾って、100μg/mlのアンピシリンを含有するLB培地 200μlに接種し、37℃、250rpmで一晩培養した。一晩培養した後、100μg/mlのアンピシリンを含有するLB培地
1mlに接種し、37℃で4h培養した後に、0.1mMのIPTGを添加して、引き続き30℃で一晩培養した。一晩培養した後、遠心によりその上清を収集した。SDS-PAGEを用いて突然変異体発現上清中の突然変異体タンパク質の濃度を評価した。
【0074】
実施例2.突然変異体のヒトIgG1切断活性の評価
各突然変異体のヒトIgG1切断活性を評価するために、ELSIAに基づく活性測定方法を構築した。測定原理は、ヒトIgG1特異性抗原でELISAプレートをコーティングし、その後、相当する濃度の突然変異体タンパク質を含有する上清サンプルをヒトIgG1とともにウェル中でインキュベートした。抗体Fc部分に対して特異性を有するヒトIgG1検出抗体を用いて、ウェルに結合する完全又は切断不完全なヒトIgG1の量を測定した。ウェルに供した上清における突然変異体タンパク質の濃度が同じである場合、突然変異体タンパク質のヒトIgG1切断活性が高いほど、ウェルに結合する完全なヒトIgG1抗体が少なくなり、得られたシグナルが少なくなる。異なる濃度のIgG1と、対応する検出シグナルとの関係により、IgG1検量線を作製することができ、検量線に基づいて完全又は切断不完全なIgG1の量を算出し、さらに、切断完全なIgG1の量を算出した。元のIgG1に占める切断完全なIgG1の割合で突然変異体活性の高低を評価した。
【0075】
実施例1において得られた上清中の突然変異体タンパク質の濃度を相当なレベルにするために、同じローディング量でSDS-PAGE検出を行い、Quantity Oneを用いて電気泳動プロファイルにおける目標タンパク質バンドの光学濃度値を分析し、ローディング量が同じである場合、プロファイル中の目標タンパク質バンドの光学濃度値が高いほど、濃度が高くなる。IdeE上清を対照として、その他の突然変異体の上清を濃縮又は希釈し、突然変異体タンパク質バンドの光学濃度値を全てIdeE対照の光学濃度値とほとんど一致させた。
【0076】
上清中のタンパク質の濃度を相当なレベルに調整した後、以下の方法に従ってELISA検出を行った。ELISAプレートを2μg/mlのヒトIgG1(トラスツズマブ)特異性抗原(品番:QRE-104、瑞安生物)により2~8℃でコーティングして一晩過ごし、その後、PBST(PBS+0.05%トゥイーン20)で洗浄し、洗浄後のELISAプレートを2%BSA(PBSで調製)により37℃で2h密閉し、密閉した後、PBSTで洗浄した。
【0077】
検量線の作製:
200ng/mlのトラスツズマブを反応緩衝液(10mM PB、10mM NaCl、pH6.5)により1:2の割合で~3.125ng/mlとなるまで勾配希釈し、異なる濃度のトラスツズマブ 100μlをELISAプレートのウェルに添加し、基質(トラスツズマブ)検量線で作製した。
【0078】
切断反応:
タンパク質の濃度を調整した後の上清を反応緩衝液(10mM PB、10mM NaCl、pH6.5)で5倍に希釈し、100ng/mlのトラスツズマブ 50μlと、希釈後の上清 50μlとをELISAプレートのウェルに添加した。
【0079】
ELISAプレートを37℃で1h振とうしながらインキュベートし、PBSTで洗浄した後に、さらに40ng/mlのGoat anti-Human IgG Fc Cross-Adsorbed Secondary Antibody-HRP(品番:31413、Thermo)をウェルプレートに添加し、37℃で1h振とうしながらインキュベートし、PBSTで洗浄した後にTMBをHRPの発色基質として添加して15minインキュベートし、2N H2SO4で終了させた。エライザで450nmにおける吸光度を検出した。基質検量線に基づいて、異なる測定用ウェル中の完全又は切断不完全なトラスツズマブの濃度を算出し、さらに、元のトラスツズマブに占める切断完全なトラスツズマブの割合を算出し、これをもって異なる突然変異体の活性を評価した。
【0080】
各突然変異体活性の野生型IdeE活性に対する倍数関係を表1に示す。実施例1において選別により得られた40つの突然変異体は、いずれも野生型IdeEよりも高い活性を有し、そのうち、15つの突然変異体の活性が野生型IdeEの2倍又は2倍以上であった。
【0081】
【0082】
実施例3 突然変異体の熱安定性に対する評価
表1に示す、活性が野生型IdeEの2倍又は2倍以上である15つの突然変異体から、12つの突然変異体を選択してその熱安定性を検出した。活性の検出方法を以下に示す。
【0083】
野生型又は各突然変異体の上清を2つの部分に分けて、それぞれ4℃及び50℃の条件下で1h保温し、保温後に、実施例2におけるELISA方法に従って野生型又は各突然変異体の活性を検出し、50℃で保温した後の活性/4℃で保温した後の活性を用いて、野生型又は各突然変異体の50℃条件下で1h保温した後の残存活性パーセンテージ(%
)を算出し、これをもって野生型と各突然変異体の熱安定性を比較した。
【0084】
突然変異体活性の野生型IdeEに対する熱安定性の倍数関係を表2に示す。表2に示すように、12つの突然変異体はいずれも野生型よりも高い熱安定性を有し、そのうち、7つの突然変異体の熱安定性が野生型の3倍以上であった。
【0085】
【0086】
実施例4 単一部位突然変異体のヒトIgG1切断活性の比較
表1及び表2に示すT8D、T8W、T24A、A59L、A59V、E97D及びR280Hの7つの「活性が野生型IdeEの2倍以上であり、熱安定性が野生型IdeEの3倍以上である」単一部位突然変異体のヒトIgG1切断活性を検出した。
【0087】
1. 突然変異体の発現及び精製
実施例1における上述した5つの単一部位突然変異体の形質転換用プレートからそれぞれ1つのシングルコロニーを拾って、100μg/mlのアンピシリンを含有するLB培地 3mlに接種し、37℃、250rpmで一晩培養した。一晩培養した後、100μg/mlのアンピシリンを含有するLB培地 50mlに接種し、37℃でOD600が0.4~0.6となるまで培養し、0.1mM IPTGを添加し、引き続き30℃で一晩培養した。一晩培養した後、遠心により上清を収集した。上清をさらにIDA-Ni磁性アガロースビーズで精製し、精製、溶離後のタンパク質を限外ろ過遠心管でさらにPBS緩衝系中へ培地交換した。SDS-PAGEで精製後の突然変異体タンパク質の純度を評価した。OD280を検出し、吸光係数に基づいて精製後の突然変異体タンパク質の濃度を算出した。
【0088】
2. 突然変異体のヒトIgG1切断活性の比較
SDS-PAGEで表示される各種の突然変異体の異なる濃度でヒトIgG1に対して産生した切断産物によって、異なる突然変異体の野生型IdeEに対するヒトIgG1切断活性の高低をさらに評価した。精製後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ0.002mg/mL及び0.001mg/mLに希釈した。異なる濃度の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ50μl拾って、2mg/mlのトラスツズマブを含有する反応系 50μlに添加して切断反応を開始させ、反応系を37℃で30min反応させた。サンプルを同じ体積の2×SDSローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0089】
図1は、7つの単一部位突然変異体及び野生型IdeEによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図(酵素:基質=1:1000)を示す。
図2は、7つの単一部位突然変異体及び野生型IdeEによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図(酵素:基質=1:2000)を示す。7つの単一部位突然変異
体は、0.001mg/mlの濃度でIgG1を切断する効果がいずれも0.002mg/mlの野生型IdeEに劣らず、7つの単一部位突然変異体のヒトIgG1切断活性が野生型IdeEの2倍以上であることがわかった。
【0090】
実施例5 N末端短縮突然変異体のヒトIgG1切断活性及び熱安定性の比較
野生型IdeEを基にしてN末端の最初の15つ(D1-V15)、最初の16つ(D1-P16)、最初の17つ(D1-H17)、最初の18つ(D1-Q18)および最初の19つのアミノ酸(D1-I19)をそれぞれ削除し、5つのN末端短縮突然変異体を構築した(表3を参照)。
【0091】
【0092】
1. 突然変異体の発現及び精製
実施例1の方法に従って表3における突然変異体ポリヌクレオチド配列を合成し、突然変異体発現用組み換えプラスミドを構築し、大腸菌BL21 Star(DE3)へ形質転換した。実施例4における方法に従って精製突然変異体タンパク質を製造した。
【0093】
2. 突然変異体のヒトIgG1切断活性の比較
精製後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ0.002mg/mLに希釈した。希釈後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ50μl拾って、2mg/mlのトラスツズマブを含有する反応系 50μlに添加して切断反応を開始させ、反応系を37℃で30min反応した。サンプルを同じ体積の2×SDSローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0094】
図3は、5つの短縮突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図(酵素:基質=1:1000)を示す。5つの短縮突然変異体の切断活性はいずれも野生型IdeEと明らかな差異がなかった。
【0095】
3. 突然変異体の熱安定性の比較
精製後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ0.1mg/mlに希釈し、50℃の条件下で1h保温し、保温後にさらに0.002mg/mLに希釈した。希釈後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ50μl拾って、2mg/mlのトラスツズマブを含有する反応系 50μlに添加して切断反応を開始させ、反応系を37℃で30min反応させた。サンプルを同じ体積の2×SDSローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0096】
図4は、50℃の条件下で1h保温した後に5つの短縮突然変異体及び野生型IdeEによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図(酵素:基質=1:1000)を示す。50℃で加熱処理した後に5つの短縮突然変異体の残存活性は明らかに野生型よりも高く、5つの短縮突然変異体のいずれも野生型に対して熱安定性が明らかに向上したことがわかった。
【0097】
実施例6 C末端短縮突然変異体のヒトIgG1切断活性の比較
野生型IdeEを基にしてC末端の最後の5つ(W311-S315)及び最後の10つのアミノ酸(S306-S315)をそれぞれ削除し、2つのC末端短縮突然変異体を構築した(表4を参照)。
【0098】
【0099】
1. 突然変異体の発現及び精製
実施例1の方法に従って表4における突然変異体ポリヌクレオチド配列を合成し、突然変異体発現用組み換えプラスミドを構築し、大腸菌BL21 Star(DE3)へ形質転換した。実施例4における方法に従って精製突然変異体タンパク質を製造した。
【0100】
2. 突然変異体のヒトIgG1切断活性の比較
精製後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ0.002mg/mLに希釈した。希釈後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ50μl拾って、2mg/mlのトラスツズマブを含有する反応系 50μlに添加して切断反応を開始させ、反応系を37℃で30min反応させた。サンプルを同じ体積の2×SDSローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0101】
図5は、2つのC末端短縮突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図(酵素:基質=1:1000)を示す。2つの短縮突然変異体の切断活性がいずれも野生型IdeEよりも2倍以上高かった。
【0102】
実施例7 組合せ突然変異体のヒトIgG1切断活性及び熱安定性の比較
T24A、A59L、A59V、E97DおよびR280Hの5つの単一部位突然変異体を基にしてそれぞれ最初の18つ(D1-Q18)アミノ酸を削除し、5つの組合せ突然変異体を構築した(表5を参照)。
【0103】
【0104】
1. 突然変異体の発現及び精製
実施例1の方法に従って表5における突然変異体ポリヌクレオチド配列を合成し、突然変異体発現用組み換えプラスミドを構築し、大腸菌BL21 Star(DE3)へ形質転換した。実施例4における方法に従って精製突然変異体タンパク質を製造した。
【0105】
2. 突然変異体のヒトIgG1切断活性の比較
精製後の突然変異体をそれぞれ0.001mg/mLに希釈した。希釈後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ50μl拾って、2mg/mlのトラスツズマブを含有する反応系 50μlに添加して切断反応を開始させ、反応系を37℃で30min反応させた。サンプルを同じ体積の2×SDSローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0106】
図6は、5つの組合せ突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図(酵素:基質=1:2000)を示す。
図6と
図2の切断効果を比較したところ、5つの短縮突然変異体および単一部位組合せ突然変異体の切断活性は明らかな差異がなく、組合せ突然変異体のヒトIgG1切断活性は同様に野生型IdeEの2倍以上であることがわかった。
【0107】
3. 突然変異体の熱安定性の比較
精製後の突然変異体をそれぞれ0.1mg/mlに希釈し、50℃の条件下で1h保温し、保温後にさらに0.001mg/mLに希釈した。希釈後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ50μl拾って、2mg/mlのトラスツズマブを含有する反応系 5
0μlに添加して切断反応を開始させ、反応系を37℃で30min反応させた。サンプルを同じ体積の2×SDSローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0108】
図7は、50℃の条件下で1h保温した後に5つの組合せ突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図(酵素:基質=1:2000)を示す。
図8及び
図7の切断効果を比較したところ、5つの組合せ突然変異体は、50℃で加熱処理した後の活性が少し低下しただけであり、5つの組合せ突然変異体は野生型に対して熱安定性も明らかに向上したことがわかった。
【0109】
実施例8 E97D_del18突然変異体とIdeS及びIdeZの活性の比較
実施例7で精製されたE97D_del18突然変異体を順次に~20μg/mL、10μg/mL、5μg/mL、2.5μg/mLおよび1.25μg/mlに希釈した。IdeS(FabRICATOR(登録商標),品番:A0-FRI-020,Genovis)をその標識に従ってそれぞれ~2U/μl、1U/μl、0.5U/μl、0.25U/μlおよび0.125U/μlに希釈した。IdeZ(FabRICATOR-Z(登録商標),品番:A0-FRZ-020,Genovis)をそれぞれ0.4U/μl、0.2U/μl、0.1U/μl、0.05U/μl及び0.025U/μlに希釈した。異なる濃度の突然変異体、IdeS又はIdeZをそれぞれ50μl拾って、2mg/mlのトラスツズマブを含有する反応系 50μlに添加して切断反応を開始させ、反応系を37℃で30min反応させた。サンプルを同じ体積の2×SDSローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0110】
図8は、異なる濃度のE97D_del18突然変異体及びIdeSによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図を示す。電気泳動図における酵素タンパク質バンドから、レーン番号1のIdeS酵素の濃度がレーン番号7と番号8のE97D_del18突然変異体酵素の濃度の間にあり、これにより、レーン番号3のIdeS酵素の濃度がレーン番号9と番号10のE97D_del18突然変異体酵素の濃度の間にあり、レーン番号3のIgG1の酵素切断効果がレーン番号10と番号11の間にあると帰納でき、これにより、E97D_del18突然変異体のヒトIgG1切断活性がIdeSの2倍に近いと推定できる。
【0111】
図9は、異なる濃度のE97D_del18突然変異体及びIdeZによりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図を示す。電気泳動図における酵素タンパク質バンドから、レーン番号1のIdeZ酵素の濃度がレーン番号7のE97D_del18突然変異体酵素の濃度より高いと判定でき、これにより、レーン番号3のIdeZ酵素の濃度がレーン番号9のE97D_del18突然変異体酵素の濃度よりも高く、すなわち、レーン番号11のE97D_del18突然変異体酵素の濃度の4倍を超え、また、レーン番号3のIgG1の酵素切断効果がレーン番号11に近いと帰納でき、これにより、E97D_del18突然変異体のヒトIgG1切断活性がIdeZの4倍を超えることがわかった。
【0112】
実施例9 E97D_del18突然変異体のヒトIgG1切断活性の体外検出
E97D_del18突然変異体及びヒトIVIgを添加して処理されたマウス血清又は血漿中の完全又は一回切断したIVIgの量を検出することでE97D_del18突然変異体のヒトIgG1に対する体外切断活性を評価した。表6に従って異なる群のマウス血清又は血漿酵素切断系を調製した。
【0113】
【0114】
ヨード酢酸処理群において、ヨード酢酸の作用は、IgG分解酵素の活性を抑制することである。
【0115】
系を37℃で30min反応させた。20μlのサンプルを拾って同じ体積2×SDS非還元ローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0116】
図10は、E97D_del18突然変異体がマウス血清及び血漿においてヒトIVIgを切断することで産生した切断産物の電気泳動図を示す。その結果、E97D_del18は、マウス血清及び血漿のいずれにおいてもヒトIVIgを有効に切断できることを示した。
【0117】
E97D_del18突然変異体を添加して処理されたマウス又はヒト血清を検出することでE97D_del18突然変異体がヒトIgG1に対する体外切断活性を有するか否かを評価した。表7に従って、異なる群のマウス又はヒト血清酵素切断系を構築した。
【0118】
【0119】
系を37℃で24h反応させた。20μlのサンプルを拾って同じ体積の2×SDS還元性ローディング緩衝液と混合し、さらに1×SDS還元性ローディング緩衝液で20倍に希釈し、75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0120】
図11は、E97D_del18突然変異体がマウス及びヒト血清において産生した切断産物の電気泳動図を示す。その結果、E97D_del18は、ヒト血清において切断を行って25kDのFc断片の産生が顕著に見られ、これに対して、マウス血清中では当該断片が見られなかったことを示し、E97D_del18は、ヒト血清中のIgG1を有効に特異的切断できるが、マウス血清中のIgG1に対する切断活性が非常に低いか、あるいは切断活性がないことがわかった。
【0121】
実施例10 E97D_del18突然変異体により異なる種属の免疫グロブリンを切断
E97D_del18突然変異体と、異なる種属の動物血清又は血漿を添加して完全又は一回切断したIgGの量を検出することでE97D_del18突然変異体の異なる種属動物血清の免疫グロブリンに対する体外切断活性を評価した。表8及び表9に従って、異なる種属の血清又は抗体酵素切断系を構築した。
【0122】
【0123】
系を37℃で1時間反応させ、酵素切断産物をSDS-PAGEで検出を行った。
【0124】
【0125】
図12A~12Dは、E97D_del18突然変異体の異なる種の血清及び抗体における効果を示す。その結果、E97D_del18は、イヌIgG、ウサギIgG及びマウスIgG2aを有効に切断できるが、マウスIgG1を切断できず、E97D_del18は、ウサギ、イヌ及びサル血清IgGを有効に切断でき、その中、ウサギ血清IgGに対する切断効果が最も良く、ブタ血清IgGに対する切断効果が良くなく、ラット及びマウス血清IgGがほとんど切断されなかった。
【0126】
実施例11 人体内でE97D_del18突然変異体に対する既存抗体が少ない
当該測定は、E97D_del18突然変異体とIdeSとの抗E97D_del18/IdeS抗体結合の競争に基づく。測定用酵素及びヒト血清のプレインキュベートにより、抗E97D_del18/IdeS抗体及びE97D_del18突然変異体がIdeSと結合可能にした。
【0127】
E97D_del18突然変異体とIdeSをウェルプレートでコーティングして一晩過ごし、その後、PBSTで洗浄して2%BSA密閉液中で1時間密閉し、徐々に希釈した測定すべき突然変異体をIdeS及びヒト血清とともに混合プレートを製造し、混合プ
レートを室温下で1時間振とうしながらインキュベートし、PBSTで洗浄した後にビオチンでマークされたE97D_del18突然変異体及びIdeSを添加し、さらにSA-HRPを添加し、TMBで発色させて示度を読んだ。得られた約80人の血サンプル中での既存のE97D_del18抗体及びIdeS抗体の状況を並列比較した。
【0128】
その結果、表10に示すように、IdeSは、正常ヒト血清中での既存抗体の割合が約90%と高いが、E97D_del18突然変異体の場合は約20%に過ぎない。体内でE97D_del18突然変異体の既存抗体がIdeSよりも明らかに少なく、E97D_del18突然変異体の免疫原性がより低く、より体内投与に有利であることが証明された。
【0129】
【0130】
実施例12 E97D_del18突然変異体のヒトIgG1切断活性の体内検出
無菌条件下でヒトIVIg(ヒト免疫グロブリンを静脈内注射)を2匹のマウス(2匹のマウスが並行試験であり、マウスの番号が1及び2である)に腹腔内注射し、注射投与量が1g/kgであった。ヒトIVIgを注射してから24h後、さらにIgG分解酵素(E97D_del18)を5mg/kgの投与量でマウスに静脈内注射し、2匹のマウスにE97D_del18を注射した後の0h、15min、2h、6h及び24hで採血して血清サンプルを収集した。20μlの血清サンプルを同じ体積の2×SDS非還元ローディング緩衝液と混合した後、さらに1×SDS非還元性ローディング緩衝液で20倍に希釈し、75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで検出を行った。
【0131】
図13は、E97D_del18がマウス体内で異なる時間内でヒトIVIgを切断することで産生した切断産物の電気泳動図を示す。その結果、E97D_del18は、マウス体内でのIVIg切断効果が顕著であり、15minで酵素を完全に切断した。
【0132】
実施例13 組合せ突然変異体のヒトIgG1切断活性の比較
上述した突然変異体を基にして、6種の組合せ突然変異体をさらに構築し、前記突然変異体の配列を表11に示す。
【0133】
【0134】
1. 突然変異体の発現及び精製
実施例1の方法に従って表11における突然変異体ポリヌクレオチド配列を合成し、突然変異体発現用組み換えプラスミドを構築し、大腸菌BL21 Star(DE3)へ形質転換した。実施例4における方法に従って精製突然変異体タンパク質を製造した。
【0135】
2.突然変異体のヒトIgG1切断活性の比較
精製後の突然変異体をそれぞれ0.001mg/mLに希釈した。希釈後の突然変異体又は野生型IdeEをそれぞれ50μl拾って、2mg/mlのトラスツズマブを含有する反応系 50μlに添加して切断反応を開始させ、反応系を37℃で30min反応させた。サンプルを同じ体積の2×SDSローディング緩衝液と混合した後に75℃で5min水浴させ、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0136】
図14A及び14Bは、6つの組合せ突然変異体によりヒトIgG1を切断することで産生した切断産物の電気泳動図(酵素:基質=1:2000)を示す。
【0137】
本発明は、上記実施例によって本発明の詳細な方法を説明したが、本発明は上記詳細な方法に限定されるわけではなく、すなわち、上記詳細な方法のみにより実施しなければならないことを意味するものではないことを出願人より声明する。当業者にとって、本発明に対する如何なる改善、本発明に係る製品の各原料に対する均等置換及び補助成分の添加、具体的な形態に対する選択などは、いずれも本発明の保護範囲及び開示範囲に属することを理解すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】