(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-27
(54)【発明の名称】リン酸マンガン処理プロセスのための改善された活性化剤
(51)【国際特許分類】
C08L 101/08 20060101AFI20230720BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20230720BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20230720BHJP
C23C 22/18 20060101ALI20230720BHJP
C01B 25/37 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C08L101/08
C08K3/32
C23C22/78
C23C22/18
C01B25/37 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579868
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2021067526
(87)【国際公開番号】W WO2022002792
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ラルフ
【テーマコード(参考)】
4J002
4K026
【Fターム(参考)】
4J002AA061
4J002BG011
4J002DH046
4J002FB076
4J002FD206
4J002GH02
4J002HA06
4K026AA02
4K026AA22
4K026BA05
4K026BB10
4K026CA18
4K026CA24
4K026DA03
4K026EA10
(57)【要約】
本発明は、a)分散した形態のナノスケールのリン酸マンガン粒子、及びb)少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するホモポリマー及び少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの分散剤、を含む、リン酸マンガン処理プロセスのためのアルカリ水性活性化剤に関する。さらに、本発明は、前記活性化剤の製造方法、その活性化剤を利用した改善されたリン酸マンガン処理プロセス、及びこれによりリン酸塩処理した金属基材、特に鋼基材に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸マンガン処理プロセスのためのアルカリ水性活性化剤であって、
a) 分散した形態のナノスケールのリン酸マンガン粒子、及び
b) 少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するホモポリマー及び少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの分散剤、
を含むことを特徴とする、アルカリ水性活性化剤。
【請求項2】
前記ナノスケールのリン酸マンガン粒子が、0.7μm未満、より好ましくは0.5μm未満のd
90値をもつ粒度分布を示すことを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ水性活性化剤。
【請求項3】
前記ナノスケールのリン酸マンガン粒子の濃度が、1.0~8.0×10
-3質量%の範囲、より好ましくは2.0~7.0×10
-3質量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルカリ水性活性化剤。
【請求項4】
前記少なくとも1つの分散剤が、(メタ)アクリル酸の少なくとも1つのホモポリマー又はコポリマーの少なくとも1つの塩を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のアルカリ水性活性化剤。
【請求項5】
前記少なくとも1つの分散剤の全体の濃度が、0.04~0.80×10
-3質量%の範囲、好ましくは0.12~0.64×10
-3質量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のアルカリ水性活性化剤。
【請求項6】
c)少なくとも1つの殺生物剤を含み、該殺生物剤の全体の濃度が好ましくは0.1~0.5質量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のアルカリ水性活性化剤。
【請求項7】
pH値が7.5~10.0の範囲にあり、好ましくはc)少なくとも1つの緩衝システムを含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のアルカリ水性活性化剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のアルカリ水性活性化剤の製造方法であって、水、及び
a) リン酸マンガン、及び
b) 少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するホモポリマー及び少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの分散剤
を含む混合物を、ビーズミルで、ナノスケールのリン酸マンガン粒子を分散した形態で含有する水性濃縮物が得られるまで湿式粉砕し、該濃縮物から、水で希釈することにより、そして必要な場合は、少なくとも1つのpH値調整剤を添加することによりアルカリ水性活性化剤が得られることを特徴とする、方法。
【請求項9】
前記ビーズミルが撹拌ビーズミルであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの分散剤が、(メタ)アクリル酸の少なくとも1つのホモポリマー又はコポリマーの少なくとも1つの塩を含むことを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの分散剤の全体の濃度が、1~10質量%の範囲、好ましくは3~8質量%の範囲にあることを特徴とする、請求項8から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか1項に記載のアルカリ水性活性化剤を製造するための水性濃縮物であって、前記活性化剤が、前記濃縮物から、水で希釈することにより、そして必要な場合は、少なくとも1つのpH値調整剤を添加することにより得ることができることを特徴とする、水性濃縮物。
【請求項13】
以下の工程:
i) 好ましくは洗浄した及び/又は酸洗いした金属基材、特に鋼基材を、請求項1から7のいずれか1項に記載のアルカリ水性活性化剤と接触させる工程、
ii) 任意に、前記金属基材をすすぐ工程、
iii) 前記金属基材を、マンガン、リン酸、及び好ましくは鉄(II)及び/又はニッケルイオンを溶解した形態で含む酸性の水性リン酸マンガンシステムと接触させる工程、
iv) 任意に、前記金属基材をすすぐ工程、
v) 前記金属基材を乾燥させる工程、及び
vi) 任意に、前記金属基材を少なくとも1つの油、エマルジョン及び/又はポリマーで、好ましくは腐食防止の目的でコーティングする工程
を含むことを特徴とする、リン酸マンガン処理プロセス。
【請求項14】
工程iii)のリン酸マンガンシステムが、ニトログアニジンをリン酸化促進剤として含有し、その濃度が好ましくは0.5~3g/lの範囲にあることを特徴とする、請求項13に記載のリン酸塩処理プロセス。
【請求項15】
工程iii)のリン酸マンガンシステムにおいて、遊離酸に対する総酸の比率が5~15の範囲、好ましくは8~12の範囲にあることを特徴とする、請求項13又は14に記載のリン酸塩処理プロセス。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか1項に記載のリン酸塩処理プロセスによって得ることができることを特徴とする、リン酸塩処理した金属基材、特に鋼基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸マンガン処理プロセスのための改善された活性化剤、及びその製造方法、前記活性化剤を利用した改善されたリン酸マンガン処理プロセス、及びこれによりリン酸塩処理した金属基材、特に鋼基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸性の水性リン酸マンガンシステムはとりわけ、鋼基材、特に例えばエンジンのトランスミッションのようなエンジン部品又は油田のパイプの継ぎ手をリン酸化するために使用される。リン酸化した基材は改善された耐食性だけでなく、低下した滑り摩擦も示す。リン酸マンガンシステムは、マンガン及びリン酸イオンの他に、好ましくは、鉄(II)及び/又はニッケルイオンを溶解した形態で含む。
【0003】
結晶性リン酸層(例えばヒューリオライトからなるもの)をコーティング対象の基材の表面に形成させるためには、前記表面を最初に活性化する必要がある、すなわち、リン酸結晶を結晶化核として堆積させなければならない。これは、そのような活性化剤を表面に適用することによって達成される。
【0004】
リン酸マンガン処理プロセスのための活性化剤の製造では、通常、乾燥したリン酸マンガンを乾式ミルにより粉砕してリン酸マンガン粉末を得、次いでこれをアルカリ水性組成物中に分散させる。
【0005】
しかし、このようにして得た活性化剤には欠点があり、連続的に撹拌しないとマンガン粒子が沈降し、そしてそれ以上は活性化できなくなる。このような沈降傾向が原因で、基材の表面にリン酸マンガンのごみが沈殿し、その後続いて堆積させるリン酸層の接着性及び均質性が不十分になる危険性が常に存在する。
【0006】
さらに、このような活性化剤は、かなり高濃度で適用しなければならない。それは、数マイクロメートルという粒度(典型的には約3μmのd50値)に起因して、活性化があまり効率的ではないからである。同じ理由で、その後に続くリン酸マンガン処理プロセスは、比較的高温で、典型的には80~90℃の範囲で行わなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって本発明の根底にある課題は、上記のような先行技術の作用剤の欠点を回避するリン酸マンガン処理プロセスのための改善された活性化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1に記載の活性化剤、すなわち、
a) 分散した形態のナノスケールのリン酸マンガン粒子、及び
b) 少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するホモポリマー及び少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの分散剤、
を含む、アルカリ水性活性化剤によって解決される。
【0009】
b)による少なくとも1つの分散剤を使用することにより、前記活性化剤を製造するための対応する濃縮物の粘度は好適となり、高すぎず低すぎない。なぜなら粘度が高すぎると、濃縮物をその貯蔵容器から取り出す際に問題が生じ、その一方で、粘度が低すぎると、およそ2週間の貯蔵後に不可逆的な相分離が生じ得るからである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義:
本発明において、「水性組成物」とは、組成物の35質量パーセント以上が水であり、好ましくは脱イオン水が使用されることを意味する。
【0012】
「ナノスケール(...)粒子」とは、粒度分布のd90値が1.0μm未満であるというように理解される。
【0013】
「分散した形態で(の)」とは、粒子が連続的な水相に分布していて、組成物を長時間静かに放置したときに分散が得られ且つ粒子が沈降しなくなる、すなわち、前記の不均質な混合物がコロイドであるか、又は、粒子が部分的に沈降する場合には、組成物を短時間振盪することによって流動性分散が回復できることを意味する。
【0014】
よって「分散剤」とは、連続的な水相中の粒子の分布を安定化して、コロイドが得られるようにするか、又は、長時間後に粒子が部分的に沈降する場合には、組成物を短時間振盪することによって流動性分散を回復させることができる組成物を意味する。
【0015】
ここでの「wt.-%(質量%)」とは、質量パーセントの省略形、すなわち、当該組成物の質量を組成物全体の質量で除した値である。
【0016】
「カルボン酸塩基」とは、脱プロトン化された、すなわち中和された形態のカルボン酸基を意味する。
【0017】
ここでの「(メタ)アクリル」とは、アクリル、メタクリル、又はアクリルとメタクリルとの混合物の省略形である。対応して、「(メタ)アクリル酸のコポリマー」とは、(メタ)アクリル酸に由来しない他のモノマー単位も含有するポリマーを意味する。
【0018】
ナノスケールのリン酸マンガン粒子は、好ましくは、0.8μm未満、より好ましくは0.7μm未満、より好ましくは0.6μm未満、及び最も好ましくは0.5μm未満のd90値をもつ粒度分布を示す。
【0019】
さらに、粒度分布のd50値は、好ましくは0.5μm未満、より好ましくは0.4μm未満、及び最も好ましくは0.3μm未満であり、一方でd10値は、好ましくは0.3μm未満及びより好ましくは0.2μm未満である。
【0020】
d10、d50及びd90値を含む粒度分布は、Mastersizer2000(Malvern Instruments、英国)により、及び製造者の操作マニュアルに従って、決定してよい。
【0021】
好ましくは、ナノスケールのリン酸マンガン粒子の少なくとも35質量%、より好ましくは少なくとも50質量%、及びさらにより好ましくは少なくとも65質量%は、結晶性である。このようなナノ結晶粒子の割合は、広角X線散乱(WAXS)により決定してよい。
【0022】
アルカリ水性活性化剤中で、ナノスケールのリン酸マンガン粒子の濃度は、好ましくは1.0~8.0×10-3質量%の範囲、より好ましくは2.0~7.0×10-3質量%の範囲、及び最も好ましくは2.5~6.5×10-3質量%の範囲にある。
【0023】
先行技術では、リン酸マンガンを乾式粉砕して得られるリン酸マンガン粉末は、分散体中約0.1~0.3質量%の濃度を必要とする。これと比較すると、本発明による分散したナノスケールのリン酸マンガン粒子の濃度は約100倍低く、後者の非常な効率性を示している。
【0024】
少なくとも1つの分散剤は、好ましくは、少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するホモポリマー及び少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するコポリマーからなる群から選択され、ここで、前記少なくとも1つのモノマー単位は、このようなコポリマーのモノマー単位の少なくとも35モル%、より好ましくは少なくとも50モル%、さらにより好ましくは少なくとも65モル%、及び最も好ましくは少なくとも80モル%を構成する。
【0025】
好ましくは、少なくとも1つの分散剤は、(メタ)アクリル酸の少なくとも1つのホモポリマー又はコポリマーの少なくとも1つの塩、より好ましくはアクリル酸の少なくとも1つのホモポリマー又はコポリマーの少なくとも1つの塩を含む。好ましいホモ-及びコポリマーは直鎖状である。好ましいコポリマーはマレイン酸とのものである。好ましい塩はナトリウム塩又はカリウム塩であり、特に好ましいのはナトリウム塩である。
【0026】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの分散剤は、アクリル酸ホモポリマー及び/又はアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーのナトリウム塩を含み、好ましくはアクリル酸ホモポリマー及び/又はアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーのナトリウム塩である。
【0027】
Aron A6020(東亜合成、日本)又はDispex(登録商標)N40(Chiba、スイス)は特に好適であり、そして市販されている分散剤である。
【0028】
水性アルカリ活性化剤中の少なくとも1つの分散剤の全体の濃度は、好ましくは、0.04×10-3より高く、より好ましくは0.12×10-3、及びさらにより好ましくは0.16×10-3質量%である。濃度が0.04×10-3質量%未満の場合、すべてのナノスケールのリン酸マンガン粒子が分散した形態で存在するわけではない可能性がある。しかし、分散剤の高い濃度は、とりわけ細菌汚染に対する感受性がより高いことに起因して、アルカリ活性化剤の貯蔵安定性が低下する可能性がある。よって少なくとも1つの分散剤の全体の濃度は、好ましくは0.80×10-3未満、より好ましくは0.64×10-3、及びさらにより好ましくは0.48×10-3質量%である。
【0029】
少なくとも1つの分散剤の全体の濃度は、より好ましくは、0.04~0.80×10-3質量%の範囲、より好ましくは0.12~0.64×10-3質量%の範囲、さらにより好ましくは0.16~0.48×10-3質量%の範囲、及び最も好ましくは0.18~0.42×10-3質量%の範囲にある。
【0030】
活性化剤における質量%単位の濃度に関して、ナノスケールのリン酸マンガン粒子及び少なくとも1つの分散剤は、好ましくは、1.2:1~200:1の範囲、より好ましくは3:1~60:1の範囲、及びさらにより好ましくは5.2:1~41:1の範囲の比率を示す。
【0031】
成分a)及びb)、すなわちナノスケールのリン酸マンガン粒子及び少なくとも1つの分散剤の他に、アルカリ水性活性化剤はさらに有利な成分、特に少なくとも1つの添加剤を含んでよい。特に好適な添加剤は、殺生物剤、及び緩衝システムを含むpH値調整剤からなる群から選択されるものである。さらに、少なくとも1つの消泡剤を加えると有利な場合がある。
【0032】
好ましくは、活性化剤は、c)少なくとも1つの殺生物剤を含み、その全体の濃度は、好ましくは、0.1~0.5質量%の範囲にある。好ましい殺生物剤は、Acticide(登録商標)MBS50(Thor、ドイツ)である。
【0033】
活性化剤のpH値は7.0より高く、そして好ましくは、7.5~10.0の範囲、より好ましくは8.5~10.0の範囲にある。
【0034】
好ましくは、活性化剤は、c)少なくとも1つの緩衝システムを含む。
【0035】
本発明はまた、アルカリ水性活性化剤の製造方法に関するものであり、ここで、水、及び
a) リン酸マンガン、及び
b) 少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するホモポリマー及び少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの分散剤
を含む混合物を、ビーズミル、好ましくは撹拌ビーズミルで、ナノスケールのリン酸マンガン粒子を分散した形態で含有する水性濃縮物が得られるまで湿式粉砕し、そこから水で、好ましくは、体積に対して1:4,000~1:12,000の範囲の係数で希釈することにより、そして必要な場合は、少なくとも1つのpH値調整剤を添加することにより、アルカリ水性活性化剤が得られる。
【0036】
リン酸マンガンa)は、好ましくはヒューリオライトであり、その濃度は、粉砕対象の混合物中で、25~35質量%の範囲にあり、これは粉砕対象の混合物の好適な粘度という点で有利である。
【0037】
b)による少なくとも1つの分散剤の使用により、粉砕対象の混合物の粘度が十分に低いので、粉砕プロセス中、粉砕チャンバ内のビーズの移動性及び材料のスループットは十分に高く、ナノスケールのリン酸マンガン粒子を分散した形態で得られる。
【0038】
少なくとも1つの分散剤は、好ましくは、少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するホモポリマー及び少なくとも1つのカルボン酸塩基を有する少なくとも1つのモノマー単位を含有するコポリマーからなる群から選択され、ここで前記少なくとも1つのモノマー単位は、このようなコポリマーのモノマー単位の少なくとも35モル%、より好ましくは少なくとも50モル%、さらにより好ましくは少なくとも65モル%、及び最も好ましくは少なくとも80モル%を構成する。
【0039】
好ましくは、粉砕対象の混合物中の少なくとも1つの分散剤は、(メタ)アクリル酸の少なくとも1つのホモポリマー又はコポリマーの少なくとも1つの塩、より好ましくはアクリル酸の少なくとも1つのホモポリマー又はコポリマーの少なくとも1つの塩を含む。好ましいホモ-及びコポリマーは直鎖状である。好ましいコポリマーはマレイン酸とのものである。好ましい塩はナトリウム塩又はカリウム塩であり、特に好ましいのはナトリウム塩である。
【0040】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの分散剤は、アクリル酸ホモポリマー及び/又はアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーのナトリウム塩を含み、好ましくはアクリル酸ホモポリマー及び/又はアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーのナトリウム塩である。
【0041】
Aron A6020(東亜合成、日本)又はDispex(登録商標)N40(Chiba、スイス)は特に好適であり、そして市販されている分散剤である。
【0042】
粉砕対象の混合物中の少なくとも1つの分散剤の全体の濃度は、好ましくは1~10質量%の範囲、より好ましくは3~8質量%の範囲、及びさらにより好ましくは4~6質量%の範囲にあり、これは粉砕対象の混合物の好適な粘度という点で有利である。
【0043】
ビーズミルは、粉砕チャンバ内に充填された多数のビーズを含有する。撹拌ビーズミルの場合、粉砕は粉砕チャンバ内に位置する撹拌シャフトによって支持される。特に、撹拌シャフトは、その表面にノブの列を有するシリンダー(例えば、Grinding Systems MiniFer、NEOS,ZETA(登録商標)及びMACRO、Netzsch、ドイツ)、又はいくつかの平行なディスクを有するローター(例えば、DYNA(登録商標)-MILL、WAB、スイス)である。
【0044】
ビーズの体積が粉砕チャンバに充填された混合物の全体積の88%以上、好ましくは92%以上で、粉砕プロセス中のミルの回転速度が3,400rpm未満、好ましくは3,200rpm未満の場合、特に好適な粘度でとりわけ小さい粒度の活性化剤が得られる。
【0045】
粉砕後、少なくとも1つのさらなる成分c)、特に少なくとも1つの添加剤を、混合物に加えてよい。特に好適な添加剤は、殺生物剤、及び緩衝システムを含むpH値調整剤からなる群から選択されるものである。さらに、少なくとも1つの消泡剤を加えると有利な場合がある。
【0046】
活性化剤の製造方法について、さらに好ましい特徴及び実施形態は、上述の本発明の活性化剤から得ることができる。
【0047】
本発明はまた、本発明のアルカリ水性活性化剤を製造するための水性濃縮物に関するものであり、ここで本発明のアルカリ水性活性化剤は濃縮物から、水で、好ましくは、体積に対して1:4,000~1:12,000の範囲の係数で希釈することにより、そして必要な場合は、少なくとも1つのpH値調整剤を添加することにより、得られる。
【0048】
本発明はまた、改善されたリン酸マンガン処理プロセス、すなわち、以下の工程:
i) 好ましくは洗浄した及び/又は酸洗いした金属基材、特に鋼基材を、本発明によるアルカリ水性活性化剤と接触させる工程、
ii) 任意に、金属基材をすすぐ工程、
iii) 金属基材を、マンガン、リン酸、及び好ましくは鉄(II)及び/又はニッケルイオンを溶解した形態で含む酸性の水性リン酸マンガンシステムと接触させる工程、
iv) 任意に、金属基材をすすぐ工程、
v) 金属基材を乾燥させる工程、及び
vi) 任意に、金属基材を少なくとも1つの油、エマルジョン及び/又はポリマーで、好ましくは腐食防止の目的でコーティングする工程
を含む、リン酸マンガン処理プロセスに関するものである。
【0049】
乾式粉砕によって得られたリン酸マンガン粉末を利用する先行技術のリン酸マンガン処理プロセスと比較して、本発明によるリン酸マンガン処理プロセスは、
- より少ないエネルギーコスト
- より少ない活性化剤及びリン酸マンガンシステムの消費、及び
- より少ない活性化浴のごみ、及びより少ないリン酸塩処理浴のスケール
を示す。
【0050】
金属基材は、好ましくは、鋼基材、特に例えばエンジンのトランスミッションのようなエンジン部品又は油田で使用するためのパイプの継ぎ手である。このような場合、改善された耐食性だけでなく、滑り摩擦を低下させることも重要である。
【0051】
工程i)を行う前に基材を洗浄する場合は、シリケートを含まないアルカリ洗浄剤を洗浄に用いることが好ましい。さらに、洗浄は、好ましくは50~85℃の範囲の温度で、例えば10分間行う。
【0052】
工程i)を行う前に基材を酸洗いする場合は、例えばリン酸のような鉱酸を酸洗いに用いることが好ましい。
【0053】
本発明の方法の工程i)は、好ましくは、基材を活性化剤に室温で、例えば1分間浸漬することによって行う。
【0054】
工程2)の洗浄を行う場合、好ましくは、基材を水道の冷水に、例えば1分間浸漬することによって行う。任意のすすぎ工程iv)も同様である。
【0055】
本発明の活性化剤の使用に起因して、本発明のプロセスの工程iii)は、80℃未満、好ましくは75℃未満、又はさらにより好ましくは65℃未満の温度で行ってよい。工程iii)は、好ましくは、基材を活性化剤に、例えば10分間浸漬することによって行う。
【0056】
工程iii)のリン酸マンガンシステムは、好ましくは、ニトログアニジンをリン酸化促進剤として含有し、その濃度は好ましくは0.5~3g/lの範囲、より好ましくは1~2g/lの範囲にある。ニトログアニジンの添加は、工程iii)の温度を低下させることにも寄与する。
【0057】
リン酸マンガンシステムにおいて、遊離酸に対する総酸の比率は、好ましくは5~15の範囲、より好ましくは8~12の範囲にある。このとき、リン酸マンガンシステムの総酸は以下の手順で決定する。
【0058】
5mlのリン酸塩処理浴をピペットで三角フラスコに入れ、およそ50mlの蒸留水で希釈し、フェノールフタレインpH指示薬を10~15滴加える。次いで0.1M水酸化ナトリウム溶液を用いて、試料を、その色が赤色に変化するまで滴定する。ここで、水酸化物溶液の消費量をmlで除して2を乗じたものが、リン酸塩処理浴の総酸である。
【0059】
遊離酸は、以下のように決定する。
【0060】
5mlのリン酸塩処理浴をピペットで三角フラスコに入れ、およそ50mlの蒸留水で希釈し、ジメチルイエローpH指示薬を1滴加える。次いで0.1M水酸化ナトリウム溶液を用いて、試料を、その色が黄色に変化するまで滴定する。ここで、水酸化物溶液の消費量をmlで除して2を乗じたものが、リン酸塩処理浴の遊離酸である。
【0061】
遊離酸に対する総酸の比率の選択も、工程iii)の温度を低下させることに役立つ。
【0062】
工程v)は、好ましくは、オーブンによって、好ましくは100~120℃の範囲の温度で好ましくは5~20分の範囲の間、又は圧縮空気によって、行う。
【0063】
リン酸マンガン処理プロセスについて、さらに好ましい特徴及び実施形態は、上述の本発明の活性化剤から得ることができる。
【0064】
最後に、本発明はまた、本発明によるリン酸マンガン処理プロセスによって得ることができる、リン酸塩処理した金属基材、特に鋼基材に関する。上述の先行技術のリン酸塩処理プロセスによって得られた先行技術のリン酸層と比較して、本発明のプロセスによって得られたリン酸層は、
i) より均質であり、
ii) 低減されたコーティング質量を有し、そして
iii) より微細な結晶からなる。
【0065】
このことに起因して、このようにリン酸化した表面は、特に耐食性及び低い滑り摩擦の点で、改善された性能を示す。
【0066】
以下において、本発明を発明例及び比較例によってさらに説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0067】
A) 粉砕パラメータ:
水、30質量%のリン酸マンガン(ヒューリオライト)及び5質量%のAron A6020(東亜合成、日本)(ポリマーに対して2質量%)からなる混合物を、MiniFer攪拌ビーズミル(Netzsch、ドイツ)で4時間、0.5~0.7mmの直径を有する酸化ジルコニウムビーズによって湿式粉砕した。ここで、各場合とも、このような混合物及び酸化ジルコニウムビーズの全体積は160mlであり、そして粉砕プロセス中の材料のスループットは、250ml/分であった。
【0068】
ビーズの粉砕パラメータ体積、回転速度、圧力及び温度を、以下の表1に示すように変化させた:
【0069】
【表1】
*) 全体積(すなわち上記のビーズの体積と混合物の体積)中のビーズの占有率、
**) rpm=1分あたりの回転数、
***) 摩擦に起因して温度が30℃以上に上昇した場合、自動的に水冷を開始した。
【0070】
実施例E1~E9で適用したパラメータのあらゆる組み合わせにより、粘度(Mastersizer2000(Malvern Instruments、英国)により、製造業者の操作マニュアルに従って決定)、及びナノスケールのリン酸マンガン粒子の分布が好適な濃縮物が得られた。
【0071】
しかし、粘度及び小さな粒度の点においては、実施例E3及びE6で適用したパラメータの組み合わせから最良の結果が得られた。
【0072】
B) 分散剤:
水、30質量%のリン酸マンガン(ヒューリオライト)及び5質量%の異なる分散剤製品(各場合ともポリマーに対しておよそ2質量%)からなる混合物を、MiniFer攪拌ビーズミル(Netzsch、ドイツ)で4時間(94体積%のビーズ及び3,000rpmの回転速度)、0.5~0.7mmの直径を有する酸化ジルコニウムビーズによって湿式粉砕した。ここで、各場合とも、このような混合物及び酸化ジルコニウムビーズの全体の体積は160mlであった。次いで、得られた濃縮物を水で1:5,000(体積に対する)の係数で希釈し、そしてpH値を9.5に調整した。
【0073】
以下の表2は、適用した分散剤製品と、対応する濃縮物及び活性化剤について得られた、十分に低い粘度及び後続のリン酸マンガン処理プロセスとの適合性に関する結果をそれぞれ示す。リン酸塩処理浴には常に或る一定のキャリーオーバーがあるので、活性化剤はリン酸塩処理浴を妨害してはならない、すなわちリン酸塩処理プロセスに適合している必要がある。
【0074】
【表2】
+=要件を満たした、
-=要件を満たさなかった、
n.d.=不適切な粘度により決定せず
【0075】
Disperbyk2080(比較例CE1)については、得られた濃縮物の粘度が高すぎ、粉砕プロセスにおいて、及び貯蔵容器からの濃縮物の除去の際に問題が生じたが、一方でEdaplan492(比較例CE2)の場合は、活性化剤のキャリーオーバーに起因してリン酸マンガン処理浴が完全に阻害された。
【0076】
それとは対照的に、Dispex(登録商標)AA4140、Dispex(登録商標)N40、及びAron A6020を使用すると、濃縮物の粘度が十分に低くなり、且つ後続するリン酸塩処理プロセスに適合した活性化剤が得られた(実施例E10~E13)。
【0077】
C) 粒度分析:
リン酸マンガン(ヒューリオライト)の粒度分布は、Mastersizer2000(Malvern Instruments、英国)により、製造業者の操作マニュアルに従って、湿式粉砕の前(
図1)及び後(
図2)に、実施例E3又はE6について記載した手順に従って決定した(上記参照)。
【0078】
図1及び
図2を比較すると容易に導き出せるように、湿式粉砕後の粒度分布は、全体に1μm未満の低い粒径、すなわちナノスケールの粒子に大きくシフトする。
【0079】
D) XPS及びSEM表面分析:
冷間圧延鋼(CRS)及び熱間圧延鋼(HRS)製の試験パネルを、次のように処理した。
【0080】
パネルを、50g/lのアルカリ洗浄剤(GC S5176、Chemetall、ドイツ)を含有する溶液に、10分間65℃で浸漬して脱脂し、次いで水道の冷水に1分間浸漬してすすいだ。
【0081】
その後続いて、6.0×10-3質量%の湿式粉砕したリン酸マンガン(ヒューリオライト)及び5質量%のAron A6020(東亜合成、日本)(9.5のpH値を有する)を、室温で1分間水性分散体中に浸漬し、次いでリン酸マンガンの酸性水溶液に10分間78℃で浸漬してリン酸塩処理を行い、活性化した。
【0082】
その後続いて水道の冷水に1分間浸してすすいだ後、圧縮空気によりパネルを乾燥させた。
【0083】
次いで、リン酸コーティング質量を質量法、すなわち示差質量法により測定し、表面の構造をSEM(走査型電子顕微鏡)で可視化した。
【0084】
平均リン酸コーティング質量は5~10g/m2であり、これは、同じ濃度の分散した乾式粉砕リン酸マンガン(先行技術)を用いて活性化した後に得られたコーティング質量(典型的には15g/m2を超える)よりも有意に低い。
【0085】
先行技術と比較して、リン酸塩コーティングはより均質であり、そして
図3からわかるように、はるかに微細な結晶からなっていた。
【国際調査報告】