(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-27
(54)【発明の名称】末梢動脈緊張を評価するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20230720BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A61B5/1455
A61B5/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580956
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2021067534
(87)【国際公開番号】W WO2021260192
(87)【国際公開日】2021-12-30
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522502141
【氏名又は名称】エクトセンス・ナムローゼ・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】ECTOSENSE NV
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【氏名又は名称】池本 理絵
(72)【発明者】
【氏名】フェイウリクス,ボウト
(72)【発明者】
【氏名】マシー,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】フィッツ,ステーフェン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ピー,バート
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038KL07
4C038KX01
4C038SS09
(57)【要約】
光プレチスモグラフィによって監視される個体(1)の末梢動脈緊張(100)、すなわちPATを評価し、かつ前記評価によって睡眠関連事象の発生を検出するためのコンピュータ実装方法であって、検査体積(11)で測定された光プレスチモグラフィ信号(101)と、前記光プレチスモグラフィ信号(101)に沿った2つ以上の時点(12、13)において取得された光強度(102、103)とを取得する工程と、前記光強度(102、103)の関数の対数(17)又はその関数近似(17)を決定することによって、前記2つ以上の時点(12、13)の間で前記検査体積(11)内の動脈血液量(16)の変化を決定し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価する工程と、前記検査体積(11)における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PAT(100)の低下を決定することによって、睡眠関連事象の発生を検出する工程とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光プレチスモグラフィによって監視される個体(1)の末梢動脈緊張(100)、すなわちPATを評価し、前記評価によって前記個体(1)における睡眠関連事象の発生を検出するためのコンピュータに実装される方法であって、
前記個体(1)の検査体積(11)で測定された光プレスチモグラフィ信号(101)と、前記光プレスチモグラフィ信号(101)に沿った2つ以上の時点(12、13)における光プレチスモグラフィによって得られる光強度(102、103)とを取得する工程と、
前記光強度(102、103)の関数の対数(17)又はその関数近似(17)を決定することによって、前記2つ以上の時点(12、13)の間で前記検査体積(11)内の動脈血液量(16)の変化を決定し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価する工程と、
前記検査体積(11)における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PAT(100)の低下を決定することによって、前記個体(1)における睡眠関連事象の発生を検出する工程と
を含むことを特徴とするコンピュータに実装される方法。
【請求項2】
前記光強度(102、103)の前記関数は、前記光強度(102、103)の比に対応することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記評価関数(17)は、前記光強度(102、103)の比の対数に対応し、前記評価関数(17)は、
光路長と、
酸素飽和度の推定値の関数(104)と、
前記検査体積(11)における前記動脈血液量(16)の変化とのうちの1つ以上に依存することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記時点(12、13)の少なくとも1つ(12)は前記個体(1)の心周期における心拡張期に対応し、及び/又は前記時点(12、13)の少なくとも1つ(13)は前記個体(1)の心周期における収縮期に対応することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、
ある波長の光(40)を出射するように構成された光源(2)を提供する工程と、
センサー(4)を提供する工程と、
光プレチスモグラフィによって、前記2つ以上の時点(12、13)で前記個体(1)の前記検査体積(11)を伝搬するときに透過又は反射される前記波長の光(40)に対応する伝搬光(41)を、前記センサー(4)上で収集する工程と、
前記2つ以上の時点(12、13)で前記センサー(4)上の前記伝搬光の前記光強度(102、103)を決定する工程と
をさらに含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリ(6)とを備える装置(10)であって、前記少なくとも1つのメモリ(6)及び前記コンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサによって、前記装置(10)に、
前記個体(1)の検査体積(11)で測定された光プレチスモグラフィ信号(101)と、
前記光プレスチモグラフィ信号(101)に沿った2つ以上の時点(12、13)における光プレチスモグラフィによって得られる光強度(102、103)とを取得することと、
前記光強度(102、103)の関数の対数(17)又はその関数近似(17)を決定することによって、前記2つ以上の時点(12、13)の間で前記検査体積(11)内の動脈血液量(16)の変化を判定し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価することと、
前記検査体積(11)における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PAT(100)の低下を決定することによって、前記個体(1)における睡眠関連事象の発生を検出することと
を実行させるように構成されることを特徴とする装置(10)。
【請求項7】
請求項6に記載の装置を備えるシステム(20)であって、
光を出射するように構成された光源(2、3)と、
光プレチスモグラフィによって、前記2つ以上の時点(12、13)で前記個体(1)の前記検査体積(11)を伝搬するときに透過又は反射される前記光に対応する伝搬光を収集するように構成され、さらに前記2つ以上の時点(12、13)で前記伝搬光の光強度(102、103)を決定するように構成されたセンサー(4)と
をさらに備えることを特徴とするシステム(20)。
【請求項8】
コンピュータが実行することができる命令を含むコンピュータプログラムであって、前記コンピュータが実行することができる命令は、システムに少なくとも、
前記個体(1)の検査体積(11)で測定された光プレスチモグラフィ信号(101)と、
前記光プレスチモグラフィ信号(101)に沿った2つ以上の時点(12、13)における光プレチスモグラフィによって得られる光強度(102、103)とを取得することと、
前記光強度(102、103)の関数の対数又はその関数近似(17)を決定することによって、前記2つ以上の時点(12、13)の間で前記検査体積(11)内の動脈血液量(16)の変化を判定し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価することと、
前記検査体積(11)における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PAT(100)の低下を判定することによって、前記個体(1)における睡眠関連事象の発生を検出することと
を実行させるために用いられることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項9】
コンピュータが実行することができる命令を含むコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、前記コンピュータが実行することができる命令は、プログラムがコンピュータ上で実行されたときに、
前記個体(1)の検査体積(11)で測定された光プレスチモグラフィ信号(101)と、前記光プレスチモグラフィ信号(101)に沿った2つ以上の時点(12、13)における光プレチスモグラフィによって得られる光強度(102、103)とを取得する工程と、
前記光強度(102、103)の関数の対数(17)又はその関数近似(17)を決定することによって、前記2つ以上の時点(12、13)の間で前記検査体積(11)における動脈血液量(16)の変化を判定し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価する工程と、
前記検査体積(11)における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PAT(100)の低下を判定することによって、前記個体(1)における睡眠関連事象の発生を検出する工程と
を実行するために用いられることを特徴とする、コンピュータ読取可能な記憶媒体。
【請求項10】
光プレチスモグラフィによって監視される個体(1)の末梢動脈緊張(100)、すなわちPATを評価し、かつ前記評価によって前記個体(1)における睡眠関連事象の発生を検出するための対数又はその関数近似(17)の使用であって、前記末梢動脈緊張(100)の評価は、
前記個体(1)の検査体積(11)で測定された光プレスチモグラフィ信号(101)と、前記光プレスチモグラフィ信号(101)に沿った2つ以上の時点(12、13)における光プレチスモグラフィによって得られる光強度(102、103)とを取得する工程と、
前記光強度(102、103)の関数の対数(17)又はその関数近似(17)を決定することによって、前記2つ以上の時点(12、13)の間で前記検査体積(11)内の動脈血液量(16)の変化を決定し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価する工程と、
前記検査体積(11)における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PAT(100)の低下を決定することによって、前記個体(1)における睡眠関連事象の発生を検出する工程と
を含んでなることを特徴とする、対数又はその関数近似(17)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、末梢動脈緊張(Peripheral Arterial Tone、PAT)を評価するための方法及び装置に関する。より具体的には、本発明は、例えば睡眠関連事象を検出するために末梢動脈緊張を確実に監視することに関する。
【背景技術】
【0002】
個体の心周期、すなわち、2心拍の間の期間中に、血液は脈動するように個体の血管系にポンプ輸送される。言い換えれば、心周期において、例えば、指、鼻孔、耳、額、口の中、足指、手首、足首などの血液量は周期的に増減する。動脈内にある血液は動脈血と呼ばれる。静脈内にある血液は静脈血と呼ばれる。
【0003】
血液量の変動を測定する一般的な方法は、光プレチスモグラムあるいはフォトプレチスモグラム(PPGとも呼ばれる)を使用して組織の微小血管床内の血液量の変化を検出する光プレチスモグラフィ(optical plethysmography)あるいはフォトプレチスモグラフィ(photoplethysmography)である。PPGは、例えば、LEDなどの1つ以上の光源からの光を検査体積に照射し、検査体積で反射又は透過する光に対応する収集した光をセンサー上で検出することによって得られる場合が多い。上記センサーは、例えば、フォトダイオードのような光検出器を含むか又はそれに相当してもよい。上記光源及びセンサーは、例えば、透過モードPPGの測定を可能にするように個体の指の反対側に配置されてもよく、反射モードPPGの測定を可能にするように個体の指の同じ側に配置されてもよい。各心周期において、心臓は動脈血を検査体積に送り込む。例えば、心周期における検査体積の動脈血液量の変化に対応する物理的事象は、光プレチスモグラフィによって取り込むことができる。
【0004】
組織内の動脈血液量は、動脈血液量の周期的変動の影響を受けるだけでなく、検査体積内の小動脈又は細動脈の直径の影響も受ける。これらの細動脈は、収縮して細動脈の直径を小さくすることができる筋肉壁を有する。言い換えれば、これらの細動脈が収縮して直径が小さくなる場合、対応する細動脈に含まれる血液量が顕著に減少する。光プレチスモグラフィは、細動脈の直径が収縮する場合に当該細動脈に含まれる血液量の変化を監視可能な計測手法である。したがって、光プレチスモグラフィによって動脈血液量の変化を監視することにより、細動脈の平滑筋組織の筋緊張又は「緊張」(末梢動脈緊張又はPATとも呼ばれる)の相対的変化に関する情報を経験的に提供することができる。
【0005】
検査体積への動脈血流は、他の複数の生理学的現象によって調節することができるため、光プレチスモグラフィは、呼吸、血液量減少、その他の循環器系疾患の監視、例えば、睡眠障害の診断に用いられてもよい。睡眠障害の診断は、医療分野に属し、ある一定期間において、例えば1晩以上にわたって患者の睡眠を監視することである。監視に基づいて、無呼吸発作、いびき、又は四肢運動などの様々な睡眠関連事象を特定することができる。
【0006】
睡眠時無呼吸の終末期における呼吸の再開は、通常、アドレナリン放出と同時に発生する。アドレナリンは血流中に放出され、検査体積の細動脈のアドレナリン受容体に結合される。これにより、細動脈の筋緊張が高くなり、検査体積の細動脈の直径が縮小し、動脈血液量が減少する。このため、例えば、光プレチスモグラフィによる末梢動脈緊張の監視は、例えば睡眠時無呼吸のような睡眠関連事象の発生に関する重要な情報を提供することができる。光プレチスモグラフィによって得られた信号が、信号のパルス振幅の変化によって動脈緊張の変化に関する情報を提供することは、いくつかの科学刊行物に広く報告されている。例えば、2012年5月01日にBritish Journal of Anesthesia、第108巻、第5号、第838~844頁に掲載された、Hamunenらによる「Effect of pain on autonomic nervous system indices derived from photoplethysmography in healthy volunteities」と題された科学刊行物は、フォトプレチスモグラフのパルスプレチスモグラフィック振幅(PPGAとも呼ばれる)が、組織容積(主に動脈血)の拍動性の変化に起因するものであり、交感神経の活性化時又は血管収縮時にPPGAが減少すると報告されている。
【0007】
しかしながら、光プレチスモグラフィによって得られた信号のパルス振幅の変化を監視しても、動脈緊張の変化は正確に反映されない。言い換えれば、信号のパルス振幅を考慮してその振幅の変化を監視しても、交感神経緊張の変化を正確に判定することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の実施形態は、従来技術についての固有の欠点を示さない、コンピュータに実装される方法及び装置を提案することを目的とする。より具体的には、本発明の実施形態は、検査体積内の動脈血液量の変化を光学的に測定することによって、末梢動脈緊張の変化を正確かつ確実に判定するための方法及び装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の様々な実施形態について求められる保護の範囲は、独立請求項によって規定される。
【0010】
本明細書に記載された独立請求項の範囲に入っていない実施形態及び特徴は、本発明の様々な実施形態の理解を容易にする例として解釈されるべきである。
【0011】
末梢動脈緊張の光学的測定において、監視された動脈血液量の変化を正確かつ確実に判定することが必要である。
【0012】
本開示の第1の例示的な態様によれば、この目的は、光プレチスモグラフィによって監視される個体の末梢動脈緊張(PAT)を評価し、かつ前記評価によって当該個体における睡眠関連事象の発生を検出するためのコンピュータ実装方法によって達成され、このコンピュータに実装される方法は、
前記個体の検査体積で測定された光プレスチモグラフィ信号と、
前記光プレチスモグラフィ信号に沿った2つ以上の時点における光プレチスモグラフィによって得られた光強度とを取得する工程と、
前記光強度の関数の対数又はその関数近似(function approximation)を決定することによって、前記2つ以上の時点の間で前記検査体積内の動脈血液量の変化を判定し、それによって前記個体のPATを評価する工程と、
前記検査体積における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PATの低下を判定することによって、睡眠関連事象の発生を検出する工程とを含む。
【0013】
本開示に係るコンピュータに実装される方法によれば、末梢動脈緊張を正確かつ確実に判定することができる。光プレチスモグラフィ信号のパルス振幅の変化を監視する方式に比べて、光強度の関数の対数又はその関数近似を決定することにより、本開示に係るコンピュータに実装される方法によって2つの時点の間の検査体積内の動脈血液量の変化をより正確に判定することができる。したがって、従来技術の解決手段に比べて、本開示に係るコンピュータ実装方法によって、個体のPATをより正確かつより確実に評価することができる。言い換えれば、光強度の関数の対数又はその関数近似を決定することによって得られた検査体積内の動脈血液量の変化の評価により、個体の末梢動脈緊張をより正確で確実に評価することができる。
【0014】
本開示の文脈において、個体の検査体積は、例えば、個体の検査組織において規定される体積であり、この体積は、光プレチスモグラフィによって監視され、光プレチスモグラフィによって放出された光が伝播し、光プレチスモグラフィ用のセンサーで収集される。言い換えれば、個体の検査体積は、例えば、光プレチスモグラフィ信号が取得される個体の検査組織に規定される体積である。例えば、検査体積は、個体の末梢組織の体積である。例えば、検査体積は、個体の指、指先、指の遠位端、鼻孔、耳、額、口の中、足指、足指の先端、手首、足首に規定される体積である。本開示の文脈において、個体の検査体積は、検査体積に含まれる個体の皮膚を含み、検査体積内の血液量をさらに含む。本開示の文脈において、末梢動脈緊張は、個体の検査体積における検査動脈床の動脈緊張の変化として理解される。言い換えれば、個体の検査体積の血管床における拍動性血液量の変化を判定することにより、検査体積内の細動脈の平滑筋組織の筋緊張又は「緊張」を示す情報を決定又は評価することができる。これにより、交感神経系によって調節される末梢動脈緊張を判定又は評価することができる。末梢動脈緊張の判定は非侵襲的であり、例えば、心臓病、勃起不全、睡眠時無呼吸、閉塞性睡眠時無呼吸、心血管疾患、睡眠関連の呼吸事象などを検出するために使用することができる。
【0015】
本開示の文脈において、光プレチスモグラフィ信号は、光プレチスモグラフィによって測定された信号である。例えば、光プレチスモグラフィ信号は、光プレチスモグラムである。例えば、光プレチスモグラフィ信号はPPGである。光プレチスモグラフィ信号は、例えば、少なくとも1つの光源とセンサーとを備える光プレチスモグラフィ装置によって個体の指先で測定される。本開示の文脈において、光強度は、光プレチスモグラフィ装置のセンサーで収集された光の強度に対応し、上記センサーで収集された光は、個体の検査体積を透過又は反射した1つ以上の光源によって生成された光に対応する。
【0016】
本開示の文脈において、酸素飽和度の推定値、SpO2、又はヘモグロビン組成は、検査体積内の動脈血液量中のヘモグロビンの総量に関連する酸素化ヘモグロビンの割合に対応する。例えば、酸素飽和度の推定値、SpO2、又はヘモグロビン組成は、検査体積において監視されている動脈血液量の酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの濃度の合計に対する酸素化ヘモグロビンの濃度の比率に対応する。あるいは、酸素飽和度の推定値、SpO2、又はヘモグロビン組成は、検査体積において監視されている動脈血液量の酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの体積分率の合計に対する酸素化ヘモグロビンの体積分率の比率に対応する。
【0017】
本開示の文脈において、脱酸素化ヘモグロビンは、結合した酸素を含有せず、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、又は鉄などの他の結合分子を含有しないヘモグロビンの形態として定義される。本開示の文脈において、酸素化ヘモグロビンは、結合した酸素を有するヘモグロビンの形態として定義される。本開示の文脈において、光プレチスモグラフィ装置の光源によって出射される光は、1つ又は複数の散乱事象の確率的経路を通ってセンサーに到達する光子を含む。この光路は直線的ではなく、湾曲した空間確率分布に従って設定されたものと仮定する場合が多い。この湾曲した光路に沿って検査された体積は、光プレチスモグラフィによってサンプリング又は検査される体積を形成する。本開示に係るコンピュータ実装方法は、2つ以上の時点の間で、検査体積内の動脈血液量の1つ以上の変化を評価することによって、個体のPATを評価する。本開示の文脈において、2つの時点の間の検査体積内の動脈血液量の変化は、第1の時点で検査体積内に存在する動脈血液量と、第1の時点とは異なる第2の時点で検査体積内に存在する動脈血液量との間の相対的変化に対応する。動脈内に含まれる血液は動脈血と呼ばれる。静脈内に含まれる血液は静脈血と呼ばれる。
【0018】
本開示の文脈において、発色団(chromophore)は、検査体積において光を吸収又は散乱する分子単位である。例えば、本開示の文脈において、発色団としては、メラニン分子、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンなどが挙げられる。検査体積において、光プレチスモグラフィ装置の光源から出射された入射光の光強度の減衰は、式(1)のように定式化できるベール・ランベルトの法則(Beer Lambert Law)に従うものである。
【数1】
ここで、
dは、光路長に相当し、この光路長は、光プレチスモグラフィ装置のセンサーに到達する前に光子が移動する経路の長さに対応し、この光路長は、特に、入射光の波長と検査体積における発色団組成の関数であり、この光路長は、光子を出射する光源とセンサーとの間の距離に依存する。2019年2月15日にSensors(Basel)19(4):789、doi:10.3390/s19040789に掲載されたChatterjeeらによるMonte Carlo Analysis of Optical Interactions in Reflectance and Transmittance Finger Photoplethysmographyと題された刊行物によれば、光子を出射する光源とセンサーとの間の距離が数mm、例えば3mm以下であれば、光路長が一定であると仮定できることが近似的に理解できる。
【0019】
以下のパラメータが与えられる。
式(1)で定式化されたベール・ランベルトの法則は、第1の時点及び第2の時点で評価することができる。両方の式の比をとり、式(2)が得られる。
【数2】
【0020】
次に、式(2)の両辺の自然対数をとることにより、以下の式(3)が得られる。
【数3】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
光プレチスモグラフィ信号に沿って2つの時点の間に、いくつかの発色団は個体の表皮に付着したままである。例えば、光プレチスモグラフィ信号に沿って2つの時点の間に、メラニン分子は、検査体積に固定されたままである。このため、2つの時点の間に、メラニン分子などの発色団の体積分率又は濃度のいずれかの差はNULLである。したがって、このような発色団の式(4)の右辺への寄与はNULLである。
【0026】
光プレチスモグラフィ信号に沿って2つの時点の間で体積分率又は濃度のいずれかが変動する主な発色団は、動脈血液量中の酸素化ヘモグロビン及び脱酸素ヘモグロビンである。本開示の文脈において、ヘモグロビンの2つの主要な形態、すなわち、酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンは、光のほとんどの波長に対して大きく異なる吸収係数及び散乱係数を示す。
【0027】
【0028】
上記のことを考慮すると、式(4)は次のように式(5)に書き換えることができる。
【数6】
【0029】
酸素飽和度の推定値は、以下の式(6)に基づいて定義できることが知られている。
【数7】
ここで、
【0030】
【0031】
通常の場合、光プレチスモグラフィ信号の測定中において、動脈血液量内の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの体積分率又は濃度の合計、又は動脈血液量内の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの濃度の合計はほぼ一定のままであると仮定される。実際には、光プレチスモグラフィによって個体を監視する過程において、例えば睡眠時無呼吸の間に、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの比のみ、つまり酸素飽和度の推定値のみが大幅に変化する可能性がある。
【0032】
式(6)と式(7)から、次のことが得られる。
【数9】
【0033】
式(8)を式(5)に代入すると、以下のようになる。
【数10】
【0034】
【0035】
【0036】
式(10)は、評価関数と呼ばれる左辺の項を強調し、それは、
光路長dと、
【0037】
【0038】
酸素飽和度の推定値が一定である場合、2つの時点の間の検査体積の動脈血液量の変化は、前記2つの時点で光プレチスモグラフィによって測定するときにセンサーで収集された光強度の比の対数を決定することによって評価される。
【数12】
【0039】
【0040】
【0041】
例示的な実施形態によれば、光強度の関数は、光強度の比に対応する。
【0042】
式(3)によれば、評価関数は光強度の関数の自然対数に対応する。あるいは、式(2)から始まり、光強度の関数として定義される他の任意の評価関数、例えば、光強度の関数の対数の線形近似、光強度の関数のテイラー級数近似、又は光強度の関数の他の基底対数の線形近似を使用することができる。あるいは、評価関数は、光プレチスモグラフィ信号の脈動波形又はAC成分と、光プレチスモグラフィ信号のゆっくりと変化するベースライン又はDC成分との比にほぼ対応し、これにより、式(13)が得られる。
【数13】
例示的な実施形態によれば、評価関数は、光強度の比の対数に対応し、
光路長と、
酸素飽和度の推定値の関数と、
検査体積内の動脈血液量の変化とのうちの1つ以上に依存する。
【0043】
例示的な実施形態によれば、前記時点の少なくとも1つは、個体の心周期における拡張期に対応し、前記時点の少なくとも1つは、個体の心周期における収縮期に対応し、あるいは、2以上の時点は、それらのそれぞれに対応する。
【0044】
収縮期において、個体の検査体積内の動脈血液量は最大となり、その結果、心周期内の任意の時点で、つまり2心拍間の期間において光の吸収及び散乱が最大になる。ヘモグロビンが検査体積内の光子の主な吸収体及び散乱体の1つであるため、光プレチスモグラフィ装置のセンサーで測定された光強度が最小になる。一方、拡張期において、個体の検査体積内の動脈血液量は最小となり、その結果、心周期内の任意の時点で、光の吸収及び散乱が最小になる。このため、光プレチスモグラフィ装置のセンサーで測定された光強度が最大になる。少なくとも1つの第1の時点は、例えば、第1の心周期における拡張期に対応し、少なくとも1つの第2の時点は、例えば、第1の心周期とは異なる第2の心周期における収縮期に対応し、あるいは、第1の時点と第2の時点はそれぞれこれらの拡張期又は収縮期に対応する。あるいは、少なくとも1つの第1の時点は、例えば、第1の心周期における収縮期に対応し、及び/又は、少なくとも1つの第2の時点は、例えば、第1の心周期とは異なる第2の心周期における拡張期に対応する。あるいは、少なくとも1つの第1の時点は、例えば、心周期における収縮期又は拡張期に対応し、少なくとも1つの第2の時点は、同一の心周期又は異なる心周期内の任意の時点に対応する。
【0045】
例示的な実施形態によれば、この方法は、
ある波長の光を出射するように構成された光源を提供する工程と、
センサーを提供する工程と、
光プレチスモグラフィによって、前記2つ以上の時点で前記個体の前記検査体積を伝搬するときに透過又は反射される前記波長の光に対応する伝搬光を、前記センサー上で収集する工程と、
前記2つ以上の時点で前記センサー上の伝搬光の光強度を決定する工程とを含む。
【0046】
光プレチスモグラフィ技術は、シンプルで非侵襲的なセットアッププローブ又はバイオセンサーを使用する。光プレチスモグラフィバイオセンサーは、光プレチスモグラフィ信号を収集することにより、検査体積における拍動性動脈容積の変化を非侵襲的に測定し、これによって、PATを評価する。光源は、例えば、LEDや、光プレチスモグラフィバイオセンサーに適合するように小型化できる他の任意の適切な光源である。この波長は、例えば赤色スペクトルに含まれる。代替として、この波長は赤外スペクトルに含まれる。光源とセンサーとの間の物理的距離は、例えば数mm、例えば3mm未満である。
【0047】
第2の例示的な態様によれば、少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリとを備える装置が開示され、前記少なくとも1つのメモリとコンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサによって、前記装置に、
前記個体の検査体積で測定された光プレスチモグラフィ信号と、
前記光プレチスモグラフィ信号に沿って2つ以上の時点で光プレチスモグラフィによって得られた光強度とを取得することと、
前記光強度の関数の対数又はその関数近似を決定することによって、前記2つ以上の時点の間で前記検査体積内の動脈血液量の変化を判定し、それによって前記個体のPATを評価することと、
前記検査体積における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PATの低下を判定させることによって、睡眠関連事象の発生を検出することとを実行させるように構成される。
【0048】
本開示に係る装置によれば、末梢動脈緊張を正確かつ確実に判定することができる。光プレチスモグラフィ信号のパルス振幅の変化を監視する方式に比べて、光強度の関数の対数又はその関数近似を決定することにより、本開示に係る装置によって2つの時点の間の検査体積内の動脈血液量の変化をより正確に判定することができる。したがって、従来技術の解決手段に比べて、本開示に係る装置によって個体のPATをより正確かつより確実に評価することができる。言い換えれば、光強度の関数の対数又はその関数近似を決定することによって得られた検査体積内の動脈血液量の変化の評価により、個体の末梢動脈緊張のより正確で確実に評価することができる。
【0049】
例示的な実施形態によれば、本発明の第2の例示的な態様による装置を備えるシステムであって、
光を出射するように構成された光源と、
前記2つ以上の時点で前記個体の検査体積を伝搬するときに透過又は反射される前記光に対応する伝搬光を、光プレチスモグラフィによって収集するように構成され、さらに前記2つ以上の時点で前記伝搬光の光強度を決定するように構成されたセンサーとをさらに備えるシステムが提供される。
【0050】
このセンサーは、光プレチスモグラフィによって伝搬光を収集し、前記伝搬光は、前記2つ以上の時点で前記個体の検査体積(例えば、個体の指の遠位端)を伝搬するときに透過又は反射される前記光に対応する。任意選択的に、このシステムは、無線通信インターフェースを含み、判定された末梢動脈緊張を、前記装置によってさらに処理するために無線で伝送するように構成された無線送信機をさらに備える。この無線通信インターフェースは、好ましくはブルートゥース低エネルギー(Bluetooth Low Energy、BLE)無線インターフェースのような低電力通信インターフェースである。
【0051】
第3の例示的な態様によれば、コンピュータが実行することができる命令を含むコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータが実行することができる命令は、システムに少なくとも、
前記個体の検査体積で測定された光プレスチモグラフィ信号と、
前記光プレチスモグラフィ信号に沿って2つ以上の時点で光プレチスモグラフィによって得られた光強度とを取得することと、
前記光強度の関数の対数又はその関数近似を決定することによって、前記2つ以上の時点の間で前記検査体積内の動脈血液量の変化を判定させ、それによって前記個体のPATを評価することと、
前記検査体積における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PATの低下を判定することによって、睡眠関連事象の発生を検出することとを実行させるために用いられるコンピュータプログラム製品が提供される。
【0052】
第4の例示的な態様によれば、コンピュータが実行することができる命令を含むコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、前記コンピュータが実行することができる命令は、プログラムがコンピュータ上で実行されたときに、
前記個体の検査体積で測定された光プレスチモグラフィ信号と、
前記光プレチスモグラフィ信号に沿って2つ以上の時点で光プレチスモグラフィによって得られた光強度とを取得する工程と、
前記光強度の関数の対数又はその関数近似を決定することによって、前記2つ以上の時点の間で前記検査体積内の動脈血液量の変化を判定し、それによって前記個体のPATを評価する工程と、
前記検査体積における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PATの低下を決定することによって、睡眠関連事象の発生を検出する工程とを実行するために用いられるコンピュータ読取可能な記憶媒体が提供される。
【0053】
第5の例示的な態様によれば、光プレチスモグラフィによって監視される個体の末梢動脈緊張(PAT)を評価し、かつ前記評価によって前記個体における睡眠関連事象の発生を検出するための対数又はその関数近似の使用が提供され、
末梢動脈緊張の評価は、
前記個体の検査体積で測定された光プレスチモグラフィ信号と、
前記光プレチスモグラフィ信号に沿った2つ以上の時点における光プレチスモグラフィによって得られた光強度と
を取得する工程と、
前記光強度の関数の対数又はその関数近似を決定することによって、前記2つ以上の時点の間で前記検査体積内の動脈血液量の変化を判定し、それによって前記個体のPATを評価する工程と、
前記検査体積における動脈及び細動脈の血管収縮を示す前記PATの低下を判定することによって、睡眠関連事象の発生を検出する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0054】
以下、添付の図面を参照していくつかの例示的な実施形態について説明する。
【0055】
【
図1】本開示に係る装置の例示的な実施形態を示す。
【
図2】本開示に係る装置を含む、本開示に係るシステムの例示的な実施形態を示す。
【
図3】本開示に係る装置を含む、本開示に係るシステムの例示的な実施形態を示す。
【
図4】本開示に係る装置によって評価された個体のPAT測定値と、光強度の関数の対数を決定せずに評価された個体のPAT測定値との比較の例示的な実施形態を示す。
【
図5】本開示に係るコンピュータ実装方法の例示的な実施形態を示す。
【
図6】本発明の実施形態における1つ又はいくつかの工程を実行するための適切なコンピューティングシステムの例示的な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1は、本開示に係る装置10の例示的な実施形態を示す。この装置10は、少なくとも1つのメモリ6と、少なくとも1つのプロセッサとを含み、メモリ6は、少なくとも1つのプロセッサによって、装置10に、
個体の検査体積で測定された光プレチスモグラフィ信号101と、
光プレチスモグラフィ信号101に沿った2つ以上の時点12、13における光プレチスモグラフィによって得られる光強度102、103と
を取得することであって、光強度102がそれぞれ時点12で取得され、光強度103がそれぞれ時点13で取得されることと、
光強度102、103の関数の対数17又はその関数近似(function approximation)17を決定することによって、前記2つ以上の時点12、13の間で前記検査体積内の動脈血液量16の変化を決定し、それによって個体のPAT100を評価することと、
前記検査体積11における動脈及び細動脈の血管収縮を示すPAT100の低下を決定することによって、前記個体1における睡眠関連事象の発生を検出することとを実行させるように構成されたコンピュータプログラムコードを含む。
装置10は、外部装置から光プレチスモグラフィ信号101又は光強度102、103あるいはそれらの両方を取得する。代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6から光プレチスモグラフィ信号101及び/又は光強度102、103(光プレチスモグラフィ信号又は光強度あるいはそれらの両方)を取得する。さらなる代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6及び/又は外部装置から光プレチスモグラフィ信号101及び/又は光強度102、103を取得する。任意選択的に、少なくとも1つの時点12は、個体の心周期における拡張期に対応し、及び/又は少なくとも1つの時点13は、個体の心周期における収縮期に対応する。装置10は、光強度102、103の関数の対数17又はその関数近似17に対応する評価関数17を決定するように構成される。評価関数17は、光路長、酸素飽和度の推定値の関数及び検査体積内の動脈血液量の変化のうちの1つ以上に依存する。
【0057】
図2は、本開示に係るシステム20の例示的な実施形態を示す。
図1の番号と同一の参照番号を有する構成要素は、同一の機能を実行する。
図2のシステム20は、本開示に係る装置10を含む。任意選択的に、このシステム20は、光源2とセンサー4とをさらに含む。光源2は、光40を出射するように構成される。装置10は、
個体の検査体積11で測定された光プレチスモグラフィ信号101と、
光プレチスモグラフィ信号101に沿った2つ以上の時点12、13における光プレチスモグラフィによって得られる光強度102、103と
を取得し、ここで、光強度102がそれぞれ時点12で取得され、光強度103がそれぞれ時点13で取得され、
光強度102、103の関数の対数17又はその関数近似17を決定することによって、2つ以上の時点12、13の間で検査体積11内の動脈血液量16の変化を決定し、それによって個体1のPAT100を評価し、
検査体積11における動脈及び細動脈の血管収縮を示すPAT100の低下を決定することによって、個体1における睡眠関連事象の発生を検出させるように構成される。
装置10は、少なくとも1つの光源2及び/又はセンサー4を含む外部装置200から光プレチスモグラフィ信号101及び/又は光強度102、103を取得する。例えば、外部装置200は、個体1の検査体積11内の動脈血液量パルスを決定する。外部装置200は、異なる電気部品2、4に電力を供給するためのバッテリを含む。光源2は、光を出射するように構成され、すなわち、外部装置200に接続された個体の検査体積11、例えば図示されたように個体1の指11、より具体的には個体の指の遠位端11に光40を透過させるように構成される。外部装置200は、光源2を制御するため、すなわち、光源2を有効化又は無効化にするため、及びセンサー4から、例えば光強度の測定値を受信するための制御回路をさらに含む。制御回路は、得られた測定値を一時的に記憶するためのメモリ構成要素をさらに含んでもよい。制御回路は、無線インターフェース回路50にさらに結合され、測定値を無線インターフェース回路50に転送するように構成される。無線インターフェース50は、測定値をシステムの受信部に効率的に伝送するために、短距離及び/又は低電力無線通信プロトコルをサポートしてもよい。無線インターフェース50は、例えば、Bluetooth Special Interest Groupによって定義されているBLEプロトコル又は近距離無線通信(Near Field Communication、NFC)プロトコルに従って動作してもよい。このようなプロトコルによる動作と、生の光プレチスモグラフィ信号101の転送により、外部装置200を指や鼻孔に適合するように小型化することができ、複数の夜間に動作させることができる。代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6から光プレチスモグラフィ信号101及び/又は光強度102、103を取得する。さらなる代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6及び/又は外部装置から光プレチスモグラフィ信号101及び/又は光強度102、103を取得する。任意選択的に、少なくとも1つの時点12は、個体の心周期における拡張期に対応し、及び/又は少なくとも1つの時点13は、個体の心周期における収縮期に対応する。装置10は、光強度102、103の関数である評価関数17を決定するように構成される。外部装置200は、光プレチスモグラフィによって、センサー4上で光源2から出射された光40に対応する伝搬光41を収集し、この光40は、光プレチスモグラフィ信号101に沿って2つ以上の時点12、13で個体1の指の遠位端を伝搬するときに検査体積11によって透過又は反射される。言い換えれば、外部装置200は、光プレチスモグラフィによって、センサー4上で光源2から出射された光40に対応する伝搬光41に対応する光強度102を収集し、この光40は、個体1の指の遠位端を伝搬するときに検査体積11によって透過又は反射され、第1の時点12でセンサー4上に収集される。外部装置200は、光プレチスモグラフィによって、センサー4上で同じ光源2から出射された光40に対応する伝搬光41に対応する光強度103を収集し、この光40は、個体1の指の遠位端を伝搬するときに検査体積11によって透過又は反射され、第2の時点13でセンサー4上に収集される。そして、装置は評価関数17を決定する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の関数の対数に対応する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の比の対数に対応する。評価関数17は、光路長、酸素飽和度の推定値の関数及び検査体積内の動脈血液量の変化のうちの1つ以上に依存する。
【0058】
図3は、本開示に係るシステム20の例示的な実施形態を示す。
図1又は
図2の番号と同一の参照番号を有する構成要素は、同一の機能を実行する。
図3のシステム20は、本開示に係る装置10を含む。任意選択的に、システム20は、装置10に含まれる少なくとも1つの光源2と、センサー4とをさらに含む。光源2は、光40を出射するように構成される。装置10は、
個体の検査体積11で測定された光プレチスモグラフィ信号101と、
光プレチスモグラフィ信号101に沿った2つ以上の時点12、13における光プレチスモグラフィによって得られる光強度102、103とを取得し、ここで、光強度102がそれぞれ時点12で取得され、光強度103がそれぞれ時点13で取得され、
光強度102、103の関数の対数17又はその関数近似17を決定することによって、2つ以上の時点12、13の間で検査体積11内の動脈血液量16の変化を決定し、それによって個体1のPAT100を評価し、
検査体積11における動脈及び細動脈の血管収縮を示すPAT100の低下を決定することによって、個体1における睡眠関連事象の発生を検出させるように構成される。
装置10は、光源2及び/又はセンサー4から光プレチスモグラフィ信号101及び/又は光強度102、103を取得する。例えば、外部装置10は、個体1の検査体積11内の動脈血液量パルスを決定する。外部装置10は、異なる電気部品2、3、4に電力を供給するためのバッテリを含む。光源2は、光を出射するように構成され、すなわち、外部装置10に接続された個体の検査体積11、例えば図示されたように個体1の指11、より具体的には図示されたように個体の指の遠位端11に光40を透過させるように構成される。装置10は、光源2を制御するため、すなわち、光源2を有効化又は無効化にするため、及びセンサー4から測定された動脈血液量パルス値を受信するための制御回路をさらに含む。制御回路は、得られた測定値を一時的に記憶するためのメモリ構成要素をさらに含んでもよい。制御回路は、無線インターフェース回路50にさらに結合され、測定値を無線インターフェース回路50に転送するように構成される。無線インターフェース50は、測定値をシステムの受信部に効率的に伝送するために、短距離及び/又は低電力無線通信プロトコルをサポートしてもよい。無線インターフェース50は、例えば、Bluetooth Special Interest Groupによって定義されているBluetoothローエナジー(Bluetooth Low Energy、BLE)プロトコル又は近距離無線通信(Near Field Communication、NFC)プロトコルに従って動作してもよい。このようなプロトコルによる動作と、生の光プレチスモグラフィ信号101の転送により、外部装置10を指や鼻孔に適合するように小型化することができ、複数の夜間に動作させることができる。代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6から光プレチスモグラフィ信号101、光強度102、103のうちの1つ以上を取得する。さらなる代替の実施形態によれば、装置10は、光源2及び/又はセンサー4から、及び/又はメモリ6から、光プレチスモグラフィ信号101、光強度102、103のうちの1つ以上を取得する。任意選択的に、少なくとも1つの時点12は、個体の心周期における拡張期に対応し、及び/又は少なくとも1つの時点13は、個体の心周期における収縮期に対応する。装置10は、光強度102、103の関数である評価関数17を決定するように構成される。装置10は、センサー4上の光プレチスモグラフィによって、光源2から出射された光40に対応する伝搬光41を収集し、この光40は、光プレチスモグラフィ信号101に沿って2つ以上の時点12、13で個体の指の遠位端を伝搬するときに検査体積11によって透過又は反射される。言い換えれば、装置10は、センサー4上の光プレチスモグラフィによって、光源2から出射された光40に対応する伝搬光41に対応する光強度102を収集し、この伝搬光41は、個体1の指の遠位端を伝搬するときに検査体積11によって透過又は反射され、第1の時点12でセンサー4上に収集される。装置10は、センサー4上の光プレチスモグラフィによって、同じ光源2から出射された光40に対応する伝搬光41に対応する光強度103を収集し、この光40は、個体1の指の遠位端を伝搬するときに検査体積11によって透過又は反射され、第2の時点13でセンサー4上に収集される。そして、装置は評価関数17を決定する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の関数の対数に対応する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の比の対数に対応する。評価関数17は、光路長、酸素飽和度の推定値の関数及び検査体積内の動脈血液量の変化のうちの1つ以上に依存する。
【0059】
図4は、個体の時間60の関数におけるPPG振幅に基づく末梢動脈緊張401と、同じ個体の時間60の関数における評価関数に基づく末梢動脈緊張402との間の例示的な比較を示し、上記PPG振幅に基づく末梢動脈緊張401は、従来技術で説明されているように、光プレチスモグラフィ信号のパルス振幅の変化を考慮して評価され、上記評価関数に基づく末梢動脈緊張402は、本開示に係るコンピュータ実装方法又は本開示に係る装置によって判定され、すなわち、評価関数に基づく末梢動脈緊張402は、光プレチスモグラフィ信号から測定された光強度の比の対数を決定することによって評価される。明確にするために、評価関数に基づく
ってプロットされる。
図4から分かるように、PPG振幅に基づく末梢動脈緊張401及び評価関数に基づく末梢動脈緊張402は、血管収縮事象前ベースライン値で時間60の関数と同様に推移する。しかしながら、期間61及び62、すなわち、睡眠関連事象などの事象、例えば睡眠関連呼吸事象の発生中に、
図4から分かるように、PPG振幅に基づく末梢動脈緊張401及び評価関数に基づく末梢動脈緊張402は同様に推移するが、対応する期間61及び62において重ならないことになる。実際には、期間61において、PPG振幅に基づく末梢動脈緊張401はレベル403まで低下し、このレベル403の値は、評価関数に基づく末梢動脈緊張402が低下するレベル404の値よりも高い。同様に、期間62において、PPG振幅に基づく末梢動脈緊張401はレベル405まで低下し、このレベル405の値は、評価関数に基づく末梢動脈緊張402が低下するレベル406の値よりも高い。
図4から分かるように、光プレチスモグラフィによって得られた光強度の関数の対数を決定することで末梢動脈緊張100を評価することにより、発生した事象をより正確に検出することができる。実際には、末梢動脈緊張100の低下は、監視されている検査体積における動脈及び細動脈の血管収縮を示す。この血管収縮は、監視されている個体において発生する事象、例えば睡眠時無呼吸などの睡眠関連事象に関連し得る。
図4から分かるように、血管収縮事象前ベースライン値とPPG振幅に基づく末梢動脈緊張401の最低点との間のPPG振幅に基づく末梢動脈緊張401の低下は、血管収縮事象前ベースライン値と評価関数に基づく末梢動脈緊張402の最低点との間の評価関数に基づく末梢動脈緊張402の低下よりも小さい。例えば、末梢動脈緊張100の所定の閾値407を使用して、監視されている個体において睡眠関連事象のような事象、例えば睡眠時無呼吸が発生しているか否かを検出することができる。末梢動脈緊張100がこの所定の閾値407を上回る場合、事象が検出されていないが、末梢動脈緊張100がこの所定の閾値407を下回る場合、事象が検出される。血管収縮事象前ベースライン値とPPG振幅に基づく末梢動脈緊張401の最低点との間のPPG振幅に基づく末梢動脈緊張401の低下により、PPG振幅に基づく末梢動脈緊張401が所定の閾値407を上回るように維持され、その結果、監視されている個体において発生する睡眠関連事象などの事象、例えば睡眠時無呼吸が検出されなくなる。一方、血管収縮事象前ベースライン値と評価関数に基づく末梢動脈緊張402の最低点との間の評価関数に基づく末梢動脈緊張402の低下により、評価関数に基づく末梢動脈緊張402が所定の閾値407を下回るようになり、その結果、監視されている個体において発生する睡眠関連事象などの事象、例えば睡眠時無呼吸が検出されなくなる。したがって、光プレチスモグラフィによって得られた光強度の関数の対数を決定することによって末梢動脈緊張100を評価することにより、監視されている個体において発生する睡眠関連事象などの事象、例えば睡眠時無呼吸をより正確かつ確実に検出することが可能となることが分かる。
【0060】
図5は、光プレチスモグラフィによって監視される個体の末梢動脈緊張(PAT)を評価するためのコンピュータ実装方法の例示的な実施形態を示し、この方法は、
個体1の検査体積11で測定された光プレチスモグラフィ信号101と、
光プレチスモグラフィ信号101に沿った2つ以上の時点12、13における光プレチスモグラフィによって得られる光強度102、103と
を取得する第1の工程501と、
光強度102、103の関数の対数17又はその関数近似17を決定することによって、2つ以上の時点12、13の間で検査体積11内の動脈血液量16の変化を判定し、それによって個体1のPAT100を評価する、第1の工程501に続く第2の工程502と、
検査体積11における動脈及び細動脈の血管収縮を示すPAT100の低下を判定することによって、個体1における睡眠関連事象の発生を検出する、第2の工程502に続く第3の工程503とを含む。
【0061】
図6は、本システムの実施形態を実装することを可能にする、適切なコンピューティングシステム800を示す。このコンピューティングシステム800は、一般に、適切な汎用コンピュータとして構成することができ、バス810と、プロセッサ802と、ローカルメモリ804と、1つ以上の任意の入力インターフェース814と、1つ以上の任意の出力インターフェース816と、通信インターフェース812と、記憶素子インターフェース806と、1つ以上の記憶素子808とを備えてもよい。バス810は、コンピューティングシステム800の構成要素間での通信を可能にする1つ以上のコンダクタを備えてもよい。プロセッサ802は、プログラミング命令を解釈及び実行する任意のタイプの従来のプロセッサ又はマイクロプロセッサを含んでもよい。ローカルメモリ804は、プロセッサ802によって実行される情報及び命令を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)又は別のタイプの動的記憶装置、及び/又はプロセッサ802によって使用される静的情報及び命令を格納する読出し専用メモリ(ROM)又は別のタイプの静的記憶装置を含んでもよい。入力インターフェース814は、オペレータ又はユーザーが情報をコンピューティングデバイス800に入力することを可能にする1つ以上の従来の機構、例えば、キーボード820、マウス830、ペン、音声認識及び/又は生体認証機構、カメラなどを備えてもよい。出力インターフェース816は、オペレータ又はユーザーに情報を出力するための1つ以上の従来の機構、例えばディスプレイ840などを備えてもよい。通信インターフェース812は、例えば、コンピューティングシステム800が他のコンピューティングデバイス881、882、883などの他のデバイス及び/又はシステムと通信することを可能とする、1つ以上のイーサネットインターフェースなどの任意のトランシーバーのような機構を備えてもよい。コンピューティングシステム800の通信インターフェース812は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、又はインターネットなどのワイドエリアネットワーク(WAN)によってそのような別のコンピューティングシステムに接続することができる。記憶素子インターフェース806は、バス810を1つ以上の記憶素子808、例えばSATAディスクドライブなどの1つ以上のローカルディスクに接続し、かつこれらの記憶素子808からのデータの読み出し及び/又はそれらへのデータの書き込みを制御するためのシリアルATA(Serial Advanced Technology Attachment、SATA)インターフェース又はSCSI(Small Computer System Interface)などの記憶インターフェースを備えてもよい。上記の記憶素子808はローカルディスクとして説明されているが、一般には、リムーバブル磁気ディスク、CD又はDVDなどの光記憶媒体、‐ROMディスク、ソリッドステートドライブ、フラッシュメモリカードなどの任意の他の適切なコンピュータ読取可能な媒体を使用することができる。したがって、コンピューティングシステム800は、
図1、
図2又は
図3に図示される実施形態における装置10に対応してもよい。
【0062】
本願で使用されるように、「回路」という用語は、以下の1つ以上又はすべてを指すことができる。
(a)アナログ及び/又はデジタル回路のみでの実装などのハードウェアのみの回路実装、
(b)ハードウェア回路とソフトウェアの組み合わせ(該当する場合)、例えば、
(i)アナログ及び/又はデジタルハードウェア回路とソフトウェア/ファームウェアの組み合わせ、及び
(ii)ソフトウェア、及び携帯電話又はサーバーなどの装置に様々な機能を実行させるために連携するソフトウェア及びメモリを有するハードウェアプロセッサ(デジタルシグナルプロセッサを含む)の任意の部分、
(c)動作にはソフトウェア(ファームウェアなど)を必要とする、動作にソフトウェアを必要としないものもある、マイクロプロセッサ又はマイクロプロセッサの一部などのハードウェア回路及び/又はプロセッサ。
この「回路」の定義は、本願において当該用語を使う全ての場合において適用される。特許請求の範囲においても同様である。さらなる例として、本願で使用される場合、用語「回路」は、単なるハードウェア回路、プロセッサ(又は複数のプロセッサ)、ハードウェア回路又はプロセッサの一部、及び、その(又はそれらの)付随するソフトウェア及び/又はファームウェアの実装も網羅するものである。用語「回路」はまた、例えば、特許請求の範囲に記載される特定の要素をその範囲に含むことが可能な場合がある。例えば、携帯電話のベースバンド集積回路やアプリケーションプロセッサ集積回路を意味してもよく、サーバーやセルラネットワークデバイス、その他のネットワークデバイスにおける同様の集積回路を意味してもよい。
【0063】
特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上述した例示的な実施形態の細部に限定されるものではなく、本発明がその範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えて具現化することができることは、当業者には明らかであろう。本実施形態は、すべての点において例示的なものであり、限定的なものではないと見なされるべきであり、本発明の範囲は、上述した説明ではなく、添付の特許請求の範囲によって示されるものであり、よって、特許請求の範囲内に入るすべての変更は、そこに包含されることが意図されている。
【0064】
この特許出願の読者は、「含んでいる(comprising)」又は「含む(comprise)」という語が他の要素又は工程を除外しないこと、「a」又は「an」という語が複数を除外しないこと、並びに、コンピュータシステム、プロセッサ又は別の統合ユニットなどの単一の要素が、特許請求の範囲に記載されるいくつかの手段の機能を果たし得ることを理解するであろう。特許請求の範囲内のすべての符号は、各請求項を限定するものと解釈されるべきではない。「第1」、「第2」、「第3」、「a」、「b」、「c」などの用語は、本明細書又は特許請求の範囲で使用される場合、同様の要素又は工程を区別するために導入されるものであり、必ずしも連続的又は時系列的な順序を記述するものではない。同様に、「上」、「下」、「上方」、「下方」などの用語は、説明のために導入されるものであり、必ずしも相対的な位置を示すものではない。そのように使用される用語は、適切な状況において交換可能であり、本発明の実施形態は、他の順序で、又は上述又は例示したものとは異なる方向で、本発明に従って動作可能であることを理解されたい。
【国際調査報告】