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特表2023-532319末梢動脈緊張の評価を補償する装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-27
(54)【発明の名称】末梢動脈緊張の評価を補償する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580957
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2021067532
(87)【国際公開番号】W WO2021260190
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】20182503.1
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】522502141
【氏名又は名称】エクトセンス・ナムローゼ・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】ECTOSENSE NV
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【弁理士】
【氏名又は名称】池本 理絵
(72)【発明者】
【氏名】フェイウリクス,ボウト
(72)【発明者】
【氏名】マシー,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】フィッツ,ステーフェン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ピー,バート
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038KL07
4C038KX01
(57)【要約】
光学式容積脈波記録法により監視される個体(1)の末梢動脈緊張(100)(PAT)を評価するコンピュータ実施方法は、
被検体積(11)において測定される光学式容積脈波信号(101)、
前記光学式容積脈波信号(101)に沿って2つ以上の時点(12、13)で取得される光強度(102、103)、
酸素飽和度推定値(104)、および
較正データ(105)を得るステップと、
前記酸素飽和度推定値(104)及び前記較正データ(105)から、前記酸素飽和度推定値(104)の関数である補償関数(14)を特定するステップと、
前記光強度(102、103)の関数と前記補償関数(14)との比率(15)を特定することで、前記2つ以上の時点(12、13)の間の前記被検体積(11)における動脈血量(16)の変化を評価し、それによってPAT(100)を評価するステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学式容積脈波記録法により監視される個体(1)の末梢動脈緊張(100)(PAT)を評価するコンピュータ実施方法であって、
前記個体(1)の被検体積(11)において測定される光学式容積脈波信号(101)、
前記光学式容積脈波信号(101)に沿って2つ以上の時点(12、13)で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度(102、103)、
酸素飽和度推定値(104)、および
較正データ(105)を得るステップと、
前記酸素飽和度推定値(104)及び前記較正データ(105)から、前記酸素飽和度推定値(104)の関数である補償関数(14)を特定するステップと、
前記光強度(102、103)の関数と前記補償関数(14)との比率(15)を特定することで、前記2つ以上の時点(12、13)の間の前記被検体積(11)における動脈血量(16)の変化を評価し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価するステップと、を含むコンピュータ実施方法。
【請求項2】
前記較正データ(105)が、所定の較正係数(25)および/または定義済みの係数(26)を含み、
前記補償関数(14)を特定する前記ステップが、前記定義済みの係数(26)から前記補償関数(14)を導出することに対応し、または
前記補償関数(14)を特定する前記ステップが、前記酸素飽和度推定値(104)を較正比率に適合させることによって、前記所定の較正係数(25)を特定することに対応する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記時点(12、13)のうちの少なくとも1つ(12)が、前記個体(1)の心周期における拡張期に対応し、および/または前記時点(12、13)のうちの少なくとも1つ(13)が、前記個体(1)の心周期における収縮期に対応する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記光強度(102、103)の関数である評価関数(17)を特定するステップをさらに含み、比率(15)を特定する前記ステップは、前記評価関数(17)と前記補償関数(14)との比率を特定することに対応する請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記評価関数(17)は、前記光強度(102、103)の関数の対数に対応する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記評価関数(17)は、前記光強度(102、103)の比率の対数に対応し、前記評価関数(17)は、
光路長、
前記酸素飽和度推定値(104)の関数、および
前記被検体積(11)における前記動脈血量(16)の前記変化のうちの1つ以上に依存する請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
第1の波長の光を出射するように構成される第1の光源(2)を提供するステップと、
第2の波長の光を出射するように構成される第2の光源(3)を提供するステップと、
センサ(4)を提供するステップと、
前記2つ以上の時点(12、13)で前記個体(1)の前記被検体積(11)内を伝播する際に透過または反射される光に対応する伝搬光を、光学式容積脈波記録法により、前記センサ(4)上で収集するステップと、
前記第1の波長について、前記2つ以上の時点(12、13)で前記センサ(4)上の前記伝搬光の第1の光強度(106、107)を特定するステップと、
前記第2の波長について、前記2つ以上の時点(12、13)で前記センサ(4)上の前記伝搬光の第2の光強度(108、109)を特定するステップと、
前記第1の波長における前記第1の光強度(106、107)の比率に対応する第1の比率を特定するステップと、
前記第2の波長における前記第2の光強度(108、109)の比率に対応する第2の比率を特定するステップと、
前記第1の比率の関数と前記第2の比率の関数との前記較正比率を特定するステップと、
前記酸素飽和度推定値(104)を前記較正比率に適合させることによって、前記所定の較正係数(25)を特定するステップと、をさらに含む請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記2つ以上の時点(12、13)で前記個体(1)の前記被検体積(11)内を伝播する際に透過または反射される前記第1の波長または前記第2の波長における光(40)に対応する伝搬光(41)を、光学式容積脈波記録法により、前記センサ(4)上で収集するステップと、
前記2つ以上の時点(12、13)で前記センサ(4)上の前記伝搬光の前記光強度(102、103)を特定するステップと、をさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記個体(1)の前記被検体積(11)の近傍で前記酸素飽和度推定値(104)を特定するステップをさらに含む請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記補償関数(14)を評価する前記ステップは、前記酸素飽和度推定値(104)を前記所定の較正係数(25)にマッピングする回帰を特定することに対応する請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記補償関数(14)を評価する際に、前記回帰が一次有理写像を使用することを強制するステップをさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータ・プログラム・コードを含む少なくとも1つのメモリ(6)とを含む装置(10)であって、前記少なくとも1つのメモリ(6)および前記コンピュータ・プログラム・コードは、前記少なくとも1つのプロセッサにより、前記装置(10)に、
個体(1)の被検体積(11)において測定される光学式容積脈波信号(101)、
前記光学式容積脈波信号(101)に沿って2つ以上の時点(12、13)で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度(102、103)、
酸素飽和度推定値(104)、および
較正データ(105)を得るステップと、
前記酸素飽和度推定値(104)及び前記較正データ(105)から、前記酸素飽和度推定値(104)の関数である補償関数(14)を特定するステップと、
前記光強度(102、103)の関数と前記補償関数(14)との比率(15)を特定することで、前記2つ以上の時点(12、13)の間の前記被検体積(11)における動脈血量(16)の変化を評価し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価するステップと、を実行させるように構成される装置(10)。
【請求項13】
請求項12に記載の装置を備え、
光を出射するように構成される光源(2、3)と、
前記2つ以上の時点(12、13)で前記個体(1)の指の遠位端を伝播する際に透過または反射される光に対応する伝搬光を光学式容積脈波記録法により収集するように構成され、さらに、前記2つ以上の時点(12、13)で前記伝搬光の前記光強度(102、103)を特定するように構成されるセンサ(4)と、をさらに備えるシステム(20)。
【請求項14】
システムに、少なくとも
個体(1)の被検体積(11)において測定される光学式容積脈波信号(101)、
前記光学式容積脈波信号(101)に沿って2つ以上の時点(12、13)で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度(102、103)、
酸素飽和度推定値(104)、および
較正データ(105)を得るステップと、
前記酸素飽和度推定値(104)及び前記較正データ(105)から、前記酸素飽和度推定値(104)の関数である補償関数(14)を特定するステップと、
前記光強度(102、103)の関数と前記補償関数(14)との比率(15)を特定することで、前記2つ以上の時点(12、13)の間の前記被検体積(11)における動脈血量(16)の変化を評価し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価するステップと、を実行させるためのコンピュータ実行可能な命令を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項15】
プログラムがコンピュータ上で実行されるとき、
個体(1)の被検体積(11)において測定される光学式容積脈波信号(101)、
前記光学式容積脈波信号(101)に沿って2つ以上の時点(12、13)で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度(102、103)、
酸素飽和度推定値(104)、および
較正データ(105)を得るステップと、
前記酸素飽和度推定値(104)及び前記較正データ(105)から、前記酸素飽和度推定値(104)の関数である補償関数(14)を特定するステップと、
前記光強度(102、103)の関数と前記補償関数(14)との比率(15)を特定することで、前記2つ以上の時点(12、13)の間の前記被検体積(11)における動脈血量(16)の変化を評価し、それによって前記個体(1)のPAT(100)を評価するステップと、を実行するためのコンピュータ実行可能な命令を含むコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、末梢動脈緊張(PAT)を評価する方法および装置に関する。より具体的には、例えば睡眠関連イベントを検出するために末梢動脈緊張をロバストに監視することに関する。
【背景技術】
【0002】
個体の心周期、すなわち2回の心拍の間の期間に、血液は、個体の血管系を介して脈動的にポンピングされる。言い換えれば、心周期の間、例えば、指、鼻孔、耳、額、口の中、足指、手首、足首などでの血量は、周期的に増減する。動脈内の血液は動脈血と呼ばれる。静脈内の血液は静脈血と呼ばれる。
【0003】
このような血量の変動を測定する一般的な方法は、光学式容積脈波記録法または光電式容積脈波記録法である。その中で、光学式容積脈波図または光電式容積脈波図(PPG)を用いて、組織の微小血管床における血量の変化を検出する。一般に、1つ以上の光源(例えばLED)からの光を被検体積に照射し、被検体積内で反射または透過される光に対応する収集光をセンサ上で検出することによって、PPGを得る。このセンサは、例えば、光検出器(例えばフォトダイオード)を含んでもよく、またはそれに対応してもよい。光源およびセンサは、例えば、透過モードPPGを測定できるように個体の指の反対側に配置されてもよく、反射モードPPGを測定できるように個体の指の同じ側に配置されてもよい。心臓は、心周期ごとに動脈血を被検体積にポンピングする。光学式容積脈波記録法により、例えば心周期において被検体積における動脈血量の変化に対応する物理的なイベントを捕捉することができる。
【0004】
動脈血量の周期的な変動のほかに、組織内の動脈血量は、また、被検体積中の小動脈(細動脈)の直径による影響を受ける。これらの細動脈には、収縮して細動脈の直径を小さくすることができる筋肉壁がある。言い換えれば、これらの細動脈が収縮して縮径すると、対応する細動脈に含まれる動脈血量が著しく減少する。光学式容積脈波記録法は、細動脈の直径が収縮したときに、細動脈に含まれる動脈血量の変化を監視するために使用されることができる測定技術である。したがって、光学式容積脈波記録法で動脈血量の変化を監視することは、細動脈の筋張力または平滑筋組織の「緊張」(末梢動脈緊張またはPATとも呼ばれる)の相対的な変化に関する情報を経験的に提供する。
【0005】
被検体積への動脈血流を複数の他の生理現象によって調節することができるので、光学式容積脈波記録法は、呼吸、血液量減少、その他の循環状態の監視、例えば睡眠障害の診断にも使用されることができる。睡眠障害診断とは、一定時間、例えば一晩以上にわたって患者の睡眠を監視する医療分野である。監視に基づいて、無呼吸イベント、いびき、または四肢運動などの異なる睡眠関連イベントを識別することができる。
【0006】
睡眠時無呼吸の終了において呼吸の再取り込みは、通常、アドレナリンの放出と一致する。アドレナリンは、血流中に放出され、被検体積内の細動脈にあるアドレナリン受容体と結合する。それは、細動脈の筋張力の増加を誘発し、被検体積内の細動脈の直径の減少と動脈血量の減少をもたらす。したがって、光学式容積脈波記録法などで末梢動脈緊張を監視することは、睡眠時無呼吸などの睡眠関連イベントの発生に関する価値ある情報を提供することができる。
【0007】
ヘモグロビンは、光学式容積脈波記録法による測定中に、被検体積に出射された光を散乱させる主要な分子である。ヘモグロビンは、酸素化ヘモグロビン(HbO)と脱酸素化ヘモグロビン(Hb)とを含む。動脈血中のヘモグロビンが酸素化される程度は、酸素飽和度(SpO)と呼ばれる。HbOによる光の吸収と散乱の程度はHbと著しく異なり、さらに光学式容積脈波記録法に使用される光の波長にも依存する。
【0008】
その結果、光学式容積脈波図は、被検体積中の動脈血量に依存するだけでなく、酸素飽和度によって特徴付けられるその動脈血量のヘモグロビン組成にも依存する。言い換えれば、光学式容積脈波記録法によって監視されるPATの変化を測定しようとすると、この測定は、監視される動脈血量の酸素飽和度の変化により、大きく影響される可能性がある。例えば、無呼吸の間、肺に供給される酸素が少なくなるため、個体の被検体積内の動脈血量中のHbOの割合が低下する。
【0009】
例えば、国際公開第98/04182号には、末梢動脈緊張を監視することによって医療状態を検出するための方法および装置が記載される。例えば、欧州特許出願公開第1534115号明細書に記載されるように、欧州特許出願公開第1534115号明細書における装置は、HbOによる特定の波長の吸収および散乱の程度が、Hbによる特定の波長の吸収および散乱の程度と同じである波長に依存して、光学式容積脈波記録法を実行する。このような波長は、等吸収波長として知られている。したがって、欧州特許出願公開第1534115号明細書では、この等吸収波長に依存して光学式容積脈波記録法で測定される光強度は、動脈血量のヘモグロビン組成、言い換えれば酸素飽和度の値への依存度が低い。
【0010】
例えば、欧州特許出願公開第1534115号明細書に記載される解決策では、光学式容積脈波記録法を介してPATを監視するために3つの光源を使用する必要がある。2つの光源が酸素飽和度を推定するために等吸収波長の光を生成せず、残りの1つの光源が末梢動脈緊張を推定するために等吸収波長の光を生成する。3つの光源を使用すると、2つの光源のみを含むシステムと比較して、装置のコストとサイズが増加してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第98/04182号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1534115号明細書
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明の実施形態の目的は、従来技術の固有の欠点を示さないコンピュータ実施方法および装置を提供することである。より具体的には、本発明の実施形態の目的は、等吸収波長の使用を必要とせずに、監視された動脈血量のヘモグロビン組成の変化による末梢動脈緊張の光学的測定への影響を正確かつロバストに最小化する方法および装置を提供することである。
【0013】
本発明の様々な実施形態に求められる保護の範囲は、独立請求項によって規定される。
【0014】
本明細書に記載される実施形態および特徴のうち、独立請求項の範囲に入っていないものがあれば、それは本発明の様々な実施形態の理解を容易にする例として解釈される。
【0015】
酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの濃度の変化による末梢動脈緊張の光学的測定への影響を排除する必要がある。
【0016】
とりわけ、本発明の実施形態の1つの目的は、監視された動脈血量のヘモグロビン組成の変化が、光学式容積脈波記録法による末梢動脈緊張の測定への影響を低減することである。
【0017】
本開示の第1の例示的な態様によれば、光学式容積脈波記録法により監視される個体の末梢動脈緊張(PAT)を評価するコンピュータ実施方法であって、
前記個体の被検体積において測定される光学式容積脈波信号、
前記光学式容積脈波信号に沿って2つ以上の時点で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度、
酸素飽和度推定値、および
較正データを得るステップと、
前記酸素飽和度推定値及び前記較正データから、前記酸素飽和度推定値の関数である補償関数を特定するステップと、
前記光強度の関数と前記補償関数との比率を特定することで、前記2つ以上の時点の間の前記被検体積における動脈血量の1つ以上の変化を評価し、それによって前記個体のPATを評価するステップと、を含むコンピュータ実施方法によって、この目的を達成する。
【0018】
本開示に係るコンピュータ実施方法は、末梢動脈緊張を正確かつロバストな方法で特定することを可能にする。光学式容積脈波記録法により監視される個体の酸素飽和度推定値を得ることで、光学式容積脈波記録法により監視される被検体積における個体の動脈血量のヘモグロビン組成を特定または推定することができる。したがって、本開示に係るコンピュータ実施方法は、監視された動脈血量のヘモグロビン組成の変化による影響を最小化することによって、光強度が監視下の動脈血量の変化をより確実に反映するように、光学式容積脈波信号を調整または換言すれば補償することができる。換言すれば、本開示に係るコンピュータ実施方法は、動脈血量のヘモグロビン組成の変化による光学式容積脈波信号への影響を低減し、それにより、動脈血量のヘモグロビン組成の変化による末梢動脈緊張の光学的測定への影響を最小化または低減する。このコンピュータ実施方法は、酸素飽和度推定値の関数である補償関数を確実に特定し、光学式容積脈波記録法により測定される光強度の関数をこの酸素飽和度推定値の補償関数で除算する。したがって、被検体積中の動脈血量の変化の結果として得られた評価は、個体の末梢動脈緊張のより正確かつロバストな評価を提供する。
【0019】
コンピュータ実施方法は、等吸収波長の光を出射する光源の使用に依存しない。対照的に、コンピュータ実施方法は、例えば2つの光源を含む光学式容積脈波記録法についての任意の通常のセットアップと互換性がある。この2つの光源は、例えば、1つの赤色波長ともう1つの赤外波長などの2つの異なる波長の光を出射する。言い換えれば、コンピュータ実施方法は、酸素飽和度推定値を特定するために必要な最小限の光源数である2つの光源のみを用いて、被検体積中の動脈血量の変化を正確に測定する。次に、2つの光源を用いた光学式容積脈波測定から、末梢動脈緊張を数学的に導出する。これにより、3つの光源を有するシステムに比べて小型化が可能となり、さらに、3つ目の光源が不要となることでコストの最適化が可能となる。
【0020】
本開示の文脈において、個体の被検体積は、例えば、個体の被検組織において定義される体積である。この個体が光学式容積脈波記録法によって監視され、この個体の中で、光学式容積脈波記録法によって出射される光が伝播し、光学式容積脈波記録法用のセンサに収集される。言い換えれば、個体の被検体積は、例えば、光学式容積脈波信号が取得される個体の被検組織において定義される体積である。例えば、被検体積は、個体の末梢組織の体積である。例えば、被検体積は、個体の指、指先、指の遠位端、鼻孔、耳、額、口の中、足指、つま先、手首、足首などにおいて定義される体積である。本開示の文脈において、個体の被検体積は、被検体積に含まれる個体の皮膚を含み、さらに、被検体積に存在する動脈血量を含む。本開示の文脈において、末梢動脈緊張は、個体の被検体積における被検動脈床の動脈緊張の変化として理解される。言い換えれば、個体の被検体積における血管床の脈動容積変化を特定することにより、被検体積中の細動脈の筋張力または平滑筋組織の「緊張」を示す情報を特定または評価することができ、したがって、交感神経系によって調節される末梢動脈緊張を特定または評価することができる。末梢動脈緊張を特定することは非侵襲的であり、例えば、心臓病、勃起不全、睡眠時無呼吸、閉塞性睡眠時無呼吸、心血管疾患などを検出するために使用することができる。
【0021】
本開示の文脈において、光学式容積脈波信号は、光学式容積脈波記録法によって測定される信号である。例えば、光学式容積脈波信号は、光学式容積脈波図である。例えば、光学式容積脈波信号は、PPGである。光学式容積脈波信号は、例えば、少なくとも2つの光源とセンサとを含む光学式容積脈波記録セットアップによって、個体の指先において測定される。本開示の文脈において、光強度は、光学式容積脈波記録セットアップのセンサ上で収集される光の強度に対応し、センサ上で収集される光は、1つまたは2つの光源によって生成された、個体の被検体積内で透過または反射される光に対応する。
【0022】
動脈内の血液は動脈血と呼ばれる。静脈内の血液は静脈血と呼ばれる。本開示の文脈において、酸素飽和度推定値(SpO)またはヘモグロビン組成は、動脈血量中のヘモグロビンの総量に対する酸素化ヘモグロビンの割合に対応する。例えば、酸素飽和度推定値(SpO)またはヘモグロビン組成は、被検体積において監視される動脈血量中の酸素化ヘモグロビン濃度および脱酸素化ヘモグロビン濃度の合計に対する、酸素化ヘモグロビン濃度の比率に対応する。あるいは、酸素飽和度推定値(SpO)またはヘモグロビン組成は、被検体積において監視される動脈血量中の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの体積分率の合計に対する、酸素化ヘモグロビンの体積分率の比率に対応する。
【0023】
本開示の文脈において、脱酸素化ヘモグロビンは、酸素と結合せず、一酸化炭素、二酸化炭素、または鉄などの他の結合分子を有さないヘモグロビンの形態として定義される。本開示の文脈において、酸素化ヘモグロビンは、結合酸素を有するヘモグロビンの形態として定義される。本発明の文脈において、光学式容積脈波記録セットアップの光源によって出射される光は、1つ以上の散乱イベントの確率的経路を通ってセンサに到達する光子を含む。この光路は直線ではなく、湾曲した空間確率分布に従うと仮定されることが多い。この湾曲した光路に沿った被検体積は、光学式容積脈波記録法によりサンプリングまたは調査される体積を形成する。本発明の文脈において、2つの時点の間の被検体積中の動脈血量の変化は、第1の時点で被検体積中に存在する動脈血量と第2の時点で被検体積中に存在する動脈血量との間の相対的変化に対応する。
【0024】
例示的な実施形態によれば、前記較正データが、所定の較正係数および/または定義済みの係数を含み、
前記補償関数を特定する前記ステップが、前記定義済みの係数から前記補償関数を導出することに対応し、または
前記補償関数を特定する前記ステップが、前記酸素飽和度推定値を較正比率に適合させることによって、前記所定の較正係数を特定することに対応する。
【0025】
本開示の文脈では、定義済みの係数は、例えば既知であるか、または科学出版物などの文献から特定されることができる。例えば、定義済みの係数は、発色団の1つ以上の消光係数および/または発色団の1つ以上の吸収係数および/または発色団の1つ以上の散乱係数を含む。本開示の文脈において、発色団は、被検体積において光を吸収または散乱させる分子単位である。例えば、本開示の文脈において、発色団の例は、メラニン分子、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンなどである。被検体積において、光学式容積脈波記録セットアップの光源から出射される入射光の光強度の減衰は、式(1)のように定式化できるランベルト・ベールの法則(Beer-Lambert law)に従う。
【数1】
その中、
dは光路長に対応する。光路長は、光学式容積脈波記録セットアップのセンサに到達する前に光子が移動する経路長に対応する。光路長は、特に、入射光の波長と、被検体積中の発色団組成との関数である。光路長は、光子を出射する光源とセンサとの間の距離に依存する。2019年2月15日にSensors (Basel) 19(4):789, doi:10.3390/s19040789に掲載された「反射および透過型指先光電式容積脈波記録法における光学的相互作用のモンテカルロ分析」と題するチャタジー氏らの出版物によれば、光子を出射する光源とセンサとの間の数ミリメートル、例えば3mm以下の距離に対して、光路長が一定であると近似的に仮定できる。
【0026】
以下のパラメータを考慮する。
式(1)で定式化されたランベルト・ベールの法則は、第1の時点および第2の時点で評価されることができる。両方の式の比率を取ると、式(2)を得る。
【数2】
【0027】
次に、式(2)の両辺の自然対数をとることにより、式(3)を次のように得る。
【数3】
【0028】
オイラー数eとは別の底bを持つ対数を用いると、式(3)は次のようになる。
【数4】
【0029】
【0030】
【数5】
【0031】
式(4)から、第1の時点と第2の時点の光強度の割合の対数が、第1の時点と第2の時点との間の発色団iの体積分率または濃度の差と線形関係にあることは分かる。
【0032】
光学式容積脈波信号に沿った2つの時点の間に、一部の発色団が個体の表皮に付着したままである。例えば、光学式容積脈波信号に沿った2つの時点の間に、メラニン分子が被検体積に固定されたままである。したがって、2つの時点の間のこのような発色団(例えばメラニン分子)の体積分率または濃度の差は、ヌルとなる。したがって、このような発色団が式(4)の右辺への寄与は、ヌルとなる。
【0033】
光学式容積脈波信号に沿った2つの時点の間で体積分率または濃度が変動する主な発色団は、動脈血量中の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンである。本開示の文脈において、ヘモグロビンの2つの主要な形態、すなわち、酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンは、ほとんどの波長の光に対して顕著に異なる吸収係数および散乱係数を示す。
【0034】
【0035】
そして、上記のことを考慮すると、式(4)は次のように式(5)に書き換えることができる。
【数6】
【0036】
酸素飽和度推定値は、式(6)に従って定義できることが知られる。
【数7】
その中、
【0037】
【数8】
【0038】
通常の状況下では、動脈血量内の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの体積分率または濃度の合計、若しくは動脈血量内の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの濃度の合計が、光学式容積脈波信号の測定の全過程においてほぼ一定に維持されると仮定される。実際的に、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの比率のみ、すなわち酸素飽和度推定値のみが、光学式容積脈波記録法による個人への監視中に、例えば睡眠時無呼吸の際に著しく変化する可能性がある。
【0039】
式(6)と式(7)から、以下の式が得られる。
【数9】
【0040】
式(8)を式(5)に代入することによって、以下の式が得られる。
【数10】
【0041】
【数11】
【0042】
【数12】
【0043】
したがって、式(11)が得られる。
【数13】
【0044】
したがって、式(11)から関係式(12)を導出する。
【数14】
【0045】
【0046】
例示的な実施形態によれば、前記時点のうちの少なくとも1つが、前記個体の心周期における拡張期に対応し、および/または前記時点のうちの少なくとも1つが、前記個体の心周期における収縮期に対応する。
【0047】
収縮期の間、個体の被検体積における動脈血の体積が最大となり、その結果、心周期内の任意の時点、すなわち2回の心拍の間の期間において、光の吸収と散乱が最も大きくなる。ヘモグロビンが被検体積における光子の主要な吸収体および散乱体の1つであるため、光学式容積脈波記録セットアップのセンサ上で測定される光強度が最も低くなる。逆に、拡張期の間、個体の被検体積における動脈血の体積が最小となり、その結果、心周期内の任意の時点で、光の吸収と散乱が最も低くなり、光学式容積脈波記録セットアップのセンサ上で測定される光強度が最も高くなる。少なくとも1つの第1の時点は、例えば第1の心周期における拡張期に対応し、および/または、少なくとも1つの第2の時点は、例えば第1の心周期とは異なる第2の心周期における収縮期に対応する。あるいは、少なくとも1つの第1の時点は、例えば第1の心周期における収縮期に対応し、および/または、少なくとも1つの第2の時点は、例えば第1の心周期とは異なる第2の心周期における拡張期に対応する。あるいは、少なくとも1つの第1の時点は、例えば心周期における収縮期または拡張期に対応し、少なくとも1つの第2の時点は、同じ心周期内または異なる心周期内の任意の時点に対応する。
【0048】
例示的な実施形態によれば、前記2つ以上の時点のうちの少なくとも2つは、前記個体の1つの心周期内にある。
【0049】
式(4)より、収縮期と拡張期の光強度の割合の対数は、収縮期と拡張期の間の発色団の体積分率または濃度の変化と線形関係にあることがわかる。光学式容積脈波記録セットアップによる測定中に最高の信号雑音比を達成するために、1つの心周期内の少なくとも2つの異なる時点で測定することが好ましい。この少なくとも2つの時点は、センサ上の光強度の大きな差を示し、結果として動脈血量の大きな差を示す。この最大の差に対応する2つの時点は、通常、1つの心周期内の拡張期および収縮期である。
【0050】
例示的な実施形態によれば、前記方法は、前記光強度の関数である評価関数を特定するステップをさらに含み、比率を特定する前記ステップは、前記評価関数と前記補償関数との比率を特定することに対応する。
【0051】
式(3)により、評価関数は、光強度の関数の自然対数に対応する。あるいは、式(2)から出発して、光強度の関数として定義される他の任意の評価関数、例えば、光強度の関数の自然対数の線形近似、光強度の関数のテイラー級数近似、または光強度の関数の他の底対数の線形近似を使用することができる。そして、評価関数と補償関数との比率を特定することで、2つ以上の時点の間での被検体積中の動脈血量の変化を評価し、それによって末梢動脈緊張を評価する。
【0052】
例示的な実施形態によれば、前記評価関数は、前記光強度の関数の対数に対応する。
【0053】
式(3)により、評価関数は、光強度の関数の自然対数に対応する。あるいは、式(2)から出発して、光強度の関数として定義される他の任意の評価関数、例えば、光強度の関数の対数の線形近似、光強度の関数のテイラー級数近似、または光強度の関数の他の底対数の線形近似を使用することができる。あるいは、評価関数は、光学式容積脈波信号の脈動波形または交流(AC)成分と、光学式容積脈波信号のゆっくりと変化する基線または直流(DC)成分との比率にほぼ対応し、式(13)を得る。
【数15】
【0054】
例示的な実施形態によれば、前記評価関数は、前記光強度の比率の対数に対応し、前記評価関数は、
光路長、
前記酸素飽和度推定値の関数、および
前記被検体積における前記動脈血量の前記変化のうちの1つ以上に依存する。
【0055】
したがって、式(10)の左側は、評価関数、すなわち、光学式容積脈波記録法で個体の被検体積を調査する際にセンサによって測定される光強度の比率の対数に対応する。
【0056】
例示的な実施形態によれば、前記方法は、
第1の波長の光を出射するように構成される第1の光源を提供するステップと、
第2の波長の光を出射するように構成される第2の光源を提供するステップと、
センサを提供するステップと、
前記2つ以上の時点で前記個体の指の遠位端を伝播する際に透過または反射される光に対応する伝搬光を、光学式容積脈波記録法により、前記センサ上で収集するステップと、
前記第1の波長について、前記2つ以上の時点で前記センサ上の前記伝搬光の第1の光強度を特定するステップと、
前記第2の波長について、前記2つ以上の時点で前記センサ上の前記伝搬光の第2の光強度を特定するステップと、
前記第1の波長における前記第1の光強度の比率に対応する第1の比率を特定するステップと、
前記第2の波長における前記第2の光強度の比率に対応する第2の比率を特定するステップと、
前記酸素飽和度推定値を前記較正比率に適合させることによって、前記所定の較正係数を特定するステップと、をさらに含む。
【0057】
【数16】
式(14)を式(15)に簡略化する。
【数17】
【0058】
【0059】
あるいは、上記の理論では適切に捉えられなかった非線形性を説明するために、式(12)を次の式(16)に書き換えることができる。
【数18】
【0060】
そして、式(16)を考えると、式(14)を次の式(17)に書き換えることができる。
【数19】
【0061】
光学式容積脈波記録技術では、シンプルかつ非侵襲的なセットアッププローブまたはバイオセンサを使用する。光学式容積脈波記録バイオセンサは、光学式容積脈波信号を収集することにより、被検体積における脈動性動脈容積変化を非侵襲的に測定し、それによってPATを評価する。第1および/または第2の光源は、例えば、LED、または、光学式容積脈波記録バイオセンサに合わせるように小型化することができる他の任意の適切な光源である。第1の波長は、例えば、第2の波長と異なる。例えば、第1の波長及び第2の波長は、赤色スペクトルに含まれる。例えば、第1の波長は赤色スペクトルに含まれ、第2の波長は赤外スペクトルに含まれる。光源とセンサとの間の物理的距離は、例えば数ミリメートル、例えば3mm未満である。
【0062】
例示的な実施形態によれば、前記方法は、
前記2つ以上の時点で前記個体の前記被検体積内を伝播する際に透過または反射される前記第1の波長または前記第2の波長における光に対応する伝搬光を、光学式容積脈波記録法により、前記センサ上で収集するステップと、
前記2つ以上の時点で前記センサ上の前記伝搬光の前記光強度を特定するステップと、をさらに含む。
【0063】
例示的な実施形態によれば、前記酸素飽和度推定値は、前記動脈血量中の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの合計濃度に対する酸素化ヘモグロビンの濃度の比率に依存する。
【0064】
例示的な実施形態によれば、前記方法は、前記個体の前記被検体積の近傍、例えば前記個体の指の遠位端の近傍の、前記酸素飽和度推定値を特定するステップをさらに含む。
【0065】
例示的な実施形態によれば、前記補償関数は、前記酸素飽和度推定値を前記所定の較正係数にマッピングする回帰から導出される。
【0066】
【0067】
例示的な実施形態によれば、前記方法は、前記補償関数を評価する際に、前記回帰が一次有理写像を使用することを強制するステップをさらに含む。
【0068】
【0069】
【0070】
第2の例示的な態様によれば、少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータ・プログラム・コードを含む少なくとも1つのメモリとを含む装置であって、前記少なくとも1つのメモリおよび前記コンピュータ・プログラム・コードは、前記少なくとも1つのプロセッサにより、前記装置に、
前記個体の被検体積において測定される光学式容積脈波信号、
前記光学式容積脈波信号に沿って2つ以上の時点で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度、
酸素飽和度推定値、および
較正データを得るステップと、
前記酸素飽和度推定値及び前記較正データから、前記酸素飽和度推定値の関数である補償関数を特定するステップと、
前記光強度の関数と前記補償関数との比率を特定することで、前記2つ以上の時点の間の前記被検体積における動脈血量の1つ以上の変化を評価し、それによって前記個体のPATを評価するステップと、を実行させるように構成される装置が開示される。
【0071】
本開示に係るコンピュータ実施方法は、末梢動脈緊張を正確かつロバストな方法で特定することを可能にする。光学式容積脈波記録法により監視される個体の酸素飽和度推定値を得ることで、光学式容積脈波記録法により監視される被検体積における個体の動脈血量のヘモグロビン組成を特定または推定することができる。したがって、本開示に係るコンピュータ実施方法は、監視された動脈血量のヘモグロビン組成の変化による影響を最小化することによって、光強度が監視下の動脈血量の変化をより確実に反映するように、光学式容積脈波記録法によって測定される光学式容積脈波信号を調整または換言すれば補償することができる。換言すれば、本開示に係るコンピュータ実施方法は、動脈血量のヘモグロビン組成の変化による光学式容積脈波信号への影響を低減し、それにより、動脈血量のヘモグロビン組成の変化による末梢動脈緊張の光学的測定への影響を最小化または低減する。このコンピュータ実施方法は、酸素飽和度推定値の関数である補償関数を確実に特定し、光学式容積脈波記録法により測定される光強度の関数をこの酸素飽和度推定値の補償関数で除算する。したがって、被検体積中の動脈血量の変化の結果として得られた評価は、個体の末梢動脈緊張のより正確かつロバストな評価を提供する。
【0072】
この装置は、等吸收波長の光を出射する光源の使用に依存しない。この装置は、例えば2つの光源を含む光学式容積脈波記録法についての任意の通常のセットアップと互換性がある。この2つの光源は、例えば、1つの赤色波長ともう1つの赤外波長などの2つの異なる波長の光を出射する。言い換えれば、この装置は、酸素飽和度推定値を特定するために必要な最小限の光源数である2つの光源のみを用いた測定セットアップを通じて、被検体積中の動脈血量の変化を正確に測定する。次に、2つの光源を用いた光学式容積脈波測定から、装置によって末梢動脈緊張を数学的に導出する。これにより、3つの光源を含む光学式容積脈波システムに比べて小型化が可能となり、さらに、3つ目の光源が不要となることでコストの最適化が可能となる。
【0073】
例示的な実施形態によれば、本発明の第2の例示的な態様に係る装置を備え、
光を出射するように構成される光源と、
前記2つ以上の時点で前記個体の被検体積を伝播する際に透過または反射される光に対応する伝搬光を光学式容積脈波記録法により収集するように構成され、さらに、前記2つ以上の時点で前記伝搬光の前記光強度を特定するように構成されるセンサと、をさらに備えるシステムを提供する。
【0074】
センサは、光学式容積脈波記録法によって伝搬光を収集する。伝搬光は、2つ以上の時点で個体の被検体積(例えば、個体の指の遠位端)を伝播する際に透過または反射される光に対応する。このシステムは、任意に、無線通信インターフェースを含む無線送信機をさらに備える。この無線送信機は、この装置によるさらなる処理のために、特定された末梢動脈緊張を無線で送信するように構成される。無線通信インターフェースは、好ましくは、Bluetooth Low Energy(BLE)無線インターフェースなどの低電力通信インターフェースである。
【0075】
第3の例示的な態様によれば、システムに、少なくとも
前記個体の被検体積において測定される光学式容積脈波信号、
前記光学式容積脈波信号に沿って2つ以上の時点で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度、
酸素飽和度推定値、および
較正データを得るステップと、
前記酸素飽和度推定値及び前記較正データから、前記酸素飽和度推定値の関数である補償関数を特定するステップと、
前記光強度の関数と前記補償関数との比率を特定することで、前記2つ以上の時点の間の前記被検体積における動脈血量の1つ以上の変化を評価し、それによって前記個体のPATを評価するステップと、を実行させるためのコンピュータ実行可能な命令を含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【0076】
第4の例示的な態様によれば、プログラムがコンピュータ上で実行されるとき、
前記個体の被検体積において測定される光学式容積脈波信号、
前記光学式容積脈波信号に沿って2つ以上の時点で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度、
酸素飽和度推定値、および
較正データを得るステップと、
前記酸素飽和度推定値及び前記較正データから、前記酸素飽和度推定値の関数である補償関数を特定するステップと、
前記光強度の関数と前記補償関数との比率を特定することで、前記2つ以上の時点の間の前記被検体積における動脈血量の1つ以上の変化を評価し、それによって前記個体のPATを評価するステップと、を実行するためのコンピュータ実行可能な命令を含むコンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【0077】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】本開示に係る装置の例示的な実施形態を示す。
図2】本開示に係る装置を含む本開示に係るシステムの例示的な実施形態を示す。
図3】本開示に係る装置を含む本開示に係るシステムの例示的な実施形態を示す。
図4A】本開示に係る装置の較正の例示的な実施形態を示す。
図4B】本開示に係る装置の較正の例示的な実施形態を示す。
図5】本開示に係る装置によって評価される個体のPAT測定の例示的な実施形態を示す。
図6】本開示に係るコンピュータ実施方法の例示的な実施形態を示す。
図7】本発明の実施形態の1つまたは複数のステップを実行するための適切なコンピューティングシステムの例示的な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
図1は、本開示に係る装置10の例示的な実施形態を示す。装置10は、少なくとも1つのメモリ6と、少なくとも1つのプロセッサとを含む。メモリ6は、少なくとも1つのプロセッサにより、装置10に、
個体の被検体積11において測定される光学式容積脈波信号101、
光学式容積脈波信号101に沿って2つ以上の時点12、13で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度102、103(光強度102が時点12で取得され、光強度103が時点13で取得される)、
酸素飽和度推定値104、および
較正データ105を得るステップと、
酸素飽和度推定値104及び較正データ105から、酸素飽和度推定値104の関数である補償関数14を特定するステップと、
光強度102、103の関数と補償関数14との比率15を特定することで、2つ以上の時点12、13の間の被検体積11における動脈血量16の1つ以上の変化を評価し、それによって個体のPAT100を評価するステップと、を実行させるように構成されるコンピュータ・プログラム・コードを含む。
装置10は、外部デバイスから、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。1つの代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6から、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。別の代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6および/または外部デバイスから、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。較正データ105は、所定の較正係数25および/または定義済みの係数26を含む。そして、装置10は、定義済みの係数26から補償関数14を導出することによって補償関数14を特定するようにさらに構成される。1つの代替の実施形態によれば、装置10は、酸素飽和度推定値104を較正比率に適合させることによって補償関数14を特定し、それによって所定の較正係数25を取得し、補償関数14を推定するように構成される。任意に、少なくとも1つの時点12が、個体の心周期における拡張期に対応し、および/または少なくとも1つの時点13が、個体の心周期における収縮期に対応する。装置10は、光強度102、103の関数である評価関数17を特定するように構成される。そして、この装置は、評価関数17と補償関数14との比率に対応する比率15を特定する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の関数の対数に対応する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の比率の対数に対応する。評価関数17は、光路長、酸素飽和度推定値の関数、被検体積における動脈血量の変化のうちの1つ以上に依存する。
【0080】
図2は、本開示に係るシステム20の例示的な実施形態を示す。図1の番号と同じ参照番号を有する部品は、同じ機能を実行する。図2のシステム20は、本開示に係る装置10を含む。任意に、システム20は、光源2、3およびセンサ4をさらに含む。光源2、3は、光40を出射するように構成される。装置10は、
個体1の被検体積11において測定される光学式容積脈波信号101、
光学式容積脈波信号101に沿って2つ以上の時点12、13で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度102、103(光強度102が時点12で取得され、光強度103が時点13で取得される)、
酸素飽和度推定値104、および
較正データ105を得るステップと、
酸素飽和度推定値104及び較正データ105から、酸素飽和度推定値104の関数である補償関数14を特定するステップと、
光強度102、103の関数と補償関数14との比率15を特定することで、2つ以上の時点12、13の間の被検体積11における動脈血量16の1つ以上の変化を評価し、それによって個体1のPAT100を評価するステップと、を実行するように構成される。
装置10は、光源2、3および/またはセンサ4を含む外部デバイス200から、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。例えば、外部デバイス200は、個体1の被検体積11における動脈血量パルスを特定する。外部デバイス200は、異なる電気部品2、3、4に電力を供給するためのバッテリを含む。光源2、3は、光を出射するように、すなわち、外部デバイス200に接続される個体の被検体積11に、例えば図示のように個体1の指11に、より具体的には個体の指の遠位端11に光40を伝送するように構成される。外部デバイス200は、光源2、3を制御する、すなわち、光源2、3を有効化または無効化にするため、及び、センサ4から測定された動脈血量パルス値を受信するための制御回路をさらに備える。制御回路は、得られた測定値を一時的に記憶するためのメモリコンポーネントをさらに含んでもよい。制御回路は、さらに、無線インターフェイシング回路50に結合され、測定値を無線インターフェイシング回路50に転送するように構成される。無線インターフェース50は、測定値をシステムの受信部に効率的に送信するために、短距離および/または低電力無線通信プロトコルをサポートしてもよい。無線インターフェース50は、例えば、Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)によって定義されたBluetooth Low Energy(BLE)プロトコルに従って動作してもよいし、Near Field Communication(NFC)プロトコルに従って動作してもよい。このようなプロトコルによる動作と、生の光学式容積脈波信号101の転送とにより、外部デバイス200を指や鼻孔に適合するように小型化することが可能となり、複数の夜間に動作が可能となる。1つの代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6から、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。別の代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6および/または光源2、3とセンサ4を含む外部デバイスから、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。較正データ105は、所定の較正係数25および/または定義済みの係数26を含む。そして、装置10は、定義済みの係数26から補償関数14を導出することによって補償関数14を特定するようにさらに構成される。1つの代替の実施形態によれば、装置10は、酸素飽和度推定値104を所定の較正係数25に適合させることによって補償関数14を特定するように構成される。任意に、少なくとも1つの時点12が、個体の心周期における拡張期に対応し、および/または少なくとも1つの時点13が、個体の心周期における収縮期に対応する。装置10は、光強度102、103の関数である評価関数17を特定するように構成される。装置10は、光学式容積脈波記録法により、センサ4上で、第1の光源2または第2の光源3によって出射される光40に対応する伝播光41を収集する。この光40は、光学式容積脈波信号101に沿った2つ以上の時点12、13で、個体の指の遠位端を伝播する際に、被検体積によって透過または反射される。言い換えれば、装置10は、光学式容積脈波記録法により、センサ4上で、第1の光源2または第2の光源3によって出射される光40に対応する伝搬光41に対応する光強度102を収集する。この光40は、個体1の指の遠位端を伝播する際に被検体積11によって透過または反射され、第1の時点12でセンサ4に収集される。装置10は、光学式容積脈波記録法により、センサ4上で、同じ光源2または3によって出射される光40に対応する伝搬光41に対応する光強度103を収集する。この光40は、個体1の指の遠位端を伝播する際に被検体積11によって透過または反射され、第2の時点13でセンサ4に収集される。そして、この装置は、評価関数17と補償関数14との比率に対応する比率15を特定する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の関数の対数に対応する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の比率の対数に対応する。評価関数17は、光路長、酸素飽和度推定値の関数、被検体積における動脈血量の変化のうちの1つ以上に依存する。装置101は、任意に、個体1の指の遠位端近傍の酸素飽和度推定値104を特定する。補償関数14を評価することは、任意に、酸素飽和度推定値104を所定の較正係数25にマッピングする回帰を特定することに対応する。装置10は、任意に、補償関数14を評価する際に、回帰が一次有理写像を使用することを強制する。
【0081】
図3は、本開示に係るシステム20の例示的な実施形態を示す。図1または図2の番号と同じ参照番号を有する部品は、同じ機能を実行する。図3のシステム20は、本開示に係る装置10を含む。任意に、システム20は、光源2、3およびセンサ4をさらに含む。光源2、3は、光40を出射するように構成される。装置10は、
個体1の被検体積11において測定される光学式容積脈波信号101、
光学式容積脈波信号101に沿って2つ以上の時点12、13で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度102、103(光強度102が時点12で取得され、光強度103が時点13で取得される)、
酸素飽和度推定値104、および
較正データ105を得るステップと、
酸素飽和度推定値104及び較正データ105から、酸素飽和度推定値104の関数である補償関数14を特定するステップと、
光強度102、103の関数と補償関数14との比率15を特定することで、2つ以上の時点12、13の間の被検体積11における動脈血量16の変化を評価し、それによって個体1のPAT100を評価するステップと、を実行するように構成される。
装置10は、光源2、3および/またはセンサ4から、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。例えば、装置10は、個体1の被検体積11における動脈血量パルスを特定する。装置10は、異なる電気部品2、3、4に電力を供給するためのバッテリを含む。光源2、3は、光を出射するように、すなわち、装置10に接続される個体の被検体積11に、例えば図示のように個体1の指11に、より具体的には図示のように個体の指の遠位端11に光40を伝送するように構成される。装置10は、光源2、3を制御する、すなわち、光源2、3を有効化または無効化にするため、及び、センサ4から測定された動脈血量パルス値を受信するための制御回路をさらに備える。制御回路は、得られた測定値を一時的に記憶するためのメモリコンポーネントをさらに含んでもよい。制御回路は、さらに、無線インターフェイシング回路50に結合され、測定値を無線インターフェイシング回路50に転送するように構成される。無線インターフェース50は、測定値をシステムの受信部に効率的に送信するために、短距離および/または低電力無線通信プロトコルをサポートしてもよい。無線インターフェース50は、例えば、Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)によって定義されたBluetooth Low Energy(BLE)プロトコルに従って動作してもよいし、Near Field Communication(NFC)プロトコルに従って動作してもよい。このようなプロトコルによる動作と、生の光学式容積脈波信号101の転送とにより、装置10を指や鼻孔に適合するように小型化することが可能となり、複数の夜間に動作が可能となる。1つの代替の実施形態によれば、装置10は、メモリ6から、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。別の代替の実施形態によれば、装置10は、光源2、3および/またはセンサ4から、および/またはメモリ6から、光学式容積脈波信号101、光強度102、103、酸素飽和度推定値104、較正データ105のうちの1つ以上を得る。較正データ105は、所定の較正係数25および/または定義済みの係数26を含む。そして、装置10は、定義済みの係数26から補償関数14を導出することによって補償関数14を特定するようにさらに構成される。1つの代替の実施形態によれば、装置10は、酸素飽和度推定値104を所定の較正係数25に適合させることによって補償関数14を特定するように構成される。任意に、少なくとも1つの時点12が、個体の心周期における拡張期に対応し、および/または少なくとも1つの時点13が、個体の心周期における収縮期に対応する。装置10は、光強度102、103の関数である評価関数17を特定するように構成される。装置10は、光学式容積脈波記録法により、センサ4上で、第1の光源2または第2の光源3によって出射される光40に対応する伝播光41を収集する。この光40は、光学式容積脈波信号101に沿った2つ以上の時点12、13で、個体の指の遠位端を伝播する際に、被検体積11によって透過または反射される。言い換えれば、装置10は、光学式容積脈波記録法により、センサ4上で、第1の光源2または第2の光源3によって出射される光40に対応する伝搬光41に対応する光強度102を収集する。この光40は、個体1の指の遠位端を伝播する際に被検体積11によって透過または反射され、第1の時点12でセンサ4に収集される。装置10は、光学式容積脈波記録法により、センサ4上で、同じ光源2または3によって出射される光40に対応する伝搬光41に対応する光強度103を収集する。この光40は、個体1の指の遠位端を伝播する際に被検体積11によって透過または反射され、第2の時点13でセンサ4に収集される。そして、この装置は、評価関数17と補償関数14との比率に対応する比率15を特定する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の関数の対数に対応する。評価関数17は、例えば、光強度102、103の比率の対数に対応する。評価関数17は、光路長、酸素飽和度推定値の関数、被検体積における動脈血量の変化のうちの1つ以上に依存する。装置101は、任意に、個体1の指の遠位端近傍の酸素飽和度推定値104を特定する。補償関数14を評価することは、任意に、酸素飽和度推定値104を所定の較正係数25にマッピングする回帰を特定することに対応する。装置10は、任意に、補償関数14を評価する際に、回帰が一次有理写像を使用することを強制する。
【0082】
図4Aおよび4Bは、本開示に係る装置の較正の例示的な実施形態を示す。図1図2、または図3の番号と同じ参照番号を有する部品は、同じ機能を実行する。第1の光源2が設けられ、第1の波長の光40を出射する。第2の光源3が設けられ、第2の波長の光40を出射する。第2の波長は、第1の波長とは異なることが好ましい。センサ4が設けられる。光学式容積脈波記録法により、伝搬光41は、2つの時点2、3でセンサ4に収集される。この伝搬光41は、第1の光源2または第2の光源3によって出射される光40に対応する。この光40は、個体1の被検体積11内を伝播する際に、個体の被検体積によって透過または反射される。図4Aに示すように、光源2によって出射される第1の波長について、センサ4に収集される伝搬光41に対応する光強度106、107が、それぞれ第1の時点12および第2の時点13でセンサ4によって測定される。図4Bに示すように、第2の光源3によって出射される第2の波長について、センサ4に収集される伝搬光41に対応する光強度108、109が、それぞれ第1の時点12および第2の時点13でセンサ4によって測定される。そして、センサ4または、1つの代替の実施形態に係る図1図2、または図3の装置10は、図4Aの第1の波長に対する第1の光強度106、107の比率に対応する第1の比率を特定する。そして、センサ4または、1つの代替の実施形態に係る図1図2、または図3の装置10は、図4Bの第2の波長に対する第2の光強度108、108の比率に対応する第2の比率を特定する。そして、センサ4または、1つの代替の実施形態に係る図1図2、または図3の装置10は、第1の比率の関数と第2の比率の関数の比率に対応する較正比率を特定する。そして、センサ4または、1つの代替の実施形態に係る図1図2、または図3の装置10は、酸素飽和度推定値を較正比率に適合させることによって、所定の較正係数を特定する。別の代替の実施形態によれば、第1の比率および/または第2の比率および/または較正比率および/または所定の較正係数の特定は、少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータ・プログラム・コードを含む少なくとも1つのメモリとを含む任意の他の適切な外部デバイスによって実行される。少なくとも1つのメモリおよびコンピュータ・プログラム・コードは、少なくとも1つのプロセッサにより、適切な外部デバイスにこれらの値を特定させるように構成される。
【0083】
図5は、被検緊張100と同時に測定される酸素飽和度推定値104の例示的な実施形態を示す。図5に示すように、時間期間61の間、すなわち血管収縮前イベント期間61の間、酸素飽和度推定値104のレベルが高く、補償されていない末梢動脈緊張401と補償された末梢動脈緊張402が同様の方式で展開し、血管収縮前イベント基線値で時間60の関数として重なり合う。時間期間62の間、酸素飽和度推定値104の値は、例えば睡眠時無呼吸などの睡眠関連イベントのような監視下の個体におけるイベントの発生を示すように、ゆっくりと低下する。図5から分かるように、補償されていない末梢動脈緊張401および補償された末梢動脈緊張402は、同様の方式で展開するが、対応する期間62ではもはや重ならなくなる。実際的に、時間期間62の間に補償されていない末梢動脈緊張401が周辺に展開する平均非補償基線403は、補償された末梢動脈緊張402が周辺に展開する平均補償基線404よりも大きい。これは、監視された動脈血量のヘモグロビン組成の変化による末梢動脈緊張の測定への影響を補償する効果を明確に示している。時間期間63の間、酸素飽和度推定値104の値は、例えば睡眠時無呼吸などの睡眠関連イベントのような監視下の個体におけるイベントの発生に対応する、最低点に達する。図5から分かるように、補償されていない末梢動脈緊張401および補償された末梢動脈緊張402は同様の方式で展開するが、監視された動脈血量のヘモグロビン組成の変化による末梢動脈緊張100の測定への影響を補償することにより、発生したイベントをより正確に検出することが可能となる。実際的に、末梢動脈緊張100の低下は、監視下の被検体積における動脈および細動脈の血管収縮を示す。この血管収縮イベントは、例えば睡眠時無呼吸などの睡眠関連イベントのような、監視下の個体におけるイベントの発生に関連することができる。図5から分かるように、血管収縮前イベント基線値と補償されていない末梢動脈緊張402の最低点との間の補償されていない末梢動脈緊張402の低下は、血管収縮前イベント基線値と補償された末梢動脈緊張401の最低点との間の補償された末梢動脈緊張401の低下よりも小さい。例えば、末梢動脈緊張100の所定のしきい値400を使用して、監視下の個体においてイベントが発生しているか否か、例えば睡眠時無呼吸などの睡眠関連イベントが発生しているか否かを検出することができる。末梢動脈緊張100が所定のしきい値400よりも高い場合、イベントが検出されず、末梢動脈緊張100が所定のしきい値400よりも低い場合、イベントが検出される。血管収縮前イベント基線値と補償されていない末梢動脈緊張402の最下点との間の補償されていない末梢動脈緊張402の低下は、補償されていない末梢動脈緊張402が所定のしきい値400より上に留まるようになり、例えば睡眠時無呼吸などの睡眠関連イベントのような監視下の個体において発生するイベントの検出ができない結果になる。一方、血管収縮前イベント基線値と補償された末梢動脈緊張401の最下点との間の補償された末梢動脈緊張401の低下は、補償された末梢動脈緊張401が所定のしきい値400以下に低下するようになり、例えば睡眠時無呼吸などの睡眠関連イベントのような監視下の個体において発生するイベントの検出ができる結果になる。したがって、監視された動脈血量のヘモグロビン組成の変化による末梢動脈緊張100の測定への影響を補償することによって、監視下の個体において発生するイベント、例えば睡眠時無呼吸などの睡眠関連イベントの発生をより正確かつロバストに検出することが可能となる。
【0084】
図6は、光学式容積脈波記録法によって監視される個体の末梢動脈緊張(PAT)を評価するためのコンピュータ実施方法の例示的な実施形態を示す。この方法は、
個体の被検体積において測定される光学式容積脈波信号、
光学式容積脈波信号に沿って2つ以上の時点で光学式容積脈波記録法によって取得される光強度、
酸素飽和度推定値、および
較正データを得る第1のステップ501と、
第1のステップ501に続いて、酸素飽和度推定値及び較正データから、酸素飽和度推定値の関数である補償関数を特定する第2のステップ502と、
第2のステップ502に続いて、光強度の関数と補償関数との比率を特定することで、2つ以上の時点の間の被検体積における動脈血量の1つ以上の変化を評価し、それによって個体のPATを評価する第3のステップ503と、を含む。
【0085】
図7は、システムの実施形態を実施することができる適切なコンピューティングシステム800を示す。コンピューティングシステム800は、一般に、適切な汎用コンピュータとして形成されてもよく、バス810と、プロセッサ802と、ローカルメモリ804と、1つ以上の任意の入力インターフェース814と、1つ以上の任意の出力インターフェース816と、通信インターフェース812と、記憶要素インターフェース806と、1つ以上の記憶要素808とを含んでもよい。バス810は、コンピューティングシステム800の部品間の通信を可能にする1つ以上の導体を含んでもよい。プロセッサ802は、プログラミング命令を解釈し実行する任意のタイプの従来のプロセッサまたはマイクロプロセッサを含んでもよい。ローカルメモリ804は、プロセッサ802によって実行される情報および命令を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)または別のタイプの動的記憶デバイス、および/またはプロセッサ802によって使用される静的情報および命令を格納する読み取り専用メモリ(ROM)または別のタイプの静的記憶デバイスを含んでもよい。入力インターフェース814は、キーボード820、マウス830、ペン、音声認識および/または生体認証機構、カメラなど、オペレータまたはユーザがコンピューティングデバイス800に情報を入力することを可能にする1つ以上の従来の機構を含んでもよい。出力インターフェース816は、オペレータまたはユーザに情報を出力する1つ以上の従来の機構、例えばディスプレイ840などを含んでもよい。通信インターフェース812は、コンピューティングシステム800が他のデバイスおよび/またはシステム、例えば他のコンピューティングデバイス881、882、883などと通信することを可能にする1つ以上のイーサネットインターフェースなどの任意のトランシーバのような機構を含んでもよい。コンピューティングシステム800の通信インターフェース812は、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)または広域ネットワーク(WAN)を介して、例えばインターネットを介して、そのような別のコンピューティングシステムに接続されてもよい。記憶要素インターフェース806は、バス810を1つ以上の記憶要素808、例えばSATAディスクドライブなどの1つ以上のローカルディスクに接続するための、シリアル・アドバンスド・テクノロジー・アタッチメント(SATA)インターフェースまたはスモール・コンピュータ・システム・インターフェース(SCSI)などの記憶インターフェースを含んでもよく、これらの記憶要素808へのおよび/またはこれらの記憶要素808からのデータの読み取りおよび書き込みを制御してもよい。上記の記憶要素808はローカルディスクとして説明されているが、一般に、取り外し可能な磁気ディスク、CDまたはDVDなどの光学記憶媒体、ROMディスク、ソリッドステートドライブ、フラッシュメモリカードなど、任意の他の適切なコンピュータ可読媒体を使用することができる。したがって、コンピューティングシステム800は、図1図2または図3に示す実施形態における装置10に対応することができる。
【0086】
本願で使用されるように、「回路」という用語は、以下の1つ以上またはすべてを意味する場合がある。
(a)アナログおよび/またはデジタル回路のみにおける実装などのハードウェアのみの回路実装、
(b)ハードウェア回路とソフトウェアの組み合わせ、例えば、(適用可能な)
(i)アナログおよび/またはデジタルハードウェア回路とソフトウェア/ファームウェアの組合せ、および
(ii)ソフトウェアを備えたハードウェアプロセッサの部分(携帯電話やサーバなどの装置に様々な機能を実行させるために協働するデジタルシグナルプロセッサ、ソフトウェア、およびメモリを含む)、および
(c)動作するためにソフトウェア(例えばファームウェア)を必要とするが、ソフトウェアが動作するために必要でない場合に存在しない可能性がある、マイクロプロセッサまたはマイクロプロセッサの一部などのハードウェア回路および/またはプロセッサ。
この回路に関する定義は、任意の請求項を含む本願におけるこの用語のすべての使用に適用される。さらなる例として、本願で使用されるように、回路という用語は、また、ハードウェア回路のみ、またはプロセッサ(または複数のプロセッサ)のみ、若しくはハードウェア回路またはプロセッサの一部とその(またはそれらの)付随するソフトウェアおよび/またはファームウェアの実装をカバーする。また、回路という用語は、例えば、特定の請求項要素に適用可能な場合、携帯端末用のベースバンド集積回路またはプロセッサ集積回路、あるいはサーバ、セルラーネットワークデバイス、または他のコンピューティングまたはネットワークデバイスにおける同様の集積回路をカバーする。
【0087】
本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、本発明が上述した例示的な実施形態の詳細に限定されるものではなく、本発明がその範囲を逸脱することなく様々な変更および修正によって具体化され得ることは、当業者にとって明らかである。したがって、本実施形態は、あらゆる点において制限的ではなく例示的であると考えられる。本発明の範囲は、前述の説明ではなく、添付の特許請求の範囲によって示される。したがって、請求項の範囲に入っているすべての変更は、そこに包含される。
【0088】
さらに、本特許出願の読者は、「含む(comprising)」または「含む(comprise)」という用語が他の要素またはステップを排除するものではなく、「1つ(a)」または「1つ(an)」という用語が複数を排除するものではなく、コンピュータシステム、プロセッサ、または別の集積ユニットなどの単一の要素が特許請求の範囲に列挙されたいくつかの手段の機能を実現し得ることを理解する。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号は、関連するそれぞれの請求項を限定するものと解釈してはならない。「第1」、「第2」、「第3」、「a」、「b」、「c」などの用語は、明細書又は特許請求の範囲で使用される場合、同様の要素又はステップを区別するために導入されるものであり、必ずしも順序または時系列を説明するものではない。同様に、「上部」、「下部」、「上」、「下」などの用語は、説明のために導入されるものであり、必ずしも相対的な位置を示すものではない。このように使用される用語が、適切な状況下で交換可能であり、本発明の実施形態は、他のシーケンスで、または上記で説明または図示されたものとは異なる向きで、本発明に従って動作可能であることは理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
【国際調査報告】