(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ポリ(アントラニルアミド)を製造する方法、ポリ(アントラニルアミド)及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08G 69/12 20060101AFI20230720BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C08G69/12
C08L77/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023500317
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2021068521
(87)【国際公開番号】W WO2022008449
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102020004070.5
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー カロリナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ アウレール
(72)【発明者】
【氏名】ヴェスツエス シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シュッツェ マイク
(72)【発明者】
【氏名】リンカー オルガ
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB01
4J001EA12
4J001EA26
4J001EC08
4J001EC13
4J001EC14
4J001GA01
4J001GB02
4J001JB01
4J002CL061
4J002GC00
4J002GK01
(57)【要約】
本発明は、好ましくは溶媒の存在下、110℃~300℃の領域中の反応温度で、スターター上でのイサト酸無水物の重合を通じて、ポリ(アントラニルアミド)を製造する方法であって、該スターターが、5個~13個の炭素原子を含む脂肪族モノ若しくはジアミン、7個~15個の炭素原子を含む芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、6個~13個の炭素原子を含む芳香族ジアミン、式Ar-(C=O)NHR(式中、ArがアミンNH基又はNH2基で置換された芳香族基を示し、Rが芳香族基又は脂肪族基を示す)のカルボン酸アミド、又は上述のスターターの混合物を含み、溶媒が用いられる場合、溶媒が反応温度で液体状である有機溶媒、イオン性液体又はこれらの溶媒の混合物を含み、スターターに基づくポリ(アントラニルアミド)を得る、方法に関する。本発明はまた、本発明による方法で得られるポリ(アントラニルアミド)に、また繊維又は複合材料の製造におけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(アントラニルアミド)を調製するプロセスであって、
(A)イサト酸無水物を準備する工程と、
(B)110℃~300℃の範囲の反応温度で、イサト酸無水物をスターター上で重合して、該スターターに基づくポリ(アントラニルアミド)を得る工程と、
を含み、
ここで該スターターは、
5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、
7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、
6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、
式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH
2基によって置換された芳香族ラジカルを示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミド、又は、
上述のスターターの混合物、
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記反応温度が、120℃~300℃の範囲又は150℃~300℃の範囲又は160℃~280℃の範囲又は170℃~260℃の範囲である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
5個~13個の炭素原子を有する脂肪族一級又は二級モノ又はジアミンが、ネオペンチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチレンジシクロヘキシルジアミン及び/又はペンタメチレンジアミンを含み、及び/又は、
7個~15個の炭素原子を有する前記芳香脂肪族モノ又はジアミンが、キシリレンジアミンを含み、及び/又は、
6個~13個の炭素原子を有する前記芳香族ジアミンが、メチレンジフェニレンジアミン、ナフチレンジアミン及び/又はトリレンジアミンを含み、及び/又は、
前記式Ar-(C=O)NHRのカルボキサミドが、N-ネオペンチルアントラニルアミドを含む、
請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記重合が溶媒の非存在下で行われ、工程(B)の後に、
(C)(i)鉱酸中に前記ポリ(アントラニルアミド)を溶解して、該ポリ(アントラニルアミド)の鉱酸溶液を得る工程と、
(D)(i)水中で沈殿させる工程を含めて、該鉱酸溶液から該鉱酸中に溶解された該ポリ(アントラニルアミド)を単離する工程と、
が続く、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記イサト酸無水物の重合が溶媒の存在下で行われ、該溶媒が反応温度で液体状である有機溶媒を含むか又はこうした有機溶媒及びイオン性液体の混合物を含み、工程(B)において、前記スターターに基づく前記ポリ(アントラニルアミド)が該溶媒中に懸濁されて得られ、工程(B)の後に、
(C)(ii)該溶媒中に懸濁された該ポリ(アントラニルアミド)を鉱酸中に溶解して、該溶媒から分離して該ポリ(アントラニルアミド)の鉱酸溶液を得る工程と、
(D)(ii)水中で沈殿させる工程を含めて、該鉱酸溶液から該鉱酸中に溶解された該ポリ(アントラニルアミド)を単離する工程と、
が続く、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記イサト酸無水物の重合が溶媒の存在下で行われ、該溶媒がイオン性液体、又はイオン性液体及び反応温度で液体状である有機溶媒の混合物を含み、工程(B)において、前記スターターに基づく前記ポリ(アントラニルアミド)が該溶媒中で溶解されて得られ、工程(B)の後に、
(D)(iii)水中で沈殿させる工程を含めて、該溶媒の溶液から該溶媒中に溶解された該ポリ(アントラニルアミド)を単離する工程、
が続く、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記有機溶媒が、ジフェニルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン及び/又はヘキサメチルホスホラミドを含み、及び/又は、
前記イオン性液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブチレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムナイトレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメチルスルホネート及び/又はジアルキルイミダゾリウムホスフェートを含む、
請求項5又は6に記載のプロセス。
【請求項8】
イサト酸無水物対工程(B)において選択されるスターターのモル比が、20~2500の範囲又は40~2500の範囲又は50~2400の範囲又は70~2000の範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
工程(A)におけるイサト酸無水物の準備が、アントラニル酸の化学変換を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記アントラニル酸が、
発酵性炭素含有化合物、好ましくはデンプン加水分解産物、サトウキビジュース、テンサイジュース、リグノセルロース含有原材料の加水分解産物、又はそれらの混合物と、
窒素含有化合物、好ましくは気体アンモニア、水性アンモニア、アンモニウム塩、尿素又はそれらの混合物と、
を含む原材料を発酵させることによって得られる、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
式:
{H-(HN-(オルト-C
6H
4)-(C=O)
m}
x-A-[(O=C)(オルト-C
6H
4)-NH]
n-H
(式中、
m及びnは繰り返し単位の数を示し、
xは0又は1であり、
Aは、全てのアミン性NH基及びNH
2基からの水素原子の除去によって、アミン性NH基又はNH
2基を含むスターター分子から得られ、ここで該スターター分子は、
5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、
7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、
6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、又は、
式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH
2基によって置換された芳香族ラジカルを示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミド、
である)のポリ(アントラニルアミド)。
【請求項12】
5個~13個の炭素原子を有する脂肪族一級又は二級モノ又はジアミンが、ネオペンチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチレンジシクロヘキシルジアミン又はペンタメチレンジアミンであり、及び/又は、
7個~15個の炭素原子を有する前記芳香脂肪族モノ又はジアミンが、キシリレンジアミンであり、及び/又は、
6個~13個の炭素原子を有する前記芳香族ジアミンが、メチレンジフェニレンジアミン、ナフチレンジアミン又はトリレンジアミンであり、及び/又は、
前記式Ar-(C=O)NHRのカルボキサミドが、N-ネオペンチルアントラニルアミドである、
請求項11に記載のポリ(アントラニルアミド)。
【請求項13】
m+nが、20~2500の範囲又は40~2500の範囲又は50~2400の範囲又は70~2000の範囲である、請求項11又は12に記載のポリ(アントラニルアミド)。
【請求項14】
ポリ(アントラニルアミド)、及び金属、無機物質又はポリ(アントラニルアミド)以外のポリマーを含む別の材料からの繊維又は複合材料の製造における、請求項11~13のいずれか一項に記載のポリ(アントラニルアミド)の使用。
【請求項15】
前記繊維又は複合材料が、火災、破片形成、破片貫通、機械的衝撃又は切断からの防御のための保護具の製造に役立つ、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは溶媒の存在下、110℃~300℃の範囲の反応温度で、スターター上でイサト酸無水物を重合することによってポリ(アントラニルアミド)を調製するプロセスであって、該スターターが、5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族(araliphatic)モノ若しくはジアミン、6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH2基によって置換された芳香族ラジカルを示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミド、又は上述のスターターの混合物を含み、溶媒が用いられる場合、溶媒が反応温度で液体状である有機溶媒、イオン性液体又は上述の溶媒の混合物を含み、該スターターに基づくポリ(アントラニルアミド)を得る、プロセスに関する。本発明は更に、本発明のプロセスによって得られ得るポリ(アントラニルアミド)に、また繊維又は複合材料の製造におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アミド基が芳香族基に結合している芳香族ポリアミド(アラミドとも称される)は、従来技術から知られており、Kevlar、Twaron(ポリ(パラ-フェニレンテレフタルアミド))又はNomex、Teijinconex(ポリ(メタ-フェニレンイソフタルアミド))等の商品名で販売されている。これらは多様な分野で用いられている。顕著な例は、繊維、特に織物繊維の製造である。アラミドから製造される繊維は、非常に高い強度、高い衝撃耐性、高い破断伸び、及び優れた振動減衰性に関して注目される。これらは更に、耐熱性及び耐火性が非常に高い。不都合な点は、多くの他のポリマーに比較して高コストであることである。アラミドは、通常、芳香族ジカルボニルハロゲン化物ClCO-Ar1-COCl及び芳香族ジアミンH2N-Ar2-NH2から重縮合によって調製され、必然的に、ジカルボン酸及びジアミンに由来する交互単位を有するポリマー構造(-[-CO-Ar1-CO-NH-Ar2-NH]-、AABBポリマー構造)を導く。
【0003】
A. F. Amin、B. P. Suthar及びS. R. Patelは、非特許文献1において、3~10の繰り返し単位を有するポリ(アントラニルアミド)の調製を記載している。この合成は、イサト酸無水物の開環重合(以後、ROPとも称する)によって達成され、用いられるスターターは、HCl(水性)、アントラニルアミド(H2N-オルト-C6H4-(C=O)NH2)、N-メチルアニリン及びオルト-クロロアニリンである。水、エタノール、オルト-クレゾール、希アンモニア及びホルムアミドをスターターとして用いた実験は望ましいポリマー産物の形成を生じなかった。したがって、合成ポリマーは、以下のような式に関して示され得る:
A’-[(O=C)(オルト-C6H4)-NH]n-H
A’=Cl、NH-オルト-C6H4-(C=O)NH2、N(CH3)-C6H5又はNH-オルト-C6H4-Cl;
n=3~10。
【0004】
繰り返し単位の数が比較的少ないことを考慮すると、形成される産物は、どちらかといえばオリゴマーと称されるべきである。スターターとして、いかなる種類のジアミン、脂肪族モノアミン、芳香脂肪族モノアミン、又は芳香環上にアミン性NH基若しくはNH2基を有する芳香族カルボン酸に由来するN-アルキル若しくはN-アリールカルボキサミドの使用も記載されない。
【0005】
イサト酸無水物と多様な濃度のアンモニアとの反応は、R. P. Staiger及びE. C. Wagner(1948年発行の非特許文献2にて)によって、早くも1947年に記載された。低アンモニア濃度では、アントラニルアミドは二酸化炭素を除去することで得られた。より高いアンモニア濃度では、水の除去を伴い、環状ベンゾイル尿素が代わりに得られた。更により初期の研究を参照すると、アンモニア及びイサト酸無水物からの「異常な」産物の形成も報告され、特にイサト酸無水物を、ちょうど半当量のアンモニアで処理した場合にこうした形成が報告されている。これは、縮合産物と記載される非晶質産物を生じる。既に引用されている参考文献、非特許文献1においてもまた、より初期の研究を参照して、「異常産物」と称している(これらの産物がエタノールに不溶性であり、広い温度範囲に渡って融解するという意味で異常)。しかし、これらの異常産物は、非特許文献1によれば、体系的に特徴づけられてきたことはなく、この参考文献によれば、多数の報告から、こうした「異常な」産物が、単に「正常な」産物の混合物であることが示唆されている。非特許文献3において、Robert H. Clark及びE. C. Wagnerも、「異常な」産物を報告しており、この産物を著者らは、以下のタイプ:
H2N-オルト-C6H4-(C=O)-[NH-オルト-C6H4-(C=O)]xNHR
(式中、xは1又は2の値を超えない)のオリゴマーのアミドと見なしている。巨大分子産物を形成する可能性は、推測されているだけであり、これはまた、会合又は凝集に起因する可能性もある。
【0006】
特許文献1は、C-C主鎖を有し、その上に最大10のアントラニルアミド単位が二価架橋を通じてグラフトされているポリマーを記載する。C-C主鎖を形成するベースポリマーは、特に、異なって置換されたポリ(メタクリレート)又はポリマーのビニル芳香族炭化水素を含む。
【0007】
これらの参考文献には、別のポリマー上へのグラフトによるのではなく、多数の繰り返しアントラニルアミド単位を通じて、高モル質量が達成される(すなわち、数個のみの繰り返し単位又はコポリマーを有するオリゴマーとは対照的に、「真の」アントラニルアミドポリマーの形成)より高分子量のポリ(アントラニルアミド)の形成は記載されない。始めに言及された(ポリ(パラ-フェニレンテレフタルアミド))及び(ポリ(メタ-フェニレンイソフタルアミド))を除く慣用的に用いられるアラミドは、高モル質量で調製可能であり(高価でかつ装置及びプロセス操作に関して不都合がある、酸塩化物の使用により、非常に腐食性の条件下ではあるが)、また、非常に優れた性能特性を有するが、非常にコストがかかる。さらに、こうしたアラミドを調製するために一般的に用いられるプロセスは、AABBポリマー構造の形成を伴う重縮合反応に基づき、これは、高モル質量を有するポリマーを形成するために、反応化学量論を非常に正確に遵守する必要がある。
【0008】
非特許文献4(Yoshiyuki Sasaki及びPierre H. Dixneuf)において、熱安定性ポリアミドを形成する、イサト酸無水物の熱脱炭酸が記載されている。反応は、なお融点よりは低い温度まで加熱すると起こる。固形産物に関して、以下の構造が示唆される:
~NH-オルト-C6H4-(C=O)NH-オルト-C6H4-(C=O)~。
【0009】
ゲル浸透クロマトグラフィによって、イサト酸無水物の質量の約5倍に相当する質量平均モル質量Mwを確定した。したがって、産物はオリゴマーであり、これはまた、見られた産物が融解可能であるという事実とも一致する(高分子量ポリ(アントラニルアミド)は分解なしには融解不能であることが知られている)。
【0010】
ドーパントによって反応を触媒する試みもまた行われた。イサト酸無水物の質量の0.01%の比率で、ドーパントを用いた。アントラニルアミドをドーピングした場合、CO2の理論的に予期される量の14%が除去され、酢酸ナトリウムをドーピングした場合、81%が除去された。これは、ドーパントを伴わないと、CO2の理論的に予期される量のわずか2%しか除去されないこととは対照的である。1%酢酸ナトリウムでは、1280g/molの質量平均モル質量が見られたが、高い多分散性を伴った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. Macromol. Sci.-Chem. 1982, A17(3), 481-488
【非特許文献2】Journal of Organic Chemistry 1948, 13, 347-352
【非特許文献3】Journal of Organic Chemistry, 1944, 9, 55-67
【非特許文献4】Journal of Organic Chemistry 1987, 52, 315-316
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、アラミド化学の分野における更なる改善が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、この必要性を考慮して、本発明は、ポリ(アントラニルアミド)を調製するプロセスであって、
(A)イサト酸無水物を準備する工程と、
(B)該イサト酸無水物を、好ましくは溶媒の存在下、110℃~300℃の範囲、特に150℃~300℃の範囲の反応温度で、スターター上で重合させて、該スターターに基づくポリ(アントラニルアミド)を得る工程と、
を含み、
ここで該スターターは、5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH2基によって置換された芳香族ラジカル(特にH2N-C6H4)を示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミド、又上述のスターターの混合物を含み、
溶媒が用いられる場合、該溶媒は反応温度で液体状である有機溶媒、イオン性液体又は上述の溶媒の混合物を含む、
プロセスを提供する。
【0015】
本発明は更に、式:
{H-(HN-(オルト-C6H4)-(C=O)m}x-A-[(O=C)(オルト-C6H4)-NH]n-H (I)
(式中、
m及びnは繰り返し単位の数を示し、
xは0(単官能性スターターの場合)又は1(二官能性スターターの場合)であり、
Aは、全てのアミン性NH基及びNH2基からの水素原子の除去によって、アミン性NH基又はNH2基を含むスターター分子から得られ、ここで該スターター分子は、5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、又は式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH2基によって置換された芳香族ラジカル(特にH2N-C6H4)を示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミドである)のポリ(アントラニルアミド)を提供する。
【0016】
最後に、本発明は、ポリ(アントラニルアミド)、及び金属、無機物質又はポリ(アントラニルアミド)以外のポリマーを含む(少なくとも)1つの他の材料からの繊維又は複合材料の製造における、本発明のポリ(アントラニルアミド)の使用を提供する。
【0017】
本発明の用語法において、アミン性NH基又はNH2基という表現は、一級又は二級有機アミン(NH基又はNH2基を有する他の化合物、例えば特にアミドとは対照的に)に関し、すなわちNH基又はNH2基がいかなる更なるヘテロ原子も所持しない炭素原子に結合している有機化合物に関する。
【0018】
芳香脂肪族モノ及びジアミンは、芳香族基及び脂肪族基を有するモノ及びジアミンを意味すると理解される。好ましくは、こうしたモノ又はジアミン中の全てのアミノ基は、例えばキシリレンジアミンの場合のように、芳香族基に直接隣接する炭素原子に結合する。
【0019】
有機溶媒は、イオン性液体(=低融点(すなわち100℃未満)塩)とは対照的に、非イオン性有機溶媒を意味すると理解される。
【0020】
本発明の文脈において、繰り返し単位の数m+nの決定に必須の方法は、1H NMR分光法である。これは、繰り返し単位の数に関する平均を提供し、ここからポリ(アントラニルアミド)の数平均モル質量が計算され得る。詳細は、以下に示す「分析」セクションに記載される。
【0021】
本発明の多様なあり得る実施形態の簡潔な要約を以下に示す。
【0022】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第1の実施形態において、反応温度は120℃~300℃の範囲、好ましくは150℃~300℃の範囲、より好ましくは160℃~280℃の範囲、最も好ましくは170℃~260℃の範囲である。
【0023】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第2の実施形態において、工程(B)は、1.0バール(絶対)~5.0バール(絶対)の範囲の圧で行われる。
【0024】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第3の実施形態において、5個~13個の炭素原子を有する脂肪族一級又は二級モノ又はジアミンは、ネオペンチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチレンジシクロヘキシルジアミン及び/又はペンタメチレンジアミンを含む。
【0025】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第4の実施形態において、7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ又はジアミンはキシリレンジアミンを含む。
【0026】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第5の実施形態において、6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミンは、メチレンジフェニレンジアミン、ナフチレンジアミン及び/又はトリレンジアミンを含む。
【0027】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第6の実施形態において、式Ar-(C=O)NHRのカルボキサミドは、N-ネオペンチルアントラニルアミド(Ar=オルト-C6H4-NH2、R=ネオペンチル)を含む。
【0028】
工程(B)における溶媒の使用を想定するものを除く全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第7の実施形態において、重合は、溶媒の非存在下で行われ、工程(B)の後に、
(C)(i)鉱酸中にポリ(アントラニルアミド)を溶解して、ポリ(アントラニルアミド)の鉱酸溶液を得る工程と、
(D)(i)水中で沈殿させる工程を含めて、鉱酸溶液から鉱酸中に溶解されたポリ(アントラニルアミド)を単離する工程と、
が続く。
【0029】
第7の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第8の実施形態において、鉱酸は、硫酸、塩酸、硝酸及び/又はリン酸を含み、特に硫酸である。
【0030】
工程(B)において溶媒の使用を排除するもの又はこの工程に関して純粋溶媒重合を想定するものを除く全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第9の実施形態において、重合は、溶媒の存在下で行われ、該溶媒は、反応温度で液体状である有機溶媒を含むか、又はこうした有機溶媒及びイオン性液体の混合物を含み、工程(B)において、スターターに基づくポリ(アントラニルアミド)は、溶媒中に懸濁されて得られ、工程(B)の後に、
(C)(ii)溶媒中に懸濁されたポリ(アントラニルアミド)を鉱酸中に溶解して、溶媒から分離してポリ(アントラニルアミド)の鉱酸溶液を得る工程と、
(D)(ii)水中で沈殿させる工程を含めて、鉱酸溶液から鉱酸中に溶解されたポリ(アントラニルアミド)を単離する工程と、
が続く。
【0031】
第9の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第10の実施形態において、鉱酸は、硫酸、塩酸、硝酸及び/又はリン酸を含み、特に硫酸である。
【0032】
第9及び第10の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第11の実施形態において、溶媒は、濾過、遠心分離又は相分離によって、工程(C)(i)において除去される。
【0033】
工程(B)において溶媒の使用を排除するもの又はこの工程に関して懸濁重合が想定されるものを除く全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第12の実施形態において、イサト酸無水物の重合は、溶媒の存在下で行われ、該溶媒は、イオン性液体又はイオン性液体及び反応温度で液体状である有機溶媒の混合物を含み、工程(B)において、スターターに基づくポリ(アントラニルアミド)は、溶媒中に溶解される方式で得られ、工程(B)の後に、
(D)(iii)水中で沈殿させる工程を含めて、溶媒の溶液から溶媒中に溶解されてポリ(アントラニルアミド)を単離する工程、
が続く。
【0034】
第9~第12の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第13の実施形態において、有機溶媒は、ジフェニルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)及び/又はヘキサメチルホスホラミドを含む。
【0035】
第9~第13の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第14の実施形態において、イオン性液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブチレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムナイトレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメチルスルホネート及び/又はジアルキルイミダゾリウムホスフェート(例えば、特に、ブチル-3-メチルイミダゾリウムホスフェート、ジメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(「MMIM-DEP」)及びエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(「EMIM-DEP」))を含む。
【0036】
第9~第14の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第15の実施形態において、水中での沈殿は、ポリ(アントラニルアミド)の溶液を、5倍~20倍体積過剰の水に添加することによって達成される。
【0037】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第16の実施形態において、イサト酸無水物対工程(B)で選択されるスターターのモル比は、特に、20~2500の範囲、好ましくは40~2500の範囲、より好ましくは50~2400の範囲、最も好ましくは70~2000の範囲のm+nの値を有する式(I)の(ポリ)アントラニルアミドを得るためには、20~2500の範囲、好ましくは40~2500の範囲、より好ましくは50~2400の範囲、最も好ましくは70~2000の範囲である。
【0038】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のプロセスの第17の実施形態において、工程(A)におけるイサト酸無水物の準備は、アントラニル酸の化学変換を含む。
【0039】
第17の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第18の実施形態において、アントラニル酸の化学変換は、アントラニル酸と、
触媒の存在下(特にPd又はPt触媒の存在下)での一酸化炭素、又は、
ホスゲン、ジホスゲン、トリホスゲン、塩化オキサリル、1,1-カルボニルジイミダゾール及び/又は炭酸ジメチルより選択されるホスゲン化媒体、
との反応より選択される。
【0040】
第17及び第18の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第19の実施形態において、アントラニル酸は、
発酵性炭素含有化合物、好ましくはデンプン加水分解産物、サトウキビジュース、サトウダイコンジュース、リグノセルロース含有原材料の加水分解産物、又はそれらの混合物と、
窒素含有化合物、好ましくは気体アンモニア、水性アンモニア、アンモニウム塩、尿素又はそれらの混合物と、
を含む原材料を発酵させることによって得られる。
【0041】
第19の実施形態の特定の構成である、本発明のプロセスの第20の実施形態において、発酵性炭素含有化合物は、デンプン加水分解産物、サトウキビジュース、テンサイジュース及び/又はリグノセルロース含有原材料の加水分解産物を含み、窒素含有化合物は、気体アンモニア、水性アンモニア、アンモニウム塩及び/又は尿素を含む。
【0042】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のポリ(アントラニルアミド)の第1の実施形態において、5個~13個の炭素原子を有する脂肪族一級又は二級モノ又はジアミンは、ネオペンチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチレンジシクロヘキシルジアミン又はペンタメチレンジアミンである。
【0043】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のポリ(アントラニルアミド)の第2の実施形態において、7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ又はジアミンはキシリレンジアミンである。
【0044】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のポリ(アントラニルアミド)の第3の実施形態において、6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミンは、メチレンジフェニレンジアミン、ナフチレンジアミン又はトリレンジアミンである。
【0045】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のポリ(アントラニルアミド)の第4の実施形態において、式Ar-(C=O)NHRのカルボキサミドは、N-ネオペンチルアントラニルアミド(Ar=オルト-C6H4-NH2、R=ネオペンチル)である。
【0046】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明のポリ(アントラニルアミド)の第5の実施形態において、m+nは、20~2500の範囲、好ましくは40~2500の範囲、より好ましくは50~2400の範囲、最も好ましくは70~2000の範囲である。
【0047】
本発明の使用の第1の実施形態において、繊維又は複合材料は、火災、破片形成、破片貫通、機械的衝撃(銃弾を含む)又は切断からの防御のための、保護具(限定されるわけではないが、特に衣服製品、例えば防護服及び防弾チョッキ)の製造に役立つ。
【0048】
全ての他の実施形態と組み合わせられ得る、本発明の使用の第2の実施形態において、繊維又は複合材料はスポーツ装備の製造に役立つ。
【0049】
上に簡単に概略される実施形態及び本発明の更なるあり得る実施形態は、以下に詳細に説明される。別に言及されない限り、又は文脈から明確に明らかでない限り、全ての実施形態は望ましいように互いに組み合わせられ得る。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明のプロセスの工程(A)において、イサト酸無水物は、続く重合の目的のために準備される。イサト酸無水物は、原則として、その化合物の合成のための専門分野で知られる任意のプロセスによって調製され得る。典型的には、合成は、アントラニル酸(=オルト-アミノ安息香酸)から進行し、例えば特に塩酸媒体中、ホスゲンとの反応によって達成される。ホスゲンではなく、ジホスゲン、トリホスゲン又は従来技術から知られる更なるホスゲン化媒体、例えば塩化オキサリル、1,1-カルボニルジイミダゾール及び炭酸ジメチルを用いることもまた可能である。同様に可能であるのは、イサト酸無水物を得るための触媒の存在下での、特にPd又はPt触媒の存在下でのアントラニル酸と一酸化炭素との反応である。
【0051】
また、アントラニル酸は、既知の化学的プロセスによって調製され得る。適切な化学法の一例は、フタルイミドと次亜塩素酸ナトリウムとの反応である。フタルイミド自体は、フタル酸無水物及びアンモニアから得られ得る。プロセス全体が既知である。産業プロセスは特許文献にも記載されており、例えば独国特許出願公開第29 02 978号及び欧州特許出願公開第0 004 635号を参照されたい。さらに、再生可能原材料から進行し、したがって化石原材料を保護し、CO2フットプリントのサイズを減少させるために適しているアントラニル酸の発酵調製経路が最近公表されている。例えば国際公開第2018/002088号、13ページ26行~22ページ15行、及び該文献に引用される文献を参照されたい。この発酵プロセスはまた、本発明のプロセスにも使用され得る。したがって、この実施形態において、本発明のプロセスの工程(A)は、
発酵性炭素含有化合物、好ましくはデンプン加水分解産物、サトウキビジュース、テンサイジュース、リグノセルロース含有原材料の加水分解産物、又はそれらの混合物と、
窒素含有化合物、好ましくは気体アンモニア、水性アンモニア、アンモニウム塩、尿素又はそれらの混合物と、
を含む原材料の発酵を含む。
【0052】
好ましくは、発酵性炭素含有化合物は、デンプン加水分解産物、サトウキビジュース、テンサイジュース及び/又はリグノセルロース含有原材料の加水分解産物を含み、窒素含有化合物は、気体アンモニア、水性アンモニア、アンモニウム塩及び/又は尿素を含む。発酵の実行に適した微生物は、特に、大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、アシュビャ・ゴシッピー(Ashbya gossypii)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailii)又はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0053】
本発明のプロセスの工程(B)において、工程(A)で提供されるイサト酸無水物を、開環(ROP)及びCO2の除去で重合する。本発明に従って用いられるスターターは、5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH2基によって置換された芳香族ラジカル(特にH2N-C6H4)を示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミド、又は上述のスターターの混合物を含む。
【0054】
本発明の1つの実施形態において、5個~13個の炭素原子を有する脂肪族一級又は二級モノ又はジアミン、特に好ましくはネオペンチルアミン、ヘキサメチレンジアミン(特にヘキサメチレン-1,6-ジアミン)、メチレンジシクロヘキシルジアミン(特に2,2’-、2,4’-及び/又は4,4’-メチレンジシクロヘキシルジアミン)及び/又はペンタメチレンジアミン(特にペンタメチレン-1,5-ジアミン)を用いる。
【0055】
本発明の更なる実施形態において、7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ又はジアミン、特に好ましくはキシリレンジアミン(特にキシリレン-1,3-ジアミン)を用いる。
【0056】
本発明の更なる実施形態において、6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、特に好ましくはメチレンジフェニレンジアミン(特に2,2’-、2,4’-及び/又は4,4’-メチレンジフェニレンジアミン)、ナフチレンジアミン(特にナフチレン-1,5-ジアミン)及び/又はトリレンジアミン(特にメタ及び/又はオルト-トリレンジアミン)を用いる。
【0057】
本発明の更なる実施形態において、式Ar-(C=O)NHRのカルボキサミド、特にN-ネオペンチルアントラニルアミド(Ar=オルト-C6H4-NH2、R=ネオペンチル)を用いる。
【0058】
重合は、110℃~300℃、好ましくは120℃~300℃、より好ましくは150℃~300℃、更により好ましくは160℃~280℃、非常に特別に好ましくは170℃~260℃の範囲の反応温度で達成される。重合は、(i)溶媒なしで(「無溶媒(neat)」、「バルク重合」)、又は好ましくは溶媒の存在下で行われ得る。後者の場合、適切な溶媒は(ii)反応温度で液体である有機溶媒、(iii)イオン性液体又は(iv)この2つの混合物である。ケース(ii)に適した溶媒は、特にジフェニルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、好ましくは可溶化剤としてCaCl2と組み合わせられる)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)及び/又はヘキサメチルホスホラミドである。これらは適切な反応温度(上記を参照されたい)で液体状である。ケース(iii)に関して、原則として、専門分野に知られるイオン性液体、特に1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブチレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムナイトレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメチルスルホネート及び/又はジアルキルイミダゾリウムホスフェート(例えば、特に、ブチル-3-メチルイミダゾリウムホスフェート、ジメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(「MMIM-DEP」)及びエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(「EMIM-DEP」))の使用が想定される。
【0059】
溶媒を用いないROPの実行の場合(i)、イサト酸無水物は、融解された状態に変換され、すなわち230℃の温度を超える状態になる。反応温度の上述の上限は、溶媒を含まない重合に関してもまた好ましい。したがって、スターターは選択した反応条件下で十分に高い沸点を有するべきである。原則として、反応は、反応圧に対していかなる特定の要求も持たない。したがって、ROPは周囲圧で行われ得る。しかし、蒸発を通じたスターターの損失を最小限にするため、周囲圧に対して上昇した圧下で、特に1.1バール(絶対)~5.0バール(絶対)の範囲の圧で、スターターとイサト酸無水物とを反応させることもまた可能である。同様に、二酸化炭素の除去のため、周囲圧又はわずかに上昇した圧(例えば1.1バール(絶対))で反応を開始し、圧の増加、特に好ましくは5.0バール(絶対)の定義される最大圧までの圧の増加を許容することも想定される。重合に用いられる装置には、好ましくは、ターゲット最大圧との適合性を保証する圧保持バルブが提供される。圧に関する上述の詳細は、当然のことながら、溶媒の存在下での反応の実行にもまた適用され得る。
【0060】
溶媒を用いない実行の場合、重合は均一相(融解)中で開始される。しかし、重合が進行するにつれて、形成されたポリマーの迅速な沈殿が起こり、したがって、まだ変換されていないスターター及びまだ変換されていないモノマー中のポリマーの懸濁物が生じる。重合が更に進行するにつれて、一般的に、全反応混合物の実質的な固化が起こる。
【0061】
この場合の後処理は、好ましくは以下:
(C)(i)鉱酸中にポリ(アントラニルアミド)を溶解する工程と、
(D)(i)水中で沈殿させる工程を含めて、鉱酸溶液から鉱酸中に溶解されたポリ(アントラニルアミド)を単離する工程と、
を含む。
【0062】
工程(C)(i)の実行に適した鉱酸は、特に硫酸、塩酸、硝酸及び/又はリン酸である。硫酸、特に、96%~100%、好ましくは96%~98%の範囲の質量濃度を有する硫酸が好ましい。溶解は、好ましくは20℃~100℃の範囲の温度で達成される。
【0063】
本発明のプロセスのこの実施形態の工程(D)(i)において、ポリ(アントラニルアミド)は、工程(C)で得られた鉱酸溶液から単離される。これは、水での沈殿によって達成される。この目的のため、5倍~20倍体積過剰の水に、ポリ(アントラニルアミド)の鉱酸溶液を添加することが好ましい。ポリ(アントラニルアミド)はここで沈殿し、例えば濾過又は遠心分離によって容易に除去され得る。精製のための更なる後処理工程が続いてもよい。
【0064】
しかし、ROPは、溶媒の存在下で行われるのが好ましい。ポリマー性産物は、用いられる溶媒に応じて、ここで、選択された溶媒中の懸濁物又は溶液として得られる。
【0065】
有機溶媒(ii)を用いる場合、一般的に、ポリ(アントラニルアミド)の懸濁物が工程(B)で得られる(懸濁重合)。この場合、工程(B)中のプロセス産物の後処理は、好ましくは、
(C)(ii)溶媒中に懸濁されたポリ(アントラニルアミド)を鉱酸中に溶解して、溶媒から分離してポリ(アントラニルアミド)の鉱酸溶液を得る工程と、
(D)(ii)水中で沈殿させる工程を含めて、鉱酸溶液から鉱酸中に溶解されたポリ(アントラニルアミド)を単離する工程と、
を含む。
【0066】
溶解工程及び単離工程のケース(i)に関する上述の好ましい条件は、ケース(ii)にもまた適用可能である。ここで更に必要とされる有機溶媒の除去は、好ましくは、濾過、遠心分離又は相分離によって達成される。除去は、鉱酸中へのポリ(アントラニルアミド)の溶解に先行してもよいし(この場合、一般的になお捕捉された有機溶媒も含有する固体ポリアントラニルアミドを濾別し、次いで鉱酸中に溶解する)、又はその後に続いてもよい(この場合、鉱酸中で沈殿しているか又は不溶性である有機溶媒を分離する)。
【0067】
工程(B)中で用いられる溶媒がイオン性液体である場合(iii)、この工程は、一般的にポリ(アントラニルアミド)の溶液を提供する(溶液重合)。この場合、ポリマー性産物は既に溶液中にあるため、溶解工程(ケース(i)及びケース(ii)における工程(C))は不要である。したがって、この場合、工程(B)におけるプロセス産物の後処理は、好ましくは、
(D)(iii)水中で沈殿させる工程を含めて、溶媒の溶液から溶媒中に溶解されたポリ(アントラニルアミド)を単離する工程、
を含む。
【0068】
単離工程のためにケース(i)に関して上述される好ましい条件は、ケース(iii)にもまた適用可能である。
【0069】
有機溶媒及びイオン性液体の混合物が工程(B)中で用いられる場合(iv)、プロセス産物が溶液であるか又は懸濁物であるかは、混合比に応じる。存在するものに応じて、更なる後処理は、ケース(iii)(溶液)又はケース(ii)(懸濁物)に関して上述されるとおりである。
【0070】
いかなる場合でも、回収された溶媒はリサイクルされるのが好ましい。この目的のため、精製が必要である可能性があり、これは専門分野に知られる方法によって達成され得る。コストが高いため、イオン性溶液のリサイクルは特に重要である。この目的のため、工程(D)(iii)又は工程(D)(iv)において、ポリ(アントラニルアミド)の単離で得られるイオン性溶液は、温度上昇及び減圧で、特に50℃~100℃の範囲の温度及び1ミリバール(絶対)~100ミリバール(絶対)の範囲の圧で、乾燥される。
【0071】
工程(B)由来のプロセス産物が溶液の形である場合、更に直接この溶液をプロセシングして所望の最終産物を得る、特に溶液から直接ポリ(アントラニルアミド)の繊維を紡ぐこともまた想定される。
【0072】
本発明のプロセスは、高分子量ポリ(アントラニルアミド)の形成を可能にする。したがって、イサト酸無水物対スターターのモル比は、広範囲で多様であり得て、特に20~2500の範囲、好ましくは40~2500の範囲、より好ましくは50~2400の範囲、最も好ましくは70~2000の範囲であり得る。選択されるモル比は、当然のことながら、ポリ(アントラニルアミド)の望ましい最終用途に依存し、したがって、任意選択でまた、上記に提示する数値と異なるモル比を用いることもまた可能である。
【0073】
本発明のプロセスによって、式:
{H-[HN-(オルト-C6H4)-(C=O)]m}x-A-[(O=C)(オルト-C6H4)-NH]n-H (I)
(式中、
m及びnは繰り返し単位の数を示し、
xは0又は1であり、
Aは、全てのアミン性NH基及びNH2基からの水素原子の除去によって、アミン性NH基又はNH2基を含むスターター分子から得られ、ここで該スターター分子は、5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、又は式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH2基によって置換された芳香族ラジカル(特にH2N-C6H4)を示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミドである)のポリ(アントラニルアミド)が得られ得る。
【0074】
本発明のプロセスに関する上述の実施形態はまた、本発明のポリ(アントラニルアミド)にも適宜、適用可能である。例えば、ポリ(アントラニルアミド)の調製に用いられるスターターは、特に、ネオペンチルアミン、ヘキサメチレンジアミン(特にヘキサメチレン-1,6-ジアミン)、メチレンジシクロヘキシルジアミン(特に2,2’-、2,4’-及び/又は4,4’-メチレンジシクロヘキシルジアミン)、ペンタメチレンジアミン(特にペンタメチレン-1,5-ジアミン)、キシリレンジアミン(特にキシリレン-1,3-ジアミン)、メチレンジフェニレンジアミン(特に2,2’-、2,4’-及び/又は4,4’-メチレンジフェニレンジアミン)、ナフチレンジアミン(特にナフチレン-1,5-ジアミン)、トリレンジアミン(特にメタ及び/又はオルト-トリレンジアミン)又はN-ネオペンチルアントラニルアミド(Ar=オルト-C6H4-NH2、R=ネオペンチル)等のスターター分子を含み得る。スターターはまた、2つ以上の異なるスターター分子を含み得る。
【0075】
一実施形態において、繰り返し(O=C)(オルト-C6H4)-NH-単位の総数(すなわちm+n)は20~2500、好ましくは40~2500、より好ましくは50~2400、最も好ましくは70~2000である。二官能性スターター分子の場合、これらの繰り返し単位は、形成される2つのポリマー鎖間に分布する。スターター分子の両方のアミン基が同じ反応性を有する場合(これは、対称スターター分子の場合、例えば上述のヘキサメチレン-1,6-ジアミンの場合である)、m及びnは、(少なくとも本質的に)等しく、つまり(少なくともおよそ)m=n=(m+n)/2である。例えば立体障害のため、又は一方のアミン基が他方のものより高い塩基性を有するため、アミン基の反応性に相違がある場合、等しくない鎖長が形成されることもあり得る。
【0076】
本発明に従って得られ得るポリ(アントラニルアミド)は、多様な適用に適している。したがって、本発明は、ポリ(アントラニルアミド)、及び金属、無機物質(例えばコンクリート)又はポリ(アントラニルアミド)以外のポリマー(例えばポリウレタン)を含む(少なくとも)1つの他の材料由来の繊維又は複合材料の製造における、本発明のポリ(アントラニルアミド)の使用を更に提供する。繊維又は複合材料は、好ましくは、火災から、破片形成から、破片貫通から、機械的衝撃(銃弾を含む)から又は切断からの防御のための、保護具(限定されるわけではないが、特に衣服製品、例えば防護服及び防弾チョッキ)の製造に役立つ。繊維又は複合材料をスポーツ装備の製造のために用いることも可能である。
【0077】
本発明は、実施例に関連して、以下により詳細に説明される。
【実施例】
【0078】
分析
1H NMR分光法(Bruker、AV III HD 600、600MHz、パルスシーケンスzg30、遅延時間d1:10秒、64スキャン)によって、生じたポリ(アントラニルアミド)の数平均モル質量(Mn)を決定した。各試料を重水素化硫酸中に溶解した。1H NMRスペクトル中の関連する共鳴は以下のとおりである(TMS=0ppmに基づく)。
【0079】
8.5ppm~7.1ppmのシグナルを、アントラニルアミドの芳香族プロトンに関して用いる(4つのプロトンの積算に対応する)。ネオペンチルアミンスターターのプロトンの共鳴は、3.6ppm~3.4ppm(メチレン基、2つのプロトンの積算に対応する)及び1.1ppm~0.9ppm(ネオペンチル基、9つのプロトンの積算に対応する)のシフトを有する。
【0080】
以下の略語:
F(A)=芳香族プロトン(4つのプロトン)の8.5ppm~7.1ppmでの共鳴面積、
F(M)=スターターのメチレン基(2つのプロトン)の3.6ppm~3.4ppmでの共鳴面積、
F(N)=スターターのネオペンチル基(9つのプロトンに対応する)の1.1ppm~0.9ppmでの共鳴面積、
を用いて、以下のように、式(I)に従ってポリマーのモル質量Mnを計算する。
【0081】
以下の式(I)を用いて、ポリマー中の(O=C)(オルト-C6H4)-NH由来の繰り返し単位の数m+nを計算した(特殊な場合、m=0であり、したがってm+n=nである)。
n=F(A)/F(M)×9/4 (I)
【0082】
数値nを用いて、以下の式(II)によって、ポリマーのモル質量Mnを計算した。
Mn=86.16g/mol+n×120.14g/mol+1g/mol (II)
【0083】
実施例1:溶媒としてのジフェニルエーテル中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのネオペンチルアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
イサト酸無水物及びジフェニルエーテルはSigma-Aldrichから、ネオペンチルアミンはABCRから調達された(工程(A))。
【0084】
500mLの四つ口フラスコに、蒸留システム、精密ガラススターラー、温度プローブ、窒素供給ライン、及び圧開放弁を備えたガス出口/ガス排出口を装備した。続いて、98gのイサト酸無水物及び171gのジフェニルエーテルを測り入れた。窒素を10L/時間で20分間導入し、その過程で、混合物を300rpmで撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、0.26gのネオペンチルアミンを導入し、溶液を180℃で15時間撹拌した(工程(B))。懸濁物を得た。
【0085】
D2SO4中、1H NMRによって、式(II)に従ってモル質量Mnを決定した。
【0086】
20gのポリ(アントラニルアミド)懸濁物を20mLの濃硫酸中に溶解した。沈殿した固体(=ジフェニルエーテル溶媒)を濾過によって除去した(工程(C))。
【0087】
濾過した硫酸溶液を300mLの水に添加した(工程(D)(ii))。沈殿した固体を濾過によって単離し、次いで160℃、0.05バールで24時間乾燥させた。
【0088】
実施例2:溶媒としてのジフェニルエーテル中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのネオペンチルアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
以下の相違点:
90gのイサト酸無水物、130gのジフェニルエーテル及び0.80gのネオペンチルアミンを用いたこと、
を除いて、手順は実施例1における通りであった。
【0089】
実施例3:溶媒としてのジフェニルエーテル中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのネオペンチルアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
以下の相違点:
100gのイサト酸無水物、390gのジフェニルエーテル及び0.060gのネオペンチルアミンを用いたこと、
を除いて、手順は実施例1における通りであった。
【0090】
以下の表は分析結果を比較する。
【0091】
【0092】
実施例4:溶媒としてのジフェニルエーテル中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのヘキサメチレン-1,6-ジアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
イサト酸無水物、ジフェニルエーテル及びヘキサメチレン-1,6-ジアミンはSigma-Aldrichから調達された(工程(A))。
【0093】
100mLの四つ口フラスコに、蒸留システム、精密ガラススターラー、温度プローブ、窒素供給ライン、及び圧開放弁を備えたガス出口/ガス排出口を装備した。続いて、10gのイサト酸無水物及び37gのジフェニルエーテルを測り入れた。窒素を10L/時間で20分間導入し、その過程で、混合物を300rpmで撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、0.050gのヘキサメチレン-1,6-ジアミンを導入し、溶液を180℃で15時間撹拌した(工程(B))。懸濁物を得た。
【0094】
D2SO4中、1H NMRによって、式(II)に従ってモル質量Mnを決定した。
【0095】
20gのポリ(アントラニルアミド)懸濁物を20mLの濃硫酸中に溶解した。沈殿した固体(=ジフェニルエーテル溶媒)を濾過によって除去した(工程(C))。
【0096】
濾過した硫酸溶液を300mLの水に添加した(工程(D)(ii))。沈殿した固体を濾過によって単離し、次いで160℃、0.05バールで24時間乾燥させた。
【0097】
実施例5:溶媒としてのジフェニルエーテル中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのヘキサメチレン-1,6-ジアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
以下の相違点:
10gのイサト酸無水物、37gのジフェニルエーテル及び0.11gのヘキサメチレン-1,6-ジアミンを用いたこと、
を除いて、手順は実施例4における通りであった。
【0098】
実施例6:溶媒としてのジフェニルエーテル中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのヘキサメチレン-1,6-ジアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
以下の相違点:
20gのイサト酸無水物、75gのジフェニルエーテル及び0.015gのヘキサメチレン-1,6-ジアミンを用いたこと、
を除いて、手順は実施例4における通りであった。
【0099】
実施例7:溶媒としてのジフェニルエーテル中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのヘキサメチレン-1,6-ジアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
以下の相違点:
25gのイサト酸無水物、140gのジフェニルエーテル及び0.005gのヘキサメチレン-1,6-ジアミンを用いたこと、
を除いて、手順は実施例4における通りであった。
【0100】
以下の表は分析結果を比較する。
【0101】
【0102】
実施例8:180℃で、溶媒としてのエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのネオペンチルアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
イサト酸無水物及びエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)はSigma-Aldrichから、ネオペンチルアミンはABCRから調達された(工程(A))。
【0103】
100mLの四つ口フラスコに、蒸留システム、精密ガラススターラー、温度プローブ、窒素供給ライン、及び圧開放弁を備えたガス出口/ガス排出口を装備した。続いて、10gのイサト酸無水物及び28gのエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)を測り入れた。窒素を10L/時間で20分間導入し、その過程で、混合物を300rpmで撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、0.010gのネオペンチルアミンを導入し、溶液を180℃で15時間撹拌した(工程(B))。透明溶液を得た。
【0104】
ポリ(アントラニルアミド)溶液を300mLの水に添加した(工程(D)(iii))。沈殿した固体を濾過によって単離し、次いで160℃、0.05バールで24時間乾燥させた。
【0105】
実施例9:150℃で、溶媒としてのエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのヘキサメチレン-1,6-ジアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
イサト酸無水物、エチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)及びヘキサメチレン-1,6-ジアミンはSigma-Aldrichから調達された(工程(A))。
【0106】
100mLの四つ口フラスコに、蒸留システム、精密ガラススターラー、温度プローブ、窒素供給ライン、及び圧開放弁を備えたガス出口/ガス排出口を装備した。続いて、6gのイサト酸無水物及び16gのエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)を測り入れた。窒素を10L/時間で20分間導入し、その過程で、混合物を300rpmで撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、0.043gのヘキサメチレン-1,6-ジアミンを導入し、溶液を150℃で15時間撹拌した(工程(B))。透明溶液を得た。
【0107】
ポリ(アントラニルアミド)溶液を300mLの水に添加した(工程(D)(iii))。沈殿した固体を濾過によって単離し、次いで160℃、0.05バールで24時間乾燥させた。
【0108】
この実験において、産物の沈殿前に、溶液の重量を測定することによって、CO2除去の完了をチェックした。CO2が完全に除去された場合、4.42gの溶液質量が生じることが予期されていた。4.73gの質量が見出され、これは、測定精度の範囲内で、ほぼ完全なCO2除去に対応する。
【0109】
実施例10:溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのネオペンチルアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
イサト酸無水物及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)はSigma-Aldrichから、ネオペンチルアミンはABCRから調達された(工程(A))。
【0110】
100mLの四つ口フラスコに、蒸留システム、精密ガラススターラー、温度プローブ、窒素供給ライン、及び圧開放弁を備えたガス出口/ガス排出口を装備した。続いて、1gのイサト酸無水物及び4.5gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を測り入れた。窒素を10L/時間で20分間導入し、その過程で、混合物を300rpmで撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、0.001gのネオペンチルアミンを導入し、溶液を180℃で15時間撹拌した(工程(B))。懸濁物を得た。
【0111】
D2SO4中、1H NMRによって、式(II)に従ってモル質量Mnを決定した。
【0112】
1gのポリ(アントラニルアミド)懸濁物を1mLの濃硫酸中に溶解した。沈殿した固体(=ジフェニルエーテル溶媒)を濾過によって除去した(工程(C))。
【0113】
濾過した硫酸溶液を15mLの水に添加した(工程(D)(ii))。沈殿した固体を濾過によって単離し、次いで160℃、0.05バールで24時間乾燥させた。
【0114】
実施例11:溶媒としての1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのネオペンチルアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
イサト酸無水物及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)はSigma-Aldrichから、ネオペンチルアミンはABCRから調達された(工程(A))。
【0115】
100mLの四つ口フラスコに、蒸留システム、精密ガラススターラー、温度プローブ、窒素供給ライン、及び圧開放弁を備えたガス出口/ガス排出口を装備した。続いて、1gのイサト酸無水物及び4.5gの1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)を測り入れた。窒素を10L/時間で20分間導入し、その過程で、混合物を300rpmで撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、0.001gのネオペンチルアミンを導入し、溶液を180℃で15時間撹拌した(工程(B))。懸濁物を得た。
【0116】
D2SO4中、1H NMRによって、式(II)に従ってモル質量Mnを決定した。
【0117】
1gのポリ(アントラニルアミド)懸濁物を1mLの濃硫酸中に溶解した。沈殿した固体(=ジフェニルエーテル溶媒)を濾過によって除去した(工程(C))。
【0118】
濾過した硫酸溶液を15mLの水に添加した。沈殿した固体を濾過によって単離し、次いで160℃、0.05バールで24時間乾燥させた(工程(D))。
【0119】
以下の表は分析結果を比較する。
【0120】
【0121】
実施例12:溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)の混合物中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのネオペンチルアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
イサト酸無水物、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)はSigma-Aldrichから、ネオペンチルアミンはABCRから調達された(工程(A))。
【0122】
100mLの四つ口フラスコに、蒸留システム、精密ガラススターラー、温度プローブ、窒素供給ライン、及び圧開放弁を備えたガス出口/ガス排出口を装備した。続いて、1.5gのイサト酸無水物、4.5gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)及び0.236gのエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)を測り入れた。窒素を10L/時間で20分間導入し、その過程で、混合物を300rpmで撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、0.001gのネオペンチルアミンを導入し、溶液を180℃で15時間撹拌した(工程(B))。懸濁物を得た。
【0123】
D2SO4中、1H NMRによって、式(II)に従ってモル質量Mnを決定した。
【0124】
1gのポリ(アントラニルアミド)懸濁物を1mLの濃硫酸中に溶解した。沈殿した固体(=ジフェニルエーテル溶媒)を濾過によって除去した(工程(C))。
【0125】
濾過した硫酸溶液を15mLの水に添加した(工程(D)(ii))。沈殿した固体を濾過によって単離し、次いで160℃、0.05バールで24時間乾燥させた。
【0126】
実施例13:溶媒としての1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)及びエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)の混合物中、モノマーとしてのイサト酸無水物及びスターターとしてのネオペンチルアミンの開環重合による、ポリ(アントラニルアミド)の調製
イサト酸無水物、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)及びエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)はSigma-Aldrichから、ネオペンチルアミンはABCRから調達された(工程(A))。
【0127】
100mLの四つ口フラスコに、蒸留システム、精密ガラススターラー、温度プローブ、窒素供給ライン、及び圧開放弁を備えたガス出口/ガス排出口を装備した。続いて、1.5gのイサト酸無水物、4.5gの1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)及び0.236gのエチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(EMIM-DEP)を測り入れた。窒素を10L/時間で20分間導入し、その過程で、混合物を300rpmで撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、0.001gのネオペンチルアミンを導入し、溶液を180℃で15時間撹拌した(工程(B))。懸濁物を得た。
【0128】
D2SO4中、1H NMRによって、式(II)に従ってモル質量Mnを決定した。
【0129】
1gのポリ(アントラニルアミド)懸濁物を1mLの濃硫酸中に溶解した。沈殿した固体(=ジフェニルエーテル溶媒)を濾過によって除去した(工程(C))。
【0130】
濾過した硫酸溶液を15mLの水に添加した(工程(D)(ii))。沈殿した固体を濾過によって単離し、次いで160℃、0.05バールで24時間乾燥させた。
【0131】
以下の表は分析結果を比較する。
【0132】
【手続補正書】
【提出日】2023-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(アントラニルアミド)を調製するプロセスであって、
(A)イサト酸無水物を準備する工程と、
(B)110℃~300℃の範囲の反応温度で、イサト酸無水物をスターター上で重合して、該スターターに基づくポリ(アントラニルアミド)を得る工程と、
を含み、
ここで該スターターは、
5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、
7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、
6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、
式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH
2基によって置換された芳香族ラジカルを示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミド、又は、
上述のスターターの混合物、
を含む、プロセス。
【請求項2】
5個~13個の炭素原子を有する脂肪族一級又は二級モノ又はジアミンが、ネオペンチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチレンジシクロヘキシルジアミン及び/又はペンタメチレンジアミンを含み、及び/又は、
7個~15個の炭素原子を有する前記芳香脂肪族モノ又はジアミンが、キシリレンジアミンを含み、及び/又は、
6個~13個の炭素原子を有する前記芳香族ジアミンが、メチレンジフェニレンジアミン、ナフチレンジアミン及び/又はトリレンジアミンを含み、及び/又は、
前記式Ar-(C=O)NHRのカルボキサミドが、N-ネオペンチルアントラニルアミドを含む、
請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記重合が溶媒の非存在下で行われ、工程(B)の後に、
(C)(i)鉱酸中に前記ポリ(アントラニルアミド)を溶解して、該ポリ(アントラニルアミド)の鉱酸溶液を得る工程と、
(D)(i)水中で沈殿させる工程を含めて、該鉱酸溶液から該鉱酸中に溶解された該ポリ(アントラニルアミド)を単離する工程と、
が続く、請求項1
又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記イサト酸無水物の重合が溶媒の存在下で行われ、該溶媒が反応温度で液体状である有機溶媒を含むか又はこうした有機溶媒及びイオン性液体の混合物を含み、工程(B)において、前記スターターに基づく前記ポリ(アントラニルアミド)が該溶媒中に懸濁されて得られ、工程(B)の後に、
(C)(ii)該溶媒中に懸濁された該ポリ(アントラニルアミド)を鉱酸中に溶解して、該溶媒から分離して該ポリ(アントラニルアミド)の鉱酸溶液を得る工程と、
(D)(ii)水中で沈殿させる工程を含めて、該鉱酸溶液から該鉱酸中に溶解された該ポリ(アントラニルアミド)を単離する工程と、
が続く、請求項1
又は2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記イサト酸無水物の重合が溶媒の存在下で行われ、該溶媒がイオン性液体、又はイオン性液体及び反応温度で液体状である有機溶媒の混合物を含み、工程(B)において、前記スターターに基づく前記ポリ(アントラニルアミド)が該溶媒中で溶解されて得られ、工程(B)の後に、
(D)(iii)水中で沈殿させる工程を含めて、該溶媒の溶液から該溶媒中に溶解された該ポリ(アントラニルアミド)を単離する工程、
が続く、請求項1
又は2に記載のプロセス。
【請求項6】
イサト酸無水物対工程(B)において選択されるスターターのモル比が、20~2500の範囲又は40~2500の範囲又は50~2400の範囲又は70~2000の範囲である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
式:
{H-(HN-(オルト-C
6H
4)-(C=O)
m}
x-A-[(O=C)(オルト-C
6H
4)-NH]
n-H
(式中、
m及びnは繰り返し単位の数を示し、
xは0又は1であり、
Aは、全てのアミン性NH基及びNH
2基からの水素原子の除去によって、アミン性NH基又はNH
2基を含むスターター分子から得られ、ここで該スターター分子は、
5個~13個の炭素原子を有する脂肪族モノ若しくはジアミン、
7個~15個の炭素原子を有する芳香脂肪族モノ若しくはジアミン、
6個~13個の炭素原子を有する芳香族ジアミン、又は、
式Ar-(C=O)NHR(式中、Arがアミン性NH基又はNH
2基によって置換された芳香族ラジカルを示し、Rが芳香族ラジカル又は脂肪族ラジカルを示す)のカルボキサミド、
である)のポリ(アントラニルアミド)。
【請求項8】
m+nが、20~2500の範囲又は40~2500の範囲又は50~2400の範囲又は70~2000の範囲である、請求項
7に記載のポリ(アントラニルアミド)。
【請求項9】
ポリ(アントラニルアミド)、及び金属、無機物質又はポリ(アントラニルアミド)以外のポリマーを含む別の材料からの繊維又は複合材料の製造における、請求項
7又は8に記載のポリ(アントラニルアミド)の使用。
【国際調査報告】