(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-27
(54)【発明の名称】改良されたRNA編集方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20230720BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230720BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230720BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/12
C12N5/10
C40B40/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501188
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 CN2021104801
(87)【国際公開番号】W WO2022007803
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/100467
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522264261
【氏名又は名称】北京▲輯▼因医▲療▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】EDIGENE THERAPEUTICS (BEIJING) INC.
【住所又は居所原語表記】Floor 2,Building 2, No.22 Kexueyuan Road, Changping District, Beijing 102206, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲鵬▼▲飛▼
(72)【発明者】
【氏名】易 ▲澤▼▲軒▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 能▲銀▼
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本願は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基又は下流残基に直接対向するミスマッチを含む。また、本願は、上記方法に用いるarRNA、上記方法により得られたRNA及び該RNAを含む宿主細胞、並びに疾患の治療における上記方法の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、
デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、
前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを含む方法。
【請求項2】
前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基に直接対向するミスマッチを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの下流残基に直接対向するミスマッチを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的残基はアデノシンである請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記上流残基はG、A、又はCから選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記3塩基モチーフはGAG、GAC、GAA、GAU、AAG、AAC、AAA、AAU、CAG、CAC、CAA、CAU、UAA、UAC及びUAUから選択される請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するシチジン、アデノシン又はウリジンを含む請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の非標的アデノシンにそれぞれ対向する1つ以上のミスマッチをさらに含む請求項4~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記3塩基モチーフはGAUであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するACG、UCC、CCU又はACAを含む請求項4~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記3塩基モチーフはGAUであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するACGを含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記3塩基モチーフはGAAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するUCA、CCG、CCC又はUCGを含む請求項4~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記3塩基モチーフはGAAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するUCA又はUCGを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記3塩基モチーフはGACであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するGCG又はGCAを含む請求項4~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記3塩基モチーフはGACであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するGCGを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記3塩基モチーフはGAGであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するCCG、CCA、CCC、UCC又はUCGを含む請求項4~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記3塩基モチーフはGAGであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するCCGを含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記標的RNA中の上流残基はG、C、A及びUのヌクレオチドから選択され、好ましくはG>C≒A>Uの順である請求項4~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAである請求項4~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記3塩基モチーフの下流残基は前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である請求項4~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記arRNAは、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質をリクルートし、前記標的RNA中の標的アデノシンを脱アミノ化する請求項4~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ADAR触媒ドメインを含む前記融合タンパク質は標的ドメインをさらに含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ADARタンパク質又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質、又は前記ADARタンパク質又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質をコードする構築物は前記宿主細胞に外来的に導入される請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記ADARタンパク質は前記宿主細胞に内因的に発現される請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記標的残基はシチジンであり、前記arRNAは、RNAに作用しシチジンデアミナーゼ活性を有するデアミナーゼをリクルートし、前記標的RNA中の標的シチジンを脱アミノ化する請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記標的RNA中の標的シチジンが位置する3塩基モチーフは、GCG、GCC、GCA、GCU、ACG、ACC、ACA、ACU、CCG、CCC、CCA、CCU、UCA、UCC、UCU及びUCGから選択されるいずれかである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的シチジンに対向するシチジン、アデノシン又はウリジンを含む請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の非標的シチジンにそれぞれ対向する1つ以上のミスマッチをさらに含む請求項24~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はGである請求項24~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するUUG又はUCGを含む請求項24~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するUUGを含む請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記3塩基モチーフはCCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUGを含む請求項24~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記標的RNA中の上流残基はG、C、A及びUのヌクレオチドから選択され、好ましくは、G>C>A≒Uの順である請求項24~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは、ADARタンパク質又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質に対して遺伝子修飾を行ってC-U触媒活性を得るデアミナーゼである請求項24~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは標的ドメインをさらに含む請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記標的ドメインは、SNAP-tag、λNペプチド、又は触媒的に不活性化されたCas13タンパク質から選択されるいずれかである請求項21又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記構築物は、ウイルスベクター、プラスミド、又は線状核酸鎖から選択されるいずれかである請求項22又は24に記載の方法。
【請求項37】
前記arRNAの長さが約20~260ヌクレオチドである請求項1~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記arRNAは一本鎖RNAである請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記相補的なRNA配列は一本鎖であり、前記arRNAは1つ以上の二本鎖領域をさらに含む請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記arRNAはADARリクルートドメインをさらに含む請求項1~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記arRNAは1つ以上の化学的修飾を含む請求項1~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記arRNAはいかなる化学的修飾も含まない請求項1~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記標的RNAは、メッセンジャーRNA前駆体、メッセンジャーRNA、リボソームRNA、転移RNA、長鎖ノンコーディングRNA及びスモールRNAから選択されるRNAである請求項1~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
標的RNAの標的残基で編集を行うことにより、標的RNAのミスセンス突然変異、早期に出現した終止コドン、異常スプライシング又は可変スプライシングを引き起こすか、又は標的RNA中のミスセンス突然変異、早期に出現した終止コドン、異常スプライシング又は可変スプライシングを逆転させる請求項1~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
標的RNAにおける標的残基の編集は、標的RNAがコードするタンパク質の点突然変異、切断、伸長及び/又は誤った折り畳みをもたらすか、又は標的RNAの誤ったセンス突然変異、早期に出現した終止コドン、異常スプライシング又は可変スプライシングを逆転させることによって、機能的、全長、正しく折り畳まれた及び/又は野生型のタンパク質を得る請求項1~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記宿主細胞は真核細胞である請求項1~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記宿主細胞は哺乳動物の細胞である請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記宿主細胞はヒト又はマウス細胞である請求項47に記載の方法。
【請求項49】
請求項1~48のいずれか1項に記載の方法により製造された編集されたRNA又は編集されたRNAを含む宿主細胞。
【請求項50】
複数の請求項49に記載のRNA又は複数の請求項49に記載の編集されたRNAの宿主細胞を含むライブラリー。
【請求項51】
請求項1~48のいずれか1項に記載の方法によって個体の細胞内の疾患又は障害に関連する標的RNAを編集することを含む、個体における疾患又は障害を治療又は予防するための方法。
【請求項52】
前記疾患又は障害は、遺伝性遺伝子疾患、又は1つ以上の獲得遺伝子変異に関連する疾患又は障害である請求項51に記載の方法。
【請求項53】
請求項1~49のいずれか1項に記載の方法で使用されるarRNAからなるarRNA。
【請求項54】
請求項53に記載のarRNAを含み、前記arRNAがいかなる化学的修飾も含まないウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖。
【請求項55】
複数の請求項53に記載のarRNA、又は複数の請求項54に記載のウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含むライブラリー。
【請求項56】
請求項53に記載のarRNA又は請求項54に記載のウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含む組成物。
【請求項57】
請求項53に記載のarRNA又は請求項54に記載のウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含む宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子編集の分野、具体的には、RNA編集の分野に属し、デアミナーゼリクルートRNA(dRNA、arRNAともいう)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入し、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集することを含む。
【背景技術】
【0002】
CRISPR技術
近年、CRISPR(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats、WO2014018423A3)をはじめとするゲノム編集技術が急速に発展しており、そして生物や医学の多くの分野に大きな影響を与えた。多くの科学研究者やバイオテクノロジー企業も同技術を臨床に適用することに取り組んでいる。2019年9月、北京大学のトウ宏魁教授とその協力者は文章を発表し、CRISPR技術を利用して幹細胞を編集し、それを患者に戻すことで、エイズと白血病を治療する臨床実験の結果を初めて報道し、CRISPR技術の遺伝子治療への適用に大きな貢献を果たした。
【0003】
CRISPR技術には極めて大きな将来性が期待できるが、この技術にも多くの欠点が存在し、これによって、この技術の科学研究段階から臨床治療への応用は困難である。問題の1つは、CRISPR技術で用いられている中心的な役割を果たす酵素であるCas9である。CRISPRに基づくDNA編集技術では、外来的に発現されるCas9や類似の機能を持つ他のヌクレアーゼを導入しなければならず、以下のような問題が生じている。まず、外因性発現を必要とするヌクレアーゼは、一般的に分子量が大きく、それをウイルスベクターを介して体内に送達する効率が大幅に低下する。次に、Cas9の発現は複数人の研究で潜在的な発がんリスクがあることが確認された。p53は最も研究されているがん抑制遺伝子で、Haapaniemiらの研究によると、Cas9系はp53によるDNA損傷を活性化するが(Haapaniemi et al., 2018)、EnacheらはCas9タンパク質の過剰発現がp53不活性化突然変異を持つ細胞を選択的に富化することを見出している(Enache et al., 2020)。さらに、Adikusumaは、Cas9により編集されたマウスの受精卵に大断片のDNA欠損が多数存在することを発見した(Adikusuma et al., 2018)。一方、Cullotらはさらに、Cas9により編集されるとゲノム上に百万塩基以上の大きな断片が欠損することを発見し、さらに重要なのは、これら欠損した断片の中に5つのがん原遺伝子と7つのがん抑制遺伝子が含まれていることである(Cullot et al., 2019)。最後に、外来的に発現されたCas9は、通常、ヒト又は哺乳動物に天然に存在するものではなく、黄色ブドウ球菌又はレンサ球菌のような細菌由来のものであり、これにより、患者の体内で免疫反応を引き起こす可能性がある。Charlesworthらの研究によれば、ヒト血清中にCas9のIgG抗体が存在することが明らかになった(Charlesworth et al., 2019)。これは外因的に発現されるヌクレアーゼを中和させ、それによって本来の活性を失う可能性がある一方、患者自身に損傷、さらには毒性をもたらし、あるいは更なる介入治療を阻害する可能性もある。
【0004】
RNAレベルでのAからIへの編集
DNA編集における潜在的なリスクを避けるため、科学者もRNA編集に強い関心を持っている。DNAに存在する遺伝情報はRNAに転写され、さらにタンパク質に翻訳されなければ正常な生理機能を発揮できないことが、分子生物学のセントラルドグマと呼ばれている。DNAレベルの編集に比べ、RNAレベルの編集は、ゲノム損傷を避けると同時に、最終的な生物機能に変化を与えることができる。よく見られるRNA編集の1つは、ADAR(Adenosine deaminases acting on RNA)が媒介するアデノシンAからグアノシンIへの編集である。マサチューセッツ工科大学の張鋒(Feng Zhang)教授の研究チームは2017年、REPAIR(RNA Editing for Programmable A to I Replacement)と呼ばれるRNA編集技術が外因的に発現されるCas13-ADAR融合タンパク質及びシングルガイドRNA(sgRNA:single guide RNA)によっても標的RNAのAからIへの編集を実現できることを報告した(Cox et al., 2017)。この方法では、Cas13がsgRNAと結合して標的化機能を発揮し、編集したい部位に融合タンパク質を持っていくと同時に、ADAR脱アミノ化ドメインが触媒作用を発揮し、AからIへの編集を実現する。しかし、この方法はCRISPR技術と同様に、外来タンパク質の発現が必要である。外来タンパク質の発現による問題を解決することはできない。
【0005】
以上の課題を解決し、核酸編集技術を医療分野へより良く応用するために、特に外来タンパク質の発現に依存しない新しい核酸編集技術を見出すことが急務である。2019年7月、北京大学生命科学学院の魏文勝教授の研究チームはNature Biotechnologyに「Programmable RNA editing by recruiting endogenous ADAR using engineered RNAs」という文章を掲載し、新しい核酸編集技術:LEAPER(Leveraging Endogenous ADAR for Programmable Editing of RNA, Qu et al., 2019)(WO2020074001A1)を初めて報告した。CRISPR(WO2014018423A3)及びREPAIR技術(WO2019005884A1)との相違点として、この技術は原理的に外因性ヌクレアーゼの過剰発現に依存せず、医学分野へ適用する過程において、更に大きな優位性があることである。しかし、この技術はアデノシンAからクレアチニンIへの編集、すなわちアデノシンAからグアノシンGへの編集しか実現できない(クレアチニンIはタンパク質の翻訳中にグアノシンGと認識されるため)ため、その応用には依然として限界がある。CRISPR技術と同様に、この技術は、内因性ヌクレアーゼを所望の編集部位にリクルートするためのガイドとしてのRNAを必要とする。このガイドRNAはarRNA(adar-recruiting RNA)と命名された。
【0006】
2019年1月、Thorsten Stafforstの研究チームもLEAPERと類似している、RESTORE(Recruiting Endogenous ADAR to Specific Transcripts for Oligonucleotide-mediated RNA Editing、WO2020001793A1)と命名された核酸編集技術を報告している。LEAPERと同様に、RESTOREも外来タンパク質に依存しない。しかし、LEAPERとの相違点として、まず、RESTORE技術は自己免疫の進行と重症度を決定する重要な因子であるIFN-γの存在を前提にしてこそ高い編集効率を得ることができ(Pollard et al., 2013)、これにより、この技術の医学分野での応用は大きく制限されてしまう。一方、RESTORE技術においてもガイドRNAが使用され、使用されるガイドRNAは化学合成されたオリゴヌクレオチドでなければならず、前記合成されたオリゴヌクレオチドはその安定性を保証するために大量の化学的修飾を人為的に導入する必要がある。これらの化学的修飾の中で、一部の修飾は潜在的な毒性や免疫原性が存在する可能性があり、また一部の修飾は同じ塩基鎖の異なる配座を招くことがあり、その結果として、同じ配列のRNAは数十種類の異なる配座の組み合わせを持つことになる。一方、LEAPER技術は化学的に合成されたRNAによって行われるだけでなく、アデノ関連ウイルス(AAV)、レンチウイルスなどのベクターを介して患者の細胞内に送達することによって機能を発揮することができ、これにより、送達手段の選択が柔軟で多様化している。
【0007】
AからIへの編集部位の上下流残基又は配列
DNAの編集では、編集された部位は複製によってすべての娘細胞に伝達されるため、DNAレベルでの編集は、たとえ効率が悪くても、娘細胞のスクリーニングなどによって編集された細胞を富化することができる。これとは異なり、RNA編集の過程では、作られた編集は遺伝されない。そのため、RNA編集中のオフターゲットサイトは子世代に遺伝することができず、これによりRNAレベルの編集はDNA編集より安全であり、一方、RNA編集の効率はさらに重要になる。AからIへのRNA編集において、REPAIR(WO2019005884A1)、RESTORE(WO2020001793A1)、LEAPER(WO2020074001A1)のいずれのシステムも、ADARを触媒反応のキー酵素として用いた。哺乳動物の細胞には、ADAR1(2つの同型、p110とp150)、ADAR2、ADAR3(触媒活性なし)の3種類のADARタンパク質が存在する。ADARタンパク質の触媒基質は二本鎖RNAであり、アデノシン(A)ヌクレオシド塩基から-NH2基を除去し、Aをイノシン(I)に変えることができ、後者はグアノシン(G)として認識され、その後の細胞生理学的過程、例えば逆転写及び翻訳過程、又は細胞内ウイルスRNA複製過程においてシチジン(C)と対合する。ADARの特定の性質のため、いくつかの同様な要素はREPAIR、RESTORE及びLEAPER編集システムのRNAに対する編集効率に影響する。その1つが、編集部位の上下流残基及び配列である。編集されたアデノシンA(標的A)、すなわちここでの標的残基は、mRNA中の5’上流と3’下流に隣接する塩基がどの塩基であるかが編集の効率に影響することが明らかである。便宜上、標的残基に隣接する5’上流塩基(上流残基)、標的残基、及び標的残基に隣接する3’下流塩基(下流残基)が5’から3’の順につながったモチーフを「3塩基モチーフ」と呼ぶことにする。標的Aの上流残基及び下流残基はいずれもA、U、C、Gであり得るので、前記3塩基モチーフは16種類の組み合わせ、すなわち、AAA、AAU、AAC、AAG、UAA、UAU、UAC、UAG、CAA、CAU、CAC、CAG、GAA、GAU、GAC、GAGを有することができる。REPAIR、RESTORE、LEAPERシステムでは、3塩基モチーフごとに編集効率が異なり、本明細書では、このように3塩基モチーフごとに編集効率が異なることを「トリプレット選好性」と呼ぶ。
【0008】
REPAIRシステムでは、Cas13-ADARの融合タンパク質を用いているため、このシステムのトリプレット選好性は若干異なっている。
図1に示すように(Cox et al, 2017)、REPAIRシステムは3塩基モチーフGACに対する編集効率が最も低いのに対し、UAUに対する編集効率が最も高く、約2~3倍の差がある。
【0009】
RESTOREシステムでは、著者は3塩基モチーフに対する選好性に関するデータを直接に示していないが、文章では、別の文章を引用し(Vogel et al., 2018)、このシステムの選好と一致する可能性があることを記載している(Merkle et al., 2019)。
図2に示すように(Vogel et al., 2018)、図中の三角形はSA1Qであり、具体的な実施方法は、ヒトADAR1触媒ドメインとヒトO
6-アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGT:O
6-alkylguanine-DNA-alkyl transferase)のC末端ドメイン(SNAP-tag)を融合し、そして835位のアミノ酸でグルタミン酸からグルタミンへの突然変異(E-Q)を行い、さらにSNAP-tagを介してガイドRNAと共有結合で架橋することである(Keppler, A. et al., 2003;Stafforst, T., et al., 2012)。図中のブロックはSA2Qであり、具体的な実施方法は、ヒトADAR2触媒ドメインとヒトO
6-アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGT:O
6-alkylguanine-DNA-alkyl transferase)のC末端ドメイン(SNAP-tag)を融合し、そして1310位のアミノ酸でグルタミン酸からグルタミンへの突然変異(E-Q)を行い、さらにSNAP-tagを介してガイドRNAと共有結合で架橋することである(Keppler, A. et al., 2003;Stafforst, T., et al., 2012)。以上より、2つの異なるADARにおいて、そのトリプレット選好性には傾向が類似した有意差が見られる。5’上流残基がGである場合、すなわちGAA、GAU、GAC、GAGでは、その編集効率は通常他の3塩基モチーフよりはるかに低く、未編集時のレベルにも近いが、UAGはその中で編集効率が最も高い3塩基モチーフの1つである。
図2に示すように、UAGに対するこのシステムの編集効率は、上流残基がGである3塩基モチーフに対する編集効率の最大10倍に達する。
【0010】
LEAPERシステムでは、著者はこのシステムのトリプレット選好性を直接にテストした(Qu et al., 2019)。
図3に示すように、LEAPERシステムでは、RESTOREシステムと同様に、修飾や修正をしていない完全なADARを採用しているので、RESTOREシステムと同様のトリプレット選好性を示していることは容易に理解できる。
図3から、LEAPERシステムでは、最も編集効率が低かったのもGAA、GAU、GAC、GAGの3塩基モチーフであり、その効率がゼロに近く、最も効率の高い3塩基モチーフはUAGであり、LEAPERシステムでも、UAGに対する編集効率は同様に、上流残基がGである3塩基モチーフに対する編集効率の最大10倍以上である。以上のように、REPAIRシステムでは、外因的に過剰発現されたCas13-ADARを用いているため、トリプレット選好性が若干異なっている。一方、LEAPERシステムとRESTOREシステムでは、いずれも修飾や変更をしていないADARを採用しているため、そのトリプレット選好性は類似のパターンを呈している。すべての3塩基モチーフの中で、このような修飾や変更をしていないADARで編集した場合、UAGに対する編集効率が最も高いか、UAGは最も高いいくつかの3塩基モチーフの1つである。一方、5’上流残基がGである場合、その編集効率は著しく低下し、さらにはゼロに近く、両者の間には10倍以上の差がある。これは、従来技術において、内在性ADARを用いてRNA編集を行うシステムでは、3塩基モチーフ中の5’上流残基がGである部位をほとんど編集できないことを示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Adikusuma, F., Piltz, S., Corbett, M. A., Turvey, M., McColl, S. R., Helbig, K. J., ... & Thomas, P. Q. (2018). Large deletions induced by Cas9 cleavage.Nature,560(7717), E8-E9.
【非特許文献2】Cox, D. B., Gootenberg, J. S., Abudayyeh, O. O., Franklin, B., Kellner, M. J., Joung, J., & Zhang, F. (2017). RNA editing with CRISPR-Cas13. Science, 358(6366), 1019-1027.
【非特許文献3】Charlesworth, C. T., Deshpande, P. S., Dever, D. P., Camarena, J., Lemgart, V. T., Cromer, M. K., ... & Behlke, M. A. (2019). Identification of preexisting adaptive immunity to Cas9 proteins in humans.Nature medicine,25(2), 249-254.
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術では、デアミナーゼを利用したRNA編集技術システムのトリプレット選好性は、従来のRNA編集技術の応用範囲を制限していた。例えば、従来のRNA編集技術は3塩基モチーフ中の上流残基がGである部位に対してほとんど無策であり、これにより、このシステムの疾患治療への応用が大幅に制限されている。遺伝病の場合、もしその病原遺伝子突然変異の上流残基がちょうどGであれば、既知のRNA編集手段を用いて修正と治療を行うことは難しい。一方、本発明が解決しようとする課題は、従来技術において好ましい3塩基モチーフ以外の他の3塩基モチーフ、例えばUAG以外の3塩基モチーフを対象とし、デアミナーゼを標的RNAにリクルートして正確に編集するためのリクルートRNA(deaminase recruiting RNA、dRNA又はarRNA)の配列を正確に調整することによって、既存のデアミナーゼに何らの修飾や変更を加えることなくトリプレット選好性の制限をなくし、3塩基モチーフ中の上流残基がG又はCである場合の編集効率を大幅に向上させることである。
【0013】
そのため、一態様では、本願は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基又は下流残基に直接対向するミスマッチを含む方法を提供する。
【0014】
いくつかの実施形態では、本願は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基及び下流残基に直接対向するミスマッチを含む方法を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はCである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基はCである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基はUである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフは、GAG、GAC、GAA、GAU、AAG、AAC、AAA、AAU、CAG、CAC、CAA、CAU、UAA、UAC、及びUAUから選択される。
【0016】
本願に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基がGである場合、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基がGである場合、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基としてACG又はACAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるACGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるUCA、CCG、CCC又はUCCを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記相補的なRNA配列中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はUCAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるGCG又はGCAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACであり、前記相補的なRNA配列中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はGCGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるCCG、CCA、CCC、UCC又はUCGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGであり、前記相補的なRNA配列中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はCCGである。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は、前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するシチジン(C)、アデノシン(A)又はウリジン(U)を含む。いくつかの特定の実施形態では、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するCを含む。
【0018】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は、標的RNAとハイブリダイズする際に、前記標的RNA中の非標的アデノシンにそれぞれ対向する1つ以上のミスマッチをさらに含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の非標的アデノシンに対向するミスマッチヌクレオシドはグアノシンである。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基は、前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAであり、前記3塩基モチーフの下流残基は前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するCを含み、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAであり、前記3塩基モチーフの下流残基は前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するCを含み、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はGであり、前記3塩基モチーフの下流残基は前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である。
【0020】
本願の上記RNA編集方法において、RNAの編集効率は、従来技術と比較して、少なくとも90%~1100%、例えば、少なくとも100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%向上する。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記標的RNA中の標的アデノシン(A)は、アデノシンデアミナーゼ(ADAR:Adenosine Deaminase Acting on RNA)によって脱アミノ化される。いくつかの実施形態では、前記アデノシンデアミナーゼは天然ADAR又はその相同タンパク質である。いくつかの実施形態では、前記アデノシンデアミナーゼは、修飾されているがアデノシンデアミナーゼ活性を保持しているアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントであり、例えば、天然ADAR又はその相同タンパク質に基づいて1つ以上の部位突然変異によって修飾されているが、アデノシンデアミナーゼ活性を有しているバリアントである。いくつかの実施形態では、前記アデノシンデアミナーゼは、ADAR触媒ドメイン又はその相同タンパク質触媒ドメイン、又はアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、前記ADARタンパク質触媒ドメインを含む融合タンパク質は、突然変異によって触媒活性が失われたCas13タンパク質と、ADAR機能ドメイン又はADAR相同タンパク質機能ドメイン又はアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントとを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは、前記宿主細胞内に外来的に導入されるか、又は、このデアミナーゼが導入された構築物によって宿主細胞内で発現される。いくつかの実施形態では、ADARタンパク質触媒ドメインを含む前記融合タンパク質は、λNペプチドとADAR機能ドメイン又はその相同タンパク質触媒ドメイン、又はアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントとを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、ADARタンパク質触媒ドメインを含む前記融合タンパク質は、SNAP-tagで標識されたADAR又はSNAP-tagで標識されたADAR機能的バリアントである。いくつかの実施形態では、前記ADARはADAR1及び/又はADAR2である。いくつかの実施形態では、ADARは、hADAR1、hADAR2、マウスADAR1及びマウスADAR2からなる群から選択される1つ以上のADARである。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記ADARは前記宿主細胞によって発現される。いくつかの実施形態では、ADARは宿主細胞、例えば真核細胞に天然又は内因的に存在する。いくつかの実施形態では、前記ADARタンパク質は前記宿主細胞に外来的に導入される。いくつかの実施形態では、前記ADAR又は前記ADARをコードする構築物は宿主細胞に導入される。いくつかの実施形態では、前記構築物は、線状核酸、プラスミド、ウイルスなどを含むが、これらに限定されない。上記の方法では、前記ADARは、上記天然ADAR、その相同タンパク質、修飾されているがアデノシンデアミナーゼ活性を保持しているアデノシンデアミナーゼの機能的バリアント(例えば、天然ADAR又はその相同タンパク質に基づいて1つ以上の部位突然変異によって修飾されているがアデノシンデアミナーゼ活性を有するバリアント)、又はADAR触媒ドメイン、その相同タンパク質触媒ドメイン若しくはアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントを含む融合タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、前記方法は、宿主細胞にいずれかのタンパク質を導入することを含まない。いくつかの実施形態では、前記ADARはADAR1及び/又はADAR2である。いくつかの実施形態では、前記ADARは、hADAR1、hADAR2、マウスADAR1及びマウスADAR2からなる群から選択される1つ以上のADARである。
【0023】
本願の別の態様は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、前記標的残基はシチジンであり、前記arRNAはRNAに作用するシチジンデアミナーゼ活性を有するデアミナーゼ(又は「シチジンデアミナーゼ」と称する。本願では、シチジンデアミナーゼ活性を有するデアミナーゼとシチジンデアミナーゼとは同一の意味を示し、交換して使用することができる)をリクルートし、前記標的RNA中の標的シチジンを脱アミノ化する方法を提供する。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有するデアミナーゼ、又はシチジンデアミナーゼ活性を有するデアミナーゼをコードするものを含む構築物を宿主細胞に導入する。前記方法では、前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、標的残基はシチジン(C)であり、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、前記標的シチジンが位置する3塩基モチーフは、GCG、GCC、GCA、GCU、ACG、ACC、ACA、ACU、CCG、CCC、CCA、CCU、UCA、UCC、UCU、及びUCGから選択されるいずれかである。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、標的RNAの標的残基に対応する位置に、標的残基とのミスマッチを形成するための非対合ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の前記標的RNAとハイブリダイズし得る相補的なRNA配列は、前記標的RNA中の前記標的シチジンに直接対向するシチジン、アデノシン又はウリジンを含む。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は前記標的シチジンに直接対向するウリジンを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは標的RNAの非標的部位との1つ以上のミスマッチを形成するために、標的RNAに対応する非標的編集部位に1つ以上の非対合ヌクレオチドを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基はAであり、前記相補的なRNA中の前記下流残基に対向する塩基はU又はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはACAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUU又はGUUを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはACAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUUを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはUCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUA、GUA又はCUAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはUCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するUUG又はUCGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するUUGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはCCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUGを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは、ADARタンパク質又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質に対して遺伝子修飾を行ってCからUへの触媒活性を得るデアミナーゼである。いくつかの実施形態では、前記シチジンデアミナーゼは修飾されたADAR2であり、E488Q、V351G、S486A、T375S、S370C、P462A、N597I、L332I、I398V、K350I、M383L、D619G、S582T、V440I、S495N、K418E、S661Tから選択される1つ以上の突然変異したADAR2触媒ドメインを含む。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼは、E488Q、V351G、S486A、T375S、S370C、P462A、N597I、L332I、I398V、K350I、M383L、D619G、S582T、V440I、S495N、K418E、S661Tのすべての突然変異のADAR2触媒ドメインを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは標的ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記標的ドメインは、突然変異によって触媒活性が失われたCas13タンパク質、λNペプチド、SNAP-tagから選択されるいずれかを含むが、これらに限定されない。変異によって触媒活性が失われたCas13タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、前記融合タンパク質は、変異によって触媒活性が失われたCas13タンパク質と、シチジンデアミナーゼ活性を有するADAR2触媒ドメインとを含む。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは、前記宿主細胞内に外来的に導入されるか、又は、このデアミナーゼが導入された構築物によって宿主細胞内で発現される。
【0027】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記シチジンデアミナーゼ又は融合タンパク質、又はシチジンデアミナーゼ又は融合タンパク質をコードする構築物を、標的RNAを含む細胞に導入することを含み、前記シチジンデアミナーゼ又は融合タンパク質をコードする構築物は、線状核酸、プラスミド、ウイルス、及び線状核酸から選択されるいずれかを含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、前記標的RNA中の3塩基モチーフ中の標的残基はシチジンであり、前記3塩基モチーフの上流残基はG、C、A及びUのヌクレオチドから選択され、好ましくはG>C>A≒Uの順である。
【0028】
本願の上記方法によれば、前記arRNAは一本鎖RNAである。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は完全に一本鎖である。いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上(例えば、1、2、3又はそれ以上)の二本鎖領域及び/又は1つ以上のステムループ領域を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは前記相補的なRNA配列のみからなる。
【0029】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAの長さは約20~260ヌクレオチドであり、例えば、前記arRNAの長さは、40~260、45~250、50~240、60~230、65~220、70~220、70~210、70~200、70~190、70~180、70~170、70~160、70~150、70~140、70~130、70~120、70~110、70~100、70~90、70~80、75~200、80~190、85~180、90~170、95~160、100~200、100~150、100~175、110~200、110~175、110~150又は105~140ヌクレオチドのうちのいずれかである。いくつかの実施形態では、前記arRNAの長さは約60~200ヌクレオチド(例えば、約60~150、65~140、68~130、70~120のいずれか)である。いくつかの実施形態では、前記arRNAはADARリクルートドメインも含む。
【0030】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上の化学的修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記化学的修飾はメチル化及び/又はチオリン酸化、例えば、2’-O-メチル化(2’-O-Me)及び/又はヌクレオチド間チオリン酸エステル結合を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAの首尾の3個又は5個のヌクレオチドは2’-O-Me修飾を含み、及び/又はその首尾の3個、4個又は5個のヌクレオチド間の結合はチオリン酸エステル結合修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中のウリジンの1つ以上又はすべてが2’-O-Me修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の標的ヌクレオシド及び/又は標的ヌクレオシドの5’末端/又は3’末端に隣接するヌクレオシド(例えば、5’末端/又は3’末端に直接隣接する1つ又は2つのヌクレオシド)は、2’-O-Me修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の標的ヌクレオシド及び/又は標的ヌクレオシドの5’末端及び/又は3’末端に隣接するヌクレオシド(例えば、5’末端及び/又は3’末端に直接隣接する1つ又は2つのヌクレオシド)は、3’-チオリン酸エステル結合修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAはいかなる化学的修飾も含まない。
【0031】
本発明はまた、本発明に係る標的RNAを編集する方法により製造された編集されたRNA又は編集されたRNAを含む宿主細胞を提供する。
【0032】
本発明に係る宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法は個体における疾患又は障害を治療又は予防するために使用することができる。したがって、本発明はまた、本発明に係る宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法のいずれかによって、個体細胞内の前記疾患又は障害に関連する標的RNAを編集することを含む、個体における疾患又は障害を治療又は予防するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記疾患又は障害は、遺伝性遺伝子疾患、又は1つ以上の獲得遺伝子突然変異(例えば、薬剤耐性)に関連する疾患又は障害である。
【0033】
本発明はまた、本発明に係る方法で使用され得るRNAに作用するデアミナーゼをリクルートすることにより、標的RNA中の標的残基を脱アミノ化するRNA(arRNA)であって、標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は標的RNAの上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを含むRNAを提供する。
【0034】
本発明に係るarRNAによれば、前記arRNAは前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するCを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、標的RNAとハイブリダイズする際に、標的RNA中の非標的アデノシンにそれぞれ対向する1つ以上のミスマッチをさらに含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の非標的アデノシンに対向するミスマッチヌクレオシドはグアノシンである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUであり、前記arRNAは前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるACG又はACAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUであり、前記arRNAは前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるACGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記arRNAは、前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるUCA、CCG、CCC又はUCCを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記arRNA中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はUCAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACであり、前記arRNAは前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるGCG又はGCAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACであり、前記arRNAの前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はGCGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGであり、前記arRNAは前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるCCG、CCA、CCC、UCC又はUCGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGであり、前記arRNA中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はCCGである。
【0035】
本発明に係るarRNAによれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAの長さは、約20~260ヌクレオチド、例えば40~260、45~250、50~240、60~230、65~220、70~220、70~210、70~200、70~190、70~180、70~170、70~160、70~150、70~140、70~130、70~120、70~110、70~100、70~90、70~80、75~200、80~190、85~180、90~170、95~160、100~200、100~150、100~175、110~200、110~175、110~150又は105~140ヌクレオチドのうちのいずれかである。いくつかの実施形態では、前記arRNAの長さは約60~200ヌクレオチド(例えば、約60~150、65~140、68~130、70~120のいずれか)である。いくつかの実施形態では、前記arRNAはADARリクルートドメインも含む。
【0036】
本発明に係るarRNAによれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上の化学的修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記化学的修飾はメチル化及び/又はチオリン酸化、例えば、2’-O-メチル化(2’-O-Me)及び/又はヌクレオチド間チオリン酸エステル結合を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAの首尾の3個又は5個のヌクレオチドは2’-O-Me修飾を含み、及び/又はその首尾の3個、4個又は5個のヌクレオチド間の結合はチオリン酸エステル結合修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中のウリジンの1つ以上又はすべてが2’-O-Me修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の標的ヌクレオシド及び/又は標的ヌクレオシドの5’末端/又は3’末端に隣接するヌクレオシド(例えば、5’末端/又は3’末端に直接隣接する1つ又は2つのヌクレオシド)は2’-O-Me修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の標的ヌクレオシド及び/又は標的ヌクレオシドの5’末端及び/又は3’末端に隣接するヌクレオシド(例えば、5’末端及び/又は3’末端に直接隣接する1つ又は2つのヌクレオシド)は3’-チオリン酸エステル結合修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAはいかなる化学的修飾も含まない。
【0037】
本発明はまた、本発明に係る上記のいずれかのarRNAを含み、該arRNAがいかなる化学的修飾も含まないウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を提供する。本発明はまた、本発明に係る上記のいずれかのarRNA、又は本発明に係る上記のいずれかのウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含むライブラリーを提供する。本発明はまた、本発明に係る上記のいずれかのarRNA、又は本発明に係る上記のいずれかのウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含む組成物を提供する。本発明はまた、本発明に係る上記のいずれかのarRNA、又は本発明に係る上記のいずれかのウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態では、本発明に係る上記のいずれかのarRNAを含む宿主細胞は真核細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】REPAIRシステムのトリプレット選好性(Cox et al., 2017)である。
【
図2】SNAP-ADARシステムのトリプレット選好性(Vogel et al., 2018)である。
【
図3】LEAPERシステムのトリプレット選好性(Qu et al., 2019)である。
【
図4】LEAPERシステムの基本的な流れと本例の改良である。
【
図5】16種類の3塩基モチーフを構築するレポーターシステムである。
【
図6】従来技術におけるLEAPERシステムのarRNA設計原則と3塩基モチーフに対応する結果による16種類の3連続相補的塩基の設計である。
【
図7】UAG3塩基モチーフレポーターシステムの最初のテストである。
【
図8】UAG3塩基モチーフレポーターシステムの繰り返し実験である。
【
図9】LEAPERシステムの文献に報告されたUAG3塩基モチーフレポーターシステムのテストである(Qu et al., 2019)。
【
図10】UAG3塩基モチーフの編集効率の測定である。
【
図12】本例におけるarRNA設計の改良である。
【
図13A】本例に基づいてarRNA設計を改良した後の編集効率の向上であり、3塩基モチーフGAA(
図13A)、GAU(
図13B)、GAG(
図13C)、GAC(
図13D)に対するarRNA設計の改良を含む。
【
図13B】本例に基づいてarRNA設計を改良した後の編集効率の向上であり、3塩基モチーフGAA(
図13A)、GAU(
図13B)、GAG(
図13C)、GAC(
図13D)に対するarRNA設計の改良を含む。
【
図13C】本例に基づいてarRNA設計を改良した後の編集効率の向上であり、3塩基モチーフGAA(
図13A)、GAU(
図13B)、GAG(
図13C)、GAC(
図13D)に対するarRNA設計の改良を含む。
【
図13D】本例に基づいてarRNA設計を改良した後の編集効率の向上であり、3塩基モチーフGAA(
図13A)、GAU(
図13B)、GAG(
図13C)、GAC(
図13D)に対するarRNA設計の改良を含む。
【
図14】Reporter1プラスミドマップ及び配列である。
【
図15】CからUへの編集システムのテストを示し、標的残基はCであり、上流残基及び3連続相補的塩基中の標的Cに対向する塩基の変化が編集効率に与える影響をテストしたものである。図においては、「/」は、対応するプラスミドやarRNAが添加されておらず、同じ体積の水だけが添加されていることを示している。
【
図16】
図15の部分データの繰り返し結果を示す。図においては、「/」は、対応するプラスミドやarRNAが添加されておらず、同じ体積の水だけが添加されていることを示している。
【
図17】CからUへの編集システムのテストである。arRNAの3連続相補的塩基に標的Cとのミスマッチのみがあり、しかも標的Cに対応するミスマッチ塩基はUであり、標的Cの上流残基及び下流残基と完全にマッチングした場合のテスト結果である。
【
図18】
図15のデータのうち、mRNAの3塩基モチーフがN*CA(横軸で示す)であり、arRNAの3連続相補的塩基がGUUであるデータを選択し、
図17のデータとの比較に用いる。
【
図19A】
図18と
図17で用いた各3塩基モチーフ及び3連続相補的塩基のマッチング解析を示している。
図19Aの3塩基モチーフ及び3連続相補的塩基は、
図18の結果を得るために用いられ、
図19Bの3塩基モチーフ及び3連続相補的塩基は
図17の結果を得るために用いられる。
【
図19B】
図18と
図17で用いた各3塩基モチーフ及び3連続相補的塩基のマッチング解析を示している。
図19Aの3塩基モチーフ及び3連続相補的塩基は、
図18の結果を得るために用いられ、
図19Bの3塩基モチーフ及び3連続相補的塩基は
図17の結果を得るために用いられる。
【
図20】複数のミスマッチ及び単一のミスマッチの場合の編集効率を、レポートシステムを用いて比較した結果を%GFPで示すものである。3塩基モチーフ中の標的残基Cと対合する塩基はCであり、標的残基の下流残基に対向する塩基はUである。図において、「mRNA 5’塩基」は3塩基モチーフの上流残基を示している。言及していない他の塩基については、mRNAとarRNAは全て厳密に相補対を形成している。
【
図21】複数のミスマッチ及び単一のミスマッチの場合の編集効率を、レポーターシステムを用いて比較したものであり、
図20に示した同様の実験を平均蛍光強度(MFI)で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含む方法を提供する。前記arRNAは相補的なRNA配列を含み、前記相補的なRNA配列は、標的RNAとハイブリダイズして二本鎖RNAを形成し、RNAに作用するデアミナーゼをリクルートして標的RNA中の標的残基を脱アミノ化し、該脱アミノ化後に前記残基の塩基型を変化させる。本願は標的RNAを編集する方法を提供し、arRNAと前記標的RNAの設計により、ADARを用いた従来技術のRNA編集システムの、ADARの自然な選好性に適合しないUAG以外の他の3塩基モチーフに対する編集効率を著しく向上させ、RNA編集の応用において従来から編集部位の選択に存在していた制限を無くする。本願の上記方法によれば、RNA編集方法による疾患治療の範囲を飛躍的に広げ、効果を向上させることができ、より多くの疾患、例えば遺伝子突然変異に起因する遺伝性疾患がRNA編集方法により安全かつ効果的に治療されることを可能にする。本願に係る方法及び/又はarRNAを使用することにより、将来のRNA編集療法により治療可能なG->A突然変異に起因する疾患については、その突然変異部位が位置する3塩基モチーフをより柔軟に選択することができる。例えば、前記突然変異部位が位置する3塩基モチーフがGAUである場合、従来技術の編集効率は治療上の要求を全く達成できないが、本願に係る方法によって達成される編集効率は従来技術の少なくとも10倍を超える。さらに、適切に改変されたADARタンパク質は、C->UのRNA塩基編集を行うことができるので、本発明の方法は、標的残基がCである様々な3塩基モチーフに対するRNA編集システムの編集効率を向上させることもできる。
【0040】
したがって、本願は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを含む方法を提供する。
【0041】
本明細書に記載の「標的RNA」は予め編集されたRNAである。本願における「塩基」及び「残基」とは、例えば、「アデニン」、「グアニン」、「シトシン」、「チミン」、「ウラシル」、「ヒポキサンチン」のような核酸塩基を指す。「アデノシン」、「グアノシン」、「シチジン」、「チミジン」、「ウリジン」、「イノシン」という用語は、リボース又はデオキシリボースの糖部分に連結された核酸塩基を指す。「ヌクレオシド」という用語は、リボース又はデオキシリボースに連結された核酸塩基を指す。「ヌクレオチド」とは、それぞれの核酸塩基-リボシル-リン酸エステル又は核酸塩基-デオキシリボシル-リン酸エステルを意味する。アデノシンとアデニン(略称「A」)、グアノシンとグアニン(略称「G」)、シトシンとシチジン(略称「C」)、ウラシルとウリジン(略称「U」)、チミンとチミジン(略称「T」)、イノシンとヒポキサンチン(略称「I」)という用語は交換して使用することができ、対応する核酸塩基、ヌクレオシド又はヌクレオチドを指す。核酸鎖内の前のヌクレオチドの3’水酸基及び次のヌクレオチドの5’リン酸は、3’,5’リン酸ジエステル結合を形成し、3’から1つの水酸基-OHを脱離したものは本明細書では「ヌクレオチド残基」又は「残基」と呼ばれる。文脈が明示的に異なる場合を除き、核酸塩基、塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ヌクレオチド残基及び残基という用語は交換して使用されることがある。
【0042】
本明細書で使用される場合、核酸の「相補」とは、従来のワトソン-クリック塩基対合を介して一方の核酸が他方の核酸と水素結合を形成する能力を意味する。パーセンテージ相補性は、他の核酸分子と水素結合を形成することができる(すなわち、ワトソン-クリック塩基対合)核酸分子中の残基のパーセンテージを表す(例えば、10個のうち約5、6、7、8、9、10個はそれぞれ約50%、60%、70%、80%、90%、100%相補的である)。「完全に相補」とは、核酸配列の連続するすべての残基が、第2核酸配列の同数の連続する残基と水素結合を形成することを意味する。本明細書で使用される場合、「実質的に相補」とは、約40、50、60、70、80、100、150、200、250又はそれ以上のヌクレオチドの領域内において、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、100%のいずれかの相補程度、又は厳密な条件下でハイブリダイズした2本の核酸を指す。単一の塩基又は単一のヌクレオチドについては、ワトソン-クリック塩基対合の原則に基づき、AとT又はU、CとG又はIが対合する場合、相補又はマッチングと呼ばれ、その逆もまた同様であり、それ以外の塩基対合はすべて非相補又は非マッチングと呼ばれる。
【0043】
「ハイブリダイズ」とは、ポリヌクレオチドの1種以上が反応して、ヌクレオチド残基の塩基間の水素結合により安定化された複合体を形成する反応をいう。前記水素結合は、ワトソン-クリック塩基対合、フーグスタイン結合、又は他の配列特異的な方式で発生することができる。所定の配列とハイブリダイズすることができる配列は、所定の配列の「相補的配列」と呼ばれる。
【0044】
「RNA編集」(RNA editing)という用語は、RNAに発生する塩基の挿入、欠損、置換などの現象である。多くのRNA編集システムによく使用される酵素はRNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR:Adenosine deaminases acting on RNA)、そのバリアント又はその機能ドメインを含む複合体である。ADARタンパク質ファミリーは特定のRNAの二本鎖領域に結合することができ、アデノシン(A)ヌクレオシド塩基から-NH2基を除去し、Aをイノシン(I)に変えることができ、後者は翻訳中にグアノシン(G)として認識され、その後の細胞翻訳中にシチジン(C)と対合する。A->I(Adenosine-to-inosine)のRNA編集は動物で最も一般的なRNA編集タイプであり、例えば、トランスクリプトームレベルでアミノ酸配列を変化させたり、mRNAせん断、mRNA安定性や環状RNA形成などを制御したりするなど、転写レベルと転写後レベルの多種の遺伝子制御機序に広く関与する(Nishkura K. 2010)。哺乳動物の細胞には、ADAR1(2つのアイソタイプ、p110とp150)、ADAR2、ADAR3(触媒活性なし)の3種類のADARタンパク質が存在する。研究者はλNペプチドをヒトADAR1又はADAR2デアミナーゼドメインと融合してλN-ADARDDシステムを構築し、このシステムはBoxBステムループとアンチセンスRNAからなる融合RNAによって誘導でき、特定のRNA標的を結合できる。この方法により、標的A塩基で標的AをIに編集し(A-Cミスマッチを導入)、AからGへのRNA塩基編集をもたらすことができる。他のRNA編集方法としては、アンチセンスRNAをR/Gモチーフ(ADAR-リクルートRNA足場)に融合させることで、哺乳動物の細胞においてADAR1又はADAR2タンパク質を過剰発現させることにより標的RNAを編集すること;及びdCas13-ADARを利用してRNAを正確に標的化して編集することが含まれる。RNAレベルの編集は、ゲノム損傷を避ける一方で、最終的な生物機能に変化を与えることができる。
【0045】
本明細書では、「デアミナーゼリクルートRNA」、「dRNA」、「arRNA」、又は「ADARリクルートRNA」という用語は交換して使用されてもよく、ADAR、ADARバリアント、又はそのドメインを含むいくつかの複合体をリクルートし、RNAで標的アデノシンを脱アミノ化するか、又は標的シチジンを脱アミノ化することができるRNAを意味する。本願の文脈において、「標的RNA」とは、デアミナーゼリクルートRNA配列がこれと完全又は実質的に相補的であるように設計されたRNA配列をいい、標的RNAに標的残基が含まれる。本明細書では、「標的残基」とはRNA編集により、例えばADAR酵素やarRNAを導入することにより改変されたヌクレオチド残基を指す。標的配列とarRNAとの間のハイブリダイゼーションは、標的残基を含む二本鎖RNA(dsRNA)領域を形成し、標的残基に作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)又はそのバリアントをリクルートし、この酵素又はそのバリアントは標的残基を脱アミノ化する。
【0046】
「3塩基モチーフ」とは、標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)との連続した3塩基モチーフを意味する。本願の文脈における「3塩基モチーフ」では、「標的残基」は「編集部位」に位置するので、特段の記載がない限り、この両方は交換して使用されてもよい。3塩基モチーフ中の上流残基と下流残基は、標的残基に対するRNA編集がより高い効率で行われ得るか否かを決定することが多い。例えば、REPAIR(WO2019005884A1)、RESTORE(WO2020001793A1)、LEAPER(WO2020074001A1)などのRNA編集システムでは、3塩基モチーフごとに編集効率が異なり、本明細書では、このように3塩基モチーフごとに編集効率が異なることを「トリプレット選好性」と呼ぶ。
【0047】
本願では、相補的なRNA配列中の前記標的RNA中の3塩基モチーフに直接対向する3塩基、すなわち、前記標的残基に直接対向する塩基(本願では「標的塩基」と称する)、前記塩基の5’最近傍残基、及び前記塩基の3’最近傍残基からなる3連続モチーフを「3連続相補的塩基」と呼ぶ。
【0048】
本明細書では、3塩基モチーフと3連続相補的塩基はすべて5’から3’の順序である。
【0049】
本願の方法では、標的RNAとarRNAとがハイブリダイズして標的残基を含む二本鎖RNA(dsRNA)領域を形成し、この二本鎖RNA(dsRNA)領域は該RNAに作用して標的残基を脱アミノ化するデアミナーゼをリクルートする。本発明に係る方法は、arRNAを設計し、前記arRNA又は前記arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含む。前記arRNA配列中の相補的なRNA配列と前記標的RNAとがハイブリダイズして形成される二本鎖RNAは、RNAに作用するデアミナーゼをリクルートして標的RNA中の標的残基を脱アミノ化することができ、脱アミノ化後に前記残基の塩基型を変化させることができる。脱アミノ化作用により、アデノシン(A)はクレアチニン(I)に変換され、Iはグアノシン(G)として認識され、AからGへの編集が行われる。同様に、シチジン(C)は脱アミノ化してウリジン(U)に変換することができ、CからUへの編集が行われる。
【0050】
例えば
図2及び
図3に示すように、RNA編集にはトリプレット選好性がある。上流残基がグアノシン(G)である3塩基モチーフに対してより低いトリプレット選好性はADARを基礎とする従来のRNA編集方法の共通性である。同様に、CからUへの編集においても、公開文献は明らかなトリプレット選好性を示している。このようなトリプレット選好性による制限のため、実際の応用の需要を満たし、高い編集効率を得るために、従来技術におけるデアミナーゼに基づく各種RNA編集システムはできるだけトリプレット選好性のより高い3塩基モチーフを選択して編集しなければならない。これは、RNA編集の応用範囲を制限している。本願は、arRNA中の3塩基モチーフに直接対向する塩基にミスマッチをより多く導入することを含むことにより、従来技術におけるADARを用いたRNA編集システムの、デアミナーゼのトリプレット選好性に合致しない3塩基モチーフ中の標的塩基に対する編集効率を著しく向上させ、従来からのRNA編集の応用における編集部位選択に関する制限をなくする、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する改良方法を提供する。
【0051】
そのため、一態様では、本願は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、前記arRNAは、標的RNAとハイブリダイズして二本鎖RNAを形成し、RNAに作用するデアミナーゼをリクルートして標的RNA中の標的残基を脱アミノ化する相補的なRNA配列を含む方法を提供する。前記標的残基は1つの標的RNA中の3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは、標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含む。5’から3’まで、前記上流残基、標的残基及び下流残基の順につながった3連続体を「3塩基モチーフ」と呼ぶ。本願では、すべての3塩基モチーフは5’から3’の表現で記載されている。また、前記標的RNA中の3塩基モチーフに対向する相補的なRNA配列中の3塩基モチーフも5’から3’の順序である。
【0052】
本願は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基又は下流残基に直接対向するミスマッチを含む方法を提供する。
【0053】
いくつかの実施形態では、本願は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは、標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基及び下流残基に直接対向するミスマッチを含む方法を提供する。
【0054】
いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はCである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基はCである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基はUである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフは、GAG、GAC、GAA、GAU、AAG、AAC、AAA、AAU、CAG、CAC、CAA、CAU、UAA、UAC、及びUAUから選択される。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACである。いくつかの実施形態では、前記標的RNA中の上流残基は、G、C、A及びUのヌクレオチドから選択され、好ましくは、G>C≒A>Uの順である。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するシチジン(C)、アデノシン(A)又はウリジン(U)を含む。いくつかの特定の実施形態では、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するCを含む。
【0055】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は、標的RNAとハイブリダイズする際に、前記標的RNA中の非標的アデノシンにそれぞれ対向する1つ以上のミスマッチをさらに含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の非標的アデノシンに対向するミスマッチヌクレオシドはグアノシンである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるACG又はACAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるACGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるUCA、CCG、CCC又はUCCを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記相補的なRNA配列中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はUCAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるGCG又はGCAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACであり、前記相補的なRNA配列の3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はGCGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩であるCCG、CCA、CCC、UCC又はUCGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGであり、前記相補的なRNA配列中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はCCGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基は、前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAであり、前記3塩基モチーフの下流残基は前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するCを含み、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAであり、前記3塩基モチーフの下流残基は前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の標的アデノシンに直接対向するCを含み、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はGであり、前記3塩基モチーフの下流残基は前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である。本願の上記方法によれば、RNAの編集効率は、従来技術と比較して少なくとも90%~1100%、例えば、少なくとも100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%向上する。
【0056】
いくつかの実施形態では、前記標的RNA中の標的アデノシン(A)は、アデノシンデアミナーゼ(ADAR:Adenosine Deaminase Acting on RNA)によって脱アミノ化される。いくつかの実施形態では、前記アデノシンデアミナーゼは天然ADAR又はその相同タンパク質である。いくつかの実施形態では、前記アデノシンデアミナーゼは修飾されているが、アデノシンデアミナーゼ活性を保持しているアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントであり、例えば、天然ADAR又はその相同タンパク質に基づいて1つ以上の部位突然変異によって修飾されているが、アデノシンデアミナーゼ活性を有しているバリアントである。いくつかの実施形態では、前記アデノシンデアミナーゼは、ADAR触媒ドメイン又はその相同タンパク質触媒ドメイン、又はアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、前記ADARタンパク質触媒ドメインを含む融合タンパク質は、突然変異によって触媒活性が失われたCas13タンパク質と、ADAR機能ドメイン又はADAR相同タンパク質機能ドメイン又はアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントとを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは、前記宿主細胞内に外来的に導入されるか、又は、このデアミナーゼが導入された構築物によって宿主細胞内で発現される。いくつかの実施形態では、前記ADARタンパク質触媒ドメインを含む融合タンパク質は、λNペプチドとADAR機能ドメイン又はその相同タンパク質触媒ドメイン、又はアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントとを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、前記ADARタンパク質触媒ドメインを含む融合タンパク質は、SNAP-tagで標識されたADAR又はSNAP-tagで標識されたADAR機能的バリアントである。いくつかの実施形態では、前記ADARはADAR1及び/又はADAR2である。いくつかの実施形態では、前記ADARは、hADAR1、hADAR2、マウスADAR1及びマウスADAR2からなる群から選択される1つ以上のADARである。
【0057】
いくつかの実施形態では、前記ADARは宿主細胞によって発現される。いくつかの実施形態では、ADARは、宿主細胞、例えば真核細胞に天然又は内因的に存在する。いくつかの実施形態では、前記ADARタンパク質は宿主細胞に外来的に導入される。いくつかの実施形態では、前記ADAR又は前記ADARをコードする構築物は宿主細胞に導入される。いくつかの実施形態では、前記構築物は、線状核酸、プラスミド、ウイルスなどを含むが、これらに限定されない。上記の方法では、前記ADARは、前記天然ADAR、その相同タンパク質、修飾されているがアデノシンデアミナーゼ活性を保持しているアデノシンデアミナーゼの機能的バリアント(例えば、天然ADAR又はその相同タンパク質に基づいて1つ以上の部位突然変異によって修飾されているがアデノシンデアミナーゼ活性を有するバリアント)、又はADAR触媒ドメイン、その相同タンパク質触媒ドメイン若しくはアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントを含む融合タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、ADAR触媒ドメイン、その相同タンパク質触媒ドメイン若しくはアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントを含む融合タンパク質は、標的ドメイン及び前記ADAR触媒ドメイン、その相同タンパク質触媒ドメイン若しくはアデノシンデアミナーゼの機能的バリアントを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、前記標的ドメインは、突然変異によって触媒活性が失われたCas13タンパク質、λNペプチド、SNAP-tagのいずれかを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ADARは、hADAR1、hADAR2、マウスADAR1及びマウスADAR2からなる群から選択される1つ以上のADARである。いくつかの実施形態では、前記方法は、宿主細胞にいずれかのタンパク質を導入することを含まない。いくつかの実施形態では、前記ADARはADAR1及び/又はADAR2である。
【0058】
本願の別の態様は、宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’近傍残基(下流残基)と、を含み、標的残基はシチジン(C)であり、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを含む方法を提供し、さらに、前記方法は、シチジンデアミナーゼ活性を有するデアミナーゼ又はシチジンデアミナーゼ又はそれをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼはADARタンパク質又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質に対して遺伝子修飾を行ってC-U触媒活性を得るデアミナーゼである。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは標的ドメインをさらに含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、前記標的シチジンが位置する3塩基モチーフは、GCG、GCC、GCA、GCU、ACG、ACC、ACA、ACU、CCG、CCC、CCA、CCU、UCA、UCC、UCU、及びUCGから選択されるいずれかである。いくつかの実施形態では、前記arRNAは標的RNAの標的残基に対応する位置に、標的残基とのミスマッチを形成するための非対合ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の前記標的RNAとハイブリダイズし得る相補的なRNA配列は、前記標的RNA中の前記標的シチジンに直接対向するシチジン、アデノシン又はウリジンを含む。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は、前記標的シチジンに直接対向するシチジンを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは標的RNAの非標的部位との1つ以上のミスマッチを形成するために、標的RNAに対応する非標的編集部位に1つ以上の非対合ヌクレオチドを含む。実施例4では、3塩基モチーフ中に標的残基のみがミスマッチした場合と、3塩基モチーフ中に複数の残基がミスマッチした場合のそれぞれについて、シチジンからウリジンへの編集効率を測定した結果を
図22に示す。3塩基モチーフの上流残基がA又はUである場合、複数のミスマッチは、標的残基のみがミスマッチした場合と同等の編集効率を達成できるが、3塩基モチーフの上流残基がGである場合、標的残基のみがミスマッチした場合の編集効率は極めて低く、この場合、より多くのミスマッチを導入することで、CからUへの編集効率を大幅に向上させることができる。したがって、いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA配列は、前記上流残基に直接対向するGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはACAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUU又はGUUを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはACAであり、前記相補的なRNA配列は、好ましくは、前記3塩基モチーフに対向するAUUを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはUCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUA、GUA又はCUAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはUCAであり、前記相補的なRNA配列は、好ましくは、前記3塩基モチーフに対向するAUAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は、前記3塩基モチーフに対向するUUG又はUCGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は、好ましくは、前記3塩基モチーフに対向するUUGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはCCAであり、前記相補的なRNA配列は、前記3塩基モチーフに対向するAUGを含む。いくつかの実施形態では、前記標的RNA中の3塩基モチーフ中の標的残基はシチジンであり、前記3塩基モチーフの上流残基はG、C、A及びUのヌクレオチドから選択され、好ましくはG>C>A≒Uの順である。
【0060】
いくつかの実施形態では、前記arRNAは、シチジンデアミナーゼ活性を有するデアミナーゼを標的RNAにリクルートすることにより、標的RNA中の標的シチジン(C)を脱アミノ化し、ウリジンに変換する。ここで、前記シチジンデアミナーゼは、シチジン脱アミノ活性を有するように修飾された(例えば、1つ以上の部位のアミノ酸欠損又は突然変異によって)アデノシンデアミナーゼ又はアデノシンデアミナーゼ相同タンパク質バリアントである。いくつかの実施形態では、前記シチジン脱アミノ活性を有するように修飾されたアデノシンデアミナーゼは、従来技術、例えばAbudayyeh et al., 2019に開示されている、1つ以上の突然変異の、シチジン脱アミノ活性を有するアデノシンデアミナーゼ断片を含む。いくつかの実施形態では、シチジン脱アミノ活性を有するように修飾されたアデノシンデアミナーゼは、E488Q、V351G、S486A、T375S、S370C、P462A、N597I、L332I、I398V、K350I、M383L、D619G、S582T、V440I、S495N、K418E、S661Tから選択される1つ以上の突然変異を含むADAR2である。いくつかの特定の実施形態では、シチジン脱アミノ活性を有するように修飾されたアデノシンデアミナーゼは、E488Q、V351G、S486A、T375S、S370C、P462A、N597I、L332I、I398V、K350I、M383L、D619G、S582T、V440I、S495N、K418E、S661Tの突然変異の全てを含むADAR2である。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼは、E488Q、V351G、S486A、T375S、S370C、P462A、N597I、L332I、I398V、K350I、M383L、D619G、S582T、V440I、S495N、K418E、S661Tのすべての突然変異のADAR2触媒ドメインを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは標的ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記標的ドメインは、突然変異によって触媒活性が失われたCas13タンパク質、λNペプチド、SNAP-tagから選択されるいずれかを含むが、これらに限定されない。
【0061】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記シチジンデアミナーゼ、前記融合タンパク質、又は前記アデノシンデアミナーゼ若しくは前記融合タンパク質をコードする構築物を宿主細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、前記構築物は、線状核酸、プラスミド、ウイルスなどを含むが、これらに限定されない。
【0062】
本願の上記方法によれば、前記arRNAは一本鎖RNAである。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は完全に一本鎖である。いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上の(例えば、1、2、3又はそれ以上の)の二本鎖領域及び/又は1つ以上のステムループ領域を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは前記相補的なRNA配列のみからなる。
【0063】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列と標的配列との間に2つ以上のミスマッチが存在する。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列の3連続相補的塩基以外にも、標的配列との間のミスマッチが1つ以上存在する。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列が標的配列とハイブリダイズするとき、1つ以上のゆらぎ対合が発生することがある。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列が標的配列とハイブリダイズするとき、1つ以上の片側突起が生じてもよい。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列が標的配列とハイブリダイズするとき、1つ以上のゆらぎ対及び1つ以上の片側突起が生じてもよい。
【0064】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAの長さは約20~260ヌクレオチドであり、例えば、前記arRNAの長さは、約30、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200又はそれ以上のヌクレオチドのうちのいずれか以下である。いくつかの実施形態では、相補的なRNA配列の長さは、40~260、45~250、50~240、60~230、65~220、70~220、70~210、70~200、70~190、70~180、70~170、70~160、70~150、70~140、70~130、70~120、70~110、70~100、70~90、70~80、75~200、80~190、85~180、90~170、95~160、100~200、100~150、100~175、110~200、110~175、110~150又は105~140ヌクレオチドのうちのいずれかである。いくつかの実施形態では、前記arRNAの長さは約60~200ヌクレオチド(例えば、約60~150、65~140、68~130、70~120のいずれか)である。いくつかの実施形態では、前記arRNAはADARリクルートドメインも含む。
【0065】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上の化学的修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記化学的修飾はメチル化及び/又はチオリン酸化、例えば、2’-O-メチル化(2’-O-Me)及び/又はヌクレオチド間チオリン酸エステル結合を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAの首尾の3個又は5個のヌクレオチドは2’-O-Me修飾を含み、及び/又はその首尾の3個又は5個のヌクレオチド間の結合はチオリン酸エステル結合修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中のウリジンの1つ以上又はすべてが2’-O-Me修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の標的ヌクレオシド及び/又は標的ヌクレオシドの5’末端/又は3’末端に隣接するヌクレオシド(例えば、5’末端/又は3’末端に直接隣接する1つ又は2つのヌクレオシド)は2’-O-Me修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の標的ヌクレオシド及び/又は標的ヌクレオシドの5’末端及び/又は3’末端に隣接するヌクレオシド(例えば、5’末端及び/又は3’末端に直接隣接する1つ又は2つのヌクレオシド)は、3’-チオリン酸エステル結合修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAはいかなる化学的修飾も含まない。
【0066】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記標的RNAは、メッセンジャーRNA前駆体、メッセンジャーRNA、リボソームRNA、転移RNA、長鎖ノンコーディングRNA、及びスモールRNAから選択されるRNAである。いくつかの実施形態では、本発明に係る方法では、標的RNAの標的残基の編集は、標的RNAのミスセンス変異、早期に出現した終止コドン、異常スプライシング、又は可変スプライシングを引き起こすか、又は標的RNA中のミスセンス突然変異、早期に出現した終止コドン、異常スプライシング、又は可変スプライシングを逆転させることができる。いくつかの実施形態では、本発明に係る方法では、標的RNAにおける標的残基の編集は、標的RNAがコードするタンパク質の点突然変異、切断(トランケーション)、伸長、及び/又は誤った折り畳みをもたらすか、又は標的RNAのミスセンス突然変異、早期に出現した終止コドン、異常スプライシング、又は可変スプライシングを逆転することによって、機能的、全長、正しく折り畳まれた及び/又は野生型のタンパク質を得ることができる。
【0067】
本発明に係る方法によれば、いくつかの実施形態では、前記宿主細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態では、前記宿主細胞は哺乳動物の細胞である。いくつかの実施形態では、前記宿主細胞はヒト又はマウス細胞である。
【0068】
宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する本発明のいずれかの方法を用いて、編集されたRNA又は編集されたRNAを含む宿主細胞を作製することができる。したがって、本発明はまた、本発明に係る標的RNAを編集する方法によって製造された、編集されたRNA又は編集されたRNAを含む宿主細胞を提供する。
【0069】
本発明に係る宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法は個体における疾患又は障害を治療又は予防するために使用することができる。したがって、本発明はまた、本発明に係る宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法のいずれかによって、個体細胞内の前記疾患又は障害に関連する標的RNAを編集することを含む、個体における疾患又は障害を治療又は予防するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記疾患又は障害は、遺伝性遺伝子疾患、又は1つ以上の獲得遺伝子突然変異(例えば、薬剤耐性)に関連する疾患又は障害である。
【0070】
本発明はまた、本発明に係る方法で使用され得るRNAに作用するデアミナーゼをリクルートすることにより、標的RNA中の標的残基を脱アミノ化するRNA(arRNA)であって、標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは、標的RNA中の標的残基の5’最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3’最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は標的RNAの上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを含むRNAを提供する。
【0071】
本発明に係るarRNAによれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAが標的とする標的RNA中の3塩基モチーフの標的残基はアデノシンであり、前記標的RNA中の上流残基はG、C、A及びUから選択されるヌクレオチドであり、好ましくはG>C≒A>Uの順である。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフは、GAG、GAC、GAA、GAU、AAG、AAC、AAA、AAU、CAG、CAC、CAA、CAU、UAA、UAC、UAUから選択される。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するシチジン(C)、アデノシン(A)又はウリジン(U)を含む。いくつかの特定の実施形態では、前記arRNAは前記標的RNA中の前記標的アデノシンに直接対向するCを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、標的RNAとハイブリダイズする際に、前記標的RNA中の非標的アデノシンにそれぞれ対向する1つ以上のミスマッチをさらに含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の非標的アデノシンに対向するミスマッチヌクレオシドはグアノシンである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUであり、前記arRNAは、前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるACG又はACAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAUであり、前記arRNAは、前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるACGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記arRNAは、前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるUCA、CCG、CCC又はUCCを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記arRNA中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はUCAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACであり、前記arRNAは、前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるGCG又はGCAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGACであり、前記arRNAの前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はGCGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGであり、前記arRNAは前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基であるCCG、CCA、CCC、UCC又はUCGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGAGであり、前記arRNA中の前記3塩基モチーフに直接対向する3連続相補的塩基はCCGである。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、前記標的RNA中の非標的アデノシンにそれぞれ対向する1つ以上のミスマッチを含む。
【0072】
本発明に係るarRNAによれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAが標的とする標的RNA中の3塩基モチーフ中の標的残基は標的シチジン(C)と呼ばれるシチジンであってもよい。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はG、C、A及びUから選択されるヌクレオチドであり、好ましくは、G>C>A≒Uの順である。いくつかの実施形態では、前記標的シチジンが位置する3塩基モチーフは、GCG、GCC、GCA、GCU、ACG、ACC、ACA、ACU、CCG、CCC、CCA、CCU、UCA、UCC、UCU、及びUCGから選択されるいずれかである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はGである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフの下流残基はAであり、前記相補的なRNA中の前記下流残基に対向する塩基はU又はAである。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはACAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUU又はGUUを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはACAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUUを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはUCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUA、GUA又はCUAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはUCAであり、前記相補的なRNA配列は、前記3塩基モチーフに対向するAUAを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は、前記3塩基モチーフに対向するUUG又はUCGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は、前記3塩基モチーフに対向するUUGを含む。いくつかの実施形態では、前記3塩基モチーフはCCAであり、前記相補的なRNA配列は、前記3塩基モチーフに対向するAUGを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、標的RNAの標的残基に対応する位置に、標的残基とのミスマッチを形成するための非対合ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の前記標的RNAとハイブリダイズし得る相補的なRNA配列は、前記標的RNA中の前記標的シチジンに直接対向するシチジン、アデノシン又はウリジンを含む。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は、前記標的シチジンに直接対向するシチジンを含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、標的RNAの非標的部位との1つ以上のミスマッチを形成するために、標的RNAに対応する非標的編集部位に1つ以上の非対合ヌクレオチドを含む。
【0073】
本発明に係るarRNAによれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAは一本鎖RNAである。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列は完全に一本鎖である。いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上の(例えば、1、2、3又はそれ以上の)の二本鎖領域と、1つ以上のステムループ領域と、を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上の(例えば、1、2、3又はそれ以上の)の二本鎖領域を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上の(例えば、1、2、3又はそれ以上の)のステムループ領域を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、ADAR酵素をリクルートするための分子内ステムループ構造を形成することができる領域を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAは、ADAR酵素をリクルートするための分子内ステムループ構造を形成し得る領域を含まない。いくつかの実施形態では、前記arRNAは前記相補的なRNA配列のみからなる。
【0074】
本発明に係るarRNAによれば、いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列が標的配列とハイブリダイズするとき、1つ以上のゆらぎ対合が生じてもよい。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列が標的配列とハイブリダイズするとき、1つ以上の片側突起が生じてもよい。いくつかの実施形態では、前記相補的なRNA配列が標的配列とハイブリダイズするとき、1つ以上のゆらぎ対合及び1つ以上の片側突起が生じてもよい。
【0075】
本発明に係るarRNAによれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAの長さは約20~260ヌクレオチドであり、例えば、前記arRNAの長さは、約30、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200又はそれ以上のヌクレオチド以上のいずれかである。いくつかの実施形態では、相補的なRNA配列の長さは、40~260、45~250、50~240、60~230、65~220、70~220、70~210、70~200、70~190、70~180、70~170、70~ 160、70~150、70~140、70~130、70~120、70~110、70~100、70~90、70~80、75~200、80~190、85~180、90~170、95~160、100~200、100~150、100~175、110~200、110~175、110~150又は105~140ヌクレオチドのうちのいずれかである。いくつかの実施形態では、前記arRNAの長さは約60~200ヌクレオチド(例えば、約60~150、65~140、68~130、70~120のいずれか)である。いくつかの実施形態では、前記arRNAはADARリクルートドメインも含む。
【0076】
本発明に係るarRNAによれば、いくつかの実施形態では、前記arRNAは1つ以上の化学的修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記化学的修飾はメチル化及び/又はチオリン酸化、例えば、2’-O-メチル化(2’-O-Me)及び/又はヌクレオチド間チオリン酸エステル結合を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAの首尾の3個又は5個のヌクレオチドは2’-O-Me修飾を含み、及び/又はその首尾の3個又は5個のヌクレオチド間の結合はチオリン酸エステル結合修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中のウリジンの1つ以上又はすべてが2’-O-Me修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の標的ヌクレオシド及び/又は標的ヌクレオシドの5’末端/又は3’末端に隣接するヌクレオシド(例えば、5’末端/又は3’末端に直接隣接する1つ又は2つのヌクレオシド)は2’-O-Me修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNA中の標的ヌクレオシド及び/又は標的ヌクレオシドの5’末端及び/又は3’末端に隣接するヌクレオシド(例えば、5’末端及び/又は3’末端に直接隣接する1つ又は2つのヌクレオシド)は、3’-チオリン酸エステル結合修飾を含む。いくつかの実施形態では、前記arRNAはいかなる化学的修飾も含まない。
【0077】
本発明はまた、本発明に係る上記のいずれかのarRNAを含むウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖であって、前記arRNAはいかなる化学的修飾も含まない、ウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を提供する。本発明はまた、本発明に係る上記のいずれかのarRNA、又は本発明に係る上記のいずれかのウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含むライブラリーを提供する。本発明はまた、本発明に係る上記のいずれかのarRNA、又は本発明に係る上記のいずれかのウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含む組成物を提供する。本発明はまた、本発明に係る上記のいずれかのarRNA、又は本発明に係る上記のいずれかのウイルスベクター、プラスミド又は線状核酸鎖を含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態では、本発明に係る上記のいずれかのarRNAを含む前記宿主細胞は真核細胞である。
【実施例】
【0078】
LEAPER技術経路(WO2020074001A1)を参照して、標的アデノシン(A)を含む標的RNAと部分的又は完全に相補的なarRNAに外来的に導入し、このRNAを利用して内因性ADARをリクルートして、標的Aに対してAからIへの編集を行った。前記arRNAはインビトロで合成され、長さが71nt~111ntである。
図4に示すように、LEAPERのようなADARタンパク質又はその機能ドメインを用いた従来編集技術で使用されているADARタンパク質リクルートRNAよりも、本発明で使用される、arRNA中の標的配列中の3塩基モチーフに直接対向する3塩基は前記3塩基モチーフに対する相補性が弱く、すなわち、標的Aとのミスマッチに加えて、arRNA中の3塩基モチーフに直接対向する3塩基には、上流残基及び/又は下流残基とミスマッチした塩基が含まれている。この変更は、トリプレット選好性を打破し、ADARを用いた従来及び将来の編集方法が、上流残基がGである3塩基モチーフ又は他のUAG以外の3塩基モチーフを、より自由かつ効率的に編集することを可能にする。
【0079】
実施例1:3塩基モチーフレポーターシステム及び対応するarRNAの構築
まず、16種類の3塩基モチーフを含むレポーターシステムを構築した。LEAPERの文献では、3塩基モチーフがUAGの場合の編集効率の違いをテストしたため(Qu et al., 2019)、本実施例では、対照の一致性を保つために、arRNAのうち編集部位以外の相補対合が可能な部分は
図5に示すようにLEAPER文献と同じ配列設計にした。原プラスミドReporter1は北京大学生命科学学院の魏文勝教授から贈呈され、プラスミドマップは
図14に示され、前記プラスミドは表4に示す配列を含む。表1に示す16種類の3塩基モチーフ関連プライマーを合成し、「J.サムブルック、M.R.グリーン、分子クローン実験ガイドライン(第4版),2017」に記載の、当分野の研究者によく知られている手法に基づいて、表2に示す材料を用いてPCR増幅(Q5(登録商標) High-Fidelity 2X Master Mix,NEB M0492L)、酵素切断(XbaI,NEB R0145L;AscI,NEB R0558L)、アガロースゲル回収(Seakem LE アガロース, Lonza 5502; GeneJET Gel Extraction and DNA Cleanup Micro Kit, Thermo Fisher K0832)及びアセンブリ(NEBuilder(登録商標) HiFi DNA Assembly Master Mix, NEB E2621L)を行い、Reporter1の元の標的RNAコード配列の代わりにReporter1に組み込み、その後、コンピテント細胞(Trans1-T1 Phage Resistant Chemically Competent Cell、TransGen Biotech社製のCD501-02)に形質転換し、翌日クローンを取り出してシーケンシングを行った。シーケンシングの結果が正しいクローンについてプラスミド抽出を行い、レチノウイルスとしてパッケージングした。異なる3塩基モチーフをコードする遺伝子がパッケージングされたこれらのレチノウイルスを用いて、293T細胞をそれぞれ感染させた。感染48時間後、異なる3塩基モチーフを含むmRNA(標的RNA)をそれぞれ転写できる16種類の293T細胞を得て、すなわち、最終的な3塩基モチーフレポーターシステム細胞を得て、それらの命名は表2に示す3塩基モチーフと同じである。
【0080】
arRNA中の3塩基モチーフの上流残基及び/又は下流残基とのミスマッチが、その中のある特定の3塩基モチーフに対する編集効率を向上させることができるか否かをテストするために、本実施例では、化学合成により16種類のarRNAを合成したが、設計原則はmRNAにおける3塩基モチーフ中の標的Aの3’下流55ntから5’上流25ntまでのRNA断片をとり、一本鎖RNAを逆相補することであり、ここで、3塩基モチーフ中の標的Aに対応する塩基はCである。arRNAにおける他の塩基が変化しない場合、上流残基及び下流残基に対応する塩基がそれぞれA、C、G又はUから選ばれる1つであり、上流残基に対応するこれら4種類の塩基と下流残基に対応するこれら4種類の塩基との異なる組み合わせにより4×4=16種類のarRNAが得られた。その具体的な配列を表3に示す。
【0081】
実施例2:各arRNAによるUAG3塩基モチーフの編集効率のGFP陽性割合での比較
図5に示すように、実施例1に記載の16種類の標的RNAは、標的配列の3’末端にGFP緑色蛍光タンパク質核酸配列を有する。この配列は正常であれば正しく翻訳され、緑色蛍光を発光することができる。しかし、3塩基モチーフがUAGの場合、UAGは終止コドンであるため、翻訳がそこで停止し、GFPへの翻訳ができなくなる。本実施例では、UAG3塩基モチーフのAをLEAPERシステムで編集する。編集が成功すると、UAGはUIGに変換され、UIGは翻訳中にUGGとして認識され、翻訳が終了しなくなり、下流のGFPが正常に翻訳されるようになる。したがって、GFP陽性割合から、各arRNAの編集効率を大まかに判断することができる。
【0082】
本研究のすべてのテストはRNAi MAX試薬(Invitrogen 13778150)を使用して、実施例1に記載の16種類のarRNAをそれぞれ細胞にトランスフェクションし、具体的なステップは以下のとおりである。
I.細胞培養には10%FBS(Vistech SE100-011)を含有するDMEM(Hyclone SH30243.01)を用いた。レポーターシステム細胞は150000細胞/ウェルで12ウェルプレートに接種した。この時点を0時とした。
II.細胞継代後24時間、RNAi MAX試薬(Invitrogen 13778150)を用いて12.5pmolのarRNAを各ウェルにトランスフェクションした。トランスフェクションのステップはサプライヤーの取扱書を参照する。
III.細胞継代後72時間、トリプシン(Invitrogen 25300054)を用いて各ウェルの細胞をそれぞれ消化し、フローサイトメータでFITCチャネル強度を解析した。
【0083】
前記細胞はUAG3塩基モチーフを含むmRNAを転写する293T細胞である。arRNAで細胞を72時間(トランスフェクション後48時間)培養して、フローサイトメータでFITCチャネル強度を解析した。結果を
図7に示し、ここで、UTは何もトランスフェクションしない対照であり、VechはRNAi MAXトランスフェクション試薬を加えるが何のdRNAもトランスフェクションしない対照である。
【0084】
その後、この実験を繰り返した。
【0085】
実験結果を
図8に示す。1回目の実験では、arRNAは乾燥粉末を直接溶解し、溶解後-80℃で保存した。繰り返し実験では、arRNAは-80℃での一回凍結融解を経たため、全体的な効率は多少低下したが、最初のテストと比べ、結果の全体的な傾向は変わらなかった。ここで、arRNA
RanはランダムRNA配列をトランスフェクションした対照である。
【0086】
従来技術では、本実施例と同様のレポーターシステムを用いたLEAPERシステムによるUAG3塩基モチーフの編集効率の結果を
図9に示す(Qu et al., 2019)。
図9においては、横軸番号はarRNA配列名であり、
図7、
図8における横軸名の添字部分に対応している。比較の便宜上、
図7、
図8におけるarRNAと
図9におけるarRNAの並び順は一致している。本実施例では、化学合成されたarRNAをトランスフェクションに用いているが、
図9ではプラスミドトランスフェクションを用いているので、本実施例では、全体的な編集効率は高いが、
図9の全体的な傾向と同様である。すなわち、3塩基モチーフがUAGである場合、arRNA中の標的Aに対応する塩基がCであり、上流残基Uと下流残基Gに対応する塩基がそれぞれUとGと対合するAとCであるとき、最も効率が高く、すなわち、対応するarRNAはarRNA
CCAである。一方、3塩基モチーフがUAGである場合、arRNAにおいてその上流残基Uと下流残基Gに対応する塩基が他の非対合塩基である場合、編集効率は著しく向上するどころか、逆に低下する。
【0087】
UAG3塩基モチーフの編集については、本実施例における研究結果は、arRNAにおいて3塩基モチーフに対応する3塩基に非マッチング部分を多く導入することで編集効率を向上させることができないという文献報告とほぼ一致している。
【0088】
実施例3:GAN3塩基モチーフのRNA編集効率の測定
本実施例では、UAG、GAA、GAU、GAC、GAGの3塩基モチーフをそれぞれ含むレポーターシステム細胞に対して、それぞれ16種類のarRNAをトランスフェクションしたが、トランスフェクションのステップは実施例2と同じである。
【0089】
72h(トランスフェクション後48h)後、TRIZOLでサンプルを収集し、RNAを抽出し(TRIzol Reagent,ambion REF15596026)、RNA 1μgを取って逆転写し、逆転写系(TransScript(登録商標) One-Step gDNA Removal and cDNA Synthesis SuperMix,TransGen Biotech社製 AT311-02)は20μLであった。逆転写産物1μLを取り、以下のプライマー対を用いて、ggagtgagtacggtgtgcGACGAGCTGTACAAGCTGCAGGG(SEQ ID NO: 1)、gagttggatgctggatggTGGTGCAGATGAACTTCAGGGTCAG(SEQ ID NO: 2)(小文字はHi-Tomキットで要求されたプライマーリンカーを表す)PCR増幅を行い、Hi-Tomキットでライブラリーを構築した(ノボジーン社、REFPT045)。
【0090】
その後、次のようなステップで次世代シーケンシングを行い、編集部位におけるA->Gの編集効率を解析した。
【0091】
i.Illuminaシーケンシング
構築した配列ライブラリーについて、NovaSeq6000プラットフォームを通じてPE150方式でハイスループットシーケンシングを行った。
【0092】
ii.シーケンシングデータ処理
ハイスループットシーケンシングで得られた生データをfastp(v0.19.6)で品質制御を行い、低品質配列、リンガー付き配列、polyGなどを含む配列をフィルタリングした。得られた高品質シーケンシングデータについて、独自に開発した分割スクリプトを用いて、対応するbarcode配列に従って各サンプルに分割された。BWA(v0.7.17-r1188)ソフトウェアを使用して増幅されたターゲット領域の配列と照合し、SAMtools(v1.9)によるフォーマット変換でBAMファイルを生成し、照合情報を統計し、予め並べ替えてインデックスを作成した。
【0093】
iii.編集効率解析
JACUSA(v1.3.0)ソフトウェアを用いてすべての潜在的なRNA編集部位を検出し、使用されるパラメータはcall-1 -a B,R,D,I,Y,M:4 -C ACGT -c 2 -p 1 -P UNSTRANDED -R -u DirMult-CEである。対照サンプルと処理サンプルの両方に出現する高頻度点突然変異をフィルタリングした後、A->G突然変異以外の平均突然変異頻度の3倍を閾値とし、編集部位のうちA->G突然変異頻度が閾値を上回る部分を真の標的AのGへの突然変異頻度とした。
【0094】
UAG3塩基モチーフに対する実験結果を
図10に示す。図から明らかなように、編集効率が最も高いのは従来技術で報告された原則に従って設計されたarRNA配列、すなわち標的塩基のみにミスマッチがあるarRNA
CCAである。これは、これまでのGFP実験の結果と一致している。
【0095】
一方、従来技術では、編集効率が極めて低い3塩基モチーフ:GAN(但し、Nは4種類のリボヌクレオチドのうちのいずれかである)に対して、本発明のarRNA設計方式は予想外の編集効率を示し、結果は
図11に示される。本発明のarRNA設計方式は、特にGAUに対する効率が顕著である。mRNA配列に含まれる3塩基モチーフがGAUである場合、従来技術の一般的な方法に基づいて設計されたarRNA
ACCは編集効率がほとんどないが、これは文献の報告と一致している。しかし、相補性を弱めると、arRNA中の3塩基モチーフ中の5’上流残基Gに対向する塩基が非対合塩基、すなわちC以外の他の塩基、例えばarRNA
ACGを用いるときであっても、編集効率を大幅に向上させることができる。
図11Aに示すように、前記向上の幅は従来技術に既存の設計(arRNA
ACC)の10倍を超えるのに対し、従来技術に基づいて設計されたarRNA
ACCはこれまでの報告と一致しており、編集効率が極めて低い。また、3塩基モチーフGAUに対しては、本例におけるarRNA
ACA、arRNA
CCU、arRNA
UCCなど、3塩基モチーフとの相補性を適切に弱めたarRNA
ACC設計は、従来技術に既存の設計arRNAよりも、明らかにより高い編集効率を示す。なお、3塩基モチーフGAUについて、arRNA中の標的Aに対向する塩基がC、下流残基に対向する塩基が下流残基Uの相補的塩基A、上流残基Gに対向するミスマッチ塩基がGである場合(すなわち、arRNA
ACG)、効率が最も高い。
【0096】
同様に、3塩基モチーフGACに対しても、3塩基モチーフとの相補性を適切に弱めたarRNAも予想外に高い編集効率を示した。
図11Cの棒グラフに示すように、従来技術に既存の原則に基づいて設計されたarRNA
GCCは編集効率がほとんどなく、より多くのミスマッチが導入されているarRNA
GCG及びarRNA
GCAは編集効率が大幅に向上した。さらに、3塩基モチーフGACに対しては、arRNA中の標的Aに対向する塩基がC、下流残基に対向する塩基が下流残基Cの相補的塩基G、上流残基Gに対向する塩基がミスマッチ塩基Gである場合(すなわち、arRNA
GCG)は、効率が最も高い。
【0097】
これと同様に、3塩基モチーフGAGの編集(
図11B)において、従来技術に既存パターンに従って設計されたarRNA
CCCは効率が最も高いものではなく、相補性を適切に弱めたarRNA
CCG及びarRNA
CCAの方は編集効率が格段に高い。前述の3塩基モチーフGAUとGACの場合と同様に、3塩基モチーフGAGに対しては、arRNA中の標的Aに対向する塩基がC、下流残基に対向する塩基が下流残基Gの相補的塩基C、上流残基Gに対向する塩基がミスマッチ塩基Gである場合(すなわち、arRNA
CCG)は効率が最も高い。
【0098】
同様に、GAAについては、従来技術に既存のパターンに従って設計されたarRNAUCCは編集効率が高くないが、arRNA中の標的Aに対向する塩基がC、下流残基Aに対向する塩基が相補的塩基U、上流残基Gに対向する塩基がミスマッチ塩基Aである場合、すなわちarRNAUCAの場合は、編集効率が向上する。
【0099】
以上の結果をさらに確認するために、mRNAがGAA、GAU、GAC、GAGの3塩基モチーフである場合について実験を繰り返した。繰り返し実験では、特定の3塩基モチーフごとに、3種類のarRNA設計のみを繰り返した。
【0100】
1.既存技術に従って設計されたarRNA、すなわち標的Aに対向する塩基はCであり、残りの2つの塩基の設計はいずれも塩基相補対合の原則に合致し、この場合、標的Aの上流残基Gと対合する塩基はCである。
2.本発明の設計に従って、標的Aの上流残基Gと対合する塩基をAとする。
3.本発明の設計に従って、標的Aの上流残基Gと対合する塩基をGとする。
【0101】
図13に示すように、3塩基モチーフがGAA、GAU、GAC、GAGのいずれであっても、標的残基Aの上流残基Gと対合する塩基がAである場合、編集効率がある程度向上し、一方、標的残基Aの上流残基Gと対合する塩基がGである場合、編集効率が最も高いことが明らかになった。さらに、標的残基Aの上流残基Gの対合塩基を既存技術のCからGに変更した場合、各3塩基モチーフに対する効率向上の倍数はGAU>GAC≒GAA>GAGとなる。一方、標的残基Aの上流残基Gと対合する塩基を従来技術のCからAに変更した場合、各3塩基モチーフに対する効率向上の倍数はGAC>GAU≒GAG≒GAAである。
【0102】
従来技術の文献報告によると、3塩基配列GAU、GAC、GAAは編集効率が最も弱い3つであり、しかも効率はゼロに近いため(
図3)、RNA編集の過程では、できるだけ避けるべきである。本発明では、3塩基モチーフに対するより多くのミスマッチ塩基をarRNAに革新的に導入することにより、この制限を打破した。本発明の実施例によれば、arRNA中の3塩基モチーフに対向する3塩基のうち、標的Aに対向する塩基がCであり、上流及び/又は下流残基に対向する塩基がミスマッチ塩基である場合、編集効率は大幅に向上し得る。また、上流残基がGの場合には、下流残基に対向する塩基が相補的塩基であることが多いが、上流残基Gに対向するものがミスマッチ塩基Aの場合、編集効率が高く、上流残基Gに対向するものがミスマッチ塩基Gの場合、編集効率が最も高くなる。
【0103】
実施例4:CからUへのRNA編集のトリプレット選好性の研究
i.突然変異型ADAR2-r16-293Tの構築
RESUCE技術(WO2019071048A9)を参照して、ADAR2触媒ドメインの突然変異誘発を行い、突然変異部位はこの文献のr16と同じである(dADAR2(E488Q、V351G、S486A、T375S、S370C、P462A、N597I、L332I、I398V、K350I、M383L、D619G、S582T、V440I、S495N、K418E、S661T) r16, https://benchling.com/s/seq-19Ytwwh0i0vSIbyXYZ95)。従来のDNA合成技術によって、pLenti-ADAR2プラスミドベクター(pLenti-ADAR2プラスミド骨格は魏文勝教授の実験室から恵贈)のADAR2 XmaI酵素切断部位からAscI酵素切断部位までの間の配列をインビトでDNA合成し、上記の突然変異を含め、上記2つの制限酵素によって、原プラスミドpLenti-ADAR2における対応する断片を酵素切断結合により新たに合成したDNA断片に置き換え、置換後のプラスミドをpLenti-ADAR2-r16と命名し、それにRESCUE技術(WO2019071048A9)を参照して触媒ドメインを突然変異した、ADAR2-r16と命名したADAR2遺伝子を含む。ADAR2-r16全長cDNA配列は表6のとおりである。次世代レンチウイルスパッケージングジシステム(pCAG-VSVG はArthur Nienhuis & Patrick Salmon から恵贈(Addgene plasmid # 35616 ; http://n2t.net/addgene:35616 ; RRID:Addgene_35616); pCMVR8.74 は Didier Tronoから惠贈 (Addgene plasmid # 22036 ; http://n2t.net/addgene:22036 ; RRID:Addgene_22036))によって、pLenti-ADAR2-r16をレンチウイルスにパッケージングし、293T細胞に感染させ、48時間後に10μg/mL最終濃度のBlasticidin(Solarbio B9300)で耐性スクリーニングを行った。スクリーニング後に生存する細胞をADAR2-r16-293Tとした。
【0104】
ii.BFPレポーターシステムの構築
BFPレポーターシステムは参考文献(Vu, L. T., Nguyen, T. T. K., Md Thoufic, A. A., Suzuki, H., & Tsukahara, T. (2016). Chemical RNA editing for genetic restoration: the relationship between the structure and deamination efficiency of carboxyvinyldeoxyuridine oligodeoxynucleotides. Chemical biology & drug design, 87(4), 583-593)を参照して構築し、すべてのBFPcDNA配列はインビトロでDNA合成され、具体的な配列は表7に示される。BFP cDNA配列はCMVプロモーターよりも後のマルチクローニング部位を通じてpCDH-CMVプラスミドベクターにクローニングされた(pCDH-CMVプラスミド骨格はKazuhiro Okaから恵贈、Addgene plasmid # 72265; http://n2t.net/addgene:72265; RRID: Addgene_72265)。レポーターシステムのCからUへの編集部位はBFP配列の199位の塩基Cであり、199位、200位、201位はCACであり、66位のヒスチジンに対応している。
該配列は198位、199位、200位の塩基が順にCCAであり、BFP-CCAと命名され、C*と略称される。199位の塩基CをRNAレベルで脱アミノ化してUに編集すると、66位のアミノ酸が変わり、BFP蛍光タンパク質が従来の青色蛍光から緑色蛍光に変わり、これによって、フローサイトメータFITC(Fluorescein isothiocyanate)でチャネルシグナルを検出できる。一方、198位ヌクレオチドはCからA、T、Gに突然変異した後、それがコードに関与する65位アミノ酸コドンACC、ACA、ACT、ACGがすべてトレオニンをコードするため、この位の突然変異は同義突然変異である。これにより、このレポーターシステムは、mRNAにおける199位標的残基の上流残基が異なる塩基である場合、CからUへの編集の効率を同時に測定し、比較することができる。部位特異的突然変異誘発キット(Q5(登録商標) Site-Directed Mutagenesis Kit, NEB E0554S)を用いて198位の塩基に突然変異を導入し、198位、199位、200位の3つの位置の塩基については、GCAである場合をBFP-GCAと命名し、略語をG*とし、ACAである場合をBFP-ACAと命名し、略語をA*とし、TCAである場合をBFP-TCAと命名し、略語をT*とした。199位のCはTに突然変異し、CTAの場合、BFP-CUAと命名し、略語をCUAとした。上記で構築したBFP-GCA、BFP-ACA、BFP-TCA、BFP-CCAの4種類のプラスミドを次世代レンチウイルスパッケージングシステム(前述のADAR2-r16レンチウイルスパッケージング条件と同じ)によりレンチウイルスにパッケージングした。293TやADAR2-r16-293Tを感染させ、48h後に500μg/mLのGeneticin(Gibco,Catalog number:10131035)や10μg/mL最終濃度のBlasticidin(Solarbio B9300)で耐性スクリーニングを行い、スクリーニング後に生存する細胞をそれぞれ293T-GCA、293T-ACA、293T-TCA、293T-CCAとADAR2-r16-GCA、ADAR2-r16-ACA、ADAR2-r16-TCA、ADAR2-r16-CCAと命名した。
【0105】
iii.arRNAの設計合成
本実施例においては、「arRNA」という用語は、本明細書におけるすべての「dRNA」という用語と同じ意味を有し、交換して使用することができる。本実施例では、arRNAは、3塩基モチーフ中の標的残基に対向する塩基がarRNAの中間に位置し、5’上流及び3’下流が同じ長さで両側に延びている。本実施例では、合成長の制限から、まず、長さが91ntのRNAを選択してインビトロ合成を行い、46位のヌクレオチド(標的塩基)の違いに応じて、46位のヌクレオチドがそれぞれA、U、G、Cである場合、合成された4種類のarRNAをそれぞれA*、U*、G*、C*と略称した。合成された4種類のarRNAの具体的な配列は次の表5に示す。LEAPER技術設計方法(WO2020074001A1)とは異なり、本実験では、4本のarRNAの設計は標的残基Cに対向する標的塩基、すなわち46位のA、U、G、Cのみを変化させたが、arRNAの47位(レポーターシステムの198位に対応する)の塩基は4本のarRNAではすべて突然変異導入前のBFP配列すなわちCCAに従って設計された。その後、3塩基モチーフの標的残基がシチジンであり、‘下流残基がアデノシンである場合、それぞれ異なる3連続相補的塩基を含むarRNAを合成し、具体的な配列を表8に示す。arRNAの46位のヌクレオチドはUに固定されており、45位、47位のヌクレオチドはそれぞれA、U、G、Cであるため、合計16種類がある。各arRNAは以下の原則に基づいて命名する。すべてのarRNA命名は「arRNA」で始まり、以降、下付き文字の方式でarRNAの3連続相補的塩基を示す。mRNA標的残基Cに対応するarRNA標的塩基がUであることに基づいて、3連続相補的塩基が表示され、前記3連続相補的塩基の表示順序は5’-3’である。例えば、arRNAは、3塩基モチーフCCAに対して、標的残基Cの上流残基がCであり、対応するarRNAの標的塩基の3’最近傍残基がGであり、標的残基Cに対応するarRNA標的塩基がUであり、標的残基Cの下流残基がAであり、対応するarRNAの標的塩基の5’最近傍残基がUであれば、arRNAに含まれる3連続相補的塩基はUUGであり、このとき、命名規則により、このアンチセンスRNAはarRNAUUGと命名される。第1ロットで合成されたA*、U*、G*、C*の4種類のarRNAと第2ロットで合成された16種類のRNAの命名規則の統一を行うため、第1ロットで合成されたA*、U*、G*、C*の4種類のarRNAはその後の実験でそれぞれarRNAUAG、arRNAUUG、arRNAUGG、arRNAUCGと命名された。なお、2回の実験では、最初に合成されたarRNAUUGと2回目に合成されたarRNAUUGは、2本の配列がまったく同じであるが、2つの異なるロットで合成された。
【0106】
iv.標的Cに対向するアンチセンスRNAのテスト
ADAR2-r16-293Tを300000個の細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに接種し、接種してから24時間後、Lipofectamine(登録商標) 3000 Transfection Reagentでトランスフェクションし(Invitrogen,Catalog number:L3000015)、トランスフェクションのステップは取扱書に従って行い、取扱書に従って異なるLipofectamine 3000トランスフェクション試薬濃度を用いて繰り返し試験を2回行い、Repeat1は3.75μL、Repeat2は7.5μLのウェル当たりトランスフェクション試薬濃度とした。ウェルあたり、BFP及び関連プラスミド、すなわちBFP-GCA(G*と略称)、BFP-ACA(A*と略称)、BFP-TCA(T*と略称)、BFP-CUA(CUAと略称)を2.5μg添加し、合成したガイドRNAを25pmol添加し、トランスフェクション後48h、FACSによりFITCチャンネルのシグナル強度を検出した。陽性細胞平均蛍光強度(MFI:Mean Fluorescent Intensity)の統計結果を
図15に示す。
図15では、mRNA列は対応するウェルに添加されたBFPレポータープラスミドを示し、arRNA列は対応するウェルに添加されたarRNAを示している。BFPレポートシステムでは、198、199、200の3塩基は元の配列ではCCAであり、一方、198位のCがA、T又はGに変更されると、いずれも65位のアミノ酸はトレオニンになるので、BFP-GCA、BFP-CCA、BFP-ACA、BFP-TCAの4種類の異なるレポーターシステムでは、198位の違いは本来のタンパク質機能の変化をもたらさない。
図15に示すように、arRNAを何も加えない場合、レポーターシステムのバックグラウンドGFPシグナルMFIは約5×10
4である(レポーターシステムはU*、arRNAは/と表記されており、レポーターシステムはA*、arRNAは/と表記されている)。一方、DNAレベルの点突然変異により、199位のCをTに変異させた場合(mRNA中の3塩基モチーフはCUA)、GFPシグナルMFIは約2.4×10
6~3.1×10
6となり、バックグラウンド値の約100倍の高値になる。したがって、199位のCがRNAレベルですべてUになると、GFPシグナルMFIは約100倍上昇することが示された。
一方、arRNAを添加すると、DNAレベルで199位のCを不変とした上で、
図15に示すように、最終的なGFPシグナルMFIは最大5×10
5を超えるまで向上することができ、蛍光強度は199位のC点がTに変異した後の蛍光強度の約20%であった。この編集能力及び塩基選好性をさらに決定するために、以上の実験をさらに設計して繰り返し、その結果を
図16に示し、実験条件は、繰り返し1と繰り返し2の両方に3.75μLのトランスフェクション試薬を用いた以外、
図15の実験とほぼ一致した。すなわち、3塩基モチーフがGCAとCCAである場合、対応するarRNAがU^(arRNA
UUG)の場合の効率はC^(arRNA
UCG)の場合の効率よりも高い。
図15と比較すると、
図16では、同じ実験条件では、MFIは2倍近く低下しているが、これは、
図15ではarRNAを乾燥粉末で溶解した直後に実験しているのに対し、
図16では
図15の実験用のarRNA溶液を-80℃で一度凍結融解してから実験しているためである。ただし、最大値は
図15より低くなっているが、
図16の実験は、
図15の最も編集効率の高い4つの結果をほぼ再現したものであり、効率は同じ傾向にあることが分かった。本実施例の試験設計条件では、arRNA中の3連続相補的塩基の5’末端塩基をU、3’末端塩基をGに固定して、3連続相補的塩基中の標的Cに対向する塩基のみに重点を置いて研究を行った結果、3連続相補的塩基の中間残基U^>C^の編集効率という結論が得られ、3塩基モチーフ中の上流残基を変化させると、出願人は3塩基モチーフGCAの最高編集効率がCCAの最高効率より大きいことを発見した。
【0107】
v.トリプレット選好性テスト
その後の結果の一致性を向上させるために、ii.BFPレポーターシステムの構築に記載されているように、出願人は、BFP-GCA、BFP-ACA、BFP-TCA、BFP-CCAの4種類のプラスミドを、レンチウイルスパッケージングによりADAR2-r16のない一般的な293T、及びADAR2-r16を安定的に組み込んだ293Tに組み込み、ステップと命名はii.BFPレポーターシステムの構築を参照した。レポーターシステムはすでに細胞ゲノムに組み込まれているため、トリプレット選好性テストでのarRNAのトランスフェクションと標的Cに対向するアンチセンスRNAテストでのarRNAのトランスフェクションは異なるトランスフェクション試薬を採用した。標的Cに対向するアンチセンスRNAテストでのarRNAのトランスフェクションはプラスミドを同時にトランスフェクションする必要があるため、以上のようにLipofectamine 3000を採用し、トリプレット選好性テストでは、arRNAをトランスフェクションするだけでよく、トランスフェクションプラスミドが不要であるため、Lipofectamine(登録商標) RNAiMAX Transfection Reagent(Invitrogen,Catalog number:13778100)を採用した。異なるレポーターシステムを持つ293T又はADAR2-r16-293Tを、150000個の細胞/ウェルの密度で12ウェルに接種し、接種後24時間、RNAiMAX試薬で15pmolのarRNAをトランスフェクションし、トランスフェクション後48h、FACSによりFITCチャンネルのシグナル強度を検出し、GFP+細胞の割合を統計した。
arRNAの3連続相補的塩基に標的Cとのミスマッチだけがあり、しかも標的Cに対応するミスマッチ塩基がUであり、標的Cの上流残基と下流残基と完全にマッチングしている場合(すなわち、レポーターシステムがBFP-GCAの場合、arRNAにおいてそれに相補的な3連続相補的塩基はUUCであり、レポーターシステムがBFP-ACAの場合、arRNAにおいてそれに相補的な3連続相補的塩基はUUUであり、レポーターシステムがBFP-TCAの場合、arRNAにおいてそれに相補的な3連続相補的塩基はUUAであり、レポーターシステムがBFP-CCAの場合、arRNAにおいてそれに相補的な3連続相補的塩基はUUGである)、テスト結果を
図17に示す。図においては、未処理はarRNAを添加しない対照、ランダムRNA配列はランダム配列RNAを91nt添加した対照(具体的な配列は表8 Ran-91を参照)、arRNAは上記の規則でマッチングした対応arRNAを添加したものを表す。
図17より、3連続塩基がTCAやACAの場合、このシステムは編集効率が高く、3連続塩基がGCAやCCAの場合、編集効率はゼロに近いことが分かった。
3連続塩基のテスト結果は本研究に大きな迷惑を与えた。
図15のテストでは、標的CがA、U、C、Gの4種類の異なる塩基に対応する場合を含んでいるが、
図17のテストでは、Cが全てUに対合するので、
図15に対応する実験でarRNA標的Cに対応する塩基がUの場合のデータを個別に抽出して図を再度作成して、
図18とした。
図17と比較すると、2回の実験の結論には明らかな矛盾が見られる。両図の統計方式は一致していないが、同バッチ実験での傾向は明らかに異なり、
図15のデータから作り直した図では、明らかにGCAとCCAの効率が高く、
図17では、明らかにTCAとACAの効率が高い。
【0108】
vi.編集部位の5’上流の非マッチングの予期しない発見
2回の実験結果の矛盾は、我々の予想を完全に裏切ったものであった。何度も繰り返したり2回のarRNAを詳細に比較したりしたところ、意外に2回の実験中のRNA設計の微妙な違いを発見し、再現させた。
図19Aに示すように、
図18で用いたmRNA3塩基モチーフとarRNA3連続相補的塩基との対合関係を示し、
図19Bには、
図17で用いたmRNA3塩基モチーフとarRNA3連続相補的塩基との対合関係を示す。比較すると、両者の違いは、前者(
図19A)は標的Cの上流残基に対向するarRNA塩基がGであり、標的Cの上流残基がCの場合以外は上流残基とarRNAがミスマッチを形成しており、一方、後者(
図19B)は標的Cの上流残基に対向するarRNA塩基がすべて厳密に相補的塩基であることにある。したがって、これらの矛盾の原因は、3連続相補的塩基の上流残基とarRNAとのミスマッチがトリプレット選好性の変化に繋がると推測される。
以上の推測をさらに検証するために、iv.標的Cに対向するアンチセンスRNAテストで合成されたarRNAと、v.トリプレット選好性テストで合成されたarRNAを合わせてテストを行い、またGFPパーセンテージとMFIを統計した。テスト条件は、v.トリプレット選好性テストと完全に一致した。ここでは、
図20及び
図21では、上段の図はいずれもiv.標的Cに対向するアンチセンスRNAテストで合成されたarRNAのテスト結果であり、下断の図はいずれもv.トリプレット選好性テストで合成されたarRNAのテスト結果である。対応するarRNAの添加は上記のiv、vの2回テストと同じにした。
図20(%GFP)、
図21(MFI)に示すように、繰り返し1と繰り返し2は独立した2回の実験である。
図20と
図21から、両図は統計方式が異なるにもかかわらず、類似の傾向を持っていることがわかった。上段の図では、GCAとCCAは高い編集効率を持っているが、TCAとACAは低い効率を持っており、これはiv.標的Cに対向するアンチセンスRNAテストの結論と一致している。下段の図では、TCAとACAの方は効率が高い一方、GCAとCCAは効率がほぼゼロであり、これはv.トリプレット選好性テストの結果と一致している。したがって、一見矛盾しているように見える2つの結論は、実際にはarRNAの設計方式の違いによるものであるという我々の推測が裏付けられた。GCAという3塩基モチーフについては、既存の技術でarRNAを設計すると編集効率がほぼゼロになるが、G-Gミスマッチを追加すると編集効率が著しく向上することも意外に発見された。
【0109】
以上の発見は、3塩基モチーフに他の非マッチング配列を導入することで、編集効率がさらに向上するのではないかということを示唆している。この示唆の下で、arRNA上の標的Cに対向する塩基がUであることを基にして、arRNA3連続相補的塩基と3塩基配列の標的塩基の上流残基及び/又は下流残基の対向位置により多くの突然変異を導入した。上流残基に対向する塩基はA、U、C、Gであってもよく、下流残基に対向する塩基はA、U、C、Gであってもよいので、その3連続相補的塩基は合計16種類、すなわち、AUA、AUU、AUC、AUG、UUA、UUU、UUC、UUG、CUA、CUU、CUC、CUG、GUA、GUU、GUC、GUGである。そこで、以上の16種類の3連続相補的塩基を含むarRNAを合成し、その3連続相補的塩基に基づいて16種類の対応するarRNAを命名し、具体的な配列を表8に示した。この16種類の異なるarRNAを、RNAiMAXを通じて以前に構築した8種類のレポーターを含む細胞株、すなわち、BFP-ACA-293TとBFP-ACA-293T-ADAR2-r16(
図22B);BFP-TCA-293TとBFP-TCA-293T-ADAR2-r16(
図22A);BFP-CCA-293TとBFP-CCA-293T-ADAR2-r16(
図22D);BFP-GCA-293TとBFP-GCA-293T-ADAR2-r16(
図22C)にトランスフェクションし、トランスフェクション条件、テスト時間は
図17における関連実験と同様であった。4つの図中の対照は同一のサンプルであり、「91ntランダム配列」は、ランダム配列91ntを添加した対照であり、「ベクターのみ」はRNAiMAXトランスフェクション試薬のみを添加しRNAを含まない対照、「Opti-DMEM培地」は同体積のOpti-DMEMのみを添加しRNAiMAXトランスフェクション試薬を含まない対照、「未処理」はトランスフェクションを行わない対照であり、ここで、arRNA
UAG、arRNA
UUG、arRNA
UCG、arRNA
UGGは、それぞれCCA-arRNA
UAG、CCA-arRNA
UUG、CCA-arRNA
UCG、CCA-arRNA
UGGと完全に同一の配列を持つが、2つの異なるロットで合成された。
【0110】
図22に示すように、複数のミスマッチを導入するための好ましい項目、すなわち、3塩基モチーフがACAである場合、arRNA中の3連続相補的塩基がAUU又はGUUである方が編集効率が高く、3連続相補的塩基がAUUである方が比較的に高く、3塩基モチーフがUCA(プラスミド中ではTCA)である場合、arRNA中の3連続相補的塩基がAUA、GUA又はCUAである方が、編集効率がより高く、3連続相補的塩基がAUAである方が、編集効率がさらに高く、3塩基モチーフがGCAである場合、arRNA中の3連続相補的塩基がUUG又はUCGである方が、編集効率が高く、UUGである方が編集効率がより高く、3塩基モチーフがCCAである場合、arRNA中の3連続相補的塩基がAUGである方が、編集効率がより高い。
【0111】
さらに、標的RNA中の上流残基が異なると、編集効率が異なることがある。本発明の適用範囲及び3塩基モチーフの好ましい順序をより良く定義するために、本実施例では、また、上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチがある場合の編集効率と、標的残基のみがミスマッチした場合の編集効率とを比較する。結果も
図22にも示されているが、3塩基モチーフの上流残基がA又はUの場合、上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチがあると、標的残基のみがミスマッチした場合と同等の編集効率が得られることが分かった。例えば、3塩基モチーフがACAである場合、標的残基と単一の塩基ミスマッチのみを有する3連続相補的塩基UUUは、上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを有するAUU及びGUUと同等の編集効率を有し、3塩基モチーフがUCAである場合、標的残基と単一のミスマッチのみを有する3連続相補的塩基UUAは、上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを有するAUAと同等の編集効率を有する。一方、3塩基モチーフがGCAである場合、標的残基と単一の塩基ミスマッチのみを有する3連続相補的塩基のUUC効率は0に近く、上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを有するUUG及びUCGの編集効率はUUCの数倍から10倍以上である。3塩基モチーフがCCAである場合、上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチが導入されたAUGも、UCGと近似した編集効率を有する。このことから、編集効率向上量順に、3塩基モチーフ中の上流残基とのミスマッチの好ましい順位はG>C>A≒Uであり、すなわち、3塩基モチーフの上流残基がGである場合、前記上流残基とミスマッチしたGを導入することにより、編集効率を著しく向上させることができる。
【0112】
なお、
図22のデータは同じロット試験から得られ、同じ実験条件と検出方法を採用しているため、CからUへのRNA編集技術によるACA、UCA、CCA、GCAの4種類の異なる3塩基モチーフの編集効率を水平に比較することが容易である。
図22に示すように、3塩基モチーフでは、ACA、UCAともに最高効率は10%GFP+程度であり、一方、GCAの場合、標的塩基とのミスマッチだけがあれば、編集効率は0に近く、標的塩基のミスマッチに加えて、上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを導入すれば、編集効率は6~8%GFP+まで向上するが、CCAの場合、上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを導入しても、いずれも最高効率は2.5%GFP+を超えない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本例は既存のRNA編集技術におけるGAU、GACなどの3塩基モチーフの編集効率が低すぎるという制限を突破し、Gで始まる3塩基モチーフをかなり効率的に編集することができ、これにより、従来RNA編集技術ではGAU、GACなどの部位に対して対策がないという現状を打破し、従来技術におけるADARを用いたRNA編集システム、例えばLEAPR(WO2020074001A1)、RESTORE(WO2020001793A1)など、ADARの自然な選好性に合致しないUAG以外の他の3塩基モチーフに対する編集効率を著しく向上させた。また、本願に係る技術的解決手段は、既存のRNA編集技術においてGCAなどの3塩基モチーフの編集効率が低すぎるという制限を突破し、従来のRESCUE技術(WO2019071048A9)のGCA3塩基モチーフ編集の低効率に比べ、追加の塩基ミスマッチを導入することでGCAに対する編集能力を大幅に向上させた。本例は、従来からRNA編集応用に存在する編集部位選択の制限を打破した。例えば疾患治療法の開発に関しては、本発明は、遺伝子の変異に起因するより多くの遺伝性疾患を、RNA編集の方法により、より安全かつ効率的に治療することを可能にする。
【0114】
配列表
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞の標的残基の位置で標的RNAを編集する方法であって、
デアミナーゼリクルートRNA(arRNA)又は該arRNAをコードする構築物を宿主細胞に導入することを含み、
前記arRNAは標的RNAとハイブリダイズする相補的なRNA配列を含み、前記標的残基は1つの3塩基モチーフに位置しており、前記3塩基モチーフは標的RNA中の標的残基の5'最近傍残基(上流残基)と、標的残基と、標的RNA中の標的残基の3'最近傍残基(下流残基)と、を含み、前記3塩基モチーフはUAGではなく、前記相補的なRNA配列は前記標的RNAの上流残基及び/又は下流残基に直接対向するミスマッチを含む方法。
【請求項2】
前記標的残基はアデノシンである請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記上流残基はG、A、又はCから選択され
、好ましくは、前記3塩基モチーフはGAG、GAC、GAA、GAU、AAG、AAC、AAA、AAU、CAG、CAC、CAA、CAU、UAA、UAC及びUAUから選択され、更に好ましくは、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の標的アデノシンに直接対向するシチジン、アデノシン又はウリジンを含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記3塩基モチーフはGAUであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するACG、UCC、CCU又はACAを含
み、前記3塩基モチーフはGAAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するUCA、CCG、CCC又はUCGを含む、前記3塩基モチーフはGACであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するGCG又はGCAを含み、及び/又は前記3塩基モチーフはGAGであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するCCG、CCA、CCC、UCC又はUCGを含む、請求項
2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はG又はAであ
り、好ましくは、前記3塩基モチーフの下流残基は前記相補的なRNA中の対向する塩基と厳密に相補的である、請求項
2~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記arRNAは、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質をリクルートし、前記標的RNA中の標的アデノシンを脱アミノ化
し、好ましくは、ADAR触媒ドメインを含む前記融合タンパク質は標的ドメインをさらに含み、更に好ましくは、ADARタンパク質又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質、又はADARタンパク質又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質をコードする構築物は前記宿主細胞に外来的に導入され、更に好ましくは、ADARタンパク質は前記宿主細胞に内因的に発現される、請求項
2~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記標的残基はシチジンであり、前記arRNAは、RNAに作用しシチジンデアミナーゼ活性を有するデアミナーゼをリクルートし、前記標的RNA中の標的シチジンを脱アミノ化
し、好ましくは、前記標的RNA中の標的シチジンが位置する3塩基モチーフは、GCG、GCC、GCA、GCU、ACG、ACC、ACA、ACU、CCG、CCC、CCA、CCU、UCA、UCC、UCU及びUCGから選択されるいずれかであり、更に好ましくは、前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の標的アデノシンに対向するシチジン、アデノシン又はウリジンを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の前記標的シチジンに対向するシチジン、アデノシン又はウリジンを含
み、好ましくは、記相補的なRNA配列は前記標的RNA中の非標的シチジンにそれぞれ対向する1つ以上のミスマッチをさらに含み、更に好ましくは、前記3塩基モチーフの上流残基はGであり、前記相補的なRNA中の前記上流残基に対向する塩基はGである、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記3塩基モチーフはGCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するUUG又はUCGを含
み、及び/又は前記3塩基モチーフはCCAであり、前記相補的なRNA配列は前記3塩基モチーフに対向するAUGを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは、ADARタンパク質又はADAR触媒ドメインを含む融合タンパク質に対して遺伝子修飾を行ってC-U触媒活性を得るデアミナーゼであ
り、好ましくは、シチジンデアミナーゼ活性を有する前記デアミナーゼは標的ドメインをさらに含み、更に好ましくは、前記標的ドメインは、SNAP-tag、λNペプチド、又は触媒的に不活性化されたCas13タンパク質から選択されるいずれかである、請求項
7~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記宿主細胞は真核細胞であ
り、好ましくは、前記宿主細胞は哺乳動物の細胞であり、更に好ましくは、前記宿主細胞はヒト又はマウス細胞である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法により製造された編集されたRNA又は編集されたRNAを含む宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法で使用されるarRN
A。
【請求項14】
請求項
13に記載のarRNA
を複数含むライブラリー。
【請求項15】
請求項
13に記載のarRN
Aを含む組成物。
【国際調査報告】