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特表2023-532429抗真菌用途のための抗病原体デバイスおよびその方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】抗真菌用途のための抗病原体デバイスおよびその方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20230721BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230721BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
A01N59/00 Z
A01P3/00
A01G7/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577701
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-16
(86)【国際出願番号】 US2021038364
(87)【国際公開番号】W WO2021262642
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】63/042,859
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519324710
【氏名又は名称】シントクス テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マッケンタイア、ブライアン、ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ボック、ライアン エム.
(72)【発明者】
【氏名】バル、バジャンジット シン
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA10
4H011AA01
4H011BC18
4H011DA02
4H011DG05
(57)【要約】
抗真菌用途のための抗病原体デバイスおよびその方法のための様々な実施形態が本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物における病原体を処理または予防するための方法であって、
前記植物を窒化ケイ素を含む組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項2】
前記組成物が、窒化ケイ素粒子と溶媒とのスラリーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒が、水である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、約0.5体積%~約20体積%の窒化ケイ素を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が約1体積%~約3体積%の窒化ケイ素を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記接触が、噴霧、ミスチング、または浸漬を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物が、農業植物、樹木またはつるである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記農業植物が穀物、マメ科植物、塊茎、草、油種子、野菜または果実であり、前記樹木は、果樹、ランドスケープの木、または森林樹であり、前記つる植物はブドウのつるである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記病原体が、べと病、うどんこ病、灰色かび病、フザリウム病、さび病、リゾクトニア病、スクレロチニア病またはスクレロチウム病から選択される植物病害を引き起こす、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記病原体が真菌である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記真菌がPlasmopara viticolaである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記植物がVitis viniferaである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Vitis viniferaが、Cabernet Sauvignon、CannonauまたはSultanaである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、抗病原体デバイスのためのシステムおよび方法に関し、特に、ヒトに対する毒性または環境に対する有害作用を有しないPlasmopara viticola病原体に対する抗真菌特性を有する窒化ケイ素バイオセラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
農薬の適用は、ブドウのつるの感染症を予防し、収穫量を改善する最も一般的な方法である。しかし、卵菌Plasmopara viticolaによって引き起こされ得るうどんこ病およびべと病は、大量の抗真菌剤の頻繁な適用を必要とする。欧州連合において施用されるすべての合成殺真菌剤の約2/3が、これらの種類の植物病原体を防除するために使用されている。北米原産であり、前世紀の終わりに偶然にヨーロッパにもたらされたPlasmopara viticolaは、複数の天候調節された年間の施用によってのみ防除することができる。健康上のリスクおよびそれらの環境への影響の両方を最小限に抑えるために、最低濃度の限られた数の殺真菌剤のみが使用されているが、両方の要因は、病原体が耐性を発達させるリスクを高める。これらの理由から、環境に優しい抗真菌製品の開発を含む、化学処理の代替物を見出す努力がかなりの注目を集めている。新しい概念のいくつかには、植物病原体に対する全身的耐性を付与する微生物が含まれる。集団遺伝学を使用した宿主-病原体の相互作用の操作による感染に対する増殖耐性は、別の好ましい技術である。これは、しばしば化学的防除と並行して行われる。これらの後者のアプローチは、トランスクリプトーム法および分析法に起源を有する。農薬の代替品の探索は、健康、安全、および環境問題に対して公衆が敏感であることを考慮して、現代社会の優先事項となっている。
【0003】
Plasmopara viticolaは、葉および未熟成の果実を含む植物のすべての部分を攻撃する。無性胞子嚢は、穏やかで湿気のある天候に助けられて遊走子を放出し、遊走子は最終的に気孔に付着してこれに包まれ、気孔下腔まで貫通した発芽管を形成する。発芽管は最終的に感染小胞に変わる。一次菌糸は分枝を出現させ、迅速に発達させ、その吸根は、養分を引き込むために植物組織に侵入する。数日間の感染インキュベーションの後、胞子嚢柄が出現して新たな胞子嚢を形成する。多数の殺真菌剤が成長期に施用されるが、それらの種類、量および時期は、疾患の性質およびブドウのつるの品種に依存する。ほとんどの地理的地域では、べと病の管理には、成長サイクルの非常に早い時期から始まるいくつかの施用が必要である。殺真菌剤の頻繁な使用、それらの高いコスト、および環境に対するそれらの長期的な害は、より効果的で長期的で環境に優しい代替物の開発を必要とする。これらの新しい概念および物質の可能性を考えると、従来型の殺真菌化合物は、真に必要とされる条件に制限されるはずである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
とりわけ、本開示の様々な態様が考えられ開発されたことは、これらの観察結果を念頭に置いている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、植物において病原体を処理または予防する方法であって、植物を窒化ケイ素を含む組成物と接触させることを含む方法が開示される。組成物は、窒化ケイ素粒子および水性溶媒のスラリーを含み得る。いくつかの実施形態では、溶媒は水を含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、約0.5体積%~約20体積%の窒化ケイ素を含み得る。接触工程は、噴霧、ミスチング、または浸漬を含むことができる。植物は、農業植物、樹木、またはつるを含み得る。いくつかの特定の実施形態では、植物は、穀物、マメ科植物、塊茎、草、油種子、野菜または果実を含み得る。いくつかの他の特定の実施形態では、樹木は、果樹、ランドスケープの木、または森林樹であり得る。さらに他の特定の実施形態では、つる植物はブドウのつるであり得る。一例では、植物は、Cabernet Sauvignon、CannonauまたはSultanaを含むVitis viniferaであり得る。病原体は、べと病、うどんこ病、灰色かび病、フザリウム病、さび病、リゾクトニア病、クレロチニア病、またはスクレロチウム病を含む植物病害を引き起こす病原体を含み得る。病原体は、Plasmopara viticolaなどの真菌であり得る。
【0006】
本発明の他の態様および反復は、以下により完全に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1A図1Cは、Si水懸濁液中の時間の関数としてのpHの測定値を示すグラフ表示であり、図1Dは、Si粉末の分散直後に生成された気泡の画像である。
【0008】
図2図2A~2Cは、懸濁液中のSi粉末の顆粒を含む水性環境における胞子嚢の顕微鏡写真である。図2D~2Fは、Si粉末の非存在下で純水に埋め込まれた胞子嚢の顕微鏡写真を示す。図2G~2Kは、徐々にSi顆粒によって完全に覆われるようになり、遊走子を放出しなかった、それらの胞子嚢を示す顕微鏡写真を示す。
【0009】
図3図3Aは、胞子嚢の膜とSi顆粒との相互作用を経時的に示す画像であり、図3Bは、図3Aの拡大図である。
【0010】
図4図4Aおよび図4Bは、Si顆粒を含む(図4A)およびSi顆粒を含まない(図4B)で0~2時間水に懸濁させた濃度3.0×10ml-1の生きている胞子嚢の蛍光画像である。図4Cは、蛍光画像で直接計数したときに検出された胞子嚢および生きた胞子嚢の総画分の同時の定量化を示す、部分的なプロットのグラフ表示である。
【0011】
図5図5A~5Cは、ブドウのつるの種、Cabernet Sauvignonの画像であり、対照群(図5A)、前処理群(図5B)、および共処理群(図5C)が示されている。
【0012】
図6図6A~6Cは、対照群(図6A)、前処理群(図6B)、および共処理群(図6C)が示されているブドウのつるの種、Cannonauの画像である。
【0013】
図7図7Aおよび7Bは、純水(図7A)および1.5体積%のSi粉末を含有する水懸濁液(図7B)に、室温で10分間浸漬した後の、P. viticolaの平均ラマンスペクトルのグラフ表示である。
【0014】
図8図8Aは、NHおよびNH の相対濃度を示すグラフ表示であり、図8Bは、pHの関数として水に溶出した窒素種の定量的プロットを示すグラフ表示である。
【0015】
図9A図9Aは、主な振動モードが観察された、水にさらされた胞子嚢についてのDNA核酸塩基の初期構造である。
図9B図9Bは、受動的に浸透されたNHの存在に起因するゲノム完全性の喪失を示す、胞子嚢のDNA核酸塩基である。
図9C図9Cは、環内の両方のN原子がプロトン化された中性形態のプロトン化イミダゾール環を示す。
図9D図9Dは、1つのプロトンが失われた脱プロトン化イミダゾール環を示す。
【0016】
図10A図10Aは、図9Aに示される構造の荷電イミダゾール環および中性イミダゾール環の振動に関連するスペクトルゾーン1050~1150cm-1からの高分解能ラマンシグナルを示すグラフ図である。
図10B図10Bは、図9Bに示される構造の荷電イミダゾール環および中性イミダゾール環の振動に関連するスペクトルゾーン1050~1150cm-1からの高分解能ラマンシグナルを示すグラフ図である。
【0017】
図11図11Aは、Si顆粒を捕捉する気孔における緩衝効果および関連するアンモニアの溶出を示す概略図であり、図11Bは、病原体/Si界面で活性な抗真菌剤としてのアンモニウムおよびアンモニアの形成を伴う、胞子嚢へのSi顆粒の電荷誘引を示す概略図である。
【0018】
図12A図12Aは、未処理のPlasmopara viticolaを接種したCabernet Sauvignonの葉を示す。
図12B図12Bは、1.5体積%のSi粉末で1分間処理したPlasmopara viticolaを接種したCabernet Sauvignonの葉を示す。
【0019】
図13】対照および処理されたPlasmopara viticolaを含むCabernet SauvignonおよびCannonauの葉の感染面積のグラフである。
【0020】
図14図14Aは、未処理の胞子嚢を示す。図14Bは、Siの存在下での胞子嚢を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
参照符号は、図面の見え方のうち対応する要素を示す。図面で使用される見出しは、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0022】
本開示の様々な実施形態が、以下で詳細に論じられる。具体的な実装形態が論じられるが、これは例示目的のみのために行われることを理解されたい。当業者は、他の構成要素および構成が、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく使用され得ることを認識するであろう。したがって、以下の説明および図面は例示であり、限定として解釈されるべきではない。本開示の完全な理解をもたらすために、多数の具体的な詳細が記載されている。しかし、特定の例では、説明を不明瞭にすることを避けるために、周知または従来の詳細は説明されていない。
【0023】
本明細書で使用される用語は、一般に、本開示の文脈の中で、および各用語が使用される特定の文脈の中で、当技術分野におけるそれらの通常の意味を有する。本明細書で論じられる用語のいずれか1つまたは複数について代替の言語および同義語を使用することができ、用語が本明細書で詳述または議論されるか否かに、特別な重要性は置かれるべきではない。場合によっては、特定の用語の同義語が提示される。1つまたは複数の同義語の列挙は、他の同義語の使用を排除しない。本明細書で論じられる任意の用語の例を含む本明細書のいずれかの例の使用は、例示にすぎず、本開示または任意の例示的な用語の範囲および意味をさらに限定することを意図するものではない。同様に、本開示は、本明細書で与えられる様々な実施形態に限定されない。
【0024】
「一実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、または特性が本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれ得ることを意味する。本明細書の様々な箇所における「一実施形態では」という語句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではなく、他の実施形態と相互排他的な別個のまたは代替の実施形態でもない。さらに、いくつかの実施形態によって示され、他の実施形態によって示されない可能性がある様々な特徴が記載される。
【0025】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」、「有する(having)」、および「含む(including)」という用語は、それらのオープンで非限定的な意味で使用される。「a」、「an」、および「the」という用語は、複数および単数を包含すると理解される。したがって、「それらの混合物」という用語はまた、「それらの混合物」に関する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「約」は、明示的に示されているか否かにかかわらず、整数、分数、パーセンテージなどを含む数値を指す。「約」という用語は、一般に、人が列挙された値に等しいと考える、例えば、同じ機能または結果を有すると考える数値の範囲、例えば列挙された値の±0.5~1%、±1~5%または±5~10%を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、「窒化ケイ素」という用語は、Si、アルファまたはベータ相Si、SiYAlON、SiYON、SiAlON、またはこれらの相または材料の組み合わせを含む。
【0028】
本開示は、植物における病原体を処理または予防するための方法に関する。この方法は、植物を窒化ケイ素を含む組成物と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、接触工程は、噴霧、ミスチング、または浸漬を含み得る。
【0029】
Siの表面は、水性環境でSi-N共有結合の均一分解解離を受ける。窒素およびケイ素の放出は、Siの生物学的有効性の化学的起源である。加水分解プロセスは、Si表面におけるアミノ基のプロトン化を開始する。隣接するケイ素の部位の求電子性が増加し、これにより、順次これらの部位が水による求核攻撃を受ける傾向が生じる。水がケイ素の部位と相互作用すると、準安定の五配位錯体が最初に形成するが、その後、環境のpHに依存する比率で、アンモニア/アンモニウムイオンの遊離と共に直ちに崩壊する。アンモニア(NH)またはアンモニウム(NH )のpH依存性溶出は、固体表面の二酸化ケイ素(SiO)の形成と共に起こる。この後者の種の加水分解は、オルトケイ酸、Si(OH)を生成する。水中のSiの基本的な化学反応は以下の通りである。
Si+6HO→3SiO+4NH(1)
+NH→NH (2)
SiO+2HO→Si(OH)(3)
【0030】
室温では、NHの割合は、シグモイド依存性に従ってpHと共に変化する。
[NH][H]/[NH ]=5.7x10-10(4)
【0031】
これは、生理学的pHでの遊離NHの相対分率が非常に低い(すなわち、溶出したアンモニウム種の総量の1~2%)ことを示している。しかし、約8.3のpHでは、約7%に増加する。図8Aは、式(4)のグラフを提示する。これはNHおよびNH の相対濃度を示す。図8Bでは、純水でのそれらの濃度について、pHの関数としての定量的プロットが示されている。これらの値は、式(4)を用いて図1Aのデータから計算し、公開されている比色アンモニアアッセイに従って較正した。アンモニアは、病原体の細胞膜に容易に浸透することができ、そこでリン酸デオキシリボースDNA骨格を切断する(アルカリエステル交換によるゲノム切断と呼ばれる)。しかし、水中のSiの別の重要な態様は、フリーラジカルの形成である。これは、以下のように、Si-N結合の破壊、自由電子の放出、および酸素ラジカルの形成から始まる一連の過渡的な非化学量論的反応を伴う。
Si-N→Si+N+e(5)
O+e→H+OH(6)
+e→O ・-(7)
・-+H→HO ・-(8)
Si-OH (s)→Si-OH(s)+H (aq)(9)
Si-OH(s)→Si-O (s)+H (aq)(10)
Si-NH (s)→Si-NH2(s)+H (aq)(11)
【0032】
これらの反応式(5)~(11)は、自由電子の放出(式(5))、水分子の分裂(式(6))、ならびにラジカル酸素アニオンおよび高度に酸化性のプロトン化種の形成(式(7)および(8))を含む化学事象のカスケードを表す。これらの後者の種は、表面シラノールの解離(式(9)~(11))に寄与し、次いで、追加の酸素ラジカル、すなわち(≡Si-O)および(≡Si-O ・-)の形成をもたらす。自由電子はまた、アンモニア(NH)をヒドロキシルアミン(NHOH、すなわちアンモニアモノオキシゲナーゼ)に酸化し、続いて水と反応して亜硝酸HNOを形成し、さらなる自由電子およびプロトンを生成する。
NH+2e+2H+O→NHOH+H
→HNO+4e+4H(12)
NHOH→NO+3H3e(13)
2HNO→NO+NO +HO(14)
【0033】
式(12)(すなわち、アンモニアモノオキシゲナーゼ)は、亜硝酸、追加の自由電子、および水素プロトンの形成と共に、NH酸化を触媒するのに必要な自由電子をもたらす。式(13)(すなわち、ヒドロキシルアミンオキシドレダクターゼ)は、一酸化窒素(NO)、さらなる自由電子、および水素プロトンを生成する。式(7)からの酸素ラジカル(O ・-)と一緒に、式(14)による追加のNOおよび亜硝酸塩(NO )の形成は、以下のようにペルオキシ亜硝酸塩、ONOO-の形成をもたらす:
-・NO→OO-N=O(15)
【0034】
これは、最終的に一酸化窒素(NO)およびペルオキシ亜硝酸塩(OONO)ラジカルの形成をもたらす。それらは、病原体にとって最も致死的な因子の1つである。ペルオキシナイトライトの形成は、ペルオキシナイトライトを標的とするニトロ化ストレス感知のための誘導放出枯渇顕微鏡法および特異的蛍光染色キットを使用したSiとCandida albicans相互作用の最近の研究において実験的に確認されている。逆に、ペルオキシナイトライトは植物細胞に対して毒性ではなく、NOは病原体の感染に対する植物の耐性の誘導における重要なシグナルであり、したがって防御関連遺伝子の植物発現に正の間接的効果を及ぼす。
【0035】
I.組成物
本開示の組成物は、窒化ケイ素を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、窒化ケイ素粉末は、スラリー、懸濁液、ゲル、スプレー、またはペーストを含むがこれらに限定されない組成物に組み込まれてもよい。少なくとも1つの例では、組成物は、溶媒に分散した窒化ケイ素粒子のスラリーを含み得る。いくつかの態様では、溶媒は水であり得る。例えば、窒化ケイ素粒子を任意の適切な分散剤およびスラリー安定剤と共に水と混合し、その後、スラリーを様々な農業植物、果樹、つる植物、穀物などに噴霧することによって塗布することができる。少なくとも1つの例において、窒化ケイ素スラリーは、真菌に感染したブドウの葉に噴霧されてもよい。
【0037】
例では、抗病原性組成物は、窒化ケイ素粉末および水のスラリーであり得る。窒化ケイ素粉末は、スラリー中に約0.1体積%~約20体積%の濃度で存在してもよい。様々な実施形態では、スラリーは、約0.1体積%、0.5体積%、1体積%、1.5体積%、2体積%、5体積%、10体積%、15体積%、または20体積%の窒化ケイ素を含み得る。
【0038】
組成物は、約0.5体積%~約20体積%の窒化ケイ素を含んでもよい。いくつかの実施形態では、組成物は、約0.5体積%、1体積%、2体積%、3体積%、4体積%、5体積%、6体積%、7体積%、8体積%、9体積%、10体積%、11、12、13、14、15、16、17、18、19または約20体積%の窒化ケイ素を含み得る。いくつかの追加の実施形態では、組成物は、約0.5体積%~約3体積%、約3体積%~約6体積%、約6体積%~約9体積%、約9体積%~約12体積%、約12体積%~約15体積%、約15体積%~約18体積%、または約18体積%~約20体積%の窒化ケイ素を含み得る。例示的な一実施形態では、組成物は、約1体積%~約3体積%の窒化ケイ素を含む。
【0039】
窒化ケイ素粉末は、約1μm~約5μmの粒径を有してもよい。少なくとも1つの例では、窒化ケイ素粉末は、約2μmの粒径を有してもよい。
【0040】
II.病原体
本開示の方法は、植物中の多くの既知の病原体を治療または予防するために使用され得る。いくつかの実施形態では、病原体は、べと病、うどんこ病、灰色かび病病、フザリウム病、さび病、リゾクトニア病、スクレロチニア病、スクレロチウム病、および当技術分野で公知の他の病原性植物病害を含む、1つまたは複数の植物病害を引き起こし得る。いくつかのさらなる実施形態では、病原体は、Plasmopara viticola、Guignardia bidwellii、Uncinula necator、Botryotinia fuckelina、および当技術分野で公知の他の真菌を含む真菌であり得る。
【0041】
III.植物
本開示のセクションIに開示される組成物は、植物に適用することができ、植物は、農業植物、樹木、またはつる植物である。いくつかの実施形態では、農業植物は、穀物、マメ科植物、塊茎、草、油種子、野菜または果実を含み得る。
【0042】
(a)穀物
いくつかの態様では、穀物は、テフ、小麦、オート麦、米、トウモロコシ、大麦、ソルガム、ライ麦、キビ、ライコムギ、アマランス、ソバ、キヌア、ブルグア、ファロ、フリーケ、または当技術分野で公知の他の穀物を含み得る。
【0043】
いくつかの追加の態様では、マメ科植物は、ピーナッツ、ヒヨコマメ、マメ、エンドウ豆、レンズマメ、ルピナス、アルファルファ、クローバー、メスキート、イナゴマメ、ダイズ、タマリンド、および当技術分野で公知の他のマメ科植物を含み得る。
【0044】
さらに別の態様では、塊茎は、ビート、ニンジン、西洋ワサビ、パースニップ、ジャガイモ、ダイコン、サツマイモ、カブ、ルタバガ、サトイモ、ヒシ、ヤマノイモ、および当技術分野で公知の他の塊茎を含み得る。
【0045】
さらなる付加的な態様では、草は、竹、マラムグラス、メドウグラス、アシ、ライグラス、サトウキビ、および当技術分野で公知の他の草を含むことができる。
【0046】
さらに他の態様では、油種子は、パーム油、ダイズ油、ナタネ油、パーム核油、綿実油、落花生油、オリーブ油、ココナッツ油、トウモロコシ油、ゴマ油、アマニ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、ヤトロファ油、カメリナ油、カルドン油、ベニバナ油、および当技術分野で知られている他の油種子を含み得る。
【0047】
さらに別の態様では、野菜は、アーチチョーク、アスパラガス、ビートの根、ブロッコリー、メキャベツ、キャベツ、ニンジン、カリフラワー、セレリアック、セロリ、フェンネル、ニンニク、ショウガ、ケール、リーキ、レタス、パースニップ、ダイコン、サラダグリーン、シャロット、ホウレンソウ、ネギ、ターメリック、カブ、クレソン、および当技術分野で知られている他の野菜を含み得る。
【0048】
さらに別の態様では、果実は、リンゴ、アボカド、アンズ、バナナ、ブラックベリー、ブルーベリー、パンノキの実、カンタループ、サクランボ、クレメンタイン、ココナッツ、クランベリー、ナツメ、イチジク、グレープフルーツ、グアバ、ハニーデューメロン、ジャックフルーツ、キウイ、キンカン、レモン、ライム、マンダリン、マンゴー、ネクタリン、オレンジ、パパイヤ、パッションフルーツ、モモ、ナシ、パイナップル、プランテン、プラム、ザクロ、ラズベリー、ダイオウ、イチゴ、タンジェリン、スイカ、または当技術分野で公知の任意の他の果実を含み得る。
【0049】
(b)樹木
いくつかの実施形態では、樹木は、果樹、ランドスケープの木、または森林樹を含むことができる。
【0050】
いくつかの態様では、果樹は、アーモンドの木、リンゴの木、アンズの木、アボカドの木、カシューの木、サクラの木、ココナッツの木、イチジクの木、グレープフルーツの木、グアバの木、ジャックフルーツの木、レモンの木、ライムの木、マンゴーの木、オリーブの木、オレンジの木、モモの木、ナシの木、ペカンの木、セイヨウスモモの木、ザクロの木、クルミの木、または当技術分野で知られている任意の他の木を含むことができる。
【0051】
いくつかの追加の態様では、ランドスケープの木は、マグノリアの木、リンゴの木、ハナミズキの木、カエデの木、トウモロコシの毛の木、カツラの木、トウヒの木、アルボルビタエの木、カバノキの木、ヤシの木、サクラの木、ヒイラギの木、ブナの木、および当技術分野で知られている他のランドスケープツリーを含むことができる。
【0052】
さらに追加の態様では、森林樹は、トネリコの木、カバノキの木、アスペンの木、シナノキの木、ブナの木、サクラの木、クリの木、ハコヤナギの木、ニレの木、モミの木、ヒッコリの木、ニセアカシアの木、カエデの木、オークの木、マツの木、スギの木、トウヒの木、スズカケの木、ヤナギの木、および当技術分野で知られている他の森林樹を含むことができる。
【0053】
(c)つる植物
いくつかの実施形態では、つる植物は、ブドウのつる、スイカのつる、キュウリのつる、ツタ、クリーパー、ホップ、ジャスミン、または当技術分野で公知の他のつる植物であり得る。いくつかの態様では、つる植物はブドウのつるVitis viniferaである。いくつかの例では、Vitis viniferaは、Cabernet Sauvignon、Cannonau、Sultana、Chardonnay、white Riesling、Pinot blanc、Pinot Gris、Gewurztraminer、Muscat Ottonel、Sauvignon blanc、Pinot noir、Pinot Meunier、Cabernet Franc、Merlot、Limberger、Gamay noir、Trollinger、Petite Verdot、Trebbiano Toscano、Garnacha、Syrah、Airen、Tempranilloおよび当技術分野で公知のVitis viniferaの品種を含み得る。
【0054】
IV.方法
病原体を窒化ケイ素を含む組成物と接触させることによって病原体を不活性化する方法を、本明細書にてさらに提供する。病原体は、真菌または植物ベースの病原体であり得る。組成物は、窒化ケイ素粒子と水とを含むスラリーであってもよい。
【0055】
さらなる実施形態では、方法は、窒化ケイ素スラリーを、植物ベースの病原体に感染した生きている農業植物、樹木、穀物などの表面と接触させることを含み得る。実施形態では、感染した葉に、約1体積%~約40体積%の水中窒化ケイ素のスラリーを噴霧することができる。葉は、窒化ケイ素のスラリーに少なくとも1分間、少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも20分間、少なくとも30分間、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも5時間、または少なくとも1日間曝露され得る。
【0056】
様々な例では、葉の感染面積は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%減少し得る。例では、1分間の曝露後、葉の感染面積は約95%減少し得る。驚くべきことに、窒化ケイ素粒子は、病原体の胞子に電気的に引き付けられ、付着し得ることが見出された。
【実施例
【0057】
実施例1:
ブドウのつるにおけるべと病の感染は、通常、銅および硫黄を含む殺真菌剤(接触殺真菌剤)の集中的な適用によって、または合成広域スペクトル浸透性殺菌剤、例えばベンズイミダゾールもしくはトリアゾールによって予防される。しかし、それらの使用は、環境および人間の健康に悪影響を及ぼす。殺菌剤の残渣は長期の土壌汚染物質であり、無視できない量のこれらの化合物がワインに見られる。厳しい調整でそれらの有害な結果を最小限にしようとしているが、状況は代替の殺真菌戦略の開発を必要としている。これらの例は、Plasmopara viticolaに対する抗真菌特性を有するが、ヒトに対する毒性または環境に対する有害作用はない、バイオセラミック窒化ケイ素の前例のない事例を提示する。生きている胞子嚢のラマン分光評価は、生体セラミック表面の窒素化学が宿主感染の阻害に関与していることを機構的に示した。
【0058】
これらの実施例は、その感染サイクルの早期に開始するPlasmopara viticolaをノックダウンするために、窒化ケイ素(Si)を使用した。このセラミックの選択は、水性環境内でのその独特の表面化学に基づいた。それは、やはり真核細胞に優しく支持的でありながら、抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌特性を有する。これらの理由から、Siは、ブドウのつるを保護するための環境に優しい代替物と考えることができる。in situラマン分光法を利用して、ブドウのつるの葉に対するPlasmopara viticolaの病原性およびSiによる不活性化を司る分子機構についての洞察をもたらした。ラマン分光法は、マーカーなしで生きている病原体に適用することができる非侵襲的方法であり、したがって微速度の実験がそれらの代謝変動を明らかにすることを可能にする。この方法は、抗病原体剤と化学的に相互作用している間に病原体の構造およびその進化を監視する。
【0059】
実施例2:
農業的真菌の不活性化に対する窒化ケイ素の効果を示すために、Cabernet Sauvignonの葉に3×10個の胞子嚢/mlの濃度でPlasmopara viticolaを感染させた。処理したPlasmopara viticolaを1.5体積%の窒化ケイ素のスラリーに1分間曝露した。
【0060】
図12Aは、Cabernet Sauvignonの葉の未処理のPlasmopara viticola真菌を示す。図12Bは、Cabernet Sauvignon葉の処理されたPlasmopara viticola真菌を示す。1.5体積%のSi粉末で1分間処理したPlasmopara viticolaを接種した葉は、葉の表面に菌が少ないことが分かる。これは、対照のおよび処理されたPlasmopara viticolaを接種したCabernet SauvignonとCannonauの両方の葉の感染した葉の面積の割合を示す図13によってさらに証明される。図13は、対照真菌と処理真菌との間の感染葉面積の統計学的有意差を明確に示す。
【0061】
図14Bに見られるように、窒化ケイ素粒子は、病原体の胞子に電気的に引き付けられ、それに付着するように見える。図14Aは、Plasmopara viticolaの未処理の胞子嚢の顕微鏡画像を示し、図14Bは、Siの存在下でのPlasmopara viticolaの胞子嚢の顕微鏡画像を示す。
【0062】
実施例3:
2018年に畑で収穫したPlasmopara viticola(P.viticola)分離株を、Polesani et al.,’’General and species-specific transcriptional responses to downy mildew infection in a susceptible(Vitis vinifera)and a resistant(V.riparia)grapevine species,’’ BMC Genomics 11:117(2010)に記載されているように、軸索成長させた。Siの植物毒性の可能性を評価するために、2つの異なるブドウ品種、Cabernet SauvignonおよびCannonauを使用して処理を行った。Cabernet Sauvignonの葉は、3歳の植物から採取したものであり、Cannonauの葉は、制御された条件下で温室内で成長させた幼苗から得たものであった(16時間明/8時間暗、温度の範囲は18~28°C)。
【0063】
粒径が約2μmのSi粉末を用いた。これは、90重量%のα-Si、6重量%の酸化イットリウム(Y)、および4重量%の酸化アルミニウム(Al)の公称組成を有する焼結β-Si粉末を粉砕することによって得られた構成成分を約1700°Cで3時間超焼結し、約1600°Cで2時間熱間静水圧プレスした。調製後、これを180°Cで2時間加熱滅菌した後、滅菌蒸留水に懸濁した。
【0064】
予防の効力の評価のために、各ブドウ品種に対して滅菌させた葉から、5つのディスク3ロットを切り出した。1ロットをSiの1.5体積%の水性懸濁液に1分間完全に浸漬することによって処理し、24時間後に40μLの発芽胞子嚢懸濁液(3×10/mL)を接種した(前処理試料)。第2のロットを、1.5体積%のSi懸濁液と組み合わせた胞子嚢に曝露した。この場合、Siの顆粒は、発芽の間に胞子嚢と直接接触したままであった(共処理試料)。第3のロットにP.viticolaを接種し、感染対照群とした。すべてのディスクを、それぞれ昼16時間、夜8時間の光周期で、21~24°Cの増殖チャンバでインキュベートし、対照に胞子形成が現れるまで6日間監視した。
【0065】
潜在的な治療効果を評価するために、高感受性Sultana品種の滅菌されたブドウのつるの葉から6のディスクの3ロットをそれぞれ切断した。3ロットすべてに40μLの胞子嚢懸濁液(3×10/ml)を使用してP.viticolaを接種し、21~24°Cの増殖チャンバ内で16/8時間の昼/夜光周期でインキュベートして感染の発症を可能にした。液滴を、先に論じたのと同じ手順で24時間後に除去した。感染の出現の3日後、2ロットをSiの1.5体積%水性懸濁液に1分間完全に浸漬することによって処理した。次いで、2つのロットのうちの1つを蒸留水で1分間洗浄して、Si残渣を除去した。第3のロットを対照群として未処理のままにした。
【0066】
顕微鏡観察
水に懸濁した胞子嚢または1.5体積%Si懸濁液(3×10胞子嚢/mL)を落射蛍光顕微鏡(励起フィルタBP 340~380nm;ダイクロイックミラー400nm;抑制フィルタLP>430nm)下で観察するか、またはフルオレセインジアセテート(FDA)で染色し、蛍光顕微鏡を使用して3時間の時間経過の間に胞子嚢の生存率を確認した。細胞計数ビュラーチャンバーで観察を行い、水処理対照と比較して生存胞子嚢の割合を計算した。
【0067】
pHの測定
15体積%のSi粉末を添加した後、滅菌させたダブルの蒸留水のpHをpHメーターで測定した。測定は、最終的なpHの安定化まで10秒間隔で800秒までの時間の関数として室温で撹拌しながら行った。pHの傾向が再現可能であるかどうかを確認するために、試験した粉末試料を遠心分離(13×10RPMで3分間)によって分離し、空気中180°Cで2時間乾燥させた。室温に冷却した後、粉末をさらなるpHの測定のために同じ水の濃度(すなわち、1.5体積%)で再懸濁した。同じ粉末を用いて、その後の3サイクルでこの手順を繰り返した。
【0068】
in situラマン分光法
Si粉末を含むおよび含まない水溶液に懸濁した胞子嚢試料について、in situラマンスペクトルを収集した。50倍光学レンズを備えたマイクロプローブモードで動作する専用機器を使用して、ラマンスペクトルを得た。分光器には、高効率および高分解能のスペクトル取得を同時に可能にするホログラフィックノッチフィルタが装備されていた。励起は、785nmレーザー源を用いて15mWの出力で行った。ラマン散乱光は、空冷電荷結合素子(CCD)検出器に接続された単一のモノクロメーターを使用してモニターした。一方のスペクトルの取得時間は、典型的には60秒であった。異なる胞子嚢の試料のスペクトルは、約10の異なる収集位置で平均した。ラマンスペクトルを、市販のソフトウェア(例えばLabSpec 4.02)を使用してGauss-Lorentzクロス製品サブバンド成分にデコンボリューションした。スペクトルバンドの割り当ては、公開された文献に従って行った。
【0069】
実施例4:
水性懸濁液中のSi粉末のpH分析
15体積%のSi水懸濁液の時間の関数としてのpHの変化を図1A図1Cに示す。このpH実験は、ある用量のSi粉末を噴霧した後のブドウのつるの圃場における周期的な雨の影響をシミュレートするために考えられた。懸濁、測定、および乾燥を含む3回の連続した反復試験を、それぞれ図1A図1B、および図1Cに示す。実行順序とは無関係に、プロットは、初期中性値(pH約7.5)から最大値(pH約8.3)へのpHの突然の(数秒以内の)増加を示した。第1および第2の実行の曲線が非常に類似していたのに対し、第3の実行は経時的により急な減少を示した、ただしプラトー(pH約6.3~6.7)はすべての試行で類似していた。pH顕微鏡法および比色アンモニアアッセイを使用した以前の研究で特徴付けられたこの現象は、Siの表面でのSi-N結合の切断、およびアンモニア(NH)またはアンモニウム(NH )を形成するための溶出窒素と水素との反応に関連する。開放系では、約5分でpHが6.3~6.7に徐々に低下する。溶液のNHの割合はpHに反比例するので、時間依存性データは、高揮発性NHの割合が増加して水系統を離れることを示唆している。これは、アンモニアの典型的な刺激臭と共に、Si粉末(図1D)の分散直後に生成された気泡の直接的な観察によって確認された。pH約8.3では、NHの割合は7~10%であると計算されたが、酸性溶液ではほぼ0であった。これらの結果は、Si粉末の一部が葉の凹凸に付着したままであるか、または葉の気孔空洞に閉じ込められたままであると仮定して、同じSi3N粉末が連続降雨事象の間に長時間のpH緩衝をもたらすことができることを示している。
【0070】
胞子嚢/Si顆粒相互作用のin situ顕微鏡モニタリング
図2A~2Cは、Si粉末の顆粒と相互作用する水性懸濁液中の胞子嚢の顕微鏡写真を示す。純水中の胞子嚢についての同様の顕微鏡写真を図2D~2Fに示す。Siは、胞子嚢の外壁に静電的に引き付けられているように見えた。接触は、懸濁液への胞子嚢の導入のほぼすぐ後に起こった。これにより、1分未満で壁が早期に破裂した(図2A図2Cを参照されたい)。逆に、純水中の胞子嚢は、約110分後にのみ成熟した遊走子を放出した(図2D図2Fを参照されたい)。興味深いことに、Si顆粒と接触したときに破裂しなかった胞子嚢の画分もあった。それらは徐々にSi顆粒によって覆われたが、数時間後まで遊走子を放出しなかった(図2G~2Kの微速度の顕微鏡写真を参照されたい)。まとめると、これらの顕微鏡写真は、攻撃的な環境が胞子嚢の近傍に発生したことを明らかにした。図1A~1Cに示すように、pHの上昇と組み合わせたアンモニア気泡の存在は、胞子嚢の細胞壁に容易に浸透する揮発性分子である気体アンモニアの生成に関連する。同様に、真菌細胞はアンモニアに対して透過性であり、アンモニアは非解離分子の自由な拡散によって細胞に入る。
【0071】
<1分の接触時間での胞子嚢の膜とSi顆粒との間の相互作用の詳細な観察を図3Aに示す。挿入図の正方形領域の拡大図を図3Bに示す。この拡大は、膜の局所的な膨潤(すなわち、凸状の湾曲)を示し、未熟な遊走子の差し迫った破裂および放出を示唆する。Si顆粒と接触した胞子嚢の生存率を光学顕微鏡および蛍光顕微鏡でモニターして、セラミックの抗真菌効果を定量した。図4Aおよび図4Bは、それぞれ1.5体積%のSi顆粒を用いて、および用いずに、3時間水に懸濁し、次いでフルオレセインジアセテートで染色した、濃度10mL-1の生きている胞子嚢の蛍光画像を示す。胞子嚢の全画分(光学顕微鏡による)および蛍光画像の直接計数によって検出された生きている胞子嚢の同時定量化により、図4Cに示す部分プロットが得られた。純水と比較した場合、Si顆粒を含有する懸濁液について明らかな抗真菌効果が観察された。
【0072】
P.viticolaに対する予防的および治癒的なSi効力のモニタリング
2つのブドウのつるの種、Cabernet SauvignonおよびCannonau由来の葉のディスクに関する実験結果を図5A~5Cおよび図6A~6Cに示す。実体顕微鏡での処理された非感染葉の目視検査では、実験の5日に沿う植物毒性の徴候は明らかにされなかった。両方の場合において、2つの実験の実行の各々について5つの葉ディスク試料を試験し(n=10)、両方の実験の実行は同様の結果を示した。対照試料を同時に試験した。すべての対照の葉ディスクは感染を示した。接種の5日後に、Cabernet Sauvignonの葉のディスクの病原体胞子形成が起こった(図5A)。Cannonauについては、対照の葉のディスクの感染はより重症であり(図6A)、ほとんどの場合、感染スポットの壊死をもたらした。これは、非常に感受性の高い栽培品種または若い柔らかい葉の組織でしばしば観察される。実験の5日間を通して植物毒性は見られなかった。完全な感染防御は、Siで前処理または共処理された試料について観察された(図5Aおよび図5Cにそれぞれ示すパネル)。Cannonau種については、前処理した試料では5枚の葉ディスクのうち3枚でのみ全体の保護が観察されたが(図6B)、共処理したディスクでは胞子形成の徴候はなかった(図6C)。
【0073】
Siの潜在的な治療効果は、感染の3日後に非常に感受性の高いSultana品種を処理することによってさらに評価した。残存するSi顆粒は気孔内に留まることができるので、この試験は、病原性が比較的進行した感染状態で停止され得るかどうかを調査した。換言すれば、この実験は、Siがどのようにして葉組織内の菌糸体に影響を及ぼすか、または新たな胞子嚢の放出を阻止するかを判定しようとした。P.viticolaは、細胞間空間にコロニーを形成し、葉肉細胞に担子菌を産生したが、検出可能な胞子形成はなかったことが観察された。これは通常なら5~6日で起こったであろう。この場合、湿ったSi顆粒が部分的に気孔を貫通したようである。その後の顆粒からの窒素の溶出は、おそらくP.viticolaがその菌糸を発達させる細胞内空間に拡散した。この阻害機構は、重炭酸アニオンが病原体を死滅させるのに十分な濃度のNHを確立するのに必要なアルカリ度を供給する重炭酸アンモニウムの抗真菌効果に似ている。
【0074】
生きている胞子嚢のin situラマン分光モニタリング
純水および1.5体積%のSi粉末を含有する懸濁液に10分間室温で浸漬した後に収集したP.viticolaのラマンスペクトルを、それぞれ図7Aおよび7Bに示す。スペクトルを、424cm-1で観察された散乱強度に対して正規化した(図示せず)。骨格振動を表すこのシグナルは、すべてのグルカンに共通の非特異的マーカーである。Si粉末を用いた場合と用いない場合とで、水性曝露の強度に顕著な差は示されなかった。次いで、スペクトルをVoigtianサブバンドにデコンボリューションし、比較した。2つのスペクトル間の明確な差は、卵菌の構造の変化に起因する。各スペクトルのデコンボリューションされたラマンバンドを図7Aおよび図7Bに示し、それらの関連する割り当ておよび参考文献を以下の表1に列挙する。
【0075】
【表1-1】
【0076】
【表1-2】
【0077】
【表1-3】
【0078】
純水にさらされた胞子嚢のスペクトル
卵菌は最近、更新された分類に従ってStramenopilesに再分類されている。主な構造的特徴としては、壁中のセルロースの存在、炭素系エネルギー源としてのグリコーゲンの代わりにミコラミナリン、キチンの顕著な欠如が挙げられる。P.viticolaに密接に関連する卵菌Phytophthora parasiticiaの炭水化物含有量の最近の分析は、細胞壁がキチンを完全に欠いており、約85%のβ-グルカンからなり、その約40%がセルロースによって表されたことを明らかにした。低重合レベルの1,3β-グルカンおよび1,3,6β-グルカンも、グルクロン酸およびマンナンのより低い画分と共に存在した。このような詳細な情報は、P.viticolaについては入手できないが、以前の証拠は、この病原体が、Peronosporalesの他の最もよく知られた生物とわずかに異なる可能性があることを示している。実際、P.viticolaは少なくとも2つの異なるキチンシンターゼを発現することができ、キチンは、植物成長中に胞子嚢、胞子嚢柄および菌糸細胞壁の表面で検出された。
【0079】
卵胞子が休眠している場合(この場合のように)、胞子嚢の構造は、細胞質全体に分布する大きな脂質小球からなり、細胞内腔全体を満たす。それらは、卵胞子発芽のための貯蔵材料として働く。ミトコンドリアは、脂質小球の間の小さな隙間に存在する。小球(または液胞)は異なるサイズであり、比較的薄い間隙に含まれる。卵菌の全体的な外壁は複雑であり、外側および内側の卵胞子の壁(それぞれOOWおよびIOW)の2つの層に分けられる。OOWおよびIOWは、薄いわずかに波打った原形質膜によって互いに分離されている。IOWは、主に、β-1,3-結合グルカン(約80%;キチンを含む、N-アセチルグルコサミンで形成されたホモポリマー)、セルロース(約10%)、およびタンパク質(壁関連酵素および構造タンパク質に分けられる)からなる。グルカンは、IOW構造において優勢な化学種である。それらは、マンノースおよびグルコサミンの少量の画分と共に、直線状の平行なアレイに配向されたセルロース性の原線維を含有する。キチンは、壁の剛性および強度に寄与するため、重要な構造的機能を有する。OOWは、主にマンナンおよびタンパク質から構成され、これはβ-1,6-グルカンで内壁にそれを連結するが、脂質も含有する。卵原細胞の壁は、外側に設定され、卵胞子から周辺質の腔部によって分離された、より厚い原線維の壁であり、比較的多量の脂質およびタンパク質を含有する。脂質は構造に疎水性を付与し、これは休眠中に病原体を安全に保つために必要である。Negrelらは最近、Plasmoparaに特異的な代謝産物を探索し、3種類の非定型脂質、すなわちセラミド、ならびにアラキドン酸およびエイコサペンタエン酸の誘導体を同定した。これらの脂質は、その発達の非常に早い段階からP.viticolaに存在することが報告された。
【0080】
これらの構造的特徴は、図7Aのラマンスペクトルにおいて観察された(表1も参照されたい)。真菌構造の場合、P.viticolaの細胞壁は、主に、分岐ポリマーグルコース含有β-グルカン、非分岐ポリマーN-アセチル-D-グルコサミン含有キチン、および糖/マンノタンパク質と共有結合したポリマーマンノースを含む多糖類からなる。タンパク質および脂質は、多糖類と比較して全体のごく一部のみを表す。したがって、炭水化物振動モードがラマンスペクトルの優勢を占めると予想される。主鎖グルコース環からの累積シグナルは、482cm-1のバンド1で見出された。壁のキチンが寄与するバンドは、643、649、710および893cm-1に見られ、それぞれバンド14、15、19(=C-H屈曲)および33(C-H環延伸)として標識される。これらのバンドはすべてキチンに関連し得るが、キチンは、実際には、試験した卵菌試料の炭水化物の微量の成分であると予想される。バンド19および33のより可能性の高い割り当てはセルロースであるが、バンド14および15は両方とも直鎖ポリマーセルロース中のβ-D-グルコースに割り当てることもできる。セルロースおよびアミロペクチンからのフィンガープリントシグナルは、583cm-1で見出された(バンド9;C-C-O屈曲およびC-Oねじり振動)。壁の構造から予想されるように、顕著なシグナルが893cm-1に見出され(赤道C-H屈曲振動)、これはβ-グルカンのマーカーとして機能した。α-グルカンのフィンガープリント振動である550cm-1でのラマンシグナルの欠如(グリコシド結合のC-O-C屈曲)は、この多糖異性体が真菌の壁の主要成分ではないことを示した。このため、942cm-1でのラマンシグナル(非対称環振動)に対するα-グルカンのいずれの寄与も、図7Aのスペクトルから除外された。同様の推論を、922cm-1で起こるはずのデキストラン構造からの環振動、および550cm-1でのそのグリコシドシグナルに適用した。これらのいずれも、水にさらされたP.viticolaのスペクトルでは検出されなかった。これらの観察は、本卵菌構造におけるこの複合グルカンのいずれかの優勢な存在を除外する。図7Aにおける490cm-1と560cm-1との間の狭いスペクトル領域において、バンド2および3(それぞれ500cm-1および558cm-1)は、多糖、D(+)-マンノースにおけるC-C主鎖延伸からのシグナルであり、一方、バンド4、5および7(それぞれ510cm-1、535cm-1、および558cm-1)は、セルロース、トレハロース(環の変形)およびβ-D-グルコースにそれぞれ割り当てられる(表S1を参照)。二糖トレハロースは、603cm-1のバンド11の主な寄与物質であり、これはまたバンド6および30にも寄与する(それぞれ544cm-1および837cm-1で)。バンド31および34(それぞれ846および906において)へのトレハロースの寄与は、他の炭水化物構造と比較しておそらく低い重量である(表S1参照)。より具体的には、バンド31は、グルコースおよびグルカンからの強い累積シグナルを表すが、トリグリセリドからのいくつかの中/強のシグナルも含む(表S1参照)。トレハロースは、エネルギー源であり、環境ストレスに対する保護分子であるため、多くの真菌種の代謝において重要な分子である。例えば、Candida albicansは、非還元性トレハロース二糖の合成を促進し、熱または酸化ストレスに応答してそれを蓄積する。ブドウのつるにおいて、P.viticolaは不可逆的な気孔の開口を誘導することが知られており、これは順次遊走子による宿主感染を支持するものであり、この調節解除はトレハロースの蓄積に関連し、外因的に適用されたトレハロースは気孔の閉鎖に拮抗する。したがって、胞子嚢に高レベルのトレハロースが存在することは、ブドウのつるの葉の感染を促進するシグナルを表し得る。
【0081】
核酸に関連するシグナルは、ホスホジエステル結合およびプリン結合の両方から見出された。DNAのC’5-O-P-O-C’3ホスホジエステル結合対称延伸(782cm-1のバンド25)は、純水に曝露させたP.viticolaの低周波スペクトルで検出された、最も強いシグナルであった(図7A)。この個々のシグナルとは異なり、827cm-1の対応する反対称延伸バンド29は、真菌の膜の典型的な分子であるステロールからのいくつかのシグナルと重複した(表1参照)。アデニン(それぞれ535、623、731および942cm-1のバンド5、12、21および36)、シトシン(それぞれ544、558、594、603、710および795cm-1のバンド6、7、10、11、19および26)、グアニン(それぞれ570、643、681および846cm-1のバンド8、14、17および31)、チミン(それぞれ623、746および753cm-1のバンド12、22および23)、およびウラシル(807cm-1のバンド27)に関連するプリン由来の振動バンドも観察された。研究された周波数範囲(図7Aおよび図7Bを参照されたい)で2番目に強い検出信号である846cm-1のバンド31は、グアニン環のC4-N9-C8+N1-C2-N3およびN2-C2-N3の面内変形が主に寄与している。
【0082】
細胞膜に通常存在する脂質からの特異的シグナルを探すと、研究したスペクトル領域におけるホスファチジルセリンからの強い発光が約734cm-1で予想された。731cm-1のバンド21が、純水にさらされた胞子嚢のスペクトルにおいて観察された(図7A)。しかし、このバンドへの寄与は、DNAアデニンおよびトレハロースにおけるイミダゾール環の環呼吸からも生じ得る。低周波スペクトルにおけるホスファチジルコリン由来の主なバンドは、約719および875cm-1であると予想された。しかし、図7Aでは、純水にさらされた胞子嚢では、これらのシグナルはいずれも観察されなかった。ホスファチジルイノシトールに起因する519cm-1および868cm-1の主な低周波帯域も、水にさらされた胞子嚢のスペクトルにおいて欠けていた。逆に、おそらくそれぞれ558cm-1(バンド7)および681cm-1(バンド17)のステロールおよびセラミドからの明確なシグナルが検出された。残念ながら、これらのシグナルは、DNAプリンからのシグナルと強く重複していた。明確なシグナルは、真菌の細胞膜において最も豊富なステロールであるエルゴステロールによってもたらされた。この分子は、594、710、725、827および942cm-1(すなわち、それぞれバンド10、19、20、29、および36)の顕著な低周波シグナルを含む複雑なラマンスペクトルを特徴とする。
【0083】
ステロールは、明確な低周波シグナル(表1参照)を含む複雑なラマンスペクトルを特徴とする。しかし、正確なスクリーニングにより、これらの低周波シグナルのいずれも、他の膜分子からの重複シグナルを含まないことが明らかになった。ステロールは、細胞膜の流動性、透過性、および完全性を調節するのに不可欠な成分である。真菌とは対照的に、Peronosporalesはステロールを合成することができないが、有性生殖と無性生殖の両方のためにステロールを必要とする。Phytophthoraでは、植物宿主からのフィトステロールが取り込まれ、いずれのさらなる改変もなしに使用される。
【0084】
他の脂質化合物に関して、アラキドン酸は、植物内の卵菌によって放出される周知の誘発物質であり、最近の知見は、P.viticolaのアラキドン酸およびエイコサペンタエン酸のセラミドおよび誘導体が感染過程の非常に初期の段階で産生されることを示している。バンド32(861cm-1)および35(931cm-1)を、アルファ-リノレン酸におけるC-O振動およびアラキドン酸におけるC-H屈曲に割り当てた。前者のバンドはP.viticolaに特有の脂肪酸のフィンガープリントとして機能するが、後者は残念ながらグルコースおよびヒスチジン由来のバンドと重複する(後述)。脂肪酸は、一般に卵菌病原体による感染時に植物に放出される。グリセロリン脂質レシチン(C-N延伸に割り当てられる)の低周波数での最も強いシグナルは、(715cm-1での)バンド20にも寄与し得る。レシチン由来のさらなるバンドは、764および827cm-1に現れる(それぞれバンド24および29)。これらは、それぞれO-P-O対称および反対称の延伸に起因する。図7Aに示すスペクトルの完全な標識を与える試みを表1に示す。
【0085】
1.5体積%のSi水懸濁液に曝露した胞子嚢のスペクトル
水性懸濁液中のSiの存在によって誘導される細胞構造P.viticola胞子嚢の変化を、図7A図7Bとの間のスペクトル変動によって示す。一般的な傾向として、Si懸濁液に曝露された胞子嚢の全ラマンバンドは、純水の中の胞子嚢の対応するバンドと比較した場合、比較的低い強度を示した。主な変形例は以下の通りである。
【0086】
高強度または中強度のいくつかのバンドが消失したか、またはSi懸濁液中の胞子嚢のスペクトルにおいて有意に減少した強度でのみ生じた。それらは以下を含んでいた:アデニンからのバンド5および12(それぞれ535および623cm-1);シトシン由来のバンド10(594cm-1);DNA中のC’5-O-P-O-C’3ホスホジエステル対称延伸からのバンド25(782cm-1);グアニン由来のバンド31(846cm-1);および、セルロース由来のバンド33(893cm-1)(おそらくキチンも寄与する)。
【0087】
Si懸濁液に曝露された胞子嚢のスペクトルにおいて、3つの新しいバンドが出現した。それらは以下の通りであった:バンド11(613cm-1)、バンド15(654cm-1)、およびバンド32(872cm-1)。これらのラマンシグナルの源は、(後述するように)環境ストレスに応答して胞子嚢によって産生される既存の分子または新しい化学種の化学修飾に起因する。
【0088】
Siの存在下でのさらなるスペクトル変動は以下の通りであった:多糖におけるC-C骨格延伸からのバンド2およびD(+)-マンノースからのバンド3(それぞれ490および500cm-1)。これらのシグナルは強度-傾向反転を受け、前者は後者よりも強くなった。セルロース由来のバンド9(583cm-1)も比較的高い強度を示した。バンド17(681cm-1)についても同様の傾向が観察され、セラミドのO=CNおよびCCO屈曲に割り当てられたが、グアニン環からの寄与も有していた。チミンを表すバンド23(753cm-1)、ヒスチジン由来のバンド35(931cm-1)およびアデニン由来のバンド36(942cm-1)は、強度の有意な低下を経た。
【0089】
純水にさらされた胞子嚢と水性Si粉末懸濁液との間の明確なスペクトルの差の理由は、胞子嚢とSi顆粒との間で生じる化学反応の結果であった。
【0090】
実施例5:
P.viticolaとSiとの間の化学的相互作用
直接的な観察により、この研究は、水性懸濁液中のSiの堅牢なpH緩衝およびガス状アンモニアの放出を確認した(図1A図1Cを参照)。観察されたpH緩衝は、オルトケイ酸によるSiの表面の緩やかな被覆のため、および開放系を出るガス状窒素のために、過渡的な現象であった(図1Dで観察された気泡を参照)。
【0091】
図2G~2Kでは、Si顆粒が胞子嚢の壁に静電的に引き付けられているように見えた。Peronosporalesの細胞壁は、限られた量のキチンのみからなり、主にグルカン複合体およびマンノタンパク質からなる。後者の構成成分は、5つのマンノース残基を含有するグリコホスフェート基を介してβ-グルカンに連結される。リン酸化マンノシル側鎖は、細胞壁に負電荷を付与する。さらに、胞子嚢の表面の官能基(すなわち、リン酸基、カルボキシル基およびアミノ基)は、高アルカリ環境で脱プロトン化される。それらは、窒素空孔(荷電3+)およびN-N結合(荷電+)を含むSi表面の正電荷部位と相互作用する。接触すると、胞子嚢とSi顆粒との間の相互作用は、局所的に発生する高アルカリ性pHおよび細胞壁を横切る高揮発性NH分子の受動的拡散によって強く影響される。これらのイオン性相互作用は、膜の破裂およびSi顆粒とのわずか1分の接触後の未成熟な遊走子(図2A図2C)の観察される発育不全をもたらす。
【0092】
ラマン分析の解釈
核酸のアンモニアによって予想される主な化学反応は加水分解である。核酸は、最初に2つのジヌクレオチドに分解され、一方はアデニンおよびウラシル基を含有し、他方はグアニンおよびシトシン基を保持する。アデニン-ウラシルジヌクレオチドはグアニン-シトシンよりも相対的に安定しているが、両方ともpH値>8でモノヌクレオチドに分解する。NH、アデニンおよびグアニンの存在下では、ホスホジエステル結合が脱プロトン化され、強く不安定化される。任意のアルカリ性pHで、チミン中のN(3)の水素も、窒素環の弱い塩基性のために除去される。Siに曝露すると、最も顕著なスペクトル変動は、2つの最も強いシグナル、すなわちバンド25および31(すなわち、それぞれ、DNAのC’5-O-P-O-C’3ホスホジエステル対称延伸およびグアニン環のC4-N9-C8+N1-C2-N3の面内変形に関連する)の消失であった。アデニン(バンド5、12、および36)およびシトシン(バンド6、10、11、19、および26)に関連するいくつかのバンドの消失ではないにしても、強度の有意な低下が認められた(図7A~7Bを参照されたい)。これらの観察結果は、Siと病原体との間の相互作用に関する以前の研究と一致している。NHの拡散および窒素フリーラジカル反応によって作り出される酸化効果の前後のDNA核酸塩基の概略図をそれぞれ図9Aおよび9Bに提示する。最も顕著な特徴は、延伸の消失を伴うDNA中のホスホジエステル結合の切断、バンド25、ペルオキシ亜硝酸ラジカルとの相互作用によるグアニン環の開環(G→Gh)、およびその最も強い環振動の消失、バンド31である。グアニンにおける環呼吸モードも寄与するバンド14の著しい強度の低下は、図9Bに示されるGh機構を裏付けている。アデニンユニット(A)についても、その構造(A’)の酸化による修飾が観察された。アデノシン酸化は、図9Bに示すように、2つの酸素二重結合の形成に起因して、2つの環変形バンド5および12の消失を担うと考えられる。シトシン核酸塩基(C)の5-OH-U構造への修飾は、バンド6および10の消失を説明することができる。元のシトシン構造でN3=C4-N4およびC-C=C屈曲モードを表す前者は、これらの結合が酸化した5-OH-UユニットでそれぞれN3-C=OおよびC-C-OH結合で置換されているために消失し、後者は元のシトシン構造でのC2=O屈曲に由来する。これは、酸化された5-OH-U構造における対称のC4=O結合の出現によって相殺された。チミンおよびウラシル(U)由来のバンドは、それらがただ1つのC=C二重結合を有するので、より安定的であるようである。最後に、酸化された核酸塩基に関連するいくつかのバンドは、強度のより低い減少を示したことに留意されたい(すなわち、それぞれ558、681および731cm-1のバンド7、17、および21)。しかし、これらのバンドは、脂質が寄与するという特徴を共有していた(それぞれコレステロール、セラミド、およびホスファチジルセリン)。
【0093】
Sonoisらは、実験および理論計算の両方によっていくつかのアミノ酸のラマン挙動を記載した。ヒスチジンの場合、pHが上昇する環境は、約613、656および860cm-1に新しいラマンバンドの出現をもたらした。これらの3つのバンドは、Siに曝露された胞子嚢で検出され(図7Bを参照されたい)、バンド11、15、および32と標識された新しいバンドに対応する。ヒスチジン分子の側鎖は、6π電子を含む芳香族イミダゾール環である。環境のpHに応じて、異なる互変異性型およびイオン型のヒスチジンが存在し得る。pH<6では、正に帯電した形態が、プロトン化環の両方のN原子について優勢である(図9C)。逆に、pHの値が上昇すると、ヒスチジンはそのイミダゾール環で1つのプロトンを失い、これが徐々に中性形態を生じる(図9D)。Valeryらは、自己集合したヒスチジン含有ペプチドの立体配座変化および高いpHでのそれらの安定化された球状立体配座を研究した。振動分光評価により、ヒスチジン-セリンH結合およびヒスチジン-芳香族相互作用が明らかになった。pH=8.5では、ヒスチジン脱プロトン化が起こり、周波数範囲1050~1150cm-1のラマンスペクトルのC-N環延伸バンドを変化させた。
【0094】
新たに形成されたバンド11、15、および32のヒスチジンの解釈を強化する試みにおいて、周波数範囲1,050~1,150cm-1のイミダゾール環のC-N延伸スペクトル領域を監視した。純水(pH=6.5)の中の胞子嚢で収集したラマンスペクトルをSi懸濁液(pH=8.3、それぞれ図10Aおよび図10B参照)と比較すると、異なる傾向が観察された。Pogostinらによる最近の論文によれば、図9Cおよび図9Dに示される環構造を考慮すると、ヒスチジン環の脱プロトン化のための分光フィンガープリントは以下の通りである。
【0095】
新しい強いバンドが約1075cm-1に現れた。これは、強度が著しく弱まっているように見えた約1090cm-1で最初に観察されたバンドに加えてのことである。これらのバンドは、それぞれ(C2-N3)および(C2-N3)結合配置の延伸振動に関連する。前者の構成は、より強い結合(すなわち、N1-C2-N3の電子共有による)を含む。その振動エネルギーはより大きく、それはより高い周波数で現れる。
【0096】
同様の傾向が、初期状態(C4-N3)および脱プロトン化(C4-N3)結合配置の延伸バンドで観察され、それぞれ約1125-1(ショルダーバンド)および約1118cm-1(初期状態のバンド)に現れた。この傾向は、より低い周波数への周波数シフトが前の段落の場合ほど顕著ではない場合でも、前の段落で与えられた同じ推論を使用して説明することができる。この状況は、脱プロトン化リング内の結合強度のバランスに関連する。C2-N3結合は、その隣接する二重結合N1=C2がC4-N3に隣接する二重結合C4=C5よりも強いため、C4-N3結合よりも弱い(すなわち、CよりもNの電気陰性度が高いことに起因)。
【0097】
環の構成が脱プロトン化されたとき、(C2-N1(H))結合(約1100cm-1)に関連する延伸バンドについて、有意なシフトまたは強度変動は観察されなかったが、わずかな広がりだけは観察された。
【0098】
また、約1600cm-1のC=CおよびC=Nスペクトルゾーンにおけるヒスチジン残基のイミダゾール環のさらなるラマン分析(図示せず)は、図10Aおよび図10Bに示される結果と一致する特徴を示したことにも留意されたい。上記のラマン分析に基づいて、ラマン分光学的な特徴は、高アルカリ環境で起こる脱プロトン化に関連する。これらの反応は、高いpHの値でのヒスチジン含有ペプチドに一般的である。
【0099】
ヒスチジンキナーゼタンパク質は、ほとんどの原核生物および真核生物に存在する。それらは、様々な環境因子に対するいくつかの適応転写応答を調節する。卵菌では、ヒスチジンキナーゼの機能的分析は欠けているが、ヒスチジン部位でのリン酸化は浸透圧ストレスに対する真菌の一般的な代謝応答である。例えば、浸透圧のストレスを環境条件の変化として知覚することに応答して、保存されたヒスチジン残基がアデノシン三リン酸からのリン酸基でリン酸化され、これは図7Bで検出されたアデノシンラマンバンドの減少と一致する。保存されたアスパラギン酸残基へのホスホリル基の連続的な移入は、シグナル伝達経路へのシグナル伝達を媒介する調節をもたらす。Si顆粒と胞子嚢壁との間の高度に局在化したアルカリ度のために、かなりの割合のNHがエンドサイトーシス空間に浸透し、胞子嚢の浸透圧バランスを激しく変化させる。したがって、Si曝露によるラマンデータの変化は、胞子嚢が浸透圧ストレスに反応したこと、およびヒスチジンキナーゼが、Saccharomyces cerevisiaeについて仮定されたものと同様の浸透圧ストレスの増加を認識したことを示唆している。なお、モデル卵菌Phytophthora infestansでは、タンパク質キナーゼが発芽中の胞子嚢の開裂に関与することが見出されている。
【0100】
本研究では、この仮説は、キチンの主なシグナル(すなわち、893cm-1のバンド33)の消失、ならびに細胞壁の構造におけるセルロース(および/またはキチン)および他の線状炭水化物に関連する他のすべてのシグナル(すなわち、それぞれ500、643、649および710cm-1のバンド3、14、15および19)の強度の有意な低下によって裏付けられる。セルロースの線状ポリマー鎖は、β-グリコシド結合によって一緒に連結されている。これらの結合は、Siによって誘導されるアルカリ性のpHレベルによって、またはNHとのいずれかの直接的な相互作用によって影響されない。一方、加水分解酵素は、キチンのグリコシド結合を分解し、それによって植物病原体の細胞壁を変化させることができる。ラマン実験がどのように行われたかを考えると、酵素反応は胞子嚢自体に固有のものでしかない可能性がある。植物菌は、その壁の可塑性を酵素的に制御することができることが知られている。真菌壁は「軟化」しており、芽の出現およびその後の成長のために拡大しなければならない。それらはまた、偽菌糸およびフェノール架橋を有する胞子壁の形成中に再構築される。連結されたβ-グルカンおよびキチンの壁の内側マトリックスは、引張強度および剛性をもたらす。しかし、壁組成物は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ経路を介した環境変化に応答して再構築され得る。細胞壁の弾性は、病原体の生存を浸透圧ショックまで可能にする迅速な構造的再編成によって調節される。図3Aおよび図3Bに示すように、Si顆粒の近傍に芽の出芽が観察され、これは多くの場合、未熟な胞子形成につながる現象である(図2A図2Cを参照されたい)。
【0101】
Turchiniらは、低オスモル濃度で増殖させたものと比較して、高オスモル濃度培地で増殖させた真菌細胞のキチン含有量の50%の減少を測定し、真菌のキチンシンターゼ活性が低オスモル濃度培地と高オスモル濃度培地で増殖させた細胞でより高いことを示している以前のデータと一致した。これらの研究者らは、膜の伸張を可能にし、細胞の完全性を維持する確率を高めるレスキュー機構として、高浸透圧媒体中の真菌壁の観察された弱化を解釈した。これらの研究に基づいて、Siに曝露された胞子嚢の主要なキチンバンド33の消失は、浸透圧のストレスに抵抗する試みにおいて真菌細胞によって活性化される酵素フィンガープリントである。最後に、Si図2A図2C)とのわずか1分の接触後に驚くべきことに観察された未熟な発芽は、発芽を成熟まで維持するために必要とされるキチン質の壁のde novoの合成を胞子嚢が生成できないことの結果である可能性が高いことにも留意すべきである。
【0102】
他の環境に優しいアプローチと比較したSiの効果
P.viticolaは、気孔を通って宿主の葉組織に入り、気孔下の空気空間に留まり、第1のハフニウムを形成するまで12~15時間ゆっくりと成長する。この初期期間は、感染の過程全体において最も重要であると考えられる。この期間の開始前に、Si粒子をブドウのつるの葉に予防的に噴霧することができた。気孔に入ると、それらは長期間(例えば、おそらく1つの季節)内部に閉じ込められたままである。降雨事象中、水はアンモニウム部分の溶出およびpHの急速な上昇を繰り返し活性化し、それによって胞子嚢にとって厳しい環境を作り出す(図11A)。対照的に、水酸化銅および硫酸銅に基づく現在利用可能な殺真菌剤は、ブドウのつるに対して予防的保護をもたらすだけである。それらは広域浸透性ではなく、したがって既存の感染を根絶することができない。また、これらは雨により容易に洗い流される。その結果、Siのような固体状態の殺真菌剤の1つの利点は、降雨事象(図1A図1Cを参照されたい)中のその反復活性化および真菌が葉組織に浸透した後でさえもの病原体に対するその有効性である。病原体/Si界面で活性な抗真菌機構を図11Bに概略的に要約する。
【0103】
環境に優しいものではない農薬の使用を置き換えるために3つの戦略が追求されてきた。(i)環境に優しい新したな抗真菌製品の開発、(ii)植物病原体に対する全身的耐性の誘導のための微生物の使用、(iii)集団遺伝事項の制御による宿主-病原体相互作用の操作である。
【0104】
農薬に取って代わることができる効果的な環境に優しい分子は多糖類である。例えば、オリゴ糖キトサンは、寄生生物の成長を阻害する分子の蓄積を誘導する能力を有する植物防御の効率的な促進剤である(すなわち、フィトアレキシン、ならびに強力な酸化防止剤、例えばトランス-およびシス-レスベラトロールおよびそれらの誘導体)。キトサンはまた、病原体を溶解することができるブドウの葉における酵素分子(例えば、キチナーゼおよびα-1,3-グルカナーゼ)の産生を誘発し、それによってべと病感染の可能性を著しく低下させる。低分子量のキトサンはまた、真菌分生子に浸透する能力を有し、膜の崩壊および細胞内容物の喪失を引き起こす。これは、真菌原形質膜の外部アニオン性成分と相互作用し、膜の破裂をもたらす。Plasmopara viticola感染を制御することができる別の多糖は、水溶性β-1,3-グルカンラミナリンであり、これは褐藻類、Laminaria digitataから得ることができる。その抗病原性効果の起源は、ブドウのつるの細胞における防御応答の効率的な誘発にある。しかし、キトサンおよびラミナリンの十分に確立された抗真菌効率にもかかわらず、報告は、つる植物の最終的な質における重要なパラメータである必須窒素濃度の変化を伴う、ブドウのつる由来の必須アミノ酸組成に対するこれらの多糖類の望ましくない効果を示している。
【0105】
バニリンおよびニンニク抽出物はまた、環境に優しい抗真菌物質として分類されている。前者は、その化学構造中にアルデヒド基を有するが、後者は、アリシンの強力な抗真菌活性、遮断脂質、タンパク質、および真菌酵母における核酸合成を含む。それにもかかわらず、これらの化合物の主な欠点は、それらが水と容易に反応することである。例えば、アリシンは、ジアリルジスルフィド、あまり顕著でない抗菌活性を有する化合物を迅速に形成する。
【0106】
試験される他の天然由来化合物としては、加水分解タンパク質、植物抽出物および無機塩が挙げられる。これに関連して、選択されたアプタマーペプチドの使用、具体的にはP.viticolaセルロースシンターゼ2を阻害し、したがって非標的生物に対する有害作用なしに感染を予防することに基づいて、最近の有望な戦略が提案されている。
【0107】
無機塩の中でも、主に、重炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、塩化物、および亜リン酸塩の例が挙げられる。それらの活性は、主にブドウを含む異なる作物のうどんこ病に対して報告されているが、重炭酸ナトリウムのみがブドウのつるのべと病に対して限られた有効性を示した。窒化ケイ素ベースの植物衛生製品の開発は、この最後のカテゴリに含まれる。本文脈において、ケイ酸塩は特に言及する価値がある。いくつかの可溶性ケイ酸塩は、植物の自然防御機構の刺激および植物の細胞壁の強化の両方によって作用する、異なる真菌の感染に対する直接的および間接的な活性を有する。したがって、SiからのSiOおよびSi(OH)の産生(反応(1)~(3)に記載)は、本発明者らの実験で観察された感染過程のほぼ完全な阻害を少なくとも部分的に担うことができる植物耐性を誘導することによって、P.viticola胞子嚢および遊走子に対するアンモニアの直接作用を補完することができる。さらに、雨によって容易に洗い流される可溶性塩と比較して、Siは、ヒト病原体に関する以前の研究と一致して、不溶性粉末からのアンモニウム部分の異なる溶出サイクルおよび反応性窒素種の生成を通してより持続的な保護をもたらすことができた。実際、治療時には、Si粒子は気孔の内部に捕捉されたままであり得(図11A)、雨の事象の間、水は敵対的な化学環境(図11B)を繰り返し発生させ、二次感染サイクルにおける胞子嚢の排出を損なう可能性があり、したがってさらなる化学的治療の必要性を低減する。一部の微生物は、植物病原体に対する全身的耐性を提供し、それによって疾患重症度を低下させることができる。耐性は、保護酵素分子の合成をもたらす代謝応答を生じる宿主植物生理学の変化の結果である。市販の生物防除剤であるTrichoderma harzianum株T39は、べと病に対する全身的耐性に適した微生物であり得る。全身的耐性を誘導する際の3つの異なるバイオエリシター(すなわち、Trichoderma harzianum、Streptomyces plicatus、およびPseudomonas fluorescens)の効率を調べた。Trichoderma harzianumは、べと病に対する最も強い耐性をもたらし、Streptomyces plicatusがこれに続いた。しかし、処理時にクロロフィルおよびカロテンの両方の増加が観察された。3つの生物学的療法の間でタンパク質発現レベルにかなりの多様性が見られた。一般に、全身的耐性を誘導するための微生物の使用は、単一の形態の耐性に対してのみ有効になるという欠点を有する。それらは、最終的に病原体の突然変異を生じ得る多様性に悩まされている。
【0108】
より一般的な観点から、卵菌Plasmopara viticolaの病因の背後にある分子機構はほとんど知られていない。感染を引き起こすために、細胞質およびアポプラスチックエフェクタータンパク質が卵菌によって分泌され、これが免疫を抑制し、植物の感受性を高める。配列決定された卵菌ゲノムにおけるエフェクターは、急速に進化し、植物耐性遺伝子に対抗し、植物RNAサイレンシング機構を抑制する新しい機能を獲得することが見出されている。エフェクタータンパク質の作用に対抗することは、ゲノム配列決定に伴う複雑さのために、従来困難であった。それは、マルチオミクスの手法を義務的に必要とする。比較ゲノミクスを利用して、Brilliらは最近、Plasmopara viticolaのゲノムにおいて、その生物栄養学的な生命の様式を説明し得る、欠けている代謝特徴の発見を報告した。彼らは、耐性のあるブドウのつるにおいて免疫を誘発するタンパク質エフェクターを同定した。低分子RNAとゲノムワイド分解配列決定とを組み合わせたRNA末端の並行分析のためにGermanらによって開発された新しい方法は、感染中に遺伝子を標的化する低分子RNAの複雑なネットワークを明らかにした。したがって、新しい双方向RNAサイレンシング戦略が示唆された。近年、病理測定技術は高レベルの高度化に達しているが、それらはまた、病原体-宿主相互作用の複雑さを明らかにしている。研究された系は、「耐性」および「感受性」のタイプの反応しか認識されなかったとしても、限られた数の遺伝子についてしかコード化および解釈され得なかった(多くの遺伝子間相互作用が予想された)。
【0109】
Siは、環境に優しい農薬への代替アプローチの欠点のいくつかを解決する可能性を有する、興味深い多機構的な抗病原性挙動を示す。Siの広域スペクトルの抗病原性有効性は、その窒素化学に起因する。水は窒素を放出するトリガーとして作用し、病原体の溶解をもたらす反応のカスケードをもたらす。Siの表面に生成された窒素種は、病原体のタンパク質を変化させ、DNAへのニトロソ損傷を誘導し、病原体の膜の構造を改変する代謝酵素を刺激する。これらの知見は、ヒト病原体に関する以前の研究と一致している。細胞壁を横切るNHの拡散に起因して病原体の細胞質で生じる多機構溶解反応は、病原体による突然変異の確率を低下させる。さらに、Siは埋め込み可能な生体材料として使用されるため、真核細胞に対して毒性ではない。地球の歴史に内在する環境に優しい要素のみを含む。いくつかの植物種は、特に生物的および非生物的ストレスの緩和において、Si施肥から利益を得る。Siの分解によって生成されるアンモニウムは、有機窒素の合成に関与する主要な無機種である。土壌のアンモニウムおよび硝酸イオンは、根に特異的な輸送体を介して直接吸収され、有効に利用される。ブドウのつるの場合、NH は、ヴェレゾンの前の全窒素の最大80%に相当するが、成熟した後には5~10%に減少し、発酵後にはさらに低下する。Siから溶出した窒素は、ベリーの品質および発酵条件の改善に寄与し得る。制限要因として、過剰な窒素はフェノール化合物の生成ならびにブドウとワインの両方の味または品質を変える可能性があるため、肥料およびSiからの窒素の量のバランスをとるように注意する必要がある。いくつかの植物種は、特に生物的および非生物的ストレスの緩和において、Si施肥から利益を得る。
【0110】
実施例6:
これらの例は、P.viticolaによるブドウのつるの感染症に対するSiの効果に対する新たな洞察を与える。無機の環境に優しい薬剤として、それは重金属農薬およびより新しい環境に優しい抗病原性分子に取って代わる可能性を有する。Siの使用はまた、ブドウのつるにおける重金属の使用を減らすことを目的とした現在の規制の傾向と一致している。Siの独特の化学的性質は、炭酸水素塩などの農業用途における他の無機塩に使用されるモル濃度範囲内である1.5体積%という低い濃度でさえ、胞子嚢における浸透圧ストレスを誘発し、それらの未熟な遊走子の発育不全を引き起こす。ラマン実験は、リン酸デオキシリボース骨格の切断およびグアニン環の破壊を含む化学的機構に関する重要な情報を提供した。異なるブドウのつるの種の葉に対する実験は、顕微鏡観察によって明らかにされるように、Siが非常に初期の段階で感染の過程を大幅に低減または遮断するのに有効であり、胞子嚢の発芽および遊走子の生存率に影響を及ぼすことを示した。Siの使用は、銅系配合物が環境だけでなくワインの品質にも有害である、高い窒素要件を有するブドウのつるにとって、最も有益であろう。Siは環境に優しい元素のみを含有するので、このセラミックは、有毒な銅および硫黄元素を含む接触殺真菌剤の適切な代替物でもある。Siは、従来の合成製品と比較して複数の利益および他の無機塩に勝る技術的利点を有する有望なバイオ農薬と見なすことができ、統合的な疾患管理における有用な成分であり得る。
【0111】
上記から、特定の実施形態を図示および説明してきたが、当業者には明らかであるように、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な修正を行うことができることを理解されたい。そのような変更および修正は、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲および教示内にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2023-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物における病原体を処理または予防するための方法であって、
前記植物を窒化ケイ素を含む組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項2】
前記組成物が、窒化ケイ素粒子と溶媒とのスラリーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒が、水である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、0.5体積%~20体積%の窒化ケイ素を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が1体積%~3体積%の窒化ケイ素を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記接触が、噴霧、ミスチング、または浸漬を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物が、農業植物、樹木またはつるである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記農業植物が穀物、マメ科植物、塊茎、草、油種子、野菜または果実であり、前記樹木は、果樹、ランドスケープの木、または森林樹であり、前記つる植物はブドウのつるである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記病原体が、べと病、うどんこ病、灰色かび病、フザリウム病、さび病、リゾクトニア病、スクレロチニア病またはスクレロチウム病から選択される植物病害を引き起こす、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記病原体が真菌である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記真菌がPlasmopara viticolaである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記植物がVitis viniferaである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Vitis viniferaが、Cabernet Sauvignon、CannonauまたはSultanaである、請求項12に記載の方法。
【国際調査報告】