(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】ポリシロキサンを製造するための前駆体、ポリシロキサン、ポリシロキサン樹脂、ポリシロキサンの製造方法、ポリシロキサン樹脂の製造方法およびオプトエレクトロニクス部品
(51)【国際特許分類】
C08G 77/04 20060101AFI20230721BHJP
C08G 77/44 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C08G77/04
C08G77/44
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579766
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(85)【翻訳文提出日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2021068353
(87)【国際公開番号】W WO2022008377
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102020118247.3
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】エイエムエス-オスラム インターナショナル ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ams-OSRAM International GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, D-93055 Regensburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キッケルビック グイド
(72)【発明者】
【氏名】メイアー デニス
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA03
4J246AA11
4J246AA19
4J246BA040
4J246BA04X
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4J246GC18
4J246GC23
4J246GC24
4J246GD05
4J246HA29
(57)【要約】
置換および非置換のアルキル基または置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを有するジメトキシシランを含むポリシロキサンを製造するための前駆体が開示される。ポリシロキサン、ポリシロキサン樹脂、ポリシロキサンの製造方法、ポリシロキサン樹脂の製造方法およびオプトエレクトロニクス部品がさらに開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の順序で連結された第1、第2および第3の繰り返し単位を含むポリシロキサンであって、
前記第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシラン、置換および非置換のビニルジアルコキシシラン、ならびに一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、前記置換ビニルジアルコキシシランおよび前記一置換ジアルコキシシランは、各々、互いに独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含み、
前記第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づくものであり、
前記第3の繰り返し単位は、置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものであって、前記前駆体の各々が置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を含む、
ポリシロキサン。
【請求項2】
前記第1の前駆体が、ビニルフェニルジエトキシシランおよびメチルジエトキシシランから選択され、
前記第2の前駆体が、9-フェナントレニルメチルジメトキシシラン、9-フェナントレニルフェニルジメトキシシラン、1-ナフチルメチルジメトキシシラン、2-ナフチルメチルジメトキシシラン、1-ナフチルフェニルジメトキシシランおよび2-ナフチルフェニルジメトキシシランから選択され、
前記第3の前駆体が、ジメチルジメトキシシラン、メチルジメトキシフェニルシランおよびジフェニルシロキサンジオールから選択される、
請求項1に記載のポリシロキサン。
【請求項3】
前記第1、第2および第3の繰り返し単位が、1:2:2の比で前記ポリシロキサン中に存在する、請求項1または2に記載のポリシロキサン。
【請求項4】
前記第1の前駆体が、ビニルフェニルジエトキシシランを含み、前記ポリシロキサンが、ビニル置換基を備えたケイ素原子を有する、請求項1に記載のポリシロキサン。
【請求項5】
前記第1の前駆体が、メチルジエトキシシランを含む、請求項1に記載のポリシロキサン。
【請求項6】
1.57~1.63の両端値を含む範囲内で調節可能な屈折率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリシロキサン。
【請求項7】
450nm~800nmの範囲内で95%~100%の光透過率を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリシロキサン。
【請求項8】
連結された第1および第2のポリシロキサンを含むポリシロキサン樹脂であって、前記第1および第2のポリシロキサンは、各々、任意の順序で連結した第1、第2および第3の繰り返し単位を含み、前記第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づくものであり、前記第3の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものであり、
前記第1のポリシロキサンの前記第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシランならびに置換および非置換のビニルジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、前記第2のポリシロキサンの前記第1の繰り返し単位は、一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、前記置換ビニルジアルコキシシランおよび前記一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含む、
ポリシロキサン樹脂。
【請求項9】
前記ポリシロキサン樹脂中における、第1および第2のポリシロキサンの互いに対する存在比が、2:1~1:2の両端値を含む範囲から選択される、請求項8に記載のポリシロキサン樹脂。
【請求項10】
第1の前駆体、第2の前駆体および第3の前駆体を混合し、連結する、ポリシロキサンの製造方法であって、
前記第1の前駆体は、ジビニルジアルコキシシラン、置換および非置換のビニルジアルコキシシランならびに一置換および非置換のジアルコキシシランから選択され、前記置換ビニルジアルコキシシランおよび前記一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含み、前記第2の前駆体は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択され、前記第3の前駆体は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される、
方法。
【請求項11】
第1、第2および第3の前駆体が、1:2:2の比で混合する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記連結が、加水分解および縮合によって実施する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
第1のポリシロキサンおよび第2のポリシロキサンを混合し、硬化することを含むポリシロキサン樹脂の製造方法であって、前記第1および第2のポリシロキサンは、各々、任意の順序で連結した第1、第2および第3の繰り返し単位を含み、前記第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づくものであり、前記第3の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものであり、
前記第1のポリシロキサンの前記第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシランならびに置換および非置換のビニルジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、前記第2のポリシロキサンの前記第1の繰り返し単位は、一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、前記置換ビニルジアルコキシシランおよび前記一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含む、
方法。
【請求項14】
前記硬化が、触媒によって行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒としてヒドロシリル化触媒を使用する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
UVおよび/または可視光放射線を放出するように構成されたオプトエレクトロニクス部品であって、連結された第1および第2のポリシロキサンを含むポリシロキサン樹脂を含む少なくとも1つの構成要素を備え、前記第1および第2のポリシロキサンは、各々、任意の順序で連結した第1、第2および第3の繰り返し単位を含み、前記第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づくものであり、前記第3の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものであり、
前記第1のポリシロキサンの前記第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシランならびに置換および非置換のビニルジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、前記第2のポリシロキサンの前記第1の繰り返し単位は、一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、前記置換ビニルジアルコキシシランおよび前記一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含む、
オプトエレクトロニクス部品。
【請求項17】
前記少なくとも1つの構成要素が、封止体を含む、請求項16に記載のオプトエレクトロニクス部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリシロキサンを製造するための前駆体、ポリシロキサン、ポリシロキサン樹脂、ポリシロキサンの製造方法、ポリシロキサン樹脂の製造方法およびオプトエレクトロニクス部品が開示される。
【発明の概要】
【0002】
少なくとも1つの実施形態の目的は、改善された特性を有するポリシロキサンを製造するための前駆体を提供することである。さらなる目的は、改善された特性を有するポリシロキサン、改善された特性を有するポリシロキサン樹脂、改善された特性を有するポリシロキサンの製造方法、改善された特性を有するポリシロキサン樹脂の製造方法および改善された特性を有するオプトエレクトロニクス部品を提供することである。これらの目的は、独立請求項に記載の前駆体、ポリシロキサン、ポリシロキサン樹脂、ポリシロキサンの製造方法、ポリシロキサン樹脂の製造方法およびオプトエレクトロニクス部品によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0003】
ポリシロキサンを製造するための前駆体が開示される。前駆体とは、ここでおよび以下において、ポリシロキサンを製造することができる前駆体材料、特にモノマーであると理解される。そのため、前駆体は、ポリシロキサンを製造するために単独でまたは他の前駆体材料と共に使用することができる。例えば、ポリシロキサンがある種の前駆体から製造される場合、ポリシロキサンは、その前駆体に各々が基づく繰り返し単位から成る。すなわち、各繰り返し単位は、前駆体の構造を実質的に含み、繰り返し単位は、重合による隣接する繰り返し単位との共有結合を含む。ポリシロキサンは、各々が互いに共有結合している異なる繰り返し単位を有するように、異なる前駆体から製造することも可能である。
【0004】
少なくとも1つの実施形態によると、前駆体は、ジアルコキシシランを含む。ジアルコキシシランとは、ここでおよび以下において、置換基として2つのアルコキシ基を有するケイ素原子を含む化合物であると理解される。このため、ケイ素は、いずれの場合でも酸素原子に結合されている。例えば、ジアルコキシシランは、ジメトキシシラン、ジエトキシシランおよびジイソプロポキシシランから選択される。特に、ジアルコキシシランは、ジメトキシシランであってよい。その原子価のため、ジアルコキシシラン中のケイ素は、アルコキシ基に加えて2つの置換基を有する。
【0005】
さらなる実施形態によれば、ジアルコキシシランは、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含む。したがって、ジアルコキシシランは、2つのアルコキシ基に加えて2つの置換基を含む。これらのうち、一方の置換基は、置換もしくは非置換のアルキル基、または置換もしくは非置換のアリール基のいずれかである。他方の置換基は、置換または非置換の多環式芳香族炭化水素基である。
【0006】
少なくとも1つの実施形態によれば、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを有するジアルコキシシランを含むポリシロキサンを製造するための前駆体が開示される。
【0007】
上述した前駆体を含有するポリシロキサンは、オプトエレクトロニクス部品、特に発光ダイオード(light-emitting diodes、LED)を例とするオプトエレクトロニクス放射線放出部品のための封止材として特に適している。一方では、それらは可視光範囲において高い光学的透明性を呈し、他方では、高い化学的安定性、さらには熱的安定性を呈する。ポリシロキサン主鎖上に多環式芳香族炭化水素基が存在する事に起因して、このようなポリシロキサンの屈折率は、従来のポリシロキサンと比較して増加する。さらに、屈折率は、置換基の適切な選択によって調整することができ、このことは、ポリシロキサンを、意図する用途に正確に適合させることができることを意味する。
【0008】
封止材の屈折率を増加させるための公知の解決策は、例えば、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンなどの高屈折率を有するナノ粒子を従来のポリシロキサンマトリックス中に埋め込むことである。しかし、これは、封止材の透明度の低下を、ひいては低い光出力をもたらす可能性がある。また、封止材の変色を防止することができず、このことは、LEDの色が歪んだ印象をもたらす。加えて、ポリマーマトリックスへのさらなる成分の導入はまた、材料の粘度の変化も引き起こし、したがって、加工がより困難になりまたは加工方法を適合させる必要性を引き起こす。
【0009】
屈折率を増加させるための別の公知の解決策は、封止材として使用されるポリシロキサンのケイ素原子上の置換パターンを変化させることである。これまで、例えば、硫黄などの高分極性である不純物原子を含有する系が使用されてきた。しかし、これらの不純物原子は、LEDに使用される材料との相互作用に起因してLED用途において問題を引き起こす、または封止材の変色および/もしくは透明度の低下をもたらす。
【0010】
対照的に、前駆体中の多環式芳香族炭化水素基は、不純物原子または不純物原子で置換された基を有しないと同時に、高い屈折率を呈する。したがって、上述した前駆体を使用することによって、系に高い屈折率をもたらす、完全に有機な置換基を有するポリシロキサン鎖を調製することができる。したがって、本明細書で述べる前駆体を含有するポリシロキサンを含む材料(例えば封止材)の屈折率は、GaNチップを例とする発光半導体チップの屈折率に一致させることができる。
【0011】
例えば波長450nmの青色発光LEDチップは、2.5~4.0の平均屈折率を有する。従来の封止材は、これよりも著しく低い屈折率を有することから、現状では、従来の封止材との界面で光子の全反射が起こり得る。これは、LEDの効率の低下をもたらす。
【0012】
対照的に、記載した前駆体を含有するかまたは記載した前駆体から製造されるポリシロキサンは、従来の封止材と比較して屈折率が増加しており、したがって、LED用途において、より多くの光を結合発光(coupled out)させることが可能となる。前駆体上の置換基の選択に応じて、調整可能な屈折率を設定することができる。得られるポリシロキサンはまた、高い光透過率および高い安定性、特に高い熱安定性も呈する。従来のポリシロキサンについて上述した欠点を回避することができる。
【0013】
少なくとも1つの実施形態によれば、非置換または置換の多環式芳香族炭化水素基は、不純物原子を含まない。不純物原子とは、ここでおよび以下において、特に、硫黄を例とする炭素または水素ではない原子のことであると理解される。
【0014】
少なくとも1つの実施形態によれば、置換もしくは非置換のアルキル基は、メチル基を含む、または置換もしくは非置換のアリール基は、フェニル基および多環式芳香族炭化水素基から選択される。したがって、ジアルコキシシランは、2つのアルコキシ基に加えて、メチル基またはフェニル基または多環式芳香族炭化水素基を、さらなる置換基として有する。
【0015】
少なくとも1つの実施形態によれば、多環式芳香族炭化水素基は、フェナントレン、ナフタレン、アントラセンおよびピレンから選択される。
【0016】
したがって、前駆体は、例えば、以下の構造式1~6のうちの1つから選択される構造式を有することができ、これらの構造式の各々をその短縮された名称で示した。ここで、いずれの場合においても、ジアルコキシシランとしてはジメトキシシランが選択され、置換基としてはメチル基(式1~式3)またはフェニル基(式4~式6)が、多環式芳香族炭化水素基としては1-ナフタレン(式1および式4)、2-ナフタレン(式2および式5)または9-フェナントレン(式3および式6)が選択される。
【0017】
【0018】
特に、前駆体は、式3および式6から選択される構造式を有し得る。以下において、構造式3を有する前駆体は、PHMとも称され、構造式6を有する前駆体は、PHPとも称される。
【0019】
さらに、任意の順序で連結された第1、第2および第3の繰り返し単位を含むポリシロキサンが開示される。第1、第2および第3の繰り返し単位のうちの少なくとも1つは、それによって、本明細書で述べる前駆体に基づくものである。本明細書で述べる前駆体は、したがって、本明細書で述べるポリシロキサンの製造に適しており、それを意図している。したがって、本明細書で述べる前駆体の全ての特性および特徴は、ポリシロキサンにも当てはまり、逆もまた同様である。特に、第1、第2および第3の繰り返し単位は、構造的に異なる繰り返し単位である。言い換えれば、第1、第2および第3の繰り返し単位は、異なる置換基および/または置換パターンを有する。
【0020】
「任意の順序」とは、第1、第2および第3の繰り返し単位が異なる順序で交互に配置されてもよく、2つの隣接する繰り返し単位が同じであってもまたは異なっていてもよいということであると理解されたい。「連結される」とは、2つの繰り返し単位のそれぞれの間に共有結合が存在するということであると理解されたい。
【0021】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシラン、置換および非置換のビニルジアルコキシシラン、ならびに一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものである。
【0022】
置換ビニルジアルコキシシランおよび一置換ジアルコキシシランは、独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を有する。アリール基は、フェニル基および多環式芳香族炭化水素基から選択され得る。「一置換ジアルコキシシラン」とは、ここでおよび以下において、2つのアルコキシ基に加えて、別の置換基およびH原子がSiに結合していることであると理解されたい。したがって、一置換ジアルコキシシランには、Si-H結合(以下、ヒドリド基とも称される)が存在する。
【0023】
例えば、第1の前駆体は、ビニルフェニルジエトキシシラン(以下、VPとも称される)、メチルジエトキシシラン(以下、HMとも称される)、ビニルメチルジエトキシシラン、フェニルジエトキシシラン、ビニルフェニルジメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランおよびフェニルジメトキシシランから選択され得る。特に、VPおよびHMのうちの1つが、第1の前駆体として選択され得る。
【0024】
ここでおよび以下において、「前駆体に基づく」とは、それぞれの繰り返し単位が、その構造において、それぞれの前駆体に対応していることであると理解されたい。但し、繰り返し単位中の隣接する繰り返し単位と反応して、隣接する繰り返し単位との共有結合を形成している、連結を意図した前駆体の単位は除く。
【0025】
したがって、第1の前駆体は、例えば、以下の構造式のうちの1つを有し得る。
【0026】
【0027】
少なくとも1つのさらなる実施形態によれば、第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づく。
【0028】
第2の繰り返し単位は、したがって、第2の前駆体に基づくものであり、第2の前駆体は、上述した前駆体に対応し得る。特に、第2の前駆体は、上記で示される構造式1~6のいずれかを有し得る。好ましくは、第2の前駆体は、PHMおよびPHPから選択され得る。
【0029】
さらなる実施形態によれば、第3の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものである。アリール基は、フェニル基および多環式芳香族炭化水素基から選択され得る。例えば、第3の前駆体は、ジメチルジメトキシシラン(以下、MMとも称される)、メチルジメトキシフェニルシラン(以下、PMとも称される)およびジフェニルシロキサンジオール(以下、PPとも称される)から選択され得る。
【0030】
したがって、第3の前駆体は、例えば、以下の構造式を有し得る。
【0031】
【0032】
少なくとも1つの実施形態によれば、任意の順序で連結された第1、第2および第3の繰り返し単位を含むポリシロキサンが開示され、第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシラン、置換および非置換のビニルジアルコキシシランならびに一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、置換ビニルジアルコキシシランおよび一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含み、第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づくものであり、第3の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものである。
【0033】
したがって、第1、第2および第3の繰り返し単位の組合せは、光学用途、例えばLEDの封止材として、好適な特性を有するポリシロキサンを提供する。特に、このポリシロキサンは、既知のポリシロキサンと比較して、他の材料特性の変化を生じることなく増加した屈折率を有する。これを用いることで、例えば、LEDの効率をさらに改善し、その耐用年数を延ばすことができる。
【0034】
ジビニルジアルコキシシランもしくはビニルジアルコキシシラン、例えばVPが、第1の前駆体として選択される場合は、Si-ビニル基が第1の繰り返し単位中に存在し、または非置換もしくは一置換ジアルコキシシラン、例えばHMが、第1の前駆体として選択される場合は、Si-H基が第1の繰り返し単位中に存在する。これらの基により、ポリシロキサンは、硬化したときに良好に架橋して固体材料を確実に形成することができるようになる。少なくとも第2の繰り返し単位は、ポリシロキサンの高い屈折率を提供する広がった芳香族側基を有する。第3の繰り返し単位は、比較的小さい第3の前駆体に基づくものであり、これらは、サイズが小さいことに起因して高い移動度を有し、したがってポリシロキサンの粘度を低下させる。これにより、ポリシロキサンの加工が容易になる。
【0035】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1の前駆体は、ビニルフェニルジエトキシシラン(VP)およびメチルジエトキシシラン(HM)から選択される。
【0036】
少なくとも1つの実施形態によれば、第2の前駆体は、9-フェナントレニルメチルジメトキシシラン(9-PtMeSi(OMe)2、PHM)、9-フェナントレニルフェニルメトキシシラン(9-PtPhSi(OMe)2、PHP)、1-ナフチルメチルジメトキシシラン(1-NpMeSi(OMe)2)、2-ナフチルメチルジメトキシシラン(2-NpMeSi(OMe)2)、1-ナフチルフェニルジメトキシシラン(1-NpPhSi(OMe)2)、および2-ナフチルフェニルジメトキシシラン(2-NpPhSi(OMe)2)から選択される。これらの第2の前駆体は、構造式1~6によって既に上記で示されている。特に、第2の前駆体は、PHMおよびPHPから選択され得る。
【0037】
少なくとも1つの実施形態によれば、第3の前駆体は、ジメチルジメトキシシラン(MM)、メチルジメトキシフェニルシラン(PM)、およびジフェニルシロキサンジオール(PP)から選択される。
【0038】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1、第2および第3の繰り返し単位は、1:2:2の比でポリシロキサン中に存在する。したがって、第1の繰り返し単位は、第2および第3の繰り返し単位と比較してより低い比でポリシロキサン中に存在する。したがって、比較的低い屈折率を有するために最終的に製造されるポリシロキサンにおける屈折率の増加に寄与しない繰り返し単位は、ポリシロキサンにより少量で使用される。しかし、同時に、第1の繰り返し単位の割合は、ポリシロキサン中に十分なSi-HまたはSi-ビニル基を提供して、ポリシロキサンが硬化されたときにポリマー鎖間の良好な架橋をもたらすのに十分な高い値である。
【0039】
同時に、第2の繰り返し単位の割合は、ポリシロキサン中で可能な限り高くあるべきである。なぜなら、このことは、その高い屈折率に起因して全体の屈折率を増加させることに大きく寄与するからである。しかし、40モル%を超える割合では、材料が脆くなる場合があることから、上記比率は概ね維持されるべきである。
【0040】
ポリシロキサンの所望の粘度に応じて、繰り返し単位の割合の他の比も考えられる。
【0041】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1の前駆体はビニルフェニルジエトキシシラン(VP)を含み、ポリシロキサンは、ビニル置換基を有するケイ素原子を含む。別の選択肢として、第1の前駆体はメチルジエトキシシラン(HM)を含み、それによってポリシロキサンはSi-H基を含む。したがって、第1の繰り返し単位に関して、そしてポリシロキサンの硬化時の良好な架橋に寄与する繰り返し単位に関して、本明細書で述べるポリシロキサンは、原理上、Si-H基を有する構造およびSi-ビニル基を有する構造の2つの異なる構造を有し得る。
【0042】
少なくとも1つの実施形態によれば、ポリシロキサンは、1.57~1.63の両端値を含む範囲内で調節可能な屈折率を有する。「調節可能」とは、ここでおよび以下において、屈折率が、選択された第1、第2および第3の前駆体に応じて、1.57~1.63の両端値を含む範囲内の値であると理解されたい。したがって、ポリシロキサンは、LED用の封止材として特に良好に使用することができ、例えば、発光半導体チップおよび/またはその上に配置された変換材料の屈折率に適合させることができる。
【0043】
少なくとも1つの実施形態によれば、ポリシロキサンは、450nm~800nmの範囲で95%~100%の光透過率を有する。この特性も、ポリシロキサンが可視光範囲の放射線の高い透過率を呈することから、ポリシロキサンをオプトエレクトロニクス部品における封止材として使用するのに特に適したものとする。
【0044】
連結した第1および第2のポリシロキサンを含むポリシロキサン樹脂がさらに開示される。樹脂とは、ここでおよび以下において、様々な連結点で互いに共有結合を有する鎖状ポリマーを含有する材料のことであると理解されたい。ポリマー間の連結によって、三次元網目構造が作り出される。本明細書で述べるポリシロキサン樹脂は、少なくとも部分的に互いに異なっている第1および第2のポリシロキサンを有する。第1および第2のポリシロキサンは、上述したポリシロキサンから選択されてよく、その場合、ポリシロキサンに関して言及される全ての特性および特徴は、ポリシロキサン樹脂にも当てはまり、逆もまた同様である。
【0045】
第1および第2のポリシロキサンは、各々、任意の順序で連結された第1、第2および第3の繰り返し単位を含む。第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づくものである。第3の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものである。第1のポリシロキサンの第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシランならびに置換および非置換のビニルジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、第2のポリシロキサンの第1の繰り返し単位は、一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、置換ビニルジアルコキシシランおよび一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含む。したがって、ポリシロキサン樹脂中には、連結される前のSi-ビニル基を有する第1のポリシロキサンと、連結されていない状態のSi-H基を有する第2のポリシロキサンとが存在する。
【0046】
第1および第2ポリシロキサンの第2の前駆体は、本明細書で述べる前駆体であってよい。特に、第2の前駆体は、構造式1~6で表される前駆体のうちの1つであってよい。特に、第2の前駆体は、PHMまたはPHPであってよい。第1のポリシロキサンは、第1の前駆体として、例えばVPを含んでよい。第2のポリシロキサンは、第1の前駆体として、例えばHMを含んでよい。第1および第2のポリシロキサンは、第3の前駆体として、例えばMM、PMまたはPPを含んでよい。
【0047】
前駆体およびポリシロキサンの上述した有利な特性に加えて、ポリシロキサンから製造されるポリシロキサン樹脂は、従来のポリシロキサン樹脂と比較して高い硬度および大きく増加した熱安定性を呈し、このことは、例えば、影響を受け易い分解プロセスの減少に起因し得る。
【0048】
第1および第2のポリシロキサンのその組成のために、ポリシロキサン樹脂は、例えば第1のポリシロキサンのSi-ビニル基と第2のポリシロキサンのSi-H基との間のヒドロシリル化反応によって製造され得る2成分系と称される場合もある。
【0049】
ポリシロキサン樹脂は、染料粒子を例とする粒子をその中に溶解することができる追加の特性を有する。これは、ポリシロキサン樹脂が、例えばLED用の封止材として使用される場合に、放射線変換機能をさらに有することができることを意味する。加えて、ポリシロキサン樹脂は、酸素および水に対する低減された透過性を有し、このことも、封止材として使用するのに有利である。
【0050】
少なくとも1つの実施形態によれば、ポリシロキサン樹脂中における第1および第2のポリシロキサンの互いに対する存在比は、2:1~1:2の範囲から選択される。特に、この比は、1:1であり得る。したがって、十分に架橋された樹脂が存在し、それに応じて高い硬度を呈する。
【0051】
ポリシロキサンの製造方法がさらに開示される。特に、この方法は、本明細書で述べるポリシロキサンを製造するために使用することができる。したがって、ポリシロキサンに関して開示される全ての特徴および特性は、この方法にも当てはまり、逆もまた同様である。
【0052】
ポリシロキサンの製造方法では、第1の前駆体、第2の前駆体および第3の前駆体を混合され、一緒に連結される。1つの実施形態によれば、第1の前駆体は、ジビニルジアルコキシシラン、置換および非置換のビニルジアルコキシシランならびに一置換および非置換のジアルコキシシランから選択され、置換ビニルジアルコキシシランおよび一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含み、第2の前駆体は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択され、第3の前駆体は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される。したがって、第2の前駆体は、本明細書で述べる前駆体である。特に、第2の前駆体は、構造式1~6によって表される前駆体のうちの1つであってよい。特に、第2の前駆体は、PHMまたはPHPであってよい。特に、第1の前駆体は、VPまたはHMであってよい。第3の前駆体は、例えば、MM、PMまたはPPであってよい。
【0053】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1、第2および第3の前駆体は、1:2:2の比で混合する。言い換えれば、1当量の第1の前駆体、2当量の第2の前駆体、および2当量の第3の前駆体を一緒に混合する。第1、第2および第3の前駆体の選択に応じて、蒸留水またはアルコール、特にメタノールなどの溶媒を任意選択で加える。さらに、テトラヒドロフランまたはエチルエーテルも溶媒として使用し得る。さらに、濃塩酸またはテトラ-n-ブチルアンモニウムヒドロキシドを添加し得る。粘度を例とするポリシロキサンの所望の特性に応じて、他の混合比を選択してもよい。
【0054】
さらなる実施形態によれば、連結は、加水分解および縮合によって実施する。この目的のために、第1、第2および第3の前駆体の混合物を、例えば高温で、撹拌し得る。例えば、混合物は、80℃~120℃の両端値を含む温度に加熱する。特に、高温での撹拌は、少なくとも1時間にわたって行う。好ましくは、撹拌は、1時間~5時間にわたって行う。例えば、撹拌は、4時間行う。それによって、混合物を最初に第1の温度で第1の時間にわたって撹拌し、第2の温度で第2の時間にわたって撹拌することが可能である。
【0055】
この方法を使用して、上述した第1のポリシロキサン、さらには上述した第2のポリシロキサンを製造することができる。ジビニルジアルコキシシラン、置換または非置換のビニルジアルコキシシラン、例えばVPが第1の前駆体として選択される場合、第1のポリシロキサンが製造され、一置換または非置換のジアルコキシシラン、例えばHMが選択される場合、第2のポリシロキサンが製造される。
【0056】
ポリシロキサン樹脂の製造方法がさらに開示される。ポリシロキサン樹脂は、上述したポリシロキサン樹脂であってよい。したがって、ポリシロキサン樹脂に関連して開示される全ての特徴および特性は、この方法にも当てはまり、逆もまた同様である。
【0057】
1つの実施形態によると、ポリシロキサン樹脂の製造方法では、第1のポリシロキサンと第2のポリシロキサンとを混合し、硬化する。これに関して、第1のポリシロキサンおよび第2のポリシロキサンは、各々、任意の順序で連結された第1、第2および第3の繰り返し単位を含む。少なくとも1つの実施形態によれば、第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づくものであり、第3の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものである。
【0058】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1のポリシロキサンの第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシランならびに置換および非置換のビニルジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、第2のポリシロキサンの第1の繰り返し単位は、一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、置換ビニルジアルコキシシランおよび一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含む。
【0059】
したがって、2つの異なるポリシロキサンが使用されてポリシロキサン樹脂が製造され、第1のポリシロキサンは、Si-ビニル基を含み、第2のポリシロキサンはSi-H基を含む。
【0060】
第1および第2のポリシロキサンの第2の前駆体は、特に、上述した前駆体であってよい。特に、第2の前駆体は、構造式1~6で表される前駆体のうちの1つであってよい。特に、第2の前駆体は、PHMまたはPHPであってよい。第1および第2のポリシロキサンの第3の前駆体として、例えば、MM、PMまたはPPが選択されてよい。例えば、VPが、第1のポリシロキサンの第1の前駆体として選択されてよく、HMが、第2のポリシロキサンの第2の前駆体として選択されてよい。
【0061】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1および第2のポリシロキサンを、2:1~1:2の範囲から選択される比で混合する。特に、第1および第2のポリシロキサンは、1:1の比で混合する。
【0062】
少なくとも1つの実施形態によれば、硬化を触媒によって実施する。したがって、ポリシロキサン樹脂の製造方法において、触媒は、第1および第2のポリシロキサンを混合した後に添加し、硬化、すなわちポリシロキサン間の架橋を開始または加速する。特に、硬化は、溶媒なしで実施する。
【0063】
少なくとも1つの実施形態によれば、触媒としてヒドロシリル化触媒を使用する。少なくとも1つの実施形態によれば、Pt触媒、すなわちPtを含む触媒を使用する。特に、Pt触媒は、Ossko触媒、Karstedt触媒、Speier触媒、Lamoreaux触媒、およびAshby触媒から選択され得る。例えば、Ossko触媒は、以下の構造式を有し得る。
【0064】
【0065】
少なくとも1つの実施形態によれば、硬化は、80℃~200℃の両端値を含む温度で実施する。特に、硬化は、少なくとも2つの異なる温度で実施する。第1の温度は、80℃~120℃の両端値を含む範囲内であってよく、第2の温度は、120℃~200℃の両端値を含む範囲内であってよい。好ましくは、硬化は、最初に100℃で、次に150℃で実施する。
【0066】
少なくとも1つの実施形態によれば、硬化は、1時間~12時間、例えば7時間にわたって実施する。硬化を少なくとも2つの異なる温度で実施する場合、例えば、第1の温度は、30分~2時間の両端値を含む温度、特に1時間にわたって維持し、第2の温度は、3時間~10時間の両端値を含む温度、特に6時間にわたって維持する。
【0067】
さらに、UV放射線および/または可視光放射線を放出するように構成されたオプトエレクトロニクス部品が開示される。オプトエレクトロニクス部品は、特に発光ダイオード(LED)であってよい。1つの実施形態によれば、オプトエレクトロニクス部品は、ポリシロキサン樹脂を含む少なくとも1つの構成要素を備える。ポリシロキサン樹脂は、本明細書で述べるポリシロキサン樹脂であってよい。したがって、本明細書で述べるポリシロキサン樹脂の全ての特性および特徴は、オプトエレクトロニクス部品にも当てはまり、逆もまた同様である。
【0068】
少なくとも1つの実施形態によれば、ポリシロキサン樹脂は、連結した第1および第2のポリシロキサンを含み、第1および第2のポリシロキサンは、各々、任意の順序で連結した第1、第2および第3の繰り返し単位を含み、第2の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基と、置換および非置換の多環式芳香族炭化水素基から選択される置換基とを含むジアルコキシシランから選択される第2の前駆体に基づくものであり、第3の繰り返し単位は、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から独立して選択される2つの置換基を各々が含む置換ジアルコキシシランおよび置換ジシラノールから選択される第3の前駆体に基づくものである。さらに、第1のポリシロキサンの第1の繰り返し単位は、ジビニルジアルコキシシランならびに置換および非置換のビニルジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、第2のポリシロキサンの第1の繰り返し単位は、一置換および非置換のジアルコキシシランから選択される第1の前駆体に基づくものであり、置換ビニルジアルコキシシランおよび一置換ジアルコキシシランは、各々独立して、置換および非置換のアルキル基ならびに置換および非置換のアリール基から選択される置換基を含む。
【0069】
そのような部品では、耐用年数が延び、効率が改善される。これらの特性は、そこで使用されるポリシロキサン樹脂が、隣接する材料に対して同時に適合された屈折率と共に、特に可視光において、高い透過率を呈し、さらには高い熱安定性も呈することに特に起因する。
【0070】
少なくとも1つの実施形態によれば、オプトエレクトロニクス部品は、可視光および/またはUV放射線を放出するように構成された半導体チップを備える。例えば、半導体チップは、GaNチップであり得る。さらに、半導体チップは、パッケージのキャビティ内に配置され得る。任意選択的に、変換層が、半導体チップ上に配置されてもよい。
【0071】
少なくとも1つの実施形態によれば、構成要素は、封止体である。封止体は、ポリシロキサン樹脂を含み得るかまたは備え得る。さらに、封止体は、半導体チップを少なくとも部分的に取り囲み得る。変換層が半導体チップ上に配置されている場合、封止体は、半導体チップおよび変換層を少なくとも部分的に取り囲み得る。別の選択肢として、封止体は、半導体チップから離間して配置され得る。
【0072】
封止体は、ポリシロキサン樹脂中に埋め込まれた染料および/または蛍光体の粒子をさらに含み得る。したがって、封止体自体が、変換層として機能することができ、追加の変換層を省くことができる。
【0073】
封止体が本明細書で述べるポリシロキサン樹脂を含有する場合、このポリシロキサン樹脂は酸素および水に対する透過率が低下されていることから、部品の耐用年数を延ばすことができる。
【0074】
ポリシロキサン樹脂の屈折率が調節可能であることにより、封止材の屈折率を、半導体チップの屈折率に調節することができる。したがって、半導体チップと封止体との間の界面における光子の全反射を回避または低減することができ、それによって部品の効率を高めることができる。
【0075】
前駆体、ポリシロキサン、ポリシロキサン樹脂、ポリシロキサンの製造方法、ポリシロキサン樹脂の製造方法およびオプトエレクトロニクス部品のさらなる有利な実施形態、構成および発展は、図面と合わせて示される以下の実施形態の例から得られる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】
図1は、1つの実施形態によるオプトエレクトロニクス部品の断面の模式的側面図を示す。
【
図2】
図2は、ポリシロキサンの例示的な実施形態の
29Si、
13Cおよび
1H NMRスペクトルを示す。
【
図3】
図3は、ポリシロキサンおよびポリシロキサン樹脂の例示的な実施形態のFT-IRスペクトルを示す。
【
図4】
図4は、ポリシロキサンの例示的な実施形態の熱重量測定を示す。
【
図5A】
図5Aは、ポリシロキサンの例示的な実施形態のDSC曲線を示す。
【
図5B】
図5Bは、ポリシロキサンの例示的な実施形態のDSC曲線を示す。
【
図5C】
図5Cは、ポリシロキサンの例示的な実施形態のDSC曲線を示す。
【
図5D】
図5Dは、ポリシロキサンの例示的な実施形態のDSC曲線を示す。
【
図6】
図6は、ポリシロキサン樹脂の例示的な実施形態の
29Si-CP MAS NMRスペクトルを示す。
【
図7】
図7は、ポリシロキサン樹脂の例示的な実施形態のT
95%値を示す。
【
図8】
図8は、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂の屈折率(refractive indices)RIを示す。
【
図9】
図9は、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂の透過スペクトルを示す。
【
図10A】
図10Aは、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂のDSC曲線を示す。
【
図10B】
図10Bは、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂のDSC曲線を示す。
【
図11】
図11は、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂の透過率を示す。
【
図12A】
図12Aは、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂の透過率を示す。
【
図12B】
図12Bは、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂の透過率を示す。
【
図13】
図13は、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂の黄色指数を示す。
【
図14】
図14は、例示的な実施形態によるポリシロキサン樹脂の白色指数を示す。
【0077】
同一要素、類似要素、または同じ効果を有する要素には、図面において同じ符号が付与されている。図および図に示される要素の比率は、縮尺通りであると見なされるべきではない。むしろ、個々の要素、特に層厚は、より良好に表現できるようにおよび/または理解されるように、誇張して大きく示されている場合がある。
【0078】
図1は、オプトエレクトロニクス部品10を示す。オプトエレクトロニクス部品は、放射線、特に可視光および/またはUV放射線の放出に適し、そのために構成されている。この目的のために、半導体チップ20、例えばGaNチップが、ハウジング40の凹部内に配置されている。任意選択的に、半導体チップ20上に変換層が存在してもよい(ここでは明示されていない)。半導体チップ20および任意選択的に変換層は、封止体30によって取り囲まれ、これも同様にパッケージ40の凹部内に配置されている。封止体30は、ポリシロキサン樹脂で形成されている。任意選択的に、染料または蛍光体が、粒子形態でポリシロキサン樹脂中に埋め込まれていてもよい。このオプトエレクトロニクス部品は、例えばLEDであり得る。
【0079】
図1に示されるオプトエレクトロニクス部品10は、単に例示的なものとして理解されるべきである。個々の要素の他の構造および配置も可能である。例えば、封止体30は、パッケージ40の凹部に配置されず、半導体チップ20から離間してパッケージ40上にのみ配置されてもよい。さらに、封止体30は、例えば蛍光体粒子がその中に埋め込まれる場合、同時に変換層として機能することができる。
【0080】
封止体30のポリシロキサン樹脂および対応する前駆体材料を、例示的な実施例によって以下においてより詳細に説明する。
【実施例】
【0081】
ポリシロキサン樹脂は、第1および第2のポリシロキサンから製造し、そしてそのポリシロキサンは、第1、第2および第3の前駆体から製造される。VPおよびHMから選択される第1の前駆体、PHMおよびPHPから選択される第2の前駆体、ならびにMM、PMおよびPPから選択される第3の前駆体からのポリシロキサンの合成について、以下で説明する。これらの例示的な実施形態は、例示として理解されるべきである。上述の代替材料の全ては、ポリシロキサンを製造するのに等しく適している。
【0082】
第1および第3の前駆体VP、HM、MM、PMおよびPPは購入することができるが、第2の前駆体PHMおよびPHPは最初に合成する。
【0083】
試料の合成および一部は特性評価のために、以下の材料を使用する。ジフェニルシランジオール(97%)、ジメチルジメトキシシラン(97%)、フェニルトリメトキシシラン(97%)、メチルトリメトキシシラン(97%)、9-ブロモフェナントレン(98%)およびテトラ-n-ブチルアンモニウムヒドロキシド(40%水溶液)は、Alfa Aesar社(ドイツ国)から購入する。tert-ブチルジメチルクロロシラン(98%)は、TCI America社から購入する。9-ブロモフェナントレン(98%)およびビニルフェニルジエトキシシラン(97%)は、Fluorochem Ltd(イギリス国)から入手する。メチルフェニルジメトキシシラン(97%)、メチルジエトキシシラン(97%)およびPt-カルボニルシクロビニルメチルシロキサン錯体(Ossko触媒)は、ABCR社(ドイツ国)から入手する。キシレンブレンド(97%)は、VWR International社から購入する。濃塩酸、マグネシウムチップ、および乾燥テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)を除く全ての溶媒は、ザールラント大学のセントラルケミカルストアから購入する。THF(97%)は、Fisher Scientific社から購入し、M.Braun社(ドイツ国)製のMB-SPS-800溶媒精製システムを使用して精製した。トリエチルアミンは、水素化カルシウム上で乾燥し、使用前に蒸留した。
【0084】
以下の技術を使用して試料の特性評価を行った。フーリエ変換赤外(Fourier-transform infrared、FT-IR)測定は、Bruker Vertex 70分光計(ドイツ国、Bruker Optics社)を使用して、減衰全反射モード(ATR、4cm-1の分解能で40スキャン)で周囲空気中で行う。熱重量分析(Thermogravimetric analyses、TGA)は、Netzsch TG 209C Iris(ドイツ国、Netzsch Group社)を用い、10K/分の加熱速度で、不活性測定については40mL/分の窒素によって、酸化測定については20mL/分の酸素と20mL/分の窒素とによって行う。試料の測定は1000℃まで行い、900℃から1000℃までは、両方の方法において酸化雰囲気を用いた。元素分析は、Leco 900 CHN分析器を用いて行う。示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)は、Netzsch DSC 204 FI Phoenix(ドイツ国、Netzsch Group社)上、10K/分の加熱速度および冷却速度で-60℃から150℃まで記録し、冷却用に液体および気体の窒素を、不活性ガスとして60mL/分の窒素を用いる。屈折率(RI)は、Abbe Refractometer(ドイツ国、A.KRUSS Optronic GmbH)を20℃で使用し、モノブロモナフタレンを固体試料用の接触液として使用して、622nmで測定する。UV/可視光スペクトルは、Lambda 750(米国、Perkin Elmer社)および100mm積分球を使用し、ポリシロキサン樹脂が塗布されたガラス板を積分球の前に配置して記録する。透過実験の場合は、球を閉じ、一方、濁度値を計算するために用いられる散乱実験では、一次光トラップを開く。PerkinElmer UV Winlab(6.4.0.973)ソフトウェアを使用して、白色指数および黄色指数を計算する。NMR測定は、Bruker Avance III HD 300MHzまたはBruker Avance III HD 400MHzのいずれかを使用し、クロロホルム-dを溶媒および参照として用いて記録する。固体CP/MAS NMRスペクトルは、Ascend 400 WB(400MHz)コアを備えたBruker Avance III HDを使用し、回転速度13kHzのジルコニア製4mmローターで記録する。ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography、GPC)測定は、Viscotek VE1121ポンプを使用し、2つのPSS SDV 103および105カラムで行う。3つの検出器、Shodex RID org udc 2(RI)、UV Waters 2487(UV/可視光)およびPSS SLD 7000/BI-MwA(光散乱)を使用する。測定はTHF中で行い、WinGPC 7ソフトウェアを使用して、ポリスチレン標準で較正する。プラズマエッチングは、プラズマ表面技術Femto(ドイツ国、Diener electronic GmbH+Co.KG)を用い、15mL/分の酸素および100%の出力で15分間行う。単結晶X線散乱は、グラファイト単色Mo Kα線を用い、Bruker AXS X8 Apex CCD回折計で行う。
【0085】
第2の前駆体PHMおよびPHPの合成は、以下のようにして行う。
【0086】
PHM 第1のフラスコ中、40mLの乾燥THF中の2.00g(82.29mmol)のマグネシウムチップに、100mLの乾燥THF中の20.00g(77.78mmol)の9-ブロモフェナントレンの溶液を室温でゆっくりと添加し、還流下で1時間撹拌してグリニャール懸濁液を得る。第2のフラスコ中、52.97g(388.9mmol)のメチルトリメトキシシランを、50mLの乾燥THFに混合する。第1のフラスコのグリニャール懸濁液を、移送用カニューレを使用して第2のフラスコの滴下漏斗に移す。懸濁液を混合物にゆっくりと添加する。混合物を室温で一晩撹拌した後、それを還流下で1時間加熱する。冷却した懸濁液をガラスフィルターを通して濾過し、溶媒を蒸発させる。残渣をトルエン200mL中に懸濁し、再び濾過する。溶媒および残りのメチルトリメトキシシランを除去した後、粗生成物を真空蒸留する(8×10-3mbar、152℃)。収量11.61g(53%)の無色液体が得られる。構造は、NMR測定によって確認することができる。
【0087】
1H NMR(300.13MHz、CDCl3、δ):8.84(d、J=7.6Hz、1H)、8.78(d、J=7.9Hz、1H)、8.57(d、J=7.9Hz、1H)、8.43(s、1H)、8.08(d、J=7.6Hz、1H)、7.79(m、4H)、3.82(s、6H)、0.73(s、3H)、13C NMR(75.47MHz、CDCl3、δ):137.75、134.57、131.55、131.04、130.66、130.11、129.27、128.65、127.73、126.90、126.68、126.37、123.17、122.53、50.62、-3.59、29Si NMR(59.63MHz、CDCl3、δ):-13.12、分析、C17H18O2Siに対する計算値:C 72.32、H 6.45、N 0.00、測定値:C 72.30、H 6.42、N 0.00
【0088】
PHP
第1のフラスコ中、40mLの乾燥THF中の2.00g(82.29mmol)のマグネシウムチップに、100mLの乾燥THF中の20.00g(77.78mmol)の9-ブロモフェナントレンの溶液を室温でゆっくりと添加し、還流下で1時間撹拌してグリニャール懸濁液を得る。第2のフラスコ中、30.85g(155.56mmol)のフェニルトリメトキシシランを、50mLの乾燥THFに混合する。第1のフラスコのグリニャール懸濁液を第2のフラスコの滴下漏斗に移し、フラスコにゆっくりと滴下する。混合物を室温で一晩撹拌した後、それを還流下で1時間加熱する。冷却した懸濁液をガラスフィルターを通して濾過し、溶媒を蒸発させる。残渣をトルエン200mL中に懸濁し、再び濾過する。減圧下で溶媒を除去した後、未反応成分を真空蒸留する(5×10-2mbar、25℃)。残った粗生成物を、ヘキサン中で再結晶化する。得られた収量は、20.31g(76%)で、白色または僅かに黄色の結晶である。構造は、NMRによって確認することができる。
【0089】
1H NMR(300.13MHz、CDCl3、δ):8.72(tr、J=7.6Hz、2H)、8.38(s、1H)、8.30(d、J=8.1Hz、1H)、7.97(d、J=7.7Hz、1H)、7.72(m、3H)、7.63(tr、J=7.7Hz、2H)、7.53(tr、J=7.5Hz、1H)、7.40(m、3H)、3.71(s、6H)、13C NMR(75.47MHz、CDCl3、δ):139.09、134.84、134.76、133.03、131.81、131.10、130.52、130.15、129.50、129.16、128.94、128.14、127.95、126.93、126.76、126.42、123.08、122.63、51.15、29Si NMR(59.63MHz、CDCl3、δ):-27.69、分析 C22H20O2Siに対する計算値:C 76.73、H 5.90、N 0.00、測定値:C 76.71、H 5.85、N 0.00
【0090】
高芳香族量のジアルコキシシランである9-フェナントレニルフェニルジメトキシシラン(PHP)および9-フェナントレニルメチルジメトキシシラン(PHM)は、このように、9-ブロモフェナントレンと対応するアルコキシシランとの間のグリニャール反応によって高収率で調製される。この反応は、以下のように表すことができる。
【0091】
【0092】
したがって、一般構造式中のRは、メチルすなわちMe(PHMの調製の場合、R=R1、収率53%)またはフェニルすなわちPh(PHPの調製の場合、R=R2、収率76%)であり得る。PHPは、直ちに結晶生成物を形成するが、PHMは、無色の液体であり、結晶化に数ヶ月かかる。1H NMRスペクトルは、PHPおよびPHMの両方について、フェナントレニル基(9.0~7.5ppm)およびメトキシ基(4.0~3.5ppm)に対する所望のシグナルを示す。加えて、PHPは、芳香族領域に5つのさらなるプロトンを示すが、PHMは、メチルシラン領域(1.0~-0.5ppm)に1つのシグナルのみを示す。13C NMRは、予想された領域中に全ての理論的シグナルを示す。反応体または副生成物が存在するかどうかを見出すために、29Si NMRを適用しているが、これは除外してもよい。
【0093】
ポリシロキサンの合成に使用することができる全てのモノマー、すなわち前駆体、の屈折率RIは、透過モードでのIRによって特定し、表1に示す(PHPは固体であるため、PHPのRIは特定することができない)。
【0094】
【0095】
屈折率は、20℃で特定する。第1の前駆体は、第2の前駆体に比べて相対的に低い屈折率、1.3746および1.4795を有することが分かる。したがって、高い屈折率を有するポリシロキサンを得ようとする場合、ポリシロキサン中の第1の前駆体の量は低く維持する。
【0096】
第3の前駆体は、メチル基およびフェニル基の含有量が異なり、それによって、屈折率が1.3707から1.4795を経て1.5440まで増加する。重合されたジフェニル成分は、ジフェニルシランジオールであるが、屈折率比較のために使用しているのは、室温で液体であることから、ジフェニルジメトキシシランであることには留意されたい。メチル基がフェニル基に置き換えられると、屈折率は0.1088増加するが、2つめの置換では、屈折率の増加は僅かに0.0645である。この非線形の増加は、ジメトキシ基に起因する。
【0097】
第2の前駆体については、PHMの屈折率のみを特定することができる。これは、PHPが約80℃というより高い温度でも固体であるということが理由である。1.631の屈折率は、他の前駆体の屈折率よりも高く、このことは、高い屈折率を有するポリシロキサンを製造するためのポリシロキサンの製造において、高い割合の第2の前駆体が有用であることを示している。この文脈における高い割合とは、例えば40%を意味する。固体PHPの屈折率は、さらにより高いことが予想される。
【0098】
第2の前駆体PHMおよびPHPの結晶構造は、X線回折によって特定する。対応する結果を表2に示す。
【0099】
【0100】
結晶構造の典型的な結合角および結合距離を、表3にまとめて示す。
【0101】
【0102】
表中、「Me」はメチル基を表し、「Ph」はフェニル基を表し、「PH」はフェナントレニル基を表す。
【0103】
第1の前駆体(VP、HM)、第2の前駆体(PHM、PHP)および第3の前駆体(MM、PM、PP)からの、例示的な実施形態によるポリシロキサンの合成は、以下の手順に従って行うことができる。
【0104】
1当量の第1の前駆体、2当量の第2の前駆体および2当量の第3の前駆体に、13当量の蒸留水および8当量のメタノールを添加する。使用する第1の前駆体の種類に応じて、濃塩酸(第1の前駆体としてのHMに対して0.8当量)またはテトラ-n-ブチルアンモニウムヒドロキシド(第1の前駆体としてのVPに対して0.06当量)のいずれかを添加する。メタノールおよび水を回収するために、フラスコに蒸留ブリッジを取り付ける。懸濁液を85℃で1時間、次いで115℃で約1時間撹拌する。溶媒がもはや蒸留されなくなった時点で蒸留装置を取り外し、溶液を115℃でさらに1時間撹拌する。溶液を冷却しながら、250当量のトルエンおよび150当量の水を添加する。エマルジョンを混合した後、水相を除去する。HMを第1の前駆体とする場合、この方法を炭酸水素カリウムの濃縮溶液で繰り返し、水で4回繰り返す。VPを第1の前駆体とする場合は、この方法を2Mの塩酸で2回繰り返し、水で3回繰り返す。有機相を45μmフィルターシリンジで濾過し、溶媒を、最初に減圧下で、次いで高真空下で、4時間にわたって除去する。
【0105】
合成したポリシロキサンは、それらが製造される元となった前駆体に応じて命名する。第1のポリシロキサンは、略語VP、PHMまたはPHPおよびMMまたはPMまたはPPから構成される。加えて、ポリシロキサン内のパーセントは、各略語の後に示す。したがって、第2のポリシロキサンは、HM、PHMまたはPHPおよびMMまたはPMまたはPPによって表される。ポリシロキサン樹脂では、VPまたはHMは、架橋によって形成されるCH2-CH2架橋を示すために、いずれの場合もCCで置き換える。すなわち、ポリシロキサン樹脂中においてCCで表されるこのような基は、以下の構造式を有する。
【0106】
【0107】
ポリシロキサンは、したがって、アルコキシドまたはジオールモノマーの加水分解および縮合反応によって製造される。
【0108】
第1および第2のポリシロキサンの1つの例示的な実施形態による製造ならびにポリシロキサン樹脂へのそれらの架橋を、以下に概略的に示す。
【0109】
【0110】
最初の行は、第1のポリシロキサンVP20_PHM40_PP40を形成するためのPHM、PPおよびVPの反応を示し、2番目の行は、第2のポリシロキサンHM20_PHM40_PP40を形成するためのPHM、PPおよびHMの反応を示す。第1および第2のポリシロキサンの重縮合およびOssko触媒を用いたヒドロシリル化反応によって、ポリシロキサン樹脂CC20_PHM40_PP40への架橋が行われる。
【0111】
一般に、第1の前駆体は、VPおよびHMから選択され、これは、白金触媒によるヒドロシリル化を介するポリシロキサン樹脂へのポリシロキサン間の架橋結合の形成を担っている。第2の前駆体は、PHMおよびPHPから選択され、これは、そのフェナントレニル基およびメチル基またはフェニル基によって高い芳香族量であり、ポリシロキサンまたはポリシロキサン樹脂のRIの増加を引き起こす。第3の前駆体は、MM、PMおよびPPから選択され、これは、ポリシロキサンの粘度を低下させることができ、したがって、容易に加工可能なポリシロキサンおよびクラックのないポリシロキサン膜を製造することができる。
【0112】
ポリシロキサンを製造するために、第1の前駆体、第2の前駆体および第3の前駆体を選択し、ケイ素原子当たり2.6当量の水および1.6当量のメタノールと混合する。前駆体の組成に応じて、重合のための触媒を選択する。HMを第1の前駆体とする場合、HClを選択し、VPを第1の前駆体とする場合、テトラ-n-ブチルアンモニウムヒドロキシドを選択する。HM中のヒドリド基は、塩基性条件下でヒドロキシドと反応することから、酸触媒化される必要がある。ビニル含有ポリシロキサン(VPを第1の前駆体とする)の重合には、両方の触媒を使用することができる。
【0113】
例えば分析の目的で、ポリシロキサンの末端基を封止するために、約50mgのポリシロキサンをシュレンクフラスコに注ぎ入れ、高真空下で吸引し、アルゴンで2回満たして不活性雰囲気を作り出す。1.5mLの無水THF、40mg(0.26mmol)のtert-ブチルジメチルクロロシランおよび100μLの無水トリエチルアミンを添加する。溶液を55℃で18時間撹拌した後、溶媒を高真空下で6時間吸引する。そのような反応は、例示的な実施形態VP20_PHM40_PP40を用いて、以下の反応スキームで示される。
【0114】
【0115】
第1および第2のポリシロキサンを精製および乾燥した後、ポリシロキサンを選択してポリシロキサン樹脂を製造する。特に、同じ第2および第3の前駆体を含有する第1および第2のポリシロキサンを選択する。具体てきには、第1および第2のポリシロキサンを同じ濃度で混合する。したがって、ヒドリド含有ポリシロキサン(第1のポリシロキサン)対ビニル含有ポリシロキサン(第2のポリシロキサン)の比は、1:1である。1つの例示的な実施形態によれば、330mgの第1のポリシロキサンおよび対応する第2のポリシロキサンを、6ppmのPt触媒、特にOssko触媒と共に混合する。そのような低濃度を得るために、キシレン中の2%のOssko触媒を、さらにキシレンに溶解する。混合した第1および第2のポリシロキサンを、2mbarで1時間吸引し、指定された基材、例えば、テフロンモールドまたはガラス基材(マイクロスライス(microslice)など)などのにドクターブレードで付与する。ガラス小板(glass platelet)を使用する場合、それをイソプロパノールおよびアセトンで洗浄し、次いで15分間にわたってプラズマエッチングで処理する。最後に、得られた膜を100℃で1時間、150℃で6時間硬化して、完全に架橋させる。80~100℃で1時間の任意の第2の温度ステップは、硬化中の気泡形成を低減または防止し得る。得られた膜は無色であり、高度に透明である。
【0116】
第1および第2のポリシロキサン、ならびにそれらから製造されるポリシロキサン樹脂の特性評価について、例示的な実施形態を参照して以下に記載する。
【0117】
ポリシロキサンはNMR測定によって特性評価し、全てのNMR測定は、クロロホルム-d中で行い、
1H-NMRスペクトルは、トルエンCH
3シグナルに対して示される。精製方法の後であっても、少量の溶媒がポリシロキサン中に残る。一例として、
図2は、HM20_PHM40_MM40の
1H、
13Cおよび
29Si NMRスペクトルを示す。
29Si NMRスペクトルは、200mgの試料しか使用しなかったため、低いシグナル対ノイズ比を示す。いずれの場合においても、ケミカルシフト(chemical shift)CSは、ppmで示す。
【0118】
1H NMRスペクトルは、メチル基(1.0~-0.5ppm)、ヒドリド基(5.3~4.5ppm)およびフェナントレニル基(8.8~7.0ppm)のシグナルを示す。13C NMRでは、メチル(2.0~1.0ppm)およびフェナントレニル(138.0~122.5ppm)の両方の領域が観察される。29Si NMRでは、Dシグナルの4つの領域について、-17.4~-18.4ppmのシグナルはメチルシランに、-19.6~-21.4ppmのシグナルはジメチルシランに帰属することができる。-31.3~-33.2ppmのシグナルは、ポリマー鎖の中心のフェナントレニルメチルシランとして同定することができる一方、-35.5~-37.0ppmのシグナルは、ポリマー鎖の末端に近いフェナントレニルメチルシランに属し、このことは、メチルシランまたはジメチルシランと比較して、フェナントレニルメチルシランの反応性が遅いことを示す。他のポリシロキサンについては、フェニルメチル基の29Siシグナルは、-33.0ppmであり、ビニルフェニル基およびジフェニル基は、-42~-46ppmであり、フェナントレニルフェニルのシグナルは、-45~-50ppmである。
【0119】
FT-IRスペクトルも、例示的な実施形態による第1および第2のポリシロキサンから、ならびに硬化ポリシロキサン樹脂から記録した。
図3は、実施形態CC20_PHP40_MM40(ポリシロキサン樹脂)、HM20_PHP40_MM40(第2のポリシロキサン)およびVP20_PHP40_MM40(第1のポリシロキサン)の3つの例示的なスペクトルを示す。いずれの場合も、相対強度I
relを、cm
-1単位の波数(ニューチルダ)の関数として、任意単位(arbitrary units)a.u.でプロットしている。ポリシロキサンの特徴的なIRシグナルは、主鎖Si-Oに対する1120cm
-1および1020cm
-1である。メチル側基は、C-H結合に対しては2960cm
-1、2912cm
-1、1404cm
-1、1259cm
-1および796cm
-1に、Si-(CH
3)
2結合に対しては843cm
-1に振動を示す。アリール基は、C-H結合に対しては3049cm
-1、3072cm
-1、742cm
-1、721cm
-1および696cm
-1に、C=C-C結合に対しては1592cm
-1、1489cm
-1および1429cm
-1にシグナルを示す。VP20_PHP40_MM40ポリシロキサンのビニル基は、1655cm
-1に観察される。HM20_PHP40_MM40のヒドリド基は、896cm
-1および2129cm
-1に強いバンドを有する。
【0120】
第1および第2のポリシロキサンの分子量は、1H NMR分光法およびGPCによって推定することができる。1H-NMR測定のために、ポリシロキサンは、スペクトルで容易に検出することができる上記で述べた末端基を備えている。
【0121】
表4は、例示的な実施形態による第1および第2のポリシロキサンの分子量(molecular weights、MW)および多分散指数(polydispersity indices、PDI)を示す。
【0122】
【0123】
第1列は、ヒドリドを含有する第2のポリシロキサンを列挙し、第5列は、ビニルを含有する第1のポリシロキサンを列挙する。第1のポリシロキサンの分子量は、第2のポリシロキサンの分子量以上であるが、但し、HM20_PHM40_MM40およびHM40_PHM40_PP20の例においては、同様により低い値を有するはずであるため例外とする。GPC値は、800~22000g/molの範囲内である。GPCによって得られたほとんど全ての値は、NMRによって推定された値よりも非常に低い。NMR推定において起こり得る問題は、未反応の小分子が、GPCによって測定された値よりも高い値をもたらすことであり得る。これらの小分子は、溶媒と共に溶出液を形成するため、GPCによって測定され得ない。
【0124】
PDI値の傾向は、ポリシロキサン鎖の長さに従うものであり、すなわち、より高い分子量は、PDIを増加させる。XXがMM、PMおよびPPを表す実施形態HM20_PHM_40_XX40のGPC分析の比較は、第3の前駆体のサイズの増加に伴う分子量およびPDIの大幅な減少を示し、これは、立体障害に起因する活性化エネルギーの増加に関連し得る。
【0125】
ポリシロキサンの屈折率は、透過モードで測定し、表5に示すように1.52~1.63の間で変動する。
【0126】
【0127】
PHM含有ポリシロキサンについては、その値はPHM単独の値よりも低いが、全ての第1の前駆体および第3の前駆体よりも高い。PHPについては、PHP含有ポリシロキサンと同様の値が予想される。PMまたはPPを伴うPHPの場合を除く全ての値は、HM含有ポリシロキサンの方が高い。屈折率は、モル屈折およびモル体積の両方に依存することから、側基のサイズは非常に重要である。立体的により小さいHMは、立体的により要求の厳しいVPよりも緻密な網目構造をもたらし得る。これは、フェナントレニル基の影響を高めることに繋がる。
【0128】
例示的な実施形態による第1および第2のポリシロキサンの熱重量分析(TGA)を、酸素および窒素雰囲気中、900~1000℃で行う。2つの異なる測定条件は、TGA分析において、ポリシロキサンの解重合(不活性雰囲気)と有機基の熱分解(酸化雰囲気)との間の差異を区別するのに役立つ。不活性ガス測定において、雰囲気を900℃超で酸素雰囲気に変更して、有機基から得られたグラファイトを熱分解し、ケイ素残基をSiO2に還元する。分解の開始を比較するために、5%の質量減少が生じた温度であるT95%値を用いる。異なる第1および第2のポリシロキサンの値を表6に示す。
【0129】
【0130】
図4は、例示的な実施形態であるHM40_PHM40_PP20およびVP40_PHM40_PP20のTGA曲線を示す。この図では、%の単位の質量mを℃の単位の温度Tに対してプロットしている。T
95%は、典型的には、160~250℃の範囲内であり、PHMまたはPHPおよびMMを有する第2のポリシロキサン(HM...)は、対応する第1のポリシロキサン(VP...)よりも高い分解温度を有する。これは、より高い分子量をもたらす結果となる、合成時におけるメチル基間の化学的により類似した側基のより良好な混和性に起因する可能性がある。
【0131】
DSC測定を、-60℃~150℃の間の2サイクルでさらに行う。
図5A~
図5Dは、第2のポリシロキサンの例示的な実施形態(
図5Aおよび
図5B)および第1のポリシロキサンの例示的な実施形態(
図5Cおよび
図5D)に対する第1の加熱サイクル(
図5Aおよび
図5C)および第2の加熱サイクル(
図5Bおよび
図5D)のDSC曲線を示す。いずれの場合においても、℃の単位での温度Tの関数として、mW/mgの単位でのDSCオフセット、O
DSCをプロットしている。第1の加熱サイクルを用いて、ポリシロキサン中の結晶領域の溶融温度T
mを特定する。第2の加熱サイクルは、第1の加熱サイクルでは特定できなかったガラス転移温度T
gおよびさらなる溶融温度を特定するために用いる。T
gは、側基のサイズおよびそれらの自由度の指標であり、フェニルなどのより大きな基は値を増加させ、ヒドリドなどのより小さい基またはプロピルなどのより柔軟な基は値を減少させる。
【0132】
表7は、第1および第2のポリシロキサンの例示的な実施形態のTmおよびTg、さらには、第2の加熱サイクルで生じる溶融温度(Tm2およびTm3)を示す。VP20_PHP40_NM40の例では、第2のガラス転移温度が観察され、これは、Tgが-22.3℃の高メチル側基含有領域とTgが41.6℃の高フェニル側基含有領域とを有するブロックポリマーの存在を示している。
【0133】
【0134】
全体として、第2のポリシロキサンのTgは、フェニル含有量の増加と共に-17℃から7℃に上昇し、一方、第1のポリシロキサンのTgは、-42℃~42℃の範囲内であると言える。唯一の例外は、-4.4℃という低いTgを有するVP20_PHP40_PP40である。第1のポリシロキサンは、追加のフェニル基を有することから、第2のポリシロキサンよりも大きい溶融範囲(表7において「面積」と表示)を示し、一方第2のポリシロキサンは、立体的に大きいフェニル基の自由度の含有率が低くなることによってTg値を上昇させる追加のメチル基を有する。PHMおよびPPを含有するポリシロキサンの中で、芳香族量の高い例(20%VP/HM)が、最も高い値、それぞれ7℃および5.8℃を示し、一方立体的要求がそれほど厳しくないもの(フェナントレニルメチルと比較してジフェニル、20%PHM)が、最も低い値、-6.6℃および-18.3℃を有する。
【0135】
図6は、例示的な実施形態であるCC20_PHP40_MM40の
29Si固体CP-MAS NMRを示す。-20ppmのシグナルは、ジメチルケイ素原子、さらにはMeSi(OR)
2-CH
2-CH
2-Xのケイ素原子に帰属することができ、これは、ポリシロキサンHM20_PHP40_MM40の
1H、
29Si HMBC測定を用いて確認することができる。-35ppmのピークは、PhSi(OR)
2-CH
2-CH
2-Xの原子によって生成され、これは、ポリシロキサンVP20_PHP40_MM40の測定によっても確認することができる。-47ppmのシグナルは、ジフェニルケイ素原子に関連し得るフェナントレニル-フェニル含有ケイ素原子のケイ素原子に帰属することができる。
【0136】
ポリシロキサン樹脂のFT-IRスペクトルの例は、既に
図3に示されている。スペクトル中、Si-HおよびSiビニル基に対するシグナルを依然として検出することができ、これは、ヒドロシリル化法の過程で完全な変換、すなわち架橋が得られなかったことを意味する。しかし、固体の非粘着性膜は得られる。完全な変換は、硬化プロセス中における粘度の増加および移動度の減少のために、達成することができない。
【0137】
熱安定性を特定するために、ポリシロキサン樹脂に対してもTGA測定を行う。
図7は、ポリシロキサン樹脂の異なる例示的な実施形態における、℃の単位の開始温度T
95%の比較を示す。ほとんど全てのポリシロキサン樹脂は、酸素下よりも窒素下の方が、高い分解温度を示す。酸素下でのポリシロキサン樹脂の分解温度は、芳香族側基の含有量の増加と共に300℃から370℃まで変化する。窒素中では、この値は、高メチルポリシロキサンに対する300℃から芳香族量が高くフェナントレニルに富むポリシロキサンに対する420℃まで変化する。
【0138】
ポリシロキサン樹脂CCXX_PHMXX_PPXXにおいて、前駆体の変動に加えて、前駆体の異なる割合についても調べる。第1の前駆体(VP、HM)、第2の前駆体(PHM)および第3の前駆体(PP)を異なる割合で混合して、第1、第2もしくは第3の前駆体、または第1、第2および第3の繰り返し単位の含有量が20%の3つのポリシロキサン樹脂を得る。残り2つの前駆体は、40%のケイ素含有量で用いる。ポリシロキサン樹脂は、酸素雰囲気下では、その分解温度にほとんど違いを示さず(336℃~350℃)、窒素雰囲気下では、より高く架橋されたポリシロキサン樹脂において安定性の上昇を示す。70%未満(30%~70%)の低い芳香族側基含有量では、熱安定性は、芳香族側基含有量とは無関係であり、T95%は300~350℃である。より高い芳香族含有量は、熱安定性を360℃から416℃まで上昇させる。
【0139】
ポリシロキサン樹脂の屈折率は、接触流体(1-ブロモナフタレン)を用いた反射モードで測定する。
図8は、ポリシロキサン樹脂に対する屈折率RIが、1.57から1.63まで変動すること、特に、フェニル含量の増加と共に、RIが1.57から1.63まで増加することを示す。異なる前駆体含有量を有するポリシロキサン樹脂は、最も低い含有量の架橋性の第1の前駆体(VP/HM)で最も高いRIを有するが、PHMをPPで置き換えることは、ほとんど影響を示さない。CC20_PHM40_MM40(0Ph)<CC20_PHM40_PM40(1Ph)=CC20_PHP40_MM40(1Ph)<CC20_PHP40_PM40(2Ph)=CC20_PHM40_PP40(2Ph)<CC20_PHP40_PP40(3Ph)とフェニル含有量が増加するに従って、RIは、1.57から1.63まで増加する。
【0140】
ポリシロキサン樹脂を、顕微鏡のスライドガラス上に堆積させ、UV/可視光分光計を用いて積分球で調べる。ポリシロキサン樹脂の450nmにおける透過率TrおよびヘイズH、ならびに黄色指数(yellow indices)YIおよび白色指数(white indices)WIを表8に示す。
【0141】
【0142】
全てのポリシロキサン樹脂は、
図9に示されるように96~99%の透過率Trを示す。この図では、ポリシロキサン樹脂の様々な例示的な実施形態について、パーセントの単位の透過率Trをnmの単位の波長λに対してプロットしている。透過率は、フェニル含有量の増加およびRIの増加と共に減少する。ビニルを含有する第1の前駆体中のフェニル基の隣に芳香族基を1つだけ有する例示的な実施形態(CC20_PHM40_MM40)は、98.98%という最も高い値を示す。メチル基をフェニル基で置換した場合(CC20_PHM40_PM40およびCC20_PHP40_MM40)、透過率はそれぞれ、98.86%および97.96%に低下する。芳香族部分をさらに減少させると、それぞれ96.74%(CC20_PHP40_PM40)および96.18%(CC20_PHP40_PP40)の透過率となる。同じ傾向は、CC20_PHM40_PP40の組成を変化させた場合にも観察することができ、最も高い芳香族含有量を有する例は、最も低い透過率値(20%CCの例に対して97.75%)を示す。試料を通過する際に散乱される光の割合を計算するために、濁度値Hを特定する。
【0143】
この値は、フェニル含有量が低い例では、450nmで7.8~9.1%で変動する一方、芳香族量の高い例では、19%まで増加する。
【0144】
PerkinElmer UV-WinLabソフトウェアを使用して、白色指数および黄色指数を計算する。380~780nmのスペクトルを、5nmごとに記録する。0より大きい黄色指数(YI)は、黄色がかった試料を示し、負の値は、青色がかった試料を示す。100の白色指数(WI)が達成可能であり、より高い値は、青みがかった試料を示し、より低い値は、黄色がかった試料を示す。
【0145】
YIは、ほとんど全てのポリシロキサン樹脂に対して、-0.02~0.91で変動し、これは、得られた膜が僅かに黄色がかった色であることを示す。しかし、これらの値は非常に小さいため、より厚い試料での測定はできない。値は、フェニル含有量の上昇と共に増加する。
【0146】
ほぼ全ての試料に対して、約97のWIが観察された。この値は、ポリシロキサン中におけるフェニル基の低い含有量およびメチル基の高い含有量と共に増加し得る。フェニル含有量の増加は、より低いWIをもたらし、より黄色がかった膜であることを示す。最良の値は、僅か20%のフェナントレニル含有量の試料CC40_PHM20_PP40に対して得られる。
【0147】
ポリシロキサン樹脂のDSC測定は、上述したポリシロキサンと同様に、-60℃~150℃の間の2サイクルで行う。第1の加熱サイクルおよび第2の加熱サイクルの結果を
図10Aおよび
図10Bに示す。硬化は、一般に、ガラス転移温度を上昇させる。測定は架橋ポリマーで行ったが、架橋は結晶化の可能性を低下させる。これが、観察されるシグナルが小さくなる、またはシグナルが全く観察されない理由である。したがって、この方法は、架橋の間接的な測定にも用いることができる。積分面積は、架橋の増加と共に増加し、溶融温度T
mの低温へのシフトも観察することができる。溶融温度は、第1のポリシロキサンにおける対応するポリシロキサンの溶融温度よりも低い。これは、第2のポリシロキサンについては部分的にしか当てはまらない。DSC測定の結果を表9に示す。
【0148】
【0149】
全てのポリシロキサン樹脂のTmは、52.54~61.31℃の範囲内であり、組成に応じて9℃の変動があった。より高いフェニル含有量は、より高い値をもたらすが、高濃度のメチル基では、Tmを示さない。全てのポリシロキサン樹脂のTgは、それらの対応する第1および第2のポリシロキサンよりも著しく高い。
【0150】
前駆体の割合の変動は、Tmの差を示さないが、Tgは、立体的により大きい基の割合の増加および自由度の割合の低下と共に上昇する(PP<VP/HM<PHM)。
【0151】
LED内でのポリシロキサン樹脂の熱老化をシミュレートするために、ポリシロキサン樹脂を、高エネルギーLED動作温度(150~200℃)下で処理して、その熱安定性を試験する。熱安定性は、UV/可視光測定を用い、試料を脱色することによって検証することができる。試料を、空気中、180℃で63日間処理する(
図11は、合成後(下)および熱処理後(上)の異なるポリシロキサン樹脂の透過率を示す)。UV/可視光測定は、
図12Aおよび
図12Bに示されるように、この研究の過程で周期的に行う。ここでは、いずれの場合においても、パーセントの単位での透過率Trを、日数dの単位での時間tの関数としてプロットしている。黄色指数および白色指数(それぞれ、YIおよびWI)を、熱処理の前後で比較する。フェナントレニルメチル含有試料は、63日後、フェニル含有量の増加と共に透過率の減少を示している(94.4%→91.5%→82.1%)。フェナントレニル含有ポリシロキサンCC20_PHP40_MM40およびCC20_PHP40_PM40は、透過率を82.7%および66.1%まで低下させる。高芳香族量の試料CC20_PHP40_PP40では、87.5%の透過率が得られる。
【0152】
CC20_PHM40_PP40の組成を変動させると、20%PHMの場合の94.2%から20%PPの場合の85.7%、さらに20%CCの場合の82.2%へと、フェニル含量が増加すると共に63日後の透過率の減少を示す。黄色指数および白色指数のYIおよびWIは、
図13および
図14に示すように、ポリシロキサンの強い黄変を示唆している。図中、YIおよびWI指数は、それぞれ、合成後(白色ブロック)および180℃で63日後(斜線付きブロック)について示した。フェニル含有量がCC20_PHM40_MM40からCC20_PHM40_PP40へと増加するに従って、黄変は、これらのポリシロキサンに対して0.8のYIから18.7のYIへ、および97のWIから42のWIへ、直線的に増加している。
【0153】
フェナントレニルフェニル試料CC20_PHP40_MM40およびCC20_PHP40_PM40は、フェニル含有量の増加に従って高い黄変を示し、YIは、1.1(0.9)からそれぞれ17および28のYIに増加し、WIは、同じ傾向を示して、97(96)からそれぞれ48およびCC20_PHP40_PM40については5.8のWIに減少する。最も高いフェニル含有量の試料(CC20_PHP40_PP40)は、高メチル含有CC20_PHM40_MM40と同等で、ほとんど黄変を示さない。YIは、1.7から4.4に増加する一方、WIは、94から80に減少している。CCXX_PHMXX_PPXXのポリシロキサン樹脂における前駆体組成の変動は、処理前ではほとんど差異を生じない(YI 0.0~0.8、WI 97.1~98.7)。黄変は、CCXX_PHMXX_PPXXの試料中の芳香族含有量の増加と共に増加し、20%PHM<20%PP<20%CCである。
【0154】
本発明は、例示的な実施形態に基づく記述によって限定されるものではない。むしろ、本発明は、特に特許請求の範囲における特徴の任意の組合せを含む任意の新規な特徴ならびに特徴の任意の組合せを、この特徴または組合せ自体が特許請求の範囲または例示的な実施形態で明示的に述べられていない場合であっても、包含するものである。
【0155】
本特許出願は、その開示内容が参照により本明細書に援用される独国特許出願第102020118247.3号明細書の優先権を主張するものである。
【符号の説明】
【0156】
10 オプトエレクトロニクス部品
20 半導体チップ
30 封止体
40 ハウジング
【国際調査報告】