IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アマスタン・テクノロジーズ・エル・エル・シーの特許一覧

<>
  • 特表-微細複合合金構造体 図1A
  • 特表-微細複合合金構造体 図1B
  • 特表-微細複合合金構造体 図1C
  • 特表-微細複合合金構造体 図2A
  • 特表-微細複合合金構造体 図2B
  • 特表-微細複合合金構造体 図3
  • 特表-微細複合合金構造体 図4
  • 特表-微細複合合金構造体 図5
  • 特表-微細複合合金構造体 図6
  • 特表-微細複合合金構造体 図7A
  • 特表-微細複合合金構造体 図7B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】微細複合合金構造体
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/06 20060101AFI20230721BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230721BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C01B33/06
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579968
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(85)【翻訳文提出日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 US2021070749
(87)【国際公開番号】W WO2021263273
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】63/043,958
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515084719
【氏名又は名称】シックスケー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホルマン,リチャード ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ネイション,レア
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA50
4G072BB05
4G072DD02
4G072DD03
4G072DD04
4G072DD05
4G072GG02
4G072RR24
4G072RR25
4G072UU30
5H050AA07
5H050BA17
5H050CB11
(57)【要約】
本明細書においては、耐ひずみ性粒子、この種の構造体の製造方法、及び前記構造体を形成するための供給原料の実施形態を開示する。幾つかの実施形態において、構造体は、交互に並ぶエネルギー貯蔵構造領域及び補強構造領域を含むことができる。有利には、耐ひずみ性粒子は、リチウムイオン電池のアノードに使用することができ、補強構造体は、粒子を機械的に安定化させることができ、したがって、サイクル寿命が向上する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐ひずみ性粒子であって:
少なくとも1種の元素を含むエネルギー貯蔵構造体であって、イオンを吸蔵するように構成されている前記エネルギー貯蔵構造体と;
共晶又は共析反応を介してエネルギー貯蔵相から相分離する1種又は複数種の元素を含む補強構造体であって、前記エネルギー貯蔵構造体を機械的に支持する前記補強構造体と;
を含む複合構造体を含む、耐ひずみ性粒子。
【請求項2】
前記エネルギー貯蔵構造体が、ケイ素及び/又はスズを含む、請求項1に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項3】
前記補強構造体が、ニッケル、銅、鉄、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、コバルト、モリブデン、ジルコニウム、バナジウム、チタン、クロム、ビスマス、アンチモン、ゲルマニウム、ホウ素、リン、炭素、硫黄、窒素、及び/又は酸素を含む、請求項1に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項4】
前記エネルギー貯蔵構造体が、ケイ素を含み、前記補強構造体が、ニッケル及びケイ素を含む金属間化合物を含む、請求項1に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項5】
前記金属間化合物が、NiSi及びNiSiを含む、請求項4に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項6】
前記補強構造体が、ニッケルを、前記エネルギー貯蔵構造体のニッケル含有量よりも高い含有量で含む、請求項4に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項7】
前記複合構造体が、ケイ素を約0.56以上のモル分率で含む、請求項4に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項8】
前記複合構造体が、ケイ素を約0.7以上のモル分率で含む、請求項4に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項9】
前記エネルギー貯蔵構造体が、ケイ素を含み、前記補強構造体が、銅及びケイ素を含む金属間化合物を含む、請求項1に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項10】
前記金属間化合物が、Cu19Siを含む、請求項9に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項11】
前記補強構造体が、銅を、前記エネルギー貯蔵構造体の銅含有量よりも高い含有量で含む、請求項9に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項12】
前記複合構造体が、複数のエネルギー貯蔵構造体と、前記複数のエネルギー貯蔵構造体を結合させている複数の補強構造体とを含む、請求項1に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項13】
前記複合構造体が、ケイ素を約0.24以上のモル分率で含む、請求項9に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項14】
前記複合構造体が、ケイ素を約0.32以上のモル分率で含む、請求項9に記載の耐ひずみ性粒子。
【請求項15】
耐ひずみ性粒子の製造方法であって:
共晶又は共析反応により2以上の相に相分離する特定の比率の構成元素を含む微細な液滴又は粒子を含む供給原料を調製する工程と;
前記供給原料をマイクロ波プラズマトーチのプラズマ又はプラズマ排気中に導入することにより前記供給原料を溶融する工程と;
共晶又は共析転移を誘発して1又は複数の相分離が起こるように、前記供給原料を急速であるが制御された様式で冷却することによって、エネルギー貯蔵構造体と前記エネルギー貯蔵構造体を機械的に支持する補強構造体とを含む複合構造体を作り出す工程と;
を含む、方法。
【請求項16】
前記供給原料は、ケイ素と、銅、ニッケル、及び鉄の少なくとも1種とを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記供給原料は、銅を含み、且つ約0.24モル分率以上のケイ素を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記供給原料は、銅を含み、且つ約0.32モル分率以上のケイ素を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記供給原料は、ニッケルを含み、且つ約0.56モル分率以上のケイ素を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記供給原料は、ニッケルを含み、且つ約0.7モル分率以上のケイ素を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
リチウムイオン電池のアノードであって:
複数のエネルギー貯蔵構造体及び補強構造体を含むin-situ形成複合構造体を含む耐ひずみ性粒子を複数含み;
前記エネルギー貯蔵構造体は、実質的にケイ素を含み;
前記補強構造体は、共晶又は共析反応によってケイ素と共に2以上の相に相分離する1種又は複数種の元素を含む;
リチウムイオン電池のアノード。
【請求項22】
前記元素は、ニッケル、銅、及び鉄の少なくとも1種を含む、請求項21に記載のリチウムイオン電池のアノード。
【請求項23】
耐ひずみ性粒子であって:
少なくとも1種の元素を含むエネルギー貯蔵相であって、イオンを吸蔵するように構成されている前記エネルギー貯蔵相と;
1種又は複数種の元素を含む補強相と;
を含む複合構造体を含み、
前記複合構造体の融液を冷却すると、共晶又は共析転移が起こることによって、前記複合構造体は、その少なくとも1つの相が前記エネルギー貯蔵相であり、その少なくとも1つの相が前記補強相である、2以上の異なる相に相分離し、その結果として粒子レベルの複合微細構造がin-situ成長し、前記補強相は、前記エネルギー貯蔵相を機械的に支持する、耐ひずみ性粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で2020年6月25日に出願された米国仮出願第63/043,958号明細書に基づく優先権を主張するものであり、その開示全体を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
分野
本開示は、概して、幾つかの実施形態において、耐ひずみ性材料を形成するための粉末、構造体、前駆体、並びに前記粉末及び構造体の製造方法に関する。
【0003】
関連技術の説明
Si、Si合金、SiO、及びSn合金を含む合金型アノード材料は、20年を超えて精力的に研究されてきた分野である。この種の材料の利点は、従来の炭素(主として黒鉛)を主原料とするアノードと比較して、リチウム(Li)の吸蔵容量又は単に容量が大幅に増大することであり、Siの場合は、典型的な市販の黒鉛アノードと比較して10倍にもなる。しかし、そのサイクル寿命が非常に劣ることが妨げとなり、これらを黒鉛の完全な代替品として採用するには至っていない。ケイ素(Si)を完全にリチウム化すると体積は300%増加し、続いて脱リチウム化を行うと300%減少する。このように体積が繰り返し大きく変動することにより、Si粒子が機械的に損傷し、その結果として材料が断裂し、新しい面が電解質と反応して不動態化しながらリチウムを消費し、それにより、最悪の場合は僅か数サイクルで容量が低下し、インピーダンスが上昇する。そのため、市販されている合金アノードは、非常に微細な合金粒子を、通常は活物質全体の10%未満で黒鉛とブレンドしたものに限られていた。
【発明の概要】
【0004】
概要
本明細書においては、少なくとも1種の元素を含むエネルギー貯蔵構造体(又は相)であって、イオンを吸蔵するように構成されているエネルギー貯蔵構造体と、エネルギー貯蔵相から相分離する1種又は複数種の元素を含む補強構造体(又は相)とを含む複合構造体を含む耐ひずみ性粒子の実施形態を開示する。この相分離は、共晶又は共析反応を介するものであり得、補強構造体は、エネルギー貯蔵構造体を機械的に支持する。
【0005】
幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体はケイ素及び/又はスズを含む。幾つかの実施形態において、補強構造体は、ニッケル、銅、鉄、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、コバルト、モリブデン、ジルコニウム、バナジウム、チタン、クロム、ビスマス、アンチモン、ゲルマニウム、ホウ素、リン、炭素、硫黄、窒素、及び/又は酸素を含む。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体はケイ素を含み、補強構造体はニッケル及びケイ素を含む金属間化合物を含む。幾つかの実施形態において、金属間化合物は、NiSi及びNiSiを含む。幾つかの実施形態において、補強構造体は、ニッケルを、エネルギー貯蔵構造体のニッケル含有量よりも高い含有量で含む。
【0006】
幾つかの実施形態において、複合構造体は、ケイ素を約0.56以上のモル分率で含む。幾つかの実施形態において、複合構造体は、ケイ素を約0.7以上のモル分率で含む。
【0007】
幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体はケイ素を含み、補強構造体は銅及びケイ素を含む金属間化合物を含む。幾つかの実施形態において、金属間化合物はCu
Siを含む。幾つかの実施形態において、補強構造体は、銅を、エネルギー貯蔵構造体の銅含有量よりも高い含有量で含む。
【0008】
幾つかの実施形態において、複合構造体は、複数のエネルギー貯蔵構造体と、この複数のエネルギー貯蔵構造体を結合させている複数の補強構造体とを含む。
【0009】
幾つかの実施形態において、複合構造体は、ケイ素を約0.24以上のモル分率で含む。幾つかの実施形態において、複合構造体は、ケイ素を約0.32以上のモル分率で含む。
【0010】
本明細書においては、耐ひずみ性粒子を製造する方法の実施形態であって、共晶又は共析反応により2以上の相に相分離する特定の比率の構成元素を含む微細な液滴又は粒子を含む供給原料を調製する工程と、この供給原料を溶融するために、供給原料をマイクロ波プラズマトーチのプラズマ又はプラズマ排気(plasma exhaust)内に導入する工程と、供給原料を、共晶又は共析転移を誘発するように、急速であるが制御された様式で冷却することによって1又は複数の相分離を起こさせ、エネルギー貯蔵構造体及び前記エネルギー貯蔵構造体を機械的に支持する補強構造体を含む複合構造体を作り出す工程と、を含む実施形態も開示する。
【0011】
幾つかの実施形態において、供給原料は、ケイ素と、銅、ニッケル、及び鉄のうちの少なくとも1種とを含む。幾つかの実施形態において、供給原料は銅を含み、且つ約0.24モル分率以上のケイ素を含む。幾つかの実施形態において、供給原料は銅を含み、且つ約0.32モル分率以上のケイ素を含む。幾つかの実施形態において、供給原料はニッケルを含み、且つ約0.56モル分率以上のケイ素を含む。幾つかの実施形態において、供給原料はニッケルを含み、且つ約モル分率0.7以上のケイ素を含む。
【0012】
本明細書においてはまた、複数のエネルギー貯蔵構造体及び補強構造体を含むin-situ形成複合構造を含む複数の耐ひずみ性粒子を含むリチウムイオン電池のアノードの実施形態であって、エネルギー貯蔵相は、実質的にケイ素を含み、補強構造体は、共晶又は共析反応によってケイ素と共に2以上の相に相分離する1種又は複数種の元素を含む、実施形態も開示する。
【0013】
幾つかの実施形態において、この元素は、ニッケル、銅、及び鉄のうちの少なくとも1種を含む。
【0014】
本明細書においてはまた、少なくとも1種の元素を含むエネルギー貯蔵相を含む複合構造体を含む耐ひずみ性粒子の実施形態であって、エネルギー貯蔵相はイオンを吸蔵するように構成されており、補強相は1種又は複数種の元素を含み、融液を冷却すると、共晶又は共析転移が起こることによって、その少なくとも1つがエネルギー貯蔵相であり、その少なくとも1つが補強相である2以上の異なる相に相分離し、その結果として粒子レベルの複合微細構造がin-situ成長し、1つ又は複数の補強相は1つ又は複数のエネルギー貯蔵相を機械的に支持する、実施形態も開示する。
【0015】
更なる実施形態は、本明細書に開示する粒子に関する。
【0016】
更なる実施形態は、本明細書に開示する粉末に関する。
【0017】
更なる実施形態、本明細書に開示する粒子の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本開示による好ましい耐ひずみ性粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0019】
図1B図1Aの粒子のケイ素(Si)高濃度領域を示す、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による元素組成マップである。
【0020】
図1C図1Aの粒子のニッケル(Ni)高濃度領域を示すEDS元素組成マップである。
【0021】
図2A】ケイ素及びニッケルの共晶又は共析組成物から構成される好ましい耐ひずみ性粒子の画像である。
【0022】
図2B】ケイ素及びニッケルの共晶又は共析組成物から構成される好ましい耐ひずみ性粒子の画像である。
【0023】
図3】ケイ素及び銅の過共晶組成物から構成される好ましい耐ひずみ性粒子の画像である。
【0024】
図4】本開示による耐ひずみ性粒子を使用したリチウムイオン電池の例示的なアノードの容量-電圧曲線である。
【0025】
図5】本開示による粉末の製造方法の実施形態の例を示したものである。
【0026】
図6】本開示の実施形態による、粉末の製造に使用することができるマイクロ波プラズマトーチの実施形態を示したものである。
【0027】
図7A】本開示の側方供給ホッパを用いる実施形態による、粉末の製造に使用することができるマイクロ波プラズマトーチの実施形態を示したものである。
図7B】本開示の側方供給ホッパを用いる実施形態による、粉末の製造に使用することができるマイクロ波プラズマトーチの実施形態を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
本明細書においては、耐ひずみ性材料を形成するための方法、粉末/粒子、構造体、供給原料、及び前駆体、並びに前記材料を組み込んだデバイスの実施形態を開示する。この材料は、耐ひずみ性合金型アノード用の、特定の粒子レベルの複合構造を有する粉末とすることができる。この耐ひずみ性合金型アノードは、エネルギー貯蔵により発生するひずみに耐え、したがって、粒子の崩壊を防ぐ構造を含むことができる、耐ひずみ性粒子を含むものとすることができる。
【0029】
幾つかの実施形態において、粒子レベルの複合構造体は、エネルギー貯蔵構造体(例えば、相、化学的性質、配合、配置(configuration)、構造(framework))及び補強構造体(例えば、相、化学的性質、配合、配置、構造)の両方を含むことができる。幾つかの実施形態において、粒子は、エネルギー貯蔵構造領域及び補強構造領域を交互に含み得る。この補強相は、ある程度のエネルギー貯蔵能力を有し得る。
【0030】
複合構造体の最小領域寸法(feature size)は、ミクロンスケールからナノスケール程度となり得る。本明細書に開示するように、粉末は、特定の供給原料の材料をマイクロ波プラズマトーチ又は他の処理方法によって処理することにより形成することができる。この処理は、供給原料を、マイクロ波プラズマトーチ、マイクロ波プラズマト
ーチのプラズマプルーム、及び/又はマイクロ波プラズマトーチの排気内に供給することを含み得る。この位置は、使用される供給原料の種類に応じて異なり得る。更に、供給原料は、様々な要件に基づき製造又は選択され得る。要件の例としては、アスペクト比、粒子径分布(PSD)、化学的性質、密度、直径、球形度、酸化、及び細孔径が挙げられる。この処理は、処理された供給原料を制御された冷却速度で冷却することを更に含み得る。冷却速度が速いほど微細化した構造が得られることが判明している。
【0031】
図1A~1Cに好ましい粉末の粒子の例を示す。図1Aは、粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示すものである。図1Bは、図1Aの粒子のケイ素(Si)高濃度領域を示すための特定の撮像用線源(imaging source)を使用した、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による元素組成マップを示すものである。図1Cは、ニッケル(Ni)の高濃度領域を示すための特定の撮像用線源を使用したEDS元素組成マップを示すものである。この粒子は、in-situ形成複合合金構造を含む。電池に使用した場合、高濃度Si領域がエネルギー貯蔵構造体を構成し、高濃度Ni領域が補強構造体を構成する。
【0032】
エネルギー貯蔵構造体は、帯電したイオンを吸蔵し、一方、補強構造体は、主として、エネルギー貯蔵構造体がエネルギーを貯蔵する際に大きく膨張することに起因する粒子の崩壊を防ぐ高強度構造部材として機能する。補強構造体1004はまた、粒子全体の膨張を制御する形で低減する希釈相の役割も果たし、それにより膨張に対する耐性が付与される。更に補強構造体1004は、粒子に電子を出入りさせる低抵抗経路となる電子伝導体としても作用する。図に示すように、エネルギー貯蔵構造体1002及び補強構造体1004の領域が交互に並んでいる。
【0033】
幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体1002は、Si、酸化ケイ素(SiO)等のSi合金、スズ(Sn)、又は酸化スズ(SnO)等のSn合金を含むことができる。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、及び/又は鉛(Pb)の任意の組合せを含むことができる。
【0034】
幾つかの実施形態において、補強構造体1004は、エネルギー貯蔵構造体1002の元素と、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、リン(P)、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、及び/又は酸素(O)との組合せを含むことができる。
【0035】
幾つかの実施形態において、補強構造体は、少なくともある程度のエネルギー貯蔵能力、例えば、0とエネルギー貯蔵相のエネルギー貯蔵能力の値との間にある値を示すことができる。補強構造体1004のエネルギー貯蔵能力は、エネルギー貯蔵構造体1002のエネルギー貯蔵能力より低くてもよい。エネルギー貯蔵構造体1002及び補強構造体1004に含まれる元素は、例えば共晶又は共析反応を介して2以上の相に相分離する2種以上の元素を含むように選択することができる。この2以上の相は、安定相及び/又は準安定平衡相であってもよい。
【0036】
相分離系の例としては、化学量論及び冷却速度に応じて、Ni及びSiの化合物、例えば、NiSi、NiSi、NiSi、Siの多相複合構造体を生成するNi-Si系が挙げられる。他の例示的な相分離系はCu-Si系であり、これは、Cu19Si、Cu15Si、Cu33Si、CuSi、Si等の、Cu及びSiの化合物の多相複合構造を生成する。他の相分離系の例としては、Fe-Si系が挙げられ、これは、
FeSi、FeSi、Si等の、Fe及びSi化合物の多相複合構造体を生成する。幾つかの実施形態において、相分離系は、Ni、Cu、及び/又はFeと、Siとの組合せを含むことができる。相分離により生成した相の少なくとも1つはエネルギー貯蔵構造体1002であり、相の少なくとも1つは補強構造体1004である。
【0037】
一例において、粉末は、NiをXと、Siを1-X(又は100%-X)とを含み、Xは15%~44%の間(又は約15%~約44%の間)にある。幾つかの実施においては、Xを、0%に近い値~40%の間(又は約0%~約40%)又は10%~33%の間(又は約10%~約33%の間)とすることもできる。他の例において、粉末は、CuをYと、Siを1-Y(又は100%-Y)とを含み、Yは、0%に近い値~76%の間(又は約0%~約76%の間)又は10%~68%の間(又は約10%~約68%の間)にある。他の例において、粉末は、FeをZと、Siを1-Z(又は100%-Z)とを含み、Zは、0%~44%の間(又は約0%~約44%の間)又は10%~30%(又は約10%~約30%の間)にある。幾つかの実施形態においては、エネルギー貯蔵構造を依然として維持したまま、Siの割合を低く(例えば、25%を僅かに上回る又は約25%を僅かに上回る)することができる。これらの実施形態においては、エネルギー貯蔵構造体となり得る非平衡構造体又は非晶質相が生成する。この非平衡相は、エネルギー貯蔵相、補強相、又はその両方となり得る。
【0038】
この粉末をリチウムイオン(Liイオン)電池のアノードに使用した場合、エネルギー貯蔵構造体1002は、Liイオン電池のアノード内でリチウム(Li)吸蔵体となる。しかし、先に述べたように、Liイオン電池内で体積変動が繰り返されることによってアノード構造体にひずみが生じる。リチウムイオン電池を安定化させるために、エネルギー貯蔵構造体1002及び補強構造体1004の両方を含む複合構造体を含むことで、補強構造体1004がひずみを効果的に吸収できることから耐ひずみ性が得られ、したがって粉末のサイクル寿命を伸ばすことができる。特定の理論の束縛されるものではないが、補強構造体1004は、展延性を示すことが求められている訳ではないが、展延性を示してもよく、したがって、エネルギー貯蔵構造体1002と同様に機械的安定性を示すことができる。補強構造体1004及びエネルギー貯蔵構造体1002はミクロン又はサブミクロンオーダーで緊密に混合されており、したがって、エネルギー貯蔵構造体1002は、補強構造体1004によって支持及び補強される。図に示すように、エネルギー貯蔵構造体1002及び補強構造体1004は結合して一体化している。この結合は、化学及び/又は物理結合の両方であり得、主として化学結合であり得る。
【0039】
エネルギー貯蔵構造体1002及び補強相1004の強度及び剛性は、構造間の結合の強さに基づき、両方共増大させることができる。効果的にひずみを吸収して粉末材料のサイクル寿命を延長できるかどうかは、エネルギー貯蔵構造体1002及び補強構造体1004の両方の寸法の程度に依存する。微細構造を微細化するほど、ひずみを吸収する能力を高めることができ、したがってサイクル寿命が延長される。幾つかの実施形態において、微細構造は、寸法を1μm未満(又は約1μm未満)、寸法を500nm未満(又は約500nm未満)、又は寸法を100nm未満(又は約100nm未満)とすることができる。
【0040】
特に、エネルギー貯蔵構造体1002の微細構造がより微細化すると、デバイス動作中の体積膨張に起因する、機械応力を発生させる相の形成を抑制することができる。例えば、これがLiイオン電池に使用され、エネルギー貯蔵構造体1002がSiを含有していた場合、LiがSiと結合してLi15Siを生成する可能性があり、それにより大幅に体積膨張して機械応力が発生する。微細構造複合構造体がより微細であれば、体積膨張に抵抗して、Li15Siの生成を抑制することができる。エネルギー貯蔵構造体1002及び補強構造体1004の全体の微細構造及び寸法の程度は、処理後の粒子の冷却速
度に基づき、目的に合わせて調整することができる。幾つかの実施形態において、冷却速度は、1000℃毎秒超(又は約1000℃毎秒超)とすることができるが、冷却速度は特に限定されない。
【0041】
更に、粉末の粒子径を小さくすることによっても強度を改善することができ、亀裂の伝播を止めることにより、粉末は構造完全性を失うことなく耐損傷性がより高くなり、また、三次元ひずみの少なくとも一部を効果的に二次元ひずみ又は一次元ひずみに抑えることができる。ひずみの次元を減らすことにより耐損傷性が高くなる。同様に、粉末の粒子径を小さくすると、膨張及び/又は収縮応力が補強構造体1004全体により細かいスケール(例えば、ミクロン又はナノメートルスケール)で分散し、したがって、応力が補強構造体1004全体により良好に分散する。
【0042】
幾つかの実施形態において、補強構造体1004は、構造体に電子を出入りさせる低抵抗路を提供するために導電体又は半導電体であってもよく、それにより、電池構造内に使用する導電剤を減らすことができる。更に、補強構造体1004が導電体又は半導電体である場合、粉末の粒子幅方向にわたる電圧降下は小さくなる。この粉末を電池に使用すると、発生するインピーダンスがより小さくなり、レート性能が改善され、粉末の粒子内の充電状態のバラツキがより小さくなる。
【0043】
補強構造体1004の導電性は、エネルギー貯蔵構造体1002の導電性の低さを緩和することができる。補強構造体1004はイオン伝導体であってもよい。補強構造体1004は、エネルギー貯蔵構造体1002が大きく膨張することに起因する粒子の崩壊を防ぐ高強度構造部材となり得る。補強構造体1004は、エネルギー貯蔵時の粒子に耐膨張性を付与することができる。補強構造体1004は、希釈用構造体となり、粒子全体の膨張を制御する形で低減することができる。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体1002及び補強構造体1004の量は、電池容量とサイクル寿命との折り合いを見ながら調整することができる。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体1002の量をより少なくすると、エネルギー貯蔵量が減るため、膨張及び収縮量が減り、粉末のサイクル寿命の延長を助けることができる。
【0044】
図2Aは、ケイ素及びニッケルの共晶又は共析組成物から構成される好ましい耐ひずみ性粒子1200aのSEM像である。粒子1200aは、モル分率0.56(又は約0.56)のケイ素及びモル分率0.44(又は約0.44)のニッケルを含む。粒子1200aは、複数のNiSi領域1204及び複数のNiSi領域1202を含む複合構造体を含む。NiSi領域1204はエネルギー貯蔵構造体を構成し、NiSi領域1202は補強構造体を構成する。
【0045】
図2Bは、ケイ素及びニッケルの共晶又は共析組成物から構成される好ましい耐ひずみ性粒子1200bのSEM像である。粒子1200bは、モル分率0.56(又は約0.56)のケイ素及びモル分率0.44(又は約0.44)のニッケルを含む。粒子1200bは、複数のNiSi領域及び複数のNiSi領域を含む複合構造体を含む。暗い領域がNiSi領域であり、明るい領域がNiSi領域である。NiSi領域はエネルギー貯蔵構造体を構成することができ、NiSi領域は補強構造体を構成することができる。
【0046】
図3は、ケイ素及び銅の過共晶組成物から構成される好ましい耐ひずみ性粒子1300のSEM像である。粒子1300は、モル分率0.68(又は約0.68)のケイ素及びモル分率0.32(又は約0.32)の銅を含む。粒子1300は、複数の初晶Si領域1302と、Si及びCu-Si金属間化合物1304から構成される複数の共晶構造領域とを含む複合構造体を含む。金属間化合物は、Cu19Siから構成され得る。
【0047】
幾つかの実施形態においては、融液から最初に出現する「初晶」Siの領域が存在し得、次いで材料を融体領域の下限よりも下側まで冷却すると、残存している液相がSi領域及びCu19Si領域から構成される共晶構造に変化することになる。
【0048】
Si領域1304はエネルギー貯蔵構造体を構成することができ、Cu19Si領域1302は補強構造体を構成することができる。
【0049】
図4は、Si及びNiを含む耐ひずみ性粒子を使用した例示的な電池の容量-電圧曲線である。この例において、粒子は、モル分率85(又は約85)のSi及び15(又は約15)モル分率のNiを含む。図に示すように、縦軸は電圧(V vs Li/Li+、リチウムに対する電圧)を表し、横軸は容量を表す。この曲線は、初回充電容量2002が2220mAh/gを超える(又は約2220mAh/gを超える)ことを示している。図に示すように、電圧が高くなると容量は減少し、0.1V付近で曲線が折れ曲がる。幾つかの実施形態において、Si及びNiを含む耐ひずみ性粒子を使用して作製した電池は、500mAh/g~3600mAh/g(又は約500mAh/g~約3600mAh/g)又は1000mAh/g~3000mAh/g(又は約1000mAh/g~約3000mAh/g)となり得る。
【0050】
供給原料
本明細書においては、in-situ形成複合合金構造を含む粒子であって、耐ひずみ性を有する高エネルギー貯蔵材料の構造体として使用することができる粒子の、製造に使用することができる供給原料の材料又は供給原料の材料の種類を開示する。この構造体は粉末形態とすることができ、特に充放電時に大きな体積変化を繰り返す、例えばSi基合金、SiO、及びSn基合金のアノードの化学作用にも適応する。先に述べたように、耐ひずみ性粉末は、交互に並ぶエネルギー貯蔵構造体及び補強構造体から構成することができる。このエネルギー貯蔵構造体は、その粒子をリチウムイオン電池のアノードとして使用した場合にリチウムイオン粒子を吸蔵することが可能な、主要なエネルギー貯蔵構造体として使用することができる。
【0051】
上述の粒子を製造するための例示的な供給原料は、構成元素を予め定められた比率で含む微細な供給原料である。幾つかの実施形態において、供給原料は、構成元素を予め定められた比率で含む混合物を噴霧乾燥することにより製造することができる。この実施形態においては、構成元素を予め定められた比率で含む混合物が製造される。この混合物は結合剤を含んでいても含まなくてもよい。結合剤は、ポリアクリル酸、ポリ酢酸ビニル、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴムラテックス、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、デンプン、及び/又は他の好適な結合剤とすることができる。混合物を加熱された気体のカラム内に噴霧することにより担体溶媒を除去し、正確な平均組成を有する顆粒状の供給原料を製造することができる。このプロセスは噴霧乾燥と称することができる。顆粒状の供給原料は、粒子径の小さい微粒子材料となり得る。幾つかの実施形態において、噴霧乾燥された供給原料の粒子径は、100μm未満(又は約100μm未満)、25μm未満(又は約25μm未満)、又は10μm未満(又は約10μm未満)、又は5μm未満(又は約5μm未満)とすることができる。
【0052】
幾つかの実施形態において、微細な供給原料は、バルク材料又は粗大な粉末を粉砕又は磨砕することにより略均一な粉末を生成することによって作製されたものであってもよい。略均一な粉末は、粒子径の小さい微粒子材料であり得る。略均一な粉末の粒子径は、100μm未満(又は約100μm未満)、25μm未満(又は約25μm未満)、又は10μm未満(又は約10μm未満)、又は5μm未満(又は約5μm未満)とすることができる。この実施形態において、バルク材料又は粗大粉末は、予め定められた構成元素を
含むことができる。次いでこのバルク材料又は粗大粉末を粉砕することにより、微細な供給原料が生成する。幾つかの実施形態において、目的の構成元素から構成される別々のバルク材料又は粗大粉末を粉砕又は磨砕することによって複数種の成分の微粉末を生成してもよく、得られた微細な供給原料を適切な比で合一し、噴霧乾燥させ、メカニカルアロイングするか又はそれ以外の形で組み合わせて、予め定められた適切な比率の構成元素を含む均一な粉末を生成することができる。メカニカルアロイングはボールミル等で粉砕することにより実施することができる。
【0053】
幾つかの実施形態において、微細な供給原料は、コアに1種又は複数種の構成元素を被覆することによって製造することができる。被覆は電着により実施することができるが、被覆方法は限定されない。この実施形態においては、予め定められた元素のうちの1種を含むコアが提供される。被覆プロセスはコア上で実施され、被覆されたコアが予め定められた比率の構成元素を含むように、コアを1種又は複数種の構成元素で被覆する。この被覆されたコアが、微細な供給原料を構成する。したがって、幾つかの実施形態においては、被覆及びコアを溶融して均一に混合することができる。
【0054】
予め定められた比率の構成元素としては、Si、Sn、Mg、Ag、Zn、Al、Pb、Sb、Bi等のエネルギー貯蔵物質並びにこれらの合金及び/又は化合物並びに1種又は複数種の追加の合金元素が挙げられる。合金元素は、融液の冷却時に、エネルギー貯蔵物質及び1種又は複数種の合金元素が共晶又は共析反応を介して1又は複数のエネルギー貯蔵相及び1又は複数の補強相に相分離し、複合構造体を形成することができる系を形成するように選択することができる。有利な複合構造を生成する合金元素としては、これらに限定されるものではないが、Ni、Cu、Fe、Al、Mg、Co、Mo、Zn、Zr、V、Ti、Cr、Bi、Sb、Ge、B、P、C、S、N、及びOが挙げられる。元素の具体的な割合は、共晶又は共析により相分離するように選択することができる。エネルギー貯蔵物質及び1種を超える合金元素を使用して、追加の相及び/又は補強体を含むより複雑な構造を生成させることができる。
【0055】
具体例としては、Si-Cu共晶系が挙げられ、その場合、Siはエネルギー貯蔵物質となり、Cuは合金元素となり、エネルギー貯蔵構造体としてのSiと、補強構造体としてのCu19Siとを含む2相の共晶構造が生成する。Si-Cu系においては、Siが組成の0.24~1.0の間(又は約0.24~約1.0の間)の原子分率を構成する場合、Si及びCu19Siを含む平衡する2相域が存在し、Siが組成の0.32(又は約0.32)の原子分率を構成する場合に共晶組成となる。Siが組成の0.32~1の間(又は約0.32~約1.0の間)の原子分率を構成する場合、平衡状態で存在する分子構造はSi及びCu19Siのみである。
【0056】
Siが組成の0.24~0.32の間(又は約0.24及び約0.32の間)の原子分率を構成する場合は、亜共晶組成となる。亜共晶組成に存在する分子構造は、共晶であるSi/Cu16Si構造及び過剰なCu19Si構造である。Siが組成の約0.32(又は約0.32)の原子分率を構成する場合は、共晶組成となる。共晶組成では、共晶であるSi/Cu19Si構造のみが存在することになる。Siが組成の0.32~1.0の間(又は約0.32~約1.0の間)の原子分率を構成する場合は過共晶組成となり、これは共晶であるSi/Cu19Si構造に加えて過剰なSi構造を含む。過剰なSi構造のサイズは組成及び冷却速度によって決まる。つまり、Si-Cu系においては、Siのモル分率を0.32(又は約0.32)以上とすれば、供給原料を溶融した後、再形成することによって、共晶相の分離が起こり、Si/Cu19Siの共晶構造と、共晶構造内に分布する初晶粒として存在する過剰なSiとを含むようになる。
【0057】
幾つかの実施形態において、供給原料は、モル分率xのSi及びモル分率1-xのCu
を含み、xは0.24を超える(又は約0.24を超える)か又は0.32を超える(又は約0.32を超える)。幾つかの実施形態において、xは0.4~0.95(又は約0.4~約0.95)又は0.5~0.9(又は約0.5~約0.9)とすることができる。Siのモル分率が高いほどエネルギー貯蔵能力は高くなるが、存在する補強構造体が少なくなる。補強構造体はサイクル時の体積膨張及び収縮を防ぎ、したがって、補強相の量が増えるとサイクル寿命が長くなる。
【0058】
幾つかの実施形態においては、Siの重量百分率を12%超(又は約12%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.24超(又は約0.24超)であることに相当する。幾つかの実施形態においては、Siの重量百分率を17%超(又は約17%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.32超(又は約0.32超)であることに相当する。幾つかの実施形態においては、Siの重量百分率を23%超(又は約23%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.4超(又は約0.4超)であることに相当する。幾つかの実施形態においては、Siの重量百分率を31%超(又は約31%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.5超(又は約0.5超)であることに相当する。幾つかの実施形態においては、Siの重量百分率を80%超(又は約80%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.9超(又は約0.9超)であることに相当する。幾つかの実施形態においては、Siの重量百分率を89%超(又は約89%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.95超(又は約0.95超)であることに相当する。
【0059】
他の具体例として、Si-Ni系を挙げることができ、これは、エネルギー貯蔵物質としてのSiと、補強構造となるSi-Ni金属間化合物を作り出す合金元素としてのNiとを含むものである。Si-Ni系において、Siの原子分率又はモル分率が56(又は約56)のときに共晶組成となる。Siの原子分率又はモル分率が50~67(又は約50~約67の間)である組成では、平衡状態においてNiSi及びNiSiから構成される微細な共晶構造が生成する。冷却速度がより速くなると、Siの原子分率が60を超える(又は約60を超える)場合に非平衡Siが存在するようになり、これは、固体状態で運動が制限(kinetic limitation)されていることに起因する可能性がある。
【0060】
Siの原子分率が67を超える(又は約67を超える)と、平衡状態において、Si構造及びNiSi構造から構成される複合構造が生成する。このSi構造はエネルギー貯蔵構造体となることができ、一方、NiSiは補強構造体となることができる。冷却速度がより高い場合は、NiSi構造も生成する可能性がある。幾つかの実施形態において、供給原料は、原子分率0.85(又は約0.85)のSi及び原子分率0.15(又は約0.15)のNiを含む。
【0061】
幾つかの実施形態において、供給原料は、原子分率yのSi及び原子分率1-yのNiを含み、yは0.56を超える(又は約0.56)。幾つかの実施形態において、yは0.6~0.95(又は約0.6~約0.95)又は0.7~0.9(又は約0.7~約0.9)とすることができる。Siのモル分率が高いほどエネルギー貯蔵能力は高くなるが、存在する補強構造が少なくなる。補強構造は、サイクル時の体積膨張及び収縮を制限することができる。したがって、補強構造の量が増加するとサイクル寿命が延びる可能性がある。
【0062】
幾つかの実施形態において、Siの重量百分率を38%超(又は約38%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.56超(又は約0.56超)であることに相当する。幾つかの実施形態において、Siの重量百分率を42%超(又は約42%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.6超(又は約0.6超)であるこ
とに相当する。幾つかの実施形態において、Siの重量百分率を53%超(又は約53%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.7超(又は約0.7超)であることに相当する。幾つかの実施形態において、Siの重量百分率を81%超(又は約81%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.9超(又は約0.9超)であることに相当する。幾つかの実施形態において、Siの重量百分率を90%超(又は約90%超)とすることができ、これは原子分率又はモル分率が0.95超(又は約0.95超)であることに相当する。
【0063】
構成元素を特定の比率で含むマイクロ波プラズマ処理用供給原料は、粒子レベルの複合構造を含む、エネルギー貯蔵構造体及び補強構造体が交互に並ぶ独特な粒子を生成することができる。マイクロ波プラズマ処理後に冷却を行う間に、予め定められた特定の比率の構成元素は、エネルギー貯蔵構造体及び補強構造体から構成される複合構造体に相分離する。エネルギー貯蔵構造体の特徴的な寸法は5μm未満(又は約5μm未満)、1μm未満(又は約1μm未満)、又は500nm未満(又は約500nm未満)、又は100nm未満(又は約100nm未満)とすることができる。エネルギー貯蔵物質及び合金元素が共晶又は共析反応を介して相分離することにより、補強されたin-situ成長複合構造体を形成するという予期せぬ結果が見出された。
【0064】
最終材料
最終材料は、エネルギー貯蔵構造体及び補強構造体が交互に並ぶin-situ形成複合構造体を有する粉末を含む。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体又は補強構造体の少なくとも1つは棒状(rod)形状又は板状形状とすることができる。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体又は補強構造体の少なくとも1つは相互貫入型の結晶相又は非晶質相とすることができる。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体及び補強構造体は互いに交互に並んでいる。
【0065】
補強構造体は、主に高強度構造部材として機能し、貯蔵構造体がエネルギー貯蔵時に大きく膨張することに起因する粒子の崩壊を防ぐ。先に述べたように、リチウムイオン電池のアノードを完全リチウム化するまでの間に最大300%(又は最大約300%)の体積増加が起こる可能性があり、これが粒子に大きなひずみを与え、粒子の崩壊を引き起こす可能性がある。複合微細構造体の補強構造体が粒子の崩壊を防止することにより、リチウムイオン電池のサイクル寿命を延長することが可能になり、この種の高エネルギー密度(high-energy)アノード材料を使用したリチウムイオン電池のサイクル寿命を延長するという、長年にわたり未解決であった要求が満たされる。更に、複合微細構造体の補強構造体は、膨張に対する耐性も付与することができる。補強構造体は、粒子全体の膨張を制御することができる、例えば、粒子全体の膨張を低減することができる、希釈構造の役割を果たすこともできる。補強構造体は、本来であれば存在するエネルギー貯蔵構造体と置き替わりっており、これが膨張への対処の助けになる。
【0066】
更に、エネルギー貯蔵構造体及び補強構造体の寸法の程度が小さければ、エネルギー貯蔵構造体が膨張できる量を補強構造体によって制限することができる。補強構造体はまた、粒子が受ける全体のひずみを制限することによって、膨張のひずみに対する耐性を付与することもできる。更に、補強構造体は、構造体に電子を出入りさせる低抵抗経路を提供する電子伝導体としての役割も果たすことができる。エネルギー貯蔵構造体自体は導電性が低い場合もあるので、補強構造体が、充放電時に粒子に電子を出入りさせるための低抵抗路を提供することができる。低抵抗路が存在しないと電圧降下が高くなって抵抗が大きくなることになり、粒子の導電能力が制限される可能性がある。補強構造体はイオン伝導体であってもよい。補強構造体はエネルギー貯蔵性を有することもできる。
【0067】
ひずみを効果的に吸収し、それによりエネルギー貯蔵構造体及び補強構造体を有する粒
子のサイクル寿命を延長する能力には、エネルギー貯蔵構造体及び補強構造体の両者の寸法及び寸法の比率(scale)、エネルギー貯蔵構造体及び補強構造体の強度及び剛性、複合構造体の形態、エネルギー貯蔵構造体及び補強構造体の相対的な比率、並びにエネルギー貯蔵構造体と補強構造体との間の結合強度が関与するであろう。幾つかの実施形態において、複合構造体の形態は、板状、棒状、又は球状析出物とすることができる。
【0068】
更に、プラズマ処理後の冷却速度を速くすることにより、複合構造体の寸法の程度がより微細になる。複合構造体の寸法の程度をより細かくすることによって、機械的損傷に対する耐性が最大化される。幾つかの実施形態において、冷却速度は、1000℃(又は約1000℃)毎秒超、900℃(又は約900℃)毎秒超、800℃(又は約800℃)毎秒超又は700℃(又は約700℃)毎秒超とすることができる。更に冷却速度を速くすると、非平衡相を保持することが可能になる場合もあり、その結果として、平衡する相のみの場合よりもエネルギー貯蔵構造体を高い比率で存在させることができる。幾つかの実施形態においては、更に冷却を行い、単一相の固溶体がその固溶限を超え、更に相分離した場合に、この材料が2以上の相分離領域(例えば、第2又は第3相分離領域)に入ることもある。幾つかの実施形態においては、非平衡構造を保持するように材料を冷却してもよい。幾つかの実施形態においては、相分離を誘導するために追加の加熱を行ってもよい。更なる相分離により、所望の微細な領域寸法を作り出すことができる。
【0069】
幾つかの実施形態において、粒子径は0.5μm~100μm(又は約0.5μm~約100μm)の範囲とすることができる。幾つかの実施形態において、粒子径は20μm(又は約20μm)以下とすることができる。更に、粒子径は、10μm~40μm(又は約10μm~約40μm)、15μm~30μm(又は約15μm~約30μm)、又は17μm~25μm(又は約17μm~約25μm)とすることができる。幾つかの実施形態において、粒子径は、1μm~5μm(又は約1μm~約5μm)又は0.5μm~10μm(又は約0.5μm~約10μm)とすることができる。粒子径は、プラズマ処理される供給原料の寸法により決定され得る。更に、出発供給原料の元素比が粒子の元素比を決定し得る。したがって、ケイ素のモル分率が0.85(又は約0.85)であり、ニッケルのモル分率が0.15(又は約0.15)である供給原料を使用することにより、結果として得られる粒子のモル分率を、実質的に、ケイ素のモル分率を0.85(又は約0.85)とし、ニッケルのモル分率を0.15(又は約0.15)とすることができる。
【0070】
幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体は、粒子の80%(又は約80%)を構成し、補強構造体は、粒子の20%(又は約20%)を構成することができる。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体の重量百分率は、粒子の5%超(又は約5%超)又は10%超(又は約10%超)である。幾つかの実施形態において、エネルギー貯蔵構造体の重量百分率は、粒子の20%~80%(又は約20%~約80%)又は30%~60%(又は約30%~約60%)又は20%~95%(又は約20%~約95%)である。
【0071】
球形度
幾つかの実施形態において、処理後に得られる最終粒子は、球状又は楕円状とすることができ、この用語は互換的に使用することができる。
【0072】
本開示の実施形態は、実質的に球状又は楕円状であるか、又は有意に球状化された粒子の製造に関する。幾つかの実施形態において、球状、楕円状、又は球状化された粒子とは、特定の閾値を超える球形度を有する粒子を指す。粒子の球形度は、粒子の体積Vに相当する球体の表面積As,idealを、次の式を用いて算出し:
【数1】

次いでこの理想化された表面積を、粒子の実測した表面積As,actualと比較することにより求めることができる:
【数2】
【0073】
幾つかの実施形態において、粒子の球形度は、0.5超、0.6超、0.7超、0.75超、0.8超、0.9超、0.91超、0.95超、又は0.99超(又は約0.5超、約0.6超、約0.7超、約0.75超、約0.8超、約0.9超、約0.91超、約0.95超、若しくは約0.99超)とすることができる。幾つかの実施形態において、粒子の球形度は、0.75以上又は0.91以上(又は約0.75以上若しくは約0.91以上)とすることができる。幾つかの実施形態において、粒子の球形度は、0.5未満、0.6未満、0.7未満、0.75未満、0.8未満、0.9未満、0.91未満、0.95未満、又は0.99未満(又は約0.5未満、約0.6未満、約0.7未満、約0.75未満、約0.8未満、約0.8未満、約0.91未満、約0.95未満、若しくは約0.99未満)とすることができる。幾つかの実施形態において、粒子は、球形度が上述のいずれかの球形度の値以上である場合に、球状である、楕円状である、又は球状化されていると見なすことができ、幾つかの好ましい実施形態においては、球形度が約0.75以上又は約0.91以上である場合に、粒子が球状であると見なされる。
【0074】
幾つかの実施形態において、所与の粉末の全粒子の球形度の中央値は、0.5超、0.6超、0.7超、0.75超、0.8超、0.9超、0.91超、0.95超、又は0.99超(又は約0.5超、約0.6超、約0.7超、約0.75超、約0.8超、約0.8超、約0.91超、約0.95超、若しくは約0.99超)とすることができる。幾つかの実施形態において、所与の粉末の全粒子の球形度の中央値は、0.5未満、0.6未満、0.7未満、0.75未満、0.8未満、0.9未満、0.91未満、0.95未満、又は0.99未満(又は約0.5未満、約0.6未満、約0.7未満、約0.75未満、約0.8未満、約0.8未満、約0.91未満、約0.95未満、若しくは約0.99未満)とすることができる。幾つかの実施形態において、粉末は、所与の粉末のうち、測定された全て粒子又は閾値の割合(以下に示すいずれかの割合で表す)の粒子の球形度の中央値が、上述の球形度のいずれかの値以上であれば、球状化されていると見なされ、幾つかの好ましい実施形態においては、全ての粒子又は閾値の割合の粒子の球形度の中央値が約0.75以上又は約0.91以上であれば、粉末は球状化されていると見なされる。
【0075】
幾つかの実施形態において、上に述べたような所与の球形度の閾値を超えることができる粉末中の粒子の割合は、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、又は99%超(又は約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、約95%超、若しくは約99%超)とすることができる。幾つかの実施形態において、上に述べたような所与の球形度の閾値を超えることができる粉末中の粒子の割合は、50%未満、60%未満、70%未満、80%未満、90%未満、95%未満、又は99%未
満(又は約50%未満、約60%未満、約70%未満、約80%未満、約90%未満、約95%未満、若しくは約99%未満)とすることができる。
【0076】
粒子径分布及び球形度は、任意の好適な公知の技法、例えば、SEM、光学顕微鏡法、動的光散乱、レーザー回折、画像解析ソフトウェアを用いた寸法の手動測定、例えば、材料の同一区画又は同一試料の少なくとも3つの画像にわたり、1画像につき約15~30回測定を行うことによるもの、及び他の任意の技法により求めることができる。
【0077】
本開示プロセスの実施形態は、粉末を、マイクロ波により発生させたプラズマ内に、パワー密度、ガス流量、及び滞留時間を制御しながら、粉末供給機を使用して供給することを含むことができる。パワー密度、流量、及び粉末のプラズマ内の滞留時間等のプロセスパラメータは、材料の融点や熱伝導率等の物理特性に依存し得る。パワー密度は、20W/cm~500W/cm(又は約20W/cm~約500W/cm)の範囲とすることができる。総ガス流量は、0.1cfm~50cfm(又は約0.1cfm~約50cfm)の範囲とすることができ、滞留時間は、1ミリ秒間~10秒間(又は約1秒間~約10秒間)に調整することができる。このプロセスパラメータの範囲は、幅広い融点及び熱伝導率を有する材料に必要とされるプロセスパラメータを網羅しているであろう。
【0078】
異なる用途に異なる雰囲気ガスを使用することができる。
【0079】
プラズマ処理
上に開示した粒子/構造体/粉末/前駆体は、多くの異なる処理手順に用いることができる。例えば、噴霧/火炎熱分解、高周波プラズマ処理、及び高温噴霧乾燥機も全て使用することができる。以下に示す開示はマイクロ波プラズマ処理に関するものであるが、本開示はそれに限定されない。
【0080】
供給原料は、場合によっては、液滴生成装置を介して供給することができる、液体担体媒体中に構成成分である固体材料を懸濁させた十分に混合されたスラリーを含むことができる。液滴生成装置の幾つかの実施形態として、ネブライザー又アトマイザーが挙げられる。液滴生成装置は、直径が約1μm~200μmの範囲にある前駆体溶液の液滴を生成することができる。この液滴を、マイクロ波プラズマトーチ、マイクロ波プラズマトーチのプラズマプルーム、及び/又はマイクロ波プラズマトーチの排気に供給することができる。各液滴が、マイクロ波プラズマトーチにより生成されるプラズマのホットゾーンで加熱されると、液体担体は追い出され、残りの乾燥した成分は溶融して、構成元素を含む融液の液滴を形成する。プラズマガスは、アルゴン、窒素、ヘリウム水素、又はこれらの混合ガスとすることがでる。
【0081】
幾つかの実施形態において、液滴生成装置は、マイクロ波プラズマトーチの側方に配置することができる。供給原料の材料は、マイクロ波プラズマトーチの側方から液滴生成装置により供給することができる。この液滴は、マイクロ波により発生したプラズマ内に任意の方向から供給することができる。
【0082】
前駆体を処理して所望の物質にした後、原子が結晶状態に到達するのを防ぐのに十分な速度で冷却することによって、非晶質物質を生成することができる。この冷却速度は、材料を処理後0.05~2秒以内に高速気流中でクエンチングすることにより達成することができる。高速気流の温度は-200℃~40℃の範囲とすることができる。
【0083】
或いは、プラズマの長さ及び反応器温度が、原子がその熱力学的に好ましい結晶学的配置に拡散するのに必要な時間及び温度を粒子に与えるのに充分である場合は、結晶性物質を生成することができる。プラズマの長さ及び反応器温度は、パワー(2~120kW)
、トーチ径(0.5~4インチ)、反応器長さ(0.5~30フィート)、ガス流量(1~20CFM)、ガス流の特性(層流又は乱流)、トーチの種類(層流又は乱流)等のパラメータにより調整することができる。適切な温度で時間を長くするほど結晶化度が高くなる。
【0084】
プロセスパラメータは、供給原料の初期状態に応じて、最大限に球状化されるように最適化することができる。供給原料の特性ごとに、特定の結果が得られるようにプロセスパラメータを最適化することができる。米国特許出願公開第2018/0297122号明細書、米国特許第8748785B2号明細書、及び米国特許第9932673B2号明細書には、本開示プロセス、特にマイクロ波プラズマ処理に使用することができる特定の処理技法が開示されている。したがって、米国特許出願公開第2018/0297122号明細書、米国特許第8748785B2号明細書、及び米国特許第9932673B2号明細書の全体を参照により本明細書に援用し、当該明細書に開示されている技法は本明細書に記載する供給原料に適用可能と見なすべきである。
【0085】
本開示の一態様は、マイクロ波により発生したプラズマを使用する球状化プロセスを含む。粉末の供給原料は、周囲のガスに巻き込まれてマイクロ波プラズマ雰囲気内に注入される。高温のプラズマ(又はプラズマプルーム若しくは排気)内に注入された供給原料は球状化され、ガスが満たされたチャンバ内に放出され、円筒形容器(drum)内に誘導され、そこに貯蔵される。このプロセスは、大気圧下、ある程度の真空(partial
vacuum)下、又は大気圧を超える圧力下で実施することができる。代替的な実施形態において、このプロセスは、低真空、中真空、又は高真空環境下で実施することができる。このプロセスは連続的に実施することもでき、円筒形容器は、球状化された粒子で一杯になったら交換される。
【0086】
有利には、冷却処理パラメータを変化させることにより、最終粒子の特徴的な微細構造が変化することが見出された。冷却速度が速いほど構造は微細になる。冷却速度を速くすることにより、非平衡構造を得ることができる。
【0087】
冷却のプロセスパラメータとしては、これらに限定されるものではないが、冷却ガスの流量、球状化粒子のホットゾーン内の滞留時間、及び冷却ガスの組成又は製造方法が挙げられる。例えば、粒子の冷却速度又はクエンチング速度は、冷却ガスの流量を上昇させることによって高めることができる。プラズマから脱出する球状化粒子を通り過ぎる冷却ガスが速いほど、クエンチング速度が速くなり、それにより特定の所望の微細構造を固定することが可能になる。粒子がプラズマのホットゾーン内に滞留する時間を調節することによっても、結果として得られる微細構造を調整することができる。滞留時間は、粒子のホットゾーン内への注入速度及び流量(及び層流又は乱流等の条件)等の操作変数を調節することにより調整することができる。滞留時間の調整には設備の変更も用いることができる。例えば、ホットゾーンの断面積を変更することにより、滞留時間を調整することができる。
【0088】
変更又は制御することが可能な他の冷却プロセスパラメータは、冷却ガスの組成である。他のガスよりも熱伝導率が高い特定の冷却ガスがある。例えば、ヘリウムは熱伝導率が高いガスであることが認められている。冷却ガスの熱伝導率が高いほど、球状化された粒子を速やかに冷却/クエンチすることができる。冷却ガスの組成を調整する(例えば、熱伝導率の高いガス対熱伝導率の低いガスの量又は比を調整する)ことにより、冷却速度を調整することができる。
【0089】
例示的な一実施形態においては、粉末供給ホッパ内から酸素を除去するために不活性ガスで連続的に置換する。次いで、連続した量で供給される粉末は、材料が過度に酸化され
ることを防ぐための不活性ガスに取り込まれ、マイクロ波により発生したプラズマ内に供給される。一例において、マイクロ波により発生するプラズマは、米国特許第8,748,785号明細書、米国特許第9,023,259号明細書、米国特許第9,206,085号明細書、米国特許第9,242,224号明細書、及び米国特許第10,477,665号明細書に記載されているようにマイクロ波プラズマトーチを使用して発生させることができ、これらの全体を参照により本明細書に援用する。
【0090】
幾つかの実施形態において、粒子は、マイクロ波プラズマ内で4,000~8,000Kの間の均一な(又は不均一な)温度プロファイルに曝される。幾つかの実施形態において、粒子は、マイクロ波プラズマ内で3,000~8,000Kの間の均一な温度プロファイルに曝される。粉末粒子はプラズマトーチ内で急速に加熱され、溶融する。このプロセスでは、粒子がアルゴン等のガスに取り込まれるので、通常、粒子間の接触は最小限になり、粒子凝集の発生が大幅に低減される。したがって、プロセス後の篩分けが大幅に低減されるか又は不要になり、結果として得られる粒子径分布は、事実上、投入された供給材料の粒子径分布と等しくなり得る。好ましい実施形態においては、供給材料の粒子径分布が最終製品でも維持される。
【0091】
プラズマ、プラズマプルーム、又は排気内で溶融した材料は、本質的に、液体の表面張力によって球状化する。マイクロ波により発生したプラズマは実質的に均一な温度プロファイルを示すので、粒子の90%超(例えば、91%、93%、95%、97%、99%、100%)を球状化することができる。プラズマから脱出した粒子は、冷却された後、回収容器(collection bin)に流入する。回収容器が一杯になったら、プロセスを停止させることなく、必要に応じて空の回収容器に取り替えることができる。
【0092】
図5は、本開示の実施形態による球状粉末を製造するための好ましい方法を示したフローチャート(250)である。この実施形態において、プロセス(250)は、供給材料をプラズマトーチに導入すること(255)によって開始される。幾つかの実施形態において、プラズマトーチは、マイクロ波生成プラズマトーチ又はRFプラズマトーチである。上に説明したように、供給材料は、プラズマトーチ内で、材料を溶融するプラズマに暴露される(260)。溶融した材料は、上に述べたように、表面張力により球状化される(260b)。プラズマから脱出し生成物は冷却及び固化され、球状形状が固定された後、回収される(265)。
【0093】
幾つかの実施形態においては、容器の環境要件及び/又は密閉要件を慎重に管理する。つまり、粉末の汚染又は酸化の可能性を防ぐために、容器の環境及び又は密閉性を用途に合わせて調整する。一実施形態において、容器は真空下に置かれる。一実施形態において、本技法に従い生成した粉末で満たされた容器は密封される。一実施形態においては、容器に、例えば、アルゴン等の不活性ガスを再導入(back filled)する。プロセスが連続的に行われるという性質上、一旦容器が一杯になったら、プラズマ処理を停止することなく、必要に応じて取り出し、空の容器に取り替える。
【0094】
本開示による方法及びプロセスは、球状粉末等の粉末の作製に使用することができる。
【0095】
幾つかの実施形態において、本明細書に述べたマイクロ波プラズマ処理等の処理は、溶融時に特定の元素が供給原料から抜け出すのを防止する及び/又は最小限に抑えるように制御することができ、それにより、所望の組成/微細構造を維持することができる。
【0096】
図6は、本開示の実施形態による粉末の製造に使用することができる好ましいマイクロ波プラズマトーチを例示するものである。上に述べたように、供給材料9、10を、マイクロ波により発生したプラズマ11を維持するマイクロ波プラズマトーチ3に導入するこ
とができる。例示的な一実施形態において、マイクロ波放射源1を介してプラズマ11を点火する前に、取り込みガス流及びシース流(下向きの矢印)を入口5から注入することにより、プラズマトーチ内に流動条件を作り出すことができる。
【0097】
幾つかの実施形態において、取り込み流及びシース流はどちらも軸対称の層流であり、他の実施形態において、ガス流は旋回流である。供給材料9をマイクロ波プラズマトーチ内に軸方向に導入すると、供給材料9は材料をプラズマに向けて誘導するガス流に取り込まれる。供給材料は、マイクロ波により発生したプラズマ内で、材料を球状化するために溶融される。入口5は、粒子9、10をプラズマ11に向けて軸12に沿って取り込み及び加速するためのプロセスガスを導入するために使用することができる。まず、プラズマトーチ内の環状の隙間を通過することにより作り出される層流のコアガス流(上方の矢印の組)を使用して粒子9を取り込むことにより、粒子9を加速する。誘電体トーチ(dielectric torch)3の内壁を、プラズマ11の熱放射による溶融から保護するために、第2層流(下方の矢印の組)を第2の環状の隙間を通過させることによって作り出し、層流のシース流を供給することができる。好ましい実施形態において、層流は、粒子9、10を軸12に可能な限り近い経路に沿ってプラズマ11に向かって誘導し、プラズマ内の実質的に均一な温度に曝す。
【0098】
幾つかの実施形態においては、プラズマ付着(plasma attachment)が起こり得るプラズマトーチ3の内壁に粒子10が到達するのを防ぐのに適した流動条件が存在する。粒子9、10は、ガス流によってマイクロ波プラズマ11に向けて案内され、ここでそれぞれが均一に熱処理される。所望の結果を得るために、マイクロ波により発生したプラズマの様々なパラメータに加えて、粒子パラメータも調整することができる。このようなパラメータとしては、マイクロ波のパワー、供給材料のサイズ、供給材料の投入速度、ガス流量、プラズマ温度、滞留時間、及び冷却速度を挙げることができる。幾つかの実施形態において、プラズマ11から脱出した後の冷却又はクエンチング速度は、10+3℃/秒以上である。上に述べたように、この特定の実施形態において、ガス流は層流であるが、代替的な実施形態においては、供給材料をプラズマ方向に誘導するために旋回流又は乱流を使用することもできる。
【0099】
図7A~Bは、図6の実施形態に示した上部供給ホッパではなく側部供給ホッパを含む好ましいマイクロ波プラズマトーチを示すものであり、こうすることにより、下流側に供給することが可能になる。したがって、この実施において、供給原料は、マイクロ波プラズマトーチの「プルーム」又は「排気装置」で処理されるように、マイクロ波プラズマトーチ適用具(applicator)よりも後に注入される。したがって、マイクロ波プラズマトーチのプラズマは、図6に関し述べた上部供給(又は上流側供給)の場合とは異なり、供給原料を下流側で供給できるように、プラズマトーチの出口端に合わせられている。この下流側供給を行うと、ホットゾーンのライニングの壁面に何らかの物質が堆積することがなく、ホットゾーンがいつまでも保護され続けるので、有利にはトーチの寿命を延長することができる。更に、下流のプラズマプルームを目標の温度水準及び滞留時間に正確に設定することによって、粉末を最適に溶融するのに適した温度に合わせることが可能になる。例えば、マイクロ波、ガス流、及びプラズマプルームを収容しているクエンチング部内の圧力を用いてプルームの長さを調整することができる。
【0100】
概して、下流側で球状化を行う方法に利用することが可能な安定したプラズマプルームを確立するための主要な機器構成が2種類あり、これらは、米国特許出願公開第2018/0297122号明細書に記載されているものなどの環状トーチ(annular torch)又は米国特許第8748785B2号明細書及び米国特許第9932673B2号明細書に記載されている旋回流トーチ(swirl torch)である。図7A及び図7Bはいずれも、環状トーチ又は旋回流トーチのいずれかを用いて実施することが可
能な方法の実施形態を示すものである。プラズマトーチ出口のプラズマプルームに近接するように取り付けられた供給システムを使用し、粉末は、プロセスの均一性を保持するために軸対称に供給される。
【0101】
他の供給構成は、プラズマプルームを囲む1つ又は複数の別々の供給ノズルを含むことができる。供給原料の粉末を、プラズマの任意の位置に任意の方向から進入させることができ、プラズマ内のこの位置には、プラズマ周囲の任意の方向から、即ち360°から供給することができる。供給原料の粉末は、プラズマプルームの長手方向に沿った特定の位置からプラズマに進入させることができ、この位置は、特定の温度が測定され、滞留時間が粒子を溶融するのに充分であると推定される位置である。溶融粒子はプラズマを脱出し、密閉されたチャンバ内で冷却されて回収される。
【0102】
供給材料314は、マイクロ波プラズマトーチ302に導入することができる。ホッパ306は、供給材料314を、マイクロ波プラズマトーチ302、プルーム、又は排気装置に供給する前に、供給材料314を貯蔵するために使用することができる。供給材料314は、プラズマトーチ302の長手方向に対し任意の角度5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、又は55°で注入することができる。幾つかの実施形態において、供給原料は、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、又は55°を超える角度で注入することができる。幾つかの実施形態において、供給原料は、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、又は55°未満の角度で注入することができる。代替的な実施形態において、供給原料は、プラズマトーチの長手方向軸に沿って注入することができる。
【0103】
マイクロ波放射は、導波路304を介してプラズマトーチに伝搬させることができる。供給材料314をプラズマチャンバ310内に供給し、プラズマトーチ302により発生したプラズマと接触させる。供給材料は、プラズマ、プラズマプルーム、又はプラズマ排気と接触して溶融する。供給材料314は、プラズマチャンバ310内に維持されたまま冷却されて固化し、その後、容器312に回収される。別法として、供給材料314を、溶融相状態のままプラズマチャンバ310から排出し、プラズマチャンバ外で冷却して固化させてもよい。幾つかの実施形態においては、クエンチングチャンバを使用することができ、これは陽圧を使用しても使用しなくてもよい。図6とは別に説明したが、図7A~7Bの実施形態は図6の実施形態と類似の特徴及び条件を使用するものと理解される。
【0104】
幾つかの実施形態において、下流側で注入する方法の実施には、下流の旋回流、球状化の延長、又はクエンチングを用いることができる。下流の旋回流とは、粉末を管の壁面から遠ざけるためにプラズマトーチの下流側に導入することができる追加の旋回流成分を指す。球状化の延長とは、粉末の滞留時間をより長くするためにプラズマチャンバを延長することを指す。幾つかの実施においては、下流の旋回流、球状化の延長、又はクエンチングを使用しなくてもよい。幾つかの実施形態においては、下流の旋回流、球状化の延長、又はクエンチングのうちの1つを使用することができる。幾つかの実施形態においては、下流の旋回流、球状化の延長、又はクエンチングのうちの2つを使用することができる。
【0105】
粉末を下方から注入すると、マイクロ波領域のプラズマ管コーティングを減らすことが可能になるか又は不要になる。コーティングを充実させ過ぎると、プラズマホットゾーンへのマイクロ波エネルギーの進入が遮られ、プラズマとの結合(coupling)が低下する。場合によっては、プラズマが消滅して不安定になることさえある。プラズマ強度の低下は、粉末の球状化度合いが低下することを意味する。したがって、供給原料をマイクロ波領域よりも下側に供給し、プラズマトーチの出口でプラズマプルームと出会わせることにより、この領域のコーティングが不要になり、プロセス全体を通してプラズマと結合するマイクロ波粉末が安定し、充分に球状化することが可能になる。
【0106】
このように、下流側から接近させると、コーティングの問題が低減されるため、有利には、本方法を長時間にわたり運転できる可能性がある。更に、下流側から接近させると、コーティングを最小限に抑える必要がなくなるため、より多くの粉末を注入することが可能になる。
【0107】
上に述べた説明から、本発明の処理方法、前駆体、アノード、及び粉末が開示されていることが理解されるであろう。幾つかの構成要素、技法、及び態様をある程度詳細に説明してきたが、本明細書において上に記載した具体的な設計、構成、及び方法論は、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく多くの変更を行うことが可能であることは明らかである。
【0108】
別々の実施に関連して本開示に記載した特定の特徴は、単一の実施において組み合わせて実施することもできる。それとは逆に、単一の実施に関連して記載した様々な特徴を、複数の実施において別々に、又は任意の好適なサブコンビネーションで実施することもできる。更に、複数の特徴が特定の組合せで作用するとして上に記載したものもあるが、場合によっては、特許請求した組合せの1つ又は複数の特徴をこの組合せから削除することができ、この組合せを任意のサブコンビネーションとして又は任意のサブコンビネーションの変形として特許請求することもできる。
【0109】
更に、図面に示し、又は本明細書に特定の順序で記載した方法もあるが、そのような方法は、示された特定の順序で又は順番に実施する必要はなく、所望の結果を達成するためにその全ての方法を実施する必要はない。図示していない又は記載していない他の方法を、例示的な方法及びプロセスに組み込むこともできる。例えば、1つ又は複数の追加の方法を、記載した方法のいずれかの前に、後に、同時に、又は途中に実施することができる。更に、方法を、他の実施において、再配置する又は順序を変えることもできる。同様に、上に記載した実施における様々な系の構成要素の分離は、全ての実施にそのような分離が要求されると理解すべきではなく、記載した構成要素及び系は、全体として一緒にして単一の製品にするか又は複数の製品にまとめられると理解すべきである。これに加えて、他の実施も本開示の範囲内に包含される。
【0110】
「可能である(can)」、「できる(could)」、「し得る(might)」又は「してもよい(may)」等の条件付きの文言は、特に明記しない限り、又は、使用されている文脈内で他の形で理解されない限り、概して、特定の実施形態が、特定の特徴、構成要素、及び/又は工程を含むか又は含まないことを伝えることを意図している。つまり、この種の条件付き文言は、概して、特定の特徴、構成要素、及び/又は工程が、1つ又は複数の実施形態に何としても必要であることを示唆することを意図するものではない。
【0111】
「X、Y、及びZのうちの少なくとも1つ」という句等の接続詞的文言(conjunctive language)は、特に明記しない限り、又は使用されている文脈内で他の形で理解されない限り、品目や用語等がX、Y、又はZのいずれかであり得ることを伝えることを意図している。したがって、この種の組合せの文言は、概して、特定の実施形態が、少なくとも1つのX、少なくとも1つのY、及び少なくとも1つのZが存在することが必要であることを示唆することを意図するものではない。
【0112】
本明細書において使用される、「約(approximately)」、「約(about)」、「一般に」、及び「実質的に」という用語等の、程度に関する文言は、規定した数値、量、又は特性に近く、依然として所望の機能を果たすか又は所望の結果を達成する数値、量、又は特性を表す。例えば、「約(approximately)」、「約(
about)」、「一般に」、及び「実質的に」という用語は、規定した量の10%以内、5%以内、1%以内、0.1%以内、及び0.01%以内の量を指し得る。規定した量が0(例えば、無い(none)、有しない(having no))である場合、上に述べた範囲は特殊な範囲となり得、その数値の特定の%以内にはならない。例えば、規定した量の10重量/体積%以内、5重量/体積%以内、1重量/体積%以内、0.1重量/体積%以内、及び0.01重量/体積%以内となる。
【0113】
本明細書において様々な実施形態に関連して開示した、具体的な態様、方法、特性、特徴、品質、属性、構成要素、又は同種のものはいずれも、本明細書において説明した他の全ての実施形態に使用することができる。これに加えて、本明細書において記載した方法はいずれも、記載した工程の実施に適した任意の装置を使用して実施することができることが認識されるであろう。
【0114】
多くの実施形態及びその変形を詳細に説明してきたが、他の修正及びそれを使用する方法は当業者に明らかであろう。したがって、本明細書における独自性及び発明性のある開示又は特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な均等な応用、修正、材料、及び置き換えが可能であることを理解すべきである。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
【国際調査報告】