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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】神経再生用途を有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/40 20060101AFI20230721BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 38/38 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20230721BHJP
   C07K 14/79 20060101ALI20230721BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230721BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 31/4409 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
A61K38/40 ZNA
A61P25/00
A61P43/00 105
A61K38/38
A61K45/00
A61K38/17
A61K38/19
A61K31/551
C07K14/79
C07K19/00
C07K16/00
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
A61K31/4409
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580980
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2021068800
(87)【国際公開番号】W WO2022008586
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】63/049,516
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・バーネット
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・エー・ロス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA02
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA36
4C084CA38
4C084DA01
4C084DA37
4C084DC32
4C084DC34
4C084DC35
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZB22
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC54
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA56
4C086MA59
4C086MA60
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB22
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA21
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書に開示されるのは、外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、末梢神経損傷、又は末梢神経障害のうちの少なくとも1つから生じる神経変性事象を被っている患者における新たな神経細胞の生成の促進及び/又は誘導における使用のための、トランスフェリン及び/又はラクトフェリンを含有する医薬組成物である。理想的には、トランスフェリン及び/又はラクトフェリンは、低い鉄飽和度を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、末梢神経損傷、又は末梢神経障害のうちの少なくとも1つから生じる神経変性事象を被っている患者における新たな神経細胞の生成を促進する及び/又は誘導する方法であって、
それを必要とする患者に、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択される治療有効量のタンパク質を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
患者に投与される治療有効量のトランスフェリン又はラクトフェリンが、約20%未満の鉄飽和度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質がヒトトランスフェリンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
トランスフェリンが血漿由来又は組換えである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組換えトランスフェリンが、
i) 配列番号3に記載されるアミノ酸配列を含むY188F変異体;
ii) 配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含むY95F/Y188F変異体;
iii) 配列番号5に記載されるアミノ酸配列を含むY426F/Y517F変異体;及び
iv) これらの組合せ
からなる群から選択される変異体トランスフェリンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
トランスフェリンが融合タンパク質のドメインであり、融合パートナーが免疫グロブリンFcドメインである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
外傷性脳損傷又は脊髄損傷が、道路交通事故、暴行、スポーツでの衝突、又は無防備な転倒のうちの少なくとも1つによって引き起こされる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
非外傷性脳損傷が、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、低酸素脳症、無酸素脳症、化学的毒素の摂取、水頭症、髄膜炎、又は脳炎のうちの少なくとも1つによって引き起こされる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
神経変性事象が、虚血性脳卒中及び出血性脳卒中からなる群から選択される脳卒中から生じる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質に加えて、アルブミン、アルファ-1アンチトリプシン/アルファ-1プロテイナーゼ阻害剤、アンチトロンビン、ポリクローナル免疫グロブリン、多特異性免疫グロブリン、C1エステラーゼ阻害剤、トランスサイレチン、及びそれらの組合せからなる群から選択される血清又は血漿タンパク質を患者に投与する工程を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
血清又は血漿タンパク質と、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質とが、単位的な剤形として投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質に加えて、治療有効量の神経形成又は神経栄養化合物又は分子を投与する工程を更に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
神経形成又は神経栄養化合物又は分子が、NGFスーパーファミリーのメンバー、TGF-βスーパーファミリーのメンバー、ニューロカインスーパーファミリーのメンバー、神経栄養ペプチド、Rhoキナーゼ阻害剤、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
神経形成又は神経栄養化合物又は分子と、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質とが、単位的な剤形として投与される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
神経形成又は神経栄養化合物又は分子が、
配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む脳由来神経栄養因子、
配列番号7に記載されるアミノ酸配列を含むグリア細胞株由来神経栄養因子、
配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含む毛様体神経栄養因子-1、
配列番号9に記載されるアミノ酸配列を含むPACAP、
trans-4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニルシクロヘキサンカルボキサミド及び薬学的に許容されるその塩、
ヘキサヒドロ-1-(5-イソキノリニル-スルホニル)-1H-1,4-ジアゼピン及び薬学的に許容されるその塩、
並びにそれらの組合せ
からなる群から選択される、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、それを必要とする患者に、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、脳内、頭蓋内、肺内、鼻腔内、脊髄内、髄腔内、経皮、経粘膜、経口、膣内、及び直腸内からなる群から選択される投与経路を通して投与される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、神経変性事象によって引き起こされた損傷に局所的に又はその近位に投与される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、患者のトランスフェリンの鉄飽和度を約30%未満に低減させるのに十分な濃度で患者に投与される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
患者のトランスフェリンの鉄飽和度が、患者の血清又は血漿の試料中で測定される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、約5mg/kg~約8400mg/kgの濃度で患者に投与される、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、複数回投薬レジメンの一部として患者に投与される、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、末梢神経損傷、又は末梢神経障害の少なくとも1つから生じる神経変性事象を被っている患者における神経細胞の発生を刺激する方法であって、
それを必要とする患者に、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択される治療有効量のタンパク質を投与する工程を含む、方法。
【請求項23】
患者に投与される治療有効量のトランスフェリン又はラクトフェリンが、約20%未満の鉄飽和度を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
タンパク質がヒトトランスフェリンである、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
トランスフェリンが血漿由来又は組換えである、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
組換えトランスフェリンが、
v) 配列番号3に記載されるアミノ酸配列を含むY188F変異体;
vi) 配列番号4に記載されるアミノ酸配列を含むY95F/Y188F変異体;
vii) 配列番号5に記載されるアミノ酸配列を含むY426F/Y517F変異体;及び
viii) それらの組合せ
からなる群から選択される変異体トランスフェリンである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
トランスフェリンが融合タンパク質のドメインであり、融合パートナーが免疫グロブリンFcドメインである、請求項22から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
外傷性脳損傷又は脊髄損傷が、道路交通事故、暴行、スポーツでの衝突、又は無防備な転倒のうちの少なくとも1つによって引き起こされる、請求項22から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
非外傷性脳損傷が、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、低酸素脳症、無酸素脳症、化学的毒素の摂取、水頭症、髄膜炎、又は脳炎のうちの少なくとも1つによって引き起こされる、請求項22から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
神経変性事象が、虚血性脳卒中及び出血性脳卒中からなる群から選択される脳卒中から生じる、請求項22から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質に加えて、アルブミン、アルファ-1アンチトリプシン/アルファ-1プロテイナーゼ阻害剤、アンチトロンビン、ポリクローナル免疫グロブリン、多特異性免疫グロブリン、C1エステラーゼ阻害剤、トランスサイレチン、及びそれらの組合せからなる群から選択される血清又は血漿タンパク質を患者に投与する工程を更に含む、請求項22から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
血清又は血漿タンパク質と、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質とが、単位的な剤形として投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質に加えて、治療有効量の神経形成又は神経栄養化合物又は分子を投与する工程を更に含む、請求項22から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
神経形成又は神経栄養化合物又は分子が、NGFスーパーファミリーのメンバー、TGF-βスーパーファミリーのメンバー、ニューロカインスーパーファミリーのメンバー、神経栄養ペプチド、Rhoキナーゼ阻害剤、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
神経形成又は神経栄養化合物又は分子と、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質とが、単位的な剤形として投与される、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
神経形成又は神経栄養化合物又は分子が、
配列番号6に記載されるアミノ酸配列を含む脳由来神経栄養因子、
配列番号7に記載されるアミノ酸配列を含むグリア細胞株由来神経栄養因子、
配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含む毛様体神経栄養因子-1、
配列番号9に記載されるアミノ酸配列を含むPACAP、
trans-4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニルシクロヘキサンカルボキサミド及び薬学的に許容されるその塩、
ヘキサヒドロ-1-(5-イソキノリニル-スルホニル)-1H-1,4-ジアゼピン及び薬学的に許容されるその塩、
並びにそれらの組合せ
からなる群から選択される、請求項33から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、それを必要とする患者に、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、脳内、頭蓋内、肺内、鼻腔内、脊髄内、髄腔内、経皮、経粘膜、経口、膣内、及び直腸内からなる群から選択される投与経路を通して投与される、請求項22から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、神経変性事象によって引き起こされた損傷に局所的に又はその近位に投与される、請求項22から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、患者のトランスフェリンの鉄飽和度を約30%未満に低減させるのに十分な濃度で患者に投与される、請求項22から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
患者のトランスフェリンの鉄飽和度が、患者の血清又は血漿の試料中で測定される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、約5mg/kg~約8400mg/kgの濃度で患者に投与される、請求項22から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質が、複数回投薬レジメンの一部として患者に投与される、請求項22から41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用タンパク質及び再生医療の分野でのその使用に関する。特に、本明細書で開示するのは、トランスフェリン及びラクトフェリンの適用、並びに神経損傷を被っている患者における神経前駆細胞又は神経幹細胞の増殖、誘導、及び/又は分化の促進におけるそれらの使用である。
【背景技術】
【0002】
脳及び脊髄への損傷は、罹患した個体の生活の質を圧倒的に変える即座の又は慢性の神経変性作用となって現れることがある。後天的脳損傷(ABI)、すなわち、遺伝性、先天性、又は出生によって誘導されたものではない損傷は、脳における神経細胞の物理的完全性、代謝活性、又は機能的能力に影響を与える脳の神経活動に変化をもたらす。後天的脳損傷には、外傷性と非外傷性の二種類がある。
【0003】
外傷性脳損傷(TBI)は、外力によって引き起こされる脳機能の変化又は脳病理の他のエビデンスによって特徴付けられる。外傷性衝突損傷は、非穿通性又は穿通性として定義することができ、それには、転倒、暴行、自動車事故、及びスポーツ損傷が含まれる。非外傷性脳損傷(NBTI)は、酸素の欠乏、毒素への曝露、腫瘍からの圧力等の非衝突過程を通して脳への損傷を引き起こす。NTBIの例として、脳卒中、動脈瘤、及び心臓発作によって引き起こされる脳への酸素供給の欠乏が挙げられる。
【0004】
脳卒中は、NBTIの最もよく見られるカテゴリーの1つであり、脳の一部への血液供給が中断するか低減することによって脳組織が酸素及び栄養素を得られないときに生じる。神経変性過程はほぼ即座に始まり、脳細胞は数分で死滅し始める。虚血性脳卒中は、脳のある領域に血液を供給している血管(動脈)が血栓によって閉塞状態になったときに生じる。出血性脳卒中は、脳内の動脈が漏れたか、又は破裂したときに起こる。2つのうち、虚血性脳卒中は、最も一般的な形態の脳卒中である。
【0005】
現代社会における脳卒中の蔓延は、ヘルスケアの社会基盤及び費用に莫大な負担を生み出している。現在のところ、虚血性脳卒中用にFDAによって承認された治療剤は組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)だけである。rtPAの主な機能は、血栓を溶解し、再灌流を促進することである。閉塞した血流を再確立するための代替方法は、外科的介入によるものである。
【0006】
rtPA治療は、治療時間域が狭く、したがってその広範な適用は制限される。更にまた、rtPAによって虚血組織に灌流を回復させることは重要であるが、壊死、アポトーシス、及び炎症のカスケードは、重度の酸素欠乏から数分以内に開始する。虚血後の組織の炎症の間の(数日から数週間続くことがある)遺伝的にプログラムされた神経細胞死が、患者の治療/評価の遅れによる最終的な病理に有意に寄与しているという推測が次第に強まっている。したがって、患者が評価に参加する前であっても、永久的な神経及び神経細胞の損傷が生じることがある。
【0007】
執筆時点では、TBI及びNTBIに関連する神経変性の作用を逆転させることができる承認された神経再生治療は存在しない。治癒的な療法がないことを考慮すれば、この分野の文献の大半が神経保護(予想される神経変性虚血又は再灌流事象に応答して特定の分子を事前又は同時投与することによって神経細胞死を緩和するための非回復性手法)に偏っていることは驚くには当たらない。
【0008】
そのような一例は、Grifols Worldwide Operations Ltd社名義の米国特許公開第2016008437号であり、これは、脳卒中のラットモデルにおいて低酸素誘導因子(HIF)の活性を調節することによって神経保護作用を発揮するものとしてアポ-トランスフェリンを開示している。この発明者らは、対照ラットと比較したときに、アポ-トランスフェリンで治療したラットにおける梗塞領域の体積の減少として現れる、アポ-トランスフェリンの神経保護作用について観察した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許公開第2016008437号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ceriottiら、Improved direct specific determination of serum iron and total iron-binding capacity Clin Chem. 1980、26(2)、327~31頁
【非特許文献2】Manleyら、Simultaneous Cu-, Fe-, and Zn-specific detection of metalloproteins contained in rabbit plasma by size-exclusion chromatography-inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy. J Biol Inorg Chem. 2009、14、61~74頁
【非特許文献3】L von Bonsdorffら、Transferrin、第21章、301~310頁、Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use、J. Bertoliniら編、Wiley、2013 [印刷物ISBN:9780470924310 オンラインISBN:9781118356807]
【非特許文献4】Arvidssonら、2002、Nat. Med.、8、963~970頁
【非特許文献5】Kokaia及びLindvall、2003、Curr. Opin. Neurobiol.、13、127~132頁
【非特許文献6】Kernieら、2010、Neurobiol. Disease、37、267~274頁
【非特許文献7】Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、2005、D.B. Troy編、Lippincott Williams & Wilkins、フィラデルフィア
【非特許文献8】Encyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988~1999、Marcel Dekker、ニューヨーク
【非特許文献9】Pfeifferら、Am J Clin Nutr 2017、106(補遺)、1606S~14S
【非特許文献10】Agholme、2010. J. of Alzheimer's Disease. 第20巻:1p069~108;
【非特許文献11】Dybergら、2017. PNAS 第114巻(32)、E6603~E6612
【非特許文献12】Dayemら. Biologically synthesized silver nanoparticles induce neuronal differentiation of SH-SY5Y cells via modulation of reactive oxygen species, phosphatases, and kinase signaling pathways. Biotechnol. J. 2014、9、934~943頁。
【非特許文献13】Fagerstromら. Protein Kinase C-epsilon Implicated in Neurite Outgrowth in Differentiating Human Neuroblastoma Cells. Cell Growth & Differentiation 第7巻、775~785頁、1996年6月。
【非特許文献14】Hanら. Berberine. Promotes Axonal Regeneration in Injured Nerves of the Peripheral Nervous System. J Med Food 15 (4) 2012、413~417頁。
【非特許文献15】Goldら. Nonimmunosuppressant FKBP-12 Ligand Increases Nerve Regeneration. EXPERIMENTAL NEUROLOGY 147、269~278頁(1997)。
【非特許文献16】Kimら. Protective effect of GCSB-5, an herbal preparation, against peripheral nerve injury in rats. Journal of Ethnopharmacology 136 (2011) 297~304頁。
【非特許文献17】Lesmaら. Glycosaminoglycans in Nerve Injury: I. Low Doses of Glycosaminoglycans Promote Neurite Formation. Journal of Neuroscience Research. 1996 46(5):565~71頁。
【非特許文献18】Hattangady及びRajadhyaksha. A brief review of in vitro models of diabetic neuropathy. Int J Diabetes Dev Ctries. 2009年10月~12月; 29(4): 143~149頁。
【非特許文献19】Vincentら. Oxidative Stress and Programmed Cell Death in Diabetic Neuropathy. Ann. N.Y. Acad. Sci. 959: 368~383頁(2002)。
【非特許文献20】Shindo. Modulation of Basal Nitric Oxide-dependent Cyclic-GMP Production by Ambient Glucose, Myo-Inositol, and Protein Kinase C in SH-SY5Y Human Neuroblastoma Cells. J. Clin. Invest. 第97巻、第3号、1996年2月、736~745頁。
【非特許文献21】Liら. C-peptide enhances insulin-mediated cell growth and protection against high glucose-induced apoptosis in SH-SY5Y cells. Diabetes Metab Res Rev 2003; 19: 375~385頁。
【非特許文献22】Rigolioら. Resveratrol interference with the cell cycle protects human neuroblastoma SH-SY5Y cell from paclitaxel-induced apoptosis. Neurochemistry International 46 (2005) 205~211頁。
【非特許文献23】Donzelliら. Neurotoxicity of platinum compounds: comparison of the effects of cisplatin and oxaliplatin on the human neuroblastoma cell line SH-SY5Y. Journal of Neuro-Oncology 67: 65~73頁、2004。
【非特許文献24】Mannelliら. Oxaliplatin-induced oxidativestressinnervoussystem-derived cellular models:Could it correlate with in vivo neuropathy? Free Radical Biology and Medicine 61 (2013) 143~150頁。
【非特許文献25】Hongら. Neurotoxicity induced in differentiated SK-N-SH-SY5Y human neuroblastoma cells by organophosphorus compounds. Toxicology and Applied Pharmacology 186 (2003) 110~118頁。
【非特許文献26】Ehrichら. Interaction of organophosphorus compounds with muscarinic receptors in SH-SY5Y human neuroblastoma cells. Journal of Toxicology and Environmental Health 1994 43(1):51~63頁。
【非特許文献27】Triyoso及びGood. Pulsatile shear stress leads to DNA fragmentation in human SH-SY5Y neuroblastoma cell line. Journal of Physiology (1999)、515.2、355~365頁。
【非特許文献28】Songら. Arctigenin Confers Neuroprotection Against Mechanical Trauma Injury in Human Neuroblastoma SH-SY5Y Cells by Regulating miRNA-16 and miRNA-199a Expression to Alleviate Inflammation. J Mol Neurosci (2016) 60:115~129頁。
【非特許文献29】Skotakら. An in vitro injury model for SH-SY5Y neuroblastoma cells: Effect of strain and strain rate. Journal of Neuroscience Methods 205 (2012) 159~168頁。
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【非特許文献31】Miglioら. Cabergoline protects SH-SY5Y neuronal cells in an in vitro model of ischemia. European Journal of Pharmacology 489 (2004) 157~165頁。
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【非特許文献33】Qiuら. Enhancement of ischemia-induced tyrosine phosphorylation of Kv1.2 by vascular endothelial growth factor via activation of phosphatidylinositol 3-kinase. J. Neurochem. (2003) 10.104。
【非特許文献34】Azari及びReynolds、「In Vitro Models for neurogenesis」. Cold Spring Harb Perspect Biol 2016、8、a021279
【非特許文献35】Silvaら、2009. Biochimica et Biophysica Acta、第1794巻、1449~1458頁
【非特許文献36】Chowdhuryら、2013. ACS Chem. Biol. 第8巻、1488頁
【非特許文献37】Houltonら、2019. Frontiers in Neurosci.、第13巻、論文790
【非特許文献38】Weissmiller及びWu、2012. Translational Neurodegeneration、第1巻:14
【非特許文献39】Apfel、2001. Clin Chem Lab Med.、第39巻(4)、351頁
【非特許文献40】Anglada-Huguetら、2014、Molecular Neurobiology、第49巻、784~795頁
【非特許文献41】Denningerら、2018、J. Vis. Exp.、第141巻、e58593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記にもかかわらず、脊髄損傷、TBI、及びNBTIに関連する神経変性の衰弱作用を逆転させるポテンシャルを有する臨床候補には不十分であることは一目瞭然である。このニーズに焦点を当て、外傷性及び非外傷性神経損傷を少なくとも部分的に逆転させる療法は未だに実現されておらず、したがって極めて望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
「含む(comprise)/含むこと(comprising)」という単語及び「有すること(having)/含むこと(including)」という単語は、本発明に関連して本明細書で使用される場合、述べられた特徴、完全体、工程、又は成分の存在を指定するために使用されるが、1つ若しくは複数の他の特徴、完全体、工程、成分、又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではない。
【0013】
本明細書に開示される特定の実施形態は単独で読まれるべきではないこと、及び本明細書は、開示される実施形態が個々に読まれるのではなく、互いに組み合わせて読まれることを意図していることを、当業者であれば理解するはずである。したがって、各実施形態は、本明細書に開示される他の実施形態を修正する又は制限するための基礎としての役割を果たすことがある。
【0014】
濃度、量、及び他の数値データは、本明細書において範囲の形式で表現又は提示されていることがある。そのような範囲の形式は、便宜上及び簡潔さのために使用されるに過ぎず、よってその範囲の限界として明記された数値だけを含むのでなく、その範囲内に包含される全ての個々の数値又は部分範囲も、各数値及び部分範囲が明記されているかのように含まれると柔軟に解釈されるべきであることを理解されたい。例示として、「10~100」の数値範囲は、10~100の明記された値だけを含むのではなく、表示範囲内の個々の値及び部分範囲も含むと解釈されるべきである。よって、この数値範囲に含まれるのは、10、11、12、13...97、98、99、100等の個々の値、並びに10~40、25~40、及び50~60等の部分範囲である。この同じ原則が、「少なくとも10」等の1つの数値しか記載していない範囲に適用される。更に、そのような解釈は、範囲の幅又は記載されている特性に係わりなく適用されるものとする。
【0015】
治療方法
第1の態様では、本発明は、外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、末梢神経損傷、又は末梢神経障害のうちの少なくとも1つから生じる神経変性事象を被っている患者における新たな神経細胞の生成を促進する及び/又は誘導する方法であって、
それを必要とする患者に、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択される治療有効量のタンパク質を投与する工程を含む方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、患者は、脳卒中、末梢神経損傷、外傷性脳損傷、又は末梢神経障害のうちの少なくとも1つから生じる神経変性事象を被っている可能性がある。例えば、患者は、末梢神経損傷から生じる神経変性事象を被っている可能性がある。一実施形態では、患者は、脳卒中、例えば、虚血性脳卒中又は出血性脳卒中から生じる神経変性事象を被っている可能性がある。一実施形態では、患者は、虚血性脳卒中から生じる神経変性事象を被っている可能性がある。
【0017】
当業者であれば、非常に多い哺乳動物鉄結合タンパク質のうち、トランスフェリン及びラクトフェリンが61%の配列同一性を有するトランスフェリンファミリーの関連タンパク質であることを理解するであろう。幾つかの重複する機能及び補完的機能に加えて、トランスフェリン及びラクトフェリンは、幾つかの相互に排他的な機能も示す。本発明は、その範囲内に全ての野生型哺乳動物トランスフェリンタンパク質を含むが、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むヒトトランスフェリン(UniProtKB配列番号Q06AH7)が特に好ましい。同様に、本発明は、その範囲内に全ての野生型哺乳動物ラクトフェリンタンパク質を含むが、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を含むヒトラクトフェリン(UniProtKB配列番号P02788)が特に好ましい。
【0018】
野生型トランスフェリンタンパク質は、2つの相同なローブ(N-及びC-ローブ)を含有し、各ローブが単一の鉄原子に結合する。したがって、各野生型トランスフェリン分子は、分子当たり2つまでの鉄原子又はイオンに結合することができる。同様に、各野生型ラクトフェリン分子は、類似した様式で分子当たり2つの鉄原子に結合することができる。
【0019】
トランスフェリン及びラクトフェリンは、自然源から抽出することができるか、又は代替的に組換え生産/製造プロセスを使用して製造することもできる。適切な自然源は、それぞれヒト血漿又はヒト乳汁であり得る。
【0020】
「トランスフェリン」とは、本明細書では治療有効量の:
・ 野生型(哺乳動物、好ましくはヒト)トランスフェリンタンパク質、
・ その機能的変異体、
・ その機能的断片、又は
・ それらの組合せ
を意味すると解釈される。
【0021】
トランスフェリン、その機能的変異体、又はその機能的断片の鉄飽和度は約50%以下であってもよい。好ましくは、鉄飽和度は約40%以下である。一実施形態では、鉄飽和度は約30%以下である。例えば、鉄飽和度は、約20%以下、例えば、約10%以下であってもよい。幾つかの実施形態では、鉄飽和度は約5%以下である。尚更なる実施形態では、鉄飽和度は約1%未満であってもよい。いかなる誤解も避けるために、本明細書でX%未満と提示される範囲には0~X%が含まれ、すなわち、鉄が全く結合していないトランスフェリン、0%の鉄飽和度が含まれる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「アポ-トランスフェリン」とは、1%未満の鉄飽和度を有するトランスフェリンを意味するものとする。同様に、「ホロ-トランスフェリン」とは、99%以上の鉄飽和度を有するトランスフェリンを意味するものとする。
【0023】
当業者であれば、既知のトランスフェリン濃度を有する試料中の総鉄レベルを定量することによって、過度の負担なくトランスフェリンの鉄飽和レベルを容易に決定することができることを理解するであろう。試料中の総鉄レベルは、当技術分野で公知の幾つかの方法のうちのいずれか1つによって測定することができる。
【0024】
適切な例として、以下のものが挙げられる:
・ 比色アッセイ - 鉄は、フェロジンと酢酸緩衝液中のFe2+との間の反応において形成された紫色の錯体の強度を562nmで測定することによって定量化する。チオ尿素又は他の化学物質をCu2+等の汚染金属と錯体を形成するために添加することがあり、それはフェロジンにも結合し、鉄の値が誤って高くなることがある。Ceriottiら、Improved direct specific determination of serum iron and total iron-binding capacity Clin Chem. 1980、26(2)、327~31頁(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
・ 誘導結合プラズマ原子発光分光分析法(ICP-AES) - 試料中の金属の質量百分率を定量化する発光分光法である。ICP-AESは、プラズマ(陽イオン及び自由電子からなるイオン化気体)を使用して試料中の金属原子/イオンを励起し、その特定の金属に典型的な電磁放射線の発光波長を分析することに基づいている。この技法は、当業者の技術常識の範囲内の標準的な分析法ではあるが、ICP-AESについての更なる情報は、Manleyら、Simultaneous Cu-, Fe-, and Zn-specific detection of metalloproteins contained in rabbit plasma by size-exclusion chromatography-inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy. J Biol Inorg Chem. 2009、14、61~74頁(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)に見出すことができる。
【0025】
本発明の治療方法を目的として試料の鉄含有量を決定する好ましい方法は、ICP-AESである。次いで、トランスフェリンタンパク質濃度、試料の総鉄含有量、及び野生型トランスフェリンが2つの鉄結合部位を有することに基づいて、トランスフェリンの鉄飽和度を算出する。野生型ヒトトランスフェリン(分子量79,750)は、2つの鉄原子に結合することができるので、1gのトランスフェリンを含有する試料は1.4mgの鉄によって100%飽和することとなる。
【0026】
特定の試料のトランスフェリン濃度がわからない場合、それは種々のよく特徴付けられた免疫学的(ELISA、比濁法)及び非免疫学的方法(吸光度、AU480化学アッセイ)によって容易に決定することができる。
【0027】
執筆時点では、トランスフェリンは、世界のいずれの主要管轄区域でも医薬として認可されていない。したがって、トランスフェリンには薬局方モノグラフが存在していない。鉄飽和度等のトランスフェリンの物理的性質についての更なる情報は、当業者が参考にする主な参考書から得ることができる。L von Bonsdorffら、Transferrin、第21章、301~310頁、Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use、J. Bertoliniら編、Wiley、2013 [印刷物ISBN:9780470924310 オンラインISBN:9781118356807]を参照されたい。その内容は参照により本明細書に組み込まれ、当業者の技術常識の範囲内であるとみなされる。
【0028】
「ラクトフェリン」とは、本明細書では治療有効量の:
・ 野生型(哺乳動物、好ましくはヒト)ラクトフェリンタンパク質、
・ その機能的変異体、
・ その機能的断片、又は
・ それらの組合せ
を意味すると解釈される。
【0029】
ラクトフェリン、その機能的変異体、又はその機能的断片の鉄飽和度は約50%以下であってもよい。好ましくは、鉄飽和度は約40%以下である。一実施形態では、鉄飽和度は約30%以下である。例えば、鉄飽和度は、約20%以下、例えば、約10%以下であってもよい。幾つかの実施形態では、鉄飽和度は約5%以下である。尚更なる実施形態では、鉄飽和度は約1%未満であってもよい。
【0030】
本明細書で使用される場合、「アポ-ラクトフェリン」とは、1%未満の鉄飽和度を有するラクトフェリンを意味するものとする。同様に、「ホロ-ラクトフェリン」とは、99%以上の鉄飽和度を有するラクトフェリンを意味するものとする。ラクトフェリンの鉄含有量及び飽和レベルは、上で詳細に考察したトランスフェリンのものと同様に測定することができる。
【0031】
トランスフェリン及びラクトフェリンという用語の使用において、本明細書は、その範囲内にトランスフェリン及びラクトフェリンの組換え誘導体を含んでおり、それらの組換え誘導体は、組換えタンパク質の構造又は疎水性親水性指標の性質を野生型タンパク質に対して実質的に変えるおそれのない1つ若しくは複数の置換、1つ若しくは複数の欠失、又は1つ若しくは複数の挿入で、配列番号1及び2にそれぞれ略述したヒトタンパク質の野生型アミノ酸配列と異なっている。本発明の範囲内のトランスフェリン及びラクトフェリンの組換えバリアントは、加えて、PEG化、グリコシル化、ポリシアリル化、又はそれらの組合せ等の少なくとも1つの翻訳後修飾を含んでもよい。
【0032】
一実施形態では、本発明は、配列番号1及び2における野生型タンパク質に対して1つ又は複数の保存的置換を有する、トランスフェリン及びラクトフェリンの組換えバリアントを企図している。「保存的置換」とは、あるアミノ酸が同様の性質を有する別のアミノ酸に置換されたものであって、ペプチド化学の当業者であれば、そのポリペプチドの二次構造及び疎水性親水性指標の性質が実質的に変化しないと予測するような別のアミノ酸に置換されたものである。一般に、以下のアミノ酸の群の中での変化は、保存的変化を表す:(1) ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr; (2) cys、ser、tyr、thr; (3) val、ile、leu、met、ala、phe; (4) lys、arg、his; 及び(5) phe、tyr、trp、his。
【0033】
例えば、本発明の治療方法の範囲内の組換えトランスフェリン又はラクトフェリンは、それぞれ配列番号1及び配列番号2に略述した野生型ヒトトランスフェリン及びヒトラクトフェリンタンパク質と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の相同性を有し得る。
【0034】
更なる実施形態では、本発明は、それらの構造を維持するが、該タンパク質が鉄結合ドメイン、例えば、N-ローブ、C-ローブの一方若しくは他方、又はそれらの組合せで鉄と結合させない、特定の変異型のトランスフェリン及び/又はラクトフェリンを含む。
【0035】
本発明の範囲内のトランスフェリン変異体には、限定するものではないが、以下が含まれる:
i) Y188F変異体Nローブ(配列番号3);
ii) Y95F/Y188F変異体Nローブ(配列番号4);及び
iii) Y426F/Y517F変異体Cローブ(配列番号5)。
【0036】
当業者であれば、組換えタンパク質が、タンパク質の発現、生産、及び精製の技術分野で周知の標準的技法を利用して得ることができることを理解するであろう。目的の組換えタンパク質の核酸配列は、選ばれた宿主細胞、例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、及び細菌での発現に適した任意の発現ベクターに挿入することができる。
【0037】
本明細書で使用される場合、「発現ベクター」という用語はタンパク質発現構築物を宿主細胞に導入する能力がある実体を指す。幾つかの発現ベクターはまた、宿主細胞内で複製し、それによってタンパク質発現構築物によるタンパク質発現が増大する。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、それは、追加のDNAセグメントをその中にライゲーションし得る環状二本鎖DNAループを指す。他のベクターとして、コスミド、細菌人工染色体(BAC)及び酵母人工染色体(YAC)、フォスミド、ファージ及びファージミドが挙げられる。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノム中にライゲーションし得る。ある種のベクターは、それらが導入された宿主細胞内で自律複製する能力がある(例えば、宿主細胞内で機能する複製開始点を有するベクター)。他のベクターは、宿主細胞に導入されたときに宿主細胞のゲノムに組み込まれ得、それによって宿主ゲノムと共に複製される。更にまた、ある種の好ましいベクターは、それらが作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導する能力がある。
【0038】
適切な細菌細胞として、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、シュードモナス属(Pseudomonas spp.)、ストレプトミセス属(Streptomyces spp.)、及びブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)が挙げられる。適切な酵母細胞として、サッカロミセス属(Saccharomyces spp.)、ピキア属(Pichia spp.)、及びクリベロマイセス属(Kuyveromyces spp.)が挙げられる。適切な昆虫細胞として、カイコ(Bombyx mori)、ヨトウガ(Mamestra brassicae)、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)、及びキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)に由来するものが挙げられる。そのような哺乳動物宿主細胞としては、限定するものではないが、CHO、VERO、BHK、Hela、COS、MDCK、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2O及びT47D、NS0、CRL7O3O、HsS78Bst、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、ヒトアデノウイルス形質転換293細胞(例えば、HEK293)、PER.C6、マウスL-929細胞、HaKハムスター細胞株、スイス、Balb-c、又はNIHマウス由来のマウス3T3細胞、及びCV-1 細胞株細胞が挙げられる。
【0039】
本発明は、任意の他のタンパク質、タンパク質断片、タンパク質ドメイン、ペプチド、小分子、又は他の化学物質にコンジュゲート又は融合した野生型及び組換えトランスフェリン及びラクトフェリンタンパク質の使用も企図している。例えば、適切な融合又はコンジュゲーションパートナーとして、血清アルブミン(例えば、ウシ、ウサギ、又はヒト)、キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子(免疫グロブリンFcドメインが含まれる)、チログロブリン、オバルブミン、破傷風トキソイド、若しくは他の病原性細菌からのトキソイド、又は弱毒化毒素誘導体、サイトカイン、ケモカイン、グルカゴン様ペプチド-1、エキセンディン-4、XTEN、或いはそれらの組合せが挙げられる。
【0040】
本発明の一実施形態では、本発明の方法に使用されるトランスフェリン及びラクトフェリンタンパク質は、向上したin-vivo半減期を有する融合タンパク質であり、この場合、
・ 野生型(哺乳動物、好ましくはヒト)トランスフェリン又はラクトフェリンタンパク質が、免疫グロブリンFcドメイン及びアルブミンから選択される融合パートナーに融合している;又は
・ 本発明の方法の範囲内の変異体トランスフェリン又はラクトフェリンタンパク質が、免疫グロブリンFcドメイン及びアルブミンから選択される融合パートナーに融合している。
【0041】
一実施形態では、好ましい融合パートナーは免疫グロブリンFcドメインである。例えば、免疫グロブリンFcドメインは、定常重鎖免疫グロブリンドメインの少なくとも一部分を含んでもよい。定常重鎖免疫グロブリンドメインは、好ましくは、CH2及びCH3ドメインと任意選択でヒンジ領域の少なくとも一部分とを含むFc断片である。免疫グロブリンFcドメインは、IgG、IgM、IgD、IgA、若しくはIgE免疫グロブリンFcドメイン、又はそれらに由来する修飾免疫グロブリンFcドメインであってもよい。好ましくは、免疫グロブリンFcドメインは、定常IgG免疫グロブリンFcドメインの少なくとも一部分を含む。IgG免疫グロブリンFcドメインは、IgG1、IgG2、IgG3、若しくはIgG4 Fcドメイン、又はそれらの修飾Fcドメインから選択されてもよい。
【0042】
一実施形態では、融合タンパク質は、IgG1 Fcドメインに融合したトランスフェリンを含んでもよい。一実施形態では、融合タンパク質は、IgG1 Fcドメインに融合したトランスフェリン変異体を含んでもよい。
【0043】
神経変性事象
驚くべきことに、本発明者らは、トランスフェリン及びラクトフェリンが神経前駆細胞及び/又は神経幹細胞からの神経細胞の発生を刺激するのに極めて有効であったという点で、両方のタンパク質が鉄の結合/細胞への鉄の送達以外に予想外の治療的役割を有することを発見した。よって、本発明は、外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、末梢神経損傷、又は末梢神経障害の少なくとも1つから生じる神経変性事象を被っている患者における神経細胞の発生を刺激する方法であって、
それを必要とする患者に、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択される治療有効量のタンパク質を投与する工程を含む方法を提供する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「神経細胞の発生を刺激すること」という用語は、トランスフェリン又はラクトフェリンが、新たな神経細胞を産生するように患者における神経前駆細胞及び/又は神経幹細胞に直接的又は間接的作用を及ぼすことを意味するために利用される。本発明の一般性を限定することを望むものではないが、トランスフェリン又はラクトフェリンを投与すると、トランスフェリン又はラクトフェリンに曝されなかった神経前駆細胞/神経幹細胞と比較して、
i) 患者内の神経前駆細胞及び/若しくは神経幹細胞の増殖、又は
ii) 神経前駆細胞及び/若しくは神経幹細胞の分化を誘導して、分化した神経細胞にすること
のうちの少なくとも1つが、結果的に増大すると推察される。
【0045】
「神経細胞」とは、本明細書では、限定するものではないが、グリア細胞、及び神経細胞を含む神経系の全ての細胞が含まれる。一実施形態では、本発明の方法で言及される神経細胞とは神経細胞であり、トランスフェリン及びラクトフェリンは、新たな神経細胞の神経形成を増強する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「神経変性事象」という用語は、神経細胞の構造及び/又は機能の喪失を引き起こし、神経細胞の死滅を含む事象を指す。該事象は、即座の神経細胞の損傷又は死滅を引き起こす孤立した単発の事象/発生であり得る。或いは、該事象は、神経細胞の損傷又は死滅のレベルの増加を徐々に招く、連続的又は慢性の事象であり得る。特定の実施形態では、神経変性事象は、脳及び/又は脊髄において構造の喪失、機能の喪失、又は神経細胞(又はニューロン)の死滅を引き起こし、脳及び/又は脊髄における損傷及び機能障害をもたらす。
【0047】
本発明の方法に関して、神経変性事象は、外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、末梢神経損傷、又は末梢神経障害のうちの少なくとも1つの結果から生じるものである。
【0048】
本明細書で使用される場合、「外傷性脳損傷」という用語は、頭部への穿通性又は非穿通性外傷によって引き起こされる脳への損傷を指す。起こり得る多くの原因があり、非限定的な例として、道路交通事故、暴行、スポーツでの衝突、無防備な転倒等が挙げられる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「非外傷性脳損傷」という用語は、非外傷性の原因に起因する脳への損傷を指す。非外傷性の原因の適切な非限定的な例として、腫瘍、脳卒中、一過性脳虚血発作、脳出血、出血性脳卒中、毒素/薬物、低酸素脳症、無酸素脳症、化学的毒素の摂取、水頭症、髄膜炎、及び脳炎が挙げられる。一実施形態では、非外傷性脳損傷は、脳卒中、例えば、虚血性脳卒中又は出血性脳卒中によって引き起こされる。例えば、非外傷性脳損傷は、虚血性脳卒中によって引き起こされることがある。
【0050】
同様に、「脊髄損傷」とは、本明細書では、可動性及び/又は感覚等の機能の喪失をもたらす、脊髄のいずれかの部分又は脊柱管の末端の神経への損傷を意味すると解釈される。脊髄損傷の非限定的な原因として、外傷(車の事故、銃撃、転倒等)、疾患(ポリオ、二分脊椎等)、感染症、及び腫瘍が挙げられる。
【0051】
一実施形態では、患者は、脳卒中、末梢神経損傷、外傷性脳損傷、又は末梢神経障害のうちの少なくとも1つから生じる神経変性事象を被っている可能性がある。例えば、患者は、末梢神経損傷から生じる神経変性事象を被っている可能性がある。一実施形態では、患者は、脳卒中、例えば、虚血性脳卒中又は出血性脳卒中から生じる神経変性事象を被っている可能性がある。一実施形態では、患者は、虚血性脳卒中から生じる神経変性事象を被っている可能性がある。
【0052】
非限定的/非拘束的な理論として、神経変性傷害又は損傷が、神経幹細胞をそのような傷害又は損傷の部位へ移動させることが知られている。Arvidssonら、2002、Nat. Med.、8、963~970頁; Kokaia及びLindvall、2003、Curr. Opin. Neurobiol.、13、127~132頁; 及びKernieら、2010、Neurobiol. Disease、37、267~274頁を参照されたい。本発明者らは、患者内のトランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せの濃度を増加させることによって、そのような分子が身体自体の神経再生修復機序を増強する及び/又は促進することができると推察する。トランスフェリン及びラクトフェリンは、当業者に公知の任意の従来の薬物送達手段によって、神経変性傷害又は損傷の部位へ直接的又は間接的に投与することができる。
【0053】
上の段落内に開示される特定の実施形態は単独で読まれるべきではないこと、及び本明細書は、これらの実施形態が個々に開示されているのではなく、他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図していることを、当業者であれば理解するはずである。例えば、上の段落に開示される実施形態の各々は、上の段落における実施形態の各々と、又はそこに開示される実施形態の任意の順序の2つ以上と明示的に組み合わされているとして読まれるべきである。
【0054】
併用療法
本発明の方法は、トランスフェリン及び/又はラクトフェリンと併用して補助的な活性化合物及び分子を使用することも企図している。補助的な活性化合物及び分子は、単位剤形として、すなわち、治療しようとする対象への単位的な投薬量として意図される物理的に別個の単位として、トランスフェリン又はラクトフェリンと共に製剤化することができる。或いは、補助的な活性化合物及び分子は、キットオブパーツとして提供することができ、:
・ トランスフェリン及び/若しくはラクトフェリンとは別々に段階的な若しくは連続的な投薬パターンで投与される;又は
・ 異なる剤形から同時に共投与される。
【0055】
例えば、本発明の方法は、トランスフェリン及び/又はラクトフェリンと併用して他の血清又は血漿ベースのタンパク質を投与することを企図している。本発明の範囲内の血清又は血漿タンパク質には、ヒト血漿等の適切な血漿源から精製されたもの、及び組換え製造技法を使用して調製されたものが含まれる。例えば、血清又は血漿タンパク質は、アルブミン(例えば、ALBUTEIN)、アルファ-1アンチトリプシン/アルファ-1プロテイナーゼ阻害剤(例えば、PROLASTIN)、アンチトロンビン(例えば、THROMBATE III)、ポリクローナル免疫グロブリン(IgG、IgA、及びそれらの組合せ)、多特異性免疫グロブリン(IgM)、C1エステラーゼ阻害剤(例えば、BERINERT)、トランスサイレチン、及びそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。
【0056】
本発明の範囲内の例示的なポリクローナル免疫グロブリンとして、市販されるポリクローナルIgG製剤、例えば、FLEBOGAMMA DIF 5%及び10%、GAMUNEX-C 10%、BIVIGAM 10%、GAMMAGARD Liquid 10%等が挙げられる。
【0057】
本発明の範囲内の例示的な多特異性免疫グロブリン(IgM)として、多特異性IgMを含有する市販される免疫グロブリン製剤、例えば、PENTAGLOBIN又はTRIMODULINが挙げられる。
【0058】
一実施形態では、血清又は血漿タンパク質は、アルブミン、アンチトロンビン、アルファ-1アンチトリプシン、C1エステラーゼ阻害剤、及びそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。例えば、血清又は血漿タンパク質は、アンチトロンビン、アルファ-1アンチトリプシン、及びそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。特定の実施形態では、治療有効量のアルファ-1アンチトリプシンが、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質に加えて患者に投与される。特定の実施形態では、治療有効量のアンチトロンビンが、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質に加えて患者に投与される。
【0059】
本発明の方法はまた、既知の神経形成/神経栄養化合物及び分子を、トランスフェリン及び/又はラクトフェリンと併用して投与することを提供する。例えば、本発明の方法は、神経形成/神経栄養タンパク質、ペプチド、及び小分子を、トランスフェリン及び/又はラクトフェリンと共に投与することを企図している。
【0060】
適切な神経形成及び/又は神経栄養化合物及び分子は、BDNF(脳由来神経栄養因子;NGFスーパーファミリー;配列番号6)、GNDF(グリア細胞株由来神経栄養因子;TGF-βスーパーファミリー;配列番号7)、CNTF(毛様体(cilliary)神経栄養因子-1);ニューロカインスーパーファミリー;配列番号8)、PACAP(脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドのアミノ酸1~38;配列番号9)、Y-27632及び薬学的に許容されるその塩[trans-4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニルシクロヘキサンカルボキサミド]、ファスジル及び薬学的に許容されるその塩[ヘキサヒドロ-1-(5-イソキノリニル-スルホニル)-1H-1,4-ジアゼピン]、並びにそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。
【0061】
当業者であれば、本発明が、上に列挙した化合物及び分子の各々の、トランスフェリン及びラクトフェリンの各々への共有結合コンジュゲートもその範囲内に企図していることを理解するであろう。更に、本発明が、上に列挙したタンパク質及びペプチドの各々の、トランスフェリン及びラクトフェリンの各々との組換え融合タンパク質もその範囲内に企図していることを理解するであろう。
【0062】
一実施形態では、トランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せは、本発明の治療方法に利用される総タンパク質含有量の少なくとも20重量%を構成してもよい。例えば、トランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せは、本発明の併用療法に利用される総タンパク質含有量の約30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、93重量%、95重量%、96重量%、97重量%、98重量%、又は99重量%以上を構成してもよい。
【0063】
上の段落内に開示される特定の実施形態は単独で読まれるべきではないこと、及び本明細書は、これらの実施形態が個々に開示されているのではなく、他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図していることを、当業者であれば理解するはずである。例えば、上の段落に開示される実施形態の各々は、上の段落における実施形態の各々と、又はそこに開示される実施形態の任意の順序の2つ以上と明示的に組み合わされているとして読まれるべきである。
【0064】
本発明の医薬組成物
更なる態様では、本発明はまた、外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、及びそれらの組合せから生じる神経変性事象を被っている患者における新たな神経細胞の生成に使用するための、トランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せを含む医薬組成物を提供する。
【0065】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体を任意選択で更に含んでもよい。少なくとも1つの薬学的に許容される担体は、補助剤及びビヒクルから選択されてもよい。少なくとも1つの薬学的に許容される担体には、所望の特定の剤形に適した、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、他の液体ビヒクル、分散助剤、懸濁助剤、界面活性剤、等張化剤、増粘剤、乳化剤、保存剤が含まれる。
【0066】
適切な担体は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、2005、D.B. Troy編、Lippincott Williams & Wilkins、フィラデルフィア、及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988~1999、Marcel Dekker、ニューヨーク(それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。そのような担体又は希釈剤の好ましい例として、限定するものではないが、水、生理食塩水、リンゲル液、グリコール、デキストロース溶液、緩衝液(リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、及びソルビン酸カリウム等)、及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。リポソーム及び非水性ビヒクル、例えば、飽和植物性脂肪酸のグリセリド混合物、及び不揮発性油(ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及びダイズ油等)も、投与経路に応じて使用されてもよい。
【0067】
本発明の医薬組成物は、その意図される投与経路に適合するように製剤化される。全身的使用の場合、本発明の医薬組成物は、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、脳内、頭蓋内、肺内、鼻腔内、脊髄内、髄腔内、経皮、経粘膜、経口、膣内、及び直腸内からなる群から選択される従来の経路による投与のために製剤化することができる。
【0068】
一実施形態では、非経口投与が好ましい投与経路である。医薬組成物は、ガラス製又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、密封された袋、又は複数回投与バイアルに封入されてもよい。一実施形態では、静脈注射としての投与が好ましい投与経路である。製剤は、点滴によって連続的に、又はボーラス注射によって投与することができる。
【0069】
本発明の医薬組成物は、単位剤形(unit dosage unit form)として、すなわち、治療しようとする対象への単位的な投薬量として意図される物理的に別個の単位として提供されてもよい。
【0070】
注射用の使用に適した医薬組成物として、滅菌水性液剤(水溶性の場合)又は分散剤、及び滅菌注射用液剤又は分散剤を即時調製するための滅菌散剤が挙げられる。静脈内投与の場合、適切な担体として、生理食塩水、静菌水、CREMOPHOR EL、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、組成物は滅菌されていなければならず、且つ容易な注射針通過性が存在する程度に流動的であるべきである。
【0071】
本発明の組成物は、製造及び保存の条件下で安定であるべきである。更にまた、組成物は、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保護されるべきである。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及び適切なそれらの混合物を含有する溶媒又は分散媒であり得る。
【0072】
微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって実現することができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖類(例えば、マンニトール、ソルビトール等)、多価アルコール、又は塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましいであろう。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンを含めることによってもたらすことができる。
【0073】
本発明の医薬組成物の滅菌注射用溶液は、必要量の活性分子を適正な溶媒中に上で考察したような成分のうちの1つ又は組合せと共に組み込み、続いて滅菌濾過することによって調製することができる。滅菌注射溶液を調製するための滅菌粉末剤の場合、調製方法として真空乾燥及び凍結乾燥が挙げられ、それによって活性成分に任意の所望の追加成分を加えた粉末が、事前に滅菌濾過したその溶液から得られる。
【0074】
任意の従来の媒体又は薬剤が本発明の活性分子と不適合である場合を除いて、組成物中でのそれらの使用は、本発明の範囲内であることが企図される。
【0075】
一実施形態では、トランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せは、本発明の医薬組成物の総タンパク質含有量の少なくとも20重量%を構成してもよい。例えば、トランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せは、本発明の医薬組成物の総タンパク質含有量の約30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、93重量%、95重量%、96重量%、97重量%、98重量%、又は99重量%以上を構成してもよい。
【0076】
上の段落内に開示される特定の実施形態は単独で読まれるべきではないこと、及び本明細書は、これらの実施形態が個々に開示されているのではなく、他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図していることを、当業者であれば理解するはずである。例えば、上の段落に開示される実施形態の各々は、上の段落における実施形態の各々と、又はそこに開示される実施形態の任意の順序の2つ以上と明示的に組み合わされているとして読まれるべきである。
【0077】
投薬
上で考察したように、本発明者らは、神経変性傷害又は損傷の部位の近位のトランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せの濃度を増加させることによって、そのような分子が身体自体の神経再生修復機序を増強する及び/又は促進することができると推察する。トランスフェリン及びラクトフェリンは、当業者に公知の任意の従来の薬物送達手段によって神経変性傷害又は損傷の部位に直接的又は間接的に投与することができるであろう。例えば、トランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せは、脳内、頭蓋内、脊髄内、及び髄腔内からなる群から選択される従来の経路によって、神経変性事象によって引き起こされた損傷に局所的に又はその近位に投与することができるであろう。例えば、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せは、外科的介入の間に局所的に投与されてもよい。
【0078】
或いは、トランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せは、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、肺内、鼻腔内、経皮、経粘膜、経口、膣内、及び直腸内からなる群から選択される投与経路によって、神経変性傷害又は損傷の部位に間接的に送達することができるであろう。
【0079】
いかなる誤解も避けるために、本明細書ではトランスフェリンの鉄飽和度レベルを2つの別々の異なる文脈で述べていることをこの場で明確にしておく:
a) 第1の文脈では、略述したように、本明細書は、患者に投与しようとする医薬組成物中の精製された外因性トランスフェリンの鉄飽和度について述べている。この場合では、精製された外因性トランスフェリンの鉄飽和度レベルは、誘導結合プラズマ原子発光分光分析を使用して決定することができる(しかし、比色法等の他の方法も使用することができる)。
b) すぐこの後でより詳細に考察する第2の文脈では、本明細書は、外因性トランスフェリンを含有する医薬組成物が患者に投与された後の、患者における、すなわち患者の血漿又は血清中の、生理的トランスフェリンの鉄飽和度を測定することについて述べている。
【0080】
通常の生理的条件下では、血漿中の実質的に全ての鉄はトランスフェリンに結合しており、得られる生理的トランスフェリンの鉄飽和度はおよそ30%である。実施例6(下記参照)において、本発明者らは、30%未満の鉄飽和度を有するトランスフェリンによって予想外の神経再生作用が得られることを実証した。非限定的な仮説として、外因性トランスフェリン(低い鉄飽和度を有する)を含有する医薬組成物を患者に投与することによって、患者の血漿中のトランスフェリンの生理的濃度が増加し、その結果として生理的トランスフェリンの鉄飽和度が30%未満に低下することになることが想定される。よって、生理的トランスフェリンが神経再生作用を活用することが可能になる。当然、1%未満の鉄飽和度を有する外因性トランスフェリンの方が、鉄飽和度40%を有する外因性トランスフェリンより有効である可能性が高いであろう。
【0081】
したがって、一実施形態では、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質は、患者の(患者の血清又は血漿試料中の)トランスフェリンの鉄飽和度を約30%未満に低減させるのに十分な濃度で患者に投与される。好ましくは、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質は、患者の(患者の血清又は血漿試料中の)トランスフェリンの鉄飽和度を約20%未満、例えば、約10%未満に低減させるのに十分な濃度で患者に投与される。トランスフェリン、ラクトフェリン、又はそれらの組合せは、このレベルの血清又は血漿トランスフェリン鉄飽和度を実現するために、用量調整に基づく投薬レジメンを使用して患者に投与されてもよい。
【0082】
当業者であれば、患者の血清又は血漿中のトランスフェリン鉄飽和度レベルの測定が、上で考察したような比色方法論を使用して典型的に行われる通例のアッセイであることを理解するであろう。血漿又は血清の鉄含有量は、鉄との呈色錯体を形成するための色素源としてフェレン又はフェロジンを用いる比色反応を使用することによって、化学分析器で測定される。分析される試料は、2つの値を生じる:
・ 試料の鉄含有量(すなわち、試料中のトランスフェリンに結合した鉄)、及び不飽和鉄結合能(UIBC、すなわち、試料中のトランスフェリン上の非占有鉄結合部位の数)。
・ 総鉄結合能(TIBC)は、試料の鉄含有量とUIBCとの合計である。
・ トランスフェリン飽和度(%)は、[(試料の鉄含有量/TIBC)×100]として決定される。
【0083】
患者の血清又は血漿中のトランスフェリン鉄飽和度レベルを測定するための比色アッセイの作業は技術常識であり、更なる情報は、Pfeifferら、Am J Clin Nutr 2017、106(補遺)、1606S~14S(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)等の様々な文献レビューに見出すことができる。
【0084】
本発明の方法の尚更なる実施形態では、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質は、約5mg/kg~約8400mg/kgの濃度で患者に投与することができる。例えば、約10mg/kg~約7000mg/kg、例えば、約20mg/kg~約6000mg/kg、例えば、約50mg/kg~約5000mg/kg。幾つかの実施形態では、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質は、約50mg/kg~約1000mg/kgの濃度で患者に投与することができる。適切には、該タンパク質は、約50mg/kg~約500mg/kg、例えば、約50mg/kg~約250mg/kg、例えば、約50mg/kg~約150mg/kgの濃度で投与することができる。
【0085】
一実施形態では、本発明の方法は、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組合せから選択されるタンパク質を、それを必要とする患者に複数回投薬レジメンの一部として投与する工程を含んでもよい。例えば、投与期間の1日目の初回用量に約50mg/kg~約5000mg/kg、続いて複数回投薬の期間中に用量当たり約50mg/kg~約1000mg/kg。例えば、投与期間の1日目の初回用量に約50mg/kg~約1000mg/kg、続いて複数回投薬の期間中に用量当たり約50mg/kg~約500mg/kg。例えば、投与期間の1日目の初回用量に約50mg/kg~約500mg/kg、続いて複数回投薬の期間中に用量当たり約50mg/kg~約250mg/kg。例えば、投与期間の1日目の初回量に約50mg/kg~約250mg/kg、続いて複数回投薬の期間中に用量当たり約50mg/kg~約250mg/kg。複数回投薬の期間は、総累積用量まで約3~約30回の投与を含んでもよい。複数回投薬の期間は、約1~約30週であってもよい。複数回の部分用量が、約1日~約30日の間隔で投与されてもよい。
【0086】
上の段落内に開示される特定の実施形態は単独で読まれるべきではないこと、及び本明細書は、これらの実施形態が個々に開示されているのではなく、他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図していることを、当業者であれば理解するはずである。例えば、上の段落に開示される実施形態の各々は、上の段落における実施形態の各々と、又はそこに開示される実施形態の任意の順序の2つ以上と明示的に組み合わされているとして読まれるべきである。
【0087】
本発明の追加的な特徴及び利点は、添付の図面においてより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0088】
図1-1】図1Aは、アポ-トランスフェリンに応答した、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長の誘導を示すグラフである。図1Bは、アポ-トランスフェリンに応答した、SH-SY5Y細胞における増殖の誘導を示すグラフである。
図1-2】図1Cは、アポ-トランスフェリンに応答した、SH-SY5Y細胞におけるβ-III-チューブリンタンパク質濃度の増加を示す画像である。図1Dは、アポ-トランスフェリンに応答した、SH-SY5Y細胞におけるβ-III-チューブリンタンパク質濃度の増加を示すグラフである。
図2】初代ヒト神経前駆細胞がβ-III-チューブリンタンパク質陽性ニューロン及びGFAPタンパク質陽性アストロサイト細胞になるのをアポ-トランスフェリンが誘導することを実証するグラフである。
図3図3Aは、アポ-トランスフェリンに対する様々な濃度のメシル酸デフェロキサミンの、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長に及ぼす作用をプロットしたグラフである。図3Bは、低減した鉄結合能を有するトランスフェリン変異体の、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長の促進に及ぼす効力を示すグラフである。
図4】様々な異なるタンパク質の、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長に及ぼす作用をプロットしたグラフである。
図5】プロリルヒドロキシラーゼ阻害剤であるIOX2の、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長に及ぼす作用をプロットしたグラフである。
図6】SH-SY5Y細胞における神経突起伸長の促進におけるトランスフェリンの効力に及ぼす鉄飽和度の役割を示すグラフである。
図7】他の神経栄養タンパク質/ペプチド断片と併用したアポ-トランスフェリンの、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長に及ぼす作用をプロットしたグラフである。
図8】小分子Y-27632と併用したアポ-トランスフェリンの、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長に及ぼす作用をプロットしたグラフである。
図9】動物試験モデルにおいて新たな神経芽細胞(BrdU+/DCX+細胞によって定義される)及び新たに形成された成熟ニューロン(BrdU+/NeuN+細胞によって定義される)によって測定したときに、アポ-トランスフェリンが神経形成の量を増加させることを示すグラフである。
図10-1】図10Aは、動物を一過性MCAo後にアポ-トランスフェリンで処理すると、生理食塩水で処理したマウスと比較して、回復がより早くなることを実証するグラフである。図10Bは、動物を一過性MCAo後にアポ-トランスフェリンで処理すると、生理食塩水で処理したマウスと比較して、運動技能がより良くなることを実証するグラフである。
図10-2】図10Cは、動物を一過性MCAo後にアポ-トランスフェリンで処理すると、生理食塩水で処理したマウスと比較して、認知力がより高くなることを実証するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0089】
本発明の詳細な実施例
本明細書に以下に開示される実施例は一般化された実施例を表しているに過ぎず、本発明を再現することができる他の構成及び方法が可能であり、本発明によって包含されることが、当業者には容易に明らかであるはずである。
【実施例1】
【0090】
アポ-トランスフェリン(ApoTf)は、SH-SY5Y細胞において分化及び神経突起伸長を用量応答的に誘導する
トランスフェリンは、細胞培養及びin-vivoにおいて鉄を栄養素として細胞に送達するために利用される。これは、典型的には、ホロ-トランスフェリン(HoloTf)の、トランスフェリン受容体1(TfR1)であるその同族受容体CD71への結合及びそれによるエンドサイトーシスの作用を通して達成される。トランスフェリンは、典型的には、代謝活性を促進し、持続させる手段として鉄を細胞に供給すると考えられている。本発明者らは、驚くべきことに、トランスフェリンタンパク質の非鉄含有型であるアポ-トランスフェリンが、極めて一般的なニューロン研究モデルであるSH-SY5Y細胞の分化を誘導することを見出した。神経細胞分化の誘導は、Agholme、2010. J. of Alzheimer's Disease. 第20巻:1p069~108;及びDybergら、2017. PNAS 第114巻(32)、E6603~E6612の手順に従って、神経突起形成の形態学的パラメータ(神経細胞分化、神経細胞の健康及び機能のマーカーとして典型的に使用される主要な要素)によって評価した。
【0091】
未分化のSH-SY5Y細胞を、96ウェルの透明底プレート中で、0.1%FBSを含有する培地中に播種した。無血清基本培地は、SH-SY5Y細胞の供給業者(Sigma社、カタログ番号94030304-1VL)によって推奨される通りに利用した。細胞の播種から24時間後に、ApoTfの3×ストック溶液(無血清基本培地中の最終濃度はx軸に示す)を細胞に添加した。ApoTfは、プールされたヒト血漿から得て精製し、0.2mg/mLの最終濃度で投薬した。細胞を6日間分化させた。神経突起成長を画像化及び画像解析によって評価した。解析の時点で、Tubulin Tracker (Molecular Probes社、T34075)及びHoechst 33342 (Molecular Probes社 #H3570)核染色剤の10×溶液を調製した。
【0092】
簡潔に述べれば、DMSOに溶解させたTubulin TrackerをPluronic F-127で1:1に希釈し、HBSS中で更に希釈して10×溶液を生成した。Hoechst 33342をHBSS-Tubulin Tracker溶液に10μg/mLで添加して、10×核染色剤を生成した。この10×染色溶液(10μL)を処理済みアッセイウェルに直接添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、110μLの0.4%トリパンブルーをアッセイウェルに直接添加し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。各画像について青(核)及び緑(チューブリン)の蛍光チャネルで9枚の画像/ウェルを取得した。
【0093】
画像を得た後、MetaExpress Neurite Outgrowth解析モジュール(Molecular Devices社)を使用して、細胞、細胞体を特定し、神経突起を定量化した。各試験ウェル中の細胞の数が異なることを考慮して、神経突起の分岐の総数を画像化した細胞の総数で割った。非処理対照細胞を1の値に設定し、全ての他の処理を非処理対照に対して相対的に示すことによって、伸長の倍率変化を決定した。
【0094】
図1Aから、アポ-トランスフェリンが神経突起伸長を用量依存的に誘導することができたことが明白である。アポ-トランスフェリンを徐々に最大0.8mg/mLまで増加させると、SH-SY5Y細胞において伸長応答が向上した。この現象は、主にホロ-又は鉄担持型のトランスフェリンで作用する、トランスフェリンの既知の機能とは直観的に反するものである。
【0095】
図1Bは、アポ-トランスフェリンが細胞数の濃度依存的増加を誘導することを示している。細胞数の増加は、試験した最大用量の0.8mg/mLのアポ-トランスフェリンまでの、細胞増殖の増加を示すものである。
【0096】
図1Cは、0.1mg/mL ApoTfで処理したSH-SY5Y細胞(下のパネル)の、非処理対照(上のパネル)に対する視覚的比較を提供する。左のパネルは、Hoechst 33342での核染色を示す。右の画像は、細胞体及び神経突起のチューブリン染色を示す。図1Cから、ApoTfが、細胞増殖の促進、及びその後の/同時の神経突起/チューブリン伸長の誘導の促進に及ぼす重大な作用を有していたことが明らかである。
【0097】
加えて、図1Dに示すように、アポ-トランスフェリンで処理すると、ニューロンの従来のマーカーである、十分に特徴付けられたβ-III-チューブリンタンパク質の増加が引き起こされたことが見出された。この実験では、SH-SY5Y細胞は、上記のように分化させた。解析の時点で、細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、β-III-チューブリン(R&D Systems社、MAB1195)に対して染色し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。画像解析は、β-III-チューブリンが染色された細胞の蛍光強度を評価することによって行った。単独の二次抗体からのバックグラウンドを全ての値から引いた。表示条件での値を「β-III-チューブリン染色強度」として標準偏差と共に示す。
【0098】
SH-SY5Y細胞
「SH-SY5Y細胞」とは、本明細書では、SK-N-SH神経芽細胞腫細胞株に由来するサブクローニングされた細胞株を意味する。この細胞は、特定の化合物を添加することによって様々なタイプの機能的神経細胞に変換することができるので、神経変性障害のモデルとしての役割を果たしている。加えて、SH-SY5Y細胞株は、神経変性過程、神経毒性、及び神経保護に関する神経細胞分化、代謝、及び機能の解析を含めた、実験的な神経学的研究に広く使用されている。
【0099】
本明細書で以降に略述するのは、様々な神経変性障害の予測モデルとしてのSH-SY5Y細胞株に言及する論文審査された引用文献である。この一覧は、本発明者らによる先行技術の承認を構成するものではなく、むしろ脳損傷及び神経障害の予測モデルとしてのSH-SY5Y細胞株の当業者の知識を説明する役割を果たすものである。
【0100】
神経形成
Dayemら. Biologically synthesized silver nanoparticles induce neuronal differentiation of SH-SY5Y cells via modulation of reactive oxygen species, phosphatases, and kinase signaling pathways. Biotechnol. J. 2014、9、934~943頁。
Fagerstromら. Protein Kinase C-epsilon Implicated in Neurite Outgrowth in Differentiating Human Neuroblastoma Cells. Cell Growth & Differentiation 第7巻、775~785頁、1996年6月。
【0101】
末梢神経損傷
Hanら. Berberine. Promotes Axonal Regeneration in Injured Nerves of the Peripheral Nervous System. J Med Food 15 (4) 2012、413~417頁。
Goldら. Nonimmunosuppressant FKBP-12 Ligand Increases Nerve Regeneration. EXPERIMENTAL NEUROLOGY 147、269~278頁(1997)。
Kimら. Protective effect of GCSB-5, an herbal preparation, against peripheral nerve injury in rats. Journal of Ethnopharmacology 136 (2011) 297~304頁。
Lesmaら. Glycosaminoglycans in Nerve Injury: I. Low Doses of Glycosaminoglycans Promote Neurite Formation. Journal of Neuroscience Research. 1996 46(5):565~71頁。
【0102】
糖尿病性神経障害
Hattangady及びRajadhyaksha. A brief review of in vitro models of diabetic neuropathy. Int J Diabetes Dev Ctries. 2009年10月~12月; 29(4): 143~149頁。
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Liら. C-peptide enhances insulin-mediated cell growth and protection against high glucose-induced apoptosis in SH-SY5Y cells. Diabetes Metab Res Rev 2003; 19: 375~385頁。
【0103】
制がん剤に誘導される神経障害
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Mannelliら. Oxaliplatin-induced oxidativestressinnervoussystem-derived cellular models:Could it correlate with in vivo neuropathy? Free Radical Biology and Medicine 61 (2013) 143~150頁。
【0104】
オルガノホスフェートに誘導される神経障害(殺虫剤、化学兵器化合物)
Hongら. Neurotoxicity induced in differentiated SK-N-SH-SY5Y human neuroblastoma cells by organophosphorus compounds. Toxicology and Applied Pharmacology 186 (2003) 110~118頁。
Ehrichら. Interaction of organophosphorus compounds with muscarinic receptors in SH-SY5Y human neuroblastoma cells. Journal of Toxicology and Environmental Health 1994 43(1):51~63頁。
【0105】
外傷性脳損傷
Triyoso及びGood. Pulsatile shear stress leads to DNA fragmentation in human SH-SY5Y neuroblastoma cell line. Journal of Physiology (1999)、515.2、355~365頁。
Songら. Arctigenin Confers Neuroprotection Against Mechanical Trauma Injury in Human Neuroblastoma SH-SY5Y Cells by Regulating miRNA-16 and miRNA-199a Expression to Alleviate Inflammation. J Mol Neurosci (2016) 60:115~129頁。
Skotakら. An in vitro injury model for SH-SY5Y neuroblastoma cells: Effect of strain and strain rate. Journal of Neuroscience Methods 205 (2012) 159~168頁。
Arunら. Studies on blast traumatic brain injury using in-vitro model with shock tube. NeuroReport (2011) 22:379~384頁。
【0106】
虚血
Miglioら. Cabergoline protects SH-SY5Y neuronal cells in an in vitro model of ischemia. European Journal of Pharmacology 489 (2004) 157~165頁。
Duongら. Multiple protective activities of neuroglobin in cultured neuronal cells exposed to hypoxia re-oxygenation injury. J. Neurochem. (2009) 108、1143~1154頁。
Qiuら. Enhancement of ischemia-induced tyrosine phosphorylation of Kv1.2 by vascular endothelial growth factor via activation of phosphatidylinositol 3-kinase. J. Neurochem. (2003) 10.104。
【実施例2】
【0107】
初代ヒト神経前駆細胞におけるβ-III-チューブリン及びGFAPタンパク質濃度に及ぼすApoTfの作用
ApoTfの神経形成作用は、成人の神経形成の別の確立されたモデルである初代ヒト大脳皮質由来神経前駆細胞にも適用する(Azari及びReynolds、「In Vitro Models for neurogenesis」. Cold Spring Harb Perspect Biol 2016、8、a021279を参照されたい)。図2A及び図2Bに示すように、アポ-トランスフェリンは、初代ヒト大脳由来神経前駆細胞の培養物からニューロンに分化した細胞の百分率(β-III-チューブリン陽性細胞%、2A)及びアストロサイトに分化した細胞の百分率(GFAP陽性細胞%、2B)を、アポ-トランスフェリンを含まない細胞に対して劇的に増加させる。
【0108】
ニューロスフェアとして維持された神経前駆細胞は、Lonza社(PT-2599)から得た。ニューロスフェアの凍結バイアルから細胞を解凍し、Human NeuroCult(商標)NS-A Complete Proliferation培地(Stemcell Technologies社)中で2週間培養した。ニューロスフェアを単一の細胞に分離し、アッセイプレートのラミニン被覆ウェルにプレーティングした。神経前駆細胞を、10分の1の濃度の推奨される増殖用補助剤を含有するNeuroCult(商標)NS-A 基本培地中に、ApoTf(0.8mg/mL)の非存在下又は存在下で72時間播種した。解析の時点で、細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、β-III-チューブリン(R&D Systems社、MAB1195)及びGFAP(Invitrogen社、PA3-16727)に対して染色し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。画像解析は、β-III-チューブリン又はGFAPについて陽性に染色されている細胞の相対数を評価することによって行った。表示条件での値を、「β-III-チューブリン陽性%」細胞(図2A)又は「GFAP陽性%」細胞(図2B)として標準偏差と共に示す。
【実施例3】
【0109】
鉄キレート化だけがApoTfによる神経形成の作用様式ではない
メシル酸デフェロキサミン(DFO)は、鉄過剰症の臨床診療に利用される小分子の鉄キレート剤である。ApoTfと同様に、DFOは、鉄に対して高い親和性結合定数を有するが、単一の鉄結合部位しか有さない。DFOの神経突起伸長に及ぼす作用について調査した。ApoTfは、その機能的用量曲線の底に近い濃度で試験し、神経突起伸長を誘導するDFOの能力と比較した。2.4μM(0.2mg/mL)で試験したApoTfは2つの鉄結合部位を有することから、単一の鉄結合部位を有する4.8μMのDFOと同等である。
【0110】
未分化のSH-SY5Y細胞は、実施例1に記載したように播種し、処理した。神経突起成長は、画像化及び画像解析によって評価した。解析の時点で、Tubulin Tracker (Molecular Probes社、T34075)及びHoechst 33342 (Molecular Probes社 #H3570)核染色剤の10×溶液を調製した。簡潔に述べれば、DMSOに溶解させたTubulin TrackerをPluronic F-127で1:1に希釈し、HBSS中で更に希釈して10×溶液を生成した。Hoechst 33342をHBSS-Tubulin Tracker溶液に10μg/mLで添加して、10×核染色剤を生成した。この10×染色溶液(10μL)を処理済みアッセイウェルに直接添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、110μLの0.4%トリパンブルーをアッセイウェルに直接添加し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。各画像について青(核)及び緑(チューブリン)の蛍光チャネルで9枚の画像/ウェルを取得した。画像を得た後、MetaExpress Neurite Outgrowth解析モジュール(Molecular Devices社)を使用して、細胞体を特定し、神経突起を定量化した。細胞の数が異なることを考慮して、神経突起の分岐の総数を画像化した細胞の総数で割った。非処理対照細胞を1の値に設定し、全ての他の処理を非処理対照に対して相対的に示すことによって、伸長の倍率変化を決定した。ApoTfは、プールされたヒト血漿から得て精製し、0.2mg/mLの最終濃度で投薬した。メシル酸デフェロキサミン(DFO)はTocris社(カタログ番号5764)から得て、製造業者の推奨によって再懸濁させ、保存した。神経形成特性について評価したDFOの濃度はx軸に示す。
【0111】
図3から、DFOが1~3μMの間で最大の神経突起伸長を示し、その濃度を超えるとほとんど神経突起形成が行われないのに対して、ApoTfは、9.9μM(0.8mg/mL; 20μMの鉄結合部位)に及んでも分化が増大し続けることがわかる。これらのデータから、鉄キレート化は神経突起伸長にある役割を果たし得るが、それは主要な作用機序ではなく、ApoTfの別の未確認の機能的側面もその神経形成能に役割を果たしているに違いないことが示唆される。
【0112】
本発明者らは、N末端鉄結合部位の変異によってトランスフェリンの鉄結合活性が低減しても神経形成を媒介するのに十分であるかを決定しようと更に努めた。未分化のSH-SY5Y細胞は、実施例1に記載したように処理した。神経突起成長は、画像化及び画像解析によって評価した。解析の時点で、Tubulin Tracker (Molecular Probes社、T34075)及びHoechst 33342 (Molecular Probes社 #H3570)核染色剤の10×溶液を調製した。簡潔に述べれば、DMSOに溶解させたTubulin TrackerをPluronic F-127で1:1に希釈し、HBSS中で更に希釈して10×溶液を生成した。Hoechst 33342をHBSS-Tubulin Tracker溶液に10μg/mLで添加して、10×核染色剤を生成した。この10×染色溶液(10μL)を処理済みアッセイウェルに直接添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、110μLの0.4%トリパンブルーをアッセイウェルに直接添加し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。各画像について青(核)及び緑(チューブリン)の蛍光チャネルで9枚の画像/ウェルを取得した。画像を得た後、MetaExpress Neurite Outgrowth解析モジュール(Molecular Devices社)を使用して、細胞体を特定し、神経突起を定量化した。
【0113】
細胞の数が異なることを考慮して、神経突起の分岐の総数を画像化した細胞の総数で割った。非処理対照を1の値に設定し、全ての他の処理を非処理対照に対して相対的に示すことによって、伸長の倍率変化を決定した。全てのタンパク質は、0.2mg/mLの最終濃度で投薬した。
【0114】
血漿由来ヒト血清アルブミン(pdHSA)及びApoTfは、プールされたヒト血漿から得て精製した。組換えApoTf (rec ApoTf;配列番号1)、及びN-ローブ変異体Tf (N-mut rec ApoTf;配列番号4)は、293-6E細胞からの細胞培養発現によって得た。
【0115】
簡潔に述べれば、野生型ヒトトランスフェリン(配列番号1)及びN-ローブ変異体ヒトトランスフェリン(配列番号4)配列を、N末端6xHISタグ及びTEV切断部位を含有する哺乳動物発現プラスミドにクローニングした。これらの発現プラスミドを293-6E細胞株にトランスフェクトし、その後細胞培養上清からタンパク質を収集した。タンパク質をNI-NTAカラムで精製し、洗浄後に溶出した。TurboTEVプロテアーゼを使用して、トランスフェリンタンパク質からN末端6xHISタグ及び追加のアミノ酸を切断した。TEV切断に続いて、2回目のNi-NTA捕捉カラムによって、トランスフェリンタンパク質を、切断された6xHISタグ及び切断されていないタンパク質から分離した。次いでNi-NTA捕捉カラムのフロースルー画分を低pH処理に供して、これらのタンパク質に結合して残存している可能性のある鉄をいずれも除去し、緩衝液をPBS pH 7.4に交換し、濃縮し、滅菌濾過して最終用途用とした。
【0116】
図3Bから、血漿由来ヒト血清アルブミン(pdHSA)が神経形成に影響を与えなかったことがわかる。しかし、ApoTf及び組換えApoTfは両方とも、SH-SY5Yの神経形成を誘導した。低減した鉄結合能を有するApoTf変異体(N-mut rec ApoTf) は、SH-SY5Y細胞の分化の誘導においてApoTf及びrec ApoTfのそれとほぼ等しかった。鉄結合だけがApoTfの神経形成ポテンシャルの作用機序ではないと思われる。
【実施例4】
【0117】
SH-SY5Yに及ぼす神経形成作用はアポ-トランスフェリン及びアポ-ラクトフェリンに特異的である
実施例3からApoTfの神経形成能における鉄キレート化の役割が不明確であることが見出されたために、本発明者らは、他の鉄結合タンパク質もSH-SY5Y細胞の神経形成を媒介することができるかどうかを決定した。
【0118】
未分化のSH-SY5Y細胞は、実施例1に記載したように処理した。神経突起成長は、画像化及び画像解析によって評価した。解析の時点で、Tubulin Tracker (Molecular Probes社、T34075)及びHoechst 33342 (Molecular Probes社 #H3570)核染色剤の10×溶液を調製した。簡潔に述べれば、DMSOに溶解させたTubulin TrackerをPluronic F-127で1:1に希釈し、HBSS中で更に希釈して10×溶液を生成した。Hoechst 33342をHBSS-Tubulin Tracker溶液に10μg/mLで添加して、10×核染色剤を生成した。この10×染色溶液(10μL)を処理済みアッセイウェルに直接添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、110μLの0.4%トリパンブルーをアッセイウェルに直接添加し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。各画像について青(核)及び緑(チューブリン)の蛍光チャネルで9枚の画像/ウェルを取得した。画像を得た後、MetaExpress Neurite Outgrowth解析モジュール(Molecular Devices社)を使用して、細胞体を特定し、神経突起を定量化した。細胞の数が異なることを考慮して、神経突起の分岐の総数を画像化した細胞の総数で割った。非処理対照を1の値に設定し、全ての他の処理を非処理対照に対して相対的に示すことによって、伸長の倍率変化を決定した。BSAはSigma社から得た。rHSAはAlbumedix社から得た。ApoTf及びHoloTfは、プールされたヒト血漿から得て精製した。アポ-フェリチン(ウマ)はSigma社から得た。アポ-ラクトフェリンはAthens Research & Technology社から得た。全てのタンパク質は、0.2mg/mLの最終濃度で投薬した。
【0119】
図4から、ウシ血清アルブミン(BSA)も、低親和性鉄結合型のヒト血清アルブミンも、いずれも神経形成に影響を与えなかったことがわかる。低親和性鉄結合型のヒト血清アルブミン(rHSA)についての更なる情報については、Silvaら、2009. Biochimica et Biophysica Acta、第1794巻、1449~1458頁を参照されたい。鉄飽和型のトランスフェリンであるホロ-トランスフェリン(HoloTf)も、SH-SY5Y細胞の分化を誘導することができなかった。
【0120】
驚くべきことに、複数の鉄結合部位を有する別の高親和性鉄結合タンパク質であるフェリチンの鉄欠乏型であるアポ-フェリチンが、SH-SY5Y細胞の分化の誘導において無効であった。これによって、鉄結合だけがApoTfの神経形成ポテンシャルの作用機序ではないという仮説が推進される。予想外なことに、アポ-ラクトフェリンもこれらの細胞の分化を誘導した。アポ-ラクトフェリンは、アポ-トランスフェリンの構造的及び機能的同族体であるが、血漿ではなく母乳に見出される。
【0121】
アポ-ラクトフェリンはアポ-トランスフェリンと61%の同一性を有しているのに対して、アポ-フェリチン及びヒト血清アルブミン(HSA)は、アポ-トランスフェリン又はアポ-ラクトフェリンのいずれにも構造的に無関係である。
【実施例5】
【0122】
ApoTfに誘導されるSH-SY5Y細胞の分化は低酸素誘導因子1α(HIF-1α)を通さない
ApoTf及びHoloTfは両方とも、関連する神経保護作用に至るHIF-1αの産生を誘導することができることが報告されている(Grifols Worldwide Operations limited社によるUS2016008437、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。これは、ニューロンが死滅する前では有益な特質ではあるが、神経保護は、神経細胞が死滅したら患者に利益をもたらさない。その一方で、神経形成は、新たな神経細胞を再生することができるので、傷害の後でも患者に利益をもたらす。
【0123】
ApoTfがHIF経路以外の神経形成を媒介するという前提の実証において、本発明者らは、よく知られる、高度に特異的なプロリルヒドロキシラーゼ(PHD2)阻害剤をSH-SY5Y細胞分化アッセイで試験した。PHD2の小分子阻害剤であるIOX2 (N-[[1,2-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-2-オキソ-1-(フェニルメチル)-3-キノリニル]カルボニル]-グリシン)は、PHD2に及ぼすその作用を通してHIF経路を活性化することが知られている。Chowdhuryら、2013. ACS Chem. Biol. 第8巻、1488頁を参照されたい。IOX2は、PHD2の阻害に22nMというIC50を有しており、未分化のSH-SY5Yにおいて1μM程度の低濃度でHIF-1αの上方制御を誘導することができる(Ross、US2016008437、上記)。
【0124】
未分化のSH-SY5Y細胞は、実施例1に記載したように播種し、処理した。神経突起成長は、画像化及び画像解析によって評価した。解析の時点で、Tubulin Tracker (Molecular Probes社、T34075)及びHoechst 33342 (Molecular Probes社 #H3570)核染色剤の10×溶液を調製した。簡潔に述べれば、DMSOに溶解させたTubulin TrackerをPluronic F-127で1:1に希釈し、HBSS中で更に希釈して10×溶液を生成した。Hoechst 33342をHBSS-Tubulin Tracker溶液に10μg/mLで添加して、10×核染色剤を生成した。この10×染色溶液(10μL)を処理済みアッセイウェルに直接添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、110μLの0.4%トリパンブルーをアッセイウェルに直接添加し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。各画像について青(核)及び緑(チューブリン)の蛍光チャネルで9枚の画像/ウェルを取得した。画像を得た後、MetaExpress Neurite Outgrowth解析モジュール(Molecular Devices社)を使用して、細胞体を特定し、神経突起を定量化した。細胞の数が異なることを考慮して、神経突起の分岐の総数を画像化した細胞の総数で割った。非処理対照を1の値に設定し、全ての他の処理を非処理対照に対して相対的に示すことによって、伸長の倍率変化を決定した。ApoTfは、プールされたヒト血漿から得て精製し、0.2mg/mLの最終濃度で投薬した。IOX2は、Tocris社(カタログ番号4451)から得て、製造業者の推奨によって再懸濁させ、保存した。
【0125】
図5から、IOX2処理した細胞において神経突起伸長も分化も観察されなかったことが明白である。4μMという極めて高い濃度のIOX2であっても、作用は何も観察できなかった(SH-SY5YにおいてHIF-1αを誘導するとUS2016008437で報告された濃度より4倍高く、ChowdhuryがPHD2タンパク質に対するIC50として決定した濃度より180倍超高い)。これらのデータを、HoloTfでの神経形成の欠如(実施例4)を合わせると、HIF-1αがSH-SY5Y細胞の分化に役割を果たしていないことが示される。
【実施例6】
【0126】
トランスフェリンの効力における鉄飽和度の役割
Table 1(表1)に略述するような様々な純度及び鉄飽和量を有するApoTfを、それらの神経形成ポテンシャルについて評価した。トランスフェリン試料は、当業者に公知の手順/方法論に従って調製した。それらは、L von Bonsdorffら、Transferrin、21章の21.4節、301~310頁、Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use、 J. Bertoliniら編、Wiley、2013 [印刷物ISBN:9780470924310 |オンラインISBN:9781118356807](それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる)に詳述されている。
【0127】
タンパク質純度は、SDS-PAGEによって決定した。鉄飽和レベルは、Manleyら、J Biol Inorg Chem (2009) 14:61~74頁(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)に略述される手順に従ってICP-AESを使用して決定した。
【0128】
【表1】
【0129】
未分化のSH-SY5Y細胞は、実施例1に記載したように処理した。神経突起成長は、画像化及び画像解析によって評価した。解析の時点で、Tubulin Tracker (Molecular Probes社、T34075)及びHoechst 33342 (Molecular Probes社 #H3570)核染色剤の10×溶液を調製した。簡潔に述べれば、DMSOに溶解させたTubulin TrackerをPluronic F-127で1:1に希釈し、HBSS中で更に希釈して10×溶液を生成した。Hoechst 33342をHBSS-Tubulin Tracker溶液に10μg/mLで添加して、10×核染色剤を生成した。この10×染色溶液(10μL)を処理済みアッセイウェルに直接添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、110μLの0.4%トリパンブルーをアッセイウェルに直接添加し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。各画像について青(核)及び緑(チューブリン)の蛍光チャネルで9枚の画像/ウェルを取得した。画像を得た後、MetaExpress Neurite Outgrowth解析モジュール(Molecular Devices社)を使用して、細胞体を特定し、神経突起を定量化した。細胞の数が異なることを考慮して、神経突起の分岐の総数を画像化した細胞の総数で割った。非処理対照を1の値に設定し、全ての他の処理を非処理対照に対して相対的に示すことによって、伸長の倍率変化を決定した。
【0130】
図6Aは、0.2mg/mLの最終濃度で投薬した、Table 1(表1)に略述した純度及び鉄含有量のApoTf A~Dの、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長に及ぼす作用をプロットしたものである。図6Bは、0.2mg/mLの最終濃度で投薬した、様々な鉄飽和レベル(X軸に列挙)を有するトランスフェリンの、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長に及ぼす作用をプロットしたものである。
【0131】
ApoTf(<0.3%飽和度)及びHoloTf(100%飽和度)は、von Bonsdorff(上記参照)に略述されるように、プールされたヒト血漿からトランスフェリンを精製した後に調製した。ApoTfとHoloTfとを混合することによって様々な鉄飽和含有量を生成して、図6Bにプロットした表示飽和百分率を生成した。
【0132】
図6Aから、タンパク質純度が94%しかない試料であっても、全てのApoTf調製物(ApoTf A~D)がSH-SY5Yの神経形成分化を誘導可能であったことがわかる。図6Bは、鉄飽和度がSH-SY5Y細胞の分化を誘導するトランスフェリンの能力に及ぼす作用の程度を示している。この実施例では、少なくとも99%のタンパク質純度を有するApoTf又はHoloTfを様々な比率で混合して、鉄飽和度/含有量の作用を決定した。30%未満の鉄飽和含有量を有するトランスフェリンは、神経形成ポテンシャルを示した。
【実施例7】
【0133】
アポ-トランスフェリンは神経栄養タンパク質及びペプチド因子と相乗的に作用して分化を誘導する
幾つかの神経栄養タンパク質因子は、神経変性状態及び外傷性脳損傷後の神経形成を刺激するための臨床用途に検討されている。Houltonら、2019. Frontiers in Neurosci.、第13巻、論文790; Weissmiller及びWu、2012. Translational Neurodegeneration、第1巻:14; Apfel、2001. Clin Chem Lab Med.、第39巻(4)、351頁を参照されたい。
【0134】
3つの神経栄養スーパーファミリーからのタンパク質を、ApoTfと併用した機能について試験した。これらの神経栄養タンパク質は、BDNF(脳由来神経栄養因子;NGFスーパーファミリー)、GNDF(グリア細胞株由来神経栄養因子;TGF-βスーパーファミリー)、及びCNTF(毛様体神経栄養因子-1;ニューロカインスーパーファミリー)である。加えて、別の既知の神経栄養ペプチドであるPACAP(脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドのアミノ酸1~38)をApoTfと併用した機能について評価した。
【0135】
未分化のSH-SY5Y細胞は、実施例1に記載したように処理した。神経突起成長は、画像化及び画像解析によって評価した。解析の時点で、Tubulin Tracker (Molecular Probes社、T34075)及びHoechst 33342 (Molecular Probes社 #H3570)核染色剤の10×溶液を調製した。簡潔に述べれば、DMSOに溶解させたTubulin TrackerをPluronic F-127で1:1に希釈し、HBSS中で更に希釈して10×溶液を生成した。Hoechst 33342をHBSS-Tubulin Tracker溶液に10μg/mLで添加して、10×核染色剤を生成した。この10×染色溶液(10μL)を処理済みアッセイウェルに直接添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、110μLの0.4%トリパンブルーをアッセイウェルに直接添加し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。各画像について青(核)及び緑(チューブリン)の蛍光チャネルで9枚の画像/ウェルを取得した。画像を得た後、MetaExpress Neurite Outgrowth解析モジュール(Molecular Devices社)を使用して、細胞体を特定し、神経突起を定量化した。細胞の数が異なることを考慮して、神経突起の分岐の総数を画像化した細胞の総数で割った。非処理対照を1の値に設定し、全ての他の処理を非処理対照に対して相対的に示すことによって、伸長の倍率変化を決定した。
【0136】
図7A~7Dにおいて、ApoTfを0.1mg/mLの最終濃度で、単独又は表示神経栄養因子と併用して投薬した。(A) BDNFは、Peprotech社(カタログ番号450-02)から得て25ng/mLで投薬した。(B) GDNFは、Peprotech社(カタログ番号450-10)から得て1000ng/mLで投薬した。(C) CNTFは、Peprotech社(カタログ番号450-13)から得て250ng/mLで投薬した。(D) PACAPは、Tocris社(カタログ番号1186)から得て200nMで投薬した。略語SFは、無血清培地を表す。
【0137】
図7A~7Dの各々を概観すると、神経栄養因子の各々及びペプチド断片が、SH-SY5Y細胞の分化を異なる程度に誘導したことは明らかである。BDNFのように、ApoTfの非存在下では試験した濃度の神経栄養因子によって分化が誘導されない事例もあった。提示した実験の全てにおいて、ApoTfと併用した神経栄養因子は、単独で試験した該分子よりも多くの分化を誘導した。予想外なことに、ApoTfは、SH-SY5Y細胞における神経突起伸長に対して、他の神経栄養因子及びペプチドとの相乗作用を呈する。
【実施例8】
【0138】
アポ-トランスフェリンは神経形成小分子と相乗的に作用して分化を誘導する
非タンパク質ベースの神経形成小分子化合物と共に作用するApoTfの能力を実施例7で試験した。ApoTfを神経形成化合物Y-27632 [trans-4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニルシクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド]と併用して評価した。Y-27632は、Rock1及びRock2 (Rhoキナーゼ)阻害剤である。小分子によるRock1及び2の阻害には、SH-SY5Y細胞を含めた神経細胞分化を誘導する既知の能力がある。Dybergら、2017. PNAS 第114巻(32)、E6603~E6612を参照されたい。
【0139】
未分化のSH-SY5Y細胞は、実施例1に記載したように処理した。神経突起成長は、画像化及び画像解析によって評価した。解析の時点で、Tubulin Tracker (Molecular Probes社、T34075)及びHoechst 33342 (Molecular Probes社 #H3570)核染色剤の10×溶液を調製した。簡潔に述べれば、DMSOに溶解させたTubulin TrackerをPluronic F-127で1:1に希釈し、HBSS中で更に希釈して10×溶液を生成した。Hoechst 33342をHBSS-Tubulin Tracker溶液に10μg/mLで添加して、10×核染色剤を生成した。この10×染色溶液(10μL)を処理済みアッセイウェルに直接添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、110μLの0.4%トリパンブルーをアッセイウェルに直接添加し、Molecular Devices Nano撮像装置で画像化した。各画像について青(核)及び緑(チューブリン)の蛍光チャネルで9枚の画像/ウェルを取得した。画像を得た後、MetaExpress Neurite Outgrowth解析モジュール(Molecular Devices社)を使用して、細胞体を特定し、神経突起を定量化した。細胞の数が異なることを考慮して、神経突起の分岐の総数を画像化した細胞の総数で割った。非処理対照を1の値に設定し、全ての他の処理を非処理対照に対して相対的に示すことによって、伸長の倍率変化を決定した。ApoTfは、0.1mg/mLの最終濃度で、単独又は表示小分子と併用して投薬した。Y-27632は、Tocris社(カタログ番号1254)から得て50μMで投薬した。
【0140】
図8は、Y-27632自体が強い神経形成化合物であるが、ApoTfの存在下で神経形成作用は相乗的であり、どちらかの分子が単独で呈する作用を超えた作用を示したことを示している。幾つかの既知のタンパク質、ペプチド、及び小分子神経形成実体と相乗的に作用するApoTfの能力は、予想外で驚くべき興味深い発見である。
【実施例9】
【0141】
アポ-トランスフェリンは、一過性MCAoを有する動物の脳における新たな神経芽細胞及び成熟ニューロンの形成を促進する
C57BL/6Jマウス(約20g)をイソフルラン下で麻酔し、切開後、6.0シリコン被覆モノフィラメント縫合糸を外頚動脈に挿入して中大脳動脈(MCAo)を閉塞させた。閉塞は、温度制御下で60分間実施した。閉塞を解除してから2時間以内に、動物を7点の「神経スコア(neuroscore)」スケールで評価して、脳卒中を視覚的に示す候補を特定した。それは、対側の前肢の伸び、旋回の重症度、歩行及び意識の喪失を全て考慮に入れた、0(観察可能な欠損なし)から6(瀕死)までのスケールに基づくものである。
0=観察可能な欠損なし
1=対側の前肢の伸展の不具合
2=尾部を持ち上げたときの軽度の旋回挙動、対側に回転しようとする<50%の挙動
3=軽度の不変の旋回挙動、対側に回転しようとする>50%の挙動
4=不変で強い旋回、マウスは1~2秒より長く回転姿勢を保ち、その鼻がその尾部に届きそうになる
5=梗塞の対側の方向への転倒を伴う重度の回転、歩行又は正向反射の喪失、及び
6=意識レベル低下、昏睡状態、又は瀕死
【0142】
「神経スコア」が4以上の動物だけを更なる試験の対象とした(n=8~10動物/群)。閉塞から6時間後に、マウスに350mg/kgのアポ-トランスフェリン(腹腔内注射)又は同量の生理食塩水を、50mg/kgのブロモデオキシウリジン(BrdU; Sigma-Aldrich Chemical社、セントルイス、MO)と共に毎日、合計7日間注射し、両方とも腹腔内投与によって送達した。体重変化は毎日モニタリングした。
【0143】
実施例9に示した時点で、脳からの血液を除去するために、氷冷したヘパリン添加生理食塩水(2.5IU/mlのヘパリン)で経心的灌流を行うことによって解析用の脳を準備した。切割の際に脳ブロックの位置を定めるのに役立つように右小脳を左脳半球全体に付着させたままにして新鮮な脳を取り出した。左半球ブロック全体を、4%パラホルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸緩衝液(PB)中に+4℃で24時間入れ、次いで30%スクロースを含む0.1M PB中で2~3日間、振盪機上、+4℃で凍結保護した。次いで脳をブロットして余分な液体を除去し、バイアルのコルクの上に置き、液体窒素の上で凍結させた。次いでこのブロックをクリオスタット切片が得られるまで-80℃で保存した。神経形成は、新たな神経芽細胞を定量化するためのBrdU及びダブルコルチン(DCX)に対する抗体、又は脳の歯状回における新たなニューロンを定量化するためのBrdU及びNeuNに対する抗体を使用する免疫組織化学的検査によって評価した。
【0144】
図9Aは、ApoTfを投与すると2週間にわたって神経芽細胞の数が増加することを実証しており、一方図9Bは、4週間後に、ApoTf処理されたマウスでは新たに形成された成熟ニューロンの数が多くなることを示している。これらのデータから、神経形成の初期に作られた神経芽細胞が分化を続けて更に新たな成熟ニューロンになり得ることが示唆される。したがって、これらの結果から、アポ-トランスフェリンが、虚血性脳卒中に応答して通常誘導される神経形成以上の神経形成の側面を促進できることが示唆される。
【実施例10】
【0145】
アポ-トランスフェリンは、一過性MCAo脳卒中のマウスモデルにおける回復、運動技能、及び認知力を促進する
マウスは、上の実施例9に示したように準備し、MCAo後3日、及び1、2、3、4週で、示したように評価に供した(n=8~10 動物/群)。運動協調性(すなわち、皮質線条体系の機能に応じた平衡挙動及び歩行運動能)は、ロータロッド試験を使用して評価した。学習及び記憶能力は、NORT(新規物体認識試験;例えば、Anglada-Huguetら、2014、Molecular Neurobiology、第49巻、784~795頁; Denningerら、2018、J. Vis. Exp.、第141巻、e58593)を使用して測定した。
【0146】
図10Aは、ApoTfが、MCA閉塞(MCAo)後に動物が回復する速度を3~14日間の経過にわたって、及びおそらくそれ以上にわたって、有意に向上させることを示している。実施例9に記載したように、本研究における全ての動物は、MCAoから2時間後に評価したときに4以上である当初の神経スコアを有する。観察可能な欠損のない動物(すなわち、実施例9に記載した「0」の神経スコア)の百分率を、x軸に示したMCAo後の時間の関数として示す。
【0147】
図10Bは、MCAo後にアポ-トランスフェリンで処理された動物が、増大した運動及び平衡技能を有することを示している。動物がロータロッドから落下するまでにかかる時間(落下までの潜時)が、MCAo後の時間に対して示される。マウスの運動技能は、図10Aにおける神経スコアのそれを反映しており、動物がロータロッド装置上に留まっていた時間によって測定したときに、運動/平衡技能の向上率が増大している。神経スコアで測定したときの回復は、4週までには両方の群で同じになったが、ApoTfで処理されたマウスの方が、ロータロッドに留まる全体的に良好な能力を有する。図10Cは、ApoTfを投与すると学習認識機能がタンパク質の投与後少なくとも2週間にわたって増大することのエビデンスを提供する。識別力(%)は、動物の記憶を表現するものであり、動物が新たに提示された物体を調べる時間を、以前に提示された物体を調べる時間と比較した百分率によって測定される。より良好な認知力及び記憶を有する動物は、その動物に以前に提示された物体の記憶があるために、新規の物体に費やす時間の方が長くなる。これが、増大した識別力%として示される。apoTfで処理した動物は、生理食塩水で処理したマウスと比較してより高い「識別力%」を有することから、MCAo後にapoTfで処理したマウスの方がその認知能力をより良好に回復することが示唆される。
【0148】
まとめると、図10Aから図10Cまでのデータから、apoTfによって促進される神経形成が、対象におけるより良好な運動能及び認知力につながることが示唆される。
【0149】
配列
前文で言及された配列をfasta形式で以下に略述する。
【0150】
配列番号1: ヒトトランスフェリン[UniProt Q06AH7]タンパク質配列
【0151】
【化1】
【0152】
配列番号2: ヒトラクトフェリン[UniProt P02788]タンパク質配列
【0153】
【化2】
【0154】
配列番号3: Y188FトランスフェリンN-ローブ変異体タンパク質
【0155】
【化3】
【0156】
配列番号4: Y95F/Y188FトランスフェリンN-ローブ変異体タンパク質
【0157】
【化4】
【0158】
配列番号5: Y426F/Y517FトランスフェリンC-ローブ変異体タンパク質
【0159】
【化5】
【0160】
配列番号6: BDNF
【0161】
【化6】
【0162】
配列番号7: GDNF
【0163】
【化7】
【0164】
配列番号8: CNTF
【0165】
【化8】
【0166】
配列番号9: PACAP
【0167】
【化9】
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
【配列表】
2023532514000001.app
【国際調査報告】