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特表2023-532544生物学的製剤を精製するための洗浄剤及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】生物学的製剤を精製するための洗浄剤及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/04 20060101AFI20230721BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20230721BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230721BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20230721BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
C12N7/04
C12Q1/70
C12Q1/686 Z
C07K16/00
C12N7/02
C12P21/02 C
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581537
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 IB2021055819
(87)【国際公開番号】W WO2022003565
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】63/046,989
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ハンター,アラン
(72)【発明者】
【氏名】アスペルンド,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ガドレ,ダネッシュ
(72)【発明者】
【氏名】リンケ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】レズバニ,カミヤー
(72)【発明者】
【氏名】シー,グオリン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QQ13
4B063QQ17
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QS25
4B063QS38
4B063QX02
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD04
4B064CE11
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB36
4B065BD03
4B065BD25
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA43
4B065CA44
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA30
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA23
(57)【要約】
本明細書で提供されるのは、組換えにより製造された生物学的製剤の精製での使用のための環境適合性洗浄剤である。この環境適合性洗浄剤は、ラウレス-9を含み、ウイルス排除、細胞溶解、並びに宿主細胞のタンパク質及びエンドトキシン等の不純物の除去に使用され得る。有利なことに、ラウレス-9は、製品の品質に悪影響を及ぼさない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の生物学的製剤と、1種又は複数種の不純物とを含む混合物中の目的の組換え生物学的製剤を精製する方法であって、前記混合物と、ラウレス-9を含む溶液とを接触させること、及び前記混合物をインキュベートすることを含む方法。
【請求項2】
前記混合物は、エンベロープウイルスを含み、前記方法は、前記混合物と、ウイルス不活性化量のラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ラウレス-9を含む前記溶液は、界面活性剤を含まないコントロールと比較して約1log10、2log10、3log10、又は4log10超の対数減少値(LRV)をもたらす、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ラウレス-9を含む前記溶液は、Triton X-100を含まないコントロールと比較して約2log10、3log10、又は4log10超の対数減少値(LRV)をもたらす、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ラウレス-9を含む前記溶液は、ラウレス-9を含まないコントロールと比較して約2log10、3log10、又は4log10超の対数減少値(LRV)をもたらす、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
LRVを、定量PCR又は感染力アッセイにより決定する、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
LRVを、プラークアッセイにより決定する、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記エンベロープウイルスは、DNAウイルス又はRNAウイルスを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エンベロープウイルスは、一本鎖ウイルス又は二本鎖ウイルスを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エンベロープウイルスは、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、トガウイルス科(Togaviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、フラビウイルス科(Flaviviridae)、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)、アストロウイルス科(Astroviridae)、ボルナウイルス科(Bornaviridae)、アルテリウイルス科(Arteriviridae)、又はこれらの組合わせを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞を含む混合物と、細胞破壊量のラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記混合物を前記ラウレス-9溶液と共にインキュベートした後に、前記混合物中の前記細胞の少なくとも約75%、80%、85%、90%、又は95%が溶解している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記混合物を、少なくとも約1分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記混合物を、少なくとも約5分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物を、約1分~約120分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記混合物を、室温で、ラウレス-9と共にインキュベートする、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記混合物と、エンドトキシン除去量のラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項18】
エンドトキシン濃度は、約1EU/mg未満まで減少している、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記目的の組換え生物学的製剤を含む前記混合物をろ過する工程をさらに含む請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ろ過することを、前記混合物を、ラウレス-9を含む前記溶液と共にインキュベートする前に実施する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ろ過することを、前記混合物を、ラウレス-9を含む前記溶液と共にインキュベートした後に実施する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
ろ過することは、限外ろ過又は深層ろ過を含む、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
1つ又は複数のクロマトグラフィー工程をさらに含む請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
1つ又は複数のクロマトグラフィー工程は、前記目的の生物学的製剤を含む混合物を、クロマトグラフィー担体上にロードすること、及び前記クロマトグラフィー担体を、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
目的の生物学的製剤を精製する方法であって、
(a)前記目的の生物学的製剤と、1種又は複数種の不純物とを含む混合物を、クロマトグラフィー担体上にロードすること;
(b)前記クロマトグラフィー担体を、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄すること;
及び
(c)前記クロマトグラフィー担体から前記目的の生物学的製剤を溶出させて、前記目的の生物学的製剤を含む精製された溶出液を得ること
を含む方法。
【請求項27】
前記洗浄溶液は、宿主細胞タンパク質除去量のラウレス-9を含み、前記精製された溶出液は、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されなかったクロマトグラフィー担体からの溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量と比較して宿主細胞タンパク質含有量が減少している、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄された前記クロマトグラフィー担体からの前記精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、前記カラムに適用された前記混合物の宿主細胞含有量と比較して少なくとも約50%、45%、40%、35%、30%、又は25%減少した、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄された前記クロマトグラフィー担体からの前記精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、約2000ng/mg、1700ng/mg、1500ng/mg、1200ng/mg、1000ng/mg、500ng/mg、又は100ng/mg未満である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記洗浄溶液は、エンドトキシン除去量のラウレス-9を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記精製された溶出液は、エンドトキシン濃度が約1EU/mg未満である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記洗浄溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む、請求項26~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記目的の組換え生物学的製剤は、治療用巨大分子である、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記治療用巨大分子は、治療用ポリペプチド又は治療用ポリヌクレオチドである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記目的の組換え生物学的製剤は、酵素、可溶性受容体、成長因子、ホルモン、サイトカイン、抗体、抗原結合抗体断片、抗体-薬物コンジュゲート、融合ポリペプチド、又は非エンベロープウイルスである、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記目的の組換え生物学的製剤は、抗体又は抗原結合抗体断片である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記非エンベロープウイルスは、アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記目的の組換え生物学的製剤は、細胞により産生されている、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記目的の組換え生物学的製剤は、真核細胞により産生されている、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記目的の組換え生物学的製剤は、原核細胞により産生されている、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記目的の組換え生物学的製剤は、哺乳類細胞により産生されている、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記哺乳類細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、マウスハイブリドーマ細胞、又はマウス骨髄腫細胞を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
クロマトグラフィーは、親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、及び混合モードクロマトグラフィーの内の1つ又は複数を含む、請求項26~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
クロマトグラフィーは、親和性クロマトグラフィーを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
親和性クロマトグラフィーは、プロテインAクロマトグラフィー、プロテインGクロマトグラフィー、又はプロテインLクロマトグラフィーから選択される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
イオン交換クロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィー及びカチオン交換クロマトグラフィーから選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
生成物流をろ過する工程をさらに含む請求項26~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
ろ過することは、限外ろ過又は深層ろ過を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記目的の組換え生物学的製剤は、生物活性がコントロール組換え生物学的製剤の約25%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、又は1%以内である、請求項1~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記コントロール組換え生物学的製剤は、ラウレス-9と接触していない、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
組換え非エンベロープウイルスを製造する方法であって、
(a)非エンベロープウイルスのゲノムを含む宿主細胞を培養すること;
(b)前記宿主細胞と、ラウレス-9を含む溶液とを接触させること
を含む方法。
【請求項53】
前記宿主細胞を、約0.1%~約2%のラウレス-9を含む溶液と接触させる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記宿主細胞を、約1分~約120分にわたり、前記ラウレス-9を含む溶液と接触させる、請求項52又は53に記載の方法。
【請求項55】
前記非エンベロープウイルスを発現する宿主細胞を含む細胞ペーストを調製すること、及び前記細胞ペーストと、細胞溶解量のラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記非エンベロープウイルスは、アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項51~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記精製された非エンベロープウイルスは、物理的力価が約10log10vg/ml超である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記精製された非エンベロープウイルスは、感染力価が約8log10TCID50/mL超である、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
ウイルス感染力は、ラウレス-9を含む溶液と接触していないコントロールと比較して有意に減少していない、請求項51~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
目的の非エンベロープウイルスを精製する方法であって、
(a)前記非エンベロープウイルスを含む混合物を、クロマトグラフィー担体上にロードすること;
(b)前記クロマトグラフィー担体を、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄すること;
及び
(c)前記クロマトグラフィー担体から前記非エンベロープウイルスを溶出させて、前記非エンベロープウイルスを含む精製された溶出液を得ること
を含む方法。
【請求項61】
前記洗浄溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
目的の非エンベロープウイルスを精製する方法であって、
(a)前記非エンベロープウイルスを含む混合物と、ラウレス-9を含む溶液とを接触させること;
及び
(b)前記非エンベロープウイルスを含む混合物をろ過すること
を含む方法。
【請求項63】
ろ過することは、限外ろ過又は深層ろ過を含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
ろ過することを、前記混合物と前記ラウレス-9を含む溶液とを接触させる前に実施する、請求項62又は63に記載の方法。
【請求項65】
ろ過することを、前記混合物と前記ラウレス-9を含む溶液とを接触させた後に実施する、請求項62又は63に記載の方法。
【請求項66】
前記溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む、請求項62~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
目的の生物学的製剤を含むサンプル中の1種又は複数種のエンベロープウイルスを不活性化させる方法であって、
(a)前記目的の生物学的製剤を含むサンプルと、ラウレス-9を含む溶液とを接触させること;
及び
(b)前記サンプルを、約1分~約120分にわたり、前記ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートすること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で提供されるのは、生物学的治療薬の精製での使用のための環境適合性洗浄剤である。この環境適合性洗浄剤は、ウイルス排除、細胞溶解、並びに宿主細胞のタンパク質及びエンドトキシン等の不純物の除去に適しており、且つ製品の品質に悪影響を及ぼさない。
【背景技術】
【0002】
生物学的製剤(例えば、ポリペプチド、タンパク質、抗体、ポリヌクレオチド、及びウイルスベクター等の巨大分子治療薬)は、様々な疾患及び障害の処置のために医師が利用可能な治療薬として急速に成長している。生物学的製剤の成功の一つの理由は、多く低分子治療薬と比較して高い標的に対する特異性及び優れた安全性プロファイルである。
【0003】
生物学的製剤は、典型的には、細胞系統、細胞培養液、及び組織液又は体液等の生物材料を使用して製造されており、例えば、夾雑された細胞バンクに起因するウイルス夾雑(内因性夾雑)のリスクがあるか、又は製造中でのウイルス導入によるウイルス夾雑(外来性夾雑)のリスクがある。
【0004】
ウイルスは、DNA又はRNAを含み、一本鎖又は二本鎖であり、エンベロープ又は非エンベロープである。非エンベロープウイルスの感染単位であるバイロンは、カプシドタンパク質及び核酸(DNA又はRNA)を含む。エンベロープウイルスは、カプシドを包む脂質二重層を含み、この二重層は、ウイルスによりコードされた膜関連タンパク質を含む。
【0005】
生物学的製剤の製造プロセスは、典型的には、生成物流からウイルスを除去し、さらには宿主細胞のタンパク質及びエンドトキシン等の他の不純物を除去するための工程を含む。ウイルス排除プロセスは、物理的除去工程及び/又はウイルス不活性化工程を含み得る。物理的除去は、一般的には、ウイルスろ過又はカラムクロマトグラフィーにより達成される。ウイルス不活性化は、ウイルスの構造の不可逆的な破壊又は変性を引き起こすプロセスを指し、生成物流を溶媒又は洗浄剤と共にインキュベートすることにより達成され得るか、この生成物流を加熱することにより達成され得るか(低温殺菌)、又は低(酸性)pHへの曝露により達成され得る。精製プロセスは、ウイルス排除を高めるために、物理的除去プロセス及び化学的不活性化プロセスの両方を含むことが多い。
【0006】
外膜により包まれたウイルス(エンベロープウイルス)は、一般的には、溶媒/洗浄剤及び低pHへの曝露の影響を受けやすいが、外部タンパク質カプシドを有する非エンベロープウイルスは、生理化学的抵抗性がより高く、一般的には物理的除去が必要である。非特許文献1。
【0007】
Triton X-100は、ウイルス不活性化で有効であることから30年超にわたり市販の生物学的製剤の製造において製造業者により一般に使用されている非イオン性洗浄剤であり、典型的には、実験条件の様々なセット下において4log超のエンベロープウイルス不活性化を達成している。非特許文献1。しかしながら、近年の生態学的研究により、Triton X-100、及びTriton X-100の分解生成物であるオクチルフェノールは、水生生物中において内分泌かく乱化学物質としての挙動を示す可能性があることが示唆されており、環境影響の視点から懸念されている。非特許文献1。2012年に、欧州化学品庁(ECHA)は、Triton X-100を、化学物質の登録、評価、認可、及び制限(REACH)の規則の高懸念物質(SVHC)の候補リストに含めた。2019年に、ECHAは、Triton X-100を認可リスト(附属書XIV)に含め、2021年1月4日の「日没日」までに製造プロセスにおいてTriton X-100を置き換えることを命じた。
【0008】
特許文献1(環境に優しい洗浄剤を使用するウイルス不活性化方法(METHODS FOR VIRAL INACTIVATION USING ECO-FRIENDLY DETERGENTS))では、ウイルス不活性化のためのTriton X-100の代替としての、環境適合性洗浄剤であるTriton CG-110の使用が説明されている。
【0009】
特許文献2(N-メチルグルカミド及びその誘導体を使用するウイルスの不活性化方法(METHODS OF INACTIVATION OF VIRUSES USING N-METHYLGLUCAMIDE AND ITS DERIVATIVES))では、ウイルス不活性化のためのTriton X-100の代替としてのN-メチルグルカミドの使用が説明されている。
【0010】
ラウリルジメチルアミンN-オキシド(LDAO)は、エンベロープウイルス不活性化に関しても評価されている、Triton X-100に代わる環境に優しい双性イオン洗浄剤である。非特許文献1を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第10,611,795号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/055463号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Conley et al.(2017)“Evaluation of Eco-Friendly Zwitterionic Detergents for Enveloped Virus Inactivation,”Biotech.Bioeng.114(4):813-820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、環境に優しく且つ市販の生物学的製剤の製造中でのウイルス不活性化に有効な代替洗浄剤の必要性は、依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書で提供されるのは、目的の生物学的製剤の製造での使用のための環境適合性洗浄剤である。具体的には、組換えにより製造された生物学的製剤の精製での使用のための環境適合性洗浄剤が提供される。一態様では、この環境適合性洗浄剤を、ウイルス不活性化、細胞溶解、宿主細胞のタンパク質及びエンドトキシン等の不純物の除去、又はこれらの組合わせに使用する。一態様では、この環境適合性洗浄剤は、製品の品質に悪影響を及ぼさない。一態様では、この環境適合性洗浄剤として、ラウレス-9が挙げられる。
【0015】
一態様では、エンベロープウイルスを不活性化する方法が提供される。一態様では、目的の組換え生物学的製剤を含む混合物中でエンベロープウイルスを不活性化する方法が提供される。一態様では、この方法は、この混合物に、ウイルス不活性化量のラウレス-9を含む溶液を添加すること、及びこの混合物をインキュベートしてエンベロープウイルスを不活性化させることを含む。一態様では、ラウレス-9を含む溶液は、界面活性剤を含まないコントロールと比較して約1log10、2log10、3log10、又は4log10超の対数減少値(LRV)をもたらす。一態様では、ラウレス-9を含む溶液は、Triton X-100を含まないコントロールと比較して約1log10、2log10、3log10、又は4log10超の対数減少値(LRV)をもたらす。一態様では、ラウレス-9を含む溶液は、ラウレス-9を含まないコントロールと比較して約1log10、2log10、3log10、又は4log10超の対数減少値(LRV)をもたらす。一態様では、LRVを、定量PCR又は感染力アッセイにより決定する。一態様では、LRVを、プラークアッセイにより決定する。一態様では、この溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、この混合物を、少なくとも約1分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、少なくとも約5分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1分~約120分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、室温で、ラウレス-9と共にインキュベートする。
【0016】
一態様では、本エンベロープウイルスは、DNAウイルス又はRNAウイルスである。一態様では、このエンベロープウイルスは、一本鎖ウイルス又は二本鎖ウイルスである。一態様では、このエンベロープウイルスとして、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、トガウイルス科(Togaviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、フラビウイルス科(Flaviviridae)、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)、アストロウイルス科(Astroviridae)、ボルナウイルス科(Bornaviridae)、アルテリウイルス科(Arteriviridae)、又はこれらの組合わせが挙げられる。
【0017】
一態様では、細胞を溶解させる方法が提供される。一態様では、目的の組換え生物学的製剤を発現する細胞を溶解させる方法が提供される。一態様では、この方法は、この細胞を含む混合物と、細胞破壊量のラウレス-9を含む溶液とを接触させること、及びこの混合物をインキュベートして、この細胞を溶解させることを含む。一態様では、この混合物をこのラウレス-9溶液と共にインキュベートした後に、この混合物中のこの細胞の少なくとも約75%、80%、85%、90%、又は95%が溶解している。一態様では、この溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、この混合物を、少なくとも約1分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、少なくとも約5分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1分~約120分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、室温で、ラウレス-9と共にインキュベートする。
【0018】
一態様では、目的の生物学的製剤を含む混合物からエンドトキシンを除去する方法が提供される。一態様では、この方法は、目的の生物学的製剤を含む混合物と、エンドトキシン除去量のラウレス-9を含む溶液とを接触させること、及びこの混合物をインキュベートすることを含む。一態様では、エンドトキシン濃度は、約1EU/mg未満まで減少している。一態様では、この溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。
【0019】
一態様では、この方法は、目的の組換え生物学的製剤を含む混合物をろ過する工程を含む。一態様では、ろ過することを、エンベロープウイルスを、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする前に実施する。一態様では、ろ過することを、エンベロープウイルスを、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートした後に実施する。一態様では、ろ過することは、限外ろ過又は深層ろ過を含む。
【0020】
一態様では、この方法は、1つ又は複数のクロマトグラフィー工程を含む。一態様では、1つ又は複数のクロマトグラフィー工程は、目的の生物学的製剤を含む混合物を、クロマトグラフィー担体上にロードすること、及びこのクロマトグラフィー担体を、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄することを含む。一態様では、この洗浄溶液は、約0.1%~約2(w/v)ラウレス-9を含む。
【0021】
一態様では、目的の生物学的製剤を精製する方法が提供される。一態様では、この方法は、目的の生物学的製剤と、1種又は複数種の不純物とを含む混合物を、クロマトグラフィー担体上にロードすること;このクロマトグラフィー担体を、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄すること;及びこのクロマトグラフィー担体から目的の生物学的製剤を溶出させて、目的の生物学的製剤を含む精製された溶出液を得ることを含む。
【0022】
一態様では、洗浄溶液は、宿主細胞タンパク質除去量のラウレス-9を含む。一態様では、精製された溶出液は、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されなかったクロマトグラフィー担体からの溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量と比較して宿主細胞タンパク質含有量が減少している。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、カラムにアプライされた混合物の宿主細胞含有量と比較して少なくとも約50%、45%、40%、35%、30%、又は25%減少している。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、約2000ng HCP/mgタンパク質、1700ng/mg、1500ng/mg、1200ng/mg、1000ng/mg、500ng/mg、又は100ng/mg未満である。
【0023】
一態様では、この洗浄溶液は、エンドトキシン除去量のラウレス-9を含む。一態様では、精製された溶出液は、エンドトキシン濃度が約1EU/mg未満である。
【0024】
一態様では、この洗浄溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。
【0025】
一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、治療用巨大分子である。一態様では、この治療用巨大分子は、治療用ポリペプチド又は治療用ポリヌクレオチドである。一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、酵素、可溶性受容体、成長因子、ホルモン、サイトカイン、抗体、抗原結合抗体断片、抗体-薬物コンジュゲート、融合ポリペプチド、又は非エンベロープウイルスである。一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、抗体又は抗原結合抗体断片である。一態様では、この抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である。一態様では、この非エンベロープウイルスは、アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0026】
一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、細胞により産生されている。一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、真核細胞により産生されている。一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、原核細胞により産生されている。一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、哺乳類細胞により産生されている。一態様では、この哺乳類細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、マウスハイブリドーマ細胞、又はマウス骨髄腫細胞である。
【0027】
一態様では、クロマトグラフィーは、親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、及び混合モードクロマトグラフィーの内の1つ又は複数から選択される。一態様では、クロマトグラフィーとして、親和性クロマトグラフィーが挙げられる。一態様では、親和性クロマトグラフィーは、プロテインAクロマトグラフィー工程、プロテインGクロマトグラフィー工程、プロテインLクロマトグラフィー工程、又はラクダ抗体リガンド(VH)親和性クロマトグラフィー工程から選択される。一態様では、イオン交換クロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィー及びカチオン交換クロマトグラフィーから選択される。
【0028】
一態様では、この方法は、生成物流をろ過する工程を含む。一態様では、ろ過することは、限外ろ過又は深層ろ過を含む。
【0029】
一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、生物活性がコントロール組換え生物学的製剤の約25%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、又は1%以内である。一態様では、このコントロール組換え生物学的製剤は、ラウレス-9と接触していない。
【0030】
一態様では、組換え非エンベロープウイルスを製造する方法が提供される。一態様では、この方法は、非エンベロープウイルスのゲノムを含む宿主細胞を培養すること;及びこの宿主細胞と、ラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む。一態様では、この宿主細胞を、約0.1%~約2%ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、この宿主細胞を、約1分~約120分にわたり、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、この方法は、非エンベロープウイルスを発現する宿主細胞の細胞ペーストを調製すること、及びこの細胞ペーストと、細胞溶解量のラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む。一態様では、この非エンベロープウイルスは、アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。一態様では、精製された非エンベロープウイルスは、物理的力価が約10log10vg/ml超である。一態様では、精製された非エンベロープウイルスは、感染力価が約8log10TCID50/mL超である。一態様では、ウイルス感染力は、ラウレス-9を含む溶液と接触していないコントロールと比較して有意に減少していない。
【0031】
一態様では、組換え非エンベロープウイルスを製造する方法が提供される。一態様では、この方法は、この非エンベロープウイルスを含む混合物を、クロマトグラフィー担体上にロードする工程;このクロマトグラフィー担体を、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄する工程;及びこのクロマトグラフィー担体からこの非エンベロープウイルスを溶出させて、この非エンベロープウイルスを含む精製された溶出液を得る工程を含む。一態様では、この洗浄溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。
【0032】
一態様では、非エンベロープウイルスを精製する方法が提供される。一態様では、この方法は、この非エンベロープウイルスを含む混合物と、ラウレス-9を含む溶液とを接触させること、及びこの混合物をろ過することを含む。一態様では、ろ過することを、この混合物とラウレス-9を含む溶液とを接触させる前に実施する。一態様では、ろ過することを、この混合物とラウレス-9を含む溶液とを接触させた後に実施する。一態様では、ろ過することは、限外ろ過又は深層ろ過を含む。一態様では、この溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】Brij L9(ラウレス-9、Croda International Plc.,East Yorkshire,United Kingdomから入手した)、Polidocanol 600(ラウレス-9、Schaerer & Schlaepfer AG,Rothrist,Switzerlandから入手した)、Myrj S25、又はBrij S20の1%界面活性剤溶液で得られたLog10ウイルス減少を示す。
図2】様な供給源からのラウレス-9の様々な量を使用して2種の抗体サンプル(BisAb及びBisFusion)に関して得られたLog10ウイルス減少を示す。BisAbを、Brij L9(ラウレス-9、Croda International Plc.,East Yorkshire,United Kingdomから入手した)の1%溶液で処置したか、又はPolidocanol 600(ラウレス-9、Schaerer & Schlaepfer AG,Rothrist,Switzerlandから入手した)の1%溶液で処置した。BisFusionを、Brij L9(Croda International Plcから入手したラウレス-9)の1%溶液又は0.1%溶液で処置した。1分で、全てのサンプルにおいて4Log10超の不活性化を観察した。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書で提供されるのは、環境適合性洗浄剤を使用して生物学的製剤を精製する方法である。
【0035】
定義
全体として、本明細書で説明されている細胞及び組織の培養、分子生物学、並びにタンパク質及びオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド化学、並びにハイブリダイゼーションとの関連で使用される命名法、及びこれらの技術は、当該技術分野で公知であり且つ一般に使用されるものである。本明細書では、アミノ酸は、一般に既知の3文字記号又はIUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)により推奨されている1文字記号のいずれかにより言及され得る。ヌクレオチドは、同様に、一般に受け入れられている1文字コードで言及され得る。
【0036】
本明細書で使用される場合、「a」又は「an」(1つの)は、1つ又は複数を意味し得る。本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「含む(comprising)」という単語と同時に使用される際には、「a」又は「an」という単語は、1つ又は複数を意味し得る。本明細書で使用される場合、「別の」又は「さらなる」は、少なくとも第2のもの以上を意味し得る。
【0037】
本明細書全体を通して、「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために用いられている方法/装置に関する誤差の固有の変動、又は試験対象間で存在する変動を含むことを示すために使用される。典型的には、この用語は、状況に応じて、およそ又は1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、又は20%未満の変動性を包含することを意味する。
【0038】
特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、代替物のみを指すと明示されない限り、又はこの代替物が相互に排他的でない限り、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物のみ及び「及び/又は」を指す定義を支持する。
【0039】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「含む(comprising)」(及び含む(comprising)の任意の形態、例えば、「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」)、「有する(having)」(及び有する(having)の任意の形態、例えば、「有する(have)」及び「有する(has)」)、「例として(including)」(及び例として(including)の任意の形態、例えば、「挙げられる(includes)」及び「挙げられる(include)」)、又は「含む(containing)」(及び含む(containing)の任意の形態、例えば、「含む(contains)」及び「含む(contain)」)という単語は、包含的であるか又はオープンエンドであり、追加の引用されていない要素も方法の工程も排除するものではない。本明細書で考察される任意の実施形態は、本開示の任意の方法、系、宿主細胞、発現ベクター、及び/又は組成物に関して実行され得ることが企図されている。さらに、本開示の組成物、系、宿主細胞、及び/又はベクターを使用して、本開示の方法及びタンパク質を得ることができる。
【0040】
「例えば」という用語及びその対応する略語「e.g.(イタリックかそうでないかを問わない)」の使用は、引用される規定の用語が、別途明示されない限り、参照されるか又は引用される具体例に限定されることを意図していない本開示の代表的な例及び実施形態であることを意味する。
【0041】
「洗浄剤」という用語は、親水性(極性)の頭部基と、疎水性(非極性)の尾部基とを持つ両親媒性分子を指す。洗浄剤の両親媒性構造により、この洗浄剤が、水溶液中においてタンパク質又はエンベロープウイルス等の他の分子と相互作用することが可能となる。洗浄剤は、様々な目的で生物学的製剤の製造プロセスに含まれ得、例えば、可溶化剤として;安定化剤として、例えば、生体分子の凝集を防止するための安定化剤として;ウイルスの不活性化のために;不純物(例えば、宿主細胞のタンパク質若しくはエンドトキシン)の除去のために;又はこれらの組合わせで生物学的製剤の製造プロセスに含まれ得る。洗浄剤は、電荷に応じて、3群に分類され得る。アニオン性洗浄剤は、負に帯電した親水性基を含む。カチオン性洗浄剤は、正に帯電した親水性基を含む。非イオン性洗浄剤は、正電荷も負電荷も有しない。有利なことに、非イオン性洗浄剤は、生体分子の構造及び活性の保持に役立つ。両性界面活性剤とも呼ばれる双性イオン界面活性剤は、正電荷及び負電荷の両方を持っており、これらの電荷は、永久的であり得るか、又はpHに依存し得る。
【0042】
臨界ミセル濃度(CMC)は、濃度であって、この濃度以上で洗浄剤がミセルを形成する、濃度を指す。CMC未満では、界面活性剤の濃度の上昇に伴い表面張力が低下する。CMC超では、系に追加される更なる洗浄剤は、ミセルを形成する。
【0043】
「界面活性剤(surfactant)」又は「界面活性剤(surface active agent)」といいう用語は、疎水性基と親水性基との両方を含み且つ有機溶媒と水性溶媒との両方で半可溶性である化合物を指す。界面活性剤は、非イオン性であり得るか、カチオン性であり得るか、アニオン性であり得るか、又は双性イオン性であり得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「環境適合性」は、自然環境への負荷又は影響が低い物質を指す。一態様では、「環境適合性」は、環境保全に関する規制ガイドライン又は規制基準に適合している物質を指す。一態様では、「環境適合性」物質は、内分泌かく乱化学物質としての挙動を示さない。
【0045】
「生物活性剤」という用語は、治療的使用、予防的使用、又は診断的使用に適したあらゆる物質を指し得、「治療薬」という用語と互換的に使用され得る。生物活性剤は、活性物質が生物学的起源から得られる「生物学的」製品を含み得る。生物学的製剤の例として、巨大分子が挙げられ、例えば、治療用のポリヌクレオチド又はポリペプチドが挙げられる。生物学的製剤の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:タンパク質及びホルモン、モノクローナル抗体(mAb)、サイトカイン、成長因子、遺伝子治療製品、ウイルスベクター、ワクチン、並びに遺伝子サイレンシング/編集療法。生物活性剤として、天然に存在しているか又は組換えにより製造された巨大分子が挙げられるが、これに限定されない。一態様では、生物活性剤は、治療的に、科学的に、又は商業的に興味深いものである。
【0046】
「細胞培養」という用語は、多細胞生物又は組織の外での宿主細胞の成長及び増殖を指し、懸濁液中の及び/又は固体基材に付着した宿主細胞を培養することを含む。宿主細胞を、小規模培養(例えば実験室環境)又は大規模培養(例えば商業規模のバイオリアクタ中)で培養し得る。細胞培養は、連続式培養システム、バッチ式培養システム、及びフェドバッチ式培養システムを含み得る。宿主細胞を、例えば、マイクロ担体を用いて又は用いずに、流動床バイオリアクタ、中空繊維バイオリアクタ、ローラーボトル、振盪フラスコ、又は撹拌タンクバイオリアクタで培養し得、且つバッチモード、フェドバッチモード、連続モード、半連続モード、又は灌流モードで操作し得る。
【0047】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために互換的に使用される。このポリマーは、直鎖であってもよいし分岐鎖であってもよく、且つ修飾アミノ酸、非天然アミノ酸を含み得るか、又は非アミノ酸により中断され得る。一態様では、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、抗体又は抗原結合抗体断片を指す。
【0048】
「ポリヌクレオチド」という用語は、リボ核酸のポリマー、デオキシリボ核酸のポリマー(DNA)、又はDNA/RNAハイブリッドポリマーを指す。ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であり得、且つDNA又はRNAのセンス又はアンチセンスのポリヌクレオチド配列を含み得る。DNA分子又はRNA分子として、相補的DNA(cDNA)、ゲノムDNA、合成DNA、若しくはこれらのハイブリッド、又は非翻訳領域及び翻訳領域を含むRNA分子(例えばmRNA)が挙げられ得る。一態様では、ポリヌクレオチドは、非標準ヌクレオチド(例えば、イノシン、チオウリジン、若しくはプソイドウリジン)、又は化学修飾ヌクレオチドを含む。
【0049】
「単離された」ポリペプチド、タンパク質、ペプチド、又はポリヌクレオチドは、その天然環境から取り出されている分子である。一態様では、「単離されたポリペプチド」は、このポリペプチドが発現された細胞又は細胞培養物から回収されている。「単離された」ポリペプチド、タンパク質、ペプチド、又はポリヌクレオチドは、賦形剤(例えば、希釈剤又はアジュバント)と配合され得、依然として単離されているとみなされることを理解しなければならない。
【0050】
「精製された」ポリペプチド、タンパク質、ペプチド、又はポリヌクレオチドは、その天然環境中と比べて純粋であるように、及び/又は最初に産生されたか、合成されたか、若しくは増幅された場合と比べて純粋であるように、純度が高くなっている分子である。純度は、相対的な用語であり、必ずしも絶対的な純度を必要とするものではない。
【0051】
「生成物流」は、製造プロセス又は精製プロセスの最中における目的の生物学的製剤分子を含む材料又は溶液を指す。生成物流の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:細胞培養培地、回収された細胞培養液(HCCF)、又は集められた、1つ若しくは複数の精製プロセス工程後の生物学的製剤を含むプール。
【0052】
一態様では、生成物流は、1種又は複数種の不純物を含む。「不純物」は、生成物流中に存在する、所望の生物学的製剤ではない物質を指す。一態様では、生成物流は、1種又は複数種のプロセス関連不純物を含み、この不純物として下記が挙げられるが、これらに限定されない:宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、ウイルス夾雑物、エンドトキシン、樹脂及びフィルタからの抽出物、並びに浸出したプロテインA。ウイルス夾雑物として、ウイルス断片、ウイルス核酸、及び外来性ウイルス又は内在性ウイルスが挙げられ得る。一態様では、生成物関連不純物として下記が挙げられるが、これらに限定されない:サイズバリアント、例えば、凝集体若しくは断片;電荷バリアント;グリコシル化バリアント;又は酸化、脱アミド化、若しくは変性に起因するバリアント。
【0053】
「組換え」という用語は、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に関して使用される場合には、天然に存在することが既知でない物質の組合わせ、又はこの組合わせから生じていることを意味する。組換え分子を、組換え技術の分野において利用可能な公知技術のいずれかにより製造し得、この技術として下記が挙げられるが、これらに限定されない:ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、遺伝子スプライシング(例えば、制限エンドヌクレアーゼを使用する遺伝子スプライシング)、及び核酸分子、ペプチド、又はタンパク質の固相合成。「組換えにより発現された」という用語は、組換えプラスミド又はベクター等の外来性ポリヌクレオチドの導入により遺伝子改変されているか又は遺伝子改変され得る「組換え宿主細胞」中で目的のタンパク質が発現されていることを指す。そのような用語は、特定の対象細胞だけでなくそのような細胞の子孫を指すことが意図されていることを理解すべきである。変異又は環境の影響のいずれかに起因して後代にある特定の変異が生じる場合があることから、そのような子孫は、実際には親細胞と同一ではない場合があるが、本明細書で使用される「組換え宿主細胞」とう用語の範囲に依然として含まれる。
【0054】
「ウイルス排除」は、混合物(例えば、目的の生物学的製剤を含む生成物流)からのウイルスの除去又は不活性化を指す。ウイルス除去は、サンプル中におけるウイルス粒子の数の減少を指し、親和性クロマトグラフィー又はろ過等の方法により達成され得る。「ウイルス不活性化」は、ある組成物に含まれるウイルスを非機能性にするプロセスを指す。ウイルス不活性化の方法は既知であり、例えば、熱活性化、pH不活性化、及び例えば界面活性剤を使用する化学的不活性化が挙げられる。
【0055】
「Log10減少値」又は「LRV」は、出発物質でのウイルス力価と関連の生成物画分でのウイルス力価との間の算出された比を指す。LRVを使用して、プロセス工程のウイルスを除去するか又は不活性化する能力を説明し得る。LRVを、マウス白血病ウイルス(MuLV)又はマウス微小ウイルス(MVM)等の既知のモデルウイルスを使用して決定し得、定量PCR(qPCR)により又は感染力アッセイを使用して算出し得る。
【0056】
「生物活性」という用語は、分子の機能を指し、生物学的機能、生物化学的機能、物理的機能、及び化学的機能を包含し得る。生物活性の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:酵素活性;別の分子と相互作用するか又は結合する能力;別の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化させるか、阻害するか、抑制するか、又は不安定化させる能力;及び細胞中の特定の位置に局在化する能力。本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチド(例えば遺伝子)又はそれに関連するポリペプチドに関する「生物学的機能」は、このポリヌクレオチド、遺伝子、又はポリペプチドが生体内で有し得る特定の機能を指し得る。例として、特定のタンパク質の産生、酵素活性、抵抗性の付与、及び同類のものが挙げられるが、これらに限定されない。生物活性を、当該技術分野で既知の技術を使用して測定し得る。生物活性を、特定の生物学的製剤に関する活性を示すインビトロ、インビボ、及び/又はインサイチュでのアッセイを使用して評価し得る。
【0057】
ろ過は、懸濁液中の粒子を、この液体をフィルタの細孔に通すことにより、この液体から分離するプロセスを指す。フィルタを通過した液体は、ろ液と称される。保持液は、フィルタにより保持される部分である。
【0058】
概要
本明細書で提供されるのは、生物学的製剤の製造での使用のための環境適合性洗浄剤である。一態様では、生物学的製剤は、組換えにより製造されている。この環境適合性洗浄剤を、製造プロセス中の任意の工程で使用し得る。一態様では、環境適合性洗浄剤を、下流の精製プロセス中に使用する。一態様では、環境適合性洗浄剤を、目的の生物学的製剤の精製プロセス中に使用する。一態様では、ウイルス排除、細胞溶解、並びに不純物(宿主細胞のタンパク質及びエンドトキシン)の除去のための環境適合性洗浄剤が提供される。一態様では、環境適合性洗浄剤は、製品の品質に悪影響を及ぼさない。
【0059】
有利なことに、本環境適合性洗浄剤との接触後に、本生物学的製剤の製品品質は維持される。一態様では、生物学的製剤の生物活性は、コントロール生物学的製剤(例えば、界面活性剤と接触していないコントロール生物学的製剤)の活性の約25%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、又は1%以内である。一態様では、生物学的製剤の生物活性は、コントロール生物学的製剤(例えば、Triton X-100と接触していないコントロール生物学的製剤)の活性の約25%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、又は1%以内である。一態様では、生物学的製剤の生物活性は、コントロール生物学的製剤(例えば、ラウレス-9と接触していないコントロール生物学的製剤)の生物活性の約25%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、又は1%以内である。生物学的製剤の生物活性を決定する方法は既知であり、例えば、特定の生物学的製剤の活性を示すインビトロ、インビボ、及び/又はインサイチュのアッセイが挙げられる。
【0060】
Triton X-100に代わる非イオン性洗浄剤を、親水性-親油性バランス(HLB)、水溶性、ウイルス不活性化速度論、アベイラビリティ、安全性、及び環境適合性に基づいて評価した。驚くべきことに、環境適合性の非イオン性界面活性剤であるラウレス-9は、ラウレス-9と構造的に関連しているがポリオキシエチレン鎖がより長い界面活性剤であるBrij 35(ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル)はウイルス不活性化に有効ではないと結論付けたConley et al.(2017)“Evaluation of eco-friendly zwitterionic Detergents for Enveloped Virus Inactivation”Biotech.and Bioeng.114(4):813-820の発見とは対照的に、ウイルス不活性化、細胞溶解、宿主細胞タンパク質(HCP)排除、及びエンドトキシン排除に関してTriton X-100と同等のプロセス性能及び製品品質を示した。
【0061】
ラウレス-9
一態様では、生物学的製剤の精製での使用のための環境適合性洗浄剤が提供される。一態様では、生物学的製剤は、組換えにより製造されている。一態様では、環境適合性洗浄剤は、ラウレス-9を含む。
【0062】
ラウレス-9(CAS番号:3055-99-0;9002-92-0;68439-50-9)は、非イオン性洗浄剤(HLB値 約13.3)であり、化学式がC306210(その重合性に起因して、平均的な経験式を示す)であり;平均分子量が580g/molであり;及びIUPAC化学名が3,6,9,12,15,18,21,24,27-ノナオキサノナトリアコンタン-1-オールである。下記の式1は、ラウレス-9の典型的な構造を示す。
【化1】
【0063】
ラウレス-9は、アルコールとエチレンオキシドとの反応により製造され得、この反応により、典型的には、エチレンオキシド単位の数が異なるエトキシレートの混合物が生成される。ラウレス-9は、12~14個の炭素原子の平均アルキル鎖(C12~14)と、9個のエチレンオキシド単位の平均エチレンオキシド鎖(EO)とを有する。
【0064】
ラウレス-9はまた、下記とも称される:Brij L9;ポリドカノール600;ポリドカノール;ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル;ポリエチレングリコール450ラウリルエーテル;PEG-9ラウリルエーテル;ノナオキシエチレンモノドデシルエーテル;ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル;ノナエチレングリコールモノラウリルエーテル;ラウロマクロゴール400;マクロゴール9ラウリルエーテル;ポリオキシル9ラウリルエーテル;Aエトキシ-スクレロール(Aethoxy-sklerol);ポリオキシル9ラウリルエーテル;及びマクロゴールラウリルエーテル9。
【0065】
一態様では、ラウレス-9を含む溶液が提供される。一態様では、この溶液は、ラウレス-9、溶媒、及びキレート剤又は保存料等の1種又は複数種の他の薬剤を含む。一態様では、ラウレス-9、及び1種又は複数種の追加の洗浄剤を含む溶液が提供される。一態様では、この溶液は、Triton X-100を含まない。一態様では、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む溶液が提供される。一態様では、この溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。
【0066】
ウイルス不活性化
ウイルス排除は、下流の精製プロセスの一つの目標である。ウイルス排除の方法として、ウイルス粒子の物理的除去、及びウイルス不活性化が挙げられる。ウイルス粒子の除去方法として、ろ過が挙げられ、このろ過により、エンベロープウイルス及び非エンベロープウイルスの両方が除去され得る。ウイルス不活性化の方法として、加熱(低温殺菌)、低pH不活性化、及び/又は洗浄剤処理が挙げられる。一態様では、1種又は複数種のウイルス不活性化方法を使用して、目的の生物学的製剤を含む生成物流中のエンベロープウイルスのレベルを低下させる。
【0067】
一態様では、ウイルス不活性化の方法が提供される。一態様では、エンベロープウイルスを不活性化する方法が提供される。一態様では、ウイルス不活性化を、目的の生物学的製剤を含む混合物中で実施する。一態様では、目的の生物学的製剤の製造中にエンベロープウイルスを不活性化する方法が提供される。一態様では、この混合物として、目的の生物学的製剤の精製プロセスからの生成物流が挙げられる。一態様では、この生成物流として、細胞培養培地、回収された細胞培養液(HCCF)、捕捉プール(capture pool)、フロースループール、又はろ液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
エンベロープウイルスは、典型的には宿主の細胞膜の一部に由来する外被を含むウイルスであるが、この外被はまた、いくつかのウイルス糖タンパク質も含む。この外被の表面上の糖タンパク質は、宿主の細胞膜上の受容体部位に結合することにより、このウイルスの宿主細胞への侵入を助ける。このウイルスは、このウイルスの外被と宿主の細胞膜との融合により、宿主細胞に感染する。ウイルスの脂質二重層の外被は、洗浄剤に対して比較的敏感である。一態様では、ウイルスの外被に損傷を与えることにより(例えば、ウイルスの外被を溶解させることにより)エンベロープウイルスを不活性化させる環境適合性洗浄剤が提供される。
【0069】
エンベロープウイルスとして、DNAウイルス及びRNAウイルスが挙げられ、このエンベロープウイルスは、一本鎖又は二本鎖であり得る。エンベロープウイルスの例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、例えば、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、及びエプスタイン・バーウイルス;ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、例えばB型肝炎ウイルス;トガウイルス科(Togaviridae)、例えば風疹ウイルス;アレナウイルス科(Arenaviridae)、例えばリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス;フラビウイルス科(Flaviviridae)、例えば、デングウイルス、C型肝炎ウイルス、及び黄熱ウイルス;オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、例えば、インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、インフルエンザウイルスC、イサウイルス、及びソゴトウイルス;パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、例えば、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、呼吸器合抱体ウイルス、牛疫ウイルス、及びイヌジステンパーウイルス;ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、例えば、カリフォルニア脳炎ウイルス及びハンタウイルス;フィロウイルス科(Filoviridae)、例えば、エボラウイルス及びマールブルグウイルス;コロナウイルス科(Coronaviridae)、例えばコロナウイルス;アストロウイルス科(Astroviridae)、例えばアストロウイルス;ボルナウイルス科(Bornaviridae)、例えばボルナ病ウイルス;並びにアルテリウイルス科(Arteriviridae)、例えば、アルテリウイルス及びウマ動脈炎ウイルス。
【0070】
一態様では、エンベロープウイルスを、目的の生物学的製剤を含む混合物を環境適合性洗浄剤と共にインキュベートすることにより不活性化させる。一態様では、環境適合性洗浄剤は、ラウレス-9を含む。一態様では、環境適合性洗浄剤は、ウイルス不活性化量のラウレス-9を含む。環境適合性洗浄剤に関する「ウイルス不活性化量」は、エンベロープウイルスの周囲のタンパク質外被を形成する膜タンパク質の少なくとも一部を可溶化して、このウイルスの溶解をもたらすのに有効な洗浄剤の量(例えば、濃度、体積、又は重量比)を指す。一態様では、「ウイルス不活性化量」は、目的の生物学的製剤に悪影響を及ぼすことなくウイルスのタンパク質外被に損傷を与える及び/又は溶解させる洗浄剤の量を指す。一態様では、目的の生物学的製剤を含む混合物を、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、この溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、この混合物を、約1分~約120分にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、少なくとも約1、2、3、4、5、10、15、20、25、又は30分及び最高約60、90、又は120分にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、最高約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、24時間、又は48時間にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、60、90、又は120分にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、24時間、又は48時間にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、少なくとも約5分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約4℃~約42℃の温度で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約4℃~約25℃の温度で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、室温(例えば、約20℃~約25℃の温度)で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約pH4.5~約pH8.5のpHで、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、この混合物を、約4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8、又は8.5のpHで、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。
【0071】
一態様では、ウイルス不活性化は、対数減少値(LRV)で表される。一態様では、対数減少値は、LRV=log10×(ラウレス-9による処理後の生成物流中における総ウイルス/ラウレス-9による処理前の生成物流中における総ウイルス)として算出され得る。一態様では、本洗浄剤溶液により得られる対数減少値(LRV)は、約1log10超である。一態様では、LRVは、界面活性剤と共にインキュベートされていないコントロールと比較して約1log10、2log10、3log10、又は4log10超である。一態様では、LRVは、Triton X-100を含む界面活性剤とインキュベートされていないコントロールと比較して約1log10、2log10、3log10、又は4log10超である。一態様では、LRVは、ラウレス-9を含む界面活性剤とインキュベートされていないコントロールと比較して約1log10、2log10、3log10、又は4log10超である。LRVを決定する方法は既知であり、例えば、定量PCR又は感染力アッセイが挙げられる。一態様では、LRVは、プラークアッセイにより決定される。一態様では、サンプルに、X-MuLV等の試験用ウイルスを添加し、このサンプルをインキュベートし、例えばプラークアッセイを使用してウイルス不活性化を決定することにより、ウイルス不活性化を決定し得る。
【0072】
一態様では、この方法は、目的の生物学的製剤を含む混合物をろ過する工程を含む。一態様では、ろ過することを、エンベロープウイルスを、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする前に実施する。一態様では、ろ過することを、エンベロープウイルスを、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートした後に実施する。一態様では、ろ過することは、限外ろ過を含む。一態様では、ろ過することは、深層ろ過を含む。
【0073】
ラウレス-9等の洗浄剤を使用するウイルス不活性化を、製造プロセス中の任意の工程で実施し得る。一態様では、ウイルス不活性化は、生物学的製剤の精製プロセスからの生成物流と、ラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む。一態様では、細胞培養培地を、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、回収された細胞培養培地を、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、目的の生物学的製剤を含む、クロマトグラフィー樹脂からの捕捉プールを、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、目的の生物学的製剤を含む、クロマトグラフィー樹脂からのフロースループールを、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、目的の生物学的製剤を含むろ液を、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、目的の生物学的製剤を含む保持液を、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。
【0074】
細胞培養
一態様では、生物学的製剤は、細胞培養で製造されている。一態様では、生物学的製剤は、宿主細胞に対して内在性である遺伝子から発現されている。一態様では、生物学的製剤は、例えば遺伝子操作により宿主細胞に導入されている遺伝子から発現されている。一態様では、生物学的製剤は、天然に存在しているものであり得る。一態様では、生物学的製剤は、組換えにより製造され得るか又は操作され得る。一態様では、生物学的製剤は、個々に天然に存在しているセグメントから構築されている。一態様では、生物学的製剤は、天然に存在していない1つ又は複数のセグメントを含む。
【0075】
一態様では、生物学的製剤は、付着細胞培養で製造されている。一態様では、生物学的製剤は、浮遊細胞培養で製造されている。一態様では、生物学的製剤は、原核細胞中で産生されている。一態様では、この原核細胞として、大腸菌(Escherichia coli)が挙げられる。一態様では、生物学的製剤は、真核細胞中で産生されている。一態様では、生物学的製剤は、動物細胞中で産生されている。一態様では、生物学的製剤は、酵母細胞中で産生されている。一態様では、この酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、及びヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から選択される。一態様では、生物学的製剤は、昆虫細胞中で産生されている。一態様では、この昆虫細胞は、スポドプテラ・フルギペルダ(spodoptera frugiperda)(Sf9)昆虫細胞である。一態様では、生物学的製剤は、哺乳類細胞中で産生されている。一態様では、この哺乳類細胞は、下記から選択される:ヒト網膜芽細胞(PER.C6);ヒト胚性腎細胞(HEK-293);ベビーハムスター腎細胞(BHK);チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO);マウスセルトリ細胞(TM4);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頸癌細胞(HeLa);イヌ腎細胞(MDCK);バッファローラット肝細胞(BRL);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);マウス乳房腫瘍細胞(MMT);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44-68(1982));MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒト肝細胞腫系統(Hep G2)。一態様では、哺乳類細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。一態様では、細胞は、ハイブリドーマ細胞である。
【0076】
一態様では、生物学的製剤は、細胞培養培地中に分泌されている。一態様では、生物学的製剤は、宿主細胞の細胞質中で発現されている。一態様では、生物学的製剤は、宿主細胞膜中で発現されている。一態様では、宿主細胞が溶解して生物学的製剤が放出されている。一態様では、細胞培養培地を、例えば遠心分離により清澄化して細胞及び細胞残屑を除去し、清澄化された細胞培養培地が形成されている。一態様では、細胞培養培地を、例えば1つ若しくは複数のクロマトグラフィー工程、1つ若しくは複数のろ過工程、又はこれらの組合わせを使用して精製する。
【0077】
細胞溶解
一態様では、宿主細胞を溶解させる方法が提供される。一態様では、宿主細胞は、細胞培養中に存在している。一態様では、宿主細胞は、細胞スラリー中に存在している。一態様では、宿主細胞を、この細胞と、非イオン性界面活性剤とを接触させることにより溶解させる。一態様では、宿主細胞を、この細胞と、ラウレス-9とを接触させることにより溶解させる。一態様では、宿主細胞を、この細胞と、ラウレス-9を含む溶液とを接触させることにより溶解させる。一態様では、宿主細胞を、この細胞を含む混合物と、ラウレス-9の細胞破壊量とを接触させることにより溶解させる。環境適合性洗浄剤に関する「細胞破壊量」は、細胞膜を破裂させて細胞内容物の少なくとも一部又は全てを放出させるのに有効な洗浄剤の量(例えば、濃度、体積、又は重量比)を指す。一態様では、「細胞破壊量」は、目的の生物学的製剤に悪影響を及ぼすことなく細胞膜を破壊して細胞内容物の全て又は一部を放出させる洗浄剤の量を指す。
【0078】
一態様では、宿主細胞を、この細胞を含む混合物と、約0.1%~約2%ラウレス-9を含む溶液とを接触させることにより溶解させる。一態様では、この宿主細胞を、この細胞を含む混合物と、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む溶液とを接触させることにより溶解させる。一態様では、この宿主細胞を、この細胞を含む混合物と、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む溶液とを接触させることにより溶解させる。一態様では、この細胞を含む混合物を、約1分~約120分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、少なくとも約1、2、3、4、5、10、15、20、25、又は30分及び最高約60、90、又は120分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、最高約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、24時間、又は48時間にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、60、90、又は120分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、24時間、又は48時間にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、少なくとも約5分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約4℃~約42℃の温度で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約4℃~約25℃の温度で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、室温(例えば、約20℃~約25℃の温度)で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約pH4.5~約pH8.5のpHで、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、この混合物を、約4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、又は8.5のpHで、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、この混合物をラウレス-9溶液と共にインキュベートした後に、この混合物中のこの細胞の少なくとも約75%、80%、85%、90%、又は95%が溶解している。一態様では、この混合物をこのラウレス-9溶液と共にインキュベートした後に、この混合物中のこの細胞の少なくとも約80%が溶解している。
【0079】
エンドトキシン除去
一態様では、目的の生物学的製剤を含む混合物からエンドトキシンを除去する方法が提供される。一態様では、この混合物として、目的の生物学的製剤を含む生成物流が挙げられる。一態様では、この方法は、この混合物と、環境適合性洗浄剤のエンドトキシン除去量とを接触させることを含む。一態様では、この方法は、生成物流と、環境適合性洗浄剤のエンドトキシン除去量とを接触させることを含む。一態様では、この方法は、生成物流と、ラウレス-9を含む溶液のエンドトキシン除去量とを接触させることを含む。
【0080】
エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞膜に由来するリポ多糖(LPS)であり、組換えにより製造された生物学的製剤調製物中で見出される可能性がある夾雑物である。生物学的製剤調製物中での少量のエンドトキシンの存在により、エンドトキシンショック、組織損傷、及び死亡等の副作用を生じる全身性炎症反応が引き起こされる可能性がある。エンドトキシン夾雑は、大腸菌(Escherichia coli)等のグラム陰性菌を使用して製造されている生物学的製剤に関連して見出されており、例えば非殺菌プロセス条件により、製造プロセス中に導入される可能性がある。エンドトキシン除去のために多くの精製方法が開発されており、例えば下記が挙げられる:親和性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、膜限外ろ過、膜精密ろ過、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイト、疎水性相互作用、逆相、及びチオフィリック吸着(thiophilic adsorption)。エンドトキシン除去の他の方法として、精密ろ過及び限外ろ過が挙げられる。エンドトキシンは、生体分子(例えば、生物学的治療用タンパク質等の生物学的製剤)と相互作用するという重要な能力を示す。
【0081】
一態様では、環境適合性洗浄剤に関する「エンドトキシン除去量」は、混合物(例えば、精製プロセスからの生成物流)中において目的の生物学的製剤からエンドトキシンを解離させるのに有効な洗浄剤の量(例えば、濃度、体積、又は重量比)を指す。一態様では、「エンドトキシン除去量」は、目的の生物学的製剤に悪影響を及ぼすことなく目的の生物学的製剤からのエンドトキシンを解離させるのに有効な洗浄剤の量を指す。
【0082】
一態様では、本方法は、混合物(例えば生成物流)と、目的の生物学的製剤からエンドトキシンを解離させるのに有効な量で環境適合性洗浄剤を含む溶液とを接触させることを含む。一態様では、本方法は、目的の生物学的製剤を含む混合物と、目的の生物学的製剤からエンドトキシンを解離させるのに有効な量でラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む。一態様では、本方法は、生成物流と、目的の生物学的製剤からエンドトキシンを解離させるのに有効な量でラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む。一態様では、本方法は、混合物と、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む溶液とを接触させることを含む。一態様では、洗浄溶液は、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、この溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。
【0083】
一態様では、本方法は、混合物(例えば、精製プロセスからの生成物流)をろ過してエンドトキシンを除去することを含む。一態様では、この方法は、生成物流を、ラウレス-9を含む溶液と接触させた後に、混合物をろ過することを含む。一態様では、この混合物を、目的の生物学的製剤を保持し且つ解離した細菌性エンドトキシンを通過させるのに有効な孔径を有する分子量カットオフフィルタに通してろ過する。
【0084】
一態様では、本方法は、1つ又は複数のクロマトグラフィー工程を含む。一態様では、クロマトグラフィー洗浄溶液に、ラウレス-9等の界面活性剤を含有させて、クロマトグラフィープロセス中でのエンドトキシン除去を増加させる。
【0085】
精製
一態様では、細胞培養培地を回収して清澄化する。一態様では、清澄化された細胞培養培地を1つ又は複数の精製プロセスに供して、目的の生物学的製剤から1種又は複数種の不純物を分離する。一態様では、生物学的製剤を生成物流中で保持する。一態様では、1種又は複数種の不純物を廃棄物流中に廃棄する。
【0086】
本明細書で使用される場合、「混合物」という用語は、「生成物流」を含み得る。「生成物流」という用語は、目的の生物学的製剤生成物を含む、細胞培養から得られたアウトプットを指しており、1つ又は複数の精製プロセス工程の結果を含み得、例えば、遠心分離後、クロマトグラフィー後、ろ過後の生成物流、又は精製プロセス中の他の工程後の他のものを含み得、且つ例えば、細胞培養培地、回収された細胞培養培地、清澄化された細胞培養培地、クロマトグラフィー樹脂からの捕捉プール溶出液、クロマトグラフィー樹脂からのフロースループール、上清、ろ液、保持液、及び同類のものを含み得る。
【0087】
一態様では、生成物流中の目的の生物学的製剤を、目的の生物学的製剤の精製プロセス中に、ラウレス-9を含む環境適合性界面活性剤と接触させる。有利なことに、生物学的製剤生成物の品質は、このプロセス中に維持される。一態様では、ラウレス-9を含む環境適合性洗浄剤による、生物学的製剤の精製プロセス中での生成物流の処理により、例えば、界面活性剤を使用しない精製プロセス又は界面活性剤としてTriton X-100を使用する精製プロセスと比較して、生成物流中の生成物バリアントの量は増加しない。一態様では、この生成物バリアントとして、サイズバリアント、電荷バリアント、酸化バリアント、脱アミド化バリアント、糖化バリアント、又はグリカンプロファイルが変更されているバリアントが挙げられ得る。一態様では、生成物バリアントとして、例えば生成物の分解又は凝集に起因するサイズバリアントが挙げられる。サイズバリアントの存在を検出する方法は既知であり、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー及びゲル電気泳動が挙げられる。一態様では、ラウレス-9を含む環境適合性洗浄剤による、生物学的製剤の精製プロセス中での生成物流の処理により、例えば、界面活性剤を使用しないか又は界面活性剤としてTriton X-100を使用する精製プロセスと比較して、生成物流中の生成物の総量の内の生成物バリアントの約5%未満の変化が起こる。一態様では、環境適合性洗浄剤により、ラウレス-9を含む環境適合性洗浄剤を使用しない製造プロセス(例えば、界面活性剤を使用しないか又は界面活性剤としてTriton X-100を使用するプロセス)と比較して、生成物流の総タンパク質の内の生成物バリアントの約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の増加がもたらされる。
【0088】
クロマトグラフィー
一態様では、生成物流を1つ又は複数のクロマトグラフィー工程に供して、例えば、電荷、疎水性、サイズ、又は親和性に基づいて、生物学的製剤から不純物を分離する。カラムクロマトグラフィーでは、液体移動相を固定相(クロマトグラフィー樹脂)に通し、この移動相中の分子を、この固定相との相互作用の差違に基づいて分離する。例えば、固定相との相互作用は、分子サイズ(サイズ排除クロマトグラフィー)、電荷(イオン交換クロマトグラフィー)、疎水性(疎水性相互作用クロマトグラフィー)、特異的結合相互作用(親和性クロマトグラフィー)、又はこれらの組合わせ(混合モードクロマトグラフィー)に基づき得る。精製プロセスにおいて、1種又は複数種のクロマトグラフィーカラムを使用し得、クロマトグラフィーカラムの数及び順序は様々であり得る。
【0089】
カラムクロマトグラフィー樹脂の例として、例えば、親和性クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、混合モードカラムクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、及び疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーが挙げられる。親和性クロマトグラフィー樹脂の例として、プロテインA、プロテインG、及びプロテインLが挙げられる。親和性クロマトグラフィー樹脂の他の例として、組換えラクダ単一ドメイン抗体を含むリガンドを有する樹脂が挙げられる。一態様では、親和性クロマトグラフィーとして、LambaFabSelectクロマトグラフィー又はKappaSelectクロマトグラフィーが挙げられる。イオン交換クロマトグラフィーとして、アニオン交換クロマトグラフィー及びカチオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。一態様では、混合モードクロマトグラフィーとして、CaptoAdhereクロマトグラフィーが挙げられる。
【0090】
クロマトグラフィープロセスは、「フロースルー」プロセス及び「結合及び溶出」プロセスを含む。「フロースルー」クロマトグラフィープロセスでは、所望の生物学的製剤は、クロマトグラフィーを通って流れて「フロースループール」に集められ得、不純物は、クロマトグラフィー樹脂上で保持される。「結合及び溶出」クロマトグラフィープロセスでは、所望の生物学的製剤はクロマトグラフィー樹脂により保持され、不純物は通過する。その後、所望の生物学的製剤は、クロマトグラフィー樹脂から溶出して、「捕捉プール」に集められ得る。
【0091】
一態様では、生成物流として、フロースループールが挙げられる。一態様では、生成物流として、捕捉プールが挙げられる。一態様では、フロースループール又は捕捉プールとして、親和性クロマトグラフィープールが挙げられる。一態様では、フロースループール又は捕捉プールとして、プロテインAプール、プロテインGプール、又はプロテインLプールが挙げられる。一態様では、フロースループール又は捕捉プールとして、Capto AVB親和性クロマトグラフィープールが挙げられる。一態様として、フロースループール又は捕捉プールとして、アニオン交換クロマトグラフィープールが挙げられる。一態様では、フロースループール又は捕捉プールとして、カチオン交換クロマトグラフィープールが挙げられる。一態様では、フロースループール又は捕捉プールとして、混合モードクロマトグラフィープールが挙げられる。一態様では、フロースループール又は捕捉プールとして、CaptoAdhereプールが挙げられる。一態様では、フロースループール又は捕捉プールとして、ヒドロキシアパタイトプールが挙げられる。一態様では、フロースループール又は捕捉プールとして、疎水性相互作用カラムプールが挙げられる。
【0092】
結合及び溶出モードで使用される場合には、カラムクロマトグラフィーは、典型的には、目的の生物学的製剤及びクロマトグラフィー樹脂に適合する平衡化緩衝液をカラム樹脂に通す平衡化工程を含む。一般的には、約5~約10カラム体積(CV)の平衡化緩衝液を使用する。次いで、カラム上にサンプルをロードする。多くの場合には、平衡化緩衝液と同一のローディング緩衝液を使用する。目的の生物学的製剤がカラムの固定相上に固定されると、カラム樹脂とわずかに相互作用している不純物は、カラムを1又はより多いカラム体積の洗浄溶液で洗浄することにより除去され得る。一態様では、洗浄溶液は、平衡化緩衝液と同一の組成を有する。別の態様では、洗浄溶液は、不純物とカラム樹脂との弱い相互作用を破壊するのに役立つ成分を含む。一態様では、カラムを、溶出液中で不純物が検出不能となるまで洗浄する。クロマトグラフィー樹脂から不純物を洗い流した後、生物学的製剤等の分子を溶出緩衝液で溶出させ得る。一般的に、溶出緩衝液は、平衡化緩衝液及び/又は洗浄溶液の組成とは異なる組成を有する。
【0093】
一態様では、洗浄溶液には、界面活性が含まれている。一態様では、洗浄溶液には、ラウレス-9を含む界面活性が含まれている。一態様では、洗浄溶液中でのラウレス-9の含有により、クロマトグラフィー精製プロセス中での生成物流からのウイルス排除が増強される。一態様では、洗浄溶液中でのラウレス-9の含有により、生成物流からの宿主細胞タンパク質(HCP)の除去が増加する。一態様では、洗浄溶液中でのラウレス-9の含有により、生成物流からのエンドトキシン除去が増加する。一態様では、界面活性剤を含む洗浄の後であるがクロマトグラフィー樹脂からの目的の生物学的製剤の溶出の前での中間洗浄の含有により、クロマトグラフィー担体からの残留界面活性剤の除去に加えて、溶出液中における生物学的製剤の収量が増加する。
【0094】
フロースルーモードで使用される場合には、クロマトグラフィー条件は、目的の生物学的製剤がクロマトグラフィー樹脂に結合せずに、むしろカラムを通って流れ、且つ不純物がカラム樹脂に結合したままであるように選択される。フロースルークロマトグラフィープロセスは、カラム樹脂から弱く結合した生物学的製剤を回収するための洗浄工程を含み得る。
【0095】
一態様では、目的の生物学的製剤を精製する方法が提供される。一態様では、この方法は、目的の生物学的製剤と、1種又は複数種の不純物とを含む混合物を、クロマトグラフィー担体上にロードすることを含む。一態様では、この方法は、環境適合性洗浄剤を含む洗浄溶液でクロマトグラフィー担体を洗浄することを含む。一態様では、この環境適合性洗浄剤は、ラウレス-9を含む。一態様では、この方法は、クロマトグラフィー担体から目的の生物学的製剤を溶出させて目的の生物学的製剤を含む精製された溶出液を得ることを含む。
【0096】
一態様では、洗浄溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、洗浄溶液は、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、ラウレス-9等の界面活性剤がクロマトグラフィー洗浄溶液に含まれており、ウイルス排除が増加している。一態様では、ラウレス-9等の界面活性剤がクロマトグラフィー洗浄溶液に含まれており、宿主細胞除去が増加している。一態様では、ラウレス-9等の界面活性剤がクロマトグラフィー洗浄溶液に含まれており、エンドトキシン除去が増加している。
【0097】
一態様では、ラウレス-9等の界面活性剤をクロマトグラフィー洗浄緩衝液に含有させて、ウイルス排除を増加させる。一態様では、所望の生物学的製剤が保持されているクロマトグラフィー樹脂を、ラウレス-9等の界面活性剤を含む洗浄溶液で洗浄する。一態様では、クロマトグラフィー樹脂からの所望の生物学的製剤の溶出の前に、界面活性剤含有洗浄溶液をカラムにアプライする。一態様では、クロマトグラフィー樹脂は、親和性クロマトグラフィー樹脂である。一態様では、洗浄溶液は、ウイルス不活性化量のラウレス-9を含む。一態様では、洗浄溶液は、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、この溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。
【0098】
一態様では、ラウレス-9等の界面活性剤がクロマトグラフィー洗浄緩衝液に含まれており、生成物流からの宿主細胞タンパク質除去が増加している。一態様では、所望の生物学的製剤が保持されているクロマトグラフィー樹脂を、ラウレス-9等の界面活性剤を含む洗浄溶液で洗浄する。一態様では、クロマトグラフィー樹脂からの所望の生物学的製剤の溶出の前に、界面活性剤含有洗浄溶液をカラムにアプライする。一態様では、クロマトグラフィー樹脂は、親和性クロマトグラフィー樹脂である。一態様では、親和性クロマトグラフィー樹脂は、組換えラクダ単一ドメイン抗体を含む。一態様では、親和性クロマトグラフィー樹脂として、LambaFabSelect又はKappaSelectが挙げられる。一態様では、親和性クロマトグラフィー樹脂として、プロテインAクロマトグラフィー樹脂、プロテインGクロマトグラフィー樹脂、又はプロテインLクロマトグラフィー樹脂が挙げられる。
【0099】
一態様では、洗浄溶液は、宿主細胞タンパク質除去量のラウレス-9を含む。一態様では、精製された溶出液は、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されなかったクロマトグラフィー担体からの溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量と比較して宿主細胞タンパク質含有量が減少している。一態様では、洗浄溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、洗浄溶液は、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、カラムにアプライされた混合物の宿主細胞含有量と比較して少なくとも約50%、45%、40%、35%、30%、又は25%減少している。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、カラムにアプライされた混合物の宿主細胞含有量と比較して少なくとも約30%減少している。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、カラムにアプライされた混合物中の宿主細胞タンパク質含有量の約75%、70%、65%、60%、55%、又は50%未満である。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、カラムにアプライされた混合物中の宿主細胞タンパク質含有量の約65%未満である。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中の宿主細胞タンパク質含有量は、約2000ng/mg、1700ng/mg、1500ng/mg、1200ng/mg、1000ng/mg、500ng/mg、又は100ng/mg未満である。
【0100】
一態様では、洗浄溶液は、エンドトキシン除去量のラウレス-9を含む。一態様では、精製された溶出液は、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されなかったクロマトグラフィー担体からの溶出液中のエンドトキシン含有量と比較してエンドトキシン含有量が減少している。一態様では、洗浄溶液は、約0.1%~約2%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、洗浄溶液は、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中のエンドトキシン含有量は、カラムにアプライされた混合物のエンドトキシン含有量と比較して少なくとも約99.0%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、又は99.9%減少している。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中のエンドトキシン含有量は、カラムにアプライされた混合物のエンドトキシン含有量と比較して少なくとも約99.9%減少している。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中のエンドトキシン含有量は、カラムにアプライされた混合物中のエンドトキシン含有量の約1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、又は0.01%未満である。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中のエンドトキシン含有量は、カラムにアプライされた混合物中のエンドトキシン含有量の約0.1%未満である。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中のエンドトキシン含有量は、カラムにアプライされた混合物中のエンドトキシン含有量の約0.05%未満である。一態様では、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄されたクロマトグラフィー担体からの精製された溶出液中のエンドトキシン含有量は、カラムにアプライされた混合物中のエンドトキシン含有量の約0.01%未満である。一態様では、精製された溶出液は、エンドトキシン濃度が約1EU/mg、0.9EU/mg、0.8EU/mg、0.7EU/mg、0.6EU/mg、0.5EU/mg、0.4EU/mg、0.3EU/mg、0.2EU/mg、又は0.1EU/mg未満である。一態様では、精製された溶出液は、エンドトキシン濃度が約1EU/mg未満である。一態様では、精製された溶出液は、エンドトキシン濃度が約0.5EU/mg未満である。エンドトキシン濃度を決定する方法は既知であり、例えば、リムルスアメボサイトライセートアッセイ(limulus amebocyte lysate assay)(LALアッセイ)が挙げられる。一態様では、クロマトグラフィーとして、イオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。一態様では、クロマトグラフィーとして、カチオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。
【0101】
ろ過
一態様では、精製プロセスは、ろ過工程を含む。一態様では、混合物をろ過して、ウイルス粒子を除去する。一態様では、混合物は、精製プロセスからの生成物流である。一態様では、精製プロセスは、生成物学的製剤を濃縮するためのろ過工程を含む。一態様では、ろ過として、限外ろ過が挙げられる。一態様では、ろ過として、透析ろ過が挙げられる。一態様では、ろ過として、深層ろ過が挙げられる。一態様では、限外ろ過、深層ろ過、又はこれらの組合わせを使用して、生成物流等の混合物からの1種又は複数種の不純物(例えば、ウイルス粒子)を除去する。一態様では、生成物流として、細胞培養培地、清澄化された細胞培養培地、捕捉プール、又はフロースループールが挙げられる。一態様では、本方法は、生成物流と環境適合性洗浄剤とを接触させた後に、この生成物流をろ過することを含む。一態様では、本方法は、生成物流とラウレス-9とを接触させた後に、この生成物流をろ過することを含む。一態様では、本方法は、生成物流と、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む溶液とを接触させた後に、この生成物流をろ過することを含む。一態様では、この溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、ラウレス-9の添加の少なくとも約15分~少なくとも約48時間後に、生成物流をろ過する。一態様では、ラウレス-9の添加の少なくとも約1時間~少なくとも約3時間後に、生成物流をろ過する。
【0102】
サンプル
一態様では、サンプルを、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、サンプルは、生物学的製剤の精製プロセスからの生成物流である。一態様では、サンプルは、組換えにより製造された生物学的製剤の精製プロセスからの生成物流である。一態様では、サンプルを、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、サンプルを、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む溶液と接触させる。
【0103】
一態様では、サンプルとして、回収された細胞培地が挙げられる。一態様では、サンプルとして、清澄化された細胞回収培地が挙げられる。任意の従来の手段(例えば、限定されないが、遠心分離又は精密濾過)を使用して、細胞培養培地から細胞を回収し得る。一態様では、サンプルとして、全細胞が挙げられる。一態様では、サンプルとして、細胞溶解物が挙げられる。一態様では、サンプルとして、細胞溶解物及び細胞培養培地から生物学的製剤を遠心分離して精製することにより形成された細胞ペーストスラリーが挙げられる。一態様では、細胞ペーストスラリーは、細胞培養物から細胞をペレット化し、上清を除去して細胞ペーストを形成することにより形成されている。一態様では、サンプルとして、クロマトグラフィー樹脂からの捕捉プールが挙げられる。一態様では、サンプルとして、クロマトグラフィー樹脂からのフロースループールが挙げられる。一態様では、サンプルとして、ろ液が挙げられる。一態様では、サンプルとして、保持液が挙げられる。
【0104】
活性剤
本明細書で説明されている方法を、多種多様な組成物の製造プロセスで使用し得、この組成物として、例えば、医薬的特性、診断的特性、農業的特性、及び/又は商業用途、実験用途、若しくは他の用途で有用な様々な他の特性の内のいずれかを有する組成物が挙げられる。一態様では、この方法を、治療薬の製造プロセスで使用する。一態様では、この方法を、生物学的製剤の製造プロセスで使用する。一態様では、生物学的製剤は、天然に存在している。一態様では、生物学的製剤は、組換えにより製造されている。一態様では、生物学的製剤は、宿主細胞に対して相同である。一態様では、生物学的製剤は、宿主細胞に対して異種であり、即ち、外来性(exogenous)又は外来性(foreign)である。
【0105】
一態様では、生物学的製剤として、治療用巨大分子が挙げられ、例えば、治療用のポリヌクレオチド又はポリペプチドが挙げられる。一態様では、生物活性剤として、化学的に改変された巨大分子が挙げられ、例えば、ペグ化巨大分子、又は診断部分、標的化部分、若しくは治療部分が付加されている巨大分子が挙げられる。一態様では、生物活性剤は、治療的に、科学的に、又は商業的に興味深いものである。
【0106】
一態様では、生物活性剤として、治療用タンパク質が挙げられ、この治療用タンパク質として下記が挙げられる:酵素又は酵素的に活性なポリペプチド、可溶性受容体又は可溶性リガンド、ホルモン、神経伝達物質、凝固(coagulation)/凝固(clotting)因子、成長因子、インテグリン、サイトカイン、調節因子、インターフェロン、抗原、分泌タンパク質、又はこれらの断片。一態様では、生物活性剤として、抗体、抗原結合抗体断片、Fc融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)、イムノアドヘシン、又は抗原結合剤が挙げられる。一態様では、生物学製剤として、遺伝子治療製品;ワクチン、例えば、ウイルスベースのワクチン;及び非エンベロープウイルス治療薬が挙げられる。一態様では、治療用タンパク質として、融合タンパク質、又はタンパク質分解標的化キメラ(proteolysis targeting chimera)(protac)が挙げられる。一態様では、生物活性剤として、治療用ペプチドが挙げられる。本明細書で使用される場合、「治療用ペプチド」は、約500、250、100、50、又は20個の未満のアミン酸を含み且つ分子量が約100kDa又は50kDa未満である生物活性ポリペプチドを指す。
【0107】
一態様では、目的の組換え生物学的製剤は、抗体又は抗原結合抗体断片である。一態様では、生物活性剤として、抗体様タンパク質が挙げられる。本明細書で使用される場合、「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、互換的に使用され得、抗原の抗原決定基の特徴部に相補的な内表面の形状及び電荷分布を伴う三次元結合空間を有するポリペプチド鎖のフォールディングにより形成されている少なくとも1つの結合ドメインを含む1つのポリペプチド又は一群のポリペプチドを指す。天然に存在する抗体又はその抗原結合断片は、典型的には、2対のポリペプチド鎖を有する四量体形を有しており、各対は、1本の「軽」鎖と1本の「重」鎖とを有する。各軽鎖/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成する。各軽鎖は、1つの共有結合性のジスルフィド結合により重鎖に連結されており、様々な免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間でジスルフィド結合の数が異なる。重鎖及び軽鎖の各々はまた、規則的に隔てられた鎖間ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一末端に可変ドメイン(VH)とその後に幾つかの定常ドメイン(CH)を有しており、各軽鎖は、一末端に可変ドメイン(VL)を有しており、且つ他末端に定常ドメイン(CL)を有しており、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと整列されており、軽鎖の可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列されている。軽鎖は、軽鎖定常領域のアミノ酸配列に基づいて、ラムダ鎖又はカッパ鎖として分類されている。免疫グロブリン分子は、任意のアイソタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、サブアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)、又はアロタイプ(例えば、Gm、例えばG1m(f、z、a、若しくはx)、G2m(n)、G3m(g、b、若しくはc)、Am、Em、及びKm(1、2、若しくは3))であり得る。
【0108】
「抗原結合断片」という用語は、少なくとも1つの抗原結合部位を含み且つ抗原に特異的に結合する能力を保持する、抗体の断片を指す。組換えにより製造され得る抗原結合抗体断片の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:可変重鎖ドメイン及び軽鎖ドメインを含む断片、例えば、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、二量体可変領域(二重特異性抗体)、及びジスルフィド結合可変領域(dsFv)。抗体断片として、上記で列挙された抗体の内のいずれかのエピトープ結合断片又は誘導体も挙げられ得る。
【0109】
抗体は、単独又は他のアミノ酸配列との組合せのいずれかで、オリゴクローナル抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ラクダ化抗体、CDR移植抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、触媒抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、抗イディオタイプ抗体、及び細胞内抗体、並びに組換えにより製造された断片、例えば、所望の生物学的活性を示す断片、例えば、エピトープ結合断片、これらのバリアント又は誘導体であり得る。
【0110】
一態様では、生物活性剤として、IgGの断片結晶化可能(Fc)領域又はドメインが挙げられ、この領域又はドメインは、抗体重鎖ドメインの対のセットを含み、これらのそれぞれは、重鎖定常ドメイン2(CH2)及び重鎖定常ドメイン3(CH3)を含み、これらは、約50kDaの構造を形成している。Fc領域は、Fc受容体と呼ばれる細胞表面受容体、及び補体系の一部のタンパク質と相互作用し、抗体が免疫系を活性化することが可能となる。
【0111】
一態様では、生物学的製剤は、ポリヌクレオチドである。一態様では、生物学的製剤は、ウイルスベクターである。一態様では、生物学的製剤として、非エンベロープウイルスが挙げられる。一態様では、生物学的製剤として、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等のウイルスベクターが挙げられる。
【0112】
非エンベロープウイルス生物学的製剤
一態様では、生物学的製剤は、非エンベロープウイルスである。一態様では、生物学的製剤は、一本鎖非エンベロープウイルスである。一態様では、生物学的製剤は、アデノウイルスである。一態様では、生物学的製剤は、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。一方法では、非エンベロープウイルスの精製方法が提供される。一態様では、生成物流中に存在するエンベロープウイルスが不活性化されるが、非エンベロープウイルスが無傷なままである方法が提供される。
【0113】
一態様では、非エンベロープウイルスベクターは、細胞培養で製造されている。一態様では、非エンベロープウイルスベクターは、細胞培養から回収されている。一態様では、非エンベロープウイルス粒子は、宿主細胞の細胞質中及び細胞培養培地中で蓄積する。一態様では、宿主細胞を溶解させて収量を増加させる。一態様では、宿主細胞を、例えば遠心分離及び/又はろ過により集める。集めた細胞を、凍結保存し得えるか、又は生物学的製剤の精製のためにさらに処理し得る。一態様では、集めた細胞を緩衝液中に再懸濁させて、細胞スラリーを形成する。一態様では、再懸濁用緩衝液は、Tris-HCl、酢酸ナトリウム、クエン酸カリウム、一塩基性リン酸ナトリウム若しくは二塩基性リン酸ナトリウム、又はこれらの混合物から選択される。
【0114】
一態様では、スラリー中の細胞を、環境適合性洗浄剤を含む溶液と接触させる。一態様では、細胞スラリー中の細胞を、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、スラリー中の細胞を、ラウレス-9を含む溶液と接触させて、この細胞を溶解させる。一態様では、スラリー中の細胞を、ラウレス-9を含む溶液と接触させて、エンベロープウイルスを不活性化させる。一態様では、この溶液は、ラウレス-9と、1種又は複数種の追加の洗浄剤とを含む。一態様では、この溶液は、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、この溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、この細胞を、約1分~約120分にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この細胞を、少なくとも約1、2、3、4、5、10、15、20、25、又は30分及び最高約60、90、又は120分にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、最高約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、24時間、又は48時間にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この細胞を、約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、60、90、又は120分にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、24時間、又は48時間にわたり、ラウレス-9を含む溶液と共にインキュベートする。一態様では、この細胞を、約1分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この細胞を、少なくとも約5分にわたり、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この細胞を、約4℃~約42℃の温度で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この細胞を、約4℃~約25℃の温度で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この細胞を、室温(例えば、約20℃~約25℃の温度)で、ラウレス-9と共にインキュベートする。一態様では、この混合物を、約pH4.5~約pH8.5のpHで、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。一態様では、この混合物を、約4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、又は8.5のpHで、ラウレス-9を含む溶液と接触させる。
【0115】
一態様では、力価は、ウイルスゲノムを含むウイルス粒子の濃度により決定されている(物理的力価)。一態様では、この物理的力価は、定量PCR(qPCR)、デジタル液滴PCR(ddPCR)、又は他のDNA定量方法により決定されている。物理的力価は、1ml当たりのウイルスゲノム(vg/ml)で表され得る。一態様では、精製されたAAVの力価は、約10log10vg/ml超である。一態様では、物理的力価は、ラウレス-9と接触していないコントロールと比較して低下していない。一態様では、物理的力価は、ラウレス-9と接触していないコントロールと比較して約0.05log10vg/mL、0.1log10vg/mL、0.2log10vg/mL、又は0.3log10vg/mL以内である。一態様では、このコントロールは、凍結解凍法(freeze-law method)を使用して溶解させた細胞を含む。一態様では、このコントロールは、Triton-Xを使用して溶解させた細胞を含む。
【0116】
一態様では、力価は、細胞に形質導入し得るウイルス粒子の濃度により決定されている(感染力価)。一態様では、感染力価は、TCID50(組織培養感染用量の中央値)等の細胞形質導入アッセイにより定量化されている。一態様では、精製されたAAVの力価は、約8log10 TCID50/mL超である。一態様では、感染力価は、ラウレス-9と接触していないコントロールと比較して低下していない。一態様では、感染力価は、ラウレス-9と接触していないコントロールと比較して約0.1log10TCID50/mL、0.2log10TCID50/mL、0.3log10TCID50/mL、又は0.7log10TCID50/mL以内である。一態様では、このコントロールは、凍結解凍法(freeze-law method)を使用して溶解させた細胞を含む。一態様では、このコントロールは、Triton-Xを使用して溶解させた細胞を含む。
【0117】
一態様では、本方法は、非エンベロープウイルスと1種又は複数種の不純物とを含む混合物を、クロマトグラフィー担体上にロードすること;このクロマトグラフィー担体を、ラウレス-9を含む洗浄溶液で洗浄すること;及びこのクロマトグラフィー担体からこの非エンベロープウイルスを溶出させて、この非エンベロープウイルスを含む精製された溶出液を得ることを含む。一態様では、この溶液は、ラウレス-9と、1種又は複数種の追加の洗浄剤とを含む。一態様では、この溶液は、少なくとも約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、又は1%(w/v)及び最高1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。一態様では、この溶液は、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10%(w/v)ラウレス-9を含む。
【0118】
参照による組み込み
本明細書で引用される全ての参考文献(例えば、特許、特許出願、論文、教科書、及び同類のもの)、及びこれらで引用されている参考文献は、これらが既に引用されていない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0119】
実施例1.非イオン性界面活性剤を使用するウイルス不活性化
一価二重特異性ヒトIgG1モノクローナル抗体のCHO由来細胞回収材料を使用して、4種の洗浄剤のウイルス不活性化を調べた。Brij L9(ラウレス-9)、Myrj S25、及びBrij S20を、Croda International Plc.(East Yorkshire,United Kingdom)から入手した。Polidocanol 600(ラウレス-9)を、Schaerer & Schlaepfer AG(Rothrist,Switzerland)から入手した。回収培地に、マウス異種指向性白血病ウイルス関連ウイルス(XMuLV)ストックを添加した後に、洗浄剤を添加した。
【0120】
一価二重特異性ヒトIgGモノクローナル抗体(BisAb)を含む条件付け細胞回収培地に、8.5logのXMuLVを添加した。このウイルス添加回収培地のサンプルを採取して保持コントロールとして使用して、洗浄剤を使用しない場合のウイルス不活性化率を決定した。
【0121】
洗浄剤を50mM Tris pH7.4に溶解させることにより、10%(w/w)ストック溶液を作製した。適量の10%ストック溶液を使用して、XMuLVを添加したBisAb培地の細胞回収サンプルに1%洗浄剤濃度まで添加した。保持コントロール及び反応サンプルを、室温でインキュベートした。1、10、60、及び120分でサンプルを採取し、McCoy培地で1:50に希釈してウイルス不活性化反応を停止させた。希釈サンプル及び保持コントロールを、プラークアッセイを使用して、ウイルス濃度に関してアッセイした。表1に示すように、ウイルス濃度は、Brij L9添加サンプル及びPolidodecanol 600添加サンプルの場合には、1分未満で7.79から3.18未満まで減少し、洗浄剤Brij L9及びPolidocanol 600により、1分で4Log10超の不活性化を観察した(図1及び表2)。
【0122】
表1及び2に示される結果から、構造的に類似する全ての洗浄剤が、又は同一のポリオキシエチレンアルキルエーテルクラスに属する洗浄剤であっても、ウイルス不活性化に有効であるとは限らないことが実証されている。ラウレス-9に構造的に関連している界面活性剤であるBrij S20(ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル)は、表1及び2に示すように、ラウレス-9と比較して著しく遅く、従って著しく望ましくないウイルス不活性化速度論を示した。Brij L9のみが、改善された望ましいウイルス不活性化速度論を示した。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
実施例2.ラウレス-9を使用するウイルス不活性化
試験を、本質的には実施例1で説明されているように実施し、BisAbの場合には、CHOに由来する条件付け培地に関して1% Brij L9(ラウレス-9、Croda International Plc.,East Yorkshire,United Kingdomから入手した)、及び1% Polidodecanol 600(ラウレス-9、Schaerer & Schlaepfer AG,Rothrist,Switzerlandから入手した)という洗浄剤濃度を使用し、二重特異性融合タンパク質(BisFusion)の場合には、CHOに由来する条件付け培地に関して1%又は0.1% Brij L9という洗浄剤濃度を使用して、ウイルス不活性化を調べた。図2に示すように、1分で、全てのサンプルにおいて4Log10超の不活性化を観察した。表3に示すように、4種全ての混合物に関して、ウイルス濃度は、1分未満で7.00(BisAb)又は7.21(BisFusion)から2.88未満まで減少した。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
実施例3.アデノ随伴ウイルス(AAV)精製
AAV6.2細胞ペーストスラリーを生成し、-80℃で保存した。Brij L9(ラウレス-9)を、Croda International Plc.(East Yorkshire,United Kingdom)から入手した。Triton X-100を、Spectrum Chemical(New Brunswick,NJ)から入手した。Capto AVB樹脂を、GE Healthcare(Piscataway,NJ)から入手した。C0SPフィルタを、EMD Millipore(Burlington,MA)から得た。Sartopore 2 XLG,0.8/0.2umフィルタを、Sartorius Stedim Biotech GmbH(Gottingen,Germany)から得た。全ての緩衝塩を、Avantor Performance Chemicals(Center Valley,Pennsylvania)から入手した。
【0129】
洗浄剤による溶解のために、AAV6.2細胞ペーストを、20mM Tris、200mM NaCl、2mM MgCl2、pH7.5で10%スラリーまで希釈した。10%(w/w)洗浄剤ストック溶液を、最終洗浄剤濃度が0.5%(v/w)となるように細胞スラリーに添加した。細胞スラリー混合物に、ベンゾナーゼを10U/mlまで添加し、1時間にわたりRTで緩やかに混合した。
【0130】
凍結解凍融解のために、細胞ペーストスラリーを、-80℃及びRTでの2回の凍結解凍サイクルに供した。AAV溶解物を、20mM Tris、200mM NaCl、2mM MgCl2、pH7.5で10%スラリーまで希釈した。細胞スラリー混合物に、ベンゾナーゼを10U/mlまで添加し、1時間にわたりRTで緩やかに混合した。
【0131】
Capto AVB親和性カラムを使用して、AAV精製を実施した。GE Healthcare(Piscataway,NJ)から購入したAKTA AVANTでのUnicorn 7.0ソフトウェアにより、精製を制御した。C0SP PODフィルタを、20mM Tris、500mM NaCl、2mM MgCl2、pH7.5で洗い流した。10% AAV6.2細胞溶解物を、C0SPで清浄化し、続いてSartopore 2 XLG,0.8/0.2umフィルタで清浄化した。Capto AVBカラムを、3カラム容積(CV)にて20mM Tris、200mM NaCl、2mM MgCl2、pH7.5で平衡化した。清浄化された細胞溶解物を、6分の滞留時間でロードした。カラムを、4CVにて20mM Tris、200mM NaCl、2mM MgCl2、pH7.5で再度平衡化した。50mM クエン酸、500mM NaCl、2mM MgCl2、pH2.5で、カラムから生成物を溶出させた。溶出液のpHを、1M Tris/HCl、pH8.0でpH8.0に調整した。
【0132】
10分にわたり13,000rpmで10%溶解物を遠心分離して上清を回収することにより、AAV力価を決定した。AAV力価を、インハウスのqPCR方法で決定した。
【0133】
表5に示すように、Brij L9(ラウレス-9)は、Triton X-100と同様に、AAV精製のための細胞溶解に有効である。
【0134】
【表5】
【0135】
表6に示すように、Brij L9(ラウレス-9)は、AAV感染力にいかなる悪影響も及ぼさない。
【0136】
【表6】
【0137】
実施例4.宿主細胞タンパク質(HCP)排除
二重特異性抗体に関するCHO由来細胞回収材料を使用した。Brij L9(ラウレス-9)を、Croda International Plc.(East Yorkshire,United Kingdom)から入手した。Triton X-100を、Spectrum Chemicals(New Brunswick,NJ)から入手した。LambdaFabSelect樹脂を、GE healthcare(Piscataway,NJ)から入手した。全ての緩衝塩を、Avantor Performance Chemicals(Center Valley,Pennsylvania)から入手した。
【0138】
洗浄剤をUSP水に溶解させて、10%(w/w)ストック溶液を作製した。適量のこのストック溶液を、最終洗浄剤濃度が2%(w/w)となるように細胞回収材料に添加した。
【0139】
クロマトグラフィー実験の場合には、GE Healthcare(Piscataway,NJ)から購入したAKTA AVANTでのUnicorn 7.0ソフトウェアにより、精製を制御した。洗浄剤を添加した細胞回収材料を、LambdaFabSelectカラム上にロードした。洗浄実験の場合には、洗浄剤が添加されていない細胞回収物を、LambdaFabSelectカラム上にロードした。タンパク質の結合時に、3CVで50mM Tris、pH7.4を使用して、平衡化を実施した。洗浄実験の場合には、平衡化緩衝液中に1%洗浄剤(w/w)を含む洗浄剤洗浄液を、3CVでカラムにアプライした。これに続いて、平衡化緩衝液の3CV洗浄を行なった後、25mM 酢酸ナトリウム、pH3.6緩衝液を使用して樹脂からタンパク質を溶出させた。溶出液中のHCP含有量を、インハウスのHCP ELISAアッセイを使用して測定した。
【0140】
表7に示すように、Brij L9(ラウレス-9)は、Triton X-100と同様の性能を示し、HCPを除去するための親和性クロマトグラフィー培地での洗浄液として使用され得る。
【0141】
【表7】
【0142】
表8に示すように、Brij L9(ラウレス-9)は、Triton X-100と同様の性能を示し、親和性クロマトグラフィー培地へのロード前に細胞回収材料に添加された場合に、HCP含有量を低減させ得る。
【0143】
【表8】
【0144】
実施例5.エンドトキシン排除
CHO由来モノクローナル抗体を使用した。リゾチーム及びウシ血清アルブミン(BSA)を、Sigma Aldrich(St.Louis,MO)から入手した。大腸菌(E.coli)血清型O55:B5から抽出されたエンドトキシンを、Sigma Aldrich(St.Louis,MO)から入手した。Brij L9(ラウレス-9)を、Croda International Plc.(East Yorkshire,United Kingdom)から入手した。Hi-Trap MabSelectSuRe、Hi-Trap Q HP、及びHi-Trap SPセファロースFast Flowを、GE Healthcare(Piscataway,NJ)から入手した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を、Sigma Aldrich(St.Louis,MO)から入手し;他の全ての緩衝塩を、Avantor Performance Chemicals(Center Valley,Pennsylvania)から入手した。
【0145】
エンドトキシン標準を、O55:B5in 25mgをUPグレード水 5mLに溶解させることにより調製した。次いで、この標準をUSPグレード水で100倍希釈して、最終添加標準を作製した。全てのタンパク質溶液を添加して、約1000EU/mlという最終エンドトキシン濃度を得た。全ての開始時のエンドトキシン値を、測定した報告した。
【0146】
クロマトグラフィー実験の場合には、GE Healthcare(Piscataway,NJ)から購入したAKTA AVANTでのUnicorn 7.0ソフトウェアにより、精製を制御した。タンパク質溶液に、既知量のエンドトキシンを添加して、様々なクロマトグラフィー樹脂に結合させた。タンパク質の結合時に、1%のラウレス-9を含む平衡化緩衝液の洗浄溶液を、10カラム体積(CV)超でカラムにアプライした。これに続いて、平衡化緩衝液の10CV洗浄を行なった後、樹脂からタンパク質を溶出させた。リゾチーム-エンドトキシン材料を、1×PBS、pH7.2平衡化緩衝液でSP Fast Flowに結合させた後、1×PBS、500mM 塩化ナトリウム、pH7.2で、洗浄剤洗浄、平衡化、及び溶出を行なった。エンドトキシンが添加されたモノクローナル抗体を、1×PBS、pH7.2でMabSelectSuReに結合させた後、50mM 酢酸塩、30mM 塩化ナトリウム pH3.5で、洗浄剤洗浄、平衡化、及び溶出を行なった。
【0147】
エンドトキシン濃度を、Charles River laboratories(Charleston,SC)から購入した、0.1EU/mLまでの感度を有するEndosafe PTS100により測定した。
【0148】
タンパク質濃度を、Thermo Fisher Scientific(Rockville,MD)から購入したNanodropにより測定した。各サンプルのタンパク質濃度を、280nmでの吸光度により分析した。ブランク緩衝溶液によるゼロ吸光度に対する較正の後、各タンパク質サンプルを、A280での吸光度に関して測定した。吸光度を、各タンパク質のそれぞれの消衰係数で除算した。
【0149】
図9に示すように、ラウレス-9は、エンドトキシンを1EU/mg未満(インビボ試験での典型的な要求)まで減少させ、従って、リゾチーム溶液からエンドトキシンを除去するためにカチオン交換クロマトグラフィー培地の洗浄液として使用され得る。
【0150】
【表9】
【0151】
表10に示すように、Brij L9(ラウレス-9)は、エンドトキシンを1EU/mg未満(インビボ試験での典型的な要求である)まで減少させ、従って、mAb溶液からエンドトキシンを除去するためにプロテインA親和性クロマトグラフィー培地の洗浄液として使用され得る。
【0152】
【表10】
図1
図2
図3
【国際調査報告】