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特表2023-532568ラマン分光法を使用したウイルスの分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】ラマン分光法を使用したウイルスの分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/70 20060101AFI20230721BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230721BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230721BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230721BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12M1/34 B
G01N33/50 P
G01N33/483 C
G01N21/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581700
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(85)【翻訳文提出日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 GB2021051673
(87)【国際公開番号】W WO2022003359
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】2010104.4
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】518318299
【氏名又は名称】セル・セラピー・カタパルト・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Cell Therapy Catapult Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170184
【弁理士】
【氏名又は名称】北脇 大
(72)【発明者】
【氏名】チャーチウェル、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】バラデス、マーク オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】マーシャル、ダミアン
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043BA17
2G043CA04
2G043EA03
2G043KA01
2G043KA05
2G043KA09
2G043LA03
2G043NA01
2G043NA02
2G043NA12
2G045CB30
2G045DA12
2G045FA28
4B029AA07
4B029BB13
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA02
4B029FA11
4B029GA08
4B029GB10
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
本発明は、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量のモニタリングならびに評価のためのラマン分光法の使用に関するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光法を使用して、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定する方法であって、
(a)サンプルを提供し、光源を用いて前記サンプルを照射するステップと、
(b)
(i)前記サンプルの第1の波数強度データセットを取得するために、第1の複数の波数範囲のうちのそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定するステップであって、前記第1の複数の波数範囲は、事前に選択され、前記サンプル中のウイルス核酸に特徴的である、ステップと、
(ii)前記第1の波数強度データセットに対して第1のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップと、
(iii)前記第1のセットの数学的データ処理ステップの出力に基づいて、前記サンプルのウイルス核酸含有量を決定するステップと、
(c)
(i)前記サンプルの第2の波数強度データセットを取得するために、第2の複数の波数範囲のうちのそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定するステップであって、前記第2の複数の波数範囲は、事前に選択され、前記サンプル中のウイルスの1つ以上のウイルス構造分子に特徴的である、ステップと、
(ii)前記第2の波数強度データセットに対して第2のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップと、
(iii)前記第2のセットの数学的データ処理ステップの出力に基づいて、前記サンプル中の前記1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルス含有量を決定するステップと、
(d)ステップ(b)(iii)および(c)(iii)で決定された値に基づいて、前記サンプル中の前記1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の前記比率を決定するステップとを含む、
方法。
【請求項2】
前記第1および第2の波数強度データセットに対して前記第1および第2のセットの数学的データ処理ステップを実行する前記ステップは、
(i)任意選択で、波数信号強度データを正規化するステップを含み、このステップは、一次微分法、二次微分法、標準正規変量(SNV)法、多項式フィッティング法、マルチ多項式フィッティング法、モリファイア法、ピースワイズ多項式フィッティング(PPF)法、または適応型の反復的に再重み付けされたペナルティ付き最小二乗(airPLS)法などの1つ以上の前処理分析法を使用して、信号強度データを前処理することにより実行され、
(ii)部分最小二乗(PLS)回帰アルゴリズムなどの多変量回帰アルゴリズムを前記波数信号強度データに適用することによってモデルパラメータを取得するステップであって、任意選択で前記PLSアルゴリズムは、非線形反復部分最小二乗(NIPALS)回帰アルゴリズムまたはニューラルネットワークである、ステップを含み、
(iii)前記多変量回帰アルゴリズムを前記信号強度データに適用することによって取得された前記モデルパラメータを使用して、前記サンプルの前記ウイルス核酸含有量を決定し、前記サンプル中の前記1つ以上のウイルス構造分子を含む前記ウイルス含有量を決定するステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプルを照射するために使用される前記光源はレーザであり、前記サンプルは、785nmの波長を有する光で照射される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ラマン散乱光は、電荷結合素子(CCD)を使用して検出される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプルの前記第1の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第1の複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの4個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの6個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの8個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの10個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの12個すべてを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルの前記第1の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第1の複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの4個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの6個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの8個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの10個すべてを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプルの前記第1の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第1の複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの4個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの6個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの8個すべてを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルの前記第2の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第2の複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの4個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの6個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの8個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの10個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの12個以上、14個以上、16個以上、もしくは18個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの20個すべてを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルの前記第2の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第2の複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの4個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの6個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの8個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの10個以上、11個以上、もしくは12個を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの13個すべてを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプルの前記第2の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第2の複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの4個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの5個もしくは6個を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの7個すべてを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプル中の前記ウイルスは、アデノ随伴ウイルス(AAV)である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルの前記第1の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第1の複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、変数重要度指標(VIP)が1.00以上である、波数範囲1~28のうちの5個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの10個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの15個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの20個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの25個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの28個すべてを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記サンプルの前記第1の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第1の複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、変数重要度指標(VIP)が1.25以上である、波数範囲29~59のうちの5個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの10個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの15個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの20個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの25個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの30個を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの31個すべてを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルの前記第1の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの前記第1の複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、変数重要度指標(VIP)が1.50以上である、波数範囲60~81のうちの5個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの10個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの15個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの20個以上を含むか、または、
測定されるラマンスペクトルの前記複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの22個すべてを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記サンプル中の前記ウイルスは、レンチウイルスである、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記核酸は、ウイルスDNAゲノムを含むか、または前記核酸は、ウイルスRNAゲノムを含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記1つ以上のウイルス構造分子は、1つ以上の核タンパク質および/もしくは1つ以上のカプソメアのような1つ以上のウイルスタンパク質;1つ以上のウイルス糖鎖;グリコシル化ウイルスタンパク質のような1つ以上のグリコシル化ウイルス分子;ならびに/または1つ以上のウイルス脂質を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記比率は、機能的ウイルス力価の尺度を提供する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記サンプルは、ウイルス培養物であり、任意選択で、前記ウイルス培養物は、バイオリアクターに含まれる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
光源を用いて前記ウイルス培養物を照射する前記ステップおよび前記ラマン散乱光の総強度を測定する前記ステップは、前記ウイルス培養物の培地上で直接(インサイチューで)実行される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
光源を用いて前記ウイルス培養物を照射する前記ステップおよび前記ラマン散乱光の総強度を測定する前記ステップは、前記ウイルス培養物から採取された培地のアリコート上で直接(エクスサイチューで)実行される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記方法は、最初の時点での1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定する第1のステップと、より後の時点での1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定する1つ以上のさらなるステップとを含み、時点間の前記サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の前記比率の変化を測定するステップをさらに含み、各ステップは、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法によって実行され、好ましくは、各ステップは、同じ方法によって実行される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の前記比率は、リアルタイムで前記比率の変化の尺度を提供するためにある期間にわたって繰り返し決定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記サンプル中の前記比率の変化を使用して、ウイルス産生プロセスの開始段階、産生段階、および/または定常段階を決定する、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記方法は、ウイルス産生プロセスの最適条件を決定するために使用される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記方法は、ウイルス産生プロセスの下流のプロセスを評価するために使用される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記方法は、それによって取得された前記比率を、代替の方法によって同じサンプルから取得された比率と比較するステップを含み、任意選択で、前記代替の方法は、qPCR、RT-qPCR、ELISA、または透過型電子顕微鏡による視覚的決定によるものである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ラマン分光法を使用して個人のウイルス感染の程度を決定する方法であって、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法を実行することにより、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定するステップを含み、前記サンプルは、前記個人から以前に取得されたサンプルである、方法。
【請求項29】
前記サンプルは、血液、唾液、喀痰、血漿、血清、脳脊髄液、尿、または糞便のサンプルである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
対象からの前記サンプル中の比率は、前記個人の感染段階の予後を提供するために、前記個人の感染について以前に取得された1つ以上の比率測定値と比較される、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
ラマン分光法を使用して、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定する方法であって、
(a)
(i)前記サンプルの第1の波数強度データセットを提供するステップであって、前記第1のデータセットは、光源を用いて前記サンプルを照射するステップと、第1の複数の波数範囲のうちのそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定するステップとによって取得されたものであり、ラマンスペクトル中の前記第1の複数の波数範囲は、前記サンプル中のウイルス核酸に特徴的なものとして選択されたものである、ステップと、
(ii)前記第1の波数強度データセットに対して第1のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップと、
(iii)前記第1のセットの数学的データ処理ステップの出力に基づいて、前記サンプルの核酸含有量を決定するステップと、
(b)
(i)前記サンプルの第2の波数強度データセットを提供するステップであって、前記第2のデータセットは、光源を用いて前記サンプルを照射するステップと、第2の複数の波数範囲のうちのそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定するステップとによって取得されたものであり、ラマンスペクトル中の前記第2の複数の波数範囲は、前記サンプル中の前記ウイルスの1つ以上のウイルス構造分子に特徴的なものとして選択されたものである、ステップと、
(ii)前記第2の波数強度データセットに対して第2のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップと、
(iii)前記第2のセットの数学的データ処理ステップの出力に基づいて、前記サンプル中の前記1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルス含有量を決定するステップと、
(c)ステップ(a)(iii)および(b)(iii)で決定された値に基づいて、前記サンプル中の前記1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の前記比率を決定するステップとを含む、
方法。
【請求項32】
前記方法は、請求項2~30のいずれか一項で定義されたステップに従って実行される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定するためのラマン分光法の使用。
【請求項34】
前記比率は、光源による前記サンプルの照射後に前記サンプルから取得されるラマン散乱光の強度の測定値に基づいて決定され、前記ラマン散乱光の強度は、前記サンプル中のウイルス核酸に特徴的であるラマンスペクトルの第1の複数の波数範囲から、および前記サンプル中の前記ウイルスの前記1つ以上のウイルス構造分子に特徴的であるラマンスペクトルの第2の複数の波数範囲から測定される、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
前記サンプルは、ウイルス培養物であり、任意選択で、前記ウイルス培養物は、バイオリアクターに含まれる、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記ラマン散乱光の総強度を測定する前記ステップは、前記ウイルス培養物の培地上で直接(インサイチューで)実行される、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
前記ラマン散乱光の総強度を測定する前記ステップは、前記ウイルス培養物から採取された培地のアリコート上で直接(エクスサイチューで)実行される、請求項35に記載の使用。
【請求項38】
前記サンプル中の前記比率は、最初の時点およびより後の1つ以上の時点で決定され、時点間の前記サンプル中の前記比率の変化が計算される、請求項34~37のいずれか一項記載の使用。
【請求項39】
前記サンプル中の前記比率は、繰り返し定量化されて、前記比率の変化の尺度がリアルタイムに提供される、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記サンプル中の前記比率は、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法を実行することによって決定される、請求項33~39のいずれか一項に記載の使用。
【請求項41】
前記サンプル中の前記ウイルスは、HIV-1またはHIV-1ウイルス様粒子(HIV-1 VLP)ではない、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項42】
前記ラマン分光法は、表面増強ラマン分光法ではない、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項43】
サンプルについて取得されたラマン分光法の波数強度データセットから、前記サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルス含有量を決定することができる多変量データ処理モデルを構築する方法であって、
(a)前記サンプルを提供し、光源を用いて前記サンプルを照射するステップを含み、
(b)複数の波数範囲のそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定して、前記サンプルの波数強度データセットを取得するステップであって、前記複数の波数範囲は、事前に選択され、前記サンプル中の前記ウイルスの前記1つ以上のウイルス構造分子に特徴的である、ステップを含み、
(c)正規化された波数信号強度データを取得するステップを含み、このステップは、一次微分法、二次微分法、標準正規変量(SNV)法、多項式フィッティング法、マルチ多項式フィッティング法、モリファイア法、ピースワイズ多項式フィッティング(PPF)法、または適応型の反復的に再重み付けされたペナルティ付き最小二乗(airPLS)法などの前処理分析法を使用して信号強度データを前処理することにより実行され
(d)前記前処理された信号強度データに部分最小二乗(PLS)回帰アルゴリズムなどの多変量回帰アルゴリズムを適用することによってモデルパラメータを取得するステップであって、任意選択で、前記PLSアルゴリズムは、非線形反復部分最小二乗(NIPALS)回帰アルゴリズムまたはニューラルネットワークであり、キャリブレーションが実行され、前記前処理された信号強度データは、qPCR、RT-qPCR、ELISAなどの非ラマン分光法を使用して、または透過電子顕微鏡法による視覚的決定により、同じサンプル条件で取得されたウイルス力価データと比較されるステップを含み、
(e)前記前処理されたデータから取得された前記モデルパラメータを使用して応答値を推測するステップを含み、
(f)変数選択、任意選択で変数重要度指標(VIP)を実行し、ラマンスペクトル変数を特定するステップを含み、
(g)任意選択で、ステップ(d)~(f)を再適用することにより、モデリングの1つ以上のさらなるラウンドを実行し、重要でない変数を削除するステップを含み、
サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含む前記ウイルス含有量は、前記多変量データ処理モデルから導出された前記特定されたラマンスペクトル変数について取得された前記モデルパラメータを使用して決定される、
方法。
【請求項44】
サンプルについて取得されたラマン分光法の波数強度データセットから、前記サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定することができる1つ以上の多変量データ処理モデルを構築する方法であって、
(a)前記サンプルを提供し、光源を用いて前記サンプルを照射するステップを含み、
(b)
(i)第1の複数の波数範囲のそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定して、前記サンプルの第1の波数強度データセットを取得するステップであって、前記第1の複数の波数範囲は、事前に選択され、前記サンプル中のウイルス核酸に特徴的である、ステップを含み、
(ii)第2の複数の波数範囲のそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定して、前記サンプルの第2の波数強度データセットを取得するステップであって、前記第1の複数の波数範囲は、事前に選択され、前記サンプル中の前記ウイルスの前記1つ以上のウイルス構造分子に特徴的である、ステップと、
(c)前記第1および第2の波数強度データセットの正規化された波数信号強度データを取得するステップを含み、このステップは、一次微分法、二次微分法、標準正規変量(SNV)法、多項式フィッティング法、マルチ多項式フィッティング法、モリファイア法、ピースワイズ多項式フィッティング(PPF)法、または適応型の反復的に再重み付けされたペナルティ付き最小二乗(airPLS)法などの前処理分析法を使用して信号強度データを前処理することにより実行され、
(d)前記前処理された信号強度データセットのそれぞれ1つに部分最小二乗(PLS)回帰アルゴリズムなどの多変量回帰アルゴリズムを適用することによって、前記第1および第2の波数強度データセットに適用されるモデルパラメータを取得するステップであって、任意選択で、前記PLSアルゴリズムは、非線形反復部分最小二乗(NIPALS)回帰アルゴリズムまたはニューラルネットワークであり、キャリブレーションが実行され、前記前処理された信号強度データは、qPCR、RT-qPCR、ELISAなどの非ラマン分光法を使用して、または透過電子顕微鏡法による視覚的決定により、同じサンプル条件で取得されたウイルス力価データと比較されるステップを含み、
(e)前記前処理されたデータセットのそれぞれ1つから取得された前記モデルパラメータを使用して応答値を推測するステップを含み、
(f)変数選択、任意選択で変数重要度指標(VIP)を実行し、ラマンスペクトル変数を特定するステップを含み、
(g)任意選択で、ステップ(d)~(f)を再適用することにより、任意のデータセットのモデリングの1つ以上のさらなるラウンドを実行し、重要でない変数を削除するステップを含み、
前記サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の前記比率は、前記多変量データ処理モデルから導出された前記特定されたラマンスペクトル変数について取得された前記モデルパラメータを使用して決定される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量のモニタリングならびに評価のためのラマン分光法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ウイルスベクターの製造は、多くの細胞の産生および遺伝子治療にとって重要なプロセスステップであり、この業界の成長により、ウイルスベクターの供給に対する需要が高まっている。これを考慮して、ウイルスベクター産生プロセスをモニタリングおよび最適化できること、ならびにウイルスベクター産物を定量化および特性評価できることを保証するための分析ツールが利用可能であることが重要である。ウイルスベクターの需要と産生コストの両方が、産生中に良好なウイルスベクター力価を達成することを特に重要視している。現在、物理的ウイルス力価の測定は、通常、標準的な分析技術によって実行され、例えば、レンチウイルス力価の場合、p24を評価するためのELISAまたはウイルスRNAの測定のためのqPCR、およびAAVの場合、ITRを標的とするプライマーを使用したRT qPCRが頻繁に使用される。しかしながら、これらの方法は時間がかかり、多くの場合不正確であり、培地のサンプリングが必要である。したがって、これらの方法は、ウイルス濃度の遡及的測定のみを提供する。したがって、ウイルス力価を測定するための新しい方法が必要である。
【0003】
また、効率的なウイルスまたはウイルス粒子の産生プロセス、特に医療用途のウイルス粒子を作り出すために使用されるプロセスについて、1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率をモニタリングして、産生される機能的ウイルス粒子の割合を最大化することが有利である。中空粒子などの非機能的ウイルス粒子は、一般的に産生プロセスにおける廃棄物と見なされており、患者に投与すると、望ましくない免疫反応などの問題を引き起こす可能性がある。現在、1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を定量化する最も正確な方法は、透過型電子顕微鏡法(TEM)である。別の方法は、ELISAおよびqPCR実験を実行して、ウイルスのタンパク質と核酸の量をそれぞれ計算することである。しかしながら、TEM、ELISA、およびqPCRのこれらの定量化方法は、遡及的にしか実行できない。したがって、サンプル中の機能的ウイルス粒子の割合を計算するために、ウイルス成分存在量をリアルタイムで定量化する方法は現在存在しない。
【0004】
ラマン分光法は振動型の分光法であり、分子情報が必要なプロセス分析技術(PAT)用途に特に有用であることが示されている。この手法は、サンプル内に存在する分子によって非弾性的に散乱された光子の波長シフトの検出に基づいている(このような光子の波長の違いは、基底状態から第1励起状態へ特定の分子の振動状態を変更することによって光子から失われるエネルギーに関連するか、または励起された振動状態から基底状態への下方遷移分子からの光子によって得られるエネルギーに関連する)。この手法には、PAT用途で以前に使用された方法論に比べて多くの利点があり、特に、他のシステムと比較して水によって生成される信号が比較的弱いため、溶液中のバイオプロセスモニタリング、細胞培養分析、およびタンパク質分析が容易になる。ラマン分光法は、例えば、分散試験に、そして原材料および細胞培養培地の同一性を決定するため;高分子製品を特徴づけるため;薬物製剤、バッチ間の変動、汚染、培地の分解、生細胞密度および総細胞密度を含む細胞密度、タンパク質構造、ならびにタンパク質の安定性を分析するため;ポリマーおよび繊維分析のため;材料IDテストのため、ならびにグルコース、グルタミン、乳酸塩、およびアンモニアの定量のために使用されてきた。Buckley and Ryder(2017)は、ラマン分光法の適用性のレビューを提供している。
【0005】
従来のラマン分光法は、生物学分野でしばしば必要とされる高感度の定量分析への使用に影響を与えることが報告されている弱い信号の生成に関連している可能性がある。実際、従来のラマン分光法を使用したグルコース検出の濃度限界は0.6mMであると報告されており、フェニルアラニンの濃度限界は1.1mMである(それぞれ0.11mg/mlおよび0.18mg/mlと等価であると推定される)と報告されている(Buckley and Ryder, 2017,Applied Spectroscopy, 71, p 1085-1116)。これを考慮して、従来のラマン分光法は、主に当技術分野で細胞培養培地および細胞増殖を評価するために使用されてきており、例えば、ウイルス粒子などの、従来のラマン分光法の報告された検出限界未満のエンティティを検出するために、より感度の高い測定が必要な場合は、他の方法が採用されてきた。この点で、Lee et al(2015)は、HIV-1の検出のための表面増強ラマン分光法(SERS)の使用について説明している。SERSは、従来のラマンとは異なり、Ag、CuまたはAuのようなナノスケールで粗面化された金属表面に付着した分子からの信号を増強する。Lee et alでは、結合した抗gp120抗体フラグメントを含むAuナノドットで製造されたインジウムスズ酸化物基板をHIV-1ウイルス様粒子の特異的結合に使用して、HIV-1ウイルス様粒子検出のための増強された信号の生成を確実にした。しかしながら、SERSには、適切な免疫相互作用分子を使用して基板を事前に準備する必要があるなどの制限がある可能性があり、これは技術の一般的な用途を制限し、これに関連するコストが増加する。さらに、SERSは、対象のエンティティに結合するという要件の性質上、サンプル内では常に侵襲的である。
【0006】
したがって、ウイルスなどの敏感な信号または弱い信号に関連する可能性のあるエンティティを特徴付けて評価し、そのようなエンティティをインサイチューで評価するために、さらなる方法が必要とされている。また、産生される機能的ウイルス粒子の割合をモニタリングおよび最大化するために、ウイルス成分存在量をリアルタイムでモニタリングする方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
驚くべきことに、当技術分野における教示とは正反対に、本発明者らは、従来のラマン分光法を使用して、リアルタイムにウイルス力価を正確かつ高感度に定量化できることを示した。これは、本明細書でさらに説明するように、ウイルス培養培地を光源で直接照射し、ラマン分光データを取得することによって達成することができる。したがって、この方法は、ウイルス培養培地の処理の必要性を取り除く。本発明者らは、本明細書に記載の方法に従って従来のラマンスペクトルによって決定されるようなウイルス力価が、(例えば、RT-qPCRおよびp24 ELISAなどのオフラインアッセイによって測定されるような)オフライン力価測定に匹敵すること、ならびに本明細書に記載の方法に従って使用される従来のラマン分光法がウイルス力価を評価するための代替となる迅速で信頼できる方法を提供できることを示した。前述のように、この発見は、従来のラマン分光法が弱い信号の生成に関連し、例えばバルク溶液システム(特に散乱変動が大きく、不要な蛍光バックグラウンド信号が存在するシステム)に適用した場合、溶液中の低濃度のウイルスが従来のラマン分光法を使用することによる典型的な検出下限を下回ると理解されていた先行技術を考慮すると、特に予想外である。この発見はまた、ラマン分光法を使用できるようにするためにウイルス培養培地を処理すること(例えば、ラマン分光法を使用する分析の前にウイルスを濃縮するため、またはバイオフィルム形成を防止するためにウイルス培養培地を処理すること)を必要とする先行技術を考慮すると、特に予想外である。
【0008】
また、本発明者らは、従来のラマン分光法を使用してウイルス成分存在量をリアルタイムでモニタリングし、特にウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量をリアルタイムで定量化できることを示した。したがって、ラマン分光法を使用して、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定し、したがって、産生される機能的ウイルス粒子の割合を決定することができる。
【0009】
本発明者らは、リアルタイムのウイルス力価ならびに/またはウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量の測定を達成するために、リアルタイムラマン分光データを処理するモデルで予測を可能にするのに重要な一連のスペクトル変数を特定した。本発明者らは、ラマン分光法を使用する場合のウイルス力価および/またはウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量の正確な予測のための変数範囲を提供するために、異なる重要度閾値を有する増加する数の変数の層化範囲を確立した。本発明者らは、ラマン分光法を使用して、ウイルス産生プロセスの開始、産生段階、および終了を特定できることを示した。
【0010】
したがって、本発明は、サンプル中のウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量をモニタリングならびに/または評価するためのラマン分光法の使用に関する。別の見方をすると、本発明は、多変量モデルを使用してウイルスを含むサンプルのラマンスペクトルを分析し、ウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量を決定するステップを含む、サンプル中のウイルス核酸存在量ならびにウイルス構造分子存在量をモニタリングならびに/または評価する方法に関する。そのような方法は、サンプルに対してラマン分光法を実行する(すなわちスペクトルを取得する)ステップをさらに含むことができる。
【0011】
本発明はさらに具体的には、ウイルス産生プロセスの開始、産生段階、および/または終了のモニタリングならびに/または評価のためのラマン分光法の使用に関する。本発明者らは、上述のように、ウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量の決定にラマン分光法を使用できることを特定し、特に本発明者らは、この目的のために評価を必要とする特定の波数範囲を特定した。そのようなピークの強度は、本発明の方法で決定することができ、そのようなピークの強度は、ウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量を決定するために多変量モデルで評価することができるフィンガープリントの生成をもたらし得る。本発明の好ましい実施形態において、モニタリングおよび/または評価されるウイルス核酸存在量ならびにウイルス構造分子存在量は、アデノ随伴ウイルスのウイルス核酸存在量およびアデノ随伴ウイルスのウイルス構造分子存在量である。
【0012】
本発明の1つの利点は、ウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量、ならびに1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率をリアルタイムに連続的にモニタリングできることである。ウイルス培養培地からのサンプルを処理して、ウイルス核酸存在量、ウイルス構造分子存在量、および1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を推定する必要はない。測定は、必要に応じてインサイチューで行うことができる。換言すれば、測定は、増殖インキュベーター内のウイルス培養培地上で直接行うことができる。測定は、必要に応じて、エクスサイチューで行うことができる。換言すれば、測定は、増殖インキュベーターから採取された、または増殖インキュベーターのメインチャンバーから分離された、ウイルス培養培地のアリコート中のウイルス培養培地上で直接行うことができる。測定がインサイチューで行われるかエクスサイチューで行われるかにかかわらず、ウイルス培養培地をさらに処理する必要なしに、ウイルス培養培地上で直接測定を行うことができる。このタイプのアプローチは、「インライン」または「アットライン」分析と呼ばれることがある。したがって、ウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量のより正確な傾向を、汚染のリスクなしに生成することができる。したがって、本発明の方法は、ウイルス培養培地の処理を必要とする従来のオフラインの方法よりも高速かつ単純である。特に、培養の産生段階をはるかにより正確に測定できるため、ウイルス産生の終了/集菌段階のタイミングがより正確になり、適切な時点でプロセスを停止できるようになり、産生プロセスのコストが削減される可能性がある。
【0013】
したがって、本発明は、ラマン分光法を使用して、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定する方法であって、
(a)サンプルを提供し、光源を用いてサンプルを照射するステップと、
(b)
(i)サンプルの第1の波数強度データセットを取得するために、第1の複数の波数範囲のうちのそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定するステップであって、第1の複数の波数範囲は、事前に選択され、サンプル中のウイルス核酸に特徴的である、ステップと、
(ii)第1の波数強度データセットに対して第1のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップと、
(iii)第1のセットの数学的データ処理ステップの出力に基づいて、サンプルのウイルス核酸含有量を決定するステップと、
(c)
(i)サンプルの第2の波数強度データセットを取得するために、第2の複数の波数範囲のうちのそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定するステップであって、第2の複数の波数範囲は、事前に選択され、サンプル中のウイルスの1つ以上のウイルス構造分子に特徴的である、ステップと、
(ii)第2の波数強度データセットに対して第2のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップと、
(iii)第2のセットの数学的データ処理ステップの出力に基づいて、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルス含有量を決定するステップと、
(d)ステップ(b)(iii)および(c)(iii)で決定された値に基づいて、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定するステップとを含む、方法を提供する。
【0014】
上で定義した方法において、ステップ(b)および(c)は、(b)の次に(c)の順序で、または(c)の次に(b)の順序で実行することができる。ステップ(b)(iii)および(c)(iii)で特定される値が、ステップ(d)で比率を決定できるように決定される場合、ステップが実行される正確な順序は本質的ではない。さらに、ステップ(b)(iii)および(c)(iii)で特定される値を提供するために、数学的データ処理により、第1および第2の波数強度データセットを同時に処理可能となり得るので、ステップ(b)と(c)は同時に実行することができる。
【0015】
上で定義した方法において、第1および第2の波数強度データセットに対して第1および第2のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップは、
(i)任意選択で、波数信号強度データを正規化するステップを含み、このステップは、一次微分法、二次微分法、標準正規変量(SNV)法、多項式フィッティング法、マルチ多項式フィッティング法、モリファイア法、ピースワイズ多項式フィッティング(PPF)法、または適応型の反復的に再重み付けされたペナルティ付き最小二乗(airPLS)法などの1つ以上の前処理分析法を使用して、信号強度データを前処理することにより実行され、
(ii)部分最小二乗(PLS)回帰アルゴリズムなどの多変量回帰アルゴリズムを波数信号強度データに適用することによってモデルパラメータを取得するステップであって、任意選択でPLSアルゴリズムは、非線形反復部分最小二乗(NIPALS)回帰アルゴリズムまたはニューラルネットワークである、ステップを含み、
(iii)多変量回帰アルゴリズムを信号強度データに適用することによって取得されたモデルパラメータを使用して、サンプルのウイルス核酸含有量を決定し、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルス含有量を決定するステップを含むことができる。
【0016】
上で定義した方法のいずれにおいても、サンプルを照射するために使用される光源はレーザとすることができ、サンプルは、785nmの波長を有する光で照射することができる。
【0017】
上で定義した方法のいずれにおいても、ラマン散乱光は、電荷結合素子(CCD)を使用して検出することができる。
【0018】
上で定義した方法の一実施形態では、サンプルの第1の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの第1の複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの6個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの8個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの10個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの12個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)とすることができる。
【0019】
あるいはまた、測定されるラマンスペクトルの第1の複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの6個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの8個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの10個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)とすることができる。
【0020】
あるいはまた、測定されるラマンスペクトルの第1の複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの6個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの8個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)とすることができる。
【0021】
上で定義した方法の同じまたは別の一実施形態では、サンプルの第2の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの第2の複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの6個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの8個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの10個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの12個以上、14個以上、16個以上、もしくは18個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの20個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)とすることができる。
【0022】
あるいはまた、測定されるラマンスペクトルの第2の複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの6個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの8個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの10個以上、11個以上、もしくは12個を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの13個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)とすることができる。
【0023】
あるいはまた、測定されるラマンスペクトルの第2の複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの5個もしくは6個を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの7個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)とすることができる。
【0024】
上で定義した方法の別の一実施形態では、サンプルの第1の波数強度データセットを取得するために測定されるラマンスペクトルの第1の複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、変数重要度指標(VIP)が1.00以上である、波数範囲1~28のうちの5個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの10個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの15個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの20個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの25個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの28個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、レンチウイルスとすることができる。
【0025】
あるいはまた、測定されるラマンスペクトルの第1の複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、変数重要度指標(VIP)が1.25以上である、波数範囲29~59のうちの5個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの10個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの15個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの20個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの25個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの30個を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの31個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、レンチウイルスとすることができる。
【0026】
あるいはまた、測定されるラマンスペクトルの第1の複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、変数重要度指標(VIP)が1.50以上である、波数範囲60~81のうちの5個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの10個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの15個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの20個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの22個すべてを含むことができる。これらの方法のいずれにおいても、ウイルスは、好ましくは、レンチウイルスとすることができる。
【0027】
上で定義した方法のいずれにおいても、核酸は、ウイルスDNAゲノムまたはウイルスRNAゲノムを含むことができる。
【0028】
上で定義した方法のいずれにおいても、1つ以上のウイルス構造分子は、1つ以上のウイルスタンパク質(例えば、1つ以上の核タンパク質および/または1つ以上のカプソメア)、1つ以上のウイルス糖鎖、1つ以上のグリコシル化ウイルス分子(例えば、グリコシル化ウイルスタンパク質)、および/または1つ以上のウイルス脂質を含むことができる。
【0029】
上で定義した方法のいずれにおいても、比率は、機能的ウイルス力価の尺度を提供することができる。
【0030】
上で定義した方法のいずれにおいても、サンプルは、ウイルス培養物とすることができる。ウイルス培養物は、バイオリアクターに含まれ得る。このような方法のいずれにおいても、ウイルス培養物を光源で照射し、ラマン散乱光の総強度を測定するステップは、ウイルス培養物の培地上で直接(インサイチューで)行うことができる。あるいはまた、ウイルス培養物を光源で照射し、ラマン散乱光の総強度を測定するステップは、ウイルス培養物から採取した培地のアリコート上で直接(エクスサイチューで)行うことができる。
【0031】
上で定義した方法のいずれも、最初の時点での1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定する第1のステップと、より後の時点での1つ以上のウイルス構造分子に対するウイルス核酸の比率を決定する1つ以上のさらなるステップとを含むことができ、時点間のサンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率の変化を測定するステップをさらに含み、各ステップは、上で定義した方法のいずれか1つによる方法によって実行され、好ましくは、各ステップは、同じ方法によって実行される。このような方法のいずれにおいても、1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率は、リアルタイムで比率の変化の尺度を提供するためにある期間にわたって繰り返し決定することができる。サンプル中の比率の変化を使用して、ウイルス産生プロセスの開始段階、産生段階、および/または定常段階を決定することができる。このような方法のいずれも、ウイルス産生プロセスの最適条件を決定するために使用することができる。このような方法のいずれも、ウイルス産生プロセスの下流のプロセスを評価するために使用することができる。
【0032】
上で定義した方法のいずれも、それによって取得された比率を、代替の方法によって同じサンプルから取得された比率と比較するステップを含むことができ、任意選択で、代替の方法は、qPCR、RT-qPCR、ELISA、または透過型電子顕微鏡による視覚的決定によるものである。
【0033】
本発明はまた、ラマン分光法を使用して個人のウイルス感染の程度を決定する方法であって、上で定義された方法のいずれか1つを実行することにより、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定するステップを含み、サンプルは、個人から以前に取得されたサンプルである、方法を提供する。サンプルは、血液、唾液、喀痰、血漿、血清、脳脊髄液、尿、または糞便のサンプルとすることができる。そのような方法のいずれにおいても、対象からのサンプル中の比率は、個人の感染段階の予後を提供するために、個人の感染について以前に取得された1つ以上の比率測定値と比較することができる。
【0034】
本発明はさらに、ラマン分光法を使用して、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定する方法であって、
(a)
(i)サンプルの第1の波数強度データセットを提供するステップであって、第1のデータセットは、光源を用いてサンプルを照射するステップと、第1の複数の波数範囲のうちのそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定するステップとによって取得されたものであり、ラマンスペクトル中の第1の複数の波数範囲は、サンプル中のウイルス核酸に特徴的なものとして選択されたものである、ステップと、
(ii)第1の波数強度データセットに対して第1のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップと、
(iii)第1のセットの数学的データ処理ステップの出力に基づいて、サンプルの核酸含有量を決定するステップと、
(b)
(i)サンプルの第2の波数強度データセットを提供するステップであって、第2のデータセットは、光源を用いてサンプルを照射するステップと、第2の複数の波数範囲のうちのそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定するステップとによって取得されたものであり、ラマンスペクトル中の第2の複数の波数範囲は、サンプル中のウイルスの1つ以上のウイルス構造分子に特徴的なものとして選択されたものである、ステップと、
(ii)第2の波数強度データセットに対して第2のセットの数学的データ処理ステップを実行するステップと、
(iii)第2のセットの数学的データ処理ステップの出力に基づいて、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルス含有量を決定するステップと、
(c)ステップ(a)(iii)および(b)(iii)で決定された値に基づいて、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定するステップとを含む、方法を提供する。
【0035】
すぐ上で説明した方法は、本明細書で説明および定義した方法のいずれか1つで定義したステップに従って実行することができる。
【0036】
すぐ上に記載された方法において、ステップ(a)および(b)は、(a)の次に(b)の順序で、または(b)の次に(a)の順序で実行することができる。ステップ(a)(iii)および(b)(iii)で特定された値が、ステップ(c)で比率を決定できるように決定される場合、ステップが実行される正確な順序は本質的ではない。さらに、ステップ(a)(iii)および(b)(iii)で特定される値を提供するために、数学的データ処理により、第1および第2の波数強度データセットを同時に処理可能となり得るので、ステップ(a)と(b)は同時に実行することができる。
【0037】
本発明はさらに、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定するためのラマン分光法の使用を提供する。そのような使用のいずれにおいても、比率は、光源によるサンプルの照射後にサンプルから取得されるラマン散乱光の強度の測定値に基づいて決定することができ、ラマン散乱光の強度は、サンプル中のウイルス核酸に特徴的であるラマンスペクトルの第1の複数の波数範囲から、およびサンプル中のウイルスの1つ以上のウイルス構造分子に特徴的であるラマンスペクトルの第2の複数の波数範囲から測定される。
【0038】
そのような使用のいずれにおいても、サンプルは、ウイルス培養物とすることができ、任意選択で、ウイルス培養物は、バイオリアクターに含まれる。ラマン散乱光の総強度を測定するステップは、ウイルス培養物の培地上で直接(インサイチューで)行うことができる。あるいはまた、ラマン散乱光の総強度を測定するステップは、ウイルス培養物から採取された培地のアリコート上で直接(エクスサイチューで)行うことができる。
【0039】
そのような使用のいずれにおいても、サンプル中の比率は、最初の時点およびより後の1つ以上の時点で決定することができ、時点間のサンプル中の比率の変化が計算される。そのような使用のいずれにおいても、サンプル中の比率は、繰り返し定量化されて、比率の変化の尺度がリアルタイムに提供される。そのような使用のいずれにおいても、サンプル中のウイルス力価は、本明細書に記載および定義された方法のいずれかを実行することによって定量化することができる。
【0040】
上で定義した方法または使用のいずれにおいても、サンプル中のウイルスは、HIV-1またはHIV-1ウイルス様粒子(HIV-1 VLP)でなくてもよい。
【0041】
上で定義した方法または使用のいずれにおいても、ラマン分光法は、表面増強ラマン分光法でなくてもよい。
【0042】
本発明はさらに、サンプルについて取得されたラマン分光法の波数強度データセットから、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルス含有量を決定することができる多変量データ処理モデルを構築する方法であって、
(a)サンプルを提供し、光源を用いてサンプルを照射するステップを含み、
(b)複数の波数範囲のそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定して、サンプルの波数強度データセットを取得するステップであって、複数の波数範囲は、事前に選択され、サンプル中のウイルスの1つ以上のウイルス構造分子に特徴的である、ステップを含み、
(c)正規化された波数信号強度データを取得するステップを含み、このステップは、一次微分法、二次微分法、標準正規変量(SNV)法、多項式フィッティング法、マルチ多項式フィッティング法、モリファイア法、ピースワイズ多項式フィッティング(PPF)法、または適応型の反復的に再重み付けされたペナルティ付き最小二乗(airPLS)法などの前処理分析法を使用して信号強度データを前処理することにより実行され、
(d)前処理された信号強度データに部分最小二乗(PLS)回帰アルゴリズムなどの多変量回帰アルゴリズムを適用することによってモデルパラメータを取得するステップであって、任意選択で、PLSアルゴリズムは、非線形反復部分最小二乗(NIPALS)回帰アルゴリズムまたはニューラルネットワークであり、キャリブレーションが実行され、前処理された信号強度データは、qPCR、RT-qPCR、ELISAなどの非ラマン分光法を使用して、または透過電子顕微鏡法による視覚的決定により、同じサンプル条件で取得されたウイルス力価データと比較されるステップを含み、
(e)前処理されたデータから取得されたモデルパラメータを使用して応答値を推測するステップを含み、
(f)変数選択、任意選択で変数重要度指標(VIP)を実行し、ラマンスペクトル変数を特定するステップを含み、
(g)任意選択で、ステップ(d)~(f)を再適用することにより、モデリングの1つ以上のさらなるラウンドを実行し、重要でない変数を削除するステップを含み、
サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルス含有量は、多変量データ処理モデルから導出された特定されたラマンスペクトル変数について取得されたモデルパラメータを使用して決定される、方法を提供する。
【0043】
本発明はまたさらに、サンプルについて取得されたラマン分光法の波数強度データセットから、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定することができる1つ以上の多変量データ処理モデルを構築する方法であって、
(a)サンプルを提供し、光源を用いてサンプルを照射するステップを含み、
(b)
(i)第1の複数の波数範囲のそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定して、サンプルの第1の波数強度データセットを取得するステップであって、第1の複数の波数範囲は、事前に選択され、サンプル中のウイルス核酸に特徴的である、ステップを含み、
(ii)第2の複数の波数範囲のそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定して、サンプルの第2の波数強度データセットを取得するステップであって、第1の複数の波数範囲は、事前に選択され、サンプル中のウイルスの1つ以上のウイルス構造分子に特徴的である、ステップを含み、
(c)第1および第2の波数強度データセットの正規化された波数信号強度データを取得するステップを含み、このステップは、一次微分法、二次微分法、標準正規変量(SNV)法、多項式フィッティング法、マルチ多項式フィッティング法、モリファイア法、ピースワイズ多項式フィッティング(PPF)法、または適応型の反復的に再重み付けされたペナルティ付き最小二乗(airPLS)法などの前処理分析法を使用して信号強度データを前処理することにより実行され、
(d)前処理された信号強度データセットのそれぞれ1つに部分最小二乗(PLS)回帰アルゴリズムなどの多変量回帰アルゴリズムを適用することによって、第1および第2の波数強度データセットに適用されるモデルパラメータを取得するステップであって、任意選択で、PLSアルゴリズムは、非線形反復部分最小二乗(NIPALS)回帰アルゴリズムまたはニューラルネットワークであり、キャリブレーションが実行され、前処理された信号強度データは、qPCR、RT-qPCR、ELISAなどの非ラマン分光法を使用して、または透過電子顕微鏡法による視覚的決定により、同じサンプル条件で取得されたウイルス力価データと比較されるステップを含み、
(e)前処理されたデータセットのそれぞれ1つから取得されたモデルパラメータを使用して応答値を推測するステップを含み、
(f)変数選択、任意選択で変数重要度指標(VIP)を実行し、ラマンスペクトル変数を特定するステップを含み、
(g)任意選択で、ステップ(d)~(f)を再適用することにより、任意のデータセットのモデリングの1つ以上のさらなるラウンドを実行し、重要でない変数を削除するステップを含み、
サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率は、多変量データ処理モデルから導出された特定されたラマンスペクトル変数について取得されたモデルパラメータを使用して決定される、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、赤外線の吸収/放出の量子エネルギー遷移を示すヤブロンスキー図である。この図は、レイリー(弾性散乱)とラマン(非弾性散乱)をストークス遷移と反ストークス遷移の両方で示している。
図2図2は、VVラマンプロジェクトレンチウイルスバイオリアクターのランからの例示的な前処理されたラマンスペクトルである。挿入図は、1000cm-1の領域の拡大図である。CCD読み出し時間約15分後、スペクトルは10秒間、75回の累積で取得され、合計積分時間は~12分30秒であった。
図3図3は、ウイルスベクターラマンプロジェクトにおけるバイオリアクタートランスフェクションの代表的なqPCRレンチウイルス力価の結果を示す棒グラフであり、cp数=コピー数である。
図4図4は、10分割の交差検証と20回のモンテカルロ反復後の平均二乗予測誤差(MSEPCV)が、(スペクトル変数選択前に)PLS潜在変数/成分の数の関数としてどのように変化するかを示すグラフである。
図5A-B】図5Aは、最初の10成分のPLS-Rモデルから計算された変数重要度指標(VIP)のプロットである。円は、VIP>1.5のスペクトル変数を示し、この情報を使用して図5Bに示される範囲を決定した。
図5C図5Cは、重要度の順の範囲を有するVIP>1.5のスペクトル変数の表である。
図6図6は、潜在変数または成分数の関数として交差検証後の平均二乗予測誤差の変化を示すプロットである。VIP>1.5を使用して控えめなスペクトル変数の削減後に取得。
図7図7は、オフラインqPCRデータと共にスペクトル変数の削減(VIP>1.5)後のレンチウイルスのラン1バイオリアクター4からのラマンコピー数/mLのPLS-R予測(10LV)を示すプロットである。Tは「トランスフェクトされた」を意味し、NTは「トランスフェクトされていない」を意味する。
図8図8は、オフラインqPCRデータと共にスペクトル変数の削減(VIP>1.5)後のレンチウイルスのラン2バイオリアクター1~4からのラマンコピー数のPLS-R予測(10LV)を示すプロットである。
図9図9は、オフラインqPCRデータと共にスペクトル変数の削減後のレンチウイルスのラン3バイオリアクター1~4からのラマンコピー数のPLS-R予測(10LV)を示すプロットである。
図10図10は、RT-qPCRの結果とp24 ELISAの結果の比較である。p24 ELISAアッセイは、いくつかのオフラインサンプルでレンチウイルス力価を取得するためにのみ使用された。
図11図11は、ウイルス力価のリアルタイムラマン導出モデルを適用して、ウイルス産生プロセスの開始、産生段階、および終了を特定する例である。モデル(黒い実線)から、3つの指標のセットもリアルタイムで計算される。ウイルス力価のモデル推定と共に、指標曲線の形状は、(グラフに重ねられたテキストで説明されるように)ウイルス産生の様々な段階を知らせる。RT-qPCR法およびELISA法のいずれか、または、両方を使用して遡及的に計算された物理的力価は、リアルタイムデータと遡及的オフラインデータの間の全体的な一致を示すためにグラフ(四角および破線)に重ね合されている。ラマンスペクトルからの追加のピークを含めると、ラマンモデルの質を向上させることができるが、このプロットは、ウイルス産生の主な段階を特定するために必要な最小数の領域を使用して生成された。
図12図12は、ウイルス力価を定量化する式の概略図式を示す。この式は、正規化されたラマン信号強度データに適用された多変量回帰アルゴリズムから取得されたモデルパラメータ(この場合は回帰係数)に適用される。
図13図13は、レンチウイルス力価の推定値を提供するために必要な波数範囲の最小数を示すために、波数範囲の数の関数としてのR(1-残差平方和/総平方和)のプロットを示す。
図14図14は、AAVラマンプロジェクトバイオリアクターのランからの例示的な前処理されたラマンスペクトルである。挿入図は、1000~1200cm-1の領域の拡大図である。CCD読み出し時間約15分後、スペクトルは10秒間、75回の累積で取得され、合計積分時間は~12分30秒であった。
図15図15は、AAVラマンプロジェクトにおけるバイオリアクタートランスフェクションの代表的なqPCR AAVウイルス力価の結果を示す棒グラフである。
図16図16は、10分割の交差検証と20回のモンテカルロ反復後の平均二乗予測誤差(MSEPCV)が、(スペクトル変数選択前に)PLS潜在変数/成分の数の関数としてどのように変化するかを示すグラフである。
図17A-B】図17Aは、最初の15成分のPLS-Rモデルから計算された変数重要度指標(VIP)のプロットである。円は、VIP>=1.0のスペクトル変数を示し、この情報を使用して図17Bに示される範囲を決定した。
図17C図17Cは、重要度の順の範囲を有するVIP>=1.0のスペクトル変数の表である。
図18図18は、潜在変数または成分数の関数として交差検証後の平均二乗予測誤差の変化を示すプロットである。VIP>=1.0を使用してスペクトル変数の削減後に取得。
図19図19は、オフラインqPCRデータと共にスペクトル変数の削減後のラン4バイオリアクター1~4からのラマンコピー数のPLS-R予測(9LV)を示すプロットである。
図20図20は、AAVウイルス力価の推定値を提供するために必要な波数範囲の最小数を示すための、波数範囲の数の関数としてのR(1-残差平方和/総平方和)のプロットである。
図21図21は、AAVラマンプロジェクトバイオリアクターのランからの例示的な前処理されたラマンスペクトルである。挿入図は、1000~1200cm-1の領域の拡大図である。CCD読み出し時間約15分後、スペクトルは10秒間、75回の累積で取得され、合計積分時間は~12分30秒であった。
図22図22は、AAVラマンプロジェクトにおけるバイオリアクタートランスフェクションの代表的なqPCR AAVウイルス力価の結果を示す棒グラフである。
図23図23は、AAVラマンプロジェクトにおけるバイオリアクタートランスフェクションの代表的なELISA AAVウイルス力価の結果を示す棒グラフである。
図24図24は、10分割の交差検証と20回のモンテカルロ反復後の1ml当たりのRT-qPCRコピー数の平均二乗予測誤差(MSEPCV)が、(スペクトル変数選択前に)PLS潜在変数/成分の数の関数としてどのように変化するかを示すグラフである。
図25図25は、10分割の交差検証と20回のモンテカルロ反復後の1ml当たりのRT-qPCRコピー数の平均二乗予測誤差(MSEPCV)が、(スペクトル変数選択前に)PLS潜在変数/成分の数の関数としてどのように変化するかを示すグラフである。
図26A図26Aは、最初の15成分のPLS-Rモデルから計算された、1mL当たりのコピー数(RT-qPCRベース)のPLS-Rモデルの変数重要度指標(VIP)のプロットである。
図26B】円は、VIP>=1.0のスペクトル変数を示し、この情報を使用して図26Bに示される範囲を決定した。
図26C図26Cは、重要度の高い順の範囲を有するVIP>=1.0のスペクトル変数の表である。
図27A図27Aは、最初の14成分のPLS-Rモデルから計算された、1mL当たりの総粒子数(ELISAベース)のPLS-Rモデルの変数重要度指標(VIP)のプロットである。
図27B】円は、VIP>=1.0のスペクトル変数を示し、この情報を使用して図27Bに示される範囲を決定した。
図27C図27Cは、重要度の順の範囲を有するVIP>=1.0のスペクトル変数の表である。
図28図28Aは、最初の14成分のPLS-Rモデルから計算された、1mL当たりの総粒子数(ELISAベース)のPLS-Rモデルの変数重要度指標(VIP)のプロットである。円は、VIP>=1.0のスペクトル変数を示し、この情報を使用して図27Bに示される範囲を決定した。図27Cは、重要度の順の範囲を有するVIP>=1.0のスペクトル変数の表である。
図29図29は、潜在変数または成分数の関数として交差検証後の1ml当たりのELISA総ウイルス粒子数の平均二乗予測誤差の変化を示すプロットである。VIP>=1.0を使用してスペクトル変数の削減後に取得。
図30図30は、オフラインqPCRデータと共にスペクトル変数の削減後のバイオリアクター1~4からのラマンコピー数PLS-R予測(10LV)を示すプロットである。
図31図31は、オフラインRT-qPCRデータと共にスペクトル変数の削減後のバイオリアクター5~8からのラマンコピー数PLS-R予測(10LV)を示すプロットである。
図32図32は、オフラインELISAデータと共にスペクトル変数の削減後のバイオリアクター1~4からのラマン総粒子数PLS-R予測(10LV)を示すプロットである。
図33図33は、オフラインELISAデータと共にスペクトル変数の削減後のバイオリアクター5~8からのラマン総粒子数PLS-R予測(10LV)を示すプロットである。
図34図34は、ゲノムコピー数(RT-qPCR)および総粒子数(ELISA)のラマンPLS-Rモデル予測からの、計算されたEmpty-Full-Ratio(%)を示すプロットである。バイオリアクター2~4について、トランスフェクション後24時間から示される。
図35図35は、ゲノムコピー数(RT-qPCR)および総粒子数(ELISA)のラマンPLS-Rモデル予測からの、計算されたEmpty-Full-Ratio(%)を示すプロットである。バイオリアクター5~7について、トランスフェクション後24時間から示される。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な説明
開示された方法の異なる適用は、当技術分野における特定のニーズに合わせて調整され得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、本発明の特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0046】
また、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、内容が明確に別段の指示をしない限り、複数形の参照を含む。
【0047】
本明細書で引用されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、上記または下記を問わず、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0048】
ラマン分光法を用いたウイルス分析
本発明は、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量をモニタリングならびに評価するためのラマン分光法の使用を包含する。本発明は、ウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量をモニタリングならびに評価するためのラマン分光法の使用を包含する。本発明は、サンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率をモニタリングおよび評価するためのラマン分光法の使用を包含する。
【0049】
本明細書で定義される場合の「ウイルス力価」は、所与の体積中に存在するウイルスの量を指す。任意のタイプのウイルス力価を本発明で評価することができ、例えば、物理的ウイルス力価、機能的ウイルス力価(感染性ウイルス力価とも呼ばれる)、または形質導入ウイルス力価を評価することができる。特定の一実施形態では、物理的ウイルス力価を評価することができる。物理的ウイルス力価は、サンプル(例えば、ウイルス培養培地)中のウイルス粒子の濃度の尺度であり、通常、p24などのウイルスタンパク質またはウイルス核酸の存在に基づいている。物理的力価は、1mL当たりのウイルス粒子数(VP/mL)、1mL当たりのウイルスゲノム数(vg/mL)、1mL当たりのウイルスコピー数、または1mL当たりのRNAコピー数として表すことができ、物理的力価を測定する先行技術のアッセイには、p24のELISA(例えば、Lenti-X p24 Rapid Titerキット(Takara)、もしくはLentivirus-Associated p24 ELISAキット(Cell Biolabs, Inc))、qPCRまたはddPCR(例えば、AAVリアルタイムPCR滴定キット(Takara)、もしくはAdeno X qPCR滴定キット(Takara)))が含まれる。物理的力価の測定では、中空のウイルス粒子または欠陥のあるウイルス粒子と、細胞に感染する可能性のある粒子を常に区別するとは限らない。したがって、物理的ウイルス力価は、産生された粒子のうちのいくつが細胞に感染できるかを決定する機能的力価または感染性力価、および機能的ウイルス粒子のうちのいくつが目的の遺伝子を含むかを決定する形質導入ウイルス力価(例えば、ウイルスベクターの産生について、形質導入ウイルスの力価が関連している可能性がある)と区別することができる。したがって、サンプル中のすべての粒子が機能的でない限り、物理的力価の決定は機能的力価の決定と等しくはない。実際、機能的力価はしばしば、物理的力価の100~1000分の1である。
【0050】
あるいはまた、上記のように、機能的または感染性力価は、本発明で測定または評価することができ、機能的または感染性力価は、標的細胞に感染することができる特定の体積中に存在するウイルス粒子の量の尺度である。機能的力価は、1mL当たりのプラーク形成単位数(pfu/mL)または1mL当たりの感染単位数(ifu/mL)として表すことができる。機能的または感染性力価を測定するために使用できるオフラインアッセイには、プラークアッセイ、焦点形成アッセイ、エンドポイント希釈アッセイ、またはフローサイトメトリーが含まれる。上記のように、形質導入力価は、標的細胞に感染することができ、目的の遺伝子を含む、特定の体積中に存在するウイルス粒子の量の尺度である。形質導入力価は、形質導入単位/mLとして表すことができ、目的の遺伝子の存在を決定できる任意の既知のアッセイ、例えばPCRと共に、上記の機能的力価を評価するために使用されるアッセイを使用して評価することができる。当業者は、機能的力価または形質導入力価が、物理的力価について取得された任意の値を縮小することによって決定できることを理解するであろう。上記のように、物理的力価と機能的力価または形質導入力価との間の倍率の違いは、当技術分野で十分に理解されている。したがって、本発明の一態様では、機能的または形質導入力価は、本発明の方法によって間接的に(例えば、物理的力価について取得された値を縮小することによって)決定することができる。したがって、本発明の方法は、物理的力価の決定を縮小して、機能的または形質導入力価を決定する追加のステップを含むことができる。
【0051】
本発明の方法を使用して、サンプル(例えば、ウイルス培養培地)中のウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量をモニタリングならびに評価することができる。本発明の方法を使用して、サンプル(例えば、ウイルス培養培地)中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を決定することができる。この比率は、核酸と構造成分の両方を有するサンプル中のウイルス粒子の割合を決定するために使用できる。この割合は、機能的力価の推定値として使用できる。したがって、本発明の方法は、リアルタイムで機能的力価を推定するために使用することができるが、機能的力価を推定するための以前に知られている方法は、遡及的であり、かつオフラインである。
【0052】
本発明の方法が、任意の血清型の任意のウイルス、例えば、レンチウイルス(例えば、HIV-1およびHIV-2)およびガンマレトロウイルスなどのレトロウイルス;アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(例えば、AAV1-11、特にAAV1、AAV2、AAV5、およびAAV8、および自己相補的AAV)のウイルス力価ならびに/またはウイルス成分存在量を決定することができることは、当業者によって理解されるであろう。したがって、本発明の方法は、本明細書でさらに説明および定義されるように、哺乳動物ウイルスに適用することができる。本発明の方法は、本明細書でさらに説明および定義されるように、タバコモザイクウイルスなどの植物ウイルス、藻類ウイルス、酵母ウイルス、およびバキュロウイルスを含む昆虫ウイルスを含む非哺乳動物ウイルスにさらに適用することができる。典型的には、単一のウイルスタイプのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を本発明で評価することができるが、本発明の方法は、混合ウイルスサンプル、例えば、2つ以上のウイルスタイプを含むサンプルの力価および/またはウイルス成分存在量を評価することができるであろう。
【0053】
この点に関して、本発明に従って生成されたラマンスペクトルは、ウイルスもしくはウイルス成分を直接検出するか、ウイルスもしくはウイルス成分を間接的に検出するか、または直接的および間接的の両方でウイルスもしくはウイルス成分を検出するかのいずれかとすることができる。したがって、ラマンスペクトルに生成され、示される波数ピークは、ウイルスもしくはウイルス成分に関連するいくつかの異なる化合物または分子のいずれか1つを示している可能性がある。当業者は、本発明の性能にとっては、特定された各波数ピークがどの化合物/分子に関連するかを正確に特定する必要がないことを理解するであろう。代わりに、スペクトルは特定の条件下(例えば、培養条件、ウイルス、プロデューサー細胞株、および測定するウイルス力価のタイプなど)でフィンガープリントとして機能し、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、特定の多変量モデル(通常、同一または同様の条件下で生成されたもの)を用いて本明細書に開示されている波数範囲の各々での信号の強度の分析によって決定することができる。多変量モデルについては、本明細書で詳しく説明する。したがって、特定の波数で特定のラマンスペクトルについて取得されるピークは、ウイルス性の分子/化合物(例えば、カプシドタンパク質など)に対応する場合もあれば、非ウイルス性の分子/化合物(例えば、ウイルス産生細胞によって産生される、例えば、培養物中の代謝物)に対応する場合もある。このように、本発明で使用されるラマン分光法は、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量に直接関連する化合物を検出するのみならず、またはその代わりに、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量に間接的に関連する化合物も検出することができる。
【0054】
各波数範囲での信号の強度は異なる可能性があり、異なる条件(例えば、異なるウイルスの産生、異なるプロデューサー細胞株の使用、もしくは異なる培養培地もしくはバイオリアクターの使用)の下で取得されたラマンスペクトルのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量に異なって対応をする可能性があるが、評価され得る波数範囲(例えば、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量に関連すると決定されたもの)は、同じままであることが期待される。さらに、任意の所与の条件のセットについて、ユーザは、本明細書に記載され、当技術分野で知られている原理に基づいて多変量モデルを作製し、本明細書に記載され、その後同じ条件のセットを使用して生成される同じ波数範囲からの異なる信号強度データを分析するときにこのモデルを適用できることを理解するであろう。これは、ユーザが本明細書に記載の波数範囲を使用してラマン分光法を介してウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を計算でき、データは異なる条件が適用されるシステムで生成されることを意味する。
【0055】
本明細書で使用される波数範囲のレンチウイルス評価は、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の評価において重要である範囲を特定した。レンチウイルスはその化学組成の点で特に複雑なウイルスであることが知られているため、レンチウイルスに存在する成分の一部を有する単純なウイルスの化学成分は、(波数範囲のいずれか1つ以上がウイルスを直接検出する場合、)特定された波数の一部、例えば、特定された波数範囲のうちの少なくとも5個に含まれる関連信号を生成する可能性がある。したがって、本明細書で提供される波数範囲のサブセットを使用して、レンチウイルス以外のウイルスの力価を評価することができる。さらに、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量に相関すると特定された波数範囲の1つ以上が間接的にウイルスを検出する場合、ウイルストランスフェクションは培養物に同様の代謝変化をもたらす可能性が高いため、そのような波数範囲は、あらゆるシステムにおけるウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の評価に役立つ可能性がある。
【0056】
本発明の特定の一実施形態では、レンチウイルス力価および/またはレンチウイルス成分存在量がモニタリングならびに評価される。一態様では、ウイルスは、HIV-1またはHIV-1ウイルス様粒子でなくてもよい。
【0057】
「ウイルス」は通常、別の生物の生細胞内でのみ複製できる小さな感染性病原体(通常は細菌よりも小さい)である。ウイルスは、RNAまたはDNAベースのゲノムを有し得る。本明細書で使用される場合の「ウイルス」は、任意のウイルス、改変ウイルス、ウイルス粒子、ウイルス由来粒子、またはウイルスベクターを指す。したがって、任意の野生型ウイルスのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を本発明に従って評価することができるが、本発明の有用性は、特に、変異ウイルスもしくは改変ウイルス(すなわち、野生型もしくは天然に存在するウイルスと比較して、1つ以上の核酸の置換、挿入、欠失、もしくは転位を含むか、もしくはウイルスタンパク質をコードする遺伝物質の大部分が存在しない)もしくはウイルスベクターのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の評価にまで及ぶ可能性があることが理解されるであろう。変異ウイルスもしくは改変ウイルス、またはウイルス粒子は、ワクチンを製造するためにしばしば使用され、本発明の方法は、ワクチンで使用する機能的ウイルスまたはウイルス粒子の製造効率をモニタリングならびに評価するのに特に有効であると考えられる。
【0058】
ウイルスベクターは野生型ウイルスに基づくことができるが、それらは一般的に野生型ウイルスと比較して改変されており、遺伝物質を標的細胞に導入するために一般的に使用される(例えば、治療用途の遺伝子)。したがって、ウイルスベクターには、例えば、遺伝子治療、細胞治療、またはその他の分子応用に対して、特定の有用性があり、それらの産生は遺伝子治療および細胞治療産業にとって非常に重要である。例えば、遺伝子および/もしくは細胞治療用のウイルスベクターの安全性を改善するために、または例えばベクターによって運ばれ得る遺伝子のサイズを改善するために改変がなされ得ることがよく理解されるであろう。ウイルスベクターを作製するために行うことができる改変は、複製に重要であるウイルスゲノムの一部の欠失を含むことができ、細胞に感染することができるウイルスベクターをもたらすが、このことは、新しいビリオンの産生に必要とされる欠落タンパク質を提供するためにヘルパーウイルスの存在を必要とする。他の改変には、その標的細胞に対するウイルスベクターの毒性を低下させるための、および/またはウイルスの安定性を改善するための、例えば、ゲノムの再配列を減らすための改変が含まれ得る。
【0059】
ウイルスベクターは、典型的には、HEK293細胞などのパッケージング細胞株において、ウイルスタンパク質をコードし、必要な遺伝物質を運ぶ1つ以上のプラスミドでパッケージング細胞株を形質導入することによって産生することができる。例えば、レンチウイルス産生のために、HEK293細胞は1つ以上のプラスミド、例えば、カプシドや逆転写酵素などのビリオンタンパク質をコードし、ベクターによって送出される遺伝物質を運ぶ3つまたは4つのプラスミドで形質導入することができる。これは転写されて一本鎖RNAウイルスゲノムを生成し、psi配列の存在によってマークされ、これはゲノムがその後ビリオンにパッケージングされることを保証する。したがって、特に、レンチウイルスベクターは、プロデューサー細胞株における3つ(第2世代システムの場合)または4つ(第3世代システムの場合)のプラスミドの形質転換および発現によって産生することができる。ウイルスベクターを産生するためのプラスミドは市販されており、例えば、Lenti-PacおよびAAVPrime(GeneCopoeia)である。
【0060】
特に、細胞株をパッケージングすることによって産生されるウイルスベクターの力価および/またはウイルス成分存在量は、本発明の方法によってモニタリングまたは評価することができる。前述のように、遺伝子治療および細胞治療の分野では、生成された力価および/またはウイルス成分存在量を高感度で測定できることが特に重要であり、これにより、例えば、プロデューサー細胞株からの産生などの産生プロセスを正確にモニタリングおよび管理でき、機能的なベクターの割合をリアルタイムで計算できる。ウイルスは、本発明の方法によってモニタリングまたは評価されるために完全に機能的または野生型である必要はない。
【0061】
「ウイルス成分」は、本明細書において、ウイルス、ウイルス粒子、またはウイルスベクターの任意の部分であると見なされる。
【0062】
ウイルス粒子または「ビリオン」は、(i)ウイルスの遺伝物質、すなわち、ウイルスが作用するタンパク質の構造をコードするDNAまたはRNAの分子、(ii)カプソメアから形成され、ウイルスの遺伝物質を囲んで保護するカプシドと呼ばれる内部のタンパク質被膜、および場合によっては、(iii)エンベロープタンパク質を含み得る脂質の外側のエンベロープ、からなると従来から理解されている。
【0063】
ウイルス成分には、ウイルス核酸およびウイルス構造成分(またはウイルス構造分子)が含まれる。ウイルス核酸は、本明細書において、ウイルスRNA、ウイルスDNA、ウイルスDNAゲノム、およびウイルスRNAゲノムを含むと考えられる。ウイルス核酸は、ビリオン内にパッケージングされている。
【0064】
本明細書で使用されるウイルス構造成分またはウイルス構造分子は、ウイルスの構造に寄与する任意の分子として理解されるべきである。本明細書で使用される場合、ウイルス構造成分またはウイルス構造分子は、ウイルスの遺伝物質、すなわち、ウイルスが作用するタンパク質の構造をコードするDNAまたはRNAの分子を除外することができる。
【0065】
ウイルス構造成分またはウイルス構造分子は、本明細書では、ウイルスタンパク質(例えば、核タンパク質;カプシドタンパク質;プロトマー;カプシドサブユニット;カプシドモノマー;カプシドモノマーの組み合わせ;カプソメア;ヘキソン;ペントン;ウイルスコートタンパク質(VCP);ウイルス外表面糖タンパク質;ウイルス膜貫通タンパク質;ウイルス、ウイルス粒子もしくはウイルスベクターの機能に必須なタンパク質)、ウイルス糖鎖、グリコシル化ウイルス分子(例えば、グリコシル化ウイルスタンパク質)、および/もしくはウイルスリン脂質を含むウイルス脂質、またはそれらの組み合わせを含むものと考えられる。
【0066】
上述のように、本発明の方法は、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を「モニタリングまたは評価」することができる。したがって、本発明の方法は、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量、例えば、サンプル中に存在するウイルス核酸およびウイルス構造分子のレベル、量、または濃度を決定することができる。したがって、特に、本方法は、ウイルス核酸およびウイルス構造分子のレベル、量、または濃度が、(例えば、異なる時点でサンプルをアッセイすることによって)時間の経過とともに互いに増加するか、もしくはプラトーになるか、または(例えば、同一または同等の時点でアッセイされた)異なるサンプルと比較して変化する(例えば、増加、減少、もしくは同等である)かどうかを決定することができる。このように、本発明の方法は、例えば、1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率の検出または決定が、効率的な方法もしくは次善の産生方法を示し得る場合、例えば、ウイルスの産生方法の効率を評価するために使用できるか、または、例えば、(同じウイルスまたは異なるウイルスについて)他の改変された産生方法の間に測定されたウイルス力価および/もしくはウイルス成分存在量と比較することによって、ウイルスの産生方法における特定の要因の重要性を判断するために使用できる。本明細書に記載の方法によって検出されることが期待される物理的力価は、1×1010~1×1011粒子/mLの範囲である。本明細書に記載の方法によって検出されることが期待される感染性力価は、1×10~1×10粒子/mLの範囲である。したがって、測定されるウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の差をもたらす因子の改変(例えば、測定されるウイルス力価の少なくとも5、10、20、30、40、または50%の差異をもたらす因子の改変)は、産生方法にとって重要であると判定することができる。そのような要因には、インキュベーション温度、使用される培養培地、培地で使用される%グルコースもしくはアミノ酸、使用される攪拌の有無、もしくは量、または使用される培養フラスコもしくは容量などが含まれ得る。
【0067】
したがって、本発明の方法を使用して、ウイルスを産生する可能性のあるプロデューサー細胞を培養するために利用可能な異なるシステム、例えば、シェーカーフラスコ、Quantumシステム(Terumo)、Ambrシステム(例えば、Ambr 15または250(TAP Biosystems))の評価を含む、ウイルス産生の最適条件を決定することができる。
【0068】
本発明の方法は、ウイルス産生プロセスの下流の任意のプロセスを評価するために、例えば、そのようなプロセスがウイルス力価および/またはウイルス成分存在量に影響を及ぼしているかどうかを判断するために、さらに使用することができる。特に、本発明の方法は、使用され得る精製方法を評価するために、例えば、そのような精製方法が力価および/またはウイルス成分存在量に何らかの影響を及ぼしたかどうか、例えば、精製前のサンプルに存在していた1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率と比較して、そのような精製後に1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率が増加したか、減少したか、または同等のままであったかどうかを判断するために、使用することができる。本発明の方法は、ウイルスの、例えば、ワクチンに使用するためのウイルス粒子、または遺伝子治療用のウイルスベクターの製造に特に重要であり得るウイルスベクターの、大規模製造を評価するためにさらに使用することができる。
【0069】
本明細書で使用される場合のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の増加は、測定値が比較されているウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の5、10、20、30、40、50、60、70、80、または90%を超える増加とすることができ、本明細書で使用される場合のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の減少は、測定値が比較されているウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の5、10、20、30、40、50、60、70、80、または90%を超える減少とすることができる。同等のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、測定値が比較されているウイルス力価の5%以内とすることができる。
【0070】
これに関して、いくつかの目的のために、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量に変化または変動が生じたかどうかを判断するために、方法の実施前、ならびに方法後および/または方法中にウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を評価することが望ましい場合があることが理解されるであろう。本発明の方法はまた、例えば、(同等または異なる時点での)異なるサンプル内の、または異なる時点での同じサンプル内のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量との、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の比較のステップをさらに含むことができる。
【0071】
本発明のさらなる一実施形態において、本方法は、対象におけるウイルス感染の程度を決定するために、例えば、感染症がうまく治療されているか、軽減されているかを判断するために使用され得る。そのような方法では、1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率が時間の経過とともに増加するか、減少するか、または同等のままであるかどうかを判断するために、サンプル中の、例えば、異なる時点での対象からの同じタイプのサンプル中のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を比較することが望ましい場合がある。代替的または追加的に、ある個体からのサンプル中のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を、ある状態について以前に取得された、例えば感染の段階および/または予後を示し得るウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の測定値と比較することが望ましい場合がある。
【0072】
あるいはまた、本発明の方法は、サンプル中のウイルス成分存在量の実際の量、レベル、または濃度を決定しなくてもよいが、量、レベル、または濃度が許容可能な閾値を上回るか下回るかを判定することができ、例えば、ある製造方法において、閾値は、サンプル内に許容レベルの機能的ウイルス粒子があるかどうかを判定することができる。上記のように、本発明の方法は、1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率が以前にアッセイされたサンプルの比率に対して増加、減少、または匹敵するかどうかを判定することができ、したがって、特定の用途では、実際のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量(例えば、存在するウイルスの量または濃度)を決定する必要がない可能性があることが理解されるであろう。
【0073】
本発明は、サンプル中のウイルス力価および/もしくはウイルス成分存在量をモニタリングならびに/または評価するためのラマン分光法の使用を包含するため、ウイルス産生プロセスの開始、産生段階、および終了のいずれか1つを特定することができる。異なる量もしくは濃度のウイルスおよび/または代謝産物が、異なる産生段階でサンプル中に存在することが理解されるであろう。例えば、産生の開始時にウイルス力価、特に物理的ウイルス力価は、0~10の範囲にある可能性があり、活性ウイルス産生の間、ウイルス力価、特に物理的ウイルス力価は、10~10の範囲にある可能性があり、ウイルス産生の終了時には、ウイルス力価、特に物理的ウイルス力価は、10~1012の範囲にある可能性がある。しかしながら、一般的に、経時的なウイルス力価および/またはウイルス成分存在量のモニタリングは、例えば、増加した量またはピーク量がプロセスの産生段階に関連している可能性があり、早期の少量はプロセスの開始に関連している可能性があり、後の量の停滞はプロセスの終了に関連している可能性がある、特定のパッケージング細胞株中の、特定のウイルスの産生の異なる段階を特定することができる。前に説明したように、この情報を特定のプロセスに使用して、産生が停滞、減少(例えば、産生のピーク点と比較して少なくとも50%減少)、または終了した後に培養物が維持されないことを保証することができる。
【0074】
本発明の方法はまた、適応性のある製造を支援し、さらにシステムにおけるウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の産生を増加させるために使用することができる。この点で、異なる条件下で異なるシステムを使用して取得された1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率が比較され、ウイルス産生のための最適な条件を決定することができる。
【0075】
本明細書で使用される場合の「サンプル」という用語は、ウイルスを含む任意のサンプル(例えば、ウイルスベクターを含む任意のサンプル)を指す。「サンプル」は、好ましくはウイルス培養培地、すなわちウイルスがインキュベーションされる液体である。したがって、ウイルス培養培地は、本明細書にさらに記載されるように、本方法で使用するためのラマン分光データを取得するために直接照射することができる。本発明の好ましい一実施形態では、サンプルは、工業的なウイルス産生プロセスまたはウイルスベクター製造プロセスからのものである。特に、本発明では、サンプル中のウイルス力価は、ラマン分光法によってリアルタイムにインサイチューで測定することができるか、またはサンプルに対してエクスサイチューで実施することができる。
【0076】
「インサイチュー」とは、ウイルス粒子を産生できる培養物中のラマン散乱光の強度を取得するための測定値が、一次培養環境から抽出されたサンプルからではなく、ウイルス粒子が生成される一次培養環境から採取されることを意味する。したがって、「インサイチューで」測定を行うことにより、液体ハンドリングステップの必要条件はない。したがって、その環境からのサンプルの除去は、本発明の特定の用途には必要ではない可能性があり、サンプルのインサイチュー測定が好ましい場合がある。サンプルのインサイチュー測定は、サンプル(例えば、ウイルス培養培地)の一部が一次培養環境(例えば、ウイルス増殖インキュベーター)から除去される実際のサンプリングステップを必要とせずに、サンプル中のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の定期的な評価を可能にし得る。この点でのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の評価は、コストとエラーを引き起こす可能性のある追加のステップを必要とせずに、リアルタイムに正確かつ高感度に測定できる。以下でさらに詳細に説明するように、ラマン分光法は、例えば、サンプルの内部または外部のいずれかに配置できるプローブを提供し、必要に応じてインサイチューでの測定を可能にする。インサイチュー測定は、「インライン」プロセス分析技術に特に適している。
【0077】
あるいはまた、本発明の方法は、エクスサイチューでサンプルに対して実施することができる。「エクスサイチュー」とは、ウイルス粒子を産生できる培養物中のラマン散乱光の強度を取得するための測定値が、ウイルス粒子が産生される一次培養環境(例えば、ウイルス増殖インキュベーター)から抽出されたサンプル(例えば、ウイルス培養培地)のアリコートから取得され、直接分析されることを意味する。このようなエクスサイチュー測定は、「アットライン」または遡及的なプロセス分析技術に適している。測定がインサイチューで行われるかエクスサイチューで行われるかにかかわらず、測定は、サンプルをさらに処理する必要なしに、サンプルに対して直接(例えば、ウイルス培養培地に対して直接)行うことができる。
【0078】
本発明の方法で使用されるサンプルの起源は、ウイルスが産生されている細胞培養物とすることができる。したがって、サンプルは培養培地(例えば、任意選択で血清、L-グルタミン、および/もしくは他の成分を含むDMEM、MEM、またはSFII)の1つとすることができ、これは、例えば、ウイルス産生プロセス中に採取された場合、パッケージング細胞(例えば、HEK293細胞)をさらに含むことができるか、または、例えば、マーケティング、販売、または使用の前に、例えば、品質テストが必要である、医療用のウイルスのサンプルとすることができる。サンプルはさらに、ウイルスに感染している疑いのある対象(例えば、ヒトまたは哺乳動物の対象)からのサンプル、例えば、血液、唾液、喀痰、血漿、血清、脳脊髄液、尿、または糞便のサンプルとすることができる。サンプルの他のソースには、オープンウォーターまたは公共水道からのものが含まれる。
【0079】
ラマン分光法
ラマン分光法は、サンプルによって散乱された単色光の波数の変化を測定して、サンプルの化学組成、物理的状態、および環境に関する情報を提供する。これは、入射光子がサンプルを構成する分子に存在する振動モードと相互作用する方式であることにより可能である。これらのモードは、所与の物理的条件のセットの下で特定の振動周波数と散乱強度を備えており、これにより、対象となる所与の分析物の量を定量化することができる。広帯域光源からの異なるエネルギーの光の吸収が測定される赤外線吸収分光法とは異なり、ラマン分光法では、単色の入射光と散乱光のエネルギーの差が測定され(図1)、これはラマンシフトとして知られている。
【0080】
通常、ストークス散乱光は、測定された信号が周囲温度でより強くなるようにモニタリングされる。図2は、いくつかの例示的なスペクトルを示しており、異なるピークは、異なる振動モードの存在を表しており、一部のバンドは、いくつかの基礎となるピークの重複領域である。単純な混合物の場合、分析物のn-1に固有である明確なバンドを特定し、一定の温度と圧力での強度の変化を測定して、適切な較正後に組成を完全に定量化することができる。しかしながら、生体媒体などの複雑なシステムの場合、この単純なアプローチを厳密に適用することはできず、重複するバンドが多すぎ、これは直接割り当てることをできなくしている。代わりに、元のデータマトリックスのモデリングに加えて、対象分析物の濃度との共分散を最大化する変数(波長/波数)の線形結合を取得する高度なケモメトリックスモデルを使用する必要がある。その後、新しいサンプルの組成を予測できる。
【0081】
ラマンスペクトルは「分子フィンガープリント」を提供し、生物学的サンプルなどのサンプルの定性的および定量的分析を可能にする。ラマンスペクトルは一般的に、温度およびpHなどの物理的条件の変化に敏感である。多くの場合、生物学的サンプルから取得されたラマンスペクトルは、高い頻度で、そのようなサンプルには天然のフルオロフォアが含まれているので、バックグラウンド蛍光信号を含んでいる可能性がある。従来のラマン分光法では、このバックグラウンドは、最適なレーザ波数の選択と、従来から利用可能ないくつかのアルゴリズムのうちの1つを使用して除去された残りの蛍光によって制限されるはずである。
【0082】
ラマン分光法は、当技術分野で知られている技術である。本発明では、リアルタイムラマン分光法を上記のようにインサイチューで使用することができ、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の連続測定を可能にする。
【0083】
本明細書で使用される場合の「ラマン分光法」は、基板と目的の標的分子(例えば、ラマンによって検出される分子)との間の結合、例えば免疫相互作用、を必要としないすべてのタイプのラマン分光法を指すことができる。基板と標的分子との間の結合は、直接的に、または任意のタイプの結合分子、ストレプトアビジン/ビオチンなど、または抗体フラグメントを使用して間接的に起こり得る。「免疫相互作用」は、サンプル中の目的の分子に特異的に結合するために基板に付着され得る抗体または抗体フラグメント(例えば、scFvsなど)の使用を含む。特に、本明細書で使用される場合の「ラマン分光法」は、表面増強ラマン分光法(SERS)、例えば、(例えば、金属(例えば、Auの)ナノドットを含み得る)基板との間の免疫相互作用を必要とするSERSを除外し得る。SERSでは、検出される分析物を表面に固定化する必要がある。本発明の方法の一実施形態では、表面に固定化されたサンプル中の分析物を検出するためにラマン分光法は実行されない。特に、本発明の一実施形態では、ラマン分光法は、サンプル中または表面に固定化されたサンプルからウイルス粒子を検出するために実行されない。
【0084】
SERSは、本発明の好ましい一実施形態に係るラマン分光法とは異なり、特に、SERSは、対象の分析物を表面に固定化または結合するための特定の実験的設計を必要とし、これは、SERS方法論を使用して増強された信号強度をもたらす。しかしながら、分析物のそのような固定化は、サンプルの処理を必要とし、それは、サンプルがそのようなシステムから採取される状況を含めて、バイオリアクター内部の状態の汚染またはバイオリアクター内部の状態との干渉につながる可能性がある。一般的に、SERSは、本明細書で定義された方法にしたがってウイルスを処理するためのバイオリアクターまたは生物学的サンプルに見られるような成分の複雑な混合物よりも、サンプルに汚染物質がほとんどない、対象の分析物を含む「単純な」サンプルを含む方法により適している。したがって、従来のSERSは、ウイルス力価の評価のためのウイルス粒子を含むサンプルを含む、複雑なサンプルの直接モニタリング、またはインラインもしくはインサイチューモニタリング用に理想的には設計されていないが、より典型的には、処理されたサンプルであって、検出される分析物は精製され、その後、表面に固定化されたサンプルの分析に適用できる。
【0085】
対照的に、本明細書で定義される場合のラマン分光法を使用する本発明の方法の好ましい実施形態は、サンプル中に存在する分析物の表面付着なしに、特にウイルス粒子の表面付着または固定化なしに、サンプル中の分析物、特にウイルス粒子をインライン/インサイチューで検出することができる。
【0086】
本発明で定義される場合のラマン分光法は、特に、従来のタイプのラマン分光法、ならびに誘導ラマン分光法(SRS)、ピコラマン、空間オフセットラマン(SORS)、逆SORS、シースルーラマン分光法、コヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)、コヒーレントストークスラマン分光法(CSRS)、共鳴ラマン分光法(RR分光法)、および全内部反射ラマン分光法(TIR)ラマンなどの他のタイプのラマン分光法を含む。ラマン分光法用の機器は、様々なサプライヤー、例えば、Renishaw、WITec、HoribaおよびThermoFisher Scientificから入手できる。http://www.optiqgain.com/、https://www.timegate.com/およびhttps://www.newport.com/もまた参照。
【0087】
データ処理および多変量モデリング
本明細書で使用される場合の「多変量」データは、各サンプルについて多数の変数が測定されるデータを指し、「多変量モデル」は、そのような多変量データを使用して構築されたモデルである。(例えば、細胞培養物から一定期間にわたって生成された)ラマンスペクトルは、多変量データを含み、測定された各サンプルまたは時点に対して、多数の波数での強度を記録することができる。
【0088】
本発明では、培養物中のウイルス産生のインサイチューモニタリングから得られる、ラマンスペクトルおよびスペクトルを構成する多変量データを分析して、リアルタイムのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の測定を達成するためのモデル予測を可能にする上で最も重要な一連のスペクトル変数を特定した。特に、モデル予測は、培養物中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を評価するために、ウイルス核酸存在量およびウイルス構造分子存在量の測定を達成する。10または12成分の多変量モデルから計算された変数重要度指標(VIP)のプロットが作製され、例えば、表3に示されているデータに関するように、波数変数の重要度が確立された。8または15成分の多変量モデルから計算された変数重要度指標(VIP)のプロットもまた作製され、例えば、表1に示されているデータに関するように、波数変数の重要度が確立された。したがって、本発明者らは、1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率を評価するために、ラマンスペクトル測定からの多変量データを、ウイルス力価およびウイルス核酸存在量または先行技術のアッセイからのウイルス構造分子存在量に関連するオフラインデータと共に使用して、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を決定する際に評価することができる波数範囲を特定し、特定の条件下でウイルス含有サンプルについて達成された任意のラマンスペクトルから特定された波数範囲での信号強度を分析できる多変量モデルをさらに構築して、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を決定した。本明細書に記載の任意のタイプのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、ウイルス成分存在量を予測するために使用される多変量モデルが、関連性のあるタイプのウイルス成分存在量に関するオフラインデータを使用して構築されているという条件で、本発明の方法を使用して決定することができる。
【0089】
複雑な生物学的サンプルでは、波数範囲を特定の分析物に明確に割り当てることは、しばしば困難または不可能である。細胞培養培地中の水またはグルコースのような他の高濃度化合物によって信号が不明瞭になる可能性があるため、低濃度の分析物にも問題がある。不明瞭な信号が強すぎる場合、それらに関連するノイズは、基礎となる対象分析物に由来する測定された変動よりも大きく、対象成分の信号強度は検出限界を下回る。ラマンスペクトルの分析、取得されたデータのモデリング、ならびにウイルス力価およびウイルス核酸存在量またはウイルス構造分子存在量のオフライン測定によるデータの較正によって、本発明者らは、サンプル中のウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の増加と相関する、特にサンプル中の1つ以上のウイルス構造分子を含むウイルスに対するウイルス核酸の比率と相関する一連の波数範囲を特定した。これらの波数範囲は、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量と経時的に一貫した強い相関関係を示すため、特定の分析物に範囲を割り当てる必要はない。したがって、高濃度化合物によって信号が不明瞭になるという問題は、本発明の方法ではそれほど問題とはならない。
【0090】
本発明で使用するための波数範囲を特定するために、多変量モデルパラメータが取得された。その後、これらのパラメータは、後続の分析で応答値を推測し、ウイルス力価およびウイルス核酸存在量ならびにウイルス構造分子存在量の計算に使用する重要な変数を選択するために使用されたの計算に使用する重要な変数を選択するために使用された。この場合、ウイルス含有サンプルから取得されたラマンデータに対して回帰が実行された。
【0091】
この特定のケースでは、本発明者らは、前処理されたラマンデータに対して回帰を実行した。これに関して、分光計から取得された生のラマンスペクトルデータは、バックグラウンド蛍光などのいくつかの干渉信号の補正を必要とする場合がしばしばあり、絶対強度の全体的な変化を補正するためにサンプルについて取得された生のスペクトルを正規化することがしばしば重要であることが理解されるであろう。したがって、当業者は、そのような問題に対処するためにスペクトルの前処理を実行する必要があるかもしれないことを理解するであろう。
【0092】
取得されたラマンスペクトルの前処理は、科学文献で利用可能な多くのアルゴリズムのいずれか1つを使用して実行できる。特に、一次微分、二次微分(Savitzkyら、1964)、および標準正規変量(SNV)正規化、ならびに多項式バックグラウンドフィッティングおよび除去を、例えば使用することができる。Barnesら(1989)は、標準正規変量法について説明している。LieberとMahadevan-Jansen(2003)は、最小二乗多項式カーブフィッティングの修正に基づいて、生物学的ラマンスペクトルから蛍光を差し引くための自動化された方法について説明している。Zhaoら(2007)は、修正された多数の多項式フィッティングに基づく蛍光除去のための改良された自動化されたアルゴリズムを説明している。Kochら(2017)は、ラマンスペクトルの前処理のための「軟化子」ベースのベースライン補正アルゴリズムを説明している。Huら(2018)は、ピースワイズ多項式フィッティング(PPF)に基づくベースライン補正の方法を説明している。Zhangら(2010)は、適応型の反復的に再重み付けされたペナルティ付き最小二乗(airPLS)アルゴリズム法を説明している。Huangら(2010)もまた、参照のこと。
【0093】
ラマンスペクトルを前処理するためのステップが実行されると、必要に応じて、データモデリング用のパラメータが取得される。この点に関して、ラマンデータ、特に前処理されたラマンデータの回帰は、ウイルス力価を決定できるqPCRおよびp24 ELISA、プラークアッセイなど、または代謝マーカーの分析に使用できるCuBiAnおよびLC-MSのような他の技術を使用して取得されたオフライン応答に基づいて実行できる。したがって、回帰には、前処理されたラマンスペクトルとオフラインデータの比較が含まれる場合がある。多変量回帰の典型的なアプローチでは、部分最小二乗回帰(PLS-R)を使用できる。
【0094】
具体的には、標準直交スコアPLS-R分析では、ラマンスペクトルXの配列と応答yとの間に線形関係が求められる(例えば、yは、各要素が各サンプルの力価またはウイルス成分存在量の値を表すベクトルとすることができ:
y=α+Xβ+E
式中、αとβは未知のパラメータであり、Eは誤差強度または残差の行列である)。yに各サンプルについての単一の応答値が含まれるか複数の応答値が含まれるかに応じて、異なる基本的なPLS-Rアルゴリズムを使用でき、PLS1アルゴリズムは単一の応答値に使用することができ、PLS2アルゴリズムは多数の応答値に使用することができる。ラマンスペクトルからウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を予測する場合、yは通常、各サンプルの単変量パラメータであるため、通常はPLS1を使用できる。
【0095】
簡単に言うと、PLS1アルゴリズムは次のように機能する。まず、Xとyの変数は平均が中央に位置している(各変数の平均はXの列の各要素から減算することができ、yの平均値はyの各要素から減算することができる。いくつかの基礎となる因子Aは、線形結合で使用できる因子であるモデルについて、Xをモデル化するために選択できる。最初のステップでは、Xをyに射影して重みを見つけることができ、これらの重みは、yと最大の共分散を有するXのベクトル/因子空間の方向を定義する。次に、これらの重みは、単位長を有するように正規化される。その後、Xスコアは、これらの正規化された重みにXを射影することによって計算することができる。次に、Xの負荷量は、スコアにXを射影することによって計算することができる。同様に、yの負荷量は、これらのスコアにyの転置を射影することによって計算することができる。現在の成分の寄与は、所与の成分の寄与を差し引くことによってXとyを収縮させることによって、Xとyの両方から削除できる。これは、成分のそれぞれのスコアと負荷量ベクトルを乗算し、結果の配列またはベクトルを実行中のX配列およびyベクトルからそれぞれ減算することによって実行できる。次に、収縮したXとyを、反復手順の後続の各成分について同じ方法で再度使用でき、つまり、すべてのA成分が使い果たされ、それ以上の収縮が実行されなくなるまで、重み、スコア、および負荷量を連続的に決定する。このPLS法とNIPALSアルゴリズムへの参照は、例えばWoldら(2001)に見つけることができる。
【0096】
各反復中に、計算された重み、スコア、および負荷量のベクトルとスカラーは、それら自身の配列またはベクトルに順番に格納され、つまり、反復ごとに、関連するベクトルまたはスカラーは、既存のベクトルもしくはスカラーが前の反復から取得されたものであり得るベクトル内の配列または要素内に新しい列または行として配置され得る。後続のデータモデリングのためのパラメータとして回帰係数が使用される場合、回帰係数βは、最終的な重み行列に最終的なXブロック負荷量配列の転置の射影の逆数を乗算することによって取得できる。成分の最適な数は、反復モデル構築手順で使用されなかった前処理されたラマンスペクトルのテストセットの予測誤差を調査することによって決定できる。
【0097】
ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の予測は、回帰係数βなどのモデルパラメータを使用して、かつオフラインアッセイデータ、例えば、qPCR/P24 Elisa/プラークアッセイの平均二乗誤差(MSE)との比較によって、上記のように行うことができる。予測のMSEが最小に達したときに、基礎となる成分Aの最適な数を選択できる。ウイルス核酸存在量については、qPCRまたはRT-qPCRを含むオフラインアッセイを使用できる。ウイルス構造分子存在量については、ELISAなどのオフラインアッセイを使用できる。
【0098】
例えば、上記の手順を使用して、最初のPLS-Rモデルの構築後、最も重要な変数は、多くの利用可能な変数選択法のうちの1つ、例えばyの予測およびXの分散の説明に最も重要であり得る変数を特定する変数重要度指標(VIP)を使用して選択できる。VIPはXの行と同じ長さのVIPベクトルを生成することができ、つまり、VIPベクトルにはXの各変数に対応する要素が含まれ、各要素の数値は、その変数の重要度の尺度であり得る。一般的なアプローチは、VIPまたは他の変数選択法によって決定されたような最も重要な変数のみを使用してモデルを再構築することにより、上記の初期モデルを改良することである。どの変数が重要であるかを決定するために、閾値アプローチが選択される。VIP閾値は、これがVIPパラメータの平均値であるため、通常1に設定できるが、当業者は、これが本質的に任意であり、他のより高い閾値、例えば1.5を選択できることを理解するであろう。
【0099】
以下に論じるように、本発明においてウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の決定に重要であると特定された波数範囲は、VIPパラメータを少なくとも1.00以上に設定することに基づいている。したがって、本発明では、この段階で1.00を超えるピーク強度を生成しなかった波数範囲は除外された。
【0100】
当業者は、VIPパラメータの選択後にPLS1アルゴリズムを再度実行できることを理解しているであろうが、この場合、VIP閾値を下回るXの変数を削除して、より短い負荷量ベクトルとより短い回帰係数のβベクトルによって、新しい多変量モデルを生成できる。
【0101】
以下に示す波数範囲は、波長785nmのレーザを使用してラマン分光法を実施した結果である。本発明には、785nm以外の異なる波長のレーザを使用することができることが含まれる。異なる波長でレーザを使用して得られる波数範囲は、ラマンシフト(つまり、ラマン散乱を誘発するために使用される単色レーザビームからの非弾性散乱ラマン光の波長の違い)が波長にほとんど依存しないため、同じになるであろう。
【0102】
本明細書で使用される場合の「波数」

は、単位距離当たりの波長の数であり、cm-1単位で測定される。通常、


、ただし、λは波長である。
【0103】
本発明の好ましい一実施形態では、1.5を超えるピーク(変数重要度指標(VIP))は、ウイルスの存在の決定ならびにウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の決定に重要である可能性が高い波数範囲を示す。特定の波数範囲の信号強度を決定することは、本発明の方法によってウイルス力価を予測するために不可欠である。1.5VIP閾値は、本発明の一実施形態において、どの波数範囲がウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の予測に重要であるかを決定するために使用される。したがって、好ましい一実施形態では、本発明は、ラマン分光法を使用してウイルス力価および/もしくはウイルス成分存在量を評価または予測する方法であって、前記サンプルから取得されたラマンスペクトルから、これらの波数範囲の5つ以上での信号の強度を決定するステップを含む方法を包含する。測定された前処理された信号は、予測に使用される。任意の後続のスペクトル、つまり予測が行われるモデル構築後のスペクトルでは、PLSモデルのトレーニングと構築に使用されるデータと全く同じ方法を使用した前処理が必要である。
【0104】
本発明の方法のいずれも、複数の波数範囲のそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定して、サンプルの波数強度データのセットを取得するステップであって、複数の波数範囲は、事前に選択され、サンプル中のウイルス成分に特徴的であるステップを含む。
【0105】
本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの4個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの6個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの8個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの10個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~12のうちの12個すべてを含むことができる。
【0106】
本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの4個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの6個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの8個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲13~22のうちの10個すべてを含むことができる。
【0107】
本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの4個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの6個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトル内の複数の波数範囲は、以下の表1に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲23~30のうちの8個すべてを含むことができる。
【0108】
【表1】
【0109】
ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、表1に関連して上記したように、ラマンスペクトルにおける複数の波数範囲を使用して測定することができる。本発明の好ましい一実施形態では、表1に関連して上記したように、ラマンスペクトルにおける複数の波数範囲を使用して測定されたウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、アデノ随伴ウイルス(AAV)力価である。本発明の特に好ましい一実施形態では、表1に関連して上記したように、ラマンスペクトルにおける複数の波数範囲を使用して測定されたウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)力価である。本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの6個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの8個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの10個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの12個以上、14個以上、16個以上、もしくは18個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~20のうちの20個すべてを含むことができる。
【0110】
本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの6個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの8個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの10個以上、11個以上、もしくは12個を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲21~33のうちの13個すべてを含むことができる。
【0111】
本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの4個以上を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの5個もしくは6個を含むことができるか、または、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、表2に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲34~40のうちの7個すべてを含むことができる。
【0112】
【表2】
【0113】
ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、表2に関連して上記したように、ラマンスペクトルにおける複数の波数範囲を使用して測定することができる。本発明の好ましい一実施形態では、表2に関連して上記したように、ラマンスペクトルにおける複数の波数範囲を使用して測定されたウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、アデノ随伴ウイルス(AAV)力価である。本発明の特に好ましい一実施形態では、表2に関連して上記したように、ラマンスペクトルにおける複数の波数範囲を使用して測定されたウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)力価である。
【0114】
本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの5個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの10個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの15個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの20個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの25個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.00以上である、波数範囲1~28のうちの28個すべてを含むことができる。
【0115】
本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの5個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの10個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの15個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの20個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの25個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの30個を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.25以上である、波数範囲29~59のうちの31個すべてを含むことができる。
【0116】
本発明の方法のいずれにおいても、測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの5個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの10個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの15個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの20個以上を含むことができる。測定されるラマンスペクトルの複数の波数範囲は、以下の表3に列挙されるような、VIPが1.50以上である、波数範囲60~81のうちの22個すべてを含むことができる。
【0117】
【表3】
【0118】
ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、表3に関して上記のようにラマンスペクトル内の複数の波数範囲を使用して測定することができる。本発明の好ましい一実施形態において、表3に関して上記のようにラマンスペクトル内の複数の波数範囲を使用して測定されるウイルス力価および/またはウイルス成分存在量は、レンチウイルス力価および/またはウイルス成分存在量である。
【0119】
本発明の別の好ましい一実施形態では、1.5(変数重要度指標(VIP))を超えるピークは、ウイルスの存在の決定ならびにウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の決定にとって重要である可能性が高い波数範囲を示す。特定の波数範囲の信号強度を決定することは、本発明の方法によってウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を予測するために不可欠である。1.5VIP閾値は、本発明の実施形態において、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の予測にとってどの波数範囲が重要であるかを決定するために使用される。したがって、好ましい一実施形態では、本発明は、ラマン分光法を使用してウイルス力価および/もしくはウイルス成分存在量を評価または予測する方法であって、前記サンプルから取得されたラマンスペクトルから、これらの波数範囲の4個以上での信号強度を決定するステップを含む方法を包含する。測定された前処理された信号が予測に使用される。任意の後続のスペクトルであって、それから予測が行われる、後続のスペクトル(すなわち、モデル構築後のスペクトル)は、PLSモデルのトレーニングと構築に使用したデータとまったく同じ方法を使用して前処理する必要がある。
【0120】
本発明の方法のいずれも、複数の波数範囲のそれぞれ1つの中で、ラマン散乱光の総強度を測定して、サンプルの波数強度データセットを取得するステップを含み、複数の波数範囲は、事前に選択され、サンプル中のウイルス成分に特徴的である。
【0121】
各所望の波数範囲での信号の強度を決定するステップは、所望の波数範囲内で特定された任意のピークのレベルの決定を必要とする。上記のように、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量に関連すると考えられる任意の波数範囲内の信号の強度は任意のレベルである可能性があり、適切な多変量モデルで分析された場合のそのような強度の測定が、ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の決定を可能にするであろうことを、当業者は理解するであろう。したがって、以下でさらに詳細に論じられるように、本発明は、多変量モデルを使用して測定された信号強度を分析することによってウイルス力価および/もしくはウイルス成分存在量を評価または計算するステップを含むことができる。そのような多変量モデルは、本発明を実施する前に、あるいは本発明の方法の一部として準備することができ、その場合、方法は、多変量モデルを構築するステップをさらに含むことができる。
【0122】
本発明の方法は、本明細書で特定された波長範囲に加えて、さらなる波数範囲での信号強度を決定することを含むことができる。
【0123】
ニューラルネットワークはまた、ラマンスペクトルに基づく分類にも使用でき、例えば、病理学における病変組織と健康組織の分析においてである。ニューラルネットワークはまた、本明細書に記載されているように、ウイルス産生のモニタリングのためにラマンデータを適用する際に直面する問題のような回帰問題にも使用することができる。
【0124】
より洗練されたアプローチでは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)(ディープラーニング)と呼ばれるものを利用し、多くの場合、オブジェクト指向Pythonプログラミング言語でスクリプトを作製するためにGoogleのTensorFlowバックエンドとKerasAPIを使用する。畳み込み層を使用する利点は、ネットワークがスペクトル自体を前処理して最適な力価/濃度を予測するための完璧な方法を本質的に「学習」するため、前処理の必要性がますます少なくなることである。本明細書に記載のデータ処理ステップで使用するためのそのようなニューラルネットワークは、当業者によく知られている。さらなる情報は、例えば、以下で見つけることができる。
https://www.forbes.com/sites/bernardmarr/2018/09/24/what-are-artificial-neural-networks-a-simple-explanation-for-absolutely-anyone/#2c9442a91245
http://pages.cs.wisc.edu/~bolo/shipyard/neural/local.html
【0125】
上記のように、多変量データモデルパラメータが取得され、本明細書で定義されるようなウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の定量化のための方法で使用することができる。このようなモデルパラメータはまた、必要に応じて、本明細書で定義されているような代替の多変量データモデルを構築する際にも使用することができる。本発明者らは、多変量アルゴリズムをラマンスペクトル波数信号強度データに適用して、その後ウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の定量化に使用されるモデルパラメータを取得した。具体的には、本発明者らは、多変量アルゴリズムを適用して、モデルパラメータとして使用される回帰係数を取得した。しかしながら、当業者は、選択されたモデルの性質に応じて、代替のモデルパラメータが取得され、使用され得ることを理解するであろう。したがって、本明細書で定義される方法のいずれにおいても、多変量データモデルパラメータは、適切に選択されることができ、任意選択で回帰係数を含むことができる。モデルパラメータを取得するために、任意の適切な多変量アルゴリズムをラマンスペクトル波数信号強度データに適用することができる。部分最小二乗(PLS)回帰アルゴリズムなどの多変量回帰アルゴリズムを使用でき、任意選択で、PLSアルゴリズムは、非線形反復部分最小二乗(NIPALS)回帰アルゴリズムである。ニューラルネットワークを含むアルゴリズムを使用して、モデルパラメータを取得することもできる。
【0126】
当業者はまた、本発明の方法が、目的のウイルス成分を定量化するための追加の数学的データ処理およびモデリングステップを包含し得ることを理解するであろう。
【0127】
ウイルス力価を測定するためのモデル
ラマンスペクトルのケモメトリックモデリングは、リアルタイムのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の増加と、ラマンスペクトルに見られる波数範囲の固有性および強度との間の相関関係を特定するために、本明細書に記載されているように実施された。特定された波数範囲は、上に記載されている。
【0128】
前述のように、本発明は、ウイルス力価および/もしくはウイルス成分存在量の評価において重要であると判定された波数範囲の4または5以上での信号強度の評価、ならびに構築された多変量モデル(較正後または未較正の多変量モデルのいずれか)を使用する強度のさらなる分析を必要とする。
【0129】
当業者は、分析されるサンプルに応じて異なる多変量モデルを構築することができ、多変量モデルを構築するための方法は、当技術分野で周知であること(例えば、本明細書で引用される参考文献を参照)を理解するであろう。したがって、例えば、異なるタイプのウイルス、異なる細胞培養培地、もしくは異なるプロデューサー細胞を含むサンプル中でのウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の決定には、異なる多変量モデルが必要となる場合がある。
【0130】
本発明の一実施形態では、多変量モデルは、以下のアプローチを使用して構築することができる。
i)上記のように、qPCRおよびp24 ELISA、プラークアッセイなどの他の手法を使用して取得されたオフライン応答での前処理されたラマンデータの回帰において、回帰には前処理されたラマンスペクトルの比較が含まれる場合がある。
ii)取得された回帰係数を使用して、前処理されたデータを使用して応答値を予測する。これらの予測の質は、多変量回帰に使用される成分/因子の基礎となる数を調整することで最適化できる。
iii)既知の方法、例えば、Xの説明に加えて、Yを予測するために強力/重要な変数を特定する変数重要度指標(VIP)を使用して変数選択を実行する。
iv)洗練されたモデルの構築において、重要なスペクトル変数の特定に続いて、ステップ(ii)で説明したものと同じアプローチを使用してモデリングのさらなるラウンドを実行できるが、変数選択によって無関係と見なされた前処理されたラマンスペクトルの配列内の変数または列は、モデルが構築される前に削除される。これにより、無関係な変動の多くが削除されたデータに基づいて構築されたより単純なモデルが得られる。(ii)の場合と同様に、基礎となる成分の数は、基礎となる因子の数が最も少なく構築されたモデルを選択することで最適化でき、成分間の変動に最小の予測誤差を与える。
v)(iv)で決定された、使用された回帰係数を使用して将来の予測を行い、ここでは、新しい前処理されたラマンスペクトルに、推定値を生成するために取得された回帰係数を乗算することができる。
【0131】
分析のための波数範囲が特定されると、上記のようなステップ(i)~(iii)を繰り返す必要がない場合があることが理解されるであろう。特に、この場合、モデルの構築にはステップiv)のみが必要になる場合がある。さらに、回帰係数以外のデータモデリングパラメータを使用してもよい。
【0132】
本発明のさらなる一態様では、本方法は、多変量モデルを準備または構築する追加のステップを含むことができる。
【0133】
上記のステップv)で説明したように、生成された多変量モデルからの回帰係数を使用して、1つ以上のサンプルから取得したラマンスペクトルからウイルス力価および/またはウイルス成分存在量の推定値を取得できる。したがって、本発明では、本方法は、多変量モデルからの回帰係数を使用してウイルス力価および/またはウイルス成分存在量を決定するステップを含むことができる。同じ前処理方法を、モデルのトレーニング/構築に使用することができる。
【0134】
本発明は、さらなる限定として解釈されるべきではない以下の実施例によってさらに説明される。本出願を通して引用されたすべての図およびすべての参考文献、特許、ならびに公開された特許出願の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【実施例
【0135】
実施例1-産生プロセス中の様々な段階でのレンチウイルスの濃度の計算
例示的なウイルス産生プロセス中の様々な段階で予測されるmg/mlでの推定レンチウイルス濃度を提供するために計算が実行された。濃度は、レンチウイルスの既知の浮遊密度および物理的力価を使用して計算された。結果を下の表に示す。
【0136】
【表4】
【0137】
示されるように、推定レンチウイルス濃度は、2.03E-02~2.03E-05mg/mlの範囲であることが見出された。
【0138】
比較のために、Buckley and Ryder, 2017,Applied Spectroscopy, 71, p 1085-1116から取得したグルコースおよびフェニルアラニンの検出限界に基づくいくつかの有益な計算を以下に示す。
【0139】
グルコース
mw=180.156g/モル
検出限界0.6mM(Buckley and Ryderを参照)
モル=体積/1000×モル濃度
1/1000×0.0006-1ml中
=0.0000006モル
質量=モル×mw
=0.0000006×180.156
=0.00011g/ml
推定濃度=0.11mg/ml
【0140】
フェニルアラニン
mw=165.19g/モル
LoD=1.1mM(Buckley and Ryder論文を参照)
モル=体積/1000×モル濃度
1/1000×0.0011-1ml中
=0.0000011モル
質量=モル×mw
=0.0000011モル×165.19g/モル
=0.00018g
推定濃度=0.18mg/ml
【0141】
グルコースおよびフェニルアラニンの検出限界についてのmg/ml単位の濃度は、控えめな物理的力価に見合った楽観的な推定濃度よりも5~10倍高くなっている。
【0142】
上記に基づいて、培養培地中のレンチウイルスのmg/mL単位のおおよその濃度は、ラマン分光法を使用した検出限界と考えられる濃度を下回ると予測される。
【0143】
実施例2-HEK293一過性プロセスからのレンチウイルス産生
実験方法
細胞培養と一過性トランスフェクション
HEK293培養物は、37℃で追加のサプリメントなしでFreeStyle 293発現培地(ThermoFisher)のEppendorf DASbox BioBLU300バイオリアクターで増殖させた。一過性トランスフェクションの前に細胞を攪拌し、2日間増殖させて、レンチウイルスを産生した。細胞にgag-pol、vsv-g、およびeGFPをコードするゲノムをトランスフェクトし、Polyplus製のPEIProを使用してLV粒子を産生した。
【0144】
プロセス全体を通して、qRT-PCRを使用してウイルス力価を測定するために、各バイオリアクターから10個または12個のサンプルを取得し、P24 ELISAで確認した。ラマンスペクトルは、増殖およびウイルス産生段階を通して取得された。
【0145】
RT-qPCR
使用したPCRキット:Lenti-X(商標名) qRT-PCR滴定キット(Takara製、カタログ番号631235)
サプライヤー:Clontech
作用方法:キットは、ワンステップの逆転写およびPCR増幅キットである。このキットのプライマーは、パッケージング信号に隣接するHIV-1ゲノムの保存領域をターゲットとしている。アンプリコンはSYBR green蛍光によって検出され、最終的な力価は標準曲線の作製に使用されるssRNA標準から決定される。ウイルス力価の最終的な定量化は、ウイルスゲノム数/mlとして提供される。
【0146】
P24-ELISA
ELISAキット:QuickTiter(商標名)レンチウイルス力価キット(レンチウイルス随伴HIV p24)(カタログ番号VPK-107)
サプライヤー:Cell Biolabs,Inc
作用方法:キットは、レンチウイルス随伴HIV-1 p24コアタンパク質のみの検出と定量化のために開発された酵素免疫測定法である。ウイルス随伴p24は、レンチウイルス粒子当たり約2000分子のp24があると仮定して、p24力価(ng/ml)または粒子数/mlとして定量化できる。
【0147】
ラマン分光法
ラマン測定は、Kasier Optics RxN2ラマン分光計を使用して実行された。この分光計は、4つのプローブチャネルを順番にモニタリングする能力を有する。RxN2励起源は、各プローブヘッドでの公称出力が~270mWの785nm近赤外ダイオードレーザであった。サンプルは、4つのEppendorf dasBox BioBLU使い捨てシステムの内容物で構成されていた。ビームは、4つのKaiser Opticsのフィルタ付き光ファイバーMRプローブとBioOptic220を各バイオリアクターに1セット使用して各サンプルバイオリアクターまで送出された。インプロセス測定の前に、RxN2システムを1時間安定させた後、4つのプローブチャネルのそれぞれをRxN2の内部自動較正標準器を使用して較正し、さらに、CCD感度補正を米国国立標準技術研究所(NIST)認定の光源(HCA)を使用して各プローブチャネルで実行した。散乱光は、ビーム送出に使用されたものと同じBioOptic 220およびMRプローブを使用して収集された。各MRプローブ内で、散乱光は第2の光ファイバーを介してRxN2 f\1.8イメージング分光器に送出された。ホログラフィックノッチフィルタを使用してレイリー散乱光をフィルタリングした後、ラマン散乱光はKaiser Opticsのホログラフィック透過型回折格子に向けられ、その後で熱電冷却された1024ピクセルCCD検出器上に結像された。システムの有効帯域幅は、100~3425cm-1であり、解像度は4cm-1である。ラマンスペクトルは、CCD読み出し時間を含む~15分/チャネルの積分時間で100~3425cm-1から取得され、10秒間の取得が、各測定スペクトルを生成するために75回の累積で平均化された。各チャネルは、順番に測定された。プロセス全体の様々な時点で、液体サンプルが各バイオリアクターから取得され、オフラインアッセイデータを対応するラマンスペクトルに事後的に一致させることができるように、それらの時点は書き留められた。
【0148】
ラマンデータ分析
すべてのデータ分析は、MATLAB(The MathWorks、MA、USA)バージョンR2017bで実行された。生のラマンスペクトルは、スペクトル全体を~3000cm-1の水バンドのピーク強度に正規化することによって前処理された。中程度の蛍光バックグラウンド信号は、420~1800cm-1の領域で除去された。この範囲の下限は、BioOptic-220のサファイアウィンドウから発生する可能性がある、またはラマン機器とプローブの光学設計のアーティファクトである可能性があるラマンバンドを回避するように選択された。次に、縮小された正規化されたスペクトルに、明らかな外れ値とアーティファクトがないかを調べた。オフラインサンプリング時点に関連するスペクトルが特定され、前処理されたスペクトルのモデルトレーニングサブセットが作製された。次に、前処理されたスペクトルのトレーニングセットが、ケモメトリックモデリングに使用された。ケモメトリックモデリングの前に、スペクトルは平均を中央に配置した。重要な分析物とウイルス力価についての潜在構造へのいくつかの初期射影-回帰(PLS-R)モデルが構築された。これらのモデルを使用すると、既知の濃度の関心のある分析物(ウイルス力価)を含むサンプルに対して多変量ラマンスペクトルを回帰できる。これらの計算に基づいて、分析物の濃度は将来予測することができる。モデルは、トレーニングデータに対して10分割の交差検証手順を使用して準備された。つまり、データの1/10がランダムに選択され、トレーニングデータから削除され、モデルのパフォーマンスを評価するために使用された。これは10回行われ、エラー値、モデルの精度/パフォーマンスの統計値は、10倍のトレーニングセットのそれぞれについて取得された平均値である。基礎となる成分または基底ベクトルの数を選択することは、PLS-Rなどの教師あり線形モデルを構築する上で重要なステップである。この作業では、成分数の関数としての交差検証後の平均二乗予測誤差(MSECV)のプロットを調べることにより、基礎となる成分の最適な数が特定された。最小値は、PLS成分の最適な数を特定する。予測に最も重要な波数/変数のみを選択して構築されたモデルを最適化するには、変数選択の第2段階が必要である。これは、変数重要度指標(VIP)法を使用して実行された。しかしながら、変数の選択を行う多くの方法が存在する。典型的なVIPプロットを図5に示す。通常、VIP値が1より大きい変数が最終モデルに使用される。しかしながら、ここでは、いくつかのVIP閾値を使用してモデルを構築および評価し、良好な予測を行うために必要なスペクトル変数の最小数と、オフラインRT-qPCRデータのモデル化ができなくなる閾値を特定した。VIP閾値が増加するにつれて、特定されるスペクトル変数の数が減少する。各VIP閾値について有意な変数が決定されると、最終モデルが構築された。その後、これらのモデルを使用して、中間のウイルス力価値、つまり、利用可能なすべてのランの各オフラインデータポイント間のウイルス力価値を予測した。
【0149】
予備的なウイルス力価モデルの評価と範囲の選択
ケモメトリックモデリングに使用される場合の例示的な前処理されたラマンスペクトルを図2に示す。
【0150】
プロジェクト全体を通してウイルス力価をモニタリングした。RT-qPCRで取得した代表的な力価を図3にまとめる。
【0151】
初期PLS-Rモデルの交差検証後の平均二乗予測誤差のプロットを図4に示す。すべてのスペクトル変数またはチャネルを使用した場合、12個のPLS成分を使用したときに最小の有効予測誤差が発生することが分かった。
【0152】
したがって、このプロット(図4)から、予測誤差の最小化とモデルの単純さの間の最良の妥協点は、12成分モデルにあると結論付けることができる。成分の数を増やすことで予測力のわずかな改善が得られる可能性があるが、これはおそらく、ノイズを組み込み、モデルをトレーニングセットに過剰適合させた単なる結果である。つまり、トレーニングデータのみを予測し、新しい見えないデータを予測せず、測定された変数と従属/応答変数との間の疑似相関に基づくモデルを構築している。
【0153】
初期のの12成分モデルの準備に続いて、様々な変数選択方法を評価して、最終モデルの最適な/最も予測的なスペクトル変数を選択した。ここでの目的は、モデルから不要なスペクトルチャネル/変数を削除して、その単純性を強化し、物理的に意味のある情報のみを含めることであった。変数重要度指標(VIP)が最終的に計算され、ウイルスのコピー数を予測する上でどのスペクトル変数が最も重要であるかを決定した(図5A)。許容可能な物理的力価予測を行うために必要なスペクトル変数の最小数を評価および特定するために、保持された変数の基準としていくつかの変数重要度の閾値が調査された。通常、VIP閾値1が使用され、閾値1.00~1.75が調査された。図5Bは、VIPアルゴリズムが最も重要と見なされる領域、つまり選択された閾値(この場合は1.5)よりも大きい領域として特定する変数または波数の範囲を示している。図5Cは、これらの波数の範囲を重要度の順に示している。
【0154】
スペクトル変数の数が削減された後、基礎となる潜在変数の数のさらなる評価が実行された。PLS成分の最適な数は、モデルで使用されるスペクトル変数または波数の数によって異なる可能性がある。1.5の閾値を使用してスペクトル変数を削減した後、PLS潜在変数の最適な数は10であることが分かった。図6は、基礎となる成分の数が異なる洗練されたモデルのMSECVプロットを示している。基礎となる成分の数が多いほど、平均二乗予測誤差が増加するという事実は、10個を超えるPLS成分が含まれている場合、生成されたモデルがトレーニングセットに過剰適合していることを示している。
【0155】
10個の潜在変数およびVIP>=1.5の選択されたスペクトル変数の(控えめな)モデルから取得された回帰係数を使用して推定された3回のランのそれぞれのRT-qPCRウイルスコピー数のモデル予測を、それぞれ以下において図7、8、および9に示す。結果は、ラマン分光データを使用したモデルが、経時的なウイルス力価のオフライン測定と一致していることを示している。RT-qPCRアッセイおよびP24 ELISAから取得された力価の比較を図10に示す。
【0156】
図11は、本発明の方法を使用して、ウイルス産生培養の段階をモニタリングする方法を説明している。ラマン分光法はリアルタイムで連続的に使用されるため、本発明の方法では、ウイルスの産生速度の変化を正確に追跡することができる。したがって、開始から産生段階への変化、および産生段階から終了段階への変化を特定することができる。
【0157】
実施例3-洗練されたウイルス力価モデルの評価と範囲の選択
ウイルス力価評価のための波数範囲の選択をさらに洗練するために、実施例2について上で説明したのと同じ方法論を使用して、追加のサンプルを使用するさらなる研究を実施した。このアプローチを使用して、1.00以上の変数重要度指標(VIP)閾値を適用することにより、ウイルス力価の計算に使用する様々な波数範囲が特定された。1.25以上の変数重要度指標(VIP)閾値を適用することにより、追加の波数範囲が特定され、1.50以上の変数重要度指標(VIP)閾値を適用することにより、さらなる波数範囲が特定された。結果は、上記の表3に示されている。
【0158】
図12に、ウイルス力価を定量化するための式の概略図式を示している。この式は、正規化されたラマン信号強度データに適用された多変量回帰アルゴリズムから取得された回帰係数に適用される。
【0159】
ウイルス力価の正確な推定値を提供するために使用できる波数範囲の数を分析するために、さらなる分析が実行された。
【0160】
ウイルスベクター産生にとって重要であると特定された範囲、すなわち、拡張スペクトル範囲(~420~1800cm-1)を使用した初期のPLSモデリング後に1.00以上の変数重要度指標(VIP)によって重要であると特定された範囲(すなわち上記の表3に列挙された波数範囲1~28)が特定され、さらなる分析を実行した。
【0161】
データは、ランダムに選択されたトレーニングデータとテストデータのペアブロックに4:1の比率で、つまり、モデル構築(80%)とモデルテスト(20%)用のラマンスペクトルおよびそれらに関連するオフラインウイルス力価データに分割された。
【0162】
VIPによって重要と見なされる範囲の様々な組み合わせが、様々なトレーニングとテストのペアについて、つまり、範囲1~28のうちのそれぞれr個の総数について確率的に評価され、モデルのパフォーマンスR統計(注:R=1-残差平方和/総平方和)に基づいて多くの組み合わせが評価され、様々なモデルのパフォーマンスの標準偏差を評価して、信頼区間を生成した。範囲の最小数は、データのいくつかのトレーニング/テストペアの平均R値の平均が約0.5である範囲の数を選択することによって特定された。図13は、波数範囲の数の関数としてのRのプロットを示している。
【0163】
この分析により、ウイルス力価の推定値を提供するために必要な波数範囲の最小数として5が特定された。
【0164】
したがって、本発明の方法のいずれにおいても、本明細書でより詳細に説明されるように、1.00以上のVIP閾値で特定される表3に示されるような波数範囲1~28のうちの5個以上を使用してウイルス力価を計算することができる。本発明の方法のいずれにおいても、好ましくは、本明細書でより詳細に説明されるように、1.25以上のVIP閾値で特定される表3に示されるような波数範囲29~59のうちの5個以上を使用してウイルス力価を計算することができる。本発明の方法のいずれにおいても、より好ましくは、本明細書でより詳細に説明されるように、1.50以上のVIP閾値で特定される表3に示されるような波数範囲60~81のうちの5個以上を使用してウイルス力価を計算することができる。これらの方法のいずれにおいても、好ましくは、本明細書でより詳細に記載されるように、波数範囲の10個以上、より好ましくは15個以上、さらにより好ましくは20個以上を使用して、ウイルス力価を計算することができる。
【0165】
実施例4-HEK293一過性プロセスからのAAV8産生
実験方法
細胞培養と一過性トランスフェクション
HEK293F培養物は、37℃で4mM GlutaMAX(Fisher)を含むBalanCD培地(Irvine Scientific)のEppendorf DASbox BioBLU300バイオリアクターで増殖させた。一過性トランスフェクションの前に細胞を攪拌し、24時間増殖させて、AAV8を産生した。無血清Opti-MEM(Gibco)で、rep、cap、ゲノムにコードされたeGFPプラスミド、およびヘルパープラスミド(E2A、E4)を細胞にトランスフェクトし、PEIPro(Polyplus transfection)を使用してAAV8粒子を産生した。
【0166】
プロセス全体を通して、qRT-PCRを使用してウイルス力価を測定するために、各バイオリアクターから12個のサンプルを取得した。ラマンスペクトルは、増殖およびウイルス産生段階を通して取得された。
【0167】
RT-qPCR
AAV8サンプルのウイルス力価は、TaqMan(商標名)ベースのリアルタイムqPCRを使用して測定され、最終的な定量化はウイルスゲノム数/mL(VG/mL)として提供された。アッセイのプライマーは、AAV8ウイルスゲノムのITR2配列を標的とした。アンプリコンは、TaqMan(商標名)蛍光発生プローブによって検出された。ウイルス力価は、直線化されたプラスミドから作製された標準曲線から決定された。
【0168】
ラマン分光法
ラマン測定は、Kasier Optics RxN2ラマン分光計を使用して実行された。この分光計は、4つのプローブチャネルを順番にモニタリングする能力を有する。RxN2励起源は、各プローブヘッドでの公称出力が~270mWの785nm近赤外ダイオードレーザであった。サンプルは、4つのEppendorf dasBox BioBLU使い捨てシステムの内容物で構成されていた。ビームは、4つのKaiser Opticsのフィルタ付き光ファイバーMRプローブとBioOptic220を各バイオリアクターに1セット使用して各サンプルバイオリアクターまで送出された。インプロセス測定の前に、RxN2システムを1時間安定させた後、4つのプローブチャネルのそれぞれをRxN2の内部自動較正標準器を使用して較正し、さらに、CCD感度補正を米国国立標準技術研究所(NIST)認定の光源(HCA)を使用して各プローブチャネルで実行した。散乱光は、ビーム送出に使用されたものと同じBioOptic 220およびMRプローブを使用して収集された。各MRプローブ内で、散乱光は第2の光ファイバーを介してRxN2 f\1.8イメージング分光器に送出された。ホログラフィックノッチフィルタを使用してレイリー散乱光をフィルタリングした後、ラマン散乱光はKaiser Opticsのホログラフィック透過型回折格子に向けられ、その後で熱電冷却された1024ピクセルCCD検出器上に結像された。システムの有効帯域幅は、100~3425cm-1であり、解像度は4cm-1である。ラマンスペクトルは、CCD読み出し時間を含む~15分/チャネルの積分時間で100~3425cm-1から取得され、10秒間の取得が、各測定スペクトルを生成するために75回の累積で平均化された。各チャネルは、順番に測定された。プロセス全体の様々な時点で、液体サンプルが各バイオリアクターから取得され、オフラインアッセイデータを対応するラマンスペクトルに事後的に一致させることができるように、それらの時点は書き留められた。
【0169】
ラマンデータ分析
すべてのデータ分析は、MATLAB(The MathWorks、MA、USA)バージョンR2019bで実行された。生のラマンスペクトルは、スペクトル全体を~3000cm-1の水バンドのピーク強度に正規化することによって前処理された。中程度の蛍光バックグラウンド信号は、420~1800cm-1の領域で除去された。この範囲の下限は、BioOptic-220のサファイアウィンドウから発生する可能性がある、またはラマン機器とプローブの光学設計のアーティファクトである可能性があるラマンバンドを回避するように選択された。次に、縮小された正規化されたスペクトルに、明らかな外れ値とアーティファクトがないかを調べた。オフラインサンプリング時点に関連するスペクトルが特定され、前処理されたスペクトルのモデルトレーニングサブセットが作製された。次に、前処理されたスペクトルのトレーニングセットが、ケモメトリックモデリングに使用された。ケモメトリックモデリングの前に、スペクトルは平均を中央に配置した。重要な分析物とウイルス力価についての潜在構造へのいくつかの初期射影-回帰(PLS-R)モデルが構築された。これらのモデルを使用すると、既知の濃度の興味深い分析物(ウイルス力価)を含むサンプルに対して多変量ラマンスペクトルを回帰できる。これらの計算に基づいて、分析物の濃度は将来予測することができる。モデルは、トレーニングデータに対して10分割の交差検証手順を使用して準備された。つまり、データの1/10がランダムに選択され、トレーニングデータから削除され、モデルのパフォーマンスを評価するために使用された。これは10回行われ、エラー値、モデルの精度/パフォーマンスの統計値は、10倍のトレーニングセットのそれぞれについて取得された平均値である。基礎となる成分または基底ベクトルの数を選択することは、PLS-Rなどの教師あり線形モデルを構築する上で重要なステップである。この作業では、成分数の関数としての交差検証後の平均二乗予測誤差(MSECV)のプロットを調べることにより、基礎となる成分の最適な数が特定された。最小値は、PLS成分の最適な数を特定する。予測に最も重要な波数/変数のみを選択して構築されたモデルを最適化するには、変数選択の第2段階が必要である。これは、変数重要度指標(VIP)法を使用して実行された。しかしながら、変数の選択を行う多くの方法が存在する。典型的なVIPプロットを図18に示す。通常、VIP値が1より大きい変数が最終モデルに使用される。しかしながら、ここでは、いくつかのVIP閾値を使用してモデルを構築および評価し、良好な予測を行うために必要なスペクトル変数の最小数と、オフラインRT-qPCRデータのモデル化ができなくなる閾値を特定した。VIP閾値が増加するにつれて、特定されるスペクトル変数の数が減少する。各VIP閾値に対して有意な変数が決定されると、最終モデルが構築された。その後、これらのモデルを使用して、中間のウイルス力価値、つまり、利用可能なすべてのランの各オフラインデータポイント間のウイルス力価値を予測した。
【0170】
予備的なウイルス力価モデルの評価と範囲の選択
AAVのケモメトリックモデリングに使用される場合の例示的な前処理されたラマンスペクトルを図14に示す。
【0171】
プロジェクト全体を通してAAV力価をモニタリングし、RT-qPCRによって取得された代表的な力価を図15にまとめている。
【0172】
初期PLS-Rモデルの交差検証後の平均二乗予測誤差のプロットを図(16)に示す。すべてのスペクトル変数またはチャネルを使用した場合、15個のPLS成分を使用したときに最小の有効な予測誤差が発生することが分かった。
【0173】
したがって、このプロット(図16)から、予測誤差の最小化とモデルの単純さの間の最良の妥協点は、15成分モデルにあると結論付けることができる。
初期の15成分モデルの準備に続いて、様々な変数選択方法を評価して、最終モデルに最適な/最も予測的なスペクトル変数を選択した。ここでの目的は、モデルから不要なスペクトルチャネル/変数を削除して、その単純性を強化し、物理的に意味のある情報のみを含めることであった。変数重要度指標(VIP)が最終的に計算され、ウイルスのコピー数を予測する上でどのスペクトル変数が最も重要であるかを決定した(図17A)。許容可能な物理的力価予測を行うために必要なスペクトル変数の最小数を評価および特定するために、保持された変数の基準としていくつかの変数重要度の閾値が調査された。通常、VIP閾値1が使用され、閾値1.00~1.75が調査された。図17Bは、VIPアルゴリズムが最も重要と見なされる領域、つまり選択された閾値(この場合は1.0)より大きい領域として特定する変数または波数の範囲を示している。図17Cは、これらの波数の範囲を重要度の順に示している。
【0174】
スペクトル変数の数が削減された後、基礎となる潜在変数の数のさらなる評価が実行された。PLS成分の最適な数は、モデルで使用されるスペクトル変数または波数の数によって異なる可能性がある。1.0の閾値を使用してスペクトル変数を削減した後、PLS潜在変数の最適な数は9であることが分かった。図18は、基礎となる成分の数が異なる洗練されたモデルのMSECVプロットを示している。基礎となる成分の数が多いほど、平均二乗予測誤差が増加するという事実は、9個を超えるPLS成分が含まれている場合、生成されたモデルがトレーニングセットに過剰適合していることを示している。
【0175】
9個の潜在変数およびVIP>1.0の選択されたスペクトル変数の(控えめな)モデルから取得された回帰係数を使用して推定された4つのバイオリアクターの例示的なランについてのRT-qPCRウイルスコピー数のモデル予測を以下の図19に示す。結果は、ラマン分光データを使用したモデルが、経時的なウイルス力価のオフライン測定値と一致していることを示している。
【0176】
実施例5-AAVのための洗練されたウイルス力価モデルの評価と範囲の選択
実施例4に記載されたものに対するさらなる分析を実施して、AAVウイルス力価の正確な推定を提供するために使用することができる波数範囲の数を分析した。
【0177】
ウイルスベクター産生にとって重要であると特定された範囲、すなわち、拡張スペクトル範囲(~420~1800cm-1)を使用した初期のPLSモデリング後に1.00以上の変数重要度指標(VIP)によって重要であると特定された範囲(すなわち上記の表1に列挙された波数範囲1~12)が特定され、さらなる分析を実行した。
【0178】
データは、ランダムに選択されたトレーニングデータとテストデータのペアブロックに4:1の比率で、つまり、モデル構築(80%)とモデルテスト(20%)用のラマンスペクトルおよびそれらに関連するオフラインウイルス力価データに分割された。
【0179】
VIPによって重要と見なされる範囲の様々な組み合わせが、様々なトレーニングとテストのペアについて、つまり、範囲1~12のうちのそれぞれr個の総数について確率的に評価され、モデルのパフォーマンスR統計(注:R=1-残差平方和/総平方和)に基づいて多くの組み合わせが評価され、様々なモデルのパフォーマンスの標準偏差を評価して、信頼区間を生成した。範囲の最小数は、データのいくつかのトレーニング/テストペアの平均R値の平均が約0.5である範囲の数を選択することによって特定された。図20は、波数範囲の数の関数としてのRのプロットを示している。
【0180】
この分析により、AAVウイルス力価の推定値を提供するために必要な波数範囲の最小数として4が特定された。
【0181】
したがって、本発明の方法のいずれにおいても、本明細書でより詳細に説明するように、1.00以上のVIP閾値で特定される表1に示されるような波数範囲1~12のうちの4個以上を使用して、ウイルス力価を計算することができる。これらの方法のいずれにおいても、好ましくは6個以上の波数範囲を使用して、より好ましくは8個以上、さらにより好ましくは10個以上、または最も好ましくは12個すべてを使用して、本明細書でより詳細に記載されるようにウイルス力価を計算することができる。本発明の方法のいずれにおいても、本明細書でより詳細に説明するように、1.25以上のVIP閾値で特定される表1に示される波数範囲13~22のうちの4個以上を使用して、ウイルス力価を計算することができる。これらの方法のいずれにおいても、好ましくは6個以上の波数範囲を使用して、より好ましくは8個以上、または最も好ましくは10個すべてを使用して、本明細書でより詳細に記載されるようにウイルス力価を計算することができる。本明細書でより詳細に説明されるように、1.50以上のVIP閾値で特定される表1に示されるような波数範囲23~30のうちの4個以上を使用して、ウイルス力価を計算することができる。これらの方法のいずれにおいても、好ましくは6個以上の波数範囲を使用して、または最も好ましくは8個すべてを使用して、本明細書でより詳細に記載されるようにウイルス力価を計算することができる。
【0182】
実施例7-HEK293一過性プロセスからのAAV8産生、Empty-Full-Ratioの決定
実験方法
細胞培養と一過性トランスフェクション
HEK293F培養物をEppendorf DASbox BioBLU 300バイオリアクターで、4mMのGlutaMAX(Fisher)を含むBalanCD培地(Irvine Scientific)で、37℃で増殖させた。一過性トランスフェクションの前に細胞を撹拌し、24時間増殖させてAAV8を産生した。無血清Opti-MEM(Gibco)でrep、cap、ゲノムコードeGFPプラスミド、およびヘルパープラスミド(E2A、E4)を細胞にトランスフェクトして、PEIPro(Polyplusトランスフェクション)を使用してAAV8粒子を産生した。
【0183】
プロセス全体で、各バイオリアクターから11個のサンプルを取得し、RT-qPCR(1ml当たりのゲノムコピー数)を使用してウイルス力価を測定し、これらのサンプルのうち5個をELISA(1ml当たりの総粒子数)にさらに使用した。ラマンスペクトルは、増殖およびウイルス産生段階を通じて取得された。
【0184】
RT-qPCR
AAV8サンプルのウイルス力価は、TaqMan(商標名)ベースのリアルタイムqPCRを使用して測定し、最終的な定量化は、ウイルスゲノム数/mL(VG/mL)として提供された。アッセイのプライマーは、AAV8ウイルスゲノムのITR2配列を標的とした。アンプリコンは、TaqMan(商標名)蛍光プローブによって検出された。ウイルス力価は、直線化されたプラスミドから作製された標準曲線から決定された。
【0185】
ELISA
総AAV8カプシド力価は、ELISAによって細胞外AAV8サンプルで決定され、最終的な定量化は、総粒子数/mL(TP/mL)として提供された。各サンプルのTP/mLを正確に定量化するために、既知の粒子濃度の再構成されたAAV8標準を使用して標準曲線を作り出した。ELISAを実行するために、組み立てられたAAV8カプシド(クローンADK8)上のコンフォメーションエピトープに特異的なマウスモノクローナル抗体をマイクロタイタープレートのストリップ上にコーティングし、サンプル内のAAV8粒子を捕捉するために使用した。捕捉されたAAV8粒子は、1)ビオチン結合抗AAV8抗体を免疫複合体に結合させ、2)ストレプトアビジンペルオキシダーゼ結合体をビオチン分子と反応させるという2つのステップを使用して検出された。テトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液を添加すると、特異的に結合したウイルス粒子の量に比例する発色反応が起こった。次に吸光度を450nmで測光的に測定する。
【0186】
ラマン分光法
ラマン測定は、Kaiser Optics RxN2ラマン分光計を使用して実行された。この分光計は、4つのプローブチャネルを連続してモニタリングする能力を有する。RxN2励起源は、各プローブヘッドでの公称出力が~270mWの785nm近赤外ダイオードレーザであった。サンプルは、4つのEppendorf dasBox BioBLU使い捨てシステムの内容物で構成されていた。ビームは、4つのKaiser Opticsのフィルタ付き光ファイバーMRプローブとBioOptic220を各バイオリアクターに1セット使用して各サンプルバイオリアクターまで送出された。インプロセス測定の前に、RxN2システムを1時間安定させた後、4つのプローブチャネルのそれぞれをRxN2の内部自動較正標準器を使用して較正し、さらに、CCD感度補正を米国国立標準技術研究所(NIST)認定の光源(HCA)を使用して各プローブチャネルで実行した。散乱光は、ビーム送出に使用されたものと同じBioOptic 220およびMRプローブを使用して収集された。各MRプローブ内で、散乱光は第2の光ファイバーを介してRxN2 f\1.8イメージング分光器に送出された。ホログラフィックノッチフィルタを使用してレイリー散乱光をフィルタリングした後、ラマン散乱光はKaiser Opticsのホログラフィック透過型回折格子に向けられ、その後で熱電冷却された1024ピクセルCCD検出器上に結像された。システムの有効帯域幅は、100~3425cm-1であり、解像度は4cm-1である。ラマンスペクトルは、CCD読み出し時間を含む約15分/チャネルの積分時間で100~3425cm-1から取得され、10秒間の取得が、各測定スペクトルを生成するために75回の累積で平均化された。各チャネルは、順番に測定された。プロセス全体の様々な時点で、液体サンプルが各バイオリアクターから取得され、オフラインアッセイデータを対応するラマンスペクトルに事後的に一致させることができるように、それらの時点は書き留められた。
【0187】
ラマンデータ分析
すべてのデータ分析は、MATLAB(The MathWorks、MA、USA)バージョンR2019bで実行された。生のラマンスペクトルは、スペクトル全体を~3000cm-1の水バンドのピーク強度に正規化することによって前処理された。中程度の蛍光バックグラウンド信号は、420~1800cm-1の領域で除去された。この範囲の下限は、BioOptic-220のサファイアウィンドウから発生する可能性がある、またはラマン機器とプローブの光学設計のアーティファクトである可能性があるラマンバンドを回避するように選択された。次に、縮小された正規化されたスペクトルに、明らかな外れ値とアーティファクトがないかを調べた。オフラインサンプリング時点に関連するスペクトルが特定され、前処理されたスペクトルのモデルトレーニングサブセットが作製された。次に、前処理されたスペクトルのトレーニングセットが、ケモメトリックモデリングに使用された。ケモメトリックモデリングの前に、スペクトルは平均を中央に配置した。重要な分析物とウイルス力価についての潜在構造へのいくつかの初期射影-回帰(PLS-R)モデル(1ml当たりのゲノムコピー数に較正されたRT-qPCRに基づく1つのモデルウイルス力価モデルと、1ml当たりの総粒子数に較正されたAAV8 ELISAに基づく1つのウイルス力価モデル)が構築された。これらのモデルを使用すると、既知の濃度の関心のある分析物(この例ではRT-qPCRとELISAの様々なアッセイから決定されたウイルス力価)を含むサンプルに対して多変量ラマンスペクトルを回帰できる。これらの計算に基づいて、分析物の濃度は将来予測することができる。モデルは、トレーニングデータに対して10分割の交差検証手順を使用して準備された。つまり、データの1/10がランダムに選択され、トレーニングデータから削除され、モデルのパフォーマンスを評価するために使用された。これは10回行われ、エラー値、モデルの精度/パフォーマンスの統計値は、10倍のトレーニングセットのそれぞれについて取得された平均値である。基礎となる成分または基底ベクトルの数を選択することは、PLS-Rなどの教師あり線形モデルを構築する上で重要なステップである。この作業では、成分数の関数としての交差検証後の平均二乗予測誤差(MSECV)のプロットを調べることにより、基礎となる成分の最適な数が各モデルに対して特定された。最小値は、所与のモデルについてのPLS成分の最適な数を特定する。予測に最も重要な波数/変数のみを選択して構築されたモデルを最適化するには、変数選択の第2段階が必要である。これは、変数重要度指標(VIP)法を使用して実行された。しかしながら、変数の選択を行う多くの方法が存在する。典型的なVIPプロットを図26Aに示す。通常、VIP値が1より大きい変数が最終モデルに使用される。しかしながら、ここでは、いくつかのVIP閾値を使用してモデルを構築および評価し、良好な予測を行うために必要なスペクトル変数の最小数と、関心のあるオフラインデータのモデル化ができなくなる閾値を特定した。VIP閾値が増加するにつれて、特定されるスペクトル変数の数が減少する。各VIP閾値について有意な変数が決定されると、最終モデルが構築された。その後、これらのモデルを使用して、ラマンスペクトルからの1ml当たりのゲノムコピー数と1ml当たりの総粒子数の両方として、中間のウイルス力価値(つまり、利用可能なすべてのランの各オフラインデータ点間のウイルス力価値)を予測した。
【0188】
予備的なウイルス力価モデルの評価と範囲の選択
1ml当たりのゲノムコピー数と1ml当たりの総粒子数の両方のAAV力価のケモメトリックモデリングに使用される場合の例示的な前処理されたラマンスペクトルを図21に示す。
【0189】
AAV力価はプロジェクト全体を通してモニタリングされ、RT-qPCRによって取得された代表的な力価(1ml当たりのゲノムコピー数)を図22にまとめ、ELISAによって取得された1ml当たりの代表的な総粒子数を図23に示す。
【0190】
1ml当たりのゲノムコピー数についての初期PLS-Rモデルの交差検証後の平均二乗予測誤差のプロットを図24に示す。すべてのスペクトル変数またはチャネルを使用した場合、15個のPLS成分を使用したときに最小の有効予測誤差が発生することが分かった。ELISAデータから較正された場合の1ml当たりの総粒子数についての初期PLS-Rモデルの交差検証後の平均二乗予測誤差の別のプロットを図25に示す。すべてのスペクトル変数またはチャネルを使用した場合、14個のPLS成分を使用したときに最小の有効予測誤差が発生することが分かった。成分数のこれらの選択は、予測誤差の最小化とモデルの単純さの間の適切な妥協点を提供する。
【0191】
初期の15および14成分モデルの準備に続いて、様々な変数選択方法を評価して、最終的なRT-qPCRおよびELISA較正モデルの最適/最も予測的なスペクトル変数をそれぞれ選択した。ここでの目的は、2つのモデルから不要なスペクトルチャネル/変数を削除して、それらの単純性を強化し、物理的に意味のある情報のみを含めることであった。変数重要度指標(VIP)が最終的に計算され、ウイルスのコピー数を予測する上でどのスペクトル変数が最も重要であるかを決定した(図26A)。許容可能な物理的力価予測を行うために必要なスペクトル変数の最小数を評価および特定するために、保持された変数の基準として、いくつかの変数重要度の閾値が調査された。通常、VIP閾値1が使用され、閾値1.00~1.75が調査された。図26Bは、1ml当たりのゲノムコピー数の予測するために最も重要と見なされる領域、つまり選択された閾値(この場合は1.0)よりも大きい領域としてVIPアルゴリズムが特定する変数または波数の範囲を示している。図26Cは、これらの波数範囲を重要度の順に示している。
【0192】
また、上記のELISAを使用して1ml当たりの粒子数を予測するための最も重要なスペクトル変数を特定するために、同様の分析を行った。ウイルス粒子数の予測において、どのスペクトル変数が最も重要であるかを決定するために、変数重要度指標(VIP)を計算した(図27A)。許容可能な物理的力価予測を行うために必要なスペクトル変数の最小数を評価および特定するために、保持された変数の基準として、いくつかの変数重要度の閾値が調査された。通常、VIP閾値1が使用され、閾値1.00~1.75が調査された。図27Bは、最も重要と見なされる領域、つまり選択された閾値(この場合は1.0)よりも大きい領域としてVIPアルゴリズムが特定する変数または波数の範囲を示している。図27Cは、これらの波数範囲を重要度の順に示している。
【0193】
スペクトル変数の数が削減された後、基礎となる潜在変数の数のさらなる評価が、ウイルスのコピー数モデルとウイルス粒子数モデルの両方に対してそれぞれ実行された。PLS成分の最適な数は、モデルで使用されるスペクトル変数または波数の数によって異なる可能性がある。1.0の閾値を使用してスペクトル変数を削減した後、PLS潜在変数の最適な数は、1mlのモデル当たりのゲノムコピー数と1mlのモデル当たりの粒子数の両方について10であることが分かった。図28図29は、基礎となる成分の数が異なる洗練されたモデルのMSECVプロットを示している。
【0194】
10個の潜在変数およびVIP>1.0の選択されたスペクトル変数の(控えめな)モデルから取得された回帰係数を使用して推定された、8つのバイオリアクターの例示的なランについてのRT-qPCRウイルスコピー数のモデル予測を、以下の図30および図31に示す。結果は、ラマン分光データを使用したモデルが、経時的なウイルス力価(1ml当たりのゲノムコピー数)のオフライン測定値と一致していることを示している。10個の潜在変数およびVIP>1.0の選択されたスペクトル変数の(控えめな)モデルから取得された回帰係数を使用して推定された、8つのバイオリアクターの例示的なランについてのELISA総粒子数からの同様の予測を、以下の図32および図33に示す。結果は、ラマン分光データを使用したモデルが、経時的なウイルス力価(1ml当たりの粒子数)のオフライン測定値と一致していることを示している。個々のAAVサンプルのEmpty-Full-Ratioをパーセンテージとして推定する方法は、1ml当たりのゲノムコピー数(RT-qPCR)を1ml当たりの総粒子数(ELISA)で割り、この数に100を掛けることである。ウイルス力価決定のこれらの両方の方法に基づいて、上記で開発された予測モデル(図30図33)からの出力を使用して、同様の計算を実行できる。これらの計算の結果が、図34および図35に示されており、これらのトランスフェクトされた培養物からわかるように、Empty-Full-Ratioは、オフラインRT-qPCRデータおよびELISAデータを使用して行われた推定値とよく一致している。
【0195】
実施例8-AAVのための洗練されたELISAウイルス力価モデルの評価と範囲の選択
上記の実施例3および5に記載されたものなどのAAV8 ELISAモデル訓練に対するさらなる分析を実施して、AAVウイルス力価(特に、1ml当たりの総粒子数)の推定値を提供するために必要な波数範囲の数を計算することができた。
【0196】
AAV8 ELISAにとって重要であると特定された範囲、すなわち、拡張スペクトル範囲(~420~1800cm-1)を使用した初期ののPLSモデリング後に1.00以上の変数重要度指標(VIP)によって重要であると特定された範囲(すなわち上記の図27Bおよび図27Cに示された波数範囲1~20)が使用され、さらなる分析を実行した。
【0197】
データは、ランダムに選択されたトレーニングデータとテストデータのペアブロックに4:1の比率で、つまり、モデル構築(80%)とモデルテスト(20%)用のラマンスペクトルおよびそれらに関連するオフラインウイルス力価データに分割された。
【0198】
VIPによって重要と見なされる範囲の様々な組み合わせが、様々なトレーニングとテストのペアについて、つまり、範囲1~20のうちのそれぞれr個の総数について確率的に評価され、モデルのパフォーマンスの統計(例えば、R統計(注:R=1-残差平方和/総平方和))に基づいて多くの組み合わせが評価され、様々なモデルのパフォーマンスの標準偏差を評価して、信頼区間を生成した。範囲の最小数は、データのいくつかのトレーニング/テストペアの平均R値の平均が約0.5である範囲の数を選択することによって特定された。R以外のパフォーマンス統計も、このアプローチに使用できる。
【0199】
参考文献
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図5A-B】
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【国際調査報告】