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特表2023-532571ステント、ステントキット及びステント送達システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】ステント、ステントキット及びステント送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20230721BHJP
   A61F 2/966 20130101ALI20230721BHJP
【FI】
A61F2/90
A61F2/966
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581716
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 CN2020127273
(87)【国際公開番号】W WO2022007281
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】202010642761.2
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523002057
【氏名又は名称】シャンハイ フローダイナミクス メディカル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディン ジエン
(72)【発明者】
【氏名】ファン チェンイン
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267AA56
4C267BB11
4C267BB40
4C267CC08
4C267GG21
4C267HH18
(57)【要約】
ステント(1)、ステントキット及びステント送達システム(100)が開示される。ステント(1)は、大動脈に使用され、ステントは、直径の異なる少なくとも2種類の第1ワイヤ(3)と第2ワイヤ(4)で織ってなり、ステント(1)は、自然解放状態下でステント(1)の軸方向に沿って少なくとも局所が圧縮可能且つ延在可能に構成され、ここで、第1ワイヤ(3)は、20~150μmの直径を有し、且つ第2ワイヤ(2)は、150~800μmの直径を有することを特徴とする。ステント(1)は、大動脈瘤及び/又は大動脈解離病変を治療するために使用され、ステント(1)の軸方向の圧縮性と伸長性により、大動脈内の必要のある部位に低透液性と強い径方向支持力を提供し、その軸方向の伸長性により、適切な直径を有する送達システム(100)に容易に組み付けられる。ステント(1)を含むステントキット及びステント送達システム(100)を更に提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大動脈内に使用されるステントであって、前記ステントは、直径の異なる少なくとも2種類の第1ワイヤと第2ワイヤを織ることによって形成され、前記ステントは、解放状態下で前記ステントの軸方向に沿って少なくとも局所が圧縮可能且つ延在可能に構成され、前記第1ワイヤの直径は、20~150μmであり、且つ前記第2ワイヤの直径は、150~800μmである、ステント。
【請求項2】
前記ステントは自然解放状態下で、少なくとも30%の金属被覆率と100N以上の径方向支持力を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記ステントは自然解放状態下で、30~90%の金属被覆率と100~600Nの径方向支持力を有する、
請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、少なくとも80%の金属被覆率と400N以上の径方向支持力を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項5】
前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、80~100%の金属被覆率と400~1000Nの径方向支持力を有する、
請求項4に記載のステント。
【請求項6】
前記ステントを前記大動脈内に留置する場合、その軸方向に沿って異なる程度の圧縮を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステント。
【請求項7】
前記ステントは自然解放状態下で、30~60%の金属被覆率と200~600Nの径方向支持力を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項8】
前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、80~90%の金属被覆率と400~1000Nの径方向支持力を有する、
請求項7に記載のステント。
【請求項9】
前記ステントは自然解放状態下で、60~90%の金属被覆率と100~600Nの径方向支持力を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項10】
前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、90~100%の金属被覆率と500~1000Nの径方向支持力を有する、
請求項9に記載のステント。
【請求項11】
前記ステントは更に、少なくとも1つのスパースメッシュ領域を有し、前記スパースメッシュ領域は、前記第1ワイヤを除去することにより前記第2ワイヤのみで構成され、前記ステント解放後の対応する治療部位のうち分枝動脈を有する部位に配置される、
請求項9に記載のステント。
【請求項12】
前記スパースメッシュ領域は第1スパースメッシュ領域及び/又は第2スパースメッシュ領域を含み、前記第1スパースメッシュ領域は、大動脈弓部位に対応し、対応する円心角は120°~180°であり;且つ前記第2スパースメッシュ領域は、腹大動脈内の分枝動脈部位に対応し、対応する円心角は180°であり、前記腹大動脈内の分枝動脈は、腹大動脈の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈と上腸間膜動脈である、
請求項11に記載のステント。
【請求項13】
前記ステントは、腹大動脈領域を含む大動脈に使用され、前記ステントの内部空間には、左、右総腸骨動脈ステントを固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部が設けられる、
請求項1に記載のステント。
【請求項14】
前記総腸骨動脈ステント固定部は、前記ステント内部の対応する腹大動脈の左、右総腸骨動脈に近い分枝部に設けられ、前記2つの総腸骨動脈ステント固定部は、互いに接する環状に設けられ、且つ前記ステントの内壁と一体に形成される、
請求項13に記載のステント。
【請求項15】
前記第2ワイヤは、異なる直径を有する第1太ワイヤと第2太ワイヤとを含み、前記第1太ワイヤは、150~300μmの直径を有し、且つ前記第2太ワイヤは、300~600μmの直径を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項16】
前記第1ワイヤは、異なる直径を有する第1細ワイヤと第2細ワイヤとを含み、前記第1細ワイヤは、20~100μmの直径を有し、且つ前記第2細ワイヤは、100~150μmの直径を有することができる、
請求項1に記載のステント。
【請求項17】
前記ステントは、48~202本のワイヤで織ってなり、前記第2ワイヤは、4~32本であり、残りは、第1ワイヤである、
請求項1に記載のステント。
【請求項18】
前記ステントは、96~202本のワイヤで織ってなり、前記第1太ワイヤと前記第2太ワイヤが30本を超えない限り、前記第2ワイヤは、6~24本の第1太ワイヤと、4~24本の第2太ワイヤとを含み、残りは、第1ワイヤである、
請求項15に記載のステント。
【請求項19】
前記ステントは、48~202本のワイヤで織ってなり、前記第2ワイヤは、4~30本であり、残りは、第1ワイヤであり、前記第1細ワイヤと前記第2細ワイヤとの合計が198本を超えない限り、前記第1ワイヤは、32~198本の前記第1細ワイヤと、32~198本の前記第2細ワイヤとを含む、
請求項16に記載のステント。
【請求項20】
前記ステントは、少なくとも2層の織り網を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項21】
前記ステントの少なくとも一端の端部は、折り返し織り方で形成される、
請求項20に記載のステント。
【請求項22】
前記ステント全体は、同じ直径を有し、又は、前記ステントは変化する直径を有し、且つ前記直径が20~55mmの範囲内である、
請求項1に記載のステント。
【請求項23】
大動脈内に使用されるステントキットであって、上行大動脈から大動脈弓までの領域に使用される第1ステントと、下行大動脈領域に使用される第2ステントと、腹大動脈領域に使用される第3ステントと、を含み、前記第1ステント、前記第2ステント及び第3ステントのそれぞれは、請求項1~22のいずれか一項に定義されたものである、ステントキット。
【請求項24】
前記第1ステントは、35~55mmの直径と15~22cmの長さを有し、前記第2ステントは、25~35mの直径と15~20cmの長さを有し、及び/又は前記第3ステントは、20~30mmの直径と15~20cmの長さを有する、
請求項23に記載のステントキット。
【請求項25】
ステント送達システムであって、外側から内側へ同軸に順に配置された外側カテーテル、内側カテーテル及びプッシュロッドを含む、送達カテーテルを含み、
前記外側カテーテルは、近心端と遠心端を有し、前記外側カテーテルを貫通する第1中空キャビティを有し、
前記内側カテーテルは、前記外側カテーテルの遠心端の第1中空キャビティ内で延在し、前記内側カテーテルを貫通する第2中空キャビティを有し、
前記プッシュロッドは、前記外側カテーテルの第1中空キャビティ及び前記内側カテーテルの第2中空キャビティを貫通して延在し、前記内側カテーテルの遠心端から伸び出し、
請求項1~22のいずれか一項に記載のステントは、送達構成で前記プッシュロッドと前記外側カテーテルとの間に解放可能に保持され、前記外側カテーテルの近心端の第1中空キャビティに位置し、
前記送達カテーテルは、前記外側カテーテル、前記内側カテーテル及び前記プッシュロッドのお互いに、すべて軸方向に沿って相対移動可能に構成され、且つ前記ステントの両端は、前記プッシュロッドの近心端と前記内側カテーテルの近心端にそれぞれ着脱可能に拘束される、ステント送達システム。
【請求項26】
前記外側カテーテルは、5~10mmの外径を有し、好ましくは5~7mmの外径を有する、
請求項25に記載のステント送達システム。
【請求項27】
前記ステントの両端は、ストッパにより前記プッシュロッドの近心端と前記内側カテーテルの近心端にそれぞれ着脱可能に拘束される、
請求項26に記載のステント送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2020年7月6日に中国特許局に提出された、出願番号が202010642761.2である中国特許出願に基づいて提出されるものであり、当該中国特許出願の優先権を主張し、当該中国特許出願の全ての内容が参照によって本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ステント、ステントキット、ステント送達システム及び前記送達システムによる前記ステントの留置方法に関し、特に、大動脈瘤又は大動脈解離などの大動脈病変の治療に使用されるステント、ステントキット、及びステントを送達して留置するシステムと方法に関する。
【背景技術】
【0003】
動脈血管壁は、内膜、中膜、外膜が密着して構成される。動脈血管の内壁が局所的に損傷すると、動脈血流の強い衝撃により、動脈血管壁中膜が徐々に剥がれ、血液が血管壁の中膜と外膜との間に流れ込むようになって、真腔と偽腔の2つの腔が形成される。最も一般的なのは、大動脈解離である。大動脈解離は、動脈の壁を弱くし、いつでも破裂のおそれがあり、一度破裂しまうと、数分以内に患者が死に至る。
【0004】
大動脈解離は、内膜の裂け部位や拡張範囲によってA型とB型の2つのタイプ(例えばStanford分類)に分けられる。A型は、上行大動脈に累を及ぼす病変を指し、動脈壁の剥がれた部位は上行大動脈から始まり、大動脈弓や下行大動脈の近端であるが上行大動脈に累を及ぼす場合でも発生することができる。B型は、動脈壁の剥がれた部位が下行大動脈の、左鎖骨下動脈の開口部を超えない近端に発生する。
【0005】
大動脈瘤も大動脈が異常に拡張した病症である。患者にとっては、大動脈瘤の破裂も致命的である。
【0006】
よって、大動脈解離と大動脈瘤に対する早期診断と適時の治療は非常に必要である。
【0007】
現在、大動脈解離又は大動脈瘤の治療において、通常3つの方案がある。
【0008】
その一つは、オープン手術を採用して、人工血管の置換を行うことである。当該方案は、現在、A型大動脈解離に使用されることが多いが、術中の死亡率が高く、術後に残余の中間層がしばしば形成され(即ちB型中間層が形成される)、10年内に再手術する必要のある比率が9~67%に達するという欠陥がある。更に、治療費が非常に高く、このような手術技術を習得している病院が少ない。しかも、オープン手術はすべての患者に適しているわけではないため、当該方案の恩恵を受ける患者の割合が非常に少ない。
【0009】
もう一つの方案は、EVAR腔内介入法、つまりステントグラフト内挿術である。当該方案は、傷口が小さく、回復が速く、死亡率が低いという利点があるが、ステントの留置部位が常に大動脈弓及び/又は腹大動脈に係り、術中及び術後に大動脈弓の凸側の三大分枝動脈血管、及び腹大動脈における左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈と上腸間膜動脈などの主な分枝の動脈血管を閉塞してはいけない。従来の方法は、重要な分枝動脈に対応するステントグラフトの部位に現場で孔を開けることである。一方は、手術の難易度を増加させ、豊富な経験を持つ外科医が実施する必要があり、もう一方は、留置時の位置決めが不正確であるか、解放中にステントシフトが発生して、重要な分枝血管を塞ぐ場合、深刻な結果を招く。更に、ステントが術前に改造されると、製造者は品質保証サービスの提供を拒否する可能性がある。
【0010】
3番目の方案は、最近に提案された高密度メッシュステントを採用して全大動脈腔内の介入を行う方案である。EVAR腔内介入法と違って、当該方案は、機械的に偽腔を塞ぐメカニズムを採用しなく、高密度メッシュステントは血流の通過を著しく阻害せず、病変血管内壁に血液の流れを阻害することにより、偽腔内の血流力学を変化させ、その中の圧力を低下させ、腔内血栓化を促進することにより治療目的を達成する。当該方案では高密度メッシュステントを採用するため、EVAR腔内介入法と比べて、同じく傷口が小さく、回復が速く、死亡率が低いという利点を持ちながら、高密度メッシュステントは分枝動脈への血流の輸送を閉塞せず、手術の難易度を低下させる。したがって、一般の経験を持つ医者も実施することができる。
【0011】
しかし、当該種類のステントの治療効果が理想的ではなく、血管内壁の裂け目が完全に塞げたことではないため、いつも理想的な腔内血栓を形成できない。更に、現在の高密度メッシュステントは依然として、すべての大動脈解離や大動脈瘤の病変タイプへの適用が困難であり、特に、A型大動脈病変への適用が困難である。
【0012】
A型大動脈解離は上行大動脈に関わり、当該部位の血管内径は病変により著しく増大し、通常、38~55cmに達する。このような大きな直径の高密度メッシュステントは径方向に小径に圧縮することができず、より太い輸送システムが必要である。これにより、輸送システムは、比較的細い大腿動脈を通過して留置することが困難であり、特に、血管が比較的細いアジア人に対しては、実施することができない。圧縮状態におけるステントの直径を小さくするために、比較的細いワイヤでステントを織り込むことができるが、これにより、ステントの径方向支持力が治療作用を発揮することができなくなる。
【発明の概要】
【0013】
これを鑑みて、本発明は主に、上記のうちの少なくとも1つの先行技術の課題を解決又は改善できるステント、ステントキット、当該ステントを備える送達システムとステント留置方法を提供することを目的とする。具体的には、本発明は、送達状態で大腿動脈を通過して輸送することに適する直径の、大動脈解離又は大動脈瘤、特にA型大動脈病変を治療するためのステントを提供することを目的とし、前記ステントは解放状態下で局所的に軸方向に圧縮することができ、それにより、必要がある部位(例えば上行大動脈)で低い透液性、高い径方向支持力を有するセグメントを形成し、それにより病変部位を治療することができる。
【0014】
そのため、本発明の第1態様はステントを提供し、前記ステントは大動脈に使用され、前記ステントは、直径の異なる少なくとも2種類のワイヤを織ることによって形成され、前記ステント構造は解放状態下で前記ステントの軸方向に沿って少なくとも局所は圧縮可能且つ延在可能に構成され、ここで第1ワイヤは20~150μmの直径を有し、且つ第2ワイヤは150~800μmの直径を有する。
【0015】
本発明のステントは解放状態下で、特に、以下で説明されるステント送達システム及びステント留置方法に従って、少なくとも局所が軸方向に圧縮および延在可能である。一方では、ステントが血管内に解放されると、軸方向に局所的な圧縮により、ステントの局所的なセグメントにおける織りワイヤの密度が著しく大きくなり、それにより、裂け目及び真腔拡張の径方向支持力を塞ぐように、必要とする実質的な不透液性を得る。特に、血管内膜の裂け部位において、より特に、上行大動脈において、部分的に解放された前記ステントを軸方向に圧縮することにより、局所的に強化された径方向支持力と著しく低下した流体(血液)透過率を得ることができる。もう一方では、上記の特性により、必要に応じてステントを軸方向に延在させた後、織りワイヤの密度を著しく低減させた後に径方向に圧縮することにより、適切な直径を有する送達構成に容易に圧縮し、後述する送達システムに便宜に組み付けることができる。更に、分枝動脈が存在する部位では、必要に応じて、局所的に軸方向に延在させることにより、ステントのメッシュを疎にし、分枝動脈への血液の輸送を容易にし、且つ必要に応じて、メッシュを通して分枝ステントの留置を容易にすることができる。
【0016】
本発明のステントは、直径の異なる少なくとも2種類のワイヤを織ってなる。一方では、大動脈内に使用される大きなサイズのステントが、適度な径方向支持力と金属被覆率を有し、径方向に適切な送達サイズに圧縮されることができるようにし、もう一方では、太い第2ワイヤにより実質的なステント骨格を形成し、実質的な径方向支持力を提供する役割を果たし、細い第1ワイヤは、第2ワイヤ間の隙間を効果的に埋めることができ、ステント形態の支持および保持を補助する役割を果たす。特に、前記ステントが軸方向に圧縮されると、第1ワイヤの存在により、圧縮された部分の流体透過率が著しく低下し、血管内壁の裂け部位を効果的に塞ぐことができ、同時に、太い第2ワイヤが軸方向に圧縮されると、単位長さにおける第2ワイヤの密度が増加して、著しく強化された径方向支持力を形成し、それにより、血管真腔に対して拡張の役割を果たし、偽腔の縮小に有利である。
【0017】
1つの実施形態によれば、自然解放(即ち軸方向の圧縮も延在もない)状態下で、前記ステントは、少なくとも30%の金属被覆率と100N以上の径方向支持力を有する。
【0018】
好ましくは、前記ステントは自然解放状態下で、30~90%の金属被覆率と100~600Nの径方向支持力を有する。
【0019】
1つの実施形態によれば、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、前記ステントは、少なくとも80%の金属被覆率と400N以上の径方向支持力を有する。好ましくは、解放され且つ最大に軸方向に圧縮された状態下で、前記ステントは、80~100%の金属被覆率と400~1000Nの径方向支持力を有する。
【0020】
以上で限定された自然解放状態における径方向支持力の範囲内で、本発明のステントは、上行大動脈に適する最大径(例えば38~60mm)を有しても適切な外径(例えば5~10mm)を有する送達システムに容易に組み付けることができる。更に、前記ステントが軸方向に最大に圧縮された後に、上記の範囲内の径方向支持力を有して、狭窄した血管の真腔を効果的に支持することができる。特に、好ましい範囲内での径方向支持力は、一定期間形成された患部に特に有利であり、その中の裂かれた血管内膜片が硬くなり、開くのに大きい力を必要とする。
【0021】
よって、実際の適用において、本発明のステントが血管(特に大動脈)内に解放された場合、その軸方向に沿って異なる圧縮率を有する。前記ステントの異なる部位の径方向支持力は、100~1000Nの範囲内で変化することができ、金属被覆率は30~100%の範囲内で変化することができる。
【0022】
本発明のステントは、適切な織り密度を有する必要がある。織り込みが密すぎると、第2ワイヤの数を減らしても径方向圧縮が困難になる可能性があり、逆に織り込みが疎すぎると、軸方向に圧縮しても、内膜の裂け部位を効果的に塞ぐことができなくなる。
【0023】
よって、実際に適用において、本発明のステントが血管(特に大動脈)内に解放された場合、圧縮/伸張比率の異なりに依存し、その異なる部位の金属被覆率は異なってもよい。例えば、軸方向に最大圧縮する際の金属被覆率から自然解放状態又は適度伸張状態における金属被覆率までの間で変化する。
【0024】
本発明のステントの上記の特性により、上行大動脈から腹大動脈までにおける異なる治療要求に柔軟的に適用することができ、例えば、裂け目の修復と分枝動脈の血流の円滑な保持の両方の要求を満たすことができる。
【0025】
1つの実施形態によれば、自然解放状態下で、前記ステントは基本的に完全な透液性を有し、即ち、大動脈から分枝動脈への血液の流れをほとんど又は完全に阻害しない。当該実施形態によれば、自然解放状態下で、30~60%の金属被覆率と200~600Nの径方向支持力を有する。当該規定された範囲内の径方向支持力と金属被覆率を有するステントは、自然解放状態下で、比較的に低い径方向支持力と金属被覆率を有するが、大きい圧縮比を有し、圧縮後にも、以上の規定を満たす必要な径方向支持力と金属被覆率を形成して、血管内壁の裂け目を効果的に塞ぐことができる。解放され且つ最大に軸方向に圧縮された状態で、前記ステントは、80~90%の金属被覆率と400~1000Nの径方向支持力を有する。
【0026】
別の具体的な実施形態によれば、自然解放状態下で、前記ステントは60~90%、好ましくは70~90%の金属被覆率と、100~600Nの径方向支持力を有する。当該規定された範囲内の径方向支持力と金属被覆率を有するステントは、自然解放状態下で、比較的に高い径方向支持力と金属被覆率を有するが、大きい延在率を有し、延在後にも、適切なサイズに径方向に圧縮されて、適切な送達システムに容易に組み付けることができる。本実施形態のステントは、局所的に解放された後に圧縮することなく、大きい径方向支持力と金属被覆率を有し、血管真腔に対する即時支持および拡張を容易にし、裂け目をある程度塞ぐ。更に、ステントの局所的なセグメントを軸方向に圧縮することにより、径方向支持力を更に増加し、金属被覆率を更に高めて、以上の規定を満たす必要な径方向支持力と金属被覆率を形成して、血管内壁の裂け目をより効果的に塞ぐことができる。解放され且つ最大に軸方向に圧縮された状態下で、前記ステントは、90~100%、好ましくは90~95%の金属被覆率と、500~1000Nの径方向支持力を有する。
【0027】
当該実施形態によれば、自然解放状態下で、前記ステントは、一定の(完全ではなく)透液性を有し、即ち、動脈から分枝動脈への血液の流れに対して一定の阻害を有する。1つの具体的な実施形態において、本発明によるステントは、軸方向に延在可能であるため、ステントを留置する際に、分枝血管に対応する局所的なセグメントを適度に伸張することにより、適切な血透液性を得ることができる。このため、当該領域の伸張後の直径が、分枝血管を有する血管腔の内径に適させるために、前記ステントの対応する部位は、隣接する部分に対して増大した直径を有するように構成される。別の具体的な実施形態において、前記ステントは、少なくとも1つのスパースメッシュ領域を有し、前記スパースメッシュ領域は、前記第1ワイヤを除去することにより、前記第2ワイヤのみで構成され、前記ステントの解放後の対応する治療部位のうち分枝動脈を有する部位に配置される。つまり、当該実施形態において、本発明のステントは、前記スパースメッシュ領域を除いて、異なる直径を有する少なくとも2種類の第1ワイヤと第2ワイヤを織ることによって形成され、スパースメッシュ領域は、太い第2ワイヤのみで織ってなる。
【0028】
当該実施形態において、前記スパースメッシュ領域は、第1スパースメッシュ領域及び/又は第2スパースメッシュ領域を含み、ここで、前記第1スパースメッシュ領域は、大動脈弓部位に対応し、対応する円心角は、120°~180°であり;且つ前記第2スパースメッシュ領域は、腹大動脈内の分枝動脈部位に対応し、対応する円心角は、180°であり、ここで、前記腹大動脈内の分枝動脈は、腹大動脈の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈と上腸間膜動脈である。
【0029】
1つの技術案によれば、前記治療部位は、大動脈弓を含み、前記スパースメッシュ領域は、第1スパースメッシュ領域を含み、前記大動脈弓の大曲がり側に対応し、特に、大動脈弓の分枝動脈である腕頭動脈、左総頸動脈及び左鎖骨下動脈に対応する。具体的には、前記第1スパースメッシュ領域の長さは、大動脈弓上の分枝動脈領域の長さより長く、例えば6~8cm、且つ前記第1スパースメッシュ領域の弧度は、前記ステントの当該セグメントの円周の約1/3~1/2を占め、即ち、対応する円心角が約120°~約180°である。別の技術案によれば、前記治療部位は腹大動脈を含み、前記スパースメッシュ領域は、第2スパースメッシュ領域を含み、前記腹大動脈の分枝動脈部位に対応し、特に、腹大動脈の分枝動脈である左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈及び上腸間膜動脈に対応する。具体的には、前記第2スパースメッシュ領域の長さは、腹大動脈の上記の分枝動脈の分布領域の長さより長く、例えば2~4cm、且つ前記第2スパースメッシュ領域の弧度は、前記ステントの当該セグメントの円周の約1/2を占め、即ち、対応する円心角は約180°である。異なる技術案において、前記ステントは、前記第1スパースメッシュ領域と第2スパースメッシュ領域を有することができる。
【0030】
当該実施形態において、前記スパースメッシュ領域の任意の1つのメッシュは拡張可能であり、それにより、拡張されたメッシュを介して分枝ステントを留置することができるようにする。
【0031】
当該実施形態のステントは、ステントの他の部位の金属被覆率の要求にしたがって織ることができ、織り上がった後、スパースメッシュ領域を形成する予定の領域から前記第1ワイヤを除去して、前記スパースメッシュ領域を形成する。
【0032】
さらに別の実施形態によれば、本発明のステントは、腹大動脈領域を含む大動脈に使用され、前記ステントの内部空間には、左、右総腸骨動脈ステントを固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部が設けられている。
【0033】
具体的には、前記総腸骨動脈ステント固定部は、前記ステント内部の対応する腹大動脈の左、右総腸骨動脈に近い分枝部に設けられ、前記2つの総腸骨動脈ステント固定部は、互いに接する環状に設けられ、且つ前記ステントの内壁と一体に形成されている。
【0034】
腹大動脈ステントの下部に2つの円筒状分枝を形成するための固定部と違って、本発明のステントの2つの固定部はステントの内部に設けられているため、ステントの外部は円柱状のままであり、これは、総腸骨動脈付近の支持性を劣化させることなく血管を開くことに有利である。更に、総腸骨動脈固定部はステントと一体に形成されるため、左、右腸骨動脈ステントをより安定的に固定できる。
【0035】
好ましい実施形態によれば、本発明のステントに使用される第1ワイヤは50~150μmの直径を有し、且つ第2ワイヤは150~600μmの直径を有してもよい。前記ステントは、48~202本のワイヤで織ることによって形成され、ここで、前記第2ワイヤは4~32本であり、残りが第1ワイヤである。
【0036】
1つの実施形態によれば、前記ステントは、異なる直径を有する3つのワイヤで織ってなり、ここで、前記第2ワイヤは、異なる直径を有する第1太ワイヤと第2太ワイヤを含み得る。具体的な実施形態によれば、前記第1太ワイヤは、150~300μmの直径を有し、且つ前記第2太ワイヤは300~600μmの直径を有してもよい。前記ステントは48~202本のワイヤで織ってなることができ、ここで、前記第1太ワイヤと前記第2太ワイヤが30本を超えない限り、前記第2ワイヤは6~24本の第1太ワイヤと、4~24本の第2太ワイヤとを含み、残りは第1ワイヤである。
【0037】
別の実施形態によれば、前記ステントは、異なる直径を有する3つのワイヤで織ってなり、ここで、前記第1ワイヤは、異なる直径を有する第1細ワイヤと第2細ワイヤを含み得る。具体的な実施形態によれば、前記第1細ワイヤは、50~100μmの直径を有し、且つ前記第2細ワイヤは100~150μmの直径を有してもよい。前記ステントは48~202本のワイヤで織ってなり、ここで、前記第2ワイヤは4~30本であり、残りが第1ワイヤであり、ここで、前記第1細ワイヤと前記第2細ワイヤとの合計が198本を超えない限り、前記第1ワイヤは、32-198本の前記第1細ワイヤと、32-198本の前記第2細ワイヤとを含む。
【0038】
更に別の実施形態によれば、前記ステントは、上記の第1細ワイヤと第2細ワイヤ及び第1太ワイヤと第2太ワイヤの異なる直径を有する4つのワイヤを織ることによって形成される。
【0039】
太ワイヤ(即ち第2ワイヤ)の数が多過ぎると、ステントは理想的な送達状態に効果的に圧縮できなくなり、数が少な過ぎると、前記ステントは圧縮後にも所望の径方向支持力を提供できなくなり、解放状態で前記ステントの所望の構造と形態を保持できなくなる。細ワイヤ(即ち第1ワイヤ)は、第2ワイヤの隙間を埋める役割を果たし、支持力を大幅に増加させることなく金属被覆率を増加させて、血管内の裂け目を効果的に塞ぐことができる。しかしながら、第1ワイヤの使用量も多すぎてはいけなく、第1ワイヤが多過ぎると、依然として、適切な直径を有する送達状態に圧縮されることが困難になる。
【0040】
本発明の前記ステントが自然解放状態下で30~60%の金属被覆率と200~600Nの径方向支持力を有する実施形態によれば、前記ステントを織るためのワイヤの数は、48~156本であってもよく、好ましくは48-128本であってもよい。ここで、第2ワイヤの数は、4~30本であってもよく、残りは第1ワイヤである。1つの具体的な実施形態によれば、前記ステントは、2つの第1ワイヤと1つの第2ワイヤを織ることによって形成され、ここで、前記第2ワイヤは4~30本使用することができ、残りは第1ワイヤであり、前記第1細ワイヤと前記第2細ワイヤの合計が152本を超えない限り、前記第1ワイヤは32~120本の第1細ワイヤと32~120本の第2細ワイヤとを含み得る。別の具体的な実施形態によれば、前記ステントは、1つの第1ワイヤと2つの第2ワイヤを織ることによって形成され、ここで、前記第1太ワイヤと前記第2太ワイヤが30本を超えない限り、前記第2ワイヤは6~24本の第1太ワイヤと、6~24本の第2太ワイヤとを含み、残りは第1ワイヤである。
【0041】
本発明の前記ステントが自然解放状態下で60~90%の金属被覆率と100~600Nの径方向支持力を有する実施形態によれば、前記ステントを織るためのワイヤの数は96~202本であってもよく、好ましくは96~156本であってもよい。ここで、第2ワイヤの数は4~30本、好ましくは4~24本であってもよく、残りは第1ワイヤである。1つの具体的な実施形態によれば、2つの異なる直径を含む太ワイヤを使用する場合、前記第2ワイヤは、6~12本の第1太ワイヤと、4~12本の第2太ワイヤとを含み得、残りは第1ワイヤである。太ワイヤ(即ち第2ワイヤ)の数が多過ぎると、ステントは理想的な送達状態に効果的に圧縮できなくなり、数が少な過ぎると、前記ステントは圧縮後にも所望の径方向支持力を提供できず、解放状態で前記ステントの所望の構造と形態を保持できなくなる。さらに別の具体的な実施形態によれば、2種類の異なる直径の細ワイヤを使用する場合、ここで、前記第2ワイヤは4~30本、好ましくは4~24本であり、残りは第1ワイヤであり、ここで、前記第1細ワイヤと前記第2細ワイヤの合計が198本を超えない限り、前記第1ワイヤは、32~120本の前記第1細ワイヤと32~120本の前記第2細ワイヤとを含む。
【0042】
1つの実施形態によれば、前記ステントは少なくとも2層の織り網によって構成される。1つの実施形態によれば、前記ステントは2~4層の織り網を有する。前記ステントは多層の織り網を有する場合、ステント全体は、以上で規定された径方向支持力と金属被覆率を有する。
【0043】
本発明のステントの織り方は特に限定されない。軸方向における前記ステントの圧縮と伸張を容易にすることができる限り、通常の重ね織り方(即ち、ワイヤ間の交点に制約がない)を採用できる。
【0044】
理解されたいこととして、具体的な治療タイプに必要な径方向支持力範囲と金属被覆率範囲に基づいて、当業者は、本明細書の説明に基づいて具体的なデバイス条件下で適切な編成材料を選択し、合理的な層数を決定し、更に適切なワイヤの直径、数などを決定し、適切な編成方案を決定することにより、必要な径方向支持力範囲と金属被覆率範囲を有するステントを得ることができる。例えば、専用ソフトウェアによって適切な編成方案を設計することができる。
【0045】
さらなる実施形態によれば、本発明のステントの端部(特に、ステントの径方向支持力が最も大きい近心端)は折り返し織り方で形成されることができる。他端に再び折り返しできないバリ(burr)が存在する場合、各層に適切な配置方式を選択して、バリを前記ステントの内側に位置させ、又は2層のバリが存在する場合、そのうちの一層のバリを僅かな距離で折り返して、他のバリを当該折り返しセグメント内に包み、又は複数のステントを組み合わせて使用する場合、単層又は2層のバリを他の高密度メッシュステント内に重ね合わせて配置することができる。当該実施形態のステントは滑らかな端部を有し、それにより、露出したワイヤ端部(バリ)による血管内壁の機械的損傷を回避する。
【0046】
本発明によれば、前記ステント全体は、同じ直径を有し、又は前記ステントは変化する直径を有し、且つ前記直径は20~55cmの範囲内である。
【0047】
1つの実施形態によれば、本発明のステントは解放状態下で、前記ステントの近心端に位置する第1セグメントを有する。当該第1セグメントは、上行大動脈に適用するために35~55cmの直径を有することができる。当該第1セグメントの長さは8~11cm、好ましくは8~10cmである。前記ステントは更に、前記第1セグメントに隣接する第2セグメントを有することができる。当該第2セグメントは、動脈内の大動脈弓から腹大動脈までの部分に適用するために20~38mmの直径を有することができる。当該第2セグメントは、当該第1セグメントに続いて前記ステントの遠心端まで延在する。当該第2セグメントの長さは28~40cm、好ましくは28~31cmであり得る。
【0048】
別の実施形態によれば、前記ステントは腹大動脈の部分に適用するために20~38mmの直径を有することができる。当該実施形態において、前記ステントは28~40cm、好ましくは28~31cmの長さを有することができる。
【0049】
本発明のステントは、自己拡張可能なもの又はバルーン拡張可能なものである。前記ステントを織る第1ワイヤと第2ワイヤの材料は異なってもよいが、同じであることが好ましい。通常、前記ワイヤの材料は、形状記憶合金(例えばニチノール)、コバルトクロム合金、タングステン又はタンタルなどの金属であってもよい。
【0050】
本発明の第2態様は、大動脈に使用され、特に、上行大動脈から腹大動脈までの領域に使用されるステントキットを提供する。上行大動脈から大動脈弓までの領域に使用される第1ステントと、下行大動脈領域に使用される第2ステントと、腹大動脈領域に使用される第3ステントとを含む、前記ステントキットは、前記第1ステント、前記第2ステント及び第3ステントのそれぞれは、以上で定義された本発明のステントであり得ることを特徴とする。
【0051】
具体的には、前記第1ステントは38~55mmの直径と、8~11cm、好ましくは8-10cmの長さを有し、前記第2ステントは25~35mの直径と15~20cmの長さを有し、及び/又は前記第3ステントは20~30mmの直径と15~20cmの長さを有する。
【0052】
本発明のステントキットは、異なる血管領域に対してより柔軟的に組み合わせることができ、各ステントは、異なる長さ、直径、径方向支持力と金属被覆率を有することができる。且つ短いステントの操作もより柔軟的である。前記ステントキットは、上行大動脈から腹大動脈に至る全領域の病変に完全かつ柔軟的な解決策を提供する。
【0053】
1つの実施形態によれば、第1ステントの遠心端は、第2ステントの近心端の内部に挿入でき、且つ第2ステントの遠心端は第3ステントの近心端の内部に挿入でき、それにより、3つのステントの先頭と末尾で接続され、大動脈に対して隙間のない均一な支持を提供することができる。当該実施形態において、第1ステントと第2ステントの遠心端はバリを有してもよく、バリを第2ステントと第3ステントの近心端内部にそれぞれ収容することにより、血管組織への可能な損傷を回避し、ステントの厚さを低減する。その同時に、血管内壁に直接に接触するステント端部はすべて、折り返し織り方で滑らかな端部に形成される。
【0054】
本発明の第3態様は、ステント送達システムを提供し、前記ステント送達システムは、送達カテーテルを含み、
前記送達カテーテルは、外側から内側へ同軸に順に配置された外側カテーテル、内側カテーテル及びプッシュロッドを含み、ここで、
前記外側カテーテルは、近心端と遠心端を有し、前記外側カテーテルを貫通する第1中空キャビティを有し、
前記内側カテーテルは、前記外側カテーテルの遠心端の第1中空キャビティ内で延在し、前記内側カテーテルを貫通する第2中空キャビティを有し、
前記プッシュロッドは、前記外側カテーテルの第1中空キャビティ及び前記内側カテーテルの第2中空キャビティを貫通して延在し、前記内側カテーテルの遠心端から伸び出し、
本発明の以上で定義されたステントによれば、前記ステントは、送達構成で前記プッシュロッドと前記外側カテーテルとの間に解放可能に保持され、前記外側カテーテルの近心端の第1中空キャビティに位置し、
ここで、前記送達カテーテルは、前記外側カテーテル、前記内側カテーテル及び前記プッシュロッドのお互いに、すべて軸方向に沿って相対移動可能に、且つ前記ステントの両端は、前記プッシュロッドの近心端と前記内側カテーテルの近心端にそれぞれ着脱可能に拘束される。
【0055】
1つの実施形態によれば、本発明のステント送達システムにおいて、本発明のステントの両端(即ち近心端と遠心端)はそれぞれ、プッシュロッドの近心端及び内側カテーテルの近心端に着脱可能に拘束される。このようにして、ステントを解放する際に、外側カテーテルを移動せずに心臓の方向に前記プッシュロッドを押し付けることにより、プッシュロッドにステントと内側カテーテルを連れて心臓方向に移動させ、前記外側カテーテルは、心臓から離れた方向に相対的に移動し、それにより、ステントの近心端から前記ステントを解放する。
【0056】
ステントの近心端がプッシュロッドの近心端に拘束されているため、初期解放するとき、ステントが完全に拡張されず、半解放状態になる。この場合、ステントは、完全に解放された状態における直径に達しておらず、血管壁との間にまだ密着していないため、位置の調整を容易に行うことができ、更に例えば、部分的に解放されたステントを送達カテーテル内に回収し、位置を調整した後に再解放することができる。ステントの近心端をプッシュロッドの近心端に拘束することは、もう1つの利点がある。即ち、初期解放するときのステントと外側カテーテルとの間の摩擦抵抗もステントの端部の拘束により小さくなる。摩擦抵抗の低減は、ステントの解放、特に上行大動脈内での解放に対して非常に有利である。なぜなら、送達カテーテルが大動脈弓を通過した後、ほぼ180度湾曲するため、プッシュロッドの操作者側の押圧方向は、上行大動脈側の移動方向とほぼ反対になる。その結果、ステントと外側カテーテルとの間の摩擦抵抗が小さいほど、操作者によるプッシュロッドを押し付ける力が小さくなり、操作者が解放プロセスをより容易に制御し、ステントを安定的に解放しやすくすることができる。
【0057】
前記ステントが少なくとも一部を解放した後、ステントの一端を移動せずに、当該端に向いて他端を移動(例えば、内側、外側カテーテルを移動せずに、プッシュロッドを引き戻す)することにより、前記ステントが解放された部分を圧縮するようにし、それにより、上述した裂け目の塞ぎと血管真腔の支持の役割を果たす。
【0058】
前記ステントの両端の拘束方式は特に限定されなく、最後に取り外す可能な任意の既存の拘束方式はすべて使用できる。例えば、任意の従来のストッパによりプッシュロッドと内側カテーテルにそれぞれ一時的に固定することができる。
【0059】
本発明のステント送達システムは従来の外径を有してもよく、それにより、大腿動脈を介して、ステントを大動脈の治療する必要のある部位に留置しやすくする。本発明によれば、上行大動脈内に解放されるステントであっても、ステントを軸方向に延在し適切な直径になるまで径方向に圧縮することにより、前記送達カテーテルに組み付けることができる。
【0060】
1つの実施形態によれば、本発明のステント送達システムの外側カテーテルは約5~約10mmの外径を有し、好ましくは約5~約7mmの外径を有する。
【0061】
1つの実施形態によれば、前記プッシュロッドは、ガイドワイヤがその中を通過できるように中空である。
【0062】
本発明の第4態様によれば、ステント留置方法を更に提供し、前記方法は、
本発明によるステント送達システムを治療部位に誘導するステップと、
本発明によるステントを少なくとも部分的に解放するステップと、
前記ステントの解放部分の一端の不動の状態を保持しつつ、前記ステント送達システムを操作して、前記解放部分を圧縮/延在するように前記解放部分の他端を前記ステントの軸方向に移動させるステップと、
前記ステントを完全に解放した後、前記ステント両端に対する拘束を外すステップと、を含む。
【0063】
前記ステント留置方法によれば、ステントを一定の長さまで解放した後、位置を調整して、例えば内側、外側カテーテルの位置を変更しないまま、心臓から離れた方向にプッシュロッドを引き戻すことにより(プッシュロッドの位置を変更しないように固定したときに、心臓に近い方向に内側、外側カテーテルを押し付けてもよい)、半解放されたステントを連れて軸方向に圧縮されることができる。このような軸方向圧縮は、本発明のステント送達システムにおいて、前記ステントの両端がいずれも拘束され、又はステントの一部が解放され血管壁に当接して固定されたため、その中の一端を動かないように固定し、他端を移動するとき、ステントの解放された部分が軸方向に圧縮/伸張される可能性がある。血管内の裂け目がある部位に対して、本発明のステント送達システムを利用して、解放されたステントセグメントを、その最大又は適度な金属被覆率と最大又は適度な径方向支持力になるまで圧縮し、それにより、その径方向支持力の作用により対応する部位の血管壁(特に、内膜が裂けた部位)に当接し、それにより、当該セグメントの解放を完了する。
【0064】
同様に、ステントの他の部分は、必要に応じて、直接に完全に解放するか、又はセグメントに分けて解放しながら圧縮/伸張するかを選択することができる。最終解放がほとんど完了した後、ステント両端に対する拘束を外し、送達カテーテルをプッシュロッドとともに血管腔から取り外す。
【0065】
本発明のステント留置方法は更に、本発明によるステントを少なくとも一部解放した後、解放位置が正確であるかを検出するステップと、
前記解放位置が不正確であることを発見した場合、前記ステント送達システムを調整して、解放された部分を正確な位置に位置させ、又は前記解放された部分を送達カテーテル内に回収し、前記ステント送達システムを正確な位置に調整し、前記ステントを再解放するステップと、を含む。
【0066】
本発明のステント送達システムにおいて、前記ステントの両端がいずれも一時的に拘束されたため、前記ステントを解放するプロセスで、ステントは、セグメントに分けて圧縮又は伸張されることができる。特に、血管内壁の裂け部位に対して、圧縮操作により、当該局所で効果的な閉塞と必要な径方向支持力を形成して、最適な治療効果を得ることができる。同時に、前記ステントの他の部分又は特定部分は、血液の流れを阻害せず、分枝動脈への血液の供給の中断又は不足によるリスクを生成しない。
【0067】
例示的に、1つの実施形態によれば、分枝動脈領域では、分枝血管内に分枝ステントを留置しやすいように、伸張操作により当該局所で大きいメッシュを形成することができる。別の実施形態によれば、本発明のステントでは重ね織り方を採用するため、任意の1つのメッシュはすべて拡張でき、よって、直接にメッシュを拡張することにより分枝ステントの留置を完了することができる。更に別の実施形態によれば、上記のスパースメッシュ領域を有する本発明のステントを採用して、分枝ステントの留置を容易にすることができる。
【0068】
1つの実施形態によれば、前記方法において、前記ステントを少なくとも部分的に解放することは、前記ステントの近心端から解放し始めることを含む。
【0069】
1つの実施形態によれば、前記方法において、前記ステントの解放部分を圧縮することは、ステントの近心端部分を圧縮することである。大動脈解離の裂け目は通常、解離が発生した、心臓に近い一端にあり、よって、通常、ステントの近心端部分を圧縮して裂け目を塞ぐ必要がある。本発明の方法によれば、ステントを留置した後治療部位から送達カテーテルを取り外す。
【0070】
1つの実施形態によれば、前記方法は、被験者の大腿動脈から前記ステント送達システムを導入し、ステント留置後の送達カテーテルを抜去することを更に含む。
【0071】
1つの実施形態によれば、前記方法は、ガイドワイヤにより前記ステント送達システムを前記治療部位まで誘導することを更に含む。
【0072】
1つの実施形態によれば、前記被験者は哺乳動物であり、好ましくは豚又は人であり、より好ましくは人であり、最も好ましくは黄色人種である。
【0073】
1つの実施形態によれば、前記治療部位は上行大動脈から腹大動脈までの任意の部位である。具体的な実施形態によれば、前記治療部位は血管内膜の裂け部位を含む。より具体的な実施形態によれば、前記治療部位は更に分枝血管を含む。
【0074】
本発明の第5態様は更に、被験者に対する大動脈解離又は大動脈瘤の治療方法を提供する。前記方法は、上記のステント留置方法に基づいて、本発明のステントを必要のある被験者の大動脈内の治療部位に留置するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】本発明の1つの実施形態によるステントの概略図及び部分拡大図である。
図2】本発明によるステントの局所の軸方向圧縮と、軸方向伸張、及び径方向への更なる圧縮の概略図である。
図3】本発明の別の実施形態によるステントの概略図である。
図4】本発明の更に別の実施形態によるステントの概略図である。
図5図1に示す実施形態のステント(A)と、図3に示す実施形態のステント(B)の変形方式の局所の概略図である。
図6】本発明の1つの実施形態によるステントの局所拡大概略図である。
図7】本発明による多層ステント壁の断面概略図である。
図8】A型大動脈解離を患う人の大動脈血管の概略図である。
図9】本発明によるステント送達システムである。
図10図9に示すステント送達システムの半解放状態における概略図である。
図11】A型大動脈解離病変に本発明のステント送達システムを使用してステントを留置する概略図である。
図12】本発明のステント送達システムを使用して大動脈内膜の裂け目にステントを留置する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下では、本発明の実施形態及び図面を参照して、本発明の実施形態における技術的解決策を明確且つ完全に説明する。明らかに、説明される実施形態は、すべての実施形態ではなく、本発明の実施形態の一部に過ぎず、本発明の実施例に記載された技術的解決策は、競合することなく任意の組み合わせで実施することができる。本発明における実施形態に基づいて、創造的な努力なしに当業者によって取得される他のすべての実施形態は、すべて本発明の保護範囲に含まれる。
【0077】
明細書全体において、特に明記しない限り、本明細書で使用される用語は、本分野で一般的に使用される意味として理解すべきである。したがって、特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語と科学的用語は、本発明が属する専門技術者による一般的な理解と同じ意味を有する。矛盾がある場合、本明細書を優先とする。
【0078】
図面における同じ参照番号は同じ部品を指す。例示的な図面における部品の形状やサイズは、例示的なものに過ぎず、実際の形状、サイズと絶対的位置を反映することとして見なすべきではない。
【0079】
本発明において、「備える」、「含む」又はその任意の他の変形態は、非排他的な包含を含むことを意図し、それにより、一連の要素を含む方法又は装置は、明示的に記載される要素を含むだけでなく、さらに、明示的に列挙されない他の要素を含み、又は、方法又は装置を実施するための固有の要素も含むことに留意されたい。
【0080】
説明すべきこととして、本発明に係る「第1/第2」という用語は、類似する対象を区別するためのものに過ぎず、対象に対する特定のソートを表しなく、当然のことながら、許可される場合に「第1/第2」は特定の順序または優先順位を互いに交換することができる。理解されたいこととして、ここで説明される本発明の実施形態と実施例を図面に示され又は説明されるもの以外の順序で実施できるようにするために、「第1/第2」によって区別される対象は適切な場合に交換できる。
【0081】
本発明をより明確に説明するために、「近心端」及び「遠心端」という用語は、介入治療の分野に慣用の用語である。ここで、「遠心端」とは、手術操作中に心臓から離れた端を指し、「近心端」とは、手術操作中に心臓に近い端を指す。
【0082】
ステント
本発明は、大動脈内に使用されるステントを提供し、前記ステントは、異なる直径を有する少なくとも2種類のワイヤを織ってなり、前記ステントは、解放状態下で前記ステントの軸方向に沿って少なくとも局所が圧縮可能且つ延在可能に構成される。
【0083】
図1は、本発明によるステント1の概略図及び部分拡大図を示す。前記ステント1は、複数本の第1ワイヤ3と複数本の第2ワイヤ4との重ね織りによって形成される。よって、本発明のステントは、ベアステントである。図1に示すステント1は、メッシュ5を有する単層のメッシュ状構造である。
【0084】
本発明のステントは更に、2~4層などの多層の構造を有することができる。例えば、折り返し織りの方式で多層を形成することができる。
【0085】
本発明のステントは、上行大動脈から腹大動脈までの任意のセグメント又は大動脈全体に適用でき、よって、約55mm~約20mmの直径を有することができる。
【0086】
本発明によれば、ステント1は、48~202本のワイヤで織ってなることができる。例えば、本発明のステントは、48本、64本、96本、128本、156本、196本などのワイヤを織ってなってもよい。ワイヤの数はステントの直径、層数及び使用されるワイヤの材質などに基づいて決定されることができる。
【0087】
本発明のステントに使用される材質は、十分な径方向支持力を提供でき、且つある程度の細さを有するものであれば、末梢血管用ステントに使用される任意の適切な材料であってもよい。通常、ニッケルチタン合金ワイヤ、コバルトクロム合金ワイヤ、タングステンワイヤ、タンタルワイヤなどの金属ワイヤが好ましく、よりましくはニッケルチタン合金ワイヤである。
【0088】
太ワイヤとしての第2ワイヤ4は、少なくとも4本であるが、32本を超えず、通常30本を超えない。第2ワイヤ4の直径は150~800μm、好ましくは150~600μmであり、例えば、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm又は600μmである。第2ワイヤ4は、ステント1に対して、基本的な支持力と完全な構造を提供する。しかしながら、第2ワイヤの数が多すぎてはいけない。例えば、300μm直径のワイヤのみを採用しても、約32本に達すると、特に約40mmより大きい超大径のステント部分に対しては、適切な送達サイズに圧縮できず、使用できなくなる。
【0089】
ステント1において、太ワイヤ以外は、すべて細ワイヤとしての第1ワイヤ3である。本発明に使用される第1ワイヤ3は20~150μm、好ましくは50~150μmの直径を有し、例えば、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、130μm、140μm及び150μmである。第1ワイヤ3は、ステント1に対して、第2ワイヤ4の隙間への支持と埋め込みを補助する役割を果たす。更に第1ワイヤ3は、その数が第2ワイヤ4よりはるかに多いため、ステント1の形状を保持する役割を果たす。本発明者は、論理的には可能であるが、実際には、本発明の重ね織り方を採用すると、第2ワイヤ(即ち太ワイヤ)だけでは、特定の形状と十分な支持力を有する大径のステントは形成できないことを発見した。加えて、例えばレーザー彫刻技術によって形成される、ワイヤとワイヤとの交点が固定された大径ステントを採用すると、ワイヤの直径が同じであっても、支持力はより小さく、本発明の大動脈血管に使用される要求を満たすことができない。
【0090】
本発明のステント1は、重ね方式で織ってなり、ワイヤとワイヤとの間の交点が規則的な相対移動が生成できるため、本発明のステント1上の任意のメッシュはすべて容易に拡大又は圧縮されることができる。
【0091】
図2を参照すると、本発明のステント8は、一端が固定された場合、軸方向A-Aに沿って他端を移動することにより軸方向圧縮8’又は伸張8’’を行うことができる。
【0092】
本明細書に言及されたステントの「軸方向」とは、図2に示されたA-Aに沿った方向を指し、当該方向は、ステントの円筒形状の中心軸の方向である。本明細書に言及されたステントの「径方向」とは、図2に示されたD-Dに沿った方向を指し、当該方向は、ステントの円筒形状の円の任意の直径の方向である。通常、本明細書における「径方向に圧縮」することは、円周から円心への方向に向かって圧縮することを指す。
【0093】
本発明のステントの上記の特性は様々な利点をもたらすことができる。更に図2を参照すると、ステント8が軸方向に伸張できるため、織りワイヤ、特に第2ワイヤの単位長さにおける密度は著しく減少する。したがって、従来の外径(例えば5~10cm、好ましくは5~7cm)の送達システムに組み付けるために、適度に伸張されたステント8”は、小さい直径を有するステント8’’’に径方向に圧縮し易い。よって、必要に応じて、このような方式を採用して先行技術におけるサイズが大きく、支持力が高いステントが適切な直径を有する送達システム内に組み付けることができないという課題を解決することができる。更に、ステントが軸方向に圧縮できるため、圧縮後のステントに高い金属被覆率が形成され、単位長さにおける第2ワイヤの密度の増加により高い径方向支持力を得る。高い径方向支持力は、血管狭窄部位への効果的な拡張を獲得することができ、高い金属被覆率は、非常に低い流体透過性を得て、血管内膜の破損部位を効果的に塞ぐことができる。この場合、ステント1、8内の第2ワイヤ4は、骨格を支持する役割を果たし、第1ワイヤ3は、第2ワイヤ4間の隙間を埋めて、ステントグラフトのような織物膜として機能する。ステントグラフトとの相違点は、本発明のステントは軸方向に圧縮した後、かなり高い径方向支持力を提供でき、さらには、上行大動脈に関わるA型大動脈解離の治療に効果的に使用できる。よって、本発明のステントは更に、従来の高密度メッシュステント又はステントグラフトを上行大動脈に応用することが困難であるという課題を解决する。
【0094】
本発明のステント1は自然解放状態下で、100N以上、好ましくは100~600Nの径方向支持力を有することができ、軸方向への最大圧縮状態下で、400N以上、好ましくは400~1000Nの径方向支持力を有することができる。
【0095】
本明細書に言及されたステントの「自然解放状態」とは、37±2℃の水浴中にステントを固定するとき、軸方向に圧縮せずに解放した状態を指す。
【0096】
本明細書に言及されたステントの「軸方向への最大圧縮状態」とは、ステントが自然解放状態下で軸方向に更に圧縮できなくなるまで圧縮する状態を指す。
【0097】
本明細書に言及されたステントの「径方向支持力」とは、自然解放状態下で、ステントを固定した後、直径方向に沿って元の直径の85%に圧縮する際に必要な力を指す。
【0098】
径方向支持力に対して、本発明のステントは、血管内膜裂け目を効果的に塞ぐ効果を得るためには、高度な不透液性を必要とする。当該性質は、金属被覆率で表すことができる。本発明のステント1は、自然解放状態下で、30~90%の金属被覆率を有することができ、軸方向への最大圧縮状態下で、80~100%、好ましくは80~95%の金属被覆率を有することができる。
【0099】
本明細書に言及されたステントの「金属被覆率」とは、電子顕微鏡のスキャンによって計算された単位面積当たりの金属被覆比率を指す。
【0100】
1つの実施形態によれば、ステントは、自然解放状態下で、200N以上の径方向支持力を有することができ、且つ30~60%の金属被覆率を有することができる。当該実施形態において、ステントの織り密度は比較的に低く、自然解放状態下で、ステントの径方向支持力も比較的に低い。当該実施形態におけるステントの軸方向の圧縮率は高く、圧縮後には依然として、必要とする径方向支持力と金属被覆率を得ることができる。留置の際に、比較的に長い1セグメントのステントを解放してから圧縮する必要があり、上行大動脈のような血管内に曲がりのある部位には適しないため、血管に長い平坦な部分を有する必要がある。
【0101】
別の実施形態によれば、ステントは、自然解放状態下で、100N以上の径方向支持力を有することができ、且つ60~90%、好ましくは70~90%の金属被覆率を有することができる。当該実施形態において、ステントの織り密度は比較的に高く、自然解放状態下で、ステントの径方向支持力も比較的に高い。当該実施形態におけるステントの軸方向の圧縮率が低く、解放後には圧縮せずに一定の径方向支持力と金属被覆率を得ることができる。上行大動脈のような血管の平坦な部分の短い部位に留置するのに適する。
【0102】
当該実施形態において、血管内に固定する場合、伸張により分枝動脈における血流量に適応することができる。
【0103】
当該実施形態のステントは、自然解放状態下で、比較的に高い金属被覆率を有し、血液の流れに一定の阻害を発生する。分枝動脈における血流の円滑を保持するために、当該実施形態のステントは、少なくとも1つのスパースメッシュ領域を有する。図3を参照すると、上行大動脈から動脈弓までの部位に留置するのに適する当該実施形態のステント10の単層構造を例示的に示す。当該ステント10は、上記の範囲内の金属被覆率を得るために、4層などの多層であり得る。前記ステントの具体的な構造を明確に説明するために、図面には単層の場合のみが示されている。ステント10は、上行大動脈に適したセグメント18と、動脈弓に適したセグメント19とを有し、ここで、上行大動脈に適したセグメント18は、約38mm~約55mmの直径を有し、動脈弓に適したセグメント19の直径は、約20mm~約35mmに低下する。大動脈弓に適したセグメント19は、スパースメッシュ領域16を有する。スパースメッシュ領域16は、第2ワイヤ(即ち太ワイヤ)14のみを有する。スパースメッシュ領域16以外の部分は、第2ワイヤ以外に更に第1ワイヤ(即ち細ワイヤ)13を有する。スパースメッシュ領域16は、ステント解放後の動脈弓の大曲がり側に対応する部位に配置され、動脈における大曲がり側の分枝血管の開口部より大きい領域を有する。典型的に、大曲がり側に対応するスパースメッシュ領域16は、約6~8cmの長さを有し、ステント10の当該セグメント19の円周の約1/3~約1/2の弧長を占めることができる。
【0104】
別の実例によれば、図4に示すように、ステント20は、上行大動脈から腹大動脈までの動脈全領域に適用することができる。図4は、2つのスパースメッシュ領域を有するステント20の単層概略図を例示的に示す。図4は、単層構造のみを示したが、当該実施形態のステント20は、同じ方式で織られた2~4層の織物層を有することができる。
【0105】
図4に示すように、ステント20は、上行大動脈に対応するセグメント28と、大動脈弓に対応するセグメント29と、下行大動脈から腹大動脈までに対応するセグメント25とを含む。ここで、上行大動脈に対応するセグメント28は、38~60mmであってもよく、例えば、38~55mmの直径と8~11cmの長さを有する。大動脈弓に対応するセグメント29は、20~45mmであってもよく、例えば、約20~35mmの範囲内で徐々に小さくなる直径を有する。下行大動脈から腹大動脈までに対応するセグメント25は、大動脈弓の後の領域から腹大動脈の領域まで延在することができ、直径は、約25mm~約30mmから約20mm~約25mmまで変化可能である。大動脈弓に対応するセグメント29は、8~11cmの長さを有することができ、下行大動脈から腹大動脈までに対応するセグメント25は、例えば20~40cm、例えば25~31cmの長さを有することができる。
【0106】
当該実施形態におけるステント20は、同じく、第1ワイヤ23と第2ワイヤ24とを織り交ぜることによって形成される。
【0107】
ステント20は、第2ワイヤ24のみで構成された2つのスパースメッシュ領域26、27を含み得、それぞれ、大動脈弓における分枝動脈(腕頭動脈、左総頸動脈と左鎖骨下動脈)に対応する第1スパースメッシュ領域26、及び腹大動脈における分枝動脈(主に、左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈と上腸間膜動脈)に対応する第2スパースメッシュ領域27である。第1スパースメッシュ領域は、図1に示す実施形態のサイズを有することができる。第2スパースメッシュ領域は、約2~4cmの長さを有し、当該セグメントの円周の約1/2の弧長を占めることができる。
【0108】
図1図3に示すステントはすべて、従来の方式で織ってなり、その後、予定の領域における第1ワイヤ13、23を除去してスパースメッシュ領域16、26、27を形成することができる。
【0109】
さらなる実施形態によれば、本発明のステントは、対応する治療部位が腹大動脈である部分において、左、右総腸骨動脈用のステントを受け入れて固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部を有することができる。図5を参照すると、当該実施形態のスパースメッシュ領域を有しないステント1’(A)と、スパースメッシュ領域27’を有するステント20’(B)を例示的に示す。図5に示すステント1’、20’は、腹大動脈のセグメントに適用され、スパースメッシュ領域27’を有する。ステント1’、20’の下の内部空間には、隣接する円形の2つの通路が配置された総腸骨動脈ステント固定部2’、22’を有する。明らかにするために、図5では、当該固定部2’、22’は、平坦な面として示されており、実際には、当該固定部2’、22’は、一定の厚みを有している。いくつかの実例において、総腸骨動脈ステント固定部2’、22’は、下に向いてステント1’、20’の遠心端まで延在することができる。
【0110】
前記総腸骨動脈ステント固定部2’、22’もステント1、20と同様な第1ワイヤと第2ワイヤを織ってなり(第1ワイヤと第2ワイヤは図示せず)、ステントと一体に形成される。2つの環状の外部はステントの内壁と一体に織られる。2つの環状の内径のサイズは、受け入れて固定される左、右総腸骨動脈ステントの外径に適合され、総腸骨動脈ステントを固定できるために、通常、左、右総腸骨動脈ステントの外径よりわずかに小さい。
【0111】
1つの実施形態によれば、本発明のステントは異なる直径を有する3本以上のワイヤを織ってなることができる。図6に示すように、当該実施形態のステントの単層の部分拡大の概略図を示している。当該ステントは、1つの第1ワイヤ33と2つの第2ワイヤ34a、34bで織ってなる。ここで、第1ワイヤ33は、細ワイヤであり、20~150μm、好ましくは50~150μmの直径を有することができる。第2ワイヤは、150~300μmの直径を有し得る第1太ワイヤ34aと、300~600μmの直径を有し得る第2太ワイヤ34bとを含む。ここで、第1太ワイヤは、6~12本を使用してもよく、第2太ワイヤは、4本以上使用できるが、最大12本を超えなく、残りは第1ワイヤである。当該実施形態は、更に他の変形形態を有することができ、例えば、2つの第1ワイヤ(例えば、それぞれ20~100μmと100~150μmの範囲内の直径)と1つの第2ワイヤで、又は2つの第1ワイヤと2つの第2ワイヤでステントを構成することができるが、これに限定されない。
【0112】
異なる直径を有する3つ以上のワイヤによって形成されたステントは、ステント全体における径方向支持力がより均一になり、ステントの柔軟性も向上することができる。
【0113】
上記のように、本発明のステントは多層を有し、好ましくは2層、3層又は4層を有することができる。より好ましい実施形態によれば、多層のステントは、単層の織り網の折り返し織りで形成されることができる。図7のA~Cに示すように、2~4層のステント壁の断面の概略図を示す。図7のAは、2層構造であり、図面における構造の上層42は、ステントの内部の一側に位置し、下層44は、ステントの外部に近い一側(即ち血管壁と接する側)に位置する。当該構造の近心端41では、折り返し織りによって滑らかなポートが形成される。遠心端43では、ステントの外部の下層44に向かって僅かな距離だけ折り返し織りを行い、ステント内部の上層42の遠心端に向かって開放したエッジ(バリ)を下層44の内部に包み込む。これにより、両端とも滑らかなポートを形成する。同様に、図7のBにおいて、上層52は、近心端51で折り返し織りを行って下層54を形成し、更に遠心端53で折り返し織りを行って中間層56を形成する。遠心端53において、下層54と中間層56は、上層52より少し長く、それにより、上層の遠心端の開放したエッジをステント内部に位置させる。このようにして、ステントの両端とも滑らかなポートになる。図7のCにおける4層についても同様であり、遠心端63において、ステントの内側の2層である62、68は、ステントの外側に近い2層である64、66の折り返し織りによって形成されたエッジより短く、近心端61は、最上層62の折り返し織りによって最下層64を形成するが、2つの中間層68と66を中間に包み込む。1つの変形形態として、最上層62又は中間層68の遠心端で僅かな距離に折り返し織り、他の一層の開放端を中間に包み込むことができる。このようにして、ステントの両端とも完全に滑らかなポートであるようになる。
【0114】
本発明のステントは、好ましくは多層の形であり、そのため、ステントの両端(特に近心端)に滑らかなポートを形成して、血管への織り物の開放端の二次損傷を回避する。
【0115】
以上は、例示する方式で本発明のステントを詳細に説明している。当業者なら理解できるように、上記の例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明のステントの利点を説明するためのものであり、例における特徴は、適切な状況では独立に又は組み合わせて他の例のステントに適用することができる。当業者が本明細書の開示に基づいてステントに対して行った明らかな変形や修正は、本発明の構想に合致する限り、すべて本発明の範囲内に含まれる。
【0116】
ステントキット
本発明は更に、ステントキットを提供する。前記ステントキットは、上行大動脈から腹大動脈までの全領域に使用することができる。図8を参照すると、大動脈の血管の概略図を示す。ここで、大動脈及び総腸骨動脈を領域0~11に分ける。領域0又は領域0に関わる位置における血管内壁の裂け部位がA型大動脈解離であり、領域1~9における裂け部位がB型大動脈解離である。図8には、A型大動脈解離を示しており、ここで、領域0から領域9までの血管内膜は剥がれている。
【0117】
本発明のステントキットは、3つのステントを含み、ここで、第1ステントは、上行大動脈から大動脈弓までの領域、即ち、領域0~2に使用され、第2ステントは、下行大動脈領域、即ち領域3~5に使用され、第3ステントは、腹大動脈領域、即ち領域5~9に使用される。選択的に、本発明のステントキットは更に、左、右総腸骨動脈、即ち領域10に使用されるステントを含む。
【0118】
ステントキットの3つのステントは、上記で定義された任意の実施形態の本発明のステントであってもよい。例えば、第1ステントは、図3に示すステントであり得、第2ステントは、図1に示すステントであり得、第3ステントは、図5のAに示すステントであり得る。
【0119】
本発明のステントキットは、患者の実際のニーズに応じて、異なる仕様のステントを柔軟に組み合わせて、より柔軟で様々な治療方案を提供することができる。更に、各ステントの長さが短いため、手術をより容易に操作し実施することができる。
【0120】
1つの実施形態によれば、ステントの厚さを減らすために、第1ステントと第2ステントの遠心端にはバリを有することができる。同時に、第1ステントの遠心端を第2ステントの近心端内部に位置させ、第2ステントの遠心端を第3ステントの近心端内部に位置させることにより、バリによる血管組織の損傷を回避することができる。
【0121】
従来、前記第1ステントは、38~60mmの直径と8~11cmの長さを有することができ、前記第2ステントは、25~35mmの直径と15~20cmの長さを有することができ、前記第3ステントは、20~30mmの直径と15~20cmの長さを有することができる。
【0122】
ステント送達システム及びステント留置方法
本発明は更に、ステント送達システムを提供する。当該送達システムにおいて、本発明の上述したステントは、送達構成で前記システム内に組み付けられ、且つ前記ステントの両端とも拘束され、前記ステントの他の部分がすべて解放されたときにのみ前記拘束が取り外され、前記ステントを完全に解放させる。
【0123】
図9を参照すると、本発明によるステント送達システム100の概略図を示す。ステント送達システム100は、送達カテーテル120とステント150とを備える。
【0124】
送達カテーテル120は、外側から内側へ縦軸X-Xに沿って順次に同軸に配置された外側カテーテル130、内側カテーテル140及びプッシュロッド170を含む。送達カテーテル120は、遠心端123と近心端122を有する。送達カテーテル120は更に、止血弁125を有する。外側カテーテル130は、近心端部180と遠心端部190を有し、第1中空キャビティ133は、外側カテーテル130全体を貫通する。内側カテーテル140は、縦軸X-Xに沿って外側カテーテル130と同軸にその遠心端部190の第1中空キャビティ133内に配置され、第2中空キャビティ143を有する。プッシュロッド170は、外側カテーテル130の第1中空キャビティ133を通過して延在し、且つ内側カテーテル140の第2中空キャビティ143を通過して外側カテーテルの遠心端ポート135の外まで延在している。プッシュロッド170は、ガイドワイヤをその中を通過させるための第3中空キャビティ(図示せず)を有してもよい。
【0125】
外側カテーテル130の近心端180において、ステント150は、プッシュロッド170と外側カテーテル130との間の第1中空キャビティ133内に送達構成で解放可能に保持されている。第1拘束部161は、ステント150の近心端154をプッシュロッド170の近心端に拘束する。当該第1拘束部161は、従来のストッパであってもよく、必要に応じてステント150から取り外して、ステント150の近心端154を解放させることができる。第2拘束部162は、ステント150の遠心端156を内側カテーテル140の近心端に拘束する。同様に、当該第2拘束部162は、従来のストッパであってもよく、必要に応じてステント150から取り外して、ステント150の遠心端156を解放させることができる。
【0126】
更に図10を参照すると、半解放状態における図1に示すステント送達システム100’を示す。図2において、送達システム100’の外側カテーテル130の近心端131は、送達カテーテル120の近心端端部122から分離し、外側カテーテルの不動の状態を保持しつつ、近心端に向かってプッシュロッド170を押し付ける(又は内側カテーテルとプッシュロッドの不動の状態を保持しつつ、遠心端に向かって外側カテーテル130を引っ張る)ことにより、外側カテーテル130を内側カテーテル140とプッシュロッド170に対して相対移動させることができる。
【0127】
図10に示すシステム100’において、近心端122に向かってプッシュロッド170を押し付けることにより、送達カテーテル120の近心端端部122のプッシュロッド170が、それに固定して接続された、その端部に拘束されたステント150及びステント150に拘束された内側カテーテル140を連れて、外側カテーテル130に対して近心端に移動するようにする。このようにして、ステント150がその近心端154から解放し始めるようにする。
【0128】
ステント150の近心端154が解放プロセスで拘束されたため、解放されたセグメントがその自然解放状態における直径に達しておらず、血管壁に接触しない。これは、一方では、ステント位置の調整に有利であり、もう一方では、ステント150を外側カテーテル130内に再回収し、位置を調整した後再解放することもできる。更に、ステント150の近心端154の拘束は、初期解放際の摩擦力を減少することに有利であり、安定的に解放することに有利である。これは、狭窄した血管内で遠端操作を行う手術にとって特に重要である。
【0129】
本発明のステント送達システムは、A型大動脈解離の治療に特に有利である。
【0130】
図11を参照すると、A型大動脈解離病変で本発明のステント送達システム100を使用してステント150を留置する概略図を示して、A型大動脈解離の治療への本発明のステント送達システムの利点を説明する。図11は、上行大動脈81に裂け目93が存在するため、上行大動脈81から大動脈弓83を通って下行大動脈84に至るまで偽腔92が形成されることを示している。本発明のステント送達システム100は、ガイドワイヤ101を介して大動脈の真腔91内に案内されている。ステント150の解放を始めるとき、操作者はプッシュロッド170を近心端方向に押し付け、ここで、推力をf1で表し、推力の方向は下行大動脈に沿って上方に矢印で示される。推力f1は、プッシュロッド170に沿って送達カテーテルの近心端122に伝達され、この場合、前記送達システム100は大動脈弓83を通過した後、ほぼ180°の曲げにより、送達カテーテルの近心端122に作用する力f2は、f1における推力の方向とほぼ反対(矢印で示す)である。その結果、初期解放する際に必要な推力の大きさを制御することが困難になった。本発明のステント送達システム100において、図11を参照すると、ステント150の近心端は、ストッパなどの部材によってプッシュロッド170の近心端に一時的に拘束され、それにより、近心端におけるステント150の外部膨張力を著しく減少させ、それにより、ステント150と外側カテーテル130の内壁との間の摩擦力を減少させる。したがって、本発明の送達システム100は、ステントを初期解放する際に必要な推力が著しく減少され、プッシュロッド170の近心端を外側カテーテル130から比較的に容易に押し出すことができる。
【0131】
更に図12を参照すると、本発明のステント送達システムを使用して大動脈の内膜裂け目にステントを留置する概略図を示す。図12のAには、血管内膜裂け目93を含む大動脈血管91の一部が例示的に示され、当該裂け目93により内膜が裂かれて偽腔92が形成される。本発明のステント送達システム100は、裂け目93まで案内され、外側カテーテル130の位置を変更せずに、プッシュロッドを矢印で示す方向に押し付け、ステント151の一部が解放されている。更に図12のBを参照すると、送達システム100の内側及び外側カテーテルの位置を変更せず、プッシュロッドを図面の矢印の方向に引き戻して、解放されたステントセグメント151を逆方向に圧縮させ、血管内膜の裂け目93が位置する血管領域に最終的に当接して、圧縮セグメント151’を形成する。ステントを設計するとき、通常、ステントの直径を留置部位の血管の直径よりやや大きく設計するため、圧縮セグメント151’は、当該部分の血管内壁に密着して、裂け目93を塞ぎ、当該部分の血管の真腔を拡張させる。血管壁の内側への収縮力により、圧縮セグメント151’は、当該圧縮後の形状で当該部分の血管内に保持される。
【0132】
次に、図12のCに示すように、図面の矢印で示される方向に応じて外側カテーテル130(内側カテーテル140とプッシュロッド170は静止)を遠心端に引っ張り、更に、残りのステントセグメント152を解放する。最後に、ステント150を完全に解放した後、ステント両端へのストッパによる拘束を取り外し、それにより、ステント150全体を治療部位に解放し、送達カテーテル(図12のDを参照)を血管内から取り外す。病変部位に留置されたステント150は、2つのセグメントを有し、その1つは、圧縮セグメント151’であり、もう1つは、自然解放セグメント152である。ここで、圧縮セグメント151’は、裂け目93を塞ぐ機能、及び血管への強い径方向の支持機能を有し、自然解放セグメント152は、血管の他の部分への適切な支持機能を有し、血液の流れを阻害せず、特に、分枝血管への血液の流れを阻害しない。
【0133】
本発明によれば、ステントセグメント151を解放した後(即ち、図12のAに示す状態である場合)、ステントの位置を確認して、圧縮後の当該セグメントが裂け目93を正確に塞ぐことを容易にすることができる。位置が理想的ではない場合は、調整することができ、更に、解放されたセグメント151を再び外側カテーテル内に引き戻すことができ、送達システムの位置を調整した後、再解放することができる。
【0134】
同様に、最適な留置効果を得るために、任意のセグメントを解放した後にもステントの位置を確認することができる。最後にステントの両端への拘束を取り外す前に、ステントの位置を再確認する。これは、このときに留置位置が理想的ではないことを発見した場合にステントを回収して再解放することもできるためである。ステントの両端の拘束をすべて除去した後、ステントの位置は調整できなくなる。
【0135】
更に、ステントの他のセグメントの圧縮方式は、図4のBに示すものと同じである。例えば、ステントの前部が解放され、且つ血管壁に当接した後、ステントの一部を解放し続く。後続で解放されるステントの端部が外側カテーテルによって拘束されるため、プッシュロッドを移動させずに、外側カテーテルと内側カテーテルを近心端に同時に移動させることにより、新たに解放させるが、まだ血管壁に当接していないステントの部分を圧縮させ、且つ血管壁に当接して、高い金属被覆率と高い径方向支持力のセグメントの部分を形成する。
【0136】
以上の例により本発明のステント送達システムの詳細な方案及び当該システムを使用してステントを血管内に留置する方法を説明する。当業者は、本発明の精神を逸脱することなく、上記の内容を鑑みて変形や修正を容易に行って実際の適用要求に適することができ、これらの変形や修正も本発明の範囲内に含まれる。
【0137】
実施例1
本実施例は、図1に示す構造を有するステントを提供し、当該ステントは、下行大動脈領域に使用される。前記ステントは、ニッケルチタン合金材料を採用し、直径が100μmである第1ワイヤ54本と、直径が400μmである第2ワイヤ12本とを織ってなる。当該ステントは、折り返し織り方で合計2層に織られる。折り返し織り方は図5のAに示すように、近心端は、折り返された滑らかな端であり、遠心端は、2層のバリであり、ここで、外側のバリを僅かな距離まで折り返して内側のバリを折り返し部分の内部に位置させて、バリの露出による血管壁の損傷を回避する。
【0138】
前記ステントは円錐形であり、近心端の直径は45mmであり、遠心端の直径は32mmであり、長さは8cmである。血管内に解放された後に固定された当該ステントの長さは24cmに達する。
【0139】
走査型電子顕微鏡の検出によると、本実施例のステントは自然状態下での金属被覆率は40%であり、軸方向最大圧縮後の金属被覆率は約90%である。径方向支持力測定器の検出によると、本実施例のステントは自然状態下で太い部分の径方向支持力は350Nであり、軸方向最大圧縮後の各部分の径方向支持力はすべて400Nより大きく、さらには600Nより大きい。
【0140】
また、ステントを大動脈弓に固定する場合のステントの軸方向の曲げ力をシミュレーションするために、ステントの径方向復元力が0.4~1.0Nであることを測定した。
【0141】
実施例2
本実施例は、図3に示す構造を有するステントを提供し、当該ステントは、上行大動脈から大動脈弓までの領域に使用される。前記ステントは、ニッケルチタン材料を採用し、直径が100μmである第1ワイヤ120本と、直径が400μmである第2ワイヤ8本とを織ってなる。当該ステントは折り返し織り方で合計4層に織られる。折り返し織り方は図5のCに示す通りであり、近心端は、すべて折り返された滑らかな端部であり、遠心端は、2層のバリはステントの内側に位置し、2層の折り返しエッジはステントの外側に位置する方式で、バリの露出による血管壁の損傷を回避する。
【0142】
前記ステントの上行大動脈に対応する部分の直径は45mmであり、長さは9cmであり;大動脈弓に対応する部分の直径は32mmであり、長さは6cmである。ステントの近心端から30mmの位置に、スパースメッシュ領域を設け、スパースメッシュ領域の長さは6cmであり、弧長は円周の1/3である。
【0143】
走査型電子顕微鏡の検出によると、本実施例のステントは、自然状態下で、スパースメッシュ領域以外の金属被覆率は80%であり、軸方向最大圧縮後の金属被覆率は98%である。径方向支持力測定器の検出によると、本実施例のステントは、自然状態下で、上行大動脈に対応する太い部分の径方向支持力は約400Nであり、スパースメッシュ領域を有する部分の径方向支持力は約100Nであり、軸方向最大圧縮後の径方向支持力はすべて、400Nより大きく、さらには500N以上に達する。
【0144】
また、ステントを大動脈弓に固定する場合のステントの軸方向の曲げ力をシミュレーションするために、ステントの径方向復元力が0.4~1.0Nであることを測定した。
【0145】
以上の記載は、本発明の具体的な実施例の一部に過ぎず、本発明の特許請求の範囲を限定するものではなく、本発明の発明構想下で、本発明の明細書及び添付の図面の内容を利用して行われた同等の構造変換、もしくは他の関連技術分野に直接的/間接的に応用されるものは、すべて本発明の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-02-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大動脈内に使用されるステントであって、前記ステントは、直径の異なる少なくとも2種類の第1ワイヤと第2ワイヤを織ることによって形成され、前記ステントは、解放状態下で前記ステントの軸方向に沿って少なくとも局所が圧縮可能且つ延在可能に構成され、前記第1ワイヤの直径は、20~150μmであり、且つ前記第2ワイヤの直径は、150~800μmである、ステント。
【請求項2】
前記ステントは自然解放状態下で、少なくとも30%の金属被覆率と100N以上の径方向支持力を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記ステントは自然解放状態下で、30~90%の金属被覆率と100~600Nの径方向支持力を有する、
請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、少なくとも80%の金属被覆率と400N以上の径方向支持力を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項5】
前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、80~100%の金属被覆率と400~1000Nの径方向支持力を有する、
請求項4に記載のステント。
【請求項6】
前記ステントを前記大動脈内に留置する場合、その軸方向に沿って異なる程度の圧縮を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステント。
【請求項7】
前記ステントは自然解放状態下で、30~60%の金属被覆率と200~600Nの径方向支持力を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項8】
前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、80~90%の金属被覆率と400~1000Nの径方向支持力を有する、
請求項7に記載のステント。
【請求項9】
前記ステントは自然解放状態下で、60~90%の金属被覆率と100~600Nの径方向支持力を有する、
請求項1に記載のステント。
【請求項10】
前記ステントは、解放され且つ軸方向に最大に圧縮された状態下で、90~100%の金属被覆率と500~1000Nの径方向支持力を有する、
請求項9に記載のステント。
【請求項11】
前記ステントは更に、少なくとも1つのスパースメッシュ領域を有し、前記スパースメッシュ領域は、前記第1ワイヤを除去することにより前記第2ワイヤのみで構成され、前記ステント解放後の対応する治療部位のうち分枝動脈を有する部位に配置される、
請求項9に記載のステント。
【請求項12】
前記スパースメッシュ領域は第1スパースメッシュ領域及び/又は第2スパースメッシュ領域を含み、前記第1スパースメッシュ領域は、大動脈弓部位に対応し、対応する円心角は120°~180°であり;且つ前記第2スパースメッシュ領域は、腹大動脈内の分枝動脈部位に対応し、対応する円心角は180°であり、前記腹大動脈内の分枝動脈は、腹大動脈の左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈と上腸間膜動脈である、
請求項11に記載のステント。
【請求項13】
前記ステントは、腹大動脈領域を含む大動脈に使用され、前記ステントの内部空間には、左、右総腸骨動脈ステントを固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部が設けられる、
請求項1に記載のステント。
【請求項14】
大動脈内に使用されるステントキットであって、上行大動脈から大動脈弓までの領域に使用される第1ステントと、下行大動脈領域に使用される第2ステントと、腹大動脈領域に使用される第3ステントと、を含み、前記第1ステント、前記第2ステント及び第3ステントのそれぞれは、請求項1~13のいずれか一項に定義されたものである、ステントキット。
【請求項15】
ステント送達システムであって、外側から内側へ同軸に順に配置された外側カテーテル、内側カテーテル及びプッシュロッドを含む、送達カテーテルを含み、
前記外側カテーテルは、近心端と遠心端を有し、前記外側カテーテルを貫通する第1中空キャビティを有し、
前記内側カテーテルは、前記外側カテーテルの遠心端の第1中空キャビティ内で延在し、前記内側カテーテルを貫通する第2中空キャビティを有し、
前記プッシュロッドは、前記外側カテーテルの第1中空キャビティ及び前記内側カテーテルの第2中空キャビティを貫通して延在し、前記内側カテーテルの遠心端から伸び出し、
請求項1~13のいずれか一項に記載のステントは、送達構成で前記プッシュロッドと前記外側カテーテルとの間に解放可能に保持され、前記外側カテーテルの近心端の第1中空キャビティに位置し、
前記送達カテーテルは、前記外側カテーテル、前記内側カテーテル及び前記プッシュロッドのお互いに、すべて軸方向に沿って相対移動可能に構成され、且つ前記ステントの両端は、前記プッシュロッドの近心端と前記内側カテーテルの近心端にそれぞれ着脱可能に拘束される、ステント送達システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図8
【補正方法】変更
【補正の内容】
図8
【国際調査報告】