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特表2023-532586アルゴリズム自動較正を有する用量設定センサ組立品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(54)【発明の名称】アルゴリズム自動較正を有する用量設定センサ組立品
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20230721BHJP
   A61M 5/24 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
A61M5/315 550N
A61M5/315 550J
A61M5/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023500356
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(85)【翻訳文提出日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2021068517
(87)【国際公開番号】W WO2022008446
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】20184661.5
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ベントスン, ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】マハムディ, ゼイナブ
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD13
4C066EE14
4C066HH17
4C066QQ32
(57)【要約】
第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、かつ反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させるように適合された用量設定部材であって、用量設定部材が、各段階的な回転位置に回転スラックを有する、用量設定部材を備える、薬剤送達システム。システムは、用量設定中に用量設定部材の回転量を検出するように適合された回転センサをさらに備える。プロセッサ手段は、最終用量が、設定部材をそれぞれ第1、第2の方向に回転させることによって設定されたときに、第1または第2の用量設定パターンを検出するように適合されている。第1/第2の用量設定パターンが検出される場合、検出された回転量は、第1/第2の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第1/第2のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算するために使用される。
【選択図】図5C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達システム(400、500)であって、
-回転の基準軸を画定するハウジング(401)と、
-薬剤貯蔵部(413)または薬剤貯蔵部を受容するための手段と、
-薬剤排出手段であって、
-(i)第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、(ii)反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させるように適合された用量設定部材(480、580)であって、前記用量設定部材が、各段階的な回転位置に回転スラックを有する、用量設定部材(480、580)と、
-最終設定投与量を排出させるように適合された作動部材(490、590)と、を備える、薬剤排出手段と、
-用量設定中に前記ハウジングに対する前記用量設定部材の回転量を検出するように適合された回転センサ(560)と、
-メモリと、
-プロセッサ手段であって、
-前記最終用量が、前記設定部材を前記第1の方向に回転させることによって設定されたときに、第1の用量設定パターンを検出することと、
-前記最終用量が、前記設定部材を前記第2の方向に回転させることによって設定されたときに、第2の用量設定パターンを検出することと、
-第1の用量設定パターンが検出される場合、前記検出された回転量に基づいて、前記第1の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第1のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、
-第2の用量設定パターンが検出される場合、前記検出された回転量に基づいて、前記第2の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第2のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、
-計算された補正された回転量またはそれに対応する用量データを、前記メモリに記憶することと、を行うように適合されたプロセッサ手段と、を備える、薬剤送達システム(400、500)。
【請求項2】
前記薬剤排出手段が、
-前記薬剤貯蔵部から設定量の薬剤を排出するための駆動ばね(155)と、
-(i)第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、かつそれに対応して前記駆動ばねを引っ張り、(ii)反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させ、かつそれに対応して前記駆動ばねを緩めるように適合された用量設定部材と、をさらに備え、
-前記作動部材が、前記引っ張られた駆動ばねを解放して、最終設定用量を排出するように適合された解放部材(490、590)である、請求項1に記載の薬剤送達システム。
【請求項3】
前記システムが、薬剤送達装置(400)と、前記薬剤送達装置上に取り外し可能に取り付けられるように適合されたアドオン装置(500)と、を備える、組立品の形態であり、前記薬剤送達装置が、
-前記ハウジング(401)と、
-前記薬剤貯蔵部(413)または薬剤貯蔵部を受容するための前記手段と、
-薬剤送達装置用量設定部材(480)および薬剤送達装置解放部材(490)を備える、前記薬剤排出手段と、を備え、
前記アドオン装置が、
-前記回転センサ(560)と、
-前記プロセッサ手段と、を備える、請求項2に記載の薬剤送達システム。
【請求項4】
前記アドオン装置が、
-前記薬剤送達装置ハウジング(401)に取り外し可能に取り付け可能である、アドオンハウジング(501)と、
-アドオン用量設定部材(580)と、
-用量設定状態と用量排出状態との間で前記アドオン用量設定部材に対して軸方向に移動可能なアドオン解放部材(590)と、をさらに備え、
-前記アドオン用量設定部材(580)が、前記薬剤送達装置用量設定部材(480)と非回転係合するように適合されており、
-前記回転センサが、用量設定中に前記アドオンハウジングに対する前記アドオン用量設定部材の回転量を検出するように適合されており、
-取り付けられた状態であるときに、前記アドオン解放部材(590)が、前記用量設定状態から前記用量排出状態に移動したときに、前記薬剤送達装置解放部材(490)を解放するように適合されている、請求項3に記載の薬剤送達システム。
【請求項5】
前記アドオン解放部材(590)が前記用量設定状態から前記用量排出状態に移動したときに、前記回転センサが停止される、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬剤送達システム。
【請求項6】
前記システムが、薬剤送達装置と、前記薬剤送達装置上に取り外し可能に取り付けられるように適合されたアドオン装置と、を備えた組立品の形態であり、前記薬剤送達装置が、
-前記ハウジングと、
-前記薬剤貯蔵部または薬剤貯蔵部を受容するための前記手段と、
-薬剤送達装置用量設定部材および薬剤送達装置作動部材を備える、前記薬剤排出手段と、を備え、
前記アドオン装置が、
-前記回転センサと、
-前記プロセッサ手段と、を備える、請求項1に記載の薬剤送達システム。
【請求項7】
前記薬剤排出手段が、
-充填されたカートリッジ内のピストンと係合し、かつこれを遠位方向に軸方向に変位させ、これによって前記カートリッジからの薬剤の用量を排出するように適合されたピストンロッド(120)と、
-直接的または間接的に前記ピストンロッドに結合された駆動部材(150)と、をさらに備え、
前記薬剤排出手段が駆動ばねを備えるときに、
-前記駆動ばねが、前記駆動部材に結合され、
-前記解放部材が、前記引っ張られた駆動ばねを解放して、前記駆動部材を回転させ、前記設定投与量を排出するように適合されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬剤送達システム。
【請求項8】
検出された第1の用量パターンのための前記プロセッサ手段が、
-前記第1の方向における2回連続する用量設定回転の間の用量設定一時停止を検出することと、
-1つ以上の用量設定一時停止が検出される場合、1つ以上の用量設定一時停止が検出されたときに、前記検出された回転量に基づいて、前記第1の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第3のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、を行うように適合されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬剤送達システム。
【請求項9】
-前記薬剤排出手段は、前記用量設定部材(480、580)が、所定の最大用量が設定されたときに、前記第1の方向にさらに回転することを可能にする、オーバートルク機構を備え、
-前記プロセッサ手段が、オーバートルク状態を検出し、かつ前記設定最大用量に対応する前記ハウジングに対する前記用量設定部材の回転量を計算するように適合されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の薬剤送達システム。
【請求項10】
-用量関連データを外部受信器に送信するように適合された送信器をさらに備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の薬剤送達システム。
【請求項11】
薬剤送達装置(400)上に取り外し可能に取り付けられるように適合されたアドオン装置(500)であって、前記薬剤送達装置が、
-回転の基準軸を画定する装置ハウジング(401)と、
-薬剤貯蔵部(413)または薬剤貯蔵部を受容するための手段と、
-薬剤排出手段であって、
-(i)第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、(ii)反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させるように適合された装置用量設定部材(480)であって、前記用量設定部材が、各段階的な回転位置に回転スラックを有する、装置用量設定部材(480)と、
-最終設定投与量を排出させるように適合された装置作動部材(490)と、を備える、薬剤排出手段と、を備え、
前記アドオン装置(500)が、
-前記装置ハウジングに取り外し可能に取り付け可能である、アドオンハウジング(501)と、
-前記装置用量設定部材(480)と非回転係合するように適合されたアドオン用量設定部材(580)と、
-用量設定状態と用量排出状態との間で、前記アドオン用量設定部材に対して軸方向に移動可能なアドオン作動部材(590)であって、前記アドオン作動部材が、取り付けられた状態にある場合、前記用量設定状態から前記用量排出状態に移動されたときに、前記装置作動部材を作動させるように適合されている、アドオン作動部材(590)と、
-用量設定中に前記アドオンハウジングに対する前記アドオン用量設定部材の回転量を検出するように適合された回転センサ(560)と、
-プロセッサ手段であって、
-前記最終用量が、前記アドオン用量設定部材を前記第1の方向に回転させることによって設定されたときに、第1の用量設定パターンを検出することと、
-前記最終用量が、前記アドオン用量設定部材を前記第2の方向に回転させることによって設定されたときに、第2の用量設定パターンを検出することと、

-第1の用量設定パターンが検出される場合、前記検出された回転量に基づいて、前記第1の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第1のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、
-第2の用量設定パターンが検出される場合、前記検出された回転量に基づいて、前記第2の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第2のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、を行うように適合されたプロセッサ手段と、を備え、
-前記アドオン用量設定部材(580)が、前記用量設定部材(480)と非回転係合するように適合されており、
-前記回転センサが、用量設定中に前記アドオンハウジングに対する前記アドオン用量設定部材の回転量を検出するように適合されており、
-取り付けられた状態であるときに、前記アドオン作動部材(590)が、前記用量設定状態から前記用量排出状態に移動したときに、前記装置作動部材(490)を作動するように適合されている、アドオン装置(500)。
【請求項12】
前記薬剤排出手段が、
-前記薬剤貯蔵部から設定量の薬剤を排出するための駆動ばね(155)と、
-(i)第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、かつそれに対応して前記駆動ばねを引っ張り、(ii)反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させ、かつそれに対応して前記駆動ばねを緩めるように適合された用量設定部材(480)と、
-前記引っ張られた駆動ばねを解放して、最終設定用量を排出するように適合された解放部材(490)である、前記作動部材と、をさらに備え、
-取り付けられた状態であるときに、前記アドオン作動部材(590)が、前記用量設定状態から前記用量排出状態に移動したときに、前記装置作動部材(490)を作動するように適合されており、前記アドオン作動部材(590)が、前記アドオンハウジングに対して10mmの最大軸方向移動を有する、請求項11に記載のアドオン装置。
【請求項13】
検出された第1の用量パターンのための前記プロセッサ手段が、
-前記第1の方向における2回連続する用量設定回転の間の用量設定一時停止を検出することと、
-1つ以上の用量設定一時停止が検出される場合、1つ以上の用量設定一時停止が検出されたときに、前記検出された回転量に基づいて、前記第1の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第3のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、を行うように適合されている、請求項11または12に記載のアドオン装置。
【請求項14】
-前記薬剤排出手段は、前記用量設定部材(480、580)が、所定の最大用量が設定されたときに、前記第1の方向にさらに回転することを可能にする、オーバートルク機構を備え、
-前記プロセッサ手段が、オーバートルク状態を検出し、かつ前記設定最大用量に対応する前記ハウジングに対する前記用量設定部材の回転量を計算するように適合されている、請求項11~13のいずれか一項に記載のアドオン装置。
【請求項15】
前記回転センサが、
(i)エンコーダセグメントの円形アレイを備える、ガルバニック回転エンコーダ、または
(ii)移動磁石からの磁界を測定するように適合された少なくとも1つの磁気計を備える、磁気センサの形態である、請求項11~14のいずれか一項に記載のアドオン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、設定投与量の効率的で信頼できる検出に関する医療用装置およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の開示では、主に、例えば、インスリンの皮下送達による糖尿病の治療に使用される薬剤送達装置を参照するが、これは、本発明の例示的な使用にすぎない。
【0003】
皮下注射のための薬剤送達装置は、薬剤および生物学的製剤を自己投与する必要がある患者の生活を大幅に改善した。こうした薬剤送達装置は多くの形態を取る場合があり、注射手段を有するアンプルにすぎない単純な使い捨て装置を含み、または予め充填されたカートリッジとともに使用するように適合された耐久性のある装置であってもよい。かかる薬剤注射装置は、それらの形態およびタイプにかかわらず、注射可能な薬剤および生物学的製剤を患者が自己投与するのを支援するのに大きな助けになることが証明されている。また、それらは、介護者が自己注射を実施することができない者に注射可能な医薬品を投与するのを大いに支援する。一般的なタイプの薬剤送達装置は、送達される薬剤の望ましい用量サイズをユーザが設定することを可能にする。典型的な機械的装置の場合、用量設定手段は、回転可能な用量設定またはダイヤル部材の形態であり、その後引き続いて装置から排出される望ましい用量サイズを、ユーザが設定する(または「ダイヤルを回す」)ことを可能にする。
【0004】
必要量のインスリン注射を適切な時点に適切なサイズで実施することは、糖尿病を管理するために必要不可欠であり、すなわち指定されたインスリンレジメンを遵守することが重要である。医療従事者が、処方された用量パターンの有効性を決定することを可能にするために、糖尿病患者は各注射のサイズおよび時間のログを記録することを推奨される。しかしながら、こうしたログは通常手書きのノートに記録され、そしてログ付けされた情報はデータ処理のためにコンピュータに簡単にはアップロードされない場合がある。さらに、患者によって記載される事象のみがログ付けされるため、ノートシステムは、ログ付けされた情報が患者の疾患の治療において何らかの価値を持つとすれば、患者は各注射をログ付けすることを覚えておく必要がある。ログ中の欠如した記録または誤った記録は、注射履歴の実態が誤ったものとなり、ひいては、将来の薬剤治療に関する医療従事者の意思決定の土台が誤ったものとなる。したがって、医薬品送達システムからの注射情報のログ付けを自動化することが望ましい場合がある。
【0005】
一部の注射装置は、例えば、特許文献1および特許文献2に開示されているように、このモニタリング/取得機構を装置自体に統合するが、今日のほとんどの装置はそれがない。最も広く使用されている装置は、耐久性があるかまたは予め充填されたかのいずれかである、単なる機械的な装置である。後者の装置は、空になった後に廃棄されるため、安価であり、装置自体内に内蔵電子データ取得機能を構築することはコスト的に見合わない。この問題に対処するため、所与の医療用装置の使用を表すデータをユーザが生成、収集、および分散するのに役立つであろう多くの解決策が提案されてきた。
【0006】
例えば、特許文献3は、ペンタイプの薬剤送達装置に取り外し可能に取り付けられるように適合された電子補助装置(「アドオンモジュール」または「アドオン装置」とも称される)を第1の実施形態で説明している。装置は、カメラを含み、薬剤送達装置の投薬ウィンドウを通して見える回転スケールドラムから捕捉された画像の光学文字認識(OCR)を実施し、それによって、薬剤送達装置にダイヤルが回された医薬の用量を決定するように構成されている。特許文献4は、ペンタイプの薬剤送達装置に取り外し可能に取り付けられるように適合された電子補助装置を開示する。装置は、カメラを含み、OCRに基づいてスケールドラム値を決定するように構成されている。排出された用量のサイズを適正に決定するために、補助装置は、用量サイズが設定、修正、または送達されているかどうかを決定するための追加的な電気機械的センサ手段をさらに備える。示されるように、この概念では、アドオン装置が、カメラおよび後続の画像処理の両方を介して薬剤送達装置と「相互作用」し、これが複雑さ、信頼性、およびコストを増大させることを必要とする。
【0007】
ペン式装置用のさらなる外部装置が、特許文献5に示されている。
【0008】
特許文献6は、ペン型の薬剤送達装置のためのアドオン用量ログ付け装置であって、薬剤送達装置内に配設された磁気部材の、ある量の回転を捕捉するように適合されたセンサ手段を備え、磁気部材の回転の量は、薬剤送達装置によって貯蔵部から排出された薬剤の量に対応する、アドオン用量ログ付け装置を開示している。示されるように、この概念は、薬剤送達装置を修正し、統合された磁石を提供することを必要とする。
【0009】
特許文献7および特許文献8は、ペン型の薬剤送達装置の取り扱いおよび動作中に特定の事象を検出および識別するよう適合された用量記録手段を含む、薬剤送達システムを開示している。より具体的には、システムは、用量が徐々に増加していることを示す第1の「クリック」事象を検出し、用量が徐々に減少していることを示す第2の「クリック」事象を検出するように適合され、これにより、用量ログ手段は、回転用量設定部材によってダイヤルされる増分の数をそれぞれ「カウント」アップすることができる。誤った事象検出を補償するために、用量ログ手段には、ユーザが、カウントされた用量サイズを、実際に設定された用量サイズに対応するように調整することを可能にする手段が提供され得る。
【0010】
センサ手段の特定の性質にかかわらず、用量ログ付け回路は、概して、薬剤送達装置内の所与の構成要素の、ある量の回転を決定することに依存し、回転の量は、所与の薬剤送達装置に対する薬剤の排出された用量のサイズに対応する。
【0011】
上記を考慮して、本発明の目的は、インジケータ構成要素の回転の量を決定することに基づいて、設定投与量の効率的で信頼できる正確な捕捉を可能にする、装置、組立品、および方法を提供することである。装置および組立品は、薬剤送達装置自体の外部にあってもよく、例えば、薬剤送達装置に取り外し可能に取り付けられるように適合されたアドオン装置に関連してもよく、インジケータ構成要素は、薬剤送達装置とシンプルで信頼性の高い方法で相互作用する。あるいは、インジケータ構成要素および追加の捕捉構成要素は、所与の薬剤送達装置と一体的に形成されてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許公開第2009/0318865号
【特許文献2】国際公開第2010/052275号
【特許文献3】国際公開第2014/037331号
【特許文献4】国際公開第2014/020008号
【特許文献5】国際公開第2014/161952号
【特許文献6】国際公開第2019/057911号
【特許文献7】国際公開第2020/110124号
【特許文献8】米国特許公開第2017/0182258号
【発明の概要】
【0013】
本発明の開示では、上記の目的のうちの1つ以上に対処する、または例示的な実施形態の説明と同様に下記の開示から明らかな目的に対処する、実施形態および態様が説明される。
【0014】
本発明は、例えばインスリンの単位など、その後外部投薬される薬剤の設定投与量のサイズを測定することが、測定に実際に使用される所与の用量設定機構のどの構成要素によって影響され得るかという認識に基づく。典型的な用量設定および排出機構では、多くの構成要素が、典型的には、所与の所望の回転位置にラチェット機構を設定するために、ユーザによって回転される用量設定部材で始まる、排出される所望の用量を段階的に設定するように回転する。設定用量が排出されるときに、例えば、引っ張られたばね機構を解放することによって、多くの構成要素が回転し、最終的に、薬剤が充填されたカートリッジ内のピストンが軸方向に遠位方向に移動する結果となる。
【0015】
しかしながら、生産許容誤差による、緩みおよび小さな変動は、典型的には、機構を通して徐々に増え、測定の不正確性を増加させる。
【0016】
例えば、既存の薬剤送達装置にアドオン測定装置を注射のために嵌合する場合、このようなアドオンシステムは、通常、一連の相互作用する構成要素の「開始時」にある構成要素の位置の変化を測定する必要がある。用量設定調節機構は、しばしば、ユーザが用量サイズを0から所望の用量サイズにダイヤルを上に回すことができるように設計され、その場合、構成要素は、ラチェット機構で、いくつかの「クリック」で旋回される。
【0017】
各「クリック」は、所与の体積の外部投薬に対応し、構成要素が特定の度数で回転されるたびに生じる。かかるラチェット機構では、妨害を防止するために、相互作用する構成要素間のいくらかの遊びまたは緩みが必要である。
【0018】
これは、各々が相互作用する構成要素の対である状態では、生産許容誤差の変動の最悪の場合の組み合わせであっても、わずかな緩みを確保しなければならないことを意味し、そのため、厳格な生産許容誤差の組み合わせであっても、相互作用する部品間にはわずかな遊びがもたらされることになる。これはさらに、反対の最悪の場合の組み合わせが著しくより多くの遊びを有することになることを意味する。しばしば、ダイヤル機構は、一連の機械部品を形成する4~6つの部品間の相互作用を伴い、各々が相互作用する構成要素の対間の緩みにより、ダイヤル機構の合計の緩みまたは遊びが徐々に増える。さらなる5~10個の相互作用する構成要素が、実際の外部投薬に関与し、不正確性および緩みの連鎖が加えられる場合がある。かかる装置は、ある体積を所与の許容誤差で排出することができることが必要とされるため、合計の緩みは、ユニットの約3分の1よりも低く保つ必要がある。生産コストは、生産許容誤差が減少すると大きく増加し、それゆえ、装置は主に、最大の許容可能な緩みで設計され、性能要件が満たされることを確保する。したがって、かかる装置の場合、ユニットのプラス/マイナス約4分の1までの合計の緩みは、かなり正常である。
【0019】
しかしながら、今日の市場にあるほとんどの薬剤送達装置では、ユーザは、設定された用量を調節することができる。したがって、かかる用量設定機構は、ユーザが誤ってダイヤルを回しすぎた場合、またはより低い用量を取るように再決定した場合に、既にダイヤルが回された用量サイズ、すなわち、ラチェット機構で既にダイヤルが回された「クリック」の数を、より低い用量設定にダイヤルを逆に回すことができるように設計される必要がある。
【0020】
これは、ダイヤルを上に回し、それによって、全ての緩みを「片側に」吸収させた後に、機構が実際に、ラチェットでダイヤルを逆に回す前に、全ての相互作用する部品が「片側」の係合から反対側に移動することを意味する。
【0021】
それに対応して、入力ダイヤル、すなわち、ユーザが実際につかんだ構成要素は、通常、我々の間では問題点にならない(プラス/マイナス)2倍の緩みを持ち上げる必要がある場合がある。なぜなら、ユーザは、ほとんどの場合、ダイヤルを回す方向が逆転したときの「隠れた」緩みに気付かないためである。さらに、いくつかの機構は、通常の動作中に、ラチェット機構を係脱するか、または緩めて、逆向きにダイヤルを回すことを可能にするために、追加の緩みが内蔵機構によって導入されるように設計されている。
【0022】
ダイヤルを下に回す動作に関連する上述の追加の緩みは主として、入力ダイヤル構成要素に影響を及ぼす。これは、一連の相互作用する構成要素をさらに下げれば下げるほど、影響が及ぼされる構成要素が少なくなるためである。排出される実際の用量は、全く影響を受けない場合がある。しかしながら、アドオン測定装置に関連して、実際のダイヤル入力構成要素に近い構成要素の開始位置および終了位置を測定することは、この構成要素の開始位置が、用量解放時に、設定された用量に到達するようにユーザがダイヤルを上下に回したことに依存して、最大でほぼ完全な1ユニットだけ異なる場合があるため、問題を提示する場合がある。非常に高い測定精度であっても、実際に設定された用量が何であったか、かつ結果として、プラス/マイナス1ユニットよりも優れた精度で何が外部投薬されたかを決定することは困難な場合があり、いくつかの事例では、かかる装置に対する当局の要件を満たすことができない場合がある。
【0023】
したがって、「ダイヤル入力部材に近い」構成要素の回転移動の決定に依存して、用量ログ付け配置の精度が潜在的に欠如している根本的な原因を識別することにより、解決されるべき識別された問題は、ユーザによるダイヤルを上に回す行いとダイヤルを下に回す行いとの間で測定が行われる構成要素によって経験される緩みに対する測定システムの感度を減少させるか、または排除する、アドオン装置の解決策を提供することである。実際に、かかる解決策を、同じインジケータ構成要素を利用する統合された用量ログ付け配置のために実装することもできる。
【0024】
したがって、本発明の第1の一般の態様では、回転の基準軸を画定するハウジング、薬剤貯蔵部または薬剤貯蔵部を受容するための手段、および薬剤排出手段を備える、薬剤送達組立品が提供される。薬剤排出手段は、(i)第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、(ii)反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させるように適合された用量設定部材であって、用量設定部材が、各段階的な回転位置に回転スラックを有する、用量設定部材と、最終設定投与量を排出させるように適合された作動部材と、を備える。薬剤送達組立品は、用量設定中にハウジングに対する用量設定部材の回転量を検出するように適合された回転センサ、ならびにプロセッサ手段であって、最終用量が、設定部材を第1の方向に回転させることによって設定されたときに、第1の用量設定パターンを検出することと、最終用量が、設定部材を第2の方向に回転させることによって設定されたときに、第2の用量設定パターンを検出することと、第1の用量設定パターンが検出される場合、検出された回転量に基づいて、第1の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第1のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、第2の用量設定パターンが検出される場合、検出された回転量に基づいて、第2の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第2のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、を行うように適合されたプロセッサ手段をさらに備える。
【0025】
この配置によって、薬剤送達装置用量設定機構におけるスラックの影響が、用量設定機構の一部を形成する用量設定部材の回転量を検出するように適合された回転センサに依存する用量測定システムに対して低減または排除されることが確実にされる。
【0026】
計算された量の回転および/またはその関連用量データは、プロセッサ制御メモリに記憶されて、用量ログを作成してもよい。用量データはその後、外部受信器に送信されてもよい。
【0027】
薬剤排出手段は、薬剤貯蔵部から設定量の薬剤を排出するための駆動ばねと、(i)第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、かつそれに対応して駆動ばねを引っ張り、(ii)反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させ、かつそれに対応して駆動ばねを緩めるように適合された用量設定部材と、を備え得、作動部材は、引っ張られた駆動ばねを解放して、最終設定用量を排出するように適合された解放部材である。
【0028】
検出された第1の用量パターンについて、プロセッサ手段は、第1の方向における2回連続する用量設定回転の間の用量設定一時停止を検出することと、1つ以上の用量設定一時停止が検出される場合、1つ以上の用量設定一時停止が検出されたときに、検出された回転量に基づいて、第1の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第3のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算することと、を行うように適合され得る。
【0029】
薬剤排出手段は、用量設定部材が、所定の最大用量が設定されたときに、第1の方向にさらに回転することを可能にする、オーバートルク機構を備え得、プロセッサ手段は、オーバートルク状態を検出し、かつ設定最大用量に対応するハウジングに対する用量設定部材の回転量を計算するように適合されている。
【0030】
例示的な実施形態では、薬剤送達システムは、薬剤送達装置と、薬剤送達装置上に取り外し可能に取り付けられるよう適合されたアドオン装置と、を備える組立品の形態である。このようなシステムでは、薬剤送達装置は、ハウジング、薬剤貯蔵部または薬剤貯蔵部を受容するための手段、および薬剤排出手段を含む。アドオン装置は、回転センサと、プロセッサ手段と、を備える。
【0031】
特定の実施形態では、アドオン装置は、薬剤送達装置に取り外し可能に取り付け可能なアドオンハウジングと、アドオン用量設定部材と、用量設定状態と用量排出状態との間で、アドオン用量設定部材に対して軸方向に移動可能なアドオン解放部材と、をさらに備える。アドオン用量設定部材は、用量設定部材と非回転係合するように適合されており、回転センサは、用量設定中にアドオンハウジングに対するアドオン用量設定部材の回転量を検出するように適合されており、アドオン解放部材は、取り付けられた状態にある場合、用量設定状態から用量排出状態に移動されたときに、解放部材を解放するように適合されている。
【0032】
回転センサは、アドオン解放部材が用量設定状態から用量排出状態に移動したときに停止され得る。
【0033】
上述の薬剤送達システムは、充填されたカートリッジ内のピストンと係合し、かつこれを遠位方向に軸方向に変位させ、これによってカートリッジからの薬剤の用量を排出するように適合されたピストンロッドと、直接的または間接的にピストンロッドに結合された駆動部材と、を備え得る。
【0034】
薬剤排出手段は、駆動部材に結合された駆動ばねを備え得、解放部材は、引っ張られた駆動ばねを解放して、駆動部材を回転させ、設定投与量を排出するように適合されている。別の方法として、薬剤排出手段は、用量設定中に軸方向かつ近位方向に延在され、その後、ユーザによって遠位方向に移動されて、設定用量サイズに対応するある量の薬剤を排出するときに、排出手段を駆動する、作動ボタンを備え得る。
【0035】
本発明のさらなる態様では、薬剤送達装置上に取り外し可能に取り付けられるように適合されたアドオン装置が提供される。薬剤送達装置は、回転の基準軸を画定する装置ハウジング、薬剤貯蔵部または薬剤貯蔵部を受容するための手段、および薬剤排出手段を備える。薬剤排出手段は、(i)第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、(ii)反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させるように適合された装置用量設定部材であって、用量設定部材が、各段階的な回転位置に回転スラックを有する、装置用量設定部材と、最終設定投与量を排出させるように適合された装置作動部材と、を備える。アドオン装置は、装置ハウジングに取り外し可能に取り付け可能である、アドオンハウジングと、装置用量設定部材と非回転係合するように適合されたアドオン用量設定部材と、用量設定状態と用量排出状態との間で、アドオン用量設定部材に対して軸方向に移動可能なアドオン作動部材であって、アドオン作動部材が、取り付けられた状態にある場合、用量設定状態から用量排出状態に移動されたときに、装置作動部材を作動させるように適合されている、アドオン作動部材と、用量設定中にアドオンハウジングに対するアドオン用量設定部材の回転量を検出するように適合された回転センサと、プロセッサ手段と、を備える。プロセッサ手段は、最終用量が、アドオン用量設定部材を第1の方向に回転させることによって設定されたときに、第1の用量設定パターンを検出することと、最終用量が、アドオン用量設定部材を第2の方向に回転させることによって設定されたときに、第2の用量設定パターンを検出することと、を行うように適合されている。第1の用量設定パターンが検出される場合、検出された回転量に基づいて、第1の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第1のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算すること、および第2の用量設定パターンが検出される場合、検出された回転量に基づいて、第2の用量設定パターンに対応して生成されたスラック誘起誤差を補償する第2のアルゴリズムを使用して、補正された回転量を計算すること。アドオン用量設定部材は、用量設定部材と非回転係合するように適合されており、回転センサは、用量設定中にアドオンハウジングに対するアドオン用量設定部材の回転量を検出するように適合されており、アドオン作動部材は、取り付けられた状態にある場合、用量設定状態から用量排出状態に移動されたときに、装置作動部材を作動するように適合されている。
【0036】
薬剤排出手段は、薬剤貯蔵部から設定量の薬剤を排出するための駆動ばねと、(i)第1の方向に段階的に回転させて用量を設定し、かつそれに対応して駆動ばねを引っ張り、(ii)反対の第2の方向に段階的に回転させて、設定用量を減少させ、かつそれに対応して駆動ばねを緩めるように適合された用量設定部材と、をさらに備え得、作動部材は、引っ張られた駆動ばねを解放して、最終設定用量を排出するように適合された解放部材である。別の方法として、放出機構は完全に手動であってもよく、この場合には、用量部材および作動ボタンは、設定用量サイズに対応して用量設定中に近位に移動し、その後、ユーザによって遠位に移動されて設定用量を放出する。こうしたペン装置設計を収容するために、アドオン装置は、ペン式装置ハウジング上に取り付けられるように適合された第1の部分、ペン作動ボタン上に取り付けられるように適合された第2の部分を備えてもよく、第2の部分は、第1の部分に対して軸方向に誘導される。
【0037】
上述のシステムまたはアドオン装置の回転センサは、用量設定部材の全回転に対する増分数の少なくとも2倍の回転分解能で、用量設定中のハウジングに対する用量設定部材の回転量を検出するように適合され得る。例えば、用量設定部材の1回の全回転に対して20の増分で用量を設定するように適合された薬剤送達システムについては、各増分は、18度の回転運動に対応し、このような回転センサは、対応して9度以下の回転分解能を有する。用量設定部材の1回の全回転に対して24の増分で用量を設定するように適合された薬剤送達システムについては、各増分は、15度の回転運動に対応し、回転センサは、対応して7.5度以下の回転分解能を有する。例示的な実施形態では、例えば、用量設定部材の1回の全回転に対する20または24の増分を有する用量設定機構を有し、回転センサ分解能は、5度以下、3度以下、または1度以下であってもよい。
【0038】
回転センサは、エンコーダセグメントの円形アレイを含む、ガルバニック回転エンコーダの形態であってもよい。あるいは、回転センサは、移動(回転)磁石からの磁界を測定するように適合された磁気計を含んでもよい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「インスリン」という用語は、液体、溶液、ゲル、または微細懸濁液などの、制御された様式でカニューレまたは中空針などの送達手段を通過することができ、血糖コントロール効果を有する任意の薬剤含有流動性医薬品、例えば、ヒトインスリンおよびその類似物、ならびにGLP-1およびその類似物のような非インスリンを包含することを意味する。例示的な実施形態の説明では、インスリンの使用に対して参照がなされるが、しかし説明されるモジュールは、その他のタイプの薬剤(例えば成長ホルモン)のログを作り出すためにも使用することが可能である。
【0040】
以下では、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1A図1Aは、ペン式装置を示している。
図1B図1Bは、ペンキャップが取り外された状態の図1Aのペン式装置を示している。
図2図2は、図1Aのペン式装置の構成要素の分解組立図を示している。
図3A図3Aおよび図3Bは、2つの状態における排出機構の断面図を示している。
図3B図3Aおよび図3Bは、2つの状態における排出機構の断面図を示している。
図4A図4Aおよび図4Bは、それぞれ組み立てられた状態および組み立てられていない状態のアドオン装置および薬剤送達装置の概略図を示している。
図4B図4Aおよび図4Bは、それぞれ組み立てられた状態および組み立てられていない状態のアドオン装置および薬剤送達装置の概略図を示している。
図5A図5Aおよび図5Bはそれぞれ、図4Aおよび図4Bに示される例示的な薬剤送達装置およびその上に取り付けられるように適合された対応するアドオン装置を示している。
図5B図5Aおよび図5Bはそれぞれ、図4Aおよび図4Bに示される例示的な薬剤送達装置およびその上に取り付けられるように適合された対応するアドオン装置を示している。
図5C図5Cおよび図5Dは、それぞれ用量設定状態および用量排出状態にある、図5Bのアドオン装置を部分的に切り取った図で示している。
図5D図5Cおよび図5Dは、それぞれ用量設定状態および用量排出状態にある、図5Bのアドオン装置を部分的に切り取った図で示している。
図6A図6Aおよび図6Bは、「リグレット」シナリオ対「非リグレット」シナリオで測定されたダイヤル度数を示している。
図6B図6Aおよび図6Bは、「リグレット」シナリオ対「非リグレット」シナリオで測定されたダイヤル度数を示している。
図7図7は、用量のダイヤルリングにおける度合いにおける誤差の分布を示している。
図8図8は、アルゴリズム自動較正方法の高レベルの記述を示している。
図9図9は、ユーザがダイヤルして、オーバートルクを開始するときに、オーバートルク検出のために抽出されたピークおよびディップインジケータを含む、エンコーダデータを示している。
図10図10は、第1のダイヤル事象シーケンスを示している。
図11図11は、第2のダイヤル事象シーケンスを示している。
図12図12は、リグレット用量設定の構成要素を示している。
図13図13は、実際の誤差対推定リグレットプレイの回帰を示している。
図14図14は、推定係数のβおよびβを示している。
図15図15は、非リグレットケースにおけるドロップの分布を示している。
図16図16は、リグレットを伴う用量事象の誤差分布を示している。
図17図17は、試験データにおけるリグレット誤差の分布を示している。
図18図18は、リグレットを伴うダイヤル事象を示している。
図19図19は、2つの中央レストおよび最終レストを伴うダイヤル事象を示している。
図20図20は、スケールドラム上のユニットマーカに対するリグレット点の位置を示している。
図21図21は、注射装置用のアドオンユニットの回転エンコーダからのエンコーダ信号のアルゴリズム自動較正信号処理の概要を示している。
【0042】
図において、同様の構造は、主として同様の参照番号で識別される。
例示的な実施形態の説明
【0043】
以下で「上」および「下」、「右」および「左」、「水平」および「垂直」などの用語、または同様の相対表現が使用されるとき、これらは、添付の図に言及するだけであり、必ずしも実際の使用状況ではない。示された図は、概略表現であり、そのため、異なる構造の構成、およびそれらの相対寸法は、例示的な目的のみを果たすことが意図される。部材または要素という用語が所与の構成要素に対して使用されるとき、これは一般的に、説明される実施形態においてこの構成要素が単一の構成要素であることを示すが、代替的に、説明される構成要素のうちの2つ以上が単一の構成要素として、例えば、単一の射出成形部品として製造される可能性があるように、同一の部材または要素がいくつかの下位構成要素を備えてもよい。「組立品」という用語は、説明された構成要素が所与の組立手順の間に一体型の、または機能的組立品を提供するために組み立てられる必要があることを暗示しておらず、機能的により密接に関連するものとしてともに分類される構成要素を説明するために使用されるにすぎない。
【0044】
本発明それ自体の実施形態へ戻る前に、予め充填された薬剤送達の一実施例が説明され、このような装置は本発明の例示的な実施形態の基盤を提供する。図1図3に示されるペン型の薬剤送達装置100は、「一般的な」薬剤送達装置を表す場合があり、実際に示される装置は、Novo Nordisk A/S,Bagsvaerd,Denmarkによって製造および販売される、FlexTouch(登録商標)の予め充填された薬剤送達ペン型装置である。
【0045】
ペン式装置100は、キャップ部品107と、薬剤排出機構がその中に配設または統合されているハウジング101を有する近位本体または駆動組立品部分を有する主要部分と、遠位の針貫通可能な隔壁を有する薬剤充填透明カートリッジ113が、近位部分に付着された取り外し不可能なカートリッジホルダーによって定位置に配設され保持される遠位カートリッジホルダー部分とを備え、カートリッジホルダーは、カートリッジの一部分が検査されるのを可能にする開口部、ならびに針組立品が取り外し可能に取り付けられるのを可能にする遠位連結手段115を有する。カートリッジには、排出機構の一部を形成するピストンロッドによって駆動されるピストンが提供されており、例えば、インスリン、GLP-1または成長ホルモン製剤を含んでもよい。多数の軸方向に向き付けされた溝188を有する最も近位の回転可能な用量設定部材180は、表示ウィンドウ102内に示され、かつ次いで、ボタン190が作動したときに排出され得る望ましい用量の薬剤を手動で設定するように機能する。下記の説明から明らかとなるように、示される軸方向に向き付けされた溝188は、「駆動溝」と称されてもよい。用量設定部材180は、概して円筒状の外表面181を有し(すなわち、用量設定部材はわずかにテーパー状であってもよい)、示された実施形態では、外表面は、用量設定中の指のつかみを改善するために、複数の軸方向に向き付けされた微細溝を備えることによって質感が与えられている。ウィンドウは、面取りされた縁部分109および用量ポインタ109Pによって囲まれたハウジング内の開口部の形態であり、ウィンドウは、螺旋状に回転可能なインジケータ部材170(スケールドラム)の一部分を観察することを可能にする。薬剤送達装置内に具体化される排出機構のタイプに応じて、排出機構は、実施形態に示されるように、用量設定中に変形され、その後、解放ボタンが作動したときに解放されてピストンロッドを駆動するばねを備えてもよい。別の方法として、排出機構は完全に手動であってもよく、その場合、例えば、Novo Nordisk A/Sによって製造および販売されるFlexPen(登録商標)のように、設定された用量サイズに対応する用量設定中に、用量部材および作動ボタンを近位に移動し、次に、設定用量を排出するためにユーザによって遠位に移動する。
【0046】
図1は、予め充填されたタイプの薬剤送達装置を示し、すなわち、これは予め取り付けられたカートリッジを有して供給され、カートリッジが空になったとき廃棄されるが、代替的な実施形態では、薬剤送達装置は、充填されたカートリッジと交換することが可能であるように、例えば、カートリッジホルダーが装置主要部分から取り外されるように適合された「後方装填式」薬剤送達装置の形態で、または別の方法として、カートリッジが遠位開口部を通して装置の主要部分に取り外し不可能に付着されたカートリッジホルダー内に挿入される、「前方充填式」装置の形態で設計されてもよい。
【0047】
本発明は、薬剤送達装置と相互作用するように適合された電子回路に関するため、このような装置の例示的な実施形態を、本発明をより良好に理解するために説明する。
【0048】
図2は、図1に示すペン型の薬剤送達装置100の分解組立図を示している。より具体的には、ペンは、ウィンドウ開口部102を有する管状ハウジング101を備え、そしてその上にカートリッジホルダー110が固定的に取り付けられ、薬剤充填済みカートリッジ113がカートリッジホルダー内に配設される。カートリッジホルダーには、針組立品116が取り外し可能に取り付けられることを可能にする遠位連結手段115と、キャップ107が、カートリッジホルダーおよび取り付けられた針組立品を覆って、取り外し可能に取り付けられることを可能にする2つの対向する突出部111の形態の近位連結手段と、例えばテーブルの上面上でペンが転がるのを防止する突出部112と、が提供される。ハウジング遠位端には、ナット要素125が固定的に取り付けられ、ナット要素は中央ねじ穴126を備え、またハウジング近位端には中央の開口部を有するばね基部部材108が固定的に取り付けられる。駆動システムは、2つの対向する長軸方向の溝を有し、ナット要素のねじ穴内に受容されるねじピストンロッド120と、ハウジング内に回転方向に配設されたリング形態のピストンロッド駆動要素130と、駆動要素(下記参照)と回転係合し、その係合がクラッチ要素の軸方向移動を可能にするリング形態のクラッチ要素140とを含む。クラッチ要素には、ハウジング内表面上の対応するスプライン104(図3Bを参照)と係合するように適合された外側スプライン要素141が提供され、これは、スプラインが係合している回転方向に係止された近位位置とスプラインが係合から外れている回転方向に自由な遠位位置との間でクラッチ要素が移動することを可能にする。今まさに述べたように、両方の位置では、クラッチ要素は駆動要素に対して回転方向に係止される。駆動要素は、ピストンロッドの溝と係合している2つの対向する突出部131を有する中央の穴を備え、それによって駆動要素の回転は、ピストンロッドとナット要素との間のねじ係合のために、ピストンロッドの回転をもたらし、それによって遠位の軸方向移動をもたらす。駆動要素は、ハウジング内表面上に配設された対応するラチェット歯105に係合するように適合された、一対の対向する円周方向に延びる可撓性のラチェットアーム135をさらに含む。駆動要素およびクラッチ要素は、それらを一緒に回転方向に係止するが、クラッチ要素が軸方向に移動することを可能にする協働する連結構造を備え、これはクラッチ要素が、回転することができるその遠位位置へと軸方向に移動することを可能にし、それによってダイヤルシステム(下記参照)から駆動システムへと回転移動を伝達する。クラッチ要素、駆動要素、およびハウジング間の相互作用は、図3Aおよび図3Bを参照しながらより詳細に示され、かつ説明される。
【0049】
ピストンロッド上には、内容量終了(EOC)部材128が螺着されており、また遠位端上にはワッシャー127が回転方向に取り付けられている。EOC部材は、リセットチューブと係合するための一対の対向する半径方向の突起129を含む(下記参照)。
【0050】
ダイヤルシステムは、ラチェットチューブ150と、リセットチューブ160と、外側に螺旋状に配設された用量を示す列を形成するパターンを有するスケールドラム170と、排出される薬剤の用量を設定するためにユーザ操作されるダイヤル部材180と、解放ボタン190と、トルクばね155とを含む(図3参照)。ダイヤル部材には、リセットチューブ上に配設された多数の対応する外側歯161に係合する円周の内側歯構造181が提供され、これは、リセットチューブが用量設定中に近位位置にあるときに係合状態にあり、リセットチューブが用量排出中に遠位側に移動するときに係脱状態にあるダイヤル連結を提供する。リセットチューブはラチェットチューブの内側に軸方向に係止されて取り付けられるが、数度回転することができる(下記参照)。リセットチューブは、その内表面上に、EOC部材の半径方向の突起129と係合するように適合された2つの対向する長軸方向の溝169を含み、それによってEOCはリセットチューブによって回転することができるが、軸方向に移動することが可能である。クラッチ要素は、ラチェットチューブ150の外側遠位端部分上に軸方向に係止されて取り付けられており、これにより、ラチェットチューブは、クラッチ要素を介してハウジングと回転係合に入り、かつ回転係合から外れるように、軸方向に移動することができる。ダイヤル部材180は軸方向に係止されて取り付けられるが、ハウジング近位端上で回転方向に自由であり、ダイヤルリングは,通常動作の下では、リセットチューブに回転方向に係止され(下記参照)、それによってダイヤルリングの回転はリセットチューブ160の、かつこれによってラチェットチューブの対応する回転をもたらす。解放ボタン190は、リセットチューブに対して軸方向に係止されているが、自由に回転することができる。戻りばね195は、ボタン上およびそこに取り付けられたリセットチューブに対して近位に方向付けられた力を提供する。スケールドラム170は、ラチェットチューブとハウジングとの間の円周方向の空間内に配設され、ドラムは協働する長軸方向スプライン151、171を介してラチェットチューブに回転方向に係止され、かつ協働するねじ構造103、173を介してハウジングの内表面と回転ねじ係合となっており、それによってドラムがラチェットチューブによってハウジングに対して回転するときに数字の列がハウジング内のウィンドウ開口部102を通る。トルクばねは、ラチェットチューブとリセットチューブとの間の円周方向の空間内に配設され、その近位端において、ばね基部部材108に固定され、かつその遠位端において、ラチェットチューブに固定され、それによってラチェットチューブがダイヤル部材の回転によってハウジングに対して回転されたときにばねは変形される。ラチェットチューブとクラッチ要素との間に可撓性のラチェットアーム152を有するラチェット機構が提供され、クラッチ要素には円周方向の内側歯構造142が提供され、各歯は、用量が設定されたときにリセットチューブを介してユーザによって回転された位置にラチェットチューブが保持されるように、ラチェット停止部を提供する。設定用量の減少を可能にするため、ラチェット解放機構162がリセットチューブ上に提供され、かつラチェットチューブに作用し、これによって、ダイヤル部材を反対方向に旋回させることにより、1つ以上のラチェットの刻みだけ設定用量を減少させることが可能になり、リセットチューブがラチェットチューブに対して上述の数度だけ回転されるとき、解放機構が作動される。
【0051】
排出機構の異なる構成要素およびそれらの機能的関係について説明してきたが、次に機構の動作について、主として図3Aおよび図3Bを参照しながら説明する。
【0052】
ペン式機構は、上述のとおり、用量システムおよびダイヤルシステムの2つの相互作用システムとみなすことができる。用量設定中、ダイヤル機構は回転し、ねじりばねに負荷がかけられる。用量機構はハウジングに係止され、移動することができない。押しボタンが押下されたとき、用量機構はハウジングから解放され、かつダイヤルシステムへの係合に起因して、ねじりばねはここでダイヤルシステムを開始点に戻すように回転させ、また用量システムをそれとともに回転させる。
【0053】
用量機構の中央部は、ピストンロッド120であり、プランジャーの実際の変位はピストンロッドによって実行される。用量送達中、ピストンロッドは、駆動要素130によって回転し、かつハウジングに固定されたナット要素125とのねじの相互作用によって、ピストンロッドが遠位方向で前方に移動する。ゴムピストンとピストンロッドとの間に、ピストンワッシャー127が定置され、これは回転ピストンロッドの軸方向軸受として機能し、かつゴムピストン上の圧力を均一にする。ピストンロッドは、ピストンロッド駆動要素がピストンロッドと係合する非円形断面を有するため、駆動要素はピストンロッドに対して回転方向に係止されているが、ピストンロッド軸に沿って自由に移動する。結果として、駆動要素の回転は、ピストンの直線的に前方に移動をもたらす。駆動要素には、駆動要素が(押しボタンの端から見て)時計回りに回転することを防止する小さいラチェットアーム134が提供される。したがって、駆動要素との係合に起因して、ピストンロッドは前方にのみ移動することができる。用量送達中、駆動要素は反時計回りに回転し、ラチェットアーム135は、ラチェット歯105と係合することによってユーザに小さなクリック音、例えば、排出されたインスリン一単位当たり1クリック音も与える。
【0054】
ダイヤルシステムに目を移すと、ダイヤル部材180を旋回させることによって用量が設定され、かつリセットされる。ダイヤルを旋回させると、リセットチューブ160、EOC部材128、ラチェットチューブ150、およびスケールドラム170は、ダイヤル連結が係合状態にあることに起因して、全てダイヤルとともに旋回する。ラチェットチューブはトルクばね155の遠位端に接続されているため、ばねに負荷がかかる。用量設定中に、ラチェットのアーム152は、クラッチ要素の内側歯構造142との相互作用に起因して、ダイヤルが回されるユニットごとにダイヤルクリックを実施する。示された実施形態では、クラッチ要素には、ハウジングに対して360度の完全な回転に対して24回のクリック(刻み)を提供する24個のラチェット停止部が提供される。ばねは組立中に予め負荷がかけられており、これによって機構は小用量および大用量の両方を許容可能な速度間隔内で送達することが可能になる。スケールドラムはラチェットチューブと回転方向に係合しているが、軸方向に移動可能であり、かつスケールドラムはハウジングとねじ係合しているため、ダイヤルシステムが旋回すると、スケールドラムは螺旋状パターンで移動し、設定用量に対応する数字がハウジングウィンドウ102に示される。
【0055】
ラチェットチューブとクラッチ要素140との間のラチェット152、142は、ばねが部品の旋回を戻すことを防止する。リセット中、リセットチューブはラチェットアーム152を移動させ、これによってクリックごとにラチェットを解放し、1つのクリックは、説明した実施形態ではインスリンの1単位IUに対応する。より具体的には、ダイヤル部材が時計回りに回転されたとき、リセットチューブは単にラチェットチューブを回転させ、ラチェットのアームがクラッチ要素の歯構造142と自由に相互作用することを可能にする。ダイヤル部材を反時計回りに旋回すると、リセットチューブはラチェットクリックアームと直接相互作用し、クラッチ内の歯から離れてペンの中心に向かってクリックアームを押し、それゆえにラチェット上のクリックアームが、負荷がかけられたばねによって生じるトルクに起因して「1クリック」後方に移動することを可能にする。
【0056】
設定用量を送達するために、図3Bに示すように、押しボタン190はユーザによって遠位方向に押される。ダイヤル連結161、181は係脱され、またリセットチューブ160はダイヤル部材から連結が外され、その後クラッチ要素140はハウジングスプライン104と係脱される。ここで、ダイヤル機構は、駆動要素130とともに「ゼロ」に戻り、これが排出される薬剤の用量につながる。薬剤送達中いつでも押しボタンを解放または押すことにより、いつでも用量を停止し開始することが可能である。ゴムピストンが非常に迅速に圧縮されるとゴムピストンの圧縮につながり、その後、ピストンが元の寸法に戻るときにインスリンの送達が行われるため、通常、5IU未満の用量は一時停止することができない。
【0057】
EOC機能は、ユーザがカートリッジ内に残されているより大きい用量を設定することを防止する。EOC部材128は、リセットチューブに対して回転方向に係止され、これは用量設定中、リセット中、および用量送達中にEOC部材を回転させ、その間、ピストンロッドのスレッドのねじに従い、軸方向に前後に移動することができる。ピストンロッドの近位端に達すると、停止が提供され、これはダイヤル部材を含む全ての接続された部品が用量設定方向にさらに回転するのを防止する。すなわち、ここで設定用量はカートリッジ内の残りの薬剤含有量に対応する。
【0058】
スケールドラム170には、ハウジング内表面上の対応する停止表面と係合するように適合された遠位停止表面174が提供され、これは、スケールドラムに対する最大用量での停止を提供し、ダイヤル部材を含む全ての接続された部品が用量設定方向にさらに回転されることを防止する。示された実施形態では、最大用量は80IUに設定される。これに応じて、スケールドラムには、ばね基部部材上の対応する停止表面と係合するように適合された近位停止表面が提供され、これは、ダイヤル部材を含む全ての接続された部品が、用量排出方向にさらに回転されることを防止し、これによって排出機構全体に「ゼロ」停止を提供する。
【0059】
ダイヤル機構に何か障害があり、スケールドラムがゼロ位置を越えて移動することを可能にする場合、偶発的な過剰投薬を防止するために、EOC部材はセキュリティシステムを提供するように機能する。より具体的には、満杯のカートリッジを有する初期状態では、EOC部材は、駆動要素と接触する軸方向で最遠位側の位置に位置付けられる。所与の用量が排出された後、EOC部材は再び駆動要素と接触するように位置付けられる。これに応じて、機構がゼロ位置を超えて用量を送達しようとする場合には、EOC部材は駆動要素に対して係止する。機構の様々な部品の許容誤差および可撓性に起因して、EOCが短距離を進むことにより、薬剤の少量の「過剰用量」(例えば、3~5IUのインスリン)が排出されることがある。
【0060】
排出機構は、排出用量の終了時に明確なフィードバックを提供して、薬剤の全量が排出されたことをユーザに知らせる用量終了(EOD)クリック機能をさらに含む。より具体的には、EOD機能は、ばね基部とスケールドラムとの間の相互作用によってなされる。スケールドラムがゼロに戻ると、ばね基部上の小さいクリックアーム106は、前進するスケールドラムによって後向きに強制される。「ゼロ」の直前に、アームが解放され、アームはスケールドラム上の皿穴面を打つ。
【0061】
示された機構には、ダイヤル部材を介してユーザによって加えられる過負荷から機構を保護するために、トルクリミッターがさらに提供される。この機能は、ダイヤル部材とリセットチューブとの間の境界面によって提供され、これは上述のように、相互に回転方向に係止される。より具体的には、ダイヤル部材にはいくつかの対応する外側歯161と係合する円周の内側歯構造181が提供され、この内側歯構造は、リセットチューブの可撓性の担体部分上に配設される。リセットチューブ歯は、所与の指定された最大サイズのトルク(例えば、150~300Nmm)を伝達し、それを上回ると、可撓性の担体部分および歯が内向きに曲がり、ダイヤル機構の残りの部分を回転させることなく、ダイヤル部材を旋回させるように設計されている。したがって、ペンの内側の機構は、トルクリミッターが歯を介して伝達するよりも高い負荷でストレスを受けることはない。
【0062】
機械式薬剤送達装置の運転原理を説明したので、本発明の実施形態について説明する。
【0063】
図4Aおよび図4Bは、予め充填されたペン形状の薬剤送達装置200の第1の組立品、およびそのために適合されたアドオン用量ログ付け装置300の概略図を示している。アドオン装置は、ペン式装置ハウジングの近位端部分上に取り付けられるように適合され、図4Bに示す取り付けられた状態でのペン式装置上の対応する手段を覆う用量設定および用量解放手段380が提供される。示される実施形態で、アドオン装置は、薬剤送達ハウジング上に軸方向に取り付けられ回転方向に係止されるように適合されたハウジング部分301を含む。アドオン装置は、回転可能な用量設定部材380を備え、これは、用量設定中に、アドオン用量設定部材の回転移動がいずれの方向でもペン式用量設定部材に伝えられるように、ペン式用量設定部材280に直接的または間接的に連結される。アドオン装置は、遠位側に移動し、これによってペン式解放部材290を作動させることができる用量解放部材390をさらに含む。
【0064】
図5Aおよび図5Bは、ペン型の薬剤送達装置400上に取り付けられるように適合されたアドオン用量ログ付け装置500のより具体的な実施形態を示しており、本質的に、ハウジング401および取り外せない薬剤カートリッジ413を含む、FlexTouch(登録商標)プレフィルド薬剤送達ペン装置に対応するペン型装置を示している。アドオン装置500は、本質的に上述のアドオン用量ログ付け装置300に対応し、それゆえ、取り外し可能な結合手段を介して薬剤送達ハウジング401上に軸方向に取り付けられ、回転方向に係止されるよう適合されたハウジング部材501を備える。ハウジング部分の長さに応じて、用量設定中にペン式スケールドラムを観察することができるウィンドウが提供され得る。示される実施形態では、ハウジングは、内部構成要素を見ることができる開口部586が提供される例示的な目的のためのものある。アドオン装置は、取り付け時にペン式用量設定部材480に連結される回転可能な用量設定部材580を備え、そのため、アドオン用量設定部材の回転移動はいずれの方向でもペン式用量設定部材に伝えられる。アドオン装置は、遠位側に移動し、これによって取り付け時にペン式解放部材490を作動させることができる用量解放部材590をさらに備える。
【0065】
図5Cは、部分的な切り取り図における、外側組立品および外側組立品に回転可能に結合された内側組立品を備える、アドオン用量ログ付け装置500を示している。外側組立品は、取り外し可能な結合手段587、487(図5Aを参照)を介して、軸方向に取り付けられ、かつ回転式に薬剤送達ハウジング上に係止されるように適合された外側ハウジング部材501と、外側ハウジング部材501の近位端に回転自由に結合された回転可能な用量設定部材580と、ペン式解放部材490を作動させるためにハウジング部材および用量設定部材に対して遠位に移動することができる、用量解放部材590(以下を参照)と、を備える。戻りばね591は、用量解放部材をその最も近位位置に付勢する。
【0066】
内側組立品は、エンコーダ主要組立品560が非回転であるが軸方向に移動可能な配置である近位部分と、非回転で用量設定部材480と係合するよう適合された遠位結合部分551と、を有する、内側ハウジング部材550を備える。エンコーダ主要組立品に取り付けられ、かつそれとともに回転する作動ロッド568は、近位方向に延在している。作動ロッドは、アドオン用量設定部材580と軸方向に螺旋状に係合し、後者が遠位に移動する際に用量解放部材590と係合するよう適合された近位端569を備える。エンコーダ主要組立品は、エンコーダPCB562および電源(コイン「バッテリー」)564が配置された筐体561を備える。エンコーダPCBは、エンコーダセグメント563の円形アレイが配置される近位表面と、プロセッサおよびトランスミッタ回路(図示せず)が配置される遠位表面とを含む。エンコーダはさらに、エンコーダ主要組立品が用量設定中に回転する際のエンコーダセグメントとの摺動係合において、多くの可撓性接触アームを含む、固定(すなわち、外側ハウジング部材に回転係止される)スライダ部材565を備える。示される実施形態では、エンコーダは、120個のセグメントおよびスライダ部材の3つの接触アームを備える。取り付けられた状態では、エンコーダ主要組立品はばね付勢されたペン式解放部材490に軽く係合し、これは、PCBエンコーダセグメントがスライダの可撓性アームと係合するように強制されることを確実にする。
【0067】
ペン式装置400上に取り付けられたアドオン装置500とともに使用する状況において、ユーザは、アドオン用量設定部材580の回転(これは次に、内側組立品およびそれゆえペン用量設定部材を回転させる)によって排出される用量を設定する。同時に、回転の量は、回転エンコーダによって測定される。ユーザがアドオン用量解放部材を作動させるとき(図5Dを参照のこと)、これは遠位に移動され、作動ロッド568と係合し、その後、アドオン用量解放部材のさらなる軸方向の抑制が、エンコーダ主要組立品560を介してペン式用量解放部材480に移動する。エンコーダ主要組立品の初期軸移動の間、エンコーダスライダ部材565は、エンコーダセグメントを係脱し、センサ電子機器によって最終設定用量を決定することができる。
【0068】
電源管理
最初の用量設定前および各外部投薬の後に、ペン式用量設定部材(またはダイヤル)は、「ゼロ位置」(0ユニット)に残される。(新しい)ペン式装置へのアドオン装置の初期取り付け中、遠位結合部分を回転させて、手術中に用量が「設定」されるペン式用量設定部材と係合させる必要がある場合がある。対応するように、ユーザは、例えば、アドオン解放部材を3回押すことによって、センサ組立品をゼロ調整してもよい。この動作はまた、センサをリセットするために装置のその後の使用中に使用され得る。構成要素内の機械的スラックのため、この位置の測定値はいくらか不正確であり得、各外部投薬後に同一の位置を必ずしも与えるとは限らない。しかしながら、最新の外部投薬後のダイヤルの位置は記憶され、センサ電子機器(またはシステム)が初めてオンになったときの初期の第1の測定が記憶される。
【0069】
次に、システムは、低消費電力のスリープモードに入り、部分的にウェイクアップして、1秒当たり1回程度の短い時間間隔でダイヤルの位置を測定することができる。変化が検出されない場合、システムは、別の時間間隔でスリープ状態に戻り、最後に位置が変わったかどうかを再度チェックする。また、任意のダイヤルアップ回転がスイッチをトリガし、システムをオンにするように、小さなスイッチがまた実装されてもよい。
【0070】
スイッチが提供され、トリガされる場合、またはシステムが時間間隔の後で部分的にウェイクアップし、位置の変化を検出する場合、システムは、完全に覚醒モードに切り替え、非常に短い時間間隔で、例えば、10回または100回/秒の位置を測定する。1分か2分間変化が検出されない場合、システムは、スリープモードに戻るか、またはスイッチが取り付けられていれば電源が切断される。
【0071】
位置の変化が登録される場合、変化のタイプは、測定値に基づいて識別されてもよく、例えば、装置の振動および機構のスラックによる小さなジッタリングにより、位置がわずかに変化し得る。次に、システムは、システムが変化を無視してスリープモードに戻るべき位置の範囲を確立し得る。
【0072】
測定値が、ダイヤルアップの開始(ダイヤルアップ方向が増大し、0,5-1ユニットを超える回転位置が測定される)を示すように見える場合、システムは、ダイヤルモードに切り替え、以下に記載されるアルゴリズムに従って測定されたデータを処理する。示される実施形態では、センサ組立品は、用量設定中にスライダ部材によってスワイプされたセグメントの数を本質的に数えるように設計されているが、所与のセグメント数について、所与の回転位置を決定することができ、これにより、カウンターが、ウェイクアップ事象後に「キャッチアップ」することができ、また、用量設定中に回転の方向がいつ変化するかを識別することができる。
【0073】
信号処理
本発明は、エンコーダ測定の信号処理に使用される、ドメイン知識ベースのアルゴリズム自動較正(以下では「AAC」と呼ばれる)を組み込む。
【0074】
1.導入
AACは、外部投薬からではなくダイヤルからのデータを使用する。規制は、ダイヤルされたボリュームと実際に外部投薬されたボリュームとの間の許容可能な逸脱を制限する。実際に外部投薬されるボリュームは、通常の注射装置では測定されないが、(規制要件の範囲内で)用量のダイヤルサイズと同じであると仮定されるので、ユーザは、ダイヤルされるものを注射し、注射される用量は実際にダイヤルされる用量であると仮定される。全体的な目的は、ドメインの知識およびダイヤルデータから抽出された情報を使用して、誤った測定値から注入用量を推定することである。
【0075】
dが意図される(実際の)ダイヤル用量である場合、dはエンコーダによって測定されるダイヤル用量であり、eは測定誤差であり、測定されたダイヤル用量dは、以下によって得られる。
(1) d=d+e
【0076】
(1)の数量の物理単位は回転度である。実際の回転センサによって、解像度は1度とは異なる場合がある。
【0077】
この誤差には、(i)ゼロでの公差、および(ii)リグレットでの公差という2つの構成要素が含まれると仮定される。リグレットを伴うダイヤルとは、ユーザが所定のユニット数までダイヤルし、その後、リグレットし、かつより少ないユニット数までダイヤルし、最終的に投与量を減らすことを意味する。図6は、それぞれ「リグレット」および「非リグレット」の2つのケースをダイヤルするためのエンコーダデータを示したものである。
【0078】
図7は、「リグレット」および「非リグレット」のケースにおいて測定されたダイヤル用量からの実際の誤差(e)の分布を示している。この2つの分布を比較すると、リグレットのないダイヤルはポジティブバイアスの誤差を有し、リグレットのあるダイヤルはネガティブバイアスの誤差を有することが示される。誤差(度)は、外部投薬前の最終値から意図されるユニット数を引いた値と等しくなる。
【0079】
本発明の例示的な実施形態における個々の構成要素に目を移す前に、図8は、AACの実施形態の高レベルの説明を示している。オーバートルク検出の随意的な組み込みは、それが所与のペン式設計に関係しているかどうか、または関係している場合に、それが実装されているかどうかに依存する。
【0080】
2.オーバートルク検出
所望のユーザ設定投与量の薬剤を排出するよう適合された薬剤送達ペン式装置は、所定の最大ユニットを設定して、その後排出することを可能にする。最大設定用量、例えば、60または80ユニットに到達した場合、または内容物終了停止に遭遇した場合、設定機構は、用量サイズを増加するために用量ダイヤルの任意のさらなる回転を防止する「ハードストップ」を備え得る。あるいは、用量設定機構を保護するために、オーバートルク保護をペン設計に組み込み、例えば、WO2018/041899に開示されているように。ユーザが、設定用量を増加させることなくダイヤルを回転させることを可能にし得る。
【0081】
次に、オーバートルク状態は、ユーザがダイヤルを続ける間に、薬剤カートリッジの最大用量または内容物終了に到達したときに発生する。この場合、エンコーダは、ダイヤルの回転による回転度の増加を計測し続けるが、スケールドラムウィンドウに示されるようなダイヤル用量サイズは変化しない。図9は、ユーザがダイヤルし、tovertorqueでのオーバートルクを開始するときのエンコーダデータを示している。オーバートルク検出アルゴリズムは、次の工程を有する。
1.データのフィルタリング:これは、エンコーダ信号のノイズを軽減する移動平均平滑化フィルタである。
2.フィルタリングされた信号の第1の微分を取る。
3.第1の微分をフィルタリングする:これは、信号に余分なフィルタリング遅延を生じさせない、ゼロ相フィルタリングである。ゼロ相フィルタリングを実行するには、データを順方向でフィルタリングした後、フィルタリングされたシーケンスを反転させ、フィルタを通して戻す。フィルタリングされた信号を再び反転させ、ゼロ次フィルタリングされた信号を与える。
4.第1の微分の局所ピーク(最大)およびディップ(最小)を検出する:これは、ピーク/ディップ検出アルゴリズムである。
5.連続するピークとディップとの間の領域を閾値で比較する。領域が閾値より小さい場合、これはオーバートルクである。
【0082】
図9はまた、オーバートルク検出のために抽出されたピークおよびディップインジケータを示している。オーバートルクインジケータは、オーバートルクが検出されると起動するフラグである。オーバートルクが検出された場合、オーバートルクインジケータの直前の最後の値は、用量推定についてdとみなされる。
【0083】
3.リグレット検出
初めに、アルゴリズムは、ユーザがリグレットを伴うユニットをダイヤルしたかどうかを検出する。例えば、1度の分解能を有するエンコーダを使用して、スケールドラム上の各インスリンユニットは、エンコーダ内で15度を占める。図6Bのリグレットインスリンユニットは、以下のように推定される。
【数1】
式中、ドロップ=ピーク-最終値であり、
【数2】
は、除算結果の整数部分を示している。rがゼロよりも大きい場合、ダイヤルはリグレットを有し、
【数3】
は、ピークのダイヤル度の直後に発生するばねの逆戻り運動の推定値であり、その計算は以下に記述される。
【0084】
より複雑なダイヤルパターンにおけるリグレット検出は、外部投薬了前の最後の事象を使用することに留意されたい。最後の事象がリグレットである場合、AACは、図8の方法1を使用し、最後の事象がダイヤルアップ(非リグレット)の場合、方法2を使用する。
【0085】
一般に、ダイヤルする事象は、ユーザの行動に応じて、任意の一連の事象からなる。例えば、図10の一連の事象は、ダイヤルアップ、リグレット、ダイヤルアップ、外部投薬であり、図11の一連の事象は、ダイヤルアップ、リグレット、ダイヤルアップ、リグレット、外部投薬である。
【0086】
AACは、ピークおよびディップ検出アルゴリズムを使用して、ダイヤルシーケンスの最後のピークを見つけ、ダイヤルがリグレットであったかどうかを検出するために使用する。このアルゴリズムは、系統的なアプローチを使用して、信号内のノイズによって引き起こされた小さな偽りのピークおよびディップから、主要なピークおよびディップを区別する。
【0087】
4.方法1:ダイヤルがリグレットを有する場合の実際の用量の推定
この方法の本質は、「リグレットプレイ」と呼ばれるリグレット行為によって生じる誤差を推定することによって、意図されるインスリン用量を推定することである。リグレットプレイは、度数の範囲(0~15度)に制限されるが、各ダイヤル事象で異なる値を持つことができる。目的は、全てのダイヤルについてリグレットプレイを推定し、それに応じて補正することである。
【0088】
リグレットプレイの機械的解釈は、以下のように説明することができる。使用者がリグレットしてから、外部投薬をすると、ドロップ(リグレットユニットおよびスプリングバックを除く)は以下のように計算され得、
ドロップ=ピーク-外部投薬前の最終値-ばね戻り-リグレットユニット×15
これは、リグレットがない場合のドロップ、すなわち、以下よりも大きい。
ドロップ=ピーク-外部投薬前の最終値-ばね戻り
【0089】
この背後にある機構は、リグレットの場合に、駆動ばね(この場合)が、ダイヤルアップの反対方向にトルクを生成することである。ばねは、ばねの過負荷のために、予期されたリグレットの程度×15よりもわずかにリグレットし、ジャンプする傾向がある。このばねの余分な後方へのジャンプは、「リグレットプレイ」と呼ばれ、AACはこれを以下のように計算する。
【数4】
【0090】
ここで、modは、ダイヤル事象iについての除算
【数5】
/15の残りの部分である。図12は、シグナルドロップにおける、スプリングバック、リグレットユニット、およびリグレットプレイの寄与を示している。
【0091】
誤差予測に関して、図13は、(5)に従って抽出された推定されるリグレットプレイに対する実際の誤差の散布図を示している。実際の誤差は次のとおりであり、
e=外部投薬前の最終値-d
式中、dは、(3)における変換を使用して計算される。
【0092】
図13は、誤差とリグレットプレイとの間に相関関係があることを示唆している。対応するように、誤差とリグレットプレイとの間に線形の傾向がないという帰無仮説を、線形回帰、
【数6】
および帰無仮説β=0およびβ=0を拒絶できるかどうかを確認することによって試験した。
【0093】
線形モデルを、200回の実験的投与事象のデータに適合させることによって、直線回帰は、P-値<0.05を伴うβの帰無仮説を拒絶したが、β=0を拒絶しなかった。図14は、推定係数である、推定係数のβおよびβを示している。
【0094】
リグレットプレイと誤差との間の線形関係の存在は、推定されたリグレットプレイが、線形モデルを使用して測定誤差を推定することができることを示し、
【数7】
式中、
【数8】
は、ダイヤル事象iの推定される測定誤差である。
【0095】
訓練セットのデータを使用して、追加の用語である、βoutlierを追加することで、外れ値誤差のより良い推定ができることを認識した。この予測モデルを使用して、実際のダイヤル用量を推定するための方法1は、以下のように記述され、
【数9】
【数10】
【数11】
は、推定された測定誤差であり、βは、回帰係数であり、βoutlierは、外れ値係数であり、
【数12】
は、事象iの推定される意図用量(度数)であり、dm,iは、事象iの測定用量である。βおよびβoutlierは、訓練データセットを使用してオフラインで推定され、一方で、
【数13】
は、事象iについてオンラインで推定される。インスリンの推定ユニットは、以下のように計算される
【数14】
【0096】
スプリングバック因子の推定:(5)および(7)によれば、誤差の予測は、スプリングバック因子の推定を必要とする。スプリングバック因子は、ユーザがダイヤルを解放したときのトルクばねの後方移動による回転度の低下である。AACは、リグレットなしでダイヤルされた事象からのスプリングバックを推定する。これらのダイヤル事象について、外部投薬前のピークから最終値へのドロップは、図6Aのスプリングバック因子と同等である。
【0097】
訓練データセットを使用して、
【数15】
は、集団パラメータとして推定され、以下のように定義される(図15を参照)。
(10)
【数16】
訓練データセットにおける「非リグレットドロップ」の分布の15%パーセンタイル
【0098】
回帰のβoutlierの推定:外れ値は誤差であり、正規分布適合の99%信頼区間の範囲外である。線形回帰は、誤差の正規分布を推定する。
【0099】
誤差分布が、大きな外れ値を伴う正規化から逸脱する場合、
【数17】
による推定誤差は、外れ値誤差の良好な推定値ではない。
【0100】
実施された実験に基づいて、分布の左側における外れ値リグレット誤差は、インスリンユニットの推定値におけるバイアスを引き起こす。図16は、誤差の分布、およびリグレットを伴うダイヤルの外れ値の位置を示している。
【0101】
AACは、係数βoutlierを(7)のような推定される誤差に加えることで、外れ値リグレット誤差を正規分布にシフトさせる。
【0102】
βoutlierは、外れ値以外の誤差値を歪めることなく、最小の外れ値を修正したものである。AACは、訓練データセットを使用して、以下のように、βoutlierを推定する。
βoutlier=リグレットデータセットの最小誤差-リグレットデータセットの誤差の99%CIの下限
【0103】
図17は、リグレットを伴うダイヤルにAACを適用した結果を提示する。AACは誤差を減少させ、試験データセットにおいて100%の精度で意図される実際のインスリンユニットを推定した。リグレットを伴うダイヤルデータにAAC方法1を適用した後に部分的に軽減される、試験データセットにおける測定誤差。AAC補正前の各ダイヤル事象の誤差は、e=dm,i-dとして計算され、AAC補正後、以下のように計算される:
【数18】
式中、dm,iは、外部投薬前の最終値であり、dは、実際の意図される用量であり、
【数19】
は、(8)のような推定される意図される用量である。d
【数20】
およびdm,iは、回転度である。
【0104】
5.方法2:ダイヤルがリグレットを有さない場合の実際の用量の推定
外部投薬前にダイヤルし、かつ直接ダイヤルアップする間にユーザがリグレットしない場合、誤差の最も重要な部分は、ゼロ位置、すなわち「ゼロプレイ」の誤差である。ゼロプレイという用語は、スケールドラムがゼロであるときに、エンコーダによって測定される回転度がゼロではないことを意味する。
【0105】
ゼロプレイは実際には測定のバイアスであり、範囲[-7、7]で変化し得る。ここでは、AACがゼロプレイバイアスを補償する方法を、ミドルレストなしでダイヤルアップする場合と、少なくとも1回のミドルレストを使用してダイヤルアップする場合の2つの事例で説明する。
【0106】
ミドルレストがないダイヤルは、ユーザが手を休ませることなく、意図した用量まで直接的にダイヤルアップする場合である。ミドルレストは、ユーザがダイヤルアップの途中でダイヤルから手を離し、短い一時停止の後にダイヤルアップを続けると発生する。これにより、図18に示すように、エンコーダ信号のノッチが発生する。
【0107】
ミドルレストなしでダイヤルアップする場合、ゼロプレイバイアスは、リグレットなしに訓練データセットの誤差分布の平均として推定される、すなわち、
【数21】
であり、
式中、Nは、訓練投与事象の数である。
【0108】
推定される実際の用量は、以下のように計算される:
【数22】
意図されるインスリンユニットを推定する(9)を用いる。
【0109】
ユーザがダイヤルに少なくとも1回のミドルレストを有する場合、レスト位置にある情報は、ゼロプレイのより正確な推定を与え、結果として、意図されたインスリンユニットのより正確な推定を与えることができる。ダイヤルに外部投薬前の最終値で発生する最終レストを含むn個のレストがあると仮定し、例えば、図19は、2つのミドルレスト(BおよびB)にBでの最終レスト(最終値)を加えた、すなわち、合計で3つのレストを有するダイヤル事象を示している。
【0110】
位置jの各レストでは、以下に従って、ゼロプレイの推定値が得られる。
(14)j=1,...,nについて、
【数23】
式中、nは、レストの総数である。
【0111】
全体的なゼロプレイの推定値は:
【数24】
である。
【0112】
AACは、新しいレスト位置を以下のように推定することで、ゼロプレイバイアスを補正する:
(16)j=1,...,nについて、
【数25】
【0113】
ラチェット、トルクばね、スケールドラム、ピストンロッド、およびリセットチューブの機構から、各レスト位置で、AとBとの間の差がスプリングバック因子であり、したがって、AおよびBが、スケールドラム内のインスリンユニットの同じクリック内になければならないことが知られている。この機械的特性は、「同じクリック内」特性と呼んでもよい。
【0114】
ゼロプレイの補正はこの特性を保持し、すなわち、
【数26】
は、インスリンユニットの同じクリック内にあるべきであり、そうでない場合、
【数27】
の推定値は、有効ではなく、調整されなければならない。
これは、スケールドラム上のユニットマーカに対するレスト点の位置を示す、図20にグラフで示されている。全てのレストについて、
【数28】
の正当な位置は、同じ「間隔」内にある。レスト位置
【数29】
は、正当ではないが、
【数30】
は、正当である。
【0115】
Dをユニットマーカのベクトル
【数31】
とし、レストjを、j=1,...,nについて
【数32】
として定義し、式中、
【数33】
は、(16)からのものである。各レスト位置について、
【数34】
Aj=sgn(DAj)、ならびにSBj=sgn(DBj)とする。符号関数sgnは、以下のように定義される。
【数35】
【0116】
AjおよびSBjは、-1および1のベクトルである。公知の機械的特性のため、SAjおよびSAjにおける0の発生は可能性が低い。
【0117】
AACは、レスト位置の「同じクリック内」特性
【数36】
をチェックし、それに応じて、意図される用量の推定値を補正する。疑似コードについて、以下のように説明する。
【0118】
全てのj=1,...,nについて、関係SBj=SAjは満たされていないが、以下を行う、
【数37】
2.SAj=sgn(DAj)およびSBj=sgn(DBj)、
3.全てのj=1,...,nについて、SBj=SAjは満たされているか?
○はい:ゼロプレイ補正が完了した。推定される実際の用量(度)は、
【数38】
であり、推定されるインスリンユニットは、
【数39】
である。
○いいえ:少なくとも1回のレスト位置があり、SBj≠SAjである。これを補正するために、以下の再帰的手順を実行する:
■各レスト位置について、SBj≠SAjであり、
【数40】
において、
【数41】
を見つけ、これは、SBj=SAjになる。例えば、
【数42】
およびDBj=[-38,-23,-8,7,22,...]は、SAj=[-1,-1,-1,-1,1,...]およびSBj=[-1,-1,-1,1,1,...]をもたらすと仮定する。SAjとSBjを比較することは、
【数43】
がdの後に位置し、すなわち、
【数44】
がdの前に位置し、すなわち、
【数45】
であることを示している。SBj=SAjを満たすために、DAjの-5は、正になるようにシフトアップする必要があり、すなわち、
【数46】
(エンコーダ分解能が1度)を与え、またはDBjの7は、負になるようにシフトダウンする必要があり、すなわち、
【数47】
を与える。したがって、
【数48】
およびΔe=6である。
【数49】
を計算する、ここで、Δe値は、前の工程で計算される。
【数50】
を設定する。
■工程1に進む。
【0119】
要約すると、図21は、注射装置用のアドオンユニットの回転エンコーダからのエンコーダ信号のAAC信号処理の上述の実施形態の概要を示している。
【0120】
上記の装置および方法において、ユーザが設定した用量に基づいて、所与の薬剤送達装置の用量ログを作成するために実装され得る、用量設定機構に対する用量サイズ測定値を提供することが説明されており、これは、排出用量のサイズが測定される配置とは対照的である。
【0121】
実際に、このような測定された設定用量は、薬剤送達装置が意図されたように使用され、処方された使用方法(例えば、排出される用量をセットする、皮下注射針を挿入し、その後、薬剤送達装置を作動して、設定用量を完全に排出する)に対応するときに、その後に排出される(および注射される)用量にのみ対応する。これは推奨される使用方法である可能性があるが、他の使用シナリオが、想定され得、かつ関連性がある場合がある。
【0122】
例えば、より大きな用量を注射する場合、所与の設定用量を例えば2回の注射に分割することが一般的である。こうした使用の状況は、2回の注射と所与の注射の長さとの間の時間量、エンコーダスライダが係合解除および再係合するにつれてエンコーダ電子機器によって提供される必要なタイムスタンプを検出することによって対処され得る。例えば、80ユニットの設定用量について、15秒の第1の外部投薬事象、30秒の一時停止、および15秒の第2の外部投薬事象は、80ユニットの全用量が排出/注射されたと解釈され得る。完全にまたは部分的にリグレットの設定用量の問題に対処するために、エンコーダ電子機器は、「負」の用量、すなわち、ゼロにリセットされる非排出の設定用量を測定するように適合され得る。
【0123】
測定された用量サイズが正しく用量ログに保存されることをさらに確実にするために、各用量事象は、ユーザが所与の用量入力を受け入れる(または修正する)ことを要求し得る。これは、典型的には、装置、例えば、スマートフォン上で、用量事象データを受信する上で行われ得る。
【0124】
別の方法として、測定された設定用量はまた、測定された排出用量と組み合わせて使用することができ、2つの測定値は、実施される測定値の確認を可能にし、潜在的な不具合を検出し、かつ対処することを可能にする。
【0125】
例示的な実施形態の上記の説明では、異なる構成要素について説明された機能を提供する異なる構造および手段を、本発明の概念が当業者にとって明らかである程度まで、説明してきた。異なる構成要素に対する詳細な構築および仕様は、本明細書に記載されるラインに沿って当業者によって実施される通常の設計手順の対象とみなされる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【国際調査報告】