(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】管状の充填床細胞培養容器、そのシステム、および、それに関連する方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580070
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 US2021038801
(87)【国際公開番号】W WO2022005858
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ウェザリル,トッド マーシャル
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB01
4B029CC02
4B029CC11
4B029GA02
4B029GB09
(57)【要約】
細胞培養空間を画定している内部空隙と、細胞培養空間の第1端に流体連通状態に接続されている入口と、細胞培養空間の第2端に流体連通状態に接続されている出口とが設けられているバイオリアクタ容器、および、細胞培養空間内に配備された少なくとも1つの細胞培養部材を備えている細胞培養システムを提示している。細胞培養部材は、細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に伸びている支持部材を包囲している細胞培養基材を含んでいる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養システムは、
細胞培養空間を画定している内部空隙と、細胞培養空間の第1端に流体連絡状態に接続された入口と、細胞培養空間の第2端に流体連絡状態に接続された出口とが設けられているバイオリアクタ容器、および、
細胞培養空間内に配置されている少なくとも1つの細胞培養部材を備えており、該細胞培養部材は細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に伸びている支持部材を包囲している細胞培養基材を含んでおり、
細胞培養基材は、支持部材を包み込む、または、その周りに巻き付けられるシート状の細胞培養基材素材を含んでいる。
【請求項2】
細胞培養空間内に配置されているとともに、細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に整列されている、複数の細胞培養部材を更に備えている、請求項1に記載の細胞培養システム。
【請求項3】
複数の細胞培養部材は細胞培養空間に着脱自在に取付けられていることで、細胞培養システムが細胞培養持続中に多様な個数の細胞培養部材を収容できるように図っている、請求項2に記載の細胞培養システム。
【請求項4】
中央の支持部材は管状であって、中空の芯部を包囲している周壁が設けられており、該周壁には複数の穿孔が設けられており、中央の支持部材の内部をその外部に流体連絡状態に接続している、請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の細胞培養システム。
【請求項5】
中央の支持部材の中空の芯部は入口に流体連絡状態に接続されており、細胞培養システムは、入口から入って、次に中空の芯部を通ってから、複数の穿孔を通過して中央の支持体から半径方向に外に出てから、細胞培養基材を通り抜けて、次に出口を通って外に出る流れを生じる流体流路が設けられている、請求項4に記載の細胞培養システム。
【請求項6】
入口と細胞培養空間とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている入口プレナム部を更に備えている、請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の細胞培養システム。
【請求項7】
入口プレナム部と細胞培養空間の間に配置された有孔入口プレートを更に備えており、有孔入口プレートには複数の穿孔が設けられており、入口プレナム部を中央の支持部材の第1端側の中空の芯部に直接的に流体連絡状態に接続している、請求項6に記載の細胞培養システム。
【請求項8】
細胞培養空間と出口とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている出口プレナム部を更に備えている、請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の細胞培養システム。
【請求項9】
細胞培養空間と出口プレナム部の間に配置された有孔出口プレートをさらに備えており、有孔出口プレートには複数の穿孔が設けられており、中央の支持部材の外側を成している細胞培養空間の一部を出口プレナム部に流体連絡状態に接続している、請求項8に記載の細胞培養システム。
【請求項10】
有孔出口プレートは中央の支持部材の第2端側に取り付けられており、
中空の芯部が中央の支持部材の第2端側で開放されていない状態にすることで、中央の支持部材の第2端側により、中空の芯部が出口プレナム部に直接的に接流連絡状態にならないよう図っている、請求項9に記載の細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は合衆国法典第35編第119条(米国特許法)に基づき、2020年6月20日出願の米国特許仮出願第63/046,080号の優先権を主張するものであるが、斯かる仮出願の内容に依存するとともに、ここで参照することによりその全体が本願の一部を構成しているものとする。
【技術分野】
【0002】
本件開示は、広義には、細胞を培養するための容器およびそのシステム、ならびに、細胞を培養する方法に関するものである。特に、本件開示は、細胞培養容器およびそこに組み込まれた基材、ならびに、そのような容器および基材を使用して細胞を培養する方法に関連している。
【背景技術】
【0003】
バイオプロセス産業では、ホルモン、酵素、抗体、ワクチン、および、細胞療法の産生を目的として、細胞の大規模培養が実施されている。細胞療法および遺伝子治療の市場は急速に成長しており、有望な治療法が臨床試験に移行し、急速に商業化が進みつつある。しかしながら、1回の細胞療法には数十億個の細胞または数兆個のウイルスが必要になることがある。そのため、短時間で大量の細胞産物を提供できることは、臨床的成功にとって重要となる。
【0004】
バイオプロセスで使用される細胞の大部分は足場依存性があるが、その意味するところは、細胞が増殖および機能するために接着する面が必要だということである。従来、接着細胞の培養は、例えば、Tフラスコ、ペトリ皿、細胞工場、細胞積載容器、回転瓶、コーニング社のHYPERStack(登録商標)容器などのような多数の容器型式に組込まれた平面(2D)細胞接着面上で実施されてきた。これらの取組みには重大な欠陥がある恐れがあり、例えば、療法や細胞の大規模産生を実施できるようにするのに十分なだけの細胞密度を達成するのが困難であることなどが挙げられる。
【0005】
培養細胞の体積密度を高めるための代替の数々の方法が既に提案されている。これらの中には、撹拌槽で実施されるマイクロ級微小担体培養が含まれている。この取組みでは、マイクロ級微小担体の表面に付着した細胞は一定の剪断応力を受け、結果として増殖と培養性能に大きな影響を生じる。高密度細胞培養システムのもう1つの例は、中空繊維バイオリアクタであり、この方法では、細胞が間の空いた繊維空間で増殖するにつれて、細胞が大きな立体的凝集体を形成することができる。しかし、細胞の成長と性能は、栄養不足によってひどく阻害される。この問題を軽減するために、これらのバイオリアクタは小さくされて大規模な製造には適さない。
【0006】
足場依存性細胞の高密度培養システムのもう1つの実施例が充填床バイオリアクタシステムである。この種のバイオリアクタでは、接着細胞の付着面を供与するために、細胞基材が使用される。培地はその表面に沿って、または、半多孔性基材を通して灌流されることで、細胞増殖に必要な栄養素と酸素を提供している。例えば、細胞を捕集するための支持部材または基材システムの充填床を含んでいる充填床バイオリアクタシステムが米国特許第4,833,083号、第5,501,971号、および、第5,510,262号に先行開示されている。充填床マトリクスは、通常、基材として多孔質粒子を利用して作成されるか、重合体の不織マイクロファイバを使用して作られる。このようなバイオリアクタは、再循環流入バイオリアクタとして機能する。このようなバイオリアクタの重大な問題の1つが、充填床内の細胞分布の不均一性である。本質的に、これらの充填床は、細胞が主に入口領域に捕集された状態の深部捕集式フィルタとして機能し、接種段階の持続中に或る勾配の細胞分布を生じる結果となる。これに加えて、不揃いな繊維実装のせいで、充填層の断面の流れ抵抗と細胞捕集効率が均一にならない。例えば、培地は、細胞充填密度の低い領域では速く流れ、捕集細胞の数が多いせいで抵抗が大きい領域ほどゆっくりと流れる。これにより、栄養素と酸素がより効率的に体積細胞密度の低い領域に供給されて細胞密度の高い領域が次善の培養条件に維持される、チャネリング効果が生じ生じる。
【0007】
既存の充填床システムのもう 1 つの重大な欠陥は、培養過程の最後に無傷の生細胞を効率的に収穫できないことである。最終生成物が細胞である場合や、バイオリアクタが「播種細胞列」の一部として使用されていて、細胞集団が1個の容器内で増殖してからもう1つ別の容器に移送されてそれ以上の集団増殖を求めるようにした場合は、細胞の収穫は重要となる。米国特許第9,273,278号は、細胞収穫段階の持続中に充填床からの細胞回収効率を向上させるようにしたバイオリアクタ設計を開示している。これは、充填床の基材をほぐして充填層の粒子を掻き混ぜたり撹拌したりすることで、多孔質マトリクスが衝突し合えるようにし、従って、細胞を引き離すことができるようにする処理を基本としている。しかし、この取組みは厄介であり、深刻な細胞損傷を生じる恐れがあり、全体的な細胞生存率を低下させてしまいかねない。
【0008】
目下市場に出ている充填床バイオリアクタの一実施例は、ポール・コーポレーションによって製造されたiCellis(登録商標)である。iCellisは、不織配列で不揃いに配向された繊維からなる細胞基材素材の小片を使用している。これらの小片を容器に詰めることで充填床を作る。但し、市場に出ている類似の改良品がそうであるように、この種の充填床基材には欠陥がある。具体的には、基材小片の不均一な詰込みにより充填床内に目視可能な導水域を幾つも作り、充填床の至る所に優先的だが不均一な培地の流れと栄養素分布を生じてしまうことになる。iCellis(登録商標)の研究で注目したのは、「あらゆる部分に浸透した不均一な分布では、細胞の数が固定床の上から下に向けて増加している」ことは元より、「栄養素の勾配が(中略)細胞増殖と細胞産生の制限につながっている」うえに、これらは皆、「トランスフェクション効率を損なう可能性のある細胞の不均一な分布」をもたらすことになることであった。 (「哺乳動物細胞における組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)の生産性を高めるための合理的なプラスミド設計とバイオプロセスの最適化(Ratiоnal plasmid design and biоprоcess оptimizatiоn tо enhance recоmbinant adenо-assоciated virus(AAV) prоductivity in mammalian cells)」バイオテクノロジー・ジャーナル(Biоtechnоlоgy Jоunal)、第11巻、290頁~297頁)。研究で注目したのは、充填床の撹拌は分散を改善する可能性はあるが、それ以外の欠陥もある点であった (すなわち、「分散を向上させるのに必要な、接種およびトランスフェクションの持続中の撹拌は、剪断応力の増加を誘発し、それが今度は、細胞生存率の低下につながる」出典同上)。もう1つ別の研究ではiCellis(登録商標)について、細胞の不均一な分布によりバイオマスセンサを使用した細胞集団の監視が困難になることを、「(中略)細胞が不均一に分布している場合は、最上層担体上の細胞からのバイオマス信号はバイオリアクタ全体の概要図を示していることにならないだろう。」と言及している(「固定床バイオリアクタでのアデノウイルスベクター産生のプロセス開発:作業台実験から商業規模生産まで(Prоcess Develоpment оf Adenоviral Vectоr Prоductiоn in Fixed Bed Biоreactоr: Frоm Bench tо Cоmmercial Scale)」 ヒト遺伝子治療(Human Gene Therapy)、第26巻、第8号、2015年刊)。
【0009】
これに加えて、基材小片の繊維の不揃いな配置が原因で、また、iCellis(登録商標)の1個の充填床ともう1つ別の充填床と別の充填床との間の小片の詰込み具合のばらつきが原因で、基材が培養ごとに異なってくるせいで、顧客らが細胞培養の性能を予測するのが困難となることがある。更に、 iCellis(登録商標)の充填基材が細胞を効率よく収穫することを極めて困難にしている、または、不可能にしているのは、細胞が充填床により捕集されている思われているせいである。
【0010】
回転瓶には幾つかの利点があり、例えば、扱い易さ、接着面上の細胞を監視する機能などが挙げられる。しかし、生産の観点からは、主な欠点は、回転瓶の構成は大面積の製造床空間を占有するにも関らず、表面積の体積に対する比率が低いことである。回転瓶の型式で接着細胞に利用できる表面積を増やすために、多様な取組みが採用されてきた。改良例によっては市販製品に実装されているものもあるが、回転瓶の生産性を更にもっと向上させるのに改善の余地が残っている。従来、回転瓶はブロー成形プロセスによって単体構造として製造されている。バイオプロセス産業において回転瓶の経済的実現可能性を与えているのは、このような製造の単純さである。細胞培養に利用できる表面積を増やすための回転瓶の修正例によっては製造プロセスを変更せずに達成できるものもあるが、修正例の回転瓶の表面積では僅かな増加しか得られない。それ以外の修正例の回転瓶設計は製造プロセスを大幅に複雑にして、バイオプロセス産業での経済的実現を不可能にしている。よって、回転瓶製造に同じブロー成形プロセスを採用しながらも、回転瓶により広い表面積をもたせてバイオプロセス生産性を高めることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、パイロットラインの開発レベルや生産レベルなどについて、小規模なバイオリアクタから大規模なバイオリアクタに規模拡大できるようにすることも、既存の技術では困難または非効率的であることが証明されている。従って、予測可能で一貫した結果を得ながら、多様な規模で細胞の培養を実施できるようにするシステムや基盤を提供することが望ましい。
【0012】
初期段階の臨床試験用のウイルスベクターの製造は既存の基盤で行えるが、後期段階の商業生産規模に到達するには、高品質の製品をより多く生産することができる基盤が必要となる。
【0013】
高密度の体裁で、細胞分布も均一に、尚且つ、収穫が容易に達成できて収穫高も増量できる細胞培養を行えるようにする細胞培養マトリクス、細胞培養システム、および、細胞培養法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の一実施態様に従って、細胞培養システムを提示している。該システムは、細胞培養空間を画定している内部空隙と、細胞培養空間の第1端に流体連通状態に接続されている入口と、細胞培養空間の第2端に流体連通状態に接続されている出口とが設けられているバイオリアクタ容器を備えている。該システムは、細胞培養空間内に配備された少なくとも1つの細胞培養部材を更に備えている。細胞培養部材は、細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に伸びている支持部材を包囲している細胞培養基材を含んでいる。
【0015】
上記の実施態様の多様な局面によれば、細胞培養システムは、支持部材を包み込む、または、その周りに巻き付けられるシート状の細胞培養基材素材を含んでいる。細胞培養基材は、複数の織り合わされた繊維を含んでいる織物の基材素材から成り、該基材素材には細胞を付着させるよう構成された面が設けられている。該システムは、細胞培養空間内に配置されているとともに細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に整列している複数の細胞培養部材をさらに備えているとよい。この複数の細胞培養部材が細胞培養空間に着脱自在に取付けられるようにすることで、細胞培養システムが細胞培養持続中に多様な個数の細胞培養部材を収容できるように図っている。
【0016】
各実施態様のいくつかの局面によれば、中央の支持部材は管状であり、周囲壁が中空コアを包囲している。周囲壁には複数の穿孔が設けられて、中央の支持部材の内部を中央の支持部材の外部と流体連通状態にしている。中央の支持部材の中空の芯部は入口に流体連通状態に接続されており、細胞培養システムには液体流路が設けられており、入口から入って中空の芯部を通ってから、複数の穿孔を経由して中央の支持部材から半径方向に出た後で、細胞培養基材を抜けてから出口を通って外にでる流れを作っている。
【0017】
該システムには入口プレナム部が更に設けられており、これは入口と細胞培養空間とに流体連通状態に接続されており、入口と細胞培養空間との間に配備されている。実施態様によっては、該システムが、入口プレナム部と細胞培養空間との間に配置された有孔入口プレートを更に備えている場合もある。有孔入口プレートには複数の穿孔が設けられており、入口プレナム部を中央の支持部材の第1端で中空の芯部に直接流体連通状態にしている。該システムには出口プレナム部が更に設けられており、これは細胞培養空間と出口とに流体連通状態に接続されており、細胞培養空間と出口との間に配置されている。細胞培養空間と出口プレナムとの間に有孔出口プレートが配置されていてもよいが、その場合、有孔出口プレートには複数の穿孔が設けられており、中央の支持部材の外側を成している細胞培養空間の一部を出口プレナム部に流体連通状態に接続している。各実施態様の一局面として、中央の支持部材は中央の支持部材の第2端側に取り付けられている。中央の支持部材の第2端側では中空の芯部が開放されていないようにすることで、中央の支持部材の第2端側により、中空の芯部が出口プレナム部と直接的に流体連通状態に接続されることがないよう図っている。
【0018】
上記の各実施態様のもう1つ別な局面として、該システムは、入口プレナム部内に配置された入口マニホールドを更に備えている。入口マニホールドは、入口に流体連通状態に接続されており、流体を入口プレナム全体や有孔入口プレートに均等に分配するように構成されている。出口プレナム内には出口マニホールドを配置するようにしてもよい。出口プレナムは、出口に流体連通状態に接続され、細胞培養空間を出た流体を出口に導くように構成されている。
【0019】
少なくとも1つの細胞培養部材は円筒型の形状を呈していてもよい。各実施態様では、少なくとも1つの細胞培養部材は、細胞培養基材を中央の支持部材に取り付けるための取付け手段を備えている。多様な実施態様において、細胞培養空間はその容積が少なくとも約50mL、少なくとも約100mL、少なくとも約200mL、少なくとも約300mL、少なくとも約500mL、少なくとも約1L、少なくとも約2L、少なくとも約3L、少なくとも約10L、少なくとも約20L、少なくとも約30L、少なくとも約40L、少なくとも約50L、約50mLないし約500mLの範囲、約1Lないし約10Lの範囲、または、約10Lないし約50Lの範囲などである。細胞培養システムは、約7個ないし約130個の細胞培養部材を含んでいてもよい。実施態様によっては、細胞培養基材は、積載物状またはロール状の細胞培養基材の場合もあり、その際は、細胞培養基材の互いに隣り合う層間に他の固体素材を全く含んでいない。
【0020】
本件開示のもう1つ別の実施態様に従って、細胞培養容器を提示している。該容器としてはバイオリアクタ容器が挙げられるが、これには細胞培養空間を画定している内部空隙と、細胞培養空間の第1端に流体連通状態に接続された入口と、細胞培養空間の第2端に流体連通状態に接続された出口とが設けられている。バイオリアクタ容器には、入口と細胞培養空間とに流体連絡状態に接続されているとともにその双方の間に配置されている入口プレナム部、細胞培養空間と出口とに流体連絡状態に接続されているとともにその双方の間に配置されている出口プレナム部、および、入口プレナム部と細胞培養空間の間に配置されているとともに少なくとも1つの穿孔が設けられている有孔入口プレートが更に設けられている。細胞培養空間は、その中に少なくとも1つの細胞培養部材を格納するように構成されており、少なくとも1つの細胞培養部材は、有孔中央管を包囲している多孔性細胞培養基材を有しており、また、少なくとも1つの細胞培養部材が細胞培養空間内に配置されると、有孔入口プレートの少なくとも1つの穿孔は、入口プレナム部を有孔中央管の中空の芯部に直接的に流体連絡状態に接続する。
【0021】
いくつかの実施態様の各局面によれば、バイオリアクタ容器は、細胞培養空間と出口プレナム部の間に配置されている有孔出口プレートを更に備えており、有孔出口プレートには少なくとも1つの穿孔が設けられている。少なくとも1つの細胞培養部材が細胞培養空間内に配置されると、有孔出口プレートの少なくとも1つの穿孔は、有孔中央管の外側を成している細胞培養空間の一部を流体連絡状態にする。有孔出口プレートには、少なくとも1つの細胞培養部材を取り付けるための少なくとも1つの取付け部位が設けられていてもよい。バイオリアクタ容器は、入口プレナム部内に配置されている入口マニホールドを更に備えていてもよいが、入口マニホールドは入口に流体連絡状態に接続されているとともに、入口プレナム部全体や有孔入口プレートに流体を均一に分配するように構成されている。いくつかの実施態様によれば、バイオリアクタ容器は、出口プレナム部内に配置されている出口マニホールドを更に備えており、出口プレナム部は、出口に流体連絡状態に接続されているとともに、細胞培養空間を出た流体を出口に導くように構成されている。細胞培養容器は、多様な数の細胞培養部材のうち何個であれそこに格納した状態で細胞培養の機能をするように構成されている。細胞培養空間はその容積が少なくとも約50mL、少なくとも約100mL、少なくとも約200mL、少なくとも約300mL、少なくとも約500mL、少なくとも約1L、少なくとも約2L、少なくとも約3L、少なくとも約10L、少なくとも約20L、少なくとも約30L、少なくとも約40L、少なくとも約50L、約50mLないし約500mLの範囲、約1Lないし約10Lの範囲、または、約10Lないし約50Lの範囲などであるとよい。実施態様によっては、細胞培養空間は、約7個ないし約130個の細胞培養部材を格納するように構成されているものもある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本件開示の1つ以上の実施態様による、多数の細胞培養部材を容れた細胞培養容器を備えている細胞培養システムの等角図。
【
図2】本件開示の1つ以上の実施態様による、
図1の細胞培養システムの縦断面図。
【
図3】本開示の1つ以上の実施態様による、細胞培養部材の中央の支持部材の一実施例の図。
【
図4】本件開示の1つ以上の実施態様による、中央の支持部材および細胞培養基材素材などを含んでいる細胞培養部材の部分透視等角図。
【
図5】本件開示の1つ以上の実施態様による、バイオリアクタシステムの入口プレナム部および入口マニホールドの詳細図。
【
図6】本件開示の1つ以上の実施態様による、バイオリアクタシステムの出口プレナム部および出口マニホールドの詳細図。
【
図7】本件開示の1つ以上の実施態様による、細胞培養空間に入ってそこを通り抜ける幾つもの流路の詳細図。
【
図8】本件開示の1つ以上の実施態様による、細胞培養空間を通り抜けてそこから外へ出る流路の詳細図。
【
図9】本件開示の1つ以上の実施態様による、入口プレナム部から細胞培養部材へ入る流れベクトルのシミュレーション図。
【
図10】本件開示の1つ以上の実施態様による、細胞培養空間に入ってそこを通り抜ける流路のもう1つ別の詳細図。
【
図11】幾つかの実施態様による、細胞培養空間を通り抜けてそこから外へ出る流路のもう1つ別の詳細図。
【
図12】本件開示のもう1つ別の実施態様による、有孔出口プレートの平面図。
【
図13】本件開示のもう1つ別な実施態様による、細胞培養システムの等角図。
【
図14】本件開示の1つ以上の実施態様による、細胞培養システムを通る流路を示した縦断面図。
【
図15】本件開示の1つ以上の実施態様による、積載配置状態にある多数の容器を示した図。
【
図16】本件開示の1つ以上の実施態様の規模拡大縮小自在性の一実施例として、多様な寸法のバイオリアクタ容器を示した図。
【
図18】1つ以上の実施態様による、細胞培養空間に格納されている複数の細胞培養部材を示すために外側被覆部が除去された状態の
図16の容器の図。
【
図20】
図17ないし
図19の、容積が200mLの容器のモデル化された流れ特性を示した図。
【
図22】1つ以上の実施態様による、例えば、ロール状の細胞培養基材素材の等角図。
【
図23】1つ以上の実施態様による、ロール状に巻いた円筒形状を呈している細胞培養基材を示している図。
【
図24】本件開示の1つ以上の実施態様による、立体的な織物の細胞培養基材の斜視図。
【
図27A】いくつかの実施態様による、第1寸法の細胞培養基材の一実施例を示した図。
【
図27B】いくつかの実施態様による、第2寸法の細胞培養基材の一実施例を示した図。
【
図27C】いくつかの実施態様による、第3寸法の細胞培養基材の一実施例を示した図。
【
図28A】1つ以上の実施態様による、多層式の細胞培養基材の斜視図。
【
図28B】1つ以上の実施態様による、多層式の細胞培養基材の平面図。
【
図29】1つ以上の実施態様による、
図28Bの多層式の細胞培養基材の線B-Bに沿って破断した断面図。
【
図30】1つ以上の実施態様による、細胞培養システムの概略図。
【
図31】1つ以上の実施態様による、細胞培養システムの詳細な概略図。
【
図32】1つ以上の実施態様による、細胞培養システムで細胞を培養するためのプロセスフローチャート。
【
図33】1つ以上の実施態様による、細胞培養システムの灌流流量を制御するための操作を示した図。
【
図34】本件開示の1つ以上の実施態様による、播種細胞列プロセスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本件開示の多様な実施態様を図面があれば図面を参照しながら詳細に説明してゆく。多様な実施態様に言及しても本発明の範囲を限定するものではなく、本発明は本明細書に添付した特許請求の範囲によってのみ限定される。加えて、本明細書中に明示されているどの実施例であれ限定的ではなく、請求項に記載された発明の多数の考えられ得る実施態様のうちのいくつかを明示しているに過ぎない。
【0024】
本件開示の各実施態様は、複数のバイオリアクタ容器および複数の細胞培養基材を備えている細胞培養システム、ならびに、そのような基材およびバイオリアクタシステムを使用して細胞を培養する方法に関するものである。
【0025】
従来の大規模細胞培養バイオリアクタでは、様々な種類の充填床バイオリアクタが使用されてきた。通常、これらの充填床には、接着細胞または浮遊細胞を保持するとともに成長と増殖を支援するための多孔質マトリクスが含まれている。充填床マトリクスは表面積の体積に対する比率を高くしているため、他のシステムよりも細胞密度を高くすることができる。しかし、充填床はしばしば深部捕集式フィルタとして機能し、細胞は基材の繊維に物理的に捕捉されたり絡み付いたりする。従って、充填床を通る細胞接種材料の直線的な流れが原因で、細胞は充填床内で不均一な分布を被り易く、充填床の深さまたは幅によって細胞密度にばらつきが生じることになる。例えば、細胞密度は、バイオリアクタの入口領域ほど高くなり、バイオリアクタの出口に近くなるほど大幅に低くなることがある。充填床内の細胞のこの不均一な分布は、バイオプロセス製造におけるそのようなバイオリアクタの規模拡大縮小自在性と予測可能性を著しく妨げるうえに、単位表面積あたりの、または、単位体積あたりの細胞の増殖効率またはウイルスベクターの産生効率の低下につながりさえする可能性がある。
【0026】
先行技術で開示されている充填床バイオリアクタで遭遇するもう1つ別の問題は、チャネリング効果である。充填された不織繊維の不揃いな性質が原因で、充填床のどの所与の断面の局所的繊維密度も均一ではない。培地は、繊維密度の低い(床透過率は高い) 領域では速く流れ、繊維密度が高い(床透過率は低い) 領域では流れはぐんと遅くなる。その結果である、充填床全体に亘って不均一な培地灌流が、チャネリング効果が生じてしまうが、これは、細胞培養全体とバイオリアクタのパフォーマンスに悪影響を及ぼす深刻な栄養勾配および代謝産物勾配としておのずと現れる。培地の灌流が遅い領域にある細胞は飢え、栄養素の不足や代謝産物中毒が原因で高頻度で死ぬことになりそうである。細胞の収穫は、不織繊維の足場を詰めたバイオリアクタを使用する場合に遭遇する、もう1つ別の問題である。充填床が深部捕集式フィルタとして機能するせいで、細胞培養プロセスの最後に放出された細胞が充填床内に捉われてしまい、細胞の回収率は非常に低くなる。これにより、生細胞を製品とするバイオプロセスにそのようなバイオリアクタを利用することを大幅に制限することになる。従って、不均一性は、流れと剪断への露出が互いに異なる複数の領域を生じる結果となり、使用可能な細胞培養領域を事実上減少させてしまい、不均一な培養を生じる原因となってしまううえに、トランスフェクション効率と細胞放出の妨げとなる。
【0027】
既存の細胞培養溶液の上述の問題やそれ以外の問題に対処するために、本件開示の各実施態様は、細胞培養基材、そのような基材のマトリクス、足場依存性細胞の効率的かつ高収量の細胞培養と細胞産物(例えば、蛋白質、抗体、ウイルス粒子など)の産生とを可能にするような基材を利用した充填床細胞培養容器およびそのシステム、または、それらの各種組合せを提示している。本明細書に記載の細胞培養システムは離散式の細胞培養部材を使用するが、該部材は細胞培養基材と、細胞培養基材の塊の全体に亘って細胞培養培地を分配するのに役立てるようにした流路、液路、または、管類とを備えている。細胞培養部材のこの離散性が、所望の収量の細胞培養または細胞培養産物を達成する目的で単独でまたは多重的に使用することができる定量化可能で均一な1単位分の細胞培養基材をもたらすことで、規模拡張縮小自在で予測可能なシステムを実現できるようにしている。本明細書に開示されている各細胞培養システムの設計により、個々の細胞培養部材が適切かつ均一に播種、培養、収穫、または、この各種組合せ用途を実施できる。
【0028】
細胞培養基材の実施態様としては、均一な細胞播種、均一な培地灌流、均一な栄養灌流はもとより、効率的な細胞収穫を実現できるようにする順序付けされて規則的な配列の多孔性の基材素材から作製された多孔性細胞培養基材が挙げられる。各実施態様はまた、プロセス開発規模から十全な生産量規模まで細胞培養システムの均一な性能を犠牲にすることなく、細胞播種と細胞増殖、細胞産物の収穫、または、その両方を実現できるようにする基材およびバイオリアクタを備えている規模拡大縮小自在な細胞培養の改良を可能にしている。例えば、実施態様によっては、基材の単位表面積(VG/cm2)あたりの規模比較できるウイルスゲノムを産生規模全体に亘って用いる場合、バイオリアクタはプロセス開発規模から製品規模へ容易に規模変更することができるものもある。本明細書の各実施態様の収穫可能性および規模拡大縮小自在性はその両方の性能の利用を、同じ細胞基材上において多重規模で細胞集団を増殖させるようにした効率的な播種列で実現できるようにしている。更に、本明細書の各実施態様は、上記以外の記載の特徴と組み合わせて、高収量の細胞培養の改良を可能にする高表面積を有する細胞培養基材を提示している。実施態様によっては、例えば、本明細書で論じている細胞培養基材、バイオリアクタ、または、その両方は、1回分あたり1016個ないし1018個のウイルスゲノム(VG)を産生することができる。
【0029】
一実施態様では、基材には、接着細胞が付着して増殖するための構造的に画定された表面積が設けられており、これは、集成されて充填床またはそれ以外のバイオリアクタに仕上がった際に、良好な機械的強度を有しているとともに、極めて均一な重複した相互接続流体網を形成する。特定の実施態様では、機械的に安定した非分解性の織物メッシュを基材として使用することで、接着細胞の産生を支援することができる。本明細書で開示している細胞培養基材は、高体積密度形式で足場依存性細胞の付着および増殖を支援している。そのような基材の均一な細胞播種は達成可能であるのは元より、細胞またはそれ以外のバイオリアクタ産物の効率的な収穫も達成可能である。これに加えて、本件開示の各実施態様は、細胞培養を支援することで、接種段階の持続中に均一な細胞分布を供与するとともに、本件開示の基材上で接着細胞のコンフルエントな(それ以上成長の余地の無い密集状態の)単層または多層を達成しようと図っており、また、各実施態様は、栄養拡散を制限するとともに代謝産物濃度を上昇させれることで、大型の、制御不能な、または、その両方の性質を兼備した立体的な細胞凝集塊の形成を回避することができる。従って、基材は、バイオリアクタの動作持続中は拡散制限を排除している。これに加えて、基材は、バイオリアクタからの簡単かつ効率的な細胞収穫を実現できるようにしている。1つ以上の実施態様の構造的に表面積が画定された基材は、バイオリアクタの充填床からの完全な細胞回収および一貫した細胞収穫を実現できるようにしている。本件開示の1つ以上の実施態様による細胞培養基材は、関連する米国特許出願第16/781,685号により十分に説明されており、その全体はここで参照することにより本明細書の一部を構成している。
【0030】
いくつかの実施態様によれば、治療用タンパク質、抗体、ウイルスワクチン、または、ウイルスベクターのバイオプロセス産生用の細胞培養基材を有しているバイオリアクタを使用する細胞培養の方法も提示されている。
【0031】
図1に示すように、本件開示の1つ以上の実施態様による細胞培養システム10は、バイオリアクタ容器11、および、少なくとも1つの細胞培養部材12を備えている。バイオリアクタ容器11には内部空隙が設けられており、ここに細胞培養空間13を画定して、少なくとも1つの細胞培養部材12を格納するよう図っている。細胞培養空間13は細胞培養持続中に多重多様の細胞培養部材12を収容することができる。従って、細胞培養空間13は、所望の用途に叶う適数の細胞培養部材12を収容する寸法に設定されている。しかし、1つ以上の実施態様の一局面は、所望適数の細胞培養部材12をバイオリアクタ容器11に追加する、または、そこから除去することができるようにしている。細胞培養部材12の数におけるこの柔軟性により、所与のバイオリアクタ容器11の収量を規模変更することが実現できる。これに加えて、1つ以上の細胞培養部材12は全部またはその一部を、細胞培養持続中に取り出せるようにすることで、試料採取できるように図っている。試料採取は、多数利用者で各々の培養がどのように進行しているかを知りたい向きには、重要な機能ではある。細胞培養部材12自体には、細胞培養基材14が支持部材15を包囲した状態で設けられており、これについては以下でより詳細に説明する。細胞培養部材12は各々が、細胞培養空間13の第1端18からその第2端19まで伸び広がっているとともに、細胞培養空間13を通り抜ける培地の全般的な流れ方向Fに概ね平行になるよう配置されている。
【0032】
細胞培養空間13は、入口16および出口17に流体連絡状態に接続されている。入口16は、細胞、細胞培養培地、および、細胞栄養素のうちの少なくとも1種類を細胞培養空間に供給するよう構成されており、また、細胞、細胞培養培地、および、細胞栄養素のうちの少なくとも1種類は出口17を経由して細胞培養システム10を出ることができる。更に、細胞副産物または収穫された細胞は、システム設計に応じて、入口16または出口17のいずれかから回収することができる。
図1に示すように、実施態様によっては、バイオリアクタ容器11には、入口16と細胞培養空間13との間に配置された入口プレナム部20が設けられているものもある。入口プレナム部20は、培地が細胞培養空間13に入る前に、バイオリアクタ容器の幅全体に培地を均一に分配するのを支援することができる。このようにして、培地を各細胞培養部材12に均等に分配することができる。培地、細胞、または、その両方の均等な分配を補助する目的で、入口マニホールド21を入口プレナム部20に設けてもよい。入口マニホールド21は入口16に流体連絡状態に接続され、また、多数の互いに離隔した開口部またはコネクタが設けられていることで、入口16から入口プレナム部20または細胞培養空間13の1つ以上の領域に流体を分配するよう図っている。同様に、バイオリアクタ容器11には、細胞培養空間13と出口17との間に配置された出口プレナム部22が更に設けられていてもよい。出口プレナム部22には選択的に出口マニホールド23が設けられていることで、流体、細胞、または、副産物を出口17に向けわせるように図っている。
【0033】
以下で更に詳細に論じてゆくが、バイオリアクタ容器11には有孔入口プレート24および有孔出口プレート25のうち少なくとも一方が更に設けられていてもよく、該プレートが細胞培養空間13を入口プレナム部20および出口プレナム部22それぞれから分離している。有孔入口プレート24および有孔出口プレート25の穿孔は、細胞培養空間13に出入りする両方の流体流れそれぞれに適するように、また、細胞培養部材12を取り付けたり整列させたりするのに適した構成にするとよい。例えば、
図1において、各細胞培養部材12の最上部フランジ26が、有孔出口プレート25の上に載置されているのが見て取れる。
【0034】
図2は、
図1の線A-Aに沿って破断したバイオリアクタ容器11の縦断面図を示している。上述のバイオリアクタ容器11の各部は、
図2の断面図で明確に見て取れる。更に、この断面図は細胞培養部材12のうちの幾つかの断面を露呈しており、細胞培養基材14の内側の支持部材15を露わに見せている。支持部材15はその各々の外壁28に多数の穿孔27が設けられている。これらの穿孔27は、支持部材15の中空の内部空間29からその外部空間30に培地が流動することができるようにしている。図示のように、支持部材15は、有孔出口プレート25を突抜けて張り出して、支持部材15の最上部フランジ26が有孔出口プレート25の上に載置されている部位に達している。任意で、支持部材15は有孔入口プレート24の穿孔にも入り込み、または、該穿孔をも突抜けて張り出すことで、各細胞培養部材を適切に整列させるとともに、入口プレナム部20から細胞培養部材12の内部空間29に培地が流動することができるようにしても構わない。
【0035】
図3および
図4は、細胞培養部材12の各構成部材をより詳細に例示している。特に、
図3は、穿孔27と最上部フランジ26とが設けられた支持部材15を例示している。
図4では、細胞培養基材14が支持部材15を包囲しているのが示されている。任意で、複数のバンド31またはこれ以外の取付け機構を使用して、細胞培養基材14を支持部材15に堅固にすなわち確実に縛り付けるようにしてもよい。最上部フランジ26の上に、整列用棒材33を設けてもよいが、該整列用棒材33を有孔出口プレート25に挿入することで、細胞培養部材12を固定することができる。
【0036】
図5は、入口マニホールド21、入口プレナム部20、または、その両方から細胞培養部材12への流体の流れの詳細図である。特に、支持部材15を有孔入口プレート24に挿入することで、内部空間29を入口プレナム部20と流体連絡状態に接続し、従って、入口16と連絡状態にする。有孔入口プレート24の穿孔は各々が細胞培養部材12の内部空間29と流体連絡状態に接続されていることで、流体の流れ(矢印によって示した)を細胞培養部材12の内部に効率的に誘導するよう図っている。内部空間29および細胞培養空間13内に入ってしまうと、流体は支持部材15の穿孔27を通り抜けて流動し、細胞培養基材14を通って広がることができる。細胞培養基材14を通って流れると同時に、細胞培養部材12相互の間隙32に流体が入ってゆく。
図6に示すように、有孔出口プレート25の穿孔はこの間隙32に対して開いており、培地が細胞培養空間13を出て出口プレナム部22すなわち出口17に向けて流動することができるようにしている。有孔出口プレート25の穿孔のうち或るものは空隙32に対して開いているが、それ以外の穿孔は支持部材15の整列用棒材33を固定するために使用される。各実施態様に従って、最上部フランジ26は内部空間の最上部を封止することで、媒体が支持部材15の上端から流出しないようにするというよりはむしろ、支持部材15の外壁28の穿孔27から半径方向外向きに媒体を誘導するよう図っている。
【0037】
図7および
図8は、流体が支持部材15から細胞培養基材14を通って半径方向外向きに流動する際の流体の流れ(矢印で示した)の別な図を示している。
図9では、この流れのパターンがモデル化されており、流体が細微培養基材14を出て上方向に流動して出口17に向かうまでは、細胞培養基材14を含有している領域を通っている流体の流れは極めて均一であることが示されている。
図10および
図11は、流体が細胞培養基材14を通り抜けて流動するもう1つ別の図を示しているが、ここでは、流体が細胞培養基材を水平方向に通り抜けて流動する代わりに、上向きに傾斜している。流体をこのように誘導することは、穿孔27の設計によって達成することができる。
【0038】
上述のように、有孔出口プレート25には複数の穿孔が設けられており、そのうちの或るものには整列用棒材13が挿入され、また或るものは空隙32から出口プレナム部22へ向かうの流体の流れの経路として作用する。穿孔の配置を
図12に示した。
【0039】
上述の細胞培養システム10の修正実施態様を
図13に示した。特に、細胞培養システム10に類似して、細胞培養システム40はバイオリアクタ容器41および少なくとも1つの細胞培養部材12を備えている。
図13において相違しているのは、バイオリアクタ容器41の出口47がその底部付近に配置されて、細胞培養空間の最上部から出てきた培地がそのまま溢れて細胞培養空間の脇を流れて、細胞培養空間を少なくとも部分的に包囲している溢水空間52に流入してきたのを排液するように位置設定されていることであるが、この場合、培地は溢水空間52に注がれ充満水位53に達する。
図14には、入口16および出口47に流体連絡状態に接続されたポンプ42も示されている。斯くして、ポンプ42は、細胞培養空間を経由して流体を再循環させることができる。先の各図には示されていないが、そのようなポンプを上述の各実施態様を含む本件開示の多数の実施態様で利用できるようにすることが思料されている。
【0040】
前述のように、細胞培養部材のモジュール設計により、細胞培養システムを多用な要件を満たすように規模変更することができる。実施態様によっては、細胞培養システムのもう1つ別の利点が、
図15に示すように、多数のバイオリアクタ容器11を積み重ねることで、比較的小さな設置面積でも細胞培養の収量増大をもたらすことができることであるものもある。
図15の積載物では、入口は各々が別個のポンプで駆動されてもよいし、或いは、各入口が共にマニホールド構成にされてもよい。同様に、各出口も共にマニホールド構成にされてもよいし、或いは、出口の各々が別個の培地調整容器に向かう流れを作ることで、容器階層ごとに媒体調整を行えるようにしてもよい。
【0041】
図16に示したように、容器の寸法、および、これに対応する細胞培養部材の個数も規模拡張縮小自在である。バイオリアクタ容器55は作業容積が、例えば、200mLであってもよいし、バイオリアクタ容器56は容積が3Lであってもよいし、バイオリアクタ容器57は容積が50Lであってもよいと思料される。細胞培養部材12の数のうえでの利点のみならず、バイオリアクタの規模変更についての利点は、例えば、容器の容積を減らすとそこを灌流するのに必要な培地の量も減少することである。しかし、個々の細胞培養部材は同じ様に構築されているうえに構造も均一であるせいで、細胞培養システムの性能は予測可能で尚且つ規模拡張縮小自在である。小さいほうのバイオリアクタ容器55は、
図17、
図18、および、
図19により詳細に示されている。容器55は、最大7個の細胞培養部材12を保持する寸法に設定されているが、それ以外は上記の各実施態様と同様に作動する。
【0042】
バイオリアクタ容器55の流れ挙動の具現化を実施したが、その結果を
図20および
図21に示している。
図20では、流れベクトルは、各細胞培養部材から出てきた、主に半径方向の流れを示している。支持部材の穿孔付近で幾ばくかの速度上昇があるがこれはすぐに消散し、このことは健康な接着細胞を維持するのには有利である。
図21に、入口領域の詳細図を示した。各細胞培養部材への培地の分配は概ね均一であり、細胞、栄養素、および、培地の均等な分散に役立っている。
【0043】
本件開示の実施態様の1つの独特な利点は、複数の細胞培養部材の使用である。複数の細胞培養部材は、1種類または数少ない種類のより大容積に積載した基材素材を使用する各種設計に比べて、より均一な細胞培養と流動場に備えている。この複数の細胞培養部材は、容易に構築できるうえに容器内への配備も簡単である。管状部材という形状は、作業遂行に最適化されているとともに、簡単な方法で大小の寸法に規模変更を実現することができる。
【0044】
細胞培養基材
図22は、ロール状の細胞培養基材素材の一実施例を示している。本明細書で論じているように、好ましい実施態様によっては、基材素材は織物のポリマー素材であってもよい場合もある。しかしながら、各実施態様はこの構成に限定されるものではない。例えば、素材は、3D印刷、射出成形、型押し、非常に小さい線条片の融合、または、上記以外の当技術分野で周知の方法に従って製造することができる。このうち幾つかの方法によっては、基材を平坦なシートとして形成してから巻き上げるとよい場合もある。これに代わる例として、基材は3D印刷などによって立体的な円筒に成形されてもよい。
【0045】
図23は、円筒状ロール350に成形されている基材の実施態様を例示している。例えば、メッシュ基材352から構成されているシート状の基材素材が、中心長軸線yを中心として円筒状に巻かれている。円筒状ロール350は、中心長軸線yに直交する面に沿った幅Wと、中心長軸線yに平行な面に沿った高さHとを有している。1つ以上の好ましい実施態様において、円筒状ロール350は、バイオリアクタ容器内に収まり、その中心長軸線yは円筒状ロールを格納しているバイオリアクタまたは培養チャンバを通り抜ける流体の大規模な流れFの方向と平行になるよう設計されている。実施態様によっては、支持部材に1つ以上の取付け部位を設けることで、円筒状ロールの内側部分で細胞培養基材352の1か所以上の部分を保持することができるようにしたものもある。これらの取付け部位は、フック(鉤状留め具)、クラスプ(鸚鵡嘴状留め金具)、ポスト(棒状固定具)、クランプ(締め固定具)、または、上記以外の手段でメッシュシートを支持部材に取付けるものであるとよい。代替例として、基材は、ロールを包囲した状態の帯部材またはそれ以外の締結具によって締付けるようにしてもよいし、また、有孔入口プレートと有孔出口プレートの一方または両方に取付けるようにしてもよい。
【0046】
細胞培養バイオリアクタで使用される既存の細胞培養基材(すなわち、不規則に並んだ繊維の不織基材)とは対照的に、本件開示の各実施態様は、規定の規則的構造を有する細胞培養基材から構成されている。既定の規則的構造により、一貫した予測可能な細胞培養結果を実現することができる。これに加えて、基材は、細胞の捕集を防いで充填床を通る均一な流れを実現できるようにする開放系多孔質構造である。この構造により、細胞播種、栄養素供給、細胞培養、および、細胞収穫を改善することができる。1つ以上の特定の実施態様によれば、基材は薄いシート状の構成の基材素材を使って形成されているが、該素材の第1面と第2面が比較的小さい厚みで分離されていることで、基材の第1面および第2面の幅、長さ、または、その両方に比べてシートの厚さが薄くなるよう図っている。これに加えて、複数の穴または開口が基材の厚みを貫通して形成されている。開口相互の間の基材素材の寸法と形状は、細胞が基材素材の表面に付着するのに、該表面がまるで平面的な(2次元の)表面であるかのように付着することができるように設定されていると同時に、流体が基材素材の周囲および開口を通り抜けるのに適切な流れを実現できるような寸法と形状に設定されている。実施態様によっては、基材は重合体ベースの素材であり、成形重合体シートとして形成されていてもよいし、厚みを貫いて複数の開口が打ち抜きされた重合体シートとして形成されていてもよいし、融合によりメッシュ状の層を成している多数の線条として形成されていてもよいし、3D印刷基材として形成されていてもよいし、織物加工により1枚のメッシュ層を成している多数の線条として形成されていてもよいものもある。基材の物理的構造は表面の容積に対する比率を大きくすることで、足場依存性細胞を培養することができるようにしている。多様な実施態様によれば、本明細書で論じている或る幾つかの方法で基材をバイオリアクタ内に配置し、または、詰込むことで、均一な細胞播種と培養、均一な培地灌流、および、効率的な細胞収穫を行えるようにすることができる。
【0047】
本件開示の各実施態様は実用的な寸法の各種ウイルスベクター基盤を達成することができ、該基盤が産生することのできるウイルスゲノムは、1回分あたり約1014個を超えるウイルスゲノムの規模、1回分あたり約1015個を超えるウイルスゲノムの規模、1回分あたり約1016個を超えるウイルスゲノムの規模、1回分あたり約1017個を超えるウイルスゲノムの規模、または、1回分あたり約1016以下または約1016を超えるウイルスゲノムの規模である。実施態様によっては、ウイルスゲノム産量は1回分あたり約1015個ないし約1018個またはそれ以上である。例えば、実施態様によっては、ウイルスゲノム収量が1回分あたり約1015個ないし約1016個になるようにすることができるものもあれば、1回分あたり約1016個ないし約1019個になるようにすることができるものもあり、1回分あたり約1016個ないし約1018個、1回分あたり約1017個ないし約1019個、1回分あたり約1018個ないし約1019個、または、1回分あたり約1018個以上になるようにすることができるものもある。
【0048】
これに加えて、本件開示の各実施態様は、細胞培養基材への細胞の付着およびそこへの培養だけでなく、培養細胞の生存可能な収穫も実現できるようにする。生細胞を収穫できないのは現在の基盤の重大な欠陥であり、そのことが、生産能力を上げるのに十分な数の細胞を増やして維持することを困難にしている。本件開示の各実施態様の一局面によれば、細胞培養基材から生細胞を収穫できる見込みとしては、例えば、約80%から約100%の生存率で、約85%から約99%の生存率で、または、約90%から約99%の生存率で実現し得る。例えば、収穫された細胞のうち、少なくとも80%が存続でき、少なくとも85%が存続でき、少なくとも90%が存続でき、少なくとも91%が存続でき、少なくとも92%が存続でき、少なくとも93%が存続でき、少なくとも94%が存続でき、少なくとも95%が存続でき、少なくとも96%が存続でき、少なくとも97%が存続でき、少なくとも98%が存続でき、或いは、少なくとも99%が存続できる。細胞は、例えば、トリプシン、TrypLE(商標)、または、Accutase(商標)を使用して細胞培養基材から放出するようにしてもよい。
【0049】
図24および
図25は、本件開示の1つ以上の実施態様の具体例の細胞培養基材による、細胞培養基材100の三次元(3D)斜視図と二次元(2D)平面図をそれぞれ示している。細胞培養基材100は、第1方向に延びる複数の第1繊維102および第2方向に延びる複数の第2繊維104からなる織物メッシュ層である。基材100の織物繊維は複数の開き目106を形成しており、これらは、1種類以上の幅または直径(例えば、D
1、D
2)によって画定されていてもよい。各開き目の寸法と形状は、織物の種類(例えば、線条の本数、形状、および、寸法、ならびに、交差する線条間の角度など) によって異なっていてもよい。織物メッシュは、広角的には、平面的なシートまたは層と特徴付けられる。しかし、織物メッシュを子細に観察すると、メッシュの交差する各繊維の起伏による立体的構造であることが判る。従って、
図26に示されるように、織物メッシュ100の厚さTは、1本の繊維の太さ(例えば、t
1)より厚くてもよい。本明細書で使用される場合、厚さTは、織物メッシュの第1面108と第2面110の間の最大厚さである。理論に束縛される必要はないが、基材100の立体的構造が有利な理由は、接着細胞を培養するのに備えて大きな表面積が設けられているとともに、メッシュの構造上の剛性により一貫した予測可能な細胞培養基材構造がもたらされており、これが均一な流体の流れを実現することができるからであると思われる。
【0050】
図25では、開き目106の直径D
1は互いに対向する繊維102間の距離と定義され、直径D
2は互いに対向する繊維104間の距離と定義される。D
1とD
2は等しくてもよいし、等しくなくてもよいが、これは織物形状次第で決まる。D
1とD
2が等しくない場合、長い方を長径、短い方を短径と呼称することがある。実施態様によっては、開き目の直径はその最大幅の部分を指していることがある。別段の指定がない限り、本明細書で使用される開き目径は、開き目の互いに対向する辺の互いに平行な繊維間の距離を指すことになる。
【0051】
複数の繊維102のうちの所与の繊維は太さがt
1であるが、複数の繊維104のうちの所与の繊維は太さがt
2である。
図24に示されるような円形横断面またはそれ以外の立体的断面の繊維の場合、太さt
1およびt
2は、繊維横断面の最大径または最大厚さである。実施態様によっては、複数の繊維102がすべて同じ太さt
1であるうえに、複数の繊維104がすべて同じ太さt
2であるものもある。更に、t
1およびt
2は等しくてもよい。しかし、1つ以上の実施態様で、複数の繊維102が複数の繊維104と異なっている場合などは、t
1およびt
2は等しくない。更に、複数の繊維102および複数の繊維104は各々が、2種類以上の異なる太さ (例えば、t
1a、t
1bなど、また、t
2a、t
2bなど)の繊維を含んでいても構わない。各実施態様によると、太さt
1およびt
2は繊維上で培養される細胞の寸法に比べて大きいため、細胞の観点からこれら繊維は平坦面も同然であることから、(例えば、細胞直径の規模で)繊維寸法が小さい他の幾つかの改良例に比べると、より良好な細胞付着と増殖を実現できると推察される。
図24ないし
図26に示されるように、織物メッシュの立体の性質が原因で、細胞付着および増殖に利用できる繊維の二次元表面積は、同等の平坦な二次元表面上の付着に使える表面積を上回っている。
【0052】
1つ以上の実施態様では、繊維は線径が、約50μmないし約1000μmの範囲の場合もあれば、約100μmないし約750μmの範囲の場合もあり、約125μmないし約600μm、約150μmないし約500μm、約200μmないし約400μm、約200μmないし約300μm、または、約150μmないし約300μmの範囲の場合もある。広角的に見て、細胞と比較した繊維規模のせいで (例えば、線維の線径が細胞よりも大きいせいで)、モノフィラメント繊維の表面は、接着細胞が付着して増殖するには平坦面も同然と言える。繊維は、織り加工により、開き目が約100μm×100μmないし約1000μm×1000μmの範囲であるメッシュにすることができる。実施態様によっては、開き目は直径が約50μmないし約1000μmであるものもあれば、約100μないし約750μmであるものもあり、約125μmないし約600μm、約150μmないし約500μm、約200μmないし約400μm、または、約200μmないし約300μmのものもある。線条径および開き目径の上記の範囲は或る幾つかの実施態様の具体例であって、すべての実施態様によるメッシュの考えられる特徴的寸法を限定する意図はない。例えば、細胞培養基材が多数の隣接し合うメッシュ層(例えば、複数の個別層の積載体またはロール状に巻いたメッシュ層)を含んでいる場合などは、繊維の線径と開き目径の組み合わせを選択することで、基材を通り抜ける効率的かつ均一な流体の流れをもたらすように図っている。
【0053】
繊維の線径、開き目径、織物種類、織物パターンなどのような各種の要因によって、細胞の付着と増殖に利用できる表面積が決まる。加えて、細胞培養基材が積載体、ロール、または、これ以外の構成の重複基材から成る場合、細胞培養基材の充填密度が充填床基材の表面積に影響を与えることになる。充填密度は、基材素材の充填厚さ (例えば、一層分の基材に必要な空間) に伴って変動することがある。例えば、細胞培養基材の積載体が或る特定の高さを有している場合、積載体の各層は、積載体の総高さを積載体の層数で除算することによって決まる充填厚さを有していると言える。充填厚さは、繊維の線径と織り方次第で変動することになるが、積載体の隣接し合う各層の列揃え具合によっても異なってくることがある。例えば、織物層の立体の性質が原因で、或る程度の噛み合いや重複が生じてくるが、これを、隣接し合う各層が互いとの列揃えに基づいてうまく調整することができる。例えば、上層の最下点が下層の最上点と直接接触しているような場合などは、最初の列揃えで、隣接し合う各層が共に密に埋もれ合うことがあっても、次の列揃えで、隣接し合う各層の混ざり込みを完全解消することができる。或る特定の用途では、細胞培養基材に複数層を低密度に充填すること (例えば、より高い透過性が優先される場合)や、高密度に充填すること (例えば、基材表面積を最大にすることが優先される場合)が望ましい場合がある。1つ以上の実施態様によれば、充填厚さは約50μmないし約1000μmになるとよいこともあれば、約100μmから約750μmになるとよいこともあり、約125μmないし約600μm、約150μmないし約500μm、約200μmないし約400μm、約200μmないし約300μmになるとよいこともある。
【0054】
上記の構造上の各種要因により、単層の細胞培養基材であろうと複数層の基材が設けられた細胞培養基材であろうと、細胞培養基材の表面積を決定することができる。例えば、特定の実施態様では、円形で直径が6cmの単層の織物メッシュ基材は、約68cm2の有効表面積を有することができる。本明細書で使用される「有効表面積」とは、細胞の付着および増殖に利用できる基材素材の一部における繊維の全表面積のことである。別途の明言が無い限り、「表面積」への言及は、この有効表面積を指す。1つ以上の実施態様によれば、直径が6cmの織物メッシュ基材の単層はその有効表面積が約50cm2ないし約90cm2のこともあれば、約53cm2ないし約81cm2のこともあり、約68cm2、約75cm2、または、約81cm2のこともある。有効表面積のこのような範囲は具体例としてのみ提示されているのであって、実施態様によってはこれらと異なる有効表面積を有している場合もある。細胞培養基材は多孔性の点で特徴づけることもできる。
【0055】
基材メッシュはモノフィラメント繊維またはマルチフィラメント繊維の、細胞培養の各種応用例で適合性のある各種の重合体素材から作製されているとよいが、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール、ポリ(プロピレンオキシド)などが挙げられる。メッシュ基材には多様なパターンまたは多様な織物があり、例えば、編み物、縦編み、または、織物(例えば、平織、綾織、畳織、5本針織)などがある。
【0056】
メッシュ線条の界面化学は、望ましい細胞接着特性を提供するために修正する必要があるかもしれない。このような修正は、メッシュの重合体素材の化学処理によって行われてもよいし、線条表面に細胞接着分子を接合することによって行われてもよい。代替案として、細胞接着特性を示す生体適合性ヒドロゲルの薄層、例えば、コラーゲンまたはMatrigel(登録商標)などの薄層で、メッシュを被膜してもよい。これに代わる例として、業界では周知の多様な種類のプラズマ、プロセスガス、化学薬品、または、これらの各種組合せを用いた処理プロセスにより、メッシュの線条繊維の表面に細胞接着特性を与えるようにしてもよい。しかし、1つ以上の実施態様で、メッシュは、表面処理を施さずとも、効率的な細胞増殖界面を準備することができる。
【0057】
図27A、
図27B、および、
図27Cは、本件開示のかねてよりの熟慮の成果たる各実施態様による織物メッシュの多様な実施例を示している。これらのメッシュの繊維の線径と開き目寸法を後段の表1に概略的にまとめたうえに、比較対象となる平面的な表面に比べて、それぞれのメッシュの単層によって供与される細胞培養表面積の増加の凡その大きさも同様に付記している。表1において、メッシュAは
図27Aのメッシュを指し、メッシュBは
図27Bのメッシュを指し、メッシュCは
図27Cのメッシュを指す。表1の3種のメッシュ形状は具体例にすぎず、これら特定の実施例に本件開示の各実施態様は限定されるものではない。メッシュCが最大の表面積を供与しているゆえに、これが高密度の細胞接着および増殖を達成するのに有利であって、細胞培養に最も効率的な基材を供与していると推察される。しかしながら、実施態様によっては、メッシュAまたはメッシュB、もしくは、多様な表面積の複数メッシュの組み合わせなどのような、表面積がより小さいメッシュから細胞培養基材を構成することで、培養チャンバ内に所望の細胞分布や所望の流れ特性などを達成するのが有利となることもある。
【0058】
【0059】
上の表に示されているように、メッシュの立体の属性により、比較対象となる平坦な平面の表面と比べて、細胞接着および細胞増殖のための表面積を増大させている。この増大した表面積は、本件開示の各実施態様によって達成される規模拡大縮小自在な性能の支援となる。プロセス開発およびプロセス検証研究では、試薬経費を節約するとともに実験処理量を増大させるのに、小規模なバイオリアクタが必要になることが多い。本件開示の各実施態様は、そのような小規模な各種研究に適用可能であるが、工業規模または生産規模に規模拡大することも同様に可能である。例えば、直径2.2cmの円形を呈している100層のメッシュCが内径2.2cmの円筒状充填床に詰め込まれていると仮定すると、細胞が付着して増殖するのに利用できる総表面積は、約935cm2に等しくなる。このようなバイオリアクタを10倍に規模拡大するとすれば、内径7cmの円筒状充填床と100層分の同じメッシュの、上記によく似た一式を使用することができる。この場合、総表面積は9,350m2に等しくなる。実施態様によっては、利用可能な表面積が約99,000cm2/L以上であるものもある。充填床における栓流式の灌流流れのおかげで、規模縮小版バイオリアクタと規模拡大版バイオリアクタの両方で、充填床横断面の表面積の単位ml/分/cm2で表される同じ流速を採用することができる。同様に、本件開示の各種細胞培養システムにおいては、細胞培養部材の長さと数を変動させることで、利用可能な表面積を調整することができる。また、それと同じ目的で、所与の細胞培養部材上の基材の量(例えば、細胞培養基材のロールの太さ)を変更するようにしても構わないと思料される。表面積が大きいほど、播種密度が高くなるとともに細胞増殖密度も高くなる。1つ以上の実施態様によれば、本明細書に記載の細胞培養基材は、細胞数22,000個/cm2以上もの細胞播種密度を示した。参考までに、コーニング社(Cоrning)のHyperFlask(登録商標)の播種密度は、平面表面上で細胞数20,000個/cm2程度である。
【0060】
表面積をより広くして細胞播種密度または細胞増殖密度を高めることのもう1つ別の利点は、本件開示の各実施態様の経費を競合する改良案と同じかまたはそれより低くすることができる点である。特に、細胞生産物あたり(例えば、細胞あたり、または、ウイルスゲノムあたり)の経費は、他の充填床バイオリアクタに等しいか、それらより低くすることができる。
【0061】
以下で論じる本開示のさらなる実施態様では、織物メッシュ基材は、バイオリアクタ内で円筒状のロール形式で詰め込むことができる。そのような実施態様では、充填床バイオリアクタの規模拡大縮小自在性は (巻かれていない)メッシュス片の全長、その幅(例えば、ロールの高さ)、または、その両方を増大させることによって達成することができる。この円筒状ロール構成で使用されるメッシュの量は、充填床の所望の充填密度に基づいて変動させてもよい。例えば、円筒状ロールは密に詰めて締まったロールにしてもよいし、緩く詰めて緩いロールにしてもよい。充填の密度は、所与の適用例または規模に必要な、細胞培養基材の所要表面積によって決まることが多い。或る実施態様では、メッシュの所要長さは、次の式を使用して、充填床バイオリアクタの直径から算定することができる。
【0062】
【0063】
ここで、Lはバイオリアクタを充填するのに必要なメッシュの全長 (すなわち、
図34のH)、Rは充填床培養チャンバの内径、rはメッシュ巻きあげる中心となる内部支持部材の半径、tはメッシュの1 層の厚さである。そのような構成では、バイオリアクタの規模拡大縮小自在性は、充填床円筒状ロールの直径または幅(すなわち、
図34のW)を増大させること、充填床円筒状ロールの高さHを増加させること、従って、接着細胞の播種用または増殖用により広い基材表面積を提供すること、または、その各種組合せを実施することによって達成することができる。
【0064】
十分な剛性の構造的に規定された培養基材を使用することにより、高い流路抵抗についての、基材または充填床の全体に亘る均一性が達成される。多様な実施態様に従って、基材は単層形式に配備されてもよいし、多層形式に配備されてもよい。この自在性により、拡散の制限が排除され、基材に付着した細胞に栄養素と酸素が均一に供給される。これに加えて、開放系の基材には充填床構成の細胞捕集領域が皆無であり、培養の最後に高い生存率で細胞収穫を完了することができるようにしている。この基材はまた、充填床の詰込みの均一性をもたらすうえに、プロセス開発ユニットから大規模な産業用バイオプロセスユニットへの直接的な規模拡大性を実現できるようにする。充填床から細胞を直接収穫できるため、攪拌した容器または機械的にシェイクした容器で基材を懸濁し直す必要がなくなるが、これが必要であると複雑さを増し、細胞に有害な剪断応力を与える恐れがある。更に、細胞培養基材の高い充填密度により、工業規模で管理可能な容積で高いバイオプロセス生産性をもたらす。
【0065】
図28Aは、多層の基材200から構成されている細胞培養基材の一実施態様を示しており、
図28Bは、同じ多層基材200の平面図である。多層基材200は、第1メッシュ基材層202および第2メッシュ基材層204を含んでいる。第1基材層202と第2基材層204が重複しているにもかかわらず、メッシュ形状(例えば、開き目径の繊維の線径に対する比率)は、第1基材層202の開き目と第2基材層204の開き目が重複して多層基材200の総厚さを流体が通り抜ける流路を設けるような態様になっているが、これは、
図28Bの線条を含まない開き目206によって示されているとおりである。このように重複する多層の基材は、本明細書に記載の細胞培養部材の場合のように、別個の複数片の基材素材から構成されていてもよいし、或いは、単体片の基材素材が重畳されたり巻き上げられたりして構成されていてもよい。
【0066】
図29は、
図28Bの線B-Bで破断された多層基材200の横断面図を示している。矢印208は、第2基材層204の開き目を通り抜けてから第1基材層202の線条を巡る、起こり得る流体流路を示している。メッシュ基材層の形状は、1つ以上の基材層を通り抜けて効率的かつ均一な流れを実現できるように設計されている。更に、基材200の構造は、多数の配向で基材を通る流体の流れに適応することができる。例えば、
図29に示すように、流体の大きな流れの方向(矢印208で示す)は、第1基材層202および第2基材層204の主要面に直交している。しかし、この流れに対する基材の配向は、基材層の主要面が流体の大きな流れの方向に平行となるように設定されていても構わない。
【0067】
本件開示の各実施態様に従って、細胞培養基材の均一な開放系の構造に少なくとも部分的に起因して、該基材を通り抜ける培地・細胞・栄養素・その他の本来的に等方性の流れを示す細胞培養基材を提示してゆく。これと対照的に、この挙動を既存のバイオリアクタの接着細胞の各種基材は示さず、その代わり、これらバイオリアクタはその充填床が優先的な流路を作成する傾向があるとともに、基材素材が異方性の透過性を示す傾向にある。本件開示の基材の自在性により、該基材を多様な応用例やバイオリアクタ設計すなわち容器設計で使用することができるようになる一方で、バイオリアクタ容器全体においてより良好でより均一な透過性を実現できるようにしている。
【0068】
実施態様に関連して、市場で入手できる各種の細胞培養システムで使用されている典型的な不織基材は約7.5×10-12m2という遥かに低い透過性を示し、これは本件開示の各実施態様による目の粗い基材、織物基材、または、目の粗い織物基材の全体に亘る透過性の約1/50であると推察される。例えば、不織基材素材を切断して複数の小片にしてから不揃いに詰込んだ場合、透過性は大幅に増加し、目の粗い織物メッシュと同程度にすることができる。しかしながら、この透過性の増加は、上述のチャネリング効果により、流れがメッシュ片の周りを大部分迂回した結果であると考えられる。言い換えれば、他の充填床の透過性を高めると、均一性が犠牲になる可能性がある。
【0069】
目の粗い織物メッシュの場合、その開放系の構造により、流体がメッシュを容易に通り抜けることができたうえに、目の粗いメッシュ層の背後に不通域が作られていなかった。織物メッシュの規則的な構造も、基材素材の各層を通る均一な流れの分配に寄与したと考えられる。このことにより、今度は、充填床全体でより均一な流れを実現することができる。
【0070】
透過性および滞留時間の実験は、現在のバイオリアクタで使用されてるタイプの不織の不規則な細胞培養基材が本開示の実施態様による基材よりも透過性が低いことを示した。これら不織基材または不規則基材はまた、該基材に対する流れの方向に応じて異なる透過性や異なる流量を呈するが、本開示の基材は本来的に等方性の流れ挙動を示す。不織基材は流れが不均一で滞留時間が短いせいで、本件開示の幾つかの実施態様の開放系の均一な基材と比較して、栄養素とトランスフェクション試薬が基材表面または基材層の裏側の細胞に到達するのに長く時間がかかる場合がある。これに加えて、不揃いに詰め込まれた不織基材の高い透過性の問題があり、これは強力なチャネリング効果を示唆しており、従って、細胞や栄養素の不均一な供給を示唆している。
【0071】
培養システム
図30は、1つまたは複数の実施態様による細胞培養システム400を示している。システム400は、本件開示の1つ以上の実施態様による細胞培養部材を格納しているバイオリアクタ402を備えている。バイオリアクタ402は、培地調整容器404に流体連絡状態に接続することができ、システム400は、調整容器404内の細胞培養培地406をバイオリアクタ402に供給することができる。培地調整容器404は各種のセンサ類と制御構成部材を備えており、例えば、各種の溶存酸素(DO)センサ、pHセンサ、酸素供給器または気体散布器、温度探針、栄養添加ポート、塩基添加ポートなどが挙げられるが、これらに限定されない。気体散布器に供給される気体混合物は、N
2ガス、O
2ガス、および、CO
2ガスの気体流コントローラによって制御することができる。培地調整容器404は、媒体混合用の羽根車(図示せず)も備えている。先に列挙したセンサ類によって測定された全ての培地パラメータは培地調整制御装置418によって制御されるが、該装置は培地調整容器404と通信状態にあって、細胞培養培地406の状況を測定し、所望レベルに調節し、または、その両方を実施することができる。
図30に示されるように、培地調整容器404は、バイオリアクタ容器402とは別の容器として設けられている。このことは、細胞が培養されているところとは別所の培地を調整してから調整済み培地を細胞培養空間に供給することができるという点で有利である。しかし、実施態様によっては、培地調整は、バイオリアクタ容器402内の、例えば、容器内の入口プレナム部かそれ以外の区画内などで実施することができる。
【0072】
調整容器404からの培地406は入口408を経由してバイオリアクタ402に供給され、入口408には細胞接種材料の注入ポートが設けられていることで、細胞を播種して細胞の培養を開始するようにしてもよい。バイオリアクタ容器402には1つ以上の出口410が設けられており、そこを経由して細胞培養培地406が容器402を出るようにしてもよい。更に、細胞または細胞産生物は、出口410、入口408、または、その両方を経由して外に出すようにしてもよい。バイオリアクタ402からの流出物の内容物を解析する目的で、1つ以上のセンサ412がラインに設けられているとよい。実施態様によっては、システム400は、バイオリアクタ402に入る流れを制御するための流量制御装置414を備えている。例えば、流量制御装置414は1つ以上のセンサ412(例えば、O2センサ)から信号を受信し、この信号に基づいてバイオリアクタ402に入る流れを調節するが、調節は、バイオリアクタ402に至る入口408の上流側にあるポンプ416(例えば、蠕動ポンプ)に信号を送ることによって実施することができる。斯くして、センサ412によって測定された各要因のうち1つまたは或る組合せに基づいて、ポンプ416はバイオリアクタ402に入る流れを制御することで、所望の細胞培養条件を得ることができる。
【0073】
培地灌流速度は信号処理装置414によって制御されるが、該装置は培地調整容器404から、また、充填床バイオリアクタ出口410に設置された各種センサからセンサ信号を収集して比較する。充填床バイオリアクタ402を通り抜ける培地灌流の圧縮流れの性質が原因で、栄養素、pH、および、酸素の各勾配は充填床に沿って発生する。バイオリアクタの灌流流量は、
図44のフローチャートに従って、蠕動ポンプ416に動作可能に接続された流量制御装置414によって自動制御することができる。
【0074】
図31は、1つ以上の実施態様による細胞培養システム420のより詳細な概略図を示す。システム420の基本的な構造は、
図30のシステム400と同様であるが、充填床バイオリアクタ422はその容器にPET織物メッシュなどのような細胞培養基材素材を用いた1つ以上の細胞培養部材が容れてあり、これとは別個の培地調整容器424が設けられている。しかしながら、システム400とは対照的に、システム420が示しているシステム細部には、各種センサ類、ユーザインターフェイスおよび各種制御装置類、ならびに、培地と細胞の様々な入口および出口が含まれている。実施態様によっては、培地調整容器424はコントローラ426により制御されることで、適温、適切なpH、適切なO
2、および、適切な栄養素を供給するよう図っているものもある。実施態様によっては、バイオリアクタ422がコントローラ426により制御されるものもあるが、それ以外の実施態様では、バイオリアクタ422は別個の灌流回路428に設けられており、ポンプを使用して、バイオリアクタ422の出口またはその付近のO
2検出結果に基づいて灌流回路428を通る培地の流速を制御する。
【0075】
図30および
図31のシステムは、1つ以上の実施態様による各処理工程に従って操作することができる。
図32に示すように、これらの処理工程には、処理準備工程(S1)、細胞播種工程(S2a)および細胞接着工程(S2b)、細胞増殖工程(S3)、トランスフェクション (S4)、ウイルスベクター産生工程(S5a、S5b)、ならびに、細胞放出工程(S6a)および細胞収穫工程(S6b)が含まれているとよい。
【0076】
図33は、
図30または
図31のシステム400などのような灌流バイオリアクタシステムの流れを制御するための方法450の一実施例を示している。方法450によれば、システム400の或る特定の複数パラメータが工程S21でバイオリアクタの最適化実行によって予め決定される。これらの最適化実行から、pH
1、pO
1、[glucоse]
1([グルコース]
1)、pH
2、pO
2、[glucоse]
2([グルコース]
2)、および、最大流量の各値を決定することができる。 pH
1、pO
1、[glucоse]
1の各値は、工程S22でバイオリアクタ402の細胞培養チャンバ内で測定され、pH
2、pO
2、および、[glucоse]
2の各値は、工程S23でバイオリアクタ容器402の出口でセンサ412によって測定される。工程S22および工程S23におけるこれらの値に基づいて灌流ポンプ制御装置が工程S24で判定を行うことで、灌流流量を維持または調整するように図っている。例えば、
【0077】
の各条件のうち少なくとも1つを満足していれば、細胞培養チャンバに向かう細胞培養培地の灌流流量は現在の流量で継続されてもよい(S25)。現在の流量が細胞培養システムの所定の最大流量以下である場合は、灌流流量が加速される(S27)。更に、現在の流量が細胞培養システムの所定の最大流量以下でない場合、細胞培養システムのコントローラは、
【0078】
の各条件のうち少なくとも1つを評価し直すことができる(S26)。
【0079】
本明細書で使用されている「細胞培養チャンバ」または「画定された(規定の)培養空間」というような表現は、細胞培養部材によって占有された培養チャンバ内の空間であって、細胞播種、細胞培養、または、その両方が行われる空間を指している。画定された(規定の)培養空間は、培養チャンバのほぼ全体に広がっていることもあれば、或いは、培養チャンバ内の空間の一部を占めているだけの場合もある。本明細書で使用される場合、「大きな流れの方向」は、細胞の培養中、培養培地が培養チャンバに流入持続中または流出持続中、もしくは、その各種組合せ操作の持続中に、細胞培養基材を通り抜けたりそこを超えた向こう側に至る大容量の流体または培養培地の方向と定義される。
【0080】
バイオリアクタ容器は、入口手段、出口手段、または、その両方の手段に取り付けることができる1つ以上の出口を選択的に備えている。この1つ以上の出口を経由して、液体、培地、または、細胞をチャンバに供給したりそこから除去したりできる。容器内の単一ポートが入口と出口の両方として機能するようにしてもよいし、多数ポートが入口専用と出口専用に設けられているようにしてもよい。
【0081】
1つ以上の実施態様の充填床細胞培養基材は、そこに何であれそれ以外の形態の細胞培養基材を全く配備または組入れしていない織物細胞培養メッシュ基材から構成されているようにするとよい。すなわち、本件開示の各実施態様の織物細胞培養メッシュ基材は、既存の溶液で使用されるタイプの不規則な不織基材を必要としなくとも、有効な細胞培養基材なのである。これにより、単純化された設計および構造の細胞培養システムが実現できるようになると同時に、高密度の細胞培養基材に、流れの均一性、収穫可能性などに関連して本明細書で論じている他の利点が備わっている。実施態様によっては、細胞培養部材はその巻き上げロール式または積載多層式の細胞培養基材が多層状細胞培養基材を創出しており、それ以外の固相素材(例えば、間座、それ以外の細胞培養素材、または、その両方の各種組合せ)が隣接し合う層間に全く配置されないものもある。
【0082】
本明細書で論じてきたように、各種の細胞培養基材およびバイオリアクタシステムは、準備されれば、無数の利点を提示する。例えば、本件開示の各実施態様は、アデノ随伴ウイルス(AAVの全ての血清型)やレンチウイルスなどの多数のウイルスベクターのいずれかの産生を支援することができるうえに、生体内と生体外における遺伝子治療用途に適用することができる。均一な細胞播種と細胞分布により容器あたりのウイルスベクターの収量が最大になるとともに、これらの設計により生細胞の収穫が実現できるようになり、これは、同一基盤を使用して多重的な細胞増殖期間からなる播種列を設定するのに役立てることができる。これに加えて、本明細書の各実施態様は、プロセス開発規模から生産規模まで規模拡大自在であり、最終的には開発時間と経費を節約することとなる。本明細書に開示されている各種の方法およびシステムは、細胞培養プロセスの自動化および制御を実現できるようにすることで、ベクター収量を最大化するとともに再現性を向上させてもいる。最後に、ウイルスベクター産生レベルの規模 (例えば、1回分あたり1016個ないし1018個のアデノ随伴ウイルスのウイルスゲノム)に達するのに必要な容器の個数は、他の細胞培養改良案と比較して大幅に削減することができる。
【0083】
本件開示の各実施態様は、細胞培養およびウイルスベクター産生のための既存の基盤に優る利点を有している。本件開示の各実施態様が、例えば、接着細胞または半接着細胞やヒト胎児腎臓(HEK)の細胞(HEK23など)などに、核酸物質・蛋白質導入細胞と、レンチウイルス(幹細胞、CAR-T)やアデノ随伴ウイルス(AAV)などのようなウイルスベクターなども含めて、多くの種類の細胞および細胞副産物の産生に利用することができる点に注目するべきである。これらは本件に開示されているようなバイオリアクタや細胞培養基材の幾つかの一般的な適用例であるが、開示された実施態様の用途や応用例に制限を加えることを意図するものではなく、当業者であれば、各実施態様を上記以外の複数の用途に適用できることを理解するだろう。
【0084】
上述のように、本件開示の各実施態様の1つの利点は、細胞培養基材を通り抜ける流れの均一性である。理論に拘束される必要は無いが、細胞培養基材の規則的または均一な構造が、培地が流れることができる一貫した均一な実体をもたらしていると考えられる。これとは対照的に、既存の基盤は、主に、フェルト状または不織繊維素材などのような不規則または不揃いな基材に依存している。
【0085】
具体例
例1
表2は、或る幾つかの実施態様の具体例の基材を示しており、各基材は多様な構造のポリエチレンテレフタレート(PET)の織物メッシュで作られている。
【0086】
【0087】
例2
本明細書で説明するように、本件開示の各実施態様は、規模拡大縮小自在であるとともに細胞集団を逓増させるように細胞播種列を設定する目的で利用することができる、各種の細胞培養基材、バイオリアクタシステム、および、細胞または細胞副産物を培養する方法を提示している。既存の細胞培養改良案の問題の1つは、所与のバイオリアクタシステム技術を播種列の一部に組入れることができないことである。その代わりに、細胞集団は、通例、多様な細胞培養基材で規模拡大される。これは細胞集団に悪影響を与える可能性があるが、というのも、細胞が或る特定の表面に順応しても、異なるタイプの表面に移されると効率が低下してしまう恐れがあるように思われるからである。斯くして、或る細胞培養基材から別な基材へ、または、或る細胞培養技術から別な記述へそのように移行するのを最小限に抑えることが望ましい。本件開示の各実施態様によって実現することができるように、播種列の全体に亘って同じ細胞培養基材を使用することによって、細胞集団の規模拡大の効率が向上する。
図34は、小さいバイオリアクタが大きいバイオリアクタに播種することを可能にするために、本願の織物細胞培養基材が播種列の一部として使用される1つ以上の実施態様の一例を示している。特に、
図34に示しているように、播種列はバイアル1本分の始動細胞で始まり、これが第1容器(例えば、コーニング社(Cоrning)から入手できるT175フラスコなど)内に播種されてから、第2容器(例えば、コーニング社のHyperFlask(登録商標)など)に播種され、次いで、本発明の実施態様によるプロセス開発規模のバイオリアクタシステム(基材の有効表面積が約20,000cm
2)に播種されてから、次に、本発明の実施態様によるより大きなバイオリアクタパイロットシステム(基材の有効表面積が約300,000cm
2)に播種される。この播種列の最後には、細胞は、本開示の実施態様に従って、例えば約5,000,000cm
2の表面積を有する生産規模のバイオリアクタ容器に播種することができる。細胞培養が完了したら、収穫と精製の各工程を実施するとよい。
図34に示すように、収穫は界面活性剤 (例えば、Tritоn X-100など) を使用した原位置(in situ)細胞溶解により、または、機械的溶解により達成することができるが、必要に応じて、そこより下流側での処理を実行してもよい。
【0088】
播種列の範囲内で(例えば、プロセス開発レベルからパイロットレベルまで、または、更に進んで生産レベルまでの範囲内で)同じ細胞培養基材を使用する利点としては、播種列段階と産生段階の持続中に細胞が同じ表面に慣れていることから得られる効率、播種列段階持続中の手動による容器開放時操作の数が少なくて済むこと、本明細書で既に説明したように、均一な細胞分布と均一な流体流れに起因して充填床がより効率的に使用できること、ウイルスベクターの収穫持続中に機械的溶解を採用してもよいし化学的溶解を採用してもよいという自在性などが挙げられる。
【0089】
具体的な実装例
以下は、開示された主題の実装例の多様な局面の説明である。各局面は、開示された主題の様々な特徴、特性、または、利点のうちの1つ以上を含んでいることがある。各実装例は、開示された主題のいくつかの局面を例示することを意図しており、すべての考えられ得る実装例の包括的または網羅的な説明と見なすべきではない。
【0090】
局面1は細胞培養システムに関連しており、該システムは、細胞培養空間を画定している内部空隙と、細胞培養空間の第1端に流体連絡状態に接続された入口と、細胞培養空間の第2端に流体連絡状態に接続された出口とが設けられているバイオリアクタ容器、および、細胞培養空間内に配置されている少なくとも1つの細胞培養部材を備えており、該細胞培養部材は細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に伸びている支持部材を包囲している細胞培養基材を含んでいる。
【0091】
局面2は局面1の細胞培養システムに関連しており、細胞培養基材は、支持部材を包み込む、または、その周りに巻き付けられるシート状の細胞培養基材素材を含んでいる。
【0092】
局面3は局面1または局面2の細胞培養システムに関連しており、細胞培養基材は、細胞を接着させるように構成された表面が設けられた複数の織り合わせた繊維を含んでいる織物基材素材から成る。
【0093】
局面4は局面1から局面3のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、該システムは、細胞培養空間内に配置されているとともに、細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に整列されている、複数の細胞培養部材を更に備えている。
【0094】
局面5は局面4の細胞培養システムに関連しており、複数の細胞培養部材は細胞培養空間に着脱自在に取付けられていることで、細胞培養システムが細胞培養持続中に多様な個数の細胞培養部材を収容できるように図っている。
【0095】
局面6は局面1から局面5のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、中央の支持部材は管状であって、中空の芯部を包囲している周壁が設けられており、該周壁には複数の穿孔が設けられており、中央の支持部材の内部をその外部に流体連絡状態に接続している。
【0096】
局面7は局面6の細胞培養システムに関連しており、中央の支持部材の中空の芯部は入口に流体連絡状態に接続されており、細胞培養システムは、入口から入って、次に中空の芯部を通ってから、複数の穿孔を通過して中央の支持体から半径方向に外に出てから、細胞培養基材を通り抜けて、次に出口を通って外に出る流れを生じる流体流路が設けられている。
【0097】
局面8は局面1から局面7のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、該システムは、入口と細胞培養空間とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている入口プレナム部を更に備えている。
【0098】
局面9は局面8の細胞培養システムに関連しており、該システムは、入口プレナム部と細胞培養空間の間に配置された有孔入口プレートを更に備えており、有孔入口プレートには複数の穿孔が設けられており、入口プレナム部を中央の支持部材の第1端側の中空の芯部に直接的に流体連絡状態に接続している。
【0099】
局面10は局面1から局面9のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、該システムは、細胞培養空間と出口とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている出口プレナム部を更に備えている。
【0100】
局面11は局面10の細胞培養システムに関連しており、該システムは、細胞培養空間と出口プレナム部の間に配置された有孔出口プレートをさらに備えており、有孔出口プレートには複数の穿孔が設けられており、中央の支持部材の外側を成している細胞培養空間の一部を出口プレナム部に流体連絡状態に接続している。
【0101】
局面12は局面11の細胞培養システムに関連しており、中央の支持部材は中央の支持部材の第2端側に取り付けられている。
【0102】
局面13は局面12の細胞培養システムに関連しており、中空の芯部が中央の支持部材の第2端側で開放されていない状態にすることで、中央の支持部材の第2端側により、中空の芯部が出口プレナム部に直接的に接流連絡状態にならないよう図っている。
【0103】
局面14は局面8から局面13のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、該システムは、入口プレナム部に配置されている入口マニホールドを更に備えており、入口マニホールドは、入口に流体連絡状態に接続されているとともに、流体を入口プレナム部の全体に均一に分配するように、または、有孔入口プレートに均一に分配するように構成されている。
【0104】
局面15は局面10から局面14のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、該システムは、出口プレナム部に配置されている出口マニホールドを更に備えており、出口プレナム部は、出口に流体連絡状態に接続されているとともに、細胞培養空間を出た流体を出口に導くように構成されている。
【0105】
局面16は局面1から局面15のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、少なくとも1つの細胞培養部材は円筒の形状を呈している。
【0106】
局面17は局面1から局面16のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、少なくとも1つの細胞培養部材は、細胞培養基材を中央の支持部材に取り付けるための取付け手段を備えている。
【0107】
局面18は局面1から局面17のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、細胞培養空間は容積が少なくとも約50mL、少なくとも約100mL、少なくとも約200mL、少なくとも約300mL、少なくとも約500mL、少なくとも約1L、少なくとも約2L、少なくとも約3L、少なくとも約10L、少なくとも約20L、少なくとも約30L、少なくとも約40L、少なくとも約50L、約50mLないし約500mLの範囲、約1Lないし約10Lの範囲、または、約10Lないし約50Lの範囲である。
【0108】
局面19は局面1から局面18のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、該システムは、約7個ないし約130個の細胞培養部材を備えている。
【0109】
局面20は局面1から局面19のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、細胞培養基材は積載物状またはロール状の細胞培養基材素材から構成されており、細胞培養基材の隣接し合う層間には何であれ該素材以外の固相素材を含んでいない。
【0110】
局面21は細胞培養システムに関連しており、該システムは、細胞培養空間を画定している内部空隙と、細胞培養空間の第1端に流体連絡状態に接続された入口と、細胞培養空間の第2端に流体連絡状態に接続された出口とが設けられているバイオリアクタ容器、入口と細胞培養空間とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている入口プレナム部、細胞培養空間と出口とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている出口プレナム部、および、入口プレナム部と細胞培養空間の間に配置された有孔入口プレートを備えており、有孔入口プレートには少なくとも1つの穿孔が設けられており、細胞培養空間はその内部に少なくとも1つの細胞培養部材を格納するよう構成されており、少なくとも1つの細胞培養部材は、有孔中央管を包囲している多孔性細胞培養基材を有しており、また、少なくとも1つの細胞培養部材が細胞培養空間内に配置されると、有孔入口プレートの少なくとも1つの穿孔は、入口プレナム部を有孔中央管の中空の芯部に直接的に流体連絡状態に接続する。
【0111】
局面22は局面21の細胞培養システムに関連しており、該システムは、細胞培養空間と出口プレナム部の間に配置されている有孔出口プレートを更に備えており、有孔出口プレートには少なくとも1つの穿孔が設けられており、少なくとも1つの細胞培養部材が細胞培養空間内に配置されると、有孔出口プレートの少なくとも1つの穿孔は、有孔中央管の外側を成している細胞培養空間の一部を流体連絡状態にする。
【0112】
局面23は局面22の細胞培養システムに関連しており、有孔出口プレートには、少なくとも1つの細胞培養部材を取り付けるための少なくとも1つの取付け部位が設けられている。
【0113】
局面24は局面21から局面23のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、該システムは、入口プレナム部内に配置されている入口マニホールドを更に備えており、入口マニホールドは入口に流体連絡状態に接続されているとともに、流体を入口プレナム部全体に均一に分配するよう、または、有孔入口プレートに均一に分配するように構成されている。
【0114】
局面25は局面22から局面24のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、該システムは、出口プレナム部内に配置されている出口マニホールドを更に備えており、出口プレナム部は、出口に流体連絡状態に接続されているとともに、細胞培養空間を出た流体を出口に導くように構成されている。
【0115】
局面26は局面21から局面25のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、細胞培養容器は、多様な数の細胞培養部材のうち何個であれそこに格納した状態で細胞培養の機能をするように構成されている。
【0116】
局面27は局面21から局面26のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、細胞培養空間はその容積が少なくとも約50mL、少なくとも約100mL、少なくとも約200mL、少なくとも約300mL、少なくとも約500mL、少なくとも約1L、少なくとも約2L、少なくとも約3L、少なくとも約10L、少なくとも約20L、少なくとも約30L、少なくとも約40L、少なくとも約50L、約50mLないし約500mLの範囲、約1Lないし約10Lの範囲、または、約10Lないし約50Lの範囲である。
【0117】
局面28は局面21から局面27のいずれか1つの細胞培養システムに関連しており、細胞培養空間は、約7個ないし約130個の細胞培養部材を格納するように構成されている。
【0118】
局面29は局面1から局面20のいずれか1つの細胞培養システムを利用して細胞または細胞産物を培養する方法に関連している。
【0119】
局面30は局面29の方法に関連しており、該方法は、細胞培養システムを設ける工程、細胞培養基材上に細胞を播種する工程、細胞培養システムに培養培地を流して細胞を培養する工程、および、細胞を培養する該工程の産物を収穫する工程を含んでいる。
【0120】
局面31は局面30の方法に関連しており、細胞培養システムに細胞培養培地を流す工程は、入口を経由して細胞培養空間に細胞培養培地を流入させる工程、入口から支持部材の内部に細胞培養培地を流動させる工程、支持部材の内部から細胞培養基材を通り抜けて細胞培養部材の外側の細胞培養空間の一部へ外向き半径方向に細胞培養培地を流動させる工程、および、細胞培養空間の一部から出口を経由して細胞培養培地を流出させる工程を含んでいる。
【0121】
局面32は局面29から局面31のいずれか1つの方法に関連しており、細胞を培養する工程の産物を採取する工程は、1回分あたり約1014個を超えるウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1015個を超えるウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1016個を超えるウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1017個を超えるウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1016以下または約1016を超えるウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1015個ないし約1018個のウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1015個ないし約1016個のウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1016個ないし約1019個のウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1016個ないし約1018個のウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1017個ないし約1019個のウイルスゲノムを収穫すること、1回分あたり約1018個ないし約1019個のウイルスゲノムを収穫すること、または、1回分あたり約1018個以上のウイルスゲノムを収穫することを含んでいる。
【0122】
定義
「完全に合成の(whоlly synthetic)」または「十分に合成の(fully synthetic)」とは、全部が合成原料で構成されているうえに動物由来材料または原料が動物の素材を一切含まない、マイクロ級微細担体または培養容器表面などのような細胞培養製品を指している。開示された完全に合成の細胞培養製品は、異種汚染のリスクを排除している。
【0123】
「含む・含んでいる・備えている・から構成されている(includeまたはincludes)」もしくはこれらと同様の用語は、包括的であるがこれに限定されない、すなわち、包摂的であるが排他的ではないことを意味している。
【0124】
「ユーザ・使用者(users)」とは、本件開示の各種のシステム、方法、物品、または、キットを使用する者を指しており、本明細書の各実施態様に従って、細胞または細胞産物を収穫する目的で細胞を培養している者や、培養され、収穫され、または、培養収穫された細胞または細胞産物を利用している者を含んでいる。
【0125】
本件開示の各実施態様を説明する際に採用されている、例えば、組成物中の或る成分の量、濃度、容量、処理温度、処理時間、収量、流量、圧力、粘度、それらに類する各値またはその範囲や、或る構成要素の寸法、それに類する各値またはその範囲を修飾している「約・およそ(abоut)」は、例えば、各種の素材、組成物、合成物、濃縮物、成分、製造品、使用製剤などを準備するために利用される典型的な測定手順と取扱い手順を通じて起こり得る数量の変化、そのような手順における不慮の誤りにより起こり得る数量のばらつき、上記の各方法を実行するために使用される各種の始動物質または材料の製造、供給源、または、純度の違いにより起こり得る数量のばらつき、および、これに類する事項により起こり得る数量のばらつきを指している。「約・およそ」という用語はまた、特定の初期濃度または混合物を有する組成物または製剤の経年変化に起因して変動する量、および、特定の初期濃度または混合物を有する組成物または製剤を混合または加工したことに起因して変動する量を包摂している。
【0126】
「任意の・選択的な(оptiоnal)」または「任意で・選択的に(оptiоnally)」は、その後に記述された事象または状況が起こるかもしれないし、起こらないかもしれないことを意味し、また、その記述にその事象または状況が発生する場合と発生しない場合が含まれていることを意味している。。
【0127】
本明細書で使用される不定冠詞「或る・或る種の・1つの(aまたはan)」およびそれに対応する定冠詞「その・該(the)」は、別段の指定がない限り、少なくとも1つ、すなわち、1つ以上を意味している。
【0128】
当業者に周知の略語を使用していることもある(例えば、1時間を表す「h」または2時間以上を表す「hrs」、グラム数を表す「g」または「gm」、ミリリットルを表す「mL」、室温の「rt」、ナノメートルの「nm」、および、これらに類する短縮形)。
【0129】
各種の構成要素、成分、添加物、寸法、条件、および、これらに類する態様について開示された特定の好ましい各値やそれらの範囲は具体例にすぎず、それとは異なる限定値や、限定範囲内の別な値を排除するものではない。本件開示の各種のシステム、キット、および、方法は、そのような各種の値、特定の値、より具体的な値や、本明細書に記載された好ましい値のうちのどの値を含んでいてもよいし、それらのどのような組合せを含んでいてもよく、例えば、明示的中間値や暗示的中間値とそれらの各種の範囲を含んでいても構わない。
【0130】
別段はっきりと言明していない限り、本明細書に明示されたどの方法も、その各工程が特定の順序で実施されることを要件とすると解釈されるべきであるとの意図は決して無い。従て、方法の請求項がその各工程が踏襲するべき順序を実際に述べていない場合、または、各工程が特定の順序に限定されるべきであることが各請求項または明細書で特に述べられていない場合、何であれ特定の順序をほのめかす意図は決して無い。
【0131】
開示された実施態様の真髄または範囲から逸脱することなく、様々な修正および変形を行うことができることは、当業者には明らかであろう。各実施態様の真髄および本質を組み込んだ開示の各実施態様の各種の修正、組合せ、副次的組合せ、および、変形例が当業者には思い浮かぶと推察されるので、開示された各実施態様は、添付の特許請求の範囲の各請求項とそれらの均等物の範囲に入るあらゆる事物を含むと解釈するべきである。
【0132】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0133】
実施形態1
細胞培養システムは、
細胞培養空間を画定している内部空隙と、細胞培養空間の第1端に流体連絡状態に接続された入口と、細胞培養空間の第2端に流体連絡状態に接続された出口とが設けられているバイオリアクタ容器、および、
細胞培養空間内に配置されている少なくとも1つの細胞培養部材を備えており、該細胞培養部材は細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に伸びている支持部材を包囲している細胞培養基材を含んでいる。
【0134】
実施形態2
細胞培養基材は、支持部材を包み込む、または、その周りに巻き付けられるシート状の細胞培養基材素材を含んでいる、実施形態1の細胞培養システム。
【0135】
実施形態3
細胞培養基材は、細胞を接着させるように構成された表面が設けられた複数の織り合わせた繊維を含んでいる織物基材素材から成る、実施形態1または実施形態2の細胞培養システム。
【0136】
実施形態4
細胞培養空間内に配置されているとともに、細胞培養空間の第1端から第2端に向かう方向に整列されている、複数の細胞培養部材を更に備えている、実施形態1から実施形態3のいずれか1つの細胞培養システム。
【0137】
実施形態5
複数の細胞培養部材は細胞培養空間に着脱自在に取付けられていることで、細胞培養システムが細胞培養持続中に多様な個数の細胞培養部材を収容できるように図っている、実施形態4の細胞培養システム。
【0138】
実施形態6
中央の支持部材は管状であって、中空の芯部を包囲している周壁が設けられており、該周壁には複数の穿孔が設けられており、中央の支持部材の内部をその外部に流体連絡状態に接続している、実施形態1から実施形態5のいずれか1つの細胞培養システム。
【0139】
実施形態7
中央の支持部材の中空の芯部は入口に流体連絡状態に接続されており、細胞培養システムは、入口から入って、次に中空の芯部を通ってから、複数の穿孔を通過して中央の支持体から半径方向に外に出てから、細胞培養基材を通り抜けて、次に出口を通って外に出る流れを生じる流体流路が設けられている、実施形態6の細胞培養システム。
【0140】
実施形態8
入口と細胞培養空間とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている入口プレナム部を更に備えている、実施形態1から実施形態7のいずれか1つの細胞培養システム。
【0141】
実施形態9
入口プレナム部と細胞培養空間の間に配置された有孔入口プレートを更に備えており、有孔入口プレートには複数の穿孔が設けられており、入口プレナム部を中央の支持部材の第1端側の中空の芯部に直接的に流体連絡状態に接続している、実施形態8の細胞培養システム。
【0142】
実施形態10
細胞培養空間と出口とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている出口プレナム部を更に備えている、実施形態1から実施形態9のいずれか1つの細胞培養システム。
【0143】
実施形態11
細胞培養空間と出口プレナム部の間に配置された有孔出口プレートをさらに備えており、有孔出口プレートには複数の穿孔が設けられており、中央の支持部材の外側を成している細胞培養空間の一部を出口プレナム部に流体連絡状態に接続している、実施形態10の細胞培養システム。
【0144】
実施形態12
中央の支持部材は中央の支持部材の第2端側に取り付けられている、実施形態11の細胞培養システム。
【0145】
実施形態13
中空の芯部が中央の支持部材の第2端側で開放されていない状態にすることで、中央の支持部材の第2端側により、中空の芯部が出口プレナム部に直接的に接流連絡状態にならないよう図っている、実施形態12の細胞培養システム。
【0146】
実施形態14
入口プレナム部に配置されている入口マニホールドを更に備えており、入口マニホールドは、入口に流体連絡状態に接続されているとともに、流体を入口プレナム部の全体に均一に分配するように、または、有孔入口プレートに均一に分配するように構成されている、実施形態8から実施形態13のいずれか1つの細胞培養システム。
【0147】
実施形態15
出口プレナム部に配置されている出口マニホールドを更に備えており、出口プレナム部は、出口に流体連絡状態に接続されているとともに、細胞培養空間を出た流体を出口に導くように構成されている、実施形態10から実施形態14のいずれか1つの細胞培養システム。
【0148】
実施形態16
少なくとも1つの細胞培養部材は円筒の形状を呈している、実施形態1から実施形態15のいずれか1つの細胞培養システム。
【0149】
実施形態17
少なくとも1つの細胞培養部材は、細胞培養基材を中央の支持部材に取り付けるための取付け手段を備えている、実施形態1から実施形態16のいずれか1つの細胞培養システム。
【0150】
実施形態18
細胞培養空間は容積が少なくとも約50mL、少なくとも約100mL、少なくとも約200mL、少なくとも約300mL、少なくとも約500mL、少なくとも約1L、少なくとも約2L、少なくとも約3L、少なくとも約10L、少なくとも約20L、少なくとも約30L、少なくとも約40L、少なくとも約50L、約50mLないし約500mLの範囲、約1Lないし約10Lの範囲、または、約10Lないし約50Lの範囲である、実施形態1から実施形態17のいずれか1つの細胞培養システム。
【0151】
実施形態19
約7個ないし約130個の細胞培養部材を備えている、実施形態1から実施形態18のいずれか1つの細胞培養システム。
【0152】
実施形態20
細胞培養基材は積載物状またはロール状の細胞培養基材素材から構成されており、細胞培養基材の隣接し合う層間には何であれ該素材以外の固相素材を含んでいない、実施形態1から実施形態19のいずれか1つの細胞培養システム。
【0153】
実施形態21
細胞培養システムは、
細胞培養空間を画定している内部空隙と、細胞培養空間の第1端に流体連絡状態に接続された入口と、細胞培養空間の第2端に流体連絡状態に接続された出口とが設けられているバイオリアクタ容器、
入口と細胞培養空間とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている入口プレナム部、細胞培養空間と出口とに流体連絡状態に接続されているとともにその間に配置されている出口プレナム部、および、
入口プレナム部と細胞培養空間の間に配置された有孔入口プレートを備えており、有孔入口プレートには少なくとも1つの穿孔が設けられており、
細胞培養空間はその内部に少なくとも1つの細胞培養部材を格納するよう構成されており、少なくとも1つの細胞培養部材は、有孔中央管を包囲している多孔性細胞培養基材を有しており、また、少なくとも1つの細胞培養部材が細胞培養空間内に配置されると、有孔入口プレートの少なくとも1つの穿孔は、入口プレナム部を有孔中央管の中空の芯部に直接的に流体連絡状態に接続する。
【0154】
実施形態22
細胞培養空間と出口プレナム部の間に配置されている有孔出口プレートを更に備えており、有孔出口プレートには少なくとも1つの穿孔が設けられており、
少なくとも1つの細胞培養部材が細胞培養空間内に配置されると、有孔出口プレートの少なくとも1つの穿孔は、有孔中央管の外側を成している細胞培養空間の一部を流体連絡状態にする、実施形態21の細胞培養システム。
【0155】
実施形態23
有孔出口プレートには、少なくとも1つの細胞培養部材を取り付けるための少なくとも1つの取付け部位が設けられている、実施形態22の細胞培養システム。
【0156】
実施形態24
入口プレナム部内に配置されている入口マニホールドを更に備えており、入口マニホールドは入口に流体連絡状態に接続されているとともに、流体を入口プレナム部全体に均一に分配するよう、または、有孔入口プレートに均一に分配するように構成されている、実施形態21から実施形態23のいずれか1つの細胞培養システム。
【0157】
実施形態25
出口プレナム部内に配置されている出口マニホールドを更に備えており、出口プレナム部は、出口に流体連絡状態に接続されているとともに、細胞培養空間を出た流体を出口に導くように構成されている、実施形態22から実施形態24のいずれか1つの細胞培養システム。
【0158】
実施形態26
細胞培養容器は、多様な数の細胞培養部材のうち何個であれそこに格納した状態で細胞培養の機能をするように構成されている、実施形態21から実施形態25のいずれか1つの細胞培養システム。
【0159】
実施形態27
細胞培養空間はその容積が少なくとも約50mL、少なくとも約100mL、少なくとも約200mL、少なくとも約300mL、少なくとも約500mL、少なくとも約1L、少なくとも約2L、少なくとも約3L、少なくとも約10L、少なくとも約20L、少なくとも約30L、少なくとも約40L、少なくとも約50L、約50mLないし約500mLの範囲、約1Lないし約10Lの範囲、または、約10Lないし約50Lの範囲である、実施形態21から実施形態26のいずれか1つの細胞培養システム。
【0160】
実施形態28
細胞培養空間は、約7個ないし約130個の細胞培養部材を格納するように構成されている、実施形態21から実施形態27のいずれか1つの細胞培養システム。
【0161】
実施形態29
実施形態1から実施形態20のいずれか1つの細胞培養システムを利用して細胞または細胞産物を培養する方法に関連している。
【0162】
実施形態30
細胞培養システムを設ける工程、
細胞培養基材上に細胞を播種する工程、
細胞培養システムに培養培地を流して細胞を培養する工程、および、
細胞を培養する該工程の産物を収穫する工程を含んでいる、実施形態29の方法。
【符号の説明】
【0163】
10 細胞培養システム
11 バイオリアクタ容器
12 細胞培養部材
13 細胞培養空間
14 細胞培養基材
15 支持部材
16 入口
17 出口
20 入口プレナム部
21 入口マニホールド
22 出口プレナム部
23 出口マニホールド
24 有孔入口プレート
25 有孔出口プレート
26 最上部フランジ
【国際調査報告】