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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】プロトンフローリアクタシステム
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/04 20210101AFI20230724BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20230724BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230724BHJP
   C25B 9/40 20210101ALI20230724BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20230724BHJP
   C25B 11/037 20210101ALI20230724BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20230724BHJP
   C25B 11/043 20210101ALI20230724BHJP
   C25B 5/00 20060101ALI20230724BHJP
   C25B 9/70 20210101ALI20230724BHJP
   C25B 11/033 20210101ALI20230724BHJP
【FI】
C25B1/04
H01M8/18
C25B9/00 A
C25B9/40
C25B1/02
C25B11/037
C25B11/031
C25B11/043
C25B5/00
C25B9/00 H
C25B9/70
C25B11/033
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022580250
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(85)【翻訳文提出日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 AU2021050670
(87)【国際公開番号】W WO2021258157
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】2020902128
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506018639
【氏名又は名称】ロイヤル・メルボルン・インスティテュート・オブ・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】ROYAL MELBOURNE INSTITUTE OF TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100217836
【弁理士】
【氏名又は名称】合田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、アンドリューズ
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー、ローゼンガーテン
(72)【発明者】
【氏名】サイード、モハマド、レゼイ、ニヤ
(72)【発明者】
【氏名】シャヒン、ヘイダリ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ、デュトワ
(72)【発明者】
【氏名】バーマン、シャバーニ
(72)【発明者】
【氏名】ルチカ、オージャー
(72)【発明者】
【氏名】アリレザ、ヘイダリアン
(72)【発明者】
【氏名】サイード、セイフ、モハンマディ
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA16
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA15
4K021DB11
4K021DB18
4K021DB31
4K021DC03
5H126BB06
5H126BB08
5H126GG05
5H126GG06
5H126GG19
5H126HH01
5H126HH03
5H126HH08
5H126JJ01
5H126JJ04
5H126JJ05
5H126RR01
(57)【要約】
本発明は、エネルギーを貯蔵および放出するために使用されるプロトンフローリアクタに関する。使用において、液体電解質中の貯蔵粒子からなるスラリーが、プロトンフローリアクタの第1ハーフセルを通過し得る。プロトンフローリアクタが帯電モードである場合、プロトンが貯蔵粒子に結合する、または引き付けられ、水素を帯びた帯電貯蔵粒子が形成される。次いで、水素を帯びた帯電貯蔵粒子は、後の使用のために貯蔵および/または移送され得る。プロトンフローリアクタが放電モードである場合、プロトンを帯電貯蔵粒子から取り出して電気化学反応に供して電気を発生させる。代替的に、放電モードにおけるプロトンフローリアクタは、流入した帯電炭素粒子から直接的に水素ガスを発生させるように構成され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギーを化学エネルギーとして貯蔵する方法であって、
非帯電貯蔵粒子と電解質とを含む入力スラリーを、電気化学セルの第1ハーフセルに供給するステップと、
+またはH+イオンの供給源を、前記電気化学セルの第2ハーフセルに供給するステップと、
前記電気化学セルに電圧を印加して、H+またはH+イオンを前記第2ハーフセルから前記第1ハーフセルに移動させて、前記非帯電貯蔵粒子を帯電貯蔵粒子に変換するステップと、
帯電貯蔵粒子と電解質とを含む出力スラリーを、前記第1ハーフセルから取り出すステップと、
を備える方法。
【請求項2】
前記非帯電貯蔵粒子は、
(A)高い電気伝導性、
(B)0.5~5ミクロンの平均直径、
(C)20%~50%の範囲の気孔率、
(D)0.5~2ナノメートル(nm)の直径を有する実質的な「超微細孔」、または0.5~2nmの層間間隔を有する実質的な層状ドメイン、
(E)2~50nmの直径または幅を有するメソ細孔、
(F)0.5~8wt%の電気化学的水素貯蔵能力、
の特性のうちの1以上を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非帯電貯蔵粒子は、請求項2に列記した前記特性(A)~(F)の各々を有する、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記非帯電貯蔵粒子は、炭素粒子を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素粒子は、活性炭、グラフェン、酸素で官能化されたグラフェン、窒素で官能化されたグラフェンまたは窒素をドープされたグラフェン、黒鉛状炭素窒化物、グラフェンエアロゲル、またはカーボンナノチューブのうちの1以上の材料から主に形成された粒子から選択される、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素粒子は、フェノール樹脂に由来するとともに水酸化カリウムで活性化された粒子を含む、
請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記入力スラリーは、5~35%(w/w)、選択的に5~15%(w/w)または15~35%(w/w)の非帯電貯蔵粒子を含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2ハーフセルに供給されるH+またはH+イオンの前記供給源は、水である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1ハーフセルの外部で非帯電貯蔵粒子と電解質とを混合して前記入力スラリーを形成するステップと、
混合した前記入力スラリーを前記第1ハーフセルに供給するステップと、
を備える請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記出力スラリーを前記第1ハーフセルから取り出すステップの後に、前記出力スラリーにおいて帯電貯蔵粒子を電解質から分離するステップ、
をさらに備える請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
帯電貯蔵粒子を電解質から分離する前記ステップは、前記帯電貯蔵粒子を前記電解質から、選択的に移動フィルタリング膜を使用して、フィルタリングするステップを備える、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
帯電貯蔵粒子を電解質から分離する前記ステップは、前記帯電貯蔵粒子を乾燥させるステップを備える、
請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記帯電貯蔵粒子を乾燥させる前記ステップは、不活性ガスを前記帯電貯蔵粒子に適用するステップを備える、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記帯電貯蔵粒子を電解質から分離するステップの後に、前記帯電貯蔵粒子を貯蔵する、
請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記帯電貯蔵粒子を貯蔵する前記ステップにおいて、前記帯電貯蔵粒子を不活性雰囲中に貯蔵する、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
電気を発生させる方法であって、
帯電貯蔵粒子と電解質とを含む入力スラリーを、電気化学セルの第1ハーフセルに供給するステップと、
酸化剤流を前記電気化学セルの第2ハーフセルに供給するステップと、
+またはH+イオンを前記第1ハーフセルから移動させて、前記第2ハーフセル内で前記酸化剤と反応させることで電気を発生させるステップと、
非帯電貯蔵粒子と電解質とを含む出力スラリーを、前記第1ハーフセルから取り出すステップと、
を備える方法。
【請求項17】
前記帯電貯蔵粒子は、
(A)高い電気伝導性、
(B)0.5~5ミクロンの平均直径、
(C)20%~50%の範囲の気孔率、
(D)0.5~2ナノメートル(nm)の直径を有する実質的な「超微細孔」、または0.5~2nmの層間間隔を有する実質的な層状ドメイン、
(E)2~50nmの直径または幅を有するメソ細孔、
(F)0.5~8wt%の電気化学的水素貯蔵能力、
の特性のうちの1以上を有する、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記帯電貯蔵粒子は、請求項17に列記した前記特性(A)~(F)のすべてを有する、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記帯電貯蔵粒子は、炭素粒子を含む、
請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記炭素粒子は、活性炭、グラフェン、酸素で官能化されたグラフェン、窒素で官能化されたグラフェンまたは窒素をドープされたグラフェン、黒鉛状炭素窒化物、グラフェンエアロゲル、またはカーボンナノチューブのうちの1以上の材料から主に形成された粒子から選択される、
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記炭素粒子は、フェノール樹脂に由来するとともに水酸化カリウムで活性化された粒子を含む、
請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記入力スラリーは、5~35(w/w)、選択的に5~15%(w/w)または15~35%(w/w)の非帯電貯蔵粒子を含む、
請求項16~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記帯電貯蔵粒子は、請求項1~15のいずれか一項に従って製造され処理されたものである、
請求項16から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記第2ハーフセルに供給される前記酸化剤流は、酸素ガスを含む、
請求項16~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記第2ハーフセルに供給される前記酸化剤流は、空気である、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
電気を発生させながら前記セルを加熱するステップを備える、
請求項16~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第1ハーフセルの外部で帯電貯蔵粒子と電解質とを混合して前記入力スラリーを形成するステップと、
混合した前記入力スラリーを前記第1ハーフセルに供給するステップと、
を備える請求項16~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記出力スラリーを前記第1ハーフセルから取り出すステップの後に、非帯電貯蔵粒子を電解質から分離するステップ、
をさらに備える請求項16~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
非帯電貯蔵粒子を電解質から分離する前記ステップは、前記非帯電貯蔵粒子を乾燥させるステップを備える、
請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記非帯電貯蔵粒子を電解質から分離するステップの後に、前記非帯電貯蔵粒子を貯蔵するステップを備える、
請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記電気化学セルは、前記第1ハーフセルと前記第2ハーフセルとを分離するプロトン交換膜を備え、前記プロトン交換膜は、選択的に、テトラフルオロエチレン系フルオロポリマー-コポリマーから実質的に形成された層を備える、
請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記入力スラリーを前記電気化学セルに供給する前記ステップと前記出力スラリーを前記電気化学セルから取り出す前記ステップとは、連続プロセスとして実施される、
請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記入力スラリーを前記電気化学セルに供給する前記ステップと前記出力スラリーを前記電気化学セルから取り出す前記ステップとは、バッチ式プロセスとして実施される、
請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記電解質は、水溶液中の鉱酸、イオン液体、水溶液中のイオン液体、水溶液中の有機酸、またはそれらの組み合わせから選択される、
請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
直列に配置した複数の電気化学セルを通して前記入力スラリーを処理することで、前記出力スラリーを生成するステップを備える、
請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記入力スラリーを、並列に配置された複数の電気化学セルを通して処理することで前記出力スラリーを生成するステップであって、選択的に複数の前記電気化学セルがスタックに配置されているステップを備える、
請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記帯電貯蔵粒子は、平均で少なくとも0.5wt%の捕捉された水素、選択的に1.0~7.5wt%の捕捉された水素を含む、
請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
請求項1~15または請求項31~37のいずれか一項に記載の方法に従って生成された帯電貯蔵粒子。
【請求項39】
請求項38に記載の帯電貯蔵粒子と電解質とを含むスラリー。
【請求項40】
前記帯電貯蔵粒子は、不活性雰囲気中に貯蔵される、
請求項38に記載の帯電貯蔵粒子。
【請求項41】
請求項16~34のいずれか一項に記載の方法に従って処理された非帯電貯蔵粒子。
【請求項42】
請求項41に記載の非帯電貯蔵粒子と電解質とを含むスラリー。
【請求項43】
水素ガスを発生させる方法であって、
帯電貯蔵粒子と電解質とを含む入力スラリーを、電気化学セルの第1ハーフセルに供給するステップと、
前記第2ハーフセル内に実質的に酸化剤が存在しない、または最小限の酸化剤しか存在しないことを保証しつつ、H+またはH+イオンを前記第1ハーフセルから移動させるステップと、
前記第2ハーフセルにおいて水素ガスの発生を開始するステップと、
水素ガスを含む出力流を前記第2ハーフセルから取り出すステップと、
を備える方法。
【請求項44】
水素ガスの発生を開始する前記ステップは、前記電気化学セルに低電位を印加するステップ、前記電気化学セルに穏やかな熱を加えるステップ、または前記セルを少なくとも一時間に亘って停止したままにするステップのうちの1以上を備える、
請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記第2ハーフセル内に実質的に酸化剤が存在しない、または最小限の酸化剤しか存在しないことを保証するステップは、
前記第2ハーフセルに水を注ぐステップ、
第2ハーフセルを、アルゴンまたは窒素等の非酸化ガスで充填するステップ、または
前記第2ハーフセルに真空を適用するステップ、
を備え得る、
請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記方法は、水素ガスを発生させつつ電気を発生させるステップを備える、
請求項43~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
請求項1~37および請求項43~46のいずれか一項に記載の方法を実施するためのシステムであって、
前記システムは、電気化学セルを備え、
前記電気化学セルは、第1ハーフセルと、第2ハーフセルと、前記第1ハーフセルを前記第2ハーフセルから分離するプロトン交換膜と、をさらに備え、
前記第1ハーフセルは、貯蔵粒子と電解質とを含むスラリーを受容するように構成される、
システム。
【請求項48】
前記プロトン交換膜は、テトラフルオロエチレン系フルオロポリマー-コポリマーから実質的に形成された層を備える
請求項43に記載のシステム。
【請求項49】
貯蔵粒子と電解質とを含むスラリーを、前記第1ハーフセルに圧送するポンプをさらに備える、
請求項43または48のいずれかに記載のシステム。
【請求項50】
前記システムは、セパレータをさらに備え、
前記セパレータは、貯蔵粒子と電解質とを含む出力スラリーを前記第1ハーフセルから受容して、貯蔵粒子を電解質から分離するように構成される、
請求項43~49のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項51】
前記セパレータは、移動フィルタ膜を備える、
請求項50に記載のシステム。
【請求項52】
前記セパレータは、ドライヤを備える、
請求項50または51のいずれかに記載のシステム。
【請求項53】
前記ドライヤは、不活性ガスを前記貯蔵粒子に通過させるように構成される、
請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
電解質から分離した貯蔵粒子を貯蔵するように構成された貯蔵デバイスをさらに備える、
請求項50~53のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項55】
前記貯蔵デバイスは、貯蔵粒子を不活性雰囲気中に貯蔵するように構成される、
請求項54に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、液体電解質中に粒子を含むスラリー電極を有するプロトンフローリアクタシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、電気エネルギーを化学エネルギーに、またはその逆に変換するデバイスである。電流を生成する電気化学セルは、一般にボルタセルまたはガルバニセルと呼ばれるのに対し、電流を使用して化学反応を発生させる電気化学セルは、一般に電解セルと呼ばれる。直列または並列の接続した多数のボルタセルを備えるデバイスは、一般にバッテリと呼ばれるのに対し、反応物質が継続的に供給される電気化学デバイスは、一般に燃料セル(燃料電池)と呼ばれる。別のタイプのデバイスは、フローバッテリである。フローバッテリでは、セルの一方または両方の電極が通常は液体状の連続するフロー物質を有し、連続的に充電および放電する。さらなる電極材料が、外部に、一般的にタンクに貯蔵され、典型的にはポンプを使用して単数または複数のセルを循環する。
【0003】
燃料セルのような電気化学セルは、燃焼機関や発電機のような従来の動力源に代わる、効率的で環境に優しいものとして最近注目されている。温室効果ガス等の排出をゼロにするまたは低減できる電力システムは、道路、鉄道または船舶を介した電力移送を含む電力システムの継続的な使用を可能にするために不可欠であると考えられている。
【0004】
燃料セルの一形態に、プロトン交換膜燃料セル(「PEMFC」)がある。PEMFCでは、電解質としてNafionTM等のポリマーを一般に備えるプロトン交換膜(「PEM」)が、アノード側をカソード側から分離している。典型的なPEMFCにおいて、水素ガスがアノード側に供給されて、プロトンと電子とに分離する。分離したプロトンは、PEMと通ってカソード側に移動し得る。ここで、プロトンは酸素と反応して水を形成することにより、電気が発生する。
【0005】
1以上の反応物質がガスとして提供される場合、よりクリーンなエネルギーのための燃料または反応物質を貯蔵することが、現在の関心事である。PEMFCを例に取ると、利用される反応物質は、一般に気体の酸素および水素である。酸素源としてその場の空気が使用され得るが、特定の燃料セル構造については、貯蔵を必要とする精製酸素が必要なこともある。水素ガスも貯蔵が難しいため、この問題に対処すべく、加圧した水素の貯蔵を含む複数のオプションが開発されている。より一般的には、燃焼システムや燃料セルで使用するために水素を貯蔵するために開発された技術には、加圧水素の貯蔵、液化水素の貯蔵、および水素ガスとして供給する前の金属水素化物の貯蔵が含まれる。任意の電気エネルギー貯蔵システムにおいて、「往復」エネルギー効率(これが貯蔵用水素を準備する主たる原因である)が、非常に関心の高い検討事項である。電解槽が水の分解により水素ガスを発生させ、その水素ガスがガスとして貯蔵され、燃料セルがこのガスを利用して電気を発生させるというプロセスが存在している。このプロセスは、典型的には50%未満の比較的低い往復エネルギー効率しか提供できない。これは、短時間の貯蔵では80%を超える往復効率を提供するリチウムバッテリ等の他のエネルギー貯蔵手段に比べて不利である。
【0006】
本分野での開発にもかかわらず、水素等の燃料または反応物質を貯蔵するための技術が依然として求められている。望ましくは、このような技術は、小さい体積、少ない追加重量、低コスト、および適切なエネルギー効率のうちの1以上を伴う貯蔵を提供し得る。
【0007】
Heidariらによる「Technical Feasibility of a Proton Battery with an Activated Carbon Electrode」、International Journal of Hydrogen Energy 43 (2018)6197-6209(「Heidari」)は、小規模「プロトンバッテリ」の開発を開示している。この開示全体が本明細書に組み込まれる。小規模「プロトンバッテリ」は、水素を原子形態で貯蔵するための一体型固体電極を有する可逆PEMFCとして記載されている。Heidariは、プロトンバッテリは水素燃料セルシステムとバッテリベースのシステムとのハイブリッドであると説明している。なぜならば、プロトンバッテリは、デバイス内の固体電極に捕捉された燃料源を含むからである。
【0008】
Heidariによれば、最初のプロトンバッテリは、基本的には、原子状水素を貯蔵するための一体型固体電極を有する再生可能PEMFCであった。電気分解時(すなわち「帯電モード」)には、プロトンが生成されてPEMを通じて固体電極に入る。ここで、プロトンは過剰な電子により中和されて、電極材料と結合した水素原子を形成する。ガルバニック動作時(すなわち「放電モード」)では、貯蔵されたプロトンがPEMを通って酸素側に戻り、ここでプロトンは外部回路からの酸素および電子と結合して再び水を生成することで電気を発生させる。
【0009】
Heidariは、水素貯蔵のための最初の固体電極は、主にニッケル、コバルト、ランタン、セリウムからなる高価な金属合金を含むものであったと述べている。そして、Heidariは、金属電極に代わる可能な選択肢として多孔質炭素を提案している。多孔質炭素では、電気分解時に、原子状水素が多孔質炭素電極に貯蔵される。図1は、Heidariによるプロトンバッテリ設計100を示す。ここでは、炭素電極116が「バッテリ」の一側に設けられる。そして、バッテリの他側は、空気の移動のための流路104を備える酸素側を含む。プロトンバッテリ100は、通常、ボルト122で一体的にクランプされたステンレススチール製のエンドプレート102、120により挟持されている。エンドプレート102、120の間において、酸素側から、シリコーン製のシールガスケット106、ガス拡散層材料として使用される多孔質焼結チタンフェルト108、イリジウム/ルテニウム酸化物および白金黒から形成された触媒材料110、Nafion製のPEM114、硫酸に浸漬した活性炭素電極116、および電極118を支持するステンレススチール製メッシュが設けられている。
【0010】
Heidariの結論によれば、大気圧での材料ベースにおける水素貯蔵の重量密度は、10バール以上の水素ガス圧力を伴う金属水酸化物水素貯蔵技術と既に同等であるが、700バールに圧縮した水素ガスの貯蔵と比較すると劣る。Heidariは、さらに、貯蔵電極内での新規なグラフェンベースの材料の使用を含む研究領域、および帯電・放電技術の最適化(水素ガス生成速度の低減および水素貯蔵プロセスの動力学的改善を含む)のための研究領域について言及している。
【0011】
代替エネルギー発生および貯蔵技術における継続的な進歩にもかかわらず、従来の化石燃料燃焼システムに代わるエネルギー発生および貯蔵のための新しいシステムを提供することが依然として望まれている。
【0012】
本明細書における先行出版物、これから派生した情報、または既知の事項への言及は、先行出版物、これから派生した情報、または既知の事項が、本明細書に関連する努力の分野における共通の一般的知識の一部を形成しているという認識または了解、またはいかなる形態の示唆ともみなされない、またみなされるべきではない。
【発明の概要】
【0013】
本発明の第1態様によれば、電気エネルギーを化学エネルギーとして貯蔵する方法が提供され、前記方法は、
非帯電貯蔵粒子と電解質とを含む入力スラリーを、電気化学セルの第1ハーフセルに供給するステップと、
+またはH+イオンの供給源を、前記電気化学セルの第2ハーフセルに供給するステップと、
前記電気化学セルに電圧を印加して、H+またはH+イオンを前記第2ハーフセルから前記第1ハーフセルに移動させて、前記非帯電貯蔵粒子を帯電貯蔵粒子に変換するステップと、
帯電貯蔵粒子と電解質とを含む出力スラリーを、前記第1ハーフセルから取り出すステップと、
を備える。
【0014】
第1態様による実施形態において、前記非帯電貯蔵粒子は、
(A)高い電気伝導性、
(B)0.5~5ミクロンの平均直径、
(C)20%~50%の範囲の気孔率、
(D)0.5~2ナノメートル(nm)の直径を有する実質的な「超微細孔」、または0.5~2nmの層間間隔を有する実質的な層状ドメイン、
(E)2~50nmの直径または幅を有するメソ細孔、
(F)0.5~8wt%の電気化学的水素貯蔵能力、
の特性のうちの1以上を有する。
【0015】
第1態様による実施形態において、前記非帯電貯蔵粒子は、上述の前記特性(A)~(F)の各々を有する。
【0016】
第1態様による実施形態において、前記非帯電貯蔵粒子は、炭素粒子を含む。
【0017】
第1態様による実施形態において、前記炭素粒子は、活性炭、グラフェン、酸素で官能化されたグラフェン、窒素で官能化されたグラフェンまたは窒素をドープされたグラフェン、黒鉛状炭素窒化物、グラフェンエアロゲル、またはカーボンナノチューブのうちの1以上の材料から主に形成された粒子から選択される。
【0018】
第1態様による実施形態において、前記炭素粒子は、フェノール樹脂に由来するとともに水酸化カリウムで活性化された粒子を含む。
【0019】
第1態様による実施形態において、前記入力スラリーは、5~35%(w/w)、選択的に5~15%(w/w)または15~35%(w/w)の非帯電貯蔵粒子を含む。
【0020】
第1態様による実施形態において、前記第2ハーフセルに供給されるH+またはH+イオンの前記供給源は、水である。
【0021】
第1態様による実施形態において、前記方法は、前記第1ハーフセルの外部で非帯電貯蔵粒子と電解質とを混合して前記入力スラリーを形成するステップと、混合した前記入力スラリーを前記第1ハーフセルに供給するステップと、をさらに備える。
【0022】
第1態様による実施形態において、前記方法は、前記出力スラリーを前記第1ハーフセルから取り出すステップの後に、前記出力スラリーにおいて帯電貯蔵粒子を電解質から分離するステップをさらに備える。
【0023】
第1態様による実施形態において、帯電貯蔵粒子を電解質から分離する前記ステップは、前記帯電貯蔵粒子を前記電解質から、選択的に移動フィルタリング膜を使用して、フィルタリングするステップを備える。
【0024】
第1態様による実施形態において、帯電貯蔵粒子を電解質から分離する前記ステップは、前記帯電貯蔵粒子を乾燥させるステップを備える。
【0025】
第1態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子を乾燥させる前記ステップは、不活性ガスを前記帯電貯蔵粒子に適用するステップを備える。
【0026】
第1態様による実施形態において、前記方法は、前記帯電貯蔵粒子を電解質から分離するステップの後に、前記帯電貯蔵粒子を貯蔵するステップをさらに備える。
【0027】
第1態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子を貯蔵する前記ステップにおいて、前記帯電貯蔵粒子を不活性雰囲中に貯蔵する。
【0028】
本発明の第2態様によれば、電気を発生させる方法が提供され、前記方法は、
帯電貯蔵粒子と電解質とを含む入力スラリーを、電気化学セルの第1ハーフセルに供給するステップと、
酸化剤流を前記電気化学セルの第2ハーフセルに供給するステップと、
+またはH+イオンを前記第1ハーフセルから移動させて、前記第2ハーフセル内で前記酸化剤と反応させることで電気を発生させるステップと、
非帯電貯蔵粒子と電解質とを含む出力スラリーを、前記第1ハーフセルから取り出すステップと、
を備える。
【0029】
第2態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子は、
(A)高い電気伝導性、
(B)0.5~5ミクロンの平均直径、
(C)20%~50%の範囲の気孔率、
(D)0.5~2ナノメートル(nm)の直径を有する実質的な「超微細孔」、または0.5~2nmの層間間隔を有する実質的な層状ドメイン、
(E)2~50nmの直径または幅を有するメソ細孔、
(F)0.5~8wt%の電気化学的水素貯蔵能力、
の特性のうちの1以上を有する。
【0030】
第2態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子は、上述の前記特性(A)~(F)のすべてを有する。
【0031】
第2態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子は、炭素粒子を含む。
【0032】
第2態様による実施形態において、前記炭素粒子は、活性炭、グラフェン、酸素で官能化されたグラフェン、窒素で官能化されたグラフェンまたは窒素をドープされたグラフェン、黒鉛状炭素窒化物、グラフェンエアロゲル、またはカーボンナノチューブのうちの1以上の材料から主に形成された粒子から選択される。
【0033】
第2態様による実施形態において、前記炭素粒子は、フェノール樹脂に由来するとともに水酸化カリウムで活性化された粒子を含む。
【0034】
第2態様による実施形態において、前記入力スラリーは、5~35%(w/w)、選択的に5~15%(w/w)または15~35%(w/w)の非帯電貯蔵粒子を含む。
【0035】
第2態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子は、本発明の第1態様に従って製造され処理されたものである
【0036】
第2態様による実施形態において、前記第2ハーフセルに供給される前記酸化剤流は、酸素ガスを含む。
【0037】
第2態様による実施形態において、前記第2ハーフセルに供給される前記酸化剤流は、空気である。
【0038】
第2態様による実施形態において、前記方法は、電気を発生させながら前記セルを加熱するステップを備える。
【0039】
第2態様による実施形態において、前記方法は、前記第1ハーフセルの外部で帯電貯蔵粒子と電解質とを混合して前記入力スラリーを形成するステップと、混合した前記入力スラリーを前記第1ハーフセルに供給するステップと、を備える。
【0040】
第2態様による実施形態において、前記方法は、前記出力スラリーを前記第1ハーフセルから取り出すステップの後に、非帯電貯蔵粒子を電解質から分離するステップをさらに備える。
【0041】
第2態様による実施形態において、非帯電貯蔵粒子を電解質から分離する前記ステップは、前記非帯電貯蔵粒子を乾燥させるステップを備える。
【0042】
第2態様による実施形態において、前記方法は、前記非帯電貯蔵粒子を電解質から分離するステップの後に、前記非帯電貯蔵粒子を貯蔵するステップを備える。
【0043】
第1または第2態様による実施形態において、前記電気化学セルは、前記第1ハーフセルと前記第2ハーフセルとを分離するプロトン交換膜を備え、前記プロトン交換膜は、選択的に、テトラフルオロエチレン系フルオロポリマー-コポリマーから実質的に形成された層を備える。
【0044】
第1または第2態様による実施形態において、前記入力スラリーを前記電気化学セルに供給する前記ステップと前記出力スラリーを前記電気化学セルから取り出す前記ステップとは、連続プロセスとして実施される。
【0045】
第1または第2態様による実施形態において、前記入力スラリーを前記電気化学セルに供給する前記ステップと前記出力スラリーを前記電気化学セルから取り出す前記ステップとは、バッチ式プロセスとして実施される。
【0046】
第1または第2態様による実施形態において、前記電解質は、水溶液中の鉱酸、イオン液体、水溶液中のイオン液体、水溶液中の有機酸、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0047】
第1または第2態様による実施形態において、前記方法は、直列に配置した複数の電気化学セルを通して前記入力スラリーを処理することで、前記出力スラリーを生成するステップを備える。
【0048】
第1または第2態様による実施形態において、前記方法は、前記入力スラリーを、並列に配置された複数の電気化学セルを通して処理することで前記出力スラリーを生成するステップであって、選択的に複数の前記電気化学セルがスタックに配置されているステップを備える。
【0049】
第1または第2態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子は、平均で少なくとも0.5wt%の捕捉された水素、選択的に1.0~8.0wt%の捕捉された水素を含む。
【0050】
本発明の第3態様によれば、第1態様に従って生成された帯電貯蔵粒子が提供される。
【0051】
第3態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子と電解質とを含むスラリーが提供される。
【0052】
第3態様による実施形態において、前記帯電貯蔵粒子は、不活性雰囲気中に貯蔵される。
【0053】
本発明の第4態様において、第2態様に従って処理された非帯電貯蔵粒子が提供される。
【0054】
第4態様による実施形態において、前記非帯電貯蔵粒子と電解質とを含むスラリーが提供される。
【0055】
本発明の第5態様において、水素ガスを発生させる方法が提供され、前記方法は、
帯電貯蔵粒子と電解質とを含む入力スラリーを、電気化学セルの第1ハーフセルに供給するステップと、
前記第2ハーフセル内に実質的に酸化剤が存在しない、または最小限の酸化剤しか存在しないことを保証しつつ、H+またはH+イオンを前記第1ハーフセルから移動させるステップと、
前記第2ハーフセルにおいて水素ガスの発生を開始するステップと、
水素ガスを含む出力流を、前記第2ハーフセルから取り出すステップと、
を備える。
【0056】
第5態様による実施形態において、水素ガスの発生を開始する前記ステップは、前記電気化学セルに低電位を印加するステップ、前記電気化学セルに穏やかな熱を加えるステップ、または前記セルを少なくとも一時間に亘って停止したままにするステップのうちの1以上を備える。
【0057】
第5態様による実施形態において、前記第2ハーフセル内に実質的に酸化剤が存在しない、または最小限の酸化剤しか存在しないことを保証するステップは、
前記第2ハーフセルに水を注ぐステップ、
第2ハーフセルを、アルゴンまたは窒素等の非酸化ガスで充填するステップ、または
前記第2ハーフセルに真空を適用するステップ、
を備え得る。
【0058】
第5態様による実施形態において、前記方法は、水素ガスを発生させつつ電気を発生させるステップを備える。
【0059】
本発明の第6態様において、第1、第2または第5態様による方法を実施するためのシステムが提供され、前記システムは、電気化学セルを備え、
前記電気化学セルは、第1ハーフセルと、第2ハーフセルと、前記第1ハーフセルを前記第2ハーフセルから分離するプロトン交換膜と、をさらに備え、
前記第1ハーフセルは、貯蔵粒子と電解質とを含むスラリーを受容するように構成される。
【0060】
第6態様による実施形態において、前記プロトン交換膜は、テトラフルオロエチレン系フルオロポリマー-コポリマーから実質的に形成された層を備える。
【0061】
第6態様による実施形態において、前記システムは、貯蔵粒子と電解質とを含むスラリーを、前記第1ハーフセルに圧送するポンプをさらに備える。
【0062】
第6態様による実施形態において、前記システムは、セパレータを備え、
前記セパレータは、貯蔵粒子と電解質とを含む出力スラリーを前記第1ハーフセルから受容して、貯蔵粒子を電解質から分離するように構成される
【0063】
第6態様による実施形態において、前記セパレータは、移動フィルタ膜を備える。
【0064】
第6態様による実施形態において、前記セパレータは、ドライヤを備える。
【0065】
第6態様による実施形態において、前記ドライヤは、不活性ガスを前記貯蔵粒子に通過させるように構成される。
【0066】
第6態様による実施形態において、前記システムは、電解質から分離した貯蔵粒子を貯蔵するように構成された貯蔵デバイスを備える。
【0067】
第6態様による実施形態において、前記貯蔵デバイスは、貯蔵粒子を不活性雰囲気中に貯蔵するように構成される。
【0068】
本明細書およびこれに続く特許請求の範囲を通じて、そして文脈上必要とされない限り、以下のように理解されたい。
「炭素粒子」という用語は、電気伝導性炭素系材料から主に形成された粒子を意味すると理解されたい。限定されないが、適切な電気伝導性炭素系材料の例には、活性炭、グラフェン、酸素で官能化されたグラフェン、窒素で官能化されたグラフェンまたは窒素をドープされたグラフェン、黒鉛状炭素窒化物、グラフェンエアロゲル、またはカーボンナノチューブが含まれる。
「帯電貯蔵粒子」という用語は、化学的に有意な量の水素原子またはイオンが電気化学的プロセスを介して結合または付着している貯蔵粒子を意味すると理解されたい。
「非帯電貯蔵粒子」という用語は、帯電貯蔵粒子ではない貯蔵粒子であるが、以前には帯電していた粒子であって、粒子に結合された、または別の方法で貯蔵された水素原子またはイオンが放電、損失または枯渇した帯電貯蔵粒子を含むものを意味すると理解されたい。
「スラリー」という用語は、液体中の粒子の混合物であって、粒子濃度が5%(重量粒子/重量液体)という低いものからペースト濃度である40~60%(w/w)の範囲に亘るものを意味すると理解されたい。
「貯蔵粒子」という用語は、水素をその表面または内部に貯蔵するのに適した粒子を意味すると理解されたい。望ましくは、本発明の特定の実施形態によれば、貯蔵粒子は、高い電気伝導性、0.5~5ミクロンの平均直径、20%~50%の範囲の気孔率、0.5~2ナノメートル(nm)の直径を有する実質的な「超微細孔」または0.5~2nmの層間間隔を有する実質的な層状ドメイン、2~50nmの直径または幅を有するメソ細孔、0.5~8wt%の電気化学的水素貯蔵能力の特性の各々を有し得る。本発明の実施形態によれば、貯蔵粒子は、炭素粒子であり得る。代替的な実施形態において、貯蔵粒子は、実質的にケイ素から形成され得る。
本明細書で開示される数の範囲に対する記載(例えば、1~10)は、その範囲内のすべての有理数(例えば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9、10)、および、これによりその範囲内の有理数の任意の範囲(例えば、2~8、1.5~5.5、3.1~4.7)をも含むことが意図されている。したがって、本明細書に明示的に開示された全ての範囲の全ての下位範囲が、明示的に開示される。これらは、具体的に意図されたものの例に過ぎず、列挙された最低値と最高値との間の数値の全ての可能な組み合わせが、同様に本願に明示されているとみなされるべきである。
「または」という用語は、文脈が許す限り、「および」を含むと理解されるものとする。
「(w/w)」という用語は、電解質の重量に対する粒子の重量を意味すると理解されたい。
「備える/含む(comprise)」という用語、および「備え/含み」等の変形は、記載の整数またはステップ、または整数またはステップのグループを含むが、他の整数またはステップ、または整数またはステップのグループを排除しないことを意味すると理解されたい。
「側部」、「端部」、「上部」、「下部」、「上方」、「下方」等の用語は、互いに関連する要素を説明するためのみに用いられ、デバイスの特定の向きを説明すること、デバイスの必要または必須の向きを示すまたは示唆すること、あるいは本書に記載される発明が使用中にどのように使用されるか、取り付けられるか、表示されるか、または位置決めされるかを特定することを意味するものではまったくない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1図1は、Heidariに記載されるプロトンバッテリを示す。
図2図2は、本発明の実施形態による、帯電モードすなわち電解槽モードで動作する「プロトンフローリアクタ」を示す。
図3図3は、本発明の実施形態による、放電モードすなわち電力供給のための燃料セルモードで動作するプロトンフローリアクタを示す。
図4図4は、本発明の実施形態によるプロトンフローリアクタであって、酸素側電極および水素側電極を加熱し、酸素側にチタンGDLのないプロトンフローリアクタを示す。
図5図5は、本発明の実施形態による、炭素発泡体電流コレクタを組み込んだプロトンフローリアクタ用のスラリー電極を示す。
図6図6は、固体貯蔵粒子を液体電解質から分離するための連続システムの一実施形態を示す。
図7図7は、本発明の実施形態による、国内および国家間でのエネルギー貯蔵および移送システムを示す。
図8図8は、本発明の実施形態によるスラリー電極の限定例としての、フェノール樹脂の活性炭と1M硫酸を電解液とするペースト電極の実行能力を実証した実験結果を示す図である。
図9図9は、本発明の実施形態によるスラリー電極の限定例としての、フェノール樹脂の活性炭と1M硫酸を電解液とするペースト電極の実行能力を実証した実験結果を示す図である。
図10図10は、本発明の実施形態によるスラリー電極の限定例としての、フェノール樹脂の活性炭と1M硫酸を電解液とするペースト電極の実行能力を実証した実験結果を示す図である。
図11図11は、本発明の実施形態によるスラリー電極の限定例としての、フェノール樹脂の活性炭と1M硫酸を電解液とするペースト電極の実行能力を実証した実験結果を示す図である。
図12図12は、(上図)本発明の実施形態による流入流出ペーストプロトンフローリアクタの鉛直断面の概略図、(下図)同リアクタのH側エンドプレート、ペーストが流入流出するチャネル、およびセルの矩形の活性領域を示す3D図である。
図13図13は、本発明の実施形態によるマイクロ流体プロトンフローリアクタを示し、(a)はプロトンフローリアクタの概略側面図、(b)は同リアクタの写真、(c)はセルの酸素側の酸素気泡を示す帯電モードにおける同リアクタの写真である。
図14図14は、1M希硫酸電解質中のフェノール樹脂からの活性炭サンプルの、標準水素電極に対して電位範囲-0.4~+0.9Vに亘って2mV/sのスキャンレートで3電極セルで取られたサイクリックボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0070】
広義において、本発明は、化学エネルギーを貯蔵する方法、電気を発生させる方法、かかる方法からもたらされる貯蔵粒子、およびかかる方法を実施するためのシステムに関する。
プロトンフローリアクタ
【0071】
本発明の一実施形態によれば、上述のHeidariに開示されたプロトンバッテリと同様に電気化学的に動作する「プロトンフローリアクタ」が提供される。しかしながら、第1ハーフセルが固定炭素電極を収容するように構成されたHeidariに記載のプロトンバッテリとは異なり、プロトンフローリアクタに第1ハーフセルは、流入する貯蔵粒子からなるスラリーを処理するように構成されている。驚くべきことに、プロトンフローリアクタの使用により、既存のエネルギー貯蔵および移送技術、ならびにHeidariに記載のものに対して、エネルギーの貯蔵、エネルギーの移送および使用の点で多くの利点および好条件が得られることが確認されている。
【0072】
プロトンフローリアクタは、通常、電気化学セルを備えている。電気化学セルにおいて、NafionTM層を含むPEM等のPEMが、2つのハーフセルを分離している。第1ハーフセルは、電解質中に懸濁する貯蔵粒子からなるスラリーが第1ハーフセルを通って流れることができるように構成されている。一方、第2ハーフセルは、水(帯電モード中)または酸素含有ガス(放電モード中)のいずれかが第2ハーフセルを通って流れることができるように構成されている。特定の実施形態において、プロトンフローリアクタの動作は可逆的であり得る。これにより、同一のプロトンフローリアクタが、帯電モードでも放電モードでも動作し得る。例示的なプロトンフローリアクタの動作を、以下に説明する。
【0073】
第1ハーフセルを通過する貯蔵粒子からなるスラリーは、効果的に「スラリー電極」として動作する。多孔質固定電極と比較すると、スラリー電極により、驚くべきことに、貯蔵粒子は、スラリーが電気化学セルの水素側のハーフセルを通ってゆっくりと流れるにつれて次第に帯電し得る水素用貯蔵媒体として機能することが可能とされ得る。したがって、このハーフセルからスラリー中に出現する帯電した貯蔵粒子(帯電貯蔵粒子)が、液体電解質から分離され得る。そして、プロトンフローリアクタとは別の容器に、乾燥粒子としてバルクで貯蔵され得る。したがって、これらの乾燥した帯電貯蔵粒子は、エネルギーに富んだ燃料であって、この燃料は、バルク海上タンカーの輸出品として、帯電したところから離れた場所に移送され得る。粒子を帯電させるのに使用したデバイス(すなわち電気化学セル)を帯電貯蔵粒子のバルク貯蔵部から分離することにより、貯蔵システムの非常に高い重量および体積エネルギー密度を全体として達成することができる。
帯電モード
【0074】
図2は、本発明の実施形態による、帯電モードにおけるプロトンフローリアクタとして動作する電気化学セル2Aを示す。図示のように、帯電していない貯蔵粒子(非帯電貯蔵粒子)10からなるスラリー18が、第1ハーフセル4(水素側ハーフセル)を通ってゆっくりと流れる。ここで、非帯電貯蔵粒子10は、エンドプレート、または、電気接触を提供するようにスラリー18中に突出する他の適切な手段、例えばメッシュ、発泡体等により、負の極性を与えられる。同時に、第2ハーフセル6(酸素側ハーフセル)に水14が供給される。水14は、電気を流すと、酸素16とH+またはH+イオン42に分離する。H+またはH+イオン42は、PEM8を通過して第1ハーフセル4に入り、負の極性を与えられた貯蔵粒子10の内面に主に結合することにより、帯電貯蔵粒子12が形成される。したがって、水素が、後の使用のために帯電貯蔵粒子12に効果的に貯蔵される。
【0075】
図示の実施形態において、非帯電貯蔵粒子10は、第1ハーフセル4を連続的に通って流れるにつれて(すなわち連続フロープロセスにおいて)、次第に極性を与えられるとともにH+またはH+イオン42に結合する。他の実施形態において、非帯電貯蔵粒子10からなるスラリー18が最初に第1ハーフセル4に導入される、反復可能なバッチ式プロセスが実施され得る。次いで、貯蔵粒子は、第1ハーフセル4に保持されたまま、負の極性を与えられ、H+またはH+イオン42を引き付けて貯蔵する。その後、帯電貯蔵粒子12からなるスラリー20は、第1ハーフセル4から取り出される。
【0076】
貯蔵粒子が十分に水素を帯びることを確実にするように、スラリーは、一連の電気化学セル2を通過してもよい。各電気化学セル2は、同様に構成され得る、または貯蔵粒子の帯電の特定のステージを最適化するように構成され得る。また、リサイクルループシステムを実施してもよい。これにより、電気化学セルを出たスラリーおよび貯蔵電子の一部が、さらなる処理のためにこの電気化学セルに戻される。
放電モード
【0077】
図3は、本発明の実施形態による、放電モードで動作する電気化学セル2Bを示す。帯電貯蔵粒子12からなるスラリー20が、第1ハーフセル4をゆっくりと流れる。同時に、空気または他の酸素含有ガス16が、第2ハーフセル6に供給される。スラリー内で形成されたH+またはH+イオン42が、PEM8を通過して第2ハーフセル6内の酸素16と反応することで、水と電気が生成される。第2ハーフセル6における水素と酸素との反応により、第1ハーフセル2内の帯電した炭素セルが脱水素化されるとともに、H+またはH+イオン42PEM8を通過して流動する。このようにして、帯電貯蔵粒子12の表面に貯蔵された水素が、水の生成をもたらす酸素と水素との酸化還元反応に供されるように使用され得る。
【0078】
上述の帯電モードと同様に、電気化学セル2Bは、動作要件に応じて、連続フローシステムにおいて、またはバッチ式システムとして動作し得る。また、帯電モードと同様に、本発明の実施形態によるシステムは、貯蔵粒子が次第に放電する一連の電気化学セル2を備え得る。そして、やはり特定の動作要件に従って、リサイクルループシステムが別個にまたは追加的に実施され得る。
【0079】
実施形態によれば、図4に例示するように、プロトンフローリアクタのセルを(例えば100℃未満に)適度に加熱することで放電性能を向上させることができる。理論に束縛されることを望まないが、適度な加熱は放電性能を向上させると考えられている。これは、(a)酸素側の触媒層を乾燥させることで酸素ガスの触媒層へのアクセスが改善されることにより、水の生成速度が大幅に上昇すること、(b)上昇した温度により、すべての電気化学反応の反応速度が上昇すること、および(c)局所的に電解質の濃度を上昇させることにより、炭素粒子からNafionTM膜への、そして酸素側の触媒層へのイオン移動の過電圧が低下することによる。
【0080】
実施形態によれば、酸素側からガス拡散層を除去すること、またはガス拡散層を非常に薄い層に代えることと加熱とを組み合わせて、触媒への酸素アクセスを向上させることができる。理論に束縛されることを望まないが、帯電したサンプルからの水素抽出、ひいてはその(wt%Hにおける)有効可逆貯蔵能力は、適度な加熱とガス拡散層の除去または非常に薄いものの使用との組み合わせにより、潜在的に3倍より多く増加し得ると考えられている。
【0081】
実施形態によれば、熱は、プロトンフローリアクタのセルのエンドプレートに、電気加熱カートリッジを組み込む、または同様の加熱システムを設置することにより供給され得る。
【0082】
実施形態において、本発明によるプロトンフローリアクタは、炭素発泡体を備える電流コレクタを備え得る。図5は、従来のスラリー電極(a)、および炭素発泡体電流コレクタを組み込んだスラリー電極(b)の概略図を示す。理論に束縛されることを望まないが、炭素発泡体電流コレクタを組み込むことにより、スラリー流に対する流れ抵抗を最小としつつ、電流コレクタの表面積を増加させるとともにスラリー中の炭素粒子への電荷移動が容易になることで、プロトンフローリアクタの性能が大幅に向上し得ると考えられている。スラリーは、炭素発泡体の3D接続気孔率ネットワークを通って流れ得る。これにより、炭素粒子は、過剰な電荷を含む炭素壁により取り囲まれる。この構成により、粒子と壁との衝突速度が最大化することで電荷移動が最大化される。
【0083】
炭素発泡体は、比較的高い電子伝導性を有するとともに、大きい内部表面積、およびプロトンフローリアクタのセルのエンドプレートから受ける圧縮に耐えるのに十分な機械的強度を有している。また、炭素発泡体の3D細孔ネットワークは、電流コレクタ内での液体電解質の均一な分布を促進し得る。炭素発泡体は、ステンレススチール金属製の発泡体と比較して伝導率および硬度が低いが、水素発生反応に対してはるかに有効性のない触媒である。このため、特定の実施形態によれば、望ましくない水素ガス発生が抑制される。
【0084】
炭素発泡体電流コレクタの使用により、スラリー電極の主な欠点の一つである、炭素粒子により形成された不連続な電子移送ネットワークを原因とする比較的低い(電解質のイオン伝導性よりも低い)電子伝導性を克服することが支援され得る。この低い電子伝導性により、粒子が十分に活用されない、および容量貯蔵用の電荷が利用できないという事態も引き起こされる(Mourshedら、2021)。
【0085】
本発明の実施形態による代替的な放電モードとして、プロトンフローリアクタの酸素側(カソード)の触媒層への酸素のアクセスをブロックしてもよい。ブロックは、例えば、プロトンフローリアクタに水を注ぐ、これをアルゴンまたは窒素等の他のガスで充填する、または真空を適用することによる。本実施形態において、放電反応は、水の生成から、ヒドロニウムイオンの酸素側の利用可能な金属への化学吸着に移行する。本モードでは、放電量が若干減少する。小さな陽電位(例えば、0.5V未満)を酸素側に印加する、セルを穏やかに加熱する、および/またはセルを一定時間停止させる場合、水素(ガス)発生反応が始まり、酸素側に水素気泡が出現するであろう。
【0086】
本実施形態において、発電および貯蔵した水素原子から形成される水素ガスの発生と同時に、帯電した粉体を放電させることができる。したがって、プロトンフローリアクタシステムを、帯電した炭素粉末から高純度の水素ガスを生成するために採用することができ、水素燃料セルによる移送車両用の燃料補給システムにおける水素ガスの一次供給源として使用することができる。
【0087】
また、この代替的な放電モード中に発生した電気は、有益な用途を有し得る。これには、場合により別のコンデンサに短期貯蔵した後、水素ガス発生速度を上昇させるために必要な小さい電位を提供することが含まれる。本件発明者らにより実施された実験では、水素発生を向上させるために必要なエネルギーは、セルの放電中に生成されるエネルギーよりも著しく小さいことが示唆されている。したがって、高純度の水素ガスを生成しつつ、有利かつ有益なエネルギーバランスが達成され得る。
貯蔵粒子
【0088】
貯蔵粒子は、エネルギー貯蔵戦略の一部としてH+またはH+イオンを貯蔵する実用的な能力を提供する必要がある。理想的には、貯蔵粒子は、単位質量および単位体積当たりの高い可逆的電気化学的水素貯蔵能力と、乾燥後の水素の保持性と、複数の帯電-放電サイクル後の水素貯蔵に対する高い往復効率の維持性と、を提供すべきである。
【0089】
理論に束縛されることを望まないが、これらの特質は、以下の望ましい粒子特性により得られ得ると考えられている。すなわち、(電子伝導の形態での)高い電気伝導性;水素、特に酸素および窒素との結合の機会を促進し得る表面官能基の存在;水素との結合の場を提供する傾向のある超微細孔または適切な層間距離を有する層状のドメインの大きい体積および表面積;および、貯蔵粒子内でのヒドロニウムイオン移送のためのチャネルを提供するメソ細孔、である。
【0090】
粒子が炭素粒子を構成する場合、細孔の内面に黒鉛炭素の有意な領域が存在することがさらに望ましい。上述のように、炭素粒子という用語は、電気伝導性炭素をベースとする材料から主に形成された粒子を意味すると理解される。電気伝導性炭素をベースとする材料の例には、活性炭、グラフェン、酸化グラフェン、窒素で官能化されたグラフェンまたは窒素をドープされたグラフェン、黒鉛状炭素窒化物、グラフェンエアロゲル、カーボンナノチューブが含まれる。他の炭素をベースとする材料、特に上に列挙した特性を提供するものを利用してもよい。
【0091】
炭素粒子は、例えば純粋な炭素から形成される必要はないが、粒子の表面にH+またはH+イオンを結合または付着させる実用的な能力を提供しなければならない。炭素粒子製造用の原料を提供するように、バイオマス材料、黒炭または褐炭を含む多数の原料が使用され得る。活性炭、および多層グラフェン等の他の形態の炭素の電気化学的水素貯蔵能力は、内部の細孔表面に酸素および窒素を含む官能基が存在することにより向上し得る。水素貯蔵を促進し得る酸素ベースの表面官能基には、カルボン酸、ラクトン、フェノール、ラクトール基等の酸性基、およびキノン、ピロン、ケトン、エポキシド等の塩基性基が含まれる(Montes-Moranら、2004、Shafeeyanら、2010)。アミド、イミド、ピロール、ラクタム、ピリジン基等の窒素ベースの表面官能基も、水素貯蔵を向上させ得る(Pelsら、1995、Lahaye、1998)。理論に束縛されることを望まないが、これらの表面官能基は、二重層キャパシタンスに加えて、可逆的ファラデー的反応を介して水素を貯蔵すると考えられている。
【0092】
代替的な実施例において、貯蔵粒子は、炭素以外の材料、例えばケイ素から形成されてもよい。ケイ素は、同様に、上に列記した特に望ましい特性を提供し得る。すなわち、(電子伝導の形態での)高い電気伝導性;水素、特に酸素および窒素との結合の機会を促進し得る表面官能基の存在;水素との結合の場を提供する傾向のある超微細孔または適切な層間距離を有する層状のドメインの大きい体積および表面積;および、貯蔵粒子内でのヒドロニウムイオン移送のためのチャネルを提供するメソ細孔を提供し得る。
【0093】
本発明の特定の実施形態によれば、貯蔵粒子は、単位質量および単位体積当たりの高い可逆的電気化学的水素貯蔵能力、乾燥後の水素の保持性、複数の帯電-放電サイクル後の水素貯蔵に対する高い往復効率の維持性という特質のうちの1以上を有し得る。
【0094】
上述のように、H+またはH+イオンを電気化学的に中和することができ、水素を多孔質活性電気化学セルに貯蔵できることを実証する先行研究が以前に実施された(Jurewiczら、2001、Jurewiczら、2002、Vix-Guterlら、2005、Fangら、2006、Bleda-Martinezら、2008、JurewiczおよびBabel、2008、Yangら、2010)。これらの多孔質活性炭電極について、最大2.2wt%の水素の有望な重量エネルギー密度が報告されており(Jurewicz、2009)、現在入手可能な最高の金属水素化物(~1.6wt%)より優れている。
【0095】
特定の実施形態によれば、炭素粒子は、活性炭からなる粒子として提供され得る。このような粒子は、フェノール樹脂および褐炭を含む種々の原料から形成され得る。実施形態において、炭素粒子は、1:7の水酸化カリウムの比率で活性化されたフェノール樹脂から構成された活性炭を含み得る。このような製造方法により、高いBET表面積、および0.7nm未満に至るまでの広範囲の細孔径が可能となる。
【0096】
活性炭の他に、調整可能な層間間隔を有するグラフェンヒドロゲル(ChengおよびLi、2013);ヒドロキシル基およびエポキシヒドロキシル基で終端したグラフェン酸化物誘導体等の他のグラフェン系材料(Guptaら、2017);電気活性アントラキノン(Pognonら、2011a)(Pognonら、2011b)により、またはキノン(Isikliら、2014)により;またはArにおける5%O(Figueiredoら、1999)により、HNO(NevskaiaおよびMartin-Aranda、2003)により、またはH/スチームによる酸化(HeoおよびPark、2018)により、修飾された活性炭;および積層単層窒化炭素材料(Tanら、2015)が、炭素粒子を提供する好適な材料を形成し得る。
【0097】
グラフェンについて言及すると、化学吸着で到達可能な最大重量密度は8.3%(=1/12)であり、トヨタの700バール先進複合圧縮水素ガス貯蔵シリンダ(トヨタ、2016)(トヨタ、2017)における5.7wt%を大きく上回る。これは、完全に飽和したグラフェンシート、すなわち「グラファン」の形成に相当する。後者の安定性は、DFTに基づく理論研究(Sofoら、2007)で仮説が立てられ、その後、実験(Eliasら、2009)でも研究されている。
【0098】
合成黒鉛状炭素窒化物を、プロトンバッテリにおけるプロトン貯蔵電極として、ひいてはプロトンフローリアクタのスラリーとして使用することが特に有望視されている。例えば、g-Cは半導体であり、g-Cは常温・常圧で最も安定的な同素体であり、半金属的な性質を示す(Duら、2012)。これら2次元構造は、どちらもその表面に規則的な孔を有しているため、多層材料において、水素の移送が層間に加えてこれらの孔を通じても生じるため、帯電および放電の速度を上昇させ得る。また、構造中の窒素原子は、高い電子密度を有する一対の軌道を有しているため、特にプラスに帯電したヒドロニウムイオンを引き付け、N-H結合を形成し得る。近年(Tanら、2015)により、密度汎関数理論シミュレーションを通じて、g-Cおよびg-Cのナノシートの帯電が、高容量および電気的に切り替え可能な水素貯蔵のための有望な技術を提供することが実証されている。
【0099】
特定の実施形態によれば、炭素粒子は、より小さいサイズであってもよい。これにより、体積に対する高い表面積比が提供される一方で、スラリー中にある場合の処理の容易さが保証される。特定の実施形態によれば、貯蔵粒子は、およそ0.5~1ミクロンの直径を有し得る。これにより、ブラウン運動がスラリー内で懸濁状態を維持することが確実となる。しかしながら、他の実施形態において、より大きいまたはより小さい貯蔵粒子が使用されてもよい。他の適切な粒子サイズとして、0.1~5ミクロンが含まれるが、本発明は、移送可能なスラリーが形成され得る限り、いかなる特定の粒子サイズにも限定されるとは広く考えられない。粉砕(例えばボールミル)のような方法が、貯蔵粒子のサイズを減少させるために使用され得る。
【0100】
特定の実施形態によれば、貯蔵粒子は、高い気孔率を提供し得る。これにより、水素が結合または付着する高い表面積対体積比が提供される。適切な気孔率レベルは、選択的に20%~40%の範囲にあり得る。
電解質
【0101】
本発明の実施形態によるスラリー内で使用する適切な電解質は、一般に、H+またはH+イオンを伝導させ得る任意の電解質を含み得る。適切な電解質には、希硫酸(例えば、1M~4M);純粋なジエチルメチルアンモニウムトリフレート(DEMATf)を含むプロトン性イオン液体;水中の10mol%DMATf;トリフリック酸(H0Tf):H0mol%DEMATf希薄硝酸;酢酸等の有機酸、またはギ酸;およびレドックス活性電解質(Roldanら、2011b、Roldanら、2011a)(Roldanら、2011c)。
【0102】
適切な電解質の選択に際して、競合する考慮事項同士が、例えば、H+またはH+イオンを伝導するための提案された電解質の能力と、これに対する電解質が貯蔵粒子に対して有害反応を引き起こし得るまたは促進し得る可能性とが調和するようにされ得る。理想的には、選択された電解質は、高いプロトン伝導性、低い電子伝導性、イオンを運搬するプロトンンが多孔質貯蔵粒子に移送するのに適したサイズを有すること、貯蔵粒子との低い反応性、および電気化学セルの部品(例えばNation PEM)との低い反応性を提供すべきである。
スラリー混合
【0103】
特定の実施形態において、電解質と予め混合された非帯電貯蔵粒子(または帯電貯蔵粒子)とからなるスラリーが、第1ハーフセルに供給され得る。同様に、特定の実施形態において、貯蔵粒子(または帯電貯蔵粒子)が、電解質とともにスラリーとして第1ハーフセルから取り出され得る。代替的な実施形態において、電解質と貯蔵粒子とは、別々に送られることでスラリーが第1ハーフセルに供給され得る。そして、電解質と粒子とは、別々に取り出されることでスラリーがハーフセルから取り出され得る。
【0104】
適切なスラリーは、単に貯蔵粒子または(場合により)帯電貯蔵粒子を電解質と混合することにより形成され得る。混合の標準的な方法は、当技術分野で理解されるように実施され得る。特定の実施形態において、貯蔵粒子は、(粒子の重量/液体の重量ベースで)従来のスラリーでは5~35%(w/w)、選択的に5~15%(w/w)を構成してもよい。15~35%は、より濃いペースト状のスラリーに利用されてもよい。
【0105】
スラリー電極に使用されるスラリーの粘性は、比較的粘性のある液体から粘度の高いペーストまで変化し得る。粘性のある液体は、電気化学セルの水素側のハーフセルを容易に通って流れるという利点があり、寄生ポンプ動力および必要なエネルギーが少ない。しかし、電気伝導度が低く、オーム抵抗エネルギー損失があり、貯蔵粒子の水素充填が遅く、場合により完全でないという欠点がある。ペーストは、電気伝導度が高く、抵抗エネルギー損失が小さく、粒子の充填が速く、完全であるという利点があるが、高いポンプ出力とそれに伴う寄生エネルギー消費を必要とし、電極構造の隙間にペーストが付着しにくいという欠点がある。
スラリー分離
【0106】
特定の実施形態によれば、貯蔵粒子は、電気化学セルから取り出された後に電解質から分離され得る。例えば、これにより、貯蔵粒子を移送し貯蔵することが可能になる。同様に、電解質は、後日貯蔵粒子を含む新しいスラリーを作成する等の再利用のために貯蔵され得る。
【0107】
適切な分離技術は、スラリーおよび貯蔵粒子の特性に依存し得る。関連する考慮事項は、帯電貯蔵粒子の表面に対する水素の結合/付着の程度に悪影響を与えることなく電解質を分離するために利用される分離技術の能力である。これには、不活性ガスを貯蔵粒子に吹き付けて通過させること、濾過、沈降(適切な場合には凝集または凝縮を伴う)、ハイドロサイクロン等が含まれ得る。貯蔵粒子の大きさは、分離技術の選択に影響を及ぼし得る。貯蔵粒子が例えば3ミクロン未満である場合、使用ハイドロサイクロン分離のような特定の既存の技術は、あまり適切でないことがある。
【0108】
実施形態において、分離技術は、圧力下での不活性ガスへの曝露により、スラリーおよび貯蔵粒子から液体を吹き飛ばす/蒸発させることを含み得る。貯蔵粒子を、蒸発プロセスを促進するために、制御された環境下で加熱してもよい。
【0109】
実施形態において、分離技術は、図6に例示するような移動膜デッドエンドフィルタ24を使用する濾過を含み得る。使用において、液体電解質22が移動膜24を通過する間に、帯電貯蔵粒子12は移動膜24上に堆積し得る。次いで、帯電貯蔵粒子12は、例えばナイフ26等の物理的手段により、または振動により、膜24から取り外され得る。代替的に、帯電貯蔵粒子12は、膜24上に長期間に亘って貯蔵され得る。この場合、電解質22を膜24に逆方向に流して使用するスラリーを形成することにより、帯電貯蔵粒子12は膜24から取り外され得る。同一または対応する装置が、非帯電貯蔵粒子をスラリーから取り出すために同様に使用され得る。
【0110】
特定の実施形態によれば、濾過または他の方法によるスラリーからの分離後、分離した貯蔵粒子をさらに乾燥させ得る。これは、不活性ガスを貯蔵粒子に吹き付けて通過させることにより達成され得る。
【0111】
製造後に帯電貯蔵粒子が局所的に貯蔵されて別の場所に移送されないような代替的な実施形態において、帯電貯蔵粒子は、発電のために必要とされるまで出力スラリー中に電解質とともに貯蔵され得る。このような構成は、例えば、太陽電池を使用して発生したエネルギーの国内貯蔵に適している。こうして、日中に発生したエネルギーは、夜間の使用のために貯蔵され得る。
貯蔵粒子の貯蔵および配送
【0112】
特定の実施形態によれば、貯蔵粒子は、移送されて、例えば発電での使用に必要とされる時まで、大型容器に貯蔵され得る。
【0113】
貯蔵粒子の貯蔵に既存の技術が利用され得る。例えば、炭素粒子の貯蔵のための適切な貯蔵デバイスは、好適には、非常に大量の潜在的にミクロンサイズの微細な固体炭素系粉末の貯蔵、貯蔵粒子の比較的低い密度、可燃性、酸化性雰囲気における帯電貯蔵粒子の「自己放電」能力(この問題に対処するために、帯電貯蔵粒子は不活性窒素雰囲気中に貯蔵され得る)、大気中に粒子を放出することなく、あらゆる物理的衝撃、または極端な大気温度に耐える能力を考慮すべきである。
【0114】
本発明の潜在的な取込みを考慮すると、膨大な量の材料、すなわち数トンもの可燃性材料をコスト効率良く貯蔵するための新しい設計が開発されるかもしれない。このような新しい設計は、セメント、肥料またはバルク穀物等の粉末材料をバルクで取り扱う経験に基づき得る。
エネルギー製造および貯蔵システム
【0115】
特定の実施形態によれば、本発明の方法および装置は、図7に記載の再生可能エネルギー貯蔵および発生システムのような、より広範なエネルギー発生および貯蔵システムの一部として使用することができる。
【0116】
図7において、非帯電貯蔵粒子が、再生可能または再生不能な無機または有機供給源28を含む複数の潜在的供給源のいずれかから得られる。次いで、非帯電貯蔵粒子は、非帯電貯蔵粒子貯蔵部30に貯蔵される。帯電に先立って、非帯電貯蔵粒子は、帯電モードに構成された電気化学セル(すなわち「プロトンフローリアクタ」)2Aへの供給前に、ミキサ32Aにて電解質と混合される。電気化学セル2Aは,再生可能なエネルギー供給源26により電力を供給されて、電気を供給して水を酸素とH+またはH+イオンとに電解し、帯電貯蔵粒子を生成する。帯電貯蔵粒子を含むスラリーが、セパレータ34Aに送られ、そこで電解質は分離されて電解質貯蔵部36Aにリサイクルされる。そして、乾燥した帯電貯蔵粒子は、その後の使用のために帯電貯蔵粒子貯蔵部43に送られる。
【0117】
図7は、帯電貯蔵粒子が国内および国家間で発電に使用されるという帯電貯蔵粒子の代替的な使用を提供する。国内での使用において、帯電貯蔵粒子は、ミキサ32Bに送られ、そこで電解質貯蔵部36Bからの電解質と混合される。次いで、帯電貯蔵粒子からなるスラリーが、プロトンフローリアクタ2Bに送られる。ここで、水素が酸素と反応して、水と電気ユーザ38A用の電気とが生成される。このプロセスの結果、帯電貯蔵粒子は、その水素を使い果たし、非帯電貯蔵粒子となる。これらは、セパレータ34Bにおいてスラリーから分離されて、非帯電貯蔵粒子貯蔵部30に戻る。このようなシステムは、主要部、地域またはコニュニティー規模の電力供給網における本質的に断続的または可変の再生可能資源(例えば、太陽および風力資源)からの余剰電力の貯蔵手段を提供し得るため、国の温室効果ガス削減目標の達成を支援し得る。
【0118】
国家間での使用においては、帯電貯蔵粒子がミキサ32Cに送られて電解質貯蔵部36Cからの電解質と混合される点において、プロセスは同様である。次いで、帯電貯蔵粒子からなるスラリーが、電気化学セル(すなわち「プロトンフローリアクタ」)2Cを通って送られ、ここで水素が酸素と反応して、水と電気ユーザ38B用の電気とが生成される。非帯電貯蔵粒子が、セパレータ34Cにおいてスラリーから分離されて、非帯電貯蔵粒子貯蔵部30に戻る。主な違いは、帯電貯蔵粒子が、船便40Aを介して海外に送られ得るとともに、非帯電貯蔵粒子として船便40Bを介し戻され得るという点である。このようなシステムは、自国の再生可能エネルギー源が十分でない国に対して、再生可能エネルギー容量に余裕のある他国から帯電炭素材料を輸入することで、ゼロエミッションの電力源を提供することができる。このような交換形態は、温室効果ガスの削減や世界的な気候変動への取り組みに貢献する。
【0119】
本技術をより広範なエネルギー発生および貯蔵システムへ適用することにより、本発明の特定の実施の形態により提供され得る柔軟性の向上が実証される。すなわち、H+またはH+イオンを結合または付着させる貯蔵粒子の使用により、化学エネルギーの柔軟な貯蔵および移送が可能になる。なぜならば、貯蔵粒子をプロトンフローリアクタから取り出して、バルク製品として移送し貯蔵することができるからである。Heidariに開示されたような固定された多孔質電極技術は、電気化学セルを分解せずにプロトンバッテリから容易に取り外すことはできない。このように、Heidariのプロトンバッテリは、外部の燃料源/エネルギー貯蔵部を利用する燃料セルに代えて、再充電可能であるが内部に貯蔵された燃料源を含む再充電可能なバッテリとして効果的に機能する。
【0120】
実施形態によれば、水素化炭素粒子の別の応用が図7(国内的には要素41A、国家間では41B)に示される。ここでは、炭素粒子の排出中に発電しつつ、水素ガスをプロトンフローリアクタシステムから直接的に抽出することができる。水素ガスは、燃料電池車両、電動式の乗用車、トラック、船舶、航空機、またはフォークリフトに使用され得る。したがって、この応用モードによれば、ある国において豊富な再生可能エネルギーから製造された水素化炭素粒子の形態で水素を輸出し、輸入国で移送用に直接的に水素ガスを発生させつつ電気も発生させるようにプロトンフローリアクタシステムを使用することが可能である。
【0121】
貯蔵粒子を用いる水素の貯蔵は、既存の水素貯蔵方法に対して利点があると考えられている。例えば、水素を圧縮ガスまたは低温液体として貯蔵することを想定すると、これらの方法では、水素を貯蔵状態にするために大量のエネルギーが必要となる。既存の技術と比較すると、水素を粒子に貯蔵することで、常温および常圧に近い条件で得られる優位で実用的な重量および体積エネルギー密度、固体非爆発物として水素を貯蔵することによる安全性の向上、送達および供給される電気エネルギーの単位当たりの低いまたは少なくとも同様の総エネルギー入力の比率、水素の貯蔵機構として比較的豊富な材料(例えば炭素粒子)に依存できる可能性を得ることが潜在的に可能となると考えられる。
【0122】
本発明およびプロトンフローリアクタの概念によれば、プロトンバッテリの概念を、断続的な太陽および風力エネルギー入力の主電力供給網に対する電気エネルギー貯蔵に必要な大規模な水素貯蔵まで拡張することができる。さらに、本発明は、ゼロエミッションの再生可能エネルギー源から、大量に輸出するのに適した水素ベースの燃料を製造することを可能にし得ると考えられる。
実験
【0123】
本件発明者らは、電気化学的プロセスを適用して多孔質炭素粒子内に水素を貯蔵することの技術的実現可能性を確認するために、実験作業を実施した。この実験によれば、図1のものと同じ構成を有する電気化学セルに、液体酸性電解質中の炭素粒子のペーストを供給した。すなわち、図1のプロトンリアクタ内の固定多孔質電極に代えて、粒子状ペースト電極を使用した。なお、粒子状ペーストは、粒子の密度が最大に近い粒子状スラリーの限定的な例である。実験はバッチモードで行われ、炭素粒子を帯電させる間、ペーストを第1ハーフセルに静止状態で保持した。
【0124】
これ以外について、実験を以下のように実施した。
ペースト電極は、24mgの炭素粉末(1:7KOHで活性化したフェノール樹脂からの活性炭)と硫酸(1M)の電解質とをおよそ1:4の質量比で混合することによって調製した。このペーストを第1ハーフセルの炭素フェルト上に載置し,電気化学セル全体を組み立てた。
電気化学セルを,1.8Vの電位で30分間帯電させた。帯電条件は,ペーストが水素で完全に帯電するように必要以上に長く続けられた。図8に、1.8Vの電位で30分間に亘って帯電した場合の帯電電流と時間との関係を示す。
この直後に、5mA、2mA、1mA、0.5mAの低い電流で放電を連続的に実施した。各ステップの間に5分間停止した。流れた全電荷量から、最小自己放電の条件下でペーストに貯蔵された最大水素量を算出した。
【0125】
4段階の電流での放電であって、各放電ステップの間に5分の停止時間を設けた場合の放電時の電位変化を図9に示す。図9から、放電中に14.97Cの電荷が流れたことが計算された。これは電極内に0.65wt%の水素が貯蔵されていることに相当した。この充電のレベルは予想よりも少なく、後に鉄の混入が原因であることが判明した。それでも、炭素粉末のペースト内にエネルギーを貯蔵できることができることが実証された。質量11mgの同様のサンプルを用いた別の実験では、放電中にセルを加熱した以外は同様の帯電および放電プロセスを採用することで、23.62Cを放電した。これは2.23wt%の水素貯蔵と同等であった。
【0126】
放電中に加熱しない段落0123、段落0124および段落0125に記載の手順を、その後第2サイクルで繰り返した。第2サイクルは、乾燥後に帯電炭素粒子が保持され得ることを実証するため、ペースト電極を乾燥させて電解質で再湿潤させる追加のステップを有している。ペースト電解質の乾燥ステップおよび再湿潤ステップは、この電極中の液体酸電解質を、アルゴンガスを30分間吹き付けることにより取り出すステップと、乾燥後の帯電炭素粒子をアルゴン環境中の粉末としてその場に16時間放置するステップと、液体酸を再度添加してペースト電極を再構成するステップと、を伴っていた。
【0127】
第2サイクルでは、図10に示すように、セルを1.8Vの電位で30分間に亘り再帯電させた。
【0128】
前記方法において記載した液体酸の取出および乾燥手順の後、液体酸を再度水素側に接続し、図11に示すように、第1サイクルと同様に段階的に電流を減少させながら放電させた。
【0129】
図11から、第2サイクルの放電時に8.85Cの電荷が流れたことが計算され、これは、電極内に電極内に0.38wt%の水素が貯蔵されたことと同等であった。この結果から、帯電直後に電極に貯蔵された水素の半分以上が、乾燥および再湿潤プロセス後も貯蔵されたままであることが実証された。
【0130】
実験の最後に、酸を取り出すプロセスの後にペースト電極がとり得る状態を観察すべく、以下の手順を利用した。すなわち、セルの水素側を酸供給源から切り離し、内部の電極をアルゴンガスを30分間に亘り吹き付けることにより乾燥させた。その後、セルを分解し、乾燥状態にある電極を直接的に観察した。
【0131】
乾燥後、ペースト電極は粉末の状態に戻った。第1乾燥プロセスと第2乾燥プロセスとは同一であることから、セル分解時の電極の状態と、第2放電開始時の電極の状態は同一であると推測される。
【0132】
発明が関連する技術分野の当業者には、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の多くの構造の変更および広く異なる実施形態および応用が提案されるであろう。本明細書における開示および説明は、純粋に例示であり、いかなる意味においても限定的であることを意図するものではない。本明細書において、本発明が関連する技術分野において既知の等価物を有する特定の整数が言及される場合、かかる既知の等価物は、個別に記載されているごとく本明細書に組み込まれるものとみなされる。
【0133】
本発明者らは、図12(上-断面概略図;下-セルの水素側のペースト用チャネルを示す3D図)に示すようなプロトンフローリアクタの小規模実施態様を開発した。このリアクタに、25wt%の炭素粒子と75wt%の1M硫酸からなるペーストを充填し、電位1.85Vの帯電モードで運転し、炭素粒子の細孔内に水素を貯蔵した。次に、帯電した炭素ペーストをリアクタ内の別の場所に移動し、ペーストが帯電電極やエンドプレートに接触しないようにした。帯電ペーストを、この場所で1時間保持した。次に、帯電ペーストを電極とエンドプレートに接触する帯電場所に戻し、5mA(0.36A/g)、2Ma(0.14A/g)、1mA(0.072A/g)、0.5mA(0.036A/g)の連続電流を流して放電させた。全体の放電量を計算し、水素貯蔵重量パーセントを判定した。この実証設定を使用して、プロトンフローリアクタは、指定された期間に亘って、帯電した水素の75%を正常に貯蔵することが示された。
【0134】
本発明者らはまた、本発明の実施形態に従って、図13に示すようなマイクロ流体プロトンフローリアクタを開発し、帯電モードおよび放電モードでその性能を測定した。フェノール樹脂からの活性炭0.25gを1M硫酸溶液1.00gに添加して、炭素スラリー電極を調製した。このスラリーを注射器を用いてマイクロ流体デバイスに注入した。同時に蒸留水をPDMS流路に酸素側に向けて注入し、2.0Vを印加してスラリー電極を部分的に帯電させた。この実験では、帯電中にスラリーを静止した状態に保持した。少なくとも0.5mAの電流でスラリーを放電させることができることがわかった。同一のマイクロ流体プロトンフローリアクタを、流れるスラリーの放電と放電に同様に使用することができる。
【0135】
本発明者らは、1MのHSO電解質中のフェノール樹脂からの活性炭のサンプルについて、標準水素電極に対して-0.4~0.9Vの電位範囲内でサイクリックボルタンメトリーを行うことにより、プロトンフローリアクタシステムにおいてC-粒子で必要となるC…H結合の証拠を得ることができた。
【0136】
第2サイクルのサイクリックボルタンメトリー曲線を、図14に示す。ピークを有する曲線の非矩形形状は、純粋な電気二重層キャパシタンス上に化学反応が存在することを示す。-0.2Vおよび0.25Vの電位における強いカソードピークおよびアノードピークは、C…H結合を含む電気化学反応を示している。さらに、0.4Vおよび0.6Vの電位における弱いカソード反応とアノード反応の証拠は、水素と酸素(キノンとヒドロキノンのペア等)および窒素表面官能性の電気化学反応に起因すると考えられる(Kun Yangら、2013)。
【0137】
2-電気化学セル
2A-帯電モードにある電気化学セル
2B、2C-放電モードにある電気化学セル
4-第1ハーフセル
6-第2ハーフセル
8-PEM
10-非帯電貯蔵粒子
12-帯電貯蔵粒子
14-水流
16-酸化剤流
18-非帯電貯蔵粒子からなるスラリー
20-帯電貯蔵粒子からなる粒子
22-電解質
24-フィルタ膜
26-再生可能エネルギー源
28-非帯電貯蔵粒子源
30-非帯電貯蔵粒子貯蔵部
32A、32B、32C-スラリーミキサ
34A、34B、34C-スラリーセパレータ
36A、36B、36C-電解質貯蔵部
38A、38B-電気ユーザ
40A、40B-移送船舶
41A、41B-水素ガス貯蔵部
42-H+またはH+イオン
43-帯電貯蔵粒子からなるスラリー用の貯蔵シリンダ
参照
【0138】
以下の各文献の開示内容全体を本明細書に組み入れる。
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【国際調査報告】