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2023-532721複合材料および電磁放射線に対する遮蔽物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】複合材料および電磁放射線に対する遮蔽物
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20230724BHJP
   D01F 9/08 20060101ALI20230724BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230724BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230724BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
H05K9/00 C
D01F9/08 D
C08L101/00
C08K3/08
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581411
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2021064328
(87)【国際公開番号】W WO2022002500
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】20183790.3
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513310818
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツア フェーデルンク デア ヴィッセンシャフテン エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】メラー, マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ラヒーミー, ホスロー
(72)【発明者】
【氏名】セレズネヴァ, エリザヴェータ
(72)【発明者】
【氏名】リーダー, ジルケ
(72)【発明者】
【氏名】シュパッツ, ヨアヒム
【テーマコード(参考)】
4J002
4L037
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
4J002BB231
4J002BP011
4J002CL011
4J002DA066
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA096
4J002DA106
4J002DA116
4J002DC006
4J002DJ006
4J002DK006
4J002FA046
4L037CS13
4L037FA01
4L037UA02
5E321BB25
5E321BB41
5E321GG05
5J020EA02
5J020EA05
5J020EA10
(57)【要約】
本発明は、GHz領域の電磁放射線を遮蔽するための複合材料であって、マトリックス材料と金属繊維とを含み、金属繊維が、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、鉄、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、ケイ素、リチウム、上記の組み合わせおよび上記のうちの1つまたは複数を含む合金からなる群から選択される少なくとも1つの要素を含む、複合材料に関する。さらに、本発明は、上記複合材料を含む電磁放射線に対する遮蔽物、および上記遮蔽物を用いて電磁放射線に対して遮蔽される少なくとも1つのコンポーネントを含む電子機器に関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GHz領域の電磁放射線を遮蔽するための複合材料であって、マトリックス材料と金属繊維とを含み、
上記金属繊維が、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、鉄、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、ケイ素、リチウム、上記の組み合わせおよび上記のうちの1つまたは複数を含む合金からなる群から選択される少なくとも1つの要素を含む、複合材料。
【請求項2】
上記金属繊維が、
CuならびにそのSi、FeおよびMnとの合金、
AlならびにそのSi、Mg、Ti、FeおよびMnとの合金、
ミューメタル、ならびに
金ならびに銀、ならびにそれらの合金
からなる群から選択される少なくとも1種の材料からなる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
上記金属繊維が、銅金属繊維または銅合金繊維、好ましくはCu99Si、Cu98Si、Cu96Si、Cu88Si12、またはCu92Sn、またはアルミニウム金属繊維またはアルミニウム合金繊維、好ましくはAl99Siである、請求項1~2のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項4】
上記金属繊維が、ステンレス鋼で作られておらず、好ましくは鋼で作られていない、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
上記金属繊維が、0.5~4μm-1、好ましくは0.8~3.5μm-1、より好ましくは1.5~3.2μm-1、さらに好ましくは2.0~3μm-1の表面積対体積比を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
上記金属繊維が円形ではない断面を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項7】
上記金属繊維が、断面の別の部分の縁よりも湾曲していない1つの縁を有する断面を有し、好ましくは、上記断面が楕円形の断面または三日月形の断面である、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項8】
上記金属繊維が、湾曲していない1つの縁を有する断面を有し、好ましくは、上記金属繊維の断面が長方形である、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項9】
上記複合材料中の上記金属繊維の量が、上記複合材料の総重量に基づいて0.02~2.5wt.%の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項10】
上記マトリックスが電気絶縁材料、好ましくはポリマー材料、より好ましくは熱可塑性材料、ゴム材料または熱硬化性樹脂材料である、請求項1~9のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項11】
上記金属繊維同士が電気的に接触していない、請求項1~10のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項12】
電磁遮蔽物である、請求項1~11のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項13】
上記電磁遮蔽物が1つの層を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の複合材料を含む、電磁放射線に対する遮蔽物。
【請求項15】
請求項14に記載の遮蔽物を用いて電磁放射線に対して遮蔽される少なくとも1つのコンポーネントを含む電子機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁放射線を遮蔽するための複合材料および電磁放射線に対する遮蔽物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器および電子機器は、電磁波とも呼ばれる電磁放射線との干渉によって、性能に影響を受ける可能性がある。このような電気機器および電子機器の信頼性が高く永続的な動作を確保するために、そのような電磁放射線からこれらを遮蔽して保護することが重要である。電気機器および電子機器を、遮蔽物を使用することにより外部からの迷放射線から保護することができる。一方、電気機器および電子機器によって生成される電磁放射線から環境を保護するために遮蔽物を使用することも可能である。
【0003】
さらに、高周波電磁放射線は、健康被害の可能性があるため議論されている。これは、より高いGHz領域の放射線の場合に特に当てはまる。いわゆるミリ波領域である。GHz放射線は、レーダー(3MHz~110GHz)および電子レンジ(2.455GHz)に広く使用されており、生体物質に熱的損傷をもたらし得る。この理由で、WHO、ICNIRPおよびIEEEは、人間への暴露を400MHz~300GHzの領域で2~10Wmの値に制限するガイドラインおよび規則を策定した。これは、レーダーベースの距離センサー(24GHzおよび77GHz)のような新しい技術開発や、第5世代のモバイル通信である5G(3~30GHzおよび後期段階では30~300GHz)でますます使用される周波数帯域でもある。したがって、機器の誤動作を回避し、またそのような機器の数が急速に増加している世界で人間と動物の健康を保護するために、電磁遮蔽材料に対する広範な需要があり、高まっている。
【0004】
さらに、効果的な遮蔽がなければ、電磁放射線は干渉源となり、エネルギー場の誘導結合および容量結合によって電子機器の機能を損なう。例としては、クロストーク、ノイズ、反射、そしてなんといってもデジタル信号のスクランブルが挙げられる。その結果、医療、輸送、セキュリティ、データ処理などの重要な分野で見られるように、ネットワーク障害や機器の完全な故障が発生する。
【0005】
したがって、5G技術の発展に伴って、改善された非常に効果的な遮蔽が必要である。非常に効果的な電磁干渉(EMI)遮蔽材料は、不要な放射を低減するためだけでなく、外部の迷信号からコンポーネント自体を保護するためにも必要である。特に望まれるのは、遮蔽のための周波数選択性表面構造(FSS)(つまり、特定の波長が効果的に遮蔽され、他の波長は遮蔽されない)の可能性である。
【0006】
EMI遮蔽の1つの可能性は、導電性材料を使用して放射線を反射することである。将来ますます重要になるEMI遮蔽のさらなる可能性は、電気および/または磁気双極子が放射線と相互作用する際の電磁(EM)放射線の吸収を利用することである。両効果の組み合わせは、EM波の吸収と放散につながる多重内部反射と散乱によって、散乱中心と界面または欠陥サイトによりEM放射線が閉じ込められるという事実に基づいている。
【0007】
反射につながる単純な金属シースは、低周波用に広く使用されている。小型の機器およびコンポーネント(例えばハンドヘルドの機器)では、金属シースは、プラスチックと比較して、その重量、腐食の受け易さ、およびそのような金属シースのより高い加工費による欠点を有している。そのため、キロヘルツ領域のEM遮蔽でさえも、軽くて安価で加工しやすい遮蔽材料が求められている。導電性充填材を含むポリマー複合材料は、kHzおよびMHz領域で遮蔽するためのこれらの条件を既に満たしている。MHz領域では、それらは、EM放射線を吸収する能力による特別な利点もある。しかしながら、多くの場合35wt.%を超える金属充填材量によって加工性と耐腐食性が制限される。充填材としての導電性カーボンブラックは、そのような複合材料に使用されるが、黒色摩耗による欠点も有している。カーボンナノチューブおよびグラフェンなどの他の炭素形態が研究されており、磁気コンポーネントとの組み合わせも検討されているが、GHz領域での制限が示されており、応用の飛躍的進歩にはまだ至っていない。
【0008】
材料の遮蔽効率は、特定の波長に対して、該材料を透過する際の電磁放射線の減衰として定義される。遮蔽は、反射ならびに吸収によって引き起こされる。誘電材料を用いた金属発泡体および金属複合材料のような不均一な材料は、多重反射と吸収を組み合わせて吸収の経路長を増加させるため、電磁放射線の特に効果的な吸収体になり得る。吸収は、材料の加熱、つまり電気エネルギーの熱放散を引き起こす局部電流(変位電流)の発生に起因する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、特に5Gモバイル無線技術の3~300GHzの広帯域な無線周波数帯域に対して改良された遮蔽材料が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1に記載の電磁放射線を遮蔽するための複合材料、およびそのような複合材料を含む電磁放射線に対する遮蔽物によって解決される。本発明による複合材料は、電磁放射線を遮蔽するための材料である。これはマトリックス材料と金属繊維とを含む。金属繊維はマトリックス材料に埋め込まれている。金属繊維は、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、鉄、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、ケイ素、リチウム、上記の組み合わせおよび上記のうちの1つまたは複数を含む合金からなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくは1つの要素を含む。
【0011】
本発明による遮蔽物によって、3~300GHzの周波数帯域において20~60dBまでの強力な吸収損失をもたらすことができる。さらに、コーティング、塗料、積層または粘着テープとして本材料を小型の電子機器にさえ適用することが可能である。また、効果的な遮蔽材料であることに加えて、本発明による複合材料は、金属繊維の量が少ないためマトリックス材料の特性にほとんど影響を及ぼさないので、軽量で加工しやすく耐衝撃性があり、金属繊維がマトリックス材料に埋め込まれているので良好な耐腐食性を有し、金属繊維の量が少ないため比較的安価であり、設計の自由度が高くなる。
【0012】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、GHzの電磁吸収特性のメカニズムは、固有の導電損失ではなく、誘電性に基づいている。マクスウェルの方程式によると、完全な導体では、電磁場内で電荷キャリアが加速および減速すると、入射波を相殺する放射場が生成される。本発明による複合材料では、遮蔽効率を改善するために以下の3つのメカニズムが組み合わされている。
【0013】
アンテナ機構による吸収:GHz周波数帯域で共振長アンテナ、すなわち波長の4分の1に金属繊維の長さを調整することにより引き起こされる吸収の強化。1.0mm~25mmの範囲の金属繊維の長さは、3~300GHzの範囲、特に3~30GHzの範囲の周波数帯域の電磁放射線を効率的に吸収することが判明した。したがって、金属繊維の長さは、好ましくは1.0~25mmの範囲、より好ましくは1.3~20mmの範囲、さらに好ましくは1.5~18mmの範囲、さらにより好ましくは1.8~15mmの範囲、非常に好ましくは1.9~10mmの範囲である。さらに、長さが2.5mmを超える金属繊維を使用することも可能である。
【0014】
インピーダンス整合:インピーダンス整合の理想的な条件は、Zin=Z=377Ωの場合に達成される。ここで、Zinは導電性の分散コンポーネントのインピーダンスであり、Zは誘電性のマトリックスコンポーネントのインピーダンスである。上記条件は、特定の整合厚さ(t)および整合周波数(f)で満たされる。理想的には、有効な周波数帯域はできるだけ広くすべきであり、これはtを1/4波長の倍数(nλ/4)に調整することにより制御することができる。nλ/4は、入射波と反射波の間の破壊的な干渉による零反射を達成するために必要な誘電材料の長さである。-20dBの減衰は99%のマイクロ波吸収であると考えられ、ほとんどの場合、十分な遮蔽と考えられる。
【0015】
ファラデーケージについての経験則として、遮蔽される電磁波の波長に対する開口ギャップの直径の比率は1/10以下であるべきである。したがって、あらゆる透過を防止するために、金属繊維間の平均距離が約λ/10である場合が好ましい。これは、3~300GHzでは、金属繊維の含有量が好ましくは複合材料の総重量に基づいて0.02~2.5wt.%の範囲にある場合、本発明の複合材料を用いて実現することができる。
【0016】
本発明による複合材料では、マトリックスは電気絶縁材料であることが好ましい。これにより、金属繊維は互いに電気的に絶縁される。その結果、遮蔽効率を高いレベルで得ることができる。例えば、20wt.%未満の濃度で繊維を提供するか、または繊維の長さを調整することによって、繊維同士が接触していないことが特に好ましい。0.02~2.5wt.%の範囲が特に好ましい。繊維同士が接触していないことにより、著しい直流導電率を有さない本発明の複合材料を得ることが可能である。これに関連して、金属繊維とは別に、カーボンブラックまたはカーボンナノチューブなどのさらなる導電性添加剤が本発明の複合材料に含まれないことが特に好ましい。
【0017】
マトリックスはポリマー材料である場合が好ましい。これより、金属繊維を互いに分離することができ、例えば、二軸または単軸押出機などを用いる押出成形、射出成形、メルトブロー、カレンダー加工、積層などのポリマー材料の成形プロセスを利用できる。ポリマー材料は、熱可塑性材料、ゴム材料または熱硬化性樹脂材料であることが好ましい。
【0018】
熱可塑性材料の好ましい例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリメタクリレートおよびその共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、脂肪族ポリエステル、および芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアセタール、ポリシロキサン、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、特にPPO、ポリエーテルケトン、特にPEKおよびPEEK、熱可塑性ポリウレタン、セルロースの熱可塑性誘導体である。
【0019】
ゴム材料の好ましい例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、EPDMゴム、ポリシロキサンゴム、熱可塑性オレフィン(TPO)などの熱可塑性エラストマー、SBSおよびSEBSなどのスチレンの共重合体、熱可塑性ウレタン(TPU)、熱可塑性アミドポリマーおよびコポリマー(TPA)、熱可塑性ポリエステルコポリマー(TPC)およびアイオノマー、例えばエチレンとメタクリル酸のコポリマーが挙げられる。アイオノマーは、例えば商標名Surlynで入手可能である。
【0020】
マトリックス材料として使用することができる好適な熱硬化性樹脂およびプレポリマーの好ましい例は、ノボラックおよびベークライトなどのフェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂およびポリウレタンである。
【0021】
疎水性ポリマーの使用は、それが埋め込まれた金属繊維の耐候性を改善するので、さらに好ましい。そのような疎水性ポリマーの好ましい例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、EPDMゴム、ポリシロキサンゴム、熱可塑性オレフィン(TPO)などの熱可塑性エラストマー、SBSおよびSEBSなどのスチレンの共重合体、およびフェノール樹脂である。
【0022】
本発明による電磁遮蔽用の複合材料は、複数の金属繊維で実現することができる。本発明によれば、金属繊維は、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、鉄、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、ケイ素、リチウム、上記の組み合わせおよび上記のうちの1つまたは複数を含む合金からなる群から選択される少なくとも1つの要素を含む。好ましくは、金属繊維は、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、バナジウム、アルミニウム、ケイ素、リチウム、上記の組み合わせおよび上記のうちの1つまたは複数を含む合金からなる群から選択される少なくとも1つまたは1つの要素を含む。
【0023】
特に好適な金属繊維は、CuならびにそのSi、FeおよびMnとの合金、AlならびにそのSi、Mg、Ti、FeおよびMnとの合金、パーマロイならびにスーパーマロイとしても知られるミューメタル、ならびに金ならびに銀、ならびにそれらの合金からなる群から選択される少なくとも1種の材料からなるものである。コバルトと残部の鉄、モリブデン、ホウ素および/またはケイ素とからなる合金、例えばCo66FeMo12Si16などのコバルト合金の金属繊維も好ましい。
【0024】
金属繊維は、例えば、出願番号EP19175749.1の欧州特許出願、国際公開第2016/020493A1号、および国際公開第2017/042155A1号(それらの内容は、金属繊維を形成し、その結果として得る方法に関して参照により本明細書に組み込まれる)に開示された例に記載されているような、溶融紡糸によって金属ストランドを製造するための装置および方法を使用する溶融紡糸によって製造することができる。したがって、金属繊維は、例えば、Cu、Cu99Si、Cu96Si、Al、Al99Si、Fe40Ni4020、Au、Ag、Pb、Si、または上記の組み合わせおよび上記のうちの1つまたは複数を含む合金からなる金属繊維であってもよい。驚くべきことに、銅ならびにアルミニウムがSi、FeおよびMnと合金化され、ポリマーマトリックス、特に、例えばポリオレフィンなどの疎水性ポリマーと配合されたすべての場合において、非常に良好な長期腐食安定性が達成された。同じことが、Co66FeMo12Si16の金属繊維についても観察された。集束伸線などによって得られた他の金属繊維とは対照的に、出願番号EP19175749.1の欧州特許出願、国際公開第2016/020493A1号、および国際公開第2017/042155A1号に記載される溶融紡糸によって得られた金属繊維は、非晶質またはナノ結晶構造のため脆性が低くなる。脆性が低いため、金属繊維をマトリックス材料と一緒に、破断することなく押出加工することができる。脆性が高い繊維は押出加工中に破断し、その結果短くなる。したがって、金属繊維が集束伸線から得られるものと同じくらい脆い場合、明確な長さを有する金属繊維を含む複合材料を製造することは困難である。結果として、溶融紡糸によって得られた金属繊維、特に上記のものが、本発明の複合材料において好ましく使用される。そのような金属繊維は、溶融紡糸から得られる金属繊維の柔軟性により、押出加工前に所望の長さで提供することができ、押出加工中に長さが維持されるため、本発明の複合材料を押出加工によって明確な長さの金属繊維を用いて得ることができる。
【0025】
非晶質金属繊維が使用される場合、特にこれらが疎水性ポリマーに埋め込まれる場合、優れた腐食安定性を達成することができる。したがって、本発明による複合材料中の金属繊維が非晶質金属繊維である場合が特に好ましい。これらの非晶質金属繊維が疎水性ポリマー材料に埋め込まれる場合がさらに好ましい。結晶質金属繊維とは対照的に、非晶質金属繊維はガラス質構造またはナノ結晶構造を有する。金属繊維が非晶質かどうかを判断する簡便な方法は、DSC測定である。非晶質金属繊維は、結晶質金属繊維では観察することができないDSC測定での加熱時の発熱事象を示す。発熱事象は、例えば、結晶化、すなわち、ガラス質構造から結晶構造への転移によって引き起こされ得る。典型的には、ステンレス鋼繊維は結晶構造を有する。
【0026】
金属化合物が磁気誘導のため軟磁性を有する磁性体である場合、吸収効果はさらに改善され得る。したがって、金属繊維が、ミューメタル、さらに好ましくは76~81wt.%のニッケル含有量と残部の鉄、銅、クロムおよび/またはモリブデンとを有するミューメタルからなる群から選択されるミューメタルで作られることが非常に好ましい。これらのミューメタルは、ほぼ即時の軟磁化を示し、磁気誘導によって電磁エネルギーを吸収することができる。その結果、特に効率的な遮蔽物は、ミューメタルで作られた金属繊維を用いて実現することができる。このことは、ミューメタルを含む複合材料が、ポリマー材料について上述したものなどの成形技術を用いて製造される場合でも当てはまる。
【0027】
他の非常に好ましい金属繊維は、銅または銅合金、好ましくはCu99Si、Cu98Si、Cu96Si、Cu88Si12またはCu92Sn、またはアルミニウムまたはアルミニウム合金、好ましくはAl99Siで作られている。銅合金およびアルミニウム合金は、それらの純粋な金属に比べて溶融紡糸技術を用いて容易に製造することができるが、ほぼ同じ導電率を示す。銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金の繊維は、優れた導電性により変位電流が発生しやすくなるため、優れた遮蔽効果を示す。
【0028】
金属繊維は、ステンレス鋼で作られていないことが好ましい。原則として、ステンレス鋼で作られた金属繊維を使用することは可能であるが、上述したものなどの他の金属繊維を使用すると、より優れた遮蔽結果を得ることができる。理論に拘束されるものではないが、遮蔽が、電磁波の強度が1/eに減衰する材料への距離に依存していることに留意すべきであり、この距離は表皮厚さδとしても知られている。表皮厚さは、ν-1/2に比例し、材料に依存するが、ここで、νは電磁波の周波数である。1~100GHzの周波数帯域では、表皮厚さは、銅については2.0~0.2μm、アルミニウムについては2.6~0.2μm、鋼については13.2~1.3μm、炭素については59μm~5.9μmである。鋼および炭素材料の表皮厚さが大きいため、本発明の複合材料が鋼(特にステンレス鋼)および炭素材料(カーボンブラック、炭素繊維またはカーボンナノチューブなど)を本質的に含まない場合が好ましい。銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金および/またはミューメタルの金属繊維の使用によって、所望の遮蔽効果を、比較的微細な繊維で実現することができる。より微細な繊維の使用によって、表面積対体積比が増加し、遮蔽効果がさらに向上する。
【0029】
本発明による複合材料中の金属繊維の量は、好ましくは、繊維同士が接触しないように、すなわち浸透閾値未満になるように設定される。金属繊維を浸透閾値未満とするために、金属繊維の濃度が20wt.%未満であることが好ましい。さらにより好ましくは、金属繊維濃度は0.02~2.5wt.%の範囲である。ファラデーの法則に基づく加工性および遮蔽効率の観点から、複合材料中の金属繊維の量の上限は、複合材料の総重量に基づいて、好ましくは1wt.%未満、より好ましくは0.5wt.%未満、さらに好ましくは0.25wt.%以下である。アンテナ機構による吸収とインピーダンス整合に基づいた遮蔽メカニズムの観点から、金属繊維の量の下限は、複合材料の総重量に基づいて、好ましくは0.04wt.%以上、より好ましくは0.05wt.%以上、さらに好ましくは0.06wt.%である。上述のように金属繊維濃度を調整することによって、繊維間の距離を調整することができる。繊維間の距離を調整することによって、特定の波長の電磁波を選択的に遮蔽することができるが、他の波長では遮蔽効果はそれほど顕著ではない。
【0030】
本発明の効果は、0.5~4μm-1、好ましくは0.8~3.5μm-1、より好ましくは1.5~3.2μm-1、さらに好ましくは2.0~3μm-1の表面積対体積比を有する金属繊維の使用により特に良好に得ることができる。そのような繊維は、その重量に対して特に大きな表面積を有するため、変位電流の誘導を増加させることができ、電磁波の非常に効果的な遮蔽物が得られると同時に、重量と材料を節約することができる。
【0031】
本発明の複合材料では、金属繊維の断面に各種の形状を使用することができる。金属繊維の断面が円形でない場合、より高い表面積対体積比を実現することができる。したがって、断面は、断面の別の部分の縁よりも湾曲していない1つの縁を有することが好ましい。すなわち、湾曲の少ない縁の曲率半径は、断面の他の部分の曲率半径よりも大きい。一方の縁が他方の縁よりも湾曲していない断面の好ましい例としては、楕円形の断面、三日月形の断面、および半円形の断面が挙げられる。断面が、湾曲していないすなわち平坦な1つの縁を有する場合が特に好ましい。より好ましくは、金属繊維は、平坦な2つの縁を有する断面を有する。さらにより好ましくは、金属繊維の断面は長方形である。
【0032】
本発明では、長方形の断面を有する金属繊維、および楕円形の断面を有する金属繊維を使用することが好ましい。長方形の断面を有する金属繊維の場合には、金属繊維の幅が80μm以下であると好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは5μm以下であり、厚さが50μm以下であると好ましく、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下、さらにより好ましくは5μm以下である。金属繊維の幅および厚さの下限は特にない。しかしながら、金属繊維は、1μm以上、好ましくは3μm以上の幅、および1μm以上の厚さを有していてもよい。
【0033】
楕円形の断面を有する金属繊維の場合には、金属繊維の平均直径が80μm以下であると好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは5μm以下である。楕円形の断面の平均直径とは、最大直径および最小直径の平均を指す。楕円形の断面を有する金属繊維の最小直径の下限は特にない。しかしながら、最小直径は、1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であってもよい。
【0034】
金属繊維の断面積は、形状が長方形、楕円形、三日月形または円形のいずれであっても、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下、最も好ましくは20μm以下である。金属繊維の断面積の下限は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上である。上記のような断面積であれば、複合材料中の金属繊維の特に目の細かいネットワークが形成され、GHz領域での遮蔽に必要であるような高い遮蔽効率が得られる。理論に拘束されるものではないが、断面積が上記のように小さい場合、遮蔽効率の増加は表面積の増加によってもたらされると考えられる。以下でより詳細に説明されるように、表面積が増加すると、誘導される変位電流が増加し、遮蔽効果が向上する。同時に、より少ない量の金属繊維で遮蔽を達成できるため、複合材料の重量を減らすことができる。さらに、このような0.5~10μmの範囲の小さい断面積の場合、金属繊維が非常に柔軟であるため、特に溶融紡糸によって得られる金属繊維を使用する場合、加工性を改善することができる。
【0035】
本発明による複合材料では、金属繊維同士が電気的に接触していないことが好ましい。それにより、繊維の長さを調整することによって、アンテナ機構による吸収を最適化することができる。また、繊維同士が電気的に接触していないため、複合材料の直流導電率が低下する。
【0036】
本発明による複合材料は、カーボンブラック、炭素繊維またはカーボンナノチューブなどの追加の導電性材料を必要としない。したがって、本発明による複合材料は、カーボンブラック、炭素繊維またはカーボンナノチューブを含まないことが好ましい。カーボンブラック、炭素繊維およびカーボンナノチューブを含まない複合材料によって、摩耗による汚れを防ぐことができる。さらに、遮蔽物を透かして見たい場合は透明な遮蔽物を提供したり、あるいは顔料を加えて遮蔽物を着色したりすることが可能である。本明細書で使用される顔料という用語は、カーボンブラック、炭素繊維およびカーボンナノチューブを包含しないことを理解されたい。
【0037】
本発明の複合材料は、好ましくは電磁遮蔽物である。したがって、特に3~300GHzのGHz領域における、電磁遮蔽物としての本発明による複合材料の使用も、本発明の一部である。その使用は、3~30GHzの範囲、または30~300GHzの範囲、またはその両方の周波数の遮蔽物においてであってもよい。
【0038】
好ましくは、本発明による複合材料を含む電磁遮蔽物は、単一の層を有することができるか、あるいは二層以上などの多層積層体から製造することができる。しかしながら、電磁遮蔽物は、電磁遮蔽物を実現するために単一の層を有することが好ましい。そのような単層遮蔽物は、容易に製造することができ、電磁放射線の吸収のための3つのメカニズムを組み合わせた本発明の複合材料により、そのような電磁放射線を遮蔽する上で依然として非常に効果的である。
【0039】
上記および本発明の特許請求の範囲に記載の複合材料を含む電磁放射線に対する遮蔽物も、本発明の一部である。
【0040】
好ましくは、本発明の遮蔽物は、電子機器またはそのコンポーネント用のハウジングである。
【0041】
これに関連して、上記および特許請求の範囲に記載の遮蔽物、すなわち上記および特許請求の範囲に記載の複合材料を用いて電磁放射線に対して遮蔽される少なくとも1つのコンポーネントを含む電子機器も、本発明の一部である。
【0042】
複合材料は、遮蔽されるEMスペクトルに対応する適切な長さに繊維を切断することにより調製される(以下を参照)。金属繊維は、溶融によるコンソリデーションの前にマトリックスポリマーの微粉末と混合されるか、あるいはポリマー溶融物またはモノマー樹脂混合物と直接配合される。
【0043】
二軸押出機での直接配合は、平均繊維長を著しく変えることがなければ、高周波EM遮蔽に適した短い繊維の場合に可能となっている。
【0044】
次に、ほんの一例として、添付の図面および図を参照し、本発明の複合材料および遮蔽物の様々な実施例によって、さらに詳細に本発明を説明する。図面に示されているものは以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】EM波が3D材料に衝突したときの入射、反射および透過電力ならびに電磁場強度の概略図である。
図2】実施例3のCuSi-TPS-SEBS複合材料について、1Hz~8MHzの範囲で測定されたインピーダンスを示す。
図3】実施例4のCuSi-TPS-SEBS複合材料について、1Hz~8MHzの範囲で測定されたインピーダンスを示す。
図4】実施例3および4の複合材料の水分取込み量を示す。
図5】水中エージング前後の実施例3のCuSi-ナイロン複合材料について、1Hz~8MHzの範囲で測定されたインピーダンスを示す。
図6】水中エージング前後の実施例4のCuSi-ナイロン複合材料について、1Hz~8MHzの範囲で測定されたインピーダンスを示す。
図7】CuSi繊維を0.5wt.%、2.5wt.%、10wt.%、20wt.%、30wt.%および50wt.%含有する実施例3の試料の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
遮蔽効率は、反射と吸収に依存する。遮蔽効率(AE)は、特定の周波数のEM波が材料を通過する際に、材料がそのEM波をどの程度減衰させるかを測定する。図1は、EM波と材料との起こり得る相互作用を示す。EM波が材料の表面に到達すると、入射電力(P)の特定の部分が反射(P)されるが、別の部分は吸収されて熱として放散され、残りの部分は遮蔽材料を透過(P)する。したがって、3つの異なるプロセス、すなわち反射、吸収および多重内部反射が全減衰に寄与し、これが遮蔽効果(式1)に対応する。
【0047】
【数1】
【0048】
EMI遮蔽の主なメカニズムは反射である。反射損失(AE反射)は、遮蔽材料の表面とEM波の間の相対的なインピーダンス不整合に関連している。反射損失の大きさは、材料の透磁率(μ)に対する導電率(σ)の比に比例する(すなわち、AE反射∝σ/μ)。
【0049】
優れた導電性により、金属は、閉じた層やネットワークとして電磁放射線を非常によく反射または迂回させることができる。高周波場が静電荷を蓄積し得る電気機器は、通常、接地された金属遮蔽具によって保護されている。これにより、高周波電磁放射線が機器から漏れるのが防止されると同時に、外部からの迷放射線に対する遮蔽がもたらされる。しかしながら、GHz領域の単純な金属遮蔽具は、小さなコンポーネントや、高圧下で圧縮する必要がある導電性シールが必要な場合にはあまり実用的ではない。
【0050】
EMI遮蔽のもう1つのメカニズムは吸収である。EM波の強度は、導体の材料を通過するにつれて指数関数的に減少する。吸収損失によって、媒体において誘導される電流により材料が加熱される。デシベル(dB)単位の吸収損失(AE吸収)は、導電率(σ)、透磁率(μ)および試料の厚さ(d)に依存する(すなわち、AE吸収∝σμd)。
【0051】
薄膜では、吸収は、2つの外側界面間の多重反射によって促進され、EM波は第2の界面から反射され、第1の界面に戻り、第1の界面から反射されて第2の界面に戻る。
【0052】
ここで、浸透深さδは、δ=(fπσμ)-1/2で与えられ、入射場がその元の値の1/eまで減衰する外面下の厚さとして定義され、ここで、fは入射波の周波数である。
【0053】
また、多重反射AE多重反射に基づく遮蔽効率は厚さdに基づいており、浸透深さδは式(2)によって表わすことができる。
【0054】
【数2】
【0055】
多重反射は、コンポーネントの透磁率が大きく変化する多孔性材料または複合材料などにおいて、材料の内部構造によって達成することもできる。このような不均一な微細構造では、局所場の大きな変動が生じる。ナノ/マイクロ構造の各種の電磁特性は偏波空間として機能し、伝導電流と比較して変位電流の遅延を引き起こす。これらの条件の下では、誘電率と透磁率は実効誘電率(ε=ε’+iε”)および透磁率(μ=μ’+iμ”)と置き換えることができる。ε’およびμ’はそれぞれ、電気エネルギーおよび磁気エネルギーの貯蔵を指す。ε”およびμ”はそれぞれ、誘電損失および抵抗損失を表わす。これらは、各コンポーネントの形状、サイズ、導電率および体積分率に複雑に依存している。複合材料と自由空間のインピーダンスが一致すると、複合材料の表面からのGHz波の反射が完全に減衰する(吸収が最大化される)。インピーダンス整合のための理想的な条件は、Zin=Z=377Ωの場合である。ここで、Zは自由空間の固有インピーダンスであり、Zinは吸収体の入力インピーダンスである。
【0056】
-20dBの減衰は、99%のマイクロ波吸収であると考えられ、ほとんどの場合、十分な遮蔽であると考えられる。さらに、技術的な領域において、効率的な遮蔽だけでなく、軽量、最小限の厚さ、耐腐食性、耐薬品性、良好な柔軟性、調整可能な形態、容易な加工および経済性も必要である。
【0057】
μおよびσ(式2を参照)に対するAEの依存性は、導電性の磁性金属の遮蔽が反射ではなく吸収によって支配されることを示している。これは導電率が低いためであり、その結果、反射率が低くなるが、浸透深さは大きくなる。ここで、熱可塑性物質と、コバルトおよび残部の鉄、モリブデン、ホウ素および/またはケイ素からなるミューメタルまたは合金、例えばVitrovac(登録商標)の商標名で入手可能なCo66FeMo12Si16などの軟磁性金属で作られた特に微細な繊維とで作られた微分散複合材料は、吸収による遮蔽に理想的である。上述のように、そのような軟磁性金属の微細繊維は、溶融紡糸によって製造することができる。磁性材料の寸法も透磁率に大きな影響を与える。より大きな粒子では、誘導される変位電圧の増加により変位電流の損失が増加し(U変位∝領域)、より良好なAE結果(遮蔽効果)につながる。さらに、金属繊維の異方性によって、電磁減衰が増加する。
【実施例
【0058】
次に、非限定的な実施例を参照して本発明を説明する。
【0059】
いくつかの例示的な複合材料を調製した。組成を表1に要約する。複合材料を調製するために、以下の配合手順を適用した。
【0060】
配合:
配合は押出加工を用いて行った。円錐スクリューおよび15mLの容量を有する同方向回転二軸スクリューマイクロコンパウンダー(DSM Xplore、オランダ)を例示的な複合材料に使用した。組成を表1に示す。実施例1および2の複合材料は、金属繊維の濃度を0wt.%、10wt.%、20wt.%、30wt.%、40wt.%および50wt.%として製造したことに留意されたい。実施例3および4の複合材料は、金属繊維の濃度を2.50wt.%、5wt.%、10wt.%、20wt.%、30wt.%および50wt.%として製造した。マトリックス材料と金属繊維とを、マイクロコンパウンダーに同時に供給した。
【0061】
実施例1および2では、40rpmのスクリュー回転速度で混合を210℃で10分間行った。全工程を窒素雰囲気下で行った。その後、得られた複合材料を、5.5mLの射出成形機(DSM Xplore)を用い、以下の条件:シリンダー温度210℃、金型温度60℃、保持圧力7MPa、保持時間10秒および冷却時間20秒の下で、ゲージ長60mm、幅20mmおよび厚さ2mmの試験片に加工した。
【0062】
実施例3では、同じ手順を用いたが、混合中の温度および射出成形中のシリンダーの温度は190℃であった。実施例3の複合材料の写真画像を、各種の濃度の金属繊維について図7に示す。金属繊維の濃度が増加するにつれて、金属繊維間の平均距離が減少することが写真から認められる。インピーダンス測定で観察された30~20wt.%の浸透閾値は、写真からの光学的印象と一致する。
【0063】
実施例4の複合材料は、実施例3の複合材料と同一であるが、実施例3のように射出成形を用いる代わりに、ホットプレスによって加工した。ホットプレスによって、1.7バールの圧力および180℃の温度で10分間プレスすること(MeltPrep、オーストリア)により、実施例4の複合材料から直径25mmおよび厚さ1.6mmを有するペレットを得た。
【0064】
【表1】
【0065】
SEBSは、スチレンとブタジエンのブロック共重合体の水素化によって得られる、優れた機械的特性、耐薬品性および耐熱性を備えた水素化熱可塑性スチレン含有エラストマーである。SEBS系コンパウンドは、優れたエラストマー特性とゴム様外観を持ち、優れた耐候性、耐UV性および耐オゾン性を示すため、屋外や長寿命の用途に好ましい選択肢となっている。SEBSの化学構造は下記式に従う。
【0066】
【化1】
[式中、x、m、n、vおよびyは整数である。]
【0067】
実施例3の複合材料のインピーダンス測定値を図2に示し、実施例4の複合材料のインピーダンス測定値を図3に示す。実施例2の複合材料のインピーダンス測定値は、実施例3のものと同等である。射出成形によって得られた実施例3の複合材料の浸透閾値が30~20wt.%であることが認められ、同じことが実施例2の複合材料に対しても言える。実施例4の複合材料について同様の浸透閾値が観察されたが、浸透限界はそれほど急激ではないように見える。これは、射出成形によって得られたものと比較してホットプレスによって調製された試料の均質性が低いことによって説明できる。
【0068】
コーティングの調製
以下の手順に従って、KPG撹拌機を用いて溶剤系コーティングを調製した。Laropal A81(PMS中の固形分60%)(20g)と、1-メトキシ-2-プロピルアセテート62mL中の5gのGARAMITE-7305とを、1000rpmで5分間撹拌した。次いで、18gのCuSi繊維(長さ約1.5mm)を加え、500rpmでさらに5分間撹拌した。ドローダウンロッド(ドクターブレード)を用いて分散液をコーティングとしてポリカーボネートプレートに塗布し、次いで室温で24時間硬化させた。
【0069】
腐食試験
得られた複合材料の耐腐食性を評価するために、試料を蒸留水中で50℃の温度で7日間エージングさせた。処理後、孔食、全面腐食またはCuSi繊維の酸化は観察されなかった。水中でのエージングの前後に試料を秤量し、全水分取込み量を評価したところ、0.22~0.5wt.%であり、これは、ポリマー複合材料の水和に対する高い耐性を示している。実施例3および4の複合材料の水分取込み量を図4に示すが、ここで、上のバーは実施例4の複合材料を指し、下のバーは実施例3の複合材料を指す。銅のCuOへの完全な酸化は、25%の重量増加を伴うであろうことに留意されたい。特に、銅含有量が高い試料の場合、銅の酸化が金属の2~3%未満に抑えられる。このことは耐腐食性が高いことを示している。繊維含有量の少ない試料の相対的な酸化量が比較的高いのは、配合条件を変更することで回避することができる表面効果によって説明できる。
【0070】
実施例3の複合材料については図5から、実施例4の複合材料については図6から認められるように、インピーダンスは腐食試験後に著しく変化することはなかった。これにより、得られた複合材料の高い腐食安定性が確認される。
【0071】
遮蔽
CuSiバンド(厚さ2μm、幅10μmおよび長さ2mm)およびマトリックス材料としてナイロン6を含む実施例2の組成物から、EMI遮蔽組成物を調製した。複合材料をペレットに細断し、ペレットを射出成形機で成形した。20mV振幅の1Hz~8MHzの範囲でのインピーダンス(5mVを印加した誘電体バリアのない低インピーダンス試料を除く)を、電気化学ワークステーションIM6(ZAHNER-elektrik GmbH&Co.KG)を使用して測定した。ペレットの厚さにわたる2電極インピーダンス測定には、D=18mmのステンレス鋼製ディスク電極を備えた測定セルを使用した。厚さ25μmのカプトンフィルムを電極の一方に誘電体バリア(DB)として配置した。これにより、材料中の単一の高導電性経路が電極を短絡させる状況を排除することができる。IM6セットの短いケーブルを用いてセルをIM6に接続し、ケーブルのインピーダンスを補正するためにIM6を4電極測定用に設定した。結果を図2に示す。
【0072】
この結果に基づいて、反射損失(RL)を
【0073】
【数3】
により得る。
【0074】
これにより、-3~-6dBの減衰、すなわち10~30%の電磁エネルギーの吸収が起こる。より高い周波数では、電荷変位の電力損失が増加する。8GHzでは、観察された電磁波の電力損失が10増加したため(P∝f)、GHz領域で実質的に完全な遮蔽が達成される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】