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特表2023-532726抗プロテインSシングルドメイン抗体及びそれを含むポリペプチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】抗プロテインSシングルドメイン抗体及びそれを含むポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230724BHJP
   C07K 16/36 20060101ALI20230724BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230724BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230724BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230724BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230724BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230724BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230724BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230724BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230724BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230724BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20230724BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230724BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230724BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230724BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/36 ZNA
C07K16/46
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P31/00
A61P7/06
A61P7/02
A61P9/00
A61P9/10
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581420
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2021067746
(87)【国際公開番号】W WO2022002880
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】20305723.7
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】513246469
【氏名又は名称】インサーム(インスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
(71)【出願人】
【識別番号】507240336
【氏名又は名称】アシスターンス・ピュブリック-オピトー・ドゥ・パリ
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】ザラー,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥニ,セシール
(72)【発明者】
【氏名】ボルジェル,デルフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アダン,フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ランティン,ペテ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC15
4B064CC24
4B064CE03
4B064CE11
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA26X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA98X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA21
4B065BB37
4B065BD15
4B065BD18
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA10
4H045GA15
4H045GA23
4H045GA26
(57)【要約】
ビタミンK依存性プロテインS(PS)は、活性化プロテインC(APC)及び組織因子経路阻害剤(TFPI)の非酵素的補因子として作用する天然の抗凝固剤である。本発明者らは、未知のメカニズムによってPSのAPC-補因子活性を顕著に増強する抗PSナノボディを同定した。興味深いことに、このナノボディは、損傷したマウスの腸間膜微小血管において抗血栓作用を発揮する。その結果、それは、敗血症、COVID-19、脳卒中による遠位微小血管血栓症、又は鎌状赤血球症等の病的状態における急性微小血栓症の治療に用いられ得る新規クラスの抗血栓剤を構成する。従って、本発明は、プロテインS(PS)に対する単離されたシングルドメイン抗体(sdAb)、及びそれを含むポリペプチドに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインS(PS)のAPC-補因子活性を増強するPSに対する単離されたシングルドメイン抗体(sdAb)。
【請求項2】
前記sdAbは、配列番号1の配列を有するCDR1、配列番号2の配列を有するCDR2、及び配列番号3の配列を有するCDR3を含む、請求項1に記載の単離されたシングルドメイン抗体。
【請求項3】
配列番号4の配列に対して少なくとも70%の同一性を有する、請求項1又は2に記載の単離されたシングルドメイン抗体。
【請求項4】
配列番号4の配列を含む、請求項1~3のいずれかに記載の単離されたシングルドメイン抗体。
【請求項5】
PSの結合において請求項1に記載のシングルドメイン抗体と交差競合する、交差競合シングルドメイン抗体。
【請求項6】
請求項1に記載のシングルドメイン抗体を少なくとも1つ含む、ポリペプチド。
【請求項7】
請求項1に記載のシングルドメイン抗体を少なくとも2つ含む、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
請求項1に記載のシングルドメイン抗体を2つ含む、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項9】
配列番号5の配列を含む、請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項10】
請求項1に記載のシングルドメイン抗体及び/又は請求項6に記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸を含むベクター。
【請求項12】
請求項10に記載の核酸及び/又は請求項11に記載のベクターによりトランスフェクション、感染又は形質転換された宿主細胞。
【請求項13】
対象における血栓性障害を予防又は治療する方法であって、
請求項1に記載のシングルドメイン抗体及び/又は請求項6に記載のポリペプチドの有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項14】
対象における血管閉塞性クライシスを予防又は治療する方法であって、
請求項1に記載のシングルドメイン抗体及び/又は請求項6に記載のポリペプチドの有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項15】
前記血栓性障害は、敗血症、鎌状赤血球貧血、塞栓症(肺及び脳)、脳卒中又は心血管系疾患である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載のシングルドメイン抗体及び/又は請求項6に記載のポリペプチドを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗プロテインS(PS)のコンフォメーション上のシングルドメイン抗体、及びそれを含むポリペプチド、並びに特に治療分野におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンK依存的プロテインS(PS)は、活性化プロテインC(APC)及び組織因子経路阻害剤(TFPI)の両方の非酵素的補因子として作用する天然の抗凝固剤である。実際、PSは歴史的に、活性化第V因子(FVa)及び活性化第VIII因子(FVIIIa)に対するAPCのタンパク質分解活性を増強し、トロンビンの生成を非常に効果的に制限することができると説明されてきた。また、PSは、FXaに対するTFPI-αの阻害効果を増強することが報告されているが(Hackeng et al.2006)、このような補因子活性の生理的関連性は正確には知られていない。さらに、最近PSは、活性化第IX因子(FIXa)の直接的な阻害座として説明されている(Plautz et al.2018)。PSの生理的重要性は、PS欠乏症患者で観察される臨床症状により証明されている。PSの軽度の欠損は静脈血栓症のリスクの増加と関連しているが、重度のPS欠損は、劇的で生命を脅かす血栓性表現型(すなわち、特に皮膚血管における微小血管血栓と播種性血管内凝固を伴う劇症型紫斑病)をもたらす。マウスにおいて、PSの完全欠損は、重度の血栓性凝固障害と大量の脳内出血により胚性致死となる(Saller et al.2009;Burstyn-Cohen et al.2009)。血友病マウスにおいて、PSが関節に高発現しており、このことが血友病関節で観察される高度な抗凝固環境を一部説明しているかもしれない(Prince, Bologna et al.2018)。興味深いことに、PSの不在又はポリクローナル抗体によるその薬理学的阻害は、血友病の重要な低減をもたらす。
【0003】
そこで、本発明者らは、PSの抗凝固活性を調節するための独創的且つ強力なツールとして、PSに対して指向性を有するナノボディの開発を目指した。ナノボディ又はシングルドメイン抗体(sdAb)は、ラクダ科動物に存在する重鎖のみの抗体(HcAb)の可変領域(VHH)である。単離されたナノボディは15kDaという小さなサイズにもかかわらず、その同種抗原を完全に認識することができる。さらに、その小さなサイズ及び物理化学的特性により、従来の免疫グロブリンと比較して種々の利点がある。例えば、それらは元のHcAbの残余から分離されても高い安定性を保持する。また、それらは高濃度で可溶であり、インビボでの組織浸透性に優れていると考えられている。その結果、ナノボディは新規で且つ有望な治療用抗体の一種として登場した。さらに、それらはE.coliで発現させることができ、他のナノボディと組み合わせることで、多価又は多特異的な種を容易に生成することができる。ナノボディの利点の1つは、従来のモノクローナル抗体と比較して、突出した相補性決定領域3(CDR3)を介して潜在性エピトープを認識できることである。そこで、発明者らは、抗PSナノボディを用いることで、PSの抗凝固活性を予期せぬ形で調節し得るオリジナルの抗体を同定することができるのではないかと推論した。
【0004】
現在もなお、より安全性が高い抗血栓薬の開発が求められている。実際、現在用いられている抗血小板薬(例えばアスピリン及びクロピドグレル)又は抗凝固薬(例えばヘパリン誘導体、ワルファリン)は、生理的止血反応を阻害するため、出血のリスクを高めるとされている。これに対して、抗PSナノボディでAPCの抗凝固活性を増強しても、止血への影響は軽微である可能性があり、出血リスクの上昇とは無縁である可能性がある。
【0005】
高密度リポタンパク質(Griffin et al.1999;Fernandez et al.2015)、カルジオリピン(Fernandez et al.2000)又は骨格筋ミオシン(Heeb et al.2019)等の生理的薬剤は、APCの抗凝固活性を増強すると報告されている。しかしながら、APCの抗凝固活性を増強する医薬品は、未だ開発されていない。興味深いことに、現在、抗血栓薬の候補として、プロテインCの医薬活性化剤が研究されている。この活性化剤は、トロンビン変異体W215A/E217A(WEトロンビン又はAB002)であり、その凝血原特性は失われたがプロテインCをAPCに活性化することができる(Cantwell et al.2000)。外因性APCの全身投与又は患者における高レベルの可溶性トロンボモジュリンによるプロテインCの全身活性化(Dargaud et al.Blood 2015)は、出血傾向の増加と関連しているのに対し、AB002の投与は、止血をわずかに損ねるだけである(Gruber et al.2002)。これは、少なくとも部分的には、AB002によってAPCがその場で精製される可能性があり、APCの循環への逃避が制限されている、血清表面におけるAB002の局所的な作用によるものと考えられる(Gruber et al.2007)。このことは、AB002が血栓症の様々な動物モデルにおいて、重大な全身性抗凝固作用を伴わずに、血栓の伝播を強力に阻害することが記載されている理由を説明できるであろう(Gruber et al.2002;Tucker et al.Blood 2020)。
【0006】
本発明者らが開発したPSに対するナノボディは、敗血症又は脳卒中等の微小血管血栓症が主要な病因となる急性病態の治療において提案することが可能である。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、抗PSナノボディを同定するために、PSで免疫したラマから生成したナノボディの大規模ライブラリをスクリーニングできるUMR_S1176で開発されたプラットフォームを活用した。彼らは、未知のメカニズムによってPSのAPC補因子活性を増強する、非常に驚くべき抗PSナノボディを同定した。非常に興味深いことに、このナノボディは、傷ついたマウスの腸間膜微小血管において、抗血栓作用を発揮する。結果として、敗血症、COVID-19、又は脳卒中により誘導される遠位微小血管血栓症等の病態における急性微小血栓症の治療に用いられる新しいクラスの抗血栓剤を構成する。
【0008】
従って、本発明は、プロテインS(PS)に対する単離されたシングルドメイン抗体(sdAb)及びそれを含むポリペプチドに言及する。特に、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本研究で用いられた1価及び2価のナノボディの模式図を示す。1価のPS003及びKB013ナノボディのオリゴヌクレオチド配列をPstIとBstEIIとの制限酵素サイト間でpET28プラスミドにクローニングし、N末端のHis6タグ及びC末端のHAタグ配列に挟まれたナノボディを生成した。1価のナノボディの2つのオリゴヌクレオチド配列(PS003、KB004、PS004)を(GGGS)4リンカーを介して融合し、合成し、PstIとBstEIIサイト間でpET28プラスミドにクローニングし、同様にN末端のHis6タグ及びC末端のHAタグ配列に挟まれた2価ナノボディ(PS003biv、KB004biv、PS004biv)を作製した。
図2図2は、ELISAにおける種々のビタミンK依存性タンパク質に対するPS003の結合を示す。リコンビナントヒトFIX(FIX)、リコンビナントヒトFX(FX)、血漿由来プロテインZ(ProZ)、リコンビナントヒトGas6(Gas6)及びリコンビナントヒトPS(PS)をELISAウェルに固定化し、20nMのPS003の結合性を分析した。
図3図3は、ELISAにおけるPS003のPS及びGas6への結合を示す。PSとGas6とは相同性が高く(47%相同)、共にSHBG様ドメインを含むため、固定化したrhPS及びrhGas6に対するPS003の結合を、さらに直接ELISAで分析した。その結果、PS003はrhPSに強く結合し、rhGas6には結合しないことが示され、PS003のrhPSに対する特異性が確認された。
図4図4は、PS003のエピトープマッピングを示す。rhPS、PSの単独SHBG様ドメインの組換体(rhSHBG)、及びBSAを固定化し、(5mMのCaClを含むTBS中に10μg/mLで60μL)、PS003の結合を直接ELISAで分析した。これらの結果から、PS003はrhSHBGに結合することができ、PS003のエピトープがPSのC末端SHBG様ドメイン内に局在していることが示唆された。一方、PS004は、rhSHBGに結合しなかった(データは示さず)。このことは、PS004のエピトープがPSのN末端部分に局在していることを示唆する。
図5図5は、ELISAにおける溶液中の組換えヒト及び血漿由来PSと固定化PS003との結合を示す。精製したPS003(10μg/mLで60μL)をELISAウェルに固定化し、2つの異なる形態のPSの結合を分析した。これらの結果から、PS003は組換型又は血漿由来のいずれかのヒトPSに結合し、PS003のPSへの結合は、非ネイティブの固定化形態のPSに限定されないことが示された。
図6図6は、直接ELISAにおける固定化PSへのPS003及びPS003bivの結合比較を示す。rhPS(5mMのCaClを含むTBS中に2.5μg/mLで60μL)をELISAウェルに固定化し、PS003及びPS003biv(0~200nM)の結合をペルオキシダーゼコンジュゲート抗His6タグポリクローナル抗体で分析した。3回の個別実験を簡便に行い、結果を各ナノボディの最大結合量に対するパーセンテージとして表した。結合曲線は、PS003及びPS003bivの両方が固定化rhPSに効率的に結合することを示した。PS003及びPS003bivのPSへの結合能をさらに比較するために、PS003及びPS003bivのrhPSに対する親和性を、単純化して行った3つの個別実験において、増加する濃度(5mMのCaClを含むTBS中に0.6、1.25及び5mg/mL)で固定化したrhPSに同様の結合曲線を得ることによって、記載されているように(Beatty et al.J Immunol Methods 1987)評価した。各ナノボディについて、質量作用の法則に基づく式を用いて解離定数(K)を決定した。この方法に基づき、PS003及びPS003bivのKは、それぞれ26.8±2.7nM及び13.8±5.7nMであり、PS003bivはrhPSに僅かに高い親和性(1.9倍)で結合することが示唆された。
図7図7は、PS003bivのエピトープマッピング及びPS003bivのPSに対する特異性を示す。組換型ヒトPS(rhPS)、PS SHBG様領域のみの組換型(rSHBG)、組換型ヒトGas6(rhGas6)、又はBSA(5mMのCaClを含むTBS中に10mg/mLで60μL)をELISAウェルに固定化し、PS003biv(TBS-0.1%Tween-5mMCaClに0.5nM)の結合を、ペルオキシダーゼコンジュゲート抗His6タグポリクローナル抗体を用いて分析した。結果は、rhPS上で得られたAbs450nmのパーセンテージで表される。3つの個別実験を簡略化して行った。その結果、PS003bivはrSBHGに効率的に結合し、従って、PS003bivのエピトープはPSのSHBG様領域内に局在していることが示された。この領域は、Gas6にしか見られないため、PS003bivがrhGas6に結合しないことは、PS003bivがPSに特異的であることを強く示唆した。
図8A-D】図8A-Dは、APTTベースの血漿凝固アッセイ(STACLOT(登録商標)PS、Stago)におけるrhPSのAPC-補因子活性に対するPS003及びPS003bivの増強効果を示す。図8Aは、市販のAPTTベースの血漿凝固アッセイ(STACLOT(登録商標)PS、Stago)を用いて、rhPS(最終濃度5nM)がAPCの補因子として作用する能力を測定した結果を示す。このアッセイにおいて、APCはPS欠乏血漿の凝固時間を延長し、5nMのrhPSはAPCと共に添加すると凝固時間をさらに延長させた。図8Bは、我々のAPTTベースのAPC-補因子活性アッセイにおけるrhPS(最終濃度0~10nM)の用量依存的な効果を示す。図8Cは、PS003及びPS003bivの効果を、APCの抗凝固活性を増強するrhPS(最終濃度6nM)の能力で試験した結果を示す。PS003、KB013(コントロール1価ナノボディ)、PS003biv及びKB004biv(コントロール2価ナノボディ)を、rhPSと室温で15分間プレインキュベートし、rhPS±ナノボディの混合物を我々のアッセイで添加した。rhPS及びナノボディの最終濃度は、それぞれ6nM及び2μMであった。実験はトリプリケートで行った。図8Dでは、先の結果についてrhPS存在下での凝固時間(t+PS)とrhPS非存在下での凝固時間(t-PS)との比として表した。統計学検定として、独立スチューデントt検定を用いた。その結果、PS003及びPS003bivは共に、rhPSのAPC-補因子活性を増強し、PS003よりもPS003bivの方がrhPSのAPC-補因子活性の増強作用が高いことが示された。
図9A-B】図9A-Bは、インビトロFVa不活性化アッセイにおけるPSのAPC-補因子活性に対するPS003及びPS003bivの効果を示す。rhPSのAPC-補因子活性を増強するPS003及びPS003bivの能力は、精製タンパク質を用いて、rhPSの存在下で、APCによるFVaの特異的タンパク質分解不活性化を測定するインビトロアッセイで評価された。図9Aでは、FVa不活性化混合物中の各rhPS濃度について傾きを求め、FVa活性の値を、rhPS存在下で得られた傾きとrhPS非存在下で得られた傾きとの比として表した。3つの実験を簡略化して行った。図9Bは、残存FVa活性を先に記載したようにプロトロンビナーゼアッセイを用いて各条件について測定し、rhPSをナノボディ又は抗体の非存在下(TBS)でプレインキュベートしたときに得られたFVa活性と比較した。3つの実験を簡略化して行い、統計的検定として独立スチューデントt検定を使用した(***P<0.001)。
図10A-C】図10A-Cは、rhPSのTFPI-補因子活性に対するPS003及びPS003bivの効果を示す。IFPIαによるFXaの直接阻害をrhPSが増強する能力を評価するためにインビトロアッセイが開発された。図10Aでは、E.coliで発現させた組換型ヒト全長TFPIαを最終濃度5nMで用い、FXaのアミド分解活性を阻害した。図10Bでは、rhPSをブロッキング用ウサギポリクローナル抗PS抗体(α-PS)(DAKO、最終濃度0.5μM)、又はウサギIgG(DAKO、最終濃度0.5μM)と共に室温で15分間プレインキュベートした場合のTFPIαの阻害活性を増強する能力について検討した。図10Cでは、rhPSをPS003及びPS003biv、又はそれぞれの1価(KB013)及び2価(KB004biv)対照ナノボディ(最終濃度10μM)と室温で15分間プレインキュベートしたときのTFPIαの阻害活性を増強する能力を評価した。結果は、ナノボディ非存在下(TBS)でのrhPSのTFPIα-補因子活性に対するパーセンテージで表し、3つの実験を単純化して行い、統計検定として独立スチューデントのt検定を用いた。
図11図11は、直接ELISAにおけるPS003biv及びPS004bivの固定化マウスPSへの結合の比較を示す。PS004bivは、ELISAウェルに固定化したrhPSを選択し、同定した1価のナノボディ(PS004)から生成した自社製の抗ヒトPSナノボディである。PS004bivは、直接ELISAでrhPSと強く結合するが、PS003bivとは対照的に、そのエピトープはPSのN末端部内に局在し、PSのSHBG様ドメイン内には無い(データは示さず)。PS003biv及びPS004bivの固定化rhPSへの結合をELISAにより分析した。その結果、PS003bivはrmPSに結合したが、PS004bivは結合しないことが明らかとなった。このことから、PS004bivはPS003bivと共に、我々のインビボFeCl誘導性血栓症モデルにおける対照の2価ナノボディとして用い得ることが示唆された。
図12A-B】図12A-Bは、マウスFeCl誘導性血栓症モデルにおけるPS003bivのインビボ抗血栓効果を示す。4~5週齢のC57BL6/JRccHsd雄マウスにおいて、本質的に以前に記載されたように(Ayme et al.2017;Adam et al.2010)、FeCl傷害を誘導した。血栓形成の可視化を促進するために、麻酔したマウスの血小板を、ローダミン6G(3.3mg/kg、すなわち0.9% NaCl中1mg/mLで2.5μL/g)の眼窩後部叢への静脈内注入によりインビボで蛍光標識化した。PS003biv(10mg/kg)、PS004biv(10mg/kg)又は同僚のTBSバッファー(Ctl)を、0.9%のNaClで希釈し、同時に投与した。代替的に、ローダミン6Gの静脈内注射後に低分子ヘパリン(LMWH、ロベノックス)200UI/Kgを皮下注射した。標識血小板を10分間循環させた後、FeCl溶液(水中で10%)を腸間膜血管に局所投与し、倒立型落射蛍光顕微鏡(×10)で血栓の成長をリアルタイムに観察した。各マウスについて、1つの静脈及び1つの動脈を分析した。統計解析は、クラスカル-ウォリス及びダン検定により評価した。図12Aにおいて、我々のAPC-補因子活性アッセイで用いた対照の2価抗VWF(KB004biv)は、このナノボディでマウスを処理すると1匹のマウスの静脈及び細動脈で閉塞時間の遅延が生じたため、FeCl誘導性血栓症モデルで用いることはできなかった。従って、組換えマウスPSに結合できない対照2価抗PSナノボディ(PS004biv)を用いた。我々の血栓症モデルは、LMWH(200UI/kg、SC)でマウスを処理すると、静脈及び細動脈の閉塞時間が遅延したため、抗凝固剤に敏感であった(n=6マウス)。PS004bivによる処理(n=6マウス)は、閉塞時間に影響を及ぼさなかったが、PS003bivによる処理は、静脈(n=10マウス)での閉塞時間の有意な遅延をもたらした。PS003bivで処理したマウスの細動脈(n=9マウス)でも同様の傾向が見られたが、統計学的な差は示さなかった。図12Bでは、PS003bivを投与したマウスの腸管膜血管では、ナノボディを投与していないマウス(図示せず)又は対照のPS004bivナノボディを投与したマウスの腸間膜血管で形成された血栓と比較して、血栓の安定性が低く、高い割合で塞栓することが確認された。
図13図13は、マウス尾部クリップ出血モデルにおけるPS003bivの生理的止血に対する効果を示す。麻酔したC57/BL6マウスにPS003bivの(10mg/kg)を静脈内注射する、又は低分子ヘパリン(LMWH)(Lovenox、200UI/Kg)を皮下注射した。出血時間は、最初の出血停止と定義した。また、総出血量を定量化するために、20分間の採血を行った。各バーは、評価した複数のマウスから得られた平均値を表す。統計学的な分散検定として、ターキーの多重比較検定による通常の1元配置分散分析を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
プロテインS(PS)は、活性化プロテインC(APC)及び組織因子経路阻害剤(TFPI)の補因子として作用する天然の抗凝固剤である。本発明者らは、PSの活性を調節することが、凝固障害の治療において有効なアプローチになると考えた。そこで、ヒトPSを免疫したラマからシングルドメイン抗体(sdAb)の免疫ライブラリを作製し、ファージディスプレイによりPSを標的とするsdAbを選択した。
【0011】
発明者らは、PSと強く結合し、インビトロで抗凝固作用を示し、インビボで抗血栓作用を示すsdAbを同定した。
【0012】
(定義)
本明細書で用いられる「プロテインS」又は「PS」の用語は、本技術分野における一般的な意味を有し、主に肝臓で合成されるビタミンK依存性の血漿糖タンパク質を意味する。プロテインSは循環系において、遊離型、及び補体タンパク質C4b結合タンパク質(C4BP)と結合した複合型の2つの形態で存在する。ヒトにおいて、プロテインSは、PS1遺伝子によりコードされている。プロテインSは、活性化プロテインC(APC)及び組織因子経路阻害剤(TFPI)の両方の非酵素的補因子として作用する天然の抗凝固剤である。実際、PSは歴史的に、活性化第V因子(FVa)及び活性化第VIII因子(FVIIIa)に対するAPCのタンパク質分解活性を増強し、トロンビンの生成を非常に効果的に制限することができると報告されている。また、PSは、FXaに対するTFPIαの阻害効果を増強することも大きく報告されているが(Hackeng et al.2006)、このような補因子活性の生理的関連性は正確には分かっていない。さらに、最近PSは、活性化第IX因子(FIXa)の直接的な阻害剤として説明されている(Plautz et al.2018)。
【0013】
本明細書において用いられる「シングルドメイン抗体」の用語は、本技術分野における一般的な意味を有し、軽鎖を自然に欠く、ラクダ科哺乳動物に見られ得る型の抗体の単一重鎖可変ドメインを意味する。そのようなシングルドメイン抗体は、VHH又は「ナノボディ(登録商標)」とも呼ばれる。(シングル)ドメイン抗体の一般的な説明については、上記で引用した先行文献、並びに欧州特許第0368684号、Ward et al.(Nature 1989 Oct 12;341(6242):544-6)、Holt et al.,Trends Biotechnol.,2003,21(11):484-490;及び国際公開第06/030220号、国際公開第06/003388号を参照することができる。ナノボディは、分子量がヒトIgG分子の約10分の1であり、タンパク質の物理的直径はわずか数ナノメートルである。サイズが小さいことの1つの結果として、ラクダのナノボディは、大きな抗体タンパク質では機能的に見えない抗原部位に結合する能力がある。ラクダ科動物のナノボディは、従来の免疫学的手法では検出できない抗原を検出するための試薬として、また治療薬として有用である。従って、ナノボディは、標的タンパク質の溝又は狭い裂け目にある特定の部位に結合した結果として生物学的効果を発揮することができるので、古典的な抗体よりも古典的な低分子量薬剤の機能に近い能力を発揮することができる。さらに、低分子量及びコンパクトなサイズにより、ナノボディは非常に耐熱性が高く、極端なpH及びタンパク質分解に対して安定であり、抗原性が低いという特徴がある。さらに、ナノボディは循環系から組織へ容易に移動し、血液脳関門を通過するものもあり、神経組織に影響を与える障害を治療できる。ナノボディは、血液脳関門を通過する薬物輸送をさらに促進することができる。2004年8月19日に公開された米国特許出願第2004/0161738号を参照できる。これらの特徴は、ヒトに対する低い抗原性と相まって、大きな治療的可能性を示している。シングルドメイン抗体のアミノ酸配列及び構造は、4つのフレームワーク領域又は「FR」から構成されていると考えられ、これらは本技術分野及び本明細書において、それぞれ「フレームワーク領域1」又は「FR1」、「フレームワーク領域2」又は「FR2」、「フレームワーク領域3」又は「FR3」、及び「フレームワーク領域4」又は「FR4」と呼ばれる。これらのフレームワーク領域は、3つの相補性決定領域又は「CDR」によって中断されており、これらは本技術分野において、それぞれ「相補性決定領域1」又は「CDR1」、「相補性決定領域2」又は「CDR2」、及び「相補性決定領域3」又は「CDR3」と呼ばれる。従って、シングルドメイン抗体は、一般構造:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を有するアミノ酸配列として定義でき、ここで、FR1~FR4はそれぞれフレームワーク領域1~4を示し、CDR1~CDR3は相補性決定領域1~3を示す。本発明の文脈において、シングルドメイン抗体のアミノ酸残基は、国際ImMunoGeneTics情報システムアミノ酸ナンバリング(http://imgt.cines.fr/)によって与えられるVHドメインに対する一般的なナンバリングに従ってナンバリングされる。
【0014】
本明細書で用いられる「アミノ酸配列」の用語は、その一般的な意味を有し、タンパク質にその1次構造を付与するアミノ酸の配列である。本発明によると、アミノ酸配列は、相互作用結合能力の著しい損失無しに、1つ、2つ又は3つの保存的アミノ酸置換で修飾され得る。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸を類似の側鎖を有する別のアミノ酸で置換され得ることを意味する。類似の側鎖を有するアミノ酸のファミリーは、本技術分野において定義されており、塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、無荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばグリシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)である。
【0015】
本発明によると、第2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する第1のアミノ酸配列とは、第1の配列が第2のアミノ酸配列に対して70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%の同一性を有することを意味する。アミノ酸配列の同一性は、典型的には、BLAST P(Karlin and Altschul,1990)等の適切な配列アライメントアルゴリズム及びデフォルトパラメータを用いて決定される。
【0016】
本発明の意味によると、「同一性」は、比較ウインドウにおいてアライメントされた2つの配列を比較することによって算出される。配列アライメントにより、比較ウインドウ内の2つの配列について共通する位置(ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を決定することができる。そこで、共通する位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数で割って、100を乗じることで同一性パーセンテージを得る。配列の同一性パーセンテージの決定は、手動で行うことができ、又は周知のコンピュータプログラムによって行うこともできる。
【0017】
本明細書で用いられる「精製」及び「単離」の用語は、本発明のsdAbに関連し、sdAbが同じ型の他の生体高分子の実質的な非存在下において存在することを意味する。本明細書で用いられる「精製」の用語は、存在する高分子の総重量と比較して、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、さらに好ましくは少なくとも95重量%、さらに好ましくは少なくとも98重量%の抗体が存在することを意味する。
【0018】
本明細書で用いられる「核酸分子」の用語は、本技術分野における一般的な意味を有し、DNA又はRNA分子を意味する。
【0019】
本明細書で用いられる「特異的に結合」の用語は、タンパク質、その中のエピトープ、又は単離された標的細胞の表面に存在するネイティブタンパク質のいずれかの組換体を用いて評価した場合に、抗体が目的の抗原、例えばプロテインS(PS)にのみ結合し、他の抗原に対して交差反応を示さないことを意味する。
【0020】
(シングルドメイン抗体及びポリペプチド)
本願において対象の配列を以下の表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
第1の態様において、本発明は、プロテインS(PS)に対する単離シングルドメイン抗体(sdAb)に関する。
【0023】
第1の態様において、本発明は、プロテインS(PS)に対して特異的に結合する単離シングルドメイン抗体(sdAb)に関する。
【0024】
いくつかの実施形態において、本発明による単離されたシングルドメイン抗体は、PSアゴニスト抗体である。
【0025】
本明細書において用いられる「PSアゴニスト」抗体とは、PSの活性を示す抗体を意味する。本発明によると、「PSアゴニスト」抗体は、PSのAPC-補因子活性を増強することができる、すなわち活性化第V因子(FVa)及び活性化第VIII因子(FVIIIa)に対するAPCのタンパク質分解活性を増強できる抗体を意味する。本発明によると、「PSアゴニスト」抗体は、プロテインSの抗凝固活性を増強できる抗体を意味する。
【0026】
従って、いくつかの実施形態において、本発明に係る単離されたシングルドメイン抗体は、PSのAPC-補因子活性を増強する。
【0027】
いくつかの実施形態において、本発明に係る単離されたシングルドメイン抗体は、組換型又は血漿由来のヒトPSのいずれかに結合し、それらのTFPI-補因子活性に有意に干渉しなかった。
【0028】
本発明によると、PSに対するシングルドメイン抗体は、PSのAPC-補因子活性を増強する。
【0029】
いくつかの実施形態において、本発明に係る単離されたシングルドメイン抗体は、抗血栓活性を示す。
【0030】
本明細書で用いられる「抗血栓活性」の用語は、本技術分野における一般的な意味を有し、血栓の形成を抑制する活性を意味する。本発明によると、単離されたシングルドメイン抗体は、血栓の形成を抑制し、及び/又は血栓を溶解する。
【0031】
抗血栓活性を示す抗体の能力を決定するための試験は、当業者に周知である。PSのAPC-補因子活性を特異的に増強する抗体の能力を決定するための試験は、当業者に周知であり、プロトロンビン時間(PT)アッセイ、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイ(図8C~8Dを参照)、特異的一段階凝固アッセイ、較正自動トロンビノグラフィー(CAT)又は他のトロンビン生成アッセイ、FVa不活性化アッセイ(図9参照)及びFVIIIa不活性化アッセイ、並びにTFPIα-補因子活性アッセイ(図10参照)等の血栓ベースアッセイを含む。
【0032】
特に、本発明は、配列番号1の配列を有するCDR1、配列番号2の配列を有するCDR2、及び配列番号3の配列を有するCDR3を含む単離されたシングルドメイン抗体(sdAb)に関する(「PS003誘導体」)。
【0033】
いくつかの実施形態において、本発明に係る単離されたシングルドメイン抗体は、配列番号4の配列に対して少なくとも70%の同一性を有する(「PS003誘導体」)。
【0034】
いくつかの実施形態において、本発明に係る単離されたシングルドメイン抗体は、配列番号4の配列に対して少なくとも70%の同一性を有し、配列番号1、配列番号2及び配列番号3のCDR1、CDR2及びCDR3を含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、本発明に係る単離されたシングルドメイン抗体は、配列番号4の配列を含む(「PS003」)。
【0036】
いくつかの実施形態において、本発明に係る単離されたシングルドメイン抗体は、配列番号4の配列を有する。
【0037】
さらに、sdAb「PS003」は、PSのAPC-補因子活性を増強することも特筆すべき点である。
【0038】
さらに、sdAb「PS003」が、組換型又は血漿由来ヒトPSに結合し、それらのTFPI-補因子活性を大きく阻害しなかったことは注目すべきことである。
【0039】
いくつかの実施形態において、単離されたシングルドメイン抗体は、「ヒト化」シングルドメイン抗体である。
【0040】
本明細書で用いられる「ヒト化」の用語は、天然に存在するVHHドメインのアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列が「ヒト化」された本発明のシングルドメイン抗体を意味し、すなわち、天然に存在するVHH配列のアミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸残基(特にフレームワーク配列)を、ヒトからの従来の鎖状抗体からのVHドメイン中の対応する位置に存在するアミノ酸残基の1つ以上で置換することによって「ヒト化」される。シングルドメイン抗体をヒト化する方法は、本技術分野において周知である。典型的には、ヒト化置換は、得られるヒト化シングルドメイン抗体が、本発明のシングルドメイン抗体の好ましい特性を依然として保持するように選択されることが望ましい。当業者は、適切なヒト化置換又はヒト化置換の適切な組み合わせを決定し、選択できる。
【0041】
いくつかの実施形態において、本発明のシングルドメインは、抗凝固障害を治療するために用いられる更なる治療剤とコンジュゲートされる。
【0042】
本発明の更なる態様は、本発明のシングルドメイン抗体とPSとの結合について交差競合する交差競合シングルドメイン抗体を示す。いくつかの実施形態において、本発明の交差競合シングルドメイン抗体は、配列番号1の配列を有するCDR1、配列番号2の配列を有するCDR2、及び配列番号3の配列を有するCDR3を含むシングルドメイン抗体とPSとの結合に対して交差競合する。
【0043】
いくつかの実施形態において、本発明の交差競合シングルドメイン抗体は、配列番号4の配列を含む又はその配列からなるシングルドメイン抗体とPSとの結合について交差競合する。
【0044】
本明細書で用いられる「交差競合」の用語は、抗原の特定の領域に結合する能力を共有するシングルドメイン抗体を意味する。本開示において、「交差競合」するシングルドメイン抗体は、標準的な競合結合アッセイにおいて、抗原に対する別のシングルドメイン抗体の結合に干渉する能力を有する。そのようなシングルドメイン抗体は、非限定的な理論によると、競合するシングルドメイン抗体と同一又は関連する又は近くの(例えば構造的に類似又は空間的に近接する)エピトープに結合し得る。シングルドメイン抗体Aが、シングルドメイン抗体Bの結合に対して、前記シングルドメイン抗体の1つを欠く陽性対照と比較して、少なくとも60%、具体的に少なくとも70%、より具体的に少なくとも80%低減する場合、また、その逆の場合も、交差競合が存在する。当業者が理解するように、競合は、異なるアッセイセットアップで評価され得る。1つの適切なアッセイは、表面プラズモン共鳴技術を用いて相互作用の程度を測定できるBiacore技術の使用(例えば、BiAcore3000装置(Biacore、Uppsala、Sweden)の使用による)を含む。交差競合を測定するための別のアッセイは、ELISAベースのアプローチを用いる。さらに、抗体の交差競合に基づいて抗体を「ビニング」するための高スループットプロセスは、国際特許出願第2003/48731号に記載されている。
【0045】
本発明によると、上記のような交差競合抗体は、配列番号1の配列を有するCDR1、配列番号2の配列を有するCDR2、及び配列番号3の配列を有するCDR3を含む単一の抗体の活性を保持する。
【0046】
本発明によると、上記のような交差競合抗体は、配列番号4の配列を含む又は配列からなるシングル抗体の活性を保持する。
【0047】
従って、いくつかの実施形態において、本発明の交差競合シングルドメイン抗体は、PSアゴニスト抗体である。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明の交差競合シングルドメイン抗体は、PSのAPC-補因子活性を増強する。
【0049】
いくつかの実施形態において、本発明の交差競合シングルドメイン抗体は、組換え又は血漿由来のヒトPSのいずれかに結合し、それらのTFPI-補因子活性を有意に阻害しなかった。
【0050】
本発明の更なる態様は、本発明の少なくとも1つのシングルドメイン抗体を含むポリペプチドに関する。
【0051】
典型的に、本発明のポリペプチドは、本発明のシングルドメイン抗体を含み、それはそのN末端、そのC末端、又はそのN末端及びそのC末端の両方に、少なくとも1つの更なるアミノ酸配列に融合され、すなわち、融合タンパク質を提供するように融合される。本発明によると、単一のシングルドメイン抗体を含むポリペプチドは、本明細書において「1価」ポリペプチドと呼ばれる。本発明に係る2つ以上のシングルドメイン抗体を含む又は本質的にそれらからなるポリペプチドは、本明細書において「多価」ポリペプチドと呼ばれる。典型的に、多価ポリペプチドは、2価抗体、3価抗体又は4価抗体であり得る。
【0052】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、PSのAPC-補因子活性を増強する。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、組換え又は血漿由来のヒトPSのいずれかに結合し、それらのTFPI-補因子活性を優位に阻害しなかった。
【0054】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、本発明の少なくとも1つのシングルドメイン抗体と、少なくとも1つの他の結合ユニット(すなわち、他のエピトープ、抗原、標的、タンパク質又はポリペプチドに対して指向性がある)とを含み、典型的にはそれもシングルドメイン抗体である。そのようなポリペプチドは、同一のシングルドメイン抗体を含むポリペプチド(「単特異性」ポリペプチド)に対して、本明細書において「多特異性」ポリペプチドと呼ばれる。従って、いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、任意の所望のタンパク質、ポリペプチド、抗原、抗原性決定基又はエピトープに対して指向性がある少なくとも1つの更なる結合部位を提供し得る。前記結合部位は、本発明のシングルドメイン抗体において指向性があるものと同一のタンパク質、ポリペプチド、抗原、抗原決定基又はエピトープに対して指向性があり、又は本発明のシングルドメイン抗体とは異なるタンパク質、ポリペプチド、抗原、抗原決定基又はエピトープに指向性があってもよい。
【0055】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号1の配列を有するCDR1、配列番号2の配列を有するCDR2、及び配列番号3の配列を有するCDR3を含む少なくとも1つのシングルドメイン抗体を含む。
【0056】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号1の配列を有するCDR1、配列番号2の配列を有するCDR2、及び配列番号3の配列を有するCDR3を含む少なくとも2つのシングルドメイン抗体を含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号1の配列を有するCDR1、配列番号2の配列を有するCDR2、及び配列番号3の配列を有するCDR3を含む2つ、3つ、4つ又は5つのシングルドメイン抗体を含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号4の配列に対して少なくとも70%の同一性を有する少なくとも2つのシングルドメイン抗体を含む。
【0059】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号4の配列に対して少なくとも70%の同一性を有し、配列番号1、配列番号2及び配列番号3のCDR1、CDR2及びCDR3を含む少なくとも2つのシングルドメイン抗体を含む。
【0060】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号4の配列を有する少なくとも2つのシングルドメイン抗体を含む。
【0061】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号4の配列を有する2つ、3つ、4つ又は5つのシングルドメイン抗体を含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号5の配列に対して少なくとも70%の同一性を有する配列を含む(「PS003biv誘導体」)。
【0063】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号5の配列を含む(「PS003biv」)。
【0064】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号5の配列を有する(「PS003biv」)。
【0065】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドのシングルドメイン抗体は、互いに直接に(すなわちリンカーの使用無く)、又はリンカーを介して結合され得る。リンカーは、典型的にはリンカーペプチドであり、本発明によると、2つのシングルドメイン抗体におけるそれらの少なくとも2つの異なるPSのエピトープのそれぞれへの結合を可能とするように選択され得る。適切なリンカーは、特にエピトープ、具体的にはシングルドメイン抗体が結合するPSにおけるエピトープ間の距離に依存し、本明細書に基づいて任意にある程度限定されたルーチン実験の後に当業者には明らかであろう。また、PSに結合する2つのシングルドメイン抗体は、第3のシングルドメイン抗体を介して互いに連結され得る(この場合、2つのシングルドメイン抗体は、第3のシングルドメイン抗体に直接に結合されてもよく、又は適切なリンカーを介して結合されてもよい)。そのような第3のシングルドメイン抗体は、例えば半減期の増大をもたらすシングルドメイン抗体であってもよい。例えば、後者のシングルドメイン抗体は、本明細書にさらに記載されるように、(ヒト)血清アルブミン又は(ヒト)トランスフェリン等の(ヒト)血清タンパク質に結合できるシングルドメイン抗体であってもよい。いくつかの実施形態において、PSに結合する2つ以上のシングルドメイン抗体は、(直接に又は適切なリンカーを介して)直列に結合され、第3の(シングル)シングルドメイン抗体(これは、上記で説明したように半減期の増大を提供し得る)は、これらの2つ以上の上記のシングルドメイン抗体の1つに直接又はリンカーを介して結合される。適切なリンカーは、本発明の特定のポリペプチドに関連して本明細書に記載され、例えば限定されないが、アミノ酸配列からなり、このアミノ酸配列は、好ましくは9以上のアミノ酸、より好ましくは少なくとも17アミノ酸、例えば約20~40アミノ酸の長さを有していてもよい。しかしながら、上限は決定的なものではなく、そのようなポリペプチドの例えばバイオ医薬品生産に関する便宜上の理由から選択される。リンカー配列は、天然に存在する配列であってもよく、非天然に存在する配列であってもよい。治療目的で用いられる場合、リンカーは、好ましくは本発明の抗EGFRポリペプチドが投与される対象において非免疫原性である。リンカー配列の有用な一群は、国際公開第96/34103号及び国際公開第94/04678号に記載されているような重鎖抗体のヒンジ領域に由来するリンカーである。他の例は、Ala-Ala-Ala等のポリアラニンリンカー配列である。さらに好ましいリンカー配列の例としては、(gly4ser)3、(gly4ser)4、(gly4ser)、(gly3ser)、gly3及び(gly3ser2)3を含む異なる長さのGly/Serリンカーである。
【0066】
本発明の「2重特異性」ポリペプチドは、第1の抗原(すなわちプロテインS、PS)に対する少なくとも1つのシングルドメイン抗体と、第2の抗原(すなわちPSとは異なる)に対する少なくとも1つの更なる結合部位とを含むポリペプチドであり、本発明の「3重特異性」ポリペプチドは、第1の抗原(すなわちPS)に対する少なくとも1つのシングルドメイン抗体と、第2の抗原(すなわちPSとは異なる)に対する少なくとも1つの更なる結合部位と、第3の抗原(すなわち第1及び第2の抗原の両方とは異なる)に対する少なくとも1つの更なる結合部位とを含むポリペプチドである。
【0067】
いくつかの実施形態において、更なる結合部位は、シングルドメイン抗体の半減期が増大するように、血清タンパク質に対して指向性がある。典型的には、前記血清タンパク質はアルブミンである。
【0068】
典型的に、1つ以上の更なる結合部位は、従来の鎖抗体(及び特にヒト抗体)及び/若しくは重鎖抗体の1つ以上の部分、断片又はドメインを含み得る。例えば、本発明のシングルドメイン抗体は、任意にリンカー配列を介して従来の(典型的にはヒトの)VH又はVLに結合され得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、免疫グロブリンドメインに結合された本発明のシングルドメイン抗体を含む。例えば、ポリペプチドは、Fc部分(ヒトFc等)に結合される本発明のシングルドメイン抗体を含む。前記Fc部分は、本発明のシングルドメイン抗体の半減期、及び産生を増大するのに有用であり得る。例えば、Fc部分は、血清タンパク質に結合でき、従ってシングルドメイン抗体の半減期を増大できる。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのシングルドメイン抗体は、任意にリンカー配列を介して1つ以上の(典型的にはヒトの)CH1、及び/又はCH2、及び/又はCH3ドメインに結合され得る。例えば、適切なCH1ドメインに結合されるシングルドメイン抗体は、例えば適切な軽鎖と共に、従来のFab断片又はF(ab’)2断片に類似する抗体断片/構造を生成するために用いられ得るが、従来のVHドメインの一方又は(F(ab’)2断片の場合)一方又は両方が本発明のシングルドメイン抗体に置換されたものである。いくつかの実施形態において、本発明の1つ以上のシングルドメイン抗体は、1つ以上の定常ドメイン(例えばFc部分の一部として/Fc部分を形成するために用いられ得る2つ又は3つの定常ドメイン)、Fc部分、及び/又は本発明のポリペプチドに1つ以上のエフェクタ機能を付与する1つ以上の抗体部分、断片若しくはドメインに、(任意に適切なリンカー又はヒンジ領域を介して)結合されてもよく、及び/又は1つ以上のFc受容体に結合する能力が付与され得る。例えば、この目的のために、そしてそれに限定されること無く、1つ以上の更なるアミノ酸配列は、重鎖抗体から、より典型的には従来のヒト鎖抗体から等、抗体の1つ以上のCH2及び/又はCH3ドメインを含んでもよく、及び/又は例えばIgG(例えばIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)からの、IgEからの、又はIgA、IgD若しくはIgM等の他のヒトIgからのFc領域を形成してもよい。例えば、国際公開第94/04678号は、ラクダ科VHHドメイン又はそのヒト化誘導体(すなわちシングルドメイン抗体)を含む重鎖抗体について記載されており、それぞれがシングルドメイン抗体並びにヒトCH2及びCH3ドメインを含む(しかしCH1ドメインを含まない)2つの重鎖からなる免疫グロブリンを提供するために、それはラクダ科CH2及び/又はCH3ドメインがヒトCH2及びCH3ドメインに置換されており、この免疫グロブリンは、CH2及びCH3ドメインによりエフェクタ機能を有し、いかなる軽鎖も存在せずに機能できる。
【0070】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドは国際公開第2006/064136号に記載されている通りである。特に、ポリペプチドは、i)抗体のCL定常ドメインが本発明に係るシングルドメイン抗体(すなわちPSに対するシングル抗体)にそのN末端がC末端に融合している第1の融合タンパク質と、ii)抗体のCH1定常ドメインがPSと異なる抗原に対するシングルドメイン抗体のC末端にそのN末端が融合している第2の融合タンパク質からなり得る。他の特定の実施形態において、ポリペプチドは、抗体のCH1定常ドメインがエフェクタ細胞上の活性化トリガー分子(例えばCD16)に対するシングルドメイン抗体のC末端にそのN末端が融合している第1の融合タンパク質と、抗体のCL定常ドメインが本発明のシングルドメイン抗体に対してそのN末端がC末端に融合している第2の融合タンパク質からなる(すなわちPS)。
【0071】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、血栓性障害の治療に用いられる更なる治療薬にコンジュゲートされている。
【0072】
いくつかの実施形態において、本発明の治療方法で用いられる本発明のシングルドメイン抗体又は本発明のポリペプチドは、その治療効果を改善するために修飾され得ることが企図される。治療化合物のそのような修飾は、毒性の減少、循環時間の増大、又は生体内分布の改変のために用いられ得る。例えば、潜在的に重要な治療化合物の毒性は、生体内分布を改変する種々の薬物キャリアビヒクルとの組み合わせによって顕著に低減できる。
【0073】
薬物バイアビリティの改善のための戦略には、水溶性ポリマーの使用がある。種々の水溶性ポリマーは、生体内分布の改変、細胞への取り込み様式の改善、生理的バリアの透過性の変化、及び体内からのクリアランス速度の変化をもたらすことが示されてきた。水溶性ポリマーは、薬物部分を末端基、骨格の一部、又はポリマー鎖におけるペンダント基として含み、標的化又は徐放化効果を得るために合成されてきた。
【0074】
ポリエチレングリコール(PEG)は、その高い生体適合性と修飾の容易さから薬物キャリアとして広く用いられている。種々の薬物、タンパク質及びリポソームへの付着は、滞留時間の改善及び毒性の減少につながることが示されている。PEGは、鎖の末端における水酸基及び他の化学的方法を介して活性剤と結合できるが、PEG自体は1分子に最大2つの活性剤に制限される。異なるアプローチにおいて、PEG及びアミノ酸のコポリマーは、PEGの生体適合性を維持しつつ、1分子当たり多数の結合点を有し(より多くの薬物をローディングできる)、種々の用途に適合するように合成設計できるという利点を有する新規のバイオマテリアルとして探索された。当業者は、薬物の効果的な修飾のためのPEG化技術について知っている。例えば、PEGとリジン等の三官能性モノマーとの交互ポリマーからなるドラッグデリバリーポリマーは、VectraMed(Plainsboro,N.J.)により用いられてきた。PEG鎖(典型的には2000ダルトン以下)は、安定なウレタン結合を介してリジンのa-及びe-アミノ基と結合する。そのようなコポリマーは、PEGの望ましい特性を維持し、ポリマー鎖に沿って厳密に制御され、所定の間隔で反応性ペンダント基(リジンのカルボン酸基)を提供する。反応性ペンダント基は、他の分子への誘導体化、架橋又はコンジュゲーションのために用いられ得る。これらのポリマーは、ポリマーの分子量、PEGセグメントの分子量、及び薬物とポリマーとの間の開裂可能な結合を改変することにより、安定で長期間循環するプロドラッグを製造するのに有用である。PEGセグメントの分子量は、薬物/結合基複合体の間隔及びコンジュゲートの分子量当たりの薬物の量に影響を与える(PEGセグメントが小さいほど薬物の負荷が大きくなる)。一般に、ブロックコポリマーコンジュゲートの全体の分子量を増大すると、コンジュゲートの循環半減期が増大する。それにもかかわらず、コンジュゲートは、容易に分解される、又は咽頭ろ過を制限する閾値以下の分子量(例えば45kDa未満)でなければならない。さらに、循環半減期及び生体内分布の維持に重要なポリマー骨格に加え、特定のトリガー、典型的には標的組織における酵素活性によって骨格ポリマーから放出されるまで治療薬をプロドラッグの形態で維持するためにリンカーが使用されてもよい。例えば、この種の組織活性化ドラッグデリバリーは、生体内分布の特定部位へのデリバリーが要求され、治療薬が病変部位又はその近傍で放出される場合に特に有用である。活性化ドラッグデリバリーに用いるための結合基ライブラリは、当業者に周知であり、酵素動態、活性酵素の有病率、及び選択された疾患特異的酵素の切断特異性に基づき得る(例えばVectraMed,Plainsboro,N.Jにより確立された技術を参照)。そのようなリンカーは、治療的送達のために本明細書に記載された本発明のポリペプチドを修飾するのに用いられ得る。
【0075】
本発明によると、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、従来の自動ペプチド合成法又は組換え発現により生成され得る。タンパク質を設計し、生成するための一般的な原理は、当業者に周知である。
【0076】
本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、従来の技術に従って、溶液中又は固体担体上で合成され得る。種々の自動合成機が市販されており、Stewart and Young;Tam et al.,1983;Merrifield,1986 and Barany and Merrifield,Gross and Meienhofer,1979に記載されているように、既知のプロトコールに従って用いられ得る。また、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、Applied Biosystems Inc.からのModel 433A等の例示的なペプチド合成機を採用した固相技術によって合成され得る。自動ペプチド合成又は組換法によって生成された所定のタンパク質の純度は、逆相HPLC分析を用いて決定され得る。各ペプチドの化学的認証は、当業者に周知の方法により確立され得る。
【0077】
他の実施形態において、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、その生物学的半減期を増大するために修飾される。種々のアプローチが可能である。例えば、Wardによる米国特許第6277375号に記載されているように、以下の変異の1つ以上が導入され得る:T252L、T254S、T256F。代替的に、生物学的半減期を増大するために、抗体は、CH1又はCL領域内で改変されて、Prestaらによる米国特許第5869046号及び6121022号に記載されているようにIgGのFc領域のCH2ドメインの2つのループから取られたサルベージ受容体結合エピトープを含むことができる。半減期が増大し、母体IgGの胎児への移行を担う新生児Fc受容体(FcRn)への結合が改善された抗体(Guyer et al.,J.Immunol.117:587(1976)及びKim et al.,J.immunol.24:249(1994))は、米国特許出願公開第2005/0014934号(Hinton et al.)に記載されている。それらの抗体は、Fc領域のFcRnへの結合を改善する1つ以上の置換をその中に有するFc領域を含む。そのようなFc変異体は、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434の1つ以上の置換、例えばFc領域残基の434の置換(米国特許第7371826号)を有するものを含む。
【0078】
本発明によって企図される、本明細書に記載の本発明のシングルドメイン抗体又は本発明のポリペプチドの他の修飾は、ペグ化である。抗体は、例えば抗体の生物学的(例えば血清)半減期を増大するためにペグ化され得る。抗体をペグ化するために、抗体又はその断片は、典型的には1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)基が抗体又は抗体断片に付着するような条件下で、PEGの反応性エステル又はアルデヒド誘導体等のPEGと反応される。ペグ化は、反応性PEG分子(又は類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応又はアルキル化反応によって行われ得る。本明細書で用いられる「ポリエチレングリコール」の用語は、モノ(C1-C10)アルコキシ-若しくはアリールオキシ-ポリエチレングリコール、又はポリエチレングリコール-マレイミド等の他のタンパク質を誘導体化するのに用いられてきたPEGの形態のいずれかを含むことを意図する。特定の実施形態において、ペグ化される抗体は、アグリコシル化抗体である。タンパク質をペグ化する方法は、本技術分野において周知であり、本発明の抗体に適用され得る。例えばNishimuraらによる欧州特許第0154316号及びIshikawaらによる欧州特許第0401384号を参照できる。
【0079】
本発明により企図される本発明のシングルドメイン抗体又は本発明のポリペプチドの他の修飾は、本発明の抗体の少なくとも抗原結合領域とヒト血清アルブミン又はその断片等の血清タンパク質とのコンジュゲート又は融合タンパク質であり、得られる分子の半減期を増大させるための修飾である。そのようなアプローチは、例えばBallanceらの欧州特許第0322094号に記載されている。他の可能性は、本発明の抗体の少なくとも抗原結合領域をヒト血清アルブミン等の血清タンパク質に結合可能なタンパク質に融合させて、得られる分子の半減期を増大させることである。このようなアプローチは、Nygrenらの欧州特許第0486525号に記載されている。
【0080】
ポリシアル酸は、天然高分子であるポリシアル酸(PSA)を用いて、治療用ペプチドやタンパク質の活性寿命の延長及び安定性の改善を行う技術である。PSAは、シアル酸(糖)のポリマーである。タンパク質及び治療ペプチドのドラッグデリバリーに用いると、ポリシアル酸がコンジュゲートの際に保護的な微小環境を提供する。これは、循環中の治療タンパク質の活性寿命を増大し、免疫系により認識されることを防止する。PSAポリマーは、ヒトの体内において天然に見られる。何百万年もかけて進化した所定の種の細菌によって採用され、それらの壁をこれによりコーティングするようになった。これらの天然のポリシアリル化された細菌は、分枝模倣によって、体の防御システムを覆うことができる。PSAは、天然の究極のステルス技術であり、このような細菌から容易に大量に、また所定の物理的特性をもって生産できる。細菌PSAは、ヒトの体内のPSAと化学的に同一であるため、タンパク質に結合しても完全に非免疫原性である。
【0081】
他の技術は、抗体に結合されたヒドロキシエチルスターチ(HES)誘導体の使用を含む。HESは、ワキシーメイズデンプン由来の修飾された天然ポリマーであり、体内の酵素で代謝され得る。HES溶液は、通常、不足した血液量を補い、血液のレオロジー特性を改善するために投与される。抗体のヘシル化は、分子の安定性を増大し、腎クリアランスを低減することにより循環半減期を延長することにより、生物活性を向上できる。HESの分子量等の種々のパラメータを変更することにより、種々のHES抗体コンジュゲートをカスタマイズすることができる。
【0082】
(核酸、ベクター、組換え宿主細胞及びそれらの使用)
自動ペプチド合成の代替案として組換えDNA技術が用いられ、それは、選択のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞に形質転換又はトランスフェクションし、以下に述べるように発現に適した条件下で培養する。組換え法は、より長いポリペプチドを生成するのに特に好ましい。
【0083】
種々の発現ベクター/宿主システムが、ペプチド又はタンパク質をコードする配列を含む及び発現するために用いられ得る。これらは、以下に限定されないが、組換えバクテリオファージ、プラスミド又はコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換された細菌等の微生物、酵母発現ベクターで形質変換された酵母(Giga-Hama et al.,1999)、ウイルス発現ベクターで感染された昆虫細胞系(例えばバキュロウイルス、Ghosh et al.,2002を参照)、ウイルス発現ベクターでトランスフェクションされた植物細胞系(例えばカリフラワーモザイクウイルス、CaMV、タバコモザイクウイルス、TMV)若しくはバクテリア発現ベクター(例えばTi又はpBR322プラスミド、例えばBabe et al.,2000を参照)、又は動物細胞系を含む。当業者は、タンパク質の哺乳動物発現を最適化するための種々の技術を認識しており、例えばKaufman,2000、Colosimo et al.,2000を参照できる。組換えタンパク質生産に有用な哺乳動物細胞は、以下に限定されないが、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、COS細胞(COS-7等)、W138、BHK、HepG2、3T3、RIN、MDCK、A549、PC12、K562及び293細胞を含む。細菌、酵母及び他の無脊椎動物におけるペプチド基質又は融合ポリペプチドの組換え発現のための例示的プロトコールは、当業者に周知であり、以下に簡単に記載される。また、組換えタンパク質の発現のための哺乳動物宿主系も当業者に周知である。宿主細胞株は、発現されたタンパク質を処理する能力、又はタンパク質活性を提供するのに有用な所定の翻訳後修飾を生成する能力で選択され得る。ポリペプチドのそのような修飾は、以下のものに限定されないが、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化及びアシル化を含む。また、タンパク質の「プレプロ」形態を切断する翻訳後プロセスは、正しい挿入、折り畳み及び/又は機能にとって受容となり得る。CHO、HeLa、MDCK、293、WI38等の種々の宿主細胞は、そのような翻訳後活性のための特定の細胞機構及び特徴的な機構を有し、導入された外来タンパク質の正しい修飾及び処理を確実にするために選択され得る。
【0084】
本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドの組換え生産において、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドをコードするためのポリヌクレオチド分子を含むベクターを用いることが必要となり得る。そのようなベクターを調製する方法、及びそのようなベクターで形質転換された宿主細胞を生成する方法は、当業者に周知である。
【0085】
従って、本発明の更なる対象は、本発明に係るシングルドメイン抗体及び/又はポリペプチドをコードする核酸分子に関する。
【0086】
典型的に、前記核酸は、DNA又はRNA分子であり、それらはプラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージ又はウイルスベクター等の適切なベクターに含まれ得る。本明細書において用いられる「ベクター」、「クローニングベクター」及び「発現ベクター」の用語は、DNA又はRNA配列(例えば外来遺伝子)を宿主細胞に導入して、宿主を形質転換し、導入した配列の発現(例えば転写及び翻訳)を促進できるビヒクルを意味する。「発現ベクター」、「発現コンストラクト」又は「発現カセット」の用語は、本明細書を通じて互換的に用いられ、核酸コード配列の一部又は全てが転写可能な遺伝子産物をコードする核酸を含む任意の型の遺伝子コンストラクトを含むことを意味する。
【0087】
そこで、本発明の更なる態様は、本発明の核酸を含むベクターに関する。そのようなベクターは、対象への投与時に前記抗体の発現を引き起こす又は誘導するためのプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の調節エレメントを含み得る。動物細胞における発現ベクターに用いられるプロモーター及びエンハンサーの例は、SV40の初期プロモーター及びエンハンサー(Mizukami T.et al.1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーター及びエンハンサー(Kuwana Y et al.1987)、免疫グロブリンH鎖のプロモーター(Mason JO et al.1985)及びエンハンサー(Gillies SD et al.1983)等を含む。動物細胞用の発現ベクターは、ヒト抗体C領域をコードする遺伝子を挿入して発現できる限り、いかなるものも用いることができる。適切なベクターの例は、pAGE107(Miyaji H et al.1990)、pAGE103(Mizukami T et al. 1987)、pHSG274(Brady G et al. 1984)、pKCR(O’Hare K et al. 1981)、pSG1ベータd2-4-(Miyaji H et al. 1990)等を含む。プラスミドの他の例は、複製起点を含む複製プラスミド、又は例えばpUC、pcDNA、pBR等の統合型プラスミドを含む。ウイルスベクターの他の例は、アデノウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス及びAAVベクターを含む。そのような組換えウイルスは、パッケージング細胞のトランスフェクション、又はヘルパープラスミド若しくはウイルスの一過性トランスフェクション等の本技術分野において周知の技術によって生成され得る。ウイルスパッケージング細胞の典型的な例は、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞等を含む。そのような複製欠陥組換えウイルスを生成するための詳細なプロトコールは、例えば国際公開第95/14785号、国際公開第96/22378号、米国特許第5882877号、米国特許第6013516号、米国特許第4861719号、米国特許第5278056号及び国際公開第94/19478号で見られ得る。
【0088】
本発明のペプチド又はポリペプチドの発現に適する発現ベクターの選択は、当然に、用いる特定の宿主細胞に依存し、当業者の技術範囲内である。
【0089】
発現には、宿主細胞において目的の核酸の発現を促進するのに用いられ得る、ウイルス及び哺乳動物の両方のソースからのエンハンサー/プロモーター等の適切なシグナルがベクターに提供されることが必要である。通常、発現される核酸は、プロモーターの転写制御下にある。「プロモーター」とは、遺伝子の特定の転写を開始するために必要な細胞の合成機構又は導入された合成機構によって認識されるDNA配列を意味する。ヌクレオチド配列は、調節配列が目的のタンパク質(例えばシングルドメイン抗体)をコードするDNAに機能的に関連する場合、作動可能に連結される。従って、プロモーターヌクレオチド配列が配列の転写を指示する場合、プロモーターヌクレオチド配列は、所定のDNA配列に作動可能に連結される。
【0090】
本発明の更なる態様は、本発明による核酸及び/又はベクターによってトランスフェクション、感染又は形質転換された宿主細胞に関する。
【0091】
「形質転換」の用語は、「外来」(すなわち外部又は細胞外)の遺伝子、DNA又はRNA配列を宿主細胞に導入し、宿主細胞が導入された遺伝子又は配列を発現して所望の物質、通常は導入された遺伝子又は配列によってコードされたタンパク質又は酵素を産生することを意味する。導入されたDNA又はRNAを受け取り、発現する宿主細胞は、「形質転換」されたことになる。
【0092】
本発明の核酸は、適切な発現系において、本発明の抗体を生成するのに用いられ得る。「発現系」の用語は、例えばベクターによって運ばれ、宿主細胞に導入される外来DNAによってコードされるタンパク質の発現のための、適切な条件下での宿主細胞及び適合性ベクターを意味する。一般的な発現系は、E.coli宿主細胞及びプラスミドベクター、昆虫宿主細胞及びバキュロウイルスベクター、並びに哺乳動物宿主細胞及びベクターを含む。宿主細胞の他の例は、以下のものに限定されないが、原核細胞(細菌等)及び真核細胞(酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等)を含む。具体例は、E.coli、クルイベロマイセス又はサッカロマイセス酵母、哺乳動物細胞株(例えばVero細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞等)、並びに初代又は樹立細胞培養物(例えばリンパ芽細胞、線維芽細胞、胚細胞、神経細胞、脂肪細胞等から生成されたもの)を含む。また、例えば、マウスSP2/0-Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63-Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下「DHFR遺伝子」と呼ぶ)が欠損したCHO細胞(Urlaub G et al;1980)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL1662、以下「YB2/0細胞」と呼ぶ)等を含む。また、本発明は、本発明に係る抗体を発現する組換え宿主細胞を生成する方法に関し、該方法は、以下のステップを含む:(i)上記のような組換え核酸又はベクターをコンピテント宿主細胞にインビトロ又はエクスビボで導入するステップ、(ii)得られた組換え宿主細胞をインビトロ又はエクスビボで培養するステップ、及び(iii)任意に、前記抗体を発現及び/又は分泌する細胞を選択するステップ。そのような組換え宿主細胞は、本発明の抗体の生成のために用いられ得る。
【0093】
本発明の抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシラパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィー等の従来の免疫グロブリン生成手法により培養液から適切に分離される。
【0094】
(治療方法及び使用)
本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、APCを増強するがPSのTFPI-補因子活性には全く又はほとんど影響を与えない。本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、マウス血栓症モデルにおいてインビボ抗血栓作用を発揮する。
【0095】
従って、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、それを必要とする対象における血栓性障害の予防又は治療に特に適する。
【0096】
さらに他の態様において、本発明は、薬剤として用いるための本発明のシングルドメイン抗体及び/又は本発明のポリペプチドに関する。
【0097】
特定の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象において血栓性障害を治療するための、本発明のシングルドメイン抗体及び/又は本発明のポリペプチドに関する。
【0098】
すなわち、本発明は、本発明のシングルドメイン抗体及び/又は本発明のポリペプチドの有効量を前記対象に投与することを含む、それを必要とする対象における血栓性障害の予防又は治療方法に関する。
【0099】
本明細書で用いられる「対象」の用語は、哺乳動物を意味する。本発明の好ましい実施形態において、本発明に係る対象は、血栓性障害に罹患している、又は罹患しやすい任意の対象(好ましくはヒト)を意味する。
【0100】
本明細書で用いられる凝固障害又は血栓症としても知られている「血栓性障害」の用語は、本技術分野において一般的な意味を有し、過剰な血栓形成のリスクを増大する遺伝性又は後天性の状態を意味する。血管が傷つくと、外部又は組織内へ血液が漏れ始める。正常な凝固は、傷口の出血を止め、治癒のプロセスを開始させるので、傷害の際に重要である。しかしながら、血液が凝固し過ぎる傾向にある場合、それは凝固亢進状態又は血栓症と呼ばれる。健康な人では、凝固促進力と抗凝固力及び線溶力との間に恒常的なバランスが存在する。多くの遺伝的、後天的、及び環境的要因は、凝固に有利なバランスを崩し、静脈(例えば深部静脈血栓症(DVT))、動脈(例えば心筋梗塞、虚血性脳卒中)、又は心室での血栓形成という病的な事態を引き起こし得る。血栓は、形成された部位で血流を阻害したり、剥離して塞栓し、遠くの血管を塞ぎ得る(例えば肺塞栓症、塞栓性脳梗塞)。後天性疾患は、通常手術、外傷、薬剤、又は血栓性障害のリスクを増大する医学的状態の結果である。
【0101】
本発明によると、血栓性障害は、プロトロンビン遺伝子の変異、アンチトロンビン、プロテインC及びプロテインS等の凝固を防ぐ天然タンパク質の欠損、第VII因子、第IX因子及び第XI因子等の凝固因子のレベルの増大、第V因子ライデン欠陥、低プラスミノーゲン血症、プラスミノーゲン異常症及びプラスミノーゲン活性因子の阻害因子(PAI-1)のレベルの増大等の線溶系の異常、線溶不全、中心静脈カテーテル留置、ステントによる再狭窄、肥満、妊娠中の凝固亢進、抗リン脂質抗体症候群、癌、ホモシスチン血症、粘着性血小板症候群、肺塞栓症(PE)、真性多血症若しくは本態性血小板症候群等の骨髄増殖性障害、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)又は血友病治療(エミグジマブ、フィストシラン等)により誘導される血栓塞栓症等の医原性血栓塞栓症、潰瘍性大腸炎及びクローン病等の炎症性腸症候群、後天性免疫不全症候群(AIDS)、COVID-19、ネフローゼ症候群、急性微小血栓症、遠位微小血管血栓症、深部静脈血栓症(DVT)、パジェット-シュロッター病、バッド-キアリ症候群、門脈血栓症、腎静脈血栓症、脳静脈洞血栓症、頸静脈血栓症及び海綿静脈血栓症等の血栓症、辺縁部虚血、敗血症、貧血、鎌状赤血球症、脳マラリア、肺塞栓症及び脳塞栓症等の塞栓症、並びに脳卒中、心筋梗塞(心臓発作)、心房細動、冠動脈疾患、うっ血性心不全及び人工心臓弁の設置等の心血管疾患を含む。
【0102】
いくつかの実施形態において、血栓性障害は、以下のものに限定されないが、敗血症、鎌状赤血球貧血、塞栓症(肺及び脳)、並びに心血管疾患からなる群から選択される。
【0103】
いくつかの実施形態において、血栓性障害は、敗血症又は脳卒中である。
【0104】
いくつかの実施形態において、血栓性障害は、鎌状赤血球貧血である。
【0105】
本明細書において用いられる「敗血症」の用語は、本技術分野において一般的な意味を有し、全身の炎症状態によって特徴付けられる重篤な医学的状態を表す。誘発する感染症に関連する症状に加えて、敗血症は、全身に存在する急性炎症の存在を特徴とし、従って、発熱及び白血球数の上昇(白血球増加)又は白血球数の低下及び平均よりも低い体温、並びに嘔吐を頻繁に伴う。特に、敗血症は、感染に対する免疫反応の異常であり、生命を脅かす臓器機能障害と定義され、逐次臓器不全評価スコアが2点以上により定義づけられる。感染症は、感染が疑われる若しくは証明される場合があり、又は臨床症候群は感染が特徴的症状である場合がある。敗血症ショックは、感染と、平均血圧が65mmHgを超え、動脈乳酸値が2mmol/Lを超えることを維持するための血管内圧の必要性とによって定義される。
【0106】
本明細書において用いられる「脳卒中」の用語は、脳のいずれかの部分への血液又は酸素の流れの中断、減少又は停止に起因する任意の状態を意味する。特に、「脳卒中」の用語は、以下のものに限定されないが、虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)及び出血性脳卒中を含む。
【0107】
本明細書において用いられる「塞栓症」の用語は、血管内に閉塞を引き起こす物質である塞栓が留まることを意味する。塞栓は、血栓(血栓)、脂肪球(脂肪塞栓)、空気若しくは他のガスの泡(ガス塞栓)、又は異物であり得る。塞栓症には種々の型があり、本発明の文脈において、塞栓症は血栓によって引き起こされ、以下に限定されないが、動脈塞栓症、静脈塞栓症又は奇異性塞栓症からなる群から選択される。一般に、動脈塞栓症は、身体のどの部位においても閉塞を引き起こし得る。それは梗塞(血液供給の遮断による組織死)の主要な原因である。心臓又は頸動脈から脳内に塞栓が生じると、虚血による脳梗塞の原因となる可能性が高い。一般に、静脈塞栓症は、全身の静脈に形成された塞栓が心臓の右側を通過した後、常に肺に影響を与えることを意味する。これは、肺の主要な動脈を塞ぐ肺塞栓症を形成し、深部静脈血栓症の合併症となり得る。肺塞栓の発生部位として最も多いのは大腿静脈である。実際の血栓の発生部位は、ふくらはぎの深部静脈が最も一般的である。通常、静脈塞栓症は、肺塞栓症又は脳塞栓症である。
【0108】
本明細書において用いられる「心血管疾患」の用語は、「動脈血管疾患」とも呼ばれ、身体の心臓、心臓弁、血液及び血管系に影響を及ぼす多数の状態を分類するために用いられる一般用語を有し、心臓又は血管に影響を及ぼす任意の疾患を含み、メタボリック症候群、症候群X、アテローム性動脈硬化症、アテローム血栓症、安定性及び不安定性狭心症、脳卒中、大動脈及びその分枝の疾患(大動脈弁狭窄症、血栓症又は大動脈瘤)、末梢動脈疾患、末梢血管疾患、脳血管疾患、並びに一過性及び永久虚血性のあらゆる心血管イベントを含むがこれらに限定されない。本明細書において用いられる動脈血管疾患は、一般的に非虚血性疾患を意味するのではなく、虚血性疾患又は前虚血性疾患を最も一般的に意味する。本明細書において用いられる「アテローム性動脈硬化症」及び「アテローム血栓症」は、内皮の炎症活性化、血栓形成刺激の源としての炎症性白血球、凝固促進物質の源及び血栓症の間の炎症反応の増幅器としての平滑筋細胞、炎症及び血栓症の媒介物質としての血小板を含む多面的な血管病理に対する複雑な炎症応答に伴う全身性の炎症疾患状態を意味する。動脈は、その内壁に「プラーク」と呼ばれる物質が蓄積することにより硬化し、狭くなる。プラークが発達して大きくなると、動脈の内側が狭くなり(「狭窄」)、血液の流れが悪くなる。狭窄又はプラークの破裂は、幹部の血管の一部又は全部を閉塞させ得る。このため、血管から供給される組織は、酸素供給源を奪われ(虚血)、及び細胞死(壊死)が起こり得る。「CAD」又は「冠動脈疾患」は、心臓の筋肉に血液を供給する動脈(冠動脈)が動脈硬化を起こし、石灰化及び/又は狭窄することで発症する動脈血管疾患である。心筋への血流が低下し、血液は多くの必要な酸素を運ぶため、心筋が必要な酸素を受けることができずに心筋が壊死してしまうことがある。CADは、急性冠症候群(ACS)、心筋梗塞(心臓発作)、狭心症(安定型及び不安定型)、並びに心臓に酸素を多く供給する血管に起こる動脈硬化及びアテローム血栓症等の病態を含む。「CVD」又は「脳血管疾患」は、顔及び脳に酸素を多く含む血液を送る血管に起こる動脈硬化及びアテローム血栓症等の動脈血管疾患である。この用語は、脳に血液を供給する頸動脈の「硬化」を意味するのに用いられることが多い。それはCAD及び/又はPAD(末梢動脈疾患)との合併疾患として知られている。また、それは虚血性疾患、又は血流の不足を引き起こす疾患とも呼ばれる。CVDは、脳血管虚血、急性脳梗塞、脳卒中、虚血性脳梗塞、出血性脳梗塞、動脈瘤、軽度認知障害(MCI)、及び一過性脳虚血発作(TIA)等の病態を含む。虚血性CVDは、CAD及びPADと密接に関連すると考えられており、非虚血性CVDは複数の病態生理を有し得る。
【0109】
本明細書において用いられる「鎌状赤血球症」又は「SCD」は、本技術分野における一般的な意味を有し、赤血球が異常で硬い鎌状の形状をとる遺伝性の血液障害を意味する。赤血球の鎌状化は、細胞の柔軟性を低減し、その結果、生命を脅かす種々の合併症のリスクをもたらす。その用語は、鎌状赤血球貧血、ヘモグロビンSC症、ヘモグロビン鎌状βサレステミアを含む。その単一遺伝子疾患は、変異型ヘモグロビンS(HbS)及び慢性的な血管内溶血により特徴付けられる。鎌状赤血球症患者は、血管閉塞性クライシス(VOC)に起因する急性痛のエピソードを経験することが多い。VOCは、鎌状赤血球貧血の最も一般的な合併症であり、救急外来の受診及び入院の理由になることが多い。
【0110】
本明細書において用いられる「血管閉塞性クライシス」(VOC)の用語は、本技術分野における一般的な意味を有し、微細血管の閉塞により組織への酸素供給が妨げられ、傷害を引き起こすことを意味する。VOCは非常に痛みを伴うことがあり、医学的な緊急事態として考えられる。
【0111】
ここで、本発明者らは、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、マウスモデルにおいて血管閉塞性クライシスを抑制し得ることを実証する。
【0112】
特定の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象における血管閉塞性クライシスを抑制するのに用いるための本発明のシングルドメイン抗体及び/又は本発明のポリペプチドに関する。
【0113】
いくつかの実施形態において、対象は、鎌状赤血球貧血に罹患している。
【0114】
すなわち、本発明は、それを必要とする対象における血管閉塞性クライシス(VOC)の予防又は治療方法であって、本発明のシングルドメイン抗体及び/又は本発明のポリペプチドの有効量を前記対象に投与することを含む方法に関する。
【0115】
典型的には、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチド、並びに上記のような血栓性障害の古典的な治療は、治療上有効な量で対象に投与される。本明細書で用いられる「治療」又は「治療する」の用語は、予防的又は予防的治療と、治癒的又は疾患修飾的治療との両方を意味し、疾患に罹患するリスクがある又は疾患に罹患した疑いのある対象、並びに疾患又は病状に苦しんでいると診断された対象に対する治療を含み、臨床再発の抑制を含む。治療は、医学的障害を有する対象又は最終的に障害を獲得する可能性のある対象に、障害又は再発する傷害の1つ以上の症状を予防、治癒、発症の遅延、重症度の軽減若しくは改善のために、又は当該治療法がない場合に予想されるよりも対象の生存期間を延長するために、投与され得る。「治療レジメン」とは、病気の治療パターン、例えば治療中に用いられる投与パターンを意味する。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含み得る。「導入レジメン」又は「導入期間」の用語は、疾患の初期治療に用いられる治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を意味する。導入レジメンの一般的な目的は、治療レジメンの初期期間中に対象に高レベルの薬物を提供することである。導入レジメンは、(部分的又は全体的に)「負荷レジメン」を採用してもよく、これには、医師が維持レジメン中に採用するよりも大量の薬剤を投与すること、医師が維持レジメン中に薬剤を投与するよりも頻繁に薬剤を投与すること、又はそれらの両方を含み得る。「維持レジメン」又は「維持期間」の用語は、疾病の治療中の対象の維持、例えば対象を長期間(数か月又は数年)寛解状態に維持するために用いられる治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を意味する。維持レジメンは、連続的な治療(例えば毎週、毎月、毎年等の一定の間隔で薬剤を投与すること)又は間欠的な治療(例えば、中断された治療、間欠的な治療、再発時の治療、又は特定の予め定められた基準[例えば、痛み、疾患発現等]の達成時の治療)を採用し得る。
【0116】
本明細書で用いられる「治療上有効な量」は、患者に治療上の利益を付与するために必要な活性剤の最小量を意図する。例えば、患者に対する「治療上有効な量の活性剤」は、患者に影響を与える疾患に関連する病理学的症状、疾患の進行、又は身体的状態の改善を誘導、向上、又は引き起こす活性剤の量である。本発明の化合物及び組成物の1日の総用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されるであろう。特定の患者に対する特定の治療上有効な用量レベルは、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事、採用する特定の化合物の投与時間、投与経路及び排泄率、治療期間、採用する特定のポリペプチドと組み合わせて又は同時に用いられる薬剤、並びに医学技術において周知の同様の要因を含む種々の要因により決定されるであろう。例えば、所望の治療効果を得るために必要なレベルよりも低いレベルで化合物の投与を開始し、所望の効果が得られるまで徐々に投与量を増加させることは当業者に周知である。しかしながら、製品の1日の投与量は、成人1人当たり1日に0.01~1000mgの広い範囲にわたって変化させ得る。好ましくは、組成物は、治療される患者への投与量を症状に応じて調節するために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgの活性成分を含む。医薬品は、通常、約0.01mg~約500mgの有効成分を含み、好ましくは1mg~約100mgの有効成分を含む。有効量は、通常、1日当たり0.0002mg/kg(体重)~約100mg/kg(体重)の用量レベルで供給される。
【0117】
本明細書で用いられる「投与する」又は「投与」の用語は、粘膜、皮内、静脈内、皮下、筋肉内送達及び/又は本明細書に記載の若しくは本技術分野において周知の物理的送達の他の方法による等、体外に存在する物質(例えば本発明に係るナノボディ又はポリペプチド)を対象に注射又はその他の物理的送達する行為を意味する。疾患又はその症状が治療される場合、物質の投与は、典型的には疾患又はその症状の発症後に行われる。疾患又はその症状が予防される場合、物質の投与は、典型的には疾患又はその症状の発症の前に行われる。
【0118】
他の実施形態において、本発明に係るシングルドメイン抗体及又はポリペプチドは、ベクターと関連付けて送達され得る。本発明のシングルドメイン抗体又は薬物コンジュゲートは、プラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージ又はウイルスベクター等の適切なベクターに含まれる。従って、本発明の更なる目的は、本発明のシングルドメイン抗体又は薬物コンジュゲートを含むベクターに関する。典型的には、ベクターはウイルスベクターであり、これは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、又は感染性ウイルスである。いくつかの実施形態において、ベクターは、AAVベクターである。本明細書において用いられる「AAVベクター」の用語は、以下のものに限定されないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9及びそれらの変異型を含むアデノ随伴ウイルス血清型から得られるベクターを意味する。AAVベクターは、AAV野生型遺伝子の1つ以上、好ましくはrep及び/又はcap遺伝子の全部又は一部が欠失されているが、機能的なフランキングITR配列は保持し得る。レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノムに組み込む能力、大量の外来遺伝物質の移送、広範な種及び細胞型への感染、並びに特殊な細胞系でのパッケージングのために遺伝子送達ベクターとして選択され得る。レトロウイルスベクターを構築するために、目的の遺伝子をコードする核酸を、特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノムに挿入し、複製不能なウイルスを作製する。ビリオンを作製するために、gag、pol、env遺伝子を含み、LTR及び/又はパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株が構築される。cDNAを含む組換えプラスミドをレトロウイルスLTR及びパッケージング配列と共にこの細胞株に導入すると(例えばリン酸カルシウム沈殿による)、パッケージング配列によって組換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子にパッケージされ、これが培養液に分泌される。組換えレトロウイルスを含む培地は、その後に回収され、任意に濃縮され、遺伝子導入に用いられる。レトロウイルスベクターは、広範な種々の細胞に感染可能である。レンチウイルスは、複雑なレトロウイルスであり、一般的なレトロウイルス遺伝子であるgag、pol及びenvに加えて調節又は構造機能を有する他の遺伝子を含む。より高い複雑性により、ウイルスは潜伏感染の過程のようにそのライフサイクルを調節することができる。レンチウイルスの例は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV1、HIV2)及びサル免疫不全ウイルス(SIV)を含む。レンチウイルスベクターは、HIVの病原性遺伝子を多重に減衰させることにより作製されており、例えばenv、vif、vpr、vpu及びnefの遺伝子を欠失させることにより生物学的に安全なベクターとして作製されている。レンチウイルスベクターは、本技術分野において周知であり、例えば米国特許第6013516号及び第5994136号を参照でき、それらの両方は参照により本明細書に組み込まれる。一般に、ベクターは、プラスミドベース又はウイルスベースであり、外来核酸を組み込むため、選択のため、及び宿主細胞への核酸の移入のための必須配列を有するように構成される。目的のベクターのgag、pol及びenv遺伝子も、本技術分野において周知である。従って、関連する遺伝子は、選択されたベクターにクローン化され、続いて目的の標的細胞を形質転換するために用いられる。適切な宿主細胞がパッケージング機能、すなわちgag、pol及びenv、並びにrev及びtatを有する2つ以上のベクターでトランスフェクションされた非分裂細胞に感染することができる組換えレンチウイルスは、米国特許第5994136号に記載されており、それは参照により本明細書に組み込まれる。これは、ウイルスgag及びpol遺伝子をコードする核酸を供給できる第1のベクターと、ウイルスenvをコードする核酸を供給できる他のベクターを用いてパッケージング細胞を生成することを説明するものである。そのパッケージング細胞に異種遺伝子を提供するベクターを導入すると、目的の外来遺伝子を有する感染性ウイルス粒子を放出するプロデューサー細胞が得られる。envは、好ましくはヒト及び他の種の細胞の形質転換を可能にする両親媒性エンベロープタンパク質である。典型的には、本発明の核酸分子又はベクターは、「制御配列」を含み、これは、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、内部リボソーム侵入部位(「IRES」)、エンハンサー等を総称し、受容細胞におけるコード配列の複製、転写及び翻訳に提供するものである。これらの制御配列は、選択されたコード化配列が適切な宿主細胞において複製、転写及び翻訳されることが可能である限り、常に存在する必要はない。他の核酸配列は、「プロモーター」配列であり、これは、DNA制御配列を含むヌクレオチド領域を意味する通常の意味で本明細書で用いられ、ここで、制御配列はRNAポリメラーゼを結合し下流(3’方向)コード配列の転写を開始できる遺伝子に由来する。転写プロモーターには、「誘導性プロモーター」(プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が、被分析物、補因子、調節タンパク質等によって誘導される)、「抑制性プロモーター」(プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が、被分析物、補因子、調節タンパク質等によって誘導される)及び「構成的プロモーター」が含まれ得る。
【0119】
特定の実施形態において、本発明に係るシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、血栓性障害の古典的な治療と組み合わせて用いられ得る。
【0120】
従って、本発明は、それを必要とする対象における血栓性障害の予防又は治療方法であって、前記対象にi)本発明のシングルドメイン抗体及び/又はポリペプチドの有効量と、ii)血栓性障害の治療のための複合製剤として古典的治療とを適用することを含む、方法に関する。
【0121】
本明細書で用いられる「血栓性障害の古典的治療」の用語は、血栓性障害の治療に用いられる、天然又は合成の任意の化合物及び/又は血栓除去術を意味する。
【0122】
本発明によると、血栓症の治療に用いられる化合物は、クマリン、ワルファリン、アセノクマロール、フェンプロクモン、アトロメンティン、フルインジオン及びフェニンジオン等のビタミンKアンタゴニスト、エノキサパリン、ダルテパリン、ナドロパリン及びティンサパリン等のヘパリン及び誘導体物質、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス及びイドラビオタパリヌクス等の因子Xaの合成五糖類阻害剤、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン及びベトリキサバン等の直接作用経口抗凝固剤、ヒルジン、レピルジン、ビバリルジン、アルガトロバン及びダビガトラン等の直接トロンビン阻害剤、抗トロンビンタンパク質、バトロキソビン、ヘメンチン、組織プラスミノーゲン活性剤(tPA)、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、ウロキナーゼ及びテネクトプラーゼ等の組換え組織プラスミノーゲン活性剤(rtPA)、ストレプトキナーゼ、アニストレプラーゼ、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル、アスピリン、トリフルサル、カンゲロール、チクロピジン、クリオスタゾール、ボラパキサー、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、ジピリダモール、トロンボキサン阻害剤及びテルトロバン等の血小板凝集阻害剤、ACT017及びレバセプト等の血小板GPVI阻害剤、クリザンリズマブ等のP-セレクチンの阻害剤、AB002(WEトロンビン)及び可溶性トロンボモジュリン(BDCA-3)等のプロテインCの活性剤、又は組換え活性化プロテインC(APC)からなる群から選択され得る。
【0123】
本明細書で用いられる「血栓除去術」の用語は、本技術分野における一般的な意味を有し、血管から血栓を除去する介入的な治療を意味する。一般的に、脳動脈で行われる(介入性脳神経放射線学)。ステント-リトリーバー式血栓除去術は、血管造影室で全身麻酔又は意識下鎮静法下で行うことができる。通常は、右大腿動脈の経皮的アクセスにより、同軸のカテーテルシステムを動脈循環内に押し込む。最終的に、マイクロカテーテルが閉塞部位を越えて配置され、ステント-リトリーバーが血栓を捕えるために展開され、最後にステントは、通常、より大きいカテーテルで連続吸引しながら、動脈から引き抜かれる。脳内の血栓除去術には、直接吸引術という異なる技術がある。これは、閉塞した血管に大きなソフト吸引カテーテルを押し込み、直接吸引して血栓を回収するものであり、ステント-リトリーバー法と組み合わせることでより高い再開通率を達成できる。
【0124】
本明細書で用いられる「複合治療」、「複合療法」又は「併用療法」の用語は、複数の薬剤を用いる治療を意味する。併用療法は、二剤療法又は二重療法であってもよい。
【0125】
本発明に係る併用療法に用いられる薬剤は、同時に、別々に又は順次対象に投与される。
【0126】
本明細書で用いられる「同時投与」の用語は、2つの活性成分を同じ経路で、同時に又は実質的に同時に投与することを意味する。「別々に投与」の用語は、異なる経路で2つの活性成分を同時に又は実質的に同時に投与することを意味する。「順次投与」の用語は、2つの活性成分を異なる時期に投与することを意味し、投与経路は同一又は異なる。
【0127】
(本発明の医薬組成物及びキット)
典型的には、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチド(単独又はベクターに含まれる)は、医薬的に許容可能な賦形剤、及び任意に生分解性ポリマー等の徐放性マトリクスと組み合わせて、医薬組成物を形成し得る。従って、本発明のシングルドメイン抗体及びポリペプチドは、医薬組成物の形態で対象に投与される。
【0128】
「医薬的」又は「医薬的に許容可能」は、哺乳動物、特にヒトに投与されたときに、有害、アレルギー性又は他の不快な反応を生じない分子体及び組成物を適宜意味する。医薬的に許容可能なキャリア又は賦形剤は、無毒の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料又はあらゆる型の製剤補助剤を意味する。
【0129】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与のための本発明の医薬組成物において、活性原理は、単独又は別の活性原理と組み合わせて、単位投与形態で従来の医薬支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することが可能である。適切な単位投与形態は、錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒及び経口懸濁液又は溶媒等の経口投与形態、舌下及び頬側投与形態、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、髄腔内及び鼻内投与形態、並びに直腸投与形態を含む。
【0130】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤として医薬的に許容可能なビヒクルを含む。これらは、特に等張で無菌の生理食塩水(リン酸一ナトリウム若しくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウム若しくはマグネシウム等又はこれらの塩の混合物)、又は乾燥、特に滅菌水又は生理食塩水を加えることにより、場合によって注射可能な溶液の構成を可能にする凍結乾燥組成物であってもよい。
【0131】
注射に適した医薬品の形態は、無菌の水溶液又は分散液、ごま油、ピーナッツ油又は水性プロピレングリコールを含む製剤、及び無菌の注射用溶液又は分散液の即席調製のための無菌粉末を含む。いずれの場合も、形態は無菌でなければならず、容易に注射できる程度に流動的でなければならない。それは、製造及び保管の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用から保護されなければならない。
【0132】
本発明の阻害剤を遊離塩基又は医薬的に許容可能な塩として含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤と適切に混合して水中で調製され得る。また、分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール及びそれらの混合物、並びに油中で調製され得る。通常の保管及び使用条件下では、これらの製剤は微生物の増殖を防ぐために防腐剤を含む。
【0133】
本発明のシングルドメイン抗体及び/又は本発明のポリペプチドは、中性又は塩の形態で組成物中に配合され得る。医薬的に許容可能な塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と共に形成される)を含み、それは、例えば塩酸又はリン酸等の無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸で形成される。また、遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は水酸化第二鉄等の無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等の有機塩基に由来し得る。
【0134】
また、キャリアは、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)、これらの適当な混合物、及び植物油等を含む溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えばレシチン等のコーティング剤の使用、分散させる場合の必要な粒子径の維持、及び界面活性剤の使用等によって維持され得る。微生物の作用の防止は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等の種々の抗菌剤及び抗真菌剤によってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば糖類又は塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の長時間の吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物への使用によってもたらされ得る。
【0135】
無菌注射液は、必要な量の活性化合物を適切な溶媒に、必要に応じて上記に列挙した他の成分のいくつかと共に組み込み、その後、ろ過滅菌することにより調製される。一般に、分散液は、基本的な分散媒と上記に列挙した成分のうち必要な他の成分を含む無菌ビヒクルに、種々の滅菌活性成分を組み込むことによって調製される。無菌注射液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分の粉末と、その予め無菌ろ過した溶液から任意の追加の所望の成分を得る真空乾燥及び凍結乾燥の技術である。
【0136】
製剤化されると、溶液は、投与形態に適合した方法で、治療上有効な量で投与されることとなる。製剤は、上述のタイプの注射用溶液等の種々の投与形態で容易に投与されるが、薬物放出カプセル等も用いられ得る。
【0137】
水溶液での非経口投与の場合、例えば必要に応じて溶液を適切に緩衝可し、液体希釈剤を十分な生理食塩水又はグルコースで、まず等張にする必要がある。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。これに関連して、採用することができる無菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に周知であろう。投与量には、治療される対象の状態に応じて、必然的にいくらかの変動が生じる。投与に責任を負う者は、いずれにしても、個々の対象に対して適切な投与量を決定する。
【0138】
静脈内又は筋肉内注射等の非経口投与用に製剤化された本発明の阻害剤に加えて、他の医薬的に許容可能な形態は、例えば、経口投与のための錠剤又は他の固体、リポソーム製剤、時間放出カプセル、及び現在用いられている他の任意の形態を含む。
【0139】
本発明の医薬組成物は、血栓性障害の治療に用いられる任意の更なる薬剤を含み得る。
【0140】
一実施形態において、前記追加の活性剤は、同一の組成物に含まれていてもよく、別々に投与されてもよい。
【0141】
他の実施形態において、本発明の医薬組成物は、血栓性障害の予防及び治療における同時の、別々の又は順次の使用のための複合製剤に関する。
【0142】
最後に、本発明は、少なくとも1つの本発明のシングルドメイン抗体又はポリペプチドを含むキットも提供する。本発明の単離されたシングルドメイン抗体及び/又は本発明のポリペプチドを含むキットは、治療方法における使用を見出す。
【0143】
本発明は、以下の図面及び実施例によってさらに説明される。但し、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を限定するものとして何ら解釈されるべきでない。
【実施例
【0144】
[実施例1]
<材料及び方法>
(ファージディスプレイによるPS003ナノボディの選択)
抗PSナノボディは、本質的に抗VWFナノボディについて以前に記載されているように同定された(Ayme et al.2017)。簡潔には、組換えヒトPS(rhPS)によるラマ(L.glama)1頭の免疫化を、Centre de Recherche en Cancerologie(Universite Aix-Marseille,Marseille,France)に外注した。末梢血リンパ球の分離のために血液を採取し、リンパ球の総mRNAをシングルドメイン抗体(sdAb)ライブラリの構築に用いた。簡潔には、総mRNAは、CH2’プライマーを用いた逆転写酵素によるcDNAの合成に用いた。sdAbコードDNA断片をネステッドPCR反応により取得し、その後、断片をpHEN6ファージミドベクターにクローニングした。ライゲーションしたものを用いてコンピテントTG1E.coli細胞(ThermoFischer Scientific)を形質転換し、10個を超える形質転換体のライブラリを作製できた。各sdAbを曝露したファージを、このライブラリの培養物をM13KO7-ヘルパーファージで感染させることによりレスキューし、ファージ粒子を、精製rhPS(1mg/mL)でコーティングしたDynabeads M-450エポキシビーズと共に、2%のBSA及び5mMのCaClを含む50mMのTris、150mMのNaCl pH7.4(TBSバッファー)中で室温にて1時間インキュベートした。磁気ビーズは、0.1%のTween20及び5mMのCaClを含むTBSで9回、5mMのCaClを含むTBSで2回洗浄した。捕捉されたファージは、500μLの1mg/mLトリプシンを含むTBSと共に室温で30分間インキュベートすることにより溶出させた。溶出したファージ(500μL)は、500μLのTBSで希釈し、5μLの溶出ファージを段階希釈してTG1E.coliに感染させ、プレートに播種し、PS特異的濃縮性を評価した。溶出したファージ液の残りは、M13KO7-ヘルパーファージを用いてレスキュー後に増幅し、新たなラウンドの濃縮を行った。濃縮は2ラウンド連続で行った。2回目のラウンドの濃縮後、5μLの溶出ファージを段階希釈してTG1E.coliに感染させ、プレートに播種し、アンピシリン耐性シングルコロニーを取得した。真正のPS特異的ナノボディを単離するために、これらのTG1クローンを0.5mLの2YT培地で96穴の深穴培養プレートで一晩中培養し、1mMのIPTGでナノボディ発現を誘導した。ナノボディを含むペリプラズム抽出物を記載のように調製し、直接ELISAで固定化rhPS又はBSAへの結合を試験した。これにより、PS003と名付けられた強力且つ特異的なPSバインダを同定することができた。
【0145】
(PS003及びPS003bivナノボディの構築)
細胞質内の細菌発現を可能にするために、PS003のcDNA配列は、5’PstIと3’BstEII制限サイトとの間のpET28プラスミドにクローニングされた。このpET28フォーマットにおいて、PS003のタンパク質配列は、精製及び検出を容易にするために、N末端のHis6タグ及びC末端のヘマグルチニン(HA)タグにより挟まれる(図1)。PS003の親和性及び活性を潜在的に増大するために、PS003の2つの2つのcDNA配列を柔軟な(GGGS)リンカーを介して融合することにより、2価の形態のPS003biv(PS003bivと命名)が構築された(図1)。PS003bivのcDNA配列を合成し(ProteoGenix,France)、PstI及びBstEII制限サイト間でpET28プラスミドにクローニングした。1価の抗VWFナノボディ(KB013)及び2価の抗VWFナノボディ(KB004biv)をインビトロ機能アッセイにおいてコントロールとして用いた。これらのナノボディのcDNA配列は、PS003及びPS003bivについて上述したように、pET28プラスミドにクローニングされた。我々のインビボFeCl誘導血栓症モデルでは、2価の抗PSナノボディをコントロールとして用いた。この抗PSナノボディは、PS004bivと命名され、ELISAウェルに固定化したPS上のファージ粒子を選択することで同定した1価のナノボディ(PS004)から構築されたものである。3ラウンドの濃縮により、ELISAで固定化したPSに強く特異的に結合する1価のナノボディ(PS004)を同定した。PS004bivのcDNA配列を合成し、pET28プラスミドにクローニングした。本研究で用いた全てのナノボディは、N末端のHis6タグ及びC末端のHAタグで挟まれ、全ての2かのナノボディは(GGGS)リンカーにより連結されている。
【0146】
(ナノボディの発現及び精製)
1価及び2価のナノボディをコードするプラスミドを用いて、コンピテントT7SHuffle E.coli細胞(New England Biolabs)を形質転換した。各ナノボディについて、30μg/mLのカナマイシンを含むLB培地中、30℃で0.4<OD600mm<0.6までカナマイシン耐性のシングルコロニーを培養した。その後、0.1mMのIPTGの添加により、ナノボディの細胞質発現を誘導し、20℃で16時間ナノボディを産生させた。細菌ペレットを、10μg/mLのリゾチーム(Sigma)及び25U/mLのベンゾナーゼ(Sigma)を含む50mMのNaHPO、0.3MのNaCl pH7.4に再懸濁し、SigmaFASTプロテアーゼ阻害剤(Sigma)を添加した。懸濁液を超音波処理し、12000rpm、4℃で30分間遠心分離した。溶出液を-20℃で凍結した。
【0147】
1価のナノボディは、固定化金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)により精製した。簡単に言うと、溶出液を37℃で解凍し、4700rpmで20℃、30分間遠心分離を行った。上清を50mMのNaHPO、0.3MのNaCl pH7.4で予め平衡化したHiTrap TALON Crudeカラム(GE Healthcare)に1mL/minでロードした。カラムを、20カラム容量を超える50mMのNaHPO、0.3MのNaCl pH7.4で洗浄し、10mMのイミダゾールを含む20カラム容量を超える50mMのNaHPO、0.3MのNaCl pH7.4で洗浄した。結合したナノボディを150mMのイミダゾールを含む50mMのNaHPO、0.3MのNaCl pH7.4で溶出し、画分(1mL)を回収した。各画分中のタンパク質含量をOD280nmの測定により求め、目的の画分をプールし、50mMのTris、150mMのNaCl、pH7.4(TBSバッファー)に対して透析を行った。透析液は、最終的にAmicon Ultra-15遠心フィルタ装置(3kDaカットオフ)(Merck Millipore)で濃縮された。
【0148】
2価のナノボディは、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーで精製した。簡単に言うと、溶出液を37℃で解凍し、4700rpmで20℃、30分間遠心分離を行った。上清を50mMのNaHPO、0.3MのNaCl pH7.4で予め平衡化したHiTrap Protein A Fast Flowカラム(GE Healthcare)に0.5~1mL/minでロードした。カラムを、20カラム容量を超える50mMのNaHPO、0.3MのNaCl pH7.4で洗浄し、結合したナノボディを0.1Mのグリシン pH2.7で溶出した。100μLの1MのTrisHCl pH8.5を含むチューブに画分(1mL)を回収した。各画分中のタンパク質含量をOD280nmの測定により決定し、目的の画分をプールし、TBSバッファーに対して透析を行った。析液は、最終的にAmicon Ultra-15遠心フィルタ装置(3kDaカットオフ)(Merck Millipore)で濃縮された。
【0149】
(PS003のエピトープマッピング)
PS SHBG様ドメインのみの組換型(rSHBG)は、以前に発現させ精製された(Saposnik et al.2003)。BSA、精製rhPS及び精製rSHBG(5mMのCaClを含むTBS中8μg/mLで60μL)を96ウェルNUNC Maxisorpプレート上に4℃で16時間固定化した。3×200μLの洗浄バッファー(5mMのCaCl及び0.1%のTween20を含むTBS)でウェルを洗浄し、5mMのCaCl及び5%のBSAを含むTBSを用いて室温で1時間ブロッキングした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、固定濃度のPS003(5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBS中2nM、50μL/ウェル)を37℃で1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗HAタグ抗体(Abcam、5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBS中1μg/mL、50μL/ウェル)を室温で1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、50μLのTMBを添加した。反応は、50μLの2MのHSOの添加により停止させた。その結果、PS003のエピトープがPSのSHBG様ドメイン内に配置されていることが示された(図4)。さらに、PS003のエピトープは、Gas6のSHBG様ドメイン内には見られなかった(図4)。PSとGas6のSHBG様ドメインとの間で保存されていないアミノ酸残基が、PS003とPSとの間の相互作用を仲介する候補であると考えられる。
【0150】
<結果>
(rhPSに対するPS003の特異性)
PS003の特異性を知るために、精製PS003のPS及び相同ドメイン(Gla及びEGF様ドメイン)を含む種々のビタミンK依存性タンパク質への結合能を試験した。組換えヒトPS(rhPS)、組換えヒトFIX(BeneFIX、Pfizer)、組換えヒトFX(Haematologic technologies)、血漿由来タンパク質Z(Hyphen BioMed)、及び組換えヒトGas6(rhGas6)(Clauser et al.2012)(5mMのCaClを含むTBS中10μg/mLで60μL)を、96ウェルNUNC Maxisorpプレート上に4℃で16時間固定化させた。3×200μLの洗浄バッファー(0.1%のTween20及び5mMのCaClを含むTBS)でウェルを洗浄し、5mMのCaCl及び5%のBSAを含むTBSを用いて室温で1時間ブロッキングした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、精製PS003の一定濃度(5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBSに20nM、50μL/ウェル)を室温で1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗HAタグ抗体(Abcam、5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBS中に1g/mL、50μL/ウェル)を室温で1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、50μLのTMBバッファーを添加した。50μLの2MのHSOを加えて反応を停止させた。その結果、PS003はrhPSにのみ強く結合し(図2)、PS003はPSに特異的に結合することが示唆された。
【0151】
ビタミンK依存性Gas6は、PSと高い相同性(全体の47%)を有し、他のビタミンK依存性タンパク質とは対照的に、SHBG様ドメインも含む。PS003のPSに対する特異性をさらに確認するため、rhPSとrhGas6(5mMのCaClを含むTBSに10μg/mLで60μL)を96ウェルNUNC Maxisorpプレートに4℃で16時間固定化させた。3×200μLの洗浄バッファー(5mMのCaCl及び0.1%のTween20を含むTBS)でウェルを洗浄し、5mMのCaCl及び5%のBSAを含むTBSで室温にて1時間ブロッキングした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、濃度が増大するPS003(5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBSに0~200nM、50μL/ウェル)を室温にて1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗HAタグ抗体(Abcam、5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBS中に1μ/mL、50μL/ウェル)を室温で1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、50μLのTMBバッファーを添加した。50μLの2MのHSOを加えて反応を停止させた。その結果、PS003はrhPSに強く、用量依存的に結合したが、rhGas6には結合せず(図3)、PS003のrhPSに対する特異性が確認された。
【0152】
(サンドイッチELISAにおける固定化PS003に対する組換え及び血漿由来PSの結合)
我々のファージディスプレイ戦略において、PS003は、磁気ビーズに共有結合したrhPSの固定化体上で選択された。さらに、PS003はELISAウェルに固定化したrhPSに強く結合することがわかった。PS003が非ネイティブの固定化されたrhPSのみを認識することを排除するために、溶液中のrhPSと固定化PS003の結合をサンドイッチELISAで分析した。また、PS003は組換型PSを選択したため、溶液中の血漿由来型PSのPS003への結合を同じサンドイッチELISAで分析した。簡単に言うと、rhPSと精製血漿由来ヒトPS(Haematologic Technologies)(5mMのCaClを含むTBS中に10μg/mLで60μL)を96ウェルNUNC Maxisorpプレート上に4℃で16時間固定化させた。3×200μLの洗浄バッファー(5mMのCaCl及び0.1%のTween20を含むTBS)でウェルを洗浄し、5mMのCaCl及び5%のBSAを含むTBSで室温にて1時間ブロッキングした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、濃度が増大するPS003(5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBSに0~200nM、50μL/ウェル)を室温にて1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗HAタグ抗体(Abcam、5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBS中に1μ/mL、50μL/ウェル)を室温で1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、50μLのTMBバッファーを添加した。50μLの2MのHSOを加えて反応を停止させた。その結果、PS003は組換型又は血漿由来ヒトPSと結合し(図5)、PS003のPSに対する結合は非ネイティブの固定化形態に制限されないことが示された。
【0153】
(PS003及びPS003bivのELISAにおける固定化PSに対する結合の比較)
96ウェルNUNC Maxisorpプレートに組換えヒトPS(rhPS)(5mMのCaClを含むTBS中に2.5μg/mLで60μL)を4℃で16時間固定化した。3×200μLの洗浄バッファー(5mMのCaCl及び0.1%のTween20を含むTBS)でウェルを洗浄し、5mMのCaCl及び5%のBSAを含むTBSで室温にて1時間ブロッキングした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、濃度が増大するPS003(5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBSに0~200nM、50μL/ウェル)を室温にて1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗His6タグ抗体(Abcam、5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBS中に1μg/mL、50μL/ウェル)を室温で1時間インキュベートしてナノボディを検出した。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、50μLのTMBバッファーを添加した。50μLの2MのHSOを加えて反応を停止させた。各ナノボディについて、3つの個別実験を単純化して行い、結果は各ナノボディの最大結合のパーセンテージで表される。結合曲線は、PS003及びPS003bivの両方が、固定化rhPSに効率的に結合することを示した(図6)。
【0154】
PS003及びPS003bivのPSへの結合能力をさらに比較するために、PS003及びPS003bivのrhPSに対する親和性は、単純化して行った3つの個々の実験において増大する濃度(5mMのCaClを含むTBS中に0.6、1.25、2.5及び5μg/mL)で固定化したrhPSに対する結合曲線を得ることによって、記載されている(Beatty et al.J Immunol Methods 1987)ように評価された。各ナノボディについて、解離定数(K)を質量作用の法則に基づく式を用いて決定した。
【0155】
この方法に基づくと、PS003及びPS003bivのKは、それぞれ26.8±2.7nM及び13.8±5.7nMであり、PS003bivはrhPSと少し高い親和性(1.9倍)で結合することが示唆された。
【0156】
(PSに対するPS003bivのエピトープマッピング及びPS003bivの特異性)
rhPS、PS SHBG様領域単独の組換型(rSHBG)(Saposnik et al.2003)、組換えヒトGas6(rhGas6)、又はBSA(5mMのCaClを含む50mMのTris、150mMのNaCl、pH7.4(TBS)中に10μg/mLで60μL)を96ウェルNUNC Maxisorpプレート上に、4℃で16時間固定化した。3×200μLの洗浄バッファー(5mMのCaCl及び0.1%のTween20を含むTBS)でウェルを洗浄し、5mMのCaCl及び5%のBSAを含むTBSで室温にて1時間ブロッキングした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、0.5nMのPS003biv(5mMのCaCl、0.1%のTween20及び2%のBSAを含むTBS、50μL/ウェル)を室温にて1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗His6タグ抗体(Abcam、5mMのCaCl、0.1%のTween20及び2%のBSAを含むTBS中に1μg/mL、50μL/ウェル)を室温で1時間インキュベートして結合ナノボディを検出した。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、50μLのTMBバッファーを添加した。50μLの2MのHSOを加えて反応を停止させた。各ナノボディについて、3つの個別実験を単純化して行い、結果はrhPS上で得られたAbs450nmのパーセンテージで表される。3つの個別実験を簡略化して行った。
【0157】
その結果、PS003bivはrhSBHGに効率よく結合し(図7)、PS003bivのエピトープがPSのSHBG様領域内に配置されていることが示された。この領域はGas6にしか見られないため、PS003bivがrhGas6に結合しないことは(図7)、PS003bivがPSに特異的であることを強く示唆した。
【0158】
(APTTベース血漿凝固アッセイでのPSのAPC-補因子活性におけるPS003及びPS003bivの増強効果)
我々は、KC4 Coagulometer(Stago)上で市販のAPTTベースの血漿凝固アッセイ(STACLOT(登録商標)PS、Stago)を用いて、FVa及びFVIIIaの不活性化においてAPCの補因子として作用するrhPSの能力を測定した。簡単に言うと、0.1%のBSAを含むTBSで希釈した25μLのrhPSを、APC(R2試薬、25μL)及びウシFVa(R3試薬、25μL)と共に、25μLのPS欠損血漿(R1試薬)に加えた。37℃で2分間インキュベートした後、50mMのCaClを25μL加えることにより凝固を誘導した。このアッセイにおいて、APCがPS欠損血漿の凝固時間を延長し、rhPS(最終濃度5nM)をAPCと共に加えると、凝固時間は用量依存的にさらに延長した(図8A)。この延長は、rhPSのAPC-補因子活性を反映する。このアッセイにおいて、rhPSは、APCの非存在下では凝固時間を延長しない(図8A)。このアッセイにおいて、APCの抗凝固活性を増強するrhPSの能力は、rhPSのAPC-補因子活性を強力にブロックすることが大きく記載されていたポリクローナル抗PS抗体(DAKO、A0384)により消失し(データは示さず)、このアッセイがrhPSの存在に非常に依存することがさらに示された。
【0159】
容量反応曲線は、rhPSが一定濃度のAPCの存在下で用量依存的に凝固時間を延長することを示した(図8B)。ナノボディの阻害又は刺激効果を検出できるように、比率t+PS/t-PSが2以下となるrhPSの中間濃度(6nM)を選択した。
【0160】
次に、我々は、rhPS(6nM)がAPCの抗凝固活性を増強する能力に対するPS003及びPS003bivの効果を試験した。PS003、KB013、PS003biv及びKB004bivを、0.1%のBSAを含むTBS中でrhPS(30nM)と共に10μMで、室温で15分間プレインキュベートした。rhPS±ナノボディの混合物(25μL)を、APC(R2試薬、25μL)及びウシFVa(R3試薬、25μL)と共に、25μLのPS欠損血漿(R1試薬)に加えた。37℃で2分間インキュベートした後、50mMのCaClを25μL加えることにより凝固を誘導した。rhPS及びナノボディの最終濃度は、それぞれ6nM及び2μMであった。実験はトリプリケートで行った。
【0161】
rhPS及びAPCの存在下において、非存在下(TBS)、1価(KB013)及び2価(KB004biv)ナノボディの存在下(最終濃度2μM)で凝固時間が約2倍に延長され、rhPSの通常のAPC-補因子を反映した(図8C)。一方、PS003及びPS003biv(最終濃度2μM)の存在下では、凝固時間がさらに2.8倍及び3.6倍延長され、従ってPS003及びPS003bivが、それぞれの対照ナノボディと比較して、rhPSのAPC-補因子活性が驚くほど増強する効果があることが示された(図8C)。さらに、PS003bivのrhPSのAPC-補因子活性に対する増強効果は、PS003よりも高かった。
【0162】
先の結果は、rhPSの存在下での凝固時間(t+PS)のrhPSの非存在下での凝固時間(t-PS)に対する比として表した(図8D)。統計学的検定として、独立スチューデントt検定を用いた。
【0163】
(インビトロFVa不活性化アッセイにおけるPSのAPC-補因子活性でのPS003及びPS003bivの効果)
PS003及びPS003bivがrhPSのAPC-補因子活性を増強する能力は、精製タンパク質を用いて、rhPS存在下で、APCによるFVaの特異的タンパク質分解不活性化を測定するインビトロアッセイで評価された。血漿由来ヒトFVa(Haematologic Technologies,80nM)を、25μMのPC/PE/PSリン脂質ベシクル、並びに5mMのCaCl、0.2%のPEG、及び0.2%のBSAを含む50mMのTris、150mMのNaCl、pH7.4(TBS)中の濃度を増大したrhPS(0~100nM)(「FVa不活性化混合物」)の存在下で、血漿由来ヒトAPC(Haematologic Technologies,0.5nM)で20分間不活性化させた。FVa不活性化混合物を、5mMのCaCl、0.2%のPEG及び0.2%のBSAを含むTBSで希釈して(1:10)、反応を停止させた。次に、血漿由来ヒトプロトロンビン(Haematologic Technologies,200nM)及びFXa(Enzyme Research Laboratories,200nM)を用いたプロトロンビナーゼアッセイで、5mMのCaCl、0.2%のPEG及び0.2%のBSAと、50μMのPC/PE/PSリン脂質ベシクルとを含むTBS中で、残存FVa活性を測定した。トロンビンのアミド分解活性は、10mMのEDTA、0.2%のPEG及び0.2%のBSAを含むTBS中で発色基質(pNAPEP0238,200μM)を用いて追跡し、進行曲線の傾きを算出した。FVa不活性化混合物中の各rhPS濃度について傾きを求め、FVa活性の値は、rhPS存在下で得られた傾きとrhPS非存在下で得られた傾きとの間の比として表された。3回の実験を簡便に行った。
【0164】
その結果、rhPSは、APCのFVaを不活性化する能力を用量依存的且つ非常に効率的に増強することが示され(図9A)、PS003及びPS003bivの効果を評価するために6nMのrhPS濃度が選択された。我々のアッセイがrhPSの存在に依存していることを確認するために、我々はまた、rhPSのAPC-補因子活性を強力にブロックすることが主に記載されているポリクローナル抗PS抗体(DAKO、A0384)を用いた。そして、80nMのFVaを、0.5nMのAPC、25μMのPC/PS/PEリン脂質ベシクルを用いて20分間不活性化し、6nMのrhPSを、ナノボディ(PS003、PS003biv、コントロール1価ナノボディKB013及びコントロール2価ナノボディKB004biv、最終濃度10μM)、ウサギポリクローナル抗PS抗体(α-PS、DAKO、最終濃度0.5μM)、及びウサギIgG(DAKO、最終濃度0.5μM)を用いて又は用いずに(TBS)15分間プレインキュベートした。残存FVa活性は、先に説明したようにプロトロンビナーゼアッセイを用いて各条件で測定し、rhPSをナノボディ又は抗体の非存在下(TBS)でプレインキュベートしたときに得られるFVa活性と比較した。3つの実験を単純化して行い、統計的検定として独立スチューデントt検定を用いた(***P<0.001)。
【0165】
その結果、このAPC-補因子活性アッセイにおいて、ブロッキング抗PS抗体(α-PS、DAKO)は、rhPSのAPC-補因子活性を効果的に阻害することが示された(図9B)。APTTベースのAPC-補因子活性をアッセイで観察されたこととは対照的に、PS003及びPS003bivは、この「還元主義」FVa不活性化アッセイにおけるrhPSのAPC-補因子活性に対して増強効果を示さなかった(図9B)。
【0166】
(PSのインビトロTFPIα-補因子活性アッセイにおけるPS003及びPS003bivの効果)
TFPIαによるFXaの直接阻害をrhPSが増強する能力を評価するために、インビトロアッセイが開発された。10mMのCaCl、0.2%のPEG、0.2%のBSA及び25μMのPC/PS/PEリン脂質ベシクルを含む最終容量100μLのTBS中で、FXaに特異的な発色基質(pNAPEP、Cryopep、400μM)に対する血漿由来のヒトFXa(Enzyme Research Laboratories,最終濃度0.2nM)のアミド分解活性を、60分間で8秒ごとに監視した。FXaのアミド分解活性を阻害するために、E.coliで発現された組換えヒト完全長TFPIα(Tilman Hackeng,Maastricht,The Netherlandsより譲り受けた)を最終濃度5nMで用いた。我々は、TFPIα単独では弱く阻害されるが、rhPS(最終濃度20nM)がTFPIαによるFXa阻害を効果的に増強する実験条件を選択した(図10A)。TFPIαの非存在下において、rhPSはアミド分解活性FXaに影響を与えなかった(データは示さず)。
【0167】
rhPSがTFPIαの阻害活性を増強する能力は、ブロッキング用のウサギポリクローナル抗PS抗体(α-PS)(DAKO、最終濃度0.5μM)と共に室温で15分間プレインキュベートすることで消失し、ウサギIgG(DAKO、最終濃度0.5μM)では消失しなかった(図10B)。
【0168】
rhPSをPS003及びPS003biv、又はそれぞれの1価(KB013)及び2価(KB004biv)対照ナノボディ(最終濃度10μM)と共に室温で15分間プレインキュベートした場合、TFPIαの阻害活性を増強するrhPSの能力が評価された。各条件下でのTFPIαによるFXaの阻害のための動力学定数(kobs)を、以前に記載されているように(Ndonwi et al.2010)、進行曲線から計算した。結果は、ナノボディ非存在下(TBS)でのrhPSのTFPIα-補因子活性に対するパーセンテージで表し、3つの実験を単純化して行い、統計的検定として独立スチューデントのt検定を用いた。
【0169】
その結果、このインビトロ機能アッセイにおいて、PS003及びPS003bivは、rhPSのTFPIα-補因子活性を増強せず、むしろわずかに阻害することを示した(図10C)。
【0170】
(固定化した組換えマウスPS(rmPS)に対するPS003biv及びPS004bivの結合)
rhPSについては、組換えマウスPS(rmPS)をHEK293細胞で10μg/mLのビタミンK1の存在下で発現させ、以前に説明されたように(Fernandez et al.2009)2段階陰イオン交換クロマトグラフィーで精製した。96ウェルNUNC MaxisorpプレートにrmPS(5mMのCaClを含むTBS中に10μg/mLで60μL)を4℃で16時間固定化した。3×200μLの洗浄バッファー(5mMのCaCl及び0.1%のTween20を含むTBS)でウェルを洗浄し、5mMのCaCl及び5%のBSAを含むTBSで室温にて1時間ブロッキングした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、増大する濃度のPS003biv及びPS004biv(5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBS中に0~50nM、50μL/ウェル)を室温にて1時間インキュベートした。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗HAタグ抗体(Abcam、5mMのCaCl及び1%のBSAを含むTBS中に2μg/mL、50μL/ウェル)を室温で1時間インキュベートして結合ナノボディを検出した。ウェルを3×200μLの洗浄バッファーで洗浄し、50μLのTMBバッファーを添加した。50μLの2MのHSOを加えて反応を停止させた。
【0171】
その結果、PS003bivは、rmPSと強く結合し(図11)、PS003bivはマウスにおける血栓症及び出血モデルで試験できることが示された。PS004bivはこのアッセイでrmPSに結合しなかったため(図11)、PS003bivの対照ナノボディとして、我々のマウスインビボモデルにおいて使用できる可能性がある。
【0172】
マウスとヒトとのPSはSHBG様領域間で78%の配列相同性を有しているため、この結果はPS003bivのエピトープを特定するのにも役立ち得る。実際、候補となるアミノ酸残基は、ヒト及びマウスのPSのSHBG様領域では保存されているが、ヒトのGas6のSHBG様領域では保存されていない可能性が高い。
【0173】
(マウスFeCl誘導性血栓症モデルにおけるPS003bivのインビボ抗血栓症効果)
塩化第二鉄(FeCl)傷害を、本質的に以前に記載されたように(Ayme et al.2017;Adam et al.2010)、4~5週齢のC57BL6/JRccHsd雄マウスに誘発させた。血栓形成の可視化を容易にするために、ペントバルビタールで麻酔したマウスの血小板を、ローダミン6G(3.3mg/kg、すなわち0.9%のNaCl中に1mg/mLで2.5μL/gのローダミン6G)の眼窩後部叢への静脈内注射によりインビボで蛍光標識化した。PS003biv(10mg/kg)、PS004biv(10mg/kg)、又は同量のTBSバッファー(Ctl)を0.9%NaClで希釈し、同時に投与した。代替的に、血栓症モデルが凝固の薬理学的阻害に感受性があることを確認するために、ローダミン6G単独の静脈内注射の後に200UI/kgの低分子ヘパリン(LMWH、Lovenox)を皮下注射した。標識化血小板を10分間循環させた後、FeCl溶液(水中で10%)を腸間膜血管に局所投与し、倒立型落射蛍光顕微鏡(×10)(Nikon Eclipse TE2000-U)で血栓形成をリアルタイムで観察した。各マウスについて、1つの静脈及び1つの動脈を分析した。統計分析は、クラスカル-ウォリス及びダンの検定を介して評価した。その結果、PS003bivはFeCl誘導性血栓症モデルにおいてマウスの腸間膜血管で抗血栓作用を発揮することを示した。PS003bivでマウス処理すると、特に静脈の閉塞が遅延した(図12A)。PS003bivを投与したマウスの細動脈においても、コントロールのナノボディと比較して同様の傾向が見られたが、統計的な差には至らなかった(図12A)。また、PS003bivの投与は、血栓の安定性及び血栓塞栓の高い発生率に関連していた(図12B)。これらのPS003bivの明白な抗血栓効果は、少なくとも部分的に、rhPSのAPC-補因子活性に対するPS003bivの増強効果を反映している可能性がある。
【0174】
我々のAPC-及びTFPI-補因子活性アッセイで用いられたコントロールの2価抗VWFナノボディ(KB004biv)は、FeCl誘導性血栓症モデルで用いられなかったことに注意すべきである。実際、このナノボディでマウスを処理すると、1匹のマウスの静脈と動脈で閉塞時間の遅延が生じた。従って、我々は、組換えマウスPSに結合できない自社製の2価抗PSナノボディ(PS004biv)を用いることにした(図11)。
【0175】
(マウス尾部クリップ出血モデルにおける生理学的止血のPS003bivの効果)
麻酔したC57/BL6マウスにPS003biv(10mg/kg)を静脈内注射するか、FeCl誘導性血栓症モデルで説明したように、低分子ヘパリン(LMWH)(Lovenex、200UI/kg)を皮下注射した。尾を0.9%NaClに37℃で10分間浸漬し、尾の先端から3mmを切断し、直ちに37℃で10mLの0.9%のNaClを含むチューブに浸漬した。出血時間は、最初の出血停止で定義した。また、20分間の採血を行い、総出血量を定量化した。各バーは、評価した複数のマウスから得られた平均値を表す。統計学的分散検定としてターキーの多重化比較検定による通常の一元配置分散分析が用いられた。
【0176】
その結果、200UI/kgの低分子ヘパリン(LMWH)投与により、出血時間が有意に延長し、出血量が有意に増加したことから、このマウス出血モデルは薬理学的凝固阻害に感受性があることが示された(図13)。この容量のLMWHは、我々のマウスFeCl誘導性血栓症モデルにおいても閉塞時間を有意に延長した(図12A)。LMWHに対して、PS003bivでは、出血時間及び出血量の両方に有意な影響はなかった(図13)。これらの結果は、PS003bivの投与によるPSの抗凝固活性の増強が生理学的止血の障害とは関連しないとする我々の仮説を支持するものであった。従って、本研究は、PS003bivの強力且つ安全な抗血栓剤としての治療可能性を示唆するものであった。
【0177】
<考察>
我々は、PS003/PS003bivナノボディは、鎌状赤血球症(SCD)の治療に有用となり得ることを提案する。SCDは、HBB遺伝子の点変異に起因する遺伝病であり、脱酸素時にヘモグロビンS(HbS)の重合を引き起こし、赤血球を鎌状に変形させる。そのような鎌状化は、赤血球の微小血管における通過性を損ない、溶血を起こしやすくする。赤血球の溶血は、血管内皮細胞を活性化し、活性化した内皮に白血球及び血小板を世着させる等の有害なメディエーターを放出する。これらの病的現象は、最終的に微小血管の閉塞を引き起こし、SCDの特徴である再発性の痛みを伴う血管閉塞性クライシス(VOC)を引き起こす。これらの血管閉塞現象は、最終的に末端臓器障害を引き起こし、多くの場合、早期の死亡を引き起こす。
【0178】
VOCの病態生理は複雑であり、鎌状赤血球、内皮細胞、血小板及び白血球の相互作用が関与している。また、一般的にSCD患者は、これらの患者におけるトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、プロトロンビン断片F1.2及びD-ダイマーのレベルの上昇によって証明されるように、慢性の凝固亢進状態であると考えられている(Ataga et al.Hematology Am Soc Hematol Educ Program 2007)。この高凝固性状態は、SCD患者においてよく報告されている静脈血栓塞栓症及び脳卒中のリスク上昇と関連している(Sparkenbaugh and Pawlinksi.JTH 2017;Brunson et al.Br J Haematol 2017;Shet et al.Blood 2018)。しかしながら、SCDにおける慢性的な凝固活性化は、SCDの重要な病態生理学的特徴である血管の炎症を局所的に誘発及び/又は増強する可能性もある。実際、種々の血栓炎症性疾患において、凝固及び炎症が互いに増幅することが長い間認識されており、この凝固及び炎症のクロストークは、SCDにおける血管閉塞の病態生理の中心であると考えられている(Sparkenbaugh et al.Br J Haematol 2013)。
【0179】
組織因子(TF)の発現は、SCD患者及びSCDのマウスモデルにおいて白血球で増大していることが示されており、TFがSCDにおける凝固亢進に寄与している可能性が高いことを示唆されている。白血球のTFは、SCDにおける凝固活性化に寄与するTFの最も可能性が高い供給源と考えられていますが(Sparkenbaugh and Pawlinski.JTH 2017)、TFは血管内皮細胞においても誘導的に発現している。SCDの凝固亢進における接触系の役割については、ほとんど知られていない。FXIIは、種々の種類の細胞(鎌状赤血球及び内皮細胞等)、並びに内皮細胞、血小板又は単球由来のマイクロベシクルのホスファチジルセリン露出部位で活性化され得る。これは、FXIIがアポトーシス細胞によって露出したホスファチジルセリンに結合することができ、その急速な切断と活性化をもたらすという研究(Yang et al. Front Immunol 2017)から推論され得る。そのようなホスファチジルセリンによるFXIIの活性化は、SCDにおけるTFとは別の凝固活性化のトリガーとなり得る。あるいは、FXII及び接触系は、グリコサミノグリカン及びヘパリン等の肥満細胞由来産物、又は溶血によって放出された糖化ヘモグロビンによって活性化され得る(Sparkenbaugh and Pawlinski.JTH 2017)。
【0180】
鎌状赤血球、内皮細胞及びマイクロベシクルの表面におけるホスファチジルセリンの露出は、SCDにおける凝固能亢進の重要なドライバーである。このホスファチジルセリンの露出は、凝固反応の速度をかなり加速させ、TFの脱離及び活性化も促進し得る(Ansari et al.Thromb Haemost 2019)。興味深いことに、PSはホスファチジルセリンを含むアニオン性リン脂質膜に高い親和性を有し、PSがこれらの部位に蓄積し、トロンビンの生成を局所的に制限する重要な抗凝固性の役割を発揮し得ることが示唆される。しかしながら、ホスファチジルセリンが広く血管内又は血管外に露出することで、PSが捕捉され、血漿プールから枯渇し得る。これは、種々の研究においてSCD患者に観察されたPSの明らかな後天的欠損と一致するであろう(Whelihan et al.JTH 2016)。PSの肝臓発現がHIF-1αを介して低酸素によりダウンレギュレートされることが見出されたことから、急性又は慢性の低酸素症もSCD患者で観察されるPSの血漿レベルの低減に関与し得る(Pilli et al.Blood 2018)。そのようなPS欠損がどのようにSCD患者の凝固性亢進に寄与し、血栓性傾向を悪化させるかは不明である。興味深いことに、プロテインCの欠損もSCD患者において見られ(Whelihan et al.JTH 2016)、SCDでは抗凝固性プロテインC経路がより広範に変化され得ることが示唆されている。実際に、SCDにおけるPS及びプロテインCの複合的な欠損は、活性化プロテインC(APC)の抗凝固活性を発揮する能力に大きな影響を及ぼすと予想される。これは、SCD患者におけるFVIIIレベルの上昇も一因となり得るにもかかわらず、SCD患者の血漿に見られるAPC耐性によって裏付けられている(Wright et al.1997;Whelihan et al.2016)。
【0181】
重要なことは、局所的な凝固活性化及びトロンビンの生成が、血栓形成時のフィブリン生成能とは独立して、VOCの病態生理に直接大きな役割を担っている可能性があるということである。実際、トロンビンはフィブリノーゲンを切断してフィブリンを生成するだけでなく、特にPAR1活性化を通じて内皮細胞、血小板及び白血球の強力な活性化因子である。内皮細胞において、トロンビンはPAR1依存性の炎症促進作用、アポトーシス促進作用及びバリア破壊作用を発揮する(Flaumenhaft and De Ceunynck.Trends Pharmacol Sci 2017)。さらに、トロンビンを介した内皮細胞におけるPAR1の活性化は、ウィルブランド因子(VWF)及びP-セレクチンを含むバイベル-パラーデ小体のエキソサイトーシスを誘導し(Cleator et al.Blood 2014)、鎌状赤血球と内皮細胞との間の相互作用を助長又は増強させる。さらに、そのようなバイベル-パラーデ小体のエキソサイトーシスは、アンジオポエチン-2等の血管血栓炎症の可溶性メディエーターを放出し得る。さらに、トロンビンは、直接又は間接的に内皮細胞におけるホスファチジルセリンの露出を誘導し、その表面で凝固とトロンビン生成を促進及び継続させ得る。
【0182】
従って、血栓形成及び広範な凝固活性化が無くても、TF及び内皮表面の接触系によって開始される局所的且つ低レベルのトロンビン生成は、血管炎症及び血管閉塞現象の初期誘因となり得る。最近、抗TF抗体、FXa(リバーロキサバン)及びトロンビン(ダビガトラン)を標的とする直接経口抗凝固剤、並びにPAR1アンタゴニスト(ボラパクサー)は、VOCのマウスモデルにおいてヘモグロビン誘導性微小血管収縮を顕著に抑制した(Sparkenbaugh et al.Blood 2020)。従って、トロンビンを介した内皮PAR1活性化の薬理学的標的化は、SCDにおけるVOCを予防及び/又は軽減する魅力的な治療戦略であると思われる。また、本研究は、PS、APC及び組織因子経路阻害剤(TFPI)等の天然抗凝固剤によって内皮表面でのトロンビン生成を適切に制御することがVOCを制限するのに重要となり得ることを示唆する。
【0183】
PSは、活性化された内皮表面に露出したホスファチジルセリンに高い親和性を示し、APCとTFPIαとの両方の補因子として機能するユニークな能力を有する。APC及びTFPIαの両方の抗凝固活性を刺激することにより、PSは、SCDにおける内皮細胞表面でのトロンビン生成の制限に中心的な役割を担い得る。その結果、PSは、トロンビンによって誘導される血管閉塞現象の重要な負のレギュレーターである可能性があるが、このことは未だ実験的研究によって確証されていない。
【0184】
我々は、PS003/PS003bivナノボディによるPSのAPC-補因子活性の増強がSCD患者における血管閉塞性イベントの予防又は軽減のための新規治療戦略となり得ることを提案する。特に、SCD患者にはPS欠損及びAPC耐性が認められるため、PS003/PS003bivの抗血栓性により、治療中の患者の静脈血栓塞栓症及び脳卒中のリスク低減に寄与し得る。
【0185】
[参考文献]
本出願を通じて種々の参考文献は、本発明が属する技術の状況について説明する。これらの文献の開示内容は、参照することにより本開示に組み込まれる。
【0186】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図13
【配列表】
2023532726000001.app
【国際調査報告】