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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】レニンに基づくヘプシジン分析法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/34 20060101AFI20230724BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230724BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230724BHJP
   C12P 1/00 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
C12Q1/34
C07K14/47 ZNA
G01N33/68
C12P1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581430
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-02-17
(86)【国際出願番号】 FI2021050473
(87)【国際公開番号】W WO2022003238
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】20205709
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519096781
【氏名又は名称】タンペレ・ユニバーシティー・ファウンデーション・エスアール
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】タルヤ・クンナス
(72)【発明者】
【氏名】ヤルッコ・ヴァリヤッカ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーッコ・ピエサネン
(72)【発明者】
【氏名】セッポ・ニッカリ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045DA36
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QS02
4B063QS40
4B063QX01
4B064AG01
4B064CA21
4B064CB01
4B064CC01
4B064CD20
4B064CD30
4B064DA13
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045CA40
4H045EA50
4H045FA10
4H045FA71
(57)【要約】
本発明は、レニン-アンジオテンシンカスケードの主要なコンポーネントであるレニン酵素が、試料中のヘプシジン含有量分析に採用されうるという驚くべき知見に基づく。従って、本発明は、ヘプシジン、好ましくは生物学的に活性なヘプシジン25を定量測定するための新規レニンに基づくアッセイ法及びキットを提供する。ヘプシジンアッセイ法又はキットを利用することにより、対象のヘプシジン状態、ヘプシジン関連障害の状態、及び/又は処置に対する応答を判定又はモニタリングする方法も提供される。それに加えて、本発明は、血圧を管理するための新規処置法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘプシジン分析におけるレニンの使用。
【請求項2】
ヘプシジン分析が、試料中のヘプシジンの有無を判定する工程、又は試料中のヘプシジンを定量する工程を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ヘプシジン分析のためのアッセイ法であって、下記の工程:
a)ヘプシジン含有量が決定される試料の存在下又は非存在下において、アンジオテンシノーゲン(AGT)及びレニンをインキュベートする工程と、
b)試料の存在下又は非存在下において、レニンによるAGT切断を判定する工程と、
c)試料がAGT切断を阻害するか検出する工程と、
d)阻害が検出された場合には、試験試料中にヘプシジンが存在するものと結論付ける工程と
を含む、アッセイ法。
【請求項4】
工程c)が、レニンによるAGT切断が認められる場合、その阻害率を計算する工程を更に含み、及び工程d)が計算した阻害率に基づきヘプシジンを定量する工程を更に含む、請求項3に記載のアッセイ法。
【請求項5】
レニンによるAGTの切断が検出可能なシグナルを引き起こす、請求項3又は4に記載のアッセイ法。
【請求項6】
シグナル強度を既知濃度のヘプシジンの校正曲線と関連付けて、試料中のヘプシジンの存在又は数量を決定する工程を更に含む、請求項5に記載のアッセイ法。
【請求項7】
ヘプシジンがヘプシジン25である、請求項3から6のいずれか一項に記載のアッセイ法。
【請求項8】
試料が血液試料又は尿試料である、請求項3から7のいずれか一項に記載のアッセイ法。
【請求項9】
ヘプシジン分析のためのAGT及びレニンを含むキットの使用。
【請求項10】
ヘプシジン分析で使用するためのキットであって、AGT、レニン、及び配列番号1のN末端から5~25個の連続したアミノ酸を含む少なくとも1種の対照ペプチドを含む、キット。
【請求項11】
対象のヘプシジン状態、ヘプシジン関連の障害の状態、及び/又は処置に対する応答をin vitroで判定又はモニタリングするための、請求項3から8のいずれか一項に記載のアッセイ法又は請求項10に記載のキットの使用。
【請求項12】
配列番号1のN末端から5~8個又は10~24個の連続したアミノ酸から構成される単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチド。
【請求項13】
レニンに基づくヘプシジン分析における対照ペプチドとしての、配列番号1のN末端から5~25個の連続したアミノ酸を含む、単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチドの使用。
【請求項14】
対象のヘプシジン状態を判定するin vitroの方法であって、下記の工程:
a)請求項3から8のいずれか一項に記載のアッセイ法、又は請求項10に記載のキットを使用することにより、対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)試料中の定量後のヘプシジンレベルに基づき、前記対象のヘプシジン状態を判定する工程であり、ヘプシジン量が正常なヘプシジン濃度よりも低ければ、好ましくは鉄の過負荷を伴う貧血、遺伝性ヘモクロマトーシス、及び無効赤血球生成から選択される鉄の過負荷を示唆する一方、ヘプシジン量が正常なヘプシジン濃度よりも高ければ、好ましくは鉄剤不応性鉄欠乏性貧血、エリスロポエチン耐性、並びに炎症、慢性腎疾患、及び一部のがんと関連する貧血から選択される鉄拘束性貧血を示唆する、工程と
を含む、方法。
【請求項15】
対象のヘプシジン状態の変化をモニタリングするin vitroの方法であって、下記の工程;
a)請求項3から8のいずれか一項に記載のアッセイ法又は請求項10に記載のキットを使用することにより、2つ以上の時点において対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)定量後のヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
c)検出された変化から、対象のヘプシジン状態の変化を判定する工程と
を含む、方法。
【請求項16】
対象の処置に対する応答を判定するin vitroの方法であって、下記の工程;
a)請求項3から8のいずれか一項に記載のアッセイ法、又は請求項10に記載のキットを使用することにより、処置の前、その期間中、又はその後の2つ以上の時点において、対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)定量後のヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
c)検出された変化から、対象の処置に対する応答、又は処置の有効性を判定する工程と
を含む、方法。
【請求項17】
血圧、又は血圧異常と関連する疾患若しくは状態の管理における使用のためのヘプシジン治療薬。
【請求項18】
好ましくはヘプシジン模倣体、ヘプシジン発現の誘導物質、及びフェロポーチン活性の阻害剤からなる群から選択されるヘプシジンアゴニスト、又は好ましくは直接的なヘプシジン阻害剤、フェロポーチン結合性ヘプシジン阻害剤、及びヘプシジン発現の阻害剤からなる群から選択されるヘプシジンアンタゴニストである、請求項17に記載の使用のためのヘプシジン治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘプシジン分析論の分野に関する。より具体的には、本発明は、生体試料中に含まれるヘプシジン、好ましくは生物学的に活性なヘプシジン25のレベルを定量測定するための新規手段、アッセイ法、及びキットを提供する。ヘプシジンアッセイ法又はキットを利用することにより、ヘプシジン関連の障害に罹患しているか又は罹患している疑いのある対象におけるヘプシジンの状態、又は処置に対する応答を判定又はモニタリングする方法も提供される。それに加えて、本発明は、血圧を管理するための新規処置法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ヘプシジンは、異なる種間で高度に保存されているペプチドであり、鉄代謝とリンクした重要な循環性肝臓ホルモンである。ヘプシジン産生を調節することにより、生物は、十二指腸からの食物性鉄吸収を制御し、マクロファージによる老化した赤血球鉄の再利用をコントロールし、そして血液を生成するための肝細胞から血漿中への鉄輸送を管理する。
【0003】
ヘプシジンの成熟した生理活性形態は、84個のアミノ酸(プレプロヘプシジン)からなる前駆体に由来する25アミノ酸ペプチド(2回のタンパク質分解切断を経由)である。最初に、24残基のN末端シグナルペプチドが切断されてプロヘプシジンが生成し、次に更に処理されて成熟したヘプシジン(血液及び尿の両方に見出される)が生成する。その他の既存のヘプシジンアイソフォームには、24、23、22、又は20個のアミノ酸(それぞれ、ヘプシジン24、23、22、及び20)から構成され、ヘプシジン25のN末端アミノ酸が最初から1、2、3、又は5個それぞれ欠損している、より小型のN末端側でトランケートされたアイソフォームが含まれる。ヘプシジン25及びヘプシジン20の両方がヒト血清中に見出される一方、ヒト尿には少量のヘプシジン22が主要なヘプシジン25及びヘプシジン20に付加して含まれる。その他の分解生成物、例えばヘプシジン24及びヘプシジン23等については、ヒト血清中の濃度が検出不能又は非常に低いことが報告されている。生物学的に活性なヘプシジン25以外のヘプシジンアイソフォームも、慢性腎疾患や敗血症を含む、ヘプシジン25レベルの上昇を伴う疾患において一般的に存在するものの、その意義は不明である。
【0004】
血清中のヘプシジンレベルを測定することは、鉄代謝障害の理解を深めると考えられる。実際、測定されたヘプシジンレベルを正常レベルと比較することは、鑑別診断及びこれらの疾患の臨床的管理において有用なツールとなると考えられる。
【0005】
しかしながら、不幸なことに、生体試料中のヘプシジンを測定するアッセイ法の開発は困難であった。それにもかかわらず、いくつかのヘプシジンアッセイ法が確立された。そのようなアッセイ法は、2つの主要な群:マススペクトロメトリーに基づくアッセイ法、及び古典的なイムノアッセイ法に分類されうる。マススペクトロメトリー(MS)に基づく方法、例えば欧州特許題2057472号、又はMoeら(Clinical Chemistry、2013、59:1412~1414頁)で開示される方法等は、異なるヘプシジンアイソフォームを検出することができるが、しかし必要とされる機器の複雑性や価格により、該方法の有用性が限定される。一方、イムノアッセイに基づく方法、例えば競合的ELISAアッセイ法等は、単に全体的なヘプシジンレベル(プロヘプシジン、ヘプシジン25、及びその分解生成物を含む)を一般的にモニタリングするに過ぎず、生物学的に活性なヘプシジン対して該アッセイ法は非選択的となる。しかしながら、ヘプシジン25に対するいくつかのELISAアッセイ法が、今日市場に登場している。それにもかかわらず、試験法が異なればその間の結果も顕著に異なり、またヘプシジンに対する一般的な参照値が入手不能である。従って、ヘプシジン関連の試験を比較することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許題2057472号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Moeら、Clinical Chemistry、2013、59:1412~1414頁
【非特許文献2】Anal. Biochem、325(2004)、317~325頁
【非特許文献3】Hunterら(2002)J.Biol.Chem. 277:37597~37603頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、正確なヘプシジンアッセイ法、特に生物学的に活性なヘプシジン25に対して特異的であるアッセイ法に対する明確な必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様では、本発明は、ヘプシジン分析におけるレニンの使用であって、試料中のヘプシジンの有無を判定する工程と、試料中のヘプシジンを定量する工程とを含む、使用を提供する。
【0010】
別の態様では、本発明は、ヘプシジン分析のためのアッセイ法であって、下記の工程:
a)ヘプシジン含有量が決定される試料の存在下又は非存在下において、アンジオテンシノーゲン(AGT)及びレニンをインキュベートする工程と、
b)試料の存在下又は非存在下において、レニンによるAGT切断を判定する工程と、
c)試料がAGT切断を阻害するか検出する工程と、
d)阻害が検出された場合には、試験試料内にヘプシジンが存在するものと結論付ける工程と
を含む、アッセイ法を提供する。
【0011】
更なる態様では、本発明は、ヘプシジン分析のためのAGT及びレニンを含むキットの使用を提供する。ヘプシジン分析で使用するためのキットであって、AGT、レニン、及び配列番号1のN末端から5~25個の連続したアミノ酸を含む少なくとも1種のヘプシジン対照ペプチドを含む、キットも提供される。
【0012】
なおも更なる態様では、本発明は、配列番号1のN末端から5~8個又は10~24個の連続したアミノ酸から構成される単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチドを提供する。レニンに基づくヘプシジン分析における対照ペプチドとしての、配列番号1のN末端から5~25個の連続したアミノ酸を含む、単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチドの使用も提供される。
【0013】
それに加えて、本発明は、対象のヘプシジン状態を判定するin vitroの方法であって、下記の工程:
a)上記記載のアッセイ法又はキットを使用することにより、対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)前記試料中の定量後のヘプシジンレベルに基づき、前記対象のヘプシジン状態を判定する工程であり、ヘプシジン量が正常なヘプシジン濃度よりも低ければ、好ましくは、鉄の過負荷を伴う貧血、遺伝性ヘモクロマトーシス、及び無効赤血球生成から選択される鉄の過負荷を示唆する一方、ヘプシジン量が正常なヘプシジン濃度よりも高ければ、好ましくは、鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(iron-refractory iron deficiency anemia)、エリスロポエチン耐性、並びに炎症、慢性腎疾患、及び一部のがんと関連する貧血から選択される鉄拘束性貧血(iron-restrictive anemia)を示唆する、工程と
を含む、方法を提供する。
【0014】
更なる態様では、本発明は、対象のヘプシジン状態の変化をモニタリングするin vitroの方法であって、下記の工程;
a)上記記載のアッセイ法又はキットを使用することにより、2つ以上の時点において前記対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)定量後のヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
c)検出された変化から、前記対象のヘプシジン状態の変化を判定する工程と
を含む、方法を提供する。
【0015】
更なる態様では、本発明は、対象の処置に対する応答を判定するin vitroの方法であって、下記の工程;
a)上記したアッセイ法又はキットを使用することにより、処置の前、その期間中、又はその後の2つ以上の時点において、前記対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)定量後のヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
c)検出された変化から、前記対象の処置に対する応答、又は前記処置の有効性を判定する工程と
を含む、方法を提供する。
【0016】
なおも更なる態様では、本発明は、血圧、又は血圧異常と関連する疾患若しくは状態の管理において使用するためのヘプシジン治療薬を提供する。
【0017】
更なる態様、実施形態、及び詳細が、下記の図面、本発明を実施するための形態、実施例、及び従属項に記載されている。
【0018】
添付図面は、開示される主題のいくつかの実施形態を例証し、そして記載事項と共に、本アッセイ法、キット、及び方法の原理を説明する役目を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ヘプシジン25及びヒトアンジオテンシノーゲンN末端のアミノ酸配列及び分子構造を示す図である。重要なアミノ酸残基を太字で示し、そして四角で囲んで強調する。
図2】ヘプシジン25及びヒトアンジオテンシノーゲンペプチド鎖N末端の3D重ね合わせ構造を示す図である。アミノ酸残基His、Phe、及びProは両構造に共通する。
図3】レニン活性部位の接近性を例証する描写を示す図である。活性部位の拡大した例証図を、重ね合わせたヘプシジン25構造と共に左側に示す。特に、ヘプシジン25は、触媒性のアスパラギン酸(四角内)近傍の活性部位内に結合することができ、アンジオテンシノーゲンの結合を妨害する。
図4】異なる濃度のヘプシジン(10nM、100nM、又は500nM)の不存在又は存在下での、レニン触媒基質による蛍光シグナルの経時的発生を示すグラフである。
図5】ヒトレニン活性に対するヘプシジンの濃度依存的阻害効果を例証するグラフである。レニン活性に対するヘプシジン25の平均阻害効果は、10nM、100nM、及び500nMの濃度のとき、それぞれ20.4%、29.2%、及び38.3%であった。ヘプシジン9の場合、対応する阻害効果は、41.25%、41.15%、及び42.65%であった。ヘプシジン5の場合、対応する阻害効果は、50.1%、50.0%、及び58.6%であった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、下記の本発明を実施するための形態、実施例、図面、及び特許請求の範囲、並びにその先行する記載及び後続する記載を参照することにより、より容易に理解されうる。しかしながら、本発明は、記載されている特定の組成物、試薬、デバイス、プロトコール、又は方法論のいずれにも限定されず、従って変化しうるものと理解される。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載する目的に限定され、そして本発明の範囲(添付の特許請求の範囲によってのみ限定される)を限定するように意図するものではないものと、やはり理解される。
【0021】
本明細書において別途表示されない限り、さもなければ文脈から明らかに矛盾しない限り、本明細書に記載される要素の任意の組合せ(その可能性のあるあらゆる変化形を含む)が、本発明により包含される。
【0022】
本明細書において、及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の表現「a」、「an」、及び「the」は1つ又は複数を意味する。従って、単数形の名詞は、別途規定されない限り、対応する複数形の名詞の意味も担持する。
【0023】
本発明は、ヘプシジン分析論におけるレニンの使用と広範に関連する。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「レニン」(EC 3.4.23.15)は、アンジオテンシノゲナーゼ又はアンジオテンシン形成酵素(Angiotensin-forming enzyme)としても知られ、腎臓より分泌されるきわめて特異的なアスパラギン酸プロテアーゼであり、またレニン-アンジオテンシンカスケード(血圧及び体液バランスを制御するホルモンシステム)の主要なコンポーネントの1つである。レニンは、アンジオテンシノーゲン(AGT)のN末端からアンジオテンシンIペプチドをLeu10及びVal11間で切断し、N末端アンジオテンシンIペプチドを放出することと関係している。このペプチドは、その後アンジオテンシン変換酵素(ACE)により処理されて、アンジオテンシンII(血圧を高める重要なホルモン)が形成される。効果は、特異的AT1受容体、特に動脈血管の平滑筋中に存在する受容体を経由して媒介される。アンジオテンシンIIはアルドステロン分泌も増加させるほか、交感神経系の活性化にも関与している。従って、アンジオテンシンIIは、内分泌、自己分泌/傍分泌、及び細胞内分泌ホルモンとして作用する。
【0025】
好ましい実施形態では、レニンはヒトレニンである。
【0026】
特に、AGTは、今日までに知られているレニンの唯一の天然基質である。
【0027】
ヘプシジンは触媒性のアミノ酸Asp38及びAsp226近傍のレニンの活性部位と結合する能力を有することが、今日驚くべきことに発見された。従って、ヘプシジンが存在することでAGTがレニンと結合するのが妨害されるので、レニン媒介式のAGTのタンパク質分解切断は、ヘプシジンにより阻害されうる。この予期せぬ認識はヘプシジン分析論に対する新たな可能性をもたらす。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「ヘプシジン」は、特にヘプシジンの成熟した生物学的に活性な形態、すなわち配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する25個のアミノ酸ペプチドを指し、そしてヘプシジン25又は略してhep-25と一般的に呼ばれる。
【0029】
分子同士が結合反応に関わる場合、該分子は、衝突し、そして非共有結合性の相互作用により共に結合するのを可能にする相対的配置を採らなければならない。ヘプシジン25のアミノ酸配列(配列番号1)は、レニンとの結合に関与する2つの領域を有する。第1の領域は、レニンの活性部位内に結合したときに、レニンの正常なタンパク質分解活性を妨害する、可撓性のN末端構造(配列番号1のアミノ酸1~6)である。このヘプシジン構造の重要な部分は、レニンとの結合にとって重要な第2の領域に該当する別のコンパクトフォールド部(配列番号1のアミノ酸7~25)より支援を受けて活性部位に進入する。これら2つの領域が協働して、レニンと相互作用するための好適な接触を提供する。
【0030】
レニンとの相互作用にとって重要なヘプシジン25のアミノ酸(すなわち配列番号1のアミノ酸3~5に対応するHis-Phe-Pro)は、レニン活性部位において、AGT(レニンの内因性基質)の対応するアミノ酸と同一の場所を占めることが可能であることから、ヘプシジン25によるレニン阻害は本質的に競合的である。特に、これら競合ペプチドのそれぞれの方向は、図2で例証するように反対向きである。レニン活性部位に対するヘプシジン25の結合は、図3において例証される。
【0031】
生物学的に活性なヘプシジン25以外の既存のヘプシジンアイソフォームには、ヘプシジン25のN末端アミノ酸の最初の1、2、3、又は5個をそれぞれ欠いている、24、23、22、又は20個のアミノ酸(それぞれ、ヘプシジン24、23、22、及び20)から構成される、より小型のN末端側がトランケートされたアイソフォームが含まれる。ヒトヘプシジン24、23、22、及び20のアミノ酸配列は、配列番号2~5でそれぞれ表される。レニンとの相互作用にとって重要なN末端アミノ酸(すなわち、配列番号1のアミノ酸3~5に対応するアミノ酸)は、ヘプシジン20(配列番号5)、及びヘプシジン22(配列番号4)からは失われているので、これらのアイソフォームはAGT対するレニンのタンパク質分解活性を阻害する可能性は低い。一部の実施形態では、これは、重要なアミノ酸配列His-Phe-Proに先行する2つのN末端アミノ酸を欠いているヘプシジン23(配列番号3)、及び配列番号1のアミノ酸1に対応するヘプシジン25の最初のN末端アミノ酸を欠いているヘプシジン24(配列番号2)にも当てはまると考えられる。
【0032】
一部の実施形態では、ヘプシジンは、任意の天然ヘプシジンアイソフォーム、すなわちヘプシジン25(配列番号1)、ヘプシジン24(配列番号2)、ヘプシジン23(配列番号3)、ヘプシジン22(配列番号4)、及び/又はヘプシジン20(配列番号5)である。いくつかの好ましい実施形態では、ヘプシジンは、ヘプシジン25(配列番号1)、ヘプシジン24(配列番号2)、及び/又はヘプシジン23(配列番号3)である。より好ましくは、ヘプシジンは、生物学的に活性なヘプシジン25(配列番号1)である。
【0033】
AGTがレニンの活性部位と結合するのを妨害し、これによりAGTの切断を妨害するという、本明細書において実証されたヘプシジン25の能力に起因して、ヘプシジンは、レニンを利用することによって、特に競合的阻害に基づくアッセイ法又は方法によって定量可能である。基本的に、そのようなアッセイ法又は方法は、2反応間の競争に依存する。一方の反応は、AGT及びレニン間のタンパク質分解反応である一方、他方の反応は、ヘプシジン及びレニン間の結合反応である。これらの反応の比は、存在するヘプシジン量に依存する。換言すれば、レニンに対するAGTの結合を阻害し、レニンによるAGT切断阻害を引き起こす程度は、反応内のヘプシジンの量に比例する。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「アッセイ法」及び「方法」は交換可能である。
【0035】
上記に基づき、本発明は、試料中のヘプシジンの検出又は定量におけるレニンの使用を提供する。
【0036】
一部の実施形態では、ヘプシジンはヘプシジン25である。本発明の文脈において実施された分子モデリングから、レニンに対して生物学的に不活性なヘプシジンアイソフォームが結合する可能性は、生物学的に活性なヘプシジン25の可能性又はAGT(レニンの天然基質)の可能性よりも有意に低いことが示唆される。従って、ヘプシジンを検出又は定量するための本手段及びアッセイ法は、ヘプシジン25に対して特異的であると想定される。一部の実施形態では、ヘプシジンを検出又は定量するための本手段及びアッセイ法は、生物学的に活性なヘプシジン25に付加して、ヘプシジン24又はヘプシジン23を検出又は定量する可能性がある。しかしながら、これら不活性ヘプシジンアイソフォームは、ヒト試料中において無視しうる濃度で存在することが報告されている。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「ヘプシジンの定量」及び任意の対応する表現は、試料中のヘプシジンの分量を定量又は測定することを指す。用語「分量」は、用語「レベル」及び「濃度」と交換可能であり、また絶対量又は相対量を指す場合もある。ヘプシジンの測定は、試料中のヘプシジンの有無を単に判定することも含みうる。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「試料」とは、ヘプシジンを含有することが疑われ、またヘプシジンの存在について分析されるか又はヘプシジンの濃度について分析される任意の生物学的試験試料を指す。好ましい試料タイプは、全血試料、血清試料、及び血漿試料を含む、尿や血液である。
【0039】
本発明は、ヘプシジン分析のためのアッセイ法も提供する。このアッセイ法は、AGT(レニンの天然基質)の存在下で実施される。上記で説明したように、ヘプシジン含有量が決定される試料中に存在するヘプシジンは、レニンとの結合についてAGTと競合する。レニンに対するAGTの結合における阻害率、及び後続するレニンのタンパク質分解活性によるAGTの切断率は、試料中のヘプシジンの濃度に直接比例する。
【0040】
その最も単純な場合においては、アッセイ法は、試験試料中のヘプシジンの有無を検出するためにのみ使用されうる。そのような実施形態では、アッセイ法は、下記の工程:
a)試験試料の存在下又は非存在下において、AGT、好ましくはヒトAGT、及びレニン、好ましくはヒトレニンをインキュベートする工程と、
b)試験試料の存在下又は非存在下において、レニンによるAGT切断を判定する工程、
c)試験試料がAGT切断を阻害するか検出する工程と、
d)前記阻害が検出された場合には、前記試験試料内にヘプシジンが存在するものと結論付ける工程と
を含むアッセイ法として表現されうる。
【0041】
しかしながら、通常、アッセイ法は、試料中のヘプシジンを定量する、すなわちヘプシジンの濃度を決定するのに使用される。一部の実施形態では、そのようなアッセイ法は、例えば、試験試料中のヘプシジンを定量するためのアッセイ法であって、下記の工程:
a)前記試験試料の存在下又は非存在下において、AGT及びレニンをインキュベートする工程と、
b)前記試験試料の存在下又は非存在下において、レニンがAGTを切断する能力を判定する工程と、
c)前記試験試料によるAGT切断阻害があれば、それを計算する工程と、
d)計算した阻害に基づきヘプシジンを定量する工程と
を含むアッセイ法として表現されうる。
【0042】
一部の実施形態では、試料中のヘプシジンの未知の濃度を決定する工程は、ヘプシジン濃度既知の標準溶液のこれまでの測定に基づく。換言すれば、ヘプシジンの定量は、校正曲線、すなわち標準曲線の使用と関係しうる。校正曲線の生成は当技術分野において周知されており、またこの場合、所定の標準溶液内に適用されたヘプシジンの濃度に対してAGT切断率をプロットすることにより実施可能である。ヘプシジンの未知の濃度は、いずれも次に検出されたAGT切断率を、校正曲線(既知濃度のヘプシジンの存在下で創出される)上の対応する率と比較することにより決定されうる。
【0043】
アッセイ法では、AGT基質がレニンにより切断されて切断生成物が生成するが、その場合基質及び/又はいくつかの切断生成物の1つの一般的な特性(例えば、紫外吸収又は蛍光)が、切断の程度を決定するために測定される。換言すれば、AGT基質、好ましくは、合成AGT基質は、レニン活性により基質が切断された際に検出可能なシグナルを生成する改変を含有する。
【0044】
レニンのタンパク質分解活性によるAGTの切断率、及びヘプシジン又はヘプシジン含有試料による前記切断の阻害を決定する工程は、この目的に適合する任意の利用可能又は将来的なプロテアーゼアッセイ技術を使用して実施可能である。
【0045】
プロテアーゼアッセイ法は、均一アッセイ法及び不均一アッセイ法に分類されうる。均一アッセイ法では、反応のすべての成分が水相中に存在する。不均一アッセイ法では、反応成分の1つが固体表面に固定される一方、その他の成分は水相内にある。不均一アッセイ法の一部の実施形態では、AGT基質が固定される一方、レニン及び試験試料は、水相内に提供される。不均一アッセイ法の非限定的な例として、当技術分野において周知されているように、電気化学アッセイ法、表面増強ラマン散乱(SERS)アッセイ法、及び表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ法が挙げられる。
【0046】
不均一アッセイ法よりも実施及び自動化が容易なので、均一アッセイ法が通常好ましい。それに加えて、不均一アッセイ法では、遊離した反応成分が、例えば洗浄により、すべて固定された基質から物理的に分離されなければならない一方、均一アッセイ法ではそのような分離が不要であるので、均一アッセイ法が好ましい。
【0047】
本発明の均一アッセイ法として、比色分析法、紫外シグナルの検出に基づくアッセイ法、及び蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ法が挙げられるが、但しこれらに限定されない。当技術分野において周知されているように、ナノ物質、例えば貴金属ナノ粒子、量子ドット(QD)、及びグラフェンオキシド(GO)等も、アッセイ法において採用されうる。
【0048】
本発明の例示的なFRETに基づくアッセイ法では、蛍光ドナーの発光がアクセプター(クエンチャー)にクエンチされるように、AGT基質はFRETドナー及びFRETクエンチャーを近接した状態で含有するように改変される。AGT基質がレニンにより切断されると、FRETクエンチャーはFRETドナーから分離され、測定可能な蛍光シグナルを放出する。シグナルの強度は、切断されたAGTの量に比例し、ひいては反応(AGT及びレニンの濃度は一定)中のヘプシジン量に逆比例する。当技術分野において公知であり、また本発明における使用に適するドナー/クエンチャーの対の非限定的な例として、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)/テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、FITC/Texas Red(商標)、FITC/N-ヒドロキシスクシンイミジル-1-ピレンブチレート(PYB))、FITC/エオシンイソチオシアネート(EITC)、N-ヒドロキシスクシンイミジル-1-ピレンスルホネート(PYS)/FITC、FITC/ローダミンX、及びFITC/テトラメチルローダミン(TAMRA)、フルオレセイン/ローダミンX、及びローダミンX/Cy5が挙げられる。非蛍光クエンチャー分子、例えば4-(ジメチルアミノアゾ)ベンゼン-4-カルボン酸(DABCYL)、DAMBI、4-ジメチルアミノアゾベンゼン-4'-スルホニルクロリド(DABSYL)、又はメチルレッド等も採用されうる。例えば、好適なドナー/クエンチャーの対として、フルオレセイン/DABCYL、5-((2-アミノエチル)アミノ)ナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)/DABCYL、及びEDANS/DABSYLが挙げられる。
【0049】
本発明の例示的な時間分解式蛍光消光アッセイ法(Time Resolved Fluorescence Quenching Assay; TR-FQA)では、蛍光ドナーの発光がアクセプター(クエンチャー)によりクエンチされるように、AGT基質は、TRドナー及びクエンチャーを近接した状態で含有するように改変される。AGT基質がレニンにより切断されると、クエンチャーはドナーから分離され、測定可能な時間分解された蛍光シグナルを放出する。例示的ドナーは、発光性ランタニド(III)キレート、例えばAnal. Biochem、325(2004)、317~325頁で開示されるもの等である。TR-FQAアッセイ法で使用される例示的クエンチャーは、DABCYL、QSY-7、テトラメチルローダミン、Alexa Fluor 546、及びCy-5である。
【0050】
一部の実施形態では、AGT基質は、レニンによる作用を受けたときに、紫外吸収又は可視光吸収に検出可能な変化が生ずるように改変される。
【0051】
アッセイ法は、固定時間アッセイ法又は連続アッセイ法でありうる。連続アッセイ法は、切断生成物の出現又は基質の消失をリアルタイムで測定するために、分光光度計を一般的に使用する。分光光度的アッセイ法は、単純、選択的、及び高感度である。
【0052】
一部の実施形態では、アッセイ法は、AGT不存在下でのレニン及びヘプシジン間の結合反応に準拠しうる。そのような不均一アッセイ法では、レニンは、当技術分野において容易に利用可能な手段及び方法を使用して固体表面上に固定される。ヘプシジン含有量が決定される生物学的試験試料が、次に固定されたレニンと接触し、そして電気化学アッセイ技術、表面増強ラマン散乱(SERS)アッセイ技術、及び表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ技術を含む、但しこれらに限定されない、当技術分野において利用可能な任意の適するアッセイ技術を利用することにより、レニン及びヘプシジン間の結合反応速度が分析される。そのような実施形態では、結合反応速度は、生物学的試験試料中のヘプシジンの分量に比例する。
【0053】
本発明は、試験試料中のヘプシジンの定量又はその存在の判定におけるキット及びその使用も提供する。キットは、少なくともレニン酵素及び天然のレニン基質としてAGTを含む。好ましくは、ヒトAGT及びレニンが使用される。
【0054】
レニン及びAGTの両方が当技術分野において入手可能であるが、しかし当技術分野において周知の合成又は組換え技術を使用してやはり生成されうる。例えば、レニン又はAGTをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターが遺伝子工学により調製され、そして次にタンパク質を発現させるために宿主細胞中にトランスフェクトされうる。適する宿主細胞の非限定的な例として、原核生物宿主、例えば細菌(例えば、大腸菌(E.coli)、桿菌(Bacilli))、酵母菌(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、及び菌類(例えば、糸状菌)等、並びに真核生物宿主、例えば昆虫細胞(例えば、Sf9)及び哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞、HEK細胞)等が挙げられる。発現ベクターは、外因性DNAを原核生物又は真核生物宿主細胞中に導入するのに一般的に使用される多種多様な技術(エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、ソノポレーション、マグネトフェクション、ヒートショック、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラントランスフェクション等を含む、但しこれらに限定されない)により宿主細胞中にトランスフェクトされうる。多種多様な発現ベクターが当技術分野において容易に入手可能であり、また当業者は、異なる変数、例えば採用される宿主細胞等に応じて適するベクターを容易に選択することができる。
【0055】
均一なアッセイ法の場合、AGTは、レニンによる作用を受けたときに検出可能な変化が生ずるように改変される。一部の実施形態では、変化は、紫外吸収若しくは可視光吸収の変化、又は蛍光発光の変化である。一部の実施形態では、上記でより詳細に開示したように、AGT基質は、FRETドナー及びFRETクエンチャーを近接した状態で含有する。そのような改変されたAGT基質を合成し、並びにそのようなFRETの対を、組換え的に生成されたAGTとカップリングさせるための手段及び方法は、当技術分野において容易に利用可能である。
【0056】
一部の実施形態では、キットは、キット又はキットを使用して実施されるアッセイ法がその通りに機能しているか試験するための陽性対照ペプチドとして合成ヘプシジンを含む。一部の実施形態では、対照は、ヘプシジン25又はその断片、好ましくはN末端断片である。一部の実施形態では、対照ペプチドは、ヘプシジン25(配列番号1)のN末端から5~25個、好ましくは5~9個の連続したアミノ酸を含むか又はそれから構成される。言い換えれば、対照ペプチドは、配列番号1のアミノ酸1~5から配列番号1のアミノ酸1~25の範囲のペプチドに対応するアミノ酸を含むか又はそれから構成されうる。一部の実施形態では、対照ペプチドは、ヘプシジン-5(配列番号6)、ヘプシジン-6(配列番号7)、ヘプシジン-7(配列番号8)、ヘプシジン-8(配列番号9)、又はヘプシジン-9(配列番号10)を含むか又はそれから構成される。対照ペプチドは、自動化されたペプチドシンセサイザーによる合成を含む、但しこれに限定されない、当技術分野において利用可能な任意の手段、方法、又は技術により作成されうる。
【0057】
一部の実施形態では、キットは、校正曲線を生成するのに使用される、濃度既知のヘプシジン25を含む1つ又は複数の対照試料も含みうる。異なる濃度のヘプシジン25を含む対照試料の数は要望に応じて変化しうるが、しかし一般的にキットは、異なる濃度既知のヘプシジン25を含む3~5個の対照試料を含む。濃度範囲は、異なる変数、例えばキットを用いてヘプシジン濃度が分析される生物学的試験試料の種類(例えば、尿又は血液)や、その管理にキットが採用されるヘプシジン関連の障害等に応じて変化しうる。
【0058】
一部の実施形態では、キットは、ヘプシジン20(配列番号5)、ヘプシジン22(配列番号4)、ヘプシジン23(配列番号3)、若しくはヘプシジン24(配列番号2)のうちの1つ若しくは複数、又はそれを含む1つ若しくは複数の対照試料も含みうる。
【0059】
好ましくは、キットは、臨床目的又は研究目的でキットに一般的に適用される規制条項に基づき、キットの保管を可能にする形態で提供される。一部の実施形態では、前記成分のうちの1つ又は複数は、乾燥形態、例えば真空凍結乾燥された組成物として提供され、また湿気を除去するためにパッケージングされる。従って、キットは、成分を再溶解し、そしてそれを規定濃度にするための1つ又は複数の再構成バッファーも含みうる。好ましくは、再構成バッファーは、バッファーが通常そうであるように、非妨害性(例えば、非キレート性、非クエンチング性等)、無色、及び安定である。
【0060】
キットは、採用される検出原理等に応じて任意の適する追加の成分を更に含みうる。
【0061】
更に、本発明は、例えばヘプシジン5(配列番号6)、ヘプシジン6(配列番号7)、ヘプシジン7(配列番号8)、及びヘプシジン8(配列番号9)ペプチドを含む、配列番号1のN末端から5~8個又は10~24個の連続したアミノ酸から構成される単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチドを提供する。このようなペプチドは、例えばヘプシジン分析における対照ペプチドとして、すでに公知のペプチドであるヘプシジン9(配列番号7)及びヘプシジン25(配列番号1)に付加して使用されうる。好ましくは、ヘプシジン分析は、本発明のレニンに基づくヘプシジン分析である。レニンに基づくヘプシジン分析はこれまでに提案されていなかったので、本発明は、レニンに基づくヘプシジン分析における対照ペプチドとして、例えば、ヘプシジン5(配列番号6)、ヘプシジン6(配列番号7)、ヘプシジン7(配列番号8)、ヘプシジン8(配列番号9)、及びヘプシジン9(配列番号10)を含む、配列番号1のN末端から5~25個の連続したアミノ酸を含む、単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチドの使用も提供する。
【0062】
一部の実施形態では、本明細書に提示される単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチドは、例えば、ヘプシジン6(配列番号7)、ヘプシジン7(配列番号8)、及びヘプシジン8(配列番号9)ペプチドを含む、配列番号1のN末端から6~8個又は10~24個の連続したアミノ酸から構成される。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「単離された」とは、所与のペプチドが主要な生体物質として存在すること、すなわちその他の生体物質、例えば核酸、脂質、細胞残滓、若しくはその他のペプチド等、又は任意の汚染物質から実質的に精製されていることを意味する。
【0064】
本明細書で使用される場合、用語「合成された」とは、所与のペプチドが、技術的手段を使用するヒトの行為により、例えば自動化されたペプチドシンセサイザーにより生成されることを意味する。
【0065】
ヘプシジンは、多くの障害の病因において役割を演じている。従って、本発明は、ヘプシジン関連の障害を管理するための臨床ツールであって、ヘプシジン関連の障害に罹患しているか若しくはそれに罹患していると疑われる対象におけるヘプシジン状態若しくは疾患状態、又は処置に対する応答を判定及び/又はモニタリングすることを含むがこれらに限定されない、臨床ツールを提供する。
【0066】
本明細書で使用される場合、用語「ヘプシジン状態」とは、ヘプシジン状態又は疾患状態が判定される対象から得られた試料中のヘプシジンの絶対量又は相対量を指す。例えば、対象のヘプシジン状態は、正常よりも高くもあり、正常よりも低くもあり、又は正常でもありうる。同一の対象からこれまでに得られた試料中のヘプシジンの分量と比較した場合、対象のヘプシジン状態は、増加、減少しうるか又は不変のままでありうる。
【0067】
本明細書で使用される場合、用語「疾患状態」とは、非疾患を含む、疾患の任意の区別可能な症状を幅広く指す。例えば、該用語は、非限定的に、疾患の有無、疾患の前臨床段階の有無、疾患のリスク、疾患の病期、及び疾患の進行に関する情報を含む。好ましくは、疾患はヘプシジン関連の障害である。
【0068】
本明細書で使用される場合、用語「ヘプシジン関連の障害」とは、ヘプシジンが関与する任意の疾患、障害、又は病理学的状態を指す。ヘプシジン関連の障害の非限定的な例として、鉄の代謝及び吸収の障害、感染性疾患、炎症状態、低酸素症関連の障害、がん、並びに心血管系疾患が挙げられる。当業者にとって周知の通り、これらの疾患分類は重複する場合があり、また所与の疾患、障害、又は状態は、2つ以上の分類に属する場合がある。
【0069】
全身的鉄ホメオスタシスの主要な制御因子であることから、ヘプシジン産生の不均衡は多くの鉄障害の病因に寄与する。例えば、ヘプシジン濃度が病理学的に増加すると、鉄拘束性貧血、例えば鉄剤不応性鉄欠乏性貧血等、エリスロポエチン耐性、並びに炎症、慢性腎疾患、及び一部のがんと関連する貧血を引き起こすか又はそれに寄与する。一方、ヘプシジン欠乏症は、少なくとも鉄の過負荷を伴う貧血、遺伝性ヘモクロマトーシス、及び無効赤血球生成において、鉄過負荷を引き起こす。
【0070】
ヘプシジンの転写は、炎症及び感染症の期間中に上方制御される。ヘプシジンレベルが異常に高いと、マクロファージ及び肝細胞内への鉄の取り込み、並びに腸鉄吸収の低下に起因して血清鉄が下落する。炎症状態には、炎症により特徴付けられる様々な障害及び状態が含まれる一方、感染性疾患は、病原性微生物、例えば細菌、ウイルス、寄生虫、又は菌類等により引き起こされる。ヘプシジン関連の炎症として、非限定的にリウマチ性疾患、炎症性腸疾患、及び慢性感染症が挙げられる一方、ヘプシジン関連の感染性疾患の非限定的な例として、敗血症が挙げられる。
【0071】
低酸素症とは、酸素が制限される状態を指す。低酸素症の期間中、ヘプシジンの転写は抑制され、これにより腸からの鉄の取り込み及び内部貯蔵からの放出が増強される。低酸素症は、心血管系疾患、脳卒中、炎症性疾患、変性障害、及び固形腫瘍の進行を含む複数の疾患の主要なコンポーネントをなす。低酸素症関連の障害の非限定的な例として、肺疾患、例えば慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫、気管支炎、肺炎、及び肺浮腫等が挙げられる。
【0072】
特に、低酸素症と炎症とは相互依存関係にある。低酸素症が炎症を誘発しうるのと同様に、炎症組織は、多くの場合重度の低酸素となる。従って、ある特定の障害を炎症状態として又は低酸素症関連の障害として分類するのは、これらの疾患群は重複しうるので困難な場合もある。
【0073】
局所的ヘプシジンレベルが、多くのがん、例えば乳がん、前立腺がん、肺がん、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、結腸がん、及び腎癌等において増加しており、またがん細胞の転移性浸潤戦略及び生存不良に寄与すると思われる。興味深いことに、がん細胞に対して鉄が枯渇するようなヘプシジン発現の操作が、抗がん武器庫における潜在的な新規療法として提案された可能性がある。
【0074】
ヘプシジンは、心血管系疾患、例えばアテローム性動脈硬化症等、及び高血圧症(hypertension又はhigh blood pressure)及び低血圧症(hypotension又はlow blood pressure)を含む、但しこれらに限定されない血圧障害においても役割を演じており、その両方は多くの原因を有し、そして重症度は軽度~危険の範囲に及ぶ。いずれの理論にも限定されるものではないが、本発明は、ヘプシジンレベルの異常は、レニン阻害を介する血圧に対して効果を有することを示唆する。
【0075】
本明細書で使用される場合、用語「対象」とは、動物対象、好ましくは哺乳動物対象、より好ましくはヒト対象を指す。対象は、ヘプシジン関連の障害と診断されている場合もあれば、またされていない場合もある。
【0076】
モニタリングを目的とする場合、方法は、様々な時点において同一の対象から得られた少なくとも2つの試料を分析及び比較する工程を含む。一連の試料の数及び間隔は、要望に応じて変化しうる。取得された評価結果間の差異は、対象とされる実施形態に応じて、対象の疾患状態の変化の指標及び/又は適用された処置の有効性若しくは無効性の指標(すなわち、処置に対する応答の指標)としての役目を果たす。処置に対する応答についてモニタリングすることに関係する複数の実施形態では、分析される少なくとも2つの試料は、処置の前、その期間中、又はその後に適宜採取された試料(少なくとも1つの試料が処置の前に取得され、そして少なくとも1つの試料が処置の期間中に取得されること;少なくとも1つの試料が処置の前に取得され、少なくとも1つの試料が処置の経過期間中に取得され、そして少なくとも1つの試料が処置の後に取得されること;少なくとも1つの試料が処置の前に取得され、そして少なくとも1つの試料が処置の後に取得されること;少なくとも2つの試料が処置の経過期間中に採取されること;及び少なくとも1つの試料が処置の経過期間中、そして少なくとも1つの試料が処置の後に取得されることを含む)を含みうる。
【0077】
一部の実施形態では、ヘプシジン状態及び/又は処置に対する応答が判定又はモニタリングされる対象からの試料採取は方法の一部ではなく、方法は対象からこれまでに採取された試料を用いて実施されるin vitroの方法とされる。
【0078】
本発明の上記態様は異なる方式で表現されうる。例えば、対象のヘプシジン状態を判定する方法、特にin vitroの方法であって、下記の工程:
a)本ヘプシジンアッセイ法又はキットを使用することにより、対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)試料中の定量されたヘプシジンレベルに基づき、前記対象のヘプシジン状態を判定する工程と
を含む、方法が本明細書に提示される。
【0079】
上記方法の一部の実施形態では、正常なヘプシジン濃度よりも高いヘプシジン量(すなわち、濃度)は、鉄欠乏症、例えば鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(IRIDA)、エリスロポエチン耐性、炎症の貧血、慢性腎疾患における貧血、又は一部のがんと関連する貧血等と関連する障害を示唆する一方、正常なヘプシジン濃度よりも低いヘプシジン量(すなわち、濃度)は、過剰の鉄負荷、例えば鉄過負荷を伴う貧血、遺伝性ヘモクロマトーシス、又は無効赤血球生成等と関連する障害を示唆する。
【0080】
上記方法の一部の実施形態では、正常なヘプシジン濃度よりも高いヘプシジン量は、炎症状態、例えばリウマチ性疾患、炎症性腸疾患、及び慢性感染症等;感染性疾患、例えば敗血症等;がん、例えば乳がん、前立腺がん、肺がん、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、結腸がん、及び腎癌等;低酸素症関連の障害、例えば肺浮腫等、並びに心血管系疾患、例えば低血圧症及びアテローム性動脈硬化症等からなる群から選択されるヘプシジン関連の障害に寄与するか又はそれを示唆する。
【0081】
上記方法の一部の実施形態では、正常なヘプシジン濃度よりも低いヘプシジン量は、肺疾患、例えば慢性閉塞性肺疾患(COPD)等を含む低酸素症関連の障害、心血管系疾患、例えば高血圧症等からなる群から選択されるヘプシジン関連の障害に寄与するか又はそれを示唆する。
【0082】
本明細書で使用される場合、用語「正常なヘプシジン濃度」とは、明らかに健康な集団から得られる参照値内のヘプシジンの分量を指す。
【0083】
注記すべきこととして、方法は治療介入とは関係せず、臨床的意思決定における支援を提供するに過ぎない。
【0084】
いくつかのその他の実施において、対象のヘプシジン状態を判定する本方法は、治療介入を更に含みうる。例えば、対象がヘプシジンレベル異常高値に罹患していることが特定された際には、治療介入には、ヘプシジン発現の阻害剤又はヘプシジンアンタゴニストの投与が含まれうる。一方、対象がプシジン欠乏症に罹患していることが特定された際には、対象には、例えばヘプシジン模倣体、ヘプシジン発現の誘導物質、又はフェロポーチン合成若しくは活性の阻害剤の投与によるヘプシジン置換が施療されうる。代替的又は付加的に、鉄欠乏症の場合、適する治療介入には鉄の経口又は静脈内投与が含まれうる。一方、鉄過負荷の場合、対象には、場合に応じて瀉血、鉄キレーション療法、又は任意のその他の適する治療介入が施療されうる。
【0085】
従って、一部の実施形態では、本発明は、それを必要としている対象において、ヘプシジン状態を判定し、及び/又はヘプシジン関連の障害を処置する方法であって、下記の工程:
a)本発明のヘプシジンアッセイ法又はキットを使用して、対象から得られた試料を分析する工程と、
b)試料中のヘプシジン濃度が異常であるか又はそうでないか判定する工程と、
c)工程b)で得られた結果に基づき対象を処置する工程と
を含む、方法を提供する。
【0086】
対象のヘプシジン状態又は疾患状態の変化をモニタリングする方法、特にin vitroの方法であって、下記の工程;
a)本ヘプシジンアッセイ法又はキットを使用することにより、2つ以上の時点において、対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)定量されたヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
c)検出された変化から、対象のヘプシジン状態又は疾患状態の変化を判定する工程と
を含む、方法も提供される。
【0087】
一部の実施形態では、ヘプシジンレベルに変化がなければ、対象の疾患状態にも変化がないことが示唆されうる。ヘプシジンレベルの増加又は異常高値と関連する疾患において、ヘプシジンレベルが更に増加すれば、疾患の進行又は増悪を示唆しうる一方、正常レベルに向かってヘプシジンレベルが低下すれば、疾患の改善又は治癒を示唆しうる。同様に、ヘプシジンレベルの低下又は異常低値と関連する疾患において、ヘプシジンレベルが更に減少すれば、疾患の進行又は増悪を示唆しうる一方、正常レベルに向かってヘプシジンレベルが増加すれば、疾患の改善又は治癒を示唆しうる。
【0088】
上記に基づき、本発明は、処置に対する対象の応答を判定する方法も提供する。この本発明の態様は、ヘプシジン関連の疾患を有する対象における治療介入の有効性を判定する方法としても表現されうる。一部の実施形態では、方法は、下記の工程;
a)本ヘプシジンアッセイ法又はキットを使用することにより、処置の前、その期間中、又はその後の2つ以上の時点において対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)定量されたヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
c)検出された変化から処置に対する対象の応答又は処置の有効性を判定する工程と
を含む。
【0089】
方法において、検出された変化(対象とされる鉄疾患に応じて増加する場合もあれば、また減少する場合もある)が、正常なヘプシジンレベルに向かう場合、処置が有効として判定されるか、又は対象は処置に対して応答性であると判定される。一方、正常なヘプシジンレベルに向かう変化が検出されない場合には、処置は無効として判定されるか、又は対象は処置に対して非応答性であると判定される。
【0090】
治療介入を伴う複数の実施形態では、上記方法は、治療介入の有効性、又はヘプシジン関連の障害を有する対象における処置に対する応答を判定する方法であって、下記の工程:
a)対象に治療介入を施療する工程と、
b)本ヘプシジンアッセイ法又はキットを使用することにより、治療介入の前、その期間中、又はその後の2つ以上の時点において対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
c)定量されたヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
d)検出された変化から、処置に対する対象の応答又は処置の有効性を判定する工程と
を含む方法として表現されうる。
【0091】
ヘプシジン測定は対象の疾患状態の蓋然性又は処置に対する応答と相関関係を有しうる情報を提供するが、前記疾患状態又は処置に対する応答は、本ヘプシジン測定に基づいて最終的に決定されるものではない可能性があると理解される。換言すれば、一部の実施形態では、方法は、それ自体、対象の疾患状態又は処置に対する応答を判定するものではなく、更なる試験が必要とされるか又はそれが有益であることを示唆しうるに過ぎない。従って、本方法は、対象の疾患状態又は治療介入に対する応答を最終的に判定するための1つ又は複数のその他の診断試験又はマーカーと組み合わせて使用されうる。
【0092】
上記開示の方法は、対応する目的のため、すなわち対象のヘプシジン状態、疾患状態、鉄の状態、及び/又は処置に対する応答を判定又はモニタリングするための本アッセイ法及びキットの使用としても表現されうる。
【0093】
それに加えて、本発明は、血圧及びそれに関連する疾患又は状態を管理するための新規処置法を提供する。ヘプシジン及びレニン-アンジオテンシンカスケード間の本明細書において発見された関連性を考慮すれば、ヘプシジン欠乏症は、少なくとも、一部の実施形態では、高血圧症に寄与する可能性がある一方、ヘプシジンレベルの異常高値は低血圧症に寄与する可能性がある。従って、一部の実施形態では、ヘプシジン治療薬、例えばヘプシジン模倣体、ヘプシジン発現の誘導物質、又はフェロポーチン合成若しくは活性の阻害剤等は、血圧異常、例えば高血圧症等、又は高血圧症を伴う疾患若しくは状態を処置するのに使用されうる。一方、ヘプシジン治療薬、例えばヘプシジン発現の阻害剤又はヘプシジンアンタゴニスト等は、いくつかのその他の実施形態では、血圧異常、例えば低血圧症等又は低血圧症を伴う疾患若しくは状態を処置するのに使用されうる。
【0094】
従って、有効量のヘプシジン治療薬を前記対象に投与することにより、それを必要としている対象において、血圧を管理する方法が本明細書に提示される。この本発明の態様は、血圧を管理するためのヘプシジン治療薬の使用としても表現されうる。
【0095】
本明細書で使用される場合、用語「血圧の管理」とは、血圧異常、又は血圧異常と関連する疾患若しくは状態を処置又は予防することを含みうるいくつかの目的のために、それを必要としている対象にヘプシジン治療薬を投与することを指す。
【0096】
本明細書で使用される場合、用語「血圧異常」とは、異常に高血圧、すなわち高血圧症、又は異常に低血圧、すなわち低血圧症を意味する。
【0097】
本明細書で使用される場合、用語「処置」又は「~を処置すること」とは、血圧異常、又は血圧異常と関連する疾患若しくは状態を改善、低減、阻害し、又は治すことを含みうるいくつかの目的のために、それを必要としている対象にヘプシジン治療薬を投与することを指す;一方用語「防止」又は「~を防止すること」とは、血圧異常、又は血圧異常と関連する疾患若しくは状態について、その発症の抑制又は遅延を引き起こすあらゆる行為を指す。
【0098】
一部の実施形態では、それを必要としている対象において、血圧異常(すなわち、場合に応じて低血圧症又は高血圧症)、又は血圧異常と関連する疾患若しくは状態を処置又は予防する方法は、有効量のヘプシジン治療薬を前記対象に投与する工程を含む。
【0099】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」とは、血圧異常、又は血圧異常と関連する疾患若しくは状態の有害効果が、最低限良化する分量を指す。
【0100】
ヘプシジン治療薬の量及びそれを投与するためのレジメンは、血圧異常及びそれと関連する疾患又は状態を処置する臨床技術における当業者により容易に決定可能である。一般的に、投与は、検討事項、例えば処置される対象の年齢、性別、及び全体的健康;同時処置法の種類(もしあれば);処置の頻度、及び所望の効果の性質;対象とされる疾患又は状態の重症度及び種類;疾患の原因物質、採用されたヘプシジン治療薬の種類、及び個々の医師により調整されるその他の変数等に応じて変化する。所望の用量が、所望の結果を取得するために1つ又は複数の適用において投与可能である。例えば、ヘプシジン治療薬は、1日1回の用量で投与されうるか、又は全日投薬量が、例えば1日2、3、若しくは4回の分割用量で投与されうる。ヘプシジン治療薬は、例えば単位投与剤形又は徐放型製剤で提供されうる。
【0101】
本明細書で使用される場合、用語「ヘプシジン治療薬」とは、ヘプシジンアゴニスト、すなわちヘプシジンのように作用するか又はヘプシジン発現若しくは活性を刺激する物質、或いはヘプシジンアンタゴニスト、すなわちヘプシジンの発現又は活性を阻害する物質である、薬学的に許容される薬剤を指す。ヘプシジンアゴニストは、ヘプシジン置換療法に使用されうる。
【0102】
ヘプシジンアゴニストとして、非限定的に、ヘプシジン模倣体、ヘプシジン発現の誘導物質、及びフェロポーチン活性の阻害剤が挙げられる。本発明に基づき、例えば高血圧症の管理、処置、若しくは防止を含む、但しこれらに限定されない、血圧異常の管理、処置、若しくは防止のために、又は高血圧を降下させるために、ヘプシジンアゴニストが採用されうる。
【0103】
ヘプシジン模倣体として、ヘプシジン誘導体、例えば合成内因性ヒトヘプシジン(例えば、La Jolla Pharmaceutical社によるLJPC-401)、及びProtagonist Therapeutics Inc.社によるPTG-300等、並びにミニヘプシジン、すなわちフェロポーチンの分解を誘発する、ヘプシジンのN末端アミノ酸セグメントに基づく短いペプチドが挙げられるが、但しこれらに限定されない。第1世代ミニヘプシジンは、C7(例えば、Hep9)において遊離したスルフヒドリル基を有する7~9個のN末端アミノ酸及びその誘導体、例えば脂肪酸(パルミトイル基)又は胆汁酸であるケノデオキシコール酸若しくはウルソデオキシコール酸(それぞれケノ基及びウルソ基)にコンジュゲートした又はしていないレトロ-インベルソ(retro-inverso)類似体等から構成される。ミニヘプシジンの更なる非限定的な例として、PR65、PR73、M004、M009、M012、及びその類似体が挙げられる。
【0104】
ヘプシジン発現の潜在的誘導物質として、組換え骨形成タンパク質6(BMP6)及び広範囲の天然又は合成小分子、例えばイプリフラボン、ボリノスタット、ジクロフェナク、イカリイン、レスベラトロール、クエルケチン(querqetin)、ケンフェロール(kaemferol)、ナリンゲニン、エピガロ(epi-galoo)-カテキン-3-ガラート、ソラフェニブ、ウォルトマンニン、ラパマイシン、メトホルミン、エピメジンC、及びアデニン等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。それに加えて、ヘプシジン発現は、ヘプシジン生成のサプレッサーである膜貫通プロテアーゼセリン-6(Tmprss6)の発現停止を引き起こす薬剤により誘発されうる。そのような薬剤の非限定的な例として、TMPRSS6-発現停止オリゴヌクレオチド、例えばIonis Pharmaceuticals Inc.社によるTmprss6-アンチセンスオリゴヌクレオチド及びAlnylam Pharmaceuticals Inc.社によるTmprss6-siRNA等が挙げられる。
【0105】
一部の実施形態では、ヘプシジン置換療法は、フェロポーチンの合成、又はその鉄排出活性を阻害することにより達成されうる。Vifor Pharma社によるVIT-2763は、フェロポーチンと結合し、そして鉄流出を阻害する小分子の非限定的な例である。
【0106】
ヘプシジンアンタゴニストとして、直接的なヘプシジン阻害剤、フェロポーチン結合性ヘプシジン阻害剤(ferroportin-binding hepcidin inhibitor)、及びヘプシジン発現の阻害剤が非限定的に挙げられる。本発明に基づき、例えば、低血圧症の管理、処置、又は防止を含む、但しこれらに限定されない、血圧異常の管理、処置、若しくは防止のために、又は低血圧、例えば敗血症により引き起こされた血圧低下を高めるために、ヘプシジンアンタゴニストが採用されうる。
【0107】
ヘプシジンの潜在的直接阻害剤として、LY2787106、アンチカリン、例えばPRS-080等、及びシュピーゲルマー(Spiegelmer)、例えばNOX-H94等が非限定的に挙げられる;一方、潜在的フェロポーチン結合性ヘプシジン阻害剤として、LY2928057、フルスルチアミン、及びキノキサリンが非限定的に挙げられる。
【0108】
ヘプシジン発現の阻害剤の非限定的な例として、ロキサデュスタット; BMP6の阻害剤及びヘモジュベリン(HVJ)、例えばLY3113593等、ヘパリン及びその誘導体、エリスロフェロン、抗体様融合タンパク質(sHJV.Fc)、及びモノクロナール抗体(ABT-207及びH5F9-AM8); BMP/SMADシグナル伝達の小分子阻害剤、例えばドルソモルフィン及びその誘導体(LDN-193189及びLDN-212854)等、ミリセチン、インダゾールに基づく阻害剤(例えば、DS28120313及びDS79182026)、TP-0184、モメロチニブ、スピロノラクトン、及びイマチニブ; IL-6受容体又はIL-6に対する中和抗体、例えばトシリズマブ、MR16-1、及びシルツキシマブ等; JAK/STAT3シグナル伝達の小分子阻害剤、例えばクルクミン、AG490、PpYLKTK、アセチルサリチル酸、マレシン1、H2P、メトホルミン、及びグアノシン5'-ジホスフェート(GDP)等;性ホルモン、例えばテストステロン及び17β-エストラジオール等;及びビタミンDが挙げられる。
【実施例
【0109】
(実施例1)
分子モデリング
ヒトアンジオテンシノーゲン(AGT)及びレニンの複合体の結晶構造を、タンパク質データバンク(Protein Data Bank)から得た(PDB ID: 613F、Yan Yら)。ヘプシジン25の結晶構造を同じ供給元から得た(PDB ID: 1M4F、Hunterら(2002)J.Biol.Chem. 277:37597~37603頁)。モデリングで使用されるヘプシジン25の構造には、4つのイオウ架橋すべてが含まれ、従ってその本質的に機能的なありのままの分子構造を有した。モデリングでは、信頼性のあることが証明されたプログラム、例えばSwiss-Model及びCABS-dock等を使用した。選択されたドッキングモデルを、CSC - IT Center for Science Ltd.社のSisu supercomputer上でNAMDを使用しながら、分子動力学シミュレーション(molecular dynamics simulation)により精緻化させた。
【0110】
ヘプシジン25及びアンジオテンシノーゲンペプチドの両方を、レニンの活性部位内に共にドッキングさせて、ヘプシジンの方向及び結合をオリジナル基質(アンジオテンシノーゲンペプチド)のそれと比較した。
【0111】
モデリングにより、ヘプシジン25がレニンの活性部位とどのように結合するか明らかにした。ヘプシジンが結合すると、イオウ架橋を含有するその安定な構造が、可撓性のN末端部分がそれ自体レニンの活性部位に配向可能なようにレニンの表面に収まる。分子モデリングにより、ヘプシジン25は、触媒性アミノ酸Asp38及びAsp226の近傍に位置するレニン活性部位内に結合してアンジオテンシノーゲンの結合を阻止できることを明らかにした。(図1図3)。
【0112】
(実施例2)
ヘプシジンペプチドの相互作用分析
ヒトヘプシジン25/LEAP-1(hep-25、Cys7-Cys23、Cys10-Cys13、Cys9-Cys19、及びCys14-Cys22間にジスルフィド結合を有し、HPLCにより純度≧98.0%と評価された)を、Peptides International(Peptides International Inc社、Louisville、KY)から購入した。ヘプシジンのN末端部分、DTHFPICIF(hep-9;配列番号6)及びDTHFP(hep-5;配列番号7)を、Proteogenix社(Schiltigheim、フランス)により合成した。レニン阻害スクリーニングキットを、Biovision(Biovision, Inc.社、サンフランシスコ、CA)から購入した。ForteBio社の96ウェルブラックプレートを測定で使用した。
【0113】
レニン酵素活性阻害を測定するために、Hep-25、hep-9、及びhep-5を、10nM、100nM、及び500nMの最終試料濃度で使用した。使用される濃度は、ヒト循環内の正常なヘプシジンレベルに該当する。蛍光測定を、Perkin Elmer UV/VIS Envisionマルチモードプレートリーダーを使用して実施した。励起波長及び発光波長は、それぞれ328nm及び552nmであった。蛍光を60秒毎に37℃で60分間記録した。レニン阻害率を製造業者の指示に従い計算した。
【0114】
レニン阻害剤としてhep-25を使用しながら、キネティックモードの蛍光測定から得られた結果を図4に示す。レニン活性に対するhep-25の平均阻害効果は濃度依存性であり、10nM、100nM、及び500nMの濃度のとき、それぞれ20.4%、29.2%、及び38.3%であった。
【0115】
それに加えて、ヘプシジンのN末端部分、すなわちhep-9及びhep-5は、レニン活性を予測通り阻害した(図5)。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2023532728000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-02-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘプシジン分析におけるレニンの使用。
【請求項2】
ヘプシジン分析が、試料中のヘプシジンの有無を判定する工程、又は試料中のヘプシジンを定量する工程を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ヘプシジン分析のためのアッセイ法であって、下記の工程:
a)ヘプシジン含有量が決定される試料の存在下又は非存在下において、アンジオテンシノーゲン(AGT)及びレニンをインキュベートする工程と、
b)試料の存在下又は非存在下において、レニンによるAGT切断を判定する工程と、
c)試料がAGT切断を阻害するか検出する工程と、
d)阻害が検出された場合には、試験試料中にヘプシジンが存在するものと結論付ける工程と
を含む、アッセイ法。
【請求項4】
工程c)が、レニンによるAGT切断が認められる場合、その阻害率を計算する工程を更に含み、及び工程d)が計算した阻害率に基づきヘプシジンを定量する工程を更に含む、請求項3に記載のアッセイ法。
【請求項5】
レニンによるAGTの切断が検出可能なシグナルを引き起こす、請求項3又は4に記載のアッセイ法。
【請求項6】
シグナル強度を既知濃度のヘプシジンの校正曲線と関連付けて、試料中のヘプシジンの存在又は数量を決定する工程を更に含む、請求項5に記載のアッセイ法。
【請求項7】
ヘプシジンがヘプシジン25である、請求項3から6のいずれか一項に記載のアッセイ法。
【請求項8】
試料が血液試料又は尿試料である、請求項3から7のいずれか一項に記載のアッセイ法。
【請求項9】
ヘプシジン分析のためのAGT及びレニンを含むキットの使用。
【請求項10】
ヘプシジン分析で使用するためのキットであって、AGT、レニン、及び配列番号1のN末端から5~25個の連続したアミノ酸を含む少なくとも1種の対照ペプチドを含む、キット。
【請求項11】
対象のヘプシジン状態、ヘプシジン関連の障害の状態、及び/又は処置に対する応答をin vitroで判定又はモニタリングするための、請求項3から8のいずれか一項に記載のアッセイ法又は請求項10に記載のキットの使用。
【請求項12】
配列番号1のN末端から11~22個又は24個の連続したアミノ酸から構成される単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチド。
【請求項13】
レニンに基づくヘプシジン分析における対照ペプチドとしての、配列番号1のN末端から5~25個の連続したアミノ酸を含む、単離及び/又は合成されたヘプシジンペプチドの使用。
【請求項14】
対象のヘプシジン状態を判定するin vitroの方法であって、下記の工程:
a)請求項3から8のいずれか一項に記載のアッセイ法、又は請求項10に記載のキットを使用することにより、対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)試料中の定量後のヘプシジンレベルに基づき、前記対象のヘプシジン状態を判定する工程であり、ヘプシジン量が正常なヘプシジン濃度よりも低ければ、好ましくは鉄の過負荷を伴う貧血、遺伝性ヘモクロマトーシス、及び無効赤血球生成から選択される鉄の過負荷を示唆する一方、ヘプシジン量が正常なヘプシジン濃度よりも高ければ、好ましくは鉄剤不応性鉄欠乏性貧血、エリスロポエチン耐性、並びに炎症、慢性腎疾患、及び一部のがんと関連する貧血から選択される鉄拘束性貧血を示唆する、工程と
を含む、方法。
【請求項15】
対象のヘプシジン状態の変化をモニタリングするin vitroの方法であって、下記の工程;
a)請求項3から8のいずれか一項に記載のアッセイ法又は請求項10に記載のキットを使用することにより、2つ以上の時点において対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)定量後のヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
c)検出された変化から、対象のヘプシジン状態の変化を判定する工程と
を含む、方法。
【請求項16】
対象の処置に対する応答を判定するin vitroの方法であって、下記の工程;
a)請求項3から8のいずれか一項に記載のアッセイ法、又は請求項10に記載のキットを使用することにより、処置の前、その期間中、又はその後の2つ以上の時点において、対象から得られた試料中のヘプシジンを定量する工程と、
b)定量後のヘプシジンレベルに変化があればそれを検出する工程と、
c)検出された変化から、対象の処置に対する応答、又は処置の有効性を判定する工程と
を含む、方法。
【国際調査報告】