(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】芳香族ポリオールで安定化されたレゾール樹脂
(51)【国際特許分類】
C08L 61/34 20060101AFI20230724BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C08L61/34
C08K5/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581616
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 FR2021051191
(87)【国際公開番号】W WO2022003289
(87)【国際公開日】2022-01-06
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502425053
【氏名又は名称】サン-ゴバン イゾベール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】オレリー ルグラン
(72)【発明者】
【氏名】エドワール オベール
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CC281
4J002EJ016
4J002EJ066
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA04
(57)【要約】
【課題】安定化されたレゾール樹脂の提供。
【解決手段】本発明は、水、水溶性のアミノフェノール樹脂、及び水溶性のアミノフェノール樹脂の可溶化剤としての水溶性の芳香族ポリオールを含む、安定化されたレゾール樹脂に関する。本発明はさらに、係る安定化されたレゾール樹脂、及び添加剤を含有する希釈された水性のバインダー組成物、並びに係る水性のバインダー組成物を用いる、繊維遮断製品の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 水、
- 水溶性のアミノフェノール樹脂、及び
- 前記水溶性のアミノフェノール樹脂の可溶化剤としての水溶性の芳香族ポリオール
を含む、安定化されたレゾール樹脂。
【請求項2】
- 75~99質量%、好ましくは80~97質量%、特に、85~95質量%の水溶性のアミノフェノール樹脂、
- 1~25質量%、好ましくは3~20質量%、特に、5~15質量%の水溶性の芳香族ポリオール
を含有し、
これらの割合は、前記安定化されたレゾール樹脂の全乾燥質量に対するものである、請求項1に記載の安定化されたレゾール樹脂。
【請求項3】
前記水溶性の芳香族ポリオールが、単環式又は二環式、好ましくは単環式の芳香環であって前記芳香環に直接位置する少なくとも2つのヒドロキシル官能基を有する芳香環を含む化合物である、請求項1又は2に記載の安定化されたレゾール樹脂。
【請求項4】
前記水溶性の芳香族ポリオールが、レゾルシノール、フロログルシノール、ピロカテコール、没食子酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、2-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド、4-メトキシベンゼン-1,2-ジオール、4-メトキシベンゼン-1,3-ジオール、及びこれらの化合物の混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の安定化されたレゾール樹脂。
【請求項5】
前記水溶性の芳香族ポリオールが、レゾルシノール及びフロログルシノールからなる群から選択される、請求項4に記載の安定化されたレゾール樹脂。
【請求項6】
前記安定化されたレゾール樹脂の全乾燥質量に対して、0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、特に、1~5質量%の尿素をさらに含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の安定化されたレゾール樹脂。
【請求項7】
尿素を含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の安定化されたレゾール樹脂。
【請求項8】
前記水溶性のアミノフェノール樹脂が、実質的に、フェノール-ホルムアルデヒド縮合体及びフェノール-ホルムアルデヒド-アミン縮合体からなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の安定化されたレゾール樹脂。
【請求項9】
1.0~6.5、好ましくは1.5~5.5、より優先的には1.6~5.0のpHを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の安定化されたレゾール樹脂。
【請求項10】
水と、請求項1~9のいずれか一項に記載の安定化されたレゾール樹脂と、カップリング剤、ダスティング防止油又はエマルジョン、疎水剤、及び硬化反応促進剤から選択される1種又は複数種の添加剤とを含む、水性のバインダー組成物。
【請求項11】
75~98質量%の水を含有する、請求項10に記載の水性のバインダー組成物。
【請求項12】
尿素を含まない、請求項10又は11に記載の水性のバインダー組成物。
【請求項13】
- 請求項10~12のいずれか一項に記載の水性のバインダー組成物を鉱物繊維又は有機繊維に、好ましくは鉱物繊維に適用すること、及び
- 前記水性のバインダー組成物の揮発性相を蒸発させ、かつ、不揮発性残留物の熱硬化をもたらすように、前記水性のバインダー組成物で結合された前記繊維を加熱すること、又は貯蔵及び/若しくは輸送の目的で、未硬化の前記水性のバインダー組成物で結合された前記鉱物繊維又は前記有機繊維をパッケージすること
を含む、鉱物繊維又は有機繊維に基づいた遮断製品の製造方法。
【請求項14】
前記鉱物繊維が、ミネラルウール繊維、特に、ガラスウール繊維又はロックウール繊維から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の方法によって得られる鉱物繊維又は有機繊維に基づいた遮断製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性の芳香族ポリオールから選択される可溶化剤によって安定化されたアミノレゾール樹脂、この樹脂から調製される水性のバインダー組成物、この水性のバインダー組成物を用いる、繊維、特にミネラルウールをベースとした遮断製品の製造方法、及びこの製造方法によって得られる熱遮断及び/又は音遮断の製品に関する。樹脂の可溶化剤又は共溶媒としての水溶性のポリヒドロキシル化芳香族化合物の使用により、このタイプの樹脂において一般的に用いられる尿素を部分的に又は完全に置き換えることが可能となる。
【背景技術】
【0002】
ミネラルウールをベースとした遮断製品の製造は、通常、遠心方法(繊維化)によってガラス繊維又は岩石繊維を製造するステップを含む。遠心デバイスと繊維収集ベルトとの間の経路上で、サイジング組成物とも呼ばれる水性のバインダー組成物は、まだ熱い繊維の上にスプレーされ、そのバインダーは次に約200℃の温度で熱硬化反応を受ける。
【0003】
水性のバインダー組成物は、濃縮熱硬化性樹脂を水で希釈し、かつ一般的に使用される様々な添加剤(カップリング剤、ダスティング防止剤、疎水剤、触媒)を加えることにより、用いられる直前に調製される。
【0004】
濃縮熱硬化性樹脂は貯蔵安定性である必要がある、すなわち、それらは沈殿してはならないし、サイジング組成物を調製する際に水で希釈されるそれらの能力をできるだけ長く保持しなければならない。熱硬化性樹脂は、一般的に、12~18℃の温度における少なくとも14日の保存期間の後に、それが依然として沈殿物のない溶液の状態であり、少なくとも1000%の希釈性(1体積の樹脂に9体積の水を加えた場合に恒久的な曇りのない透明な溶液を与える)を保持する場合に安定であると考えられる。
【0005】
さらに、規制上の観点から、樹脂は無公害性であるとみなされる必要があり、すなわち、樹脂は、人間の健康又は環境に有害である可能性のある化合物をできる限り最小の量で含むのがよく、樹脂の使用中にそのような化合物をできる限り最小量で生じさせるのがよい。
【0006】
最も一般的に用いられる熱硬化性樹脂は、レゾール種類のフェノール樹脂である。フェノール-ホルムアルデヒド樹脂の技術分野において、主に2つのファミリーが区別される、すなわち、
- 酸性媒体中で調製されるノボラック樹脂、及び
- 塩基性触媒によって得られるレゾール。
【0007】
本発明のフェノール樹脂は、この第二のファミリーに属する。
【0008】
レゾール樹脂は、塩基性媒体中でのフェノールと過剰のホルムアルデヒドとの反応によって得られ、ホルムアルデヒド/フェノールのモル比は、典型的には2~4であり、フェノールの各分子は、潜在的には、ホルムアルデヒドの3つの分子と反応することができる。
【0009】
このようにして得られたレゾール樹脂は、芳香環が有する多数のメチロール官能基を含有し、これらは、脱水/ホルモール放出によって架橋するための場所を構成する。これらの樹脂は、実質的に、フェノール/ホルムアルデヒド(PF)縮合体、残留フェノール、及び残留ホルムアルデヒドからなる。それらは酸性媒体中で反応する、すなわち、それらは周囲温度で非常に急速に重合し、沈殿する。
【0010】
残留ホルムアルデヒドの量を減らし、かつ、樹脂の貯蔵安定性を改善するために、まず、触媒の中和の後に、遊離した残留ホルムアルデヒドと反応する十分な量の尿素を樹脂に添加し、尿素-ホルムアルデヒド(UF)縮合体を形成することが提案された。したがって、そのような樹脂は、フェノール-ホルムアルデヒド(PF)及び尿素-ホルムアルデヒド(PF)縮合体を含有する。それにもかかわらず、これらの樹脂は、尿素-ホルムアルデヒド縮合体の熱分解によって、架橋ステップの際にホルムアルデヒドを放出することが見出された。ホルムアルデヒドは、最終製品からも、熱及び/又は音の遮断材としてのその使用中に放出された。そのような尿素処理されたレゾール及びその調製は、国際出願WO01/96254に詳細に記載されている。
【0011】
数年前に、本出願人は、貯蔵安定性であり、尿素-ホルムアルデヒド(UF)樹脂を実質的に含まない改善されたレゾール樹脂(これ以降、「アミノ樹脂」又は「アミノフェノール樹脂」と同等に呼ぶ)を提案した。
【0012】
これらのアミノフェノール樹脂は水溶性樹脂であり、酸性のpHにおいて、1~2の非常に酸性のpHにおいてさえも安定である。この良好な安定性は、追加の反応ステップによって得られ、このステップは、フェノール/ホルムアルデヒド縮合体、フェノール、及びホルムアルデヒドから実質的になるレゾールを、アミン、好ましくはモノアルカノールアミン、特にモノエタノールアミンと反応させることで構成される。
【0013】
このアルカノールアミンは、マンニッヒ反応に従って、フェノール/ホルムアルデヒド(PF)縮合体と反応し、残留しているフェノール及びホルムアルデヒドと反応して、フェノール/ホルムアルデヒド/アミン(PFA)縮合体を形成する。反応の終わりに、反応混合物は、周囲温度で重合を引き起こすことなく酸性化されることができる。したがって、これらのアミノレゾールは、酸性媒体中で安定であると考えられる。その合成は、本出願人によるWO2008/043960及びWO2008/043961に記載されている。それらは、尿素-ホルムアルデヒド縮合体を含まないことによりさらに区別される。上に説明されるように、これらの望ましくないUF縮合体は、先行技術の多数のフェノール樹脂中に大量に存在し、熱的安定性が不十分であり、熱分解によってホルムアルデヒドを放出する。
【0014】
既知の方法において、モノアルカノールアミンとの反応、反応混合物の冷却、及び酸性化の後に、アミノフェノール樹脂に、最大25質量%、好ましくは10質量%~20質量%の尿素を添加することが可能であり、これらの量は、アミノレゾールの全乾燥質量に対して表されている。この場合、尿素は主として共溶媒又は可溶化剤として働き、サイジング組成物及び得られる製品のコストをさらに下げることを可能にする。尿素はさらに、合成の終わりに依然として存在する場合があるホルムアルデヒドの痕跡量(0.2%未満)を除去する。
【0015】
したがって、アミノフェノール樹脂は、尿素(可溶化剤)によって安定化された水溶液中で、本出願人によって10年超の期間、鉱物繊維に基づいた遮断製品の製造のために用いられており、それは、製造中、及び使用中に非常に低い量のホルムアルデヒドを放出する。
【0016】
これらの樹脂のただ一つの欠点は、尿素の熱分解の生成物であるアンモニア(NH3)が、製造現場での熱硬化ステップ中、及びさらに、より少ない程度で、使用中に形成されるという事実にある。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、尿素とは異なる可溶化剤又は共溶媒を提案することであった。それは:
- アミノフェノール-ホルムアルデヒド樹脂の水溶液を少なくとも尿素と同じくらい効率的に安定化する(結晶がなく、少なくとも14日間にわたって1000%より大きい希釈性)ことができ、
- レゾール樹脂を硬化させるための温度、典型的には180~230℃にさらされた場合、アンモニア又は任意の他の有害物質を放出せず、
- 好ましくは、発癌性、変異原性、及び生殖毒性(CMR)の化学物質に分類されない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本出願人は、多数の有機化合物、特に、アミノ酸、(ポリ)アルデヒド、芳香族及び非芳香族ポリオール、並びに炭化水素を試験したが、水溶性の芳香族ポリオールだけが、少なくとも14日間にわたって濃縮水溶液中でアミノフェノール樹脂を安定化するのに十分に効果的であると証明された。
【0019】
本発明者らは、幾つかのポリヒドロキシル化芳香族化合物が尿素より効果的な安定化剤であり、その使用量を減らし、尿素のコストと比較してより高いこれらの化合物のコストを少なくとも部分的に補うことを可能にすることを観察した。
【0020】
したがって、本発明の主題は、以下を含む安定化されたレゾール樹脂である
(a)水、
(b)水溶性のアミノフェノール樹脂、好ましくは、実質的にフェノール-ホルムアルデヒド(PF)縮合体及びフェノール-ホルムアルデヒド-アミン(PFA)縮合体からなる水溶性のアミノフェノール樹脂、並びに
(c)水溶性のアミノフェノール樹脂の可溶化剤としての水溶性の芳香族ポリオール。
【0021】
本発明の別の主題は、希釈及び一般的な添加剤の添加によって、安定化されたレゾール樹脂から調製される水性のバインダー組成物である。したがって、この水性のバインダー組成物は、水(希釈用)と、上で定義された安定化されたレゾール樹脂と、カップリング剤、ダスティング防止油又はエマルジョン、疎水剤、及び硬化反応促進剤から選択される1種又はそれより多くの添加剤とを含む。
【0022】
最後に、本発明の主題は、水性のバインダー組成物を用いる、有機繊維又は鉱物繊維に基づいた遮断製品の製造方法、及びさらにこの方法によって得られる遮断製品であり、この有機繊維又は鉱物繊維は、水性のバインダー組成物の成分の硬化により得られる不溶性で不融性のバインダーによって、一緒に結合されている。
【0023】
本発明の説明の全体にわたって、次のものを区別することが必要である:
- アミノフェノール樹脂、これは、塩基性媒体中でのフェノール、ホルムアルデヒド及びアミンの縮合によって得られ、尿素ホルムアルデヒド(UF)縮合体を含まない、
- 安定化されたレゾール樹脂、これは、アミノフェノール樹脂、水、及び可溶化剤を含有する、並びに
- 安定化されたレゾール樹脂を希釈し、かつカップリング剤、ダスティング防止剤、疎水剤、及び触媒又は促進剤などの既知の添加剤を添加することにより調製されるバインダー組成物。
【0024】
したがって、安定化されたレゾール樹脂は、合成から得られる濃縮樹脂であり、それは、貯蔵され、輸送され、販売され、製造方法の実施直前に水性のバインダー組成物の調製のための熱硬化性成分として用いられる。
【0025】
それは、有利には、
- 75~99質量%、好ましくは80~97質量%、特に、85~95質量%の水溶性のアミノフェノール樹脂、及び
- 1~25質量%、好ましくは3~20質量%、特に、5~15質量%の水溶性の芳香族ポリオール
を含有する。
【0026】
これらの割合は、安定化されたレゾール樹脂の全乾燥質量に対するものである。
【0027】
その水含有量は、通常30~60質量%、好ましくは35~55質量%、特に、40~50質量%である。
【0028】
可溶化剤を説明するために用いられる表現「水溶性の芳香族ポリオール」は、単独で用いられる純粋な化合物、及び2種又はそれより多くの水溶性の芳香族ポリオールの混合物の両方を包含する。
【0029】
樹脂は、酸、例えばスルファミン酸による触媒(NaOH又はKOHなどの強塩基)の中和に由来する少量の塩を樹脂の合成の終わりにさらに含有する。
【0030】
本発明において、レゾール樹脂に関する形容詞「安定化された」は、樹脂が、12~18℃の温度における少なくとも14日間の貯蔵の間に沈殿がない透明な溶液の形態のままであり、かつ、この期間中、それが、少なくとも1000%の水中での希釈性を保持することを意味する。
【0031】
これまで用いられてきた尿素を少なくとも部分的に置き換えるために本発明において用いられる可溶化剤は、水溶性の芳香族ポリオールから選択され、これは、好ましくは、発癌性、変異原性及び生殖毒性(CMR)の化学物質ではない。CMR化合物のリストは、EC規則No1272/2008の付録VIに記載されるものである。
【0032】
本件において、水溶性の芳香族ポリオールは、20℃の水中で20g/lを超える、好ましくは50g/lを超える溶解性を有するものと考えられている。
【0033】
芳香族性は、本発明において用いられる可溶化剤の重要な側面である。実際に、本出願人は、実際に水溶性でCMRに分類されない幾つかの非芳香族ポリヒドロキシル化化合物、たとえばグリセロール、炭水化物及び水素化糖(アルジトール)を試験したが、それらは、フェノール樹脂の安定化、すなわち、12~18℃の温度での少なくとも14日間の貯蔵の間における樹脂の希釈性の保持、及び低温(3℃)における貯蔵の場合のその結晶化の防止において、効果がない。ポリオールの芳香族性は、それ自体が芳香族であるフェノール樹脂へのそれらの親和性を増加させ、したがって水への前記フェノール樹脂の溶解性を増加させるだろう。
【0034】
本発明において用いられる可溶化剤は、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む。ヒドロキシル基は、芳香環に好ましくは直接位置する。可溶化剤は、単環式の芳香環(ベンゼン)又は多環式の芳香環(ナフタレン、アントラセン)を含むことができる。それは、有利には、単環式又は二環式、好ましくは単環式であり、少なくとも2つ、好ましくは2つ又は3つの、芳香環に直接位置するヒドロキシル官能基を有する。
【0035】
本発明において可溶化剤として用いることができるポリヒドロキシル化芳香族化合物の例として言及されるのは、レゾルシノール、フロログルシノール及びピロカテコールなどの非置換ポリフェノール、アルデヒド、カルボン酸、アルキル、及びエーテル置換基を有する置換ポリフェノール、たとえば、没食子酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、2-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド、4-メトキシベンゼン-1,2-ジオール、4-メトキシベンゼン-1,3-ジオール、及びこれらの混合物であってよい。
【0036】
これらの化合物の中で、特に好ましいのは、レゾルシノール及びフロログルシノールである。実際に、これらの化合物は、アミノフェノール樹脂を水に可溶化すること、及び合成の終わりにアミノフェノール樹脂中に存在する場合がある、遊離ホルムアルデヒドの痕跡量(0.2%未満)を除去することの両方ができる。実際に、知られているように、レゾルシノール及びフロログルシノールは、ホルムアルデヒドと反応し、1つ又は複数のメチロール官能基を有する芳香族化合物を形成することができ、これらは、フェノール樹脂のPF及びPFAの縮合体と反応することができる。
【0037】
用いられる1種又は複数種の水溶性の芳香族ポリオールがホルムアルデヒドと反応することができる場合、レゾール樹脂への尿素の添加は、原則として不用であり、本発明の安定化されたレゾール樹脂は、したがって好ましくは尿素を含まない。実際に、尿素が完全にないことは、バインダーの熱硬化のステップ中、及び製造された遮断製品の使用中の、アンモニア(NH3)の排出がないことを保証する。
【0038】
レゾルシノールとは異なり、ホルムアルデヒドの痕跡量を除去することができない可溶化剤が利用される場合、安定化するレゾール樹脂に少量の尿素を添加することが有用である場合がある。この添加は、ポリヒドロキシル化芳香族可溶化剤の添加の前又は後に実施してよいが、実質的にPF及びPFA縮合体からなるアミノフェノール樹脂の合成の完了後、すなわち、反応溶液が冷却され、中和された後に実施する必要がある。実際に、樹脂の合成中の尿素-ホルムアルデヒド濃縮物の形成を防止することが必要である。
【0039】
本発明により、尿素を完全に省くことは技術的に可能であるが、レゾール樹脂への後者の添加は、多くの場合経済観点から有益なままである。
【0040】
尿素及び水溶性の芳香族ポリオールの両方を可溶化剤として利用する場合、樹脂は、有利には、安定化されたレゾール樹脂の全乾燥質量(アミノフェノール樹脂+芳香族ポリオール+尿素)に対して、15質量%未満、例えば0.1~15質量%、好ましくは10質量%未満、例えば0.5~10質量%、特に、5質量%未満、例えば1~5質量%の尿素を含有する。
【0041】
したがって、尿素/芳香族ポリオールの質量比は、通常1/4~3/1、好ましくは1/3~2/1、特に、1/2~1である。
【0042】
本発明において用いられるフェノール樹脂は、塩基性の(プロトン化可能な)アミン官能基を含有し、酸性媒体中で安定である。
【0043】
アミン官能基を含有するこれらのフェノール樹脂は知られており、その調製は、本出願人によってWO2008/043960及びWO2008/043961に詳細に記載されている。それらは、実質的にフェノール/ホルムアルデヒド(PF)縮合体及びフェノール/ホルムアルデヒド/アミン(PFA)縮合体からなり、特に、尿素-ホルムアルデヒド(UF)縮合体がないことによって区別される。冒頭で説明したように、これらの尿素-ホルムアルデヒド縮合体は、先行技術の多数の他のフェノール樹脂中に大量に存在し、熱的安定性が不十分であり、熱分解によってホルムアルデヒド及びアンモニアを放出する。
【0044】
本発明の安定化されたレゾール樹脂は、有利には1.0~6.5、好ましくは1.5~5.5、より優先的には1.6~5.0のpHを有する。
【0045】
安定化されたレゾール樹脂を水で希釈することにより調製される水性のバインダー組成物は、通常、レゾール樹脂より酸性でないpH、典型的には3~7、特に、3.5~6.5のpHを有し、これは、遮断製品を製造するための施設の腐食を防止するのに有利である。安定化剤レゾール樹脂からバインダー組成物を調製するために用いられる希釈水は、部分的に、遮断製品を製造するための施設からのリサイクル洗浄水由来であってよい。
【0046】
したがって、本件のバインダー組成物は、水と、安定化されたレゾール樹脂と、ミネラルウールに基づいた遮断製品の分野において一般的に用いられる1種又はそれより多くの添加剤とを含有する。
【0047】
これらの添加剤は、とりわけ、カップリング剤、特に、アミノシラン又はエポキシシランなどの官能性シラン、ダスティング防止油又はエマルジョン、特に鉱油、反応性又は非反応性のポリオルガノシロキサン(シリコーン)などの疎水剤、及び硬化反応の促進剤から選択される。
【0048】
繊維への適用の時点で、バインダー組成物は、好ましくは2~25質量%、好ましくは3~15質量%の固形分含有量を有する。したがって、それは、75~98質量%、特に、85~97質量%の水を含有する。
【0049】
好ましい実施態様において、水性のバインダー組成物は尿素を含まない。
【0050】
バインダー組成物は、熱硬化後に得られる最終生産物中の不溶性で不融性のバインダーの含有量が、2質量%~20質量%、好ましくは3質量%~15質量%、特に、4~12質量%になるような量で、適用される。
【0051】
本発明の別の主題は、鉱物繊維又は有機繊維に基づいた遮断製品の製造方法である。この方法は以下の逐次的なステップを含む:
- 本発明に係る水性のバインダー組成物を鉱物繊維又は有機繊維に、好ましくは鉱物繊維に適用すること、及び
- 水性のバインダー組成物の揮発性相を蒸発させ、かつ、不揮発性残留物の熱硬化をもたらすように、水性のバインダー組成物で結合された繊維を加熱すること、又は貯蔵及び/若しくは輸送の目的で、未硬化の水性のバインダー組成物で結合された鉱物繊維又は有機繊維をパッケージすること。
【0052】
鉱物繊維は、有利には、ミネラルウール繊維、特に、ガラスウール又はロックウールから選択される。
【0053】
遮断製品がミネラルウールに基づいた製品である場合、バインダー組成物は、遠心デバイスの出口で鉱物繊維上へスプレーすることによって投射され(繊維化)、その後、鉱物繊維が受け入れ部材に繊維の層の形態で収集され(成形)、次いで、反応性成分の架橋及び不融性バインダーの形成を可能にする温度でオーブンにおいて処理される(硬化)。この架橋/熱硬化のステップは、180℃以上、好ましくは190℃~220℃の温度に20秒~300秒間、好ましくは30~250秒間加熱することにより実施される。
【0054】
遮断製品が、植物起源の繊維(例えばセルロース繊維)、又はウールなどの動物起源の繊維などの有機繊維に基づいた製品である場合、硬化温度は、有機繊維を潜在的な熱分解から守るために、鉱物繊維に基づいた製品の硬化のために用いられるものより通常低い。硬化温度は、例えば150~200℃である。硬化時間は、通常数分~数十分、例えば5~50分、好ましくは10~30分である。
【0055】
本発明の方法において、鉱物繊維又は有機繊維の硬化は、バインダー組成物を繊維に適用し、結合された繊維をコンベヤベルト上で収集した直後に、例えば、所望の硬化温度で温度制御されたオーブンに通すことによって実施することができる。
【0056】
本件の方法はさらに、結合された繊維のマットの製造のステップとは分かれている硬化ステップを視野に入れ、結合された繊維のマットが直ちに硬化されるのではなくパッケージされる実施態様、例えば、部分的に乾燥され、切断され、圧縮され、成形され、包装される実施態様を包含する。
【0057】
パッケージング材は、後に、又は別の場所で実施される、例えば型内で任意選択的に中間製品を成形した後に、バインダーを熱硬化することを含む追加のステップを視野に入れて、これらの中間製品(未硬化のバインダーで結合された繊維)を貯蔵すること、及び/又は輸送することを可能にするように選択される必要がある。
【0058】
パッケージング材は、好ましくはプラスチックフィルムである。
【実施例】
【0059】
例
安定化されていないレゾール樹脂の合成
380gのフェノール(4mol)、ホルムアルデヒド源として用いられる313gのパラホルムアルデヒド(10mol)、及び367gの水(パラホルムアルデヒド/フェノールのモル比は2.5に等しい)を、塔頂にコンデンサを有し、撹拌システムを備える2リットルの反応器に導入し、この混合物を撹拌しながら45℃に加熱する。
【0060】
53.2gの50%水酸化ナトリウム溶液(フェノールに対して7質量%)を、次いで30分間にわたって規則的に加え、次いで、温度を30分で70℃まで徐々に上げ、80分間維持する。
【0061】
次いで、温度を30分間にわたって60℃まで徐々に下げつつ、同時に、71.5gのモノエタノールアミン(1.17mol)を反応混合物に規則的に加える。温度を15分間60℃で維持し、この混合物を30分で約35℃まで冷却し、スルファミン酸をpHが5.0に等しくなるまで60分で加える。次いで、15%のスルファミン酸溶液を用いて、pHを4.5まで下げる。必要に応じて、液状樹脂中の固形分の質量含有量を水により58%に調節する。
【0062】
得られた樹脂は、透明な水性組成物の外観を有する:それは、0.1%に等しい遊離ホルムアルデヒド含有量、0.5%に等しい遊離フェノール含有量(これらの含有量は、液体の全質量に対して表される)、及び2000%より大きい希釈性を有する。それは安定化されていないレゾール樹脂と呼ばれる。
【0063】
安定化されたレゾール樹脂の調製
安定化されていないレゾール樹脂を複数のバッチに分割し、各バッチに、試験する安定化剤を、十分な溶解性を有するものについては樹脂の乾燥質量80部当たり20部に等しい量で加え、不十分な溶解性を有するものについては安定化されていないレゾール樹脂の乾燥質量80部当たり10質量部に等しい量で加える(表1を参照)。安定性を評価する、いわゆる「安定化された」レゾール樹脂が得られるように、完全な溶解が達成されるまで、撹拌を周囲温度で実施する。
【0064】
さらに、同じ条件の下で、80部の安定化されていないレゾール樹脂に対して、それぞれ5部のレゾルシノール及び5部のフロログルシノールを加えることによって、安定化されたレゾール樹脂の2つのバッチを調製する。
【0065】
希釈性
種々のレゾール樹脂の経時希釈性を評価する、前記樹脂は、以下の方法で調製される:10mlの樹脂を250mlのエルレンマイヤーフラスコに注ぐ。10mlの水を加え、混合物を撹拌し、曇りが現われるかどうかを確認する。溶液が透明なままである場合、さらに10mlの水を加え、溶液の透明性を再び評価する。このサイクルを、恒久的な曇りが現れるまで(希釈性=(加えた数+1)×100)、または10mlの水を、曇りが現れることなく19回加えるまで繰り返す。後者の場合において、樹脂は、2000%の希釈性を有し、それは無限に希釈することができると考えられる。
【0066】
結晶化安定性
レゾール樹脂の結晶化安定性を評価するために、20mlの樹脂をガラス製タブレットオーガナイザーへ注ぎ、結晶の出現又は不在を一定間隔で検査しながらそれらを3℃で貯蔵する。結晶化安定性は、タブレットオーガナイザーの底での白色結晶が出現しない、3℃での貯蔵の日数として定義される。
【0067】
遊離ホルムアルデヒド含有量
さらに、レゾール樹脂の遊離ホルムアルデヒド含有量が、安定化剤が残留ホルモールと反応する能力(ホルムアルデヒド除去機能)を確認するために評価される。
【0068】
この目的のために、約1gのレゾール樹脂を100mlのメスフラスコに取り、サンプリングされたその質量mを正確に記録する。蒸留水を目盛りまで加える。ホルモール含有量は、製造業者の指示書に従って、LCK 325ホルモール定量化キットを備えるLANGE DR6000色彩計を用いて決定される。
【0069】
その測定は、調製用フラスコに採取された1mlのサンプルで行われる。色彩計によって得られる結果Aは、mg/lにおいて与えられる。遊離ホルムアルデヒド含有量は、以下のように計算される:
%遊離ホルムアルデヒド=(A×0.1)/m×100
【0070】
遊離ホルムアルデヒド含有量は、±0.01%まで表された、サンプルの%で与えられる。0.01%未満の任意の結果は、<0.01%と示される。
【0071】
アンモニア排出
最後に、種々のレゾール樹脂を硬化する際のアンモニア排出は、実験室で汚染シミュレーションを実施することによって評価される。1gの固形分に相当するレゾール樹脂溶液を、30%の固形分含有量を与えるように前もって希釈し、1lの平底のガラスフラスコへ導入する。ディッパーの入口をこの平底フラスコに接続し、1l/minの空気流量でサンプルの表面をスイープする。アセンブリを215℃に予熱した換気オーブンに入れる。ディッパーの出口を、オーブンの外側に直列に配置した、各々100mlの0.02N硫酸溶液を含有する3つのバブラーに接続する。1時間硬化させた後に、バブラーの内容物が、除去されたアンモニアの量を定量化するためにイオンクロマトグラフィーによって分析される。
【0072】
測定結果は、安定化剤として試験されたすべての物質について、以下の表1で照合され、これらは、尿素を置き換えるための潜在的な候補である可能性がある。
【表1】
【0073】
評価したすべての有機化合物のうち、レゾルシノール及びフロログルシノールだけが、尿素と少なくとも等しいか、それより大きいレゾール樹脂を安定化する力を有する:実際に、同等又はそれ以上の期間にわたって、1000%より大きい希釈性及び結晶化安定性が観察される。
【0074】
レゾルシノール及びフロログルシノールは、尿素と同様に、安定化されていないレゾール樹脂に含有される遊離ホルムアルデヒドと反応することもできる。レゾルシノール及びフロログルシノールを尿素と比較する場合、アンモニア排出が大幅に低減されることが観察される(310mg/m3から20mg/m3未満)。
【国際調査報告】