(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ部分用高剛性ゴムコンパウンド
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20230724BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230724BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230724BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20230724BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230724BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230724BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/013
C08K3/36
C08L97/00
C08L91/00
B60C1/00 Z
C08J3/20 B CEQ
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023500315
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(85)【翻訳文提出日】2023-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2021068524
(87)【国際公開番号】W WO2022008452
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102020000016285
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャンパオロ キエフィ
【テーマコード(参考)】
3D131
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA04
3D131AA06
3D131AA11
3D131AA19
3D131BA18
4F070AA06
4F070AA08
4F070AC23
4F070AC94
4F070AC96
4F070AE01
4F070FB06
4F070FC03
4J002AC001
4J002AC021
4J002AC081
4J002AE002
4J002AH003
4J002DA047
4J002DE106
4J002DJ016
4J002FD016
4J002FD147
(57)【要約】
架橋性不飽和鎖ポリマーベース、シリカ、プロセスオイルおよび加硫剤を含む、空気入りタイヤ部分用のゴムコンパウンドであって、補強充填剤はシリカを含む、ゴムコンパウンドである。補強充填剤とプロセスオイルとの間のphr比は3以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性不飽和鎖ポリマーベース、補強充填剤、プロセスオイルおよび加硫剤を含む、空気入りタイヤ部分用のゴムコンパウンドであって、前記補強充填剤はシリカを含み、前記コンパウンドがクラフトリグニンを2~30phrの量で含み、前記補強充填剤と前記プロセスオイルとの間のphr比が3以上であることを特徴とする、ゴムコンパウンド。
【請求項2】
請求項1に記載のゴムコンパウンドにおいて、前記補強充填剤はシリカを含むことを特徴とする、ゴムコンパウンド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴムコンパウンドにおいて、クラフトリグニンを5~20phrの量で含むことを特徴とする、ゴムコンパウンド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のゴムコンパウンドにおいて、前記補強充填剤と前記プロセスオイルとの間のphr比は、10以上であることを特徴とする、ゴムコンパウンド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のゴムコンパウンドにおいて、前記リグニンは、前記補強充填剤と一緒に、第1の混合ステップ中に該コンパウンドに添加されることを特徴とする、ゴムコンパウンド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のゴムコンパウンドを使用して製造される空気入りタイヤ部分。
【請求項7】
請求項6に記載の空気入りタイヤ部分において、トレッドアンダーレイヤー、トレッドベース、ビードフィラー、耐摩耗性ゴムストリップまたはサイドウォールから構成される群の中の構造成分であることを特徴とする、空気入りタイヤ部分。
【請求項8】
請求項6または7に記載の部分を含む空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの部分用の高剛性ゴムコンパウンドに関する。
【0002】
特に、本発明は、トレッドアンダーレイヤー、トレッドベース、ビードフィラー、耐摩耗性ゴムストリップ、ランフラットインサートまたはサイドウォールなどの空気入りタイヤの構造成分用のコンパウンドに関する。
【背景技術】
【0003】
知られているように、空気入りタイヤ業界では、より低いヒステリシスを示し、したがってより低い転がり抵抗を示すことができる空気入りタイヤの構成要素を製造するような組成のコンパウンドを提供する必要性が強い。これに関して、当業者は、例えば官能性ポリマーまたは官能性シリカの使用など、コンパウンド内の充填剤のより大きな分散に有利となる解決策を実施している。
【0004】
このような解決策は、求められている低レベルのヒステリシスを保証できるという事実にもかかわらず、剛性に関してコンパウンドを悪化させるという欠点がある。
【0005】
当業者に知られているように、剛性の低いコンパウンドは、ハンドリングに関して必然的に性能が低いことを意味する。
【0006】
コンパウンドの剛性を高めるための解決策は、通常、コンパウンドの粘度を高めることであり、加工の容易さという点における問題が関連する。
【0007】
例えば、本業界で知られているように、コンパウンドへのシリカの添加は、剛性の増加を引き起こす一方で、粘度も増加させる。
【0008】
したがって、コンパウンドの粘度を増加させることなく、コンパウンドの剛性を増加させることができる解決策を見つける必要性が感じられた。
【0009】
以前より、空気入りタイヤ業界ではリグニンの使用が知られていた。リグニンは、木材および植物の木化要素を構成する細胞および繊維を結合する有機物質である。リグニンは、セルロースに次いで地球上で最も豊富な再生可能な炭素源である。
【0010】
リグニンの正確な構造を化学分子として定義することはできないが、次の3つ、p‐クマリルアルコール、コニフェリルアルコール(4‐ヒドロキシ‐3‐メトキシシンナミルアルコール)、シナピルアルコール(4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジメトキシシンナミルアルコール)のフェニルプロパン単位を含むポリマーとしてリグニンを同定することは可能である。市販されているさまざまなタイプのリグニンがあり、また、リグニンは、使用されたさまざまな原材料から得られたさまざまな抽出プロセスの機能としてリグニン間で異なる。クラフトプロセスおよびスルホン化プロセスは、リグニン抽出に特化した2つのプロセスの例である。
【0011】
特に、クラフトリグニンは、木材からセルロースを化学的に抽出するために利用されるクラフトプロセスの副産物である。これは、クラフトプロセスからの廃液のpHを下げることによる沈殿によって得られる。フェノール、アルコール、およびカルボキシルヒドロキシル(carboxyl hydroxyls)は、クラフトリグニン内の主な同定可能な官能基であり、チオール基はそれより少ない程度で存在する。
【0012】
対照的に、スルホン化プロセスは、ヒドロキシル基の存在および高濃度のスルホン酸基によって特徴付けられるリグニンが得られることにつながる。
【0013】
当業者にはすぐに理解されるように、リグニンの使用は持続可能性の点で大きな利点を示す。実際、リグニンは、紙の生産における木材の副産物を構成する天然物である。この点で、リグニンの廃棄が製紙チェーン内における制限ステップであることも明記する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者は、特定の条件下でクラフトリグニンを添加することにより、上記の要件を満たすことに成功することを見出した。このようにして、コンパウンドの粘度の増加を維持することなく、ヒステリシスの減少に伴った剛性の損失を回復することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、架橋性不飽和鎖ポリマーベース、補強充填剤(reinforcing filler)、プロセスオイルおよび加硫剤を含む、空気入りタイヤ部分用のゴムコンパウンドであって、前記補強充填剤はシリカを含み、前記コンパウンドはクラフトリグニンを2~30phrの量で含み、前記補強充填剤と前記プロセスオイルとの間のphr比は3以上であることを特徴とする、ゴムコンパウンドである。
【0016】
「架橋性不飽和鎖ポリマーベース(cross-linkable unsaturated chain polymeric base)」という用語は、硫黄ベースの系との架橋(加硫)の際に、エラストマーの典型的な化学物理的および機械的特性のすべてを想定できる、任意の天然または合成の未架橋ポリマーを指す。
【0017】
「加硫剤(vulcanization agents)」という用語は、ポリマーベースの架橋を引き起こすことが可能な、硫黄および促進剤などの化合物を指す。
【0018】
好ましくは、補強充填剤はシリカを含む。
【0019】
好ましくは、クラフトリグニンの量は5~20phrである。
【0020】
好ましくは、補強充填剤とプロセスオイルとの間のphr比は、10以上である。
【0021】
好ましくは、リグニンは、補強充填剤と一緒に、第1の混合ステップ中にコンパウンドに添加される。
【0022】
本発明のさらなる目的は、本発明のコンパウンドを使用して製造される空気入りタイヤ部分である。
【0023】
好ましくは、空気入りタイヤ部分は、トレッドアンダーレイヤー、トレッドベース、ビードフィラー、アブレーションガムストリップまたはサイドウォールを含む群に含まれる構造成分である。
【0024】
本発明のさらなる目的は、本発明に係るゴムコンパウンドを使用して製造された部分を含む空気入りタイヤである。
【実施例】
【0025】
本発明をよりよく理解するために、以下の実施例は、例示的かつ非限定的な目的で示される。
【0026】
3つのセットの実験的テストを実施した。
【0027】
実験的テストの第1セットでは、5つのコンパウンドを調製し、そのうちの1つは参照コンパウンド(参照1)であり、2つは比較コンパウンド(比較コンパウンド1および比較コンパウンド2)であり、2つは本発明に係るコンパウンド(AおよびB)である。具体的には、比較コンパウンド(比較例1および比較例2)は参照コンパウンド(参照1)にシリカを添加することによって調製し、本発明に係るコンパウンドは参照コンパウンド(参照1)にクラフトリグニンを添加することによって調製した。
【0028】
具体的には、本発明に係るコンパウンド(AおよびB)は、本発明に係る補強充填剤とプロセスオイルとの間で3以上のphr比を有する。
【0029】
実験的テストの第1セットでは、参照コンパウンドにシリカを添加すると、コンパウンドの剛性が増加すると同時に、その粘度が増加することを示しており、一方、参照コンパウンドにクラフトリグニンを添加すると(参照1)、補強充填剤とプロセスオイルとの間のphr比が本発明に係るものである場合、コンパウンドの剛性の増加をもたらすが、これによりその粘度が増加することはない。
【0030】
実験的テストの第2セットでは、表1の参照コンパウンド(参照1)にシリカを添加することによって得られた第2の参照コンパウンド(参照2)を調製し、また、クラフトリグニンを第2の参照コンパウンド(参照2)に添加することによって得られた本発明のコンパウンド(C)を調製した。このテストの第2セットでは、コンパウンドは、第1セットのテストの本発明のコンパウンド(AおよびB)よりも大きい補強充填剤とプロセスオイルとの間のphr比を有する。
【0031】
実験的テストの第2セットでは、補強充填剤とプロセスオイルとの間のphr比が大きいほど、粘度レベルを変更することなく、剛性に対するクラフトリグニンの添加効果が大きくなることを示している。
【0032】
実験的テストの第3セットでは、補強充填剤とプロセスオイルとの比率が異なる2組のコンパウンドを比較した。各組の2つのコンパウンドは、一方(参照3および参照4)がリグニン無しであるという点で異なるが、もう一方(DおよびE)は10phrのクラフトリグニンを添加して得られた。
【0033】
実験的テストの第3セットでは、驚くべきことに、補強充填剤とプロセスオイルとの間のphr比が本発明の比よりも小さい場合、クラフトリグニンの添加は、剛性に関して所望の効果をもたらさないことを示している。
【0034】
[コンパウンドの調製-第1混合ステップ]
混合を開始する前に、タンジェンシャルローターを備え、内部容積が230~270リットルのミキサーに、加硫成分を除くそれぞれのコンパウンドのすべての成分を充填し、それによって充填率66~72%に達した。
【0035】
ミキサーを40~60回転/分の速度で操作し、こうして形成された混合物を、温度が140~160℃に達した時点で放出した。
【0036】
[コンパウンドの調製-第2混合ステップ]
前のステップから得られた混合物を、40~60回転/分の速度で操作されるミキサーで再加工し、その後、温度が130~150℃に達した時点で放出した。
【0037】
[コンパウンドの調製-最終混合ステップ]
加硫系を、前のステップから得られた混合物に添加し、充填率は63~67%に達した。
【0038】
ミキサーを20~40回転/分の速度で操作し、こうして形成された混合物を、温度が100~110℃に達した時点で放出した。
【0039】
表1は、実験的テストの第1セットに関連する5つのコンパウンドのphrで表した組成をリスト化している。
【0040】
各コンパウンドについて得られた粘度および剛性テストの結果もまた表1に示す。
【0041】
剛性を評価するために、ISO4664規格に準拠したテストにより、弾性率E’(30℃)の相対値を測定し、ASTM1646規格に準拠して粘度値を得た。
【0042】
本発明の利点をより迅速に理解するために、剛性および粘度の値を参照コンパウンド(参照1)の値に指数化した。
【表1】
【0043】
SBRは、平均分子量がそれぞれ800~1500×103および500~900×103の範囲、スチレン含有量が20~45%の範囲を有し、およびオイル含有量が37.5phrに等しい量で使用される乳化重合プロセスによって得られるポリマーベースである。
【0044】
BRは、1,4‐cis含有量が少なくとも40%のブタジエンゴムである。
【0045】
使用したシリカはDEGUSSA社によりULTRASIL VN3の商品名で市販されている。
【0046】
使用したシランは、DEGUSSA社によりSI75の商品名で市販されている。
【0047】
実施例で使用されるクラフトリグニンは、WestVaco社により「Indulin AT」の商品名で市販されている。
【0048】
使用されるプロセスオイルはオレイン酸オクチルまたはRAEである。
【0049】
DPGは、加硫促進剤として使用される化合物ジフェニルグアニジンの頭字語である。
【0050】
MBTSは、加硫促進剤として使用されるメルカプトベンゾチアゾールジスルフィドの頭字語である。
【0051】
TBBSは、加硫促進剤として使用される化合物N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミドの頭字語である。
【0052】
表1にリスト化された値から、クラフトリグニンの添加が、粘度の増加をもたらすことなく剛性の顕著な増加をどのようにもたらすかを明確に推測することができる。対照的に、シリカの添加は剛性の増加をもたらすのと同時に粘度の増加ももたらす。さらに、表1から、等量のphrで、クラフトリグニンはまた、シリカによってもたらされる剛性の増加よりも大きな剛性の増加をもたらすことが明らかである。
【0053】
表2にリスト化されているのは、第2セットの実験的テストのコンパウンドのphrで表した組成、並びに上記の基準に従って得られた関連する粘度および剛性テストの結果である。
【0054】
粘度および剛性の値は、リグニンを含まない参照コンパウンド(参照2)に対して指数化された。
【表2】
【0055】
表2の成分の性質は、表1のものと同じである。
【0056】
表2にリスト化された値は、表1のコンパウンドAおよびBに関連する値と共にリストされた場合、シリカとプロセスオイルとの間のより大きな比率が、クラフトリグニンの添加による剛性のより大きな増加をどのようにもたらすかを示している。実際、同量のクラフトリグニンを添加した場合、シリカとプロセスオイルとの比率が19.2であるコンパウンドCは、指数形式で剛性を100から145に増加させ、一方、シリカとプロセスオイルとの比率が16.2であるコンパウンドAは、指数形式で剛性を100から136に増加させることがわかる。
【0057】
表3には、プロセスオイルの量のみが異なり、その結果、シリカとプロセスオイルとの間の比率が異なる、2組のコンパウンドのphrで表した組成が示されている。表3には、コンパウンドの各組について、リグニンを含まないコンパウンド(参照3および参照4)に対して指標化された粘度および剛性の値がリスト化されている。
【表3】
【0058】
表3の成分の性質は、表1のものと同じである。
【0059】
表3にリストされた剛性値から、シリカとプロセスオイルとの比率が請求された比率よりも低い場合、クラフトリグニンの添加効果が求められたものではないことが推測される。実際、コンパウンド参照3と比較したコンパウンドDは、クラフトリグニンを10phr多く有しているにもかかわらず、剛性に関して明らかな改善を示していない。対照的に、コンパウンド参照4と比較したコンパウンドEは、10phrのクラフトリグニンの添加に応答して、指数化した剛性値を100から131へと上げている。
【0060】
上記の3つの表に記録されたデータと、実験的テストに関連するデータから、特定の条件下でクラフトリグニンを添加すると、混合物自体の粘度を増加させることなく、コンパウンドに対してより大きな剛性を与えることに成功することが明らかである。
【0061】
したがって、本発明によれば、コンパウンドの剛性低下による損失を、転がり抵抗の改善により、粘度などの他の特性を悪化させることなく回復することができる。
【0062】
最後に、リグニンは紙の生産における木材の副産物を構成する天然産物であり、また、リグニンの廃棄は紙生産チェーンの制限ステップを表すという事実に照らして、環境持続可能性の観点から本発明の重要性を強調することが重大である。
【国際調査報告】