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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ガスセンサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023500333
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(85)【翻訳文提出日】2023-03-01
(86)【国際出願番号】 ES2021070484
(87)【国際公開番号】W WO2022003229
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P202030687
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521486561
【氏名又は名称】ウニベルシタット・ロビラ・イ・ビルヒリ
(71)【出願人】
【識別番号】521171472
【氏名又は名称】ウニベルシタット・ポリテクニカ・デ・バレンシア
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT POLITECNICA DE VALENCIA
(71)【出願人】
【識別番号】303042729
【氏名又は名称】コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フアン・カサノバ・シェイファー
(72)【発明者】
【氏名】エデュアルド・リョベート・バレーロ
(72)【発明者】
【氏名】ロシオ・ガルシア・アボアル
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ・アティエンサル・コルビーヨ
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA10
2G046AA13
2G046AA23
2G046BA01
2G046BB04
2G046BC03
2G046BC04
2G046BC05
2G046EA04
2G046EA09
2G046FB04
2G046FC07
2G046FE03
2G046FE06
2G046FE11
2G046FE12
2G046FE13
2G046FE17
2G046FE21
2G046FE28
2G046FE36
2G046FE39
(57)【要約】
本発明は、ペロブスカイトとグラフェンのハイブリッド材料を備えるガスセンサー、前記センサーを得る方法、および前記センサーを用いたガス検出方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式ABXのハロゲン化金属ペロブスカイトナノ結晶と、電極を有する基板上に堆積するグラフェンと、を備えるハイブリッド材料を備え、
前記ペロブスカイトナノ結晶は前記グラフェン中に埋め込まれているガスセンサー。
【請求項2】
前記グラフェンが酸素官能基を10%未満を有する請求項1に記載のガスセンサー。
【請求項3】
前記式ABXにおけるAが、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、及びセシウムから選ばれるカチオンである請求項1又は2に記載のガスセンサー。
【請求項4】
前記ペロブスカイトナノ結晶のサイズが6~8ナノメートルである請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサー。
【請求項5】
前記基板がアルミナで構成される請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサー。
【請求項6】
前記式ABXにおけるAがメチルアンモニウムであり、Xが臭素である請求項1~5のいずれか1項に記載のガスセンサー。
【請求項7】
被検出ガスがベンゼンおよびトルエンであり、式ABX中のAがメチルアンモニウムである請求項1~5のいずれか1項に記載のガスセンサー。
【請求項8】
被検出ガスがNOであり、式ABX中のAがホルムアミジニウムである請求項1~5のいずれか1項に記載のガスセンサー。
【請求項9】
被検出ガスがNHであり、前記ペロブスカイトの前記式ABX中のAがメチルアンモニウムであり、Xが塩素アニオンである請求項1~5のいずれか1項に記載のガスセンサー。
【請求項10】
前記ペロブスカイトのハロゲン化物が塩素、臭素、及びヨウ素から選択される少なくとも1つ以上である請求項1から5または7から9のいずれか1項に記載のガスセンサー。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に定義されるガスセンサーを得るための方法であって、
a)グラフェン分散液を調製するステップと、
b)前記分散液からグラフェンを剥離するステップと、
c)剥離したグラフェン溶液にペロブスカイトナノ結晶を添加し混合して、グラフェンとペロブスカイトのハイブリッド材料を得るステップと、
d)グラフェンとペロブスカイトのハイブリッド材料を、電極を含む基板上に堆積させるステップと、を備える方法。
【請求項12】
ステップa)の前記溶液の前記溶媒がトルエンまたはヘキサンであり、前記グラフェンがシート状のグラフェンからなる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップb)において、パルス超音波処理により前記グラフェンを剥離させる請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
ステップd)で、前記基板が、スクリーン印刷された白金インターディジット電極を含むアルミナである請求項11から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】


a)ガス流が通過するチャンバー内に、請求項1から10のいずれか1項に定義されるセンサーのいずれか1つを配置するステップと、
b)ガス通過後の抵抗値の変化を測定するステップと、を備えるガス検出方法。
【請求項16】
ステップb)が室温で実施されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイトとグラフェンのハイブリッド材料からなるガスセンサー、当該センサーを得るための方法、及び当該センサーを用いたガス検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過去数十年の間に、大気汚染の拡大により、環境と人間の健康への悪影響が増大している。したがって、これらの問題に対処し、環境と住民の福利の両方を保護するために、大気汚染物質のユビキタスかつ連続的なモニタリングが必要とされている。しかし、大気の質を監視するための幅広いセンサーネットワークの開発は、信頼性が高く、低コストで低消費電力の検出装置が利用できる場合にのみ可能となる。このような新しいセンサーネットワークは、現在使用されているガスクロマトグラフィーや質量分析計などの機器技術を補完するものであり、その精度と低い検出限界にもかかわらず、大型で高価である。化学抵抗式センサーは、製造や使用が容易なため、様々な技術的選択肢の中から適切なものを選ぶことができる。
【0003】
これまで開発・販売されてきた化学抵抗式ガスセンサーの多くは、金属酸化物(MO)を使用している。しかし、MOには、自律的なガス検知ネットワークへの実装を危うくする重要な限界がある。例えば、MOの主な欠点は選択性の低さであり、さらに、動作に高温を必要とする。その結果、高いエネルギー消費量が必要となる。
【0004】
そこで近年、グラフェンを用いた新世代の低消費電力ガスセンサーが注目されている。グラフェンは、理論的には最も高い表面積/体積比を持ち、実際、グラフェンのシートはそのすべての原子が化学環境にさらされている。さらに、グラフェンはキャリア密度と電荷移動度が高いため、ノイズレベルが低くなる。同様に、この化学抵抗材料は室温で動作する能力(低エネルギー消費)を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、その基本構造(sp炭素配置)は不活性であり、ガスに対する感度や選択性が低い。そのため、グラフェンの機能化が計画されている。例えば、公開番号US20160334386の米国出願には、一酸化窒素に親和性のある金属ポルフィリンと接触したグラフェン層からなるガスセンサーが記載されている。
【0006】
歴史的に、最も多く研究されてきた修飾法は、グラフェンを金属または金属酸化物ナノ粒子で装飾することであった。この方法は、材料の感度を向上させ、ある程度、選択性を微調整するのに役立つ。しかし、この方法では、ナノ粒子が電子的および化学的感光の機能を発揮するために、センサーの動作温度を環境温度よりも高くする必要がある。一方、グラフェンをプラズマ処理することで、欠陥の生成と官能基の固定化を促進し、室温での応答性を向上させることも可能である。しかし、選択性の向上は望めない。
【0007】
近年、ペロブスカイトを用いたガスセンサーの研究開発が盛んに行われている。一例として、ペロブスカイトを用いたガスセンサーが記載されている公開番号US10352893の特許に記載されているセンサーがある。しかし、ペロブスカイトの主な欠点は、湿度条件下での不安定性であり、これがこれまで商業的な応用を妨げてきた。
【0008】
したがって、室温、通常の湿度条件下で動作し、感度が高く、ペロブスカイト中に存在するイオンに応じて異なるガスを検出できる新しいペロブスカイトセンサーを開発することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
グラフェン、ペロブスカイトのハイブリッド材料からなるガスセンサーが開発されてきた。この材料は、室温で動作する化学抵抗効果型センサーに容易に適用することができる。また、溶液法による加工が可能なため、低コストで合成が容易であり、他の材料に比べて魅力的である。さらに、ペロブスカイトは、調整可能な帯域幅、高い吸収係数、長いキャリア寿命など、ガス検知の観点から非常に興味深い特性を示している。バンドギャップの変調は、ABXペロブスカイトの構造を、そのA、Bおよび/またはX成分の置換によって変更することによって達成することができる。
【0010】
本発明のガスセンサーは、室温で高い再現性、可逆性、感度、および超高速検出を達成する。さらに、応答における低ノイズレベルは、微量レベル(ppb)での検出が可能であることを実証している。ABX構造のカチオンやアニオンを変えることでペロブスカイトナノ材料のライブラリーを作成することが可能であり、幅広いスペクトルのガスの検出にデバイスを適応させる可能性が開かれる。
【0011】
グラフェンは、その高い疎水性により、ペロブスカイトを環境湿度の影響から保護し、したがって、その長期劣化を防ぐのに非常に有効であることが証明されている。
【0012】
本発明では、ペロブスカイトナノ結晶をグラフェンに埋め込むことで、センサーの感度と性能を向上させることができる。このようにして、ペロブスカイトのアニオン/カチオンの相対的な性能に影響を与えることなく、センサーの電気応答が一般に改善される。
【0013】
したがって、本発明の第1の側面は、
式ABXのハロゲン化金属ペロブスカイトナノ結晶と、ペロブスカイトナノ結晶がグラフェンに埋め込まれている電極を有する基板上に堆積したグラフェンと、を備えるハイブリッド材料を備えるガスセンサーに言及する。
【0014】
本発明において、ハロゲン化金属ペロブスカイトという用語は、ABX材料を指し、ここでAは有機および/または無機カチオン、Bは金属、Xはハロゲンで、鉱物のペロブスカイト、CaTiOに基づく構造を有する。
【0015】
本発明において、ナノ結晶という用語は、その大きさの少なくとも1つが100nm未満である結晶を意味する。
【0016】
ガス検知の性能には、グラフェンの調製方法が不可欠な役割を担っていることに留意する必要がある。グラフェンの調製方法では、液相(LPE)中でグラフェンを剥離させる。これは、低コストであることを考慮すると、魅力的な調製方法である。
【0017】
本発明の第2の側面は、本発明の第1の側面に記載されたセンサーを得る方法である。これは、以下の
a)グラフェン分散液を準備するステップと、
b)前記分散液からグラフェンを剥離するステップと、
c)剥離したグラフェン溶液にいくつかのハロゲン化金属ペロブスカイトナノ結晶を添加し混合して、グラフェンとペロブスカイトのハイブリッド材料を得るステップと、
d)グラフェンとペロブスカイトのハイブリッド材料を、電極を含む基板上に堆積させるステップと、を備えるセンサーを得るための方法である。
【0018】
本発明のセンサーは、ガス検出システムに接続することができ、したがって、本発明の第3の側面は、以下の
a)ガス流が通過するチャンバー内に、本発明の第1の側面で定義されたセンサーを配置するステップと、
b)ガス通過後の抵抗値の変化を測定するステップと、備えるガス検出方法に言及する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1ABは、MAPbBrの異なるNCで装飾されるグラフェンを用いてベンゼン(1A)およびトルエン(1B)を検出するために得られる応答を示す図である。
図2図2ABは、CsPbBrの異なるNCで装飾したグラフェンを用いて、ベンゼン(2A)およびトルエン(2B)を検出したときの応答を示す図である。
図3図3ABは、FAPbBrの異なるNCで装飾されるグラフェンを用いて、ベンゼン(3A)とトルエン(3B)を検出したときの応答を示している。
図4図4ABは、MAPbClの異なるNCで装飾されるグラフェンを用いて、ベンゼン(4A)とトルエン(4B)を検出したときの応答を示している。
図5図5ABは、MAPbBr2.50.5の異なるNCで装飾されるグラフェンを用いて、ベンゼン(5A)およびトルエン(5B)を検出するために得られた応答を示す図である。
図6図6は、室温で動作するハロゲン化鉛ペロブスカイト装飾グラフェンセンサーの応答および回復曲線の一例である。
図7図7は、MAPbBrペロブスカイトを用いた再現性解析を示す図である。
図8図8は、FAPbBrを用いたNOに対する電気応答の一例を示している。
図9図9は、FAPbBr NC装飾グラフェンを用いた、異なるNH濃度への曝露を示す図である。
図10図10は、MAPbCl(黒線)およびMAPbBr(灰色線)NCを用いたNHに対する電気応答の比較を示している。
図11図11Aおよび11Bは、ハロゲン化鉛ペロブスカイトの異なるカチオン(11A)およびアニオン(11B)を用いてベンゼンを検出するために得られた検量線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記のように、本発明の第1の側面は、式ABXのハロゲン化金属ペロブスカイトナノ結晶と、ペロブスカイトナノ結晶がグラフェンに埋め込まれた電極を有する基板上に堆積したグラフェンと、を備えるハイブリッド材料を備えるガスセンサーを指す。
【0021】
好ましくは、センサーは10%未満の酸素官能基を有する。この特徴により、キャリアの輸送性が良くなる(ホログラム)。これは、フェルミ準位を価電子帯側にシフトさせ、仕事関数を増加させるためである。また、酸素の含有量が制限されていることにより、グラフェンの高い疎水性が維持されるため、ペロブスカイトとグラフェンナノ結晶からなるガスセンサーに高い安定性を付与し続けることができる。
【0022】
好ましくは、ABX構成において、Bは2価の金属から選択され、より好ましくは:Pb+2、Sn+2、Cu+2、Mn+2、Fe+2、Ge+2、Bi+2、Sb+2またはそれらの混合物から選択される。
【0023】
好ましくは、式ABX中のAは、有機及び/又は無機の一価カチオンである。より好ましくは、メチルアンモニウム、MA(CHNH )、ホルムアミジニウム、FA((NHCH)およびセシウム(Cs)、グアニジニウム、フェニルエチルアンモニウム、KおよびRbまたはそれらの組み合わせから選択される。
【0024】
好ましくは、Xは、Cl、Br及びIから選択される、アニオンを表す。
【0025】
好ましくは、ペロブスカイトナノ結晶は、サイズが6~8ナノメートルで構成される。
【0026】
好ましくは、基板はアルミナである。
【0027】
ベンゼンおよびトルエン(toluene)のモニタリングは、その危険性から大きな関心を集めており、例えば、ベンゼンは発癌性物質とみなされている。これらの理由から、環境中の微量レベルの検出は非常に重要である。
【0028】
好ましくは、センサーで検出されるガスは、ベンゼンおよびトルエンであり、ペロブスカイトのカチオンは、メチルアンモニウムである。
【0029】
好ましくは、ペロブスカイトのカチオンは、メチルアンモニウムであり、アニオンは、臭素である。
【0030】
好ましくは、検出されるべきガスはNOであり、ペロブスカイトのカチオンはホルムアミジンである。
【0031】
好ましくは、検出されるべきガスはNHであり、ペロブスカイトのカチオンはメチルアンモニウムであり、ペロブスカイトのアニオンは、塩素アニオンである。
【0032】
好ましくは、ペロブスカイトのハロゲンは、塩素、臭素、およびヨウ素の少なくとも1つ以上のアニオンから選択される。
【0033】
前述したように、本発明の第2の態様は上記で定義されるセンサーを得るための方法を指し、以下の
a)グラフェン分散液を調製するステップと、
b)前の分散液からグラフェンを剥離するステップと、
c)剥離したグラフェン溶液にペロブスカイトナノ結晶を添加し混合して、グラフェンとペロブスカイトのハイブリッド材料を得るステップと、
d)グラフェンとペロブスカイトのハイブリッド材料を、電極を含む基板上に堆積させるステップと、を備える。
【0034】
好ましくは、ステップa)の溶液の溶媒はトルエンまたはヘキサンであり、グラフェンはグラフェンのシートから構成される。
【0035】
好ましくは、ステップb)でグラフェンはパルス超音波処理によって剥離される。
【0036】
好ましくは、ステップd)において、基板はスクリーン印刷される白金インターディジット型電極を含むアルミナである。
【0037】
好ましくは、本発明の第3の態様として上述したガス検出方法は、室温で実施される。室温での動作は、通常、吸着分子の脱着速度が低いために、センサーのベースラインの弱い回復を意味するという事実にもかかわらず、室温は、低消費電力、ペロブスカイトのNCをその劣化から維持し、したがってセンサーの有用寿命を改善するといういくつかの理由のために使用されている。
【実施例
【0038】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、これを限定するものとして解釈されるべきではない。
【0039】
すべての実施例において、調製した試料における色透過率を定量する方法は以下の通りである。
【0040】
実施例1
ペロブスカイトナノ結晶(NC)の合成。
【0041】
MAカチオンペロブスカイトNCの合成は、L.Schmidtらによって提案された方法を採用した。まず、85mgのオレイン酸(OA)を2mlの1-オクタデン(ODE)に加えてストック溶液を調製した。この溶液を攪拌し、80℃に加熱した。その後、オクチルアンモニウムブロマイド(OABr)33.5mgを添加した。
【0042】
次に、異なる前駆体を用いて、各ペロブスカイトアニオンの他の特定の溶液を調製した。MAPbBr NCの場合、26.4mgおよび18.3mgのメチルアンモニウムブロマイド(MABr)および臭化鉛(II)(PbBr)をそれぞれ200μLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた。一方、塩化メチルアンモニウム(MACl)3.37mgと塩化鉛(II)(PbCl)13.9mgをそれぞれ200μLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、MAPbClを形成させた。最後に、MAPbBr2.50.5のNCを調製するために、2.7mg、3mgおよび18.5mgのヨウ化メチルアンモニウム(MAI)、臭化メチルアンモニウム(MABr)および臭化鉛(II)(PbBr)を300μLのDMFにそれぞれ添加した。この溶液を完全に溶解するまで振盪した。
【0043】
最後に、特定の前駆体を含む各溶液を、ベース溶液に添加した。その後、溶液を60℃に冷却し、5mlのアセトン(acetone)を加え、異なるナノクリスタルの即時沈殿を引き起こした。MAPbBr、MAPbClおよびMAPbBr2.50.5について、それぞれ黄色、白色および黄色-オレンジ色の沈殿が得られた。その後、溶液を6000rpmで10分間遠心分離して沈殿物を抽出し、最終的にトルエンに分散させた。
【0044】
CsPbBr:このタイプのナノ結晶の合成のために、L. Protesescuらによって提案された方法。Csオレインを調製するために、CsCO(814mg)、ODE(40mL)およびOA(2.5mL)を3首のフラスコに加えた。その後、溶液を攪拌下で混合し、120℃で1時間加熱した。最後に、CsCOとオレイン酸の完全な反応を確保するために、窒素雰囲気下で温度を150℃まで上昇させた。この溶液を室温まで冷却し、オレイン酸Csの沈殿を得た。
【0045】
その後、3つ口フラスコにPbBr 69mgとODE 5mlを混合し、別の溶液を調製した。次に、この溶液を120℃で1時間、真空下で乾燥させた。次に、窒素雰囲気を作りながら、乾燥オレイルアミン(OLA)およびOAを0.5ml注入した。完全に可溶化した後、140℃に昇温し、オレイン酸Cs溶液(0.4ml、注入前に100℃に予熱)を急速に注入した。5秒後、最終溶液を氷水浴を用いて冷却した。最後に、5mlのtert-ブチルアルコール(tBuOH)を加えて、NCの完全な沈殿を促進させた。前項で説明した遠心分離の後、CsPbBr NCsをヘキサン(hexane)中に分散させた。
【0046】
FAPbBr.FAカチオンを含むNCは、L. Protesescuらによって提案された方法に従って実施した。まず、FAオレエート前駆体を調製し、ここで521mgのホルムアミジニウム酢酸(FA(CHCOO))および20mlのOAを3首フラスコに添加した。次に、先の合成と同様に、この溶液を120℃で1時間加熱した。その後、完全に反応するまで130℃に昇温した。最後に、FAオレエートを真空下50℃で30分間乾燥させ、室温に冷却した。
【0047】
その後、ODE(5ml)およびPbBr(69mg)を3つ首フラスコ中で混合することにより、別の溶液を調製した。この溶液を120℃で1時間、バキュオで乾燥させた。次に、窒素気流下、120℃でOLAを0.5ml、OAを1ml注入した。PbBr塩を完全に可溶化した後、温度を100℃に下げた。次に、FAオレイン酸溶液2.5mLを急速に注入し、5秒後、反応混合物を氷水浴を用いて冷却した。最後に、10mlのトルエンと5mlのアセトニトリル(acetonitrile)を加えて、NCの完全な沈殿を促進させた。最後に、溶液を遠心分離し、FAPbBr NCsをヘキサンに分散させた。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
一端、異なるペロブスカイトNCを合成したら、Strem Chemicals社(米国)の市販グラフェンナノシートを用いて、トルエンまたはヘキサン中のグラフェン溶液(0.5mg/ml)を調製した。その後、この溶液を超音波チップに入れ、280Wで90分間パルス超音波処理(1秒オン/2秒オフ)を施した。グラフェンが適切に剥離されたら、ペロブスカイトNC(5重量%)を溶液に添加した。ナノ材料は超音波浴中で1時間混合した。最後に、ペロブスカイトNCで装飾したグラフェンを、スクリーン印刷した白金インターディジット電極を含むアルミナ基板上にスプレーコーティング法で成膜した。
【0051】
開発したセンサーは、体積35cmのテフロン(登録商標)製チャンバーに設置し、合成空気で校正したガスボンベに接続した。
【0052】
異なるガスの検出を研究するために、センサーを様々な濃度にさらすために、異なる希釈を行った。センサーは、1分間の暴露中に目標ガス濃度を適用する前に、5分間合成空気下で安定化させる。全流量は、Bronkhorst High-Tech BV(Ruurlo、The Netherlands)フローコントローラのセットを使用して100mL/minに設定し、抵抗変化は測定チャンバーに接続したAgilent HP 34972Aマルチメーターを使用して記録した。応答は、パーセンテージで表した(ΔR/R)として定義される。ここで、ΔRは1分間ガスにさらされた間の抵抗値変化であり、Rは基準抵抗に相当する。
【0053】
図1図5は、異なるペロブスカイトNCで装飾したグラフェンを用いて、ベンゼン(A)とトルエンを検出したときの応答を示している。両ガスとも、2、4、6、8ppmを3サイクル連続で印加した。
【0054】
【表3】
【0055】
本研究で用いた測定方法では、室温で高い再現性(誤差5%未満)、可逆性(有意なベースラインドリフトがない)、高速(1分間の暴露)な応答が得られる。
【0056】
応答が安定するまでのガス曝露中のセンサーの挙動が重要であるため、図6にセンサーの飽和と初期回復を示す。応答と回復の時間(t90)は、流量400mL/minで約30分である。合成空気中で抵抗のベースラインが安定した後、センサーレスポンスの飽和に達するまで10ppmのトルエンを適用した。ベースラインの回復は新鮮な空気中で達成された。
【0057】
図7は、MAPbBrペロブスカイトを用いた再現性解析の結果である。10ppmのベンゼン(破線)に長時間(30分)暴露した際の抵抗値変化(実線)を記録した。
【0058】
図8は、FAPbBrを用いたNOに対する電気応答の例である。250、500、750、1000ppbの4つの濃度で3サイクル連続、1分間暴露。異なる濃度での測定の間には、5分間の洗浄のために合成空気が使用された。図9は、FAPbBr NC装飾グラフェンを用いて、異なるNH濃度に曝露した様子を示している。記録された抵抗値の変化は、異なる分析対象物濃度に対して実質的に同一であるため、アンモニアに対する感度は得られていない。図10は、MAPbCl(黒線)とMAPbBr(赤線)NCを用いたNHに対する電気応答の比較である。4つの濃度(25、50、75、100ppm)の3連続サイクルを1分間印加した。ここでも、合成空気期間に5分間のクリーニングが適用された。
【0059】
図11A、11Bは、異なるカチオン(a)、ハロゲン化物アニオン(b)を用いたベンゼン検出の検量線である。カチオンの影響については、MAはFAやCsと比較して、応答性(最大3倍)、感度(曲線の傾き)が明らかに向上していることがわかる。一方、ハロゲン化物アニオンの違いによる応答では、BrアニオンがClやIアニオンに比べて高い応答性と感度を示すことがわかった。また、トルエン蒸気に対しても同様の挙動が観察された。ベンゼンやトルエンなどの芳香族分子は、その非局在化した電子により電子供与基として働くことができる。ペロブスカイトNCで装飾したグラフェンをこれらのガスに暴露すると、Cs、MAまたはFAカチオンの著しい効果が明らかに観察される。実際、ペロブスカイト構造中にMAが存在すると、両方のガスに対してより高い電気応答が記録された。これらの優れた電気特性は、エネルギー準位(バンド構造)の位置と欠陥(トラップ)の集中に起因するものである。
図1
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【国際調査報告】