(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】治療用タンパク質製剤の安定剤としての代替界面活性剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20230724BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230724BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230724BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230724BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230724BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230724BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230724BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230724BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
A61K38/00
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 C
A61P43/00 111
A61K47/68
A61K9/08
A61K47/34
A61K47/32
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501006
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(85)【翻訳文提出日】2023-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2021068563
(87)【国際公開番号】W WO2022008468
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ハイツ マーク
(72)【発明者】
【氏名】カーン タリク
(72)【発明者】
【氏名】キエンツ ハナ ソフィア
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】パフ ジャニーナ ミシェル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC29
4C076DD07E
4C076DD08E
4C076DD09E
4C076DD17E
4C076DD66E
4C076DD70E
4C076EE06E
4C076EE23E
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF04
4C076FF34
4C076FF63
4C084AA17
4C084MA17
4C084NA10
4C084ZC411
4C085AA13
4C085AA21
4C085EE01
4C085EE05
(57)【要約】
本発明は、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEGおよびSLから選択される1種以上の界面活性剤と共に、本明細書で定義されるタンパク質、好ましくは抗体を含む、新規な液体医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEGおよびSLから選択される1種以上の界面活性剤とを含む、液体医薬組成物。
【請求項2】
前記タンパク質が、抗体;またはイムノコンジュゲート;または抗体断片である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
薬学的に許容され得る賦形剤または担体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤(複数種可)が、1mg/mL以下の濃度;または0.001mg/mL~0.01mg/mL;もしくは0.01mg/mL~0.1mg/mL;もしくは0.1mg/mL~1.0mg/mLの濃度範囲で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
タンパク質をさらに含む液体医薬組成物の製造における、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEGおよびSLから選択される1種以上の界面活性剤の使用。
【請求項6】
タンパク質を安定化するため、かつ、貯蔵時に前記タンパク質を含む液体医薬組成物中の、可視粒子の形成を防止するための、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEGおよびSLから選択される1種以上の界面活性剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、水性タンパク質製剤の分野、特に貯蔵時の可視粒子形成に対するそれらの安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
1982年に最初に承認された遺伝子組換え生産バイオ医薬品であるHumulin(登録商標)により、バイオ医薬品とも呼ばれる遺伝子組換え治療薬としての生物製剤のサクセスストーリーが始まった[1]。今日では、バイオ医薬品は主要な分野であり、ますます多くの製品が開発中であり、急速に成長している市場である[2]。タンパク質は両親媒性高分子であるため、界面に入り込み、そこに蓄積する傾向があり、そこで凝集する可能性がある。したがって、タンパク質は、製品の安定性を保証するために界面および界面応力から保護される必要がある。界面応力は、製品製造の多くの段階(例えば、凍結、解凍、濾過、圧送および充填操作)の間だけでなく、患者への出荷、保管、および投与の間にも起こり得る[3~5]。タンパク質凝集は、顕微鏡可視粒子および/または可視粒子の形成の増加、または薬効もしくは安全性の潜在的損失さえももたらし得る(すなわち、免疫原性反応の場合)。したがって、タンパク質の凝集を防止することによって製剤安定性を維持することが重要である[6~8]。タンパク質凝集を回避するための種々の凝集機構および緩和戦略が特定され、開示された[9]。一般的なアプローチの一つは、配合物に界面活性剤のような賦形剤を添加することである[10]。界面活性剤は、界面での両親媒性タンパク質の吸着の抑制または低減をもたらす界面応力に対する強力な安定剤である。界面活性剤がどのようにタンパク質を保護するかに関する2つの機構モデル:すなわち(1)界面活性剤-タンパク質複合体の形成、および(2)界面での界面活性剤の優先的競合吸着の主要な機構が開示されている:[4,11-14]。
【0003】
証明された安全性および有効性のために、市販されている生物製剤の製剤開発では、ポリソルベート20、ポリソルベート80(Tween(登録商標)とも呼ばれる)またはトリブロックコポリマーポロキサマー188(Kolliphor(登録商標)P、Pluronic(登録商標)またはSynperonic(登録商標))の3種の非イオン性界面活性剤が使用されている。ポリソルベート(PS)は、撹拌および撹拌応力中に存在する空気-水界面[15,16]、およびプレフィルドシリンジ中に主に見られるシリコーン油-水界面の両方で優れた安定剤であることが知られている[17~19]が、凍結/解凍および凍結乾燥のような他の様々な応力中にも存在する[20]。したがって、この種類の界面活性剤は、市販品で最も広く使用されている[21,22]。しかしながら、PSはまた、主に3つまでの様々な脂肪酸側鎖を有するエトキシル化ソルビタン骨格からなる化学的不均質混合物であり、供給業者とロットとの間の実質的な材料の変動がもたらされる[23~25]。これとは別に、ポリソルベートは酸化または加水分解によって分解される可能性があり、これは、(1)タンパク質粒子形成を伴い得る界面応力に対する保護作用またはタンパク質の減少、および/または(2)タンパク質の安定性に対するPS分解物の悪影響に起因する問題を引き起こし得る[25~27]。PS分解に関するさらなる研究により、宿主細胞タンパク質由来の不純物によって引き起こされる可能性のあるエステル結合の酵素的切断が報告された[28,29]。加水分解経路および酵素経路はいずれも、溶解度が限定されており、顕微鏡可視粒子および可視粒子を形成する傾向を有する遊離脂肪酸(FFA)分解物を発生させ得る[27,30,31]。
【0004】
対照的に、ポロキサマー188(Px)は、より安定であると報告されており、より疎水性のポリプロピレンオキシド(PPO)中間ブロックによって連結された2つの親水性ポリエチレンオキシド(PEO)単位からなる[32,33]。Px188のより親水性の性質(HLB>24)は、PS80(HLB=15.0)と比較して、プレフィルドシリンジ中のシリコーン油水界面のFc融合タンパク質吸着の増加に起因すると仮定された[19]。Px188はまた、バイアル中でタンパク質-シリコーン油粒子形成のリスクが高いことが報告されている。タンパク質の分子特性、シリコーン油の量、および製剤構成の他の特徴に応じて、特にプレフィルドシリンジ(PFS)で安定剤としてPx188を使用するための課題が提示される可能性があり、これは、PFSに保存されたバイオ医薬品で検出される粒子の大部分を占める可能性がある潤滑剤としてシリコーン油を使用するためである[8,34,35]。
【0005】
最近、いくつかの新しい分子が代替界面活性剤として示唆されている。Maggioは、アルキルサッカライドがインターフェロンおよびPSと同等のモノクローナル抗体(mAb)を安定化し得ることを報告した[36,37]。さらに、アルキルサッカライドは酸化的分解に対して安定であることが報告された[38]。しかしながら、他の界面活性剤と比較して、アルキルサッカライド界面活性剤の溶血活性はより高く、特にn-ドデシル-β-d-マルトピラノシド(DDM)であるため、治療用途がより困難である[39]。あまり顕著ではない溶血活性が、それらの合成トレハロース系界面活性剤についてSchiefelbeinらから報告され、これはまた、振盪時にヒト成長ホルモン(hGH)に対する有望な安定化効果を示した[40]。Katzらは、FM100と呼ばれる新規なアミノ酸系界面活性剤を合成し、ポリソルベート20および80ならびにポロキサマー188と比較して、撹拌ストレスからIgGおよびアバタセプトを保護する、上記界面活性剤の能力を試験した。FM100が、撹拌によって誘発される凝集に対するモデルタンパク質の安定化を増加させながら、3種全ての他の界面活性剤よりも速く界面を安定化することがわかった[41,42]。それにもかかわらず、上記界面活性剤のいずれについても、生物製剤の臨床製剤または市販製剤における実施はまだ報告されていない。界面安定剤としてしばしば記載される他のクラスの非イオン性界面活性剤は、Brij(登録商標)のような第一級アルコールエトキシレートまたはTriton(商標)X[43,44]のようなアルキルフェノールエトキシレートである。しかしながら、前述の分子のほとんどは、非経口使用について承認されていないか、または反復および一般的な非経口投与の安全性について懸念がある。
【0006】
したがって、薬学的に関連する界面に対する固有の安定性および吸着挙動に関して問題のない代替界面活性剤が必要とされている。特に、最適な製剤安定性を保証しながら製剤開発のためのツールボックスを拡張するために、非経口投与のための確立された界面活性剤の既存の問題を軽減するための新規/代替の界面活性剤を調査する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、治療用タンパク質製剤における安定剤としての新規使用のための既知の界面活性剤を提案することによってこの問題を解決する。より詳細には、本発明者らは、関連する界面で良好なタンパク質安定化効果を有し、酵素分解を起こしにくい必要がある界面活性剤の構造組成物の総合的評価を行った。本発明者らは、疎水性および親水性分子部分に関して広範な構造的多様性を有する界面活性剤について調査を行った(
図1参照)。本発明者らはまた、酵素分解に対する安定性およびモデルmAbの熱安定性に対するそれらの影響に関して界面活性剤を分析するためのスクリーニングツールを実施した。長期安定性への悪影響を排除するために、サンプルを5℃、25℃で最大18ヶ月間、ならびに40℃で3ヶ月間保存し、可視粒子および顕微鏡可視粒子、濁度、色、pH、mAbモノマーおよびmAb電荷の変化に関して分析した。PS20およびPx188を使用する対照を並行して実行した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
(
図1)この研究において試験された全ての代替界面活性剤のグラフ表示。構造は、親油性部分に従って4つのサブグループ:i)アシル-、ii)アルキル-、iii)ステロール-基およびiv)他のサブグループに分類される。さらに、分子は、それらの親水性頭部基によって、i)ポリエチレンオキシド(PEO)系およびii)糖系界面活性剤として区別された。マークされた賦形剤(*)は、FDAおよびEMA内のマークされた非経口製剤で使用されている[45,46]。
(
図2)酵素消化前(-)および酵素消化後(---)の親水性非エステル化画分(1)および親油性エステル化画分(2)に分類されるPS20RP-HPLCクロマトグラムの代表的図。エステル化画分のメインピーク(親油性)および遊離の非エステル化(親水性)ピークを統合して評価した。
(
図3)界面活性剤の分解の度合い。それぞれ0.25
および0.5
mg/mL PCL/CALBリパーゼ混合物(1:1)または0.1mmol水酸化ナトリウム
とのインキュベーションの前
後に、正規化されたエステル主ピーク面積を示す。**エステル主ピークは観察されず、完全に分解した。
(
図4A)界面活性剤の存在下でのmAbの熱的立体配座安定性。図は、T
on(A)およびT
m1(B)の3つの個々の測定値の平均値を示す。着色値を有する界面活性剤は、界面活性剤を含まない対照製剤(-)と比較して、熱安定性特性なり低下した。
(
図4B)
図4Aの説明を参照。
(
図5A)界面活性剤を含まない対照製剤
ならびに
0.1および
1mg/mLの界面活性剤を含む製剤についての顕微鏡可視粒子の累積数≧10μm/mL。5℃(A)および25℃(B)における水平振盪後、5回の構成的凍結融解サイクル(C)および初期値
と比較した40℃における12週間の貯蔵後(D)のSVPカウント。SVPが不連続なY軸の上部セグメントにある製剤は、USP<787>基準の最大6,000個/容器≧10μmの粒子を超えていた。
(
図5B)
図5Aの説明を参照。
(
図5C)
図5Aの説明を参照。
(
図5D)
図5Aの説明を参照。
(
図6A)異なるストレス条件および界面活性剤濃度
後のHMWSの増加(面積%)として与えられる可溶性凝集体レベル:(A)5℃または(B)25℃、200rpmで7日間の水平方向振盪ストレス、(C)5回の構成的凍結融解サイクル、および(D)40℃で12週間の貯蔵。
(
図6B)
図6Aの説明を参照。
(
図6C)
図6Aの説明を参照。
(
図6D)
図6Aの説明を参照。
(
図7A)初期時点でのmAb製剤
およびプラセボ
1mL当たり2μm以上の顕微鏡可視粒子の累積数。サンプルは、(A)0.1mg/mLまたは(B)1mg/mLの界面活性剤のいずれかを含有していた。
(
図7B)
図7Aの説明を参照。
(
図8A)(A)0.1mg/mLまたは(B)1mg/mLの界面活性剤を含有する25℃で保存した製剤のSE-HPLCによる代表的なモノマー損失。このグラフでは、主ピーク面積がかなり変化した配合物のみが示され
、標準的な界面活性剤PS20
およびPx188
と比較される。
(
図8B)
図8Aの説明を参照。
(
図9A)IE-HPLCによって測定されたmAbのメインピーク面積の代表的な減少。製剤は、(A)0.1mg/mLまたは(B)1mg/mLの界面活性剤を含有し、5℃(白抜き記号)、25℃(半黒塗り記号)および40℃(黒塗り記号)で保存した。ここでは、メインピーク面積のかなりの減少を示したCS20(三角形)配合物のみを示し、標準的な界面活性剤PS20(正方形)およびPx188(円)と比較した。
(
図9B)
図9Aの説明を参照。
(
図10)評価した界面活性剤の物理化学的および構造的特徴ならびにそれらの現在の適用分野。
(
図11-1)mAb1のための界面活性剤およびアシル系界面活性剤を含有しない製剤の製剤属性。
a可視粒子は、i)0個の粒子、ii)1~5個の粒子、iii)6~10個の粒子、およびiv)10個を超える粒子の4つの群に分類される。
b濁度は、i)0~3NTU、ii)3超~6NTU、iii)6超~18NTU、およびiv)18超NTUの4つの群に分類される。
cカラーは、Ph.Eurのカラースケール値に従って、以下の4つのグループに分類される:2.2.2:i)9~7、ii)6~5、iii)4~3およびiv)2~1。
d値は、3つの個々の測定値の平均として与えられる(標準偏差<0.4)。
e振盪実験により、2~3個の分析されたバイアルの平均値が示される。20mM His-HCl緩衝液の表面張力は73mN・m-1である。クラスii、iii、ivの結果を灰色でマークした。色が濃いほど、クラスが高くなり、ストレス試験の結果は悪くなる。
n.a.=未分析。
(
図11-2)
図11-1の説明を参照。
(
図11-3)
図11-1の説明を参照。
(
図11-4)
図11-1の説明を参照。
(
図12-1)mAb1のためのアルキル系界面活性剤を含有する製剤の製剤属性。
a可視粒子は、i)0個の粒子、ii)1~5個の粒子、iii)6~10個の粒子、およびiv)10個を超える粒子の4つの群に分類される。
b濁度は、i)0~3NTU、ii)3超~6NTU、iii)6超~18NTU、およびiv)18超NTUの4つの群に分類される。
cカラーは、Ph.Eur.2.2.2のカラースケール値に従って、以下の4つのグループに分類される:i)9~7、ii)6~5、iii)4~3およびiv)2~1。
d値は、3つの個々の測定値の平均として与えられる(標準偏差<0.4)。
e振盪実験により、2~3個の分析されたバイアルの平均値が示される。20mM His-HCl緩衝液の表面張力は73mN・m-1である。クラスii、iii、ivの結果を灰色でマークした。色が濃いほど、クラスが高くなり、ストレス試験の結果は悪くなる。
n.a.=未分析。
(
図12-2)
図12-1の説明を参照。
(
図12-3)
図12-1の説明を参照。
(
図12-4)
図12-1の説明を参照。
(
図13-1)mAb1のステロール系界面活性剤を含有する製剤の製剤属性。
a可視粒子は、i)0個の粒子、ii)1~5個の粒子、iii)6~10個の粒子、およびiv)10個を超える粒子の4つの群に分類される。
b濁度は、i)0~3NTU、ii)3超~6NTU、iii)6超~18NTU、およびiv)18超NTUの4つの群に分類される。
cカラーは、Ph.Eur.2.2.2のカラースケール値に従って、以下の4つのグループに分類される:i)9~7、ii)6~5、iii)4~3およびiv)2~1。
d値は、3つの個々の測定値の平均として与えられる(標準偏差<0.4)。
e振盪実験により、2~3個の分析されたバイアルの平均値が示される。20mM His-HCl緩衝液の表面張力は73mN・m-1である。クラスii、iii、ivの結果を灰色でマークした。色が濃いほど、クラスが高くなり、ストレス試験の結果は悪くなる。
n.a.=未分析。
(
図13-2)
図13-1の説明を参照。
(
図13-3)
図13-1の説明を参照。
(
図14-1)mAb1のためのクラス「その他」の界面活性剤を含有する製剤の製剤属性。
a目に見える粒子は、i)0個の粒子、ii)1~5個の粒子、iii)6~10個の粒子、およびiv)10個を超える粒子の4つの群に分類される。
b濁度は、i)0~3NTU、ii)3超~6NTU、iii)6超~18NTU、およびiv)18超NTUの4つの群に分類される。
cカラーは、Ph.Eurのカラースケール値に従って、以下の4つのグループに分類される:2.2.2:i)9~7、ii)6~5、iii)4~3およびiv)2~1。
d値は、3つの個々の測定値の平均として与えられる(標準偏差<0.4)。
e振盪実験により、2~3個の分析されたバイアルの平均値が示される。20mM His-HCl緩衝液の表面張力は73mN・m-1である。クラスii、iii、ivの結果を灰色でマークした。色が濃いほど、クラスが高くなり、ストレス試験の結果は悪くなる。
n.a.=未分析。
(
図14-2)
図14-1の説明を参照。
(
図14-3)
図14-1の説明を参照。
(
図14-4)
図14-1の説明を参照。
(
図14-5)
図14-1の説明を参照。
(
図14-6)
図14-1の説明を参照。
(
図15-1)mAb2およびmAb3のための界面活性剤およびアシル系界面活性剤を含有しない製剤の製剤属性。
a可視粒子は、i)0個の粒子、ii)1~5個の粒子、iii)6~10個の粒子、およびiv)10個を超える粒子の4つの群に分類される。
b濁度は、i)0~3NTU、ii)3超~6NTU、iii)6超~18NTU、およびiv)18超NTUの4つの群に分類される。
cカラーは、Ph.Eurのカラースケール値に従って、以下の4つのグループに分類される:2.2.2:i)9~7、ii)6~5、iii)4~3およびiv)2~1。クラスii、iii、ivの結果を灰色でマークした。色が濃いほど、クラスが高くなり、ストレス試験の結果は悪くなる。
(
図15-2)
図15-1の説明を参照。
(
図16)mAb2およびmAb3のためのアルキル系界面活性剤を含有する製剤の製剤属性。
a可視粒子は、i)0個の粒子、ii)1~5個の粒子、iii)6~10個の粒子、およびiv)10個を超える粒子の4つの群に分類される。
b濁度は、i)0~3NTU、ii)3超~6NTU、iii)6超~18NTU、およびiv)18超NTUの4つの群に分類される。
cカラーは、Ph.Eurのカラースケール値に従って、以下の4つのグループに分類される:2.2.2:i)9~7、ii)6~5、iii)4~3およびiv)2~1。クラスii、iii、ivの結果を灰色でマークした。色が濃いほど、クラスが高くなり、ストレス試験の結果は悪くなる。
(
図17)mAb2およびmAb3のステロール系界面活性剤を含有する製剤の製剤属性。
a可視粒子は、i)0個の粒子、ii)1~5個の粒子、iii)6~10個の粒子、およびiv)10個を超える粒子の4つの群に分類される。
b濁度は、i)0~3NTU、ii)3超~6NTU、iii)6超~18NTU、およびiv)18超NTUの4つの群に分類される。
cカラーは、Ph.Eurのカラースケール値に従って、以下の4つのグループに分類される:2.2.2:i)9~7、ii)6~5、iii)4~3およびiv)2~1。クラスii、iii、ivの結果を灰色でマークした。色が濃いほど、クラスが高くなり、ストレス試験の結果は悪くなる。
(
図18-1)mAb2およびmAb3のためのクラス「その他」の界面活性剤を含有する製剤の製剤属性。
a可視粒子は、i)0個の粒子、ii)1~5個の粒子、iii)6~10個の粒子、およびiv)10個を超える粒子の4つの群に分類される。
b濁度は、i)0~3NTU、ii)3超~6NTU、iii)6超~18NTU、およびiv)18超NTUの4つの群に分類される。
cカラーは、Ph.Eurのカラースケール値に従って、以下の4つのグループに分類される:2.2.2:i)9~7、ii)6~5、iii)4~3およびiv)2~1。クラスii、iii、ivの結果を灰色でマークした。色が濃いほど、クラスが高くなり、ストレス試験の結果は悪くなる。
(
図18-2)
図18-1の説明を参照。
(
図18-3)
図18-1の説明を参照。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
非経口使用のために承認された界面活性剤は、以下の2つの構造的欠点を有する:(1)分子内のエステルリンカーは、目に見える遊離脂肪酸粒子の形成をもたらし得る宿主細胞タンパク質(HCP)による酵素分解を起こしやすくする、または(2)電荷が、おそらく電荷-電荷相互作用によってmAbの不安定化をもたらすと報告されている[56]。したがって、これらの構造的構成要素を試験するために2つのスクリーニング手段を調査した。これにより、潜在的な代替界面活性剤の迅速な特定が可能になり、多数の可能な候補の評価が容易になった。
【0010】
生物製剤市場は急速に成長しており、タンパク質、特に抗体の長期安定性を予測するためのスクリーニング手段の開発が重要になっている。タンパク質の安定性を予測するいくつかの生物物理学的特徴付け技術が知られている[47,48]。中でも、立体配座安定性の最大化は、治療用タンパク質のアンフォールディングおよび凝集を防止することによって長期の薬物製品品質を維持する高い影響を有すると考えられている。スクリーニング技術としては、DSC(示差走査熱量測定)またはnanoDSF(示差走査熱量測定)による等温化学変性(ICD)もしくは熱変性条件下での固有のタンパク質蛍光の測定が適用される[49]。pH、緩衝系および賦形剤組成物はタンパク質の固有の配座安定性に影響を及ぼし得るので、これらのスクリーニングは、初期製剤開発において行われることが多い[50]。
【0011】
第2の事前スクリーニング手段として、ナノDSF測定を調べた。治療関連界面活性剤濃度が1mg/mL以下では、ほとんどの試験された代替界面活性剤は、TonおよびTmのわずかな変化を示しただけであった。
【0012】
本発明者らは、酵素消化に対する様々な界面活性剤のエステル安定性を評価するための容易かつ迅速な方法を確立した。本発明者らは、界面活性剤は、おそらく酵素活性中心との立体干渉によって、その親油性骨格のサイズに応じて酵素分解の程度が異なることを見出した。
【0013】
さらに、本発明者らは、界面応力時だけでなく、長期保存中にもステロール系界面活性剤の構造活性関係を確立した。小さく柔軟な構造は、嵩高い界面活性剤と比較して、例えば振盪中の界面での高速変化時のタンパク質安定化においてより効果的であることが明らかになった。ポリマー界面活性剤:ポロキサマー、テトロニック、およびポリビニルアルコールについても、撹拌応力時に同様の基挙動が見られた。
【0014】
本発明は、驚くべきことに、界面活性剤TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEGおよびSLを、前記タンパク質を含む液体組成物中で確立されたPS20、PS80およびPx188と同等または優れたタンパク質安定化効果を示すことを特定したものである。
【0015】
したがって、一実施形態では、本発明は、タンパク質と、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEG、およびSLから選択される1種以上の界面活性剤とを含む、液体医薬組成物を提供する。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、タンパク質と、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEG、およびSLから選択される1種以上の界面活性剤とを含む水性医薬組成物を提供する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、タンパク質と、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15およびSLから選択される1種以上の界面活性剤とを含む水性医薬組成物を提供する。
【0018】
別の実施形態では、本発明は、タンパク質と、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407およびSLから選択される1種以上の界面活性剤とを含む水性医薬組成物を提供する。
【0019】
別の実施形態では、本発明は、タンパク質と、TMN-6および15-S-15から選択される1種以上の界面活性剤とを含む水性医薬組成物を提供する。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、タンパク質が薬学的活性成分である、前述の組成物のいずれかを提供する。一態様では、前記組成物は、処置を必要とする患者の疾患の処置に使用するためのものである。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、タンパク質が、抗体;またはイムノコンジュゲート;または抗体断片である、前述の組成物のいずれかを提供する。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、タンパク質が本明細書で定義される抗体産物のいずれかに含まれる抗体である、前述の組成物のいずれかを提供する。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、薬学的に許容され得る賦形剤または担体をさらに含む前述の組成物のいずれかを提供する。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、界面活性剤が1mg/mL未満の濃度、または0.001mg/mL~0.01mg/mL;もしくは0.01mg/mL~0.1mg/mL;もしくは0.1mg/mL~1.0mg/mLの濃度範囲で存在する、前述の組成物のいずれかを提供する。一実施形態では、本発明による界面活性剤は、1mg/mLの濃度のTPGSおよび/またはPVAである。別の実施形態では、本発明による界面活性剤は、1mg/mLまたは0.1mg/mLの濃度の15-S-15および/またはTMN-6である。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、タンパク質が、水性タンパク質または抗体製剤に適用可能であることが当業者に知られている任意の濃度で存在する、上述の組成物のいずれかを提供する。一実施形態では、特にタンパク質がヒト医薬品としての使用について承認された抗体である場合、抗体はそれらの承認された濃度のいずれかで存在する。前記承認された濃度に関する情報は、例えば、所定の薬物の添付文書または製品特性の要約(SmPC)で当業者は容易に入手可能である。別の実施形態では、タンパク質、特に抗体は、5~200mg/ml、または5~100mg/ml、または10~25mg/mlの濃度で本発明による組成物中に存在する。
【0026】
さらに別の実施形態では、本発明は、タンパク質をさらに含む液体医薬組成物の製造における、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEG、およびSLから選択される1種以上の界面活性剤の使用を提供する。
【0027】
さらに別の実施形態では、本発明は、タンパク質をさらに含む液体医薬組成物の製造における、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15およびSLから選択される1種以上の界面活性剤の使用を提供する。
【0028】
さらに別の実施形態では、本発明は、タンパク質をさらに含む液体医薬組成物の製造における、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407およびSLから選択される1種以上の界面活性剤の使用を提供する。
【0029】
さらに別の実施形態では、本発明は、タンパク質をさらに含む液体医薬組成物の製造におけるTMN-6および15-S-15から選択される1種以上の界面活性剤の使用を提供する。
【0030】
別の態様では、本発明は、本明細書で定義される抗体を含む水性医薬組成物の製造のための前述の使用のいずれかを提供する。一態様では、前記組成物は、抗体または多重特異性もしくは二重特異性抗体を有効成分として含む承認された医薬である。別の実施形態では、本発明は、タンパク質を安定化し、かつ、貯蔵時に前記タンパク質を含む液体医薬組成物中の可視粒子の形成を防止するための、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEG、およびSLから選択される1種以上の界面活性剤の使用を提供する。別の実施形態では、液体医薬組成物は、活性成分として1種以上のタンパク質を含む。
【0031】
さらに、別の実施形態では、本発明は、本明細書で前述した液体医薬組成物のいずれかで使用するための、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEG、およびSLから選択される1種以上の界面活性剤を提供する。一実施形態では、前記使用は、前記液体医薬組成物に含まれるタンパク質を安定化し、かつ、貯蔵時に前記組成物中の可視粒子の形成を防止することを意味する。
【0032】
さらに別の実施形態では、本発明は、市販の抗体製剤中のPS20、PS80またはポロキサマー188を置換するための、本明細書で定義される1種以上の界面活性剤、好ましくはTPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15および/またはSLを提供する。別の実施形態では、15-S-15を使用して、本明細書で定義される抗体を含む水性医薬組成物中のPS20、PS80またはポロキサマー188のいずれかを置き換え得る。別の実施形態では、TPGS、Px338、Px407、PVA、T1107、TMN-6およびSLを使用して、本明細書で定義される抗体を含む水性医薬組成物中のポロキサマー188を置き換え得る。
【0033】
さらに別の実施形態では、本発明は、医薬を製造するための、本明細書で定義される1種以上の界面活性剤の使用を提供する。一態様では、前記医薬は、その認可された用途のために界面活性剤による安定化を必要とする任意の活性成分を含む水性医薬製剤である。別の態様では、1種以上の界面活性剤は、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15およびSLから独立して選択される。
【0034】
さらに別の態様では、本発明は、本発明による界面活性剤を同定するための、本明細書に開示されるスクリーニング方法を単独でまたは組み合わせて提供する。一実施形態では、スクリーニング方法は、添付の実施例に開示されている通りである。
【0035】
本明細書において「mAb1」と称される抗体は、INNペルツズマブを有する抗体である。ペルツズマブは、例えば、商標名PERJETA(登録商標)で市販されている。ペルツズマブは、例えば、欧州特許第2238172号にも開示されている。したがって、一実施形態では、「ペルツズマブ」(または「Mab 2C4」は、それぞれ欧州特許第2238172号明細書に開示されているように、配列番号3および4の可変軽および可変重アミノ酸配列を含む抗体を指す。ペルツズマブがインタクトな抗体である場合、ペルツズマブは、欧州特許第2238172号に開示されているように、それぞれ配列番号15および16の軽鎖および重鎖アミノ酸配列を含む。
【0036】
本明細書において「mAb2」と称される抗体は、INNオビヌツズマブを有する抗体である。オビヌツズマブは、例えば、商品名GAZYVA(登録商標)/GAZYVARO(登録商標)で市販されている。オビヌツズマブの配列情報は、例えばWHOによって、推奨されるINNのリスト(List 65,WHO Drug Information,Vol.25,No1,2011)に公開されている。オビヌツズマブに関するさらなる情報は、例えば、国際公開第2005/044859号(B-HH6は重鎖構築物であり、B-KV1は軽鎖構築物である)においても入手可能である。配列情報については、国際公開第2005/044859号の表2および3も参照されたい。
【0037】
本明細書において「mAb3」と称される抗体は、臨床試験中の治験薬の二重特異性抗体断片である。
【0038】
本明細書で使用される場合、「界面活性剤」という用語は、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEG、およびSLを意味する。
【0039】
TPGSは、トコフェルソラン(D-α-トコフェロールポリエチレングリコールスクシネート)である。
【0040】
PVAはポリ(ビニルアルコール)4-88である。
【0041】
T1107は、Tetronic(登録商標)1107(エチレンジアミンテトラキス(プロポキシレート-ブロック-エトキシレート)テトロール)である。
【0042】
Px338は、Kolliphor(登録商標)P338(ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)である。
【0043】
Px407は、Kolliphor(登録商標)P407(ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)である。
【0044】
TMN-6は、Tergitol(商標)TMN-6(8EO単位を有する分岐した第二級アルコールエトキシレート)である。
【0045】
15-S-15は、Tergitol(商標)15-S-15(15EO単位を有する二級アルコールエトキシレート)である。
【0046】
Chol-PEGはmCholesterol-PEG2000であり、
【0047】
SLは、REWOFERMSLONE(ソフォロリピッドの水溶液(17-[2-O-(6-O-アセチル-ベータ-D-グルコピラノシル)-6-O-アセチル-ベータ-D-グルコピラノシルオキシ]-9-オクタデセン酸)ラクトン-および酸型)である。
【0048】
本明細書で使用される場合、「貯蔵」という用語は、当業者によって通常に適用される条件下で液体医薬製剤を維持することを意味する。一態様では、前記貯蔵は、最大6ヶ月、または12ヶ月、または18ヶ月、または24ヶ月、または30ヶ月の時間を含む。別の態様では、前記貯蔵は、前記液体医薬組成物を、規制当局によって承認されたその貯蔵寿命まで、そのような規制当局によっても承認された条件(例えば、温度)下で維持することを含む。一態様では、そのような貯蔵寿命および貯蔵条件は、例えば、承認されたタンパク質ベースの薬物に付随する添付文書に見出し得る。
【0049】
「液体医薬組成物」という用語は、好ましくは薬学的使用のための水性組成物、製剤または剤形を意味する。一実施形態では、前記液体医薬組成物は、治療用タンパク質の非経口適用のためのものである。別の実施形態では、本発明による液体医薬組成物は、薬学的に許容され得る賦形剤または担体と共に1種以上の治療用タンパク質を含む。このような賦形剤は、一般に当業者に公知である。一実施形態では、「賦形剤」という用語は、対象に対して非毒性である、活性成分以外の医薬組成物または製剤中の成分を指す。賦形剤としては、緩衝液、抗酸化剤を含む安定剤、または保存剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
「医薬組成物」という用語は、その中に含まれる活性成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、医薬組成物が投与される対象に対して許容できないほどに毒性である追加の成分を含まない調製物、製剤または剤形を指す。
【0051】
「薬学的に許容され得る担体」という用語は、対象に対して非毒性である、活性成分以外の医薬組成物または製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体には、本明細書で定義する添加物が含まれるが、これに限定されない。
【0052】
「緩衝液」という用語は、例えば医薬調製物の開発などの有機化学または薬学の当業者に周知である。本書で使用される緩衝液は、酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、アルギニン、ヒスチジン、リン酸塩、トリス、グリシン、アスパラギン酸塩、およびグルタミン酸塩緩衝系を意味する。さらに、この実施形態においては、前記緩衝液のヒスチジン濃度は5~50mMである。
【0053】
「安定剤」という用語は、例えば医薬調製物の開発などの有機化学または薬学の当業者に周知である。本発明による安定剤は、糖、糖アルコール、糖誘導体、またはアミノ酸からなる群から選択される。一態様では、安定剤は、(1)スクロース、トレハロース、シクロデキストリン、ソルビトール、マンニトール、グリシン、または/および(2)メチオニン、および/または(3)アルギニン、またはリジンである。さらに別の態様では、前記安定剤の濃度は、それぞれ、(1)500mMまで、または(2)5~25mM、または/および(3)350mMまでである。
【0054】
本書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、任意の治療上関連するポリペプチドを意味する。一実施態様では、タンパク質という用語は抗体を意味する。別の実施形態では、タンパク質という用語はイムノコンジュゲート意味する。
【0055】
本明細書における、「抗体」という用語は最も広い意味で用いられ、種々の抗体クラスもしくは構造を包含し、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片を含むが、これらに限定されない。一実施形態では、これらの抗体のいずれかは、ヒト抗体であり、またはヒト化されている。別の実施形態では、本発明による抗体は、ヒト抗体であり、またはヒト化されており、単一または二重特異性抗体、好ましくはIgGクラスのモノクローナル抗体である。前記抗体はまた、種々のIgGクラスからの構造要素の組み合わせを含み得るか、または例えば細胞溶解剤もしくは受容体リガンドなどの薬理活性を有する部分に結合され得る。別の態様では、抗体は、アレムツズマブ(LEMTRADA(登録商標))、アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標))、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、セツキシマブ(ERBITUX(登録商標))、パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標))、ペルツズマブ(PERJETA(登録商標)、2C4,Omnitarg社)、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))、トシツモマブ(Bexxar(登録商標))、アブシキシマブ(REOPRO(登録商標))、アダリムマブ(HUMIRA(登録商標))、アポリズマブ、アセリズマブ、アトリズマブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ(SIMULECT(登録商標))、バビツキシマブ、ベリムマブ(BENLYSTA(登録商標))ブリアンキヌマブ、カナキヌマブ(ILARIS(登録商標))、セデリズマブ、セルトリズマブペゴール(CIMZIA(登録商標))、シドフシツズマブ、シズツズマブ、シクスツムマブ、クラザキズマブ、クレネズマブ、ダクリズマブ(ZENAPAX(登録商標))、ダロツズマブ、デノスマブ(PROLIA(登録商標)、XGEVA(登録商標))、エクリズマブ(SOLIRIS(登録商標))、エファリズマブ、エプラツズマブ、エルリズマブ、エミシズマブ(HEMLIBRA(登録商標))、フェルビズマブ、フォントリズマブ、ゴリムマブ(SIMPONI(登録商標))、イピリムマブ、イムガツズマブ、インフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、ラベツズマブ、レブリキズマブ、レキサツムマブ、リンツズマブ、ルカツムマブ、ルリズマブペコール、ルムレツズマブ、マパツムマブ、マツズマブ、メポリズマブ、モガムリズマブ、モタビズマブ、モトビズマブ、ムロノマブ、ナタリズマブ(TYSABRI(登録商標))、ネシツムマブ(PORTRAZZA(登録商標))、ニモツズマブ(THERACIM(登録商標))、ノロビズマブ、ヌマビズマブ、オロキズマブ、オマリズマブ(XOLAIR(登録商標))、オナルツズマブ(MetMAbとしても知られる)、パリビズマブ(SYNAGIS(登録商標))、パスコリズマブ、ペクフシツズマブ、ペクツズマブ、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標))、ペキセリズマブ、プリリキシマブ、ラリビズマブ、ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))、レスリビズマブ、レスリズマブ、レシビズマブ、ロバツムマブ、ロンタリズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、サリルマブ、セクキヌマブ、セリバンツマブ、シファリムマブ、シブロツズマブ、シルツキシマブ(SYLVANT(登録商標))、シプリズマブ、ソンツズマブ、タドシズマブ、タリズマブ、テフィバズマブ、トシリズマブ(ACTEMRA(登録商標))、トラリズマブ、ツクシツズマブ、ウマビズマブ、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ(STELARA(登録商標))、ベドリズマブ(ENTYVIO(登録商標))、ビシリズマブ、ザノリムマブ、ザルツムマブ、オビヌツズマブ(GAZYVA(登録商標))から選択される「抗体産物」である。さらに別の実施形態では、抗体は、ペルツズマブまたはオビヌツズマブである。
【0056】
「抗体断片」とは、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFvおよびscFab);単一ドメイン抗体(dAb);ならびに、抗体断片から形成した多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。特定の抗体フラグメントの総説については、HolligerおよびHudson,Nature Biotechnology 23:1126-1136(2005)を参照されたい。
【0057】
抗体の「クラス」とは、その重鎖によって保有される定常ドメインまたは定常領域のタイプを指す。抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2にさらに分けられ得る。ある特定の態様では、抗体はIgG1アイソタイプのものである。特定の態様では、抗体は、Fc領域エフェクター機能を低下させるためP329G、L234AおよびL235A変異を有するIgG1アイソタイプのものである。他の態様では、抗体はIgG2アイソタイプのものである。ある特定の態様では、抗体は、IgG4抗体の安定性を改善するためにヒンジ領域にS228P変異を有するIgG4アイソタイプのものである。免役グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、a、d、e、g、およびmと呼ばれる。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのいずれかに割り当てられ得る。
【0058】
「ヒト抗体」とは、ヒトもしくはヒト細胞により産生される抗体、またはヒト抗体レパートリーもしくはヒト抗体をコードする配列を利用した非ヒト起源由来の抗体のアミノ酸に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特定的に除外する。
【0059】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトCDR由来のアミノ酸残基、およびヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。特定の態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの全てを実質的に含み、そのドメイン中ではCDRの全てまたは実質的に全てが非ヒト抗体のCDRに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト抗体のFRに対応することになる。ヒト化抗体は、必要に応じて、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」とは、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列において超可変性であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの領域、例えば「相補性決定領域」(CDR)のそれぞれを指す。一般に、抗体は6つのCDRを含み、3つがVHにあり(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)、3つがVLにある(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)。本明細書における例示的なCDRとしては、
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、および96~101(H3)で生じる超可変ループ(ChothiaおよびLesk、J.Mol.Biol.196:901~917(1987));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、および95~102(H3)で生じるCDR(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991));ならびに
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、および93~101(H3)で生じる抗原接触(MacCallumら、J.Mol.Biol.262:732~745(1996))。
【0061】
特に指示がない限り、CDRは、上記のKabatらに従い決定される。当業者は、CDRの表記は、上記Chothia、上記McCallum、または、任意の他の科学的に認可された命名システムに従い決定することができることを理解するであろう。
【0062】
「イムノコンジュゲート」とは、細胞傷害剤を含むがこれらに限定されない、1つ以上の異種分子に結合された抗体のことである。
【0063】
「個体」または「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えば、サル)、ウサギおよびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、個体または対象はヒトである。
【0064】
「単離」抗体は、その自然環境の構成成分から分離された抗体である。いくつかの態様では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換または逆相HPLC)法によって決定される場合、純度が95%または99%より高くなるまで精製される。抗体純度を評価する方法の総説については、例えば、Flatmanら、J.Chromatogr.B848:79~87(2007)を参照されたい。
【0065】
一態様では、本明細書で使用される場合、「貯蔵」または「安定性」に関連する「長期」という用語は、本明細書で定義される任意の市販の抗体製品の認可された貯蔵寿命の終わりまでを意味する。別の態様では、「長期」という用語は、一般に本明細書で定義される抗体について、5年まで、または3年まで、または24ヶ月まで、または18ヶ月まで、または12ヶ月まで、または6ヶ月まで、または3ヶ月までを意味する。「貯蔵」という用語は、抗体、特に本明細書で定義される認可された抗体産物のいずれかを貯蔵するために通常必要とされる、例えば温度および湿度などの条件を含む。そのような条件は当業者に周知である。そのような条件への言及は、例えば、本明細書で定義される抗体産物のうちの市販製品の添付文書または製品特性(SmPC)の要約に見出し得る。
【0066】
A.キメラ抗体およびヒト化抗体
ある特定の態様では、本明細書で提供される抗体はキメラ抗体である。ある特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号、およびMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851-6855(1984)に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはサル等の非ヒト霊長類に由来する可変領域)とヒト定常領域を含む。さらなる例では、キメラ抗体は、クラスまたはサブクラスが親抗体のそれらから変更されている「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0067】
特定の態様において、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、ヒトに対する免疫原性を低減する一方で、親非ヒト抗体の特異性および親和性は保持するようにヒト化される。通常、ヒト化抗体は、CDR(またはその一部)が非ヒト抗体に由来する1つ以上の可変ドメインを含み、FR(またはその一部)はヒト抗体配列に由来する。ヒト化抗体はまた、任意に、ヒト定常領域の少なくとも一部を含む。いくつかの態様では、ヒト化抗体中のいくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性または親和性を回復または改善するために、非ヒト抗体(例えば、CDR残基が由来する抗体)からの対応する残基で置換される。
【0068】
ヒト化抗体およびその作製方法は、例えば、AlmagroおよびFransson、Front.Biosci.13:1619-1633(2008)、ならびに例えば、Riechmannら、Nature 332:323-329(1988);Queenら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 86:10029-10033(1989);米国特許第5,821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321号、および同第7,087,409号;Kashmiriら、Methods 36:25~34(2005)(特異性決定領域(SDR)グリフトを記載);Padlan、Mol.Immunol.28:489~498(1991)(「リサーフェイシング」を記載);Dall’Acquaら、Methods 36:43-60(2005)(「FRシャッフリング」を記載);ならびにOsbournら、Methods 36:61-68(2005)およびKlimkaら、Br.J.Cancer、83:252-260(2000)(FRシャッフリングの「ガイドセレクション」アプローチを記載)にさらに記載されている。
【0069】
ヒト化のために使用され得るヒトフレームワーク領域としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:「ベストフィット」法を使用して選択されたフレームワーク領域(例えば、Simsら、J.Immunol.151:2296(1993)を参照);軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:4285(1992);およびPrestaら、J.Immunol.、151:2623(1993)を参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域またはヒト生殖細胞系フレームワーク領域(例えば、AlmagroおよびFransson、Front.Biosci.13:1619-1633(2008)を参照);およびFRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えば、Bacaら、J.Biol.Chem.272:10678-10684(1997)およびRosokら、J.Biol.Chem.271:22611-22618(1996)を参照)。
【0070】
B.ヒト抗体
ある特定の態様では、本明細書で提供される抗体はヒト抗体である。ヒト抗体は、当該技術分野で公知の様々な技法を使用して作製され得る。ヒト抗体は、一般に、van Dijkおよびvan de Winkel、Curr.Opin.Pharmacol.5:368-74(2001)およびLonberg、Curr.Opin.Immunol.20:450~459(2008)に記載されている。
【0071】
ヒト抗体は、抗原投与に応答して、インタクトなヒト抗体またはヒト可変領域を有するインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に免疫原を投与することによって調製することができる。このような動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座に取って代わるか、または染色体外に存在するか、もしくは動物の染色体にランダムに組み込まれるヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部分を含む。そのようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得る方法の総説については、Lonberg、Nat.Biotech.23:1117-1125(2005)を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載する、米国特許第6,075,181号および同第6,150,584号;HUMAB(登録商標)技術を記載する米国特許第5,770,429号;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載する米国特許第7,041,870号;ならびにVELOCIMOUSE(登録商標)技術を記載する米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。そのような動物によって生成されるインタクトな抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによってさらに改変されてもよい。
【0072】
ヒト抗体はまた、ハイブリドーマベースの方法によって作製し得る。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫およびマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株が記載されている。(例えば、Kozbor J.Immunol.、133:3001(1984);Brodeurら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、51~63頁(Marcel Dekker,Inc.、New York、1987);およびBoernerら、J.Immunol.、147:86(1991)を参照されたい)ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されるヒト抗体はまた、Liら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、103:3557-3562(2006)に記載されている。さらなる方法には、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載)およびNi、Xiandai Mianyixue、26(4):265-268(2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)に記載されるものが含まれる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、VollmersおよびBrandlein、Histology and Histopathology、20(3):927-937(2005)ならびにVollmersおよびBrandlein、Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology、27(3):185-91(2005)に記載されている。
【0073】
ヒト抗体はまた、ヒト由来のファージ・ディスプレイ・ライブラリから選択される可変ドメイン配列を単離することによって生成し得る。その後、そのような可変ドメイン配列は、所望のヒト定常ドメインと組み合わせられ得る。抗体ライブラリからヒト抗体を選択するための技術を以下に記載する。
【0074】
C.抗体誘導体
ある特定の態様では、本書で提供される抗体は、当技術分野で公知であり容易に入手可能なさらなる非タンパク質性部分を含むように、さらに改変され得る。抗体の誘導体化に適した部位としては、水溶性ポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、およびデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、およびこれらの混合物が挙げられる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のため、製造時に有利であり得る。ポリマーは、任意の分子量であってもよく、分岐していても、分岐していなくてもよい。抗体に付着しているポリマーの数は様々であり、複数のポリマーが付着している場合には、それらは同じ分子であっても、異なった分子であってもよい。一般に、誘導体化のために使用されるポリマーの数および/または種類は、限定するものではないが、改良される抗体の特定の特性または機能、抗体誘導体が定義される条件下で治療に使用されるかどうか等を含む考慮事項に基づいて決定することができる。
【0075】
D.イムノコンジュゲート
本発明はまた、細胞傷害性薬剤、化学療法剤、薬物、成長阻害剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物、もしくは動物起源の酵素活性毒素、またはそれらの断片)、または放射性同位体などの1つ以上の治療剤にコンジュゲート(化学的に結合)された本明細書の抗体を含む、イムノコンジュゲートを提供する。
【0076】
一態様において、イムノコンジュゲートは、前述の治療薬の1つ以上に抗体が結合した、抗体薬物複合体(ADC)である。抗体は典型的には、一以上の治療薬に、リンカーを使用して接続される。治療剤および薬物およびリンカーの例を含む、ADC技術の概観は、Pharmacol Review 68:3~19(2016)に記載されている。
【0077】
別の態様では、イムノコンジュゲートは、本明細書に記載されるように、酵素活性毒素またはこれらの断片に結合する抗体を含む。これらは以下に限定されるわけではないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、エキソトキシンA鎖(緑膿菌からのもの)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、シナアブラギリのタンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウのタンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、ツルレイシ阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン(enomycin)、ならびにトリコテセンを含む。
【0078】
別の態様では、イムノコンジュゲートは、放射性原子にコンジュゲートされ、放射性コンジュゲートを形成する、本書に記載される抗体を含む。放射性コンジュゲートの生成には、様々な放射性同位体が利用可能である。例としては、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212、およびLuの放射性同位体が挙げられる。放射性物質が検出のために使用される場合、それは、シンチグラフィ研究のための放射性原子、例えばtc99mまたはI123、または核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR)イメージング(別名、磁気共鳴イメージング、MRI)のためのスピンラベル、例えば再びヨウ素123、ヨウ素131、インジウム111、フッ素19、炭素13、窒素15、酸素17、ガドリニウム、マンガンまたは鉄を含んでいてもよい。
【0079】
抗体と細胞毒性剤とのコンジュゲートは、例えば、各種の二官能性タンパク質カップリング剤を用いて作製することができる:N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジピミデートHCl等)、活性エステル(スベリン酸ジスクシンイミジル等)、アルデヒド(グルタルアルデヒド等)、ビスアジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン等)、ジイソシアネート(トルエン2,6-ジイソシアネート等)、および二活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン等)。例えば、リシンイムノトキシンは、Vitettaら,Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製し得る。炭素14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)は、抗体にラジヌクレオチドを共役させるための例示的なキレート剤である。国際公開第94/11026号を参照のこと。リンカーは、細胞内での細胞傷害性薬物の放出を促進する「開裂性リンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカー(Chariら、Cancer Res.52:127-~131(1992);米国特許第5,208,020号)が使用されてもよい。
【0080】
本明細書におけるイムノコンジュゲートまたはADCは、限定されないが、市販(例:米国イリノイ州ロックフォードのPierce Biotechnology社から)されている、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCCおよびスルホ-SMPB、ならびにSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)を含むがこれらに限定されない架橋試薬を用いて調製されたコンジュゲートを明確に意図している。
【0081】
E.多重特異性抗体
ある特定の態様では、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体である。「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる部位、すなわち、異なる抗原上の異なるエピトープまたは同じ抗原上の異なるエピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある特定の態様では、多重特異性抗体は3つ以上の結合特異性を有する。多重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製することができる。
【0082】
多重特異性抗体を作製するための技法としては、限定されないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組換え共発現(MilsteinおよびCuello、Nature 305:537(1983)を参照)および「ノブ・イン・ホール」操作(例えば、米国特許第5,731,168号およびAtwellら,J.Mol.Biol.270:26(1997)を参照)が挙げられる。多重特異性抗体はまた、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果の操作(例えば、国際公開第2009/089004号を参照);2つ以上の抗体または断片の架橋(例えば、米国特許第4,676,980号、およびBrennanら,Science,229:81(1985)を参照);ロイシンジッパーを使用した二重特異性抗体の産生(例えば、Kostelnyら,J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)および国際公開第2011/034605号を参照);軽鎖のミスペアリング問題を回避するための、一般的な軽鎖技術の使用(例えば国際公開第98/50431号を参照);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術の使用(例えば、Hollingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)を参照);および一本鎖Fv(sFv)二量体の使用(例えば、Gruberら,J.Immunol.,152:5368(1994)を参照);および例えばTuttら.J.Immunol.147:60(1991)に記載されている三重特異性抗体の調製によって作製し得る。
【0083】
例えば、「オクトパス抗体」を含め、3つ以上の抗原結合部位を有する操作抗体、またはDVD-Igもまたここに含まれる(例えば、国際公開第2001/77342号および国際公開第2008/024715号を参照されたい)。3つ以上の抗原結合部位を有する多重特異性抗体の他の例は、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号、および国際公開第2013/026831号に見出すことができる。二重特異性抗体またはその抗原結合断片はまた、2つの異なる抗原または同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合する抗原結合部位を含む「二重作用性(Dual Acting)FAb」または「DAF」を含む(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号および国際公開第2015/095539号を参照されたい)。
【0084】
多重特異性抗体はまた、同じ抗原特異性の1つ以上の結合アームにドメインクロスオーバーを持つ非対称の形態で、すなわちVH/VLドメイン(例えば、国際公開第2009/080252号および国際公開第2015/150447号を参照)、CH1/CLドメイン(国際公開第2009/080253号を参照)または完全なFabアーム(国際公開第2009/080251号、国際公開第2016/016299号を参照、Schaeferら,PNAS,108(2011)1187-1191、およびKleinら,MAbs 8(2016)1010-20)も参照)を交換することによってもたらされ得る。一態様では、多重特異性抗体はクロスFab断片を含む。「クロスFab断片」または「xFab断片」または「クロスオーバーFab断片」との用語は、重鎖および軽鎖の可変領域または定常領域のいずれかが交換されたFab断片を指す。クロスFab断片は、軽鎖可変領域(VL)と重鎖定常領域1(CH1)とで構成されるポリペプチド鎖、および重鎖可変領域(VH)と軽鎖定常領域(CL)とで構成されるポリペプチド鎖を含む。非対称Fabアームは、荷電または非荷電アミノ酸変異をドメインインターフェースに導入して正しいFabペアリングを指示することによって操作し得る。例えば、国際公開第2016/172485を参照のこと。
【0085】
多重特異性抗体の様々なさらなる分子フォーマットが当技術分野で公知であり、本明細書に含まれる(例えば、Spiessら,Mol Immunol 67(2015)95-106を参照)。
【0086】
F.組換え方法および組成物
抗体は、例えば米国特許第4816567号に記載されているような組換え方法および組成物を用いて製造することができる。これらの方法のために、抗体をコードする1つ以上の単離された核酸が提供される。
【0087】
天然抗体または天然抗体断片の場合、2つの核酸が必要であり、1つは軽鎖またはその断片用で、もう1つは重鎖またはその断片用である。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖(一または複数))をコードする。これらの核酸は、同じ発現ベクター上、または異なる発現ベクター上にあってもよい。
【0088】
4つの核酸が必要とされるヘテロ二量体の重鎖を有する二重特異性抗体の場合、1つは第1の軽鎖のため、1つは第1のヘテロモノマーFc領域ポリペプチドを含む第1の重鎖のため、1つは第2の軽鎖のため、および1つは第2のヘテロモノマーFc領域ポリペプチドを含む第2の重鎖のためのものである。4つの核酸は、1つ以上の核酸分子または発現ベクターの中に含まれ得る。このような核酸は、第1のVLを含むアミノ酸配列および/または第1のヘテロモノマーFc領域を含む第1のVHを含むアミノ酸配列および/または第2のVLを含むアミノ酸配列および/または抗体の第2のヘテロモノマーFc領域を含む第2のVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の第1および/もしくは第2の軽鎖ならびに/または第1および/もしくは第2の重鎖)をコードする。これらの核酸は、同じ発現ベクター上または異なる発現ベクター上にあってもよく、通常、これらの核酸は、2つまたは3つの発現ベクター上に位置しており、すなわち、1つのベクターは、これらの核酸のうち、2つ以上を含んでいてもよい。これらの二重特異性抗体の例は、クロス(Cross)Mabである(例えば、Schaefer,W.ら、PNAS、108(2011)11187~1191を参照されたい)。例えば、EUインデックスナンバリングによれば、ヘテロモノマー重鎖の一方はいわゆる「ノブ変異」(T366Wおよび場合によりS354CまたはY349Cの一方)を含み、他方はいわゆる「ホール変異」(T366S、L368AおよびY407Vならびに場合によりY349CまたはS354C)(例えば、Carter,P.ら、Immunotechnol.2(1996)73を参照されたい)を含む。
【0089】
抗体の組換え産生に関しては、例えば、上述の抗体をコードする核酸が単離され、さらなるクローニングおよび/または宿主細胞内での発現のために、一または複数のベクターに挿入される。このような核酸は、容易に単離することができ、一般的な手順を用いて(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定し得る。
【0090】
抗体コード化ベクターのクローニングまたは発現のための適切な宿主細胞としては、本明細書に記載される原核細胞または真核細胞が挙げられる。例えば、抗体は、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要でない場合には、細菌中で生成されうる。細菌中での抗体断片およびポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、米国特許第5,789,199号、および米国特許第5,840,523号を参照されたい。Charlton,K.A.,In:Methods in Molecular Biology,Vol.248,Lo,B.K.C.(編),Humana Press,Totowa,NJ(2003),pp.245-254,describing expression of antibody fragments in E.coliも参照されたい)発現の後、抗体を、可溶性画分において細菌細胞のペーストから単離して、さらに精製し得る。
【0091】
原核生物に加えて、グリコシル化経路が「ヒト化」されていて、部分的または完全なヒトのグリコシル化パターンを有する抗体の産生をもたらす、真菌株および酵母株を含めた糸状菌類または酵母などの有用真核微生物も、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング宿主または発現宿主である。Gerngross,T.U.、Nat.Biotech.22(2004)1409-1414;およびLi,H.ら、Nat.Biotech.24(2006)210-215を参照されたい。
【0092】
(グリコシル化)抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物および脊椎動物)からも得られる。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞および昆虫細胞が挙げられる。多くのバキュロウイルス株が同定されており、特に、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために、これを昆虫細胞と組み合わせて使用してもよい。
【0093】
植物細胞培養物も、宿主として利用し得る。例えば、米国特許第5,959,177号、米国特許第6,040,498号、米国特許第6,420,548号、米国特許第7,125,978号および米国特許第6,417,429号(トランスジェニック植物において抗体を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載している)を参照。
【0094】
脊椎動物細胞も、宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)によって形質転換されたサル腎臓CV1株、ヒト胚腎臓株(例えばGraham,F.L.ら,J.Gen Virol.36(1977)59-74に記載されるような293細胞または293T細胞、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えば、Mather,J.P.,Biol.Reprod.23(1980)243-252に記載されるようなTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリサル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト頸部癌腫細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、マウス乳房腫瘍(MMT 060562)、TRI細胞(例えば、Mather,J.P.et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383(1982)44-68に記載)、MRC5細胞およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR-CHO細胞(Urlaub,G.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77(1980)4216~4220)を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;ならびに骨髄腫細胞株、例えば、Y0、NS0およびSp2/0が挙げられる。抗体産生に適したある特定の哺乳動物宿主細胞株の総説については、例えば、Yazaki,P.およびWu,A.M.、Methods in Molecular Biology、第248巻、Lo,B.K.C.(編)、Humana Press、Totowa、NJ(2004)、255~268頁を参照されたい。
【0095】
ここで、本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0096】
材料および方法
材料
PCL(シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)由来のリパーゼ)およびCALB(コウジカビ(Aspergillusoryzae)由来の組換え体であるリパーゼBカンジダ・アンタルクティカ(Candida antarctica)は、Sigma Aldrich(シュタインハイム、ドイツ)から購入した。使用したモデルIgG1モノクローナル抗体は、F.Hoffmann-La Roche(スイスバーゼル)から提供され、pH 7.0の240mMスクロース(Pfantiehl Inc.(米国イリノイ州))を含む20mM His-HCl緩衝液(味の素株式会社、東京、日本)中25mg/mL(mAb1)、pH6.0の240mMスクロースを含む17mM His-HCl緩衝液中25mg/mL(mAb2)およびpH6.0の240mMスクロースを含む10mM His-HCl緩衝液中10mg/mL(mAb3)でそれぞれ製剤化した。
【0097】
スクリーニングされた界面活性剤は、Kolliphor(登録商標)HS15(HS15、BASF、ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)、Kolliphor(登録商標)RH40(RH40、BASF、ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)、ポリソルベート20(PS20;Croda International、スネイス、英国)、ポリソルベート80HX2(PS 80;日油株式会社、東京、日本)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)(mPEG-DSPE;Avanti Polar Lipids、アラバスター、アラバマ州)、Rewoferm(登録商標)SL ONE(SL;Evonik Industries、エッセン、ドイツ)、Kolliphor(登録商標)CS20(CS20;BASF(ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ))、Tergitol(商標)15-S-15(15-S-15;Sigma Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)、Tergitol(商標)TMN-6(TMN-6;Sigma Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)、Ecosurf(商標)EH-9(EH-9;Sigma Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)、ノナノイル-N-メチルグルカミド(MEGA-9;Sigma Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)およびデカノイル-N-ヒドロキシエチルグルカミド(HEGA-10;Anatrace、マウミー、オハイオ州)、デオキシコール酸ナトリウム(NaDC;Sigma Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)、グリココール酸ナトリウム水和物(NaGC;Sigma Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)、Chobimalt/コレステロール-β-D-マルトピラノシル-(1→6)-β-D-マルトピラノシド(Chobi;Anatrace、マウミー、オハイオ)、mコレステロール-PEG2000(Chol-PEG;Nanocs Inc、ニューヨーク)、デオキシ-BigCHAP(DBC;Toronto Research Chemicals,ノースヨーク、カナダ)、α-トコフェリル-ポリエチレングリコール-1000-スクシネート(TPGS,Toronto Research Chemicals,ノースヨーク、カナダ);Kolliphor(登録商標)P188(Px188;BASF、ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)、Kolliphor(登録商標)P338(Px338;BASF、ルートヴィヒスハーフェンス、ドイツ)、Kolliphor(登録商標)P407(Px407;BASF、ルートヴィヒスハーフェンス、ドイツ)、Tetronic(登録商標)1107(T1107;BASF、ルートヴィヒスハーフェンス、ドイツ)、またはポリビニルアルコール4-88(PVA;Merck KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)により供給される。
【0098】
メタノール(MeOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)および酢酸アンモニウムなどの他の全ての試薬は分析グレードのものであり、ダルムシュタット、メルクのMerck KGa KGaから入手した。
【0099】
方法
酵素エステル加水分解に対する界面活性剤安定性の測定
0.4mg/mLの各界面活性剤を、20mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)中、合計0.25または0.5mg/mLのPCLおよびCALBの1:1リパーゼ混合物と共に室温で6時間インキュベートした。両者ともカルボキシルエステルヒドロラーゼの群に属し、PS20を加水分解し得るバイオプロセスからの重要な不純物として以前に報告されている[51]。酵素分解がないかまたは無視できる酵素分解の場合、NaOHを使用した化学エステル加水分解を陽性対照として実施した。このために、界面活性剤を0.1mmolのNaOHと共に室温で6時間インキュベートした。
【0100】
界面活性剤の分解に続いて、圧力25psiおよびドリフトチューブ温度95℃でキャリアガスとして窒素を使用するWaters2424蒸発光散乱検出器(ELSD)(米国ミルフォード州ウォーターズ)を備えたWaters Alliance 2695装置を使用した逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を行った。Phenomenex Luna(登録商標)C18(2)100Å(150×4.6mm、5μm)カラム(Phenomenex、Torrence、米国)を固定相として使用した。界面活性剤の分析は、0.7ml/分の一定流量、25μlの注入体積、5℃のサンプル温度、および35℃のカラム温度で、表1に示すプログラムを用いた二成分勾配溶出を用いて行った。溶離液Aは2%酢酸水溶液、溶離液BはMeOH中2%酢酸からなっていた。
【0101】
【0102】
典型的なクロマトグラムを
図2に示す。文献に報告されているように、ピークは親水性/非エステル化画分(1)ならびに親油性のエステル化画分(2)に分類された[52~54]。Empower(登録商標)3ソフトウェアを用いてデータ処理を行った。種々の界面活性剤をより適切に比較するために、界面活性剤の分解度を正規化されたエステル主ピーク面積として報告し、分解前の初期エステル主ピーク面積を100%に設定した。結果は、0.15以下の標準偏差を有する3つの個々の測定値の平均として与えられる。
【0103】
界面活性剤の存在下での熱配座タンパク質安定性の評価
Prometheus NT.Plex(NanoTemper Technologies GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を用いて、タンパク質のコンフォメーション安定性を調べた。この装置により、少量の溶液を使用することによって、芳香族トリプトファンおよびチロシン残基からの固有のタンパク質蛍光の変化の無標識蛍光分析が可能になる。熱により誘導されるタンパク質アンフォールディングを、5%のレーザー出力で330nmおよび350nmにおける発光シフトを検出することによってモニタリングした。nanoDSFグレードの標準的なキャピラリーチップ(NanoTemper Technologies、ミュンヘン、ドイツ)を、0.01、0.1、1または10mg/mLの特定の界面活性剤のいずれかと配合された25mg/mLのmAbを含有する10μLの新たに調製した(t0)製剤で満たした。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、電荷がおそらく電荷担体相互作用によってタンパク質の不安定化をもたらすことが報告されているので、陽性対照とした[55~57]。サンプルを、0.5℃/分の一定の加熱勾配で25℃から95℃まで加熱した。PR.StabilityAnalysisソフトウェア(NanoTemper Technologies、ミュンヘン、ドイツ)は、融解曲線の開始(Ton)および第1の転移点(Tm1)温度を自動的に計算した。報告されたデータは、3つの個々の測定値の平均値である。
【0104】
界面活性剤の存在下での機械的ストレスおよび熱安定性後のタンパク質安定性の評価
0.1および1mg/mLの界面活性剤を用いて、材料の項に記載のモデルmAbの配合物中で界面活性剤性能スクリーニングを行った。配合後、液体サンプルを0.22μmのMillex Sterivex(商標)GV(Millipore,Bedford,USA)フィルタユニットを通して無菌的にフィルタにかけ、6mLのタイプ1ガラスバイアルに充填し、Φ20mmテフロン(登録商標)コーティング血清ストッパ(大京精工株式会社、東京、日本)により栓を閉じた。栓を閉じたバイアルを、アルミニウムキャップ(Infochroma AG、ゴールダウ,スイス)を使用してクリンプした。対応するプラセボ製剤を同じように調製し、製剤化し、それぞれの対照として使用した。
【0105】
mAbの安定性に対する界面活性剤の効果を評価するために、製剤を撹拌および様々な凍結融解サイクルのような様々な界面応力条件に曝露した。バイアルを水平に置き、5℃および25℃で遮光した状態で7日間、200rpmの一定速度で振盪機(HS 260 Control Model;IKA Werke GmbH&Co.KG;シュタウフェン、ドイツ)内で振盪応力を行った。凍結融解(F/T)ストレスは、バイアルを-20℃での凍結および5℃での融解の5回の連続サイクルに曝露することによって行った。
【0106】
液体タンパク質製剤を5℃で最大24ヶ月(mo)、25℃/60%相対湿度(rH)で6ヶ月間および40℃/75%rHで12週間保存することによって、熱安定性データを生成した。サンプルを、初期時点(t0)ならびに1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後、18ヶ月後および24ヶ月後に、以下に記載される分析方法を用いて分析した。
【0107】
可視粒子(E/P)
強化目視検査は、Seidenader V 90-T機(Seidenader Maschinenbau GmbH、Markt シュヴァーベン、ドイツ)を使用して前述のように実施した[58]。粒子の数を以下の4つのクラスに分類した:クラス(I)は0個の粒子に相当し、クラス(II)は1~5個の粒子に相当し、クラス(III)は6~10個の粒子に相当し、クラス(IV)は10個を超える粒子に相当する。
【0108】
濁度(乳濁度および透明度)
濁度は、StablCal(登録商標)較正キット(Hach Lange GmbH)で較正された2100 AN濁度計(Hach Lange GmbH、デュッセルドルフ、ドイツ)を用い、文献に以前に記載されているように、Ph.Eur.2.2.1に従って測定した。結果を、比濁法濁度単位(NTU)として示した[58,59]。
【0109】
比色
溶液の比色は、LICO 690比色計(Hach Lange GmbH)によって評価した分類は、Ph.Eur2.2.2に記載のカラースケールに従って行った[60]。ここで示すデータは、Ph.Eur2.2.2のカラースケール値による色の変化の程度を示す。クラス(I)は、9、8、7、または無色のカラースケール値に相当する;クラス(II)は、6または5のカラースケール値に相当する;クラス(III)は4または3のカラースケール値に相当する;クラス(IV)は2または1のカラースケール値に相当する。
【0110】
光の不明瞭さ
顕微鏡可視粒子(SVP)の計数は、HIAC 9703+液体粒子計数システム(Skan AG、アルシュヴィル、スイス)およびPharmSpec 3(Hach Lange GmbH)ソフトウェアを使用して光遮蔽によって測定した。適用された測定技術は、Ph.Eur2.9.19[61]およびUSP<787>[62]に記載された方法から適合させた。システムをサンプル溶液ですすいだ後、サンプル体積0.2mLで4回実行した。最後の累積粒子数は、最後の3つの測定値から平均±SD(標準偏差)を計算することによって得た。2、5、10および25μm以上のSVPを測定し、溶液1mL当たりの累積数として示した。
【0111】
サイズ排除高速クロマトグラフィー(SE-HPLC)
可溶性mAb凝集体の検出は、以下、高分子量体(HMWS)、モノマーおよび低分子量体(LMWs)と呼ばれ、SE-HPLCで分析した。利用したシステムは、2487UV検出器を備えたAlliance 2695 HPLC装置(両方とも、Waters Corporation、ミルフォード、マサチューセッツ州)を有していた。オートサンプラー温度を5℃に設定し、システムに合計100μgのmAbを負荷した。TSKG 3000 SWXL、7.8×300mmカラム(Tosoh Bioscience,シュトゥットガルト,ドイツ)を用い、オーブン温度25℃、移動相200mM K2HPO4/KH2PO4および250mM KCl pH7.0、流速0.5mL/分で分離を行った。信号検出を280nmの波長で実行し、Empower 3 Chromatography Data Systemソフトウェア(Waters Corporation、ミルフォード、マサチューセッツ州)を使用してピーク面積パーセントを計算した。
【0112】
イオン交換高速液体クロマトグラフィー(IE-HPLC)
mAbの電荷の不均一性を、2489UV検出器を備えたAlliance e 2695 HPLC装置(両方とも、Waters Corporation、ミルフォード、マサチューセッツ州)を使用するIE-HPLCによって評価した。mAbをカルボキシペプチダーゼで消化し、50μgを4×250mm ProPac(商標)WCX-10(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、米国マサチューセッツ州)に1.0mL/分の流速で、34℃のカラム温度を用いて注入した。mAb断片の溶出は、イオン強度が増加する溶媒(移動相A:20mM MES,1mM Na-EDTA/移動相B:250mM NaCl,20mM MES,1mM Na-EDTA,pH6.0)を用いて行った。信号検出を280nmの波長で行い、Empower 3 Chromatography Data Systemソフトウェア(Waters Corporation、ミルフォード、マサチューセッツ州)をデータ処理に使用した。主ピークの減少は、貯蔵時間に対する総ピーク面積(面積%)の百分率として報告した。
【0113】
表面張力測定
表面張力の測定は、Amreinら[63]によって記載された方法に従って液体処理ステーションによって行った。簡単に説明すると、測定は、液滴質量とサンプルの表面張力との間の相関関係に依存する。この研究のために、完全に自動化された液体処理ステーションFreedom 384 EVO 200(Tecan、クライルスハイム、ドイツ)は分析天秤(Mettler Toledo、コロンバス、米国)を装備していた。システムは、密閉された1mLの丸底LoBind(登録商標)Deepwell Plate(Eppendorf、ハンブルグ、ドイツ)から100μL・s-1でサンプルを吸引するステンレス固定チップを含む。分析天秤に取り付けた第2の丸底ディープウェルプレート96/500μL(Eppendorf、ハンブルグ、ドイツ)にサンプルを3μL・s-1で分注した。Matlab R2017b(MathWorks、ナティック、米国)に記載された完全自動化ルーチンを使用して、重量を連続的に記録した。水の表面張力(72.6mN/m)を計算の基準として使用した。サンプルの3つの個々の測定値(t0)の平均を表面張力として報告する。
【0114】
バックグラウンド膜イメージング(BMI)による、顕微鏡可視粒子(SVP)の計数
顕微鏡可視粒子(SVP)のカウントを、タンパク質の第2のセット、mAb2およびmAb3について、Horizon機器(HaloLabs、フィラデルフィア、ペンシルベニア州)でBMIによって測定した。システムは、画像化のためのサンプルを受け入れる0.4μmの孔径を有するポリカーボネート製の96ウェル膜フィルタプレート(Halo Labs)で動作する。層流下で、メンブレンフィルタープレートの各ウェルに50μLの注射用水を添加し、プレートを350mbarで真空引きし、ウェルをバックグラウンド情報のために測定した。続いて、40μlのサンプルを上記プレートの各ウェルに移し、350mbarで真空引きし、50μLの注射用水で洗浄し、350mbarで再び真空引きした。最終的にウェルを測定し、Horizon Vueソフトウェアで画像分析を行った。粒子のカウントは、3回の測定の平均およびフィルタプレートの被覆率の最大6.4%として報告される。
【0115】
実施例1:
1.)酵素エステル加水分解に対する界面活性剤安定性の測定
少量の共精製された宿主細胞タンパク質によるポリソルベート加水分解は、長期のタンパク質製剤安定性にとって大きな課題であるので、0.25および0.5mg/mLの2つのモデルリパーゼ、PCLおよびCALBの存在下でエステル安定性を試験するためのアッセイを開発した。
図2は、酵素消化前(実線)および酵素消化後(破線)のPS20の代表的なクロマトグラムを示す。
【0116】
【0117】
消化前、親水性画分は7~8分の間のより低い保持時間で溶出し(表2)、以下の順序で平均ポリエチレンオキシドサブユニットのサイズが増加するにつれて増加する:HS15(15PEO単位)<PS20(20PEO単位)<TPGS(23PEO単位)<RH40(40PEO単位)<Chol-PEG(45PEO単位)。画分(1)のより広いピーク形状は、PEO部分のポリマー特性および異なるポリマー鎖の関連するサイズ分布によって説明され得る。エステル化の程度(モノ-、ジ-および部分的にトリ-およびテトラ-エステルの存在)による化学的により不均一な組成PS20、HS15およびRH40のために、親油性部分画分(2)は複数の後続ピークとして溶出したが、TPGSおよびChol-PEGについては1つのピークのみが得られた(データは示さず)[24]。後者の2種の界面活性剤については、以前の親油性が化学的により均質であると思われる。
【0118】
リパーゼ混合物とインキュベーションした後、PS20について得られたクロマトグラムは、親水性画分の増加(1)および親油性画分の完全な喪失(2)(
図2破線)を示し、これは全てのエステル結合が開裂したことを明確に示す。
図3は、0.25および0.5mg/mLのリパーゼ混合物を用いた酵素加水分解による界面活性剤分解の程度を示す。PS20、HS15およびRH40については、強い酵素的加水分解が観察された(>95%)。試験した2つのリパーゼ濃度間で分解度の差は観察されなかった。対照的に、TPGSおよびChol-PEGについては、試験した両方のリパーゼ混合物についてごくわずかな酵素的加水分解が示された(<0.3%)。この試験の「偽陽性」の結果を除外するために、0.1mmolのNaOHを用いた化学加水分解を行った。これらの条件下で、Chol-PEGのエステル結合は完全に加水分解され(100%)、これは画分(2)の消失によって示されたが、TPGSは部分的にしか加水分解されなかった(画分(2)の68%が残っていた)。
【0119】
データにより、HS15およびRH40界面活性剤が実験中にPS20と同程度の分解をもたらしたことが示された。ポリソルベートの酵素的エステル加水分解は、タンパク質製剤内の主要な課題であるため、PS20と同等の分解を伴う界面活性剤がその後の研究で使用された。
【0120】
界面活性剤の存在下での熱配座タンパク質安定性の評価
立体配座安定性の最大化は、治療用タンパク質のアンフォールディングおよび凝集を防止することによって、長期の製剤品質および/または安定性を増加させることが報告されている。ハイスループットおよび低体積スクリーニング技術は、DSC(示差走査熱量測定)または等温化学変性(ICD)もしくは熱変性条件下でnanoDSF(示差走査熱量測定)によって固有のタンパク質蛍光を測定するものである[49]。タンパク質の立体配座安定性に対する界面活性剤の悪影響を排除するために、熱DSF測定を行った。CH2、CH3およびFabを含むmAbのマルチドメイン構造の特徴的な立体配座は、それらの結合能および治療有効性にとって重要である。mAbの場合、特定のドメインの独立した段階的なアンフォールディングが推定され、一般にCH2が最も安定性が低く、FabおよびCH3が続くと推定される[48]。
【0121】
アンフォールディングの開始温度(T
on)および最初の融解転移(T
m1)である安定性を示すパラメータを、0.01mg/mL~10mg/mL(
図4参照)の範囲の濃度の界面活性剤の存在下でモデルmAbについて測定した。界面活性剤を添加していないmAbの値(T
on=61.5±0.3、T
m1=77.7±0.1)を基準とし、データをヒートマップとして提示した:色が濃いほど、界面活性剤の存在によるそれぞれの温度の低下が強い。一般に、試験した条件の大部分は、治療に関連する界面活性剤濃度内でmAbの立体配座安定性に有意な効果を示さなかった。
【0122】
予想通り、SDSは、界面活性剤を含まない参照配合物と比較して、濃度依存的な不安定化効果を示した。濃度が高いほど、TonおよびTm1の減少は両者で大きくなる。タンパク質の立体構造安定性の強力な不安定化剤であることが知られているSDSを陽性対照として使用した[55~57]。SDSと同様に、NaDC、NaGCおよびmPEG-DSPEのような負電荷を有する界面活性剤について、既に0.1およびmg/mLのより低い濃度で、熱配座安定性の大きな低下が観察された。しかしながら、T1107のような正に荷電した分子については、立体配座安定性パラメータは影響を受けないままであった。8.7の等電点(pI)を有するモデルmAbは、pH7.0の選択された配合条件で全体的に正の正味電荷を有するので、mAbと負に帯電した界面活性剤との間の電荷-電荷相互作用が、観察された、帯電した界面活性剤の異なる挙動をもたらすと仮定し得る。別の興味深い知見は、1mg/mL以上(ChobiおよびTPGS)および10mg/mL(Chol-PEG)の濃度の非イオン性ステロール系(Chol-PEGおよびChobi)またはビタミンE系(TPGS)界面活性剤を添加すると、Tonがわずかな上昇することであった。界面活性剤ストック溶液を測定し、かなりの蛍光シグナルを示さなかったので、蛍光シグナルの干渉の可能性は除外された。したがって、これらの界面活性剤がmAbの天然状態をわずかなに安定化させる効果がある可能性がより高い。対照的に、DBCはまた、非イオン性ステロール系界面活性剤も、Ton(1および10mg/mL)およびTm1(10mg/mL)わずかに減少した。この現象は、以下のようなステロール基修飾またはグルカミド官能基の存在のいずれかにおいて異なる構造特性によって説明され得る:(i)DBCは、ステロール構造の3位に遊離ヒドロキシル基を含有し(NaDCおよびNaGCと同様)、一方、Chol-PEGおよびChobiは、この位置に立体的により大きな官能基を保持し、(ii)DBSは、ステロール構造の20位に立体的に大きな親水性グルコンアミド官能化を含有し、一方、ChobiおよびChol-PEGについては、この位置の元の疎水性コレステロール構造は変化しないままであった。後者は、親水性部分としてのグルコナミド官能化を共通して有するDBC、MEGA-9およびHEGA-10を比較すると、Ton(1および10mg/mL)およびTm1(10mg/mL)に対する同程度の不安定化効果によって裏付けられると思われる。
【0123】
開環型の糖構造および閉環型の糖構造を含む全ての界面活性剤の影響を比較すると、DBC、MEGA-9およびHEGA-10、ならびにSLについて、高濃度でのmAbの立体配座安定性に対する不安定化効果が明らかになったが、Chobiは、開環型糖立体配座および閉環型糖立体配座との間に関係は示されなかった。
【0124】
アルコールエトキシレートの比較により、試験した全ての濃度でCS20の立体配座不安定化効果がないことが明らかになった。Tonのわずかな減少(1および10mg/mL)が以下の順序で観察された:15-S-15=EH-9<TMN-6、一方、Tm1は全て10mg/mLで同様の減少を示した。観察された違いは、構造的観点から以下のように説明され得る:(i)直鎖(CS20)対分枝アルコールエトキシレート(15-S-15,EH-9,TMN-6)、それぞれ、第一級対第二級アルコールエトキシレート、または(ii)平均PEOサブユニットの数の減少(CS20(20~24PEOサブユニット)>15-S-15(15PEOサブユニット)>EH-9(9PEOサブユニット)>TMN-6(6PEOサブユニット)。しかしながら、CS20は、医薬品グレードの品質で利用可能であった唯一のアルコールエトキシレートであり、したがって、3つの他の分子と比較して純度がより高いことが想定され得る。遊離アルキル残基のような残留不純物もまた、ポリソルベートについて周知の現象である配座不安定化効果をもたらす可能性がある。
【0125】
スクリーニングされた界面活性剤のサブセット(立体配座安定性に影響を示すいくつかを含む)を次のスクリーニングに取り込み、長期試験中だけでなく機械的および熱的ストレス後のmAbの安定性に対する影響を評価した。このハイスループットスクリーニング(HTS)の予測特性を明らかにするために、潜在的に性能を有する界面活性剤のいくつか:mPEG-DSPE、SLおよびDBCを以下の界面活性剤の性能スクリーニングにさらに含めた。
【0126】
実施例2:別の界面活性剤性能スクリーニング
1.界面活性剤の存在下での機械的ストレスおよび熱安定性後のタンパク質安定性の評価
mAbの安定性に対する機械的/界面応力の影響を、撹拌および凍結融解研究を行って試験した。さらに、配合物の熱安定性を試験した。可視粒子(VP)、色および濁度などの試験された属性について収集されたデータを4つのカテゴリに分類し、ヒートマップとして提示することを可能にした。多くのVP、強い色の変化または高い濁度のようなより好ましくない属性を有する製剤は、より高いクラスに分類され、種々の灰色の強度でマークされた(より暗い強度はパラメータのより強い変化に等しい)。
【0127】
試験した界面活性剤レベルを0.1および1mg/mLで一定に保った。読みやすくするために、界面活性剤を、疎水性部分に基づいて、以下の4つのサブグループに分類した:(i)アシル系、(ii)アルキル系、(iii)ステロール系、および(iv)その他。界面活性剤を含まない(
図11参照)、PS20(
図11参照)またはPx188(
図14参照)のいずれかを含有する配合物を、代替界面活性剤の性能を評価するための指針として使用した。
【0128】
アシル基
アシルを有する群では、mPEG-DSPEは、プラセボ製剤では見られなかった多くのVPおよび高い濁度値で著しく不良な結果を示した。この現象は主に1mg/mL製剤で認められたため、その理由は、mAbの立体配座安定性を低下させる既に記載された電荷-電荷相互作用である可能性がある(
図4)。さらに、mPEG-DSPEは、ステロール系界面活性剤に見られるような比較的高いDSTを有する。mPEG-DSPEは、臨界ミセル濃度が低く(CMC:1×10
-6M)、比較的小さい柔軟な構造を有するので、これらの知見は予想外であった。理論に束縛されるものではないが、説明は、mPEG-DSPEおよびmAbの電荷-電荷相互作用であり得、界面に存在する界面活性剤分子の量が少なく、拡散性が低く、見かけの分子量が高くなることが考えられる。さらに、mPEG-DSPEミセルの緩やかな分解も関与し、界面安定性特性の低下をもたらし得る。一方、SLは、ほとんどの試験中により良好な結果を示し、VP、濁度およびDSTに関しての結果(
図11)はPS20と同等であった。SLは、おそらく振盪時に1mg/mLでかなり安定性が向上しており、ここでは、10%を超えるHMWSの変化は、より低い界面活性剤濃度でかなり増加した(
図6)。予備スクリーニングでは、SLおよびmPEG-DSPEはいずれも、より高い濃度で立体配座不安定化効果を示したが、より低い濃度では効果がないか、またはわずかな効果しか示さなかった(
図4および
図5)。予備スクリーニングからの所見を予測尺度として検証するために、熱ストレス試験の結果と比較した。mPEG-DSPEの場合、結果はこれらの所見を支持するようである。この界面活性剤については、0.1mg/mLではなく1mg/mLの製剤のみが、SVPが大幅に増加し、濁度が増加した。
【0129】
PS20を含む対照製剤では、可視粒子が少量見られた。両方の濃度であるが、特に0.1mg/mLのPS20は、全ての印加応力中に良好な安定化効果を示した。一方、Px188製剤は、ほとんどのストレス試験において、特に低い界面活性剤濃度での振盪中に多くの大きなタンパク質粒子を含有していた。両化合物の動的表面張力(DST)を比較すると、1mg/mLで顕著な差が観察されたが、より低い界面活性剤濃度では観察されなかった(
図11)。
【0130】
アルキル基
特に高濃度でより多量のVPおよび濁度を有するアルキル系界面活性剤では、別の群の現象が見られた(
図12)。これらの粒子はプラセボ製剤でもしばしば観察され、大量の2μ以上のSVPを有するEH-9製剤で顕著に認められた(
図7)。不溶性不純物が存在する可能性があり、この群のVPを説明し得るが、さらなる調査は行わなかった。例外はCS20であり、医薬品グレードで利用可能なこの群の唯一の界面活性剤であった。ここで、試験した両方の濃度は、初期時点で可視粒子がなかった。15-S-15についても同様の知見が得られた。1mg/mLのCS20製剤は、VPおよび濁度の増加を伴う高温条件で分解が増加した(
図12)。さらに、SVP(
図7)およびHMWS(
図6D)の増加が観察された。分解理論は、1H-NMR測定によって裏付けられた(データは示さず)。TMN-6は良好に機能し、ストレス試験または長期保存中にタンパク質の品質属性に実質的な影響を示さなかった。より高い(1mg/mL)製剤について濁度の増加が観察された。他の界面活性剤群と比較して、アルキル系化合物は、界面での高い充填密度をもたらすこれらの界面活性剤の柔軟な構造によって説明され得る最も低いDSTを示した。それにもかかわらず、溶解度の問題により、ストレス試験の結果を解釈することが困難となり、潜在的な不純物およびそれらの影響を特定するためにさらなる調査が必要である。したがって、代替界面活性剤としてのこれらの分子の性能評価が容易になるであろう。要約すると、15-S-15およびTMN-6は全て、適用された界面応力および熱応力後に許容可能な品質を示し(特に0.1mg/mL製剤について)、場合によってはPS20よりもわずかに優れていた。
【0131】
ステロール基
興味深いことに、ほとんどのステロール系界面活性剤は、安定化効果を示さなかったか、または安定化効果は無視できる程度であった。振盪ストレス後、これらの製剤は、比較的多量のVP、高い濁度、およびChobiの場合には色の強い変化さえ示した。不溶性不純物が存在する可能性があり、この群のVPを説明し得るが、さらなる調査は行わなかった。振盪時の最も強い粒子形成は、Chobiで見られた。この製剤は、界面活性剤を含まない製剤と同様の挙動を示すことさえある。さらに、両配合物の動的表面張力は約73mN/mと同程度であった。DSTは、界面活性剤が界面内の凝集力をどれだけ効果的に乱し得るか、界面における変化、例えば振盪中の変化にどれだけ強く適応し得るかを記述している。Chobiおよび対照製剤の両製剤の高いDSTは、界面でのタンパク質安定化効果が少ないことを示し、振盪研究の結果を再び説明し得る。界面活性剤を含まないChobi製剤および対照製剤の両方についてのF/T研究でも、界面での欠損安定化効果が見られる。一般に、ほとんどの界面活性剤では、凍結融解応力に対して少量のVPで良好な安定化効果が示された。データから、より高いDST値についてVPの増加に伴うDSTと振盪試験の結果との間のいくらかの相関関係があることが示唆された。界面活性剤/不純物の溶解度または界面活性剤-タンパク質相互作用などの他の要因もVP形成に影響を及ぼし得るので、さらなる調査が必要である。Chobiの他に、Chol-PEGおよびDBCも、特に撹拌後に粒子が形成され、比較的高いDST値を示した。しかしながら、Chol-PEGは、全ての試験条件、特により高い1mg/mL製剤条件で良好なタンパク質品質属性(すなわち、HMWSおよびIE-HPLC主ピークの損失)をもたらした。振盪ストレス試験後に肉眼で見える粒子が観察されたが、試験条件は実際に観察されたよりもはるかに厳しく、結果はPx188対照に匹敵した。さらに、1mg/mLのDBCを用いた装置は、最初に多くの粒子を示し(
図13)、プラセボ製剤では溶解性の問題を示した。VPにもかかわらず、10μmを超えるSVP(
図5)および可溶性凝集体(
図6)は、特に25℃で実施した場合、振盪後に増加した。さらに、ChobiおよびDBCは、USP<787>基準である容器あたり10μm以上の粒子が最大6,000個を超えた。一方、F/Tおよび熱応力は、HMWSまたはSVPに著しい増加を示さなかった。
【0132】
ステロール系界面活性剤に関する以前の研究では、界面で好ましい立体配座を形成するために剛性で嵩高いステロール環構造が長期間適合していることが報告された。界面活性剤の配向は、剛直な骨格を有するより大きな界面活性剤ではより複雑であり、したがって、平衡表面張力に達するまでの時間が長い(2時間超)ことが報告された[64,65]。このデータは、本発明者らの振盪実験の結果を裏付けている。ステロール系界面活性剤は、例えば振盪中に、界面での変化に迅速に反応しないことがある。
【0133】
その他
この群には、ポリマー界面活性剤、ポロキサマー、ポロキサミンおよびポリビニルアルコールならびにトコフェロール系化合物TPGSが含まれる。この群内の全ての製剤は、より高い界面活性剤濃度でより低い量のVPおよび濁度値を示した(
図14)。1mg/mL製剤をストレス振盪すると、SVP(
図5)および可溶性凝集体(
図6)がかなり少なくなった。興味深いことに、Px188について最も強い粒子形成が見られた。データでは、界面応力からmAbを保護する能力に対するポロキサマーおよびポロキサミンのHLBの依存性が示唆されている。HLBが27超と比較的高いPx188およびPx338と比較して、Px407(HLB:22)およびT1107(HLB:18-23)のストレス試験の結果は、既に0.1mg/mLの濃度で、かなり良好であった。化合物のHLBおよび分子量が異なるため、動的表面張力がわずかに異なることが予想された。しかしながら、市販のサンプルは、DST測定の結果を説明し得る平均的な分子量およびHLBを有する分子混合物の不均一な組成物である。一般に、この群の界面活性剤のDSTは比較的高く、特に低い界面活性剤濃度では安定化効果が低いことを説明し得る。モル比(mAb:界面活性剤)をPS20参照配合物と比較すると、ポリマー界面活性剤は、0.1mg/mLの濃度でそれぞれ約1:0.004(mol/mol)であり、1:0.04(mol/mol)の約10倍低いモル比を有することに留意すべきである。これらの知見はまた、振盪時の安定化効果が低いことを説明し得る。
【0134】
むしろ予想外であったのは、1mg/mLのTPGSを含む製剤の品質が良好であったことである。ビタミンE系界面活性剤TPGSはまた、ステロール系界面活性剤と同様の剛直な環構造を有するが、アルキル鎖がさらに結合している。さらに、ステロール系界面活性剤について既に見られた両方の濃度についてほぼ一定であったかなり高いDSTも示した。したがって、振盪応力後の同等の結果が予想されたが、興味深いことに、1mg/mLのTPGSがVP、SVPおよびHMWSに関して非常に良好に機能した。DSTの測定は、振盪時の粒子形成の傾向についての信頼できる予測を常に与えるとは限らないと思われ、さらなる調査が必要である。
【0135】
要約すると、1mg/mLのSL、T1107、Px338、およびPx407を含む製剤は、全ての適用された応力および貯蔵条件に対して許容される品質であった。さらに、この濃度では、PVAおよびTPGSを含む製剤は、優れた製品品質で非常に良好な安定化効果を示した。約60mN/mのDSTは比較的高かったが、これらの化合物は有望な代替界面活性剤候補である。15-S-15およびTMN-6は、より低い界面活性剤濃度(0.1mg/mL)で、全ての印加応力および貯蔵条件で許容可能な品質を示した。
【0136】
2.)長期タンパク質安定性
長期保存条件下では、タンパク質の安定性に対する潜在的な悪影響は除外されるべきであった。したがって、製剤の安定性を、肉眼で見える粒子および顕微鏡可視粒子の形成、色および濁度の変化ならびにモノマー含有量(
図11-14)に関して、5℃および25℃で6ヶ月間の貯蔵について評価した。
【0137】
界面活性剤を含まない製剤を参照としてさらに使用し、代替の界面活性剤製剤を、悪影響を及ぼさないことが知られている確立された界面活性剤PS20およびPx188と比較した。界面活性剤を含まない参照配合物は、両温度で6ヶ月間貯蔵した後に多量のVPを示した。さらに、25℃での貯蔵における10μm以上のSVP含有量は、初期と比較してわずかに増加した。PS20についても同様の結果が見られた。ここで、VPの形成は、特に高濃度および高温で観察されたが、SVP量は増加しなかった(
図11)。Px188の濃度が0.1mg/mLであるストレス試験製剤の結果とは対照的に、長期保存では、全ての分析中に両温度で良好な安定性を示した。Grapentinらは、長期保存時の液体mAbバイアル製剤中のPS20およびPx188の同等の安定化結果を示した[66]。
【0138】
3種全ての参照配合物は、色、濁度およびモノマー含有量の変化を示さなかった(
図11および
図12)。しかし、ほとんどの製剤は、これらの試験中に大きな変化を示さなかったことに留意する必要がある。光遮蔽によって測定された、顕微鏡可視粒子の数は、一般に低レベルであり、報告された値は、薬局方USP<787>およびPh.Eur2.9.19.に従って許容される最大数よりも有意に低い。SVPレベルのわずかな増加が、前述の熱分解によって説明され得る高温でのCS20配合物について観察された。SVPに加えて、より高い濁度およびSE-HPLCによるモノマー含有量の減少が観察された(
図8)。さらに、CS20製剤のIE-HPLCにより、高いストレス温度条件でPS20およびPx188を有する参照製剤と比較して、主ピーク面積が減少することが明らかになった(
図9)。これは、CS20分解産物によってmAbの分解が開始したことが示唆され得る。
【0139】
高濃度のアルキル界面活性剤TMN-6およびEH-9についても濁度の増加が観察された。事前に記載された現象は、潜在的な不純物または界面活性剤自体の溶解度の問題に起因する可能性がある。それらの小さく柔軟な構造のために、これらの界面活性剤の界面応力に対する良好な性能を想定し得るが、PS20について既に記載されているように酸化分解のより強い傾向も想定し得る[25,26]。残念ながら、特に高濃度での溶解度の問題は、粒子の観点から性能の解釈を困難にする。
【0140】
本研究では、長期安定性と立体配座安定性との間の相関を確認し得なかった。mPEG-DSPEおよびSL製剤のVP量は両方の濃度で高かったが、mPEG-DSPEではなくSLのみが、より高い濃度でモノマー含有量のわずかな減少を示した(
図8)。構造安定性がわずかに低下した第三の界面活性剤であるDBCを含む処方の評価も、高い濃度で溶解性に問題が生じるため、非常に重要であった。要約すると、本発明者らの場合の事前スクリーニング(
図4)で観察されたT
onのわずかな変化は、これまでのところタンパク質安定性に対する予測特性を有していない。
【0141】
一般に、「その他」の群の界面活性剤は、VPおよびSVPが低く、高いモノマー含有量での長期保存時に良好な結果を示した。例外は、両濃度で高温でVP形成が観察されたが5℃では観察されなかったPVA配合物である。2~8℃の周囲貯蔵温度での代替界面活性剤としてのPVAの性能について記述するために、さらなる時点を分析する必要がある。
【0142】
界面応力試験の結果とは対照的に、特に低濃度での長期保存時のステロール系界面活性剤の安定化特性は非常に良好であった。この界面活性剤群は、界面に吸着するのにより多くの時間を必要とし、したがって、振盪中に存在する速い界面変化時にタンパク質を同様に保護できないか、または十分に安定化するためにより高い濃度を必要とすると思われる。しかしながら、界面活性剤が界面に吸着するのに十分な時間を有する場合、界面活性剤はその安定化効果を発現し得る。それにもかかわらず、製剤(DP)は輸送中に機械的応力にさらされるため、試験されたステロール系界面活性剤のほとんどは、確立された界面活性剤PS20およびPx188の代替物として適切ではない。
【0143】
3)機械的ストレスおよび熱安定性後の界面活性剤選択の存在下でのmAb2およびmAb3のタンパク質安定性の評価
本発明者らはさらに、タンパク質製剤を安定化させる効率に関して、選択された一連の界面活性剤(PS20、PS80、SL、15-S-15、TMN-6、Chol-PEG、Px188、Px338、Px407、T1107、PVAおよびTPGS)について検討する。それぞれ25mg/mLおよび10mg/mLの濃度の2種の異なるmAb(2および3)の存在下での低レベルの0.1mg/mL界面活性剤を試験した。PS20(
図15)およびPx188(
図18)界面活性剤に対して、PS80を添加して、一補足対照を含めた。この補足試験は、機械的および熱的ストレス下での2つの他のmAbの安定性に対する第1のスクリーニング(すなわち、本明細書におけるmAb1について)からの有望な界面活性剤候補のプラスの効果を確認するために設定された。条件は前述のものと同一であり、5℃および25℃で7日間200rpmで振盪し、-20℃~5℃の5回の凍結/解凍サイクルを行い、5℃、25℃および40℃で4週間保存する。
【0144】
PS20およびPS80は、特にmAb3の場合、振盪およびF/Tなどの機械的ストレス条件においてタンパク質を十分に保護するが、PS20製剤の高温での4週間の貯蔵は、mAb2の場合、多数の肉眼で見えない粒子を生じる(
図15)。
【0145】
アルキル界面活性剤群、特に15-S-15では、HCPによる分解のリスクがより低いmAb2およびmAb3について、これらの機械的ストレス条件で良好な保護作用を示す(
図16)。15-S-15は、既知のより低い立体配座タンパク質安定性を有する二重特異性抗体断片を含む3種の異なるmAb(mAb3)について、ポリソルベートPS20およびPS80ならびにPx188と比較して同等または優れたタンパク質保護作用を示し得た。これらの知見により、15-S-15は代替界面活性剤として非常に有望な候補ことがわかった。アルキルクラスから試験した別の界面活性剤であるTMN-6は、mAb2に対して良好な保護作用を示したが、mAb3の機械的および熱的ストレス後に多くのVPが観察された。
【0146】
PS20およびPS80と比較して、界面活性剤SL、PVA、ポロキサマーPx338およびPx407、T1107およびTPGSは振盪条件下で同様に機能しなかったが、Px188と比較して、mAb2の保護作用は、より少ないVP、特に25℃でより良好であった(
図15および
図18)。mAb3の場合、これらの界面活性剤およびPx188との間のVPカウントの差は観察されず、それらが全てかなり高いカウントを示した。しかし、これらの界面活性剤とmAb3を4週間以上保存した場合のVP数は、Px188と比較して全般的に低い。Chol-PEGの場合、Px188と比較して優れた保護作用を示す上記の傾向は観察されなかった(
図17)。SVPの傾向はわずかに異なり、mAb3配合物がいくつかの界面活性剤間、特に振盪条件でSVP数に劇的な差を有する場合、全ての界面活性剤およびmAb2配合物は同じ範囲にある。さらに、振盪条件におけるmAb3について、本発明者らは、PVA、Px407、T1107およびTPGSがPx188よりも低いカウントを示し、TPGSがPS20およびPS80に近い範囲でさえあることを観察する(
図15および
図18)。
【0147】
可溶性mAb凝集体に関して、条件および界面活性剤の大部分は、mAb2については同じ量のHMWSを示し、mAb3については大きな違いが示されたのは2つのみであった。mAb3についての40°Cでの貯蔵は、Chol-PEG、Px338、Px407、T1107、PVAおよびTPGSがポリソルベートよりもHMWSが少なく(
図17および
図18)、SLは、mAb3について全体的に最も低いHMWS量を有する可溶性凝集体に対して驚くべき効果を有するが、依然として高いSVPカウントが存在することを示す(
図15)。
【0148】
界面活性剤候補、タンパク質および条件のこの選択からの一般的な結果として、15-S-15は、広範囲の製剤および試験した全てのmAbにおいてPS20、PS80およびPx188と同等であるか、優れているので、最も効率的な界面活性剤の1つとして同定し得る。TPGS、Px338、Px407、PVA、T1107、TMN-6およびSLは、機械的ストレスの間、ポリソルベートと比較して、特にmAb3と比較して保護作用は低かったが、性能はPx188と同等またはそれより良好であった。さらに、界面活性剤Px338、Px407、PVA、T1107およびTPGSを、mAb2およびmAb3について、mAb1についての最初のスクリーニングで見られる理想的な範囲よりも低い界面活性剤濃度で試験したが、それでもなお、Px188よりも良好な保護作用を示した。15-S-15およびTMN-6の場合、mAb1に見られる理想的な濃度範囲は、両方の界面活性剤がそれらの全体的な保護作用を保持しているmAb2およびmAb3の試験にも使用された。最初の試験(すなわち、mAb1)からのChol-PEGの陽性性能は、mAb2およびmAb3では確認されなかった。実際、この第2の試験において、mAb2およびmAb3の保護作用は、ほとんどの条件においてPx188と比較して低かった(
図17)。
【0149】
要約すると、本発明は、例えば
図1に示すような界面活性剤クラスまたはサブグループ全体に基づいて、タンパク質製剤の安定性に対する正の効果を特定しなかった。驚くべきことに、TPGS、PVA、T1107、Px338、Px407、TMN-6、15-S-15、Chol-PEGおよびSLを用いて、本発明は、確立されたPS20、PS80およびPx188よりも同等または優れたタンパク質安定化効果を示す9種の界面活性剤を同定した。特に、1mg/mLのTPGSおよびPVAは、界面および熱ストレス条件の両方において、少量のVP、SVPおよびHMWSで非常に良好な安定化特性を示した。しかし、従来の界面活性剤Px188と比較して、1mg/mLのPx338、Px407、T1107、Chol-PEGおよびSLを含有する製剤も、ほとんどの印加応力および安定性中に、より少ない量のVPおよびSVPで優れた安定化効果を示した。SL製剤は、高温での長期貯蔵後にモノマー含有量のわずかな減少を示したが、意図された貯蔵条件が2~8°Cであるので、これらの界面活性剤はPS20およびPx188の潜在的な代替物と考えられる。15-S-15およびTMN-6製剤の場合、PS20に匹敵する良好なタンパク質安定化特性を提供するには、さらに低い界面活性剤濃度で十分であった。また、mAb2およびmAb3の存在下でも、0.1mg/mLの15-S-15のより低い濃度は、全ての界面活性剤の最良の安定化特性を提供し、PS20およびPS80を超えている。TPGS、PVA、Px338、Px407、TMN-6、SL、T1107はPx188よりも良好または同等である。
【0150】
【国際調査報告】