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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】濾過媒体
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/18 20060101AFI20230724BHJP
   D21H 17/23 20060101ALI20230724BHJP
   D21H 27/08 20060101ALI20230724BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20230724BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20230724BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20230724BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
B01D39/18
D21H17/23
D21H27/08
B01D39/16 A
A61L9/00 Z
A61L9/01 K
A61L9/01 B
A61L9/16 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501168
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2021068881
(87)【国際公開番号】W WO2022008614
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】20184605.2
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518147286
【氏名又は名称】アールストローム オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポロッシ、マルセロ
【テーマコード(参考)】
4C180
4D019
4L055
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180AA16
4C180AA17
4C180BB08
4C180BB09
4C180CC01
4C180CC17
4C180DD09
4C180EA14X
4C180EA65X
4C180EB21X
4C180EB30Y
4D019AA01
4D019AA03
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB03
4D019BB05
4D019BB10
4D019BC10
4D019BC11
4D019BC13
4D019BD01
4D019CA02
4D019DA01
4L055AA02
4L055AA03
4L055AA05
4L055AF09
4L055AF10
4L055AF13
4L055AG34
4L055AG43
4L055AG79
4L055AH50
4L055BE10
4L055EA04
4L055EA25
4L055EA30
4L055EA31
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA22
4L055FA30
4L055GA31
(57)【要約】
本開示は、リグニンを含む樹脂組成物を含浸させた繊維質ウェブを含む濾過媒体に関する。繊維質ウェブは、繊維質ウェブの0.1~30重量%の量でリグニンを含み、リグニンは、1.2g/cm未満の密度、又は20,000g/mol未満の重量平均分子量を有する。本開示は、さらに、濾過媒体の製造方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンを含む樹脂組成物を含浸させた繊維質ウェブを含む濾過媒体であって、
繊維質ウェブは、繊維質ウェブの0.1~30重量%の量でリグニンを含み、
リグニンは、1.2g/cm未満の密度、又は20,000g/mol未満の重量平均分子量を有する、
濾過媒体。
【請求項2】
前記リグニンが、7未満、好ましくは3~5、最も好ましくは4~4.5のpHを有する、請求項1に記載の濾過媒体。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、15mPa・s未満の動的粘度を有する、請求項1又は2に記載の濾過媒体。
【請求項4】
前記リグニンが、1g/cm未満、好ましくは0.20g/cm~0.75g/cm、より好ましくは0.25g/cm~0.45g/cmの密度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の濾過媒体。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、少なくとも1つの第一級若しくは第二級アミン官能基を有するか又はポリアミンであるホルムアルデヒド捕捉剤を、さらに含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の濾過媒体。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、リグニンとフェノール樹脂を、好ましくはリグニン:フェノール樹脂の重量比1:1から1:9、好ましくは1:1から1:4、より好ましくは1:2で含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の濾過媒体。
【請求項7】
前記樹脂組成物を10重量%~50重量%含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の濾過媒体。
【請求項8】
繊維質ウェブにリグニン含有樹脂組成物を含浸させる工程、及び含浸させた繊維質ウェブを硬化させる工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の濾過媒体の製造方法。
【請求項9】
前記繊維質ウェブが、繊維の総重量に基づいて少なくとも95重量%のセルロース繊維を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の濾過媒体、又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記繊維質ウェブが、繊維の総重量に基づいて少なくとも95重量%の合成繊維を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の濾過媒体、又は請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記繊維質ウェブが、セルロース繊維と合成繊維の混合物を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の濾過媒体、又は請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記合成繊維が、繊維の総重量の50重量%まで、好ましくは10重量%~30重量%の量で繊維質ウェブ中に存在する、請求項11に記載の濾過媒体又は方法。
【請求項13】
前記セルロース繊維が、針葉樹繊維、広葉樹繊維、植物繊維及び再生セルロース繊維の1つ以上から選択される、請求項1~7及び9~12のいずれか1項に記載の濾過媒体、又は請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記濾過媒体が、油濾過媒体、空気濾過媒体、燃料濾過媒体、油圧濾過媒体、産業用濾過媒体、誘電性流体濾過媒体、及び水濾過媒体を含む群から選択される、請求項1~7及び9~13のいずれか一項に記載の濾過媒体、又は請求項8~13のいずれか一項に記載の方法、
【請求項15】
前記空気濾過媒体が、重量のあるパネルフィルター又はデューティーエアパネルフィルターで使用される、請求項14に記載の濾過媒体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過媒体に関し、より詳細には、自動車用途、産業用途及び家庭用途において流体を濾過するために使用され得るような樹脂含浸濾過媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途、産業用途及び家庭用途で使用される濾過媒体は、一般に、繊維質基材(紙など)に、例えば、フェノール-ホルムアルデヒド(レゾール若しくはノボラック、又はノボラックとレゾールのブレンド)樹脂又はラテックス樹脂などの化学バインダーを含浸させることによって形成される。この樹脂は、基材に、構造的な剛性と、濾過中に加圧及び加熱された流体にさらされたときに発生する可能性のある引き裂き又は破裂に対する耐性とを提供する。樹脂を含浸させた後、基材を熱硬化させて樹脂を架橋し、存在し得る余分な溶媒を除去する。次いで、基材をプリーツ加工し、切断し、折り畳んで所望の形状にすることができる。折り畳まれた基材は、追加の支持エレメントを用いて最終形状に組み立てることができ、この最終形状は、いくつかの用途では円筒形(例えば、自動車エンジン用の油フィルター及び燃料フィルター)であってもよく、他の用途ではパネルの形状(例えば、エアコンフィルター)であってもよい。組み立てられた基材は、それを所定の位置に固定するために、さらなる熱処理に供することができる。
【0003】
上記のプロセスで使用される従来のレゾール樹脂は、ビスフェノール-Aとフェノール及びホルムアルデヒドとの塩基-触媒反応で合成される。上記のプロセスで使用される従来のノボラック樹脂は、クレゾール(メチルフェノール)の酸触媒反応で合成される。これらの樹脂は、耐水性、耐油性、耐薬品性という望ましい特性を備えており、高温で安定しているため、自動車の濾過用途での使用に特に適している。しかし、これらの樹脂の欠点は、有毒なフェノール及びホルムアルデヒドガスを放出しやすいことである。これにより、暴露された人の健康に悪影響を及ぼす可能性があり、環境に悪影響を与える可能性がある。
【0004】
従来のフェノール-ホルムアルデヒド樹脂のさらなる欠点は、それらの出発物質が典型的には、再生不可能な炭化水素源から得られることであり、それらを生産するために大量の試薬、溶媒、エネルギー、及び製造投入物を必要とすることである。その結果、それらは環境的にも経済的にもコストがかかる。
【0005】
純粋なフェノール-ホルムアルデヒド樹脂を使用する代替案の1つは、Vinsol(登録商標)樹脂と組み合わせることである。Vinsol(登録商標)樹脂は、松材由来の熱可塑性リグニン系樹脂材料である。米国特許第5656733号、米国特許第5683497号、及び米国特許第5702521号に開示されているように、高分子量フェノール化合物、ロジン酸、中性物質及びいくつかの微量成分の複雑な混合物で構成されている。
【0006】
米国特許第3294582号は、自動車用途で使用するための濾紙エレメントを製造するプロセスを開示している。この濾紙には、熱硬化性レゾール型フェノールホルムアルデヒド樹脂、水、レゾルシノール、及びVinsol(登録商標)樹脂の混合物から本質的になる樹脂ワニスが含浸されている。米国特許第3294582号は、Vinsol(登録商標)樹脂が好ましくはフェノール-ホルムアルデヒド樹脂固形分の約25重量部~100重量部の量で存在し、レゾルシノールが約3重量部の量で存在することを開示している。
【0007】
Vinsol(登録商標)樹脂を用いて濾過媒体に含浸させる場合の欠点は、この樹脂が高密度(~1.33g/ml)かつ高粘度(25℃で20~300mPa・s)であるため、濾過媒体基材への含浸が困難なことである。これにより、濾過媒体のコーティングが不均一又は不完全になり、使用中に構造的な不具合が発生するおそれがある。高粘度は、Vinsol(登録商標)の主成分であるリグニンの分子量が20,000g/molと高いことに起因している可能性がある。Vinsol(登録商標)樹脂のさらなる欠点は、濾過媒体のコーティングに適したほとんどの溶媒系に対する溶解性に乏しいことである。
【0008】
したがって、上述の問題に少なくともある程度対応する濾過媒体が必要とされている。より詳細には、本発明は、フェノール及びホルムアルデヒドの放出が低減されているため、既存のプロセスよりも環境に優しく、より安全に操作できるプロセスによって製造される濾過媒体を提供する。本発明は、この利点を達成する一方で、効率的かつ均一に加工及び含浸することを可能にする物性を有する樹脂組成物を使用する。本開示のさらなる目的は、濾過媒体が、当技術分野で知られている濾過媒体に匹敵する操作性能を示すことである。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、リグニンを含む樹脂組成物を含浸させた繊維質ウェブを含む濾過媒体が提供され、ここで、
繊維質ウェブは、繊維質ウェブの0.1~30重量%の量でリグニンを含み、
リグニンは、1.2g/cm未満の密度を有するか、又はASTM D4001-13規格に従って測定した場合、20,000g/mol未満の重量平均分子量を有する。
【0010】
リグニンは、7未満、好ましくは3~5、又は最も好ましくは4~4.5のpHを有し得る。
【0011】
樹脂組成物は、ISO 2555:2008規格に従って測定した場合、15mPa・s未満、好ましくは5~13mPa・s、より好ましくは7.5~9.5mPa・sの動的粘度(dynamic viscosity)を有し得る。
【0012】
樹脂組成物は、4~7、好ましくは5~6のpHを有し得る。
【0013】
リグニンは、1g/cm未満、好ましくは0.20g/cm~0.75g/cm、より好ましくは0.25g/cm~0.45g/cmに含まれる密度を有し得る。
【0014】
樹脂組成物は、少なくとも1つの第一級若しくは第二級アミン官能基を有するか又はポリアミンであるホルムアルデヒド捕捉剤を、さらに含有してもよく、ホルムアルデヒド捕捉剤は、尿素、アンモニア、メラミン、ジシアンジアミド、ポリエチレンイミン、又はポリビニルアミンから選択することができ、好ましくは尿素であってもよい。
【0015】
樹脂組成物は、ポリエポキシド又はエポキシ樹脂としても知られるエポキシ系成分を含んでもよい。このエポキシ系成分は、芳香族又は脂肪族ポリエポキシド(ビスフェノールとエピクロリドリンから、ノボラックとエピクロリドリンから、又は脂肪族アルコールとエピクロリドリンから形成される反応生成物など)から選択することができ、好ましくはビスフェノールA-ジグリシジルエーテルであってもよい。
【0016】
樹脂組成物は、リグニン及びフェノール樹脂を含むことができ、好ましくはリグニン:フェノール樹脂の重量比1:1から1:9、好ましくは1:1から1:4、より好ましくは1:2で存在することができる。
【0017】
濾過媒体は、樹脂組成物を10重量%~50重量%、好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~30重量%含むことができる。
【0018】
繊維質ウェブは、繊維の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、又はより好ましくは少なくとも95重量%のセルロース繊維を含むことができる。
【0019】
繊維質ウェブは、繊維の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、又はより好ましくは少なくとも95重量%の合成繊維を含むことができる。
【0020】
繊維質ウェブは、セルロース繊維と合成繊維の混合物を含むことができる。合成繊維は、ウェブ中の繊維の総重量の50重量%まで、又は好ましくは10重量%~30重量%の量で繊維質ウェブ中に存在することができる。
【0021】
セルロース繊維は、針葉樹繊維、広葉樹繊維、植物繊維、及び再生セルロース繊維の1つ以上から選択することができる。
【0022】
濾過媒体は、油濾過媒体、空気濾過媒体、燃料濾過媒体、油圧濾過媒体、産業用濾過媒体、誘電性流体濾過媒体、及び水濾過媒体を含む群から選択することができる。空気濾過媒体は、重量のあるパネルフィルター又はデューティーエアパネルフィルターで使用することができる。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、繊維質ウェブにリグニン含有樹脂組成物を含浸させること、及び含浸させた繊維質ウェブを硬化させることを含む、上記で定義した濾過媒体の製造方法が提供される。
【0024】
本発明は、以下の例及び添付の図面に照らしてより良く理解されるであろう。以下の例は、例示的な方法で提供されており、限定的な方法で解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】10%、20%、30%、40%、及び50%のリグニンを含有する硬化樹脂組成物の破裂強度を示すグラフである。
図2】160℃で24時間エージング後の、10%、20%、30%、40%、及び50%のリグニンを含有する硬化樹脂組成物の破裂強度を示すグラフである。
図3図1及び図2の樹脂組成物の硬化速度を示すグラフである。
図4】ヘキサミン及びパラホルムアルデヒドを含有する樹脂組成物の破裂強度を示すグラフである。
図5】160℃で24時間エージング後の、図4の樹脂組成物の破裂強度を示すグラフである。
図6】フェノール-ホルムアルデヒド樹脂を含浸させた濾過媒体、及び本発明による30%のリグニンを含有するフェノール-ホルムアルデヒド樹脂を含浸させた濾過媒体の、ホルムアルデヒド及びフェノールの放出レベルを示すグラフである。
図7】本発明による30%のリグニンを含有する油フィルター濾過媒体の、流量(L/分)に対する差圧(kPa)で測定された濾過性能を示すグラフである。
図8図7の油フィルターの、粒子サイズに対する平均フィルター効率を示すグラフである。
図9図7及び図8の油フィルターについて測定された、時間に対する差圧を示すグラフである。
図10】30%リグニン樹脂組成物を含む濾過媒体と、リグニンを含まない樹脂組成物を含む濾過媒体について、140℃での熱油破裂強度を比較するグラフである。
図11】(i)本発明による30%のリグニンを含有するフェノール-ホルムアルデヒド樹脂を含浸させた平面濾過媒体と、(ii)フェノール-ホルムアルデヒド樹脂のみを含浸させた平面濾過媒体について、粒子サイズ濾過効率を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、内容が別段の要求をしない限り、以下の用語は、次のように定義されることを意図している。
【0027】
「含む(comprise)」又はその変形(例えば、「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」)は、記載された整数又は整数の群を含むことを意味するが、他の整数又は整数の群を除外することを意味しないと理解される。
【0028】
「繊維」は、直径に対する長さのアスペクト比が高い繊維質又はフィラメント状の構造である。
【0029】
「ステープル繊維」とは、一定の比較的短いセグメント又は個々の長さを自然に有する繊維、あるいは、一定の比較的短いセグメント又は個々の長さに切断され若しくはさらに加工された繊維を意味する。
【0030】
「繊維質」とは、繊維及び/又はステープル繊維から主に構成される材料を意味する。
【0031】
「不織布」又は「ウェブ」という用語は、ウェブ又はマット中の繊維及び/又はステープル繊維の集まりを指し、これらは、自己支持構造エレメントを形成するように、互いにランダムに絡み合い(randomly interlocked)、絡み合い(entangled)、及び/又は結合している。
【0032】
「合成繊維」とは、化合物から合成されたポリマー、変性又は変換された天然ポリマー、及びケイ質(ガラス)材料を含む繊維形成物質から作られた繊維を指す。そのような繊維は、従来の溶融紡糸、溶液紡糸、溶媒紡糸、及び同様のフィラメント製造技術によって製造することができる。
【0033】
「ホルムアルデヒド捕捉剤(formaldehyde scavenger)」とは、ホルムアルデヒドのガス状放出物を捕捉することができる化合物を意味する。
【0034】
以下において、「水溶性」という用語は、大気圧下、室温(20℃)で化合物の少なくとも10%を水に溶解することができる化合物として理解されなければならない。
【0035】
本開示は、自動車、産業及び家庭のさまざまな流体浄化の用途での使用に適した濾過媒体を提供する。
【0036】
濾過媒体は、リグニンを含む樹脂組成物を含浸させた繊維質ウェブを含む。リグニンは、繊維質ウェブの0.1~30重量%、好ましくは0.1~20重量%、又はより好ましくは0.1~15重量%の量で、繊維質ウェブ中に存在する。
【0037】
リグニンは、(i)1.2g/cm未満の密度、及び(ii)ASTM D4001-13規格(これは、光散乱検出によってポリマーの重量平均分子量を決定するための標準試験方法である)に従って測定した場合、20,000g/mol未満の重量平均分子量の、いずれか又は両方を有する。
【0038】
リグニン密度は、1g/cm未満、好ましくは0.20g/cm~0.75g/cm、より好ましくは0.25g/cm~0.45g/cm、最も好ましくは0.35g/cm~0.40g/cmであってもよい。
【0039】
リグニンのpHは、7未満、好ましくは3~5、又は最も好ましくは4~4.5である。pHは、リグニンの希釈30%水溶液で、ISO規格 10523:2008手順に従って決定することができる。この規格では、2つのハーフセルのうちの一方が測定電極で、他方が参照電極である電気化学セルの電位差を測定することによって、リグニンのpHを決定する。測定電極の電位は、測定溶液の水素イオン活量の関数である。
【0040】
低密度、酸性pH、及び比較的低い分子量は、本開示のリグニンに15mPa・s未満の好ましい低粘度を提供し、これにより、リグニンを樹脂組成物に溶解させることができ、比較的容易に繊維質ウェブに含浸させることが可能になる。さらに、樹脂が低粘度であることにより、繊維質ウェブの含浸の均一性及び速度を改善することができる。これは、市販のVinsol(登録商標)樹脂とは対照的である。この市販の樹脂は、1.33g/cmの高密度、25℃で20~300mPa・sの高粘度を有し、ほとんどの溶媒系に対する溶解性に乏しい。
【0041】
リグニンは、例えばクラフトプロセスから得ることができる。当技術分野でよく知られているように、クラフトプロセス(クラフトパルプ化又は硫酸塩プロセスとしても知られている)は、木材をセルロース繊維パルプに変換するプロセスである。このプロセスでは、木材チップを水、水酸化ナトリウム(NaOH)、及び硫化ナトリウム(NaS)の熱混合物で処理して、リグニン、ヘミセルロース、及びセルロース間の結合を切断する。この方法は、いくつかの機械的及び化学的工程を含み、その結果、セルロース繊維の流れとリグニンの流れの2つの生成物の流れ(stream)が形成される。リグニンが得られるクラフトプロセスで使用される木材は、針葉樹(すなわち、松などの針葉樹などの裸子植物から)、広葉樹(すなわち、被子植物から)、又はそれらの組合せであってもよい。クラフトプロセスから得られるリグニンは、再生可能な樹脂源であり、油系の炭化水素源から得られる樹脂よりも環境への影響が少ない。クラフトリグニンはクラフトプロセスの副生成物であるため、それを得るために必要な処理は最小限で済む。
【0042】
リグニンを含むことに加えて、樹脂組成物は、フェノール樹脂(レゾール又はノボラックなどのフェノール-ホルムアルデヒド樹脂)を含む。フェノール樹脂は、フェノール樹脂の総重量に基づいて、50重量%~90重量%、好ましくは60重量%~90重量%、又はより好ましくは70重量%~90重量%の量で、樹脂組成物中に存在することができる。レゾール樹脂は、ビスフェノールAとフェノール及びホルムアルデヒドとの塩基触媒反応によって形成されてもよい。ノボラック樹脂は、クレゾール(メチルフェノール)の酸触媒反応によって形成されてもよい。
【0043】
リグニン及びフェノール樹脂は、リグニン:フェノール樹脂の重量比1:1から1:9、好ましくは1:1から1:4、より好ましくは1:2で、樹脂組成物中に存在することができる。リグニン:フェノール樹脂の重量比は、樹脂が乾燥しても変化せず、実質的に同等のままであり、乾燥工程後に、繊維質ウェブの含浸に使用された溶媒の除去を可能にするか、又は硬化工程後に、樹脂組成物の架橋を可能にする。
【0044】
樹脂組成物は、例えばヘキサミン、パラホルムアルデヒド又はジシアンジアミド-ホルムアルデヒド縮合物などの架橋剤を含有することもできる。ジシアンジアミド-ホルムアルデヒド縮合物は、好ましくは、米国特許第4383077号に記載されているものを含有する水溶性熱硬化性樹脂組成物である。ジシアンジアミド-ホルムアルデヒド縮合物は、米国特許第4383077号で請求されている方法によって得ることができ、好ましくは米国特許第4383077号の実施例に開示されているジシアンジアミド-ホルムアルデヒド縮合物である。この架橋剤は、樹脂組成物が硬化工程中に繊維質ウェブと架橋することを可能にする。この架橋剤は、樹脂組成物の総重量に基づいて20重量%までの量で、樹脂組成物中に存在することができる。
【0045】
樹脂組成物は、少なくとも1つの第一級若しくは第二級アミン官能基を有するか又はポリアミンであるホルムアルデヒド捕捉剤を、さらに含有することができる。ホルムアルデヒド捕捉剤は、尿素、アンモニア、メラミン、ジシアンジアミド、ポリエチレンイミン、及びポリビニルアミンから選択することができる。ホルムアルデヒド捕捉剤が尿素である場合、特に有用である。ホルムアルデヒド捕捉剤のアミン基は、樹脂中の残留ホルムアルデヒドと反応して、ホルムアルデヒドをシッフ塩基化合物に変換することができ、この化合物は揮発性と毒性が低減されている。これらのタイプの反応は、典型的には酸触媒で行われるため、樹脂組成物は、7未満のpHを有することが好ましい。樹脂組成物は、典型的には4~7、好ましくは5~6のpHを有する。より詳細には、ホルムアルデヒド捕捉剤を使用することにより、ホルムアルデヒドの放出量をゼロに近づけることができる。
【0046】
さらなる実施形態によれば、樹脂組成物は、ポリエポキシド又はエポキシ樹脂としても知られるエポキシ系成分を含んでもよい。このエポキシ系成分は、芳香族又は脂肪族ポリエポキシド(ビスフェノールとエピクロリドリンから、又はノボラックとエピクロリドリンから、又は脂肪族ポリオールとエピクロリドリンから形成される反応生成物など)から選択することができ、好ましくはビスフェノールA-ジグリシジルエーテルであってもよい。このエポキシ系成分は、フェノール樹脂の一部又は全部を置換するために用いることができ、また、樹脂組成物中のそのような化合物の含有量を減少させることができる。例えば、樹脂組成物中のリグニン、エポキシ樹脂、及びフェノール樹脂の総重量に基づいて、リグニンは、好ましくは10~80重量%(より好ましくは25~50重量%)の量で存在し、エポキシ樹脂は、好ましくは10~80重量%(より好ましくは25~50重量%)の量で存在し、フェノール樹脂は、好ましくは10~80重量%(より好ましくは25~50重量%)の量で存在する。別の実施形態によれば、樹脂組成物は、5重量%未満(好ましくは0重量%)のフェノール樹脂を含有し、樹脂組成物中のリグニン:エポキシ樹脂の重量比は、例えば、1:1から1:9である。いずれの場合も、リグニン:エポキシ樹脂の重量比(及びフェノール樹脂が存在する場合はその重量比)は、樹脂が乾燥しても変化せず、実質的に同等のままであり、乾燥工程後に、繊維質ウェブの含浸に使用された溶媒の除去を可能にするか、又は硬化工程後に、樹脂組成物の架橋を可能にする。エポキシ系成分のエポキシ官能基は、リグニン及びフェノール樹脂と反応することができ、ホルムアルデヒドと同様に樹脂組成物の架橋剤として作用する。したがって、このエポキシ系成分の添加により、濾過媒体の最終特性に悪影響を与えることなく、樹脂組成物中のホルムアルデヒドの含有量を減少させることができる。
【0047】
樹脂組成物は、ISO 2555:2008(回転粘度計を使用して、液体又はそれに類似した状態の樹脂の見かけの粘度を決定するための標準プロトコル。ブルックフィールド試験法としても知られている。)に従って測定した場合、15mPa・s未満、好ましくは5~13mPa・s、より好ましくは7.5~9.5mPa・sの動的粘度(dynamic viscosity)を有する。
【0048】
樹脂組成物にリグニンを含めることにより、樹脂から放出されるフェノール及びホルムアルデヒドガスの量を低減することができるという有利な効果を有する。これらのガスの放出量の減少は、樹脂組成物中のリグニンの量と相関している可能性があり、リグニンの量が多いほど放出量の低減が大きく、リグニンの量が少ないほど放出量の低減が小さくなる。したがって、樹脂組成物中にリグニンが存在すると、より環境に優しい製品が得られる。また、当技術分野で知られている従来の濾過媒体を製造するために使用される製造プロセスと比較して、これらの濾過媒体を製造する製造プロセスを操作する作業者の健康への悪影響も減少する。理論に束縛されるものではないが、レゾール樹脂からのフェノール及びホルムアルデヒドの放出は、未反応の出発物質の浸出、又はフェノール樹脂のその構成成分への分解のいずれかに起因すると考えられる。樹脂組成物にリグニンを含めることにより、フェノール樹脂とその出発物質の総量が低減される。あるいは、又はそれに加えて、リグニンは、フェノール樹脂を分解から保護する役割を果たし得る。濾過媒体から放出されるフェノール及びホルムアルデヒドの量は、濾過媒体1kgあたりに放出されるフェノール又はホルムアルデヒド(mg)として測定することができる。リグニン含有樹脂組成物を含浸させた濾過媒体は、リグニンを含まないフェノール樹脂を含浸させた濾過媒体よりも、50%、60%、70%、80%、90%、又は99%少ないフェノール及び/又はホルムアルデヒドを放出することができる。さらに、化石燃料から供給されるフェノール樹脂とは対照的に、リグニンは再生可能な資源に由来することに留意されたい。このことは、本明細書に記載の樹脂組成物の環境に優しい特性にさらに寄与する。
【0049】
樹脂組成物は、フェノール樹脂に対する追加又は代替のポリマー、例えばスチレンアクリル、アクリル、ポリエチレン塩化ビニル、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレンアクリレート、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール誘導体、デンプンポリマー、フェノール樹脂、及びそれらの組合せ(水性バージョンと溶剤バージョンの両方を含む)を含むことができる。場合によっては、追加の又は代替の樹脂は、水性エマルジョンなどのラテックスの形態であってもよい。
【0050】
繊維間の内部結合を強化するために、繊維質ウェブは、バインダー繊維を含んでもよい。これらは、コアよりも低い融点を有する熱可塑性ポリマーの溶融可能なコーティングによって取り囲まれた熱可塑性コア繊維を含む二成分熱可塑性繊維である。したがって、低融点コーティングは、繊維質ウェブの処理中の加熱によって軟化又は部分的に溶融すると、熱可塑性結合剤として作用し、それによってウェブの隣接する繊維に付着することができる。コアを形成する高融点材料は、構造材料として機能することができる。
【0051】
樹脂組成物は、1つ以上の添加剤成分をさらに含んでもよい。添加剤成分は、濾過剤に好ましい外観を与えるために必要とされ得る染色剤;繊維保持剤;分離助剤(例:シリコーン添加剤及び関連する触媒);防火剤又は難燃剤;親水性剤又は疎水性剤;湿潤剤;帯電防止剤;又は抗菌剤であってもよい。存在する場合、これらの添加剤は、樹脂組成物の総重量に基づいて、0重量%超、0.01重量%超、0.1重量%超、1重量%超、5重量%超、10重量%超の量、及び/又は約30重量%未満、25重量%未満、20重量%未満、15重量%未満、10重量%未満、9重量%未満、8重量%未満、7重量%未満、6重量%未満、5重量%未満、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満の量、あるいはこれらの任意の組合せの量で含まれてもよく、例えば、0.01重量%~1重量%の量で含まれてもよい。特定の実施形態によれば、樹脂組成物は、リン酸などの難燃剤を10重量%~20重量%含有することができる。
【0052】
濾過媒体は、樹脂組成物を10重量%~50重量%、好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~30重量%含むことができる。濾過媒体の残りの部分は、大部分が繊維質ウェブからなる。
【0053】
繊維質ウェブは、繊維の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、又はより好ましくは少なくとも95重量%のセルロース繊維を含むことができる。セルロース繊維は、針葉樹繊維、広葉樹繊維、植物繊維、及び再生セルロース繊維の1つ以上から選択することができる。
【0054】
あるいは、繊維質ウェブは、繊維の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、又はより好ましくは少なくとも95重量%の合成繊維を含むことができる。合成繊維は、合成ポリマー繊維、変性又は変換された天然ポリマー繊維、又はケイ質(ガラス)繊維の1つ以上から選択することができる。繊維質ウェブに適した例示的な繊維としては、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリアルキレンテレフタレート)、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びポリアミド(ナイロン、例えば、ナイロン-6、ナイロン6,6、ナイロン-6,12など)が挙げられる。
【0055】
別の代替案によれば、繊維質ウェブは、セルロース繊維と合成繊維の混合物を含むことができる。合成繊維は、ウェブ中の繊維の総重量の50重量%まで、好ましくは10重量%~30重量%、又は好ましくは15重量%~25重量%の量で繊維質ウェブ中に存在することができる。
【0056】
濾過媒体は、空気濾過媒体、燃料濾過媒体、油濾過媒体、油圧濾過媒体、産業用濾過媒体、誘電性流体濾過媒体、及び水濾過媒体を含む群から選択することができる。
【0057】
本開示は、本明細書で定義される濾過媒体の製造方法に及ぶ。この方法は、繊維質ウェブにリグニン含有樹脂組成物を含浸させ、含浸させた繊維質ウェブを乾燥及び硬化させることを含む。
【0058】
リグニン含有樹脂組成物が形成されると、それは含浸装置に移され、そこで樹脂組成物は投入ローラーを通して適用され、繊維質ウェブ全体に均一な程度の含浸が達成される。ウェブに適用される樹脂の量は、濾過媒体の最終用途に依存する。樹脂が繊維質ウェブに適用されると、含浸されたウェブは乾燥オーブンに入り、乾燥工程で溶媒が除去される。乾燥工程は、一般に、80℃~150℃の温度で行われる。次いで、硬化工程において、含浸されたウェブを硬化オーブン内で120℃~200℃、150℃~180℃、又は180℃~200℃の温度で加熱することによって、樹脂が繊維質ウェブに架橋される。あるいは、硬化は、紫外線又は赤外線によって達成することができる。完全に硬化すると、含浸された繊維質ウェブは、その最終的な特性を得た。これらの特性には、その重量、厚さ、コルゲーション、破裂強度爆発、透過性、孔径、樹脂含有率(%)、湿度、又は硬化レベルが含まれる。特定の実施形態によれば、乾燥工程及び硬化工程は、同時に、すなわち単一の工程で、特に架橋剤が使用される場合に実施することができる。濾過媒体が形成されると、それはコルゲート加工され、切断され、折り畳まれ、プリーツ加工され、追加の硬化工程に供され、最終的に使用される濾過製品に組み立てることができる。
【0059】
濾過媒体は、空気濾過媒体であってもよい。空気濾過媒体は、自動車の車内空気を濾過するように構成することができる。特に、濾過媒体は、微粒子(ほこり、花粉、すす、細菌及びPM2.5など)、ガス(オゾン、ベンゼン、SOx、及びNOxなど)、又は車内空気からの臭気を濾過するように構成することができる。濾過媒体は、車内空気から望ましくないガス及び微粒子を濾過するのを助けるために、炭素(活性炭であってもよい)の層を含んでもよい。
【0060】
空気濾過媒体は、自動車の吸気フィルターとして構成することができ、自動車のエンジンに入る空気から微粒子(ほこり、花粉、すす、細菌、PM2.5など)を濾過するように構成することができる。濾過媒体は、任意選択で、難燃層、撥水層、又はナノファイバー層、微細繊維メルトブローン層、若しくは合成ラミネート層の1つ以上を含むように処理して、強度及び濾過性能を高めることができる。
【0061】
空気濾過媒体は、とりわけ、ガスタービン吸気フィルター、空気-油分離フィルター(例えば、圧縮空気用途)、大気汚染制御及び集塵フィルターエレメント(例えば、産業発生源からの大気中への粒子の放出を削減又は排除するために使用できるものなど)、又は暖房、換気、及び空調(HVAC)フィルターエレメントなどの産業用濾過媒体用に構成することができる
【0062】
濾過媒体は、燃料フィルターエレメントとして構成することができ、燃料から有機不純物及び無機不純物を濾過するように構成することができる。燃料フィルターエレメントは、濾過媒体の複数の層を含んでもよく、燃料から微粒子不純物と水分不純物の両方を分離して保持するように構成することができる。
【0063】
濾過媒体は、油濾過媒体として構成することができる。油濾過媒体は、すす、ほこり及び微粒子などの不純物を油から濾過するように構成することができる。これらの実施形態では、濾過媒体は、熱油中での高い耐久性、特に高い熱油破裂抵抗を有することができる。
【0064】
濾過媒体は、放電加工(EDM)プロセスで使用される誘電性流体の濾過に使用するように構成することができる。
【0065】
濾過媒体は、油圧用途で使用するための油圧フィルター媒体として構成することができる。
【0066】
濾過媒体は、水の濾過に使用するように構成することができる。濾過媒体は、有機酸、ウイルス、細菌、シスト(cysts)、細胞破片及び微量医薬品を含む汚染物質をサブミクロンレベルで水から濾過するように構成することができる。濾過性能を向上させるために、濾過媒体を帯電層又は活性炭層で被覆することができる。
【0067】
本発明は、以下の非限定的な例によってさらに説明される。
【実施例
【0068】
[手順]
試料は、TAPPI T205手順に本明細書に記載の修正を加えたものを用い、実験室用ウェットレイドハンドシート型を使用して作製した。レシピに記載されている完成試料を2リットルの水道水と混合し、標準的な実験室用粉砕機(Noram)で1500回転させながら粉砕を行った。次いで、完成紙料をウェットレイド型に流し込み、約25リットルの水道水で希釈し、ペダル撹拌機で3回撹拌し、標準的な抄紙機ワイヤーを通して水切りした。
【0069】
次いで、ハンドシートを、カウチング(couching)ローラーで3回ロールして乾燥し、フラットベッドスピードオーブンで350°F(177℃)で5分間再乾燥し、続いてオーブンで350°F(177℃)で5分間乾燥した。オーブン乾燥(OD)シートについて、オーブン乾燥直後に、生の物理データ(生の坪量、キャリパー、空気透過性など)を取得した。
【0070】
次いで、試料を、シートの総重量に基づいて25重量%の含有量で標準フェノール樹脂を用いて飽和させた(樹脂浴の浴固形分は、溶媒としてのメタノール中で18%であった)。次いで、試料を、周囲条件で24時間風乾し、350°F(177℃)で5分間、SDC(saturated dried cured;飽和乾燥硬化)レベルに到達するまで硬化させた。硬化直後にSDC坪量を記録し、その後、SDCキャリパー及びSDC空気透過性などの他のSDCデータを測定した。
【0071】
[試験方法]
以下の試験方法を用いて、以下の表で報告されているデータを取得した。
【0072】
<濾過性能>
濾過性能を、マルチパス試験を用いて決定した。この試験では、フィルターエレメントを通して未濾過の流体の再循環させる必要があり、さまざまなパラメータに従って濾過性能を測定した。いくつかの場合には、差圧マルチパス試験を行った。ISO 4548-12規格で定義されている。
【0073】
<差圧試験>
差圧試験とは、ハウジング内に試験フィルターを取り付け、ハウジング内の試験フィルター周囲の圧力に対する試験フィルター内の圧力を測定することを指す。差圧によって、流体がフィルターを通過する効率が決定される。差圧が大きい場合は、フィルターが容量に近づいていることを示す。
【0074】
<濾過効率>
ISO 4548-12で定義されている。この濾過効率は、粒子を保持するフィルターの能力を指し、試験下でフィルターによって保持される所与のサイズの粒子の割合(%)として表される。試験中、パーティクルカウンターを使用して、濾過媒体の前方及び後方で、液体又は気体の試料を測定する。粒子の濃度を測定し、フィルターの両側の粒子の量の違いに基づいて濾過効率を計算する。
【0075】
<フロー制限試験>
ISO 4548-12規格で定義されている。この試験手順では、フィルターの汚染物質容量、微粒子除去特性、及び差圧を決定する。この試験は、10μmを超える粒子サイズで99%未満の効率を有するフィルターエレメントへの適用を意図としている。この試験は、内燃機関用フルフロー潤滑油フィルターの性能を評価するためのオンライン粒子計数法を用い、連続汚染物質注入を伴うマルチパス濾過試験に対応する。これは定常状態に限定されており、流量(flow rate)の変動には対応していない。
【0076】
<空気透過性>
媒体の空気透過性を、TAPPI規格 T251 cm-85(「多孔質紙、布、及びパルプハンドシートの空気透過性」)に従って、Textest AG(モデルFX3300)を用いて、0.5インチ(2.7mm)の水差で測定し、毎分の試料面積1平方フィートあたりの立方フィートの単位(cfm/sf)で(単に単純にcfmと呼ばれることもある)、空気流量として報告する。
【0077】
<平均フロー孔径:Mean Flow Pore(MFP) Size>
標準試験手順ASTM F-316に従って測定した。
【0078】
<破裂強度>
媒体試料を破裂させるのに必要な圧力を、TAPPI規格 T403に従って、MULLEN(登録商標)破裂強度試験機を用いて測定した。結果は、媒体破裂時の平方インチあたりのポンドの単位(psi)で報告する。
【0079】
<キャリパー>
SDC媒体のキャリパー(厚さ)を、TAPPI規格 T411、「紙、板紙及び複合板紙の厚さ(キャリパー)」(参照により本明細書に完全に組み込まれる)に従って、Thwing-Albert Instrument Companyからの89-100厚さ試験機を用いて測定した。
【0080】
<剛性>
OD媒体及びSDC媒体の剛性は、GURLEY(商標)曲げ抵抗試験機MOD 4 17 1D(Gurley Precision Instruments)を用いて、TAPPI T489 om-92によって取得した。
【0081】
<熱油破裂強度>
媒体試料の熱油破裂強度は、7.07cmの領域にゴム製ダイヤフラムを通して一定に増加する制御された圧力を加えたときに、媒体試料が破裂するのに必要な最大静水圧である。熱油破裂強度は、媒体試料(サイズ14cm×10cm)を、140℃±約0.1℃に維持した典型的なエンジン油(MOBIL 1(商標)モーター油など)の油浴に144時間入れることによって決定した。次いで、媒体試料を熱油浴から取り出し、余分な油を媒体試料から拭き取りながら、約5分間冷却する。次いで、水分のない試料をMULLEN(登録商標)破裂強度試験機を用いて試験し、その結果を、媒体破裂時の単位面積あたりの力、すなわちポンド/平方インチの単位(psi)で結果を報告する。
【0082】
[例1]
樹脂中のリグニンの量を最適化するために、10%、20%、30%、40%、及び50%(vol/vol)のリグニンを含有するフェノール(レゾール)樹脂の試料を、次のように調製した。
【0083】
樹脂組成物を濾紙試料に適用し、硬化させ、上記の試験方法に従って三重に試験した。それらの特性を、以下の表1~表5に要約する。次の表において、「目標」は、パラメータの目標技術的性能を指す。
【表1】

【表2】

【表3】

[表4]
[表5]
【0084】
図1及び図2は、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、及び50重量%のリグニンを含有する樹脂組成物の、硬化後、及び160℃で24時間エージングした後の相対破裂強度を、それぞれ示している。30重量%までのリグニン組成で、満足のいく結果が得られた。これを超えるリグニンのレベルでは、破裂抵抗が大幅に低下する。
【0085】
図3は、樹脂組成物の165℃での硬化時間が、リグニン含有量の増加に伴って増加することを示している。
【0086】
[例2]
好ましい添加剤を特定するために、ヘキサミン及びパラホルムアルデヒドを用いて樹脂組成物を調製し、破裂強度及び剛性に対するこれらの添加剤の効果を評価した。リグニンとヘキサミン、又はリグニンとパラホルムアルデヒドをさまざまな量で含有する試料を、以下の表6に示すように調製し、上記の試験方法に従って試験した。
【表6】
【0087】
図4及び図5は、パラホルムアルデヒドが、試験された樹脂組成物において、ヘキサミンよりも大きな破裂抵抗をもたらすことを示している。
【0088】
[例3]
Vinsolとクラフトリグニンの溶解性を比較するために、4つの混合物を調製して評価した。
【表7】
【0089】
[例4]
Vinsolの組成物及びリグニン樹脂の組成物を溶解するための、先行技術文献である米国特許第3294582号に開示された溶媒系の能力を評価するために、試験を行った。エタノール、イソプロパノール及び水の溶媒混合物を、米国特許第3294582号に開示された量に従って調製した。4つの異なる配合物(Vinsol含有及びとリグニン含有)を調製し、それらの溶解性を評価した。
【0090】
[例5]
<濾過媒体の形成>
樹脂組成物を、表8に記載されている成分と量に従って作製した。
【表8】
【0091】
第1の工程では、リグニンをレゾール樹脂に溶解した。樹脂/リグニン混合物を反応器に移し、架橋剤を添加し、メタノール及び染料を添加した。次いで、組み合わせた成分を混合して、固形分64%、粘度830.5mPa・s、密度1.107g/cm、及びpH5.53を有する暗色溶液を生成した。
【0092】
樹脂組成物を、アプリケーター及び投入ローラーを用いて繊維質ウェブに含浸させ、均一な含浸を得た。繊維質ウェブは、95重量%を超えるセルロース繊維を含んでいた。含浸された繊維質ウェブを分析し、その結果を以下の表9に要約する。
【表9】
【0093】
[例6]
上記の含浸濾過媒体を、ホルムアルデヒド及びフェノールの放出について評価した。
濾過媒体紙中の遊離フェノール又は遊離ホルムアルデヒドを測定する方法は、UV-VIS分光法を実施する。紙中の遊離フェノールを測定するために、ヘキサシアノ鉄酸(III)の存在下で4-アミノアンチピリンを用いて、510nmの波長で試験を行う。紙中の遊離ホルムアルデヒドを測定するために、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾン塩酸塩水和物(MBTH)と塩化鉄(III)六水和物との反応を用いて、628nmの波長で試験を行う。紙がホルムアルデヒドを含有している場合、この反応により青色の誘導体が生成する。
【0094】
結果を図6に示す。これらの結果は、30%のリグニンを含有する樹脂を含浸させた濾過媒体は、レゾール樹脂のみを含浸させた濾過媒体と比較して、ホルムアルデヒド放出量を80.3%削減し、フェノール放出量を81.6%削減したことを示している。
【0095】
[例7]
油フィルター媒体を調製し、上記で開示したリグニンを含有する樹脂組成物を含浸させた。油フィルター媒体を、ISO 4548-12規格で定義されているように、フロー制限試験、濾過効率試験、及び差圧試験に供した。その結果を図7図8、及び図9に示す。使用した規格試験は、連続汚染物質注入を伴うマルチパス濾過試験に対応し、内燃機関用フルフロー潤滑油フィルター媒体の性能を評価するためのオンライン粒子計数法を採用した。また、油フィルター媒体は、プリーツ加工しやすく、使用中に煙や臭いが発生しなかったことに留意されたい。
【0096】
[例8]
140℃での熱油抵抗(hot oil resistance)試験。熱油抵抗試験は次のように行う。試料が完全に硬化したら、MULLEN(登録商標)破裂強度試験を実施し、この試験の値を記録する(初期抵抗値)。他の5つの紙試料を、約12リットルのSLX OW30又は5W-30油で満たされた油浴装置に収容する。油浴装置は、140℃の温度に調整されている。油浴装置内の紙試料は、徐々に取り除かれる。より詳細には、24時間、48時間、72時間、168時間及び500時間後に、油浴装置から1つの紙試料を取り出す。紙試料を油浴装置から取り出したら、吸収紙で余分な油を取り除き、この試料を25℃、相対湿度50%に調整したクライメートチャンバーに2時間置く。クライメートチャンバーでこの時間の後、この試料に対してMULLEN(登録商標)破裂強度試験を行い、得られた値を記録する。
【0097】
結果を図10に示す。これらの結果は、リグニンを含有する樹脂組成物が、すべての時間間隔で、リグニンを含まない樹脂よりも高い破裂強度を示したことを示している。
【0098】
[例9]
(i)30%リグニン含有フェノール樹脂、及び(ii)リグニンを含まないフェノール樹脂を含浸させた平面濾過媒体試料の濾過効率を、上記で定義した試験プロトコルに従って、試験した。結果を図11に示す。これらの結果は、リグニン含有樹脂組成物を含浸させた濾過媒体が、リグニンを含まないフェノール樹脂を含浸させた濾過媒体に匹敵する濾過効率を示したことを示している。
【0099】
本発明は、以下の項を参照することによって、さらに理解することができる。
1. リグニンを含む樹脂組成物を含浸させた繊維質ウェブを含む濾過媒体であって、
繊維質ウェブは、繊維質ウェブの0.1~30重量%の量でリグニンを含み、
リグニンは、1.2g/cm未満の密度、又は20,000未満の重量平均分子量を有する、濾過媒体。
2. リグニンが、7未満、好ましくは3~5、最も好ましくは4~4.5のpHを有する、項1に記載の濾過媒体。
3. 樹脂組成物が、15mPa・s未満の動的粘度(dynamic viscosity)を有する、項1又は2に記載の濾過媒体。
4. 樹脂組成物が、7.5~9.5mPa・sの動的粘度を有する、項3に記載の濾過媒体。
5. リグニンが、1g/cm未満、好ましくは0.20g/cm~0.75g/cm、より好ましくは0.25g/cm~0.45g/cmの密度を有する、項1~4のいずれか一項に記載の濾過媒体。
6. 樹脂組成物が、少なくとも1つの第一級若しくは第二級アミン官能基を有するか又はポリアミンであるホルムアルデヒド捕捉剤を、さらに含有する、項1~5のいずれか一項に記載の濾過媒体。
7. 樹脂組成物が、ポリエポキシド又はポリエポキシ樹脂などのエポキシ系成分をさらに含有する、項1~6のいずれか一項に記載の濾過媒体。
8. 樹脂組成物が、リグニンとフェノール樹脂を、好ましくはリグニン:フェノール樹脂の重量比1:1から1:9、好ましくは1:1~1:4、より好ましくは1:2で含む、項1~7のいずれか一項に記載の濾過媒体。
9. フェノール樹脂が、レゾール樹脂である、項8に記載の濾過媒体。
10. フェノール樹脂が、ノボラック樹脂である、項8に記載の濾過媒体。
11. 樹脂組成物が、リグニンとラテックス樹脂を、好ましくはリグニン:ラテックス樹脂の重量比1:1から1:9、好ましくは1:1から1:4、より好ましくは1:2で含む、項1~7のいずれか一項に記載の濾過媒体。
12. 樹脂組成物を10重量%~50重量%含む、項1~11のいずれか一項に記載の濾過媒体。
13. 樹脂組成物を10重量%~40重量%含む、項1~11のいずれか一項に記載の濾過媒体。
14. 樹脂組成物を10重量%~30重量%含む、項1~11のいずれか一項に記載の濾過媒体。
15. リグニンが、4~4.5のpH及び0.25g/cm~0.45g/cmの密度を有し、樹脂組成物が、リグニン及びフェノール樹脂を、リグニン:フェノール樹脂の重量比1:1から1:4で含み、濾過媒体が、樹脂組成物を10重量%~30重量%含む、項1~10のいずれか一項に記載の濾過媒体。
16. リグニンが、4~4.5のpH及び0.25g/cm~0.45g/cmの密度を有し、樹脂組成物が、リグニン及びフェノール樹脂を、リグニン:フェノール樹脂の重量比1:1から1:4で含み、樹脂組成物が、少なくとも1つの第一級アミン官能基を有するホルムアルデヒド捕捉剤をさらに含有し、濾過媒体が、樹脂組成物を10重量%~30重量%含む、項1~10のいずれか一項に記載の濾過媒体。
17. リグニンが、4~4.5のpH及び0.25g/cm~0.45g/cmの密度を有し、樹脂組成物が、リグニン及びフェノール樹脂を、リグニン:フェノール樹脂の重量比1:1から1:4で含み、樹脂組成物が、少なくとも1つの第二級アミン官能基を有するホルムアルデヒド捕捉剤をさらに含有し、濾過媒体が、樹脂組成物を10重量%~30重量%含む、項1~10のいずれか一項に記載の濾過媒体。
18. リグニンが、4~4.5のpH及び0.25g/cm~0.45g/cmの密度を有し、樹脂組成物が、リグニン及びフェノール樹脂を、リグニン:フェノール樹脂の重量比1:1から1:4で含み、樹脂組成物が、ポリアミンであるホルムアルデヒド捕捉剤をさらに含有し、濾過媒体が、樹脂組成物を10重量%~30重量%含む、項1~10のいずれか一項に記載の濾過媒体。
19. 繊維質ウェブが、繊維の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%のセルロース繊維を含む、項1~18のいずれか一項に記載の濾過媒体。
20. 繊維質ウェブが、繊維の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%の合成繊維を含む、項1~18のいずれか一項に記載の濾過媒体。
21. 繊維質ウェブが、セルロース繊維と合成繊維の混合物を含む、項1~18のいずれか一項に記載の濾過媒体。
22. 合成繊維が、繊維の総重量の10重量%~30重量%の量で繊維質ウェブ中に存在する、項21に記載の濾過媒体又は方法。
23. セルロース繊維が、針葉樹繊維、広葉樹繊維、植物繊維、及びセルロース繊維の1つ以上から選択される、項19又は21に記載の濾過媒体。
24. セルロース繊維が、再生セルロース繊維である、項23に記載の濾過媒体。
25. 濾過媒体が、油濾過媒体、空気濾過媒体、燃料濾過媒体、油圧濾過媒体、産業用濾過媒体、誘電性流体濾過媒体、及び水濾過媒体を含む群から選択される、項1~24のいずれか一項に記載の濾過媒体。
26. 空気濾過媒体が、重量のあるパネルフィルター又はデューティーエアパネルフィルターで使用される、項25に記載の濾過媒体の使用。
27. 繊維質ウェブにリグニン含有樹脂組成物を含浸させる工程、及び含浸させた繊維質ウェブを硬化させる工程を含む、項1~14のいずれか一項に記載の濾過媒体の製造方法。
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【国際調査報告】