(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】高い比表面積を有する安定化リグニンを生成する方法
(51)【国際特許分類】
C08H 7/00 20110101AFI20230724BHJP
【FI】
C08H7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501282
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2021069378
(87)【国際公開番号】W WO2022008762
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102020208684.2
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020134900.9
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244562
【氏名又は名称】サンコール・インダストリーズ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・シュトゥッカー
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコプ・ポチュン
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ヴィットマン
(72)【発明者】
【氏名】レンツ・アロン・マティス・ケール
(57)【要約】
本発明は、リグニン含有原料を含む液体から粒子形態のリグニンを生成する方法であって、少なくとも、液体を架橋剤と反応させる工程(工程a))、リグニンを沈殿させて、これによって、液体中でリグニン粒子を形成させる工程(工程b))、及び液体を工程b)において形成したリグニン粒子から分離する工程(工程c))を含み、工程b)において、沈殿後に、液体が1分間~6時間の時間、60~200℃の範囲の温度で熱処理される、且つ/又は工程c)後の追加工程d)において、液体から分離したリグニン粒子が、60~600℃の範囲の温度で熱処理される、方法に関する。本発明はまた、本方法により得ることができるリグニン粒子、リグニン粒子それ自体、充填剤としてのリグニン粒子の使用、及びとりわけ、充填剤としてリグニン粒子を含有する充填剤成分を含むゴム組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンの少なくとも一部が液体に溶解している、リグニン含有原料を含む液体から粒子形態のリグニンを生成する方法であって、該方法は、
a)液体に溶解した改変リグニンを得るため、50~180℃の範囲の温度において、液体に溶解したリグニンを少なくとも1種の架橋剤と液体中で反応させる工程、
b)0℃から150℃未満の範囲の温度において、液体と沈殿剤とを混合することによって、工程a)において得られた溶解した改変リグニンを、液体中のリグニン粒子の形成と共に沈殿させる工程、及び
c)前記液体を、工程b)において形成されたリグニン粒子から分離する工程、
を含み、
工程b)において、前記沈殿剤と混合された前記液体が、沈殿後に、1分間~6時間の時間、60~200℃の範囲の温度で熱処理される、且つ/又は
工程c)後の追加工程d)において、前記液体から分離した前記リグニン粒子が、60~600℃の範囲の温度で熱処理される、
方法。
【請求項2】
前記リグニン含有原料を含む液体が、
- 液体と混合された、木質バイオマス又はそれから生成した固形物のクラフトパルプ化に由来する黒液、
- 液体と混合された、木質バイオマスの酵素加水分解に由来する固形物、
- 液体と混合された、亜硫酸塩(リグノスルホン酸塩)を含む木質バイオマス又はそれから生成した固形物のパルプ化に由来する黒液、又は
- 液体と混合された、有機溶媒若しくは有機酸を含む木質バイオマス、又はそれから生成した固形物のパルプ化に由来する液体
から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体が、
- 酸性水性液体又はアルカリ水性液体、好ましくは水酸化ナトリウム
- 少なくとも1種のカルボン酸、好ましくはギ酸及び/若しくは酢酸、又は
- 少なくとも1種のアルコール、好ましくはエタノール
を含むか、又はこれらから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の架橋剤が、アルデヒド、エポキシド、酸無水物、ポリイソシアネート又はポリオールから選択され、前記少なくとも1種の架橋剤が、アルデヒド、特に好ましくはホルムアルデヒド、フルフラール又は糖アルデヒドから好ましくは選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記沈殿剤が、少なくとも1種の酸、好ましくは酸性水又は酸性ガス、塩基、好ましくは水性塩基、水又は塩、好ましくは、塩を含有する水溶液から選択され、前記沈殿剤が、
- 特に、前記液体が、水性塩基、好ましくは水酸化ナトリウムを含む、若しくはこれらである場合、酸、好ましくは酸性水、又は
- 特に、前記液体が、少なくとも1種のカルボン酸、好ましくはギ酸及び/若しくは酢酸、又は少なくとも1種のアルコール、好ましくは、エタノールを含む、若しくはこれらである場合、水
から好ましくは選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)において、前記沈殿剤と混合した後の前記液体のpHの値が10未満であり、沈殿が、0.5~9、特に好ましくは1.0~8.5、より特に好ましくは1.5~8.0、より好ましくは2.0~7.5、より好ましくは2.5又は>2.5~7.0、より好ましくは>2.5又は3.0~6.0、最も好ましくは>2.5又は3.0~<6.0又は<5.5の範囲のpHの値で好ましくは行われることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程b)において、沈殿添加物が、前記沈殿剤の他に混合される、且つ/又は工程a)において、前記架橋剤が、前記液体に含まれている架橋剤の前駆体からインシチュで形成されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記沈殿剤、及び場合により沈殿添加物との混合後に、工程b)において、前記リグニン含有原料を含む液体の乾燥物質含有率が、少なくとも2質量%、特に好ましくは少なくとも3質量%、より特に好ましくは少なくとも4質量%であり、乾燥物質含有率が、好ましくは、それぞれ、<26質量%、特に好ましくは<24質量%、より特に好ましくは<20質量%であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程a)における前記反応が、好ましくは、7~14、特に好ましくは>7~14、より特に好ましくは8~13.5、及び特に9~13の範囲の前記液体のpHの値において、60~130℃、好ましくは70~100℃の範囲の温度で行われること、並びに/又は
加熱処理が、追加工程d)において行われる場合、工程b)における沈殿が、0~100℃未満、好ましくは0~90℃未満、より好ましくは0~80℃未満、より特に好ましくは0~40℃未満、特に10~30℃未満の範囲の温度で行われるか、若しくは加熱処理が、工程b)において行われる場合、工程b)における沈殿が、90~130℃の範囲の温度で行われること、並びに/又は
工程b)における加熱処理が、80~170℃、特に好ましくは80℃若しくは100℃~160℃、より特に好ましくは80~150℃未満、より好ましくは100~150℃未満の範囲の温度で行われ、塩基、好ましくは水性塩基が、沈殿剤として使用される場合、最大温度が、好ましくは少なくとも150℃未満であること、並びに/又は
追加工程d)における加熱処理が、80~400℃、好ましくは80~300℃、更に好ましくは80~240℃、更により好ましくは90~130℃の範囲の温度で行われること、
を特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
追加工程d)において、液体から分離した前記リグニン粒子の加熱処理の時間が、1分間~48時間、好ましくは1分間~24時間、より好ましくは10分間~18時間又は30分間~12時間であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程b)における沈殿後の加熱処理の時間が、少なくとも5又は少なくとも10分間、好ましくは少なくとも15若しくは少なくとも20分間、特に好ましくは少なくとも25分間若しくは少なくとも30分間であること、又は工程b)における沈殿後の加熱処理の時間が、5分間~5時間、好ましくは10分間~4.5時間、特に好ましくは15分間~4時間、より特に好ましくは20分間~3.5時間、特に25若しくは30分間~3時間の範囲であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法であって、該方法において形成される前記リグニン粒子が、
体積平均値に対して、500μm未満、好ましくは50μm未満、より好ましくは20μm未満のd50値となる粒径分布を有しており、粒径分布のd50値が、工程c)の後若しくは工程d)の後に行われる摩砕工程によって好ましくは得られること、及び/又は
10m
2/g~180m
2/g、好ましくは20m
2/g~180m
2/g、更に好ましくは35m
2/g~150又は180m
2/g、特に好ましくは40m
2/g~120若しくは180m
2/gの範囲のSTSA表面積を有すること
を特徴とする、方法。
【請求項13】
体積平均値に対して、500μm未満、好ましくは50μm未満、より好ましくは20μm未満の粒径分布のd50値を有する、且つ/又は
2m
2/g~180m
2/g、好ましくは10m
2/g~180m
2/g、好ましくは20m
2/g~180m
2/g、更に好ましくは35m
2/g~150若しくは180m
2/g、特に好ましくは40m
2/g~120若しくは180m
2/gの範囲のSTSA表面積を有する、
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、リグニン粒子。
【請求項14】
前記粒子が、アルカリ媒体に可溶な化合物を、粒子の総質量に対して、それぞれ、30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満、更に好ましくは15%未満、更に特に好ましくは10%未満、更に好ましくは7.5%未満、特に5%未満、最も好ましくは2.5%未満、又は1%未満の割合で有しており、前記アルカリ媒体が、NaOHの水溶液(0.1mol/l又は0.2mol/l)に相当し、割合が、本説明に記載されている方法に準拠して決定される、請求項13に記載のリグニン粒子。
【請求項15】
VDA278(05/2016)に準拠した昇温脱離分析によって決定すると、リグニン粒子1gあたり<200μg、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<175μg、より特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<150μg、より好ましくはリグニン粒子1gあたり<100μg、より好ましくはリグニン粒子1gあたり<50μg、特にリグニン粒子1gあたり<25μgの割合となる、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物を有する、請求項13又は14に記載のリグニン粒子。
【請求項16】
炭素1gあたり0.20Bq超、特に好ましくは炭素1gあたり0.23Bq超であるが、好ましくは炭素1gあたり0.45Bq未満、より好ましくは炭素1gあたり0.4Bq未満、特に好ましくは炭素1gあたり0.35Bq未満である、
14C含有量を有する、且つ/又は無灰の乾燥物質に対して、60質量%~80質量%の間、好ましくは65質量%~75質量%の間の炭素含有率を有する、請求項13から15のいずれか一項又は複数に記載のリグニン粒子。
【請求項17】
体積平均値に対して、500μm未満、好ましくは50μm未満、より好ましくは20μm未満の粒径分布のd50値を有する、且つ/又は
2m
2/g~180m
2/g、好ましくは10m
2/g~180m
2/g、好ましくは20m
2/g~180m
2/g、更に好ましくは35m
2/g~150若しくは180m
2/g、特に好ましくは40m
2/g~120若しくは180m
2/gの範囲のSTSA表面積を有する、
リグニン粒子であって、
該粒子が、アルカリ媒体に可溶な化合物を、粒子の総質量に対して、それぞれ、30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満、更に好ましくは15%未満、更に特に好ましくは10%未満、更に好ましくは7.5%未満、特に5%未満、最も好ましくは2.5%未満、若しくは1%未満の割合で有しており、前記アルカリ媒体が、NaOHの水溶液(0.1mol/l又は0.2mol/l)に相当し、割合が、本説明に記載されている方法に準拠して決定される、且つ/又は該粒子が、VDA278(05/2016)に準拠した昇温脱離分析によって決定すると、リグニン粒子1gあたり<200μg、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<175μg、より特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<150μg、より好ましくはリグニン粒子1gあたり<100μg、より好ましくはリグニン粒子1gあたり<50μg、特にリグニン粒子1gあたり<25μgの割合となる、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物を有する、
リグニン粒子。
【請求項18】
特に、ゴム組成物において、充填剤として、請求項13から17のいずれか一項又は複数に記載のリグニン粒子の使用。
【請求項19】
少なくとも1種のゴム成分及び少なくとも1種の充填剤成分を含む、ゴム組成物であって、前記充填剤成分が充填剤として請求項13から17のいずれか一項又は複数に記載のリグニン粒子を含有し、ゴム組成物が好ましくは加硫可能である、ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン含有原料を含む液体から粒子形態のリグニンを生成する方法であって、少なくとも、架橋剤と反応させる工程(工程a))、液体中でリグニン粒子の形成を伴ってリグニンを沈殿させる工程(工程b))、及び工程b)において形成したリグニン粒子の液体を分離する工程(工程c))を含み、工程b)において、沈殿後に、液体が1分間~6時間の時間、60~200℃の範囲の温度で熱処理される、且つ/又は工程c)後の追加工程d)において、液体から分離したリグニン粒子が、60~600℃の範囲の温度で熱処理される、方法、及び本方法により得ることができるリグニン粒子、リグニン粒子それ自体、充填剤としてのリグニン粒子の使用、及びとりわけ、充填剤としてこのようなリグニン粒子を含む充填剤成分を含むゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
広葉樹、針葉樹及び一年生植物に由来するリグニンは、例えば、クラフトリグニン、リグノスルホン酸塩又は加水分解リグニンの形態での抽出/回収後に、多数の極性媒体及びアルカリ媒体に高い溶解度を示す。リグニンは、とりわけ、ほとんど、80℃~150℃の温度でのガラス転移を示す。リグニン粒子の微視構造は、低温において既に軟化することによって変化する。したがって、リグニン含有物質は、通常、安定ではないが、高温ではその特性を変化させる。更に、例えば10%の水を含有するジオキサン及びアセトン等の極性溶媒、又はアルカリ媒体へのリグニンの溶解度は、通常、>95%である(Sameniら、BioResources、2017、12、1548~1565頁;Podschunら、European Polymer Journal、2015、67、1~11頁)。US2013/0116383(A1)では、架橋リグニンの生成が開示されており、アルカリ水溶液等の極性溶媒では、このようなリグニンの溶解度が向上することが予測されている。これらの特性及び他の特性のために、物質の応用には、リグニンは、限られた範囲にしか使用することができない(DE102013002574(A1))。本明細書のこれ以降、リグニンとは、クラーソンリグニン及び酸可溶性リグニンの和として理解されたい。更に、乾燥体は、他の有機及び無機構成物質を含むことができる。
【0003】
これらの欠点を克服するために、200℃超の軟化温度(ガラス転移温度)を特徴とする水熱炭化又は水熱処理によって、安定化リグニンを生成することが提案されている(WO2015018944(A1))。このような方法において、pHの値を調節することによって、粒径分布が明確な安定化リグニンを得ることが可能である(WO2015018944(A1))。
【0004】
方法の改善により、例えば、エラストマーにおける機能性充填剤として施用することができる、粒子炭素材料を生成するための原料としてリグニンが使用されている(WO2017085278(A1))。機能性充填剤に関する必須の品質パラメータは、STSAの測定によって決定される、粒子炭素材料の外側表面積である。このような方法は、通常、150℃~250℃の間の温度において、リグニン含有液体の水熱炭化を使用する。このような温度では、リグニンの反応性が高いので、高い比表面積を実現するため、リグニン含有液体のpHの値、イオン強度及びリグニン含有率、並びに水熱炭化の温度及び期間の微調節の実現が必要である。これは、アルカリ範囲内、通常、7より高い値まで、pHの値を調節することによって実現される。
【0005】
このような粒子炭素材料の場合、上記によって、個々の原料リグニンの材料とは異なる材料の用途の可能性が開かれる。したがって、粒子炭素材料は、アルカリ媒体への溶解度が40%未満と低く、比表面積が5m2/gより高く200m2/g未満となるので、エラストマー中の強化充填剤として使用することができ、カーボンブラックを完全に又は部分的に置き換えることができる。
【0006】
これらの公知の方法の欠点は、収率が低いことであり、一般に、40%~60%の間である。これらの方法の更なる欠点は、一層高い比表面積を実現するため、リグニン含有液体の特性(pHの値、イオン強度、リグニン含有率)を、水熱炭化の工程パラメータ(温度及び滞留時間)に適合させるための労力が大きいことである。5m2/g~40m2/gの範囲の表面積を達成することは比較的容易であるが、40m2/gを超える表面積は、上述の調節の必要な感度のために、工業的規模よりも実験室での方が容易に達成される。比表面積を増大する目的とするこのような調節は、収率の低下をもたらすことが推測され得る。
【0007】
例えば、WO2015018944(A1)及びWO2017085278(A1)から公知の方法における欠点は、水熱処理に必要とされる比較的高い温度自体は別として、経済的な理由のために、既に不利であるという事実であり、すなわち、特に、選択される比較的高い温度において解重合反応が起こるために形成する化合物である、水熱処理後に得られる生成物において、極性媒体又はアルカリ媒体に可溶な化合物の割合が比較的高いことである。しかし、特に、得られる水熱処理後のリグニンが、エラストマーにおける機能性充填剤として使用される場合、上記の媒体には、可能な限り不溶性であることが望ましいか、又は必要である。例えば、WO2015018944(A1)及びWO2017085278(A1)から公知の方法の別の欠点は、それらから得ることができる水熱処理後のリグニンが、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物を比較的高く含有しているので、上記のリグニンは、放出に関する仕様を満たすため、及び/又は臭気の中性を確保するため、その生成後に個別のプロセス工程で、150℃~250℃の温度まで加熱されなければならないことである。
【0008】
220℃~280℃の間の温度での水熱炭化による乾燥黒液と水とからなる懸濁液から燃料を製造するために、固形物の収率を向上させて、リグニン変換率を高める別の公知方法は、ホルムアルデヒドの添加である[Bioressource Technologie 2012、110、715~718頁、Kangら]。Kangらは、乾燥リグニン100gあたり37gのホルムアルデヒドを、20%の固形物濃度で添加することを提案している(乾燥体基準で30%のリグニン含有率を有する黒液を乾燥させることによって得られる乾燥体25gあたり、2.8%のホルムアルデヒド溶液を100ml)。これによって、黒液に含まれるリグニンの固形物への変換率を60%~80%から90%~100%の間の値まで向上させることが可能となり、最高値は、220℃~250℃の間の温度において達成される。この先行技術は、ホルムアルデヒド、黒液中の固形物、及びこの固形物から形成される炭化生成物の間での重合に対する収率の向上に寄与する(最後の段落の716頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US2013/0116383(A1)
【特許文献2】DE102013002574(A1)
【特許文献3】WO2015018944(A1)
【特許文献4】WO2017085278(A1)
【特許文献5】WO2015018944(A1)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sameniら、BioResources、2017、12、1548~1565頁
【非特許文献2】Podschunら、European Polymer Journal、2015、67、1~11頁。
【非特許文献3】Bioressource Technologie 2012、110、715~718頁、Kangら
【非特許文献4】https://www.tappi.org/content/SARG/T222.pdf
【非特許文献5】M. Zawadzki, A. Ragauskas, Holzforschung 2001, 55, 3頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この先行技術の欠点:
- 100gのリグニン乾燥体あたり、37gのホルムアルデヒドという比投入量(specific dosing)が高いこと、
- 使用される乾燥体、及びそれから生成される生成物の灰分含有率が高いこと、
- 加工温度が高いこと、及びこれに伴って加工圧が高いこと、
- ホルムアルデヒド、黒液の固形物質及びこの固形物資から形成される炭化生成物間で重合すること、
- 得られる生成物の溶解度が高いこと、
- 臭気の強い構成物質又は揮発性構成物質の割合が高いこと、及び
- 生成物の燃料用途への使用に関わる制限があること(Kangらを参照されたい)。
【0012】
したがって、粒子形態の安定化リグニンを生成する新規方法及びこれらの方法によって得ることができる生成物、並びにこれらの生成物を使用することによって生成される材料が必要とされており、これらのすべてが、公知の方法及び生成物の上述の欠点を示さない。
【0013】
本発明の目的は、高い収率を実現すると同時に、材料用途に好適な安定化リグニンをもたらす方法を見出すことである。
【0014】
本発明の目的は、特に、以下
- アルカリ媒体及び/又は極性媒体へのリグニンの溶解度を低下させる方法、
- リグニンのガラス転移温度を上昇させるか、又はなくす方法、
- 有利な粒子特性を有する安定化リグニンをもたらす方法、
- 存在する場合、そこからガス放出(放出)され得る、有機化合物の含有率が低いだけの安定化生成物をもたらす方法、
- 高収率を有する方法、及び/又は
- 特に、液体媒体の処理に比較的低温しか必要とせず、その結果、現状技術の方法に比べて、単純化された経済的に有利なプロセス順序が可能になる方法
を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、特許請求の範囲に主張されている主題、及び以下の明細書に記載されているこれらの主題の好ましい実施形態によって実現される。特に、驚くべきことに、この目的は、溶液から溶解したリグニンを、リグニン粒子の形成を伴いながら沈殿させるため、とりわけ沈殿剤が使用される方法によって解決され得る。
【0016】
第1の主題では、本発明は、リグニンの少なくとも一部が液体に溶解している、リグニン含有原料を含む液体から粒子形態のリグニンを生成する方法であって、該方法は、
a)液体に溶解した改変リグニンを得るため、50~180℃の範囲の温度において、液体に溶解したリグニンを少なくとも1種の架橋剤と液体中で反応させる工程、
b)0℃から150℃未満の範囲の温度において、液体と沈殿剤とを混合することによって、工程a)において得られた溶解した改変リグニンを、液体中のリグニン粒子の形成と共に沈殿させる工程、及び
c)液体を、工程b)において形成されたリグニン粒子から分離する工程、
を含み、
工程b)において、沈殿剤と混合された液体が、沈殿後に、1分間~6時間の時間、60~200℃、好ましくは80~150℃、特に好ましくは80℃~150℃未満の範囲の温度で熱処理される、且つ/又は
工程c)後の追加工程d)において、液体から分離したリグニン粒子が、60~600℃の範囲の温度で熱処理される、
上記方法、
又は
リグニンの少なくとも一部が液体に溶解している、リグニン含有原料を含む液体から粒子形態のリグニンを生成する方法であって、該方法は、
a)液体に溶解した改変リグニンを得るため、50~180℃の範囲の温度において、液体に溶解したリグニンを少なくとも1種の架橋剤と液体中で反応させる工程、
b)0℃から150℃未満の範囲の温度において、液体と沈殿剤とを混合することによって、工程a)において得られた溶解した改変リグニンを、液体中のリグニン粒子の形成と共に沈殿させる工程、及び
c)液体を、工程b)において形成されたリグニン粒子から分離する工程、
を含み、
工程b)において、沈殿剤と混合された液体が、80~150℃の範囲の温度で熱処理される、且つ/又は
工程c)後の追加工程d)において、液体から分離したリグニン粒子が、60~600℃の範囲の温度で熱処理される、
上記方法に関する。
【0017】
別の主題では、本発明は、本発明による方法によって得ることができるリグニン粒子に更に関し、リグニン粒子は、
体積平均値に対して、粒径分布が、500μm未満、好ましくは50μm未満、より好ましくは20μm未満のd50値を有する、且つ/又は
2m2/g~180m2/g、好ましくは10m2/g~180m2/g、好ましくは20m2/g~180m2/g、更に好ましくは35m2/g~150若しくは180m2/g、特に好ましくは40m2/g~120若しくは180m2/gの範囲のSTSA表面積を有する。
【0018】
別の主題では、本発明は、リグニン粒子であって、該リグニン粒子が、
体積平均値に対して、粒径分布が、500μm未満、好ましくは50μm未満、より好ましくは20μm未満のd50値を有する、且つ/又は
2m2/g~180m2/g、好ましくは10m2/g~180m2/g、好ましくは20m2/g~180m2/g、更に好ましくは35m2/g~150若しくは180m2/g、特に好ましくは40m2/g~120若しくは180m2/gの範囲のSTSA表面積を有し、
該粒子が、アルカリ媒体に可溶な化合物を、粒子の総質量に対して、それぞれ、30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満、更に好ましくは15%未満、更に特に好ましくは10%未満、更に好ましくは7.5%未満、特に5%未満、最も好ましくは2.5%未満、又は1%未満の割合で有しており、アルカリ媒体が、NaOHの水溶液(0.1mol/l又は0.2mol/l)に相当し、割合が、本説明に記載されている方法に準拠して決定される、且つ該粒子が、VDA278(05/2016)に準拠した昇温脱離分析によって決定すると、リグニン粒子1gあたり<200μg、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<175μg、より特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<150μg、より好ましくはリグニン粒子1gあたり<100μg、より好ましくはリグニン粒子1gあたり<50μg、特にリグニン粒子1gあたり<25μgの割合となる、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物を有する、
リグニン粒子に更に関する。
【0019】
本発明による方法によって、高い比表面積を有する安定化リグニン粒子、例えば、少なくとも2m2/g、好ましくは10m2/gのSTSA表面積を有する安定化リグニンは、リグニン含有原料から得ることができる。これらの粒子の形成に関すると、比較的低温の液体媒体しか必要としない。これによって、単純且つ経済的に有利なプロセス管理が可能となる。
【0020】
更に、本発明により得ることができる生成物は、存在する場合、極性媒体又はアルカリ媒体に可溶な化合物の割合が非常に低いことだけによってしか区別されず、その割合は、生成物が、エラストマーにおける機能性充填剤として使用される場合、その総質量に対して、それぞれ、好ましくは≦30%、特に好ましくは≦20%、より特に好ましくは≦10%、更に好ましくは7.5%未満、特に5%未満、最も好ましくは2.5%未満、又は1%未満である。本文脈において、特に、選択されるプロセス順序は、望ましくない解重合反応の発生を阻止することができる、又は少なくとも大部分、阻止することができることが見出され、これは、極性媒体又はアルカリ媒体に可溶な化合物の割合が、比較的低いことの理由である。本文脈において、本発明による方法の代替の場合、液体から分離したリグニン粒子が、工程c)を実施した後の追加工程d)において、60~600℃の範囲の温度で熱処理される方法によれば、加熱処理の選択される温度範囲は、本発明により生成される生成物において、極性媒体又はアルカリ媒体に可溶な化合物の割合が比較的低くなることに関連していることが、特に見出された。本明細書の実験部分において、乾燥温度として、例えば、US2013/0116383(A1)の実施例1においてやはり選択された、40℃等のより低い温度での加熱処理(実施例「PS2水分離5」)は、極性媒体又はアルカリ媒体にかなり一層高い溶解度、及び本発明によれば、望ましくない溶解度をもたらすことが示される。これは、本発明によって想起される目的とは対照的であるが、溶解度を改善することを目的とする、US2013/0116383(A1)の一般教示に一致する。
【0021】
更に、本発明による生成物は、存在する場合、VDA278(05/2016)に準拠した昇温脱離分析によって決定すると、そこからガス放出(放出)され得る、低い含有率の有機化合物しか有していないことによって区別される。したがって、それらは、そこからガス放出され得る有機化合物の含有率を低下させるために、別の個別のプロセス工程を必要とすることなく、特に、放出及び/又は臭気中性に関する工業的規格を満たす。好ましくは、本リグニン粒子は、VDA278(05/2016)に準拠した昇温脱離分析によって決定すると、リグニン粒子1gあたり<200μg、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<175μg、より特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<150μg、更に好ましくはリグニン粒子1gあたり<100μg、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<50μg、一部の例では、リグニン粒子1gあたり<25μgの割合となる、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物を有する。
【0022】
更に、工程b)において、加熱処理の1分間~6時間の選択される処理時間が、特に、アルカリ媒体への上述の低い所望の溶解度(「アルカリ溶解度」)を実現し、可能にすることが特に、驚くべきことに見出された。同様に、工程b)において、加熱処理の1分間~6時間の選択される処理時間が、上述の低い所望の放出レベルだけを実現し、可能にすることが驚くべきことに見出された。したがって、加熱処理は、粒子の単なる凝固を超える。これらの有利な効果は、工程b)における沈殿後の加熱処理の時間が、少なくとも5分間若しくは少なくとも10分間、好ましくは少なくとも15分間若しくは少なくとも20分間、特に好ましくは少なくとも25分間若しくは少なくとも30分間である場合、又は工程b)における沈殿後の加熱処理の時間が、5分間~5時間、好ましくは10分間~4.5時間、特に好ましくは15分間~4時間、より特に好ましくは20分間~3.5時間、特に25分間若しくは30分間~3時間の範囲にある場合に実現され得ることが特に見出された。得に、所望のアルカリ溶解度及び/又は所望の放出値は、工程b)における加熱処理の時間が短過ぎる場合、実現することができない。更に、工程b)における加熱処理の時間が長過ぎる場合、体積平均値に対して、d50値の粒径分布として決定されるリグニン粒子の粒径は大きくなり過ぎ、これは、ひいては、例えば充填剤としての粒子の使用に関すると、欠点を有することになる恐れがあること、及び処理の時間が長過ぎる場合、粒子のSTSA表面積が小さくなり過ぎることが見出された。
【0023】
本発明の別の主題は、特にゴム組成物における、充填剤としてのリグニン粒子の使用である。
【0024】
本発明の別の主題は、少なくとも1種のゴム成分及び少なくとも1種の充填剤成分を含む、ゴム組成物であって、充填剤成分が、充填剤として本発明によるリグニン粒子を含有し、ゴム組成物が好ましくは加硫可能である、ゴム組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】示差熱分析によって決定すると、最大で200℃までガラス転移温度を何ら示さないPS2加熱2からの安定化リグニンのDSC曲線を表す。
【
図2】リグニン含有原料(実線)及び改変リグニン(PS2水分離5、点線)の
13C-NMRスペクトルを示す。
【
図3】改変リグニン(PS2水分離5、実線)及び安定化リグニン(PS2加熱6、点線)の
13C-NMRスペクトルを示す。
【
図4】PS2加熱2(上部、d50=12.0μm)及びPS2加熱4(下部、d50=12.2μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【
図5】PS2加熱1の粒子の走査型電子顕微鏡による写真を示す。
【
図6】リグニン含有原料、PS2水分離6、PS2水分離9及びPS水分離10のpHの値及び導電率を示す。
【
図7】ジメチルホルムアミド中のリグニン含有原料、PS2水分離9及びPS2水分離11の溶解度を示す。
【
図8】エタノール及び水の混合物(1:1)中のリグニン含有原料、PS2水分離6及びPS2水分離8の溶解度を示す。
【
図9】VDA278に準拠した、PS2水分離6、PS2水分離8、PS2水分離9及びPS2水分離11の放出量を示す。
【
図10】リグニン含有原料(黒色実線)及び段階b)において安定化したリグニン(PS2水分離10、PS2水分離8、PS2水分離15、PS2水分離20、灰色実線及び黒色点線)の
13C-NMRスペクトルを示す。
【
図11】
図11は、示差熱分析によって決定した、PS2水分離6、PS2水分離8、PS2水分離9、PS2水分離10、PS2水分離11、PS2水分離14、PS2水分離15、PS2水分離16、PS2水分離18、PS2水分離19、PS2水分離20及びPS2水分離21に由来する安定化リグニンの、DSC曲線を表す。
【
図12】Py-GC/MSによって決定した、リグニンビルディングブロックの百分率での組成を示す。
【
図13A】PS2水分離8(d50=2.1μm)、PS2水分離9(d50=1.9μm)、PS2水分離10(d50=1.7μm)、PS2水分離12(d50=135.2μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【
図13B】PS2水分離11(d50=1.7μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【
図14】PS2水分離17(d50=125.2μm)及びPS2水分離15(d50=2.4μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【
図15】PS2水分離19(d50=27.1μm)及びPS2水分離20(d50=2.4μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【
図16】PS2水分離6(d50=6.5μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の文脈では、本発明による方法によって生成される粒子形態のリグニンを、安定化リグニンと称する。リグニン粒子を安定させるために、工程b)において、沈殿剤と混合した液体が、沈殿後、工程b)において、60~200℃、好ましくは80~150℃、特に好ましくは80~150℃未満の範囲の温度で、好ましくは1分間~6時間の時間、熱処理される、且つ/又は工程c)後の追加工程d)において、液体から分離したリグニン粒子が、60~600℃の範囲の温度で熱処理される。
【0027】
好ましいリグニン含有原料
本発明による方法において、リグニン含有原料を含む液体が出発原料として使用され、リグニンの少なくとも一部は、液体に溶解している。
【0028】
好ましいリグニン含有原料は、特に、以下:
- 木質バイオマス又はそれから生成した固形物(例えば、LignoBoostリグニン、LignoForceリグニン)のクラフトパルプ化に由来する黒液、
- 木質バイオマスの酵素加水分解に由来する固形物、
- 亜硫酸塩(リグノスルホン酸塩)を含む木質バイオマス又はそれから生成した固形物のパルプ化に由来する黒液、又は
- 例えば、エタノール等の有機溶媒若しくは有機酸を含む木質バイオマス、又はそれから生成した固形物(例えば、オルガノソルブリグニン)のパルプ化に由来する液体
である。
【0029】
黒液等の上述のリグニン含有液体から生成される固形物は、まさに元々、リグニン含有固形物である。それらは、例えば、リグニン含有液体に由来する液体構成物質から分離することによって、例えば、溶媒蒸発によって得ることができ、この場合、場合により、他の処理工程、例えば精製が行われてもよい。このようなリグニン含有固形物は、市販されている。
【0030】
リグニン含有原料が液体である場合、これは、それ自体、リグニン含有原料を含む液体として使用することができ、この場合、リグニンの少なくとも一部は、液体に溶解している。当然ながら、他の液体又は添加物が、必要に応じて含まれ得る。
【0031】
リグニン含有原料が固形物である場合、本発明による方法に好適な液体であって、リグニンを液体に溶解して含有する、リグニン含有原料を含有する液体を得るため、上記の固形物は液体と混合されて、その結果、ここに含まれるこの液体は、工程a)(第1のプロセス段階)の前の溶解段階で完全に又は一部が溶解される。
【0032】
有利には、溶解段階において、リグニン含有原料は、液体と混合され、この液体に少なくとも一部が溶解する。この液体は、いくつかの物質を含んでもよく、リグニン含有原料の溶解度を向上させる、又は他の面で有用な添加剤が、上記の液体に添加されてもよい。液体は、水及び/又は有機溶媒を含んでもよい。
【0033】
好ましい実施形態では、リグニン含有原料の溶解は、アルカリ液体中で行われる。好ましい液体は、水、すなわち、アルカリ水溶液を含む。好ましい液体は、水酸化ナトリウム、石灰乳及び/又は水酸化カリウム溶液を含む。
【0034】
代替的な好ましい実施形態では、リグニン含有原料の溶解は、酸性液体、例えば、酸性水性液体中で行われる。好ましい液体は、水、及び少なくとも1種のカルボン酸、例えば、ギ酸、クエン酸及び/又は酢酸を含む。好ましい実施形態では、液体は、多量の、例えば、液体の50質量%超、又は80質量%超のカルボン酸、例えば、ギ酸及び/又は酢酸を含有してもよく、カルボン酸は、10質量%を超える水を含まない、工業グレードのカルボン酸であってもよい。
【0035】
液体は、アルコール、例えばエタノールを更に含んでもよい。
【0036】
液体は、
- 酸性水性液体又はアルカリ水性液体、好ましくは水酸化ナトリウム
- 少なくとも1種のカルボン酸、好ましくはギ酸及び/若しくは酢酸、又は
- 少なくとも1種のアルコール、好ましくはエタノール
を含む、又は以下から選択されることが特に好ましい。
【0037】
第1のプロセス段階(工程a))における、架橋剤と反応させる溶解したリグニンの他に、未溶解リグニンもまた、この液体中に分散して存在することができる。したがって、本方法の場合、全部のリグニンが、溶解形態で液体中に存在することは必要ではない。一部の変形形態では、リグニン含有原料の乾燥物質の0.5%超、1%超、2.5%超、5%超又は10%超が溶解しない。一部の変形形態では、リグニン含有原料のリグニンの0.5%超、1%超、2.5%超、5%超又は10%超が、溶解しない。
【0038】
リグニン含有原料を含む、工程a)(第1のプロセス段階)において導入される液体の以下の特性:
- 有利には、リグニン含有原料の乾燥物質の50%超、好ましくは60%超、特に好ましくは70%超、更に好ましくは80%超、特に90%超、更に好ましくは95%超が、液体に溶解すること
- 有利には、リグニン含有原料のリグニンの50%超、好ましくは60%超、特に好ましくは70%超、更に好ましくは80%超、特に90%超、更に好ましくは95%超が、液体に溶解すること
- 有利には、リグニン含有原料を含む液体の乾燥物質含有率は、3%より高い、特に好ましくは4%より高い、より特に好ましくは5%より高いこと
- 有利には、リグニン含有原料を含む液体の乾燥物質含有率は、25%より少ない、好ましくは20%より少ない、特に好ましくは18%より少ないこと
が、プロセス管理の成功に特に好適であることが見出された
【0039】
この用途では、示されている百分率はすべて、特に明記しない限り、質量基準である。
【0040】
リグニン含有原料のリグニンは、クラーソンリグニン及び酸可溶性リグニンとして決定され得る。クラーソンリグニンは、Tappi T 222 om-02(https://www.tappi.org/content/SARG/T222.pdf)によれば、72% H2SO4中で処理した後の、分析測定変数であると説明し、この分析方法において定量される生成物のことである。リグニンは、例えば、クラフトリグニン、リグノスルホン酸塩又は加水分解リグニンであってもよく、リグノスルホン酸塩は、通常、それほど好ましいものではない。リグニンは、官能基を提供し、この官能基により架橋が可能である。リグニンは、架橋可能な単位として、例えばフェノール性芳香族化合物、芳香族及び脂肪族ヒドロキシ基並びに/又はカルボキシ基を提供する。
【0041】
第1のプロセス段階の好ましい実施形態
本発明による方法は、本明細書において、工程a)とも称される、第1のプロセス段階を含み、a)液体中に溶解した改変リグニンを得るため、液体に溶解したリグニンを、50~180℃の範囲の温度において、液体中で少なくとも1種の架橋剤と反応させる。好都合には、この反応は、移動液体中で行われ、この場合、移動は、例えば液体の撹拌又は再循環によって、引き起こされてもよい。好ましくは、工程a)は、7~14、特に好ましくは>7~14、より特に好ましくは8~13.5、及び特に、9~13、更に好ましくは9~12の場合のような最大で12、更に好ましくは9~11.5の場合のような最大で11.5の範囲の液体のpHの値で行われる。
【0042】
第1のプロセス段階の好ましい実施形態では、架橋剤が、リグニン含有原料を含む液体に添加される。架橋剤は、リグニン含有原料に液体を添加する前又はその間に、場合により添加されてもよい。代替的な実施形態では、架橋剤の代わりに架橋剤の前駆体が添加され、この場合、工程a)において、架橋剤は、前駆体からインシチュで形成される。架橋剤の以下の詳細は、前駆体からインシチュで形成される架橋剤にも適用される。
【0043】
架橋剤は、リグニンの架橋可能な基と反応することができる、少なくとも1つの官能基を有する。架橋剤は、アルデヒド、カルボン酸無水物、エポキシド、ヒドロキシル及びイソシアネート基、又はそれらの組合せから選択される、少なくとも1つの官能基を好ましくは有する。
【0044】
架橋剤が、例えばアルデヒド、酸無水物又はエポキシド基等の、反応中にリグニンの2つの架橋可能な基と反応することができる官能基を有する場合、このような官能基は1つで十分である。別の場合、架橋剤は、リグニンの架橋可能な基と反応することができる、例えば、ヒドロキシル基又はイソシアネート基等の、少なくとも2つの官能基を有する。
【0045】
好ましい実施形態では、少なくとも1種の架橋剤は、アルデヒド、エポキシド、酸無水物、ポリイソシアネート又はポリオールのうちの少なくとも1種から選択され、この場合、少なくとも1種の架橋剤は、好ましくはアルデヒド、特に好ましくはホルムアルデヒド、フルフラール又は糖アルデヒドから選択される。ポリイソシアネートは、少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物であり、ジイソシアネート又はトリイソシアネートが好ましい。ポリオールは、少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物であり、ジオール又はトリオールが好ましい。
【0046】
第1のプロセス段階(工程a)による)において、液体に溶解しており、且つ架橋可能な単位として、例えば、フェノール性芳香族化合物、芳香族及び脂肪族ヒドロキシル基、並びに/又はカルボキシル基を含有するリグニンと、リグニンの架橋可能な単位と反応することが可能な架橋可能な単位として、少なくとも1つの官能基を供給する少なくとも1つの架橋剤とが、規定時間にわたり高温で反応し、こうして、溶解した改変リグニンが生成される。
【0047】
二官能性架橋剤が使用される場合、二官能性架橋剤1モルあたり2モルの架橋可能な単位が利用可能である。したがって、三官能性架橋剤が使用される場合、三官能性架橋剤1モルあたり3モルの架橋可能な単位が利用可能であるなどである。架橋剤が多官能性であるにもかかわらず、一部は立体障害により、及び一部は電荷の移動により、基が反応しなくなるにつれて反応性が低下するので、多くの場合、利用可能な基の一部しか反応しないことに留意すべきである。
【0048】
以下の記述において、架橋剤の架橋可能な単位とは、リグニンの架橋可能な単位と反応することができる単位を指す。したがって、例えばアルデヒド、酸無水物又はエポキシド基等の、反応中にリグニンの2つの架橋可能な基と反応することができる官能基は、2つの架橋可能な単位として数えられる。
【0049】
好ましくは、架橋剤の投入は、使用されるリグニン中のリグニンと架橋可能な単位1モルあたり、架橋剤の架橋可能な単位が最大で4mol、好ましくは最大で3mol、より好ましくは最大で2.5mol、特に好ましくは最大で2mol、更により好ましくは最大で1.75mol、特に最大で1.5molが存在するように行われる。
【0050】
好ましくは、架橋剤の投入は、使用されるリグニン中のリグニンと架橋可能な単位1モルあたり、架橋剤の架橋可能な単位が少なくとも0.2mol、好ましくは少なくとも0.5mol、更に好ましくは少なくとも0.75mol、より好ましくは少なくとも1mol、特に好ましくは少なくとも1.1mol、特に少なくとも1.15molが存在するように行われる。
【0051】
好ましくは、架橋剤の投入は、0.2mol~4mol、より好ましくは0.5mol~3mol、特に好ましくは1~2molの範囲にある。
【0052】
架橋剤は、フェノール性環の遊離オルト位及びパラ位を有するリグニン(フェノール性グアイアシル基及びp-ヒドロキシフェニル基)において反応することができる。フェノール性環の遊離オルト及びパラ位における反応に好適な架橋剤は、例えば、ホルムアルデヒド、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)、ヒドロキシベンズアルデヒド、バニリン、シリンガアルデヒド、ピペロナール、グリオキサール、グルタルアルデヒド又は糖アルデヒド等のアルデヒドである。フェノール性環の反応に好ましい架橋剤は、ホルムアルデヒド、フルフラール、並びに例えばグリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒド等の糖アルデヒド(エタナール類/プロパナール類)である。
【0053】
更に、架橋剤は、リグニン中の芳香族及び脂肪族OH基(フェノール性グアイアシル基、p-ヒドロキシフェニル基、シリンギル基)と反応することができる。この目的の場合、例えば、グリシジルエーテル等のエポキシ基、ジイソシアネート若しくはジイソシアネートオリゴマー等のイソシアネート基、又は酸無水物を有する二官能性化合物、及びやはり多官能性化合物が、好ましくは、適用されてもよい。芳香族及び脂肪族OH基における反応に好ましい架橋剤は、ポリイソシアネート、特にジイソシアネート又はトリイソシアネート及び酸無水物である。
【0054】
更に、架橋剤はまた、カルボキシル基と反応することができる。この目的の場合、ポリオール、例えば、特にジオール及びトリオールが適用されてもよい。カルボキシル基との反応の好ましい架橋剤はジオールである。
【0055】
更に、架橋剤は、フェノール性環、芳香族及び脂肪族OH基及びカルボキシル基の各々と反応することができる。この目的の場合、例えば、上述の架橋性官能基のうちの少なくとも2つを有する、二官能性化合物、及びやはり多官能性化合物が使用されてもよい。
【0056】
フェノール性環と反応する架橋剤を使用する場合、使用されるリグニンにおける架橋可能な単位は、フェノール性グアイアシル基及びp-ヒドロキシフェニル基を意味すると理解される。架橋可能な単位の濃度(mmol/g)は、例えば、31P NMR分光法によって決定され(Podschunら、European Polymer Journal、2015、67、1~11頁)、この場合、グアイアシル基が1つの架橋可能な単位を含有し、p-ヒドロキシフェニル基が、2つの架橋可能な単位を含有する。好ましくは、使用されるリグニンは、フェノール性グアイアシル基を有しており、この少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%が、本発明による方法の工程a)において、少なくとも1つの架橋剤によって改変され得る。架橋剤としてホルムアルデヒドを使用する場合、ヒドロキシメチル化の状況では、部分架橋が起こる。
【0057】
芳香族及び脂肪族OH基と反応する架橋剤を使用する場合、使用されるリグニンにおける架橋可能な単位は、芳香族及び脂肪族OH基のすべてを意味すると理解される。架橋可能な単位の濃度(mmol/g)は、例えば、31P NMR分光法によって決定され、この場合、OH基の1つが、1つの架橋可能な単位に相当する。
【0058】
カルボキシル基と反応する架橋剤を使用する場合、使用されるリグニンにおける架橋可能な単位は、カルボキシル基のすべてを意味すると理解される。架橋可能な単位の濃度(mmol/g)は、例えば、31P NMR分光法によって決定され、この場合、カルボキシル基の1つが、1つの架橋可能な単位に相当する。
【0059】
好ましくは、架橋剤の量は、リグニン100gあたり35gの最大値、好ましくはリグニン100gあたり、30gの最大値、特に好ましくは、リグニン100gあたり25gの最大値になる。
【0060】
ホルムアルデヒドが架橋剤として使用される場合、ホルムアルデヒドの量は、リグニン100gあたり25gの最大値、より好ましくはリグニン100gあたり20gの最大値、特に好ましくはリグニン100gあたり15gの最大値、特にリグニン100gあたり12gの最大値となるのが好ましい。したがって、添加されるホルムアルデヒドの量は、例えば、リグニン100gあたり1~20gの間、好ましくはリグニン100gあたり5~15gの間、特に好ましくはリグニン100gあたり6~10gの間の範囲になり得る。ホルムアルデヒド又は他のアルデヒド等の架橋剤の前駆体の全部又は一部を、代わりに液体に添加することもやはり可能であり、この液体から実際の架橋剤が、インシチュで形成される。
【0061】
有利な実施形態では、上に既に記載した通り、第1のプロセス段階(工程a))の間に、架橋剤の少なくとも一部がインシチュで生成される。第1のプロセス段階において架橋剤が生成する利点は、第1のプロセス段階において添加された架橋剤の量を低減することができるか、又は完全になくならせることができることである。
【0062】
有利には、架橋剤は、第1のプロセス段階の間に、例えば、炭水化物、好ましくは、セルロース、ヘミセルロース又はグルコースからインシチュで形成され、これらは、溶解したリグニンを含有する液体に分散しているか、又はこれに溶解している。好ましくは、炭水化物、好ましくは、セルロース、ヘミセルロース又はグルコースが、架橋剤の前駆体として、溶解したリグニンを含有する液体に添加されてもよいか、又はそれらは既にその中に含有されていてもよい。そのような有利なプロセス順序では、例えば、
- 本発明による方法の工程a)による第1のプロセス段階において、
○ 炭水化物をベースとする架橋剤、好ましくは、アルデヒド、好ましくはグリセルアルデヒド又はグリコールアルデヒドは、溶解したリグニンを含有する液体に溶解した、又は分散した炭水化物から得られる、
○ 液体に溶解したリグニン、及び炭水化物をベースとする架橋剤が反応に導入され、こうして、溶解した改変リグニンが生成する、及び
- 本発明による方法の工程b)、c)及び場合によりd)による第2のプロセス段階では、溶解した改変リグニンは、粒子形態の未溶解安定化リグニンに変換される。
【0063】
有利には、架橋剤は、第1のプロセス段階の間に、溶解したリグニンを含有する液体に分散しているか、又はこれに溶解しているリグニンからインシチュで形成される。そのような有利なプロセス順序では、例えば、
- 本発明による方法の工程a)による第1のプロセス段階において、
○ リグニンをベースとする架橋剤、好ましくはアルデヒド、好ましくは、メタンジオール又はグリコールアルデヒドは、溶解したリグニンを含有する液体に溶解した、又は分散したリグニンから得られる、
○ 液体に溶解した残りのリグニン及びリグニンをベースとする架橋剤が反応に導入され、こうして、溶解した改変リグニンが生成する、及び
- 本発明による方法の工程b)、c)及び場合によりd)による第2のプロセス段階において、溶解した改変リグニンは、粒子形態の未溶解安定化リグニンに変換される。
【0064】
工程a)において溶解したリグニン及び架橋剤の反応は、50~180℃、好ましくは60~130℃及びより好ましくは70~100℃の範囲の温度で行われる。特に好ましくは、温度は、70℃より高い。
【0065】
第1のプロセス段階(工程a))の温度は、有利には、50℃超、好ましくは60℃超、特に好ましくは70℃超、及び180℃未満、好ましくは150℃未満、より好ましくは130℃未満、特に好ましくは100℃未満である。
【0066】
有利には、第1のプロセス段階における平均滞留時間は、少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間、更により好ましくは少なくとも15分間、特に好ましくは少なくとも30分間、特に少なくとも45分間であるが、一般には、400分間未満、好ましくは300分間未満である。
【0067】
第1のプロセス段階に関する時間と温度幅の有利な組合せは、少なくとも15分間、好ましくは少なくとも20分間、より好ましくは少なくとも30分間、特に好ましくは少なくとも45分間の滞留時間において、50℃~180℃の範囲の温度である。代替として、第1のプロセス段階に関する時間と温度幅の有利な組合せは、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも15分間、更に好ましくは少なくとも20分間、特に好ましくは少なくとも30分間、特に少なくとも45分間の滞留時間において、50℃~130℃の範囲の温度である。
【0068】
特に好ましい実施形態では、液体に溶解したリグニンと少なくとも1種の架橋剤との混合物は、第1のプロセス段階において、少なくとも20分間、好ましくは少なくとも60分間の滞留時間の間、50℃~180℃の間の温度に保持される。
【0069】
別の特に好ましい実施形態では、液体に溶解したリグニンと少なくとも1種の架橋剤との混合物は、第1のプロセス段階において、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも50分間の滞留時間に、70℃~130℃の間の温度に保持される。
【0070】
別の特に好ましい実施形態では、液体に溶解したリグニンと少なくとも1種の架橋剤との混合物は、第1のプロセス段階において、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも180分間の滞留時間に、50℃~110℃の間、特に好ましくは70℃超~110℃の間の温度に保持される。
【0071】
有利には、第1のプロセス段階の間に、溶解したリグニン及び架橋剤を含有する液体の加熱を実現することが可能である。ここで、加熱速度は、好ましくは、1分あたり15ケルビン未満、より好ましくは1分あたり10ケルビン未満、特に好ましくは1分あたり5ケルビン未満である。
【0072】
有利には、第1のプロセス段階における温度は、少なくとも5分間、好ましくは少なくとも10分間、更に好ましくは少なくとも15分間、特に好ましくは少なくとも30分間の時間にわたり、主に一定に保持される。
【0073】
第1のプロセス段階において、加熱及び一定温度の保持の組合せが、やはり、有利である。
【0074】
第1のプロセス段階における圧力は、リグニンを含有する液体の飽和蒸気圧よりも、好ましくは少なくとも0.1bar、より好ましくは少なくとも0.2bar、及び好ましくは最大で5bar高い。反応は、例えば、大気圧から大気圧よりも1bar高い範囲の圧力、特に、好ましくは大気圧よりも最大で500mbar高い圧力で行われ得る。
【0075】
好ましい溶解した改変リグニン
第1のプロセス段階から、溶解した改変リグニン及び液体を含む混合物が現れ、第2のプロセス段階において、そこから安定化リグニン粒子を生成するのが好適である。
【0076】
第1のプロセス段階から取り出され、第2のプロセス段階に導入される混合物の以下の特性:
- 有利には、混合物の乾燥物質の50%超、好ましくは60%超、特に好ましくは70%超、更に好ましくは80%超、特に90%超が、液体に溶解すること
- 有利には、混合物のリグニンの50%超、好ましくは60%超、特に好ましくは70%超、更に好ましくは80%超、特に90%超が、液体に溶解すること
- 有利には、混合物の乾燥物質含有率が、3%より高い、特に好ましくは4%より高い、更により特に好ましくは5%より高いこと
- 有利には、混合物の乾燥物質含有率が、25%より低い、好ましくは20%より低い、特に好ましくは18%より低いこと
- 有利には、含有されるリグニンの芳香族化合物が、主に、エーテル連結基により結合されていること
- 有利には、芳香族環の全割合におけるパラ置換フェノール性環の割合が、95%超、好ましくは97%超、特に99%超であること
- 有利には、遊離フェノールの含有率が、200ppm未満、好ましくは100ppm未満、更に75ppm未満、特に好ましくは50ppm未満であること
- 有利には、乾燥物質に対するクラーソンリグニンの含有率が、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも85%であること
- 有利には、フェノール性環において遊離オルト位を有するグアイアシル単位及びp-ヒドロキシフェニル単位の割合が、全フェノール性OH基の50%未満、好ましくは40%未満、特に好ましくは30%未満であること
が、プロセス管理の成功に特に好適であることが見出された。
【0077】
遊離フェノールの含有率は、DIN ISO8974に準拠して決定される。クラーソンリグニンの含有率は、TAPPI T222に準拠する、酸不溶性リグニンとして決定される。OH基の定量及び適格性は、M. Zawadzki、A. Ragauskas(Holzforschung 2001、55、3頁)に準拠して、31P-NMRによって決定される。
【0078】
溶解した改変リグニンは、リグニンが、架橋剤と反応するが、架橋剤による架橋が、一部しか起こらない、又はまったく起こらない反応によって得られると推定される。言い換えると、架橋剤の分子は、1つの位置においてリグニンに結合し得るが、架橋の形成に伴う該分子のリグニンへの別の結合は、あるとしても、部分的にしか起こらない。
【0079】
第2のプロセス段階の好ましい実施形態
液体の存在下で、溶解した改変リグニンに由来する粒子の生成の有利な実施形態は、以下に開示される:第2のプロセス段階は、沈殿工程(工程b))及び分離工程(工程c))を含み、この場合、リグニン粒子を安定化させるために、加熱処理は、工程b)において、沈殿後に行われる、且つ/又は加熱処理は、追加工程d)において、工程c)の後に行われる。したがって、第2のプロセス段階は、工程b)及び工程c)、及び場合により追加工程d)を含む。
【0080】
したがって、リグニン粒子の安定化は、湿式(工程b))及び/又は乾式(工程d))で行われてもよい。リグニン粒子の安定化は、工程b)又は追加工程d)のどちらかにおいて行われてもよいか、又は工程b)と工程d)の両方で行うことができる。
【0081】
本発明による方法は、工程b)において、液体中でリグニン粒子を形成させるため、0℃~150℃未満の範囲の温度において、液体と沈殿剤とを混合することによって、工程a)において得られた溶解した改変リグニンを沈殿させる工程を含む。好ましくは、工程b)による沈殿は、0~100℃未満、特に好ましくは0~80℃未満、更に好ましくは0~50℃、より特に好ましくは0~40℃未満、特に10~30℃未満の範囲の温度で行われる。好ましくは、温度は、少なくとも10℃、更に好ましくは少なくとも15℃、更に好ましくは少なくとも20℃である。
【0082】
この工程では、溶解した改変リグニンを含有する工程a)から得られた液体は、沈殿剤と混合される。ここで、沈殿剤は、液体に添加されてもよく、又は液体が沈殿剤に添加される。混合は、液体の撹拌又は循環によって引き起こされる動きによって支援されてもよく、これらのために、一般的な混合デバイスが、使用されてもよい。
【0083】
沈殿剤とは、不溶性固体(沈殿物)として、溶解した物質の沈殿を引き起こす、物質又は物質の混合物のことである。この場合、沈殿剤は、液体中の不溶性固形物として、リグニン粒子(固体粒子)の形成を引き起こし、その結果、液体中のリグニン粒子の分散液又はスラリーが得られる。好適な沈殿剤の選択は、とりわけ、使用した液体のタイプに依存することが明白となるはずである。
【0084】
特に、第1のプロセス段階に入る混合物が、5より高い、好ましくは6より高い、更に好ましくは7より高い、特に好ましくは8より高いpHの値を有する場合、有利な沈殿剤に関する例は、酸、特に酸性水、好ましくは硫酸、酢酸若しくはギ酸、又は例えばCO2若しくはH2S、又はCO2若しくはH2Sの組合せ物等の酸性ガスである。
【0085】
有利な沈殿剤に関する別の例は、特に、第1のプロセス段階に入る混合物が、アルコール又はカルボン酸を含有する場合、水である。
【0086】
有利な沈殿剤に関する別の例は、塩、塩混合物及び塩を含有する水溶液、特に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、特に酸素含有陰イオン、好ましくは硫酸イオン、炭酸イオン及びリン酸イオン、特に好ましくは、例えば、炭酸ナトリウム及び/若しくは硫酸ナトリウム等のナトリウム塩の塩又はこれらの塩を含む塩、或いはそれらの混合物、並びにこのような塩又はそれらの混合物を含有する水溶液である。
【0087】
好ましい実施形態では、沈殿剤は、少なくとも1種の酸、好ましくは酸性水、酸性ガス、塩基、好ましくは水性塩基、水又は塩、好ましくは、生理食塩水溶液から選択され、沈殿剤は、酸、好ましくは酸性水及び水から好ましくは選択される。水中で使用される酸性水の好ましい濃度は、20%未満、更に好ましくは15%未満、更に好ましくは10%未満である。
【0088】
工程a)から得た液体が、水性塩基、好ましくは水酸化ナトリウムであるか、又はこれらを含む場合、沈殿剤は、好ましくは酸、好ましくは酸性水である。工程a)から得られた液体が、カルボン酸、好ましくはギ酸及び/若しくは酢酸、又は少なくとも1種のアルコール、好ましくはエタノールであるか、又はこれらを含む場合、沈殿剤は、好ましくは、水である。
【0089】
工程b)において沈殿剤、及び場合により沈殿添加物と混合した後の、液体のpHの値は、10未満であることが好ましい。
【0090】
有利には、第2のプロセス段階において、液体の存在下での溶解した改変リグニンに由来する粒子の生成は、10未満、好ましくは9.5未満、好ましくは9未満、好ましくは8.5未満、好ましくは8未満、好ましくは7.5未満、好ましくは7未満、好ましくは6.5未満、好ましくは6未満、好ましくは5.5未満、好ましくは5未満、好ましくは4.5未満、好ましくは4未満、好ましくは3.5未満、好ましくは2未満若しくは好ましくは1.5未満、又は1.0未満、若しくは0.5未満のpHの値、又は0という低いpHの値での沈殿によって行われる。しかし、有利には、第2のプロセス段階において、液体の存在下での溶解した改変リグニンに由来する粒子の生成は、0.5~9、特に好ましくは1.0~8.5、より特に好ましくは1.5~8.0、更により好ましくは2.0~7.5、更により好ましくは2.5又は>2.5~7.0、更により好ましくは>2.5又は3.0~6.0、最も好ましくは>2.5又は3.0~<6.0又は<5.5の範囲のpHの値での沈殿によって行われる。
【0091】
有利には、第2のプロセス段階において、液体の存在下で、溶解した改変リグニンに由来する粒子の生成は、10未満、好ましくは9.5未満、好ましくは9未満、好ましくは8.5未満、好ましくは8未満、好ましくは7.5未満、好ましくは7未満、好ましくは6.5未満、好ましくは6未満、好ましくは5.5未満、好ましくは5未満、好ましくは4.5未満、好ましくは4未満、好ましくは3.5未満までpHの値を低下させることによる沈殿によって行われる。有利には、第2のプロセス段階において、液体の存在下での、溶解した改変リグニンに由来する粒子の生成は、0.5~9、特に好ましくは1.0~8.5、より特に好ましくは1.5~8.0、更により好ましくは2.0~7.5、更により好ましくは2.5又は>2.5~7.0、更により好ましくは>2.5又は3.0~6.0、最も好ましくは>2.5又は3.0~<6.0又は<5.5の範囲まで、pHの値を低下させることによる沈殿によって行われる。
【0092】
液体の存在下での、溶解した改変リグニンに由来するリグニン粒子の生成の間、pHの値は、粒子と液体の混合物がゲルを形成しない程度に、又は形成する可能性のあるいずれのゲルも、再度、溶解する程度に低くなることが好ましい。本発明によれば、リグニンは、粒子形態で特に存在し、工程c)における分離の間、すなわち分散前に、ゲル化した液体の形態にはない。
【0093】
沈殿は、0~150℃未満の範囲の温度で、液体と沈殿剤とを混合することによって行われる。好ましくは、沈殿は、0~100℃未満、特に好ましくは0~80℃未満、更に好ましくは0~50℃、より特に好ましくは0~40℃未満、特に10~30℃未満の範囲の温度で行われる。好ましくは、温度は、少なくとも10℃、更に好ましくは少なくとも15℃、更に好ましくは少なくとも20℃である。沈殿中に、リグニン粒子は、溶解した改変リグニンから形成される。工程b)における任意の場合による更なる処理は、形成したリグニン粒子の安定化に関して、以下の代替肢のいずれが行われるかに依存する。いずれの場合でも、沈殿後のエージング処理又は加熱処理を含み得る工程b)は、一般に、0~150℃未満の温度範囲において、リグニン粒子から液体を分離するまで行われる。
【0094】
リグニン粒子を安定させるために、沈殿剤と混合した液体を、60~200℃、好ましくは80~170℃、特に好ましくは80℃又は100℃~160℃、より特に好ましくは80℃~150℃未満の範囲の温度で熱処理される、且つ/又は工程c)の後の追加工程d)において、液体から分離したリグニン粒子が、60~600℃の範囲の温度で熱処理される。
【0095】
追加工程d)において、リグニン粒子の安定化が加熱処理によって行われる場合、工程b)における沈殿は、0~100℃未満、好ましくは0~90℃未満の範囲の液体の温度で好ましくは行われる。この場合、沈殿は、例えば、室温において、例えば10~40℃の範囲で行われ得る。しかし、好ましくは、沈殿は、0~40℃未満、特に10~30℃未満の範囲の温度で行われる。安定化のための加熱処理が、工程b)において行われるべきではない場合でさえも、ある特定の時間、例えば、エージングのために上記の温度において、液体中に形成したリグニン粒子を保持することが場合により好適なことがある。
【0096】
リグニン粒子の安定化が、工程b)において、沈殿剤と混合した液体の加熱処理によって行われる場合では、工程b)における加熱処理は、好ましくは、60~200℃、好ましくは80~170℃、特に好ましくは80℃又は100℃~160℃、より特に好ましくは80~150℃未満、より好ましくは90~148℃、更により好ましくは100~148℃の範囲の液体の温度で行われてもよい。工程b)における加熱処理のこのような場合では、温度は、好ましく最大で180℃、又は最大で160℃、又は最大で150℃未満、又は最大で140℃、特に好ましくは最大で130℃、より好ましくは最大で120℃、特に最大で110℃、及び少なくとも80℃、好ましくは少なくとも90℃、特に好ましくは少なくとも100℃である。形成したリグニン粒子は、加熱処理によって安定化され得る。最大温度は、少なくとも塩基、好ましくは水性塩基が、沈殿剤として使用される場合、好ましくは150℃未満である。
【0097】
好ましくは、工程b)における加熱処理は、少なくとも2分間、少なくとも3分間、少なくとも4分間、少なくとも5、6、7、8、9若しくは少なくとも10分間、好ましくは少なくとも11、12、13、14、15、16、17、17、19若しくは少なくとも20分間、特に好ましくは少なくとも21、22、23、24若しくは25分間、又は少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95若しくは100分間の時間、上記の温度範囲の1つで沈殿後に行われる。好ましくは、工程b)における沈殿後の加熱処理の時間は、5又は7.5分間~5時間、好ましくは10又は12.5分間~4.5時間、特に好ましくは15又は17.5分間~4時間、より特に好ましくは20又は22.5分間~3.5時間、特に25、27.5又は30分間~3時間の範囲である。好ましくは、工程b)における加熱処理の最大時間は、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5又は1時間である。既に上記の通り、リグニン粒子のアルカリ溶解度、及び/又はVDA278(05/2016)に準拠して昇温脱離分析によって決定される、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物の含有率は、正の影響を受け得るか、又は処理の時間によって調節され得る。粒径及びSTSA表面積もまた、影響を受け得る。
【0098】
有利には、沈殿添加物は、沈殿させるために、沈殿剤の他に使用される。沈殿添加物は、沈殿剤と混合する前、その最中又はその後に、液体に添加され得る。沈殿添加物は、溶解した改変リグニン及び/又はリグニン粒子の溶媒和化の増大又は改善を引き起こす。好適な沈殿添加物の例は、アルコール、例えばエタノール、又は例えばアセトン等のケトン等の有機溶媒である。アセトンが、好ましい沈殿添加物である。
【0099】
工程b)は、大気圧において、又は陽圧下で行ってもよい。特に、工程b)が、高温で、例えば、80℃以上、特に90℃以上で行われる場合、陽圧、例えば、飽和蒸気圧よりも最大で5bar上で使用されるのが好ましい。液体のいかなる蒸発も最大の可能な程度まで防止するため、陽圧下で行うことが有利である。
【0100】
好ましい実施形態では、沈殿剤、及び場合により沈殿添加物との混合物の後の工程b)における液体の乾燥物質含有率は、少なくとも2質量%、特に好ましくは少なくとも3質量%、より特に好ましくは少なくとも4質量%である。ここで、乾燥物質含有率は、それぞれ、好ましくは<26質量%、特に好ましくは<24質量%、より特に好ましくは<20質量%である。
【0101】
沈殿、及び液体中で形成したリグニン粒子を含む該液体の場合により実施される加熱処理又はエージング後に、この液体を、工程c)において、工程b)で形成したリグニン粒子から分離する。液体の粒子からの分離の有利な実施形態を、以下に開示する:
【0102】
液体から形成したリグニン粒子の分離の場合、すべての一般的な固-液分離方法が使用されてもよい。好ましくは、液体は、ろ過又は遠心分離によって粒子から分離される。ろ過又は遠心分離を使用する場合、15%超、好ましくは20%超、更に好ましくは25%超、特に好ましくは30%超及び60%未満、好ましくは55%未満、更に好ましくは50%未満、特に好ましくは45%未満、更に好ましくは40%未満の乾燥物質含有率が、好ましくは実現される。リグニン粒子を分離するための別の可能性は、例えば、高温及び/又は減圧での液体の蒸発である。分離はまた、通常、洗浄及び/又は乾燥を含む。洗浄のために使用される洗浄用溶液は、わずかにアルカリ範囲、特に好ましくは>7.0~10、好ましくは>7~9、更に好ましくは>7~8.5の範囲のpHの値を好ましくは有する。
【0103】
特に、遠心分離又はろ過による分離後、液体により粒子を洗浄することが、有利なことに行われてもよい。好ましくは、使用される洗浄用液体のpHの値は、粒子の分離前の液体のpHの値よりも、最大で4単位、好ましくは最大で2単位しか違いがない。
【0104】
最後に、洗浄されたリグニン粒子は、通常、乾燥され、この場合、残りの液体の少なくとも一部が、好ましくは、その溶媒蒸発によって、例えば、加熱及び/又は圧力減少によって除去される。本明細書のこれ以降に記載されている追加工程d)が、行われる場合、乾燥は、工程d)において、全体として又は部分的に、安定化の一部となり得る。工程d)において使用される、液体から分離したリグニン粒子は、一部が既に乾燥されていてもよく、又は液体の残留分を依然として含有していてもよい。次に、加熱処理の過程において、残留液体の少なくとも一部を蒸発させてもよい。追加工程d)が実施されるか否かに関わらず、最終生成物として、乾燥済みの安定化リグニン粒子を得ることが好ましい。好ましくは、乾燥物質含有率は、90%より高い、より好ましくは92%より高い、特に95%より高い。したがって、本発明では、乾燥粒子は、90%超、より好ましくは92%超、特に95%超の乾燥物質含有率を有する粒子であることが理解される。
【0105】
記載されている通り、形成したリグニン粒子の安定化は、工程b)における液体中のリグニン粒子の安定化の代替として、又はこれに加えて、工程c)後の追加工程d)において行われる。ここで、液体から分離したリグニン粒子、特に乾燥粒子は、60~600℃の範囲の温度で熱処理され、この場合、温度は、80~400℃、より好ましくは80~300℃、更に好ましくは80~240℃、更により好ましくは90~130℃の範囲にあることが好ましい。いかなる望ましくない反応に対しても不活性にする(inerting)ことによって粒子を保護するため、特に温度が150℃を超える場合、真空で、又は例えば、5体積%未満のO2の不活性ガスの使用による低い酸素含有率の下で加熱処理を行うことが有用となり得る。加熱処理の時間は、使用される温度に強く依存するが、例えば、1分間~48時間、好ましくは1分間~24時間、好ましくは10分間~18時間又は30分間~12時間の範囲であってもよい。
【0106】
好ましい実施形態では、プロセス段階において、液体に溶解した改変リグニンの安定化リグニン粒子への変換は、いくつかのプロセス工程で行われ、この場合、少なくとも以下の工程:工程b)における、液体の存在下での、溶解した改変リグニンに由来するリグニン粒子の生成、工程c)における液体の粒子からの分離、工程d)における乾燥リグニン粒子を加熱することによる乾燥及び加熱処理を経る。
【0107】
工程d)におけるリグニン粒子の安定化のための加熱処理の温度は、最大で600℃、例えば、好ましくは最大で550℃、最大で500℃、最大で475℃、最大で450℃、最大で425℃、最大で400℃、最大で375℃、最大で350℃、最大で325℃、最大で300℃、最大で270℃、最大で260℃、最大で250℃、最大で240℃、最大で230℃、最大で220℃、最大で215℃である。
【0108】
有利には、粒子の乾燥は、液体の蒸発によって少なくとも部分的に行われ、この場合、溶媒蒸発の間の粒子の温度は、最大で150℃、好ましくは最大で130℃、特に好ましくは最大で120℃、更により好ましくは最大で110℃、特に好ましくは最大で100℃、特に好ましくは最大で90℃である。
【0109】
有利には、第2のプロセス段階における乾燥粒子の加熱は、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃の粒子温度まで行われる。
【0110】
有利には、第2のプロセス段階における乾燥粒子の加熱は、最大で600℃、好ましくは最大で550℃、500℃、475℃、450℃、425℃、400℃、375℃、350℃、325℃、300℃、270℃、260℃、250℃、240℃、230℃、220℃、215℃の粒子温度まで行われる。
【0111】
乾燥したリグニン粒子の加熱処理は、例えば、少なくとも200mbarから、好ましくは少なくとも500mbarから、特に好ましくは少なくとも900mbarから、最大で1500mbarまでの範囲の圧力で行われてもよい。
【0112】
好ましい安定化リグニン粒子
本発明による方法は、粒子形態の安定化リグニンの生成に役立つ。好ましくは、工程c)の後又は工程d)の後に得られる安定化リグニンには、スルホン酸基及び/又は他の陰イオンが導入される反応によって、任意の更なる反応が施されない。特に、工程c)の後、又は工程d)の後に得られる安定化リグニンのスルホン化は行われない。特に、本発明による方法の全体は、いかなるスルホン化工程も提供しない。本発明による方法によって得られたリグニンは、粒子形態で、すなわちリグニン粒子として存在し、この場合、本方法において得られた最終生成物は、好ましくは乾燥粉末、又は乾燥後の粉末である。したがって、それらは、液体中で分散して存在し得る、又は乾燥後の粉末若しくは乾燥粉末として存在し得る、固形物の粒子である。リグニンの安定化により、特性の改善、例えば、アルカリ溶液への溶解度の低下、及び/又はガラス転移点の上昇若しくは測定可能なガラス転移点がまったく存在しないことがもたらされる。安定化リグニン粒子は、160℃超、好ましくは180℃超、特に好ましくは200℃超、特に250℃超のガラス転移温度を有するリグニン粒子であることが特に好ましい。好ましくは、安定化リグニン粒子の場合、ガラス転移温度をまったく測定することができない。
【0113】
ガラス転移温度の測定は、DIN53765に準拠して行われる。
【0114】
本発明による方法によって得られる安定化リグニン粒子は、物質用途におけるその使用を可能にする、有利な他の粒子特性を有する。好ましくは、リグニン粒子は、工程d)の後に、特に好ましくは、それらが、本明細書のこれ以降に定義されているd50値及び/又はd99値を示す程度に摩砕される。
【0115】
好ましくは、安定化リグニン粒子は、粒径分布が、500μm未満、好ましくは300μm未満、更に好ましくは200μm未満、特に100μm未満、特に好ましくは50μm未満、最も好ましくは20μm未満のd50値(体積平均値)を有する。
【0116】
好ましくは、安定化リグニン粒子は、粒径分布が、600μm未満、好ましくは400μm未満、更に好ましくは300μm未満、特に250μm未満、特に好ましくは200μm未満、最も好ましくは150μm未満のd99値(体積平均値)を有する。
【0117】
更に、第2のプロセス段階の終了時の乾燥後の安定化リグニン粒子の粒径分布のd50及びd90及びd99のパラメータは、それぞれ、第2のプロセス段階における、液体の分離前の時間点に比べて、最大で20倍、更に好ましくは最大で15倍、特に好ましくは最大で10倍、特に最大で5倍、好ましくは向上する。
【0118】
安定化リグニンの粒径分布の測定は、ISO13320に準拠して、レーザー回折によって、蒸留水を含む懸濁液中で行われる。粒径分布の測定前及び/又は測定後に、測定される試料を、数回の測定にわたり安定状態を維持する粒径分布に到達するまで、超音波によって分散させる。一連の測定、例えばd50の個々の測定が、5%を超えて互いに異ならない場合に、この安定性に到達する。
【0119】
好ましくは、安定化リグニン粒子は、少なくとも2m2/g、好ましくは少なくとも5m2/g、更に好ましくは少なくとも10m2/g、更に好ましくは少なくとも20m2/gのSTSAを有する。好ましくは、STSAは、200m2/g未満、特に好ましくは180m2/g未満、更に好ましくは150m2/g未満、特に好ましくは120m2/g未満である。ここで、STSA(統計学的厚さ表面積)は、安定化リグニン粒子の外側表面積の特徴付けである。
【0120】
本安定化リグニン又は粒子炭素材料の変形形態では、STSA表面積は、10m2/g~180m2/gの間、好ましくは20m2/g~180m2/gの間、更に好ましくは35m2/g~150又は180m2/gの間、特に好ましくは40m2/g~120又は180m2/gの間の値を示す。
【0121】
有利には、本安定化リグニンのBET表面積は、STSA表面積から、最大で20%、好ましくは最大で15%、より好ましくは最大で10%しか違いがない。BET表面積は、Brunauer、Emmett及びTellerに準拠した窒素吸着によって、外側表面積及び内側表面積から全表面積として求められる。
【0122】
更に、第2のプロセス段階の終了時における工程d)において、乾燥したリグニン粒子を加熱した後のBET表面積及びSTSA表面積は、第2のプロセス段階における乾燥後のリグニン粒子の加熱前の時間点に比べて、少なくとも30%、更に好ましくは少なくとも40%、特に好ましくは少なくとも50%である。
【0123】
好ましくは、本発明による方法によって生成される安定化リグニン粒子は、低い多孔度しか有していない。有利には、安定化リグニン粒子の細孔体積は、<0.1cm3/g、更に好ましくは<0.01cm3/g、特に好ましくは<0.005cm3/gである。したがって、本安定化リグニンは、通常、500m2/gを超えるBET表面積に加え、最大でも10m2/gのSTSA表面積しか有し得ない、摩砕された生物起源活性炭粉末等の、微粉砕多孔質材料とは異なる。
【0124】
本発明によるリグニン粒子は、ホルムアルデヒドとの反応によって生成し、溶液から、ゲル状態を経て、好ましくは、例えば、粒径分布が500μm未満のd50値、又は10m2/g超、好ましくは20m2/g超のSTSAという好ましい有利な粒子特性のデュロマーに変換された、リグニンをベースとする樹脂とは異なる。
【0125】
BET表面積及びSTSA表面積の決定は、ASTM D6556-14規格に準拠して行われる。これとは対照的に、STSA及びBETを測定するための試料調製/ガス放出は、本発明では、150℃で行われる。
【0126】
好ましくは、本発明により得られたリグニン粒子は、アルカリ液体中では、条件次第でしか可溶性ではない。好ましくは、安定化リグニンの溶解度は、30%未満、特に好ましくは25%未満、より特に好ましくは20%未満、更により好ましくは15%未満、更により好ましくは10%未満、更に好ましくは7.5%未満、更により好ましくは、5%未満、更により好ましくは、2.5%未満、特に好ましくは1%未満である。
【0127】
安定化リグニンのアルカリ溶解度は以下の通り決定される:
1.固形物質試料の溶解度を決定するために、この試料は、乾燥微粉末(DS>98%)の形態で存在しなければならない。そうではない場合、溶解度を決定する前に、乾燥試料を摩砕するか、又は徹底的に乳鉢ですりつぶす。
2.溶解度は、三連で決定する。この目的の場合、2.0gの各乾燥充填剤を、それぞれ、20gの0.1M NaOHの各々に秤量して入れる。しかし、試料の決定されたpHの値が、<10である場合、試料を廃棄し、代わりに、2.0gの乾燥充填剤を、20gの0.2M NaOHの各々に秤量して入れる。言い換えると、pHの値に応じて(<10であるか又は>10であるか)、0.1M NaOHを使用するか(pH>10)、又は0.2M NaOHを使用する(pH<10)。
3.アルカリ懸濁液を、1分間あたり200のシェーカー速度で、室温で2時間、振とうする。万が一、液体が、この過程で蓋に接触する場合、シェーカー速度を下げて、これが起こらないようにしなければならない。
4.次に、アルカリ懸濁液を6000×gで遠心分離する。
5.遠心分離の上清をPor4フリットに通してろ過する。
6.遠心分離後の固形物を、蒸留水で2回、洗浄し、これを4~6回、繰り返す。
7.質量が一定値を維持するまで、この固形物を105℃の乾燥オーブン中で、少なくとも24時間、乾燥させる。
8.リグニンリッチ固形物のアルカリ溶解度を以下の通り計算する:
リグニンリッチ固形物のアルカリ溶解度[%]=遠心分離、ろ過及び乾燥後の非溶解部分の質量[g]*100/プロセス2で得られた乾燥生成物の質量[g]
【0128】
本発明はまた、本明細書の上に記載されている本発明による方法によって得ることができる、安定化リグニン粒子であって、
体積平均値に対して、粒径分布が500μm未満、好ましくは50μm未満、更により好ましくは、20μm未満のd50値を有する、且つ/又は
2m2/g~180m2/g、好ましくは10m2/g~150若しくは180m2/g、より好ましくは40m2/g~120若しくは180m2/gの範囲のSTSA表面積を有する、
安定化リグニン粒子に関する。
【0129】
本発明によれば、以下の特性の1つ又は複数を有する安定化リグニン粒子であって、好ましくは、本明細書に上に記載されている、本発明による方法によって得ることができる安定化リグニン粒子もまた得ることができる:
- 少なくとも2m2/g、好ましくは10m2/g、更に好ましくは少なくとも20m2/g、更に好ましくは少なくとも40m2/gのSTSA。好ましくは、STSAは、180m2/g未満、より好ましくは150m2/g未満、更により好ましくは120m2/g未満である。
- 54~58ppmにおけるメトキシ基のシグナルに対して1~80%、好ましくは5~60%、特に好ましくは5~50%の強度を有する、0~50ppm、好ましくは10~40ppm、特に好ましくは25~35ppmにおける、固体状態13C-NMR、及び使用したリグニンに比べて向上した、125~135ppm、好ましくは127~133ppmにおける13C-NMRシグナルのシグナル。
- 好ましくは、炭素1gあたり0.20Bq超、特に好ましくは炭素1gあたり0.23Bq超であるが、好ましくは炭素1gあたり0.45Bq未満、好ましくは炭素1gあたり0.4Bq未満、特に好ましくは炭素1gあたり0.35Bq未満となる、14C含有量。
- 無灰の乾燥物質に対して、60質量%~80質量%の間、好ましくは65質量%~75%質量%の間の炭素含有率。
- 160℃超、更に好ましくは180℃超、特に好ましくは200℃超、特に250℃超のガラス転移温度。好ましくは、安定化リグニン粒子の場合、ガラス転移温度をまったく測定することができない。
- 0.1cm3/g未満、更に好ましくは0.01cm3/g未満、特に好ましくは0.005cm3/g未満の安定化リグニン粒子の細孔体積。
- DIN51720によれば、5%超、好ましくは10%超、特に好ましくは15%超、更に好ましくは20%超、更に特に好ましくは25%超、特に更に好ましくは30%超、特に35%超の、揮発性構成物質の割合。
- DIN51720によれば、60%未満、好ましくは55%未満、特に好ましくは50%未満の揮発性構成物質の割合。
- 30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満、更に好ましくは15%未満、更に特に好ましくは10%未満、特に5%未満のアルカリ溶解度。
- 0.5%超、好ましくは1%超、更に好ましくは2.5%超、又は30%未満、特に好ましくは25%未満、より特に好ましくは20%未満、更により好ましくは15%未満、更により好ましくは10%未満、更により好ましくは5%未満、特に好ましくは1%未満のアルカリ溶解度。
- 無灰の乾燥物質に対して、それぞれ、>8質量%~<30質量%、好ましくは>10質量%~<30質量%、特に好ましくは>15質量%~<30質量%、より特に好ましくは>20質量%~<30質量%の範囲の酸素含有率。
- 好ましくは、5.0%未満、特に好ましくは4.0%未満の範囲のシリンギルビルディングブロックの含有率(%は、質量%を表し、リグニン粒子の総質量に対するものと理解されたい)。
- 少なくとも6、好ましくは少なくとも7、更に好ましくは少なくとも7.5、及び最大で10、好ましくは最大で9、更に好ましくは最大で8.5のpHの値。
【0130】
好ましくは、安定化リグニン粒子は、アルカリ媒体に可溶な化合物を、粒子の総質量に対して、それぞれ、30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満、更に好ましくは15%未満、更に特に好ましくは10%未満、特に5%未満、最も好ましくは1%未満の割合で有しており、アルカリ媒体が、NaOHの水溶液(0.1mol/l又は0.2mol/l)に相当し、割合は、本説明に記載されている方法に準拠して決定される。ここで、%は、質量%として理解されたい。
【0131】
好ましくは、安定化リグニン粒子は、VDA278(05/2016)に準拠した昇温脱離分析によって決定すると、リグニン粒子1gあたり<200μg、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<175μg、より特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<150μg、更に好ましくはリグニン粒子1gあたり<100μg、より好ましくはリグニン粒子1gあたり<50μg、一部の例では、リグニン粒子1gあたり<25μgの割合の、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物を有する。
【0132】
このようなガス放出可能な有機化合物の例は、バニリン、エタノール及び4-ヒドロキシ-3-メトキシアセトフェノンである。好ましくは、ガス放出可能な個々の成分であるバニリン、エタノール又は4-ヒドロキシ-3-メトキシアセトフェノンの含有量は、1μg/g超、好ましくは2μg/g超である。
【0133】
好ましくは、安定化リグニン粒子は、VDA278(05/2016)に準拠して、それぞれ、昇温脱離分析によって決定すると、リグニン粒子1gあたり50μg未満、好ましくはリグニン粒子1gあたり25μg、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり15μg未満、更に好ましくはリグニン粒子1gあたり10μg未満、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり5μg未満、一部の例では、リグニン粒子1gあたり1μg未満となる、割合のガス放出可能な単一成分
- 2-メトキシフェノール
- フェノール
- グアイアコール
- 4-メトキシ-3-メチル-フェノール
- 4-プロパノールグアイアコール
- アポシニン
- 2-メトキシ-4-メチルフェノール
- 2-メトキシ-4-エチルフェノール
- 4-プロピルグアイアコール
- ジメチルトリスルフィド
- メタノール
- エタノール
- シリンゴール
- バニリン
- 1,2-ジメトキシベンゼン
- ヒドロキシ-ジメトキシエタノン及び/又は
- コニフェリルアルデヒド
を有する。
【0134】
好ましくは、安定化リグニン粒子は、炭素1gあたり0.20Bq超、特に好ましくは炭素1gあたり0.23Bq超であるが、好ましくは炭素1gあたり0.45Bq未満、更により好ましくは炭素1gあたり0.4Bq未満、特に好ましくは炭素1gあたり0.35Bq未満となる、14C含有量を有する、且つ/又は無灰の乾燥物質に対して、60質量~80質量%の間、好ましくは65質量%~75質量%の間の炭素含有率を有する。
【0135】
別の態様では、本発明は、
体積平均値に対して、500μm未満、好ましくは50μm未満、より好ましくは20μm未満の粒径分布のd50値を有する、且つ/又は
2m2/g~180m2/g、好ましくは10m2/g~180m2/g、好ましくは20m2/g~180m2/g、更に好ましくは35m2/g~150若しくは180m2/g、特に好ましくは40m2/g~120若しくは180m2/gの範囲のSTSA表面積を有する
リグニン粒子であって、
該粒子が、アルカリ媒体に可溶な化合物の割合を、粒子の総質量に対して、それぞれ、30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、より特に好ましくは10%未満、更に好ましくは7.5%未満、特に5%未満、最も好ましくは2.5%未満、若しくは1%未満で有しており、アルカリ媒体が、NaOH(0.1mol/l又は0.2mol/l)の水溶液に相当し、割合が、本説明に記載されている方法に準拠して決定される、且つ/又は該粒子が、VDA278(05/2016)に準拠した昇温脱離分析によって決定すると、リグニン粒子1gあたり<200μg、特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<175μg、より特に好ましくはリグニン粒子1gあたり<150μg、更に好ましくはリグニン粒子1gあたり<100μg、より好ましくはリグニン粒子1gあたり<50μg、一部の例では、リグニン粒子1gあたり<25μgの割合となる、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物を有する、
リグニン粒子に更に関する。
【0136】
好ましくは、これらのリグニン粒子は、炭素1gあたり0.20Bq超、特に好ましくは炭素1gあたり0.23Bq超であるが、好ましくは炭素1gあたり0.45Bq未満、更により好ましくは炭素1gあたり0.4Bq未満、特に好ましくは炭素1gあたり0.35Bq未満となる、14C含有量を有する、且つ/又は無灰の乾燥物質に対して、60質量%~80質量%の間、好ましくは65質量%~75質量%の間の炭素含有率を有する。
【0137】
本発明の別の態様は、特にゴム組成物における、充填剤としてのリグニン粒子の使用である。
【0138】
本発明の別の態様は、少なくとも1種のゴム成分及び少なくとも1種の充填剤成分を含む、ゴム組成物であって、充填剤成分が、充填剤として本発明によるリグニン粒子を含有し、ゴム組成物が、好ましくは加硫可能である、ゴム組成物である。
【0139】
ゴム組成物は、少なくとも1種の架橋剤を含む、少なくとも1種の加硫系を更に含有してもよい。このような架橋剤の例は、硫黄及び/又は過酸化物である。
【0140】
本発明によるリグニン粒子は、ゴム組成物中に、ゴム組成物向けに使用されるゴムの質量に対して、例えば、10質量%~150質量%、好ましくは20質量%~120質量%、より好ましくは40質量%~100質量%、特に好ましくは50質量%~80質量%の量で使用され得る。
【0141】
ゴム組成物から、ゴム製物品、特に、工業用ゴム製物品又はタイヤが架橋によって得られる。ゴム製物品は、ゴム又はゴムエラストマー、すなわち、物品用のマトリックス材料として役立つ、加硫化ゴムに基づく物品である。ゴム製物品、とりわけ、工業用ゴム製物品又はタイヤは、時として、ゴム製品(ドイツ語では、Gummiwaren、Kautschukartikel又はKautschukwaren)とも呼ばれる。英語での工業用ゴム製物品に関する技術用語の1つは、「機械的ゴム製品」(Mechanical Rubber Goods:MRGと略される)である。ゴム製物品、特に、工業用ゴム製物品又はタイヤの例は、自動車用タイヤ、シーリングプロファイル、ベルト、バンド、コンベア用ベルト、ホース、バネ要素、ゴム-金属用コンポジット部品、ローラライニング、成形物品、シール及びケーブルである。
【0142】
好ましい実施形態では、ゴム製物品、特に、工業用ゴム製物品又はタイヤは、追加の充填剤、特にカーボンブラック及び/又はケイ酸及び/又は他の無機充填剤若しくは表面処理された無機充填剤(例えば、チョーク及びシリカ等)を含有してもよい。
【0143】
好ましいものは、少なくとも10質量%、好ましくは少なくとも20質量%、更に好ましくは少なくとも30質量%の割合の本発明によるリグニン粒子であって、VDA278(05/2016)に準拠する昇温脱離分析によって決定すると、ゴム製物品1gあたり<200μg、特に好ましくはゴム製物品1gあたり<175μg、より特に好ましくはゴム製物品1gあたり<150μg、更に好ましくはゴム製物品1gあたり<100μg、特に好ましくはゴム製物品1gあたり<50μg、単一例では、ゴム製物品1gあたり<25μgとなる割合で、そこからガス放出(放出)され得る有機化合物を含有する上記のリグニン粒子を含有する、ゴム製物品、好ましくは、プロファイル、ケーブル又はシールである。
【0144】
好ましいものは、少なくとも10質量%、好ましくは少なくとも20質量%、更に好ましくは少なくとも30質量%、特に好ましくは少なくとも40質量%の割合の、本発明によるリグニンであって、0.1mol NaOH中のDIN ISO1817:2015により決定すると、最大で30%、好ましくは最大で25%、更に好ましくは最大で20%、更に好ましくは最大で15%、特に最大で10%、単一例では、最大で5%の膨潤率を示す、上記のリグニンを含有する、ゴム製物品である。
【0145】
決定方法
1.BET及びSTSA表面積の決定
検討する生成物の比表面積は、工業用カーボンブラック向けに規定されているASTM D6556(2019-01-01)規格に準拠した窒素吸着によって決定した。この規格に準拠し、BET表面積(Brunauer、Emmett及びTellerに準拠した比全表面積)及び外側表面積(STSA表面積;統計学的厚さ表面積)を以下の通り決定した。
【0146】
分析する試料を、測定前に105℃で≧97.5質量%の乾燥物質含有率になるまで乾燥した。更に、試料を秤量する前に、測定用セルを105℃の乾燥オーブン中で、数時間、乾燥した。次に、漏斗を使用して、測定用セルに試料を充填した。充填中に測定用セルのシャフトの上部に汚染がある場合、好適なブラシ又はパイプクリーナーを使用して清浄した。強力な浮遊(静電性)物質がある場合、ガラスウールを秤量して、試料に更に入れた。このガラスウールを使用して、ベークアウトプロセスの間に浮遊してユニットを汚染する恐れのあるいずれの物質も保持した。
【0147】
分析する試料を、150℃で2時間、ベークアウトし、Al2O3業準品を350℃で1時間、ベークアウトした。決定するため、圧力範囲に依存して以下のN2投入量を使用した:
p/p0=0~0.01:N2投入量:5ml/g
p/p0=0.01~0.5:N2投入量:4ml/g
【0148】
BETを決定するため、少なくとも6つの測定点で、p/p0=0.05~0.3の範囲での外挿を行った。STSAを決定するため、少なくとも7つの測定点で、t=0.4~0.63nm(p/p0=0.2~0.5に相当する)で、吸着したN2の層の厚さ範囲で外挿を行った。
【0149】
2.粒径分布の決定
粒径分布は、ISO13320:2009に準拠して、水中に分散させた物質(水中、1質量%)のレーザー回折によって決定する。体積分率は、例えば、μm単位のd99として特定する(試料の体積の99%の粒子の直径が、この値より小さい)。
【0150】
3.14C含有量の決定
14C含有量(生物基準の炭素の含有量)の決定は、DIN EN16640:2017-08に準拠して、放射性炭素法によって実施する。
【0151】
4.炭素含有率の決定
炭素含有率は、DIN51732:2014-7に準拠する元素分析によって決定する。
【0152】
5.酸素含有率の決定
酸素含有率は、EuroVector S.p.A.社のEuroEA3000 CHNS-0分析器を使用した高温熱分解によって決定する。
【0153】
6.pHの値の決定
pHは、本明細書のこれ以降に記載されている通り、ASTM D1512規格に従い決定した。乾燥試料は、まだ粉末形態にない場合、乳鉢ですりつぶすか、又は粉末に摩砕した。各場合において、5gの試料及び50gの完全な脱イオン水をガラス製ビーカーに秤量して入れた。この懸濁液を、加熱機能及び撹拌ノミ(stirring flea)を備える磁気撹拌器を使用して、一定撹拌で60℃の温度まで加熱し、温度を60℃で30分間、維持した。続いて、撹拌器の加熱機能を解除し、その後に、混合物を撹拌しながら冷却した。冷却後、再度、完全な脱イオン水を添加することによって蒸発した水を補充し、5分間、再度撹拌した。懸濁液のpHの値を、較正済み測定機器を使用して決定した。懸濁液の温度は、23℃(±0.5℃)とすべきである。二連の決定を各試料に関して行い、平均値を報告した。
【0154】
7.灰分含有率の決定
試料の水分不含の灰分含有率を、以下の通り、DIN 51719規格に準拠した熱重量分析によって決定した。秤量の前に、試料を摩砕したか、又は乳鉢ですりつぶした。灰分を決定する前に、秤量した物質の乾燥物質含有率を決定する。試料物質をるつぼにおいて、0.1mg単位まで秤量した。試料を含む炉を、9°K/分の加熱速度で目標温度である815℃まで加熱し、次に、この温度を2時間、保持した。次に、炉を300℃まで冷却した後、試料を取り出した。試料をデシケータ中で室温まで冷却し、再度、秤量した。残留灰分を初期質量に関係付け、こうして灰分の質量百分率を決定した。三連の決定を各試料に関して行い、平均値を報告した。
【0155】
8.アルカリ媒体への溶解度の決定
アルカリ溶解度の決定は、本説明中の本明細書の上に記載されている方法に準拠して行う。
【0156】
9.放出量の決定
ガス放出可能な有機化合物(放出)の含有率は、VDA278(05/2016)に準拠する昇温脱離分析によって決定する。ガス放出可能な有機物の全放出量を、VOG及びFOGサイクルからの測定値の合計として得る。単一成分の濃度は、質量スペクトル及び保持指数に基づいて単一ピークを帰属することによって決定する。リグニン粒子又は安定化リグニン粒子の有機物の放出量は、それら自体の粒子基準で決定する。リグニン粒子を含有するゴム製物品の有機物の放出量は、ゴム製物品自体で決定する。ゴム製物品のガス放出可能な有機物の全放出量に関すると、有機化合物だけを考慮に入れた。架橋したゴム組成物の無機構成物質からなる決定された放出量は、考慮に入れない。
【0157】
10.導電率の決定
導電率の決定は、以下の通り、ISO787-14規格に従って実施した。乾燥試料は、まだ粉末形態にない場合、乳鉢ですりつぶすか、又は粉末に摩砕した。各場合において、5gの試料及び50gの完全な脱イオン水をガラス製ビーカーに秤量して入れた。この懸濁液を、加熱機能及び撹拌ノミを備える磁気撹拌器を使用して、一定撹拌で60℃の温度まで加熱し、温度を60℃で30分間、維持した。続いて、撹拌器の加熱機能を解除し、その後に、混合物を撹拌しながら冷却した。冷却後、再度、完全な脱イオン水を添加することによって蒸発した水を補充し、5分間、再度撹拌した。3~5μmのろ紙を使用することによるブフナー漏斗に通して、懸濁液を陰圧下でろ過する。このプロセスでは、ろ過水を収集するため、吸引フラスコを使用しなければならない。ろ過水の導電率は、較正済み導電率メーターで決定する。温度は、23℃(±0.5℃)とすべきである。ろ過水の導電率は、[μScm-1]で明記することにする。
【0158】
11.ガラス転移温度の決定
ガラス転移温度の測定は、DIN53765に準拠して行う。
【0159】
12.エタノールへの溶解度の決定
エタノール中の固形試料の溶解度を決定するために、>98%の乾燥物質の含有率を有する試料を使用する。そうでない場合、試料を最初に摩砕するか、又は乳鉢で徹底的にすりつぶし、水分バランス又は乾燥用キャビネット中で乾燥した後に決定する。乾燥用キャビネット中で乾燥する場合、乾燥物質の含有率は、溶解度の計算に考慮に入れなければならないので、これも決定しなければならない。セルロース管に、約2/3となる試料量で、又は少なくとも3gを充填し、これによって、秤量を0.1mgの精度で化学天秤において実施しなければならない。次に、還流物がほぼ無色になるまで(約24時間)、沸石を用いて、試料を250mLのエタノール-水混合物(1:1の質量比)を用いて、還流下で抽出した。この管を、最初に換気フード内で(1時間)、次に、質量が一定になるまで、24時間、乾燥オーブン中で乾燥し、次に、秤量する。次に、エタノールへの溶解度を以下の通り計算することができる:
リグニンリッチ固形物のエタノールへの溶解度[%]=遠心分離、ろ過及び乾燥後の非溶解部分の質量[g]*100/秤量した量[g]
【0160】
13.ジメチルホルムアミドへの溶解度の決定
ジメチルホルムアミド(DMF)中の溶解度は、三連の決定によって求める。最初に、好適なブフナー漏斗(BT)による1×ろ紙、φ=55mmをそれぞれ、調製時に乾燥し、空の質量の各々(0.1mgまで正確に)を溶解度プロトコルに記録する。2gの乾燥試料をそれぞれ、100mlのエルレンマイヤーフラスコ中の40gのDMFに秤量して入れる。懸濁液を、中程度の速度のオーバーヘッド式回転器を運転状態で2時間、維持し、次に、15分間、遠心分離する。ろ紙を濡らした後、用意を調えたブフナー漏斗にデカンテーションした上清を通してろ過する。ろ過の完了後、ろ液のpHの値を確認し、書き留めなければならない。この後に、約30mlの脱イオン水の各々を用いて、2回の洗浄サイクルを続け、次いで、遠心分離し、上清をブフナー漏斗に通してろ過し、可溶性DMFからフィルターケーキを精製する。最後に、遠心管及びろ紙を含むブフナー漏斗を、24時間、乾燥用キャビネット中で乾燥する。次に、DMFへの溶解度を以下の通り計算することができる:
リグニンリッチ固形物のDMFへの溶解度[%]=遠心分離、ろ過及び乾燥後の非溶解部分の質量[g]*100/秤量した量[g]
【0161】
14.シリンギルビルディングブロックの含有率の決定
シリンギルビルディングブロックの含有率は、熱分解-GC/MSによって決定した。ほぼ300μgの試料をEGA/Py3030D熱分解炉(Frontier Lab社)を使用して、450℃で熱分解させた。成分の分離は、GC7890Dガスクロマトグラフ(Agilent technologies社)を使用するZB-5MSカラム(30m×0.25mm)において、4°K/分の加熱速度で50℃から240℃まで、及び39°K/分の加熱速度で300℃まで更に加熱し、15分間の保持時間という温度プログラムで行った。物質は、質量スペクトルライブラリー5977MSD(SIM)及びNIST2014を使用して帰属した。
【0162】
以下において、本発明を、例示的な実施形態を参照しながら、より詳細に説明する。
【0163】
例示的な実施形態
以下の実施例では、BETをSTSAの代わりに得る。しかし、BET及びSTSAは、本明細書において生成した安定化リグニン粒子に関して、互いに10%を超える違いはない。
【実施例1】
【0164】
工程d)における加熱処理による安定化
この実施例のための原料は、クラフトパルプ化に由来する黒液から回収したLignoBoostリグニン(BioPiva社)である。固形物を最初に蒸留水中に懸濁させる。pHの値は、固体の水酸化ナトリウムを加えることにより約10に調節する。更に、規定した乾燥物質含有率が実現するよう、水の添加を選択する。液体に溶解したリグニンを生成するため、この混合物を規定時間、ある温度で撹拌し、いかなる蒸発水も添加によって釣り合うよう注意を払う。
【0165】
【0166】
使用したリグニンは、1.15mmol/gのフェノール性グアイアシル基及び0.05mmol/gのp-ヒドロキシフェニル基を有し、したがって、1.25mmol/gの架橋可能な単位を有する。
【0167】
ここで、液体に溶解したリグニンを、第1のプロセス段階において、架橋剤と反応させる。リグニンを改変するため、架橋剤として使用したホルムアルデヒドは、乾燥ホルムアルデヒド1gあたり66.6mmolの架橋可能な単位を有する。反応はガラス球中で行う。架橋剤を加え、撹拌器により必要な混合を与える。熱は、水浴によって供給する。反応温度より5℃低い温度を過ぎた後に、保持時間を開始する。保持時間の経過後、水浴を除き、反応溶液を更に1時間、撹拌する。
【0168】
【0169】
次に、第1のプロセス段階において生成した混合物を第2のプロセス段階に移す。
【0170】
第2のプロセス段階において、液体、並びに沈殿剤及び沈殿添加物の添加の存在下で、粒子の生成を最初に行う。
【0171】
【0172】
液体の粒子からの分離を最初に遠心分離によって行う。次に、遠心分離後に依然として湿潤している粒子を乾燥する。
【0173】
PS2水分離3は、熱だけで行った。
【0174】
【0175】
最後に、安定化のため、粒子の加熱を行う(加熱処理)。PS2水分離5(比較例)の場合、上に記載した通りに実施した、40℃での乾燥以外の更なる加熱処理は、行わなかった。
【0176】
【0177】
粒径分布に及ぼす加熱4の影響を調査するため、PS2加熱2において得られた物質を摩砕した。
【0178】
続いて、得られた粒子を分析した:
【0179】
【0180】
DSCによって測定した熱流の曲線は、異なるレベル間で変曲点を示さない。ガラス転移温度を決定することができない。例えば、
図1は、示差熱分析によって決定すると、最大で200℃までガラス転移温度を何ら示さないPS2加熱2からの安定化リグニンのDSC曲線を表す。
【0181】
図2は、リグニン含有原料(実線)及び改変リグニン(PS2水分離5、点線)の
13C-NMRスペクトルを示す。
【0182】
図3は、改変リグニン(PS2水分離5、実線)及び安定化リグニン(PS2加熱6、点線)の
13C-NMRスペクトルを示す。
【0183】
13C-NMRでは、リグニンの改変及び架橋を突き止めることができる。新たに導入されたヒドロキシメチル基の60ppmにおけるピークは、56ppmにおけるメトキシ基の強力なピークのショルダーとして、官能基化リグニンの場合のスペクトルにおいて観察することができる。改変リグニン及び安定化リグニンは、115ppm周辺の領域において、グアイアシルC-5並びにp-ヒドロキシフェニルC-3及びC-5をかなり小さく示す。架橋は、PS2水分離5及びPS2加熱6のスペクトルの差異によって明確にすることができる。粒子を加熱すると、60ppmにおけるヒドロキシメチル基が低下した他に、115ppm周辺の領域のシグナルの強度の、127ppm周辺の領域のシグナルにおける一層高い強度へのシフトが、すなわち、グアイアシルC-5、並びにp-ヒドロキシフェニルC-3及びC-5におけるC-H基のC-Cへの変換がやはりもたらされた。最も顕著なものは、30ppmにおけるピークであり、これは、芳香族化合物間の新たに形成したメチレン架橋の炭素原子によって引き起こされる。
【0184】
図4は、PS2加熱2(上部、d50=12.0μm)及びPS2加熱4(下部、d50=12.2μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【0185】
PS2加熱2及びPS2加熱4の粒径測定により、粒子の安定性が実証される(
図4)。210℃、すなわちリグニンの場合の一般的なガラス転移温度における2時間のベークアウトの後に、粒子は焼結されない。粒径分布が保たれる。同一時間では、粒径分布は粒子の加熱によって制御され得ることが、PS2加熱2及びPS2加熱4の溶解度により示される。
【0186】
架橋剤の添加のない試料PS2加熱5が、基準試料として働き、かなり高いアルカリ溶解度を示す。同様に、試料PS2水分離5は、たった40℃での加熱処理という点での乾燥は、この試料もまた非常に高いアルカリ溶解度を示すので、十分ではないことを示している。
【0187】
図5は、PS2加熱1の粒子の走査型電子顕微鏡による写真を示しており、この場合、表面積が高いことが、粒子構造であることからやはり明白である。写真の測定パラメータは以下である:HV 11.00kV、WD 10.0mm、インレンズ、Mag 50.00 K X、B1=20.00μm、256.6秒 ドリフトの完了.フレーム平均値
【実施例2】
【0188】
工程b)における沈殿後の加熱処理による安定化
この実施例のための原料は、クラフトパルプ化に由来する黒液から回収したLignoBoostリグニン(BioPiva社)である。固形物を最初に蒸留水中に懸濁させる。pHの値は、固体の水酸化ナトリウムを加えることにより約10に調節する。更に、規定した乾燥物質含有率が実現するよう、水の添加を選択する。液体に溶解したリグニンを生成するため、この混合物を規定時間、ある温度で撹拌し、いかなる蒸発水も添加によって釣り合うよう注意を払う。
【0189】
【0190】
使用したリグニンは、1.15mmol/gのフェノール性グアイアシル基及び0.05mmol/gのp-ヒドロキシフェニル基を有し、したがって、1.25mmol/gの架橋可能な単位を有する。
【0191】
ここで、液体に溶解したリグニンを、第1のプロセス段階において、架橋剤と反応させる。リグニンを改変するため、架橋剤として使用したホルムアルデヒドは、乾燥ホルムアルデヒド1gあたり66.6mmolの架橋可能な単位を有する。反応はガラス球中で行う。架橋剤を加え、撹拌器により必要な混合を与える。熱は、水浴によって供給する。反応温度より5℃低い温度を過ぎた後に、保持時間を開始する。保持時間の経過後、水浴を除き、反応溶液を更に1時間、撹拌する。
【0192】
【0193】
次に、第1のプロセス段階において生成した混合物を第2のプロセス段階に移す。
【0194】
第2のプロセス段階において、沈殿剤の添加により粒子の生成を最初に実施する(沈殿添加物を添加しない)。
【0195】
【0196】
粒子の安定化を、工程b)において沈殿を行った後に、第2のプロセス段階において、加熱処理によって行った。
【0197】
【0198】
液体の粒子からの分離を最初にろ過によって行う。次に、ろ過後に依然として湿潤している粒子を乾燥する。
【0199】
【0200】
続いて、得られた粒子を分析した。
【0201】
【0202】
図6は、リグニン含有原料、PS2水分離6、PS2水分離9及びPS水分離10のpHの値及び導電率を示す。リグニン含有原料と比較した場合、工程b)において沈殿後に安定化された粒子は、一層低い導電率、及び使用した沈殿剤に応じて一層高いpHの値を示す。
【0203】
図7は、ジメチルホルムアミド中のリグニン含有原料、PS2水分離9及びPS2水分離11の溶解度を示す。
【0204】
図8は、エタノール及び水の混合物(1:1)中のリグニン含有原料、PS2水分離6及びPS2水分離8の溶解度を示す。
【0205】
この結果は、工程b)における沈殿後の粒子の安定化は、リグニン含有原料に比べると、極性溶媒中で溶解度のかなりの低下をもたらすことを例示している。
【0206】
図9は、VDA278に準拠した、PS2水分離6、PS2水分離8、PS2水分離9及びPS2水分離11の放出量を示す。
【0207】
工程b)における沈殿後に安定化した粒子は、VDA278に準拠すると、少ない放出量であることを特徴付けることができる。放出量のレベルは、工程b)における沈殿後の粒子の安定化の間、温度によって影響を受ける。安定化温度が向上するにつれて、VDA278に準拠した放出量は低下する。
【0208】
図10は、リグニン含有原料(黒色実線)及び段階b)において安定化したリグニン(PS2水分離10、PS2水分離8、PS2水分離15、PS2水分離20、灰色実線及び黒色点線)の
13C-NMRスペクトルを示す。
【0209】
工程d)における粒子の安定化と同様に、リグニンの改変及び架橋も、工程b)における沈殿後の粒子の安定化の場合、13C-NMRで追跡することができる。新たに導入されたヒドロキシメチル基の60ppmにおけるピークは、56ppmにおけるメトキシ基の強力なピークのショルダーとして、官能基化リグニンの場合のスペクトルにおいて観察することができる。改変リグニン及び安定化リグニンは、115ppm周辺の領域において、グアイアシルC-5並びにp-ヒドロキシフェニルC-3及びC-5をかなり小さく示す。工程d)における安定化に比べると、芳香族化合物間の新たに形成したメチレン架橋の炭素原子によって引き起こされる30ppmにおけるピークは、工程b)における沈殿後の粒子の安定化の場合、ショルダーとしてしか表されない。
【0210】
図11は、工程b)において、沈殿後の安定化された粒子の、DSCにより測定された、熱流の経過を示している。異なるレベル間の変曲点は、検出することができない。ガラス転移温度を決定することができない。
図11は、示差熱分析によって決定した、PS2水分離6、PS2水分離8、PS2水分離9、PS2水分離10、PS2水分離11、PS2水分離14、PS2水分離15、PS2水分離16、PS2水分離18、PS2水分離19、PS2水分離20及びPS2水分離21に由来する安定化リグニンの、DSC曲線を表し、曲線は、最高で200℃までガラス転移温度を示さない。
【0211】
図12は、Py-GC/MSによって決定した、リグニンビルディングブロックの百分率での組成を示している。Sビルディングブロックの百分率での含有率は、工程b)における沈殿後の粒子の安定化が理由で増大する。これは、改変の結果としてヒドロキシメチル基の導入、及び安定化の結果として、芳香族化合物間の新たに形成したメチレン架橋に起因し得る。
【0212】
図13は、PS2水分離8(d50=2.1μm)、PS2水分離9(d50=1.9μm)、PS2水分離10(d50=1.7μm)、PS2水分離11(d50=1.7μm)、PS2水分離12(d50=135.2μm)の粒径分布PSDの測定値を示している。
【0213】
図14は、PS2水分離17(d50=125.2μm)及びPS2水分離15(d50=2.4μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【0214】
図15は、PS2水分離19(d50=27.1μm)及びPS2水分離20(d50=2.4μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【0215】
粒径の測定値は、粒径分布(PSD)が、安定化している間の温度によって制御され得ることを示している。工程b)における沈殿後の粒子の安定化がない、試料PS2水分離12は、基準試料として働き、一層高いアルカリ溶解度及び一層低い表面積を示す。工程b)における沈殿後の粒子を調質することによって、高い表面積及び一層低い溶解度を有する、かなり一層微細な粒子が生成する。同様に、試料PS2水分離17及びPS2水分離15は、減圧での軽度の乾燥条件は同様の結果をもたらし得ることを示している。
【0216】
同様に、試料PS2水分離19及びPS2水分離20は、水分離の点で、乾燥の間に温度を上昇させることによって、アルカリ溶解度を制御することができることを示している。
【0217】
図16は、PS2水分離6(d50=6.5μm)の粒径分布PSDの測定値を示す。
【0218】
粒径測定値は、有利な粒径分布は、一層高い濃度の沈殿剤を使用した場合でさえも達成され得ることを示している。この試料は、低いアルカリ溶解度及びエタノール溶解度によって識別される。
【国際調査報告】