(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】高比表面積を有する架橋リグニンの製造方法、架橋リグニン、及び架橋リグニン含有工業用ゴム製物品又はタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08H 7/00 20110101AFI20230724BHJP
C07G 1/00 20110101ALN20230724BHJP
【FI】
C08H7/00
C07G1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501284
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 DE2021100602
(87)【国際公開番号】W WO2022008008
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102020208683.4
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021100142.0
(32)【優先日】2021-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244562
【氏名又は名称】サンコール・インダストリーズ・ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】522244573
【氏名又は名称】ケーラー・イノベーション・アンド・テクノロジー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ゲールチェ・ダウトゼンベルグ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコプ・ポチュン
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ヴィットマン
(57)【要約】
本発明は、黒液を原料とし、リグニン及び架橋剤又はその前駆体を含有し、15mS/cm超、好ましくは25mS/cm超~400mS/cmの範囲の電気活性を有する液体の水熱処理を使用して粒子形態の架橋リグニンを生成する方法、及び上記方法を使用して生成された架橋リグニンに関する。本発明は更に、少なくとも160℃のガラス転移温度Tgを有するか又はガラス転移温度を有さず、少なくとも10m2/gのSTSA表面積を有する、架橋リグニン粒子、並びに架橋リグニン粒子を充填剤として含むゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子形態の架橋リグニンを生成する方法であって、該方法は、以下の工程:
a)5~50質量%の乾燥物質含有率を有する黒液を提供する工程と、
b)リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有し、以下の特性:
- 5~25%質量%の乾燥物質含有率、
- 10~45質量%の、乾燥質量に対する灰分含有率、
- 6.5超且つ10未満、好ましくは7超且つ10未満のpHの値、
- 15mS/cm超~400mS/cmの導電率
を有する液体を前記黒液から生成する工程であり、該液体の生成が
i)pHの値を低下させるために前記黒液を酸及び/又は酸性ガスと混合する工程と、
ii)前記黒液又はそれから誘導される生成物を、少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体と混合する工程と、
iii)任意に、乾燥物質含有率を低減するために液体を添加する工程と
を含む工程と、
c)リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する、工程b)で生成された液体を、150℃~270℃の範囲の温度で水熱処理して、液体中に架橋リグニン粒子を形成する工程と、
d)工程c)で形成された架橋リグニン粒子から液体を分離する工程と、
e)分離された架橋リグニン粒子を洗浄媒体で洗浄する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
工程b)で生成された前記液体のpHの値が7.5超且つ10未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する工程b)において生成された前記液体が、25mS/cm超の導電率を有し、及び/又は最大200mS/cm、好ましくは最大80mS/cm、より好ましくは最大60mS/cm、特に好ましくは最大40mS/cmの導電率を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)で生成された前記液体において、リグニンの少なくとも一部がすでに液体中に溶解している、且つ/又は工程b)で生成された前記液体を水熱処理のための温度に加熱する間に、リグニンの少なくとも一部が液体中に溶解する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの架橋剤が、アルデヒド、エポキシド、酸無水物、ポリイソシアネート又はポリオールから選択され、前記少なくとも1つの架橋剤は、好ましくはアルデヒド、特に好ましくはホルムアルデヒド、フルフラール又は糖アルデヒドから選択され、且つ/又は前記架橋剤の少なくとも1つの前駆体は、そのような架橋剤をインシチュで形成する化合物から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)で生成された液体中の前記架橋剤の量が、使用されるリグニンの架橋可能な単位1モルあたり、最大4mol、好ましくは3mol未満、更に好ましくは2.5mol未満であり、且つ/又は工程b)で生成された液体中の前記架橋剤の量が、架橋剤を用いて架橋することができる使用リグニンの架橋可能な単位1モルあたり、少なくとも0.2mol、好ましくは少なくとも0.5mol、より好ましくは少なくとも0.75mol、更に好ましくは少なくとも1mol、特に好ましくは少なくとも1.1mol、特に最大1.15molの、架橋剤の架橋可能な単位であり、架橋剤の前駆体の追加又は代替使用の場合、前駆体の量は、架橋剤のインシチュでの形成の後で、そのような量が得られるように選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する工程b)において生成された前記液体が、
b1)前記黒液を、i)pHの値を下げるための酸及び/若しくは酸性ガスと、ii)少なくとも1つの架橋剤及び/若しくは架橋剤の前駆体と混合する工程、又は
b2)前記黒液を酸及び/若しくは酸性ガスと混合してpHの値を下げ、前記黒液中に固体リグニン原料を形成する工程;前記固体リグニン原料を前記黒液から分離する工程;
分離した前記固体リグニン原料を、i)液体、並びにii)少なくとも1つの架橋剤及び/若しくは架橋剤の前駆体と混合する工程であって、任意に、更にpHの値を下げるために、酸及び/若しくは酸性ガスを混合する、工程
によって黒液から生成されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)で生成された前記液体のpHの値が、8~9.5、好ましくは8~9の範囲にあり、
工程b2)において、更にpHの値を低下させるために、リグニン100gあたり2~15g、好ましくは5~12gの量の酸を添加する
ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程i)、特に工程b1)若しくは工程b2)で混合するための前記酸が、硫酸若しくは酢酸若しくはギ酸から選択され、且つ/又は
工程i)、特に工程b1)若しくは工程b2)で混合するための前記酸性ガスが、CO
2、H
2S若しくはCO
2とH
2Sの混合物から選択される
ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水熱処理が、180℃~250℃、好ましくは210℃~250℃の範囲の温度で実施され、前記水熱処理が、270℃未満、好ましくは260℃未満、更に好ましくは250℃未満で行われることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記水熱処理の持続時間が、少なくとも10分、更に好ましくは少なくとも30分、特に好ましくは少なくとも45分、更により好ましくは少なくとも90分、且つ/又は600分未満、好ましくは480分未満、特に好ましくは450分未満であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程b)で生成された前記液体中のリグニンの量が、少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体を含まない前記液体の総質量に対して、4~20%質量%、好ましくは7~18質量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程b)で生成された前記液体中の架橋剤、好ましくはホルムアルデヒドの量が、リグニン100gあたり最大35g、好ましくはリグニン100gあたり最大30g、特に好ましくはリグニン100gあたり最大25g、特にリグニン100gあたり最大20gであり、架橋剤、好ましくはホルムアルデヒドの量が、好ましくはリグニン100gあたり1~20g、好ましくはリグニン100gあたり5~15g、特に好ましくはリグニン100gあたり6~12gの範囲内であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程c)で行われる水熱処理の前に、工程b)で生成された前記液体が、少なくとも5分、好ましくは少なくとも10分、より好ましくは少なくとも15分、且つ300分未満、より好ましくは60分未満の間、50℃~150℃未満、より好ましくは60℃~130℃、特に好ましくは70℃~100℃未満の範囲の温度で保持され、且つ/又は水熱処理及び/若しくは任意に実施される中間処理を行うための温度に達するように、工程b)で生成された前記液体が、毎分15ケルビン未満、より好ましくは毎分10ケルビン未満、特に好ましくは毎分5ケルビン未満の加熱速度で加熱されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
架橋リグニン粒子を洗浄するための工程e)で使用される前記洗浄媒体が、4超、好ましくは6超、且つ10未満、好ましくは9未満のpHの値を有し、且つ/又は
架橋リグニン粒子を洗浄するために工程e)で使用される前記洗浄媒体が、水、好ましくは脱塩水を含むか、若しくは水、好ましくは脱塩水である
ことを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
方法において生成された前記架橋リグニン粒子が、少なくとも10m
2/g、更に好ましくは少なくとも20m
2/g、更に好ましくは少なくとも30m
2/g、より好ましくは少なくとも40m
2/gのSTSA表面積を有し、該STSA表面積は好ましくは180m
2/g未満であることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
方法において生成された前記架橋リグニン粒子が、5質量%未満、好ましくは3質量%未満、より好ましくは1質量%の灰分含有率を有することを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程a)で提供された前記黒液が、黒液用の蒸発プラントから取り出され、工程d)で分離された液体、及び任意に工程e)で得られた使用済み洗浄剤が、黒液の抽出点の下流に位置する地点で蒸発プラントに戻されることを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
好ましくは少なくとも10m
2/g、更に好ましくは少なくとも20m
2/g、より好ましくは少なくとも30m
2/g、更により好ましくは少なくとも40m
2/gのSTSA表面積を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法によって得られる架橋リグニン粒子。
【請求項20】
少なくとも160℃のガラス転移温度Tgを有するか又はガラス転移温度を有さず、少なくとも10m
2/gのSTSA表面積を有することを特徴とする、架橋リグニン粒子。
【請求項21】
30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満の、23℃における0.1M NaOHへのアルカリ溶解度を有することを特徴とする、請求項20に記載の架橋リグニン粒子。
【請求項22】
炭素1gあたり0.20~0.45Bqの範囲の
14C含有率を有することを特徴とする、請求項20又は21に記載の架橋リグニン粒子。
【請求項23】
官能化、特にシラン化、特にエクスシチュでの官能化又はシラン化、すなわちポリマーと混合する前に官能化又はシラン化されることを特徴とする、請求項20~22のいずれか一項に記載の架橋リグニン粒子。
【請求項24】
180℃超、好ましくは200℃超、特に250℃超のガラス転移温度を有するか、又はガラス転移温度を全く有さないことを特徴とする、請求項20~23のいずれか一項に記載の架橋リグニン粒子。
【請求項25】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法によって得ることができることを特徴とする、請求項20~24のいずれか一項に記載の架橋リグニン粒子。
【請求項26】
充填材としての架橋リグニン粒子と、マトリックス材料としての少なくとも1つのポリマー、特にゴムエラストマー、例えばゴムの木「ヘベア・ブラジリエンシス」又はタンポポ(タラクサカム属)由来の天然ゴム(1,4-ポリイソプレン)、合成天然ゴム及び/又は合成ゴムから作製されたものとを含む、ゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤ。
【請求項27】
追加の充填剤、特にカーボンブラック及び/又はケイ酸及び/又は他の無機充填剤若しくは表面処理された無機充填剤、例えばチョーク及びシリカを含む、請求項26に記載のゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤ。
【請求項28】
前記架橋リグニン粒子が、請求項19~25のいずれか一項に記載の架橋リグニン粒子であることを特徴とする、請求項26又は27に記載のゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
広葉樹、針葉樹及び一年生植物に由来するリグニンは、例えば、クラフトリグニン、リグノスルホン酸塩又は加水分解リグニンの形態での抽出/回収後に、多数の極性媒体及びアルカリ媒体に高い溶解度を示す。リグニンは、とりわけ、ほとんど、80℃~150℃の温度でのガラス転移を示す。リグニン粒子の微視構造は、低温においてすでに軟化することによって変化する。したがって、リグニン含有物質は、通常、安定ではないが、高温ではその特性を変化させる。更に、例えば10%の水を含有するジオキサン及びアセトン等の極性溶媒、又はアルカリ媒体へのリグニンの溶解度は、通常、>95%である(Sameniら、BioResources、2017、12、1548~1565頁;Podschunら、European Polymer Journal、2015、67、1~11頁)。これらの特性及び他の特性のために、物質の応用には、リグニンは、限られた範囲にしか使用することができない(DE102013002574(A1))。
【背景技術】
【0002】
本明細書のこれ以降、リグニンとは、クラーソンリグニン及び酸可溶性リグニンの和として理解されたい。更に、乾燥体は、他の有機及び無機構成物質を含むことができる。
【0003】
これらの欠点を克服するために、200℃超の軟化温度(ガラス転移温度)を特徴とする水熱炭化又は水熱処理によって、安定化リグニンを生成することが提案されている(WO2015018944(A1))。pHの値を調節することによって、粒径分布が明確な安定化リグニンを得ることが可能である(WO2015018944(A1))。
【0004】
方法の改善により、例えば、エラストマーにおける機能性充填剤として施用することができる、炭素材料を生成するための原料としてリグニンが使用されている(WO2017085278(A1))。機能性充填剤に関する必須の品質パラメータは、STSAの測定によって決定される、粒子炭素材料の外側表面積である。このような方法は、通常、150℃~250℃の間の温度において、リグニン含有液体の水熱炭化を使用する。このような温度では、リグニンの反応性が高いので、高い比表面積を実現するため、リグニン含有液体のpHの値、イオン強度及びリグニン含有率、並びに水熱炭化の温度及び期間の微調節が必要である。これは、アルカリ範囲内、通常、7より高い値まで、pHの値を調節することによって実現される。
【0005】
このような粒子炭素材料の場合、上記によって、個々の原料リグニンの材料とは異なる材料の用途の可能性が開かれる。したがって、粒子炭素材料は、溶解度が40%未満と低く、比表面積が5m2/gより高く200m2/g未満となるので、例えば、エラストマー中の強化充填剤として使用することができ、カーボンブラックを完全に又は部分的に置き換えることができる。
【0006】
これらの方法の欠点は、収率が低いことであり、一般に、40%~60%の間である。これらの方法の更なる欠点は、一層高い比表面積を実現するため、リグニン含有液体の特性(pHの値、イオン強度、リグニン含有率)を、水熱炭化の工程パラメータ(温度及び滞留時間)に適合させるための労力が大きいことである。5m2/g超の範囲の表面積を達成するためには、リグニン含有液体は、25mS/cm未満の導電率を持つ必要がある。上述の調節に求められる感度のために、40m2/gを超える表面積は、工業的規模よりも実験室での方が容易に達成される。比表面積を増大することを目的とするこのような調節は、収率の低下をもたらすことが推測される。
【0007】
220℃~280℃の間の温度での水熱炭化による乾燥黒液と水とからなる懸濁液から燃料を製造するために、固形物の収率を向上させて、リグニン変換率を高める公知方法は、ホルムアルデヒドの添加である[Bioressource Technologie 2012、110、715~718頁、Kangら]。Kangらは、乾燥リグニン100gあたり37gのホルムアルデヒドを、20%の固形物濃度で添加することを提案している(乾燥体に対する30%のリグニン含有率を有する黒液を乾燥させることによって得られる乾燥体25gあたり、2.8%のホルムアルデヒド溶液を100ml)。これによって、黒液に含まれるリグニンの固形物への変換率を60%~80%から90%~100%の間の値まで向上させることが可能となり、最高値は、220℃~250℃の間の温度において達成される。この先行技術は、ホルムアルデヒド、黒液中の固形物、及びこの固形物から形成される炭化生成物の間での重合に対する収率の向上に寄与する(最後の段落の716頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】DE102013002574(A1)
【特許文献2】WO2015018944(A1)
【特許文献3】WO2017085278(A1)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sameniら、BioResources、2017、12、1548~1565頁
【非特許文献2】Podschunら、European Polymer Journal、2015、67、1~11頁。
【非特許文献3】https://www.tappi.org/content/SARG/T222.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この先行技術の欠点:
- 100gのリグニンあたり、37gのホルムアルデヒドという比投入量(specific dosing)が高いこと、
- 使用される乾燥体、及びそれから生成される生成物の灰分含有率が高いこと、
- ホルムアルデヒド、黒液中の固形物及びこの固形物から形成される炭化生成物間で重合すること、及び
- 生成物の燃料用途への使用に関わる制限があること(Kangらを参照されたい)。
【0011】
本発明の目的は、高い収率を実現すると同時に、材料用途に好適な架橋リグニンをもたらす方法を記述することである。
【0012】
本発明の目的は、以下
- アルカリ媒体及び/又は極性媒体へのリグニンの溶解度を低下させる方法、
- リグニンのガラス転移温度を上昇させるか、又はなくす方法、
- 有利な粒子特性を有する安定化架橋リグニンをもたらす方法、及び
- 高収率を有する方法
を規定することである。
【0013】
この目的は、特に、高比表面積、例えば、>20m2/g、好ましくは>30m2/gのBET表面積、又は対応するSTSA表面積を有するリグニン粒子を生成する方法であって、出発材料としての黒液の単純化された処理を可能にする方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
驚くべきことに、この目的は、溶解した粒子形態の架橋リグニンを生成する方法であって、該方法は、以下の工程:
a)5~50質量%の乾燥物質含有率を有する黒液を提供する工程と、
b)リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有し、以下の特性:
- 5~25%質量%の乾燥物質含有率、
- 10~45質量%の、乾燥質量に対する灰分含有率、
- 6.5超且つ10未満、好ましくは7超且つ10未満、より好ましくは7.5超且つ10未満のpHの値、
- 15mS/cm超~400mS/cmの導電率
を有する液体を黒液から生成する工程であり、該液体の生成が
i)pHの値を低下させるために黒液を酸及び/又は酸性ガスと混合する工程と、
ii)黒液又はそれから誘導される生成物を、少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体と混合する工程と、
iii)任意に、乾燥物質含有率を低減するために液体を添加する工程と
を含む工程と、
c)リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する、工程b)で生成された液体を、150℃~270℃の範囲の温度で水熱処理して液体中に架橋リグニン粒子を形成する工程と、
d)工程c)で形成された架橋リグニン粒子から液体を分離する工程と、
e)分離された架橋リグニン粒子を洗浄媒体で洗浄する工程と
を含む方法によって解決され得る。
【0015】
好ましくは、工程d)で分離された液体、及び任意に工程e)で得られた使用済み洗浄媒体は、成分から液(liquor)及び/又はエネルギーを回収するために処理プラントに供給される。
【0016】
本発明の別の目的は、より良好に架橋され、特により良好に安定化された、ゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤ用の、改良され、架橋され、安定化された充填材として特に適しているリグニン、特にリグニン粒子を提供することであった。
【0017】
本発明によるリグニン粒子の、工業用ゴム製物品又はタイヤ等の天然ゴム及び合成ゴムをベースとするゴム製物品への充填材としての組み込みは、ゴム製物品の特性、特に以下のような特別な特性を改善することを意図している。
- 張力下での特異的伸長性
- 動的変形時の低い損失係数
- 高い動的剛性
- 封止機能を向上させるための低い圧縮永久歪み
- 粒子形態に起因する良好な電気絶縁挙動
- 低い構成要素質量
- 高剛性と少ない変形
- 多環式芳香族化合物の最小化。
【0018】
本願では、特に断りのない限り、記載されたすべての百分率は質量を指す。通常、液体は、例えば、溶液又は懸濁液でもあり得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
黒液
本発明による方法の工程a)によれば、黒液が提供される。特に、黒液は、木質バイオマスのアルカリ分画プロセス、例えば、クラフトプロセス、パルプ製造、水酸化ナトリウムプロセスで廃液として発生するリグニン含有液体である。黒液のpHの値はアルカリ性の範囲にあり、通常12~14のpHの値である。黒液はリグニンに加えて有機又は無機成分を含有し得る。黒液では典型的に、有機乾燥質量におけるリグニン比率は、50%超、特に60%超、或いは70%超ですらあり、したがって、木質バイオマスにおけるリグニン比率15%~35%を大きく上回る。以下、リグニン含有率は、クラーソン(Klason)リグニンと酸可溶性リグニンの合計として理解されるものとする。
【0020】
また、パルプ製造におけるアルカリパルプ化から廃液として発生する黒液は、蒸発装置で更に濃縮される。本発明による方法では、黒液は蒸発プラントから採取するか又は蒸発プラントによって提供することができる。
【0021】
方法で使用する黒液は、特に、黒液の総質量に対して、5~50質量%、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~40質量%の乾燥物質含有率を有する。
【0022】
本発明による方法は、工程b)として、黒液からリグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する液体を生成する工程を含む。工程b)で得られた液体の特性について以下に説明する。
【0023】
工程b)による黒液からの液体の生成は、少なくとも以下の工程
i)pHの値を低下させるために黒液を酸及び/又は酸性ガスと混合する工程と、
ii)黒液又はそれから誘導される生成物を、少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体と混合する工程と、
iii)任意に、乾燥物質含有率を低減するために液体を添加する工程と
を含む。
【0024】
黒液に由来する生成物は、黒液を再処理して得られる生成物、例えば、後述の変形例b2)に従って得られる固体リグニン原料であり得る。乾燥物質含有率を下げるのに適した液体は、水等のすべての一般的な無機溶媒、又はアルコール等の有機溶媒であり、水が好ましい。酸及び/又は酸性ガスの好適な実施形態は、具体的な変形例b1)及びb2)について後述するものと同様である。架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体の好適な実施形態についても、以下に説明する。
【0025】
工程b)による黒液からの液体の形成は、好ましくは、工程b1)又は代替工程b2)を介して行われ得る。
【0026】
代替実施形態b1)において、リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する液体は、黒液をi)pHの値を下げるための酸及び/又は酸性ガス、並びにii)少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体と混合することによって、黒液から得られる。
【0027】
工程b1)における混合用の酸は、例えば、硫酸等の無機酸、酢酸又はギ酸等の有機酸であってもよく、酸は、10質量%未満、好ましくは5質量%未満の水分含率を有する工業銘柄の酸として添加されてもよく、水性酸として添加してもよい。工程b1)において混合するための酸性ガスは、例えば、CO2、H2S又はCO2とH2Sの混合物から選択することができる。好都合には、酸性ガスは、黒液の中に簡単に導入される。
【0028】
リグニンと架橋剤及び/又はその前駆体とを含有する液体を得るための各成分を相互に添加する順序は、限定されない。成分は、同時に、連続的に、及び/又は部分的に相互に混合することができる。適切な混合のために、例えば、液体を撹拌したり循環させたりすることによって、液体を動かしてもよい。
【0029】
方法のこの変形例では、工程a)で提供される黒液の乾燥物質含有率は、好ましくは10%超、且つ好ましくは30%未満、更に好ましくは25%未満である。工程a)において、好ましい範囲を超える乾燥物質含有率を有する黒液が提供された場合、工程b1)において、黒液に更に液体を添加して、液体の乾燥物質含有率を調整することができる。
【0030】
代替的実施形態b2)において、リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する液体は、以下の工程
- 黒液に酸又は酸性ガスを混合してpHの値を下げ、黒液中に固体リグニン原料を形成する工程;
- 固体リグニン原料を黒液から分離する工程;
- 分離した固体リグニン原料を、i)液体、並びにii)少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体と混合する工程であって、任意に、更にpHの値を下げるために、酸及び/又は酸性ガスを追加混合する、工程
によって黒液から生成される。
【0031】
黒液と混合するために及び/又は任意で更にpHを下げるために、工程b2)において使用される混合用の酸は、例えば、硫酸等の無機酸、又は酢酸若しくはギ酸等の有機酸であり得、酸は、10質量%未満、好ましくは5質量%未満の水分含有率を有する工業銘柄の酸として、又は水性酸として、添加され得る。黒液との混合のために、及び/又は任意で更にpHを下げるために、工程b2)において使用される混合用の酸性ガスは、例えば、CO2、H2S又はCO2とH2Sの混合物から選択することができる。好都合には、酸性ガスは、黒液又はpHを低下させるための液体に簡単に導入される。
【0032】
黒液に酸を添加することにより、又は酸性ガスを導入することにより、黒液のpHの値を低下させ、好ましくはpH9.5~10.5の範囲とする。これにより、固体リグニン原料が黒液中に形成され又は沈殿する。沈殿した固体リグニン原料は、黒液又はその液体成分から、好ましくはろ過により分離される。分離した固体リグニン原料の乾燥物質は、リグニンに加えて更なる有機及び/又は無機成分を含有し得る。乾燥物質中のリグニンの量は、例えば、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%である。ただし、乾燥物質中のリグニンの量は、例えば最大90%である。
【0033】
分離した固体リグニン原料は、i)液体、並びにii)少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体と混合され、更にpHの値を下げるために、酸及び/又は酸性ガスが任意に追加混合される。このようにして、リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する液体が、黒液から形成される。
【0034】
リグニンと架橋剤及び/又はその前駆体とを含有する液体を得るための各成分を相互に添加する順序は、限定されない。成分は、同時に、連続的に、及び/又は部分的に相互に混合することができる。適切な混合のために、例えば、液体を撹拌したり循環させたりすることによって、液体を動かしてもよい。
【0035】
分離された固体リグニン原料に添加される液体は、例えば水等の無機溶媒、及び/又は例えばアルコール等の有機溶媒、例えばエタノールであり得、液体は好ましくは水である。
【0036】
変形例b2)の任意の好ましい実施例において、酸及び/又は酸性ガスは、pHの値を更に下げるために、例えば水等の添加された液体に加えて混合される。この任意の工程が実行される場合、水等の液体、硫酸若しくは酢酸等の酸、及び/又は酸性ガスが、別個に固体リグニン原料と混合されてもよい。ただし、水等の液体、硫酸若しくは酢酸等の酸、又は酸性ガスを最初に混合し、次に、混合物を固体リグニン原料と混合するか、又は水等の液体の一部の量を固体リグニン原料に添加し、水等の液体の別の一部を混合し、水性酸として個別に、硫酸若しくは酢酸等の酸又は酸性ガスと混合することも可能である。
【0037】
特に好ましい実施形態において、固体リグニン原料は、例えばLignoBoostプロセスにおける最初の部分工程として、黒液から回収される。このプロセスにおいて、リグニンは、CO2による酸性化(CO2の黒液への導入)により沈殿する。以下では、沈殿とは、特に、黒液に溶解したリグニンの35%超、好ましくは40%超、特に好ましくは45%超の顕著な変換を意味するものとする。沈殿したリグニンはろ別され得、リグニン含有固体はこのようにして回収され得る。
【0038】
黒液にCO2を導入することにより、黒液中でpHの値はリグニンの沈殿に十分である9.5~10.5に達する。
【0039】
したがって、CO2リグニンの脱水のろ液は、アルカリ性であり、任意選択としてのパルプミルの液体回収に戻すだけでよい。溶解灰分の形態で工程c)の後に生じる、CO2リグニンに含有される灰分(約15~25%)は、大部分が液体と一緒に架橋リグニン粒子から分離され、次に、アルカリ性ろ液としてパルプミルの液体回収に戻され得る。本明細書では、溶解した灰分は、特に、液体中に溶解した無機塩として理解される。
【0040】
これに対して、LignoBoostプロセスの更なる部分工程としてH2SO4による酸性化から得られたろ液は酸性であり、パルプミルに戻された後に中和する必要がある。更に、導入された任意の硫黄は、パルプミル内で分離される必要がある。また、LignoBoostプロセスから得たリグニンからの架橋リグニン粒子の回収は、pHの値を2から>7に上げるために、NaOHの添加を必要とする。
【0041】
したがって、CO2の存在下で黒液から沈殿したリグニン含有固形物を本方法の出発物質として使用することは、例えばLignoBoostプロセスから得られるリグニン等の他のリグニン固形物と比較して有利である。驚くべきことに、工程b)において架橋剤を添加する場合、このような原料が架橋リグニン粒子の生成に適しており、リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体とを含有する液体の独自の特性が調整されることが判明している。
【0042】
以下では、工程b)において黒液から得られる、リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体を含有する液体について更なる詳細を示すが、詳細は、明示的に別段の記載がない限り、工程b1)及び代替工程b2)の両方を介した液体の形成にも同じように適用される。
【0043】
上記に示したように、工程b)(より一般的には工程i)又はb1)若しくはb2))における混合用の酸は、例えば、硫酸等の無機酸、又は酢酸若しくはギ酸等の有機酸であってよい。工程b)(b1)又はb2))における混合用の酸性ガスは、例えば、CO2、H2S又はCO2とH2Sの混合物から選択することができる。
【0044】
工程b)で得られた液体中のリグニンは、クラーソンリグニン及び酸可溶性リグニンとして決定できるリグニンを含有する。クラーソンリグニンは、Tappi T 222 om-02(https://www.tappi.org/content/SARG/T222.pdf)によれば、72% H2SO4中で処理した後の、分析測定変数であると説明し、この分析方法において定量される生成物のことである。
【0045】
リグニンは、官能基を提供し、この官能基により架橋が可能である。リグニンは、例えば、架橋剤との反応に適した架橋可能な単位として、フェノール性芳香族、芳香族及び脂肪族ヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基を提供することができる。
【0046】
工程b)で生成した液体中に、リグニンの少なくとも一部が液体にすでに溶解していること、且つ/又は工程b)で製造した液体を水熱処理のための温度まで加熱する間に、リグニンの少なくとも一部が液体に溶解することが好ましい。溶解したリグニンの比率は、通常、液体を加熱することにより増大する。このような加熱は、いずれの場合にも液体を水熱処理するために必要とされる。
【0047】
溶解したリグニンに加えて、未溶解のリグニンが、工程b)で得られた液体中に分散した形態で存在することもある。したがって、本方法では、リグニン全体が液中に溶解した形態で存在する必要はない。しかしながら、有利には、リグニンの50%超、特に好ましくは60%超、更に好ましくは70%超、特に好ましくは80%超、特に90%超、更に特に好ましくは95%超が、工程c)において液体が水熱処理に供される前に、液体中に溶解している。
【0048】
更に、工程b)(より一般的には工程ii)又はb1)若しくはb2))において、工程b)で得られた液体が少なくとも1つの架橋剤及び/又はその1つの前駆体を含有するように、少なくとも1つの架橋剤及び/又は1つの架橋剤の前駆体が混合される。ここで架橋剤の前駆体とは、それ自体は架橋剤ではないが、工程c)における水熱処理の前又は間に、例えば熱分解反応により、インシチュで架橋剤を形成する化合物であると理解される。架橋剤に関する以下の詳細は、適用可能な場合、前駆体からインシチュで形成される架橋剤にも適用される。
【0049】
架橋剤は、リグニンの架橋可能な基と反応することができる、少なくとも1つの官能基を有する。架橋剤は、アルデヒド、カルボン酸無水物、エポキシド、ヒドロキシル及びイソシアネート基、又はそれらの組合せから選択される、少なくとも1つの官能基を好ましくは有する。
【0050】
架橋剤が、アルデヒド、酸無水物又はエポキシド基等の、反応中にリグニンの2つの架橋可能な基と反応することができる官能基を有する場合、このような官能基は1つで十分である。別の場合、架橋剤は、リグニンの架橋可能な基と反応することができる、例えば、ヒドロキシル基又はイソシアネート基等の、少なくとも2つの官能基を有する。
【0051】
特に好ましい実施形態では、少なくとも1種の架橋剤は、アルデヒド、エポキシド、酸無水物、ポリイソシアネート又はポリオールのうちの少なくとも1種から選択され、この場合、少なくとも1種の架橋剤は、好ましくはアルデヒド、特に好ましくはホルムアルデヒド、フルフラール又は糖アルデヒドから選択される。ポリイソシアネートは、少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物であり、ジイソシアネート又はトリイソシアネートが好ましい。ポリオールは、少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物であり、ジオール又はトリオールが好ましい。
【0052】
二官能性架橋剤が使用される場合、二官能性架橋剤1モルあたり2モルの架橋可能な単位が利用可能である。したがって、三官能性架橋剤が使用される場合、三官能性架橋剤1モルあたり3モルの架橋可能な単位が利用可能であるなどである。架橋剤が多官能性であるにもかかわらず、一部は立体障害により、及び一部は電荷の移動により、基が反応しなくなるにつれて反応性が低下するので、多くの場合、利用可能な基の一部しか反応しないことに留意すべきである。
【0053】
以下の記述において、架橋剤の架橋可能な単位とは、リグニンの架橋可能な単位と反応することができる単位を指す。したがって、例えばアルデヒド、酸無水物又はエポキシド基等の、反応中にリグニンの2つの架橋可能な基と反応することができる官能基は、2つの架橋可能な単位として数えられる。
【0054】
好ましくは、工程b)で得られた液体中の架橋剤の投与は、使用されるリグニンの架橋可能な単位1モルあたり、最大4mol、好ましくは最大3mol、更に好ましくは最大2.5mol、特に好ましくは最大2mol、より好ましくは最大1.75mol、特に最大1.5molの、架橋剤の架橋可能な単位が使用されるように行われる。
【0055】
好ましくは、工程b)で得られた液体中の架橋剤の投与は、使用されるリグニンの架橋可能な単位1モルあたり、少なくとも0.2mol、好ましくは少なくとも0.5mol、更に好ましくは少なくとも0.75mol、更に好ましくは少なくとも1mol、特に好ましくは少なくとも1.1mol、特に少なくとも1.15molの、架橋剤の架橋可能な単位が存在するように行われる。好ましくは、工程b)で得られた液体中の架橋剤の投与は、それと架橋することができる使用されるリグニンの単位1molあたり、架橋剤の架橋可能な単位が少なくとも0.2mol、好ましくは少なくとも0.5mol、より好ましくは少なくとも0.75mol、更に好ましくは少なくとも1mol、特に好ましくは少なくとも1.1mol、特に少なくとも1.15mol、存在するようである。好ましくは、工程b)で得られた液体中の架橋剤の用量は、使用されるリグニンの架橋可能な単位1モルあたり、0.2mol~4mol、より好ましくは0.5mol~3mol、特に好ましくは1~2molの範囲の架橋剤の架橋可能な単位となる。
【0056】
架橋剤は、リグニンの遊離オルト及び/又はパラ位置のフェノール環(フェノール性グアイアシル基及びp-ヒドロキシフェニル基)において反応することができる。フェノール性環の遊離オルト及びパラ位における反応に好適な架橋剤は、例えば、ホルムアルデヒド、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)、ヒドロキシベンズアルデヒド、バニリン、シリンガアルデヒド、ピペロナール、グリオキサール、グルタルアルデヒド又は糖アルデヒド等のアルデヒドである。フェノール性環の反応に好ましい架橋剤は、ホルムアルデヒド、フルフラール、並びに例えばグリセルアルデヒド及びグリコールアルデヒド等の糖アルデヒド(エタナール類/プロパナール類)である。
【0057】
更に、架橋剤は、リグニン中の芳香族及び脂肪族OH基(フェノール性グアイアシル基、p-ヒドロキシフェニル基、シリンギル基)と反応することができる。この目的の場合、例えば、グリシジルエーテル等のエポキシ基、ジイソシアネート若しくはジイソシアネートオリゴマー等のイソシアネート基、又は酸無水物を有する二官能性化合物、及びやはり多官能性化合物が、好ましくは、適用されてもよい。芳香族及び脂肪族OH基における反応に好ましい架橋剤は、ポリイソシアネート、特にジイソシアネート又はトリイソシアネート及び酸無水物である。
【0058】
更に、架橋剤はまた、カルボキシル基と反応することができる。この目的の場合、例えば、ジオール及びトリオールが適用されてもよい。カルボキシル基との反応の好ましい架橋剤はジオールである。
【0059】
更に、架橋剤は、フェノール性環、芳香族及び脂肪族OH基及びカルボキシル基の各々と反応することができる。この目的の場合、例えば、上述の架橋性官能基のうちの少なくとも2つを有する、二官能性化合物、及びやはり多官能性化合物が使用されてもよい。
【0060】
フェノール性環と反応する架橋剤を使用する場合、使用されるリグニンにおける架橋可能な単位は、フェノール性グアイアシル基及びp-ヒドロキシフェニル基を意味すると理解される。架橋可能な単位の濃度(mmol/g)は、例えば、31P NMR分光法によって決定され(Podschunら、European Polymer Journal、2015、67、1~11頁)、この場合、グアイアシル基が1つの架橋可能な単位を含有し、p-ヒドロキシフェニル基が、2つの架橋可能な単位を含有する。
【0061】
芳香族及び脂肪族OH基と反応する架橋剤を使用する場合、使用されるリグニンにおける架橋可能な単位は、芳香族及び脂肪族OH基のすべてを意味すると理解される。架橋可能な単位の濃度(mmol/g)は、例えば、31P NMR分光法によって決定され、この場合、OH基の1つが、1つの架橋可能な単位に相当する。
【0062】
カルボキシル基と反応する架橋剤を使用する場合、使用されるリグニンにおける架橋可能な単位は、カルボキシル基のすべてを意味すると理解される。架橋可能な単位の濃度(mmol/g)は、例えば、31P NMR分光法によって決定され、この場合、カルボキシル基の1つが、1つの架橋可能な単位に相当する。
【0063】
好ましくは、工程b)で得られた液体中の架橋剤の量は、最大35g/100gのリグニン、好ましくは最大30g/100gのリグニン、特に好ましくは最大25g/100gのリグニンである。
【0064】
好ましくは、工程b)で得られた液体中の架橋剤、好ましくはホルムアルデヒドの量は、最大25g/100gのリグニン、好ましくは最大20g/100gのリグニン、特に好ましくは最大15g/100gのリグニン、とりわけ最大12g/100gのリグニンである。したがって、架橋剤、好ましくはホルムアルデヒドの添加量は、1~20g/100gのリグニン、好ましくは5~15g/100gのリグニン、特に好ましくは6~12g/100gのリグニンの範囲であってよい。ホルムアルデヒド又は他のアルデヒド等の架橋剤の前駆体の全部又は一部を、代わりに液体に添加することもやはり可能であり、この液体から実際の架橋剤が、インシチュで形成される。
【0065】
架橋剤の量を調節することにより、得られる架橋リグニン粒子の比表面積は大幅に増大し得る。
【0066】
有利には、架橋剤の代替物として又は架橋剤に加えて、水熱処理の前及び/又は間にインシチュで架橋剤を生成する架橋剤の前駆体が使用され得る。架橋剤をインシチュで生成することの利点は、添加される架橋剤の量を低減するか又はすべてなくすことができることである。
【0067】
架橋剤の好適な前駆体の有利な例は、炭水化物、好ましくは、セルロース、ヘミセルロース若しくはグルコース、又はリグニンであり、これらのそれぞれは、液体中に分散又は溶解している場合がある。炭水化物、好ましくは、セルロース、ヘミセルロース若しくはグルコースが前駆体として使用される場合、アルデヒド、好ましくは、グリセルアルデヒド又はグリコールアルデヒドは、本発明の方法において、これらの炭水化物からインシチュで生成され得、次に、架橋剤として作用する。リグニンが前駆体として使用される場合、特にアルデヒド、好ましくはメタンジオール又はグリコールアルデヒドは、本発明の方法において、リグニンからインシチュで生成され得、次に、架橋剤として作用する。
【0068】
工程b)で得られたリグニンを含有する液体の総質量に対するリグニンの比率は、有利には、架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体を含まない、工程b)で得られた液体の質量に対して、3%~25%、好ましくは20%未満、特に好ましくは18%未満である。好ましい実施形態において、工程b)で得られた液体中のリグニンの量は、架橋剤及び/又は架橋剤の前駆体を含まない工程b)で得られた液体の質量に対して、3~25質量%、好ましくは7~18質量%の範囲にある。
【0069】
工程b)で得られた液体の乾燥物質含有率及び灰分含有率
工程b)で得られた液体の乾燥物質含有率は、5~25質量%の範囲である。工程b)で得られた液体の灰分含有率は、乾燥質量に対して、10~45質量%の範囲である。
【0070】
乾燥物質含有率は、温度は105℃に設定した熱質量決定により決定することができる。好適な機器は、例えばSartorius社製MA35湿度分析装置である。通常測定される湿度又は水分は、乾燥物質含有率に換算する必要があり、例えば、乾燥物質含有率=100-含水率(単位はそれぞれ質量%)である。
【0071】
灰分含有率はDIN51719に従って決定され、灰化の温度は915℃に設定される。
【0072】
工程b)で得られた液体のpHの値
リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体を含有する工程b)(又はb1)若しくはb2))で得られた液体のpHの値は、6.5超~10未満、好ましくは7超~10未満、より好ましくは7.5超~10未満、好ましくは8~9.5、特に好ましくは8~9の範囲内である。実験は、高い比表面積を得るためには、約8.5~9のpHの値が最も適している一方で、pHの値が6.5未満若しくは7.5未満であるか、又は9を大幅に超えると、達成可能なBET及びSTSA表面積が顕著に減少することを示した。
【0073】
これらのpHの値の調整は、工程b1)において黒液に酸及び/又は酸性ガスを添加してpHを下げることにより、又は工程b2)において黒液に酸及び/又は酸性ガスを添加し、任意に分離した固体リグニン原料に更なる酸及び/又は更なる酸性ガスを混合することにより、行われる。
【0074】
工程b)で得られた液体のpHは、工程b)による液体の生成後に直接決定することができ、特に、工程c)による水熱処理前のpHを指す。pHは室温(23℃)で決定される。
【0075】
好ましい実施形態では、更にpHを低下させるために、工程b2)において分離された固体リグニン原料に酸又は酸性ガスが混合される。別の酸を添加する場合、工程b)で生成された液体を形成するために混合される酸、例えば硫酸又は酢酸又はギ酸の量は、液体中のリグニン100gあたり、好ましくは2~15g、好ましくは5~12gの範囲である。
【0076】
手順b)で得られた液体の導電率
工程b)においてb1)又はb2)に従って生成された、リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体を含有する液体は、15mS/cm超~400mS/cmの範囲内の導電率を示す。液体の高い電気伝導度にもかかわらず、本発明による方法によって、高い比表面積を有するリグニン粒子を生成することができる。
【0077】
好ましい実施形態において、工程b)で得られた液体は、25mS/cm超、及び/又は最大100mS/cm、好ましくは最大80mS/cm、より好ましくは最大60mS/cm、特に好ましくは最大40mS/cmの導電率を示す。工程b)で得られた液体の導電率は、好ましくは25mS/cm超~200mS/cm、好ましくは25mS/cm超~80mS/cm、又は25mS/cm超~60mS/cm未満、又は25~40mS/cmの範囲であり得る。ただし、例えば、30mS/cm~80mS/cm、又は40~60mS/cmの範囲である場合もある。
【0078】
ここでは、液体に含まれるイオン量の指標として、導電率を用いている。これは23℃における液体の導電率を指し、一般的な導電率メーター、例えばこの目的のために設計されたpHメーターで決定することができる。導電率は、PCE-PH D1装置(PCE Instruments社製pHメーター)の測定プローブで決定された(20℃~25℃での導電率値として決定された)。工程b)で得られた液体の導電率は、工程b)での液体の生成後、特に水熱処理の前に、直接決定することができる。
【0079】
水熱処理
本発明による方法は、工程c)として、リグニン及び/又は少なくとも1つの架橋剤及び/又は架橋剤の1つの前駆体を含有する工程b)で得られた液体を、150℃から270℃の範囲の温度で水熱処理して、液体中に架橋リグニン粒子を形成することを更に含む。
【0080】
水熱処理の温度は、有利には、270℃未満、好ましくは260℃未満、更に好ましくは250℃未満、場合によっては240℃未満である。
【0081】
有利な実施形態では、水熱処理の温度は、150℃超、好ましくは少なくとも160℃、更に好ましくは少なくとも170℃、好ましくは180℃超、より好ましくは190℃超、特に200℃超、場合によっては210℃超である。
【0082】
好ましい実施形態では、水熱処理は、180℃~250℃、好ましくは210℃~250℃の範囲の温度で実施される。
【0083】
有利には、水熱処理の持続時間は、少なくとも10分、更に好ましくは少なくとも30分、特に好ましくは少なくとも45分、更により好ましくは少なくとも90分、及び/又は600分未満、好ましくは480分未満、特に好ましくは450分未満、更に好ましくは300分未満、特に180分未満、場合によっては150分未満である。
【0084】
水熱処理は陽圧で行われる。水熱処理は、好ましくは、耐圧性容器、特にリアクター又はオートクレーブ内で行われる。水熱処理時の圧力は、リグニン含有液体の飽和蒸気圧より、好ましくは少なくとも1bar、更に好ましくは少なくとも2bar、好ましくは最大10bar上である。
【0085】
水熱処理中は、適切な混合のために、液体を撹拌したり循環させたりすることによって、液体を動かしてもよい。
【0086】
水熱処理中は、架橋剤によるリグニンの架橋が行われ、液中に架橋リグニン粒子が形成される。また、水熱処理前に液体を加熱する際に、リグニンと架橋剤の部分的な反応が起こることもある。水熱処理によって得られる架橋リグニン粒子は、安定化リグニン粒子であり、以下に詳述する。
【0087】
架橋リグニン粒子の分離
本発明による方法は、工程c)において形成された架橋リグニン粒子を液体から分離する工程d)を更に含む。
【0088】
液体から形成した架橋リグニン粒子の分離の場合、すべての一般的な固-液分離方法が使用されてもよい。好ましくは、液体は、ろ過又は遠心分離によって粒子から分離される。ろ過又は遠心分離を使用する場合、15%超、好ましくは20%超、更に好ましくは25%超、特に好ましくは30%超及び好ましくは60%未満、好ましくは55%未満、更に好ましくは50%未満、特に好ましくは45%未満、更に好ましくは40%未満の乾燥物質含有率が、好ましくは実現される。リグニン粒子を分離するための別の可能性は、例えば、高温及び/又は減圧での液体の蒸発である。
【0089】
架橋リグニン粒子の洗浄
本発明による方法は、工程d)で分離された架橋リグニン粒子が洗浄媒体又は洗液で洗浄される、工程e)を更に含む。分離された架橋リグニン粒子は、洗浄媒体で1回又は数回洗浄されてもよい。好ましい実施形態において、使用済みの洗浄媒体は黒液のための蒸発プラントに戻される。
【0090】
特に有利な実施形態では、使用される洗浄媒体のpHの値は、4より大きく、好ましくは6より大きく、且つ10より小さく、好ましくは9より小さい。洗浄媒体として好適なのは、水、例えば水道水、又は好ましくは脱塩水であり、任意に添加物、例えば酸又は塩基をも含有する。
【0091】
洗浄により粒子から無機化合物を除去し、架橋リグニン粒子の灰分含有率を顕著に減少させることができる。これにより、粒子の特性を向上させることができる。
【0092】
洗浄されたリグニン粒子は、通常、乾燥され、この場合、残りの液体の少なくとも一部が、好ましくは、その溶媒蒸発によって、例えば、加熱及び/又は圧力減少によって除去される。最終生成物として、乾燥済み又は乾燥架橋リグニン粒子を得ることが好ましい。好ましくは、乾燥物質含有率は、90%超、更に好ましくは92%超、特に95%超である。本発明において、乾燥粒子は、90%超、更に好ましくは92%超、特に95%超の乾燥物質含有率を有する粒子であると理解される。
【0093】
好ましくは、工程d)で分離された液体、及び任意に工程e)で得られた使用済み洗浄媒体は、成分から液(liquor)及び/又はエネルギーを回収するために処理プラントに供給される。
【0094】
液及び/又はエネルギーの回収のために、工程d)で分離された液体及び/又は工程e)からの使用済み洗浄媒体を任意に戻す工程
工程d)で分離された液体、及び任意に工程e)で得られた使用済み洗浄媒体は、任意に、且つ好ましくは、液及び/又はエネルギーを回収するために、再処理プラント、特に黒液用の蒸発プラントに戻される。成分は、使用された黒液に由来する。黒液用の蒸発プラントは再処理プラントの一部である。一般に、このような再処理プラントは、蒸発プラントに加えて、液回収ボイラー及び苛性化プラントを含む。
【0095】
好ましい実施形態では、工程a)で提供される黒液は、黒液用の蒸発プラントから取り出され、工程d)で分離された液体、及び場合により工程e)で得られた使用済み洗浄媒体は、黒液抽出点の下流にある位置で蒸発プラントに戻されて、循環が生じないようにされる。
【0096】
工程b)で得られた液体の加熱及び任意の中間処理
リグニンと少なくとも1つの架橋剤及び/又は1つのその前駆体とを含有する、工程b)で得られた液体が、後述の水熱処理及び/又は任意に実施される中間処理のための温度に達するまでの加熱速度は、好ましくは15ケルビン/分未満、更に好ましくは10ケルビン/分未満、特に好ましくは5ケルビン/分未満である。
【0097】
工程b)で得られた液体を水熱処理前に一定期間低温で保持すること(以後、中間処理と呼ぶ)が適切な場合がある。
【0098】
この任意の中間処理では、工程b)で得られた液体が、工程c)で行われる水熱処理の前に、少なくとも5分、好ましくは少なくとも10分、より好ましくは少なくとも15分、且つ300分未満、より好ましくは60分未満の期間、50℃~150℃未満、より好ましくは60℃~130℃、特に好ましくは70℃~100℃未満の温度で保持される。
【0099】
すでに述べたように、工程b)で得られた液体の加熱及び任意に実施される中間処理の間に、リグニンの少なくとも一部又はそれより多いリグニンが液体中に溶解してもよい。
【0100】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、加熱中及び任意に実施される中間処理中に、溶解したリグニンと架橋剤との部分的な反応も起こり、溶解した改変リグニンが得られ、リグニンは架橋剤と反応するが、架橋剤を介した架橋は起こっていないか又は部分的にのみ起こっていると仮定される。つまり、架橋剤の分子は1つの位置でリグニンに結合するが、架橋の形成に伴う架橋剤分子のリグニンへの第2の結合は、あるとしても、部分的なものにすぎない。
【0101】
溶解した改変リグニンによって、特に以下のことが理解される。
- リグニン中の芳香族化合物は更に、主にエーテル結合を介して結合している。
- 芳香環の全体比率におけるパラ置換フェノール環の比率は、95%超、好ましくは97%超、特に好ましくは99%超、且つ遊離フェノールの含有率が200ppm未満、好ましくは100ppm未満、より好ましくは75ppm未満、特に好ましくは50ppm未満である。
- クラーソンリグニン含有率は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも85%である。
【0102】
遊離フェノール含有率は、DIN ISO 8974に準拠して決定される。クラーソンリグニンの含有率は、TAPPI T 222に準拠し、酸不溶性リグニンとして決定される。フェノール基の定量及び適格性は、M. Zawadzki、A. Ragauskas(Holzforschung 2001、55、3)に準拠して、31P-NMRにより決定される。
【0103】
加熱中及び/又は任意の中間処理において、液体中に溶解したリグニンに架橋剤を反応させることにより、反応の選択性を高め、溶解した改変リグニンを標的化して得ることができ、これを次に水熱処理で架橋リグニン粒子に変換することが可能である。工程b)で得られた液体を前述の加熱速度で加熱すること、及び/又は任意の中間処理を行うことにより、架橋剤とリグニンの重合、及び場合によってはリグニンから形成される炭化生成物を低減又は完全に抑制することができる。水熱処理において溶解した改変リグニンを安定化架橋リグニン粒子に変換することで、架橋又は安定化リグニン粒子の粒子特性に標的化して影響を及ぼすことが可能である。このようにして、有利な粒子特性を調節することが可能である。
【0104】
任意の中間処理の温度は、有利には50℃超、好ましくは60℃超、特に好ましくは70℃超、且つ180℃未満、好ましくは150℃未満、更に好ましくは130℃未満、特に好ましくは100℃未満である。
【0105】
有利には、任意の中間処理における平均滞留時間は、少なくとも5分、より好ましくは少なくとも10分、更に好ましくは少なくとも15分、特に好ましくは少なくとも30分、特に少なくとも45分、ただし300分未満である。
【0106】
任意の中間処理のための時間及び温度範囲の有利な組合せは、少なくとも15分、好ましくは少なくとも20分、更に好ましくは少なくとも30分、特に好ましくは少なくとも45分の滞留時間で、最小温度50℃、且つ最大温度150℃未満である。任意の中間処理のための時間及び温度範囲の代替的な有利な組合せは、少なくとも10分、好ましくは少なくとも15分、更に好ましくは少なくとも20分、特に好ましくは少なくとも30分、特に少なくとも45分の滞留時間で、最小温度50℃、且つ最大温度130℃未満である。
【0107】
任意の中間処理の好ましい実施形態では、50℃~150℃未満の温度を、少なくとも20分、好ましくは少なくとも60分の滞留時間維持する。
【0108】
任意の中間処理の別の好ましい実施形態では、70℃~130℃未満の温度が、少なくとも10分、好ましくは少なくとも50分の滞留時間維持される。
【0109】
任意の中間処理は、大気圧で又は陽圧で行ってよく、好ましくは陽圧で行う。
【0110】
架橋リグニン粒子I
本発明による方法により、粒子状の架橋リグニンが生成される。したがって、本発明による方法によって得られるリグニンは、架橋リグニン粒子の形態で存在し、プロセスにおいて得られる最終生成物は、好ましくは粉末、特に乾燥粉末である。したがって、それらは、液体中に分散して存在し得る、又は乾燥後の粉末若しくは乾燥粉末として存在し得る、固形物の粒子である。
【0111】
好ましくは、使用されるリグニンに対する架橋リグニン粒子の収率は、60%超、好ましくは70%超、特に好ましくは80%超、特に85%超である。
【0112】
このようにして得られる架橋リグニン粒子は、特に安定化リグニン粒子である。架橋及び水熱処理による安定化は、例えば、比表面積の増加、アルカリ溶液への溶解度の低下、及び/又はガラス転移点の上昇若しくは測定可能なガラス転移点が全く存在しない等の特性の改善をもたらす。得られた架橋又は安定化リグニン粒子は、好ましくは160℃超、好ましくは180℃超、特に好ましくは200℃超、特に250℃超のガラス転移温度を示す。好ましくは、得られた架橋リグニン粒子において、ガラス転移温度を全く測定することができない、すなわちガラス転移温度が存在しない。
【0113】
ガラス転移温度の測定は、DIN53765に準拠して、乾燥後の架橋リグニン粒子を固液分離、洗浄及び乾燥した後に行われる。
【0114】
本発明による方法によって得られる安定化リグニン粒子は、物質用途におけるその使用を可能にする、有利な他の粒子特性を有する。
【0115】
好ましくは、方法によって得られる架橋リグニン粒子は、500μm未満、好ましくは300μm未満、更に好ましくは200μm未満、特に100μm未満、特に好ましくは50μm未満の、粒径分布のd50値(体積平均値)を有する。好ましくは、粒径分布のd50値(体積平均値)は、0.5μm超、好ましくは1μm超、特に好ましくは2μm超である。
【0116】
架橋安定化リグニンの粒径分布の測定は、ISO13320に準拠して、レーザー回折によって、蒸留水を含む懸濁液中で行われる。粒径分布の測定前及び/又は測定後に、測定される試料を、数回の測定にわたり安定状態を維持する粒径分布に到達するまで、超音波によって分散させる。一連の測定、例えばd50の個々の測定が、5%を超えて互いに異ならない場合に、この安定性に到達する。
【0117】
得られた架橋リグニン粒子は、少なくとも10m2/g、更に好ましくは少なくとも20m2/g、更に好ましくは少なくとも30m2/g、更により好ましくは少なくとも40m2/g、最も好ましくは少なくとも50m2/gのSTSA又はSTSA表面積を有することが特に好ましい。好ましくは、STSAは、200m2/g未満であり、より好ましくは180m2/g未満である。STSA(統計学的厚さ表面積)は、得られたリグニン粒子の外側表面積の特徴付けである。
【0118】
本架橋リグニン粒子の変形例において、STSA表面積は、少なくとも10m2/g~180m2/g、好ましくは少なくとも20m2/g~180m2/g、より好ましくは30m2/g~180m2/g、特に好ましくは40m2/g~180m2/gの値を示す。
【0119】
有利には、本架橋又は本安定化リグニンのBET表面積は、STSA表面積から、最大で20%、好ましくは最大で15%、更に好ましくは最大で10%しか違いがない。BET表面積は、Brunauer、Emmett及びTellerに準拠した窒素吸着によって、外側表面積及び内側表面積から全表面積として求められる。
【0120】
BET表面積及びSTSA表面積の決定は、ASTM D6556-14規格に準拠して行われる。しかしながら、これとは対照的に、STSA及びBETを測定するための試料調製/ガス放出は、本発明では、150℃で行われる。
【0121】
本発明による方法において生成される架橋リグニン粒子は、好ましくは、5質量%未満、好ましくは3質量%未満、且つ1質量%超の灰分含有率を有する。
【0122】
好ましくは、得られる架橋リグニン粒子は、低い多孔度しか有していない。有利には、架橋又は安定化リグニンの細孔体積は、<0.1cm3/g、更に好ましくは<0.01cm3/g、特に好ましくは<0.005cm3/gである。したがって、本架橋又は安定化リグニンは、通常、500m2/gを超えるBET表面積に加え、最大でも10m2/gのSTSA表面積しか有し得ない、摩砕された生物起源活性炭粉末等の、微粉砕多孔質材料とは異なる。
【0123】
得られる架橋リグニン粒子は、ホルムアルデヒドとの反応により生成し、溶液から、ゲル状態を経てデュロマーに変換されたリグニンをベースとする樹脂とは、例えば、粒径分布が500μm未満のd50値、又は10m2/g超、好ましくは20m2/g超のSTSAという好ましい有利な粒子特性によって異なる。
【0124】
好ましくは、得られた架橋リグニン粒子は、アルカリ溶液中では、条件次第でしか可溶性ではない。好ましくは、未溶解の安定化リグニンの溶解度は、30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満である。
【0125】
架橋又は安定化リグニン粒子のアルカリ溶解度は、以下のとおり決定される:
1.リグニン粒子を遠心分離又はろ過により液体から分離し、次いで蒸留水で洗浄する。
2.1の生成物を105℃で24時間乾燥させる。
3.固形物質試料の溶解度を決定するために、この試料は、乾燥微粉末(DS>98%)の形態で存在しなければならない。そうではない場合、溶解度を決定する前に、乾燥試料を摩砕するか、又は徹底的に乳鉢ですりつぶす。
4.溶解度は、三連で決定する。この目的の場合、4gの各乾燥充填剤を、それぞれ、100mlのエルレンマイヤーフラスコ中の80gの0.1M NaOHに秤量して入れる。
5.アルカリ懸濁液を、1分間あたり200のシェーカー速度で、室温(23℃)で2時間、振とうする。万が一、液体が、この過程で蓋に接触する場合、シェーカー速度を下げて、これが起こらないようにしなければならない。
6.次に、懸濁液を、φ=55mm、孔径5~8μmのろ紙で、あらかじめ分析天秤により0.1mg単位でバランスをとっておいたブフナー漏斗に、できるだけ完全に移し、真空下で濾ろ過する。ろ過前に真空下でろ紙を少し湿らせる。完全にろ過した後、ろ液のpHの値を測定し、記録する。次に、エルレンマイヤーフラスコを40mlの蒸留水ですすいで、残った物質を最後までブフナー漏斗に移し、同時に、使用したNaOH等の溶解性物質からフィルターケーキを洗浄する。再びフィルターケーキが乾くまでろ過を続ける。
7.フィルターケーキを洗浄した後、ブフナー漏斗を乾燥炉で105℃にて少なくとも24時間、質量が一定になるまで乾燥させる。
8.リグニンリッチ固形物のアルカリ溶解度が、次のように計算される:
リグニンリッチ固形物のアルカリ溶解度[%]=100%-X%(式中、X%=遠心分離又はろ過乾燥後の未溶解画分の質量[g]×100/上記の項目2で得られた乾燥物の質量[g])
【0126】
本発明は更に、本発明による方法によって得られる架橋リグニン粒子であって、該架橋リグニン粒子は、好ましくは少なくとも10m2/g、更に好ましくは少なくとも20m2/g、より好ましくは少なくとも30m2/g、更により好ましくは少なくとも40m2/g、最も好ましくは少なくとも50m2/gのSTSA表面積を示している架橋リグニン粒子に関する。
【0127】
本発明のプロセスに従って得られるリグニン粒子は、好ましくは、以下の特性を示す。
- 少なくとも10m2/g、好ましくは少なくとも20m2/g、より好ましくは少なくとも30m2/g、更により好ましくは少なくとも40m2/g、最も好ましくは少なくとも50m2/gのSTSA。好ましくは、STSAは、200m2/g未満、好ましくは180m2/g未満である、
- 54~58ppmにおけるメトキシ基のシグナルに対して1~80%、好ましくは5~60%、特に好ましくは5~50%の強度を有する、0~50ppm、好ましくは10~40ppm、特に好ましくは25~35ppmにおける、固体状態13C-NMRのシグナル、及び使用したリグニンに比べて向上した、125~135ppm、好ましくは127~133ppmにおける、13C-NMRのシグナル、
- 再生可能な原材料、好ましくは炭素1gあたり0.20Bq超、特に好ましくは炭素1gあたり0.23Bq超、ただし好ましくはそれぞれ炭素1gあたり0.45Bq未満に相当する14C含有率;
- 60質量%~80質量%、好ましくは65質量%~75質量%の、無灰乾燥物質に対する炭素含有率;
- 160℃超、更に好ましくは180℃超、特に好ましくは200℃超、特に250℃超のガラス転移温度。
好ましくは、架橋リグニン粒子の場合、ガラス転移温度を全く測定することができない。
- 0.1cm3/g未満、更に好ましくは0.01cm3/g未満、特に好ましくは0.005cm3/g未満の、架橋又は安定化リグニンの細孔体積。
【0128】
架橋リグニン粒子II
本発明は、少なくとも160℃のガラス転移温度Tgを示すか、又はガラス転移温度を全く示さない架橋リグニン粒子に更に関する。更に、架橋リグニン粒子は、少なくとも10m2/gのSTSA表面積を有する。すでに上述したように、架橋リグニン粒子は、架橋剤で架橋されたリグニン粒子であり、考えられる架橋剤は、上述したもの、特にホルムアルデヒドである。
【0129】
架橋リグニン粒子は、少なくとも20m2/g、より好ましくは少なくとも30m2/g、更により好ましくは少なくとも40m2/g、最も好ましくは少なくとも50m2/gのSTSA又はSTSA表面積を有することが特に好ましい。好ましくは、STSAは、200m2/g未満であり、より好ましくは180m2/g未満である。架橋リグニン粒子は、例えば、少なくとも10m2/g~180m2/g、好ましくは少なくとも20m2/g~180m2/g、更に好ましくは30m2/g~180m2/g、特に好ましくは40m2/g~180m2/gのSTSA表面積を有していてよい。
【0130】
架橋リグニン粒子は、好ましくは、180℃超、より好ましくは200℃超、特に250℃超のガラス転移温度を示す。好ましくは、架橋リグニン粒子の場合、ガラス転移温度を全く測定することができない。
【0131】
架橋リグニン粒子は、特に、アルカリ溶液への溶解度が低下していることを特徴とする。好ましい実施形態において、架橋リグニン粒子は、23℃における0.1M NaOHへのアルカリ溶解度が30%未満、好ましくは25%未満、特に好ましくは20%未満である。アルカリ溶解度は、前述の方法に従って決定される。
【0132】
好ましい実施形態において、架橋リグニン粒子は、炭素1gあたり0.20~0.45Bqの範囲の14C含有率を有する。
【0133】
14C含有率を決定する目的で、調査対象資料は、Poznan Radiocarbon Laboratory、Foundation of the A. Mickiewicz University、ul. Rubiez 46、61-612 Poznanに提供された。使用した方法は、実験室長のTomasz Goslarが、研究所のインターネットプレゼンスにおいて説明している。リグニンに関する内容を以下にまとめた。
【0134】
以下の工程を含むAMS法による14C年代測定の手順:
a)Brockら、2010、Radiocarbon、52巻、102~112頁に従った化学的前処理
b)CO2の生成及びグラファイト化
c)Goslar T.、Czernik J.、Goslar E.、2004、Nuclear Instruments and Methods B、223~224頁、5-11に従った「Compact Carbon AMS」分光計による14Cの測定
d)14C年代の算出と較正 (Stuiver、Polach 1977、Radiocarbon 19、355頁による計算;Bronk Ramsey C.、2001、Radiocarbon、43巻、355~363頁;Bronk Ramsey C.、2009、Radiocarbon、51巻、337~360頁;Bronk Ramsey C.及びLee S.、2013、Radiocarbon、55巻、720~730頁及びReimer P. J.ら、2013、Radiocarbon、55巻(4号)、1869~1887頁による較正)
【0135】
考古学的な目的のために、この分析により炭素試料の年代がわかる。ただし、測定結果は比放射能として与えることも可能である。
【0136】
更に、本発明による架橋粒子はまた、「架橋リグニン粒子I」で上述した他のすべての特性、例えば粒径分布、灰分含有率及び/又は細孔体積に関する特性を示し、それらの特性への参照もなされる。
【0137】
一実施形態によれば、本発明による架橋リグニン粒子は、官能化、特にシラン化されていてもよい。この官能化は、架橋リグニン粒子のカップリング試薬による表面改質と理解される。カップリング試薬は、それを通じて架橋リグニン粒子表面への化学結合が起こる官能基を有している。このような官能基化、特にシラン化により、例えばマトリックス材料として機能するポリマー、特にゴムエラストマーとの化学結合の、結合を改善することが特に可能である。
【0138】
このようなカップリング試薬又は表面改質剤は、充填剤の分野の当業者には既知である。カップリング試薬の好適な例は、特に有機シラン、例えばビス(トリアルコキシシリルアルキル)-オリゴ-又は-ポリスルフィド、メルカプトシラン、アミノシラン又は不飽和炭化水素基を有するシラン類、例えばビニルシランである。
【0139】
架橋リグニン粒子の官能化又はシラン化は、好ましくはエクスシチュで、すなわちポリマー、特にゴムと混合する前に、実施される。
【0140】
好ましい実施形態において、架橋リグニン粒子は、上述した本発明による方法によって得ることができるリグニン粒子である。
【0141】
架橋リグニン粒子を含有する、ゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤ
本発明は更に、充填剤として上記した架橋リグニン粒子、及び少なくとも1つのポリマー、特にゴムエラストマーをマトリックス又はマトリックス材料として含有する、ゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤに関する。当業者には、ゴム製物品が多くの添加剤、例えば充填剤を含有し得ることが知られている。
【0142】
ゴム製物品にマトリックス又はマトリックス材料として含有されるポリマーは、特にゴムエラストマーである。ゴムエラストマーは、1つ以上のゴムから形成されていてもよい。ゴムエラストマーは、例えば、天然ゴム(1,4-ポリイソプレン)、例えばゴムの木「ヘベア・ブラジリエンシス(Hevea brasiliensis)」又はタンポポ(タラクサカム属(Taraxacum))に由来するもの、合成天然ゴム及び/又は合成ゴム、又はそれらの混合物から形成されてもよく、これらは加硫によりゴムマトリックスに変換することができる。
【0143】
したがって、本発明による架橋リグニンは、ゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤにおいて、ゴム製物品に使用されるゴムの質量に対して、例えば、10質量%~150質量%、好ましくは20質量%~120質量%、より好ましくは40質量%~100質量%、特に好ましくは50質量%~80質量%の量で用いられてよい。
【0144】
ゴム製物品、特に、工業用ゴム製物品又はタイヤは、ゴム又はゴムエラストマー、すなわち、物品用のマトリックス材料として役立つ、加硫化ゴムに基づく物品である。ゴム製物品、とりわけ、工業用ゴム製物品又はタイヤは、時として、ゴム製品(ドイツ語では、Gummiwaren、Kautschukartikel又はKautschukwaren)とも呼ばれる。英語での工業用ゴム製物品に関する技術用語の1つは、「機械的ゴム製品」(Mechanical Rubber Goods:MRGと略される)である。ゴム製物品、特に、工業用ゴム製物品又はタイヤの例は、自動車用タイヤ、シーリングプロファイル、ベルト、バンド、コンベア用ベルト、ホース、バネ要素、ゴム-金属用コンポジット部品、ローラライニング、成形物品、ゴムシール及びゴムケーブルである。
【0145】
好ましい実施形態では、ゴム製物品、特に、工業用ゴム製物品又はタイヤは、追加の充填剤、特にカーボンブラック及び/又はケイ酸及び/又は他の無機充填剤若しくは表面処理された無機充填剤(例えば、チョーク及びシリカ等)を含有してもよい。
【0146】
本発明によるゴム製物品、特に工業用ゴム製物品又はタイヤに含有される架橋リグニン粒子は、特に「架橋リグニン粒子II」で説明したとおりの本発明による架橋リグニン粒子である。特に好ましくは、架橋リグニン粒子は、上述した本発明による方法によって得ることができる。
【0147】
以下では、本発明を例示的実施形態によって説明するが、これらは本発明をいずれかの意味で限定すると受け止めるべきではない。
【0148】
例示的実施形態
以下の例では、STSAの代わりにBETが示されている。しかしながら、本明細書で生成される非溶解安定化リグニンでは、BETとSTSAには互いに10%を超える差はない。ここで示された原料中のリグニン含有率は、原料質量から無水物灰分含有率を差し引いたものである。
【実施例1】
【0149】
(比較)
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、18.6%の乾燥物質含有率及び10のpHの値を有する液体に変換した。表1に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表1に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表1に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表1の比表面積(BET)を決定した。
【0150】
【実施例2】
【0151】
原料はCO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、19.1%の乾燥物質含有率及び9のpHの値を有する液体に変換した。表2に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表2に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表2に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表2の比表面積(BET)を決定した。
【0152】
【実施例3】
【0153】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、19.2%の乾燥物質含有率及び8.8のpHの値を有する液体に変換した。表3に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表3に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表3に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表3の比表面積(BET)を決定した。
【0154】
【実施例4】
【0155】
(比較)
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、14.8%の乾燥物質含有率及び10のpHの値を有する液体に変換した。表4に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表4に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表4に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表4の比表面積(BET)を決定した。
【0156】
【実施例5】
【0157】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、15.3%の乾燥物質含有率及び9.2のpHの値を有する液体に変換した。表5に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表5に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表5に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表5の比表面積(BET)を決定した。
【0158】
【実施例6】
【0159】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、15.5%の乾燥物質含有率及び8.5のpHの値を有する液体に変換した。表6に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表6に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。未溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表6に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。160℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表6の比表面積(BET)を決定した。
【0160】
【実施例7】
【0161】
(比較)
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、9.8%の乾燥物質含有率及び10のpHの値を有する液体に変換した。表7に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表7に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表7に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表7の比表面積(BET)を決定した。
【0162】
【実施例8】
【0163】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、9.4%の乾燥物質含有率及び8.8のpHの値を有する液体に変換した。表8に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表8に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表8に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表8の比表面積(BET)を決定した。
【0164】
【実施例9】
【0165】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、10.3%の乾燥物質含有率及び8.6のpHの値を有する液体に変換した。表9に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表9に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥用キャビネットで乾燥させた後、表9に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表9の比表面積(BET)を決定した。
【0166】
【実施例10】
【0167】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び酢酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、10.4%の乾燥物質含有率及び8.6のpHの値を有する液体に変換した。表10に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表10に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥キャビネットで乾燥させた後、表10に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表10の比表面積(BET)を決定した。
【0168】
【実施例11】
【0169】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は27.2%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、11.5%の乾燥物質含有率及び8.7のpHの値を有する液体に変換した。表11に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表11に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥キャビネットで乾燥させた後、表11に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に関して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表11の比表面積(BET)を決定した。
【0170】
【実施例12】
【0171】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は21.2%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、10.6%の乾燥物質含有率及び8.6のpHの値を有する液体に変換した。表12に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体30gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表12に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥キャビネットで乾燥させた後、表12に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表12の比表面積(BET)を決定した。
【0172】
【実施例13】
【0173】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、10.1%の乾燥物質含有率及び8.4のpHの値を有する液体に変換した。表13に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体700gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表13に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥キャビネットで乾燥させた後、表13に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表13の比表面積(BET)を決定した。
【0174】
【実施例14】
【0175】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は19.3%であると決定した。水及び酢酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、10.1%の乾燥物質含有率及び7.9のpHの値を有する液体に変換した。表14に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体700gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表14に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥キャビネットで乾燥させた後、表14に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表14の比表面積(BET)を決定した。
【0176】
【実施例15】
【0177】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は21.2%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、10.6%の乾燥物質含有率及び8.6のpHの値を有する液体に変換した。表15に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体700gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表15に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥キャビネットで乾燥させた後、表15に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表15の比表面積(BET)を決定した。
【0178】
【実施例16】
【0179】
原料は、CO2沈殿によるクラフトパルプ化からの黒液から得られたリグニンである。原料の無水灰分含有率は21.2%であると決定した。水及び硫酸の添加により、固形物を、溶解したリグニンを含有し、10.5%の乾燥物質含有率及び7.1のpHの値を有する液体に変換した。表16に規定した量のホルムアルデヒドを、23.5%のホルムアルデヒド溶液の形態で、溶解したリグニンを含有するこの液体11600gに、それぞれ添加した。溶解したリグニンを含有する液体及びホルムアルデヒド溶液を均質化し、表16に示す時間及び温度で、水熱処理を行った。非溶解安定化リグニンをろ過により回収した。回収したろ液に対して2倍量の脱塩水で洗浄し、空気循環式乾燥キャビネットで乾燥させた後、表16に示す収率を得た。収率は、乾燥物質としてのリグニン原料の使用量に対して算出した。ホルムアルデヒドの使用量は収率の計算に含まれていない。150℃でのインバキュオでのベークアウトの後、非溶解安定化リグニンの表16の比表面積(BET)を決定した。
【0180】
前述の測定方法に従って、得られた非溶解安定化リグニンの、0.1M NaOHに対するアルカリ溶解度は9.1%であると決定した。
【0181】
【国際調査報告】