(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】新規の筋肉特異的プロモーター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20230724BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230724BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20230724BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230724BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230724BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230724BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230724BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/52 Z
A61K35/76
A61P21/00
A61P25/00
A61P43/00 105
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501291
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2021069133
(87)【国際公開番号】W WO2022008711
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ロスタル
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・リシャール
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA941
4C084ZB211
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA94
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、骨格筋における高い活性及び心臓における低い活性により特徴づけられる新規の短いプロモーターに関する。それは、特には、筋ジストロフィーの治療のために有用なタンパク質をコードする導入遺伝子の発現を駆動するための、有用な候補を構成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 配列番号2の配列;又は
- 配列番号2と90%以上の同一性を有する配列
を含むプロモーター。
【請求項2】
前記プロモーターのサイズが350ヌクレオチドを超えない、請求項1に記載のプロモーター。
【請求項3】
前記プロモーターが、骨格筋において、心臓においてよりも高い発現レベルをもたらす、請求項1又は2に記載のプロモーター。
【請求項4】
前記プロモーターが配列番号2の配列を含む又はそれからなる、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロモーター。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のプロモーター、及び有利には前記プロモーターの制御下に位置する導入遺伝子を含む、発現システム。
【請求項6】
前記導入遺伝子が:
ジストロフィン(マイクロジストロフィン、ミニジストロフィン、準ジストロフィンを含む)、HSP-40ホモログB6、カルパイン3、ジスフェルリン、サルコグリカン(α、β、γ、δ)、FKRP(フクチン関連タンパク質)及びアノクタミン5
からなる群において選択されるタンパク質をコードする、請求項5に記載の発現システム。
【請求項7】
前記カルパイン3タンパク質が配列番号8の配列を有する、請求項6に記載の発現システム。
【請求項8】
前記発現システムが:
- 転写物の安定化のための配列、有利にはヒトβグロビン(HBB2)をコードする遺伝子のイントロン;
- ポリアデニル化シグナル、有利には対象とする遺伝子のpolyA、SV40のpolyA又はベータヘモグロビン(HBB2)のpolyA;
- エンハンサー配列;及び
- マイクロRNAの標的配列
から成る群において選択される少なくとも一つの追加の配列を更に含む、請求項5から7のいずれか一項に記載の発現システム。
【請求項9】
前記発現システムがmiR208aの少なくとも一つの標的配列を更に含む、請求項8に記載の発現システム。
【請求項10】
前記発現システムがウイルスベクター、有利にはアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、好ましくはセロタイプ8又は9のウイルスベクター、より有利には:
AAV8カプシド、AAV9カプシド、AAV9-rh74カプシド及びAAV9-rh74-P1カプシド
から成る群において選択されるカプシドを有するウイルスベクターを含む、請求項5から9のいずれか一項に記載の発現システム。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一項に記載の発現システムを含む、医薬組成物。
【請求項12】
遺伝子療法における使用のための、請求項5から10のいずれか一項に記載の発現システム又は請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
神経筋疾患、有利には筋ジストロフィーの治療における使用のための、請求項5から10のいずれか一項に記載の発現システム又は請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記疾患が:
筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、その他のミオパチー、筋強直症候群、イオンチャネル筋疾患、悪性高熱症、代謝性ミオパチー及びその他の神経筋障害、有利にはデュシェンヌ型(DMD)又はベッカー型(BMD)筋ジストロフィー及び肢帯型筋ジストロフィー、好ましくはLGMD2A、LGMD2B、LGMD2D、LGMD2I、LGMD1D、LGMD2L
から成る群において選択される、請求項13に記載の使用のための発現システム又は医薬組成物。
【請求項15】
全身に投与される、好ましくは静脈内注射により投与される、請求項13又は14に記載の使用のための発現システム又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小さなサイズ並びに興味深い発現プロファイル、すなわち骨格筋における高い活性及び心臓における低い活性を有する、新規なプロモーターの同定に基づく。それはその後、有益で安全な治療ツール、例えば筋ジストロフィーの治療に有益なタンパク質をコードする導入遺伝子の発現を駆動するための治療ツールを提供する。
【背景技術】
【0002】
筋ジストロフィー(MD)は、経時的に骨格筋の衰弱及び機能停止の進行をもたらす筋肉疾患の一群である。前記障害は、主にどの筋肉に影響を与えるか、衰弱の程度、どの速さで悪化するか、及びいつ症状が始まるかで異なる。多くの人々は、最終的に歩くことができなくなる。いくつかのタイプは、他の器官における問題ともまた関連する。筋ジストロフィーのいくつかの場合において、心筋症もまた観察される。
【0003】
筋ジストロフィーの群は、通常9つの主要なカテゴリー又はタイプに分類される13の異なる遺伝性障害を含む。最も共通するタイプは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)であり、それは、典型的には、4歳周辺に始まり、男性が罹患する。他のタイプは、ベッカー型筋ジストロフィー、顔面・肩甲・上腕筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)及び筋緊張性ジストロフィーを含む。それらは、筋肉タンパク質の製造に関与する遺伝子の変異が原因である。これは、親から欠陥を受け継ぐこと又は初期発生の間に生じる変異のいずれかを原因として生じる可能性がある。障害は、X連鎖潜性、常染色体潜性又は常染色体顕性である可能性がある。診断は、しばしば血液検査及び遺伝子検査を含む。
【0004】
筋ジストロフィーのための治療は存在しない。理学療法、ブレース及び矯正手術がいくつかの症状に役立つ可能性がある。補助換気は、呼吸筋の弱い人々に必要とされる可能性がある。使用される医薬は、筋肉の変性を遅くするステロイド、発作及びいくつかの筋肉の活動を制御する鎮痙剤並びに死んでいる筋細胞への障害を先延ばしにする免疫抑制剤を含む。転帰は特異的な障害のタイプによって決まる。
【0005】
治療としての遺伝子療法は、ヒトにおける研究の初期段階にある。それは、一般的に、治療される対象において変異する野生型のタンパク質をコードする導入遺伝子を保有する発現システムの全身投与に基づく。
【0006】
遺伝子療法に関して、安全な発現システムは、標的組織において、すなわち前記タンパク質が天然のタンパク質の不足と関連した異常な状態を治療するために必要とされる組織において、毒性を一切示すことなく、特に最も重要であり必要不可欠な器官又は組織において、治療的に効果的な量のタンパク質の産生を確保するものとして定義される。筋ジストロフィーに関して、標的組織は骨格筋及び場合によっては心臓に関係する。
【0007】
導入遺伝子の発現の厳重な制御は、重要な要素と考えられている。一例として、国際公開第2014/167253号では、ヒトデスミンプロモーターの制御下にあるミオチューブラリン(X連鎖性ミオチュブラーミオパチー、すなわちXLMTMを治療する)又はカルパイン3(肢帯型筋ジストロフィー2A型、すなわちLGMD2Aを治療する)をコードする核酸配列を含むAAVベクターの全身投与は、筋肉の救済をもたらすが、心毒性と関連すると報告されている。
【0008】
筋肉での発現に効果的な多くのプロモーターが存在する。一例として、Brennanら(The Journal of Biological Chemistry, 1993, 268(1): 719-25)は、ヒトアルファアクチンACTA1遺伝子(配列番号1)の-2000から+239の領域は、成人の骨格筋における高レベルの発現及び横紋筋特異的発現、並びに発達中の正確な制御を可能とすると報告している。しかしながら、前記プロモーターの大きなサイズ(2239ヌクレオチド)によって、このプロモーターは、多数の適用に適しません。
【0009】
骨格筋アルファアクチン遺伝子プロモーター領域に関して:
Muscatら(Mol. Cell. Biol., 1987, 7(11): 4089-99)は、筋肉特異的な発現を相乗的に調節するヒト遺伝子のマルチプル5’フランキング領域を同定した。
Petropoulosら(Mol. Cell. Biol., 1989, 9(9): 3785-92)は、ニワトリ遺伝子のプロモーターの発現プロファイルを研究した。
Muscatら(Gene Expression, 1992, 2(2): 111-126)は、ヒト骨格アルファアクチン遺伝子における筋肉特異的エンハンサーを同定した。
【0010】
デスミンプロモーターに関して本願において示される場合及びそれに加えて、それらのほとんどは、心臓でもまた高い活性を示し、場合によっては心毒性に関連する。更に、プロモーターが小さくなればなるほど、それだけ発現の特異性を得ることが難しくなることは、共通して観察される。一例として、筋肉での高い発現を有する小さなプロモーターは、合成C5-12プロモーター(361ヌクレオチド)であるが、これは、多数の非筋細胞でリークしやすいことが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、タンパク質発現の治療レベルを達成し、広範囲の遺伝子発現に固有の潜在的な副作用を避けることを目的として、骨格筋細胞における遺伝子の高レベルで特異的な発現をもたらす、できる限り小さな転写エレメントをデザインする技術的な必要性は、いまだに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、任意の発現システム、特にはアデノ随伴(AAV)ベクターに適することを目的とした小さなサイズでありながら、筋肉特異的、すなわち他の全ての組織又は器官、特には心臓においてよりも骨格筋においてより高い発現活性を有する合成プロモーターを提供することを目的とする。
【0013】
これらの新規のプロモーターは、遺伝子療法、例えば筋ジストロフィーを含む神経筋の疾患の治療のために使用されることができる。
【0014】
本発明は、前記合成プロモーターを含む核酸分子に関する。
【0015】
本発明のプロモーターは、対象とする導入遺伝子と操作可能に接続することができる。従って、本発明は、更に、操作可能に導入遺伝子と接続された、本明細書において記載される核酸分子を含む発現カセットに関する。
【0016】
本発明は、更に、前記発現カセットを含むベクターに関する。特定の実施形態において、ベクターはプラスミドベクターである。もう一つの実施形態において、ベクターはウイルスベクターである。
【0017】
本発明は、本発明による核酸コンストラクトを含む単離されたリコンビナント細胞にもまた関する。
【0018】
本発明は、更に、薬学的に許容される担体において、本発明のベクター又は単離された細胞を含む医薬組成物に関する。
【0019】
更に、本発明は、医薬として使用するための、本明細書で公開される発現カセット、ベクター又は細胞にもまた関する。この態様において、発現カセット、ベクター又は細胞に含まれる対象とする導入遺伝子は、治療用の導入遺伝子である。
【0020】
本発明は、更に、遺伝子療法における使用のための、本明細書で公開される発現カセット、ベクター又は細胞に関する。
【0021】
もう一つの態様において、本発明は、神経筋の障害、例えば筋ジストロフィーの治療において使用するための、本明細書で公開される発現カセット、ベクター又は細胞に関する。
【0022】
[定義]
別の方法で定義される場合を除き、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者により共通して理解されるのと同じ意味を有する。明細書において使用される専門用語は、特定の実施形態を記載することのみを目的とし、制限することを意図していない。
【0023】
冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法的な対象の一つ又は一超(すなわち、少なくとも一つ)を指す。例として、「an element(一つの要素)」は、一つの要素又は一超の要素を意味する。
【0024】
測定可能な値、例えば量、継続時間などを参照するときに本明細書で使用される「about(約)」又は「approximately(およそ)」は、特定の値から±20%又は±10%。より好ましくは±5%、更により好ましくは±1%、及び更により好ましくは±0.1%のバリエーションを包含することを意味する。従って、前記バリエーションは、公開される方法を実施するのに適している。
【0025】
範囲:本開示を通して、本発明の多様な態様は、範囲の形式で示されることができる。範囲の形式における記載は、ただ単に利便性及び簡潔さのためであり、本発明の範囲における柔軟性のない制限として解釈されるべきではない。従って、範囲の記載は、全ての可能性のある部分的な範囲及びその範囲内の個々の数値を具体的に公開したと考えられるべきである。例えば、範囲の記載、例えば1から6は、部分的な範囲、例えば1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6など、並びにその範囲内の個々の数、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3及び6を具体的に公開したと考えられるべきである。これは、範囲の広さに関わらず適用する。
【0026】
「単離された(isolated)」は、天然の状態から変更される又は取り除かれることを意味する。例えば、核酸又はペプチドは、生きている動物に天然に存在し「単離されて(isolated)」いないが、その天然の状態の共存する物質から部分的又は完全に分離された同じ核酸又はペプチドは、「単離されて(isolated)」いる。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形態で存在する可能性があり、又は非天然の環境、例えば宿主細胞のような環境で存在する可能性がある。
【0027】
本発明の文脈において、共通して現れる核酸塩基のための以下の略称が使用される。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、及び「U」はウリジンを指す。
【0028】
「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(nucleotide sequence encoding an amino acid sequence)」は、互いに縮重したバージョンであり、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質又はRNA又はcDNAをコードするフレーズのヌクレオチド配列は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列がいくつかのバージョンでイントロンを含む可能性のある程度まで、イントロンもまた含むことができる。
【0029】
「コードする(encoding)」は、定義されたヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA及びmRNA)又は定義されたアミノ酸配列のいずれか及びそこから生じる生物学的特性を有する、生物学的プロセスにおける他のポリマー及びマクロ分子の合成のための鋳型として働く、ポリヌクレオチド、例えば遺伝子、cDNA又はmRNAにおける特定のヌクレオチド配列の固有の性質を指す。従って、もしその遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が、細胞又は他の生物学的システムにおいてタンパク質を産生するならば、遺伝子はタンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり通常は配列表において提供されるコードストランド、及び遺伝子又はcDNAの転写のための鋳型として使用される非コードストランドの両方は、タンパク質又はその遺伝子若しくはcDNAの他の産物をコードするものとして参照されることができる。
【0030】
本明細書で使用される用語「ポリヌクレオチド(polynucleotide)」は、ヌクレオチドの鎖として定義される。更に、核酸はヌクレオチドのポリマーである。従って、本明細書で使用される核酸及びポリヌクレオチドは、互換性がある。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、それは単量体「ヌクレオチド」に加水分解されることができるという一般的な知識を有する。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解されることができる。本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドは、通常のクローニング技術及びPCRなどの使用並びに合成手段によるリコンビナント手段、すなわちリコンビナントライブラリー又は細胞ゲノム由来の核酸配列のクローニングを制限することなく含む、当該技術分野で利用可能な任意の手段により得られる全ての核酸配列を含むが、それらに制限されない。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド(peptide)」、「ポリペプチド(polypeptide)及び「タンパク質(protein)」は、互いに交換可能に使用され、ペプチド結合により共有結合したアミノ酸残基から構成される化合物を指す。タンパク質又はペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなければならず、タンパク質又はペプチドの配列を含むことのできる最大のアミノ酸の数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合により互いに接合する2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチド又はタンパク質を含む。本明細書で使用される場合、前記用語は、当該技術分野で共通して例えばペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーとも称される短い鎖、並びに当該技術分野で一般的にタンパク質と称されるより長い鎖の両方を指し、多くの型が存在する。「ポリペプチド(polypeptide)」は、例えば特に、生物学的に活性のあるフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドのバリアント、修飾されたポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパク質を含む。ポリペプチドは、天然のペプチド、リコンビナントペプチド、合成ペプチド又はその組み合わせを含む。
【0032】
タンパク質は、「変更される(altered)」ことができ、サイレントな変化を生じ機能的に同等なものをもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入又は置換を含むことができる。意図的なアミノ酸の置換は、生物学的活性が保持される限りは、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性の性質における類似性に基づき行うことができる。例えば、負に帯電したアミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含むことができる;正のアミノ酸は、リシン及びアルギニンを含むことができる;並びに類似の親水性値を有する荷電されていない極性頭部基を有するアミノ酸は、ロイシン、イソロイシン及びバリン、グリシン及びアラニン、アスパラギン及びグルタミン、セリン及びスレオニン、並びにフェニルアラニン及びチロシンを含むことができる。
【0033】
「バリアント(variant)」は、本明細書で使用される場合、一以上のアミノ酸により変更されるアミノ酸配列を指す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似の構造的又は化学的な特性を有する「保存的な(conservative)」変化、例えば、ロイシンのイソロイシンへの交換を有することができる。バリアントは、「非保存的な(non-conservative)」変更、例えば、グリシンのトリプトファンによる置換もまた有することができる。類似したわずかな変異は、アミノ酸の欠失若しくは挿入又はその両方もまた含むことができる。どのアミノ酸残基が、生物学的又は免疫学的活性を破壊することなく置換、挿入又は欠失されることができるのかを決定するガイダンスは、当該技術分野でよく知られたコンピュータープログラムを使用して探し出すことができる。
【0034】
「同一の(identical)」又は「相同な(homologous)」は、2つのポリペプチドの間又は2つの核酸分子の間の配列の同一性又は配列の類似性を指す。2つの比較される配列の両方のポジションが同じ塩基又はアミノ酸モノマーのサブユニットにより占められるとき、例えば、もし2つのDNA分子のそれぞれのポジションがアデニンにより占められるならば、分子はその位置において相同又は同一である。2つの配列の間の相同性/同一性の割合は、2つの配列により共有されるマッチするポジションの数を、比較したポジションの数で割り、X 100した関数である。例えば、もし2つの配列におけるポジションの、10の内6がマッチするならば、二つの配列は60%同一である。一般的には、2つの配列が最大の相同性/同一性を与えるようアラインされるときに、比較を行う。
【0035】
「ベクター(vector)」は、単離された核酸を含み、且つ、細胞の内部へ単離された核酸分子を送達するために使用することができる物質の構成するものである。線状のポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性の化合物に会合するポリヌクレオチド、プラスミド及びウイルスを含むがそれらに制限されない多数のベクターが、当該技術分野で知られている。従って、用語「ベクター(vector)」は、独立して複製するプラスミド又はウイルスを含む。前記用語は、核酸の細胞へのトランスファーを促進する非プラスミド及び非ウイルス化合物、例えば、ポリリシン化合物、リポソームなどを含むともまた解釈されるべきである。ウイルスベクターの例は、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどを含むがこれらに制限されない。「ウイルスベクター(viral vector)」は、遺伝物質を細胞へ送達するために操作された非複製、非病原性ウイルスを指す。ウイルスベクターにおいて、複製及び病原性のために重要なウイルス遺伝子は、対象とする遺伝子のための発現カセットにより交換される。従って、ウイルスベクターゲノムは、ウイルスベクターの産生に必要なウイルスの配列の横に位置する発現カセットを含む。
【0036】
「発現ベクター(expression vector)」は、発現すべきヌクレオチド配列と操作可能に接続された発現制御配列を含むリコンビナントポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシスエレメントを含み;発現のための他のエレメントは、宿主細胞により又はin vitro発現システムにおいて供給されることができる。発現ベクターは、当該技術分野において知られる全ての発現ベクター、例えば、コスミド、プラスミド(例えば、覆いのない又はリポソームに含まれる)及びリコンビナントポリヌクレオチドを包含するウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)を含む。
【0037】
本明細書で使用される用語「プロモーター(promoter)」は、ポリヌクレオチド配列、特には対象とする遺伝子の特異的な転写を開始するために必要とされる、細胞の転写装置、又は導入された転写装置により認識される核酸配列として定義される。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「プロモータ-/制御配列(promoter/regulatory sequence)」は、核酸配列を意味し、それは、プロモーター/制御配列に操作可能に接続される遺伝子産物(すなわち、対象とする遺伝子)の発現に必要とされる。いくつかの例において、この配列は、コアプロモーター配列であることができ、他の例において、この配列は、遺伝子産物の発現ベクターのために必要とされるエンハンサー配列及び他の制御エレメントもまた含むことができる。プロモーター/制御配列は、例えば、組織特異的な様式で遺伝子産物を発現する配列である可能性がある。
【0039】
上記で使用される用語「操作可能に接続される(operably linked)」は、その転写を制御する配列と対象とする遺伝子との並列を指す。この機能的な関係が保持される限りは、追加の残基がプロモーター及び対象とする遺伝子の間に存在することができる。
【0040】
「構成的(constitutive)」プロモーターは、遺伝子産物をコードする又は特定するポリヌクレオチドと操作可能に接続されたときに、細胞のほとんど又は全ての生理学的状態下で細胞において遺伝子産物を産生するヌクレオチド配列である。
【0041】
「誘導性(inducible)」プロモーターは、遺伝子産物をコードする又は特定するポリヌクレオチドと操作可能に接続されたときに、実質的に、プロモーターに相当するインデューサーが細胞内に存在するとき又はそのリプレッサーが取り除かれるときにのみ、細胞において遺伝子産物を産生するヌクレオチド配列である。
【0042】
「組織特異的(tissue-specific)」プロモーターは、遺伝子によりコード又は特定されるポリヌクレオチドと操作可能に接続するときに、もし細胞がプロモーターに対応する組織タイプの細胞であるならばその細胞で選択的に遺伝子産物を産生するヌクレオチド配列である。
【0043】
「対象とする遺伝子(gene of interest)」又は「導入遺伝子(transgene)」は、特定の適用、例えば制限なく、診断、報告、修飾、療法及びゲノム編集のために有用な遺伝子である。例えば、対象とする遺伝子は、治療用の遺伝子、レポーター遺伝子又はゲノム編集酵素であることができる。いくつかの実施形態において、対象とする遺伝子はヒトの遺伝子である。
【0044】
いくつかの実施形態において、対象とする遺伝子は、遺伝子又はそのフラグメントの機能的なバージョンである。前記遺伝子の機能的なバージョンは、野生型遺伝子、バリアント遺伝子、例えば同じファミリー及び他に属するバリアント、又はトランケートされた(truncated)バージョンを含み、それらは少なくとも部分的にコードされたタンパク質の機能性を保持する。遺伝子の機能的なバージョンは、患者において不足している又は非機能的である遺伝子を置換する、置換遺伝子療法(replacement gene therapy)又は付加遺伝子療法(additive gene therapy)に有用である。他の実施形態において、対象とする遺伝子は、常染色体顕性遺伝性疾患を引き起こす顕性アレルを不活性化する遺伝子である。遺伝子のフラグメントは、ゲノム編集酵素との組み合わせにおいて使用するためのリコンビネーションの鋳型として有用である。
【0045】
代替的には、対象とする遺伝子は、特定の適用のための対象とするタンパク質(例えば抗体又は抗体フラグメント、ゲノム編集酵素)又はRNAをコードすることができる。いくつかの実施形態において、タンパク質は、治療用の抗体若しくは抗体フラグメント又はゲノム編集酵素を含む治療用のタンパク質である。いくつかの実施形態において、RNAは治療用のRNAである。対象とする遺伝子は、疾患の標的細胞、特には筋細胞において、コードされたタンパク質、ペプチド又はRNAを産生することのできる機能的な遺伝子である。RNAは、標的DNA又はRNA配列に有利に相補的であり、又は標的タンパク質に結合する。例えば、RNAは、干渉RNA、例えば、shRNA、マイクロRNA、ゲノム編集のためのCas酵素又は類似する酵素との組み合わせにおいて使用するためのガイドRNA(gRNA)、エクソン・スキップをすることのできるアンチセンスRNA、例えば修飾された小さな核酸RNA(snRNA)又は長いノンコーディングRNAである。干渉RNA又はマイクロRNAは、筋肉の疾患に関与する標的遺伝子の発現を制御するために使用されることができる。ゲノム編集のための、Cas酵素又は類似する酵素との複合体におけるガイドRNAは、標的遺伝子の配列を修飾するために、特には変異/欠失遺伝子の配列を修正するため又は疾患、特には神経筋疾患に関与する標的遺伝子の発現を修飾するために使用することができる。エキソン・スキップすることができるアンチセンスRNAは、リーディングフレームを修正して破壊されたリーディングフレームを有する欠損遺伝子の発現を保持するために特に使用される。いくつかの実施形態において、RNAは治療用のRNAである。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態において、前記対象とする遺伝子は、骨格筋細胞へ治療効果を提供する任意のタンパク質又はリボ核酸であることができる、治療用のタンパク質又は治療用のリボ核酸をコードする。本発明のもう一つの実施形態において、前記治療上のタンパク質は、骨格筋細胞の外部へ治療効果を提供する任意のタンパク質であることができる。前記治療用のタンパク質は、実際には前記細胞により分泌される。
【0047】
生命体、組織、細胞又はその要素の文脈において使用されるときの用語「異常な(abnormal)」は、「正常な(normal)」(予想される)個別の特徴を示す生命体、組織、細胞又はその要素と、少なくとも1つの観察可能な又は検出可能な特徴(例えば、年齢、処置、時刻など)の点で異なる生命体、組織、細胞又はその要素を指す。ある細胞又は組織のタイプに対して正常である又は予想される特徴は、異なる細胞又は組織のタイプに対して異常である可能性がある。
【0048】
用語「患者(patient)」、「対象(subject)」、「個体(individual)」などは、本明細書において互いに交換可能に使用され、本明細書に記載される方法に従い、任意の動物、又はin vitro若しくはin situであろうとその細胞を指す。対象は、哺乳類、例えば、ヒト、イヌ、それに加えてマウス、ラット又は非ヒトの霊長類であることができる。特定の制限しない実施形態において、患者、対象又は個体はヒトである。
【0049】
「疾患(disease)」又は「病変(pathology)」はホメオスタシスを維持することができない対象の健康状態であり、もし疾患が改善しなければ対象の健康は悪化し続ける。対照的に、対象における「障害(不調)(disorder)」は対象がホメオスタシスを維持できるが、対象の健康状態が障害(不調)(disorder)を有さない状態より好ましくない健康状態である。治療されない場合、障害(不調)(disorder)は、必ずしも対象の健康状態を更に悪化させる訳ではない。
【0050】
疾患又は障害は、もし疾患若しくは障害の症状の重症度、前記症状が患者により経験される頻度、又はその両方が減少するならば、「軽減される(alleviated)」又は「改善される(ameliorated)」。これは、疾患又は障害の不完全な進行もまた含む。疾患又は障害は、もし疾患又は障害の症状の重症度、患者により経験される前記症状の頻度、又はその両方が取り除かれるならば、「治療される(cured)」。
【0051】
「治療用の(therapeutic)」処置は、病変の兆候を示す対象に、それらの兆候を減少させる又は取り除くことを目的として投与される治療である。「予防の(prophylactic)」処置は、病変の兆候を示さない又はまだ病変と診断されていない対象に、それらの兆候の発生を予防すること又は先延ばしにすることを目的として、投与される治療である。
【0052】
本明細書において使用される場合、「疾患又は障害を治療すること(treating a disease or disorder)」は、対象により経験される疾患又は疾患(disorder)の少なくとも一つの兆候又は症状の頻度又は重症度を減少させることを意味する。疾患及び障害は、治療の文脈において本明細書で互いに交換可能に使用される。
【0053】
化合物の「有効量(effective amount)」は、化合物が投与される対象に有益な効果を提供するのに十分な化合物の量である。フレーズ「治療上の有効量(therapeutically effective amount)」は、本明細書で使用される場合、疾患又は状態を予防する又は治療する(開始を先延ばしする若しくは防ぐ、進行を防ぐ、阻害する、減少させる又は好転させる)ために十分な又は効果的な量を指し、疾患又は状態を予防する又は治療することは、前記疾患の症状の軽減を含む。送達ビヒクルの「有効量(effective amount)」は、化合物に効果的に結合する又は送達するのに十分な量である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明は、ヒトACTA1遺伝子に由来するプロモーターの同定に基づく。
【0055】
ACTA1遺伝子(ヒトのバージョンでは、アクチンアルファ1、骨格筋又はHASとも呼ばれる)によりコードされる産物は、アクチンファミリーのタンパク質に属し、それは、細胞の運動性、構造及び完全性(integrity)において役割を果たす高度に保存されたタンパク質である。アルファ、ベータ及びガンマアクチンアイソフォームが同定されており、アルファアクチンは収縮装置の主要な構成要素であり、一方でベータ及びガンマアクチンは細胞の運動性の制御に関与している。このアクチンは、骨格筋において見られるアルファ(α)アクチンである。遺伝子は、ポジション1q42.13に位置する(NCBIリファレンス配列:NG_006672.1)。
【0056】
本願において実証されているように、骨格筋において、任意の他の組織又は器官、特には心臓よりも高い活性を有する配列は、324のヌクレオチド又は更により小さくすることが可能である。結果として、前記プロモーターは、1061ヌクレオチドの周知のヒトデスミンプロモーターよりも高い筋肉の活性を有し、心臓におけるより低い活性を有することができる。
【0057】
一つの態様によると、本発明は、以下で定義するように、ヒトACTA1遺伝子に由来する近位領域及び遠位領域を含むプロモーターに関する。
【0058】
言及されるプロモーターに関して本願において参照されるヌクレオチドのポジションは、該当する(野生)遺伝子の、有利にはヒトACTA1遺伝子の、推定される転写開始部位(又はポジション+1を示すキャップ部位)と比較して番号を付される。実例として、転写開始部位から直接的に上流の最初のヌクレオチドは、-1と番号を付され、一方でそれに続くヌクレオチドは、+2と番号を付される。
【0059】
本願の枠組みにおいて、近位領域は対象とする遺伝子の5’末端、例えば、コードする配列の開始コドンのちょうど上流に位置する領域である。遠位領域は遠く離れて、すなわち近位領域の上流に位置する。言い換えれば、近位領域は遠位領域よりも発現すべき遺伝子のより近くにある。
【0060】
特定の実施形態によると、本発明によるプロモーターの近位領域は、最小レベルの転写を確保するのに十分な、ACTA1遺伝子のコアの又は基本的なプロモーターを含む。
【0061】
一つの実施形態によると、本発明のプロモーターは、遠位領域と操作可能に接続される近位領域を含む。
【0062】
その文脈において、「操作可能に接続される(operaly linked)」は、近位及び遠位領域の並立により、それらが前記プロモーターの制御下に位置する対象とする遺伝子の発現を媒介することができることを指す。例えば、遠位領域は、もしそれが対象とする遺伝子の転写を高めるのならば、近位領域に操作可能に接続され、宿主細胞又は生命体におけるその発現の向上をもたらす。この機能的な関係が保持される限り、追加の残基は近位領域及び遠位領域の間に存在することができる。
【0063】
有利には、遠位領域は、もし遠位領域が近位領域により駆動される遺伝子発現を増加させるならば、近位領域と操作可能に接続される。遠位領域は、近位領域と近い距離に又は近位領域に数kb以下の距離を隔てて隣接することができる。有利には、遠位領域は近位領域の上流に、より有利には、前記二つの領域を隔てる距離が500bp未満、好ましくは200bp未満で位置する。より好ましくは、遠位領域は近位領域に直接隣接又はくっついている。
【0064】
様々な実施形態によると、前記遠位及び近位領域は、近接することができ、又はおそらくヒトACTA1プロモーターから、配列により、有利には、前記領域を天然に囲む配列により離されることができるが、配列は外部の配列又はスペーサーであることもまたできる。特定の実施形態によると、遠位及び近位領域を隔てる配列は、500、450、400、350、300、250、200、150未満、又は更に100又は50ヌクレオチド未満のサイズを有する。
【0065】
更に、遠位領域の配向は、近位領域により与えられる転写方向に対して、センス(5'->3')又はアンチセンス(3'->5')であることができる。本発明のプロモーターに存在するそれぞれのエレメントの、他のものに対する最適な位置及び配向は、通例の実験方法により決定されることができる。
【0066】
一つの実施形態によると、遠位領域はヒトACTA1遺伝子の-1282から-1177までの領域を含む又はそれから成る。言い換えれば、それは、ポジション719から824までの配列番号1に示されるヌクレオチド配列又は配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含む又はそれから成る。
【0067】
他の実施形態によると、遠位領域は:
- 5’において及び/又は3’において最大10ヌクレオチド伸長された配列番号3の配列、すなわち場合により配列番号1のポジション709から834に対応する配列;
- 5’において及び/又は3’において最大10ヌクレオチド切断された配列番号3の配列、すなわち場合により配列番号1のポジション729から814に対応する配列(配列番号3のポジション11から96にもまた対応する);
- 上記配列、有利には配列番号3と90%以上、好ましくは95%又は更に99%以上の同一性を有する配列(特には、対応する配列であるが他の起源(例えばニワトリ、マウス若しくはラット)に由来する配列、又はその誘導体さえも、前記配列が例えば配列番号3と同じ活性、有利には同じ発現プロファイルを有する限りにおいて、包含することを目的として)
を含み又はそれらから成ることができる。
【0068】
特定の実施形態によると、遠位領域は上記に記載される配列の逆の配列を含む又はそれから成る。本願の枠組みにおいて、逆の配列とは、同一の配列であるが反対の向きの又はアンチセンスの配向の配列を意味する。
【0069】
一つの実施形態によると、近位領域は、ヒトACTA1遺伝子の-153から+1までの領域を含む又はそれから成る。言い換えれば、それは、配列番号1においてポジション1848から2001までに示されるヌクレオチド配列又は配列番号4においてポジション39から192までに示されるヌクレオチド配列を含む又はそれから成る。
【0070】
他の実施形態によると、近位領域は、
- 最大で配列番号1のポジション1810まで若しくは更に最大で配列番号1のポジション1729まで5’において伸長される及び/又は最大で配列番号1のポジション2027まで若しくは更に配列番号1のポジション2239まで3’において伸長される、配列番号1のポジション1848から2001までの配列
- 上記配列、有利には配列番号4と90%以上、好ましくは95%又は更に99%以上の同一性を有する配列(特には、対応する配列であるが他の起源(例えばニワトリ、マウス若しくはラット)に由来する配列、又はその誘導体さえも、前記配列が例えば配列番号4と同じ活性、有利には同じ発現プロファイルを有する限りにおいて、包含することを目的として)
を含む又はそれらから成ることができる。
【0071】
特定の実施形態によると、近位領域は、配列番号4の配列を有する。
【0072】
もう一つの特定の実施形態によると、配列番号1のポジション1848から1914までに対応する配列は、アンチセンスの配向において近位領域に存在する。
【0073】
更なる実施形態によると、本発明によるプロモーターの近位領域は、ヒトACTA1遺伝子の-98から+1までの領域を含む又はそれから成る。言い換えれば、それは配列番号1のポジション1903から2001までに示されるヌクレオチド配列又は配列番号4のポジション94から192までに示されるヌクレオチド配列を含む又はそれらから成る。
【0074】
本発明の一つの実施形態によると、プロモーターは、800、750、700ヌクレオチド未満、有利には650、600、550、500、450、400又は350ヌクレオチド未満の長さを有する。もう一つの特定の実施形態において、プロモーターは、少なくとも150、200、250又は300ヌクレオチドのサイズを有する。
【0075】
有利には、プロモーター配列は、250及び350ヌクレオチドの間、有利には260及び325ヌクレオチドの間のサイズを有する。
【0076】
特定の実施形態によると、本発明によるプロモーターは、配列番号3及び配列番号4の配列を含む。
【0077】
一つの実施形態によると、本発明によるプロモーターは、配列番号4、すなわち配列番号2に付加した配列番号3を含む。
【0078】
もう一つの実施形態によると、本発明によるプロモーターは、配列番号4に付加した配列番号3の逆の配列を含む。
【0079】
特定の実施形態によると、本発明によるプロモーターは、配列番号2の配列又は配列番号2と90%以上、好ましくは95%又は更に99%以上の同一性を有する配列を(特には、配列が例えば配列番号2と同じ活性、有利には同じ発現プロファイルを有する限りおいて、その誘導体を包含することを目的として)含む又はそれからなる。より特定の実施形態によると、本発明によるプロモーターは、配列番号2と90%以上、好ましくは91%又は92%又は93%又は94%又は95%又は96%又は97%又は98%又は99%以上の同一性を有する配列を含む又はそれから成る。
【0080】
配列番号2と90%以上の同一性を有する配列は、とりわけ:
- 対応する配列であるが他の起源、例えばニワトリ、マウス又はラットに由来する配列
- 5’において最大10ヌクレオチド伸長された若しくは切断された及び/又は3’、例えば配列番号2のポジション298の終末において伸長された又は切断された配列番号2
を包含する。
【0081】
本発明によると、プロモーターは、筋原性プロモーター(myogenic promoter)、有利には筋肉特異的なプロモーターであり、すなわち筋肉において、有利には骨格筋において任意の他の組織又は器官、特には心臓においてよりも高い活性を有する。有利には、本発明によるプロモーターは、骨格筋において心臓よりも高い発現レベルを保証する又はもたらすことができる。
【0082】
言い換えると及び特には筋ジストロフィーに関連して、本発明のプロモーターは、
- 標的組織、有利には骨格筋及び場合により心臓における、対象とするタンパク質の治療的に許容されるレベルでの発現;しかし
- 任意の潜在的な心毒性を避けることを目的として(すなわち、治療的に許容可能なレベルで)、標的組織、特には骨格筋における前記タンパク質の発現レベルと比較して心臓における前記タンパク質の適切なレベルでの発現
をもたらすことができる。
【0083】
本願の枠組みにおいて、標的組織は、特にはこのタンパク質をコードする天然の遺伝子に欠陥のある場合において、タンパク質が治療的役割を果たすべき組織又は器官として定義される。本発明の特定の実施形態によると、標的組織は、横紋骨格筋(以下、骨格筋と称する)、すなわち運動能力及び横隔膜、並びに場合により平滑筋に関与する全ての筋肉を包含する。標的骨格筋の制限されない例は、前脛骨筋(TA)、腓腹筋、ヒラメ筋、四頭筋、腰筋、三角筋、横隔膜、殿筋、長趾伸筋(EDL)、上腕二頭筋、…である。上記で説明したように及びいくつかの筋ジストロフィーと関連して、心臓は標的組織であることもまたできるが、タンパク質の過度なレベル又は活性は毒性になる可能性がある。
【0084】
本発明の文脈において、用語「治療的に許容されるレベル(therapeutically acceptable level)」は、特には生活の質又は寿命の観点から、産生されたタンパク質が患者の病態を改善するのを手助けする事実を指す。従って及び骨格筋に影響を与える疾患との関連において、これは、疾患により影響を受けた対象の筋肉の状態を改善させること又は健康な対象の筋肉の表現型と同様の筋肉の表現型を回復させることを包含する。主には筋肉の強度、サイズ、組織学及び機能により定義される筋肉の状態は、当該技術分野において知られる異なる方法、例えば生検、筋肉の強度、筋緊張、体積又は可動性の測定、臨床検査、医用画像、バイオマーカー等により評価されることができる。
【0085】
従って、骨格筋に関して治療的効果を評価するのを手助けし、治療の後の異なる時間において評価される可能性がある基準は、特には:
- 増加した平均余命;
- 増加した筋肉強度;
- 改善された組織学;及び/又は
- 横隔膜の改善された機能性
中の少なくとも一つである。
【0086】
本発明の文脈において、用語「毒性許容レベル(toxically acceptable level)」は、発現システムから産生されたタンパク質は、特には組織学的に、生理学的に及び/又は機能的には、組織の著しい変化を生じないという事実を指す。特には、タンパク質の発現は、致死的ではないことができる。組織における毒性は、組織学的、生理学的及び機能的に評価されることができる。
【0087】
心臓に関連して、タンパク質の任意の毒性は、形態及び心臓の機能の研究により、臨床検査、電気生理学、画像、バイオマーカー、平均余命のモニタリングにより又は線維症及び/若しくは細胞の浸潤及び/若しくは炎症の検出を含む組織学的分析により、例えば、シリウスレッド又はヘマトキシリン(例えば、ヘマトキシリン-エオジン-サフラン(HES)又はヘマトキシリン-フロキシン-サフロン(HFS))による染色により、評価されることができる。
【0088】
特定の実施形態によると、本発明によるプロモーターの発現プロファイルは、骨格筋において、例えばTA筋において発現される遺伝子の量及び心臓において発現される遺伝子の量の間の比を計算することにより評価されることができる。有利には、この比(骨格筋における 対 心臓における相対的な活性)は1、5、10又は更に20、30、40、50、60、70、80、90又は更に100以上である。
【0089】
本発明のプロモーターに操作可能に接続する遺伝子から産生されるタンパク質の量の評価は、前記タンパク質に対して作られた抗体を使用する免疫検出により、例えばウェスタンブロット又はELISAにより、又はマススペクトロメトリーにより、実行されることができる。代替的には、対応するメッセンジャーRNAは、例えばPCR又はRT-PCRにより定量されることができる。この定量は、組織の一つのサンプル又はいくつかのサンプルについて実施されることができる。従って及び標的組織が骨格筋である場合には、筋肉の型又はいくつかの種類の筋肉(例えば、四頭筋、横隔膜、前脛骨筋、三頭筋など)について実施されることができる。
【0090】
有利には、本発明のプロモーターは、骨格筋におけるリファレンスデスミンプロモーター(有利には配列番号5の配列の)よりも活性が高い。言い換えれば、本発明のプロモーターに操作可能に接続され、制御下にある任意の導入遺伝子の筋肉の発現レベルは、前記導入遺伝子がデスミンプロモーターに操作可能に接続されるときに得られるものよりも有利により高い。
【0091】
有利には、本発明のプロモーターは、心臓におけるリファレンスデスミンプロモーター(有利には配列番号5の配列の)よりも活性が低い。言い換えれば、本発明のプロモーターに操作可能に接続され、制御下にある任意の導入遺伝子の心臓の発現レベルは、前記導入遺伝子がデスミンプロモーターに操作可能に接続されるときに得られるものよりも有利により低い。
【0092】
結果として、本発明によるプロモーターは、骨格筋において非常に高い活性を示す。更に、それは、骨格筋において高い活性を有する他の利用可能なプロモーターと関連のある潜在的な心毒性を避ける。
【0093】
もう一つの実施形態によると、本発明によるプロモーターは、非標的組織において、すなわちプロモーターに操作可能に接続された導入遺伝子によりコードされるタンパク質が治療効果を有さない又は前記タンパク質が天然には発現しない組織において、低い発現を許容する。上記で言及したように、骨格筋及び場合により心臓は、有利には非標的組織としては認められない。逆に、肝臓、腎臓、脳及び副腎は、非標的組織として認められることができる。
【0094】
更なる特定の実施形態によると、本発明によるプロモーターは、非標的組織、特には肝臓、腎臓及び副腎において、骨格筋よりも低い及び場合により心臓よりも低い活性を有する。
【0095】
もう一つの態様によると、本発明は、上記で記載されたプロモーターを含む核酸に関する。
【0096】
もう一つの態様によると、本発明は、上記で記載されたプロモーターの制御下にある対象とする遺伝子又は導入遺伝子を含む発現システムに関する。
【0097】
本発明の枠組みにおいて、発現システムは、対象とする遺伝子、場合によりタンパク質のin vivoの産生を可能とするポリヌクレオチドとして一般的に定義される。一つの態様によると、前記システムは、導入遺伝子とも呼ばれる、前記タンパク質をコードする核酸及び少なくとも本発明によるプロモーターを含む。前記発現システムは、その後発現カセットに相当することができる。代替的には、前記発現カセットは、ベクター又はプラスミドの内部に含まれることができる。そのとき使用される表現「発現システム(expression system)」は、全ての態様を包含する。
【0098】
適切には、本発明の発現システムは、好ましくは前記配列の5’に位置し機能的にそれに接続する、タンパク質をコードする配列の転写を支配する、上記で定義されるプロモーターを含む。好ましくは、これは、上記で定義される、骨格筋における及び心臓におけるタンパク質の治療的に許容される発現レベル並びに心臓における毒性許容レベルを保証する。
【0099】
一つの実施形態によると、本発明の発現システムは、導入遺伝子に対応する、対象とするタンパク質、有利には、骨格筋における及び場合により心臓における治療的活性を有するタンパク質をコードする配列を含む。本発明の文脈において、用語「導入遺伝子(transgene)」は、本発明の発現システムを使用する導入において提供される、配列、好ましくはオープンリーディングフレームを指す。治療的な活性の概念は、用語「治療的に許容されるレベル(therapeutically acceptable level)」に関連して上記のように定義される。
【0100】
特定の実施形態によると、この配列は、発現システムが導入される身体のゲノムに存在する内因性の配列とコピーであり、同一であり又は等価である。
【0101】
もう一つの実施形態によると、内因性の配列は、タンパク質を部分的に若しくは完全に非機能的若しくは非存在(内因性のタンパク質の発現又は活性の不足)にすらする又は望ましい細胞内の区画に適切には位置させない、一以上の変異を有する。言い換えれば、本発明の発現システムは、タンパク質をコードする配列の欠損のあるコピーを有し、関連する病変を有する対象に投与されることを意図される。この文脈において、本発明の発現システムが有する配列によりコードされるタンパク質は、従って、その変異が例えば筋ジストロフィーを生じるタンパク質として定義されることができる。
【0102】
既に述べたように、本発明によるプロモーターは、任意の対象とするタンパク質、特には任意の治療的なタンパク質を産生するために使用されることができる。
【0103】
特に興味深いのは、神経筋の疾患、特には筋ジストロフィーの治療に用いられる、発現システムにおける本発明によるプロモーターの使用である。
【0104】
対象とする神経筋の遺伝性障害に関与する変異遺伝子の例及び本発明によるプロモーターの制御下にあることができる遺伝子の例は、以下に記載される:
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
いくつかの実施形態において、遺伝子療法(付加遺伝子療法又は遺伝子編集)のための標的遺伝子は、上記に記載された筋ジストロフィーの一つのために重要な遺伝子、特にはDMD又はBMD(DMD遺伝子);LGMDs(DNAJB6、FKRP CAPN3、DYSF、SGCG、SGCA、SGCB、SGCD、ANO5遺伝子及びその他)である。
【0117】
特定の実施形態によると及び筋ジストロフィーとの関連において、導入遺伝子は:
ジストロフィン(dystrophin)(マイクロジストロフィン(microdystrophin)、ミニジストロフィン(minidystrophin)、準ジストロフィン(quasidystrophin)を含む)、HSP-40ホモログB6(HSP-40 homologue B6)、カルパイン3(calpain 3)、ジスフェルリン(dysferlin)(DYSF)、サルコグリカン(sarcoglycan)(α、β、γ、δ)、FKRP(フクチン関連タンパク質(Fukutin-Related Protein))及びアノクタミン5(Anoctamin5)
から成る群において選択されるタンパク質をコードすることができる。
【0118】
より特定の実施形態によると、対象とする遺伝子はカルパイン3タンパク質、有利にはヒトカルパイン3、より有利には配列番号8の配列をコードする。
【0119】
「オープンリーディングフレーム(open reading frame)」(ORF)とも呼ばれる、前記タンパク質をコードする配列は、核酸配列又はポリヌクレオチドであり、特には一本鎖又は二本鎖のDNA(デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)又はcDNA(相補的なデオキシリボ核酸)であることができる。
【0120】
有利には、前記配列又は導入遺伝子は、特には骨格筋において、機能的なタンパク質、すなわちその天然の又は重要な機能を保証することができるタンパク質をコードする。これは、本発明の発現システムを使用して産生されたタンパク質は、適切に発現され及び位置し、並びに活性があることを意味する。
【0121】
好まれる実施形態によると、前記配列は、好ましくはヒト起源である、天然のタンパク質をコードする。それは、誘導体又はフラグメントが望ましい活性を保持するという条件で、このタンパク質の誘導体又はフラグメントであることもまたできる。好ましくは、用語「誘導体(derivative)」又は「フラグメント(fragment)」は、天然のヒトの配列と、少なくとも50%、好ましくは60%、更により好ましくは70%又は更に80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有するタンパク質配列を指す。もう一つの起源由来のタンパク質(非ヒト哺乳類など)又は切断され若しくは変異すらしたが活性のあるタンパク質は、例えば包含される。従って及び本発明の文脈において、用語「タンパク質(protein)」は、その起源に関わらない全長タンパク質及び機能的な誘導体及びそのフラグメントとして理解される。
【0122】
既に言及したように及び一つの特定の実施形態によると、本発明によるプロモーターは、骨格筋における高い活性及び心臓における低い活性を有しており、上記で言及した非標的組織において、例えば肝臓、脳又は腎臓…において、全く活性を有さない又は低い活性を有する。代替的には、本発明による発現システムは、対象とする遺伝子によりコードされた対象とするタンパク質、例えば治療的なタンパク質をコードするmRNAを安定化することにより、非標的組織において又はコードされるタンパク質が毒性になる可能性がある組織において、その発現を妨げること、減少させること又は抑制することにより、治療的な対象とする導入遺伝子の発現を制御することができる配列を更に含む。これらの配列は、例えば、サイレンサー(例えば組織特異的サイレンサー)、マイクロRNA標的配列、イントロン及びポリアデニル化シグナルを含む。
【0123】
本発明の文脈において、専門用語「発現を妨げる(prevent the expression)」は、好ましくは、前記配列の非存在下であっても、全く発現がない場合を指し、一方で専門用語「発現レベルを減少させる(decrease the level of expression)」は、前記配列の提供により、発現が減少する(decreased又はreduced)場合を指す。
【0124】
有利には、前記配列は、タンパク質の発現が対象でない又は毒性になる可能性のある組織において導入遺伝子の発現を妨げる又は発現レベルを減少させることができる。この作用は、多様な機構、特には:
- タンパク質をコードする配列の転写レベルに関する;
- タンパク質をコードする配列の転写から生じる転写物に関する、例えばそれらの分解を介した;
- 転写物のタンパク質への翻訳に関する
機構により起こることができる。
【0125】
そのような配列は、好ましくは、例えば以下の群:
- マイクロRNA;
- 内因性の低分子干渉RNA又はsiRNA;
- トランスファーRNA(tRNA)の低分子フラグメント;
- 遺伝子間領域のRNA;
- リボソームRNA(rRNA);
- 核内低分子RNA(snRNA);
- 核小体低分子RNA(snoRNA);
- piwiタンパク質と相互作用するRNA(piRNA)
から選択される低分子RNA分子の標的である。
【0126】
有利には、この配列は、標的組織において、特には骨格筋において、導入遺伝子の発現について負の影響は全く有さない。
【0127】
好ましくは、そのような配列は、タンパク質の発現が治療的な活性を全く有さない又はタンパク質の発現が毒性となる組織におけるその有効性のために選択される。この配列の有効性は、組織によって多様である可能性があるので、前記組織における有効性のために選択される、これらの配列のいくつかを組み合わせることが必要である可能性がある。
【0128】
好まれる実施形態によると、この配列は、マイクロRNA(miRNA)の標的配列である。公知のように、そのような思慮深く選択された配列は、選択された組織において遺伝子発現を特異的に抑制するのに役立つ。
【0129】
従って及び特定の実施形態によると、本発明の発現システムは、タンパク質の発現が治療的な活性を全く有さない及び/又はタンパク質の発現が毒性となる組織において発現される又は存在するマイクロRNA(miRNA)の標的配列を更に含む。適切には、標的組織、特には骨格筋において存在するこのmiRNAの量は、導入遺伝子が役に立たない若しくは更に毒性である組織において存在する量未満であり、又はこのmiRNAは標的組織において発現すらされない可能性がある。特定の実施形態によると、標的miRNAは、骨格筋及び場合により心臓において発現されない。
【0130】
当業者により知られるように、特には既定の組織における、miRNAの存在又は発現レベルは、PCRにより、好ましくはRT-PCRにより、又はノーザンブロットにより評価されることができる。
【0131】
異なるmiRNA、並びにそれらの標的配列及びそれらの組織特異性は、当業者に公知であり、例えば国際公開第2007/000668号に記載される。肝臓において発現されるmiRNAは、例えばmiR-122である。
【0132】
特定の実施形態によると及び導入遺伝子の発現が心臓において全く望まれない場合には、本発明による発現システムは、心臓において発現されるmiRNA、例えばmiR208aの標的配列の一以上のコピーを含むことができる。特定の実施形態によると、そのような標的配列は、タンデムで使用されることもまたできる。
【0133】
例として、miR208aの可能性のある標的配列は、配列番号7の3411から3432まで又は3439から3460までのヌクレオチドに対応する。しかしながら、miR208aに結合することができるその任意の誘導体は、使用されることができる。
【0134】
本発明によると、発現システムは、存在する導入遺伝子の発現に必要なエレメントを含む。配列、例えば導入遺伝子の発現を保証し調節する上記に定義される配列に加えて、そのようなシステムは、他の配列、例えば:
- 転写物の安定化のための配列、例えば、ヒトβグロビン(HBB2)をコードする遺伝子のイントロン2/エキソン3(修飾された)。前記イントロンは、翻訳の開始を改善するために、有利には、その後に、mRNA内のAUG開始コドンの前に含まれるコンセンサスコザック配列(GCCACC)が続く;
- 有利には、導入遺伝子の3’において、ポリアデニル化シグナル、例えば対象とする遺伝子のpolyA、SV40又はベータヘモグロビン(HBB2)のpolyA
- エンハンサー配列
を含むことができる。
【0135】
本発明による発現システムは、特にはヒトにおける、細胞、組織又は身体において導入されることができる。当業者に公知の方法において、導入は、ex vivo又はin vivo、例えばトランスフェクション又は形質導入により行われることができる。もう一つの態様によると、本発明は、従って、本発明の発現システムを含む、好ましくはヒト起源の細胞又は組織を包含する。そのような発現システム又は細胞は、コードされたタンパク質のin vitroでの産生のために使用されることができる。
【0136】
本発明による発現システム、すなわち単離された核酸は、すなわちネイキッドDNAの形態で対象に投与されることができる。それは、細胞におけるこの核酸の導入を促進するために、異なる化学的手段、例えばコロイド分散システム(マクロ分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ)又は脂質ベースシステム(水中油エマルション、ミセル、リポソーム)と組み合わされることができる。
【0137】
代替的には及び好まれる実施形態によると、本発明の発現システムは、プラスミド又はベクターを含む。有利には、そのようなベクターは、ウイルスベクターである。ヒトを含む哺乳類における遺伝子療法において共通して使用されるウイルスベクターは、当業者に公知である。そのようなウイルスベクターは、以下のリスト:
ヘルペスウイルスに由来するベクター、バキュロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
から好ましくは選択される。
【0138】
本発明の特定の実施形態によると、発現システムを含むウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0139】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、多様な障害の治療のための強力な遺伝子デリバリーツールとなっている。AAVベクターは、病原性の欠如、適度の免疫原性、並びに安定して効率的な様式で有糸分裂後の細胞及び組織に形質導入する能力を含む、それらを遺伝子療法に理想的に適合させる多数の特徴を有する。AAVベクター内に含まれる特定の遺伝子の発現は、AAVのセロタイプ、プロモーター及びデリバリー方法の適切な組み合わせを選択することにより一以上の細胞の型に特異的に標的にされることができる。
【0140】
一つの実施形態において、コードする配列は、AAVベクター内に含まれる。100より多い天然に存在するAAVのセロタイプが知られている。AAVカプシドにおける多数の天然のバリアントが存在し、ジストロフィーの病変に特異的に適合する性質を有するAAVの同定及び使用を可能にする。AAVウイルスは、通常の分子生物学の技術を使用して操作されることができ、このことにより、核酸配列の細胞特異的デリバリーのため、免疫原性を最小化するため、安定性及び粒子の存在期間を調整するため、効率的な分解のため、核への急速なデリバリーのために、これらの粒子を最適化することが可能となる。
【0141】
上記で言及した、AAVベクターの使用は、DNAの外因性デリバリーの共通のモードである。なぜならば、AAVベクターは、比較的に非毒性であり、効率的な遺伝子トランスファーを提供し、及び特定の目的のために容易に最適化されることができるからである。ヒト又は非ヒトの霊長類(NHP)から単離されて良く特徴づけられたAAVのセロタイプの中で、ヒトセロタイプ2は、遺伝子トランスファーベクターとして開発された最初のAAVである。他の現在使用されるAAVセロタイプは、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAVrh74、AAV11、AAV12及びそれらのバリアントを含む。加えて、非天然に操作されるバリアント及びキメラAAVもまた有用であることができる。
【0142】
ベクターへの構築のための望ましいAAVフラグメントは、vp1、vp2、vp3及び高頻度可変領域を含むcapタンパク質、rep78、rep68、rep52及びrep 40を含むrepタンパク質、並びにこれらのタンパク質をコードする配列を含む。これらのフラグメントは、多様なベクターシステム及び宿主細胞において容易に利用されることができる。
【0143】
そのようなフラグメントは、単独で、他のAAVセロタイプの配列若しくはフラグメントとの組み合わせにおいて又は他のAAV若しくは非AAVウイルスの配列由来のエレメントとの組み合わせにおいて使用されることができる。本明細書で使用される、人工的なAAVセロタイプは、制限することなく、非天然に生じるカプシドタンパク質を有するAAVを含む。そのような人工的なカプシドは、異なって選択されたAAVセロタイプから得ることのできる非相同な配列、同一のAAVセロタイプの、非AAVウイルスの供給源由来の、又は非ウイルスの供給源由来の非連続的な部分との組み合わせにおいて、選択されるAAV配列(例えばvp1カプシドタンパク質のフラグメント)を使用して、任意の適切な技術により生み出されることができる(すなわち、そのカプシドは、少なくとも二つの異なるAAVセロタイプに由来するVPカプシドタンパク質を含み、又は少なくとも二つのAAVセロタイプに由来する、VPタンパク質の領域又はドメインを組み合わせる少なくとも一つのキメラVPタンパク質を含む)。人工的なAAVセロタイプは、制限することなく、キメラAAVカプシド、リコンビナントAAVカプシド又は「ヒト化(humanized)」AAVカプシドであることができる。更に、ペプチド(P)は、場合によりAAVのトロピズムを変更するために、前記カプシドにおいて、例えばcap遺伝子の可変領域に導入されることができる。
【0144】
一つの実施形態において、本明細書に記載される組成物及び方法において有用なベクターは、最小で、選択されたAAVセロタイプのカプシド、例えばAAV8カプシドをコードする配列又はそのフラグメントを含む。もう一つの実施形態において、有用なベクターは、最小で、選択されたAAVセロタイプのrepタンパク質、例えばAAV8 repタンパク質をコードする配列又はそのフラグメントを含む。任意には、そのようなベクターは、AAVのcap及びrepタンパク質の両方を含むことができる。AAVのrep及びcapの両方が提供されるベクターにおいて、AAVのrep及びAAVのcap配列は、両方が一つのセロタイプを起源とする、例えば全てAAV8の起源とすることができる。代替的には、rep配列がcap配列を提供するものとは異なるAAVセロタイプ由来であるベクターは、使用されることができる。一つの実施形態において、rep及びcap配列は、別の供給源(例えば、別のベクター、又は宿主細胞及びベクター)から発現する。もう一つの実施形態において、これらのrep配列は、キメラなAAVベクターを形成するために、in frameで、異なるAAVセロタイプのcap配列に融合される。いくつかの実施形態において、AAVベクターは、異なるセロタイプのAAVに由来するゲノム及びカプシドを含む。
【0145】
従って、典型的なAAV、又は人工的なAAVは、AAV2/8(米国特許第7,282,199号明細書)、AAV2/5(the National Institutes of Healthにて入手可能)、AAV2/9(国際公開第2005/033321号)、AAV2/6(米国特許第6,156,303号明細書)、AAVrh10(国際公開第2003/042397号)、AAVrh74(国際公開第2003/123503号)、AAV9-rh74ハイブリッド又はAAV9-rh74-P1ハイブリッド(国際公開第2019/193119号;国際公開第2020/200499号;欧州特許第20306005.8号明細書)を含む。
【0146】
一つの実施形態によると、AAVはセロタイプ2、5、8若しくは9のAAV又はAAVrh74である。有利には、請求項のベクターは:AAV8カプシド、AAV9カプシド、AAV9-rh74カプシド及びAAV9-rh74-P1カプシドから成る群において選択されるカプシドを含む。
【0147】
本発明において使用されるAAVベクターにおいて、AAVゲノムは、一本鎖(ss)の核酸又は二本鎖(ds)の/自己相補的(sc)な核酸分子のいずれかであることができる。
【0148】
有利には、対象とする遺伝子又は導入遺伝子は、AAVベクターのITR(<<インバーテッドターミナルリピート(Inverted Terminal Repeat)>>)配列の間に挿入される。典型的には、ITR配列は、AAV2又はAAV9、有利にはAAV2に起源を有する。
【0149】
リコンビナントウイルスの粒子は、当業者に公知の任意の方法により、例えば293HEK細胞のコトランスフェクションにより、ヘルペスシンプレックスウイルスシステムにより及びバキュロウイルスシステムにより、得ることができる。ベクターの力価は、通常、mL当たりのウイルスゲノム(vg/mL)として表現される。
【0150】
一つの実施形態において、ベクターは、上記に記載した本発明によるプロモーターを含む制御配列を含む。
【0151】
配列番号8の配列をコードするポリヌクレオチドに関連して、本発明のベクターは、配列番号7の配列に示される配列を含むことができる。
【0152】
特定の実施形態によると、本発明の発現システムは、AAV9-rh74-P1ハイブリッド、有利には欧州特許第20306005.8号において公開されたものに対応し:
- 本発明によるプロモーター、有利には配列番号2の配列;又は配列番号2と90%以上の同一性を有する配列;
- 前記プロモーターの制御下に位置する、カルパイン3をコードする配列、有利には配列番号8の配列;
- カルパイン3をコードする配列の3’に位置する、mir208aの少なくとも一つの標的配列、場合によりタンデムな二つの標的配列
を含む配列を有する。
【0153】
もう一つの特定の実施形態によると、本発明の発現システムは、AAV9-rh74-P1ハイブリッド、有利には欧州特許第20306005.8号において公開されたものに対応し:
- 本発明によるプロモーター、有利には配列番号2の配列;又は配列番号2と90%以上の同一性を有する配列;
- 前記プロモーターの制御下に位置する、カルパイン3をコードする配列、有利には配列番号8の配列
- カルパイン3をコードする配列の3’に位置する、mir208aの一つの標的配列
を含む配列を有する。
【0154】
好まれる実施形態によると、本発明の発現システムは、適切な指向性(tropism)、この場合においては、タンパク質の発現が望まれていない組織に対してよりも、標的組織、有利には骨格筋及び心臓に対してより高い指向性を有するベクターを含む。
【0155】
本発明の更なる態様は:
- 上記に記載した、本発明の発現システム又は前記発現システムを含むベクターを含む細胞(細胞は、任意の細胞型、すなわち原核の又は真核の細胞であることができる。細胞は、ベクターの増殖のために使用されることができ、又は宿主又は対象において更に導入される(例えば、移植される)ことができる。発現システム又はベクターは、当該技術分野で公知の任意の方法により、例えば形質転換、エレクトロポレーション又はトランスフェクションにより細胞において導入されることができる。細胞に由来するベシクルもまた使用されることができる。)
- 上記に記載した、本発明の発現システムを含む、トランスジェニック動物、有利には非ヒト、前記発現システムを含むベクター又は前記発現システム又は前記ベクターを含む細胞
に関する。
【0156】
本発明のもう一つの態様は、医薬としての使用のための、上記に記載された、発現システムを含む組成物、ベクター又は細胞に関する。
【0157】
実施形態によると、組成物は、同一の疾患又は他の疾患の治療に使用される、少なくとも前記遺伝子療法の製品(発現システム、ベクター又は細胞)及び場合により他の活性分子(他の遺伝子療法の製品、化学分子、ペプチド、タンパク質…)を含む。
【0158】
特定の実施形態によると、本発明による発現システムの使用は、抗炎症薬、例えばコルチコイドの使用と組み合わせられる。
【0159】
本発明は、その後、本発明の発現システム、ベクター又は細胞を含む医薬組成物を提供する。そのような組成物は、治療的に効果的な量の治療薬(本発明の発現システム又はベクター又は細胞)及び薬学的に許容される担体を含む。特定の実施形態において、用語「薬学的に許容される(pharmaceutically acceptable)」は、連邦の規制機関若しくは州政府により承認されること又は動物及びヒトにおける使用のためにアメリカ若しくはヨーロッパの薬局方若しくは他の一般的に認知される薬局方においてリストに記載されることを意味する。用語「担体(carrier)」は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを指す。そのような医薬的な担体は、無菌の液体、例えば水及び油(石油、動物、植物若しくは合成起源の油、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ごま油などを含む)であることができる。水は、医薬組成物が静脈内投与されるときに好ましい担体である。生理食塩水及び水性のブドウ糖及びグリセロール溶液もまた液体の担体、特には注射用の溶液として、使用されることができる。適切な医薬の賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ナトリウムステアレート、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどを含む。
【0160】
組成物は、もし望まれるならば、微量の湿潤剤若しくは乳化剤又はpH緩衝剤もまた含むことができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、徐放性の処方などの形態をとることができる。適切な医薬の担体の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載される。そのような組成物は、対象への適切な投与形態を提供することを目的として、治療的に有効量の治療薬を、好ましくは精製された形態において、適量の担体と一緒に含む。
【0161】
好まれる実施形態において、組成物は、ヒトへの静脈内投与に適応した医薬組成物として常法に従って処方される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、無菌の等張水性バッファーの溶液である。必要に応じて、組成物は、可溶化剤及び局所麻酔剤、例えば注射部位の痛みを和らげるリドカインもまた含むことができる。
【0162】
一つの実施形態において、本発明による組成物は、ヒトにおける投与に適している。組成物は、好ましくは液体の形態、有利には生理食塩水の組成物、より有利にはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)組成物又は乳酸リンゲル液(Ringer-Lactate solution)である。
【0163】
標的の疾患の治療において有効である、本発明の治療薬(すなわち、発現システム又はベクター又は細胞)の量は、標準的な臨床技術により決定されることができる。加えて、in vivo及び/又はin vitroアッセイは、最適な用量の範囲を予測するのを手助けするために任意に使用されることができる。処方において使用される正確な用量は、投与経路、検討下での個体の身体的な特徴、例えば性別、年齢及び体重、同時に投与する医薬、他の因子並びに疾患の重症度にもまた依存し、医師の判断及びそれぞれの患者の状況により決定されるべきである。
【0164】
適切な投与により、治療的な有効量の遺伝子療法の製品を標的組織、特には骨格筋及び任意により心臓へ輸送することができる。本発明の文脈において、遺伝子療法の製品がウイルスベクターであるとき、治療的用量は、対象のキログラム(kg)当たりに投与される導入遺伝子を含むウイルス粒子(vgつまりウイルスゲノム)の量として定義される。
【0165】
ウイルスベクター、例えばAVVベクターを対象に投与することを含む治療の場合において、ベクターの典型的な用量は、キログラム体重当たり少なくとも1x108ベクターゲノム(vg/kg)、例えば少なくとも1x109 vg/kg、少なくとも1x1010 vg/kg、少なくとも1x1011 vg/kg、少なくとも1x1012 vg/kg、少なくとも1x1013 vg/kg、少なくとも1x1014 vg/kg、少なくとも1015 vg/kgである。特には、用量は、5.1011 vg/kg及び1014 vg/kgの間、例えば1、2、3、4、5、6、7、8又は9.1013 vg/kgであることができる。より低い用量、例えば1、2、3、4、5、6、7、8又は9.1012 vg/kgもまた、潜在的な毒性及び/又は免疫反応を避けることを目的として考慮することができる。当業者に公知のように、効率に関する満足する結果を与えるできるだけ低い用量が好まれる。
【0166】
利用可能な投与経路は、局所の(topical、local)、腸内の(組織全体にわたる効果、しかし胃腸(GI)管を通して輸送される)又は非経口の(全身的な活性、しかしGI管以外の経路により輸送される)経路である。本明細書において記載される組成物の投与の好まれる経路は、筋肉内投与(すなわち筋肉へ)及び全身投与(すなわち循環システムへ)を含む非経口投与である。この文脈において、用語「注射(injection)」(又は灌流(perfusion)又は注入(infusion))は、血管内の、特には静脈内の(IV)、筋肉内の(IM)、眼内の、髄腔内の又は脳内の投与を包含する。注射は通常、シリンジ又はカテーテルを使用して行われる。
【0167】
一つの実施形態において、組成物の全身輸送は、局所的な治療部位、すなわち衰弱した筋肉の近くの静脈又は動脈の近くに組成物を投与することを含む。ある実施形態において、本発明は、全身的な効果をもたらす組成物の局所的な輸送を含む。この投与経路は、「局所的な(局所領域の)注入(regional (loco-regional) infusion)」、「分離された四肢灌流による投与(administration by isolated limb perfusion)」又は「高圧経静脈四肢灌流(high-pressure transvenous limb perfusion)」と通常呼ばれ、筋ジストロフィーにおける遺伝子デリバリー方法として上手く使用されている。
【0168】
一つの態様によると、組成物は注入又は灌流により分離された四肢(局所領域の)に投与される。言い換えれば、本発明は、血管内の投与経路、すなわち静脈(経静脈の)又は動脈への投与経路による、圧力下での、脚及び/又は腕における組成物の局所的な輸送を含む。これは、通常、例えばToromanoffら(2008)により記載されるように、注入された製品の局所的な拡散を許容しながら、血液循環を一時的に阻害する止血帯を使用することにより達成される。
【0169】
一つの実施形態において、組成物は対象の四肢に注射される。対象がヒトであるとき、四肢は腕又は脚であることができる。一つの実施形態によると、組成物は対象の身体のより下の部分、例えば膝下、又は対象の身体のより上の部位、例えば肘下に投与される。
【0170】
本発明による投与の好まれる方法は、全身的な投与である。全身的な注射は、心臓及び横隔膜を含む対象の身体の全体の筋肉に到達し、その後これらの全身的な及びいまだに不治の疾患を現実的に治療することを目的として、全身の注射をもたらす。ある実施形態において、全身的な輸送は、組成物が対象の身体のあらゆる場所で利用可能であるような対象への組成物の輸送を含む。
【0171】
好まれる実施形態によると、全身的な投与は、血管、すなわち血管内の(静脈内の又は動脈内の)投与における組成物の注射を介して生じる。一つの実施形態によると、組成物は、末梢静脈を通して、静脈内注射により投与される。
【0172】
特定の実施形態において、治療は、組成物の単回投与を含む。
【0173】
そのような組成物は、特には、対象における遺伝子療法、特には上記で同定されるタンパク質の不足による疾患、特には神経筋の疾患及び筋ジストロフィーの治療を意図されている。従って、遺伝子編集又は遺伝子置換により、正しいバージョンの遺伝子が、影響を受ける患者の筋細胞において提供され、これは以下に記載される疾患に対する効果的な療法に貢献することができる。
【0174】
いくつかの実施形態において、本発明の医薬組成物は、肝臓にダメージを与えることなく、筋疾患(すなわちミオパチー)又は筋肉の傷害、特には神経筋遺伝性疾患、例えば:
筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、その他のミオパチー、筋強直症候群、イオンチャネル筋疾患、悪性高熱症、代謝性ミオパチー及びその他の神経筋障害、有利には筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー及びその他のミオパチー
を治療するために使用される。
【0175】
筋ジストロフィーは、特には:
- タンパク質ジストロフィンをコードするDMD遺伝子における病原性のバリアントにより引き起こされる一連のX関連筋疾患である、ジストロフィン異常症。ジストロフィン異常症は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)及びDMD関連拡張型心筋症を含む;
- 臨床的にDMDに類似しているが、常染色体潜性の及び常染色体顕性の遺伝の結果として両方の性別において生じる、肢帯型筋ジストロフィー(LGMDs)。肢帯型ジストロフィーは、サルコグリカン及び、ジストロフィンと相互作用する筋細胞膜に関連する他のタンパク質をコードする遺伝子変異により生じる。用語LGMD1は、顕性遺伝(常染色体顕性の)を示す遺伝子型を指し、一方でLGMD2は、常染色体潜性の遺伝を有する型を指す。50箇所よりも多くの病原性のバリアントが報告されている(LGMD1AからLGMD1Hまで;LGMD2AからLGMD2Yまで)。
- カルパイノパチー(LGMD2A)は、記載される450より多くの病原性のバリアントを有する遺伝子CAPN3の変異により引き起こされる。
を含む。
【0176】
そのような疾患の制限されない記載は:
中心核ミオパチー、有利にはX連鎖性ミオチュブラーミオパチー(XLMTM)及びシャルコー・マリー・トゥース病、肢帯型筋ジストロフィー、有利にはLGMD2A、LGMD2B、LGMD2D又はLGMD2I、LGMD1D、LGMD2L 先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー・ワールブルグ症候群(WWS)、筋眼脳病(MEB)、デュシェンヌ型(DMD)又はベッカー型(BMD)筋ジストロフィー、セレノプロテインN欠損を伴う先天性筋ジストロフィー、初期のメロシン欠損を伴う先天性筋ジストロフィー、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー、セントラルコア先天性ミオパチー、マルチ-ミニコア先天性ミオパチー、中心核常染色体ミオパチー、繊維不均衡を伴うミオパチー、ネマリン・ミオパチー、先天性筋無力症候群、三好型遠位型ミオパチー、ジスフェルリン異常症、ジストログリカノパチー及びサルコグリカノパチー
を含む。いくつかの実施形態において、本発明の医薬組成物は、デュシェンヌ型(DMD)又はベッカー型(BMD)筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、有利にはLGMD2A、LGMD2B、LGMD2D、LGMD2I、LGMD1D又はLGMD2Lを治療するために使用される。
【0177】
遺伝子編集の特定の例は、カルパイン3遺伝子(CAPN3)における変異により生じる肢帯型筋ジストロフィー2A(LGMD2A)の治療である。他の例は、DMD遺伝子における変異の治療である。
【0178】
本発明の組成物から恩恵を受けることのできる対象は、そのような疾患又はそのような疾患を発症するリスクを有すると診断された全ての患者を含む。治療されるべき対象は、例えば、前記遺伝子のシーケンシング及び/又は当業者に公知の任意の方法による、タンパク質の発現又は活性のレベルの評価を通した方法を含む、当業者に公知の任意の方法により、上記に記載されるタンパク質をコードする遺伝子における変異又は欠失の同定に基づき選択されることができる。従って、前記対象は、既にそのような疾患の症状を示す対象及び前記疾患を発症するリスクのある対象の両方を含む。一つの実施形態において、前記対象は、既にそのような疾患の症状を示す対象を含む。もう一つの実施形態において、前記対象は、歩行可能な患者及び初期の歩行不能な患者である。
【0179】
より一般的に及び更なる実施形態によると、本発明による発現システムは:
- 対象における筋力、筋持久力及び/又は筋質量を増大させること;
- 対象における繊維症を減少させること;
- 対象における収縮誘導性の損傷を減少させること;
- 対象における筋ジストロフィーを治療すること;
- 筋ジストロフィーに罹患する対象における退化している繊維又は壊死している繊維を減少させること;
- 筋ジストロフィーに罹患する対象における炎症を減少させること;
- 筋ジストロフィーに罹患する対象におけるクレアチンキナーゼ(又は任意の他のジストロフィーのマーカー)のレベルを減少させること;
- 筋ジストロフィーに罹患する対象における筋原線維の萎縮及び肥大を治療すること;
- 筋ジストロフィーに罹患する対象におけるジストロフィーの石灰化を減少させること;
- 対象における脂肪浸潤を減少させること;
- 対象における中心核生成を減少させること
のために有用である。
【0180】
一つの実施形態によると、本発明は、上記に記載された遺伝子療法の製品(発現システム、ベクター又は細胞)を対象に投与することを含む、そのような状態を治療するための方法に関する。
【0181】
有利には、発現システムは、特には動物において、有利には哺乳類において及びより好ましくはヒトにおいて、身体に全身的に投与される。
【0182】
本発明の実施は、別の方法で示される場合を除いて、十分に当業者の想定内である、分子生物学(リコンビナント技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来技術を使用する。そのような技術は、文献、例えば“Molecular Cloning: A Laboratory Manual”、fourth edition (Sambrook、2012); “Oligonucleotide Synthesis” (Gait、1984); “Culture of Animal Cells” (Freshney、2010); “Methods in Enzymology” “Handbook of Experimental Immunology” (Weir、1997); “Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells” (Miller及びCalos、1987); “Short Protocols in Molecular Biology” (Ausubel、2002); “Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting” 、(Babar, 2011); “Current Protocols in Immunology” (Coligan、2002)において十分に説明される。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの産生に適用可能であり、及び、従って、本発明を作り出すこと及び実施することにおいて考慮されることができる。特定の実施形態のために特に有用な技術は、以下のセクションにおいて議論される。
【0183】
本明細書において引用されるそれぞれ及び全ての特許、特許出願及び出版物の記載は、それらの全体の参照により、本明細書に組み込まれる。
【0184】
更なる記載をすることなく、当業者は、前述の記載及び以下の実例となる実施例を使用して、本発明の化合物を作り出し及び利用し、請求項の方法を実施することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【
図1】5
e13 vg/kgのAAV9-promoter-GFP-Luc(プロモーター=デスミン又はACTA1)を注射されたC57Bl6アルビノマウス(4 オス/プロモーター)におけるGFP-Luc導入遺伝子のルシフェラーゼ活性A/ 注射されたマウスの画像解析B/ 異なる器官における全体のタンパク質量により標準化されるルシフェラーゼ活性(TA:前脛骨筋;横隔膜;心臓;肝臓;腎臓;adr腺:副腎)
【
図2】注入されていない(NI)又は1
e14 vg/kgのAAV9-promoter-hCalpain3-2xtarget-miR208aを注入されたマウス(2又は3 オス/プロモーター)のTA(前脛骨)筋における及び心臓におけるカルパイン3の発現2T: 2xtarget-miR208aプロモーター= デスミン: Des又はACTA1: ACTAA/ Rplp0で標準化した後のqRT-PCRによるRNAレベルB/ カルパイン3に対する抗体を使用するウェスタンブロットによるタンパク質レベル。
【実施例】
【0186】
本発明は、以下の実験に基づく実施例及び添付された図面の参照により、更に詳細に記載される。これらの実施例は、説明の目的のみのために提供され、制限することは意図されていない。
【0187】
特には、本発明は、ヒトデスミンプロモーターと比較して、本発明による切断されたACTA1プロモーター(ACTA1と記載される)の制御下に位置する導入遺伝子を含むAAV9ベクターに関して説明される。
【0188】
材料及び方法:
動物モデル
動物の研究は、動物愛護及び実験についての現在のヨーロッパの法律(2010/63/EU)に従って実施され、フランス、エヴリーの組織化された倫理委員会であるthe Centre d’Exploration et de Recherche Fonctionnelle Experimentaleにより承認された(プロトコールAPAFIS DAP 2018-024-B#19736)。C57Bl6アルビノマウスはCharles River Facilityに注文された。
【0189】
発現カセット及びAAV誘導遺伝子トランスファー
二つの異なるAAVカセットが、AAV2 ITR配列、融合導入遺伝子GFP-ルシフェラーゼ及びSV40ポリアデニル化配列を使用してデザインされた。プロモーターは、コンストラクト間で異なるただ一つのエレメントであった。本研究において、ヒトデスミン(Des)プロモーター(配列番号5)及び本発明の切断されたACTA1プロモーター(配列番号2)が比較された。セロタイプ9は、トリトランスフェクション法を使用するGFP-Lucリコンビナントアデノ随伴ウイルス(AAV9-promoter-GFP-Luc)の産生のために使用された。ITR配列を含む対応する配列は、切断されたACTA1プロモーターに関連する配列番号6に示される。
【0190】
二つの他のAAVカセットもまた、同じプロモーターを使用して、しかしヒトカルパイン3導入遺伝子及び:
- AAV9 ITR配列;
- プロモーター及び導入遺伝子の間に挿入されたHBB2イントロン;
- 導入遺伝子及びHBB2ポリアデニル化配列の間にタンデムに挿入されたmir208aの二つの標的配列
を用いてデザインされた。
【0191】
セロタイプ9は、トリトランスフェクション法を使用してリコンビナントカルパイン3アデノ随伴ウイルス(AAV9-promoter-hCalpain3-2xtarget-miR208a)の産生のために使用された。ITR配列を含む対応する配列は、切断されたACTA1プロモーターに関連して配列番号7に示される。
【0192】
異なるベクターは、GFP-Luc導入遺伝子を発現するために又はヒトカルパイン3を産生するために、それぞれ、オスの1ヶ月齢のC57Bl6アルビノマウス又はC57Bl6マウスの尾静脈への単回全身投与により注射された。注射されたベクターの用量は、5e13vg/kgのAAV9-promoter-GFP-Luc又は1e14vg/kgのAAV9-promoter-hCalpain3-2xtarget-miR208aで、マウスの体重により標準化された。AAV9-promoter-GFP-Lucによる処置の2週間後に、全体の生体分布が、生きている動物においてルシフェラーゼイメージングにより評価された。AAV9-promoter-GFP-Luc及びAAV9-promoter-hCalpain3-2xtarget-miR208aそれぞれを用いた処置の3又は4週間後に、マウスは屠殺され、組織が回収された。前脛骨(TA)筋は、代表的な骨格筋として選択された。
【0193】
ルシフェラーゼアッセイによるルシフェラーゼ活性の定量化
サンプルはまず、0.2%のトリトンX-100及びプロテアーゼ阻害剤カクテルPIC(Roche)を含む500μLのアッセイバッファー(Tris/ホスフェート、25mM;グリセロール 15%;DTT、1mM;EDTA 1mM;MgCl2 8mM)により均一化された。10μlの溶解物は、乳白色の96穴プレートの平底ウェルにロードされた。Enspire分光光度計は、発光の定量化のために使用された。ポンプシステムは、プレートのそれぞれのウェルにD-ルシフェリン(167μM;Interchim)及びATP(40nM)を含むアッセイバッファー(Sigma-Aldrich)を分配する。相対発光量(Relative Light Unit(RLU))のシグナルは、それぞれのサンプル間で2秒の時間について、D-ルシフェリン及びATPそれぞれの分配の後に測定された。BCAタンパク質の定量化(Thermo Scientific)は、それぞれのサンプルにおいてタンパク質の量を標準化するために実施された。結果は、タンパク質量により標準化されたRLUレベルとして表現された。
【0194】
全体の生体分布
マウスは、イソフルランの吸入により麻酔され、50mg/mlのD-ルシフェリンで腹腔内に注射された(LifeTechnologies、カリフォルニア、USA)。in vivoのイメージングは、IVIS(登録商標)Luminaイメージングシステム(PerkinElmer)を使用して行われた。ソフトウェアLiving Image(登録商標)(PerkinElmer)が画像を解析するために使用された。
【0195】
mRNAの定量化
全RNA抽出は、NucleoZOLプロトコールのためのNucleoSpin(登録商標)RNAセット(Macherey Nagel)に従って凍結組織由来で実施された。抽出されたRNAは、60μlのRNaseフリー水に溶出され、Free DNAキット(Ambion)で処理され、残留DNAが取り除かれた。全RNAは、Nanodrop分光光度計(ND8000 Labtech)を使用して定量された。
【0196】
導入遺伝子の発現の定量化のために、1μgのRNAがRevertAid H minus逆転写酵素キット(Thermo Fisher Scientific)並びにランダムオリゴヌクレオチド及びオリゴdTの混合物を使用して逆転写された。リアルタイムPCRは、ヒトカルパイン3の定量化のために特異的なプライマー及びプローブのセット(Thermo Fisher Scientific)を使用したLightCycler480(Roche)を使用して実施された
FWD: 5’-CGCCTCCAAGGCCCGT-3’ (配列番号9)
REV: 5'-GGCGGAAGCGCTGGCT-3’ (配列番号10)及び
プローブ: 5'-CTACATCAACATGAGAGAGGT-3’ (配列番号11)
。
【0197】
マウスのサンプルのために、Rplp0がサンプル間のデータを標準化するために使用された:
FWD: 5'-CTCCAAGCAGATGCAGCAGA-3' (配列番号12)
REV: 5'-ATAGCCTTGCGCATCATGGT-3' (配列番号13)及び
プローブ: 5'-CCGTGGTGCTGATGGGCAAGAA-3' (配列番号14)
。
【0198】
それぞれの実験は、二連で行われた。定量化サイクル(Cq)値は、2nd Derivative Max法を使用してLightCycler(登録商標)480 SW 1.5.1を用いて計算された。RT-qPCRの結果は、生データのCqとして表され、Rplp0に標準化された。相対的な発現は、2-ΔCt法を使用して計算された。
【0199】
ウェスタンブロット解析
およそ1mmの組織(心臓及びTA筋)の凍結切片がプロテアーゼ阻害剤カクテルを含む放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)バッファーにおいて溶解された。カルパイン3のために、1mgの組織が40μlの尿素バッファー(8M尿素、2Mチオ尿素、3% SDS、50mM Tris-HCl pH 6.8、0.03% ブロモフェノールブルー pH6.8、50%超高純度グリセロール+プロテアーゼ阻害剤カクテル(100X)Sigma P8340)及び40μlのグリセロールと混合された。タンパク質抽出は、BCA(ビシンコニン酸)タンパク質アッセイ(Pierce)により定量された。全タンパク質の30μgが、カルパイン3抗体(CALP-12A2(Leica Biosystem);COP-COP-080049(Cosmo Bio))を使用して、ウェスタンブロット解析のために処理された。二次抗体の蛍光シグナルは、Odysseyイメージングシステムで読み取られ、バンド強度は、Odysseyアプリケーションソフトウェア(LI-COR Biosciences、2.1バージョン)により測定された。
【0200】
統計解析
統計解析は、GraphPad Prismバージョン6.04(GraphPadソフトウェア、サンディエゴ、CA)を使用して実施された。統計解析は、全ての実験に対してANOVAにより実施された。データは、平均値±SDとして表された。0.05より小さなP値は、統計的に有意であると考えられた。
【0201】
結果:
I/ レポーター遺伝子GFP-Lucを使用する、デスミンプロモーターとの比較における新規のプロモーターの発現プロファイル:
【0202】
5e13vg/kgのAAV9-promoter-GFP-Lucの4匹のオスの1ヶ月齢のC57Bl6アルビノマウスの尾静脈における注射の2週間後、全体の生体分布は、IVISシステムを使用して生きている動物におけるルシフェラーゼイメージングにより評価された。
【0203】
全体の生体分布は、二つのプロモーターの間で異なっていることが示された(
図1A)。実際に、ルシフェラーゼイメージングは、デスミンプロモーターと比較して、切断されたACTA1プロモーターで、四肢の筋肉におけるより強いシグナルを示し、及び胸部でより低いシグナルを示した。
【0204】
21日目に、マウスは屠殺された。1匹のマウスがデスミンプロモーターグループにおいて死んで発見されたことに注意すべきである。切断されたACTA1プロモーターグループにおいて死亡は観察されなかった。
【0205】
ルシフェラーゼ活性は、採取された筋肉及び器官において生化学的に測定され、その後それぞれのサンプルにおけるタンパク質量に標準化された。ルシフェラーゼ活性のレベルは、デスミンプロモーターと比較して、切断されたACTA1プロモーターの骨格筋において、より高く(TA及び横隔膜を参照)、心臓においてより低い(
図1B)。解析された他の器官、すなわち肝臓、腎臓及び副腎において変化は観察されなかった。
【0206】
まとめると、これらの結果は、本発明による切断されたACTA1プロモーターの使用は、デスミンプロモーターの使用と比較して、骨格筋におけるより高いレベルの導入遺伝子の発現、及び心筋におけるより低いレベルの発現をもたらす。
【0207】
II/ カルパイン3導入遺伝子を使用した、デスミンプロモーターとの比較における新規のプロモーターの発現プロファイルの検証:
【0208】
これらの観察を検証し、切断されたACTA1プロモーターが例えばヒトカルパイン3導入遺伝子の発現を駆動するために適応されることを確かめるために、C57Bl6のオスのマウス(グループ当たり2又は3)は、1e14 vg/kgの用量でrAAVs(AAV9-promoter-hCalpain3-2xtarget-miR208a)を静脈内注射された。注射の4週間後、動物は安楽死させた。筋肉及び心臓は分子的解析のために採取された。
【0209】
カルパイン3の発現は、mRNAレベルで測定された(
図2A)。カルパイン3のmRNAのレベルは、デスミンプロモーターと比較して、切断されたACTA1プロモーターでは、前脛骨筋(TA)においてより高く、心臓においてより低い。
【0210】
カルパイン3タンパク質のレベルもまた測定された(
図2B)。カルパイン3のレベルは、デスミンプロモーターと比較して、切断されたACTA1プロモーターでは、TA筋においてより高い。期待したように、カセットにおけるmiR208aの2つの標的配列の存在により、両方のプロモーターを用いた心臓において、カルパイン3タンパク質は発現しない。
【0211】
結論
これら全ての結果は、デスミンプロモーターと比較して、本発明による小さなサイズの切断されたACTA1プロモーターは、骨格筋におけるより高いレベルの導入遺伝子の発現をもたらし、心臓におけるより低いレベルの発現をもたらすことを示す。
【配列表】
【国際調査報告】