(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(54)【発明の名称】PSMA及びガンマ-デルタT細胞受容体に結合する抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230724BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230724BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230724BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230724BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230724BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230724BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230724BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230724BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230724BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20230724BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230724BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230724BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230724BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230724BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230724BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230724BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230724BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230724BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/46
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/65
A61K47/68
A61K9/08
A61K47/26
A61K47/20
A61P35/00
A61P35/04
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501293
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2021068960
(87)【国際公開番号】W WO2022008646
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517262346
【氏名又は名称】ラヴァ・セラピューティクス・エヌ・ヴイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロベルトゥス・コーネリス・ローフェルス
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・イェレ・ファン・デル・フリート
(72)【発明者】
【氏名】リサ・アンネ・キング
(72)【発明者】
【氏名】パウル・ウィレム・ヘンリ・イダ・パレン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクトリア・グイマライス・イグレシアス
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィット・ルーチェ・ヒュルシク
(72)【発明者】
【氏名】ペーテル・アレクサンデル・ヘーラルドス・マリア・マヒエルセン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA12
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD41
4C076DD41Z
4C076DD55
4C076DD60
4C076DD60Z
4C076DD67
4C076EE23
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF11
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB42
4C085BB44
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE05
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒトPSMAと結合可能であり、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合可能な抗体に関する。本発明は更に、本発明の抗体を含む医薬組成物、及び本発明の抗体の医学的治療のための使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトPSMAに結合できる第1の抗原結合領域及びヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体に結合できる第2の抗原結合領域を含む多重特異性抗体。
【請求項2】
二重特異性抗体である、請求項1に記載の多重特異性抗体。
【請求項3】
第1の抗原結合領域が単一ドメイン抗体である、請求項1又は2に記載の多重特異性抗体。
【請求項4】
第2の抗原結合領域が単一ドメイン抗体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項5】
多重特異性抗体が、配列番号2に記載の配列を有する抗体と、ヒトPSMAへの結合について競合し、好ましくは、多重特異性抗体が、配列番号2に記載の配列を有する抗体と同じヒトPSMA上のエピトープに結合する、請求項1から4のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項6】
第1の抗原結合領域が、配列番号14に記載のVH CDR1配列、配列番号15に記載のVH CDR2配列、及び配列番号16に記載のVH CDR3配列を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項7】
第1の抗原結合領域がヒト化されており、好ましくは、第1の抗原結合領域が、配列番号2に記載の配列、又は配列番号2に記載の配列に対して少なくとも90%、例えば少なくとも92%、例えば少なくとも94%、例えば少なくとも96%、例えば少なくとも98%の配列同一性を有する配列を含むか、又はそれからなる、請求項1から6のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項8】
ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化することができる、請求項1から7のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項9】
ヒトVδ2に結合することができる、請求項1から8のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項10】
配列番号5に記載の配列を有する抗体とヒトVδ2への結合について競合するか、又は配列番号20に記載の配列を有する抗体とヒトVδ2への結合について競合する、請求項1から9のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項11】
配列番号5に記載の配列を有する抗体と同じヒトVδ2上のエピトープに結合するか、又は配列番号20に記載の配列を有する抗体と同じヒトVδ2上のエピトープに結合する、請求項1から10のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項12】
第2の抗原結合領域が、配列番号17に記載のVH CDR1配列、配列番号18に記載のVH CDR2配列及び配列番号19に記載のVH CDR3配列を含むか、又は配列番号21に記載のVH CDR1配列、配列番号22に記載のVH CDR2配列及び配列番号23に記載のVH CDR3配列を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項13】
第2の抗原結合領域がヒト化されており、好ましくは、第2の抗原結合領域が、配列番号5に記載の配列、又は配列番号5に記載の配列に対して少なくとも90%、例えば少なくとも92%、例えば少なくとも94%、例えば少なくとも96%、例えば少なくとも98%の配列同一性を有する配列を含むか、又はそれからなる、請求項1から12のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項14】
第1の抗原結合領域が、配列番号14に記載のVH CDR1配列、配列番号15に記載のVH CDR2配列及び配列番号16に記載のVH CDR3配列を含み、第2の抗原結合領域が、配列番号15に記載のVH CDR1配列、配列番号18に記載のVH CDR2配列及び配列番号19に記載のVH CDR3配列を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項15】
ヒトVγ9に結合することができる、請求項1から8のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項16】
Vγ9Vδ2 T細胞によるLNCaP細胞等のPSMA発現細胞の殺傷を媒介することができる、請求項1から15のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項17】
前立腺癌患者のヒトPSMA発現細胞の殺傷を媒介することができる、請求項1から16のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項18】
第1の抗原結合領域及び第2の抗原結合領域が、ペプチドリンカーを介して共有結合している、請求項1から17のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項19】
ペプチドリンカーが、配列番号6に記載の配列を含むか、又はそれからなる、請求項18に記載の多重特異性抗体。
【請求項20】
ヒトPSMAと結合することができる第1の抗原結合領域が、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合することができる第2の抗原結合領域のN末端に位置している、請求項1から19のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項21】
半減期延長ドメインを更に含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項22】
ヒト対象に投与された場合に約168時間よりも長い終末半減期を有する、請求項20に記載の多重特異性抗体。
【請求項23】
Fc領域を含む、請求項1から17、21又は22のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項24】
Fc領域が2つのFcポリペプチドを含むヘテロダイマーであり、第1の抗原結合領域が第1のFcポリペプチドに融合しており、第2の抗原結合領域が第2のFcポリペプチドに融合しており、第1及び第2のFcポリペプチドがホモダイマーの形成よりもヘテロダイマーの形成を優先する非対称アミノ酸変異を含む、請求項23に記載の多重特異性抗体。
【請求項25】
FcポリペプチドのCH3領域が前記非対称アミノ酸変異を含み、好ましくは、第1のFcポリペプチドがT366W置換を含み、第2のFcポリペプチドがT366S、L368A及びY407V置換を含むか、又はそれぞれ逆を含み、アミノ酸位置がEU番号付けシステムに従うヒトIgG1に対応する、請求項24に記載の多重特異性抗体。
【請求項26】
第1及び第2のFcポリペプチド中の220位のシステイン残基が欠失又は置換されており、アミノ酸位置がEU番号付けシステムに従うヒトIgG1に対応する、請求項23から25のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項27】
第1及び第2のFcポリペプチドが234位及び/又は235位に変異を更に含み、好ましくは第1及び第2のFcポリペプチドがL234F及びL235E置換を含み、アミノ酸位置がEU番号付けシステムに従うヒトIgG1に対応する、請求項23から26のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項28】
第1の抗原結合領域が配列番号2に記載の配列を含み、第2の抗原結合領域が配列番号5に記載の配列を含み、
・第1のFcポリペプチドが配列番号12に記載の配列を含み、第2のFcポリペプチドが配列番号13に記載の配列を含むか、又は
・第1のFcポリペプチドが配列番号12に記載の配列を含み、第2のFcポリペプチドが配列番号13に記載の配列を含む、
請求項23から27のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項29】
請求項1から28のいずれか一項に記載の多重特異性抗体と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項30】
多重特異性抗体が請求項23から28のいずれか一項に記載の抗体であり、医薬組成物がバッファー、スクロース、ポリソルベート80及びメチオニンを含み、組成物のpHが5.4から7.4の間、例えば5.4から6.1の間である、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
医薬として使用するための、請求項1から28のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項32】
癌の治療に用いるための、請求項1から28のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項33】
前立腺癌の治療に用いるための、請求項1から28のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項34】
大腸癌、肺癌、乳癌、子宮内膜癌及び卵巣癌、胃癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、肝細胞癌、口腔扁平上皮癌、甲状腺腫瘍及びグリオブラストーマを含む、原発性又は転移性腫瘍の腫瘍新生血管又は腫瘍関連内皮細胞上にPSMAが発現される癌の治療に用いるための、請求項1から28のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項35】
頭頸部の腺様嚢胞癌の治療に用いるための、請求項1から28のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項36】
請求項1から28のいずれか一項に記載の多重特異性抗体を、それを必要とするヒト対象に投与することを含む、疾患を治療する方法。
【請求項37】
疾患が癌である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項1から28のいずれか一項に記載の多重特異性抗体をコードする核酸構築物。
【請求項39】
請求項38に記載の核酸構築物を含む発現ベクター。
【請求項40】
請求項38に記載の核酸構築物又は請求項39に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞、例えば哺乳動物宿主細胞、好ましくはCHO細胞。
【請求項41】
請求項1から28のいずれか一項に規定の多重特異性抗体、好ましくは請求項23から28のいずれか一項に規定の多重特異性抗体を製造するための方法であって、適切な宿主細胞、例えば哺乳動物細胞、好ましくはCHO細胞において、多重特異性抗体をコードする1つ以上の核酸構築物を(共)発現させること、それに続いて、産生された組換え抗体を精製することによる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトPSMAに結合することができ、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体に結合することができる新規の多重特異性抗体に関する。本発明は更に、本発明の抗体を含む医薬組成物、及び医学的治療のための本発明の抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、欧州と米国の男性において最も一般的な癌である。限局的な疾患の早期発見は、高い生存率をもたらす。しかし、転移した腫瘍は劇的に低下した生存率を導く。葉酸加水分解酵素I又はグルタミン酸カルボキシペプチダーゼIIとしても知られる前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、医薬品開発の潜在的な標的である。PSMAは前立腺癌細胞において過剰発現を示すが、正常組織では低い発現を示すII型膜貫通タンパク質である。
【0003】
抗体(Chatalicら、(2015) J Nucl Med 56:1094; WO2018098354)を含む、いくつかのPSMA標的化分子が開発されている(例えば、Haberkornら、(2016) Clin Cancer Res 22:9を参照)。二重特異性PSMA+CD3 T細胞エンゲージ抗体のアプローチも記載されている(Hernandez-Hoyosら、(2016) Mol Cancer Ther 15:2155; WO2016187594)。二重特異性T細胞エンゲージ抗体は、腫瘍標的結合特異性及びT細胞結合特異性を有し、よって、T細胞の細胞毒性を悪性細胞に向け直すことによって有効性を高める。例えば、Huehlsら、(2015) Immunol Cell Biol 93:290; Ellerman (2019) Methods, 154:102; de Bruinら、(2017) Oncoimmunology 7(1):e1375641及びWO2015156673を参照。しかしながら、結果は大きく変動する。例えば、CD3結合部分を8つの異なるB細胞標的(CD20、CD22、CD24、CD37、CD70、CD79b、CD138、及びHLA-DR)に対する結合部分と組み合わせた1つの研究では、異なる腫瘍標的を標的とする二重特異性抗体が、標的細胞の細胞毒性を誘導する能力に強いばらつきを示し、細胞毒性が抗原発現レベルに相関しないことが見出された。例えば、HLA-DR又はCD138を標的とするCD3ベースの二重特異性抗体は、HLA-DR及びCD138の発現レベルが中程度から高レベルであるにもかかわらず、細胞毒性を誘発することができなかった(Engelbertsら、(2020) Ebiomedicine 52:102625)。T細胞リダイレクト療法は、おそらく重大な毒性、製造上の問題、免疫原性、及び固形腫瘍における低い応答率のために、後期臨床開発に達したものはほとんどない。特に、T細胞エンゲージャーがCD3結合アームを含む場合、制御されない免疫活性化及びサイトカイン放出の結果として、毒性が発生しうる。
【0004】
よって、著しい進歩がなされたものの、治療上有効でありながら許容可能な毒性を有する新規のPSMA抗体が依然として必要とされている。そのような新規のPSMA抗体はまた、適切な薬物動態特性及び薬力学的特性を有し、最適には高収率及び高純度で製造可能であるべきである。更に、そのような抗体の最小限の分解及び凝集を生じる安定な形成が必要である。
【0005】
これらの必要性が本発明によって対処される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2018098354
【特許文献2】WO2016187594
【特許文献3】WO2015156673
【特許文献4】WO2007059782
【特許文献5】WO2010134666
【特許文献6】WO2014081202
【特許文献7】WO2013157953
【特許文献8】WO2009080254
【特許文献9】WO2009058383
【特許文献10】WO2012023053
【特許文献11】WO2010111625
【特許文献12】WO2010059315
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chatalicら、(2015) J Nucl Med 56:1094
【非特許文献2】Haberkornら、(2016) Clin Cancer Res 22:9
【非特許文献3】Hernandez-Hoyosら、(2016) Mol Cancer Ther 15:2155
【非特許文献4】Huehlsら、(2015) Immunol Cell Biol 93:290
【非特許文献5】Ellerman (2019) Methods, 154:102;
【非特許文献6】de Bruinら、(2017) Oncoimmunology 7(1):e1375641
【非特許文献7】Engelbertsら、(2020) Ebiomedicine 52:102625
【非特許文献8】CanfieldとMorrison、(1991) J Exp Med 173:1483
【非特許文献9】Edelmanら、Proc Natl Acad Sci U S A. 1969 May;63(1):78-85
【非特許文献10】Kabatら、Sequences of proteins of immunological interest. 第5版-1991 NIH Publication No.91-3242
【非特許文献11】Birdら、Science 242、423-426 (1988)及びHustonら、PNAS USA 85、5879-5883 (1988)
【非特許文献12】Hamers-Castermanら、(1993) Nature 363:446
【非特許文献13】Rooversら、(2007) Curr Opin Mol Ther 9:327
【非特許文献14】Krahら、(2016) Immunopharmacol Immunotoxicol 38:21
【非特許文献15】ChoitiaとLesk、(1987) J. Mol. Biol. 196:901
【非特許文献16】Wranikら、J.Biol.J.Chem.2012、287(52):43331-9、doi: 10.1074/jbc.M112.397869. Epub 2012 Nov 1
【非特許文献17】Bostromら、2009. Science 323、1610-1614
【非特許文献18】LaFleurら、MAbs.2013 Mar-Apr;5(2):208-18
【非特許文献19】Doppalapudi, V.R.ら、2007.Bioorg.Med.Chem.Lett.17,501-506
【非特許文献20】Lewisら、Nat Biotechnol. 2014 Feb;32(2):191-8
【非特許文献21】Dimasiら、J Mol Biol. 2009 Oct 30;393(3):672-92
【非特許文献22】Pearceら、Biochem Mol Biol Int. 1997 Sep;42(6):1179
【非特許文献23】Blankenship JWら、AACR 100th Annual meeting 2009 (Abstract #5465)
【非特許文献24】Lawrence FEBS Lett.1998 Apr 3;425(3):479-84
【非特許文献25】Zhuら、Immunol Cell Biol. 2010 Aug;88(6):667-75
【非特許文献26】Hmilaら、FASEB J. 2010
【非特許文献27】Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1988)
【非特許文献28】Colliganら編、Current Protocols in Immunology、Greene Publishing Assoc, and Wiley InterScience N. Y.、(1992、1993)
【非特許文献29】Muller、Meth.Enzymol.92、589-601 (1983)
【非特許文献30】E. MeyersとW. Miller、Comput. Appl. Biosci 4、11-17 (1988)
【非特許文献31】Obergら、(2014) Cancer Res 74:1349
【非特許文献32】Neumanら、(2016) J Med Prim 45:139
【非特許文献33】BrinkmannとKontermann、(2017) MAbs 9:182
【非特許文献34】Ridgwayら、(1996) 'Knobs-into-holes' engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization. Protein Eng 9:617
【非特許文献35】Roweら、Handbook of Pharmaceutical Excipients、2012 June、ISBN 9780857110275
【非特許文献36】J Nucl Med. 2015 Jul; 56(7):1094-9, supplemental data
【非特許文献37】Pimenovaら、(2008) J Mass Spectrom 43:185
【非特許文献38】Tanakaら、(2016) Immunotherapy 8: 959
【非特許文献39】Walkerら、(2019) PLOS ONE 14: e0217061
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、PSMAベースの治療のための新規抗体を提供する。PSMA結合領域がVγ9Vδ2 T細胞受容体に結合できる結合領域と組み合わされ、よってγδ T細胞をエンゲージする二重特異性抗体が構築された。驚くべきことに、二重特異性抗体は、腫瘍浸潤性Vγ9Vδ2 T細胞を含む自家Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を媒介することができ、自家PBMC由来Vγ9Vδ2 T細胞の存在下で患者由来の腫瘍細胞の死滅を非常に高い効力で誘導することができた。これらの活性は、低いエフェクター細胞(γδT細胞)対標的細胞(腫瘍細胞)比で腫瘍細胞株を使用しても観察されたが、γδT細胞は数が変動し得るヒトのT細胞の亜集団に過ぎないことから、これは重要である。一方、正常で健康な組織は影響を受けず、これは、有効であるが安全な癌治療に対するこれらの抗体のポテンシャルを指し示している。更に、ヒト全血を用いた研究は、標的細胞に対する高い効力にもかかわらず、抗体が低レベルのサイトカイン放出しか誘導しなかったことを指し示しており、これは、サイトカイン放出症候群のリスクが低いことを示唆している。
【0009】
更に、新規の二重特異性VHH-ヒト-Fc含有抗体フォーマットが開発され、これは、哺乳動物宿主細胞で産生された場合に、均一性と純度の高い生成物を生成する。更に、このフォーマットは、医学的治療における使用に適した薬物動態特性を有しており、この製品に適した安定した製剤が開発された。特定の理論に束縛されるものではないが、このフォーマットの分子サイズと減少した流体力学的半径は、腫瘍への浸透に非常に適しており、しかも腎濾過を回避し、FcRnへの結合を介して分解からの保護を確保することができる。
【0010】
したがって、第1の態様において、本発明はヒトPSMAに結合できる第1の抗原結合領域及びヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体に結合できる第2の抗原結合領域を含む多重特異性抗体を提供する。
【0011】
更なる態様において、本発明は、本発明の抗体を含む医薬組成物、医学的治療における本発明の抗体の使用、並びに本発明の抗体を産生するための核酸構築物、発現ベクター、並びにそのような核酸構築物又は発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0012】
本発明の更なる態様及び実施形態が以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】抗PSMA VHH JVZ-007のヒト化バリアントの配列アライメントを示す図である。LV1044はオリジナルのラマ由来の配列である;他の配列はヒト化バリアントである。
【
図2】二重特異性VHHの半減期拡張フォーマットの模式図である。Fcサイレンシング変異はアスタリスクで指し示されている。改変されたヒンジの配列は、KiHを介したヘテロ二量体化をもたらすCH3変異と同様に、図の横に示されている。HC:重鎖。
【
図3】T細胞脱顆粒の誘導におけるヒト化バリアントの効力を試験するT細胞活性化アッセイ(脱顆粒)を示す図である。上のパネル:PSMA陽性LNCaP細胞を標的細胞として使用した二重特異性構築物のタイトレーション。下のパネル:標的細胞としてPC-3細胞を使用した脱顆粒アッセイにおいて使用した単一の高濃度(10nM)の二重特異性構築物。5C8は抗Vγ9Vδ2 TCR特異的VHHを指し示し、5C8var1はそのヒト化バリアントである。
【
図4】LNCaP細胞の抗体誘導、Vγ9Vδ2 T細胞媒介性細胞毒性を示す図である。
【
図5】FACSにおけるLV1050-Fc×5C8var1-Fcの異なる細胞/細胞株への結合を示す図である。上のパネル:PSMA陽性細胞株LNCaP及びPSMA陰性細胞株PC-3への結合。下のパネル:Vγ9Vδ2 T細胞への結合。
【
図6】標的依存的、LV1050-Fc×5C8var1-Fc誘導性のVγ9Vδ2 T細胞活性化(上のパネル)及び細胞毒性(下のパネル)を示す図である。
【
図7】腫瘍組織及び正常な前立腺組織におけるPSMA及びCD277の発現レベルと、組織内のVγ9Vδ2-T細胞の(全CD3+集団の一部としての)頻度を示す図である。
【
図8】Vγ9Vδ2 T細胞及びLV1044-5C8(「LAVA化合物」)によって誘導された前立腺腫瘍細胞の細胞毒性(24時間アッセイ)を示す図である。***p<0.05。処置なしの腫瘍細胞(上のパネル)又は正常細胞(下のパネル)の数を100%とした。
【
図9】PSMAとLV1050-5C8var1-no-C-tag間の架橋によりマッピングした相互作用を示す図である。数字は、UniProt ID Q04609に基づくが、異なるシグナルペプチドを有する配列番号30のPSMA構築物におけるアミノ酸位置を指し示している。PSMA構築物中の位置番号は、次のようにUniProt ID Q04609の番号付けに対応している:構築物中の位置=UniProt ID Q04609中の位置+41。示されているPSMAフラグメントは、配列番号33~36に記載されている。
【
図10】増殖させたVγ9Vδ2-T細胞とPSMA陽性腫瘍由来細胞株を使用した脱顆粒アッセイを示す図である。脱顆粒は、異なるPSMA発現細胞株(LNCaP、22Rv1、及びVCaP細胞)と共培養した初代増殖Vγ9Vδ2-T細胞を使用して測定した。CD3-Vγ9ゲートにおけるCD107a陽性(脱顆粒)細胞の割合が、LV1050-Fc×5C8var1-Fc濃度の関数としてプロットされている。
【
図11】増殖させたVγ9Vδ2-T細胞とPSMA陽性又はPSMA陰性細胞を使用した細胞毒性アッセイを示す図である。細胞毒性は、(A)LNCaP細胞(PSMA陽性細胞)、対LNCaP.koPSMA細胞(PSMA陰性細胞)又は(B)異なるPSMA発現細胞株(LNCaP、22Rv1及びVCap細胞)と共培養した初代増殖Vγ9Vδ2-T細胞を使用して測定した。標的細胞の細胞死は、CytoTox-Glo(商標) Assayを使用して、定義された細胞内プロテアーゼの培地中での活性によって決定した。
【
図12】前立腺腫瘍又は正常(非悪性)組織に内因的に存在するVγ9Vδ2-T細胞の脱顆粒を示す図である。前立腺腫瘍(A)及び正常(非悪性)前立腺組織(B)の細胞懸濁液を、50nMのLV1050-Fc×5C8var1-Fcを含む又は含まない蛍光標識CD107a mAbと共に4時間インキュベートし、CD45+/CD3+/Vγ9+/Vδ2+/CD107a+細胞の割合(CD107a発現(EpCAM-/CD45+/CD3+/Vγ9+/Vδ2+の%)として指し示される)をフローサイトメトリーによって決定した。LV1050-Fc×5C8var1-FcによるCD107a発現の誘導が、バックグラウンド(培地のみ)の発現に対する相対値で表されている。**P<0.01、対応のあるT検定;ns=非有意。
【
図13】患者由来の前立腺腫瘍又は正常な(非悪性)前立腺組織と共培養した際の自家PMBC中に存在するVγ9Vδ2-T細胞の脱顆粒を示す図である。前立腺腫瘍(A)及び正常(非悪性)前立腺組織(B)の細胞懸濁液を、自家PBMCの存在下、50nMのLV1050-Fc×5C8var1-Fcを含む又は含まない蛍光標識CD107a mAbと共に4時間インキュベートし、CD45+/CD3+/Vγ9+/Vδ2+/CD107a+細胞の割合(CD107a発現(EpCAM-/CD45+/CD3+/Vγ9+/Vδ2+の%)として指し示される)をフローサイトメトリーによって決定した。LV1050-Fc×5C8var1-FcによるCD107a発現の誘導が、バックグラウンド(培地のみ)の発現に対する相対値で表されている。*P<0.05、対応のあるT検定;ns=非有意。
【
図14】自家PBMCの存在下におけるLV1050-Fc×5C8var1-Fcによって媒介される腫瘍細胞溶解を示す図である。前立腺腫瘍組織(A)又は正常(非悪性)前立腺組織(B)からの単一細胞懸濁液を、50nMのLV1050-Fc×5C8var1-Fcを含む又は含まない自家PBMCと共に10:1のE:T比で培養し、24時間培養した。細胞毒性を7-AAD除外を用いたフローサイトメトリーによって決定し、「標的細胞+PBMC」に対する溶解の割合として表した。平均とS.E.M(n=3)が示されており、*P<0.05である。
【
図15】LV1050-Fc×5C8var1-FcとPBMCの組み合わせは、22Rv1前立腺癌細胞を接種したマウスにおける腫瘍増殖を阻害することを示す図である。NCGマウス(n=4~6/群)に22Rv1前立腺癌細胞を単独で、又は2人の健康なドナーからのPBMCと組み合わせて皮下注射した。0、7、14、及び21日目に、LV1050-Fc×5C8var1-Fc(0.2又は2mg/kg)又はPBSをIV注射した。週に2回、ノギスを使用して腫瘍サイズを測定した。群の平均腫瘍体積が2,000mm
3を超えたときにマウスを屠殺した。腫瘍体積(mm
3;平均±SEM)が22Rv1前立腺癌細胞接種後の日数の関数としてプロットされている。統計解析(Dunnettの事後検定によるANOVA(分散分析))は、ドナー#1からのPBMCを使用して0.2又は2mg/kgで投与されたLV1050-Fc×5C8var1-Fcが腫瘍増殖率に統計的に有意な減少(***P<0.001)をもたらし、34日目のTGI値がそれぞれ91%と78%であることを示した。ドナー#2からのPBMCを使用して2mg/kgで投与されたLV1050-Fc×5C8var1-Fcは、有意な抗腫瘍効果(*P<0.01)をもたらし、41日目のTGI値は52%であった。
【
図16】ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるLV1050-Fc×5C8var1-Fcの単回IV投与後の薬物動態を示す図である。LV1050-Fc×5C8var1-Fcとヒト化IgG対照抗体を、ヒトFcRnトランスジェニックマウス(1群あたりn=4)に1群毎に2mg/kg、5mg/kg、又は10mg/kgで静脈内投与した。上のグラフは、異なる濃度の抗体を投与したマウスの3つの群について、経時的なLV1050-Fc×5C8var1-Fcの濃度を示している。下のグラフは、3つの投与群で得られたLV1050-Fc×5C8var1-Fcの終末半減期の計算を示している(PK Solutionsソフトウェアを使用してELISAデータを分析)。LV1050-Fc×5C8var1-Fcの半減期は、IgG対照抗体と同時投与された各群について計算され、(2mg/kgで)139.9±10.2時間、(5mg/kgで)160.2±13.4時間、及び(10mg/kgで)171.7±10.6時間に対応していた。
【
図17】NHPにおける単回IV投与後のLV1050-Fc×5C8var1-Fcの異なる用量の薬物動態を示す図である。LV1050-Fc×5C8var1-Fcの血漿濃度を、投与前、投与後0.5、1、2、4、8、24、72、120、168、336、504及び528時間後に測定した。LV1050-Fc×5C8var1(Y軸)の血漿濃度が時間の関数として与えられている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
用語「ヒトPSMA」は、本明細書で用いられる場合、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ2(EC:3.4.17.21)、細胞増殖抑制遺伝子27タンパク質、葉酸加水分解酵素1、フォリルポリ-ガンマ-グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ(FGCP)、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(GCPII)、膜グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ(mGCP)、N-アセチル化-α-結合酸性ジペプチダーゼI(NAALADase I)又は配列番号24に記載のプテロイルポリ-γ-グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ(UniProtKB-Q04609(FOLH1_HUMAN))、アイソフォームIとしても知られるヒト前立腺特異的膜抗原タンパク質を指す。
【0015】
用語「ヒトVδ2」は、本明細書で用いられる場合、TRDV2タンパク質、T細胞受容体デルタバリアブル2(UniProtKB-A0JD36(A0JD36_HUMAN)はVδ2配列の例を与える)を指す。
【0016】
用語「ヒトVγ9」は、本明細書で用いられる場合、TRGV9タンパク質、T細胞受容体ガンマバリアブル9(UniProtKB-Q99603_HUMANはVγ9配列の例を与える)を指す。
【0017】
用語「抗体」は、典型的な生理学的条件下で抗原に特異的に結合する能力を有し、少なくとも約30分、少なくとも約45分、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間、約24時間以上、約48時間以上、約3、4、5、6、7日以上等、又は他の関連する機能的に定義された期間(例えば、抗原への抗体結合に関連する生理学的応答を誘導、促進、増強、及び/又は調節するのに十分な時間、及び/又は抗体がエフェクター活性を動員するのに十分な時間)等といった、かなりの期間の半減期を有する免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子のフラグメント、又はそれらのいずれかの誘導体を指すことが意図されている。抗原と相互作用する抗原結合領域(又は抗原結合ドメイン)は、免疫グロブリン分子の重鎖及び軽鎖の両方の可変領域を含んでもよく、又は単一ドメインの抗原結合領域、例えば、重鎖可変領域のみであってもよい。抗体の定常領域は、存在する場合、免疫系の様々な細胞(エフェクター細胞やT細胞等)及び補体活性化の古典的経路の最初の成分であるC1q等の補体系成分を含む、宿主の組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介しうる。しかしながら、いくつかの実施形態では、抗体のFc領域は不活性になるように改変されており、「不活性」とは、少なくともいずれのFcγ受容体にも結合できず、FcRのFc媒介性架橋を誘導すること、又は個々の抗体の2つのFc領域を介した標的抗原のFcR媒介性架橋を誘導することができないFc領域を意味する。更なる実施形態において、不活性Fc領域は更に、C1qに結合することができない。一実施形態では、抗体は、234位及び235位における変異(CanfieldとMorrison、(1991) J Exp Med 173:1483)、例えば、234位のLeuからPheへの変異及び235位のLeuからGluへの変異を含む。別の実施形態では、抗体は、234位にLeuからAlaへの変異、235位にLeuからAlaへの変異、及び329位にProからGlyへの変異を含む。別の実施形態では、抗体は、234位にLeuからPheへの変異、235位にLeuからGluへの変異、及び265位にAspからAlaへの変異を含む。
【0018】
免疫グロブリンのFc領域は、免疫グロブリンの2つのCH2-CH3領域と連結領域(例えばヒンジ領域)を含み、抗体をパパインで消化した後に典型的に生成される抗体フラグメントとして定義される。抗体重鎖の定常ドメインは、抗体のアイソタイプ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgD、又はIgEを定義する。Fc領域は、Fc受容体と呼ばれる細胞表面受容体及び補体系のタンパク質と抗体とのエフェクター機能を媒介する。
【0019】
用語「ヒンジ領域」は、本明細書で用いられる場合、免疫グロブリン重鎖のヒンジ領域を指すことが意図されている。したがって、例えば、ヒトIgG1抗体のヒンジ領域は、EU番号付けによるアミノ酸216~230に対応する。
【0020】
用語「CH2領域」又は「CH2ドメイン」は、本明細書で用いられる場合、免疫グロブリン重鎖のCH2領域を指すことが意図されている。したがって、例えば、ヒトIgG1抗体のCH2領域は、EU番号付けによるアミノ酸231~340に対応する。しかしながら、CH2領域は、本明細書に記載の他のサブタイプのいずれであってもよい。
【0021】
用語「CH3領域」又は「CH3ドメイン」は、本明細書で用いられる場合、免疫グロブリン重鎖のCH3領域を指すことが意図されている。したがって、例えば、ヒトIgG1抗体のCH3領域は、EU番号付けによるアミノ酸341~447に対応する。しかしながら、CH3領域は、本明細書に記載の他のサブタイプのいずれであってもよい。
【0022】
本発明におけるFc領域/Fcドメインにおけるアミノ酸位置への参照は、EU番号付けに従う(Edelmanら、Proc Natl Acad Sci U S A. 1969 May;63(1):78-85;Kabatら、Sequences of proteins of immunological interest. 第5版-1991 NIH Publication No.91-3242)。
【0023】
上記に示したように、本明細書で用いられる抗体という用語は、特に明記しない限り、又は文脈から明らかに矛盾しない限り、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体のフラグメントを含む。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体のフラグメントによって実行されてもよいことが示されている。用語「抗体」に包含される結合フラグメントの例は、(i)Fab'又はFabフラグメント、すなわち、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価のフラグメント、又はWO2007059782に記載されている一価の抗体;(ii)F(ab')2フラグメント、すなわち、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメント;(iii)本質的にVH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント;並びに(iv)本質的に抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFvフラグメントを含む。更に、Fvフラグメントの2つのドメイン、VL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え法を用いて、VL及びVH領域が対になって一価の分子を形成する単一のタンパク質鎖(単鎖抗体又は単鎖Fv(scFv)として知られる)として作られることを可能にする合成リンカーによって結合されてもよい(例えば、Birdら、Science 242、423-426 (1988)及びHustonら、PNAS USA 85、5879-5883 (1988)を参照)。このような一本鎖抗体は、文脈上別段の指示がない限り、抗体という用語に包含される。そのようなフラグメントは一般に抗体の意味に含まれるが、それらは集合的に、また、それぞれ独立して、本発明の独特の特徴であり、異なる生物学的特性及び有用性を示す。抗体という用語は、特に明記しない限り、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体及びヒト化抗体、並びに酵素切断、ペプチド合成、及び組換え技術等の任意の既知の技術によって提供される抗体フラグメントも含む。
【0024】
本発明の抗体のいくつかの実施形態では、第1の抗原結合領域若しくは抗原結合領域、又はその両方が単一ドメイン抗体である。単一ドメイン抗体(sdAb、Nanobody(登録商標)、又はVHHとも呼ばれる)は当業者によく知られているが、例えば、Hamers-Castermanら、(1993) Nature 363:446、Rooversら、(2007) Curr Opin Mol Ther 9:327及びKrahら、(2016) Immunopharmacol Immunotoxicol 38:21を参照されたい。単一ドメイン抗体は、単一のCDR1、単一のCDR2、及び単一のCDR3を含む。単一ドメイン抗体の例は、重鎖のみの抗体の可変フラグメント、天然に軽鎖を含まない抗体、従来的な抗体に由来する単一ドメイン抗体、及び改変抗体である。単一ドメイン抗体は、マウス、ヒト、ラクダ、ラマ、サメ、ヤギ、ウサギ、及びウシを含む任意の種に由来しうる。例えば、天然に存在するVHH分子は、ラクダ科(Camelidae)の種、例えばラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、アルパカ、及びグアナコにおいて産生される抗体に由来し得る。抗体全体と同様に、単一ドメイン抗体は特定の抗原に選択的に結合できる。単一ドメイン抗体は、免疫グロブリン鎖の可変ドメイン、すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3とフレームワーク領域のみを含んでいてもよい。
【0025】
用語「免疫グロブリン」は、本明細書で用いられる場合、2対のポリペプチド鎖、1対の軽(L)鎖及び1対の重(H)鎖からなり、4つ全てがジスルフィド結合によって相互に結合する潜在性を有する構造的に関連した糖タンパク質のクラスを指すことを意図されている。用語「免疫グロブリン重鎖」、「免疫グロブリンの重鎖」又は「重鎖」は、本明細書で用いられる場合、免疫グロブリンの鎖の1つを指すことが意図されている。重鎖は、典型的には、免疫グロブリンのアイソタイプを定義する重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域(本明細書ではCHと略す)から構成される。重鎖定常領域は、典型的には、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインから構成される。重鎖定常領域は、ヒンジ領域を更に含む。免疫グロブリン(例えば、IgG)の構造内では、2つの重鎖がヒンジ領域中のジスルフィド結合を介して相互に結合している。重鎖と同様に、各軽鎖も典型的には、いくつかの領域、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)から構成される。更に、VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変領域(又は配列が超可変である、及び/若しくは構造的に定義されたループを形成する超可変領域)と、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された点在する領域に細分化されうる。各VH及びVLは、典型的には、3つのCDRと4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置されている。CDR配列は、様々な方法、例えば、ChoitiaとLesk、(1987) J. Mol. Biol. 196:901又はKabatら、(1991) Sequence of protein of immunological interest、第5版、NIH publicationによって提供される方法の使用によって決定されうる。CDRの決定とアミノ酸番号付けのための様々な方法をwww.abysis.org(UCL)で比較することができる。
【0026】
用語「アイソタイプ」は、本明細書で用いられる場合、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる免疫グロブリンの(サブ)クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、又はIgM)、又はIgG1m(za)及びIgG1m(f)等のその任意のアロタイプを指す。各重鎖アイソタイプは、カッパ(κ)又はラムダ(λ)軽鎖のいずれかと組み合わせられ得る。本発明の抗体は、任意のアイソタイプを有し得る。
【0027】
用語「親抗体」は、本発明による抗体と同一であるが、親抗体は特定の変異の1つ以上を有さない抗体として理解されるべきである。本発明の「バリアント」又は「抗体バリアント」又は「親抗体のバリアント」は、「親抗体」と比較して1つ以上の変異を含む抗体分子である。アミノ酸置換は、生来のアミノ酸を別の天然に生じるアミノ酸又は天然に生じないアミノ酸誘導体と交換しうる。アミノ酸置換は、保存的又は非保存的でありうる。本発明の文脈において、保存的置換は、以下の3つの表の1つ以上に反映されるアミノ酸のクラス内の置換によって定義されうる:
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
本発明の文脈において、バリアントにおける置換は、以下のように指し示される:
元のアミノ酸-位置-置換されたアミノ酸;
アミノ酸残基を指し示すために、コードXaa及びXを含む3文字のコード又は1文字のコードが使用される。したがって、表記「T366W」は、バリアントが、親抗体の366位のアミノ酸に対応するバリアントのアミノ酸位置に、トリプトファンによるスレオニンの置換を含むことを意味する。
【0032】
更に、用語「置換」は、他の19個の天然アミノ酸のいずれかへの置換、又は非天然アミノ酸等の他のアミノ酸への置換を包含する。例えば、366位のアミノ酸Tの置換は、以下の置換の各々を含む:366A、366C、366D、366G、366H、366F、366I、366K、366L、366M、366N、366P、366Q、366R、366S、366E、366V、366W、及び366Y。
【0033】
用語「完全長抗体」は、本明細書で用いられる場合、そのアイソタイプの野生型抗体に通常見られるものに対応する重鎖及び軽鎖の定常及び可変ドメインを全て含む抗体を指す。
【0034】
用語「キメラ抗体」は、可変領域が非ヒト種に由来し(例えば齧歯類由来)、定常領域がヒト等の異なる種に由来する抗体を指す。キメラ抗体は、遺伝子工学によって生成されうる。抗体の免疫原性を低下させるために、治療用途向けのキメラモノクローナル抗体が開発されている。
【0035】
用語「ヒト化抗体」は、ヒト抗体定常ドメインと、ヒト可変ドメインに対する高レベルの配列相同性を含むように改変された非ヒト可変ドメインとを含む、遺伝子改変された非ヒト抗体を指す。これは、抗原結合部位を一緒になって形成する6つの非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)を、相同性のあるヒトアクセプターフレームワーク領域(FR)に移植することによって達成され得る。親抗体の結合親和性及び特異性を完全に再構成するために、親抗体(すなわち、非ヒト抗体)のフレームワーク残基をヒトフレームワーク領域中に置換すること(復帰変異)が必要となる場合がある。構造相同性モデリングは、抗体の結合特性にとって重要なフレームワーク領域中のアミノ酸残基を同定するために役立ちうる。したがって、ヒト化抗体は、非ヒトCDR配列、場合により非ヒトアミノ酸配列への1つ以上のアミノ酸復帰変異を含む主にヒトのフレームワーク領域、及び場合により完全なヒト定常領域を含んでいてもよい。場合により、親和性及び生化学的特性等の好ましい特徴を有するヒト化抗体を得るために、必ずしも復帰変異ではない追加のアミノ酸修飾が導入されてもよい。非ヒト治療用抗体のヒト化は、ヒトにおけるその免疫原性を最小化すると同時に、そのようなヒト化抗体が非ヒト起源の抗体の特異性及び結合親和性を維持するように行われる。
【0036】
用語「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる、例えば少なくとも3つの、典型的には重複しないエピトープに対する特異性を有する抗体を指す。そのようなエピトープは、同じ又は異なる標的抗原上にあってもよい。エピトープが異なる標的上にある場合、そのような標的は、同じ細胞又は異なる細胞又は細胞型上にあってもよい。
【0037】
用語「二重特異性抗体」は、2つの異なる、典型的には重複しないエピトープに対する特異性を有する抗体を指す。そのようなエピトープは、同じ又は異なる標的上にあってもよい。エピトープが異なる標的上にある場合、そのような標的は、同じ細胞又は異なる細胞又は細胞型上にあってもよい。
【0038】
二重特異性抗体の異なるクラスの例は、(i)ヘテロ二量化を強制するために相補的なCH3ドメインを有するIgG様分子;(ii)組換えIgG様二重標的分子であって、分子の両側がそれぞれ、少なくとも2つの異なる抗体のFabフラグメント又はFabフラグメントの一部を含有する分子;(iii)全長IgG抗体が追加のFabフラグメント又はFabフラグメントの一部に融合されているIgG融合分子;(iv)単鎖Fv分子又は安定化されたダイアボディが重鎖定常ドメイン、Fc領域又はその一部に融合されているFc融合分子;(v)異なるFabフラグメントが一緒に融合され、重鎖定常ドメイン、Fc領域又はその一部に融合されているFab融合分子;並びに(vi)異なる単鎖Fv分子又は異なるダイアボディ又は異なる重鎖抗体(例えば、ドメイン抗体、Nanobody(登録商標))が互いに、又は重鎖定常ドメイン、Fc領域、若しくはその一部に融合した別のタンパク質若しくはキャリア分子に融合している、ScFvベース及びダイアボディベースの抗体及び重鎖抗体(例えば、ドメイン抗体、Nanobody(登録商標)を含むが、これらに限定はされない。
【0039】
相補的なCH3ドメイン分子を有するIgG様分子の例は、Triomab(登録商標)(Trion Pharma社/Fresenius Biotech社)、Knobs-into-Holes(Genentech社)、CrossMAbs(Roche社)及び静電的にマッチしたもの(Amgen社、中外製薬、Oncomed社)、LUZ-Y(Genentech社、Wranikら、J.Biol.J.Chem.2012、287(52):43331-9、doi: 10.1074/jbc.M112.397869. Epub 2012 Nov 1)、DIG-body及びPIG-body(Pharmabcine社、WO2010134666、WO2014081202)、Strand Exchange Engineered Domain body(SEEDbody)(EMD Serono社)、Biclonics(Merus社、WO2013157953)、FcΔAdp(Regeneron社)、二重特異性IgG1及びIgG2(Pfizer社/Rinat社)、Azymetricスキャフォールド(Zymeworks/Merck社)、mAb-Fv(Xencor社)、二価二重特異性抗体(Roche社、WO2009080254)並びにDuobody(登録商標)分子(Genmab社)を含むが、これらに限定はされない。
【0040】
組換えIgG様二重標的化分子の例は、二重標的化(DT)-Ig(GSK社/Domantis社、WO2009058383)、Two-in-one抗体(Genentech社、Bostromら、2009. Science 323、1610-1614)、架橋Mabs(Karmanos Cancer Center)、mAb2(F-Star社)、Zybodies(商標)(Zyngenia社、LaFleurら、MAbs.2013 Mar-Apr;5(2):208-18)、共通軽鎖アプローチ、κλボディ(NovImmune社、WO2012023053)、CovX-body(登録商標)(CovX社/Pfizer社、Doppalapudi, V.R.ら、2007.Bioorg.Med.Chem.Lett.17,501-506)を含むが、これらに限定はされない。
【0041】
IgG融合分子の例は、二重可変ドメイン(DVD)-Ig(Abbott社)、二重ドメイン二重ヘッド抗体(Unilever社、Sanofi Aventis社)、IgG様二重特異性(ImClone社/Eli Lilly社、Lewisら、Nat Biotechnol. 2014 Feb;32(2):191-8)、Ts2Ab(MedImmune社/AZ社、Dimasiら、J Mol Biol. 2009 Oct 30;393(3):672-92)及びBsAb(Zymogenetics社、WO2010111625)、HERCULES(Biogen Idec社)、scFv融合(Novartis社)、scFv融合(Changzhou Adam Biotech社)及びTvAb(Roche社)を含むが、これらに限定はされない。
【0042】
Fc融合分子の例は、ScFv/Fc融合(学術機関、Pearceら、Biochem Mol Biol Int. 1997 Sep;42(6):1179)、SCORPION(Emergent BioSolutions社/Trubion社、Blankenship JWら、AACR 100th Annual meeting 2009 (Abstract #5465);Zymogenetics社/BMS社、WO2010111625)、二重親和性リターゲティング技術(Fc-DART(商標))(MacroGenics社)及びDual(ScFv)2-Fab(National Research Center for Antibody Medicine-中国)を含むが、これらに限定はされない。
【0043】
Fab融合二重特異性抗体の例は、F(ab)2(Medarex社/AMGEN社)、Dual-Action又はBis-Fab(Genentech社)、Dock-and-Lock(登録商標)(DNL)(ImmunoMedics社)、二価二重特異性(Biotecnol社)及びFab-Fv(UCB-Celltech社)を含むが、これらに限定はされない。
【0044】
ScFvベース、ダイアボディベースの抗体及びドメイン抗体の例は、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))(Micromet社)、タンデムダイアボディ(Tandab)(Affimed社)、二重親和性リターゲティング技術(DART(商標))(MacroGenics社)、一本鎖ダイアボディ(アカデミア、Lawrence FEBS Lett.1998 Apr 3;425(3):479-84)、TCR様抗体(AIT、ReceptorLogics社)、ヒト血清アルブミンScFvフュージョン(Merrimack社、WO2010059315)及びCOMBODY分子(Epigen Biotech社、Zhuら、Immunol Cell Biol. 2010 Aug;88(6):667-75)、二重標的化Nanobody(登録商標)(Ablynx社、Hmilaら、FASEB J. 2010)、二重標的化重鎖限定ドメイン抗体を含むが、これらに限定はされない。
【0045】
抗体が抗原に結合する文脈において、「結合する」又は「特異的に結合する」という用語は、所定の抗原又は標的(例えば、ヒトPSMA又はVδ2)への抗体の結合を指し、その結合は、例えば、本明細書の実施例に記載されるようにフローサイトメトリーを使用して決定される場合に、典型的には、約10-6M以下、例えば10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下、約10-10M以下、又は更に約10-11M以下のKDに対応する親和性を有する。或いは、見かけのKD値は、例えば、リガンドとして抗原を使用し、被分析物として結合部分又は結合分子を使用して、BIAcore T200装置で表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使用して決定することができる。特異的結合とは、抗体が、所定の抗原又は密接に関連する抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対するその親和性よりも少なくとも10倍低い、例えば少なくとも100倍低い、例えば少なくとも1,000倍低い、例えば少なくとも10,000倍低い、例えば少なくとも100,000倍低いKDに対応する親和性で、所定の抗原に結合することを意味する。親和性が低くなる程度は、結合部位又は結合分子のKDに依存するため、結合部位又は結合分子のKDが非常に低い場合(すなわち、結合部位又は結合分子が高度に特異的である場合)、抗原に対する親和性が非特異的抗原に対する親和性よりも低くなる程度は、少なくとも10,000倍になりうる。用語「KD「(M)は、本明細書で用いられる場合、抗原と結合部分又は結合分子との間の特定の相互作用の解離平衡定数を指す。
【0046】
本発明の文脈では、「競合」又は「競合できる」又は「競合する」は、結合パートナーに結合する別の分子(例えば、異なるPSMA抗体)の存在下で、特定の結合分子(例えば、PSMA抗体)が特定の結合パートナー(例えば、PSMA)に結合する傾向における検出可能に有意な減少を意味する。典型的には、競合は、例えば、2つ以上の競合する分子、例えば抗体の十分な量を用いたELISA分析又はフローサイトメトリーによって決定される、抗体等の別の分子の存在によって引き起こされる結合における少なくとも約25パーセントの減少、例えば少なくとも約50パーセント、例えば少なくとも約75パーセント、例えば少なくとも90パーセントの減少を意味する。競合阻害によって結合特異性を決定するための追加の方法は、例えば、Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1988)、Colliganら編、Current Protocols in Immunology、Greene Publishing Assoc, and Wiley InterScience N. Y.、(1992、1993)、及びMuller、Meth.Enzymol.92、589-601 (1983))の中に見出されうる。一実施形態では、本発明の抗体は、抗体LV1050と同じPSMA上のエピトープ及び/又は抗体5C8又は6H4と同じVδ2上のエピトープに結合する。抗体等の結合分子のエピトープを決定する方法は、当技術分野で知られている。
【0047】
本明細書で用いられる場合、「第1」及び「第2」の抗原結合領域という用語は、抗体におけるそれらの方向/位置を指すものではなく、すなわち、それらはN末端又はC末端に関する意味は持たない。「第1」及び「第2」という用語は、特許請求の範囲及び明細書において、2つの異なる抗原結合領域を正確に一貫して指すためにのみ使用される。
【0048】
「Vγ9Vδ2-TCRに結合できる」とは、結合分子がVγ9Vδ2-TCRを結合できることを意味するが、結合分子が他のサブユニットの非存在下で別個のサブユニットの1つに結合すること、すなわち、Vγ9鎖単独又はVδ2鎖単独に結合することを除外するものではない。例えば、抗体5C8は、Vγ9Vδ2-TCRに結合する抗体であるが、Vδ2鎖が単独で発現される場合、Vδ2鎖にも結合する。この用語はまた、抗体が2つの鎖の組み合わせに対して特異的であることを排除するものもない。
【0049】
「%配列同一性」は、本明細書で用いられる場合、最適なアライメントのために導入する必要があるギャップの数及び各ギャップの長さを考慮し、異なる配列によって共有される同一のヌクレオチド又はアミノ酸位置の数を指す(すなわち、%同一性=同一な位置の数/位置の総数×100)。2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列間のパーセント同一性は、例えば、PAM120の重み残基表、ギャップ長ペナルティ12及びギャップペナルティ4を使用して、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE. MeyersとW. Miller、Comput. Appl. Biosci 4、11-17 (1988)のアルゴリズムを用いて決定されうる。
【0050】
本発明の更なる態様及び実施形態
上記のように、第1の主要な態様において、本発明は、ヒトPSMAに結合できる第1の抗原結合領域と、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体に結合できる第2の抗原結合領域とを含む多重特異性抗体に関する。
【0051】
一実施形態では、多重特異性抗体は二重特異性抗体である。別の実施形態では、第1の抗原結合領域は単一ドメイン抗体である。別の実施形態では、第2の抗原結合領域は単一ドメイン抗体である。更なる実施形態では、第1の抗原-抗原結合領域及び第2の抗原結合領域の両方が単一ドメイン抗体である。更なる実施形態では、多重特異性抗体は二重特異性抗体であり、ここで、第1の抗原結合領域は単一ドメイン抗体であり、第2の抗原結合領域は単一ドメイン抗体である。
【0052】
一実施形態では、多重特異性抗体は、配列番号2に記載の配列を有する抗体と、ヒトPSMAへの結合について競合し(すなわち、競合できる)、好ましくは、多重特異性抗体は、配列番号2に記載の配列を有する抗体と同じヒトPSMA上のエピトープに結合する。一実施形態では、多重特異性抗体は、次のアミノ酸残基の1つ以上又は全てを含むヒトPSMA上のエピトープに結合し、ここで、番号付けはUniProt配列Q04609-1に従う:R190、S197、R204、S317、R320、S322、K324、H618、S631、K729、R730及びY733。更なる実施形態では、第1の抗原結合領域は、配列番号14に記載のVH CDR1配列、配列番号15に記載のVH CDR2配列、及び配列番号16に記載のVH CDR3配列を含む。
【0053】
更なる実施形態において、第1の抗原結合領域はヒト化されており、好ましくは、第1の抗原結合領域は、以下のものを含むか、又はそれからなる:
・配列番号2に記載の配列、又は
・配列番号2に記載の配列に対して少なくとも90%、例えば少なくとも92%、例えば少なくとも94%、例えば少なくとも96%、例えば少なくとも98%の配列同一性を有する配列。
【0054】
上記のように、本発明の多重特異性抗体は、ヒトVγ9Vδ2-T細胞受容体に結合することができる第2の抗原結合領域を含む。一実施形態では、多重特異性抗体は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞を活性化することができる。Vγ9Vδ2 T細胞の活性化は、遺伝子発現及び/又は(表面)マーカー発現(例えば、CD25、CD69、又はCD107a等の活性化マーカー)及び/又は分泌タンパク質(例えば、サイトカイン又はケモカイン)プロファイルを通じて測定されうる。好ましい実施形態では、多重特異性抗体は、活性化(例えば、CD69及び/又はCD25発現のアップレギュレーション)を誘導することができ、これは、Vγ9Vδ2 T細胞によるCD107a発現(例えば、実施例5を参照)及び/又はサイトカイン産生(例えば、TNFα、IFNγ)の増加によって特徴付けられる脱顆粒をもたらす。好ましくは、本発明の多重特異性抗体は、本明細書の実施例5に記載のように試験した場合、CD107a陽性細胞の数を少なくとも2倍、例えば少なくとも5倍増加させることができる。別の好ましい実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、CD107a陽性細胞の割合を増加させることに関して、本明細書の実施例5に記載されるようにしてVγ9Vδ2 T細胞とLNCaP標的細胞を用いて試験した場合、50pM以下、例えば25pM以下、例えば20pM以下、例えば15pM以下、例えば10pM以下、又は更には5pM以下、例えば2pM以下又は1pM以下のEC50値を有する。
【0055】
本発明の多重特異性抗体の一実施形態では、多重特異性抗体はヒトVδ2に結合することができる。Vδ2は、Vγ9Vδ2-TCRのデルタ鎖の一部である。ヒトVδ2に結合することができる抗体は、Vδ2領域内に完全に位置するエピトープ、又はVδ2領域の残基とデルタ鎖の定常領域の残基との組み合わせであるエピトープに結合しうる。別の実施形態では、多重特異性抗体はヒトVγ9に結合することができる。Vγ9は、Vγ9Vδ2-TCRのガンマ鎖の一部である。ヒトVγ9に結合することができる抗体は、Vγ9領域内に完全に位置するエピトープ、又はVγ9領域の残基とガンマ鎖の定常領域の残基との組み合わせであるエピトープに結合しうる。Vδ2又はVγ9に結合するいくつかのそのような抗体は、WO2015156673に記載されており、それらの抗原結合領域、少なくともそのCDR配列は、本発明の多重特異性抗体に組み込まれ得る。Vγ9Vδ2-TCR結合領域が由来しうる抗体の他の例は、TCR Vγ9抗体7A5(ThermoFisher社)(Obergら、(2014) Cancer Res 74:1349)及び抗体B1.1(ThermoFisher社)及び5A6.E9(ATCC HB 9772)であり、どちらもNeumanら、(2016) J Med Prim 45:139に記載されている。
【0056】
一実施形態では、多重特異性抗体は、配列番号5に記載の配列を有する抗体とヒトVδ2への結合について競合するか、又は配列番号20に記載の配列を有する抗体とヒトVδ2への結合について競合する。更なる実施形態では、多重特異性抗体は、配列番号5に記載の配列を有する抗体と同じヒトV2上のエピトープに結合するか、又は配列番号20に記載の配列を有する抗体と同じヒトV2上のエピトープに結合する。
【0057】
本発明の多重特異性抗体の一実施形態では、第2の抗原結合領域は、配列番号17に記載のVH CDR1配列、配列番号18に記載のVH CDR2配列及び配列番号19に記載のVH CDR3配列を含むか、又は配列番号21に記載のVH CDR1配列、配列番号22に記載のVH CDR2配列及び配列番号23に記載のVH CDR3配列を含む。
【0058】
本発明の多重特異性抗体の一実施形態では、第2の抗原結合領域はヒト化されている。
【0059】
更なる実施形態では、第2の抗原結合領域は、以下を含むか、又はそれからなる:
・配列番号5に記載の配列、又は
・配列番号5に記載の配列に対して少なくとも90%、例えば少なくとも92%、例えば少なくとも94%、例えば少なくとも96%、例えば少なくとも98%の配列同一性を有する配列。
【0060】
本発明の多重特異性抗体の一実施形態では、第1の抗原結合領域は、配列番号14に記載のVH CDR1配列、配列番号15に記載のVH CDR2配列及び配列番号16に記載のVH CDR3配列を含み、第2の抗原結合領域は、配列番号17に記載のVH CDR1配列、配列番号18に記載のVH CDR2配列及び配列番号19に記載のVH CDR3配列を含む。
【0061】
本発明の多重特異性抗体の別の実施形態では、第1の抗原結合領域は、配列番号14に記載のVH CDR1配列、配列番号15に記載のVH CDR2配列及び配列番号16に記載のVH CDR3配列を含み、第2の抗原結合領域は、配列番号21に記載のVH CDR1配列、配列番号22に記載のVH CDR2配列及び配列番号23に記載のVH CDR3配列を含む。
【0062】
一実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を通して、PSMA発現細胞、例えばLNCaP細胞、22Rv1細胞又はVCaP細胞の殺傷を媒介することができる。好ましくは、抗体は、本明細書の実施例6に記載のようにして試験した場合、50pM以下、例えば25pM以下、例えば20pM以下、例えば15pM以下、例えば10pM以下、又は更には5pM以下、例えば2pM以下又は1pM以下のEC50値で、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を介してLNCaP細胞の殺傷を誘導することができる。
【0063】
別の実施形態では、抗体は、本明細書の実施例13に記載のようにして、好ましくは1:1及び1:10の両方のエフェクター対標的細胞比で、24時間後に試験した場合、50pM以下、例えば25pM以下、例えば20pM以下、例えば15pM以下のEC50値で、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を介してLNCaP、22Rv1、又はVCaP細胞の殺傷を誘導することができる。
【0064】
別の実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、本明細書の実施例7に記載のようにして試験した場合、50nM以下、例えば20nM以下、例えば10nM以下のEC50でPSMA陽性前立腺癌細胞株LNCaPに結合することができる。別の実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、本明細書の実施例7に記載のようにして試験した場合、10nM以下、例えば5nM以下、例えば2nM以下のEC50でVγ9Vδ2 T細胞に結合することができる。別の実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、本明細書の実施例11に記載のようにして試験した場合、100nM以下、例えば50nM以下のKD値で組換えヒトPSMAタンパク質に結合することができる。別の実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、本明細書の実施例11に記載のようにして試験した場合、10nM以下、例えば5nM以下、例えば2nM以下、例えば1nM以下のKD値でヒトVγ9Vδ2-Fcに結合することができる。
【0065】
更なる実施形態では、多重特異性抗体は、前立腺癌患者からのヒトPSMA発現細胞の殺傷を媒介することができる。前立腺癌患者からのヒトPSMA発現細胞の殺傷は、例えば、本明細書の実施例10に記載されているようにして決定されうる。一実施形態では、本発明の多重特異性抗体は、本明細書の実施例10又は実施例14に記載のアッセイで決定されるように、50nMの濃度で25%超、例えば50%超の特異的細胞死を媒介することができる。
【0066】
更なる実施形態では、多重特異性抗体は、PSMA陰性ヒト細胞等のPSMA陰性細胞の殺傷を媒介することができない。別の実施形態では、多重特異性抗体は、本明細書の実施例16に記載のようにして試験した場合、健康なドナーからの全血において、280nMまでの濃度でIL-2、IL-4、IL-6、IL-10又はTNFαを誘導しない。別の実施形態では、多重特異性抗体は、本明細書の実施例16に記載のようにして試験した場合、健康なドナーからの全血において、Campath(登録商標)に比べて10分の1よりも低いIL-8及び/又は50分の1よりも低いIFNγを誘導する。
【0067】
一実施形態において、第1の抗原結合領域及び第2の抗原結合領域は、ペプチドリンカー、例えば、1~20個のアミノ酸、例えば1から10個のアミノ酸、例えば2、3、4、5、6、7、8又は10個のアミノ酸の長さを有するリンカーを介して互いに共有結合されている。一実施形態では、ペプチドリンカーは、配列番号6に記載の配列GGGGSを含むか、又はそれからなる。
【0068】
いくつかの実施形態では、ヒトPSMAと結合することができる第1の抗原結合領域は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞受容体と結合することができる第2の抗原結合領域のN末端に位置している。
【0069】
本発明の一実施形態では、多重特異性抗体は、半減期延長ドメインを更に含む。一実施形態では、多重特異性抗体は、ヒト対象に投与された場合に約168時間よりも長い終末半減期を有する。最も好ましくは、終末半減期は336時間以上である。抗体の「終末半減期」は、本明細書で用いられる場合、ポリペプチドの血清濃度がin vivoにおける除去の最終段階において50%減少するのにかかる時間を指す。
【0070】
一実施形態では、多重特異性抗体はFc領域を含む。二重特異性抗体を作製するための様々な方法が当技術分野で記載されており、例えば、BrinkmannとKontermann、(2017) MAbs 9:182による総説がある。本発明の一実施形態では、Fc領域は2つのFcポリペプチドを含むヘテロダイマーであり、第1の抗原結合領域が第1のFcポリペプチドに融合しており、第2の抗原結合領域が第2のFcポリペプチドに融合しており、第1及び第2のFcポリペプチドがホモダイマーの形成よりもヘテロダイマーの形成を優先する非対称アミノ酸変異を含む(例えば、Ridgwayら、(1996) 'Knobs-into-holes' engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization. Protein Eng 9:617を参照)。本発明の更なる実施形態では、FcポリペプチドのCH3領域は、前記非対称アミノ酸変異を含み、好、第1のFcポリペプチドがT366W置換を含み、第2のFcポリペプチドがT366S、L368A及びY407V置換を含むか、又はその逆を含み、アミノ酸位置がEU番号付けシステムによるヒトIgG1に対応する。更なる実施形態では、第1及び第2のFcポリペプチド中の220位のシステイン残基が欠失又は置換されており、そのアミノ酸位置がEU番号付けシステムによるヒトIgG1に対応する。更なる実施形態では、領域は配列番号10に記載の配列を含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のFcポリペプチドは、抗体を不活性にする、すなわち、エフェクター機能を媒介できなくする変異を含む。一実施形態では、第1及び第2のFcポリペプチドは、234位及び/又は235位に変異を含み、好ましくは第1及び第2のFcポリペプチドがL234F及びL235E置換を含み、アミノ酸位置がEU番号付けシステムによるヒトIgG1に対応する。
【0072】
好ましい実施形態では、第1の抗原結合領域は、配列番号2に記載の配列を含み、第2の抗原結合領域は、配列番号5に記載の配列を含み、そして
・第1のFcポリペプチドが配列番号12に記載の配列を含み、第2のFcポリペプチドが配列番号13に記載の配列を含むか、又は
・第1のFcポリペプチドが配列番号12に記載の配列を含み、第2のFcポリペプチドが配列番号13に記載の配列を含む。
【0073】
更なる実施形態では、抗体は、配列番号25及び配列番号26に記載の配列を含むか、又はそれらからなる。
【0074】
更なる主要な態様において、本発明は、本明細書に記載の本発明による多重特異性抗体と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0075】
抗体は、(Roweら、Handbook of Pharmaceutical Excipients、2012 June、ISBN 9780857110275)に開示されているもののような従来的な技術に従って、薬学的に許容される賦形剤を用いて製剤化されうる。薬学的に許容される賦形剤、並びに他の担体、希釈剤又はアジュバントは、抗体及び選択された投与様式に適したものであるべきである。医薬組成物の賦形剤及び他の成分に対する適合性は、選択された抗体又は本発明の医薬組成物の所望の生物学的特性に対して著しい負の影響がないこと(例えば、抗原結合時の実質的に取るに足らない影響(10%以下の相対的阻害、5%以下の相対的阻害等))に基づいて判断される。
【0076】
医薬組成物は、希釈剤、充填剤、塩、バッファー、界面活性剤(例えば、Tween-20又はTween-80等の非イオン性界面活性剤)、安定剤(例えば、糖又はタンパク質を含まないアミノ酸)、保存剤、組織固定剤、可溶化剤、及び/又は医薬組成物中に含めるのに適した他の材料を含んでいてもよい。更なる薬学的に許容される賦形剤は、本発明の抗体と生理学的に適合する、あらゆる適切な溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、等張化剤、抗酸化剤、吸収-遅延剤等を含む。
【0077】
一実施形態では、医薬組成物は、本発明の多重特異性抗体(好ましくは、Fc領域を含む抗体)、バッファー、及び抗酸化剤を含み、組成物のpHは5.4から7.4の間、例えば5.4から6.1の間である。
【0078】
更なる実施形態では、医薬組成物は、本発明の多重特異性抗体、バッファー及びメチオニンを含み、組成物のpHは5.4から7.4の間、例えば5.4から6.1の間である。
【0079】
更なる実施形態において、医薬組成物は、本発明の多重特異性抗体、バッファー、スクロース、ポリソルベート80及びメチオニンを含み、組成物のpHは5.4から7.4の間、例えば5.4から6.1の間である。
【0080】
更なる実施形態では、医薬組成物は、本発明の多重特異性抗体、ヒスチジン又は酢酸ナトリウムバッファー、スクロース、ポリソルベート80及びメチオニンを含み、組成物のpHは5.4から7.4の間、例えば5.4から6.1の間である。
【0081】
好ましくは、バッファー濃度は、5から25mMの間、例えば10mMである。好ましくは、スクロース濃度は、100から500mMの間、例えば250mMから300mMの間、例えば280mMである。好ましくは、ポリソルベート80の濃度は、0.005%から0.1%の間、例えば0.01%から0.05%の間、例えば0.02%である。好ましくは、メチオニン濃度は、0.2mMから5mMの間、例えば0.5mMから2mMの間、例えば1mMである。好ましくは、組成物中の多重特異性抗体はFc領域を含む。
【0082】
したがって、好ましい実施形態では、医薬組成物は、Fc領域を含む本発明の多重特異性抗体、ヒスチジン又は酢酸ナトリウムバッファー、スクロース、ポリソルベート80及びメチオニンを含み、組成物のpHは5.4から7.4の間、例えば5.4から6.1の間である。
【0083】
したがって、更に好ましい実施形態では、医薬組成物は、Fc領域を含む本発明の多重特異性抗体、10Mのヒスチジン又は酢酸ナトリウムバッファー、280mMのスクロース、0.02%のポリソルベート80及び1mMのメチオニンを含み、組成物のpHは5.5又は6.0である。
【0084】
好ましくは、そのようなFc領域は、2つのFcポリペプチドを含むヘテロダイマーであり、第1の抗原結合領域が第1のFcポリペプチドに融合しており、第2の抗原結合領域が第2のFcポリペプチドに融合しており、第1及び第2のFcポリペプチドがホモダイマーの形成よりもヘテロダイマーの形成を優先する非対称アミノ酸変異を含む。好ましくは、FcポリペプチドのCH3領域は、前記非対称アミノ酸変異を含み、好ましくは、第1のFcポリペプチドがT366W置換を含み、第2のFcポリペプチドがT366S、L368A及びY407V置換を含むか、又はそれぞれ逆を含む。更に、好ましくは、第1及び第2のFcポリペプチド中の220位のシステイン残基は、欠失又は置換されており、及び/又は第1及び第2のFcポリペプチドは更に234位及び/又は235位に変異を含み、好ましくは第1及び第2のFcポリペプチドは、L234F及びL235E置換を含む。
【0085】
更に好ましくは、組成物中の多重特異性抗体は、配列番号2に記載の配列を含む第1の抗原結合領域、配列番号5に記載の配列を含む第2の抗原結合領域を含み、そして
・第1のFcポリペプチドが配列番号12に記載の配列を含み、第2のFcポリペプチドが配列番号13に記載の配列を含むか、又は
・第1のFcポリペプチドが配列番号12に記載の配列を含み、第2のFcポリペプチドが配列番号13に記載の配列を含み、
そして、医薬組成物は、10Mのヒスチジン又は酢酸ナトリウムバッファー、280mMのスクロース、0.02%のポリソルベート80及び1mMのメチオニンを含み、組成物のpHは5.5又は6.0である。好ましくは、抗体の濃度は、0.1mg/mlから20mg/mlの間、例えば0.1から10mg/mlの間、例えば0.5mg/mlから2mg/mlの間、例えば1mg/mlである。
【0086】
更なる主要な態様において、本発明は、医薬として使用するための本明細書に記載の本発明による多重特異性抗体に関する。
【0087】
本発明による多重特異性抗体は、Vγ9Vδ2 T細胞による腫瘍細胞、特にPSMA陽性腫瘍細胞の死滅に有益な微小環境を作り出すことを可能にする。
【0088】
したがって、好ましい実施形態では、多重特異性抗体は、癌の治療に使用するためのものである。更に好ましい実施形態では、多重特異性抗体は、転移性又は非転移性の前立腺癌等の前立腺癌の治療に使用するためのものである。別の実施形態では、多重特異性抗体は、大腸癌、肺癌、乳癌、子宮内膜癌及び卵巣癌、胃癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、肝細胞癌、口腔扁平上皮癌、甲状腺腫瘍及びグリオブラストーマを含む、原発性又は転移性腫瘍の腫瘍新生血管又は腫瘍関連内皮細胞上にPSMAが発現される癌の治療に用いるためのものである。別の実施形態では、多重特異性抗体は、頭頸部の腺様嚢胞癌の治療に使用するためのものである。
【0089】
同様に、本発明は、本明細書に記載の本発明による多重特異性抗体を、それを必要とするヒト対象に投与することを含む、疾患を治療する方法に関する。一実施形態では、疾患は、前立腺癌等の癌、例えば、転移性又は非転移性の前立腺癌である。
【0090】
いくつかの実施形態では、抗体は単剤療法として投与される。しかしながら、本発明の抗体は、併用療法、すなわち、治療される疾患又は状態に関連する他の治療薬と組み合わせて投与されてもよい。
【0091】
「治療」又は「治療すること」は、症状又は疾患状態を緩和、改善、停止、根絶(治癒)又は予防する目的で、本発明による抗体の有効量を投与することを指す。「有効量」は、所望の治療結果を達成するのに必要な投与量及び期間において有効な量を指す。抗体等のポリペプチドの有効量は、個体の疾患ステージ、年齢、性別、体重等の因子、及び個体において所望の反応を引き出す抗体の能力に従って変動しうる。有効量はまた、抗体の毒性又は有害な効果が、治療上の有益な効果によって凌駕される量でもある。本発明の抗体の有効量に関する例示的な非限定的範囲は、約0.1μg/kgから100mg/kg、例えば約1μg/kgから50mg/kg、例えば約0.01から20mg/kg、例えば約0.1から10mg/kg、例えば約0.5、約0.3、約1、約3、約5、又は約8mg/kgである。投与は、任意の適切な経路によって行われうるが、典型的には、静脈内、筋肉内、又は皮下等、非経口的である。
【0092】
本発明の多重特異性抗体は、典型的には、組換えによって、すなわち、適切な宿主細胞における抗体をコードする核酸構築物の発現と、それに続く、産生された組換え抗体の細胞培養物からの精製によって製造される。核酸構築物は、当技術分野で周知の標準的な分子生物学的手法によって生成され得る。構築物は、典型的には、発現ベクターを使用して宿主細胞中に導入される。適切な核酸構築物及び発現ベクターは、当技術分野で知られている。抗体の組換え発現に適した宿主細胞は、当技術分野で周知であり、CHO、HEK-293、Expi293F、PER-C6、NS/0及びSp2/0細胞を含む。
【0093】
したがって、更なる態様において、本発明は、本発明による多重特異性抗体をコードする核酸構築物に関する。一実施形態では、構築物はDNA構築物である。別の実施形態では、構築物はRNA構築物である。
【0094】
更なる態様において、本発明は、本発明による多重特異性抗体をコードする核酸構築物を含む発現ベクターに関連する。
【0095】
更なる態様において、本発明は、本発明による多重特異性抗体をコードする1つ以上の核酸構築物又は本発明による多重特異性抗体をコードする核酸構築物を含む発現ベクターを含む、宿主細胞、すなわち、哺乳動物宿主細胞等の組換え宿主細胞、好ましくはCHO細胞に関する。
【0096】
したがって、更なる態様において、本発明は、哺乳動物宿主細胞等の適切な宿主細胞、例えばCHO細胞において、多重特異性抗体をコードする1つ以上の核酸構築物を(共)発現させること、それに続いて、細胞培養物又は細胞の除去後の上清から生成された組換え抗体を精製することによる、本発明の多重特異性抗体、好ましくはFc領域を含む本発明の多重特異性抗体の製造に関する。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【実施例】
【0106】
(実施例1)
PBMCの分離とヒトドナー由来のVγ9Vδ2-T細胞培養の生成
健康なドナーボランティアから全血を採取した。或いは、Sanquin血液供給サービスからバフィーコートを入手し、末梢血単核細胞(PBMC)の分離に使用した。Lymphoprep(商標)密度勾配遠心を使用してPBMCを分離した。次に、FITC標識抗TCR Vδ2マウスモノクローナル抗体(Mab)とヤギ抗マウスIgGマイクロビーズを併用した磁気活性化セルソーティング(MACS)によって、健康なドナーPBMCからVγ9Vδ2-T細胞を分離した。精製したVγ9Vδ2-T細胞を、10IU/mLのIL-7、10ng/mLのIL-15及び50ng/mlのPHAを添加したロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地に再懸濁した2人の健康なドナーから得た照射済みPBMCとエプスタインバーウイルスで形質転換したB細胞(JY)からなるフィーダー細胞混合物を用いて、7日ごとに刺激した。増殖させたVγ9Vδ2-T細胞培養物は、実験に使用する前に常に純度を試験し、常に95%を越えるVγ9及びVδ2二重陽性であることが見出された。
【0107】
(実施例2)
抗PSMA VHH JVZ-007及び抗Vγ9Vδ2 VHH 5C8のヒト化
ラクダ科動物由来の抗PSMA VHH JVZ-007(LV1044;配列番号1)(J Nucl Med. 2015 Jul; 56(7):1094-9, supplemental data)のアミノ酸配列をヒトV遺伝子データベースとアライメントし、最も近いヒト生殖細胞系のマッチがIGHV3-74*01であることが判明した。ヒトとラマ由来の配列間のフレームワーク領域における配列の違いに基づいて、2つのヒト化バリアント(配列番号2~3)を設計した(
図1のアライメントを参照)。
【0108】
次いで、JVZ-007及びこれらの2つのバリアントを、抗Vγ9Vδ2 VHH 5C8(WO2015156673に記載のVδ2結合抗体)(配列番号4)又は5C8のヒト化バリアントである5C8var1(配列番号5)と二重特異性VHHフォーマットで組み合わせた:抗PSMA VHH-リンカー-抗Vγ9Vδ2 VHH。リンカーの配列はGGGGS(配列番号6)であった。いくつかの構築物では、3つのアラニン残基が先行するC末端Cタグ(EPEA配列)が、精製及び検出の目的で追加された。得られた構築物の配列が配列番号7~9に記載されている。
【0109】
(実施例3)
二重特異性VHHフォーマットの半減期延長バージョンの設計
Fcを含むフォーマットに基づいて、二重特異性VHHフォーマットの半減期延長バージョンを設計した。VHH配列を、わずかに改変したヒトIgG1ヒンジ領域に結合した:アミノ酸残基216~230(EUナンバリング)をAAASDKTHTCPPCP(配列番号10)に変更した。これにより、通常は他の重鎖に架橋するシステインが省略され、「EPK」上部ヒンジ配列が3つのアラニンに置き換えられる。この改変ヒンジをIgG1(G1m17、G1m(z)アロタイプ配列)-CH2及び-CH3配列(配列番号11)に結合した。CH2配列は、Fcサイレンシング変異(L234F、L235E)を含むように改変し、CH3配列は、「ノブ(knob)」変異(T366W)(配列番号12)、又は「ホール(hole)」を作り出す3つの変異(T366S、L368A及びY407V)(配列番号13)のいずれかを含むように改変した。このknob-into-hole(KiH)技術は、2つの鎖の優先的なヘテロ二量体化を誘導する。得られた構築物を
図2に模式的に示す。
【0110】
(実施例4)
二重特異性VHH分子及びFc含有構築物のクローニング、発現及び精製
二重特異性VHH分子のアミノ酸配列をcDNAに逆翻訳し、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化した。調節エレメント:N末端のKozak配列とC末端の終止コドン(クローニングのためのBamH1及びNot1制限部位を含む)を追加し、cDNAを合成遺伝子として作製した。cDNAを適切なベクターにクローニングし、その配列を確認した。得られたプラスミドをHEK293_E細胞に一過性にトランスフェクトすることにより、タンパク質の発現を行った。プロテインAアフィニティークロマトグラフィー及び調製的サイズ排除クロマトグラフィーにより、培養上清からタンパク質を精製した。
【0111】
Fc含有構築物の2つのタンパク質鎖のアミノ酸配列をコード化cDNAに逆翻訳し、必要な調節エレメントを追加し(Kozak配列、終止コドン、及びBamH1及びNot1クローニング部位)、そしてcDNAを発現のためにコドン最適化した。cDNAを合成遺伝子合成によって作成し、cDNAを適切なベクターに別々にクローニングすることによって、2つのタンパク質鎖のいずれかをコードする発現プラスミドを作成した。得られたプラスミドの配列を検証し、異なる比率の2つのプラスミド(1:2、1:1、及び2:1)を使用して、懸濁液中で増殖させたCHO細胞をトランスフェクトするために使用した。分泌されたタンパク質をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使用して培養上清から精製し、PBSにバッファー交換した。タンパク質を調製的サイズ排除クロマトグラフィーによって更に精製した。
【0112】
(実施例5)
抗PSMA VHH JVZ-007のヒト化バリアントの試験
ヒト化バリアントを含む精製二重特異性VHHを、標的依存的T細胞活性化を誘導する能力について、4時間の脱顆粒アッセイにおいて試験した。Vγ9Vδ2 T細胞を、磁気活性化セルソーティング(MACS)によってPBMCから単離し、実施例1に記載のようにして増殖させた。実験に使用する増殖させたVγ9Vδ2 T細胞は、常に純度をチェックし、FACSでVγ9及びVδ2染色について95%を超える二重陽性であることが判明した。純化し、増殖させたVγ9Vδ2 T細胞を、同数のPSMA陽性LNCaP(ATCC、カタログ番号CRL-1740)標的細胞(エフェクター:標的(E:T)細胞比1:1)及び一定濃度範囲の二重特異性構築物と共にインキュベートした。4時間のインキュベーション後、CD107aを発現するT細胞の割合をFACSで染色することにより決定した。
【0113】
図3は、PSMA VHH JVZ-007のヒト化バリアントが、抗原陽性細胞株LNCaPに依存的なVγ9Vδ2 T細胞の脱顆粒を誘導する強力な効力を示したことを示している。しかしながら、単一の高濃度の二重特異性構築物は、抗原陰性細胞株PC-3を使用した場合には、T細胞の有意な活性化を引き起こさなかった。
【0114】
(実施例6)
二重特異性VHH及びFc含有対応物によって媒介される細胞毒性
二重特異性VHH LV1050-5C8var1の2つのVHH配列を、上記のようにヒトIgG1 Fcを含む半減期延長分子へとフォーマットを改め、配列番号25及び配列番号26(5C8var1-Fc及びLV1050-Fc)に記載の構築物を得た。
【0115】
二重特異性VHH構築物LV1050-5C8var1とFc含有対応物5C8var1-Fc×LV1050-Fc(本明細書ではLV1050-Fc×5C8var1とも呼ばれる)の両方を、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を介してLNCaP細胞の細胞毒性を誘導する能力について試験した。
【0116】
図4は、二重特異性VHHと、同じVHH配列を含むFc含有対応物の両方が、1:1のE:T比で24時間後に100%の腫瘍細胞溶解を誘導できたことを示している。元の抗PSMA VHH JVZ-007を含む二重特異性VHH LV1044-5C8は、ヒト化バージョンのLV1050-5C8var1と同じくらい強力であり、これらは両方とも、Fcを含む対応物の5C8var1-Fc×LV1050-Fcよりもわずかに強力であった。検出されたEC50値は、LV1050-5C8var1及びLV1044-5C8でそれぞれ2.2pM及び1.6pM、5C8var1-Fc×LV1050-Fcで10.5pMであった。その後の実験では、C末端リジンを発現目的でFc含有鎖をコードする両方の構築物に付加し、配列番号27及び配列番号28に記載のコード配列を得た。生成されたポリペプチドの分析は、C末端リジンが切り取られており(データは示さず)、C末端リジンをコードしない構築物から生成されたものと同一のポリペプチドが得られたことを明らかにした。
【0117】
(実施例7)
FACSにおけるLV1050-Fc×5C8var1-Fcの標的陽性細胞への結合
二重特異性Fc含有構築物5C8var1-Fc×LV1050-Fcを、上記のようにしてクローニングして発現させ、精製した。PSMAへの分子の結合を試験するために、PSMA陽性前立腺癌細胞株LNCaP及び抗原陰性細胞株PC-3への結合について、一定の濃度範囲の抗体を試験した。検出はポリクローナル抗ヒトIgG抗体を用いて行った。
【0118】
LV1050-Fc×5C8var1-FcのVγ9Vδ2 T細胞への結合を試験するため、一定の濃度範囲の化合物(100nM及びその半対数希釈)を、VHHに向けられた2種類のモノクローナル抗体(45H8と96A3F5;Genscript、カタログ番号はそれぞれCP001/18L001614及びA01994)による検出を用いて、FACS染色において結合について試験した。
【0119】
図5は、分子がPSMA陰性細胞株PC-3を測定可能に染色せず、LNCaP細胞への強い結合を示したことから、PSMAに特異的に結合することを示している(左のパネル)。結合のEC50は7.3nMであると測定された。Vγ9Vδ2 TCRに対する親和性は、FACSによって1.7nMであると測定された(右のパネル)。
【0120】
(実施例8)
リード二重特異性抗体LV1050-Fc×5C8var1-Fcは強力な標的依存的T細胞活性化と標的細胞溶解を誘導する
二重特異性T細胞エンゲージャーの効力を測定するために、標的陽性LNCaP細胞を一定の濃度範囲の分子と一定数のVγ9Vδ2 T細胞(エフェクター:標的比1:1)と共にインキュベートした。次いで、4時間のインキュベーション後に、T細胞上のCD107a発現についてFACSで染色することにより、T細胞活性化を測定した。細胞毒性は、FACS(7AAD染色)で生細胞数を測定することにより、24時間後に測定した。
図6は、LV1050-Fc×5C8var1-Fcが、CD107a発現によって証明される強力なT細胞活性化を誘導することを示している。更に、これは、LNCaP標的細胞に対する強力な細胞毒性効果をもたらした。検出された細胞毒性のEC50値は、試験した両方の二重特異性VHH分子で実質的に同じであり(LV1044-5C8(この実験ではAAAEPEAタグなしで生成)及びLV1050-5C8var1について1.9pM)、LV1050-Fc×5C8var1-Fcではわずかに高かった(9.4pM)。
【0121】
(実施例9)
患者由来の腫瘍及び正常組織におけるVγ9Vδ2-T細胞の頻度及びリガンドの発現
前立腺腫瘍組織を、非転移性前立腺癌患者から根治的前立腺切除術の後に得た。肉眼で見て正常な組織と腫瘍組織の両方を分析した。組織を外科用刃物で小片に切断し、0.1%のDNAse I(Roche社)、0.14%のコラゲナーゼA、100IU/mLのペニシリンナトリウム/100μg/mLの硫酸ストレプトマイシン/2.0mMのLグルタミン及び5%のFCSを添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)から構成される解離培地に再懸濁させた。組織片を無菌フラスコに移し、マグネチックスターラー上で37度で45分間インキュベートした。このインキュベーションの後、細胞懸濁液を100μMのセルストレーナーに通した。腫瘍組織を合計3回、正常組織を合計2回解離させた後、細胞を洗浄し、トリパンブルー排除法を使用して生細胞をカウントするために準備した。解離した腫瘍組織と正常組織を、AF700標識抗CD45 Mab、PerCP-Cy5.5標識抗CD3 mAb、APC標識抗TCR Vγ9 mAb、BV711標識抗TCR Vδ2 mAbを用いてFACSにおいて染色し、Vγ9Vδ2-T細胞の存在を分析した。腫瘍細胞及び正常細胞における標的EpCAM、PSMA及びCD277の発現を、BV421標識抗EpCAM Mab、FITC標識抗PSMA Mab及びPE標識抗CD277 Mabを用いて決定した。
【0122】
図7は、腫瘍組織と正常組織の間でPSMAとCD277の両方の発現に有意差があることを示している。切除された組織を肉眼的に検査し、腫瘍又は正常組織であると定義した。これは、FACSにおける腫瘍のEpCAM陽性染色がPSMAの発現と相関していることから、更に裏付けられた。PSMAは正常組織にはほとんど存在せず、解離した腫瘍細胞において有意に発現していた。CD277(BTN3A)の発現も腫瘍でより高度に発現していたが、その差には統計的有意性が無かった。対照的に、腫瘍組織と正常組織の両方におけるVγ9Vδ2-T細胞の頻度は、ほぼ同等であり、正常組織の割合がわずかに高かった。
【0123】
(実施例10)
患者由来標的細胞を用いたLV1044-5C8の機能解析
二重特異性構築物が患者由来の標的細胞に対するVγ9Vδ2-T細胞の細胞毒性を媒介する可能性を判断するため、解離した腫瘍細胞及び正常細胞の懸濁液を、50nMの化合物及び1:1のエフェクター:ターゲット(E:T)の比率でのVγ9Vδ2-T細胞培養と共に、又は伴わずに、37℃で24時間インキュベートした。生きている標的細胞の数は、生死マーカー7AADと123 count eBeadsを使用して決定した。
【0124】
図8は、Vγ9Vδ2 T細胞が、標的及びVγ9Vδ2 T細胞に依存的に患者由来の腫瘍細胞の腫瘍細胞死滅を誘導できたことを示している。PSMA発現がほとんどない正常組織は、50nMの二重特異性抗体の存在下でも、Vγ9Vδ2 T細胞の影響を受けなかった。しかしながら、PSMA陽性腫瘍細胞は、24時間後に有意に死滅したが、それはエフェクター細胞と二重特異性抗体の両方が存在する場合のみであった。
【0125】
(実施例11)
バイオレイヤー干渉法を使用したヒトPSMA及びVγ9Vδ2 TCRに対するLV1050-Fc×5C8var1-Fcの親和性決定
組換えヒトPSMA及びヒトVγ9Vδ2 TCRに対するLV1050-Fc×5C8var1-Fcの親和性を、バイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して決定した。リガンドとして、12.5μg/mLのビオチン化hPSMA又は5μg/mLのhVγ9Vδ2-Fc(配列番号31及び32からなる)をストレプトアビジンバイオセンサーにロードした。被分析物としては、LV1050-Fc×5C8var1-Fcの2倍連続希釈液を用いた:リガンドhPSMAとの組み合わせでは3.125から200nMの範囲;リガンドhVγ9Vδ2-Fcとの組み合わせでは0.03125から20nMの範囲。Table 2(表5)に示されているように、LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、ヒトPSMAに対して32±1.2nMのKD値で結合し、またヒトVγ9Vδ2 TCRに対して0.64±0.16nMのKD値で結合する。
【0126】
【0127】
(実施例12)
エピトープマッピング
LV1050-Fc×5C8var1-Fcに組み込まれているVHHが結合するPSMA上のエピトープを決定するため、LV1050-5C8var1-no-c-tag(配列番号29)(LV1050-Fc×5C8var1-Fcと同一のPSMA結合VHHドメインを含む)をCovalX AGが開発したエピトープマッピング技術(Pimenovaら、(2008) J Mass Spectrom 43:185)において使用した。要するに、組換えPSMAタンパク質(配列番号30)をLV1050-5C8var1-no-c-tagに結合させ、架橋し、異なるプロテアーゼに暴露し、得られたペプチドを、架橋したかどうかにかかわらず、高分解能質量分析によって分析した。
【0128】
結果は、VHHが
図9に示されている立体構造エピトープに結合することを実証した。以下の残基が抗体と直接相互作用することが判明した:R149、S156、R163、S276、R279、S281、K283、H577、S590、K688、R689、及びY692。これらの残基は、UniProt配列Q04609-1の残基R190、S197、R204、S317、R320、S322、K324、H618、S631、K729、R730、及びY733に対応する。FOLH1遺伝子において同定されている稀な一塩基多型(SNP)はいずれもエピトープ中に存在せず、LV1050-5C8var1-no-c-tag、したがって、LV1050-Fc×5C8var1-Fcが、関連する全ての同定された標的のSNPバリアントと結合できることが示唆された。
【0129】
(実施例13)
腫瘍由来細胞株を用いたLV1050-Fc×5C8var1-Fcの更なる機能解析
LV1050-Fc×5C8var1-FcがPSMA依存的Vγ9Vδ2-T細胞活性化を誘導する能力を、脱顆粒マーカーCD107a(LAMP-1)の発現を読み取りとして用いる4時間のin vitroアッセイで決定した。健康なドナーからのPBMCから分離して増殖させたVγ9Vδ2 T細胞を、様々な濃度のLV1050-Fc×5C8var1-Fc(10fMから3.16nMの範囲)の非存在下又は存在下で、PSMA発現前立腺由来癌細胞株LNCaP、VCaP又は22Rv1と共に、1:1のエフェクター:標的細胞比で培養した。細胞を回収し、CD107aの細胞表面発現をフローサイトメトリーによって測定した。全てのPSMA発現腫瘍細胞株の存在下で、LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、pM範囲のEC
50値で非常に強力なVγ9Vδ2-T細胞活性化(
図10)を誘導した(Table 3(表6))。
【0130】
【0131】
次に、死滅中/死滅した腫瘍細胞からの細胞内プロテアーゼの放出を定量化する発光アッセイ(CytoTox-Glo(商標) Cytotoxicity Assay、Promega社)を使用して、同じ共培養において24時間の時点で、LV1050-Fc×5C8var1-Fcが標的依存的なVγ9Vδ2-T細胞媒介性の腫瘍細胞殺傷を誘導する能力を決定した。LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、LNCaP、VCaP及び22Rv1細胞に対して、脱顆粒と同じ範囲のEC
50値(Table 3(表6))で強い標的依存的Vγ9Vδ2-T細胞媒介細胞毒性を誘導した(
図11B)。
【0132】
更に、Vγ9Vδ2-T細胞は、LV1050-Fc×5C8var1-Fc単独(腫瘍細胞の非存在下)では活性化されず、PSMA発現が抑止された腫瘍細胞(LNCaP.koPSMA)の溶解も観察されなかった(
図11A)。
【0133】
LV1050-Fc×5C8var1-Fc(試験した濃度範囲:10fMから3.2nM)の効力に対する異なるE:T比の効果を調べるために、24時間の細胞毒性アッセイにおいて、標的LNCaP細胞の数を一定(すなわち50,000)に保ち、その一方で、異なるE:T比(1:1、1:10及び1:100)を得るために、エフェクターVγ9Vδ2-T細胞の数は変化させた。Table 4(表7)に示されているように、LV1050-Fc×5C8var1-Fcによって誘導されるVγ9Vδ2-T細胞媒介細胞毒性の平均EC50値は、1:1と1:10のE:T比で同等であったが(それぞれ17±13pMと9.9±6.5pM)、1:100のE:T比では、観察された細胞毒性のレベルが低すぎて、EC50値を正確に算出することができなかった。アッセイにおけるLV1050-Fc×5C8var1-Fcの効力(EC50)は影響を受けなかったが、観察された溶解の最大の割合は、1:1のE:T比と比較して、1:10のE:T比では有意に低下していた(データは示さず)。したがって、LV1050-Fc×5C8var1-Fcの効力(すなわち、アッセイで測定されるEC50)は、E:T比の変動によって強い影響は受けない。
【0134】
【0135】
(実施例14)
患者由来標的細胞を用いたLV1050-Fc×5C8var1-Fcの機能解析
患者由来の非転移性前立腺癌組織を入手し、正常(非悪性)及び腫瘍組織を実施例9に記載のようにして処理した。
【0136】
Vγ9Vδ2-T細胞の活性化の指標として、50nMのLV1050-Fc×5C8var1-Fcの存在下又は非存在下で、解離させた前立腺サンプル(正常(非悪性)又は原発腫瘍組織からの0.5~1×105個の解離細胞)中に存在するVγ9Vδ2-T細胞上の脱顆粒マーカーCD107a(LAMP-1;PE標識抗ヒトCD107aを使用して検出、Thermofisher社)のアップレギュレーションを測定した。4時間後、Vγ9Vδ2-T細胞の脱顆粒をCD107a発現によって測定し、フローサイトメトリーベースのアッセイによって分析した(EpCAM-/CD45+/CD3+/Vγ9+/Vδ2+/CD107a+細胞の割合の決定)。
【0137】
また、LV1050-Fc×5C8var1-Fcが、前立腺腫瘍又は正常(非悪性)組織の存在下で培養された自家患者PMBCにおけるVγ9Vδ2-T細胞の脱顆粒を引き起こす能力も決定した。この目的のために、自家PBMCを10:1のエフェクター対標的(E:T;PBMC:前立腺細胞)比で添加し、24時間インキュベートしたことを除いて、上記と同じ方法を使用した。
【0138】
非悪性前立腺組織ではなく、解離させた前立腺癌組織では、LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、組織浸潤Vγ9Vδ2-T細胞の脱顆粒の統計的に有意な増加を誘発した。二重特異性抗体を使用しない組織細胞のインキュベーションと比較して、CD107aを発現するVγ9Vδ2-T細胞の割合が有意に高いことが観察された(
図12A)。正常組織においては、LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、組織浸潤Vγ9Vδ2-T細胞の脱顆粒を誘導しなかった(
図12B)。
【0139】
更に、患者前立腺腫瘍又は正常(非悪性)組織との共培養により自家PMBC中のVγ9Vδ2-T細胞を活性化するLV1050-Fc×5C8var1-Fcの能力を決定した。LV1050-Fc×5C8var1-Fcの存在下での共培養は、腫瘍組織細胞と自家PMBCのみのインキュベーションと比較して、有意に高い割合のCD107a発現Vγ9Vδ2-T細胞をもたらした(
図13A)。LV1050-Fc×5C8var1-Fcを自家PMBC及び正常(非悪性)前立腺組織の培養に添加した場合には、自家PBMCにおけるVγ9Vδ2-T細胞の活性化は観察されなかった(
図13B)。
【0140】
LV1050-Fc×5C8var1-Fcによって誘導される特異的な細胞毒性は、10:1のE:T比を使用したことを除き、実施例10に記載されているようにして、前立腺腫瘍細胞又は正常(非悪性)前立腺細胞と自家PBMCとの共培養において試験した。LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、自家PBMCの存在下で、腫瘍細胞の統計的に有意な溶解を誘導したが、正常(非悪性)前立腺細胞は溶解しなかった(
図14)。
【0141】
(実施例15)
LV1050-Fc×5C8var1-Fcのin vivoにおける治療効果
免疫不全のNCGマウスに、5×106個の22Rv1細胞とヒトPBMCを2:1の比(22Rv1:PBMC)で混合したものを皮下接種した。CD3+ T細胞において異なる頻度のVγ9Vδ2-T細胞を示す2人のドナー、ドナー#1(21.9%のVγ9Vδ2-T細胞)及びドナー#2(8.8%のVγ9Vδ2-T細胞)からのPBMCをこの試験で使用した。LV1050-Fc×5C8var1-Fc(0.2mg/kg又は2mg/kg)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を腫瘍細胞及びPBMCの接種日から毎週(0、7、14及び21日目)にIV投与した。腫瘍サイズをノギスを使用して週に2回2次元で測定した。群の平均腫瘍体積が2,000mm3を超えたときにマウスを屠殺した。
【0142】
ドナー#1からのPBMCを注射したマウスでは、0.2又は2mg/kgでのLV1050-Fc×5C8var1-Fcの投与は、34日目(対照(PBS処置)群のマウスを屠殺したとき:
図15A)に、それぞれ91%及び78%の統計的に有意な腫瘍増殖抑制(TGI)値をもたらした。ドナー#2からのPBMCを注射したマウスの場合、41日目(対応するPBS処置群のマウスを屠殺したとき)に観察されたTGI値は、0.2及び2mg/kgのLV1050-Fc×5C8var1-Fcで処置したマウスでそれぞれ23%及び52%であった(
図15B)。ドナー#2では、投与化合物の最高用量でTGIの統計的有意性が見られた。
【0143】
(実施例16)
全血サイトカイン放出評価
30人の健康なドナーの新鮮な全血を用いて、溶液相アッセイでin vitroサイトカイン放出アッセイを実施した。異なる濃度のLV1050-Fc×5C8var1-Fc(280から8.75nMの範囲)を全血と共に24時間インキュベートし、血漿中の7つのサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IFN-γ、及び腫瘍壊死因子(TNF)α)のレベルをイムノアッセイを使用して測定した。Erbitux(登録商標)(セツキシマブ)とCampath(登録商標)(アレムツズマブ)を、それぞれ臨床で低サイトカイン放出と高サイトカイン放出を誘発する対照化合物としてアッセイに含めた。ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)は、試験した全てのサイトカインの放出に対する陽性アッセイ対照として使用した。
【0144】
その結果の概要をTable 5(表8)に示す。LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、IL-8とIFN-γの放出のみを誘導した。LV1050-Fc×5C8var1-Fcが誘導するIL-8の放出は、患者においてサイトカイン放出症候群(CRS)を引き起こさないことが知られている(又は低レベルのサイトカインを誘導することが知られている)抗体であるErbitux(登録商標)によって誘導されるものと同程度であった。LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、Erbitux(登録商標)と比較して、わずかに高いIFN-γ放出を誘導したが、観察された最も高いIFN-γ放出は、CRSと臨床的に関連する抗体であるCampath(登録商標)によって誘導される放出よりも、はるかに低いものであった。重要なことに、LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、CRSにおける顕著なサイトカインであるIL-6の放出をまったく誘導しなかった(Tanakaら、(2016) Immunotherapy 8: 959)。
【0145】
10名の健常者の新鮮な全血と共にインキュベートする前にLV1050-Fc×5C8var1-Fcを高結合性96ウェルプレートにコーティングしたin vitroサイトカイン放出アッセイでも、同様の結果が得られた。ここで、LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、非常に低い(中央値)レベルのIL-6及びIL-8を誘導したが、これは、低応答の比較対象であるErbitux(登録商標)に匹敵し、TNFαの放出は観察されなかった。LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、試験した化合物の各濃度でErbitux(登録商標)よりも高い(中央値)レベルのIFNγを誘導したが、中央値のレベルはCampath(登録商標)によって誘導されるものよりも大幅に低いものであった。
【0146】
【0147】
In vitroサイトカイン放出アッセイによって30人の健康なドナーの新鮮な血液サンプルで測定された各薬物/用量の組み合わせのサイトカインレベルの中央値(pg/mL)。
【0148】
(実施例17)
薬物動態
LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、ヒトFcドメインを含んでおり、これは、ヒトFcRn受容体への結合による化合物のin vivo半減期を延長させると予想される。これを検証するために、ヒトFcRn Tg32 SCIDマウス(Jackson labs社:JAX)に対して、2mg/kg、5mg/kg、10mg/kgの3回の単回IV投与において、LV1050-Fc×5C8var1-FcをヒトIgG対照と共に投与した。血液サンプルを投与後の異なる時点(5分、8時間、1、3、7、10、14、17、21、及び28日)に回収し、抗原捕捉ELISAを使用してLV1050-Fc×5C8var1-Fcの濃度を評価した。このモデル系で得られた結果は、LV1050-Fc×5C8var1-Fcが、これらのトランスジェニックマウスで140から172時間(5.8~7.2日、
図16)の範囲の半減期を持つことを示しており、これは、IgGベースの抗体がこの系で有する半減期に匹敵する。
【0149】
LV1050-Fc×5C8var1-Fcの薬物動態は、非ヒト霊長類(NHP)においても評価された。3匹のメスのカニクイザルに、LV1050-Fc×5C8var1-Fc(0.14、0.77、及び2.27mg/kg(1用量につき動物1匹))を30分間のIV注入を用いて単回IV投与した。LV1050-Fc×5C8var1-Fcの半減期は、150から166時間(6.3~6.9日)の範囲であり(
図17)、これは、カニクイザルのオーソログ標的に結合しないIgGベースのヒト化抗体の半減期と一致する(Walkerら、(2019) PLOS ONE 14: e0217061)。用量に比例した曝露の増加が観察された。薬物動態パラメータはTable 6(表9)に提供されている。
【0150】
【0151】
(実施例18)
トランスフェクションの比に関係なく均一な産物
LV1050-Fc×5C8var1-Fcの関連する2つの抗体重鎖をコードするcDNAを、製造に適した発現ベクターにそれぞれクローニングした。LV1050-Fc又は5C8var1-Fcを含む発現ベクターの異なる比率、1:1、1:1.25、1:1.5、1.25:1及び1.5:1を、製造に適した細胞のトランスフェクションに使用した。次いで、2つの異なる抗生物質に対する耐性について細胞を選択し、選択した細胞プールから流加生産によって抗体を製造した。生成された抗体のサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)分析は、生成物の純度(二量体含有量)が高いことを明らかにした:分泌されたタンパク質の93.2%から96.4%が、トランスフェクション比に関係なく、予想される分子サイズであった(Table 7(表10)のメインピーク面積)。目的のLAVAヘテロ二量体(LV1050-Fc×5C8var1-Fc)から単量体(LV1050-Fcと5C8var1-Fc)及びホモ二量体(LV1050-Fc×LV1050-Fc及び5C8var1-Fc×5C8var1-Fc)を更に識別するための逆相HPLCd(RP-HPLC)分析を確立した。全てのクローンプールサンプルが、86.1から94.9%という高い含有量の目的のヘテロ二量体LAVA LV1050-Fc×5C8var1-Fcを含むことを明らかになった。クローンプールDGC8-T1P、-T3P、及び-T5Pでは、5C8var1-Fc×5C8var1-Fc二量体の割合の上昇が明らかになった。
【0152】
【0153】
(実施例19)
LV1050-Fc×5C8var1-Fcの形成
選択された細胞クローンから、バイオリアクターシステムでの生成によってLV1050-Fc×5C8var1-Fc産物を取得し、回収及び精製の後、4種類の製剤バッファーを使用して0.5mg/mL及び10mg/mLのタンパク質濃度で製剤化した:
【0154】
【0155】
製剤化されたサンプルを最長12週間、いくつかの保存条件(以下に定義)に付した。更に、いくつかのストレステストを適用した:
・5℃±3℃で保存
・-80℃±10℃で保存
・25℃±2℃/相対湿度(RH)60%±5%での加速保存条件
・40℃±2℃/75% RH±5%での熱ストレス
・凍結/解凍サイクル:サンプルを-80±10℃で完全に凍結させた。続いて、サンプルを室温(15~25℃)で完全に解凍した後、5回の凍結/解凍サイクルを実行した。
・撹拌ストレス:サンプルを室温(EP15℃~25℃)で7日間、240rpmで撹拌した。
・酸化:サンプルに0.01%(v/v)の過酸化水素(H2O2)を添加し、25℃±2℃/60% RH±5%で7日間インキュベートした。
・光安定性:25℃±2℃/60% RH±5%で120万ルクス時及び200ワット時/平方メートルを超える近紫外線エネルギーを適用した。
【0156】
初期(=t0)の5℃±3℃のサンプルを参照として使用した。サンプルを以下の分析方法を使用して分析した:
【0157】
【0158】
経時安定性試験の結果は、透明性、色、pH、A280(UV-VIS)、迷光、SE-HPLC、CIEX-HPLC、CE-SDS及びPSMA結合、差分スキャニング及びペプチドフィンガープリントに関して、-80℃±10℃、5℃±3℃、及び25℃±2℃/60%RH±5%の保存温度において極めて類似していた。測定結果は、選択したバッファー条件において製品が極めて安定であり、経時的にわずかな影響しか観察されなかったことを指し示している。
【0159】
40℃±2℃/75% RH±5%のストレス条件下では、特に5週間で明確な影響が検出され、試験したバッファー及び濃度間での区別が可能であった。40℃±2℃/75% RH±5%で5週間保存したサンプルのCIEX-HPLC分析は、この時点で、全ての試験したバッファー及び製品濃度においてメインのバリアントの含有量が60%未満に低下することを示した。ヒスチジンベースの製剤では、酢酸ベースの製剤と比較して、メインのバリアントの割合にわずかに低い減少が観察された。
【0160】
CE-SDSの結果は、40℃で長期間保存すると、製品のLMW種が最大5%までわずかに増加することを明らかにした。この影響は、バッファー1及び3中10mg/mLのサンプルでわずかにより顕著であった。それにもかかわらず、40℃±2℃/75% RH±5%で5週間という強いストレス条件下でさえも、抗体が非常に安定であることが判明した。
【0161】
40℃±2℃/75% RH±5%の5週間時点でのPSMA結合データは、バッファー1及び3の10mg/mLサンプルについて、EC50の大幅な増加を示した。PSMA結合アッセイで測定されたEC50値の増加は、SE-HPLC分析で観察された相対HMW種量のわずかな増加と相関しており、それぞれ0.3及び0.2%から0.6及び0.7%であった。
【0162】
ストレス試験(凍結/解凍(F/Tサイクル5回)、光ストレス、攪拌ストレス、酸化ストレス)の結果は、温度安定性試験とは異なる順位を示した。温度安定性試験では、バッファー3中10mg/mLのサンプルは、あらかじめ設定された分析閾値を越える結果の量が最も多く、その一方、ストレス安定性試験は、他の条件に比べて、バッファー1中0.5mg/mLのサンプルについて、あらかじめ設定された分析閾値を越える結果の増加を明らかにした。
【0163】
LC-MS分析は、製品の酸化を防止するためのメチオニン(バッファー2及びバッファー4中に存在)の添加が効果的であることを明らかにした。
【0164】
結論として、LV1050-Fc×5C8var1-Fcは、バッファー2及びバッファー4で製剤化した場合に最も安定していた。温度安定性、ストレス安定性、全体的安定性(温度+ストレス)について、あらかじめ定義された分析閾値を越えた結果の合計の概要をTable 8(表11)に示す。
【0165】
最終製剤には、0.5から10mg/mLの間のタンパク質濃度において、10mMヒスチジン+280mMスクロース+0.02%ポリソルベート80、pH6.0+1mMメチオニンが選択された。
【0166】
【配列表】
【国際調査報告】