IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローディア ポリアミダ エ エスペシアリダデス エス.アー.の特許一覧 ▶ ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂の化学酵素分解
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/18 20060101AFI20230725BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08J11/18
C08J11/16 ZAB
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572361
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 CN2020093274
(87)【国際公開番号】W WO2021237681
(87)【国際公開日】2021-12-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517259519
【氏名又は名称】ローディア ポリアミダ エ エスペシアリダデス エス.アー.
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フェラオ, ビクトル
(72)【発明者】
【氏名】ストレイフ, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】マジエロ, プリシラ
(72)【発明者】
【氏名】チアン, ファン
(72)【発明者】
【氏名】リン, タオ
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA21
4F401AB06
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA33
4F401CA76
4F401EA07
4F401EA32
4F401EA59
4F401EA77
(57)【要約】
酵素的経路により、特に溶媒におけるエポキシ樹脂の添加、それに続くグルタチオンS-トランスフェラーゼでの処理により、エポキシ樹脂を分解する方法が提供される。エポキシ樹脂を含む複合材料をリサイクルする方法並びにエポキシ樹脂を分解するためのグルタチオンS-トランスフェラーゼ及び最終的にパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼの使用も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂を分解する方法であって、以下の連続する工程:
a)溶媒中に、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを添加して、混合物MAを得る工程、
b)工程a後に得られた前記混合物MAを酵素処理する工程であって、前記混合物MAをグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させて、混合物MBを得る工程を含む、工程
を含む方法。
【請求項2】
工程b)後又は工程b)と同時に行われる工程c)をさらに含み、工程c)は、混合物MA又は混合物MBをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む酵素処理に存する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)又は工程b)及び工程c)に存する酵素処理に続いて、混合物MB又は混合物MCを化学的に処理することに存する連続する工程d)が行われ、前記化学処理は、混合物MB又は混合物MCを強ブレンステッド塩基の水溶液と接触させて、混合物MDを得る工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)は、前記溶媒中での前記エポキシ樹脂Rの膨潤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)において、前記溶媒は、リン酸二ナトリウムの水溶液、リン酸の水溶液及びフェノールに存する群の中から選択され、より好ましくは、前記溶媒は、リン酸二ナトリウムの水溶液である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)において、前記グルタチオンS-トランスフェラーゼは、N.アロマチシボランス(N.aromaticivorans)株由来である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)において、前記パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは、変異酵素であり、優先的には、少なくとも2つの点変異L199V又はL200V及びY385Fを示す変異酵素である、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程d)における強ブレンステッド塩基の前記水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液である、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記芳香族化合物R1は、ビスフェノールのジグリシジルエーテル、特にビスフェノールAジグリシジルエーテルに対応する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記硬化剤R2は、アミン又はイミダゾール誘導体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程d)後に得られた混合物MDは、その後、上記で定義された工程b)~d)にさらに供される、請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程d)後に得られた混合物MDは、上記で定義された工程a)~d)にさらに供される、請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
グルタチオンS-トランスフェラーゼ、特にN.アロマチシボランス(N.aromaticivorans)株由来のグルタチオンS-トランスフェラーゼの、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを分解するための使用。
【請求項14】
パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは、前記エポキシ樹脂Rを分解するためにさらに使用され、好ましくは、少なくとも2つの点変異:L199V又はL200V及びY385Fを示す変異パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを分解するためにさらに使用される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
複合材料CMをリサイクルする方法であって、
a’)複合材料であって、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを含む複合材料を提供する工程、
b’)工程a’)後に得られた前記複合材料CMを処理する工程であって、前記エポキシ樹脂Rを、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法で分解する工程を含み、この場合、工程a)の前記エポキシ樹脂Rは、前記複合材料CMである、工程、
c’)工程b’)後、エポキシ樹脂含有量が減少した前記複合材料を得る工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素的経路により、特に溶媒におけるエポキシ樹脂の添加、それに続くグルタチオンS-トランスフェラーゼでの処理により、エポキシ樹脂を分解する方法を対象とする。本発明は、エポキシ樹脂を含む複合材料をリサイクルする方法並びにエポキシ樹脂を分解するためのグルタチオンS-トランスフェラーゼ及び最終的にパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼの使用も対象とする。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維及びエポキシ樹脂を含む複合材料は、特に航空、航空宇宙及び自動車産業で広く使用されている。
【0003】
このような複合材料を含む製品の開発が進んでいることは、これらの製品の寿命の終了時に廃棄物の量も増加することを意味する。環境を保護するために、複合材料廃棄物の処分に対処する必要がある。
【0004】
複合材料に含まれるエポキシ樹脂の分解を想定することができる。これにより、特に複合材料から炭素繊維を回収できる可能性がある。
【0005】
熱分解(エポキシ樹脂の熱分解)、化学的分解(酸又は超臨界流体によるエポキシ樹脂の分解)又は機械的分解(複合材料の細断、破砕及び粉砕)など、様々な種類の分解がすでに開発されている。しかしながら、これらの手法は、いくつかの欠点を有する。これらは、炭素繊維の品質を低下させる傾向があるか、又はこれらは、非常にエネルギーを消費し、有毒物質を取り扱うことになる。
【0006】
酵素による分解は、一般的に、環境への影響が少ない穏やかで安全な条件を意味する。
【0007】
酵素によるポリマーの分解は、基本的には、リグニン、ポリエステル、ポリアミド又はポリウレタンで評価されている(米国特許出願公開第2016/0280881号明細書、米国特許出願公開第2009/0162337号明細書、国際公開第99/29885号パンフレット、米国特許第6255451号明細書)ものの、エポキシ樹脂では評価されていない。
【0008】
Eliazら(Materials 2018,11,2123)は、エポキシ樹脂の微生物分解を評価した。ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)及びオクロバクトラム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi)の2種類の細菌種は、エポキシ樹脂を分解できる可能性があると特定された。
【0009】
Moeserら(Advanced Materials Research 2014,1018,131-136)は、微生物による未硬化エポキシ樹脂の分解の評価も報告している。しかしながら、結果は、明確ではない。
【0010】
これらの文献は、分解の有効性及び分解に使用できる酵素について結論付けていない。
【0011】
本出願人は、エポキシ樹脂が酵素経路によって効果的に分解され得ることを見出した。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、エポキシ樹脂を分解する方法であって、以下の連続する工程:
a)溶媒において、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを添加して、混合物MAを得る工程、
b)工程a)後に得られた混合物MAを酵素処理する工程であって、混合物MAをグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させて、混合物MBを得る工程を含む、工程
を含む方法を対象とする。
【0013】
好ましくは、本発明の方法は、工程b)後又は工程b)と同時に行われる工程c)をさらに含み、工程c)は、混合物MA又は混合物MBをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む酵素処理に存する。
【0014】
特に、工程b)又は工程b)及び工程c)に存する酵素処理に続いて、混合物MB又は混合物MCを化学的に処理することを含む連続する工程d)が行われ、化学処理は、混合物MB又は混合物MCを強ブレンステッド塩基の水溶液と接触させて、混合物MDを得る工程を含む。より具体的には、工程d)における強ブレンステッド塩基の水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液である。
【0015】
有利には、工程a)は、溶媒中でのエポキシ樹脂Rの膨潤を含む。より有利には、工程a)において、溶媒は、リン酸二ナトリウムの水溶液、リン酸の水溶液及びフェノールに存する群の中から選択され、より好ましくは、溶媒は、リン酸二ナトリウムの水溶液である。
【0016】
特に、工程b)において、グルタチオンS-トランスフェラーゼは、N.アロマチシボランス(N.aromaticivorans)株由来である。
【0017】
好ましくは、工程c)において、パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは、変異酵素であり、優先的には、少なくとも2つの点変異L199V又はL200V及びY385Fを示す変異酵素である。
【0018】
有利には、芳香族化合物R1は、ビスフェノールのジグリシジルエーテル、特にビスフェノールAジグリシジルエーテルに対応する。
【0019】
特に、硬化剤R2は、アミン又はイミダゾール誘導体である。
【0020】
特に、工程d)後に得られた混合物MDは、その後、上記で定義された工程b)~d)にさらに供される。代わりに、工程d)後に得られた混合物MDは、上記で定義された工程a)~d)にさらに供される。
【0021】
本発明は、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、特にN.アロマチシボランス(N.aromaticivorans)株由来のグルタチオンS-トランスフェラーゼの、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを分解するための使用にも関する。
【0022】
特に、パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは、エポキシ樹脂Rを分解するためにさらに使用され、好ましくは、少なくとも2つの点変異:L199V又はL200V及びY385Fを示す変異パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを分解するためにさらに使用される。
【0023】
本発明は、複合材料CMをリサイクルする方法であって、
a’)複合材料であって、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを含む複合材料を提供する工程、
b’)工程a’)後に得られた複合材料CMを処理する工程であって、本発明によるエポキシ樹脂を分解する方法でエポキシ樹脂Rを分解する工程を含み、この場合、工程a)のエポキシ樹脂Rは、複合材料CMである、工程、
c’)工程b’)後、エポキシ樹脂含有量が減少した複合材料を得る工程
を含む方法を対象とする。
【0024】
1.エポキシ樹脂を分解する方法
本発明による方法は、以下に記載する少なくとも2つの工程a)及びb)を含む。
【0025】
1.1工程a)
工程a)は、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを溶媒に添加して、混合物MAを得る工程を含む。
【0026】
工程a)により、エポキシ樹脂Rが添加される溶媒中でエポキシ樹脂Rが膨潤する。特に、これにより、エポキシ樹脂Rの脱架橋を行うこともできる。より具体的には、溶媒が、リン酸塩を含む水溶液である場合、工程a)により、エポキシ樹脂又は部分的に脱架橋されたエポキシ樹脂のリン酸化を行うことができる。
【0027】
本発明において、非極性溶媒は、誘電率が15未満の溶媒である。
【0028】
本発明において、極性溶媒は、誘電率が15以上の溶媒である。
【0029】
本発明において、極性プロトン性溶媒は、誘電率が15以上であり、且つ不安定なプロトンを含む溶媒である。
【0030】
本発明において、極性非プロトン性溶媒は、15以上の誘電率を有し、且つ不安定なプロトンを含まない溶媒である。
【0031】
溶媒は、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン及びこれらの混合物から選択される非極性溶媒であり得、特に、これは、ヘキサンである。
【0032】
溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメトキシエタン(DME)、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、ニトロメタン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、酢酸、ギ酸及びこれらの混合物から選択される非プロトン性極性溶媒であり得、特に、これは、DMSO及びDMFから選択される。
【0033】
溶媒は、アルコール、水溶液及びそれらの混合物から選択されるプロトン性極性溶媒であり得る。
【0034】
本発明において、アルコールは、炭素原子に少なくとも1つのヒドロキシル基を有する有機化合物である。好ましくは、これは、55℃~95℃に含まれる温度で液体である。特に、これは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール及びその位置異性体、フェノール、ペンタノール及びその位置異性体、1-ヘキサノール、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)、ヘキサフルオロプロパン-2-オール(HFIP)であり得る。
【0035】
エポキシ樹脂Rが添加される溶媒は、上記の非極性溶媒及び非プロトン性極性溶媒の混合物であり得る。
【0036】
エポキシ樹脂Rが添加される溶媒は、上記の非極性溶媒及びプロトン性極性溶媒の混合物であり得る。
【0037】
エポキシ樹脂Rが添加される溶媒は、上記の非プロトン性極性溶媒及びプロトン性極性溶媒の混合物であり得る。
【0038】
好ましくは、エポキシ樹脂Rが添加される溶媒は、上記の極性プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒及びこれらの混合物から選択され、より具体的には、これは、上記の極性プロトン性溶媒である。
【0039】
有利には、溶媒は、アルコール、水溶液及びこれらの混合物からなる群の中から選択される。より有利には、水溶液は、HPO4,SO、HCl、HBr又はHNOなどの1種以上のブレンステッド酸を含むことができる。代わりに、水溶液は、リン酸二ナトリウム、アンモニア、NaOH、KOH、NaCO又はKCOなどの1種以上のブレンステッド塩基を含むことができる。
【0040】
特に、エポキシ樹脂Rが添加される溶媒は、フェノール、リン酸の水溶液、リン酸二ナトリウムの水溶液及びこれらの組み合わせに存する群の中から選択される。より具体的には、工程a)の溶媒は、リン酸二ナトリウムの水溶液である。さらに具体的には、工程a)で使用されるリン酸二ナトリウムの水溶液は、リン酸二ナトリウムの濃度が120~1000g/mL、好ましくは120~500g/Lのものである。特に、リン酸二ナトリウムは、リン酸二ナトリウム十二水和物の形態で使用される。
【0041】
有利には、リン酸二ナトリウム/エポキシ樹脂の重量比は5~150g/gである。
【0042】
工程a)のエポキシ樹脂Rと溶媒との混合物は、20℃~95℃、好ましくは40℃~95℃、より好ましくは55℃~95℃の温度で加熱することができる。
【0043】
工程a)は、好ましくは、撹拌下で行われる。
【0044】
工程a)は、72時間~4日間継続することができる。
【0045】
有利には、工程a)は、以下の工程を含む:
- a1)エポキシ樹脂Rを溶媒に添加する工程、
- a2)撹拌する工程、その後、
- a3)任意選択的に、減圧下で部分的に蒸発させる工程、その後、
- a4)任意選択的に、水で希釈する工程。
【0046】
4つの工程a1)、a2)、a3)及びa4)は、連続している。工程a2)、a3)及び任意選択的にa4)は、1回又は2回以上、特に1回~3回繰り返すことができる。
【0047】
特に、工程a2)において、溶媒中のエポキシ樹脂Rの混合物は、72時間~1920時間撹拌される。
【0048】
特に、工程a2)において、溶媒中のエポキシ樹脂Rの混合物は、20℃~95℃、好ましくは40℃~95℃、より好ましくは55℃~95℃に含まれる温度で撹拌される。
【0049】
好ましくは、溶媒中のエポキシ樹脂との混合物にシクロデキストリンがさらに添加される。
【0050】
本発明において、シクロデキストリンは、α-1,4グリコシド結合によって連結されたα-D-グルコピラノースサブユニットの大環状環からなる環状オリゴ糖である。これは、特に、1,4グリコシド結合によって連結された5つ以上のα-D-グルコピラノース単位から構成される。シクロデキストリンαは、6個のα-D-グルコピラノースサブユニットを含む。シクロデキストリンβは、7個のα-D-グルコピラノースサブユニットを含む。シクロデキストリンγは、8個のα-D-グルコピラノースサブユニットを含む。
【0051】
好ましくは、工程a)で使用されるシクロデキストリンは、環内に6~8単位の範囲の多数のD-グルコピラノースサブユニットを含む。
【0052】
より好ましくは、シクロデキストリンは、シクロデキストリンα、シクロデキストリンβ及びシクロデキストリンγに存する群の中から選択され、さらに好ましくは、シクロデキストリンは、シクロデキストリンβである。
【0053】
有利には、シクロデキストリン/エポキシ樹脂の重量比は、2.5~50g/gに含まれる。
【0054】
有利には、工程a)は、以下の工程を含む:
- a5)エポキシ樹脂Rと溶媒との混合物にシクロデキストリンを添加する工程、
- a6)得られた混合物を、20℃~95℃に含まれる温度で加熱する工程。
【0055】
工程a5)及びa6)は、好ましくは、撹拌下で行われる。
【0056】
特に、シクロデキストリンは、工程a4)後に添加される。より具体的には、工程a4)に続いて工程a5)及びa6)が行われる。
【0057】
好ましくは、工程a6)において、エポキシ樹脂と、シクロデキストリンと、溶媒との混合物は、24時間~数週間、より好ましくは36時間~72時間撹拌される。
【0058】
工程a)後に得られた混合物を混合物MAと呼ぶ。
【0059】
1.2工程b)
工程b)は、工程a)後に得られた混合物MAを酵素処理することを含み、この処理は、混合物MAをグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させて、混合物MBを得る工程を含む。
【0060】
本発明の意味において、「グルタチオンS-トランスフェラーゼ」(GST)は、還元型グルタチオン(GSH)と異なる基質との結合を触媒する能力を有する酵素である。
【0061】
標準化された命名法では、これらの酵素は、EC2.5.1.18のメンバーとして分類される。
【0062】
特に、GST酵素は、以下の式(又は図X)に示されるように、樹脂の構造にグルタチオン基を移動させることができる。
【化1】
【0063】
実際、グルタチオン又は(2S)-2-アミノ-4-{[(1R)-1-[(カルボキシメチル)カルバモイル]-2-スルファニルエチル]カルバモイル}ブタン酸は、1つのチオール基を含む。グルタチオン基は、その硫黄を介して樹脂の構造に結合したグルタチオンの分子に対応する。
【0064】
本発明の方法で使用されるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)は、真核生物由来又は原核生物由来であり得、優先的には原核生物由来である。
【0065】
GSTのスーパーファミリーの中でも、β-エーテラーゼと呼ばれる立体特異的グルタチオンS-トランスフェラーゼのサブクラスが本発明の方法のために特に興味深いものである。
【0066】
特に、スフィンゴビウム(Sphingobium)種由来の酵素LigE、LigP及びLigF並びにそれらの相同体を使用することができる。当業者によって容易に同定される相同体の中でも、ノボスフィンゴビウム(Novosphingobium)種PP1Y由来の酵素LigE-NS(=NsLigE)及びLigF-NS、LigE-NA(=NaLigE)、LigF-NA(=NaLigF1)並びにノボスフィンゴビウム・アロマチシボランス(Novosphingobium aromaticivorans)DSM12444由来のNaLigF2を挙げることができる。
【0067】
方法の特定の実施では、工程b)で使用されるグルタチオンS-トランスフェラーゼは、β-エーテラーゼである。特に、工程b)で使用されるGSTは、スフィンゴビウム(Sphingobium)sp由来の酵素LigE、LigP若しくはLigF又はこれらの酵素の任意の相同体、例えばLigD、LigL、LigN、LigO又はLigGである。優先的には、工程b)で使用されるGSTは、LigE相同体である。
【0068】
本発明の方法の特定の実施では、工程b)におけるグルタチオンS-トランスフェラーゼは、ノボスフィンゴビウム・アロマチシボランス(Novosphingobium aromaticivorans)(N.アロマチシボランス(N.aromaticivorans))株由来である。グルタチオンS-トランスフェラーゼは、特にノボスフィンゴビウム・アロマチシボランス(Novosphingobium aromaticivorans)株由来のLigE相同体、即ちLigE-NAであり得る。
【0069】
特に、グルタチオンS-トランスフェラーゼは、適切な固体担体上に固定化することができる。
【0070】
有利には、グルタチオンS-トランスフェラーゼは、グルタチオンS-トランスフェラーゼを発現する溶解した細菌の培養液の形態で混合物MAに添加される。細菌は、上述した通りである。溶解した細菌の培養液は、上述したように、細菌を培養し、続いて遠心分離して細胞ペレットを得てから、細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合し、細菌を超音波処理で溶解することによって得られる。
【0071】
細菌の溶解から得られた培養液は、グルタチオンS-トランスフェラーゼを含む。少なくとも1体積%のこの溶液を使用することができ、好ましくは1体積%~20体積%使用することができる。
【0072】
特に、工程b)において、混合物MAは、適切な媒体中でグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触する。
【0073】
有利には、適切な媒体中のグルタチオンS-トランスフェラーゼ細胞ペレット/混合物MAの重量比は、1g/kg~10g/kgに含まれる。
【0074】
特に、適切な媒体は、グルタチオンを含む水性媒体である。より具体的には、適切な媒体中のグルタチオン/グルタチオンS-トランスフェラーゼ細胞ペレットの重量比は、0.06g/kg~3g/kgに含まれる。
【0075】
特に、適切な媒体は、グリシンを含む。より具体的には、適切な媒体中のグリシン/グルタチオンS-トランスフェラーゼ細胞ペレットの重量比は、1g/kg~50g/kgに含まれる。
【0076】
好ましくは、適切な媒体は、6~11、より好ましくは8~10に含まれるpHを有する。
【0077】
好ましくは、混合物MAは、グルタチオンS-トランスフェラーゼと少なくとも50時間、より好ましくは少なくとも60時間接触する。
【0078】
特に、混合物MAは、20℃~45℃に含まれる温度でグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触する。
【0079】
したがって、工程b)において、混合物MAは、好ましくは、グルタチオン、任意選択的にグリシンを含む水性媒体中、好ましくは6~11に含まれるpHにおいて、好ましくは20℃~45℃に含まれる温度で好ましくは少なくとも50時間、グルタチオンS-トランスフェラーゼと接触する。
【0080】
特に、工程b)は、以下の工程を含む:
- b1)反応器に混合物MA、水、グルタチオン、任意選択的にグリシン及びグルタチオンS-トランスフェラーゼを好ましくは連続して添加する工程、
- b2)工程b1)後に得られた混合物を、20℃~45℃に含まれる温度で少なくとも50時間撹拌する工程。
【0081】
工程b1)後に得られた混合物は、上述した適切な媒体中でグルタチオンS-トランスフェラーゼに接触させた混合物MAに対応する。
【0082】
工程b)後に得られた混合物を混合物MBと呼ぶ。
【0083】
得られた混合物MBは、5~7に含まれるpHを有する。
【0084】
1.3工程c)
工程c)は、混合物MA又は混合物MBをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む酵素処理を含む。
【0085】
本発明の意味において、EC1.14.13.2として分類されるパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは、芳香族化合物の分解に関与するフラボタンパク質である。補因子NADPは、水素の受容体として反応に関与し、反応中にNADPHに変換される。工程c)では、この酵素は、以下に概略的に示すように、樹脂構造に高度に存在する芳香族部位へのヒドロキシル基の付加を触媒する。
【化2】
【0086】
したがって、この反応は、樹脂の酸化を可能にする。その場合、樹脂はより親水性になり、水性媒体への溶解性が向上する。さらに、これらのヒドロキシル化部位は、工程d)で行われる切断をより受けやすい。
【0087】
好ましい実施形態では、工程c)で使用されるパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来である。別の実施形態では、工程c)で使用されるパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来である。
【0088】
工程c)で使用されるPHBH酵素は、野生型酵素又は変異型酵素であり得る。
【0089】
この工程c)のために、PHBHのいくつかの変異体を評価した(実施例Cを参照されたい)。全ての試験した酵素は、樹脂のヒドロキシル化を触媒することができたものの、これらの1つ、L199V及びY385Fの2つの点変異で修飾された緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のPHBHが特に効率的であると特定された。この変異酵素は、特開2009-213392号公報(配列番号10)において以前に報告されている。
【0090】
本発明の好ましい実施形態では、工程c)で使用されるPHBHは、変異酵素であり、さらにより優先的には、それは、少なくとも2つの点変異L199V又はL200V及びY385Fを示す変異酵素であり、より優先的には以下の1つである:
- 2つの点変異L199V及びY385Fで修飾された緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来の変異PHBH酵素(実施例では「M010」と示す)、又は
- 2つの点変異L200V及びY385Fで修飾されたコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来の変異PHBH酵素(実施例では「YM321」と示す)、又は
- 3つの点変異L200V、Y385F及びD39Yで修飾されたコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来の変異PHBH酵素(実施例では「YM322」と示す)。
【0091】
特に、PHBHは、適切な固体担体上に固定化することができる。
【0092】
特に、工程c)において、前の混合物(MA又はMB)は、適切な媒体中において、特に適切な量の補因子ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を含む水性媒体中でPHBHと接触する。
【0093】
有利には、水性媒体は、補因子NADPの再生を可能にする化合物を含む。NADPの再生手段は、当業者に周知である。特に、工程c)のための適切な媒体は、グルコースと、グルコース-6-リン酸を酸化する一方、NADPをNADPHに還元するグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素(EC1.1.1.49に分類される)とを含み得る。当業者は、これらの酵素をよく知っており、ET004などの1つのグルコースデヒドロゲナーゼを選択することができるであろう。
【0094】
優先的には、水性媒体は、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を含む。
【0095】
より優先的には、水系は、ET004及びFADなどのグルコースデヒドロゲナーゼを含む。
【0096】
有利には、PHBHは、PHBHを発現する溶解した細菌の培養液の形態で添加される。細菌は、上述した通りである。溶解した細菌の培養液は、上述したように、細菌を培養し、続いて遠心分離して細胞ペレットを得てから、細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合し、細菌を超音波処理で溶解することによって得られる。
【0097】
細菌の溶解から得られた培養液は、PHBHを含む。少なくとも1体積%、好ましくは1体積%~20体積%のこの溶液を使用することができる。
【0098】
工程c)は、工程b)後又は工程b)と同時に行うことができる。
【0099】
工程c)が工程b)後に行われる場合、工程c)は、混合物MBをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む酵素処理を含む。
【0100】
工程c)が工程b)と同時に行われる場合、工程c)は、混合物MAをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む酵素処理を含む。
【0101】
第1の実施形態では、本発明による方法において、工程b)に続いて、工程b)後に得られた混合物MBを酵素処理することを含む連続する工程c)が行われ、この処理は、混合物MBをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む。
【0102】
この実施形態では、本発明による方法における酵素処理は、工程b)に続いて工程c)を実施することを含む。
【0103】
有利には、適切な媒体中のPHBH細胞ペレット/混合物Bの重量比は、1g/kg~10g/kgに含まれる。
【0104】
特に、適切な媒体は、NADPを含む水性媒体である。より具体的には、適切な媒体中のNADP/PHBH細胞ペレットの重量比は、0.1g/kg~10g/kgに含まれる。
【0105】
特に、適切な媒体は、グルコースを含む。より具体的には、適切な媒体中のグルコース/PHBH細胞ペレットの重量比は、50g/kg~300g/kgに含まれる。
【0106】
有利には、適切な媒体は、FADを含む。より具体的には、適切な媒体中のFAD/PHBH細胞ペレットの重量比は、0.0002g/kg~0.002g/kgに含まれる。
【0107】
特に、適切な媒体は、ET004などのグルコースデヒドロゲナーゼを含む。より具体的には、適切な媒体中のET004細胞ペレット/PHBH細胞ペレットの重量比は、0.3g/kg~10g/kgに含まれる。
【0108】
好ましくは、適切な媒体は、6~11、より好ましくは8~9に含まれるpHを有する。
【0109】
好ましくは、混合物MBは、大気圧下で少なくとも50時間、PHBHと接触する。
【0110】
特に、混合物MBは、20℃~45℃、より好ましくは30℃~40℃に含まれる温度でPHBHと接触する。
【0111】
したがって、工程c)において、混合物MBは、好ましくは、NADPと、任意選択的にグルコースと、任意選択的にFADと、任意選択的にET004とを含む水性媒体中において、好ましくは8~9に含まれるpHで、好ましくは20℃~45℃に含まれる温度で好ましくは少なくとも50時間、PHBHと接触する。
【0112】
特に、工程c)は、以下の工程を含む:
- c1)反応器に混合物MB、グルコース、NADP、FAD、ET004及びPHBHを好ましくは連続して添加する工程、
- c2)工程c1)後に得られた混合物を、20℃~45℃に含まれる温度で少なくとも50時間撹拌する工程。
【0113】
工程c1)後に得られた混合物は、上述した適切な媒体中でPHBHに接触させた混合物MBに対応する。
【0114】
第2の実施形態では、本発明による方法において、工程b)は、工程c)と同時に行われる。したがって、工程a)に続いて、工程a)後に得られた混合物MAの酵素処理が行われ、この処理は、混合物MAをグルタチオンS-トランスフェラーゼ及びパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む。
【0115】
この実施形態では、本発明による方法における酵素処理は、工程b)及び工程c)を同時に行うことを含む。
【0116】
特に、工程b)及び工程c)が同時に行われる場合、混合物MAは、適切な媒体中でGST及びPHBHと同時に接触する。
【0117】
有利には、適切な媒体中のGST細胞ペレット/混合物Aの重量比は、1g/kg~10g/kgに含まれる。
【0118】
有利には、適切な媒体中のPHBH細胞ペレット/混合物Aの重量比は、1g/kg~10g/kgに含まれる。
【0119】
特に、適切な媒体は、NADPとグルタチオンとを含む水性媒体である。より具体的には、適切な媒体中のNADP/PHBH細胞ペレットの重量比は、0.1g/kg~10g/kgに含まれる。より具体的には、適切な媒体中のグルタチオン/GST細胞ペレットの重量比は、0.06g/kg~3g/kgに含まれる。
【0120】
特に、適切な媒体は、グリシンを含む。より具体的には、適切な媒体中のグリシン/グルタチオンS-トランスフェラーゼ細胞ペレットの重量比は、1g/kg~50g/kgに含まれる。
【0121】
特に、適切な媒体は、グルコースを含む。より具体的には、適切な媒体中のグルコース/PHBH細胞ペレットの重量比は、50g/kg~300g/kgに含まれる。
【0122】
有利には、適切な媒体は、FADを含む。より具体的には、適切な媒体中のFAD/PHBH細胞ペレットの重量比は、0.0002g/kg~0.02g/kgに含まれる。
【0123】
特に、適切な媒体は、ET004を含む。より具体的には、適切な媒体中のET004細胞ペレット/PHBH細胞ペレットの重量比は、0.3g/kg~10g/kgに含まれる。
【0124】
好ましくは、適切な媒体は、6~11、より好ましくは8~9に含まれるpHを有する。
【0125】
好ましくは、混合物MAは、GST及びPHBHと少なくとも50時間接触する。
【0126】
特に、混合物MAは、20℃~45℃に含まれる温度でGST及びPHBHと接触する。
【0127】
したがって、工程b)及び工程c)が同時に行われる場合、混合物MAは、好ましくは、グルタチオンと、NADPと、任意選択的にグルコースと、任意選択的にFADと、任意選択的にET004とを含む水性媒体中において、好ましくは6~11に含まれるpHで、好ましくは20℃~45℃に含まれる温度で好ましくは少なくとも50時間、GST及びPHBHと接触する。
【0128】
特に、工程b)及び工程c)は、以下の工程を含む:
- bc1)反応器に混合物MA、水、グルコース、グルタチオン、グリシン、NADP、FAD、ET004、PHBH及びGSTを好ましくは連続して添加する工程、
- bc2)工程bc1)後に得られた混合物を、20℃~45℃に含まれる温度で少なくとも96時間撹拌する工程。
【0129】
工程bc1)後に得られた混合物は、上述した適切な媒体中で同時にGST及びPHBHに接触した混合物MAに対応する。
【0130】
両方の実施形態において、工程c)後に得られた混合物は、混合物MCと呼ばれる。
【0131】
得られる混合物MCは、5~7に含まれるpHを有する。
【0132】
1.4工程d)
工程d)は、混合物MB又は混合物MCを化学的に処理することを含み、化学的処理は、強ブレンステッド塩基を含む水溶液と混合物MB又は混合物MCを接触させて、混合物MDを得る工程を含む。
【0133】
実際、工程d)は、酵素処理後に行われる。
【0134】
酵素処理は、工程b)を行って混合物MBを得ること又は工程b)及び工程c)を連続して若しくは同時に行って混合物MCを得ることを含み得る。
【0135】
したがって、工程d)は、工程b)後に行うことができる。その場合、工程d)は、混合物MBを化学的に処理することを含み、化学処理は、強ブレンステッド塩基を含む水溶液と混合物MBを接触させて、混合物MDを得る工程を含む。この実施形態では、工程c)は、行われない。
【0136】
代わりに、工程d)は、工程c)後に行うことができる。その場合、工程d)は、混合物MCを化学的に処理することを含み、化学的処理は、強ブレンステッド塩基を含む水溶液と混合物MCを接触させて、混合物MDを得る工程を含む。この実施形態では、工程b)及び工程c)は、連続して又は同時に行われる。
【0137】
特に、両方の実施形態において、強ブレンステッド塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム又は水酸化カリウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物から選択される。好ましくは、強ブレンステッド塩基は、水酸化ナトリウムである。
【0138】
好ましくは、強ブレンステッド塩基は、0.1mol/L~10mol/L、より好ましくは1mol/L~10mol/Lに含まれる濃度である。
【0139】
有利には、重量比(強ブレンステッド塩基の水溶液)/混合物MB又は重量比(強ブレンステッド塩基を含む水溶液)/混合物MCは、20g/g~1g/gに含まれる。
【0140】
有利には、各実施形態において、工程d)における混合物MB又は混合物MCは、20℃~100℃に含まれる温度、より有利には60℃~100℃の温度で48時間~2週間、強ブレンステッド塩基を含む水溶液と接触する。
【0141】
2.ラウンド
本発明による方法は、複数回、好ましくは少なくとも1回、より好ましくは少なくとも2回繰り返して行うことができる。これらの繰り返しの実行では、工程a)は、任意選択的である。
【0142】
本発明の方法は、1回~30回、好ましくは1回~20回、より好ましくは1回~10回繰り返して行うことができる。
【0143】
本発明による方法の1回目のラウンドは、以下に対応する:
a)溶媒において、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを添加する工程、
b)工程a)後に得られた混合物MAを酵素処理する工程であって、混合物MAをグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させて、混合物MBを得る工程を含む、工程、
c)任意選択的に、工程b)と同時に混合物MAを酵素処理するか、又は工程b)後に得られた混合物MBを酵素処理する工程であって、混合物MA又は混合物MBをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む、工程、
d)任意選択的に、混合物MB又は混合物MCを化学的に処理する工程であって、強ブレンステッド塩基を含む水溶液と混合物MB又は混合物MCを接触させて、混合物MDを得る工程を含む、工程。
【0144】
本発明による方法の1回目のラウンドを行った後に得られた混合物M1は、本発明による方法に再び供され得、したがって工程a)のエポキシ樹脂R又は工程b)の混合物MAを置き換えることができる。その後、本発明による方法の2回目のラウンドが行われる。
【0145】
その場合、2回目のラウンドは、以下に対応する:
a)任意選択的に、本発明による方法の1回目のラウンド後に得られた混合物M1を溶媒に添加する工程、
b)工程a)後に得られた混合物MA’又は1回目のラウンド後に得られた混合物M1を酵素処理する工程であって、混合物MA’又はM1をグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させて、混合物MB’を得る工程を含む、工程、
c)任意選択的に、工程b)と同時に混合物MA’若しくはM1を酵素処理するか、又は工程b)後に得られた混合物MB’を酵素処理する工程であって、混合物MA’若しくはM1又はMB’をパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MC’を得る工程を含む、工程、
d)任意選択的に、混合物MB’又は混合物MC’を化学的に処理する工程であって、強ブレンステッド塩基を含む水溶液と混合物MB’又は混合物MC’を接触させて、混合物MD’を得る工程を含む、工程。
【0146】
本発明による方法の1回目のラウンドを行った後に得られた混合物M1は、上記で定義された混合物MB、混合物MC又は混合物MDであり得る。好ましくは、これは、混合物MDに対応する。
【0147】
有利には、工程d)後に得られた混合物MDは、その後、上記で定義された工程b)~d)にさらに供される。
【0148】
代わりに、工程d)後に得られた混合物MDは、上記で定義された工程a)~d)にさらに供される。
【0149】
特に、2回より多くのラウンドを行うことができ、より具体的には3回より多くのラウンドを実行することができる。好ましくは、1~30回のラウンド、より好ましくは2~20回のラウンド、さらに好ましくは2~10回のラウンドを行うことができる。
【0150】
有利には、本発明による方法を1回~10回行うことができる。
【0151】
3.エポキシ樹脂
本発明による方法は、エポキシ樹脂を分解することを目的とする。
【0152】
本発明の方法で使用されるエポキシ樹脂は、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1、
- 少なくとも1種の硬化剤R2、
- 任意選択的に、追加の化合物R3
に基づく。
【0153】
「~に基づくエポキシ樹脂」という表現は、当然のことながら、この組成物に使用される様々な基本成分の混合物及び/又は反応生成物を含有するエポキシ樹脂を意味すると理解されるべきであり、これらの一部は、エポキシ樹脂又はその複合材料若しくはその複合体材料を含む完成品の様々な製造段階、特に硬化工程中、少なくとも部分的に互いに又は周囲の化学的環境と反応することが意図されているか又は反応することが可能である。
【0154】
換言すると、エポキシ樹脂Rは、後述する少なくとも1種の芳香族化合物R1と、少なくとも1種の硬化剤R2とから製造される。
【0155】
有利には、エポキシ樹脂Rは、1種の芳香族化合物R1と1種の硬化剤R2とに基づく。
【0156】
有機化合物に関して本明細書で使用される場合、「芳香族」という用語は、1つ以上のアリール部位を含む有機化合物が、典型的には、酸素、窒素及び硫黄のヘテロ原子から選択される1つ以上のヘテロ原子によってそれぞれ任意選択的に中断され得、1つ以上のアリール部位の1つ以上の炭素原子が、典型的には、アルキル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、ハロアルキル、アリール、アルカリール、アラルキルから選択される1つ以上の有機基で任意に置換され得ることを意味する。
【0157】
本明細書で使用される場合、「アリール」という用語は、非局在化共役π系を有し、nが0又は正の整数である4n+2に等しい複数のπ電子を有する環式の共平面5~14員の有機基を意味し、環員のそれぞれが炭素原子であるベンゼンなどの化合物、1つ以上の環員がヘテロ原子、典型的には酸素、窒素及び硫黄原子から選択されるヘテロ原子であるフラン、ピリジン、イミダゾール及びチオフェンなどの化合物並びにナフタレン、アントラセン及びフルオレンなどの縮合環系が含まれ、これらの中で、環炭素の1つ以上は、典型的には、アルキル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、ハロアルキル、アリール、アルカリール、ハロ基から選択される1つ以上の有機基で置換され得、例えばフェニル、メチルフェニル、トリメチルフェニル、ノニルフェニル、クロロフェニル又はトリクロロメチルフェニルなどであり得る。
【0158】
本明細書で使用される場合、「エポキシド基」は、隣接エポキシ基、即ち1,2-エポキシ基を意味する。
【0159】
3.1.芳香族化合物R1
エポキシ樹脂Rの第1の必須化合物は、1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む芳香族化合物R1である。
【0160】
本発明による芳香族化合物R1は、1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、少なくとも2つのエポキシド基の1つは、少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する芳香環が有するグリシジルオキシ基由来のエポキシド基であり得る。
【0161】
特に好適な芳香族化合物R1には、ジグリシジルレゾルシノール、1,2,2-テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン又は1,1,1-トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンなど、フェノール及びポリフェノールのポリグリシジルエーテル;ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールCのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン)及びビスフェノールSのジグリシジルエーテル(4,4’-スルホニルジフェノール)並びにそれらのオリゴマーなどのビスフェノールのジグリシジルエーテル;芳香族アルコールのポリグリシジルエーテル;エポキシ化ノボラック化合物;エポキシ化クレゾールノボラック化合物;トリグリシジルアミノフェノール(TGAP)などのアミノフェノールのポリグリシジルエーテル;トリグリシジルアミノクレゾールが含まれる。
【0162】
好ましくは、適切な芳香族化合物R1としては、p-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HunstmanのMY 0510など);m-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HunstmanのMY 0610など);2,2-ビス(4,4’-ジヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールAに基づく物質のジグリシジルエーテル(DowのDER 661又はMomentiveのEPON 828など);フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル(DowのDEN 431又はDEN 438など);ジヒドロキシジフェニルメタンのジグリシジル誘導体(HuntsmanのPY 306など)などの公知の市販の化合物が挙げられる。
【0163】
有利には、芳香族化合物R1は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールCのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン)及びビスフェノールSのジグリシジルエーテル(4,4’-スルホニルジフェノール)などのビスフェノールのジグリシジルエーテルに対応する。
【0164】
特に、芳香族化合物R1は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルに対応する。
【0165】
3.2硬化剤R2
エポキシ樹脂Rの第2の必須化合物は、硬化剤R2である。
【0166】
エポキシ樹脂の硬化剤は、当業者に周知である。
【0167】
これは、一級アミン、二級アミン若しくは三級アミンなどのアミン、ケチミン、ポリアミド樹脂、イミダゾール誘導体、ポリメルカプタン、無水物、三フッ化ホウ素アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジド、光硬化剤又は紫外線硬化剤であり得る。
【0168】
特に、硬化剤としてのアミンは、ポリアミンである。これは、脂肪族ポリアミン又は芳香族アミンであり得る。
【0169】
硬化剤として適切なアミンには、ジエチレントリアミン(DTA)、トリエチレンテトラミン(TTA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ジプロペンジアミン(DPDA)、ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)、アミン248、N-アミノエチルピペラジン(N-AEP)、Lamiron C-260、Araldit HY-964、メンタンジアミン(MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)、S cure211、Wandamin HM、1.3BAC、m-キシレンジアミン(m-XDA)、Sho-アミンX、アミンブラック、Sho-アミンブラック、Sho-アミンN、Sho-アミン1001、Sho-アミン1010、メタフェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)が含まれる。
【0170】
硬化剤R2として適切なイミダゾール誘導体には、2-メチルイミダゾール、2-フェニル-イミダゾール、3-ベンジル-2-メチルイミダゾール、5-メチル-2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、5-エチル-2-メチルイミダゾール又は1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテートが含まれる。
【0171】
硬化剤R2として好適な無水物には、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノントリカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水エノメチレンテトラヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチルデンテトラヒドロフタル酸、無水ドデセニルコハク酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロ-4-メチルフタル酸、無水コハク酸、無水メチルシクロヘキセンジカルボン酸、アルキルスチレン-無水マレイン酸コポリマー、無水クロレンド酸、ポリアゼライン酸無水物が含まれる。
【0172】
好ましくは、硬化剤R2は、一級アミン及びイミダゾール誘導体から選択される。
【0173】
3.3 追加の化合物R3
エポキシ樹脂Rは、1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有する少なくとも1種のエポキシ化合物にも基づき得る。適切なエポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及びエポキシ化合物が挙げられる。
【0174】
適切な芳香族エポキシ化合物には、1分子あたり2つ以上のエポキシド基を有する芳香族化合物が含まれ、例えばフェノール及びポリフェノールのポリグリシジルエーテル、例えばジグリシジルレゾルシノール、1,2,2-テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン又は1,1,1-トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、ビスフェノールA(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールF(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールC(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン)及びビスフェノールS(4,4’-スルホニルジフェノール)のジグリシジルエーテル、これらのオリゴマーなど、フルオレン環含有エポキシ化合物、ナフタレン環含有エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン変性フェノール系エポキシ化合物、エポキシ化ノボラック化合物及びエポキシ化クレゾールノボラック化合物、アミンのポリグリシジル付加物、例えばN,N-ジグリシジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、トリグリシジルアミノフェノール(TGAP)、トリグリシジルアミノクレゾール若しくはテトラグリシジルキシレンジアミン又はアミノアルコール、例えばトリグリシジルアミノフェノール、ポリカルボン酸のポリグリシジル酸付加物、例えばジグリシジルフタレート、ポリグリシジルシアヌレート、例えばトリグリシジルシアヌレート、ビニル化合物と共重合可能なグリシジル(メタ)アクリレートのコポリマー、例えばスチレングリシジルメタクリレートなどの既知の化合物が含まれる。
【0175】
1分子あたり2つ以上のエポキシド基を有する適切なエポキシ化合物としては、公知の市販の化合物、例えばN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(HuntsmanのMY 9663、MY 720及びMY 721など)、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン(MomentiveのEPON 1071など);N,N,N’,N’-テトラクリシジル-ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン(MomentiveのEPON 1072など);p-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HunstmanのMY 0510など);m-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HunstmanのMY 0610など);2,2-ビス(4,4’-ジヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールAに基づく物質のジグリシジルエーテル(DowのDER 661又はMomentiveのEPON 828など)及び好ましくは25℃で8~20Pa・sの粘度のノボラック樹脂;フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル(DowのDEN 431又はDEN 438など);ジシクロペンタジエンに基づくフェノールノボラック(HuntsmanのTactix(登録商標)556など);ジグリシジル1,2-フタレート;ジヒドロキシジフェニルメタンのジグリシジル誘導体(HuntsmanのPY 306など)が挙げられる。
【0176】
1分子あたり2つ以上のエポキシド基を有する適切な脂環式エポキシ化合物には、例えば、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテルとエチレングリコールとのコポリマー、ジシクロペンタジエンジエポキシド、4-ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2,8,9-ジエポキシリモネン(リモネンジオキシド)、3,4-エポキシ-6-メチル-シクロヘキシルメチル、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)スピロ[1,3-ジオキサン-5,3’-[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン]、アリルシクロペンテニルエーテルのジエポキシド、1,4-シクロヘキサジエンジエポキシド、1,4-シクロヘキサンメタノールジグリジカルエーテル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ジグリシジル1,2-シクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、3-(オキシラン-2-イル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、ビス(2,3-エポキシプロピル)シクロヘキサ-4-エン-1,2-ジカルボキシレート、4,5-エポキシテトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ポリ[オキシ(オキシラニル-1,2-シクロヘキサンジイル)]α-ヒドロ-ω-ヒドロキシ-エーテル、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンなどの公知の化合物が含まれる。
【0177】
1分子あたり2つ以上のエポキシド基を有する適切な脂肪族エポキシ化合物には、例えば、ブタンジオールジグリシジルエーテル、エポキシ化ポリブタジエン、二酸化ジペンテン、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビス[2-(2-ブトキシエチレンオキシ)エチル)エチル]アジペート、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル及び水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂などの公知の化合物が含まれる。
【0178】
適切な脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物には、例えば、3’,4’-エポキシシクロヘキサンメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(CELLOXIDE(商標)2021P樹脂(Daicel Corporation)及びARADITE CY 179(Huntsman Advanced Materials))、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン(CELLOXIDE(商標)8010(Daicel Corporation))、ポリ[オキシ(オキシラニル-1,2-シクロヘキサンジイル)]、α-ヒドロ-ω-ヒドロキシ-エーテルと2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオールの3:1混合物(EHPE 3150(Daicel))などの公知の市販の化合物が含まれる。
【0179】
エポキシ樹脂は、任意選択的に、芳香族モノエポキシ化合物、モノ脂環式エポキシ化合物及び脂肪族モノエポキシ化合物から選択される、1分子あたり1つのエポキシド基を有する1種以上のモノエポキシド化合物にさらに基づき得る。適切なモノエポキシド化合物には、例えば、飽和脂環式モノエポキシド、例えば3,3’-ビス(クロロメチル)オキサシクロブタン、イソブチレンオキシド、スチレンオキシド、オレフィンモノエポキシド、例えばシクロドデカジエンモノエポキシド、3,4-エポキシ-1-ブテンなどの公知の化合物が含まれる。
【0180】
4.使用
本発明は、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、特にN.アロマチシボランス(N.aromaticivorans)株由来のグルタチオンS-トランスフェラーゼの、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを分解するための使用も対象とする。
【0181】
グルタチオンS-トランスフェラーゼは、「工程b)」の段落で上述した通りである。
【0182】
エポキシ樹脂Rは、「エポキシ樹脂」の段落で上述した本発明の方法で使用されるエポキシ樹脂に対応する。
【0183】
さらに、本発明は、パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ、好ましくは緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ、より好ましくは配列番号1に示されるペプチド配列を示す変異パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼの、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを分解するための使用に関する。
【0184】
パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは、段落「工程c)」で上述した通りである。
【0185】
エポキシ樹脂Rは、「エポキシ樹脂」の段落で上述した本発明の方法で使用されるエポキシ樹脂に対応する。
【0186】
5.複合材料をリサイクルする方法
本発明は、複合材料をリサイクルする方法であって、
a’)複合材料であって、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを含む複合材料CMを提供する工程、
b’)工程a’)後に得られた複合材料CMを処理する工程であって、本発明による方法でエポキシ樹脂Rを分解する工程を含み、この場合、工程a)のエポキシ樹脂Rは、複合材料CMである、工程、
c’)工程b’)後、エポキシ樹脂含有量が減少した複合材料を得る工程
を含む方法を対象とする。
【0187】
その場合、工程b’)において、エポキシ樹脂Rを分解する工程は、以下に対応する:
a)本発明によるエポキシ樹脂Rを含む複合材料を溶媒に添加して、混合物MAを得る工程、
b)工程a)後に得られた混合物MAを酵素処理する工程であって、混合物MAをグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させて、混合物MBを得る工程を含む、工程、
c)任意選択的に、工程b)と同時に混合物MAを酵素処理するか、又は工程b)後に得られた混合物MBを酵素処理する工程であって、混合物MA又は混合物MBをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させて、混合物MCを得る工程を含む、工程、
d)任意選択的に、混合物MB又は混合物MCを化学的に処理する工程であって、強ブレンステッド塩基を含む水溶液と混合物MB又は混合物MCを接触させて、混合物MDを得る工程を含む、工程。
【0188】
複合材料は、物理的又は化学的特性が大きく異なる2つ以上の構成材料から製造された材料であり、それらを組み合わせると、個々の構成要素と異なる特徴を有する材料がもたらされる。したがって、典型的には、複合材料は、マトリックスと強化材とを含む。
【0189】
本発明では、複合材料は、強化材と、上述した少なくとも1種のエポキシ樹脂Rを含むマトリックスとを含む。
【0190】
強化材は、好ましくは、強化繊維である。これは、無機、有機又は植物繊維、特にガラス繊維又は炭素繊維であり得る。より好ましくは、強化材は、炭素繊維である。
【0191】
マトリックスは、上述の少なくとも1種のエポキシ樹脂Rを含む。したがって、マトリックスは、上述した1種以上のエポキシ樹脂を含むことができる。
【0192】
マトリックスは、不飽和ポリエステル、ポリビニルエステル、フェノール樹脂及びポリウレタンなどの他の熱硬化性樹脂を含むこともできる。
【0193】
マトリックスは、上述した少なくとも1種の追加の化合物R3と、上述した少なくとも1種の硬化剤R2とに基づく別のエポキシ樹脂を含むこともできる。
【0194】
マトリックスは、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオレフィン又はこれらの組み合わせなどの熱可塑性樹脂を含むこともできる。
【0195】
有利には、マトリックスは、ポリアミド粒子、ポリイミド粒子又はこれらの組み合わせを含む。
【0196】
特に、マトリックスは、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン又はこれらの組み合わせを含む。これらの熱可塑性樹脂は、強化剤として使用することができる。その場合、マトリックスは、熱可塑性強化エポキシ樹脂である。
【0197】
マトリックスは、エポキシ樹脂の硬化を強化又は促進する促進剤も含むことができる。
【0198】
マトリックスは、コアシェルゴム、難燃剤、湿潤剤、顔料、染料、UV吸収剤、充填剤、導電性粒子及び粘度調整剤などの性能調整剤を含むことができる。
【0199】
好ましくは、エポキシ樹脂がマトリックスの主成分である。より好ましくは、これは、マトリックスの少なくとも50重量%を占める。
【0200】
上の「ラウンド」の段落で説明したように、工程b’)後に得られた混合物は、本発明によるエポキシ樹脂を分解する方法の1回目のラウンドを行った後、本発明によるエポキシ樹脂を分解する方法に再び供され得、したがって工程b’)で複合材料CMが置き換えられる。次いで、本発明による方法の2回目のラウンドが行われる。この方法で複数回のラウンドを行うことができる。
【0201】
その場合、複合材料をリサイクルする方法は、以下の工程を含む:
a’)複合材料であって、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2と
に基づくエポキシ樹脂Rを含む複合材料CMを提供する工程、
b1’)工程a’)後に得られた複合材料CMを処理する工程であって、本発明による方法でエポキシ樹脂Rを分解する工程を含み、この場合、工程a)のエポキシ樹脂Rは、複合材料CMである、工程、
b2’)工程b1’)後に得られる、エポキシ樹脂含有量が減少した複合材料を処理することにより、工程b1’)を繰り返す工程であって、処理は、本発明による方法でエポキシ樹脂Rを分解する工程を含み、この場合、工程a)のエポキシ樹脂Rは、工程b1’)後に得られる、エポキシ樹脂含有量が減少した複合材料である、工程、
c’)工程b’)後、エポキシ樹脂含有量が減少した複合材料を得る工程。
【0202】
有利には、複合材料CMは、炭素繊維を含む。したがって、工程c’)において、エポキシ樹脂含有量が減少した複合材料が得られ、炭素繊維を単離することができる。
【0203】
本発明による複合材料をリサイクルする方法は、したがって、複合材料から炭素繊維をリサイクルすることを可能にする。
【実施例
【0204】
実施例で試験したエポキシ樹脂は、以下の通りである:樹脂R1は、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)の存在下でビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE又はDGEBAとも呼ばれる)を重合することによって得られ、以下の一般構造を有する。
【化3】
【0205】
樹脂R2は、イミダゾール誘導体(5-エチル-2-メチルイミダゾール)の存在下でビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE又はDGEBAとも呼ばれる)を重合することによって得られ、以下の一般構造を有する。
【化4】
【0206】
実施例では、溶解したGST発現細菌の培養液としてGSTが添加される。これは、以下のプロセスに従って製造される:
1.GST発現株を培養し、遠心分離して細胞ペレットを得る;
2.細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合する;
3.リン酸緩衝液中で超音波処理することによって細胞を溶解し、GSTを含む培養液を得る。
【0207】
実施例では、溶解したPHBH発現細菌の培養液としてPHBHを添加する。これは、以下のプロセスに従って製造される:
1.PHBH発現株を培養し、遠心分離して細胞ペレットを得る;
2.細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合する;
3.リン酸緩衝液中で超音波処理することによって細胞を溶解し、PHBHを含む培養液を得る。
【0208】
実施例では、溶解したET004発現細菌の培養液としてET004が添加される。これは、以下のプロセスに従って製造される:
1.ET004発現株を培養し、遠心分離して細胞ペレットを得る;
2.細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合する;
3.リン酸緩衝液中で超音波処理することによって細胞を溶解し、ET004を含む培養液を得る。
【0209】
A - 工程a)溶媒へのエポキシ樹脂の添加
この工程は、次の工程で使用される酵素の鍵となる結合部位への近づきやすさを改善するために、エポキシ樹脂を膨潤させ、潜在的に脱架橋することを目的とする。
【0210】
最初に、一連の溶媒を試験した(水、NaHPOの水溶液、HPOの水溶液、アンモニアの水溶液、酢酸、DMSO、DMF、ヘキサン及びフェノール)。
【0211】
この試験は、0.1g/1mlの樹脂/溶媒比率でエポキシ樹脂R1又はR2を溶媒に室温で80日間浸漬することを含む。これらの予備分析は、これらの溶媒にさらされた後の材料の挙動を評価するために行った。
【0212】
NaHPOの水溶液は、樹脂の変性を促進する能力のみならず、取り扱いが安全であり、安価であり、リサイクル可能であるという理由からも選択した。
【0213】
工程a)後に得られた混合物を、この工程中に起こっていることを評価するために調べた。
【0214】
したがって、工程a)は、以下の通りに樹脂R2に対して行った:
第1の工程:0.21gの樹脂R2+20.56gのNaHPO*12HO(M.W.358.14g/mol)の溶液を調製し、98.05gのOを添加し、90℃で1時間撹拌する;
第2の工程:混合物の重量が119gから55gになるまで、前の工程からの溶液を80℃において真空下で蒸発させる;
第3の工程:前の濃縮された溶液を90℃の脱イオンHO300gで希釈する;
第4の工程:混合物の重量が44gに減少するまで、80℃において真空下で蒸発させ、その後、90℃の水を456g添加する;
第5の工程:前の工程からの溶液を遠心分離して、黄色がかった上澄みと、2種類の固体(一方は、黄色味を帯びており、元の樹脂に類似しており、他方は、灰色味を帯びており、脆く、不透明である)を得る。
【0215】
得られた混合物のHPLC及びMS分析により、最初の工程a)が樹脂を分解させることが観察された。樹脂のリン酸化及び/又は樹脂のエーテル結合の切断により得られる生成物を特に同定することができた。
【0216】
B - 工程b)混合物MAをグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させることによる酵素処理
樹脂R1及びR2に対して工程a)を行ってMA1及びMA2をそれぞれ得た後、N.アロマチシボランス(N.aromaticivorans)株由来の「NaLigE」と名付けられた酵素の活性を評価するために、工程b)を以下に記載の方法に従って行った。
【0217】
エチルバニリンもモデルとしてMA1及びMA2と共に試験した。
【0218】
工程a)混合物MA1及びMA2の調製:
第1の工程:NaHPO.12HO塩が完全に溶解するまで、60℃で1.98gの樹脂+50.65gの脱イオンHO;+90.00gのNaHPO.12HO、+189gの脱イオンHOの溶液を調製する;
第2の工程:前の工程からの溶液を真空下80℃で蒸発させて水を除去し、次いで300gの脱イオンHOを添加し、その後、完全に水分が除去されるまで再度蒸発させる;
第3の工程:第2の工程を繰り返す;
第4の工程:90℃の脱イオンHOを、工程3後に得られた乾燥固体に添加する;
第5の工程:9.96gのβ-シクロデキストリンを前の溶液(総重量142g)に添加して混合する;
第6の工程:混合物を90℃で2日間撹拌する;
第7の工程:混合物を希釈して200mlの体積を得る。
【0219】
樹脂R1に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA1と表す。
【0220】
樹脂R2に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA2と表す。
【0221】
【表1】
【0222】
表Aに従い、適切な容積の反応器に成分を以下の順序で入れた:1番目:基質(エチルバニリン又はMA1又はMA2);2番目:3MのNaOH水溶液;3番目:グルタチオン;4番目:グリシン;5番目:GST酵素。反応は、25℃/220rpmで5日間行う。クロマトグラフプロファイルの比較のために、サンプルをHPLC分析にかけた(サンプルは、0時間、16時間、40時間、66時間及び120時間の時点で採取した)。
【0223】
HPLCキャラクタリゼーション条件:
(1)移動相
溶液A:メタノール;
溶液B:1%のギ酸を含むddH2O;
A:B比=35%:65%
(2)カラム:Agilent C18、250mm*4.6mm
(3)検出波長:280nm
(4)カラム温度:25℃
(5)流量:1ml/分。
【0224】
結果:
HPLCクロマトグラフィーにより、混合物MA1及びMA2の両方で時間と共にピークの変化が観察された。2.7分、3.1分、3.5分の3つの主要なピークが0時間で観察された。2.7分のピークは、時間と共に増加し、GSTによる酵素処理中の混合物のさらなる分解を示している。
【0225】
グルタチオンS-トランスフェラーゼの作用機序は、アリールエーテル結合の切断であると考えられた。これは、エチルバニリンを用いて以下のモデル反応を実行することによって確認された。
【化5】
【0226】
エチルバニリン基質の消費は、実際にHPLCによって観察された。
【0227】
グルタチオンS-トランスフェラーゼによる酵素処理の工程b)により、樹脂が部分的オリゴマー化された。
【0228】
C - 工程c)混合物MAをパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させることによる酵素処理
樹脂R1及びR2に対して工程a)を行い、混合物MA1及びMA2をそれぞれ得た後、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来の変異酵素の活性を評価するために、以下の方法に従って工程c)を行った:
- M010-2(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のL199V及びY385F変異酵素)、
- M012-2(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のL199G、Y385F変異酵素)、
- YM322-2(コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来のL200V、Y385F、D39Y変異酵素)、及び
- M020-1(コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来の野生型酵素)。
【0229】
工程a)混合物MA1及びMA2の調製:
第1の工程:NaHPO.12HO塩が完全に溶解するまで、60℃で1.98gの樹脂+50.65gの脱イオンHO;+90.00gのNaHPO.12HO、+189gの脱イオンHOの溶液を調製する;
第2の工程:真空下80℃で蒸発させて水を除去し、次いで300gの脱イオンHOを添加し、その後、完全に水分が除去されるまで再度蒸発させる;
第3の工程:第2の工程を繰り返す;
第4の工程:90℃の脱イオンHOを乾燥固体に添加する;
第5の工程:9.96gのβ-シクロデキストリンを前の溶液(総重量142g)に添加して混合する;
第6の工程:混合物を90℃で2日間撹拌する;
第7の工程:混合物を200mlに希釈する。
【0230】
樹脂R1に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA1と表す。
【0231】
樹脂R2に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA2と表す。
【0232】
【表2】
【0233】
表Bに従い、適切な容積の反応器に成分を以下の順序で入れた:1番目:基質(工程aの工程7後に得られたMA1又はMA2)、2番目:グルコース、3番目:NADP、4番目:FAD、5番目:ET004、6番目:PHBH。反応は、35℃/220rpmで98時間行う。クロマトグラフプロファイルの比較のために、サンプルをHPLC分析にかけた(サンプルは、0時間、30時間、96時間の時点で採取した)。
【0234】
HPLC分析条件:
(1)移動相
溶液A:メタノール;
溶液B:1%のリン酸を含むddH2O;
A:B=30%:70%
(2)カラム:Agilent C18、250mm*4.6mm
(3)検出波長:210nm
(4)カラム温度:25℃
(5)流量:1ml/分。
【0235】
結果:
HPLCクロマトグラフィーにより、混合物MA1及びMA2の両方で時間と共にピークの変化が観察され、PHBHを用いた酵素処理中に混合物がさらに分解されることが実証された。特に、M010-2を用いたMA1の酵素処理で最も興味深い結果が観察され、HPLCにより3.5分及び4.2分におけるピークの経時的な有意な増加が示された(表1及び2を参照されたい)。
【0236】
【表3】
【0237】
【表4】
【0238】
パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)の作用機序は、アリール環のヒドロキシル化であると考えられた。これは、以下のモデル反応を実行することにより確認された。
a.モデル反応1 - 基質として3,4-ジヒドロキシ安息香酸を使用:
【化6】
b.モデル反応2 - 基質としてビスフェノールA(BFA)を使用:
【化7】
【0239】
D - 同時の工程b)及びc)を行うことによる酵素処理
工程a):
(1)NaHPO.12HO塩が完全に溶解するまで、60℃で1.98gの樹脂+50.65gの脱イオンHO;+90.00gのNaHPO.12HO、+189gの脱イオンHOの溶液を調製する;
(2)前の工程からの溶液を真空下80℃で蒸発させて水を除去し、次いで約300gの脱イオンHOを添加し、その後、完全に水分が除去されるまで再度蒸発させる;
(3)再度第2の工程を繰り返す;
(4)90℃の脱イオンHOを工程3後に得た乾燥固体に添加する;
(5)9.96gのβ-シクロデキストリンを工程4で得た混合物(総重量142g)に添加して混合する;
(6)混合物を90℃で2日間撹拌する;
(7)混合物を希釈して200mlの体積を得る。
【0240】
樹脂R1に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA1と表す。
【0241】
樹脂R2に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA2と表す。
【0242】
工程b)及びc):
【0243】
【表5】
【0244】
表Cに従い、適切な反応器に化合物を以下の順序で入れた:1番目:基質(混合物MA1又はMA2)、2番目:NaOH水溶液(pH9)、3番目:グルコース、4番目:還元型グルタチオン(GSH)、5番目:グリシン、6番目:NADP、7番目:FAD、8番目:ET004、9番目:PHBH、10番目:GST。反応媒体を均一になるまで撹拌する。反応は、30℃/220rpmで72~96時間で行う。反応媒体を0時間、20時間、48時間、72時間及び96時間の時点でサンプリングした。酵素を使用しない対照実験も行った。
【0245】
MA1に対して工程b)及びc)を行った後に得られた混合物をMC1と表す。
【0246】
MA2に対して工程b)及びc)を行った後に得られた混合物をMC2と表す。
【0247】
MA1に対して酵素なしで実験を行った後に得られた混合物は、MC1-CTRLと表す。
【0248】
MA2に対して酵素なしで実験を行った後に得られた混合物は、MC2-CTRLと表す。
【0249】
HPLC分析条件
(1)移動相
溶液A:メタノール;
溶液B:1%のリン酸を含むddH2O;
A:B=30%:70%
(2)カラム:Agilent C18、250mm*4.6mm
(3)検出波長:210nm
(4)カラム温度:25℃
(5)流量:1ml/分。
【0250】
【表6】
【0251】
上の表3は、酵素GST及びPHBHの存在の影響並びに併用した場合のそれらの効果を示す。時間に応じたピーク面積の変化は、樹脂R1及びR2に由来し、GST及びPHBHで処理された混合物MC1及びMC2の特定の保持時間において溶出又は同時溶出する分子種の濃縮を示している。対照的に、酵素で処理されていない樹脂R1及びR2のサンプル(MC1-CTRL及びM2-CTRL)では、ほとんど何も起こらなかった。
【0252】
E - スケールアップ
工程a)
第1の工程:10.04gの樹脂R1+102.08gの脱イオンHO;+100.01gのNaHPO.12HOの溶液を調製し、NaHPO.12HO塩が完全に溶解するまで60℃で混合する;
第2の工程:前の工程からの溶液を真空下80℃で蒸発させて水を除去し、次いで約300gの脱イオンHOを添加し、その後、完全に水分が除去されるまで再度蒸発させる;
第3の工程:第2の工程を繰り返す;
第4の工程:90℃の脱イオン水を工程3後の乾燥固体に添加する;
第5の工程:50.72gのβ-シクロデキストリンを前の溶液に添加して混合する;
第6の工程:混合物を90℃で2日間撹拌する;
第7の工程:混合物を希釈して反応媒体中で約1200mlの体積を得る。
【0253】
第7の工程の材料希釈後に得られた培養液を実際に使用して、樹脂R2及びR2の分解を調べる。
【0254】
樹脂R1に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA1と表す。
【0255】
樹脂R2に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA2と表す。
【0256】
工程b)及びc)
【0257】
【表7】
【0258】
表Dに従い、5Lの反応器に化合物を以下の順序で入れた:1番目:基質(MA1又はMA2)、2番目:3MのNaOH、3番目:グルコース、4番目:GSH、5番目:グリシン、6番目:NADP、7番目:FAD、8番目:ET004、9番目:PHBH、10番目:GST。反応媒体は、均一になるまで200rpmで撹拌する。圧縮空気を反応器内に1L/分の速度においてポンプで入れた。反応は、30℃/200rpmで66時間行う。得られた混合物を濾過及び乾燥した。
【0259】
MA1から出発して得られた乾燥混合物をMC1と表す。
【0260】
MA2から出発して得られた乾燥混合物をMC2と表す。
【0261】
MA1に対して酵素なしで実験を行った後に得られた混合物は、MC1-CTRLと表す。
【0262】
MA2に対して酵素なしで実験を行った後に得られた混合物は、MC2-CTRLと表す。
【0263】
【表8】
【0264】
【表9】
【0265】
表4及び5は、樹脂R1及びR2の両方をGST及びPHBHで処理した場合、材料の減少が観察されることを示す。
【0266】
工程d)
乾燥した混合物MC1及びMC2のサンプルを採取し(質量約1g)、90℃で撹拌しながら96時間(4日間)2MのNaOH水溶液で処理した。次いで、混合物を濾過し、洗浄し、90℃で5時間乾燥し、質量の減少を以下の表6に記録した。
【0267】
MC1から出発して得られた乾燥混合物をMD1と表す。
【0268】
MC2から出発して得られた乾燥混合物をMD2と表す。
【0269】
MA1に対して酵素なしで実験を行った後に得られた混合物は、MD1-CTRLと表す。
【0270】
MA2に対して酵素なしで実験を行った後に得られた混合物は、MD2-CTRLと表す。
【0271】
【表10】
【0272】
化学酵素処理された樹脂R1及びR2は、未処理の樹脂R1及びR2と比較して、NaOHの作用の影響を受けやすく、より多くの質量を失う。化学酵素処理は、一部のR1及びR2のアルカリ性媒体への溶解性を高めることに寄与していた。
【0273】
F-本発明による方法の2回のラウンド
1回目のラウンド:
- 工程a)
(1)1.98gの樹脂R2+50.65gのddH2O;+90.00gのNaHPO.12HO、+189gのddHOの溶液を調製し、NaHPO.12HO塩が完全に溶解するまで、60℃で混合する;
(2)真空下80℃で蒸発させて水を除去し、次いで300gの脱イオン水を添加し、その後、完全に水分が除去されるまで再度蒸発させる;
(3)第2の工程を繰り返す;
(4)90℃の脱イオン水を乾燥固体に添加する;
(5)9.96gのβ-シクロデキストリンを前の溶液(総重量142g)に添加して混合する;
(6)混合物を90℃で2日間撹拌する;
(7)混合物を希釈して200mlにする;
(8)樹脂R1を(1)~(7)と同様のプロセスで処理した。
【0274】
樹脂R1に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA1と表す。
【0275】
樹脂R2に対して工程1~7を行った後に得られた混合物をMA2と表す。
【0276】
- 工程b)及びc)
【0277】
【表11】
【0278】
表Eに従い、適切な反応器に化合物を以下の順序で入れた:1番目:基質(MA1又はMA2)、2番目:3MのNaOH、3番目:グルコース、4番目:GSH(GST酵素の基質)、5番目:グリシン、6番目:NADP(補因子)、7番目:FAD(補因子)、8番目:ET004(酵素)、9番目:PHBH(酵素)、10番目:GST(酵素)。反応媒体を均一になるまで撹拌する。反応は、30℃/220rpmで72~96時間で行う。
(1)得られた混合物をデカンテーションし、上澄みを除去した。
(2)水を添加し、再度デカンテーションし、その後、上澄みを除去した。
(3)上澄みが透明になるまで工程(2)を繰り返した。
(4)上澄みを除去した。
【0279】
MA1から出発して得られた混合物をMC1と表す。
【0280】
MA2から出発して得られた混合物をMC2と表す。
【0281】
- 工程d)
(1)2MのNaOH溶液50mlを混合物MC1又はMC2に添加する;
(2)混合物を90℃で4日間撹拌する;
(3)混合物から上澄みを除去し、固体を水で3回洗浄する。
【0282】
MC1から出発して得られた混合物をMD1と表す。
【0283】
MC2から出発して得られた混合物をMD2と表す。
【0284】
酵素PHBH及びGSTを含まない対照実験も行った。
【0285】
2回目のラウンド:
- 2回目のラウンドの酵素処理(工程b及びc):
1回目のラウンドからの固体を以下の順序で他の化学物質及び酵素と再度混合する:1番目:基質(1回目のラウンドからのMD1)、2番目:3MのNaOH、3番目:グルコース、4番目:GSH、5番目:グリシン、6番目:NADP、7番目:FAD、8番目:ET004、9番目:PHBH、10番目:GST。反応媒体を均一になるまで撹拌する。反応は、30℃、220rpmで120時間(5日間)行う。
(1)得られた混合物をデカンテーションし、上澄みを除去した。
(2)水を添加し、再度デカンテーションし、上澄みを除去した。
(3)上澄みが透明になるまで工程(2)を繰り返した。
(4)上澄みを除去した。
【0286】
MC1から出発して得られた混合物をMD1’と表す。
【0287】
- 2回目のラウンドのNaOH処理(工程d):
(1)2MのNaOH溶液50mlをMC1’に添加する;
(2)混合物を90℃で4日間撹拌する;
(3)混合物から上澄みを除去し、固体を水で3回洗浄する;
(4)固体を70℃で乾燥する。
【0288】
MC1’から出発して得られた混合物をMD1’と表す。
【0289】
【表12】
【国際調査報告】