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特表2023-532839電気化学プラントのオンデマンド閉ループ制御のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】電気化学プラントのオンデマンド閉ループ制御のための方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/023 20210101AFI20230725BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230725BHJP
   C25B 1/34 20060101ALI20230725BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230725BHJP
   H02J 15/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C25B15/023
C25B1/04
C25B1/34
C25B9/00 A
H02J15/00 G
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022572777
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(85)【翻訳文提出日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2021064727
(87)【国際公開番号】W WO2021254774
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】102020115711.8
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522219939
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ヌセラ・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コンパニー・コマンディトゲゼルシャフトアウフアクチェン
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ツィロス,クリストス
(72)【発明者】
【氏名】バーキン,コーネリア
(72)【発明者】
【氏名】ポリシン,グレゴール,ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】ルーク,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】トロス,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】フルヴィオ,フェデリコ
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AA09
4K021AB01
4K021BA02
4K021CA06
4K021DC03
(57)【要約】
本発明は、電気化学プラントのオンデマンド閉ループ制御のための方法に関し、このプラントは、モジュールおよび開ループ制御ユニットを備え、各モジュールは、開ループ制御ユニットによって個々に制御され、各モジュールが別々の生産電流を発生するためにモジュール固有の動作電流が供給され、個々のモジュールの生産電流は、モジュールがそれらの生産電流に関して並列に接続され、結合してプラントの1つの総生産電流を形成する。方法は、開始条件が存在するとき、開ループ制御ユニットによって以下のステップ:現在の総生産電流要件を検出するステップ1、特定の動作電流と生産電流の比に依存する、電気化学プラントのモジュールの現在の効率を検出するステップ2、使用可能状態にあるモジュールを決定するステップ3、モジュールの効率および現在の総生産電流要件に応じて、許容可能なモジュール固有の所望の動作電流の範囲から現在の総生産電流要件をカバーするために、使用可能状態にあるモジュールについてのモジュール固有の所望の動作電流を決定するステップ4、使用可能状態にあるモジュールの動作電流を決定されたモジュール固有の所望の動作電流に調整するステップ5が実行されることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モジュール(M)および制御ユニット(C)を備える電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御のための方法であって、各モジュール(M)は、前記制御ユニットによって個々に制御され、前記モジュール(M)の各々が別々の生産フローを生成するためにモジュール固有の動作電流が供給され、前記個々のモジュール(M)の前記生産フローは、それらの生産フローに関して並列に接続され、合流して前記プラントの総生産フローを形成し、開始条件が満たされたときに前記制御ユニット(C)によって以下のステップ:
現在の総生産フロー需要(B)を記録するステップ(1)、
前記それぞれの動作電流と生産フローの比に応じて、前記電気化学プラントの前記モジュール(M)の現在の効率を記録するステップ(2)、
前記動作可能状態にあるモジュール(M)を決定するステップ(3)、
前記モジュール(M)の前記効率および前記現在の総生産フロー需要(B)に応じて、許容可能なモジュール固有の目標動作電流(I)の範囲から前記現在の総生産フロー需要(B)をカバーするために、前記動作可能状態にあるモジュール(M)についてのモジュール固有の目標動作電流を決定するステップ(4)、
前記動作可能状態にあるモジュール(M)の前記動作電流を前記決定されたモジュール固有の目標動作電流(I)に設定するステップ(5)
が実行されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記モジュール固有の目標動作電流(I)を決定するために、前記それぞれのモジュール(M)は、それらの現在の効率に従ってソートされ、前記既存の総生産フロー需要(B)が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される(3a)ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記n個のモジュールをそれらの効率に関して迅速にソートするために、n*log(n)に従ってスケーリングするアルゴリズムが使用されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記モジュール固有の目標動作電流(I)を決定するために、前記それぞれのモジュール(M)は、モジュール固有のライフサイクルパラメータに従ってソートされ、前記現在の総生産フロー需要(B)が満たされるまでその順序に従って上昇または下降され(3a)、前記ライフサイクルパラメータは、前記モジュールの前記現在の効率、および前記電気化学プラントのメンテナンスコストを考慮に入れた補正項から計算されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記補正項は、前のライフサイクル中に前記それぞれのモジュールを通って流れた総電荷量に応じて、および/または前記それぞれのモジュールの寿命に応じて、および/または前記電気化学プラント内の前記モジュールの位置に応じて決定されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記動作可能状態にあるモジュール(M)が前記総生産フロー需要(B)を満たすための前記モジュール固有の目標動作電流(I)は、個々のモジュール(M)ごとに達成可能な前記効率の予測計算を使用し、前記それぞれのモジュール固有の動作電流の段階的な変化を仮定して反復的に決定されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反復は、貪欲アルゴリズムに基づくことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反復は、前記総生産フロー需要(B)からの前記総生産フローの現在の偏差に応じて選択される適応ステップサイズで実行されることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記モジュール固有の目標動作電流を決定するときの前記モジュール(M)の前記効率は、前記モジュール固有の動作電流とすべてのモジュール(M)の前記モジュール固有の動作電流の和の比に依存する重み係数で重み付けされる(4a)ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
すべてのモジュールは、前記制御ユニットによって基本負荷に対応する最小動作電流を割り当てられることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記制御ユニットは、プラント監視ユニットであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記総生産フロー需要からの前記現在生成されている生産フローの事前定義可能な量による偏差は、開始条件として使用されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
個々のモジュールのコミッショニングまたはデコミッショニングは、開始条件として使用されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記制御ユニットによって決定される前記モジュールの温度の事前定義可能な最大量による超過または不足は、開始条件として使用されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記電気化学プラントは、水電解プラントであることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記個々のモジュールの前記効率は、電流-電圧特性によって決定されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記制御ユニット内の前記個々のモジュールの前記効率は、前記モジュールの経年劣化のドキュメンテーションとして記憶されることを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記個々のモジュールは、特定の期間にわたって過負荷、例えば110%で動作することを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
特定のモジュールは、前記動作可能状態にあるモジュールの前記効率を改善するために所定の平衡化動作電流で所定の時間にわたって給電され、この改善は、前記モジュール固有の目標動作電流を決定する際に考慮されることを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モジュールおよび制御ユニットを備える電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御のための方法に関し、各モジュールは、制御ユニットによって個々に制御され、各モジュールが別々の生産フロー(product flow)を生成するためにモジュール固有の動作電流が供給され、個々のモジュールの生産フローは、それらの生産フローに関して並列に接続され、互いに合流してプラントの1つの総生産フローを形成する。
【背景技術】
【0002】
化学プラントのエネルギー需要は、産業全体のエネルギー需要のかなりの部分を占めるため、経済的理由と生態学的理由の両方のために、化学プラントのエネルギー要件を低減することに大きな関心が寄せられている。
【0003】
特にエネルギー集約的なプラントの参照の一例は、水電解または塩素-アルカリ電解プラントなどの電解プラントである。そのようなプラントの中心には、直列に接続されたセルがあり、スタックとも呼ばれるモジュールを形成する。このような構造は、燃料セルまたは電池技術においても使用される。典型的な大規模化学プラントでは、所望の総生産フロー、例えば材料フローまたは電流を生成するために、すなわち電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御を実施するために、多数のそのようなモジュールが並列に動作する。プラントの総生産フローが純粋に再生可能エネルギー源から満たされるべきである場合、プラントは十分に柔軟である必要がある。プラントにおける高度な柔軟性は、再生可能エネルギー源によって提供される大きく変化する電力を可能な限り包括的かつ迅速に総生産フローに変換することができることを保証する。プラスの副作用として、この柔軟なタイプのプラントはまた、グリッド安定性を維持するために、強風または強い日射によって引き起こされる電力ピークを効率的かつ実用的な方法で緩衝するために使用することができる。この点において、そのようなプラントは、特にエネルギー効率が良く、かつ可能な限り柔軟に反応することができることの両方が要求される。
【0004】
欧州特許第2 350 352号明細書は、風力発電からの水素の電解生産のための電力送達システム、ならびに水素生産のために風力発電所から複数の電解モジュールへの電気エネルギーの分配を制御するための方法を開示している。使用される制御システムは、風力発電所によって提供される電気エネルギーのレベルに可能な限り近いモジュール利用率を保つように設計されており、これは風力強度が大きく変動する場合に特に問題となり、したがって水素生産に対して再生可能エネルギーの可能な限り高い割合を使用するように設計されている。この目的のために、モジュールの動作電流は、風力エネルギーの可能な限り高い割合を水素生産に投資することができるように、風力発電所によって生成された利用可能なDC電力に基づいて選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第2 350 352号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのようなプラントの欠点は、それらが最適なエネルギー効率動作点から遠く離れて動作するため、そのような既存のプラントは総電力消費量が増加し、経済的にも生態学的にも賢明ではないことである。特に、従来技術から知られているシステムまたはそのようなシステムの閉ループ制御の場合、個々のモジュールの個々の寿命特性および動作モードは無視されるが、それらはプラント全体の効率、したがってその全体的な電力消費量にかなりの影響を及ぼす。
【0007】
この点において、本発明の目的は、電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御のための方法を提案することであり、この方法は、可能な限り最小の総電力消費量、可能な限り最も経済的かつ生態学的な動作、および大きく変動する総生産フロー需要に対処するための高度な柔軟性を特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、最初に述べた一般的な方法によって達成され、これは、開始条件が満たされたときに制御ユニットによって以下のステップ:
現在の総生産フロー需要を記録するステップ、
それぞれの動作電流と生産フローの比に応じて、電気化学プラントのモジュールの現在の効率を記録するステップ、
動作可能状態にあるモジュール(operationally ready module)を決定するステップ、
モジュールの効率および現在の総生産フロー需要に応じて、許容可能なモジュール固有の目標動作電流の範囲から現在の総生産フロー需要をカバーするために、動作可能状態にあるモジュールについてのモジュール固有の目標動作電流を決定するステップ、
動作可能状態にあるモジュールの動作電流を決定されたモジュール固有の目標動作電流に設定するステップ
が実行されるという事実によって特徴付けられる。
【0009】
本発明の文脈において論じられているモジュールの特徴は、モジュールがそれらの効率に関して特徴付けられ得ることである。そのようなモジュールは、例えば、電解モジュールとすることができ、その電流-電圧特性は、モジュールの異なる動作点のファミリー全体を表す。加えて、古い、したがってエネルギー効率の低いモジュールは同じ電流または生産フローを供給するためにより高い電圧を必要とするため、モジュールの経年劣化プロセスも電流-電圧特性に反映される。
【0010】
本発明による方法の本質的な特徴は、閉ループ制御の需要ベースの化学プラントが、個々のモジュールに加えて制御ユニットを備え、このユニットは、個々にモジュールを作動させるように設計されていることである。この作動は、特に、制御ユニットが各モジュールにモジュール固有の動作電流を供給することを伴う。プラントは、プラント内の個々のモジュールの生産フローが組み合わされて総生産フローを形成するように設計されている。
【0011】
本発明による方法の特性は、開始条件が満たされた場合、以下のステップが制御ユニットによって実行されることである。
【0012】
現在の総生産フロー需要が記録される。これは、総生産フロー需要が化学プラントによって満たされる程度まで必要である。
【0013】
加えて、各モジュールの効率が記録される。これは、化学プラントを可能な限り効率的に閉ループ制御することを可能にするために、本発明による方法における本質的なステップを表す。モジュール固有の効率は、モジュール固有の動作電流とモジュールのそれぞれの生成された生産フローの比に依存する。モジュールの効率は一定ではないが、例えば、モジュールの経年劣化または動作温度にも依存する。
【0014】
加えて、本発明による方法の一部として、プラントの利用可能なモジュールが記録される。特に、動作可能状態にあるモジュールのみを考慮することも可能であり、欠陥があるかまたはメンテナンスを受けているモジュールは、総生産フロー需要に寄与することができず、したがって無視されるので、そのようなモジュールの不足寄与は、可能であれば動作可能状態にあるモジュールによって補償されなければならない。動作可能状態にないモジュールには、本質的に0のモジュール固有の目標動作電流が割り当てられ、その結果、そのようなモジュールは効果的にオフになる。本発明によれば、モジュールを識別することによって、モジュール自体だけでなく総生産フロー容量を決定することができることが可能であり得る。そのような情報は、例えば、エネルギー、特に再生可能エネルギーの過剰供給を緩衝するために、プラントの閉ループ制御を実施するために価値がある。好ましい改良形態の一部として、個々のモジュールは、グリッド安定性に特に高い寄与をするために、特定の期間にわたって過負荷、例えば110%で動作することが可能であり得る。
【0015】
本発明による方法のさらなるステップでは、総生産フロー需要を満たすために、モジュール固有の目標動作電流が決定される。これは、モジュール固有の基準で決定され、言い換えれば、この方法は、各モジュールに個々の目標動作電流が割り当てられることを可能にする。目標動作電流は、許容可能なモジュール固有の目標動作電流の範囲から選択される。このような範囲の下限は、例えば、完全にモジュールを動作させるために必要な目標動作電流によって与えられる。目標動作電流の上限は、例えば、モジュールが過度の損傷を受けることなく、すなわち通常の経年劣化効果を超えることなくその最大利用率の限界で動作する電流によって与えられる。
【0016】
しかし、モジュール固有の目標動作電流は、目標動作電流の許容可能な範囲が維持され、総生産フロー需要が満たされることのみに基づいて決定されるわけではない。代わりに、モジュール固有の目標動作電流は、モジュールの効率および現在の総生産フロー需要に応じて決定される。総生産フロー需要に対する目標動作電流の依存性は、単に、モジュールに特定の目標動作電流を供給することと生成される総生産フローとの間に直接的な依存性があるという事実によるものであり、したがって、目標動作電流は、総生産フロー需要に関して常に決定されなければならず、モジュールの効率に対するモジュールの目標動作電流の依存性は、自明でない依存性を表す。目標動作電流の決定におけるモジュールの効率をこのように考慮することにより、エネルギー効率の良いモードでプラントを動作させることが特に有利な方法で可能になる。
【0017】
モジュールの動作電流が決定されたモジュール固有の目標動作電流に設定されてエネルギー効率の良い方法で総生産フロー需要を満たした後、本発明による方法は、例えば制御ユニットが新しい開始条件の存在についてプラントを監視することによって、最初から再び開始することができる。
【0018】
したがって、本発明による方法は、エネルギー効率の良い動作を可能にするだけでなく、エネルギー、特に再生可能資源から得られるエネルギーの過剰供給に起因する電圧および/または電流ピークが、特定量の電気エネルギー、特に緩衝されるべきエネルギーがこの目的のために使用されるように、本発明による方法によって生成された総生産フローまたは総生産フロー需要を選択することによって緩衝することができるため、総生産フロー需要を満たすための電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御もグリッド安定性に大きく寄与する。
【0019】
本発明によるこの方法の改良形態では、モジュール固有の目標動作電流を決定するために、それぞれのモジュールは、それらの現在の効率レベルに従ってソートされ、現在の総生産フロー需要が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される。結果として、総生産フロー需要が増加または減少する場合、最も効率的なまたは最も効率的でないモジュールには、より高いまたはより低い目標動作電流が供給される。これにより、現在特に高い効率を特徴とするそのようなモジュールが高い利用率または目標動作電流で動作し、非効率なモジュールが低い利用率または目標動作電流で動作することが保証される。
【0020】
モジュール固有の目標動作電流の順序付けられた上昇または下降のためのモジュールの効率に応じたモジュールの順序付けまたはソートは、非常に時間がかかる可能性があり、その結果、大きく変動する総生産フロー需要を満たすことに関する柔軟性は、もはや保証することができない。この問題は、n*log(n)に従ってスケーリングするアルゴリズムを使用してn個のモジュールをソートするのに必要な時間を最小にすることによって、本発明による好ましい改良形態によって対処することができる。例えば、いわゆるクイックソートアルゴリズムは、上述のようにスケーリングし、多数のモジュールを有するプラントに適用される場合であっても、本発明による方法が総生産フロー需要の変化に十分に迅速に反応することを可能にするソートアルゴリズムとして使用することができる。
【0021】
本発明の好ましい改良形態によれば、モジュール固有の目標動作電流(Im)を決定するために、それぞれのモジュール(M)は、モジュール固有のライフサイクルパラメータに従ってソートされ、総生産フロー需要(B)の現在の値が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される。ライフサイクルパラメータは、モジュールの現在の効率、および電気化学プラントのメンテナンスコストを考慮した補正項から計算されるメンテナンスコストを考慮することによって、プラントの動作は、動作の総コスト(総所有コスト)に関して改善される。補正項は、プラントの現在最も効率的な動作点からの偏差を生成し、モジュールの効率に関してモジュールの不均一な経年劣化を可能にする。プラントのメンテナンスコストは、プラントの動作モードに依存する。例えば、特定のメンテナンス間隔でプラントを検査し、ダウンタイムまたはシャットダウンを回避するだけで、メンテナンスコストを削減することができる。したがって、メンテナンスコストを削減するために、メンテナンス間隔が満了した後、プラントが運転している間にモジュールの一部、例えばモジュールの10%~25%を定期的にメンテナンスまたは交換することが有利である。この目的のために、これは、交換されるモジュールがプラントの他のモジュールよりも高い経年劣化度、したがって低い効率を示す場合に有利である。メンテナンスまたは交換後、直近にメンテナンスされたモジュールだけが、それらのより高い効率のために部分負荷動作で使用されるわけではないことを保証することも有利である。これらの利点は、プラントのメンテナンスコストを考慮した補正項によって達成される。
【0022】
補正項は、好ましくは、前のライフサイクル中にそれぞれのモジュールを通って流れた総電荷量に応じて、および/またはそれぞれのモジュールの寿命に応じて、および/または電気化学プラント内のモジュールの位置に応じて決定される。モジュールの電気化学セルでは様々な経年劣化プロセスが活発であり、その進行には特定の時点でのメンテナンスまたは交換が必要である。経年劣化効果のグループは、主にモジュールを通って流れた電荷の総量に依存する。これらには、例えば、セパレータのイオン伝導性の低下および電極コーティングの品質が含まれる。他の経年劣化効果、例えば腐食効果は、主にモジュールの寿命に依存する。電気化学プラントにおけるモジュールの位置を考慮することによって、メンテナンスまたは交換されるべきモジュールが、例えばプラントのブロックまたはセクタにおいて、可能な限り空間的に集中される程度を制御することも可能である。このようにして、メンテナンスコストをさらに削減することができる。
【0023】
動作可能状態にあるモジュールが総生産フロー需要を満たすためのモジュール固有の目標動作電流は、好ましくは、個々のモジュールごとに達成可能な効率の予測計算を使用し、それぞれのモジュール固有の動作電流の段階的な変化を仮定して反復的に決定される。反復方法は、現在の動作状態から開始して変化した条件に迅速かつ効果的に適応することができるため、変化する動作条件下で複雑なプラントを最適化するのによく適している。
【0024】
反復は、好ましくは、貪欲アルゴリズム、すなわち選択時にプラントの効率の最良の変化を約束するシーケンス内の次の状態を増分的に選択するアルゴリズムに基づく。
【0025】
反復は、好ましくは、総生産フロー需要からの総生産フローの現在の偏差に応じて選択される適応ステップサイズで実行される。これにより、反復によって達成可能な最終状態を理論上の最適値に対して改善することができる。
【0026】
好ましい改良形態では、モジュール固有の目標動作電流を決定する際、モジュールの効率は、モジュール固有の動作電流とすべてのモジュールのモジュール固有の動作電流の和の比に依存する重み係数で重み付けされる。これにより、全体的な効率に対する個々のモジュールの効率変化の影響が考慮されるため、化学プラントをその最適なエネルギー効率にさらに近づけることが可能になる。
【0027】
化学プラントの実用的な動作において、本発明による方法の改良形態によれば、焦点は、良好なエネルギー効率だけでなく、総生産フロー需要の大きな変動に十分迅速に対処することができることにもある。したがって、プラントの利用率を十分な柔軟性を伴って大きく変化する需要に適応させることができる。これは、すべてのモジュールが、制御ユニットによって基本負荷に対応する最小動作電流を割り当てられることによって、本発明による方法の改良形態の一部として達成される。最小動作電流は、とりわけ、電解プラントのモジュールなどのすべてのモジュールが最小温度に保たれることを保証し、これによりすべてのモジュールが特定の最小効率を有することが可能になる。そうでなければ、低温電解モジュールは、それらの効率が低いために制御ユニットによって考慮されない可能性があり、その結果、総生産フロー需要が満たされない場合がある。
【0028】
本発明による方法の好ましい実施形態では、制御ユニットは、プラント制御ユニットである。安全上の理由だけで、そのようなプラント制御ユニットは、いずれにしてもほぼすべての化学プラントに必要とされ、これは、本発明による方法を実行するために追加の制御ハードウェアが必要とされないことを意味する。プラントのエネルギー効率の良い動作に関して上述した利点に加えて、これは、本発明による方法の使用を広範囲の化学プラントにおいて特に魅力的にする。
【0029】
本発明による方法ステップは、開始条件が満たされるまで実行されない。そのような開始条件は、現在生成されている生産フローが事前定義可能な量だけ総生産フロー需要から逸脱しているという事実であり得る。そのような開始条件は、モジュールの変動する効率の両方をカバーし、したがって変化する総生産フロー、ならびに変化する総生産フロー需要をもたらす。個々のモジュールのコミッショニングまたはデコミッショニングもまた、可能な開始条件と考えることができる。例えば、個々のモジュールがメンテナンス目的のために使用不能になっている場合、これらのモジュールはもはや総生産フロー需要を満たすために利用できなくなる。上述の開始条件を提供することによって、本発明による方法は、使用不能になっているモジュールを動作可能状態にないものとして扱い、その結果、使用不能になっているモジュールの寄与は別のモジュールによって果たされる。同じことが、例えば、システムが新しいモジュールを備えている場合、コミッショニングされている追加のモジュールにも当てはまる。
【0030】
本発明による方法のさらなる実施形態では、制御ユニットによって決定されるモジュールの温度の事前定義可能な最大量による超過または不足は、開始条件として使用される。これは、本発明による方法が、個々のモジュールが過熱するのを防止することができ、またはモジュールが所望の動作温度よりも低い温度で動作し、したがって可能な限り最良の効率を提供しないのを防止することができることを意味する。指定された期間の満了は、特に単純な開始条件として提供することもできる。
【0031】
本発明による方法の特に好ましい改良形態では、電気化学プラントは、水電解プラントである。エネルギー効率は水電解プラントで特に重要な役割を果たし、様々なモジュールは時として非常に大きな差および効率の変動を示す可能性があるため、水電解プラントに適用される場合、本発明による方法の利点は特に顕著であり得る。
【0032】
本発明による方法のさらなる実施形態の一部として、個々のモジュールの効率は、電流-電圧特性に基づいて決定することができる。これは、例えば、電解モジュールまたは電池にも当てはまる可能性がある。そのような電解または電池モジュールの効率が高いほど、特定の目標動作電流での動作電圧は低くなる。モジュールの経年劣化は、例えば、電流-電圧特性が縦軸に沿ってより高い電圧に向かってシフトするという事実に現れる。
【0033】
本発明による方法の好ましい改良形態では、個々のモジュールの効率は、モジュールの経年劣化のドキュメンテーションとして制御ユニットに記憶される。これは、モジュールの経年劣化が継続的に記録され、新しいモジュールの調達または古いモジュールの再調整を適時に開始することができるという利点をもたらす。これは、過度の経年劣化を受けるモジュールのモジュール故障および非効率的な動作を効果的に防止する。加えて、そのような記憶機能は、最新の記憶効率値を低温の、したがって非効率的なモジュールに割り当てることを特に簡単にし、それにより低温モジュールの効率が使用される場合よりも、電気化学反応の温度依存性を考慮して、モジュールの効率についてのより現実的な値が仮定される。
【0034】
好ましくは、制御ユニット内の測定された効率は、それぞれのモジュールの現在の電流-電圧特性を予測するためのモジュール固有のモデルにデータ点として追加される。データ点の追加は、モジュールが経年劣化するにつれてモデルを更新する。現在の電流-電圧特性を予測するためのモデルは、任意の動作点におけるそれぞれのモジュールの効率の予測および考慮を可能にする。
【0035】
本発明による方法の別の好ましい実施形態では、特定のモジュールは、動作可能状態にあるモジュールの効率を改善するために所定の平衡化動作電流で所定の時間にわたって給電され、この改善は、モジュール固有の目標動作電流を決定する際に考慮される。この平衡化動作電流は、モジュールの個々の効率をより正確に決定することを可能にし、方法の精度をさらに改善する。
【0036】
本発明の好ましい改良形態は、従属請求項、以下の説明、および図から得られる。
【0037】
以下では、例示的な実施形態に基づいて、添付の図を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明による方法の方法ステップの図である。
図2】モジュールがそれらの現在の効率に従ってソートされ、その順序に従って上昇または下降される、好ましい改良形態に従った本発明による方法の方法ステップの図である。
図3】決定されたモジュール固有の目標動作電流が重み係数との乗算によって修正される、代替の好ましい改良形態に従った本発明による方法の方法ステップの図である。
図4】制御ユニットおよび並列に接続された複数のモジュールを備え、モジュールが直列に接続された電解セルから形成されている、水電解プラントに基づく本発明による方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
様々な図において、同一の部分は常に同じ参照符号でラベル付けされており、したがって通常はそれぞれの場合に1回だけ命名または言及される。
【0040】
電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御のための本発明による方法は、モジュールおよび制御ユニットを備えるプラントに適用することができる。各モジュールは、制御ユニットによって個々に制御され、モジュール固有の動作電流が供給される。モジュールに動作電流を供給することによって、生産フローが生成される。このような生産フローは、例えば、塩素-アルカリ電解の場合には塩素および苛性ソーダを含んでもよく、水電解の場合には水素を含んでもよい。プラントが電池の形態である場合、生産フローは単に電流である。いずれの場合も、個々のモジュールによって生成された生産フローは組み合わされて総フローを形成する。
【0041】
図1では、制御ユニットによって実施される本質的な方法ステップが概略的に視覚化されている。開始条件が満たされる場合、これらは、
【0042】
現在の総生産フロー需要を記録するステップ(1)を含む。現在の総生産フロー需要は、大きく変化し得る。特に電池では、総生産フロー需要の非常に大きな変動が可能である。
【0043】
総生産フロー需要が記録されるとすぐに、電気化学プラントのモジュールの効率が記録される(2)。効率は、それぞれの動作電流と生産フローの比に依存する。
【0044】
さらなるステップでは、モジュール、特にどのモジュールが実際に利用可能であるかが識別される(3)。場合によっては、動作可能状態にあるモジュールも識別することができ、動作可能状態にないモジュールは、例えば、欠陥があるか、またはメンテナンス目的のために使用不能になっているモジュールである。非動作モジュールには、例えば、障害またはメンテナンス活動の期間中、本質的に0の固定動作電流を割り当てることもできる。
【0045】
本発明による以下の方法ステップは、現在の総生産フロー需要を満たすためにモジュールについてのモジュール固有の目標動作電流の決定に関する。モジュール固有の目標動作電流は、許容可能なモジュール固有の目標動作電流の範囲から決定され、例えば、過度に高い動作電流を選択することによってモジュールに損傷が生じるのを防止することができる。代わりに、モジュール固有の目標動作電流は、モジュールの効率および現在の総生産フロー需要に応じて決定される(4)。モジュールの効率を考慮することは、最小化された総電力消費点に近い化学プラントの動作を可能にするため、本発明による方法の本質的なステップである。
【0046】
モジュール固有の目標動作電流が決定された後、モジュールの動作電流は、決定されたモジュール固有の目標動作電流に設定される(5)。
【0047】
本発明による方法の好ましい改良形態を、図2に概略的に示す。この改良形態は、モジュール固有の目標動作電流を決定するために、それぞれのモジュールがそれらの現在の効率に従ってソートされ、現在の総生産フロー需要が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される(3a)ことを特徴とする。このようにして、より高いまたはより低い動作電流を効率的または非効率的なモジュールにそれぞれ割り当てることによって、総生産フロー需要が増加または減少する場合にプラントの電力消費量を低減することができる。効率に関してモジュールをソートすることは、その後、その順序に従ってモジュールを上昇または下降させることを可能にするために必要である。このソートはかなりの量の計算労力または時間を伴う可能性があるため、本発明による方法の改良形態は、n個のモジュールをそれらの効率に関してソートするために、n*log(n)でスケーリングするアルゴリズムが使用され、したがって多数のモジュールを有する大規模プラントであっても管理可能な計算時間を保証することを可能にする。これは、例えば、クイックソートアルゴリズムとすることができる。
【0048】
あるいは、図2による方法図にも示すように、ステップ(3a)においてモジュール固有の目標動作電流を決定するために、それぞれのモジュールは、モジュール固有のライフサイクルパラメータに従ってソートすることができ、現在の総生産フロー需要が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される。ライフサイクルパラメータは、モジュール(M)の現在の効率、および電気化学プラントのメンテナンスコストを考慮した補正項から計算される 補正項は、好ましくは、前のライフサイクル中にそれぞれのモジュールを通って流れた総電荷量に応じて、および/またはそれぞれのモジュールの寿命に応じて、および/または電気化学プラント内のモジュールの位置に応じて決定される。
【0049】
上述の方法における動作可能状態にあるモジュールが総生産フロー需要(B)を満たすためのモジュール固有の目標動作電流(I)は、好ましくは、個々のモジュール(M)ごとに達成可能な効率の予測計算を使用し、それぞれのモジュール固有の動作電流の緩やかな変化を仮定して反復的に決定される。反復には、貪欲アルゴリズムが特に好ましく使用される。反復は、好ましくは、総生産フロー需要(B)からの総生産フローの現在の偏差に応じて選択される適応ステップサイズで実行される。
【0050】
モジュール固有の目標動作電流(I)を決定する際、モジュール(M)の効率は、好ましくは、モジュール固有の動作電流とすべてのモジュール(M)のモジュール固有の動作電流の和の比に依存する重み係数で重み付けされる。これは、モジュール固有の目標動作電流(I)を決定するとき、全体的な効率に対する個々のモジュールの効率変化の影響が既に考慮されていることを意味する。
【0051】
本発明による方法の好ましい代替の改良形態を、図3に示す。この場合、決定されたモジュール固有の目標動作電流は、モジュール固有の動作電流とすべてのモジュールのモジュール固有の動作電流の和の比に依存する重み係数による乗算によって修正される(4a)。これにより、プラントの動作点がその最適なエネルギー効率にさらに近づく。
【0052】
図4は、制御ユニット(C)および並列に接続された複数のモジュール(M)を備え、モジュール(M)が水素を発生するために直列に接続された電解セルから形成される、水電解プラント(E)に基づく本発明による方法の概略図を示している。制御ユニット(C)は、総生産フロー需要(B)を記録し、個々のモジュール(M)の効率を記録し、それらの効率に従ってモジュールをソートし、モジュール(M)の動作準備状況(チェックマークまたはバツ印で示される)を決定する。次いで、モジュール(I)の目標動作電流が決定され、重み係数が乗算され、その結果、プラント全体をその最もエネルギー効率の良い動作点に近づけるために、モジュール(Im,g)の重み付けされた目標動作電流が得られる。動作電流を重み付けされた目標動作電流(Im,g)に設定した後、制御ユニットは、システムを新しい開始条件の存在について監視することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 現在の総生産フロー需要を記録する
2 モジュール効率を記録する
3 モジュールを識別する
3a 効率/ライフサイクルパラメータに応じたソートおよび変動
4a モジュール固有の目標動作電流と重み係数の乗算
4 モジュール固有の目標動作電流を決定する
5 モジュール固有の目標動作電流を設定する
B 総生産フロー需要
C 制御ユニット
E 水電解プラント
M モジュール
モジュールの目標動作電流
m,g 重み付け後のモジュールの目標動作電流
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-04-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モジュール(M)および制御ユニット(C)を備える電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御のための方法であって、各モジュール(M)は、前記制御ユニットによって個々に制御され、前記モジュール(M)の各々が別々の生産フローを生成するためにモジュール固有の動作電流が供給され、前記個々のモジュール(M)の前記生産フローは、それらの生産フローに関して並列に接続され、合流して前記プラントの総生産フローを形成し、開始条件が満たされたときに前記制御ユニット(C)によって以下のステップ:
現在の総生産フロー需要(B)を記録するステップ(1)、
前記それぞれの動作電流と生産フローの比に応じて、前記電気化学プラントの前記モジュール(M)の現在の効率を記録するステップ(2)、
前記動作可能状態にあるモジュール(M)を決定するステップ(3)、
前記モジュール(M)の前記効率および前記現在の総生産フロー需要(B)に応じて、許容可能なモジュール固有の目標動作電流(I)の範囲から前記現在の総生産フロー需要(B)をカバーするために、前記動作可能状態にあるモジュール(M)についてのモジュール固有の目標動作電流を決定するステップ(4)であって、前記モジュール固有の目標動作電流(I)を決定するために、前記それぞれのモジュール(M)は、モジュール固有のライフサイクルパラメータに従ってソートされ、前記現在の総生産フロー需要(B)が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される(3a)ステップ、
前記動作可能状態にあるモジュール(M)の前記動作電流を前記決定されたモジュール固有の目標動作電流(I)に設定するステップ(5)
が実行され、
前記ライフサイクルパラメータは、前記モジュールの前記現在の効率、および前記電気化学プラントのメンテナンスコストを考慮した補正項から計算され、前記補正項は、前記プラントの現在最も効率的な動作点からの偏差を生成し、前記モジュールの効率に関して前記モジュールの不均一な経年劣化を可能にすることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記補正項は、前のライフサイクル中に前記それぞれのモジュールを通って流れた総電荷量に応じて、および/または前記それぞれのモジュールの寿命に応じて、および/または前記電気化学プラント内の前記モジュールの位置に応じて決定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動作可能状態にあるモジュール(M)が前記総生産フロー需要(B)を満たすための前記モジュール固有の目標動作電流(I)は、個々のモジュール(M)ごとに達成可能な前記効率の予測計算を使用し、前記それぞれのモジュール固有の動作電流の段階的な変化を仮定して反復的に決定されることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記反復は、貪欲アルゴリズムに基づくことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記反復は、前記総生産フロー需要(B)からの前記総生産フローの現在の偏差に応じて選択される適応ステップサイズで実行されることを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記モジュール固有の目標動作電流を決定するときの前記モジュール(M)の前記効率は、前記モジュール固有の動作電流とすべてのモジュール(M)の前記モジュール固有の動作電流の和の比に依存する重み係数で重み付けされる(4a)ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
すべてのモジュールは、前記制御ユニットによって基本負荷に対応する最小動作電流を割り当てられることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記制御ユニットは、プラント監視ユニットであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記総生産フロー需要からの前記現在生成されている生産フローの事前定義可能な量による偏差は、開始条件として使用されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
個々のモジュールのコミッショニングまたはデコミッショニングは、開始条件として使用されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記制御ユニットによって決定される前記モジュールの温度の事前定義可能な最大量による超過または不足は、開始条件として使用されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電気化学プラントは、水電解プラントであることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記個々のモジュールの前記効率は、電流-電圧特性によって決定されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記制御ユニット内の前記個々のモジュールの前記効率は、前記モジュールの経年劣化のドキュメンテーションとして記憶されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モジュールおよび制御ユニットを備える電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御のための方法に関し、各モジュールは、制御ユニットによって個々に制御され、各モジュールが別々の生産フロー(product flow)を生成するためにモジュール固有の動作電流が供給され、個々のモジュールの生産フローは、それらの生産フローに関して並列に接続され、互いに合流してプラントの1つの総生産フローを形成する。
【背景技術】
【0002】
化学プラントのエネルギー需要は、産業全体のエネルギー需要のかなりの部分を占めるため、経済的理由と生態学的理由の両方のために、化学プラントのエネルギー要件を低減することに大きな関心が寄せられている。
【0003】
特にエネルギー集約的なプラントの参照の一例は、水電解または塩素-アルカリ電解プラントなどの電解プラントである。そのようなプラントの中心には、直列に接続されたセルがあり、スタックとも呼ばれるモジュールを形成する。このような構造は、燃料セルまたは電池技術においても使用される。典型的な大規模化学プラントでは、所望の総生産フロー、例えば材料フローまたは電流を生成するために、すなわち電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御を実施するために、多数のそのようなモジュールが並列に動作する。プラントの総生産フローが純粋に再生可能エネルギー源から満たされるべきである場合、プラントは十分に柔軟である必要がある。プラントにおける高度な柔軟性は、再生可能エネルギー源によって提供される大きく変化する電力を可能な限り包括的かつ迅速に総生産フローに変換することができることを保証する。プラスの副作用として、この柔軟なタイプのプラントはまた、グリッド安定性を維持するために、強風または強い日射によって引き起こされる電力ピークを効率的かつ実用的な方法で緩衝するために使用することができる。この点において、そのようなプラントは、特にエネルギー効率が良く、かつ可能な限り柔軟に反応することができることの両方が要求される。
【0004】
欧州特許第2 350 352号明細書は、風力発電からの水素の電解生産のための電力送達システム、ならびに水素生産のために風力発電所から複数の電解モジュールへの電気エネルギーの分配を制御するための方法を開示している。使用される制御システムは、風力発電所によって提供される電気エネルギーのレベルに可能な限り近いモジュール利用率を保つように設計されており、これは風力強度が大きく変動する場合に特に問題となり、したがって水素生産に対して再生可能エネルギーの可能な限り高い割合を使用するように設計されている。この目的のために、モジュールの動作電流は、風力エネルギーの可能な限り高い割合を水素生産に投資することができるように、風力発電所によって生成された利用可能なDC電力に基づいて選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第2 350 352号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのようなプラントの欠点は、それらが最適なエネルギー効率動作点から遠く離れて動作するため、そのような既存のプラントは総電力消費量が増加し、経済的にも生態学的にも賢明ではないことである。特に、従来技術から知られているシステムまたはそのようなシステムの閉ループ制御の場合、個々のモジュールの個々の寿命特性および動作モードは無視されるが、それらはプラント全体の効率、したがってその全体的な電力消費量にかなりの影響を及ぼす。
【0007】
米国特許出願公開第2019/0127867号明細書および米国特許出願公開第2018/0291516号明細書は各々、第1のDC電力を出力する発電機と、各々が第1のDC電力を目標デューティサイクルに従って第2のDC電力に変換し、第2のDC電力に関する電圧情報および電流情報を出力する複数のコンバータと、複数の電解槽と、制御回路と、選択回路とを備える電解システムを記載している。電解槽の各々は、それぞれ割り当てられたコンバータによって出力される第2のDC電流電力を受け取る。制御回路は、第1のDC電力の電圧値および電流値に基づいて、第1のDC電流電力が最大電力レベルに近づくように制御情報を出力する。選択回路は、制御情報ならびに電圧および電流情報に基づいて、目標デューティサイクルと、複数の電解槽の各々および複数のコンバータの各々を選択するか否かの選択信号とを出力する。
【0008】
この点において、本発明の目的は、電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御のための方法を提案することであり、この方法は、可能な限り最小の総電力消費量、可能な限り最も経済的かつ生態学的な動作、および大きく変動する総生産フロー需要に対処するための高度な柔軟性を特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、最初に述べた一般的な方法によって達成され、これは、開始条件が満たされたときに制御ユニットによって以下のステップ:
現在の総生産フロー需要を記録するステップ、
それぞれの動作電流と生産フローの比に応じて、電気化学プラントのモジュールの現在の効率を記録するステップ、
動作可能状態にあるモジュール(operationally ready module)を決定するステップ、
モジュールの効率および現在の総生産フロー需要に応じて、許容可能なモジュール固有の目標動作電流の範囲から現在の総生産フロー需要をカバーするために、動作可能状態にあるモジュールについてのモジュール固有の目標動作電流を決定するステップ、
動作可能状態にあるモジュールの動作電流を決定されたモジュール固有の目標動作電流に設定するステップ
が実行されるという事実によって特徴付けられる。
【0010】
本発明の文脈において論じられているモジュールの特徴は、モジュールがそれらの効率に関して特徴付けられ得ることである。そのようなモジュールは、例えば、電解モジュールとすることができ、その電流-電圧特性は、モジュールの異なる動作点のファミリー全体を表す。加えて、古い、したがってエネルギー効率の低いモジュールは同じ電流または生産フローを供給するためにより高い電圧を必要とするため、モジュールの経年劣化プロセスも電流-電圧特性に反映される。
【0011】
本発明による方法の本質的な特徴は、需要に基づいて閉ループ制御される化学プラントが、個々のモジュールに加えて制御ユニットを備え、このユニットは、個々にモジュールを作動させるように設計されていることである。この作動は、特に、制御ユニットが各モジュールにモジュール固有の動作電流を供給することを伴う。プラントは、プラント内の個々のモジュールの生産フローが組み合わされて総生産フローを形成するように設計されている。
【0012】
本発明による方法の特性は、開始条件が満たされた場合、以下のステップが制御ユニットによって実行されることである。
【0013】
現在の総生産フロー需要が記録される。これは、総生産フロー需要が化学プラントによって満たされる程度まで必要である。
【0014】
加えて、各モジュールの効率が記録される。これは、化学プラントを可能な限り効率的に閉ループ制御することを可能にするために、本発明による方法における本質的なステップを表す。モジュール固有の効率は、モジュール固有の動作電流とモジュールのそれぞれの生成された生産フローの比に依存する。モジュールの効率は一定ではないが、例えば、モジュールの経年劣化または動作温度にも依存する。
【0015】
加えて、本発明による方法の一部として、プラントの利用可能なモジュールが記録される。特に、動作可能状態にあるモジュールのみを考慮することも可能であり、欠陥があるかまたはメンテナンスを受けているモジュールは、総生産フロー需要に寄与することができず、したがって無視されるので、そのようなモジュールの不足寄与は、可能であれば動作可能状態にあるモジュールによって補償されなければならない。動作可能状態にないモジュールには、本質的に0のモジュール固有の目標動作電流が割り当てられ、その結果、そのようなモジュールは効果的にオフになる。本発明によれば、モジュールを識別することによって、モジュール自体だけでなく総生産フロー容量を決定することができることが可能であり得る。そのような情報は、例えば、エネルギー、特に再生可能エネルギーの過剰供給を緩衝するために、プラントの閉ループ制御を実施するために価値がある。好ましい改良形態の一部として、個々のモジュールは、グリッド安定性に特に高い寄与をするために、特定の期間にわたって過負荷、例えば110%で動作することが可能であり得る。
【0016】
本発明による方法のさらなるステップでは、総生産フロー需要を満たすために、モジュール固有の目標動作電流が決定される。これは、モジュール固有の基準で決定され、言い換えれば、この方法は、各モジュールに個々の目標動作電流が割り当てられることを可能にする。目標動作電流は、許容可能なモジュール固有の目標動作電流の範囲から選択される。このような範囲の下限は、例えば、完全にモジュールを動作させるために必要な目標動作電流によって与えられる。目標動作電流の上限は、例えば、モジュールが過度の損傷を受けることなく、すなわち通常の経年劣化効果を超えることなくその最大利用率の限界で動作する電流によって与えられる。
【0017】
しかし、モジュール固有の目標動作電流は、目標動作電流の許容可能な範囲が維持され、総生産フロー需要が満たされることのみに基づいて決定されるわけではない。代わりに、モジュール固有の目標動作電流は、モジュールの効率および現在の総生産フロー需要に応じて決定される。総生産フロー需要に対する目標動作電流の依存性は、単に、モジュールに特定の目標動作電流を供給することと生成される総生産フローとの間に直接的な依存性があるという事実によるものであり、したがって、目標動作電流は、総生産フロー需要に関して常に決定されなければならず、モジュールの効率に対するモジュールの目標動作電流の依存性は、自明でない依存性を表す。目標動作電流の決定におけるモジュールの効率をこのように考慮することにより、エネルギー効率の良いモードでプラントを動作させることが特に有利な方法で可能になる。
【0018】
モジュールの動作電流が決定されたモジュール固有の目標動作電流に設定されてエネルギー効率の良い方法で総生産フロー需要を満たした後、本発明による方法は、例えば制御ユニットが新しい開始条件の存在についてプラントを監視することによって、最初から再び開始することができる。
【0019】
したがって、本発明による方法は、エネルギー効率の良い動作を可能にするだけでなく、エネルギー、特に再生可能資源から得られるエネルギーの過剰供給に起因する電圧および/または電流ピークが、特定量の電気エネルギー、特に緩衝されるべきエネルギーがこの目的のために使用されるように、本発明による方法によって生成された総生産フローまたは総生産フロー需要を選択することによって緩衝することができるため、総生産フロー需要を満たすための電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御もグリッド安定性に大きく寄与する。
【0020】
本発明によるこの方法の改良形態では、モジュール固有の目標動作電流を決定するために、それぞれのモジュールは、それらの現在の効率レベルに従ってソートされ、現在の総生産フロー需要が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される。結果として、総生産フロー需要が増加または減少する場合、最も効率的なまたは最も効率的でないモジュールには、より高いまたはより低い目標動作電流が供給される。これにより、現在特に高い効率を特徴とするそのようなモジュールが高い利用率または目標動作電流で動作し、非効率なモジュールが低い利用率または目標動作電流で動作することが保証される。
【0021】
モジュール固有の目標動作電流の順序付けられた上昇または下降のためのモジュールの効率に応じたモジュールの順序付けまたはソートは、非常に時間がかかる可能性があり、その結果、大きく変動する総生産フロー需要を満たすことに関する柔軟性は、もはや保証することができない。この問題は、n*log(n)に従ってスケーリングするアルゴリズムを使用してn個のモジュールをソートするのに必要な時間を最小にすることによって、本発明による好ましい改良形態によって対処することができる。例えば、いわゆるクイックソートアルゴリズムは、上述のようにスケーリングし、多数のモジュールを有するプラントに適用される場合であっても、本発明による方法が総生産フロー需要の変化に十分に迅速に反応することを可能にするソートアルゴリズムとして使用することができる。
【0022】
本発明によれば、モジュール固有の目標動作電流(Im)を決定するために、それぞれのモジュール(M)は、モジュール固有のライフサイクルパラメータに従ってソートされ、総生産フロー需要(B)の現在の値が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される。ライフサイクルパラメータは、モジュールの現在の効率、および電気化学プラントのメンテナンスコストを考慮した補正項から計算されるメンテナンスコストを考慮することによって、プラントの動作は、動作の総コスト(総所有コスト)に関して改善される。補正項は、プラントの現在最も効率的な動作点からの偏差を生成し、モジュールの効率に関してモジュールの不均一な経年劣化を可能にする。プラントのメンテナンスコストは、プラントの動作モードに依存する。例えば、特定のメンテナンス間隔でプラントを検査し、ダウンタイムまたはシャットダウンを回避するだけで、メンテナンスコストを削減することができる。したがって、メンテナンスコストを削減するために、メンテナンス間隔が満了した後、プラントが運転している間にモジュールの一部、例えばモジュールの10%~25%を定期的にメンテナンスまたは交換することが有利である。この目的のために、これは、交換されるモジュールがプラントの他のモジュールよりも高い経年劣化度、したがって低い効率を示す場合に有利である。メンテナンスまたは交換後、直近にメンテナンスされたモジュールだけが、それらのより高い効率のために部分負荷動作で使用されるわけではないことを保証することも有利である。これらの利点は、プラントのメンテナンスコストを考慮した補正項によって達成される。
【0023】
補正項は、好ましくは、前のライフサイクル中にそれぞれのモジュールを通って流れた総電荷量に応じて、および/またはそれぞれのモジュールの寿命に応じて、および/または電気化学プラント内のモジュールの位置に応じて決定される。モジュールの電気化学セルでは様々な経年劣化プロセスが活発であり、その進行には特定の時点でのメンテナンスまたは交換が必要である。経年劣化効果のグループは、主にモジュールを通って流れた電荷の総量に依存する。これらには、例えば、セパレータのイオン伝導性の低下および電極コーティングの品質が含まれる。他の経年劣化効果、例えば腐食効果は、主にモジュールの寿命に依存する。電気化学プラントにおけるモジュールの位置を考慮することによって、メンテナンスまたは交換されるべきモジュールが、例えばプラントのブロックまたはセクタにおいて、可能な限り空間的に集中される程度を制御することも可能である。このようにして、メンテナンスコストをさらに削減することができる。
【0024】
動作可能状態にあるモジュールが総生産フロー需要を満たすためのモジュール固有の目標動作電流は、好ましくは、個々のモジュールごとに達成可能な効率の予測計算を使用し、それぞれのモジュール固有の動作電流の段階的な変化を仮定して反復的に決定される。反復方法は、現在の動作状態から開始して変化した条件に迅速かつ効果的に適応することができるため、変化する動作条件下で複雑なプラントを最適化するのによく適している。
【0025】
反復は、好ましくは、貪欲アルゴリズム、すなわち選択時にプラントの効率の最良の変化を約束するシーケンス内の次の状態を増分的に選択するアルゴリズムに基づく。
【0026】
反復は、好ましくは、総生産フロー需要からの総生産フローの現在の偏差に応じて選択される適応ステップサイズで実行される。これにより、反復によって達成可能な最終状態を理論上の最適値に対して改善することができる。
【0027】
好ましい改良形態では、モジュール固有の目標動作電流を決定する際、モジュールの効率は、モジュール固有の動作電流とすべてのモジュールのモジュール固有の動作電流の和の比に依存する重み係数で重み付けされる。これにより、全体的な効率に対する個々のモジュールの効率変化の影響が考慮されるため、化学プラントをその最適なエネルギー効率にさらに近づけることが可能になる。
【0028】
化学プラントの実用的な動作において、本発明による方法の改良形態によれば、焦点は、良好なエネルギー効率だけでなく、総生産フロー需要の大きな変動に十分迅速に対処することができることにもある。したがって、プラントの利用率を十分な柔軟性を伴って大きく変化する需要に適応させることができる。これは、すべてのモジュールが、制御ユニットによって基本負荷に対応する最小動作電流を割り当てられることによって、本発明による方法の改良形態の一部として達成される。最小動作電流は、とりわけ、電解プラントのモジュールなどのすべてのモジュールが最小温度に保たれることを保証し、これによりすべてのモジュールが特定の最小効率を有することが可能になる。そうでなければ、低温電解モジュールは、それらの効率が低いために制御ユニットによって考慮されない可能性があり、その結果、総生産フロー需要が満たされない場合がある。
【0029】
本発明による方法の好ましい実施形態では、制御ユニットは、プラント制御ユニットである。安全上の理由だけで、そのようなプラント制御ユニットは、いずれにしてもほぼすべての化学プラントに必要とされ、これは、本発明による方法を実行するために追加の制御ハードウェアが必要とされないことを意味する。プラントのエネルギー効率の良い動作に関して上述した利点に加えて、これは、本発明による方法の使用を広範囲の化学プラントにおいて特に魅力的にする。
【0030】
本発明による方法ステップは、開始条件が満たされるまで実行されない。そのような開始条件は、現在生成されている生産フローが事前定義可能な量だけ総生産フロー需要から逸脱しているという事実であり得る。そのような開始条件は、モジュールの変動する効率の両方をカバーし、したがって変化する総生産フロー、ならびに変化する総生産フロー需要をもたらす。個々のモジュールのコミッショニングまたはデコミッショニングもまた、可能な開始条件と考えることができる。例えば、個々のモジュールがメンテナンス目的のために使用不能になっている場合、これらのモジュールはもはや総生産フロー需要を満たすために利用できなくなる。上述の開始条件を提供することによって、本発明による方法は、使用不能になっているモジュールを動作可能状態にないものとして扱い、その結果、使用不能になっているモジュールの寄与は別のモジュールによって果たされる。同じことが、例えば、システムが新しいモジュールを備えている場合、コミッショニングされている追加のモジュールにも当てはまる。
【0031】
本発明による方法のさらなる実施形態では、制御ユニットによって決定されるモジュールの温度の事前定義可能な最大量による超過または不足は、開始条件として使用される。これは、本発明による方法が、個々のモジュールが過熱するのを防止することができ、またはモジュールが所望の動作温度よりも低い温度で動作し、したがって可能な限り最良の効率を提供しないのを防止することができることを意味する。指定された期間の満了は、特に単純な開始条件として提供することもできる。
【0032】
本発明による方法の特に好ましい改良形態では、電気化学プラントは、水電解プラントである。エネルギー効率は水電解プラントで特に重要な役割を果たし、様々なモジュールは時として非常に大きな差および効率の変動を示す可能性があるため、水電解プラントに適用される場合、本発明による方法の利点は特に顕著であり得る。
【0033】
本発明による方法のさらなる実施形態の一部として、個々のモジュールの効率は、電流-電圧特性に基づいて決定することができる。これは、例えば、電解モジュールまたは電池にも当てはまる可能性がある。そのような電解または電池モジュールの効率が高いほど、特定の目標動作電流での動作電圧は低くなる。モジュールの経年劣化は、例えば、電流-電圧特性が縦軸に沿ってより高い電圧に向かってシフトするという事実に現れる。
【0034】
本発明による方法の好ましい改良形態では、個々のモジュールの効率は、モジュールの経年劣化のドキュメンテーションとして制御ユニットに記憶される。これは、モジュールの経年劣化が継続的に記録され、新しいモジュールの調達または古いモジュールの再調整を適時に開始することができるという利点をもたらす。これは、過度の経年劣化を受けるモジュールのモジュール故障および非効率的な動作を効果的に防止する。加えて、そのような記憶機能は、最新の記憶効率値を低温の、したがって非効率的なモジュールに割り当てることを特に簡単にし、それにより低温モジュールの効率が使用される場合よりも、電気化学反応の温度依存性を考慮して、モジュールの効率についてのより現実的な値が仮定される。
【0035】
好ましくは、制御ユニット内の測定された効率は、それぞれのモジュールの現在の電流-電圧特性を予測するためのモジュール固有のモデルにデータ点として追加される。データ点の追加は、モジュールが経年劣化するにつれてモデルを更新する。現在の電流-電圧特性を予測するためのモデルは、任意の動作点におけるそれぞれのモジュールの効率の予測および考慮を可能にする。
【0036】
本発明による方法の別の好ましい実施形態では、特定のモジュールは、動作可能状態にあるモジュールの効率を改善するために所定の平衡化動作電流で所定の時間にわたって給電され、この改善は、モジュール固有の目標動作電流を決定する際に考慮される。この平衡化動作電流は、モジュールの個々の効率をより正確に決定することを可能にし、方法の精度をさらに改善する。
【0037】
本発明の好ましい改良形態は、従属請求項、以下の説明、および図から得られる。
【0038】
以下では、例示的な実施形態に基づいて、添付の図を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明による方法の方法ステップの図である。
図2】モジュールがそれらの現在の効率に従ってソートされ、その順序に従って上昇または下降される、好ましい改良形態に従った本発明による方法の方法ステップの図である。
図3】決定されたモジュール固有の目標動作電流が重み係数との乗算によって修正される、代替の好ましい改良形態に従った本発明による方法の方法ステップの図である。
図4】制御ユニットおよび並列に接続された複数のモジュールを備え、モジュールが直列に接続された電解セルから形成されている、水電解プラントに基づく本発明による方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
様々な図において、同一の部分は常に同じ参照符号でラベル付けされており、したがって通常はそれぞれの場合に1回だけ命名または言及される。
【0041】
電気化学プラントの需要ベースの閉ループ制御のための本発明による方法は、モジュールおよび制御ユニットを備えるプラントに適用することができる。各モジュールは、制御ユニットによって個々に制御され、モジュール固有の動作電流が供給される。モジュールに動作電流を供給することによって、生産フローが生成される。このような生産フローは、例えば、塩素-アルカリ電解の場合には塩素および苛性ソーダを含んでもよく、水電解の場合には水素を含んでもよい。プラントが電池の形態である場合、生産フローは単に電流である。いずれの場合も、個々のモジュールによって生成された生産フローは組み合わされて総フローを形成する。
【0042】
図1では、制御ユニットによって実施される本質的な方法ステップが概略的に視覚化されている。開始条件が満たされる場合、これらは、
【0043】
現在の総生産フロー需要を記録するステップ(1)を含む。現在の総生産フロー需要は、大きく変化し得る。特に電池では、総生産フロー需要の非常に大きな変動が可能である。
【0044】
総生産フロー需要が記録されるとすぐに、電気化学プラントのモジュールの効率が記録される(2)。効率は、それぞれの動作電流と生産フローの比に依存する。
【0045】
さらなるステップでは、モジュール、特にどのモジュールが実際に利用可能であるかが識別される(3)。場合によっては、動作可能状態にあるモジュールも識別することができ、動作可能状態にないモジュールは、例えば、欠陥があるか、またはメンテナンス目的のために使用不能になっているモジュールである。非動作モジュールには、例えば、障害またはメンテナンス活動の期間中、本質的に0の固定動作電流を割り当てることもできる。
【0046】
本発明による以下の方法ステップは、現在の総生産フロー需要を満たすためにモジュールについてのモジュール固有の目標動作電流の決定に関する。モジュール固有の目標動作電流は、許容可能なモジュール固有の目標動作電流の範囲から決定され、例えば、過度に高い動作電流を選択することによってモジュールに損傷が生じるのを防止することができる。代わりに、モジュール固有の目標動作電流は、モジュールの効率および現在の総生産フロー需要に応じて決定される(4)。モジュールの効率を考慮することは、最小化された総電力消費点に近い化学プラントの動作を可能にするため、本発明による方法の本質的なステップである。
【0047】
モジュール固有の目標動作電流が決定された後、モジュールの動作電流は、決定されたモジュール固有の目標動作電流に設定される(5)。
【0048】
本発明による方法の好ましい改良形態を、図2に概略的に示す。この改良形態は、モジュール固有の目標動作電流を決定するために、それぞれのモジュールがそれらの現在の効率に従ってソートされ、現在の総生産フロー需要が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される(3a)ことを特徴とする。このようにして、より高いまたはより低い動作電流を効率的または非効率的なモジュールにそれぞれ割り当てることによって、総生産フロー需要が増加または減少する場合にプラントの電力消費量を低減することができる。効率に関してモジュールをソートすることは、その後、その順序に従ってモジュールを上昇または下降させることを可能にするために必要である。このソートはかなりの量の計算労力または時間を伴う可能性があるため、本発明による方法の改良形態は、n個のモジュールをそれらの効率に関してソートするために、n*log(n)でスケーリングするアルゴリズムが使用され、したがって多数のモジュールを有する大規模プラントであっても管理可能な計算時間を保証することを可能にする。これは、例えば、クイックソートアルゴリズムとすることができる。
【0049】
本発明によれば、図2による方法図にも示すように、ステップ(3a)においてモジュール固有の目標動作電流を決定するために、それぞれのモジュールは、モジュール固有のライフサイクルパラメータに従ってソートされ、現在の総生産フロー需要が満たされるまでその順序に従って上昇または下降される。ライフサイクルパラメータは、モジュール(M)の現在の効率、および電気化学プラントのメンテナンスコストを考慮した補正項から計算される 補正項は、好ましくは、前のライフサイクル中にそれぞれのモジュールを通って流れた総電荷量に応じて、および/またはそれぞれのモジュールの寿命に応じて、および/または電気化学プラント内のモジュールの位置に応じて決定される。
【0050】
本発明による上述の方法における動作可能状態にあるモジュールが総生産フロー需要(B)を満たすためのモジュール固有の目標動作電流(I)は、好ましくは、個々のモジュール(M)ごとに達成可能な効率の予測計算を使用し、それぞれのモジュール固有の動作電流の緩やかな変化を仮定して反復的に決定される。反復には、貪欲アルゴリズムが特に好ましく使用される。反復は、好ましくは、総生産フロー需要(B)からの総生産フローの現在の偏差に応じて選択される適応ステップサイズで実行される。
【0051】
モジュール固有の目標動作電流(I)を決定する際、モジュール(M)の効率は、好ましくは、モジュール固有の動作電流とすべてのモジュール(M)のモジュール固有の動作電流の和の比に依存する重み係数で重み付けされる。これは、モジュール固有の目標動作電流(I)を決定するとき、全体的な効率に対する個々のモジュールの効率変化の影響が既に考慮されていることを意味する。
【0052】
本発明による方法の好ましい代替の改良形態を、図3に示す。この場合、決定されたモジュール固有の目標動作電流は、モジュール固有の動作電流とすべてのモジュールのモジュール固有の動作電流の和の比に依存する重み係数による乗算によって修正される(4a)。これにより、プラントの動作点がその最適なエネルギー効率にさらに近づく。
【0053】
図4は、制御ユニット(C)および並列に接続された複数のモジュール(M)を備え、モジュール(M)が水素を発生するために直列に接続された電解セルから形成される、水電解プラント(E)に基づく本発明による方法の概略図を示している。制御ユニット(C)は、総生産フロー需要(B)を記録し、個々のモジュール(M)の効率を記録し、それらの効率に従ってモジュールをソートし、モジュール(M)の動作準備状況(チェックマークまたはバツ印で示される)を決定する。次いで、モジュール(I)の目標動作電流が決定され、重み係数が乗算され、その結果、プラント全体をその最もエネルギー効率の良い動作点に近づけるために、モジュール(Im,g)の重み付けされた目標動作電流が得られる。動作電流を重み付けされた目標動作電流(Im,g)に設定した後、制御ユニットは、システムを新しい開始条件の存在について監視することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 現在の総生産フロー需要を記録する
2 モジュール効率を記録する
3 モジュールを識別する
3a 効率/ライフサイクルパラメータに応じたソートおよび変動
4a モジュール固有の目標動作電流と重み係数の乗算
4 モジュール固有の目標動作電流を決定する
5 モジュール固有の目標動作電流を設定する
B 総生産フロー需要
C 制御ユニット
E 水電解プラント
M モジュール
モジュールの目標動作電流
m,g 重み付け後のモジュールの目標動作電流
【国際調査報告】