(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】近傍の量子ビットを使用するコヒーレントコントローラの能動的安定化
(51)【国際特許分類】
G06N 10/00 20220101AFI20230725BHJP
【FI】
G06N10/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578938
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-02-02
(86)【国際出願番号】 US2021039777
(87)【国際公開番号】W WO2022039842
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520159592
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パーク
(71)【出願人】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュンサン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン ケネス
(72)【発明者】
【氏名】モンロー クリストファー
(57)【要約】
本開示の態様は、近傍の量子ビットを使用するコヒーレントコントローラの能動的安定化を伴う技術を説明する。一態様では、第1及び第2量子ビットイオンを提供し、第2量子ビットイオンを使用して磁場変動を測定し、測定された磁場変動に基づいて、1つ以上の磁場を生成することを行い、この1つ以上の磁場は、第1量子ビットイオンの近傍に印加されて磁場変動をキャンセルして第1量子ビットイオンの位相減衰を安定化させる、量子ビットの位相減衰を安定化させる量子情報処理(QIP)システムが記載される。別のそのようなQIPシステムは、第1及び第2量子ビットイオンを提供し、局所発振器を第2量子ビットイオンに関連付けられた周波数基準にロックし、局所発振器を使用して、周波数基準に基づいて第1量子ビットイオンの周波数を追跡する。これらのQIPシステムに関連付けられた方法についても説明する。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第1量子ビットイオン及び少なくとも1つの第2量子ビットイオンを有する少なくとも1つのイオントラップと、
1つ以上のコイルと、
量子ビットの位相減衰を安定化させる安定器と、を含み、
前記安定器は、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンを使用して磁場変動を測定し、前記1つ以上のコイルを使用し、測定された前記磁場変動に基づいて、1つ以上の磁場を生成するように構成され、前記1つ以上の磁場は、前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンの近傍に印加されて前記磁場変動をキャンセルして前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンの前記位相減衰を安定化させる、トラップされたイオンの量子情報処理(QIP)システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンは、複数の第1量子ビットイオンを含み、
前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、複数の第2量子ビットイオンを含み、
又は、前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンは、複数の第1量子ビットイオンを含み、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、複数の第2量子ビットイオンを含む、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項3】
前記位相減衰は、パラメータT
2の測定値によって特徴付けられる、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオン及び前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、原子超微細量子ビットである、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンは、第1波長の光でアドレス可能であり、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、前記第1波長の光とは異なる第2波長の光でアドレス可能である、請求項4に記載のQIPシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンは、
171Yb
+からなる量子ビットであり、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、
133Ba
+からなる量子ビットである、請求項5に記載のQIPシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つのイオントラップは、単一のイオントラップを含み、
前記少なくとも1つの第1量子ビット及び前記少なくとも1つの第2量子ビットは、前記単一のイオントラップに共トラップされる、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つのイオントラップは、第1イオントラップと、前記第1イオントラップの近傍の第2イオントラップとを含み、
前記少なくとも1つの第1量子ビットは、前記第1イオントラップにトラップされ、前記少なくとも1つの第2量子ビットは、前記第2イオントラップにトラップされる、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、磁場に敏感なエネルギー準位を有し、
前記安定器は、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンの前記磁場に敏感なエネルギー準位を使用して前記磁場変動を測定するように構成される、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、磁場に敏感ではない他のエネルギー準位を有する、請求項9に記載のQIPシステム。
【請求項11】
前記磁場に敏感なエネルギー準位は、ゼーマン準位を含む、請求項9に記載のQIPシステム。
【請求項12】
前記磁場変動は、60Hzのノイズを含む、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項13】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオン及び前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンの近傍の前記磁場変動を低減するように構成された磁気シールドを更に含み、
前記磁気シールドは、ミューメタル、高導電性銅、又は極低温での超伝導材料のうちの1つ以上を含む高透磁率を有する材料で形成される、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項14】
前記安定器は、前記磁場変動の測定と、前記磁場変動をキャンセルするための前記1つ以上の磁場の生成とを含むシーケンスを、フィードバックループの一部として繰り返すように構成される、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項15】
前記フィードバックループは、少なくとも1KHzの帯域幅を有する、請求項14に記載のQIPシステム。
【請求項16】
前記安定器は、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンの磁場に敏感なエネルギー準位を光学的にプローブして前記磁場変動の特性を検出するように更に構成されることにより、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンを使用して前記磁場変動を測定するように構成される、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項17】
前記QIPシステムは、量子計算を実行するように構成され、
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンは、前記量子計算に参加するように構成され、
前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、前記量子計算に参加しないように構成されたスペクテータ量子ビットである、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項18】
少なくとも1つの第1量子ビットイオン及び少なくとも1つの第2量子ビットイオンを有する少なくとも1つのイオントラップと、
局所発振器と、を含み、
前記局所発振器は、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンに関連付けられた周波数基準にロックされ、
前記局所発振器は、前記周波数基準に基づいて、前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンの周波数を追跡するように構成される、トラップされたイオンの量子情報処理(QIP)システム。
【請求項19】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオン及び前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、同じ原子超微細構造を有する、請求項18に記載のQIPシステム。
【請求項20】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンと前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンとは、異なるイオン種である、請求項18に記載のQIPシステム。
【請求項21】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンと前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンとは、原子超微細構造を有し、異なる波長の光でアドレス可能である、請求項18に記載のQIPシステム。
【請求項22】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンは、
171Yb
+からなり、前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンは、
133Ba
+からなる、請求項18に記載のQIPシステム。
【請求項23】
前記少なくとも1つの第1量子ビットイオンと前記少なくとも1つの第2量子ビットイオンとは、前記少なくとも1つのイオントラップにおいて互いに近接し、実質的に同じ環境変動を経験する、請求項18に記載のQIPシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本願は、2021年6月29日に出願した米国特許出願第17/362810号の優先権を主張し、また、これは、2020年6月30日に出願した米国仮特許出願第63/046559号の優先権及び利益を主張し、両方とも「近傍の量子ビットを使用するコヒーレントコントローラの能動的安定化」と題する。これらの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔政府実施許諾権〕
本発明は、陸軍研究局(ARO)によって授与された契約番号W911NF-18-1-0218及びインテリジェンス先端研究プロジェクト活動(IARPA)によって授与された契約番号3130638の下で米国政府支援を受けて行われた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本開示の態様は、一般に、量子ビットの劣化をもたらす可能性があるメカニズムの制御に関し、より具体的には、近傍の量子ビットを使用するコヒーレントコントローラの能動的安定化(active stabilization)を伴う技術に関する。
【0004】
原子超微細量子ビットは、量子ビットが完全に分離される限り、量子ビットの品質(例えば、量子ビットの経時安定性)を完璧に近づけることができるという点で、他の固体量子ビット(例えば、超伝導量子ビット)と比較して独特である。緩和時間T1で測定される振幅減衰と緩和時間T2で測定される位相減衰との量子ビットの劣化を表す2つのメカニズムは、一般に、様々なシステムパラメータによって制限される。T1及びT2の期間が短いほど、量子ビットが量子計算の実行に使用するのに十分に安定する期間が短くなる。
【0005】
したがって、量子計算に使用する量子ビットの安定性を向上させるために、T1及びT2の期間を長くする技術を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
以下、1つ以上の態様の基本的な理解を提供するために、そのような態様の簡略化された概要を提示する。この概要は、全ての企図された態様の包括的な概観ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を特定することも、任意又は全ての態様の範囲を詳述することも意図しない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明への前置きとして、簡略化された形で1つ以上の態様のいくつかの概念を提示することである。
【0007】
本開示の一態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンを提供し、前記第2量子ビットイオンを使用して磁場変動(揺らぎ。fluctuation)を測定し、前記測定された磁場変動に基づいて、1つ以上の磁場を生成することを含み、前記1つ以上の磁場は、前記第1量子ビットイオンの近傍に印加されて前記磁場変動をキャンセルして前記第1量子ビットイオンの前記位相減衰を安定化させる、量子ビットの位相減衰を安定化させる方法が記載される。
【0008】
本開示の別の態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンを有する少なくとも1つのイオントラップと、1つ以上のコイルと、量子ビットの位相減衰を安定化させる安定器(stabilizer)とを含み、前記安定器は、前記第2量子ビットイオンを使用して磁場変動を測定し、前記1つ以上のコイルを使用し、前記測定された磁場変動に基づいて、1つ以上の磁場を生成するように構成され、前記1つ以上の磁場は前記第1量子ビットイオンの近傍に印加されて前記磁場変動をキャンセルして前記第1量子ビットイオンの前記位相減衰を安定化させる、トラップ(捕捉)されたイオンの量子情報処理(QIP)システムが記載される。
【0009】
本開示の別の態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンを提供し、局所(local)発振器(oscillator)を前記第2量子ビットイオンに関連付けられた周波数基準にロックし、前記周波数基準に基づいて前記第1量子ビットイオンの周波数を前記局所発振器を使用して追跡することを含む、量子ビットの位相減衰を安定化させる方法が記載される。
【0010】
本開示の別の態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンを有する少なくとも1つのイオントラップと、局所発振器とを含み、前記局所発振器は、前記第2量子ビットイオンに関連付けられた周波数基準にロックされ、前記局所発振器は、前記周波数基準に基づいて、前記第1量子ビットイオンの周波数を追跡するように構成される、トラップされたイオンのQIPシステムが記載される。
【0011】
本開示の更に別の態様では、量子ビットの位相減衰を安定化させるために、プロセッサが実行可能な命令を有するコードを格納するコンピュータ可読記憶媒体が記載される。
【0012】
前述及び関連する目的を達成するために、1つ以上の態様は、以下で十分に説明されており、特に特許請求の範囲で示された特徴を備える。以下の説明及び添付の図面は、1つ以上の態様の特定の例示的な特徴を詳細に示す。しかしながら、これらの特徴は、様々な態様の原理が使用され得る様々な方法の一部を示しているに過ぎず、この説明は、そのような態様及びそれらの等価物を全て含むことを意図する。
【0013】
開示された態様は、以下で、添付の図面に関連して説明され、添付の図面は、例示するために提供され、開示された態様を限定するためのものではなく、添付の図面において、同様の符号は同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の態様に係る線形結晶又はチェーン内にトラップされた原子イオンの図を示す。
【
図2】本開示の態様に係る原子超微細量子ビットのエネルギー準位(level)の例を示す図である。
【
図3A】本開示の態様に係る局所磁場キャンセルの例を示す図である。
【
図3B】本開示の態様に係る局所磁場キャンセルの例を示す図である。
【
図3C】本開示の態様に係る局所磁場キャンセルの例を示す図である。
【
図4A】本開示の態様に係る、並置された原子超微細量子ビットを周波数基準として使用する例を示す図である。
【
図4B】本開示の態様に係る、並置された原子超微細量子ビットを周波数基準として使用する例を示す図である。
【
図4C】本開示の態様に係る、並置された原子超微細量子ビットを周波数基準として使用する例を示す図である。
【
図5】本開示の態様に係るコンピュータデバイスの例を示す図である。
【
図6】本開示の態様に係る、量子情報処理(QIP)システムの例を示すブロック図である。
【
図7】本開示の態様に係る、量子ビットの位相減衰を安定化させる方法の例を示す流れ図である。
【
図8】本開示の態様に係る、量子ビットの位相減衰を安定化させる方法の例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成の説明として意図され、本明細書で説明される概念が実施され得る唯一の構成を表すことを意図しない。詳細な説明は、様々な概念を徹底的に理解することを目的に、具体的な内容を記載している。しかしながら、これらの概念がこれらの具体的な詳細なしに実施され得ることは当業者には明らかである。いくつかの例では、そのような概念を曖昧にすることを回避するために、よく知られているコンポーネントがブロック図の形で示される。
【0016】
詳細な説明には、他の全ての量子ビットの位相を追跡するために使用できる局所発振器用原子クロックとして1つ以上の量子ビットを犠牲にすることによって、原子量子ビットの集合内の位相エラーを除去するために使用できる技術が含まれる。これにより、量子ビットの集合内の特定の量子ビットでアイドル状態のデコヒーレンスがほぼ全て除去される。原子量子ビットとは、一般に、例えば原子イオン量子ビットを含む、原子ベースの量子ビットを指す場合がある。上記のように、原子超微細(hyperfine)量子ビットは、量子ビットが完全に分離される限り、量子ビットの品質を完璧に近づけることができるという点で、他の固体量子ビットと比較して独特である。量子計算に使用される量子ビットの安定性を向上させるために、T1で測定される振幅減衰とT2で測定される位相減衰との量子ビットの劣化を表す2つのメカニズムを任意に長くすることができる。
【0017】
一般に、量子のビット(量子ビット)は、次の式で表すことができる。
【数1】
したがって、量子ビットは、一般に、θとΦの2つのパラメータで表すことができ、ここで、θは相対重み、Φは相対位相である。量子ビットには様々なタイプがある。固体量子ビットの1つのタイプは、超伝導量子ビットであり、別のタイプは、原子超微細量子ビットである。原子超微細量子ビットは、通常、量子ビット状態の|0〉と|1〉に関連付けられた2つの準位(量子ビット準位)を有する。これら2つの準位の間には、上記量子ビット式の一部である周波数ωによって特徴付けられたエネルギー差がある。この周波数は、量子ビットに関連付けられるため、量子ビット周波数又はωと呼ばれることがある。ほとんどの量子ビットでは、上記両方のパラメータ(θとΦ)が経時的に劣化又は不安定になる結果、量子ビットは、量子計算を実行できる一定の寿命を有する傾向がある。
【0018】
相対振幅(θ)の減衰は、エネルギーが比較的高い母集団からエネルギーが比較的低い母集団に移行する傾向から生じる。このような2準位システムの減衰は、核磁気共鳴(NMR)において、振幅減衰の測定値である緩和時間T1によって特徴付けられる。相対振幅とは別に、この2準位システムには、エネルギー差があるため、固有の周波数時間依存性があり、ここで、周波数は、上記量子ビット周波数ωqである。したがって、このシステムのエネルギー差が安定すれば、その移動も変動も全く無い場合、ωtは予測可能であり、無視でき、これは、量子ビット周波数の知識により、任意の時点での量子ビットの動作の正確な知識(動作を正確に知ること)が可能になるためである。したがって、相対位相φを参照すると、量子ビット周波数が既知であり、動きが全て予測可能であることから、ωtを無視できる場合の式ei(ωt+φ)を参照することになる。
【0019】
しかし、実際の量子ビットシステムでは、2準位システムのエネルギー差が変動する可能性がある。この変動は、量子ビット周波数に反映することができ、量子ビット周波数がどのように変動するかが正確には分からず、動きが予測できなくなるため、位相の不確定性が経時的に蓄積される可能性がある。これにより、量子ビットに対して相対位相の源を消失させることができる。例えば、量子ビットの発振(例えば、周波数)をカウントするために局所クロック又は局所発振器を使用することができ、その局所クロックは、一般に原子源(atomic source)又は原子基準(atomic reference)に基づいて所定の周波数で動作する。量子ビットがこの局所クロックから外れて実行され、量子ビットのエネルギー変動に関する知識がない場合、不確定性が蓄積され、その不確定性が局所クロックと量子ビットとの間の位相ずれを引き起こす可能性がある。即ち、量子ビットの位相が位相シフトの知識なしにシフトした場合、局所クロック(又は局所発振器)と量子ビットとの間で位相ずれ(phase shift)が発生する。NMRでは、この位相ずれ(dephasing)は、位相減衰の測定値である緩和時間T2によって特徴付けられる。したがって、T2は、コヒーレンスが維持される時間間隔の測定値、即ち局所クロックと量子ビットとの間の位相ずれの結果として量子ビットの位相を追跡できなくなる前の時間である。
【0020】
超伝導量子ビットでは、典型的には、このコヒーレンスを約1ナノ秒(ns)維持することができ、最近の結果では、50マイクロ秒(μs)の高いコヒーレンスを達成する。しかし、これらのタイプの量子ビットは、回路で構成されるため、本質的に環境に結合される。これらのタイプの量子ビットが近傍の電場に結合されてしまう場合、又は原子が1つでも移動する場合、量子ビット周波数の変動と位相に蓄積された不確定性の量とを知ることが非常に困難になる。
【0021】
超伝導量子ビットの構造化方式とは対照的に、原子超微細量子ビットは、超微細相互作用によって分離された原子(又は原子イオン)の2つ基底状態(ground state)を使用する。超微細分裂は全て基底状態にあり、環境から非常によく分離された核スピン(nucleus spin)の相互作用によって引き起こされる。これらのタイプの量子ビットでは、固有のT1時間は、超伝導量子ビットで実現可能なものよりも大幅に長い数千年(例えば、10000年にも及ぶ)に亘って測定される。原子超微細量子ビットにおけるT1の時間間隔が非常に長いことから、ほとんどの量子演算において自然減衰(spontaneous decay)が発生する可能性は非常に低い。全ての実用的な目的のために、超伝導量子ビットの場合とは異なり、原子超微細量子ビットでは自然減衰が発生しにくい。
【0022】
しかし、実際には、T1の時間の長さは、真空チャンバ内の残留ガス分子との衝突によって制限される可能性がある。これらのガスは、量子ビットに衝突し、量子ビットに影響を与える核スピンを反転させる可能性がある。原子超微細量子ビットがT1で減衰することなく10000年に亘って衝突を回避できるような真空度の向上は困難であるかもしれない。しかし、30分~1時間毎に1回の衝突が発生する真空度を実現することは可能であり、更には、1日又は1日以上に1回衝突するといった衝突率までに間隔を延ばせる可能性がある。これらの衝突が発生する時間間隔(time scales)が長くなると、良好な真空度が得られ、この場合、T1が原子超微細量子ビットの要素となる可能性は低いということは明らかである。
【0023】
一方、T2は、2つの量子ビット状態が互いに経験する時間依存の相対発振を追跡する能力によって決定され、また2つの量子ビット準位のエネルギー差によって決定される。したがって、T2は、エネルギー差が電気的又は磁気的なハムノイズ(例えば、局所電力線周波数に応じて、50Hz、60Hz、100Hz、又は120Hz)などのバックグラウンドノイズの影響を受ける可能性があるため、改善がより困難になる可能性がある。原子超微細量子ビットの場合、T2は約1秒とすることができ、T2の値は、局所クロックに対する量子ビットのエネルギー又は位相に関連する。
【0024】
現在の標準計測では、量子計算で使用される局所クロックは、秒を定義するため(例えば、時間の単位を定義するため)に使用されるセシウム(Cs)原子クロックに基づくことができる。セシウム原子は、超微細量子ビットに使用される原子(例えば、イッテルビウム原子)の構造と同様の超微細構造(例えば、同様の物理的特性)を有する。即ち、セシウム原子では、電子スピンと核スピンとが結合して超微細分裂を形成する。そして、セシウム原子内の2つの状態を使用し、2つの状態間の超微細相互作用に基づいて秒を定義することができる。セシウムの選択は任意のものであってもよく、ルビジウム(Rb)原子、若しくは171Yb+、133Ba+、又は43Ca+原子イオンなどの、同様の超微細基底状態を有する他の原子種(atomic species)は、秒(又は周波数)を定義する基準として適切である可能性がある。典型的に使用される例では、局所クロック又は局所発振器は、Rb原子クロックに結び付けられ、Rb遷移にロックして約6.3GHzの周波数を生成する。
【0025】
以下でより詳細に説明するように、Cs原子クロック又はRb原子クロックを局所クロックの絶対周波数基準(例えば、原子源又は原子基準)として使用する代わりに、原子超微細量子ビットを量子計算の絶対原子クロックとして使用することができる。即ち、局所クロックは、市販の原子クロックではなく、原子超微細量子ビットの1つの構造に対する時間を定義する周波数基準として使用することができる。このような場合、時間をCs又はRb原子に結び付ける代わりに、原子超微細量子ビット内のイッテルビウム原子に時間を結び付けてもよい。これが行われると、追跡中のイッテルビウムベースの超微細量子ビットへの任意の変更が、周波数基準として使用される原子超微細量子ビットによって同様に経験されるため、T2は、位相が連続することになる。
【0026】
上記のように、T2が典型的に約1秒とすることができる原子超微細量子ビットの場合、時間を、Cs又はRb原子クロックの代わりに原子超微細量子ビットに結び付けることで、局所クロックを非常に正確にし、T2を改善することができる。一方、T2が50μs程度の超伝導量子ビットの場合、局所クロックの精度はさほど重要ではない。T2が1秒又は数十秒程度の場合、局所クロックは10-11の精度である必要があり、厳しい要求となってしまう。例えば、Rb原子クロックの場合、現在では10-12程度という高い精度を達成でき、時間を原子超微細量子ビットに結び付けることで、局所クロックの精度を10-18まで向上させることが期待でき、これは、現在典型的に達成可能な精度よりも6桁も高い精度を達成できることを意味する。これは、原子超微細量子ビットの場合、T2を1秒から100万秒まで延長できることも意味する。しかし、提供される基準周波数からのずれは、時間と基準原子超微細量子ビットとの結び付け(tying)がどれだけうまく行われるかに起因している可能性がある。この結び付けが緩いほど、位相のドリフトが発生しやすくなり、位相ずれが発生しやすくなる。これにより、局所クロックの原子基準として原子超微細量子ビットを使用する利点を活用するには、基準原子超微細量子ビットに時間を適切に結び付けることが重要である。
【0027】
上記のように、例えば、電力線からの60Hzのノイズ(又は他のノイズ周波数)の存在など、原子超微細量子ビットのエネルギー差の変動を引き起こすことによってT2に影響を与える他のメカニズムがあってもよい。例えば、60Hzの磁場が量子ビットに結合しないようにシールドするなど、より優れた分離を行うことで、T2を(例えば、1秒から1000以上に)延長することができる。これは、局所クロック(例えば、無線周波数(RF)発振器)とRb原子ベースの原子クロックとのより優れた結び付けという追加の利点を考慮することなく、また、Cs原子ベースの原子クロック又はRb原子ベースの原子クロックに代えて、局所クロックを原子超微細量子ビットに結び付けることによって生じる可能性のある改善を考慮することなく、より優れた磁場シールドを実装するだけで達成することができる。言い換えれば、良好な結び付け技術、より優れたシールド、周波数基準としての原子超微細量子ビットの使用を組み合わせることで、個別に実行するか組み合わせて実行するかに関係なく、T2に必要な改善を提供することができる。
【0028】
超伝導構造に基づく量子ビットは、原子超微細量子ビットで実現可能な種類の改善をT1及びT2に対して行うことができず、これらの改善の少なくとも一部は、本開示で説明される様々な技術に基づくものである。例えば、原子超微細量子ビットのT1の改善は、主に、より優れた真空度を提供して衝突率を低減し、10000年の時間間隔に近づけることに関するものである。T2は、RF発振器と原子クロック(例えば、Rb原子ベースのクロック、Cs原子ベースのクロック)との間の結び付けの程度と、量子ビットのエネルギー(例えば、エネルギー準位間のエネルギー差)に結合可能な環境変動(例えば、60Hzの磁場ノイズ)によって制限される。上記のように、T2の時間間隔を改善するために必要な解決策は、システム実装上の問題である古典的RF発振器の原子基準へのロックをできるだけ確実にし、良好なシールドを提供することで、環境の影響による変動を回避することである。これらは、独立に実装されても、組み合わせて実装されてもよい。また、本明細書で説明されるように、T2の時間間隔は、古典的RF発振器を原子超微細量子ビット基準に結び付けることによって改善することができる。
【0029】
本開示では、量子ビットのチェーン(例えば、原子超微細量子ビットのチェーン)内の1つ以上の量子ビットを使用し、システム全体が局所的な環境条件の影響をキャンセルできるように、チェーン内の残りの量子ビットの近傍の局所的な環境条件(例えば、局所磁場)を測定することで、原子基準の安定性を向上させる方法について詳細に説明する。例えば、チェーン内の量子ビットがイッテルビウムベースの量子ビットである場合、1つ以上のイッテルビウムベースの量子ビットを使用して局所磁場(例えば、局所磁場の変動又は変化)を測定することができる。チェーン内の量子ビットが典型的に約5ミクロン離れているため、32量子ビット実装ではチェーン全体が約200ミクロンになる。チェーン内又はその近傍のチェーン内で量子ビットを相対的に近接させることにより、特に60Hzのノイズの波長がチェーンよりもはるかに長く、量子ビットへの影響がおそらくほとんど同じであるため、いずれかの量子ビットを使用することで、全ての量子ビットに影響を与える局所磁場を正確に読み取ることができる。局所磁場のプローブ又は測定に使用される1つ以上の量子ビットは、イッテルビウムベースの量子ビットである必要はなく、他の原子又は種に基づく量子ビットであってもよい。
【0030】
上記のように、原子超微細量子ビットでは、量子ビット状態の|0〉及び|1〉に2つの準位が使用される。しかし、これらの準位は、ほとんど磁場に敏感ではない傾向にある。超微細構造における他の準位は、磁場により敏感であり、局所磁場の測定に使用することができる。これらの他の準位は、量子ビット状態の|0〉及び|1〉に使用される準位よりも、10000倍も磁場に敏感である。これらの他の準位を使用して磁場を測定すると、フィードバック制御の形式を実装し、局所磁場の影響をゼロにすることで磁場を安定させることができる。このようにすることで、ほとんど磁場に敏感ではないエネルギー準位(例えば、量子ビット状態の|0〉及び|1〉)の感度が更に低下する可能性がある。例えば、磁場ゼロ化プロセスによって局所磁場が10000分の1に減少する場合、ほとんど磁場に敏感ではないエネルギー準位(例えば、量子ビット状態の|0〉及び|1〉)の感度は、更に3桁又は4桁分低下する可能性がある。
【0031】
したがって、本開示で提案されるように、量子計算に使用されるのと同じ量子ビットタイプ又は異なる量子ビットタイプ(例えば、チェーン内のスペクテータ量子ビット)であり得る、チェーン内の1つ以上の量子ビットを使用することができ、局所環境のプローブ(prove)(例えば、局所磁場のプローブ又は測定)を行い、プローブの結果を使用し、チェーン内の量子ビットから見た非常に安定した環境を提供することができる。これにより、環境の影響によって引き起こされる変動を回避するために、良好な磁場シールドを提供することと、近傍の量子ビットを使用して局所環境をプローブして安定化させることとの2つのことが実行することができる。そして、チェーン内の1つ以上の量子ビットは、局所プロービングによるシールド及び安定化の結果として、局所磁場の影響を受けにくくなる。
【0032】
上記のように、別の改善は、局所クロック又は局所発振器を1つ以上の原子超微細量子ビットにロックすることであり、より優れた磁場シールド及び/又は量子ビットの安定化により、基準量子ビットは、周波数基準として使用する更に安定した量子ビットになる可能性がある。この量子ビットは、より優れたシールド及び局所磁場のゼロ化による磁場安定化のため、以前よりも3桁又は4桁小さくなるが、まだ少し変動する可能性がある。局所発振器が1つ以上の安定した量子ビットにロックされると、それがまだ少し変動しても、量子ビットと局所発振器の両方が変動が発生しなくなる(例えば、位相ずれが発生しなくなる)ように一緒に移動する。そこで、局所発振器を量子ビット自体又はその近傍の量子ビット(近傍にあるが、量子計算に参加しないスペクテータ量子ビットと呼ばれることもある)に結び付けることにより、量子ビットの変動は、局所発振器が同じ変動を見るため、位相ずれを引き起こさない可能性がある。即ち、発振のカウントに使用されるデバイス(例えば、局所クロック又は局所発振器)と、カウントされるエンティティ(例えば、量子ビット)とが互いにロックされる。これにより、システムのコヒーレンス、ひいてはT2の時間間隔を大幅に拡大することができる。
【0033】
したがって、原子超微細量子ビットは、量子ビットが完全に分離される限り、量子ビットの品質を完璧に近づけることができるという点で、他の固体量子ビット(例えば、超伝導量子ビット)と比較していくつかのユニークな利点がある。本開示で説明する様々な技術を使用することにより、T1で測定される振幅減衰とT2で測定される位相減衰との量子ビットの劣化を表す2つのメカニズムを大幅に改善することができる。真空度の向上は有益であるが、現在実現可能な真空度は、ほとんどの用途に量子ビットのT1を制限しないほど十分に優れる可能性がある。量子コンピュータ又は量子情報処理システムのサイズが大きく(例えば、量子ビットが多く)、計算が長くなるにつれて、衝突率を向上させ続けることが必要になる場合がある。現在の量子ビットの主な制限は、(1)電力線からの60Hzのノイズが主な原因である残りの磁場変動と、(2)量子ビット周波数に一致するように(古典的)実験クロック(例えば、局所クロック又は局所発振器)の周波数を安定化/ロックする能力とによるT2時間である。
【0034】
以下で、上記課題に対する解決策に関連付けられた様々な態様は、
図1~
図8に関連してより詳細に説明される。
【0035】
図1は、典型的に真空チャンバ内にある単にイオントラップと呼ばれる線形RFポールトラップを使用して線形結晶又はチェーン110にトラップされた(例えば、原子超微細量子ビットとして使用される)複数の原子イオン105を示す
図100である。そして、これらの原子イオン105は、量子計算のための量子ビット(例えば、量子ビット105)として使用することができる。
図1に示す例では、量子システムの真空チャンバは、チェーン110内に閉じ込められ、ほぼ静止するようにレーザ冷却される複数(例えば、N>1。ここで、Nは100以上の数であり、一部の実装態様ではN=32)の原子イッテルビウムイオン(例えば、
171Yb
+イオン)をトラップするための電極を含む。トラップされた原子イオンの数は、構成可能であり、より多くの又はより少ない原子イオンはトラップされてもよい。原子は、
171Yb
+の共鳴に同調されたレーザ(光)放射で照射され、原子イオンの蛍光は、カメラ上に画像化される。この例では、原子イオンは、蛍光によって示されるように、互いに約5ミクロン(μm)の距離115だけ分離される。距離115は、例えば、約3μm~6μmの範囲とすることができる。原子イオンの分離は、外部閉じ込め力とクーロン反発力との間のバランスによって決定される。チェーン110には、アルカリ土類金属(Be
+、Mg
+、Ca
+、Sr
+、Ba
+)及び特定の遷移金属(Zn
+、Hg
+、Cd
+及びYb
+)などの孤立した外部電子を有する単純な原子イオンを使用することができる。これらの原子イオン内に、量子ビットは2つの安定した電子準位で表すことができ、多くの場合、2つの量子ビット状態|↑)及び|↓)、又は、同等の|1〉及び|0〉を有する有効スピンによって特徴付けられる。
【0036】
量子ビットの遷移を駆動するために必要なラマンビームの偏光は、量子ビット準位の原子構造とそれらの励起状態への結合に依存する。一例として、本開示は、
図2のエネルギー準位
図200に示すような、コヒーレント誘導ラマン遷移が、|0〉及び|1〉とラベル付けされ、周波数ω
q(例えば、ω
q/2π=12.6GHz)で分離され、2つのラマンビームのσ
+/σ
+又はσ
_/σ
_偏光のいずれかを有する355nmのレーザフィールドによって駆動される(例えば、任意のラマンプロセスは偏光σ
+又はσ
_の両方のビームで駆動する)2つの量子ビット状態を結合する
171Yb
+システム(例えば、原子超微細システム)を考える。2つの量子ビット状態の|0〉及び|1〉のエネルギー準位に加えて、
図200は、他のエネルギー準位も示し、そのいくつかは、量子ビット状態に使用されるエネルギー準位よりも磁場又は他の環境条件に対して非常に敏感であり得る。上記のように、
171Yb
+システムと同様の超微細構造を有する他のシステムは、本開示で説明される様々な技術に関連して使用されてもよい。
【0037】
図3A~
図3Cは、それぞれ、本開示の態様に係る局所磁場キャンセル又はゼロ化の様々な例を示す
図300a~
図300cである。一般に、磁場の影響を安定化させるために、まず、透磁率の高い材料(例えば、ミューメタル、高導電性銅、又は極低温での超伝導材料)を使用して量子ビットの周囲に磁気シールドを構築する。磁場は、量子ビットイオンと共トラップ(co-trapped)された(又はごく近傍のトラップ内にある)別の原子を使用し、(磁場に非常に敏感ではない量子ビット状態とは異なる)磁場に非常に敏感な原子エネルギー準位を使用し、量子ビットの局所磁場を測定することにより、更に安定化させることができる。そして、フィードバックループを実装してキャンセル磁場を追加し、局所磁場環境を安定化させることができる。
【0038】
図300aは、チェーン110内の1つ以上の量子ビット105の近傍の磁場量を低減することにより、量子ビット105のT
2全体の時間間隔を改善する安定化技術の実装態様を説明する。
【0039】
安定化技術の一態様は、磁場シールド340を使用し、チェーン110内の量子ビット105が経験する磁場量(例えば、磁場変動)を低減することである。磁場シールド340(単に磁気シールドとも呼ばれる)は、量子ビット105を静磁場又は低周波磁場からシールドするために使用されてもよい。磁場シールド340は、ミューメタル、高導電性銅、又は極低温での超伝導材料のうちの1つ以上を含む高透磁率を有する材料で形成されてもよい。ミューメタルは、透磁率が非常に高いニッケル鉄軟強磁性合金で構成されてもよい。
【0040】
この例では、原子超微細量子ビットであり得る量子ビット105aは、量子計算のために使用されてもよい。量子ビット105aの安定性の改善(例えば、提供される真空度がT1の制限を回避するのに十分であると仮定する場合でのより良いT2)は、量子計算を行う量子システムの全体の性能を向上させることができる。量子ビット105bは、量子ビット105aと同じ局所的な環境条件を経験するように、量子ビット105aに隣接又は近接する別の超微細量子ビットであってもよい。量子ビット105a及び105bは、並置された量子ビットともいえる。量子ビット105bは、プロービング量子ビット(例えば、プロービング量子ビット105b)と呼ばれてもよい。量子ビット105aの隣に示されるが、プロービング量子ビット105bは、同じ環境条件を経験するのに十分に近い限り、量子ビット105aに直接隣接する必要はない。プロービング量子ビット105bは、量子ビット105aの量子計算に関与せず、その代わりにスペクテータ量子ビットとみなされてもよい。これにより、プロービング量子ビット105bは、量子ビット105aに影響を与える局所磁場315を測定又はプローブするために使用されてもよい。上記のように、局所磁場315の変動は、磁場シールド340の使用により、他の場合よりも低い。更に、プロービング量子ビット105bは、原子種又は同位体に関して、量子ビット105aのものとは異なる原子又はイオンに基づくものであってもよい。
【0041】
安定器305は、局所磁場315をキャンセル又はゼロにするためのフィードバックメカニズムを提供するために使用されてもよい。この安定器305は、量子ビット105bにおける磁場に敏感なエネルギー準位を使用して局所磁場315を測定又はプローブするように構成された局所磁場測定コンポーネント310を含んでもよい。図示されないが、この局所磁場測定コンポーネント310は、測定を行うために、様々な光源及び/又は要素を含み、及び/又は、それらを制御することができる。この安定器305は、局所磁場測定コンポーネント310によって行われた測定から情報を受信するように構成され、その情報を使用し、1つ以上のコイル330に印加され、局所磁場315をキャンセル又はゼロにする(又は少なくとも大幅に削減する)ための1つ以上の磁場を生成するための信号を生成するキャンセル磁場生成コンポーネント320も含んでもよい。1つの実装態様では、1つ以上のコイル330は、地球磁場などの他の磁場に対処するために量子コンピュータ又は量子情報処理システムに存在してもよく、上記のように量子ビット105を安定化させるために使用されてもよい。別の実装態様では、1つ以上のコイル330は、量子ビット105を安定化させるために使用されるように独自に構成されてもよく、他の磁場に対処するためにコイルの別個のセットは使用されてもよい。
【0042】
図300b及び
図300cは、チェーン110内の1つ以上の量子ビット105のT
2の時間間隔を安定化させる他の実装態様を説明する。これらの例では、量子ビット105aは、第1イオントラップに実装された第1チェーン110aにあり、プロービング量子ビット105bは、このプロービング量子ビット105bが、量子ビット105aと同じ環境条件(例えば、同じ局所磁場315)を経験するように、第1イオントラップに隣接又は近接する第2イオントラップに実装された第2チェーン110bにある。あるいは、
図300b及び
図300cにおける第1チェーン110a及び第2チェーン110bは、同じイオントラップの異なる領域に実装されてもよい。
【0043】
局所磁場315が複数の量子ビット105aをカバーしてもよく、
図300a~
図300cに関連して説明した安定化メカニズムを使用して複数の量子ビット105aを安定化させることができることは理解されるべきである。同様に、複数のプロービング量子ビット105bをプローブし、キャンセル磁場又はゼロ磁場を生成するのに必要な情報を生成してもよい。
【0044】
図4A~
図4Cは、それぞれ、本開示の態様に係る、並置された(collocated)原子超微細量子ビットを周波数基準として使用する様々な例を示す
図400a~
図400cである。現在、局所クロックにおける局所発振器の場合、安定発振器は、量子ビット周波数を追跡するために市販で入手可能な原子源(Rbなど)にロックされる。現在の量子ビットコヒーレンス時間は、Rb原子基準と量子ビット状態との間の相対的な安定性によって制限される。そして、別のアプローチは、1つ以上の(磁場などの同じ環境を体験する)近傍の量子ビットを周波数基準として使用して局所発振器をロックすることにより、量子ビット及び原子基準(現在の設定におけるRb)から生じるエネルギー準位の任意の差分シフトを除去する。基本的に、量子ビット自体を周波数基準として使用することにより、局所発振器を量子ビットの原子基準にロックできる精度で、コヒーレンスを無期限に維持することができる。
【0045】
図400aは、原子基準(例えば、Cs原子クロック又はRb原子クロック)を使用し、局所クロック410内の局所RF発振器(LO)420が原子基準430によって与えられる基準周波数にロックする典型的な実装態様を説明する。これら2つがどの程度うまく結び付けられるかが、システムの全体の性能に影響を与える可能性がある。
【0046】
そして、局所クロック410を使用し、チェーン110内の量子ビット105a(例えば、原子超微細量子ビット)の発振を追跡する(例えば、周波数を追跡する)ことができる。上記のように、環境条件による量子ビット105aのエネルギー差の変化は、量子ビット105a及び局所クロック410の位相をずらす可能性がある。
【0047】
図400bは、について、コヒーレンスと、チェーン110内の1つ以上の量子ビット105のT
2全体の時間間隔とを改善することによって、位相ずれを低減又は除去する安定化技術の実装態様を説明する。この例では、局所クロック410及び局所RF発振器420を、市販の原子基準(例えば、Cs原子クロック又はRb原子クロック)に結び付ける代わりに、チェーン110内の量子ビット105c(基準量子ビット105cとも呼ばれる)に結び付ける。このような実装態様では、環境条件によって引き起こされた量子ビット105aの任意の変動が基準量子ビット105cによって経験されるため、位相ずれが発生しにくい。
【0048】
図400cは、
図400bと同様に、量子ビット105aが、第1イオントラップに実装された第1チェーン110aにあり、基準量子ビット105cが、量子ビット105aと同じ環境条件を経験するように、第1イオントラップに隣接又は近接する第2イオントラップに実装された第2チェーン110bにあるという別の実装態様を示す。また、環境条件によって引き起こされた量子ビット105aの任意の変動が基準量子ビット105cによっても経験されるため、位相ずれが発生しにくい。あるいは、
図400cにおける第1チェーン110aと第2チェーン110bは、同じイオントラップの異なる領域に実装されてもよい。
【0049】
プロービング量子ビット106bを使用して局所環境条件を測定又はプローブしてそれらの影響をキャンセル又はゼロにすることができ、また、基準量子ビット105cを局所クロック又は局所発振器の原子周波数基準として使用することができるように、
図3A~
図3C及び
図4A~
図4Cに関連して説明された技術を組み合わせてもよいことは理解されるべきである。プロービング量子ビット105b及び基準量子ビット105cは、原子種又は同位体に関して、異なる量子ビットであっても、同じ量子ビットであってもよい。
【0050】
図5を参照すると、コンピュータデバイス500の例を示す。コンピュータデバイス500は、例えば、単一のコンピューティングデバイス、複数のコンピューティングデバイス、又は分散コンピューティングシステムを表すことができる。コンピュータデバイス500は、量子コンピュータ(例えば、量子情報処理(QIP)システム)、古典的コンピュータ、又は量子コンピューティング機能と古典的コンピューティング機能の組み合わせとして構成されてもよい。例えば、コンピュータデバイス500は、トラップされたイオン型技術に基づく量子アルゴリズムを使用して情報を処理するために使用されてもよいため、近傍の量子ビットを使用するコヒーレントコントローラを能動的に安定化させる(例えば、T
2の時間間隔を改善する)方法又は技術を実装することができる。また、コンピュータデバイス500は、より優れた真空技術など、T
1の時間間隔を改善する技術を実装してもよい。本明細書で説明される様々な技術を実装できるQIPシステムとしてのコンピュータデバイス500の一般的な例は、
図6に示される例に示される。
【0051】
コンピュータデバイス500は、本明細書で説明される特徴のうちの1つ以上に関連付けられた処理機能を実行するためのプロセッサ510を含んでもよい。プロセッサ510は、単一又は複数のセットのプロセッサ又はマルチコアプロセッサを含んでもよい。更に、プロセッサ510は、統合処理システム及び/又は分散処理システムとして実装されてもよい。プロセッサ510は、中央処理装置(CPU)、量子処理ユニット(QPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、又はそれらのタイプのプロセッサの組み合わせを含んでもよい。量子演算をサポートする場合、プロセッサ510は、量子演算を実施するためにトラップされたイオンを少なくとも含んでもよい。一態様では、プロセッサ510は、コンピュータデバイス500の一般的なプロセッサを指してもよく、これはまた、近傍の量子ビットを使用してコヒーレントコントローラを能動的に安定化させるための機能などのより特定の機能を実行するために、追加のプロセッサ510を含んでもよく、量子ビットの局所環境条件のキャンセル又はゼロ化の一方又は両方、又は市販で入手可能な原子クロックの代わりに原子周波数基準としての量子ビットの使用に関してもよい。
【0052】
一例では、コンピュータデバイス500は、本明細書で説明される機能を実行するためにプロセッサ510によって実行可能な命令を格納するメモリ520を含んでもよい。一実装態様では、例えば、メモリ520は、本明細書で説明される1つ以上の機能又は動作を実行するためのコード又は命令を記憶するコンピュータ可読記憶媒体に対応してもよい。一例では、メモリ520は、それぞれ
図7及び
図8に関連して以下に説明する方法700及び方法800の態様を実行するための命令を含んでもよい。プロセッサ510と同様に、メモリ520は、コンピュータデバイス6500の一般的なメモリを指してもよく、これは、近傍の量子ビットを使用するコヒーレントコントローラを能動的に安定化させるための命令及び/又はデータなどの、より特定の機能のための命令及び/又はデータを記憶するために、追加のメモリ520を含んでもよい。
【0053】
更に、コンピュータデバイス500は、本明細書で説明されるように、ハードウェア、ソフトウェア及びサービスを利用して、1人以上の関係者(party)との通信を確立し、維持することを提供する通信コンポーネント530を含んでもよい。通信コンポーネント530は、コンピュータデバイス600上のコンポーネント間でも、コンピュータデバイス500と、通信ネットワークを介して配置されたデバイス及び/又はコンピュータデバイス500にシリアル又は局所に接続されたデバイスなどの外部デバイスとの間でも通信を実行してもよい。例えば、通信コンポーネント530は、1つ以上のバスを含んでもよく、外部デバイスとインタフェース接続するように動作可能な送信機及び受信機にそれぞれ関連付けられた送信チェーンコンポーネント及び受信チェーンコンポーネントを更に含んでもよい。
【0054】
更に、コンピュータデバイス500は、データストア540を含んでもよく、このデータストアは、本明細書で説明される実装態様に関連して使用される情報、データベース及びプログラムの大容量記憶を提供する、ハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の適切な組み合わせとすることができる。例えば、データストア540は、オペレーティングシステム560(例えば、古典的OS又は量子OS)のためのデータリポジトリ(repository)であってもよい。一実装態様では、データストア540は、メモリ520を含んでもよい。
【0055】
コンピュータデバイス500はまた、コンピュータデバイス500のユーザからの入力を受信するように動作可能であり、更にユーザに提示するための出力を生成するように、又は異なるシステムに(直接的又は間接的に)提供するように動作可能なユーザインタフェースコンポーネント550を含んでもよい。ユーザインタフェースコンポーネント550は、キーボード、ナンバーパッド、マウス、タッチ感応ディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、ファンクションキー、マイクロフォン、音声認識コンポーネント、ユーザからの入力を受信することができる任意の他のメカニズム、又はそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の入力デバイスを含んでもよい。更に、ユーザインタフェースコンポーネント550は、ディスプレイ、スピーカ、触覚フィードバックメカニズム、プリンタ、ユーザに出力を提示することができる任意の他のメカニズム、又はそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の出力デバイスを含んでもよい。
【0056】
一実装態様では、ユーザインタフェースコンポーネント550は、オペレーティングシステム560の動作に対応するメッセージを送信及び/又は受信してもよい。また、プロセッサ510は、オペレーティングシステム560及び/又はアプリケーション又はプログラムを実行してもよく、メモリ520又はデータストア540は、それらを記憶してもよい。
【0057】
コンピュータデバイス500がクラウドベースのインフラストラクチャの解決策の一部として実装される場合、ユーザインタフェースコンポーネント550は、クラウドベースのインフラストラクチャの解決策のユーザがコンピュータデバイス500とリモートで相互作用することを可能にするために使用されてもよい。
【0058】
図6は、本開示の態様に係る、QIPシステム600の例を示すブロック図である。QIPシステム600はまた、量子コンピューティングシステム、コンピュータデバイスなどと呼ばれてもよい。一態様では、QIPシステム600は、
図5のコンピュータデバイス500の量子コンピュータ実装の一部に対応してもよい。更に、
図300a、
図300b、
図300c、
図400a、
図400b、及び
図400cの態様は、QIPシステム600に含まれてもよい。例えば、これらの図の態様は、QIPシステム600のチャンバ650に実装されてもよく、チャンバ650に関連して実装されてもよい。
【0059】
QIPシステム600は、チャンバ650(例えば、
図1のチェーン110に関連付けられた真空チャンバ)に原子種(例えば、中性原子のフラックス)を提供する源(ソース)660を含んでもよく、このチャンバは、光学コントローラ620によって一度イオン化された(例えば、光イオン化された)原子種をトラップするイオントラップ670を有する。光学コントローラ620内の光源630は、原子種のイオン化、原子イオンの制御、光学コントローラ620内の撮像システム640で動作する画像処理アルゴリズムによって監視及び追跡され得る原子イオンの蛍光、及び/又は、本明細書で説明される追跡、プロービング、及び/又は測定機能の実行のために使用できる1つ以上のレーザ源(例えば、光学ビーム又はレーザビームの源)を含んでもよい。一態様では、光源630は、光学コントローラ620とは別個に実装されてもよい。
【0060】
撮像システム640は、イオントラップに提供されている間、又はイオントラップ670に供給された後に、原子イオンを監視するための高解像度撮像装置(例えば、CCDカメラ)を含んでもよい。一態様では、撮像システム640は、光学コントローラ620とは別個に実装されてもよいが、画像処理アルゴリズムを使用して原子イオンを検出し、識別し、標識するための蛍光の使用は、光学コントローラ620と調整する必要がある場合もある。
【0061】
QIPシステム600はまた、QIPシステム600の他の部分(未図示)と共に動作して、大量又は一連(stack or sequence)の組み合わせの単一量子ビット演算及び/又はマルチ量子ビット演算(例えば、2量子ビット演算)及び拡張量子計算を含む量子アルゴリズム又は量子演算を実行し得るアルゴリズムコンポーネント610を含んでもよい。そのように、アルゴリズムコンポーネント610は、量子アルゴリズム又は量子演算の実装を可能にするために、QIPシステム600の様々なコンポーネント(例えば、光学コントローラ620)に命令を提供してもよく、その結果、本明細書で説明される様々な技術を実装して、量子ビットの品質を向上させることができる。
【0062】
図6にも示すように、QIPシステム600の一部として、安定器305、局所クロック410、及びコイル330がある。安定器305及び局所クロック410は、例えば、光学コントローラ620及びイオントラップ670内に形成されるイオンのチェーンを含む、QIPシステム600の他のコンポーネント又はサブコンポーネントに関連して動作してもよい。コイル330は、QIPシステム600内の異なる場所に配置されてもよく、いくつかの実装態様では、チャンバ650の外部及び/又は内部に配置されたコイルであってもよい。
【0063】
図7を参照すると、量子ビットにおける位相減衰を安定化させる(例えば、量子ビットのT
2の時間間隔を改善する)方法700が説明される。一態様では、方法700は、プロセッサ510、メモリ520、データストア540、及び/又はオペレーティングシステム560などを使用して方法700の機能を実行し得る上記コンピュータデバイス500などのコンピュータシステムで実行されてもよい。同様に、方法700の機能は、QIPシステム600及びそのコンポーネント(例えば、安定器305、光学コントローラ620)などのQIPシステムの1つ以上のコンポーネントによって実行されてもよい。したがって、方法700に関連して本明細書で説明される各態様は、コンピュータデバイス500及びQIPシステム600において、単独で、又は別の態様と組み合わせて実装されてもよい。
【0064】
702では、方法700は、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオン(例えば、
図3A~
図3Cの量子ビット105a及び105bを参照)を提供することを含む。
【0065】
704では、方法700は、第2量子ビットイオンを使用して磁場変動を測定する(例えば、
図3A~
図3Cの安定器305及び局所磁場測定コンポーネント310を参照)ことを含む。
【0066】
706では、方法700は、測定された磁場変動に基づいて、第1量子ビットイオンの近傍に印加されて磁場変動をキャンセルして第1量子ビットイオンの位相減衰を安定化させる1つ以上の磁場を生成する(例えば、
図3A~
図3Cの安定器305、キャンセル磁場生成コンポーネント320、及びコイル330を参照)ことを含む。
【0067】
方法700が1つの第1量子ビットイオン及び1つの第2量子ビットイオンに関連して説明される。しかし、方法700がそのように限定される必要はなく、1つ以上の第1量子ビットイオン及び1つ以上の第2量子ビットイオンで実行されてもよいことは理解されるべきである。例えば、方法700は、少なくとも1つの第1量子ビットイオンと1つの第2量子ビットイオン、1つの第1量子ビットイオンと少なくとも1つの第2量子ビットイオン、又は少なくとも1つの第1量子ビットイオンと少なくとも1つの第2量子ビットイオンで実行されてもよい。
【0068】
方法700の一態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンは、原子超微細量子ビットである。
【0069】
方法700の一態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンは、同じ原子イオン又は同じ原子種からなる(例えば、それらは両方ともイッテルビウム原子ベースの量子ビットである)。
【0070】
方法700の一態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンは、異なる原子イオン又は異なる原子種からなる。
【0071】
方法700の一態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンは、原子超微細量子ビットであり、第1量子ビットイオンは、第1波長の光でアドレス可能(addressable)であり、第2量子ビットイオンは、第1波長の光とは異なる第2波長の光でアドレス可能である。一例では、第1量子ビットイオンは、171Yb+からなり、第2量子ビットイオンは、133Ba+からなる。
【0072】
方法700の一態様では、第1量子ビット及び第2量子ビットは、同じイオントラップに共トラップされる(例えば、
図3Aを参照)。
【0073】
方法700の一態様では、第1量子ビットは、第1イオントラップにトラップされ、第2量子ビットは、第1イオントラップに隣接する第2イオントラップにトラップされる(例えば、
図3B及び
図3Cを参照)。
【0074】
方法700の一態様では、第2量子ビットイオンは、磁場に敏感なエネルギー準位を有し、第2量子ビットイオンを使用して磁場変動を測定することは、磁場に敏感な第2量子ビットイオンのエネルギー準位を使用して磁場変動を測定することを含む。第2量子ビットイオンは、磁場に敏感ではない他のエネルギー準位を有してもよい。磁場に敏感なエネルギー準位は、例えば、ゼーマン準位を含んでもよい。更に、第2量子ビットイオンを使用して磁場変動を測定することは、磁場に敏感な第2量子ビットイオンのエネルギー準位を光学的にプローブして(例えば、光学コントローラ620を使用して光学プロービングを実行することによって)磁場変動の特性を検出することを含む。
【0075】
方法700の一態様では、磁場変動は、60Hzのノイズを含む。他の例では、ノイズは、50Hz、100Hz、及び/又は120Hzのノイズであってもよい。
【0076】
方法700の一態様では、方法700は、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンの近傍の磁場変動を低減するように構成された磁気シールド(例えば、磁場シールド340)を提供することを更に含んでもよく、磁気シールドは、ミューメタル、高導電性銅、又は極低温での超伝導材料のうちの1つ以上を含む高透磁率を有する材料で形成される。
【0077】
方法700の一態様では、磁場変動の測定と、磁場変動をキャンセルする1つ以上の磁場の生成とを含むシーケンスは、フィードバックループの一部として繰り返される。いくつかの実装態様では、フィードバックループは、少なくとも1KHzの帯域幅を有してもよい。
【0078】
方法700の一態様では、第1量子ビットイオンは、量子計算に参加するように構成され、また、第2量子ビットイオンは、量子計算に参加しないように構成されたスペクテータ量子ビットである。
【0079】
方法700の一態様では、方法700は、(例えば、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンに加えて)1つ以上の追加の量子ビットイオンを提供することを更に含み、ここで、1つ以上の磁場は、第1量子ビットイオン及び1つ以上の追加の量子ビットイオンの近傍に印加されて磁場変動をキャンセルして第1量子ビットイオン及び1つ以上の追加の量子ビットイオンの位相減衰を安定化させる。1つ以上の追加の量子ビットイオンは、第1量子ビットイオンと同じイオントラップ内又はその近傍のイオントラップ内にあってもよい。
【0080】
方法700に関連して、QIPシステムは、そのような方法を実行するために使用されてもよい。QIPシステムは、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンを有する少なくとも1つのイオントラップ(例えば、1つ以上のイオントラップ670)と、1つ以上のコイル(例えば、1つ以上のコイル330)と、量子ビットの位相減衰を安定化させる安定器(例えば、安定器305)とを含むQIPシステム600の実装態様であってもよい。この実装態様では、安定器は、第2量子ビットイオンを使用して(例えば、安定器305内の局所磁場測定コンポーネント310により)磁場変動を測定し、1つ以上のコイルを使用し、測定された磁場変動に基づいて(例えば、安定器305内のキャンセル磁場生成コンポーネント320により)、1つ以上の磁場を生成するように構成され、この1つ以上の磁場は、(例えば、コイル330により)第1量子ビットイオンの近傍に印加されて磁場変動をキャンセルして第1量子ビットイオンの位相減衰を安定化させる。
【0081】
また、量子ビットの位相減衰を安定化させる方法700は、プロセッサ(例えば、プロセッサ510)が実行可能な命令を有するコードを格納するコンピュータ可読記憶媒体(例えば、メモリ520及び/又はデータストア540)によって実装されてもよい。
【0082】
図8を参照すると、量子ビットにおける位相減衰を安定化させる(例えば、T
2の時間間隔を改善する)方法800が説明される。一態様では、方法800は、プロセッサ510、メモリ520、データストア540、及び/又はオペレーティングシステム560などを使用して方法700の機能を実行し得る上記コンピュータデバイス500などのコンピュータシステムで実行されてもよい。同様に、方法800の機能は、QIPシステム600及びそのコンポーネント(例えば、安定器305、光学コントローラ620)などのQIPシステムの1つ以上のコンポーネントによって実行されてもよい。したがって、方法800に関連して本明細書で説明される各態様は、コンピュータデバイス500及びQIPシステム600において、単独で、又は別の態様と組み合わせて実装されてもよい。
【0083】
802では、方法800は、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオン(例えば、
図4B及び
図4Cの量子ビット105a及び105cを参照)を提供することを含む。
【0084】
804では、方法800は、局所発振器を第2量子ビットイオンに関連付けられた周波数基準にロックすることを含む(例えば、
図4B及び
図4Cの量子ビット105cによって提供される原子基準にロックされた局所クロック410内の局所RF発振器420を参照)。
【0085】
806では、方法800は、局所発振器を使用して、周波数基準に基づいて第1量子ビットイオンの周波数を追跡することを含む(例えば、局所クロック410内の局所RF発振器420による量子ビット105aの追跡を参照)。
【0086】
方法800が1つの第1量子ビットイオン及び1つの第2量子ビットイオンに関連して説明される。しかし、方法800がそのように限定される必要はなく、1つ以上の第1量子ビットイオン及び1つ以上の第2量子ビットイオンで実行されてもよいことは理解されるべきである。例えば、方法800は、少なくとも1つの第1量子ビットイオンと1つの第2量子ビットイオン、1つの第1量子ビットイオンと少なくとも1つの第2量子ビットイオン、又は少なくとも1つの第1量子ビットイオンと少なくとも1つの第2量子ビットイオンで実行されてもよい。
【0087】
方法800の一態様では、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンは、同じ原子超微細構造を有する。
【0088】
方法800の一態様では、第1量子ビットイオンと第2量子ビットイオンとは、異なるイオン種である。
【0089】
方法800の一態様では、第1量子ビットイオンと第2量子ビットイオンとは、原子超微細構造を有し、異なる波長の光でアドレス可能である。
【0090】
方法800の一態様では、第1量子ビットイオンは、171Yb+からなり、第2量子ビットイオンは、133Ba+からなる。
【0091】
方法800の一態様では、第1量子ビットイオンと第2量子ビットイオンとは、互いに近接し、実質的に同じ環境変動を経験する。第1量子ビットイオンと第2量子ビットイオンとは、同じイオントラップ内にあるか、又は別の隣接するイオントラップ内にあることにより、互いに近接する。
【0092】
方法800の一態様では、方法800は、第2量子ビットイオンを使用して(例えば、安定器305内の局所磁場測定コンポーネント310により)磁場変動を測定し、測定された磁場変動に基づいて(例えば、安定器305内のキャンセル磁場生成コンポーネント320により)、1つ以上の磁場を生成することを更に含み、この1つ以上の磁場は(例えば、コイル330により)第1量子ビットイオンの近傍に印加されて磁場変動をキャンセルする。
【0093】
方法800に関連して、QIPシステムは、そのような方法を実行するために使用されてもよい。QIPシステムは、第1量子ビットイオン及び第2量子ビットイオンを有する少なくとも1つのイオントラップ(例えば、1つ以上のイオントラップ670)と、局所発振器(例えば、局所RF発振器420)と、を含むQIPシステム600の実装態様であってもよい。この局所発振器は、第2量子ビットイオンに関連付けられた周波数基準にロックされ、この局所発振器は、周波数基準に基づいて第1量子ビットイオンの周波数を追跡するように構成される。
【0094】
また、量子ビットの位相減衰を安定化させる方法800は、プロセッサ(例えば、プロセッサ510)が実行可能な命令を有するコードを格納するコンピュータ可読記憶媒体(例えば、メモリ520及び/又はデータストア540)によって実装されてもよい。
【0095】
本開示の前述の説明は、当業者が本開示を製造するか又は使用することができるように提供される。本開示に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書に定義された一般的な原理は、本開示の精神又は範囲から逸脱することなく他の変形例に印加され得る。更に、説明された態様の要素は、単数形で説明又は請求されている場合があるが、単数形への限定が明示的に述べられていない限り、複数形が企図される。更に、特に明記しない限り、任意の態様の全部又は一部は、任意の他の態様の全部又は一部と共に利用されてもよい。したがって、本開示は、本明細書で説明される例及び設計に限定されるべきでなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴と整合する最も広い範囲を与えられるべきである。
【国際調査報告】