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特表2023-532869高SiO2含量を有するジルコニウムコランダム砥粒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】高SiO2含量を有するジルコニウムコランダム砥粒
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/111 20060101AFI20230725BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20230725BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C04B35/111 500
C09K3/14 550D
B24D3/00 320A
B24D3/00 340
B24D3/00 320Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580071
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2021067308
(87)【国際公開番号】W WO2021260094
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】102020116845.4
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319006807
【氏名又は名称】イメルテック ソシエテ パル アクシオン サンプリフィエ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】クンツ ライナー
(72)【発明者】
【氏名】フックス トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ホッティンガー アンドレアス
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AA03
3C063AB03
3C063AB07
3C063BB01
3C063BB03
3C063EE31
3C063FF23
3C063FF30
(57)【要約】
本発明は、電気アーク炉で溶融されたAl23及びZrO2に基づくジルコニウムコランダム砥粒であって、- 52質量%~62質量%のAl23、- 35.0質量%~45.0質量%のZrO2(+HfO2)であって、ZrO2の総含有量に対してZrO2の合計の少なくとも80質量%が正方晶及び/又は立方晶高温相である、ZrO2(+HfO2)、- 0.8質量%超の、SiO2として表されるSi化合物、- 0.03質量%~0.5質量%の炭素、- 0.5質量%~10質量%の添加剤、及び- 3質量%未満の原料関連不純物の含有量を有し、砥粒の原料ベースが酸化アルミニウム、バデライト及びジルコンサンドを含む、ジルコニウムコランダム砥粒に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気アーク炉で溶融されたAl23及びZrO2をベースとする砥粒であって、
- Al23が52質量%~62質量%、
- ZrO2(+HfO2)が35.0質量%~45.0質量であって、ZrO2の総含有量に対して、ZrO2の合計の少なくとも80質量%が正方晶及び/又は立方晶高温相であり、
- 炭素が0.03質量%~0.5質量%、
- TiO2として表される還元酸化チタンが1.0質量%~4.0質量%、
- Y23が0.2質量%~1.5質量%、
- SiO2として表されるSi化合物が0.8質量%超、
- 原料関連不純物が3質量%未満、
の含有量を有し、
前記砥粒の原料ベースが、酸化アルミニウム、バデライト及びジルコンサンドを含み、バデライトとジルコンサンドの比が、3:1~1:2であることを特徴とする砥粒。
【請求項2】
前記砥粒の原料ベースが、酸化アルミニウム、バデライト及びジルコンサンドを含み、バデライトとジルコンサンドの比が、1.5:1~1:1.5であることを特徴とする、請求項1に記載の砥粒。
【請求項3】
前記砥粒中の、SiO2として表されるSi化合物の割合が1.0質量%超であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の砥粒。
【請求項4】
前記砥粒中の、SiO2として表されるSi化合物の割合が1.1質量%~1.5質量%であることを特徴とする、請求項3に記載の砥粒。
【請求項5】
TiO2とY23の比が2:1~6:1であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の砥粒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の砥粒を製造する方法であって、
-以下の含有量の砥粒の出発材料を混合するステップ、
a)52質量%~62質量%のAl23
b)35.0質量%~45.0質量%のZrO2(+HfO2)であって、ZrO2の総含有量に対して、ZrO2の合計の少なくとも80質量%が正方晶及び/又は立方晶高温相である、前記ZrO2(+HfO2)、
c)0.8質量%超の、SiO2として表されるSi化合物、
d)0.03質量%~0.5質量%の炭素、
e)1.0質量%~4.0質量%の、TiO2として表される還元酸化チタン、
f)TiO2とY23の比が2:1~6:1である、0.2質量%~1.5質量%のY23、及び
g)3質量%未満の原料関連不純物、
- 電気アーク炉で前記混合物を溶融するステップ、
- 溶融混合物を急冷して固体生成物を得るステップ、並びに
- 前記固体生成物を破砕し、その後ふるい分けして砥粒を得るステップ
を含み、
砥粒の原料ベースが、酸化アルミニウム、バデライト及びジルコンサンドを含み、バデライトとジルコンサンドの比が3:1~1:2であることを特徴とする、前記方法。
【請求項7】
バデライトとジルコンサンドの比が、1.5:1~1:1.5であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al23の含有量が52質量%~62質量%、ZrO2(+HfO2)の割合が35質量%~45質量%で、電気アーク炉で溶融されたAl23及びZrO2に基づく砥粒であって、砥粒の原料ベースが酸化アルミニウム、バデライト及びジルコンサンドを含む砥粒に関する。定義によれば、バデライトという用語は、ZrO2の含有量が少なくとも96質量%であるすべての天然及び人工のZrO2精鉱を含む。
【背景技術】
【0002】
ジルコニウムコランダムに基づく砥粒は長年知られており、特に高合金鋼の切削加工用の砥石又は研磨布紙として成功裏に利用されている。微細結晶構造に加えて、酸化ジルコニウムの高温相の割合が砥粒の性能に大きな影響を及ぼす。これは特に、いわゆる共晶ジルコニウムコランダムに当てはまるもので、不純物又は意図的に導入された添加剤として存在する酸化アルミニウム及び他の酸化物に加えて、好ましくは35~50質量パーセントの酸化ジルコニウムを含有する。そのため、従来、ジルコニウムコランダムの性能を向上させるために、構造の微細化及び/又は高温相の割合を高める試みが繰り返し行われてきた。構造は、溶融液体を効率的かつ迅速に急冷することによって改善することができるが、高温相の高い割合は、主に安定剤の的を射た使用によって達成することができ、酸化チタン及び/又は酸化イットリウムは、しばしば酸化ジルコニウムの高温相の安定剤として使用されている。
酸化ジルコニウムは3種類の異なる相で存在する。室温で安定な単斜晶相は、約800~1200℃の温度で正方晶相に変化し、それは約2300℃まで安定で、その後立方晶相に変化する。上記の温度は純粋な酸化ジルコニウムに適用される。混合物又はドープされた材料では、温度は変化する。可逆的な相変態は体積変化を伴い、正方晶高温相の体積が最も小さくなる。正方晶から、最大の体積を有する単斜晶相への転移は、4.5%の体積増加と関連する。当業者は、砥粒における高温相の好影響を、研削加工中に起こる熱発生によって正方晶から単斜晶への相変態が起こり、体積の増加によって小断片の有利な破断による微小亀裂の形成を伴う応力が生じ、それによって新しいカッティングエッジが形成されるという事実で説明する。この過程はしばしば自己研磨と呼ばれる。
【0003】
米国特許第5525135号(欧州特許第0595081号)には、90質量パーセント超の酸化ジルコニウムが正方晶高温相にあるジルコニウムコランダムに基づく砥粒が記載されている。この場合、還元剤として炭素の存在下で酸化チタンを添加し、溶融物を急冷することにより高温相を安定化させる。その結果、亜酸化物の形態で還元されたチタン化合物が、酸化ジルコニウムの高温相を安定化させるものと推測される。
米国特許第7122064号(欧州特許第1341866号)は、ジルコニウムコランダムに基づく砥粒に関し、この砥粒では、酸化ジルコニウムの高温相が同様に還元型のチタン化合物で安定化する。この文献に記載された砥粒は、0.2~0.7質量パーセントのSiO2として表されるケイ素化合物の含有量を有する。SiO2の添加により還元チタン化合物の安定化効果は著しく低下するが、同時に溶融物の粘性も大きく低下し、金属板の間に液状材料を流し込むことによって溶融物の急冷が容易になる。この迅速な急冷は、完成した砥粒の構造に良い効果を与え、この方法により特に微細な結晶質で均一な構造を達成することができ、このことは、酸化ジルコニウムの高温相の割合が高いことに加えて、製品の品質を決めるもう一つの重要な基準となっている。
米国特許第4457767号には、0.1~2質量パーセントの酸化イットリウムを含有するジルコニウムコランダム砥粒が記載されており、酸化イットリウムは、酸化ジルコニウムの高温相に対する安定剤として使用されている。酸化ジルコニウムの高温相に対するY23の安定化効果は、還元TiO2の安定化効果よりも顕著であることが知られており、同等の割合の高温相を得るためには、比較的少ないY23が使用されなければならない。
【0004】
ジルコニウムコランダムに基づく砥粒は、鋼材加工用砥粒として最も重要な従来からの砥粒の一つであり、これらの砥粒の性能をさらに向上させるために世界中で大きな努力がなされている。しかし、高温相の割合をさらに高めるだけでは、十分な性能向上は得られないと考えられる。国際公開第2011/141037号には、ジルコニウムコランダム砥粒を用いた研削試験が記載されており、その一部は、酸化ジルコニウムの高温相のみを有するが、酸化ジルコニウムの総割合に対して約90質量パーセントの高温相を有する砥粒と比較して、研削性能の改善は明らかではない。これに対し、国際公開第2011/141037号では、正方晶高温相と立方晶高温相を初めて一貫して区別し、それぞれ酸化ジルコニウムの総割合に対して、立方晶高温相に20質量%超の酸化ジルコニウムが存在し、正方晶高温相に50質量%超の酸化ジルコニウムが存在する場合に、研削性能の最適化が記載され、それはフラックスとして少量のSiO2の存在下で、安定剤としてY23及びTiO2を併用することによって達成される。
米国特許出願公開第2012/0186161号には、溶融共晶ジルコニウムコランダムに基づく砥粒が記載されており、これは、酸化ジルコニウムの総割合に対して、60~90質量パーセントの正方晶酸化ジルコニウム相の割合を有するものである。正方晶相の割合が比較的少ない相分布は、高温相の安定剤としてY23/SiO2の比が0.8~2.0のSiO2の存在下で酸化イットリウムと酸化チタンを使用した化学組成により達成される。そのより低い靭性のため、その製品は接触圧の低い合金鋼の切削加工に特に適しているといわれる。砥粒の自己研磨は比較的穏やかな条件で行われるため、被加工物への熱損傷を避けることができ、同時に高い除去率が達成される。
【0005】
一般に、SiO2は添加剤の安定化効果を制限し、又はZrO2の高温相の安定化を妨げるため、ジルコニウムコランダム砥粒のSiO2の含有量は常に批判的に見られる。したがって、先行技術に記載されたすべての高性能共晶ジルコニウムコランダム砥粒は、0.8質量%未満のSiO2含有量を有する。その結果として、従来は、SiO2の過剰な混入を避けるために、Al23及びZrO2に基づく比較的純粋な原料が常に使用されてきた。主に純酸化アルミニウム及びバデライトが使用され、TiO2及びY23などの安定化添加剤に加えて、溶融液体の流動性向上に必要な少量のSiO2源として、珪砂やジルコンサンドが使用されていた。最近では、天然のバデライトの資源が限られているため、人工的に製造したZrO2精鉱も使用されている。
【0006】
さらに、共晶ジルコニウムコランダム砥粒の製造の最適化を図る観点から、より安価な原料の使用も試みられた。例えば、ジルコニウムコランダムのZrO2原料として、バデライトに加え、従来はSiO2源としてのみ使用されていたジルコンサンドを直接使用する一連の試験を実施した。予想通り、製品中のSiO2の割合は増加し、ほとんどの場合、これも予想された製品の劣化を招いた。しかしながら、TiO2とY23の組合せで安定化させると、意外なことに製品の品質を劣化させることなくジルコンサンドの量を3倍にすることができた。当業者にとってSiO2の割合が高いことは、以前は製品の劣化と同義であったため、溶融物の原料組成を変え、SiO2源としてジルコンサンドに加えて石英を使用して、頻繁に試験を繰り返し、適宜変化させた。原料源としてジルコンサンドの使用を増やして、TiO2とY23が2:1~4:1の比の混合物でZrO2を安定化させると、製品中のSiO2割合が増加するが、製品中のSiO2割合が1質量%を超えても、製品品質への悪影響が認められないことが判明したことが示された。一方、原料として標準処方を使用し、珪砂を添加してSiO2割合を高めた比較試験では、製品中のSiO2割合が0.6質量%超であると、必ず製品の品質が著しく劣化することが分かった。酸化ジルコニウムの高温相をTiO2又はY23単独で、或いはTiO2とY23の比を2:1~4:1以外で安定化した場合でも、常に製品の劣化が認められた。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本発明の主題は、電気アーク炉で溶融され、52質量%~62質量%のAl23及び35質量%~45質量%のZrO2(+HfO2)の含有量を有するAl23及びZrO2に基づく砥粒に関する。この砥粒では、ZrO2の総含有量に対して、ZrO2の合計の少なくとも80質量%が、正方晶及び/又は立方晶の高温相である。砥粒は、還元剤として炭素が使用される還元条件下で製造されるため、砥粒は0.03~0.5質量%の炭素を含有する。酸化ジルコニウムの高温相は、ルチル(TiO2)及び酸化イットリウムの添加により安定化され、砥粒はTiO2として表される還元酸化チタン含有量が1.0質量%~4.0質量%、Y23が0.2~1.5質量%となり、TiO2とY23の比が2:1~6:1である。さらに、砥粒は、3質量%未満の原料関連不純物を有する。本発明による砥粒中のSiO2として表されるSi化合物の割合は、0.8質量%超、好ましくは1.0質量%超である。本発明の有利な実施形態では、SiO2の含有量は1.1質量%~1.5質量%である。砥粒用の原料ベースは、酸化アルミニウム、バデライト及びジルコンサンドを含み、バデライトとジルコンサンドの比は、3:1~1:2、好ましくは1.5:1~1:1.5である。
研削試験は通常、砥粒の品質を評価するために実施される。このような研削試験は比較的複雑で時間がかかる。そのため、研磨剤業界では、より入手しやすく、後の研削試験における挙動の指標となる、機械的特性に基づく砥粒の品質を事前に評価することが一般的である。既に前述の構造及び高温相の割合に加え、砥粒の品質を評価するために、特にボールミルでの粉砕時の微小粒の崩壊が使用される。
【0008】
微小粒崩壊性(MKZ)
微粒子の崩壊性を測定するために、コランダム(粒度36)10gを、12個の鋼球(直径15mm、質量330~332g)を充填したボールミルで、毎分188回転で所定時間粉砕する。その後、粉砕された砥粒を(Haver Boecker EML200sieve)の250μmのふるいで5分間ふるいに掛け、微粉を秤量する。
MKZ値は、以下のように算出される:
MKZ(%)=(ふるい通過250μm/全質量)×100
本実施例では、製品の品質のさらなる基準として、酸化ジルコニウムの高温相の割合を決定したが、立方晶相と正方晶相の区別はせず、両相を包含するTファクターのみを決定した。
Tファクター
ZrO2の全割合を基準としたZrO2高温相の割合の定量的な測定は、X線回折装置を用いて、27.5°~32.5°の2シータ測定範囲で行う。高温相の割合(Tファクター)は、式に従って決定される:
【数1】
t=30.3°の2シータにある正方晶ピークの強度
1=28.3°の2シータにある単斜方晶ピークの強度
2=31.5°の2シータにある単斜方晶ピークの強度
【実施例
【0009】
以下、本発明をいくつかの選択された実施例を使用して、限定することなく詳細に説明する。これらの実施例は、フラックスとしてのSiO2の存在下で安定剤TiO2及びY23を用いた溶融系Al23/ZrO2におけるいくつかの一般的関係を示すために使用され、これにより当業者に、電気アーク炉で溶融された共晶ジルコニウムコランダムに基づく砥粒の製造を、製品の劣化なく最適化する方法について手掛かりを提供する。
【0010】
調査用の試料は、アルミナ、バデライト精鉱、ジルコンサンド及び石油コークスの混合物にルチルサンド及び/又はY23を加えて電気アーク炉で溶融することにより、従来の方法で製造した。原料混合物全体が完全に溶融した後、欧州特許第0593977号に従って溶融物を金属板間の約3~5mmの間隙に流し込んだ。完全に冷却した後、このようにして急冷したジルコニウムコランダムシートを、ジョークラッシャー、ローラークラッシャー、ローラーミル又はコーンクラッシャーを使用して通常の方法で破砕し、所望の粒度画分を与えるためにふるい分けした。比較例Hでは、SiO2源として、ジルコンサンドの代わりに石英を使用した。
【0011】
まず、原料は、以下の表1に記載されており、本質的に溶融状態で燃焼する石炭の割合は、原料の混合物の合計には含まれない。製品組成において、100%に対する残りは、Al23の値である。MKZ値及びT値に加えて、所望の製品最適化のために極めて重要な、原料混合物中のZrサンドの割合(パーセント)が、再び別々に記載されている。
【表1】

【0012】
例A及びBは比較例であり、市販品に相当し、比較例Aの酸化ジルコニウムは還元酸化チタンのみで安定化され、一方、比較例Bでは、高温相は、酸化チタンと酸化イットリウムの組合せで安定化されていた。安定化の違いは、比較例Bでは主にT値の上昇で顕著に現れている。同時に、比較例Aと比較して、MKZ値の向上が明らかであり、これは研削性能の向上が期待できることを意味し、それはその後の研削試験で確認された。いずれの比較例も、SiO2源として通常量のジルコンサンドを8質量%使用し、その結果、製品中のSiO2含有量はそれぞれ0.4質量%及び0.37質量%であった。
例Cは、安定化の点では例Aに相当するが、ジルコンサンドの割合を2倍にし、一方、製品中の全体的な酸化ジルコニウム含有量を一定のレベルに保つために、バデライト精鉱の割合をそれに応じて減少させたものである。ジルコンサンドを2倍にすることで、製品中のSiO2割合は1.1質量%に増加した。6.9のMKZ値は製品Aの値の範囲である。例Bと同様に、例DはTiO2とY23の組合せで安定化し、例Cと同様にジルコンサンドの割合を増加させた。製品Dでは、対応するSiO2割合が1.1質量%であることが測定された。4.6のMKZ値は驚くほど低く、魅力的な研削性能が期待できる。
【0013】
例Eでは、バデライトとジルコンサンドを1:1の比で使用して、原料混合物中のジルコンサンドの割合をさらに増やして実施した。製品E中の酸化ジルコニウムの含有量を同レベルに保つために、バデライトの含有量を適宜減らした。このようにして、原料混合物は、合計22質量%のジルコンサンドを含んでいた。製品Eは、SiO2割合が1.3質量%であり、MKZ値は5.0であった。
例Fは、従来の割合のジルコンサンドを用いた別の比較例であり、酸化ジルコニウムの高温相は、Y23のみで安定化されている。TファクターとMKZ値は製品Aに匹敵する値であり、これは、1種類の安定剤のみを使用した場合、安定剤の種類は小さな役割しか果たさない可能性を示していると見ることができる。ジルコンサンドの割合を例Fと比べて2倍にした例Gでは、主要数値の悪化が見られるが、例CのTiO2による個別安定化に比べれば、比較的小さい。比較例Hは、安定化の点では例B、D、及びEに相当するが、SiO2源として石英のみを使用した。使用するバデライト量を増やすことにより、製品中の酸化ジルコニウムの割合を調整した。製品Hの場合、SiO2の割合が高いことによる製品品質への悪影響は、主要な数値(MKZ値、Tファクター)ではっきりと確認でき、それは研削試験でも現れている。また、走査型電子顕微鏡(SEM)による製品Hの研磨面では、ミクロ孔とマクロ孔の割合が高い多孔度の著しい増加が見いだされ、このことも研磨面の研削試験で悪い結果となった別の原因として考えられる。
【0014】
研削試験1(カッティングディスク試験)
カッティングディスク試験には、仕様R-T1 180×3×22.23のカッティングディスクを選択した。この目的のために、75質量%のジルコニウムコランダム、5質量%の液体樹脂及び12質量%のHEXION specialty chemicals GmBHからの粉末樹脂、4質量%の黄鉄鉱及び4質量%の氷晶石からなるプレス混合物を作製した。ディスクを製造するために、160gのプレス混合物を市販の布上に成形し、200バールでプレスした後、樹脂メーカーの説明書に従って硬化させた。
切断試験自体には、直径20mmのステンレス鋼(CrNi)製の丸棒を使用した。切断作業は、ディスク速度を毎分8,000回転、切断時間を3秒で実施した。20回切断した後、ディスクの直径の減少からディスクロスを決定した。その後、材料除去量とディスクロスの商からG比を決定した。
カッティングディスク:180×3×22.23mm
砥粒:F24(40%);F30(40%);F36(30%)
材料:Cr-Niステンレス鋼棒、直径20mm
研削機:Fein WSB 25-180X、速度8000rpm
【0015】
試験方法:
系のコンディショニングのため、あらかじめ3回の切断を行った。その後、ディスクの初期直径を測定した。さらに40回切断を行った後、ディスクの最終直径を決定した。40回切断した後のディスク直径の減少を決定し、砥粒の性能を決定した。
各砥粒について3枚のディスクを製造し、試験した。
下の表2は、3枚のカッティングディスクのそれぞれの平均値を示す。
【表2】
【0016】
研削試験2(カッティングディスク試験)
市販の合成樹脂結合型及びガラス繊維強化型のカッティングディスクを製造し、製造した砥粒を用いて試験した(表1に従った例A~H):
カッティングディスク:125×1.2×22.23mm
砥粒:F46(60%);F60(40%)
材料:ステンレス鋼棒、直径20mm
研削機:Fein WS 14 1、2kW、速度約10,000rpm
試験方法:
系のコンディショニングのため、あらかじめ3回の切断を行った。その後、ディスクの初期直径を決定した。さらに25回切断した後、ディスクの最終直径を決定した。
【0017】
砥粒の性能は、25回切断した後のディスク径の減少を測定することによって決定した。
各砥粒について3枚のディスクを製造し、試験した。
以下の表3は、3回の測定の平均値を示す。
【表3】
【0018】
研削試験3(研磨ベルト)
含浸させたポリエステル/綿混紡布上に、生成した砥粒を静電散布する方法で、市販の研磨ベルトを製造した(表1に従った例A~H)。
研磨ベルト:長さ2000mm、幅50mm
粒度:NP40
砥粒コーティング:下記参照
【0019】
研磨ベルトを使用して、ステンレス鋼棒の表面を研磨した。
被加工物:ステンレス鋼棒(CrNi鋼)直径20mm
接触ディスク:直径250mm、硬度90ショア
接触力:68.7ニュートン
切断速度:30m/秒
研削サイクル:研削時間10秒-冷却時間20秒
ベルト内の砥粒の性能は、総研磨時間12分で、24回の研削サイクルの後の総除去率で決定した。結果は以下の表4にまとめた。
【0020】
【表4】
【0021】
表2~4の研削試験から分かるように、例D及びEでは、比較例Bと比較して性能の向上は達成されていない。むしろ、製品の最適化は、選択した、安定剤の比及び量により、原料混合物中の安価なジルコンサンドの割合を、あらゆる性能の損失なしに先行技術(比較例B)と比較して増加することができるという事実で構成されている。安価なジルコンサンドは、高価で希少な原料バデライト又は人工ZrO2精鉱を一部置き換える。コスト削減は、原料のバデライトとジルコンサンドに対して約30%、最終製品(砥粒)に対して約8~10%であり、競争の激しい研磨剤市場において、非常に大きな競争力を持つことになる。
【国際調査報告】