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特表2023-532917B細胞のB2M遺伝子座を編集するための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】B細胞のB2M遺伝子座を編集するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230725BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230725BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20230725BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20230725BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230725BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230725BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/09 100
C12N15/12 ZNA
C12N15/13
C12N15/19
C12N15/52 Z
C12N15/62 Z
C12N15/85 Z
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N5/0781
A61K38/46
A61K35/17
A61K48/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581341
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 US2021039953
(87)【国際公開番号】W WO2022006309
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】63/047,978
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/114,131
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515045617
【氏名又は名称】シアトル チルドレンズ ホスピタル (ディービーエイ シアトル チルドレンズ リサーチ インスティテュート)
【住所又は居所原語表記】1900 Ninth Ave. Seattle, WA 98101 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ローリングス,デイヴィッド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ,リチャード ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ストファーズ,クレア,マリー
(72)【発明者】
【氏名】クック,ピーター ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AA92Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084DC22
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB212
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB21
(57)【要約】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、組換えB細胞を作製することを含む。いくつかの実施形態において、B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を組換える。いくつかの実施形態は、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させることに関する。いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子を不活性化することによって、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させる。いくつかの実施形態において、不活性化された内因性B2M遺伝子のMHC-Iを置換することによって、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させる。いくつかの実施形態は、組換えに成功した細胞を濃縮することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子の組換えシステムであって、
該システムが、
細胞のゲノム内の内因性B2M遺伝子の標的遺伝子座を切断することができるヌクレアーゼ、または該ヌクレアーゼをコードする核酸と、
任意の構成要素として、
前記B2M遺伝子に相補的な配列を含むガイドRNA(gRNA)、および/または
第1の相同アームと、第2の相同アームと、該第1の相同アームと該第2の相同アームの間にペイロードをコードする核酸とを含む修復鋳型と
を含み、
前記第1の相同アームおよび/または前記第2の相同アームが、前記B2M遺伝子の配列と相同性を有する、システム。
【請求項2】
前記gRNAが、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列;または配列番号1~4のいずれかと比較して3個以下のミスマッチを有する前記ヌクレオチド配列のバリアントを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記gRNAが、前記内因性B2M遺伝子を不活性化するように構成されている、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記標的遺伝子座が、前記B2M遺伝子の第1のコーディングエクソン内にある、請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記ヌクレアーゼが、Casヌクレアーゼを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記Casヌクレアーゼが、Cas9ヌクレアーゼを含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記ヌクレアーゼが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)、およびTALENとHEの融合タンパク質(megaTAL)からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記修復鋳型が、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない、請求項1~7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記ペイロードが、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記第1の相同アームおよび/または前記第2の相同アームが、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記ペイロードが、第1のポリペプチドをコードする第1の核酸を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記ペイロードが、第2のポリペプチドをコードする第2の核酸を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記第1の核酸と前記第2の核酸の間に、リボソームスキップ配列をコードする核酸が存在する、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1のポリペプチドまたは前記第2のポリペプチドが、B2M cDNAをコードする、請求項11~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記第1のポリペプチドまたは前記第2のポリペプチドが、非重合性HLAポリペプチドまたは治療用ポリペプチドをコードする、請求項11~14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記非重合性HLAポリペプチドが、HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gから選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドをコードする第3のポリペプチドをさらに含む、請求項15または16に記載のシステム。
【請求項18】
前記治療用ポリペプチドが、酵素、抗体もしくはその抗原結合断片、受容体、キメラ抗原受容体またはサイトカインを含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記治療用ポリペプチドが、第IX因子、アンギオテンシン変換酵素2(Ace2)、β-グルコセレブロシダーゼ(GBA)、α-ガラクトシダーゼA(GLA)または酸性α-グルコシダーゼ(GAA)を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
前記第1の核酸が、前記内因性B2M遺伝子のプロモーターに作動可能に連結されている、請求項11~19のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記第1のポリペプチドが、前記内因性B2M遺伝子によってコードされるポリペプチドとインフレームである、請求項11~20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記ペイロードが、異種プロモーターを含み、前記第1の核酸が、この異種プロモーターに作動可能に連結されている、請求項11~21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記異種プロモーターが、構成的プロモーターである、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記プロモーターが、MNDプロモーター、EF1αプロモーターおよびPGKプロモーターから選択される、請求項22または23に記載のシステム。
【請求項25】
前記修復鋳型がベクターに含まれている、請求項1~24のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項26】
前記ベクターが、ウイルスベクターを含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルスベクターを含む、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記ヌクレアーゼと、任意の構成要素として前記gRNAおよび/または前記修復鋳型とを含む細胞をさらに含む、請求項1~27のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項29】
前記細胞が前記ヌクレアーゼを含む、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記細胞が、前記gRNAおよび/または前記修復鋳型を含む、請求項28または29に記載のシステム。
【請求項31】
前記細胞が、B細胞、造血幹細胞、初期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、T1 B細胞、T2 B細胞、辺縁帯B細胞、成熟B細胞、ナイーブB細胞、(短命)形質芽球細胞、GC B細胞、メモリーB細胞および長命形質細胞からなる群から選択される、請求項28~30のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項32】
前記細胞がB細胞である、請求項28~31のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項33】
前記細胞がヒト細胞である、請求項28~32のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項34】
前記細胞が、該細胞を投与する対象に由来する自家細胞である、請求項28~33のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項35】
前記細胞が、該細胞を投与する対象と同じ種に由来する細胞である、請求項28~33のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項36】
前記細胞がエクスビボの細胞である、請求項28~35のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項37】
前記細胞がインビボの細胞である、請求項28~35のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項38】
請求項1~37のいずれか1項に記載のシステムと薬学的に許容される添加剤とを含む医薬組成物。
【請求項39】
組換え細胞を作製する方法であって、
請求項1~37のいずれか1項に記載のシステムを得る工程と、
第1の細胞にヌクレアーゼを導入する工程と、
任意の工程として、
前記細胞にgRNAを導入する工程、および/または
前記細胞に修復鋳型を導入する工程と
を含み、
ゲノム内のB2M遺伝子座が組換えられた組換え細胞が得られることを特徴とする方法。
【請求項40】
前記組換えられたB2M遺伝子座が、不活性化された内因性B2M遺伝子を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記gRNAが、前記内因性B2M遺伝子を不活性化するように構成されている、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
前記組換え細胞を選択する工程をさらに含む、請求項39~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記選択工程が、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記免疫細胞が、前記第1の細胞と同じ種に由来する免疫細胞である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記免疫細胞が、前記第1の細胞のMHC-Iとは異なるMHC-Iを含む、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記免疫細胞が、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される、請求項43~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記免疫細胞がインビボの細胞である、請求項43~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記免疫細胞がエクスビボの細胞である、請求項43~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記組換えられたB2M遺伝子座が、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現する、請求項39に記載の方法。
【請求項50】
前記修復鋳型が、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たないことから、前記組換えられたB2M遺伝子座が、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記修復鋳型がB2M cDNAを含む、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
前記組換え細胞を選択する工程をさらに含む、請求項49~51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記選択工程が、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記免疫細胞が、前記第1の細胞と同じ対象に由来する自家免疫細胞である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記免疫細胞が、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される、請求項53または54に記載の方法。
【請求項56】
前記免疫細胞がインビボの細胞である、請求項53~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記免疫細胞がエクスビボの細胞である、請求項53~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記組換えられたB2M遺伝子座が、置換されたMHC-Iを発現する、請求項39に記載の方法。
【請求項59】
前記組換えられたB2M遺伝子座が、不活性化された内因性B2M遺伝子を含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記修復鋳型が、B2M cDNA、非重合性HLAポリペプチド、および/または該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドをコードするペイロードを含む、請求項58または59に記載の方法。
【請求項61】
前記組換え細胞を選択する工程をさらに含む、請求項58~60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記選択工程が、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記免疫細胞が、前記第1の細胞と同じ種に由来する免疫細胞である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記免疫細胞が、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される、請求項62または63に記載の方法。
【請求項65】
前記免疫細胞がインビボの細胞である、請求項62~64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
前記免疫細胞がエクスビボの細胞である、請求項62~64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
前記第1の細胞がB細胞である、請求項39~66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
請求項39~67のいずれか1項に記載の方法により作製された細胞。
【請求項69】
T細胞またはナチュラルキラー細胞による殺傷に対して耐性が向上している組換えB細胞を濃縮する方法であって、
請求項39に記載の方法に従って、第1の細胞であるB細胞のB2M遺伝子座を不活性化することによって組換え細胞を作製する工程と、
前記第1の細胞と同じ種に由来するT細胞またはナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程と
を含み、
得られる組換えB細胞が、B2M遺伝子を発現するB細胞と比べて、T細胞またはナチュラルキラー細胞による殺傷に対する耐性が向上していることを特徴とする方法。
【請求項70】
組換えB細胞を濃縮する方法であって、
請求項39に記載の方法に従って、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現するように第1の細胞のB2M遺伝子座を組換えることによって組換え細胞を作製する工程と、
前記第1の細胞と同じ対象に由来する自家T細胞または自家ナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程と
を含み、
前記T細胞または前記ナチュラルキラー細胞によって、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現していない細胞が殺傷されることを特徴とする方法。
【請求項71】
組換えB細胞を濃縮する方法であって、
請求項39に記載の方法に従って、B2M cDNAと、非重合性HLAポリペプチドと、該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドとをコードするペイロードを含む修復鋳型を用いて、置換されたMHC-Iを発現するように第1の細胞のB2M遺伝子座を組換えることによって組換え細胞を作製する工程と、
前記第1の細胞と同じ種に由来するT細胞またはナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程と
を含む方法。
【請求項72】
同種細胞輸液用の組換えB細胞を作製する方法であって、
請求項39に記載の方法に従って、B2M cDNAと、非重合性HLAポリペプチドと、該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドとをコードするペイロードを含む修復鋳型を用いて、組換えB細胞を作製する工程を含む方法。
【請求項73】
前記組換えB細胞を対象に投与する工程をさらに含み、該組換えB細胞が、前記対象と同じ種に由来する細胞である、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記非重合性HLAポリペプチドが、HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gから選択される、請求項72または72に記載の方法。
【請求項75】
前記対象が哺乳動物である、請求項72~74のいずれか1項に記載の方法。
【請求項76】
前記対象がヒトである、請求項72~75のいずれか1項に記載の方法。
【請求項77】
単離された核酸であって、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列;または配列番号1~4のいずれかと比較して3個以下のミスマッチを有する前記ヌクレオチド配列のバリアントを含む核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年11月16日に出願された「B細胞のB2M遺伝子座を編集するための方法および組成物」という名称の米国仮特許出願第63/114,131号、および2020年7月3日に出願された「B細胞のB2M遺伝子座を編集するための方法および組成物」という名称の米国仮特許出願第63/047,978号の優先権を主張するものであり、これらの出願は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SCRI295WOSEQLISTのファイル名で2021年6月29日に作成された約4.5kbのファイルとして提供されたものである。この電子形式の配列表に記載の情報は、引用によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、組換えB細胞を作製することを含む。いくつかの実施形態において、B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を組換える。いくつかの実施形態は、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させることに関する。いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子を不活性化することによって、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させる。いくつかの実施形態において、不活性化された内因性B2M遺伝子のMHC-Iを置換することによって、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させる。いくつかの実施形態は、組換えに成功した細胞を濃縮することを含む。
【背景技術】
【0004】
最近になって、例えば、CRISPRシステムやTALENシステムなどの様々なゲノム編集ツールを有効かつ容易に使用できるようになったことから、ゲノム編集が頻繁に行われるようになった。しかし、臨床的に重要なヒト体細胞のゲノム編集には取り組むべき課題が依然として残っており、例えば、ヒト体細胞の同種移植において望ましくない宿主免疫応答に対処する必要性がある。したがって、ヒト体細胞の同種移植に対してレシピエントの望ましくない免疫応答が惹起される可能性を排除したり抑制したりすることが可能な、同種移植に適した細胞が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子の組換えシステムであって、
該システムが、
細胞のゲノム内の内因性B2M遺伝子の標的遺伝子座を切断することができるヌクレアーゼ、または該ヌクレアーゼをコードする核酸と、
任意の構成要素として、
前記B2M遺伝子に相補的な配列を含むガイドRNA(gRNA)、および/または
第1の相同アームと、第2の相同アームと、該第1の相同アームと該第2の相同アームの間にペイロードをコードする核酸とを含む修復鋳型と
を含み、
前記第1の相同アームおよび/または前記第2の相同アームが、前記B2M遺伝子の配列と相同性を有することを特徴とするシステム
を含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列;または配列番号1~4のいずれかと比較して3個以下のミスマッチを有する前記ヌクレオチド配列のバリアントを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記gRNAは、前記内因性B2M遺伝子を不活性化するように構成されている。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記標的遺伝子座は、前記B2M遺伝子の第1のコーディングエクソン内にある。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼはCasヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)、およびTALENとHEの融合タンパク質(megaTAL)からなる群から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記修復鋳型は、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない。いくつかの実施形態において、前記ペイロードは、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない。いくつかの実施形態において、前記第1の相同アームおよび/または前記第2の相同アームは、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記ペイロードは、第1のポリペプチドをコードする第1の核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記ペイロードは、第2のポリペプチドをコードする第2の核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記第1の核酸と前記第2の核酸の間に、リボソームスキップ配列をコードする核酸が存在する。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記第1のポリペプチドまたは前記第2のポリペプチドは、B2M cDNAをコードする。いくつかの実施形態において、前記第1のポリペプチドまたは前記第2のポリペプチドは、非重合性HLAポリペプチドまたは治療用ポリペプチドをコードする。いくつかの実施形態において、前記非重合性HLAポリペプチドは、HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gから選択される。いくつかの実施形態は、前記非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドをコードする第3のポリペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、酵素、抗体もしくはその抗原結合断片、受容体、キメラ抗原受容体またはサイトカインを含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、第IX因子、アンギオテンシン変換酵素2(Ace2)、β-グルコセレブロシダーゼ(GBA)、α-ガラクトシダーゼA(GLA)または酸性α-グルコシダーゼ(GAA)を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記第1の核酸は、前記内因性B2M遺伝子のプロモーターに作動可能に連結されている。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記第1のポリペプチドは、前記内因性B2M遺伝子によってコードされるポリペプチドとインフレームである。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記ペイロードは、異種プロモーターを含み、前記第1の核酸は、この異種プロモーターに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、前記異種プロモーターは構成的プロモーターである。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、MNDプロモーター、EF1αプロモーターおよびPGKプロモーターから選択される。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記修復鋳型はウイルスベクターに含まれている。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、ウイルスベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルスベクターを含む。
【0018】
いくつかの実施形態は、前記ヌクレアーゼと、任意の構成要素として前記gRNAおよび/または前記修復鋳型とを含む細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は前記ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記gRNAおよび/または前記修復鋳型を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は、B細胞、造血幹細胞、初期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、T1 B細胞、T2 B細胞、辺縁帯B細胞、成熟B細胞、ナイーブB細胞、(短命)形質芽球細胞、GC B細胞、メモリーB細胞および長命形質細胞からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記細胞はB細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、該細胞を投与する対象に由来する自家細胞である。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、該細胞を投与する対象と同じ種に由来する細胞である。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記細胞はインビボの細胞である。
【0023】
いくつかの実施形態は、本明細書で提供されるシステムのいずれかと薬学的に許容される添加剤とを含む医薬組成物を含む。
【0024】
いくつかの実施形態は、組換え細胞を作製する方法であって、
本明細書で提供されるシステムのいずれかを得る工程と、
第1の細胞にヌクレアーゼを導入する工程と、
任意の工程として、
前記細胞にgRNAを導入する工程、および/または
前記細胞に修復鋳型を導入する工程と
を含み、
ゲノム内のB2M遺伝子座が組換えられた組換え細胞が得られることを特徴とする方法を含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は、不活性化された内因性B2M遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、前記内因性B2M遺伝子を不活性化するように構成されている。いくつかの実施形態は、前記組換え細胞を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記選択工程は、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、前記第1の細胞と同じ種に由来する免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、前記第1の細胞のMHC-Iとは異なるMHC-Iを含む。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はインビボの細胞である。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はエクスビボの細胞である。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現する。いくつかの実施形態において、前記修復鋳型は、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たないことから、前記組換えられたB2M遺伝子座は、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない。いくつかの実施形態において、前記修復鋳型は、B2M cDNAを含む。いくつかの実施形態は、前記組換え細胞を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記選択工程は、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、前記第1の細胞と同じ対象に由来する自家免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はインビボの細胞である。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はエクスビボの細胞である。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は、置換されたMHC-Iを発現する。いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は、不活性化されたB2M内因性遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、前記修復鋳型は、B2M cDNA、非重合性HLAポリペプチド、および/または該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドをコードするペイロードを含む。いくつかの実施形態は、前記組換え細胞を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記選択工程は、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、前記第1の細胞と同じ種に由来する免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はインビボの細胞である。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はエクスビボの細胞である。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記第1の細胞はB細胞である。
【0035】
いくつかの実施形態は、本明細書で提供される方法のいずれかによって作製された細胞を含む。
【0036】
いくつかの実施形態は、T細胞またはナチュラルキラー細胞による殺傷に対して耐性が向上している組換えB細胞を濃縮する方法であって、
本明細書で提供される方法のいずれかに従って、第1の細胞であるB細胞のB2M遺伝子座を不活性化することによって組換え細胞を作製する工程と、
前記第1の細胞と同じ種に由来するT細胞またはナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程と
を含み、
得られる組換えB細胞が、B2M遺伝子を発現するB細胞と比べて、T細胞またはナチュラルキラー細胞による殺傷に対する耐性が向上していることを特徴とする方法を含む。
【0037】
いくつかの実施形態は、組換えB細胞を濃縮する方法であって、
本明細書で提供される方法のいずれかに従って、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現するように第1の細胞のB2M遺伝子座を組換えることによって組換え細胞を作製する工程と、
前記第1の細胞と同じ対象に由来する自家T細胞または自家ナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程と
を含み、
前記T細胞または前記ナチュラルキラー細胞によって、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現していない細胞が殺傷されることを特徴とする方法を含む。
【0038】
いくつかの実施形態は、組換えB細胞を濃縮する方法であって、
本明細書で提供される方法のいずれかに従って、B2M cDNAと、非重合性HLAポリペプチドと、該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドとをコードするペイロードを含む修復鋳型を用いて、置換されたMHC-Iを発現するように第1の細胞のB2M遺伝子座を組換えることによって組換え細胞を作製する工程と、
前記第1の細胞と同じ種に由来するT細胞またはナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程と
を含む方法を含む。
【0039】
いくつかの実施形態は、同種細胞輸液用の組換えB細胞を作製する方法であって、
本明細書で提供される方法のいずれかに従って、B2M cDNAと、非重合性HLAポリペプチドと、該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドとをコードするペイロードを含む修復鋳型を用いて、組換えB細胞を作製する工程を含む方法を含む。
いくつかの実施形態は、前記組換えB細胞を対象に投与する工程をさらに含み、該組換えB細胞は、前記対象と同じ種に由来する細胞である。いくつかの実施形態において、前記非重合性HLAポリペプチドは、HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gから選択される。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0040】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、組換えB細胞を作製する方法であって、
B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を不活性化する工程と、
外因性B2Mポリペプチドを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、前記不活性化したB2M遺伝子に導入することによって、組換えB細胞を得る工程と
を含む方法を含む。
【0041】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、自家細胞を採取した対象において組換えB細胞をインビボで濃縮する方法であって、
B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を不活性化する工程と、
外因性B2Mポリペプチドを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、前記不活性化したB2M遺伝子に導入することによって、組換えB細胞を得る工程と、
前記組換えB細胞を前記対象に投与する工程と
を含み、
前記B細胞が前記対象に由来する自家細胞であることを特徴とする方法を含む。
【0042】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、同種細胞輸液用の組換えB細胞を作製する方法であって、
B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を不活性化する工程と、
外因性B2Mポリペプチドと、非重合性HLAポリペプチドと、該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドとを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、前記不活性化したB2M遺伝子に導入することによって、組換えB細胞を得る工程とを含む方法を含む。
いくつかの実施形態は、前記組換えB細胞を対象に投与する工程をさらに含み、該組換えB細胞は、前記対象と同じ種に由来する細胞である。いくつかの実施形態において、前記非重合性HLAポリペプチドは、HLA-EおよびHLA-Gから選択される。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子は、該内因性B2M遺伝子の少なくとも一部への挿入、または該内因性B2M遺伝子の少なくとも一部の欠失もしくは置換によって不活性化される。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、Casヌクレアーゼと複合体を形成したclustered regularly interspersed short palindromic repeat(CRISPR)DNAを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、前記B細胞にガイドRNA(gRNA)を導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、修復鋳型を含むウイルスベクターを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、前記B細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含み、該ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)、およびTALENとHEの融合タンパク質(megaTAL)からなる群から選択される。
【0047】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、前記内因性B2M遺伝子のエクソンとインフレームになるように前記不活性化されたB2M遺伝子に導入される。
【0048】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、相同アーム、自己切断ペプチドをコードする核酸および/またはプロモーターを含む。
【0049】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、Casヌクレアーゼと複合体を形成したclustered regularly interspersed short palindromic repeat(CRISPR)DNAを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、前記B細胞にガイドRNA(gRNA)を導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、修復鋳型を含むウイルスベクターを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、前記B細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含み、該ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)、およびTALENとHEの融合タンパク質(megaTAL)からなる群から選択される。
【0052】
いくつかの実施形態において、前記B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を不活性化する工程と、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、連続して行われる。いくつかの実施形態において、前記B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を不活性化する工程と、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、同時に行われる。
【0053】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質は、治療用ポリペプチドまたは治療用核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、酵素、抗体もしくはその抗原結合断片、受容体、キメラ抗原受容体またはサイトカインを含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、第IX因子、アンギオテンシン変換酵素2(Ace2)、β-グルコセレブロシダーゼ(GBA)、α-ガラクトシダーゼA(GLA)または酸性α-グルコシダーゼ(GAA)を含む。
【0054】
いくつかの実施形態において、前記B細胞は、造血幹細胞、初期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、T1 B細胞、T2 B細胞、辺縁帯B細胞、成熟B細胞、ナイーブB細胞、(短命)形質芽球細胞、GC B細胞、メモリーB細胞および長命形質細胞からなる群から選択される。
【0055】
いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0056】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、前記方法のいずれかによって作製された組換えB細胞を含む。
【0057】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供される組換えB細胞のいずれかと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を含む。
【0058】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む単離された核酸を含む。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】(1)CpG BまたはαCD180とMCD40Lによる2日間の活性化;(2)IL-6またはR848とIL-21の存在下で3日間の培養を行う第I相;および(3)IL-21の存在下で3日間の培養を行う第II相を含む条件で培養した形質細胞(CD138+)におけるMHC-IIの発現のフローサイトメトリー分析を示す。
【0060】
図2】マウスB2M遺伝子座の模式図を示す。B2M遺伝子と、これに対応するB2M mRNAおよびそのエクソンと、これに対応するmRNAのタンパク質コード部分(B2M cDNAとして示す)を示す。さらに、ガイドRNA(gRNA-1およびgRNA_5)の標的部位も示す。
【0061】
図3】gRNA-1もしくはgRNA_5またはこれらの逆向きの配列をガイドRNAとして使用した場合のB2M遺伝子の欠失頻度(ICEスコア)と予測された不活性化(ノックアウト(KO)スコア)を示したグラフを示す。
【0062】
図4A】gRNA-1、gRNA_5または対照で処理したマウスB細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【0063】
図4B】gRNA-1、gRNA_5または対照で処理した細胞におけるH2Kbタンパク質発現細胞の割合を示した棒グラフを示す。
【0064】
図4C】ヒトB2M遺伝子座を標的とするgRNA(gRNA-1もしくはgRNA-2)または対照で処理したヒトB細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【0065】
図5A】MHCポリペプチドのミスマッチを認識するTCRタンパク質を発現する細胞傷害性CD8+T細胞によって、MHC-Iタンパク質がミスマッチの細胞が殺傷されること(左図);およびMHC-Iを欠失している細胞では、細胞傷害性CD8+T細胞による殺傷が誘導されないことがあること(右図)を示す。
【0066】
図5B】MHC-Iを欠失しているB細胞が、前述のような細胞傷害性CD8+T細胞による殺傷に対して耐性を示すかどうかを確認するための、BALB/cマウスから得たT細胞(HLA、D型)とC57BL/6マウスから得たB細胞(HLA、B型)の混合細胞アッセイを示す。
【0067】
図6A】B2M gRNA_1 RNPもしくはRosa26 RNPで処理したB細胞またはmock処理したB細胞とT細胞の混合培養のフローサイトメトリー分析を示す。
【0068】
図6B】混合培養において、CD45.1細胞(B2MノックアウトB細胞)とCD45.2細胞(対照B細胞)の比率を、T細胞とB細胞の比率と比較したグラフを示す。
【0069】
図7】CD8+インビトロ殺傷アッセイのタイムラインを示す。
【0070】
図8A】Balb/C CD8+T細胞との共培養の24時間と48時間の時点での組換えCD45.2(標的)C57/B6 B細胞と組換えCD45.1(デコイ)C57/B6 B細胞のFACS分析を示す。
【0071】
図8B】CD8+T細胞を加えない共培養条件で得られた基準比率に対して補正した、図8Aに関連した実験におけるCD45.1とCD45.2の比率の定量を示した組換え細胞の線グラフを示す。
【0072】
図9A図8Aに関連した実験におけるCD45.1 B細胞集団のH2Kb(C57/B6 B細胞に関連するMHC1ハプロタイプ)を示した組換え細胞のFACS分析を示す。
【0073】
図9B】CD8+T細胞の比率を徐々に増加させた場合の24時間と48時間の時点でのB2Mを編集したCD45.1 B細胞におけるH2Kbのノックアウト率の定量を示した組換え細胞の線グラフを示す。
【0074】
図10】B2M遺伝子座の組換え用コンストラクト(3307)の模式図を示す。このコンストラクトは、5’相同アーム(HA)および3’相同アーム(HA)、GFPポリペプチドに作動可能に連結されたMNDプロモーター、P2A自己切断ペプチド、ならびにB2M cDNAをコードする配列を含む。
【0075】
図11】B2M gRNA_1 RNPの送達と3307 AAVによる形質導入を併用して編集した初代マウスB細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【0076】
図12A】B2M遺伝子座を組換えることによって、内因性のB2Mの発現を不活性化させて、組換えHLA-Eを発現させることによるB2M遺伝子座の置換方法を示す。
【0077】
図12B】内因性のB2Mの発現を不活性化させ、組換えHLA-Eを発現させた組換えB細胞の生存を試験するための混合細胞アッセイを示す。
【0078】
図13】5’相同アーム(HA)と3’相同アーム(HA);外因性MNDプロモーター;可動性リンカーを介して連結されたQdm自己ペプチドとB2M cDNAと非多型性HLA-Eα鎖を含む融合タンパク質;2A自己切断ペプチド;GFPマーカー;およびSV40ポリアデニル化配列をコードする相同組換え修復(HDR)ドナー鋳型(3310)を示す。
【0079】
図14図13に示したコンストラクトで編集したB細胞のフローサイトメトリー分析と、分化した7日目のH2Kb-B細胞におけるGFPの発現のフローサイトメトリー分析である。
【0080】
図15A】MHC-Iノックアウト細胞をインビボで生着させた場合のNK細胞による殺傷のパラメーターを評価するための試験を示す。
【0081】
図15B】同種マウスB細胞の生着を評価するためのマウスモデルを用いた試験を示す。
【0082】
図16】同種ヒトB細胞の生着を評価するための異種移植片モデルを用いた試験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、組換えB細胞を作製することを含む。いくつかの実施形態において、B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を組換える。いくつかの実施形態は、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させることに関する。いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子を不活性化することによって、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させる。いくつかの実施形態において、不活性化された内因性B2M遺伝子のMHC-Iを置換することによって、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させる。いくつかの実施形態は、組換えに成功した細胞を濃縮することを含む。
【0084】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、組換えB細胞を作製することを含む。いくつかの実施形態において、B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を組換える。いくつかの実施形態において、B細胞の内因性B2M遺伝子を不活性化する。このような実施形態のいくつかにおいて、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、前記不活性化されたB2M遺伝子に導入される。いくつかの実施形態は、同種細胞輸液の調製、融合タンパク質の発現、および/またはインビボにおける組換え細胞の濃縮を行うための、B2M遺伝子座が組換えられたB細胞の作製およびその使用を含む。
【0085】
本明細書で提供されるいくつかの実施形態は、B細胞療法の送達を向上させることを目的として、外因性の導入遺伝子を導入することによって、B2M遺伝子座のゲノムDNAを組換える方法を含む。いくつかの実施形態は、CRISPR-Cas9組換え核タンパク質複合体(ガイドRNAとタンパク質の複合体)とAAVにより送達される修復鋳型との使用を含む。いくつかの実施形態は、遺伝子送達のための、別のヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENもしくはmegaTALEN)または修復鋳型(例えば、一本鎖DNAもしくは二本鎖DNA)プラットホームの使用を含む。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子座に配列を送達することによって、同種細胞の送達および/または組換えヒトB細胞の濃縮を容易に行うことができる。いくつかの実施形態において、B2M遺伝子座に配列を送達することによって、インビボで組換えB細胞を濃縮することができ、それによって、自家細胞の送達を容易に行うことができる。
【0086】
いくつかの実施形態は、例えば、MHC-Iのノックダウン/不活性化などのB2M遺伝子座の編集を効率的に行うのに有用な、ヒトB2M用の合成ガイドRNAを含む。いくつかの実施形態は、内因性B2Mの発現を維持しながら、このB2Mに外因性配列を導入するための修復鋳型を含む。このような修復鋳型は、第IX因子、アンギオテンシン変換酵素2(Ace2)、β-グルコセレブロシダーゼ(GBA)、α-ガラクトシダーゼA(GLA)、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)などの治療用タンパク質をコードする配列を含んでいてもよい。いくつかの実施形態は、非重合性のHLA(例えば、HLA-EやHLA-G)とNK細胞による殺傷を抑制するペプチドとB2Mからなる融合タンパク質で内因性B2Mを置換するための修復鋳型を含む。これらの配列を利用することによって、宿主の免疫細胞(例えば、T細胞および/またはNK細胞)による移植片拒絶を起こすことなく、同種形質細胞の生着を促すことができる。いくつかの実施形態は、非多型性HLAとB2Mの融合タンパク質でB2Mを置換し、治療用タンパク質をコードする外因性配列を導入するための修復鋳型を含む。
【0087】
いくつかの実施形態は、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させることに関する。例えば、いくつかの実施形態において、内因性B2M遺伝子を不活性化することによって、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させる。このような実施形態のいくつかは、同種T細胞または同種ナチュラルキラー細胞による殺傷に対する耐性が向上されている組換えB細胞を濃縮するための組成物および方法を含む。このような実施形態のいくつかは、細胞のゲノム内のB2M遺伝子座が不活性化された組換えB細胞を作製する工程と、前記組換えB細胞と同じ種に由来する免疫細胞、例えばT細胞、例えばCD8+T細胞に、前記組換えB細胞を接触させる工程とを含む。このような実施形態のいくつかにおいて、前記組換えB細胞と前記免疫細胞の間でMHC-Iのミスマッチがないことから、前記免疫細胞による殺傷に対する前記組換えB細胞の耐性が向上されている。
【0088】
いくつかの実施形態は、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させることに関する。例えば、いくつかの実施形態において、不活性化された内因性B2M遺伝子のMHC-Iを置換することによって、同種免疫細胞による殺傷に対する組換えB細胞の耐性を向上させる。このような実施形態のいくつかは、細胞のMHC-Iを置換することによって、同種T細胞または同種ナチュラルキラー細胞による殺傷に対する耐性が向上されている組換えB細胞を濃縮するための組成物および方法を含む。このような実施形態のいくつかは、置換されたMHC-Iを発現するようにB2M遺伝子座が組換えられた組換えB細胞を作製する工程を含む。このような実施形態のいくつかにおいて、内因性B2M遺伝子座は不活性化され、B2M cDNAと、非重合性HLAポリペプチドと、該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドとをコードするペイロードで置換される。いくつかの実施形態は、例えばT細胞、例えばCD8+T細胞などの免疫細胞に前記組換え細胞を接触させる工程をさらに含み、該免疫細胞は、前記組換え細胞と同じ種に由来する細胞である。
【0089】
このような実施形態のいくつかは、組換えに成功した組換えB細胞を濃縮するための組成物および方法を含む。このような実施形態のいくつかは、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現するようにB2M遺伝子座が組換えられた組換えB細胞を作製する工程と、前記組換えB細胞と同じ対象に由来する自家免疫細胞、例えば自家T細胞、例えば自家CD8+T細胞に、前記組換えB細胞を接触させる工程とを含む。活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAが発現されなかった組換え細胞は、前記免疫細胞によって殺傷、除去または排除することができる。
【0090】
本明細書で提供される方法および組成物の特定の実施形態に有用な特定の態様は、米国特許公開第20180141992号;Hung K.L. et al., (2018) Mol Ther 26:456-467;Voss J.E. et al., (2019) Elife 8:e42995;Hartweger H., et al., (2019) J Exp Med 216:1301-1310;Johnson M.J. et al., (2018) Scientific Reports 8:12144;およびMoffett H.F. et al., (2019) Sci Immunol 4(35)に開示されている(これらの文献はいずれも引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。
【0091】
用語の定義
本明細書において、「ゲノム編集」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、生物のゲノムにおいてDNAを挿入、欠失または置換する遺伝子工学的方法を含むプロセスが挙げられるが、これに限定されない。遺伝子を編集することは、遺伝子編集としても知られている。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、巨大分子などの分子を発現する形質細胞またはその前駆細胞を作製する方法であって、B細胞またはその前駆細胞に少なくとも1回のゲノム編集を行うことを含む方法を提供する。ゲノムの編集方法は、細胞のゲノムへの核酸の挿入、欠失または置換を含んでいてもよいが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、この方法を実施するためにヌクレアーゼを使用する。いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼは、人工ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態において、前記方法は、二本鎖切断を誘導して、非相同末端結合(NHEJ)または相同組換え(HR)による修復を行う工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ゲノム編集工程は、一本鎖核酸の導入によって行われる。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1回のゲノム編集は、一本鎖DNAオリゴヌクレオチドまたは組換えアデノ随伴ウイルスの候補遺伝子座への相同組換えを行うために、B細胞の細胞周期を回すことをさらに含む。いくつかの実施形態において、タンパク質を発現させるための前記B細胞のゲノム編集は、ウイルスの組み込みを行わずに実施される。いくつかの実施形態において、特定の領域を切断するために2回目のゲノム編集を行う。いくつかの実施形態において、薬剤によって活性化することができる増殖促進因子を発現させるために3回目のゲノム編集を行う。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、前記ゲノム編集は、非病原性AAVによる標的相同組換え編集によって行われる。
【0092】
ゲノム編集は、RNAおよびタンパク質のトランスフェクションによって行うこともできる。例えば、CRISPR/Casシステムを一部変更してゲノム編集に利用することができる。この技術では、合成ガイドRNA(gRNA)と複合体を形成させたCasヌクレアーゼを細胞に送達する必要があり、これによって、細胞のゲノムを特定の位置で切断して、既存の遺伝子を除去し、かつ/または既存の遺伝子に新たな遺伝子を付加することができる。CRISPR/Casおよびこれに関連したプログラム可能なエンドヌクレアーゼシステムは、生物医学研究の重要なゲノム編集ツールとして急速な発展を遂げており、遺伝子破壊および/または遺伝子ターゲティングにおいて使用できることが様々な培養細胞系およびモデル生物系において実証されている。本明細書に記載のCRISPR/Casシステムの実施形態のいくつかにおいて、Casヌクレアーゼは、Cas1、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8またはCas9を含む。
【0093】
CRISPR/Casシステムの基本的なコンポーネントには、標的遺伝子、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、ガイドRNAおよびCasエンドヌクレアーゼが含まれる。CRISPR/Casを使用してゲノム編集を行う際の重要な点の1つとして、様々な種類の細胞にガイドRNAを効率よく送達できるシステムが必要であることが挙げられる。このようなシステムは、例えば、核酸としてインビトロで作製されたガイドRNA(インビトロ転写または化学合成により作製されたガイドRNA)を送達することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記核酸は、修飾塩基を組み込むことによってヌクレアーゼ耐性を付与することができる。
【0094】
CRISPR-Casシステムは2種類に分類される。クラス1のCRISPR-Casシステムでは、複数のCasタンパク質からなる複合体が外来核酸を分解する。クラス2のCRISPR-Casシステムでは、単一の大型Casタンパク質が外来核酸を分解する。35種のファミリーに分類される93種のcas遺伝子が存在する。35種のファミリーのうち11種はcasコアを形成し、これにはCAS1~CAS9タンパク質ファミリーが含まれる。本明細書で述べるように、Casには、Cas1、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8またはCas9が含まれる。
【0095】
遺伝子編集は、ヌクレアーゼを使用しない新たな遺伝子編集プラットホームによって行ってもよい。これまでに新たなAAVファミリーがヒト造血幹細胞から単離されている。これらの非病原性AAVは、健常者の体内に自然に存在し、固有の遺伝子編集特性および遺伝子移入特性を持つことがある。この技術は、AAVによる標的相同組換え編集(AmENDRTM)とも呼ばれる。この方法は、細胞が正確性の高いDNA修復を確実に行うための自然の生物学的機構を利用した相同組換えである。
【0096】
AAVによる標的相同組換え編集は、ゲノムの特定の領域に特異的な「アーム」と呼ばれる相同配列を設計することから開始され、AAVが細胞に投与されると、DNAを永久的に書き換えることができる。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、前記遺伝子編集は、非病原性AAVによる標的相同組換え編集によって行われる。新たなAAVゲノムの同定は、Smithらによって報告されている(Mol Ther. 2014 Sep; 22(9): 1625-1634;この文献は引用によりその全体が本明細書に援用される)。Smithらによって報告された新たなAAVは、造血幹細胞のゲノム操作に使用可能な新たな種類の遺伝子ベクターである。さらに、これらのベクターは、標的となる組織および細胞への遺伝子送達能を大きく拡大できる可能性があり、広く蔓延しているAAV2に対する既存の免疫を回避できることから、遺伝子移入が難しい細胞などにも遺伝子を送達できる可能性がある。いくつかの実施形態において、前記遺伝子編集は、造血細胞に自然に存在する非病原性のAAVを用いて行われ、特に、Smithらによって報告されている非病原性のAAVを用いた標的相同組換え編集によって行われる。
【0097】
本明細書において、「人工ヌクレアーゼ」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、DNA配列を特異的に認識し、二本鎖切断を導入することによって効率的にゲノムを編集することができるハイブリッド酵素として人工的に合成された酵素が挙げられるが、これに限定されない。本明細書に記載の実施形態での使用に適した好ましい人工ヌクレアーゼには、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびCRISPR-Casシステムの4種のファミリーがあるが、これらに限定されない。
【0098】
本明細書において、「メガヌクレアーゼ」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、大きな認識部位(12~40塩基対の二本鎖DNA配列)を特徴とするエンドデオキシリボヌクレアーゼが挙げられるが、これに限定されない。巨大分子などの分子を発現する形質細胞またはその前駆細胞を作製する前記方法の実施形態のいくつかにおいて、この方法は、(a)B細胞を単離する工程、(b)前記B細胞を発達させる工程、(c)ウイルスの組み込みを行わずに、前記B細胞の1回目のゲノム編集を行って、タンパク質を発現させる工程、(d)前記B細胞を増殖させる工程、および任意の工程として、工程(c)または(d)の後に、(e)前記B細胞を分化させる工程を含み、これらの工程によって、タンパク質を発現する形質細胞が得られる。いくつかの実施形態において、前記1回目のゲノム編集は、RNAおよびタンパク質のトランスフェクションによって行われる。いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼはメガヌクレアーゼである。
【0099】
本明細書において、「ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをDNA切断ドメインに融合させることによって得られる人工制限酵素が挙げられるが、これに限定されない。ジンクフィンガードメインは、所望とする特定のDNA配列を標的とするように組換えることができ、これによって、ジンクフィンガーヌクレアーゼが、複雑なゲノム内のユニークな配列を標的とすることが可能となる。巨大分子などの分子を発現する形質細胞を作製する前記方法の実施形態のいくつかにおいて、この方法は、(a)B細胞を単離する工程、(b)前記B細胞を発達させる工程、(c)ウイルスの組み込みを行わずに、前記B細胞の1回目のゲノム編集を行って、タンパク質を発現させる工程、(d)前記B細胞を増殖させる工程、および任意の工程として、工程(c)または(d)の後に、(e)前記B細胞を分化させる工程を含み、これらの工程によって、タンパク質を発現する形質細胞が得られる。いくつかの実施形態において、前記1回目のゲノム編集は、RNAおよびタンパク質のトランスフェクションによって行われる。いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼである。
【0100】
本明細書において、「転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、特定のDNA配列または特定のDNA部位を切断するように組換えることが可能な制限酵素が挙げられるが、これに限定されない。TALENは、TALエフェクターDNA結合ドメインを、DNA切断ドメイン(DNA鎖を切断するヌクレアーゼ)に融合することによって作製される。転写活性化因子様エフェクター(TALE)は、所望のDNA配列に結合するように組換えることができることから、ヌクレアーゼと組み合わせることによって、特定の位置でDNAを切断することができる。したがって、この制限酵素は、ゲノム編集への使用またはインサイチューでのゲノム編集を目的として細胞に導入することができ、この技術は、人工ヌクレアーゼを使用したゲノム編集技術として知られている。TALENの使用は当業者に公知である。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、巨大分子などの分子を発現する形質細胞またはその前駆細胞を作製する方法であって、B細胞またはその前駆細胞に少なくとも1回のゲノム編集を行うことを含む方法を提供する。ゲノムの編集方法は、細胞のゲノムへの核酸の挿入、欠失または置換を含んでいてもよいが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、この方法を実施するためにヌクレアーゼを使用する。いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼは、人工ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態において、前記方法は、二本鎖切断を誘導して、非相同末端結合(NHEJ)または相同組換え(HR)による修復を行う工程を含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、1回目のゲノム編集またはゲノム編集を含む。いくつかの実施形態において、前記1回目のゲノム編集は、B細胞の少なくとも1つの遺伝子座を標的とするヌクレアーゼを送達する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1つの遺伝子座は、JCHAIN、IGKC、IGMC、PON3、PRG2、FKBP11、SDC1、SLPI、DERL3、EDEM1、LY6C2、CRELD2、REXO2、PDIA4、PRDM1、CARD11、CCR5またはSDF2L1を含む。いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)、TALENとHEの融合タンパク質(megaTAL)、またはclustered regularly interspersed short palindromic repeat(CRISPR)DNAを標的とする合成ガイドRNAとCasヌクレアーゼの複合体である。いくつかの実施形態において、前記Casヌクレアーゼは、Cas1、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8またはCas9を含む。いくつかの実施形態において、前記1回目のゲノム編集は、候補遺伝子座において相同組換えを行うためのドナー鋳型として機能する組換えアデノ随伴ウイルスベクターを用いてB細胞への形質導入を行う工程を含む。いくつかの実施形態において、前記組換えアデノ随伴ウイルスベクターは、一本鎖、二本鎖または自己相補型である。
【0101】
本明細書において、「ノックアウト」は、標的ポリヌクレオチド配列の全体またはその一部を欠失させて、この標的ポリヌクレオチド配列の機能を妨害することを含む。例えば、ノックアウトは、標的ポリヌクレオチド配列の機能性ドメイン(例えばDNA結合ドメイン)にインデルを誘導することによって、この標的ポリヌクレオチド配列を改変することにより行うことができる。当業者であれば、本明細書の詳細な説明に基づいて、標的ポリヌクレオチド配列またはその一部をノックアウトするために、本発明のCRISPR/Casシステムをどのように使用すればよいのかを容易に理解できるであろう。
【0102】
組換えB細胞を作製する特定の方法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、組換えB細胞の作製方法を含む。このような実施形態のいくつかは、B細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を不活性化する工程と、外因性B2Mポリペプチドを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、前記不活性化したB2M遺伝子に導入することによって組換えB細胞を得る工程とを含む。
【0103】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子は、該内因性B2M遺伝子の少なくとも一部への挿入、または該内因性B2M遺伝子の少なくとも一部の欠失もしくは置換によって不活性化される。いくつかの実施形態において、ゲノム(例えば二倍体ゲノム)のB2Mの各アレルが不活性化される。
【0104】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、Casヌクレアーゼと複合体を形成したclustered regularly interspersed short palindromic repeat(CRISPR)核酸を前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、前記B細胞にガイドRNA(gRNA)を導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、修復鋳型を含むウイルスベクターを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。
【0106】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、前記B細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含み、該ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)、およびTALENとHEの融合タンパク質(megaTAL)からなる群から選択される。
【0107】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、前記内因性B2M遺伝子のエクソンとインフレームになるように前記不活性化されたB2M遺伝子に導入される。
【0108】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、相同アーム、自己切断ペプチドをコードする核酸および/またはプロモーターを含む。
【0109】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、Casヌクレアーゼと複合体を形成したCRISPR核酸を前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、前記B細胞にgRNAを導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0110】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、修復鋳型を含むウイルスベクターを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、AAVベクターを含む。
【0111】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、前記B細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含み、該ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、HEおよびmegaTALからなる群から選択される。
【0112】
いくつかの実施形態において、前記B細胞のB2M遺伝子を不活性化する工程と、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、連続して行われる。いくつかの実施形態において、前記B細胞の内因性B2M遺伝子を不活性化する工程と、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、同時に行われる。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質は、治療用ポリペプチドまたは治療用核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、酵素、抗体もしくはその抗原結合断片、受容体、キメラ抗原受容体またはサイトカインを含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、第IX因子、アンギオテンシン変換酵素2(Ace2)、β-グルコセレブロシダーゼ(GBA)、α-ガラクトシダーゼA(GLA)または酸性α-グルコシダーゼ(GAA)を含む。
【0114】
治療用ポリペプチドまたは治療用核酸のさらなる例として、
(a)治療用抗体、イムノアドヘシンおよび二重特異性T細胞エンゲージャータンパク質を含む、病原体の感染を抑制するように設計された親和性薬剤;
(b)IL10などのサイトカイン、抗TNF抗体などの抗体、およびペプチドを含む、炎症性疾患、移植片拒絶および/または自己免疫を治療するための免疫抑制薬剤;
(c)サイトカイン、抗PDL1抗体などの抗体、および二重特異性T細胞エンゲージャータンパク質を含む、がんまたは病原体に対する宿主細胞の応答を増強するように設計された免疫ブースト剤;ならびに
(d)糖原病に関与するタンパク質や血友病に関与するタンパク質(例えば、第IX因子や第VIII因子など)を含む、タンパク質の欠失によって引き起こされた疾患を治療するように設計された酵素
が挙げられる。
【0115】
いくつかの実施形態において、前記B細胞は、造血幹細胞、初期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、T1 B細胞、T2 B細胞、辺縁帯B細胞、成熟B細胞、ナイーブB細胞、(短命)形質芽球細胞、GC B細胞、メモリーB細胞および長命形質細胞からなる群から選択される。
【0116】
インビボにおいて組換えB細胞を濃縮するための特定の方法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象(例えば、自家細胞を採取した対象)において、組換えB細胞をインビボで濃縮する方法を含む。このような実施形態のいくつかは、B細胞の内因性B2M遺伝子を不活性化する工程と、外因性B2Mポリペプチドを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化したB2M遺伝子に導入することによって、組換えB細胞を得る工程と、前記組換えB細胞を対象に投与する工程を含み、前記B細胞は、前記対象に由来する自家細胞である。このような実施形態のいくつかにおいて、活性型の内因性B2M遺伝子または外因性B2Mポリペプチドを欠失した組換え細胞は、ナチュラルキラー細胞による排除などを介して、対象の免疫系により排除される可能性が高い。
【0117】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子は、該内因性B2M遺伝子の少なくとも一部への挿入、または該内因性B2M遺伝子の少なくとも一部の欠失もしくは置換によって不活性化される。いくつかの実施形態において、ゲノム(例えば二倍体ゲノム)のB2Mの各アレルが不活性化される。
【0118】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、Casヌクレアーゼと複合体を形成したCRISPR核酸を前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、前記B細胞にgRNAを導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0119】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、修復鋳型を含むウイルスベクターを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、AAVベクターを含む。
【0120】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、前記B細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含み、該ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、HEおよびmegaTALからなる群から選択される。
【0121】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、前記内因性B2M遺伝子のエクソンとインフレームになるように前記不活性化されたB2M遺伝子に導入される。
【0122】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、相同アーム、自己切断ペプチドをコードする核酸および/またはプロモーターを含む。
【0123】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、Casヌクレアーゼと複合体を形成したCRISPR核酸を前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、前記B細胞にgRNAを導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0124】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、修復鋳型を含むウイルスベクターを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、AAVベクターを含む。
【0125】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、前記B細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含み、該ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、HEおよびmegaTALからなる群から選択される。
【0126】
いくつかの実施形態において、前記B細胞のB2M遺伝子を不活性化する工程と、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、連続して行われる。いくつかの実施形態において、前記B細胞の内因性B2M遺伝子を不活性化する工程と、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、同時に行われる。
【0127】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質は、治療用ポリペプチドまたは治療用核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、酵素、抗体もしくはその抗原結合断片、受容体、キメラ抗原受容体またはサイトカインを含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、第IX因子、アンギオテンシン変換酵素2(Ace2)、β-グルコセレブロシダーゼ(GBA)、α-ガラクトシダーゼA(GLA)または酸性α-グルコシダーゼ(GAA)を含む。
【0128】
いくつかの実施形態において、前記B細胞は、造血幹細胞、初期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、T1 B細胞、T2 B細胞、辺縁帯B細胞、成熟B細胞、ナイーブB細胞、(短命)形質芽球細胞、GC B細胞、メモリーB細胞および長命形質細胞からなる群から選択される。
【0129】
いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0130】
同種細胞輸液用の組換えB細胞を作製する特定の方法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、同種細胞輸液用の組換えB細胞を作製する方法を含む。このような実施形態のいくつかは、B細胞の内因性B2M遺伝子を不活性化する工程と、および外因性B2Mポリペプチドと、非重合性HLAポリペプチドと、該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドとを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、前記不活性化したB2M遺伝子に導入することによって、組換えB細胞を得る工程とを含む。いくつかの方法は、前記組換えB細胞を対象に投与する工程をさらに含み、該組換えB細胞は、前記対象と同じ種に由来する細胞である。いくつかの実施形態において、前記非重合性HLAポリペプチドは、HLA-EおよびHLA-Gから選択される。
【0131】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子は、該内因性B2M遺伝子の少なくとも一部への挿入、または該内因性B2M遺伝子の少なくとも一部の欠失もしくは置換によって不活性化される。いくつかの実施形態において、ゲノム(例えば二倍体ゲノム)のB2Mの各アレルが不活性化される。
【0132】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、Casヌクレアーゼと複合体を形成したCRISPR核酸を前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、前記B細胞にgRNAを導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0133】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、修復鋳型を含むウイルスベクターを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、AAVベクターを含む。
【0134】
いくつかの実施形態において、前記内因性B2M遺伝子の不活性化工程は、前記B細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含み、該ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、HEおよびmegaTALからなる群から選択される。
【0135】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、前記内因性B2M遺伝子のエクソンとインフレームになるように前記不活性化されたB2M遺伝子に導入される。
【0136】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、相同アーム、自己切断ペプチドをコードする核酸および/またはプロモーターを含む。
【0137】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、Casヌクレアーゼと複合体を形成したCRISPR核酸を前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、前記B細胞にgRNAを導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0138】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、修復鋳型を含むウイルスベクターを前記B細胞に導入する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、AAVベクターを含む。
【0139】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、前記B細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含み、該ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、HEおよびmegaTALからなる群から選択される。
【0140】
いくつかの実施形態において、前記B細胞のB2M遺伝子を不活性化する工程と、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、連続して行われる。いくつかの実施形態において、前記B細胞の内因性B2M遺伝子を不活性化する工程と、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記不活性化されたB2M遺伝子に導入する工程は、同時に行われる。
【0141】
いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質は、治療用ポリペプチドまたは治療用核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、酵素、抗体もしくはその抗原結合断片、受容体、キメラ抗原受容体またはサイトカインを含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、第IX因子、アンギオテンシン変換酵素2(Ace2)、β-グルコセレブロシダーゼ(GBA)、α-ガラクトシダーゼA(GLA)または酸性α-グルコシダーゼ(GAA)を含む。
【0142】
いくつかの実施形態において、前記B細胞は、造血幹細胞、初期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、T1 B細胞、T2 B細胞、辺縁帯B細胞、成熟B細胞、ナイーブB細胞、(短命)形質芽球細胞、GC B細胞、メモリーB細胞および長命形質細胞からなる群から選択される。
【0143】
いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0144】
特定の組成物およびシステム
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供される方法のいずれかによって作製された組換えB細胞を含む。本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供される組換えB細胞のいずれかと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を含む。本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む単離された核酸を含む。
【0145】
前記方法および組成物の実施形態のいくつかは、細胞の内因性β2ミクログロブリン(B2M)遺伝子を不活性化するためのシステムを含む。このような実施形態のいくつかは、細胞のゲノム内の内因性B2M遺伝子の標的遺伝子座を切断することができるヌクレアーゼ、または該ヌクレアーゼをコードする核酸を含む。いくつかの実施形態は、前記B2M遺伝子に相補的な配列を含むガイドRNA(gRNA)、および/または第1の相同アームと、第2の相同アームと、該第1の相同アームと該第2の相同アームの間にペイロードをコードする核酸とを含む修復鋳型をさらに含み、前記第1の相同アームおよび/または前記第2の相同アームは、前記B2M遺伝子の配列と相同性を有する。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、前記内因性B2M遺伝子を不活性化するように構成されている。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、配列番号1~4のいずれかで示されるヌクレオチド配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;または配列番号1~4のいずれかと比較して3個以下のミスマッチを有する前記ヌクレオチド配列のバリアントを含む。いくつかの実施形態において、前記標的遺伝子座は、前記B2M遺伝子の第1のコーディングエクソン内にある。
【0146】
いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼはCasヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、前記CasヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼを含む。
【0147】
いくつかの実施形態において、前記ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)、およびTALENとHEの融合タンパク質(megaTAL)からなる群から選択される。
【0148】
いくつかの実施形態において、前記修復鋳型は、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たない。いくつかの実施形態において、前記第1の相同アームおよび/または前記第2の相同アームは、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない。いくつかの実施形態において、前記ペイロードは、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない。いくつかの実施形態において、前記ペイロードは、第1のポリペプチドをコードする第1の核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記ペイロードは、第2のポリペプチドをコードする第2の核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記第1の核酸と前記第2の核酸の間に、リボソームスキップ配列をコードする核酸が存在する。
【0149】
いくつかの実施形態において、前記第1のポリペプチドまたは前記第2のポリペプチドは、B2M cDNAをコードする。
【0150】
いくつかの実施形態において、前記第1のポリペプチドまたは前記第2のポリペプチドは、非重合性HLAポリペプチドをコードする。いくつかの実施形態において、前記非重合性HLAポリペプチドは、HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gから選択される。いくつかの実施形態は、前記非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドをコードする第3のポリペプチドをさらに含む。
【0151】
いくつかの実施形態において、前記第1のポリペプチドまたは前記第2のポリペプチドは、治療用ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、酵素、抗体もしくはその抗原結合断片、受容体、キメラ抗原受容体またはサイトカインを含む。いくつかの実施形態において、前記治療用ポリペプチドは、第IX因子、アンギオテンシン変換酵素2(Ace2)、β-グルコセレブロシダーゼ(GBA)、α-ガラクトシダーゼA(GLA)または酸性α-グルコシダーゼ(GAA)を含む。
【0152】
いくつかの実施形態において、前記第1の核酸は、前記内因性B2M遺伝子のプロモーターに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、前記第1のポリペプチドは、前記内因性B2M遺伝子によってコードされるポリペプチドとインフレームである。いくつかの実施形態において、前記ペイロードは、異種プロモーターを含み、前記第1の核酸は、この異種プロモーターに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、前記異種プロモーターは構成的プロモーターである。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、MNDプロモーター、EF1αプロモーターおよびPGKプロモーターから選択される。
【0153】
いくつかの実施形態において、前記修復鋳型はウイルスベクターに含まれている。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、ウイルスベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。
【0154】
いくつかの実施形態は、前記ヌクレアーゼと、任意の構成要素として前記gRNAおよび/または前記修復鋳型とを含む細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は、B細胞、造血幹細胞、初期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、T1 B細胞、T2 B細胞、辺縁帯B細胞、成熟B細胞、ナイーブB細胞、(短命)形質芽球細胞、GC B細胞、メモリーB細胞および長命形質細胞からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記細胞はB細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記対象に由来する自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記対象と同じ種に由来する細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はインビボの細胞である。
【0155】
いくつかの実施形態は、本明細書で提供されるシステムのいずれかと薬学的に許容される添加剤とを含む医薬組成物を含む。
【0156】
いくつかの実施形態は、組換え細胞を作製する方法であって、本明細書に開示されたシステムのいずれかを得る工程;および第1の細胞にヌクレアーゼを導入する工程を含む方法を含む。いくつかの実施形態は、前記細胞にgRNAを導入する工程、および/または前記細胞に修復鋳型を導入する工程をさらに含み、これらの工程によって、ゲノム内のB2M遺伝子座が組換えられた組換え細胞が得られる。
【0157】
いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は不活性化されている。いくつかの実施形態において、前記gRNAは、前記内因性B2M遺伝子を不活性化するように構成されている。いくつかの実施形態は、前記組換え細胞を含む。いくつかの実施形態において、前記選択工程は、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、第1の細胞と同じ種に由来する細胞である。例えば、いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、前記第1の細胞のMHC-Iとは異なるMHC-Iを含む。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はインビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はエクスビボの細胞である。
【0158】
いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現する。いくつかの実施形態において、前記修復鋳型は、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列もしくはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たないことから、前記組換えられたB2M遺伝子座は、前記ヌクレアーゼの標的配列を持たず、かつ/または前記gRNAの配列またはその相補鎖にハイブリダイズすることができる配列を持たない。いくつかの実施形態において、前記修復鋳型は、B2M cDNAを含む。いくつかの実施形態は、前記組換え細胞を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記選択工程は、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、前記第1の細胞と同じ対象に由来する自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はインビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はエクスビボの細胞である。
【0159】
いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は、置換されたMHC-Iを発現する。いくつかの実施形態において、前記修復鋳型は、B2M cDNA、非重合性HLAポリペプチド、および/または該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドをコードするペイロードを含む。いくつかの実施形態は、前記組換え細胞を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記選択工程は、前記組換え細胞を免疫細胞に接触させる工程を含む。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、前記第1の細胞と同じ種に由来する細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、細胞傷害性CD8+T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー細胞から選択される。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はインビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記第1の細胞はB細胞である。
【0160】
いくつかの実施形態は、T細胞またはナチュラルキラー細胞による殺傷に対して耐性が向上している組換えB細胞を濃縮する方法であって、本明細書に開示されたシステムのいずれかによって組換え細胞を作製する工程、ならびに第1の細胞にヌクレアーゼを導入する工程および/または前記細胞に修復鋳型を導入する工程を含み、ゲノム内のB2M遺伝子座が組換えられた組換え細胞が得られることを特徴とする方法を含む。このような実施形態のいくつかにおいて、前記第1の細胞はB細胞であり、前記組換えられたB2M遺伝子座は不活性化されている。いくつかの実施形態は、前記第1の細胞と同じ種に由来するT細胞またはナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程をさらに含み、得られる組換えB細胞は、B2M遺伝子を発現するB細胞と比べて、T細胞またはナチュラルキラー細胞による殺傷に対する耐性が向上している。
【0161】
いくつかの実施形態は、組換えB細胞を濃縮する方法であって、本明細書に開示されたシステムのいずれかによって組換え細胞を作製する工程、ならびに第1の細胞にヌクレアーゼを導入する工程および/または前記細胞に修復鋳型を導入する工程を含み、ゲノム内のB2M遺伝子座が組換えられた組換え細胞が得られることを特徴とする方法を含む。いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現する。いくつかの実施形態は、前記第1の細胞と同じ対象に由来する自家T細胞または自家ナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程をさらに含み、前記T細胞または前記ナチュラルキラー細胞によって、活性型B2M遺伝子またはB2M cDNAを発現していない細胞が殺傷される。
【0162】
いくつかの実施形態は、組換えB細胞を濃縮する方法であって、本明細書に開示されたシステムのいずれかによって組換え細胞を作製する工程、ならびに第1の細胞にヌクレアーゼを導入する工程および/または前記細胞に修復鋳型を導入する工程を含み、ゲノム内のB2M遺伝子座が組換えられた組換え細胞が得られることを特徴とする方法を含む。いくつかの実施形態において、前記組換えられたB2M遺伝子座は、置換されたMHC-Iを発現し、前記修復鋳型は、B2M cDNAと、非重合性HLAポリペプチドと、該非重合性HLAポリペプチドによって提示される自己ペプチドとをコードするペイロードを含む。いくつかの実施形態は、前記第1の細胞と同じ種に由来するT細胞またはナチュラルキラー細胞に、前記組換え細胞を接触させる工程をさらに含む。
【0163】
いくつかの実施形態は、本明細書で提供される方法のいずれかによって作製された細胞を含む。
【実施例
【0164】
実施例1-形質細胞におけるMHC IIのダウンレギュレーション
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIおよびMHCクラスIIは、それぞれ移植片拒絶において一定の役割を果たしている。MHC-IおよびMHC-IIは、免疫応答を惹起することができるペプチド抗原を提示し、MHC分子を提示した細胞は最終的に死滅する。未分化のB細胞と、分化したB細胞の一部のサブセットは、MHC-IとMHC-IIの両方を発現する。
【0165】
分化した形質細胞においてMHC-IIがダウンレギュレートされているのかどうかを調査するため、ネガティブ選択を利用してマウスの脾臓からB細胞を単離し、様々なサイトカインとフィーダー細胞の存在下で培養した。培養条件には、(1)CpG BまたはαCD180とMCD40Lによる2日間の活性化;(2)IL-6またはR848とIL-21の存在下で3日間の培養を行う第I相;および(3)IL-21の存在下で3日間の培養を行う第II相が含まれていた。計8日間培養した後、MHC-IIに結合する抗体(MHCII-B-BV650)をフローサイトメトリーで検出することによってMHC-IIを測定したところ、形質細胞サブセットにおいてMHC-IIがダウンレギュレートされていることが示された。図1に示すように、MCD40LとCpG Bの組み合わせと、IL-6またはR848とIL-21の組み合わせを含む条件において、MHC-IIの発現が低下している細胞の割合が増加した(それぞれ26.3%および23.3%)。特定の培養条件でB細胞を分化させて、分化したB細胞または分化したB細胞産物を誘導したところ、MHC-IIがダウンレギュレートされた。予想外にも、エクスビボで分化誘導したB細胞培養においてMHC-IIがダウンレギュレートされたことから、組換えB細胞上のミスマッチMHC-IIタンパク質の発現によって引き起こされる同種移植片拒絶を緩和できると考えられた。
【0166】
実施例2-B細胞のB2M遺伝子座の組換え
分化したB細胞と未分化のB細胞はいずれもMHC-Iを発現し、MHC-Iとペプチドの複合体の形態でペプチド抗原を提示する。MHC-I-ペプチド複合体は、このMHC-I-ペプチド複合体に対して特異性を有するT細胞受容体を発現するT細胞によって直接認識される。ドナーのMHC-IとレシピエントのMHC-Iが異なると、移植片拒絶が起こることがある。移植片のMHC-I複合体に提示されたレシピエントとは異なる配列がT細胞により認識されると、このT細胞によって移植片細胞が直接殺傷される。MHC-I分子は、B2Mタンパク質とヒト白血球抗原(HLA)タンパク質と抗原性ペプチドを含む。B2Mは、MHC-I複合体の細胞表面への輸送に必要とされる。
【0167】
B2Mを標的とするCRISPRを用いて、機能性を持つB2M遺伝子座を欠失させた。ccTop CRISPR/Cas9 target online predictorツールを利用して、マウスB2M遺伝子のコード領域内の2つのgRNA標的配列(B2M gRNA_1およびB2M gRNA_5)を作製した(図2)。gRNA_1は、マウスB2Mの第1のエクソンの開始コドンに隣接する(genome assembly GRCm39/mm39、121978227~121978246の位置)。gRNA_5は、B2Mのエクソン2に位置する(genome assembly GRCm39/mm39、121981407~121981388の位置)。これらのガイドは、ヌクレオチドの挿入または欠失を起こしてフレームシフト変異を導入するか、あるいは転写されたRNAに終止コドンを導入してナンセンス変異依存mRNA分解機構を発動することによって、内因性B2M遺伝子の不活性化/ノックアウトを誘導すると予測された。B2M gRNA_1は、翻訳開始部位と内因性B2Mプロモーターの近傍に位置することから、ポリヌクレオチド(例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチドなど)のインフレーム挿入に有利であると考えられた。B2M gRNA_1の配列とB2M gRNA_5の配列を表1に示す。
【表1】
【0168】
B2M gRNA_1またはB2M gRNA_5を組換えCas9と複合体を形成させて、リボ核タンパク質(RNP)複合体の形態で初代マウスB細胞に送達した。この初代マウスB細胞からゲノムDNAを調製し、畳み込み層を用いた配列解折を行った。配列解折の結果、いずれのガイドを使用した場合でも、挿入欠失頻度(ICEスコア)が高く、予測された不活性化を起こすインデルの発生率(KOスコア)も高いことが示された(図3)。
【0169】
次に、前述の試験とほぼ同様にして、表1に示したgRNAを用いてヒト細胞のヒトB2M遺伝子座を標的とした試験を行った。ヒトガイド1は、ヒトB2M遺伝子の第1のエクソンに位置する(genome assembly GRCh38/hg38、44711585~44711566の位置)。ヒトガイド2は、ヒトB2M遺伝子のエクソン2に位置する(genome assembly GRCh38/hg38、44715531~44715512の位置)。これらのガイドは、ヌクレオチドの挿入または欠失を起こしてフレームシフト変異を導入するか、あるいはRNAに終止コドンを導入してナンセンス変異依存mRNA分解機構を発動することによって、内因性B2M遺伝子の不活性化/ノックアウトを誘導することが予測された。
【0170】
実施例3-組換えB細胞におけるタンパク質の発現
HLA-B(H2kb)によってコードされるタンパク質は、C57BL/6マウスにおいて発現される主要なHLA分子である。B2M遺伝子のノックアウトによって細胞表面におけるMHC-Iの発現が欠失されるのかどうかを確認するため、B細胞におけるH2kbの発現をフローサイトメトリーで定量した。C57BL/6マウスから得た初代B細胞培養物を、B2M gRNA_1またはB2M gRNA_5を含むRNP複合体で処理した。処理の4日後に、B細胞におけるH2Kbタンパク質の発現をフローサイトメトリーで分析した。H2kb発現細胞の数は、対照と比較して、gRNA_1またはgRNA_5で処理した細胞で減少した(図4A図4B)。このフローサイトメトリー分析では、活性化されて分化したナイーブB細胞、すなわち、(a)総リンパ球、(b)CD19+CD138-B細胞および(c)CD19midCD138+形質細胞の75%以上において、BM2/MHC-Iタンパク質の発現がノックアウト/不活性化されたことが示された。ゲノム内の機能性B2M遺伝子座を欠失させることによって、MHC-I複合体の細胞表面発現が欠失された。
【0171】
次に、前述の試験とほぼ同様にして、表1に示したgRNAを用いてヒトB細胞のヒトB2M遺伝子座を標的とした試験を行った(図4C)。gRNA-2ではなく、gRNA-1を用いた場合に、90%を超える編集B細胞においてMHC-I複合体(HLA-A)の発現を欠失させることができた。マウスB細胞において行った前述のB2M欠失実験で観察されたものとほぼ同じ結果が得られた。
【0172】
実施例4-組換えB細胞の機能解析
MHCポリペプチドのミスマッチを認識するTCRタンパク質を発現する細胞傷害性CD8+T細胞は、MHC-Iタンパク質がミスマッチの細胞を殺傷する。しかし、細胞傷害性CD8+T細胞は、CD8+T細胞が採取されたドナーと標的細胞が採取されたドナーがミスマッチの場合であっても、MHC-Iを欠失した細胞を殺傷しない可能性がある(図5A)。B2M遺伝子座の不活性化によってMHC-Iを欠失したB細胞が、前述のような細胞傷害性CD8+T細胞による殺傷に対して耐性を示すのかどうかを確認するため、BALB/cマウスから得たT細胞(HLA、D型)とC57BL/6マウスから得たB細胞(HLA、B型)を用いて混合細胞アッセイを行った。図5Bを参照されたい。簡潔に述べると、0日目に、抗CD3/CD28ビーズでHkd+CD8+T細胞を刺激した。3日目に、この細胞刺激用ビーズをT細胞から除去し、IL-2の存在下でT細胞を増殖させた。さらに3日目に、脾臓からHkb+B細胞を単離し、MCD40LおよびCpGの存在下で培養した。4日目に、Hkb+B細胞をRNPで処理してB2M遺伝子座を不活性化するか、陰性対照として無関係な遺伝子座(Rosa26)を不活性化するか、mock処理を行った。6日目に、処理を行ったB細胞と刺激したT細胞の共培養群を構築し、フィーダー細胞は使用せずに、MCD40-L、IL-4およびIL-2で処理した。7日目および8日目に、すべての培養物をFACSで分析した。
【0173】
B2M gRNA_1を用いて、初代C57BL/6(Hkb+)CD45.1 B細胞にMHC-1のノックアウトを誘導した。この細胞を、未編集のC57BL/6 CD45.2 B細胞と混合した後、別の系統由来のBalb/C(Hkd+)CD8+T細胞と様々な比率で共培養した。B2M gRNA_1 RNPで処理したB細胞集団は、Rosa26 RNPで処理したB細胞やmock処理したB細胞と比べて、生存率が高く、CD45.1の発現量も高かった(図6A)。24時間共培養した後、B2M gRNA_1 RNPで編集したB細胞の混合培養では、mock処理を行った対照細胞やRosa26 RNPで編集した対照細胞の混合培養と比べて、B2M RNPで編集したCD45.1細胞が優勢を占めた。B2Mノックアウト細胞は、Rosa26ノックアウト細胞よりも生存率が高かった。CD45.1細胞(B2MノックアウトB細胞)とCD45.2細胞(対照B細胞)の比率を、T細胞とB細胞の比率と比較した(図6B)。B細胞に対するT細胞の比率が増加するにつれて、CD8 T細胞殺傷アッセイにおけるB2Mノックアウトの保護効果がより顕著になった。これらのデータから、ゲノム内の機能性B2Mを欠失させることによって、T細胞による殺傷からB細胞を保護できることが示された。
【0174】
実施例5-CD8+T細胞による殺傷に対するB2Mの不活性化による保護効果
CD8+インビトロ殺傷アッセイを行った。図7は、実施例4のアッセイとほぼ同様にして行ったCD8+インビトロ殺傷アッセイのタイムラインを示す。
【0175】
図8Aは、Balb/C CD8+T細胞との共培養の24時間および48時間の時点でのCD45.2(標的)C57/B6 B細胞とCD45.1(デコイ)C57/B6 B細胞の代表的なFACSプロットを示す。セーフハーバー遺伝子座であるRosa26を標的とする対照RNP、またはMHC1のノックアウトを誘導するB2M RNPを用いて、CD45.1デコイ細胞を編集した。図8Aを参照すると、Rosa26対照におけるCD45.2細胞とCD45.1細胞の相対的な割合は、いずれの時点でも、標的とデコイの比率が当初の播種比率のまま、ほぼ1:1で安定に維持された。これに対して、B2Mで編集したCD42.1デコイ細胞を用いた場合は、デコイ集団への優位な偏りが観察され、時間の経過とともにデコイ集団が増加したことから、MHC1の欠失による保護効果が示唆された。
【0176】
図8Bは、CD8+T細胞を加えない共培養条件で得られた基準比率に対して補正した、図8Aに示した実験におけるCD45.1:CD45.2の比率の定量を示す。B細胞に対するCD8+T細胞に比率を徐々に増加させた場合の共培養の24時間の時点(上図)と48時間の時点(下図)におけるCD45.1とCD45.2の比率をプロットした。図8Bを参照すると、mock編集したCD45.1デコイB細胞とRosa26を編集した対照CD45.1デコイB細胞におけるCD45.1:CD45.2の比率は、いずれの時点でも安定していたが、B2Mを編集したCD45.1デコイ細胞におけるCD45.1:CD45.2の比率は、CD8+T細胞の比率が増加するにつれて次第に増加した。各データポイントにおいてN=3とした。
【0177】
図9Aは、図8Aに関連した実験におけるCD45.1 B細胞集団のH2Kb(C57/B6 B細胞に関連するMHC1ハプロタイプ)の代表的なFACS分析を示す。CD8+T細胞とB細胞の比率を1.5:1、1:1または1:2として、B細胞に対するCD8+T細胞の比率を徐々に減らした場合の共培養の24時間の時点(上図)と48時間の時点(下図)を示す。各ヒストグラムは、mock編集したCD45.1デコイ集団、Rosa26を編集した対照としてのCD45.1デコイ集団およびB2Mを編集したCD45.1デコイ集団からなる3つの異なるCD45.1デコイ集団のプロットを重ね合わせたものである。各ヒストグラムに、B2M編集群におけるH2Kb-細胞とH2Kb+細胞の割合を示す。図9Aを参照すると、B2M編集群におけるMHC1のノックアウト率は、経時的に増加するとともに、CD8+T細胞の比率の増加に伴って増加したことから、細胞傷害性CD8+T細胞の存在下においてMHC1陰性集団が選択されたことが示唆された。
【0178】
図9Bは、CD8+T細胞の比率を徐々に増加させた場合の24時間と48時間の時点でのB2Mを編集したCD45.1 B細胞におけるH2Kbのノックアウト率の定量を示す。図9Bを参照すると、CD8+T細胞の比率を増加させると、いずれの時点でもMHC1のノックアウト率が徐々に増加した。各データポイントにおいてN=3とした。
【0179】
実施例6-B細胞におけるB2Mの発現の回復
NK細胞は、細胞表面上にMHC-I分子を発現していない有害な可能性のある細胞を排除するために免疫監視を行っている。B2M遺伝子座の組換えの実現可能な応用の1つとして、CRISPRと相同組換え修復を利用してB2M遺伝子座にカーゴDNAを導入し、NK細胞の自然免疫監視機能を利用して、組換えられた細胞集団を濃縮する方法がある。相同組換え修復実験において、CRISPR gRNAを用いてゲノム内の標的遺伝子座を破壊し、次にAAVにより送達した修復鋳型をこの標的遺伝子座に組み込んで内因性配列を置換した。一般的な実験では、ゲノム破壊は非常に効率的に行うことができるが、相同組換え修復はあまり効率的には行えない。得られた細胞集団の大部分の細胞は、ノックアウトされたアレルしか有しておらず、修復されたアレルを発現する細胞は少なかった。
【0180】
この実施例では、強力なMNDプロモーターとGFPマーカーが組み込まれるようにB2M遺伝子座を組換えることによって、得られる配列が内因性B2Mのコード配列とインフレームになるように、相同組換え修復(HDR)ドナー鋳型を含むコンストラクトを構築した(図10)。このコンストラクトには、変異したB2M gRNA_1標的部位が含まれていた。人工的に再構成されたB2Mのコード配列を発現するHDR編集細胞において、B2M cDNAとGFPの間にP2A自己切断配列を挿入することによって追跡用マーカーを発現させた。このドナー鋳型(3307と命名)は、アデノ随伴ウイルス(AAV)として送達できるように設計した。
【0181】
B細胞のB2M遺伝子座をノックアウト/不活性化した後に、前述のコンストラクトでB2M遺伝子座を組換えることができれば、B細胞においてMHC-Iの発現が回復するはずだと考えられる。これとは逆に、B細胞のB2M遺伝子座をノックアウト/不活性化した後に、例えば、B2M遺伝子座以外の遺伝子座への不適切な挿入や、それ以外の不適切な部分的な挿入などによって、前述のコンストラクトでB2M遺伝子座を組換えることができなかった場合は、B細胞においてMHC-Iの発現を回復させることはできないと考えられる。簡潔に述べると、部分的にしか遺伝子編集されなかった細胞はH2Kb-となり、これらのH2Kb-細胞は、インビボでのNK細胞の監視によって死滅する。一方、GFP+細胞ではH2Kbが回復されているはずであり、このようなHDR編集細胞と未編集の細胞のみがインビボで生存すると考えられる。
【0182】
B2M gRNA_1 RNPの送達と3307 AAVによる形質導入とを併用して、初代マウスB細胞の相同組換え修復を誘導した。RNPとAAVウイルスを送達した細胞において、遺伝子編集の3日後に、MHC-I陽性のGFP+細胞集団が観察された(図11)。MHC-1陰性集団ではGFP+細胞は観察されなかった。分裂中のB細胞ではAAVのエピソームは不安定であり、関連するB2M CRISPR試薬を同時に送達しないとDNA配列を組み込むことはできないため、RNPを送達せずに3307ウイルスコンストラクトを送達した細胞では、予想されたとおり、いずれもGFP陰性であった。この結果から、B2M遺伝子座の組換えは可能であり、(1)遺伝子組換えが起こらなかった細胞と、(2)gRNAによってB2M遺伝子座の一部が組換えられて不活性化に対する耐性が付与され、B2M産物が発現した細胞とをインビボで選択できることが示された。
【0183】
実施例7-B2M cDNAの発現が回復したB細胞の生存
実施例6に従って、内因性B2M遺伝子座をノックアウト/不活性化し、B2M遺伝子座に外因性のコード配列とB2M cDNAをインフレームに挿入したB細胞を作製する。
【0184】
対象から採取して作製した組換えB細胞集団を同じ対象に投与するか、MHC-I配列が一致している別の対象に投与する。前述のコンストラクトによるB2M遺伝子座の組換えが適切に行われた細胞は、B2M遺伝子座にB2M cDNAを発現し、インビボでのNK細胞による殺傷に対して耐性を示す。これに対して、前述のコンストラクトによるB2M遺伝子座の組換えが適切に行われなかった細胞は、B2M遺伝子座にB2M cDNAを発現せず、インビボでのNK細胞による殺傷に対して感受性を示すことから、インビボのNK細胞により排除される。いくつかの実施形態において、同様の方法を利用して、インビボで組換えB細胞を選択することが可能であり、例えば、対象に由来する自家細胞から作製した組換えB細胞を選択することができる。
【0185】
別の一例において、B細胞は第1の対象から得られる。この細胞の遺伝子組換えを行う。得られた組換え細胞を、第1の対象に投与するか、第1の対象のMHC-I配列と一致するMHC-I配列を有する別の対象に投与する。この組換え細胞は、ゲノム内のB2M遺伝子座にB2M cDNAを挿入することによって、ゲノム内のB2M遺伝子座が組換えられている。このB2M cDNAを発現する組換え細胞は、インビボのNK細胞による殺傷に耐性を示す。これに対して、このB2M cDNAを発現しない細胞は、インビボのNK細胞による殺傷に感受性を示して、インビボのNK細胞により排除される。
【0186】
別の一例において、実施例5に従って、内因性B2Mおよび/またはCIITAをノックアウト/不活性化し、外因性コード配列を挿入してB2Mを置換したB細胞を作製する。いくつかの実施形態では、B2M遺伝子座を組換えることによって、(a)組換えられたHLA-Eと、NK細胞を不活性化することができる共通自己ペプチドと、B2Mとを含む三量体;(b)NK細胞の細胞傷害活性を抑制することができる細胞表面タンパク質であるCD47;または(c)NK細胞の活性を抑制することができる細胞表面タンパク質であるCD24を発現させる。
【0187】
実施例8-B細胞のB2M遺伝子座の置換
HLA分子は多型性に富んでおり、これは、人によってHLA分子の配列が様々に異なることを意味する。1人の人はMHC-Iに1つの型のHLAのみを発現している。HLA-A、HLA-BおよびHLA-Cは、多型性に富むと考えられているが、HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gは多型性に乏しい。図12Aは、B2M遺伝子座を組換えることによって、内因性のB2Mの発現を不活性化させて、組換えHLA-Eと、ヒトでは通常変異しない共通の自己ペプチドと、B2Mからなる三量体を発現させることによってB2M遺伝子座を置換する方法を示す。この非多型性の三量体を有するB2M遺伝子座を再構築させると、細胞表面にこの三量体が発現され、多型性の高い内因性HLAは発現されなくなる。ミスマッチ個体から採取され、この組換え三量体を発現させたB細胞は、CD8+T細胞による殺傷を誘導せず、NK細胞による免疫監視を抑制することができる。図12Bは、組換えB細胞の生存を試験するための混合細胞アッセイを示す。
【0188】
HDRドナー鋳型を含むコンストラクトを構築して、外因性のMNDプロモーターによって駆動されるQdm自己ペプチドとB2MとHLA-Eα鎖が可動性リンカー配列を介して連結された非多型性HLA-E融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを送達した(図13)。Qdmは、非多型性HLA-Eによって提示される自己ペプチドである。この融合ポリペプチドをGFP蛍光色素と組み合わせることによって追跡を可能とした。この融合ポリペプチドは、内因性B2Mのノックアウトが誘導されるように設計した。Qdm自己ペプチドとB2MとHLA-Eα鎖からなる三量体を組み込むための修復鋳型を含むコンストラクト(3310と命名)は、アデノ随伴ウイルス(AAV)として送達できるように設計した。コンストラクト3210に組み込むことができるヌクレオチド配列の一例を表2に挙げる。
【0189】
B2M gRNA_1 RNPの送達と3310 AAVによる形質導入を併用して、C57BL/6マウスから単離された初代マウスB細胞を遺伝子編集した。遺伝子編集の7日後に、相同組換え修復が起こった細胞では、CD19+CD138-B細胞とCD19midCD138+形質細胞の両方でGFPが検出可能であった(図14)。重要なことに、HLA-B陽性細胞はいずれもGFPが陰性であったが、CD19+CD138-B細胞集団とCD19midCD138+形質細胞集団では、HLA-B(Hk2b)の細胞表面発現の欠失と完全に一致してGFPの発現が認められたことから、これらの細胞において、HLA-E融合タンパク質によって内因性MHC-Iの発現が置換されたことが示唆された。
【表2】
【0190】
実施例9-同種移植された遺伝子編集ステルスB細胞のインビボでの生存
NK細胞による殺傷のパラメーターを評価するため、図15A図15Bに示した試験とほぼ同様にしてインビボの試験を行う。固定されたB細胞受容体/抗体(SW-HEL)を発現する初代マウスB細胞をC57BL/6マウスから単離する。実施例6および実施例8の記載に従って、この初代マウスB細胞を組換えて、HLA-E三量体、CD47もしくはCD24、またはHLA-E三量体とCD47もしくはCD24の組み合わせを発現させる。可溶性R848またはマウスIL21を添加した培地中において、マウスBAFFとマウスCD40Lを発現するフィーダー細胞上で組換えB細胞を増殖させた後、約1000万個の組換えB細胞をBalB/Cマウスに移入する。細胞の移入後、SW-HEL抗体の産生を経時的に測定することによって、組換えB細胞の生着を追跡する。B2M遺伝子座にGFPを発現するように組換えたC57BL/6細胞と比較することによって生着を評価するとともに、様々な編集方法で得られた細胞のC57BL/6マウスへの移入を比較することによって生着を評価する。HLA-E三量体、CD47、CD24またはこれらの組み合わせを発現する同種B細胞をミスマッチのレシピエント動物に移入すると、SW-HELが発現される。移入した細胞からの抗体の発現を検出することによって、生着の成功を確認する。一方、B2MではなくGFPを発現するように組換えた細胞や、B2Mを欠失するように編集した細胞は、移入後にNK細胞により排除されて死滅する。遺伝子編集されなかった細胞は、T細胞により排除されて生着することができない。HLA-E三量体、CD47および/またはCD24でMHCクラスIが置換された組換えB細胞集団は、ミスマッチのレシピエントに移入しても生存し続ける。
【0191】
実施例10-同種移植された遺伝子編集ステルスB細胞のインビボでの生存
図16に示した試験とほぼ同様にして試験を行う。末梢血単核細胞からヒトB細胞を単離し、このヒトB細胞を編集することにより組換えて、HLA-E三量体、CD47もしくはCD24、またはHLA-E三量体とCD47もしくはCD24の組み合わせを発現させる。組換えた細胞を増殖させ、米国特許公開第2018/0282692に開示されているような3段階の分化誘導操作によりインビトロで分化させる(この文献は引用によりその全体が本明細書に援用される)。増殖と分化を誘導した後、別のミスマッチドナーから単離されたヒトCD34細胞をあらかじめ生着させてからIL15を発現するように組換えた免疫不全マウス(NSG)に、1000万個の組換え細胞を移入する。ヒトCD34細胞の移入によりヒト化したNSG-IL15マウスは、NK細胞を産生できることから、NK細胞による殺傷を評価することができる。細胞の移入後、ヒトIgGの産生を経時的に測定することによって、組換えB細胞の生着を追跡する。CD34細胞でヒト化したNSGマウスはIgG抗体を産生しない。B2M遺伝子座にGFPを発現するように組換えたB細胞と比較することによって生着を評価するとともに、様々な編集方法で得られた細胞の自家ヒト化NSG-IL15マウスへの移入を比較することによって生着を評価する。
【0192】
HLA-E三量体、CD47、CD24またはこれらの組み合わせを発現する同種B細胞をミスマッチのレシピエント動物に移入すると、hIgGが発現される。移入した細胞からの抗体の発現を検出することによって、生着の成功を確認する。一方、B2MではなくGFPを発現するように組換えた細胞や、B2Mを欠失するように編集した細胞は、移入後にNK細胞により排除されて死滅する。遺伝子編集されなかった細胞は、T細胞により排除されて生着することができない。HLA-E三量体、CD47および/またはCD24でMHCクラスIが置換された組換えB細胞集団は、ミスマッチのレシピエントに移入しても生存し続ける。
【0193】
本明細書で使用されている「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含む(containing)」または「特徴とする(characterized by)」という用語と同義であるとともに、オープンエンドで包括的な意味であり、本明細書には記載されていないさらなる要素や工程を除外するものではない。
【0194】
前述の説明は、本発明のいくつかの方法および材料を開示するものである。本発明の方法および材料は、変更することができ、製造方法および器具も変更することができる。このような変更は、本開示または本明細書に開示された本発明の実施を考慮に入れて、当業者であれば容易に理解することができる。したがって、本発明は、本明細書に開示された特定の実施形態に限定されず、本発明の真の範囲および要旨において可能なあらゆる変更およびその他の態様を包含する。
【0195】
本明細書において引用された公開特許出願、非公開特許出願、特許および学術文献を含む(ただしこれらに限定されない)すべての参考文献は、引用によりその全体が本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する。引用により援用された文献、特許または特許出願が本明細書の開示内容と矛盾する場合、このような矛盾事項よりも本明細書の記載が採用および/または優先される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A-B】
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12A-B】
図13
図14
図15A
図15B
図16
【配列表】
2023532917000001.app
【国際調査報告】