(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】チロシンを有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化による疾患の予防、改善または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/175 20160101AFI20230725BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20230725BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230725BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20230725BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20230725BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230725BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230725BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20230725BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230725BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20230725BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230725BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230725BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230725BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230725BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230725BHJP
A23G 3/36 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
A23L33/175
A61K31/198
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/22
A61P25/24
A61P9/10
A61P25/20
A61P3/10
A61P27/06
A61P25/28
A61P35/00
A61K9/20
A61P13/12
A23L2/52
A23L2/00 F
A23G3/36
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581606
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 KR2021008259
(87)【国際公開番号】W WO2022005201
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0080308
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516172857
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーオペレイション ファウンデーション キョンサン ナショナル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン・ジュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・スン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヒュン・ベク
(72)【発明者】
【氏名】スンウン・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】サン・ウォン・パク
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B117
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4B014GB06
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4B014GL09
4B018LB01
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4B018LE03
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4B117LK14
4C076AA36
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4C206FA53
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4C206NA14
4C206ZA02
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4C206ZA06
4C206ZA12
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZA33
4C206ZA36
4C206ZA81
4C206ZB26
4C206ZC35
(57)【要約】
本発明は、チロシンを有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防、改善または治療用組成物に関するものである。本発明の有効成分であるチロシンが低下したGS活性を増進させるだけではなく、脳でのグルタミン、グルタミン酸の含量(割合)及びアンモニアの量を定常状態に回復させる効果があり、第2型糖尿モデルにおけるインスリン敏感度増進、癲癇発作モデルにおける興奮毒性と酸化ストレス抑制効果、脳卒中モデルにおける脳梗塞低減及びGS活性増進効果、ヒト組換えMnSODを用いたチロシンのニトロ化除去効果急性腎不全における効果、及び高アンモニア血症に対する効果があるので、タンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または改善用健康機能食品組成物またはタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または治療用薬学組成物として有用に使用されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシンまたは食品学的に許容可能なその塩を有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項2】
前記タンパク質内のチロシンのニトロ化は、チロシンヒドロキシラーゼ(tyrosine hydroxylase)、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(Mn Superoxide dismutase)、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(Cu/Zn Superoxide dismutase)、インスリン受容体βサブユニット(insulin receptor β subunit)、アネキシンIV(annexin IV)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(glutamate dehydrogenase)、3-α-OHステロイドデヒドロゲナーゼ(3-α-OH steroid dehydrogenase)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(glutathione S-transferase)、3-ケトアシルCoAチオラーゼ(3-ketoacyl CoA thiolase)、カタラーゼ(catalase)、Tauタンパク質、ミトコンドリア複合体1(mitochondria complex 1)、α-シヌクレイン(α-synuclein)、アポジダンバック-A1(apolipoprotein-A1)、アミロイド-β(amyloid-β)及びNMDA受容体(NMDA receptor)のうち、選択されたいずれか1つのタンパク質内のチロシンのニトロ化であることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項3】
前記タンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患は、うつ病(depressive disorder)、不安障害(anxiety disorder)、脳卒中(stroke)、癲癇(epilepsy)、緑内障(glaucoma)、糖尿病(diabetes)、糖尿病網膜症(diabetic retinopathy)、発作(seizure)、肝性脳症(hepaticencephalopathy)、認知機能障害(cognitive impairment)、脳発達障害(brain development impairment)、癌(cancer)、アルツハイマー病(Alzheimer disease)、急性腎障害(Acute kidney injury)及び高アンモニア血症(Hyperammonemia)のうち、選択されたいずれか1であることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項4】
前記タンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患は、脳、肝、筋肉、脂肪組織、腎臓組織、膵膓または肺から発生することを特徴とする請求項1に記載のタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項5】
前記組成物は、丸、錠剤(tablet)、カプセル(capsule)、散剤、粉末、顆粒、キャンデー、シロップ及び飲料のうち、選択されたいずれか1つの剤形によって製造されることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項6】
チロシンまたは、薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む、タンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項7】
前記チロシン以外にさらに担体、賦形剤または希釈剤をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載のタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項8】
ニトロ化(nitration)チロシンを含むタンパク質にチロシンを処理してニトロ化チロシンからニトロ基を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロシンを有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化による疾患の予防、改善または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内において・NOまたは・NO誘導代謝物が存在する状態で反応性酸素種の過剰レベルは、過酸化窒素のような窒酸性種の形成を導く。したがって、タンパク質に含まれたアミノ酸のうち、チロシンニトロ化が発生すれば、タンパク質の構造及び機能的変化をもたらしうる。したがって、チロシンニトロ化は、多様な疾病をもたらす原因にもなる。
一例として、グルタミン合成酵素(glutaminesynthetase、GS)は、生体でグルタミン酸とアンモニアを用いてグルタミンを合成する酵素であって、身体の多くの器官で生成され、器官及び全身体の窒素均衡において役割を遂行している。晩成ストレスなどの理由でグルタミン合成酵素が活性窒素に露出されれば、チロシンニトロ化され、グルタミン合成酵素の活性度を低下させて多様な疾患を起こしうる。
【0003】
最近、骨格筋でのグルタミン合成酵素の過剰発現に基づいた遺伝子療法が急性高アンモニア血症の治療のために提案され、この治療療法の根拠は、一般的に肝疾患患者の筋肉で欠乏されるグルタミン合成酵素を代替するか、増強させて筋肉でグルタミン合成酵素によるアンモニアの除去を増加させることを目的とするものである。
【0004】
一方、韓国公開特許第2020-0018488号には、高アンモニア血症を治療するためのグルタミン合成酵素の用途について開示されており、韓国公開特許第2020-0038481号には、ストレス関連障害を治療するための組成物が開示されているが、本発明のチロシンを有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化による疾患の予防、改善または治療用組成物について開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような要求によって導出されたものであって、本発明は、チロシンを有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化による疾患の予防、改善または治療用組成物を提供し、本発明の有効成分であるチロシンがストレスによって生成されたグルタミン合成酵素内のN-tyr含量を減少させるだけではなく、活性が低下したグルタミン合成酵素の活性を増進させ、脳でのグルタミン、グルタミン酸の含量及びアンモニア量を定常状態に回復させる効果があるということを確認し、第2型糖尿モデルにおけるインスリン敏感度増進、癲癇発作モデルにおける興奮毒性と酸化ストレス抑制効果、脳卒中モデルにおける脳梗塞低減及びGS活性増進効果、ヒト組換えMnSODを用いたチロシンのニトロ化除去効果、急性腎不全における効果及び高アンモニア血症に対する効果を確認することで、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、チロシンまたは食品学的に許容可能なその塩を有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【0007】
また、本発明は、チロシンまたは、薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、ニトロ化(nitration)チロシンを含むタンパク質にチロシンを処理してニトロ化チロシンからニトロ基を除去する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、チロシンを有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化による疾患の予防、改善または治療用組成物に関するものである。ストレスによってグルタミン合成酵素の発現量は、変化がないが、GS内のN-tyrの含量は、統計的に有意に増加し、それにより、GSの活性が低下することを確認し、細胞基盤実験において遊離チロシンが低下したGS活性を増進させるだけではなく、脳でのグルタミン、グルタミン酸の含量(割合)及びアンモニア量を定常状態に回復させる効果があり、第2型糖尿モデルにおけるインスリン敏感度増進、癲癇発作モデルにおける興奮毒性と酸化ストレス抑制効果、脳卒中モデルにおける脳梗塞低減及びGS活性増進効果、ヒト組換えMnSODを用いたチロシンのニトロ化除去効果急性腎不全での効果及び高アンモニア血症に対する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】晩成不動姿勢ストレス(CIS)による効果を確認したものであって、(A)は、実験期間中の体重及び飲食摂取量の変化を確認した結果であり、(B)は、血漿内コルチコステロンの含量変化と血漿及びPFC(前頭前野)でのROS/RNS含量変化を確認したものであり、(C)は、GS含量は、変化がないが、ストレス群のN-tyr含量は、統計的に有意に増加し、GS活性は、統計的に有意に減少したという結果であり、(D)は、PFC組織破砕物に過酸化窒素及びチロシンを処理した後、in vitro GS活性を確認した結果である。*、**、***は、CTLに対比して統計的に有意差があるものであり、*は、p<0.05であり、**は、p<0.01であり、***は、p<0.001である。#は、チロシンを処理していない群に対して、チロシンを処理した群のGS活性が統計的に有意に増加したものであって、p<0.05である。
【
図2】チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)の体重及び飼料摂取量を確認した結果である。(A)は、一般食餌群(ND)とチロシン食餌群(TD)のスケジュールであり、(B)は、体重変化を確認した結果であり、(C)は、飼料摂取量を確認した結果である。
【
図3】チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)の憂鬱行動を確認したものであって、(A)は、オープンフィールドテスト(Open field test)結果であり、(B)は、テールサスペンジョンテスト(tail suspension test)、及び(C)は、ショ糖嗜好性テスト(sucrose preference test)結果である。
【
図4】チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)の血漿においてコルチコステロン(corticosterone)の含量(A)及び血漿及びPFCでのROS/RNSに変化量をDCF(dichlorofluorescin)を通じてTDによってストレスホルモンと酸化的ストレスが減少したことを確認した結果である(B,C)。
【
図5】チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)のPFCにおいて、GSの活性(A)、GSの発現量(B)及びGSに含まれたチロシンのニトロ化レベル(C)を確認した結果である。
【
図6】チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)のPFCにおけるグルタミン酸塩、グルタミン、チロシン及びGABA含量を確認した結果である。
【
図7】チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)のPFCにおけるアンモニア含量を確認した結果である。
【
図8】マウスPFCタンパク質にONOO
-を処理してタンパク質のニトロ化を誘導し、チロシンによるニトロ化抑制効果を確認した結果である。
【
図9】本発明によるペプチドのニトロ化抑制効果を確認したものであって、Aは、PFC(前頭前野)組織内のニトロチロシンタンパク質に対するウェスタンブロット結果であり、Bは、肝組織内のニトロチロシンタンパク質に対するウェスタンブロット結果であり、Cは、PFC(前頭前野)組織内のグルタミン合成酵素タンパク質に対するウェスタンブロット結果であり、Dは、肝組織内のグルタミン合成酵素、インスリン受容体β及びリン酸化インスリン受容体βタンパク質に対するウェスタンブロット結果である。
【
図10】高脂肪食餌による第2型糖尿モデルマウスにおいてL-チロシンの摂食による体重変化(A)、血糖(B)及び飼料摂食量(C)を期間別に確認した結果である。***は、一般食餌群(ND)対比で高脂肪食餌群(HFD)の血中グルコース含量が統計的に有意に増加したことを示し、p<0.001であり、#、##は、高脂肪食餌群(HFD)対比でL-チロシン含有食餌群(HFD+L-Tyr)の血中グルコース含量が統計的に有意に減少したことを示し、#は、P<0.05であり、##は、P<0.01である。
【
図11】高脂肪食餌による第2型糖尿モデルマウスにおいて、L-チロシン食餌をしたマウスのブドウ糖耐糖能を確認した結果である。(A)は、経時的な血液中のグルコース含量を示すものであり、(B)は、(A)における曲線下面積(AUC)を示すものである。**、***は、一般食餌群(ND)対比で高脂肪食餌群(HFD)の血中グルコース含量が統計的に有意に増加したことを示し、**は、P<0.01であり、***は、P<0.001であり、#は、高脂肪食餌群(HFD)対比でL-チロシン含有食餌群(HFD+L-Tyr)の血中グルコース含量が統計的に有意に減少したことを示し、p<0.05である。
【
図12】高脂肪食餌による第2型糖尿モデルマウスにおいて、L-チロシン食餌をしたマウスのインスリン抵抗性を確認した結果である。(A)は、経時的な血液中のグルコース含量を示すものであり、(B)は、(A)で曲線下面積(AUC)を示すものである。*、**、***は、一般食餌群(ND)対比で高脂肪食餌群(HFD)の血中グルコース含量が統計的に有意に増加したことを示し、*は、P<0.05であり、**は、P<0.01であり、***は、P<0.001である。#は、高脂肪食餌群(HFD)対比でL-チロシン含有食餌群(HFD+L-Tyr)の血中グルコース含量が統計的に有意に減少したことを示し、p<0.05である。
【
図13】組織内の脂肪蓄積変化(A)及び血漿内ROS/RNS含量変化(B)を確認した結果である。***は、ND対比でHFDまたは、HFD+Tyrの組織重さ及び血漿内ROS/RNS含量が統計的に有意に増加したことを示し、p<0.001であり、#、##は、HFD対比でHFD+Tyrの組織重さ及び血漿内ROS/RNS含量が統計的に有意に減少したことを示し、#は、P<0.05であり、##は、P<0.01である。
【
図14】チロシン食餌による発作程度の変化(A)、体重変化(C)及び生存率(D)を確認した結果であり、(B)は、(A)で曲線下面積(AUC)を示すものである。**、***は、ND対比で5xL-Tyrの発作程度が統計的に有意に減少したことを示し、**は、P<0.01であり、***は、P<0.001である。#は、CTLの発作前対比で発作後の体重が増加したことを示し、p<0.05である。
【
図15】カイニン酸を注射して生存したマウスの海馬組織でROS/RNS量的変化(A)及びGS活性度を分析した結果である。(A)において**、***は、CTL対比でROS/RNSの含量が増加したことを示し、**は、P<0.01であり、***は、P<0.001である。##、###は、KA注射し、一般食餌をしたND群対比でチロシン食餌群のROS/RNSの含量が統計的に有意に減少したことを示し、##は、P<0.01であり、###は、P<0.001である。(B)において*は、KA注射し、一般食餌をしたND群対比でチロシン食餌群のGS活性が統計的に有意に増加したことを示し、p<0.05である。
【
図16】カイニン酸によって海馬領域(CA1(A)、CA3(B))の神経細胞数及び同一部位のミクログリア細胞(microglia)活性度を分析した組織免疫化学染色結果である。*は、CTL対比で神経細胞数が減少したか、炎症を誘導するミクログリア細胞の活性が増加したことを示し、p<0.05であり、#は、チロシン食餌群で有意にミクログリア細胞活性が減少したことを示し、p<0.05である。
【
図17】晩成身体拘束ストレスモデルマウスでD-チロシンの認知障害予防効果を確認した結果である。
【
図18】エンドセリン-1(Endothelin-1)を用いた脳卒中(stroke)モデルマウスにおいてL-チロシンの脳梗塞(brain infarct)低減及びGS活性増進効果を確認した結果である。
【
図19】ヒト組換えMnSODを用いたチロシンの脱ニトロ化効果を確認した結果である。***は、過酸化窒素(2.1mM PN)群対比でチロシン投与群(L-Tyr, D-Tyr)のMnSOD活性が増加したことを示し、p<0.001である。
【
図20】急性腎不全に対するチロシンの効果を確認した結果であり、(A)抗酸化作用因子であるNQO-1の遺伝子発現量、(B)CuZnSOD活性、(C)MnSOD活性、(D)ROS/RNS含量及び(E)腎虚血及び再灌流24時間後、腎臓組織においてニトロチロシンタンパク質発現量を示すものである。
【
図21】腎臓損傷評価指標として血清クレアチニンを測定した結果である。*、**は、Sham群対比で統計的に有意にクレアチン(creatine)(A)、IL-1β(B)及びIL-6(C)の発現量が増加したことを示し、*は、P<0.05であり、**は、P<0.01である。#、##は、CMC+IR群対比でクレアチン(creatine)、IL-1β及びIL-6の発現量が減少したことを示し、#は、P<0.05であり、##は、P<0.01である。
【
図22】肝性脳症(高アンモニア血症)に対するチロシンの効果を確認した結果である。(A)血中アンモニア含量、(B)血漿内ALT及び(C)ニトロ化されたタンパク質含量を確認したウェスタンブロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、チロシンまたは食品学的に許容可能なその塩を有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または改善用健康機能食品組成物に関するものである。
【0012】
前記タンパク質内のチロシンのニトロ化は、チロシンヒドロキシラーゼ(tyrosine hydroxylase)、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(Mn Superoxide dismutase)、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(Cu/Zn Superoxide dismutase)、インスリン受容体βサブユニット(insulin receptor β subunit)、アネキシンIV (annexin IV)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(glutamate dehydrogenase)、3-α-OHステロイドデヒドロゲナーゼ(3-α-OH steroid dehydrogenase)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(glutathione S-transferase)、3-ケトアシルCoAチオラーゼ(3-ketoacyl CoA thiolase)、カタラーゼ(catalase)、Tauタンパク質、ミトコンドリア複合体1(mitochondria complex 1)、α-シヌクレイン(α-synuclein)、アポジダンバック-A1(apolipoprotein-A1)、アミロイド-β(amyloid-β)及びNMDA受容体(NMDA receptor)のうち、選択されたいずれか1つのタンパク質内のチロシンのニトロ化であることが望ましいが、それに限定されるものではない。
【0013】
前記タンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患は、うつ病(depressive disorder)、不安障害(anxiety disorder)、脳卒中(stroke)、癲癇(epilepsy)、緑内障(glaucoma)、糖尿病(diabetes)、糖尿病網膜症(diabetic retinopathy)、発作(seizure)、肝性脳症(hepaticencephalopathy)、認知機能障害(cognitive impairment)、脳発達障害(brain development impairment)、癌(cancer)、アルツハイマー病(Alzheimer disease)、急性腎障害(Acute kidney injury)及び高アンモニア血症(Hyperammonemia)のうち、選択されたいずれか1つであることが望ましいが、それらに限定されない。
【0014】
前記タンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)は、脳、肝、筋肉、脂肪組織、腎臓組織、膵膓または肺で発生するが、それらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の有効成分であるチロシンを投与する量は、下記表1に開示した量で投与することが望ましいが、それに制限されるものではない。
【0016】
【0017】
前記健康機能食品組成物は、丸、錠剤(tablet)、カプセル(capsule)、散剤、粉末、顆粒、キャンデー、シロップ及び飲料のうち、選択されたいずれか1つによって製造するか、食品の成分として添加して製造され、通常の方法によって適切に製造されうる。
【0018】
本発明の有効成分を添加することができる食品の一例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤のうち、選択されたいずれか1つの形態でもあり、通常の意味での健康機能食品をいずれも含む。
【0019】
前記健康機能食品は、さまざまな栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成及び天然風味剤、着色剤及び増進剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有しうる。その他、天然果物ジュース及び野菜飲料の製造のための果肉を含有しうる。このような成分は、独立して、または組み合わせによって使用しうる。
【0020】
本発明の健康機能食品組成物は、さまざまな香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含むことができる。前記天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド、マルトース、スクロースのようなジサッカライド、及びデキストリン、シクロデキストリンのようなポリサカライド、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。甘味剤としては、タウマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤や、サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを使用することができる。
【0021】
また、本発明は、チロシンまたは、薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含むタンパク質内のチロシンのニトロ化(nitration)による疾患の予防または治療用薬学組成物に関するものである。
【0022】
前記チロシン以外に、さらに薬剤学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含みうる。本発明の薬学組成物は、経口または非経口によって投与され、非経口投与時、皮膚外用または腹腔内、直腸、静脈、筋肉または皮下注射方式を選択することが望ましいが、それに限定されるものではない。
【0023】
本発明の薬学組成物は、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤されうる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、そのような固形製剤は、1つ以上の化合物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単なる賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使用される。経口投与のための液状製剤としえは、懸濁剤、内溶液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外にさまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれうる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤及び懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(propyleneglycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが使用されうる。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴ-ル、ツイーン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロール、ゼラチンなどが使用されうる。
【0024】
本発明による組成物は、薬剤学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬剤学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恵み/危険の比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効容量レベルは、患者の疾患の種類、重度度、約物の活性、約物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時使用される薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られた要素によっても決定される。本発明の組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与され、従来の治療剤とは順次または同時に投与され、単一または多重投与されうる。前記要素をいずれも考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定されうる。
【0025】
本発明の組成物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重度度によって、その範囲が多様に使用されうる。
【0026】
また、本発明は、ニトロ化(nitration)チロシンを含むタンパク質にチロシンを処理してニトロ化チロシンからニトロ基を除去する方法に関するものである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をさらに具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がそれらによって制限されないということは、当該技術分野で通常の知識を有する者にとって自明である。
【0028】
1.動物モデル
本発明では、7週齢C57BL/6雄マウス28匹(韓国コアテック)を標準条件(温度22~24℃、湿度50~70%、午前6時に点灯される12時間明暗周期)によって飼育し、この際、食餌療法と水を自由に摂取可能にした。本発明で使用した動物は、国立保健院(NIH、Bechesda、MD、USA)の指針による慶尚大学校動物保護及び使用委員会(GNU IACUC)から承認されたプロトコル(GNU-161128-M0068)によって実施した。
【0029】
2.血漿及び前頭前野(prefrontal cortex; PFC)試料準備
脳の血液とPFC試料は、それぞれCO2ガスで痲酔されたマウスからサンプリングした。マウス血液は、午前9時~11時に採取してK3EDTAでコーティングされた真空容器に収集した。血漿は、4℃で500×gで10分間遠心分離して獲得し、PFC試料は、重さをはかった後、Bullet組織破鎖機を用いて組織を破鎖し、4℃で12,000rpmで20分間遠心分離した。前記獲得した血漿と組織破砕物(lysate)は、使用前まで-80℃で保管した。
【0030】
3.コルチコステロン(corticosterone)及びROS/RNS(reactive oxygen species/reactive nitrogen species)確認
10μgの破砕物をGSアッセイ緩衝液(50mMのイミダゾール-HCl、pH6.8、50mML-グルタミン、25mMのヒドロキシルアミン、25mMのヒ酸ナトリウム(sodium arsenate)、2mMのMnCl2及び0.16mMのADP)50mlに混合して37℃で1時間インキュベーションした。
【0031】
混合後、停止緩衝液(90mMのFeCl3、1.8NのHCl及び1.45%trichloroacetic acid)50μlを添加して反応を停止させ、GSによるグルタミン(glutamine)及びヒドロキシルアミン(hydroxylamine)反応から合成されたγ-グルタミルヒドロキサム酸(γ-glutamylhydroxamate)をマイクロプレートリーダーを用いて560nmで測定した。
【0032】
ウェスタンブロット及び免疫沈降(IP)-WBを用いてGS及びTyr-nitriation GSのレベルをそれぞれ測定し、Tyr-nitriation GSの免疫沈降分析は、抗-3-ニトロチロシン抗体(ab61392, Abcam, Cambridge, UK)及びタンパク質A/Gプラスアガロス(Santa Cruz, Dallas, TX, USA)を用いて製造社のプロトコルによって実施し、GSのウェスタンブロットは、抗-GS(1:5000、Abcam)を用いて実施した。
【0033】
実施例1.晩成不動姿勢ストレス(Chronic immobilization stress; CIS)による行動分析、グルタミン合成酵素(GS)活性変化及びGS内のnitration-チロシンの含量確認
動物モデルは、2グループ(正常群、ストレス群)に分け、ストレス群は、毎日2時間(午後2~4時)個別的に拘束器具に強制動員して晩成的不動姿勢ストレスを15日間与え、隔日に体重変化と飼料摂取量を測定した。
【0034】
以後、動物を犠牲させて血漿内コルチコステロン(corticosterone)含量変化を確認し、血漿及びPFCでのROS/RNSを確認した。コルチコステロンの含量は、ELISAキット(Cayman)を用いて製造社の方法によって実施し、ROS/RNSは、ROS/RNSアッセイキット(Cell Biolabs, San Diego, CA, USA)を用いて製造社の方法によって実施した。
【0035】
その結果、
図1に開示したように、ストレスを加えない対照群(CTL)に比べて、晩成ストレスを加えたストレス群(STR)の体重は、7日~15日間減少する傾向を示したが、飼料摂取量は、ほとんど差がないと示され、コルチコステロン含量とROS/RNSも統計的に有意に増加した。
【0036】
一方、対照群対比でストレス群のグルタミン合成酵素(GS)の発現量は減少しておらず、GS内のチロシンがニトロ化されたレベルが統計的に有意に増加しただけではなく、GS活性が統計的に有意に減少したことを確認した。
【0037】
また、10μgのPFC(prefrontal cortex)組織破砕物に0.0031~0.45mg/mlのチロシンを添加して混合し、10分間氷でインキュベーションし、過酸化窒素(PN)を前記組織破砕物の10倍の体積になるように混合した後、10分間インキュベーションした後in vitro GS 活性を確認した結果、チロシン濃度の増加によってGS活性も増加することを確認した。
【0038】
実施例2.チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)の体重及び飼料摂取量変化確認
動物モデルは、2グループ(正常群、ストレス群)に分け、ストレス群は、毎日2時間(午後2~4時)個別的に拘束器具に強制動員し、晩成的不動姿勢ストレスを15日間与え、隔日で体重変化と飼料摂取量を測定した。
【0039】
前記正常群及びストレス群は、栄養均衡が合う一般食餌群と本発明のチロシン(tyrosin)が補充(181.2mg/kg)された食餌群に再び分類して給与した。
【0040】
その結果、
図2に開示したように、チロシン食餌如何による体重の変化または飼料摂取量の差はないと確認された。
【0041】
以後、OFT(Open field test)、TST(tail suspension test)及びSPT(sucrose preference test)を含む行動分析を実施した。
【0042】
OFT(オープンフィールドテスト)は、四角形箱(60×60×20cm)で遂行し、マウスを、箱の中央領域(30×30cm)に配置し、その動作を5分間追跡し、総移動距離、中央地域での持続時間、中央地域への進入試図頻度数を測定した。
【0043】
TST(テールサスペンジョンテスト法)は、マウスを水平棒がある箱で個別的にぶら下げて、動かない持続時間を測定するために6分間動きを追跡した。
【0044】
SPT(ショ糖嗜好性テスト)は、48時間0.1Mのショ糖(sucrose)及び水を提供して習慣を入れた後、24時間0.1Mのショ糖(sucrose)及び水を提供せず、以後、6時間0.1Mのショ糖(sucrose)及び水を提供し、3時間0.1Mのショ糖(sucrose)及び水の位置を変更した。
【0045】
次いで、ショ糖及び水の消費量を測定し、ショ糖選好総消費量対比で提供したショ糖の割合で計算した。
【0046】
その結果、
図3に開示したように、オープンフィールドテストにおいて、正常群(CTL)対比でストレス群(STR)が中央地域に滞留する時間、動く距離、中心に移動する回数が減少したが、ストレス群のうち、一般式が(ND)群に比べてチロシン食餌群(TD)の中央地域に滞留する時間、動く距離、中心に移動する回数が増加したことを確認した。
【0047】
また、テールサスペンジョンテスト(TST)においてストレス群の一般食餌群(ND)は、動かない時間が正常群(CTL)に比べて、統計的に有意に増加し(p<0.05)、これに対比して、チロシン食餌群は、動かない時間が統計的に有意に減少した(p<0.05)。
【0048】
また、ショ糖嗜好性テストでも、ストレス群のショ糖選好度が正常群に比べて統計的に有意に減少したが(p<0.001)、ストレス群の一般食餌群対比で本発明のチロシン食餌群のショ糖選好度は、統計的に有意に増加した(p<0.01)。
【0049】
以後、動物を犠牲させて確認した血漿において、コルチコステロン含量を確認した結果、
図4に開示したように、ストレスによってコルチコステロン含量が増加したが、ストレス群の一般食餌群対比でチロシン食餌群ではコルチコステロンの含量が統計的に有意に減少したことを確認し(#、p<0.05)、血漿とPFC組織でROS/RNSを確認した結果、ストレス群の一般食餌群対比でチロシン食餌群では、ROS/RNSが統計的に有意に減少したことを確認した(**:p<0.01、*:p<0.05)。
【0050】
一方、対照群対比でストレス群の一般式が(ND)及びチロシン食餌(TD)2つともグルタミン合成酵素(GS)の発現量は類似に示されたが、ストレスによってGS活性は減少したが、ストレス群で一般食餌群に対比してチロシン食餌群は、GS活性が統計的に有意に増加し、GS内のN-tyr(nitraionチロシン)の含量がストレスによって統計的に有意に増加したが、チロシン食餌群は、一般式がストレス群に比べて統計的に有意にN-tyrの含量が減少した(
図5)。
【0051】
実施例3.チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)のPFCにおけるグルタミン酸塩、グルタミン、チロシン及びGABA含量確認
PFCにおいてアミノ酸(グルタミン酸塩、グルタミン、チロシン)及びGABAの含量を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)で定量した。
【0052】
まず、PFC組織を破鎖して組織の上澄液を取って内部標準物質(L-Glu-d5)と移動相で希釈した。希釈した試料を5個に分注してLC-MS/MSシステム(Agilent 6460)に注入した。カラムは、SeQuant ZIC(登録商標)-HILICカラム(2.1×100mm, 3.5μm, 100Å)を使用し、移動相は、0.1%ギ酸を含むアセトニトリル(acetonitrile)を使用して濃度勾配を与えて分離した。
【0053】
アミノ酸検出は、複数反応監視検出法を用いた(Gluのm/z 148→84, Glnのm/z 147→84, GABAのm/z 104→87及び内部標準物質のm/z 153→88)。
【0054】
その結果、
図6に開示したように、PFCでストレス群の一般食餌群は、正常群対比でグルタミン酸塩、グルタミン、チロシン及びGABAの含量が減少し、それに対して、チロシン食餌群は、正常群レベル以上にグルタミン酸塩、グルタミン、チロシン及びGABAの含量が増加したことを確認した。
【0055】
実施例4.チロシン食餌(TD)をした晩成不動姿勢ストレス(CIS)誘導群(STR)のPFCにおけるアンモニア含量変化
組織が溶けないように、-20℃以下において、PFC組織重さを測定した後、1.5mlチューブに組織重さ10mg当たり100μlのRIPA(proteinase inhibitor cocktail, PIC含む)と適当な数のガラスビードを入れ、ブレットブレンダー(bullet blender)を用いて30秒間2回組織を破鎖した。組織破砕物をスピンダウン(spin down)して新たな1.5mlチューブに移し、1分間超音波を用いて組織粉砕した。12,000rpmにおいて15分間遠心分離後、上澄液を新たな1.5mlチューブに移し、試験に使用するまで、-80℃で保管した。前記過程において、PFC組織重さ測定を除いた全過程は、4℃で実施した。アンモニアアッセイキット(Ammonia assay kit: Sigma-Aldrich, Cat Num. AA0100)から提供されるアンモニア標準溶液(10μg/ml=588μM提供)を水で希釈して0(blank control), 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0μg/mlで製造し、PFC組織破砕物は、PBS緩衝液で2倍希釈した。
【0056】
前記アンモニアアッセイキットで提供するアンモニアアッセイ試薬100μlにPBS緩衝液で2倍希釈した試料10μl(組織5μgに相応)を入れ、常温で5分間インキュベーションした。同時にアンモニアアッセイ試薬100μlに対し、標準溶液10μlを入れ、常温で5分間インキュベーションした。PFC組織破砕物緩衝液(RIPA+PIC)による干渉影響を補正するために、PBS緩衝液で2倍希釈したRIPA+PICを緩衝液ブランク対照群として使用した。5分後、マイクロリーダーを用いて340nmで吸光度を測定した(Ainitial)。
【0057】
L-グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(glutamate dehydrogenase)溶液10μlを入れ、常温で5分間インキュベーションした後、340nmで吸光度を測定した(Afinal)。
【0058】
DA340nm(Afinal-Ainitial)を求め、標準の場合、ブランク対照群のDA340nmを、試料の場合には、緩衝液ブランク対照群のDA340nmを差し引いた。
【0059】
標準の結果値を用いて線状回帰(linear regression)を求め、それを用いてサンプルのアンモニア濃度を計算した。
【0060】
その結果、
図7にストレス群の一般食餌をした場合、正常群に比べて、アンモニア含量が増加し、それに対比して、本発明のチロシン食餌をした群は、正常群と類似したレベルでアンモニア含量が減少したことを確認した。
【0061】
実施例5.in vitro ニトロ化(nitration)抑制効果分析
【0062】
マウスPFCタンパク質に ONOO
-を処理してタンパク質のニトロ化を誘導し、チロシンによるニトロ化抑制効果を確認した。その結果、
図8に開示したようにチロシンの濃度依存的にタンパク質のニトロ化が抑制されることを確認し、ニトロ化抑制効果は、L-チロシン及びD-チロシンが両方とも類似したレベルと示された。
【0063】
また、本発明によるチロシンのニトロ化抑制効果をマウスの脳と肝組織破砕物(lysate)を用いて分析した。CO2ガスで痲酔されたマウスから前頭前野(prefrontal cortex, PFC)及び肝(liver)組織をそれぞれ採取して重さを測定した後、組織破鎖機を用いて組織を破鎖し、4℃、12,000rpmで20分間遠心分離した後、上澄液を取ってPFC及び肝組織破砕物(lysate)を得た。前記組織破砕物にタンパク質のニトロ化を誘導するペルオキシナイトライト(Peroxynitrite、PN)を添加し、グルタミン(Q)、L-チロシン(L-Y)及びD-チロシン(D-Y)を2mMの濃度でそれぞれ添加した後、5秒間ボルテックス(vortex)して混合し、氷で10分間反応させた。以後、抗ニトロチロシン抗体(1:1,000)、抗グルタミン合成酵素抗体(1:5,000)、抗インスリン受容体β抗体(1:1,000)または抗リン酸化インスリン受容体β抗体(1:1,000)を用いてウェスタンブロットを遂行した。
【0064】
その結果、PNによってPFC及び肝組織内のチロシンニトロ化が増加したタンパク質が増加したことを確認し、グルタミン合成酵素(GS)とインスリン受容体βサブユニット(IRb)以外の複数のタンパク質のニトロ化が増加したことを複数のバンドのウェスタンブロット結果で確認した。PNによってチロシンニトロ化が増加したタンパク質は、チロシン(Y)が末端に位置したペプチド処理によってニトロ化が減少したことを確認した(
図9A、9B)。PFCと肝組織で各処理群のタンパク質量の差がないということをGSとIRbとの発現によって確認した。しかし、IRbは、PNにニトロ化されてリン酸化された形態が減少したことを、リン酸化-IRb(IRb-p)のウェスタンブロットで確認した(
図9C、9D)。
【0065】
実施例6.高脂肪食餌第2型糖尿モデルマウスにおけるL-チロシンのインスリン敏感度増進効果の確認
(1)高脂肪食餌第2型糖尿モデル確立
3週齢C57BL/6マウス雄27匹を1週間飼育環境に適応させた後、3グループに分けてそれぞれ正常食餌(ND、normal diet;10kcal%fat、熱量3.85kcal/g)、高脂肪食餌(HFD、high fat diet;60kcal% fat、熱量5.24kcal/g)、L-チロシン(L-Tyr)添加高脂肪食餌(HFD+L-Tyr;181mgのL-チロシン/kg含む)を提供し、水と飼料は、自由に摂取可能にした。3ヶ月間2日ごとに体重と飼料摂取量を測定し、1週ごとに血糖を測定した。
【0066】
その結果、
図10に開示したように、体重は、漸進的に増加し、同日付を基準に、HFD及びHFD+L-Tyrグループの体重がNDよりもさらに重いことを確認し、HFD及びHFD+L-Tyrグループの体重変化は、類似したレベルと示された。飼料摂取量には、グループ間差がほとんどなく、期間による差も発生しておらず、血糖は、正常食餌群(ND)に比べてHFD群の血糖が統計的に有意に増加し、HFD群対比でHFD+L-Tyr群の血糖が統計的に有意に減少した。
【0067】
(2)ブドウ糖耐糖能検査
1×PBSにD-グルコースを溶解させて40%D-グルコース溶液を準備した。16時間禁食したマウスの血糖を測定した後、体重1kg当たり2gのグルコースを腹腔注射するために、数式1によってグルコース溶液を腹腔注射した。
(数式1)
グルコース注射量(μl)=体重(g)×5
【0068】
一例として、体重45gであるマウスには、40%グルコース溶液225μlを注射した。グルコース溶液を腹腔注射した後、30、60、90及び120分時点に血糖を測定した。
【0069】
その結果、
図11に開示したように正常食餌群(ND)に対比して、高脂肪食餌群(HFD)の血液中のグルコース含量が統計的に有意に増加し、これに対比して、本発明のL-チロシン(L-Tyr)添加高脂肪食餌群(HFD+L-Tyr)は、血液中のグルコース含量が減少した。
【0070】
(3)インスリン抵抗性試験
インスリンを生理食塩水で希釈して0.15U/ml溶液を準備した。6時間禁食したマウスの血糖を測定した後、インスリンを腹腔注射した(0.75U/体重(kg))。インスリンを腹腔注射した後、15、30、60及び90分時点に血糖を測定した。
(数式2)
インスリン注射量(μl)=体重(g)×5
【0071】
その結果、
図12に開示したように正常食餌群(ND)に対比して、高脂肪食餌群(HFD)の血液中のグルコース含量が統計的に有意に増加し、これに対比して、本発明のL-チロシン(L-Tyr)添加高脂肪食餌群(HFD+L-Tyr)は、血液中のグルコース含量が減少した。
【0072】
(4)組織内の脂肪蓄積変化及び血漿内ROS/RNS含量変化確認
アベルチン(Avertin)でマウスを痲酔し、心臓を介して血液を採取して真空採血器(Vacutainer)のEDTAと反応させた後1,500×g、4℃で15分間遠心分離し、血漿を分離した。PBSと4%パラフォルムアルデヒド(paraformaldehyde;PFA)を心臓を通じて灌流して組織を固定し、各組織を摘出してPFAに保管した。
【0073】
血漿内活性酸素/窒素(ROS/RNS)濃度は、血漿をPBSに3倍希釈した後、Oxiselect ROS/RNSアッセイキット(Cell Biolabs)を使用しておすすめの実験方法通りに測定した。
【0074】
その結果、HFD動物モデルでチロシンが全般的な肝の脂肪蓄積を減少させ、腎臓周辺脂肪組織の量は、統計的に有意に減少させたことを確認し、正常食餌群(ND)に対比して、高脂肪食餌群(HFD)の血漿内ROS/RNSレベルが統計的に有意に増加し、これに対比して、本発明のL-チロシン(L-Tyr)添加高脂肪食餌群(HFD+L-Tyr)は、血漿内ROS/RNSレベルが統計的に有意に減少した(
図13)。
【0075】
実施例7.カイニン酸(Kainic acid)で発作を誘発させた癲癇発作モデルマウスにおけるL-チロシンの興奮毒性と酸化ストレス抑制効果確認
カイニン酸(KA)で発作を誘発させた癲癇発作動物モデルを用いてチロシンの文塁打メートの興奮毒性抑制効果を確認した。マウスを7日間チロシンの量を異なって摂取させた動物に同一量のカイニン酸を腹腔注射して発作程度を確認した。
【0076】
(1)癲癇発作
4週齢ICR雄マウスに1週間正常食餌またはL-チロシン含有食餌を提供し、水と飼料は、自由に摂取可能とした。
正常食餌(ND):AIN-93G
1×L-Tyr:181mg/kgのL-Tyrを含むAIN-93G
3×L-Tyr:543mg/kgのL-Tyrを含むAIN-93G
5×L-Tyr:905mg/kgのL-Tyrを含むAIN-93G
カイニン酸(Kainic acid: KA, Abcam)を湯煎で加熱しつつ生理食塩水に溶解して9mg/mlカイニン酸溶液を準備し、カイニン酸溶液を腹腔注射し(30mg/kg)、2時間、発作程度と症状を記録した。発作程度判断は、下記表2の基準によって適用し、カイニン酸注射前と、24時間後の体重を測定して比べた。
【0077】
また、カイニン酸を注射し、24時間後、生存したマウスの脳生組織を摘出するか、PFA灌流で組織固定後、脳を摘出した。
【0078】
【0079】
その結果、発作程度がチロシン含量によって差等的に軽減することを確認しており、実験群間の体重変化はないと示された(
図14)。また、チロシンを摂食していない動物の場合、カイニン酸による強い発作現象で120分を超えることができず、死ぬ個体が発生したが、チロシンの摂食量によってマウスが死ぬ現象も改善されることを確認し、900mg/kg(食餌重さ)のチロシンが含まれた飼料を摂取したマウスの場合、いずれも生存した。
【0080】
(2)ROS/RNS測定
脳組織中、海馬を組織質量10mg当たりRIPA buffer 100μl (proteinase/phosphatase inhibitor含む)を入れ、ガラスビード及びBullet Blenderを用いて1分間粉砕した。12,000×g、4℃で15分間遠心分離上澄液を分離し、PBSに10倍希釈してROS/RNS測定に使用した。ROS/RNS濃度は、Oxiselect ROS/RNSアッセイキット(Cell Biolabs)を使用し、おすすめの実験方法によって測定した。
【0081】
カイニン酸を注射して生存したマウスの海馬組織のROS/RNS量的変化とGS活性度を分析した結果、ROS/RNSの量がカイニン酸によって増加したが、チロシンを摂食させたマウスでは、対照群レベルに減少した(
図15)。
【0082】
(3)グルタミン合成酵素(GS)活性測定
96ウェルプレートに海馬溶解物2μlを入れ、50mMイミダゾール-HCl緩衝液(pH6.8)をさらに入れ、50μlに合わせた。GS活性アッセイ緩衝液(50mM imidazole-HCl、pH6.8、25mMのL-グルタミン、12.5mMのヒドロキシルアミン、12.5mMのヒ酸ナトリウム(sodium arsenate)、1mMのMnCl2及び0.08mMのADP)50μlを入れ、37℃で30~60分間反応させた。
【0083】
反応終了後、空ウェルに標準物質であるγ-グルタミルヒドロキサム酸(γ-glutamylhydroxamate)を0.391~25.0mMの濃度になるように添加した。試料と標準物質に100μlの反応停止液(90mMのFeCl3、1.8NのHCl及び1.45%(w/V)卜リクロロ酢酸(trichloroacetic acid)を添加し、560nm波長で吸光度を測定した。
【0084】
標準曲線との比較を通じて各サンプルのGS活性を求めた。GS活性は、最終生産物であるγ-グルタミルヒドロキサム酸の生成量で表現し、単位は、μM/min/μg proteinである。
【0085】
その結果、
図15に開示したようにGS活性がカイニン酸によって減少したが、チロシンを摂食させたマウスでは、対照群レベル以上に増加した。
【0086】
(4)組織免疫染色(Immunohistochemistry、IHC)
PBSとPFAを心臓を通じて灌流し、脳を摘出してPFAに15時間以上、後固定した。PBSで10分間3回洗浄し、振動ミクロトーム(vibratome)で40μm厚さに脳組織切片を獲得した。
【0087】
3%ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)を溶解させたIHC緩衝液(0.3% Triton X-100を含むPBS)に前記獲得した脳切片を室温で1時間ブロッキングした後、4℃で1次抗体(anti-NeuN (Millipore, MAB377, 1:500), anti-Iba1 (Wako, 019-19741, 1:200))と15時間以上反応させた(3%BSAを含むIHC緩衝液)。IHC緩衝液で10分ずつ3回洗浄し、蛍光標識された2次抗体(anti-Mouse IgG Alexa Fluor 488(Invitrogen, 1:1000), anti-Rabbit IgG AlexaFluor594 (Invitrogen, 1:000))と室温で2時間反応させた(3%BSAを含むIHC緩衝液)。IHC緩衝液で10分ずつ3回洗浄し、シラン(silane)コーティングされたガラススライドに切片を固定した。DAPIが含まれたanti-fade溶液を切片に載せてカバーガラスを覆って乾燥した。蛍光顕微鏡で撮影したイメージの信号密度をイメージJ分析プログラムを用いて分析した。
【0088】
カイニン酸によって誘発された発作モデルの脳組織を検査した結果、カイニン酸によって海馬領域(CA1、CA3)の神経細胞数が減少し、同一部位のミクログリア細胞(microglia)活性度が増加したが、チロシンを摂取した場合、神経細胞の数が保持され、炎症反応によってミクログリア細胞の活性が減少したことを確認した(
図16)。
【0089】
実施例8.晩成身体拘束ストレスモデルマウスでD-チロシンの認知障害予防効果確認
(1)晩成身体拘束ストレスモデル準備
C57BL/6雄マウス(7週齢)28匹を2グループに分けて正常食餌(AIN-93G)またはD-チロシン(D-Tyr)含有食餌(181mg D-Tyr/kg AIN-93G)を1週間提供した。水と飼料は、自由に摂取可能にし、1週に二回体重と飼料摂取量を測定した。
【0090】
8週齢から2週間、一日2時間ずつ200lux照明条件で晩成身体拘束ストレス(chronic immobilization stress, CIS)を加えた。対照群(CTL)、D-Tyr摂食対照群(CTL+D-Tyr)、晩成ストレス群(STR)、D-Tyr摂食晩成ストレス群(STR+D-Tyr)に分類し、各グループ当たり動物は、7匹で構成した。
【0091】
(2)認知機能試験
2週間のCIS終了後、認知機能試験を実施した。適応期間を含め、全試験期間の間、D-Tyr含有摂食を提供したグループと一般飼料摂食群の認知機能とを比較するために、長期記憶能力を試す事物認知機能試験(object recognition test, ORT)と事物位置認知機能試験(object location recognition test, OLT)を遂行した。
【0092】
ORT:適応(habituation)、親和(familiarization)、試験(test)の三段階で構成した。試験箱に一日10分ずつ二日間適応させ、3日目の親和段階には、2つの同じ事物を10分間探索するようにした。マウスを試験箱に入れるときは、物体のない壁側を眺めるように入れた。4日目の試験段階には、2つの事物のうち、1つを新たな事物に交換し、10分間探索するようにするが、最初5分間の記録をデータとして使用した。事物認知機能指数(DI)は、下記数式3で算出した。
(数式3)
DI(Descrimination Index)=[新規事物探索時間-見慣れた事物探索時間]/[新規事物探索時間+見慣れた事物探索時間]
【0093】
OLT:ORT遂行24時間後に見慣れた事物の位置を変更し、5分間探索するようにした。前記事物認知機能指数(DI)と同じ方法で、全体事物探索時間中、位置が移動された事物を探索する時間の割合を計算して事物位置認知機能指数を算出した。
【0094】
晩成ストレス軽度認知障害動物モデルを用いてチロシンの認知機能保護効能を確認するために、マウスにチロシンが添加された飼料を提供しながら、晩成ストレス(14日)を加えた結果、体重及び飼料摂取量は、チロシン含有如何による差が現われておらず、ORTでは、統計的有意差が確認できず、OLTでは、ストレスによって低下した認知機能がチロシンの摂取によって対照群レベルに保持可能にしたということを確認した(
図17)。
【0095】
実施例9.エンドセリン-1(Endothelin-1)を用いた脳卒中(stroke)モデルマウスにおいてL-チロシンの脳梗塞(brain infarct)と酸化ストレス低減効果確認
(1)脳卒中モデルマウス準備
8週齢C57BL/6雄マウスに1週間以上正常食餌またはL-チロシン含有食餌を提供し、水と飼料は、自由に摂取可能にした。
正常食餌(ND):AIN-93G
L-Tyr:905mg/kgL-Tyrを含むAIN-93G
【0096】
(2)エンドセリン-1(Endothelin-1)準備及び定位手術(stereotaxic surgery)
3次蒸溜水にエンドセリン-1(Endothelin-1)を入れ(2μg/μl)、強力にvortex後、4℃で約10分間超音波を用いて完全に溶解させた。
【0097】
痲酔剤アバチン(avertin:マウス重さ25g当たり0.5ml)を腹腔注射してマウスを痲酔させた後、定位手術を通じて2μgのエンドセリン-1(Endothelin-1)を大脳の運動皮質領域(bregmaを中心にAP 1.5mm, ML -1.5mm, DV 1.8mm)に注入した。1分当たり0.3μlの速度で注入し、注入完了後、約5分間針をそのまま置いてエンドセリン-1(Endothelin-1)が十分に組織に吸収されるようにした。皮膚縫合後に元のケージで回復させた。
【0098】
(3)組織染色
PBSとPFAを心臓を通じて灌流し、脳を摘出してPFAに15時間以上後固定した。PBSで10分間3回ウォシングし、vibratomeで40μm厚さに脳組織切片を切り取り、エンドセリン-1(Endothelin-1)を注入した地点で4枚ずつの切片をsilaneコーティングされたガラススライドに固定した。乾燥した切片は、0.1%cresyl violet溶液に5分間浸漬した後、3次蒸溜水に2回浸漬して染色液を洗浄した。100%エタノールに2~3秒間浸漬し、脱水させた後、キシレンに5秒間2回洗浄した。Mount溶液を塗布した後、カバーグラスで覆って乾燥させた。染色された切片試料を光学顕微鏡で観察し、保存されたイメージを対象にイメージJプログラムを用いて脳梗塞部位の面積を算出した。
【0099】
(4)グルタミン合成酵素(GS)活性測定
96ウェルプレートに大脳運動皮質 lysate 2μlを入れ、50 mM imidazol-HCl buffer (pH 6.8)をさらに入れ、50μlに合わせた。GS活性 assay buffer (50 mM imidazole-HCl, pH 6.8, 25 mM L-glutamine, 12.5 mM hydroxylamine, 12.5 mM sodium arsenate, 1 mM MnCl2 and 0.08 mM ADP)50μlを入れ、37゜で30-60分間反応させた。
【0100】
反応終了後、空ウェルに標準物質であるγ-glutamylhydroxamate(0.391~25.0mM)を入れた。試料と標準物質に100μlの反応停止液(90mM FeCl3, 1.8N HCl及び1.45%卜リクロロ酢酸(trichloroacetic acid))を入れ、560nm波長で吸光度を測定し、標準曲線との比較を通じて各試料のGS活性を求めた。GS活性最終生産物であるγ-glutamylhydroxamateの生成量で表現し、単位は、μM/min/μg proteinである。
【0101】
エンドセリン-1(Endothelin-1)をマウス脳のmotor cortexに注入して血管性脳卒中を誘導した実験結果、endothelinを投与した実験群ではsalineを投与した対照群に比べて梗塞体積(infarct volume)が急増し、チロシンを900mg/kg(飼料重さ)の容量で摂食させた実験群でinfarct volumeが減少したことを確認した。また、組織のGS活性度が対照群に比べてエンドセリン-1(Endothelin-1)によって減少したが、tyr食餌によってGSの活性が保持されることを確認することができる(
図18)。
【0102】
実施例10.ヒト組換えMnSODを用いたチロシンの脱ニトロ化効果確認
1)ペルオキシナイトライト(Peroxynitrite)定量
ペルオキシナイトライト(Peroxynitrite)を0.3M NaOHに40倍希釈して302nmで吸光度を測定し、ペルオキシナイトライト(Peroxynitrite)のモル吸光係数(ε302 = 1670 M-1cm-1)を用いて定量した。
【0103】
2)SOD活性測定
SOD活性測定は、Thermofisher社のSOD非色反応活性キットを用いた。標準SODに範囲内のヒト組換えMnSOD、ペプチドとペルオキシナイトライトを混合し、氷で10分間反応させた。標準SODまたは反応させた混合物10μlとキットで提供する気質溶液50μlを96ウェルプレートに入れ、450nmで吸光度を測定した。キットで提供するキサンチン酸化酵素25μlを入れ、常温で20分間反応させた後、450nmで吸光度を測定した。2次測定吸光度から1次測定吸光度を差し引いたデータを用いてSOD活性を測定した。
【0104】
その結果、SODは、生体内の活性窒素種によってSOD活性が低下した。MnSODの活性度は、Peroxynitriteによって減少するが、添加したTyr(L-、D-form)にSOD活性が保持されることを確認した(
図19)。
【0105】
実施例11.急性腎不全に対するTyrの効果確認
(1)動物実験
23~25gの雄性C57BL/6マウス(コアテック)を温度と湿度とが一定に保持される無菌飼育室で自由に水と飼料とを摂取するようにし、1)対照群(Sham)、2)調剤溶媒処置腎虚血及び再灌流誘発群(CMC+IR)、3)L-tyrosine処置腎虚血及び再灌流誘発群(L-Tyr+IR)など3個実験群に分けた。
【0106】
L-チロシン(100mg/kg)は、0.5%CMC(carboxymethyl cellulose)に懸濁した。L-チロシンまたは調剤溶媒CMCを4日間、一日1回経口投与し、4日目経口投与30分後、腎虚血を誘発した。腎虚血は、腹部を切開し、Muller atraumatic vascular clampを用いて両側腎茎(renal pedicle)を鉗子して誘発し、25分虚血後、clampを除去して再灌流した。対照群(Sham)は、鉗子を通じた虚血誘発を除いた全ての手術過程を同一に施行した。再灌流後24時間に実験動物を犠牲させて心臓から血液を採取し、組織を摘出した。
【0107】
(2)血清クレアチニン
採取した血液を3,000rpmで15分間遠心分離して血漿を分離し、Jaffe法を用いて血中クレアチニンを測定した。Jaffe法は、510nm波長で血漿試料をピクリン酸と反応して測定した吸光度と、l60%酢酸で反応を終了させた後に測定した吸光度との差でクレアチニン量を計算してmg/dl単位で示した。
【0108】
(3)定量的リアルタイム重合酵素反応
Trizol方法で腎臓組織からtotal RNAを抽出し、Revert Aid逆転写システム(Thermofisher)を使用してcDNAを合成した。iQ SYBR Green Super mix(Bio-Rad)を使用してCFX Connect Real-Time PCRシステム(Bio-Rad)で定量的PCRを遂行した。ハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを使用した。実験に使用したプライマーは、表3に開示した。
【0109】
【0110】
(4)ウェスタンブロット
腎臓組織をRIPA緩衝液で均質化し、16,000×g、4℃で15分間遠心分離した後、上澄液を収集してBCA法でタンパク質を定量した。SDS-PAGEで電気泳動した後、PVDFメンブレンに移動させ、5%脱脂粉乳でブロッキングした。以後、ニトロ-チロシン及びβ-actin1次抗体及び相応する2次抗体を反応させた後、ECL法でChemiDoc XRS+システム(Bio-Rad)で分析した。
【0111】
ROS(Reactive oxygen species)またはRNS(reactive nitrogen species)による酸化的ストレスは、腎虚血及び再灌流損傷による急性腎不全の主要メカニズムであり、抗酸化因子の増加は、腎虚血及び再灌流損傷を抑制するのに重要である。腎虚血及び再灌流24時間後の腎臓組織において抗酸化作用因子であるNQO-1の遺伝子発現を測定した結果、L-チロシン投与は、NQO-1の遺伝子発現を調剤溶媒投与群に比べて、統計的に有意に増加させた(#、p<0.01)。ミトコンドリアにおいてROS/RNSの含量もIRによって約6倍以上増加したが、Tyrによって抑制されているということを確認した。MnSODとCu/Zn SODの活性度がIRによって減少したが、Tyrによって回復することを確認した。腎虚血及び再灌流24時間後の腎臓組織においてニトロチロシンタンパク質がsham群に比べて増加し、そのような増加は、L-tyrosine投与によって顕著に減少した(
図20)。
【0112】
また、
図21に開示したように腎臓損傷評価指標として血清クレアチニンを測定した結果、血清クレアチニンは、腎虚血及び再灌流24時間後のsham群に比べて、約5.9倍増加し、そのような増加は、L-tyrosine投与によって統計的に有意に抑制され、腎虚血及び再灌流損傷による急性腎不全の主要発病メカニズムであって、炎症反応を確認するために腎臓組織で炎症性サイトカイン(IL-1b及びIL-6)の遺伝子発現を測定した結果では、腎虚血及び再灌流24時間後のIL-1b及びIL-6遺伝子発現がsham群に比べて増加し、そのような増加は、L-tyrosine投与によって統計的に有意に抑制された。
【0113】
実施例12.Azoxymethanを用いた肝性脳症(高アンモニア血症)に対するTyrの効能実験
(1)動物実験
雄性13週C57BL/6マウス(コアテック)を温度及び湿度が一定に保持される無菌飼育室で自由に水と飼料を摂取させ、(1)対照群(Control)、(2)Carboxymethyl cellulose+Azoxymethane処置群(CMC+AOM )、(3)L-チロシン+AOM処置群(L-Tyr+AOM)など3個実験群に分けた。L-チロシン(100mg/kg)は、0.5%CMC(carboxymethyl cellulose)に懸濁した。L-チロシンまたは調剤溶媒CMCを4日間、一日1回経口投与し、4日目経口投与2時間後、AOM(100mg/kg、100ml)を腹腔注射した。AOMを投与し、12時間後、脱水を予防するために、0.5%グルコースを含む生理食塩水200mlを腹腔注射し、4時間後、実験動物を犠牲させて心臓から血液を採取し、肝組織を摘出した。
【0114】
(2)血中アンモニア分析
血中アンモニア量は、単一波長反射測定法分析用測定器であるPocketChem BA PA-4140(Arkray, Japan)を使用して測定した。検査紙に血液を20μl滴下し、室温で3分間反応させ、測定器に挿入して635nm(LED)波長で吸光度を測定して結果をμg/dl単位で示した。
【0115】
(3)血漿ALT分析
肝細胞損傷の血液指標であるALT(alanine aminotransferase)は、採取した血液を3,000rpmで15分間遠心分離して血漿を分離し、ChemiLab GPTアッセイキット(IVD-LAB, Korea)を使用して測定した。Kitの標準測定法によって分光光度計の340nm波長で吸光度を測定し、結果をU/L単位で示した。
【0116】
(4)Western blot
肝組織をRIPA緩衝液で均質化し、16,000×g、4℃で15分間遠心分離した後、上澄液を収集してBCA法でタンパク質量を定量した。SDS-PAGEに電気泳動した後、PVDFメンブレンに移動させ、5%脱脂粉乳でブロッキングした。以後、ニトロ-チロシン及びβ-actin1次抗体及び相応する2次抗体を反応させた後、ECL法でChemiDoc XRS+システム(Bio-Rad)で分析した。
【0117】
アンモニアは、アミノ酸と核酸の主代謝物であり、アンモニアを尿素に転換させる尿素回路の主要酵素が肝細胞にのみ存在し、アンモニア濃度を低めるGSとSOD、活性酸素を除去するcatalaseなども肝組織に豊富に存在するので、肝臓を経て脳に上がる血管の血中アンモニア濃度変化は、肝性脳症に重要な指標となる。AOMによる急性肝性脳症モデルにおいて、血中アンモニアを測定した結果、CMC+AOM処置群は、正常対照群に比べて血中アンモニア濃度が6.7倍増加し、L-tyrosine投与は、AOMによる血中アンモニア増加を統計的に有意に抑制した。肝実質細胞の損傷は、細胞質に存在するALTの血中遊離を誘発し、その濃度が増加するので、その酵素の活性を測定することは、肝損傷の程度を知り得る直接的な指標である。AOMによる急性肝性脳症モデルにおいて、血漿内ALTを測定した結果、CMC+AOM処置群は、血漿ALTが対照群に比べて約65倍増加し、L-tyrosine投与は、AOMによる血漿ALT増加を統計的に有意に抑制した。AOM投与16時間後の肝組織において、ニトロチロシンタンパク質が対照群に比べて増加し、そのような増加は、L-tyrosine投与によって顕著に減少し、その結果は、Tyrが肝に存在するタンパク質のnitrationを抑制して肝に流入されたアンモニアを除去可能にするという証拠となった(
図22)。
【0118】
(統計処理)
本発明の全てのデータは、平均±SEMで示し、Dunnetts Multiple Comparison Testを用いた一元配置分散分析(ANOVA)またはGraphPadプリズム5(GraphPad Software)を用いたスチューデントt検定(p<0.05)で統計分析された。
【配列表】
【国際調査報告】