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特表2023-532991プログラム可能なオルガノイド、ならびに直交分化およびバイオプリンティングによるその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】プログラム可能なオルガノイド、ならびに直交分化およびバイオプリンティングによるその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230725BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20230725BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230725BHJP
   C07K 14/485 20060101ALN20230725BHJP
   C07K 14/50 20060101ALN20230725BHJP
   C12N 9/50 20060101ALN20230725BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20230725BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N5/10
C12N15/113 Z
C07K14/485
C07K14/50
C12N9/50
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023500341
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 US2021040519
(87)【国際公開番号】W WO2022010901
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】63/048,502
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スカイラー-スコット,マーク アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,ジェニファー,エー.
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ジェレミー ユエンチェン
(72)【発明者】
【氏名】ル,ジンチェン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥエンキ,トモヤ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA60
4H045AA20
4H045CA40
4H045DA20
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を作製する方法が本明細書に記載されている。また、記載されている方法により製造されるプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織も記載されている。また、機能的ヒト組織構築物を作製するインビトロ方法も本明細書に記載されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を作製する方法であって、
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を細胞培養培地内で培養すること、
同時に、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化(direct differentiation)および/または分化転換を誘導して、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐(divergent)集団を生成させ、ここで、該誘導工程は、該細胞培養培地により供与されるいずれの外的な刺激(cue)からも独立であること、ならびに、
それにより、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐集団を含む、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を形成させること
を含む、前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団が、多能性(pluripotent)幹細胞、複能性(multipotent)幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞、内皮細胞、内皮前駆細胞、不死化細胞株または初代細胞からなる群から選択される幹細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団が、構成的プロモーター、小分子誘導性プロモーター、細胞自律的プロモーター、細胞非自律的プロモーター、選択マーカーまたはそれらの組合せの少なくとも1つを含むDNA運搬要素を導入することにより作製される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団が少なくとも1つの転写因子を過剰発現する、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの転写因子が、ETV2、NGN1、Tbr1、Fezf2、Ctip2、SATB2、LMX1A、NR4A2、Isl1、St18、FOXA2、PITX3、Asc1、Smad7、Nr2f1、Dlx2、Dlx4、Nr2f2、Barhl2およびLhx1からなる群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の分化および/または分化転換を、小分子、増殖因子、溶存ガスまたはモルフォゲンを細胞培養培地に添加すること、または細胞培養培地から除去することにより誘導する、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の分化および/または分化転換を細胞培養培地内へのドキシサイクリン(DOX)の添加により誘導する、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
培養工程を分化培地内で行う、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
分化培地がドキシサイクリン(DOX)を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
細胞の野生型集団を培養すること、ならびに細胞の野生型集団から、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の異なる集団への分化を誘導することを更に含む、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
細胞の野生型集団の分化を、小分子、増殖因子、溶存ガスまたはモルフォゲンを細胞培養培地に添加すること、または細胞培養培地から除去することにより誘導する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
培養工程が、少なくとも2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を細胞培養培地内で培養することを含む、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
多能性細胞集団の初期比率および/または組成の調整が、生じる3Dヒト組織内の異なる細胞型および量を決定論的に定めることを可能にするための、請求項1~12のいずれか1項記載の方法の使用。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項記載の方法により製造されるプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織。
【請求項15】
機能的ヒト組織構築物を作製するインビトロ方法であって、該方法が、
請求項14記載のプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を組織構築物内に埋め込むことであって、該組織構築物は第1血管網と第2血管網とを含み、各血管網は1以上の相互接続血管チャネルを含む、該埋め込むこと、
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を1以上の生物学的因子、生物学的因子勾配、圧力、圧力勾配および/または酸素圧勾配に曝露し、それにより、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織に対して、ならびに/あるいはプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織から、毛細血管の血管新生を誘導すること
を含み、ここで、該曝露工程は、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織の血管化を促進し、ここで、毛細血管は第1血管網を第2血管網に接続し、それにより、単一の血管網と灌流可能な組織構造とを含む機能的ヒト組織構築物を生成する、前記方法。
【請求項16】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を、多能性幹細胞、複能性幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞、内皮細胞、内皮前駆細胞、不死化細胞株または初代細胞のうちの少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な集団を細胞分化培地内で培養することにより作製する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
胚様体またはオルガノイドを、多能性または複能性幹細胞を細胞分化培地内で培養することにより作製する、請求項15記載の方法。
【請求項18】
1以上の生物学的因子、生物学的因子勾配、圧力、圧力勾配および/または酸素圧勾配が更に、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織の発生、分化および/または機能を導く、請求項15記載の方法。
【請求項19】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織が、脳オルガノイドまたは組織、甲状腺オルガノイドまたは組織、腸または消化管オルガノイドまたは組織、肝臓オルガノイドまたは組織、膵臓オルガノイドまたは組織、胃オルガノイドまたは組織、腎臓オルガノイドまたは組織、網膜オルガノイドまたは組織、心臓オルガノイドまたは組織、骨オルガノイドまたは組織、および上皮オルガノイドまたは組織からなる群から選択される、請求項15~18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を、
組織構築物内の1以上の生物学的因子の拡散、
組織構築物内の、1以上の生物学的因子がローディングされた物質の局在化堆積、
局在化タンパク質翻訳による増殖因子の局在化デノボ(de-novo)産生、または
1以上の生物学的因子による第1血管網および第2血管網の一方もしくは両方の灌流
のうちの少なくとも1つにより、1以上の生物学的因子および/または生物学的因子勾配に曝露する、請求項15~19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
生物学的因子が、増殖因子、モルフォゲン、小分子、薬物、ホルモン、DNA、shRNA、siRNA、ナノ粒子、mRNA、修飾mRNAのうちの1以上を含む、請求項15~20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
増殖因子が、血管内皮増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、ホルボールミリスタートアセタート(PMA)、肝細胞増殖因子(HGF)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、アンジオポエチンANG-1、アンジオポエチンANG-2、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、上皮増殖因子(EGF)、ヒト増殖因子、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)またはヒスタミンのうちの1以上を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
脈管形成、血管新生もしくは管形成のうちの少なくとも1つを含みうる生物学的発生プロセスまたは製造プロセスにより、1以上の相互接続血管チャネルが形成される、請求項15~22のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
第1血管網および第2血管網が、独立して配置可能(addressable)である、請求項15~23のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
血管化工程(c)の前に、第1血管網および第2血管網が互いに接触していない、請求項15~24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
第1血管網が動脈叢を含み、第2血管網が静脈叢を含む、請求項15~25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
単一血管網が相互貫入(interpenetrating)血管網または分枝相互貫入血管網のうちの少なくとも1つを含む、請求項15~26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
単一血管網が、相互接続された動脈チャネルおよび静脈チャネルを含む、請求項15~27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
血管化工程(c)の前に、第1血管網および第2血管網のうちの1つのみを1以上の生物学的因子で灌流する、請求項15~28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
第1血管網および第2血管網の両方を1以上の生物学的因子で灌流し、第1血管網内の生物学的因子濃度が第2血管網内の生物学的因子濃度と異なる、請求項15~28のいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
第1血管網および第2血管網の両方を1以上の生物学的因子で灌流し、第1血管網内の生物学的因子濃度が第2血管網内の生物学的因子濃度と同じである、請求項15~28のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
灌流中に第1血管網および第2血管網の一方または両方に酸素分圧勾配を導入する、請求項15記載の方法。
【請求項33】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を組織構築物内に埋め込むことが、
複数の生細胞をそれぞれが含む1以上の細胞含有フィラメントを基体上に堆積させて、1以上の組織パターンを形成させることであって、該組織パターンのそれぞれは1以上の所定の細胞型を含む、該1以上の組織パターンを形成させること、
1以上の犠牲的(sacrificial)フィラメントを基体上に堆積させて、1以上の組織パターンを相互貫入する血管パターンを形成させることであって、該犠牲的フィラメントのそれぞれは一過性(fugitive)インクを含む、該血管パターンを形成させること、
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を血管パターン内に堆積させること、
前記の1以上の組織パターンおよび血管パターンを細胞外マトリックス組成物で少なくとも部分的に包囲させること、ならびに
一過性インクを除去し、それにより、組織構築物であって、そこに埋め込まれたプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を含む組織構築物を形成させること
を含む、請求項15~32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
機能的ヒト組織構築物を作製するインビトロ方法であって、
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含むバイオインクをそれぞれが含む1以上の細胞含有フィラメントを、基体上に、または支持マトリックス内に堆積させて、1以上の組織パターンを形成させることであって、該組織パターンのそれぞれは、少なくとも1つの所定の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む、該1以上の組織パターンを形成させること、
1以上の犠牲的フィラメントを基体上に堆積させて、血管パターンを形成させること、
前記の1以上の組織パターンおよび血管パターンを細胞外マトリックス組成物で少なくとも部分的に包囲させること、ならびに
一過性インクを除去し、それにより、機能的組織構築物であって、そこに埋め込まれた少なくとも1つの所定の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む組織パターンを含む機能的組織構築物を形成させること
を含む、前記方法。
【請求項35】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換を誘導して、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐集団を生成させることを更に含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の分化および/または分化転換を細胞培養培地内へのドキシサイクリン(DOX)の添加により誘導する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団が少なくとも1つの転写因子を過剰発現する、請求項34~36のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
少なくとも1つの転写因子が、ETV2、NGN1、Tbr1、Fezf2、Ctip2、SATB2、LMX1A、NR4A2、Isl1、St18、FOXA2、PITX3、Ascl1、Smad7、Nr2f1、Dlx2、Dlx4、Nr2f2、Barhl2およびLhx1からなる群から選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
バイオインクが少なくとも2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む、請求項34または35記載の方法。
【請求項40】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を、直交誘導分化プラットフォームを使用して、ゲノム的にプログラムする、請求項34または35記載の方法。
【請求項41】
バイオインクが少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を少なくとも100M細胞/mLの細胞密度で含む、請求項34~40のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
バイオインクが、細胞懸濁液の遠心分離および上清の除去により形成される、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む細胞ペレットから構成される、請求項34~40のいずれか1項記載の方法。
【請求項43】
細胞外マトリックス成分またはレオロジー調整剤を、遠心分離の前に、所望により細胞懸濁液に添加する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
1以上の幹細胞インクを同時にパターン化するために向けられた(head)プリントヘッドであって、幹細胞が、プリンティング後に、要求に応じて、直交的に分化されうる、前記プリントヘッド。
【請求項45】
図1A、1Bおよび1Cに示されている方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本特許文書は、2020年7月6日付出願の米国仮特許出願第63/048,502号(これを参照により本明細書に組み入れることとする)の35 U.S.C. §119(e)に基づく出願日の利益を主張するものである。
【0002】
米国連邦政府の資金提供による研究または開発
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)により授与された認可番号1RM1HG008525の政府援助を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
付録[CD-ROM/配列表]に対する言及
本出願はEFS-Webを介して電子的に提出されており、txt形式の電子的に提出された配列表を含む。txtファイルは、2021年7月1日付で作成された「14968_00219_Seq_Listing_ST25」なるタイトルの配列表を含み、8,201バイトのサイズを有する。このtxtファイルに含まれる配列表は本明細書の一部であり、その全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【背景技術】
【0004】
PCT公開WO2016141137A1およびWO2016141137A1号の全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【0005】
オルガノイドの開発および3次元(3D)バイオプリンティング(bioprinting)における最近の技術革新は、薬物スクリーニングおよび治療用途のための自己ヒト組織を作製する新たな道筋を提供している1-4。ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)から凝集した胚様体(EB)の自己組織化および分化によりオルガノイドを作製しうることは、器官様マイクロアーキテクチャを作製するためのボトムアップアプローチを提供する5,6。対照的に、マルチマテリアル(multimaterial)3Dバイオプリンティングは、異種幹細胞由来組織を製造するためのトップダウン方法を提供する7-12。しかし、どちらの技術も幹細胞分化の速度、効率およびスケーラビリティにより制限される。大脳13-15、腎16-18、網膜19および他のオルガノイドを作製するためのプロトコルが最近報告されているが、それらは、しばしば、器官レベルの細胞多様性に近づくために、数週間から数ヶ月にわたる長期の培養時間に依存する。
【0006】
更に、より広範な細胞および組織を作製するオルガノイドプロトコルは、一般に、より低い再現性のオルガノイドを与えて、オルガノイドの再現性と細胞の多様性との間のトレードオフを生じさせる20,21。器官特異的組織のマルチマテリアル3Dバイオプリンティングのためには、それぞれが分化して高密度の細胞バイオインク(biolink)に変換される、同様に多数の細胞型が必要である。伝統的なオルガノイド分化プロトコルは、典型的には、単一の胚葉(germ layer)から細胞を誘導することを目的としている13-15,20,21
【0007】
したがって、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび組織を多能性幹細胞から作製するためには、幹細胞分化の特異性、効率およびスケーラビリティを高める新規アプローチが必要である。しかし、より複雑な多細胞組織の作製のためには、より広範なプログラム可能な細胞型だけでなく、それらの空間的パターニングの制御を同時に可能にする方法も必要である。
【発明の概要】
【0008】
組織発生および疾患の研究および移植に適した胚様体またはオルガノイドおよび組織構築物を作製する新規方法が望まれている。
【0009】
本特許または出願ファイルは、色付きで作成された少なくとも1つの図面を含む。色付き図面を含むこの特許または特許出願公開の写しは、要求および必要な手数料の支払いに応じて、特許庁により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、幹細胞(a)、オルガノイド(b)および3Dバイオプリント化器官特異的組織(c)をゲノムプログラミングするための直交誘導(orthogonally induced)分化プラットフォームの図を示す。
図2a-c】図2は、同一培地条件下の直交誘導分化による多能性幹細胞のプログラム可能な分化を示す。(a)左:NIMにおける神経幹細胞への野生型(WT)hiPSC分化を詳細に示す概要図。右:第0日のWTコロニーのOct4およびF-アクチンの免疫染色。(b)左:ドキシサイクリン誘導ETV2アイソフォーム-2過剰発現によるiEndo分化を詳細に示す概要図。右:第0日のiEndoコロニーのOct4およびF-アクチンの免疫染色。(c)左:培養内のドキシサイクリン誘導NGN1過剰発現によるiNeuron(iニューロン)分化を詳細に示す概要図。右:第0日のiNeuronコロニーのOct4およびF-アクチンの免疫染色。スケールバー: a~fにおいて50μm。
図2d-f】図2は、同一培地条件下の直交誘導分化による多能性幹細胞のプログラム可能な分化を示す。(d)ドキシサイクリンの非存在下(左列)または存在下(右列)でNIMにおいて6日間培養されたWT hiPSC。N-カドヘリンおよびPax6、ZO1およびSox2、ならびにネスチンの免疫染色。(e)ドキシサイクリンの非存在下(左列)または存在下(右列)でNIMにおいて6日間培養されたiEndo細胞。左:N-カドヘリンおよびPax6、ZO1およびSox2、ならびにネスチンの免疫染色。右:vWFおよびVE-カドヘリン、CD31およびNrp1の免疫染色。(f)ドキシサイクリンの非存在下(左列)または存在下(右列)でNIMにおいて6日間培養されたiNeuron細胞。左:N-カドヘリンおよびPax6、ZO1およびSox2、ならびにネスチンの免疫染色。右:TuJ1、MAP2およびNeuNの免疫染色。スケールバー: a~fにおいて50μm。
図2g-l】図2は、同一培地条件下の直交誘導分化による多能性幹細胞のプログラム可能な分化を示す。(g)WT hiPSCからPax6+神経幹細胞への分化をドキシサイクリンの存在下(灰色)および非存在下(青)で6日間定量したフローサイトメトリープロット。(h)集団の定量。(I)ドキシサイクリンの存在下でiEndosがVECad+ 内皮(赤)に分化することを示すフローサイトメトリープロット。ドキシサイクリンの非存在下、iEndosはPax6+ 神経幹細胞(青)に分化する。(j)集団の定量。平均±s.e.m.、n = 3個の生物学的重複物、****P = 7.06×10-7、独立両側t検定。(k)ドキシサイクリンの存在下でiNeuronsがMAP2+ ニューロン(緑)に分化することを示すフローサイトメトリープロット。ドキシサイクリンの非存在下、iNeuronsはPax6+ 神経幹細胞(青)に分化する。(l)集団の定量。平均±s.e.m.、n = 3個の生物学的重複物、****P = 3.53×10-5、独立(unpaired)両側t検定。
図3a-e】図3は皮質オルガノイドのプログラム可能な血管化を示す。(a)血管化皮質オルガノイドプロトコルの概要図。(b)懸濁培養の3日前のマイクロウェル内のhiPSCの蛍光イメージ。上:100% WT-eGFP hiPSC。下:67% WT-eGFPおよび33% iEndo-mKate2ランダムプール化hiPSC。(c)得られたEBの蛍光イメージ。上:100% WT-eGFP EB。下:67% WT-eGFPおよび33% iEndo-mKate2ランダムプール化EB。(d):10日間培養されたEBに由来するオルガノイドの明視野イメージ。上:100% WT-eGFP オルガノイド。下:67% WT-eGFPおよび33% iEndo-mKate2プール化オルガノイド。(e)10日間培養されたオルガノイドのSox2およびUEA1標識の免疫染色。上:100% WTオルガノイド。下:67% WTおよび33% iEndoプール化オルガノイド。スケールバー:d、f、h、iおよびkにおいては200μm;b、c、eおよびgにおいては100μm。
図3f図3は皮質オルガノイドのプログラム可能な血管化を示す。(f)左上:10日間培養された67% WTおよび33% iEndo-mKate2プール化オルガノイドのSox2およびネスチンの免疫染色から得られた共焦点最大強度z投影。右列:Sox2、ネスチンおよびmKate2の個々のチャネル。矢頭は、血管系と共局在するSox2+ 陽性細胞を示す。左下:10日間培養された67% WTのiEndo-mKate2および33% iEndo-mKate2プール化オルガノイドによるSox2およびCD31の免疫染色。スケールバー:d、f、h、iおよびkにおいては200μm;b、c、eおよびgにおいては100μm。
図3g-l】図3は皮質オルガノイドのプログラム可能な血管化を示す。(g)25日間培養されたオルガノイドのSox2、NeuNおよびCD31の免疫染色。上:100% WTオルガノイド。下:67% WTおよび33% iEndoプール化オルガノイド。(h)25日間培養されたオルガノイドのSox2およびCD31の免疫染色。上:100% WTオルガノイド。下:67% WTおよび33% iEndoプール化オルガノイド。(i)左:25日間培養された67% WTおよび33% iEndoプール化オルガノイドのSox2およびCD31の免疫染色による最大強度z投影。右:深度z = 0μm およびz = 335μmでのSox2およびCD31チャネルの光学スライス。(j)単一の100% WTオルガノイドおよび単一の67% WTオルガノイドおよび33% iEndoプール化オルガノイドのスライスにおける血管領域の定量。データは平均±s.e.m.を表す(n = 5、独立両側t検定)、****P = 4.23×10-5。(k)45日間培養された67% WTおよび33% iEndoプール化オルガノイドのSox2、MAP2およびVE-カドヘリンの免疫染色による最大強度z投影。(l)100% WTオルガノイドと比較した場合の67% WTおよび33% iEndoプール化オルガノイドのRT-qPCR log倍率変化発現棒グラフ。データは平均±s.e.m.(n = 6;3つの独立したバッチから)を表す。スケールバー:d、f、h、iおよびkにおいては200μm;b、c、eおよびgにおいては100μm。
図4a-b】図4はマルチコア-シェル皮質オルガノイドを示す。(a)プール化およびマルチコア-シェルオルガノイド形成プロトコルの概要図。(b)WT単独アプローチ、プール化アプローチおよびマルチコア-シェルアプローチにおけるWT、iEndoおよびiNeuronsのhiPSC播種(seeding)分布の定量。データは平均±s.e.m.(n = 3;3つの独立したバッチから)を表す。
図4c-h】図4はマルチコア-シェル皮質オルガノイドを示す。(c)1日間培養されたWTのみのオルガノイド。左:CellTrackerで標識されたWTのみのオルガノイドの蛍光イメージ。右:Oct4の免疫染色。(d)1日間培養されたランダムプール化オルガノイド。左:CellTracker標識ランダムプール化オルガノイドの蛍光イメージ。右:Oct4の免疫染色。(e)最終的なシェル播種後1日間培養されたマルチコア-シェルオルガノイド。左:CellTracker標識マルチコア-シェルオルガノイドの蛍光イメージ。右:Oct4の免疫染色。左下:Oct4の免疫染色。(f)10日間培養されたWTのみのオルガノイドのSox2、NeuNおよびCD31の免疫染色。(g)10日間培養されたプール化オルガノイドのSox2、NeuNおよびCD31の免疫染色。(h)10日間培養されたマルチコア-シェルオルガノイドのSox2、NeuNおよびCD31の免疫染色。スケールバー:c~hにおいて100μm。
図4i-n】図4はマルチコア-シェル皮質オルガノイドを示す。(i)第25日のオルガノイドの組合せ細胞組成のUMAPプロット。(j)上:WT、ランダムおよびマルチコア-シェルオルガノイドのUMAPプロット。(k)内皮およびバーコード化iNeuron集団を強調するUMAPプロット。(l)WT、ランダムおよびマルチコア-シェルオルガノイドのクラスター7内の細胞の総数。データは平均±s.e.m.(n = 4;2つの独立したバッチから)を表す。(m)一般的な内皮および間質細胞マーカーのクラスター0、3および7のヒートマップ比較。(n)一般的な神経細胞および神経幹細胞マーカーに関するクラスター1、2、5、6およびバーコード化iNeuron細胞のヒートマップ比較。
図5a-e】図5は、直交誘導分化と組合された3Dバイオプリンティングによる多細胞神経組織を示す。(a)バイオプリンティングおよびゲルキャスティングプロセスの概要図。(b)バイオプリンティングプロセス中の50μmノズルからのバイオインク押出のイメージ。(c)バイオプリントされたフィラメント状の特徴(feature)の明視野イメージ。(d)プリンティング(プリント化)直後のバイオプリント化フィラメント内のOct4+細胞の総細胞数およびフローサイトメトリー定量。データは平均±s.d.(3つの独立した細胞インクバッチからn = 3)を表す。(e)カルセイン-AM/エチジウムホモ二量体生/死アッセイを使用して測定された、キャスト(対照)サンプルおよび種々の速度におけるバイオプリント化フィラメント内のhiPSC生存率。データは平均±s.e.m.(n = 3;3つの独立したバッチから)を表す。スケールバー:g(上)およびh(上)においては500μm;c(左)およびi~kにおいては200μm;c(右)、g(下)およびh(下)においては50μm。
図5f図5は、直交誘導分化と組合された3Dバイオプリンティングによる多細胞神経組織を示す。(f)100μm(左上)および50μm(右上)のノズル径を用いて生成されたバイオプリント化フィラメントの生/死染色、ならびにそれらの蛍光強度の対応分布(下)。スケールバー:g(上)およびh(上)においては500μm;c(左)およびi~kにおいては200μm;c(右)、g(下)およびh(下)においては50μm。
図5g-h】図5は、直交誘導分化と組合された3Dバイオプリンティングによる多細胞神経組織を示す。(g)プリンティング直後の第0日に固定されたパターンにおけるOct4の免疫染色。(h)NIM内で培養されたバイオプリント化組織構造。左:第4日におけるWTプリント化パターンに関するN-カドヘリンおよびSox2の免疫染色。中央:第6日におけるiEndoプリント化パターンに関するVE-カドヘリンの免疫染色。右:第6日におけるiNeuronプリント化パターンのTuJ1およびNeuNの免疫染色。スケールバー:g(上)およびh(上)においては500μm;c(左)およびi~kにおいては200μm;c(右)、g(下)およびh(下)においては50μm。
図5i-k】図5は、直交誘導分化と組合された3Dバイオプリンティングによる多細胞神経組織を示す。(i)マルチマテリアルバイオプリンティングのためのトリプルノズルの設計。(j)バイオプリント化CellTracker標識WT、iEndoおよびiNeuronインクの蛍光イメージ。(k)第6日における3Dプリント化多細胞組織のTuJ1、UEA1およびSox2の免疫染色。スケールバー:g(上)およびh(上)においては500μm;c(左)およびi~kにおいては200μm;c(右)、g(下)およびh(下)においては50μm。
図6図6はフローサイトメトリーゲーティングの例を示す:(a)WTPGP1細胞、(b)iEndo細胞、および(c)iNeuron細胞のゲーティング法。左:前方散乱(面積)対側方散乱(面積)。中央:前方散乱(幅)対前方散乱(高さ)。右:側方散乱(幅)対側方散乱(高さ)。
図7図7は内皮分化条件における幹細胞の誘導分化を示す:(a)ドキシサイクリンの非存在下(左列)または存在下(右列)の内皮分化培地条件における8日間の分化の後のWT PGP1細胞。VECadおよびvWF、CD31、ならびにNRP1の免疫染色。(b)ドキシサイクリンの非存在下(左列)または存在下(右列)の内皮分化条件におけるiNeuron細胞。左:VECadおよびvWF、CD31、ならびにNRP1の免疫染色。右:Tuj1、MAP2およびNeuNの免疫染色。スケールバー:a~bにおいて50μm。
図8図8は、調整可能な多系統(multi-lineage)培養からのプールされたプログラム可能なhiPSCの直交誘導分化を示す:(a)NIM内で6日間培養されたマトリゲルヒドロゲル上の異なる播種比率のWTおよびiEndo hiPSCのSox2およびVE-カドヘリンの免疫染色。左:100% WT培養。中央左:67% WT、33% iEndo。中央右:33% WTおよび67% iEndo。右:100% iEndo。(b)NIM内で6日間培養されたマトリゲルヒドロゲル上の異なる播種比率のiEndoおよびiNeuronのVE-カドヘリンおよびMAP2の免疫染色。左:100% iEndo。中央左:67% iEndoおよび33% iNeuron。中央右:33% iEndoおよび67% iNeuron。右:100% iNeuron。(c)NIM内で6日間培養されたマトリゲルヒドロゲル上の異なる播種比率のWTおよびiNeuron細胞のMap2およびSox2の免疫染色。左:100% iNeuron。中央左:67% iNeuronおよび33% WT。中央右:33% iNeuronおよび67% WT。右:100% WT。(d)ドキシサイクリンの非存在下、NIM内で6日間培養されたマトリゲルヒドロゲル上の33% WT、33% iEndoおよび33% iNeuronのSox2、Map2およびVE-カドヘリンの免疫染色。(e)ドキシサイクリンの存在下、NIM内で6日間培養されたマトリゲルヒドロゲル上の33% WT、33% iEndoおよび33% iNeuronのSox2、Map2およびVE-カドヘリンの免疫染色。スケールバー:a~eにおいて100μm。
図9図9は、プールされたhiPSCが、調整可能な細胞組成を有する粘着性胚様体の形成を可能にすることを示す:(a)左:1日間培養されたマイクロウェルアレイ内の50% WT-eGFPおよび50% RFP HUVEC EB。右:3日間培養された50% WT-eGFPおよび50% RFP HUVEC EB。(b)左:1日間培養されたマイクロウェルアレイ内の50% WT-eGFPおよび50% iEndo-mKate2 EB。右:3日間培養されたWT-eGFPおよび50% iEndo-mKate2 EB。(c)懸濁培養の3日前のマイクロウェルアレイ内の異なる播種比率のWT-eGFPおよびiEndo-mKate2 hiPSC凝集体。左:100% iEndo-mKate2。中央左:67% iEndo-mKate2および33% WT-eGFP。中央右:33% iEndo-mKate2および67% WT-eGFP。右:100% WT-eGFP。(d)懸濁培養の1日前のWT-eGFPおよびiEndo-mKate2 EB。左:100% iEndo-mKate2。中央左:67% iEndo-mKate2および33% WT-eGFP。中央右:33% iEndo-mKate2および67% WT-eGFP。右:100% WT-eGFP。スケールバー:(a)(左)、(b)(左)および(c)においては500μm;(a)(右)、(b)(右)および(d)においては100μm。
図10図10は、プログラム可能な血管化皮質オルガノイドを示す。(a)10日間培養された100% WTオルガノイドにおけるSox2およびネスチンの免疫染色。(b)10日間培養された67% WTおよび33% iEndoオルガノイドにおけるSox2およびネスチンの免疫染色。(c)10日間培養された67% WTおよび33% iEndoオルガノイドに関するSox2およびUEA1の免疫染色。(d)25日間培養された100% WTオルガノイドにおけるSox2およびCD31の免疫染色。(e)10日間培養された67% WTおよび33% iEndoオルガノイドにおけるSox2およびCD31の免疫染色。(f)45日間培養された100% WTオルガノイドに関するSox2、NeuNおよびCD31の免疫染色。(g)45日間培養された67% WTおよび33% iEndoオルガノイドにおけるSox2、NeuNおよびCD31の免疫染色。スケールバー:a、b、d、f(左)およびg(左)においては200μm、cおよびeにおいては100μm、ならびにf(右)およびg(右)においては50μm。
図11図11は、プログラム可能な皮質オルガノイド内の血管化の定量を示す:以下のものに関する例示的なアンジオツール(Angiotool)処理ワークフロー。(a)25日間培養された67% WTおよび33% iEndoオルガノイド;(b)25日間培養された100% WTオルガノイド。左:iDISCO透明処理(cleared)オルガノイドの共焦点zスタックから得られた個々のz断面。中央:全てのイメージの最小閾値を増加させることによりバックグラウンドを排除する。右:対応するz断面のアンジオツール(Angiotool)分析。赤色の線は血管経路を表し、青色の点は血管接合部を表し、黄色の線は血管系の境界を表し、細い白色の線は、計算された血管化領域を示す。血管領域は、黄色の線で囲まれた全領域として計算される。
図12図12は、プログラム可能なマルチコア-シェル皮質オルガノイドにおける大きな室(ventricular)構造を示す。(a)10日齢のWTのみのオルガノイドにおけるSox2の免疫染色。(b)ランダムにプールされた10日齢のオルガノイドにおけるSox2の免疫染色。(c)10日齢のマルチコア-シェルオルガノイドにおけるSox2の免疫染色。(d)10日齢のWTのみのオルガノイドにおけるSox2およびN-カドヘリンの免疫染色。(e)ランダムにプールされた10日齢のオルガノイドにおけるSox2およびN-カドヘリンの免疫染色。(f)10日齢のマルチコア-シェルオルガノイドにおけるSox2およびN-カドヘリンの免疫染色。(g)室(ventricle)内のN-カドヘリン発現の長さにより測定された、室内の神経上皮の長さ。データは平均±s.e.m.を表す。* WTのみのオルガノイドとランダムプール化オルガノイドとの間でP = 0.0169。* ランダムプール化オルガノイドとマルチコア-シェルオルガノイドとの間でP = 0.0286(n = 72 WT室、n = 10ランダムプール化室、n = 30 マルチコア-シェル室、独立両側t検定)。スケールバー:a~fにおいて100μm。
図13a図13は細胞の種類のsingleCellNet分類を示す。注釈付き(annotated)一次ヒト脳サンプルからの入力データを使用して分類子(classifier)をトレーニング(train)し、ついでそれを我々自身の単一細胞クラスターデータセットと比較する。ついでこのツールは、潜在的な細胞の種類を示唆する分類ヒートマップを出力する。分類子の忠実度を評価するための対照として、50個のランダムな「細胞」('cell')を作製した。(a)各クラスターに関する主要な脳細胞型の分類スコア。
図13b図13は細胞の種類のsingleCellNet分類を示す。注釈付き(annotated)一次ヒト脳サンプルからの入力データを使用して分類子(classifier)をトレーニング(train)し、ついでそれを我々自身の単一細胞クラスターデータセットと比較する。ついでこのツールは、潜在的な細胞の種類を示唆する分類ヒートマップを出力する。分類子の忠実度を評価するための対照として、50個のランダムな「細胞」('cell')を作製した。(b)最も一般的な細胞分類に関する各クラスターの分類スコアのバイオリンプロット。
図14図14は、細胞の種類の、マーカーに基づく注釈(annotation)のための、各クラスターにおける上位10個の示差的発現遺伝子を示す。Seurat 4.0のFindConservedMarkers関数を利用して、ヒートマッププロットに関する他の全てのクラスターと比較して、クラスターの上位10個の有意に示差的に発現される遺伝子を見出した。発現レベルはzスコア化されている。
図15図15は、クラスターサイズがオルガノイドの分化条件およびバッチの全体にわたって一貫したままであることを示す。(a)WT、ランダムおよびマルチコア-シェルオルガノイドからの各クラスターにおける細胞数の積み上げ棒グラフ。(b)各クラスターからの各オルガノイドバッチにおける細胞数の積み上げ棒グラフ。
図16a-c】図16はWTオルガノイドおよびランダムプール化オルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山(volcano)プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;および(g)クラスター6。正のlog2倍率変化は、ランダムプール化オルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、WTオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図16d-f】図16はWTオルガノイドおよびランダムプール化オルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山(volcano)プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;および(g)クラスター6。正のlog2倍率変化は、ランダムプール化オルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、WTオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図16g図16はWTオルガノイドおよびランダムプール化オルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山(volcano)プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;および(g)クラスター6。正のlog2倍率変化は、ランダムプール化オルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、WTオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図17a-c】図17はWTオルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;および(g)クラスター6。正のlog2倍率変化は、マルチコア-シェルオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、WTオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図17d-f】図17はWTオルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;および(g)クラスター6。正のlog2倍率変化は、マルチコア-シェルオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、WTオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図17g図17はWTオルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;および(g)クラスター6。正のlog2倍率変化は、マルチコア-シェルオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、WTオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図18a-c】図18はランダムオルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;(g)クラスター6;および(h)クラスター7。正のlog2倍率変化は、マルチコア-シェルオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、ランダムプール化オルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図18d-f】図18はランダムオルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;(g)クラスター6;および(h)クラスター7。正のlog2倍率変化は、マルチコア-シェルオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、ランダムプール化オルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図18g-h】図18はランダムオルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドの示差的遺伝子分析を示す。以下のものにおける示差的発現遺伝子を示す火山プロット:(a)クラスター0;(b)クラスター1;(c)クラスター2;(d)クラスター3;(e)クラスター4;(f)クラスター5;(g)クラスター6;および(h)クラスター7。正のlog2倍率変化は、マルチコア-シェルオルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示し、負のlog2倍率変化は、ランダムプール化オルガノイドにおいて、より発現される遺伝子を示す。水平の青色破線はpadj = 0.05を示し、垂直の青色線はlog2倍率変化 = -0.5および0.5を示す。後続のGO分析で使用される遺伝子が標識され、青色で表示されている。0.25を超えるまたは-0.25未満のlog2倍率変化を有する遺伝子のみが示されている。
図19a図19はランダムプール化オルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドのクラスター6および7における示差的発現遺伝子の遺伝子オントロジー分析を示す。(a)ランダムプール化オルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドのクラスター6における示差的発現遺伝子のエンリッチ化(enriched)遺伝子オントロジー用語(term)。
図19b図19はランダムプール化オルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドのクラスター6および7における示差的発現遺伝子の遺伝子オントロジー分析を示す。(b)ランダムプール化オルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドのクラスター7における示差的発現遺伝子のエンリッチ化遺伝子オントロジー用語。
図20図20は、3D多細胞組織構造を作製するためのマルチマテリアル・プリントヘッド設計を示す。(a)トリプルノズルの3D CADモデルの透視図。(b)プリントヘッド内のチャネルを可視化するトリプルノズルの半透明3D CADモデルの透視図。(c)トリプルノズルのプリントヘッド先端の断面図および寸法。(d)3つのバイオインク(赤、青、緑)の共押出およびトリプルノズルの3D CADモデルの断面図。cにおける単位はμmである。
図21図21は、胚帯(germinal zone)に類似しておりニューロン層を覆う3D多細胞組織構造のバイオプリンティングを示す。(a)室帯(ventricular zone:青色で示されている)および皮質板(cortical plate:緑色で示されている)を含むGW11における発生中のヒト胎児脳切片の図。(b)脳スライスからの室帯およびニューロン密集帯の、抜粋されたプリント化の線経路(printing line path)。(c)脳スライスプリンティング中のノズル、バイオインクおよびプリント表面のイメージ。(d)5日間培養されたプリント化脳スライス構造の明視野イメージ。スケールバー:dにおいて1mm。
【発明を実施するための形態】
【0011】
概要
1つの実施形態は、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を作製する方法に関するものであり、該方法は、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を細胞培養培地内で培養すること;同時に、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化(direct differentiation)および/または分化転換を誘導して、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐(divergent)集団を生成させ、ここで、該誘導工程は、該細胞培養培地により供与されるいずれの外的な刺激(cue)からも独立であること;ならびに、それにより、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐集団を含む、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を形成させることを含む。少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、多能性(pluripotent)幹細胞、複能性(multipotent)幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞、内皮細胞、内皮前駆細胞、不死化細胞株または初代細胞からなる群から選択される幹細胞を含みうる。少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、構成的プロモーター、小分子誘導性プロモーター、細胞自律的プロモーター、細胞非自律的プロモーター、選択マーカーまたはそれらの組合せの少なくとも1つを含むDNA運搬要素を導入することにより作製されうる。遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、ETV2、NGN1、Tbr1、Fezf2、Ctip2、SATB2、LMX1A、NR4A2、Isl1、St18、FOXA2、PITX3、Asc1、Smad7、Nr2f1、Dlx2、Dlx4、Nr2f2、Barhl2およびLhx1からなる群から選択される少なくとも1つの転写因子を過剰発現しうる。少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の分化および/または分化転換は、小分子、増殖因子、溶存ガス(dissolved gas)またはモルフォゲンを細胞培養培地に添加すること、または細胞培養培地から除去することにより誘導されうる。少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹
細胞集団の分化および/または分化転換は細胞培養培地内へのドキシサイクリン(DOX)の添加により誘導されうる。この方法においては、培養工程は分化培地内で行われうる。分化培地はドキシサイクリン(DOX)を含みうる。この方法は、細胞の野生型集団を培養すること、ならびに細胞の野生型集団から、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の異なる集団への分化を誘導することを更に含みうる。細胞の野生型集団の分化は、小分子、増殖因子、溶存ガスまたはモルフォゲンを細胞培養培地に添加すること、または細胞培養培地から除去することにより誘導されうる。この方法において、培養工程は、少なくとも2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を細胞培養培地内で培養することを含みうる。
【0012】
もう1つの実施形態は、多能性細胞集団の初期比率および/または組成の調整が、生じる3Dヒト組織内の異なる細胞型および量を決定論的に定める(deterministically define)ことを可能にするための、本明細書のどこかに記載されている方法の使用に関する。
【0013】
更にもう1つの実施形態は、本明細書に記載されているいずれかの方法により製造されるプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織に関する。
【0014】
更にもう1つの実施形態は、機能的ヒト組織構築物を作製するインビトロ方法に関するものであり、該方法は、本明細書に記載されているいずれかの方法により製造されるプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を組織構築物内に埋め込むこと(該組織構築物は第1血管網と第2血管網とを含み、各血管網は1以上の相互接続血管チャネルを含む);プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を1以上の生物学的因子(biological agent)、生物学的因子勾配、圧力、圧力勾配および/または酸素圧勾配に曝露し、それにより、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織に対して、ならびに/あるいはプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織から、毛細血管の血管新生(angiogenesis)を誘導することを含み、ここで、曝露工程は、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織の血管化を促進し、ここで、毛細血管は第1血管網を第2血管網に接続し、それにより、単一の血管網と灌流可能な組織構造とを含む機能的ヒト組織構築物を生成する。プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織は、多能性幹細胞、複能性幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞、内皮細胞、内皮前駆細胞、不死化細胞株または初代細胞のうちの少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な集団を細胞分化培地内で培養することにより作製されうる。胚様体またはオルガノイドは、多能性または複能性幹細胞を細胞分化培地内で培養することにより作製されうる。更に、前記の1以上の生物学的因子、生物学的因子勾配、圧力、圧力勾配および/または酸素圧勾配は、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織の発生、分化および/または機能を導く。プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織は、脳オルガノイドまたは組織、甲状腺オルガノイドまたは組織、腸または消化管オルガノイドまたは組織、肝臓オルガノイドまたは組織、膵臓オルガノイドまたは組織、胃オルガノイドまたは組織、腎臓オルガノイドまたは組織、網膜オルガノイドまたは組織、心臓オルガノイドまたは組織、骨オルガノイドまたは組織、および上皮オルガノイドまたは組織からなる群から選択されうる。プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織は、以下のうちの少なくとも1つにより、1以上の生物学的因子および/または生物学的因子勾配に曝露される:組織構築物内の1以上の生物学的因子の拡散;組織構築物内の、1以上の生物学的因子がローディングされた物質の局在化堆積(deposition);局在化タンパク質翻訳(localized protein translation)による増殖因子の局在化デノボ(de-novo)産生;または1以上の生物学的因子による第1血管網および第2血管網の一方もしくは両方の灌流。生物学的因子は、増殖因子、モルフォゲン、小分子、薬物、ホルモン、DNA、shRNA、siRNA、ナノ粒子、mRNA、修飾mRNAのうちの1以上を含みうる。増殖因子は、血管内皮増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、ホルボールミリスタートアセタート(phorbol myristate acetate:PMA)、肝細胞増殖因子(HGF)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、アンジオポエチンANG-1、アンジオポエチンANG-2、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、上皮増殖因子(EGF)、ヒト増殖因子、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)またはヒスタミンのうちの1以上を含みうる。この方法においては、脈管形成(vasculogenesis)、血管新生もしくは管形成(tubulogenesis)のうちの少なくとも1つを含みうる生物学的発生プロセスまたは製造プロセスにより、1以上の相互接続血管チャネルが形成される。第1血管網および第2血管網は、独立して配置可能(addressable)でありうる。血管化工程の前に、第1血管網および第2血管網は互いに接触していなくてもよい。第1血管網は動脈叢を含むことが可能であり、第2血管網は静脈叢を含むことが可能である。単一血管網は相互貫入(interpenetrating)血管網または分枝相互貫入血管網のうちの少なくとも1つを含む。単一血管網は、相互接続された動脈チャネルおよび静脈チャネルを含みうる。この方法においては、血管化工程の前に、第1血管網および第2血管網のうちの1つのみを1以上の生物学的因子で灌流することが可能である。あ
るいは、第1血管網および第2血管網の両方を1以上の生物学的因子で灌流することが可能であり、この場合、第1血管網内の生物学的因子濃度は第2血管網内の生物学的因子濃度と異なりうる。この方法においては、第1血管網および第2血管網の両方を1以上の生物学的因子で灌流することが可能であり、この場合、第1血管網内の生物学的因子濃度は第2血管網内の生物学的因子濃度と同じでありうる。この方法においては、灌流中に第1血管網および第2血管網の一方または両方に酸素分圧勾配が導入されうる。プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を組織構築物内に埋め込むことは以下のことを含みうる:複数の生細胞をそれぞれが含む1以上の細胞含有(cell-laden)フィラメントを基体上に堆積させて、1以上の組織パターンを形成させること(該組織パターンのそれぞれは1以上の所定の細胞型を含む);1以上の犠牲的(sacrificial)フィラメントを基体上に堆積させて、1以上の組織パターンを相互貫入する血管パターンを形成させること(該犠牲的フィラメントのそれぞれは一過性(fugitive)インクを含む);プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を血管パターン内に堆積させること;前記の1以上の組織パターンおよび血管パターンを細胞外マトリックス組成物(extracellular matrix composition)で少なくとも部分的に包囲させること;ならびに一過性インクを除去し、それにより、組織構築物であって、そこに埋め込まれたプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を含む組織構築物を形成させること。
【0015】
更にもう1つの実施形態は、機能的ヒト組織構築物を作製するインビトロ方法に関するものであり、該方法は、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含むバイオインクをそれぞれが含む1以上の細胞含有フィラメントを、基体上に、または支持マトリックス内に堆積させて、1以上の組織パターンを形成させること(該組織パターンのそれぞれは、少なくとも1つの所定の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む);1以上の犠牲的フィラメントを基体上に堆積させて、血管パターンを形成させること;前記の1以上の組織パターンおよび血管パターンを細胞外マトリックス組成物で少なくとも部分的に包囲させること;ならびに一過性インクを除去し、それにより、機能的組織構築物であって、そこに埋め込まれた少なくとも1つの所定の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む組織パターンを含む機能的組織構築物を形成させることを含む。この方法は更に、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換を誘導して、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐集団を生成させることを含みうる。少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の分化および/または分化転換は細胞培養培地内へのドキシサイクリン(DOX)の添加により誘導されうる。少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、ETV2、NGN1、Tbr1、Fezf2、Ctip2、SATB2、LMX1A、NR4A2、Isl1、St18、FOXA2、PITX3、Ascl1、Smad7、Nr2f1、Dlx2、Dlx4、Nr2f2、Barhl2およびLhx1からなる群から選択される少なくとも1つの転写因子を過剰発現しうる。バイオインクは、少なくとも2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含みうる。少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、直交誘導分化プラットフォームを使用して、ゲノム的にプログラムされうる。バイオインクは、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を、少なくとも100M細胞/mLの細胞密度で含みうる。バイオインクは、細胞懸濁液の遠心分離および上清の除去により形成される、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む細胞ペレットから構成されうる。所望により、細胞外マトリックス成分(extracellular matrix component)またはレオロジー調整剤が、遠心分離の前に、細胞懸濁液に添加されうる。
【0016】
更にもう1つの実施形態は、1以上の幹細胞インクを同時にパターン化(patterning)するために向けられた(head)プリントヘッドに関するものであり、ここで、幹細胞は、プリンティング後に、要求に応じて(on demand)、直交的に分化されうる。
【0017】
更にもう1つの実施形態は、図1A、1Bおよび1Cに示されている方法に関する。
【0018】
詳細な説明
特に示されていない限り、本明細書中で用いる全ての科学技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の方法および材料が、開示されている方法および組成物の実施において使用されうるが、本明細書には例示的な方法、組成物、装置および材料が記載されている。
【0019】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる単数形は、文脈が明確に別段の定めをしていない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「タンパク質」に対する言及は複数のそのようなタンパク質を含み、「前駆細胞」に対する言及は、当業者に公知である1以上の前駆細胞に対する言及を含む、などである。
【0020】
PCT公開番号WO2015069619A1、WO2016141137A1号および米国特許公開番号US 2018/030409の全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【0021】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を作製する方法が本明細書に記載されている。
【0022】
「オルガノイド」なる語は、ある程度の分化を経た細胞を有する胚様体を意味する。「胚様体」なる語は、3次元の球体、球状体または他の3次元形状に形成された多能性または複能性幹細胞を含有する複数の細胞を意味する。オルガノイドと胚様体との区別は明りょうではないことが知られており、これらの用語の使用は交換可能であると見なされるべきである。
【0023】
「プログラム可能な多細胞オルガノイド」なる語は、異なるセットの転写因子をアップレギュレートするヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の複数の集団から形成されるオルガノイドを意味し、それらは多能性組織から多細胞分化組織への直交誘導分化(orthogonally induced differentiation)を受ける。
【0024】
この方法においては、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換により、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐集団を生成させ、ここで、該直接分化および/または分化転換は、同時に、および外的な刺激(例えば、細胞培養培地により供与されるもの)と独立に誘導される。遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞(例えば、hiPSC)集団から分岐細胞型への同時分化または分化転換は、操作されたヒトオルガノイドおよび組織における調整可能な細胞複雑性、パターン化構造および機能を達成するための道筋を与える。記載されている方法は、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換を導いて、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の少なくとも2つの分岐集団を生成させるために、種々のマーカーの過剰発現(例えば、1以上の転写因子(TF)の過剰発現)を利用する。
【0025】
「直接分化(direct differentiation)」または「定方向分化(directed differentiation)」なる語は、特定のより分化した状態への幹細胞の分化を優先的に促進する条件における多能性または複能性幹細胞の培養を意味する。例えば、多能性幹細胞は、神経前駆細胞のような特定の複能性幹細胞の富化集団をもたらす条件で培養されうる。あるいは、神経幹細胞のような複能性幹細胞は、例えばニューロン、星状細胞またはオリゴデンドロサイトのようなより分化した状態へと直接分化されうる。
【0026】
「分化転換」なる語は、複能性もしくは単能性幹細胞または最終分化成熟細胞表現型でありうる1つの細胞型から、異なる複能性もしくは単能性幹細胞または最終分化成熟細胞表現型でありうる異なる細胞型への変換を意味する。例えば、神経幹細胞、放射状グリアまたはニューロンは内皮細胞に分化転換されうる。
【0027】
幹細胞の分化または分化転換を誘導するために、培地組成を制御することにより細胞外刺激を導入すること、または例えば転写因子(TF)のような種々のマーカーを過剰発現させることにより細胞内状態を調節することが可能である。
【0028】
TFに基づく多数のこれまでの方法は、単一系統への迅速かつ効率的な細胞分化を促進するために、外部刺激および内部刺激を相乗的に適用している。以下の例が含まれる:(1)ETS転座変異体2(ETV2)を過剰発現させながら内皮細胞増殖培地内で培養された内皮細胞の誘導 22,23、(2)ニューロゲニン1および2(NGN1、NGN2)を過剰発現させながらB27含有ニューロベーサル(neurobasal)A培地内で培養されたニューロンの誘導 24、ならびに(3)Gata4、Hnf1α、Hnf4α、Foxa1、Foxa2およびFoxa3の組合せを過剰発現させながら肝細胞培地内で培養された肝細胞の誘導 25,26。Cakirらは、最近、皮質オルガノイド内の細胞のサブセットにおいてETV2の過剰発現を誘導することによりTF誘導性分化を伝統的な皮質オルガノイド培養と組合せて、脳微小血管系に類似した血管内皮を生成させた。
【0029】
これらのアプローチは、細胞を単一表現型へと分化させることを目的としているが、ヒト組織は、階層的パターン化構造へと組織化された複数の細胞型から構成される。Gata6のような1つのTFの過剰発現は複数の細胞型の前駆体を生成しうるが 27、この戦略は、生じる組織における細胞型の厳密な組成および分布の、制限された制御をもたらす。なぜなら、iPSCにおけるGata6のアップレギュレーションは均一集団から種々の異なる細胞型を与えるからである。更に、最近の転写因子過剰発現プロトコルは、天然ヒト組織において見出される多数の細胞型および構造体制ではなく、関心のある1つの細胞型のみを生成させるように設計されている。
【0030】
本明細書に記載されているのは直交分化プラットフォーム/方法であり、この場合、驚くべきことに且つ意外にも、遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞(例えば、多能性細胞)集団が、異なる細胞型へと同時に共分化されて、制御された組成および体制を有するオルガノイドおよびバイオプリント化組織を生成する。
【0031】
このプラットフォームを実証するために、本発明者らは、神経幹細胞または内皮幹細胞特異的培地を含むワンポット(one-pot)系において、遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団であるhiPSCから内皮細胞およびニューロンを直交分化させた。遺伝的に操作された誘導可能なTFおよび野生型hiPSCをプール化およびマルチコア-シェル胚様体へと凝集させることにより、血管化およびパターン化皮質オルガノイドが数日以内に生成された。更に、マルチマテリアル3Dバイオプリンティングを使用して、要求に応じて直交分化した3D神経組織を、神経幹細胞、内皮およびニューロンから構成される別個の層状領域へとパターン化した。hiPSCの高い増殖能および患者特異性を考慮すると、記載されているプラットフォーム/方法は、薬物スクリーニングおよび治療用途のために細胞および多細胞組織をプログラミングするための簡便な道筋を提供する。
【0032】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび3D器官特異的組織を作製するための記載されている方法は、培地誘導性分化とは独立に高い効率で目的の特定の細胞型へと直交分化されうる予めプログラムされた細胞集団における転写因子のような特定のマーカーを過剰発現させる工程から開始されうる。複数のTFのような複数のマーカーが過剰発現されることも可能であり、それらのそれぞれも、培地誘導性分化とは独立に高い効率で目的の特定の細胞型へと直交分化されうる。
【0033】
例示的なマーカーには、転写因子、例えば、内皮細胞の分化のためのETV2/ER71、および興奮性ニューロンの分化のためのNEUROG1が含まれる。
【0034】
次に、野生型(WT)および遺伝的に操作された誘導可能な細胞株の集団をプールまたはプリンティングすることにより、多細胞オルガノイドおよび3D組織が、要求に応じて、プログラム可能な様態で作製されうる。このアプローチ/方法の実施の成功のためには、細胞培養培地により供与される外部刺激とは独立に、ワンポットプロトコルにおいて、hiPSC株のような複数の細胞株を同時に分化させうることが必要である。
【0035】
重要なことに、同じ直交シグナル/因子により誘導される第2の遺伝子を加えることにより、または第2の直交誘導刺激(例えば、ドキシサイクリンとは異なる薬物)を加えることにより、分化および/または分化転換だけでなく、特定のプログラムされた細胞挙動を誘導する方法が記載されている。
【0036】
したがって、1つの実施形態においては、ヒト幹細胞、オルガノイドおよび3Dバイオプリント化器官特異的組織をゲノムプログラミングするための直交誘導分化(OID)プラットフォーム/方法が本明細書に記載されている。OIDにおいては、例えば、予めプログラムされたhiPSCにおけるドキシサイクリン(DOX)誘導性TF過剰発現が培地誘導性分化に優先しうる。
【0037】
記載されているOIDプラットフォーム/方法は広範に適用されうるが、重要なことに、本明細書において実証されているのは、空間的に異なる領域においてパターン化された複数の細胞型から構成される3D皮質組織において、ならびにプール化およびマルチコア-シェルモチーフにおいて、血管化皮質オルガノイドを作製することによるその有用性である。
【0038】
方法(概要)
特定の実施形態においては、該直交分化プラットフォーム/方法は、ヒト幹細胞、オルガノイドおよびバイオプリント化器官特異的組織を数日以内に迅速にプログラミングおよびパターン化するために使用されうる。例えば、後記の実施例に記載されているとおり、ETV2およびNGN1の過剰発現は二重SMAD抑制性培地刺激を効率的に無効にし、ワンポット系において血管内皮およびニューロンの同時生成を可能にする。この能力を活用して、血管化脳オルガノイドとマルチコア-シェル脳オルガノイドとの両方を、より大きな、より特徴的な室様構造を含有するプール化胚様体およびパターン化胚様体からそれぞれ作製した。マトリックスを含有しない野生型および誘導可能TF hiPSCインクのマルチマテリアル3Dバイオプリンティングにより、プログラム可能な多細胞皮質組織を、要求に応じて直交分化されうる層状構造で作製した。幹細胞分化プロトコルの更なる進歩により、人体に存在する多数の細胞を効率的かつスケーラブルに製造することがそのうち可能になるかもしれない。将来に備えて、記載されているOIDプラットフォーム/方法は、薬物スクリーニング、疾患モデリングおよび治療用途のための関心のある多数のタイプのプログラム可能なオルガノイドおよび器官特異的組織を作製するための簡便な道筋を提供する。
【0039】
方法(詳細)
本明細書に記載されている1つの実施形態は、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を作製する方法(製造方法)である。
【0040】
該方法は、
(i)少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を培地内で培養すること;
(ii)同時に、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換を誘導して、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐(divergent)集団を生成させること;ならびに
(iii)それにより、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐集団を含む、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を形成させることを含む。
【0041】
特定の実施形態においては、記載されている方法は、遺伝的に操作された誘導可能な細胞集団を作製することから開始する。「遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団」なる語は、誘導因子の添加に際して例えば転写因子のような特定の遺伝子のセットの発現をアップレギュレートする誘導性プロモーターを含有するトランスジェニック幹細胞を意味する。そのような誘導因子は、例えば、化学物質(例えば、ドキシサイクリンまたはクマートを含む)、温度または光に基づくものであることが可能であり、後記に更に詳細に記載されている。遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、多能性(pluripotent)幹細胞、複能性(multipotent)幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞、内皮細胞、内皮前駆細胞、不死化細胞株または初代細胞を含みうる。
【0042】
遺伝的に操作された誘導可能な細胞集団は、構成的プロモーター、小分子誘導性プロモーター、細胞自律的プロモーター、細胞非自律的プロモーター、選択マーカーまたはそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含むDNA運搬要素を導入することにより作製されうる。
【0043】
構成的プロモーターの例には、例えば、EF1アルファ、PGK、ユビキチンおよびCMVが含まれる。小分子誘導性プロモーターの例には、例えば、ドキシサイクリンまたはクマート誘導性プロモーターが含まれる。細胞自律的プロモーターの例には、例えば細胞型特異的プロモーター、例えばDCXが含まれる。細胞非自律的プロモーターの例には、例えば、熱誘導性プロモーターおよび光誘導性プロモーターが含まれる。
【0044】
当技術分野で公知の任意の適切なDNA運搬要素が使用可能であり、レンチウイルス逆方向反復、パッケージングシグナル(例えば、pLIX403ベクター)、トランスポゾン組み込み要素(例えば、PiggyBacベクター)、エピソーム複製要素から選択されうる。あるいは、エレクトロポレーションまたはリポフェクションによる一過性発現が用いられうる。
【0045】
特定の実施形態においては、特定の遺伝子のセットの発現をアップレギュレートするために、直交(orthogonal)プロモーターが使用されうる。「直交プロモーター」なる語は、2つの異なるプロモーター設計であって、それらに対して、遺伝子誘導のための独立した刺激(cue)または直交シグナルが存在するものを意味する。例えば、2つの誘導可能な遺伝子が存在する場合、すなわち、「プロモーター1」により活性化される「遺伝子1」と、「プロモーター2」により活性化される「遺伝子2」とが存在する場合、以下の条件の両方が成立すれば、プロモーター1とプロモーター2とは直交する:
1)「遺伝子2」の発現に影響を及ぼすことなく「遺伝子1」の発現を特異的に誘導する「刺激1」が存在する;および
2)「遺伝子1」の発現に影響を及ぼすことなく「遺伝子2」の発現を特異的に誘導する「刺激2」が存在する。
【0046】
選択マーカーは、例えば、薬剤耐性マーカー(例えば、ピューロマイシン、ネオマイシンおよびブラストサイジン)から選択されうる。あるいは、選択マーカーの代わりに、一過性発現、およびそれに続く、細胞分裂からの希釈が用いられうる。遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、誘導因子の添加に際して例えば転写因子のような特定の遺伝子のセットを過剰発現するように作製される。
【0047】
特定の遺伝子の1つまたはセットの例には、転写因子およびPKCが含まれる。
【0048】
任意のオルガノイド(例えば、血管系のためのもの)内で内皮細胞を誘導するために、またはオルガノイド内で混合集団を生成させるために使用されうる特定の転写因子の例には、成熟羊膜細胞から内皮細胞への分化を誘導するETV2/ER71、FLI1、ERG(Ginsbergら, 2012 Cell);幹細胞から種々のサブタイプの内皮細胞(例えば、静脈、動脈、リンパ管)への分化を誘導するGata2、FOXC1、FOXC2、HEY1、HEY2、SOX7、SOX18、PROX1(Parkら, 2013 Circulation Research);インビボにおける原始線条形成に必要な可能な中胚葉誘導に使用されうるBrachyury/Tが含まる。
【0049】
任意のオルガノイド(例えば、内臓の自律神経系制御)内でニューロンを誘導するために使用されうる特定の転写因子の例には、興奮性ニューロンの形成を誘導するNEUROG1/2(Busskampら, Molecular Systems Biology (2014));興奮性ニューロンの形成を誘導するASCL1(Chandaら, Stem Cell Reports (2014));運動ニューロンの形成を誘導するASCL1、BRN2、MYT1L、LHX3、HB9、ISL1、NGN2(Sonら, 2011 Cell Stem Cell);および痛覚受容体ニューロンの形成を誘導するASCL1、MYT1L、KLF7(Waingerら, Nature Neuroscience (2014))が含まれる。
【0050】
特定の実施形態においては、遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は少なくとも1つの転写因子を過剰発現する。転写因子は、ETV2、NGN1、Tbr1、Fezf2、Ctip2、SATB2、LMX1A、NR4A2、Isl1、St18、FOXA2、PITX3、Ascl1、Smad7、Nr2f1、Dlx2、Dlx4、Nr2f2、Barh12およびLhx1の群から選択されうる。
【0051】
特定の他の実施形態においては、遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、ETV2、NGN1、Tbr1、Fezf2、Ctip2、SATB2、LMX1A、NR4A2、Isl1、St18、FOXA2、PITX3、Ascl1、Smad7、Nr2f1、Dlx2、Dlx4、Nr2f2、Barhl2およびLhx1から選択される少なくとも2以上の転写因子を過剰発現する。。
【0052】
特定の実施形態においては、該方法は、内皮細胞の発芽挙動を劇的に増強する構成的に活性なPKCタンパク質の発現を直交誘導することを含む。PKCは神経突起伸長の増強をも促進する。脳オルガノイドにおける神経伸長を導く内因性PKCシグナル伝達が影響を受けないことが重要である。したがって、該サブセットのみにおいてPKCを活性化することにより、内皮細胞における発芽が特異的に達成される。
【0053】
「PKC」なる語はプロテインキナーゼCの頭字語として用いられ、PKC-アルファ、PKC-ベータ1、PKC-ベータ2、PKC-ガンマ、PKC-デルタ、PKC-イプシロン、PKC-イータ、PKC-シータ、PKC-イオタおよびPKC-ゼータを含むプロテインキナーゼCのアイソフォームのいずれかを意味しうる。
【0054】
「芽体(sprout)」またはより詳細には「内皮芽体」は、管状構造を生成するように血管新生または脈管形成を受けた内皮構造を示す。
【0055】
特定の実施形態においては、2以上の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団が、前記と同じ方法で作製されうる。
【0056】
特定の実施形態において、2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団が、記載されている方法において使用されうる。
【0057】
1つの実施形態においては、幹細胞の第1集団は、例えば、多能性幹細胞、複能性幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞、内皮細胞、内皮前駆細胞、不死化細胞株または初代細胞を含みうる。幹細胞の第2集団は神経前駆細胞を含みうる。神経前駆細胞は興奮性ニューロン、抑制性介在ニューロン、運動ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、痛覚受容体ニューロン、星状細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、オリゴデンドロサイトのうちの少なくとも1つを形成しうる。
【0058】
幹細胞を培養し、それを神経細胞および組織へと分化させるための方法は、Eiraku (2008)、US 2011/0091869 A1およびWO 2011/055855 A1(それらの内容の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)から公知である。方法は、Lancasterら, 米国特許公開番号US2015/0330970およびLancasterら, “Cerebral organoids model human brain development and microcephaly,” Nature 501, 373-379 (2013)(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0059】
他の培養方法も当技術分野で公知である。例えば、低接着性基体上で(Doetschman TCら, The in vitro development of blastocyst-derived embryonic stem cell lines: formation of visceral yolk sac, blood islands and myocardium. J Embryol Exp Morphol 87:27-45 (1985))、またはハンギングドロップ法により(Reubinoff BEら, Embryonic stem cell lines from human blastocysts: somatic differentiation in vitro. Nat Biotechnol 18(4):399-404 (2002))、またはマイクロウェルにおける凝集により(Mohr JCら, 3-D microwell culture of human embryonic stem cells. Biomaterials 27(36):6032-42 (2006))、またはマイクロチャネルにおける凝集により(Onoe Hら, Differentiation Induction of Mouse Neural Stem Cells in Hydrogel Tubular Microenvironments with Controlled Tube Dimensions. Adv Healthc Mater. (2016), doi:10.1002/adhm.201500903)、または回転バイオリアクターを使用することにより(Carpenedo RLら, Rotary suspension culture enhances the efficiency, yield, and homogeneity of embryoid body differentiation. Stem Cells 25(9):2224-34 (2007))、培養が行われうる。
【0060】
記載されている方法の培養工程は、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を培地内で培養することを含む。培養工程は分化培地内で行われうる。
【0061】
特定の実施形態においては、分化培地は神経分化培地(例示的な神経分化培地は後記に記載されている)でありうる。他の実施形態においては、分化培地は内皮細胞特異的培地でありうる。他の分化培地も使用されうる。例には、心筋細胞特異的培地、近位尿細管上皮特異的培地および中内胚葉特異的培地が含まれる。
【0062】
特定の実施形態においては、分化培地は、遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の分化および/または分化転換を誘導するための誘導因子を含みうる。例示的な誘導因子は、例えば、化学物質(例えば、DOXまたはクマートを含む)、温度を包含し、または光に基づくものでありうる。1つの実施形態においては、分化培地はDOXを含む。代替的な実施形態においては、分化培地は、DOXとは異なる薬物、または異なる誘導因子、例えばテトラサイクリン、クマート、mRNA、siRNA、shRNA、DNA、温度または光を含みうる。
【0063】
誘導工程は、「ワンポット」系において、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換を同時に誘導して、分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐集団を生成させることを含む。本出願の文脈における「同時に」なる語は、hiPSCの複数集団が、分化した細胞または組織を形成するように同時に分化を受けることを意味する。重要なことに、同じ直交シグナル/因子により誘導される第2の遺伝子を加えることにより、またはドキシサイクリンとは異なる薬物のような第2の直交誘導刺激を加えることにより、分化だけでなく、特定のプログラムされた細胞挙動をも誘導するという概念が記載されている。
【0064】
1つの実施形態においては、誘導工程は、転写因子を発現する少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換を同時に誘導することを含みうる。
【0065】
「分化または分化転換したプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の分岐集団」の文脈における「分岐」なる語は、直交誘導分化により形成された細胞が、異なる系統または更には異なる胚葉に由来することを意味する。したがって、同時直交誘導分化のプロセスは、単一の細胞型ではなく複数の異なる細胞型へと細胞が分化することを導きうる。
【0066】
遺伝的に操作された誘導可能な細胞集団の直接分化および/または分化転換を誘導する工程は、転写因子、薬物、小分子、増殖因子、モルフォゲン、ホルモン、DNA、shRNA、siRNA、ナノ粒子、mRNA、修飾mRNA、熱、光、溶存ガスおよび機械的刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激を導入することを含みうる。
【0067】
特定の他の実施形態においては、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の分化および/または分化転換は、転写因子、薬物、小分子、増殖因子、モルフォゲン、ホルモン、DNA、shRNA、siRNA、ナノ粒子、mRNA、修飾mRNA、熱、光、溶存ガスからなる群から選択される少なくとも1つの刺激を培地から除去することにより誘導されうる。
【0068】
ある特定の実施形態においては、遺伝的に操作された誘導可能な細胞集団の分化および/または分化転換を誘導するために、ドキシサイクリンが培地に加えられうる。
【0069】
特定の実施形態においては、直接分化は、異なる遺伝子の第2誘導、例えば第2直交誘導を伴いうる。この第2誘導は、第1遺伝子誘導より早く、またはそれと同時に、またはそれより遅く生じうる。第2遺伝子誘導は、転写因子、薬物、小分子、増殖因子、モルフォゲン、ホルモン、DNA、shRNA、siRNA、ナノ粒子、mRNA、修飾mRNA、熱、光および機械的刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激を与えることによるものでありうる。
【0070】
特定の実施形態においては、第2遺伝子誘導のために選択される刺激は、遺伝的に操作された誘導可能な細胞集団の直接分化および/または分化転換を誘導する工程のために選択される刺激と同じである。あるいは、第2遺伝子誘導のために選択される刺激は、遺伝的に操作された誘導可能な細胞集団の直接分化および/または分化転換を誘導する工程のために選択される刺激とは異なる、そして直交性である。
【0071】
特定の実施形態においては、胚様体またはオルガノイド細胞の第1集団は第2遺伝子の誘導により更なる発生を受けうる。第2遺伝子の誘導は、例えば、構成的に活性なPKCタンパク質の発現の誘導を含み、それにより、胚様体もしくはオルガノイド細胞の第1集団の発芽挙動または神経突起伸長の少なくとも1つを増強する。胚様体またはオルガノイド細胞の第1集団は内皮細胞でありうる。
【0072】
胚様体またはオルガノイド細胞の第1集団と胚様体またはオルガノイド細胞の第2集団との比は1:1、1:2、1:3、1:4、1:5など、または5:1、4:1、3:1、2:1でありうる。
【0073】
記載されている方法の結果として、オルガノイドまたは胚様体細胞の少なくとも2つの異なるまたは分岐した集団(すなわち、胚様体またはオルガノイド細胞の第1集団および胚様体またはオルガノイドの第2集団)を含む胚葉体またはオルガノイドが生成され、後で血管化されうる。例えば、特定の実施形態においては、胚様体またはオルガノイドは、同じ培養条件を使用したiPSCの分化により得られる例えば内皮細胞および神経細胞のような細胞の複数集団(すなわち、少なくとも2つの異なる細胞系統)を含みうる。
【0074】
特定の他の実施形態においては、該方法は、細胞の野生型集団を培養すること、ならびに細胞の野生型集団から、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の異なる集団への分化を誘導することを含みうる。
【0075】
同様に、細胞の野生型集団の分化は、細胞培養培地に対する小分子、増殖因子、溶存ガスまたはモルフォゲンの添加または除去により誘導されうる。
【0076】
1つの実施形態において、特定の細胞型は、記載されている方法により産生されうる。本明細書に記載されているとおり、驚くべきことに且つ意外にも、細胞内TFの強制過剰発現は、培地誘導性分化とは独立に機能して、それぞれ非常に高い(100%に近い)効率で特定の細胞型を生成しうる(図1a)。
【0077】
具体的には、図1aに示されている実施形態は、2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団および野生型細胞集団を培地内で培養することを含む方法に関する。第1の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は「TF1」を過剰発現し、第2の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は「TF2」を過剰発現する。遺伝的に操作された幹細胞のこれら2つの集団は2D培養環境(例えば、ウェルプレート、ペトリ皿またはトランスウェルメンブレン)または3D培養環境(例えば、プリント化組織やオルガノイド)において野生型集団と一緒にプールされる。誘導因子の添加による特定のTFの過剰発現により、第1および第2の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換が同時に誘導される。結果として、遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、分化または分化転換した組織細胞(例えば、内皮細胞および神経細胞)の2つの分岐集団へと直接分化および/または分化転換される。細胞の野生型集団は第3のタイプの組織細胞へと直接分化および/または分化転換される。
【0078】
もう1つの実施形態においては、記載されている方法により、多細胞の及び空間的にパターン化されたオルガノイドが生成されうる。ランダムにプールされた(図1(b)の左図)またはマルチコア-シェル(図1(b)の右図)の胚様体に適用される場合には、多細胞のランダムおよび空間的にパターン化されたオルガノイドを構築するために、直交誘導分化が用いられうる(図1b)。
【0079】
「空間的にパターン化されたオルガノイド」なる語は、複数の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団および/または野生型の幹細胞集団のそれぞれがオルガノイドの特定の領域(例えば、オルガノイドのコア、オルガノイドの内殻またはオルガノイドの外殻)に限局しているオルガノイドを意味する。空間的にパターン化されたオルガノイドは代替領域(例えば、前部または後部領域、背側および腹側領域)へと組織化されうる。
【0080】
「ランダムにパターン化されたオルガノイド」なる語は、複数の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団および/または野生型の幹細胞集団がオルガノイドの全体に均一に分布しているオルガノイドを意味する。
【0081】
特に、図1bに示されている実施形態においては、予めプログラムされたhiPSCにおけるDOX誘導性TF過剰発現は培地誘導性分化を無効にしうる。特に、2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団および野生型の細胞集団が細胞培地内で培養される。第1の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は「TF1」を過剰発現し、第2の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は「TF2」を過剰発現する。第1および第2の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化または分化転換は、培地に非依存的である例えばDOXのような別個の刺激を導入することにより同時に誘導される。
【0082】
2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団および野生型の幹細胞集団は同時に一緒に凝集して、ランダムにパターン化された胚様体を形成する。この方法により形成されたランダムにパターン化された胚様体は、例えばDOXのような別個の刺激を含有する培地内で培養され、ランダムにパターン化された多細胞オルガノイドになる。
【0083】
もう1つの実施形態において、2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団および野生型の幹細胞集団は、野生型の幹細胞集団を第1の凝集に付すこと、ついで数時間後に、遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を第2の凝集に付すこと、ついで数時間後に、異なる遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の第3の凝集に付すことにより、連続的に凝集される。第3の凝集の後、空間的にパターン化された胚様体が形成される。空間的にパターン化された胚様体は、例えばDOXのような別個の刺激を含有する培地内で培養され、空間的にパターン化された多細胞オルガノイドになる。
【0084】
更にもう1つの実施形態においては、天然組織構造を模倣した多細胞組織構築物が、記載されている方法により製造されうる。特に、記載されているOIDアプローチ/方法を、細胞密度が高いマトリックス非含有のWTおよび誘導可能TF hiPSCインクの3Dバイオプリンティングと組合せると、多能性組織がパターン化され、ついで、天然組織構造を模倣した多細胞組織構築物へとインサイチュ(in situ)で変換されうる。遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団から作製された誘導可能なTF hiPSCインクは、誘導因子の添加に際して例えば内皮細胞または神経細胞のような組織細胞の分岐集団に分化する多能性をプリンティングするために使用されうる。2つの遺伝的に操作された幹細胞集団から作製された2つの誘導可能なTF hiPSCインクは、誘導因子の添加に際して多細胞組織に分化する多能性組織をプリンティングするために、マルチマテリアル3Dバイオプリンティングを用いることにより、野生型幹細胞から作製されたhiPSCインクと組合されうる(図1c)。
【0085】
特に、1つの実施形態においては、本明細書に記載されている(そして例えば図1(b)に例示されている)方法により作製されたプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を組織構築物内に埋め込むことを含む、機能的ヒト組織構築物を作製するインビトロ法が本明細書に記載されている。一例においては、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織は、多能性幹細胞、複能性幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞、内皮細胞、内皮前駆細胞、不死化細胞株または初代細胞のうちの少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な集団を培養することにより作製されうる。
【0086】
組織構築物は第1血管網と第2血管網とを含むことが可能であり、ここで、各血管網は1以上の相互接続血管チャネルを含む。この方法は更に、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を1以上の生物学的因子、生物学的因子勾配、圧力、圧力勾配および/または酸素圧勾配に曝露し、それにより、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織に対して、ならびに/あるいはプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織から、毛細血管の血管新生を誘導することを含む。ついで、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織は血管化可能であり、ここで、毛細血管が第1血管網を第2血管網に接続し、それにより、単一の血管網および灌流可能な組織構造を生成する。
【0087】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を組織構築物内に埋め込む工程は、複数の生細胞をそれぞれが含む1以上の細胞含有(cell-laden)フィラメントを基体上に堆積させて、1以上の組織パターンを形成させること(該組織パターンのそれぞれは1以上の所定の細胞型を含む);1以上の犠牲的(sacrificial)フィラメントを基体上に堆積させて、1以上の組織パターンを相互貫入する血管パターンを形成させること(該犠牲的フィラメントのそれぞれは一過性(fugitive)インクを含む);プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を血管パターン内に堆積させること;前記の1以上の組織パターンおよび血管パターンを細胞外マトリックス組成物で少なくとも部分的に包囲させること;ならびに一過性インクを除去し、それにより、組織構築物であって、そこに埋め込まれたプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を含む組織構築物を形成させることを含みうる。
【0088】
該方法はまた、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織を1以上の生物学的因子、生物学的因子勾配、圧力、圧力勾配および/または酸素圧勾配に曝露し、それにより、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織に対して、ならびに/あるいはプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織から、毛細血管の血管新生を誘導することをも含む。重要なことに、曝露工程は、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織の血管化を促進し、ここで、毛細血管は第1血管網を第2血管網に接続し、それにより、単一の血管網および灌流可能な組織構造を含む機能的ヒト組織構築物を生成する。
【0089】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織は、以下のうちの少なくとも1つにより、1以上の生物学的因子および/または生物学的因子勾配に曝露されうる:組織構築物内の1以上の生物学的因子の拡散;組織構築物内の、1以上の生物学的因子がローディングされた物質の局在化堆積;局在化タンパク質翻訳による増殖因子の局在化デノボ(de-novo)産生;あるいは1以上の生物学的因子による第1血管網および第2血管網の一方もしくは両方の灌流。
【0090】
生物学的因子は増殖因子、モルフォゲン、小分子、薬物、ホルモン、DNA、shRNA、siRNA、ナノ粒子、mRNAおよび修飾mRNAでありうる。
【0091】
増殖因子には、血管内皮増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、ホルボールミリスタートアセタート(PMA)、肝細胞増殖因子(HGF)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、アンジオポエチンANG-1、アンジオポエチンANG-2、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、上皮増殖因子(EGF)、ヒト増殖因子、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)またはヒスタミンが含まれる。
【0092】
更に、前記の1以上の生物学的因子、生物学的因子勾配、圧力、圧力勾配および/または酸素圧勾配は、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織の発生、分化および/または機能を導きうる。
【0093】
プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織は脳オルガノイドまたは組織、甲状腺オルガノイドまたは組織、腸または消化管オルガノイドまたは組織、肝臓オルガノイドまたは組織、膵臓オルガノイドまたは組織、胃オルガノイドまたは組織、腎臓オルガノイドまたは組織、網膜オルガノイドまたは組織、心臓オルガノイドまたは組織、骨オルガノイドまたは組織、および上皮オルガノイドまたは組織でありうる。
【0094】
特定の実施形態においては、脈管形成、血管新生もしくは管形成のうちの少なくとも1つを含みうる生物学的発生プロセスまたは製造プロセスにより、1以上の相互接続血管チャネルが形成される。
【0095】
第1血管網および第2血管網は、独立して配置可能(addressable)でありうる。
【0096】
あるいは、前記の血管化工程の前に、第1血管網および第2血管網は互いに接触していなくてもよい。
【0097】
特定の実施形態においては、第1血管網は動脈叢を含むことが可能であり、第2血管網は静脈叢を含むことが可能である。
【0098】
特定の代替的実施形態においては、単一血管網は相互貫入(interpenetrating)血管網または分枝相互貫入血管網のうちの少なくとも1つを含みうる。
【0099】
特定の更に詳細な実施形態においては、単一血管網は、相互接続された動脈チャネルおよび静脈チャネルを含みうる。
【0100】
特定の実施形態においては、前記の血管化工程の前に、第1血管網および第2血管網のうちの1つのみを1以上の生物学的因子で灌流することが可能である。
【0101】
特定の代替的実施形態においては、第1血管網および第2血管網の両方を1以上の生物学的因子で灌流することが可能であり、この場合、第1血管網内の生物学的因子濃度は第2血管網内の生物学的因子濃度と異なる。あるいは、第1血管網および第2血管網の両方を1以上の生物学的因子で灌流することが可能であり、この場合、第1血管網内の生物学的因子濃度は第2血管網内の生物学的因子濃度と同じである。
【0102】
特定の実施形態においては、灌流中に第1血管網および第2血管網の一方または両方に酸素分圧勾配が導入されうる。
【0103】
特定の他の実施形態は、機能的ヒト組織構築物を作製するインビトロ方法に関するものであり、該方法は、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含むバイオインクをそれぞれが含む1以上の細胞含有フィラメントを、基体上に、または支持マトリックス内に堆積させて、1以上の組織パターンを形成させること(該組織パターンのそれぞれは、少なくとも1つの所定の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む);1以上の犠牲的フィラメントを基体上に堆積させて、血管パターンを形成させること;前記の1以上の組織パターンおよび血管パターンを細胞外マトリックス組成物で少なくとも部分的に包囲させること;ならびに一過性インクを除去し、それにより、機能的組織構築物であって、そこに埋め込まれた少なくとも1つの所定の遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む組織パターンを含む機能的組織構築物を形成させることを含む。
【0104】
該方法は更に、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の直接分化および/または分化転換を誘導して、プログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織細胞の、少なくとも2つの分岐集団を生成させる工程を含みうる。少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団の分化および/または分化転換は細胞培養培地内へのドキシサイクリン(DOX)の添加により誘導されうる。
【0105】
遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、直交誘導分化プラットフォームを使用して、ゲノム的にプログラムされうる。
【0106】
少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は少なくとも1つの転写因子を過剰発現しうる。転写因子は、例えば、ETV2、NGN1、Tbr1、Fezf2、Ctip2、SATB2、LMX1A、NR4A2、Isl1、St18、FOXA2、PITX3、Ascl1、Smad7、Nr2f1、Dlx2、Dlx4、Nr2f2、Barhl2およびLhx1でありうる。
【0107】
記載されている方法において、特定の実施形態においては、バイオインクは、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を、少なくとも100M細胞/mLの細胞密度で含みうる。代替的実施形態においては、バイオインクは少なくとも2つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含みうる。特定の実施形態においては、バイオインクは、細胞懸濁液の遠心分離および上清の除去により形成される、少なくとも1つの遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団を含む細胞ペレットから構成されうる。
【0108】
該方法において使用される遺伝的に操作された誘導可能な幹細胞集団は、本明細書に記載されている直交誘導分化プラットフォームを使用して、ゲノム的にプログラムされうる。
【0109】
特定の実施形態においては、所望により、細胞外マトリックス成分またはレオロジー調整剤が、遠心分離の前に、細胞懸濁液に添加されうる。
【0110】
特定の他の実施形態は、本明細書に記載されているいずれかの方法により製造されるプログラム可能な多細胞オルガノイドおよび/または3D器官特異的組織に関する。
【0111】
特定の他の実施形態は、1以上の幹細胞インクを同時にパターン化するために向けられたプリントヘッドに関するものであり、ここで、幹細胞は、プリンティング後に、要求に応じて、直交的に分化されうる。プリントヘッドは図20に例示されている。
【0112】
実施例
実施例1
オルガノイドを血管化するための方法の要約
ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)をmTeSR1培地内のビトロネクチン被覆非組織培養処理6ウェルプレート上の培養内で維持する。継代のために、細胞をアキュターゼ(accutase)で5分間処理し、15mM HEPESを含有するDMEM/F12ですすぎ、P1000ピペットチップで上下に2回ピペッティングして穏やかに粉砕(triturate)する。ついで細胞を、10μM Rho-キナーゼインヒビター(ROCK-i)を含有するmTeSR1培地内でレプレーティングする。12~20時間後、細胞を、ROCK-iを含有しないmTeSR1内で交換し、培地を毎日交換する。
【0113】
胚様体を形成させるために、「第0日」に、前記のとおりに継代する。ただし、この場合には、正確な計数を助けるためにコロニーを単一細胞に分離するために、より長い15分間のアキュターゼ処理を行う。細胞を計数したら、iPSCをアグリウェル(aggrewell)400プレートにマイクロウェル当たり500細胞の総密度で加え、100gで3分間遠心分離し、10μM ROCK-iを含有する2mlのアキュターゼにおいて培養して、胚様体を形成させる。この時点で、iPSCの遺伝的に修飾された集団を使用する場合には、それらを野生型iPSCの単一細胞懸濁液に所定の細胞数比で加え、混合し、アグリウェルプレートに加え、ついで100gで3分間遠心分離して、各マイクロウェルにおける細胞の混合集団を生成させることが可能である。20時間後、「第1日」に、マイクロウェル内で胚様体が形成され、培地を、ROCK-iを含有しないアグリウェル培地と交換する。培地を「第3日」まで毎日交換し、その時点で、胚様体を、穏やかなピペッティングによりマイクロウェルから除去し、40μmリバーシブル細胞フィルターの表面上ですすぐことにより洗浄した後、フィルターを裏返して、1:100のN2サプリメント、1:100のグルタマックス(Glutamax)および1:100のMEM非必須アミノ酸(MEM-NEAA)および10μg/ml ヘパリンで補充(supplement)されたDMEM/F12培地を含む神経誘導培地の5mlを使用して胚様体を遊離させることが可能である。胚様体を懸濁培養用の超低接着性6ウェルプレートに移し、凝集を防ぐために1日2回攪拌する。
【0114】
懸濁培養内で4日間の後、「第7日」に、プルロニック(Pluronic)(登録商標)F-127またはゼラチンのいずれかの犠牲的(sacrificial)プリント化フィラメントの周囲のピンキャスティング(pin-casting)または成形により形成された微小血管スカフォールド内に細胞を移植する。マトリックスは、ラット尾(rail)I型コラーゲン(2mg/ml)またはフィブリノゲン(10mg/ml)と混合されたマトリゲルから構成される。血管網は、2つの独立した網構造、すなわち、「動脈」網および「静脈」網を含有する。培養培地を、1:200 N2サプリメント、1:100 B27サプリメント(ビタミンA非含有)、1:200 MEM-NEAA、1×グルタマックスおよび1×β-メルカプトエタノールで補充された、DMEM/F12とニューロベーサル(Neurobasal)との1:1混合物を含む第1段階の神経分化培地に切り替える。次に、血管発芽を促進させるために、特定の血管新生因子を一方または両方の網構造に加える。「発芽(sprouting)」、「芽体」またはより詳細には「内皮芽体」は、管状構造を生成するように血管新生または脈管形成を受けた内皮構造を意味する。
【0115】
培地を、蠕動ポンプにより、2つの独立した網構造体を経由して圧送することが可能であり、培地を2日ごとに交換することが可能である。
【0116】
「第11日」に、培地を第2段階の神経分化培地と交換することが可能である。この培地は、ビタミンA非含有B27がビタミンA含有B27で置換されていること以外は第1段階の神経分化培地と同じである。
【0117】
遺伝的に修飾されたiPSCの分化転換または定方向分化を誘導するために、直交シグナル、例えばdoxを、例えば100ng/mlで、分化プロセスの任意の段階の培地に加えることが可能である。更に、静脈と動脈との両方の系を接続する毛細血管叢の形成を促進するために、誘導された内皮の発芽を誘導するために、第2の直交シグナル、例えばクマート(cumate)、mRNAまたは他の誘導因子を、記載されている培地条件に加えることが可能である。血管新生因子の添加は、方向性(directional)血管新生を誘導する勾配をもたらしうる。
【0118】
2つの網構造を接続するのに十分な程度に血管新生が生じたら、蠕動ポンプにより動脈側のみに陽圧を加えて、接続毛細血管を経由して静脈側に流体が流れるようにすることが可能である。
【0119】
実施例2
方法
細胞培養
この研究にはPGP1 hiPSCを使用した(Coriell、#GM23338)。細胞を、フローサイトメトリーによって多能性に関して検証し、継代20~50において培養した。分化、オルガノイド形成もしくはバイオプリンティングの前にhiPSCを増殖させるために増殖因子低減マトリゲル(Corning #354230)を使用して、または誘導可能な細胞株の生成中に、hESC認定(qualified)マトリゲル(Corning、#354277)で被覆された組織培養プレート上のmTeSR1(STEMCELL Technologies、#05850)内で、抗生物質の非存在下で、PGP1を培養し、継代した。継代のために、hiPSCを、カルシウムもマグネシウムも含有しないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、TrypLE Express(Life Technologies、#12604013)を使用して解離させ、ついで、1日間、10μM Y-27632(Selleck Chemicals、#S1049)で補充された6ウェルプレート内に300k細胞/ウェルで播種し、ついで、培地を毎日交換しながらmTeSR1内で維持した。凍結保存のために、細胞をTrypLE Expressで解離させ、計数し、-80℃で一晩、CoolCell LX凍結ブロック(Biocision、#BCS-405)を使用して、mFreSR(STEMCELL Technologies、#05854)に106 細胞/mlの濃度で再懸濁させ(STEMCELL Technologies, #5854)、ついで長期保存のために液体窒素中で保存した。
【0120】
TF誘導性クローンhiPSC細胞株
ピューロマイシン耐性遺伝子を含有するGateway適合性ドキシサイクリン誘導性(Tet-On)PiggyBacベクターをChurch Labから得た。20bpのバーコード: 5’ CAAAGTGAAACCAGAGTCGC 3’(配列番号31)と共にGateway LR Clonase II Enzyme mix(Invitrogen、#12538200)を使用したGateway反応を用いて、DNASU 48,49 レポジトリ(repository)からのpDONR221-NEUROG1(HsCD00040492)をバーコード化バージョンのPBAN001内にクローニングした。それぞれ20μlの反応ウェル内の600k WT細胞と共に20μlのP3溶解キット(Lonza、#V4XP-3032)およびLonza 4D Nucleofector X-Unit(Lonza、#AAF-1002X)を製造業者の説明に従い使用して、SuperPiggyBacトランスポザーゼ発現ベクター(SBI、#PB210PA-1)を介して、2μlの総反応体積中、1:4の質量比(PBAN-NGN1):(SPB)で、該構築物をヌクレオフェクションによりPGP1細胞内に運搬した。ヌクレオフェクション後、溶液中の細胞を、10μM Y-27632で補充されたmTeSR1中で、マトリゲルで被覆された6ウェル組織培養処理プレート上で1日間プレーティングした。細胞が70%のコンフルエンシーに達した後、1μg/ml ピューロマイシン(Gibco、#A1113803)の添加による選択を行い、5μM Y-27632で1日間補充した。細胞を、カルシウムもマグネシウムも含有しないPBS(Gibco、#14190250)を使用して1回洗浄し、コロニーが視認可能となるまで、10μM Y-27632で補充されたmTeSR1において維持した。
【0121】
ついでコンフルエント(集密)なポリクローナルiNeuronコロニーをTrypLEで7分間解離させ、300gで5分間遠心分離し、10μM Y-27632およびペニシリン-ストレプトマイシン(MilliporeSigma、#P4333)で補充された500μlのmTeSR1に再懸濁させ、35μm セルストレーナー(Falcon、#352235)で濾し、直ちに氷上に配置した。各ウェルが、CloneR(STEMCELL Technologies、#05888)で補充された150μlのmTeSR1を含有するマトリゲル被覆96ウェルプレート内に単一細胞を選別するために、SH-800s Sony Flow Sorter(100μmチップノズル)を使用した。製造業者の説明に従い、細胞をコンフルエント状態まで維持し、候補コロニーを2つの48ウェルプレートウェル(1つは500ng/ml ドキシサイクリンヒクラート(MilliporeSigma、#D9891)の添加による誘導による検証のためのものであり、もう1つのウェルは更なる増殖/継代のためのものである)内に播種した。TFome転写因子ライブラリーを使用して、クローン性PGP1 ETV2アイソフォーム-2株であるiEndo細胞をiNeuronsと同様にして構築した 29
【0122】
蛍光標識されたhiPSC株iEndo-mKate2およびeGFP-WT hiPSCを操作するために、構成的に発現されるGFPをコードするFUGWプラスミド(Addgene #14883)を修飾して、膜結合mKate2(FUmemKW)を発現させた。これらの2つのプラスミドを、既に記載されているとおりに 29、レンチウイルス内にパッケージングし、FUGWおよびFUmemKWレンチウイルスをWT PGP1およびiEndo hiPSC内に形質導入して、それぞれ緑色および赤色の細胞株を作製した。蛍光タンパク質を均一に発現する純粋な細胞集団を得るために、hiPSCをFACSAriaで選別した。
【0123】
2D直交誘導分化アッセイ
神経特異的条件におけるODを研究するために、500ng/mL ドキシサイクリンヒクラートの存在下または非存在下、1:100 N2サプリメント(Gibco、#17502048)、1:100最小必須培地非必須アミノ酸(MEM-NEAA)、1μg/ml ヘパリン(Sigma、H3149)、5μM SB431542(BioGems、#3014193)および100nM LDN193189(BioGems、#1066208)で補充された、GlutaMAX(Gibco、#10565018)を含有するDMEM/F12からなる神経誘導培地(NIM)において、マトリゲル被覆6ウェルプレートの各ウェル内に、300kのWT PGP1、iEndo PGP1またはiNeuron PGP1細胞を播種した。播種の時点で、NIMを更に10μM Y-27632で補充した。プレーティングの24時間後、培地をドキシサイクリンの存在下または非存在下のNIMに変更した。6日間の培養にわたって48時間ごとに培地を交換した。
【0124】
内皮特異的条件におけるODを研究するために、WTまたはiNeuron PGP1細胞をmTeSR1内で60~70%コンフルエンシーまで増殖させ、その時点で細胞をPBS中で1回すすぎ、500ng/mL ドキシサイクリンの存在下または非存在下、2日間、1:50 B27マイナス・インスリン(Gibco、#A1895601)および6μM CHIR99021(BioGems、#2520691)で補充されたRPMI1640(Gibco、#11875093)に、培地を交換した。第2日に、1:50 B27マイナス・インスリンおよび3μM CHIR99021を含有するRPMI1640に、培地を交換した。第4日に、500ng/mL ドキシサイクリンの存在下または非存在下で10μM SB431542、50ng/mL 血管内皮増殖因子(VEGF)(PeproTech、#100-20)および 25ng/mL 線維芽細胞増殖因子2(PeproTech、#100-18B)を含有するEGM-2(PromoCell、#C-22111)に、培地を交換した。第6日に培地を再度交換し、細胞を第8日まで培養内で維持した。
【0125】
幹細胞分化中の蛍光タイムラプスイメージング
500μlの冷マトリゲルを6ウェル組織培養処理プレートの単一ウェルに加え、37℃に30分間加温することによりゲル化させた。150kのWT-eGFP PGP1細胞および150kのiEndo-mKate2 PGP1細胞を、Y-27632および500ng/ml ドキシサイクリンで補充されたmTeSR1内に播種し、1日間培養した。培養の第2日に、mTeSR1培地を除去し、プレートをPBSで穏やかにすすいだ後、500ng/mlのドキシサイクリンヒクラートを含有するNIMと交換した。プレートを、環境チャンバー(CO2および温度が制御される)を備えた倒立蛍光顕微鏡(Zeiss Axio Observer Z1)に移し、10倍の対物レンズを介してPhotometrics Evolve電子増倍電荷結合素子(EMCCD)上にイメージングして、30分ごとに4×4グリッド上にタイル化(tiling)した。培地を毎日交換し、イメージを4日間にわたって捕捉した。タイル化イメージをZeissのZen Blueソフトウェアにおいて5%のタイル重複で自動的にステッチ(stitch)し、ImageJを使用して処理した。
【0126】
フローサイトメトリー
細胞内および表面マーカー染色のために、細胞を、トリプシン-EDTAを使用して解離させ、BD Cytofix(BD、#554714)において15分間固定し、3% wt/volウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBS中で3回洗浄した。ついでサンプルを96ウェルにおいて5×105 細胞/ウェルで分注し、BD Perm/Wash(BD、#554723)溶液中で15分間透過処理し、300gにおける遠心分離によりペレット化し、上清を吸引した。サンプルを、1希釈当たり107 細胞/mlの濃度でBD Perm/Wash中で希釈された抗体中で暗所で45分間インキュベートし、BD Perm/Washで3回洗浄した後、フローサイトメトリー実験を行った。BD抗マウスIG(BD、#552843)および蛍光結合抗体を使用して、各実施に関して色補正を行った。全てのフローサイトメトリー測定はBD LSR Fortessa細胞分析器において行った。フローファイル(.fcs)をFlowJo 10.6.1において処理した(ゲーティング方法は図6に含まれている)。プロットをPrism 8.4.0で作成した。フローサイトメトリーアッセイで利用される蛍光結合抗体を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
HUVEC-hiPSC凝集結合アッセイ
HUVEC-RFP細胞(Angio-Proteomie、#cAP-0001 RFP)、WT-eGFP PGP1細胞およびiEndo-mKate2 PGP1細胞を、Gentle Cell Dissociation Reagent(STEMCELL Technologies、#07174)において細胞を37℃で12分間インキュベートすることにより、70%~80%コンフルエンシーから解離させ、ついで、HEPES(Gibco、#11330032)を含有するDMEM/F12に再懸濁させた。ついで細胞を250gで5分間遠心分離した後、4mg/mlポリビニルアルコール(PVA、MilliporeSigma、#P8136)で補充されたmTeSR1からなる、iEndo-mKate2細胞およびWT-eGFP細胞用のEB培養培地(EBCM)における、またはHUVEC-RFP:WT-eGFPの1:1共培養用のEBCMとEGM-2との1:1混合物における再懸濁および単一細胞濾過に付した。PVAストック溶液は、90℃の撹拌脱イオン水にPVAを完全に溶解して200mg/mlのストック濃度にすることにより調製した。24ウェルAggreWell(商標)400プレート(STEMCELL Technologies、#34411)のウェルに、10μM Y-27632を含有するEBCMにおける1:1のiEndo-mKate2:WT-eGFP細胞、または10μM Y-27632を含有するEBCMとEGM-2との1:1混合物における1:1のHUVEC-RFP細胞:WT-eGFP細胞を播種した。プレーティングの24時間後、両方の条件における培地を、Y-27632を含有しないEBCMと交換した。プレーティングの48時間後、53 RPMで回転するオービタルシェーカー上で、EBCMにおける非接着性T25フラスコ内の懸濁培養に凝集物を移した。プレーティングの24時間後およびプレーティングの48時間後、凝集物をZeiss LSM710共焦点顕微鏡でイメージングした。
【0129】
血管化皮質オルガノイド培養
既に確立されているプロトコル 13,50,51 に基づいて、皮質オルガノイド培養を適合させた。追加的な0.03M NaClで補充されたPBS中の0.5mM EDTAからなるEDTA解離試薬(EDR)で70~80%コンフルエンシーのhiPSC単層を37℃、5% CO2で12分間解離させることにより、EBを第-3日に形成させた。ついで細胞を、HEPEを含有するDMEM/F12に再懸濁させ、250gで5分間遠心分離した。24ウェルAggreWell(商標)800プレート(STEMCELL Technologies、#34815)のウェルをPBS中の0.2% プルロニックF127の抗接着コーティングで処理し、10μM Y-27632で補充されたEBCMにおける1:2の比のiEndo:WT PGP1 hiPSCまたはWT PGP1 hiPSCを使用して1.5×106 細胞/ウェルで播種した。凝集の翌日(第-2日)、EBCM培地を新鮮なEBCMと交換して、AggreWell(商標)800プレート内のY-27632を除去した。第-1日に、53rpmで回転するオービタルシェーカー上の非接着T25フラスコ内の新鮮なEBCMにおける懸濁培養内にEBを移した。
【0130】
神経分化は第0日(懸濁培養の1日後)に開始した。ドキシサイクリンを含有する神経誘導培地(NIM)にEBを移した。NIMにおける3日間の後、既に確立されているプロトコル 43 と同様にして調製された陥凹(dimpled)パラフィルム上で形成された80μlの冷コラーゲン/マトリゲルゲル液滴内にオルガノイドを移した。最終的なコラーゲンおよびマトリゲルの濃度は4mg/ml ラット尾コラーゲンI 型(Corning、#354249)および25% マトリゲル(Corning)であった。オルガノイドを含有するゲル液滴を37℃で15分間ゲル化させた後、超低接着性6ウェルプレート(Corning、#3471)内のNIM内に戻し、これを静止状態で維持した。オルガノイドをゲル内に移植してから3日後(神経誘導の開始後の第6日)、90RPMで回転するオービタルシェーカー上にオルガノイドを移し、1:200 GlutaMAX(Gibco、#35050061)、1:200 MEM-NEAA、1:200 N2サプリメント、1:100 B27サプリメント(ビタミンA非含有:Gibco、#12587010)、1:4000 インスリン(MilliporeSigma、#I9278)、10ng/ml VEGF、20ng/ml EGF(PeproTech、#AF-100-15)、20ng/ml FGF2、50μM β-メルカプトエタノール(MilliporeSigma、#M6250)および500ng/ml ドキシサイクリンで補充されたニューロベーサル(Neurobasal)培地(Gibco, #21103049)とGlutaMAX含有DMEM/F12との1:1混合物からなる神経分化培地1(NDM1)に培地を交換した。4日後、培地の半分を新鮮なNDM1で置換した。第13日に、神経誘導の開始後、1:200 GlutaMAX、1:200 MEM-NEAA、1:200 N2サプリメント、1:100 B27サプリメント(Gibco、#17504044)、1:4000 インスリン、10ng/ml VEGF、20ng/ml EGF、20ng/ml FGF2、50μM β-メルカプトエタノールおよび500ng/ml ドキシサイクリンで補充されたニューロベーサル(Neurobasal)培地とGlutaMAX含有DMEM/F12との1:1混合物からなる神経分化培地2(NDM2)と全培地を交換するために、全培地交換を行った。神経誘導の25日後まで4日ごとにNDM2の半分の培地交換を行った。神経誘導の開始の25日後、1:200 GlutaMAX、1:200 MEM-NEAA、1:200 N2サプリメント、1:100 B27サプリメント(ビタミンA含有:Gibco、#12587010)、1:4000 インスリン、10ng/ml VEGF、20ng/ml BDNF(PeproTech、#450-02)、50μM β-メルカプトエタノールおよび500ng/ml ドキシサイクリンで補充されたニューロベーサル(Neurobasal)培地とGlutaMAX含有DMEM/F12との1:1混合物からなるNDM3と全培地を交換するために、全培地交換を行った。オルガノイド培養の期間中、必要に応じて、1~4日ごとにNDM3の半分の培地の交換を行った。血管化皮質オルガノイドを最大45日間培養した。
【0131】
マルチコア-シェル皮質オルガノイド培養
野生型PGP1-hiPSCを、EDRを使用して解離させ、EBCM + 10μM Y-27632において抗接着処理V底96ウェルプレート(GlobeScientific、#120130)内に1,000細胞/96ウェルウェルの密度で12時間播種して、オルガノイドコアを生成させた。12時間後、iNeuronsを、EDRを使用して解離させ、追加的な2,000細胞/96ウェルウェルで各EBに加え、10μM Y-27632を含有するEBCMにおいて12時間凝集させた。ついでiEndo細胞を、EDRを使用して解離させ、追加的な2,000細胞を各EBに加え、EBCM + 10μM Y-27632において12時間以上凝集させた。最終的な凝集の12時間後、培地をEBCMと完全に交換した。凝集開始の48時間後、培地を96ウェルプレート内でNIMに変更することにより、神経分化を開始させた。神経分化の開始の24時間後、オルガノイドを96ウェルプレートから採取し、80μlのコラーゲン/マトリゲルゲル液滴内に移植した。ついで、血管化皮質オルガノイドプロトコルを用いて、マルチコア-シェルオルガノイドを培養した。
【0132】
凍結切片化および免疫染色
オルガノイドを4% パラホルムアルデヒドで30分間固定し、PBS中で3回すすいだ。凍結切片を得るために、固定されたオルガノイドを、30% wt/volスクロースを含有するPBS中、4℃で2日間インキュベートし、ついでOptimal Cutting Temperatureコンパウンド(OCT)(Tissue-Tek、#4583)と30% wt/volスクロース含有PBSとの1:1溶液内に90分間移した。次に、組織をクライオスタット組織モールド(cryostat tissue mold)内に配置し、ついでこれを100% OCT溶液で満たし、クライオスタット・ペルチェ・クーラー(cryostat Peltier cooler)上で-20℃で凍結した。組織を、40~60μmのスライスを用いて切片化し、Superfrost Plusガラススライド(VWR Inc.、#48311-703)上に移した。切片を免疫染色前に-20℃で保存した。
【0133】
凍結切片および全皮質オルガノイドの免疫染色のために、組織を、0.1% Triton-Xを含有するPBS中で30分間透過処理し、ついで、2% ロバ血清を含有するPBS中で1時間以上ブロッキングした。次に組織切片を一晩インキュベートし、ホールマウント(全組織標本)オルガノイドを、2% ロバ血清を含有するPBS中の一次抗体中で1~3日間インキュベートした。組織を、0.05% Tween-20を含有するPBS(PBST)で3回すすぎ、ついで、2% ロバ血清を含有するPBS中の二次抗体中で、一次抗体と同じ長さの時間にわたってインキュベートした。細胞核をPBS中の300nMの4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で10分間標識し、ついでPBST中で3回すすいだ。組織切片およびホールマウントオルガノイドをZeiss LSM710共焦点顕微鏡でイメージングした。免疫染色において使用される全ての一次抗体および二次抗体を表2に列挙する。
【0134】
【表2】
【0135】
iDISCO+ 組織の透明処理
皮質オルガノイドを、iDISCO+ プロトコル 52 の適合化バージョンを用いて透明処理し(clear)、免疫標識した。簡潔に説明すると、オルガノイドを、メタノール/水勾配を使用して6時間にわたって脱水し、ついで、67% ジクロロメタン(DCM)/33% メタノール溶液を使用して3時間脱脂した後、メタノール中の5% 過酸化水素中で一晩漂白した。次にそれらをメタノール/水の逆勾配中で6時間にわたって再水和させ、PBS中に移した。ついでそれらを、前記と同じ免疫標識プロトコルを用いて免疫標識し、メタノール/水勾配を用いて6時間にわたって2回目の脱水に付した後、67% DCM/33% メタノール中で更に3時間脱脂した。ついでオルガノイドを100% DCM中で2回すすいだ後、メタノール/水の逆勾配で6時間にわたって再水和させた。最後に、それらを、EasyIndex(LifeCanvas Technologies)を使用して屈折率調整し、Zeiss LSM710共焦点顕微鏡を使用してイメージングした。透明処理された皮質オルガノイドの3Dレンダリングを、3Dscript ImageJプラグイン 53 を使用して行った。
【0136】
血管化皮質オルガノイドのアンジオツール分析
iDISCO透明処理されたWTのみのオルガノイドおよびWT + iEndoのオルガノイドから共焦点zスタックを取得した。単一オルガノイド内のz = 10.8、119、227、335および442μmにおける個々の光学的断面をアンジオツール(Angiotool)分析 54 に使用した。バックグラウンドノイズを除去するために、LUT閾値を20に上昇させることにより、光学的断面を前処理した。5の血管径および40の小粒子フィルターを使用して、アンジオツール分析を行った。
【0137】
皮質オルガノイドのRNA抽出およびRT-qPCR
前記のプロトコルを用いて、皮質オルガノイドを培養した。Ambion PureLink RNAミニキット(Invitrogen、#12183020)を使用して、RNA抽出を行った。携帯式ホモジナイザー(Bel-art、#F65000-0000)を、付属するRNアーゼ非含有・DNアーゼ非含有の使い捨て乳棒(Bel-art、#F65000-0006)と共に使用して、マトリゲル-コラーゲンハイドロゲル液滴中に懸濁した単一オルガノイドの均質化(homogenization)を行った。このとき、Ambion PureLinkキットにおいて提供される600μlの細胞溶解バッファーにオルガノイドを懸濁させた。また、RNA抽出プロセス中にオンカラム(on-column)DNアーゼI(Invitrogen、#AM2222)消化を行った。RNAインテグリティ・ナンバー(Integrity Number)(RIN)スコアの定量のためにAgilent 2200 TapeStationを使用して、抽出RNAサンプルを検証した。この研究で使用した全てのサンプルは8.8を超えることが検証された。合計110ng/反応で10ng/μlに正規化された各サンプルのための投入cDNAおよびオリゴd(T)プライマーと共にSuperScript IV第1鎖合成系(First-Strand Synthesis System)(Invitrogen、#18091050)を使用して、cDNA合成を行った。ゲル電気泳動により、含まれているキット対照を使用して、cDNAを検証した。IDTのPrimeTime遺伝子発現マスターミックス(Gene Expression Master Mix)(IDT、#1055771)を使用し、IDTのPrimeTime遺伝子発現プライマー/プローブ(Gene Expression Primer/Probes)(ZEN/FAM)を使用して、RT-qPCR実験を行った。BioRad cf96 qPCR装置を使用して、曲線が得られた。Cq値のデータ処理用のスクリプトをPythonにおいて作成し、Prism 8.4.0を利用してグラフを作成した。使用した全てのプライマーおよびプローブの一覧を表3に示す。
【0138】
【表3-1】
【0139】
【表3-2】
【0140】
【表3-3】
【0141】
第25日のオルガノイドの単一細胞配列決定
既に記載されている方法を用いて、WT iPSChiPSC、混合およびマルチコア-シェル皮質オルガノイドを第25日まで培養した。既に記載されているプロトコル 14 を用いて、解離を行った。Chromium Next GEM Chip G単一細胞キット(Single Cell Kit)(10x Genomics、PN-1000127)および付属のChromium Next GEM単一細胞(Single Cell)3' GEM、ライブラリーおよびゲルビーズキット(Library & Gel Bead Kit)v3.0(10x Genomics、PN-1000128)を10x Chromiumコントローラー(10x Genomics、PN-1000202)において使用して、サンプル当たり5000個の単一細胞の目標回収率で、細胞カプセル化(GEM生成)を行った。推奨プロトコルを用いて、GEM-RT後のクリーンアップおよびcDNA増幅を行った。Qubit dsDNA HSアッセイキット(Thermo Fischer Scientific、Q32854)を使用して、Qiagen Qubit 3.0プラットフォームにおいて、cDNA QCを行った。Agilent 2100 Bioanalyzer装置(Agilent、G2939BA)において、Agilent高感度DNA分析キット(High Sensitivity DNA Analysis Kit)(Agilent、5067-4626)を使用して、定量を行った。3'遺伝子発現ライブラリーの構築を行い、Single Index Kit T Set A(10x Genomics、PN-1000213)を使用してサンプルをインデックス化(index)した。Qubitおよび Bioanalyzer Kitsを使用してインデックス化サンプルを品質に関して更に検証し、マニュアルの推奨方法を用いて濃度の正規化を行った後、配列決定(シーケンシング)のための提示のためのプール化を行った。プール化ライブラリーを、qPCRを用いてQCに付し、v1.5試薬キットおよび2×150bpを使用して、NovaSeq S4フローセルの単一レーン上で、細胞当たり50,000リード(read)の目標深度で実施した。GRCh38ヒト参照ゲノムに対して、10x GenomicsのCellRanger 5.0ソフトウェアスイートを使用して生リードを処理した。
【0142】
Seuratにおいては、3000を超えるUMI、1300個の遺伝子およびミトコンドリア遺伝子からの20%未満の計数(カウント)を有する細胞を更なる処理のために使用した。各バッチ内で、SCTransformを使用して、計数を正規化し、ついでSeuratにおける正準相関分析(canonical correlation analysis)(CCA)および相互近傍法(mutual nearest neighbor)(MNN)を用いて、2つのバッチを統合した。R Package Seurat 4.0「FindClusters」を使用してクラスタ識別を行い、「RunUMAP」関数によりUMAP分析を行い、「Featureplot」関数を実行することによりUMAPプロッティングを行った。ウィルコクソン(Wilcoxon)順位和検定および「FindMarkers」関数に基づいて、示差的(differential)発現分析を行った。ボンフェローニ補正を用いて、複数の試験に関してP値を調整した。clusterProfiler 3.8.1 Rパッケージを使用し、「enrichGO」関数を使用して、遺伝子オントロジー分析を行い、その「dotplot」関数を使用して、プロッティングを行った。一次ヒト脳サンプルGSE132672であるトレーニング参照データセットと共にSingleCellNet Rパッケージを使用して、クラスターを注釈付けした。それらの注釈メタデータに詳述されている「サブタイプ」クラスに対して分類子(classifier)をトレーニングした。この場合、サブタイプ「外れ値」に含まれる細胞は明瞭化のために除去された。
【0143】
SingleCellNetを使用する自動注釈
一次ヒト脳サンプルGSE132672であるトレーニング参照データセットと共にsingleCellNet 40 Rパッケージを使用して、クラスター生成を注釈付けした。それらのメタデータに詳述されている「サブタイプ」クラスに対して分類子(classifier)をトレーニングした。この場合、サブタイプ「外れ値」に含まれる細胞は明瞭化のために除去された。0.1の解像度におけるクラスターに関する正体(identity)を提示するために、分類子を利用した。
【0144】
オルガノイドパターン化の定量
オルガノイドをEasyIndex Solutionにおいてマウントし、Zeiss LSM710共焦点顕微鏡でイメージングした。CellTracker(商標)標識オルガノイドを分析するために、カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを記述した。蛍光強度に基づいて、CellTracker(商標)研究において使用される3つの色の1つに各ピクセルを割り当て、最大エントロピー閾値関数を使用して、画像をバイナリー化(binarize)した。Hellら 55 は、高屈折率媒体へのイメージングから生じる焦点シフトを説明するために以下の式を示している。
【0145】
【数1】
ここで、AFPは実際の焦点位置(ボクセルのz位置)であり、NFPは公称焦点位置(ボクセルのイメージングされたz位置)であり、n1およびn2は、それぞれ、空気の屈折率(n = 1)およびEasy Index(n = 1.47)である。EasyIndex は光の可視波長の全体にわたって最小分散を有すると推定される。各オルガノイドの中心位置を特定し、各ボクセルと全ボクセルの中心位置との間の距離を計算する。距離を各オルガノイドの半径に対して正規化し、合計して、ヒストグラム表面積に正規化されたヒストグラムプロットを得る。
【0146】
室(ventricle)における上部(apical)神経上皮の長さを測定するために、オルガノイド切片をN-カドヘリンおよびSox2で染色し、Zeiss LSM710共焦点顕微鏡でイメージングした。放射状に組織化されたSox2+ 細胞で包囲されたN-カドヘリン陽性領域を室と見なし、ImageJにおいてトレースした。
【0147】
3Dバイオプリンティング
トリプル・マテリアル並行流(triple-material co-flow)ノズル(プリントヘッド)を、Fusion360(Autodesk Inc.)を使用して設計し、ステレオリソグラフィー(.stl)ファイルとしてエクスポートした。ステレオリソグラフィー3Dプリンター(Perfactory Aureus, EnvisionTEC)を使用し、HTM140v2樹脂(EnvisionTEC)を使用して、層の高さ50μmおよび校正出力700mWで、ノズルをプリント化した。プリント化ノズルを最初にすすぎ、イソプロピルアルコールを使用して内部チャネルを洗い流した。ついでそれらを気流下で乾燥させ、Omnicureランプ(EXFO)を使用して紫外線(UV)照明下で更に硬化させた。
【0148】
hiPSCの、1つの90%コンフルエントT225フラスコから、高密度細胞バイオインクを作製し、それを、プリント前にシリンジにローディングした。これらのhiPSCを、最初に、カルシウムもマグネシウムも含有しないPBS中ですすぎ、TrypLE中で37℃、5% CO2で7分間インキュベートし、ついで持ち上げて、HEPESを含有する37℃のDMEM/F12内に加え、250gで5分間遠心分離した。上清を除去した後、細胞を、HEPESを含有するDMEM/F12に再懸濁させ、懸濁液を40μm細胞ストレーナー(BD Falcon、#352340)で濾過して単一細胞懸濁液を生成させ、ついでこれを250gで5分間の遠心分離によりペレット化した。上清を吸引し、残りの細胞ペレットを、10μM Y-27632を含有する250μlのmTeSR1に再懸濁させ、1.6mlのエッペンドルフチューブに移し、1mlシリンジ(Covidien Kendall、#8881901014)内にフロントローディングした。該1mlシリンジを、先端を上に向けて750gで5分間遠心して、シリンジプランジャー上に載る細胞ペレットを形成させた。ペレットを無傷のままにしてシリンジの先端から1.5インチ長の吸引ノズルを挿入することにより、上清をシリンジ内に吸引した。次に、シリンジプランジャーを穏やかに操作することにより、ペレットを該1mlシリンジの先端に移動させた。ついでシリンジの先端を、プランジャーが配置されていない250μlの気密ガラスシリンジ(Hamilton #81120)の後端に押し付け、1mlシリンジプランジャーを穏やかに押すことによりペレットをガラスシリンジ内にバックローディングした。次に、プランジャーとペレットとの境界に空気が入らないように注意しながら、後方にローディングされたペレットがシリンジの先端まで移動するように、気密プランジャーをガラスシリンジ内に挿入した。特製プリントヘッドをシリンジに取り付け、ついでそれを、3Dバイオプリンティング用の特性シリンジポンプ 10 を備えた6軸モーション・コントロール・ステージ 9 上に取り付けた。
【0149】
単細胞フィラメントをバイオプリンティングするために、内径50μm(GPD Global、#10/4794)または100μm(GPD Global、#10/4793)のテーパー加工金属ノズルを、細胞ペレットがローディングされたガラスシリンジの先端に取り付けた。多細胞フィラメントをプリンティングするために、3つのインク全てを同時に押し出す単一のシリンジポンプに取り付けられた3つのローディングされたシリンジに3Dプリント化トリプルノズルを接続した。Arduinoマイクロコントローラーおよび特製ステッパ・モータ・ドライバーを使用して、インクの押し出しを制御した。手動で(manually)書かれたGコードを使用して、プリンターの動作を制御した。皮質組織構造に関するGコードは、GW11ヒト脳切片の撮影イメージから作成した 56。PGP1 hiPSCフィラメントを6ウェルプレート(Greiner Bio-One、#657641)におけるThinCert透明0.4μm孔径トランスウェル上にプリンティングした。プリンティング直後に、ゼラチン-フィブリンプレゲル溶液の2つの部分を4:1の比で混合し、プリント化フィラメント上に鋳造(cast)した。合計500μlの混合ゼラチン-フィブリンゲルを使用して、プリント化組織をカプセル化した。10μM Y-27632および1U/ml トロンビン(MilliporeSigma、#T4648)で補充された1mlのEBCMをトランスウェルの下に加えて、細胞の水和状態を維持した。プリントを、まず、フィブリンゲルを架橋するために室温で10分間インキュベートし、ついで37℃、5% CO2のインキュベーター内に30分間移した。ついで培地を除去し、10μM Y-27632、100U/ml ペニシリン-ストレプトマイシン、11.5KiU/ml アプロチニンおよび500ng/ml ドキシサイクリンで補充された4ml/ウェルのEBCMと交換した。翌日、培地を、100U/ml ペニシリン-ストレプトマイシンおよび11.5KiU/ml アプロチニンで補充されたNIMに変更した。プリントを37℃、5% CO2で維持し、第6日まで隔日で完全な培地交換を行った。
【0150】
プリンティング後、高密度細胞フィラメント状態を、先行プロトコル 43 の改変バージョンを用いて調製されたゼラチン-フィブリンゲルにおいてカプセル化した。簡潔に説明すると、カルシウムもマグネシウムも含有しないPBSにゼラチン粉末(MilliporeSigma、#G2500)を加え、70℃で12時間攪拌し、1M NaOHを使用してpHを7.5に調整することにより、15 wt/vol %ゼラチン溶液を調製した。15 wt/vol % ゼラチンをmTeSR1で1:1に希釈し、2.5mM CaCl2、10μM Y-27632および1U/mL トロンビンを加えて最終的な7.5 wt/vol % ゼラチン混合物にすることにより、ゲル溶液の第1部分を調製した。凍結乾燥ウシ血漿フィブリノーゲン(MilliporeSigma、#341576)を滅菌PBSに50mg/mlで37℃で溶解することにより、ゲル溶液の第2部分を調製した。プレゲル溶液の両方の部分を使用前に別々のチューブ内で37℃で維持した。
【0151】
ガラスシリンジから100μlのバイオインクを分注し、細胞を4mlのmTeSR1に再懸濁させ、細胞計数器を使用して細胞数を計数することにより、バイオインクにおけるhiPSCの密度を推定した。バイオインクサンプルから得られた細胞を使用して、フローサイトメトリーで測定された場合のOct4+ である細胞の百分率とバイオインクにおける細胞/mlの総数を掛け算することにより、Oct4+ 細胞の密度を計算した。
【0152】
プリント化フィラメントの生/死定量
プリンティング前に、生/死-生存性/細胞傷害性(LIVE/DEAD Viability/Cytotoxicity)キット(Invitrogen、L3224)試薬を含有する溶液を、20μM Y-27632、4μM カルセイン-AMおよび8μM エチジウムホモ二量体-1(EthD-1)を含有するEBCMにおいて調製した。ついで単細胞フィラメントを前記のとおりにプリンティングした。プリンティング後、生/死溶液を使用して、プリント化細胞フィラメントを単一細胞フィラメントに再懸濁させた。ついで細胞懸濁液を15 wt/vol % ゼラチンと1:1で混合して、最終ゲル濃度を7.5 wt/vol % ゼラチン、10μM Y-27632、2μM カルセイン-AMおよび4μM EthD-1にした。ついでゲルを室温で固化させ、細胞をZeiss LSM700共焦点顕微鏡でイメージングした。イメージ処理をImageJにおいて行って、カルセインAMおよびEthD-1に関して染色された細胞の数を計数した。
【0153】
hiPSCのCellTracker標識
凝集オルガノイドおよびプリント化組織フィラメントのCellTracker研究のために、CellTracker蛍光色素をDMSO中で再構成させ、ついでmTeSR1中で実施濃度に希釈した。ついでhiPSCを色素と共に37℃で30分間インキュベートした。2.5μM のCellTracker(商標)グリーン(Green)5-クロロメチルフルオレセインジアセタートCMFDA(Molecular Probes、#C7025)を使用してWT-PGP1細胞を標識し、2.5μMのCellTracker(商標)オレンジ(Orange)5-(および-6)-(((4-クロロメチル)ベンゾイル)アミノ)テトラメチル-ローダミンCMTMR(Molecular Probes、C2927)を使用してiNeuron細胞を標識し、250nMのCellTracker(商標)ディープレッド(Deep Red)(MolecularProbes、#C34565)を使用してiEndo細胞を標識した。トリプルプリントにおいては、WT-PGP1を5μM CellTracker(商標)ブルー(Blue)7-アミノ-4-クロロメチル-クマリンCMAC(Molecular Probes、#C2110)で標識し、iNeuron-PGP1を2.5μM CellTracker(商標)グリーン(Green)CMFDA(Molecular Probes、#C7025)で標識し、iEndo-PGP1を2.5μM CellTracker(商標)レッド(Red)(クロロメチル6-(4(5)-アミノ-2-カルボキシフェニル)-1,2,2,4,8,10,10,11-オクタメチル-1,2,10,11-テトラヒドロジピリド[3,2-b:2,3-i]キサンチリウム)CMTPX(Molecular Probes、#C34552))で標識した。ついで細胞を、カルシウムもマグネシウムも含有しないPBSで洗浄し、プリンティングまたはオルガノイド凝集のために解離させた。オルガノイドを最終凝集の24時間後に固定し、4% パラホルムアルデヒド中のプリンティングの4時間後にバイオプリント化組織を30分間固定した。
【0154】
プリント化フィラメント幅の測定
単細胞フィラメントを生/死試薬で染色し、多細胞フィラメントをCellTrackerブルー(Blue)CMAC、グリーン(Green)CMFDAおよびレッド(Red)CMTPXで染色し、Zeiss LSM700共焦点顕微鏡でイメージングした。ついで全チャネルからの総信号強度をImageJにおいてグレースケールに変換し、フィラメントと並行して平均化して、縦方向平均強度プロファイルを得た。フィラメント幅を平均強度プロファイルのFWHMとして計算した。
【0155】
統計および再現性
図2g~l:異なる継代から分化した細胞からのn = 3の独立した生物学的重複物(replicate);独立両側T検定;g:有意でない、h:P = 7.06×10-7、i:P = 3.53×10-5図3j:単一のホールマウントWTおよびWT + iEndoオルガノイドからのn = 5の光学的切片;独立両側T検定、P = 4.23×10-5図3l:3つの独立したバッチからのn = 6のオルガノイド。図4b:3つの独立したバッチからのn = 3のオルガノイド。図5d:n = 3の独立したバイオインクバッチ。図5e:n = 2(鋳造対照)、n = 3(それ以外)の独立したバイオインクバッチ。図S7g:WTのみのオルガノイドとランダムプール化オルガノイドとの間でP = 0.0169、ランダムプール化オルガノイドとマルチコア-シェルオルガノイドとの間でP = 0.0286(n = 72 WT室、n = 10のランダムプール化室、n = 30のマルチコア-シェル室、独立両側t検定)。
【0156】
データの入手可能性
本研究中に作成または分析されたデータセットは、正当な要求に応じて、対応著者から入手可能である。
【0157】
コードの入手可能性
本研究中に作成されたコードは、正当な要求に応じて、対応著者から入手可能である。
【0158】
生物学的材料の入手可能性
PBAN001プラスミドおよびhiPSC株(PGP1、iEndoおよびiNeuron)は、要求および適切な材料移転契約の履行に応じて、ジョージ・チャーチ教授(Prof. George Church)の研究室から入手可能である。
【0159】
結果
幹細胞分化のプログラミング
多能性細胞が二重SMAD抑制性培地内で神経外胚葉に効率的に分化することを考慮すると 30、hiPSCから神経組織への誘導は、OIDの実施可能性を評価するための理想的な実例として役立つ(図2)。
【0160】
3つの異なるパーソナル・ゲノム・プロジェクト(Personal Genome Project)1(PGP1)のhiPSC株(1つはWT株および2つは誘導性TF株)を同一培地条件で試験した。神経幹細胞からのWT PGP1細胞を、既に報告されているとおり 31、TGF-βおよびBMP4経路小分子インヒビターを含有する神経誘導培地(NIM)内で培養した(図2a)。誘導性TF株の場合、転写因子の迅速かつ高効率なドキシサイクリン誘導アップレギュレーションを可能にするオールインワン(all-in-one)Tet-On系を組込むために、PiggyBacトランスポゾンベクターを使用した。誘導可能な内皮(iEndo)細胞を作製するために、多能性細胞から血管内皮細胞への迅速かつ効率的な定方向分化を促進することが公知である転写因子ETV2 23を過剰発現させた(図2b)。ニューロゲニンの単一発現または共発現は幹細胞からニューロンを迅速に生成することが公知であるため 24,32、誘導可能なニューロン(iNeuron)を作製するために、NGN1をアップレギュレーションした(図2c)。
【0161】
ドキシサイクリンの非存在下(対照)および存在下でのWTのおよび誘導可能なTF hiPSC株の分化を特徴付けした。NIM内で6日間培養した場合、WT hiPSCは多能性の喪失を被り、どちらの場合にも神経幹細胞の運命へと効率的に分化した(これは、特徴的な分極神経ロゼットの形成、ならびに神経カドヘリン(Ncad)、ペアードボックス(paired-box)遺伝子6(Pax6)、SRYボックス転写因子2(Sox2)およびネスチンの発現により示される)(図2d)。同様に、iEndo細胞はドキシサイクリンの非存在下で神経幹細胞への培地誘導性分化を受けた(図2e)。しかし、ドキシサイクリンの存在下では、ETV2の過剰発現が血管内皮細胞表現型への迅速な分化を導いた(これは、コンフルエントな玉石形態の形成、血管内皮カドヘリン(VECad)、フォン・ヴィルブランド因子(vWF)、CD31および血管内皮増殖因子受容体ニューロピリン1(NRP1)の発現により実証される)。また、iNeuron細胞はドキシサイクリンの非存在下で神経幹細胞に分化した(図2f)。ドキシサイクリンの存在下では、iNeuronsは、双極形態を有するニューロンを形成し、神経マーカーTuj1、微小管関連タンパク質2(MAP2)および神経細胞核(NeuN)を発現した。iEndo細胞およびiNeuron細胞はどちらも、誘導されると、効率的かつ迅速に分化して、OIDの実施可能性を証明した(図2g~l、図6)。実際、驚くべきことに、ドキシサイクリンの存在下(99% 血管内皮)および非存在下(94% 神経幹細胞)のiEndoの分化の間の顕著な差異は外部(培地誘導性)細胞分化と内部(TF誘導性)細胞分化との直交性の顕著な例示として役立つ。
【0162】
OIDの一般化可能性を評価するために、GSK-3β阻害を用いて細胞を中内胚葉に誘導する確立されたプロトコルにより、内皮分化を導く培地条件にWT hiPSCおよびiNeuron hiPSCを曝露した後、内皮を定めるために増殖因子を適用した 33。分化における8日間の後、WT細胞は、ドキシサイクリンの存在と独立に、典型的な玉石形態を有するVEcad、vWF、CD31およびNRP1を発現する内皮に分化した(図7(a))。ドキシサイクリンの非存在下では、iNeuron細胞は同様に内皮細胞に分化した。しかし、ドキシサイクリンの存在下では、iNeuron細胞は、Tuj1、MAP2およびNeuNを発現する双極ニューロンに分化した(図7(b))。総合すると、これらのデータは、細胞内TF誘導性分化が、そうでなければ強力かつ特異的である細胞外分化刺激を完全に無効にしうることを明らかに実証した。
【0163】
次に、hiPSCの混合初期集団の同時OIDが、プログラムされた組成を有する不均一な分化細胞集団を生じさせるかどうかを調べた。具体的には、異なる比率のWT、iEndoおよびiNeuron hiPSCをマトリゲル表面上に播種し、ドキシサイクリンを含有するNIM内で培養した。ワンポット培養条件における6日間の後に、異なる多細胞集団が形成されることが観察された(図8)。更に、これらの条件下、iEndo細胞は、内皮管形成アッセイと合致する網構造様微小血管系に自己集合した。対照的に、WT細胞は、ゲルの表面上に上昇するニューロスフェアを形成し、一方、iNeuron細胞は神経突起の網構造を形成した。注目すべきことに、iEndo細胞およびWT細胞を一緒に培養すると、分化した細胞は明確な網構造パターンを形成し、この場合、内皮細胞はエッジ(edge)を構成し、ニューロスフェアはノード(node)を構成する。iEndo-mKate2およびWT-GFP標識細胞を使用して、血管成分およびニューロスフェア成分が、それぞれ、iEndo細胞およびWT細胞から実際に構成されることが確認された(非表示)。iEndo細胞およびiNeuron細胞を一緒に培養すると、生じる内皮細胞および神経細胞は、神経突起が血管網に沿って伸長する重複する網構造を形成した。
【0164】
同時OIDを実証するために、3つ全ての細胞株を一緒にプールし、ドキシサイクリンの非存在下(対照)および存在下でNIM内で培養した。ドキシサイクリンの非存在下では、3つ全ての細胞株がニューロスフェアに分化し、VE-CadまたはMAP2染色は視認されなかった。しかし、驚くべきことに且つ意外にも、ドキシサイクリンの存在下、WT細胞、iEndo細胞およびiNeuron細胞は、それぞれ、Sox2+ ニューロスフェア、VE-Cad+ 血管内皮およびMAP2+ ニューロンに分化する。重要なことに、これらの結果は、典型的には単一の胚葉から細胞を誘導することを目的とした伝統的なオルガノイド分化プロトコル 13-15,20,21 と比較して、OIDが幾つかの明確な利点をもたらすことを示している。
【0165】
プログラム可能な皮質オルガノイド
本発明者らのプラットフォームがほぼ完全(near-unity)な効率で幹細胞分化をプログラミングしうることを実証したため、本発明者らは次にオルガノイドの血管化の難題に取り組んだ。なぜなら、伝統的な脳(および皮質)オルガノイドプロトコルは、埋め込まれた血管網を生成できないからである 13-15。この目標を達成するための1つの素朴な戦略は、内皮細胞をhiPSCと単に混合して多細胞胚様体を形成させ、ついでそれを所望の血管化オルガノイドに分化させることである。しかし、本発明者らは、マイクロウェル内でWT hiPSCと混合されたヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)が24時間以内に相分離することを見出している(図9(a))。この観察は細胞接着における差異から生じる可能性がある 34。なぜなら、内皮細胞と上皮hiPSCとは、異なる細胞接着分子を発現するからである。重要なことに、iEndo-mKate2とWT-GFP hiPSCとを混合し、マイクロウェル内で培養すると、散在(interspersed)細胞を含有する単一の胚様体が形成される(図9(b)、図3b~c)。各マイクロウェル内に播種されるWT細胞対iEndo細胞の比を制御することにより、オルガノイドを形成させるための直交誘導分化の後に生じる内皮を正確に調整することが可能である(図9(c)~(d))。これを例示するために、背側前脳(dorsal forebrain)形成を導くために二重SMAD抑制性培地内で培養される胚様体に67% WT hiPSCおよび33% iEndo細胞をプールすることにより、血管化皮質オルガノイドを生成させた。懸濁培養における3日間の後、胚様体はマトリゲル-コラーゲン細胞外ゲル液滴内に埋め込まれる。10日の時点で、無血管性のWTのみのオルガノイド(対照)は滑らかな境界を保持していたが、2:1の比のWT細胞対iEndo細胞から構成されるオルガノイドは、周囲のゲルに浸透する広範な発芽血管網を形成した(これは、レクチンにより示され、明視野顕微鏡(図3d)および蛍光顕微鏡(図3e)を使用して可視化される)。WTオルガノイドにおける微小血管マーカーの完全な非存在は、伝統的な分化プロトコルにより生成された皮質オルガノイドが血管網を欠いているというこれまでの報告と一致している。
【0166】
蛍光mKate2発現iEndo細胞をプールすることにより、本発明者らは、これらのオルガノイド内で観察された、埋め込まれ発芽している血管網が、CD31およびmKate2の共局在化により証明されるとおり、それらの細胞からのみ生じることを確認した(図3f)。興味深いことに、Sox2+ 神経幹細胞が発芽血管系に沿って共局在している証拠が見られる(矢印、図3f)。この相互作用は、マトリゲル上のiEndo内皮と神経幹細胞との共培養における本発明者らの観察と一致しており(図8)、そしてまた、脳室下帯の神経幹細胞ニッチにおける神経幹細胞と内皮との公知のインビボ相互作用35と一致している。注目すべきことに、内皮細胞はロゼットまたは室様構造の間に存在するが、Sox2+ 胚帯様構造はこれらの細胞を欠いており、このことは神経発生における観察された血管パターンと一致している 36。培養内で25日間の後、血管化皮質オルガノイドはNeuN陽性の神経集団を発生させ(図3g図10)、33% iEndo細胞を含有するオルガノイドのみが、埋め込まれた血管網を有していた(図3h)。光学的透明処理されたオルガノイドのホールマウント免疫蛍光を使用して、この血管網がオルガノイド表面とそのコア内との両方に存在することを確認した(図3i)。埋め込まれた血管網は、透明処理されたオルガノイド内の複数のスライスにおいてイメージングされ、このことはWTのみの皮質オルガノイドとWT + iEndo皮質オルガノイドとの間の明確な差異を示している(図3j図11)。予想どおり、WTのみのオルガノイド内には検出可能な血管系は存在しない。しかし、培養の第45日までに、WT + iEndo皮質オルガノイドは、神経細胞体、神経突起および広範な血管網に囲まれた室様構造を発生させた(図3k図10)。定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)を用いて、本発明者らは、これらの血管化皮質オルガノイドは血管系関連遺伝子(CDH5、PECAM1)の発現を有意に増強しているが、神経幹細胞、神経および多能性遺伝子の発現はWTのみ(対照)のオルガノイドに類似したままであることを見出している(図3l)。この結果は、OIDOIDが、これらのオルガノイド内の神経表現型に悪影響を及ぼすことなく、血管網形成を促進させることを示している。
【0167】
血管化オルガノイドを形成させるためのプール化胚様体へのiEndo細胞のランダムな組み込みを超えて、本発明者らは次いで、空間的にパターン化された皮質オルガノイドを作製することを追求した。発生中の脳(すなわち、胚帯(GZ)(内部コア)、包囲ニューロン(中間層)およびカプセル化神経周囲血管叢(外殻))を連想させるマルチコア-シェルオルガノイド構造においてWT、iEndoおよびiNeuron細胞を組合せた(図4a)。また、これらのオルガノイド内のiNeuron細胞の組み込みは、NeuN+ ニューロン集団を形成するために約30日間の培養を典型的に要する伝統的なプロトコルにより生成された皮質オルガノイドと比較して、より速い神経発生を可能にする 37。UウェルプレートにおけるhiPSCの逐次的添加は、誘導可能なソニックヘッジホッグ(Sonic Hedgehog)発現hiPSC株と組合せて背腹軸形成を促進させるために使用されうるヤヌス(Janus)胚様体を生成することが既に示されている 38。V字型ウェルを使用することにより、本発明者らは、Uウェルにおいて構築されたヤヌスオルガノイドで見られる2つの半球状コンパートメントではなく放射対称マルチコア-シェル構造を有するオルガノイドを作製した(図4b)。WTのみ、ランダムプール化{WT、iNeuron、iEndo}三重集団および逐次的なマルチコア-シェルオルガノイドから形成された胚様体は全て、培養内での1日間の後に、粘着性Oct4+ 胚様体を形成した(図4c~e)。他の皮質オルガノイドプロトコル 37,39 と一致して、WTのみの細胞を含有するものは、NeuN発現細胞の量が最小であることにより示されるとおり、第10日にニューロンをほとんど含有していなかった(図4f)。対照的に、ランダムオルガノイドとマルチコア-シェルオルガノイドとの両方におけるiNeuron細胞の組み込みは第10日までに大きなNeuN+ 神経細胞集団を生成した。これらのニューロン集団はオルガノイド内で室様構造を包囲していて、より深いGZよりも表面上に存在するニューロン豊富層を形成していた。本発明者らはまた、マルチコア-シェルパターン化オルガノイドには存在しない、ランダムに組み込まれたオルガノイドの中心の深部におけるNeuN+ ニューロンのクラスターを見出しており(図4g~h)、このことは、逐次的凝集により課された初期空間的パターン化が、皮質オルガノイド内の、より後の層化体制に伝達する(inform)ことを示唆している。更に、ランダムパターン化オルガノイドおよびマルチコア-シェルパターン化オルガノイドの両方に、広範なCD31+ 血管網が存在する。パターン化マルチコア-シェル胚様体の直交誘導分化は、ランダムプール化胚様体において形成されるものと比較した場合、上部(apical)N-カドヘリン+ 神経上皮の長さにより測定されるとおり、より大きな室様構造を有する皮質オルガノイドを生じさせ、WTのみのオルガノイドにおいて見出されるものにサイズにおいて類似している。このことは、空間的パターン化を課すことにより、神経自己集合プロセスがオルガノイドにおいて維持されうることを示唆している(図12)。
【0168】
次に、10x Genomics(商標)パイプラインを使用して、第25日のオルガノイドの細胞組成を調べるために、シングルセルRNAシーケンシング(single-cell RNA sequencing)(scRNA-seq)を用いた(図4i~j)。クラスターを注釈付けするために、定量的分類ツールSingleCellNet 40図13)を使用して、一次脳組織 41 を本発明者らのシングルセル(単一細胞)データセットと比較し、検証のために各クラスターにおける最も有意に示差的発現された上位10個の遺伝子をプロットした(図14)。dox誘導性導入遺伝子を含有しないhiPSC(WT細胞)は神経幹細胞(クラスター1)、興奮性/抑制性ニューロン(クラスター2)、放射状グリア(クラスター3および4)、中間前駆細胞(クラスター5)およびニューロン(クラスター6)のクラスターに分化することを、本発明者らは見出した(図4j)。クラスター0は非神経系統の細胞として分類され、COL3A1およびCALD142のような壁細胞マーカーの有意なアップレギュレーションを伴い 42 、これは、マトリゲルに埋め込まれた脳オルガノイドから出現する移動性間質細胞のこれまでの観察と一致している。内皮細胞(クラスター7)はWTのみのオルガノイドにはほとんど存在しないが、ランダムオルガノイドとマルチコア-シェルオルガノイドとのどちらにおいても、総細胞数により測定された場合に顕著に増加する(図4(k)~(l)、図15(a))。更に、クラスター7における細胞は、他のクラスターと比較して有意に富化されているCD31(PECAM1)およびCDH5(VE-カドヘリン)を含む幾つかの中胚葉系統マーカーを示したクラスターであるクラスター0および3と比較して、内皮マーカーの有意なアップレギュレーションを示しており、このことは、クラスター7が、iEndo細胞に由来する内皮であることを強く示唆している(図4m)。最後に、本発明者らはオルガノイド培養におけるiNeuronsの正体(identity)を調べた。ニューロン様細胞の正確な追跡を保証するために、導入遺伝子カセットの3'末端にバーコードを配置した。本発明者らは、iNeuronsが成熟ニューロンに転写的に最も類似していることを見出した(図4n)。
【0169】
ついで、本発明者らのscRNA-seqデータを使用して、WTのみのオルガノイド、ランダムプール化オルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドにおいて見出される細胞集団を比較した。3つ全てのオルガノイド間のクラスターごとの示差的遺伝子分析は、遺伝子発現が全ての条件および複製(replicate)にわたって全てのクラスターに関して一貫したままであることを示した(図15(b)および図16~18)。本発明者らは、全ての遺伝子にわたって、ランダムプール化オルガノイドとマルチコア-シェルオルガノイドとの間で発現における統計的に有意な差を有する33個の遺伝子を見出した(図18)。より詳細には、クラスタ0~5にわたって、ランダムオルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドにおいて、7個の遺伝子のみが有意に異なって発現された。ランダムプール化オルガノイドおよびマルチコア-シェルオルガノイドのクラスター6および7における残りの26個の異なって発現された遺伝子の遺伝子オントロジー分析は、ニューロンクラスター6における細胞分裂に関連する遺伝子の富化、および内皮クラスター7における細胞遊走(migration)に関連する遺伝子の富化を示している(図19)。これらの知見は、既存プロトコルに大きな変更を加えることなく、追加的な特定の細胞型を生成させるために、誘導可能な細胞株が既存皮質オルガノイドプロトコルに加えられうることを示唆している。したがって、本発明者らのOIDプラットフォームは、決定論的設計原理(deterministic design principle)によって細胞運命をプログラムすることにより、伝統的なオルガノイド分化プロトコルを増強するために使用されうる。
【0170】
バイオプリンティングによるプログラム可能な3D神経組織
ほとんどのバイオプリンティング方法は、ヒドロゲルマトリックスに懸濁された異なる一次ヒト細胞から構成されるインクをプリンティングすることにより多細胞組織を生成する。最近、ヒト間葉系幹細胞(hMSC) 43 およびhiPSC 12,44-47 を含有するインクがプリンティングされ、インサイチュ(in situ)で分化して、3D組織構築物が形成された。しかし、これらの幹細胞由来組織は、培地刺激(media cue)のみによって定められる細胞型を含有していた。本発明者らのOIDプラットフォームによりもたらされるプログラム可能性と共にhiPSCの増殖能を活用することにより、単一のおよびパターン化多細胞3Dヒト組織が、高い細胞密度で作製されうる。簡単な実証として、本発明者らは、まず、hiPSCの単細胞懸濁液をペレット化し、ついでこれらの多能性インクをトランスウェルメンブレン上に直接プリンティングすることにより、濃縮されたマトリックス非含有hiPSCバイオインクを作製した(図5a~c)。1ml当たりのOct4+ 細胞数5×108個を超える著しく高い細胞密度を含むプリント化フィラメント形態(図5d)は次いでゼラチン-フィブリノーゲンECMに入れられて、組織を支持し、3D細胞移動を可能にする。50μmおよび100μmのテーパーノズルを介して最大20mm/秒の速度でプリンティングされたマトリックス非含有hiPSCインクのカルセイン-AM/エチジウムホモ二量体-2生/死アッセイにより、本発明者らは、鋳造(対照)組織に関して観察されたものと同様の高い細胞生存率を確認している(図5e)。興味深いことに、本発明者らは、より高いプリント速度における細胞生存率の改善を観察しており、このことは、調べたプリンティング条件の範囲にわたって、せん断力がほとんど影響を及ぼさないことを示唆している。本発明者らは、より低いプリンティング速度で観察された細胞生存率の低下は、ゼラチン-フィブリノーゲンECM内に入れる前のプリント化細胞含有インクからの水分蒸発に起因すると考えている。多能性フィラメントは高い分離度(resolution)でプリンティングされ、50μmおよび100μmノズルを使用してプリンティングされたバイオインクの場合、幅はそれぞれ132μmおよび182μm(FWHM)である(図5f)。次に、WT、iEndoまたはiNeuronインクから生成されたフィラメント状の特徴から構成される3次疑似ヒルベルト曲線の形で平面パターンをプリンティングした(図5g~h)。プリント化WTフィラメントは、ドキシサイクリンを含有するNIM内で分化した場合には若干のコンパクション(compaction)を示して、小さなNcad+ 室様構造またはロゼット(その長さを強調するもの)を有する神経外胚葉フィラメントを形成した。対照的に、プリンティングされ分化した(iEndo)フィラメントは脈管形成を示して、時間経過と共に微小血管網の形成をもたらした。最後に、プリント化iNeuronフィラメントは、突出するTuj1+ 神経突起の広範な網構造を形成する高密度に詰め込まれたニューロン(NeuN+ 細胞)に分化した。
【0171】
最後の実証として、本発明者らは、それぞれWT、iEndoおよびiNeuron hiPSCから構成される3つのバイオインクを共プリンティングすることにより、多細胞組織構造を作製した(図5i図20)。プリントヘッドは、幅250μmのノズルの直上流で合流する3つの独立したインク供給チャネルを含有する。層流下で、これら3つのインクが収束して、ノズルから出る3層フィラメントを形成する。蛍光色素で標識されたWT、iEndoおよびiNeuron hiPSCを使用して、本発明者らは、このマルチマテリアル・プリントヘッドが、フィラメント幅269μm(FWHM)の高忠実度で、層状構造で多細胞多能性フィラメントを成功裏に生成させうることを示した(図5j)。プリンティング後、神経幹細胞、血管内皮およびニューロンの同時分化を誘導するためにドキシサイクリンを加え、層状構造が6日間の培養にわたって保持されることを観察した(図5k)。最後に、この統合されたOIDに基づくバイオプリンティング・プラットフォームを使用して、本発明者らは、高密度細胞WTおよびiNeuron hiPSCインクを共プリンティングすることにより、発生中のヒト背側前脳冠状断面の形状を再現した(図21(a)~(c))。プリンティング後、プリント化インクはOIDを受けて、神経外胚葉およびそれを覆うニューロン密集層を形成する(図21(d))。特定の神経細胞型を誘導するための新規プロトコルが出現するにつれて、本発明者らのプラットフォームは、より一層広範な誘導可能なTF hiPSCから多層皮質構造をパターン化することを可能にするであろう。
【0172】
謝辞
本研究は、授与番号RM1HG008525として米国NIHの国立ヒトゲノム研究所(National Human Genome Research Institute)により資金提供されたものであり、また、米国海軍研究事務所助成(Office of Naval Research Grant)N00014-16-1-2823により研究・技術に関する米国国防次官補の基礎研究事務所(Basic Research Office of the Assistant Secretary for Defense for Research and Engineering)により後援されたヴァネヴァー・ブッシュ・ファカルティ・フェローシップ・プログラム(Vannevar Bush Faculty Fellowship Program)により資金提供されたものである。A.L.はチャールズ・スターク・ドレイパー研究所(Charles Stark Draper Laboratory)からのフェローシップ助成を受けた。本発明者らはまた、顕微鏡インフラストラクチャおよび援助に関してT. Ferranteおよびハーバード・センター・フォー・バイオロジカル・イメージング(Harvard Center for Biological Imaging)に感謝し、実験支援に関してS. Uzel、S. Hanおよび M. Mataに感謝し、ならびに有用な議論に関してJ. Coppetaに感謝する。本発明者らは、本研究に関連する特許出願を行っている。
【0173】
参考文献
【0174】
本明細書の全体にわたって、本発明の好ましい実施形態および代替実施形態に関して種々の適用が記載されている。しかし、前記の詳細な説明は限定的ではなく例示的であるとみなされるべきであり、本発明は、提供されている実施形態のいずれにも限定されない。本発明の精神および範囲を定めるのは添付の特許請求の範囲(全ての均等物を含む)であると意図されると理解されるべきである。
図1
図2a-c】
図2d-f】
図2g-l】
図3a-e】
図3f
図3g-l】
図4a-b】
図4c-h】
図4i-n】
図5a-e】
図5f
図5g-h】
図5i-k】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13a
図13b
図14
図15
図16a-c】
図16d-f】
図16g
図17a-c】
図17d-f】
図17g
図18a-c】
図18d-f】
図18g-h】
図19a
図19b
図20
図21
【配列表】
2023532991000001.app
【国際調査報告】