(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】複数の検出器を用いた材料分析
(51)【国際特許分類】
H01J 37/244 20060101AFI20230725BHJP
H01J 37/252 20060101ALI20230725BHJP
H01J 37/141 20060101ALI20230725BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20230725BHJP
G01N 23/2252 20180101ALI20230725BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20230725BHJP
G01N 23/2206 20180101ALI20230725BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/252 A
H01J37/141 A
H01J37/22 502Z
G01N23/2252
G01N23/203
G01N23/2206
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501065
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(85)【翻訳文提出日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 GB2021051752
(87)【国際公開番号】W WO2022008924
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507329985
【氏名又は名称】オックスフォード インストルメンツ ナノテクノロジー ツールス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】バージェス サイモン
(72)【発明者】
【氏名】バダレ サントク
(72)【発明者】
【氏名】ティレル クリス
(72)【発明者】
【氏名】ステイサム ピーター
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001BA15
2G001CA01
2G001CA03
2G001DA01
2G001DA03
2G001DA06
2G001EA03
2G001JA06
5C101AA03
5C101AA22
5C101AA23
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5C101CC19
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5C101HH19
5C101HH27
5C101HH35
5C101HH36
5C101HH37
(57)【要約】
試料を分析するための装置に使用するための検出器モジュールを提供する。検出器モジュールは、複数のX線センサ要素と1又は2以上の電子センサ要素とを備え、装置の電子ビームアセンブリの磁極片下方に位置決めするようになっており、この磁極片からアセンブリによって発生された電子ビームが使用時に試料に向けて出現し、X線と検出器モジュールが電子ビームと試料の間の相互作用によって発生される後方散乱電子とを受け入れるようになっている。複数のX線センサ要素の各々は、個々の受け入れたX線光子のエネルギをモニタするように構成され、複数のX線センサ要素は、20mm2よりも大きい全体有効区域を有する。電子ビーム軸に対する検出器モジュールの半径方向長さは、検出器モジュールの少なくとも第1の部分にわたって10mm未満である。試料を分析するための装置及び方法も提供する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を分析するための装置に使用するための検出器モジュールであって、
前記検出器モジュールが、複数のX線センサ要素と、1又は2以上の電子センサ要素と、を備え、
前記検出器モジュールが、前記装置の電子ビームアセンブリの磁極片の下方に位置決めされるようになっており、該磁極片から使用時に該アセンブリによって発生された電子ビームが試料に向けて出現し、前記検出器モジュールがX線と該電子ビームと該試料の間の相互作用によって発生される後方散乱電子とを受け入れ、
前記複数のX線センサ要素の各々が、個々の受け入れたX線光子のエネルギをモニタするように構成され、
前記複数のX線センサ要素は、20mm
2よりも大きい全体有効区域を有し、
使用時の電子ビーム軸に対する前記検出器モジュールの半径方向長さが、前記検出器モジュールの少なくとも第1の部分にわたって10mm未満である、検出器モジュール。
【請求項2】
前記検出器モジュールの前記第1の部分の前記半径方向長さは、7mm未満、又はより好ましくは5mm未満である、請求項1に記載の検出器モジュール。
【請求項3】
前記複数のX線センサ要素の前記全体有効区域の半分よりも多くが、前記電子ビーム軸から6mm未満である、請求項1又は2に記載の検出器モジュール。
【請求項4】
前記1又は2以上の電子センサ要素は、30mm
2よりも大きい全体有効区域を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項5】
前記X線センサ要素は、使用時に前記電子ビーム軸に関して2回よりも多くない回転対称性を有して配置され、前記1又は2以上の電子センサ要素は、使用時に該電子ビーム軸に関して少なくとも2回回転対称性を有して配置される、請求項1~4のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項6】
前記電子ビーム軸から前記1又は2以上の電子センサ要素の有効区域内の第1の場所までの半径方向距離が、前記複数のX線センサ要素の有効区域の使用時の該電子ビーム軸に対する最大半径方向長さよりも長く、
前記電子ビーム軸から前記1又は2以上の電子センサ要素の有効区域内の第2の場所までの半径方向距離が、使用時の該電子ビーム軸と前記複数のX線センサ要素の有効区域との間の最小半径方向距離よりも短い、請求項1~5のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項7】
使用時に前記電子ビーム軸から最も遠くに位置決めされる前記1又は2以上の電子センサ要素の前記有効区域の第1の部分からの信号が、それが前記第1の部分とは異なる該1又は2以上の電子センサ要素の該有効区域の第2の部分からの信号に追加される前に増幅されるように構成される、請求項6に記載の検出器モジュール。
【請求項8】
前記検出器モジュールに含まれ、使用時に前記電子ビームが通過するように配置された開口の内径が、1.0mmより大きく、又は好ましくは1.5mmより大きく、又はより好ましくは2.5mmよりも大きい、請求項1~7のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項9】
付属デバイスが、X線センサ、後方散乱電子センサ、カソードルミネセンスセンサ、マイクロマニピュレータ、ガス注入デバイス、レーザ、及び電子トラップを備えるX線センサのうちのいずれかを備える、請求項1に記載の検出器モジュール。
【請求項10】
前記複数のX線センサ要素の有効区域の少なくとも一部分に又はその上部に配置され、かつ、電子、可視光、及び赤外線のうちのいずれか1又は2以上の透過を遮断し、一方で第1のエネルギ範囲内のエネルギを有するX線の透過を可能にする1又は2以上の材料層を更に備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項11】
前記1又は2以上の材料層のうちの1つが、前記複数のX線センサ要素の前記有効区域の前記一部分の表面に付加されたコーティングである、請求項10に記載の検出器モジュール。
【請求項12】
前記1又は2以上の材料層のうちの1つが、該材料層の電位が入射電子に起因する静電帯電によって上昇することを防ぐために電気的に接地されるか又は固定電圧サプライに接続され、かつ導電性である、請求項10又は11に記載の検出器モジュール。
【請求項13】
前記1又は2以上の電子センサ要素を使用時に予め決められた温度範囲内に維持するように構成された冷却コントローラを更に備える、請求項1~12のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項14】
前記冷却コントローラは、複数の予め決められた温度範囲のうちの選択された1つ内に前記1又は2以上の電子センサ要素を維持するように構成可能であり、該温度範囲の各々が、前記電子ビームアセンブリのそれぞれの作動モードに対して最適な作動温度範囲に対応する、請求項13に記載の検出器モジュール。
【請求項15】
前記複数のX線センサ要素の各々が、前記試料及び/又は試料ホルダの近接度をモニタするように構成された容量センサの第1の電極として機能するように構成された導電プレート内の開口の背後に配置される、請求項1~14のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項16】
10mm未満のカメラ-試料間距離を有して少なくとも10mmにわたる前記試料の視野を有するように配置された光学カメラを更に備え、任意的に、該カメラの被写界深度が、該カメラ-試料間距離を増大することにより、該視野の幅が少なくとも20mmまで又は好ましくは60mmよりも大きくまで増大されることを可能にするのに十分である、請求項1~15のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項17】
検査される前記試料の光学画像内に前記電子ビーム下で分析されている領域の場所を表示する方法を実行するように構成され、
カソードルミネセンス試料の表面が、電子顕微鏡の最終レンズ磁極片から特定の作動距離に位置決めされ、
デジタル化光学画像が、集束電子ビームが前記試料上に入射する間に照明源をオフにして取得され、
カソードルミネセンスによって放出された光のスポットの中心の前記光学画像内の位置座標が決定され、
検査される前記試料の表面が、前記カソードルミネセンス試料と同じ前記特定の作動距離に位置決めされ、デジタル化光学画像が、光源により該試料を照明しながら取得され、
検査される前記試料の前記光学画像は、視覚ディスプレイ上に示され、前記カソードルミネセンス試料から得られた該光学画像から得られた前記位置座標を中心として電子ビーム分析領域の場所が強調表示される、請求項16に記載の検出器モジュール。
【請求項18】
検査される前記試料の光学画像内に前記電子ビーム下で分析されている領域の場所を表示する方法を実行するように構成され、
小さい認識可能な特徴の表面が、電子顕微鏡の最終レンズ磁極片から特定の作動距離に焦点合わせされ、該特徴を視野の中心に有する電子画像が取得され、
デジタル化光学画像が、照明源をオンにして取得され、該画像内の同じ前記認識可能な特徴の中心の位置座標が決定され、
検査される前記試料の表面が、前記小さい認識可能な特徴を撮像するのに使用された同じ前記特定の作業距離に位置決めされ、デジタル化光学画像が、光源により該試料を照明しながら取得され、
検査される前記試料の前記光学画像は、視覚ディスプレイ上に示され、電子ビーム分析領域の場所が強調表示されて前記認識可能な特徴の前記位置座標の中心に置かれる、請求項16に記載の検出器モジュール。
【請求項19】
少なくとも部分的に重なる、前記試料の第1及び第2の視野をそれぞれ有する第1の光学カメラ及び第2の光学カメラを備え、
任意的に、第1及び第2の光学カメラが、これらによりそれぞれ取得された第1及び第2の画像を使用して前記試料の立体表示を提供することができる及び/又は該カメラからのデータを使用して試料面のトポグラフィマップを発生させることができるように配置される、請求項1~18のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項20】
データを取得して処理する方法を実行するように構成され、
付属X線検出器からのスペクトルデータ、前記複数のX線センサ要素からのスペクトルデータ、及び任意的に前記1又は2以上の電子センサ要素からのデータが、前記電子ビームが前記試料の領域を網羅する一連の点に位置決めされた時に記録され、
前記モジュールからのスペクトルデータ及び任意的に前記1又は2以上の電子センサ要素からのデータ、及び/又は付属X線検出器からのスペクトルデータが、記録された信号が所与の副領域内の点において類似している副領域を識別するのに使用され、
副領域内の位置のセット、好ましくは全ての位置に関する付属X線検出器からのスペクトルデータが、該副領域内の材料を表現する単一スペクトルを生成するように組み合わされ、
副領域の表現する前記スペクトルは、1又は2以上の固有元素X線放出に対する強度値及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定するために処理され、
前記副領域の表現する前記スペクトルから導出された元素に対して前記強度値又は濃度を副領域内の画像点に、好ましくは全ての画像点に割り当てることによって画像データが1又は2以上の元素に対して集められ、
識別された副領域についての元素に対して集められた前記画像データは、前記試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供するのに使用される、請求項1~19のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項21】
データを取得して処理する方法を実行するように構成され、
付属X線検出器からのスペクトルデータ、前記モジュール内の前記X線センサからのスペクトルデータ、及び任意的に前記モジュール内の前記1又は2以上の電子センサからのデータが、前記電子ビームが前記試料の領域を網羅する一連の点に位置決めされた時に記録され、
前記モジュールからのスペクトルデータ及び任意的に前記モジュール内の前記1又は2以上の電子センサからのデータ及び任意的に付属X線検出器からのスペクトルデータが、記録された信号が所与の副領域内の点において類似している副領域を識別するのに使用され、
副領域、好ましくは全ての副領域に対して、副領域内の各点に関する付属X線検出器からのスペクトルデータが、前記副領域内の他の点、好ましくは他の全ての点からのデータと加重平均することによって組み合わされ、その点でのノイズ除去済みバージョンのスペクトルを生成し、
各点に関するノイズ除去済みスペクトルは、1又は2以上の固有元素X線放出に対する強度値及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定するために処理され、
画像データが、前記ノイズ除去済みスペクトルから導出された元素の前記強度値又は濃度を画像点、好ましくは全ての画像点に割り当てることによって1又は2以上の元素に対して集められ、
元素に対して集められた前記画像データは、前記試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供するのに使用される、請求項1~20のいずれか1項に記載の検出器モジュール。
【請求項22】
試料を分析するための装置であって、
集束電子ビームを発生させるための電子ビームアセンブリと、
請求項1~21のいずれか1項に記載の検出モジュールと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項23】
前記電子ビームアセンブリに装着された付属デバイスを更に備え、
前記電子ビームアセンブリに対する前記検出器モジュールの向きが、該検出器モジュールの前記第1の部分の少なくとも一部と前記付属デバイスの少なくとも一部とが、前記電子ビーム軸がその中に位置する平面と一致するようなものであり、
前記第1の部分は、使用時に前記電子ビーム軸と前記付属デバイスの間に位置決めされる、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記検出器モジュールがその上に支持される機械的アセンブリ上に支持された電子トラップが装着されたX線検出器を備える付属デバイスを更に備える、請求項22又は24に記載の装置。
【請求項25】
試料を分析する方法であって、
電子ビームアセンブリを使用して集束電子ビームを発生させる段階と、
複数のX線センサ要素と1又は2以上の電子センサ要素とを備える検出器モジュールを準備する段階であって、該検出器モジュールが、前記電子ビームアセンブリの磁極片の下方に位置決めされ、該磁極片から前記集束電子ビームが前記試料に向けて出現し、該検出器モジュールが、X線と、該電子ビームと該試料の間の相互作用によって発生される後方散乱電子とを受け入れる前記準備する段階と、
前記複数のX線センサ要素を使用して、個々の受け入れたX線光子のエネルギをモニタする段階と、
を備え、
前記複数のX線センサ要素は、20mm
2よりも大きい全体有効区域を有し、前記電子ビーム軸に対する前記検出器モジュールの半径方向長さが、該検出器モジュールの少なくとも第1の部分にわたって10mm未満である、方法。
【請求項26】
付属X線検出器からのスペクトルデータ、前記複数のX線センサ要素からのスペクトルデータ、及び任意的に前記1又は2以上の電子センサ要素からのデータを備える信号を前記試料上の領域を網羅する一連の点に前記電子ビームを衝突させながら記録する段階と、
前記検出器モジュールによって得られたスペクトルデータ及び任意的に該モジュール内の前記1又は2以上の電子センサ要素からのデータ及び任意的に付属X線検出器からのスペクトルデータを使用して、記録された前記信号が所与の副領域内の点において類似している副領域を識別する段階と、
各副領域内のいくつかの位置、好ましくは全ての位置に対する付属X線検出器からのスペクトルデータを組み合わせてその副領域内の材料を表現する単一スペクトルを生成する段階と、
各副領域の表現する前記スペクトルを処理して、1又は2以上の固有元素X線放出に対する強度値及び任意的に該放射に関連付けられた対応する元素の濃度を表すデータを発生させる段階と、
各副領域の表現するスペクトルから導出された元素に対する前記強度値又は濃度データを副領域内の画像点、好ましくは全ての画像点に割り当てることによって1又は2以上の元素に対する画像データを集める段階と、
識別された前記副領域に対する元素に対して集められた前記画像データを使用して、前記試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を発生させる段階と、を更に備える、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速及び高空間分解能での試料のナビゲーションを改善し、かつその元素分析を提供するために複数のX線及び電子検出器からの情報を組み合わせる走査型電子顕微鏡内の材料の分析のための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1を参照すると、電子顕微鏡(EM)100でのX線分析に関して、X線スペクトルは、試料101によってそれに集束電子ビーム102が衝突した時に放出される個々のX線光子のエネルギを感知して測定することによって測定される。(本明細書では、慣例では、電子ビームは試料に向けて垂直下方に進行し、これが「下方」及び「上方」のような単語に関する状況であることに注意されたい。実際には、電子ビームは、垂直上方を含むあらゆる方向に向けることができる。)各X線光子は、高エネルギ粒子であり、エネルギは、典型的に固体検出器105を使用して電荷に変換される。電荷は、計数を記録することができるように測定され、記録された測定値のヒストグラムは、デジタル化されたX線エネルギスペクトルを表す。化学元素に固有のピークが、X線エネルギスペクトル内で識別され、それらのピークの強度は、電子ビーム102の直下にある材料の元素含有量を決定するための基礎として使用することができる。
【0003】
X線検出器105、電子顕微鏡104の最終磁極片104、及び試料101は、通常は全て同じ真空チャンバ内である。真空は、主として電子が数keVエネルギまで加速されてガス分子に対して散乱することなく細いビームに集束するのに必要である。しかし、試料がより高い圧力の領域にありながら、電子ビームが真空領域内で集束することができる代替構成が存在する。X線検出器は、電子ビームと同じ真空領域に又はより高い圧力の領域に位置付けることできる。X線信号の他にも、試料から後方散乱された電子(BSE)に由来する信号は、材料から後方散乱される電子の割合がその材料の平均原子番号(Z)と共に増加するので異なる材料を差別するのに同じく有用である。結果的に、後方散乱電子検出器(BSED)は、多くの場合に試料101の上方かつ磁極片104の下方に位置決めされる。BSED検出器106は、典型的には、集束ビーム102が通過して試料に到達する中心孔の周りに配置された1又は2以上のセンサセグメントを備える。この位置決めは、集束ビームが試料に衝突する点、すなわち、「プローブスポット」でBSEDセグメントによって範囲が定められる捕集立体角を最大にし、すなわち、BSE信号を最大にするように設計される。「Everhart-Thornley」タイプに典型的な及びチャンバの1つの側に装着された追加の検出器を使用して、試料に発生して面から現れる2次電子を検出し、すなわち、「SE」信号を生成する。SE信号は、通常はBSE信号よりもかなり強く、かつ入射ビームに対する面方位に非常に敏感である。
【0004】
集束入射ビームが、ビームを磁気的又は静電的に偏向させて試料面上のピクセル位置の2Dグリッドにわたって順番に位置決めすることによって何らかの他のパターンでラスターされる又は走査される場合に、各位置でのSE又はBSE信号は、モニタ上に表示することができて試料の拡大視野を与えるデジタル画像を構築するのに使用することができる。これは、走査型電子顕微鏡(SEM)に関する公知の作動原理であり、特に、SE画像は、それが面のトポグラフィを示すので試料の周りをナビゲートするのに非常に有用である。試料上にいずれかのトポグラフィが存在する場合に、傾斜した面ファセットも、ファセットの向きに依存するかつある一定の方向により強いことになるBSE信号を同じく生成することになる。BSE信号は、電子ビームに対する法線から離れるファセットの傾斜の方向にあるセンサの領域に対してより強く、かつ反対方向にあるセンサに対してより弱い。この面傾斜に対する感度は、走査領域内の材料の組成の変化によって生じる「原子番号コントラスト」又は「Zコントラスト」と干渉する画像内の「トポグラフィ的コントラスト」を生成する。BSE信号に対するトポグラフィの方向効果を最小にするために、BSE検出器の全感受性区域が入射電子ビームに対して対称に配置されることが不可欠である。理想的には、感受性区域は、中心孔に関して完全回転対称性を有するディスクであると考えられるが、回転対称性を維持しながら、全感受性区域を構成するように複数の独立センサセグメントを使用することには一部の利益が存在する。4回回転対称性を有する「4象限」配置が、例えば「マイクロン半導体」カタログ:
http://79.170.44.80/micronsemiconductor.co.uk/wp-content/uploads/2017/03/MSL-OEM-Catalogues.pdf
に見られるように一般的である。マルチセグメントBSE検出器の全てのセグメントがビームに関して対称に電子を捕集するのに使用される場合に、トポグラフィ的コントラストよりも「原子番号」コントラストが支配的になることは公知である。例えば、Wikipediaエントリー:https://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_electron_microscope#Detection_of_backscattered_electronsを見られたい。すなわち、磁極片の直下の106にBSE検出器を位置決めすることは、BSE信号に対する良好な捕集効率を提供するだけでなく、局所面傾斜よりも材料の平均原子番号をより表す信号が捕集されることも可能にする。各ピクセル位置でのBSE信号は、各ピクセル強度がその位置での材料原子番号を示す画像を構築するのに使用することができる。
【0005】
同じ位置106は、環状X線検出器に対する捕集立体角を最大にするのに同じく使用することができる。しかし、位置106でのBSEDをX線検出器と置換することは、トポグラフィに鈍感であるBSE信号を検出する機能を取り去ると考えられる。Soltau他(Microsc. Microanal.15(追補2),2009年,204 5)は、
図2に見られるように、BSEのためのセンサセグメントのリングをX線センサセグメントの外側リングで取り囲むことによってこの問題を克服する方法を示唆している。
【0006】
BSE検出器セグメントは、中心孔に最も近く、かつその周りに対称に配置され、一方で同じく対称に配置されるX線検出器セグメントは、中心孔からより遠くである。
【0007】
この配置は、BSEDとX線センサのセグメントとの両方を試料の近くに置き、かつBSED全感受性区域に対する4回回転対称性を維持するが、X線センサセグメントのための捕集立体角は、BSEDセンサを受け入れるために中心孔から更に遠くに位置決めされることによって損なわれる。更に、個々のX線センサセグメントが「シリコンドリフト検出器」(SDD)タイプである場合(例えば、https://en.wikipedia.org/wiki/Silicon_drift_detectorを見られたい)、所与の区域に対して、最適応答時間は円形センサセグメントに対して達成され、従って、
図2の配置でのX線センサセグメントの細長形状は、所与の感受性区域に対する応答時間に関して最適ではない。
【0008】
X線検出器セグメントは、高エネルギ後方散乱電子に対しても感受性であることになり、センサセグメントに衝突するX線よりも桁違いに多いBSEが存在するので、BSE信号は、通常は小さいX線信号を圧倒し、有用なX線スペクトルの取得を妨げると考えられる。従って、低エネルギX線をセンサまで通過させながら最高エネルギBSEの透過を防ぐために、試料とセンサの間に適切な厚みを有するフィルタ材料が挿入される必要がある。Liebel他(Microsc.Microanal.20(追補3),2014年,1118-9)は、
図3に示すようにフィルタをX線センサの前に置いて
図2のように組み合わされたBSE及びX線センサを使用する配置を示唆している。
【0009】
走査型電子顕微鏡では、入射電子は、典型的に20keVのエネルギまで加速され、このエネルギまでのBSEを遮断するために、6ミクロン厚のマイラーフォイルのようなフィルタが必要である場合がある。X線光子エネルギの関数としてのそのようなフォイルを通るX線透過率を
図4に示している。
【0010】
定位置にあるそのようなフィルタを用いると、検出器は、1keVよりも下の固有線放出を有する元素がX線スペクトル内で識別するのが困難であることになるように、エネルギが約1keVよりも下のX線に対して鈍感であることになる。例えば、元素Be,B,C,N,O,F,Ne,Naは、そのようなフィルタが定位置にある場合に検出することが非常に困難であると考えられる。
【0011】
この配置の更に別の問題は、組み合わされたBSE及びX線センサを閉じ込めるモジュールが典型的なBSE検出器よりも大きい直径を有するので、
図5に示すように、顕微鏡の一方の側に装着された検出器又はいずれかの他の付属デバイスに対する試料への見通し線103をモジュールが部分的に覆い隠す場合があることである。
【0012】
電子顕微鏡内の105のような側部位置に装着することができると考えられ、かつ試料の見通し線を必要とする付属デバイスの例は、X線検出器、電子検出器、カソードルミネセンス検出器、質量分析計、マイクロマニピュレータ、ガス注入デバイス、及びレーザを含む。磁極片の下方に保持される既存のX線検出器モジュールの例は、PNDetectorからの「Rococo Preamplifier Module」製品(https://pndetector.com/w/wp-content/uploads/2018/08/Rococo_2017.pdf)である。このモジュールは、いずれのBSEセンサも持たないが、分析のための定位置にある時に、その周囲は、それが側部装着式付属品の遮蔽を最小にするように向けられる時でさえも電子ビーム軸から離れるように10.5mm延びる。
【0013】
セグメントのための捕集立体角を最大にするために、それらは、電子ビーム軸にできるだけ近いことが必要であり、これは、理想的には中心孔をできるだけ小さくしなければならないことを意味する。しかし、モジュールの中心孔を過度に小さくする場合に、これは、電子ビームが邪魔されずに確実に通過するように孔を位置合わせすることを困難にする。更に、例えば、孔の周囲の材料が磁性である場合、又は孔の内面に汚れが蓄積して静電荷の蓄積を引き起こす場合に、これは、ビームの集束に又は試料の面上の撮像されることになる領域にわたって走査される時の集束ビームの偏向に干渉する場合がある。従って、中心孔は、画像を歪める可能性があると考えられる入射電子ビームの集束又は偏向とのいずれの干渉も回避するほど十分に大きくなければならない。
【0014】
SEM内で試料が観察される時に、材料分析マッピングデータを得るために集束電子ビームを偏向させることによって走査される区域は、典型的に幅が0.1mm未満である。SEMオペレータは、通常はビームを走査する間に得られたSE信号データに基づいて走査領域の拡大画像を見ることになる。しかし、典型的な試料支持スタブは、直径が少なくとも10mmであり、遥かに大きい試料支持体上の正確にどこに小さい走査領域が位置付けられかをオペレータが知ることは困難である。SEMの壁は不透明であり、SEMが作動している時に、試料は真空領域の内側にあり、従って、オペレータが観察窓を使って全体試料支持体を見ることは可能ではない。いわゆる「チャンバスコープ」、すなわち、赤外線光源を有する赤外線感応TVカメラが、一般的に試料チューブの一方の側に装着され、SEMチャンバの内側の光学画像をオペレータに与えるのに使用される。チャンバスコープは、チャンバ内の他の検出器及び付属品に対する試料台の位置を決定するのに非常に有用であるが、それは、電子ビームによって走査される区域をオペレータが周囲試料面に対して位置付けることを助けるのに適する向き及び倍率での試料面の視野を与えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US 8,049,182 B2
【特許文献2】US 7533000
【特許文献3】PCT/GB2011/051060
【特許文献4】US5357110
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Soltau他,Microscopy and Microanalysis,第1の5巻(追補2),2009年,p.204-5
【非特許文献2】Liebel他,Microscopy and Microanalysis,第2の0巻(追補3),2014年,p.1118-9
【非特許文献3】D.Samak他,「2次元画像からの微細構造面の3次元再構成と可視化(3D Reconstruction and Visualization of Microstructure Surfaces from 2D Images)」,CIRP Annals,第56巻,第1の号,2007年,p.149-152
【非特許文献4】Statham他,Microscopy and Microanalysis,第1の9巻(追補2),2013年,p.752
【非特許文献5】Statham,Journal of Research of the National Institute of Standards and Technology,第1の07巻,p.531-546(2002年)
【非特許文献6】Goldstein他、「走査電子顕微鏡とX線マイクロ分析(Scanning Electron Microscopy and X-ray Microanalysis)」ISBN:0-306-47292-9
【非特許文献7】Manjon他,「非局所的手段を使用するマルチスペクトルMRIノイズ除去(Multispectral MRI de-noising using non-local means)」,Proc.MIUA’07,p.41-45,Aberystwyth,Wales,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
必要なものは、BSE及びX線検出の両方のための大きい立体角を提供し、電子光学系と干渉せず、トポグラフィ的コントラストを最小にしながらBSE画像のための良好な材料原子番号コントラストを与え、電子ビームの一方の側に装着された付属デバイスに対する見通し線を覆い隠すことを回避し、高速応答時間と異なる組成の材料を区別する能力とを有するオペレータが試料上の当該領域にナビゲートすることを助けるソリューションである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様により、試料を分析するための装置に使用するための検出器モジュールを提供し、検出器モジュールは、複数のX線センサ要素と1又は2以上の電子センサ要素とを備え、検出器モジュールは、検出器モジュールが電子ビームと試料の間の相互作用によって発生されるX線及び後方散乱電子を受け入れるように、使用時にアセンブリによって発生された電子ビームがそこから試料に向けて出現する装置の電子ビームアセンブリの磁極片の下方に位置決めされるようになっている。複数のX線センサ要素の各々は、個々の受け入れたX線光子のエネルギをモニタするように構成され、複数のX線センサ要素は、20mm2よりも大きい全体有効区域を有し、電子ビーム軸に対する検出器モジュールの半径方向範囲又は長さは、検出器モジュールの少なくとも第1の部分にわたって10mm未満である。
【0019】
この構成を有してこのように配置されたセンサ要素を含む検出器モジュールを使用することは、電子ビーム計器での試料のナビゲーション及び分析に有意な改善を提供することができることが見出されている。これは、X線及び後方散乱電子(BSE)検出器の両方に対して大きい全体捕集立体角が維持されることを可能にし、一方で電子ビームアセンブリの一方の側に位置決めされる場合があるいずれの付属デバイスに対しても電子ビームが試料に衝突するスポット(「プローブスポット」)への見通し線をこれらの検出器を備えるモジュールが遮らないことを保証する上述の配置によって達成される。
【0020】
本発明の開示に使用される用語「モジュール」は、デバイスを指すように、特に、装置と共に、典型的には電子顕微鏡のような電子ビーム計器と共に使用するようになっているものを指すように意図している。用語「モジュール」は、従って、本発明の開示の関連では用語「デバイス」と交換可能に使用することができる。好ましくは、モジュールは、そのような計器に備えるのに適する構成要素の自己充足型セットとして提供される。モジュールは、好ましくは装置内で取り外し可能に装着可能であるか、又は支持体又は装着構造又はそこの機構に取り外し可能に備えられるようになっている。用語「検出器モジュール」は、電子ビーム装置内で特にセンサ要素によって粒子を検出する目的に対して適応されているデバイス又は構成要素セットへの言及として理解することができる。
【0021】
本発明の開示の関連では、電子ビームアセンブリは、集束電子ビームを発生させるように構成されているものと考えることができ、かつ検出器モジュールは、粒子を検出するためのモジュールとして説明することができることは理解されるであろう。表現「粒子」は、本発明の開示では電子及びX線光子の両方を指すのに使用される。
【0022】
典型的には、X線センサ要素の各々は、入射X線を検出し、それに対して感受性であり、又はそれに反応して信号を出力するように構成される。同様に、電子センサ要素の各々は、典型的には入射電子(好ましくは後方散乱電子)に同様に反応するように構成される。
【0023】
分析装置の電子アセンブリの磁極片下方に位置決めされるようになっているモジュールは、使用時にそのような位置に配置されるのに適切であるモジュールとして理解することができる。言い換えれば、モジュールは、典型的には、使用時に装置内の試料によって発生されるX線及び電子をセンサが受け入れることを可能にするサイズ、形状、及びセンサ要素構成を有する。典型的には、従って、モジュールは、磁極片と試料の間に特に後者よりも前者により近接して位置決めされている間に作動するようになっている。モジュールは、典型的には、使用時に磁極片から試料への電子ビームの通過を可能にするようにも成形される。好ましい実施形態では、この構成は、電子ビームが妨げられずに通過することができる空間を定めるモジュールの形状を伴っている。典型的には、モジュールは、この空間の一部又は全てを取り囲むように成形され、それによって使用時に電子ビームも取り囲まれる。典型的実施形態では、検出器モジュールが磁極片の下方に位置決めされるとは、電子ビームが試料まで通過することができるようにモジュールが磁極片下方の位置にあるとして理解することができる。この配置は、以下で詳細に開示するように、センサ要素がビーム軸に関して少なくとも2回回転対称性を有して位置決めされる実施形態でさえも達成することができる。典型的には、使用時に磁極片と検出器モジュールの間に空間が定められる実施形態では、その空間は、モジュールを保持する機械的機構に対して実用的な程度に小さい。この関連に使用される用語「下方」は、典型的には、使用時に電子ビーム内の電子の進行方向に沿ってより遠くであることを指す。この用語は、必ずしも垂直方向に更に下方にあるか又は重力に対していずれかの特定の向きにあることを指すものではない。
【0024】
典型的には、電子ビームアセンブリは、電子ビームカラムの形態を取る。検出器モジュールがその下方に装着される又は装着可能である磁極片は、典型的には、最終レンズ磁極片である。これは、電子ビームが試料に衝突する前に通過する電子ビームアセンブリ又はカラムの最終レンズの磁極片として理解することができる。
【0025】
複数のX線センサ要素の各々を使用して上述のようにX線光子エネルギをモニタすることができることは理解されるであろう。これらのセンサは、受け入れたX線光子の検出又はそのエネルギを表す信号又はデータを測定し、又は他に提供する又は出力するように適応させることができる。このようにして、このセンサ要素は、個々の受け入れたX線光子を検出すると共に、個々の受け入れたX線光子のエネルギをモニタするように構成することができる。複数のX線センサ要素の全体有効区域は、複数のX線センサ要素の全てを組み合わせたものと考えることができる。有効区域は、典型的には、センサ要素がその面又はその一部に入射する粒子に反応するか又は感受性であるセンサの面積として理解されるであろう。好ましい実施形態では、複数のX線センサ要素は、30mm2よりも大きい、より好ましくは40mm2よりも大きい全体有効区域を有する。
【0026】
検出器モジュールの半径方向範囲又は長さは、例えば、電子ビーム軸に垂直な方向のモジュールの範囲又は長さと考えることができる。電子ビーム軸に対する第1の部分のモジュールの半径方向範囲又は長さ、及び典型的に電子ビーム軸の観点から定められるあらゆる構成又は形状は、使用時にビームを試料上に向ける装置内でモジュールが作動姿勢又は位置に装着されるか又は他に配置されている間の電子ビームの位置及び/又は向きに対して定められると理解することができる。典型的には、モジュール及び/又は電子顕微鏡のような分析装置は、モジュールが装置に対して又は少なくとも試料及び/又は電子アセンブリの最終磁極片に対して定められた向き及び位置に装着可能であるように構成される。上記で示唆したように、モジュールとそれを使用して試料からのX線及び電子を検出する装置とのこの定められた相対配置は、好ましくは、当該粒子を受け入れるようにモジュールを磁極片の下方に装着するそれである。従って、それは、典型的にモジュールを分析のための装置内に装着した時の電子ビーム軸の位置及び向きであり、この点に対して、第1の部分に関する上述の半径方向範囲又は長さが定められる。この半径方向範囲又は長さは、典型的には、モジュールが、使用時にビームが衝突する試料の部分から電子ビームアセンブリの周りに更に別の検出器又は付属デバイスを装備することができる位置までの見通し線を覆い隠す範囲を定めることを理解されるであろう。その延長が10mm未満である検出器モジュールの第1の部分の具備により、一部の見通し線がモジュールによって維持され、かつ覆い隠されないように保証することが有利である。
【0027】
検出器モジュールの第1の部分及びその半径方向長さ、及び複数のX線センサ要素の全体有効区域に関する上述の特徴の代わりとして又はこれに加えて、全てのX線センサ要素の全体有効区域は、30mm2よりも大きいとすることができ、電子ビーム軸から試料に面した側にあるモジュールの突き出た周囲までの最小半径方向距離は10mm未満であるとすることができる。そのような制限を試料に面する側のモジュールの延長に具体的に適用することは、典型的実施形態では、検出器モジュールがその上に配置された付属デバイスからプローブスポットを覆い隠す程度を定めるものが試料に近接する検出器モジュールの側部又は主要面であるということである。
【0028】
電子ビーム軸は、電子ビームと共線にある軸、又は典型的にはビームの経路に沿って離間する電子ビームの少なくとも2つの重心と一致する軸と考えることができる。
【0029】
検出器モジュールの上述の第1の部分は、典型的には、モジュールの半径方向長さが定められた半径方向長さ値未満であるモジュールの部分として定めることができる。この部分の半径方向長さに対する10mmという必要な最大値は、有利なことに、プローブスポットへの制限されない可視性又はアクセスを可能にするモジュールの形態又は外形を提供する。以下で詳述するように、一部の実施形態では、第1の部分内のモジュールの最小半径方向長さは、第1の部分の少なくとも一部、典型的には中央部に対してこの予め決められた値未満であるとすることができる。
【0030】
第1の部分はまた、第1の平面と第2の平面の間にあるモジュールの部分であって、それら平面の交線が使用時に電子ビーム軸と共線にあるモジュールの部分として定めることができる。第1の部分、特にそのサイズは、その角度又は周方向の延長、例えば、それらの第1及び第2の平面間の角度、又はそれらの各法線ベクトル間の角度、又は検出器モジュールの第1の部分の外周又は周縁又は周面(すなわち、ビームに対して遠位のもの)の長さによって定めることができる。一部の実施形態で付属デバイスへの見通し線の遮蔽を回避するのに必要である第1の部分の角度又は周方向の延長は、電子ビーム計器でモジュールと併用することを意図される付属デバイスのタイプに応じて設定することができる。すなわち、付属デバイスによっては、プローブスポットへの覆い隠されない見通し線を提供する小さい「切り欠き」しか必要としない場合がある。そのような場合に、第1の部分の「幅」又は角度の延長は、最小限とすることができる。その一方、一部のデバイスは、モジュールの半径方向長さが第1の部分の外側への延長よりも小さい、より幅広い部分から利益を得ることができる。一部の実施形態では、モジュールの半径方向長さが第1の部分内で要求される最大半径方向長さ値、すなわち、10mmよりも小さい部分に対してこの角度の延長は微小である。この値は、第1の部分に関してだけ「最大」値を表すという点で典型的には極大値であるが、ほとんどの実施形態では、この部分は、モジュールの他の部分よりも小さい半径方向長さを有するモジュールの部分を形成することを理解されるであろう。微小な角度延長を有する第1の部分は、第1及び第2の平面が同一平面上にあるか又は実質的にそうであると理解することができる。
【0031】
そのような配置では、第1の部分は、従って、半径方向長さが増加するあらゆる側で半径方向最小値に対応することができる。モジュールの形状は、この増加が何らかの連続関数に従うようにすることができ、それにより、モジュールの周囲は、この最小値が存在する直線状又は曲線状のセクションを有することができる。そのような形状の例は、本発明の開示で後で提供する。別の実施形態では、第1の部分は、一方の側又は両側を鋭角の又は不連続な周囲形状で限られるものとすることができ、そこよりも大きいと、例えば、スロット形状の間隙を定めながらモジュールの半径方向長さがより大きくなる。これらの様々な実施形態では、定められた最大半径方向長さ値は、好ましくは7mm又はより好ましくは5mmとすることができる。一部の実施形態では、第1の部分の(周方向の)一方の側又は両側では、モジュールの半径方向長さが第1の部分に対する半径方向長さ値よりも大きく、モジュールの全周囲又は全周囲に対する最大及び/又は平均の半径方向長さ値よりも小さい第2の半径方向値を超えない別の部分を定めることができる。
【0032】
第1の部分に加えて、検出器モジュールは、検出器モジュールの半径方向長さが同じく最小にされ、特に同様に10mm未満である第2の部分を更に備えることができる。
【0033】
一部の実施形態では、検出器モジュールは、典型的に検出器モジュールの外面と使用時に試料に面する検出器モジュールの面との間である外縁を備える。そのような実施形態では、電子ビーム軸と外縁の間の最小半径方向距離は、10mm未満であることが好ましい。
【0034】
一部の好ましい実施形態では、検出器モジュールの第1の部分の半径方向長さ、すなわち、電子ビーム軸から試料に面する側のモジュールの周囲までの最小半径方向距離は、7mm未満であることが好ましい。より好ましくは、これは5mm未満である。
【0035】
典型的には、複数のX線センサ要素の全体有効区域の少なくとも半分、好ましくは半分超は、使用時に電子ビーム軸から6mm未満である。ビーム軸に対して予め決められた半径内に予め決められた割合の有効X線センサ領域を設けることが有利である。より好ましくは、上述のように半分又は半分超とすることができる有効区域の予め決められた割合内では、電子ビーム軸からの半径方向の距離は、6mm未満、好ましくは5mm未満、より好ましくは3mm未満とすることができる。
【0036】
X線センサ要素に関する上述の最小全体有効区域に加えて、好ましい実施形態では、1又は2以上の電子センサ要素は、30mm2よりも大きい全体有効区域を有する。好ましい実施形態では、モジュールは、複数の電子センサ要素を含む。しかし、2又は3以上の電子センサ要素が接続センサ部分によって一緒に接続されるか又はそれらが単一センサ要素として製作されるというセンサ配置を設けることができることを理解されるであろう。
【0037】
X線センサが限られた回転対称性を有し、一方で電子センサ要素が同じか又はそれよりも大きい回転対称性を有するように検出器モジュールにセンサ要素を配置することが有利であることが見出されている。従って、好ましくは、X線センサ要素は、電子ビーム軸に関して2重よりも多くない回転対称性を有して配置され、電子センサ要素は、電子ビーム軸に関して少なくとも2回回転対称性を有して配置される。この対称性は、典型的には使用時、すなわち、モジュールを分析装置内に装着した時のモジュールに対する電子ビーム軸の向き及び位置の観点から予め決められる。これらの要件は、複数のX線センサ要素の外観がビーム軸に関する2又はそれ未満の異なる向きで同一であることを指し、複数の電子センサ要素の外観がビーム軸に関する2又は3以上の異なる向きで同一であることを指すと理解されるであろう。
【0038】
一部の実施形態では、電子センサ要素の有効区域の一部を電子ビーム軸に対するX線センサ要素の最遠方部よりも電子ビーム軸から遠くに位置決めし、電子センサ要素の有効区域の一部を電子ビーム軸に対するX線センサ要素の最近接部よりも電子ビーム軸の近くに位置決めすることにより、検出器モジュールの性能を高めることができる。従って、そのような好ましい実施形態では、電子ビーム軸から複数の電子センサ要素の有効区域内の第1の場所までの半径方向距離は、複数のX線センサ要素の有効区域の電子ビーム軸に対する最大半径方向長さよりも長く、電子ビーム軸から複数の電子センサ要素の有効区域内の第2の場所までの半径方向距離は、電子ビーム軸と複数のX線センサ要素の有効区域の間の最小半径方向距離よりも短い。先に開示した対称性と同様に、これらの半径方向距離は、典型的に使用時、すなわち、モジュールを分析装置内に装着した時のモジュールに対する電子ビーム軸の向き及び位置の観点から予め決められる。
【0039】
そのような実施形態では、好ましくは、検出器モジュールは、電子ビーム軸から最も遠くに位置決めされた複数の電子センサ要素の有効区域の第1の部分からの信号を増幅した後で、その信号が第1の部分とは異なる他の電子センサ要素と考えることができる複数の電子センサ要素の有効区域の第2の部分からの信号に加えられるように構成される。当該部分がビーム軸から最も遠いとは、X線センサ要素領域の最大半径方向長さと少なくとも同じだけ大きいビーム軸からの半径方向距離に位置することを指すとすることができる。
【0040】
本発明の開示に後で提供する実施例に示すように、検出器モジュールは、典型的には、ビームが妨げられずに通過することができるモジュール内の間隙又はより好ましくは開口により、使用時に集束電子ビームを少なくとも部分的に取り囲むことができるように成形される。本発明の開示に後でより詳細に説明するように、この間隙又は開口がより小さい直径を有するような配置により、使用を通して検出器モジュールの望まれない汚染の程度がより大きくなる場合がある。従って、この間隙又は開口に関して最小サイズを適用することが有利である可能性がある。その値は、プローブスポットによって予め決められる検出器領域に対する立体角の望まれない減少を回避するほど小さくなるように選択されることが好ましい。好ましくは、検出器モジュールが含む開口であって、使用時に電子ビームがそこを通過するように配置される開口の内径は、1.0mmより大きく、又は好ましくは1.5mmより大きく、又はより好ましくは2.5mmよりも大きい。一部の実施形態では、間隙又は開口は非円形であり、そのような場合に、上記で言及した内径は、開口の最小直径として定めることができる。典型的には、開口又は孔は、検出器モジュール又はその主要面の重心を中心とする。検出器モジュール内の開口を通過するビームは、モジュールの一方の側から他方の側へ通過するビームとして理解することができる。
【0041】
付属デバイスが含まれる時に、そのような実施形態では、付属デバイスは、以下のうちの1又は2以上を含む又はそれらの1又は2以上である:X線センサ、後方散乱電子センサ、カソードルミネセンスセンサ、マイクロマニピュレータ、ガス注入デバイス、レーザ、及び電子トラップを備える又は装着したX線センサ。
【0042】
本発明の開示に説明する実施例は、有利なことに、後方散乱電子が使用時にX線センサに悪影響を与えないようにそれを防ぐために設けたフィルタ材料カバーリングを含むことができる。従って、好ましくは、検出器モジュールは、複数のX線センサ要素の有効区域の少なくとも一部又は全てに配置された少なくとも1つの材料層を更に備える。少なくとも1つの材料層は、電子、可視光、及び赤外線のうちのいずれか1又は2以上の透過を部分的又は完全に遮断し、一方で第1のエネルギ範囲又は第1のエネルギバンドの中にエネルギを有するX線の部分的又は完全な透過を可能にするように適応させることができる。このバンドは、識別された又は分析に有用であると決定されたX線光子エネルギの範囲に対応することができる。典型的には、層材料及び/又はその厚みは、必要なX線透明度と、不要な放射線又は粒子に対する必要な不透明度とを有するように構成される。第1の範囲は、元素分析に有用なX線のエネルギに対応することができる。これは、エネルギの予め決められた範囲とすることができる。この範囲の数値的な境界は、必ずしも既知であるとは限らない。しかし、層は、少なくとも望ましいエネルギバンド又はそのサブバンドでのX線を許容するように構成されることが好ましい。
【0043】
言い換えれば、一部の実施形態では、モジュール内のX線センサを1又は2以上の材料層で覆って電子又は可視光線又は赤外線の各センサへの透過を遮断し、一方で依然として分析に有用なエネルギを有するX線を透過させることができる。
【0044】
一部の実施形態では、材料層、又は複数の層を有するそれらの実施形態での材料層の少なくとも1つは、複数のX線センサ要素の有効区域の当該部分の面に付加されたコーティングの形態を有する。面とは、上面、すなわち、X線光子及びそのエネルギを検出してモニタするためにX線を受け入れるように構成された面であると考えることができる。様々な実施形態では、材料層の1又は2以上は、これに代えて又はこれに加えて、自己支持型フィルム又はシートとして設けることができる。
【0045】
センサ要素面に付加されるコーティングを設けて、光又は一部の電子がセンサに到達することを防止することができる。しかし、一部のそのような実施形態では、1又は2以上の材料層は、より多くの電子を遮断するようにセンサの前に別のフィルタ材料を更に備えることができる。そのフィルタ材料が電気絶縁体である場合に、この絶縁層が入射電子に起因して帯電することを防ぐために、実質的に接地される追加の導電性コーティングを設けることが有益である。材料層、又は例えば積み重ねて複数の層を設ける実施形態での層の少なくとも1つは、電気的に接地されることが好ましい。好ましくは、それを更に導電性にし、材料層、層、又は積層の電位が入射電子、すなわち、層を照射するか又はそれに衝突する電子に起因する静電帯電によって上昇することを防ぐようにする。層に関する上述の導電性とは、典型的には、当該材料が十分な導電性を有し、当該層が、電荷の放散を可能にして層内の静電荷蓄積を防止するだけの導電性を有することを指す。
【0046】
検出器モジュールは、一部の実施形態では、使用時に複数の電子センサ要素を予め決められた温度範囲に維持するように構成された冷却コントローラを更に備えることができる。コントローラは、より好ましくは、複数の電子センサ要素を予め決められた温度に維持するように構成することができる。これらの要素の温度を望ましい温度範囲に維持することは、分析機器のある一定の作動方式に有利である場合がある。
【0047】
典型的には、そのような実施形態では、冷却コントローラは、複数の予め決められた温度範囲の中から選択された温度範囲に複数の電子センサ要素を維持するように構成可能であるが、これに代えて、その温度範囲の各々は、有限範囲ではなく、予め決められた温度値とすることができる。上述の範囲又は値の各々は、電子ビームアセンブリのそれぞれの作動モードに対して最適な作動温度範囲又は値に対応することができる。好ましくは、それらは、装置又は検出器モジュールを有する電子顕微鏡のそれぞれのモードに対応することができる。
【0048】
従って、センサの温度は、一部の実施形態では、性能を最適化して電子顕微鏡の異なる作動モードに適するように構成することができる。
【0049】
複数のX線センサ要素の各々は、一部の実施形態では、試料及び/又は試料ホルダの近接度をモニタするようになった容量センサの第1の電極として機能するように構成された導電プレート内の開口の背後に配置されるか又はそれに位置合わせすることができる。そのようなプレートは、典型的にプレートと試料又はホルダとの間のキャパシタンスをモニタしてその間の分離又は距離又はその変化率を表す情報を導出することによってそのように構成される。これらの配置では、典型的には、電子ビームとの相互作用によって試料で発生したX線がその開口を通過してセンサ要素に受け入れられるように開口が設けられる。
【0050】
典型的には、検出器モジュールは、カメラ-試料間距離が10mm未満の場合に、試料面にわたって少なくとも10mmの試料の視野を有するように配置された光学カメラを更に備え、任意的に、カメラの被写界深度は、カメラ-試料間距離を増大することによって視野の幅を少なくとも20mm、好ましくは60mm超まで大きくすることができるほど十分であるとすることができる。光学カメラとは、例えば、電磁スペクトルの可視部で作動するように又は電磁スペクトルの可視部を使用するように構成された画像センサとして理解することができる。
【0051】
一部の実施形態では、検出器モジュールは、電子ビーム下で分析されている領域の場所を検査されることになる試料の光学画像内に表示する方法を実行するように更に構成することができ、その場合に、カソードルミネセンス試料の面を電子顕微鏡の最終レンズ磁極片から特定の作動距離に位置決めし、集束電子ビームが試料上に入射する間に照明光源をオフにした状態でデジタル化光学画像を取得し、カソードルミネセンスによって放出された光のスポット中心の光学画像内の位置座標を決定し、検査されることになる試料の面をカソードルミネセンス試料と同じ特定の作動距離に位置決めし、光源が試料を照明している状態でデジタル化光学画像を取得し、検査されることになる試料の光学画像は、カソードルミネセンス試料から得られた光学画像から得られた位置座標を中心として電子ビーム分析領域の場所が強調表示される視覚ディスプレイ上に示される。
【0052】
別の実施形態では、検出器モジュールは、電子ビーム下で分析されている領域の場所を検査されることになる試料の光学画像内に表示する方法を実行するように更に構成することができ、その場合に、電子顕微鏡の最終レンズ磁極片から特定の作動距離に小さい認識可能な特徴の面を集束させ、その特徴を視野の中心にした電子画像を取得し、照明光源をオンにした状態でデジタル化光学画像を取得して画像内の同じ認識可能な特徴の中心の位置座標を決定し、検査されることになる試料の面を小さい認識可能な特徴の撮像に使用したのと同じ特定の作業距離に位置決めして光源で試料を照明している状態でデジタル化光学画像を取得し、検査されることになる試料の光学画像は、電子ビーム分析領域の場所が強調されて認識可能な特徴の位置座標を中心とした視覚ディスプレイ上に示される。
【0053】
これらの実施形態のいずれでも、検出器モジュールは、上述したものと同じか又は異なることができる第1の光学カメラと第2の光学カメラとを備え、それらは、少なくとも部分的に重なる試料に関するそれぞれの第1及び第2の視野を有することができる。第1及び第2の光学カメラは、それによってそれぞれに取り込まれた第1及び第2の画像を使用して試料の立体表示を提供することができるように、及び/又はカメラからのデータ又はカメラによる出力を使用して試料面のトポグラフィマップを発生させることができるように配置することができる。
【0054】
検出器モジュールは、一部の実施形態では、データを取得して処理する段階を実行するように又はデータを取得して処理する方法を実行するように構成することができ、その場合に、電子ビームが試料上の領域を網羅する一連の点に位置決めされた状態で、付属X線検出器からのスペクトルデータ、複数のX線センサ要素からのスペクトルデータ及び任意的に複数の電子センサ要素からのデータが記録され、モジュールからのスペクトルデータ及び任意的に複数の電子センサ要素からのデータ、及び/又は付属X線検出器からのスペクトルデータを使用して、記録された信号が所与の副領域内の点に関して類似である副領域を識別し、副領域内の一連の位置、好ましくは全ての位置に関して付属X線検出器、好ましくは当該付属X線検出器からのスペクトルデータを結合してその副領域内の材料を表す単一スペクトルを生成し、副領域の代表スペクトルを処理して1又は2以上の固有元素X線放出の強度値、及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定し、副領域の代表スペクトルから導出された元素の強度値又は濃度値を副領域内の点、好ましくはどの画像点にも割り当てることによって1又は2以上の元素に対して画像データを集合させ、識別された副領域に関して元素に対して集められた画像データを使用して試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供する。
【0055】
典型的には、そのような実施形態では、モジュール内のX線センサからの各点でのデータは、その点での電子センサデータの合計に反比例する係数によってスケーリングされる。
【0056】
識別された副領域内の点に関するデータは、典型的には、点データが副領域内の点に関するデータの予想変動範囲外である副領域からの点を除外するために、付属X線検出器からのスペクトルデータが結合される前に検査される。
【0057】
スペクトルの重みがそのスペクトルと副領域全体の平均スペクトルとの差の尺度に依存するスペクトルの重み付き組合せを使用することにより、識別された副領域内の点に関する付属X線検出器からのスペクトルデータを集計して副領域に対する単一スペクトルを生成することができる。
【0058】
検出器モジュールは、データを取得して処理する段階を実行するように又はデータを取得して処理する方法を実行するように構成することができ、その場合に、電子ビームが試料上の領域を網羅する一連の点に位置決めされた状態で、付属X線検出器からのスペクトルデータ、モジュール内のX線センサからのスペクトルデータ及び任意的にモジュール内の電子センサからのデータが記録され、モジュールからのスペクトルデータ、任意的にモジュール内の電子センサからのデータ及び任意的に付属X線検出器からのスペクトルデータを使用して、記録された信号が所与の副領域内の点に関して類似である副領域を識別し、副領域、好ましくは全ての副領域に対して副領域内の各点に関する付属X線検出器からのスペクトルデータを副領域内の他の点、好ましくは他の全ての点からのデータと加重平均することによって結合してその点でのスペクトルのノイズ除去済みバージョンを生成し、各点に関するノイズ除去済みスペクトルを処理して1又は2以上の固有元素X線放出の強度値、及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定し、ノイズ除去済みスペクトルから導出された元素の強度値又は濃度値を画像点、好ましくはどの画像点にも割り当てることによって1又は2以上の元素に対して画像データを集合させ、元素に対して集められた画像データを使用して試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供する。
【0059】
そのような実施形態では、好ましくは、ある点でのノイズ除去済みスペクトルに対する加重平均は、その点に関するスペクトルデータ又はモジュールのベクトルデータと副領域内の他の各点に関する対応するスペクトルデータ又はモジュールのベクトルデータとの差の尺度に依存する副領域内の他の各点に対する重み係数を使用する。
【0060】
検出器モジュールが含む複数のX線センサ要素からの各点でのデータは、その点での電子センサデータ値の合計に反比例する係数によってスケーリングされることが好ましい。識別された副領域内の点に関するデータは、点データが副領域内の点に関する予想変動範囲外である副領域からの点を除外するために検査することができる。
【0061】
本発明の第2の態様により、試料を分析するための装置を提供し、装置は、集束電子ビームを発生させるための電子ビームアセンブリと第1の態様による検出器モジュールとを備える。
【0062】
一部の実施形態では、検出器モジュールは、電子ビーム軸から試料に面する側のモジュール周囲までの最小半径距離が電子ビームアセンブリの一方の側に装着された付属装置デバイスの方向になるように向けることができる。従って、そのような実施形態では、典型的には、装置は、電子ビームアセンブリに装着された付属デバイスを更に備え、電子ビームアセンブリ及び/又は付属デバイスに対する検出器モジュールの向き、特に電子ビーム軸に関する向きは、検出器モジュールの第1の部分の少なくとも一部、好ましくは中央部、より好ましくは第1の部分を定める2つの平面から等距離又は実質的に等距離になるように環状/周方向中心にある部分と、付属デバイスの少なくとも一部、好ましくはその中央部、又は付属デバイスのセンサ又は作動部品の中心と一致する部分とが電子ビーム軸が位置する平面と一致するようになっている。軸が位置する平面は、上述のようにモジュールの第1の部分を定めるか又は取り囲むことができる上述の第1及び第2の平面に関連して第3の平面と考えることができる。この配置は、有利なことに、モジュールの最小半径方向長さが電子ビーム軸の周りの回転に関して付属デバイスに位置合わせすることを意味する。すなわち、試料、特にプローブスポットからモジュールの上方で電子ビームアセンブリの近くに装着された付属デバイスへの遮られない見通し線を提供することができる。典型的には、第1の部分は、使用時に電子ビーム軸と付属デバイスの間に位置決めされるので、付属デバイスは、第1の部分でのモジュールの最小延長により又は少なくともそれによって容易にされる方式によって試料を観察するか又はそれにアクセスするように向けられる。
【0063】
上述のように、装置は、付属デバイスを含むことができる。そのような付属デバイス又は一部の実施形態では更に別の付属デバイスは、検出器モジュールも支持される機械的アセンブリに支持された電子トラップを装着したX線検出器を含む又はそれ自体であるとすることができる。
【0064】
本発明の第3の態様により、試料を分析する方法を提供する。本方法は、第1の態様の実施形態による検出器モジュール又は第2の態様の実施形態による装置を使用して実行されることが好ましい。典型的には、本方法は、電子顕微鏡のような電子ビーム計器内で実行される。本方法は、電子ビームアセンブリを使用して集束電子ビームを発生させる段階と、複数のX線センサ要素及び複数の電子センサ要素を有する検出器モジュールを与える段階であって、検出器モジュールが、電子ビームアセンブリの磁極片の下方に位置決めされ、その磁極片から集束電子ビームが試料に向けて出現し、検出器モジュールが、電子ビームと試料の間の相互作用によって発生されるX線及び後方散乱電子を受け入れるようになっている上記与える段階と、複数のX線センサ要素を使用して、個々の受け入れたX線光子のエネルギをモニタする段階とを備え、複数のX線センサ要素は、20mm2よりも大きい全体有効区域を有し、電子ビーム軸に対する検出器モジュールの半径方向長さは、検出器モジュールの少なくとも第1の部分にわたって10mm未満である。
【0065】
本方法は、更に、例えば、領域内の各点に関するそれぞれの信号であって、複数のX線センサ要素からのスペクトルデータ及び任意的に複数の電子センサ要素からのデータを含む上記信号を試料上の領域を網羅する一連の点に電子ビームを衝突させている間に記録する段階と、検出器モジュールによって得られたスペクトルデータ、任意的にモジュール内の複数の電子センサ要素からのデータ及び任意的に付属X線検出器からのスペクトルデータを使用して、記録された信号が所与の副領域内の点に関して類似である副領域を識別する段階と、各副領域内のいくつかの位置、好ましくは全ての位置に関して付属X線検出器からのスペクトルデータを結合してその副領域内の材料を表す単一スペクトルを生成する段階と、各副領域の代表スペクトルを処理して1又は2以上の固有元素X線放出の強度値及び任意的にそれらの放射と関連する対応する元素の濃度を表すデータを生成する段階と、各副領域の代表スペクトルから導出された元素の強度値又は濃度データを副領域内の点、好ましくはどの画像点にも割り当てることによって1又は2以上の元素に対して画像データを集める段階と、識別された副領域に関して元素に対して集められた画像データを使用して試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を発生させる段階とを含む。典型的にスペクトルデータは、検出器モジュールのX線センサ要素によって得られる。副領域を識別する段階は、全ての点又は少なくとも複数の点に関する記録信号が類似している領域の一部としての副領域を定める段階と考えることができる。この類似度は、例えば、対又は複数の点に関する信号を比較して必須の類似度閾値に従って決定することができる。スペクトルデータは、識別された副領域の少なくとも1つ、好ましくは複数又は全ての中にあるいくつかの位置又は全ての位置に対して結合することができる。代表スペクトルは、識別された副領域の少なくとも1つ、好ましくは複数又は全てに対して処理することができる。対応する元素の濃度を表すデータは、特に元素の存在とプローブスポットでの入射電子ビームとの相互作用とにより、当該放射の原因になる元素の濃度を表すことを理解することができる。
【0066】
視覚表現を発生させる段階は、当該表現を提供する段階と考えることができ、いくつかの異なる形態を取ることができる。そうするのに使用される集合済み画像データは、少なくとも1セットの好ましくは全ての識別された副領域に関するものとすることができる。
【0067】
典型的には、各点でのモジュール内のX線センサからのデータは、その点での電子センサデータの合計に反比例する係数によってスケーリングされる。好ましくは、そのような実施形態では、識別された副領域内の点に関するデータは、点データが副領域内の点に関するデータの予想変動範囲外である副領域からの点を除外するために、付属X線検出器からのスペクトルデータが結合される前に検査される。別の実施形態では、スペクトルの重みがそのスペクトルと副領域全体の平均スペクトルとの差の尺度に依存するスペクトルの重み付き組合せを使用することにより、識別された副領域内の点に関する付属X線検出器からのスペクトルデータを集計して副領域に対する単一スペクトルを生成する。
【0068】
第1の態様の実施形態による検出器モジュール又は第2の態様の実施形態による装置を使用してデータを取得して処理する方法では、又は代わりに第3の態様による方法の実施形態では、典型的には、電子ビームが試料上の領域を網羅する一連の点に位置決めされた状態で、付属X線検出器からのスペクトルデータ、モジュール内のX線センサからのスペクトルデータ及び任意的にモジュール内の電子センサからのデータを含む信号が記録され、モジュールからのスペクトルデータ、任意的にモジュール内の電子センサからのデータ及び任意的に付属X線検出器からのスペクトルデータを使用して、記録された信号が所与の副領域内の点に関して類似である副領域を識別し、副領域、好ましくはどの副領域に対しても、副領域内の各点に関する付属X線検出器からのスペクトルデータを副領域内の他の点、好ましくは他の全ての点からのデータと加重平均することによって結合してその点でのスペクトルのノイズ除去バージョンを生成し、各点に関するノイズ除去済みスペクトルを処理して1又は2以上の固有元素X線放出の強度値、及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定し、ノイズ除去済スペクトルから導出された元素の強度値又は濃度値を画像点、好ましくはどの画像点にも割り当てることによって1又は2以上の元素に対して画像データを集合させ、元素に対して集められた画像データを使用して試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供する。
【0069】
好ましくは、ある点でのノイズ除去済みスペクトルに対する加重平均は、その点に関するスペクトルデータ又はモジュールのベクトルデータと、副領域内の他の各点に関する対応するスペクトルデータ又はモジュールのベクトルデータとの差の尺度に依存する副領域内の他の各点に対する重み係数を使用する。より好ましくは、モジュールが含むX線センサ要素からの各点でのデータは、その点での電子センサデータ値の合計に反比例する係数によってスケーリングされる。より好ましくは、識別された副領域内の点に関するデータは、点データが副領域内の点に関する予想変動範囲外である副領域からの点を除外するために検査される。
【0070】
第1の態様の実施形態による検出器モジュール又は第2の態様による実施形態による装置を使用して、電子ビーム下で分析されている領域の場所を検査されることになる試料の光学画像と共に表示する方法を提供し、その場合に、カソードルミネセンス試料の面を電子顕微鏡の最終レンズ磁極片から特定の作動距離に位置決めし、集束電子ビームが試料上に入射する間に照明光源をオフにした状態でデジタル化光学画像を取得し、カソードルミネセンスによって放出された光のスポット中心の光学画像内の位置座標を決定し、検査されることになる試料の面をカソードルミネセンス試料と同じ特定の作動距離に位置決めし、光源が試料を照明している状態でデジタル化光学画像を取得し、検査されることになる試料の光学画像は、カソードルミネセンス試料から得られた光学画像から得られた位置座標を中心として電子ビーム分析領域の場所が強調表示される視覚ディスプレイ上に示される。
【0071】
第1の態様の実施形態による検出器モジュール又は第2の態様による実施形態による装置を使用して、電子ビーム下で分析されている領域の場所を検査されることになる試料の光学画像と共に表示する方法を提供し、その場合に、電子顕微鏡の最終レンズ磁極片から特定の作動距離に小さい認識可能な特徴の面を集束させてその特徴を視野の中心にした電子画像を取得し、照明光源をオンにした状態でデジタル化光学画像を取得して画像内の同じ認識可能な特徴の中心の位置座標を決定し、検査されることになる試料の面を小さい認識可能な特徴の撮像に使用したのと同じ特定の作業距離に位置決めして光源で試料を照明している状態でデジタル化光学画像を取得し、検査されることになる試料の光学画像は、電子ビーム分析領域の場所が強調されて認識可能な特徴の位置座標を中心とした視覚ディスプレイ上に示される。
【0072】
ここで、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】従来技術に従って電子顕微鏡でのX線分析に関する第1の配置を模式的に示す図である。
【
図2】後方散乱電子センサセグメントのリングとX線センサセグメントの外側リングとによって囲まれた電子ビームのための中心孔のレイアウトを示す従来技術の検出器配置の平面図である。
【
図3】組み合わされた後方散乱電子及びX線検出器配置の概略断面図である。
【
図4】6ミクロン厚のマイラーフィルタに対するX線透過率のX線光エネルギ依存性を示すグラフである。
【
図5】従来技術に従って電子顕微鏡でのX線分析に関する第2の配置を模式的に示し、顕微鏡磁極片の下方の大径検出器モジュールにより、側部装着式検出器の見通し線が部分的に遮られることを示す図である。
【
図6】中心孔を取り囲むBSEセンサの両側に2つの円形X線センサを含む本発明による第1の例示的検出器モジュール配置に関する平面図である。
【
図7】中心孔の垂直方向両側に2つのBSEセグメントを伴って中心孔の両側に2つの円形X線センサを含む本発明による第2の例示的検出器モジュール配置に関する平面図である。
【
図8】2回回転対称性を伴って中心孔の両側に2つの円形X線センサと2つのBSEセンサセグメントとを含む本発明による第3の例示的検出器モジュール配置に関する平面図である。
【
図9】内部の窪みのベースからの放射がセンサの一部で受け入れられることを示す試料の一部の側面図である。
【
図10】集束電子ビームが中心位置から離れるように偏向した場合に異なるセンサの捕集立体角がどのように変化するかを示す本発明による例示的装置の一部の概略断面図である。
【
図11】第3の例示的モジュールのBSEセンサの平面から5.8mmに試料を位置決めした場合に試料上の1.5mm×1.5mmグリッドに入射する集束ビームの異なる位置に対して両BSEセンサの合計応答を中心位置に対して示すデータ表である。
【
図12】2回回転対称性を伴って中心孔の両側に2つの円形X線センサと4つのBSEセンサセグメントとを含む本発明による第4の例示的検出器モジュール配置に関する平面図である。
【
図13】第4の例示的モジュールのBSEセンサの平面から5.8mmに試料を位置決めした場合に試料上の1.5mm×1.5mmグリッドに入射する集束ビームの異なる位置に対して全BSEセンサの合計応答を中心位置に対して示すデータ表である。
【
図14】第4の例示的モジュールのBSEセンサの平面から5.8mmに試料を位置決めした場合に試料上の1.5mm×1.5mmグリッドに入射する集束ビームの異なる位置に対して[BSEセンサ(1+2)+3.3×センサ(3+4)]の応答を中心位置に対して示すデータ表である。
【
図15】センサのためのバイアス電圧、熱電冷却のための電力を提供し、真空フィードスルーを通して外部電子機器にセンサ信号を取り出すためのコネクタを示し、使用時に試料に面する2つの円形X線センサ及び2つのBSEセンサを示す第3の例示的検出器モジュールの斜視図である。
【
図16】SEM磁極片の直下に光学カメラを含む本発明による例示的配置の概略側面図である。
【
図17】一体型電子トラップを有する追加の付属X線検出器が試料上のプローブスポットへの見通し線を妨げない位置に装着されて磁極片の下で下向き検出器モジュールを支持する格納式サイドアームを含む本発明による例示的配置の斜視図である。
【
図18】最終レンズの磁極片の下方位置にある
図17に示す例示的配置の側面図及び平面図である。
【
図19】
図19aは、BSEを遮断する材料フィルタを装着した追加のX線センサがBSEを遮断するフィルタを持たず、低エネルギX線に対してより感度が高いX線センサに電子が到達しないように防ぐ電子トラップの端部に装着される本発明による例示的配置を通過する断面図である。
図19bは、電子トラップの入口開口の両側にフィルタを装着したX線センサを示す使用時に試料の方向からモジュールを見た図である。
【
図20】本発明による第1の例示的データ取得処理を示す流れ図である。
【
図21】本発明による第2の例示的データ取得処理を示す流れ図である。
【
図22】モジュールデータのX線合計スペクトル(黒色ベタ領域)と付属検出器データの合計スペクトル(より淡い線)とを重ね合わせて示すグラフである。
【
図23】モジュールX線データの一例から取った元素分布マップを示す図である。
【
図24】付属検出器を含む例示的装置から得られた元素分布マップを示す図である。
【
図25】例示的モジュールデータセット内で類似スペクトルを有するピクセルの「相」分布を示す図である。
【
図26】
図23に示す相に対して付属検出器データに由来する濃度結果から計算された元素分布を示す図である。
【
図27】典型的に個々の色を各相に割り当てて試料の同じ領域から得られた対応する電子画像の上に重ね合わせて表示することができることを示す異なる材料の分布を示す「相」マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
上述の有利な手法を使用する例示的装置では、BSE検出器センサとX線検出器センサの両方を収容し、最終レンズの磁極片の下(すなわち、
図5の位置106)に電子ビームが試料に衝突する「プローブスポット」にセンサの有効面を向けて位置決めされたモジュールを使用する。このモジュールは、試料から放出されたX線に対して高い全体捕集立体角をX線検出器センサに提供するためにBSEセンサの配置に対して回転対称性を維持するように設計される。モジュールは、センサからの電子ノイズを低減するために冷却することができ、又は周囲温度とすることができる。熱電冷却/ペルチェ冷却などによる電子冷却を使用する場合に、温度を感知してフィードバックによって調節することができ、BSE検出器センサのゲインとオフセットを一定に維持するという利益がある。上述のように、これらの実施例の重要な態様は、電子ビームの一方の側に位置決めされた付属デバイスのプローブスポットへの見通し線をモジュールが遮らないようにしながら、X線検出器及びBSE検出器両方の高い全体捕集立体角を維持することである。従来のSEM設計に関して、モジュールを磁極片の近くに位置決めされた場合に、SEMの側部に装着されるX線検出器のような典型的な付属デバイスの遮蔽を回避するために、モジュールの下縁(試料に面する側)は電子ビーム軸から10mmを超えて突出してはならず、好ましくは半径方向距離7mmを守り、理想的には半径方向距離4.5mmを守るべきであることが公知である。寸法全体を小さくして半径方向遮蔽を低減することには感度の妥協が必要である。例えば、
図2及び
図3に示すような公知のモジュール設計を小型化してモジュールの外径を9mm(周囲までの半径方向距離は4.5mm)にした場合に、4つのX線センサの全体面積は約30mm
2になり、4つのBSEセンサの全体面積は8mm
2未満になる。本発明の開示による例示的装置は、好ましいことに、典型的な付属デバイスを遮ることなく、30mm
2よりかなり大きいX線センサの全体面積と30mm
2よりかなり大きいBSEセンサの全体面積とを可能にする。付属デバイスに向けて半径方向にモジュールの外側までの半径方向距離を低減するために、モジュールは、あらゆる角度方向に回転させて固定することができることが有益であることが認識されている。従って、
図6に示すようなセンサ配置を有する矩形モジュールを中心ビーム軸の周りに回転させることができれば、それは、X線信号捕集のための高立体角を提供しながら側部装着式付属デバイスの遮蔽を最小にするように周囲がビーム軸から僅か7mmの半径方向距離になるように位置決めすることができる。
【0075】
図6のBSEセンサは、中心孔を有する八角形として模式的に示しているが、円形とすることもでき、例えば、
図2の従来技術配置のように、4つのセグメントの1セットで構成される場合がある。それにより、有効区域の高次の回転対称性が達成され、上述のように、全体BSE信号に対するトポグラフィの影響が最小にされる。単一セグメントを使用するか又は複数セグメントを使用するかを問わず、これらのセグメントが領域の大部分を覆うことを前提として、全体有効区域は、孔を有するディスク(又は「円環」)と電子ビーム軸の周りの完全回転対称性とを近似する。
【0076】
図6の例示的配置では、X線センサは、BSEセンサよりもビーム軸から更に離れて位置決めされ、それによってX線検出器の立体角が損なわれる。本発明者は、従来の実地経験に反して検出器が円環全体を覆わない2つのセグメントだけを有する場合でも、セグメントが2回回転対称性を示す限り、BSE信号に対するトポグラフィの影響を依然として劇的に低減することができることを見出した。
図7の配置では、この特性を利用して2つのX線センサを電子ビーム軸により近く位置決めし、BSEセンサセグメントの2回回転対称性を維持しながら捕集立体角を増大させるようにする。
図6の配置と同様に、
図7の例示的長円形モジュールを中心ビーム軸の周りに回転させることができれば、それは、側部装着式付属デバイスに向う方向にモジュールの周囲までの半径距離を6mmまで低減することにより、側部装着式付属デバイスの遮蔽を最小にするように位置決めすることができる。
【0077】
図7の配置は、X線に対する捕集立体角を改善するが、それは、BSE信号の捕集に対する全体有効区域及び全体立体角を損なう。
図8に示す例示的モジュール配置では、依然として2回回転対称性を維持したままでBSEセグメントを拡張する。ほぼ長円形モジュールの外部境界は、ビーム軸から周囲までの半径方向距離を低減して側部装着式付属デバイスの遮蔽をあらゆる方向で軽減する2つの領域を提供する形状になっている。
図8の配置では、長さが21.2mmのモジュールは、2つのSDDセンサを収容して40mm
2又はそれよりも大きい全体有効区域を提供し、ビーム軸から周囲までの最小半径距離は4.5mm未満である。
【0078】
この実施例では、集束電子ビームが試料に向けて進めるようにするためにモジュールの中心孔が必要である。電子顕微鏡で長期間使用すると、開口に汚染材料が溜まり、その材料に電子電荷が蓄積する可能性がある。孔の縁部が集束電子ビームに近すぎると、ビームプロファイルを歪ませ、顕微鏡画質の低下をもたらす場合がある。電子顕微鏡の側面ポートからモジュール支持アームを挿入する場合に、孔の側壁から集束ビームまでの距離を最大にするために、孔は、電子ビーム軸と注意深く位置合わせされなければならない。孔が小さいほど、その位置合わせは困難になる。更に、入射ビーム内のごく一部の電子が主集束ビームから外れ、主ビームの範囲を遥かに超えて延びる強度の「ビームテール」を含む可能性がある。このビームテールの一部が開口の側部に衝突すると、汚れの蓄積を激化させる場合がある。従って、そのような潜在的な問題を最小にするために、できるだけ大きい中心孔を設けることが有益である。しかし、大きい中心孔を受け入れるためにX線及びBSEセンサ要素を軸から遠ざけた場合に、試料に対する立体角が小さくなるので妥協が必要である。本発明者は、ほとんどのSEMでこれらの影響を避けるために、中心孔の内径は、少なくとも1.5mm、理想的には2.5mmよりも大きい必要があると決定した。
【0079】
X線センサを磁極片の下方に設けることの追加の利点は、側部装着式付属検出器では見ることができない材料から放出されるX線を検出することができるということである。
図9は試料の側面図を示し、集束電子ビームが窪みのベースにある材料に衝突しているところである。プローブスポットから放出されたX線は、有効センサ区域のうちで可視であって窪みの側壁で覆い隠されないどの部分にも到達することができる。従って、電子ビーム軸から少しの半径方向距離内にセンサの有効区域ができるだけ多く存在することが望ましい。センサの面が試料上のプローブスポットから6mmの距離にあるとすると、水平面に対して45°の仰角θで放出されたX線は、軸から半径方向距離6mmにあるセンサに衝突することになる。窪みのベースにある材料に対して何らかの分析機能を提供するために、X線センサの全体有効区域の少なくとも半分を軸から6mm以内に設けることが望ましい。
【0080】
上述のように、BSEセンサの配置を集束ビーム軸に関して少なくとも2回回転対称性にすることは、全体BSE信号に対するトポグラフィの影響を軽減して全体BSE信号が面の局所的な向きではなく材料組成をより表すようにするのに重要である。同じく、X線センサを集束ビーム軸に対して対称に配置することは、特に面トポグラフィの激しい試料を観察する場合に有利である。入射電子ビームが「断崖」のベースにある物体に衝突している場合に、断崖自体が一方のX線センサへのX線通過を遮る可能性がある。しかし、他方のX線センサが直径方向に対向する場合に、依然として物体を明確に見ることができるので、物体からのX線放出を検出することができる。更に、局所面が平坦で両方のX線センサがプローブスポットを明確に見ることができる試料の場合に、放出されたX線は、面の向きに依存する試料の自己吸収のようないわゆる「マトリックス」効果を受けることになる。面が水平面から傾斜しており、X線センサが集束電子ビーム軸に対して2回回転対称性を有する場合に、2つのセンサからの信号は、平均化により、面傾斜のマトリックス効果に与える影響が軽減されることになる。
【0081】
センサの2回回転対称性はトポグラフィ効果の軽減に役立つが、入射電子ビームを試料面の異なる位置に偏向させた場合に、励起信号に対するセンサの全体的応答が変化することになる。これを
図10に説明しており、図は、顕微鏡の側面図と中心軸の周りに等しく配置された2つのセンサとを示している。集束電子ビームを試料上の軸外位置に偏向させた場合に、電子及びX線に対する捕集立体角は、試料上のビーム位置に近いセンサの方が大きくなる。試料面に射影した両センサ間の線に沿う位置では、一方のセンサの捕集立体角の増大は、対向するセンサの立体角の減少によってほぼ補償される。しかし、この線に垂直な方向のビーム位置では、中心軸からの距離が増大する時に両センサ共に捕集立体角が減少する。
【0082】
SEMの倍率が高いほど、視野を覆うための試料上の最大走査偏向量は小さくなり、視野内の異なる位置での信号検出効率の変化も小さくなる。しかし、200Xというかなり低倍率の一般的なSEMでは、視野の幅は約1.5mmになり、例えば、
図8に示す設計の場合に、位置による捕集立体角の変動により、視野にわたる応答は数%の変動する可能性がある。BSE信号は異なる組成の材料を区別することができ、従って、信号閾値を定めて視野内の異なる材料の領域を定めることができるが、材料の平均原子番号が類似している場合に、信号捕集効率のいずれかの空間変動により、この描写は、信頼することができないものになる。従って、BSE信号では、この応答不均一性の程度が特に重要である。BSE放出の物理は公知であり、モンテカルロ法で模擬することができるので、後方散乱電子の分布を角度とエネルギ両方の関数として予想することができる。
図8に示す寸法の検出器モジュールに対して、BSEセンサの入射面を試料面の5.8mm上方に位置決めした場合に、20keVの入射電子ビームに対する2つのBSEセンサの合計に対する相対応答を幅1.5mmの正方形視野内の様々な位置に対して
図11に示している。位置は
図8と同じ方向からのものであり、その視野は試料からのものである。ビーム位置が視野の左上又は右下にある場合に、それは2つのBSEセンサのいずれか一方に最も近づき、その合計応答は、ビーム位置が中心軸上にある場合よりも3.3%大きい。ビーム位置が右上又は左下の場合に、それは、両方のセンサから遠くなり、合計応答は、中心位置の場合よりも3%小さい。
【0083】
広視野での不均一な応答を許容することができない用途に対して、従来のソリューションは、例えば、
図2又は
図6に含まれるタイプの完全ディスク又は4重対称性分割型BSE検出器を使用することであると考えられる。しかし、これは、SDD X線センサをビーム軸から更に遠ざけてX線検出のための捕集立体角を犠牲にしなければならない。X線センサの外側にBSEセンサのリングを置くという代替手法は、センサの単位面積当たりのBSE信号を低減するが、その理由は、BSE電子の強度は、近似的に面の法線に対する放出角の余弦として低下することが公知であるからである。BSE又はX線のいずれかの感度を改善するためにモジュールの直径を大きくすると、SEMチャンバ内の他の機器又は一方の側に装着された検出器の見通し線を遮る可能性が高くなる。これらの妥協を回避するために、
図12に示す長さ26.5mmのモジュールで例示されるような2回回転対称性を有するだけの長円形モジュールに関して広視野にわたってより均一なBSE応答を達成する方法を本発明者は考案した。BSEセンサ要素1及び2は、中心軸に最も近いのでBSE電子を検出するのに最も効率的である。センサ1及び2の合計応答は、広視野にわたって不均一性を示すことになり、センサ同士を結ぶ縦線に垂直な線の最遠端で最も弱い応答になる。この感度低下を補償するのにSDD X線センサの外側にBSEセンサ3及び4を追加することが役立つ。結果として
図12の寸法のモジュールに対してBSEセンサの入射面を再び試料面の5.8mm上方に位置決めした場合に、全てのセンサの合計に対するBSE応答を計算すると、
図13に示すように、試料上の1.5mm正方形区域にわたって応答の均一性が改善される。ここでは、最大応答は中心位置よりも僅か0.2%大きく、最小応答は僅か0.7%小さい。
【0084】
BSEセンサ3及び4のサイズを大きくしてセンサ1及び2と比べて余弦放出応答に起因する効率の低下を補償することにより、全体BSE応答の均一性を更に改善することができる。しかし、均一性を改善するのに必要な修正は、必然的にモジュールの長さを増大させ、これは、SEMチャンバ内にある他の補助デバイスの障害になる可能性を増大させることになる。直径を大きくする代わりに、BSEセンサ3及び4の応答を電子的、デジタル的、又はソフトウエア的な演算方法によって増幅して余弦放出応答による信号の損失を補償することができる。
図12のモジュールに対して、センサ1及び2の合計応答にセンサ3及び4の合計応答の3.3倍を加算したものと同等の結果を出すような増幅を使用する場合に、同じ1.5mm正方形区域に対する結果を
図14に示している。ここでは、最小応答は中心位置と同じで、最大応答は僅か0.2%大きい。
【0085】
試料上のビーム位置に関して1.5mmx1.5mm視野にわたって応答の不均一性を最小にするのに必要な係数3.3は、モジュール上にあるセンサの形状、位置、及び試料からの距離の関数である。係数が1.0であれば、位置に対して
図13に示すものと同じ応答を与え、係数が1~3.3であれば、その同じ区域にわたって中間的な均一性の改善をもたらすことになる。このようにセンサ3+4からの信号を増幅することで均一性は改善するが、信号のその部分にあるノイズも増幅される。最小ノイズは、基本的にセンサに衝突する電子流束で限定され、センサが小さいほどノイズは大きくなる。従って、増幅係数を大きくすればするほど、全体応答のノイズが増加することになるので、ビーム位置に関する応答均一性の改善と全体応答のSN比の低下との間にトレードオフが存在する。空間応答の均一性を更に改善するために、BSEセンサをより多くのセグメントに分割し、信号を合計する前に異なるレベルの増幅を適用することが可能であると考えられる。
【0086】
組み合わされたX線及びBSE検出モジュールに対してBSE空間応答の均一性を改善するのに使用された同じ設計原理は、長円形状を必要とするあらゆるBSE検出器に使用することができる。従来の手法は、中心軸の周囲全360度をセグメントに覆わせるか又は少なくとも4回回転対称性を設けることであるのに対して、2回回転対称性を有する長円形検出器の場合に、検出器の最も狭い領域で中心の両側にあるセンサ領域に対する空間応答の不均一性は、検出器の最も広い部分で中心の両側にあるセンサ領域の一部に対して異なる増幅レベルを有する信号を算入することによって補償され、それにより、試料上の異なるビーム位置に対してより均一なBSE応答が与えられる。
【0087】
単位面積当たりの最も良好なBSE信号応答は、センサの有効区域がビームの中心軸に近い場合に得られる。しかし、X線センサの応答を最大にするのに、X線センサの有効区域を中心ビーム軸の近くに位置決めして捕集立体角を最大にすることも望ましい。BSEセンサをシリコンウェーハから製造する場合に、個々のセンサは、ウェーハから切り離され、これは、周囲での面に損傷を与える可能性がある。X線センサでも類似の問題が発生し、電気接続時の故障又は漏電を防ぐために、各センサの有効区域の周りに無効境界を組み込む必要がある。
図8にBSEセンサの無効境界を示している。この無効境界がモジュールの中心軸に近いと、有用な信号が無駄になるので、無効領域の範囲を小さくすることが望ましい。無効領域を低減する1つの方法は、BSEセンサとX線センサの両方を同じ半導体ウェーハ上に製作して個別に切り出す必要がないようにすることである。それにより、
図3に類似した断面が達成されるが、BSEセンサとX線センサの間に間隙はない。
【0088】
ビーム位置による応答不均一性を補正する代替方法は、センサから試料までの距離に関する知識を使用して特定の設計に対する応答を計算することである。従って、
図11のような応答面を計算し、測定された応答を位置に対して調節するのに使用することができるので、調節信号応答の値は、良好な均一性を有する視野のデジタル画像に保存することができる。更に別の代替案は、銅又はニッケルの研磨片のような平らで均質な試料を使用して、モジュールを試料から特定の距離に位置決めした時の応答を測定することである。望ましい視野にわたってデジタル画像を記録すると、個々のピクセルの値からこの条件下での相対的な信号応答の較正が与えられる。その後に、較正と同じ条件を使用して目的の試料を調べる場合に、不均一性を補正するために較正画像からの値を使用して信号応答を調節することができる。
【0089】
同じく単に2重の回転対称性を有するX線センサに対して類似の不均一性の問題が生じる。X線信号は、面の法線に対する放出角の余弦としては低下しないが、ビーム位置からの放出に対して同じく捕集立体角の影響を受ける。BSEセンサの場合と同様に、視野にわたる応答の不均一性は、応答の計算により、又は同じ顕微鏡条件下で均質組成の平坦な較正試料に対する応答を測定して異なるビーム位置での応答を較正することによって補正することができる。BSEセンサが、試料上のビーム位置からのBSE放出を表す単一値を生成するのに対して、X線センサは、その位置から放出されるX線のエネルギスペクトルと同等なヒストグラムを生成する。典型的には、化学元素の空間分布を示すX線マップは、各ビーム位置でその元素に固有なエネルギ放出だけに由来するスペクトルへの寄与を記録することによって得られる。そのようなマップを広視野にわたって記録する場合に、たとえ試料が均質であっても、位置による全体捕集立体角の変化によって不均一なマップが生成される。この不均一性を補正するために応答を計算又は較正することが不可能な場合に、別のオプションは、単にマップ内の各ピクセル位置での固有放射計数だけではなく、全体スペクトル放射計数に対する固有放射計数の比率を使用することである。全体スペクトル放射計数は同じ捕集立体角に従うので、この比率はビーム位置による捕集立体角の変動に影響されず、従って、比率マップはその元素の固有放射のマップよりも均一になる。
【0090】
本発明の実施例のセンサ配置のいずれでも、低エネルギX線がセンサに到達することを許容しながら、BSEがX線センサを飽和させないようにそれを防ぐために、X線センサをフィルタ材料で覆うことができる。フィルタは、BSEの透過を遮断しながら重要なX線固有輝線の透過を最適化するために異なる材料の複数の層で構成することができる。試料がカソードルミネセンス性である場合、又は試料又はその近くの他の装置が可視光又は赤外線(IR)線を放出する場合に、これらの追加の放射源がX線センサに到達して試料が放出するX線エネルギスペクトルの測定に悪影響を与えるのを阻止することも有利である可能性がある。BSEを遮断する材料が光又は赤外線を遮断しない場合に、このために追加の層が必要になる場合がある。フィルタが電荷を蓄積して電子ビーム光学系及び走査システムの作動に支障をきたすほどの電位に達することを防ぐために、少なくとも1つの材料層は導電性でなければならず、かつ接地又は電流シンクに接続されなければならない。
【0091】
フィルタ材料は、アルミニウム又はカーボンの導電性コーティングを有するマイラー又はポリイミドの薄層のような自己支持フォイルを含むことができる。厚みが数ミクロンの典型的なフィルタは、損傷した場合に取り除いて修復することができる。これに代えて、BSEを遮断するフィルタは、X線センサの面に直接に付加されたコーティングを含むことができる。例えば、150nmのアルミニウム又は34nmのパラジウムのコーティングは、エネルギで3keVまでのBSEを阻止するのに十分であるが、炭素、窒素、及び酸素からの低エネルギX線を依然として通すことになる。350nmのアルミニウムコーティングは、エネルギで約5keVまでのBSEを阻止することになる。そのようなコーティングは、1keVよりも下のX線を有意に減衰させる
図4の6ミクロンマイラーフィルタよりも、低エネルギX線を遥かによく通すことになる。SEMを低い入射ビーム電圧で作動させた時にBSEを遮断するのに十分なコーティングをX線センサ面に直接に付加した場合に、SEMを高い入射ビーム電圧で作動させた時にモジュールを使用することができるように取り外し可能な自己支持フォイルを追加することができる。従って、モジュールは、異なるSEMビーム電圧でのX線検出を最適化するためにフォイルフィルタ付き又はなしを含むことができる。低エネルギX線に対するX線感度を最大にするためにモジュールをフォイルフィルタなしで作動させる場合に、低エネルギX線に対するX線スペクトルのエネルギ分解能を改善するためにX線センサを低温で作動させることが有益である。フォイルフィルタを使用する場合に、フォイルフィルタが定位置にある状態で検出される高エネルギX線に対するエネルギ分解能はそれほど重要ではないので、X線センサは、室温に近い温度で作動させることができる。高温での作動は、モジュール冷却に必要な電力を低減し、センサへの結露又は着氷の可能性を低減するという点で有利である。結露又は着氷は、水和した試料の分析に適する「低真空」又は「環境」モードで作動することができるSEMで発生する可能性が高い。従って、冷却の程度を設定する機能により、電子顕微鏡の異なる作動モードに合わせて性能を最適化するようにセンサの温度を調節することができる。
【0092】
モジュールが定位置106にある状態で、試料台が誤って駆動され、そのために台又は試料101との衝突がモジュール内のセンサに損傷を与えるリスクが存在する。従って、各センサは、センサの感応入射面よりも試料に近い保護開口を有し、誤って試料台がセンサに近づき過ぎた時に試料がこの面を損傷しないようにそれを防ぐことができる。各センサは、典型的には、導電プレートの開口の背後にあり、このプレートは、試料及び/又は試料ホルダの接近をモニタする容量センサの一方の電極として使用することができる。他方のプレートは、理想的には導電性試料又は試料上の導電性コーティングに接続した試料ホルダから形成することができる。この配置により、近接センサは、警告を出す又はインターロックで台移動を制限してユーザが台移動を使用して試料を調査する間の事故を防止するように、試料がモジュールから安全な最近接距離に位置決めされた時に較正することができる。
【0093】
モジュールは、センサ要素を付勢するための電圧、すなわち、熱電冷却スタックのための電力を得るために、かつBSE及びX線センサとあらゆる温度センサから信号を取り出すために外部電子機器に接続しなければならない。
図15は、これらの目的でコネクタをモジュールに装着することができる箇所の例を表すモジュールの3D表現を示している。更に、モジュールは、モジュールからヒートシンクへ熱を奪い去るための何らかの手段が必要になる。モジュールは、最終レンズの磁極片に装着されて磁極片の金属に熱を伝えるか、又は熱伝導体を有する支持体に装着されて顕微鏡の金属壁又は顕微鏡外のヒートシンク又は冷却デバイスへ熱を奪い去るかのいずれかとすることができる。これに代えて、電子顕微鏡の側面ポートから延びる支持アームにモジュールを装着して磁極片の下方の作動位置に挿入する又は側部に退避させることができるので、他のデバイスを磁極片の下方の位置にもたらす又は試料自体を磁極片に近づけることができる。この場合に、支持アームは、熱を伝導し、モジュールを外部電子機器に接続するあらゆる電気配線又は導体を受け入れる導管になることもできる。
【0094】
上述のように、ビームを偏向させて得られるSEM像は、試料上の非常に狭い範囲を網羅するので、オペレータは、広域視野を持たない場合にその領域が試料上のどこにあるのかを正確に知ることが困難である。過度の透視歪みを避けるために、カメラを直接試料に向けて垂直方向の近くに位置決めすることができる場合に、試料面のカメラ画像は、視野が十分大きい限り、オペレータが電子ビームによって走査された領域を周囲の試料面に対して位置付ける助けになる。SEMの良好な撮像性能を達成するために、最終レンズの磁極片と試料との距離は10mm未満に保つことが望ましいので、カメラは、カメラと試料の距離を最大にするために非常に小さいだけでなく、視野を最大にするために短い焦点距離と優れた被写界深度を有する必要がある(例えば、Omnivision社製OVM6946/8ウェーハレベルカメラ、外径寸法1.1×1.1×2.2mm)。カメラから試料までの距離が10mm未満であれば、1台のカメラで少なくとも幅10mmの視野を達成することができ、カメラ画像の「魚眼」歪みは公知の画像補正方法で補正することができる。更に、カメラの被写界深度は十分であり、試料台の垂直高さを調節することでカメラから試料までの距離を増大させることができ、少なくとも20mm、理想的には60mmよりも大きい遥かに広い視野を提供することが可能である。磁極片の下に収まってBSEセンサだけを受け入れるセンサモジュールは、センサモジュールを支持し、磁極片の下の定位置に挿入するのに使用されるのと同じ導管を通して電気接続が与えられた1又は2以上の小型カメラを装着することができる。同様に、例えば、
図8及び10に示すようなX線センサと電子センサを組み合わされた新しい検出器モジュールにも1又は2以上の小型カメラを装着することができる。可視光は、典型的なEverhart-Thornley型SE検出器に使用される感度の高い光電子増倍管(PMT)に損傷を与える可能性があるので、PMTが作動している時に試料を照らすには、赤外線(IR)光源(典型的には波長900nm程度)が必要である。この光源は、モジュール内の小型IR LEDか又は支持アームに装着された大型IR光源によって提供することができる。PMTが作動していないことが既知である時は、試料を照らすために可視光LEDを使用することができる。照明光源は、IRか又は可視光かを問わず、試料の光学画像を得るのに必要な時間だけオンにされることが好ましく、その理由は、光子も、X線及びBSEのためのセンサの作動に支障をきたし、例えば、それらのセンサに過剰なノイズを引き起こす可能性があるからである。
図16は、SEM電子ビーム走査領域に含まれる非常に小さい視野と比較してセンサモジュール内に装着された小型光学カメラで達成される広視野を説明する断面図を示している。
【0095】
最終レンズの磁極片と集束電子ビームが試料面に衝突するプローブスポットとの間の作動距離WDが一定に保たれる場合に、磁極片に対してカメラの位置が固定されている限り、デジタル化カメラ画像内のプローブスポットの位置座標は一定のままである。これらの位置座標は、SEM電子画像と光学画像の両方で容易に認識することができる小さい特徴、粒子、又は基準マークを有する試料から決定することができる。SEM電子画像(典型的にSE画像)の視野の中心にその特徴をもたらし、台の高さを調節して特定のWDで特徴面に集束させる。カメラからデジタル光学画像を取得し、画像内の認識可能な特徴の位置座標を決定する。これらの位置座標が決定された後は、分析中のどの試料に対しても、SEMビームが同じWDで試料面に集束する限り、光学画像を記録することができ、SEM画像の視野の中心にある試料面の位置は、光学画像内の同じ位置座標にあることになる。これらの座標にあるピクセルを光学画像の視覚ディスプレイ内で強調表示すれば(例えば、SEM電子ビーム走査視野のサイズに合わせて調節されたこのピクセルを中心とするクロスヘア又はボックスを使用して)、オペレータは、光学画像が覆う広視野内で分析位置がどこに位置付けられるかを確認することができる。プローブスポットの位置を決定する代替方法は、集束ビームが試料に衝突している間、プローブスポットをカメラで見えるようにすることである。照明光源をオフにしている時に、ZnS、MgO、又は蛍光材料のようなカソードルミネセンス性試料を集束電子ビームの下に置いた場合に、ビームが試料に衝突した点がプローブスポットを中心とした輝点として光学カメラに見えるようになる。同じく、試料によっては、静止した集束電子ビームがカメラで検出することができる程度のIR放射を発生させる場合もある。そのような特殊な試料では、光学カメラの広視野画像内のプローブスポットの座標位置を決定することができる。他の試料に対しても、SEMビームが試料面の同じWDに集束している限り、光学画像が得られる場合に、上述のように光学画像の視覚ディスプレイ内で分析位置を強調表示させ、試料の望ましい領域が分析されていることをオペレータが確認するのを助けることができる。更に、光学画像が空間歪みに対して補正される場合に、光学画像上の基準として機能する1セットの認識可能な特徴がそれぞれ電子ビームの下に来るように台を移動してデジタル台位置座標と補正された光学像のピクセル座標との関係を確立することができる。そのような光学系と台座標系の関係が確立された状態で、オペレータは、新たな光学画像を取り込むことなくデジタル台制御を使用して光学画像上で見えるいずれの該当する点上にも電子ビームを位置決めすることができる。
【0096】
典型的には、試料面は、SEM撮像又は分析に最適なWDにあるように配置される。SEMの側部に装着される付属X線検出器は、典型的には、電子ビーム軸上の空間内で特定のWDにある点を指すように配置されるので、X線分析で正確な結果を得るために、試料面はこのWD(典型的に10mm又はそれ未満)にあるように配置される。試料台を下げて(例えば、台Z制御部を調節して)WDを大きくすることができれば、光学カメラで遥かに広い視野を取り込むことができる。例えば、カメラから試料までの距離が20mmの場合に、画角120°の小型光学カメラは、試料上の幅69mm領域を取り込むことができる。試料を下げて記録された光学画像は、台位置座標と光学画像ピクセル座標との関係を確立する上述の技術を使用して較正することができるので、オペレータは、光学画像内の該当する特徴を選択し、画像内のピクセル座標を使用して、その特徴を電子ビームの直下にもたらすX-Y台位置を決定することができる。その後に、台Z制御を使用して、試料面を上昇させて分析に最適なWDまで戻し、オペレータは、光学画像を参照して台を駆動していずれかの望ましい特徴を分析に最適な位置にもたらすことができる。
【0097】
図16に示すように、2台の光学カメラを使用し、電子ビーム軸に対して対称に配置するが、カメラの向き及び/又はカメラ間の距離を調節して2台のカメラの視野にかなりの重なりがあるようにする場合に、同時に取得した2つの画像を使用して「ステレオペア」を形成することができる。これらの画像をオペレータの左右の目に別々に表示する場合に、オペレータは両眼視に関する立体視によって奥行きの錯覚を体験し、試料の面トポグラフィを3Dで見ることができる。これに代えて、2つのデジタル画像は、同じ特徴に対して各画像のピクセル座標を識別し、視差を使用してカメラからの特徴の相対距離を決定する立体写真測定法アルゴリズム(例えば、D.Samak他,「2次元画像からの微細構造面の3次元再構成と可視化(3D Reconstruction and Visualization of Microstructure Surfaces from 2D Images)」,CIRP Annals,第56巻,第1の号,2007年,p.149-152)で処理することが可能である。試料面の特徴が最初に最終レンズから特定のWDにあるように配置され(例えば、SEMレンズが特定のWDで集束するように設定されている時に、台高さを移動して特徴に電子ビームを集束させることにより)、画像が2台のカメラから得られ、次に立体写真測定法アルゴリズムで処理される場合に、最終レンズの磁極片からの特徴までの距離WDを使用してその結果を較正することができるので、両方の光学画像に見えるあらゆる他の特徴に対して磁極片からの距離を決定することが可能である。この較正の後に、SEMの中に導入された試料の面は、ステレオペアの光学画像を取得し、これらの画像を処理して面が分析に適するWD及び向き(面傾斜)にあることを確認することによって調べることができる。試料が適切な向きにない場合に、台を傾けることで向きを修正することができる。
【0098】
磁極片下方のモジュール内で光学カメラをBSE及び/又はX線センサと組み合わせることにより、試料面の特定材料を含む領域のナビゲーション及び発見を支援するという独特な利益を提供する。
【0099】
付属デバイスの一般的な例は、
図5の105に示すように、電子顕微鏡の側面ポートに装着される従来型のX線検出器である。付属検出器は、低エネルギX線を減衰させることなく通過させながら、検出器に入射する後方散乱電子を阻止する電子トラップを含むように試料から十分に離れている。電子トラップは、典型的には、強い磁場を発生させて検出器に向けて進むあらゆるBSEをそらすための1又は2以上のペアの永久磁石又は円形ハルバッハ磁石アレイと、電子顕微鏡の集束光学系に干渉しないように漂遊磁場を制限するための軟鉄製エンクロージャとで構成される(例えば、US 8、049、182 B2参照)。そのような電子トラップを有する付属検出器は、BSEを遮断するためのフィルタ材料を必要とする磁極片下方のモジュール内のX線センサよりも低エネルギX線に対して遥かに優れた感受性であることになる。磁極片下モジュールが側面ポートから延びる支持アーム上で導入される場合に、一体型電子トラップを有する付属X線検出器も同じ支持アーム上に装着することができる。この配置の利点は、電子顕微鏡ポートが僅か1つで済むこと、及び支持アーム内の導管が磁極片下モジュールと付属X線検出器の両方の電気及び冷却要件を受け入れることである。この配置の一例を
図17に示している。試料プローブスポットへの明確な見通し線を有する追加のデバイスは、図示のようにX線検出器とすることができるが、カソードルミネセンス検出器、レーザ、マイクロマニピュレータ、又はガス注入器のような側部支持アームに装着される程度に小さい他のデバイスとすることも可能である。
【0100】
付属検出器が検出器モジュールに対して固定位置に装着される場合に、確実に全てのセンサが試料上のプローブスポットに対して明確な見通し線を有するようにモジュールを設計することができる。
図18は、
図17による一構成の側面図及び平面図を示し、ここでは、BSEセンサの2回回転対称性を維持するために対称な切り欠きが使用され、この切り欠きは、電子トラップを有する付属X線検出器の明確な見通し線を可能にする。
【0101】
磁極片下モジュールは、異なる元素組成の領域をマップして識別することを求められる場合にスペクトル品質に関して制限を受ける可能性がある。モジュールに関して、後方散乱電子を遮断するために各X線センサの前にあるフィルタ材料料の存在により、低エネルギX線に対する感度が低下することになる。モジュールは、スペクトル分解能を低減して固有スペクトルピークを広げる電子ノイズの追加をもたらす場合がある高温又は他の条件下で作動される場合がある。X線センサからのパルス列を解析するのに使用されるプロセッサは、高い計数速度を受け入れるために光子当たりの処理時間を非常に短くする必要があり、これもスペクトルピークを広げる電子ノイズの増加を引き起こす可能性がある。BSEを遮断するのに使用されるフィルタが薄すぎる場合に、モジュールX線センサからのエネルギスペクトルは、BSEによって増大した背景の寄与を示す可能性がある。スペクトル内に「パイルアップ」又は「偶然」アーチファクトが存在する場合があり、これらは、光子誘起パルスが時間的に近すぎて別々の事象として検出することができないために破損した光子エネルギの測定値に起因するものである。更に、試料外で発生したX線から又はフィルタ材料を透過してX線センサに到達した電子から追加のスペクトルアーチファクトが生じる場合がある。
【0102】
付属X線検出器がモジュールの一方の側に設けられる場合(例えば、
図5の105のように)、入射電子ビームが試料に衝突する点で検出器の有効区域が定める立体角は、磁極片下方に装着されたモジュール内のX線センサ(例えば、
図5の位置106にある)が定める立体角よりも遥かに小さいと見込まれる。その結果、付属X線検出器に入射するX線の計数速度は、モジュールから得られた計数速度よりも遥かに低くなる可能性がある。付属X線検出器は、それ自体が複数のX線センサを含むことができ、高い光子計数速度を受け入れることができない場合がある。しかし、低エネルギX線に対する付属検出器の感度は、それが電子トラップに装着される場合にモジュールよりも遥かに高くなる可能性があり、従って、センサに到達するBSEを阻止するための材料フィルタに対する必要性が回避される。同じく、付属X線検出器は、コリメータを使用して視野を制限し、試料領域外のX線によるアーチファクトを低減することができる。従って、付属検出器から得られるスペクトルは、アーチファクトの影響を受けやすくて低エネルギX線放出に対する感度が低いモジュールから得られるスペクトルよりも、試料の詳細な元素組成に関するより良いインジケータであると考えられる理由が存在する。一部の構成では、モジュールに加えて、試料の視野を有する1よりも多い付属検出器が存在する場合がある。
【0103】
走査型電子顕微鏡では、ビーム偏向を使用して試料面の2Dグリッド上にビームを位置決めし、ビームが各点で静止している間にデータを取得する。これらの点は、試料上の走査領域のデジタル画像でのピクセル位置に対応する。各ピクセルでは、モジュール内のX線センサから、そのピクセルで発生したX線エネルギスペクトルに対応するデータのベクトルが得られる。モジュール内の電子センサから追加の信号が記録される場合もある。同じく、1又は2以上の付属検出器の各々からデータのベクトルが記録される。
【0104】
モジュールから得られるピクセルデータは、各ピクセル位置に「データベクトル」が存在する「ハイパースペクトル画像」を表している。データベクトルは、その点での入射電子ビームによって励起された材料に固有のX線スペクトルを表すX線光子エネルギのヒストグラムとすることができる。このヒストグラムは、通常、2000個のビン又はチャネルを含むことができ、その場合に、各チャネル値は、10eVのエネルギ範囲の光子の計数を表し、従って、20keVの全体エネルギ範囲に及んでいる。この2000個の値から構成される完全なデータベクトルを使用することができるが、連続するエネルギ領域内で計数を合計することにより、より小さいデータベクトルを得ることができる。例えば、100eVにわたる10チャネルの群として計数を集計すると、スペクトルを表すデータベクトルは200個の値に低減され、この場合に、各値は100eVのエネルギ範囲に記録された光子の数を表している。集計されるチャネル数は固定されるのではなく、集計された計数がエネルギによって変化するエネルギ範囲に集計計数が対応するように変えることができる。例えば、各範囲をそのエネルギでの分光計のエネルギ分解能に比例させて、異なる材料からのスペクトル同士を区別するのに十分な情報を含む縮小データベクトルを与えることができる。これに代えて、必ずしも連続でない一連のエネルギ範囲からのデータを合計するだけで、更に小さいデータベクトルを導出することができ、その場合に、例えば、US 7533000に説明される技術を使用して、異なる組成の領域を検出することを助ける情報を得る可能性を最大にするように各エネルギ範囲の制限が選択される。同じくエネルギ範囲は、重要な固有元素輝線に対するエネルギに又は制動放射に支配される信号を蓄積するためにその位置を定めることができる。制動放射放出に支配されるエネルギ領域からのX線光子計数に対応するデータベクトル値は、試料の加重平均原子番号に強く依存することになるが、固有元素輝線をわたるエネルギ範囲からのデータベクトル値は、試料中の元素の質量濃度に強く依存する。典型的には、電子ビーム軸の周りに対称に配置された電子センサからの信号の合計は、材料の加重平均原子番号を表し、純元素では原子番号の単調増加関数である。しかし、一部の化学組成の異なる多元素材料は、類似の加重平均原子番号を有し、類似の後方散乱電子信号を与えるものもあるので、電子信号だけでは必ずしも材料を区別することができない場合がある。しかし、X線データと電子信号測定値の組合せから構成されるデータベクトルは、単にX線データ又は電子信号データだけの場合よりも、化学組成の異なる領域のピクセル間を区別することができる可能性が高い。
【0105】
電子顕微鏡では、後方散乱電子信号及びX線信号の強度は、試料に衝突する電子ビームの電流に直接影響されることになる。データ取得中は、ビーム電流がドリフトする又は変動する可能性がある。X線も、BSEもビーム電流の変化によって同じ程度影響を受けるので、X線スペクトルから得られた値をBSE信号に反比例する係数でスケーリングすることにより、データベクトルは、ビーム電流に依存しないものにすることができる。従って、例えば、あるエネルギ領域からのX線光子計数をXとし、BSE信号をBとすると、スケーリングされたデータベクトル値は、C.X/Bになり、ここでCは適切な定数である。得られた全てのX線計数値をこのようにスケーリングすれば、取得中にビーム電流がドリフトしたとしても、同じ材料がビーム下にある場合に走査領域内のどこからのデータベクトルも類似のものになる。更に、BSE信号は試料材料の平均Zによって変化するので、モジュールのX線センサが低Z元素からのX線を見ないとしても、スケーリングされたデータベクトル値は、低Z元素が材料の平均Zに与える影響に敏感になる。
【0106】
モジュールのX線センサへBSEが入射しないように防ぐためにセンサに材料フィルタを装着すると、低エネルギX線に対する応答が非常に悪くなる。例えば、エネルギが20keVまでのBSEを阻止するフィルタを使用する場合に、1keVよりも下のX線エネルギでは、モジュールによって得られるX線エネルギスペクトルに有用な情報コンテンツはほとんど存在しないことになる。付属X線検出器は、発生したX線のうちのモジュールよりも遥かに少ない割合しか捕集しないが、1keVよりも下のX線エネルギに対しては有用なスペクトル情報が存在することになる。従って、付属X線検出器によって得られる1keVよりも下のエネルギに関するX線スペクトルは、モジュールデータから得られるデータベクトルを補強するのに使用することができる。低エネルギX線のための付属検出器から得られたこの追加情報を含むデータベクトルは、例えば、ホウ素、炭素、窒素、酸素、及びフッ素のような低原子番号元素を含有する材料をより良く識別することができる。
【0107】
電子ビームを試料の領域にわたって走査すると、試料上の視野は、座標xi,yi(i=1,n)で表されるn個の位置のグリッドによって覆われると考えることができ、ここで、iは、デジタル画像でのピクセル番号である。ハイパースペクトルのデータアレイMは、視野のデジタル画像に対応する1からnまでのピクセル番号iに対するn個のデータベクトルmiから構成される。各データベクトルmiは、ビームが試料上のi番目のピクセル位置に位置決めされている間に得られたデータを含んでLm個の値を備え、ここで、値は、典型的にモジュールに由来するX線スペクトルから得られる成分強度を表すが、上述のように、一部の値は、付属X線検出器からのX線スペクトルから得ることができ、値の1つは、後方散乱電子信号測定値とすることができる。好ましくは、ベクトル内のLm値の各々に対して、測定の不確かさが推定される。ピクセル番号iのベクトルmiのk番目の値をmik、それに関連付けられた測定の不確かさをσikと名付けた場合に、pとqが試料上の2つの異なる位置に対するピクセル番号であれば、これら2つの位置にあるベクトル間の差を示すメトリックを導出することができる。このメトリックは、例えば、統計学的重み付けを使用する標準化ユークリッド距離メトリックとすることができる:
Dpq=Σ[(mpk-mqk)2/(σpk
2+σqk
2)] (1)
ここで、和は、1からLmまでkの全ての値にわたる。Dpqの小さい値は、試料のピクセル位置pとqにある材料の組成が類似していることを表している。式(1)のメトリックは、ベクトル内のLm値に対して対角共分散行列が存在する場合(別々のエネルギバンドから蓄積されたX線計数の場合と同様)に適しており、マハラノビス距離の特殊例である。このメトリックに測定の不確かさを含めることは、例えば、それらがあるエネルギ範囲で合計したX線計数の全体数が多いことを表すので、より精度の高いベクトル値をより大きく強調する。
【0108】
グループ分けアルゴリズム(例えば、Statham他,Microscopy and Microanalysis,第1の9巻(追補2),2013年,p.752)を使用して、類似したデータベクトルを有するピクセルを集めて群にすることにより、各ピクセルでのビーム下の材料が同じである領域を識別することができる。このアルゴリズムは、類似したデータベクトルを有するピクセルの群を識別してそれらを「相」に割り当て、従って、画像フィールドを分割して異なる材料組成を有する「相」に対応した領域に分ける。相のメンバ性は、例えば、データベクトルに対して相の全要素に対する平均ベクトルからのマハラノビス距離が閾値未満であることを必要とする場合がある。X線データに対するS/Nは、エネルギスペクトルに記録されるポアソン統計を支配する計数に依存し、モジュールからのスペクトルに記録される計数は、モジュール内のセンサが試料の近くにあるので試料での立体角が小さい付属検出器からのスペクトルよりも遥かに高い可能性がある。従って、モジュールデータの信号対ノイズ(S/N)は、いずれの付属X線検出器から捕集されたデータのS/Nよりも遥かに良好であると見込まれ、高いS/Nにより、互いに組成が近い材料からのデータベクトルクラウドの重複を低減する機能が改善する。しかし、高いS/Nを有するモジュールデータは、視野を分割して異なる材料に対応するピクセルに分けるのに非常に有用であるとはいえ、部分磁極片モジュールからのX線データのスペクトル品質は、異なる材料に存在する正確な化学元素を識別するのに十分ではない可能性がある。上述のように、スペクトルは、材料に存在しない元素と間違われるアーチファクトを含む場合があり、低エネルギの固有X線は、フィルタでの吸収により欠落している場合があり、スペクトル分解能は、一部の重なる固有スペクトルのピークを分解判別するのに十分ではない場合があり、フィルタを透過したBSEは、スペクトル背景に追加される場合がある。それにも関わらず、モジュールからのデータベクトルは、同じ材料のピクセルの「指紋」として機能することになるので、化学組成の類似した空間領域は、モジュールからのデータを使用することによって他の領域から表現することができる。
【0109】
類似したデータベクトルを有するピクセルをグループ分けすることにより、化学組成の類似した領域(又は「相」)が全て表現されている場合に、付属検出器から得られたX線スペクトルベクトルを相内の全てのピクセルに対して合計することが好ましい。一部のピクセル、例えば、境界に隣接するピクセルは、真の材料組成をそれほど表していない可能性があるので除外する必要がある場合がある。これは、X線放出の領域が例えば単一ピクセルの寸法を超えて延びている場合に生じる可能性がある。従って、同じ材料上のピクセル位置から得られた多くのスペクトルの集計により、その「相」に対して付属X線検出器によって得られたスペクトルのS/Nが改善される。付属検出器は低エネルギX線に対する感度が高く、スペクトルアーチファクトを除去するために最適化されているので、従来のスペクトル処理技術を集計スペクトルに適用してスペクトルに特徴的な放射ピークに寄与する元素を識別し、それらのピークの強度を決定することができる。従って、1又は2以上の付属検出器からのデータを使用して、部分磁極片モジュールのデータだけから得られるものよりも正確な相の元素組成の推定値を提供することができる。組成の異なる領域を識別する部分磁極片モジュールの高S/Nデータと、1又は2以上の付属検出器からのより正確な元素組成データとを組み合わせることにより、試料上の走査視野全体に対して正確な元素含有量を決定することができる。
【0110】
X線スペクトル放射が類似している領域に視野を分割する原理は、必ずしも磁極片の下方に位置決めされないか又は必ずしも電子センサを含まない他のタイプのモジュールにも利用することができる。重要な要件は、モジュール内の1又は2以上のX線センサが、より優れた分光性能を有する付属X線検出器が範囲を定める全体立体角よりも遥かに大きい試料上のプローブスポットでの全体立体角の範囲を定めることである。磁場を使用して電子を偏向させてX線センサに到達しないようにする電子トラップを試料とX線センサの間に挿入する必要があり、これは、X線センサをかなり試料に近づけてX線信号の捕集のための高立体角を達成することを妨げる。電子トラップの利点は、低エネルギX線がセンサに到達することを妨げないことである。しかし、センサ面の前にフィルタ材料を使用して電子を遮断すれば、センサは、試料の近くに位置決めした時でも依然として実質的に作動させることができる。従って、電子を遮断する材料フィルタを有するX線センサを組み込むモジュールは、電子トラップを有する検出器よりも遥かに高い立体角を達成することができる。そのような検出器モジュールは、例えば、
図1及び
図17のように磁極片の下方に位置決めすることができるが、代わりに電子トラップを装着した検出器の前に装着することも可能である。
図19は、2つのX線センサを有するモジュールを電子トラップ付き検出器の端部上に装着した一例を示している。2つのX線センサは、BSEを遮断して電子トラップの背後にある検出器よりも高い捕集立体角を達成するように材料フィルタによって覆われることになる。更に高い捕集立体角を達成するために、試料に最も近いトラップの端部上に材料フィルタを装着したセンサを更に装着することができる。更に、材料フィルタを有する1又は2以上のセンサは、電子トラップの入口開口の下方又は入口開口の両側に装着することができる。このモジュールから利益を得るために、データの統計的精度は付属検出器の場合よりも有意に優れている必要がある。従って、モジュールセンサがプローブスポットによって定める全体捕集立体角は、付属検出器の場合の少なくとも3倍、好ましくは5倍超、理想的には10倍超である必要がある。
【0111】
上述のように、試料に近い材料BSEフィルタ付きセンサから得られるX線スペクトルは、迷光放射及びアーチファクトの影響を受けやすく、材料BSEフィルタに強く吸収される低エネルギX線光子に対して固有X線放出ピークを示さないことになる。しかし、そのようなX線スペクトルは、制動放射と高エネルギ固有放射の相対強度とに対する組成の影響により、試料上のプローブスポット下の材料組成に応じて変化することに変わりはない。更に、そのようなX線スペクトルは、電子トラップを装着した付属検出器からの典型的なスペクトルの場合よりも計数が多く、統計的ノイズが低くなる。従って、BSEフィルタによって覆われた1又は2以上のセンサから試料に関するピクセル位置のアレイで捕集されたX線スペクトルデータによって形成されたハイパースペクトル画像は、視野を類似組成の領域に分割するのに使用することができ、その場合に、データベクトル内の各値は、特定範囲のX線エネルギに対して記録された計数である。類似したデータベクトル(類似した組成の材料から生じる)を有するピクセルのセットに対して、電子トラップを有する付属X線検出器から同時に記録されたスペクトルを合計して計数の統計が改善したスペクトルを与えることができ、これを解析してそれらのピクセルに対応する材料の元素組成を決定することができる。実際は、モジュールデータを使用して付属検出器から得られたX線元素マップ又は画像のS/Nが改善され、この改善を達成するための代替方法が存在する。
【0112】
図20の流れ図は、モジュール及び付属検出器からデータを取得して組み合わせ、視野にわたって材料組成がどのように変化するのかを示す画像を達成するための一手順を要約したものである。破線枠内の段階は、データ取得の処理を説明している。電子ビームを試料の領域にわたって走査すると、試料上の視野は、座標x
i,y
i(i=1,n)で表されるn個の位置のグリッドによって覆われると考えることができ、ここで、iはデジタル画像でのピクセル番号である。ハイパースペクトルのデータアレイMは、視野のデジタル画像に対応する1からnまでのピクセル番号iに対するn個のデータベクトルm
iから構成される。各データベクトルm
iは、ビームが試料上のi番目のピクセル位置に位置決めされている間に得られたデータを含み、かつL
m個の値で構成され、ここで、値は、典型的にモジュールに由来するX線スペクトルから得られる成分強度を表すが、上述のように、一部の値は、付属X線検出器からのX線スペクトルから得ることができ、値の1つは、後方散乱電子信号測定値とすることができる。同様に、ハイパースペクトルのデータアレイAは、n個のデータベクトルa
i(i=1,n)を備え、各データベクトルa
iは、ビームが試料上のi番目のピクセル位置に位置決めされた時に付属検出器から得られたX線スペクトルに対するエネルギバンド又はチャネルの強度をその各値が表すL
a個の値から構成される(付属X線検出器は、典型的には、モジュールから得られるものよりも遥かに少ない計数ではあるが、より良いスペクトル忠実度でスペクトルを得ることになるので、統計的精度が遥かに悪いとしても化学元素含有率の推定値がより正確になる)。1よりも多い付属検出器を利用することができる場合に、全付属検出器からのX線スペクトルデータは組み合わせることができる。
【0113】
処理アルゴリズムを使用してピクセルのk個の群が識別され、群gp(p=1,k)は、データベクトルmjが何らかの類似度基準に適合する全てのピクセルを含む。例えば、n次元空間のデータベクトルmjは、群内の全ベクトルの重心から予め決められたマハラノビス距離内にある場合及び/又はその重心がn次元空間内で最も近い重心である場合に群の要素とすることができるが、画像を類似ピクセルの群に分割するのに利用することができる様々なアルゴリズムが多く存在する(例えば、Wikipediaの記載事項https://en.wikipedia.org/wiki/Cluster_analysisを参照されたい)。ピクセルの群は、走査によって含まれる試料上の領域全体の部分領域を備え、グループ分け手法は、領域を分割して必ずしも空間的に連続でない部分領域に分ける。モジュールデータMを使用して識別された類似ピクセルの群は、材料含有量がその群の平均とは全く異なる位置にある「不良」ピクセルを含む場合がある。そのような「不良」データは、例えば、2つの材料の境界に位置するピクセルに現れる場合があり、観測された信号は2つの異なる材料からの放射の混合物であり、モジュールからの測定信号ベクトルは、偶然にもこれらの「不良」ピクセルを群の一部と見なしてしまう原因になる可能性がある。この問題に対する任意的な手法は、ピクセルデータを考慮する前に各ピクセルの近くの信号の変動を見ることによって又は類似領域をグループ分けによって識別し、境界を識別することができた後に後処理段階として異種材料間の境界に又はその近くにあるピクセルからのデータを除外することである。
【0114】
図20の方法では、群g
p内のピクセルjに対してデータベクトルa
jを集計して群を表すスペクトルa
pを形成する。「グループ分け」手順でピクセルを適切な群に正しく割り当てられなかったために「不良」ピクセルが群に含まれた場合に、a
pは偏り、真に代表しない可能性がある。この偏りを低減するために、任意的な段階は、群g
p内の各データベクトルa
jがデータベクトルの群全体の平均値又は中央値ベクトルからの変動の予想範囲にあるか否かを調べるために群内の全てのピクセルを試験する段階を伴う場合がある。群の外れ値と思われるいずれのピクセルも、群の全体和又は集計スペクトルを計算する前に群から除外される。外れ値に関する試験は、グループ分けに使用される類似距離尺度による閾値試験、又はX線スペクトルのポアソン計数統計に基づく統計的試験を伴う場合がある。除外されたピクセルは、観察者に誤った情報を与えないように最終的な表示から省かれる場合がある。これに代えて、最初に群g
p全体の平均データベクトル
を計算し、次にa
jが
から大きく異なる場合にa
jの重み付けを強く低減する新しい加重平均を再計算することにより、「不良」ピクセルデータの影響を低減することができる。例えば、a
jの適切な重み付けは、
に比例し、和は、1からL
aまでのkにわたり、σ
jk
2は、スペクトルベクトルa
jのk番目成分に対する分散期待値である。重み付けの異なる方法は、同じ原理を使用するが、Mからのデータベクトルを使用で、ajの重み付けが
に比例し、ここで、和は、1からL
mまでのrにわたり、σ
jr
2は、データベクトルm
jのr番目成分に対する分散期待値であり、
は、群gpの平均データベクトルである。グループ分けアルゴリズムが群内に「不良」ピクセルを組み込んでいる場合に、この重み付けは、統計的変動だけでは説明することができない外れ値にペナルティを与え、群のより適切な平均スペクトルを与えることになる。
【0115】
スペクトルapを処理してアーチファクト、制動放射背景、及びピーク重複を補正することができるので、特定の元素qに特徴的なピークに対する面積を決定することが可能である(例えば、Statham,Journal of Research of the National Institute of Standards and Technology,第1の07巻,p.531-546(2002年)に説明される技術を使用する)。更に、全元素のピーク面積が決定された状態で、電子プローブマイクロ分析の公知の手順(例えば、Goldstein他著「走査型電子顕微鏡法とX線マイクロ分析(Scanning Electron Microscopy and X-ray Microanalysis)」ISBN:0-306-47292-9に説明されている方法)を使用して構成元素の質量分率の観点で材料組成を決定することができる。従って、その元素の固有X線放出の強度又はその元素の質量分率のいずれかに対応する元素qに関連し、群gp内の全てのピクセルを表す強度値Iqを決定することができ、この強度値は、次に、元素qに関する出力画像Eq内の群gpのピクセル位置に、好ましくはどのピクセル位置にもコピーされる。
【0116】
「不良」ピクセルを取り扱う任意的な段階は、使用されていなかった又は完全でなかった場合があり、入力データと矛盾する画像ピクセルを残す可能性があると考えられる。誤解を招くような情報を表示するよりも、むしろ表示前にそのようなピクセルを除外することが好ましい場合がある。例えば、モジュールによって感知され、データMに現れる高エネルギX線放出を有する元素qに対して、各ピクセルjのデータベクトルmjを処理してピクセルjでの元素qのX線放出強度を抽出することにより、Mから直接的に元素マップを構成することができる。この強度は有意でないと見なされるが(例えば、強度が偶然誤差又は系統誤差と考えられる範囲であるために)出力画像Eqが同じピクセルjで大きい寄与を示す場合に、この矛盾したピクセルは、Eq内で強度を0に設定することで除外することができる。同様な整合性検査は、付属データAを使っても適用することができるが、低エネルギX線放出を有する元素を除いて偶然統計誤差がMの場合よりも遥かに大きくなるのであまり有効ではない。ピクセルjの近くにあるデータベクトルの集計により、Aの統計誤差を低減することができる。この「データ平滑化」又は「局所平均化」処理は、データを空間的にぼかすことになるので、空間分解能と統計的ノイズの間にトレードオフが存在し、これは、集計にどのくらい大きい近傍が使用されるかに依存する。
【0117】
出力全体はc個のデジタル画像Eq(q=1,c)のセットであり、各画像が該当する化学元素qに対応してn個のピクセルを備え、画像Eqでのピクセルiの強度値が元素qのX線放出強度又は材料濃度(例えば、質量分率)のいずれかに対応する。特定群内のピクセル、好ましくは全てのピクセルに相を表す特定色を割り当てた追加の画像を生成することができ、このカラー画像を重ね合わせとして白黒電子画像と組み合わせ、異なる化学組成の領域を異なる色で強調することが可能である。同様に、デジタル画像Eq(q=1,c)は、例えば、PCT/GB2011/051060又はUS5357110に説明されているような技術を使用して電子画像との重ね合わせに適する色を割り当てることができる。
【0118】
図21では、代替手順を説明する。データ取得及びグループ分けの段階は、
図20と同じである。類似ピクセルの群に対する単一集計スペクトルを得る代わりに、非局所的手段(NLM)平均化の原理は、群gp内の個々のピクセルスペクトルを全てノイズ除去することである(例えば、Manjon他,「非局所的手段を使用するマルチスペクトルMRIノイズ除去(Multispectral MRI de-noising using non-local means)」,Proc.MIUA’07,p.41-45,Aberystwyth,Wales,2007年を参照されたい)。この平均化は、スペクトル間の差に基づく類似度関数に従ってスペクトルを重み付けする段階を伴い、グループ分けアルゴリズムによって得られた同じ群内のピクセルにのみ適用される。例えば、群g
p内のスペクトルa
jの新しい「ノイズ除去済み」バージョンa
j’を見出すために、群内のa
iのような他の全スペクトルを含む加重平均が、exp(-Σ[(a
jk-a
ik)
2/(2(σ
jk
2+σ
ik
2))])に比例した重み係数を使用して取られ、ここで、合計は、1からL
aまでのkにわたり、σ
jk
2は、スペクトルベクトルのa
jのk番目成分に対する分散期待値である。ノイズ除去のための代替重み付けスキームは、重みがexp(-Σ[(m
jr-m
ir)
2/2(σ
jr
2+σ
ir
2))])に比例するように主としてモジュールデータに基づくデータベクトルを使用することであり、ここで、合計は、1からL
mまでのrにわたり、σ
jr
2は、データベクトルm
jのr番目成分の分散期待値である。
図18の手順と同様に、グループ分け処理の結果、誤って群に含まれた「不良」ピクセルによる外れ値データの影響を低減するために追加の段階を追加することができる。
【0119】
以下は、本発明で達成される結果の例を示している。モジュールは、厚み6ミクロンのマイラーから構成されるフィルタでそれぞれ覆われたX線センサが装着されている。センサは、試料での全体立体角0.438ステラジアンを定める。電子トラップを装着した付属X線検出器は、電子カラムの側部上のポート上に装着され、試料での0.044ステラジアンの立体角を定める。20keVの集束電子ビームを試料に対して約200ミクロン幅のほぼ正方形領域にわたってラスタ走査し、各ピクセル位置でモジュールセンサと付属検出器の両方から得られたスペクトルを記録して対応する256x256分解能のハイパースペクトル画像データセットを構築する。モジュールセンサが受光する平均光子計数速度は1250kcpsであるが、付属検出器のそれは、立体角が小さいために125kcpsに過ぎない。
【0120】
データは、ビームが256x256のピクセル位置を全て覆う状態で、全体で2秒で得られる。各スペクトルは、事実上、幅20eVの1024個のエネルギビンを有するエネルギヒストグラムである。視野内のどのピクセルに対しても各ビンの計数を合計することで「合計スペクトル」が形成され、
図22は、モジュールデータの合計スペクトルと付属検出器データの合計スペクトルとを比較して示している。モジュールデータは付属データの約10倍の計数を有するが、エネルギ1keV未満ではほとんど計数がないのに対して付属データは、電子トラップがあり、BSEを阻止する材料フィルタを必要としないので、エネルギ0.5keV付近に酸素(OKα)に対応する有意な固有ピークを有する。
【0121】
従来のX線マッピングでは、各当該元素に対して、スペクトル内の主な固有放射ピークにわたるエネルギ範囲に入る全てのチャネルの計数が合計される。ピクセル位置にある元素に関する全体計数が表示ピクセルの強度を決定する。
図23は、合計スペクトルにピークを与える一連の元素に関してモジュールのハイパースペクトルデータセットから得られた従来のX線マップを示している。マップの強度は、低計数レベルマップの詳細が依然として見えるように輝度調節されている。モジュールセンサはそのような低エネルギX線に反応せず、マップには実質的に計数がないと予期されるにも関わらず、酸素マップ(OKα1)には酸素含有量の高い領域が存在するように見える。観察されるこの強度は、「シリコンエスケープ効果」と呼ばれるアーチファクトによるものであり、この場合に、シリコンベースのセンサに吸収された光子の小さいパーセントは、SiKα光子がセンサから逃れてしまうので光子エネルギ全てを電荷に変換する訳ではない。すなわち、マイラーフィルタを容易に通過する2.31keVの硫黄SKα放射の小さい分率が、0.57keVにスペクトルのアーチファクトとして現れ、その結果、OKα1強度のマッピングに使用されるエネルギ範囲に入る。結果として典型的に空白になるOKα1マップは、SKα1を放出する材料と同じ分布に従うアーチファクトを示し、従って、SKα1マップのように見える。
図24は、付属検出器のハイパースペクトルデータセットから導出された対応する元素分布マップを示している。ほとんどの元素マップは、
図23よりも計数が遥かに少なく、高レベルの統計的(ポアソン)ノイズを有するので、S/Nが悪くなっている。例外はOKα1マップであり、まだノイズが多いが、酸素を含有する材料の真の分布を表している。
【0122】
モジュールからのX線マップデータは、グループ分けアルゴリズム(Statham他,Microscopy and Microanalysis,第1の9巻(追補2),2013年,p.752)への入力として使用され、それにより、データベクトル、この場合はモジュールからのX線スペクトルのうちの類似した群が見出される。このアルゴリズムは6個の異なる群を見出し、それらの各群内のピクセルは、
図25に「相」分布として示している。「割り当てなし(Unassign.)」という名称の画像は、アルゴリズムによって識別され、どの群にも割り当てられない境界ピクセルを示している。
【0123】
各「相」に対して、好ましくは相内の全てのピクセル位置に対して、付属検出器のハイパースペクトルデータセットからのX線スペクトルを合計して相を表す単一スペクトルを生成する。一部のピクセル、例えば、境界に隣接するピクセルは、真の材料組成をそれほど表していない可能性があるので除外する必要がある場合がある。これは、X線放出の領域が例えば単一ピクセルの寸法を超えて延びる場合に生じる可能性がある。単一スペクトルを処理してアーチファクト、背景、ピーク重複を補正し、固有X線放出の強度を決定するようにし、次に、これらの強度をアルゴリズムへの入力として使用して電子散乱、X線発生、試料内のX線吸収、及びX線検出の効率のような様々な影響を補正し、そのスペクトルの原因となった材料内の各元素の質量分率を推定するようにする。「相」の化学的含有量が定量化された状態で、その「相」内にある元素の質量分率は、その元素の出力分布画像内のその「相」に対するピクセル位置に使用する強度値を制御するのに使用される。
【0124】
図26は、この手順で生成された最終的な元素分布画像を示している。これらの画像のS/Nは、
図24に示す元の付属検出器マップのものよりも遥かに高い。組成の異なる領域の表現は、付属検出器データだけを使用して実施可能なものよりも遥かに鮮明であり、モジュールから得られたデータにある統計的ノイズの減少を反映する。
図27は、
図25の個々の相分布を組み合わせることによって得られた異なる材料の分布を表す「相」マップを示している。個々の色は、典型的には、試料の同じ領域から得られた対応する電子画像の上に重ね合わせて表示するために各相に割り当てられる。
【0125】
本発明は、以下の番号付き条項を参照することによって更に理解することができる。
【0126】
条項1.試料を分析するための装置であって、
集束電子ビームを発生させるための電子ビームアセンブリと、
X線センサ要素を含む光子検出のための第1の検出器であって、電子ビームが試料に衝突する点でそのX線センサ要素が第1の全体立体角を定める上記第1の検出器と、
X線センサ要素を含む光子検出のための第2の検出器であって、電子ビームが試料に衝突する点でそのX線センサ要素が第2の全体立体角を定める上記第2の検出器と、
を備え、
両方の検出器が、電子ビームと試料の間の相互作用によって発生したX線を受け入れ、X線センサ要素を使用して個々の光子を検出し、それらのエネルギを測定することができ、
第1の全体立体角が、第2の全体立体角の少なくとも3倍であり、
試料の領域にわたって電子ビームを走査する時に第1及び第2の検出器からのスペクトルデータが記録され、
第1の検出器からのスペクトルデータ及び任意的に第2の検出器からのデータを使用して、記録された信号が所与の副領域内の点に関して類似である副領域を識別し、
副領域内のいくつかの位置、好ましくは全ての位置に関して第2の検出器からのスペクトルデータを結合してその副領域内の材料を表す単一スペクトルを生成し、
副領域の表現するスペクトルを処理して1又は2以上の固有元素X線放出の強度値及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定し、
副領域の代表スペクトルから導出された元素の強度値又は濃度値を副領域内の点、好ましくはどの画像点にも割り当てることによって1又は2以上の元素に対して画像データを集合させ、
識別された副領域に関して元素に対して集められた画像データを使用して試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供する、
装置。
【0127】
条項2.識別された副領域内の点に関するデータが、点データが副領域内の点に関するデータの予想変動範囲外である副領域からの点を除外するために、第2のX線検出器からのスペクトルデータが結合される前に検査される条項1に記載の装置。
【0128】
条項3.スペクトルの重みがそのスペクトルと副領域全体の平均スペクトルとの差の尺度に依存するスペクトルの重み付き組合せを使用することにより、識別された副領域内の点に関する第2のX線検出器からのスペクトルデータを集計して副領域に対する単一スペクトルを生成する条項1又は条項2に記載の装置。
【0129】
条項4.集束電子ビームを発生させるための電子ビームアセンブリと、
X線センサ要素を含む光子検出のための第1の検出器であって、電子ビームが試料に衝突する点でそのX線センサ要素が第1の全体立体角を定める条項第1の検出器と、
X線センサ要素を含む光子検出のための第2の検出器であって、電子ビームが試料に衝突する点でそのX線センサ要素が第2の全体立体角を定める条項第2の検出器と、
を備える装置を使用して試料を分析する方法であって、
両方の検出器が、電子ビームと試料の間の相互作用によって発生したX線を受け入れ、X線センサ要素を使用して個々の光子を検出し、それらのエネルギを測定することができ、
第1の全体立体角が第2の全体立体角の少なくとも3倍であり、
試料の領域にわたって電子ビームを走査する時に第1及び第2の検出器からのスペクトルデータが記録され、
第1の検出器からのスペクトルデータ及び任意的に第2の検出器からのデータを使用して、記録された信号が所与の副領域内の点に関して類似である副領域を識別し、
副領域内のいくつかの位置、好ましくは全ての位置に関して第2の検出器からのスペクトルデータを結合してその副領域内の材料を表す単一スペクトルを生成し、
副領域の表現するスペクトルを処理して1又は2以上の固有元素X線放出の強度値及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定し、
副領域の代表スペクトルから導出された元素の強度値又は濃度値を副領域内の点、好ましくはどの画像点にも割り当てることによって1又は2以上の元素に対して画像データを集合させ、
識別された副領域に関して元素に対して集められた画像データを使用して試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供する、
ことを備える方法。
【0130】
条項5.識別された副領域内の点に関するデータが、点データが副領域内の点に関するデータの予想変動範囲外である副領域からの点を除外するために、第2のX線検出器からのスペクトルデータが結合される前に検査される条項4に記載の方法。
【0131】
条項6.スペクトルの重みがそのスペクトルと副領域全体の平均スペクトルとの差の尺度に依存するスペクトルの重み付き組合せを使用することにより、識別された副領域内の点に関する第2のX線検出器からのスペクトルデータを集計して副領域に対する単一スペクトルを生成する条項4又は条項5に記載の方法。
【0132】
条項7.試料を分析するための装置であって、
集束電子ビームを発生させるための電子ビームアセンブリと、
X線センサ要素を含む光子検出のための第1の検出器であって、電子ビームが試料に衝突する点でそのX線センサ要素が第1の全体立体角の範囲を定める上記第1の検出器と、
X線センサ要素を含む光子検出のための第2の検出器であって、電子ビームが試料に衝突する点でそのX線センサ要素が第2の全体立体角の範囲を定める上記第2の検出器と、
を備え、
両方の検出器が、電子ビームと試料の間の相互作用によって発生したX線を受け入れ、X線センサ要素を使用して個々の光子を検出し、それらのエネルギを測定することができ、
第1の全体立体角が第2の全体立体角の少なくとも3倍であり、
試料の領域にわたって電子ビームを走査する時に第1及び第2の検出器からのスペクトルデータが記録され、
第1の検出器からのスペクトルデータ及び任意的に第2の検出器からのデータを使用して、記録された信号が所与の副領域内の点に関して類似である副領域を識別し、
副領域、好ましくはどの副領域に対しても、副領域内の各点に関する第2のX線検出器からのスペクトルデータを副領域内の他の点、好ましくは他の全ての点からのデータと加重平均することによって結合してその点でのスペクトルのノイズ除去済みバージョンを生成し、
各点に関するノイズ除去済みスペクトルを処理して1又は2以上の固有元素X線放出の強度値、及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定し、
ノイズ除去済みスペクトルから導出された元素の強度値又は濃度値を画像点、好ましくはどの画像点にも割り当てることによって1又は2以上の元素に対して画像データを集合させ、
元素に対して集められた画像データを使用して試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供する、
装置。
【0133】
条項8.ある点でのノイズ除去済みスペクトルに対する加重平均が、その点に関する第2のX線検出器からのスペクトルデータ又は第1のX線検出器からのスペクトルデータと、副領域内の他の各点に関する対応する第2の検出器又は第1の検出器のスペクトルデータとの差の尺度に依存する副領域内の他の各点に対する重み係数を使用する条項7に記載の装置。
【0134】
条項9.識別された副領域内の点に関するデータが、点データが副領域内の点に関する予想変動範囲外である副領域からの点を除外するために検査される条項7又は条項8に記載の装置。
【0135】
条項10.集束電子ビームを発生させるための電子ビームアセンブリと、
X線センサ要素を含む光子検出のための第1の検出器であって、電子ビームが試料に衝突する点でそのX線センサ要素が第1の全体立体角の範囲を定める上記第1の検出器と、
X線センサ要素を含む光子検出のための第2の検出器であって、電子ビームが試料に衝突する点でそのX線センサ要素が第2の全体立体角の範囲を定める上記第2の検出器と、
を含む装置を使用して試料を分析する方法であって、
両方の検出器が、電子ビームと試料の間の相互作用によって発生したX線を受け入れ、X線センサ要素を使用して個々の光子を検出し、それらのエネルギを測定することができ、
第1の全体立体角が第2の全体立体角の少なくとも3倍であり、
試料の領域にわたって電子ビームを走査する時に第1及び第2の検出器からのスペクトルデータが記録され、
第1の検出器からのスペクトルデータ及び任意的に第2の検出器からのデータを使用して、記録された信号が所与の副領域内の点に関して類似である副領域を識別し、
副領域、好ましくはどの副領域に対しても副領域内の各点に関する第2のX線検出器からのスペクトルデータを副領域内の他の点、好ましくは他の全ての点からのデータと加重平均することによって結合してその点でのスペクトルのノイズ除去済みバージョンを生成し、
各点に関するノイズ除去済みスペクトルを処理して1又は2以上の固有元素X線放出の強度値、及び任意的にそれらの放出を担う対応する元素の濃度を決定し、
ノイズ除去済みスペクトルから導出された元素の強度値又は濃度値を画像点、好ましくはどの画像点にも割り当てることによって1又は2以上の元素に対して画像データを集合させ、
元素に対して集められた画像データを使用して試料の領域にわたる元素分布の視覚表現を提供する、
ことを備える方法。
【0136】
条項11.ある点でのノイズ除去済みスペクトルに対する加重平均が、その点に関する第2のX線検出器からのスペクトルデータ又は第1のX線検出器からのスペクトルデータと、副領域内の他の各点に関する対応する第2の検出器又は第1の検出器のスペクトルデータとの差の尺度に依存する副領域内の他の各点に対する重み係数を使用する条項10に記載の方法。
【0137】
条項12.識別された副領域内の点に関するデータが、点データが副領域内の点に関する予想変動範囲外である副領域からの点を除外するために検査される条項10又は条項11に記載の方法。
【0138】
条項13.走査型電子顕微鏡内で試料を分析するための装置であって、
後方散乱電子を検出するための検出器モジュール、
を備え、
検出器モジュールが、電子ビームが試料に衝突する前に通過する電子ビームアセンブリの最終レンズのための磁極片の直下に位置決めされ、
光学モジュールに嵌め込まれ、カメラが、カメラ-試料間距離が10mm未満の場合に幅が少なくとも10mmの試料の視野を有し、任意的にカメラの被写界深度が、カメラ-試料間距離を増大することによって視野の幅を少なくとも20mm又は好ましくは60mm超まで大きくすることができるほど十分である、装置。
【0139】
条項14.2つの光学カメラが、モジュールに嵌め込まれ、試料に関するカメラ視野が重なり、任意的に、2つの画像を使用して試料の立体表示を提供することができ、及び/又はカメラからのデータを使用して試料面のトポグラフィマップを計算することができる条項13に記載の装置。
【符号の説明】
【0140】
BSE 後方散乱電子
SDD シリコンドリフト検出器
【国際調査報告】