(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】電圧及び周波数制御が改善された仮想同期機
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230725BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20230725BHJP
H02P 103/20 20150101ALN20230725BHJP
H02P 101/00 20150101ALN20230725BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 R
H02P9/04
H02P103:20
H02P101:00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501072
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 IB2021056069
(87)【国際公開番号】W WO2022009101
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506054914
【氏名又は名称】ラマト アット テル アビブ ユニバーシティ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100121979
【氏名又は名称】岩崎 吉信
(72)【発明者】
【氏名】ウェイス ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】クスタノヴィッチ ゼーブ
(72)【発明者】
【氏名】シャニ ベンジャミン
【テーマコード(参考)】
5H590
5H770
【Fターム(参考)】
5H590CC01
5H590CD03
5H590CE01
5H590EB15
5H590FA05
5H590FB02
5H590GA07
5H590HA02
5H590HA04
5H590HA09
5H770BA11
5H770CA05
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA30
5H770HA02Y
5H770HA03Y
(57)【要約】
電気装置(20)は、DC入力電力を受け取るための入力端子と、ACパワーグリッドに結合するための出力端子とを有するインバータ(24)を含む。パルス幅変調(PWM)発生器及びドライバ(26)は、インバータの出力電流波形のそれぞれの振幅、周波数、及び位相を制御するようにスイッチを駆動する。制御回路(28)は、入力端子及び出力端子上のそれぞれの時間的に変化する電圧及び電流の測定値を受け取り、装置によってエミュレートされた同期機械に流れる3つの仮想電流を含むモデル(40)を計算し、3つの仮想電流はそれぞれ3つの出力電流波形に関連付けられ、インバータの3つの出力電流波形の振幅、周波数及び位相をACパワーグリッドの3相に同期させるように、3つの仮想電流に応答してPWM生成器及びドライバを制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気装置であって、
DC入力電力を受け取るための入力端子と、3相を有するACパワーグリッドに結合するための出力端子とを有し、前記出力端子において3つの出力電流波形を生成することによって、前記DC入力電力を3相AC出力電力に変換するように構成されたスイッチのアレイ及びフィルタリング回路を含むインバータと、
パルス幅変調(PWM)発生器及びドライバであって、前記出力電流波形のそれぞれの振幅、周波数、及び位相を制御するように前記スイッチを駆動するように結合された、パルス幅変調発生器及びドライバと、
前記入力端子及び前記出力端子上のそれぞれの時間的に変化する電圧及び電流の測定値を受け取り、前記測定値に応答して、前記装置によってエミュレートされた同期機械に流れる前記3つの出力電流波形にそれぞれ関連する3つの仮想電流を含むモデルを計算し、前記インバータの前記3つの出力電流波形の振幅、周波数、位相を前記ACパワーグリッドの3相に同期させるように、前記3つの仮想電流に応答して前記PWM発生器及びドライバを制御するように結合された制御回路と、
を備える、電気装置。
【請求項2】
前記モデルは、前記PWM発生器及びドライバを制御するための3つの制御電圧を生成する電流制御ループを備え、前記制御回路は、前記仮想電流に応答して、前記電流制御ループに入力するための基準電流を計算するように構成される、請求項1に記載の電気装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記制御装置の動作開始時に前記基準電流をゼロから前記仮想電流までランプさせるよう構成されている、請求項2に記載の電気装置。
【請求項4】
前記電流制御ループは、仮想キャパシタを含み、前記仮想キャパシタは、前記スイッチのアレイから出力される平均電圧を変更することによって、前記3つの出力電流波形からDC成分をフィルタリングするために適用される、請求項2に記載の電気装置。
【請求項5】
前記エミュレートされた同期機械は、所与のロータ角周波数及びロータ磁界を有し、前記制御回路は、前記仮想電流、前記ロータ磁界、及び前記ロータ角周波数と前記ACパワーグリッドのグリッド周波数との間の差に応答して、前記同期機械に適用するためのエミュレートされた限定アクティブトルク及びエミュレートされた電気トルクを計算し、従って前記ロータ角周波数の時間微分を決定するように構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気装置。
【請求項6】
前記エミュレートされた限定アクティブトルクは、ドループトルクを含み、前記ドループトルクは、前記ロータ角周波数と所望の角周波数との差にリードラグフィルタを適用することによって計算される、請求項5に記載の電気装置。
【請求項7】
前記制御回路は、前記アクティブトルクの低周波数成分を制限する飽和を適用するように構成され、従って前記制限されたアクティブトルクを決定する、請求項5に記載の電気装置。
【請求項8】
前記制御回路は、前記仮想電流と前記ロータ磁界とに基づいて前記エミュレートされた同期機械の電気トルクを計算し、前記ロータ角周波数、前記ロータ磁界、及び前記エミュレートされた同期機械のロータ角度に応答して、前記エミュレートされた同期機械の同期内部電圧を計算する、ように構成されている、請求項5に記載の電気装置。
【請求項9】
前記制御回路は、電圧ドループ定数、前記ACパワーグリッドのグリッド電圧の振幅と前記グリッド電圧の第1のプリセット値との差、及び前記インバータの出力端子における無効電力と前記無効電力の第2のプリセット値との差に応答して、前記インバータの出力端子における無効電力及び前記エミュレートされた同期機械のロータ磁界を計算するように構成されている、請求項8に記載の電気装置。
【請求項10】
前記制御回路は、前記計算された同期内部電圧と前記時間的に変化する電圧の測定値との間の差電圧を計算し、前記仮想電流におけるDC成分を除去するように前記差に仮想インピーダンスを適用することにより前記仮想電流を計算するように構成されている、請求項8に記載の電気装置。
【請求項11】
前記インバータのフィルタリング回路は、所与のインダクタンス及び抵抗を有し、前記モデルは、前記所与のインダクタンス及び抵抗よりも大きい前記同期機械の等価ステータインダクタンス及び抵抗を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気装置。
【請求項12】
電力制御の方法であって、
DC入力電圧を受け取るための入力端子と、3相を有するACパワーグリッドに結合するための出力端子とを有し、前記出力端子において3つの出力電圧波形を含む3相AC出力に前記DC入力電圧を変換するよう構成されたスイッチのアレイ及びフィルタリング回路を含むインバータにパルス幅変調(PWM)ドライブを加えるステップと、
前記入力端子及び前記出力端子上のそれぞれの時間的に変化する電圧及び電流の測定値を受信するステップと、
前記測定値に応答して、前記方法によってエミュレートされた同期機械に流れる前記3つの出力電圧波形にそれぞれ関連3つの仮想電流を含むモデルを計算するステップと、
前記インバータの前記3つの出力電圧波形のそれぞれの振幅、周波数、及び位相を前記ACパワーグリッドの3相と同期させるように、前記3つの仮想電流に応答して前記PWMドライブを制御するステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記モデルは、前記PWMドライブを制御するための3つの制御電圧を生成する電流制御ループを備え、前記モデルを計算するステップは、前記仮想電流に応答して、前記電流制御ループに入力するための基準電流を計算するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記基準電流を計算するステップは、前記方法の動作開始時に、前記基準電流をゼロから仮想電流までランプさせるステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記電流制御ループは、仮想キャパシタを含み、前記仮想キャパシタは、前記スイッチのアレイから出力される平均電圧を変更することによって、前記3つの出力電流波形からDC成分をフィルタリングするために適用される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記エミュレートされた同期機械は、所与のロータ角周波数及びロータ磁界を有し、前記モデルを計算するステップは、前記仮想電流、前記ロータ磁界、及び前記ロータ角周波数と前記ACパワーグリッドのグリッド周波数との差に応答して、前記同期機械に適用するためのエミュレートされた限定アクティブトルク及びエミュレートされた電気トルクを計算し、従って前記ロータ角周波数の時間微分を決定するステップを含む、請求項12~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記エミュレートされた限定アクティブトルクは、ドループトルクを含み、前記ドループトルクは、前記ロータ角周波数と所望の角周波数との差にリードラグフィルタを適用することによって計算される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記エミュレートされたトルクを計算するステップは、前記アクティブトルクの低周波数成分を制限する飽和を適用して、従って前記制限されたアクティブトルクを決定するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記モデルを計算するステップは、前記仮想電流と前記ロータ磁界とに基づいて前記エミュレートされた同期機械の電気トルクを計算するステップと、前記ロータ角周波数、前記ロータ磁界、及び前記エミュレートされた同期機械のロータ角度に応答して、前記エミュレートされた同期機械の同期内部電圧を計算するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記内部電圧を計算するステップは、電圧ドループ定数、前記ACパワーグリッドのグリッド電圧の振幅と前記グリッド電圧の第1のプリセット値との差、及び前記インバータの出力端子における無効電力と前記無効電力の第2のプリセット値との差に応答して、前記インバータの出力端子における無効電力及び前記エミュレートされた同期機械のロータ磁界を計算するステップを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記モデルを計算するステップは、前記計算された同期内部電圧と前記時間的に変化する電圧の測定値との間の差電圧を計算し、前記仮想電流におけるDC成分を除去するように前記差に仮想インピーダンスを適用することにより前記仮想電流を計算するステップを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記インバータのフィルタリング回路は、所与のインダクタンス及び抵抗を有し、前記モデルは、前記所与のインダクタンス及び抵抗よりも大きい前記同期機械の等価ステータインダクタンス及び抵抗を含む、請求項12~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
DC入力電圧を受け取るための入力端子と、3相を有するACパワーグリッドに結合するための出力端子とを有し、前記出力端子において前記DC入力電圧を3つの出力電圧波形を含む3相AC出力に変換するように構成されたスイッチのアレイ及びフィルタリング回路を含むインバータに適用されるパルス幅変調(PWM)ドライブを制御するためのコンピュータソフトウェア製品であって、
前記コンピュータソフトウェア製品が、プログラム命令が格納されている有形の非一時的コンピュータ可読媒体を含み、
前記命令は、プログラム可能なプロセッサによって読み取られたときに、前記プロセッサに、前記入力端子及び前記出力端子上のそれぞれの時間的に変化する電圧及び電流の測定値を受け取り、前記測定値に応答して前記方法によってエミュレートされた同期機械に流れる前記3つの出力電圧波形にそれぞれ関連する3つの仮想電流を含むモデルを計算させ、前記インバータの前記3つの出力波形のそれぞれの振幅、周波数、及び位相を前記ACパワーグリッドの3相に同期させるように、前記3つの仮想電流に応答して前記PWMドライブを制御するようにする、ことを特徴とする、コンピュータソフトウェア製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、発電に関し、特にDCからAC電力への変換のためのインバータ及びその方法に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年7月8日に出願された米国仮特許出願第62/705,636号の利益を主張し、本仮出願は、引用により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
電力システムは、大規模発電プラントによる集中型発電から、再生可能エネルギー資源に基づく分散型発電へとますますシフトしている。これらの再生可能エネルギー発電機のほとんどは、風力発電機のような可変周波数のAC電力、又はソーラーパネルのようなDC電力を生成する。そのため、このような発電機は、適切な系統周波数(50Hz又は60Hz)のAC電力を公共ユーティリティグリッドに供給するために、「インバータ」と呼ばれるDC-ACコンバーターが必要となる。このようなインバータは、消費者に高品質な電源波形を提供するために、出力電流、周波数、及び位相角に関して慎重に制御する必要がある。
【0004】
具体的には、公共ユーティリティグリッド(パワーグリッド(送配電網)とも呼ばれる)に安定した電力を供給するためには、インバータは、系統周波数及び位相に密に同期して動作し、最小限の変動及びノイズできれいなグリッド電流波形を供給することが望まれる。近年、インバータは、より普及するにつれて、同期発電機及びその原動機と同様にユーティリティグリッドの周波数及び電圧の安定性の維持に関与し、また、様々なタイプの急変及び故障を克服することの助けとなることが認識されるようになった。
【0005】
同期発電機及びその原動機の挙動を模擬するインバータは、当該技術分野では「仮想同期機」(VSM)として知られている。VSMは、独立制御可能な有効電力及び無効電力を交換する目的で、出力フィルタを介してACパワーグリッドに結合できる、調整可能な多相出力電圧のセットを生成する。VSMは、慣性を含めるが、可動部品を有さずに、従来の発電プラントの実際の同期発電機のように動作することを意図している。
【0006】
実際、多くの点で、VSMは、そのパラメータが調整可能であり、パワーグリッドで起こる可能性がある様々な変化に対してより速く対応することができるので、同期発電機よりも(系統安定性において)良好な挙動を示すことができる。
【0007】
一例として、その開示内容が引用により本明細書に組み込まれる米国特許第8,880,236号は、同期発電機をモデル化することにより制御される「シンクロンバータ」と呼ばれるタイプのVSMを記載している。シンクロンバータのインバータは、仮想発電機ロータの角度位置及び回転速度を、数値変数を用いて表すことによって制御される。インバータの出力電流が測定され、仮想発電機のロータに作用する仮想電気トルクを計算するのに使用される。仮想ロータの回転速度は、仮想電磁トルクと仮想ロータの仮想慣性を表すパラメータとから計算される。仮想発電機ロータの角度位置及び回転速度、並びに励磁電流を表す変数から、仮想同期発電機のAC出力に相当するAC出力を生成するようにインバータを制御するための制御信号が算出される。基準回転速度からの仮想発電機ロータの回転速度の偏差が検出されて、仮想駆動トルクを調整するのに使用されるフィードバックループが実装されている。
【発明の概要】
【0008】
以下に記載される本発明の実施形態は、改良された仮想同期機(VSM)、並びにこのような機械を制御するための回路及び方法を提供する。
【0009】
従って、本発明の実施形態によれば、DC入力電力を受け取るための入力端子と、3相を有するACパワーグリッドに結合するための出力端子とを有するインバータであって、出力端子において3つの出力電流波形を生成することによって、DC入力電力を3相AC出力電力に変換するように構成されたスイッチのアレイ及びフィルタリング回路を含む電気器具が提供される。パルス幅変調(PWM)発生器及びドライバは、出力電流波形のそれぞれの振幅、周波数、及び位相を制御するようにスイッチを駆動するように結合されている。制御回路は、入力端子及び出力端子上のそれぞれの時間的に変化する電圧及び電流の測定値を受信し、測定値に応答して、本装置によってエミュレートされた同期機械に流れる3つの仮想電流を含むモデルを計算するように結合されている。3つの仮想電流は、3つの出力電流波形にそれぞれ関連付けられ、インバータの3つの出力電流波形の振幅、周波数、及び位相を交流パワーグリッドの3相に同期させるように、前記3つの仮想電流に応答して前記PWM生成器及びドライバを制御する。
【0010】
幾つかの実施形態では、モデルは、PWM発生器及びドライバを制御するための3つの制御電圧を生成する電流制御ループを含み、制御回路は、仮想電流に応答して、電流制御ループへの入力のための基準電流を計算するように構成される。開示された実施形態では、制御回路は、装置の動作開始時に、基準電流をゼロから仮想電流までランプさせるように構成される。更に又は代替的に、電流制御ループは、仮想キャパシタを含み、仮想キャパシタは、スイッチのアレイから出力される平均電圧を変更することによって、3つの出力電流波形のうちDC成分をフィルタリングするために適用される。
【0011】
幾つかの実施形態では、エミュレートされた同期機は、所与のロータ角周波数及びロータ磁場を有し、制御回路は、仮想電流、ロータ磁場、及びロータ角周波数と交流パワーグリッドのグリッド周波数との差に応答して、同期機に適用するためのエミュレートされた限定アクティブトルク及びエミュレートされた電気トルクを計算し、それによってロータ角周波数の時間微分を決定するよう構成される。開示された実施形態において、エミュレートされた限定アクティブトルクは、ドループトルクを含み、これは、ロータ角周波数と所望の角周波数との間の差にリードラグフィルタを適用することによって計算される。代替的に又は追加的に、制御回路は、アクティブトルクの低周波数成分を制限するために飽和を適用するように構成され、その結果、制限されたアクティブトルクを決定する。
【0012】
更に追加的又は代替的に、制御回路は、仮想電流及びロータ磁界に基づいてエミュレートされた同期機の電気トルクを計算し、ロータ角周波数、ロータ磁界、及びエミュレートされた同期機のロータ角度に応答してエミュレートされた同期機の同期内部電圧を計算するように構成されている。開示された実施形態において、制御回路は、電圧ドループ定数、交流パワーグリッドのグリッド電圧の振幅とグリッド電圧の第1のプリセット値との差、及びインバータの出力端子の無効電力と無効電力の第2のプリセット値との差に応答して、インバータの出力端子及びエミュレート型同期機のロータ磁界における無効電力を計算するよう構成される。別の実施形態では、制御回路は、計算された同期内部電圧と時間的に変化する電圧の測定値との間の差電圧を計算し、仮想電流におけるDC成分を除去するように差に仮想インピーダンスを適用して仮想電流を計算するように構成されている。
【0013】
開示された実施形態では、インバータのフィルタリング回路は、所与のインダクタンス及び抵抗を有し、モデルは、所与のインダクタンス及び抵抗よりも大きい同期機械の等価ステータインダクタンス及び抵抗を含む。
【0014】
また、本発明の実施形態によれば、電力制御のための方法が提供され、本方法は、DC入力電圧を受け取るための入力端子と、3相を有するACパワーグリッドに結合するための出力端子とを有し、出力端子において3つの出力電圧波形を含む3相のAC出力にDC入力電圧を変換するように構成されたスイッチのアレイ及びフィルタリング回路を含むインバータにパルス幅変調(PWM)ドライブを適用するステップを含む。入力端子及び出力端子上のそれぞれの時間的に変化する電圧及び電流の測定値が受信される。測定値に応答して、本方法によりエミュレートされた同期機に流れる3つの仮想電流を含むモデルが計算され、3つの仮想電流は3つの出力電圧波形にそれぞれ関連付けられる。PWMドライブは、インバータの3つの出力波形のそれぞれの振幅、周波数、及び位相を交流パワーグリッドの3つの位相と同期させるように、3つの仮想電流に応答して制御される。
【0015】
更に、本発明の実施形態によれば、DC入力電圧を受け取るための入力端子と、3相を有するACパワーグリッドに結合するための出力端子とを有し、DC入力電圧を出力端子において3つの出力電圧波形を含む3相AC出力に変換するように構成されたスイッチのアレイ及びフィルタリング回路を含むインバータに適用されるパルス幅変調(PWM)ドライブを制御するコンピュータソフトウェア製品であって、コンピュータソフトウェア製品はプログラム命令が格納されている有形の非一時的コンピュータ読み取り可能な媒体を含む方法が提供される。命令は、プログラム可能なプロセッサによって読み取られたとき、プロセッサに、入力端子及び出力端子上のそれぞれの時間的に変化する電圧及び電流の測定値を受け取り、測定値に応答して、本方法によってエミュレートされた同期機械に流れる3つの出力電圧波形にそれぞれ関連する3つの仮想電流を含むモデルを計算させ、インバータの3つの出力波形のそれぞれの振幅、周波数、及び位相を前記交流パワーグリッドの3相に同期させるように3つの仮想電流に応答して前記PWMドライブを制御する。
【0016】
本発明は、添付図面と併用した実施形態の以下の詳細な説明から、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態による、VSMを組み込んだ発電システムを概略的に示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、VSMコントローラを概略的に示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、
図2のVSMコントローラにおける定常電力制限ブロックの詳細を概略的に示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態による、全ての信号がPark変換から得られ且つ複素数値である電流制御ループを概略的に示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態による、
図4の概念図に基づき、
図2のVSMコントローラにおける電流制御ブロックの詳細を概略的に示すブロック図である。
【
図6】本発明の一実施形態による、
図2のVSMコントローラにおける仮想キャパシタの詳細を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(概要)
インバータが公共グリッド上の電力のごく一部しか提供しない限り、その有効電力、無効電力、ローカル電圧、周波数及び位相の変動は、グリッド電力の大部分を提供する従来の同期発電機によって容易に補償することができる。しかしながら、再生可能エネルギー源の普及が進むと、これらの変動が、消費者に提供される電力の許容できない変動をもたらす可能性がある。VSMは原理的には同期発電機の動作をエミュレートし、より安定したAC出力電力を供給することができるが、VSMを正確に制御することは依然として課題となっている。
【0019】
例えば、本発明者らは、シンクロンバータの出力電流が、グリッド電圧測定誤差と、測定、データ処理、及びPWM信号の生成中に現れる遅延とに過度に敏感であることを見出した。これらの誤差は、特にシンクロンバータが比較的低電力で動作する場合に、グリッド電流の歪み及び不安定な振幅を引き起こし、同期損失を生じ、解列につながる可能性がある。
【0020】
本明細書で記載される本発明の実施形態は、仮想電流制御ループを含むVSMのモデルを使用して、測定誤差及び遅延の影響を低減する。モデル内の仮想キャパシタは、インバータによって生成される実際の出力電流におけるDC成分を減少させる。開示された制御モデルはまた、インバータを保護し、始動期間中にグリッドを妨害しないために、VSMの円滑な始動を保証する機構を含む。
【0021】
本発明の実施形態で使用されるVSMモデルは、同期発電機の周波数ドループ機能をエミュレートし、これにより周波数シフトを補償するために、発電機モデルのアクティブトルクを変化させる。このモデルは、ドループ信号のリードラグフィルタリングを使用して、定常状態で適度なドループ定数を達成しながら(従って、グリッド周波数がその公称値から長時間逸脱した場合に、持続が困難な電力サージを回避する)、グリッド周波数の速い変化に対して高いドループ定数を維持し、従って、高いドループ定数の安定化効果を提供する。
【0022】
本発明の実施形態で使用されるVSMモデルはまた、同期発電機の電圧ドループ機能をエミュレートし、これにより所望のローカル電圧からの電圧偏差を補償するために、発電機モデルの界磁電流を変化させる。
【0023】
従って、本明細書に記載された実施形態によって提供される方法及び制御モデルは、電圧感知誤差、グリッド電圧不均衡、及び歪みに対して堅牢なシンクロンバータの製造及び動作に適用することができる。これらの方法は、極端な動作条件からインバータ及びグリッドを保護する。これらの実施形態に従って動作するシンクロンバータは、パワーグリッド並びに高品質の自家用電源グリッドに組み込むことができる。
【0024】
これらの特徴を実施するために、開示された実施形態は、DC入力電圧を受け取るための入力端子と、3相ACパワーグリッドに結合するための出力端子とを有するインバータを備えた電気装置を提供する。インバータは、DC入力電圧を3相AC出力に変換するためのスイッチのアレイ及びフィルタリング回路を備える。パルス幅変調(PWM)発生器及びドライバは、インバータレグの出力端子3つの出力電圧波形、すなわち出力フィルタ前の電圧の所望の振幅、周波数、位相を生成するようにスイッチを制御する。制御回路は、出力端子上のそれぞれの時間的に変化する電圧及び電流の測定値を受け取り、これらの測定値に基づいて、VSMに流れる3つの仮想電流をモデル化する。これらの仮想電流は、インバータを保護するために制限され、この制限後は基準電流となる。アルゴリズムの電流制御部は、インバータの出力電流が基準電流とほぼ等しくなるようにPWM発生器及びドライバを制御する。このように、インバータは、同期発電機のVSMモデルに従って動作する。
【0025】
(システム説明)
図1は、本発明の一実施形態による、VSMを組み込んだ発電システム20を概略的に示すブロック図である。システム20は、DC電源22(図示の例ではソーラーパネルのアレイなど)を備え、これは、DC入力電圧VDCをインバータ24の入力端子に供給するように接続されている。
【0026】
インバータ24は、スイッチ30のアレイと、LCLフィルタ構成のインダクタ32及びキャパシタ34を含むフィルタリング回路とを備える。インダクタ32は各々、インダクタンスLS及び直列抵抗RSによって特徴付けられ、他方、キャパシタ34は、キャパシタンスCSを有し、これはLCLフィルタが公称グリッド周波数ωnよりも高いがスイッチング周波数よりも遙かに下回る共振周波数を有するように選択される。インバータ24は、DC入力電圧を、インバータの出力端子において時間的に変化する電流ia、ib、icを有する3つの出力電流波形を含む3相AC出力に変換する。出力端子は、インダクタンスLfと直列抵抗Rfを有するインダクタ36並びに回路遮断器38によってACグリッドに接続されている。グリッド電圧は、vga、vgb、及びvgcである。
【0027】
パルス幅変調(PWM)発生器及びドライバ26は、平均電圧波形
のそれぞれの振幅、周波数及び位相を制御するようにスイッチ30を駆動する。これらの平均は、グリッド電圧の周期よりも遙かに短い各スイッチング周期にわたって計算される。PWM発生器及びドライバ26は、典型的には、当該技術分野で知られるように、適切なハードウェア論理及び増幅器回路を備える。PWM発生器及びドライバ26の制御下で、スイッチ30は、それぞれの平均電圧
を生成し、これらは、LCLフィルタによってフィルタリングされて波形を滑らかにし、3つのAC出力相の出力端子電圧va、vb、vc及び出力端子電流ia、ib、icにおけるリップルを低減する。
【0028】
制御回路28は、va、vb、vc及びia、ib、icの測定値を受け取り、インバータ24がエミュレートすべき同期機械のモデルに流れる仮想電流i
virt,a、i
virt,b、i
virt,civirtに対応するモデル化においてこれらの測定値を適用する。この同期機械モデルに基づいて、制御回路28は、
の所望値であるそれぞれの信号ga、gb、gcを出力する。PWM発生器は、ドライバを介してスイッチ30に印加される論理信号を生成する。正しく生成されたPWM信号の結果、電圧
は、信号ga、gb、gcに密接に一致し、結果として、電流ia、ib、icは、仮想電流i
virt,a、i
virt,b、i
virt,cに密接に一致することになる。
【0029】
制御回路28は、インバータ24の3つの出力波形の振幅、周波数、位相をACパワーグリッドの3つの位相と同期させるために、必要に応じて制御信号ga、gb、gcを調整する。制御回路28によって使用される新規のモデル、及び制御電圧の生成及び調整におけるその適用について、以下に詳細に説明する。以下の説明及び図において便宜上、これらの電圧及び電流は、ベクトルv=(va,vb,vc)、i=(ia,ib,ic)、及びg=(ga,gb,gc)によって集合的に表される。
【0030】
制御回路28は、典型的には、汎用マイクロプロセッサ又はデジタル信号プロセッサ(DSP)などのプログラマブルプロセッサを備え、インバータ24及びPWM発生器及びドライバ26並びに他の制御入力との間で信号を受信及び出力するための適切なインタフェースを備えている。プロセッサは、適切なソフトウェアプログラム命令の制御下でこれらの機能を実行する。ソフトウェアは、典型的には、光学、磁気、又は電子メモリ媒体などの有形の非一時的なコンピュータ可読媒体に格納される。代替的又は追加的に、制御回路28の機能の少なくとも一部は、ハードウェア論理回路によって実行することができ、ハードウェア又はプログラマブルとすることができる。
【0031】
インバータ24及びPWM発生器及びドライバ26は、制御回路28の適用及び動作を示すために、例としてここに提示されている。インバータ24及びPWM発生器及びドライバ26の設計及び動作、並びに同期機械をエミュレートするためのこれらの要素のモデル化及び制御の更なる詳細は、上記の米国特許第8,880,236号の明細書のセクションI、II及びIIIに記載されている。或いは、制御回路28は、当該技術分野で知られている他のタイプのインバータを制御する際に、変更すべきところは変更するとして、適用することができる。制御回路28のこのような応用は全て、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0032】
(モデル化された電流を用いたVSM制御)
図2は、本発明の実施形態による、制御回路28によって実施されるVSM制御アルゴリズムを概略的に示すブロック図である。このアルゴリズムの中核は、インバータ24によってエミュレートされた同期機械のモデル40であり、ここでは、VSMの3つの仮想電流i
virt=(i
virt,a,i
virt,b,i
virt,c)がVSMのモデル化電気トルクTeを生じさせ、また以下で詳細に述べるように電流制御ループの基準電流を生成するのに役立つ。
【0033】
i
virtを生成するために、モデル40は、モデル内の内部同期電圧e=(ea,eb,ec)と、インバータ24のフィルタキャパシタ34の端子上の測定電圧v=(va,vb,vc)との差を(インバータ24の実際のフィルタインピーダンスではなく)仮想インピーダンス42に適用する。仮想インピーダンス42は、各相において、抵抗Rg及びキャパシタCgと直列のインダクタLgからなる。ここで、LgとRgは、同期発電機の等価ステータインダクタンスと抵抗値を表し、Cgは、仮想電流からのDC成分をフィルタリングする。(Cgの値は充分に大きく、そのため、グリッド周波数及びそれよりも高い周波数でその効果が無視できる)。従って、a相の仮想電流ivirt,a及び対応するキャパシタCgの電荷yaは、以下の微分方程式を満たす。
【数1】
【0034】
b相とc相も同様の動作を示す。Lg及びRgは、Ls及びRsよりも遙かに大きいので(
図1)、仮想インピーダンス42を使用すると、インバータに流れる実際の電流に基づくモデルに比べて、仮想電流ivirtに対する電圧測定誤差及びグリッド電圧歪みの影響を低減する。更に、仮想電流は、PWMプロセスに固有の制御関連遅延の影響を受けにくい。
【0035】
仮想電流に基づいて、トルク発生器44は、次式に従って電気トルクTeを計算する。
【数2】
【0036】
この式は、VSMの状態変数、すなわち、ロータ角θ、ロータ電流if、及び仮想電流i
virtを使用する。ここで、Mfは、ロータ巻線と1つのステータ巻線の間のピーク相互インダクタンスであり、m=√(3/2)Mfである。以下の表記が使用される。
【数3】
【0037】
上式及び以下の説明において、i
virt,d及びi
virt,qは、仮想電流ベクトルi
virt(a,b,c)にPark変換U(θ)を適用することにより生成されたベクトルi
virt(d,q,0)のd及びq成分である。
【数4】
【0038】
トルク発生器44によって計算された電気トルクTeは、ローパスフィルタ46を通過し、次に制限されたアクティブトルクTlから減算される。Tlの値の変化は、本明細書においてより詳細に説明するように、システム20の動作条件の変化によるアクティブトルクの変動をエミュレートする。VSMのロータの角周波数ωは、エミュレートされたロータに起因する慣性Jに応じて、制限されたアクティブトルクTlと電気トルクTeとの間のこの差の関数として変化する。
【数5】
【0039】
Jの値は、動作条件の変化に対するインバータ24の角周波数ωの所望の応答速度に応じて選択される。この関係に基づいて、飽和積分器48は、瞬時角周波数を計算する。更なる積分段50により、制御回路28によって実施される様々なパーク変換において適用される瞬時ロータ角θが得られる。
【0040】
角周波数、ロータ角、及びロータ磁界(インダクタンス×電流)が与えられると、乗算器52は、VSMの3相の同期内部電圧e=(ea,eb,ec)を計算する。
【数6】
【0041】
測定された電圧vは、これらの同期内部電圧から減算されて差分電圧が与えられ、これらは上記で説明したように3つの仮想インピーダンス42に入力される。
【0042】
仮想ロータ界磁mifを求めるために、乗算器54は、インバータ24からの無効電力出力Qを計算する。
【数7】
【0043】
インバータ24の始動時の初期同期プロセスでは、スイッチS1が仮想電流ivirtを乗算器54に入力する。続いて、スイッチは実際の出力電流iを入力する。計算された電力は、ローパスフィルタ56によりフィルタリングされ、次いで、予め設定された無効電力Qsetから減算される。
【0044】
仮想ロータ磁界はまた、電圧ドループ、すなわち、プリセット出力電圧レベルvsetと電圧の実際の振幅vとの間の差によって影響を受ける。振幅検出器60は、電圧vの振幅を検出し、これはvsetから減算される。この差は、乗算器62で選択された電圧ドループ係数Dqによって乗算され、その結果がQsetに加えられる。任意選択的に、二次電圧制御ブロック64は、vsetに加えるための追加の増分電圧δVを計算することができるが、この機能は、スイッチS3を開くことによって
図2において無効化することが可能である。
【0045】
仮想ロータ電流ifは、次式で無効電力及び電圧ドループと関係付けられる。
【数8】
【0046】
ここで、Kmは大きな定数である。飽和積分器58は、トルク発生器44及び乗算器52への入力のためのエミュレートされたロータ磁界mifを計算するために、この式に対して積分する。制限されたアクティブトルクTlを求めるために、制御回路28は、トルク計算ブロック66において、平衡状態で、プリセット電力値Pset及びQsetを達成するために必要となる公称アクティブトルクTmを計算することによって開始される。この計算では、グリッド電圧の公称値Vr、及び公称グリッド周波数nを使用する。
【数9】
【0047】
更に、リードラグフィルタ68は、公称アクティブトルクTmに加えられるシミュレートされたドループトルクTdを生成する際に、周波数ドループの影響を考慮する。物理的な同期発電機において、ドループトルクは、例えばパワーグリッドの負荷の増加に起因する発電機の角周波数の偏差を補償するために生成される。制御回路28は、これに応じて、所望の角周波数ωsetとモデル40の仮想ロータの角周波数ωとの間の電流差に基づいて仮想ドループトルクを計算する。任意選択的に、二次周波数制御ブロック72は、ωsetに追加するための追加の増分角周波数δωを計算することができるが、この機能は、スイッチS2を開くことによって
図2において無効化することができる。従って、本事例では、ωsetは公称角周波数ωnに等しい。
【0048】
リードラグフィルタ68が周波数差ωset-に適用され、インバータ24の出力電力を制限しながらグリッド周波数を安定化させるのを助け、ドループトルクを提供するようにする。フィルタ68の動作は、ラプラス変換(信号の記号の上にハットで示される)を用いて、次のように表すことができる。
【数10】
【0049】
この式において、dはおよそ1秒、Dp>0は低周波の周波数ドループ定数、αDpは高周波の周波数ドループ定数であり、α≧1である。このエミュレートされたドループトルクをモデル40に加えることにより、インバータ24は、周波数偏差を補償するために短時間に高い追加電流を提供し、その後、システム20の利用可能な発電又は蓄電能力を圧倒するのを防ぐために、より長い期間にわたって低い追加電流を提供することが可能となる。
【0050】
インバータ24を過負荷から保護するために、定常状態電力制限ブロック70が公称トルクとドループトルクの和に適用される。ブロック70がない場合、アクティブトルクTlは、単にTm+Tdの和となる。ブロック70は、Tlの定常値を制限してインバータ24の容量に一致させる一方、必要なときに安定性を維持するためにトルクの高速過渡応答を可能にする。
【0051】
図3は、本発明の実施形態による定常電力制限ブロック70の詳細を示すブロック図である。ブロック70は、ローパスフィルタ80を使用することによって、信号Tm+Tdを2つの相補的チャネルに分割する。ローパスフィルタ80は、典型的には、およそ1秒の時定数wを有する。飽和リミッタ82は、ローパスチャネルにのみ適用される。この2つのチャネルを加算して、制限されたアクティブトルクTlを与える。
【0052】
ここで
図2に戻ると、モデル40に流れる仮想電流i
virt(a,b,c)は、後述するように仮想キャパシタ78を有する電流制御ループを用いて制御電圧gを生成する電流制御ブロック76への入力のための基準電流i
ref(d,q,0)の計算に使用される。しかしながら、電流制御ブロック76への入力の前に、インバータスイッチ30の最大電流を確実に超えないようにするために、電流ランプアップ及び制限ブロック74が適用される。電流ランプアップ及び制限ブロック74は、出力電流のきれいな正弦波形状を維持するために、制限をi
virt(d,q,0)に適用する前に、電流i
virt(a,b,c)のパーク変換i
virt(d,q,0)を計算する。同じブロック74はまた、インバータの発生する恐れのある損傷を防止し、電流スパイクに起因するパワーグリッドへの干渉を低減するために、インバータ24が動作を開始するときにi
ref(d,q,0)がランプアップする速度を制限する。例えば、i
refは、およそ数秒でi
virtまでランプアップすることができる。次に、i(d,q,0)にパーク変換された実際の測定グリッド電流は、ために基準電流i
ref(d,q,0)から減算されて、電流制御ループ76への入力のために誤差電流(d,q,0)を生成する。
【0053】
図4は、本発明の実施形態による、インバータ回路86(図中ではプラントPと表示)、dq電流コントローラ88、及び仮想キャパシタ87の表現を含む電流制御ループ83を概略的に示すブロック図である。この図は、Park変換された変数のみを示しており、ここでは信号は複素信号として表され、d成分が実部でq成分が虚部である。電流追従誤差εは、基準電流irefと実電流iとの差である。電流コントローラ88は比例積分型であり、パラメータKp及びKiを有し、定常動作時において誤差εが極めて小さくなる。感度Sは、基準電流irefから誤差εへの伝達関数を表す。
【0054】
図4は、
図5に示すdq電流コントローラ88の詳細な実現において実装される制御ループの概念的な特徴を示している。特に、グリッド電圧vの出力電流に対する影響は、信号vを加算(図の左側)してE
0を得ることで大部分は相殺され、処理遅延及びPWM遅延の影響は、位相補正ブロック84においてE
0に位相補正e
jφを乗じることにより大部分は相殺される。これらの特徴により、電流制御ループの精度を向上させるのを助ける。電流制御ブロック76は、位相補正ブロック84及び電流コントローラ88を備える。遅延ブロック85は、位相シフト-φの効果及び制御回路28によって出力される制御電圧gと、インバータ24のスイッチ30によって出力される対応する平均電圧
との間の遅延τを表している。
【0055】
図5は、本発明の一実施形態による、電流制御ブロック76の詳細を概略的に示すブロック図である。ブロック76は、誤差電流ε(d,q,0)のそれぞれのd,q,0成分を受信して、所望の出力電圧E
0(d,q,0)を出力する3つの電流ループを備える。各ループは、係数Kiを有する積分器ブロック90と、係数R
0を有する比例ブロック92を含む。更に、d及びqのループは、利得ωLsを有する比例ブロック94によって連結される。ブロック係数の様々な選択が可能である。選択は、例えば、Ki=LSωb
2及びR0=2ωbLs-RSであるように、選択された電流ループ帯域幅wb>wnに基づくことができる。
【0056】
電流ループ出力は、
図4の上方に示されるように、何らかの電圧測定誤差η(d,q,0)を含む測定グリッド電圧v(d,q,0)の対応する成分と合計される。逆パーク変換ブロック96は、結果として生じる出力電圧E
0(d,q,0)を(a,b,c)座標(Ea,Eb,Ec)に戻す変換を行う。しかしながら、この変換は、位相角がθ+φに補正された状態で行われる。追加の位相補正は、φ=ωτによって与えられ、ここでτは、制御回路28によって出力される制御電圧gと、インバータ24のスイッチ30によって出力される対応する平均電圧
との間の遅延である。逆パーク変換ブロック96は、このようにして、インバータ24の動作におけるこの遅延の影響を補償する。
【0057】
図6は、本発明の実施形態による電流制御ブロック76の出力における仮想キャパシタ78の詳細を概略的に示すブロック図である。
図5では簡略化のためEa出力のみが示されるが、Eb出力及びEc出力も同様に扱われる。仮想キャパシタのキャパシタンスCvirtは、DC電圧に帯電することで出力電流iaのうちDC成分を遮断し、Eaから減算される。残りの電圧gaは、スイッチ30を駆動するPWMジェネレータ及びドライバ26への制御電圧である。(これらの構成要素は、
図6ではブロック30で全体的に表されている)。
【0058】
Cvirtと並列な仮想抵抗Rvirtは、通常は高い値、例えば1kであり、これを流れる電流は僅少である。しかしながら、インバータ24の始動時には、Rvirtをゼロにすることができ、その後数秒で高い値までランプアップさせて、インバータ24における電流過渡の影響を低減する。
【0059】
上記の説明では、制御回路28は、インバータ24の安定した堅牢な動作を促進するPWM発生器及びドライバ26のための制御電圧を生成するように、同期機械をエミュレートする際の機能の特定の組み合わせを適用している。しかしながら、代替の実施形態では、これらの機能の一部が省略することができ、他の機能が追加されてもよい。例えば、電流制御ブロック76への基準電流入力の生成において異なるモデルが適用されてもよく、ブロック76において異なる種類の電流制御ループが使用されてもよい。別の例として、周波数及びトルクの変化を処理するため、及びインバータ24の始動を制御するために、他の種類のフィルタ及び制限ブロックをモデル40と組み合わせて使用することができる。更なる変形形態、及び本発明の様々な特徴の説明は、上述の仮特許出願に提示されている。このような代替的な実施形態は全て本発明の範囲に含まれると考えられる。
【0060】
従って、上述した実施形態は例証として引用されたものであり、本発明は、本明細書において特に図示及び記載されたものに限定されないことは理解されるであろう。むしろ、本発明の範囲は、本明細書に記載された様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の説明を読んで当業者に想起されるであろう、従来技術に開示されていないその変形及び修正形態を含む。
【符号の説明】
【0061】
20 発電システム
22 DC電源
24 インバータ
26 パルス幅変調(PWM)発生器及びドライバ
28 制御回路
30 スイッチ
32 インダクタ
34 キャパシタ
36 インダクタ
38 回路遮断器
【国際調査報告】