(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(54)【発明の名称】架橋性フルオロポリマー及びそれから形成されたコーティング
(51)【国際特許分類】
C08F 214/18 20060101AFI20230725BHJP
C09D 127/18 20060101ALI20230725BHJP
C09D 127/00 20060101ALI20230725BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230725BHJP
C08F 216/14 20060101ALI20230725BHJP
C08F 230/08 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08F214/18
C09D127/18
C09D127/00
C09D5/00 Z
C08F216/14
C08F230/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501342
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(85)【翻訳文提出日】2023-02-07
(86)【国際出願番号】 US2021040985
(87)【国際公開番号】W WO2022011203
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515269383
【氏名又は名称】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュートン チェン
【テーマコード(参考)】
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J038CD091
4J038CD121
4J038KA04
4J038MA14
4J038NA17
4J038PA17
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
4J100AC21Q
4J100AC26P
4J100AE02R
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4J100AP16S
4J100BA02Q
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4J100BB10Q
4J100BB11Q
4J100BB13Q
4J100BB18Q
4J100BC04R
4J100BC43S
4J100CA06
4J100CA31
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4J100GC26
4J100HA53
4J100HC04
4J100HC69
4J100HE14
4J100HE22
4J100JA01
4J100JA44
(57)【要約】
フルオロポリマーを含む高油接触角コーティング、そのコーティングを形成するための組成物及びプロセス、並びにそのコーティングを含む物品が提供される。フルオロポリマーは、モノマーとしての、テトラフルオロエチレン、フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)、アルキルビニルエーテル、及びアルケニルシランの共重合から生成される架橋性テトラポリマーであるフルオロポリマーである。フルオロポリマーコーティングは、フルオロポリマーが未架橋状態、又は架橋状態にあるとき、高い油接触角及びコーティングとしての有用性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のモノマー:
(a)テトラフルオロエチレン、
(b)フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)であって、フルオロアルキル基は、1~40個の炭素原子を有する、フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)、
(c)アルキルビニルエーテルであって、アルキル基は、C1~C6の直鎖状アルキルラジカル、又はC3~C6の分岐鎖状若しくは環状のアルキルラジカルである、アルキルビニルエーテル、
(d)式SiR1R2R3R4のエチレン性不飽和シラン(式中、R1は、エチレン性不飽和炭化水素ラジカルであり、R2及びR3は、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換のアリール置換炭化水素ラジカル、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルコキシラジカル、置換若しくは非置換の環状アルコキシラジカル、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルキルラジカル、又は置換若しくは非置換の環状アルキルラジカルから独立して選択され、R4は、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルコキシラジカル、又は置換若しくは非置換の環状アルコキシラジカルである)に由来する繰り返し単位から本質的になる、架橋性フルオロポリマー。
【請求項2】
前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)である、請求項1に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項3】
前記フルオロ(アルキルエチレン)は、パーフルオロ(アルキルエチレン)である、請求項1に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項4】
前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)又は前記フルオロ(アルキルエチレン)は、一般式:CXY=CZ-Oa-RF(式中、aは、0又は1のいずれかであり、X、Y及びZは、H及びFから独立して選択され、RFは、1~40個の炭素原子を有する飽和フルオロアルキルラジカルである)で表される、請求項1に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項5】
RFは、エーテル酸素を含有する、請求項4に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項6】
前記RFは、主鎖中の酸素原子が1~3個の炭素原子を有する飽和フルオロカーボン繰り返し基によって分離されている飽和鎖構造を有することを特徴とする、請求項5に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項7】
前記飽和フルオロカーボン繰り返し基は、-CF
2O-、-CF
2CF
2O-、-CF
2CF
2CF
2O-、及び-CF(CF
3)CF
2O-からなる群から選択される、請求項6に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項8】
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(n-ブチルビニルエーテル)、CF
3(CF
2)
7OCF=CF
2、CF
2=CFOCF(CF
3)CF
2OCF
2CF
2CF
3、CF
3OCF
2OCF
2OCF
2CF
2OCF=CF
2、C
3F
7OCF(CF
3)CF
2OCF=CF
2、及びCF
3CF
2CF
2O(CF(CF
3)CF
2O)
nCF=CF
2(式中、nは3~7の整数である)からなる群から選択される、請求項2に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項9】
前記フルオロ(アルキルエチレン)は、CF
3(CF
2)
4CF=CF
2、CF
3CF
2CF
2O(CF(CF
3)CF
2O)
nCF(CF
3)CH
2OCH
2CH=CH
2(式中、nは10~24の整数である)、及びCF
3CF(CF
3)O(CF
2O)
nCF(CF
3)CH
2OCH
2CH=CH
2(式中、nは1~5の整数である)からなる群から選択される、請求項1に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項10】
前記アルキルビニルエーテルは、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、及びプロピルビニルエーテルからなる群から選択される、請求項1に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項11】
前記エチレン性不飽和シランは、式SiR1R2R3R4で表され、R1は、エチレン性不飽和炭化水素ラジカルであり、R2は、アリール、アリール置換炭化水素ラジカル、分岐状C3~C6アルコキシラジカル、又は置換若しくは非置換の環状C5~C6アルコキシラジカルであり、R3及びR4は、直鎖状若しくは分岐状C1~C6アルコキシラジカル、又は置換若しくは非置換の環状C5~C6アルコキシラジカルから独立して選択される、請求項1に記載の架橋性フルオロポリマー。
【請求項12】
基材の少なくとも一部分に配置されたコーティング組成物の層を含む、コーティング層であって、前記コーティング組成物は、
i)請求項1に記載の架橋性フルオロポリマーを含み、
前記架橋性フルオロポリマーは、約10,000~約350,000ダルトンの数平均分子量を有し、
前記コーティング組成物は、本明細書に記載の接触角法によって測定したとき、少なくとも38の油接触角を有し、
前記コーティング組成物の前記層は、約0.5~約15マイクロメートルの厚さを有する、コーティング層。
【請求項13】
基材の少なくとも一部分に配置された架橋コーティング組成物の層を含む、コーティング層であって、前記コーティング組成物は、
i)請求項1に記載の架橋性フルオロポリマーと、
ii)光酸発生剤と、
iii)任意選択的な光増感剤と、を含み、
前記架橋性フルオロポリマーは、約10,000~約350,000ダルトンの数平均分子量を有し、
前記架橋コーティング組成物は、本明細書に記載の接触角法によって測定したとき、少なくとも38の油接触角を有し、
前記架橋コーティング組成物の前記層は、約0.5~約15マイクロメートルの厚さを有し、任意選択的に、約0.5マイクロメートル以上の幅を有する光架橋形成部を有する、コーティング層。
【請求項14】
前記コーティング組成物は、90%~10%の相対湿度、標準温度で、動的蒸気吸着によって測定したときに、約0.01~約0.8重量%の範囲の吸水率を有する、請求項12又は13に記載のコーティング層。
【請求項15】
前記コーティングの前記層は、約4マイクロメートル~約10マイクロメートルの厚さを有する、請求項12又は13に記載のコーティング層。
【請求項16】
架橋コーティングを形成するプロセスであって、前記プロセスは、
(1)架橋性コーティング組成物を提供する工程であって、前記架橋性コーティング組成物は、
i)請求項1に記載の架橋性フルオロポリマーと、
ii)光酸発生剤と、
iii)任意選択的な光増感剤と、
iv)キャリア媒体と、を含む、工程と、
(2)前記架橋性コーティング組成物の層を基材の少なくとも一部分の上に塗布する工程と、
(3)前記キャリア媒体の少なくとも一部分を除去する工程と、
(4)前記架橋性コーティング組成物の前記層の少なくとも一部分を紫外線で照射する工程と、
(5)前記架橋性コーティング組成物の塗布層を加熱する工程と、
(6)未架橋の前記架橋性フルオロポリマーの少なくとも一部分を除去して、前記架橋コーティングを得る工程と、を含み、
前記架橋性フルオロポリマーの数平均分子量は、約10,000~約350,000ダルトンであり、
前記架橋コーティング組成物は、本明細書に記載の接触角法によって測定したとき、少なくとも38の油接触角を有し、
前記架橋コーティングの前記層は、約0.5~約15マイクロメートルの厚さを有し、任意選択的に、約0.5マイクロメートル以上の幅を有する光架橋形成部を有する、プロセス。
【請求項17】
前記架橋性コーティング組成物は、前記コーティング組成物中の全成分の総重量に基づいて、約5~約35重量パーセントの前記架橋性フルオロポリマーと、約65~約95重量%のキャリア媒体と、を含み、前記キャリア媒体を除く前記コーティング組成物中の全成分の総重量に基づいて、0~約5重量%の前記光増感剤と、約0.01~約5重量%の前記光酸発生剤と、を含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記キャリア媒体の少なくとも一部分は、架橋性コーティング組成物の前記塗布層を、高温に曝露させること、大気圧未満の気圧に曝露させること、前記基材上へ、直接的若しくは間接的にガスを吹き付けること、又はこれらの組み合わせによって除去される、請求項16に記載のプロセス。
【請求項19】
前記照射する工程(4)は、空気又は窒素雰囲気中で行われる、請求項16に記載のプロセス。
【請求項20】
前記紫外線の波長は、約325~約425nmである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項21】
前記紫外線の曝露量は、約10~約10,000ミリジュール/cm2である、請求項16に記載のプロセス。
【請求項22】
前記加熱する工程(5)は、約60℃~約150℃の温度において、約15秒間~約10分間行われる、請求項16に記載のプロセス。
【請求項23】
前記除去する工程(6)は、前記光架橋性フルオロポリマーを溶解するキャリア媒体を用いて、前記光架橋性フルオロポリマーを溶解することによって行われる、請求項16に記載のプロセス。
【請求項24】
請求項13に記載のコーティング層を含む物品。
【請求項25】
架橋フルオロポリマーコーティング形成用の組成物であって、
i)請求項1に記載の架橋性フルオロポリマーと、
ii)光酸発生剤と、
iii)任意選択的な光増感剤と、
iv)キャリア媒体と、を含む、組成物。
【請求項26】
前記キャリア媒体は、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、又はこれらの組み合わせである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物は、コーティング組成物中の全成分の総重量に基づいて、約5~約35重量パーセントの前記架橋性フルオロポリマーと、約65~約95重量%のキャリア媒体と、を含み、前記キャリア媒体を除く前記コーティング組成物中の全成分の総重量に基づいて、0~約5重量%の前記光増感剤と、約0.01~約5重量%の前記光酸発生剤と、を含む、請求項25に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年7月10日出願の米国特許仮出願第63/050,266号に対する優先権を主張し、当該出願は参照によりその開示全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、フルオロポリマーを含む高油接触角コーティング、そのコーティングを形成するための組成物及びプロセス、並びにそのコーティングを含む物品に関する。このフルオロポリマーは、テトラフルオロエチレン、フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)、アルキルビニルエーテル、及びアルケニルシランの共重合により生成される架橋性テトラポリマーである。
【背景技術】
【0003】
ポリマーは、電子デバイスにおいて、構造的支持と絶縁性とをもたらし、かつ物理的損傷及び水分からデバイスを保護するために使用される。こうした用途においては、ポリマーが、架橋性、例えば、光架橋性であれば、決められた寸法を有するパターンを形成して、複数の電子部品及び電子層の相互接続のための三次元フレームワークを提供できることから、これらのポリマーの価値は著しく高まる。
【0004】
電子デバイスとそれらの形成部が小型化し、より高い周波数へ移行し、より低消費電力となったため、電子デバイスの製造でこれまで使用されてきたポリイミドなどの材料では、より低い誘電率、より低い損失正接、より低い水分吸収性、基材への接着性、及びより高い接触角などといった、望ましい特性を有する新たな材料に対する需要に応えられなくなっている。この分野において使用されている従来のポリマーは、誘電率が例えば3.0~3.3、吸水性が例えば0.8~1.7パーセントであり、この吸水性は許容できるものではない。
【0005】
吸水性は、電子デバイス用途における従来のポリイミドの著しい欠点であり、吸水性の結果として、デバイス内の金属及び無機物の腐食を引き起こす酸が形成される可能性がある。そのような腐食の結果として、コーティングされた表面から、不動態化層の信号伝送品質が徐々に低下したり、層間剥離が引き起されたりすることによって、デバイスの故障をもたらす可能性があるため、そのような腐食が生じることは望ましくない。更に、不動態化層の吸水は、誘電率の観点から望ましくないものであるが、それは、誘電率が、不動態化層をなすポリマーの含水量の増加の影響を非常に受けやすいものであり、しかも望ましくないことには、誘電率が、そのような増加によって上昇してしまうためである。これらの欠陥は、高周波数でデータが送信される、より新しい電子デバイスにおいてはとりわけ懸念されるものである。デバイスの動作周波数が高いほど、デバイスが、吸収された水により性能低下しやすくなる。
【0006】
電子デバイス及びデバイスの形成部が小型化するにつれて、導体間で使用される絶縁材料の誘電率は、デバイス性能において、ますます重要な要素となっている。隣接する導体間の距離が小さくなるほど、結果として生じる静電容量(絶縁材料の誘電特性を導電経路間の距離で割った関数)は増加する。静電容量が増加すると、チップを横断して信号を搬送する隣接導体間での容量結合、クロストークが増加する。静電容量の増加は更に、集積回路の電力消費の増加と、抵抗-コンデンサ時定数の増加を引き起こし、後者は信号伝搬速度を低下させる。小型化の影響により、電力消費が増加し、達成可能な信号速度が制限され、適切な集積回路デバイスの動作を保証するために使用されるノイズマージンが劣化する。電力消費及びクロストークを抑制する方法の1つは、導体間を隔てる絶縁体、すなわち誘電体の誘電率を小さくすることである。半導体分野で最も一般的な誘電体は二酸化ケイ素であり、誘電率(k)は約3.9である。対照的に、空気(部分真空を含む)の誘電率は1をわずかに超える程度である。更に、二酸化ケイ素膜の誘電率よりも著しく低い、約2.0~3.0の範囲の低い誘電率の膜を提供できる他の絶縁材料も存在する。したがって、特定の有機又は無機絶縁材料を使用して静電容量を低減させることで、容量結合などの前述の問題を緩和できることは、よく知られている。
【0007】
半導体デバイスにおける誘電体膜コーティングとして使用するため、多くの誘電体材料が提案されてきたが、それらのほとんどは、厳しい電気的及び物理的要件を満たすには不十分であると考えられている。誘電体膜形成材料には、パターン配線の層構造の上に、化学蒸着(chemical vapor deposition、CVD)プロセスによって適用される無機材料が含まれる。有用な無機誘電体材料の典型的な例としては、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、及びリンケイ酸ガラスが挙げられる。こうした無機誘電体をCVDプロセスにより好ましく形成したとしても、これらの無機誘電体層は本質的に欠損のある状態にある。これは、プラズマによる堆積プロセスでは、下にある配線パターンの、起伏のある階段状の外形構造が再現されてしまうからである。一方で、ポリイミド樹脂、有機スピンオンガラス、及び他の同様の誘電体材料などの複数の有機及び有機/無機誘電体材料は一般に、誘電体コーティング及び/又は関連する材料/コーティングに求められる電気的又は物理的特性のうちの1つ以上において不十分であった。例えば、複数のポリイミド樹脂が、分極した化学構造を有することから、高い吸湿性を示す。
【0008】
エレクトロウェッティングは、固体/液体界面の両側から印加される外部電圧の影響により、接触角が減少する現象である。エレクトロウェッティングは、表面上の微量の液体を操作するために広く使用されるツールとなっている。エレクトロウェッティングに関しては、表面張力を変化させることにより、マイクロスケールで流体運動を操作できる可能性が示されており、化学、生物工学、「ラボオンチップ」デバイス及びセンサ、並びに電子ディスプレイなどの用途において広く使用されている。エレクトロウェッティング式ディスプレイは、周囲光を反射することでペーパーライクディスプレイを提供し、ビデオ再生が可能であること、低電力消費、太陽光での可読性、及び読書の快適さなどの競争力のある利点を有する。フルオロポリマーのコーティングは、そのようなコーティング上で油及び水などの液体が高い接触角を示すことから、エレクトロウェッティング用途において商業的有用性が見出されている。フルオロポリマーコーティングの油接触角を最大化することは、エレクトロウェッティングディスプレイの性能上有益である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
低い誘電率と低い吸水性を有し、改善された油接触角を示す一方で、基材への好適な接着性を発揮する、電子デバイスのコーティング層として使用するための改善されたフッ素化ポリマー材料が引き続き必要とされている。こうしたフッ素化ポリマー材料が光架橋可能であれば、コーティング強度が向上し、コーティングのフォトイメージングにより電子部品及び電子層のための微細線構造コーティングを生成することが可能となるため、更に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、一実施形態において、以下のモノマー:すなわち、(a)テトラフルオロエチレン、(b)フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)であって、フルオロアルキル基は、1~10個の炭素原子を有する、フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)、(c)アルキルビニルエーテルであって、アルキル基は、C1~C6の直鎖状アルキルラジカル、又はC3~C6の分岐鎖状若しくは環状のアルキルラジカルである、アルキルビニルエーテル、(d)式SiR1R2R3R4のエチレン性不飽和シラン(式中、R1は、エチレン性不飽和炭化水素ラジカルであり、R2及びR3は、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換のアリール置換炭化水素ラジカル、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルコキシラジカル、置換若しくは非置換の環状アルコキシラジカル、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルキルラジカル、又は置換若しくは非置換の環状アルキルラジカルから独立して選択され、R4は、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルコキシラジカル、又は置換若しくは非置換の環状アルコキシラジカルである)に由来する繰り返し単位から本質的になる、光架橋性フルオロポリマーを提供することによって、これらの需要に応えるものである。
【0011】
別の実施形態では、本開示は、基材の少なくとも一部分に配置された光架橋性コーティング組成物の層を含む、コーティング層に関し、そのコーティング組成物は、上記した光架橋性フルオロポリマーを含み、この光架橋性フルオロポリマーは、約10,000~約350,000ダルトンの数平均分子量を有し、コーティング組成物は、本明細書に記載の接触角法によって測定したとき、少なくとも38の油接触角を有し、光架橋性コーティング組成物の層は、約0.5~約15マイクロメートルの厚さを有する。
【0012】
別の実施形態では、本開示は、基材の少なくとも一部分に配置された架橋コーティング組成物の層を含む、コーティング層に関し、そのコーティング組成物は、i)上記した架橋性フルオロポリマーと、ii)光酸発生剤と、iii)任意選択的な光増感剤と、を含み、架橋性フルオロポリマーは、約10,000~約350,000ダルトンの数平均分子量を有し、架橋コーティング組成物は、本明細書に記載の接触角法によって測定したとき、少なくとも38の油接触角を有し、架橋コーティング組成物の層は、約0.5~約15マイクロメートルの厚さを有し、任意選択的に、約0.5マイクロメートル以上の幅を有する光架橋形成部を有する。
【0013】
別の実施形態では、本開示は、光架橋コーティングを形成するプロセスに関し、このプロセスは、(1)光架橋性コーティング組成物を提供する工程であって、光架橋性コーティング組成物は、i)上記した光架橋性フルオロポリマーと、ii)光酸発生剤と、iii)任意選択的な光増感剤と、iv)キャリア媒体と、を含む、工程と、(2)光架橋性コーティング組成物の層を基材の少なくとも一部分の上に塗布する工程と、(3)キャリア媒体の少なくとも一部分を除去する工程と、(4)光架橋性コーティング組成物の層の少なくとも一部分を紫外線で照射する工程と、(5)光架橋性コーティング組成物の塗布層を加熱する工程と、(6)未架橋の光架橋性フルオロポリマーの少なくとも一部分を除去して、光架橋コーティングを得る工程と、を含み、光架橋性フルオロポリマーの数平均分子量は、約10,000~約350,000ダルトンであり、光架橋コーティング組成物は、本明細書に記載の接触角法によって測定したとき、少なくとも38の油接触角を有し、光架橋コーティングの層は、約0.5~約15マイクロメートルの厚さを有し、任意選択的に、約0.5マイクロメートル以上の幅を有する光架橋形成部を有する。
【0014】
別の実施形態では、本開示は、光架橋フルオロポリマーコーティング形成用の組成物に関し、この組成物は、i)上記した光架橋性フルオロポリマーと、ii)光酸発生剤と、iii)任意選択的な光増感剤と、iv)キャリア媒体と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本明細書に記載される図面は、説明のみを目的としたものである。この図面の縮尺は必ずしも正しいものではなく、以下の開示の原理を例示することを強調している。この図面は、本開示の範囲を多少なりとも限定することを意図するものではない。
【
図1】本発明の一実施形態によるパターン化コーティング層を有するウエハの平面視での光学顕微鏡写真を(追加の測定バーを付して)示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態を読むことにより、当業者はより容易に理解するであろう。明確にするために、別個の実施形態の文脈において上記及び下記の本開示の特定の特徴は、単一の要素中で組み合わせて提供されてもよいことが理解されるべきである。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈において記述されている本開示の様々な特徴も、別個に提供されてよく、また任意の下位組み合わせで提供されてもよい。加えて、単数についての言及は、その内容について別途具体的な指示がない限り、複数も含み得る(例えば、「a」及び「an」は1つ以上について言及し得る)。
【0017】
本願中で特定される様々な範囲の数値の使用は、別途明確に記載のない限り、指定された範囲の最小値及び最大値の両方に用語「約」が先行するかのように、近似値として述べられる。このように、述べられた範囲より上下わずかに変化させたものを使用して、範囲内の値と実質的に同じ結果を達成することができる。また、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間のそれぞれ、及び全ての値を含む、連続範囲を意図している。
【0018】
本明細書で使用する場合:
用語「光架橋」は、ポリマーネットワーク内の架橋部が光の作用の結果形成される、架橋フルオロポリマーを意味する。例えば、架橋性フルオロポリマーを含み、光酸発生剤及び任意選択的な光増感剤のうちの1つ以上を更に含有する組成物は、光架橋に有用である。この組成物を適当な波長の光で照射すると、酸官能性分子が発生し、これが架橋性フルオロポリマー上のシラン基と反応して、架橋性フルオロポリマーの架橋をもたらす。
【0019】
語句「架橋性フルオロポリマー」及び「光架橋性フルオロポリマー」は、例えば、酸による処理により、熱により、又は、光酸発生剤及び任意選択的な光増感剤のうちの1つ以上の存在下において適当な波長の光で照射された際に、架橋可能な、未架橋の架橋性フルオロポリマーを意味する。
【0020】
語句「光架橋形成部」は、本開示のプロセスに従って製造され得る寸法の構造体を指す。光架橋形成部は、形成された形成部の幅と、光架橋コーティング組成物の層の厚さとによって画定される。例えば、開示されるプロセスは、2マイクロメートル厚のコーティングにおいて、4マイクロメートルの線を形成できる。光架橋形成部は、未架橋フルオロポリマーが除かれると形成される「空隙」を指すことに留意されたい。例えば、一連の線が形成される場合、光架橋形成部は、未架橋フルオロポリマー材料が除かれて空隙が作製される場合に生じる空隙の幅を指す。光架橋形成部は、コーティング組成物の層の一部分を照射して、コーティング組成物の塗布層を加熱し、その後、例えば溶媒中に未架橋部を溶解させて洗い流してコーティング組成物の未架橋部を除くことによって、形成され得る。
【0021】
語句「不動態化層」は、それが下にある基材に取り付けられた場合に、その基材に対して、環境損傷からの保護を提供する層を意味する。例えば、水による損傷、酸化及び化学的劣化が挙げられる。不動態化層は、バリア特性を有すると共に、2つの導電層どうし、又は2つの半導体層どうし、又は1つの導電層を1つの半導体層から分離するために使用することができる誘電体層を、基材上に形成する。不動態化層は、発光ダイオード材料の様々なウェルを互いに接触することから分離する、発光ダイオード構造体中のバンク層としても使用できる。
【0022】
語句「未反応溶媒」は、架橋性フルオロポリマー用、又は、架橋性フルオロポリマーを含むコーティング組成物用の1種以上の溶媒を意味し、このとき未反応溶媒は、架橋性フルオロポリマーとの架橋の結果として、最終架橋ポリマーネットワークの一部にはならない。
【0023】
コーティング組成物が、非架橋状態又は架橋状態の架橋性フルオロポリマーを含む、組成物において。一実施形態において、コーティング層が不動態化層である。コーティング層は、薄膜トランジスタ、有機電界効果トランジスタ、半導体、酸化物半導体電界効果トランジスタ、集積回路、発光ダイオード(light emitting diode、LED)、有機LEDを含むLED用バンク層、ディスプレイデバイス、フレキシブル回路、ソルダーマスク、光起電装置、プリント基板、層間絶縁膜、光波ガイド、微小電気機械システム(micro electromechanical system、MEMS)、電子ディスプレイデバイスの層又はマイクロ流体デバイス若しくはチップの層における、バリア層及び/又は絶縁層として使用できる。コーティング層を形成した後に架橋性フルオロポリマーが架橋される実施形態では、コーティング層は、エレクトロウェッティング用途のためのパターン化表面の形態にある層を形成することができる。こうした架橋コーティング組成物により、非常に小さい光架橋形成部が提供でき、また、低誘電率、低吸水性、高い油接触角、及び電子デバイス基材への良好な接着性が提供される。
【0024】
本開示は、以下のモノマー:すなわち、(a)テトラフルオロエチレン、(b)本明細書で後述するフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)、(c)本明細書で後述するアルキルビニルエーテル、及び(d)本明細書で後述するエチレン性不飽和シランに由来する繰り返し単位から本質的になる架橋性フルオロポリマーを含む。
【0025】
架橋性フルオロポリマーは、フルオロポリマー中の繰り返し単位の総量に基づいて、40~59モルパーセントのテトラフルオロエチレン及びフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)由来の繰り返し単位から本質的になり、いくつかの実施形態では42~58モルパーセントのそのような繰り返し単位、いくつかの実施形態では45~55モルパーセントのそのような繰り返し単位から本質的になる。
【0026】
架橋性フルオロポリマーは、フルオロポリマー中の繰り返し単位の総量に基づいて、40~59モルパーセントのアルキルビニルエーテル由来の繰り返し単位から本質的になり、いくつかの実施形態では42~58モルパーセントのそのような繰り返し単位、いくつかの実施形態では45~55モルパーセントのそのような繰り返し単位から本質的になる。
【0027】
架橋性フルオロポリマーは、フルオロポリマー中の繰り返し単位の総量に基づいて、0.2~10モルパーセントのエチレン性不飽和シラン由来の繰り返し単位から本質的になり、いくつかの実施形態では1.2~8モルパーセントのそのような繰り返し単位、いくつかの実施形態では1.4~7モルパーセントのそのような繰り返し単位から本質的になる。
【0028】
いくつかの実施形態において、架橋性フルオロポリマーは、前述の量のテトラフルオロエチレンと、フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)と、アルキルビニルエーテルと、アルケニルシランと、からなる。
【0029】
本発明の架橋性フルオロポリマー中の、テトラフルオロエチレンに由来する繰り返し単位の、フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)に対する相対モル比は、10:1~1:10の範囲であり、別の実施形態では10:1~1:9、別の実施形態では10:1~1:8、別の実施形態では10:1~1:7、別の実施形態では10:1~1:6、別の実施形態では10:1~1:5、別の実施形態では10:1~1:4、別の実施形態では10:1~1:3、別の実施形態では10:1~1:2、別の実施形態では10:1~1:1、別の実施形態では5:1~1:1、別の実施形態では5:1~1.5:1、別の実施形態では3:1~1.5:1;別の実施形態では、1:1.5~1.5:1、別の実施形態では、1:1.4~1.4:1、別の実施形態では、1:1.3~1.3:1、別の実施形態では、1:1.2~1.2:1、別の実施形態では、約1:1である。
【0030】
本発明の架橋性フルオロポリマーは、モノマー(b)であるフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)に由来する繰り返し単位を含有する。本明細書で使用される「又は」という用語は、包括的であり、本発明の架橋性フルオロポリマーが、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、又はフルオロ(アルキルエチレン)、又はフルオロ(アルキルビニルエーテル)とフルオロ(アルキルエチレン)との組み合わせに由来する繰り返し単位を含有できることを意味する。一実施形態では、フルオロ(アルキルビニルエーテル)及びフルオロ(アルキルエチレン)は、一般式:
CXY=CZ-Oa-RF
で表すことができる。式中、
・aは、0(フルオロ(アルキルエチレン)の実施形態)又は1(フルオロ(アルキルビニルエーテル)の実施形態)のいずれかであり、
・X、Y及びZは、H及びFから独立して選択され、好ましくは全てFであり(トリフルオロビニル)、
・RFは、一実施形態では1~40個の炭素原子、別の実施形態では1~10個の炭素原子、好ましい実施形態では1~3個の炭素原子を有する飽和フルオロアルキルラジカルである。好ましい実施形態では、RFは、過フッ素化されている。RFは、直鎖状、分岐状又は環状であり得る。任意選択的な実施形態において、RFは、エーテル酸素で置換されている。一実施形態では、酸素含有フルオロアルキルラジカルは、主鎖中の酸素原子が、1~3個の炭素原子を有する飽和フルオロカーボン繰り返し基、好ましくはパーフルオロカーボン基によって分離されている飽和鎖構造を有することを特徴とし、その例としては、-CF2O-、-CF2CF2O-、-CF2CF2CF2O-、及び-CF(CF3)CF2O-が挙げられ、これらは単独で又は共に存在し得る。一実施形態において、X、Y及びZはHであり、aは0であり、RFラジカルは、フルオロ(アルキルエチレン)のエチレン基に結合した-CH2-O-CH2-部分を含む。例えば、フルオロ(アルキルエチレン)は、式CH2=CH-CH2-O-CH2-RFで表される。
【0031】
フルオロ(アルキルビニルエーテル)の例としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(n-ブチルビニルエーテル)、CF3(CF2)7OCF=CF2、CF2=CFOCF(CF3)CF2OCF2CF2CF3、CF3OCF2OCF2OCF2CF2OCF=CF2、C3F7OCF(CF3)CF2OCF=CF2、CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF=CF2(式中、nは整数であり、好ましくは3~7である)などが挙げられる。フルオロ(アルキルエチレン)の例としては、CF3(CF2)nCF=CF2(式中、nは0又は整数であり、好ましくは1~10である)、及びCF3(CF2)nCH=CH2(式中、nは0又は整数であり、好ましくは1~10である)が挙げられる。アリル基を含有するフルオロ(アルキルエチレン)の例としては、CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CH2OCH2CH=CH2(式中、nは整数であり、好ましくは10~12であるか、あるいはnは20~24の整数である)、及び(CF3CF(CF3)O(CF2O)nCF(CF3)CH2OCH2CH=CH2(式中、nは整数であり、好ましくは1~5である)が挙げられる。
【0032】
本発明の架橋性フルオロポリマーは、モノマー(c)であるアルキルビニルエーテルに由来する繰り返し単位を含有する。本明細書で使用する場合、アルキルビニルエーテルは、アルキル基がC1~C6直鎖飽和炭化水素ラジカル又はC3~C6分岐鎖若しくは環状飽和炭化水素ラジカルであるものである。例となるアルキルビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、sec-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、n-ペンチルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、及びシクロヘキシルビニルエーテルがある。いくつかの実施形態では、アルキルビニルエーテルは、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、又はこれらの組み合わせからなる、又は本質的になる。
【0033】
本発明の架橋性フルオロポリマーは、モノマー(d)であるエチレン性不飽和シランに由来する繰り返し単位を含有する。一実施形態では、エチレン性不飽和シランは、式SiR1R2R3R4で表され、式中、R1は、エチレン性不飽和炭化水素ラジカルであり、R2及びR3は、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換のアリール置換炭化水素ラジカル、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルコキシラジカル、置換若しくは非置換の環状アルコキシラジカル、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルキルラジカル、又は置換若しくは非置換の環状アルキルラジカルから独立して選択され、R4は、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状アルコキシラジカル、又は、置換若しくは非置換の環状アルコキシラジカルである。
【0034】
好ましい実施形態では、エチレン性不飽和シランは、式SiR1R2R3R4で表され、R1は、エチレン性不飽和炭化水素ラジカルであり、R2は、アリール、アリール置換炭化水素ラジカル、分岐状C3~C6アルコキシラジカル、又は置換若しくは非置換の環状C5~C6アルコキシラジカルであり、R3及びR4は、直鎖状若しくは分岐状C1~C6アルコキシラジカル、又は置換若しくは非置換の環状C5~C6アルコキシラジカルから独立して選択される。
【0035】
一実施形態では、エチレン性不飽和シランのR1エチレン性不飽和炭化水素ラジカルは、他の必要なモノマーである、テトラフルオロエチレン、フルオロ(アルキルビニルエーテル)又はフルオロ(アルキルエチレン)、及びアルキルビニルエーテルと共に架橋性フルオロポリマー主鎖に生産的に共重合できる、不飽和炭化水素ラジカルである。いくつかの実施形態では、エチレン性不飽和炭化水素ラジカルは、2~5個の炭素原子を有するものである。いくつかの実施形態では、エチレン性不飽和炭化水素ラジカルは、エテニル(ビニル)、2-プロペニル(アリル)、1-プロペニル、2-ブテニル、1,3-ブタジエニル、2-ペンテニルなどである。好ましい実施形態では、エチレン性不飽和炭化水素ラジカルはエテニルである。
【0036】
一実施形態では、エチレン性不飽和シランのR2ラジカルは、アリール、アリール置換炭化水素ラジカル、分岐状C3~C6アルコキシラジカル、又は置換若しくは非置換の環状C5~C6アルコキシラジカルである。R2ラジカルは、シランのケイ素原子に結合した比較的立体的に嵩高い置換基となるように本発明者によって選択された。これは本発明者によって発見されたものであり、生産的な共重合及びエチレン性不飽和炭化水素ラジカルを介してアルケニルシランを架橋性フルオロポリマー主鎖に組み込むことが可能となり、更に、例えば、周囲温度及び特別な対策をしないで少なくとも三ヶ月の間、有機溶媒中で溶解したままとなり、かつ不所望にゲルを形成しないような(例えば、シランアルコキシラジカルの加水分解とそれに続くケイ素-酸素架橋(例えば、-Si-O-Si-)によってゲルを形成しない)相安定貯蔵期間を有するフルオロポリマーをもたらす。一実施形態では、R2は、アリール、例えば、フェニル、ナフチルなどである。別の実施形態では、R2は、アリール置換炭化水素ラジカル、例えば、ベンジル、-CH2CH2C6H5などである。別の実施形態では、R2は、分岐状C3~C6アルコキシラジカルである。別の実施形態では、R2は、置換又は非置換の環状C5~C6アルコキシラジカルである。例となるR2ラジカルとしては、イソプロポキシ(-OCH(CH3)CH3、2-プロポキシ)、イソブトキシ(1-メチルプロポキシ、-OCH(CH3)CH2CH3)、secブトキシ(2-メチルプロポキシ、-OCH2CH(CH3)CH3))、tertブトキシ(2-メチル-2-プロポキシ、-OC(CH3)3))などがある。好ましい実施形態では、R2は、イソプロポキシである。
【0037】
一実施形態では、エチレン性不飽和シランのR3及びR4ラジカルは、直鎖状若しくは分岐状C1~C6アルコキシラジカル、又は置換若しくは非置換の環状C5~C6アルコキシラジカルから独立して選択される。一実施形態では、R3及びR4は同一である。
【0038】
一実施形態では、エチレン性不飽和シランは、R2、R3及びR4ラジカルが同一であるトリアルコキシシランである。
【0039】
エチレン性不飽和シランの例としては、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリイソプロポキシシラン、ブテニルトリイソプロポキシシラン、及びビニルフェニルジメトキシシランが挙げられる。好ましい実施形態では、エチレン性不飽和シランは、ビニルトリイソプロポキシシランである。いくつかの実施形態において、エチレン性不飽和シランは、ビニルトリイソプロポキシシランからなる、又はビニルトリイソプロポキシシランから本質的になる。このようなエチレン性不飽和シランは、例えば、Gelest Inc.(Morrisville、PA、USA)から市販されている。
【0040】
いくつかの実施形態によれば、架橋性フルオロポリマーは、10,000~350,000ダルトンの重量平均分子量を有する。他の実施形態によれば、架橋性フルオロポリマーは、100,000~350,000ダルトンの重量平均分子量を有する。他の実施形態では、架橋性フルオロポリマーの重量平均分子量は、重量平均分子量の最小値から重量平均分子量の最大値までを含む範囲内であり得るが、その最小値は、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、100,000、110,000、120,000、125,000、130,000、140,000、150,000、160,000、又は170,000ダルトンであり、かつ最大値は、350,000、340,000、330,000、320,000、310,000、又は300,000ダルトンであり得る。一実施形態では、架橋性フルオロポリマーは、200,000ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0041】
本発明の架橋性フルオロポリマーは、公知の方法に従って生成することができる。いくつかの実施形態では、モノマーを、溶媒を使用せずに重合してもよく、別の実施形態では、モノマーを、溶媒中で重合してもよく、この溶媒は、架橋性フルオロポリマー用溶媒であってもなくてもよい。他の実施形態では、架橋性フルオロポリマーは、モノマーのエマルション重合によって生成されてよい。所望の架橋性フルオロポリマーを生成するため、モノマー、少なくとも1つのフリーラジカル反応開始剤、及び任意選択的に酸受容体をオートクレーブに投入し、大気圧から1,500気圧の高さまでの圧力において、10分間~24時間、25~200℃の温度まで加熱してよい。次に、得られた生成物をオートクレーブから取り出し、濾過、洗浄、及び乾燥して架橋性フルオロポリマーを得ることができる。
【0042】
架橋性フルオロポリマーを製造するための重合方法に使用される好適なフリーラジカル反応開始剤は、任意の既知のアゾ系及び/又は過酸化物型の反応開始剤であってよい。例えば、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)ジカルボネート、ジ-t-過酸化ブチル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、2,2-アゾジイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル-2,2-アゾビス(イソブチレート)、又はこれらの組み合わせを使用してよい。使用できるフリーラジカル反応開始剤の量は、モノマー混合物中のモノマーの総量に基づき、0.05~4重量%の範囲内である。他の実施形態では、使用されるフリーラジカル反応開始剤の量は、0.1~3.5重量%であり、なお更なる実施形態では、0.2~3.25重量%である。全ての重量%は、モノマー混合物中のモノマーの総量に基づく。
【0043】
酸受容体は、架橋性フルオロポリマーを形成するための重合方法においても使用することができる。酸受容体は、金属炭酸塩又は金属酸化物、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、又はこれらの組み合わせであってよい。酸受容体は、0~5重量%で存在し得る。他の実施形態では、酸受容体は、0.1~4重量%で存在してよく、なお更なる実施形態では、0.2~3重量%で存在してよい。全ての重量%は、モノマー混合物中のモノマーの総量に基づく。酸受容体は、フッ素化モノマー中に存在し得る、又は、重合工程中に発生し得る、フッ化水素などの酸を中和するために存在する。
【0044】
一実施形態において、本開示は、i)本発明の架橋性フルオロポリマーと、ii)キャリア媒体とを含む、架橋性フルオロポリマーコーティングを形成するためのコーティング組成物に関する。別の実施形態では、本開示は、i)本発明の架橋性フルオロポリマーと、ii)光酸発生剤と、iii)任意選択的な光増感剤と、iv)キャリア媒体と、を含む、光架橋フルオロポリマーコーティングを形成するためのコーティング組成物に関する。コーティング組成物はまた、任意選択的に、v)添加剤を含んでもよい。コーティング組成物により、基材上への架橋性フルオロポリマーの連続コーティングの製造が可能となる。任意選択的に、連続コーティングの形成に続いて、架橋性フルオロポリマーを架橋することができる。コーティング組成物は、単に、構成成分を所望の割合で、室温で混合することによって調製することができる。コーティング組成物の主成分は、架橋性フルオロポリマー及びキャリア媒体である。一般に、コーティング組成物は、5~35重量%の架橋性フルオロポリマーと、65~95重量%のキャリア媒体とを含む。架橋性フルオロポリマーが35重量%を超えると、コーティング組成物の粘度が、室温でコーティングするのが困難なほどになる。架橋性フルオロポリマーが5重量%を下回ると、(1つのコートのコーティングプロセスにおいて)生成されるフィルムの厚さが、コーティング層として有用であるには薄すぎとなる。いくつかの実施形態では、コーティング組成物は、10~30重量%の架橋性フルオロポリマーと、70~90重量%のキャリア媒体と、を含む。架橋性フルオロポリマーが光架橋される実施形態では、本発明のコーティング組成物は、光酸発生剤を更に含む。好適なii)光酸発生剤は、当該技術分野において既知であり、例えば、(p-イソプロピルフェニル)(p-メチルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)-ボレート、IRGACURE(登録商標)GSID-26-1(トリス[4-(4-アセチルフェニル)スルファニルフェニル]スルホニウム及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドの塩であり、BASF(Florham Park,New Jersey)から入手可能)、トリス[(トリフルオロメタン)スルホニル]メタンとのビス(1,1-ジメチルエチルフェニル)ヨードニウム塩(これもBASFから入手可能)、ビス(4-デシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートオキシラン、モノ[(C12~C14-アルコキシ)メチル]誘導体(MomentiveからUV9387Cとして入手可能)、4,4’,4’’-トリス(t-ブチルフェニル)スルホニウムトリフレート、4,4’-ジ-t-ブチルフェニルヨードニウムトリフレート、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)スルホニウムボレート、トリアリールスルホニウム-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)スルホニウムボレート、4,4’-ジ-t-ブチルフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリス(t-ブチルフェニル)スルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。IRGACURE(登録商標)GSID-26-1光酸発生剤は、光増感剤を別に加える必要がないため、特に有用である。光酸発生剤は、コーティング組成物中に、コーティング組成物の総量からキャリア媒体の量を差し引いた量に基づいて、0.01~5重量%の量で存在してよい。他の実施形態では、光酸発生剤は、コーティング組成物の総量からキャリア媒体を差し引いた量に基づいて、0.1~2重量%で存在してもよく、また更なる実施形態では、0.3~1.0重量%の量で存在し得る。
【0045】
架橋性フルオロポリマーが光架橋される実施形態では、本発明の光架橋フルオロポリマーコーティングを形成するためのコーティング組成物は、任意選択的にiii)光増感剤を更に含んでいてもよい。好適な光増感剤としては、例えば、クリセン、ベンツピレン、フルオラントレン、ピレン、アントラセン、フェナントレン、キサントン、インダントレン、チオキサンテン-9-オン、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。いくつかの実施形態では、光増感剤は、2-イソプロピル-9H-チオキサンテン-9-オン、4-イソプロピル-9H-チオキサンテン-9-オン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、フェノチアジン、又はこれらの組み合わせであってよい。任意選択的な光増感剤は、コーティング組成物の総量からキャリア媒体の量を差し引いた量に基づいて、0~5重量%の量で使用してよい。他の実施形態では、光増感剤は、コーティング組成物中に、0.05~2重量%の量で、なお更なる実施形態では、0.1~1重量%の量で存在してよい。本コーティング組成物中の光酸発生剤及び光増感剤について報告された全ての重量%は、コーティング組成物中の固体成分の総重量に基づく。
【0046】
架橋性フルオロポリマーコーティングを形成するためのコーティング組成物は、典型的には、iv)キャリア媒体(溶媒)に、コーティング組成物を溶解させた溶液又は分散させた分散液として、基材の少なくとも一部分に塗布される。これにより、コーティング組成物の層が塗布可能となり、基材上にコーティング組成物の滑らかで欠損を含まない層が得られる。好適なキャリア媒体としては、例えば、ケトン、エーテル、エーテルエステル、及びハロカーボンを挙げることができる。いくつかの実施形態では、キャリア媒体は、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン;エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、ペンチルアセテート、シクロヘキシルアセテート、ヘプチルアセテート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、イソブチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メチルラクテート、エチルラクテート、γ-ブチロラクトンなどのエステル;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、アニソールなどのエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロカーボン;又は列挙したキャリア媒体のそれらの組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態では、キャリア媒体は、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、又はこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、溶媒は未反応溶媒であり、これは、キャリア媒体が、硬化工程後に光架橋コーティングの一部にならないことを意味する。
【0047】
コーティング組成物はまた、v)1種以上の任意選択的な添加剤も含んでよい。好適な添加剤としては、例えば、粘度調整剤、充填剤、分散剤、結合剤、界面活性剤、消泡剤、湿潤剤、pH調整剤、殺生物剤、制菌剤、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。このような添加剤は、当該技術分野において周知である。典型的には、添加剤は、コーティング組成物の10重量%未満をなす。
【0048】
また本開示は、一実施形態において、架橋コーティングを形成するための熱プロセスに関し、この熱プロセスは、(1)光架橋性コーティング組成物を提供する工程であって、光架橋性コーティング組成物は、i)本明細書において先に定義された架橋性フルオロポリマーと、ii)キャリア媒体と、を含む、工程と、(2)架橋性コーティング組成物の層を基材の少なくとも一部分の上に塗布する工程と、(3)キャリア媒体の少なくとも一部分を除去する工程と、(4)光架橋性コーティング組成物の塗布層を加熱して、架橋性フルオロポリマーを熱架橋する工程と、を含む。(4)の加熱する工程は、空気又は不活性雰囲気下、周囲温度~最大250℃の温度で、平均的な実施者が容易に決定することができる期間にわたって、典型的には、高温では数分~周囲条件下では数日にわたって、実施することができる。別の実施形態では、加熱は、60~150℃の温度において実施してよく、なお更なる実施形態では、80~130℃の温度において実施してよい。コーティング組成物を、高温に約15秒間~約10分間曝露してよい。別の実施形態では、この時間は、30秒間~5分間であってよく、なお更なる実施形態では、1分間~3分間であってよい。
【0049】
本開示は、一実施形態において、架橋コーティングを形成するための酸触媒プロセスに更に関し、この酸触媒プロセスは、(1)光架橋性コーティング組成物を提供する工程であって、光架橋性コーティング組成物は、i)本明細書において先に定義された架橋性フルオロポリマーと、ii)キャリア媒体と、iii)酸触媒と、を含む、工程と、(2)架橋性コーティング組成物の層を基材の少なくとも一部分の上に塗布する工程と、(3)キャリア媒体の少なくとも一部分を除去する工程と、(4)任意選択的に、光架橋性コーティング組成物の塗布層を加熱して、架橋性フルオロポリマーを架橋する工程と、を含む。(4)の加熱する工程は、空気又は不活性雰囲気下、周囲温度~最大250℃の温度で、平均的な実施者が架橋性フルオロポリマーを適切に架橋するために容易に決定することができる期間にわたって、典型的には、高温では数分~周囲条件下では数日にわたって、実施することができる。酸触媒は、架橋コーティングの望ましい特性に悪影響を及ぼすことなく、本発明の架橋性フルオロポリマーの架橋を生産的に触媒する、任意の酸であってよい。酸触媒の例としては、硫酸及びトリフルオロ酢酸が挙げられる。一実施形態において、酸触媒は、四酢酸チタン(IV)などのチタン(IV)ルイス酸などのルイス酸を含むことができる。
【0050】
また本開示は、一実施形態において、光架橋コーティングを形成するためのプロセスに関し、このプロセスは、(1)光架橋性コーティング組成物を提供する工程であって、光架橋性コーティング組成物は、i)本明細書において先に定義された架橋性フルオロポリマーと、ii)光酸発生剤と、iii)任意選択的な光増感剤と、iv)キャリア媒体と、を含む、工程と、(2)光架橋性コーティング組成物の層を基材の少なくとも一部分上に塗布する工程と、(3)キャリア媒体の少なくとも一部分を除去する工程と、(4)光架橋性コーティング組成物の層の少なくとも一部分を紫外線で照射する工程と、(5)光架橋性コーティング組成物の塗布層を加熱する工程と、(6)未架橋の架橋性フルオロポリマーの少なくとも一部分を除去する工程と、を含む。
【0051】
コーティング組成物の塗布層の厚さは、0.5~15マイクロメートルである。いくつかの実施形態では、コーティング組成物の塗布層の厚さは、1~15マイクロメートルである。いくつかの実施形態では、コーティング組成物の塗布層の厚さは、4~10マイクロメートルである。
【0052】
本発明のコーティング組成物の層は、導電性材料、半導性材料、及び/又は非導電材料などの、様々な基材に塗布できる。例えば、基材は、ガラス、ポリマー、無機半導体、有機半導体、酸化スズ、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化インジウム、酸化インジウム亜鉛、酸化亜鉛スズ、酸化インジウムガリウム、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、酸化インジウムガリウム亜鉛、酸化インジウムスズ亜鉛、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、窒化ケイ素、銅、アルミニウム、金、チタン、又はこれらの組み合わせであってよい。本発明の架橋性コーティング組成物の層を、スピンコーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、カーテンコーティング、ローラーコーティング、ブラッシング、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、リソグラフ印刷、ディップコーティング、ブレードコーティング又はドロップコーティング法によって塗布できる。スピンコーティングは、過剰量の本発明のコーティング組成物を基材に塗布し、その後、基材を高速で回転させて遠心力で組成物を広げることを含む。得られるフィルムの厚さは、スピンコーティング速度、本発明のコーティング組成物中の架橋性フルオロポリマーの濃度、及び使用したキャリア媒体に依存し得る。温度、圧力、及び湿度などの周囲条件も、コーティング組成物の塗布層の厚さに影響し得る。
【0053】
基材への塗布後であって、コーティング組成物を熱架橋する実施形態においては加熱する工程の前、また、コーティング組成物を光架橋する実施形態においては照射(光架橋)の前において、コーティング組成物の塗布層の高温への曝露、大気圧未満の圧力への曝露、塗布層上への直接的若しくは間接的ガス吹き込み、又はこれらの方法の組み合わせを用いて、キャリア媒体の少なくとも一部分を除去できる。例えば、空気中又は任意選択的に少量の窒素ガスをパージした真空オーブン中で、コーティング組成物の塗布層を加熱してよい。別の実施形態では、キャリア媒体を除去するため、コーティング組成物の塗布層を短時間、一般的には数分の間、60~110℃の温度に加熱してよい。
【0054】
コーティング組成物が光架橋される実施形態では、架橋性コーティング組成物の塗布層の少なくとも一部分を、光への曝露によって照射(すなわち、光架橋)することができる。光は、典型的には、150~500ナノメートル(nm)の波長の紫外線(ultraviolet、UV)光である。いくつかの実施形態では、紫外線は、200~450nmの波長であってよく、別の実施形態では、325~425nmの波長であってよい。なお更なる実施形態では、曝露は、複数の波長への曝露によって、又は、選択した波長、例えば、404.7nm、435.8nm、若しくは365.4nmの照射によって実行されてよい。多くの好適なUVランプがこの業界で既知であり、それを使用できる。
【0055】
架橋性コーティング組成物は、UV-A光を用いて光架橋できる。光源への総曝露量が、10ミリジュール/センチメートル2(ミリジュール/cm2)~10,000ミリジュール/cm2であるとき、架橋を達成できる。他の実施形態では、紫外線曝露量は、50~600ミリジュール/cm2であり得る。曝露を、空気又は窒素雰囲気中で実施してよい。
【0056】
任意選択的に、架橋形成部を形成するため、架橋性コーティング組成物の塗布層の少なくとも一部分を照射し、照射された部分のみにおいて架橋プロセスを開始させてよい。架橋性コーティング組成物の塗布層をマスクしてもよく、又は、集光光源を用いて照射工程を実施し、架橋される部分にのみ光が接触するようにしてもよい。これらの手法は、当該技術分野において周知である。例えば、マスクを、架橋性コーティング組成物の塗布層に直接施してもよい。この方法は、密着焼きとして知られている。近接プリンティングと呼ばれる別の実施形態では、マスクを、実際に層に接触させずに、架橋性コーティング組成物の塗布層のわずかに上方に保持する。第三の実施形態では、露光装置が光を正確に投射し、収束させるため、実際の物理的なマスクが不要である。いくつかの実施形態では、マスクは、クロム又は他の金属製マスクであってよい。
【0057】
UV光への曝露後、コーティング組成物の層を加熱してもよい。加熱する工程は、60~150℃の温度において実施してよい。別の実施形態では、加熱は、60~130℃の温度において実施してよく、なお更なる実施形態では、80~約110℃の温度において実施してよい。コーティング組成物を、高温に約15秒間~約10分間曝露してよい。別の実施形態では、この時間は、30秒間~5分間であってよく、なお更なる実施形態では、1分間~3分間であってよい。
【0058】
コーティング組成物が加熱されれば、未架橋の架橋性フルオロポリマーを溶解するキャリア媒体中に溶解させることによって、未架橋の光架橋性コーティング組成物を除去してよい。場合によっては、除去工程後に少量の未架橋の架橋性コーティング組成物が残る場合がある。そのような残ったフルオロポリマーは、必要に応じてプラズマ又は第2の洗浄工程を用いて除去してよい。キャリア媒体は、架橋性フルオロポリマーの溶媒及び非溶媒の混合物であってよい。いくつかの実施形態では、溶媒対非溶媒の比率は、1:0~3:1であってよい。別の実施形態では、溶媒対非溶媒の比率は、1:0.1~3:1であってよい。溶媒は、(未架橋の)架橋性フルオロポリマーの溶媒和能を有する、キャリア媒体として挙げられるもののうちの任意のものであってよい。いくつかの実施形態では、溶媒は、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、又はこれらの組み合わせであってよい。別の実施形態では、非溶媒は、ヘキサン及び/又はイソプロパノールであってよい。いくつかの実施形態では、未架橋の光架橋性コーティング組成物を除去するための溶媒の適用は、段階的に実施することができる。一実施形態では、2工程プロセスを使用することができるが、その第1の工程は溶媒によって又は溶媒と非溶媒との混合物によって処理することを伴い、第2の工程は、非溶媒によって又は溶媒と非溶媒との混合物によって処理することを伴う。別の実施形態では、多工程プロセス、例えば3工程プロセスを使用することができ、その第1の工程は溶媒によって処理することを伴い、第2の工程は、溶媒と非溶媒との混合物によって処理することを伴い、第3の工程は、非溶媒によって処理することを伴う。
【0059】
いくつかの実施形態では、溶媒を使用して未架橋の架橋性コーティング組成物を除去した後、架橋コーティング組成物の塗布層を含有する基材を、最終的に熱硬化させてよいが、この工程は、この分野において「ハードベーク」と呼ばれることもある。この加熱工程は、本発明の架橋コーティング組成物に対して、170℃~210℃、好ましくは190℃の温度で、0.5~3時間にわたって実施することができる。他の実施形態では、この加熱工程は、更に高温で、比較的短い時間にわたって実行することができるが、ただしこの高い温度が、コーティングされた基材に悪影響を及ぼさないことを条件とする。最終的なハードベーク工程は、基材上に最終的な架橋コーティング組成物を提供し、その結果得られた電子デバイスは、必要に応じて更に加工処理することができる。
【0060】
また本開示のコーティング層は、発光ダイオード中でバンク層として使用することもできる。この特定の用途では、例えば、有機発光ダイオードを用いるディスプレイデバイスの製造において、コーティング層を用いて、1つのダイオードを別のものと分離することができ、バンク層は、赤色、青色、及び緑色発光ダイオードを分離するバリア層としての機能を果たし得る。コーティング層は、有機発光ダイオードのバンク層として特に有用であり得る。
【0061】
一実施形態において、本開示は、基材の少なくとも一部分に配置された架橋コーティング組成物の層を含むコーティング層に関する。
【0062】
本発明のコーティング組成物は、1MHzで測定した場合、約2.0~約3.0の誘電率を有する。2.0に近い誘電率値は、コーティングを形成するために使用されるフルオロポリマーのフッ素含有量を最大化することによって得ることができる。一実施形態では、これは、フッ素化モノマー(すなわち、テトラフルオロエチレン、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、フルオロ(アルキルエチレン))に由来する架橋性フルオロポリマー中の繰り返し単位の量を、他のモノマー(すなわち、アルキルビニルエーテル及びエチレン性不飽和シラン)に由来する繰り返し単位の量に対して、本明細書で先に開示した範囲内で最大化することによって達成することができる。
【0063】
本発明のコーティング組成物は、架橋されているか否かにかかわらず、驚くべきことに、少なくとも38、好ましくは少なくとも40、より好ましくは少なくとも50の油接触角を有する。本発明のコーティング組成物は、架橋されているか否かにかかわらず、少なくとも99、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも110の水接触角を有する。本発明のコーティングの接触角は、本開示の実施例に記載される方法によって測定される。マイクロ流体デバイス(バイオセンサ)、及びエレクトロウェッティング式電子ディスプレイなどのコーティング用途の場合、接触角を最大化することが望ましい。高い接触角は、コーティングを形成するために使用されるフルオロポリマーのフッ素含有量を最大化することによって得ることができる。
【0064】
本発明のコーティングは、架橋されているか否かにかかわらず、一実施形態では、0.5~15マイクロメートルの厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、コーティング組成物の塗布層の厚さは、1~15マイクロメートルである。いくつかの実施形態では、コーティング組成物の塗布層の厚さは、4~10マイクロメートルである。一実施形態において、光架橋コーティングは、約0.5マイクロメートル以上の幅を有する光架橋形成部(ビア)を任意選択的に有する。
【0065】
一実施形態において、本発明のコーティングは、90%~10%の相対湿度、標準温度で、動的蒸気吸着によって測定したときに、約0.01~約0.8重量%の範囲の吸水率を有する。
【実施例】
【0066】
化学薬品の供給元:
a)PGMEA(1-メトキシ-2-プロピルアセテート、リソグラフィ等級、JT Baker、JTB-6343-05、Center Valley、PA)
b)ビニルトリイソプロポキシシラン(Gelest Chemicals(Morrisville、PA)製、SIV9210)
c)Solkane 365mfc(Solvay)
d)エチルビニルエーテル(Alfa Aesar(Ward Hill、MA)製、A15691-0F)
e)無水炭酸カリウム(EMD(Philadelphia、PA)製、PX1390-1)
f)V-601反応開始剤、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート(Wako Chemicals、Richmond、Virginia)
他のモノマー(文献の方法によりChemoursが製造):PPVE(パーフルオロ(プロピルビニルエーテル))、PMVE(パーフルオロ(メチルビニルエーテル))、C3F7OCF(CF3)CF2OCF=CF2、CF3(CF2)7OCF=CF2、CF3(CF2)4CF=CF2、2VE(CF3OCF2OCF2OCF2CF2OCF=CF2)、AE2(CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CH2OCH2CH=CH2)、n=10~12の化合物の混合物)、AE4(CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CH2OCH2CH=CH2)、n=22~24の化合物の混合物)、KVE(CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF=CF2)、n=5。
【0067】
比較合成例1(CE1):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
400mLのオートクレーブを-20Cに冷却し、次いで0.5gのK2CO3、0.24gのV601、3.2gのビニルトリイソプロポキシシラン、36gのエチルビニルエーテル、及び250gのSolkane 365mfcを投入する。オートクレーブを排気し、50gのTFEを更に投入する。反応混合物を振盪し、66Cに加熱する。オートクレーブ中の圧力を、最大173PSIgまで上げ、8時間後に34PSIgまで低下させる。冷却すると、粘稠液体(298g)が得られ、これを300mLの瓶に移す。ポリマー溶液に100gのアセトンを添加し、次いで混合物を均一な溶液になるまでロールミルにて回転させる。次いで、ポリマー溶液をNordsonフィルターカートリッジに移し、30PSIの空気圧下で0.2~0.45μmのミクロポアフィルター(Whatman Polycap HD 2610T)を通過させる。濾過後のポリマー溶液をPFTEフィルムで被覆した(lined with)皿に集め、真空オーブン中で3日間乾燥させた。61.0gの乾燥ポリマーが得られた。核磁気共鳴分光法(nuclear magnetic resonance spectroscopy、NMR)(19F及び1H NMR)により、TFE 50.7モル%、エチルビニルエーテル 47.5モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン 1.8モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのサイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography、SEC)により、Mn=1.22×105、Mw=1.71×105であることが示される。
【0068】
合成例1(SE1):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/PPVE/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
400mLのオートクレーブを-20℃未満に冷却し、0.5gのK2CO3、0.24gのV601、3.2gのビニルトリイソプロポキシシラン、36gのエチルビニルエーテル、及び250gのSolkane 365mfcを投入する。オートクレーブを排気し、更に50gのTFE及び5gのパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)を投入する。反応混合物を振盪し、66Cに加熱する。オートクレーブ中の圧力を、最大200PSIgまで上げ、8時間後に76PSIgまで低下させる。冷却すると、粘稠液体(305g)が得られ、これを300mLの瓶に移し、100gのアセトンを添加する。この溶液をロールミルにて均一になるまで回転させる。溶液をNordsonフィルターカートリッジに移し、30PSIの空気圧下で0.2~0.45μmのミクロポアフィルター(Whatman Polycap HD 2610T)を通過させる。濾過後のポリマー溶液をPFTEフィルムで被覆した皿に集めた後、真空オーブン中で3日間乾燥させる。62.0gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 48.6モル%、エチルビニルエーテル48.1モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.6モル%、及びPPVE 1.7モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのSECにより、MN=119,540、Mw=179,700であることが示される。
【0069】
合成例2(SE2):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/PPVE/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、20gのパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)をTFEと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大190PSIgまで上げ、8時間後に32PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(327g)が得られる;真空乾燥後、82.0gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 43.1モル%、エチルビニルエーテル48.3モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.8モル%、及びPPVE 6.7モル%のポリマー組成が示される。
【0070】
合成例3(SE3):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/PPVE/ビニルトリイソプロポキシシラン)(30g PPVE)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、30gのパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)をTFEと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大200PSIgまで上げ、8時間後に76PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(340g)が得られる;真空乾燥後、78.8gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 40.1モル%、EVE 47.8モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.8モル%、及びPPVE 9.8モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのSECにより、Mn=87,630、Mw=141,530であることが示される。
【0071】
合成例4(SE4):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/PPVE/ビニルトリイソプロポキシシラン)(53.2g PPVE)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、53.2gのパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)をTFEと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大176PSIgまで上げ、8時間後に36PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(366g)が得られる;真空乾燥後、93.2gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 28.9モル%、エチルビニルエーテル48.9モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.3モル%、及びPPVE 20.5モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのSECにより、MN=7.42x104、Mw=1.08x105であることが示される。
【0072】
合成例5(SE5):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/PMVE/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、40gのパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)をTFEと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大189PSIgまで上げ、8時間後に42PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(305g)が得られる;真空乾燥後、65.1gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 32.0モル%、EVE 47.4モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.7モル%、及びPMVE 18.8モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのSECにより、Mn=118,000、Mw=172,000であることが示される。
【0073】
合成例6(SE6):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/2VE/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、5gのCF3OCF2OCF2OCF2CF2OCF=CF2(2VE)を、K2CO3、ビニルトリイソプロポキシシラン、エチルビニルエーテル及びSolkane 365mfcと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大196PSIgまで上げ、8時間後に45PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(300g)が得られる;真空乾燥後、42.1gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 49.1モル%、EVE 47.5モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.6モル%、及び2VE 0.8モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのSECにより、Mn=98,330、Mw=140,870であることが示される。
【0074】
合成例7(SE7):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/CF3(CF2)7OCF=CF2/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、5gのCF3(CF2)7OCF=CF2を、K2CO3、ビニルトリイソプロポキシシラン、エチルビニルエーテル及びSolkane 365mfcと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大188PSIgまで上げ、8時間後に140PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(298g)が得られる;真空乾燥後、59.5gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 48.7モル%、エチルビニルエーテル48.5モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.7モル%、及びCF3(CF2)7OCF=CF2 0.8モル%のポリマー組成が示される。
【0075】
合成例8(SE8):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/CF3(CF2)4CF=CF2/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、5gのCF3(CF2)4CF=CF2を、K2CO3、ビニルトリイソプロポキシシラン、エチルビニルエーテル及びSolkane 365mfcと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大198PSIgまで上げ、8時間後に70PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(298g)が得られる;真空乾燥後、56.5gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 50.0モル%、エチルビニルエーテル47.3モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.4モル%、及びCF3(CF2)4CF=CF2 1.1モル%のポリマー組成が示される。
【0076】
合成例9(SE9):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/AE2/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、5gのCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CH2OCH2CH=CH2、n=10、(AE2)を、K2CO3、ビニルトリイソプロポキシシラン、エチルビニルエーテル及びSolkane 365mfcと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大185PSIgまで上げ、8時間後に28PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(305g)が得られる;真空乾燥後、64.6gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 50.1モル%、EVE 48.1モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.4モル%、及びAE2 0.2モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのSECにより、Mn=114,450、Mw=171,580であることが示される。
【0077】
合成例10(SE10):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/AE4/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、10gのCF(CF3)(CF2O)nCF(CF3)CH2OCH2CH=CH2、n=2(AE4)を、K2CO3、ビニルトリイソプロポキシシラン、エチルビニルエーテル及びSolkane 365mfcと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大193PSIgまで上げ、8時間後に25PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(315g)が得られる;真空乾燥後、51.8gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 50.5モル%、EVE 47.7モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.5モル%、及びAE4 0.3モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのSECにより、Mn=114,450、Mw=171,580であることが示される。
【0078】
合成例11(SE11):ポリ(TFE/エチルビニルエーテル/KVE/ビニルトリイソプロポキシシラン)の調製
合成例1(SE1)の手順を再現するが、以下の点において異なる:すなわち、5gのCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF=CF2、n=5(KVE)を、K2CO3、ビニルトリイソプロポキシシラン、エチルビニルエーテル及びSolkane 365mfcと一緒にオートクレーブに投入する;オートクレーブ中の圧力を、最大187PSIgまで上げ、8時間後に20PSIgまで低下させる;冷却すると、粘稠液体(309g)が得られる;真空乾燥後、67.0gの乾燥ポリマーが得られる。核磁気共鳴分光法(19F及び1H NMR)により、TFE 50.8モル%、EVE 47.5モル%、ビニルトリイソプロポキシシラン1.5モル%、及びKVE 0.2モル%のポリマー組成が示される。ヘキサフルオロイソプロパノール中でのSECにより、Mn=128,000、Mw=256,000であることが示される。
【0079】
PGMEA溶液中の10%ポリマー溶液を用いたガラススライドのスピンコーティング
混合物をBurrell Wrist-Actionシェーカーで4時間振盪することによって、PGMEA中の10%ポリマー溶液を作成する。3×1インチのガラススライドをスピンコーターの真空チャック上に置き、1.25mLの溶液をスライド表面に加える。スライドを1000RPMで30秒間回転させる。次いで、スライドを70Cのホットプレート上で3分間乾燥させる。コーティングの厚さは約1μmであると測定される。
【0080】
水及び油の接触角の測定方法
Rame Hartゴニオメーターを使用して、コーティングされた表面の水接触角を記録する。10μLの1つの脱イオン水の液滴を使用する。接触角を記録する。測定は、スライド毎に、スライド上で位置を変えて計3回行われる。
【0081】
VCA optimaゴニオメーターを使用して、コーティングされた表面の油接触角を記録する。10μLの1つのヘキサデカンの液滴を使用する。接触角を記録する。測定は、スライド毎に、スライド上で位置を変えて計3回行われる。
【0082】
【0083】
ポリマーSE7からのパッシベーション配合物
フルオロポリマーSE7(6.00g)を、清浄な琥珀色のボトル中の25gのPGMEA(0.97g/mL)に、リストシェーカーで一晩振盪することによって溶解させる。この溶液に、2-イソプロピルチオオキサントン(0.030g)及びp-イソプロピルフェニル)(p-メチルフェニル)イオノニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(0.030g)を添加し、ローラーミル上で約30分間回転させることにより混合する。
【0084】
ポリマーSE7からのパッシベーション配合物を用いたパターン化ウエハ
3インチのシリコンウエハを加圧水、その後、アセトン、次いでイソプロパノール(IPA)で洗浄し、加圧N2を使用して完全に乾燥させる。ウエハをスピンコーター上に置き、目視で中心合わせする。約1.2mLの上述したSE7パッシベーション配合物をウエハ上に注ぎ、500rpmで7秒間広げる。次いで、ウエハを2,500rpmで30秒間スピニングさせる。その後、ウエハを1,000rpmで7秒間スピニングさせる。スピニングが停止されると、コーティングされたウエハを、スピンコーターから取り外し、精密ホットプレート上で77℃の温度で150秒間焼成する。焼成したウエハを、NXQ8000マスクアライナ上で、カスタム設計マスクを用いて、約350mJ/cm2のUV光に曝露する。曝露後、ウエハの曝露後焼成を、75℃で120秒間実施する。PGMEA及びIPAをそれぞれ入れた2つの溶媒槽を、現像工程に使用する。ウエハを最初にPGMEA槽に入れ、槽全体を円運動で4分間穏やかに振盪させる。次いで、ウエハをIPA槽に移し、槽全体を円運動で1分間穏やかに振盪させる。これらの工程の後、ウエハをIPA槽から取り出し、加圧N2ガンを使用して乾燥させる。コーティングされたウエハは、精密ホットプレート上で75℃の温度で2分間にわたり硬化される。これを室温に冷却し、光学顕微鏡(Zeiss Axio)を用いてパターンの画像を得る。コーティングの厚さは、分光エリプソメータを使用して5スポット測定法によって測定すると、約5μmである。
【0085】
図1は、拡大した平面視での顕微鏡写真であり、
図1の形成部(エッチングされたビア)には測定バーが付されている。
図1では、約20マイクロメートルの正方形の32個のビアが、光架橋フルオロポリマーSE7の約20マイクロメートルの領域で隔てられている。
【国際調査報告】