IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エーファウ・グループ・エー・タルナー・ゲーエムベーハーの特許一覧

<>
  • 特表-転写層を転写する方法および装置 図1
  • 特表-転写層を転写する方法および装置 図2a
  • 特表-転写層を転写する方法および装置 図2b
  • 特表-転写層を転写する方法および装置 図2c
  • 特表-転写層を転写する方法および装置 図2d
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(54)【発明の名称】転写層を転写する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
H01L21/02 C
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022561009
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2020061026
(87)【国際公開番号】W WO2021213624
(87)【国際公開日】2021-10-28
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508333169
【氏名又は名称】エーファウ・グループ・エー・タルナー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンカタ ラーガヴェンドラ スブラーマンヤ シャルマ モッカパーティ
(72)【発明者】
【氏名】ボリス ポヴァジャイ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ウーアマン
(57)【要約】
本発明は、転写層(12)を基板(13)、特に成長基板(13)から支持基板(9)に転写するための装置(1)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写層(12)、特にグラフェン層を基板(13)、特に成長基板(13)から支持基板(9)に転写する方法であって、
転写を電磁的な力(F)によって行うことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記転写層(12)および/または前記基板(13)を第1のイオン(20)によって帯電させ、
前記支持基板(9)を、前記第1のイオン(20)と逆の電荷を帯びた第2のイオン(17)によって帯電させ、
前記転写層(12)および/または前記基板(13)と前記支持基板(9)との間で、互いに異なる電荷を帯びた前記第1および前記第2のイオン(17,20)に基づき、前記力(F)を発生させる、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記支持基板(9)はフィルム(10)を有し、該フィルム(10)は、フレーム(11)に張設されており、前記フィルム(10)は前記転写層(12)を保持する、請求項1から2までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項4】
前記基板(13)、特に前記成長基板(13)の表面の粗さは、100μm未満、好ましくは10μm未満、さらに好適には1μm未満、最も好適には100nm未満、極端に好適には10nm未満である、請求項1から3までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項5】
前記基板(13)、特に前記成長基板(13)の表面は単結晶である、請求項1から4までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項6】
前記基板(13)、特に前記成長基板(13)は、前記転写層を成長させるための第2の材料で被覆される第1の材料を含む、請求項1から5までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項7】
前記転写層(12)を前記支持基板(9)に接触させ、
前記支持基板(9)内で前記転写層(12)の近くにイオンを集中させて、前記転写層(12)を前記基板(13)、特に前記成長基板(13)から剥離して、前記支持基板(9)に付着させる、
請求項1から6までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項8】
前記力(F)は、0.01J/m2~1000J/m2、好ましくは0.1J/m2~800J/m2、最も好適には1J/m2~500J/m2、極端に好適には50J/m2~100J/m2である、請求項1から7までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項9】
特に請求項1から8までの少なくとも1項記載の方法によって、転写層(12)を基板(13)、特に成長基板(13)から支持基板(9)に転写する装置(1)であって、
前記転写層(12)は電磁的な力(F)によって転写可能であることを特徴とする、装置(1)。
【請求項10】
チャンバ(2)を有し、該チャンバ(2)内に基板ホルダ(3)が配置されており、該基板ホルダは、前記基板(13)、特に前記成長基板(13)に対して導電接続部を形成している、請求項9記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写層を転写する方法に関する。
【0002】
先行技術において、すでにレイヤートランスファープロセス(英語:layer transfer processes)が存在している。このプロセスは、特にマイクロメートルまたはナノメートル範囲ですらある厚さを有する極めて薄い転写層を一方の基板から他方の基板に転写するために使用される。こういった転写層の非常に多くは、特殊な第1の表面上にしか形成することができない。しかしながら、この表面は、同時に、のちの機能的な構成部材の一部であるべきではない。したがって、転写層は、第1の表面から第2の表面に転写されなければならない。
【0003】
半導体産業において最もよく知られているレイヤートランスファープロセスのうちの1つは、SmartCut(商標)プロセスである。このプロセスでは、イオン、特に水素イオンが、酸化させられた単結晶の第1の基板に打ち込まれる。水素イオンの注入深さは、運動エネルギーによって調整することができ、典型的には2マイクロメートル未満である。水素イオンは、第1の基板が第2の基板に接合されるまで、第1の基板内にとどまっている。その後、熱的なプロセスによって、水素原子が組み合わされて水素分子が形成され、水素イオンが集められている面に沿った酸化させられた単結晶の第1の基板の分離が行われる。これによって、2種の別の材料、たいていシリコンの間に酸化物が挟み込まれた三層構造が得られる。
【0004】
数年来、同産業では、グラフェンを大面積で製作することが試みられている。先行技術において、グラフェンを製作するための複数の方法が存在している。グラフェン薄片は、すでに産業的にトン単位で製作することができる。しかしながら、このようなグラフェン薄片は、半導体産業ではさほど重要ではない。なぜならば、グラフェン薄片は過度に小さく、主に湿式化学的なプロセスによって、特に溶液内で形成され、基板表面上に形成されないからである。ウェーハレベルでの、つまり、ウェーハの全面にわたってのグラフェン層の製作またはウェーハの既存のトポロジーへのグラフェン層の的確な製作が目標とされる。しかしながら、ウェーハレベルでのグラフェン層の製作が最も将来性があるように思われる。
【0005】
したがって、本発明の課題は、先行技術の欠点を取り除き、転写層を転写するための改善された方法もしくは改善された装置を提供することである。特に本発明の課題は、転写層が、特に高エネルギーイオンによって破壊されないかもしくは損傷を受けないようにすることである。
【0006】
この課題は、複数の独立請求項の特徴によって解決される。本発明の有利な改良形態は、従属請求項に記載してある。本発明の範囲には、明細書、特許請求の範囲および/または図面に記載した少なくとも2つの特徴から成る全ての組合せも含まれている。記載した値範囲では、記載した限界の範囲内にある値も限界値として開示されていると見なされ、任意の組合せで請求可能であるものとする。
【0007】
本発明の対象は、転写層、特にグラフェン層を基板、特に成長基板から支持基板に転写する方法であって、転写を電磁的な力によって行う、方法である。
【0008】
本発明の対象は、さらに、転写層、特にグラフェン層を基板、特に成長基板から支持基板に転写する装置であって、転写層は、電磁的な力によって転写可能である、装置である。
【0009】
電磁的な力は、好ましくは、支持基板内のイオンと、相応に逆極性に帯電させられた転写層、特にグラフェン層との間に作用する静電気力である。好ましくは、支持基板内のイオンは正に帯電させられており、転写層は負に帯電させられている。
【0010】
好適には、
転写層および/または基板を第1のイオンによって帯電させ、
支持基板を、第1のイオンと逆の電荷を帯びた第2のイオンによって帯電させ、
転写層および/または基板と支持基板との間で、互いに異なる電荷を帯びた第1および第2のイオンに基づき、力を発生させる
ことが特定されている。
【0011】
好適には、さらに、支持基板はフィルムを有し、このフィルムは、フレームに張設されており、フィルムは転写層を保持することが特定されている。
【0012】
好適には、転写層はグラフェン層を有する。
【0013】
好適には、装置はチャンバを有し、このチャンバ内に基板ホルダが配置されており、この基板ホルダは、基板、特に成長基板に対して導電接続部を形成している。
【0014】
本明細書の以下の記載において、転写層、特にグラフェン層とは、支持基板に転写されるようになっている、基板上、特に成長基板上の層を意味している。特に転写層は成長基板上に成長させられている。
【0015】
成長基板の表面の粗さは、転写層の製作を可能にするために、好適には可能な限り少ないことが望ましい。特に薄い転写層、特にグラフェン層は、極めて平らでむらのない表面上に成長させられる。
【0016】
粗さは、算術平均粗さ、二乗平均平方根粗さまたは十点平均粗さとして記載される。算術平均粗さ、二乗平均平方根粗さまたは十点平均粗さに対して求められた値は、概して、同じ測定区間もしくは測定面積に対して異なってはいるが、同じオーダ範囲内にある。したがって、粗さに対する以下の数値範囲は、算術平均粗さ、二乗平均平方根粗さまたは十点平均粗さに対する値と解釈することができる。
【0017】
基板、特に成長基板の表面の粗さは、好適には、100μm未満、好ましくは10μm未満、さらに好適には1μm未満、最も好適には100nm未満、極端に好適には10nm未満である。
【0018】
基板、特に成長基板の表面は、好適には単結晶である。
【0019】
本発明による好適な実施形態では、基板、特に成長基板は、転写層を成長させるための第2の材料で被覆される第1の材料を含む。第2の材料は成長層とも呼ばれる。この場合、基板、特に成長基板は、第1の材料と、この第1の材料上に析出された成長層とから成る複合体である。
【0020】
非常によくあることではあるが、成長基板用の所望の材料は、単結晶として提供されないかもしくは中実の単結晶として成長させ難いかまたは全く成長させることができない。このような場合には、必要な材料を薄層技術によって単結晶の薄い層として成長させることができると有利である。
【0021】
本発明によるさらに好適な実施の形態では、成長基板全体が単結晶である。
【0022】
本発明による代替的な実施の形態では、成長基板の表面が多結晶である限り、この表面が、転写層の成長前に少なくとも再結晶化される。再結晶化は、たいていの場合、粒構造を拡大させるが、確率的に単結晶にはならないため、本発明に係る方法として好適であるとは云えない。
【0023】
好適には、さらに、
転写層を支持基板に接触させ、
支持基板内で転写層の近くにイオンを集中させ、これによって、転写層を基板、特に成長基板から剥離して、支持基板に付着させる
ことが特定されている。
【0024】
したがって、転写層を転写するための方法によって、有利には、基板の表面から支持基板の表面への転写層の簡単で効率のよい転写、特に製作表面から搬送表面への転写が可能となる。剥離は、イオン、特に水素イオンの作用によって、このイオンが引力を転写層に加えるため、成長層と転写層との間の付着が減じられることにより可能となる。
【0025】
好適には、支持基板が転写層に接触させられ、これによって、有利には、互いに接触させられた面同士の間の相対運動がもはや不可能となる。接触前、転写層と支持基板とは、特に各々の基板ホルダのアライメントによって互いにアライメントされる。アライメントのためには、特に、基板および/または転写層および/または支持基板に設けられたアライメントマークが、可能な限り正確なアライメントのために使用される。
【0026】
したがって、支持基板への転写層の転写が、有利には簡単に効率よく可能となる。特に有利には、転写層は、イオンの作用によって損傷を受けないかもしくは破壊されない。好適には、転写層の形成もしくは成長は、成長基板上で前もって実施されている。したがって、有利には、転写層を成長基板上の形成場所もしくは成長場所から解離することができ、支持基板に配置することができる。
【0027】
特に好適な実施の形態では、転写層がグラフェン層を有することが特定されている。このグラフェン層は、好ましくは成長層上に形成、特に析出されている。
【0028】
成長基板
成長基板とは、転写層が形成されるかもしくは成長させられる基板を意味している。成長基板はただ1種の材料から成っていてよい。例えば、成長基板として銅プレートまたはニッケルプレートを使用することも可能である。
【0029】
本発明による別の実施の形態では、成長基板は、第1の材料から成る基板であり、この基板上に、第2の材料から成る層が形成されている。この層は成長層と呼ぶことができる。例えば、シリコン、ガラスまたはサファイヤウェーハの使用も可能であり、その上に銅層が蒸着されている。このように形成された銅層は、特に単結晶で製作されてよい。したがって、よくあることではあるが、成長基板として、単結晶の成長層で被覆された任意の基板を使用することが、より簡単である。
【0030】
少なくとも、転写層が成長させられる成長基板の表面は、単結晶であることが望ましい。したがって、好ましくは、成長基板がすでに単結晶で製作される。仮に表面が単結晶でない場合には、この表面が、好ましくは、相応の方法、好ましくは再結晶化によって単結晶の状態に少なくとも可能な限り近づけられる。
【0031】
本開示において、成長層および成長基板という概念は同義で使用している。特に成長基板という表現を大部分において使用している。
【0032】
成長基板の材料は基本的に制限されておらず、成長させたい転写層に左右される。あらゆる種類の転写層を成長基板のあらゆる材料上に成長させることができるわけではない。したがって、成長基板は、基本的に導電体、誘電体、半導体または超伝導体であり得る。
【0033】
転写層
転写層は、ただ1種の材料から成っていてもよいし、多種の材料から成っていてもよい。
【0034】
特に、転写層は、種々異なる層の連続複合体であってよい。本開示では、層の連続複合体も転写層と呼んでいる。
【0035】
本発明による特に好適な実施の形態では、転写層は原子層または分子層である。この層は2D層または2D構造とも呼ばれる。
【0036】
本発明による全く特に好適な実施の形態では、転写層はグラフェン層である。
【0037】
本発明に係る方法は、あらゆる種類の転写層に適用することができる。しかしながら、好ましくは、転写層は極めて薄い層である。転写層の厚さは、1mm未満、好ましくは1μm未満、より好適には100nm未満、最も好適には1nm未満であり、極端に好適には、転写層は単原子層もしくは単分子層である。
【0038】
転写層は、好ましくは、以下の材料クラスまたは材料のうちの1つから成っている。
・2D層材料、特に
○グラフェン
○グラフィン
○ボロフェン
○ゲルマネン
○シリセン
○SiBN
○ガレネン
○スタネン
○プランベン
○フォスフォレン
○アンチモネン
○ビスムテン
・2D超結晶
・化合物
○グラファン
○ボロニトレン
○炭窒化ホウ素
○ゲルマナン
○リン化ゲルマニウム
○遷移金属ジカルコゲナイド
○MXenes(マキシン)
・種々異なる元素組成を有する層材料、特に
○MoS2、WS2、MoSe2、hBN、Ti4ΤΝ3、Ti4AlN3
・ファンデルワールスヘテロ構造、特に
○MoS2-G;MoS2-hBN、MoS2-hBN-G
・金属、特に
○Cu、Ag、Au、Al、Fe、Ni、Co、Pt、W、Cr、Pb、Ti、Ta、Zn、Sn
・半導体、特に
○Ge、Si、α-Sn、B、Se、Te、
・化合物半導体、特に
○GaAs、GaN、InP、InxGal-xN、InSb、InAs、GaSb、AlN、InN、GaP、BeTe、ZnO、CuInGaSe2、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、Hg(1-x)Cd(x)Te、BeSe、HgS、AlxGal-xAs、GaS、GaSe、GaTe、InS、InSe、InTe、CuInSe2、CuInS2、CuInGaS2、SiC、SiGe
・セラミック
・ポリマー
・別の材料
○MnO
○TBA(1.07-x)Ti1.73 H2O
○CoO
○TBA(1-X)CaNb10
○BiSrTa
○Cs1136 2-
○Ni(OH)5/3DS1/3
○Eu(OH)2.5(DS)0.5
○Co2/3Fe1/3(OH) 1/3+
○[CuBr(IN)]
【0039】
支持基板
支持基板は、イオン、特に水素イオンの通過を可能にする任意のあらゆる材料から成っていてよい。支持基板の材料は、好ましくはポリマー、特に炭素ベースのポリマーである。
【0040】
本発明による特別な実施の形態では、支持基板は、フィルムと、このフィルムが張設されたフレームとから形成された構成部材である。
【0041】
別の実施の形態では、支持基板は、支持されない中実のポリマー基板である。
【0042】
本発明によれば、ポリマーによって、イオン、好ましくは水素イオンの輸送、特に拡散が特に促進される。電場はイオンを加速させ、ポリマー内部でも、弱化させられるにせよ、真っ直ぐである。なぜならば、たいていのポリマーは誘電体であり、電場は、確かに配向分極および変位分極によって弱化するものの、完全には消滅しないからである。
【0043】
支持基板は、特に、イオンを転写層の近くに集めることができるようにするために適している。
【0044】
装置
本発明に係る装置は、好適には、チャンバを有しており、このチャンバ内で基板上の転写層が支持基板に接触させられる。好ましくは、装置はボンダである。
【0045】
装置は、好適には、イオンを発生させるための少なくとも1つの手段を有している。好ましくは、この手段は、電磁放射線、全く特に好適にはUV放射線、X線および/またはガンマ線を発生させる。電磁放射線の放射線源は、チャンバ内に位置していてもよいし、チャンバの外部に位置していてもよい。放射線源がチャンバの外部に位置している場合には、放射線はガラス窓を介してチャンバに入射させられる。
【0046】
装置は、好適には、ガスまたはガス混合物をチャンバに導入しかつ/またはチャンバを排気するための少なくとも1つの弁を有している。好ましくは、装置は、ガスまたはガス混合物をチャンバから除去する、特に圧出するための少なくとも1つの第2の弁または導管ポートを有している。
【0047】
本発明による別の好適な実施の形態では、イオンがチャンバの外部で発生させられて、チャンバ内に導入されてもよい。イオンを発生させるイオン銃の使用も可能である。
【0048】
装置は、好適には、基板、特に成長基板を位置固定することができる少なくとも1つの下側の基板ホルダを有している。この下側の基板ホルダは、基板を電位に置くことができる構成部材を有している。好ましくは、基板ホルダ自体が導電性の材料から製作されている。
【0049】
基板が、十分に大きな体積の導電性の基板、例えば銅プレートである場合、基板を伝導性の基板ホルダを介して電位に置くためには、基板ホルダに対する接触で十分である。例えば、電位に置くことができる特に可動の接触要素を有する基板ホルダも可能である。この場合には、この接触要素が基板に接触し、この基板を電位に置くことができる。基板ホルダは、好ましくは、誘電性の構成部材によってチャンバから電気的に絶縁されている。
【0050】
装置は、特に、発生させられたイオンが側方から基板に達して、この基板に侵入してしまうことを阻止するために、基板の周面を周辺から電気的に絶縁することができる絶縁体を有している。
【0051】
好ましくは、装置内には、基板ホルダに特に向かい合って位置する電極が存在している。基板ホルダは、好ましくはチャンバのうちの下側に位置しているので、電極は、好ましくは上側に位置している。基板ホルダと電極とは、互いに異なる電位に置くことができ、相互間に電圧を形成する。この電圧の形成によって、チャンバ内に発生させられたイオンを基板のホルダの方向に加速させるかもしくはイオンを支持基板の通過時にアシストする本発明による電場が形成される。
【0052】
また、固有の電極の使用を不要にし、チャンバもしくはチャンバの壁を電位に置き、ひいては、電極として作用させることも可能である。
【0053】
装置は、電場を発生させることができる電圧源を有している。電圧は、0V~10000V、より好適には0V~1000V、最も好適には0V~500V、極端に好適には0V~100Vである。
【0054】
チャンバは、特に加熱されよい。温度は、ガスもしくはガス混合物のイオン化を制御するために役立ち得る。温度は、特に20℃~1000℃、好ましくは20℃~500℃、より好適には20℃~250℃、最も好適には20℃~200℃、極端に好適には約130℃である。
【0055】
方法
本発明に係る方法では、好適には、使用されるガスをイオン化して、カチオン、つまり、正に帯電させられた粒子を形成することができる。これに相応して、基板ホルダおよび/または基板、特に成長基板、および/または転写層は、負に帯電させられている。仮にアニオン、つまり、負に帯電させられたイオンを使用したい場合には、基板ホルダおよび/または基板および/または転写層の極性が相応して正である。
【0056】
UV放射線による上述したイオン化プロセスによって、主として、カチオン、つまり、正に帯電させられたイオンが形成されるため、本明細書では、前者の事例を一貫して使用する。
【0057】
例示的な本発明に係る方法の第1の方法ステップでは、成長層を有する基板が、成長基板として提供される。好ましくは、この成長基板は成長層全体である。例えば、銅プレートの使用が可能である。また、成長基板が、成長層として働く材料で被覆された通常の基板から成っていることも可能である。例えば、シリコン基板が、好ましくはエピタキシャル成長して単結晶で銅によって被覆されてもよい。
【0058】
第2の方法ステップでは、成長層上に転写層が形成される。好ましくは、この転写層は、CVDまたはPVDプロセスによって製作される。
【0059】
第3の方法ステップでは、成長基板が、その上に位置する転写層と共に本発明に係る装置のチャンバ内にローディングされる。
【0060】
第4の方法ステップでは、成長層が、支持基板の表面に接触させられ、特に接合される。接合プロセスに先だって、アライメントプロセスが行われてよい。このアライメントプロセスは、基板に対する支持基板の、かなり粗く実施される機械的なアライメントであってよい。
【0061】
第5の方法ステップでは、ガスまたはガス混合物、好ましくは水素が、チャンバ内に流入させられる。
【0062】
第6の方法ステップでは、ガスまたはガス混合物の少なくとも1つの成分がイオン化される。この場合、イオン化は、好ましくは、電磁放射線、好ましくはUV放射線によって行われる。この場合、放射線源は、チャンバの内部かつ/または外部に位置している。放射線源がチャンバの外部に位置している場合には、放射線は窓を通ってチャンバ内に達する。
【0063】
第7の方法ステップでは、成長層と電極、特にチャンバのハウジングとの間に電位差が発生させられる。この電位差によって、正のイオンを、負に帯電させられた成長基板の方向に加速させる電場が発生させられる。
【0064】
本発明による好適な実施の形態では、第6および第7の方法ステップが、少なくとも部分的に同時に行われる。
【0065】
この場合には、まず、イオンが支持基板に衝突し、この支持基板によって減速させられる。その後、イオンが電場によって支持基板を通して推し進められ、同じく負に帯電させられた転写層に達する。イオンは支持基板内で転写層の近くに集まる。この転写層は負に帯電させられているので、正のイオンにより正に帯電させられた支持基板と、転写層との間に引力が作用する。特に、成長基板の周面での絶縁によって、正のイオンが成長基板内に侵入してしまうことが阻止される。
【0066】
転写層を基板、特に成長基板から引き剥がすことができる力は、ガス圧および/または電場を介して調整される。剥離を達成するためには、単位面積あたりのエネルギー量、つまり、エネルギー面積密度を克服しなければならない。このエネルギー面積密度は、好適には、0.01J/m2~1000J/m2、より好ましくは0.1J/m2~800J/m2、最も好適には1J/m2~500J/m2、極端に好適には1J/m2~100J/m2である。
【0067】
好ましくは、転写層を転写する温度は、特に20℃~300℃、好ましくは50℃~250℃、より好適には75℃~200℃、最も好適には100℃~150℃、極端に好適には約130℃である。
【0068】
より高いガス圧は、より高いイオン密度を意味している。電場を介して、イオンがどのくらい迅速に転写層に到達するかを制御することができる。ガス圧は、0mPa~100mPa、好ましくは0mPa~50mPa、より好適には0mPa~25mPa、最も好適には0mPa~10mPa、極端に好適には約1.5mPaである。
【0069】
方法の特に好適な設定では、ガス圧は、0.1mbar~10mbar、好適には0.2mbar~7mbar、特に好適には0.25mbar~5mbar、極端に好適には約0.3mbarである。
【0070】
第8の方法ステップでは、支持基板が、転写された転写層と一緒に成長基板から分離される。この分離プロセスは、少なくとも1つの縁部から剥離(英語:peeling)によって、好ましくは徐々に行われる。しかしながら、支持基板を転写層と共に全面で成長基板から持ち上げることも可能である。
【0071】
イオンを転写層を越えて成長基板の方向に運動させ、そこで減じる(正イオン)ことが可能である。特に水素の場合には、これによって、著しく大きな容量を有する水素ガスが形成される。成長基板と転写層との間の境界面に水素ガスが形成されることは、成長基板からの転写層の解離にプラスの影響を与えることができ、この解離をアシストすることができる。水素ガスの形成によって、成長基板と転写層との間の境界面の付着を極めて大幅に減じることができる機械的な応力が生じる。したがって、この効果は、支持基板内でのイオンの集まりの上述した効果と組み合わせて考慮されなければならない。この効果が本発明による第1の効果を改善するかどうか、そして、この効果が本発明による第1の効果をどの程度改善するかは、相応のパラメータ次第である。
【0072】
本発明の更なる利点、特徴および詳細は、以下の好適な実施例の説明ならびに図面に基づき明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】本発明に係る装置の例示的な実施形態を示す図である。
図2a】例示的な本発明に係る方法の第1の方法ステップにおける装置の右側の簡単な断面図である。
図2b】第2の方法ステップにおける装置の右側の簡単な断面図である。
図2c】第3の方法ステップにおける装置の右側の簡単な断面図である。
図2d】第4の方法ステップにおける装置の右側の簡単な断面図である。
【0074】
図中、同じ構成部材または同じ機能を有する構成部材には、同じ符号が付してある。
【0075】
図面は、正確な縮尺で示したものではない。特に転写層12が、成長基板13または支持基板10に対して本来あるべき厚さよりもかなり厚く図示してある。正確な縮尺でない図示は、単に図面を見やすくするために役立つにすぎない。
【0076】
図1には、基板ホルダ3が内部に位置するチャンバ2を有する本発明に係る装置1が示してある。基板ホルダ3は導電性であるかまたは成長基板13に対する少なくとも1つの導電接続部を有している。チャンバ2は、ガスまたはガス混合物16を導入することができる少なくとも1つの弁6を有している。
【0077】
好ましくは、ガスまたはガス混合物16を導出することができる第2の弁6がさらに設けられている。チャンバ2は電極4を有している。また、チャンバ2の壁を電極4として用いることも可能である。図面を見やすくするために、電極4は固有の構成部材として図示してある。
【0078】
装置1は、ガスもしくはガス混合物16の成分をイオン化してイオン17を形成することができる放射線源18を有している。この放射線源18は、チャンバ2の内部に位置していてもよいし、外部に位置していてもよい。放射線源18がチャンバ2の外部に位置している場合には、窓8を通じてチャンバ2内への放射線7の移行が可能となる。
【0079】
転写層12は成長基板13上に形成され、特にCVDまたはPVDプロセスによって成長させられる。成長基板13は基板ホルダ3に位置固定される。成長基板13は、好ましくは、絶縁体5によって周辺から遮蔽される。
【0080】
転写層12は、他方の側から支持基板9によって接触させられる。図示の場合には、この支持基板9は、フレーム11に張設されたフィルム10である。しかしながら、支持基板9は、転写層12へのイオン17の通過を可能にするかもしくはイオン17が支持基板9(図示の場合にはフィルム10)内に集まる限り、任意に形成されていてよい。イオン17はその電荷によって図示してあるにすぎない。なぜならば、記号を使用すると、図面が複雑になり、見にくくなる恐れがあるからである。
【0081】
印加された電場15によって、イオン17は転写層12の方向に加速させられ、まず、支持基板9に衝突する。電場15は、特に誘電性の支持基板9全体を完全に貫通して、成長基板13にまで達する。これによって、イオン17は、まだ支持基板9内でも加速させられるものの、拡散プロセスによって転写層12に対する移動を一様にしなければならない。
【0082】
イオン17は、支持基板内で転写層12の近くに集まる。電場15は、成長基板13の表面(より正確に言うと、転写層12が電気的である限り、転写層12の表面)で終端しているので、イオン17をより深く成長基板13内に輸送するための推進力ももはや存在していない。それにもかかわらず、幾つかのイオン17が、特にトンネル効果によって成長基板13にまで貫通することに成功することもある。そこで、イオン17は再び減じられ、結合されて、特に水素ガスを形成することもある。この水素ガスは膨張することができ、ひいては、成長層13の側からの転写層12の分離を促進することができる。この場合には、基板を加熱するために、装置1、特に基板ホルダ3が加熱装置18を有している。
【0083】
図2aには、例示的な本発明に係る方法の第1の方法ステップにおける装置の右側が示してある。この第1の方法ステップでは、支持基板9が、成長基板13上に位置する転写層12に接触している。
【0084】
図2bには、第2の方法ステップが示してある。この第2の方法ステップでは、電場15が印加され、この電場15によって、転写層12が負に帯電させられる。負の電荷担体20は、転写層12が導電体である限り、転写層12の表面に移動する。仮に転写層12が誘電体である場合には、負の電荷担体20は、変位分極または配向分極の負の電荷担体と解釈することができる。この場合、実際の負の電荷担体20は、成長層13の表面に位置しているか、または仮に成長層13が同じく誘電体である場合には、基板ホルダ(図示せず)の表面に位置している。この場合、対応する正の電荷担体は図示していない。重要なのは、転写層12の表面が負に帯電させられているということである。
【0085】
図2cには、第3の方法ステップが示してある。この第3の方法ステップでは、イオン17、特に水素イオンが支持基板9内にとどまっていて、転写層12に近づけられている。正に帯電させられたイオン17と負に帯電させられた転写層12との間の互いに異なる符号に基づき、両者の間の引力が生じる。
【0086】
図2dには、第4の方法ステップが示してある。この第4の方法ステップでは、支持基板9(特別な場合にはフィルム10)に付着している転写層12が、成長基板13から剥離プロセスによって縁部から遠ざけられる。
【符号の説明】
【0087】
1 装置
2 チャンバ
3 基板ホルダ/電極
4 電極
5 絶縁体
6 弁
7 放射線
8 窓
9 支持基板
10 フィルム
11 フレーム
12 転写層
13 成長基板
14 電圧源
15 電気力線
16 ガス
17 イオン
18 放射線源
19 加熱装置
20 負の電荷
F 力
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
【手続補正書】
【提出日】2022-05-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写層(12)、特にグラフェン層を基板(13)、特に成長基板(13)から支持基板(9)に転写する方法であって、
転写を電磁的な力(F)によって行い、
前記転写層(12)および/または前記基板(13)を負の電荷担体(20)によって帯電させ、
前記支持基板(9)を、前記負の電荷担体(20)と逆の電荷を帯びたイオン(17)によって帯電させ、
前記転写層(12)および/または前記基板(13)と前記支持基板(9)との間で、異なる電荷を帯びた前記イオン(17)と前記負の電荷担体(20)とに基づき、前記力(F)を発生させる
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記支持基板(9)はフィルム(10)を有し、該フィルム(10)は、フレーム(11)に張設されており、前記フィルム(10)は前記転写層(12)を保持する、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記基板(13)、特に前記成長基板(13)の表面の粗さは、100μm未満、好ましくは10μm未満、さらに好適には1μm未満、最も好適には100nm未満、極端に好適には10nm未満である、請求項1からまでの少なくとも1項記載の方法。
【請求項4】
前記基板(13)、特に前記成長基板(13)の表面は単結晶である、請求項1からまでの少なくとも1項記載の方法。
【請求項5】
前記基板(13)、特に前記成長基板(13)は、前記転写層を成長させるための第2の材料で被覆される第1の材料を含む、請求項1からまでの少なくとも1項記載の方法。
【請求項6】
前記転写層(12)を前記支持基板(9)に接触させ、
前記支持基板(9)内で前記転写層(12)の近くにイオンを集中させて、前記転写層(12)を前記基板(13)、特に前記成長基板(13)から剥離して、前記支持基板(9)に付着させる、
請求項1からまでの少なくとも1項記載の方法。
【請求項7】
前記力(F)は、0.01J/m2~1000J/m2、好ましくは0.1J/m2~800J/m2、最も好適には1J/m2~500J/m2、極端に好適には50J/m2~100J/m2である、請求項1からまでの少なくとも1項記載の方法。
【請求項8】
求項1からまでの少なくとも1項記載の方法によって、転写層(12)を基板(13)、特に成長基板(13)から支持基板(9)に転写する装置(1)であって、
前記転写層(12)は電磁的な力(F)によって転写可能であることを特徴とする、装置(1)。
【請求項9】
チャンバ(2)を有し、該チャンバ(2)内に基板ホルダ(3)が配置されており、該基板ホルダは、前記基板(13)、特に前記成長基板(13)に対して導電接続部を形成している、請求項記載の装置。
【国際調査報告】